【投稿】トランプ大統領:大恐慌再来を警告--経済危機論(167)

<<裁判所への警告、脅し>>
8/8、トランプ大統領は、無謀で国際法違反が明白な自らの関税政策に対して、自身のソーシャルメディア・Truth Socialへの投稿で、「もし過激な左派の裁判所が、この段階で私たちに不利な判決を下し、アメリカがこれまでに見たことのない最大の資金、富の創造、影響力を崩壊させたり混乱させようとした場合、これらの莫大な資金と名誉を回復したり返済したりすることは不可能になります。それは1929年の大恐慌が再び起こるようなものになるでしょう!」との警告を発した。

 その全文は、以下の通りである。
「関税は株式市場に大きなポジティブな影響を与えています。ほぼ毎日、新たな記録が更新されています。さらに、数百億ドルが我が国の国庫に流入しています。もし過激な左派の裁判所が、この段階で私たちに不利な判決を下し、アメリカがこれまでに見たことのない最大の資金、富の創造、影響力を崩壊させたり混乱させようとした場合、これらの莫大な資金と名誉を回復したり返済したりすることは不可能になります。それは1929年の大恐慌が再び起こるようなものになるでしょう! もし彼らがアメリカの富、力、権威に反対する判決を下すなら、それはこの事件の初期段階で、私たちの国が二度とこのような偉大さを得る機会を失うことなく、1929年のような危機に陥らないようにすべきでした。アメリカはこのような司法の悲劇から回復する方法はありませんが、私は裁判制度を誰よりもよく知っています。歴史上、私のような試練、苦難、不確実性を経験した人は
いません。絶望的なこともあれば、驚くほど美しいことも起こり得ます。私たちの国は、混乱、失敗、恥辱ではなく、成功と偉大さを得るに値します。神よ、アメリカを祝福せよ!  Aug 08, 2025, 11:38 PM 」

つまり、トランプ氏は、裁判所が自身の関税政策に反対の判決を下した場合、その判決は、世界恐慌の引き金となる可能性があると警告、あるいは脅しているわけである。1929年型の経済崩壊と大不況到来の脅しである。なぜ、突如こうした発言がなされたのであろうか?
実は、米連邦控訴裁判所がトランプ氏の関税政策への対応方法について審理を行っている最中なのである。その意味では、トランプ氏の直接的な裁判への、司法への干渉である。しかもそれは、危機感と焦りを伴った干渉なのである。

米ニュースサイトCNNは、8/8、「米国国際貿易裁判所はすでに5月に、トランプ大統領が外国製品への広範な関税の多くを課す法的権限を逸脱したとの判決を下した。先週、連邦巡回控訴裁判所はトランプ政権の控訴審を審理し、11人の判事からなる審理部は、政権が実施したような強引な方法で関税を課す権限をトランプ大統領に与えているかどうかについて懐疑的な見解を示した」と報じているのである。ポール・ライアン元下院議長も、CNBCに対し、最高裁が国際緊急経済権限法(IEPA)に基づく関税発動を最終的に無効とする可能性があると述べている。
もちろん、たとえ無効との判決が下されて、裁判所が関税命令の撤回を命じる可能性があるとしても、直ちに控訴すれば、最高裁はなにしろトランプ派が多数を占めており、逆転する現実的な可能性は大である。トランプ氏は、それを見越してもいよう。
しかし、関税発動の無効判決が出たこと自体による、政治的経済的打撃、影響は、軽視できないほど重大な事態を招くであろうことも否定しがたい現実であろう。

<<手痛い現実への焦りと責任転嫁>>
そして、このトランプ氏の警告と脅しは、8/7に、トランプ政権による一方的で包括的な「相互関税」が発効し、その結果、米国の輸入関税が1929年大恐慌以来の最高水準に引き上げられたことの、直接的反映でもある。この脅しは、追加関税が発効し、国内大手メーカーや小売業者の一部が価格引き上げを発表した、その翌日に行われたのである。インフレにはならないと、強弁してきたトランプ氏にとっては、手痛い現実への焦りと責任転嫁を目論む抗いである。

新たな関税が発効し、輸入税は大恐慌以来の最高水準に引き上げられる。 EU諸国製の家電製品から日本製の自動車、食品、家具、玩具など、幅広い製品が影響を受ける。(NBC News Aug. 7, 2025)

8/7のNBC News は、1929年大恐慌時の写真をトップに据え、「新たな関税が発効し、輸入税は大恐慌以来の最高水準に引き上げられる。EU諸国製の家電製品から日本製の自動車、食品、家具、玩具など、幅広い製品が影響を受ける。」と報じている。
そして実際に関税コストの価格転嫁が本格的に始まる、すでに行われている現実が報じられている。
ニューヨーク・タイムズ紙は、「アディダス、スタンレー・ブラック・アンド・デッカー、プロクター・アンド・ギャンブルなどの企業の幹部は、投資家に対し、関税コストの一部を顧客に転嫁する予定、あるいは既に転嫁したと伝えている」と報じている。「ウォルマートや玩具メーカーのマテル、ハズブロも、関税が消費者のコスト上昇につながる可能性が高いと、同様の警告を既に発していた。」

 しかも、この関税率は、1930年代大恐慌時の関税以来の高関税である(Average tariff rate 1929 – 2024)。当時、「スムート・ホーリー法」によって、「自国の産業を守るため」として、実に輸入品2万品目に平均60%という高い関税を課し、1930年から1933年の間に世界全体の貿易量を3分の1から半分近くまで落ち込ませ、関税の報復合戦が始まり、世界的大恐慌をもたらし、さらには第二次世界大戦にまで導いた、歴史的には「大きな政策ミス」と結論づけられている関税政策である。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」を旗印に掲げた関税政策は、自身が認識せざるを得ないほど、この大恐慌時の関税政策と酷似しているのである。

トランプ氏は、「関税は株式市場に大きなポジティブな影響を与えています。ほぼ毎日、新たな記録が更新されています。さらに、数百億ドルが我が国の国庫に流入しています。」などと虚勢を張っているが、
この関税収入なるものは、結局は、米国企業と消費者が負担する、数千億ドルもの課税なのである。
米輸入額の対GDP比は、1930年時の実に3倍に上昇しており、これらに対する関税の重要性は当時より格段に高まっているのが現実である。全米小売業協会(NRF)は、年間2,000億ドルの輸入コストが家計に打撃を与えると推計しているとおり、「ポジティブ」どころか、ネガティブな影響の方が拡大しているのである。
高関税政策を推し進めればするほど、消費者価格の高騰はもちろん、関税報復合戦さえ再燃させ、グローバルサプライチェーンの混乱と分断をもたらし、世界的経済恐慌という、重大な政治的経済的危機を自ら招かんとしているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】でたらめ闊歩の米・EU関税交渉--経済危機論(166)

<<「暗黒の日」、EUは「屈服した」>>
7/27、トランプ米大統領と欧州連合・EUのフォン・デア・ライエン委員長は、英スコットランドのターンベリーで首脳会談を開き、関税交渉での合意を発表した。
トランプ大統領の発表によると、米国からの輸出に対する関税はゼロであるが、EU加盟27カ国から米国への輸入品に対しては、一律に15%の関税が課せられる。見返りとして、EUは3年間で7500億ドル(約110兆円)相当の米国産LNGを購入し、さらに6000億ドルを米国産業に投資することを約束した。この合意により、8月1日に発動予定の30%への関税引き上げは停止される、その一方で、EUは米国への関税を一切課さないことに同意した、と言う。

 ホワイトハウスは、この合意は「歴史的な構造改革と戦略的コミットメントを実現し、何世代にもわたって米国の産業、労働者、そして国家安全保障に利益をもたらす」と述べている。日米関税交渉での「史上最大の貿易協定」と自負したあの同じ表現で、今回も「史上最大級のディールだ」とトランプ氏は胸を張った。トランプ氏にすれば、「してやったり」の心境であろう。
まさに、日米合意をそのままなぞったような「合意」であるが、やはり、その具体的な内容は、今回も公表されていない。

ところが今回は、EU加盟国首脳や野党からも、あからさまな不満と懸念、非難が公然と表明されている。なにしろ、トランプ政権以前の平均税率4.8%に代わり、15%の関税で、コストは3倍になったのである。
7/28、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、「今回の関税はドイツ経済、欧州、そして米国経済に「相当な損害」をもたらすであろう」、「インフレ率が上昇するだけでなく、大西洋横断貿易全体にも影響が出るだろう」、「この結果は我々を満足させるものではない。」と手厳しい。しかし、「それでも、現状では達成可能な最良の結果であった」と、EU委員長を擁護している。ドイツ野党第一党の「ドイツのための選択肢」AfD共同党首、アリス・ヴァイデル氏は、これは「合意ではなく、欧州の消費者と生産者への侮辱だ!」と糾弾している。
フランスのフランソワ・バイルー首相は、さらに辛辣な発言で、今回の貿易協定は「暗黒の日」であり、EUは「屈服した」とまで述べ、「自らの価値観を肯定し、利益を守るために結集した自由な人々の同盟が服従を決意した今日は、暗黒の日だ」と断言している。右翼フランスのマリン・ル・ペン氏は、EUの「政治的、経済的、道徳的な大失敗」と呼んで、この取引を非難し、英国が10%の関税であるのに、「政治的には、27の加盟国と欧州連合が英国よりも悪い状況を獲得した」と述べ、「これは、フランスの産業と私たちのエネルギーと軍事的主権にとって完全な降伏なのです。」と非難している。

 しかし、問題はこれからである。まず、この「合意」はEU加盟27カ国全てによって承認される必要がある。加盟国はそれぞれに異なる利害関係を持ち、米国への輸出への依存度も異なる。EU内部の分岐・分裂が浮上するのは当然であろう。こうした懸念と非難で、ユーロは対ドルで5月以来最大の1日下落を記録している。

とりわけ問題にされているのが、3年間で7500億ドルの米国産LNG(液化天然ガス)購入である。フォン・デア・ライエン委員長は、「米国産LNGガスはロシア産ガスよりも「手頃な価格で優れている」と主張して、この合意をを正当化しようとしているが、実際は、米国産LNGの価格は、ロシアのパイプラインガスの3~5倍なのである。
しかも、3年間で7500億ドル、ということは、年間2500億ドルである。ところが、欧州の現在のLNG支出は900億ドル以下である。3倍近い、現状をさえ無視した、まったくのでたらめな購入額なのである。トランプ政権、米エネルギー資本への貢ぎ物なのであろうか。これまでEUにとって最も安価で信頼できるエネルギー供給国であったロシアに対し、バイデン政権に同調し、米国との連帯として課した対ロシア制裁の結果がこれである。その結果、欧州は「ロシアから競争力のある価格でエネルギーを購入するのではなく、米国から非常に高い価格でエネルギーを購入せざるを得ない」事態に自らを追い込んだのである。こんなでたらめを闊歩させ、正当化させる政策こそが、3年間で7500億ドルもの米国産LNG購入を約束させたのだとも言えよう。

<<「これを超えるパロディは存在しない」>>
Euronews のリポーターJorge Liboreiro氏は、「これを超えるパロディは存在しない」と題して、
「VDL(フォン・デア・ライエン)は、米国産LNGガスがロシア産ガスよりも「より手頃で優れている」と主張し、彼女が欧州のために署名した不平等な条約を正当化しようとしている。この条約では、さまざまな譲歩の中でも、今後3年間で7500億ドル分の米国産LNGを購入することを約束している。
 常識のある人なら誰でも、近隣の国からパイプラインで直接送られてくるガスは、液化されて大西洋を何千マイルも特殊タンカーで運ばれ、欧州で再ガス化されるガスよりも、定義上はるかに安価であると理解できる。
ここに見られるのは、大西洋をまたぐ関係の完璧な例だ:EUのエリートたちが、米国への従属を正当化するために自国民に嘘をつき、すべてはEUの全政策の基礎をロシア嫌悪に置いた結果だ。後者は、米国が欧州でNATOを拡大し続ける決定の直接的な結果でもある。
米国の視点から見れば、これは完全に合理的だ。古き良き「分断して征服する」戦略であり、その恩恵を享受している。EUの視点から見れば、彼らは合理的な決定であるかのように見せるために嘘をつく必要があるが、明らかな真実は、彼らがまんまと利用されたということだ。」と、今回の合意の本質を突いている。

さらにこれらに加えて、いくつもの問題点が列挙されている。
* 米国に6000億ドルの投資を約束しているが、出所は明らかにされていない。もちろん、タイムラインもなし、執行はワシントンの、トランプ氏の気分次第である。
* 鉄鋼、アルミニウム、銅といった最も重要な工業素材は、航空宇宙、防衛、重工業といった中核セクターで重要な役割を果たしているにもかかわらず、最大50%の税率のままである。インフレは再び勢いづく。
* 建設業者、加工業者、そしてサプライチェーン管理者は、より多くの税負担に追い込まれる。
* 自動車はEUから米国への主要輸出品の一つであり、ドイツの自動車部門は2025年上半期に15億ドルの利益減に直面しているが、さらにこれが拡大する。ドイツ自動車工業会(VDA)は、関税率が15%であっても「ドイツの自動車産業は年間数十億ドルの損失を被る」と警告している。
* 米国の軍産複合体は、NATO加盟国である欧州諸国にGDPの5%という膨大な防衛負担を強いることで大きな利益を獲得する一方、EU各国の防衛費急増は、加盟各国経済をむしばむことが確実である。
* 医薬品と半導体は免税対象から除外され、救済措置もなく、課税される。欧州の輸出医薬品の約6割は米国向けであり、製薬業界には最大190億ドルの追加コストが発生する可能性がある。
* EUは今後5年間で6,000億ドルを米国の産業に投入する。これには、LNGターミナル、AIチップ製造工場、軍用ロボットへの投資が含まれる。
* IMFは、今年のドイツ経済はゼロ成長になると予測し、G7諸国の中で唯一停滞すると予測している。

トランプ政権は、EUとの貿易協定総額、1兆3000億ドルを大々的に宣伝しているが、実際に存在するのはわずか165億ドルにすぎない。残りは融資、約束、合意文書のない口約束だけである。そして日米関税交渉でも、日本側の総額5500億ドル投資という数字が発表されているが、このうち実際の直接投資はわずか1%から2%、約55億ドルから110億ドルに過ぎないと日本の財務省は明言している。これも残りは、融資、保証、そして政府保証付き信用枠の再パッケージ化、第三国の米国への投資への部分融資まで計上し、無理やり膨らませているが、実質的、経済的には空虚な数字の計上に過ぎないのである。

EUにとっての「暗黒」、「屈服」、「降伏」、「屈辱」、「侮辱」、「大失敗」等々は、EUの支配層、エリート層が、米支配層と手を組み、それを正当化するための最大の根拠として、ロシア嫌い・ルッソフォビアがEUのあらゆる政策の根幹に据えられてきた、煽ってきた結果が、もたらしたものである。その根本政策を転換させ、平和と緊張緩和の路線に転換しない限り、政治的経済的危機は引き続き深化するであろう。同じことは、トランプ政権についても、もちろん、日本の政権についても言えることである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞

【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞

                            福井 杉本達也

1 「日本は関税15%を80兆円で買った」―究極の売国的合意

自動車関税が15%で決着した日米交渉は、日本にとって「勝利」だったのか。日経は「車・相互関税15%に」「税率下げ日米合意」「対米投資を巡っても不明点が残ると報じた。・「日本は私の指示のもとに、5500億ドル(約80兆円)を米国に投資する」。トランプ米大統領は22日、自身のSNSに投稿した。米側文書は、資産と投資家を結びつける枠組みをさす「投資ビークル」と表現し、投資利益の90 %を米国が得ると説明した。80兆円という金額は日本政府の1年分の税収を超える。日本側の説明によれば、5500億ドルは政府系金融機関の出資・融資・融資保証の枠を指す。真水の財政支出ではなく、企業が対米投資に踏み切らなければ使われない可能性もある。」などと解説し(日経:205.7.25)、翌26日の記事では赤沢経財相が記者会見で『5500億ドルを米国にとられたという理解は的外れだ』との見解を示した。」との一方的政府見解を垂れ流した(日経:2025.7.26)。

カギは、米商務長官のハワード・ラトニック氏のBloombergで独占インタビューに答えにある。「アメリカがプロジェクトを選び、日本がその実行に必要な資金を提供するという形になります。」「運営は企業に任せ、得られた利益はアメリカの納税者に9割、日本には1割が配分されます。これは実質的に、日本がこの公約によって関税率を引き下げたことを意味します。」「日本は、アメリカが選定したプロジェクトを実現させなければなりません。」(Yahooニュース:2025.7.26)としている。

経済学者で京都大学・慶應義塾大学名誉教授の大西広氏はスプートニクの取材に応じた中で、合意を「自動車を守るために多くのものを手放した、売国的な合意だった」と述べている(Sputnik日本:2025.7.26)。5500億ドルの根拠は外為特別会計で保有する証券1兆1350億ドル(2025年6月末)の半分であり、財務省が保有する米国債の半分を米国向け投資に振り替えて長期固定化する。つまり米国債のように市場売却は不可能となり、利子配当も激減するのである。

『ビジネス知識源』はさらに分かりやすく、「トランプの任期の3 年で、日本が80 兆円を米国政府ファンドに預託した場合、毎年26.7 兆円のマネーを日本政府の保証で米国政府ファンドに預託することになります。資産は日本のものですが、運用益は米国というとんでもない条件です。日本政府が米国債への投資として運用したときの⾧期金利は、現在4.5%付近です。今回の米国の要求では、債券の運用利益の90%は米国政府の利益になって、日本に還元されるのは4.5%×0.1=0.45%です。」(ビジネス知識源:2025.7.26)。

小沢一郎氏も「そもそも政府は米国による一連の関税措置の完全な撤廃を目標としていたのではないのか。新たな関税負担は、サプライチェーンや多くの中小企業に影響を及ぼす。また、特にコメ等の農産物輸入拡大は、我が国の生産体制を破壊しかねない。外交交渉が「バナナのたたき売り」であってはならない。」「もはやトランプ氏による「商い」と化した交渉。あまりに品位に欠け、日本に対する敬意も欠く。高関税を圧力に対米投資を強要し、根拠なき数字により日本を脅す米国の態度はあまりに異様。対米投資80兆円などというが、そんな資金があるなら、まず日本国内に投資すべき。国民を犠牲にするつもりか」「最大の問題は、日米間に合意文書がなく、合意内容の認識も日米で大きく食い違っていること。トランプ氏が再び難癖をつけてくる可能性が高く、その場合は更なる不利益を被る。米国からここまで突き放されているのだから、逆に日本はこれを奇貨としてより自立する道を選ぶことも検討すべきだろう。」(X小沢一郎事務所:2025.7.28)と批判している。

これに対し、野党では立憲民主党の野田佳彦代表は「国益にかなった交渉だったのかは検証したい」といつもの煮え切らない見解に終始した。国民民主党の玉木雄一郎代表は「自動車を合めて15%にしたのは大きな成果だ」と評価した(後に撤回?)。維新の岩谷良平幹事長は「25%という最悪の事態を避けることができた点は政府の努力に敬意を表したい」と評価した。与党の公明党の斉藤哲夫代表は「粘り強い交渉の結果、日米両国の国益に資する合意となった」と評価した(日経:2025.7.24)。なんとも情けない限りである。

 

2 石破降ろし騒動は、売国的合意を隠すための茶番劇

7月23日付けの読売新聞号外の大誤報をはじめ、新聞各紙・テレビなどマスコミは石破降ろしの大合唱である。しかし、トランプ関税の究極の売国的合意とする報道はほとんどない。そもそも、参院選挙期間中に、この売国的合意は決まっていたはずであるが、選挙結果を恐れて、選挙後の発表となった。参院選挙後の自民党・新聞・マスコミ等の石破降ろしの大合唱は、売国的関税合意を隠す狙いが濃厚である。トランプ関税合意の詳しい説明は、米国からの一方的説明のみで、新聞でもテレビでも誰も解説もしていない。

スポーツニッポンでは赤沢経財相は5500億ドルの数字について「丁寧に説明すると、誤解がこれもあるんですけど」と前置き。「5500億ドル、“真水”という言い方をしますが、キャッシュで5500億ドルがアメリカに行くわけではありません」と説明した。5500億ドルの内訳は、出資、融資、融資保証だといい、取り分については出資の部分だけだという。出資について、赤沢氏は「プロジェクトに出資して、やった時の利益をどうやって分けるかという話(2025.7.26)と究極の売国的ごまかしをしているが、石破政府・自民党・自民党退陣要求派・財務省・外務省・経済界・マスコミ・野党等々を含め、こんな関税合意を「勝利」などとし、喧伝しているが、政府・自民党・財務省・外務省・財界・マスコミ・野党を含めての解体的出直しがなければ、日本は米国と共に沈没するしかない。一刻も早く、ドル基軸体制からの離脱を図り、中国やロシア・東南アジアやBRICSなどと協力関係を築くべきである。

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【投稿】ずさんな日米関税交渉--経済危機論(165)

<<合意文書無し、米側「ファクトシート」追認のみ>>
7/23、石破首相は難航していた日米関税交渉について、「トランプ大統領と合意に至った」と表明。米側に最大5500億ドル(約80兆円)を投資する一方、追加関税を当初の25%から15%に抑えたと、その「成果」を強調。しかし、肝心の「合意」内容については、その合意内容を確認する文書が存在しないことが明らかになった。

7/24、日本側の関税交渉代表である赤沢亮正経済再生担当相は、日米間の貿易協定は日本の利益に合致すると述べたものの、合意の実施方法について米国当局者とはまだ協議していないことを明らかにし、
* 貿易協定は日本の利益に合致する。
* 協定の実施方法について米国当局者とはまだ協議していない。
* 日本は米国との貿易交渉において常に投資に重点を置いてきた。
* 貿易協定を通じ、米国との相互理解と信頼関係を築いてきた。
* 石破首相は米国訪問の可能性について自ら判断する予定。
* 8月1日の一時的な関税引き上げは避けていただきたいと考えている。
* 現時点では、法的拘束力のある協定に署名することは考えていません。
と、述べ、「8月1日の一時的な関税引き上げ」の懸念をさえ表明している。
結果として、
* 日本政府は合意内容を一切確認していない
* 当事者である経済産業省は公式声明を発表していない
* 15%の関税を主張したのはトランプ大統領であり、日本ではない
* 共同プレスリリースも署名もなく、拘束力のある条件も提示されていない
という、厳然たる現実である。合意と言いながら、合意文書が存在しないのである。

 ところが、同じ7/24(米時間では7/23)、日米関税交渉の合意内容を列挙した「ファクトシート」を米側が公表し、以下の「合意」事項の存在が明らかになって来たのである。
* 米国による対日関税が25%から15%に引き下げられる。
* 引き換えに、日本は米国のインフラ、エネルギー、製造業プロジェクトに5,500億ドル(80兆円)を投資することを約束、米国で数十万人の雇用を創出し、自動車、トラック、その他の米国産農産物の貿易を開放する。
* 投資先として、エネルギーインフラと生産、半導体製造と研究、重要鉱物の採掘、加工、精製、医薬品・医療機器の生産、商船・軍事造船―を列挙。支援対象には、艦船の建造や関連施設の近代化など軍事支援まで含まれる。
* 投資5500億ドルによる利益の9割が米側に配分される。
* 医薬品と半導体への関税は別途交渉される予定であり、他の貿易相手国と比べて悪影響はないと表明。
* この協定により自動車関税は引き下げられるが、日本製鉄鋼に対する既存の50%の米国関税は据え置かれる。
* 米ボーイング製の航空機100機を含めた米製の商業航空機の購入で合意。。
* 米国からのコメの輸入については、年間77万トン程度を無税で輸入する現行の最低輸入量の枠内で、米国の輸入を即時に75%拡大する。
* トウモロコシ、大豆、肥料などの米国産品を80億ドル(約1兆1700億円)相当購入する。
* 日本側は、米国の武器(防衛装備品)を毎年数十億ドル(数千億円以上)追加購入する。

この「ファクトシート」について問われた赤沢氏は、「紙の形で合意しているわけではない。法的拘束力ある形で署名するものではない」と述べたばかりか、実は、「(ファクトシートは)機内Wi―Fi(ワイファイ)でざっと目を通しただけだ」とその内実について、日米間で確認されてもおらず、米側が一方的に発表したことを、自ら暴露しているのである。

7/25の党首会談で、石破首相は、合意文書が存在しないことを認めると同時に、日本側は武器や航空機の追加購入について、「従来の計画を説明しただけだ」と釈明し、事実上、すべては日本側の口約束が、米側の「ファクトシート」に列挙され、それらをすべて事後承諾に追い込まれた、ずさん極まりない関税交渉の実態があぶり出されている。

党首会談の際に、「米国の関税措置に関する日米協議:日米間の合意」という、たった1枚の「概要」が配布されたが、事後承認として、「日本は、その実現に向け、政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資・融資・融資保証を提供することを可能にする。出資の際における日米の利益の配分の割合は、双方が負担する貢献やリスクの度合いを踏まえ、1:9とする。」という米側「ファクトシート」の表現を、そのまま認め、武器やボーイング機の追加購入とその金額についてはもちろん、米側の重要な「ファクト」の追認については一切言及されていない、これが関税交渉なるものの、ずさんでお寒い実態なのである。

<<「必要だと思うものは何でも、日本がその費用を負担」>>
トランプ米大統領は、日本とのこの「画期的な」貿易協定を発表し、「史上最大の貿易協定」と自負し、 「我々は日本との大規模な取引を締結したばかりだ。おそらく史上最大の取引だ。私の指示の下、日本は米国に5,500億ドルを投資し、その利益の90%を米国が受け取ることになる」、「この取引は数十万人の雇用を生み出すだろう。このような取引はかつてなかった。」とトランプ大統領は自慢たらたらである。
 このトランプ氏以上に舞い上がっているのが、日米関税交渉の当事者であるアメリカ商務省のラトニック商務長官である。ラトニック氏は、この日米関税交渉の成果について、何と、次のように誇らしげに語っている。
「あなたが原子力施設を建設したいなら、建設してください。パイプライン、半導体工場、必要だと思うものは何でも、日本がその費用を負担します。これまでにない大規模な取引です。」
この厚かましさには、口あんぐり、であるが、それらに加えて、ベセント米財務長官は、「ファクトシート」に盛られた日本側の「譲歩内容の実行状況」を四半期ごとに検証し、「それ次第で25%に戻す」とまで発言している。さらに、「トランプが不満なら日本の関税が25%に戻る可能性」があると、まさに脅しと恐喝である。

しかし、こうした事態を許したのは、日本側、石破政権の対応でもある。トランプ政権の国際法、日米貿易協定の一方的な破棄、世界貿易機関(WTO)協定違反という、重大な二国間ならびに国際的なルール違反を一切問うことなく、またその是正要求を一切提起することなく貿易交渉に臨んだ卑屈な姿勢こそが、米側の尊大・傲慢な姿勢を許したのである。その意味では、この関税交渉は米側の完勝であり、日本側の大惨敗だと言えよう。

ほとんどのアメリカ企業はトランプ大統領の関税を好んでいない

問題は、こうした「史上最大の取引だ」と自慢しているトランプ政権の姿勢そのものが、実は米経済を取り巻く環境に、一層マイナスの影響を増大させるところにある。トランプ政権のこうした貿易取引は、アメリカ経済を強くするどころか、国際的に孤立化させ、弱体化させる可能性の方が大なのである。
7/25付けワシントンポスト紙は、「これらの関税はまだ驚くほど高く、すべての関税は、アメリカの企業や消費者に費用がかかる税金である。そして第一に、「取引」は、米国がより多様なサプライチェーンを構築するのに役立つ重要な同盟国を罰している。第二に、明確な戦略的根拠なしに、アメリカのメーカーと消費者の両方のコストを引き上げる。最後に、トランプは、多国間協力の利点を無視して、貿易取引の交渉を一度に1つずつ交渉することを主張し続けている。結論として、ほとんどのアメリカ企業はトランプ大統領の関税を好んでいない」、と指摘している。

最大の問題は、こうしたトランプ関税が米国離れをさらに加速させることである。こんな貿易取引を切望する貿易相手国はごくごく限られた現実の反映にしかすぎない。現実に、米国を除外した新たなサプライチェーンや同盟を通じて、世界の他の国々がどんどん経済力を増大させており、結果として、各国や企業に米国への依存度を強めるのではなく、サプライチェーンの多様化と米国以外の市場開拓を促進させ、高関税の米国への貿易依存度をどんどん減少させ、世界の貿易の流れを方向転換させる現実的可能性を一層増大させていることである。それはもはや押しとどめがたい流れとなっている。BRICSへの期待とその実力の拡大は、トランプ政権自体が招いたものだとも言えよう。結果として、無謀な関税が反トランプの世界再編を促しているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】参政党躍進の理由

【投稿】参政党躍進の理由

                         福井 杉本達也

1 貧困化にまともな対応策を出さない立憲民主党

昨年秋の衆院選と今回の参院選比例との得票比較で、立憲民主党は1146万票を739万票と▲417万票も減らしてしまった。一方、国民民主党は617万票→762万票(+145万)、参政党は187万票→742万票(+555万)、自民党は1458万票→1280万票(▲178万)、維新は510万票→437万票(▲73万)、公明党は596万票→521万票(▲75万)である。いかに立憲民主党が国民から愛想をつかされたかがわかる。

消費税で立憲民主党とは食料品にかかる軽減税率8%を1年間ゼロに下げるとし、延長しても最大2年までという公約であり、財務省に徹底的に配慮し、自分でも何を言っているのか訳のわからないしろものであった。

総務省が2⽉発表した「2024年の家計調査によると、2⼈以上の世帯が使ったお⾦のうち、⾷費を⽰すエンゲル係数は28.3%。28.8%を記録した1981年以降で最も⾼く、43年ぶりの⾼⽔準となった。上昇は2年連続。いわゆる先進国の中で断トツと⾔っていい。」(日刊ゲンダイ:2025.2.14)と報じられていた。大企業寄りの日経新聞のコラム『大機小機』でさえ、「国民の所得から税金や社会保険料がどれだけ支払われているかを示す『国民負担率』は、2025年度は前年度比0・4ポイント高い46・2%となる見通しだという。SNSでは『五公五民』の悲鳴が聞こえる」「国民が生活苦に直面している主因は、…生鮮食品価格のほか、コメ価格や電気代、ガソリン代の高騰だ。総合的な物価高対策が急務である。国会は国民の『インフレ実感』に焦点を当てた議論をする場であり、国民はそれを注視している。」(日経:2025.3.20)と書いていたが、立憲民主党はこうした声を黙殺した。吉田徹同志社大教授は、行き場を失った「特に現役世代の負担感が強い。親の介護、育児の出費、自分の給料が増えない不満が第三極への支持につながった。参政は現役世代の中でも政治に関心がなかった層を新規開拓」したと分析する(日経:2025.7.22)。

2 排外主義は参政党の専売特許ではない

吉田徹教授は「外国人がスケープゴートになった。『自分は真面白に働いているのに報われないのは理由があるはずだ』と考える人にわかりやすいターゲットができた」「外国人間題が票になることが皆にわかつてしまった。今後は争点として存在しなかったことにするのは難しい。これからの展開の分岐点となる選挙だった。」(日経同上)と結論付ける。

しかし、これには伏線がある。FNNは「国際的な安全保障環境の変化も、今回の選挙結果に⼤きな影響を与えた。近年、中国の海洋進出や台湾海峡を巡る緊張、北朝鮮の核ミサイル開発、ロシアと北朝鮮の軍事協⼒の強化など、⽇本を取り巻く地政学的リスクは増⼤している。これにより、⽇本国内では『⾃分の国は⾃分で守る』という意識が強まり、ナショナリズムが再燃している。」「新興保守勢⼒は、このナショナリズムの⾼揚を巧みに取り込んだ。」(FNN 2025.7.22)と書くが、これは米ネオコンと日本政府・自民党とマスコミが描く排外主義の典型である。1972年9月の日中共同声明の2項において、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」、第3項において「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」としている。にもかかわらず、2024年9月25日海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が当時の岸田首相の直接の支持により台湾海峡を初通過した(福井:2024.9.27)。また、その後、護衛艦「たかなみ」が2015年6月12日に台湾海峡を通過している。日経新聞は「護衛艦の航行は中国軍機の異常接近に対抗するほか、台湾への軍事的圧力を強める中国へのけん制を狙った」と解説している(日経:2025.6.20)。これは“台湾独立”を支援する日中共同声明に違反するものであり、中国の内政に露骨に介入する行為である。日中関係がここまで悪化したのは、尖閣諸島をめぐって、それまでの「棚上げ論」を反故にした旧民主党時代の野田氏や岡田氏、また、当時国交大臣であった維新共同代表の前原氏の責任は重大である。こうした、政府、既存政党、マスコミの排外主義の積み重ねが、投票行動に結びついてしまったのである。

3 日本リベラルの惨憺たる人権状況

アジア記者クラブは「順風で4議席減らした共産党、ラサール石井が出なければ政党要件を失っていた可能性の強い社民党、目標の7議席に遠く及ばなかったれいわ新選組の獲得議席数は合計7議席。敗因を総括できるのか。近隣諸国と対立する右翼と改憲派、ネオリベが日本を崖っぷちに追いやるのは必至。」(2025.7.21)と書いた。れいわは、2022年12月の参院における「新疆ウイグル等における深刻な⼈権状況に対する決議」において、決議に反対した声明において、「新疆ウイグル、チベット、⾹港などでの⼈権侵害は断固として許さない。その考え⽅については、今回の決議の内容に共鳴する部分はある。それ以上に、れいわ新選組は、新疆ウイグルの深刻な⼈権侵害に対して、ウルムチの⽕災をきっかけに中国国内外で広がる抗議運動と⾃由を求める⼈びとの切実な闘いに連帯し、⽇本政府に対して、新疆ウイグル等の深刻な⼈権侵害を直ちに停⽌させるよう中国へ求めるとともに、迫害を受けた⼈々を保護し難⺠を受け⼊れるよう要請する。」などと書き、他国の人権に露骨に干渉しているのでは排外主義を防げるはずもない。

ロシアを訪問して維新を事実上除名された鈴木宗男氏だが、今回は自民党から立候補し、辛くも当選した。2024年のロシア訪問から帰国後「日ロ関係は戦後最悪と言われ、誰かが首の皮をつながないといけない」(2024.8.4)の述べているが、一方的に排外主義に加担しているようでは、日本のリベラルに救いはない。石破首相は訳のわからないアラスカLNGなどに80兆円もの投資すると約束したそうだが、ロシア・北極圏の「アークティック2」や「サハリン2」の方が1/3とものすごく安い。いたずらに排外主義を煽るのでななく、善隣外交こそが日本の生き残りの基本である。

4 スピリチュアルから排外主義へと軸足を移す

参政党が初の国政選挙に挑んだのは新型コロナ禍だった2022年の参院選だった。新型コロナウイルスワクチン接種推奨の是正を訴えてきたが、今回、政策の軸足を「外国勢力の脅威」に移した(福井:2025.7.24)。作家の古谷経衡氏は、「6月の都議選だ。れいわの牙城とされた「練馬」「世田谷」で同党候補が落選し、参政の候補が勝った。あるれいわ関係者は、「支持層がかぶる参政党に取られた」と嘆く。消費税廃止、積極財政を柱とするれいわの経済政策は、後発の参政党が模倣した。しかし国家観や人権問題で進歩的なれいわと、真逆を行く参政の支持者が重複するとはどのような意味か。実際には、れいわ支持層には反ワクチンや陰謀論的世界観を好む支持層が少なくない。この意味においてれいわと参政は近似的だ。」と分析する(日刊ゲンダイ:2025.7.24)。反ワクチン派や有機農業者に参政党支持に回った者は多かった。

5 新参にしては参政党の極めてオーソドックスな選挙方式

参政党は8万人以上の組織をを持つといわれ、選挙の1年以上前から街頭や駅前などの定点に立ち旗振りやチラシ配布を行っていた。また、ポスターもオーソドックスに1枚1枚、掲示場所を頼みに歩いている。「資金の調達構造も草の根型を示す。24年公表の政治資金報告書によると、収入は約12億円。党員が払う会費が約4億4千万円、個人献金が約1億3干万円と、両方の収入で計45%超を占める。他にも全国で開かれるタウンミーティング…4億2千万円ある。」一方、「国民民主党は約14億円の収入額中、党費は約3千万円、個人献金は約600万円と計3%未満に過ぎない。多くの収入を政党交付金に依存する」(福井:2025.7.23)。

党費が数千万円では党員数も推して知るべしであるが、立憲民主党も国民民主党も結成以来年数が経つが、ろくろく地方組織を作ろうとはしてこなかった。ポスター張りなども労組の動員に頼らざるを得ない。一方、参政党は今回はポスター張りを40代の男女が熱心に行っていた。参政党はわずか3年で8万人規模の組織力があるということは、かつての統一教会や幸福の党のような宗教団体が組織的に関与していると考えられる。

長州新聞は「⽐例区のみならず全選挙区に候補者を擁⽴すること⾃体、新興政党としては膨⼤な供託⾦を⽤意しなくてはならずハードルは極めて⾼いことに加えて、ポスター貼りの⼈員確保、全選挙区で選挙実務を担う⼈材確保など巨額の資⾦や組織⼒を擁することが不可⽋になるが、これらをそつなくクリアして選挙戦を展開した。…SNS戦略だけでなく公選法に則った選挙⼿続きの実務など、選挙をそつなく回していくプロ集団(経験者)の⼒が加わっていることや、組織⼒を有する集団の存在を浮き彫りにし、⾦銭的なバックボーンなしにはあり得ない選挙のこなし⽅を⾒せた。…選挙期間中はみずからの政党発信だけでなく、周囲の影響⼒ある媒体も巻き込んで過剰プロモーションともいえる⼒が働いた」(長州新聞:2025.7.21)と分析している。政権から外された自民党旧安倍派や宗教団体、ネオコン、マスコミなどの大合作が疑われる。国益を「第一」とするトランプや欧州の右翼と参政党を同一視する見方もあるが、「売国」と「既成右翼」・「既得権益」の大合作とでは根本が異なる。

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【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方

【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方

                           福井 杉本達也

1 「なめられてたまるか」の石破首相発言は外交交渉ではない

7月20日投票の参院選の全125議席が確定した。自民は39議席、公明は8議席で合わせて自公は47議席と参院でも過半数を割り込む大敗となった。一方、 国民民主党はは17議席、参政は14議席で大きく伸ばした。立憲民主党は22議席と全く追い風は吹かなかった。

ところで、7月9日、千葉県船橋市の駅前の参院選挙応援で、石破首相は米国関税交渉を巡って、「国益を懸けた戦いだ。なめられてたまるか。同盟国でも正々堂々、言わなげればならない」と演説した(福井:2025.7.12)。さらに、10日のBSフジにおいて、9日の発言の真意を問われた首相は、「米国依存から自立する努力しなければならないということだ。」「“いっぱい頼っているのだから言うことを聞けよ”ということならば、侮ってもらっては困る」と主張した(スポーツニッポン2025.7.12)。新聞紙上では、これらの発言は、対米交渉への悪影響を配慮し、無視されたが、SNS上で話題になり、遅れて12日頃に各紙が取り上げるようになった。

しかし、外交交渉とは相手側との交渉である。相手と、こちら側の要求を突き合わせて交渉し、着地点への妥協を探るものであり、やくざの出入りではない。石破首相の外交センスのなさが如実に出ている。

2 トランプのMAGAはドル安政策、

そもそも、石破首相を含め、日本のマスコミ・世論は、トランプのMAGA(Make America Great Againメイク アメリカ グレート アゲイン、日本語訳:アメリカ合衆国を再び偉大な国にする)は論理のない支離滅裂な政策で、トランプ関税は理不尽な要求であり一貫性がないと宣伝している。しかし、これは米民主党やネオコンなどのプロパガンダである。トランプ政権は、この半年、貿易赤字の削減や製造の再生へ追加関税・国防費の削減(EU国防費のGDP比5%要求・日本への3.5%要求などで国防費の削減)・米国務省の予算・人員の削減や米国際開発局(USAID)の廃止などを行ってきている。しかし、トランプ減税など、個々の政策は矛盾しているが、全体としては国民の所得を上昇させることを目指している。ドル指数(米ドルインデックスは、主要通貨バスケットに対するドルの強さを反映するもの)は10%以上下落しており、ドル安となっている。今後数年かけて30%程度下落する。貿易赤字を減らすためのドル安政策を指向しており、強いドルによるドルの米国への還流は起こらない。トランプの政策は金融資本主義の帝国循環とは矛盾する。

3 非関税障壁としての消費税

トランプは当初から日本の消費税を非関税障壁ととらえている(日経:2025.2.15)。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたする社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。トヨタなど輸出企業への『消費税還付金』は巨額である。消費税も関税に換算しなおし税率を決めている(日経:同2.15)。もし、消費税率を下げるとすれば、25%関税交渉の余地もある。消費税を撤廃すれば対日関税が15%に下げる可能性もある。既に、ドイツのメルツ政権は、飲食店向けの軽減税率を現行の税率19%から7%への引下げるという(日経:2025.7.18)。

4 財務省の強固な消費税率下げ拒否姿勢の裏に米の防衛費増額要求

財務省が7月2日発表した2024年度の国の一般一会計の決算概要で、税収は見込み額より1兆7970億円上振れた。。消費税収も見込みを約6700憶円上回った(日経:2025.7.3)。

しかし、財務省の消費税減税に対する拒否姿勢は強固である。7月1日の日経新聞の首相インタビューでも石破首相に「消費税の減税だ、という方々には『社会保障の財源どうするんですか』と聞いたい。」と発言させている。首相は選挙選最終日にも「将来に責任を持たないような政策は政策とは言わない」とし、医療や年金を支えてきたのは消費税だと、野党の減税論の主張を批判した(日経:2025.7.20)。

政府は岸田文雄内閣の2022年末に策定した安全保障関連3文書で、防衛力を抜本的に強化するため、防衛費をGDP2%にすると決めた。23~27年度総額を43兆円程度と定め、必要な追加財源をは14. 6兆円と見込んだ。内訳は①税外収入で4・6兆~5兆円強②決算剰余金で 3・5兆円程度③歳出改革で 3兆円強④残りを増税としている。増税は法人税・所得税・たばこ税の3税を対象とするが、法人・たばこ税は26年4月から引上げが決まっているが、所得税増税の実施時期は先送りとなっている(日経:2025.7.11)。さらに、これに輪をかけて米国防次官のコルビー氏が、「最近、日本に防衛費をGDP比3・5%まで積み増すよう求めた。さらに1・5ポイント引き上げるには9兆円強もの財源が新たに必要になる。」「減税を求める声が吹き荒れるなかで消費税率3%強に当たる増税は難しいだろう」と日経コラム『大機小機』は書く(日経:2025.7.3)。

日本の、GDP比3.5%の防衛費は、21兆円となる。現在の防衛費7.9兆円から、13兆円の増加(現在はGDP費1.3%;増加分がGDPの2%)。日本は21兆円を要求されている防衛費は毎年の財政支出であり、10 年間では、210兆円もの巨額 となる。防衛費の増額13兆円/年のほとんどが、米国からの武器輸入となる。財務省は消費税15%(12兆円分の増税)を欧州並みと言い、最終的に は20%(24兆円の増税)を影で狙っている(『ビジネス知識源』2025.6.29)。

しかし、これはトランプのMAGAとは相いれない。米関税25%の根拠は、消費税10%の換算と米国からの武器輸入による約10兆円/年(武器の国内生産が少ないので、輸入80%と仮定)により、米国の貿易赤字を解消しようという算段である。日本は防衛費は赤字国債の発行で補填しろということである。赤沢経財相が9回訪米しようが10回訪米しようが解決できるものではなく、加藤財務相を出せということになる。

5 財務省主導の「消費税増税派」による大連立か・閣外協力か?

物価は上がるが、賃金は増えていない。1994年以来30年間スタグフレーション状態で、日本の平均賃金は19ドルとOECDで最低になり、賃金が4%以上上がらないと、実質賃金は下がる。ついに、世帯所得は世帯所得はOECD26カ国で最下位で、南欧のイタリア・スペインだけでなく韓国にも抜かれてしまった。

今回の参院選挙はこうした自民党の大失政に対し、大審判を下さなければならない選挙であったが、残念ながら政権を担える野党はなかった。ねじれ議会となり、衆議院解散もありうるが、自公は今後も得票を伸ばす可能性はない。50議席を割ると、次回は少数派のままになる。永久に少数派になり、浮上できない。比較第1党ではあるが自民党は連立でないと政権につけない。これまで政権与党ということで、集まった集団が自民党であり、与党という利権の鏨が外れれば、バラバラになり、解党である。財務省派と旧安倍派などの保守派に分裂の可能性がある。野田立憲民主党との大連立や、玉木国民民主党などと閣外協力という手段もある。2012年に消費税10%を通したのは野田氏であり、旧民主党を分裂に追い込んだA級戦犯である。「野合連合」は、かつての1994年の自社さ連立政権の再来となる。実質所得を挙げて欲しいという願いを無視する財務省派の政権となる。「積極財政と減税」の反財務省派と「緊縮財政と増税」の財務省派に分かれる。8.6兆円の防衛費増税(6兆円を12兆円に)、38兆円社会保障費、歳入は租税77.8兆円、消費税24.9兆円(所得税・法人税を超えて)。28兆円の国債発行である。防衛費は大きく増えていく場合、増税するのは消費税のみであり、ある意味自然な結びつきとなる(参考:『ビジネス知識源』)2025.7.19)。「ミスター年金」長島昭立憲民主党代表代行は大連立を否定するが、年金制度を安定的に維持していくためには、国庫による財源支出が不可避である」とし、「消費税増税以外に現実的な選択肢は存在しない」との立場である。もちろん、103万円の壁を力説するものの、消費税ではピントのぼけた玉木国民民主党代表も財務省主計局出身者である。

7 日銀の議事録(2015年)公開に見る、自公大敗の原因・「異次元緩和」・アベノミクスの大失政

安倍自民党は、2013年4月からのアベノミクスで円紙幣を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。

日銀は7月16日、2015年1~6月に開いた金融政策決定会合の議事録を公表した。物価上昇率の停滞で、異次元緩和開始時に掲げた「2年程度を念頭に2%」の目標達成の先送りに追い込まれた。大規模な金融緩和策を続けたことで日銀の保有国債は積み上がり、今なお出口を巡る問題に悩まされていると書いている(日経:2025.7.17)。これに日銀元調査統計局長の亀田制作氏がコメントしている。「14年4月の消費税率引き上げ以降、消費が思ったより低迷した。増税が消費に与える影響を過小評価していた。」「円安による物価上昇が年金生活者や中小・零細企業に与える負の影響も予想以上に大きかった。」と解説している。

10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。この黒田東彦日銀(元財務省財務官)による自民党・財務省あげての大失政の責任を誰も取ろうとはしない。「増税が消費に与える影響を過小評価」との亀田氏のコメントを待つまでもなく、財務省派の石破首相・野田氏らにも反省の弁はない。

 

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【投稿】トランプ関税:破綻への再始動--経済危機論(164)

<<「TACO」から「TATA」へ>>
トランプ大統領のでたらめな関税マシンが再び動き出した。
4月2日のトランプ氏自ら命名した「解放記念日」に発表した「相互関税」(対中国34%、対EU20%、対日本24%、…等々)は、4/9、午前零時に発効したはずであったが、トランプ氏自身が動揺を隠し切れず、国民に「冷静に」と呼びかけた後、その日の午後、突然、90日間の関税発動停止を発表したのであった。
その90日期限がこの7月9日であったが、一方的な関税戦争開始による威嚇と脅し、関税率上げ下げの応酬が繰り返されたが、貿易協定締結の合意に至ったのはベトナムとイギリスだけであった。成果はゼロに等しい。
この経過から、TACO=Trump Always Chickens Out「トランプはいつもビビってやめる」と揶揄され、トランプ氏はこのTACO表現に激怒したのであるが、再び、「相互関税」の発動期限を8月1日まで延期する大統領令に署名し、今度は、8月1日までに合意に至らなければ、4月2日の「解放記念日」の関税率が再び適用される、そればかりかさらなる関税率の上乗せ、対象の拡大にまで乗り出すことを明らかにしている。今度は、TATA=Tramp Always Tries Again「トランプは常に再挑戦する」、と言うわけである。
そして問題は、今回はブレーキがかかっていない、ことである。単なる再挑戦ではなく、「タコがタカになるリスク」、強硬な「タカ派」路線、極端な高関税の脅し、政治主義的・独裁主義的路線が前面に飛び出してきているのである。ブラジルへの「50%関税」がその典型である。

ブラジル大統領宛のトランプ氏の手紙

その主な動きを列挙すると、
* トランプ政権は新たな関税率の概要を示す書簡を20通以上、各国政府に送付した。(日本と韓国は8月1日から25%、カナダに35%の関税を課す)
* 日本宛ての警告書では、米国に輸入されるすべての日本製品に25%の関税が課され、「既存のすべてのセクター別関税とは別に適用されます」と強調、、日本の関税、非関税政策、そして貿易障壁が、持続的で持続不可能な貿易赤字の原因であると指摘し、両国の関係は長きにわたり非互恵的であったと主張し、日本が関税を引き上げた場合、米国は既存の25%の関税にその額を上乗せする、と警告。
* カザフスタン、マレーシア、チュニジアからの輸入品にも25%の関税を課し、南アフリカとボスニア・ヘルツェゴビナ(30%)、インドネシア(32%)、セルビアとバングラデシュ(35%)、タイとカンボジア(36%)、ベトナム、ラオス、ミャンマー(40%)からの輸入品には、より高い税率が適用される。
* 7/8、米国外で生産された医薬品は最大200%の関税、さらに自動車や鉄鋼・アルミニウムに続く分野別の追加関税の対象を広げ、「輸入銅に50%の追加関税」を表明、銅価格は史上最高値を更新。先物価格は17%急騰している。
* 脱ドル化の試みに対し、「BRICSの反米政策」に同調する国には10%の追加関税を課すと表明。
* 7/12、トランプ氏はTruth Socialを通じて2通の貿易警告書を発出し、8月1日からメキシコとEUからの輸入品すべてに30%の関税を課すと通告。ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長に宛てた2通目の書簡で、EUの関税と非関税障壁に起因する長年の貿易不均衡が是正されない限り、8月1日からすべてのEU製品に30%の関税を課すとブリュッセルに通告。

<<BRICSへの動揺と「怒り」>>
そして極めつけは、ブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・デ・シルバ大統領に宛てた手紙の中で、米国が南米ブラジルからのすべての輸入品に50%の関税を課すと発表し、「ブラジルによる自由選挙とアメリカ国民の基本的言論の自由に対する陰湿な攻撃」を理由として、ブラジルの元大統領でトランプ氏の盟友である「南米のトランプ」=ジャイル・ボルソナーロ氏の裁判を「魔女狩り」と呼び、直ちに終結させるべきだと述べ、米国に輸出されるブラジル製品すべてに50%の関税を課す」と主張したことであった。
しかも、トランプ氏は手紙の中で、米国はブラジルとの貿易赤字を抱えていると嘘をついているが、これはまったくのでたらめで、真実は、米国は長年にわたりブラジルとの貿易黒字を維持しており、2024年だけでも74億ドルに上っているのである。経済的な、貿易収支上の理由などまったくなしである。関税戦争によって損失を被るのは、むしろ米国側なのである。

ルラ大統領はトランプ氏のこの書簡に対し、声明の中で「いかなる一方的な関税引き上げも、ブラジルの経済相互主義法に従って対処される」と述べ、対抗関税の可能性に言及し、貿易にドルを使う義務はないことまで言明している。

トランプ氏は、明らかに7月6日にブラジルで開催されたBRICS首脳会議に動揺し、BRICS諸国が国際貿易の主要通貨として米ドルに取って代わろうとしていると非難し、BRICSへの「怒り」が、この突飛な「50%関税」の背景にあることを自己暴露しているのである。

今や、BRICS加盟国(B・ブラジル、R・ロシア、I・インド、C・中国、S・南アフリカ)とそのパートナー20カ国(BRICS+)は、世界のGDP(購買力平価)の44%、世界人口の56%を占めるに至っており、その組織力が減少するどころか、増大しており、公正な貿易ルールとWTO改革の推進で協力・前進している。
その現状を列挙すれば、
* BRICS諸国のGDP合計は購買力平価ベースで77兆ドル(2025年)で、G7の1.3倍に相当
* BRICS+は世界のGDP成長の40%以上を牽引
* BRICS+の平均成長率は4%(2025年)と予測されており、G7の1.7%の2倍以上
* エネルギー、金属、食料など、主要な世界市場を支配する11の加盟国と10のパートナー
* BRICS+諸国は、世界のガスの約32%、原油の43%を生産しており、エネルギー自立を達成

米国経済は(英国、日本、ドイツ経済と同様に)縮小している

対して、米国主導のG7は、米国、英国、ドイツ、日本のGDPがいずれも引き続き減速し、停滞している。
7/11、米国経済分析局(BEA)発表の2025年第1四半期の米国GDPは、0.5%減少である。7/9発表の日本のGDPは年率0.2%の縮小であり、ドイツは2年連続で経済が縮小している。英国国家統計局(ONS)が発表した最新の月次成長率によると、5月の英国の国内総生産(GDP)は前月比0.1%減少し、4月の0.3%の縮小に続くものである。つまりは、トランプ政権の無謀な関税政策とともに、G7の中心たる米国、英国、ドイツ、日本のGDPがいずれも経済の弱さを示していることから、米主導の世界経済は引き続き減速し、停滞しているのが実態なのである。G7が、トランプ政権に追随している限り、その政治的経済的危機は強まりこそすれ、緩和される展望は開けないのである。
(生駒 敬)

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【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相

【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相

                           福井 杉本達也

1 イラン核施設への攻撃
6月22日、トランプ大統領は、米軍がイラン国内にあるフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの三つの核関連施設に対し爆撃を実施し、破壊したと発表した。爆撃の対象となった核関連施設は、放射性物質を含む施設であり、放射性物質が拡散した場合、長期的かつ回復不能な環境災害を引き起こす。イラン原子力庁は同日、核施設が米軍の攻撃を受けたことを認めたうえで「放射性物質による汚染の兆候は確認されず、周辺住民に危険はない」と発表。また、IAEAも、現在までにイランの核施設での放射能漏れは確認されていないとしている。しかし、イランのアラグチ外相は26日、同国の核施設に対する米国の攻撃が「広範かつ深刻な」被害をもたらしたとの認識を示した(CNN:2025.6.26)。もし、稼働中の原発や放射性廃棄物貯蔵施設が破壊された場合、福島原発事故やウクライナのチェルノブイリ原発事故を上回る放射性被害が出る恐れがある。稼働中の原発には広島型原爆1000発分の放射能が含まれており、核関連施設への攻撃は極めて悪質な犯罪行為である。

2 核施設攻撃を当然視する危険な論調
6月23日付けの日経新聞トップの見出しは「米、イラン核施設空爆」「3カ所攻撃、地下貫通弾も」とあり、核施設の攻撃が、地球全体に核爆弾よりもさらに大きな被害をもたらす恐れがあるという認識は薄い。どのように破壊するのか、破壊されたのか、されなかったのかという軍事面に偏った見出しである。イスラエル・イラン停戦合意後の共同=福井新聞の見出しも「なお核開発能力、禍根」というものであり、軍事に視点を置いたままである(福井:2025.6.25)。トランプ米大統領が広島、長崎への原爆投下を引き合いに、米軍の攻撃がイスラエルとイランの戦争を終結させたと発言したことを、イランのセアダッド駐日大使は「言語同断」だと厳しく批判した(福井:2025.6.28)。さらに続けて「被爆国である日本に「もっと声を上げて欲しい」と注文した(同上)。欧米のみならず、日本のマスコミの論調の低さにはあきれかえる。このままでは、近い将来、全面核戦争に引き込まれてしまう。米国のジェフェリー・サックス・コロンビア大学教授は「イスラエルによるイランへの攻撃は、本格的な戦争へとエスカレートする恐れがあり、イスラエル側には米国と欧州、イラン側にはロシア、そしておそらくはパキスタンも巻き込むことになるだろう。近い将来、複数の核保有国が互いに対立し、世界を核による破滅へと引きずり込む事態が見られるかもしれない。終末時計は午前0時まで89秒を指し、1947年の設置以来、核による終末に最も近づいている。」「ネタニヤフ首相の手を止めない限り、核によるハルマゲドンで私たち全員が滅亡することになるかもしれない。」(2025.6.19)と述べている。

3 IAEAの犯罪的役割と結果責任
今回のイスラエルによるイラン奇襲攻撃で明らかになったことは、IAEAの犯罪行為である。今回、イスラエルは、「斬首作戦」ともゆうべき、イランに対して、核計画、科学者、軍幹部を標的とした前例のない攻撃を行ったが、各科学者の名前などが、IAEAを通じて、事前にイスラエルに流れていたという。「IAEAグロッシが6月13日から24日にかけてイランの核施設を巡る事態についてコメントした方法は、『IAEAの主な機能は監視ではなく、隠蔽された諜報活動であることが明確に示している』と指摘した。『クレムリンは以前からこの事実を知っていた。グロッシが現在、ロシアのカリニングラードを越えて移動することを許可されておらず、ロスアトム以上の高官と会談することを禁止されているのは偶然ではない』」と政治アナリストのザロフ氏は指摘している(2025.6.25)。元々、IAEAは核保有国の核独占という都合のために作られた組織であり、これまでも旧ソ連邦のチェルノブイリ原発事故における被害の隠蔽や、日本の福島第一原発事故においても、放射能汚染水の海洋放出へのお墨付きを与える行為、また、ロシアのウクライナ侵攻においても、ウクライナ側によるザポリージャ原発への度重なる攻撃についても、攻撃主体をあいまいに発表するなどの犯罪行為を積み重ねている。しかし、今回のイラン核科学者の名前の漏洩は非常に悪質である。「IAEAは核施設が攻撃された事実を深刻に捉える必要がある。そうでなければ、今後、世界ではますます核施設への攻撃が容認される。そうなれば、相手も敵国の核施設に報復攻撃を行うことになる。この結果についてIAEAはどのような結果責任を負うのか説明する義務がある。」(olivenews 2025.6.25)。

4 イスラエルは崩壊の瀬戸際まで追い詰められた
元米情報将校のスコット・リッターは。「この問題の本当の目的は核ではなく、政権転覆にある」と指摘する。だから奇襲攻撃で軍幹部・核科学者を標的とした「斬首作戦」を行ったのである。しかし、結果、イスラエルは「10年、もしくはそれ以上かけて築いた諜報作戦を自ら台無しにした」「ドローン操縦士の中に工作員を潜入、ドローン工場への浸透、その全てが消えた。」「彼らは全員モサドの工作員だ。そのネットワークは壊滅した。」「通信面でもイスラエルはあらゆる手を使った。あらゆるトリックを駆使してイランに仕掛けたが、うまくいかなかった。今やイランは体制を立て直しつつあり、もはや通用するトリックは残っていない。イスラエルの正体は完全に露呈した。要するに、イスラエルとイランが再び戦闘に突入しても、F-35やF-22の運用方法には限界があり、イスラエルはそれら全てを使い切った。」と述べている。
また。『アラバマの月』のコメントでは「計画が進展するにつれ、48時間以内、あるいはその直後にイランが降伏することを本質的に予想しているように見えた主要な目標を達成することができなかった。イランがAD能力を回復し、イスラエルに対するロケット弾攻撃を成功させ始めると、紛争は急速に性格を変え、イスラエルにとって非常に破壊的な形で発展した。これは、イスラエルがロケット弾攻撃を止め、面目を保つことを可能にする何らかの出口を提供するよう、アメリカに嘆願する必要があった。」(2025.6.27)。と述べている。

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【投稿】トランプ大統領:「12日間戦争」終結の虚構

<<「皆様、おめでとうございます!戦争は終結します」>>
6/24、トランプ大統領は自らのソーシャルメディアで、イスラエルとイランが停戦に合意したと発表した。
「皆様、おめでとうございます!イスラエルとイランの間で、12時間の完全かつ全面的な停戦(今から約6時間後、イスラエルとイランがそれぞれ進行中の最終任務を縮小し完了した時点)を行うことで完全に合意し、その時点で戦争は終結したとみなされます!公式には、イラン側が停戦を開始し、12時間目にイスラエル側が停戦を開始し、24時間目に12日間戦争の公式終結が世界から祝福されます。各停戦中、相手側は平和と敬意を保ちます。すべてがうまくいくという前提で(そうなるでしょうが)、イスラエルとイランの両国が、いわゆる「12日間戦争」を終わらせるスタミナ、勇気、そして知性を持っていることを祝福したいと思います。」

その詳細は、以下の経緯を取るという。
* 0時間:イランが停戦を開始。これは6月23日東部時間午前0時に始まった。
* 12時間:イスラエルが停戦に参加し、全戦線での攻撃作戦を停止。
* 24時間:停戦が完全発効。両陣営は軍事的に沈黙を守ることが予想される。空爆、ミサイル発射、動員は行われない。

トランプ大統領はこの発表の中で、さらにいくつかの具体的な事実を明らかにした。
* イランはカタールのアル・ウデイド空軍基地へのミサイル発射前に米

軍に事前通知を行った。これにより、防衛準備と撤退が可能になった。
* 米軍の死傷者は報告されていない。被害は軽微だった。国防総省は攻撃を確認したが、停戦の発端についてはこれ以上のコメントを控えた。
* 湾岸地域全域で米大使館による警戒警報が発令中である。カタールとイラクの空域制限は、今後の展開を見据えて引き続き実施されている。

この発表の経緯から明らかになったことは、イランがカタールの米軍基地を標的とした攻撃を開始してから数時間後に行われたものであった、ということである。

 6/23、イランは、カタールにある中東最大の米軍基地であるアル・ウデイド空軍基地を標的とした弾道ミサイル攻撃を敢行した。即座にパニックを引き起こし、空域は全面的に閉鎖された。ただし、米軍側に事前の通知を行い、米国大使館はカタール在住の全アメリカ国民に、具体的な時期や説明なしに屋内退避命令と警告を発令、防衛準備と撤退を可能とさせた。イラン軍司令部は、今回の作戦は「標的を絞った均衡の取れた」ものだと、きわめて限定的で抑制された攻撃(6発のミサイル攻撃)にしかすぎないことを明らかにした。イラン指導部は、米国がイスラエル・イラン紛争への関与を続けるならば、さらなる攻撃を行うことを明らかにし、この地域にあるすべての米軍基地が今や標的となっている、と警告し、実際にアル・アサド空軍基地など、イラクの複数の米軍基地が攻撃を受けている。このことは、米軍のStars and Stripes紙も確認している。

(この米軍基地攻撃について、イラン革命防衛隊は声明を発表し、「アメリカは火遊びを選んだ…しかし、その炎の大きさを計算に入れていなかった。この地域の米軍基地は危険地帯にある…驚きの出来事が待ち受けている。」と警告している(Iran military @Iran_military00 午前0:01 · 2025年6月24日)。)

<<「イスラエルよ、爆弾を投下しないでくれ」>>
しかし問題は、広範な和平合意としては成立しておらず、敵対行為の停止のみが焦点となっている点に留意すべきであろう。
トランプ氏の発表後、数時間にわたる沈黙が続いたが、イスラエルは、停戦協定の当事国であることを確認、イランのアッバス・アラグチ外相は、「イスラエル政権がイラン国民に対する違法な侵略を停止する限り、(イスラエルによる戦争開始への)対応を継続する意図はない」と確認し、事態は前進するかに見えた。

ところが、イスラエルは、イランが期限後にミサイルを発射したと主張し、イラン側が否定しているにもかかわらず、イスラエルは「テヘラン中心部への強力な対応」を実行するとして、カッツ国防相は軍に「テヘラン中心部」への報復を指示している。
ネタニヤフ首相は閣僚に対し停戦に関するコメントを控えるよう求めたが、強硬派のイスラエル・ベイテヌ党党首アヴィグドール・リーベルマン氏は、トランプ氏の停戦合意には、イランの「無条件降伏」が欠如していることを非難し、ネタニヤフ首相率いるリクード党のダン・イルーズ氏は、「敵は降伏したのか?それとも、これは我々がポイントで勝利しただけのラウンドなのか?」と同調している。イスラエルの右派や米国に拠点を置くイスラエル支援者の間では、既に始まったばかりの和平に不満の声が吹き上がっている。
一方、野党党首のヤイル・ラピド氏は、ネタニヤフ政権はガザでの戦争を今すぐ終わらせるべきだと述べ、「ガザでも(戦争を)終わらせる時が来た。人質を返還し、戦争を終わらせるべきだ。イスラエルは復興に着手する必要がある」と述べている。混迷の事態の進展である。

トランプ大統領は、こうした危うい事態の進展にいら立ち、「イスラエルよ、爆弾を投下しないでくれ。もし投下したら、重大な違反だ。今すぐパイロットを帰国させろ!」と投稿し、 「イスラエルにもイランにも満足していない」、「どちらも「自分たちが何をしているのか分かっていない」と、怒りをぶちまけている。

しかし、これはトランプ氏自身がまいた種である。この「12日間戦争」終結の危うさは、トランプ氏自身が、ほんの数日前の国際法違反の無謀なイランへの奇襲攻撃で、巨大爆弾を投下し、「米軍はイラン政権の3つの主要核施設、フォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンに対し、大規模かつ精密な攻撃を実施しました。今夜、私は世界に対し、今回の攻撃が目覚ましい軍事的成功を収めたことを報告できます。イランの主要な核濃縮施設は完全に壊滅しました。」など自慢した、その強引さ、虚構の破綻の結果でもある。
真の緊張緩和と平和的解決を達成するためには、この我田引水的、トランプ的「取引」そのものを停止し、軍事的緊張激化それ自体を禁止すること、その合意こそが求められているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ米政権:対イラン直接爆撃、泥沼の幕開け

<<ネタニヤフ「トランプ大統領、おめでとうございます」>>
6/21夜、トランプ大統領は、米国東部時間午後10時にホワイトハウスからテレビ演説を行い、米軍が夜間の大規模軍事作戦を実行し、「米軍はイラン政権の3つの主要核施設、フォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンに対し、大規模かつ精密な攻撃を実施しました。今夜、私は世界に対し、今回の攻撃が目覚ましい軍事的成功を収めたことを報告できます。イランの主要な核濃縮施設は完全に壊滅しました。」と主張、「華々しい軍事的成功」と表現し、それでもなお、「もし平和がすぐに訪れなければ」、我々は「迅速かつ巧みに」イランの残りの地域を攻撃するだろう、との警告まで発した。
 イスラエルとの関係についても発言し、「ビビ・ネタニヤフ首相に感謝と祝意を表します。私たちは、おそらくかつてないほどのチームワークで協力し、イスラエルに対するこの恐ろしい脅威を根絶するために大きな進歩を遂げました。イスラエル軍の素晴らしい任務に感謝します。」とイスラエルをことさらに持ち上げ、トランプ大統領は最後に、「中東に神の祝福あれ、イスラエルに金の祝福あれ、そしてアメリカ合衆国に神の祝福あれ」と締めくくった。
イスラエルの国際法違反の「先制攻撃」を賛美するばかりか、自らも、突如イラン爆撃に踏み切った危険なエスカレートを「かつてないほどのチームワーク」と賛美したのであった。まさに、これは、「正気の沙汰」ではない、危険な本性を露わにしたテレビ演説であった。

早速、これに応えて、イスラエルのネタニヤフ首相は、「トランプ大統領、おめでとうございます」と、イスラエルによるイランへの爆撃作戦への米軍の参加という「大胆な決断」を称賛し、今回の行動は「歴史の転換点となり、中東のみならず、さらに広い地域を繁栄と平和の未来へと導くものとなる」とほめたたえたのであった。

 さらにトランプ氏は、自身のTruth Socialに次のように投稿した。
「すべての航空機は現在、イラン領空外にいる。主要施設であるフォルドゥには、爆弾が満載で投下された。すべての航空機は無事に帰還している。偉大なアメリカの戦士たちに祝意を表す。世界でこれほどのことを成し遂げた軍隊は他にない。今こそ平和の時だ!」と述べ、
同時に、「平和が訪れるか、イランにとって過去8日間で我々が目撃してきたよりもはるかに大きな悲劇が訪れるかだ」、「まだ多くの標的が残っていることを忘れてはならない。今夜の攻撃は、これまでで最も困難で、おそらく最も致命的だった。しかし、もし平和がすぐに訪れなければ、我々は他の標的を精密、迅速、そして巧みに攻撃する。そのほとんどは数分で排除できるだろう」と主張している。

<<「悪のパンドラの箱」>>
問題は、トランプ氏自身が「まだ多くの標的が残っていることを忘れてはならない」、「はるかに大きな悲劇が訪れる」可能性を自認しており、「数分で排除できる」どころか、実は容易ではない事態をさらに増大させていることである。

まず、「イランの主要な核濃縮施設は完全に壊滅しました。」と、トランプ氏は述べているが、イランの公益性判断評議会メンバーであるモフセン・レザイ氏は、イランは事前にすべての「濃縮核物質」を安全な場所に移動させたと述べており、また、イラン国会議長顧問のメフディ・モハンマディ氏は、フォルドゥ核施設への攻撃を予想し、避難措置を取り、施設に回復不能な損害はなかったと述べ、「イランの立場からすれば、驚くべきことは何も起こらなかった。イランは数日間、フォルドゥへの攻撃を予想していた。この核施設は避難させられたが、今日の攻撃で回復不能な損害は発生していない」と述べていることである。

さらに、イラン原子力庁(AEOI)は6/22早朝に発表した公式声明で、米国の空爆がフォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンの核施設を現地時間日曜日早朝に攻撃したことを確認し、この作戦を違法かつ「残虐な」行為だと非難し、同時に、国際査察官の監視下で稼働していた施設への攻撃を米国が行った違法性を非難し、声明で、「この行為は残念ながら、無関心の影で、国際原子力機関(IAEA)の支援を受けて行われた」と主張していることである。
そして、イランの国家核安全システムセンター(AEOI)は別の声明で、3カ所の施設すべてで緊急査察が実施されたことを確認し、同センターは「汚染の兆候は記録されていない」と述べ、「上記施設周辺住民への危険はない」と付け加えている。

「残虐な」放射能汚染を防いでいるのは、まさにイラン当局なのである。「残虐な」放射能汚染を拡大させようとしたのは、アメリカとイスラエルなのである。イランが、米国を核拡散防止条約違反で非難し、告発する当然の権利を有してるのである。イランのアラグチ外相は、米国の攻撃は広範囲にわたる影響を及ぼすだろうとし、イランは自衛権を留保すると述べ、「米国はイランの平和的な核施設を攻撃することで重大な違反を犯した」と強調している。

 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、米国のイラン攻撃を「既に危機に瀕している地域における危険なエスカレーションであり、国際の平和と安全に対する直接的な脅威」であると非難し、「この危険な時期に、混乱の連鎖を回避することが極めて重要だ。軍事的解決策はない。前進する唯一の道は外交であり、唯一の希望は平和だ」と強調している。

アメリカの著名なジャーナリスト、クリス・ヘッジス氏は、アメリカのイランとの戦争は「悪のパンドラの箱を開ける」と指摘して、以下のように述べている。
* 戦争は悪のパンドラの箱を開ける。一度解き放たれた悪は、誰にも制御できない。イランの核施設への米軍爆撃を命じた戦争屋たちは、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアでの攻撃と同様に、イランにおける今後の展開について何の計画も持っていない。
* イランとの戦争は、地域全体でシーア派に対する戦争と解釈されるだろう。間もなく報復が行われるだろう。それも大量に。最初は散発的なミサイル攻撃で始まり、次に捉えどころのない敵による船舶、軍事基地、軍事施設への攻撃へと発展するだろう。そして、着実にその規模と致死性は増大していくだろう。中東に駐留する約4万人の兵士と海兵隊員を含む死者数は増加するだろう。空母を含む艦船が標的となるだろう。
* イラクやアフガニスタンでやったように、我々は盲目的な怒りをもって攻撃を開始し、自らが引き起こした大惨事に油を注ぐことになるだろう。我々をこの戦争に誘い込んだ者たちは、戦争という手段についてほとんど知らず、彼らが支配しようとしている文化や民族についてはなおさら知らない。傲慢さに目がくらみ、自らの幻覚を信じ、過去20年間の中東における戦争の教訓を全く学んでいない。
* イランとの戦争は自滅的で、多大な犠牲を伴う泥沼となり、帝国の朽ちかけた建造物に打ち込まれる釘の一本となるだろう。

トランプ政権は、「悪のパンドラの箱」を開けているのである。
(生駒 敬)

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【転載】反戦の声、イスラエルの爆撃で殺害されたイラン人詩人パルニア・アッバシさんを追悼

以下は、6月18日のコモン・ドリームズからの転載である。(生駒 敬)

「紛争の時代において、女性は常に最初の犠牲者となってきた」と、あるイラン人学者は述べた。
ブレット・ウィルキンス 2025年6月18日

著名なイラン人学者や、パリで開催された国連イベントに参加したベネズエラ代表団を含む平和活動家たちは水曜日、先週イスラエルによるテヘラン爆撃で両親と10代の弟と共に殺害されたイラン人若き詩人パルニア・アッバシ氏に追悼の意を表した。

24歳の誕生日を数日後に控えていたパルニア・アッバシ氏は、6月13日、テヘランのサッタルハン地区にある住宅団地への空爆で死亡した。これは、米国が支援するイスラエルによるイランへの一方的な戦争の第一波であり、水曜日早朝時点で少なくとも585人が死亡、1,300人以上が負傷したと報じられている。

イランのメディアによると、パルニアさんの引退した両親、パルヴィズ・アバシさんとマソウメ・シャリアリさん、そして弟のパルハム・アバシさんもイスラエルの攻撃で死亡した。一家は自宅が爆撃された時、眠っていたと伝えられている。

ワシントン・ポスト紙のイェガネ・トルバティ記者によると、

アバシさんはコールドプレイのコンサートを観ることを夢見ていた。新しい食べ物を試すのが大好きで、イタリア語も勉強していた。詩を絶えず書き、友人や家族と分かち合っていた。イラン最高峰のダマヴァンド山に登頂したことをとても誇りに思っており、会う人会う人すべてにそのことを伝えていた。今週、友人たちが電話インタビューやテキストメッセージで語ったように、彼女は愛するひまわりのように明るく、生命力に満ち溢れていました…

アッバシさんの友人たちは、インタビューやメッセージ、ソーシャルメディアで、彼女との思い出を語ってくれました。初めてキャンプに連れて行ってくれたこと、惜しみなくプレゼントをくれたこと、彼女のユーモアのセンスに思わず笑ってしまったこと、カメラの前でおどけたダンスを披露してくれたことなどです。

テヘラン・タイムズ紙は、英語教師でもあったアッバシさんを「イランの新世代詩人の中で期待の星」であり、「心を打つ、内省的な詩で高く評価されている」と評しました。

文芸誌「ヴァズニ・エ・ドニャ」の追悼記事で、アッバシさんはこう語っています。「私は自分に起こるすべての出来事を、書き留めることができるかもしれない、その瞬間に抱いた感情を詩を通して表現できるかもしれない、と捉えています。」

以下は、アッバシの最も有名な詩『消えた星』からの抜粋で、ガザル・モサデクが翻訳したものです。

あなたと私はいつか終わりを迎えるでしょう。

世界で最も美しい詩は

静まり返ります。

あなたはどこかで

泣き始めます。

生命のささやきを

しかし私は終わりを迎えます。

私は燃え尽きます。

私は、あなたの空に消えた星となるでしょう。

煙のように。

テヘラン・タイムズ紙によると、著名なイラン人学者で芸術家のザーラ・ラーナヴァール氏は、水曜日に行われたアッバシへの追悼式で、「紛争の時代におい

て、女性は常に最初の犠牲者でした」と述べました。

「今回は、ガザからイランに至るまで、女性や子供を殺害したことで世界的に悪名高い犯罪者による爆撃の犠牲になったのです」と彼女は付け加えた。ネタニヤフ首相は、パレスチナにおける戦争犯罪と人道に対する罪の容疑でハーグの国際刑事裁判所から指名手配されているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のことだ。

パリで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の文化的表現の多様性に関する条約第10回総会に出席したベネズエラ代表団も水曜日にアバシ氏を称え、「一つの声が消え、一つの遺産が築かれ、民族間の文化的対話の新たな機会が失われた」と嘆いた。

アッバシ氏の多くの友人の一人であるアルビン・アベディ氏は、ワシントン・ポスト紙に対し、「戦争が起こると、犠牲になるのは軍人だけではない…一般の人々も簡単に破滅させられる可能性がある」と語った。

アベディ氏はさらに、アッバシ氏は「忘れ去られない権利がある」と付け加えた。

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【投稿】危険な乱心・トランプ:イランに「無条件降伏」を要求

<<「我々は今やイラン上空を完全に掌握している」>>
6/17、午前11時55分(米現地時間)、トランプ大統領は自らのソ-シャル・メディアTruth Socialに次のように投稿した。
 「我々は今やイラン上空を完全に掌握している。イランは優れた空中追跡装置やその他の防衛装備を豊富に保有していたが、米国が開発、考案、製造した『もの』には及ばない。古き良き米国以上に優れた技術を持つ国は他にない。」
イスラエルのネタニヤフ首相も、「イスラエルはテヘラン上空を制圧している」と主張し、テヘラン市民に避難を一方的に命じている。
次いで、20数分後の午後12時19分、トランプ氏はこう付け加えた。「我々は、いわゆる『最高指導者』がどこに隠れているかを正確に把握している。彼は格好の標的だが、そこは安全だ。少なくとも今のところは、我々は彼を排除(殺害!)するつもりはない。だが、民間人や米兵へのミサイル攻撃は避けたい。我々の忍耐は限界に達している。この問題にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます!」
 そして、その3分後、午後12時22分、今度は大文字で「無条件降伏!」をイランに要求した。

この経過の中で、「我々は」という言葉を使ったということは、もちろん、「イスラエルと我がアメリカ」を指していることが、容易に見て取れる。
しかし、アメリカはまだイランとは、戦争状態に入っていないはずである。もちろん、宣戦布告もなされていない。トランプ氏自身が、ほんの数日前まで、米国はイスラエルとイランの戦争には「関与していない」と声高に主張していたのである。
わずか数日で、『関与していない』、『これは我々の作戦ではない』という立場から、『我々は今やイラン上空を完全に掌握している』、『我々の忍耐は限界に達している』、『無条件降伏せよ!』という立場に変わってしまったのである。6/15の段階でも、トランプ氏は、米軍が戦闘に参加する可能性は「ある」と述べていた、さらに6/16の段階でも、記者団に対し、米国の戦争介入の可能性について問われると、「その件については話したくない」と述べると同時に、「我々は関与していない。関与する可能性はあるが、現時点では関与していない」と付け加えていた。それが、一気に「我々の戦争」「無条件降伏要求」への変心である。もはや、この戦争に積極的に参加していないふりをすることができなくなってしまったことの裏返しでもあろう。

<<「これは我々の戦争ではありません」>>
「無条件降伏せよ!」とは、本来、宣戦布告後の戦争用語であろう。絶対不可欠な米議会の宣戦布告は、もちろんなされてはいない。第一、イランとは戦争状態ではない、今後は別として、イランはいまだイスラエルの攻撃に加担している米軍基地をさえ攻撃していない。イランは、トランプ大統領がイスラエル加担に明確に踏み出した場合、中東地域の米軍基地を攻撃する用意があると警告し、「イランはホルムズ海峡に機雷を敷設する可能性がある」と述べている。「これは、ペルシャ湾でアメリカの軍艦を足止めするための戦術である」とニューヨーク・タイムズは報じている。

こうした経緯における、トランプ氏の投稿の特異性、異様さを、弁護士のジョージ・コンウェイ氏は、「この瞬間を思い出してほしい。@realDonaldTrumpは、他者を暴力的な死で脅すというナルシスティックでサディスティックなスリルに浸っている。彼はその感覚を渇望し始めるだろう。」と書いている。

ブルワークのサム・スタイン氏もトランプ氏の投稿は、「新たな中東戦争の開始をツイートしているだけだ。米国によるイラン爆撃の可能性をリアリティ番組の一エピソードのように扱っている。」と指摘している。

しかしこの「乱心」は、見過ごし得ない危険な「乱心」でもある。トランプ氏があたふたとカナダで開かれていたG7会合を途中退席したのは、もちろん、G7の形骸化もあろうが、ホワイトハウスの発表によると「中東での状況が理由」だという。Axiosによると、トランプ大統領は、米軍直接参加、あるいは直接的な軍事支援での、イランの核施設への攻撃を真剣に検討しているという。
 すでにアメリカは、アメリカ軍基地を守る戦闘機の支援や、イランの核施設への攻撃に投入される可能性のある爆撃機の航続距離延長のために、約34機の給油機を派遣した、と報じられている。空母もこの地域に続々と移動している、と言う。

すでに、米議会では、トランプ氏の「乱心」を防ぐ動きが活発化している。
 民主党のトーマス・マッシー議員は、「これは我々の戦争ではありません。
しかし、もしそうであれば、議会は憲法に従ってそのような問題を決定しなければなりません。超党派の戦争権限決議案を提出します。」

トランプ氏の熱烈な支持者であるマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党、ジョージア州選出)でさえも、米国によるイスラエル戦争への支援を強く批判している。「米国がイスラエル・イラン戦争に全面的に関与することを熱望する者は、アメリカ・ファースト/MAGA(アメリカ第一主義)の信奉者ではない」と、彼女は日曜日にXに書いた。「罪のない人々の殺害を望むのは吐き気がする。私たちは外国での戦争にうんざりしている。あらゆる戦争に」

米議会でさえ、反トランプの動きが活性化しだしている。いずれにしても、トランプ氏の危険極まりない「乱心」は、ストップさせられなければならない。
(生駒 敬)

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【投稿】「ノー・キングス」デー:全米各地で500万人以上

<<アメリカ史上最大規模の抗議行動>>
6/14、朝から、アメリカの都市や地区では「ノー・キングス」デーを迎え、シュプレヒコールを上げ、トランプ政権に抗議する人々が街頭に溢れ、デモはワシントンD.C.からニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ヒューストン、フィラデルフィア、シカゴなどの主要都市へと拡大、夜に至るまで一日中、巨大な波のように繰り返された。主催者発表によると、全米各地で500万人以上、2000か所以上で反トランプデモが展開された。この運動は、アメリカ史上最大の大規模抗議の日であった可能性が指摘されている。

 地方の小規模な集会から、ニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴなどの大都市で行われた大規模な集会まで、その内容は多岐にわたっている。ニューヨーク市では20万人が集結、「我々は何を望む? 移民税関捜査局(ICE)反対! 」、「国外追放反対! トランプは去らなければならない!」「正義なくして平和なし!」と書かれた横断幕を先頭に、デモ行進が繰り広げられた。
カリフォルニア州では、10万人以上の抗議者が200以上の市町村でデモを行い、人口わずか3600人の山間の町アイディルワイルドでさえ、約600人が街頭に繰り出し、デモは南カリフォルニアの沖合約35キロにあるサンタカタリナ島でも行われた。 アトランタでは、数千人のデモ参加者がリバティ・プラザに集結し、

政権に反対するメッセージを書いたプラカードを掲げ、名曲「野球に連れてって(Take Me Out to the Ball Game)」を「トランプをホワイトハウスから追い出せ(Take Trump Out of the White House)」と言い換えた抗議バージョンが歌われた。

シカゴでは7万5000人から10万人が参加し、その模様は、右のシカゴ北ループ地区のパノラマ動画で見られるとおり、延々と続く人の波である。

移民法執行をめぐる不安の中心地となり、数日間にわたる抗議活動が続くロサンゼルス市では、3万人に達し、6時間以上にわたる抗議活動が行われ、同市のカレン・バス市長は「ロサンゼルスで私たちが目にしているのは、トランプ政権が引き起こした混乱であり、ホーム・デポや職場を襲撃し、親子を引き裂き、装甲車を街中に走らせることで、恐怖とパニックを引き起こしている」、「今日、3万人もの人々が憲法で保障された平和的な抗議活動の権利を行使するために、市内各地に集結しました。これは大きな力です」と述べている。

 

<<トランプ・軍事パレードの私物化>>
一方、この巨大な抗議行動と対照的なのが、同じ日、6/14、首都ワシントンで行われた、実に34年ぶりという、米陸軍創設250周年を記念する軍事パレードであった。
トランプ政権は、連邦政府機関への予算を大幅な削減を強行しながら、この軍事パレードに推定2,500万ドルから4,500万ドルも費やし、しかも大統領自らの誕生日祝賀行事として、徹底的に政治利用されたのであった。パレードは、79歳の誕生日を迎えた大統領へ「ハッピーバースデー」の歌をささげる場へと変じた。まさに Kings 的私物化であった。

米陸軍創立250周年記念パレードで群衆がトランプ大統領に「ハッピーバースデー」を歌う

皮肉なことに、抗議運動の拡がりに怯え、パレードで抗議活動を行う者は「非常に大きな力」に直面するだろうとわざわざトランプ氏自身が「警告」し、自らの就任式よりも警備が厳重な、「祝賀」どころか、芝居がかった「支配力の誇示」の場と化したのであった。
トランプ政権内には、この米軍の私的な政治利用、私物化、今や自らを称えるパレードを命じるという無謀な決断に、異論を唱えるものが誰一人として存在しないことをここでもさらけ出したのであった。

対極的に、「ノー・キングス」デーを主催する、No Kings連合は、6/8に発表した声明の中で、「私たちは共に立ち上がり、こう宣言します。政治的暴力を拒否します。恐怖による統治を拒否します。一部の人だけが自由に値するという神話を拒否します」と、その共通の立場を宣言。米連邦移民局がロサンゼルスで強制捜査を行い、トランプ大統領が州兵を連邦軍に召集した決定を非難し、「人々は政権の権力乱用と移民関税執行局(ICE)による近隣住民の拉致に対し、平和的かつ合法的に抗議している」、「トランプ政権は人々の声に耳を傾けるどころか、緊張を高めている」、「地方指導者の指示に反し、言論の自由を抑圧するために軍事力を行使している。彼らは私たちの安全など気にしていない。反対意見を封じ込めることに躍起になっている。これは、家族を脅迫し、恐怖を煽り、反対意見を抑圧することを目的とした、あからさまな権力の乱用だ」と述べ、この運動の目的は「対立ではなく、対照を生み出すこと」である、と述べている。そして、「ノー・キングスは、全国規模の反抗の日です。街区から小さな町まで、裁判所の階段から地域の公園まで、私たちは権威主義に抵抗し、真の民主主義の姿を世界に示すために行動を起こします。」、「私たちは彼のエゴを満たすために集まっているのではありません。彼を置き去りにする運動を作り上げているのです。」と訴えている。
運動に参加する原則として、「No Kingsのすべてのイベントの根底にある基本原則は、非暴力行動へのコミットメントです。参加者の皆様には、私たちの価値観に賛同しない方との潜在的な対立を鎮静化し、イベントにおいて法に則った行動をとるようお願いいたします。法的に許可されているものも含め、いかなる種類の武器もイベントに持ち込むことはできません。」と言う立場を明示している。
この運動には、インディビジブル、全米教師連盟、アメリカ自由人権協会、パブリック・シチズン、ムーブオン、50501、スタンド・アップ・アメリカ、コモン・ディフェンス、ヒューマン・ライツ・キャンペーン、環境保護投票連盟など、150を超える進歩的な団体、平和運動団体、人権監視団体、気候変動団体、その他多数の組織が、「ノー・キングス」集会に参加・協力していることを明らかにし、公開している

このような、政策の明示をも含めた、確固とした統一戦線の原則の有りようが、連帯の拡がり、運動の拡がりを支えている、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ大統領:イラン奇襲攻撃「素晴らしい」と礼賛

<<「素晴らしいアメリカの装備」を使用した>>
内外から強い批判と非難を浴びているイスラエルの対イラン奇襲攻撃を、トランプ大統領は、イランの今回の作戦は「素晴らしい」ものだったと礼賛している。
 6/13、米ABC Newsのジョナサン・カール記者は、私はトランプ大統領と話し、イスラエルによるイラン攻撃について尋ねたところ、彼の答えはこうでした。「素晴らしい攻撃だったと思う。我々は彼らにチャンスを与えたが、彼らはそれを逃した。彼らは大きな打撃を受けた。非常に大きな打撃だ。我々が受けられるであろう攻撃と同じくらいの打撃を受けた。そして、さらに大きな打撃を受けるだろう。もっとずっと多くの攻撃が、これから起こるだろう。」と。

さらに、アクシオス(AXIOS)は、同じく6/13、実はイスラエルが奇襲攻撃を準備している間、トランプ氏は米・イラン核協議交渉で、「公の場ではイスラエルの攻撃に反対しているふりをしていただけで、個人的には反対を表明していなかった」と内幕を暴露し、「イランに攻撃は差し迫っていないと納得させ、イスラエルの攻撃対象リストに載っているイラン人が新たな場所に移動しないようにすること」であったことまで報じている。つまり、米・イランの交渉は、「欺瞞のために仕組まれたもの」であり、トランプ大統領とネタニヤフ首相は非公式に対イラン攻撃を調整していたことまで、明らかにしている。
AXIOSのバラク・ラビッド氏は、さらに重大な事実を明らかにしている。
* トランプ大統領は、「昨日は重要な日だった」と述べ、イスラエルが攻撃の際に「素晴らしいアメリカの装備」を使用したことを指摘した。
* ネタニヤフ首相は、自身と最高顧問のロン・ダーマー氏が攻撃に先立ち、トランプ大統領とそのチームと何度も電話会談や会合を行い、調整していた。
* 「米国の立場は米国に委ねる」とネタニヤフ首相は述べ、トランプ政権は攻撃計画を事前に知っていたし、「大統領には、奇襲こそが成功の鍵だ」と伝えてい。
* さらに注目すべき今後の緊切の課題として、イランの核開発計画を完全に壊滅させるためには、イスラエルは山腹に建設されたフォルドゥの地下核施設を破壊する必要がある。しかし、イスラエルにはこの施設を破壊するのに必要な巨大なバンカーバスターが不足している。そのため、イスラエル当局は米国がフォルドゥ破壊作戦に参加することを期待しているという、ことまで明らかにしている。

<<「米国から明確なゴーサインがあった」>>
これらの報道が明らかにしていることは、イスラエル当局は、「トランプ大統領がイラン攻撃を承認した」という厳然たる事実関係を明示し、「米国から明確なゴーサインがあった」ことを明らかにしている。
そしてトランプ氏自身も、「もちろん我々はイスラエルを支持している。誰も支持したことのないほど支持」していると表明している。

数ヶ月にわたって行われてきた米・イラン核協議は、合意が可能であるかのような装いをばらまきながら、合意を意図的に引き延ばし、実質的には「イスラエルに最大限の奇襲を仕掛け、最大限の損害を与える機会」を与えるための、「米イスラエル共同のイラン攻撃」作戦であった、と言えよう。

トランプ大統領は、それでもAxiosに「イスラエルの攻撃はイラ

ンとの合意形成に役立つ可能性がある」、イランに対し、「何も残らなくなる前に」核協議に合意するよう促す、などと発言しているが、
* 交渉相手としてのアメリカの信頼性は完全に失われた、という厳しい現実はもはや取り返せるものではない。嘘つきディーラーなど、誰も相手にしたくないし、相手にしないであろう。
* そして同時に、イスラエルは実際にはトランプ大統領の承認があろうがなかろうが、アメリカを中東戦争の拡大に引きずり込むことに最も重大な利害関係、ネタニヤフ政権存続の利害関係を持って行動しており、
* トランプ氏はそれを見越して、今後のイスラエルによる対イラン攻撃は「一段と残忍なものになる」と警告し、ネタニヤフの戦争拡大路線を放置している。それを抑止する姿勢などみじんも見せていないことである。
* それは同時に、トランプ氏は自らの状況をコントロールしていると見せかけたい欲求から、実際上はネタニヤフ政権にひきずりこまれている現実を覆い隠すために、虚勢を張り、ウソを平気でばらまき、結果として自己を追い詰めている現実の裏返しでもある。

問題は、こうした厳然たる事実関係を前提に、危険な戦争挑発路線を孤立させ、破綻させる、広範な勢力の結集が要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】イスラエル・対イラン戦争挑発の劇的エスカレーション

<<「先制攻撃」を自認>>
6/13早朝、イスラエルはイランを攻撃し、首都テヘランをはじめとするイラン各地を複数の空爆で標的とし、対イラン戦争を劇的に拡大させ、中東戦争、世界戦争、核戦争への挑発路線を公然と開始した。

アルジャジーラの報道によると、イスラエル軍はイランの核施設だけでなく、イラン軍事指導部と軍事能力をも標的とし、少なくとも5波にわたる空爆を実施した。空爆に加え、イスラエルの対外諜報機関モサドの工作員がイラン領内で暗殺や破壊工作をも行ったと報じられている。イラン国営テレビは、イラン革命防衛隊のホセイン・サラミ司令官を含む複数の高官が死亡したと報じている。

 イスラエルの空爆は、首都テヘラン、ナタンズ、エスファハーン、アラク、タブリーズ、ケルマーンシャーなどの都市を標的とし、イランのテレビ報道では、爆撃された高層マンションが映し出され、女性や子供を含む民間人が空爆で死亡したと報じられている。加えて憂慮されるのは、イランの主要な核濃縮施設があるナタンズへの攻撃は、放射能汚染への懸念を引き起こしていることである。

イスラエルのネタニヤフ首相は、「ライジング・ライオン作戦」と名付けられたこの布告、通告なしの一方的な攻撃を、「先制攻撃」と表現、自認し、イランの核兵器開発を阻止する必要があると主張、「必要な日数だけ」攻撃を続けると述べ、この攻撃によってイランのナタンツにある主要なウラン濃縮施設、兵器開発に携わるイランの核科学者、そしてイランの弾道ミサイル計画が攻撃されたと主張、イランによる報復の可能性に備え、イスラエル国内に非常事態を宣言している。イスラエルは領空を封鎖し、テルアビブのベン・グリオン国際空港は航空機の発着を停止している。

(なお、イランへのこの攻撃は、イランが核兵器を開発しているという偽旗、非現実によって正当化されているが、アメリカの情報機関は、イランが核兵器を開発していないことを確認している。核拡散防止条約(NPT)の署名国であるイランは核兵器開発が認められていないが、同条約はイランの民生用核開発計画の策定を認めているのである。)

6/13、イランの最高指導者、アヤトラ・セイイド・アリ・ハメネイ師は、「本日未明、シオニスト政権は我々の愛する国で、汚らわしく血に染まった犯罪行為に手を染め、住宅地を標的にすることで、これまで以上にその卑劣な本性を露呈した」と述べ、「今回の犯罪によって、シオニスト政権は自らに苦く苦痛に満ちた運命を準備した。そして、間違いなくその運命に直面することとなるだろう」と報復攻撃を行うことを明らかにしている。

<<「今すぐ武器禁輸を!」>>
問題は、この戦争挑発・拡大路線が、米トランプ政権と、どのように協調、調整されてきたかであるが、トランプ大統領自身が、6/12、記者団に対し、イスラエルによる攻撃が「差し迫っている」とは言いたくないが、「起こり得る」と述べ、しかも中東各国の米大使館および領事館からの人員撤退を発表した直後に、この「先制攻撃」が実施されていることである。事前の協議、明らかな協調が見え隠れしているのである。
マルコ・ルビオ国務長官は、「米国は攻撃に関与していない」と述べている。が同時に、「イスラエルは、今回の行動は自国の自衛に必要だと考えていると我々に伝えてきた」という。
しかし、タイムズ・オブ・イスラエル紙によると、イスラエル軍は米国と行動を調整している、緊密に連携していることを明らかにしている。米国当局は、表面上は、今回の攻撃への関与を否定しているものの、イスラエルがイランによる報復に応じて、行動の調整どころか米軍自身が関与し、戦争拡大に巻き込まれるリスクが目前に迫っている、あるいはその事態を容認している可能性が大なのである。

米国の進歩派議員と平和、人権擁護団体は、イスラエルがイランへの一連の攻撃を開始したことを受け、直ちに米国の無条件の軍事支援と外交支援の停止を要求している。
民主党のラシダ・トレイブ下院議員は、「ネタニヤフ氏に我が国をイランとの戦争に引きずり込ませるわけにはいかない」、「我が国政府は、このならず者のような大量虐殺政権への資金提供と支援を停止しなければならない」と主張している。イルハン・オマル下院議員(民主党)も、「イランとの協議が再開されようとしていた矢先に、ネタニヤフ首相は攻撃を開始し、非常事態を宣言した。彼はアメリカ国民が望まない戦争を誘発しているのだ」、「自らの死と破壊というアジェンダを追求する外国の指導者によって、我々の意志に反して、またしても紛争に巻き込まれるべきではない」と述べている。

 ワシントンD.C.のホワイトハウス前で緊急抗議活動を行った平和団体「コードピンク」は、「イスラエルによるイランへの無謀な攻撃を強く非難する。この攻撃は、壊滅的な戦争を引き起こすリスクがある」、「この危険なエスカレーションは、中東全域で数百万人の命を脅かしている」、「米国はこの違法な侵略行為を支持し、容認し続けるべきではない」と主張。コードピンクの共同創設者メデア・ベンジャミン氏は、「トランプ氏は自らを平和の大統領と称している。彼はこのような事態が起こることを予期していたにもかかわらず、傍観していた。これはアメリカ国民の意志とは全く相容れない」と述べ、「他に選択肢はない」、「今すぐ武器禁輸を!」と強調している。

国際社会がますます「ジェノサイド」と見なすパレスチナ・ガザへの戦争を遂行するイスラエルを、トランプ政権があくまでも強く支持し、軍事援助を続行している現実こそが、イスラエルの戦争挑発・拡大と密接不可分なのである。しかし、その危険なリスクは、トランプ政権自体の矛盾をさらに拡大させることは間違いがない。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ・マスク、蜜月から破局へ

<<「史上最も愚かな内戦」>>
6/5、「大きくて美しい法案」(BBB : Big Beautiful Bill )、などという人を欺くような連邦税・歳出法案をめぐるマスク氏とトランプ氏の対立は、単なる内部対立から公然とした激しい応酬、ののしりあいへと発展するに至った。
この法案は、メディケイド(低所得者向け医療保険)、補足栄養支援プログラム(SNAP)、連邦学生援助などの社会保障プログラムを削減し、逆に富裕層への減税延長を推進するもので、米議会予算局(CBO)によると、法案は4兆ドル超の減税と新たな歳出を組み合わせ、結果として2.4兆ドルの財政赤字を生み出し、2034年までに1090万人のアメリカ人が健康保険に加入できなくなると予測されると報告されている。
マスク氏は、この法案に強く反対し、「赤字を大幅に増やし、債務上限を5兆ドルも引き上げるような法案ではなく、新しい歳出法案を出すべきだ」と自らのソーシャルメディアXに投稿、「ビッグ・アグリー法案(大きく醜い法案)は2.5兆ドルの財政赤字を生み出す」、「忌まわしい忌まわしいもの」と厳しく批判。

 あくまでもこの法案を通したいトランプ氏は、マスク氏に「非常に失望した」とあからさまな不満を表明、EV自動車テスラのCEOであるマスク氏が「ビッグ・ビューティフル・ビル」に反対したのは、EV税額控除の削減が原因だからだ、彼は「ただ狂った」のだと切り返し、マスク氏と連邦政府との契約を解除すると脅すに至った。
おまけに、トランプ氏は、イーロン・マスクは「トランプ錯乱症候群」(“Trump Derangement Syndrome.”)にかかっているとまで示唆した。トランプ氏自身が、「マスク錯乱症候群」(“TMusk Derangement Syndrome.”)にかかり、マスク氏の南ア「白人ジェノサイド」というデマゴーグで大恥をかいたばかりであるが、自らについては何の反省もない。

6/6、さらにトランプ氏は「予算を節約する一番簡単な方法、何十億ドルも節約できる方法は、イーロンへの政府の補助金と契約を打ち切ることだ。バイデンがそうしないのが、いつも不思議だったよ!」とTruth Socialに投稿。マスク氏がCEOを務めるスペースXなどに対する政府契約を打ち切るとの脅しであった。
これに対し、マスク氏は「どうぞやってくださいよ。楽しませてくださいよ…」とXで応戦。
ここで、マスク氏は大統領を「恩知らず」と非難し、「私がいなければ、トランプは選挙に負け、民主党が下院を掌握し、共和党は上院で51対49の勢力になっていただろう…なんと恩知らずなことだろう」と、誰のおかげで大統領になれたのだと言わんばかりのののしりあいへと昇華。
さらにマスク氏は、「本当に大きな爆弾」を投下した。「本当に大きな爆弾を投下する時が来ました。@realDonaldTrump はエプスタインのファイルに含まれています。それが、公開されていない本当の理由です。」と暴露したのである。
トランプ大統領がいわゆる「エプスタイン・ファイル」に名前の挙がっていると非難したのである。この文書は、ジェフリー・エプスタイン氏の性的人身売買疑惑ネットワークに関与した可能性のある人物を明らかにすると考えられており、トランプ氏がエプスタインと近い関係だったことは知られており、同じ飛行機に乗っていたことを示す記録が存在することも報道されている。トランプ氏にとっては、公開されてはならない「爆弾」であろう。

マスク氏は「この投稿は今後のためにとっておいてください」とマスク氏は付け加えた。「真実は明らかになります」とツィートしている。

<<マスク氏が圧勝?>>
マスク氏はまた、2億2000万人のフォロワーに向けて「アメリカで、中間層の80%を真に代表する新しい政党を作るべき時が来たか?」というアンケート調査を開始し、4時間以内に300万人近くのユーザーが回答し、約81%が「賛

成」票を集めている。

「トランプはエプスタインのファイルに入っている」とマスク氏が非難、右翼億万長者同士の確執が爆発、と報じる CommonDreams は、「これはすごい。史上最も愚かな内戦を経験することになりそうだ」という発言を紹介している。。

6/5の米国株式市場では、トランプ氏とマスク氏の確執でテスラが14%急落。
同社株は過去5営業日のうち4日下落。両者の応酬を始めてから、テスラは約1500億ドルの損失を被っている。
そしてもちろん、トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの株価も、8%下落し、大統領は約2億200万ドルの損失である。トランプ氏の収益にさらに大きな打撃を与えたのは、公式トランプ・ミームコインが約10%下落し、9億ドル近くの損失を被った可能性がある、と報じられている。

かくして、トランプ大統領とイーロン・マスク氏は、非常に醜悪で、公然とした破局の真っ只中にある。
だが、6/6のCNNは、【分析】トランプ米大統領と交わした激論、マスク氏が圧勝? SNSの威力見せつけ と報じている。「マスク氏は、自身のXアカウントを政治的武器のように利用して、矢継ぎ早にトランプ大統領を攻撃した。トランプ氏も、はるかに規模が小さい自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で反撃を試みたものの、真夜中を含めて1日の投稿が100回を超すこともあるSNS中毒の大物には太刀打ちできなかった。」と言うのである。「マスク氏の投稿は瞬時に拡散する。トランプ氏のトゥルース・ソーシャルの実質ユーザーが630万とされるのに対し、マスク氏のXは推定6億に上る。」注目される規模が桁違いなのである。もちろん、とっておきのけた違いは、現職の大統領であるという事実であるが、その政治的説得力に根本的欠陥があれば、対抗できない、であろう。第二次トランプ政権は、発足してまだ半年もたたないうちに、根本的な政治的危機に瀕している、と言えよう。

(生駒 敬)

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【転載】11歳のヤキーン・ハマド:ガザ最年少のメディア活動家、イスラエルの空爆で死亡

以下は、5月24日のパレスチナ・クロニクルからの転載である。(生駒 敬)

イスラエルの空爆で死亡した11歳のヤキーン・ハマドは、ガザの避難民や孤児たちの希望の光となっていました。

わずか11歳だったヤキーン・ハマドは、ガザで最年少のメディ

ア活動家であり、地元の慈善団体の最年少ボランティアでもありました。年齢をはるかに超えた知恵で、恐怖に覆われた場所に希望をもたらしました。

ガザ地区で包囲下に置かれながらも、彼女はインスタグラムの動画を通じて何万人もの人々にリーチすることができました。孤児や避難民家族への支援活動を紹介する動画もあれば、子供たちと笑い合い、喜びの気持ちでプレゼントを配る彼女の姿も映し出されていました。

多くの動画は、イスラエルの容赦ない爆撃下での日々の苦闘を記録していました。ヤキーンの投稿は、イスラエルのジェノサイドに屈しないという、レジリエンス(回復力)の証でした。

しかし、金曜日(5/24)の夜、デリバリー地区でヤキーンの声はかき消されました。イスラエルの空爆が彼女の居住地区を襲い、彼女は瓦礫の下敷きになって亡くなりました。

かつて人々に安らぎと笑顔を与えてくれた少女は、ガザ地区で亡くなった人々の数が増え続ける中で、新たな名前となりました。彼女の死は、ガザ地区で最も若く、最も勇敢な声の一つを失ったことを意味しました。

攻撃された建物の一つはシュレイテ家のものでした。救急隊員は後に、その後の状況は言葉では言い表せないほどの苦痛だったと語りました。

ヤキーンは、人道支援活動家である兄のモハメド・ハマドに同行して、しばしば援助活動に参加していました。二人は共に、避難民の家族に食料、衣類、おもちゃを届けました。

彼女の訃報は、ガザ地区とソーシャルメディア全体に悲しみの波紋を広げました。活動家、ジャーナリスト、そして支援者たちは、ガザの最も暗い時期の一つに光を象徴する存在となっていた少女の死を悼んだ。

「彼女は学校に通い、どこにでもいる子供たちのように遊ぶべき子供だった」と、ある追悼の言葉には書かれていた。

封鎖の中で生まれ、爆撃の中で育ち、トラウマに苛まれたヤキーンは、沈黙を守るのではなく行動することを選んだ。彼女の勇気は、彼女を見たすべての人に忘忘れられない影響を与えた。廃墟の中で模範を示し、人々を導いた少女だった。

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【投稿】「一番困っている」国民の生活を守るには消費税減税しかない、財源は「外為特会」だ

【投稿】「一番困っている」国民の生活を守るには消費税減税しかない、財源は「外為特会」だ

                             福井 杉本達也

1 消費税減税に否定的な石破首相
石破首相は5月12日、衆議院予算委員会で、消費税の減税について、財政状況、基本税率の低さ、高齢化を理由に挙げ否定的な考えを強調した。首相は「あまねく裨益するということも大事だが、そのことによって一番困っている方々に手厚い支援がいかないというのは政策のあり方として正しいと思っていない」、「次の時代に責任を持つということが政治のあるべき姿」だと述べた(FNN:2025.5.12)。しかし、消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下していることは明らかである。

2 消費税は消費抑圧税
租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であった。それが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。消費税は、国民の消費を抑圧して、GDPに対してマイナスの乗数効果をもつものである。本質は消費抑圧税である。現在。米価が高騰しているが、5キロ3000円だった米価には240円の消費税がかかっていた。それが、5キロ・6000円となれば、消費税は480円かかる。消費抑圧的なのは明らかである。逆に国の消費税は240円だったものが480円と2倍の税収となる。インフレになればなるほど、政府の税収が増える。雇用者世帯平均所得金額は3700万世帯あるが、1997年の最高726万円から2018年には633万円とマイナス13%にもなっている。消費税は、消費懲罰税としての性格がある。消費せずに預金すれば当然ながら消費税はかからない(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)。

3 非関税障壁としての消費税
米国は日本の消費税を非関税障壁ととらえている。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたする社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。
「損益計算曹には出てこないが、輸出企業に見られる『消費税還付金』が巨額なのも同社の特徴だ。実際に消費される場所が海外でも、輸出車を造る際は国内の部品、資材、設備のメーカーに日本の消費税を上乗せして代金を支払っている。その税金部分が戻ってくる。SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティプアナリストは『(還付が)トヨタで年間7千億円程度、ホンダで3千億円程度に上っている』と試算する。」。これは「トヨタの2025年3月期営業利益と比べて15%に相当する」巨額の還付金である(日経:2025.5.17)。こうした輸出企業の還付金は、他の輸出に依存しな企業から徴収した消費税から還付され、消費税収入の1/4を占める。

4 日本を米国に売り渡したアベノミクス
2013年4月からのアベノミクスで円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。

5 消費税減税の財源は「外為特会」
消費を撤廃し、財源は1995年の外貨購入の自由化以降は無駄になった財務省管理の「外貨準備(1.3兆ドル:188兆円)を毎年25兆円、3年間売ることを、乗数効果の回復(=国民所得の継続的な増加)のため、実行することである。消費税を10%減税すれば、10%の消費数量が上がる。それは企業の売上の増加になり、企業の売上の増加は世帯所得の増加にもある。企業所得・世帯所得が増加して、乗数効果で4%の経済成長に回帰することとなる。消費税は実際は消費抑圧税である。その重しの蓋が外れることを意味する。消費税を撤廃すれば、10%の物価の低下が生まれる。実質所得は10%増えることとなる。そこで期待企業利益は10%=24兆円増えることとなる。人的な生産性の上昇が起こる。付加価値は5%上がる。そこで企業が賃金を4%上げられる。また、企業の経費も消費税分の10%が減る。それは企業利益の増加になる。企業利益が増えれば、企業は国内設備投資をしようかということになる。そこで、税収は24兆円の増加となる。乗数効果によって、24兆円の減収部分を回収することができるようになる。2~3年で、外貨準備を売って政府税収の穴を埋める必要がなくなる。自立型成長に入る(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)。

6 米国は8.1兆ドルの対外債務を踏み倒す
米国は8.1兆ドルの対外債務を抱えている。これが、支払えないのでゼロクーポン債に切り替えると言っている。既発の米国債は37兆ドルに達し、GDPの137%となっている。2025年度の米国財政は、税収が5兆ドル、財政の支出が7兆ドルであって、2兆ドルの赤字である。これが、2025年・2026年と続く。このうち軍事費が約9000億ドル、既発国債の利払いが1 兆ドルもある(既発の⾧短国債の平均金利は2.7%:37兆ドル×0.027=1兆ドル)。国は既発国債の利払いが財政赤字を増やして国債の増発になる「財政のワニの口」にはいった(『ビジネス知識源』2025.4.18)。米運用大手アライアンス・パーンスタイン(AB)の運用戦略部長である荒磯亘氏は「利払い費が軍事費を超える水準まで高まっており、警戒ゾーンにある。」と述べる(日経:2025.5.22)。2025年度の財政赤字分の国債を2兆ドル新規に発行して、内外の金融市場に「現在のドル⾧期金利4.5%付近を上げないように」売らなければければならない。しかし、これは至難である(同上『ビジネス知識源」)。 要するに借金の利子を払えない状況に入りつつある。借金の踏み倒ししかない。いわゆる「マール・アラーゴ合意」である。これで、ドルは1/2に切り下げられる。日本の188兆円の外貨準備は90兆円にまで値切られる。そうなれば、日本は債権国から債務国に転落する。その前に、米国債を売却し消費税減税の財源とすべきである。5月21日の加藤財務大臣とベッセント米財務長官の日米財務相会談では「為替の水準に関する議論は出なかった。。米国の公表文には両国の主張が食い違っていると受け取れる部分があり、日本側が急きょ補足説明」したと報道された。「現在ののドル円レー トはファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を反映しているという共通の考え方を再確認した」と米国が公表しただけで3円もの円高となった(日経:2025.5.23)。わざわざ「為替の水準に関する議論は出なかった」ということは、日米交渉の焦点は「関税」ではなく「為替の水準」であるということを意味している。それをいつ言い出すかだけが大事である。
5月12日・米中は「100%超の高関税を一時停止することで合意した。」(日経:2025.5.13)と報道された。これまで、中国は外貨準備をドルから本来の通貨である金に替え徐々にドル比率を減らしてきたが、世界3位の米国債保有国に米国債の売却をしないように頼み、何らかの合意が成立したということである。また、同様に世界2位の米国債保有国である英国とも合意が成立した(日経:20250510)。さらにトランプ氏は、大産油国であるサウジ・UAE・カタールを歴訪した。空手形で歴訪したとは思えない。当然に、保有米国債を売却しないように頼んだと思われる。いよいよ、日本とEU(ドイツ)への包囲網が狭まってきている。トランプ関税による税収増・USAIDなどの省庁解体・ウクライナなどの国防費削減・薬価などの医療費削減だけでは年1兆ドルの利払費を賄えないであろう。支払期限は迫っている。

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【投稿】トランプ 氏 : 歯止めなきデマゴーグ政権を露呈

<<南ア「白人ジェノサイド」の大ウソ>>
5/21、トランプ米大統領は、訪米中の南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領に対し、南アフリカにおける「白人虐殺」などというとんでもない陰謀論、デマゴーグを突きつけるに至った。ホワイトハウス・大統領執務室での会談の最中に、トランプ氏はあらかじめ入念に準備し、南アフリカを「白人虐殺」と不当な土地接収で非難した後、予告もなしに、「照明を消して、(動画を)再生して」とスタッフに指示、突如として約4分間のビデオ映像と新聞記事の束を誇示し、南アフリカの白人に対する人種差別的迫害の証拠として提示したのであった。トランプ氏はラマポーザ大統領に対し、「ここに埋葬地がある。埋葬地だ。1000人以上の白人農家の埋葬地だ」とまくしたてたが、ラマポーザ大統領はこれを断固として否定した。英BBCは「ラマポーザ氏はトランプ氏の待ち伏せ攻撃に遭ったが、巻き込まれることなくエレガントに自国の現状を説明した」と報じている。

 ところが、トランプ氏にとっては、たくらみ通り、証拠を突き付けてやったつもりが、この映像、実はとんでもないでっち上げで、そもそも南アで撮影されたものではないことが確認される事態となってしまったのである。
CNNニュースは、「本日、トランプ氏と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領との会談で提示された数々の陰謀論のうち、ほぼ全てが誤りであることが証明された。一部の南アフリカ人は、この情報は白人至上主義団体として批判されている白人アフリカーナー系ロビー団体『アフリフォーラム』のプロパガンダだと考えている」と直ちに報道されてしまった。

reuters 2025年5月23日

トランプ氏がラマポーザ氏に見せたのは、保守系オンラインマガジン「アメリカン・シンカー」が投稿した映像であった。アメリカン・シンカーのマネジングエディターで投稿記事を作成したアンドレア・ウィッドバーグ氏はロイターの問い合わせに対して、トランプ氏が「映像を誤認した」ことを認めたのである。

さらに翌5/22、実際にこの映像を撮影したロイター通信が、トランプ氏が南アの白人農民が虐殺された墓だと主張して流した映像は、ロイターがコンゴ民主共和国で撮影した全く関係がない動画だったことを明らかにした。この映像は今年の2/3に、ロイターが配信したもので、コンゴの都市ゴマで隣国ルワンダが支援する反政府武装勢力M23による襲撃で殺害された人々の遺体を運ぶ人道支援団体の関係者の映像だと確認された。実際に映像を撮影したロイターの動画記者は「全世界が見守る中で、トランプ氏は私がコンゴ民主共和国で撮影した映像を使い、ラマポーザ氏に南アで黒人が白人を殺害していると説得しようとした」と語り、「ショックを受けた」と報じている。

<<イーロン・マスク氏の意趣返し>>
トランプ氏にとっては、政治的大失態だと言えよう。ウソ、でたらめが、白日の下に晒されてしまったのである。
問題は、トランプ政権の、ホワイトハウスの誰一人として、こうした暴走、現実の歪曲を止められなかったことである。おべっか使いのラトニック商務長官を初め、閣僚は、ほとんどが卑屈なまでのお追従者ばかり。まともな意見など言って飛ばされるより、彼をお世辞で取り囲み、トランプ氏の権威主義と独裁主義を助長し、彼にひれ伏し、気に入られる、おこぼれをかすめ取る、腐敗と復讐に明け暮れる、パム・ボンディ司法長官に至っては、「大統領、あなたの就任100日間は、この国の歴代大統領のどれをもはるかに凌駕しています。(私は)このようなことは見たことがありません。ありがとうございます」 などと歯の浮くような熱弁をふるっている、トランプ氏はそれを聞いてご満悦。最近は本人自身が、ニッキー・ヘイリーとナンシー・ペロシを混同したり、ジョー・バイデンを「オバマ」と呼び、バイデンが「ステージ9」の癌だと騒ぎ立てて、認知能力の低下では、バイデン氏に負けず劣らずの症状を示している。すでに第二次トランプ政権発足4カ月にして、本人ならびに政権自体が末期的症状に突き進んでいるのだとも言えよう。

そもそも、 南アフリカには「白人虐殺」など存在しない、白人のアフリカーナ農民でさえ、トランプ氏の「白人虐殺」という非難は馬鹿げていると考えている。南アフリカの国際関係・協力省は、すでに今年2月の声明で、「我々は、我が国の偉大な国を誤って表現することを目的とした、偽情報とプロパガンダのキャンペーンと思われるものに懸念を抱いています。このような言説がアメリカ合衆国の意思決定者の間で支持されているように見えるのは残念です」と重大な懸念を表明していたことであった。
 ところが、南アフリカ出身で、トランプ氏の2期目に首席顧問を務め、公務員の大量解雇と社会保障削減の先頭に立ち、同時に「白人虐殺」という虚偽の主張を煽ってきたイーロン・マスク氏が登場し、闊歩すると、トランプ氏を先頭にすべて右へ倣えである。
この「白人虐殺」の主張は、マスク氏が自身の衛星インターネット企業スターリンクの南アフリカ政府との契約締結にあたって、南アフリカの規制当局が、アパルトヘイトの痛ましい経済的遺産に対処するために制定された積極的差別是正措置法への一環として、黒人株主の参加が認められるまで、同社の事業開始を承認しない姿勢を貫いていることへの、逆襲、意趣返しであることが明らかである。

マスク氏は、ラマポーザ大統領のホワイトハウス訪問にも同席してソファの後ろに立っていたが、あまりにも現実離れのトランプ氏の主張に同調することもできず、発言できなかったのが実態である。

トランプ氏に同調するマルコ・ルビオ米国務長官は、5/21、「南アフリカが主催する今年のG20には、外務省レベルでも大統領レベルでも参加しないことを決定しました。」と表明し、南アが議長国を務める主要20カ国・地域G20にさえ出席できない、孤立化する事態を自ら招いてしまっている。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税の敗北--経済危機論(163)

<<4/2「解放の日」から、5/12「降伏の日」へ>>
5/12、スイスのジュネーブで「経済貿易協議」を行った米中両国が、相互に課している追加関税を、115%引き下げることで合意した、との共同声明を発表した。それによると、米側は91%の追加関税を撤廃し、中国側もこれに応じて91%の対抗関税を撤廃。また、米側は「相互関税」のうち24%を一時停止し、中国側もこれに応じて対抗関税のうち24%を一時停止することが確約されたのであった。これによって、米国の対中関税は145%から30%に、中国の対米関税は125%から10%となる。115%のうち、24%分は90日間の一時的な停止。残る91%分は取り消される。
両国は経済貿易協議の枠組みをつくり、今後、協議を継続することでも合意。交渉に当たったベッセント米財務長官は「米中のデカップリング(切り離し)は望んでいない」と話し、中国側の何立峰副首相は「さらなる相違の解消と協力の深化のための基礎を築いた」とそれぞれ成果を強調した。

5/13、中国側は、「今回の会談によって、今後の交渉の基礎が固められ、前提条件が明確になり、環境が整えられた。これは良いスタートだが、根本的な問題解決のためには、米側が一方的な追加関税という誤ったやり方を徹底的に是正し、互恵協力を絶えず強化し、中国側と共に今年1月17日の両国首脳電話会談における重要な共通認識を積極的に実行に移し、相互開放、継続的な意思疎通、協力、相互尊重の精神に基づき、取り組みを継続していくことが必要だ。」(「人民網」2025年5月13日)と、明確な釘を刺している。

4/2の得手勝手な「解放記念日」にトランプ氏が発表した世界各国に課した一方的な「相互関税」(対中国34%)の貿易・関税戦争開始に引き続き、4/7に、トランプ大統領自身が、「米国に報復する国は、当初設定された関税に加えて、直ちに新たな大幅に高い関税を課されるという私の警告にしたがって、中国が明日 2025 年 4 月 8 日までに、既に長期的貿易濫用に対する 34% の増税を撤回しない場合、米国は 4 月 9 日より中国に対して 50% の追加関税を課します。さらに、中国が要求している米国との会談に関するすべての協議は終了されます。」と宣言し、中国への関税、125%への即時引き上げ、協議打ち切りを宣言したのであった。いったい、この145%にも達する大上段な関税の脅しは何だったのであろうか。

5/12は、4/2の「解放の日」から一転して「降伏の日」となってしまったのである。自称「関税男」のトランプ氏は、

大統領はアダム・スミスとの貿易戦争を開始した。そして敗北した

排外主義的なMAGA急進・強気派の淡い期待をさえ裏切る形と速度で、一カ月余りで、いわば早々に「屈服」してしまったのである。

 

5/12のウォールストリートジャーナル紙の社説は「トランプ大関税の撤廃 大統領はアダム・スミスとの貿易戦争を開始した。そして敗北した」と断言している。

<<「トラック運転手と港湾労働者」>>
5/14、ワシントン・ポスト紙は、トランプ大統領は、関税が米国および世界経済を崩壊させ、米国の中小企業経営者の生産コストを押し上げていることにはほとんど無関心であった、中国製部品の箱を開けただけで、5,649ドルの注文に8,752ドルの請求書が加算される事業主たちの苦境にも無関心であった、と報じている。145%の関税を30%に引き下げた動機は、企業経営者の怒りではなかった。匿名の情報筋はワシントン・ポスト紙に、「主な論拠は、これがトランプ大統領の支持者、つまりトランプ陣営に打撃を与え始めているということであった」と語った。トランプ大統領の運命を決定づけたのは、トラック運転手と港湾労働者だった。匿名の情報筋2人によると、ホワイトハウスのスージー・ワイルズ首席補佐官、ベッセント財務長官、その他の側近がトランプ大統領に対し、自身の有権者も関税の脅威を感じていると述べたことで状況は一変したのだという。これはまずい、自らの存在価値が否定されようとしている、と感じたのであろう。

 もちろん、こうした状況の一変、事態の急変もトランプ氏お得意の「ディール」、「取引」、一時的姿勢の変化に過ぎないという可能性もある。しかしともかくも、トランプ氏が課した145%の関税が少なくとも90日間は30%に引き下げられた、そうせざるを得なかった、後退と屈服を余儀なくされたのである。大統領就任以来の、初めての明確な「敗北」と言えよう。今や全世界は、トランプ氏が関税政策でやってきた、一貫性も論理性もなく、脆さと弱さ、完全な混乱状態に陥った現実を直視している、直視できる事態の変化をもたらしたのである。

そして、トランプ氏の関税は単に失敗、敗北しただけではない。あれだけ強気な口調で語っていたにもかかわらず、現実が目の前に突きつけられると、トランプ氏は、あるいはお追従に取り囲まれたトランプ政権は、全く無力な実態をさらけ出し、中小企業は倒産し、家族経営の農場は競売にかけられ、企業は転嫁できない原材料費の重圧に押しつぶされ、米国に実質的な損害を与え、消費者に打撃を与え、輸出業者を圧迫し、雇用を大幅に喪失させ、インフレを煽り、総じて経済的危機を激的に深化させてしまったのである。「トラック運転手と港湾労働者」は、まさにその危機の前面に立たされていたのである。この危機に対処できないトランプ政権、トランプ氏自身にとっても、取り返しのつかない、まさに虚勢ばかりが目立つ「張り子の虎」である実態を露呈させてしまったのである。

対する中国は、少なくとも10年前から市場戦略をアジア、ASEAN諸国、そして世界最大の自由貿易協定である東アジア地域包括的経済連携(R-CEP)の市場へと転換を推し進めてきており、その加盟国は世界のGDPの約30%を占めている。取引は現地通貨、人民元などあらゆる通貨で行われ、対米貿易の比重はまだまだ重要な位置を占めているとはいえ、米ドルの比重はどんどん下がりつつある。そしてロシアと共に、BRICS諸国とグローバル・サウス(主にBRICS諸国と約10カ国の準加盟国から構成)への貿易拡大に注力し、その市場は世界人口の約85%、世界GDPの約40%を占めるに至っている。トランプ関税は、この現実にこそ屈服したのだ、と言えよう。
(生駒 敬)

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