【投稿】世界の荒波に漂う安倍政権(2)
―中東情勢に介入し緊張を拡大― アサート No.499 2019年6月
冊封国主の振る舞い
5月25日、令和最初の国賓として来日したトランプを、安倍は最大限の厚遇で迎えた。26日は朝からゴルフプレー、大相撲観戦、そして締めくくりの飲食と、まさに高級インバウンドと言うべき、接待の連続であった。
トランプの趣味であるゴルフは楽しかったかもしれないが、国技館の升席に設えられた特別席に座ったトランプは、目の前で繰り広げられる取り組みに、何が起こっているか判らない様子がありありで、「どちらが勝ったのか」と安倍に尋ねていたと言う。
六本木の高級炉端焼き店では、魚介類を食さないトランプに対し「アイダホポテト」のじゃがバタを供しようとしたが、実際は北海道産だったと言うオチまでついた。
上げ膳据え膳の接待外交のフィナーレ、おおトリの役割を担ったのは新天皇夫妻であった。27日皇居にトランプ夫妻を迎えた新天皇の振る舞いは、あたかも宗主国皇帝に即位の報告と承認を乞う冊封国主の姿の様に映った。
こうした皇室の対応に同夜の宮中晩さん会に臨んだトランプは、終始上機嫌であった。即位早々、最大限政治利用された形となった新天皇であるが、不満はおくびにも出さず、寧ろ喜々として安倍と同様に冊封国主としての役割を受け入れているようであった。
トランプは訪日最終日の28日には横須賀で護衛艦「かが」を視察したのち、強襲揚陸艦「ワスプ」に移りスピーチを行ったが、ここではホワイトハウスが政敵であった故ジョン・S・マケイン三世の名を冠したイージス駆逐艦を、本人の目に触れないようにブラインドすると言う椿事が発生した。
第7艦隊は当該駆逐艦も含む相次ぐトラブルの発生で、練度の低下が指摘されているが、この一件でさらにモチベーションが下がったことは間違いない。これに関しては安倍のあずかり知らぬ事とはいえ、軍艦の上で強固な日米同盟を叫んでみても、その足元は揺らいでいることが明らかになったのである。
トランプの3泊4日の日本訪問で、安倍との会談はサイドメニューに過ぎなかった。肝心の経済問題に関する合意事項はほとんどなく、最初から日米共同声明も予定されないと言う前代未聞の首脳会談となった。
首脳会談後の記者会見では、日米貿易交渉を加速させることで一致したと明らかにしたが、これは交渉が事実上停滞していると言うことである。
またトランプは26日に自らのツィッターに「妥結は参議院選挙後になる」と配慮を示したように見えたが、会談では参議院選直後の8月決着を要求した。これに対して安倍は会談後の会見で時期について言葉を濁すなど、日米のすれ違いが改めて浮き彫りとなった。
北朝鮮問題については安倍が無条件での日朝首脳会談を求める意向を示したのに対し、トランプは全面的な支持を表明したが、訪日直前には「短距離弾道弾の発射については気にならない」とツィートするなど、安倍の悲壮感との温度差が際立ったのである。
唯一トランプが具体的な成果としたのは、「爆買い」と言われるF35戦闘機の購入のみであったと言っても過言ではない。
通用しない「強固な同盟」
このように今回のトランプ訪日は改元、即位にかこつけた空虚な政治ショーとして終わったのであるが、あまりの中身の無さに、安倍周辺や与党も苦し紛れの評価しかできない状況がある。
「トランプとゴルフができる首脳は安倍だけ」とは噴飯ものである。ゴルフはグローバルな外交ツールではないだろう。「日米首脳の蜜月ぶりを中国、ロシア、北朝鮮に示すことが出来た」というのも夜郎自大の類である。
6月5日モスクワで開かれた中露首脳会談で、両首脳はイランや北朝鮮情勢に関し、アメリカを念頭に連携を強化することで一致した。
直後の6月7日、石垣島周辺海域でロシアの大型対潜艦「アドミラル・ヴィノグラドフ」がアメリカのイージス巡洋艦「チャンセラーズ・ビル」に衝突寸前まで急接近するという事態が発生した。ロシア艦は僚艦とともに沖縄本島と宮古島間を反復航行し、対中牽制を行う空母「ロナルド・レーガン」の追尾・監視を行っていたと見られている。
アメリカ海軍は直後に動画を公開したが、ロシア艦は乗組員が飛行甲板で日光浴をするなど余裕を見せているのに対し、米艦は撮影者らが動揺しており、ここにも練度の低下が見て取れるのである。
さらに6月10日には、中国の空母「遼寧」艦隊も沖縄本島と宮古島の間を通過し太平洋に出るなど、中露は日本近海での動きを活発化させている。
両国は4月下旬から5月上旬にかけて黄海で合同軍事演習「海洋協同2019」を実施したばかりである。これにはロシアから8隻、中国から6隻の艦艇が参加し、対空、対潜訓練や実弾射撃など実戦的な演習が行われ、軍事的な連携の強化が図られていた。
一覧の示威行動は、首脳会談を踏まえた「対米共闘」の一環と考えられるが、アメリカの「強固な同盟国」である日本も当然その対象になるのである。今回も「ニアミス」事件の後、「いずも」など日本艦隊は南シナ海で「レーガン」と合流し演習を行っており、危機に直面する事態が懸念される。
安倍はプーチンから袖にされ、中国に接近するため30年前の天安門事件や現在の香港の民主主義闘争に対して沈黙を決め込んでいるが、中国指導部は足元を見透かしているだろう。
中国はアメリカとの貿易戦争で疲弊し、「一帯一路」構想も「債務の罠」で順調に進まないので、日本に助けを求めに来ている、などと言うのは希望的観測に過ぎない。こうした見方はロシア、北朝鮮に対しても流布されているが、両国の日本に対する対応を見るならば、それは的外れであることが判る。
とりわけ北朝鮮は長引く制裁下で苦境に立たされているのは事実であるが、日本に懇願してまで支援を求める考えはないようである。
6月2日、朝鮮中央通信は「前提条件無しでの首脳会談開催」を求める安倍に対し「面の皮が厚い」と痛烈に批判、さらに同5,6日モンゴルで開かれた国際会議に合わせ接触を打診した日本政府に対し、肘鉄を食らわせた。
取りつく島のない北朝鮮に対し、安倍はただ首脳会談を懇願することに終始しており、トランプと決裂できる唯一の首脳である金正恩には太刀打ちできないであろう。
朝鮮半島の安定化に不可欠な日韓関係の改善も進んでいない。6月1日シンガポールで開かれたアジア安全保障会議に合わせ、非公式の日韓防衛省会談が行われた。ここでは昨年末に発生したレーダー照射問題を事実上棚上げし、北朝鮮情勢などを協議していくことが確認され、翌日の日米韓防衛相会談では北朝鮮非核化で協力していくことで一致した。
しかし、自民党の一部議員や右翼メディアは「韓国と笑顔で握手するとは言語道断」などと、あたかも岩屋防衛相が売国奴であるかのような批判を繰り広げた。
人権を無視した許しがたい暴言を吐く閣僚、議員でも最初は擁護する安倍であるが、今回は岩屋を擁護することも、反発する議員らを窘めることもしていない(野党が岩屋を非難すれば条件反射で擁護していたかもしれないが)。
G20での日韓首脳会談も見送りとの観測が強まっているが、金正恩とは無条件でと言いながら、文在寅とは合わないという姿勢は、露骨なダブルスタンダードであり国際的な理解は得られないだろう。
テロ招く安倍外交
近隣諸国との関係が八方塞となる中、6月12日安倍は日本の総理としては41年ぶりにイランを訪問した。アメリカとイランの緊張が高まる中、伝統的な友好関係を活用し、橋渡し役を買ってでたのであろうが、火中の栗を拾うが如き行為は大火傷を招く結果となってしまった。
安倍は善意の仲介者を装っていたが、実際はトランプの特使ともいうべきスタンスであった。12日のロウハニ大統領との会談では、両国関係の進展や、核合意の維持の重要性では一致したものの、大統領は緊張激化の原因はアメリカにあり、我々は戦争を望まないが、アメリカからの攻撃がれば断固対応すると、従来の姿勢を強調した。
翌日のハメネイ師との会談でも、けんもほろろに「トランプとは話をしない」と断言され、子供の使い扱いされた安倍は立つ瀬が無くなってしまった。
そして安倍が会談中の13日、ホルムズ海峡を航行中の国華産業が運用するタンカーなど2隻が攻撃を受けた。まさに泣きっ面に蜂である。
攻撃主体に関する情報が錯綜し、陰謀説が跋扈しているが、イランの関与が疑われると安倍の面目は丸つぶれになり、外交的大失策となるため、マスコミや政権寄りの「専門家」は誰がやったのかについて言葉を濁していた。
しかしポンペオ国務長官は早々に「イランに責任がある」と表明、攻撃がイラン革命防衛隊によるものだとして「証拠映像」を公開し、トランプもこの見解を追認した。
またポンぺオは「イランの最高指導者は日本を侮辱した」と発言、安倍を擁護するつもりだったのだろうが、かえって安倍を貶めることになってしまった。
事の真偽が明らかにならない中、日本は国際的信用を失墜したのである。
2015年1月、中東訪問中の安倍は「イスラム国と対決する関係国に2億ドルを支援する」と表明したが、直後にISに囚われていた日本人2名が殺害された。 今回も中東で分不相応な振る舞いをした途端、テロ攻撃が発生しこの地域の緊張を激化させる結果を招いたのである。
この事態に対しての「留守政府」の狼狽ぶりは醜いものがある。閣僚で最初に対応したのは世耕経産相で、何より市場の動揺を抑えるのが主眼という、的外れな対応であった。
さらに国家安全保障局の会合でも、船籍や乗組員の国籍が日本でないため、集団的自衛権は行使できない、海上警備行動なら可能と論議が続き、結局自衛隊の投入は見送られた。
海賊対処行動でソマリア沖にいる護衛艦「あさぎり」を「情報収集」目的として急派するのは可能だったが、政府は及び腰であり、中国や韓国に対しては居丈高に罵声を浴びせる勢力も、イスラム圏が相手の今回は鳴りを潜めている。
2007年、「消えた年金」で7月の参議院選挙に大敗した安倍は政権に居座り続けたが、対テロ特措法による海上自衛隊の派遣延長を小沢一郎に拒否され、9月に辞任に追い込まれたことが想起される。
太平洋も、アラビア海も荒波が安倍を呑み込もうとしているが、日本国内は凪である。こうした状況を転換し安倍政権を早期に沈めるべきであろう。(大阪O)
【出典】 アサート No.499 2019年6月