4月28日バイデンは就任100日の施政方針演説で、中国、ロシアへの対抗意識を露わにした。中露への対応はトランプも厳しいものがあったが、それは個人の感情と取引に支配された不安定なものだった。
しかしバイデン政権のそれは、アメリカ流の「民主主義」「人権」という、中露との間に妥協が成立しにくいポリシーに基づくものである。
4月4日、フィリピン沖を遊弋する空母「遼寧」を、アメリカイージス駆逐艦の艦長が足を組みながら監視するショットが流布され、ゆとりと強さを表すものと称賛された。 しかしこれは2019年6月、石垣島近海でイージス巡洋艦がロシア艦に急接近された際、慌てる米側を後目に、露側は甲板で乗組員が日光浴中という映像(アメリカ側が撮影)が流れ、恥をかかされた事態への意趣返しである。
江戸の敵を長崎で打つというものであるが、政権が交代しても中国、ロシアへの認識は同一ということを垣間見せた。
アメリカは国際協調路線への復帰で中露への圧力強化を目論むが、それはアメリカ主導の対中露2正面作戦に、同盟国が動員されると言うことでもあり、ヨーロッパ、アジアに於ける戦線構築は容易に進まないだろう。
ヨーロッパでは、イギリスが対露強硬路線をとり、中東欧諸国がロシアに対する恐怖心を維持し、北欧諸国も警戒感を高めている。
一方ドイツはガスパイプラインという弱みを含みつつ、EUとして仏、伊などと共に緊張緩和の原則的立場に立ち、アメリカとの協調を進めると考えられ、対露包囲網の構築は容易ではない。
イギリスは3月下旬、中長期的外交ドクトリンとして「競争時代のグローバルブリテン」を発表した。ジョンソンはこの中でアジア太平洋地域への関与を、TPPへの加盟申請などで強めていくとし、中国に対しては「中国に国際的な人権に関する義務を負わせること」を表明しながら、気候変動問題に関して「中国との建設的な協力なしには、これらのことは実現しない」との認識を示している。
一方ロシアに対しては「ノビチョク使用の責任を負わせること」さらにイラン、北朝鮮と同列に扱い、周辺国への浸透に対抗していくとして、強硬姿勢を露わにしている。
こうしたなか、イギリス空母打撃群(Carrier Strike Group=CSG21)がポーツマスを抜錨し、極東への遠征が開始された。この艦隊は空母「クイーン・エリザベス」の他、駆逐艦2、フリゲート2、補助艦艇2、さらに米、蘭からそれぞれ駆逐艦1が参加する3か国連合艦隊となる。
前述のようにジョンソンがロシアへの警戒を露わにするなか、CSG21も地中海東部でイギリス駆逐艦、フリゲートそれぞれ1隻を分離し、黒海に派遣することになっている。
これは言うまでもなくウクライナ問題に対応したものであり、イギリスの対露第1の戦略をあらためて示すこととなったのである。さらに同海域ではシリア、キプロス情勢への
対応も含まれる。
この様にヨーロッパに於いて、対露戦略は米英機軸にならざるを得ないだろう。
菅政権は英空母派遣で「中国包囲網」が強化されると欣喜雀躍であるが、それは虚構であることが、CSG21の動きからも明らかとなった。アジアでは欧州ほどの国家間協調システムは存在せず、関係国の一本釣りに頼る状況である。
日米は、インドと言う大物を釣ろうとしているが、コロナ禍に苦しむ同国に対し、形だけの支援をするばかりでは、WHOが緊急使用を認めた中国製ワクチンに席巻されるだろう。
次なるターゲットは台湾であるが、国交なしに軍事協力を進めるのは限界がある。菅政権は台湾危機と尖閣問題をリンクしようとしているが、中国はそうした手には嵌らないだろう。
中国の直接的な台湾侵攻など有りえない。考えられるとすれば、台湾内でかなりの数の親中派住民が統合を掲げて活動→中国が保護を名目に介入と言う、ロシアがクリミアで行った「ハイブリッド戦争」があるが、そうした環境は無い。
さらに韓国については、端から「中国包囲網」に加わる気など文政権にはなく、オーストラリアは地理的に遠いことから、アジアに於いては日米基軸にならざるを得ず、日本が矢面に立たされることとなるのである。
菅政権は日米首脳会談で一歩踏み込んだものの、内心では困惑しているだろう。中国だけでも対応が困難な現状に加え、今後米英から対露牽制が求められれば、日本も2正面作戦を余儀なくされる可能性がある。
5月6日のG7外相声明は、中国に対する姿勢が強調されているが、同時にロシアに対する非難も強く打ち出している。アメリカが中露に対する圧力を強化するほど、中露の連携は進むのである。
北方領土に関心がなく対露没交渉の菅は、大日本帝国末期の如く「静謐を保つことが肝要」の体であるが、現実を見据えず、外国だよりの国家戦略はいずれ破綻することとなるのである。(大阪O)