【投稿】「令和」の年号が引用された『万葉集』は本当に“国書”だったのか?

【投稿】「令和」の年号が引用された『万葉集』は本当に“国書”だったのか?
                             福井 杉本達也

和歌は、正月の宮中儀式の一つである「歌会始」にもあるように、過去から現在にいたるまで、天皇との関わりが深い。歌人の内野光子が和歌と天皇制との関係についてブログに書いている。敗戦直後、斎藤茂吉は「聖断はくだりたまひてかしこくも畏くもあるか涙しながる」と歌った。「『天皇に忠誠を表す形で戦争協力歌が量産された。その反省』もないままに…そのまま引き継がれ、さらにその関係は強化されようとしている…その要因は、直接的には、各歌人たちが天皇とつながりたいという名誉欲や自己顕示欲につながるのだが…日本政府はつねに天皇、皇室を政治的に利用しようと目論んでいること、天皇及び周辺も象徴天皇制のもとで天皇家の繁栄持続を願い続け…天皇制は『天皇家の物語』として深く、国民の間に浸透」していると述べる(内野光子:「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(2)2019.3.1)

『令和』の年号は、『万葉集』第5巻・大宰府での梅花の宴の歌32首の 序文中にある「初春令月 氣淑風和」(初春の令月にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ)から採られた。「新元号」は初めて漢籍からではなく“国書”から引用されたという触れ込みであった。しかし、『万葉集』は本当に“国書”だったのか?疑問なしとはしない。

そもそも、日本国(近畿王朝)の正史と言われる『日本書紀』には、天武・持統天皇と同時代を生きた『万葉集』中の最高の歌人「柿本朝臣人麿」の一言半句も登場しない。平安時代:905年頃に成立した『古今和歌集』の選者・紀貫之は「仮名序」において、人麿を「おほきみつのくらゐ(正三位)かきのもとの人まろなむ、歌の聖なりける」と書く。「正三位」とは「星の位」ともいわれ、上級貴族の位階である。「大納言」相当である。奈良時代の長屋王や近代では西郷隆盛らが正三位であるとする。勅撰和歌集の選者である紀貫之が位階を誤るなどとは考え難い。「柿本人麿」も『万葉集』も日本国(近畿王朝)の正史からは抹殺されたのである。“国書”ではあるが、日本国の“国書”ではない。 続きを読む

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【投稿】異常気象を地球温暖化のせいにするも何も決まらなかったCOP25

【投稿】異常気象を地球温暖化のせいにするも何も決まらなかったCOP25
                        福井 杉本達也

1 COP25は何も決められずに終了
日経の12月17日社説は「温暖化対策の緊急性はわかっても実行に移すのがいかに難しいことか。マドリードで開いた気候変動に関する国際会議『COP25』は、気象災害の多発などを防ぐのに必要な温暖化ガスの削減と、現実の政策との聞きを見せつけた」と書いた。予定された会期を2日間延長して協議を続けたものの、「パリ協定」の詳細なルールづくりは2020年に持ち越した。対策に前向きなEUや島しょ国と石炭産業などを保護したい米国やオーストラリアや石炭火力発電に頼るインドなどの発展途上国との対立が最後まで折り合わなかったことによる。さらに国際会議直前の11月に米国は正式に「パリ協定」からの離脱を通告しており、中国に次ぎ世界第二・二酸化炭素排出量の15%を占める米国の離脱は協定を有名無実化する。こうした現実の議論に対し、日本では「グレタ現象」や日本の石炭火力依存を揶揄する小泉進次郎環境相の「化石賞」受賞などの素人受けする話題を追うのみであり、まともな議論は皆無である。

2 異常気象を温暖化のせいにしての脅し
産経新聞は「今年の日本は未曽有の台風被害に見舞われた。地球温暖化が原因とされる異常気象が深刻化しており、対策は待ったなしだ。…10月に日本を直撃した台風19号は、海水温が高い海域を移動しながら急速に勢力を拡大。日本近海の海水温も高かったため、勢力を維持したまま上陸し甚大な被害をもたらした。海水温の上昇は温暖化が原因と考えられており、専門家は『温室効果ガスの削減は一刻を争う』と警告する」と脅している(産経:2019.12.15)。また東京新聞も社説において「過去20年間に、異常気象によって世界で50万人 が命を落とし、経済的損失は400兆円近くに上る。去年1年、豪雨や熱波など気象災 害の被害を多く受けた国は、その日本だったのだが」と書く(2019.12.17)。
しかし、温暖化と異常気象を結び付ける根拠は全くない。そもそも台風19号の豪雨被害をまともに予測できたのであろうか。結果として被害が大きかったことを温暖化のせいにすることは気象庁や国交省を始め専門家の責任逃れ以外の何者でもない。特にひどいのが岩波書店発行の雑誌『世界』2019年12月号「気候クライシス」特集である。同誌において(財)気象業務センターの鬼頭昭雄:地球環境・気候研究室長は「最新の気候モデルによる予測結果では、日本の南海上からハワイ付近にかけて猛烈な台風の存在頻度が増加する可能性が高いことが示されている。猛烈な台風は日本の南方海上から日本付近に来る途上で衰えることが多いが、温暖化で海洋表層水温が高くなるため勢力を長く維持できるからだと考えられる。また台風が最盛期を迎える海域が全体に高緯度側にずれるとの予測がある。」とし、「熱波や大雨などの極端気象は増えており、今後の気温の上昇に応じて、熱波や大雨などの極端気象による災害のリスクはさらに増えることは確実である」と書くが、何の計算根拠も数値も示していない。ブラックボックスである。根拠のないものを信じろと強制することを「科学」とはいわない。そのような計算結果が出るのであれば大発見である。台風の正確な進路予想や地域ごとの風力・雨量計算ももっと正確に計算できてしかるべきである。少なくとも根拠があるならば引用文献などでも示すべきであろう。 続きを読む

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【投稿】英総選挙とユーロの危機--経済危機論(9)

<<保守党の変身>>
12/12投開票の英総選挙で、ボリス・ジョンソン党首の与党・保守党(Con)が1987年にマーガレット・サッチャー首相が376議席を獲得して以来、364議席(+66)、絶対過半数をを獲得して圧勝した。対する労働党(Lab)は、203議席(-42)で、ジェレミー・コービン党首の下で2017年前回総選挙での躍進(30議席増の261議席を獲得)を帳消しにしたばかりか、それ以上の歴史的敗北を喫し、コービン党首は辞任を表明した。第三党に浮上したスコットランド国民党(SNP)は48議席(+13)を獲得して、ブレグジット(欧州連合離脱)をめぐる問題の深刻さを浮き彫りにしている。この勢力変化そのものが、イギリスの、そして欧州連合・ユーロ危機そのものを象徴しているとも言えよう。
ジョンソン首相が、大勝を受けて「ブレグジットを終わらせる」と胸を張ったその日に、反ブレグジットの左派であるスコットランド国民党を率いるニコラ・スタージョンは、離脱が進められれば、欧州連合にとどまることを明確にし、独立の是非を問う新しい「独立国民投票」が行われることを明言したのである。イギリスという連合王国(United Kingdom)が、政治的には統一と団結(united)とは程遠い実態と矛盾が露呈されているのである。(下の図で、青が保守党、赤が労働党、黄がSNP 、労働党の牙城だったイングランド北部・中部の「赤い壁」と呼ばれてきた地域が保守党の青色に塗り替えられた)
この選挙で、保守党のジョンソン首相は、徹底して混迷する状況を打開するキーワードとして「ブレグジットを終わらせる(Get Brexit Done)」を前面に打ち出したが、重要なことは、同時に労働党の政策を横取りする策に出たことである。実行する気もなければ、政策的裏付けもないにもかかわらず、これまでの保守党の緊縮政策を真逆に転換させたかのような姿勢を打ち出したのである。
ジョンソン氏は、この9年間保守党が推し進めてきた緊縮財政路線をやめて、公共投資を増やすと述べ、さらにブレグジットに次いで最大の争点となっていた国民保健サービス(NHS)縮減から一転して、「病院40棟の新規建設」「看護師5万人増員」などを公約。しかしこの看護師「増員」の中には退職意向の現職1万8500人の慰留などが含まれていたことが判明、メディアから「看板に偽りあり」と批判されても、選挙戦の最中に繰り返し病院を訪問し、NHS重視をアピールするという徹底ぶりであった。NHSは原則無料の国営医療制度であり、これまで保守党の緊縮政策によって、医療スタッフ不足や過重負担、患者の待ち時間の長期化や手術の先送りなどが常態化していたものである。NHSをアメリカ資本に売り渡そうとする裏取引に関しても、「いかなる状況でも、NHSを貿易交渉の議題に乗せないと絶対に保障する」などと力説したのであった。 続きを読む

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【投稿】世界の「日本化」懸念をめぐって  経済危機論(8)

<<アメリカのジャパナイゼーション>>
FRB(米中央銀行制度・連邦準備制度理事会)のメンバーは、連邦基金の金利をゼロ下限に戻すと、インフレ期待が低くなり、日本化(Japanification)の真のリスクになると懸念を表明し、超低金利によって、景気後退は金融政策を無効にする可能性があるとの認識を明らかにしたという(12/2、ZeroHedge)。現状のまま米国経済が不況に陥ると、「インフレは日本型デフレに近づく可能性が高いことは明らか」だとして、FRBは米国経済が日本化することを回避するために、インフレを一時的に目標範囲の2%を超える新しい「金融ツール」を試そうとしている、と報じ、ZeroHedgeのタイラー・ダーデン氏は、実はすでに「不況が始まろうとしているかどうかに関係なく、すでにアメリカのジャパナイゼーション(Japanization)・日本化が展開し始めている可能性がある」と指摘している。
ここで言われる「日本化」とは、低成長、インフレ不在、デフレ、超低金利、マイナス金利、出口なしの硬直化した金融・経済を総称するキーワードとなっている。
この「日本化」は、はまり込んだり、感染してしまってはならない「陥穽」、「日本病」、あるいは世界を徘徊する「妖怪」として警戒され、相当以前から懸念されてきたものであり、EUはすでに「日本化」に陥っているとも指摘されている。
とりわけこの「日本化」を強く警告してきたのは、「ヘリコプターマネー」を提起して、緊縮政策からの大胆な転換を訴えた元英金融サービス機構(FSA、日本の金融庁にあたる)長官・アデア・ターナー氏である。氏は、著書『債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか? 』(日経BP 2016/12/23)の中で、「本書の英語版を書き終えた2015年時点で、世界経済が過剰債務に起因する低インフレと低成長の罠にはまっていて、かつタブーとされた大胆な政策を実施しなければ脱却できないことは既にはっきりしていた。この1年でそうした現実はさらに明白になったが、どこよりも明白なのが日本である。」と指摘している。氏は、「金利がきわめて低い水準に達すると、さらに引き下げても個人消費や設備投資を刺激する効果は低い。そして、この一年の日本やユーロ圏のようにマイナス金利が導入されると、名目需要に対する効果はマイナスになるかもしれない。超低金利がもたらした結果として何より明白なのは、既存の資産保有者の資産が増加したことである。英国では、2008年以降、1人あたりの所得は2%しか増えていないが、既存資産の残高は30%増加している。景気の回復力は弱く、その果実は平等に分配されていない。政治的な反発から英国はEU(欧州連合)離脱を決め、米大統領戦で共和党のドナルド・トランプ候補が躍進しているが、それは驚くべきことではない。」と強調している。そして、「近い将来、日本政府が現在の政赤字を黒字に転換し、債務残高で持続可能水準にまで引き下げることができるという信頼に足るシナリオは存在しない。物価が2%の目標に達することも見込めない。」と断言している。これらの指摘は、世界に広がる「日本化」の実態と問題点を正確についていると言えよう。
アデア・ターナー氏の「ヘリコプターマネー」とは、「2013年に初めて主張した時、各国中央銀行の多くの仲間や友人は恐れおののき、タブー視されたが」、「問題が名目需要の不足なら、中央銀行と政府が連携すれば弾薬は尽きることがない。それが増大する財政赤字のマネタリファイナンスであり、ヘリコプターマネーと呼ばれる政策」であると主張する。単なるバラマキ政策ではない。デフレ脱却政策として財政支出を重視する現代貨幣理論(MMT Modern Monetary Theory)と相通ずるものと言えよう。
問題は、経済を疲弊させる緊縮政策を転換させる政策が、マネタリーファイナンスだけに集約され、投機経済を規制し、規制緩和と市場原理主義の新自由主義を転換し、いかなる名目需要にファイナンスさせるかというニューディール政策と結びついていなかったことにあると言えよう。 続きを読む

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【投稿】香港の暴動の背景と日本のマスコミ・リベラルの歪な「中国感」

【投稿】香港の暴動の背景と日本のマスコミ・リベラルの歪な「中国感」
                             福井 杉本達也

1 香港暴動で大きく破壊された公共インフラや商業施設
長引く香港の暴動で訪問観光客数は前年比39%(8月)も減少した。老舗高級ホテル:ザ・ペニンシュラ香港の稼働率は35%にまで低下した。宝飾品の売上は41%減、デーパートの売上も26%減、親中的企業と見られたスターバックスの店舗なども破壊された(日経:2019.11.29)。暴徒に繰り返し襲撃され、破壊された結果、人々で賑わい商売の繁盛していた銅鑼湾、旺角、尖沙咀など商業エリアの場景は雲散霧消した(人民網2019.10.28)。大量輸送インフラへの打撃も深刻で、香港国際空港占領に始まり、地下鉄駅への放火・車両の脱線、香港海底トンネル(クロスハーバートンネル)も破壊され通行止めになり、信号機も約730基が破壊された。移動の約90パーセントが公共輸送機関に依存している都市での衝突は、750万人もの香港住民にとって、外出する際に、もはや安全なスペースがない状態となった。今年第3四半期の香港の域内総生産(GDP)は前年同期比マイナ ス2.9%となる見通しだ。香港の小売業、ホテル業、飲食業の合計失業率はすでに過去2年余りで最高の4.9%に上昇。このうち飲食業の失業率は過去6年間で最高の 6.0%に達している(「香港ポスト」2019.11.28)。

2 香港暴動の目的は第二の「天安門事件」を引き起こすことにあった
香港暴動の裏の意図は、当初から「第二天安門事件」を引き起こすことであった。香港警察の防御網を突破し、中国人民解放軍を出動させるよう挑発することが目的だった。暴動の参加者は、英米政府から資金を供給され、リーダーはCIA謀略資金の公然組織である全米民主主義基金(NED)のような組織と共謀するためワシントン出向いている。しかし、香港と中国本土を不安定にするため、外国に支援された公然の取り組みは最終的に失敗した(参照:Tony Cartalucci 「マスコミ載らない海外記事」2019.10.17)。人民解放軍は暴動鎮圧に出動しなかった。香港駐留の人民解放軍は非武装でボランティアとして暴動により破壊された道路などのインフラの掃除をしただけであった。香港の公共インフラをあまりにも破壊した結果、香港市民の支持を失い孤立して、暴動の武装中核部隊は香港理工大学に追い込まれ、ほどんどが逮捕されてしまった。
中国政府が人民解放軍を出動させなかった理由は1989年の「天安門事件」による米欧からの徹底的な制裁にあった。結果、中国の経済発展はしばらくの間大きく遅れることとなった。今回も「第二天安門事件」を引き起こし、それを理由として中国に経済制裁を科して中国の経済発展を封じ込めるつもりであった。しかし、中国は「天安門事件」に学んだ。二度と同じ過ちは繰り返さないと誓った。暴動の首謀者の目算が外れた要因はもう一点、香港は北京ではないということである。北京が分裂すれば政治指導部が分裂し国家が解体してしまう。しかし、香港がどうなろうと、今の中国の経済力からすれば大した打撃ではない。 続きを読む

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【投稿】高知県知事選をめぐって・補論--統一戦線論(67)

<<大差敗北でも「大健闘」>>
11/28に高知県知事選をめぐって投稿したが、11/30付・しんぶん赤旗の1面記事を見て驚いた。見出しが、高知県知事選で大健闘 松本氏 各野党にあいさつ 「共闘進んだ」「次につながる財産」とある。
記事は、「高知県知事選で市民と野党の統一候補として大健闘した松本顕治氏が29日、国会を訪れ、応援をうけた野党各党・会派代表らにあいさつをしました。日本共産党の志位和夫委員長、穀田恵二国対委員長が同行しました。」として、「立憲民主党の枝野幸男代表、国民民主党の玉木雄一郎代表や小沢一郎衆院議員、社会保障を立て直す国民会議の野田佳彦代表、社民党の福島瑞穂副党首、無所属の会の岡田克也代表、元建設相の中村喜四郎衆院議員らが応対しました。」と、その際の写真付きである。
 同記事は、志位氏は、「党首のみなさんはじめ55人の国会議員に応援に入っていただき、本当に心のこもった演説をしていただいた。気持ちのいいたたかいができ、共闘が一歩進んだ。次につながる財産ができました」と感謝を述べました、と続き、最後に、どの部屋でも「大健闘だった」「素晴らしい候補だね」と歓迎され、志位氏らは「国会でもがんばりましょう」と語り、握手を交わしました、と結んでいる。
そこには知事選候補者であった松本顕治氏が、今年7月の参院選徳島・高知選挙区で野党統一候補として出馬し、高知では1万9000票差で落選したのであったが、今回の知事選では、差を縮め、肉薄するどころか、逆に6万2000票以上もの大差に広げてしまったことについては、一言も触れてはいないのである。言い訳も反省の弁すらない。あきれたものである。
安倍政権が、森友問題や「桜を見る会」をめぐって明白・厳然たる事実を無視して、批判と責任を問う声を一切無視して政権にしがみつき、事態が鎮静化するのを待とうとする態度と、この共産党指導部の姿勢は同一だと言うのは、言い過ぎであろうか。 続きを読む

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【投稿】高知県知事選をめぐって 統一戦線論(66)

<<内閣支持率急落のさなか>>
11/7告示・11/24投開票の高知県知事選挙は、安倍政権が、”権力必腐”を地で行くような、長期政権の驕りと緩みが噴出し、首相主催の「桜を見る会」の露骨な私物化、公職選挙法違反の事実が次々と明らかにされ、窮地に追い込まれ、逃げ切りに躍起となっているさなかに行われた。直前の各メディア世論調査でも、内閣支持率は前回10月調査から5~7%急落し、「桜を見る会」についての安倍首相の説明に「納得できない」と答えた人が69%にのぼり、「納得できる」はわずか18%であった(11/22-24日経調査)。それだけに、与野党一騎打ちとなったこの知事選で、野党統一候補がこの好機を生かし、どれだけ肉薄し、凌駕し、ひっくり返すか大いに注目もされ、期待もされたが、結果は以下の通りであった。
浜田省司、無所属・自民公明推薦、新。17万3758票。当選。
松本顕治、無所属・野党統一候補、新。11万1397票。
62,361票の大差で、自公候補に勝利をもたらした。投票率は47.67%と前回より1.75%上昇したが、これまでで2番目に低い投票率であった。
この結果を受けて、11/24、自民・下村選挙対策委員長は、「桜を見る会」の影響は小さかったとして胸をなで下ろし、「自民党と公明党が力を合わせて応援し、それなりの差が出てよかった。国政の影響が、マイナスに働くのではないかと危機感を相当持っていたが、払拭できたのではないか」、「いつあるか分からないが、衆議院選挙にも影響する大変重要な知事選挙だと捉えていた。今後の国政にも大きなプラスになると思う」と述べている。公明党の佐藤選挙対策委員長は、「今回の勝利は、自民・公明両党の協力体制が機能した結果だ」と述べている。
安倍政権退陣を要求する声は、まだまだ収まってはおらず、「胸をなで下ろす」のは、早計とは言えようが、政権与党陣営にひとまずの安堵感を与えたことは事実であろう。 続きを読む

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【投稿】危うい株価の乱高下--経済危機論(7)

<<「最悪のシナリオ」>>
11月中旬合意予定のはずであった「第1段階の合意」という名の米中関税交渉は、急遽とん挫しかねない情勢に陥っている。11/19、米上院が中国が香港に高度の自治を保障する「一国二制度」を守っているかどうか米政府に毎年検証を求めるという「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。これに対して11/20、中国の全国人民代表大会(全人代)外事委員会は「米上院が非難されるべき暴力犯罪を非難するどころか、むしろ『人権』や『民主』を口実にして暴徒を後押しし続けていることは、米議会の人権と民主問題における極端な偽善と、あからさまなダブルスタンダードであり、さらに中国に反対し香港地区を混乱させようという陰険な意図を十分に露呈している。」との声明を発表、中国外務省は、国家の主権と安全保障を守るために必要な措置を取る、法案が成立すれば「強い報復措置」を取ると警告している。
米下院はすでに先月、同様の法案を満場一致で可決しており、今後上下両院の調整を経た上で、トランプ大統領に送付される。トランプ大統領はこの法案に署名する意向かどうかをまだ明らかにしていないが、ペンス副大統領は11/19、香港でのデモが暴力に見舞われた場合、米国が中国との貿易協定に署名することは難しいと述べている。トランプ氏はこの合意を来年の大統領選再選に向けた大いなる「成果」として前面に押し出す構えであったが、怪しくなってきたのである。たとえトランプ氏が法案に拒否権を発動しても、上下両院はそれぞれ3分の2以上の賛成で覆し、成立させることができることからすれば、貿易協定ではなく、香港法案に署名する方をを選ぶ可能性が大であろう。
そして中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報の胡錫進編集長は11/20の投稿で、「米中が近く合意できると考えている中国人はほとんどいない」とし、「中国は合意を望んでいるが、貿易戦争の長期化という最悪のシナリオに備えている」と述べている。米中双方とも、合意困難との判断が大勢を占めだしたのである。
合意の破綻は、米中合わせて世界のGDPの約40%を占めていることからすれば、世界的な経済活動に劇的な悪影響を及ぼし、経済危機を一挙に高める可能性を現実化させると言えよう。
11/20のニューヨーク株式市場は、香港情勢が米中貿易協議の妨げになるとの懸念が広がり、ロイター通信が米中協議「第1段階の合意」の署名が来年にずれ込む可能性があると報じたことから、一時約258ドル安まで値を下げている。上海はもちろん、アジア各国の株式市場も一斉に値を下げている。 続きを読む

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【投稿】欧州発・世界不況をめぐって--経済危機論(6)

<<「不況ドミノ」の警告>>
毎日新聞社発行の『エコノミスト』誌11/12号(11/5発売)は、「欧州発 世界不況」の特集を組み、欧州経済は、(1)ドイツ自動車産業の減速、(2)ブレグジット、(3)銀行危機、(4)米欧貿易摩擦──により、景気が急失速する可能性が高い、これは世界経済を不況に導くリスクになりうる、として「欧州発 不況ドミノ」を警告している。その震源地は「欧州経済の機関車」と自他共に認めるドイツだ、「ドイツの産業界は、既に景気後退のまっただ中にいる、ドイツ企業の心理は極めて弱い」と指摘している。同誌はとりわけ、欧州経済をけん引してきたドイツ自動車産業の低迷に焦点を当てている。
そして現実に、ドイツの日刊紙・南ドイツ新聞は、11/8金曜日の朝、自動車メーカーの労使協議会で管理者側から配布された文書を引用して、ダイムラー・ベンツが、現在2年にわたって進行中の世界的な自動車産業の減速について警告し、グローバルな自動車産業の低迷から会社を守るためとして、徹底的なコスト削減プログラム、まず管理・経営陣の10%の削減、そしてより包括的なコスト削減プログラムの概要を提起したと報じている。当然、大量解雇を含むリストラ策が画策されているであろう。
11/6、IMF(国際通貨基金)は、欧州経済に関する最新情報を発し、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州の乗用車製造現場の写真を冒頭に掲げ「世界の他の国々と同様に、ヨーロッパの貿易と製造業は弱体化しています。 この減速が他の経済分野に拡大しているいくつかの兆候があります。 」(IMF NEWS 11/6)として、6つの図表(右図はその第一)を掲げて経済活動の減速を分析し、成長率は昨年実績の3分の1にとどまり、2018年の2.3%から今年の1.4%への成長の低下を予測している。それはとりわけ新興欧州諸国の経済に顕著であり、ロシアとトルコが堅調な成長を維持していることからすれば対照的である、としている。しかも、ブレグジットにかかわる混乱、保護主義や地政学的緊張の高まりによって、不確実性が強化されており、リスク選好度の急激な低下など、危険性に注意を促している。 続きを読む

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【書評】『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』 (平井美津子、2017年10月発行、高文研、1,500円+税)

 「『陛下はいわゆる戦争責任について、どのようにお考えになっておられますか、おうかがいいたします』という質問に、昭和天皇は『そういう言葉にアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究してないので、よくわかりませんから、そういう問題についてはお答えができなけます』。『戦争終結にあたって、原子爆弾投下の事実を、陛下はどうお受け止めになりましたのでしょうか、おうかがいいたしたいと思います』との質問には『原子爆弾が投下されたことに対しては遺憾には思ってますが、こういう戦争中であることですから、どうも、広島市民に対しては気の毒であるが、やむを得ないことと私は思っています』と答えている」。
 「私はこの二つの答えを聞いて、言いようもない虚しさというかあほらしさというかなんとも言えない気持ちになったのを今もはっきりと覚えている。大元帥として戦争を最終的に指揮する権限を持った人として、そしてひとりの人間としてあまりにも不誠実ではないのかと」。
 1975年10月31日の昭和天皇の記者会見に衝撃を受けた著者は、その後中学校で教鞭をとることになる。そして1989年1月7日、その昭和天皇が亡くなり、2月24日大喪の礼で学校に公休日と半旗を上げることを文部省が通知してきたことに対して、「現実には、憲法にも教育基本法にも違反していることがいとも簡単に押し付けられていく。国家神道に国民たちがからめとられた時代は決して過去のものではないのだ。当時中学二年生に歴史を教えていた私は、アジア太平洋戦争や憲法の成り立ちなどに授業の必要性を改めて実感した。自分の中で、社会科の教師として何を子どもたちに伝え、考えさせるのかがやっとはっきり見えてきた」と戦争、戦後史学習に焦点を合わせた授業実践を目ざす。
 その内容は、「日本政府『戦後50年決議(村山談話)』」、「沖縄での米兵による少女暴行事件」、「日米地位協定、日米安保をめぐる沖縄、政府の動き」、「誤った歴史認識を持った閣僚による相次ぐ発言」等と多岐にわたるが、中でも「慰安婦」として初めて名乗り出た金学順さんの証言から、授業にこの問題を取り上げることにした。
 しかし当時、この問題を否定したい右派メディアによる教科書への攻撃や「〈明るい日本〉国会議員連盟」(奥野誠亮会長、安倍晋三事務局長)、「新しい歴史教科書をつくる会」(藤岡信勝ら)などによる戦後歴史教育への批判が勢いを得て、著者の実践する戦争、戦後史学習は言うに及ばず「慰安婦」問題学習への圧力は増す一方であった。
 著者の場合、勤務校への在特会メンバーによる脅迫や市会議員からの教育委員会への圧力があり、これに対して事なかれ主義で事態を丸く収めようとする管理職の曖昧な態度などで苦しめられる。しかし著者は、この問題は学校教育全体に対してかけられている攻撃だとして職員会議でのオープンな議論をすることで、問題を共有することに努める。またそれを通じて同僚・教職員組合、そして数少ない骨のある校長などの支えがあったことが著者を励ました。そして何よりも授業実践によって生徒たちが戦争、沖縄戦、「慰安婦」問題についての目を開かれ、自分に関わる問題として考えるようになってきたことが──もちろん反発する生徒やわからないという生徒も当然いるが──授業後の感想文で出てきた。その個々の文章については本書を見られたい。
 「慰安婦」問題を20年にわたって教え続けてきた著者は、こう語る。
 「戦争によって非業の死を遂げたり、人生を破壊されたりした人々の悲惨な体験は何を物語るのか。それは単なる悲劇の物語ではない。終わった過去のことでもない。/そこから学ぶべきは、その真実を知り、記憶し、未来の平和を築くために継承していくことではないだろうか。体験をただ聞くだけでなく問いを立て、その答えを継承していくプロセスを大切にしなくてはいけない。『戦争はいけない』『平和がいい』という言葉をいくら並べても、本質にたどりつけないばかりか、形だけで時がたてば忘れられていくものでしかない」。
 未来をつくる子どもたちに向き合い、戦争の本質を子どもたちに伝える実践の貴重な記録である。ただ欲を言えば、本書に実際の授業計画・資料等が付けられていたら、同様の実践を行なおうとしている教育者たちに大いに参考になったと思われる。(R)

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【投稿】電気料金を還流させフトコロに入れていた関電幹部の告発を

【投稿】電気料金を還流させフトコロに入れていた関電幹部の告発を
福井 杉本達也

1 関電幹部は日本社会にとって異様・有害な反社会的集団
関西電力の役員等20名が、福井県高浜町の元助役森山栄治氏から約3億2千万円の金品を受領していたことが明らかになった。多額の金品の大元は、総括原価方式で積み上げられた電気料金の一部である吉田開発に発注された不当に水増しされた工事費から捻出され、森山氏に手渡されたものであるが、10月2日の記者会見では金品受領について「森山栄治氏の度重なる恫喝のために受領した」などと「被害者面」に終始し、続投を表明していた。だが、社会的批判は厳しく、10月9日、関電は、八木誠会長と岩根茂樹社長が辞任すること及び但木敬一弁護士(元検事総長)を委員長とする第三者委員会を設置したことを発表した。しかし、辞任表明は、遅きに失したものであり、本来ならば岩根社長が臨時記者会見をした9月27日に行われてしかるべきものであった。
10月2日の記者会見の場で配布された、昨年9月11日の「調査委員会報告書」(委員長:小林敬弁護士)では、森山氏に「『お前にも娘があるだろう。娘がかわいくないのか?』とすごまれた」などの伝聞に過ぎないことを事細かく書き、メディア利用して同和問題を煽り、自らの責任逃れをするという異様なものであった。郷原信郎弁護士も「彼らの言動は、残念ながら、全く理解できないどころか、異様なものだった。彼らが関電の経営トップの地位にとどまっていること自体が、関電という企業にとっても、日本社会にとっても、極めて有害であり、到底許容できないものである」と述べている(10月7日)。 続きを読む

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「反省する勇気」さん 投稿9

これと同じようなことを何度か、僕も、経験してきた。(以下参考)

きょう、フリマに行った  2016-5-22
https://plaza.rakuten.co.jp/hannpenn/diary/201605220002/

きょう、中之島の中央公会堂で、「戦場体験を語り継ぐ老若の集い」があったので、顔を出してみた
https://plaza.rakuten.co.jp/hannpenn/diary/201609050001/

友人へのメール「9条があったから、日本は、戦争しないですんだ」「戦後の平和は、9条のおかげだ」と、よく言われますが・・・・・果たして、そうだろうか??
https://plaza.rakuten.co.jp/hannpenn/diary/201507140002/

つい最近、リベラル?の友人夫婦と旅行した時も、この(平和憲法)(第9条)の話で、盛り上がった。

おきまりの「戦後日本が、戦争しないで済んだのは、平和憲法のおかげだ」「安保条約で、戦争に巻き込まれる・・・」というセリフ。
もうこれまで、何度、聞かされてきたことだろう・・・この勘違い!! 続きを読む

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【投稿】「領土問題」で野党共闘か? 統一戦線論(65)

<<「尖閣問題」を中心に懇談>>

10/25付・「しんぶん赤旗」は「尖閣問題で懇談」「野党共同会派に招かれ志位委員長語る」との見出しで、本文冒頭は、
「日本共産党の志位和夫委員長は24日、国会内で、立憲民主・国民民主などの共同会派の安住淳国対委員長に招かれ、『尖閣問題』を中心に懇談しました。他党・会派の会合に志位委員長がメインスピーカーとして招かれたのは初めて。国民民主の原口一博国対委員長、『社会保障を立て直す国民会議』の広田一国対委員長、中村喜四郎衆院議員ら約20人が参加し、和やかに議論しました。日本共産党の穀田恵二国対委員長も同席しました。安住氏は『よくいらっしゃいました。野党の共闘が国会でも選挙でも進んでいます。今度はぜひ志位さんに外交問題で話を聞こうとお招きしました』と述べました。志位氏は『今日はお招きいただきありがとうございます。野党の共闘がここまで来ているのかとうれしく思います。これを機会にさらに発展させていきたい』と応じました。」と報じている。
同紙は、「他党・会派の会合に志位委員長がメインスピーカーとして招かれたのは初めて。志位氏は冒頭、東シナ海の問題で、海上保安庁の資料を示しながら、『中国公船による尖閣諸島周辺の領海侵入、接続水域進入が常態化している』と述べ、これに安倍首相がまともな抗議もしていないと指摘。…『正面から日本の領有の正当性を中国側に主張し、相手の言い分を論破するという外交交渉が必要です』と強調しました。日ロ領土問題について質問を受けた志位氏は、プーチン大統領に屈従する安倍首相の『2島返還』論を批判するとともに、ヤルタ協定やサンフランシスコ平和条約にも触れ、戦後処理の不公正を大本から正すことが解決の道であることを力説。」と、かねてからの共産党の主張を志位委員長が強調し、意見交換では「野党が外交問題でも方向性を示すことが大事だ」などの意見が出され、外交論議がおおいに盛り上がりました、と報じている。
これは一体何を意味しているのであろうか。「野党の共闘がここまで来ているのか」と志位委員長はうれしがっているが、「尖閣問題」で野党が横一線に並び、安倍政権の歴史修正主義とも横一線で挙国一致の体制を形成しようという、あるいはもうすでに出来上がってしまった、という、「野党の共闘がここまで落ちぶれてしまったのか」という視点でこそ、この問題は問われるべきであろう。 続きを読む

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【投稿】超金融緩和・マイナス金利の異常 経済危機論(5)

<<IMFの警告>>
10/15、IMF(国際通貨基金)は今後の世界経済見通しに関するレポート(IMF 2019 Global Financial Stability Report)を発表し、これまでの世界経済予測(2019年の3.9%の成長予測)を下方修正(3.0%)、10年前の金融危機以来、経済成長率が最も低いレートに落ちると予測し、世界経済は「同期した減速」にあり、「不安定」かつ「不確実」と表現、「貿易障壁の高まりと地政学的な緊張の高まりにより成長は引き続き弱まっている」と述べ、新たな世界的な金融危機の懸念を提起し、強い警告を発表している。経済危機の進行への強い警告を発したのである。
同レポートは、超金融緩和、負の金利政策の実施と関連して、「短期的には緩和的な金融政策が経済を支えているが、それらに依存した政策は財政的なリスクテイクを促進し、一部のセクターや国の脆弱性のさらなる蓄積を促進している」と指摘している。
しかしIMFはわずか3年前には「「負の名目金利の経験は限られているが、全体として追加の金融刺激策を提供するのに役立ち、需要と物価の安定を支援するはずである。」と評価していたのである。自らが支持し、推進してきた不健全かつ異常、危険な、マネーゲームと投機を促進し、実体経済を損なう超金融緩和政策、その危険性に警告せざるを得ない事態を認識しだしたということでもあろう。事態の推移を注視してきた人々にとっては、同レポートは深刻な現状を確認したものに過ぎないとも言えよう。
一方、FRB(米連邦準備制度理事会)は10/16、金融市場に量に制限を設けない、無制限の金融緩和政策に踏み切り、月に約600億ドル(約6兆5000億円)、財務省短期証券を購入し、少なくとも6カ月間継続することを明らかにした。2014年10月に量的金融緩和を終了して以来、5年ぶりに保有資産の拡大に踏み切るのである。翌10/17、ニューヨーク連邦準備銀行は、流動性を高めるためとして104.15億ドルを金融市場に投入している。米国の金融当局によるこの2つの行動は、米国が金融市場に再び無制限の量の現金・金融緩和を提供することにより、世界経済の差し迫った不況に対応しているのだという姿勢を表明したつもりなのであろう。
しかし問題はこうした超低金利、ゼロ金利、一部を除いて史上かつてなかったマイナス金利(EU、日本等)まで伴った「型破りな金融政策」によってだぶついたマネーは、深刻な金融危機の条件を作り出しており、新たな悪循環、時限爆弾を準備し、10年前のリーマンショックをも上回る破壊的な危機を作り出す可能性を高めていると言えよう。市場原理主義に基づく規制緩和、それと対をなした緊縮政策と一体となって推進されてきた金融緩和政策がいよいよ限界に達し、実体経済に投資されることなく、かえって実体経済を損ない、バブルや投機的なよりリスクの高い金融資産に投資することを促進するものである。 続きを読む

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【投稿】日本の河川行政の根本が問われる台風19号の豪雨による水害

【投稿】日本の河川行政の根本が問われる台風19号の豪雨による水害
福井 杉本達也

1 「水害も自己責任」か?―被災者など眼中にない政府・与党
台風19号による豪雨で甚大な被害が出ている。今回の災害で亡くなった人は10月18日時点で、80人 、不明11人、堤防の決壊は、千曲川や阿武隈川など7県にまたがり71河川の128か所に上っている。宮城県丸森町など、今の時点では詳しい状況が確認できていない地域もあり、被害の全容はまだ分かっていない。自民党の二階俊博幹事長は13日、 台風19号の被害を受けて開いた党の緊急役員会のあいさつで、「予測されて色々言われていたことから比べると、まずまずで収まったという感じだ」と語った(朝日:2019.10.13)その後、二階氏は「日本がひっくり返るような災害に比べれば、そういうことだ」と釈明。
ようするに国民を生身の人間としてではなく、数でしか捉えていない。安倍首相はラグビーにうつつを抜かし、菅義偉官房長官は15日の記者会見では、22日の天皇の即位を祝うパレードは「淡々と進める」と述べていたが、さすがに、被害が広範囲に及ぶことが明らかとなってきた18日、パレード中止を決めた。この国家の指導者にとって、「貧困は自己責任」・「学費が払えないのは自己責任」・「就職難は自己責任」・「病気は自己責任」そして「水害は自己責任」なのである。 続きを読む

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【書評】『農家女性の戦後史–日本農業新聞「女の階段」の五十年』

『農家女性の戦後史──日本農業新聞「女の階段」の五十年』 (姉歯暁、2018年、こぶし書房。2,200円+税)  

1967年、『日本農業新聞』に「女の階段」という女性投稿欄が登場した。本書はその50年にわたる歴史から、戦後、特に「高度成長期に大きく変化していく農村の風景と家族のありさま」を語る農家女性の生の声を通じて、そこに描き出されている「農家女性のたちの思いとその思いを生み出した時代を読み解く」。そして「女性たちが『なぜ?』と問うてきた数々の『不条理さ』をもたらしてきたものを探る」。
 生産性向上運動~米作りの奨励~減反政策~酪農の奨励~農産物自由化等々と目まぐるしく変わる戦後農政の方針転換に振り回される農家において、そのしわ寄せを最下層で受け続けてきたのが農家女性たちであった。
 例えば、敗戦後の食糧増産政策の下で、「女性たちの農作業と家事育児等の労働時間を合わせた労働時間の総計は男性を凌駕しており、困窮を極める生活の中でもっとも負荷がかかっていたのは農家の女性たちだった」。この負荷の軽減を図るために提唱されたのが生活改善運動であった。しかし「それはあくまでも農家女性を家庭内労働の専業的担い手と位置づけてそこに集中的に指導が行われた」。このために「当時、『家』制度が厳然と残る農村において、女性だけを対象に生活改善を提起することは、家事労働をはじめとする家庭内労働の担い手が女性であることをこれまで以上に明確に宣言しているに等しいものであった」。しかし他方では、これをきっかけにさまざまな課題に関わりあう女性たちのグループや組織も出始め、後の農薬表示改善運動、無農薬・有機栽培、産直運動の芽生えにつながったと評価される。
 また米価について言えば、「そもそも、消費者米価と生産者米価とは食管法上連動しないはずであった。生産者米価は、米の生産が持続的に行われることを目的に、生産費と農家が費やした労働時間に見合う所得補償分を組み込んで算定される。今でいう、フェア・トレードの考え方とよく似ている。一方、消費者米価は家計費を基準にその時の経済情勢を考慮して決定されることになっていた」。ところが1975年の米価引き上げ(生産者米価14.4%、消費者米価19%)に際して政府は、消費者米価と生産者米価が関連するかのごとき姿勢を取り、消費者団体は、消費者米価の引き上げを生産者米価の引き上げに起因する主張として反対運動を起こしたのである。こうして、生産者米価(食管制度)をめぐる農家と政府との対立は、消費者と生産者の対立に置き換えられ、農業叩きが連日マスコミによって報道されたという経緯が語られる。
 同様の農業叩きは、農産物の自由化の動きにおいても行なわれた。1980年代末に「マスコミはこぞって“日本の物価が高いのは──つまりあなた方一般国民が暮らしにくいと感じるのは──農業生産者のせいである。彼らは補助金にあぐらをかき、近代化、合理化を怠っている。農業という遅れた産業を早く合理化、近代化しなければならない。同時に、せっかく円高で安いのだから農産物は輸入しようではないか。それが家計を助けるのだ。それを妨げているのは農協と既得権益を死守しようとする農家だ”という言説を振りまいた」。
 これらの動きの底流にアメリカからの農産物の輸入圧力があり、戦後農政は、政府の対米貿易政策と深くかかわりを持ち、大豆・小麦・米の生産や削減は、アメリカとの政治的妥協の産物であったことが示される。本書はこれをアメリカの「日米構造協議以来の戦略」と特徴づける。このように戦後の農家は政治に左右されてきたが、しかし他方では、「『米価と票の取引』と揶揄されるように、補助金と引き換えに砦を少しずつ明け渡し、政府への依存を強めていった農協、農家」に対する消費者の不信感も広く存在し、これが「農家女性たちと都会の消費者との分断」を成功させたと指摘する。
 そして本書は、農村内部で農家女性を追いつめる「日本型福祉社会」を鋭く批判する。「女の階段」に投稿してきた女性たちの多くは「戦後民主主義のもとにありながら、未だに家父長制的イデオロギーが蔓延する農村で悔しい思いを飲み込んできた、いわゆるサンドイッチ世代」、つまり「明治生まれの姑につかえ、戦後生まれの嫁との間に挟まれる世代」である。「この世代の女性たちは、自身の半生を介護に捧げ、いつか自分たちも嫁を迎えたら、それで自分は『嫁』としての役割から解放されるものと期待し、毎日を耐えてきた。その一方で、この世代の女性たちは、それまでの女性たちが背負ってきた不条理さを自分の代で終わらせたいと考える先進性も身につけているのである」。
 しかし彼女たちを取り囲んでいたのは、「自民党家庭要綱」に見られる家庭の「役割」=「老親の扶養と子供の躾けは、第一義的には家庭の責務であることの自覚が必要である」といった「国民個々人の自助努力」「家庭の相互扶助」を強調する「日本型福祉社会」のイデオロギーであり、女性に家事・育児・老親の介護の責任を負わせて社会福祉を後退させる政策であった。この中では「国の社会保障」は、本来の機能を果たせない「家庭」に対するものとして位置づけられ、それに頼ることはその過程が本来の機能を持っていないというレッテルを貼られるということになった。「こうして、介護は家庭の中で処理されるべき問題とされ、国家のサポートから切り離された家族が(正確には家族の中の娘や嫁が)福祉機能のすべてを背負わされる」という状況がもたらされたことは周知の事柄であろう。
 このように「嫁や娘だけで介護を背負うことがすでに限界にきていることを、そして、そのことをなかなか理解してもらえない夫をはじめとする男性の『家族』に対して『女の階段』の読者たちは、切実に訴える」という深刻な状況を指摘する本書は、「まさに農村の内側からみたリアルな女性史であり、政治史、経済史、農政史であり、そして生活史そのものである」。(R)

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【投稿】米中「第1段階の合意」をめぐって 経済危機論(4)

<<「貿易戦争の終結に非常に近いところ」>>
10/11、トランプ米大統領は中国の劉鶴副首相が率いる中国側貿易交渉団をホワイトハウスに招待した席で、「中国との貿易交渉で実質的な第1段階の合意にいたった」とし「両国は貿易戦争の終結に非常に近いところにいる」と発表した。2日間にわたる高官級貿易交渉での「第1段階の合意」は、中国が米国産農産物を大量購入する一方、米国は10/15に予定されていた中国産製品に対する関税率引き上げを延期するというのが骨子である。また、中国の通貨を管理する方法に関する指針にも合意した、という。トランプ大統領は「近いうちに類例のない大規模な農産物輸出の道が開かれるはず」だとして、「農業関係者は土地とトラクターを購入して中国特需に備えなければいけないだろう」とまで述べている。トランプ大統領は「第1段階の合意案を作成するのに3週から5週ほどかかるとみられる」とし「準備できれば中国の習近平国家主席と私が首脳会談をして署名することになるだろう」と述べている。しかし同時にトランプ大統領は、例によって「今後数週間で破談になる可能性」にも言及している。10/15の報復関税実施を目前に控えた、とりあえずの、なんとも不安定極まりない合意ではある。
中国側は、「新たな中米閣僚級経済貿易協議が10日から11日にかけて米国ワシントンで行われた。双方は両国首脳の重要な共通認識をガイドラインとして、共に関心を抱く経済貿易問題について率直で効率的、建設的な議論を進めた。双方は農業や知的財産権の保護、為替相場、金融サービス、貿易協力の拡大、技術移転、紛争解決といった分野で協議し、実質的な進展を得た。双方はまた今後の協議日程についても討議し、最終的な合意に向けて共に努力することに同意した。」と発表している。
10/12付人民日報「鐘声」(国際評論)は、「経済貿易摩擦をしかけ、エスカレートさせても、貿易赤字を減らす助けにならないだけでなく、その悪影響は想像をはるかに超えたものになる。製造業からサービス業、消費などの分野へと拡散し、米国民が悲鳴を上げる状況に追い込まれ、米国の企業家が追加関税撤廃申請を数えきれないほど出していることが、それを物語っている。米側は中国への抑圧が結局のところ米国にどれだけの反作用をもたらしているかを考えてみるべきだ。」と述べ、さらに「米商務省が先ごろ発表したデータによると、米国の8月の商品・サービス貿易赤字は前月から1.6%増加した。そして米供給管理研究所(ISM)が今月初めに発表した調査データによると、9月の米国の製造業購買担当者景気指数(PMI)は大幅に低下し、2009年6月以来最低のレベルになっており、米国製造業の委縮が加速したことが分かる。米労働省の最新データによると、経済の不確実性と製造業委縮の影響を受け、米国の8月の新規就業者数は前月より1.7%減少し、昨年11月のピーク時の数から50万人減った。これらの状況は、他国を抑制し、圧力をかけ、国内の矛盾を国外に転嫁することでは、そもそも強い米国を維持できないことを物語るに十分だ。」と釘を刺している。
ともかくも泥沼の関税戦争突入を、たとえ一時的ではあれ停止させたことは、ただちにニューヨーク株式相場に反映し、ここ数か月大幅続落を繰り返し、10/2には530ドル超下げていたダウ工業株30種平均は、前日終値比で一時500ドル超の上昇で歓迎された。 続きを読む

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【投稿】海上自衛隊観艦式は中止せよ

10月9日現在、今年度最強クラスの台風19号が日本列島に向かっている。最新の予報では、10月12日~13日に関東地方に接近、上陸の可能性が高くなっている。とりわけ、先の台風15号で甚大な被害を受けた千葉県は、それを上回る災害発生が懸念されている。

こうしたなか10月12日~14日にかけて、「令和元年度自衛隊観艦式」が横須賀、横浜、木更津および相模湾において開かれる予定となっている。

自衛隊の観閲式、観艦式は陸、海、空の各年持ち回り開催となっているが、今年は海自の番にあたり、空母に改装予定の「いずも」「かが」をはじめイージス艦などが一般公開され、艦艇46隻、航空機40機が参加する。 日程は、12,13日が事前公開で14日に本番となっており、いずれも市民向けの体験航海が設定されているが、今回は自衛隊員の募集難を反映し、特別に青少年優先枠を設けるなど、政府、防衛省は宣伝工作に躍起になっている。

しかし、台風直撃が懸念される中、お祭り騒ぎをしている場合ではないだろう。台風15号の際、安倍政権は組閣作業を優先させ、対応の遅れから被害の拡大を招いた。昨年の西日本豪雨時に、議員宿舎で宴会をしていたことへの反省のかけらもない証左である。

今回、災害対応より軍事パレードを優先させるようなことは、有ってはならない。2017年の空自観閲式は台風22号のため中止となった。政府は直ちに観艦式を中止し、動員予定の装備、人員を災害に備えさせるべきであろう。立憲、国民の両民主党も統一会派の人事を巡ってもめている時ではない。野党共闘で直ちに中止を申し入れるべきであろう。

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【投稿】電気料金を横領して、知らぬ存ぜぬを決め込む関電の腐敗構造

【投稿】電気料金を横領して、知らぬ存ぜぬを決め込む関電の腐敗構造
福井 杉本達也

1 3億2千万円もの金をポケットに入れた関電の役員
関西電力の役員ら20人が福井県高浜町の元助役森山栄治氏(今年3月に90歳で死亡)から金品を受領していた問題で、岩根茂樹社長(66)と八木誠会長(69)は10月2日、大阪市で記者会見を開き、昨年9月11日作成の調査報告書を公表した。受領した金品の総額は3億1845万円相当で、現金のほかスーツ券や金貨、小判型の金、米ドルなどもあった。最多は原子力事業本部(福井県美浜町)で本部長代理を務める鈴木聡常務執行役員の1億2367万円で、元本部長の豊松秀己元副社長の1億1057万円が続いた。また、森山氏はこの他、福井県幹部職員にも贈答品を送っていたとされる(福井:2019.10.3)。この金の出どころは森山氏が顧問を務めていた高浜町にある建設会社の吉田開発であり、吉田開発は関電から工事を請け負っており、電気料金の一部が吉田開発から森山元助役を通して発注元の経営者個人の懐に転がり込むという「資金環流」の構図が明らかとなった。ことの発端は、金沢国税局が昨年1月、関電の高浜原発や大飯原発の関連工事を請け負う吉田開発を税務調査したところ、この会社から森山氏に工事受注の手数料として約3億円が流れていたことが判明。さらに森山氏から2017年までの7年間、関電の八木誠会長や岩根茂樹社長ら役員ら6人に計約1億8000万円の資金提供が確認された。税務当局の調べに対し、役員らのうち4人は森山氏へ資金返却し、修正申告。森山氏も申告漏れを指摘され、追徴課税に応じたという。また、吉田開発から直接、関電の役員への金品が提供されていたことも明らかとなっており、今後、調査が進めば新たなルートが浮上してくるかもしれない。高浜原発の工事受注に絡んで地元の有力者に巨額のカネが渡り、一部が関電幹部に還流していたのが事実であれば言語道断である。工事発注や資金提供などで関電側の行為が関連していれば取締役の収賄罪が適用される可能性もある(郷原信郎弁護士)。 続きを読む

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【投稿】共産党の「野党連合政権構想」と『しんぶん赤旗』の危機 統一戦線論(64)

 <<「現状は率直にいって危機的であります」>>
共産党の機関紙『しんぶん赤旗』の危機的状況について、すでに8/29付け同紙は、「しんぶん赤旗」と党の財政を守るために、と題して、財務・業務委員会責任者の岩井鐵也氏が、「率直にお伝えしなければならないことがあります。それは、日刊紙・日曜版の読者が8月1日の申請で100万を割るという重大な事態に直面し、この後退が『しんぶん赤旗』発行の危機をまねいていることです。そして、『しんぶん赤旗』の事業は党の財政収入の9割をしめるという決定的な役割を担っています。『しんぶん赤旗』の危機は、党財政の困難の増大そのものです。『しんぶん赤旗』の後退は、中央も地方党機関も財政の弱化に直結します。党の役割が大きくなり、党活動の強化が求められているそのときにその支えとなる財政が足りない――これほど悔しいことはありません。総選挙をたたかう財政の備蓄もこれからです。この事態打開には全党のみなさんの力の結集がどうしても必要です。全党の力で『しんぶん赤旗』と党の財政を守ってください。お願いします。」という悲痛な訴えを掲載している。異例な事態である。100万部の内訳は、日曜版は80万部強、日刊紙は党員数にも満たない20万部を割っているという状況である。
そして9/15、共産党の第7回中央委員会総会が開かれた。志位委員長は、「あいさつ」の中で、「党員でも、読者でも、わが党の党勢は、1980年ごろをピークにして、残念ながら長期にわたって後退傾向が続いてきました。党員は、50万人近くから、現時点は約28万人です。『しんぶん赤旗』読者は、1980年のピークは355万人でしたが、現時点は100万人を割っています。」と述べて、「現状は率直にいって危機的であります」と、共産党の現状が危機的で重大な事態にあることを認めている。
その原因について、志位氏は、「主体的な活動の問題点もありました。その都度自己分析と方針の発展も行ってきました。同時に、わが党をとりまく客観的条件の問題がありました。そのなかでも最大の問題は、1980年の『社公合意』によって『日本共産党を除く』という『壁』がつくられたことであります。」と述べている。討論を経て出された総会決議も、1980年以降、党勢が後退を続けている主たる原因を「社公合意」による共産党排除の「壁」に求め、そのことによって職場の党組織、若い世代の中での党建設が困難にさらされたことを強調している。
40年近く以前の「社公合意」をもって、党勢後退を40年後の現在に至るまで続けている「主たる原因」、「最大の問題」にするなどという、筋違いも甚だしいあきれ果てた志位委員長の手前勝手な「自己分析」がそのまま総会決議でも繰り返されているのである。真面目に議論しているのであろうか。
共産党がこれまで抱えてきた統一戦線政策に相反するセクト主義、自民党に勝利をもたらせ、大いに喜ばせてきた「自共対決論」に象徴されるわが党第一主義、すべては党勢拡大、強大な党建設、それが後退すれば「力不足」としてしか総括できてこなかった、共産党自身が抱える内的要因を、「社公合意」という外的要因にすり替える論理である。それが、40年近くたって今回突如持ち出されたのはなぜなのか。内輪の自己都合的な冗談、放言程度ならまだしも、多数の「中央委員」なる人々の真剣な議論を経たはずの総会決議でもそれが堂々とまかり通るという、この党の知性欠落、知的頽廃、指導部全体の責任放棄には愕然とさせられる。
40年前ではなく、ごく最近、この党の2年半前(2017年1月)に開かれた前回の第27回党大会時の党勢と比べてもその論理矛盾は甚だしい。当時、党員30万人、機関紙読者110万部であった。それが現時点では党員28万人、機関紙読者100万部を割ったというのだから、党員数は2年半で2万人、機関紙読者数は10万部以上減ったことになるが、それは「社公合意」とは何の関係もない。しかも、総会決議が指摘しているように、「しかしこの4年来、『日本共産党を除く』という『壁』は崩壊」しているのである。それにもかかわらず、党勢が引き続き後退しているのはなぜなのか、内的要因によって危機を招き寄せているという、本来あってしかるべき、誠実で真剣な「自己分析と方針の発展」がまるでないのである。これは責任逃れ、逃亡の論理であり、疑いもなく共産党という党組織そのものが存亡の危機、崖っぷちに立たされていることの証左でもあろう。日本における統一戦線の発展にとって、共産党の果たすべき役割が軽視できないだけに、憂れうべき現状と言えよう。 続きを読む

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