【投稿】大阪府勤務時間問題を考える
–大阪府では4月中旬から5月にかけて勤務時間問題をめぐって大きく揺れ動いた。
<問題の経過と内容>
事の発端は、一昨年3月26日にN池田市市議会議貞が住民監査請求を起こしたことにさかのぼる。監査請求の内容は「府の勤務時間の内、午前・午後の休息時間(各15分・計30分)を仕業・就業時に各々、設定していることで、勤務時間条例に従わず事実上30分の時間短縮を行っている。ついては、実態として勤務していない30分の給与については、不正支給に当たるので、知事・出納長は受給者全員に対し返還を求めること。併せて勤務時間の是正を求める。」というもの。ここで、府の勤務時間が、どうなっていたのか図示する。
規定上の勤務時間 ├———-┼——-┼———┤
(休息時間含む) 8:45 12:15 13:00 17:30
↓
時差出勤措置時間 ├———-┼——-┼———┤
9:00 12:15 13:00 17:45
↓
体息時間運用によ ├———-┼——–┼——- ┤
る実態勤務時間 9:15 12:15 13:00 17:30
これを受けて丁昨年5月25日、監査結果報告が出され、給与の不正支給一返還請求は退けられたものの今後の勤務時間については「必ずしも適正とは言えず、府民の誤解も招きやすい。」として「是正」を要望した。この監査報告は、府議会でも有力自民党議員から指摘され、府当局は「是正」を約束した。当然、当局は組合側(連合系府労連・共産党系府労組連)に是正提案を行い、既に一昨年11月には、本庁2部出勤制(30分ズレ勤務)や夜学職免制度、交替制職場における週40時間施行実施等の一定の条件を獲得したものの午前15分休息時間については「是正」されている経過がある。今回の勤務時間問題は、残りの午後15分休息時間について、重ねて「是正」提案を行ってきたもの。今回さらに当局が「是正」を迫ってきた背景には、自民党議会筋や監査請求人の指摘が続いていたのに合せ、マスコミの動き、加えて国の完全週休2日制が5月実施と早まったことに伴い、都道府県の立場として府としても早期実施する必要から前提に解決すべき問題としてあったことなどがある。現に本年4月15日に当局は、本格提案を行ってきたが、提案趣旨は、「完全週休2日制5月府議会条例化を検討するに当たり残り15分休息時間の運用について、是正したい。」となっており、その協議のタイムリミットを議会対策上、4月末となっている。
<交渉経過と組合側の主張>
本格提案を受けた府労連・自治労府職は、提案が勤務時間是正」と完全週休2日制実施とセット提案であることから、その切り離しを目指して交渉を展開した。特に連日の団体交渉・決起集金を開催し、近年にない盛り上がりを見せた。
組合側の主張は以下のとおりに集約される。(①勤務時間の運用は、組合側が一方的に行ってきたわけではなく、勤務時間条例が制定されたころから労使合意の上で行われていたこと。②運用のうえに職員の生活が成り立っている実態。③総合的労働時間短縮を推進する行政としての立場、等々。しかし結果的には、完全週休2日制5月府議会条例化を見送ってでも闘争継続することは困難と判断し「是正」には至らなかった。しかし、その一方で、①保育・介護に関する責任、②休息・休憩時間等の労働条件確保の責任、③総合的労働時間短縮推進の責任を当局の使用者斉任として認めさせ、具体的には①保育特別休暇。(男女通用・生後3年・1日30分)の制度化と個別救済、②休息時間確保のための時報、窓口時間等の明確化、③年間総労働時間1800時間以内達成に向けた労使協議期間の設置等の条件的成果を勝ち取った。
<勤務時間問題が物語るもの>
今回の勤務時間が物語る教訓は、戦後の労働組合運動の発展の過程の中で、勝ち取られてきた成果=「既得権」が、その存在が闇・影的存在である以上、行革攻撃以降、次々と剥奪され、守り切れないものとなっていることである。まさに大阪府においては、今回の勤務時間問題が残された大さな「既得権」であったといえる。特に公務員の賃金・労働条件が法定主義が基本であることから、労使の力関係だけで存在している「既得権」は、むしろ公務員批判の下で攻撃の対象とされること、その意味では今後の公務員労働組合運動では、社会的合意形成・公的認知の下に正々堂々と制度化を主張し、その成果をもって逆に社会的に拡大する努力が必要な時代となってきている。今回の保育特別休暇、完全週休2日制、育児休業制度等は、そういった意味合いで意義は大きい。
もう一つの教訓は、労働時間短縮が、連合の取り組みもあって確かに社会的な流れ・要求になっているものの、全体的な総合的労働時間短縮としては比較的、前進していない実態、とりわけ国際的な圧力・枠組みの中で完全週休2日制を始めとする時短促進が叫ばれている中であっても、大企業と中小企業との格差のかくだい、実効ある残業規制についても成果が上がっていない状況がある。そのことが大阪府においては、完全週休2日制と合わせ、1日の勤務時間の短縮には至らなかった背景がある。
最後に今回の勤務時間問題で共産党系府職は、4月末まで実際的な団体交渉を行わす、府労連・自治労府職が一定の判断を行った後に、見せかけの反対闘争を展開し、結果として府労連・自治労府職への批判に終始したことを付言しておく。
【出典】 青年の旗 No.176 1992年6月15日