【投稿】地球環境サミットの成果
■ はじめに
6月3日から14日までブラジル・リオデジャネイロで開催された「国連環境開発会議(地球サミット)」は、183カ国から政府首脳や環境保護で活動する非政府組織(NGO)が集まり、「環境と開発に関するリオ宣言」、行動計画である「アジェンダ21」、森林保全のための「森林原則声明」を採択・調印した。同時に、150カ国余りが「地球温暖化防止条約(気候変動枠組み条約)」「生物学的多様性保護条約」を調印し、地球環境の保全に向け具体的な一歩を踏み出した。
また、地球サミットの成果の実行を上げるために、フォローアップ(事後点検)会合を開くこと、最大の焦点であった発展途上国への資金援助問題では、先進国が援助額を国民総生産(GNP)比0.7%まで高めるよう努力することを確認した。
しかし、各国の利害対立は厳しく調印された各声明・条約の内容は、現在の地球環境の破壊状況を考えると環境保全を達成するには力不足でる。地球は一つしかなく、責任が誰にあるにしろ、破壊されてしまえば人類は全てが破滅するのである。我々は、待ったなしの状態まで地球環境を酷使してきたのである。
同時に開催されたNGOによる「92グローバルフォーラム」は、フラメンゴ公園を主会場に165カ国7500団体約2万人が参加して行われ、地球サミット成功の大きな役割を果たした。
■ リオ宣言
環境保全と開発を調和させる基本原則を定めた「環境と開発に関するリオ宣言」は、前文と27の基本原則からなり、人類は自然と調和した健康で生産的な生活を送る権利があるとした「環境基本権」を打ち出す一方、発展途上国を配慮して「開発の権利」も盛り込んだ内容である。
リオ宣言の骨子は、以下のようである。
1.各国は自国資源を開発する主権的権利を持つ
1.持続可能な開発には環境の保護が欠かせない
1.生活水準の格差縮小のため貧困を根絶する
1.持続不可能な生産と消費を縮小し適切な人口政策を推進する
1.効果的な環境法を制定しなければならない
1.環境被害をもたらす物質の他国への移転防止に、各国は協力しなければならない
1.女性、先住民は環境に極めて重要な役割を持つ
1.圧政、占領下にある人の環境と天然資源は保護される
1.各国は環境に関する抗争を平和的に解決しなければならない
■ アジェンタ21
21世紀に向けてのリオ宣言の行動計画である「アジェンダ21」は、「持続可能な開発」を目指して、大気保全、砂漠化防止、技術移転、資金協力など40章からなり、リオ宣言の理念を実現するために各国の政府、国民、企業が実行すべき具体的な対策を示した。
条約のように法的な拘束力はないが、地球環境保全のためには欠かせない計画である。
アジェンダ21の骨子は、以下のようである。
1.貧困撲滅のため雇用機会を確保すべきだ
1.浪費的でない持続可能な生活スタイルを達成する
1.GNPに森林減少や環境破壊を数値化して組み込んだグリーンGNPを開発する
1.現在のエネルギー供給構造を見直す
1.森林保護地域を設置、拡充する。焼き畑の制限
1.海洋資源を守るため公海では混獲を最小限に抑える
1.先進国は政府開発援助(ODA)をGNPの0.7%にする目標を再確認。目標を達成していない国はできるだけ早く、いくつかの国は2000年までに達成
このほか、アジェンダ21には、①砂漠化防止条約を94年6月までにまとめる②環境保全技術の途上国への移転を促進する③各国のアジェンダ21に基づく政策の実施状況を監視する「持続可能な開発のための委員会」を国連に設置する④人口増加の防止策を強化する--などが主要な柱として盛り込まれた。
■ 森林原則声明
CO2の吸収や生物種の多様性を保護する森林の機能を重視する先進国と開発の自由を主張する途上国との間でまとまった「森林原則声明」の骨子は、以下のようである。
1.国家には社会経済の発展水準に応じて、森林を利用し開発する権利がある
1.森林は現在と将来の世代のために持続可能な方法で管理されるべきだ
1.森林保全の費用は国際社会で公平に分担されるべきだ
1.世界の緑化に向け、特に先進国で森林面積を増やす努力が行われるべきだ
1.森林政策は先住民の権利を尊重すべきだ
■ 地球混暖化防止条約と
生物学的多様性保護条約
地球サミットの最大の目玉「地球温暖化防止条約(気候変動枠組み条約)」は、米国の反対で「各国は温室効果ガスの排出量を、現在から10年以内にそれ以前の水準に戻す政策をとる」と述べているようにCO2抑制の明確な時期も量も明記できず、具体性を欠く内容になった。
「生物学的多様性保護条約」は、地球上にすむ生物未確認のものを含めれば数千万種にも達するとされている生態系の保護と生物の産業利用の調和を図る内容になった。米国は調印を拒否した。
■ 地球サミットの限界
地球サミットで採択されたリオ宣言、アジェンダ21には、各種の環境破壊に対しても、社会的公正な補償の必要性が認識されるとともに、大気汚染、森林、砂漠化、山岳、農業と村落、生物学的種の多様性、バイオテクノロジー、海洋環境、水質の保全、有害化学物質や廃棄物、核物質に至るまで、各論的に対策のための危険の評価や情報化、監視などの具体的提案がなされている。又、現段階での環境破壊に対する社会的コスト概念についても、過去に比べより明確に、国際的理解として広められた。
しかし、問題は、こうした新たな認識をどのような形で具体的な社会的費用(グローバル・コスト)負担の制度として発展させ、安定した財源として確立し、新たな国際的公共システムの資金として活用して行くかにあったが、日本は5年間で1兆円のODA増額、欧州共同体(EC)は40億ドルの資金拠出を約束したものの、最大の懸案だったODA問題では、日、英、独の反対で2000年までにGNP比0.7%が達成目標に後退した。
又、地球サミット事務局が各国政府に示していた途上国支援のため必要な年間1250億ドル(約16兆円)という資金の見通しについても、「サミット事務局の試算に過ぎず、具体的な援助額は各国が独自の判断で決定する」という注釈付でアジェンダ21の本文中に盛り込まれたにすぎない。
今後、地球環境基金(GEF)を活用し、運営を改善することで合意したものの、新たな国際的公共システムの構築に向かって、リオ宣言もアジェンダ21も、残念ながら、環境保全の新たなシステムのための基本的な価値基準作りまでには至らなかった。
■ 地球サミットの成果
人類は生存のための経済活動として、自然から資源をとり、それをリサイクルしながらも、最終的には同量のものを廃棄物として自然に戻す。自然からの資源採取は、自然の能力を超えたり、自然の再生カを損なったりしてはならない。廃棄物も環境に負荷を著しく与えてはならないのである。環境破壊はこうした物質循環のバランスを人類が大きく崩しているところから生じている。自然とその物質収支を正しくするエコロジー基準が、全ての経済活動の前提とならねばならない時代になったのである。
今回の地球サミットは、環境優先か開発が重要かをめぐって南北が対立したが、東西冷戦終えん後の社会体制の枠組みを転換させ、地球環境の保全あるいは環境に優しい社会経済構造を具体的に実現するための制度的、資金的、組織的なルールを敷く歴史的出発点になった。そのためにも、地球サミットが果たし得なかったエコロジー経済のための国際的公共システムの形成と、そのもとでの新たな市場システムへの転換という課題の重荷を、全ての国家、そして人類が背負っていかなくてはならない。 (名古屋 Y)
【出典】 青年の旗 No.177 1992年7月15日