【書評】『泉佐野市税務課長975日の闘い』
(竹森 知著 2021年6月 文芸社 1500円+税)
福井 杉本達也
1 国有化に対するリベンジとしての「関空連絡橋利用税」
「泉佐野市税務課長975日の闘い ミッションインポッシブルー関空連絡橋に課税せよ!」という「国に楯突く」タイトルは、「お上」意識の強い我が国にあってはあまりにも刺激的だ。周知のように、2020年6月、泉佐野市は「ふるさと納税」でも「国と喧嘩し」総務大臣を訴え最高裁で勝訴している。
関西国際空港はバブル絶頂期の1987年に埋め立て工事が着工し、バブル崩壊後の1994年に開港した。泉佐野市は開港に合わせるべく、空港関連地域整備や区画整理、鉄道高架事業、りんくうタウン関連など多くの施設整備を短期間で進めたが、景気低迷や地価下落により、あてにしていた空港関連税収が大きく下回った事から、財政状況が厳しくなった。2004年3月に「財政非常事態宣言」を出し、内部管理経費の節減や人件費など経費削減、受益者負担など緊縮施政を行ったものの、平成20年度決算では連結実質赤字比率が約24%と早期健全化基準(17.44%)を超過し、2008年に財政健全化団体となった。
泉佐野市に限らず、1990年前後は全国の自治体がバブルに浮かれていた。地域総合整備事業債(チソーサイ)というものがあり、元利償還に要する経費について、後年度に財政力に応じてその30~50%が基準財政需要額に算入されるという自治省(現総務省)の甘い言葉に踊らされて、各自治体は競ってハコモノを建設した。結果、財政難に陥る自治体が続出した。
本書は市が財政健全化団体となっていた2010年、著者が税務課長に就任した時点から始まるが、泉佐野市は2010年2月に策定した財政健全化計画の中で、各種事業の見直しや遊休財産の売却、企業誘致の推進などに取り組むとともに、人件費の削減なども行った。2013年度決算で財政健全化計画を達成し、2015年度決算で早期健全化団体から脱却した。その中でも大きかったのが「関空連絡橋利用税」であった。
「関空連絡橋利用税」は泉佐野市にとっては「『国有化に対するリベンジ』『減収補填のための税』」であり、「関空連絡橋の国有化が発表されてから丸5年。失われた税収を回復するための戦いだった」。著者はあとがきで「平成25(2013)年3月30日午前0時に徴収が始まりました。ほとんどの自動車はETCで通行しますから、『関空橋税 100円』が取られていると気付かない利用者が多かったことでしょう」と課税当日の緊張を振り返るも、時が経つにつれ、税務課長として、「国の経済施策に影響を与える税で地方財政審議会に呼ばれたこと」「道路通行者から税を徴収することは関所の復活で、明治維新以来約140年ぶり」などの、「歴史的事件に関わったとの思いが生まれ」たとし、「関空連絡橋の国有化に物申し…関空連絡橋に税金をかけるまでの道程」は、千代松市長は「『新しいものは無理難題から生まれる』」としたが、「空港連絡橋利用税は無理難題の連続で、私にとってはミッションインポッシブルでした」と975日の闘いを締めくくった。
2 「ふるさと納税」を巡る最高裁判決
ところで、泉佐野市は「ふるさと納税」でも国(総務省)と最高裁まで争った。市は「返礼品は寄付額の3割以下、地場産品とする」という総務省の「助言」に従わず、通販大手のギフト券などを上乗せして寄付を大々的に集めた。「ふるさと納税」とは、どの自治体にでも、例えば10万円寄付すれば9万8千円が減税になる。所得の高い層はどんどん寄付する。当然、自治体は寄付を集めようとして返礼品競争をエスカレートさせた。国は自治体間の返礼品競争を煽る最悪の制度を作ってしまった。仕方なく 、総務省は問題行為があれば除外できるように地方税法を改正した上で、泉佐野市を施行前の行為を理由に除外した。これは関与の法定主義、法の不遡及に反するものである。最高裁は泉佐野市勝訴の判決を下したが、「本件の経緯に鑑み、上告人の勝訴となる結論にいささか居心地の悪さを覚えた」とする補足意見があった。片山善博元総務相は、裁判の結果を「非常識と違法の戦いです。そうなると、違法の方が負けるのは当然です」と辛口の批評をした(福井:2020.7.19)。
3 「法定外普通税」としての核燃料税との対比
法定外普通税の一つに、原発立地道県が事業者に課税する「核燃料税」がある。「福井県は全国に先駆けて1976年から条例に基づき徴収している。条例は5年ごとに更新。2011年の改定で『出力割』を初めて導入し、原発が停止していても税収を安定的に確保できる…16年度には使用済み核燃斜の県外搬出を促す『搬出促進割』を導入した」(福井:2021.6.3)。核燃料税は、県や市町村が独自に課税できる法定外普通税の1つに位置付けられる。ただ、当時は国の許可(現在は同意)が必要だった。福井県は、一部の原発が建設時期の関係で電源三法交付金の対象から外れることとなり、核燃料税はこの救済策として許可された。今は全国の原発立地道県で課税しているが、発足当初は「核燃料税は福井県だけの特例です」と当時の自治省担当者から告げられたという(福島民報:2011.12.26)。
福井県は今回、この核燃料税の税率を引き上げる。「原発内での貯蔵が5年を超える使用済み核燃料に課税する『搬出促進割』を重量1キロ当たり年千円から1500円」に上げるものである。「原発のプールにたまり続けている使用済み核燃料の県外搬出を促すのが目的」で、「中間貯蔵施設の県外立地地点の確定時期をお年末までに先送りした問題もあり、県外搬出に向けた努力をより促したい考え」(福井:2021.6.3)だというが、税収は11億円増えるが、建設から40年超経過し、テロ対策施設も未完成で安全性に疑問のある、関電美浜3号機を6月23日から10月25日(テロ対策施設期限)までのわずか4カ月間の再稼働に知事同意することの引き換えとしてはあまりにお粗末である。
そもそも、法定外普通税は、税収の隙間にあるものに課税するものであり、税源の幅は非常に狭く、「無理難題の連続」ではあるが、国に楯突いてでも勝ち取るものか、住民の生命財産を売ってでも国に従い、関電には愚弄されても、おこぼれをもらうものなのか。地方自治をどう考えるのか、泉佐野市の「関空連絡橋利用税」課税をめぐる経緯を書き綴った本書は一読の価値がある。