【投稿】「専制主義国家」対「民主主義国家」という欺瞞に満ちたバイデン施政方針演説

【投稿】「専制主義国家」対「民主主義国家」という欺瞞に満ちたバイデン施政方針演説

                                 福井 杉本達也

1 就任100日も経ってからの施政方針演説

米大統領の「施政方針演説」は就任1期目に新政権の方向性や国内外の課題に対する見解や今後の政策について説明するもので、近年は就任1か月前後で終えていたが、バイデン氏のそれは就任100日目という「異例の遅さ」だという(日経:2021.4.30)。

施政方針演説に先立ち、3月25日、バイデン氏は就任後初の記者会見を行ったが、原稿を棒読みする危なっかしすぎる大統領の姿だけが印象に残った。RTは皮肉を込めて「⺠主党の戦略家が選挙運動中にジョー・バイデンを地下室に座らせて喜んで就任後64⽇間彼を報道陣から遠ざけた理由は分かっていますが、それは間違いなくコロナウイルスではありません。」と書いた(RT:2021.3.25)大統領選期間中にバイデン氏は、トランプ氏のファーストネームを2回にわたって「ジョージ」と呼び間違えたが、不安が的中した形となった。また、ハリス副大統領を二度も「ハリス大統領」と呼び間違えた。本当に「ハリス大統領」が出現するかもしれない。プーチン大統領を「殺人者」と呼んだことに対し、プーチン氏はバイデン氏の「健康を祈る」と切り返したが、バイデン氏の健康不安説がささやかれる中、軍産複合体を動かすCIAやネオコン、またキャンベルといったジャパンハンドラーズの行動が目立っている。

2 覇権を中国に渡さないとする宣言

バイデン氏は2兆ドルの大規模なインフラ投資計画を打ち出し、「風力タービンのブレード(羽根)を北京ではなくピッツバーグで製造できない、理由はない。電気自動車や電池の生産で、米国の労働者が世界を主導できない理由はない」と演説した。その必要性について、3月31日の計画発表時の声明では「世界的リーダーシップを我がものにするチャンスがある市場で、とりわけ中国との競争において、アメリカのイノヴェーション上の優位性を高めるだろう」と述べたが、「純然たる国内問題にまで対中対決を持ち込むバイデンの発想は貧相すぎると思わざるを得ません。」(浅井基文:2021.4.4)と浅井基文氏は批判している。また、『環球時報』社説は「今のアメリカでは、国内政策においても至る所で中国の影を持ち出し、国家安全保障のレッテルを妄りに貼り付け、ある産業がおかしいとなればすぐに中国のせいだとする。こういうやり方はナショナリズムを煽ることはできても、問題解決にはほとんど資さない…アメリカは道・方向を見失うこととなるだろう。アメリカにとって必要なことは自分自身と競うことである。」(『環球時報』社説:2021.4.2:浅井基文訳)と批判している。

3 ロシアが大統領選挙に介入するというのが「民主主義国家」?

バイデン氏は「ロシアによる選挙への干渉やサイバー攻撃、政府と企業への攻撃について、直接かっ相応の対応をした。」と述べたが、何を言っているのか本人は理解しているのか。ロシアによる選挙への干渉とは、2020年の大統領選及び2016年の大統領選についてである。トランプ前政権はその任期中継続して、民主党・メディアから「ロシア疑惑」との攻撃を受けた。トランプ前大統領はロシアの傀儡ということである。しかし、トランプ陣営がロシア政府と共謀して得票を不正に操作したという「ロシア疑惑」はなかったことが、モラー特別検察官の捜査によって結論付けられた。2年以上にもわたって大手メディアが洪水のように振りまいてきた「ロシア疑惑」報道はフェイクだった。ロシアのつながりの最大の証拠としていたのが英MI6系の「スティール報告書」だが、根拠に乏しいものだった。自らの選挙制度の不正をロシアのせいにして敵を造らなけらばならない「非民主主義国家」アメリカの哀れな現状を口走っているに過ぎない。

4 アフガニスタンから米軍を撤退しない

バイデン氏は3月19日にドーハで結ばれた米国とタリバンとの和平協定で定められた期限である5月1日までには米軍はアフガニスタンから撤退しないと一方的に宣言し、合意を破った。9月には撤退するというが、逆に特殊部隊を増派し、B52戦略爆撃機まで送っている。どうして撤退するものが軍隊を増強する必要性があるのか。「アフガニスタンでの軍隊駐留に関する公式議論で欠けているのは『極めて巨大な問題』だ。つまり麻薬、具体的にはヘロインだ。」「アフガニスタンのダインコープや他のアメリカ傭兵の公表されている仕事の一つは、世界のヘロイン推定93%を供給するアフガニスタン・ケシ畑破壊を『監督する』ことだ。アヘンとその世界的流通は、アフガニスタン同様、キルギスタンの空軍基地から欧米ヘロイン市場への安全な航空輸送を保証する米軍、CIAの専門領域だということだ。」「アヘン生産は侵略の一年後、2001年の約180トンから3,000トン以上に、2007年には、8,000トン以上に急増した。17年までに、アヘン生産は記録的な9,000トンに達した。」「ダインコープのような関連民営軍事軍請負業者同様、CIAが中心にあるように思われる。おそらく、これが、ワシントンが、アフガニスタンから本当に撤退するのを拒否している本当の理由だ。」とF.William Engdahlは書く(マスコミに載らない海外記事:2021.4.28)。

5 「インド太平洋戦略」を掲げつつ、ワクチン原料でインドを締め上げる

中国の『ワクチン外交』に対抗するため、「日米豪印の4カ国は3月にオンライン形式で初の首脳協議を開いた。経済や安全保障で脅威となる中国を意識し、2022年末までに約10億回分のコロナワクチンを共同で製造する体制を整える」(日経:2021.4.15)としていた。しかし、新型コロナウイルスの新規感染者が世界最多に増えたインドでは、感染者が1日40万人を超え医療システムが崩壊する危機に直面している。インドはワクチン生産に必要な原料の提供をアメリカに要請したが、バイデン政権はこれを拒否、プライス報道官は「アメリカの最重要事項はアメリカ人が免疫を獲得することだ」と述べ、ワクチンにかかわる特許の保護を一時的に解除しない姿勢を示した。一方、中国とインドの関係は国境紛争などでギクシャクしているのもの、過去2週間で、61の貨物便が中国からインドへ運航されており、酸素ジェネレーターなど緊急に必要なさまざまな医薬品を輸送されている。

6 ウイグルの人権には厳しく、自国の暴力・殺人には寛容なダブルスタンダード

米国のウイグル問題に対する厳しい対応は、前トランプ政権のポンペオ国務長官が1月に中国による新彊ウイグル自治区における少数民族ウイグル族らへの弾圧を国際法上の犯罪となる「ジェノサイド(民族大虐殺)」と認定すると発表した時期からである(日経:2021.1.21)。バイデン新政権もこの方針を引き継いでいる。なぜ、突然、ウイグル問題が浮上したかだが、2019年以来の香港での「カラー革命」が香港国家安全維持法の施行により最終的に失敗したからに他ならない。新彊ウイグル自治区は中国の進める一帯一路の中国沿岸部からロシアなどを通じてEUに繋がる鉄道や道路・パイプラインなどの要をしめる。米国はウイグル族の人権に関心をよせているのではなく、中国の弱点を突きたいだけである。

4月17日の日米首脳会談後の会見で、米メディアは銃規制などの国内問題についてのみバイデン大統領に質問した。当日のメディアは8⼈が死亡したインディアナ州の物流⼤⼿フェデックスの施設で起こった銃乱射事件を⼤きく取り上げていた。また、アジア系住民にに対するヘイトクライム・暴力事件も多発している。3月にはアトランタではアジア系女性を含む8人が殺害されている。中国は「米国における人権侵害の報告書で(黒人やアジア系などへの差別を)反省しない一方他国のことはあれこれと批判」するのは二重基準だと指摘する(日経:2021.4.9)。

7 「専制主義国家」対「民主主義国家」という欺瞞

トランプ前大統領をはじめ欧米は中国の新型コロナウイルス感染対策に疑問を呈し、中国は武漢において感染発生の初期に隠蔽を図り、対応が不十分だったと避難した。しかし、人口1000万人超の巨大都市・武漢を全面閉鎖するなど、中国が取った措置は強力で、コロナウイルスを封じ込めた。結果、中国は世界で最もコロナ感染者の少ない国となっている。それを、欧米は「専制主義国家」・監視社会だからこそできたことだと批判した。

欧米の中国に対するこうした批判の根底には中国への蔑視と嫉妬がある。中国は1840年のアヘン戦争以来、欧米植民地政策の対象とされ、侵略・搾取・虐殺・侮蔑されてきた。その過小評価されてきた世界の最貧国が、今やGDPにおいて米国を追い抜き世界一の経済大国になるというのである。しかも、宇宙基地を自力で建設するなどの科学技術力を持った経済大国である。米国に並ぶ覇権大国が出現するということは許さないと考えている。しかも、その超大国は中国共産党が政権を握り、社会主義を標榜する欧米の自己流の分類では「専制主義国家」である。中国のGDPは捏造されている、欧米の「技術と知的財産権の窃盗」(バイデン)などの不正がある、人民を弾圧している、人権がない、世界を支配しようとしていると勘ぐっている。

それは、逆説的には欧米「民主主義国家」の落日が迫っているという潜在認識の発露でもある。欧米はコロナの感染対策に失敗し、米国では57万人が死亡している。バイデン氏は演説において、はからずも「パンデミックは、事態をさらに悪化させ、2000万人の米国人が職を失った。働く、中間層の米国人だ。同時に、約650人の億万長者の純資産は、1兆ドル以上増加した。これらの価値は現在、 4兆ドル以上に膨らんだ。」と述べた。また、「議事堂を襲った暴徒のイメージを、米国の民主主義の落日を示す証拠とみている。」とも述べている。そもそも、世界の富裕層上位26人が、世界の人口の約半数となる約38億人と同じ額の資産を保有しており、10億ドル(約1100億円)以上の資産を持つ富裕層2153人の富の合計が、世界の総人口の6割にあたる約46億人分の資産の合計を上回っている(21019年)という世界において「民主主義」と呼べる現実があるはずはない。「週に40時間働いても貧困水準を下回ったままで生活する人」のいる国家(バイデン演説)は民主主義とは無縁の国家である。富裕層の「独裁」があるだけである。その「独裁」は米国の大統領選挙制度のような巧妙な選挙制度と情報操作・プロパガンダによってカモフラージュされているに過ぎない。スノーデンが暴露したように巨大IT資本を使った「監視社会」でもある。その「民主主義国家」という自己規定がいまや根底から覆されようとしている。その焦りが対中国・ロシアの封じ込め政策に表れている。

8 米国の対中制裁論に迎合する与野党―     議連に共産党も

「与野党内で対中制裁論が広がっている。4月上旬には自民、立憲民主など各党有志がそろう超党派議員連盟が発足。人権侵害を理由とした制裁を可能にする立法措置の検討を進め、慎重な政府に働き掛ける構えだ」(福井:2021.5.2)。議連の共同代表は自民の中谷元元防衛相と国民民主の山尾志桜里氏である。そこに日本共産党も加わっている。共産党の「志位和夫委員長は 3月の記者会見で『深刻な人権侵害があった場合、経済制裁は当然だ』と踏み込んだ」(福井:同上)日本共産党の中国に対する批判は、日本として政治的・軍事的にどういう影響があるのか、中国が経済的な対抗政策を打ち出した場合どのような影響があるかを全く考慮しておらず、政党としては全く体をなさず、国政を担う意志も責任をも全く放棄したものである。欧米の情報戦に屈服し、対中国のプロパガンダを鵜吞みにしてそのまま垂れ流し、自らの主張を独善的に押し付け、政権を担ったことのない・これからも担うつもりのない「安全圏」からの批判は無責任・無謀以外のなにものでもない。「敵を作り、対抗することに血迷うのは、度量の欠けた、消耗型の引き算策略であり、下策に属すること間違いなし。人において然り、国家においてもまた然り。」(同上『環球時報』社説)、政党においてもまた然り。

 

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