【メディア寸評】映画「紅の豚」を256倍楽しむ方法
この映画はどんな人にも、それこそ「疲れた頭をカラッポにして」、老若男女を問わずなんの気合いもなく、素直に笑えて楽しませてくれるだろう。この夏、私(35歳になる)と私の長女(もう5歳になった)は、少ない夏休みの夕暮れを映画「紅の豚」で楽しんだ。ちなみに、映画を見るときに小学生未満は「無料なので、お勧めする。これで2倍は楽しめよう。
はっきりいって、宮崎駿の一連の作品「風の谷のナウシカ」「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」などで見終わったあとの感動を、この映画に期待しては裏切られてしまうだろう。ただし、これを補うに十分な「手」は宮崎監督が用意してくれている。
この映画は当初「日本航空」の機内上映用の短い(30分程度の)作品として企画されていった。宮崎映画に一貫して登場する「飛行」(とぶこと)は、この作品では特に中心におかれている。主人公の「紅の豚」ことポルコはなうての飛行機乗りで、それこそ空のつわもの仲間たちと自由自在に滑空して見せてくれる。わたしのようにメカ好きのものは、これだけで「ウォー」と声を上げたくなりそうである。アニメならではの「動き」の楽しさをみせてくれるし、まあ登場人物や物の「動き」や「音」などは映画館で見るだけのことはあろう。90分退屈せずに見せてくれる。
だが、やはりわたしの頭は「カラッポ」ではない・‥と映画のあとでいいたくなるのである。こういう人のために、本紙の読者はほとんどがそうなるであろうが、必ずパンフレットを購入することをお勧めする。そこには、この映画を何倍にも楽しませてくれる「言葉」が数多く、出演者や製作者、評論者などから寄せられている。ここで、まだ見ていない人には気の毒であるが、キーワードをほんの少しだけかいつまんでみることをお許し願いたい。
★舞台となったアドリア海とユーゴスラビア紛争
★第1次世界大戦後
★ポルコ・ロツソ(赤い<共産主義>豚野郎)と ファシスト
★豚というキャラクターとアニメ映画
★挿入歌「さくらんほの実る頃」はパリコンミユーンで流行った歌
★「紅」と社会主義・・・「俺は一匹だけでもいいから飛んでるぜ」
★「飛ばねえ豚は ただのブタだ」
★「カツコイイとは、こういうことさ」
★「おめえはイイ子だ。みてるとな人間もすてたもんじゃねえって
そう思えてくるぜ」
等々。これはパンフレットからそのまま抜出した言葉である。
もちろん映画としての、飛行機としての、製作サイドとしての「コトバ」も数多くあり、それこそパンフレットをよむことで無限の楽しみが湧き出てくるようだ。
最後にこの映画・パンフレットでも宮崎監督は出演・スタッフの一覧を長々と掲載している。映画は監督だけがすばらしいのではなく、それにたずさわった全ての人が素晴らしいのだと主張しているようだ。
私たちもそうありたい。
追伸 映画が終わって、5歳の娘は「どうして豚になっちゃったの?」とききました。たしかに大事なテーマであるこの間は、5歳の子供には難しすぎるかも知れません。
パンフレットを読んだ私には、すこ-しわかった様な気がします。
【出典】 青年の旗 No.179 1992年9月15日