【投稿】全国知事会での小池都知事の「地方切り捨て」発言と46道府県の批判

【投稿】全国知事会での小池都知事の「地方切り捨て」発言と46道府県の批判

                              福井 杉本達也

1 東京都vs46道府県:丸山島根県知事が小池都知事を徹底批判

8月1・2日、福井県で開催された全国知事会で、人口減少問題に対する宣言の”一極集中”の表現を巡り、東京都の小池知事と、地方の知事と間で意見が対立した。この議論の中で、小池都知事は「人口減少問題と一極集中との因果関係は不明確だ」と発言し、「特定の地域に人口や産業が集中している」という文言を削除するよう要求した(福井:2024.8.2、山陰放送:2024.8.10)。

これに対し、島根県の丸山達也知事は「子育て世代と言われる年代の方々が、一番集積している地域が日本で一番出生率が低いということは、出生率を引き下げる要因になってる。明らかだ、算数的にいって、これは、数学じゃなくて算数のレベルだと思う。カイロ大学を首席で卒業されている小池都知事が、分からないわけがない。私は、分かっているけど分からないふりをしてるんじゃないかと思う。それは自分にとって都合が悪いから」(山陰放送:2024.8.10)と批判した。

全国の若者が進学期、就職期、転職期に東京に集まり、一度東京に行った若者が故郷に帰ることがないため、地方は担い手を失い、消費が落ち込み、高齢化が加速している。東京に行った若者たちは、高コストを強いられた生活の中で出産・子育てを躊躇し、東京都の出生率は全国で最も低い状況となっている。こうした循環が人口減少問題となっているのであり、「因果関係が分からない」とするのは、おとぼけ以外の何物でもない。3・11においては、民主党菅直人首相の下、一時、首都圏3000万人避難が検討されたように、東京都は高コストに加えてハイリスクを抱えている。

 

2 東京都とは米金融寡頭制の6分の1の出先機関

東京都の一般会計・特別会計を含む15兆円という予算規模は、インドネシアやノルウェー・スウェーデンにも匹敵する巨額である。GDPでは東京都のシェアは19%強であり、人口以上に経済活動が集中している。東京都の法人事業税でのシェアは25%前後で、法人住民税のシェアも27~30%であり、それぞれ名目GDPのシェアよりも5~10ポイントほど上回っている。財政力指数(基準財政収入額/基準財政需要額)を比較すると、2013年度における東京都1・093、道府県0・532から2018年度は東京都1・328、道府県0・578であり、その差は0・56から0・75へと拡大している。これは、第3次産業化、地方支店・支社の子会社化の進行、コンビニなどのフランチャイズ経営の成長、ネット取引の増加、外国法人の東京集中などによって本社機能のある大都市部である東京にさらに企業所得が集中する傾向が強まっている(関野満夫:「現代の地方税収と税源偏在問題」自治体問題研究所:2019.6.1)。

東証の株価が大暴落し、一旦、調整局面にあるが、米国株と日本株は一体で、東証の売買高の65%から70%は、外国人。売りの主犯は外国人=国際金融資本である。「海外投資家が日本株の買い持ち高を一旦『リセット』した。金融市場が揺らいだ7月第5週(7月29日~8月2日)に、株価指数先物を合めて1兆617億円を売り越した」(日経:2024.8.9)。売買では、東証はNY 市場と一体であり、時価総額は1/6、1 日の売買の総額も1/6 くらいであり、東京証取はNY 証券取引所の東京支部と考えていい。日銀は、FRB の東京支店。自民党は米民主党の、極東支部(吉田繁治『ビジネス知識源』2024.8.3)であると書いている。東京都は日本国中で稼いだ富を一旦、東京支部という金融都市に集めたうえで、国際金融寡頭制に貢ぐ役割を持っている。国際金融寡頭制の東京支店長としては、「因果関係が分からない」という発言は頷ける。

 

3 東京都の災害脆弱性

「南海トラフ地震臨時情報」が出されているが、東京都は枠外にあるかのようである。大石久和氏は『クライテリオン』2014年7月号で『東京一極集中による国家崩壊の恐怖』を書いている。「土木学会は、東京直下地震の想定被害額がこのまま何もしないと1000兆円にもなるとの研究結果を発表」した。大石氏は①愚かにも最大の災害危険地帯に人口や企業の集中、②東京湾岸には2200万キロワットの大規模火力発電所が林立し全滅の恐れ、③公共空間がまるで不足、④大火を引き起こす木造密集地帯が環7や江東区周辺に、⑤建設就業者大幅に減少し、万一に備えられない、⑥地域コミュニティ崩壊、⑦東京都のカロリーベスの食料自給率は0%、⑧車は440万台もあり、災害時にどう動くのか?東京都の防災拠点は立川市にあるが、都心まで青梅街道のみ。にっちもさっちもいかない。⑨関東大震災の瓦礁で埋め立てた豊洲などに建設されたタワーマンションの孤立化、⑩帰宅困難者が500万人発生、⑪首都高や立体交差などの耐震性、⑫地下鉄や地下街が縦横無尽に、等々を指摘し、「現在の東京首都圏は1912年頃よりはるかに地震に脆弱になっている」と結論している。社会的共通資本・インフラの老朽化や耐震性など、課題は山積みとなっているが、上水道の外国資本への身売りや三井不動産や電通、パソナなどへ貢ぐ発想しかない。

 

4 能登半島被災地など人口減少地域の切り捨て

大石は上記で「財政制度等審議会は、最近『能登半島地震被災地の復興は、人口減少地域でもあることから集約的まちづくりを行うべき』との提言…棄民思想を顕わにして、東京首都圏への一極集中推進是認」したと指摘している。

「『地方を見捨てる』という悪魔の選択が出る可能性があるのではないか。人口規模、将来の発展の見込み、といった、いわばリターンのようなものを勘案する、つまりはコストパフォーマンスを考えて、小さな再建にとどめる方向性が議論されるのではないか。」「お金がなくても、燃料がなくても、どちらもほぼ強制されるように電波を止めざるを得なかったからである。そこには見捨てる決断も、取り残さない判断も、どちらもない。金とモノ、そうした外からの強制力によって余儀なくされただけだからである。この先、東京が、みずから進んで地方を見捨てる、わけではないだろう。倫理の面でも、気持ちの上でも、誰もそんな断定はしない。それよりも、いつの間にか、だれも責任を取らないかたちで、なんとなく、見捨てたことになっていくのではないか。見捨てたことへの後ろめたさもないままに、なし崩しに、予算も人もモノも出さないし、出せない。そうした未来は、そう遠くはないだろう。」と鈴木洋仁神戸学院大学准教授は震災直後に書いた(『プレジデント』:2024.1.10)。また、鈴木宣弘氏は上記『クライテリオン』に、政府は「農業・農村の崩壊を前提にしているのだ。農業就業人口が急速に滅少し、もうすぐ農家はさらに潰れ、農業・農村は崩壊する。だから、わずかに残る人が『成長産業化』するか、企業などの参入で儲かる人だけ儲ければいいではないかと。みなが潰れないように支える政策を強化すれば事態は変えられるという発想はない。『食料自給率』や『農村』という概念は希薄だ。『国消国産』のために食料自給率を向上するという考え方もないし、農村コミュニティが維持されることが地域社会、伝統文化、閉土・治水も守るといった長期的・総合的視点はない」と書いている。小池都知事の発言は国際金融寡頭制の僕としての新自由主義に心から毒された「悪魔の選択」を裏付けている。丸山知事は新自由主義の「悪魔」に本能的に反論したのである。「外に朔び、内を脅かす者は、天下の賊である」(吉田松陰)。

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【投稿】根拠なき「南海トラフ地震臨時情報」の発表と岸田首相の中央アジア歴訪中止

【投稿】根拠なき「南海トラフ地震臨時情報」の発表と岸田首相の中央アジア歴訪中止

                               福井 杉本達也

1 「南海トラフ地震臨時情報」の発表

8月8日に宮崎県で震度6弱の揺れを観測したマグニチュード7.1の地震が発生し、気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報」を発表した。8日の地震以降、日向灘や大隅半島東方沖では地震が相次いでいて、11日にも、日向灘を震源とする地震があり宮崎市で震度3の揺れを観測している。気象庁は巨大地震に備えて防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に対して地震発生から1週間は地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけている。

2 政府発のファクト情報を広げる岸田首相

政府は国民に偽・誤情報を流すなと警告するが、政府自らが出す情報発信は社会や人間心理に与えるダメージはよほど重大である。岸田首相は、今回、不必要に「南海トラフ地震」の不安を煽り、偽・誤情報の素地を作り出した。政府が発信する情報、それを垂れ流すNHKはじめ大手メディアの報道は、今回、社会的な混乱、社会心理、人々の選択行動に与えている。

現在の知見では地震は予知できず、気象庁が地震発生の予知情報を出したわけでもない。しかし、岸田首相の中央アジアへの外遊が突然中止され、日本社会に誤ったメッセージを出してしまった。外遊を取りやめるほどだから、やはり危険性が迫っているかもしれないという不安と自粛ムードを広げ、宿泊キャンセルなどの実害が広がっている。イベント・海外訪問・海水浴場などの中止広報が引き起こした社会混乱が大きい。自粛こそ美徳、正しいという空気感の醸成が懸念される。岸田首相は、9日、「国民の皆さんにおかれては、このような情報の性格をよくご理解いただいた上で、夏休みに伴う旅行、帰省なども含めて、日常の生活における社会経済活動を継続しつつも、1週間、家具等の転倒防止対策など備えを再確認し、地震が万が一発生した場合には直ちに避難できるような態勢をお願いします。」(岸田文雄:2024.8.9)とツイートした。一週間という、科学的根拠ではなく国民が我慢できる限界までさせる。他方、冷静に日常通りの生活でよいというならなら、「巨大地震注意」に何の意味があるのか?

気象庁が発出した「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」は「予知情報」ではないのに、「予知情報」であるかのように錯覚させる非常にミスリーディングなものである。首相が行うべきは「地震は日本列島いつでもどこでも起き得るが、現在の知見では予知不可能なので、普段どおりの生活をしつつも、備えはしておいてほしい。」というようなメッセージで、予定どおり外遊に出発し、混乱を最小限に食い止めることではなかったかのか。

3 地震を予知する科学は存在しない

地震を予想、予測する技術は存在しない。天気予報は流体力学を応用できるが、地震は計算する方法がない。地震学者の島村英紀氏は「天気予報は、地球の現象を相手にするわけだし、同じ気象庁が担当しているものだから、一見、地震の予知と似ているように見えるかもしれない。しかし、この2つには根本的な違いがある。天気予報には、まず、豊富な空間的データがある。…肝心の地震が起きる場所である地下のデータがなにひとつない地震予知とは、大変に違う…地震の予知は短期の天気予報とは違う。それは地震には、地下で岩の中に力が蓄えられていって、やがて大地震が起きることを扱える方程式は、まだ、ない…地震予知は、物理学者が扱うような科学や天気予報とは別もである。このことが世間にはほとんど理解されない」(島村英紀『公認「地震予知」を疑う』2004.2.29)と書いている。

2023年12月1日の東京新聞の『「南海トラフ地震はえこひいき」証言が始まりだった 発生確率「80%」が水増しと暴いた小沢慧一記者に菊池寛賞』において、「地震学の実情について橋本(学)氏は『国の予算を得て成り立ち、役に立つことだけを求められる。学問の実力は、その期待に追いついていない』と明かす。『われわれは数万、数億年の地震活動の一瞬だけを見たに過ぎず、地震がどういうものか、研究者もよく分かっていない。その程度のものと理解してほしい』…鶯谷(威)氏は『嫌がられても問いを繰り返し、政府の発表の垂れ流しでなく、納得できたことを報道してほしい』と記者の自立性の強さを強調した。橋本氏は『権威を疑い、おかしいことにはおかしいと声を上げること』」(東京新聞:2023.12.1)だとしている。

「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」なるものは極めてミスリーディングで著しく不適切である。

4 岸田首相の中央アジア歴訪の中止について

福井新聞では「岸田文雄首相は9日から予定していた中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタン、モンゴル歴訪を中止した。8日の南海トラフ巨大地震の注意情報発表を受け、国内の危機管理対応を優先すべきだと判断した。」(福井:2024.8.10)としているが、事実かどうか全くあやしい。日経は「日本と中央アジア5カ国は官民でビジネス上の協力を推進する。日本企業40社ほどが脱炭素やデジタルなどに関する事業案件を発表した。ロシアによるウクライナ侵略を機に、中央アジアは地政学上の重要性が高まっており、日本政府も支援する。」(2024.8.11)と書いている。周知のように、中央アジア地域はロシアと中国の間にあり、米国としてはロシアと中国、インド、イラン関係に何としても楔を打ちたい地域である。属国日本が金を出し、米国が政治介入する狙いがある。既に中国からは「中央アジアの戦略的な地位が重要で、かつ自身に経済・社会発展の大きな需要と潜在力 があるため、国際的な関心が高まっている。しかし中央アジアは地政学的な駆け引きやゼロサムゲームの舞台になろうとしない。日本が中央アジアと歩み寄ることに非難すべき点はないが、考え方を正さず米国による中国けん制、さらには抑制という戦略的な計算を混ぜるのであれば、中央アジア諸国との関係強化の効果が大幅に割り引かれることになる。」(中国網:2024.8.5)と、歴訪についての警告が出されており、「注意情報」にかこつけて中止したというのが真相であろうが、その指令が米本土から出されたのかどうか。最近の岸田首相の外交ストップを見ると、米本国の外交も内戦状態でストップしつつあるのではないか。「南海トラフ」は米国の混乱の余波を受けたのではないかと勘繰りたくなる。

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【投稿】長崎平和式典で米欧「チーム・ジェノサイド」の敗北

【投稿】長崎平和式典で米欧「チーム・ジェノサイド」の敗北

                                                                                        福井 杉本達也

1 長崎市、平和式典にイスラエルを不招待

長崎市は、1945年8月9日米国が投下した核爆弾の犠牲者を追悼して毎年主催する平和式典に、イスラエルを招待しないことを決定した。長崎市はイスラエル大使館への招待状を、2023年10月7日から続く戦争におけるガザでの即時停戦を求める大使宛ての書簡に置き換えた。鈴木史朗市長は、ガザ地区の壊滅的な人道状況とそれが多くの国に引き起こす緊張を理由に、式典中に「起こり得る事件を避ける」ことだとした。長崎原爆被爆者協議会の代表である田中重光氏(83)は、国際社会からの呼びかけを無視して武力紛争を遂行している国々の代表を招待するのは不適切だとして、イスラエルを追悼式の不招待の動きを支持した。

2 米欧大使の式典欠席で、忠犬さを“披瀝”する朝日新聞

主要6カ国(日本を除くG7)と欧州連合(EU)の駐日大使らは7月中旬、長崎市長にイスラエルを招待国から除外したら「我々もハイレベル(高官)の参加が難しくなる」との書簡を送っていた。8月8日の朝日新聞の1面トップ記事はまさに異常なものであった。「米英大使、平和式典欠席へ」の大見出しに、「長崎市に『イスラエル大使招かぬなら参加困難』」の副見出しを付け、2面では「平和式典 中東対立の影」「嘆く地元『意図せぬ反応』」という見出しの下に、「チーム・ジェノサイド」を擁護する「長崎に原爆が投下されて79年。慰霊と追悼の場である平和祈念式典が、国際政治に振り回されている。イスラエルの招待を見送ったことに対する、原爆を投下した米国の強い『拒否反応』に、被爆地からは戸惑いの声もあがる。」との解説を付けた(朝日:2024.8.8)。いったいどこの国の新聞なのか。「慰霊と追悼の場」を国際政争の場としたのは、エマニュエル駐日米大使である。

 

3 米欧大使のいない長崎式典は、日本の誇り

8月9日朝、長崎上空で炸裂した原子爆弾は、74,000人の命を奪った。6日の広島の時と同様、アメリカは、民間人を殺害することは正当な戦術であると居直った。イスラエルはガザの人々に、広島と長崎を合わせた数倍以上の爆弾を投下している。

エマニュエル大使は、日本のバカな政治家を相手にして、属国日本を好き勝手に操縦できると勘違いした。 被爆2世の市長、その背後の年老いた被爆者、国際法に違反する無差別爆撃を経験した日本国民がいることなど思いも至らず、言うことを聞かないのはけしからんと激怒した。米国の臣下G7大使は外交官の域を超え、日本国に内政干渉をした。属国日本がイスラエル招待を拒否するなどもってのほかだと。しかし、長崎市長はこれを拒否した。

4 圧力に屈しなかった長崎市長と「チーム・ジェノサイド」の国際的孤立

英国大使ジュリア・ロングボトムは、イスラエルはガザで自衛行動をとっており、ウクライナ侵攻に関してロシアと同等視されるべきではないと語った。長崎市長は、エマニュエル大使に相当の圧力をかけられても跳ねのけ、G7・EUによる恫喝にも屈しなかった。ガザのパレスチナ住民と被爆者の怒りを重ね合わせた。本来は、エマニュエル大使らの行為は、被爆者に対する冒涜であり、日本に対する明らかな内政干渉である。日本政府はこれらの大使を呼びつけ厳しく抗議すべきである。

長崎での祈念式典にイスラエル大使の不招待に反発する国は西側諸国だけであり、グローバルサウスも含めた多くの国は問題としていない。全く当然であるとの受け止めである。中東情勢をめぐる問題で西側諸国は世界から孤立している。ジャンピエール米大統領報道官は8月7日の記者会見で、エマニュエル駐日大使が9日に長崎市で開かれる「原爆犠牲者慰霊平和祈念式典」を欠席することを問われ、「この特定の問題を把握していなかったので、何が起こったかを正確に確認したい」と述べ(日経=時事:2024.8.8)、エマニュエルを切り捨て、これ以上深入りすることを避けた。自らの行為がいかに愚かな行為であり、国際的に完全に孤立していることが明らかとなったからである。

長崎市長のイスラエル不招待は、本来、岸田首相がすべき外交を一切できず、被爆者を79年間無視し続けてきたことを明らかにした。広島原爆慰霊碑に書かれた「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」の主語は誰なのか。東京裁判に関わったインドのパール判事は、原爆慰霊碑ができた年に広島を訪れ「原爆を落としたのは日本人ではないのに、碑文は表現が不明瞭だ」などと指摘している。また、日本のマスコミは米欧「チーム・ジェノサイド」に追従する米金融寡頭制のプロパガンダ機関でしかないことを暴露した。だが、長崎市長は岸田首相の無能さにもかかわらず、国に替わって果敢に核廃絶外交を行い、日本を国際的な孤立から救った。

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【投稿】米国株式市場の暴落--経済危機論(146)

<<暴落を主導したハイテク株>>
8/5、東京株式市場の暴落に引き続いて開場したニューヨーク株式市場でも、株価は急落し、ダウ先物は、前夜の海外市場での売りに追随し、ニューヨーク時間午前8時26分までに1200ポイントもの大暴落を記録。市場が実際に開いた午前9時30分には、ダウは開始5分で1167ポイント下落。ダウ・ジョーンズ工業株30種平均はほぼ2年ぶりの最悪の日を記録した。ダウは1,033.99ポイント、2.6%下落し、38,703.27で終了。ナスダック総合指数は3.43%下落し、16,200.08で終了、S&P 500は3%下落し、5,186.33で終了、ダウとS&P 500は、2022年9月以来最大の1日の下落を記録している。
ダウ平均株価は過去3営業日で5.24%下落し、3日間で5.91%下落した2022年6月14日以来最悪の3日間の下落となっている。ハイテク株

ダウ平均株価は1,000ポイント下落、S&P500指数は世界市場の売りで2022年以来最悪の日を記録

中心のナスダック総合指数も同期間、7.95%下落、これはナスダックにとって、3日間で10.57%下落した2022年6月13日以来の3日間の最大の下落である。S&P500も、3日間で6.08%下落し、2022年6月14日の7.03%下落以来の大幅な下落となった。米国株式市場から2兆ドル以上が消失したと推定されている。
暴落を主導したのは、ハイテク株であった。「マグニフィセント・セブン」(Mag7)は1兆ドルの価値を失ったとされる。マグニフィセント・セブンとは、GAFAMと呼ばれる主要5銘柄(グーグル〔アルファベット〕、アップル、メタ・プラットフォームズ〔旧・フェイスブック〕、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)に、テスラとエヌビディア(NVDA)を加えたアメリカの主要テクノロジー企業7社である。中でも、アップルとエヌビディアが売りを主導した。NVDA は、過去最高値から 35%も下落している。クラウドコンピューティングサービス大手3社、アマゾン、マイクロソフト、アルファベットの株価は、急成長につながる巨額のAI投資への期待が決算発表で打ち砕かれたことで下落している。Mag7 株は、過去最高値から 3 兆ドルもの下落である.
ウォール街のAI投資で大勝した半導体株も下落し、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ、インテル、スーパーマイクロ・コンピューター、ブロードコムは最大10.3%下落している。

<<恐怖指数・VIXの上昇>>
状況をさらに悪化させているのは、ウォール街のメガバンクが先週に引き続き大幅な損失を出しているという事実である。米国の大手銀行の株価は午前の取引で下落し、JPモルガンは2.4%、モルガン・スタンレーは3.6%、バンク・オブ・アメリカは3.4%下落。ウェルズ・ファーゴの株価は4.3%急落、シティグループは5.4%、ゴールドマン・サックスは3.5%下落している。シティグループは、1週間で16%の損失となっている。

シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX)は、いわゆるウォール街の「恐怖指数」として知られているが、指数計算の元は、米国のS&P500であり、基準値は20で、通常は10~20の範囲内で推移している。この基準値を超えると株式暴落の不安指数となり、8/2の30~25の範囲から、8/5には65.73まで急上昇し、その後54.16で取引されている。この「恐怖指数」は、明確に暴落を警告し続けているのである。ゴールドマン・サックスのアナリストは、今後1年間の米国の不況リスクを15%から25%に引き上げ、JPモルガンは米国経済が50%減速すると予測する事態である。

今回の暴落は、こうした事態の悪化の上に、「円キャリートレード」の解消問題が重なったものと言えよう。金利がゼロで行き詰まっている日本で安い円を借り、米国株(主として大手ハイテク企業)や債券など、他の国で高利回りの資産を購入し、その差益で大儲けをする円キャリートレードが、円高傾向への反転、金利引き上げによって、この投機的な円キャリートレードポジションの大規模な解消が引き起こされ、それが米国株の急落の一因、引き金となったのである。
日本銀行によるわずか 0.25% の金利引き上げで不安定さが引き起こされたということは、世界の資本主義金融システムは非常に脆弱であることを改めて露呈させたものと言えよう。

米国、EU、日本の経済はいずれも好調ではない。米国の製造業は7月に4か月連続で縮小し、製造業PMIは46.8%を記録し、景気後退を示唆している。日本のPMIも49.1%に低下し、製造業の衰退を示唆している。 G7諸国はいずれも経済面で苦戦していることを示している

 そのG7諸国は、アメリカ主導のもとに、対ロシア、対中国緊張激化政策を推進し、今や中東戦争拡大から、世界大戦への危機にまで、「恐怖指数」を極度に高めている。
イスラエル・ネタニヤフ首相の「暗殺ラッシュ」は、その危険な表現であり、レバノンとイランでの殺害は、イスラエル自身を「深刻な問題」に直面させ、極度に緊張を高めており、事実上それに加担するバイデン政権のイスラエル支援は、中東地域を「立ち入り禁止地域」とさせ、「封鎖地域」、経済崩壊地域に変貌させ、世界経済を崩壊させる可能性と一体となっているのである。
G7諸国には、緊張緩和、平和政策への根本的転換が求められているのであり、その戦争政策は全世界から、孤立させなければならないものである。
(生駒 敬)

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【投稿】史上最大の暴落「ジャパニック・マンデー」--経済危機論(145)

<<「過去最大の下げ幅」>>
8/5、月曜日、東京株式市場の日経平均株価(225種)の終値は、前週末比4451円28銭安の3万1458円42銭に暴落。12%の下落で、終値の下げ幅としては、歴史的なニューヨーク株式市場の大暴落「ブラックマンデー」の翌日の1987年10月20日に付けた3836円48銭を超え、史上最大の暴落となった。
ジャパニック・マンデー:あらゆるものが暴落し、パニック売りで、日本の債券、株式はストップ安に突入(Japanic Monday: Japanese Bonds, Stocks Halted After Plunging Into Bear Market As Everything Crashes Everywhere)と、報じられる事態である。

 取引中の下げ幅は、一時4753円を記録している。三井住友FGを始め、多くの銘柄がストップ安に追い込まれ、大阪取引所で行われている日経平均先物売買などでは一時、強制的に取引を停止する「サーキットブレーカー」が発令される事態であった。前営業日の8/2には、前日比2216円安と、過去2番目の下げ幅を更新したばかりで、2営業日連続の暴落であった。日経平均株価は、わずか3週間前に史上最高値を記録したばかりであったものが、この急変である。年間の上昇分をすべて帳消しにしただけでなく、先週の日銀会合以降で、15%もの下落である。
この3日間ベースでは、TOPIXは1959年以来最大の下落を記録し、ハイテク企業と銀行がTOPIX下落の最大要因となっている。円はキャリートレード解消でドルに対して3%以上急騰し、先月の安値から実に14%の上昇である。TOPIX指数は、7月のピークから20%もの下落である。
10年国債の利回りが1999年以来最大の下落に向かい、銀行株は下落、指数先物のサーキットブレーカーは複数回作動する事態であった。
日銀が7/31に利上げを行って以来、TOPIXの33業種グループはすべて下落している。この日銀の利上げが、輸出企業の収益見通しにマイナス影響を与えるとしても、利上げの恩恵を受けるはずだとされていた保険会社や銀行でさえ、最大の損失を被る、皮肉な事態の展開である。三菱UFJフィナンシャル・グループの株価は利回りが急落したため、過去最大の21%の下落を記録している。みずほの株価は2020年3月以来最大の12%下落である。
日銀の利上げを見越して、かつては市場上昇の主因だった外国人投資家は、直近1週間で、日本の現物株と先物を合わせて1兆5600億円(107億ドル)の純売却を行っている。「売りが売りを呼ぶ」事態、先物を中心に売る段階はとうに過ぎ去り、買いポジションの損切りを中心とした「リスク回避の売り」が行われている」のだと言えよう。

<<「サムルール」の発動>>
もちろん、この歴史的な暴落は、日本だけではない。韓国の総合株価指数(KOSPI)は8.77%、台湾の加権指数は8.35%下落し、いずれも過去最大の下げ幅に。シンガポールSTも4.09%安と、東南アジアでも各地で暴落が波及し、イギリス、ドイツ、フランスの主要指標がそれぞれすでに市場開始とともに下落を記録しだしている。トルコ・イスタンブル市場では取引開始直後、前日比6.72%安の大幅下落を受け、ここでも強制的に取引を停止する「サーキットブレーカー」が発動されている。欧州のSTOXX銀行株指数は直近、週7.8%下落し、イタリアの銀行株は8.6%下落している。英国10年債利回りは27ベーシスポイント下落し、ドイツ国債利回りは23ベーシスポイント下落して6カ月ぶりの低水準の2.17%となった。

こうした事態の引き金となったのは、米国経済が、実はすでにスタグフレーションと言う不況に突入しており、いよいよその明確な兆候が露呈してきているという事態の急速な展開である。
8/2、米労働省は雇用統計を発表したのであるが、雇用成長は7月に急激に鈍化し、失業率が予想外に3年ぶりの高水準に上昇、4カ月連続で4.3%に上昇し、2021年10月以来の高水準の失業率となり、景気が後退し、不況に突入する指標、いわゆるサムルールの発動となったことである。
このルールは、失業率の3か月移動平均が12か月の最低値より少なくとも0.5パーセントポイント高い場合に景気後退の可能性が高いと規定している。過去3か月間の失業率は平均4.13%で、2023年7月の3.5%より0.63パーセントポイント高い。しかもこのサムルールは1970年以来のすべての景気後退を正確に予測してきたのであった。
FRBのジェローム・パウエル議長は、7/31の記者会見で、このルールについての質問に「これは、何かが起こらなければならないと告げる経済ルールとは異なります」と答えたのであるが、市場は、そうは見なさなかったのである。そして現実に、全米の大企業が引き続き人員削減を行っており、失業率がさらに上昇することは避けられない事態である。先週インテルは「従業員の15%を削減する」と発表、約1万7000人の雇用削減である。過去12か月間で企業破産申請が40.3%増加し、過去1年間で破産申請件数は16.2%増加し、2024年第2四半期だけでも132,710件の新規申請があった。多数の企業が倒産し、商業用不動産の価値は急落している…銀行は不良化した商業用不動産ローンの巨大な山を抱えている、のが実態なのである。 すでに7/26の終値では、米国上位500社の株式を追跡するS&P 500指数は、1日で2%、週間で2.1%下落し、4月中旬

の週間3%の急落以来最大の下落となり、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグルなどの銘柄で構成されるテクノロジー株中心のナスダック総合指数は、セッションで2.5%、週間で3.4%下落して終了。米国株式市場の最も広範な指標であるダウ工業株30種平均は、約1.6%、週では2.2%下落していたのである。

ここで重要なのは、進行中の危機が世界規模で拡大していることである。しかもこの危機が、イスラエルとイランの戦争、バイデン・ネタニヤフ両政権が推し進

める劇的な世界戦争への拡大が差し迫っている事態の中で生じていることである。
最悪の事態をストップさせる事態打開のカギは、やはり、緊張激化・制裁発動・戦争挑発政策を止めさせ、大胆な世界的な緊張緩和・平和政策と一体となった統一戦線の拡大である。
(生駒 敬)

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【投稿】世界的規模のシステム障害とサイバー攻撃の可能性を考える

【投稿】世界的規模のシステム障害とサイバー攻撃の可能性を考える

               福井 杉本達也

1 クラウドストライクの「バグ」?による世界的規模のシステム障害

7月20日、世界的規模のシステム障害が発生し、日本航空はじめ世界各国の航空機の運航停止やテスラ工場の生産ラインの停止、銀行業務では送金ができなくなり、コンビニでのプリペイドカードの購入不能などの影響が出た。障害が起きた原因は米セキュリティー大手クラウドストライクのソフト「ファルコン」である。端末にあるセキュリティソフトを更新しようとしたところ、「バグ」があったという。障害は米マイクロソフトの基本ソフト(OS) 「ウインドウズ」を搭載したコンピューターのみで起きた。全世界で850万台にも影響が及んだという。「エンドポイントセキュリティー」と呼ぷ分野で約2割のシェアを持ち、エンドポイントはパソコンやサパーの異常を常に監視する最新のソフトであり、外部からのウイルスの侵入を「門番」のように防ぐだけだった従来のソフトよりも攻撃に速く対応できる。「メルボルン大学のトビー・マレー准教授は『クラウドストライクのソフトはパソコンOSの中核部分で動いている。そのため、パグの影響が一部の機能にとどまらず、全体で障害が起きてシステムを制御不能にしてしまった』とみる。」。1社の綻びが世界のインフラを麻痺させてしまった(日経:2024.7.21)。

2 スパイ企業:クラウドストライク

7月31日の日経の『中外時評』において、土屋大洋客員論説委員は「こうした混乱にイライラした人がたくさんいた一方、陰でニヤニヤと笑っていたやからもいたはずだ。むろん今回の不具合はサイバー攻撃によるものではない。しかし、同様の大混乱を人為的に引き起こせる可能性を、満天下に示してしまったのだ。…セキュリティー情報の更新時に意図的な不具合を仕込むことができれば、世界的な混乱を引き起こせるという危険性は長らく議論されてきた」。「同社はサイバーセキュリティとインテリジェンス活動を結びつけ、国家主導型のサイバー攻撃について広く知見を有する会社としても知られている」。ロシア、中国、北朝鮮、イランという国だけでなく、「ロシアが行ったとされる2016年の米国大統領選挙への介入でも、その対応で名を上げた。」「クラワドストライクは民間企業でありながら、国家がやるような能動的サイバー防御につながる活動にも従事している」「ダークウェブと呼ばれるアンダーグラウンドの空間にも潜り込み、政府や企業からどのような情報が漏洩しているかを追いかけ、いち早く攻撃者の動向をつかむという活動も行っている。」(「クラウドストライクの教訓」日経:2024.7.31)と書いている。

今回の大規模システム障害においても、ロシアや中国は全く影響を受けていない。独自のセキュリティシステムを持っているからである。ロシアのRTはクラウドストライクをスパイ企業と位置付けている。「クラウドストライクが設立されてから1年も経たないうちに、クルツ氏とアルペロビッチ氏は、元FBI副長官のヘンリー氏をサイバーセキュリティコンサルティング部門 の責任者として迎え入れた。2014年までに、ヘンリーの部署は中国、ロシア、北朝鮮に対するハッキングとスパイ行為の告発を相次いで発表し、クラウドストライクから提供された情報は、米国司法省がその夏に米国のエネルギー企業をハッキングしたとされる5人の中国軍将校を起訴するのに役立った。」とし、「クラウドストライクは、2016年にサーバーからのデータの盗難を調査するために、米国民主党全国委員会に雇われ…ロシアが侵害の背後にいると結論付け、ヘンリーは議会で、同社が『以前に確認し、ロシア政府と関連していた活動と一 致すると思われる活動を見た』と証言した。」しかし、「ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジは2016年、セス・リッチというDNCの職員がリークの源であると示唆した。元NSA職員で内部告発者のウィリアム・ビニーは2017年、入手可能なすべての証拠が、リークが不満を抱いたDNCのインサイダーの仕業であることを示していると主張」し、ロシアンゲート事件を否定した。(RT:2024.7.19)。2016年に実施されたアメリカの大統領選挙で共和党のドナルド・トランプが民主党のヒラリー・クリントンに勝利。そこで、民主党が考え出したのが「ロシアゲート」キャンペーンである。しかし、何の根拠もなかった。

3 電力などの社会インフラへのサイバー攻撃の可能性

ベネズエラは今回の大統領選でも米国からの執拗な攻撃に見舞われているが、前回の2019年3月にはベネズエラは1ヶ月で2回も大きな停電に見舞われた。これは、米国政府からの攻撃であるとマドゥロ大統領は非難した。GuriダムのSimon Bolivar水力発電所 がまさに重大な失敗が最近の停電を引き起こしたと指摘した。2回目の停電は、明らかに同じ工場での火災によるもので、火事によって施設に広範囲な損害が生じた。マドゥロはそれを『 犯罪者 』と『テロリスト』のせいだと指摘した。(RT:2024.3.27)。

サイバー攻撃について、2019年8月の日経の『中外時評』において、土屋大洋氏は「おそらく一番多いのが電力網や原発を合む発電所へのサイバー攻撃だろう。ベネズエラでは政変が続いており、2019年3月以降、何度も停電が起きている。マドゥロ政権は米国のサイバー攻撃だと主張している。しかし確たる証拠はない。ところが、米政府はロシアの電力網にサイバー攻撃を行う可能性をリークしている」(日経:2019.8.28)と書いていた。

日本の原発にサイバー攻撃を仕掛けられた場合、外部電力や非常用発電システムが遮断され、核燃料の冷却ができなくなる恐れがある。日本が米国の支配から脱しようとした場合、米国は躊躇なく、日本の社会インフラにサイバー攻撃を仕掛けてくる恐れがある。日本はクラウドストライクのようなスパイ企業と一線を画す必要がある。もちろん、まず危険な原発を停止することの方がサイバー防衛には一番良い対応である。

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【投稿】米大統領選:トランプ苦戦への急展開--経済危機論(144)

<<「団結」とは対極の憎悪と脅迫>>
7/13のトランプ元大統領・暗殺未遂事件の直後、拳を突き上げながら「Fight,Fight(戦え、戦え)!」と叫び、7/15の共和党全国大会(RNC)において、トランプ氏は右耳包帯で出席、7/18の共和党大統領候補の指名受諾演説で、「私は今夜、年齢、性別、民主党、共和党、無党派、黒人、白人、アジア系、ヒスパニックを問わず、すべての国民に忠誠と友情の手を差し伸べる」 として、「団結」を促す発言を行っている。

こうした流れの中で、米ニューズウィーク誌は、「銃撃事件後、ドナルド・トランプ氏の選挙勝利の可能性は急上昇」と報じ、トランプ氏が大統領選でほぼ確実と発表したのであった。大半の報道も同様であった。世論調査でも、トランプ氏とハリス氏のどちらかを選べと言われた場合、有権者の49%がトランプ氏を支持し、ハリス氏を支持するのはわずか42%で、残りの9%は未定だと、報じられた。

ところが、である。この「団結」を訴えたはずの90分にも及ぶトランプ氏の演説の中身は、団結とはまるで対極の憎悪と脅迫に満ちたスピーチで、国家が衰退しているという陳腐な話に没頭したかと思うと、米国史上最大の移民の強制送還を要求し、トランプ氏を支持しない全米自動車労働組合を攻撃し、同労組が自らの雇用を海外に流出させていると非難し、雇用を維持したいならトランプ氏を支持せよと要求し、バイデン氏と同様に演説中に思考の流れがわからなくなり、米国とメキシコの国境を閉鎖し、「就任初日に」電気自動車を廃止するとさえ約束し、会場はだらけ、熱気も一気に冷めてしまう有様であった。保守系反トランプ団体リンカーン・プロジェクトの共同創設者リック・ウィルソン氏は、「トランプ氏の演説は、客観的に見て、近代史上最悪の党大会受諾演説だった。最初から長らく延期された終わりまで、まとまりのない惨事であり、これを改善できるものは何もない」と述べている

そしてこの「憎悪と脅迫」が一体となったものの象徴が、2020年の選挙が「盗まれた」という大嘘であろう。この共和党全国大会は、オハイオ州上院議員JD・ヴァンスを副大統領に指名したことによって、党内では意味のある反論は完全に排除されている。かつては「トランプ反対派」だったヴァンスは、この大嘘を公然と支持し、大嘘のスポークスマンとなったのである。彼は、2020年の大統領選挙の前後、「大規模な」違法な投票が存在したと主張し、選挙に関する陰謀説を広め、ABCのインタビューで、もし2021年1月6日に副大統領だったらどうしていたかと尋ねられたとき、ヴァンス氏は選挙結果を認定しなかっただろうと認めている。選挙否定論者による共和党の完全な乗っ取りが全面的に明らかになったのである。ヴァンス氏は、その象徴なのである。

そしてこのヴァンス氏のもとの雇用主が、シリコンバレーの極右IT界の大富豪で、テクノ・リバタリアンとして著名なベンチャーキャピタリストでPayPalの共同創業者であるピーター・ティール(Peter Thiel)氏である。ティール氏は、2016年の大統領選でトランプを支持したばかりか、共和党全国大会で応援演説までしており、トランプ政権発足時には、アップル、アマゾン、アルファベット、フェイスブック、マイクロソフト、それぞれのCEO、イーロン・マスクらを一堂に集め、新大統領を囲む会合を仕切り、ヴァンス氏を上院議員からさらに、ワシントンへの使者として活用、バイデン政権は、仮想通貨業界を妨害し、AIを規制しようとしていると主張、トランプ支持のPACに多額の寄付をしているのである。ワシントン・ポスト紙は、「ティール氏は2016年の選挙運動中にトランプ氏の巨額献金者となったが、同氏の考えを知る複数の人物によると、最終的には政権の無秩序さや科学とイノベーションへの重点の欠如に失望した」と指摘している。独占資本間、金融資本間、既存IT界と新興IT界間の矛盾と対立の表面化でもある。

<<ハリス氏が激戦州でトランプ氏の支持率を上回る>>
事態は急変、急展開するものである。
7/29フォックス・ニュースの世論調査でハリス氏が激戦州でトランプ氏の支持率を上回ると発表され、ネット上で騒然となっている。フォックスは激戦州に関する世論調査を発表し、ウィスコンシン州、ペンシルベニア州、ミネソタ州、ミシガン州でハリス氏の支持率がトランプ氏を上回ることを明らかにした。右派偏向・トランプ肩入れ報道のフォックス、「数字よりもいいのは、これがフォックス・ニュースの世論調査だという事実だ」(@kinsellawarren)と、指摘される事態である。

トランプ氏の支持率は、暗殺未遂事件の直後は確かに上昇したかに見えたのであるが、バイデン氏のハリス氏(59)への交代で、一挙に局面が変わり、今や、パニックに陥っているのはトランプ陣営なのである。
トランプ氏は年を取り過ぎている(78)、弱っている、認知的にも問題症状が増大している。まさにバイデン氏を悩ませた疑問が、今度はトランプ氏に降りかかり、現実は否定しようがないのである。
ハリス氏に対抗するうえで、人種・性差別発言を推し進めると、事態はさらに悪化する。共和党の一部下院議員らは、ハリス氏をダイバーシティー(多様性)とエクイティー(公平性)、インクルージョン(包摂)の頭文字を取った「DEI」 採用と呼び、有色人種の女性だから副大統領になれたとの見方を暗に示したが、これも逆効果である。トランプ氏は、ハリス氏を「サンフランシスコを破壊した弱い検事」「岩のように愚か」「史上最悪の国境担当」と非難し、ハリス氏の笑い声をからかい、「ラフィン・カマラ 」と 「ライイン・カマラ 」という二つのあだ名を広めているが、盛り上がらない。

逆に言えば、ハリス氏は、副大統領として、バイデンが行った最悪の行為のすべてにおいて彼と緊密に連携していたことが問われている。トランプ氏との対決は、その路線をいかに修正し、転換するかにかかっている、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】醜悪なパリオリンピック開会式

【投稿】醜悪なパリオリンピック開会式

                                      福井 杉本達也

パリオリンピックのトライアスロンとオープンウォータースイミングの競技が予定されているセーヌ川で7月28日、トライアスロンのスイムの公式練習が中止となった。日経新聞のコラム『春秋』は50年ほど前にパリに立ち寄った開高健の辛口のセーヌ川批評を引用して「ワインをラッパ飲みしながら同行者と毒づくのだ。『きたない川だね』『油もずいぶん浮いてるね』。五輪を前に水質改善を図ったそうだが、効果はどうだったのか」と書いている。7月26日にパリオリンピックが開幕し、市中心都を流れるセ―ヌ川を舞台に開会式が行われた。コラムは「国旗を振る選手を乗せた船がゆっくりと橋をくぐる。川面を舞台装悶に使うという発想は斬新だ」と続けたが(日経:2028.7.28)、その開会式は醜悪そのものであった。

ロシアやベラルーシがオリンピックから排除され、パレスチナ人を大虐殺しているイスラエルが参加した。王妃マリー・アントワネットに扮した女性が赤いドレスを身にまとい、ギロチンで切り落とされた自身の生首を抱えて登場。その生首が突然歌い始めると、同時にメタルバンドの演奏が始まった。舞台となった王妃幽閉建物(コンシエルジュリー)からは赤いテープや、赤い煙が噴き出す演出であったが(『THE DIGEST』2024.7.28)、生首はイスラエルによるガザ虐殺を連想させた。

 

キリスト教団体などから批判が続出したのが、「イエス・キリストが処刑される前夜に弟子たちと食卓についたエピソードを描いたレオナルド・ダビンチの『最後の晩餐』をモチーフにした場面が『キリスト教をやゆしている』と受け止められたためだ。物議を醸しているのは、26日の開会式でエッフェル塔近くの橋で演じられたパフォーマンス。女装して踊る『ドラッグクイーン』らが『最後の晩餐』の構図を再現した。これに対し、フランスのカトリック司祭の団体は『残念ながらキリスト教をからかう場面が含まれていた。深く残念に思う』との声明を発表」した(毎日:2024.7.28)。長いテーブルでポーズをとったことを思い出してください。中央に、イエスを描いた絵画に描かれた光輪に似た大きな銀の頭飾りをし、入れ墨したふっくらとした女性がいた。彼女は微笑んで手でハート型の形を作り、そこに巨大なトレイがテーブルの上に降ろされ、その上には頭からつま先まで青く塗られたギリシャのワインと祝祭の神ディオニュソスに似せた半裸の男性が中に丸まっていた。LGBTQのパフォーマーや多様な人種のキャストが登場する「ウォーク(wake(目が覚める、起きている)の過去形woke(社会問題に対する意識が高いと自称する)」なショーだとの解説であるが、キリストに扮した女性の前に大皿に乗せられた半裸の男性が載せられているのはあまりにも異様である。カニバリズム(cannibalism)=人間が人間の肉を食べる行為を表しているのではないか。そのグロテスクさには思わず目を背けた。

 

テレビに水面を動く白いロボットの馬のようなものが写っていた。キリスト教文化にほど遠いものとしては、それが何を意味するのかは不明であったが、後ほどのSNSでの解説によると、青白い馬(蒼ざめた馬)に乗った騎手がセーヌ川をパレードするシーンだという。これは、黙示録の四騎士のうちの1人、つまり死を表す騎士の一人(側に黄泉(ハデス)を連れている。疫病や野獣をもちいて、地上の人間を死に至らしめる役目を担っているとされる。)、聖書の黙示録への言及と見なされる。そのようなシンボルの使用は、一部の人々によって「悪魔的」と認識され、「キリスト教徒の視聴者には歓迎されない」ことを明確にしている(RT:2024.7.27)。「見よ、青白い馬がいた。それに乗っている者の名は死といい、地獄がそれに従っていた。そして彼らには、地球の4分の1を支配する権威が与えられ、剣と飢えと死と地上の獣で人を殺す力が与えられた。」(黙示録6:8)

フランス革命は「自由・平等・博愛」を旗印にしたといわれるが、今日のフランスは開会式のセレモニーにおいて、これまでのすべての伝統も、思想も、文化も、芸術も、道徳も、倫理も破壊した。これが今の西欧の真の姿である。いま、西欧金融寡頭制は死期が迫っており、自暴自棄に陥っている。死の騎士に従って、「黄泉の国」=核戦争への道に引きずられてはならない。

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【投稿】日本原電敦賀2号原発は原子炉直下に活断層ありが確定、ようやく廃炉へ

【投稿】日本原電敦賀2号原発は原子炉直下に活断層ありが確定、ようやく廃炉へ

                             福井 杉本達也

1 敦賀2号機は「審査不適合」

原子力規制委員会は7月26日、日本原電が再稼働を目指す敦賀原発2号機(敦賀市)について、原子炉直下に活断層がある可能性を否定できないとして「新規制基準に適合しているとは認られない」と結論付けた。新規制基準では、13~12万年以降の活動が否定できない断層を活断層とし、真上に原子炉などの重要施設を設置することを禁じている。敦賀2号機の審査では、原子炉建屋北側の試掘溝で見つかった「 K断層」が活断層かどうか(活動性)、原子炉直下まで延びているかどうか(連続性)の2点が焦点となっていた。日本原電は活断層を真っ向から否定し、2015年に再稼働審査を申請した。しかし原電の審査資料の無断書変えや記載の誤りが発覚、審査は2度中断するなど長期化していた(福井:2024.7.27)。というよりも、正確には活断層を否定したいがために自らに都合のいいように審査資料を改竄していたのであり、全くとんでもない会社である。コケにされた規制委が今回審査不適合としたのは当然である。

 

2 「活断層」調査データを改竄した日本原電

改竄が発覚したのは2020年2月、「原電が2012年に敷地内で実施したボーリング調査の結果。採取した地層の観察記録で、2018年の審査会合の資料では「未固結」などとしていた記述が、この日は「固結」に変わっていた。原電の説明はなく、規制委が計900ページに及ぶ資料の中から見つけた。記述が変わった部分は少なくとも十数カ所あるという。観察記録は科学的な「生データ」で本来変えてはいけない。…。規制委の石渡明委員は『基本的なデータについて、前の記述を残すのではなく、削って書き直すのは非常に問題がある。この資料をもとに審査はできない』と厳しく指摘」していた(朝日:2020.2.8)。

そもそも、規制委は2013年5月22日に日本原子力敦賀2号機の直下の破砕帯は「耐震設計上考慮する活断層である」との調査団の報告書を了承したていた。活断層が動いた場合、原子炉建屋の使用済み核燃粁プールなどに与える影響を与えるとし、原電が再稼働を申請しても実質的な安全審査はできないとしていた(中日:2013.5.23)。それを、規制委のメンバーが交代し、審査が通りやすくなったとして、2015年11月5日に、活断層は途中で切れていて原子炉真下にまでは行っていないとして再稼働審査を申請していたのである。

3 日本原電は会社を解散すべき

いま、日本原電は茨城の東海2号と敦賀に発電施設を所有するが、2011年以降、1KWも発電していない。東電・東北電力・中部電力・北陸電力・関西電力の5社が毎年1000億円近くを「受電費用」として日本原電に支払っている。2023年は944億円を基本料金として支払った。いずれも各社の電気料金に含まれ、消費者の電気料金に上乗せされている。発電会社としての実態を既に失っているのである。このような会社の存続が許されてよいはずはない。原発再稼働を推進する日経新聞とはいえ、さすがに、「原発専業の日本原電は民間とはいえ特殊な会社だ。1966年に国内初の商業炉の東海原発を稼働させ『国策民営』で歩んできた。日本の原子力政策の象徴的な存在だ。…国は電力各社と協力し、日本原電のあり方を再検討する責務がある。」(日経社説:2024.7.27)と書かざるを得なかった。1KWも発電しない、全ての利益を他社に頼るという発電会社など資本主義社会においてもあり得ない。早急に発電会社としての日本原電を解散すべきである。

4 敦賀2号機が立地する敦賀半島は地震の巣

巽好幸神戸大学客員教授は、「若狭湾には沈降海岸である『リアス海岸』が発達し、特にその東端では断層に沿って急激に落ち込んでいる。また琵琶湖は、低地(盆地)が南から移動して約100万年前にほぼ現在の位置までやってきた。濃尾平野が広がるのは、地盤が沈降してその凹地に土砂が厚く堆積したからだ。そして伊勢湾は西と東に走る断層によって大きく沈んでいる、…中部沈降帯(伊勢湾―琵琶湖―若狭湾沈降帯)である。」・「沈み込み角度が小さい中部日本では、この補償流が、海溝に近く温度が低い領域まで届かない。、1891年に起きた日本史上最大級の直下型(内陸)地震である濃尾地震(M8.0)のような地震を引き起こす可能性」があると指摘している(巽好幸:「『日本沈没』は始まっている:(1) 中部地方が沈没して本州が2つの島に?」yahooニュース:2021.12.12)。越前海岸は250 ~350mと急峻な崖となっている。能登半島地震の隆起のように、甲楽城断層が過去何回も変動して、若狭湾が沈降し、その東側が隆起し海岸段丘が形成された。敦賀2号機直下を走る活断層もこうした断層の一部である。濃尾地震(M8.0)クラスの直下型地震が起きた場合、能登半島地震の4倍ものエネルギーである。原発はひとたまりもない。

 

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【投稿】トランプ暗殺未遂とNATOの全面核戦争計画

【投稿】トランプ暗殺未遂とNATOの全面核戦争計画

                             福井 杉本達也

1 トランプ暗殺未遂と米国の内乱

米東部ペンシルベニア州バトラーで7月13日開かれた共和党のドナルド・トランプ氏の選挙集会で、トランプ氏が演説中に銃撃された。トランプ氏は、演説中に右を向いた直後、右耳に銃弾があたった。狙撃をした犯人は20歳の男という。演説の場所からは、120ヤード(約110m)くらい離れた会場の外の、建物の二階の屋根からライフルを6、7発くらい撃った。(CNNの情報)。SPのスナイパーがライフルで犯人の頭を撃った。犯人は屋根の上で死亡した。

この暗殺未遂事件を巡っては、様々な疑惑が持ち上がっている。会場外の目撃者の証言では「トランプ・ラリー会場のすぐそばの建物の屋根上に、ライフルを持った人物を目撃し、警察やシークレットサービスに連絡するも対応してくれなかった」と証言している(BBC)。また、マイク・ウォルツ下院共和党議員は、国土安全保障長官のアレハンドロ・マヨルカスがトランプ前大統領に対するシークレットサービスによる保護の強化を何度も否定したと主張している。シークレットサービスが警備をわざと緩めていたのか、あるいは犯人を招き入れたのか、はたまた犯人も同じ穴のムジナなのか。

ワシントンで開催されたNATO首脳会談の最終日・7月11日、バイデン大統領は演説の最後に「そして今、私は決意と勇気を持ったウクライナ大統領に議場を譲りたいと思います。皆さん、プーチン大統領です」と、耳を疑うような失言を行った(Sputnik日本:2024.7.12)。バイデン氏は先月のテレビ討論会で言葉を詰まらせたりしたことから、大統領選からの撤退を求める声が高まっているが、さらに痛いミスを犯す展開となった(朝日:2024.7.12)。「下院情報委員会の民主党トップであるコネチカット州選出のジム・ハイムズ下院議員は、バイデン氏に選挙運動から身を引くよう求め、『トランプ氏が約束したMAGAの権威主義がもたらす脅威に立ち向かうために、可能な限り最強の候補者を擁立しなければならない。私はもはやそれがジョー・バイデンだとは思わない』と述べた。」(『ガーディアン』2024.7.12)。これが、今の5000発の核兵器を保有する世界最大の覇権国の最高司令官の痴呆が進んだ裸の姿である。とても大統領選にまともに臨める体制にないことは誰の目にも明らかである。トランプ暗殺未遂事件は民主党=軍産複合体・金融寡頭制の焦りの中で起こった。「Trump is a threat to this nation.”」とバイデン大統領は13日に述べたばかりである。

2 NATOは中国を抑止するため。アジアへ関与拡大

NATO首脳宣言では、「中国をウクライナ侵略を続けるロシアの「決定的な支援者」と名指しで批判した。NATOは「日本や韓国などインド太平洋4カ国と連携し、中国やロシアの脅威に対抗する方針を明記した首脳宣言を発表した。ロシアのウクライナ侵略を支える中国を抑止するため、アジアへの関与拡大を明確に打ち出した」「今回の首脳宣言は中国をより明確な脅威みなした。中国が軍事部品などの供給を通して、ロシアの侵略を後押ししていると断定した。」(日経:2024.7.12)。

3 海自護衛艦が中国領海を侵犯

海上自衛隊の護衛艦すずつきが7月4日、中国断江省の中国領海に一時的に侵入していたことが分かった中国外務省の林剣副報道局長が11日の記者会で認めた。日本側は技術的なミスだったと釈明した。中国の所江海事局は4 日・5日、浙江省沖に実弾射撃慣習のための航行禁止区域を設定していた海自艦はこの漬習を監視するため同区域に近づき、一時的に中国領海ヘ入った(日経:2024.7.12)。、中国側の抗議に日本側は「無害航行」としたが、問題は同艦は中国海軍の実弾演習の予告がされていたにも拘わらずの領海侵入であり、如何に中国に手をださせるかという挑発行為で動いている。中国が真剣に武力攻撃したらどうなるのかのプランもなにもない。ただ単に、アジア版NATOの先兵として、 主人である米国の意向に従っている。極めて危険な挑発行為である。

4 ポーランドの危険な挑発

ポーランドのシコルスキ外相は14日、ウクライナの都市空爆に向かったり、ポーランド領内へ侵入したりしそうな飛行経路にあるロシアのミサイルを迎撃するとのウクライナの提案を検討していることを明らかにした(CNN:2024.7.12)。外相は「現段階ではただの案」としているが、これは、ロシアにポーランド領を攻撃させる挑発行為であり、NATOをウクライナ戦争に巻き込み、全面核戦争へと導く動きである。ディープステイトもさすがにも軽挙妄動と判断しているのか「ジェイク・サリバン米大統領補佐官は11日、米国はウクライナが自国の空域の安全を自力で保障することを支持するとする声明を表した。サリバン米大統領補佐官はまた、ウクライナの対空防衛を保障する義務はNATO諸国にはなく、これはウクライナがすべきことだと強調した。」(Sputnik日本2024.7.12)。ポーランドは核をもてあそんでいる。ロシアに5000発、米国に5000発もの核兵器があることを忘れてはならない。地球を何回も破壊できる能力がある。いま、覇権国の内部が国家分裂し、内乱状態に陥ろうとしていることが最も怖い。金融寡頭制が権力を失おうとするとときは、何をしでかすかわからない。

5 サウジ:凍結しているロシア資産を押収すれば、保有する欧米の債権売却

日本のマスコミではほとんど報道されていないが、サウジのサルマン皇太子は米国が凍結している約3千億ドルのロシア資産をNATOが押収又は使用すれば、サウジアラビアは欧米経済を破壊するため、保有する欧米の債券・有価証券を全て直ちに売却すると表明した。サウジ財務省がG7の一部の国に対し、ウクライナ支援を意図したロシア凍結資産の押収案に反対を伝えてきたという。関係者の1人は、サウジのメッセージを遠回しな脅迫だと表現した。サウジは具体的にフランス国債に言及した(Bloomberg:2024.7.9)。サウジが保有する米国債は約1兆ドルとも見られ売却すれば欧米の国債市場は崩壊する。ドルの価値を支えていたオイルダラー体制は終わった。ドル基軸体制の崩壊が既に始まっている。金融寡頭制は生き残りをかけて、全面核戦争を含む最後の悪あがきを行おうとしている。

日本は一刻も早く、この危険な従属体制から脱却すべき時である。既にG7の一角が脱落して、上海協力機構やBRICSに加盟するのではないかとささやかれている。

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【投稿】円安で「五公五民」どころか、今や「六公四民」:岸田政権は天下の悪代官

【投稿】円安で「五公五民」どころか、今や「六公四民」:岸田政権は天下の悪代官

                             福井 杉本達也

1 円安で意識感覚では物価上昇10%

円安が止まらない。6月26日には1ドル160円の節目を再突破し、平成以降の最安値を付けた。米国産牛肉はバラ肉の卸価格が1 キロ1500 円、前年同期と比べ81%上がっている。輸入豚肉も1 キロ900 円、前年比で40%上がった。消費支出に占める食費の割合を表す日経新聞は「エンゲル係数」は、23年には前年から1.2ポイント上昇し、27.8%に達し、現行基準を採用した2000年以降で最高に達した。「食品価格がさらに上昇すると、栄養を疎かにして食費を切り詰める恐れは強まる。」とまで書いた(日経プラス1:2024.7.6)。7月5日発表の5月の家計調査では、2人以上世帯の消費支出は29万328円と物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1・8%も減少ししていると発表したが、スーパーの生鮮野菜は前年比9.4%、菓子類は5.7%、穀類は6.7%、生鮮果物は12.2%、肉類は4.6%、調理食品(弁当と惣菜)は3.3%上がっており、生活意識調査では、物価上昇は10%とし、来年も10%上がると予想している。

 

2 庶民からさらに金を巻き上げる「インフレ税」

インフレで通貨価値が目減りすれば、これまで積み上げた政府債務の実質的な負担は減る。実質個人消費が低迷するが、税収は改善する。インフレにより家計から政府への所得移転が進む。「インフレ税」である。「今の円安は異次元緩和のつけを払わされている」(BNPパリパ証券・河野龍太郎氏) (日経:2024.7.1)。これに輪をかけて、7月1日に発表された異例の実質GNPの下方修正である(日経:2024.7.2)。24年1~3月期が前期比年率でマイナス1・8%からマイナス2・9%へと、大幅に下方修正された(日経:2024.7.8)。内閣府は7月9日に1~3月期の需要と供給の差である需要不足が8兆円もあると発表した。これは3四半期連続であり、いかに消費が低迷しているかを表している(日経:2024.7.10)。

3 円だけがさらに安くなり、さらに物価を押し上げ

ドル・ユーロ・人民元・円のなかで、円だけが、実効レート指数で150 から50 へと29 年間で1/3 に下がった。この実効レートは、日銀が国内景気の振興のため金利をゼロにして、500 兆円増刷した円が国内では使われず、そっくりドル買い、ドル債券・株買いになったことを示している。日銀が、2013 年からの異次元緩和で国債を増加買いして、500 兆円の円を銀行の当座預金に増やしたが、そのうち418 兆円が、内外金利差を主因に、純流出した。経済成長と、世帯所得の増加のためには、商品需要が増え、国内の設備投資が増えることが必要だが、国内に投資せず、増刷した円500 兆円のうち、418 兆円(80%)は、日本から逃げて、米国に行ってしまったのであるから生産性が上昇するはずはない。増えた円マネーはドル買いになり、国内の景気は、上昇しない。一層の円安は、エネルギー・資源・食品の輸入(1 年に100 兆円相当)の物価を上げて、国内物価も上げる。不況化の物価高、つまり最悪のスタグフレーションになる。

4 ドル売り介入すべきだが、米に脅かされ腰砕けの岸田政権・日銀

一方、米国は増刷されたドル紙幣で日本円の商品を買占め、米国民は安い日本製品を買えることとなる。米国にとっては、米国内の物価を下げ、日本の物価を押し上げ、米国からのインフレの輸出となる。

植草一秀氏は「日本円暴落に対してどのような対応策を示すのかも考える必要がある。金利を大幅に引き上げれば景気後退が深刻化する。いま実行可能な有効性のある対応を取るべきだ。それがドル売り為替介入である…円暴落を是正するために、まずは保有米国国債を全面売却するべきだ」と主張する(『知られざる真実』:2024.6.2)。しかし、これが難題である。「米財務省は20日、主要な貿易相手国・地域の通貨政策を分析した外国為替報告書を公表し、対米貿易黒字額と経常黒字が基準を超えたとして、日本を2023年6月以来、1年ぶりに通貨政策の『監視対象』に再指定した。」(福井:2024/6/22)。4~5月に実施した最大9.7兆円規模の円買いドル売りの為替介入(日経:2024.6.1)を上回るような為替介入を認めないぞという脅しである。そして、為替介入のできないまま、ずるずると来たのが今の160円台という円安である。

5 BRICSのドル離れとオイルダラー体制の終焉

金の価格は世界通貨・基準通貨であり、金の価値に変動がないとすれば、金と比較しドルの価値はコロナ前より半減、円は3分の1になってしまった。中国は米国債を売りまくり、BRICS間の取引は自国通貨決済に。中国はどんどん外貨準備をドルから金に移行している。BRICS諸国もドル離れが起きている。スプートニク・ニュ―ス 6月23日「飼い犬に手をかまれた米国の誤算、超大国の崩壊始まる=トルコ・メディア」で報じられている、サウジアラビアとの関係悪化である。

同記事によれば、「1973年のオイルショック後に締結されたサウジアラビアと米国間のいわゆるオイルダラー協定は6月9日に終了した。この合意では、サウジアラビアが輸出石油の価格を米ドルで設定し、余剰収入を米国債に投資することが定められていた。これと引き換えに、米国はサウジアラビアに軍事支援と庇護を提供した。この協定によりドルの世界基軸通貨としての地位が高まり、米国経済に多くの恩恵をもたらしていた」のだ。しかし、オイルダラー協定が完全に終了したのかどうかは「秘密協定」であるから、現在も今後も明らかにされないだろう。もちろん、日欧米のマスコミはそのようなことを一行も書いてはいない。もし書けば、石油の裏付けもない単なる紙屑としてのドルの大暴落・米国の完全なる終焉となってしまう。

ヘンリー・ジョンストンはRTで以下のように書いている。「ワシントンは、ドルに代わる実行可能な選択肢はないと信じて、常にある種の免責感を持って行動してきたが、オイルダラーの数十年にわたる黄金時代には、少なくとも経済的正当性があった。それは世界の他の国々にとって十分に機能し、最近まで、それに反対する主要なブロックは現れませんでした。また、ポール・ボルカーの長い影が、それに信憑性を与えた。ところが、アメリカが1971年にドルを金に換金する義務を放棄したように、その後、石油に対するドルの価値を維持するという暗黙の義務を放棄した。それ以来、ワシントンは、あらゆるうわべだけの財政抑制や、皆の最善の利益のためにドルを管理するという見せかけを全て捨て去った。それどころか、そもそも通貨の完全性を守らなかったことで、自分たちが引き起こしたまさにその出来事を巻き戻そうと必死に努力する武器として、ドルを振り回しているのです。アメリカは今、この壊れたシステムのあらゆる利益を維持するために戦っているが、その責任は、もはや備えられていないし、引き受ける気もない。もしドルが金にペッグされておらず、暗黙のうちに石油に裏付けられておらず、ワシントンがその一体性を保てないのなら、重要な資源の貿易を促進するという任務には到底対応できない。オイルダラーのように深く根付いたシステムは、一夜にして消え去ることはないだろうが、その経済基盤が侵食されたとき、それは、猛烈な煙と鏡によって、それほど長く維持することしかできない」(RTワールド機械翻訳:2024.6.23)。

6 米金融資本に媚びへつらい、売国政策を続ける岸田政権

落日の米国が最後に頼るは日本からのドル買いのみであり、新NISAなどもその一環である。「2022年5月、岸田首相は英金融街で『資産所得を倍増させる』と表明した。」「少額投賢非課税制度(NISA)の恒久化と非課税制度の拡大」である。2023年6月には資産運用最大手、米ブラックロックのラリー-フィンク最高経営責任者(CEO)会った首相は『資産運用フォーラム』の構想を明かし、外国勢を喜ばせた(「バンカー首相 風呂敷の中身」西村博之:日経:2023.9.30)。なぜ、一国の首相が、米ヘッジファンドと会わなければならないのか。岸田政権は完全に日本を米国金融資本に売り渡しているのである。庶民を苦しめる円安の元凶は政府の文字通りの売国政策にある。

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【投稿】フランス「新人民戦線」、1位獲得--経済危機論(143)

<<極右「国民連合」は失速>>
7/7、フランス国民議会(下院、577議席)選挙の第2回目の決選投票が行われ、左派連合の「新人民戦線(NFP)」が182議席を獲得し、第1勢力となる見通し(解散前149)が明らかとなった。続くのは、マクロン大統領の与党連合「アンサンブル」が168議席で第2党となり(解散前250)、ル・ペン氏率いる極右「国民連合(RN)」は143議席と予想外に失速し、3位となった(解散前88)。決選投票の投票率は約67%で1997年以降で最も高い投票率となった。
 新人民戦線(NFP)は、1か月前には、存在しなかった統一戦線である。
マクロン大統領が、6月6日~9日の欧州議会選挙で大敗(マクロン与党連合得票率約15%に対し、ル・ペンのRNは2倍以上の32%・第1党)し、突如6月30日と7月7日に2回の総選挙を実施するという賭けに打って出た。そのわずか数日後の6/14にこの「新人民戦線(NFP)」が結成されたのである。このあたらしい左派連合には、ジャン=リュック・メランションの「不服従」フランス、社会党、共産党、エコロジスト(旧称「ヨーロッパ・エコロジー・グリーン」)、および「新反資本主義党」が結集している。
このNFP結成は、極右「国民連合(RN)」が第1党で内閣組閣と言う危険な流れが既定路線となりかけていた、その流れを阻止し、事態を逆転させる、土壇場での統一戦線形成であった。このあたらしい希望への統一戦線が、圧倒的多数の人々を引き付け、マクロン大統領の中道派とルペンの右派の両方を上回る事態をもたらしたのである。もちろん、決定的には、ル・ペンのファシスト国民連合が絶対多数を獲得するのを阻止するばかりか、第3位にまで後退させることに成功したのである。

<<ル・ペン「我々の勝利は遅れただけだ」>>
NFPのリーダー、ジャン=リュック・メランション氏は、この結果は「わが国の圧倒的多数の人々にとって大きな安堵」だと語っている。一方、極右政党RNの28歳のリーダー、ジョーダン・バルデラ氏は、この投票により「フランスは極左の手に落ちた」と警告している。ルペン氏は「潮は満ちている。今回は十分に満ちなかったが、引き続き満ちており、その結果、我々の勝利は遅れただけだ」と負け惜しみを込めた宣言をしている。

メランション氏は、マクロン大統領に対し、左派連合による新内閣の樹立を認めるよう求め、「大統領は新人民戦線を政権に就かせる義務がある」と述べている。
もちろん、新人民戦線 (NFP) が国民議会で182議席を獲得し、最大のグループとはなったが、絶対多数に必要な289議席には遠く及ばない。これから山あり、谷ありであろう。

公式結果発表後、社会党第一書記オリヴィエ・フォール氏は、今後数日で新人民戦線はフランスと国民の未来のための共同プロジェクトに着手しなければならないと述べ、「新人民戦線は、我々の歴史の新たな章に責任を負わなければならない。我々が持つ羅針盤はただ一つ、新人民戦線の綱領の羅針盤だけだ」と語っている。

NFPが掲げたの政策は、いかなるものか?
NFPは、広範な経済政策綱領を掲げて選挙運動を行っており、最低月額

賃金の引き上げ、生活必需品の価格上限の設定、フランスの定年年齢を引き上げたマクロン氏の非常に不人気な年金改革の廃止を約束している。
外交政策では、NFPはパレスチナ国家を「即時承認」し、イスラエルとハマスにガザでの停戦を迫ると誓っている。

さらにNFPは、野心的な経済計画を掲げており、フランスにおける新自由主義正統派の支配に終止符を打つ政策、とりわけ、最低賃金を月額 1,398 ユーロから 1,600 ユーロに引き上げ、すべての生活必需品に価格上限を設定し、グリーン トランジションと公共サービスに多額の投資を行い、定年年齢を 60 歳に引き下げることを求めている。

NFPの本番の闘いは、まさにこれからである。マクロン大統領は任期満了の 2027 年まで大統領の座にとどまると予想されているため、その政治的経済的危機はより一層深まり、落ち着き先は極めて流動的であり、不明瞭である。しかし、今や欧州において、米バイデン政権の戦争挑発・拡大政策、欧州経済破壊政策に追随してきた米・英・独・仏がことごとく破綻し、敗北が明瞭となっていること、彼らにはもはや退場の道しか残されてはいない現実が立ちはだかっているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】英スナク政権の歴史的大敗--経済危機論(142)

<<労働党にとっては「空虚な勝利」>>
7/4に実施された英総選挙、リシ・スナク首相の英保守党は、過去最低記録であった97年の165議席をも下回る121議席に転落(解散前345議席)、保守党の議席数は史上最小となり、完全な歴史的大敗を喫している。得票率は約23%で、同党史上これまた最低である。国防大臣、教育大臣、下院議長、さらにはリズ・トラス元首相まで落選、スナク政権では合計8人の大臣が敗北し、保守党の重鎮たちは軒並み敗北、まさに「壊滅」した、とまで表現されている。スナク首相は敗北を認め、「英国国民は今夜、厳しい判決を下した。学ぶべきこと、反省すべきことは多く、敗北の責任は私にある」と述べている。

一方、対する労働党は、412議席(解散前206)獲得見込みで、倍増であり、表面上は、圧勝である。しかし実態は、保守党の「自壊」によるお寒い「圧勝」である。史上最低の投票率、15年近く続いた保守党政権に対する広範な不満ととりわけ保守党党首スナク氏の圧倒的不人気、そして小選挙区制に救われたお寒い勝利なのである。
第一に、労働党の得票率は、伸びておらず、35%未満にととどまる見込みである。2017年に保守党がブレグジット後初の選挙で再

選を果たしたとき、労働党は40%の得票率を獲得している。労働党の得票率は現党首・スターマー氏の下では、2017年のジェレミー・コービン氏や2005年のブレア氏よりも低い、のである。

擁護団体「We Deserve Better」は木曜日の選挙後の声明で、「これは労働党にとって空虚な勝利だ。労働党は、英国政治史上最も不人気な新政権として政権を握り、単独過半数政権としては最低の得票率となった」と述べた。労働党が勝利したのは保守党の崩壊によるもので、スターマー氏や彼の保守党寄りの政策への熱意によるものではない」と。

<<労働党党首スターマー氏の「正体」>>
スターマー氏は、労働党党首就任以来、「最も軽微な内部反対意見に対する容赦ない弾圧」を行ってきた人物として知られている。「彼は前任者を追放し、左派候補の国会議員選挙への立候補を阻止し、さまざまな社会主義団体を禁止し、政治家がピケラインに参加することを禁じ、党首選挙に反民主的な規則を導入した。また、息苦しいレベルのイデオロギー的一致を要求した」、「NATOを批判する議員は即座に追放され、イスラエルの行動に反対する議員は冷笑的に反ユダヤ主義と非難される。」「この粛清により、労働党は保守党の鏡像となった。大企業にへつらい、国内では緊縮財政、海外では軍国主義を主張する党だ」と同氏は付け加えた。スターマー氏は、抗議活動に前例のない制限を設け、活動家を監禁しやすくする治安維持法を維持するつもりだと述べている。同氏は、環境活動家を「軽蔑すべき」「哀れな」と評し、彼らに厳しい刑罰を科すと誓っている。記念碑を破壊した抗議活動家らに10年の懲役刑を科すという提案さえ支持している」(以上、7/3付けニューヨークタイムズ紙論説「英国次期首相の正体」より。)

 しかも、現党首スターマー氏は親イスラエル路線から、党内で捏造された反ユダヤ主義「危機」への対応をめぐって前党首コービン氏を労働党から追放したことで、多くの労働党支持者の怒りを買っており、なおかつ、昨年コービン氏は、労働党の統治機関から2024年の選挙で党候補として立候補することを禁じられ、1983年以来保持してきたイズリントン・ノース選挙区の議席を独立派の候補として立候補。この左派議員の座を奪うために雇われた英国の民間医療業界のベンチャーキャピタリスト、地元の労働党議員プラフル・ナルガンド氏に7,000票以上の差をつけて勝利を維持したのである。
コービン氏は勝利宣言を労働党へのメッセージとして使い、自身の勝利を「反対意見を抑圧すれば必ず結果が出るという新政権への警告」であると呼び、「平等、正義、平和の理念は永遠である」と述べている。「今夜、我々は祝う。明日、我々は団結する」とコービン氏は述べた。「我々が解き放ったエネルギーは無駄にならない。我々はあらゆる年齢、背景、信仰で構成された運動だ。全国の人々とともに、そして人々のために勝利できる運動だ」
そして実際に、別のの親ガザ派無所属、レスター南部のシ

ョカット・アダム氏は、労働党の影の労働年金大臣ジョン・アシュワース氏をセンセーショナルに破り、さらに、若い英国系パレスチナ人女性のリアン・モハマド氏は、イルフォード北部で影の保健大臣ウェス・ストリーティング氏をわずか500票差で勝利し、親パレスチナ派無所属の候補者も、ブラックバーンで労働党から勝利している。

このスターマー氏自身、自らのホルボーン・アンド・セント・パンクラス選挙区で2019年に勝利した得票数のわずか半分しか獲得できず、ガザ支持派の独立候補アンドリュー・ファインスタイン氏が7,300票以上を獲得して2位となり、極めて異例の得票減少を被っているのである。労働党が支持基盤の声に耳を傾けなければ、親パレスチナ派や反緊縮・反新自由主義系の無所属候補に票を奪われ続けることが明瞭なのである。

欧州における、新自由主義の戦争支持派政党、再軍備、財政緊縮、米国とNATOの政策を支持し、産業空洞化を支持する政治勢力は、政治的経済的危機をより一層激化させ、敗北せざるを得ないのである。「極右」とされる政党の最近の台頭は、米国/NATOによる対ロシアウクライナ支援、特にその支援がヨーロッパ経済に及ぼす影響に対する国民の広範な反対を反映しているのである。
(生駒 敬)

 

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【書評】『所有論』鷲田清一著(講談社:2024年1月30日)

【書評】『所有論』鷲田清一著(講談社:2024年1月30日)

                              福井 杉本達也

1 「水や空気のように」

東京新聞に「水が出ない―。水道料金の催促状は来ていたが、都の職員らからじかに「止めますよ」と言われたことはなかった。『生命に関わるのに。本当に止めるのか、とショックだった』。東京都板橋区の男性(64)は振り返る。」「都水道局が、料金滞納者への催告の仕方を変えたのは2022年度。それまで東京23区では、訪問による催告と徴収を民間に委託していたが、多摩地域と同様に郵送での催告に変更した。」「水道の停止件数は21年度の10万5000件から、22年度は18万件に増加。」したとの記事がある(2024.6.25)。能登半島地震では被災自治体で断水が続き、5月末でも「水が出ないので、家庭の食事も制約があります。食器を洗わないで済むようラップで包んだり、油を使ったメニューは避けたり。トイレや風呂が使えない人も多く、入浴支援も欠かせません。」との記事が目に入る(福井新聞:2024.5.29)。いかに人間の生活において水は大切かである。

一方、温室効果ガス(GHG)を削減するとして、鳴り物入りで導入された排出権(量)取引制度は「高度成長を追求しながらGHGを削減しようという虫のよい彌縫策の矛盾の集中的な現れで…大気という社会共通資本―代替不能な気候―を将来世代へ引き渡すこと…その社会共通資本を私的な利益のための投機の対象にする」と批判されている(赤木昭夫「気候売買は可能か―排出量取引の戎め」『世界』2008.9)。人間が生きるうえで絶対に必要な「空気」をも投機の対象としている。かつては「水や空気のように」ほとんど意識せずにタダで手に入るものと思われていた「水」や「空気」も「所有権」が設定され、「商品化」され、タダではなくなりつつある。

また、農業分野では2018年4月には「種子法」が廃止されてしまった。これまで、共有物とみなされてきた種子が「商品化」され、特定の民間企業の寡占状態となり、種子を含む資材価格は高騰する、海外資本の企業の参入を許せば遺伝子組み換えの農作物が食卓に並ぶことにもなる。視点は異なるが、最近のAIでは、「知的財産権」ということで、デザインなどの意匠は商品やサービスに使われることで権利侵害が生じる。一方、著作物も原則許諾なく学習できるが、創作的表現をそのまま出力する目的で学習させるのはダメだなどという所有権を巡る議論も盛んである(日経:2024.5.29)。

2 『私的所有権』の過剰という近代市民社会への疑問

鷲田は「近代社会になって『自由な主体』はなぜ『所有する主体』として規定されることになったのか」と問い、ロックは―「自然の諸物は共有物として与えられているが、人間は自らのうちに所有権の偉大なる基礎を持っていた」―と高らかに宣言した、「個人それぞれの身柄を『法』の下で保護するものとしてロックは市民社会を構想していた」と述べる。―「自由とは、ある人がそれに服する法の許す範囲内で、自分の身体[身柄]、行為、所有物(possessiones)、そしてその全固有権[所有権]を自らが好むままに処分し、処理し、しかも、その際に、他人の恣意的な意志に服従することなく、自分自身に従うことにあるのである」―(鷲田注:ガブリエル・マルセス『存在と所有・現存と不滅』)。

しかし、この高らかな宣言の「『(私的)所有権』という縛りが、人びとが長年にわたって積み上げてきた『良い習い』を潰えさせつつある」とし、「《所有[権]》という法的権利が過剰なまでに社会を覆うようになってきた」「『だから所有者はそれを意のままにしてよい』」という「『だから』の根拠は必ずしも自明ではない」と書く。

3 暴力による「占有」を<社会契約>による法律上の「所有権」にしたルソー

〈社会契約〉というかたちで近代市民社会の政治原理を最初に提示したのがルソーである。ルソーが社会構造の基底に据えるのは、自己以外の何ものにも服従しない「自由」であり、その条件は生存の維持(自己保存)に不可欠なものとしての「身体」と「財産」の保全であるとし、「一般意志」と呼ばれ、人びとがその共同生活のなかで交わす理性的な「約束」であり、「共同体の各構成員の権利と身柄すべての共同体への『全面的な譲渡』…各個人がその自由を護るために、総じてそれぞれの自由を譲渡する(=おのれの自由を差し出すべく強制される)という逆説である。」「共同体は…彼らにその合法的な占有を保証し、占有者は公共財の保管者とみなされ…彼らの与えただけのものを、すっかり手に入れたことになる」(ルソー『社会契約論』)。これは共同体に属する各個人が「自己自身との契約」をなすことであり、譲渡は放棄ではなく、最終的に何かを喪失することはないということである。

鷲田は「ルソーのいう自然状態においては、そもそも他者との関係は偶然的なものであって、共同性という契機はそこに内蔵されていない。」「共同体が『契約』の主体でありうるとすれば、諸個人が自然状態において潜在的にはすでに社会的・共同的な存在であったと想定するほかない」。ルソーの『社会契約』は「起源の偽造、つまり自然状態に『社会』を遡行的に投影する議論」であるとする。「《社会契約》とともに、『最初にとったものの権利[先占権]あるいは暴力の結果に他ならぬ占有』が『法律上の権限なくしては成り立ちえない所有権』へと変換されたのである」と書く。なお、ヘーゲルは所有論において、〈他〉に先行する〈自〉は存在しないとしている。

4 〈共有〉への指向

近代市民革命以降、国家・政府の役割として求められてきたのは私有財産の保護、その前提となる、《所有権》の確立であった。「しかしそれは、資本主義的な市場原理とあいまって、ほんらいは私的所有のなじまない領域にまで浸透し、過剰適用された。つまり「商品」という、売買や投機、譲渡やレンタルの対象となっていった。ひとは生活物資はいうにおよばず、知識や資格、交際や快楽も『買う』ことができると確信するようになった。もはやこの世界には商品化できないもの、消費の対象とならないものはない…遺伝子情報や臓器、…国籍さえ『買う』…お金さえあればじぶんもあそこまで行ける」という「軽い存在である。」市民的主体は「主体の内部がまるで鬆のように空洞化していく過程」でもある。「『自己所有』に見いだすこの過程は、いうまでもなく《共》(コモン)の瘦せ細る過程でもあった。」

そこで、鷲田は宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」という考えに依拠しつつ、「近代の市民社会がその基礎単位として前提にしている『自立する個人』は、いうまでもなく他者に依存することのない存在ではない。…分業と相互扶助の仕組みなしには個人の自立した生活もおよそありえない。…強大な権力も富も武器も持たない民が、いわば素手と丸腰で蓄え、伝承してきたのがまさにこの〈共〉(コモン)の力だということになる。」と述べる。

「『もつ』の対象は、孤立的なモノではないし、特定の人に匿し持たれるものではないし、だれかが貯め込むものでもない。モノはそれよりもむしろ、他者に分け与えたり、共有したり、譲り渡したりというぐあいに、人のあいだを巡るものである。そういう観点からあらためて《所有》という関係を考えなおそうと提案する」。

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【投稿】日本はガスライティングから正気に戻れー米大統領選テレビ討論で明らかになったことー

【投稿】日本はガスライティングから正気に戻れー米大統領選テレビ討論で明らかになったことー

福井 杉本達也

1 ガスライティング(gaslighting)

米国時間の、6 月 27 日午後 9 時から 、CNN が主催してバイデンと トランプの討論会が行われた。タイラー・ダーデンは『Zero Hedge』において、「先週のバイデンの悲惨な討論会のパフォーマンスは、彼の老衰を否定することをできなくなったが、正気を失った(gaslighting)欧米のエリートは、まだこのことに気づいていないと思われる。」と書いた(2024.6.30)。

転職サイト「BIZ REACH」の解説によれば「ガスライティングとは、誰かを心理的に操る目的で、その人が自らの記憶や精神状態に疑問を抱くよう仕向ける行為を指します。言葉の由来は、英国で生まれた1930年代の戯曲で、1944年にイングリッド・バーグマン主演で映画化された「Gaslight(邦題「ガス燈」)」です。作品は、主人公の女性の財産を狙う夫の策略により、女性が自らを信じられなくなり、精神を病んでいく様子が描かれます。」「実際にあったり、起きていたりすることを『うそだ』『想像に過ぎない』などと否定しつづけ、『正気を失った』と相手に思い込ませるマインドコントロール的な言動」を“ガスライティング”と呼ぶと解説している(2023.6.23)。

ダーデンは続けて「現実には、連中は、このことをずっと知っていたが、この趣旨の主張は”ロシアのプロパガンダ”や”陰謀論”だと嘘をついて隠蔽したのだが、それは全て、民主党が、リベラル-グローバリスト・エリートが支配できる、ホワイト・ハウスに、文字通りの代役を据えることを、連中が実際に承認したからだ。それは、時折彼らの要求に屈服するにもかかわらず、彼らの好みにはあまりにも独立心が強すぎたトランプからの新鮮な気分転換であり、彼を嫌っていたアメリカの同盟国を安心させることにもなった。二人とも、バイデンは政治的都合で精神状態が最高だという嘘に同調したが、今やこれ以上茶番を続けることは不可能であり、それゆえに彼らは皆、驚きとショックを装っているのだ。」「バイデンが2020年に民主党の候補者に選ばれたのは、彼がすでに老齢であり、それゆえに完全にコントロールできるからに他ならない。この政党は、前述したエリート・ネットワークの公的な顔として機能しており、内政と外交政策の面で、彼らが要求するものは何でもやってくれる人物を欲しがっていた。」と書いている(同上)。

 

2 米国という国家の管理者が誰もいない

イーロン・マスク氏は大統領選のテレビ討論に反応し。「討論から判断するに、米国を実際に管理できている人物は1人もいないかもしれない。」とコメントした。実業家のラマスワミ氏がSNSに投稿したが、その中で「バイデンが本当のところは国を管理できていないことを踏まえると、誰が管理しているのか、という厄介な疑問が生じる」と記したが、マスク氏はこの投稿に反応し、「誰もいないかもよ」と記した(X sputnik日本:2024.6.29)。

これは非常に危険である。米大統領は核兵器の発射ボタンを持っている。外遊しようがどこへ行こうが、核発射ボタンのカバンを常に携行している。世界人類を一瞬にして壊滅しかねない核発射ボタンの管理人が「誰もいないかも」というのはあまりにも危険なことである。

 

3 米憲法修正第25条の発動?

ジョンソン米下院議長は「バイデン氏は選挙戦から撤退するだけでなく、直ちに解任されるべきだと主張した。『これは政治的な問題だけではない。民主党だけではない。それは国全体です。なぜなら、どう見ても、その任務を果たせていない大統領がいるからだ』と彼は言った。ジョンソン氏は、バイデン政権は、副大統領と閣僚が大統領を『職務の権限と義務を遂行できない』と宣言するために投票できると定めた憲法修正第25条を発動し、副大統領を国家元首代行にすることで、バイデン氏を辞任に追い込むことができると述べた。」。しかし、この修正条項は、米国の歴史上、一度も使われたことがない(RTワールドニュース:2024.6.29)。

4 日本の立ち位置

日本は「誰が管理者かもわからない」国家に粛々と従っていていいのであろうか。しかも、自衛隊が米軍の指揮下に入り、「台湾有事」を引き起こし、対中国の先兵として使われるというのである。そもそも、日本を従わせている「米国からの命令」はいったい誰が出しているのか?痴呆性のバイデン氏でないことは確かである。米国の本当の支配者は金融資本=軍産複合体であり、バイデン氏は年老いた単なるピノキオに過ぎない。しかも、このグローバル・エリート・ネットワークは覇権を奪われることを恐れ、いつ核戦争を始めるかも知れない。日本は正気を失ったガスライティング(gaslighting)の状態から一刻も早く抜け出さなければならない。

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【投稿】米大統領選・党首討論とバイデン氏の失態--経済危機論(141)

<<「バイデンは終わりだ」>>
6/27夜(日本時間6/28午前10時~)に行われた、米大統領選への最初の討論会(CNN主催、90分間)、時折、口ごもったり、支離滅裂になり、バイデン氏の失態が誰の目にも明らかとなり、民主党執行部はパニックに陥る事態となっている。
ニューヨークタイムズ紙は「たどたどしいパフォーマンスとパニックに陥る党(A Fumbling Performance, and a Panicking Party)と題して、「バイデン大統領の不安定で途切れ途切れの討論会パフォーマンスにより、民主党のトップは彼を候補者リストから外すことを話し合っている。」と報じている。

 ポリティコ紙は、「民主党が騒然:バイデン氏は破滅だ」(Dems freak out over Biden’s debate performance: ‘Biden is toast’)と題して、民主党はバイデンの討論会でのパフォーマンスに激怒、「彼はどもり、つまずいた。そして、11月まで5か月を切った時点で、彼は民主党の最大の恐怖、つまり、彼がドナルド・トランプにこの選挙で負けてしまうという恐怖を真っ向から煽った。」と報じている。

討論の全体像の中で、バイデン氏が追及した、トランプ氏の度重なる虚偽発言と、2024年選挙の結果を受け入れるかどうか、という民主主義の根幹にかかわる問題では、トランプ氏の明言を避ける姿勢が浮かび上がったのであるが、鋭い首尾一貫した追及がなされず、はぐらかされ、逆にトランプ氏は、ほぼすべての話題を移民問題に戻そうとして、大統領の失敗をあざ笑う機会として利用し、「バイデンの失態がトランプとの論争を支配」する事態となったと報じられている

国家債務に関する質問に答える際、コロナウィルスを打ち負かしたと言うべきところを、バイデン氏は「我々はついにメディケア(医療保障)を打ち負かした」と発言してしまい、トランプ氏はこの発言に飛びつき、「そうだ、彼はメディケアを打ち負かした。彼はそれを徹底的に打ち負かし、メディケアを破壊している。」(何百万人もの不法移民に社会保障給付を与えることで)と、メディケア破壊の先頭に立ってきたトランプ氏に言わせてしまったのである。

逆に、同じAXIOSの報道の中で、トランプ氏は、当選しても中絶薬へのアクセスを制限しないと述べ、女性の権利を制限する連邦による中絶規制の支持を撤回している。これは、共和党にとってこれまで大きな政治的負担となっていたものである。
81歳のバイデン氏と3歳しか違わない78歳のトランプ氏は、幸運にも効果的に反論されることなく次々と嘘を並べ立てながらも、ほとんど問題なく討論会を乗り切ったかのように、表面上は見える実態であった。

<<「今夜、バイデンは選挙運動を台無しにした」>>
カマラ・ハリス副大統領は討論終了後、大統領の不安定なパフォーマンスについて、「出だしが遅かったのは誰の目にも明らかだ」が「最後は力強かった」と釈明している。しかし、大統領に近い人物の釈明として、実はバイデン氏は風邪をひいており、討論会が始まったときはバイデン氏の声はかすれ、夜が更けるにつれてそれがさらに強くなったのだと、AXIOSに語っている。討論会を視聴している未決定有権者のフォーカスグループは、「バイデン氏の声に驚き、懸念している」、「これは彼の健康に関する質問にとって良い前兆ではない。」とソーシャルメディアXに投稿している。

討論会終了直後のCNN視聴者の世論調査: 「討論会で勝ったのは誰か」という質問に対して: トランプ67%、バイデン33%、と言う結果が如実に示している通りである。
「今夜、バイデンは選挙運動を台無しにした」、「このままでは下院で20議席を失うことになる」と、ある下院民主党議員は語っている。すでに一部の民主党員は、バイデン氏は選挙戦を終わらせるべきだと公然と発言し、「バイデン氏は選挙戦から撤退すべきだ。疑問の余地はない」と単純に述べている。(上掲、ポリティコ紙)
すでに、「皆さん、民主党は手遅れになる前に別の人を指名すべきです」と、2020年の民主党候補指名争いでバイデン氏と対立したアンドリュー・ヤン氏は、討論会が終わる前にソーシャルメディアにハッシュタグ「#swapJoeout」を付けて投稿している。
しかし、現職大統領で選挙戦のこれほど遅い時期に撤退した人物は皆無であり、事実上もう手遅れではないかと懸念されている。

しかし、こうした論点以上に問題なのは、現米政権が直面する、経済危機、債務危機、スタグフレーション危機の現状について、これらと密接に結びついたウクライナ危機、ガザ虐殺危機、戦争拡大危機について、バイデン、トランプ両氏ともども、まったく何一つ提案もなければ、現状認識もなし、という討論の空虚さである。司会者から、ガザ虐殺を終わらせる方法について質問されたときでも、両者ともども、無視して終わりなのである。もちろん、緊張緩和や平和外交の必要性など、彼らには馬耳東風なのである。
バイデン氏は、討論の場で「我々は世界の羨望の的だ」と語ったが、「羨望の的」ではなく、「失望の的」なのである。こんな候補者しか立てられない現状こそが、現在のアメリカの政治的経済的危機の本質を露呈している、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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【投稿】再生エネルギー賦課金は官製詐欺商法

【投稿】再生エネルギー賦課金は官製詐欺商法

                           福井 杉本達也

1 再生エネルギーが環境破壊?

政治資金改正法が通過した通常国家閉会直前の6月21日、唐突にも6月に廃止したばかりの電気・ガス料金への補助金を8・9・10月と3か月間復活するという“猫の目”の政策変更が行われた。原油・ガス高、円安も加わり税金モドキの電気・ガス料金は空前の価格となる。鈍感岸田もさすがにこれでは政権は持たないと感じたのであろう。もう一つ、電気料金が高騰している要因に「再生エネルギー賦課金」がある。最近では電気料金の1割近くを占めるようになっている。

当方が代表を務めるNPO法人の総会で、会員から質問を受けた。会員は遺跡発掘の作業をてつだっていたのだが、作業場所は山頂付近の風力発電所の建設予定地である。周囲の森林を広範囲に伐採して施設を建設するが、たまたま遺跡があるとされる場所であったため発掘調査がなされている。会員の質問は、再生エネルギーは環境を守るという触れ込みで、各地で建設されているが、大規模な施設はむしろ環境を破壊しているのではないかという素朴な疑問である。

2 再生エネルギー賦課金とは

「再エネルギー賦課金」は2012年に制定された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」により、日本で電気を使用しているすべての世帯から徴収されている。再生エネルギーによる電気は、電力会社によって一定価格で買い取られている。再生エネルギーの普及を目的とした制度である。

買取対象は「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」いずれかの再生可能エネルギーを使用して発電される電力で、固定価格買取制度によって電気を買い取った電力会社は、買取費用の一部分をすべての電気利用者から「賦課金」という名目で集金している。月に300kWh使用した場合の支払額は、導入当初の2012年度は年額792円/月額66円で無視できるほどの金額であったが、年々上昇し、年額12,564円/月額1,047円となっている。単価が上昇していた背景には、再生エネルギーの電気の買取量が増加してきたことがある。電力多消費事業者には減免制度が設けられているが、個人は対象とはならない。

3 能登半島地震で壊滅した風力発電所

3月11日の東京新聞は「石川県能登地方で稼働している73基の風力発電施設全てが、能登半島地震で運転を停止した。本紙の調べで分かった。風車のブレード(羽根)が折れて落下したほか、施設を動かす電源が使えなくなるなどした。半数超で運転再開の見通しが立っておらず、能登で進む風力発電の大規模な新設計画への影響は避けられない。」と報道した。

防災推進機構理事長・鈴木猛康氏の現地調査報告によると(『長州新聞』:2024.5.28)「風車は、大きな加速度を受けたり外部電源が不安定になると制御できなくなるので、ストッパーがかかって回転を止め、固定するようになっている。」が、調査した酒見風力発電所の風車は「ブレードそのものは木材とカーボンファイバーによる軽薄な構造で、風には抵抗するが振動には絶えられない。落下したブレードの残骸を見ると、縦に2枚にはがされ、グニャーっと曲がっていた。それほど構造的に弱い。」とし、「今回のブレードの壊れ方を見る限り、風力発電施設で正当な耐震設計はおこなわれていないのではないかと懸念する。ブレードの性能まで含めた耐震設計がおこなわれていないのであれば、今一度わが国の自然条件に適合した高度な耐震設計を適用し、人の命にかかわるような崩壊をくいとめるべきだ。」と述べている。しかし、一般紙ではこのような報道はほとんど皆無に近い。

4 メガソーラーの悲惨

熊本県山都町:阿蘇外輪山の南側に、福岡ドーム17個分の約119ヘクタールの土地に、太陽光パネル約20万枚(出力約8万キロワット)のメガソーラーが突如あらわれ平地や斜面を覆い尽くしている。「JRE山都高森太陽光発電所」であり、2022年年9月から稼働し始めた。元々は牧草地であったが、ウクライナ戦争と円安の影響で輸入飼料が高騰し、廃業する畜産農家や、高齢化で、牧草地は荒れ放題になり、土地を売ることになった。農業委員会としては、130ヘクタールのうち1割程度を農地とし、あとは非農地としてしまったところにメガソーラーができてしまった(『長州新聞』2023.913)。

一方、長崎県の五島列島北端にある宇久島では、国内最大規模のメガソーラー事業が持ち込まれ、島の4分の1の土地を電力会社が抑えたうえで伐採・開発し、150万枚の太陽光パネルで覆うという前例のない計画が本格着工を迎えようとしている(『長州新聞』2024.6.7)。

こうした中、福島市では2023年に「ノーモアメガソーラ宣言」を出し、宮城県も2024年4月に森林開発事業者向けの新税を作った(再生可能エネルギー地域共生促進税は、0.5ヘクタールを超える森林を開発し、再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス)発電設備を設置した場合、その発電出力に応じて、設備の所有者に課税する)(日経:2024.2.27)。

5 「再生エネルギー」は「詐欺商法」

太陽光・風力発電所の国内保有量を調べると、1位の豊田通商は太陽光で68万キロワット問、風力で86万キロワット、2位ののパシフィコ・エナジー(東京・港)は太陽光だけで約90万キロワットを持つ。3位のヴィーナ・エナジー・ジャパンは米外資である。4位のENEOSは太陽光を中心に64万キロワットを動かしている。当初は国が設定した20年間の買い取り単価が高く、開発投資に対する十分なリターンが見込めたため、資金力にものを言わせて大規模開発を行った。「太陽光発電は政府の固定価格買い取り制度(FIT )の下で成長してきた官製市場」である(日経:2023.12.4)。当初の制度設計から太陽光パネルの負担をできる金持層ちが、家屋の改修もできない貧困層の電気料金からの所得を移転するもので再配分の原則反するとの指摘があったが、そこに巨大企業が「高利回りが期待できる『投員商品』」として大量参入したことで(日経:上記)、制度としては崩壊してしまった。当初は環境に関心のある善人ばかりという制度設計であったが、実際は、儲けのネタにする巨大金融資本という悪人ばかりであった。再生エネルギーとは「金融商品」であり、環境に名を借りた“詐欺商法”となった。というか、元々社会的共通資本であり、本来は売買の対象ではない環境を「商品化」して儲けの道具にしてきたEU諸国の環境規制や排出権取引自体が詐欺であり、「環境」と名の付くもののほとんどは詐欺と考えた方は良い。

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【投稿】G7・「不幸な集まり」--経済危機論(140)

<<「弱体化した西側諸国指導者」>>
6/13、米ニューヨークタイムズ紙は、「弱体化した西側諸国の指導者らがイタリアに集結し、無秩序な世界について議論」、「G7は主要先進国を集めているが、その指導者たちは政治的に弱く、ウクライナとガザの問題は未解決のままである。」と酷評、イタリアのメローニ首相を除き、G7各国の首脳は困難な内政状況を抱えながら会議に出席しており、その「不幸な集まり」は西側の政治的混乱を物語っている、と指摘している。

「日本の岸田首相は支持率が低

下しており、秋に退陣する可能性が高い。カナダのトルドー首相は8年以上も在任しており、国民の失望に直面している。ドイツのショルツ首相、及びフランスのマクロン大統領は欧州議会選挙で敗北し、政権維持が危ぶまれている。総選挙を目前に控えた英国の

スナク首相にとって今回のサミットは「お別れツアー」になる可能性が高い。加えてバイデン氏も支持率が低下しており、ドナルド・トランプ氏との大統領選では厳しい戦いが予想されている。」と、ロシア紙スプートニク(6/14)が紹介している。
そのG7で、「年末までに、我々の管轄区域で凍結されているロシア資産の利益を使って返済する融資メカニズムを通じて、ウクライナに約500億ドルの追加財政支援を提供するという政治的合意に達したことを確認した」とメローニ首相はイタリアでのG7サミットで述べた。ただし、あくまでもG7が没収するのは、凍結したロシア資産から得られた利息だけであり、凍結資産そのものではないと釈明している。「我々はこれらの資産の没収について話しているのではなく、時間の経過とともにそれらが生み出す利息について話しているのだ」と述べ、G7サミットで調印されるこのメカニズムでは、米国、欧州連合、その他の参加国がウクライナに融資を行い、ロシアの資産から得られる収入を返済に充てる、と言う。だが、他国の資産による利息の盗用である、と言う本質は否定できない。

これは明らかな国際法違反である。6/13、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワ氏は、この展開についてコメントし、「ロシア資産を没収しようとするいかなる試みも窃盗であり、国際法違反である」、ロシアの凍結資産からの利益を使ってウクライナに500億ドルの融資を行う計画は西側諸国にとって有益ではなく、新たな経済危機を引き起こす可能性があると述べ、「このような措置は西側諸国にとって何の利益にもならない。他人の犠牲のもとでキエフ政権に資金を注入するという違法な取り組みは、最終的に金融システムの不均衡と壊滅的な危機をもたらす可能性がある」と警告している。

<<ドルの地位の劇的低下>>
第二次大戦中でも、敵対国の口座を凍結することはあっても、盗用することはなかったのである。これまでいまだかつて起こったことのない国際法違反の資産窃盗行為に踏み出すことは、多国間国際貿易決済、通貨取引全般の根本を揺るがすものであり、ドル離れを一層加速させ、ドル一極支配体制の事実上の崩壊を自ら認め、主要基軸通貨としてのドルの地位を劇的に低下させる行為であると言えよう。

さらにこのドル離れは、この6/9に、1974年に米国とサウジアラビアの間で締結されたいわゆる「オイルダラー協定」が、失効し、実態は別として公的にも、サウジアラビアは中国人民元や他国通貨、米ドル以外の通貨で石油やその他の商品を決済できるようになっており、現実に、サウジ主導の湾岸諸国から中国とアジア太平洋地域に輸出される原油は1日あたり約1200万バレル、中国は原油輸入1300万バレルをペトロ元で支払い、ロシアは原油と石油製品をルーブルとペトロ元で850万バレル販売し、インドは輸入500万バレルをルピーで支払っている。かくして現実は一層明確にドル離れの進行が先行している。すでに世界の原油取引の少なくとも52%がドル以外の通貨で販売されているのである。サウジアラビアはもちろんであるが、BRICS諸国もすでに貿易決済に米ドルを使用しなくなり、米ドルの需要はこの24年以降着実に減少、米国債の購入に米国に還流する米ドルが大きく減少し、それを防止するためにも、米国債の買い手を引き付けるためにも利上げが不可欠、しかしその利上げは経済を一層スタグフレーション化させる政治的経済的危機を激化させる、泥沼に自ら追い込んでいるのである。

そしてこの脱ドル化を決定的に加速させてきたのは、バイデン政権自身が推し進める緊張激化、対ロシア・対中国制裁・戦争挑発政策である。直接・間接の膨大な軍事支出の増大により、米国自身の国家債務がいまや34兆ドルを超え、米国財務省に6,600億ドルもの利息(2023年)がのしかかり、国の総利息(国家債務の支払いと政府口座が保有する債務の政府内支払いを含む)は2023年に合計8,790億ドルに上る事態である。この状況は、米ドルに対する信頼を損ない、脱ドル化の動きをさらに加速させている。つまりは、米国は自らの手でドル離れを加速させているのである。

<<欧州議会選挙「戦争党は罰せられた」>>
6月6日から9日までおこなわれた欧州議会選挙は、象徴的である。バイデン政権のこうした緊張激化・戦争挑発政策に追随してきたフランスとドイツの現政権が劇的な大敗を喫したのである。
フランスでは、エマニュエル・マクロン大統領は、極右民族主義のマリーヌ・ル・ペンの国民連合が最多の票を獲得し、マクロン大統領の同盟の得票率が約15%だったのに対し、2倍以上の32%と大敗である。
ドイツでは、やはり極右・民族主義のドイツのための選択肢(AfD)が15.9%の票を獲得し、キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)に次ぐ第2党となり、旧東ドイツ全体では第1党となっている。オラフ・ショルツ首相の社会民主党(SPD)に大きな打撃を与え、史上最悪の結果で、得票率14%で3位に落ち、ドイツの緑の党も大敗し、2019年の20.5%で第2位だったが、今回12.8%で第4位に転落である。

 6/10、元米中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデン氏は、自身のSNSで、「欧州議会選挙で戦争党の政治家は厳しく処罰されることになった。これはバイデンにとって良くない兆候だ。平和にチャンスを与えるときが来たのかもしれない」と、投稿している。
ここで注意を要するのが、スノーデン氏の言う「戦争党」である。極右・民族主義政党はその本質からして、「戦争党」であるはずだが、問題はそう単純ではない。本音は別として、フランスの極右・ルペン氏は、ウクライナ支援に非常に懐疑的な立場を何度も表明し、NATO統合軍司令部からフランスの撤退をさえ主張してきたのである。そしてドイツのAfDは、「常にロシアとの平和的対話」を主張してきたのである。
つまりは、「戦争党」とは、バイデン氏とともにウクライナをめぐって戦争挑発と緊張激化を煽り立てるフランスのマクロンとドイツのショルツの党なのであり、その戦争党が「罰せられた」ことに、今回の欧州議会選挙の本質が現れているのだと言えよう。

こうした事態にうろたえたフランスのマクロン大統領は、極右政党「国民連合」の台頭を阻止するために、議会を解散し、この6月30日と7月7日に2回の総選挙を予定するという賭けに打って出た。しかし、これは裏目に出る可能性が極めて高い。

 6/14、左派政党のほとんどを結集する新しい人民戦線の結成が急きょ浮上してきている。これはマクロンとの大同団結ではない。緑の党、社会党、共産党、屈しないフランス党の統一戦線である。この「新人民戦線」は、共同綱領と候補者の共同リストを発表し、「団結への期待が表明された」。
この新人民戦線(NFP)と呼ばれるこの新連合は、中道左派の社会党(PS)と左派の不服従のフランス(LFI)など複数の政党が力を合わせ、共通の政策を打ち出し、マクロン氏の政策からの「完全な決別」を推進すると発表。LFIのリーダー、ジャン=リュック・メランション氏は、連合結成を「フランスにおける重要な政治的出来事」と呼び、「これは非常に前向きな新しい展開だ!」と声明で述べている。1936年に結成された反ファシスト統一戦線である人民戦線にちなんで名付けられたNFPは、直近の世論調査で28%、ルペンの国民連合・RNは31%以上、マクロンのルネッサンスはわずか18%である。事態は劇的に変化する可能性を浮き彫りにしている。
問われているのは、バイデンやマクロン、ショルツ、彼らに追随する「戦争党」に対する闘いなのである。
(生駒 敬)

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【投稿】大賀正行氏のご逝去を悼む

【投稿】大賀正行氏のご逝去を悼む

                                                                                                    福井 杉本達也

部落解放・人権研究所名誉理事で大阪市立大学部落問題研究会創設者の大賀正行氏が2024年4月15日・淀川キリスト教病院で永眠された。86歳であった。

大賀さん

2020年12月

大賀氏で真っ先に思い出すのは「大賀ノート」のことである。「大賀ノート」とは、大賀氏の手書きの小野義彦教授の講義ノートを活字化して印刷したものである。大賀氏は大阪市立大学の文学部哲学科に在籍していたが、小野教授から経済学を勉強しなくては唯物論は正しく理解できないといわれ、その後、経済学部の小野教授の講義を熱心に受講し、また、小野ゼミにもヤミで出入りし、大学院生とも交流したものを一冊の講義ノートとして編集したものである。

当時、部落解放運動では同対審答申の評価をめぐり、答申を「毒饅頭」とする共産党と対立することになり、1970年ころから、共産党系の民青が主導する部落問題研究会ではなく、大阪大学や大阪教育大学、関西大学など各大学で、部落解放研究会が生まれてきた。1971年から、これらの大学の解放研のメンバーが集まって、夏に白馬のスキー場で夏合宿を行うようになった。当時は合宿用のテキストも不足しており、こうした合宿などにおいてテキストとして1972~3年ごろ?に1000部程度が印刷され、利用されたのが「大賀ノート」である。

共産党の部落問題に関する考え方は「封建遺制」であり、資本主義が発達していけばいずれ差別はなくなっていくというものである。したがって、今はもう部落差別は存在しないという考えである。しかし、部落解放運動に身を置く大賀氏はこうした共産党の考えに納得できない。資本主義が発達するにつれ、むしろ差別は強化されているのではないかと考えたのである。その理論を打ち立てる支柱として小野教授の講義があった。特に、明治維新論や講座派・労農派論争に興味を持ってノートを取っている。

大賀氏は晩年は特に市大部落研創設期の大阪市立大学の女子大生差別貼り紙事件について、当時の文書や落書きなどを含む資料を集めて研究されていた。また、扇町公園での各種の集会や尼崎の大阪哲学学校などでもたびたびお会いした。最後まで、研究熱心であった。帰りはいつも大阪駅で、「私は無料パスのある大阪地下鉄で帰るから」といってお別れした。そして私はJRに乗った。

大賀正行氏のご冥福をお祈りする。

なお、7月7日の午後1時半からに大阪公立大学杉本キャンパスで追悼の集いが開催されるようである。

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【投稿】危険な核戦争瀬戸際政策--経済危機論(139)

<<ロシア・戦略的早期警戒システムへの攻撃>>
5/25、ロシアのニュースサイトRTは、「ウクライナはロシアの核の傘の重要な要素を攻撃した」、とするロシア上院議員ドミトリー・ロゴジン(Dmitry Rogozin)氏の発言を報じている。ロゴジン上院議員は、ロシアの核の傘の重要な要素に対するウクライナによる攻撃の直接の責任は米国にあると述べ、そのような攻撃は世界の核安全保障構造全体の崩壊につながる可能性があると警告している。この攻撃は、2013年に運用が開始されたアルマビル(Armavir)市のヴォロネジ・レーダー基地を標的としたものとみられ、射程6,000kmで飛来する巡航ミサイルや弾道ミサイルを探知でき、最大500の目標を追跡できるシステムである。
 ロゴジン上院議員は、以前ロシア宇宙機関ロスコスモスのトップを務め、現在は軍事技術センターの責任者であり、同日の声明で、攻撃はクラスノダール地方南部のロシアの戦略早期警戒レーダーサイトを標的としたものだと述べている。ロゴジン氏は、この攻撃が、米国の関与なしにキエフ単独の主導で実行された可能性は極めて低いと述べている。

5/25、yahoo!news経由ザ・ウォー・ゾーン(WARZONE)の報道「ロシアの戦略的早期警戒レーダーサイトへの攻撃は大きな問題だ」によると、5/23 バイデン政権は、ウクライナの代理部隊を活用し、「ロシアの核の傘の重要な要素」に対して前例のない攻撃を開始し、ロシア軍が核搭載弾道ミサイルの飛来を事実上探知できないように攻撃。衛星画像は、複数の無人機が「国の南西端にあるロシアの戦略的早期警戒レーダー施設」に深刻な損傷を与え、モスクワを敵の攻撃に対してさらに脆弱にしたことを確認した、と言う。実際の衛星画像により、同サイトにある2つのヴォロネジ-DMレーダー建物のうちの1つの周囲に大きな破片が写っており、ロシアの戦略的早期警戒レーダー施設が大幅な損傷を受けたことが確認されている。これは、ロシアの総合戦略防衛に関連するサイトに対する初めての攻撃とみられる。しかし西側大手メディアのほとんどは、この事件に関する報道をほとんど黒塗りにしてしまった、つまり報道されていないと言う。

5/27になって、ウクライナの情報機関筋は、同国の無人機がロシア南部オレンブルク州オルスク近郊の早期警戒レーダー「ボロネジM」を標的にしたと発表し、無人機による攻撃はウクライナ軍の情報機関が5/26に実施、被害が出たかどうかは明らかにしていない。

いずれにしても、こうした核戦争前夜をほうふつさせる攻撃は、ロシアが南部軍管区で戦術核ミサイル演習を開始した直後、あるいはそれに合わせて仕掛けられたものとみられる。きわめて危険な挑発攻撃であると言えよう。

<<核戦争勃発への危険な段階>>
5/27のテレグラフ紙(The Telegraph)の報道は、「ウクライナによるロシアの核レーダーシステムへの攻撃で西側諸国が警戒」という見出しで、ウクライナはロシアの核インフラへの攻撃を避けるべきだとして、米国科学者連盟の核兵器専門家ハンス・クリステンセン(Hans Kristensen)は「ウクライナ側の賢明な決定とは言えない」と述べ、ノルウェーの軍事アナリスト、ソード・アー・イヴァーセン(Thord Are Iversen)氏が、ロシアの核警報システムの一部を攻撃することは「特に緊張の時代には特に良い考えではない」と述べ、「ロシアの弾道ミサイル警報システムがうまく機能することは誰にとっても最大の利益だ」との発言を紹介している。

しかし実際には、2024年、今年初めに米地対地長距離ミサイル・ATACMSの新たな部分を極秘に受領して以来、ウクライナ軍はこれらの兵器をロシアの空軍基地、防空拠点、その他の目標に対して使用してきていること、そして米軍がその標的に対して深く関与していることは紛れもない事実であろう。
今回攻撃の対象となったアルマビルのヴォロネジ・レーダー基地は、ロシアの大規模な戦略的早期警戒ネットワークの重要な部分を占めており、たとえ一時的であってもその機能喪失は、迫り来る核の脅威を探知するロシアの能力を低下させるものであり、同時に、特定の地域で重複するカバー範囲が失われる可能性があり、これが潜在的な脅威を評価し、誤検知を排除するロシア全体の戦略的警戒ネットワークの能力にどのような影響を与えるかについても懸念されているところである。

しかし問題は、そうした懸念以上に、この攻撃が、ロシア政府が2020年に核報復攻撃を引き起こす可能性のある行動について公的に定めた条件を満たす可能性があると指摘されていることである。
ロシアの早期警戒ネットワークは、同国の広範な核抑止態勢の一部である。「核抑止に関するロシア連邦国家政策原則」というその基本文書によれば、「ロシア連邦による核兵器使用の可能性を規定する条件」には、「ロシア連邦の重要な政府施設や軍事施設に対する敵対者による攻撃、その妨害により核戦力への対応行動が損なわれること」が含まれると明記されている。今回の攻撃は、その条件に合致しているとも言えよう。核戦争勃発への危険な段階の到来である。

米・バイデン政権は、成長期待が低下すると同時に、インフレ率が急上昇するスタグフレーション化で支持率がどんどん低下しているが、その根底には対ロシア・対中国政策において、一貫して緊張激化・戦争挑発政策を追求してきたことが横たわっている。緊張緩和と平和外交こそが、スタグフレーション化を阻止するかなめなのである。しかしバイデン政権は、核戦争をも招来しかねない核戦争瀬戸際政策に限りなく近づこうとしているのである。
 このバイデン政権に同調して、イギリス政府はすでにウクライナに対し、ロシアを攻撃するためのミサイル使用を許可しており、スナク首相は徴兵制の復活をさえ公言している(5/26)。フランスのマクロン大統領は、将来的にウクライナへの派兵を排除しないと何度も言明している。
本来あってしかるべき外交と緊張緩和政策が、西側諸国によってすべて拒否されている現実こそが、危険な核戦争瀬戸際政策に追いやっているのである。しかしそれは同時に、彼らの一層の孤立化と矛盾の拡大をももたらしている。西側米同盟国間でさえ、今や意見が分岐し、イタリアでさえ、ロシア国内の拠点を攻撃することに対する規制の解除を求めるNATO事務総長のストルテンベルグ氏を「危険人物」と呼ぶ事態である。
今要請されているのは、緊張激化を煽ることではなく、緊張緩和と平和外交こそが出番なのである。平和のための闘いが一層の重要さを増している。
(生駒 敬)

 

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