【本の紹介】 「アリラン峠をこえて『在日』から国際化を問う」

【本の紹介】 「アリラン峠をこえて『在日』から国際化を問う」
           辛基秀(シン・ギス)著、解放出版社、92.3.1 1600円

日本の民主運動 労働運動への鋭い問いかけ
この本の鋭い問いかけの対象は、過去をも含めた、現在の日本の反戦平和、民主、労働運動の内実に対するものである。著者の視点は明確である。「朝鮮人と日本人の連帯がうまくいかなかったのは、日本の革命運動側の民族問題に対する正しい理解がなく、この間題をなおざりにしてきたからであり、民族問題を階級闘争に解消したままで民族差別が克服できる訳がない」という、日本の、というよりも日本人の運動そのものがかかえている弱点の克服と、共闘・連帯への率直な問題提起である。
「在日朝鮮人の歴史は、とかく暗い受難の側面が多く語られ、日本人側の善意の購罪意識とあいまってマイナスの陰画として写しだされるため、在日の若い世代も一世に対して否定的に考えがちである。」「私が六年の歳月をかけた在日韓国人のたたかいの記録『解放の日まで』をつくったのもマイナスのイメージを訂正するためであった。」-一辛基秀さんがこの記録映画で明らかにしてきた「在日朝鮮人が日本の各地のダム、鉄道などの工事現場で民族差別に抗し、人間解放、民族独立のため青春を奏でたたたかい」「在日朝鮮人と日本人労働者、知識人がさまざまな局面で織りなしてきた共同のたたかいの様々の歴史」はあまりにも知られていないし、無視されてきたといえよう。当然、「日本の労働運動史、反戦運動の歴史でも、在日朝鮮人の役割に言及した書はごく稀である。」そしてわれわれ自身の意識もそのような状況から抜け出すことが出来なかったのではないだろうか。

<人間的な連帯をいかにして築くのか>
現在とは比較にならない厳しい圧制の時代の中にあって、中野重冶が親しい朝鮮の友人の強制送還に際して発表したあの感動的な詩「雨の降る品川駅」、それにたいして、朝鮮側の応答歌、詩人・林和(イム・フア)の「雨傘さす横浜埠頭」が直ちに発表された(1929.9)当時から、そして水平社と衡平社の交流と連帯が活発に行われた時代から、日本の運動はどれほど前進しているのであろうか。時代や条件が大きく変わり、前進してきたとはいえ、その根底のところにおいては疑問符が絶えないといえよう。辛基秀さんは「あとがき」の冒頭で「民族差別の政策により生じた在日韓国・朝鮮人と日本人との間に刻んだ深い溝を埋め、人間的な連帯をいかにして築くのか」ということが永年のテーマであると強調されている。それは日本のさまざまな運動の共通のテーマでもなければならない。        (生駒 敬)

【出典】 青年の旗 No.175 1992年5月15日

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