【投稿】日本は越えてはならない一線を越える―福島第一放射能汚染水の海洋放出決定

【投稿】日本は越えてはならない一線を越える―福島第一放射能汚染水の海洋放出決定

                                                                                福井 杉本達也

1 日本は越えてはならない一線を越える

『福島民友』2021年4月9日の号外によれば福島第一原発の放射能汚染水である「放射性物質トリチウムを含む処理水の処分に関し、政府が海洋放出の方針を固めた…13日にも関係閣僚会議を開いて正式に決定する」。「菅義偉首相が7日、全漁連の岸宏会長と会談し、方針決定に向けた意向を伝えた」が、全漁連は「『海洋放出は絶対反対』と反発している」。

第一原発では、溶融核燃料(デブリ)を冷やすための注水や流入する地下水などで現在も汚染水、処理水が増え続けている。3月時点で処理水は125万トンに上り、処理途中の水も含め敷地内で1061基のタンクに保管されており、来年秋にはタンク容量が満杯になるからだと東電は主張している。

 

2 放射性トリチウムは除去できない

福島第一原発事故後、原発建屋の地下へは800t/⽇の地下⽔の流⼊し、地下に落下した溶融核燃料と接触し、放射能汚染⽔が発⽣した。地下⽔の流⼊と放射能汚染⽔の流出は、当初と比較するとかなり抑制されているが、現在も150t/⽇余りの地下⽔が原⼦炉建屋地下に流⼊している。この地下水を遮断するため凍土壁を原発の周囲に巡らせたが、最終的に失敗した。これが溶融炉⼼と接触した放射能汚染⽔を多核種除去設備(ALPS:アルプス)により処理し、除去が困難なトリチウム以外は、告⽰濃度未満まで除去していると2018年8月まで東京電⼒、経産省、環境省、原⼦⼒規制委員会は説明してきた。

矢ヶ崎克馬琉球大学名誉教授によると(2014.6.21)、トリチウムとは水素の同位体で、普通の水素は原子核に陽子だけで中性子がないが、トリチウムは原子核に、陽子1 つと中性子2つがあり、その周りを電子1つがまわっているものである。トリチウムはベータ線を出してヘリウム3に変わる。半減期は12.3年である。原発では、制御棒のホウ素に中性子が吸収されトリチウムが生成される。トリチウムは通常3重水(HTO)となって、水に混じっており、化学的性質、物理的性質が同じで、重さだけが違うので、トリチウムだけを除去することもできない。むろん莫大な費用をかけてウランを濃縮するのと同じプロセスでトリチウムだけを取り出すことは可能ではあるが壮大な無駄である。トリチウムの放射線のエネルギーは小さく、ベータ(β)線を発し、体内では0.01㎜ほど しか飛ばない。エネルギーが低いほど相互作用が強く、電離の密度が10倍ほどにもなり、浴びると健康被害がでる。原田二三子氏によれば、生物の体内に入ったトリチウムは細胞を構成し、特にDNAに集まり、容易には体外に排出されず、細胞を構成する有機分子の内部から、細胞を破壊していく。トリチウムによる被曝が危険な理由である(原田二三子(伊方原発広島裁判応援団)2019.11.4)。

 

 

3 トリチウム以外の放射性物質を含む汚染水

2018年8月にはフリーランスライターの木野龍逸氏が東電発表資料を緻密に調べたところ、トリチウム水と政府は呼ぶが、実際には他の放射性物質がl年で65回も基準超過していたことが分かった。「福島第一原発で発生し続ける汚染水からトリチウム以外の放射性物質を取り除いたと東電が説明してきた水、いわゆるトリチウム水に、実際にはその他の放射性物質が取り切れずに残っていることがわかった。8月19日に共同通信が取り残しを報じた後、23 日には河北新報が,2017年度のデータを検証したところヨウ素129が法律で定められた放出のための濃縮限度(告示濃縮限度)を60回,超えていたと、報じた」(Yahooニュース:2018,8,27)。木野氏の追及により、「東電は9月28日、浄化処理した後に保管している水の約8割に、排出基準を超えるヨウ素やストロンチウムなどの放射性物質が含まれていることを」(日経:2018.10.2)しぶしぶ認めた。海洋放出をしようとしているタンク内の汚染水は、多核種除去設備(ALPS)では取りきれないとんでもない危険な放射性物質を含んでいるのである。

4 数十年~数百年も危険な放射性物質を海洋に垂れ流す国際犯罪国家へ

タンク中には1000兆~5000兆ベクレル(Bq)もの放射性物質がたまっている(東京新聞:2018.8.29を一部時点修正)。海洋放出先の北西太平洋は我が国の貴重な漁場であるばかりか、世界の三大漁場の1つともいわれる。日本の漁船ばかりではなく、台湾や韓国、中国やロシアなど各国の漁船もひしめく。また、対岸はカナダや米国の貴重な漁場でもある。そのような海域に数十年~数百年間も放射能を垂れ流し続け、地球を汚染し、被曝によって緩慢な人類の大量死を招く。かつて、米ソ英仏などによって大気圏内核実験が行われ、1945年から1963年まで,世界のさまざまなところで500回以上の核実験が行われ,放射能を帯びた塵が大気圏にばら撒かれ、このままでは人類が絶滅するとして部分的核実験停止条約により大気圏内での核実験が禁止された。日本の今回の放射能の汚染水の海洋放出はこれに匹敵する人類史上最大の愚行であり国際犯罪である。しかもその量も核種も最終的帰結も定かではない。原発の地下室にたまるセシウム137もストロンチウムも、プルトニウムさえ、この際海洋放出しようとするであろう。もし、日本政府が最後の一線を越えるならば、「人類絶滅の引き金を引いた」として国際的非難を受けるばかりか、その決定を下した政府を許した国民も共同正犯の国際犯罪者として告発されるであろう。

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 パーマリンク

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