【投稿】参院選・野党統一候補をめぐって 統一戦線論(61)

【投稿】参院選・野党統一候補をめぐって -統一戦線論(61)
アサート No.499 2019年6月

<<安倍政権、ダメージの急浮上>>
安倍首相は「政治ショー」・イラン訪問の成果を引っ提げて外交手腕をアピールし、参院選大勝を目指したつもりが、逆に何の成果もなしに醜態をさらけ出すことになってしまった。「自分ならハメネイ師に会うことができる」(朝日新聞6/11付)と持ちかけ、トランプ大統領のメッセージを携えて訪問したが、ハメネイ師は「私はトランプ大統領個人は一切メッセージを交換するに値しない人物だと思っている」と一蹴されてしまったのである。しかも、安倍首相が自ら買って出たイラン訪問の最中に、アメリカはイランに対する追加制裁を発表している。ただ単にダシに使われ、ぶち壊されているのである。米紙ウォールストリート・ジャーナルは「中東和平における初心者プレーヤーが痛みを伴う教訓を得た」との見出しで「日本の指導者による41年ぶりの訪問を終え、米国とイランの対立関係は以前より不安定になった」とその逆効果ぶりを論評、ドイツ誌シュピーゲルは「仲介役としての試みに失敗した」と断じている。
一方、イランのハメネイ師は安倍首相に対し、核兵器の製造・保有・使用の意図はないと明確に語っている。トランプ大統領が「事態のエスカレートは望んでいない」などと対話も口にするなら、イランとの包括的核合意から一方的に脱退し、経済制裁や軍事的な脅しや恫喝、危険な戦争挑発などはやめるべきだと、安倍首相が説得すべきなのは、トランプ大統領なのである。トランプ大統領に取り入り、兵器爆買いに走り、ご機嫌伺いしかできない、外交手腕ゼロの安倍首相の実態があらためて浮き彫りにされてしまったのである。参院選にとってはマイナスになりこそすれ、とてもプラスになるものではない。
そのイラン訪問と相前後して、安倍内閣にとっては、さらに重大なダメージが露呈され、醜悪な責任の押し付け合いが展開されている。金融庁審議会の「老後2000万円」問題の浮上である。現在の高齢夫婦世帯は平均で、毎月の支出と年金などの収入の差額5万円を資産の取り崩しで賄っており、30年で2千万円、要介護ならさらに1000万円の追加が必要になる。その収入との差額を、報告書が「不足」「赤字」と表現、現役期から「つみたてNISA」などの株式投資や資産形成を促していたのである。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)によって、年金積立金を債券市場のリスク運用で15兆円もの損失を出している問題や責任を不問にして、この報告である。安心どころか、不安と破綻の宣告とも言えよう。
これまで「年金100年安心」と言い募ってきた安倍首相が予期せずして、その嘘を暴露され、慌てふためく事態である。安倍首相は、金融庁の報告書は「不正確であり、誤解を与えるものだった」などと答弁。麻生副総理は、報告書発表直後の6/4、「100歳まで生きる前提で自分なりにいろんなことを考えていかないとダメだ」と報告書の内容を支持していたにもかかわらず、批判の高まりに驚き、「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解、不安を与えた。年金は老後の生活の柱という政府のスタンスと違うので受け取らない」とこの報告書の受け取りを拒否。報告書の全文は金融庁ホームページに掲載されているにもかかわらず、与党は、拒否した以上、この問題は存在しないと、予算委員会審議まで拒否する狼狽ぶりである。
「あたかも公的年金だけでは足りないかのような誤解」というが、実際は「マクロ経済スライド」による年金支給額の実質削減を強行しており、国民年金の受給実態に至っては、「毎月5万円足りない」どころか、報告書でいう収入が「毎月5万円程度」の人たちが少なくないのである。怒りや批判、年金制度の抜本的改革の声が沸き起こるのは当然なのである。

<<市民連合と5野党・会派の「共通政策」>>
参院選を目前に控えてこのダメージの急浮上は、安倍政権にとって致命傷になりかねない。
変転する事態の展開、その矛盾と問題点に敏感に対応し、政策的対決点を明確にし、安倍内閣に決定的ダメージを与える、それを現実のものとする野党共闘、統一戦線の形成が問われている。
先月末、5/29、ようやく野党4党1会派と市民連合による政策協定の調印が行われた。以下はその全文である。

市民連合の要望書
来る参議院選挙において、以下の政策を掲げ、その実現に努めるよう要望します。
だれもが自分らしく暮らせる明日へ
1 安倍政権が進めようとしている憲法「改定」とりわけ第9条「改定」に反対し、改憲発議そのものをさせないために全力を尽くすこと。
2 安保法制、共謀罪法など安倍政権が成立させた立憲主義に反する諸法律を廃止すること。
3 膨張する防衛予算、防衛装備について憲法9条の理念に照らして精査し、国民生活の安全という観点から他の政策の財源に振り向けること。
4 沖縄県名護市辺野古における新基地建設を直ちに中止し、環境の回復を行うこと。さらに、普天間基地の早期返還を実現し、撤去を進めること。日米地位協定を改定し、沖縄県民の人権を守ること。また、国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断を止めること。
5 東アジアにおける平和の創出と非核化の推進のために努力し、日朝平壌宣言に基づき北朝鮮との国交正常化、拉致問題解決、核・ミサイル開発阻止に向けた対話を再開すること。
6 福島第一原発事故の検証や、実効性のある避難計画の策定、地元合意などのないままの原発再稼働を認めず、再生可能エネルギーを中心とした新しいエネルギー政策の確立と地域社会再生により、原発ゼロ実現を目指すこと。
7 毎月勤労統計調査の虚偽など、行政における情報の操作、捏造(ねつぞう)の全体像を究明するとともに、高度プロフェッショナル制度など虚偽のデータに基づいて作られた法律を廃止すること。
8 2019年10月に予定されている消費税率引き上げを中止し、所得、資産、法人の各分野における総合的な税制の公平化を図ること。
9 この国のすべての子ども、若者が、健やかに育ち、学び、働くことを可能とするための保育、教育、雇用に関する予算を飛躍的に拡充すること。
10 地域間の大きな格差を是正しつつ最低賃金「1500円」を目指し、8時間働けば暮らせる働くルールを実現し、生活を底上げする経済、社会保障政策を確立し、貧困・格差を解消すること。また、これから家族を形成しようとする若い人々が安心して生活できるように公営住宅を拡充すること。
11 LGBTsに対する差別解消施策、女性に対する雇用差別や賃金格差を撤廃し、選択的夫婦別姓や議員間男女同数化(パリテ)を実現すること。
12 森友学園・加計学園及び南スーダン日報隠蔽(いんぺい)の疑惑を徹底究明し、透明性が高く公平な行政を確立すること。幹部公務員の人事に対する内閣の関与の仕方を点検し、内閣人事局の在り方を再検討すること。
13 国民の知る権利を確保するという観点から、報道の自由を徹底するため、放送事業者の監督を総務省から切り離し、独立行政委員会で行う新たな放送法制を構築すること。
2019年5月29日
私たちは、以上の政策実現のために、参議院選挙での野党勝利に向けて、各党とともに全力で闘います。
安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合
上記要望を受け止め、参議院選挙勝利に向けて、ともに全力で闘います。
立憲民主党代表 枝野幸男
国民民主党代表 玉木雄一郎
日本共産党委員長 志位和夫
社会民主党党首 又市征治
社会保障を立て直す国民会議代表 野田佳彦

<<克服されるべき問題>>
6/13、この合意に基づき、全国32の1人区全てにおいて候補者一本化が完了したことを確認、遅すぎたとはいえ、ようやく足掛かりができたことは評価できよう。複数区では相も変わらず野党共倒れが少なからずである。安倍政権を退陣に追い込む、まだまだささやかな一歩に過ぎないと言えよう。
しかし早急に克服されるすべきいくつかの問題を取り上げよう。
まず第一は、「市民連合」を名乗っても、多くの圧倒的多数の有権者にとっては、認知された存在ではないことを銘記すべきであろう。市民を代表するに足る、公開と参加の原則、政策に関するパブリックコメント、オープンな討論と協議の場の設定、ネットを活用した意見の公募とそのフィードバックが不可欠である。現実はこれらが皆無に等しいと言えよう。政策のトップダウン型の提起ではなく、ボトムアップ型の、市民の政策決定への積極的関与を明確にし、広く呼び掛けるべきであろう。とりわけ情勢が安倍政権のダメージの浮上に伴って流動化している現在、市民の政策提言、参加型運動の形成こそが要請されていると言えよう。既成政党の付属物に堕してしまわない闘いこそが要請されているのである。
第二に、有権者の約4割が無党派層であるという現実、そして野党の支持率が極めて低いものでしかないという現実に立脚すれば、初めから既成政党や会派に限った政策協議、候補者調整で事足れりでは、流動する現実から乖離してしまいかねない危険性が大である。現に山本太郎氏らの「れいわ新選組」の新しい動き、問題提起が生かされない怖れが大である。新しい運動、エネルギー、問題提起を既成政党の枠の中に閉じ込めるのではなく、むしろ広く生かし、共に闘える選挙闘争、共闘のあり方をこそ提起すべきであろう。ましてや、これまでの党公認候補を、一転して無所属に鞍替えしたからと言って、それはにわか作りの野党統一候補を名乗るための方便にしかすぎないものである。いくら便宜的に「無所属化」しても、無所属で大阪12区補選に立候補した共産党の宮本岳志氏が最低得票しか獲得できなかった敗北に示されているように、有権者は手厳しい判断をしているのである。(もちろん、たとえ所属政党に籍を置きながらも、統一戦線前進のために一貫して無所属で戦うことを堅持することを明らかにしている場合は別であり、本来それは最初から追及されるべきであろう。)
第三は、政策の対決点に関して、たとえ野党共闘、「市民連合」の出発点が、安保法改定問題が一丁目一番地であったとしても、それは同じ仲間内の内輪の論理であって、有権者の最大の関心事である、経済政策を第二義的なものにしてはならないということである。安倍政権の最大の弱点である、アベノミクス・市場原理主義の破綻をこそ徹底的に問題視し、反緊縮の経済政策への大転換をこそ訴えるべきであろう。薔薇マーク運動や山本太郎氏らの運動の力点はそこに置かれている。「老後2000万円」問題の浮上は、アベノミクス破綻の問題でもある。市民連合と5野党・会派の「共通政策」に縛られたような選挙キャンペーンでは有権者の共感を得られるものではない。
たとえ、全1人区で野党統一候補が合意されと言っても、名ばかりで実を伴わない「野党共闘」では、有権者の手厳しい審判を受けるであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.499 2019年6月

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