青年の旗 1989年3月1日 第143号
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【主張】 年金改悪阻止で統一闘争を!
格差是正の条件を現実のものとする闘いー89春闘
89春闘が山場を迎えている。連合にとって二回目の春季生活闘争であり、総評にとっても最後の春闘である。官民が統一したナショナルセンターの結成を今秋にひかえ、今春闘は重要な意味をもっている。労働戦線が統一し、その社会的影響力が拡大する成果を示すことが問われている。また55年八単産共闘でのスタート以降三四年が経過した春闘において、とくにここ十数年の「連敗」につながった原因を克服し、春闘が持っている積極的側面を生かして、今後の労働者、労働組合の一層大きな統一闘争の構築へと結びつけていくべき春闘である。
<景気「絶好調」下の89春闘>
日本は現在三十カ月近い「景気絶好調」というべき状態にある。88年度の経済見通しは政府の三・八%を大きく上回り、五%強の成長率の達成がほぼ確実となっている。労働力需要の総合的な状況を示す有効求人倍率は景気拡大に応じて上昇し、昨年六月以降一倍を超え、十四年ぶりの高水準となっている。企業の利潤も大幅な拡大を続けている。資本金一千万円以上の法人の四半期ごとの営業利益動向を示している大蔵省法人企業統計によれば、87年第二四半期以降連続して前年度比三割前後増の高収益が記録されている。
こうした状況に対して労働側も「低成長期に入って以降、最高の経済環境や雇用状況で人手不足の状態になっている。この絶好の条件を逃してはならない」(黒川総評議長、第八十回臨時大会)と訴えている。経済的、政治的環境の条件だけで春闘が決まるわけではなく、この「条件」を現実の成果に結びつける政策、運動、労働運動・労働組合の主体的力量が問題なわけである。その意味において進みつつある労働戦線再編、統一による主体的力量が一層問われざるを得ない春闘である。
<経済と生活のギャップの解消>
今春闘にあたり、財界、独占資本の側は「世界最高水準に達した名目賃金」をこれ以上あげるのではなくて「物価水準」引き下げによって「真の豊かさを実現する」べき、賃上げも労働時間短縮もではなく、「賃上げ、時短をセットにし」どちらかを選択、あるいは組み合わせるべきとの主張を労問研報告にて打ち出している。
一方連合は、(1)生活、賃金実態を重視し、経済とのアンバランス、格差を解消する。(2)賃金、労働時間への成果配分の遅れを取り戻し、経済先進国にふさわしい国民生活の質的向上をめぎす。(3)景気を長期に持続させ、新しい内需型経済を定着させるため、個人消費の拡大をはかるとの基本目標の下、賃上げ要求を「六~八%のゾーンとし、七%程度を中心とする」ことを決定している。
また、総評は「二ケタをめぎし、八%以上(定昇別)二二〇〇〇円」の賃上げ要求を確認し、春闘連絡会も「少なくとも八%程度」を目標とすることを決定している。
連合や総評のこれらの方針の基本にあるのは日本経済の「絶好調」とは裏腹にいっこうに改善しない労働者のくらしや仕事をめぐる環境、経済と生活とのギャップの拡大、社会的不均衡の拡大に対する労働者の不満の強まりである。連合の生活調査によれば「日常生活に困らないだけの収入が実現されていない」との意見が二十代から四十代までの各世代で四~五割を占めている。総評の「生活・賃金・労働時間調査」(88年十二月)によれば、ゆとりや豊かさを感じていない人が八割に達し、昨年に比べて「生活が苦しくなった」が六割以上となっている。そして、「企業ばかりで国民生活は豊かでない」(84・8%)「企業規模で賃金等の格差が大きい」「85・8%)「住宅、土地を持っている人と持っていない人の格差が拡大しすぎている」(72・3%)などの意見が目立っている。
豊かになった日本経済と一方でそれを作りだしてきた自らの現実の生活、労働との間にギャップが存在していることを労働者は実感し、このギャップが埋められることを要求している。このような経済と労働者の生活との問のギャップを埋めるためにどのように接近し、関っていくのかが重要である。
<豊かな労働者生活実現の条件と条件実施の力>
日本は経済大国と称されるほどの「豊かな」国となった。米国が国際舞台における政治的・経済的影響力を後退させつつあるこの歴史的時代に世界最大の債権国となった日本にとって、債権国としていられるであろう時代の間に次なる時代を展望してこの豊かな資金を何のために用いるのかという選択がこの国の支配階級たる独占資本につきつけられている。当然彼らの選択肢の中には、彼らの利害を損なわない範囲での社会資本の整備、労働者生活の充実が含まれている。
一方、この日本が「豊かな」国となった大きな条件には、長時間過密労働に象徴される労働者の犠牲、先進資本主義諸国中においては最も低いほうに位置する労働分配率があることはまぎれもない事実である。それは欧米諸国からの「日本人は働きすぎ」といった批判や「豊かに」なった国、企業と自分の生活とのギャップによって広く労働者に認識されるにいたっている。
そこで、独占資本は労働者、労働運動の側からこのギャップを埋め、これまでの分をとり戻そうとの運動が起こる前に「21世紀の勤労者生活の豊かさを求めて」「真の豊かさの実現のために」等々のスローガンの下労働分配率は今より一切高めることなく、科学技術革命の進展による生産諸力上昇によれば当然実現し得る」彼らにとっては自らの取り分を拡大することはあっても少なくすることはない範囲での「豊かな労働者生活の未来像」を描きだし、労働者の目をそちらにそらしその「豊かな労働者生活」があたかも独占資本の「努力」によって労働者に「与えられる」かのように宣伝につとめている。雇用を拡大するわけでもなく、残業代無しで生活できる賃金水準にするわけでもなく、逆に平日の就労時間を延長させながらでも、とにかく政府、財界一体となって急速に進む週休二日制導入はこの端的な事象である。
今後の労働運動、労働組合運動は、こうした日本資本主義が到達した政治、経済、社会的諸条件に対応しこれらの諸条件の変化、進展に伴い生じてくる労働者の意識、要求を的確に汲み取りながら前進することが今までに増して重要となっている。資本の側が彼らにとって認め得る「豊かな労働者生活」を現実のものとし、それにとどまらず労働者自身にとって(経済的、社会的、文化的に)豊かな生活を実現していくことが問われている。
<年金改悪阻止を統一闘争の突破口に>
予算国会の最中に闘われる89春闘は、リクルート疑獄の追求、四月一日からの消費税実施、そして夏の参議院選をひかえており、これらに与える影響はきわめて大きく、密接に関係している。消費税はすべての労働者の生活の負担を重くするのみならず、あまりにズサンな税制度であるが故に大きな混乱が予想され、今後の戦いと参院選の結果によっては凍結、廃止ともなるものである。消費税強行導入、リクルート疑獄への不信、不満などが示された形の福岡参院補選自民大敗宮城県知事選公認候補出馬辞退等々はこの可能性を示している。
また、今予算国会では年金制度改悪(厚生年金の支給開始年令を現行の六〇才から六五才へと段階的に遅らせ、保険料を引き上げる)が狙われており、これに対して総評はストライキも含めた阻止闘争を検討し、連合も「一枚岩」で阻止の闘いを展開せんとしている。従って、連合、総評を中心として年金制度改悪阻止の広範な統一闘争を突破口としながら今予算国会を大衆運動によって包囲する条件も存在している。
<89春闘から統一闘争の前進・拡大を!>
今秋の総評解散、官民統一のナショナルセンター結成を前にした今春闘は労働者、労働組合の統一した闘いを一層拡大し、発展させていくうえでも重大である。
共産党・統一労組懇は依然として労働運動、労働組合運動の場へ政党の論理を持ち込み、分裂行動を強めている。
この共産党・統一労組懇の分裂行動に断固反対するとともに、労働運動、労働組合運動の場への政党の論理の持ち込みに象徴されるような誤りが共産党によるだけでなく、これまでの労働運動、組合と政党の関係に存在していたがこれを克服しなければならない。
また、この誤りとともに資本の側と労働者の側の力関係の把握においてそれを適確に判断せずにいることによって、実現し得る条件下にある労働者の要求を提出しその実現のための運動を組み立てることを放棄したり、逆に失わなくてもよい労働者の権利を失うということも日本の労働運動に存在していた。これらの誤りを克服しつつ労働運動の統一の道を進まねばならない。