【投稿】八方塞となった安倍政権

【投稿】八方塞となった安倍政権  アサート No.484 2018年3月
―内政、外交で負のスパイラルに転落―

崖っぷちの安倍
2月28日、安倍は今国会での裁量労働制の適応職種拡大に関して、「働き方改革法案」から切り離すことを明らかにし、今国会での成立は断念に追い込まれた。
さらに3月2日には、朝日新聞の報道で財務省が森友学園に関わる決裁文書を改竄した疑いが浮上した。
6日には官邸が国交省から、2種類の書類が存在するとの報告を受けていたにもかかわらず、安倍は当初白を切りとおそうとした。しかし12日に至り財務省が改竄の事実を認めざるを得なくなり、安倍ファミリーによるマフィアまがいのスキャンダルが再燃した。昨年、辞任を明言していた安倍は第2次政権発足以来最大の危機に立たされている。
安倍は何事もなければ3月25日の自民党大会で改憲案を決定し、総裁3選に向けた党内体制確立を目論んでいたが、自民党重鎮も徐々に距離を置き始めており状況は流動的になっている。
こうしたなか、国際情勢は日本を置き去りに進んでいるが、政権運営能力を喪失しつつある安倍内閣は、まともな対応をなしえていない。トランプの核軍拡に対抗する形でプーチンも3月1日の一般教書演説で、新型の核ミサイルや巡航ミサイルなど、「アメリカのミサイル防衛網を突破できる」新兵器の開発をアピールするなど、米露の対立は先鋭化しつつある。
その一方、南北首脳会談、米朝首脳会談の開催が矢継ぎ早に決まり、安倍政権は唖然とこれを見つめるばかりの状況となっている。安倍は2月14日にトランプとの電話協議で、米朝対話ムードに不安を表明したが完全に無視された形となり、3月9日再度の電話協議で4月上旬の訪米を取り付けるのが精いっぱいであった。
12日には韓国特使として金正恩と会談した徐薫国家情報院長が来日し、安倍と河野に南北協議の内容を説明した。昨年末安倍は訪日した康外相を低い椅子に座らせ批判を浴びたが、今回は外相より格下の徐院長を自分と同じグレードの椅子で接遇した。
この会談では南北協議で拉致問題は議題にならなかったことが明らかにされ、焦燥する安倍は16日に文大統領に電話をかけ、首脳会談で拉致問題を取り上げてほしいと要望し、自分も金正恩と話がしたい旨を伝えたと言う。
もはや「最大限の圧力」「対話のための対話は無意味」などは空虚なスローガンと化した。内外情勢に押され崖っぷちに立たされた安倍は、これまでの原則を投げ捨て保身に走ろうとしているのである。とりわけ朝鮮半島情勢で譲歩を余儀なくされている安倍は、中国に対する立場を強化し、劣勢の挽回に躍起になっている。

「帯路分離」目論む
中国全人代は3月17日、「一帯一路」構想の推進のため「国家国際発展協力署」の設置も決定、習長期独裁体制の下「社会主義の現代化強国」路線が推し進められようとしている。
こうした動きに対し安倍政権は「一帯一路」への協力姿勢を示しながら、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を対置し、対抗心をむき出しにしている。ここから読み取れるのは、陸路の「一帯」と海路の「一路」を分断する「帯路分離」策動である。
遙かユーラシア大陸深部を横断する「一帯」には、日本は逆立ちをしても手は出せないでいる。安倍は2015年、自らが唱える「価値観外交」を投げ捨て、ウズベキスタンなど独裁国家を含む中央アジア5カ国とモンゴルを訪問し、経済協力をもって抱き込もうとしたが芳しい成果は得られなかった。
そこで安倍は内陸部への影響拡大をあきらめ、海路へのプレゼンス拡大をねらっているのである。東シナ海に於いてはアメリカ、南シナ海に於いてはアメリカ、およびフィリピン、ベトナム、インド洋に於いてはインド、スリランカと地域ごとに連携国を設定し、装備品の供与、訓練など軍事協力を含めたイニシア拡大を進めようとしている。
安倍政権は3月4~10日に自衛隊統幕議長をインド、スリランカに派遣、14日には、森友事件に対する抗議の声が轟く総理官邸に、スリランカ大統領を招き106億円の円借款を約束、晩餐会で歓待するなど必死になっている。
もっともこのスリランカやフィリピン、ベトナムは軍事力に於いて脆弱なので、ここにイギリス、オーストリラアさらにはフランスまでもを巻き込もうと躍起になっているのである。安倍は昨年8月来日したメイ首相を厚遇し、「準同盟国」として日英地位協定の締結、ミサイル等兵器の共同開発、合同軍事演習などを検討している。

「連合艦隊」で対抗
現時点で空母を持たない日本単独では、中国の圧倒的な軍事力には対抗できない。そこで空母を持つ米、英、仏、印、そしてF35Bを運用可能な強襲揚陸艦を持つ豪との「多国籍連合艦隊」で臨もうと言う構想であろう。
しかし、そもそもアメリカにしても各国艦艇の参加は「航行の自由作戦」の負担軽減という点で歓迎するだろうが、遠大な「自由で開かれたインド太平洋戦略」をトランプ政権が理解しているかは疑わしいし、英、仏などはなおさらであろう。
こうした動きの背景として、イギリスにおいては持て余す軍事力の用途を指摘したが、さらにはこの地域の旧宗主国としての意味合いなど、様々な要因があると考えられる。
これまでは北朝鮮への連携も加えることで、対中国色を薄めてきたが北朝鮮問題の進展により、本質が露わとなってきたのは安倍にとって誤算の一つである。このところ関係改善の動きを見せている日中関係であるが、安倍の狡猾な動きは中国の警戒感を高めることになる。
しかしいずれにせよ、21世紀初頭における対中国での連携が、対ロシア帝国を利害とした20世紀初頭の日英同盟以上の重要性を持つとは言えない。イギリスの有権者は、英政府が極東で日本とともに中国と軍事的に対峙することに賛同はしないだろう。
オーストラリアはこの地域の利害は大きいが、喫緊の問題は東ティモールをめぐるインドネシアとの関係であり、中国の影響力が赤道を越えなければ決定的な動きは行わないだろう。さらにフランスはベトナムの旧宗主国ではあり、無関心ではないだろうが、軍事力の投入はアフリカ大陸の旧植民地に限られている。インドは地域大国として、日本の意図とは関係なく独自の動きをすると考えられる。

日露関係も不安定に
一方日本がこうした国々を対中国の動きに巻き込むほど、逆にこれらの国々からの要請に苦慮することになるだろう。
イギリス・ソールズベリーでロシア人元スパイと娘が意識不明の重体に陥った事件に関し、イギリス政府はロシアが関与したとして露外交官23名を追放した。3月15日には米英独仏4か国首脳はロシアを非難する共同声明を発表し、資料提出を要求した。
声明では、ロシア(ソ連)によって開発された軍用神経剤が、第2次大戦後初めてヨーロッパで使用された事例として、強い口調で非難している。今後、事態の推移によっては欧米各国が、ロシアに対し新たな制裁を科すことを検討するだろう。
こうした動きに対しロシアは英外交官の追放を決定、圧倒的支持で大統領再選を果たしたプーチンは、一層反発を強め、更なる報復措置に出る可能性がある。プーチンの新兵器はアメリカに対するものであるが、欧州の同盟国にとっても充分脅威になるものである。
2016年秋にはシリアでの軍事作戦に向かうロシア空母部隊を、NATOの艦船約60隻が北海、英仏海峡、地中海でリレー式に追尾、監視、さらに英軍戦闘機も艦隊に近距離まで接近した。
これらは日本と中国の緊張関係とはレベルの違うものであり、今後欧州での緊張が高まれば、イギリスもフランスも東アジアに派兵する余力はなくなる。日本がイギリスから、軍事面ではなくてもロシアに対する圧力強化への協力を求められた場合、反対にロシアから欧州の動きに与しないよう要請された場合、安倍はどうするつもりなのか。
ウクライナ問題に関しては、国際社会からの動きをのらりくらりとかわしたが、「準同盟国」からの要請があれば、窮地に陥ることは明らかである。
ロシアはロシアで日本を疑念の目で見ている。イージス・アショアの導入に関してロシアは警戒感を露わにしてきた。ラブロフ外相は訪日を控えた3月15日、時事通信社などのインタビューで、日米の弾道ミサイル防衛での協力は、日露関係に悪影響を及ぼすと改めて懸念を示した。河野は「ロシアはミサイル防衛を理解している」と強弁しているが、この先の不安定化は免れない。

安倍退陣に全力を
安倍政権が周辺国から信用されていないのは、朝鮮半島情勢への対応でも明らかなような無定見な外交、軍事政策の為である。
安倍は「「自由で開かれたインド太平洋戦略」「積極的平和主義」などと大言壮語を吐きながら、結局は対北朝鮮、対中国、対○○というその場その場の対抗主義的な危機扇動政策=ショックドクトリンで、保身を図ることしか考えていない。
そのため4月の日米首脳会談では、米朝首脳会談での拉致問題議題化、鉄鋼・アルミ輸入制裁対象からの日本除外を演出するのだろう。3月17日、朝鮮中央通信は「日本が制裁を続けるならば、永遠に平壌行きの切符を手にすることはできないだろう」と牽制した。
このように外交での弥縫策でこの間の窮地を脱するのは容易ではない。国内では森友事件に関し、連日のように政権に不都合な新事実が出てきているが、これらの情報源は関係する公的セクターであることは明らかである。
このように安倍政権は八方塞の状況に陥いり、支持率も急落しているが、3月末の来年度予算成立までは膠着状態が続くと考えられる。野党、民主勢力は森友事件に加え、「高プロ」撤回、軍拡阻止等、あらゆる声を突き付け、安倍を退陣に追い込んでいかなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【投稿】安倍政権の危機とリベラルの転倒 統一戦線論(46)

【投稿】安倍政権の危機とリベラルの転倒 統一戦線論(46)
アサート No.484 2018年3月

<<「安倍首相夫妻の犯罪」>>
まさに「おごれる者久しからず」である。安倍一強といわれ、権力を笠に着た開き直り、傲慢とウソとデタラメ、ゴマカシの政治がいよいよ通用しなくなってきたのである。安倍首相が先頭に立ってウソつき呼ばわりして排撃してきた朝日新聞から、3/2、公文書書き換え・改ざん疑惑が指摘・報道されるや、事態は一挙に局面転換、強権的な安倍政権の弱点ともろさが噴き出し、安倍三選どころか、その前に安倍政権退陣・崩壊の危機に直面する事態の進展である。
自らが招いた最後のあがきか、理財局長だった佐川宣寿氏を「極めて有能」と持ち上げていたのが一転して、「佐川が、佐川が、佐川が」と責任を下に、官僚に押し付ける安倍・麻生の姿勢は、誰の目にももはや見過ごしえぬ醜態と化してしまったのである。
『週刊文春』2018/3/22号は、総力取材「森友ゲート」これが真相だ!、と題して
▼近畿財務局職員自殺 警察は「遺族は政権が持っていった」
▼自殺職員親族の告白「『自分の常識が壊れていく』と…」
▼安倍は「森友もスパコンも全部麻生さん」と責任転嫁
▼麻生「佐川と心中」は虚言? 傲慢会見では痛恨の鼻毛
▼辞めたがっていた佐川長官 周囲は「心が折れている」
▼昭恵夫人は朝日スクープ翌日に極秘スキー旅行
■森友より深刻 加計問題でも公文書書き換え疑惑
と見出しが並ぶ。電車の中吊り広告のトップは「安倍夫妻の犯罪」の特大文字である。普通なら、「安倍夫妻の犯罪」と書き立てられれば、即刻、名誉棄損で訴える筋書きであろうが、否定しがたい事実の前になすすべなくうろたえ、おびえているのが現実の安倍政権である。抗議デモのプラカードには「アベを監獄へ」まで掲げられている。
3/16(金)夜の国会周辺は、冷えた小雨降る天候にもかかわらず、緊急抗議行動で久しぶりに一万人以上の人々の怒りと熱気が渦巻き、首相官邸、議員会館、国会前の歩道は、3/12から連日展開されてきた「総がかり行動」の「森友学園疑惑徹底追及!連続行動」が行われ、人々でぎっしりと埋め尽くされた。国を私物化するな、権力私物化に終止符を!、公文書を改ざんするな、証人喚問・昭恵は出てこい、佐川よりも麻生が辞めろ、アベが辞めろ、退陣せよ、総辞職せよ!、…と抗議の声が何度も何度も上げられ、コールが響き渡る事態である。

<<「首相就任以来最悪の危機」>>
モリ・カケ疑惑報道で安倍政権を徹頭徹尾「忖度」してきたNHKでさえ、決裁文書の改ざんをめぐり自死した財務省近畿財務局の男性職員が、「上からの指示で書き換えさせられた」という内容のメモを残していたことを報じ、しかもその職員が 「自分1人の責任にされてしまう」というメモを残していたこと(NHK NEWS WEB、2018/3/15)も判明している。そして一貫して安倍首相を持ち上げてきた読売新聞でさえ、さらに、この男性職員に先立って財務省・理財局の30代の国有財産係長も今年1月にやはり自死していたと報じている(読売、2018/3/16)。さらに犠牲者「3人」目として、財務省・管理課の女性職員が自殺未遂か、と報じられている(日刊ゲンダイ、2018/3/16)。「自分が去ったら内閣が持たない」と豪語していた麻生財務相について、徹底擁護していたはずのフジ・サンケイグループの夕刊フジまでが「自民総スカン 麻生4月辞任決断」と報じている。安倍政権にとっては先が見通せない「底なしの闇」である。3/16の東京発ロイター電は、「首相就任以来最悪の危機となっている」と報じている。
こうした安倍政権批判報道に激怒した安倍首相は、放送事業の見直しを目論み、放送法4条などの規制の撤廃に動き出し、3/16付読売は、放送業界は「民放解体を狙うだけでなく、首相を応援してくれる番組を期待しているのでは。政権のおごりだ」と警戒を強めている、と報じている。
すでに時事通信が3月9~12日に実施した3月の世論調査で、安倍内閣の支持率は前月比9.4ポイント減の39.3%へと急落。3/17~18の朝日新聞世論調査では13%減の31%への急落である。これは、第2次安倍内閣の発足以降で最低であり、この週末の相次ぐ他の大手メディアの世論調査でも、内閣支持率がさらに落ち込むことは必至である。
3/19以降、国会で偽証罪が適用される「佐川喚問」が進めば、野党の追及は一段と厳しくなり、事態はさらに混迷の度を深めるのは必至である。
「私や妻が関係していれば総理大臣も国会議員も辞める」とした昨年2/17の首相自身の答弁が現実味をもち、追い込まれる事態の到来である。
その帰趨を決める決定的な鍵は、安倍政権を十重二十重に包囲する、政権の居直りを許さない、圧倒的な声の結集であり、野党共闘と統一戦線の前進である。

<<転倒する保守とリベラル>>
その野党共闘と統一戦線の前進にとって、見過ごされてはならないのは、保守とリベラルの転倒である。
曲がりなりにもこれまで安倍政権が「一強」と言われるまで、長期にわたって権力を維持し得たのは、ウソとゴマカシ、傲慢な政治の対極で、いかにもリベラルであるかのような政治姿勢を振りまいてきたこと、それに対して野党が有効・適切な政策を対置できず、安倍政権のウソとゴマカシを見過ごしてきたことが指摘されなければならない。
本質的には、極右で自由競争原理主義の新自由主義者(ネオリベラリスト)の安倍首相が、平気で「私はリベラル」発言をいけしゃあしゃあと行っている。「私がやっていることは、かなりリベラルなんだよ。国際標準でいけば」「衆院を解散し、総選挙を控えた10月。安倍晋三首相は、自らが打ち出した経済政策について周辺にこんな表現を使って解説をした。」(朝日、2017/12/30付)
ここで言う「リベラル」な政策とは、子育て支援や非正規労働者の待遇改善を掲げた「1億総活躍社会」、女性活躍、働き方改革、企業への賃上げ要請、同一労働同一賃金、全世代型福祉、等々、一見、政府の役割や規模を拡大する「大きな政府」を志向するような政策を掲げていることである。しかしそれらはすべて言葉の上のことだけである。実際にやっていること、そして目論んでいることは、真逆な新自由主義政策であり、自由競争原理主義の規制緩和であり、掲げた政策はことごとく後退さえさせている。それがアベノミクスなのである。安倍政権下で、子育て支援は後退し、女性活躍どころか先進国最低水準にまで落ち込ませ、非正規労働者をますます増大させ、実質賃金は年々低下し、格差を拡大させ、社会保障費や年金、生活保護費を年々削減し続けているのである。
そもそも「リベラル」自体があいまいであり、融通無碍、自称「リベラリスト」ほどいいかげんなものはない。その象徴が、「寛容な改革保守」と言いながら「排除」の論理を振りかざした人々、小池百合子・希望の党前共同代表や前原誠司・前民主党党首も「リベラル」であり、「排除」された側の枝野幸男・立憲民主党代表も、自らを「リベラル保守」と宣言している。そしてついに共産党までが、「共産党は、最も個人の自由、基本的人権を主張している政党」「筋金入りの『リベラル政党』です」と宣言している(『週刊金曜日』1/12,19日号、共産党・小池晃書記局長へのインタビュー)。あきれたものである。対抗軸はあいまいで実生活とかけ離れた「リベラル」の競い合いではなく、自由競争原理主義の新自由主義(ネオリベラリズム)の徹底批判に設定されなければならないのである。

<<改憲、核武装、リベラルをめぐって>>
安倍首相は「リベラル」を演じながら、同時に、トランプ政権の登場に便乗して緊張激化政策を煽りに煽り、憲法9条の改悪と軍備拡大、出来れば独自核武装をまでみずからの政策課題として一貫して追及してきたのは周知の事実である。
その改憲・核武装をめぐっても、保守とリベラルの転倒が露わになっている。
真正保守思想を標榜する言論月刊誌『発言者』を刊行し、その後継誌『表現者』の顧問として毎号発言をし、歴史修正主義の「新しい歴史教科書をつくる会」に理事として参加し(2002年脱退)、2013年4月には、首相公邸で安倍首相と会食をしてきた西部邁氏が今年の1/21、多摩川で「自裁死」したと報道された。その西部氏は、『表現者』2018/1/1号・特集「世界大分裂の中の日本 改憲から核武装まで」の中で、西部邁氏を先頭に多くの論者が改憲・核武装をめぐって、次のような共通の発言をしている。
●西部邁 「これは世界の七不思議のひとつなんです。日本は核武装する技術も金もそして必要もありながら、どうして日本人は核武装しないんだ、そもそもする気すらない。いつのまにかそんな変な国になってしまったんです。立憲民主党は憲法九条を守れと言っているんです。あの憲法はアメリカが作ったものなんです。トランプは、選挙中のみとはいえ、『日本よ、核武装でもして、自分の国は自分で守れ』と言ってくれただけで僕は大満足なんです。」
●富田幸一郎(編集長) 「日本国民は核武装に耐え得るのか」「核武装の可能性について真剣な議論をすべきときがきているのはいうまでもないが、その当たり前の議論ができないのは、核兵器に対するアレルギーという自己欺瞞の故である。…広島、長崎を体験した被爆国であるといういい方はまやかしである。今こそ日本人は、日米同盟の中での米国の核兵器の「持ち込み」にとどまらず、むしろ独立した自衛核の防衛論を展開すべきときがきている。…福島の原発事故以来広がっている脱原発・反原発論は、放射能パニックの短絡的反応である。」「福島第一原発の事故以降に広がった反核イデオロギーこそ日本を滅亡の淵へと追いやるものである。いま毅然として「非核三原則」の見直しだけでなく、自衛隊の議論を推し進めるべきである。」「核武装の準備としての長期的目標があったことも忘れるべきではない。今再び日本は自立した国家の防衛戦略として、核武装の可能性を議論の俎上にのせるべきであろう。日本の長きにわたる「非核」イデオロギーとその政策は、ついにその終わりを遂げたのである。」
●藤井聡(2018/3/1号より、西部邁の指名を受けて新編集長) 「馬鹿と奴隷の国の中で」「左翼の連中は、自主防衛のための(核をも含めた)軍事力を日本が持っていなかったからなのだという真実についての洞察が完全に欠如している。多くの日本人たちは「核攻撃され、何十万人も死んでしまうかもしれない」ということをうすうす理解しながら、その危機に対して何もせず、「しょうがない」とあきらめてしまっていたのである。保守や左翼など、自分たちが置かれた状況を理解せず、危機感を持ち損ねた輩が多数に上る、これはもう「奴隷」というほかない。つまりわが国には馬鹿と奴隷しかいないのである。
●佐伯啓思 「核の脅威に対しては核による抑止しかない。「保守思想」からすれば、独自核武装がより「正しい」選択であろう。しかし現実にはそれは難しい。より現実的なのは、アメリカの核の傘である。しかし、それは保守思想の敗北ではないのか。」
●榊原英資 「独立国として明確な防衛戦略を」「現在の北朝鮮の状況を見ると、日本の独自に核武装する必要も高まっているのではないだろうか。そろそろ核武装を本格的に考えるべき時期だと思うのだが、…」
ほとんどトランプや安倍と同一の単純な論理である。核武装を急げと吠えるこれらそうそうたる筆者の思い上がったエリート意識、知的頽廃、劣化は目を覆うばかりである。
ところが問題は、改憲・核武装に反対の論陣を張っているはずの『週刊金曜日』2018年2月23日号が【中島岳志責任編集 <追悼特集> 西部邁とリベラル・マインド】を特集し、●追悼座談会|寺脇研×佐高信×中島岳志●「評論家」を演じ続けて|長崎 浩●学生運動のリーダーだった西部邁|森田 実●最後のリクエスト曲|青山 恵子●「大衆への反抗」を貫く|北村肇●中島岳志セレクト「西部邁この10冊」|中島岳志、を掲載しているのだが、この特集に登場した誰一人としてこの西部邁氏らの改憲・核武装論を取り上げ、批判さえしていないのである。西部氏を高く持ち上げこそすれ、その改憲・核武装論には黙して語らずなのである。中島氏は「西部邁という稀代の思想家に師事できたことを誇りに思っている。優しい人だった。」と述べているが、改憲・核武装を主張する人間のどこに「優しさ」を見出すのであろうか。
責任編集をした中島氏は、「なぜ西部邁先生の追悼特集なのかということですが、お亡くなりになって、いわゆる左派の人たちが非常に好意的なコメントをたくさんお寄せになっていたことにも関係しています。」と語っている。「好意的な左派」の人たちの矜持はいったいどこに行ってしまったのであろうか。改憲・核武装批判を表明できないような「好意的な左派」の人たちの存在意義はどこにあるのであろうか。
この改憲・核武装を肯定・無視する、あるいは問題にしないなどという姿勢が、「リベラル・マインド」と共存しているのである。これは、知性、人間性、ヒューマニティに根差した、統一戦線に不可欠な知的道徳的ヘゲモニーの喪失状態とも言えよう。改憲・核武装を阻止するための統一戦線であれば、こうした事態を明確に批判し、乗り越えられなければ、日本の統一戦線の前進はありえないと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【投稿】米朝首脳会談の発表と孤立を深める「属国日本」

【投稿】米朝首脳会談の発表と孤立を深める「属国日本」アサート No.484 2018年3月
福井 杉本達也

1 梯子を外された日本
3月9日(米時間で8日)は日本にとって「第二のニクソン・ショック」(ニクソン訪中宣言:1971年7月15日及びドル・ショック:1971年8月15日)のような日となった。トランプ米大統領は、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を正式決定した。輸入増加から米メーカーを守ることが安全保障上の利益になるとして、鉄鋼に25%、アルミに10%の関税を23日から課すこととなる。中国は報復措置を警告、EUなども反発しており、深刻な貿易摩擦に発展する恐れがある。日本では中国を輸入制限の標的とするものだとの報道だが、米の鉄鋼輸入は日本は中国の倍以上あり、影響は日本の方が大きい。交渉力も中国が圧倒的に強力である。これで米国のTPP復帰などという寝言は完全になくなった。
また、韓国特使として訪米中の鄭義溶大統領府国家安全保障室長は、トランプ米大統領が北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と5月までに会談する意向を示したこと明らかにした。また、金氏は今後、核・ミサイル実験を控えると表明した。平昌五輪の日本のTV局の報道中にも南北合同選手団を揶揄する場面が何度もあったが、孤立しているのは北朝鮮ではなく日本である。日本はトランプ政権に完全に梯子を外されたといえる。

2 ティラーソン国務長官解任の理由は
田中宇氏によると、米朝会談設定にまで持ち込んだ真の黒幕はトランプ大統領だという分析である。「軍産に介入されぬようトランプは米国務省を外して韓国政府を事務方として使い、国務長官も入れ替えた」。「米政府で外交を担当するのは国務省だが、国務省は軍産複合体の一部だ。トランプが米朝首脳会談を行うに際しての事務方を国務省に任せていると、国務省はトランプにわからないように妨害工作を行い、会談が行われないという結末になりかねない。そのためトランプは、米朝会談に至る事務方の仕事を、米政府の国務省でなく、文在寅の韓国政府にやらせてきた。」(田中宇「米朝会談の謎解き」2017.3.14)というのが田中氏の見立てである。結果、「トランプ米大統領が8日に韓国の鄭義溶国家安保室長と会談し、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長からの会談要請を受け入れた際、同席したマティス国防長官らが「(首脳会談の)危険性とマイナス面」への懸念を訴えたが、トランプ氏は取り合わずに決断した」(NYT:2018.3.10電子版=時事ドットコム:3.11)。しかし、鄭氏に記者会見を行わせるという全く異例の決断をしたため、「トランプ氏の側近らは外国政府当局者が記者会見場を使うことに反対。鄭氏はホワイトハウス西棟の車寄せで会見を行う」という前代未聞の展開になった。「トランプ氏の即断は側近だけでなく同盟国の不意を突き、『安倍氏は蚊帳の外に置かれた』」(時事:同上)。この間、あまりにも素早かったため、軍産複合体(国務省)の介入する隙を全く与えなかったということである。
軍産複合体としては、これまで、北朝鮮を利用して朝鮮戦争を「休戦」という不安定な状態のまま放置しておくことで、韓国や日本を占領下におき、極東における膨大な軍備を維持し続ける理由としてきたが、あまりにも費用がかかり維持できなくなりつつある。「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領としては、こうした米国が主導する面倒な関与から抜けたいのである。

3 属国日本
米軍が介入した1950~53年の朝鮮戦争では、韓国と北朝鮮でざっと250万人が死亡したと言われる。「3年程の間に、米軍は朝鮮の人口の20%を戦争や飢餓などで殺した。」(元米空軍大将カーチス・ルメイ Newsweek2017.9.28:「米朝戦争が起きたら犠牲者は何人になるのか」ジョン・ハルティワンガー)という。人口が集積し産業が発達した今日ではこの比でではない。朝鮮半島の人口密度を考慮するならば、「軍事紛争は停戦ライン沿いで2500万以上もの人口に影響を与える可能性がある」と米議会調査報告書には記載されている。また、トランプ大統領の顧問を務めていたスティーブ・バノンは、2017年8月にアメリカン・プロスペクト誌とのインタビューで,アメリカの先制攻撃に関して「最初の30分の間に通常兵器による攻撃で1000万人が死亡するという予測」をたてている。もちろん日本も無傷でいられるはずはない。仮に核戦争が避けられたとしても、3月14日に再稼働した大飯原発にミサイルが着弾しただけで核暴走で日本は壊滅である。
金正恩氏が「新年の辞」で、平昌五輪に代表団を派遣すると述べ、トランプ氏もこれを評価した直後の1月7日のNHK日曜討論で安倍首相は「北朝鮮に政策を変えさせるために、あらゆる手段を使って、最大限、圧力を高めています」、「対話のための対話では意味がない」とまくしたてた。北の脅威をあおり、Jアラートやミサイル訓練で危機を強調することで、軍拡を進め、憲法改正にも利用する。安倍首相にとって、北の脅威は存在しなければ困る。それは米軍産複合体の利益と合致する。というよりも、日本国民の生命・財産を犠牲にして、日本の国家としての存続さえも危うくして、米軍産複合体の利益の代弁者して振る舞っている。

4 付き従う「主人」を間違った犬
米軍産複合体の代弁者であり、日本を裏で操るジャパン・ハンドラーの一角でもある 米戦略国際問題研究所(CSIS)は、「北朝鮮は最重要の地域課題だ。北朝鮮による核開発の放棄はありえず、北朝鮮の危険は核だけではない」、「米国と同盟国は、国土を守るため、専守防衛にとどまらず、攻撃の予兆があれば必要な措置をとる用意があることを知らしめるべきだ」(ゲイリー・ラフヘッド元米海軍作戦部長:日経・CSISフォーラム 2017.10.28)と述べている。また、エドワード・ルトワックCSISシニア・アドバイザーも南北会談で油断するな「アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ」(ニューズウィーク:2018.1.9)と戦争を煽っている。さらに、同様な軍産複合体の代弁者であるヘリテージ財団の ブルース・クリンナ一氏はトランプ氏の米朝会談の受け入れは「性急だ」と批判し、「日米韓で『完全かつ検証可能で不可逆的な非核化』という最終目標を確認して…これに同意することを首脳会談実施の条件とすればよい」(福井:2018.3.16)と会談を始める前から「条件」を付けてぶち壊すことを画策している。
ルトワック氏は「北朝鮮を攻撃すれば、報復として韓国の首都ソウルとその周辺に向けてロケット弾を撃ち込む可能性はある。南北の軍事境界線からわずか30キロしか離れていないソウルの人口は1000万人にのぼる。米軍当局は、そのソウルが『火の海』になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である」(同上)と切り捨てる。しかし、韓国:文在寅大統領はルトワック氏のようには言っておれない。「火の海」で死ぬのは韓国国民自身である。オバマ=ヒラリー・クリント=民主党全国委員会=軍産複合体=国務省から一定の距離を取っているトランプ大統領との共同歩調をとり始めたのである。
トランプ大統領は昨年11月のアジア訪問において、日本への入出国には横田基地を使用し、韓国では烏山米空軍基地を利用した。「主人」は属国の正面玄関から入らない。というか占領軍の玄関は米軍基地である。しかし、同じ属国でも文政権は国民の生命や財産までも宗主国に売り渡すつもりはないようである。ソウルが「火の海」のにならないよう、いかに生き延びるか必死考えている。もう一方の属国日本は宗主国の中の「主人」を間違えて、国民の生命・財産を軍産複合体に売り渡すことに躊躇いもせず、自らの属国の代官としての地位保全に汲々としている。

5 リベラルの劣化
訪米中の河野外務大臣は3月16日、マティス国防長官と会談し「核、ミサイル、拉致問題を包括的に解決すべきだ」と訴えた。また、安倍首相が文大統領と電話会談し、4月末に予定する南北の首脳会談で「日本人拉致問題を取りあげてもらいたい」と求めた。そもそも拉致問題は日朝二国間の問題であり、米国や韓国に頼む筋合いの問題ではない。過去の日本の朝鮮支配の誠実な清算と同時に進めればよい。南北会談・米朝会談に拉致問題を含めよというのは会談を失敗させよということと同じである。
3月13日の朝鮮中央通信は『論評』で「無分別な属国の妄動」と題して、「サムライの後えいは自分らが崇める米国から政治的排斥とのけ者扱い、経済的収奪を受けるなど、その蔑視と虐待は数え切れないほどである。」とし、「2013年に日本のある政治学者は自分の『永続敗戦論』で、日本が『敗戦の否認』と『対米従属』という二つの要素から脱することができなければ永遠に敗戦状態にあるようになるだろうと主張したことがある。」と書いた。北朝鮮に指摘されるまでもなく、日本は独立した国家でも、民主主義でも、日本の政治家が日本の政治を動かしているわけではない。安保条約と日米地位協定の下、主権者は、米軍と、その意向を忖度する売国奴官僚による共同統治である。11月のトランプ大統領の横田基地からの入国では護憲・リベラルを自任する野党は一切抗議しなかった。そもそも、首都の上空を広大な横田空域に占領させておいて「独立国」だというのはおこがましい。占領という現実を踏まえた上で、文大統領のように国民の生命と財産を守るための真剣な努力をするのか、国民の生命・財産をも差し出して、占領軍の統治に甘んじるのか「第二のニクソン・ショック」から問われ始めている。

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【書評】『核惨事!──東京電力福島第一原子力発電所過酷事故被災事業者からの訴え』

【書評】渡辺瑞也
  『核惨事!──東京電力福島第一原子力発電所過酷事故被災事業者からの訴え』
(批評社、2017年2月、2,500円+税)  アサート No.484 2018年3月

本書は、福島第一原発から北北西に18kmに位置していた南相馬市小高赤坂病院院長の「原発過酷事故被災事業者」からの訴えである。著者が院長を勤めていた病院は、地震と原発事故直後の3月12日(土)午後に避難指示の対象となった。この後の患者全員の避難転院、避難生活、そして損害賠償と救済と問題が山積している中での被災者/被害者としての立場からの問題の分析と批判の書である。
とりわけ本書で問題にされるのは、「原発事故による放射線障害をめぐる問題」(第2章)、「いわゆる“年間20ミリシーベルト問題”」である。これについて本書は次のように指摘する。
この数値は、ICRP(国際放射線防護委員会—-世界の原子力産業界が基金を拠出して設立した民間団体)がひとつの参考として2007年勧告で提示したものであるに過ぎない。この時点では文科省の放射線審議会での検討はまだ出ていなかったし、各国に強制するものではないとされていた。しかし「そうした中で福島原発過酷事故が起きてしまったために、原子力安全委員会がいわば独走する形で、しかも内部には異論はなかったかのように誤魔化しICRP2007年勧告を『国際基準であるかの如く』装って導入した、というのが真相のようである。いわば、年間20ミリシーベルト問題の源泉は原子力安全委員会の政治的決定にある、と言うべき経緯があったのである」。
しかもこのICRP勧告は、「緊急時被ばく状況」と「現存被ばく状況」という概念を提唱し、この境界値を20ミリシーベルトと設定していて、「20ミリシーベルト以下の現存被ばく状況は安全な環境などとは言っておらず、『20ミリシーベルトよりもさらに放射線量を低減させる努力が必要』と述べている」。「従って国が避難指示に関する行政権の執行に際して、この数値をあたかも安全基準であるかのように喧伝して被災者の生活圏域を一方的に決定して行くやり方は、政治的な意図に裏打ちされた行政権の過剰適用ないし乱用ではないかと思われる」。
ましてや文科省が出した通知(平成23年4月19日)「20ミリシーベルト/年に到達する空間線量率は、屋外3.8マイクロシーベルト/時間(略)である。したがって、これを下回る学校では、児童生徒が平常どおりの活動によって受ける線量が20ミリシーベルト/年を超えることはないと考えられる。さらに、(略)3.8マイクロシーベルト/時間以上を示した場合においても、校舎・園舎内での活動を中心とする生活を確保することにより、児童生徒の受ける線量が20ミリシーベルトを超えることはないと考えられる」としているのは論外である。
本書はこれを、「文科省が発出したこの衝撃的通知は、日本の将来を担う宝である子ども達を育てる責務を負う官庁が、驚くべきことに、空間線量率が3.8マイクロシーベルト/時もの高線量の環境下で、洗顔や手洗い、うがいや靴の泥を払いながら学校生活を送れと指示しているのである」と厳しく批判する。
またあまり世間では注目されてはいないが、IAEA(国際原子力機関—-これを管理しているのは国連常任理事国=核保有国)を頂点とする支配体制が放射線による健康被害を隠蔽している国際的なあり方も批判される。その中軸的協定(WHA12-40協定)は「WHO(世界保健機構)はIAEAの許可なしに放射線に関する事項を公表してはならない」とされている。同様の協定が、IAEAと福島、福井両県や福島医大との間に結ばれており、その「実施取り決め」文書には、「他方の当事者によって秘密として指定された情報の秘密性を確保する」という条項が含まれていた。そして「チェルノブイリ原発事故の放射線による健康障害は小児甲状腺がんと白血病だけであると断定したのもこのIAEA体制であるということもまた、よくよく知っておく必要がある」。
本書ではこの他、損害賠償金問題に関して、加害責任者である国が「税の公平性を守る」という屁理屈で被災者/被害者に「支払われた補償金に対しては課税」するという杓子定規で頑なな姿勢をとり続けていることも批判もされ、まさに「蛮行」がまかり通っているとされる。
さらに、原発事故時のみではなく、通常運転時にも常に放射能は漏洩していて人々の健康を害している—-トリチウムや放射性希カスの廃棄等の危険性についての指摘もなされる。
このように重大な諸問題が何ら解決されないまま、今また原発の再稼動が進められようとし、被災者/被害者が置き去られようとしている。本書はこう警告する。
「原発に絶対安全はない。これは紛う方なき真実である。問題は重大事故は『起きるか否か?』ではなく、『今度はいつどこで起きるか?』という問題なのである。/これは原発のプラントは未来永劫絶対に安全であるか?という問いと、住民はひとたび環境中に放出された放射性物質から安全に逃げきれるか?という問いと、人類は産業廃棄物たる使用済み核燃料を永久に、そして完全に安全に管理しきれるか?という三つの問いに対して、いずれも『否』であることを意味している」と。(R)

【出典】 アサート No.484 2018年3月

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【投稿】平和と生活破壊進める安倍政権

【投稿】平和と生活破壊進める安倍政権        アサート No.483 2018年2月
―外交の鬱憤を内政で晴らす安倍―

長州だけど気分は「西郷どん」
2月9日から開催された平昌オリンピックは韓国、北朝鮮の融和が前面に押し出されたものとなった。韓国、北朝鮮の当局は昨秋から協議を重ねており、今回の融和は綿密に準備されたものであることが明らかになっている。
その意味で近年ではとりわけ政治性を帯びた大会になったことは事実である。しかし、これを「オリンピックの政治利用」「微笑み外交」として安倍政権が韓国、北朝鮮政府を非難するのはお門違いというものであろう。
1980年、時の大平内閣はJOCに圧力をかけ、参加を切望するアスリートの声を圧殺しモスクワオリンピックをボイコットさせた。過去こうした愚行を行い、2020東京大会を政権浮揚に利用している自民党政権がオリンピックの政治利用を非難する資格はない。
あまつさえ、韓国文政権による従軍慰安婦問題日韓合意の見直しを理由として、開会式出席を拒否しようとした安倍こそ、平昌オリンピックに政治を持ち込んだうちの一人と言えよう。
安倍の出席を巡っては、欠席の腹積もりであったのがアメリカの説得で出席を決断したなどと取り沙汰されているが、当初より韓国政府から「是非とも」と指名されている以上、最終的には拒否しようが無かったのである。
つまり退路を断たれているわけであり、訪韓を乞うたうえで慰安婦合意見直しを持ち出した文在寅の方が、政治的に一枚上手であったと言えよう。
名指しの招待さえなければ、アメリカはペンス副大統領、北朝鮮は表と裏のNo2=金永南、金与正、中国は閉会式に劉延東副首相と、結果的にはこぞって序列2位を派遣しているのだから、元オリンピック選手の麻生太郎が適任だっただろう。
欠席という選択肢がない以上、純粋にオリンピック開催を祝うと言うのがマナーと言うものであるが、安倍は「慰安婦合意の履行を求める」「対北融和姿勢に釘をさす」などという、極めてネガティブな政治問題を訪韓の理由としたのである。
本人は1873(明治6)年、「決死の覚悟で朝鮮開国を求めるため」渡海せんとした西郷隆盛に擬えていたのだろう。それならいっそのことリオオリンピック閉会式にマリオの扮装で登場したように、着流しに犬を連れた西郷のコスプレで臨めばよかったのでなないか。
安倍は開会式前日に行われた日韓首脳会談では、慰安婦問題は言うに及ばず、オリンピック、パラリンピック後の米韓合同軍事演習の実施まで求めた。当事者のペンスさえそうした発言はしていないにもかかわらず、内政干渉ともいえる高圧的な姿勢はまさに現代の「征韓論」ともいうべきものであり、オリンピックの祝祭ムードに水を差す行為であると言える。
さらに開会レセプションの席では金永南に対し、会話の中で拉致問題、核開発問題を持ち出すと言う、これも極めて政治的な立ち振る舞いを見せた。徹頭徹尾、北朝鮮側との接触を拒否したペンスに比べ、日頃批判する融和的姿勢ではないかとの強硬派からの指摘に、安倍は北朝鮮との接触は必要だったと弁明した。それなら中途半端なパフォーマンスはせずに、あいさつ程度の文字通りの外交辞令で良かったのではないか。

緊張緩和の流れに不安
平昌オリンピックを政治利用せんとした安倍の行動は、肩をいからしながらも浮ついたものであり、「氷の王女」金与正の存在感を前に完全に霞んでしまったのであった。
会場を支配したのは南北融和の流れであった。訪朝要請に文在寅は前向きの姿勢を示し、金正恩も妹からの報告を受け韓国との関係改善を進めることを明らかにした。現地では無視を貫いたペンスも離韓後には北朝鮮との対話に含みを持たせるなど、日米韓の連携は揺らいでいる。
文在寅は2月17日記者会見で日米の懸念を念頭に「南北会談を急ぎ過ぎない」旨の発言を行ったが、年内実施という基本的な流れは変わらないだろう。
さらに中露もこの動きは大いに歓迎するところである。文在寅はペンスとの会談に先立ち中国共産党幹部と会談し、米朝対話へ向けて努力することで一致している。今後、中露韓3国が北朝鮮を包摂する朝鮮半島トライアングルを形成し、緊張緩和を主導する可能性もある。
今後の最大の焦点は延期されている米韓合同軍事演習が、4月に実施されるかどうかである。昨年12月まではオリンピック前の実施で運んでいたが、1月に韓国政府の要請で延期となり、パラリンピック終了後に開始されるとの了解が支配的であった。しかし、この間の緊張緩和の動きの中で韓国政府は、時期はもちろん実施されるかどうかについても明確な説明を避けている。
2月8日には北朝鮮で軍事パレードが行われ、ICBM「火星15」も登場したが、規模は昨年の半分であり対外アピールも控えめであった。これについては経済制裁で燃料が不足しているためとの見方も示されているが、米韓への配慮と受け取るならば米韓演習の再延期、もしくは大規模な縮小という方向に韓国が動き出しても不思議ではない。安倍の差し出がましい発言に文が不快感を示したのも当然である。
こうした動きに不安を覚えた安倍は14日遅くトランプに長電話をかけ、北朝鮮に対しアメリカが融和姿勢に転じないよう懇願した。安倍は終了後記者団に対し「最大限の圧力をかけることを確認した」と述べたが、何度も同じことを繰り返し説明することにこそ、連携の不安定さが表れている。
また河野太郎は2月16日からの「ミュンヘン安全保障会議」で北朝鮮への圧力強化を訴え「対話のための対話は無意味」との見解を繰り返す一方、「接触」はありうるとの見方を示し、微妙な軌道修正を行った。安倍が平昌で金永南と会話を交わしたことの後追いであるが、日本が孤立しつつあることを認識しての発言であろう。

トランプ軍拡に追随
この一方でなんとかアメリカを繋ぎ止めるため、トランプ政権への追従はますます露骨になっている。
トランプは1月30日、一般教書演説で「強いアメリカを作る」と宣言、安全保障政策では改めて「力による平和」を強い調子で主張し「核兵器の近代化」に踏み込んだ。
これを踏まえ2月2日には「核態勢見直し(NPR)」を発表、核巡航ミサイルなど新型戦術核兵器の開発を進めることを明らかにした。さらに先制核攻撃の可能性にも言及するなど、核兵器を特別な存在とせず使用していくことを示唆した。さらに12日には軍事費を78兆円とする2019会計年度予算教書を発表し、通常兵器、兵員の大幅増強をも進めることを明らかにした。
この大軍拡、とりわけNPRに世界中でいち早く賛同の意を表明したのが安倍政権である。3日河野太郎は外務相談話を発表しNPRを「高く評価」した。これに対し野党は5日の衆院予算委員会で追及したが河野は、北朝鮮の核に対抗するもので高く評価しない理由はない、などと再度NPRを持ち上げた。8日には同委員会の質疑で「世界を不安定にしているのは核開発を進めているロシアだ」と責任を転嫁し開き直った。
NPRに対してロシア、中国は直ちに反発を示したが、ロシアを名指しした河野発言に対しロシア外務省は8日「平和条約締結問題を含む外交関係に影響が出る」と懸念を示した。16日のミュンヘンでの日露外相会談で河野は発言を弁明するどころか、北方領土での軍事演習、イトゥルップ空港の軍民共用化を非難するなど強硬な姿勢を示した。これらは安倍が言えないことを代弁しているのであろうが、イージス・アショア配備問題に続きロシアの警戒感を高めたことは間違いない。
中国に対しても河野はミュンヘンで名指しは避けたものの、「力による現状変更」を非難、さらに新興国へのインフラ投資についても「透明性がない」と難癖をつけた。

国民生活は置き去り
このように敵を作ることに余念がない安倍政権は、孤立化を恐れながら自ら孤立の道を進んでいる。安倍政権は今後アメリカの軍拡に追随する形で自衛隊の増強を進める目論見であり、2018年度予算案の軍事費は新規装備の調達で過去最大となっている。しかしこうした矢先、2月5日佐賀県で陸自の攻撃ヘリが民家に墜落し、乗員2名が死亡、住民1名が負傷した。さらに先日、海自のイージス艦「きりしま」(横須賀配備)のマストが突然折れる事故が発生した。
このほかにもヘリからの部品落下などがこの間頻発しており、これらは部品の欠陥か整備不良、構造上の問題と考えられるが、装備の調達が目的化し、米軍と同様メンテナンス部門にしわ寄せがきていることが要因の一つだ。
この様な状況を放置するなら、今後も重大事故が発生するだろう。北朝鮮のミサイルより、自衛隊や米軍機の方が危険という本末転倒の事態となっているのである。
市民を危険に晒しながら軍拡を進める安倍政権は、さらなる生活破壊を進めようとしている。安倍は今国会を「働き方改革国会」として、低賃金、長時間労働を強いる働き方改革法案の成立を目論んでいる。
安倍は1月29日衆院予算委で、捏造されたデータをもとに「裁量労働の方が一般より労働時間が短い」と答弁した。野党から問題点を指摘されても誤りを認めなかったが、2月14日に自民党議員の指摘でようやく答弁を撤回し陳謝した。
貧困世帯の子どもの大学、専門学校進学に4月から給付金を出すとしているが、それ以前の高校中退や、義務教育段階での事実上のドロップアウト対策、さらには奨学金返済問題の解決が先決であろう。それには保護者の経済的安定が不可欠であるが、生活保護費は引き下げされようとしている。
また「人生100年時代」などと称し、長寿幻想をふりまいているが要は死ぬまで働けと言うことである。安倍政権は韓国に対し「ゴールを動かす」と非難しているが、今後出てくるであろう年金受給開始年齢の引き上げは、まさにゴールの移動である。生涯現役などと言いながら、高齢者に運転免許の返納を推奨するのは矛盾しているではないか。
正規、非正規の賃金格差是正も働き方改革法案に依拠するだけでは進まないだろう。今こそ野党、労働組合が国会、春闘を結合して取り組みを進めることが必要とされている。(大阪O)

【出典】 アサート No.483 2018年2月

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【投稿】「仮想通貨」バブルの崩壊とドル覇権終焉の足音

【投稿】「仮想通貨」バブルの崩壊とドル覇権終焉の足音
福井 杉本達也    アサート No.483 2018年2月

1 「仮想通貨」バブル
1月26日深夜、仮想通貨取引所大手のコインチェックが約580億円の仮想通貨が外部からの不正アクセスで流出したと発表した。仮想通貨を巡っては、約470惜円分が消えた2014年の「マウントゴックス事件」を超える過去最大の流出となる。しかし、東証の記者会見に臨んだ若干27歳の社長、和田晃一良氏は、まさに「仮想」の宙を見ているようで、巨額の損失を出した責任者としての感情は全く見られなかった。
日経によると18年初めの仮想通貨の総額は100兆円と1年前の40倍になった。けん引役はビットコインで、あふれるマネーを飲み込みながら急成長してきた。しかし、今年1月、2万ドル近くまで上昇したビットコインが5割以上急落した。仮想通貨は法定通貨のように国家が保証するような裏付けは何もない(日経:2018.2.16)。まさに「仮想」そのものである。その様な得体の知れないものにマネーが流れ込み、破綻したのである。『週刊東洋経済』2017年11月4日号では「あなたもできる!ビットコイン投資」などと仮想通貨への投資を煽りに煽ってきた。経済学者の野口悠紀雄氏などもビットコイン技術を評価してきた。おかげで、世界におけるビットコイン取引のうち約半分を日本円建てが占め、日本は「仮想通貨大国」となったが、日本のあふれるマネーをかすめ取る動きの一環といえる。
1630年代のオランダで起きたチューリップバブルについて、日経は「高騰にはこれといった根拠がなかった。値上がりへの期待だけが膨らみ続け、ありふれた品種に年収数年分の値がついた。そしてある日、突然買い手が消えた。」(日経:同上)と書いたが、「仮想通貨」こそ「電子・金融空間」を舞台とした現代版の「チューリップ球根」である。

2 「尻尾」が「本体」を振り回す
2月2日のニューヨーク市場で長期金利の指標となる10年物国債利回りが一時、2.85%と約4年ぶりの水準に上昇したことに嫌気した投資家が米国株に売り出し、ダウ平均が665ドル安と9年ぶりの下げ幅となった。その後も投資マネーはリスク回避に走り、5日にはダウは1175ドル安と最大の下げ幅を記録し、日経平均も6日には1071円安となった。世界株の時価総額は5日~9日の1週間で5兆ドル(540兆円)も減少した(日経:2018.2.11)。
リーマン・ショック後に米国中央銀行であるFRBは、短期金利を上げたり下げたりする従来型の金融政策ではなく、米国債や住宅ローン担保債権などを直接買い上げ、金融市場にマネーを直接供給する「量的緩和策」(Quantitative easing、QE)を始めた。量的緩和を始めた2008年以降の債券の増加ぶりはすさまじい。世界の債券の17年末の時価総額は推計で169兆ドル(1京8400兆円)。金利低下で債券価格が上昇し、08年から50兆ドル(4割)膨らんだ。世界の国内総生産(GDP)の6割強にあたる。マネーの規模がかつてないほど膨らんだ分、揺らぎの余波は大きい。適温相場は中銀がマネーを大量に供給し続けた非常事態の上で成り立ってきた。市場はすっかり中銀頼みとなっている。今後「尻尾(金融)が本体(経済)を振り回す」ことになると予測される(独保険大手アリアンツのモハメド・エラリアン首席経済顧問)(日経:2018,2,10)。

3 原因は資本が過剰なまでに積み上がっていることにある
日銀がマイナス金利政策を導入して以来、銀行の貸出金利は下がり続け、2017年末の貸出金残高のうち金利0%台の融資は全体の62%に拡大している。マイナス金利政策は民間の銀行が集めた預金を日銀に預けると、義務として預けなくてはならない法定準備預金額を超えた分の一部に0・1%の利息を日銀に払わなければならない制度である(日経:2018.2.16)。1215年ローマ教会が利子を公認して以来利回りは資本増殖の効率性を図る尺度であった。それ以前は、借り手はお金を借りても利子を付けて返す必要はなかった。「時間は神の独占物」だったからである。ところが、マイナス金利は貨幣が利子を生む「種子」から何も物も生まない「石」への再転換を意味する。「資本主義の終焉」を意味している(水野和夫・福井:2016.3.20)。
「資本はモノではなく、貨幣がより多くの貨幣を求めて永続的に循環する一個の過程である」(マルクス)。資本主義とは資本が永続的に自己増殖する過程であるが、積み上がった過剰な資本を投資する先がなくなったのである。耐久消費財が行き渡った日本では、自動車生産台数を始め全ての消費財は右肩下がりとなっている。下手に巨大投資すれば、シャープの液晶パネルのように巨大な負債を抱えて、台湾資本の傘下に入らざるを得なくなる。利潤を追求することは「安く仕入れて、高く売る」必要があり、そのためのフロンティア(未開拓地)を求めて国外に経済活動を拡大したのがグローバリゼーションである。しかし、中国も東南アジアなどの新興国もグローバリゼーションの恩恵を受け、もはやフロンティアは残されていない。

4 グローバリゼーションからの撤退するトランプ政権の「米国第一主義」
トランプ政権は、「米国第一主義」を掲げ、グロバリゼー ションからの撤退を表明した。通商政策ではTPPからの離脱、NAFTAの再交渉、気候変動抑制に関する多国間の国際的な協定(パリ協定)からの離脱など保護主義色を強めている。また、安全保障政策でも「世界の警察官」の看板を取り下げつつある。トランプ氏が掲げる「米国ファースト」は、内向き政策の裏返しである。1990年代半ば以降、IT革命とグローバル化によって米国の雇用は、海外生産や経理事務などのアウトソーシングなどが進み、高卒以下の人たちの仕事が奪われてきた。トランプ氏を支持する「忘れられた人々」は働き始めた時よりも現在が貧しく生活が良くならない人々であり、多くは学歴が高卒以下、地域的には白人の比率が高いラストベルトなどの内陸部の人々である(参照:水野和夫・福井:2017.5.7)。
失業している白人に職を与えるために政府としてできることはインフラ投資だが、財政赤字は拡大する。財政赤字を補てんするには国債の増発しかない。しかし、米国債の多くは中国をはじめとする外国勢が買っているが、米国の経済が良くならないと判断すれば米国債を買いにはいかない。そのブレが2月の長期金利の指標となる10年物国債利回りの上昇である。

5 最大の不安定要因は国際基軸通貨「ドル」
世界経済の最大の不安定要因は米国の「ドル」にある。ドルは米国の経済力と軍事力を背景として国際的に基軸通貨として流通しているが、1971年8月に当時のニクソン大統領が金との兌換を停止し、変動相場制に移行したことにより(ニクソン・ショック)、それまでのブレトン・ウッズ体制は崩壊した。金と交換できる唯一の通貨がドルであり(金1オンス=35ドルの固定相場=金本位制:当時、日本円は1ドル=360円の固定相場)、金という本来の貨幣がドルの裏付けとなることによって、ドルが基軸通貨としてIMFを支えてきたのがブレトン・ウッズ体制であったが、ドルの金交換に応じられないほど米国の金保有量が減ったことにより、戦後の金とドルを中心とした通貨体制を維持することが困難になったためである。その後ドルは大幅に切り下げられ、ドルは金の裏付けもなく、事実上強制的に国際的に流通する基軸通貨としての機能を果たしてきた。強制的にというのは特に主要エネルギー資源である原油の取引においてはドル以外での通貨による取引がほとんど認められていないからである。
この強制的原油取引を支えているのがイスラエルであり、サウジアラビアである。またイスラム国(ISIL)やアルカイダなどの米CIAの傭兵による脅しである。もし、自国の原油をドル以外の通貨で取り引きしようとした場合には米国の直接的な軍事力の行使によって、あるいはクーデターによって潰されてきた。2003年のイラクのフセイン政権であり、2011年のリビアのカダフィ政権である。一大産油国で唯一潰すことができなかったのは1979年のイラン・イスラム革命で成立したイランであるが、その後、イラン核開発問題を巡り様々な国際制裁を受けてきた。欧米6カ国は2015年に制裁解除で合意したが、トランプ政権は制裁再開の脅しをかけ続けている。
こうした中東での力関係を変えたのが、2015年9月からのロシアによるシリア・アサド政権への直接的軍事支援であり、結果、イスラム国などのCIA傭兵組織は壊滅状態となり、傭兵を支えてきたサウジ―カタール連合は分裂し、同じく傭兵を支えてきたトルコはロシア側に半分寝返り、イランの中東での存在は大きくなっている。制裁解除後、イランはユーロでの原油取引や中国との元建て取引を行うとしている。中国は、世界最大の石油輸入国であるが(2016年の国の消費量に占める輸入量の割合は65.5%まで上昇した)、人民元建ての原油先物を3月26日に上場すると発表した(日経:2018.2.10)。上海先物取引所での取引開始を呼びかけて主要な石油供給国へ圧力をかけることができる。これはすでに市場で取引されているWTI原油やブレント原油に加えて新たなベンチマーク契約が生まれることにつながる。人民元建て先物取引の誕生により、ロシアやイランなどの石油輸出国は制裁を回避する必要がある場合にドルの使用を避けることが可能となる(umuu’s blog:2018.1.4)。
貨幣の貨幣としての金の裏付けもなく、原油というモノの裏付けも、米国の経済力という背景も、軍事力という強制も失ったドルは益々紙屑への道を進まざるを得ない。「仮想通貨」は「電子・金融空間」という技術を背景とした金融覇権の試みの1つであるが、ドルの覇権を維持するにはチャチな舞台装置に過ぎない。覇権を維持するために、今後さらに経済的大変動や軍事的緊張が高まるのか、覇権通貨間の妥協による何らかの軟着陸着地点を見出すことが出来るのか、新自由主義的イデオロギーや情報操作に誤魔化されない眼が必要とされる。経済学者ケインズは、ゼロ金利は「利子生活者の安楽死」をもたらすとしたが、「安楽死」するか過剰資本もろとも人類を滅亡させる「最後のあがき」を試みるのか危機的状況はなお続く。

【出典】 アサート No.483 2018年2月

 

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【投稿】名護市長選が明らかにしたもの 統一戦線論(45)

【投稿】名護市長選が明らかにしたもの 統一戦線論(45)
アサート No.483 2018年2月

<<「あきらめ」を助長させたものは何か>>
沖縄・名護市長選の結果は、周知のとおり、当選した渡具知武豊氏(56歳、無所属。自民、公明推薦)が20,389票に対し、現職で2期連続当選してきた稲嶺進氏(72歳、社民、共産、社大、自由、民進推薦、立憲民主支持)は16,931票、その差3,458票という予想外の大差であった。同時に行われた名護市議補欠選においても、当選した仲尾ちあき氏19,782票に対し、ヘリ基地反対協議会共同代表の安次富浩氏は15,927票、3,855票差であった。同市・辺野古への米軍新基地建設を許さないオール沖縄の共同・統一候補として闘った稲嶺、安次富両氏の敗北は、負けても接戦、僅差とみられていたことからすれば、この数字以上のものがあると言えよう。しっかりとかつ冷静にこの選挙戦を振り返り、安倍政権が今年最大の山場と設定している11月の県知事選に備えることが求められている。
第一は、翁長知事を先頭とするオール沖縄の現職という強みが、不変のものではなく、常に掘り崩され、浸食されているという現実である。攻防のただなかで、あいまいさや動揺、優柔不断は有権者の意識に直ちに敏感に反映されるということであろう。
その最大の問題は、辺野古基地建設の強行を絶対に許さないのであれば、なぜ、沖縄防衛局が次から次へと繰り出してくる「岩礁破砕」や「サンゴ移植」「石材運搬の港使用」(奥港、本部港)などを、「法的には認めざるをえない」(翁長知事)として許可を先行させているのであろうか。許可しておいてから、奥港住民の石材運搬阻止の必死の闘いに再検討を約したが、実態は、工事阻止どころか進捗させているのである。そして実際には、辺野古・大浦湾の埋め立てを「許可」しているのが実態である。
当然のこととして「市民の間には『知事は(基地建設工事のための)本部港の使用も認めた。工事阻止どころか進めている』との不満も根強い」(2/9日付琉球新報)、「『反対しても工事は止められない』とのあきらめムードが広がっている」(2/4日付沖縄タイムス)のが現実であった。
「オール沖縄」は「市長と県知事が許可しなければ新基地は止められる。」と市民に訴えながら、仲井真弘多前知事が行った「埋立承認」を撤回せず、事実上「承認(許可)」した状態で放置しているのである。ここに、市民の「あきらめ」を助長させた最大のものがあると言えよう。仲宗根勇・うるま市島ぐるみ会議共同代表が「『工事が進んでいる』ことが投票判断の決定的要因」であり、「稲嶺氏陣営は、工事の進行が翁長知事の承認取り消しの取り消しに発するとの根本的な矛盾の認識を欠落」(2/8日付琉球新報)させていたと指摘する通りである。
安倍政権、沖縄防衛局、自民・公明が名護市政奪還を目指して、ヒト、モノ、カネ、デマを最大限動員し、市民の「あきらめ」ムードを煽ったのは事実であるが、それを助長させたものをしっかりと見つめなおすことが求められている。

<<辺野古の「へ」の字も言わない>>
しかし、その「あきらめ」にもかかわらず、市長選直前の1/30に公表された琉球新報社・沖縄タイムス社・共同通信社の3社合同・名護市の世論調査では、普天間基地の辺野古移設について「反対」「どちらかといえば反対」と回答したのは66%、「賛成」「どちらかといえば賛成」は28.3%にとどまり、さらに名護市長選結果に関係なく辺野古移設を進める考えの政府姿勢を支持するかについては「支持しない」「どちらかといえば支持しない」が67.2%、過半数以上の市民が辺野古移設に反対の立場であり、「市民の理解」など到底得られてはいないのが現実である。さらに、投票日当日の <出口調査結果>でさえ、共同通信、琉球新報、沖縄タイムス3社共同調査では、辺野古移設に反対=49・4%、どちらかといえば反対=15・2%、合計64・6%であり、NHK調査では反対=52%、どちらかといえば反対=23%、合計75%にも及んでいる。辺野古基地ノー!の民意は強まりこそすれ、弱まってはいないのである。
にもかかわらず、稲嶺陣営は敗北したのである。稲嶺氏は「残念ながら、辺野古移設の問題がなかなか争点となりえなかった」と語られているが、選挙戦期間中でさえ、翁長知事の応援演説には、「埋め立て承認の撤回」はおろか、「あらゆる権限を行使して新基地は造らせない」というこれまでの決意表明さえ表明されなかったのである。違法ダンプや県道封鎖、デモ規制、不法逮捕、サンゴ礁破壊、等々、もろもろの違法な辺野古の基地建設工事をすべてストップさせる、それらの問題点をこそ広く訴えるという、本来の争点がなぜかうやむやにされ、回避されてしまったのである。そのうえ、若さを前面に押し出す渡具知陣営の争点外しに対応し、押され気味の選挙戦を挽回するためでもあろうか、パンダの誘致などという陣営関係者でさえ首をかしげるような政策を打ち出すなど、迷走まで表面化させてしまった。
こうした事態に付け入るように、渡具知陣営は「基地問題にこだわり過ぎ、経済を停滞させた」と稲嶺市政を批判、学校給食費の無償化や観光振興などを争点の中心に据えた。さらに渡具知陣営は、前回自主投票だった公明党を選挙戦に本格的に参入させるために、渡具知氏が公明党沖縄県本部と交わした政策協定の中に「米海兵隊の県外、国外移転」まで盛り込まれた。これによって公明党沖縄県本部は辺野古に反対の立場を取りつつ、「市長に工事を止める権限はない」として渡具知氏推薦を合理化し、創価学会員をしゃにむに反稲嶺に突っ走っらせることとなった。もう一つ、学会員を突き動かしたのが「共産党主導」批判キャンペーン。「『稲嶺の選挙は共産党が主導している。共産党主導と聞いただけで敵対心を燃やす学会員さんが多いんだ。とてもうまくいった」(渡具知選対幹部、2/5 現代ビジネス)という。その意味では、立憲民主党が稲嶺支持を打ち出した1/23、すぐさま共産党書記長の小池氏が、まるでオール沖縄を代表し、選挙を取り仕切っているかのように「歓迎したい」と表明したことは、火に油を注いだとも言えよう。相手に付け入らせず、セクト主義を排していかにともに闘うかという姿勢こそが問われている。
さらに、自民党が選挙戦で作成した「内部文書」は「応援メモ」というタイトルで、応援に入る国会議員などへの指示として、〈NGワード…辺野古移設(辺野古の『へ』の字も言わない)〈オール沖縄側は辺野古移設を争点に掲げているが、同じ土俵に決して乗らない!〉(2/1付しんぶん赤旗)が徹底された。
当選した渡具知氏自ら「辺野古容認の民意ではない」(2/5の記者会見)ことを認めている。明らかに、与党の自民・公明連合には、避けがたい矛盾が内包されており、辺野古の「へ」の字も言わざるをえなくさせる、これを破綻させるオール沖縄、稲嶺陣営側の戦術・戦略が欠落していたのである。

<<「あきらめる必要は絶対ない」>>
過去5回の名護市長選では新基地建設の是非が焦点となり、1998年は、新基地建設容認・推進派の岸本健男氏が得票数16,253票を得て初当選。2002年は、同じく岸本氏が得票数20,356票を得て再選。2006年は、容認・推進派の島袋吉和氏が得票数16,764票を得て初当選。2010年の同選挙では、新基地建設反対派の稲嶺進氏が得票数17,950票を得て初当選。前回2014年は、同じく稲嶺氏が得票数19,839票を得て再選。
今回、稲嶺氏は、前回2014年の選挙時に得た票より約3,000票減らしての敗戦である。 同市の有権者は前回より約2,000人増えており、移設容認派が前回より5,000票増やしたことからすると、稲嶺陣営の落ち込みは、表面的な数字以上のものがある、と言えよう。
また、表面的には、名護市内の公明票は2000~2500票。下地幹郎衆議院議員(維新)の票が約1500票。前回約4000票の差は、この「公明票」と「下地票」によって埋められた、とも言えよう。
しかし、前回より有権者が増えているのは、2016年の選挙権年齢が18歳に引き下げられたことが大きく反映している。しかも、出口調査によると、渡具知氏候補支援=10代が65,4%、20代は61,6%という若い世代の支持の高さが注目される。玉城デニー氏(衆・自由党・党幹事長)は「とぐち候補を支援した若者は選挙戦略の一つである会員制交流サイト(SNS)をフルに活用した、とぐちさんの政策と若い世代がマッチした」(2018/2/11)と述べておられる。辺野古新基地を作らせない闘いこそが、沖縄の経済、若者の生活と密接に結びついていることを明らかに明示すると同時に、それと密接不可分なものとしての希望の持てるニューディール政策が要請されていたことを、今回の選挙は明らかにしたとも言えよう。
沖縄の作家・目取真俊さんは、「沖縄防衛局は6月にも護岸による囲い込みを終え、埋め立て用土砂を投入すると打ち出している。台風シーズンを迎える前に護岸工事を進め、もう後戻りできない、という印象操作を行うことで、県知事選挙を勝利しようという魂胆だ。すでに名護市長選挙でその手法は成功している。それを許さないために、翁長知事は埋め立て承認の撤回に踏み切って、工事が進行している流れをいったん断ち切るべきだ。そうやって自らへの信頼を回復しなければ、県知事選挙での再選もおぼつかなくなる。撤回による裁判以前に、翁長知事が自滅しては話にならない。」(2018-02-07)と強調されている。
稲嶺さんは、市長選から一夜が明けた2/5、米海兵隊キャンプ・シュワブの工事用ゲート前に立ち、この間の闘いの結果、辺野古新基地建設は1%もすすんでいないことを強調し、「あきらめる必要は絶対ない」と発言され、闘いを激励されている。辺野古の基地はこの現地での闘いがある限り、そしてこの闘いと連帯する巨大な統一戦線がある限り、建設完工など不可能なのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.483 2018年2月

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【書評】「治安維持法と共謀罪」(内田博文著)

【書評】「治安維持法と共謀罪」(内田 博文著 岩波新書 2017・12・20)
—復活する平時の「治安維持法」は、戦時体制への準備—
アサート No.483 2018年2月

昨年6月、参議院委員会審議を中断の上自民・公明と維新の会の多数による強行採決によって共謀罪法案(テロ等準備罪法案)は成立した。

本書は、まず戦前の治安維持法の成立からその運用の歴史を概観する。治安維持法の法案審議の中では、法律の対象は「共産主義運動であり、一般市民には適用されない」と説明されたというのは意味深い。共産党を壊滅させた後も、国体護持や戦争遂行に異を唱えているとして、労働組合や法曹界、宗教団体や学術研究者をも対象とし、検察主導の「裁判」は有罪前提で進められ多くの人々を獄に繋いだ。その手法は、思想検察がその裁量により「犯罪」を作り出し、法手続きを簡素化し、人権よりも「公共(戦争遂行)の利益を優先」して、「法律を運用」するというものであり、著者は、「大日本帝国憲法」下においても、憲法違反のやり方であったと指摘する。

「(戦後)治安維持法下の諸制度は、「戦時の衣」を「平時の衣」に着替えることによって例外の制度が原則の制度に逆転し、むしろ拡大されることになった。大日本帝国憲法にさえ違反していたこれらの諸制度はもちろん日本国憲法に違反していた。しかし、国はその合法化を図った。戦前同様、裁判所がこの合法化に大きな役割を果たした。これには、治安維持法の逸脱適用を実際に差配した思想検事が裁判官と同じく公職追放されることなく、名称を公安検事と変えて法曹界の中枢に居座り続け、なかには最高裁判所判事となって司法政策を牽引した者も出たことが大きかった。」

私は法律に詳しくはなかったが、敗戦まで治安維持法による適用を行い続けた裁判所関係者・司法検察関係者に戦犯追及が及ばず、日本国憲法施行後も「思想検察」は「公安検察」に名を変え、戦後の混乱期に乗じて、労働運動や民主主義運動弾圧の先兵となったという歴史的事実について、この本により知ることとなった。
戦争犯罪者達が罪を問われることなく、敗戦以後、そして日本国憲法成立以降復活していった経過と重なる。旧陸海軍の将校達は、朝鮮戦争の勃発・駐留米軍の朝鮮半島への出兵と共に、「警察予備隊」の幹部として雇用され、「保安隊」そして「自衛隊」幹部として、戦前の反省も無きまま復活した。医学会では、731細菌戦遂行を行った旧帝大医学部の教授たちも、アメリカに研究成果を引き渡すことで免罪され、戦後の医学会に君臨し続けた。同じ事が、思想検察関係者・法曹界にもあったと言う事である。

日本国憲法は、国民主権・平和主義・基本的人権の尊重という基本理念の下、1947年5月に施行された。治安維持法は1945年10月にその効力を失い廃止された。しかし、治安維持法の乱用を許した刑事訴訟法関連の非民主的な諸制度はどうなったのか。政府は「日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の応急的措置に関する法律」(昭和22年法律76号)を定めたが、この過程でも、むしろ焼け太り的に、検察司法の強化が進んだと著者は指摘する。
捜査機関の強制捜査権については、令状主義とされた。しかし「死刑・または無期懲役、3年以上の罪に相当する疑いのある事案」については、強制捜査・逮捕を認める例外を定めて、被疑者を令状なしに逮捕できるとした。
「・・しかし、令状主義という枠がはめられたものの、検察はこの応急措置法第8条により検査官の強制捜査権を刑事手続一般に拡大することに成功した。・・・戦時刑事訴訟法でも認められなかった司法警察官に対する強制捜査権の付与も実現された。」
起訴陪審制度とは、起訴を行うかどうかを、一般人による陪審により決める制度であるが、GHQは司法検察が裁量的に起訴を行ってきたことを改めるため、起訴陪審制度を導入することを求めたが実現していない。日本政府は導入必要性を認めつつ、頑なに拒否し、現在に至っている。時々耳にする「検察審査会制度」は、そのアリバイ的な制度である。検察が基礎を行わなかった事案について、申し出により再審査を行うというもので、起訴陪審とは似ても似つかないものである。

著者は、こうした戦後司法が治安維持法の濫用により国民の人権と自由を奪ってきたという反省もなきまま、戦後団体規制法や破壊活動防止法、公安条例など、基本的人権より「公共の福祉、安全」を優先する考えを基礎にしていると指摘し、戦前・戦後と続く日本の刑事訴訟法等に係る法律・制度の流れを本書にて概説されている。その延長線上に「共謀罪法案」の制定が目指されてきたわけである。

「・・凡例の共謀共同正犯によっても、いまだ実行行為に出ていない段階では、予備罪や準備罪、あるいは陰謀罪や共謀罪では、共謀自体について刑事責任を問うことはできなかった。」そこで、治安当局は予備罪や共謀罪の創設をめざすと共に、処罰規定を設けてきた。それでは不十分だとして、政府はこれまで3回に渡り、包括的な共謀罪の創設を試みてきた。2003年、2004年、2005年に国会に提案されたが、いずれも反対を受けて廃案となった。
そして2016年の参議院選挙で勝利した自公政権は、「テロ等準備罪」法として共謀罪法案を国会に提出した。奇妙なのは、法案名にも関わらず、条文にはテロの規定も、文字も出てこないという、意図を隠した法案提出であったと指摘されている。
「組織的な犯罪に係る共謀罪」が追加されているが、審議の中では、政府答弁は二転三転する。政府は、衆議院審議では、通常の活動を行う市民団体や労働組合は共謀罪法の対象ではないと答弁していたが、参議院では「対象犯罪を謀議・準備したと思われる段階では、一般の団体も対象となる」と修正。また、「共謀に係る犯罪の実行に必要な準備行為」という規定明確化もできず、検察警察による裁量の余地を残し、恣意的解釈の疑いは払しょくすることができなかった。そして、政府の提案説明では、国際的なテロ対策法の批准の必要法だとした。しかしパレルモ条約は、薬物や金融面で経済的な組織犯罪を対象とした国際条約であり、「テロ等準備罪法」の制定は批准の必要条件ではない。国際機関もそれを認めている事実がありながら、審議中断、強行採決という手法で成立させたのであった。
準備罪として成立させるには、膨大な個人情報の事前収集が必要となるが、それはまさに「監視社会の到来」であろう。テロと北朝鮮の脅威で国民に不安を煽り、基本的人権の尊重よりも、「公共の安全」を優先しようというのが、自民党であり、その憲法改正草案には、その意図がはっきりと示されている。国民主権・平和主義・基本的人権を否定するために、憲法改正が準備されているのである。

「恐ろしいのは国家と国民の関係が逆転することである。国民のための国家から国家のための国民に逆転することが予想される」とし、今の私たちに一番必要なのは、「民主主義を担う意欲と能力、勇気である。」と著者は結ぶ。共謀罪法の背景と本質を理解するために、貴重な1冊であろう。是非一読されたい。(2018-02-19佐野)

【出典】 アサート No.483 2018年2月

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【投稿】置き去りにされる安倍政権

【投稿】置き去りにされる安倍政権     アサート No.482 2018年1月
~日本抜きに進む東アジアの緊張緩和~

緊張激化と民主主義否定の5年間 
昨年12月26日、政権発足5年を迎えた安倍は経団連の会合で「本年は私にとって騒がしい1年だった」と述べ、自らに対する批判をあたかも騒音であったかのように切り捨てた。森友、加計事件で窮地にたたされ、衆議院選挙の勝利も敵失の賜物であったことを忘れたかのような物言いである。
また安倍は12月に韓国の野党党首、外相が相次いで訪日した際、会談の場に於いて来客を低い椅子に座らせ優越感を示した。これはチャップリンの名作「独裁者」で「ヒンケル」が相手を低い椅子に座らせ見下すシーンそのものである。(外国では例えばプーチンが、クレムリンを訪れた仏国民戦線のルペンと会談した時は同じ椅子で対応した)
こうした傲岸不遜な対応は、御用芸人との会食は寸暇を惜しんでセットするにも関わらず、ICAN事務局長の表敬要請を拒絶するなど、この間益々増長している。
韓国からの平昌オリンピックの開会式への出席要請も、文政権による慰安婦問題日韓合意の見直しに立腹し、1月中旬現在で「国会日程」を理由に拒否しようとしており、山口や二階など与党幹部をも困惑させている。一方で自らの国会出席、答弁時間については党首討論と引き換えに大幅削減を目論んでおり、子供じみた対応と言うほかない。
年明けの1月4日には、伊勢神宮での年頭記者会見で「今年こそ憲法改正に向けた議論を深めていく」と表明、スケジュールありきではない、自民党内の議論に委ねると言いつつ、あくまでも改憲を目指す姿勢を示した。
今年9月の自民党総裁選への立候補については明言しなかったが、3選を既定方針として、2021年9月の総裁任期までの「改正憲法」施行を念頭に置いているのは明らかである。
安倍はこの5年の間に、経済優先と言いながら実際は日銀に丸投げし、断固実行したのは国民の反対を封じ込め、憲法の平和主義、民主主義を否定する戦争法や共謀罪を強引に成立させるという実質改憲である。この一環として12月15日には防衛大綱について、抜本的な見直しを進める考えを示した。

空洞化する「専守防衛」
防衛政策転換の先取りとして、19日の閣議でイージス・アショア2基の導入を決定、さらに22日に決定された2018年度予算案には、空中発射型巡航ミサイル導入に向け22億円の関連予算が計上された。これらを含む来年度軍事費全体は5兆2千億円と過去最高となり、ミサイル防衛関連費も累計2兆円を突破する。
巡航ミサイルはあたかも「北朝鮮のミサイル基地攻撃」に使われるような説明がなされているが、北朝鮮のミサイルはICBMも含めて移動式が主であり、いわゆる「ミサイル基地」は存在しない。
これまでのアメリカ、ロシアによる巡航ミサイル実戦使用例からすれば、標的は航空基地、兵站施設そして軍事中枢(首都)という固定目標である。湾岸戦争では約300発の巡航ミサイルが使用されたが、イラクの移動式弾道ミサイルを発見、破壊したのは特殊部隊、航空機であった。
また、再来年度からの超音速空対艦ミサイルの配備が決定し、F35戦闘機の追加取得の検討、さらには「いずも型護衛艦」の空母への改装案も飛び出した。
安倍は専守防衛については維持するとしているが、これまでは射程や航続距離などの兵器の性能でそれを担保していたのを、今後の導入予定の装備品ではそうした制約は撤廃されることになる。

「北朝鮮の脅威」は限界
安倍政権は、こうした軍拡を正当化するために「北朝鮮の脅威」を持ち出してきているが、そうした理由では説明がつかないところまで来ている。
イージス・アショアについては弾道弾防衛との弁明が国内的には通じるかもしれないが、ロシアはこれをアメリカのミサイル防衛システムに連動するものと見なしている。12月29日にはロシア外務省情報局長が懸念を表明、1月15日にはラブロフ外相が重ねて憂慮を示し、日露関係への悪影響を指摘した。中国は公式な反応を見せていないが同様の見解であろう。
1月10日ハワイのイージス・アショア訓練施設を視察した小野寺は、日本に導入した場合、今後巡航ミサイルへの対処も考えていく旨の発言を行った。これは最新型の弾道弾専用のミサイル「SM3」シリーズに加え、巡航ミサイルにも対応できる次世代型の「SM6」の配備を示唆したものである。
このミサイルは、アメリカで開発中の「海軍統合対空火器管制(NIFC-CAニフカ)システム」でも運用可能で、はるか遠方を飛ぶ早期警戒機の情報をもとに、イージスシステムのSPYレーダーの探査圏外の標的も迎撃が可能となる。
ところが、肝心の北朝鮮は巡航ミサイルを保有しておらず、その対象は必然的に中国、ロシアということになる。空中発射型巡航ミサイル、超音速対艦ミサイルも主要な攻撃対象は空母などの大型水上戦闘艦であり、(SM6も対艦攻撃が可能)これも中露を対象としたものに他ならない。ラブロフ外相が「イージス・アショアは攻撃も可能だ」と非難したのはこのためである。

「島嶼防衛」の本質
安倍政権はこれらを「島嶼防衛」の為と合理化しようとしているが、巡航ミサイルについては、過度な中国への刺激になりかねないと公明党が難色を示した。これに対し防衛省は巡航ミサイルの導入は「北朝鮮の脅威からイージス艦を守るもの」と説得したという(12/22毎日)。
しかしすでに海自は「イージス艦防御用」として「あきづき型護衛艦」4隻を約3千億円かけて配備しており、屋上屋を重ねるものであろう。
そして、そもそも北朝鮮は先述の巡航ミサイルはもちろん、日本海上のイージス艦を攻撃できる有効な装備を保有していないのであるから、防衛省の説明は詭弁である。今後これらの装備が取得されれば、東シナ海や南シナ海に於いて早期警戒機を運用し、F35Bからの巡航ミサイル、イージス艦からのSM6をもって遠距離から中国艦隊を攻撃するという構想が浮かびあがる。
「島嶼防衛」としては、超音速空対艦ミサイル、新型地対艦ミサイルの配備、開発が進められているが、これらを上回る遠距離交戦能力獲得の意図するものは明らかであろう。
中国海軍の増強は著しいものがあり、2020年代前半には空母2、駆逐艦約40の他、フリゲートなど水上戦闘艦約90隻を保有すると見積もられ、海自の護衛艦約50隻(「空母2」を含むとして)とは圧倒的戦力差となる。
安倍政権はアメリカに加え、英、豪を軍事同盟に巻き込もうとしているが、見通しは立っていない。そこでこの劣勢を各種ミサイル増強でカバーすることを目論み、南西諸島を含む「第1列島線」を槍衾とし、さらに海自艦隊の機動運用で実現しようとしているのである。

「黄海海戦」?
実際の部隊運用でも安倍は任務拡大を進めている。これまでは南シナ海を囲むフィリピンやベトナムに艦艇や航空機を派遣してきたが、昨年末からは「北朝鮮の密輸監視」をするとして、黄海に護衛艦や哨戒機を派遣していることが明らかになった。
日本政府はこの行動は国連決議に基づく措置であり、臨検などの実力行使はしないとしているが、この海域での監視は本来中国、韓国の役割であり、両国は信用できないと言っているのと同じである。さらに密輸船を発見した場合、米軍に連絡するとしているが、これは米海軍の露払い、呼び水であり一層中国を刺激するものとなる。
もっとも中国は同国船籍の商船が、北朝鮮船と禁輸製品の受け渡しを行ったことが明らかになっており苦しいものがあるが、海自としては黄海での活動を既成事実化することが狙いであろう。
安倍政権はこの間、「一帯一路」構想に賛同を示し、中国指導部の訪日を要請するなど表では友好ムードの演出に腐心してきたが、裏では耽々と刃を研いでいることが明らかとなり「偽装降伏」の化けの皮がはがれてきたのである。
こうしたなか1月11日、尖閣諸島の接続水域に中国海軍のフリゲート艦と原子力潜水艦が入った。安倍政権はこれを中国の一方的な挑発行為として大々的な批判を繰り広げたが、実は海自の黄海進出に対応した行動であった可能性が強くなった。
安倍の軽挙妄動で中国、韓国との関係が再び緊張し、日本での日中韓首脳会談、日中首脳の相互往来の実現は再び遠のいた。当の本人は東アジアの緊張緩和を脇に置き、1月12日からバルト3国および東欧3カ国の歴訪に出発した。

安倍は置き去り
安倍は先々で北朝鮮の脅威を吹聴したが、本当の理解は得られなかったであろう。バルト3国では「北朝鮮の脅威は、皆さんにとってのロシア以上です」と言えば分ってもらえたかも知れないが。
安倍が留守の間に、朝鮮半島をめぐる情勢は急展開を見せた。南北会談で北朝鮮の平昌オリンピック参加が決定し、米韓軍事演習も延期されることとなった。オリンピック開催まで予断を許さないが、こうした動きに安倍政権は蚊帳の外であるばかりか、国際社会が歓迎する中で一人不満を露わにしている。
カナダでの20か国外相会議で河野は「北朝鮮の微笑みに騙されてはいけない」と敵意をあらわにし、安倍は「対話のための対話は意味がない」と一つ覚えの様に繰り返すのみである。過日中国に対し「前提条件なしでの対話を」と「対話のための対話」を呼びかけていたのは誰であったのか。
安倍は核放棄まで圧力を高めると言っているが、肝心のアメリカ軍の練度は低下が著しい。昨年民間船との衝突事故を起こしたイージス駆逐艦艦長2人は、軍法会議にかけられることとなった。沖縄では米軍ヘリの事故が相次いでおり、日本政府も苦言を呈せざるを得なくなっている。
トランプ政権は国家防衛戦略でロシア、中国を現状変更を試みる修正主義と非難、イラン、北朝鮮は「ならずもの国家」とし軍拡を表明しているが、これらとの軍事的対峙、多方面作戦は不可能であり、個々への対応は中途半端なものになるだろう。
安倍政権としては対中東、ロシア政策では微妙な立ち位置で動くに動けない中、東アジアでは完全に置き去りにされている。通常国会で野党6党は可能な限り協調し、新たに浮上した「スパコン疑惑」を含め、安倍政権の矛盾を追及すべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.482 2018年1月

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【投稿】内部抗争の続く米国と完全に行き詰った日本売国外交

【投稿】内部抗争の続く米国と完全に行き詰った日本売国外交
福井 杉本達也 アサート No.482 2018年1月

1・米国第一主義で漂流する日本
日経は「漂流する世界秩序」と題した社説を、1月3日・4日と掲げた。 「超大国の米国は自国第一主義を一段と鮮明にしており、盟主なき世界は求心力を失ったままだ」と評しながら、「日本は防衛の多くを在日米軍に依存するだけに、外交の軸足を日米同盟に置くしかないが、いざ有事のときに、気まぐれなトランプ氏がどこまで日本を守ろうとするのかはよくわからない。」と、日米同盟への不安を口にしつつ、「台頭する中国の勢いをそぐには、中国とロシアの聞にくさびを打ち込むなどして、新興国が日米欧に一枚岩で立ち向かってこないようにする必要がある」と東アジアで緊張状態を継続させロ中の分断を図ると宣言し、「 開放的な世界の経済秩序が崩れていくのか。それを防ぎ、秩序を再構築していく力がまさるのか。今年はその正念場になるだろう。」と結んでいるが、希望的観測と実際に日本の立ち位置で何が出来るかをごちゃまぜにし、いったいどこへ向かおうとするのか意味不明の、まさに「漂流する」日本の外交を表すものとなっている。

2 激しい内部抗争が続く米国
トランプ政権発足後1年がたつにもかかわらず、米国の内部抗争が収まる気配はない。NYTなど米マスコミは「ロシア疑惑」というありもしない「フェイクニュース」を延々と1年間も垂れ流し続けている。ロシアに亡命した元CIA職員のスノーデン氏が明らかにしたように、NSAは米国を含む全世界のありとあらゆる電子メールを傍受・記録している。ロシアがハッキングしたなら、証拠をNSAは握っているはずだが、その証拠は出されていない。ないものは出せるはずがない。
米軍産複合体・金融資本は2016年のアメリカ大統領選挙でヒラリー・クリントンを勝たせることに内定していたが、WikiLeaks(ウィキリークス)によるクリントンメールの暴露により形勢が逆転し、トランプ氏が当選してしまった。ウィキリークスの創始者アサンジ氏による膨大なメールの要約は①クリントン氏は支配層エリートのネットワークのなかで、歯車を動かす重要な歯の役割を果たしている。クリントン氏はゴードマン・サックスのような巨大銀行、ウォール街、エリート層、国務省、サウジアラビアなどを繋ぐさまざまな歯車を動かす役割にある。そうして、このネットワークに加わっている人たちがアメリカの支配層の代表である。②米国の同盟国である中東湾岸諸国は、主にサウジアラビアとカタール政府はテロ組織イスラム国を支援してきた。2014年のメールによると、この同じ2カ国はクリントン財団に献金の名目で資金を提供している。③リビアはヒラリー・クリントン氏の戦争であった。クリントンメールの33,000通のうち1,700通以上はリビアに関するものである。カダフィー政権とリビアの転覆を国務長官の成果として、大統領選に優勢に立つことが目的であった。④トランプ氏の当選は許されない。トランプ氏は支配層エリート体制のメンバーではない。(アサンジ氏インタビュー:ウイキリークスが伝えるクリントン氏の実像~「支配層体制を動かす歯車の歯」・2016.11.7)。
このことはトランプ氏陣営も重々分かっている事であり、米政権の内紛はトランプ氏が①軍産複合体の軍門に下るか、②弾劾により大統領職を追放されるか、③暗殺されるか しないかぎり延々と続くと予想される。

3 「世界秩序」から撤退する米国
「米国第一主義」を掲げるトランプ政権は「世界秩序」という美名の下の世界支配から徐々に撤退しつつある。1991年12月にソ連が消滅したため、米軍産複合体はアメリカが唯一の超大国になったと誤認して、ウォルフォウィッツ国防次官を中心にウォルフォウィッツ・ドクトリンがつくられた。米英の支配層は民主主義を装うことなく、侵略戦争を公然とはじめた。西側の支配層を束ね、ロシアや中国にも大きな影響力を及ぼしていた。1995年2月にジョセフ・ナイ国防次官補は「ナイ・レポート」を作成、日本をアメリカの戦争へ体系に組み込む作業が本格化した。プランに基づいてユーゴスラビアを解体し東欧圏を支配し、イラク、アフガン、シリア、リビアなどを侵略し、破壊と殺戮を繰り広げたが、シリアでの戦争に失敗したことでアメリカの支配層内での対立が深刻化している。日本のマスコミは「米国第一主義」により、「世界秩序」が失われ、紛争が拡大すると騒ぐが、事実は逆である。「世界秩序」の維持という名目で、巨大な武力を背景に各国の内政に干渉してきた米国が独善主義から撤退することは紛争の種がなくなることである。

4 「一帯一路」の大胆な世界戦略を打ち出した中国
米国が「世界秩序」から撤退する中、大胆な世界戦略を打ち出したのが中国である。陸路、特に鉄道で、中国・天津から内モンゴルを経由して、モンゴルに出て、シベリア鉄道でヨーロッパに出るルート。連雲港から西安・新疆ウイグルを経てカザフスタン、モスクワ・ヨーロッパへ至るルートや昆明からラオス(ビエンチャン)を経由してバンコク・シンガポールに抜ける東南アジア回廊など何本ものルートがある。日通は既に上海などからドイツ・ハンブルクなどへの自動車部品や電機部品などの鉄道輸送を計画している(日経・2018,1.10)。また、海上ルートとしてはマラッカ海峡を経由して、スリランカ(ハンバントタ)、パキスタン(グワダル)から紅海・地中海に入るルートなどがあげられる。これにロシアから中国への原油パイプライン・カザフスタンから新疆ウイグルへのガスパイプラインなどが含まれる。市場規模は45億人・全世界の6割を占める巨大経済圏が出現する。米ユーラシア・グループのイアン・ブレマは「他国への不干渉という原則だ。経済援助と引き換えに政治・経済改革を要求する欧米に慣れている他国の政府にとっては、魅力的だ。欧州の首脳が多くの問題を抱え、トランプ氏が「米国第一」主義の外交政策を掲げる中、欧米的な価値観に基づかない中国の経済や外交へのアプローチに対抗するものは何もない。」(日経・2018.1.19)と書く。

5 中国の「一帯一路」構想を阻止したい米軍産複合体
マッキンダーは1900年代初頭、鉄道の整備などにより大陸国家の移動や物資の輸送などが容易となったことで、世界地図をユーラシア内陸部を中軸地帯(ハートランド) 、内側の三日月地帯 、外側の三日月地帯 に分け、「東ヨーロッパを支配するものがハートランドを支配し、ハートランドを支配するものが世界島(ワールド・アイランド)を支配し、世界島を支配するものが世界を支配する」と説いた。海洋国家が主導する欧米にとっては中国の提唱する「一帯一路」は悪夢の「ハートランド」の再現である。イランやイラクの原油がペルシャ湾を通過せずに、直接パイプラインで中国やインド・東南アジアに供給される。ロシアの原油が北朝鮮・韓国をパイプラインで通過して日本にもたらされる。あるいはシリア・トルコを経由してギリシャから直接ドイツ・フランスに供給される。
これは、軍産複合体・金融資本にとっては「世界秩序」を揺るがすものであり、何としても阻止しなければならないことである。
そのため、極東においては北朝鮮の核問題で緊張を煽り、南シナ海では「自由の航行作戦」を行い、アフガン作戦に協力しないとパキスタンを恫喝し、インドを中国の構想から離脱させようと中印国境での緊張状態を画策し、新疆ウイグルでの民族紛争を煽り、中東では「イスラム国」・「アルカイダ」などの傭兵勢力による攪乱を行い、ウクライナなどで極右勢力による騒乱を企画してきたが、あまりにも費用がかかり過ぎるため、その限界が見え始めた。その象徴がシリア・イラクでの「イスラム国」というCIA傭兵勢力の壊滅的打撃である。

6 平昌五輪で孤立する安倍政権
1月9日の南北会談で、北朝鮮は平昌五輪への参加を表明し、マティス米国防長官は、オリンピックが行われる間は米韓年次合同軍事演習を延期するとし、トランプ氏は「私は、金正恩と良好な関係になれるだろう」とツイートした。この緊張緩和の動きに対し米軍産複合体は怒り心頭である。エドワード・ルトワック米CSIS戦略国際問題研究所シニア・アドバイザーはニューズウィーク日本版誌上で、「南北会談で油断するな『アメリカは手遅れになる前に北を空爆せよ』」とし、「ソウルの人口は1000万人にのぼる。米軍当局は、そのソウルが『火の海』になりかねないと言う。だがソウルの無防備さはアメリカが攻撃しない理由にはならない。ソウルが無防備なのは韓国の自業自得である」とまで言い切った。
この軍産複合体の意向にべったりなのが安倍政権である。1月16日にカナダ・バンク―で開催された北朝鮮をめぐる20ヶ国外相会合において、河野外相は、「日本としては、他国にも北朝鮮との外交破棄に踏み切ることを期待する」と述べ、第三国の内政に露骨に干渉することを宣言した。いつから帝国主義国家になったのか。しかも、船舶検査=「臨検」に自衛隊も参加するとしたが、「臨検」とは戦争行為そのものである。
同じ9日、韓国文政権は慰安婦問題に関する新方針を発表したが、安倍政権は、これは日韓合意に反するとして、平昌五輪に出席しない意向を示したが、ペンス米副大統領やマクロン仏大統領など各国首脳が集う中、東京五輪を控える隣国の首相が出席しないというのは外交的にあまりにも稚拙な行為であり、さすがに自民・公明の与党は国会日程を野党と調整してでも首相が出席すべきだとの意向を示している。上げた手さえ下せない、世界から完全に孤立した無様な姿勢だけが浮かび上がる。
これに輪をかけたのが、安倍首相の東欧6ヶ国訪問である。訪問先のルーマニアには既に対ロシアに向けたイージス・アショアが配備されている。日本が配備しようとするイージス・アショアが北朝鮮ではなくどこに向けられているかは明らかである。ロシアのラブロフ外相は「米国が自国の兵器をどこかに配備した時に、その兵器の管理を配備された国に委ねたケースを我々は一つも知らない。」(Suptnik 2018.1.17)として、ロシアを攻撃の対象としているとの見解を示した。日本がミサイル防衛システムを稼働させれば、ロシアの核攻撃の対象となるということである。トランプ氏に梯子を外され、文大統領からは袖にされ、習近平氏には無視され、プーチン氏に脅され、完全に外交的に孤立した日本に出口はない。安倍政権の米軍産複合体一辺倒の売国政策も最終的な行き詰まりを迎えている。

【出典】 アサート No.482 2018年1月

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【投稿】再び問う、「慰安婦」問題・日韓合意と共産党 統一戦線論(44)

【投稿】再び問う、「慰安婦」問題・日韓合意と共産党 統一戦線論(44)
アサート No.482 2018年1月

<<欺瞞に満ちた「日本の返し技」と「裏合意」>>
昨年末の12/27、韓国の康京和外交部長官直属の旧日本軍「慰安婦」被害者問題合意検討タスクフォースは、2年前に日韓外相が発表した「慰安婦」問題に関する「日韓合意」に至る協議の過程を調査した報告書を公表した。同報告書は、「被害者・国民中心でなく政府中心の合意」という結論を出した。また、合意文書に▼慰安婦被害者関連団体を説得する▼海外関連碑を支援しない▼性奴隷という表現を使わない--などの非公開内容があったという事実も明らかにした。これを受けて11/28、文在寅大統領は「(慰安婦に関する)合意が両国首脳の追認を経た政府間の公式的約束という負担にもかかわらず、私は大統領として国民と共にこの合意で慰安婦問題は解決されないという点を改めてはっきりと明らかにする」と述べた。
文大統領は「2015年の交渉は手続き的にも、内容的にも重大な欠陥があったことが確認された」と指摘し、「歴史問題の解決において確立された国際社会の普遍的原則に背くだけでなく、何よりも被害当事者と国民が排除された政治的合意だったという点で極めて遺憾」と述べ、合意の公式性は認めるが、しかし合意の瑕疵がこれを維持できないほど深刻だという認識を明らかにした。
その報告書によると、合意の核になった「不可逆的」という言葉は、日本政府が「謝罪」を表明した後も日本の与党政治家などからそれを公然と覆す発言繰り返されたことを踏まえて、「謝罪の不可逆性」を強調するために、もともとは韓国側が先に言及したものであった。ところが、その表現が日本側の強い要求によって、「慰安婦」問題「解決の不可逆性」というものに一方的に捻じ曲げられてしまった。日本側はこの表現によって、「解決済み」として、今後一切「慰安婦」問題に関与しないし、韓国側も蒸し返さないという表現に反転させてしまったのである。これでは国内世論の反発は避けられないと判断した韓国外交部は、「不可逆的」の表現を削除することが必要だという意見を大統領府に伝えたが受け入れられなかったという(「『最終的かつ不可逆的』慰安婦合意の文言は日本の返し技だった」(韓国『ハンギョレ新聞』日本語版、2017年12月28日)。
また、同報告書は、「日韓合意」には発表内容とは別に非公開の「裏合意」があったことをも明らかにした。具体的には、
① (日本)韓国の市民団体「挺対協」が合意に不満を表明した場合、韓国政府が説得してほしい →(韓国)関連団体が意見表明を行った場合、政府として説得に努める、
② (日本)在韓日本大使館前の少女像を移転する韓国政府の計画を尋ねたい →(韓国)関連団体との協議を通して適切に解決されるよう努力する、
③ (日本)第三国における「慰安婦」像の設置は適切でない →(韓国)韓国政府としてそのような動きは支援しない、
④ (日本)韓国政府が今後、「性奴隷」という単語を使わないよう希望 →(韓国)公式名称は「日本軍慰安婦被害者問題」であることを再度、確認する、
というものだった。非公開を求めたのは日本側であった。
その結果、報告書は、「裏合意」の存在およびその内容は「合意が被害者中心、国民中心ではなく、政府中心で行われたことを示している」と指摘した。
『ハンギョレ』紙は、こうした裏合意は実質的には日本政府の言い分のほとんどすべてを韓国の朴槿恵前政権が受け入れたものと論評している。

<<日本側は「自発的かつ真の謝罪」を>>
そもそも韓国政府に対して、非公開の秘密の裏合意を申し出ること自体、主権者と被害当事者を無視した、安倍政権の卑劣で強権的な帝国主義的な外交姿勢を露骨に示すものといえよう。
しかもその内容が厚顔無恥、相手側に責任を転嫁する狡猾さは、安倍政権の本性をまざまざと示している。あらかじめ反発を予測して、韓国の市民団体「挺対協」など「支援団体」が合意に不満を表明した場合、韓国政府が説得せよ。日本の加害責任・賠償責任を要求する市民運動の象徴となっている日本大使館前の少女像を敵視し、これの移転について、韓国政府が「適切に解決されるよう努力」せよ。さらにアメリカなど世界各地で戦時性奴隷の問題を訴える第三国における「慰安婦」像の設置も、「そのような動きは支援しない」ことを明確にせよ。あげくの果てに、「慰安婦」の実態を隠ぺいするために、韓国政府が今後、「性奴隷」という単語を使わないように徹底せよ。まるで傍若無人な一方的な加害者側のあつかましい要求の押し付けである。言論・表現の自由、集会・結社の自由を侵害するのはもちろんのこと、露骨な内政干渉である。
この裏合意で名指しされた挺対協の尹美香・共同代表が12/27、韓国外務省庁舎前で記者会見し、「裏合意が判明し、しかも私たちの行動を制限するものであった。政府は即刻合意を破棄すべきだ」(12/28共同通信)と訴えたのは当然のことであった。
年が明けて1/4、こうした検証結果の報告を踏まえ、文在寅大統領は、当事者である慰安婦被害者たちを大統領府での昼食会に招き、「国を失ったとき、国民を守れず、解放によって国を取り戻した後は、ハルモニたちの傷を癒し、痛恨を晴らさねばならなかったにもかかわらず、それができなかった。むしろハルモニたちの意思に反する合意をしたことについて申し訳なく思っている。」と謝罪した(「国賓級礼遇でハルモニら迎えた文大統領…『12・28拙速合意』正すための第一歩」(『ハンギョレ』2018年1月4日)。
以上を踏まえて1/9、韓国の文在寅大統領は就任後初めてとなる新年の記者会見で、2015年12月28日の従軍慰安婦問題を巡る日韓合意に関する新方針を発表した。文大統領は「誤った結び目はほどかなければなりません。真実を冷遇した場で道をつくることはできません」と述べ、合意に基づき日本政府が拠出した10億円を日本に返すべきだとの元慰安婦らの主張を踏まえ、韓国政府の予算で同額を拠出。日本の拠出金は凍結し、扱いを今後、日本政府と協議すると表明した。そして「合意の再交渉は求めない」と表明し、再交渉をしない形で日本政府に強い謝罪を要求すると言及、「日本が心から謝罪するなどして、被害者たちが許すことができた時が本当の解決だ」と強調、日本側に対して韓国政府は「日本が自ら国際的かつ普遍的な基準に基づき、真実をありのまま認め、被害者の名誉、尊厳の回復と心の傷を癒やすための努力を続けることに期待する」と述べ、自発的かつ真の謝罪をするべきだと表明したのであった。
「手続き的にも、内容的にも重大な欠陥があったこと」から、本来は破棄されるべきものであるが、政府間の公式的約束ということで一応、合意の存在は認め、再交渉はしないものとする。しかし、その上に立って、やはり自発的かつ真摯な謝罪はすべきだということは現状においては、日韓関係の改善をめざして日本側を配慮した文政権側の最大限の譲歩の姿勢であり、むしろ当然の、最低限の要求というべきものであろう。こんな最低限の要求にさえ応じられないなら、合意は破棄されるべきであろう。

<<「一ミリたりとも動かすことは考えていない」>>
ところが、この韓国政府の新方針に日本政府は猛反発。菅官房長官は「日韓合意は国と国の約束だ。最終的、不可逆的な合意だ。一ミリたりとも動かすことは考えていない」と言い放った。1/12には、安倍首相自身が「韓国側が一方的にさらなる措置を求めることは、全く受け入れることはできない」と述べて謝罪を拒否すると明言。安倍首相はさらに1/15に重ねて「合意は国と国の約束であり、これを守ることは国際的かつ普遍的な原則だ」と突っぱねている。
しかしこの合意は、韓国側からの指摘を待つまでもなく、当初から「手続き的にも、内容的にも重大な欠陥があったこと」は明らかである。まず第一に、合意内容についての公式な文書が交わされていない。「合意文書」が存在していないのである。日韓の両国外相が共同記者会見を開いて発表しただけで、両政府代表の調印さえない。両国が発表内容を、それぞれの公式ウェブサイトに掲載しながら、内容が一致しておらず、とりわけ「最終かつ不可逆的解決」に至ってはそれぞれ全く別の解釈なのである。韓国側の上記タスクフォース報告書は「今日の外交は、国民とともにしなければならない。慰安婦問題のように、国民の関心が大きい事案ほど、国民と呼吸をともにする民主的な手続きとプロセスを重視する必要がある。しかし高官級協議は、終始秘密交渉で進められており、知られている合意内容に加えて、韓国側の負担になるであろう内容も公開されていなかった」と指摘する通りである。「秘密交渉」として当事者抜きのまま勝手に決めた、この合意の性格・過程の不明朗さ、反民主性、そして「裏合意」の存在は、およそ「国と国の約束」とか「国際的かつ普遍的原則」などと言えた代物ではないのである。
そして問題なのは、安倍政権は裏合意が判明しても、一言の弁明・釈明すらもなく、逆に裏合意を公表された意趣返しのように、韓国側の最低限の要求をさえ突っぱねていることである。そしてさらに問題なのは、日本の大手マスコミ・報道機関は押しなべて、この日本政府の主張をオウム返しに支持・賛同し、野党も同調している事態である。秘密交渉とその卑劣な裏合意をまともに報道、批判すらしていない。裏合意の存在、その内容など、ほとんど報道されていないし、国会でも全く追及さえされていないのである。

<<共産党・志位委員長談話、「撤回する意思があるのか、ないのか」>>
そしてさらに嘆かわしいのは、共産党までもが、このような翼賛状態に事実上同調し、口をつぐみ、だんまりを決め込んでいることである。
しんぶん赤旗は、この間の事態について時事通信等の簡単な引用記事だけである。韓国側タスクフォースの内容はもちろん、裏合意の内容など一切報じていないし、論評、批判など一切していない、出来ないのである。完全な思考停止状態である。
筆者が本紙2016年2月27日付の「慰安婦」問題・日韓合意と共産党、でも紹介した醍醐聰さんが、やはりこの問題で、「再度、志位和夫氏に問う~『日韓合意』をめぐる談話の撤回が不可決~」と題して問われている。「ここで、改めて志位氏に問いたい。日本共産党が今回の日韓合意後も、正しい見地に立って『慰安婦問題』の解決に貢献する運動に取り組むには、合意を『前進』と評価した2015年12月29日の志位談話を撤回することが不可欠と私は今でも考えている。志位氏はあの談話を撤回する意思があるのか、ないのか、ぜひ、答えてほしい。」(2018/1/6、醍醐聰のブログ)と。撤回するには遅すぎた感もあるが、筆者も同じことを問いたい。
共産党の現状は、志位談話の誤りに頬かむりしたまま、民族主義の同調圧力に飲み込まれてしまって、安倍政権の帝国主義外交を事実上容認してしまっているのである。志位談話から2年以上経過してしまっている。なぜこのような事態に落ち込んでしまったのか、それこそ共産党自身の自主的・民主的なタスクフォース、調査と反省と報告が必要とされているのではないだろうか。
日本の野党共闘や統一戦線が、戦時性奴隷という女性の人権を根底から踏みにじってきた戦争犯罪と闘う、国際的にもそうした闘いと常に連帯する姿勢を放棄して、民族主義的な翼賛状態を容認するようでは、安倍政権を打倒に追い込むことなど到底不可能である。共産党に限らず、他の野党にも問われることである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.482 2018年1月

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【書評】黒川祥子『「心の除染」という虚構──除染先進都市はなぜ除染をやめたのか』

【書評】黒川祥子『「心の除染」という虚構──除染先進都市はなぜ除染をやめたのか』
(集英社インターナショナル、2017.2.28.発行、1,800円+税)
アサート No.482 2018年1月

本書の舞台は、福島県伊達市。福島第一原発から北西に約50キロで、原発まで南東方向に、飯館村、浪江町、二葉町と続く。ここには原発から風に乗って多量の放射能が降り注いだ。一瞬にして原発災厄の被害者となってしまった住民、とりわけ小学校の子どもを持つ母親たちの恐怖、不安と、この事態に対処する行政の施策・姿勢への不信、批判が本書のテーマである。
本書は、「第1部 分断」「第2部 不信」「第3部 心の除染」からなるが、その前の「序章」では、原発事故直後の様々な出来事が紹介されている。(【・・】は評者による註である。)
「【2011年】3月16日、この日、福島県は予定通り、県立高校の合格発表を行うという。(中略)実際、前日の15日、すでに福島市では原発爆発後、最大の空間線量を記録していた。その要因は3月15日の夕方、福島第一原発周辺から東南東及び南東の風が吹いたことで、この日北西方向に高濃度汚染地帯が作られたのだ。もっとも顕著なのが飯館村で、18時20分に44・70マイクロシーベルト/時を記録。この時飯館村に隣接する【伊達市】霊山町小国にも放射性物質が降り注いだ。(中略)しかもこの日、中通り【福島県中部地域】では雨が降っていた。山深い小国では、それが雪になった。この雨によって放射性物質が降下、中通り一帯に放射性物質が沈着するという不幸が起きた。(中略)【この翌日】中学校を卒業したばかりの生徒たちが幾人も、屋外の掲示板で、自分の合否を確認するために県内各地を歩き回った。放射性物質を警戒するアナウンスは何もなされずに、無防備なままで」。
「隣の飯館村では『計画的避難区域』というよくわからない名称ののもと、全村避難の動きが始まっていた。なのに、小国では子どもたちは『普通に』学校へ通っている。みな、長袖・長ズボン、マスクを着用するという出で立ち」。【小国小学校・校庭の測定値、4月10日、5・78,11日、5・77マイクロシーベルト等々。ただし教育委員会からは校庭での活動は控えるという通達は来ていた。】
この状況の中、伊達市は子どもへの対策を次々に発表したが、5月26日の「だて市政だより」には市長・仁志田昇司の姿勢が、こう示されている。
「放射能の健康被害の恐れと外で遊べないことによるストレスを心身の健康という観点から考えた時、私は後者の心配が大きいのではないかと考えておりますので」
この放射能被害を軽視する転倒した姿勢が、この後伊達市の住民に対する基本的姿勢として随所に現れてくる。
原発災害からの避難に関して伊達市は、避難地域の指定ではなく、「特定避難勧奨地点」という避難制度を要望、実施する。「地点」とは世帯、家のことで、伊達市の南部に追加被曝線量が年間20ミリシーベルトを超える「地点」(住居単位、家)に対して「避難」が「勧奨」される。【各住居の測定方法にも問題があることが住民から指摘されているが】「同じ集落、同じ小学校、同じ中学校に、避難していい家と避難しなくてもいい家が存在する。『勧奨』だから、避難はしなくてもいい。年寄りが今まで通り自宅農作業しながら暮らしても、東電から毎月慰謝料が支払われる。一方、『地点』にならなかったら、子どもが何の保障もなくこの土地に括り付けられる」。この制度が、2011年6月から12年12月まで適用された。ちなみに「地点」の優遇措置は、市県民税・固定資産税・健康保険料・年金保険料・電気料金・医療費等の全額免除、避難費用・生業保障・通学支援・検査費用の支給等々である。これが地域社会を崩壊させ、住民の間に深刻な亀裂を生んだことは想像に難くない。
また放射能除染では、伊達市は全国的に知られるように、2011年、「除染先進都市」としてデビューした。これは市内を汚染の度合いによってA(特定避難勧奨地点の存在する地域)、B(A以外で比較的線量の高い地域)、C(1マイクロシーベルト/時間=年間5ミリシーベルト以下の地域)の3エリアに区分し、Aは大手ゼネコンによる面的除染、Bは地元業者による地区別除染、Cは地元業者と市民によるミニホットスポット除染というものである。しかしこの「区分け」は市から唐突に出されたものであり、実際には、未だに市内の7割を占める地域では、汚染が低いとして除染が行われていない。しかしこの取り組みは国やIAEA(国際原子力機関)で評価され、同市の除染担当職員・半澤隆弘は、一部から「除染の神様」とさえ呼ばれるまでになった。
さらに個人線量計(ガラスバッジ)の問題がある。「伊達市は、全世界で初めて壮大な【人体】実験を行った自治体である」。約5万3000人もの全市民に1年間装着させ、実測値を得たのである。しかしそもそもこの線量計は放射線関係の労働者向けのものであり、ましてや子どもに装着させるにはモデルもデータも何もないものであるが、伊達市はこの実測値の平均から放射能の危険は山を越えたと宣言した。
2013年9月、これを受けて伊達市の市政アドバイザー多田順一郎は、「無駄な除染は全国の納税者、電気料金負担者に申し訳ない」と公言し、「除染からは、何一つ新しい価値が生まれませんので、除染作業は一日も速く終えて、将来に役立つ町づくりに努めようではありませんか」と呼びかける。しかしこの時期、周辺の市町村ではこれから本格的に除染を進めて行こうとしていたのである。
同様に仁志田市長も、市民の「安心できない」という声に対して、「Cエリアのフォローアップ除染」を提唱し、「安心してもらうための除染、いわば『心の除染』というものを目指して納得のいく除染を志向する」決意を述べる。本書はこれを、「放射性物質が降った生活圏を除染するのではなく、安心とは思えない『心』を除染するのだと、市長は意気揚々と訴える。それが『フォローアップ除染』なのだと」とその筋違いを批判する。
この他、除染に関わる交付金の奇妙な変更(申請時より大幅減となり、異例ではあるが県に返還を申し出た)など不可解な問題は残されたままであり、放射線災害について、費用対効果を問題とする姿勢は続いている。
以上の経過に対して本書は、「この伊達市の『実験』は今後、原子力災害が起きた時の貴重な『前例』となるだろう。不必要な除染はしないことで損害賠償費用を削減し、全市民が着用したという前提のもとでのガラスバッジデータから追加被曝規準も引き上げられていく。原子力を推進する勢力にとって都合よく、使い勝手のいい『前例』が福島第一原発事故後にこうして作られたのだ」と将来への不安と危険性を指摘する。
そして伊達市アドバイザー多田順一郎の発言「被災地の人に、被災者の立場を卒業していただくことがゴールだと思います」に対して、こう締めくくる。
「なんと恐ろしい『ゴール』だろう。仁志田市長でさえ、市報で公言していたではないか。伊達市から放射能物質が完全に無くなるのは、300年後になると」。
近未来の原発災害が生じた後、打ち続く住民の苦闘に満ちた経緯を予測させる書である。(R)

【出典】 アサート No.482 2018年1月

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【投稿】四面楚歌を招く安倍軍拡

【投稿】四面楚歌を招く安倍軍拡
~通常国会に向け野党共闘再建を~

消し飛んだ「謙虚、丁寧」
10月24日、衆議院選挙後初の閣議が開かれ、閣僚からは「謙虚」「真摯」という、あたかも選挙結果を厳粛に受け止めているかのような発言が相次いだ。
安倍も前日の記者会見で「謙虚に政策を進めていく」と述べており、その夜ステーキ店で開かれた「祝勝会」でも、高村や二階を前に「謙虚」を繰り返したと言う。
しかし、それらが全く上辺だけのポーズに過ぎないことが早くも露呈する。26日、麻生は自民党議員のパーティーで、自民党が大勝できたのは「明らかに北朝鮮のおかげ」と本音を億べもなく吐露した。
また11月に入りさらに気が緩んだのか、山本「東北でよかった」前大臣が、「なんであんな黒いのが好きなんだ」と発言、さらに竹下「島根にミサイル」総務会長がLGBTを差別するなど暴言が続出した。
さらに自民党は、当初特別国会に関し事実上首班指名選挙のみでの幕引きを画策したが、世論の反発を恐れ39日間とすることを余儀なくされた。しかし質問時間に関し、議席数に応じて配分を見直すという、姑息な手段で、森友、加計疑惑への野党の追及を封じ込める暴挙に出たのである。
11月1日、第4次安倍内閣の発足を踏まえ記者会見した安倍は、改憲について「幅広い合意へ形成するため努力する」と述べ、改めて任期中の改憲を目指すことを明らかにした。
一方第3次改造内閣のキャッチフレーズであった「仕事人内閣」の任務には、閣僚全員が再任されたにも関わらず全く触れることなく、自らの初仕事も国会における国民に対する丁寧な説明とは違い、トランプに対する丁寧な「おもてなし」であることが、露骨に示されることとなった。
ゴルフ場で身を挺してトランプのご機嫌をとった安倍は、国会での追及から逃れるようにアジア歴訪に出発、APECやASEANの場で北朝鮮の脅威を吹聴して回った。これは総選挙大勝という「大恩」を仇で返すような行為であろう。
安倍外遊中の11月14日には、文科相により加計学園獣医学部の新設が認可された。15日の衆院文部科学委員会では質問時間が大幅に削減(与党1、野党2)される中、立憲や希望が追及したものの、張本人である安倍の姿はなく丁寧どころか一言の説明も行われなかったのである。
帰国した安倍は17日の衆院本会議で所信表明演説を行い、政策の実行として、北朝鮮危機を口実とした軍拡の推進、教育無償化の推進などを述べ、最後に与野党の枠を超えた改憲論議を呼びかけたが、森友、加計疑惑には触れることはなかった。
そもそも安倍は特別国会での所信表明演説を行うつもりはなく、泥縄式にしたためた「3500字」程度の原稿を棒読みすると言う、端から国会軽視、論議封殺を象徴するような内容となった。
「謙虚、丁寧」をかなぐり捨てた態度に、20日からの衆参両院での代表質問では野党のみならず、自民党岸田も森友、加計問題に対する丁寧な説明を求め、「上から目線では国民の信を失う」と、安倍の政治姿勢に苦言を呈さざるを得ないほどであった。こうした質問に安倍は岸田に対してはある程度「丁寧、謙虚」な答弁を行ったが、立憲、希望の追及に関しては不誠実な対応に終始したのである。

開き直りで国会閉幕
しかし、11月22日会計検査院は、森友学園が学園用地を取得する際の「ごみ撤去費用」は算出根拠不十分とする報告を行った。これによりこれまで安倍が国会で述べてきた正当性の根拠が崩れ、真相解明には、佐川国税庁長官、安倍昭恵などの証人喚問がいよいよ不可欠となった。
しかし政権はこれを頑なに拒み、一方の当事者である籠池泰典、詢子夫妻については、12月中旬現在で7月の逮捕から5か月近くという異例の長期拘留を続けている。これは先に、沖縄平和運動センターの山城議長に対して行ったもの(2016年10月逮捕、17年3月保釈)に匹敵する政治弾圧であり、安倍政権の恐怖政治を象徴するものであると言えよう。
27日からの衆参予算委員会での追及を前に、24日、国有財産処分について、財務省は麻生が随意契約の価格を公開するなど透明化を図ることを表明、国交省も石井が「ごみ撤去費用の見積もりは適正」としたうえ、今後は算定に時間を確保し、根拠の確認や、資料の作成、保存を検討すると言う弥縫策を提示、予防線を張った。
27日の衆院予算委でも質問時間が増えた自公が、延々と5時間にも及ぶ援護射撃を行った。これらに助けられた安倍も28日の質疑で「私がこれまで適切と言ってきたのは、自分で調べて適切と言ったのではなく、財務省の説明を信頼して述べたもの」と詭弁を呈し、通常国会では重視するとした会計検査院の報告を、一転軽視するという開き直りを見せた。
政権が不誠実な対応を繰りかえす中、事実上の国会最終日である12月8日には、これを待っていたかのように十分な説明がないまま様々な案件が決定された。安倍が所信表明で述べた教育無償化については、2兆円規模の政策パッケージを閣議決定したが、無認可施設への補助など幼児教育にかかわる一部は先延ばしとなった。また、天皇の交代については19年4月30日退位、5月1日即位と統一自治体選挙と参議院選挙の隙間にはめ込む形となり、政権の都合が優先された。
一方税制改正による企業減税、所得税増税は多少の議論はあったものの、8日の与党税制調査会の論議で、年収850万円以上のサラリーマン増税が確実となった。しかし同日内閣府は7~9月期のGDPを年率2,5%増の上方修正し、厚労省も生活保護費の大幅削減を明らかにする一方、10月の実質賃金が0,2%の伸びであったと発表、「アベノミクスの成果」をもって、負担増決定の希釈化に腐心した。
それでも14日に決定された18年度与党税制改正大綱によれば、所得税控除の見直し、森林環境税、「出国税」の新設、たばこ税増税により年2800億円の増税となることが明らかとなった。
安倍政権の開き直りを許したのは、分裂を繰り返しその暴露話ばかりが目立つ野党、とりわけ民進、希望に大きな責任があり猛省しなければならない。

中国には「偽装降伏」
特別国会は総選挙大勝の余勢のまま与党ペースで押し切られた形となったが、国際情勢は、安倍政権の思惑など歯牙にもかけない動きを見せている。とりわけ中国との力関係は決定的に変化しようとしている。
11月のアジア歴訪は中国への柔軟姿勢が際立ったが、12月4日安倍は都内の会合で「一帯一路」構想への協力姿勢を改めて示し、政府もこれへの日本企業の参加指針を策定した。
これは、TPPがアメリカの離脱で11か国での再編を余儀なくされる中、背に腹は代えられないということである。麻生はムーディーズからトリプルAに格付けされたAIIB(アジアインフラ投資銀行)をサラ金呼ばわりしたが、負け惜しみ、引かれ者の小唄であろう。
11月29日、北朝鮮は新型ICBM「火星15号」の試射に成功したと発表した。これを受け安倍政権はアメリカとの軍事同盟強化を進めているが、韓国との関係では中国に先手を打たれており、影響力の拡大を阻まれている。
THAADミサイル配備で悪化した中韓関係は、日米韓軍事同盟否定などの政府間協議(三不一致)を踏まえ12月14日の首脳会談で、北朝鮮問題の平和的解決をすすめること等で一致した。
朴政権を否定し成立した文政権であるが、日本を最初の訪問国にしないことに関しては前政権を踏襲する形となった。慰安婦問題では一昨年の日韓合意のため表立った行動ができない韓国政府であるが、サンフランシスコでは中国系市民団体が慰安婦像を市に寄贈、恫喝が跳ね返えされた維新・吉村は姉妹都市を解消すると言う暴挙にでた。
しかし、フィリピンでもマニラに中国系市民の協力で慰安婦像が設置されたことが明らかになり、日本の歴史修正主義者が騒ぐほど慰安婦像は世界に拡散していくであろう。また12月13日にはネパール総選挙で左派同盟が圧勝し、親中政権の樹立が確実となるなど、アジアでの中国の影響力は拡大している。
安倍は日米豪印の「自由で開かれたインド太平洋戦略」で対抗しようとしたが肝心のアメリカが乗り気でないばかりか、トランプの「エルサレム首都認定」「北朝鮮対話戦略」など迷走中の現在、不安感を募らせている。
このため準同盟国としてイギリスを巻き込み、独自軍拡で巻き消しを図ろうとしているが、イギリスはEU離脱に伴う新たな経済連携が主眼であり、中国を封じ込める気などさらさらないであろう。
南シナ海に派遣されるとしている艦船も、空母2隻のライフサイクルコストが英財政を圧迫する状況から、アジアでの運用費を日本が負担することに期待しているのではないか。日英同盟の再現は困難であろう。
独自軍拡については北朝鮮の脅威を口実に、巡航ミサイルやイージス・アシュアの導入が矢継ぎ早に決定され、12月15日には安倍が防衛大綱の抜本的見直しを表明した。
しかしロシアがイージス・アショアなどミサイル防衛強化に難色を示すと、小野寺がショイグ国防相に「北朝鮮の脅威が無ければMDは必要ない」と中国を忘れたかのように漏らすなど、アメリカに劣らず迷走している。
日本が軍備増強に進んだとしても、中国との戦力差は今後開くばかりであり、軍拡競争は破綻するだろう。逆に本気でMDや巡航ミサイルを北朝鮮対応と考えているのなら、オーバースペックもいいところである。
こうした支離滅裂ともいえる動きは、アメリカも含めて周辺国との信頼関係が希薄な中、明確な軍事ドクトリンを持たない安倍政権は、不安に駆られて軍拡は進めるものの、単独で中国と対峙するのも不可能と考えている故のものである。
このような外交は各国の不信感を増大させるものであるが、とりあえず、中国に柔軟姿勢を示して緊張緩和を演出するという方策と考えられる。これは真の友好とは程遠いものであり、中国が反応を示しているのは国内基盤を固めた習近平の余裕というものであろう。
年明けの通常国会では特別国会の総括を踏まえ、野党各党は政党交付金の配分を睨んだ離合集散劇ではなく、内政外交の政策転換を求める共闘体制の再構築を急ぐべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.481 2017年12月

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【投稿】高裁段階で初 画期的な伊方原発運転差し止め決定

【投稿】高裁段階で初 画期的な伊方原発運転差し止め決定
福井 杉本達也

1 広島高裁で伊方原発運転差し止めの決定
四国電力伊方原発3号機をめぐり、住民が求めた運転差し止め仮処分の抗告審で、広島高裁は12月13日、広島地裁の決定を覆し、運転を禁じる決定をした。高裁で初めてとなる画期的判断である。伊方原発から130キロ離れた阿蘇山など火山の影響を重視し、現在の科学的知見によれば「阿蘇山の活動可能性が十分小さいかどうかを判断できる証拠はない」とし、過去最大規模の噴火をした場合、火砕流の影響を受けないとはいえないと判断した。但し、差し止めを来年9月30日までと限定した。

2 「及び腰」の決定だが、官僚機構内でも広がる原発再稼働への疑念
しかし、今回の高裁決定は、大規模地震のリスクについて、四国電力の想定は不十分とする住民側の主張を退けた。伊方原発は、中央構造線は活断層ではないとして、その存在を無視して建設された。本来設置が許可されてはならない原発が許可されてしまった。決定理由における、新規制基準は合理的であり,伊方原発が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断も合理的であるとした判断、特に地震についての判断は明らかな誤りである。弁護団声明でも「傍論とは言いながら,地震動に対する原発の安全性については,地震科学の不確実性を見誤って事業者の楽観的な主張を踏襲している点,地震本部の策定したいわゆるレシピを絶対視して不確実性を踏まえない点で,福島第一原発事故の教訓を活かしきれておらず,再び深刻な事態が生じかねない内容となっている点で極めて不当である。ただし,これらの点はあくまでも傍論であり,判例的価値は有しないと考える。」(弁護団声明(広島高裁決定を受けて)2017.12.13)としている。
つまり、高裁決定は「及び腰」である。肝心な地震判断を避けた、正面突破ではなく「火山」という搦め手からの判決である。最高裁の事務総局に人事権限を握られている司法官僚の枠内での裁判官としては精一杯の抵抗とはいえよう。だが、1978年、伊方原発1号機設置許可処分の取り消しを求めた住民訴訟では、裁判を指揮していた裁判長の判決直前での強制入れ替えによって判決文を書き換え棄却判決を下した松山地裁での第1次伊方原発訴訟と比較すれば格段の進歩である。これまで全て門前払いであった高裁段階でも、原発の再稼働に対する疑念が高まっているといえる。さすがに、官僚機構においても国家・国土の完全消滅を招く原発事故災害の甚大さを正面から見据える動きが強まってきていると言える。

3 動揺する経産省と四電・九電
高裁判決について経産省幹部は「あくまで司法の決定だ。規制委が認めた原発の再稼働を進める政府の方針に変わりはない」(福井:2017.12.14)とコメントしたが動揺は隠せない。四国電力の加藤敬三原子力本部付部長は「『原発の停止中は火方発電を使うため、燃料費に1ヶ月で35億円の損失が出る』と肩を落とした…全国の電力会社にも戸惑いが広がる。九州電力は再稼働を控えた玄海3、4号機(佐賀県)について、住民から運転差し止めの仮処分を申し立てられている。同社幹部は『想定外の判断に驚いている』と話す(福井:同上)。九電の瓜生社長12月15日、記者会見で「原発運転期間中に高裁が指摘したような噴火が起こる『確率は非常に低いと思っているし、確認のために火山の状況把握はしている』と説明。自社の原発に対する差し止め訴訟では『地下のマグマの状況など説明』を示して安全性を訴える」(日経:2017.12.16)とした。3.11の地震・津波を経験した今日、いまさら「確率論」を持ち出すとは思考停止も甚だしい。火山の「地下のマグマの状況」とはいったい何を指しているのか。「観測機器を増やすだけで予知が可能になるわけではない。マグマの通り道や地下のマグマだまりの位置など。火山の内部構造はほとんど未解明で謎だらけ。観測データがたくさん集まっても、どう解釈するかの知見が足りない…多くの火山学者は『いつどこで噴火する』といった予知には否定的だ」(日経:2015.10.3)。2014年の御嶽山噴火は戦後最大の火山災害となった。瓜生社長は「噴火の予知」などできるはずもない寝言を繰り返しているに過ぎない。先の経営見通しも持てない経営者は即刻辞任すべきである。

4 大飯3,4号の福井県知事の再稼働同意と唐突な関電の2か月延期
福井県の西川知事は関西電力が再稼働を目指す大飯原発3、4号機について、11月27日、再稼働に同意する考えを表明した。同原発について規制委は今年5月、新規制基準に適合しているとするとの審査結果を示していた。西川知事は同意の判断条件として、使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外立地などを国に提示していたが、関電も世耕経産大臣もゼロ回答である。世耕大臣との面談で、国の積極的な関与の姿勢を確認し、同意の条件がそろった(産経:2017.11.27)としたが、中間貯蔵施設の「福井県外立地」について、関電は「7000回以上訪問した」とし、「来年中には具体的な計画地点を示す」と、「やりました」という投げ遣りな“結果報告”と甲子園の選手宣誓のように「来年への」“決意”述べただけで、「どこにも決まっていない」―というよりも、そのような危険な廃棄物の受け入れ先として今更手を上げる自治体があるはずはないことは明らかである。むしろ、関電高浜原発の地元音海地区自治会では、金属容器による空冷式の「乾式貯蔵」により地元(原発サイト内しかないであろう)保管を提案している(福井:11.28)。住民避難の具体的計画もないまま、電力交付金の増額などのカネで地域住民をはじめとする国土の安全を売り渡したのである。
ところが、知事の再稼働同意からわずか3日後の11月30日、関電は大飯原発3、4号機の再稼働を2か月遅らせると発表した。理由は「神戸製鋼所の製品データ改ざん問題を受け、部品の調査に時間がかかる」(福井:2017.12.1)というものであるが、当然ながら、知事同意の時点で経産省・関電は2か月延期を決定していたといえる。知事は何の為に今年中の同意を急いだのか。経産省・関電のリップサービスで手玉に取られあげく、梯子を外されたといえる。

5 神戸製鋼所の製品データ改竄問題と大飯3,4号再稼働延期の関連性は怪しい
神戸製鋼所の製品データ改竄問題と原発部品の関連はあるのであろうか。関電によると「新規制基準に対応するため新たに設置した大容量ポンプの分岐配管などの安全性確認」が遅れているため(福井:同上)というが、神戸製鋼で製造された部品は原子炉格納容器や一時冷却材配管、主要設備の溶接部、燃料棒の被覆管など何千点にも及ぶ。これらの部品について関電は改竄発覚後、この2か月間で安全性を確認したとしており、新規に設置したポンプ部品の確認が遅れているというが、取って付けた理由のように見える。そもそも、2004年8月に22年間も一切検査せず美浜3号機2次系大口径配管の破断で5名死亡・6名負傷の大事故を引き起こしたように徹底的に安全性無視できた関電が、部品の安全確認の為として1か月で35億円、2か月70億円もの利益をみすみす逃すような企業とは思えない。
企業コンプライアンスに詳しい郷原信郎弁護士は「このような『データ改ざん』は、日本の素材メーカー、部品メーカーの多くに潜在化している『カビ型不正』の問題であり、それらの殆どは、実質的な品質の問題や安全性とは無関係の『形式上の不正』に過ぎず、顧客に対して『データ書き替え』の事実と、真実のデータについて十分な情報を提供し、書き替えに至った理由や経過を正しく説明して品質への影響や安全性の確認を行うことができれば、もともと大きな問題にはなり得ない。」(HP「郷原信郎がきる」:2017.12.1)という。神戸製鋼側が、8月から顧客への説明を行っている最中に、経産省は「『できるだけ早い段階で会見で公表すべきだ』。9月28日に問題を把握すると神鋼に終始圧力をかけ続け…追い込まれた神鋼はついに発表を決断」(日経:2017.11.28)に追い込まれ、記者会見で公表せざるを得なくなった。「公表の時点で、神戸製鋼は、まだ顧客への説明の途中だった。3連休の中日である日曜日の午後に、突如記者会見を開いたことは、マスコミ側に、“ただちに対応が必要な緊急事態”との認識を与えるもので、公表のタイミングとしては最悪だった。」(郷原:同上)としている。
とするならば、大飯3,4号機の再稼働2か月延期には別の理由がある。強欲の関電さえ従わざるを得ない相手とすれば、経産省から延期の圧力があったと考えざるを得ない。関電のみならず、九電も玄海原発の再稼働を延期しており、神戸製鋼のデータ改竄による部品の調査が真の理由とはさらに考えにくい。
経産省は何らかの形で、広島高裁の決定を事前に知り得たのかもしれない。また、日頃は傲慢に「○○段階での判断であり、規制委の認定に基づき粛々と進める」というはずの菅官房長官が、13日の記者会見では、広島高裁の運転差し止め決定の「『判断を尊重する』との考えを示した。『当事者である事業者の対応を国も注視していきたい』」(日経:12.14)と殊勝にも語っていることも従来とは少し異なるところである。福井新聞紙上での経産省幹部のコメントとは明らかに異なる。官僚機構内での再稼働についての異論が出ている可能性もある。今後を注視していく必要がある。

【出典】 アサート No.481 2017年12月

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】サーロー節子さんの警告 統一戦線論(43)

【投稿】サーロー節子さんの警告 統一戦線論(43)

<<「トランプの危険な症状」>>
12/6、トランプ米大統領は突如、米歴代政権で初めて、イスラエルの首都はエルサレムだと宣言し、同時に、現在テルアビブにある米国の駐イスラエル大使館をエルサレムに移すと発表した。イスラエルを除いて、国際社会でこの決定を歓迎するのは皆無であり、パレスチナを始めとする中東各地で抗議デモが発生し、米国は世界各国から強い非難を浴びている。国連安全保障理事会は、エルサレムの地位をめぐる一方的な決定はいかなるものであれ法的効力を持たず、撤回されなければならないとする決議案が検討され、米国が拒否権を行使しても、安保理で採決される可能性が報道されている(12/17、AFP)。
このトランプ大統領の決定がもたらす悪影響は計り知れない。国連は1947年、エルサレムを二分割し、西側をイスラエル、東側をパレスチナの首都とすることを決議したが、イスラエルは1967年の中東戦争以来、東エルサレムを占領し続け、1993年のオスロ合意で、いったんパレスチナ国家の創設を了承したにもかかわらず、難癖をつけて占領を継続、パレスチナ国家創設の国連決議が履行されていない。米議会は1995年に、イスラエルがオスロ合意でパレスチナ国家の創設を認めた見返りに大使館移転法を可決したのであるが、イスラエルがパレスチナ国家を認めない方向に転じたため、移転法は棚上げされてきた。また世界のすべての国が、エルサレムをイスラエルの首都と認めず、大使館をイスラエル最大の都市であるテルアビブに置いてきた。今回、トランプ大統領は、世界の諸国の中で初めて、国連決議の履行と関係なく、エルサレムをイスラエルの首都と認める愚行をあえて強行したのである。戦火拡大の火種、火薬庫に火をつける行為と言えよう。
さらに問題なのは、この12/6に行われたトランプ大統領のイスラエルに関するスピーチで、ろれつが回らず言葉を誤って発音した後、彼の精神状態に対する疑念が広がり続けていることである。ホワイトハウス報道官サラ・ハッカビー・サンダースは翌12/7、高まる懸念を受けて、大統領は健康診断を受ける予定になっていると発表。
現在米国でベストセラーとなっている『ドナルド・トランプの危険な症状:27人の精神科医とメンタルヘルス専門家が大統領を査定』(The Dangerous Case of Donald Trump: 27 Psychiatrists and Mental Health Experts Assess a President)を編集した、イェール大学医学部で教える司法精神医学者で、暴力の専門家として世界的に有名なバンディ・リー医師が、ニューヨークの独立放送局・DemocracyNow 2017/12/8に登場。「トランプ大統領についての深い懸念は何ですか?」との問いに、「多くの精神保健専門家が、大統領に懸念を抱いているという事実は、歴史的に前例のないことです。私たちの心配は、このレベルの精神的不安定性と障害を持つ人が、破壊的な戦争を開始し、核ミサイルを発動させ、発射される可能性があるということです。私たちがしていることは、誰かが正常範囲内で行動していない状況を警告することです。」まさに重大な警告である。

<<「尊大人様閣下」>>
この危険極まりないトランプ大統領に、一貫して最大限の賛辞と支持を表明しているのが安倍首相である。安倍首相は、世界で唯一人、朝鮮半島をめぐる核戦争の危険な挑発行為に関しても「あらゆる手段で圧力を最大限度まで高めていくことで完全に一致した」とトランプ大統領との親密ぶりを誇る特異な存在である。
マクマスター国家安全保障問題担当大統領補佐官がNHKの取材(11/2)で「軍事行動をとると決定したら、日本に通知しますか」との質問に対して、「軍の指導者レベルの関係は極めて良好で、信頼できる盟友です。そして政治レベルでも、絶えず調整が行われています。そしてもちろんご存じのように、トランプ大統領は安倍総理大臣との間に極めて強い、緊密な関係を築いています。いつでも電話をかけられる関係で、頻繁に話をしています。」と答えている。
この発言を受けて、11/29の参院予算委員会で、自民党の山本一太参院議員が「日本国民を守るために必要だと感じたときにトランプ大統領に『いまは攻撃を思いとどまってくれ』と助言することもありうる覚悟が総理にあるのかを聞きたい」と質問。しかし首相は答弁をはぐらかす。そこでさらに、「もう一度だけ、総理、お聞きしたい。言い方を変えますが、『日本の国益のためにアメリカの判断を、例えば、少し変えてくれ』と促すケースはありうるということでよろしいでしょうか」と再質問。これに対して安倍首相はその覚悟、助言には一切触れもせず、「いまはまさに『すべての選択肢がテーブルの上にある』というトランプ大統領の方針を私は一貫して支持をしています。そのなかにおける、あらゆる手段における最大限の圧力を我々はかけていかなければならないと考えているところでございます」としか答弁できない。軍事行動を勧めこそすれ、回避する気などさらさらないのである。ところが、山本氏は「ありがとうございます。ギリギリのところまで総理にご答弁をいただいたと思います」と感謝し、あまつさえ、「総理は各国首脳と比較してもトランプ大統領と突出した別格の関係を築いていると思います。首脳会談5回、電話会談17回、ゴルフも2回。…ある有識者が『総理は猛獣使いだ』と語る記事もありました」とまるでお追従そのものの受け答えである。
12/1付朝日新聞・天声人語は「尊大人様閣下」と題して、この事態を徹底的に皮肉っている。「▼手紙や宴席ならまだしも、国会にはふさわしくない光景を見た。安倍晋三首相に対する自民党議員の質問である。「就任以来、首脳会談550回。ヨイショしているんじやないですが、日本の外交はいま力強い」。なるほど力強いヨイショである▼岸信介元首相を持ち出した議員は「おじい様は異次元の政策バッケージを作って成功した」とほめそやした。「私も後世そういう評価をされたい」。応じた首相も満足げだった▼与党質問の比率が増えすぎた結果だろう。政府の施策の問題点をわきに置いて、首相をほめていては国会審議とは言えまい。推す法案を長々と説明して「総理、応援していると言っていただけますか」「応援しております」というやり取りもあった。茶番である▼首相の在任期間はいまや桂、佐藤栄作、伊藤博文、吉田茂に続いて歴代5位に達した。あと2年続投すれば桂も超える。「安倍尊大人様閣下」。そんな呼びかけをする議員すら出かねない国会の惨状である。」

<<「悪の凡庸さに気づかなければなりません」>>
その安倍首相が「北の脅威」を煽り立てて、トランプ大統領をヨイショ・迎合し、「日本は防衛装備の多くを米国から購入している。さらに購入することになる」と請け合ってトランプを大いに喜ばせ、ここぞとばかりに軍事費拡大に突っ走っている。
11/22の参院本会議で安倍首相は、弾道ミサイル防衛(BMD)に対応するイージス艦を現行の4隻から平成32年度に倍増させる計画に関し「可能な限り前倒しする」と述べ、2020年を目標に「敵のミサイル攻撃阻止のため、防衛的、攻撃的能力をすべて包括的に結集させる」との方針を打ち出した。小野寺五典防衛相は、遠く離れた地上の目標や海上の艦船を戦闘機から攻撃できる長射程の巡航ミサイルを導入する方針を正式に表明。防衛省は2018年度予算案にその取得費など21億9000万円を追加要求。「攻撃的能力」などと平然と発言しても、問題にすらされない。これらは明らかに、自衛隊が本格的な敵基地攻撃・先制攻撃能力を保有するものであり、憲法はもちろん、従来の政府見解(自衛のための「必要最小限度の実力」)をも踏みにじる、これまでとは質的に異なる、先制攻撃も当然かのような安倍政権の軍事化が推し進められようとしているのである。
問題は、こんな国会のデタラメ答弁、ヨイショやお追従質問、茶番、惨状の影で、軍事費拡大が当然のごとく推し進められ、同時に一触即発の危険な戦争挑発行為が仕掛けられ、日本をも必然的に巻き込む朝鮮半島をめぐる破壊的な核戦争の脅威が目前に迫っていることである。
ところが、多くのマスメディアは、この事態をまるでそしらぬかのように無視し、警告さえ発していない。
12/10、ノーベル平和賞授賞式で、広島で被爆し、ICAN(核兵器廃絶国際 キャンペーン)と共に活動してきたカナダ在住のサーロー節子さん(85)が被爆者として初めて受賞演説し、「人類と核兵器は共存できない。核兵器は必要悪ではなく絶対悪だ。」、核保有国と「核の傘」に頼る国々に「私たちの証言を聞き、警告に従いなさい。あなたたちは人類を危険にさらす暴力を構成する不可欠な要素だ」と感動的な訴えを行った。サーローさんは、「『核の傘』なるものの下で共犯者となっている国々の政府の皆さんに申し上げたい。私たちの証言を聞き、私たちの警告を心に留めなさい。そうすれば、必ずや、あなたたちは行動することになることを知るでしょう。あなたたちは皆、人類を危機にさらしている暴力システムに欠かせない一部分なのです。私たちは皆、悪の凡庸さに気づかなければなりません。」とも警告している。
日本の統一戦線、野党共闘は、先の選挙の教訓から、それぞれの党や組織の自己拡大、セクト主義に専念するのではなく、この朝鮮半島をめぐる戦争の危機に対して、今こそ強大で広範な運動を提起し、反撃することが求められている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.481 2017年12月

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【コラム】5年ぶりの生活保護基準引き下げに思う

【コラム】ひとりごと—5年ぶりの生活保護基準引き下げに思う—

○厚労省は、来年度に保護基準を改定し、大幅な引き下げを行うと報道されている。5年に1度の基準改定ということだが、5年前は現役の福祉事務所職員だったので、前回も大幅な引き下げにかなりの反響があったことを覚えている。○全国で、保護費の削減反対する訴訟が相次いだ。高齢保護者を直撃する内容で、寒冷地加算も引き下げられている。○今回の根拠とされているのは、一般的な貧困世帯における消費支出と比較して、現行支給される保護費が上回っているとのこと。○特に都市部の高齢単身者の生活扶助分において、現行8万円程度を7万3千円程度、最大で約10%の引き下げが検討されている。引き下げは全世帯に及び、40代の夫婦と中学・小学校生の4人世帯の生活扶助も3万円程度(13.7%)の引き下げになり、母子世帯も同様であるという。(保護費には、1類・2類の生活扶助と住宅扶助があり、現金支給される。医療・介護扶助は自己負担がないという形の現物支給である)ただ引き下げ実施に当たっては抵抗を和らげようと段階的な引き下げ案が検討されると言い、来春には具体案が提示されると思われる。○今回の基準引き下げについて、問題点をいくつか指摘しておきたい。まず第1は、引き下げ有りきの「議論」という点である。厚労省は、「社会保障審議会生活保護基準部会」を開催し、保護基準について「議論」してきており、議事資料も公開されている。がしかし、おそらく大きな流れは、生活保護受給者が高齢者を中心に増加し続け、さらに増加している「非正規労働者層」が、今後既存の年金制度から排除されて大量に生活保護を必要になるという想定から、保護費全体の抑制を準備したいという意図が見え隠れしている。○「社会保障費」が高齢化の進展により益々増加するという予測の中、生活保護費の抑制は厚労省の至上命題となっているのである。○第2は、安倍政権は2012年アベノミクス政策を開始し、すでに5年が経過している。安倍は異例の金融政策、規制緩和、成長戦略を実施してきたと「アベノミクスは順調に進展し、今後も加速させる」と先の衆議院選挙でも訴えている。○しかし、低位の所得水準にある国民の消費支出は、さらに低下していることが「保護費引き下げ」の根拠とされている。賃金も国民の所得も、消費支出も増えてはいない。○トリクルダウンも起こらず、大企業社員の賃金が若干上昇したと言っても、一般の国民は消費を控え、将来不安に怯えているのが実態であろう。それを捉えて、さらに「国民の最後のセーフティーネット」をさらに引き下げるというのだから、アベノミクスの破綻を証明していると言うことだ。総選挙を乗り切った安倍だが、早速弱者をターゲットに対立を煽る、これまでの路線は変わらないということだ。ネット上では、「保護受給者よ、甘えるな」という書き込みが増えている。○さらに保護費の引き下げは、同時に「最低生活費」の引き下げでもある。生活保護を申請する場合の基準額が下がるので、ボーダーラインが下がる。現状でも本来生活保護基準以下の所得にある国民の2割程度しか生活保護を受給していないと言われている。保護受給者数はそういう意味でも一層増え続けることになる。○第3には、保護基準の改定は、国会の議決を必要としない省令として発せられるため、国会での議論は回避されてしまうという点である。○団塊の世代の大量退職以後、世は人手不足。有効求人倍率の改善、最低賃金の上昇など、若干の雇用改善が進んでいるとは言え、非正規雇用が増加している基調に大きな変化はない。保護費の引き下げは、貧困の実態をさらに固定させる事に繋がるのだから絶対に反対である。○特別国会閉会後に打ち出された「2兆円で保育・幼稚園費用の無償化」も、母子世帯の保護費の削減に繋がる可能性が指摘されているという。○生活保護基準は、様々な福祉水準の基準にもなる。就学援助適用の基準も、奨学金などの支給基準にも影響を及ぼす。この引き下げがどんな影響をもたらすのか、国会や厚生労働委員会で野党側は「貧困問題」をどうするのか、という政策論争をしっかりと行い、反対の論陣を張る必要と思われる。(2017-12-18佐野)

【出典】 アサート No.481 2017年12月

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【投稿】破綻する安倍アジア戦略

【投稿】破綻する安倍アジア戦略
-米、中、韓に力及ばず孤立化へ―

<トランプに阿諛追従>
アメリカ大統領選から1年を迎えようとする今秋、全米で主要メディアによる世論調査が行われ、10月下旬相次いでトランプ政権に対する厳しい結果が明らかになった。さらにトランプが外遊中の11月7日には、ニューヨークの市長選、ニュージャージー、バージニアでの州知事選挙で、いずれも民主党候補が勝利し、来年の中間選挙の動向を示唆するものとして注目された。
こうしたなか約半月に渡るアジア歴訪に出発したトランプは、是が非でも成果を持ち帰りらなければならず、訪れた各国で押し売り同然の露骨なセールスを展開した。
トランプが会ったアジア各国首脳で、最もこの期待に応えたのは言うまでもなく安倍であり、最高レベルの歓待を持って迎えたのであった。しかしトランプは、あの手この手揉み手で待ち受ける安倍を後目に、11月3日ハワイのアリゾナ記念館を訪れた後、自らのツイッターに「リメンバー・パールハーバー」と投稿した。
昨年12月の安倍真珠湾訪問を帳消しにするかのような呟きに、日本政府関係者は「北朝鮮対するメッセージではないか」と苦しい弁明をしていたが、スタッフの投稿という見方もあるものの、トランプの性格からしてこれはそのままの意味であろう。安倍に先制攻撃をみまった後、大統領専用機で横田基地に到着したトランプはヘリに乗り換え、川越市のゴルフ場に向かった。
お気に入りの松山英樹プロを従えたトランプは上機嫌でホールを回り、途中バンカーショットに苦しむ安倍を後目に、次のショットへと向かってしまった。焦った安倍はグリーンに上ろうとして足を滑らせ転落、ボールはフェアウェイに戻ったものの、自らをバンカーに入れるという椿事が発生した。
この様子は空撮され世界に配信されたが、トランプにはピコ太郎以上に受けたようである。8日、北京に到着したトランプは、紫禁城の石段で習近平に対し「階段で転倒しないように、カメラに撮られてしまうよ」と語りかけ、早速ネタに使っていた。トランプも相当人が悪いといえ、ベトナムでも「感動した、素晴らしい体操選手だ」などと茶化し続けた。こうしたことにこそ菅は「独島エビ」に反発したように「どうかと思う」と不快感を表すべきではないか。しかし米中首脳のアイスブレイクに貢献したのであれば、幇間安倍の真骨頂とも言うべきものであろう。
プレー後も安倍は一旦私邸に戻り、夫婦で帝国ホテルに向かい、そこから大統領専用車に便乗、銀座の鉄板焼き店を訪れると言う接待役に徹した。
ゴルフ場でも鉄板焼き店でも、二人は北朝鮮や貿易に関して「リラックスした雰囲気で重要な話をしたと」と勿体をつけているが、正確な発言内容は記録されておらず、そこでの会話が今後の政策を左右することになれば、世論はもとより議会をも軽視したことになり、批判は免れない。

<米兵器を爆買い>
こうして和気藹々と同盟関係を演出した安倍であったが、二人がプレー中に都内で行われた河野太郎とライトハイザー通商代表の会談では、日米FTAに言及があり、会談後河野は「今後麻生とペンスで論議をしていく」と説明、首脳の蜜月とは裏腹の緊張した舞台裏の一端が明らかになった。
トランプも安倍のあまりの低姿勢に、6日午前の日米企業人との会合で「日本との貿易は公正ではなく是正が必要」と本音を吐露、続く昼食会、首脳会談でも貿易不均衡の是正を要求した。
トランプは訪日前に「日本はアメリカのミサイルを購入していれば北朝鮮のミサイルを撃ち落とせただろう」と述べたと言われているが、首脳会談の場でも北朝鮮の脅威や貿易赤字の是正を理由に、アメリカ製兵器の購入を求め、今回の訪日目的を億べもなく明らかにした。
会談後の記者会見でトランプは「首相はアメリカから様々な兵器を買うことになる」と宣言、安倍も「防衛装備品を購入していくことになると思う」と力なく頷首するしかなく、貿易問題総体も日米経済対話=事実上のFTA交渉で成果を出すことを約束させられてしまった。
当初安倍が日米首脳会談の最も大きな目的とし、総選挙の最大の争点として利用した、北朝鮮に対する対応は「核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対する圧力を最大限まで高める」という、これまで何度も確認されてきたような抽象的な内容にとどまった。これは、北朝鮮の脅威を日米ともに自らの政権の保身の為に利用してきた当然の帰結である。
安倍は日米同盟アピールのため、トランプの護衛艦「いずも」乗艦を求めたと言うが実現しなかった。自らは2年前現職総理として初めて米空母に乗艦したのだからとの思いもあったのだろうが、ゴルフが優先された形となった。
さらに脅威の旗振り役であった安倍が、それを口実に利用されトランプから貿易不均衡の是正やアメリカの雇用拡大を迫られると言う、皮肉な結果も生み出し、アメリカの言う北朝鮮の脅威は商売道具に過ぎないということも明らかとなった。
また北朝鮮によって、今回は脇役に追いやられた形となった対中政策については、「自由で開かれたインド太平洋戦略」がうたわれた。これは日本政府が中国の「一帯一路」構想に対抗するためのスキームとして構想しているものであるが、オバマの「リバランス」戦略に変わるアジア政策を打ち出せていないトランプが、よくわからないままに乗っかったと言うのが実情の心もとないものである。

<独自路線の中国、韓国>
貿易赤字の是正と武器購入の要求という所期の目的を達成したトランプは11月7日韓国へ向かった。韓国では文在寅との蜜月演出は無かったものの、8日韓国国会でトランプは「ならず者が核兵器で脅迫することは世界が許さない」と演説し、「韓国防衛のため」数十億ドルの武器売り込みに成功、原潜購入についての協議も開始されたと報じられた。
ただ韓国は、日本の様に一方的な緊張拡大に走っているわけではない。文は再三「日本は軍事同盟の相手ではない」と発言、9月の米韓首脳会談の際にはトランプに直接伝えたと言う。こうしたことを踏まえ、11月中旬に日本海で行なわれた3隻の米空母との合同演習も、日米、米韓と別個に実施された。晩餐会では「独島エビ」が供され、元従軍慰安婦が招待され日韓の矛盾がアメリカに印象付けられた。
また文政権は北朝鮮対応とされるTHAADミサイル配備問題で悪化した中国との関係においても関係改善に向け合意、さらに「自由で開かれたインド太平洋戦略」にも参加しないことを表明するなど、柔軟かつ現実的な政策を進めている。
11月9日の米中首脳会談では北朝鮮に対する「国連安保理決議の完全な履行」で一致したものの、習近平は対話による解決の重要性を主張した。南シナ海問題でもトランプは航行の自由など原則は提起したものの、具体的行動には言及しなかった。
首脳会談で強調されたのはやはり経済問題で、貿易不均衡や知的財産侵害問題は残されたものの、総額28兆円という商談が成立するなど両国の関係は一層深化した。漠然とした「自由で開かれたインド太平洋戦略」は問題にもならなかった。
トランプのアジア歴訪前は「トランプの目的は日、韓、中から北朝鮮への先制攻撃の承認を取り付けることではないか」との観測も流れたが、そうした期待は裏切られ、トランプ初のアジア訪問は行商であったと記憶に残るであろう。
軍事的見地からも北朝鮮の核を無能力化するには、地上軍の投入が必要と米統合参謀本部が議員に示しており、空母や爆撃機の派遣はデモンストレーションに過ぎないことをアメリカ軍が明らかにしているのである。北朝鮮も9月15日の弾道ミサイル試射以降沈黙を続けており、これについて韓国は、資金難や大気圏再突入可能な弾頭開発が停滞しているとの見方を示している。
トランプ自身も歴訪中に中にトーンダウンしていき、韓国国会では「北朝鮮の明るい未来について話す用意がある」と表明、12日にはベトナムで「金正恩と友だちになれるかも」などとツィートするなど変化を見せてきている。この間米中韓日で具体的制裁を決定したのは日本だけであり、北朝鮮への対決を声高に叫ぶ安倍政権の異様さが、ひと際浮き彫りになったとも言えよう。

<アジアでは安倍一弱へ>
アメリカと日、韓、中の二国間協議が終了したのち、国際会議の舞台はベトナム・ダナンでのAPEC、TPP、フィリピン・マニラでのASEAN、東アジアサミットなどの多国間会議に移った。トランプの後を追うようにベトナムに飛んだ安倍であったが、ここでの右往左往が際立った。
日米首脳会談で2国間協議を要求された安倍政権は、ベトナムで茂木担当相の尻を叩き、11月9日の閣僚会議で「TPP11」改め「CPTPP」の大筋合意を発表させた。しかし見切り発車に怒ったカナダのトルドーが安倍に直接抗議し、首脳会合が開催できない異常事態となった。安倍はベトナム、フィリピンで日中、日露など17回の首脳会談をこなしたと自慢しているが、このような過密日程では中身のある会談であったとは考えられない。
その内容も北朝鮮の脅威を吹聴するもので、これまで国際会議で固執していた強硬な中国非難は鳴りを潜め、法の支配など一般論に止まった。逆に習、李と相次いで会談し「自由で開かれたインド太平洋戦略」への中国参加や日本の「一帯一路」協力を示唆するなど、「日中関係の新たなスタート」と成果を言いつくろったが、米中協調が進む中、強硬路線の頓挫は明らかであり、「対北朝鮮のため」などは方便である。
12日にはベトナム・ハノイ米越、中越の首脳会談が行われ、トランプは仲介に意欲を示したが、中越首脳は平和、安定の維持で一致した。こうした流れのなか16日のASEAN議長声明では、北朝鮮に対する重大な懸念は表明されたものの、南シナ海での中国に対する懸念は盛り込まれず、この地域における係争は中国優位で平和裏に収束する方向にある。
安倍は、トランプ訪日に始まる一連の国際会議で北朝鮮を梃に、外交的影響力、とりわけ日中韓関係でのイニシア示そうとしたが、米韓、米中関係までは介入できなかったのである。アジアで孤立を深める安倍政権を国内でも同様に追い込まねばならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.480 2017年11月

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【投稿】「ルールは変わった」―占領軍最高司令官として振る舞ったトランプとアジアで孤立する日本

【投稿】「ルールは変わった」―占領軍最高司令官として振る舞ったトランプとアジアで孤立する日本
福井 杉本達也

1 占領軍最高司令官として横田基地に降り立ったトランプ米大統領
トランプ氏は訪日する直前にハワイに立ち寄り、「Thank you to our GREAT Military/Veterans and @PacificCommand. Remember #PearlHarbor. Remember the @USSArizona! A day I’ll never forget.」(リメンバー・パールハーバー)とツイートした。その足でダグラス・マッカーサーの厚木基地への日本占領軍最高司令官の真似をするかのように横田基地に降り立った。かつて米大統領の訪日で、日本国の“表玄関”である羽田空港を使わず、裏口の横田を使った例はいない(東京新聞・天野直人:2017.11.8)。当然、日米地位協定により横田は米軍の管轄下にあり、いかに、国賓級の扱いとはいえ日本の首相が出迎えるわけにはいかない。そこから埼玉県のゴルフ場まで米軍ヘリで飛び、ゴルフ場で安倍首相はトランプ大統領を迎えるという全くもって異常な出迎えとなった。その後、首相はゴルフ場でバンカーに転げ落ちたがトランプ大統領には見向きもされなかった。パットを大きく外した時は「もっとうまくなれ」とばかりにボールを投げ返されるなど散々な目にあうのであるが、これが、現在の日本の「属国」の地位を示している。ゴルフ場から首都のど真ん中にある米軍六本木へリポートまでもヘリで飛び、米大使館横のホテルオークラまで移動した。これまでの米大統領は曲がりなりにも「属国」を対等な「国」であるかのように扱ってきたが、トランプ氏にはその片鱗もない。この「非礼」な行為を何の疑問を持たずに歓迎報道を垂れ流すマスコミもマスコミなら、抗議すらしない野党も野党である。「日本を取り戻す」ではなく、「日本を売り渡す」行為である。

2 トランプ訪日を『パラダイス文書』で“歓迎”した朝日新聞
11月6日の各紙がトランプ大統領を歓迎する記事一色だったのに対し、朝日新聞の一面トップは「米長官、ロシア企業から利益」という見出しで、タックスヘイブンの島であるバミューダ島にある『パラダイス文書』から発掘したトランプ政権:ロス商務長官によるロシア疑惑で“歓迎”した。ご丁寧にも関連記事を7面にわたって掲載した。ネタ元の朝日・共同・NHKも加入する国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)を「ワシントンンに本拠を置く非営利の報道機関」と紹介するが、米CPI(The Center for Public Integrity)が本体の組織である。CPIは反トランプの大富豪:ジョージ・ソロスから多額の資金提供を受けている(Wikipedia)。
トランプ氏はこの1年「ロシア疑惑」として、民主党、マスコミ、議会から叩かれているが何の証拠もない。ロシアとの接近を嫌う軍産複合体からの牽制に苦しめられているのである。

3 北朝鮮危機を煽りに煽り、結局高い米国製兵器を買わされる安倍
トランプ氏は安倍首相との会談終了後、米メディアの質問に答え「米国製の防衛装備品をたくさん追加購入したら簡単に迎撃できる」とし、米装備品の性能は「世界トップクラス」であり、「首相は大量に購入すべきだ」とし、続けて「そういう購入、調達などによって、米国の雇用創出もできる」と語った(日経:2017.11.7)。要するに、トランプ氏は「蜜月の日米同盟」どころか「米国第一の日米同盟」で、赤子の手をひねるように日本に金を出させようとしている。10日の日経では早速、陸上型の弾道ミサイル迎撃用のイージス・アショアを2基購入するという報道がなされた。さすがの日経も「MD強化に伴う財政負担も深刻だ。イージス・アショア1基あたり約800億円で、2基でも計1,600億円かかる。…政府内には『今後さらに負担が増える可能性が高い』」と書かざるを得なかった(11.10)。 「日本政府が米政府との直接契約で装備品を調達する有償軍事援助 (FMS)のための2017年度予算額は3596億円。5年前の2・6倍」にもなっている(日経:10.11)。米国はカナダ・メキシコを巡るNAFTA再交渉で手いっぱいで、日米の貿易不均衡問題については突っ込んだ話はしなかったが、日本の通商担当者は「現政権は赤字削減しか興味がなく、FTAだろうが輸出制限だろうがグ“HOW”は間わないということ」(日経:111.15)だと話した。
11月13日、ロス商務長官は、日米の経済関係者らを前にしたワシントンでの講演で「『自動車は米国の貿易赤字の重要な部分を占める』と指摘し、日本の自動車メーカーに対し、完成車や部品の米国での生産を強化し日本やメキシコからの対米輸出を減らすよう求めた。」(共同=福井:2017.11.15)。トランプ氏の“メキシコ国境の壁”の本音がNAFTAにあることが明らかになりつつあるが、次回以降、米とメキシコなどとのNAFTAの交渉の推移を横目に見つつ、厳しい貿易交渉が待っている。

4 したたかな中国
中国は、今回の米中首脳会談でトランプ大統領を「国賓以上」の厚遇でもてなすとともに、28兆円におよぶ見せ金を積んだ貿易協定締結のセレモニーを準備した。トランプ氏は「米中の企業経営者らの前で『今の貿易不均衡で中国に責任はない』とした。そのうえで『不均衡の拡大を防げとなった過去の政権を責めるべきだ』と述べ、オバマ前政権などに原因があるとの見方を示した。中国は巨額の商談を示すことでトランプ氏の攻勢を封じた」(日経:10.14)。中国の強い姿勢の裏には、米国企業は収益の半分以上を中国で稼いでおり、また、中国が米国債の世界最大保有者でもあり財政的に米経済を支えており、中国と友好関係を失うことなどできないことがある。

5 中国・米国の狭間でもがきつつも、したたかに交渉をする貿易立国・韓国
トランプ氏が北朝鮮を攻撃すればソウルは火の海となる。米国が戦争を始めれば大損害を被るのは脅しを受けている北朝鮮よりも韓国である。韓国は米国からNAFTA交渉の切り札として米韓FTA改定を迫られており、これを乗り切るため、米兵器の大量購入を決めた。これに対しトランプ大統領は「韓国側が数十億ドルに達する装備を注文すると言った」としたうえで、「韓国にも十分そうすべき理由があり、米国でも多くの雇用を創出できる部分だと思う」と述べた。またトランプ氏は平沢のキャンプ・ハンフリー米軍基地造成に韓国が1兆2千億円の総工費の92%も負担をしたという記者の質問に「韓国を保護するために支出したことであり、米国を保護するためにしたことではない」と正面から応じた。これは、トランプ氏を始め米国保守派の認識であり、属国として守ってやっているという意識である。
しかし、韓国もしたたかではある。トランプ氏の訪問の直前に、中国との間で韓国への迎撃ミサイルTHAAD配備に対する中国側の経済制裁をTHAADはこれで凍結するとして、解除する約束を取り付けた。韓国はこの経済制裁大打撃を受けており、韓国ロッテは1,200億円の損失、現代自動車の今年の中国での売上げは40%減という壊滅的打撃を受けている。

6 アジアから撤退するトランプと中国包囲網の完全なる破綻
安倍は米国がTPPに戻ってくるようTPP11を何としてもまとめようと必死である。この動きは米軍産複合体の後押しを受けている。トランプ政権下で干されたジャパンハンドラー:軍産複合体を代弁するアーミテージは「『一帯一路』をみても分かるように、中国は拡張的なインフラ計画を進めているが、軍民間用の狙いも透ける。不安定な状態が続く中央アジアなどで、中国を手に負えない存在にしてはならない。」とし、「米国の存在が地域の平和と安定に絶対に不旬欠だという認識をトランプ氏が持つことを願っている」(日経:2017.11.14 日経・米戦略国際問題研究所 (CSIS)アジアフォーラム2016.10.26)とし、日本を中国包囲網の尖兵とし、アジアの不安定化と軍産複合体のプレゼンスの確保に暗躍している。
しかし、トランプ氏の関心は全くそこにはない。トランプ氏はアジア歴訪の最後を飾るはずの東アジア首脳会議を突然欠席して帰国する直前、「米国と貿易関係のある全ての国はルールが変わったことが分かるだろう」とツイートした。トランプ氏も安倍首相が提唱した「インド太平洋地域」という言葉を使ったが、中国を牽制し、国内の傀儡政権としての「権力の正当性」を維持するため、何としても米国をアジアに繋ぎ止めておきたい“子泣き爺”安倍首相と、「海洋帝国主義」としての役目から徐々に撤退したい、貿易関係にしか関心のないトランプ氏との落差は歴然としている。
もちろん、政権発足後1年のトランプ政権の足場が固まったわけではない。軍産複合体・エスタブリッシュメントの代弁者であるヒラリー・クリントンや議会・マスコミによる「ロシア疑惑」追及も執拗であり、政権の高官ポスト3分の2以上はまだ軍産複合体に握られたままである。トランプ氏がダストベルトのホワイト・トラッシュ(White Trash:「クズ白人」という蔑称:the fogotten men and women)を本当に忘れてしまえば政権自体が乗っ取られる。あるいはJFKのような「暗殺」やウオーターゲートのような「クーデター」の可能性もある。しかし、11月10日、シリアでイスラム国の最後の拠点であったイラク国境の町:アブ・カマルが陥落したように、米国の力は確実に弱まっている。イランの原油も中国元での取引をする。CSISのハムレ所長は「中国の南シナ海などでの振る舞いで、アジアはこれまでになく米国の力を必要とするようになっている」とトランプ氏の行動に不満をぶちまけたが、「今回の歴訪が浮き彫りにしたのは逆行するような米大統領の姿だった。」(日経:11.15)米国がこのまま「海洋帝国主義」を維持し続けることはその経済力からいっても困難である。ASEAN首脳会議議長声明から中国への「懸念」の言葉はついになくなった(日経:11.17)。日本はアジアで完全に孤立した。しかし、72年間の洗脳の結果、孤立しているとの自覚さえない日本。「ルールは変わった」。アジアから米国の支配が徐々に後景に退いていく中、安倍“悪代官”政権の「権力の正当性」がいま揺らいでいる。

【出典】 アサート No.480 2017年11月

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【投稿】ボトムアップ型の民主主義をめぐって 統一戦線論(42)

【投稿】ボトムアップ型の民主主義をめぐって 統一戦線論(42)

<<「ちょっと心配をしています」>>
先の総選挙で大勝したはずの安倍政権にまるで覇気がない。「国難打開!」と、朝鮮半島をめぐるミサイル危機を煽り、手前勝手な自己都合解散を強行し、もっとも追及されることを恐れた森友・加計学園問題をうやむやにし、加計学園の認可にまでこぎつけ、逃げ切ったはずである。しかし、11/17の首相の所信表明演説は、特別国会召集から2週間も経っているにもかかわらず、たったの15分、中身もおざなりで薄っぺら。加計学園や森友学園問題には一言も触れず、「反省」も「丁寧な説明」も皆無。「決しておごることなく、真摯に、誠実に、謙虚に政権運営にあたる」という以前の記者会見での約束など、そのうわべの一言さえなし。ただ「政策の実行、実行、そして実行あるのみだ」と繰り返したが、その政策はこれまでの上っ面の繰り返しだけ。自らの政治姿勢を明確に示すことを回避し、たとえでっち上げでも「国難打開」に進む決意や意欲さえ喪失したか、と疑わせる。沖縄への言及もなし、解散・総選挙で提起したはずの憲法9条改正にもまったく触れず、演説の最後に一言「憲法改正の議論も」と触れただけで「ご清聴ありがとうございました」で終わり。論戦どころか、やる気のなさが目立ち、国会審議から逃げ続けてきた安倍首相の姿勢を象徴する所信表明演説であった。一体どうしたことであろうか。
対する野党に、「政権を担うというエネルギーを失っておられるんじゃないかなと。覇気のない状況というのは、ちょっと心配をしています」(立憲民主党 枝野幸男代表)、「残念ながら内容も熱意も薄かったように思います」(希望の党 玉木雄一郎代表)と逆に心配までされている。
しかし、これはあくまでも表面上のことである。油断大敵である。覇気のなさの根底には、「選挙大勝」そのものが実は非常にもろく、いつ崩れてもおかしくはないという、安倍政権にとっては深刻な実態が反映されていると言えよう。
それを端的に示すのが、比例区の得票である。与党は、自民党18,555,717票、得票率33.3%、公明党6,977,712票12.5%。野党は、立憲民主党11,084,890票19.9%、希望の党9,677,712票17.4%、共産党4,044,081票7.9%、日本維新の会3,387,097票6.1%、社民党941,324票1.7%。与党は45.8%、維新を除く野党は立憲・希望・共産・社民4党合計で46.9%で、与党は敗北しているのである。しかも、民進党の議員が希望・立憲・無所属と三つに分かれた事により、旧民進党系は、希望+立憲だけで2076万票を上回り、自民党の1855万票を約220万票も上回っている。野党をかき回したつもりが、逆に立憲民主党を登場させ、躍進させてしまい、この事態をもたらしたのである。それにもかかわらず自民党が勝利し得たのは、ただただ野党の混乱と分裂、それを見込んだ突然の解散、小選挙区制のおかげである。絶対得票率(有権者総数に対する得票率)では、自民党は17.49%にしか過ぎない。

<<「何を決めてもらう選挙だったのか」>>
しかも選挙後の世論調査(共同通信 11/2)では、内閣支持率が多少上昇しているとはいえ、安倍首相が悲願とする憲法9条に自衛隊を明記する安倍首相の加憲提案に反対は52.6%で、賛成38.3%を上回って、首相の基本政策が支持されていない。さらに首相が来年秋の総裁選で3選を果たして首相を続けてほしいが41.0%に対して、続けてほしくないが51.2%、「もう安倍政権はこれ以上続けてほしくない」という、首相にとっては厳しい現実を突き付けられているのである。
そうした世論に呼応したかのように、自民党の石破茂元幹事長は、先の衆院選に関して「何を決めてもらう選挙だったのか、国民もよく分からない。消去法的に自民党が勝ったのが現実だ」と述べ、さらに首相が打ち出した消費税増税分の教育無償化への充当について、「党では誰も聞いていなかった。首相が何でも決められるなら党は要らないという意見もある」と公然と首相をこき下ろす講演をしている(11/18、成蹊大学での講演)。次期政権禅譲を期待する岸田文雄政調会長までが、安倍政権の「人づくり革命」の具体策について、一方的に政府側提案が報道され、「『党として議論していこう』と言ったばかりなのに、どういうことですか」と抗議する事態である。
さらに 今回の選挙で常勝・公明党のはずが5議席喪失した山口那津男代表は、11/12に放送されたラジオ日本の番組で、憲法改正の発議には衆参両院で3分の2以上の賛成が必要なことを踏まえ、「それ以上の国民の支持があるくらいの状況が望ましい」と述べ、過半数の賛成で改正が決まる国民投票でも、3分の2以上の賛成が見込めなければ改憲案に反対することを示唆した。同時に、立憲民主党の名を挙げ「野党第一党との合意をつくり出す努力が大事だ」と語り、首相らが改憲を「結党以来の党是」としていることについても「党是だから結果を出したい、とアプローチすると誤る」とけん制している。山口氏は、首相の所信表明演説の後でも、「政権合意で『決しておごることなく、真摯に、誠実に、謙虚に政権運営にあたる』と誓った」と首相にクギを刺している。公明党は、明らかに安倍政権との距離を再検討せざるを得ない事態に追い込まれているのである。
政権基盤を固めるための選挙であったはずのものが、逆に政権基盤を弱体化させる方向に事態は進んでいるとも言えよう。

<<「熱狂なきファシズム」>>
映画作家の想田和弘氏は、安倍政権の現状を「熱狂なきファシズム」と呼んでいる。
「安倍政権はその誕生以来、民主主義のシステムを少しずつ、だが確実に切り崩してきた。NHKのトップの首をすげ替えて政権批判を抑え込み、特定秘密保護法や安保法制、共謀罪といった憲法上疑義のある法律を独裁的な手法で通してきた。にもかかわらず、主権者は大きな国政選挙で繰り返し与党を勝たせ、容認し続けてきた。僕はこうした現象を『熱狂なきファシズム』と呼んでいる。それは主権者の無関心と黙認の中、低温火傷(やけど)のごとくジワジワ、コソコソと進む全体主義である。僕は全体主義的な安倍政権が選挙で勝ち続けているのは、私たちの社会が、全体主義的価値観に侵食されているからなのではないかと疑っている。会社や学校、家庭が全体主義に侵されていれば、全体主義的な政治家や政党が台頭しても「普通」にみえてしまい、違和感や警戒心を抱きにくい。熱狂なきファシズムは、実に根深い問題なのだと思う。」と指摘している。
しかし同時に、氏は「希望がないわけではない。立憲民主党が『下からの民主主義』『憲法の遵守』『多様性』『参加』などを掲げて躍進したことは、デモクラシーの存続を強く望む僕のような人間が、決して少数ではないことを示している。民主制を踏みにじる政治家の出現で、かえって民主的価値が呼び覚まされようとしている。私たちの抵抗運動は、これからが本番だと思っている。」と核心をついている(熱狂なきファシズム 民主的価値呼び覚ませ 想田和弘 朝日新聞 11/8付)。
その立憲民主党について、安倍首相は本音を漏らしている。
「立憲より希望が第1党の方がよかったのに」。今回の衆院選後に、安倍首相はそう漏らしたという。安倍首相にとってのベストシナリオは、改憲勢力の希望の党が野党第1党になること。改憲発議に向け、「あうんの呼吸」で国会運営を自由に進められるとの思惑が、希望の失速で大きく外れた。それでも諦めきれない安倍官邸は、希望と維新に統一会派を組むよう提案したという。(日刊ゲンダイ10/31付)
安倍首相の魂胆は明白である。維新と希望の改憲派を野党第1党にさせ、安倍首相の改憲戦略に合流させることである。しかし安倍首相の期待に反して、立憲民主党が第1党となり、枝野幸男代表は「現在の安保法制の違憲部分、集団的自衛権を前提として自衛隊を憲法9条に明記することは徹底的に反対します。同じ立ち位置に立つ方々とは連携、協力します。重要なのは(過去の言動ではなくて)これからの対応です。」と明言している(週刊金曜日11/10号インタビュー)。首相は、野党第1党を無視して突破する姿勢をも垣間見せているが、それは混乱と孤立化をもたらすであろう。首相は全方位で窮地に立たされているとも言えよう。

<<トップダウンvs.ボトムアップ>>
突然の解散、民進党の分裂の中で、あわただしく結党されたその立憲民主党であるが、枝野幸男代表は、10/2の結党会見で次のように述べている。
「私は、上からの民主主義、上からのリーダーシップ、あるいは強いものからの経済政策……。こうしたあり方自体がもう限界を迎えている。あまりにも弊害が大きくなっている。草の根からの民主主義でなければいけない。経済や社会は、下支えして押し上げるものでなければならない。ボトムアップ型の社会にしていかなければならない。私は、ボトムアップ型のリーダーシップ、民主主義、社会経済のあり方というものが、立憲民主党の明確な立ち位置であり、この選挙を通じて、他の政党との違いとして国民に訴え、理解してもらいたい。」
この主張、政策こそが、まさに想田氏が指摘した「下からの民主主義」、草の根民主主義、ボトムアップ型の民主主義、が共感を呼び、選挙運動が下から押し上げられ、あっという間に支持を拡大させたのである。日本の社会、経済、政治に根本的に欠落している下からの民主主義が問い直されたのだとも言えよう。
一方、この立憲民主党の躍進に、野党共闘を通じて大きく貢献したともいえる共産党は、比例代表得票で、前回606万票(11.4%)から440万票(7.9%)、獲得議席数で前回21から12への大幅後退、惨敗である。比例代表で、850万票、得票率15%以上が目標であったことからすれば、深刻な事態である。だとすれば、真剣で下からの意見が反映された、積み上げられた討議が必要なはずであるが、開票日の翌日、10/23には早くも共産党中央委員会常任幹部会声明を出し、敗因は一言、「私たちの力不足にある」と総括している。「私たちは、党大会決定を踏まえ、総選挙勝利をめざして、党員と『しんぶん赤旗』読者を拡大する運動にとりくんできました。全党のみなさんの大きな努力が注がれましたが、残念ながら、3年前の総選挙時と比べて、党員も、『しんぶん赤旗』読者も、後退させたままで、この総選挙をたたかうことになりました」と総括している。「力不足」が何によるものなのか、一切語られていない。選挙で後退すれば、必ず繰り返される、責任を下部に転嫁するおなじみのセリフにしか過ぎない。声明は、「捲土重来を期すための具体的課題として、第一に、日本共産党の綱領、歴史、理念をまるごと理解してもらう 第二に、日本共産党の自力を強めることー党員拡大を根幹にした党勢拡大に取り組むことです」、これも指導部の責任を棚上げにしたすり替えにしか過ぎない。全ては強大な党建設の課題に押し込められ、わが党の建設だけに重きを置くこのセクト主義的な選挙方針に下部党員を動員する、悪しきトップダウンの典型とも言えよう。綱領もなければ、機関誌もない、党勢も発足したての立憲民主党がなぜ1108万票獲得し、共産党が404万票なのか、真剣に議論し、教訓を引き出すべきであろう。
共産党に決定的に欠けているのは、党内民主主義、草の根民主主義、ボトムアップ型の民主主義であり、それが指導部には全く理解されてもいなければ、一貫して無視されてきたことである。それが政策にも野党共闘にも反映され、一貫性もなければ、中途半端な様子見の野党共闘、活力に欠けた政治的駆け引きの道具としての野党共闘に閉じ込められ、今回の選挙でも多くの小選挙区で自民党に勝利をもたらせ、喜ばせているのである。統一戦線に真剣に取り組むには、セクト主義は厳禁であり、自らも徹底した草の根民主主義を実践しているかどうかが問われるのである。有権者はその実態を見て判断しているとも言えよう。
もちろん、野党共闘、統一戦線それ自体にも、ボトムアップ型の民主主義が誠実かつ着実に実践されているかどうかが問われていることは付言するまでもないことであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.480 2017年11月

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【投稿】安倍政権の延命招いた希望の党

【投稿】安倍政権の延命招いた希望の党     ―野党共闘再建し政権追及を強めよ―

生煮えの即席政党
9月25日結成された希望の党は、28日には民進党を事実上併呑する形で総選挙への体制づくりを急いだ。当初、彗星のごとく現れた新党の支持率は急伸し、自公与党を脅かす存在となり、一部マスコミは「安倍か小池かの政権選択選挙」ともてはやした。
しかし小池は29日の記者会見で、候補者選定に当たり民進党の「リベラル派」を排除することを平然として言い放ち、民進党内に動揺と反発が広がった。
そもそも小池は都政に於いても、外国人学校への対応、関東大震災時の朝鮮人虐殺否定、また大日本帝国憲法の復活を唱える人物を側近に置くなど、民族排外主義を露わにしており「寛容な保守」とは程遠い政治姿勢を見せていた。
さらに自民党時代からの小池のタカ派的言動を見ていれば、「合流」に際して危惧を持つのは当然なのだが、前原はそれを認識しつつ28日の小池との会談で綿密な詰めは行わず、曖昧なまま事を進めたのである。
前原にしてみれば代表選挙で勝利したものの、幹事長に予定していた山尾がスキャンダルで離党、さらに細野Gなど保守系議員が次々と脱落、逃亡し、民進党での党勢伸長は期待できない状況に追い込まれていた。だからこその野党共闘なのであるが、前原はこのままでは「容共派」に民進党の主導権をとられてしまうとの危機感が先走ったのだろう。
そこで、野党結集、安倍政権打倒を大義名分に希望の党に駆け込み「リベラル派」振るい落としも図ったと考えられるが、これは党内民主主義を無視した資金・組織の持ち逃げであろう。
前原の一連の行動を「性善説」的に擁護する向きもあるが、総選挙の結果は別として、厳しく総括が求められるものである。日程的にも精神的にも追い詰められていたとはいえ、「一度立ち止まる(選挙後談)」タイミングを間違えたと言うほかない。
排除宣言後も小池は公認条件に当初「安保法制容認」「在日外国人の地方参政権反対」などタカ派的政策協定を求めるなど、差別・選別をより強化していった。実際の候補者選定作業は若狭らにさせていたそうだが、当の若狭が選挙戦に於いて有権者に排除されてしまったのは、因果応報というものである。
こうして小池が権力欲のみで作り上げた希望の党の地金はむき出しとなり、傲岸不遜な小池の姿に支持率は一気に低下した。慌てた小池は若干言動を修正したが時すでに遅しであった。
打ち出した政策も新自由主義と社民的施策の継ぎ接ぎで、いち早く党名を商標登録していた割には、検討不足で具体性に欠けるものであり、脱原発も消費税凍結も方便で、改憲姿勢のみが突出して見えた。お湯を注いだものの、具もスープも入れずにすぐに蓋を開けたカップ麺は、食べられることなくすぐに冷えてしまったのである。

拾い物の自民勝利
一方、10月3日に結成された立憲民主党が支持を伸ばす中、多くの選挙区で野党乱立のまま選挙戦に突入し、死に体に成りかけていた安倍政権の延命に道を拓くこととなった。
その結果、自民284という一人勝ち的状況になった反面、与党では公明が35→29、準与党の維新が14→11と議席を減らし、自民一強に拍車がかかった。野党は、立憲民主が15→55と躍進したが、希望は57→50、共産も21→12と議席を減らし、社民は2と現状維持という厳しいものになった。
真の希望はポリシーを明確にした立憲民主が政権批判票の受け皿となったことである。また民主~民進と続いた「失敗政党」のイメージが希望の党に移ったため、今回「リセット」ができたともいえ、その意味で前原の「功績」は大きいだろう。
一方、共産党は大幅減となったが、これは同党が政権批判票の一時待避所でしかなかったことを示すものであり、セクト主義に回帰するか、より大胆な共闘路線に踏み込むか、志位指導部は決断を迫られるだろう。
維新は国政での存在意義を失いつつある。小池に対しては「国政政党の党首が知事兼任はおかしい」「国政に出るべき」との批判が寄せられたが、同じ立場の松井に対してはそうした声は出なかった。地盤の大阪でも小選挙区での敗北が相次ぎ退勢は明らかとなった。
選挙の結果を受けて小池はパリで「野党乱立が政権を利した」と他人事のように語り、「鉄の天井があった」などとジェンダーのせいにしているが、自分自身の問題である。党内からは、当選、落選組を問わず怨嗟の声が噴出しており、こうした小池の無責任な対応は混乱を増大させるだけであり、早期の空中分解が現実味をおびてこよう。
野党乱立に助けられた安倍は、念願である改憲を一層強引に推し進めるだろう。23日の記者会見で安倍は、2020年の改憲について「スケジュールありきではない」「幅広い合意形成を重ねていかねばならない」と、2020年を前提とせず、野党を含めた賛同を得ていくため、丁寧な論議を進める姿勢を見せた。
しかし、これは今回の総選挙勝利を踏まえ、18年自民党総裁選での3選を経て、21年の任期までに改憲施行ができればいいとの慢心の表れである。幅広い合意に関しても、維新や希望の一部が賛同すればそれでよいと言うことであり、丁寧な説明は「戦争法」「共謀罪」審議の際に聞き飽きた言葉である。
一方森友、加計問題に関しては「国会審議を全て見た人は理解している」と説明責任を果たしたかのように切って捨てた。今回の選挙は政権に付いた疑惑というシミを洗い落とす「政権洗濯選挙」であったかのような言いぶりである。
会見で安倍は、「今まで以上の謙虚な姿勢で真摯な政権運営に全力を尽くさなければならない」と発言したが、それらが偽りであることは明白である。

宴の後に待つもの
安倍は強引に国会を解散し一ヶ月の政治的空白を作ったが、その間国際情勢は待ってくれなかった。安倍は今回の選挙を「国難突破解散」と詐称し、北朝鮮の脅威を煽ったが、それに対する具体的な解決の方途は示さなかった。
10月16日からは米韓合同演習が始まり、米空母「ロナルド・レーガン」など約40隻が、日本海や黄海で北朝鮮に対する牽制を行った。また、19日にはモスクワで「核不拡散会議」が開会、これには北朝鮮の代表が参加し「アメリカが共和国の核保有を認めない限り、核に関する交渉を拒否する」ことを明らかにした。
今後、北朝鮮はアメリカ本土を射程に収めるICBMの開発、戦力化を淡々と進めるだろう。中露が決定的な経済制裁を実施しない限り、北朝鮮の核開発は止められない。アメリカも軍事的な威嚇を継続しつつ先制攻撃は避けると思われる。恐怖を煽ったからには、安倍政権は国民が安心するような措置をとらねばならないが、北朝鮮の脅威は政権のツールでしかない以上、今後も放置されるだろう。
10月18日からは中国共産党の第19回党大会が始まり、中央委員会報告で習近平は「富強・民主・文明・調和の美しい社会主義現代化強国」を構築することを明らかにした。第1義的には富=経済大国、強=軍事大国化が進められることとなるが、日中国交正常化45周年の現在、両国関係は最悪となっている。
政府は、来年首脳の相互訪問を企図しているが、中国側は慎重な姿勢を崩していない。
韓国に関しても従軍慰安婦問題に続き、徴用工問題も惹起するなか、「問題は解決済み」を繰り返すだけでは、未来志向の関係などは築けないだろう。政府は年末の文訪日、2月の平昌五輪に合わせての安倍訪韓を目指していると言うが「年末から来年初めにかけて北朝鮮情勢が緊迫するから10月選挙説」とどう整合性をとるのか。そもそも北朝鮮は平昌五輪参加を表明しているのである。
対露関係も11月10~11日のベトナムAPECで日露首脳会談が開かれる見込みであるが、米露関係が緊張し、ロシアが北朝鮮への支援を強めている中、今度も会うだけで終わる可能性が高く、平和条約、領土問題の進展は難しい。
また選挙期間中、軍事演習が続けられる一方で自衛隊、米軍の事故が相次いだ。選挙公示翌日の11日には沖縄で米軍ヘリが炎上、17,18日には空自ヘリ、戦闘機が墜落、炎上した。また会計検査院の調査で海自の艦対空ミサイル約10億円分が、整備不良のため使用不能であること報じられた(10/17毎日)。「この国を守り抜く」との掛け声は勇ましいが、その足元は相変わらず不安定であることが明らかとなった。

野党共闘で国難突破を
足元の不安定さは国内経済でも顕著である。相次ぐ基幹産業での不正発覚は深刻なものがあるが、これらには目をつぶり株高ばかりを強調、「期待される人間像」と「人間革命」をミックしたような「人づくり革命」を唱えているが、格差や排除を生み出す社会構造は放置されている。
消費増税についても、増収分の半分程度を教育無償化などに充当し、全世代型の社会保障を目指すとする一方、リーマンショック級の出来事があれば3度目の延期を示唆するなど方針は定まっていない。
このように内外には国難が山積したままであり、本来なら首班指名の特別国会に続き臨時国会を開催しなければならないはずである。先の臨時国会は一切の論議を封じ込め冒頭解散したのだから、なおさら早期の招集が求められている。しかし安倍政権は来年1月の通常国会までの論議の先延ばしを目論んでいる。これも「北朝鮮年末~来年初頭危機説」と矛盾する。
自民党は284議席であるが、安倍政権への強い支持の結果ではないことは明らかである。内閣支持率は不支持が支持を上回っており、自民党は支持するが安倍は変わってほしい、という民意の反映である。比例区の得票率は自民党33,28%、立憲民主党19,88%、希望の党17,36%であり小選挙区での候補者数、得票率を勘案すると安倍政権の基盤は盤石ではない。
すなわち、国会審議如何では再び内閣支持率は急落する可能性があり、安倍政権は早期の国会開会を回避しようとしているのである。11月1日開会が予定されている特別国会に向け、野党は一致して臨時国会召集を求め、政権への追及を強めなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.479 2017年10月

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