<<自ら、墓穴を掘る>>
1/6、「集会に来てくれ、ワイルドになるぞ!」と自ら呼びかけたワシントンでの「ワイルド・プロテスト」・❝荒々しい❞抗議集会でトランプ大統領は、この集会に引き続く一連の事態の中でまったくそのお粗末な姿を米国内はもちろん、全世界にさらけ出してしまった。ホワイトハウス近くの集会の壇上から、文字通り程度の低いワイルドさで、大統領選の結果を民主党・バイデン氏に最終的に確定する議会を威嚇し、「盗まれた選挙」を取り返すために、議会に行って選挙の手続きに抗議せよと叫び、議事堂への行進を呼びかけ、自らも共に議事堂に向かうことを示唆したのであった。ところが、自らはホワイトハウスに逃げ込み、一方、暴徒と化した参加者がやすやすと議事堂に導き入れられ、審議を中断させ、南軍の旗やトランプの旗を振り回し、上下両院を我が物顔にまるで物見遊山のごとく占拠したのであった。その上、ガラス窓をぶち壊し、備品やパソコン、書類を盗む事態の中で、催涙弾が発射され、死傷者が出だすや、トランプ氏はうろたえる。ホワイトハウスのスタッフがこんなことはやめさせるべきだと助言すると、「彼らを非難したくない」と駄々をこね、結局はツイッターで「平和的な行動を。暴力はなしだ!」「あなたたちが怒っているのは正しい。選挙が盗まれたのです。 しかし、今は家に帰りなさい、私たちはあなたがたを愛しています」とサポーターに呼びかけたのであった。規制を受けるツイッターに代わって、内容検閲なしの保守系SNS・パーラーでトランプ・サポーターに「1/6、ワシントンに向かうすべての愛国者たちよ、武装せよ!」と拡散させ、銃や火炎瓶、こん棒、爆弾まで用意させ、ワイルドな抗議を呼びかけていた本人が、いまさら、何をかいわんや、まったくの恥辱と大失敗の醜態と言えよう。
1/5の南部ジョージア州の決選投票で共和党現職2議員が当初は優勢であったにもかかわらず敗退し、自らの足場であった上院多数支配をも明け渡さざるを得なくなったのも、トランプ氏自身が招いたものであった。トランプ氏の巻き返しは、自ら、墓穴を掘ることによって、あらゆる段階で破綻し、失敗したのである。
1/20のバイデン新政権就任式まで残された日々はわずかであり、トランプ政権居座りのために、就任式ぶち壊し行動や、対イラン、対中国の軍事的威嚇・挑発行為に乗り出すことが懸念されているが、高官が次々と辞任する政権、与党共和党の事実上の分裂という事態の中では、それももはや封じ込められてしまっていると言えよう。
<<2,000ドルの救済小切手>>
さらにこの1/6の騒乱の事態の中でも特徴的であったのは、ニューヨーク株式市場は値を下げるどころか、何事もなかったかのように、逆にダウ工業株30種平均は31,022.65ドルの新しい最高値を記録したことであった。すでに株式市場は実体経済とかけ離れたマネーゲームの場と化し、バブルの領域に入っているにもかかわらず、騒乱の事態・政権の機能不全に市場が崩壊するどころか、一見、無関係であるかのように高値を付けたのである。ダウは1.4%上昇し、S&P 500は0.6%上昇し、小型株指数のラッセル2000は4%近く急上昇したのである。
この背後には、財務長官スティーブ・ムニューシンの下にある取引所安定化基金(Exchange Stabilization Fund)の介入が指摘されている(1/7、WallStreetOnParade)
。この基金は、市場の崩壊を防ぐ目的で、トランプ就任前の943億ドルの資産から、2020年9月30日現在、6,820億ドルに増加しているのである。
しかしより決定的なのは、トランプ騒乱にもかかわらず、またその騒乱が醜態をさらけ出したがゆえに、次期民主党政権誕生が株式市場にとってより好ましい状況として迎えられるという期待感を高めたことであろう。とりわけ、ジョージア州の決選投票でバイデン氏が、民主党候補の応援演説で有権者に「(コロナ対策特別支援の)2,000ドルの小切手が必要な場合は、民主党に投票する必要があります。共和党に投票した場合、貪欲な共和党員は法案に署名しないため、2,000ドルを獲得することはできません。」と訴えていたことから、バイデン政権はより多くのマネーゲーム資金を提供する現実的可能性を評価したのであった。
しかしこの可能性は、50:50の上院で民主党のジョー・マンチン上院議員が、2,000ドルの救済小切手を「絶対に支持しない」と表明していることから、中道主義を唱えるバイデン政権の共和党との取引材料とされるであろう。
それは、バイデン政権の基本政策すべてについて言えることであるが、トランプ政権とは異なったニューディール政策に踏み出せない弱さと関係していると言えよう。バイデン氏を支える民主党の保守主流は、これまで一貫して社会保障とメディケア削減に努め、今回の大統領選でも、経済危機を打開する根本的政策転換としての、メディケアフォーオール(国民皆保険)やグリーンニューディールに否定的であったことである。しかし、今回の大統領選を通じて、民主党内左派の発言力が今までになく比重を高めたことから、あるべき、実行されるべきニューディール政策が、現実的政策選択として争点に浮上してきているのである。今回のトランプ騒乱は、それを加速させたとも言えよう。
(生駒 敬)