【投稿】日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権

【投稿】日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権
福井 杉本達也

1 日立も英原発事業からようやく撤退
「コストを民間企業が全て負担することには限界がある」。日立は1月17日、英原子力発電所の新設事業を凍結し、201 9年3月期に3,000億円の損失を計上すると発表した。東京電力福島第一原発事故後に安全対策費が高騰し、三菱重工のトルコ案件を含め、日本の原発輸出は全て暗礁に乗り上げた。欧米企業も苦戦が続き、国家が主導する中国.ロシア勢が台頭する。原発ビジネスは世界で「国策民営」の限界を露呈した(日経:2019.1.18)。第二の東芝かと思われていた日立であるが、英での原発撤退が伝わった11日、日立の株価は前日比9%上昇した。市場は英原発からの撤退を株価に織り込んでいる。「原発のように先行き不透明な事業を持つ企業の株を中長期で持ちたいとは思わない」(投資顧問幹部・日経:同上)というのが投資家の本音である。

2 海外では建設費が高騰し撤退、日本国内では旧式の原発を再稼働させる矛盾
経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は1月15日の記者会見で、福島第一原発事故後に停止している原発について「再稼働をどんどんやるべきだ」と述べた。原発の新設や増設も認めるべきだとの認識を示し、「自治体が再稼働にイエスと言わない。これで動かせない。」と発言した。ほんの10日前、年初の報道各社とのインタビューでは「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」と原発村企業としては正反対の本音発言したことで、安倍官邸から激怒されて慌てて官邸に聞こえるように“原発推進”を叫んだのではないかとみられている。中西経団連会長の新春インタビューについて、東京新聞では「経団連と足並みをそろえて原発再稼働を進めてきた安倍政権。『パートナー』のはずの経団連からも見直し論が出てきたことで、コスト高騰で競争力の失われた原発を無理に進めようとする政策の矛盾が鮮明になっている(東京新聞:2019.1.5)と書いた。日立の川村隆前会長は現在、東電の会長でもある。原発村の中核企業である日立の会長が国策に反旗を翻すというのは政府としては全く「想定外」だったに違いない。日立の英原発撤退発表後も安全運転や福島原発事故の収束のためにも「人材、技術、産業基盤の維持、強化は不可欠だ」と強弁する菅官房長官ではあるが(福井:2019.1.19)、先行きは真っ暗である。

3 再稼働を推し進める決定を下した広島高裁の「伊方3号再稼働差し止め却下」
伊方原発の3号機再稼働差し止め訴訟においては阿蘇山の破局的噴火については議論されたが、2018年9月25日に出された広島高裁の決定は、原発の立地の適合性は「自然災害の危険をどの程度容認するかという社会通念基準とせざるを得ない」との判断枠組みを示した。発生頻度は著しく低く、国が破局的噴火の具体的対策を定めておらず、国民の多くもそのことを問題にしていないことを踏まえ、「破局的噴火で生じるリスクは発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原発の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが、少なくとも現時点におけるわが国の社会通念だと認めるほかない。そこで原発の運用期間中に破局的噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されない限り、これを前提として立地不適としなくても法の趣旨に反するということはできない。」として、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念だ」と判断。四国電力が想定する火山灰の堆積量は合理的で、非常用電源確保の対策も取っているとし、噴火による対応不可能な具体的危険性は存在しないと結論付けた。しかし、東日本大震災までの原発の設計方針は、予想されるあらゆる事態に対応するには経済的に無理があるので、発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたものであり、これを高裁決定は「社会通念」と呼んでいる。東日本大震災の地震・津波はこの「社会通念」を根底からひっくり返したのであるが、「決定」は、また2011年以前の方針に逆戻りさせ、原発を何としても再稼働をさせるための「開き直り」である。

4 ようやく「破局的噴火」の調査を始めた原子力規制委
今年に入り、原子力規制委員会は2021年度にも、鹿児島湾にある火山「姶良(あいら)カルデラ」の海底に地震計などを設置し、地殻変動の観測を始める方針を出した。極めて大規模な「破局的噴火」が過去に起こった火山のデ―タを集め、原子力発電所の安全審査などに活用するとの方針を示した(日経:2019.1.8)。福井県若狭町にある年縞博物館の水月湖の年縞から、姶良噴火は、3万78年(±48年)前と極めて正確に推定されているが、同噴火によって、水月湖の湖底には火山灰が30センチも降り積もったことが年縞から確認される(年縞は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成される。明暗1対の縞が1年に相当し、その縞には過去の気候変動や自然災害の履歴を知る重要な手がかりが記録されており、年代測定の精度を飛躍的に高めることとなった)。火山灰が30センチも稼働中の高浜原発や大飯原発に降り積もれは壊滅である。
カルデラ噴火は普通の噴火とはメカニズムが違い、エネルギーが桁違いである。日本には屈斜路カルデラ、阿蘇カルデラ、姶良カルデラなどがあり、そのどれもが噴火の可能性を持っている。約7300年前に九州南方の海域で起きた「鬼界カルデラ噴火」では、九州地方から西日本一帯にかけての縄文文化が途絶えた。カルデラ噴火は、日本全体では過去12万年間に10回起きている。
また、規制委は昨年12月12日に、福井県にある関西電力の美浜、大飯、高浜3原発について、約200キロ 離れた鳥取県の大山で大規模噴火が起きた場合の火山灰の影響評価を見直すよう関電に指示した。 関電は審査申請の際、3原発敷地内への降灰の厚さを10センチと想定し、規制委は妥当としたが、その後、大山からの距離がほぼ同じ京都市で、約8 万年前の地層に30センチの火山灰層があるとする論文が発表されたことを受けての指示である(福井:2018.12.12)。通常の大噴火であっても、大量の噴出物がまき散らされて、その火山の近辺で大飢饉を起こすだけでなく、世界中に異常気象を引き起こしたというケースはいくつもある。「大噴火」は日本の場合、100年間に4~6回ほどは必ず起きている。だが、20世紀は、1914年の桜島と、1929年の駒ヶ岳で「大噴火」があっただけで、ずっと静かな状態が続いていた。しかし、そろそろ活動期を迎えている。現代社会では、噴火による被害は甚大である。たった1ミリの火山灰で、空港の滑走路は使えなくなり、鉄道も道路も大混乱になる。電線の切断や水道やガスなどライフラインにも大きな影響が出る。雪と違って溶けてなくなるわけではなく、被害は長期にわたる。

5 火山の噴火予知はできない
2014年の御嶽山噴火に続いて、2018年1月の草津白根山の噴火も、警戒レベル1という噴火から遠いと思われてきたものが突然噴火して、大きな被害を生んだ。浅間山や桜島以外のほとんどの火山は観測を開始してから噴火が繰り返されていない。噴火予知のデータとしては不十分である。かつて噴火予知は「見逃し」はないが「空振り」はあると言われた。しかし、地震予知については2017年の秋に政府が“白旗”を揚げが、「噴火予知」も「現在の科学では不可能」ということが明らかになっている。
日本は大規模な噴火や地震が繰り返し起きてきた国である。フィンランドのオンカロ(核廃棄物貯蔵施設)は、安定した地盤に作られていると言われているが、スカンジナビア半島でもこれまで、いくつかの地震があったことは分かっている。そもそも、10万年間という長期間、絶対に地震や噴火が起きないと言い切れる場所など、この地球上にはない。まして、太平洋プレートやユーラシアプレート、フィリピンプレートなどプレートのせめぎ合う地震・火山大国の日本ではそのような場所はない。日立の英原発からの撤退は安全対策費が嵩んだためであるが、既存の再稼働している原発は安全対策を削っているから撤退しないのである。広島高裁はカネに対する欲望を社会に転嫁し、「社会通念」という言葉で表現したが、そろばん勘定で旧式原発の再稼働を推し進めることは必ずや自然のしっぺ返しを受けざるを得ない。

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【投稿】問われる野党の民族主義への同調 統一戦線論(56)

【投稿】問われる野党の民族主義への同調 統一戦線論(56)

<<「あそこのサンゴは移している」>>
ウソと詭弁と偽装、そして責任転嫁が日常茶飯事となってしまった安倍政権、新年早々から決定的ともいえる躓きを露呈している。一つは、「あそこのサンゴは移している」という大ウソ。もう一つは、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の悪質極まるデータ改ざん。どちらも、もはや通用しがたい、押し通すことが不可能な、本来なら政権崩壊に連なる性格のものである。
1/6の今年最初のNHK「日曜討論」に登場した安倍首相、沖縄県・名護市辺野古の米軍基地建設工事を巡って、「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移している」と言い放ったのである。とんでもない大ウソ、偽装である。安倍首相は「辺野古へ土砂が投入されている映像がございましたが、サンゴについては(他の場所に)移しております。(砂浜の)絶滅危惧種は(砂を)さらって別の浜に移していくという、環境の負担をなるべく抑える努力をしながら行っているということでございます」と平然と述べたのであるが、これは事実、現実に反する虚言以外の何ものでもない。埋め立て海域全体では実に約7万4千群体の移植が必要だが、現在土砂が投入されている「埋め立て区域2―1」からサンゴは一つたりとも移植していない。試験的に移植したのは、別海域のオキナワハマサンゴ9群体のみであり、サンゴを移植しても生き残るのはわずかで、その移植困難性はすでに学会から強く指摘されており、「そもそも環境保全策にはならない」と指摘されている。沖縄県は政府に対して、「移植対象や移植先の選定が不適切」と指摘し、環境保全措置の不備を埋め立て承認撤回の理由に挙げていることは周知のことである。それを全く無視して、工事を強行しているのである。玉城デニー知事は翌1/7、「安倍総理…。それは誰からのレクチャーでしょうか。現実はそうなっておりません。だから私たちは問題を提起しているのです」とツイッター上で反論したのは当然のことである。
安倍首相は、確認すればすぐわかることを、それさえできないほど、劣化、一人よがりに陥っているか、あるいは実態を熟知しながらそれを平然と否定するほど腐敗してしまっているのである。
この問題でさらに指摘されなければならないのは、NHKの姿勢である。この安倍首相の出演部分は事前収録であり、「討論」どころか独り舞台で長々と持論を展開させ、あげくごまかしようのない“フェイクニュース”を放送したのである。調べればすぐにわかる事実確認すらせず、時間も十分あったにもかかわらず(収録があったのは、放送2日前)、NHKが“フェイクニュース”を垂れ流した責任について、訂正や釈明の姿勢を一切とらず。「番組内での政治家の発言についてNHKとしてお答えする立場にない。事実と異なるかどうかという他社の報道についてもNHKとしてコメントする立場でない」(1/10、NHKの山内昌彦・編成局計画管理部長)と開き直っている。安倍官邸にこびへつらい、忖度するNHK上層部の姿勢があらためて浮き彫りになっている。
首相を先頭にウソと詭弁と偽装がまかり通っているこの政権で、さらに決定的な偽装が明らかにされたのが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」である。法律で定められた「基幹統計」という最も信頼性が問われるデータが改ざんされていたのである。根深き国家的信用失墜事件なのである。
その影響は、雇用保険や労災保険の算定をはじめ国民生活の多岐にわたる分野から、国内総生産(GDP)にまで及んでいる。雇用保険には、失業給付だけでなく、傷病手当金、育児休業給付、介護休業給付など16種類あるほか、同統計は最低賃金、人事院勧告などの指標にも使用されている。したがってこの偽装の深刻さは、実に広範囲に及ぶものである。その意図的な「データ補正」という名のデータ改ざんによって、雇用保険の失業給付、労災保険の休業補償給付、育児休業や介護休業の給付など、さまざまな制度の給付額算定のベースとなる統計が低く抑え込まれ、当然、給付額も減少し、厚労省の発表では、給付不足がのべ2000万人、推計で総額約537億5000万円に達している。。
さらにこの偽装の悪質さは、昨年1月からは「データ補正」のソフトまでつくって、隠ぺいを重ねるもので、この「データ補正」の際にも隠し切れない問題として把握しながら意図的に放置し、昨年6月の現金給与総額が高い伸び率を示した際にもそのデータ変化が疑問視されながらも、組織的に隠ぺいしてきたものである。隠ぺい、放置してきたがための実害も深刻である。賃金台帳は3年保存のため、正確な給付確定ができず、推計による「追加給付」しかできない、しかも対象者のうち1000万人以上の住所は不明であるという。その隠ぺい、放置は、ひとえにアベノミクスを傷つけてはならない、日本経済は「戦後最長の景気拡大」を実現しつつあるというウソを喧伝するためのものであった。

<<「常軌を逸した国」>>
そして昨年来からことさらに煽られているのが日韓関係の緊張激化である。
安倍政権は、これほどのごまかしきれないウソと詭弁と偽装をあくまでも押し通し、切り抜け、目前の4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙を乗り切り、内憂を吹き飛ばす格好の標的として、意図的、政治的に、韓国に対する強硬論を煽り、民族主義的な対立激化を押し進めていると言えよう。これに呼応し、さらに倍化さえしているメディアあげての韓国非難・罵倒は異様な日本の言論空間である。当然ながら、4月の天皇退位と代替わり、その宗教儀式としての大嘗祭も、安倍政権にとってまたとない民族主義高揚のチャンスとして、政権浮揚に利用されている。
1/11、自民党が行った外交部会・外交調査会の合同会議では、出席した議員から「韓国人に対する就労ビザの制限」や「駐韓大使の帰国」「経済制裁」などを求める声が相次ぎ、「徴用工判決」「レーダー照射事件」は韓国・文政権が仕組んだ策略だと放言し、内閣府政務官である自民党の長尾敬衆院議員に至っては、「一般論として、内戦などで危険な国へは渡航制限がなされます。今の韓国の様に、常軌を逸した国へ渡航した場合、日本人が何をされるかわかりません。感情だけで理が通じない。協議や法の支配、倫理、道徳も通用するとは思えない。先ずは、日本人の韓国への渡航を控えるなど出来る事はある筈です。」とツィートしている。
朝鮮半島を暴力的・軍事的に植民地支配したのは日本政府であり、徴用工問題は、三菱や新日鉄住金などの日本企業が、朝鮮半島の人々を労働力として不法に強制動員してきたことは紛れもない歴史的事実なのである。それを「慰安婦問題」と同様、「解決済み」と強弁し続けることで、その歴史を隠蔽しようとしているのは日本政府のほうであり、国際的にも許されるものではない。現に、日韓両国の政府と最高裁は「請求権協定の下でも個人の請求権は消滅していない」との認識では一致しており、「個人の請求権が消滅したわけではない」(河野太郎外相、昨年11/14、衆院外務委員会)と認めざるを得ないものである。個人の請求権が消滅していない以上、その実現、救済の問題は残されており、安倍政権がなすべきことは、日本の植民地支配とその下での人権侵害の責任に謙虚に向き合い、被害者の人権回復と救済に向けた努力を誠心誠意尽くすことなのである。それを「韓国側によって協定違反の状態が作り出されている」と突き放し、「責任を負うべきは韓国側」(1/15、菅官房長)などと居直っているのである。
韓国の文大統領が「〔徴用工問題は〕韓国政府がつくりだした問題ではなく、不幸な歴史によってつくられた問題だ。日本政府はもっと謙虚な立場をとらなくてはいけない」と語ったのは至極、当然なのである。自制心を失って「常軌を逸し」ているのは、日本政府であり、「レーダー照射事件」もそのために利用されており、安倍首相自身が強硬論の先頭に立っているのである。それはまた、危機感をあおり、野党をかく乱するための計算された策略でもある。

<<頼もしい援軍>>
問題は、この策略に野党が乗せられてしまっていることである。とりわけ、安倍政権を退陣に追い込み、野党共闘のかなめとならなければならない立憲民主党の立ち位置が、こうした民族主義的な扇動に乗せられ、迎合さえしていることである。
立憲民主党は、新年早々、「枝野代表、福山幹事長と仲間の国会議員達」が伊勢神宮を参拝し、公式ツイッターで「本日4日、枝野代表は福山幹事長らと伊勢神宮を参詣し、一年の無事と平安を祈願しました。」と報告している。なぜ、わざわざ安倍首相一行と「同日」に「同じ伊勢神宮」に「代表、幹事長、蓮舫副代表と仲間の国会議員達同道で」行く必要があるのか。歴代首相が伊勢神宮に参拝して年頭会見を行うこと自体、憲法の政教分離(憲法20条3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。)に反するものである。その伊勢神宮の参拝をめぐって、立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が昨年1月に、「伊勢神宮の活動に関する助長、促進につながるものと考える」「憲法20条に反するのではないか」との質問主意書を政府に提出、問いただしていたものである。この「助長、促進」になぜ立憲民主党の幹部が揃いも揃ってやすやすと乗せられてしまったのか、その思慮の足りなさが、立憲民主党のふがいなさの象徴ともいえよう。
さらに「レーダー照射問題」をめぐっても、1/19、枝野代表は「いま我々が承知している範囲では、明らかに我が方に理があると思っている」と安倍政権を弁護している。この問題をめぐっては、安倍政権が先鋭化させている緊張激化ではなく、緊張緩和をこそ要求すべきなのである。
こうした民族主義迎合路線は、共産党も同罪と言えよう。1/6放送のNHK「日曜討論」各党党首インタビューで、「日本とロシアの関係で、平和条約や北方領土問題をめぐる政府の交渉をどう考えますか」と問われて、共産党の志位委員長は、「歯舞、色丹の返還で領土問題はおしまい、それ以上の国後、択捉などの領土要求は放棄する。これはとんでもないことで、私たちは、絶対にやってはならないことだと、思います。全千島列島が日本の領土だということを正面から訴える交渉をやってこそ、道が開けるということを、私は、強く言いたいと思います」と答えている。安倍政権以上の領土要求で、緊張激化路線を鼓舞し、民族主義迎合路線を下支えしているのである。日韓、日中間の竹島、尖閣列島問題をめぐっても、共産党は民族主義的な「独自領土論」・「固有領土論」を執拗に展開しており、安倍政権にとっては、利用できる頼もしい援軍とも言えよう。問われているのは、こうした野党の民族主義への同調なのである。

<<薔薇マーク・キャンペーン>>
政治に対する信頼は地に墜ち、安倍政権退陣への絶好のチャンスが到来しているにもかかわらず、安倍政権のかく乱戦法と民族主義的扇動に振り回されているのであろうか、野党共闘は一向に前進した姿を見せるに至っていない。
こうした事態を打開するために、この1/5、「反緊縮の経済政策」に賛同する立候補予定者を薔薇マークに認定し、有権者にアピールする「薔薇マークキャンペーン」が始動し、そのキックオフ記者会見が2/1に開かれることが発表されている。(ホームページ https://rosemark.jp)
その「趣意書」では、<2019年は、4月の統一地方選挙から7月の参議院選挙と、日本の今後が決まる重要な年になります。残念ながら野党側は、民主党政権のイメージをいまだ払拭できないままで、有権者に安心と希望を与える力強い経済政策を提起できていません。…
今度こそ安倍自民党に選挙で勝たなければなりません。そのためには野党は、人々の生活を良くするための経済政策を最優先の課題として争点にしなければなりません。強者から優先的に税金を取る所得再分配の考えに立ち返ること。介護、医療、保育など、人々が不安に思っている問題の解決に、圧倒的に投資すること。そのことで経済を底上げしてまっとうな雇用を拡大し、人々の暮らしを豊かにすることを、真っ向から訴えるべきです。私たちは、その過程で、政党を問わず、「反緊縮の経済政策」を打ち出す立候補予定者個人に、「薔薇マーク」を認定します。「薔薇マーク」は、人々が豊かな生活と尊厳を求める世界的な運動の象徴です。薔薇マークキャンペーンは、人々の抱える生活不安を希望に変える、新たな波を起こすことができると確信します。>と述べ、
<薔薇マーク認定基準として、財政規律を優先させる緊縮的な政策は正しくないと考え、おおむね以下の反緊縮の経済政策を第一に掲げている立候補予定者を「薔薇マーク」に認定します。>として
1. 消費税の税率を5%に
2. 100 万人分のまっとうな労働需要を追加創出
3. 同一労働同一賃金を実現
4. 最低賃金を1500円に
5. 雇用・賃金の男女格差を是正
6. 違法な不払い残業を根絶
7. 望む人が働いて活躍できる保障を
8. 外国の労働者を虐げて低賃金競争を強いる「労働ダンピング」は許しません!
9. 法人税の優遇措置をなくし、すべての所得に累進課税を
10. 富裕層に対する資産課税を強化
11. 金融機関の野放図な融資を抑制
12. 社会保険料も累進制にして、国保など庶民の保険料負担を軽減
13. 環境税・トービン税を導入
14. 「デフレ脱却設備投資・雇用補助金」創設
15. 健全財政の新たな基準を
16. 財務省による硬貨発行で政府債務を清算
17. 日銀法を改正
18. すべてのひとびとのため公金支出
19. 経済特区制度は廃止
20. ベーシックインカムの導入をめざします
21. 「デフレ脱却手当」で月 1万円配布
22. 社会保障制度を組み換え
23. 地方でも常に仕事が持続するインフラ事業
24. ひとびとの命や暮らしを守るのに必要な施設は建設を
25. 奨学金債務を軽減・解消
26. 教育・保育を無償化
27. 介護、保育、看護などの賃金大幅引き上げ
28. 待機児童ゼロ、介護離職ゼロを実現します
を掲げている。
呼びかけ人には、松尾匡立命館大学教授、森永卓郎獨協大学教をはじめとする経済学者、社会学者、ブレイディみかこさん、斉藤美奈子さん、池田香代子さんら、22名の人々が名を連ねている。その中の一人、西郷南海子さん(安保関連法に反対するママの会)は、<わたしはこれまで、「安保関連法の廃止、立憲主義の回復、個人の尊厳」という立場から野党共闘を求めてきました。でも、なぜ野党は勝てないのか、なぜ自民党が勝ち続けるのか、納得のいく答えに出会えませんでした。そして考えるうちに、この国で生きる多くの人が直面しているのは「来月暮らしていくお金があるか」「来年暮らしていくお金があるか」だということに突き当たりました。もちろんこれはわたし自身の現実でもあります。この現実に正面から取り組む運動として、わたしは「薔薇マークキャンペーン」を支持します。>と述べている。
野党共闘の前進と、統一戦線の質的な飛躍のために、このキャンペーンにも大いに賛同し、期待したいものである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【紹介】「日本人と<戦後>」 

【書籍紹介】「日本人の戦後意識 日本人と<戦後>」 新泉社 2018-12発行

 アサートに継続的に書評投稿いただいているRさんが、書評集を出版されました。。「書評論集・戦後思想をとらえ直す」との副題が添えられ、約20年に渡って書き溜められてきた論考が収納められています。
 
 第1章 <戦後>とは何かを考える
 第2章 日本とは何かを考える
 第3章 思想とは何かを考える
 
 3章構成にまとめられ、アサート掲載の<R>署名で書かれた書評も数多く収められております。読者各位には、是非購入いただき一読願えれば幸いです。                         (佐野)
 
 「日本人の戦後意識 日本人と<戦後>」
   新泉社 2018-12発行 ¥2400+税
   https://www.shinsensha.com/books/1955/

出典:アサート No494 2019年1月

 

 

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【投稿】安倍2元政治で噴き出す矛盾

【投稿】安倍2元政治で噴き出す矛盾
―軍拡路線は一元化で暴走―

ゴーンショック
11月に開かれた、ASEANやG20など一連の国際会議は、米中対立を軸としてロシア、中東が絡み合う混沌とした展開なった。
国際情勢が不安定さを増すなか安倍政権は、対中、対露融和を見せる一方、とりわけ中国を仮想敵とする軍拡を進めると言う矛盾した政策を一層強めている。これを、従来の対米追従一辺倒の外交を転換し、リスクヘッジを進める中長期的戦略と見る向きもある。
しかし、自己保身と承認要求の塊である安倍を頂点とする政権に、こうしたグランドデザインが描けるか甚だ疑問と考えざるを得ない。矛盾する動きの背景には官邸に於いて影響力を拡大させる経済産業省と、国家安全保障会議(NSC)―国家安全保障局(NSS)を取り仕切る外務、防衛官僚の勢力争いがあることが明らかになっており「特別なパートナーシップ」を結ぶ国との関係にも影響を与えている。
11月19日、カルロス・ゴーンらが東京地検特捜部に逮捕された。罪状は金融証券取引法違反であるが、無理筋の指摘が国内外からされており、経産省、日産、東京地検の合作による国策捜査であることは公然の秘密となっている。
この間日本とフランスは、2014年の外務、国防担当大臣会合を皮切りに、15年には防衛装備品および技術の移転に関する日仏政府間協定、今年に入り物品役務相互協定(ACSA)を締結、さらには仏海軍艦艇の訪日、自衛隊の革命記念パレード参加など、対中国を掲げ軍事提携を進めてきた。
しかし10月17日には訪仏した安倍と、合同演習の拡大など軍事面での協力を確認したにもかかわらず、手のひらを返したような今回の逮捕劇にマクロンは激怒し、G20で安倍との直談判に及んだ。フランス政府としては安倍政権の一連の対応に不信感を強めたことは疑いなく、今後の軍事協力を含む日仏関係に影を落とすだろう。
10月の日仏首脳会談時、エリゼ宮の記者会見場に、7月末から日光で行方不明となっているフランス人女性の妹が現れ、早期発見を訴えたが捜査は進展していない。一方ゴーン逮捕の当日フランス検察は、一昨年から不明となっている日本人女性の遺体捜索を打ち切ったことを明らかにした。一連の事件に関係性はないものの両国関係を暗示しているかのようである。

ファーウェイショック
中国に対しても融和と対立の狭間で揺れ動いている。安倍はこの間「自由で開かれたインド太平洋戦略」を「構想」と言い換えるなど、「一帯一路」に関わる投資環境の整備に腐心し、10月の訪中では52件の「商談」が成立した。
ところが河野は11月23日ローマで開かれた地中海周辺国の国際会議「地中海対話」に出席、「一帯一路」に関し「透明性があれば歓迎」としたものの、複数の国が借金漬けになっていると批判した。「一帯一路」の西端を意識しての発言であると考えられるが、場違いな発言のそしりは免れない。
またに日本と中国は、電気自動車関連の規格を統一するなど先端技術面での協力を進めているが、ファーウェイ問題ではアメリカに追随し、防衛省、総務省などがファーウエイなど中国製製品の排除を決定した。
安倍は、G20に合わせた米中との首脳会談で、双方の調停役として振る舞い、「90日の休戦」という結果に安堵していたが、とんだちゃぶ台返しにあった。
中国製品の排除を決定したのは、12月初旬でアメリカと英語を公用語とする同盟国(ファイブ・アイズ)と日本のみであり、安倍政権の対応が突出していることが判る。
米中首脳会談時も、裏ではファーウェイに対する捜査は進められていたことが明らかとなっているが、ファイブ・アイズは知っていても日本は知らなかっただろう。
中国外務省は11月7日の記者会見で日本政府の対応に不満を示した。今回の問題ではカナダ人2名が拘束されているが、日本人も2015年以降8名がスパイ容疑で逮捕され、3名に実刑判決が出ている。今後の日本政府の対応次第では、投資環境にも悪影響を及ぼすだろう。今後安倍政権は米中の狭間でさらなる苦しい立場に立たされよう。

蚊帳の外の河野
安倍政権内の矛盾は日露関係に於いてもより深化している。安倍は11月14日の日露首脳会談を踏まえ、領土問題の着地点を「2島+α」に方針転換したことを事実上認めた。
毎日新聞によればこの会談の終盤、両首脳は谷内NSS局長、秋葉外務事務次官、ラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官を部屋に呼び、交渉に入ることを指示したと言う。
今回の日露交渉は元々経産省マターであった。ロシア経済分野協力担当相の世耕は10月の産経新聞のインタビューで「これまでは日本は領土問題が決着しない限り、経済も動かさないとしてきたが、安倍総理がそれを変えてうまくいっている。これを進め平和条約を締結したい」と得意げに述べている。
こうしたなか安倍は最も困難な領土問題を、土壇場になって四島原理主義である外務省にポイと投げ渡したのである。
外相である河野はその場にはいなかったにもかかわらず、 11月23日にローマで日露外相会談が開かれ、難敵ラブロフと相対することになった。
その後のG20首脳会議に合わせて開かれた日露首脳会談にも世耕は同席したが河野は参加しなかったが、両国外相が交渉責任者となることが決められ、難題を押しつけられることとなった。
こうしたことが伏線となり、12月11日の外相記者会見は大荒れとなった。ラブロフが「日本が第2次世界大戦の結果を認めなければ話しにならない」と言い切ったことへの対応を問われた河野は逆切れを起こし、記者の質問を遮り4度にわたって「次の質問」を繰り返した。
自分(外務省)は蚊帳の外であると言いたかったのだろうが、トランプとCNN記者の応酬を想起させるこの醜態は世界に発信された。中国への批判もそうだが、河野は外務大臣と言うより外務省の代弁者であろう。
翌日菅も自身の記者会見で苦言を呈さざるを得なかったが、長期化し弛緩する政権の中で官邸が、官僚と閣僚を制御できてないことが明らかになった。

「空母」保有の目的 
こうした2元政治によって外交が混迷の度を深める中、12月11日新「防衛大綱」と「中期防」の素案が明らかとなった。これは外務、防衛官僚の独壇場で自民党国防族はもちろん自衛隊制服組の意向をも押さえ込んだものとなった。
大綱素案では宇宙空間、サイバー分野、電子戦などの新領域での攻防を重視した、「領域横断(クロスドメイン)作戦」を新たな戦略概念として打ち出した。その意味でこの間の政府調達からの中国製品排除は、新戦略のハード面での先取りであり、これに追随するソフトバンク社の対応は「民間防衛」といえよう。
これとともに焦点化したのが「いずも」級護衛艦の空母化である。鳩山政権で予算化された「22DDH」は改装でF35Bの運用が可能になることは、当時から指摘されていたが現実のものとなった。
今回与党のワーキングチーム(WT)では専守防衛の観点から「攻撃型空母」か否かを巡り自公間で論議が進められ、F35Bは常時搭載せず必要な場合に運用すること、「母艦」とは呼称せずヘリ搭載護衛艦(DDH)のままとすることなど、で決着したが、これらまったくの誤魔化しである。
F35Bが運用できれば十分な攻撃能力を保有することとなり、他国への攻撃に使わなければ攻撃型ではないというのは詭弁である。問題は空母を攻撃に使うか使わないかである。
常時搭載しないと言うのもまやかしである。現在も海自護衛艦の多くは常時ヘリを搭載していないし、アメリカ軍空母も常時艦載機を搭載しているわけではない。航空兵力を保有する海軍は、フランスでもロシアでも必要な場合に空母に搭載し運用しているのである。
WTの論議では公明党が「垂直離着陸のF35Bは離島でも運用が可能で、空母化そのものが不要」と指摘したが、これは正鵠を得ている。そもそも官邸・NSCは空母を離島奪還で使うことなど本気で考えていない。
先の国会で共産党により、石垣島を想定した2012年の陸自の図上(シュミレーション)演習結果が暴露された。このシナリオでは「敵」の侵攻で守備隊はほぼ全滅するが増援で奪還する、ことが想定されている。損害については陸戦だけで「敵」の損耗3821人、味方2901人とされており、石垣島民約4万7千人の被害は考慮されていない。
離島奪還の実例と言える1982年のフォークランド諸島を巡る紛争での戦死者は、海戦を含みイギリス253人、アルゼンチン654人、島民約千人のうち犠牲者は英軍の誤射による3人だけであった。
石垣島の場合「奪還成功」という都合の良い結果でも、膨大な犠牲が想定されており、これからの兵器の性能向上を考慮すると、南西諸島での武力衝突など不可能なのである。
官邸・NSCの狙いは、この間の「いずも」「かが」の南シナ海派遣、さらにはジプチ基地恒久化、インドとのACSA締結、シンガポール艦船整備拠点化計画などを見れば、近い将来南シナ海からインド洋、アフリカ沖までの空母部隊によるパトロールが考えられていると見てよい。
これは「自由で開かれたインド太平洋『構想』」における軍事的プレゼンスの拡大である。海外における権益擁護の為に軍事力を利用することは「専守防衛」の逸脱どころか憲法違反であろう。そのために空母を保有するとは言えないので、「離島奪還」のためという方便を使っているのである。
このように、サイバー戦、空母保有など防衛大綱、中期防の矛先は中国に向けられていることは明らかである。軍拡がこのまま進められれば、危ういバランスの上に成り立っている安倍政権の矛盾はますます拡大することとなる。
安倍政権はこうした混乱を隠蔽し、臨時国会で「移民」法案や「水道民営化」法案を強行採決し、議論の場を封じた後、12月14日に辺野古への土砂投入、18日の新防衛大綱閣議決定などを矢継ぎ早に進めている。
これに対し未だ野党の足並みは乱れているが、2月の沖縄県民投票、4月の沖縄3区補選から統一自治体選挙、参議院選への展望を指し示すことが求められている。(大阪O)

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【投稿】水道民営化法は外資に公共財産を売り飛ばす新自由主義的政策

【投稿】水道民営化法は外資に公共財産を売り飛ばす新自由主義的政策
福井 杉本達也
1 水道事業の民営化
今臨時国会では外国人労働者の待遇を改善せず搾取を強化する改正出入国管理法や大企業の漁業権への参入を認める改正漁業法、水道民営化法など新自由主義的な規制緩和の悪法が相次いで可決成立してしまった。先に、今年3月には種子法が廃止されている。モンサントのような多国籍企業の要求を受け入れ、遺伝子組換え(GM)種子やF1種子(ハイブリッド種)などが販売されることとなる。GM食物は、除草剤とセットで種子が販売され、一度GM種子が使用されると、元の栽培法には戻れない。日本の農業は多国籍種子企業に支配されることとなる。水道民営化法は水道事業の民営化をしやすくするため、運営権を民間企業に一定期間売却する「コンセッション方式」を導入できる。導入は自治体の判断だが、宮城県や大阪市が意欲を示しているし、既に下水道では今年4月に浜松市が初めて取り入れ、仏ヴェオリア社日本法人などが参加する運営会社が、20年間の運営権を25億円で手に入れている。

2 「コンセッション方式」とは
「コンセッション方式」とは、市が水道資産の所有権を有したまま、水道施設の運営権を民間事業者に設定し、長期間運営を委ねる事業の方式であり、完全民営化とは異なるが、水道利用者から直接料金を徴収し運営を行っていくコンセッション方式は、限りなく完全民営化に近い手法である。下水道では浜松市が初めてであるが、関西国際空港や大阪国際空港(伊丹)、愛知県の有料道路などで同方式が導入されている。運営権は売却が可能であり、水道事業を投資目的に売却することも可能である。なお、浜松市が2018年4月に導入した下水道のコンセッション方式は終末処理場と二カ所の中継ポンプ場のみであり、肝心の幹線管渠は対象外となっている。地中埋設物である管渠は事業開始時に管理状態を確認することが困難で、運営権者のリスク負担の程度が計り知れないという理由で外されている。あくまでも水道事業などへの本格的な方式導入のための可能性調査である。ちなみに、浜松市の水道事業は管路の延長だけで5,000kmもあり、今後50年間の更新投資額は2,900億円(年間50億円)としており、人口減や節水機器の普及などにより需要は減少傾向にあり、今後運営が厳しくなると予想されている(『月刊自治研』2018.8:浜松市水道労組:河村栄二)。外資が水源や配水場などを儲かる施設だけを乗っ取り、老朽化した管渠などはほったらかしにする可能性もある。

3 既に公営水道では外資への窓口業務の委託が進んでいる
福井市のHPではガス水道料金について「平成25年4月1日からガス・水道等に関する業務をヴェオリア・ジェネッツ株式会社に委託し…お客様への応対やメーター検針などをヴェオリア・ジェネッツ株式会社の職員が行います」との案内がある。大阪市水道局や尼崎市も同様の委託がなされている。窓口業務を押さえれば、その公営企業の経営実態が把握できる。河川から取水し、水処理が必要な場合は処理場があるため業務内容を把握するのに少し時間がかかるが、福井市のように地下水(実質は河川の伏流水)を使用する場合は水処理にほとんど金はかからない。水道用に次亜塩素酸ソーダをまぜ塩素殺菌すれば即供給できる。後は水道配管が古いかどうかだけである。日本の水道効率は極めて優秀で、流した水の数十%が途中で漏水や盗水で消えてなくなる諸外国とは異なり、漏水率はわずかに5%程度であり、こうした自治体は外資にとっては喉から手が出るほど美味しいものである。

4 背景に新自由主義を推し進める米戦略国際問題研究所(CSIS)からの指令
安倍二次政権発足直後の2013年4月19日、麻生財務大臣はジャパン・ハンドラーの 米戦略国際問題研究所(CSIS)に呼びつけられ、マイケル・グリーンが司会する中、ハレム所長の前で「アベノミクスとは何か~日本経済再生に向けた取組みと将来の課題~」というタイトルで「規制緩和」という名の外資への公共財産の売却を約束させられた。アベノミクスの「第三の矢」の規制緩和の質問に対する説明の中で、「いま日本で水道というものは世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する99.99%というようなシステムを持っている国は日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します。」と約束し、さらに「いわゆる学校を造って運営は民間、民営化する、公設民営、そういったものもひとつの考え方に、アイデアとして上がってきつつあります。」とまで語った(財務省のHPはスピーチの冒頭のみを掲載)。
この麻生の説明の裏には『立地競争力の強化に向けて』という竹中平蔵(国家戦略特別区域諮問会議議員・パソナ会長・オリックス社外取締役)の2013年4月17日付けのペーパーがある。「世界一ビジネスのしやすい事業環境に ~交通・都市インフラの改善」という項目において「・これまで官業として運営されてきたインフラで、利用料金の伴うもの(空港、有料道路、上下水道、公営地下鉄等)について、民間開放を推進。」「・上下水道について、国交省(下水道)、厚労省(上水道)、農水省(農業集落排水)、経産省(工業用水)という縦割りを排し、省庁横断でのコンセッションに係る制度運用体制を構築。」「・また、インフラの延長上で、官業の民間開放の一環として、公立学校の民間委託(公設民営)。」と書き、「・こうしたインフラは全国で約185兆円の資産規模と推計され、全国的に民間開放の動きを進めることで、少なくとも数十兆円規模の財源創出が見込まれる。」としている。麻生のスピーチは竹中のペーパーをなぞったのである。

5 水道は社会的共通資本
経済学者の宇沢弘文は「社会的共通資本は、土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然環境だけでなく、道路、上下水道、公的な交通機関、電力、通信施設などの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本を含む」とし、「それぞれの分野における職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規律にしたがって管理、運営されるもので」、「市場的基準にしたがっておこなわれるものではない」と規定する。さらに「そこから生み出されるサービスが市民の基本的権利の充足にさいして、重要な役割を果たすものであって、社会にとってきわめて『大切な』ものである。」と書いている(宇沢弘文:岩波新書『社会的共通資本』)。人間は水なしでは1日たりとも生きていくことはできない。まさに基本的人権にかかわるものである。こうした社会的共通資本を外資に売り払い、一儲けを企んでいるのが竹中平蔵らの新自由主義者でありオリックスなどの企業グループである。
もう一つ宇沢は「共有地」(コモンズ)という概念を提起する。コモンズとは、ある特定のコミュニティーにとって、「その生活上あるいは生存のために重要な役割を果たす希少資源」であり、その利用にかんして「歴史的に定められたルールにしたがって行動することを要請されている」と定義しているが(宇沢:同上)、外資に運営を任せれば、必ずやコミュニティー(自治体)外の大企業などに水を安く売り払い、住民への料金は値上げするであろう。少量の水を配管で戸別に配水し、料金を徴収するよりも、大口径の配管で大量の水を大企業に供給する方が効率的であり。資本の論理にはかなっているからである。

6 「コンセッション方式」では災害時の対応はできない―関西空港の台風被害
2018年10月13日の日経新聞の社説は「台風が試す民営空港の真価」と題して、「関空をはじめ域内3空港の運営主体である関西エアポートの危機対応能力だ。同社はオリックスと仏空港運営会社パンシ・エアポートが各40%を出資する民間企業。関空については国との契約で2060年まで長期の運営権を持ち、公的設備の運営を「民」が担うコンセッションの先駆けとして注目された。だが、今回の被災では各方面から問題点が指摘されている。被災時に空港島内に取り残された人数の把握に手間取り、バスや船での脱出にも時間を要した。関空に乗り入れる航空会社によると、復旧への取り組みも当初は不十分で、空港再開のメドが全く立たない状態が36時間以上も続いた。政府が介入・主導することで、ようやく復旧作業が軌道に乗ったという。日本航空の赤坂祐二社長が『航空会社のオペレーションについて(関西エアは)経験が多くない』と苦言を呈する一幕もあった。」と書いた。
関西エアと新関空会社の間で結んだ運営権実施契約書には災害時の空港機能の回復がどちらが担うか明記していない。関西エアの対応の遅さや情報開示の姿勢などに航空各社から不満が噴出した(日経:2018.10.26)。国土交通省の事務方は、急ピッチの復旧には人件費や修復費がかさむ。「関西エアポートの対応は、追加負担を極力避けたいという民間の感覚」と国交省幹部は受け止め「日本経済や訪日客の落ち込みを『国難』と考える政府とは危機感がまるで違った」と振り返った(福井:2018.9.22)と書くが、これがコンセッション方式の実態である。当座の資金の節約の為に社会的共通資本を民間に売り渡した場合、どのような結果が待ち受けているかを示す悲惨な例の一つである。

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【投稿】仏「黄色いベスト」運動が投げかけるもの 統一戦線論(55)

【投稿】仏「黄色いベスト」運動が投げかけるもの 統一戦線論(55)

<<トランプとマクロン>>
12/8、トランプ米大統領は広がるフランス政府への抗議デモに便乗して「デモや暴動がフランス全土で起きている。国民は環境保護のために多額の金を支払いたくないのだろう」と述べ、「パリ協定をやめよ」とツイッターで発信した。これに対してフランスのルドリアン外相は翌12/9、仏民放テレビで、不快感あらわに「トランプ大統領に言いたい。われわれは米国内の議論に口出ししない。だから、わが国のことも放っておいてほしい」と反論した。
大規模な抗議デモとなった「ジレ・ジョーヌ」(Gilets Jaunes フランス語でイエロー・ベスト、黄色いベスト)運動は、トランプ氏の軽薄な理解と違って、トランプ氏と同様の金持ち優遇、規制緩和や「小さな政府」路線、市場競争原理主義・新自由主義路線に対する巨大な抗議運動であり、すでにマクロン大統領の辞任を求める政権打倒の運動となっている。
確かにその発端は、「燃料税引き上げは環境政策に不可欠」だとして燃料税増税をさらに進めることを明らかにしたことにある。すでにマクロン政権は発足以来、ディーゼルエンジン用軽油一リットルあたり31セント(約40円)値上げしただけでなく、来年1月には更に6,5セント課税することを議会で可決させている(レギュラーとハイオクガソリンの増税はその半分強)。軽油・ガソリン価格の約6割が税金であり、なおかつ原油価格高騰で2016年6月以来、ガソリンは14,2%、軽油は26,5%値上がりしているところへ今回の増税である。
そのマクロン氏は、2014年、前オランド政権で経済大臣に就任した際には、「ディーゼルはフランスの産業政策の主軸だ」と断言していたのである。長年「CO2が少ないクリーン車」と宣伝され、政府の優遇措置も続き、すでにディーゼル車は、1990年代33%から、2000年50%、2008年78%の保有率に達しており、現在も三分の二の保有率を維持している。マクロン氏は、「環境保護のため」というのを口実として「脱ディーゼル」を掲げ、ここに増税の狙いをつけたのである。しかしこの増税は、低所得層を直撃する一方で、増税分はほとんど脱炭素化には使われず、環境保護の口実に反して安価でクリーンな地方の公共交通サービス網の閉鎖が進められている。フランスの緑の党は、この炭素税の19%しか脱炭素化政策に利用されない点を指摘し、この増税に反対している。
マクロン氏は就任以来、議会過半数確保を背景に、トランプ氏と同様の規制緩和や「小さな政府」路線に基づく「新自由主義的改革」を強権的に推し進め、就任直後には、労働組合の抵抗を押し切って、企業の解雇手続きの簡素化、不当解雇補償額の上限設定などの「労働市場改革」を断行。法人税率の段階的な引き下げ、各省予算の一律削減、雇用契約や農産物貿易の規制緩和や、公共サービス削減など、農村部では郵便局、学校、病院の閉鎖 医療の民営化への段階的な措置などなりふり構わぬ歳出削減を強行。2018年の税制改革では、超富裕層に有利となる金融資産にかかわる富裕税(ISF)を廃止し、逆に、庶民に広く影響のある一般社会貢献税(CSG)の税率引き上げを行い、富裕層に巨額の利益を与える一方、庶民や貧しい層からとりたてる政権への怒りに、「黄色いベスト」運動が火をつけたのである。

<<「民衆の綱領」>>
そのきっかけは、2018年10月10日、2人のトラック運転手がFacebookのイベントを作成、11月17日にガソリン価格の上昇に対して全国的な封鎖を呼びかけたことにあった。その際、“黄色いベスト”を着用して抗議すること、が呼びかけられたのである。2008年に、フランスではすべての運転者に車両の視認性の高い蛍光黄色のベストを搭載することが安全対策として義務付ける法律が可決されている。したがってこのベストは運転する限り誰もが持っている。まさかこの“黄色いベスト”が「マクロン辞任せよ!」の象徴となり、抗議行動そのものが「ジレ・ジョーヌ」と呼ばれるとは、政権側は予想だにしなかったであろう。呼びかけに応じて、全国の約2000のグループが、道路、有料道路料金所、ガソリンスタンド、さらには製油所にまで押しかけ、抗議行動やデモを実行。11月19日の「道路封鎖」の日から主要な高速道路や路線の封鎖が拡大、製油所にまで波及、多くのガソリンスタンドに燃料がなくなる事態となった。次いで翌週の土曜日11月24日には全国行動が呼びかけられ、フランス全土での行動と、大規模デモでパリに集結するよう呼びかけられたのである。この日以来、“黄色いベスト”を身に着けた10万人を超すデモ隊が、週末のたびに、パリ中心部や凱旋門の周辺、各地のショッピング・モールなどに集結し、大規模な抗議行動が展開される事態となった。
パリの抗議行動では、救急車の労働者が労働条件の変更に抗議して国会につながる橋を封鎖、農民が警察の前で肥料を投棄して参加したり、抗議行動を制圧せんとする警察との衝突が各地で発生、これを暴動として、7000名以上もの逮捕者を出している。
メディアは暴動のみを大きく報道するが、この抗議行動の最大の特徴は、単なる燃料税増税反対から、マクロン政権の新自由主義政策全般に対する闘いへ、あらゆる階層の人々が自らの要求を掲げ、マクロン政権に退陣を迫る巨大な大衆運動へと大きく進展していることである。
デモには初期から連帯していた農民団体と貨物労組とともに、フランス労働総同盟(CGT)は12月8日を大規模行動の日に決め、他の労組の多くも連帯を示している。中高校生までストライキや学校封鎖でこの運動に参加し、12/6には360の中高等学校の一時的閉鎖 87の学校が全面閉鎖され、一斉検挙された高校生らが頭の後ろで両手を組まされ、ひざまずかされ、機動隊が声を荒らげて脅している映像が公開され、激しい非難が巻き起こる事態となったのである。
11/29に発表された「民衆の綱領」と題する『黄色いベスト』運動の要求事項は、42項目にわたっており、冒頭、「フランスの代議士諸君、我々は諸君に人民の指令をお知らせする。これらを法制化せよ。」として、最初の10項目では、(ATTAC JAPAN訳)
1)ホームレスをゼロ名にせよ、いますぐ!
2)所得税をもっと累進的に(段階の区分を増やせ)。
3)SMIC〔全産業一律スライド制最低賃金〕を手取り1300ユーロに。
4)村落部と都心部の小規模商店への優遇策(小型商店の息の根を止める大型ショッピング・ゾーン〔ハイパーマーケットなど〕を大都市周辺部に作るのを中止)。+ 都心部に無料の駐車場を。
5)住宅断熱の大計画を(家庭に節約/省エネを促すことでエコロジーに寄与)。
6)〔税金・社会保険料を〕でかい者(マクドナルド、グーグル、アマゾン、カルフールなど)はでかく、小さな者(職人、超小企業・小企業)は小さく払うべし。
7)(職人と個人事業主も含めた)すべての人に同一の社会保障制度。RSI〔自営業者社会福祉制度〕の廃止。
8)年金制度は連帯型とすべし。つまり社会全体で支えるべし〔マクロンの提案する〕ポイント式年金はNG)。
9)燃料増税の中止。
10)1200ユーロ未満の年金はNG。
を掲げている。すべてマクロン政権の新自由主義政策に対する対案である。
日本でも問題となっている外国人労働者についても、
14)〔東欧等からの〕越境出向労働の中止。フランス国内で働く人が同じ給与を同じ権利を享受できないのはおかしい。フランス国内で働くことを許可された人はみなフランス市民と同等であるべきであり、その〔外国の〕雇用主はフランスの雇用主と同レベルの社会保険料を納めるべし。
と要求している。

<<「怒りの多くは正当だ」>>
この巨大な運動の中で、マクロン大統領の支持率は26%に急落し、12/1のデモ直前にはさらに18%に下がり、就任19カ月目としては前任者(フワンソワ・オランド大統領)の48%、前々任者(ニコラ・サルコジ大統領)の29%を下回る事態となり、ついに12/4、来年1月からの増税を半年延期すると表明、翌12/5にはさらに来年中の実施は断念することを表明せざるを得なくなった。そして12/10、マクロン大統領はテレビを通じて演説し、「怒りの多くは正当だ。私が責任を取る」と表明し、来年から月額最低賃金を100ユーロ(約1万3000円)引き上げると発表し、残業代と年末賞与への非課税、社会保障増税の一部中止を発表した。しかし、ベニコー労働相は「今の財源では最低賃金を上げることはできない」とテレビ番組のインタビューで答えており、一時しのぎ空約束の可能性が大であり、富裕税の廃止についてはマクロン氏自身が「投資家を誘致し雇用を生み出す目的だ」と述べ、撤回しない意向を表明している。
当然闘いはまだまだ続くであろうし、拡大し成長するか、縮小し減衰するか不確定である。しかしこの運動が、ここまでの事態をもたらし、大きく前進させてきたもの、それが投げかける問題提起を受け止めることは、日本の野党共闘や統一戦線の前進にとって不可欠と言えよう。
まず第一に、この運動は既成の運動や政治から独自に自主的に提起され、組織され、なおかつ、上位下達の組織構造を持たずに行動提起がなされ、毎週土曜日の巨大な統一行動への結集を可能とさせたことであろう。同運動には特定の主催者がいるわけではなく、スポークスマンや「代表」のネット投票も行なわれたが、それらは広がらず、代表も組織の構造もない。しかし切実な課題に即して運動はたちまちに組織され、多様な形で急速に拡大したのである。逆に言えば、既成の運動や政治諸勢力が焦眉かつ緊切な課題にいかに鈍感であったかの証左でもある。
第二に、運動の組織のされ方が上位下達方式では、多様な人々の自主性や創意・工夫が生かされず、その多様性も保証されず、運動の発展・前身の芽が生かされず、つぶされてしまうことである。この運動ではさまざまな立場の参加者が、それぞれの分野の新自由主義政策に反対し、生活の不満と緊切な要求を持って、反マクロンで一致し、結集・参集したのである。分散化や多極化も恐れない、むしろそれらを生かす運動形態が提起されていると言えよう。
そして第三は、運動のダイナミズムである。韓国の朴槿恵前大統領を退陣に追い込んだ「ろうそく」運動は、「2016年10月29日の夜に最初の徹夜ろうそく集会が行なわれて以来、抗議する人々の数は瞬く間に膨れ上がり、同年12月初旬にはソウル市だけで200万人を超えた。この爆発的な市民行動の主役および特徴については慎重に定義しなければならない。あまりに多くの人が参加し、共感したがゆえに、主役を特定するのは難しい。従来の社会運動組織のメンバーは国会前広場を埋めた人々のほんのわずかな割合しか占めていない。参加者の大半は自分の意志でデモにやってきた人々だ。だが、その人々を烏合の衆と呼ぶことはできない。彼らはソーシャルメディアを介してさまざまなネットワークを作り、広場をその出会いの場に使った。中にはただ自発的に広場に集まった団体もある」(李泰鎬(イ・テホ)韓国・参与連帯(PSPD)政策委員会 委員長)。この運動のダイナミズムが今回の「黄色いベスト」運動にも特徴的にみられる。この運動のダイナミズムをいかに獲得していくかが問われている。もちろんそれは恣意的に獲得できるものではないが、既成の運動や政治組織がその障害となってはならないことを示している。
トランプやマクロンの政策、その独裁主義的政治手法で酷似する安倍政権と闘ううえで、この「黄色いベスト」運動が投げかける問題提起は軽視できないと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【書評】『骨が語る兵士の最期──太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実』

【書評】『骨が語る兵士の最期──太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実』
(楢崎修一郎、筑摩選書、2018年7月発行、1,500円+税)

本書は最初にこう述べる。
「法医学は医学の一部で、主に死体から、個体数・性別・死亡年齢・死因・民族等を推定する学問である。ちなみに、主に死体の歯から推定する学問を法歯学という」。
「一方、『法医人類学』は、白骨死体、つまり骨や歯から法医学や法歯学と同様な情報を推定する学問である」。
そして著者は「法医人類学」の専門家として、日本各地の遺跡から出土する発掘人骨を鑑定している。その著者が、太平洋の激戦の地、玉砕の島々に未だ多数残されたままの兵士の遺骨を発掘し、分析したのが本書である。
第二次世界大戦でのわが国の戦没者は、総数で三一〇万人(ただし、ここには一般市民も含まれている)、そのうち海外での戦没者は二四〇万人(これには、硫黄島と沖縄の戦没者が含まれている)である。
「そしてそのうち、収骨開始以来これまでに約一二七万人分の兵士の遺骨が収骨されている。したがって、まだ海外には約一一三万人分の遺骨が未収骨のまま眠っている。この未収骨のうち、飛行機や船で海没したために収骨が困難な数が約三〇万人、そして、中国や韓国など相手国の事情から収骨が困難な数が約二三万人と言われている。したがって、現在の遺骨収集の対象は、約六〇万人となる」。
本書は、太平洋諸島に散らばる遺骨を収集し続けた記録である。その範囲は、マーシャル諸島(ミリ島、クェゼリン環礁等)、北マリアナ諸島(サイパン島、テニアン島)、ミクロネシア連邦チューク州(トラック諸島)、パラオ共和国ペリリュー島など広範囲にわたり、しかも短期間という派遣の制約もあって、部分的なものではある。しかし戦後七〇年以上も経過しながらまだこれだけの遺骨が残されていることを日常ほとんど意識にのぼらせていないわれわれに、戦争について考えさせる貴重な知識を与えてくれる。以下、いくつかを紹介しよう。
サイパン島では、一九四四年七月七日、最後の万歳突撃を敢行したが、途中のタナパグ海岸付近で待ち構えていた米軍の反撃を受け、全滅してしまう。「夜があけると、タナパグ海岸には四三一一体もの死体が累々と積み重なっていたという。/さすがにそれだけの数の死体処理は大変だったのか、米軍はブルドーザーで溝を掘り、その中に次々と死体を投げ込んでいった」。このタナバグ地区の集団埋葬地は古くから知られており、厚生省による調査が何回か実施され、収骨している。
この後多くの民間人と日本軍兵士は、サイパン北部の洞窟に避難したことが知られているが、著者は洞窟での遺骨収集の後、こう述べる。
「洞窟で遺骨収集を行うと、集団埋葬地と異なる点が明らかになった。集団埋葬地では,戦史通り、毎回、出土するのは成人男性であった。ところが洞窟では、まさしく老若男女が出土するのである。/(略)/結果、一六ケ所の洞窟から、合計で五九体の遺骨を収骨することができた。この内訳は、三七体の成人男性、八体の成人女性、一四体の未成年が鑑定された。この中で、女性と言っても、若い女性のみではなく老齢個体の女性が多いことが特徴である。また、未成年と言っても、一歳、二・五歳、三歳、七歳、八~九歳と、本当に子供が多いことも特徴である」。
このように民間人が多数出土するのは、このサイパン島とテニアン島のみであると著者は語るが、テニアン島では次のような遺骨に対面する。
「テニアン島第23遺跡は、小さな洞窟であった。ここで出土した人骨を鑑定していて、私ははっとした。五体の人骨が鑑定されたが、成人男性一体、成人女性二体、未成年二体であった。こう書くと、衝撃は感じられないかもしれない。/だが、成人女性二体のうち一体は比較的若い女性で、もう一体は老齢女性であった。さらに未成年二体は、約一歳と胎児であった。つまり、この洞窟には若い男女の夫婦とどちらかの年老いた母親がおり、孫であろう一歳の子供の四人が避難していたことになる。さらに、若い夫婦の妻は妊娠中であったということになるのである。/家族一同が同じ場所で発見されたとなると、手榴弾で自決したのではないかと推定された。まさに、悲劇の洞窟であった」。
科学的分析によって明らかにされた戦争の残酷さである。
このように本書は、戦後の長期間埋没され続けた遺骨収集を綴っていくが、著者の怒りを込めた問題意識が最後に語られる。
「最近、『日本兵の遺骨は各地で土に還っている』という発言をちらほらと聞く機会がある。その発言の裏には、遺骨収集事業を早期に終了させたいという意図があるのかもしれない。だが、本書をご覧いただくと遺骨は決して土に還っていないことがおわかりだろう。そもそも、もし遺骨が七〇年で土に還るのであれば、日本のみならず世界中の人類学者が職を失ってしまう。骨が土に還らないからこそ、旧石器時代から江戸時代までの人骨が各地から出土しており、人類学者はその鑑定や研究ができるのである」。
過去の戦争の犠牲者に対して人道を尽くすことが、現在の国民の生命を尊重し平和への道につながっているということを、地味な遺骨収集から考えさせてくれる書である。
なお遺骨収集に関して米国では、わが国とは比べ物にならない規模の組織がいまなお活動しているということが紹介されている。
「第二次世界大戦中、アメリカ軍は一六〇〇万人の兵士を動員し、四〇万人以上が戦死している。このうち、現在でも七万二〇〇〇人が行方不明だという。国防総省の指揮下にJPAC(米国戦争捕虜および戦争行方不明者遺骨収集司令部)という組織があり、人類学者や歯科医、考古学者約四〇〇人が働いている。国家の責任で、最後の一兵まで発見することに全力を注いでいるのだ」。           (R)

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【投稿】捏造政治を強行する安倍政権

【投稿】捏造政治を強行する安倍政権
―内政、外交とも嘘と誤魔化し―

反省、謝罪は無し
10月24日召集された197臨時国会の所信表明演説で安倍は、「謙虚、丁寧、低姿勢」を演出したが、三文芝居となった。
演説の文字数は約6200字で、安倍政権で最短となった昨年11月の特別国会における約3500字に比べれば増えたものの、無味乾燥の内容は変わらなかった。
安倍は冒頭「強い日本を創るため私が次の3年その先頭に立つ」とナショナリズムとナルシズムを混濁させた決意を開陳した後、「強靭な故郷づくり」として、最初にこの夏相次いだ自然災害の犠牲者に哀悼の意を表したが、「赤坂自民亭」などの愚行への反省の言葉は無かった。
その後も、「地方創生」では全世代型社会保障、外国人材、「外交・安全保障」に於いてはロシア、中国との関係改善、日米同盟の強化などで自画自賛を繰り返した。
さらに「平成のその先の時代の国創り」を進めるため、「国の理想を語るものは憲法」とし、「制定から70年以上を経た今議論を深め」と改憲への野望を改めて露わにしたのである。
最期に、維新礼賛、薩長史観への批判を気にしてか、「戊辰戦争から50年」で政党内閣を樹立した南部藩出身の原敬の「常に民意の存するところを考察すべし」を引用し、「長さゆえの慢心は無いか」「国民の懸念にも向き合う」「身を引き締めて政権運営に当たる」と締めくくった。
しかし、これらの美辞麗句は森友・加計事件で厳しい追及をかわすため、何回も聞かされた言葉であるが、それが実行されたことは無かった。
今回も沖縄県民の民意、懸念を無視し、対話ポーズをとりながら辺野古基地建設を強行している中での決意は、口から出まかせの最たるものであろう。
こうした嘘で塗り固められた所信表明は、そのなかで安倍が強調した日中、日露、日米関係、そして外国人労働者問題で次々と破綻していくことになる。

対中政策の矛盾
10月26日、訪中した安倍は7年ぶりとなる単独での日中首脳会談を行った。この会談で安倍は習近平と「新たな日中関係」を構築していくことで一致したと成果を強調した。
とりわけ「競争から協調へ」「パートーナーとして互いに脅威にならない」「自由で公正な貿易体制の発展」の「3原則」を確認したと述べていたが、それが捏造であったことが明らかとなったのでる。
26日外務省は、李首相、習主席との会談で「3原則」という言葉での確認は無かった、との文書を発表し、翌日には安倍はそうした趣旨の内容を話したが、「3原則」とは言っていない、と重ねて否定した。
中国外務省も「3原則」については一切言及しておらず、功を焦った安倍のフライングである可能性が高まった。
今回の首脳会談で合意したのは、保護貿易主義への反対、朝鮮半島非核化等の抽象的合意と通貨交換(スワップ)の復活ぐらいである。懸案の尖閣諸島を巡る緊張緩和、ガス田開発問題では「不測の事態を避ける」ことでは一致したが、棚上げとなり、習近平への訪日要請も「真剣に検討したい」との回答で「来年のしかるべき時期」等の承諾までには至らなかった。
それでも安倍は26日「日中第3国市場協力フォーラム」で「中国は長らく日本のお手本だった」と、歯の浮くようなお世辞を述べた。これまで様々な国際会議で中国を、無法者国家のように非難してきたことを忘れたかのような発言である。
このことは今回の訪中の核心が「フォーラム」であったことを物語るものである。この場には日本企業からも多数が参加、両国の金融機関や総合商社により投資案件など52件の協力覚書が締結された。
これは「一帯一路」への日本の参入を促進するものであり、安倍政権が資本の要求に突き動かされた結果である。これを仕切ったのは経済産業省であり、「3原則」発言で右往左往する外務省を後目に官邸、政権内での存在感をアピールした。
一方、中国への大幅譲歩と受け取られないために、直後に来日したモディ首相を厚遇し、「一路」への対抗措置である「自由で開かれたインド太平洋構想」のアピールに努めた。
しかし中国はこの地域への経済、軍事面での影響力を拡大しており、安倍政権も挑発を続けている。9月中旬、海自潜水艦による南シナ海での訓練が突如公表された。これは海自の行動を官邸が追認したものと考えられるが、安倍が自分で述べた「3原則」に悖る行為であり、中国は警戒を強めるだろう。
安倍は対中国政策をいわゆる「先易後難」「先経後政」へと改めつつあるが、中途半端は否めず、このままでは米、印、豪との野合を画策したところで、この地域おいてもジリ貧になるのは必至である。
したがって、中国包囲網、帯路分離工作は放棄し、全面的融和を進めるべきだろうが、政権内、支持基盤からの反発も予想され、今回の幻の「3原則」発言もそうした矛盾を糊塗するためのものであったと考えられる。
しかし今後、経済協力と政治(軍事)対立がそれぞれ深化すればするほど権力内部の亀裂は深刻化し、安倍は窮地に立たされるだろう。

日露も行き詰まり
帰国した安倍は臨時国会での論戦を避けるように、11月14日から18日にわたり、シンガポール、オーストラリア及びパプアニューギニアの歴訪に出発した。
この間、ASEANやAPECなど様々な国際会議への出席や各国首脳との会談がセッティングされたが、それらはアリバイ作りとセレモニーに過ぎず、14日の日露首脳会談こそ真の目的であった。
シンガポールで行われた23回目の会談後、安倍は「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速化させる」ことで合意し「年明けにも訪露し会談を行う」と述べ、4島から2島への方針転換を明らかにした。
「2島返還論」は以前から水面下であったが、今回安倍はそれを浮上させ公的に認める方針転換を行ったのである。菅は15日の記者会見で「4島の帰属問題を解決し平和条約を締結する政府の立場に変更は無い」と釈明した。
しかし安倍は「私とプーチンでこの領土問題に終止符を打つ」と言っており、この間の文脈と2人の任期も勘案すると、歯舞、色丹返還は第1段階ではなく、領土問題の最終的な解決と言うことになる。
そもそも「共同宣言」は出発点であり、そこからどう前進させるかが求められていたはずであるが、突然それがゴールになってしまったのである。もし2島返還後に、国後、択捉の返還を求めれば、韓国を「『完全かつ最終的』『不可逆的』を反故にする」と非難する立場と矛盾することが判っているのだろうか。
しかし、15日プーチンは「56年の共同宣言には2島の帰属の問題は何も書かれていない」と発言した。このプーチンの見解は以前から明らかにされてきたのであるが、今回の会談に向けた事前折衝でそれが覆る見通しも無しに、安倍は会談に臨み、あたかも鬼の首を獲ったかのような発言をしたのである。
さらにプーチンは2島に米軍基地を置かないことを、日米政府が文書で確認することも求めていたことが明らかになった。これに対して安倍は北方4島の非武装地帯化を提起したと言うが、どちらの提案も論議を停滞させるものであり、駆け引きの材料にもならないだろう。
今回の首脳会談では平和条約、領土問題について譲歩したのにも関わらず、安倍は前進したかのような虚偽の説明を行ったのである。これは「退却」を「転進」と誤魔化した大本営発表より姑息である。
一昨年のプーチン来日前も2島返還確定のような情報が流されたが、来年6月の再来日(G20)を睨み、またしても楽観論が捏造され続けるだろう。

排外主義と決別を
安倍は第2次世界大戦の結果を覆し、戦後外交の総決算を言うのであれば、尖閣諸島問題を棚上げした日中平和条約、2島の帰属について曖昧にした日ソ共同宣言を見直すと表明すべきだろう。しかし、そうした外交を推進してきたのは歴代の自民党政権であり、その結果に責任を持たなければならない。
安倍が大好きであろう「西郷どん」では不平等条約の改定に苦悶する明治政府の姿が描かれた。時の力関係の下、不利な条件を飲まされた国がその是正を求めるのは当然であろう。
その意味で日韓基本条約の事実上の見直しを進める韓国の対応は当然である。一方安倍政権は、とりわけ対米関係に於いて、日米地位協定ひいては日米安保の見直しに背を向けている。さらには貿易問題に於いても「国益」を棄損する譲歩を重ねようとしている。
11月13日来日したペンスは安倍に対して貿易不均衡の是正を強く求めた。会談後の記者会見でペンスは「free trade agreement」と述べ、NHKは最初これをFTA(自由貿易協定)と報じた。しかし、直後に「先程の訳は誤りで正しくはTAG(物品貿易協定)です」とあからさまに捏造するという醜態を見せた。
こうした安倍の捏造政治は止まることなく、国会でも外国人労働者問題の受け入れは移民政策ではないと誤魔化し続けている。そのため、基本的人権が制約されたまま日本で就労すれば賃金、労働条件のみならず生活上の様々な問題が惹起することは火を見るより明らかである。
すでに実習生はそうした劣悪な条件下で労働を強いられているにも関わらず、法務省が調査結果を捏造し、審議を強行しようとしたことが明らかとなった。
この様に、安倍政権は内政、外交の諸問題において「不都合な真実」を隠蔽し、捏造を積み重ねながら、延命を図らんとしている。これに対して野党は徹底追及すべきであるが、この間ナショナリズム、排外主義に取り込まれ民主主義、人権擁護の観点からの論議が欠落している状況がある。
韓国最高裁の判決に対しては、野党はもちろんマスコミも「挙国一致」で批判を加えている。国家間の取り決めに、個人や司法が異を唱えることができないのであれば、辺野古基地建設反対も日米地位協定の改定も求めることが出来なくなる。この間の野党、マスコミの対応はダブルスタンダードであろう。
外国人労働者問題も、移民受け入れ、多文化社会の構築を前提としながら、政府案に対しては基本的人権、市民としての諸権利の欠落をもって反対すべきことを徹底しなければならない。
野党はこうしたスタンスに立たなければ、自ら政権延命に手を貸し、国会の大政翼賛会化への道を拓くことになるだろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.492 2018年11月

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【投稿】「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」に全面的に賛成する

【投稿】「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」に全面的に賛成する
福井 杉本達也
1 「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」を大歓迎する
シンガポールで開催された東アジア首脳会議を利用して、11月14日、安倍首相はロシアのプーチン大統領との会談後、日ロ平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約交渉を加速させることで一致したと語った。実に62年ぶりに日ロは第二次世界大戦後の世界秩序にようやく復帰することとなる。ありもしない、国際的にも通用しない「固有の領土」論という虚妄を繰り広げ、全く時間を無駄にしたものである。

2 「北方領土」問題はなかった
1945年8月、日本はポツダム宣言を受諾して連合国側に無条件降伏した。ポツダム宣言では「日本国の主権は本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に極限せらるべし」と書かれてある。これを受けた1951年のサンフランシスコ講和条約では「第二章(c)日本国は千島列島に対するすべての権利、請求権を放棄する」とうたっている。南千島などという言葉はどこにもない。同条約を批准するため国会が開催されたが、10月19日、衆議院での西村条約局長の国会答弁において、「条約にある千島の範囲については北千島、南千島両方を含むと考えております」と答えている。したがって、元々「北方領土」なる用語は国際的には存在しないのである。もし、日本の領土だとして要求するなら、第二次世界大戦の結果を認めず、サンフランシスコ講和条約を破棄し、ポツダム宣言を否定して連合国側ともう一度戦争しなければならない。馬鹿げた論理構成であり、子供にもわかる道理であり、報復論である。

3 「ダレスの恫喝」と千島列島の一部の虚妄な「返還」要求
1951年のサンフランシスコ講和条約には旧ソ連邦は参加していない。法的には日本とは依然戦争状態が継続していた。日ソ間で国交を回復し、日本人の抑留問題を解決し、国連への加盟を果たす必要に迫られていた。そこで、1955年から鳩山内閣において日ソ交渉が進められたが、米国側からの強い干渉があった。いわゆる「ダレスの恫喝」である。ダレス国務長官は重光外相に対し「もし日本が国後、択捉をソ連に帰属せしめたら、沖縄を米国の領土とする」と言ったのである。米国は日ソが急速に関係を改善することに強い警戒心を持っていた。「北方領土」問題を残すことによって日ソ関係の進展を拒もうとした。そのため、1956年10月、鳩山首相は平和条約の締結を諦め、「両国間に正常な外交関係が回復された後,平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。…歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし,これらの諸島は,日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。」という日ソ共同声明に署名したのである。
その後、米国の意向を反映して、日本政府はソ連との距離を置き始め、サンフランシスコ講和条約で放棄した千島の中には国後・択捉島は含まれないと主張し、今日に至った。

4 なぜ千島列島全体をソ連が占領したのか
そもそも、なぜ、ソ連が占領したのか。ルーズベルト米大統領は、第二次世界大戦末期に米国単独での日本占領は不可能だと考え、1943年のテヘラン会談でソ連の対日参戦をスターリンに強く求めた。ドイツの敗北が濃厚となった1945年2月の戦後処理のためのヤルタ会議において、「千島列島がソヴィエト連邦に引き渡されること」というヤルタ協定が結ばれ、同協定に基づき、ソ連は日ソ中立条約を破棄して8月8日に対日参戦した。これによって米国は膨大な兵力の損耗を避け得ると考えたのである。それがサンフランシスコ講和条約第二章における千島列島の放棄の条文につながっている。しかし、7月16日に米国はトリニティ原爆実験に成功すると単独で日本占領ができると考え始めた。その為、ソ連参戦直前の8月6日に広島に、9日には長崎に原爆を投下しソ連の対日参戦を牽制しようとしたのである。

5 日米地位協定を意識したプーチン
プーチン氏は共同宣言には「何を基礎に引当渡すのか」「どう引き渡すのか」も明記されていないと指摘。主権を含めて「真剣な検討」が必要との見解を示した。プーチン氏の危惧は日本が米国の従属下から少しでも離れて独自外交を貫けるかである。その試金石が「日米地位協定」である。1951年、ダレスは日本との講和にあたり「われわれの望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する、それが米国の目標である」との考えを示した。講和後67年たっても米軍が日本に駐留している。平時の主権国家のなかに他国の軍隊が多数駐留するとはいったいどういうことか。その答えは、日本は米国の「被占領地」か「植民地」ということにならざるを得ない。それを何とも思わないというところに「永続敗戦」があり、「辺野古」があり、沖縄の切り捨てがある。
11月16日の朝日新聞のトップ記事は「安倍晋三首相がプーチン大統領に対し、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞群島、色丹島が日本に引き渡された後でも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたことが分かった。」とし「日米安保条約と付随する日米地位協定は、米軍による日本の防衛義務を定め、米国は日本国内のどとにでも基地を置くことを求められると解されている」と解説している。ようやく少しずつ独自外交を始めたといえる。これまで政府は沖縄で殺人事件が起きようが、ヘリコプターが大学に墜落しようが、どんな問題が起ころうとも「日米地位協定」の改正を頑として拒否してきたが、今後は「日米地位協定」に踏み込まざるを得なくなる。

6 「拙速な転換は禍根残す」と対ロ交渉を牽制する朝日新聞
朝日新聞は11月16日の社説で「拙速な転換は禍根残す」とし、「平和条約を結べば、国際社会からどんな視線を受けるかも留意すべきだ」と牽制している。サンフランシスコ講和条約以降、日本は長々と領土ゲームの虚妄中で生き続けてきた。いかに国際社会の現実を見ないか、リアリズム・外交感覚の壮大な喪失である(進藤榮一『「日米基軸」幻想』)。プチーン政権は長大な国境線も持ち、アムール川の中州の小島で戦火を交えたこともある中国とも国境問題を解決してきた。唯一残るのは日本だけである。同紙の『耕論』においては東郷和彦元外務省欧亜局長は「今回が最後の機会です。ここでまた日本の腰が引けたら、ロシアはもう交渉のテーブルにもつかなくなるでしょう。そこまで日本が追い込まれていることを知ってもらいたいと思います。」と述べている。

7 輪をかけてリアリズム・外交感覚の欠落する立憲民主党と共産党
立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は「歯舞群島と色丹島が返還され、択捉島や国後島が棚上げにされる懸念もある。慎重に交渉してほしい」と指摘した(日経:2018.11.16)とし、4島返還という国際的にあり得ない虚妄をいまだに追いかける答弁に終始している。さらに輪をかけて歴史的現実を見ようとしないのが共産党であり、志位和夫委員長は11月15日の記者会見で、「2島先行返還」は「ありうる」としながらも、その際は「中間的な友好条約」を結ぶべきで、この段階での平和条約締結は「絶対やってはならない」と主張。平和条約を締結する際は、「全千島列島返還」を盛り込むべきだとした(J-CASTニュース2018.11.16)。講和条約後67年間も日本を占領し続けているのは米軍であり、その現実のとして横田空域があり、沖縄があり、「辺野古」の問題がある。一方、千島列島は第二次世界大戦の日本の侵略戦争の結果として国際的にソ連(ロシア)に引き渡されたのである。「辺野古」移設反対を叫びつつ、一方では「4島返還」を唱えるのは全くの外交的無知以外のなにものでもない。野党の根本的欠陥は外交リアリズムが全くないことである。この期に及んでも「永続敗戦」にどっぷりつかって際限のない対米従属を見直さず、対米独自外交を模索しないようではあまりに不甲斐ない。政策能力が問われる。まだ、ジャパンハンドラーの子飼いといわれる長島昭久衆院議員の方が「1993年の東京宣言よりも後退したとの批判はあり得るが、当時のロシアは…藁をも掴む窮状だったことを想起すべき。現状とは全く異なる」(同J=CASY)と理解を示している。

8 トランプ政権の「米国第一」で始まった対米独自外交
なぜ、今、安倍政権の対米独自外交が恐るおそるも始まったのか。それはトランプ政権が「米国第一」を掲げてこれまでの「同盟国」(従属国)を切り捨て始めたからである。11月13日、ペンス副大統領が来日したが、安倍政権がTAGと呼ぼうが何と呼ぼうが、トランプ政権は来年に始まる貿易交渉を包括的な自由貿易協定(FTA)の締結に照準を合わせていることを鮮明にした(福井:2018.11.14)。しかもサービス分野も交渉の対象とするということであり、このまま従順な植民地にとどまれば、日本は米国に収奪される一方となる。日本人が汗水たらした富は一方的に米国に持っていかれることになりかねない。そのため安倍政権は10月26日には習近平氏との首脳会談を行い、対中接近を図ったのである。日経はそれを「冷戦が終結し、米国の1強時代が終わった今、従来の米国追従は万能な解とは言えなくなった。」(2018.11.27)と解説している。
6月に行われた米朝首脳会談以降、極東の情勢は急激に変わりつつある。いつまでも外務省のような冷戦=「日米同盟のさらなる強化」を唱えていたのでは日本は自滅するのみである。韓国の文政権のように北朝鮮と米国・北朝鮮と中国・中国と米国を結ぶ、ロシアと韓国が交渉するといった立ち回りが要求されている。近い将来、韓国から在韓米軍が撤退するということもありうる。そうした場合、駐留米軍はどうするのか。いやでも考えざるを得なくなる。もし、朝鮮半島が非核化されるならば、朝鮮半島を経由してシベリア鉄道を通じて欧州への輸送・シベリアからのガス・石油パイプラインの日本までの敷設も考えられる。また、ロシアとの平和条約が結ばれれば、サハリンから北海道への石油・ガスパイプラインや電力網の敷設も考えられる。そうなれば日本はエネルギー的にも安定する。下らない、しかも危険すぎる核開発を考える必要性もなくなる。米国抜きではないが、ロ・中・北朝鮮・韓国・ASEANという広域圏で大きな絵を描く時期に来ている。

【出典】 アサート No.492 2018年11月

カテゴリー: 平和, 政治, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】米中間選挙の結果が提起したもの 統一戦線論(54)

【投稿】米中間選挙の結果が提起したもの 統一戦線論(54)

<<トランプ氏の「とてつもない」敗北>>
この11月6日の2018年米中間選挙の結果について、トランプ大統領は大勢が判明した6日夜、「我々の大きな勝利について、もう、たくさんのお祝いをもらった」、「今夜はとてつもない成功だ。みんなありがとう!」とツイッターに投稿した。まったくの「負け惜しみ」で強がりでしかない。現実の結果に驚き、怯えてしまった投稿とも言えよう。
この「中間選挙」は、4年ごとに実施される大統領選の中間の年に、上下両院の議員、州知事、地方議員などを一斉に決める選挙である。任期2年の下院は、全議席(435議席)が改選される。任期6年の上院は、2年ごとに定数100のうち3分の1ずつが改選される。今回の中間選挙では、補欠選挙の2議席を含め35議席が争われた。選挙前の議席数は、下院が共和235、民主193、欠員7、上院が共和51、民主49であった。上院選挙ではこの内、共和42、、民主23議席は非改選で、35議席が争われたのである。したがって上院では、民主党が上院で過半数を確保するためには、35選挙区中28選挙区以上での勝利が必要なのに対して、逆に与党・共和党は42議席が非改選であるため35選挙区中9選挙区で勝てば51議席、過半数を確保できる、楽勝の選挙戦であったはずである。
上院では、共和党がようやっとのことで9議席、51議席の過半数を確保したものの、民主党は47議席を確保、共和党は、2016年大統領選でトランプ候補が勝利したウェストバージニアはじめ少なくとも5州以上で民主党候補に議席を奪われている。上院で勝利したというが、実態は敗北なのである。
一方、下院では、民主党は前回より最低でも35議席増、最終的には40議席近くまで上積みするとみられている。これは同党にとって、1973年以来、中間選挙としては45年ぶりの大躍進である。ニューヨーク・タイムズ紙の分析によると、全体の21%にあたる317地区が今回、共和党から民主党支持へと入れ替わったという。
トランプ氏は中間選挙を自分自身の信任投票と位置づけ、「私が投票用紙に載っていると考えて投票して欲しい」と訴えた。その効果あってか、逆効果なのか、今回の中間選挙の投票率は49.2%、前回2014年の36.7%より12ポイント以上も増加、中間選挙としては約50年ぶりの高水準、米史上最大の増加率となったのである。接戦州ばかりか、「無風」といわれる州でも、投票率が上昇した。その結果、トランプ氏の与党・共和党は、都市部で下院議席が一つも獲得できず、野党・民主党が30議席以上を取り返して下院の過半数以上を民主党に譲り渡してしまったのである。与党・共和党にとっては「大きな勝利」どころか、「とてつもない」敗北であり、トランプ氏は、手厳しい審判を受けたのである。

<<カギとなったのは、女性と若者と非白人有権者>>
そのカギとなったのは、女性と若者と非白人有権者の投票率の記録的な上昇である。ニューヨークの独立放送局デモクラシー・ナウ(DemocracyNow 2018/11/6)は、「今回の中間選挙は、連邦議会の上下両院と36州の知事選の結果によって、ドナルド・トランプ政権に対する国民による審判が示されると考えられています。実際には、すでに記録的な3600万人の米国人が期日前投票をし、中でも若者と有色人種の間で高い投票率が見られています。これは4年前の2700万人からの増加で、多くの人々はこの結果から、中間選挙での記録的な投票率を予測しています。いつもなら中間選挙には行かないような多くの人々が投票所に向かうのを目撃しています。なぜなら彼らは今回の選挙が非常に重要だと信じているからです」と報じている。これら圧倒的多数、99%を代表する多くの人々が、トランプ大統領の女性差別発言、移民蔑視政策、暴力的分断政策、銃政策、医療保険政策、大金持ち優遇の税政策、環境政策、規制緩和政策、独善的な政治手法などをめぐって、例年以上に大挙して選挙権を行使したことが民主党躍進の原動力となったのである。
とりわけ重要になったのが女性有権者の動向であった。それは、「今回女性の投票先では民主が共和を19ポイント上回っており、16年の大統領選(13ポイント)よりその傾向は強まっている。有権者が投票で一番重視した問題は、医療(41%)、移民(23%)、経済(22%)、銃政策(10%)の順で多かったが、投票した政党別に見ると、移民、経済と答えた人の6~7割は共和に投票。一方、医療、銃政策と答えた人の7割は民主に投票していた。「公職に少数人種の人を増やすことは重要か」との問いに「重要」と答えた人の6割が民主、「重要ではない」と答えた人の8割が共和に投票。女性が公職に就く重要性についての問いも同様の傾向が出た」(11/17 朝日新聞)、という結果に示されている。
この結果、民主党の女性候補が下院の奪還と7州の知事選勝利に貢献し、米国史上初めて女性下院議員の数が100人を超え(改選前85)、これも史上初めて、先住民女性2人とムスリム女性2人が当選を果たしたのである。これまでにイスラム教徒の下院議員は男性が2人いるが、女性は初めてである。
さらに付け加えなければならないのは、高年齢層の有権者においても今回、13ポイント以上、民主党支持が共和党を上回っていたという世論調査の結果である。「彼らは、富裕層への2兆ドルの減税の一方で、メディケアから5000億ドル、メディケイドから1兆5000億ドルを削減することを提案した下院共和党の予算を忘れることはない。高齢者が共和党を大いに拒絶したのである。」(11/13、米ネット誌Common Dreams)

<<「私たちの革命(Our Revolution)」>>
かくして民主党は下院で主導権を獲得することができ、下院トップのペロシ民主党院内総務は11/7の記者会見で「女性が民主党を勝利に導いた。30人以上の新人の女性が議員になるなんて、わくわくする」と述べた。しかし同時に、下院でトランプ政権の政策を阻止できるようになり、大統領を弾劾できる権利も獲得したにもかかわらず、「政権監視の役割を果たす」が、同時にトランプ大統領と融和・協力する意向を示している。ペロシ氏は、「ユニバーサル・ヘルスケア(すべての人のための医療保険)」支持を一貫して拒否しており、国防予算の大幅な増加を常に支持してきた民主党既成指導部の強固な砦であり、民主党が共和党のように行動する砦なのである。
「わくわくする」新人女性議員たちは、まさにこのような民主党既成指導部とも闘ってきたのである。彼女たちを押し上げ、民主党既成指導部に連なる候補者を破り、下から突き上げ、盛り上げた運動と組織、重層的で社会的なパワーの質と多様性こそが、トランプに対する闘いでの勝利を導いたのである。
その象徴的存在として、「ニューヨーク州14区」で当選したオカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio -Cortez)が、しばしば取り上げられている。彼女は、プエルトリコ出身の母親とサウスブロンクス生まれの父親を持つ28歳の女性で、下院議員として史上最年少の当選者である。2016年の大統領選ではバーニー・サンダース上院議員の選挙スタッフとして働き、その後もサンダース氏が提唱した「私たちの革命(Our Revolution)」のメンバーとして活動し、同時に「民主主義的社会主義者(Democratic Socialists of America DSA)」のメンバーであることを明らかにしている。DSAが提起したカレッジ・フォー・オール(すべての人のための大学)、すべての人の平等な権利、労働運動の活性化をめざした闘い、そして彼らが提起していたユニバーサル・ヘルスケアや単一支払者制度(連邦政府が徴収した税金ですべての医療費をまかなう制度)への移行といった政策要求は、共和党支持者の52%がこれらに賛成票を投じるまでになったのである。
そのDSAの執行部(NPC=全国政治委員会)が11/7に声明を発表している。声明は、「昨日、民主主義的社会主義者たちは全国で活発な選挙戦を闘って勝利し、アメリカ社会主義運動が何世代もの後退ののち再生したことを示した。最も有意義なのは、DSAメンバーであるアレクサンドリア・オカシオコルテス(ニューヨーク州)とラシダ・トライブ(ミシガン州)が正式に下院議員に選出されたこと、そしてサマー・リーやガブリエル・アセベロ、マイク・シルベスターなど多くのDSA支援候補が社会正義を求める労働者階級の運動の先頭に立って劇的に勝利したことです。民主党指導部は真剣に反対運動に取り組む能力も意思もなかったのです。復活した左翼のこれらの勝利は、まだ始まりにしかすぎません。私たちの社会を平等で人間的で公正なものに変える真の仕事は、何年もの組織化と教育を必要とするでしょう。私たちが直面する障害はまだまだ巨大なのです。」「これらの候補者のそれぞれは、企業の支援を受けた共和党や民主党の既成指導部に対抗し、緊縮と抑圧政策を終わらせ勇気づける政策綱領を掲げて闘ってきたのです。労働者階級の大多数のための運動だけが、裕福な少数者ではなく多数者のための世界をかちとることができるのです。」と訴えている。これらが総体として「私たちの革命(Our Revolution)」運動となったと言えよう。

<<問われる「市民と野党の共闘」>>
さて果たして日本の野党共闘に、あるいは統一戦線形成の闘いの中に、若者や女性、非正規労働者や高齢者、様々な被抑圧者を鼓舞する、このような「私たちの革命」と呼べるような運動が存在するであろうか。
11/16、来年の参院選で安倍政権打倒の市民と野党の共闘の本格化に向け、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)と野党との意見交換会が行われ、初めて国民民主党が参加し、共産党、立憲民主党、無所属の会、自由党、社民党の5野党・1会派の書記局長・幹事長と国対委員長が一堂に会した。市民連合世話人の山口二郎法政大学教授が「いまは参院選の1人区で野党協力を行うことは共通の了解事項になっている」と指摘。山口氏は「私たちは野党の協力の機運を高め、共通して掲げるべき政策を議論し、野党と政策合意を結び共通の旗印としたい」と述べたのである。しかしこれに対し、共産党の小池晃書記局長は、相互推薦、相互支援など党の方針を示し、同時にどの党も「5野党1会派がまとまることが重要だ」と強調はした。相互推薦、相互支援などを共に戦うことの条件にすること自体がおかしいのであるが、とにもかくにも「5野党1会派がまとまること」、それはそれで前進ではあろう。しかしその場で自由党の森ゆうこ幹事長が、6月の新潟県知事選での敗北にふれ「なんとなくの連携では勝利をつかめない。争点を掲げ、結束してたたかうことが必要だ」と強調したが、その重要性に対して一向にそれに応える具体化が見えてこないのである。
地域に根ざさないトップだけの「市民と野党の共闘」、「なんとなくの連携」、どのような政策・政権構想を掲げて自民党と対決するのか、それさえ不明確で、不明瞭なまま時間を経過させ、熱意も希望も覚悟も感じられない「堂々巡り」、その間、それぞれの党派がそれぞれの党勢拡大にいそしむ、直前まで来なければまとまらない候補者の一本化協議、これでは先が思いやられるばかりであろう。
米中間選挙の結果が提起したものは、そのような状況を打破する下からの突き上げ、それを可能とする運動と組織、広範かつ重層的で社会的なパワーの結集こそが求められているということであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.492 2018年11月

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【書評】『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』

【書評】『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』
(吉田裕、中公新書2465、2017年12月発行、820円+税)

本書の終章に次のような指摘がある。
1990年前後から「およそ非現実的で戦場の現実とかけ離れた戦争観が台頭してきた」、「もしミッドウェー海戦で日本海軍が勝利していたら」などの「イフ」を設定し、実際の戦局の展開とは異なるアジア・太平洋戦争を描く「仮想戦記」などである。このブームはしばらくして退潮するが、近年また「日本礼賛本」、「日本礼賛番組」が目立ち始めている。軍事の分野では「日本軍礼賛本」—-井上和彦『大東亜戦争秘録 日本軍はこんなにつよかった!』(2016年)などが出ている、と。
本書は、このような風潮に対して、実証的でクールな歴史学の目で、「死の現場」での「兵士の目線」で、「帝国陸海軍の軍事的特性」との関連で、アジア・太平洋戦争における日本軍兵士を分析の対象にする。
まず、開戦後の戦局を、【第一期】(日本軍の戦略的攻勢期)1941年12月~42年5月、【第二期】(戦略的対峙期)42年6月(ミッドウェー海戦直後)~43年2月、【第三期】(米軍の戦略的攻勢期・日本軍の戦略的守勢期)43年3月(ガダルカナル島撤退直後)~44年7月、【第四期】(絶望的抗戦期)44年8月(サイパン島、グアム・テニアン両島全滅直後)~45年8月、に区分し、それぞれの戦局の特徴を述べるが、ほぼ妥当な区分であろう。
さて「日本政府によれば、1941年12月に始まるアジア・太平洋戦争の日本人戦没者数は、日中戦争も含めて、軍人・軍属が約230万人、外地の一般邦人が約30万人、空襲などによる日本国内の戦災死没者が約50万人、合計約310万人である」とされている。
ところがここで本書は、「この310万人の戦没者の大部分がサイパン島陥落後の絶望抗戦期(【第四期】・・・引用者)の戦没者だと考えられる」と意表を突く指摘をする。そしてその根拠は次の通りであるとする。
「実は日本政府は年次別の戦没者数を公表していない」。また新聞社からの問い合わせに対しても、そのようなデータは集計していないと回答しており、各都道府県も、戦死者の年ごとの推移は持っていないということであった。ただ唯一、岩手県のみが年次別の陸海軍の戦死者数を公表していた。そこでこれを参考資料にして、1944年1月1日以降の戦死者のパーセンテージを出すと、87.6%という数字が得られるのである。
「この数字を軍人・軍属の総戦没者数230万人に当てはめてみると、1944年1月1日以降の戦没者は約201万人になる。民間人の戦没者数約80万人の大部分は戦局の推移をみれば絶望的抗戦期のものである。これを加算すると1944年以降の軍人・軍属、一般民間人の戦没者数は281万人であり、全戦没者のなかで1944年以降の戦没者が占める割合は実に91%に達する」。
まさしく驚くべき数字であり、アジア・太平洋戦争での戦没者に対してわれわれが持ってきた記憶を揺るがすほどのものであろう。本書はこれについて、「日本政府、軍部、そして昭和天皇を中心にした宮中グループの戦争終結決意が遅れたため、このような悲劇がもたらされたのである」と厳しく批判する。さらに本書はこの数字のうち、戦病死者の割合が異常に高いという事実が存在し、これと密接な関係がある餓死者も高率であったと推定せざるを得ないとする。
本書は、一方で、このような数字を生み出した帝国陸海軍の軍事思想—-短期決戦、作戦至上主義、極端な精神主義、米英軍への過小評価等を検討するとともに、他方で、前線に送られた兵士たちの戦争栄養失調症、精神神経症、海没死者、自殺と戦場での「処置」という名の殺害、教育としての「刺突」、覚醒剤(ヒロポン)の多用等の問題を解明していく。本書でそれらの詳細と兵士たちの置かれた具体的で凄惨な状況に注視されたい。
この意味で本書は、「日本軍礼賛本」に流れている「日本軍の戦闘力に対する過大評価とある種の思い入れ」—-「日本は戦争に負けても戦艦大和は世界一」的な風潮など—-への反論として、有効で説得的な書であると言えよう。(R)
追記:例えば、「日本軍礼賛本」で米軍に対して勇敢で頑強に戦った例として取り上げられるのがペリリュー島の防衛戦(1944年9月15日~11月24日)である。確かに、ペリリュー島の戦闘ではそれまでの水際撃滅作戦の失敗から学び、堅固な陣地や洞窟に立てこもって粘り強く反撃した結果、2ヶ月間にわたって持ちこたえた。しかしこの戦闘での日本軍の戦死者は、約1万22人、戦傷者は446人(捕虜となった者を含む)であるのに対して、米軍の戦死者は1950人、戦傷8516人であり、しかもその損害の38%は上陸作戦と戦略的目標とされた飛行場制圧作戦期間(上陸後1週間)のものである。さらに日本軍戦没者の中には、545人の朝鮮人軍属が含まれている。これらの客観的事実を踏まえない限り、ペリリュー島の「死の現場」はとらえられないのではないか。
このペリリュー島の戦闘に関しては、米軍との戦闘よりも飢餓と「渇き」という無残な死に直面した日本軍兵士の状況を描いたコミックの作品に、武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(2016年~、現在第5巻まで)がある。こちらにも目を通していただきたい。

【出典】 アサート No.492 2018年11月

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【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣

【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣
-総裁選、沖縄知事選で既に1アウト状態-

暑く長い9月終わる
9月20日行われた自民党総裁選は、安倍が3選を果たしたものの、石破の予想外の善戦により圧勝の目論見は崩れた格好となった。
国会議員票は安倍329票、石破73票と圧倒したが、それでも20票程度の「造反」が発生し、党員票に至っては224対181と石破に45%が集中した。
2012年の総裁選では「新人」同志の闘いであったため、党員票は石破が上回ったが、2015年には他者の立候補を許さないまでに、安倍の権力基盤は強固になったかに見えた。
しかし3年の間に森友、加計事件に代表される、腐敗堕落した政権の体質が露わになり支持率は低迷、経済政策でも地方、庶民置き去りのアベノミクスの本質が明らかとなって、党員の不満は鬱積していた。
大阪では安倍11813対石破7620と勝利したものの、地方議員の2連ポスターから、安倍の顔が消えると言う事態が現れている。大阪では安倍支持と維新支持が重なっており、旧来の自民党員は憂いているのが実情である。
沖縄でも安倍1753対石破1086であったが、投票率は38,94%と平均の61,74%を大きく下回り全国最低(全国最高は鳥取の83,38%)となり、故翁長知事を支持した保守層の自民離れと極右・カルト支配が露呈し、10日後に行われた知事選の結果に大きな影響を与えた。
安倍は開票後の記者会見で「党員票は前回の2,5倍だ」と虚勢を張った。しかし現職総裁が、災害対応を始めとする総理としての公務を蔑ろにしながら、恫喝、締め付けをなどなりふり構わない選挙戦を展開したにもかかわらず、圧勝できなかったことは「民意に対する敗北」と言っても過言ではない。
この結果にから目を背けるように、9月23日安倍は訪米の途に就いたが、本来なら総裁選勝利の余勢をかって、沖縄知事選の応援に駆け付けるべきであった。
しかし知事選は菅に丸投げ状態であり、6月23日の沖縄戦戦没者追悼式以降、訪れることはなかった。この時も安倍は県民から怒号を浴びたが、知事選で応援に入ればより厳しい批判を受けることに怖気づいたのだろう。
各種世論調査では「玉城リード」であり「捨てた」との評価もあるが、「僅差」「佐喜真が追い上げ」という状況の中、21日には鈴木宗男や「北海道女将の会」と面談する暇はあったのである。
「汚れ役」を引き受けた形となった菅は再三沖縄入りし、表では「携帯通話料4割値下げ」と低次元の利益誘導を行い、裏では建設業界、各種団体の引き締めに血道をあげた。
9月16日には「総裁選を忘れるぐらい」とアピールし、同行した小泉進次郎を前面に押し出したが、効果は無く来沖するたびに票を減らしたのではないか。同日引退した安室奈美恵の「翁長知事の遺志を受け継ぎ」という言葉の前には、耐えられない軽さとして空虚に響くのみであったと言える。
菅は17日には「沖縄に吹いている(政権からの)大きな追い風を受け止めのるは佐喜真」と石垣島で絶叫したが、相次ぐ大型台風の前ではシャレにもならなかった。
その台風24号の被災が続くなか行われた知事選の投票率は、63,24%と前回比-0,89ポイントの微減にとどまった。災害対応に追われつつ投票所に足を運んだ沖縄県民に敬意を表さなければならない。
台風、地震、厳しい残暑と相次ぐ天変地異に見舞われた今年の9月は、自民党総裁選の辛勝、沖縄知事選の大敗と安倍にとっては、寒風吹きすさび身も凍る最後で終わったのである。

アメリカでも寒風
総裁選の結果に落胆し沖縄知事選の展望も見えないまま、気も漫ろの状況で訪米した安倍を待っていたのは、トランプからの猛吹雪のお見舞いだった。
23日に行われた非公式の夕食会で、トランプはいきなり通商問題を切り出した。日本側は本格議論は26日の首脳会談で行う考えだったが、冒頭からアメリカのペースに乗せられた格好となった。
シナリオが突然変わったため、24日午後に予定されていた日米閣僚級貿易協議は先送りとなり、アメリカ側がより強硬に対日貿易赤字の削減を求めてくることが必至となった。
予想通り25日の茂木-ライトハイザー会談で日本側は、アメリカに2国間通商協議の開始を迫られ拒絶しきれなくなった。窮地に立った日本政府は苦肉の策として「日米物品貿易協定(TAG)」という新なスキームを編み出し、これは関税問題に限定した内容で、包括的なFTAとは違うものとして26日の首脳会談で合意したのである。
首脳会談での日米共同声明について日本側は、農業分野の対米関税はTPPの水準以下に引き下げないとする日本の立場をアメリカは尊重する。協議中は日本車、部品への追加関税措置などは行わない、などと日本の主張が認められたかのような説明を行った。
安倍も現地での記者会見でTAGについて納得のいく説明を避け、話を内閣改造と党役員人事にそらし、翌27日午前、逃げるように政府専用機に乗り込んで帰国した。
訪米中安倍は、9月18~20日に行われた南北首脳会談の成果を踏まえ、韓、米首脳との会談で北朝鮮問題に関する成果を得ようとしたが叶わなかった。文在寅からは「金正恩は適切な時期に日本と対話の用意があると言っていた」と伝えられたが、それが何時なのかなど具体的な提示は無かった。
トランプとの会談でも拉致、ミサイル問題は貿易協議によって、脇に追いやられた形となったのである。今回はさすがにゴルフをする余裕もなかった様だが、コースに出た場合、厳しいアゲインストに見舞われる中、今度は自ら池に落ちるぐらいのパフォーマンスが必要だったであろう。
10月に入り弥縫策ははやくも綻びだした。1日アメリカ政府は、メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直しで、新協定に為替条項が導入されたことを明らかにした。
そして13日にはムニューシン財務長官が日本との2国間交渉でも、為替条項の導入を求めていくことを明らかにした。これに対して茂木は14日のNHK「日曜討論」で為替の話は入っていないとしながら、「為替問題は財務大臣同士の話」と、麻生にお鉢を回し逃げをうった。
4日にはパーデュー農務長官が農産物の関税について、日本側にTPPの水準を上回る引き下げを求めていくと表明するなど、日米の認識の違いが次々と明らかになり、TAGの実態が暴かれてきたのである。
国内でも10日には国民民主党の玉木代表が「TAGは政府が意図的に誤訳し捏造した」と指摘、立憲民主党や共産党も追及していく構えを見せており、臨時国会の重要な論点となる。
安倍は常日頃、薩長政権を憧憬しているが、日本政府の対応はアメリカの開国要求に対する徳川幕府の狼狽ぶりと同様である。自民党も「押し付け協定」には断固反対すべきであろう。

スリーアウトを目指して
沖縄知事選敗北の衝撃も冷めやらぬ中、10月2日第4次安倍改造内閣が発足した。麻生、河野、世耕と公明党の石井らを留任させ、後は派閥均衡の結果、74歳の原田環境相など12人が初入閣すると言う、当初から勢いに欠ける布陣となった。
また党人事でも、不祥事で表舞台から消えていた甘利や稲田を復権させるなど、相変わらずの側近政治を性懲りもなく続けている。
組閣直後の報道各社の世論調査では、内閣支持率は上向かず、総裁3選と内閣改造による政権浮揚効果は無かったことが明らかとなった。そればかりか早速、片山さつきが安倍の期待通り、2人分3人分のマイナスパワーを発揮するなど、新任閣僚による問題発言、不祥事が相次ぐ事態となっている。
「在庫一掃内閣」「閉店セール内閣」と揶揄される改造内閣であるが、店先に並べた商品から不良品が続出したのである。
新内閣が出だしから躓く中、安倍は10月15日、来年10月の消費税引き上げを明言した。今回は「リーマンショック並み」云々との前提条件を付けず、自ら退路を断った形となった。
昨年の総選挙における、増税分を教育無償化などの財源とすると言う、その場しのぎの公約のツケが回ってきたのである。安倍は漫然とリフレ政策を続けてきたが一向に効果が表れず、ここに来て白旗を掲げることとなった。
安倍は全世代型の社会保障を充実させると言いながら実際は、年金支給開始年齢の引き上げ、そのための「70歳定年制」導入、医療、介護保険料、負担割合の引き上げなど高齢者の負担を増大し、社会保障政策の破綻を糊塗しようとしているのである。
政府は増税の負担軽減策として、中小小売業でのキャッシュレス決済に限った2%の1年限定のポイント還元などを検討している。しかし個人店舗の経営者や客層を鑑みるなら、このような姑息な手法では焼け石に水となるのは明らかである。
10月24日から始まった臨時国会で野党は、暴投を連発する「全員野球内閣」への追及を強めるとともに、経済、社会保障政策の対案を提示し、安易な消費増税を追及しなければならない。
さらに、外交、安全保障についても日米通商問題を筆頭に、韓国、ロシア、北朝鮮との関係改善が停滞している。安倍は中国との関係改善に活路を見出そうとしているが、対中軍拡、挑発行為は継続しており、26日の首脳会談でも領土、歴史問題の具体的進展は無かった。日本の孤立化を阻止するため、安倍外交の総決算が求められている。
沖縄に対しても12日の玉城新知事との会談から5日後に、県の辺野古埋め立て承認撤回に対する対抗措置を強行するなど、知事選の意趣返しともいうべき対応を進めている。
強硬姿勢を変えない安倍政権であるが、総裁選、沖縄知事選の打撃で既に1アウト状態と言ってもよいだろう。安倍は起死回生策として、三度増税を延期するのではないかとの観測も流れているが、来年の統一自治体選挙で2アウト、そして参議院選挙で3アウトをとり、チェンジさせなければならないのである。

【出典】 アサート No.491 2018年10月

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【投稿】新たな世界の支配者・軍事―デジタル複合企業と情報操作

【投稿】新たな世界の支配者・軍事―デジタル複合企業と情報操作
福井 杉本達也

1 沖縄県知事選での恐るべき情報操作
9月30日に行われた沖縄知事選挙は玉城デニー氏の圧勝であった。しかし、その裏で政府・与党は“植民地”の知事選に露骨に介入した。『週刊ダイヤモンド』(2018.10.13)は、介入の一端を、創価学会と与党・公明党の沖縄知事選への組織選挙という視点から「全国から5000人もの会員が現地入りしたとされる。期日前投票者数は過去最高の40万人超に上り、全有権者の35%に達した。選挙当日の台風襲来の影響もあるだろうが、前述したように学会の動員力もその押し上げに一役買っているだろう。重要な選挙に選挙区外の会員が動員されるケースは、都議選挙などでもよく見られる光景だ。」としつつ、「公明党はこうした学会員の涙ぐましい努力により支えられているわけだが…総力を挙げた沖縄県知事選でも敗北した。」と書いた。沖縄に居住しない、何のつてもない者が県民に投票を依頼しても聞く耳を持つ者などいない。翁長前知事の死去により若干選挙が早くなったといはいえ、知事選の日程はほぼ決められていた。国政選挙や重要な地方選もない時期は沖縄に集中できる。知事選の前に住民票を移動し選挙人名簿に登録されれば投票できる。5000人は事実上の与党推薦候補への上乗せである。そのため執拗に「期日前投票」が呼びかけられた。それでも、県民を裏切った佐喜真陣営は劣勢であった。
そこで、与党は劣勢を挽回しようと悪あがきでニセの情勢調査をメディアに流し、メディアはそれに忠実に従った。「選挙結果は、事前のメディアの接戦報道とは異なり、玉城氏が圧勝する結果となった。…『中立的なメディアの世論調査では、当初から知名度のある玉城氏がダブルスコアでリードし、その後も常にリードしていました。ですが与党側は、劣勢を少しでもはね返そうと、メディアに対するリークなども見られましたね』…与党側は、与党独自の世論調査の結果として、最初が10ポイント差、1週間前が5ポイント差、5日前が3ポイント差、3日前が1ポイント差と、佐喜真氏が玉城氏を徐々に追い上げつつあるかのような数字を意図的に流布させていた。またそれだけに限らず、『出口調査では玉城氏と回答しつつ、実際には佐喜真氏に投票する隠れ佐喜真支持者が多い』という情報までも流されていたという。現実には、佐喜真氏の追い上げがあったものの、玉城氏は10%前後のリードを最後まで確保していたようだが、メディアのなかには、こうした情報戦の影響を受けて佐喜真氏の勝利を予測していた社すらあった。」(yahoo=「ダイヤモンド・オンライン」2018.10.7)と書いている。つまり、メディアの多くが与党の情報操作に全面的に協力したのである。
出口調査の結果から、朝日系TVでは開票が始まった20時3分には早々と玉城氏の「当確」を出し、田原総一郎が知事選を振り返っての解説を始めた。しかし、NHKは21時30分頃まで「当確」を出さなかった。その間、台風情報のみを放送し、一切沖縄県知事選に触れることはなかった。あたかも、沖縄県知事選はなかったかような報道姿勢であった。「マスコミは出口調査をもとに『公明党支持者の4人に1人(25%)が玉城に投票した』と報道した。だが学会員歴30年を超すベテラン学会員は、『玉城に流れた票は30~40%』と見る。」(田中龍作ジャーナル:2018.10.14)。当選後、TVに大写しされた玉城氏の後ろで学会の三色旗がはためいていた。

2 トランプ大統領とメディアとの大バトル
米ニューヨーク・タイムズ紙電子版は9月5日、 トランプ大統領の振る舞いを「健全な国家にとって有害」と断じる匿名の政府高官による異例の寄稿を掲載した。問題の根源は「大統領の道徳観の欠如」にあるとし、「トランプ氏には意思決定で確固たる信念がない。外交面で米国と価値観を共有する同盟国よりも、ロシアのプーチン大統領や北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長のような『独裁者』を好む傾向がある。…憲法規定に沿い、大統領を強制的に排除する可能性もささやかれたこともある」と書いた(福井=共同:2018.9.7)。これに対し、トランプ氏は6日、政権内部の隠れた「ディープ・ステート(闇の政府)」が自身を倒すためにメディアにリークしているという陰謀論を主張した(東京:2018.9.7)。
ワシントン・ポスト紙もトランプ大統領に批判的だ。同紙を保有するのはアマゾンのCEOであるジェフ・ベゾス氏である。トランプ氏はアマゾンが不当な低料金を強いて米郵政公社の雇用を奪っていると攻撃している。これに対し、ベゾフ氏は「メディアをならず者や国民の敵と呼ぶのは危険だ」(日経:2018.9.15)とトランプ氏批判を強めている。アマゾンの時価総額はアップルに次ぎ2位の1兆ドル、ベゾフ氏の世界長者番付はマイクロソフトのビル・ゲイツ氏を抜きトップに立った。

3 巨大ハイテク企業は新たな世界の支配者
ベゾフ氏のアマゾンを始め、巨大ハイテク企業であるGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)は、新たな世界の支配者である。彼らの富はどこから来たのか。ノム・チョムスキーは「彼らはインターネット、コンピューター、人工衛星などに頼っているが、これらを開発したのは大学の研究所や政府の研究機関だ。これらの技術は30年ほど公共部門で育ててから、民間に公開されていた。…税金を使うなら、ベンタゴン(国防総省)経由が最も簡単な方法だ。…GAFAも他の大企業同様にこのシステムに寄生している。米国は複雑な国家資本主義制度を採用している。」(『週刊ダイヤモンド』2018.9.29)。と述べている。
8月、フェイスブック・アップル・グーグル等はプラットフォームの所有者として“悪意に満ちている”と見なす“間違った記事”を広めているとして、著名ジャーナリストのアレックス・ジョーンズ氏とウェブサイトをサービスから排除した。これらの検索エンジンは公共的議論から保守的な世界観を検閲するための取り組みを始めた。現代版の焚書坑儒である。ジョーンズ氏は2016年の大統領選挙運動では、トランプ氏を強く支持していた。(「アレックス・ジョーンズ粛清:2018年中間選挙に干渉するアメリカ巨大ハイテク企業」『マスコミに載らない海外記事』:2018.8.11)米国を始め欧米諸国では民衆を力づくに制御することは難しい。別の方法が必要である。その中で生まれたのが巨大ハイテク企業である。「その使命は人々の態度や意見を操作すること」(チョムスキー:「『ほんとうの自由』のために闘う」『世界』:2014.6)にある。

4 軍事―デジタル複合企業GAFAの役割とスノーデンの警告
エドワード・スノーデン氏の警告によれば、米国では“模範的”“愛国的”市民が集中的な監視対象になり、調査報道ジャーナリストたちが“国家の脅威”としてリストに上がっている。大量監視は国民の安全ではなく、グローバルな支配体制を守るために、すべての個人を“容疑者”として見張ることである。「情報通信産業は利益の追求という『経済的インセンティブ』に突き動かされながら、いまや世界の軍産複合体の中心部で、この広範な戦争と支配の構造を下支えしている」。日本政府は米国の監視システムによって監視されながら、一方では忠実な下僕として、日本人の通信データを米国に横流している。強権発動をするまでもなく、「報道の『不自由』が日本のメディアに蔓延し、日本の報道関係者はネット上の流動的、断片的な情報から内向きに聞こえのよいもの、効率よくニュースにできるものを選択する『不自由』に慣れ、日本人の世界を理解する力を深刻に低下させている。」(小笠原 みどり:スノーデンの警告「僕は日本のみなさんを本気で心配しています」『現代ビジネス』2016.8.22)のである。こうしたメディア支配の下、沖縄知事選での情報操作が行われた。沖縄県民は米国や日本政府にとっては植民地の“土人”(機動隊員の認識)であり、“容疑者”であり、監視の対象であり、情報操作の対象である。本土のメディアのほとんどが県民の意志を無視した。東京の創価学会は5000人もの“にわか有権者”を送り込み、物理的にも県民を屈服させようとした。しかし、選挙の結果、それは全く破綻した。沖縄県民(また沖縄の学会員も)が主権者であることを宣言し、“土人”の立場に甘んずることを拒否したのである。
巨大ハイテク企業は一見、軍事とは無縁な存在に見えるが、「Googleは、米軍のイラクで使用されていた地図作成技術を提供し、中央情報局のデータをホストし、国家安全保障局の膨大な情報データベースを索引付けし、軍用ロボットを建設し、ペンタゴンとスパイ衛星を共同発射し、 AmazonのeBayからFacebookにいたるまで、これらの企業の一部は、アメリカのセキュリティサービスと完全に絡み合っている」(エリオット・ガブリエル:2018.9.4)。我々は、こうした新しい軍事―デジタル複合企業の監視下・支配下にある。
そもそも、我々が、日常的に使用しているインターネットの起源は、1969年に国防総省の高度研究プロジェクト庁(ARPA)の科学者たちによって構想された。「Arpanet」と呼ばれたこの分散型システムは、戦場レベルまでの軍事ノードを接続し、データを素早く無線で共有することを可能にした。核攻撃や大規模な戦争が発生した場合、ネットワークのスワッシュが破壊されても引き続き運用されるものとして構想・設計された。インターネットはこの努力の“成果”である。社会的な混乱を予測し予防する最終目的で、情報を収集して共有し、リアルタイムで世界を監視し、人々や政治運動を研究し分析するコンピュータシステムを構築しようとする試みである。 軍事―デジタル複合企業は、軍事、知能、警察の機能の形で国家の抑圧的な武器と容易に協力し、その結果、政府全体と比較して秘密の国家安全保障国家を劇的に強化している。

【出典】 アサート No.491 2018年10月

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【投稿】デニーさん圧勝が示したもの 統一戦線論(53)

【投稿】デニーさん圧勝が示したもの 統一戦線論(53)

<<自公・「勝利の方程式」、屈辱の敗北>>
安倍政権6年の「成功体験」、常勝戦術であった、そして自信満々であったはずの「勝利の方程式」は、もろくも決定的な敗北を喫した。沖縄県知事選で玉城デニー候補に、終盤数千票差の大接戦どころか、玉城候補39万6632票対佐喜真候補31万6458票、8万票以上の大差、県知事選史上最多得票を許して敗北するという、自公政権にとって屈辱的な大敗であった。
この「勝利の方程式」は、今年2月にあった名護市長選、「辺野古問題は終わった話」と位置づけ、辺野古新基地建設問題の「へ」の一言も言わず、徹底的に争点隠しに徹し、米軍基地の跡地利用や沖縄振興策など「未来の話」を前面に戦う、「自民・公明・下地(維新)で絶対に勝てる。勝利の方程式だ」と豪語していた、自公合同選対を組む“名護市長選方式”であった。続く6月の新潟県知事選でも、この“名護市長選方式”が持ち込まれ、原発再稼働問題の争点化を徹底的に回避し、菅官房長官が公明党の自主投票方針の撤回を要請、創価学会のフル稼働につなげた。安倍政権を批判していたはずの政治評論家の森田実氏までもが、公明・創価学会、二階俊博・自民幹事長べったり路線を臆面もなく露呈させ、自公の花角候補の応援に「自ら志願して2回参上し、講演会や街頭での応援をしました」という事態までもたらした。
この方程式の下、新潟県知事選、直近の名護・石垣・沖縄の3市長選での勝利をそのまま今回の沖縄県知事選につなげるために、安倍政権は自公、創価学会幹部、閣僚、国会議員、地方議員の総動員体制を敷き、組織や運動量で玉城氏を圧倒していたはずであった。
さらにいわゆる「基礎票」でも前回とは違って自公の佐喜真氏が玉城氏を上回っていたはずであった。前回の知事選で当選した翁長氏の獲得票は36万820票。自民の推した仲井真弘多氏は26万1076票。その差、10万。前回は公明党が自主投票、維新の会の下地幹郎氏も出馬、約7万票を獲得。机上の計算では今回、前回の仲井真氏の票+下地氏の7万票+7~8万票の公明票で、玉城デニー候補は前回の翁長得票から6万減、佐喜眞候補は仲井眞票を13万上回り、30万票対39万票で、佐喜真候補は玉城氏より「断然優勢」、「勝ちパターン」の典型、楽勝のはずであった。
その上に「史上最大規模」と言われるほどの自公幹部・議員・秘書が投入され、公明党は5~6000人もの創価学会員を全国から動員し、原田会長の陣頭指揮で期日前投票へ動員。“名護市長選方式”の産みの親の菅官房長官は、危機管理の要職でありながら、官邸不在という異常事態を承知の上で3度も沖縄に入り、石垣市にまで飛び、宮古島にも足を運び、那覇市では街頭演説にまで立ち、携帯料金4割引き下げなどデマ公約まで公言して陣頭指揮。自民党は企業・団体へ「仕事と金」と引き換えにノルマを課して期日前投票に動員、業界団体に「期日前実績調査票」を提出させる、証拠の投票用紙記入のスマホ撮影まで暴露されるほどの、ヒトとカネと物量、そしてデマと恫喝で圧倒する「本土直営選挙」であった。その規模と動員体制、点検、テコ入れは、過去のどの知事選をも上回る「史上最大規模」のものであった。

<<安倍政権の致命的敗北>>
しかしこの「本土直営選挙」が完全に裏目に出たのである。各メディアの出口調査によれば、玉城氏は無党派層の7割から支持を得たことが決定的であり、なおかつ、自民支持層の2割、公明支持層の3割程度も玉城氏に流れたことが確実とみられている。自公の「勝利の方程式」は通用せず、崩壊してしまったのである。
なぜ、安倍政権、自民党と公明党がここまで総力戦を展開し、序盤優勢とみられながらも、ここまで大差の敗北を喫したのか。それは、「対立から対話へ」「沖縄に寄り添う」と言いながら、佐喜真・自公陣営が最後まで最大の争点であった「辺野古新基地建設の是非」について徹底的な争点回避に逃げ込み、逆に露骨な利益誘導の強権的姿勢で沖縄県民を買収しようとする路線に徹したこと、この沖縄県民を愚弄する姿勢が、県民の総意として明確に拒絶されたことにある。沖縄県民が前回の翁長知事誕生に続いて、あらためて「辺野古新基地建設はさせない」とはっきり打ち出した玉城デニー氏を選択し、大差で押し上げた県民の意思、その民意を無視することはもはや不可能な事態をもたらしたのである。権力を総動員し、民意を力ずくで押しつぶそうとした安倍強権政治に対する県民の誇りをかけた怒りの噴出であり、驕れる安倍政権への、そしてこれに追随した公明・創価学会への厳しい審判なのである。
安倍政権にとっては、まさかの大惨敗を喫したこの屈辱、ダメージは計り知れず、改憲戦略への影響は避けられず、致命的敗北となったと言えよう。自民党総裁3選を決めたばかりの安倍首相にとって、最初の一歩でつまずくどころか、いきなりノックダウン、打ち倒されてしまったのである。政権の“終わりの始まり”、事実上のレイムダック(死に体)化の進行である。
与党が全力を注いだ選挙、それも大差での敗北は、安倍政権の求心力を決定的に弱体化させたことは間違いない。それは、沖縄県知事選敗北直後の10/2に発足したばかりの第4次安倍改造内閣の布陣にもあらわれている。「全員野球」と言いながら、実態は各派閥割り当ての投げ出し内閣なのである。その新内閣は、もはや政治的・外交的配慮もかなぐり捨てたかつてないほど右翼的で軽薄な閣僚、従軍慰安婦や南京大虐殺の存在そのものを否定する発言をしてきた歴史修正主義者、教育勅語を賛美する前時代的復古主義者、アジアの近隣諸国との外交において差し障りのある問題閣僚、国民主権、基本的人権、個人の尊厳など憲法の基本的価値をまったく理解していない人物のオンパレードである。こんな閣僚の新内閣で、朝鮮半島や東アジアの緊張緩和、拉致問題の解決などありえないし、むしろ、挑発し、緊張激化をもたらすことこそが目的と言われる布陣である。「ほぼ全員ネトウヨ内閣」「歴代超軽量級内閣」「在庫一掃内閣」「総裁選の論功行賞人事」「安倍ご臨終内閣」などと評され、自民党内部からでさえも「閉店セール内閣」、おまけに安倍政権御用達ジャーナリストと言われるあの田崎史郎氏からも、「これまでの安倍内閣でいちばん出来の悪い内閣」という酷評が出る始末である。
安倍政権の求心力の喪失は、この新内閣への「期待」がたったの8%という世論調査(10/7 毎日新聞)の結果にも表れている。

<<沖縄のチムグクル(真心)>>
こうした事態をもたらしたのは、もちろん、第一に、辺野古基地建設の是非について、「辺野古新基地建設はさせない」と、これを正面から訴えて翁長氏の遺志を引き継ぐことを明確にした玉城陣営の決定的勝利である。しかし選挙戦突入当初は、オール沖縄の分裂の危機、選挙前のデマ攻撃と佐喜真陣営の大量のヒトとカネと物量大作戦を前にして暗雲が漂っていたのも事実と言えよう。それを乗り越え、克服したのは、デニーさん言うところの沖縄のチムグクル(真心)路線の徹底である。玉城デニーさん、曰く「チムグクルとは、私心のない、見返りを求めない心です。」(『週刊金曜日』10/12号、渡瀬夏彦インタビュー)、それは、徹底した無私、献身、政党エゴ・セクト主義の排除の路線なのである。
玉城陣営は中盤のヤマ場となる那覇市での8千人集会でも、駆け付けた名だたる野党の大物政治家を誰ひとり壇上に上げず、“ウチナーンチュの戦い”を強調し、候補者自身も支援政党の幹部と肩を並べることをあえてせず、あくまでも「オール沖縄」の候補の立場を堅持し、一貫させたのである。支援政党の支持者よりもさらに幅広い層の支持、無党派層の獲得にこそ重点を置き、デニーさんは「誰ひとり取り残さない政治」こそ「チムグクル(肝心)」とも表現している。支援する野党各党も、その路線、戦術を受け入れ、「オール沖縄」としての闘いを優先させたからこそ、分裂の危機を乗り越え、真心と肝心を結合させることが出来たとも言えよう。
市民と野党の共闘で、欠けてはならないチムグクル、真心と肝心の結合がここに提起されているとも言えよう。それは、統一戦線の神髄とも言えよう。
共産党が野党統一候補者調整に際して、「相互推薦・相互支援」を条件とするなどというのは、このチムグクル路線に反するものではないだろうか。「安倍政治を許さない」あらゆる勢力を結集できるかどうか、自民・公明支持者からさえ造反や離反を勝ち取れる、無党派層の圧倒的多数を獲得できる統一戦線のあり方が問われているのである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.491 2018年10月

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【書評】「国体論」

【書評】「国体論」 (白井 聡著 集英社新書2018.4.22)

戦前と戦後は如何に区別できるのか。天皇の統治した戦前は、無謀な戦争に突入し破滅的な敗戦を迎え終わった。連合軍に占領された後、連合軍(具体的にはアメリカ軍)による占領政策(軍隊の解体・治安維持法の廃止など)と民主憲法の成立により、日本は民主主義国家となった、という考え方が一般的で教科書にも記されている。
著者白井は、戦前・戦後という区分について、戦前の明治から敗戦まで、そして戦後から現代が「類似した歴史経過」を辿っていると考える。戦前とは、日本を統治した国体=万世一系の天皇が統治した時代が、発展(明治期)停滞(大正期)崩壊・破滅(昭和20年まで)を経てきたこと、統治しない天皇(象徴天皇制)と占領・支配するアメリカを「国体」として再構築された「戦後」は、発展期(1975年前後まで)・停滞期(日米経済摩擦の時期)・破綻期(冷戦終了から現代)に分類し、戦前と戦後が、同様の経過を辿っていると分析する。

「明治維新を始発点として成立した「国体」は、様々な側面で発展を遂げたが、昭和の時代に行き詰まりを迎え、第2次世界大戦での敗北によって崩壊した。そして戦後、「国体」は表向きは否定されたが、日米関係の中に再構築された」
「思えば。占領改革と東西対立は、戦後日本をイデオロギーの次元ではすこぶる奇妙な状況に置いた。その構造においては、アメリカによる支配を受け入れることが、同時に天皇制の維持(独自性の維持)であり、民主主義でもあったのだ。国体の破壊(敗北と被支配)は国体の護持(天皇制の維持)であり、国体の護持(君主制の維持)は国体の破壊(民主制の導入)であった。これらは敗戦に伴う一時的な混乱などでは、さらさらない。この奇妙な矛盾のうちに、戦後日本の腑分けされるべき本質が横たわっているのである。」

本書は、戦前の「国体」が、戦後は新たな「国体」(アメリカによる支配)に変異したとする考え方を示すとともに、戦前と戦後が、発展から破滅という共通の経過を辿っていることを示そうとする。そして、現在の日本の政治や社会が陥っている機能不全や破綻状態の根源を示すことで、そこからの脱却の回路を探ろうとしているのである。

近年の私の関心は敗戦によって何が変わったのか、変わらないものの方が多いのではないかという点である。断絶と連続の歴史ではないか。経済においては、1940年体制が継続していると、経済学者野口は指摘している。1940年代に形成された国家総動員体制は戦後も継続し、高度経済成長が齎されたという。また、政治・軍事の分野では、戦争を遂行した陸海軍の首脳には、極東裁判による有罪・死刑等の審判が下された。しかし、東西冷戦の始まりと共に、アメリカは日本の再軍備を進め「保安隊」「警察予備隊」そして「自衛隊」の設置において、多くの旧陸海軍将校が幹部となっている。また、治安維持法を実際に運用した司法官僚・特高警察幹部・内務省関係者は、罪を問われることなく公職追放となったとしても、まもなく法曹界に復帰している。「警察・司法」関係者も、その後日本国憲法下で、それぞれの分野に復帰している。731部隊で人体実験を繰り返した旧帝大の医学関係者も罪を問われることなく戦後の医学会に君臨した。
戦後民主主義と言われるが、政治・司法・軍事・経済体制のを担ったのは、日本を破滅に導いた戦犯達であり、彼らは一夜にして「反米愛国保守」から「親米愛国保守」に鞍替えしたに過ぎなかった連中である。
本書では、万世一系の天皇統治国家が、敗戦・占領の過程を通じて、如何にして「象徴天皇制」と「アメリカへの従属」を基軸にした国家に変容したかが語られている。

戦後の項では、冷戦がすでに終結し、アメリカへの従属が意味を為さず、新たなアジア秩序が求められる時期になっても、アメリカ・トランプへの従属を一層強め機能不全に陥っている安倍政権・親米保守派への痛烈な批判が展開される。一読を願いたい。(2018-10-21佐野)

【出典】 アサート No.491 2018年10月

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【投稿】支離滅裂、袋小路の安倍外交

【投稿】支離滅裂、袋小路の安倍外交
―大災害をも利用し総裁三選―

やっぱり「西郷どん」
北海道地震の被害が拡大する9月7日、自民党総裁選が告示され安倍、石破の二人が立候補した。これに先立つ8月26日、安倍は鹿児島県垂水市で桜島を背に立候補を表明するという、同夜の大河ドラマ「西郷どん」で「薩長同盟」が描かれることを意識した、安っぽいパフォーマンスを行った。
同日の鹿屋市での講演でも「薩長で力をあわせ、新しい時代を切り開いていきたい」とアピールを行ったが、そもそも維新150年や「西郷どん」が盛り上がりに欠ける中、時代錯誤の訴えは空虚に響くだけである。
「薩長」ご当地はともかく、例えば「賊軍・朝敵」とされた会津では「戊辰150年」であり、若松の鶴ヶ城も「2018年は全館が幕末・戊辰戦争特集」として、白虎隊自刃の刀や降伏式に敷かれた「泣血氈」を展示するなど、明治維新を祝う雰囲気など皆無である。さらに薩摩藩や明治政府の侵略を受けた沖縄は言うまでもないだろう。
こうした地方や少数派の感情を逆なでするようなデリカシーの無さは、安倍の政治姿勢に一貫するものであるが、今般の台風21号、北海道地震での対応にもそれが如実に表れた。
9月4日、関西国際空港は高潮により水没、タンカーの衝突で連絡協も破損し機能を喪失したが、安倍は6日の非常災害対策本部会合で7日中の国内線再開を指示し、国際線の再開も急がせる考えを明らかにした。
これは関西一円で大規模停電が続き、市民生活へのダメージが拡大する中、政府のメンツを優先させる対応であるが、本来災害復旧の先頭に立つべき大阪府知事も、混乱のさなかに沖縄知事選の応援にでかけ、さらには万博誘致活動として渡欧するなど、住民軽視、職務放棄ともいえる動きをしている。
安倍、松井が関空会社の尻を叩いて国際線の再開を急がせたのは、物流、移動の確保より、訪欧パフォーマンスの演出(結局中部国際空港から出国したが)の為と言われても仕方がない。まさに二人の「盟友関係」を示すものと言えよう。
6日に発生した北海道地震では官邸が犠牲者数を次々と公表した。しかし「心肺停止者」を「死者」にカウントするという初歩的ミスのため、地元自治体や警察の公表数との齟齬が生じ、先走った政府は度々、訂正と謝罪をする羽目となった。
さらに安倍は、西日本水害でも問題点が指摘された「プッシュ型支援」を強行したため、被災地のコンビニやスーパーに現地のニーズにそぐわない、偏った商品が並ぶ結果となった。
こうした混乱の要因には、石破の「地方創生」や「防災省」構想を意識するあまり官邸主導を演出しようとした、いわば災害や地方の政治利用がある。こうした「被災者ファースト」の災害対応より、自らの政治的利害を優先させる人間に、国民の安全を語る資格のないことは明らかである。

形骸化した総裁選
しかし自民党総裁選は、告示以前に安倍圧勝=信任投票化が既成事実化した。北海道地震の影響で3日間自粛された論戦は9月10日の所信発表、共同記者会見で再開されたが、会見終了1時間後に安倍は機上の人となった。
8月28日、自民党の総裁選管理委員会はマスコミに対し、総裁選報道について「公平・公正」を求めるとの文書を配布し不当な圧力をかけた。しかし、実質10日間の選挙期間のうち4日間を、重要とは言えない外遊にあてるのは、自ら公平を放棄しているようなものである。
安倍がロシアに居る間、石破は積極的に地方遊説をしているわけであり、これを報じるなとでも言うような対応は、それこそ公正に反するものであろう。
安倍が論争を回避するのは、圧勝予測もさることながらその主張になんの正当性もないからである。
安倍は経済政策として9月10日には相も変わらず「三本の矢でデフレ脱却」としながら、帰国後の14日の討論会(日本記者クラブ主催)では、脱デフレの目途も示さずに「任期中に出口戦略を明らかにする」と日銀の政策修正を追認するだけの表明を行い、地方振興にしても「トリクルダウン」を唱え続けるなど具体性、実現性に欠けるものばかりである。
プーチンはウラジオのフォーラムで「いま思いついた」と煙に巻いたが、安倍は本当に思い付きでしゃべっているのではないか。また石破の指摘に対して「トリクルダウン」とは言っていないと否定しているが「景気回復は地方に波及してきている」とはそういうことであろう。これは「朝ごはん」論法同様の詭弁であり、「地方からの景気回復」という発想そのものがない「プッシュ型」の変形である。
また独占資本、高所得層からのトリクルダウンも破綻している。政府(厚労省)の所得統計が操作され、給与総額が2倍以上水増しされていることが判った。(西日本新聞9月12日朝刊)
外交・安全保障でも破綻しつつある「自由で開かれたインド・太平洋戦略」を主張、対北朝鮮政策では「連絡事務所の設置」を主張する石破に対し、14日の討論会では「金正恩と向き合う」と言いながら「拉致問題を解決できるのは安倍政権だけと言ったことはない」と開き直った。
こうしたなか、安倍が極めて具体的に述べたのが改憲である。9条への自衛隊明記など4項目の改憲案を次期国会に提出するとして、並々ならぬ執着を改めて示し、何のための総裁三選なのかを臆することなく露わにしているのである。

プーチンの奇襲に動揺
安倍が総裁選を蔑ろにして臨んだ、ウラジオストックでの「東方経済フォーラム」や一連の首脳会談も散々なものとなった。9月10日、安倍は2時間半待たされて臨んだ日露首脳会談で、北方領土での共同経済活動の推進で合意した。
これは本来8月中に行われる予定だった現地調査の結果を踏まえ合意されるものであった。しかし調査は「天候のため」延期となり、結局未実施のまま首脳会談が持たれたため、事実上昨年9月の合意5項目を再確認するに終わっている。
さらに現地での活動を保証する「特別な制度」についても進展はなかった。当然、領土問題も進展はなく、またしても会うだけに終わった。憔悴する安倍にプーチンは容赦なく追い打ちをかけた。12日、習近平ら各国首脳が居並ぶフォーラムで突然、「年内にあらゆる前提条件抜きでの日露平和条約締結」を提案したのである。
衆人環視のもと平場での奇襲攻撃を受けた安倍は、何のリアクションも無しに笑っているだけであった。欧州の首脳なら「それは大統領からのクリスマスプレゼントを期待してよいのか」ぐらいの返しをしただろうが、安倍には無理だった。
プーチン発言については「領土問題交渉」の良くて「棚上げ」悪くて「打ち切り」以外の何ものでもないが、日本政府筋は「経済協力」を引き出すための方便、「プーチンは焦っている」との都合の良い解釈がなされている。北朝鮮と同じく「制裁に苦しむロシアは喉から手が出るほど日本の支援を欲しがっている」との思い込みがあるのである。
しかし、ウラジオで11日に開かれた中露首脳会談では、ロシアのガス田開発など大型プロジェクトで合意、両国の貿易額もこの上半期は前年比3割増という高い伸びを示しており、日本の存在感は低下している。
軍事面での中露連携も進んでいる。クリミア併合による制裁でロシアはドイツからディーゼルエンジンが購入できなくなり、これを搭載予定だった海軍新鋭艦艇の建造が一時ストップした。しかしロシアは中国から同エンジンのライセンス生産品を入手し建造を再開し、就役した艦は9月上旬に地中海で行われた大規模演習に参加している。
極東地域では、約30万人が動員される大規模軍事演習「ヴォストーク2018」が9月11日から開始された。この演習には初めて中国人民解放軍約3000名が参加しており、これまで「対日米」・「対中」だった同演習の想定が「対日米」に絞られたと考えられ、「親日国」のモンゴルも参加している。
「歴史上最良の時期」(習近平)にある中露首脳は、フォーラムのイベントでも二人で酒のつまみを作るなど親密さを示した。

安倍三選を超えて
こうしたなか12日に行われたに日中首脳会談で安倍は、約40分の会談で10月23日の訪中を取り付けたものの、来年の習訪日の確約は取れなかった。
中国が関係改善に意欲を見せているのは、背景に米中貿易紛争があり日本を味方につけたがっているとの、都合の良い解釈がまたしてもなされている。そうだとしたら日中関係の改善を進めることは、日米分断工作に嵌ると言うことになる。
安倍政権としては、アメリカと連携して中国を追い詰めるのが本来の姿であろう。しかし実際は、この間トランプが安倍を見限りそうな兆候が散見されており、8月15日の閣僚による靖国参拝を止めさせるなど、安倍が支持基盤の意向に背き、領土、歴史問題を棚上げしてすり寄っていっているのが実情であろう。
ところが今年の「防衛白書」では、先月号で指摘した「自民政調会提言」と同様に中国への危機感を露わにしており、安倍の言う「新しい段階の日中関係」の具体像は不透明なままである。
この様な対露、対中のみならず、対北朝鮮そして対米まで、支離滅裂で袋小路にはまり込んだ外交が、安倍が総裁選で主張する「戦後外交の総決算」の中身である。
総裁選は形式的な論戦が消化される一方で、マスコミだけでなく石破陣営への圧力も明らかになっている。さらに一部報道では下村博文、西村康稔、萩生田光一の「三悪人」の暗躍も暴露されており、安倍政権の陰湿さが凝縮された選挙戦の様相を呈している。
安倍三選の先には、経済の停滞、国民生活の窮乏、社会の分断、国際緊張の激化が待ち構えていることは明らかとなっている。
こうしたなか闘われている沖縄県知事選の意義は、ますます重要になってきており、玉城候補の勝利をなんとしても勝ちとらなければならないのである。(大阪O)

【出典】 アサート No.490 2018年9月

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【投稿】北海道胆振東部地震による「ブラックアウト」と泊原発外部電源喪失事故の恐怖

【投稿】北海道胆振東部地震による「ブラックアウト」と泊原発外部電源喪失事故の恐怖
福井 杉本達也
1 北海道全域が停電という「ブラックアウト」
9月6日、北海道胆振地方で大地震が発生し、震度7が観測された。各地で土砂崩れや家屋倒壊が起き、多数の死傷者が出た。札幌市でも液状化で埋立地の上に建設された多くの住宅が倒壊した。地震の影響で、北海道全域の295万戸が停電する異常事態(「ブラックアウト」)となった。停電は、電力の約半分を賄っていた苫東厚真火力が、地震で緊急停止したことが発端となった。他の火力も連鎖的に発電量と使用量のバランスを取る必要がある。バランスが崩れると電気の品質が保てなくなる。今回は、苫東厚真火力の停止で管内の発電量が急減し、需給バランスが大きく崩れた。そのままでは発電機や機器類に負荷がかかって故障するため、稼働中だった他の火力も自動的に停止した。「発電機を自転車のペダルと考えてみよう。どんなときも必ず1分間に50回転(50サイクル)させなければならない。坂道でこぐ力が減ってきたら、荷物を捨てていくしかない(札幌を全停電させるとか)。その荷物を捨てるのを惜しんだから、自転車がとまってしまった。」(小野俊一:2018.9.6)。

2 泊原発は外部電源喪失
泊原発は今回の地震で、9時間半にもわたり外部電源を失った。震源から100キロ以上も離れ、震度2であったにもかかわらず、非常用ディーゼル発電機を使わざるを得ないという危機的状況に陥ってしまったのである。安定した送電と外部電源という多重位防護の第1層が破綻したのであり、ことは重大である。幸い泊原発は長期間停止中であり、原子炉内に核燃料はなく、燃料貯蔵プールに1527体の核燃料を保管していたものの、十分に冷えていたので福島第一原発のようにはならなかった。福島第一原発1号機は、全電源喪失3時間半後には燃料は蒸発による水位低下で全露出して炉心溶融が始まったといわれる。「非常用ディーゼル発電機があるから、外部電源喪失しても良い」という考えは全くでたらめな議論である。全国の消防団の訓練に『消防操法大会』というのがある。エンジン付きの稼働式ポンプからホースを伸ばして消化するという訓練で、大会に出場する前に2か月間も毎日訓練して消化のタイムを競うが、本番で毎日使っていたエンジンがかからない。残念ながら「失格」である。非常用ディーゼル発電機をいくら毎日点検し、使用していても機械は必ず故障することがあるものである。今回は運が良かったのである。

3 ブラックアウトの原因不明と全く当事者能力のない北海道電力
9月12日の北海道新聞は「胆振東部地震の発生以降、停電状況や苫東厚真火力発電所(胆振管内厚真町)の復旧見通しなど電力に関わる重要情報は、当事者の北電ではなく、監督官庁の経済産業省や道の主導で発信されている。…当事者意識を欠いた北電の姿勢に不信感が募っている。…停電して以降、復旧情報などは国や道が先行し、北電はその内容を『後追い』。計画停電実施の有無も、本来は真っ先にアナウンスすべき北電ではなく、すべて世耕弘成経産相が東京で発表していった。」と北海道電力の当事者能力のなさを批判した。現状はまるで“国営”北海道電力である。
ブラックアウトの詳細について北海道新聞は、地震直後の「午前3時8分厚真町内にある道内最大の火力発電所、苫東厚真火力発電所(3基=3号機は廃止)の2号機と4号機(合計出力130万キロワット)では、高温の水蒸気を運ぶ細長いボイラー管が縦揺れに耐えきれず損傷。直後に停止し、北電は全道の電源の4割を一瞬にして失った。ブラックアウトを防ぐため、手動でなく自動的に二つの作業が進んだ。一つが「負荷遮断」。ブラックアウトで道内の電源がゼロになると、発電機を動かすのに必要な電気もなくなり、復旧に時間がかかる。停止した電源に見合うだけの需要を一時的に切り離し、停電から回復しやすくしようとした。一瞬にして、道北、函館などの地域の多くで停電。残されたのは札幌など道央が中心だった。午前3時11分二つ目の自動システム「北本連系線」がフル稼働。北海道と本州を結ぶ送電線で、どちらかの地域で需給バランスが崩れると、自動的に電気が送られる仕組みになっている。最大量である60万キロワットが本州から北海道に向けて送られ始めた。この時点で、道内の需給バランスは不安定ながらも、保つことができていた。」ところが、「午前3時25分苫東厚真火発で唯一運転を続けていた1号機(出力35万キロワット)のボイラー管損傷が深刻化。1号機停止で、道内の他の発電所が連鎖的に停止。道内で電源が失われたため、本州からの送電もできなくなった。」しかし、それでも北海道電力は泊原発への電力供給をしようと試みたようで、「午前3時28分北電の発表とは異なり、後志管内倶知安町と岩内町の病院ではこの時刻まで送電が続いた。送電線の先には、泊原子力発電所(同管内泊村)があり、常に冷却が必要な使用済み核燃料が大量に置かれている。北電は冷却を維持するため、あらゆる手段で、電力供給を維持しようとしたようだ。」(北海道新聞:2018.9.13)と書いている。どうも泊原発への電力供給と北海道の政治経済の中心である札幌を守ろうとしたことが逆にブラックアウトを招いたようである。

4 苫東厚真発電所は震度7で全損したか
北海道電力によると、地震動で4号機はタービンが発火したとのことであるが、振動でタービンの軸受が破損したのか、発電機に封入されている水素に引火したのか、タービンが破損していれば11月までの修復は不可能であろう。また、2号機、1号機は石炭の火力を熱交換して蒸気を発生させる水を通す配管が破損している。配管などは地震動に弱く、他にも破損個所は多々あるのではないか。また、ボイラーの耐熱壁に損傷はないのか。
1週間以上もたった現在でも事故の詳細な状況は発表されていない。原発とは異なり、放射線の脅威はないので人はボイラーにもタービン建屋にも近づけるはずであるが。いずれにしても、震度7に耐えうるような発電所は存在しない。当然原発も含めてである。

5 泊原発を動かせというホリエモン・読売・産経
ホリエモンこと堀江貴文氏は「これはひどい。。そして停電がやばい。泊原発再稼働させんと。。。」「原発再稼働してなかったのは痛い」などとツイートしている。また、読売新聞社説は「問題は、道内の電力を苫東厚真火力に頼り過ぎていたことだ。東日本大震災後に停止された泊原子力発電所の3基が稼働すれば、供給力は200万キロ・ワットを超える。原発が稼働していないことで、電力の安定供給が疎(おろそ)かになっている現状を直視すべきだ。」(2108.9.7)と書き、産経も同様の主張をしている。日商の三村明夫会頭も泊原発再稼働の発言を行っている。
しかし、これは倒錯した主張である。原子力発電所は負荷追従運転ができない。100%の定格出力運転のみである。 結果、電力需要の少ない夜間に発電容量の大きな発電所が急に脱落すると出力調整余力がなく連鎖的に送電網が破綻してしまうという弱点がある。今回仮に泊発電所が動いていた場合、定格出力運転中の原子炉は苫小牧での送電網破綻の影響で緊急停止することになり、その上ブラックアウトの為に外部電源を喪失。もしも非常用ディーゼル発電機の起動に失敗すれば最終的に原子炉が爆発する可能性がある(牧野寛「ハーバード・ビジネス・オンライン」2018.9.10)。外部電源を喪失しないようにするには、原発から一定の離れた場所に、原発専用の火力発電所を複数設置し、商用電力から切り離しておく必要がある。これはパラドックスである。

6 直下型地震はどこで起こってもおかしくない
日本列島はプレート同士のぶつかり合う場所で、絶えず地下に力が加わっているが、この力が断層をずらす内陸型地震であり、マグニチュード6.7程度の地震はいつ、どこででも起こりうる。通常の地震は深さ5キロ~15キロで起こるが、今回の震源は深さ37キロもあり、「石刈低地東縁断層帯」という活断層ではなく、これまで地下で見つかっていない新たな断層が動いたと見られる(日経:2018.9.7)。6月18日に起こった大阪北部地震も「有馬―高槻断層帯」や「生駒断層帯」などがあるが、どの断層帯が動いたとは特定できていない。日本には地表に表れない断層は多数ある。
雑誌『世界』2018年10月号において島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理は、3.11では津波被害などで2万人弱の人が死亡又は行方不明となった。また福島第一原発事故によって、15万人もの人が避難せざるを得なかった。島崎氏は甚大な被害が発生した背景には中央防災会議が作為的に「備えていなかったから」だと指摘し、「中央防災会議などの関係機関が、地震や津波の予測という、本来は科学的検討によって議論されるべきテーマを、別の何らかの理由によって歪めた点に求められるべき」(つまり、原発の稼働を優先し、対策を怠った)とし、「電力会社をはじめ、あの規模の津波の発生は『想定外』であったとする議論があります。しかし、実際には、『想定外』ではなく、『想定しないようにした』のであり、不作為ではなく作為によって、想定しないことを選択したのです」と述べている。約260人が死亡した2016年4月の熊本地震でも揺れの予測に過小評価が見られたという。西日本は垂直に立つ断層が多く、面積が小さいことから、面積で地震の大きさを推定する予測式「入倉・三宅式」が採用されて揺れが小さく見積もられた。関西電力は大飯原発の再稼働審査にあたり、島崎氏らの忠告を全く意に介さず、「入倉・三宅式」を採用したという。わが国では大災害が起きると政府も関係者も「想定外」を繰り返すが、その実、情報を隠蔽し、「想定内」を「想定外」とする無責任がはびこっている。「中央防災会議が人を殺したのだということを、たくさんの人に知ってもらいたい」と締めくくっている。
今回程度の地震は、日本全国どこで起こってもおかしくはない。しかも、地表に活断層が見えなくても地下深くに活断層がある。泊原発直下・地下深くに活断層があっても不思議ではない。事実、原子力規制委からも原発のある半島の海底に「活断層の存在を否定できない」と指摘されている。そのような場所で地震が起こったどうするのか。泊原発に一極集中し、新規の設備投資を怠ってきた北海道電力は今回のブラックアウトで、全く主体性のない、危機管理能力のない企業であることを露呈した。そのような企業に泊原発を再稼働させてはならない。

【出典】 アサート No.490 2018年9月

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【投稿】自民総裁選と沖縄知事選をめぐって 統一戦線論(52)

【投稿】自民総裁選と沖縄知事選をめぐって 統一戦線論(52)

<<どちらも、逃げる>>
自民党総裁選をめぐる安倍首相と石破茂・元幹事長、沖縄知事選をめぐる佐喜眞淳前宜野湾市長と玉城デニー前衆議院議員、それぞれの候補者討論会、いずれも安倍首相、佐喜眞氏、両氏は、本質的な最大の争点を明らかにする政策討論から逃げまくる姑息な実態が浮かび上がった。
安倍首相は、石破氏の政策テーマごとの2、3時間の討論会の開催要求を拒否し、総花的な上っ面の討論会に3回だけ応じた。
佐喜眞氏も、当初自己の支持団体主催の討論会にだけ出席し、沖縄県政記者クラブ主催の立候補予定者討論会にはそっぽを向いて出席を断っていたが、批判の高まりに、「不参加は事務方の不手際によるもの」と釈明してやむなく応じた。
いざ開いてみると、安倍首相、佐喜眞氏、どちらも本質的な議論を避け、話をはぐらかし、論点のすり替えに徹した。安倍首相に至っては、「正直」と「ウソ」が問われた森友・加計学園をめぐる公文書の改ざん問題では、昨年の総選挙で「国民の審判を仰いだ」とすでに決着済みであるかのような開き直りである。公文書改ざんが明るみに出たのは今年に入ってからのことである。ウソを平気で平然と日常茶飯事のように垂れ流す安倍首相のファシスト的体質がここでも露呈されている。
佐喜眞氏も安倍首相とそっくり、瓜二つである。ウソとごまかし、すり替えである。佐喜真氏は、辺野古基地についての態度表明を徹底的に避け、あたかも「中立」でもあるかのように装い、逆に辺野古反対の主張を「県民を分断する」と批判。佐喜真氏は、玉城デニー氏から、佐喜真氏を含む県内全41市町村長が署名した、普天間基地の即時閉鎖・撤去、「(辺野古を含む)県内移設断念」を求めた「建白書」の精神を堅持するのか、放棄したのかと問われたのに対し、「その精神は十分理解している」としながら、しかし政府の方針に異を唱えたら「(普天間の)固定化を目指しているのかと言われかねない。われわれには限界がある」、「安全保障、基地は国が決める。われわれには限界がある」とついに新基地建設容認の本音を吐露してしまっている。地方自治そのものを自ら否定する、立候補資格すら疑われる論法である。沖縄県民を分断しようとしているのは、安倍政権なのであり、その手下、手先となることを宣言しているようなものである。
佐喜眞氏は、知事選の事務所びらきが那覇市で行われた8/24、記者団の囲み取材で「私はメンバーでもないし、現在でもメンバーでない」と、過去を含め改憲右翼団体の日本会議に所属した事実はないと強調している。ところが、宜野湾市長時代には「私も加盟している一人」と議会で明言しており、2014/5/10、日本会議沖縄県本部をはじめとする実行委員会が呼びかけた集会では、教育勅語を保育園児に唱和させ、佐喜真氏は「このような式典を行われたことを心よりお祝い申し上げる」と「閉会の辞」まで述べている。まさにこの右翼歴史修正主義の政治姿勢においても、安倍首相の森友学園・教育勅語唱和路線と瓜二つである。過去の自らの行動・発言を平然と否定し、ウソを垂れ流す点においても両者はまったく瓜二つなのである。

<<マヨネーズ並みの地盤に軍事基地?>>
この公開討論の中で、佐喜眞氏の地方自治権まで否定しかねないごまかしとすり替えに対して、玉城デニー氏は、沖縄県が行った辺野古埋め立て承認撤回について、建設予定地の超軟弱地盤の問題などを明確にし、「公有水面埋立法に基づき適正に判断して行われた。県の判断に国が従うのは至極当然のことだ」と主張。この沖縄県の埋め立て承認撤回に対し国が法的対抗策に出た場合、「あらゆる手段を講じて、新基地建設阻止に向けて断固たる対応をしていきたい」と表明し、その法的根拠を示し、「沖縄県の権限によって公有水面埋め立て法に基づき、法律に基づいた地方自治体がとったきちんとした手続き」であることを明らかにしている。
さらに玉城氏は、撤回以外に移設を止める方策についても「岩礁破砕の許可など様々な知事の許可がある。司法で解決させるという国の姿勢は本当に正しいのか、知事として明らかにしていきたい。米国民にも不条理を訴えていきたい」と述べ、「軟弱地盤や活断層の存在を鑑みると、現実的に辺野古移設は無謀であり、その事実を突き付ける」と、その主張は明確である。
そして決定的なのは、辺野古基地建設は無謀であるばかりか、そもそも不可能であるという厳然たる事実が浮かび上がってきていることである。北上田毅氏らが、沖縄防衛局が2014年から毎年実施している海上ボーリング調査の資料公開請求を拒否し続けてきたが、今年3月初め、初公開せざるを得なくなった。それによると、大浦湾埋め立て現場、水深30mの海底が厚さ40mにわたってマヨネーズ並みの超軟弱地盤であることが明らかにされている(岩波書店『世界』2018年10月号、北上田毅氏「マヨネーズ並みの地盤に軍事基地?」)。北上田氏は「たとえ政府の言いなりになる知事が誕生しても、この軟弱地盤問題を解決することは極めて困難であろう」と指摘している。しゃにむに基地建設に突き進む安倍政権の無謀な姿勢は、いかに虚勢を張ったとしても、いずれ遠からず破綻せざるを得ないのである。
9/10に発表された玉城デニー氏の政策(「誇りある豊かな沖縄。新時代沖縄」)は、主要政策として、○「万国津梁(しんりょう)会議」(仮称)を設置、○「国際災害救援センター」(仮称)を設置、○「観光・環境協力税」(仮称)を導入、○「琉球歴史文化の日」を制定、○日米地位協定の抜本改定、主権の行使を求める、○「やんばるの森・いのちの水基金」(仮称)を創設、○中学生・高校生のバス通学無料化をすすめる、○公的施設への「放課後児童クラブ」設置を推進、○子育て世代包括支援センターを全市町村に設置、を掲げ、「県民の覚悟とともに貫く三つのNO」として、
1、辺野古新基地建設・オスプレイ配備 NO
2、不当な格差 NO
3、原発建設 NO
を明らかにしている。論点、政策に関する限り、明らかに玉城デニー氏が佐喜眞氏を大きく引き離している。佐喜眞陣営は、沖縄知事選の最大の争点である辺野古米軍基地建設問題には徹底した争点隠しで乗り切り、ウソとごまかし、デマ、自民・公明・維新の利益誘導・組織選挙にすべてをかけている。玉城・佐喜眞、両陣営の激しいつば競り合いが続いている。

<<「オール沖縄」の真価>>
一方、自民党総裁選は、すでに論戦に入る前から、ハト派を任じる岸田派が安倍首相に屈服した時点で、改憲・核武装という共通の主張からして、似た者同士のすれ違いの感が否めない。それにもかかわらず、石破氏の「正直、公正」というごく当たり前の主張に対して、自民党内から「安倍首相への個人攻撃だ!」と騒ぎまわる異常さは、噴飯ものと言えよう。
論点の一つである憲法9条改定に関しては、安倍首相の性急な9条改定論に対して、石破氏は「国民に理解してもらう努力が足りない」と、9条の早期改正に慎重な姿勢を示してはいる。
しかし同時に、石破氏は「必要なもの、急ぐものから憲法改正すべき」と主張し、具体的な改憲項目として参院選挙区の合区解消や緊急事態条項の創設を挙げている。問題は、この石破氏が「憲法に加える必要性がある」、「優先度が高い」とする緊急事態条項は、きわめて危険なものである、という認識の欠如である。自民党改憲草案の緊急事態条項は、国民の基本的人権を停止させ、権力を時の政府に一元化する全権委任条項が入っているのである。1933年、ナチス・ドイツのヒトラー政権の独裁体制の確立に道を開いた、あの全権委任法と本質的に変わらないものである。当然、安倍首相もこの緊急事態条項を憲法改定に押し込もうとしている。この際、災害に乗じて憲法改定を強行しようという意図も見え透いている。
『週刊金曜日』の編集委員である中島岳志氏は「将来の首相候補と目されている石破氏が、日米安保や歴史認識問題で首相に正面から異を唱える姿を見たい」と自民総裁選の論点に期待を表明されている(同誌 2018/8/31号)。しかし、たしかに無視できない両者の違いはあれども、あくまでも相対的であり、憲法改定に関しては戦術的、スケジュール的相違の範囲を出ていない。むしろ両者に危険な共通点をあぶりだし、問題点を明らかにすることがより重要であろう。
ただし、石破氏が、災害の大規模化、多発化に直面して「防災省の創設」を提唱し始め、菅官房長官らが直ちに否定的な姿勢を示していることからすれば、自衛隊をそっくりこの防災省に根本的に作り替えることこそが提起されるべきであろう。災害支援と平和に最も貢献するものとして、野党側からこそ提起されてしかるべきであろう。
いずれにしても自民総裁選は、事実上、今やいかなる「安倍圧勝」かに絞られてしまっている。
しかし、沖縄知事選は必死のつばぜり合いである。
沖縄県選出の参議院議員・会派「沖縄の風」幹事長の伊波洋一氏は、「玉城デニー候補には厳しい選挙だ。前回のオナガ候補は、なかいま候補に約10万票差だったが、下地みきお候補も約7万票獲得した。今回、下地みきお氏は相手側を応援するので3万票差になる。前回中立の公明も今回は相手側を応援する。昨年衆院比例で公明10万票以上、必死に取り組まなければ勝てない。」と訴えている(2018/9/14 ツィート)。
自公維側の有無を言わさぬ組織戦に対抗して闘うには、一丸となって闘う、そして草の根から統一戦線を構築する、そのような「オール沖縄」の真価をなんとしても発揮しなければならない。各党党首勢揃いによる街頭演説の順番問題でもめあったり、地道で冷静な集票活動、地域分担、各層対策、宣伝活動、その責任分担、集約等々について全く不明確なままでは、各党、組織バラバラの選挙戦に終始してしまい、本来有利な情勢を生かせないことは自明である。「オール沖縄」を支援する全国の「市民と野党の共闘」、統一戦線の真価が問われている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.490 2018年9月

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【書評】『「復興」が奪う地域の未来──東日本大震災・原発事故の検証と提言』

【書評】『「復興」が奪う地域の未来──東日本大震災・原発事故の検証と提言』
(山下祐介、岩波書店、2017年2月発行、2,600円+税)

本書は、東日本大震災・福島第一原発事故とその後の復興政策に対して、「この災害復興は失敗である」、そして「この復興が失敗だというのは、私が言うまでもなく、多くの人がわかっていることでもあるはずだ」と断罪する。
「福島第一原発事故では、警戒区域を設定した四町で当自治体に居住する住民・法人のすべてが長期強制避難を余儀なくされた。さらには計画的避難区域、緊急時避難準備区域に指定された市町村も実質的に全自治体ないしは全コミュニティ避難を経験している」。つまり「各コミュニティは、自らを成り立たせるために必要なもののすべてを一度に失ってしまっており、(略)」という状況が生じている。このためこれらにおいては「自然環境」「インフラ環境」「経済環境」「社会環境」「文化環境」という五重の生活環境被害が生じている。
津波被災地でも同様の生活環境被害が発生しており、「住宅被害は広域にわたり、避難はしばしば地域コミュニティ成員の全員に及ぶ」。
本書は、このような現実を踏まえれば「本震災・原発事故では、社会の一部が壊れたというのにとどまらず、コミュニティそのものが、あるいはソサエティそのものが壊滅的な打撃を被った、そういった被害が生じている」として、これを「コミュニティ災害」、「ソサエティ災害」と呼ぶ。
とするならば、原発事故の場合、「本事故からの生活再建・地域再生はこの被害の重さを認識し、これらを回復するものとして出発しなければならない」のが当然であり、津波被災地でもこのような復興政策が構築されるべきであるのは自明の理である。
ところが現実に実行されている政策は、原発事故では「除染とインフラ整備(加えて新産業による雇用の創出)を進めて帰還を促すだけで、コミュニティの再生は無策のままにある」。
また「津波被災地では、今、高さ一〇メートル前後となるような巨大な防潮堤が順に建設されている。津波の経験が、コンクリートの巨大な壁で人の住む世界と自然とを分断するという結果を生みつつある。しかも復興がこうした大規模防災土木事業の完成を前提にしているため、防潮堤ができなければ復興を進めることができず、(略)いまだに土木事業以外の進展が見られないという地域がある」。
この結果、原発事故の「避難者たちには、『被曝を覚悟で帰還するか』『自力で移住するか』の二者択一しかなく、このままで行けば、自力で生活できない人々だけが帰還を選択し、多くの人々は本来『償い』であるはずの賠償を手がかりに、避難先で自らの生活再建を試みるしかなくなっていく。この政策はこうして、帰還するもののみを選別して事業の対象としながら、帰還できないものを復興政策から排除することによって、被災者支援策としての意味をなさない政策になっている」。
また津波被災地の巨大防潮堤についても、地権者の合意、資材・人材の占有、予算の財源、時間的制約、環境問題等々の問題が立ちはだかっており、「復興事業を進めるほど地域社会は破壊され、人間の暮らしの復興を阻んでいるという悪循環のプロセスに陥りつつある」。
これら二つの事例を検討すれば、「復興をめぐって、ある方向のみが過度に強調され、そのことを軸に政策が偏向して構築されることによって、現実の復興そのものに障害を来すようなプロセスが生まれている」のである。本書はこれらを「防災至上主義」と「復興至上主義」と特徴づける。
かくして「被災者には、政府が示す巨大公共事業にのるかのらないかの選択しかない。津波被災地では巨大防潮堤や高台移転、原発事故被害地域では帰還政策(除染とインフラ再建)—-被災者・被害者はこれらの政策にのって不本意ながらもその地に身を置くか、それが嫌ならその地を去るしかない」という「選択の強要」が押し付けられる。「要するに、いったんあるところで決まってしまった政策が、既成事実化して路線変更できないような構造」を作り出してしまったという事態なのである。
つまりここでの決定的な問題点は、「政策フィードバック機構の欠如」であり、本書はこれを東日本大震災の復興政策に限らず、こう批判する。
「今の私たちが日々進めている政策形成過程(略)には何か大きな欠陥がある。この欠陥を変えることこそが、私たちに課せられた大きな宿題なのだ。そしてそのためには、国民の国策への参与・共同がまずは不可欠であり、いまや国民の参画が次々と封じられつつある以上、このことは絶対的な条件というべきかもしれない」と。
そして日本学術会議による提言(「東日本大震災からの復興政策の改善についての提言」、2014年)、すなわち「第一の道(政策にのる)、第二の道(政策にのらない)に対し、当事者にとって受け入れ可能な第三の道(オルタナティブな道)」を紹介する。
それによれば、原発被害地域の第三の道は、「長期待避・将来帰還(順次帰還)」であり、廃炉の行程が三〇年以上かかる見通しから、少なくとも三〇年は避難する権利が保証されなければならないとして、「政策パッケージ(具体的には、二重住民登録、被災者手帳、セカンドタウンなど)を示している。
また津波被災地における第三の道は、「『減災』による現地復興の道を探ること(第三の道)」=「各地域で減災を実現できる程度にあわせて防潮堤の高さや災害危険区域の再設定を行い、住民たちが暮らしの再建と防災を両立できるプロセスを確立していくこと」とされる。
このように本書は、「この復興政策は失敗だ」という現実を謙虚に見つめなおし、そこから可能な復興のあり方を再構築することを強調する。(R)

【出典】 アサート No.490 2018年9月

 

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【投稿】消費期限偽装の安倍三選を許すな

【投稿】消費期限偽装の安倍三選を許すな
―沖縄県知事選勝利に全力を―

総裁選へ地方巡業
7月上旬の西日本大水害以降、異常な猛暑が続くなか、安部が汗を流すのは、国内外の課題解決ではなく、己の自民党総裁三選に向けての工作のみという、より異常な状態が続いている。
7月24日、安倍の対抗馬とみなされていた岸田文雄が、不出馬と安倍支持を表明した。岸田の「撤退」は、2021年での禅譲を期待してとの観測もあるが、菅は同日「将来の総裁候補」として、河野太郎、小泉進次郎の名をあげ、岸田など眼中にないと言わんばかりであった。
また岸田は前日に安倍と談判して決めたと強気の姿勢を見せたが、官邸は即座にこれを否定、「無条件降伏」であった可能性が高まった。
さらに7月下旬野田聖子に、朝日新聞の情報公開請求内容を金融庁から漏洩させた事件が発覚した。野田は出馬に意欲を見せているものの、このスキャンダルで事実上総裁選から脱落した。
一挙に2名の有力候補が消える中、8月10日に石破茂が正式に出馬の意向を明らかにした。しかし現職総理相手に勝利はもちろん、党員票では安倍を倍近く上回った2012年総裁選の再現は望むべくもない状況となっている。
一方安倍は国会議員の7割を固めつつ、党員票でも雪辱を果たし、石破を完膚無きまでに圧倒する「完全勝利」をめざしている。
そのため安倍は「陣笠」「どぶ板」さながらに地方行脚や地方議員との懇談を繰り返し、その合間に被災地訪問などの日程を消化すると言う、一国の宰相とは思えない動きを見せている。「赤坂自民亭」問題への反省など微塵もなく、赤提灯をぶら下げた屋台で全国を商っていると言ってもよいだろう。
それ端的に表れたのが8月6日であった。平和祈念式典後、被爆者代表の要望を聞く会に出席した安倍は、面倒くさそうに被爆者の話を聞いた後、核兵器禁止条約への不参加を明言、参加者の怒りを買った。
そそくさと会場を後にした安倍は、被爆者擁護施設に立ち寄ったあと、午後2時には帰京、埼玉の地方議員との懇談を行い、夜はアベトモとの会食と、眼中にあるのは総裁選のみであることを憚らなかった。
さらに親しい俳優の死去には心から哀悼の意を表し、「サマータイム導入」や「新天皇即位後の新元号公表」など市民生活に混乱をもたらす、常軌を逸した議員の要望にも、「三選の為なら何でもあり」と言わんばかりの対応を、恥じることなく繰り返している。
そもそも三選を可能にした党の規約改定など、食品の消費期限のラベルを張り替えるに等しい行為である。一部には安倍四選を期待する向きもあるが、今後も国民を欺き続けることを公言しているようなものであろう。

「護憲天皇」VS「改憲安倍」
広島、長崎で改めて核軍縮に消極的な姿勢を見せた安倍であるが、改憲への積極姿勢はますます露骨になっている。
8月12日、下関市で開かれた「正論懇話会」で安倍は「自民党の改憲案を次の国会に提出する」と明言、森友、加計事件で窮地に立たされていた時期の慎重姿勢を覆し、スケジュールありきの姿勢を露わにした。
自民党は3月に、9条への自衛隊の明記、緊急事態条項の創設、参院の合区解消、教育の拡充という4項目の改憲案をまとめているが、国会はおろか党内の論議も深まっていない。
それどころか西日本大水害では緊急事態条項以前の醜態を晒し、合区解消を待たずして参議院定数増を党利党略で成立させるなど、自ら改憲の根拠を崩壊させているのが実態である。
さらに国民投票法の改正も見通しが立たない中での強硬姿勢には、与党である公明、準与党の維新はおろか、自民党内でも疑問の声が上がっている。
こうしたなかでも、安倍の現憲法軽視は止まらない。8月15日、全国戦没者追悼式で安倍は、アジアへの加害責任や謝罪については今回も言及せず、不戦を誓うこともなかった。改憲と次なる戦争へのフリーハンドを確保しようとする魂胆が透かし見えている。
これに対して天皇は挨拶で、「深い反省」に加え今回初めて「戦後の長きにわたる平和な歳月に思いを致しつつ」との文言を加えた。「長きにわたる平和な歳月」を支えたバックボーンは憲法9条に他ならず、それを踏まえ「今後、戦争の惨禍が再び繰り返されぬことを切に願い」とすれば、安倍も天皇が何を言わんとしたか分かったであろう。
この様な天皇の姿勢が新天皇に引き継がれれば、安部としてもやりにくいであろうし、常識的には来年11月の大嘗祭までは「世情を静謐に保つ必要」があり、国会の条件が整ったとしても改憲案の発議は難しいだろう。
これを無視して改憲を強引に進めようとすれば、安倍の「尊皇」など明治の元勲や昭和の軍部と同様の、方便に過ぎないことが明らかとなるだろう。
安倍の暴走の背景にはこうした状況への焦りと、経済政策の行き詰まりがある。8月1日、日銀は2%の物価上昇目標の達成は困難としながら、長期金利の上昇を容認するという金融緩和政策の修正を行わざるを得なくなった。
8月10日には4~6月期のGDPが年率1,9%増(速報値)となり、NHKはニュース速報を流す等、政権浮揚を図ったが、同日以降トルコリラの暴落が引き金となり、日経平均株価は乱高下を繰り返した。2四半期ぶりのプラスと言っても、個人消費の伸びも賃上げによるものではない以上、再びマイナスに転じる可能性も高い。
さらに10、11日ワシントンで行われた日米新貿易協議(FFR)は、具体的な合意なく終了した。貿易「世界大戦」を進めるトランプにとって、日本も2国間の自由貿易協定(FTA)の対象であり、早期の妥結は難しくなっている。
さらに様々な人材活用や技術開発構想も頓挫し、活路をカジノに見出そうとするなど、まともな経済政策が打ち出せない中、今後安倍政権が改憲に純化していく危険性はますます大きくなっている。

軍拡に抗する沖縄知事選
とりわけ改憲を前提としたかのような、自衛隊の任務拡大の既成事実化が進められている。去る5月下旬自民党は政調会名で、新防衛大綱と中期防衛力整備計画策定に向けた提言を行った。
この内容は軍事費の対GDP比2%への拡大を視野に入れた、通常兵力および、宇宙、サイバー空間の軍事化も含めた全般的軍拡を提言するものとなっている。GDP比2%など、現下、中長期の財政状況では荒唐無稽もいいところであるが、この中でも提言されているイージス・アショアについては経費を度外視した形で配備計画が進められている。
これに厳しい懸念を示しているのがロシアである。7月31日モスクワで開かれた日露外務、国防相協議(2+2)でロシア側は、日本が導入予定のイージス・アショアはアメリカのミサイルシステムの一部と批判した。これに対して日本側は、純粋な防衛システムだと反論し平行線に終わったが、ロシアの懸念を払拭することは難しいだろう。
一方ロシアも7月以降軍事的緊張を高めており、択捉島にスホイ35戦闘機、スホイ25攻撃機を配備した。8月上旬現在、衛星写真で確認されているのは戦闘機3、攻撃機2のみであるが、今後増強されていくものと考えられ、2016年の択捉、国後両島への新型対艦ミサイル配備に続き、北方領土の軍事化が進行している。
さらに9月には極東地域で4年ぶりとなる大規模演習「ヴォストーク2018」が予定されており、先の「2+2」では日本側は一連の動きに対し「冷静な対応」を求め、8月3日には在露大使館経由でロシア外務省に抗議を行った。
しかし9日、ロシア外務省は「(戦闘機配備について)ロ日関係を悪化させる意図はない」との極めて形式的なアナウンスを行っただけで、撤収の考えはないことを明らかにした。
8月18日には、北方領土での日露合同経済活動に向けた現地調査が「悪天候」のため中止となり、国後島沖で待機していた日本側調査団は虚しく根室港に引き返した。
こうしたなか9月中旬には、ウラジオストックで日露首脳会談が予定されているが、形式的なもので終わるだろう。日露関係の停滞―悪化は、安倍の無定見な軍拡の帰結であり、自業自得というものである。
日露関係に展望が見いだせない中、安倍は対中関係改善にシフトをし、10月に単独訪中を計画し、来年はG20での習近平訪日を望んでいると言う。この間米中貿易紛争が激化する中、安倍は「一帯一路」構想への協力を匂わせるなど、盛んに中国に秋波を送り、関係改善を進めようとしているかに見える。
しかし、実際は着々と対中軍拡を進めており先の「自民政調会提言」でも、中国を事実上「仮想敵筆頭」にあげ、「島嶼防衛」を重要項目としている。この間陸自は沖縄県内への補給拠点設置と輸送艦の新造、さらには水陸機動団の配備計画が明らかになるなど、南西諸島の軍事化が進められている。
また海自は沖縄補給拠点強化のためタンカー取得を計画し、9月には昨年の「いずも」に続き、「かが」を南シナ海方面に派遣する計画であり、この地域での軍事的プレゼンスを強化しようとしている。
このため海自は6月、シンガポールでの艦船整備体制構築に向け、同国の造船所を調査する企業の募集を開始した。太平洋戦争で日本はシンガポールを占領し海軍の拠点としたが、アジアへの加害に対する「反省」など眼中にないこととの証左であろう。
対露、対中の軍拡は、まさに笑中に刃を研ぐ行為で、両国のみならず近隣諸国との緊張関係を増大させる以外の何ものでもない。
こうしたなか「最前線」となる沖縄では、翁長知事の急逝に伴い9月30日に知事選が行われることとなった。安倍は「総裁選圧勝」の勢いをもって県知事奪還を目論んでおり、辺野古基地建設のみならず、南西諸島要塞化をも合理化しようとしている。
政府は新基地予定地への土砂投入を「悪天候」を理由に延期するなど慎重姿勢を見せているが、野党、平和勢力は警戒を緩めることなく「オール沖縄」体制を強化し、知事選勝利に全力を傾注しなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.489 2018年8月

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