<<「キラー」プーチン>>
国内政策では、新自由主義路線からの転換に大きく舵を切りだしたバイデン米新政権であるが、対外政策では環境政策を除いて前トランプ政権の対立激化路線・新自由主義路線をそのまま継承、むしろより激化させ、対中・対ロの新冷戦政策・軍拡路線に乗り出す、危なっかしい姿勢を打ち出している。
3/12には、バイデン米大統領の強い働きかけで、米・日・豪・印の「クワッド」(「4つの」を味するQuad)と呼ばれる4か国首脳会議がオンラインで開かれ、「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進し、法の支配に基づく海洋秩序維持での連携を確認、明らかに中国に対峙するアジア版NATOの形成に踏み出している。
3/15、バイデン大統領はブリンケン国務長官とオースチン国防長官を日本に派遣、茂木外相や岸防衛相と会談させ、その際、中国の「威圧的で攻撃的な姿勢」との対決を最大の課題として提起し、米政権への同調・日米軍事同盟の強化を約束させ、
続いて3/18、オースチン国防長官は北朝鮮に対し、米軍は「今夜にでも攻撃する準備ができている」と脅させている。トランプ前政権の対話姿勢からの明らかな転換である。
そして3/17、バイデン米大統領は米ABCニュースのインタビューで、ロシアは同国が行ったとされる米大統領選挙への干渉に対し報いを受けることになると述べ、プーチン大統領が「殺人者」(「キラー」プーチン)であるとの認識を明らかにした(司会者の質問に乗せられた側面はあるが)。バイデン新政権下でもいまだにアフガン、イラン、シリアで戦争政策を継続し、自らも深くかかわってきたウクライナや中南米で政権転覆政策を続け、侵略、破壊、殺戮、略奪を世界規模で繰り返してきたアメリカの大統領が、他国の大統領をあしざまに人殺しだと主張したわけで、対話と外交を台無しにする発言を平気で行ってしまう思慮のなさはあきれるばかりである。戦争挑発発言とみなされる愚かさである。
さらに3/19、アンカレッジで開かれた米中会談では、ブリンケン国務長官とサリバン国家安全保障補佐官が、中国側の楊潔篪共産党政治局員と王毅国務委員兼外相との会談で異例の挑発的なやり取りを展開、共同記者会見も、会談後の共同声明もなしという事態を全世界に見せつけるものであった。
3/24、ブリュッセルの北大西洋条約機構(NATO)本部を訪問したブリンケン国務長官は、米国はNATO同盟国に米中のどちら側につくのか選択を迫るようなことはしないが、中国は国際貿易の秩序を乱していると非難し、「われわれが力を合わせれば、いかなる公平な競争の場でも中国に勝てる」として、NATO同盟国にこの敵対的な立場で米国に加わるよう促している。
こうした経緯だけを見ても、バイデン政権は、対中・対ロの新冷戦政策が外交政策の最優先事項であることを明らかにしており、世界戦争にもつながりかねない危険な道に足を踏み出した可能性がある、といえよう。
<<「混乱をお詫びします」>>
こうした危険な
情勢の進展の最中の3/28、アメリカの核兵器と抑止力を管理・監督する米国戦略軍(STRATCOM)から、一通の一見暗号めいたコードが記載されたツイートが発信された。そのツイートは、何千もの核弾頭を担当している軍事司令部である米国戦略軍の検証済みのアカウントであり、30分後、問題が発覚した時点で、そのツイート画像にあるように4,000回以上のリツイート(引用ツイート 4512 リツイート 4992)があり、「それは…起動コードですか? 」(Is that… the launch code? )と大騒ぎになった。驚いたSTRATCOMが調査した結果、「コマンドの
ツイッターマネージャーが、在宅勤務の状態にある間、コマンドのツイッターアカウントを一時的に開いたままにして無人にしました。」「彼の非常に幼い子供がこの状況を利用して遊び始め、残念ながら、そして無意識のうちにツイートを投稿してしまいました」と釈明、「混乱をお詫びします。この投稿は無視してください」とツイートしている。彼の幼い子供がキーボードでコマンドしたという(his “very young child” commandeering the keyboard.)。こんな釈明がまかり通るのも疑問だが、こんな程度の管理意識、核弾頭指令に関する情報が簡単にお遊び程度で発信されてしまう恐ろしさが露呈されている。
ところで、バイデン大統領は3/26、米国が4月22~23日に開催を予定している気候変動サミットに、自ら対立をあおっている中国とロシアの両首脳を招待することを明らかにしている。ホワイトハウスは声明で「サミットでは、気候変動対策を強化することの緊急性と経済的利益が強調されるだろう」と指摘、主要な経済国への排出量の削減努力の呼びかけや、気候変動対策による雇用の創出、排出量削減のための革新的な技術開発の促進などが議題になるという。
ロシアの指導者には「魂がない」、「キラー」プーチンと罵倒し、中国の習近平は「独裁者」、「彼には民主主義のかけらもない」とこき下ろしておいて、果たして対話が成立するのであろうか。とりわけ気候変動対策では、なによりも緊密な協力と調整が必要である。お互いの非難、罵倒、けんか腰ではサミットの成果など期待できないであろう。
しかしこれらも、幼い子供がしたようなことで、「無意識のうちに」に乗せられて発言してしまい、「混乱をお詫びします。前の発言は無視してください」と言って回避できるのであろうか。バイデン氏の精神状態も気がかりであるが、中国やロシアが冷静に対処し、回避できればそれに越したことはない。逆に対立が激化すれば取り返しのつかないことになる可能性が大である。
現実には、3/22、中国側の要請で、ロシアのラブロフ外相が中国を訪問、桂林で王毅外交部長と会談、両国の同盟関係をアピールし、会談の中で中国とロシアはドル離れを確認、貿易決済で自国通貨を使うようにすることで合意している。
バイデン政権の「対中対ロ」新冷戦政策は、逆にアメリカの政治経済全般の危機として跳ね返ってくる可能性を大きくする危険性を高めている、と言えよう。
(生駒 敬)