コロナ禍が地球を席巻する4月下旬、金正恩重体説が世界を駆け巡った。一時は既に死亡しているのではないかとの情報もあったが、5月2日に朝鮮中央通信が、前日の動静を報道し20日ぶりに健在が確認された。
北朝鮮の最高権力者を巡っては、初代の金日成、2代目の金正日に関しても、時折死亡説が流布されたが、いずれも程なく否定された。
逆に2名とも本当に死去した時は、時を置かずして発表されており、代替わりも重要なイベントである北朝鮮の政治体制を勘案するなら、今回の騒ぎも眉唾ものであったと言える。
しかし、金正恩が様々な健康問題を抱えていることは明らかであり、それをカバーし、硬軟の役割分担するように金与正の露出が増えていることは注目される。
とりわけ、6月16日の南北連絡事務所の爆破は、北朝鮮最強硬派としての金与正の存在感を強くアピールするものとなった。
爆破の口実となった、脱北者団体による宣伝ビラの散布を始め、北朝鮮のこうした姿勢の矛先はもっぱら、韓国、文政権に向けられている。一方トランプ政権に対してはほとんど沈黙を保っており、アメリカ国内の混乱と、大統領選挙の行方を注視しているものと考えられる。
対米政策に関しては、トランプの敗北を前提に対米政策の見直しが進められている。7月10日金与正は「年内の米朝会談は無益」との談話を発表した。
先の無いトランプと話しをしても、事態の進展は見込めないと言うことであるが、トランプ自身もそうした余裕はないだろう。
27日には金正恩が「核兵器によって国の安全と未来は永遠に保障される」と表明し、アメリカ新政権への牽制球を投じた。全ては、11月の選挙結果待ちということとなったが、バイデンではさらに交渉は困難になるだろう。
こうした状況の中、安倍政権は全く関与できていない。北朝鮮のミサイル対策が口実だったイージスアショア計画は頓挫し、軍拡の対象は中国にシフトしている。この間拉致被害者高齢家族の逝去が続いているが、ボルトンの著作では拉致問題軽視が暴露された。
一時、日朝首脳会談を模索した安倍であるが、その動きは現在完全にストップしている。安倍は「国難突破総選挙」などと、これまで北朝鮮を都合よく政権延命に利用してきたものの、コロナ禍に右往左往し、トランプ以上に余裕のないのが現状といえる。
北朝鮮がコロナ感染を認めた現在、東アジア関係国での連携が求められているが、そうした旗振りも安倍政権には期待できないのである。