【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書

【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書

                            福井 杉本達也

著者の河野龍太郎氏はBNPパリバ証券株式会社経済調査本部長・チーフエコノミストであり、『エコノミスト』をはじめ経済雑誌に現況経済を解説するなど著名な経済学者であるが、証券会社出身という経歴から、どちらかといえば、株価や「貯蓄から投資へ」派に属するかと思っていたが、本書はそうした河野氏に対するこれまでの偏見とは全く異なる内容である。

 

1 収奪的社会に移行した日本

著者は過去25年で労働生産性が30%向上したにもかかわらず、実質賃金が横ばいであると指摘。大企業の現在の管理職でさえ、賃金は25年前より低下していると指摘し、「日本の問題は、生産性が低いから実質賃金を引き上げることができない、ということではない」とし、「生産性が上がっても、実質賃金が全く引き上げられていない、というのが真実」であり、「喫緊の課題は所得再分配である」と主張する。「包摂的だったはずの日本の社会制度は、いつの間にか、収奪的な社会に向かっている」と述べ、「企業がリスクを取って、人的投資や無形資産投資、人的投資を行わない」で、「長期雇用制度を維持するために、非正規雇用にすっかり依存するようになり、収奪的な『二重労働市場性』を生みだした」と批判する。

2 安倍政権での「異次元緩和」への批判

著者は、安倍政権下の「異次元緩和」による超低金利政策を「家計を犠牲にする政策」という。企業は潤沢な貯蓄を持っているため、「金利が下がっても、借入を増やす必要はありません」とし、「利上げで増加するはずの家計の利子所得を不当に抑え込んだ」とし、低金利が「円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっています」とし、「円高が進めば、輸入物価の下落を通じて、家計の実質購買力の改善につながった」これでは「個人消費が回復しないのは当たり前」だと「アベノミクス」の失政を一刀両断で切り捨てた。石破政権は夏の参院選対策としてガソリン価格や電気・ガス料金の補助を復活するというが(日経:2025.4.19)、円高政策をとっていれば、当然に輸入物価は下がっていたはずであり、安倍―菅―岸田政権下の大失政(というよりも売国政策)を尻拭いするものである。

3 ゼロベアの弊害が適切に把握されていない

著者は日本のエリート層である大企業の経営者は「日本の時間当たり実質賃金が横ばいであるという事実を」「十分に認識していない」とし、その原因を長期雇用制の下で、ベアゼロでも、「正社員は昇格・昇給によって、毎年、平均で2%の定期昇給が行われているため」「自らの実質賃金は確かに累積では大きく増えている」が、会社全体・一国全体では「毎年の生産性上昇は全く反映されていない」という。これは既に濱口桂一郎氏は『賃金とは何かー職務給の蹉跌と所属給の呪縛』において、定期昇給によって、ベースアップを行わなくても、個々の労働者の賃金は毎年着実に上がることか、「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」と読み解いている。

4 近代の「労働所有論」の見直し

著者は「我々が当然視してきた『所有権的個人主義』についても、その行き過ぎた解釈を改める必要があります」とし、「自らの労働が生みだしたものは自らの所有物というジョン・ロックに始まる労働所有論」は近代社会の礎となったが、「新自由主義の下で、市場至上主義と合わさり、行き過ぎが生じ」ているとする。「人は所有物を自己の延長と捉えて、…占有者を重視し、対象物を支配する人を尊重」する。しかし、社会は「過去、現在、そして未来の人々の共同事業であって、現代の世代が自由気ままに扱ってよいものではない」。「次世代に受け継ぐために、保全する」という考えが重要であると説く。これは哲学者・鷲田清一の『所有論』に通底した考えである。

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【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機

【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機

                             福井 杉本達也

1 米国債の満期8兆ドルと利払い1兆ドルが払えない
「トランプ関税」が新聞・テレビ・SNSを埋め尽くしているが、全く報じられないその裏を読む必要がある。4月17日の『ビジネス知識源』は「2025 年、26 年の連邦政府が直面する「国債の満期8 兆ドル、財政赤字2 兆ドル、国債の利払い1 兆ドルから来る資金繰り難」でしょう。この点が、ほとんど報じられません。2025 年度は、既発債の借り換え債と、新しい財政赤字分で10 兆ドル(1450 兆円)の米国債を、世界の債券市場で金利を高騰させずにスムーズに売らないと、部分破産の危機になる」と書いている。
『ビジネス知識源』によると、「2025 年度は、37 兆ドルの既発国債の満期償還が8 兆ドル。26 年に約6 兆ドルである。」バイデン政権時に、国債を4 年間で7 兆ドル増やし、ドルをばらまいた。2025年度は既発国債の償還のための借り換え債8 兆ドルに加えて、財政赤字分の国債を2 兆ドル新規に発行して、海外を中心に売らなければければならない。しかし、売れるのか。

2 「マールアラーゴ合意」とは
2月27日付け『Bloomberg』は、「トランプ⽶⼤統領が対外貿易の在り⽅を⼤きく変える積極的な計画を打ち出していることを受け、ドルを意図的に弱くし、⽶国の輸出企業が中国や⽇本などのライバルと競争しやすくする多国間協定の可能性を巡り臆測が⾶び交っている。」「フロリダ州パームビーチにあるトランプ⽒の私邸にちなんで、『マールアラーゴ合意』という。」と報じた。
トランプ⽒は、製造業と輸出の復活を含む⽶国の⻩⾦時代を実現すると約束している。⽶貿易⾚字の⾚字は2024年に1兆2000億ドル(約179兆円)という過去最⼤を記録した。ドル高で、輸⼊品を相対的に安価にすることで⽶国の競争⼒を損なっていると考えている。、現在のドルは過⼤評価されている。⽶政府がドル⾼に対処する何らかの合意を他国と結ぶ動機になる。1985年・⾼インフレ、⾼⾦利、ドル⾼の中「プラザ合意」が締結された。⽶国とフランス、⽇本、英国、旧⻄ドイツの間でドル安に誘導する合意が成⽴した。
「トランプ⽒と政権の経済チームは、⽶国は今後もドル⾼政策を堅持するつもりだと述べており、貿易決済にドルを使わないことを⽬指す新興国に対して関税を課すと」脅し、ドル基軸体制を何としても守ると「世界経済の中⼼におけるドルの役割を⽀える政策を推進しながらも、同時にドル安政策も模索するというのは」二兎を追うような極めて難しいかじ取りとであると『Bloomberg』は報じている。

3 米国債・借金の踏み倒しか
同上『Bloomberg』は「⽶財務省が100年後が満期のゼロクーポン債を発⾏するというアイデアがあるという。既発米国債の償還と利払いを停止し、金融市場を通さず、満期を繰り延べ、⾧期化した「ゼロクーポン債」に強制的に変える。ゼロクーポン債は満期まで利払をしない割引債である。⽶国が安全保障を担保する⾒返りとして、同盟国はこの100年債の購⼊を義務付けられるという案。発⾏済み⽶国債の外国保有分を⻑期ゼロクーポン債に交換するという案もある。参加を拒否する同盟国は、安全保障が担保されなかったり、関税を課されたり、あるいはその両⽅の措置を取られる。
『ビジネス知識源』の解説によれば「1 兆ドルの米国債を、割引金利が5%の50 年のゼロクーポン債に切り替えると、その発行額面は「1 兆ドル÷(1-0.05)の50 乗=1÷0.78=1.28 兆ドル」になります。しかし、米国債が⾧期ゼロクーポン債になると、市場性(市場の金融機関の間で、額面で売買できること)を失って、1/2 くらいは無価値になります。」と書いている。
50年間も持ちっぱなしで利子も払わないとなれば、米国債の部分破産、つまり『借金の踏み倒し』である。日本は政府・民間部門も含め、我々日本人が汗水たらして蓄えた資金である米国への投資額の1/2が踏み倒されると考えたほうがよい。

4 円安で米国債を買い支えた安倍政権
2024年12月16日、故安倍首相夫人の安倍明恵氏が真っ先にトランプ氏(就任前)に面会した。国会議員でもない彼女がなぜ一番に面会したのか。
黒田前日銀総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めた。日銀による円国債の大量買いで、円国債の金利を、ゼロにまで人為的に下げた結果、円が1/2 への下落した。「円の実効レート」は、2012 年100→2024 年55 と45%下がった。円がドルを買い支えたのである。12 年間の「円売り/ドル買い」の超過が円を下げ、ドルを上げてきた原因である。安い金利の円から高金利のドルへ「円キャリー取引」として大量の資金が流れ、戦争経済など財政の大赤字で苦しむ米国債を支えた。2012 年11 月の、安倍政権の前の「ドル・円」は80 円台と円高であった。しかし、2025 年1 月には約160 円。日銀がGDP の1 年分に相当する500 兆円を増発した1 万円の価値は、ドルに対し1/2 に下がった。おかげで、石油・ガスなどエネルギー価格や食料価格などが高騰し、国民は輸入インフレに苦しめられている。円安によって、世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げられた。賃上げもインフレにより実質賃金は低下し続け、エンゲル係数は28 %(2024.1~8)と42年ぶりの水準にまで跳ね上がった。安倍政権は国民の生活を犠牲にし続けて究極の売国政策を行い、借金経済で苦しむ米国の財政を支え続けた。これが第1次トランプ政権に評価されたといえる。

5 中国も「踏み倒される」が急速に金に交換している
「人民銀行が発表した3月末の外貨準備の内訳によると金の保有量は2月末から0・1%増え約2292トンだった。22年11月から24年4月まで18カ月連続で増やし、…24年11月から再び増やし、3月末までに28トン 増えた。」(日経:2025.4.9)。手元の米国債を売り、金に交換し、「借金の踏み倒し」による損害を少しでも少なくしようとしてきた。「中国政府は11日、米国製品への報復関税を84%かう125%に引き上げると発表した。」また、中国国務院は「米国が関税の数字ゲームを続けたとしても、中国は無視するだろう」と指摘し、関税の引き上げ合戦にこれ以上は付き合わないとした(日経:2025.4.12)。中国も大損害は被るが、多少の余裕がある。一方、日本はほとんど金を保有していない。ロシアのような原油・ガスなどの資源もない。手元に残るのは50年間も返済されない紙切れの米国債ばかりである。BRICS諸国はドルを捨て、金・コモディティ本位制に移行しようとする中で、日本はどうするのかが問われている。

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【投稿】反トランプ抗議デモ:全米規模へ拡大

<<50501運動>>
4/19、全米各地で大規模な反トランプ抗議集会、デモが展開され、大手マスコミでも無視しえない規模に拡大しつつある。すでに紹介した4月5日の「ハンズ・オフ!」運動に引き続き、小さな町から大都市まで、全米各地で人々が立ち上がっている。その数は無数と言えるほどに広がっている。

 この日の抗議運動を呼びかけた「50501運動」は、
* 4月19日は行動の日です。権威主義的な脅威、そして民主主義の崩壊に対する、全国規模の草の根運動です。
* 全米50州で、地域社会がそれぞれの方法で行動を起こしています。街頭で集会やデモ行進を行う地域もあれば、フードドライブ、ティーチイン、相互扶助のポップアップ、有権者登録イベントなどを開催する地域もあります。
* 4月19日に人々がどこに、どのように集まろうとも、一つ確かなことがあります。この運動は拡大しており、私たち全員のものです。
と、強調している。

 この「50501運動」について、以下のように紹介している。

* 2月5日、#50501として、私たちの声を上げました。最初の#50501抗議活動は、トランプ政権とその金権政治の同盟による反民主主義的で違法な行動に対する、分散的で迅速な反応でした。
* 「1日に50州で50件の抗議活動を行う」というこのアイデアは、ソーシャルメディアで急速に広まりました。わずか数日間で、草の根の組織者たちは、予算も中央集権的な組織も、公式の支援もなしに、全50州で80件以上の平和的な抗議活動を実施しました。
* 12日後、数万人のアメリカ人が「ノー・キングス・デー」を宣言し、再び抗議活動を行いました。3月4日、民主主義のために立ち上がろうという呼びかけに応えて、新たな抗議活動の波が起こりました。4月5日には、数百万人が結集しました。
* 4月19日は行動の日です。権威主義的な脅威、政治の行き過ぎ、そして民主主義の崩壊に対する、全国規模の草の根運動です。全米50州で、地域社会がそれぞれの方法で行動を起こしています。街頭で集会やデモ行進を行う地域もあれば、フードドライブ、ティーチイン、相互扶助のポップアップ、有権者登録イベントなどを開催する地域もあります。4月19日に人々がどこに、どのように集まろうとも、一つ確かなことがあります。この運動は拡大しており、私たち全員のものです。
* この日が他と違うのは、単に抗議活動を行うだけでなく、地道に力を築き上げることを目指している点です。もちろん、行進、集会、裁判所でのデモなどもあります。しかし、おむつ寄付、スキルシェア、無料の地域給食、ティーチインなども全国各地で行われています。これは意図的なものです。真の変化は、ただ大きな声で叫ぶだけでなく、深いつながりから生まれるからです。
* 私たちの運動は、アメリカの労働者階級が、富裕層が法の支配を弱体化させながら、民主的な制度と公民権を引き裂くのを黙って見ているつもりはないことを世界に示しています。
* 私たちは特定の候補者や政党とは一切関係がありません。私たちは多民族、多世代、多階層で構成され、非暴力、相互扶助、そして民主主義の価値観を信じる人々によって率いられています。
* この運動は「50州、50の抗議活動、1つの運動」の頭文字をとったもので、分散型で人々の力による抵抗と回復のネットワークです。

<<トランプ政権支持率の逆転>>
この運動「ピープルズ・ムーブメント」は、以下のことに反対することを明示している。
* 億万長者による乗っ取り : トランプ、マスク、そして彼らの億万長者たちは、権力を集中させ、政治家を買収し、システムを不正操作し、自らの利益のために人々を沈黙させています。
* 人々にとって不利な経済 : 億万長者が歴史的な富を蓄積する一方で、働くアメリカ人は高騰する物価、労働組合の破壊、そして貧困賃金に苦しんでいます。* トランプの法への反抗 : トランプは裁判所の判決を無視し、連邦政府機関を粛清し、政敵を標的にし、自らを法の上に立つ存在と宣言しました。
* 自由の侵害 : 学生や移民を国家公認の方法で拉致し、適正手続きなしに国外追放することから、投票権、生殖医療、労働者の権利、そして自由選挙への攻撃まで、寡頭政治家たちは私たちの国の基盤を破壊しています。

 ワシントンD.C.では、4/19の朝、ホワイトハウス前のラファイエット広場に多くの抗議者が集まり、トランプ政権への反対を訴えた。デモ参加者たちは、キルマー・アブレゴ・ガルシア氏の国外追放や、研究・高等教育への資金削減といった政権の動きなど、様々な懸念事項を訴え、トランプ政権への力強い抗議の意思を明らかにした。
ニューヨーク市では、抗議活動参加者たちがニューヨーク公共図書館からトランプタワーを通り過ぎてセントラルパークに向かって行進し、移民の国外追放に抗議した。
ケンタッキー州レキシントンで行われた集会では、「王様はいない」と訴える抗議者たちが連邦裁判所の向かい側でデモを行った。
 シンシナティのダウンタウンで行われた集会では、デモ参加者たちが移民、教育、そして社会保障局などの連邦政府機関への予算削減に関する政府の行動に抗議するプラカードを掲げた。・・・、全米各地で数百以上に及ぶ抗議集会・デモが展開されたのであった。
50501運動の全国報道コーディネーター、ハンター・ダン氏は、テスラ・テイクダウン集会をはじめとする取り組みなど、分散型運動をも含めた、この広範な取り組みは、4つの信条に導かれる、あらゆる抗議活動を包含するものであると強調している。それは、「私たちは民主主義を支持し、憲法の維持に賛成し、行政の権限の濫用に反対し、非暴力を貫きます」という信条である。

4/18時点での全米世論調査では、トランプ政権支持=46.5%に対し、不支持=50.7%、とついに逆転する事態である。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税の混迷--経済危機論(160)

<<関税の二転三転による混乱、そして屈服>>
4/7、トランプ大統領は自身の Truth Social アカウントに「昨日、中国は、34% の報復関税を課しました。これは、我が国に対する既存の長期的関税濫用に加えて、追加関税を課すことで米国に報復する国は、当初設定された関税に加えて、直ちに新たな大幅に高い関税を課されるという私の警告にもかかわらずです。したがって、中国が明日 2025 年 4 月 8 日までに、既に長期的貿易濫用に対する 34% の増税を撤回しない場合、米国は 4 月 9 日より中国に対して 50% の追加関税を課します。さらに、中国が要求している米国との会談に関するすべての協議は終了されます。」と宣言し、中国への関税、125%への即時引き上げを発表したのであった。
これは、4/2「解放記念日」にトランプ氏が発表した「相互関税」(対中国34%、対EU20%、日本24%、…)の報復に対する報復の応酬であった。

そして4/9、午前零時にこの「相互関税」が発効したのであるが、トランプ氏自身が動揺を隠し切れず、国民に「冷静に」と呼びかけた後、その日の午後、突然、90日間の関税発動停止を発表。ところがこの発表の直前、AP通信は、「ホワイトハウスのXアカウントは、トランプ氏が関税の90日間の一時停止を検討しているという噂は『フェイクニュース』だと述べた」と報じていたのである。
まさに実態は、トランプ氏自身が動揺し、人々が「騒ぎ立て」たり「不安」になったりする中で、投資家心理を注視していたと言い訳している通り、4/3以降の株価急落、金融市場混迷への反応だったことを認める事態の進展であった。実際は、トランプ氏自身が追い込まれたのであった。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「大統領はテレビを見て、厳しい警告を聞き、そして屈服した」(”President Watched TV, Heard Dire Warnings, Then Gave In.”)との見出しを付けて一面記事で報じている。

そうした警告の中で、とりわけ注目されたのが、「シリコンバレーやウォール街のトランプ大統領の同盟者たちによる痛烈な批判」であり、「トランプ大統領の最も有力な顧問であるイーロン・マスク氏でさえ、トランプ大統領に関税への執着を諦めさせようとした」と報じられ、その後、マスク氏は大統領の通商顧問ピーター・ナバロ氏を公然と批判し、「馬鹿」「ジャガイモの袋よりも愚か」と攻撃している。

与党・共和党議員の中からさえ、「少なくとも12人の下院共和党議員が、ドン・ベーコン下院議員(ネブラスカ州選出、共和党)が提出した、ホワイトハウスによる一方的な関税賦課を制限する法案への署名を検討している…」(4月9日 Axios)と報じられている。

こうしたトランプ氏の一方的な関税戦争開始による威嚇と脅し、その二転三転による混乱そのものが、国際社会からの孤立の危機 、国内外におけるダメージの増大をもたらし、経済の混乱と損失を引き起こし、拡大させてしまったのである。90日間の関税発動停止で金融市場は反転、正常化が期待されたが、信頼の喪失と不信は、取り返しのつかない段階へと引き上げられてしまったと言えよう。

<<「世界経済史における笑いもの」>>
4/11、中国は、トランプ政権の125%関税への対抗措置として、米国製品への関税を、4/12から84%から125%に引き上げると発表。中国財政省は声明で「米国が引き続き高い関税を課しても、もはや経済的に意味をなさず、世界経済史における笑いものになるだろう」と述べ、「現在の関税率では、中国に輸入される米国製品の市場はもはや存在しない」と指摘し、「米国政府が対中関税の引き上げを続ければ、北京は無視するだろう」と付け加えた。しかし、米国が中国の利益を著しく損なう行為を続ける場合、中国は断固たる対抗措置を講じ、最後まで戦うと付け加えた。互いの報復関税は、現在ではなんと145%にまで達している。

この中国が対米関税を125%に引き上げたことを受け、先物価格は横ばい、金は急騰、ドルは暴落、さらに深刻なのは、米10年国債の利回りが50ベーシスポイント急上昇し、2001年8月16日の週以来最大の週間上昇となり、「中国が米国債を売り払っているのではないか?」 とまで疑念報道がなされ、米国債が世界的な利回り上昇を主導し、債券市場が一斉に下落し始めたことである。
何十年にもわたって、「世界の安全な避難先」であったはずの米国債市場の急落である。住宅ローン金利が急上昇し、ジャンク債の借り換えコストは2025年に倍増という事態である。

すでに脆弱な新興国債券の利回りは、さらに急上昇し、ドル建て新興国債券は、顕著な売り圧力にさらされ、10年債利回りは、コロンビアで57bps、トルコで49bps、フィリピンとメキシコで48bps、インドネシアで46bps、チリで38bps、ブラジルで24bpsそれぞれ上昇。現地通貨建て新興国債券は、債券価格と通貨の大幅な下落という、二重の打撃となっている。対円では、インドネシアルピアは3.7%、ペルーソルは3.6%、インドルピーは3.2%、ブラジルレアルは2.7%、フィリピンペソは2.6%、南アフリカランドは2.5%、中国人民元は2.5%、アルゼンチンペソは2.4%、トルコリラは2.1%それぞれ下落している。
アジア株が2008年以来の大幅下落となり、主要指数の下落率は、台湾のTaiexが9.7%、日本の日経平均が7.8%、韓国のKOSPIが5.6%、中国のCSI300が7.0%、フィリピンのPSEiが4.3%、オーストラリアのS&P/ASX200が4.2%、マレーシアのKLCIが4.2%、インドのNifty50が4.0%、と軒並みの急落である。

トランプ政権の方針転換を受け、おおむね各国から「歓迎」の反応を得て、金融市場は好転したかに見えたのであるが、事態は甘くはなかったのである。

そして、4月11日未明のニューヨーク株式市場では再び売り注文が強まり、株価は一時2100ドルも急落する事態である。ダウ工業株30種は1014ドル安。S&P総合500は3%超、ナスダックは4%超、それぞれ下落し、前日の上昇分の多くを失っている。投資家の不安心理を示す「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所のVIX指数は高止まりし、40を上回る水準で取引を終えている。ハイテク大手が再び売り圧力にさらされ、「マグニフィセントセブン」(超大型ハイテク7銘柄)各社が2.3─7.3%安と下落している。

4/9付ニューヨークタイムズ紙は「トランプ大統領の決断は、関税という賭けが瞬く間に金融危機に発展するかもしれないという恐怖から生まれたものだ。そして、過去20年間の2度の金融危機、2008年の世界金融危機と2020年のパンデミックとは異なり、今回の危機はたった一人の人物に直接起因するものだったはずだ。」、「トランプ大統領の顧問たちが個人的に認めているように、真の功績は債券市場にあるはずだ」と報じている。

トランプ大統領が方針転換を決断した理由は、実は、「経済変動時に通常は安全資産となる国債にパニックが広がるのではないかという内部の懸念」だったというわけである。トランプ政権は株式市場の下落には非常に寛容だったが、債券市場が暴落し始め、一気に不安にさいなまれたのである。ドルの安全資産としての地位が傷つく米国債の暴落は、米国そのものの没落でもあり、トランプ氏の没落でもある。

トランプ政権の典型的な戦略は、意図的に危機を煽り、そして実際に危機を作り出し、「善意のジェスチャー」として危機の収拾を提案し、見返りに譲歩を求める、その「ディール」・取引を通じて貿易赤字の是正と生産拠点の国内回帰を促す、その病的なまでの思い上がりが、今や逆効果、ブーメランとしてトランプ氏は追い詰められているのである。それはまさに「アメリカの驚くべき自傷行為」であった。そうした危機激化政策を放棄しない限り、政治的経済的危機から脱出できないであろう。
(生駒 敬)

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【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう

【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう。

The Japan Times、   February 27, 2025

“ Without America, ‘the West’ will splinter, wither and die.“
  by Andreas Kluth and James Gibney : Bloomberg
[ Andreas Kluth is a columnist and James Gibney is an editor of Bloomberg Opinion .]

 U.S President Donald Trumpは、多くの制度、慣行や規範を壊したり混乱させている。そしてなにが重要であるか、ないのかを追跡することが難しい。単なる興行的混沌(“chaos”)なのか?(TVリアリティー番組でビッグな演出する名士にふさわしく)或いは、それらは歴史的な破壊になるのか?多くの事柄は、それらは後者になることを暗示している。というのもTrump大統領は、一つの大きな思想/知識(“an idea”): それは、”the West”である、を埋葬する道を順調に進んでいる。(訳者注:the Westは、西洋、西側等に訳せるが、以降the Westのままとします。)
 “Global South” 同様に、”the West” は, 本来地理上の概念ではなくて、欧州 や 北米の主要部は、アジアとそのほかの地域に対して、反対側との意味合いを持っている。”the West” は、代わって言えば、ドイツの歴史学者 Heinrich August Winkler が定義しているように、一つの規範的な企画 ― 進化していて漠然としている何か、しかしそれにもかかわらず、首尾一貫している価値体系の束である。Trump と彼の活動は、これら価値体系を、明白ではないが分かち合っていず、米国が過去80年にわたり引っ張ってきた欧州諸国に浸透しつつある。この実現は下剤となりうる。
 Christoph Heusgen を取り上げてみよう。彼はドイツの外交官で私は、彼が Angela Merkel 前首相の時のNational security adviser であったとき知り合ったのだが、彼は先月、Munich Security Conferenceの会長となっていて、退職することになっているが、会議の終わりに「我々は、共通の価値基盤はもはや共通のものではなくなることを恐れねばならない。」と述べた。その数分後に彼は泣き崩れてステージを後にし、そして聴衆で涙を流さなかった人は誰もいなかった。Heusgenは、Trump’s vice president, J.D. Vanceのもう一つの演説に反応していた。Dachau concentration camp* を訪問した翌日、彼はMunich(ミュンヘン)の聴衆に熱弁をふるった。(* 訳者注、1933年にナチスが設置した強制収容所でドイツ南部Munichの郊外にあった。1945年4月米軍に開放されるまで、188,000人超が収容された。)
 即ち、ヨーロッパはロシアや中国について、あまり心配すべきではない。恐れるべきは「内なる脅威」(“threat from within”)である、と。そしてその脅威とは何か?
それは明らかに反民主主義や選挙(ロシアの偽情報によって堕落したルーマニアの選挙のように)の中止で明らかになった、目覚めたように勃発した検閲、そしてAlternative for Germany (AfD) (訳者:「ドイツの選択肢」と訳されている。)のような抑圧する運動(動き)。AfDについてドイツの諜報機関はneo-Naziの傾向ありとして監視しているが、それにもかかわらず、AfDは、国会、メディアや社会や他の団体が有しているのと同様の権利を有している。その聴衆の多くの欧州人と少なからずいた米国人は、Trumpの助手たるVance副大統領―彼は2020年の米国大統領選挙時の投票数が盗まれたという大嘘を信じている―が今回の昨年行われた大統領選挙の正しさ、誠実さについての演説について、その厚かましさに口を大きく開けて驚いていた。
 ドイツ人達にとっては、特にホロコースト(Holocaust)やDachauのような収容所の悲惨な出来事から彼らが引き出し、教訓にしているメッセージに対するVanceの歪曲を信ずることが出来ない。それらは、決して、再びあってはならないと。

ドイツ人にとって、その忠告は以下のことを意味している。
*虚言は、反対する人がいなくても、存在することを決して再び許してはならない。
*最高得票者の専制政治は決して再び少数者や個人の権利を粉砕してはならない。
*人間の尊厳は、不可侵で犯すべからずである。たとえその人が自国人であろうと移民であろうと。その人が、集団の人であろうと、集団外のひとであろうと。
 しかし、今はTrumpの政権である。Russiaのプロパガンダを中継放送してAfDのような極右(“far-right”)政治活動を広め、Dachauでの写真でポーズを取りつつ歴史の教訓を弾き飛ばしている。何故にドイツ人がこの新しくWhite Houseから出てきた皮肉/冷笑にショックを受けているか? 理由がある。
 このことには私にも共鳴するものがある。 というのは、ドイツと米国の二重国籍人として、私は今まで両国文化の境界で過ごしてきた。Holocaustの後、West Germansは善良なるEuropeansとなり民主主義者となった。しかし、彼らは、米国の保護監督と防衛の下でそのようになった。彼らは西洋価値観(“Western” values) を彼らの征服者から転じた解放者:米国人(“the Americans”)から学んだ。

 歴史家 Winklerに戻ろう。私の本棚は西欧の歴史、価値観、現代の危機に関する彼の作品集の重さで、呻き声をあげている。しかし、彼の最高傑作は、何故にドイツ人が、ドイツは”West”の一部になったのか、ならなかったのかを把握するのに、そんなに長くかかったのか、という研究である。彼らドイツが、1848年から1945年まで、良くない方向へ変わったときは、結果は専制政治、全体主義、二つの世界大戦、そして多くのHolocaustであった。彼らドイツは、結果的に”the West”に合流した時、板すだれの間より、Washington(と同じ様にElvisやMarlboro Man)を注視して、歴史はより一層明るいものになった。
 では、”the West” とは、何と呼ばれているのか? その哲学的根源の種は、Athens and Rome で蒔かれた。
 そして、発芽、成長したのは中世の”Occident”(西洋)[“Middle East” における “Orient” と異なって] であった。より明確には、the Catholic の領域/国、そして、その後にキリスト教の Protestant (Orthodoxに対比して) の土地、領域、国であった。その形成、成熟は、啓蒙運動 (“Enlightenment”)— アメリカとフランスの革命を生んだ — 個人の自由、合理性、良識、自己決定の強調を啓蒙運動は旨とした。
 それ以来、200年経過している中で、the West は、民主主義、法の支配、人間の権利、寛容と憲法主義に立脚して進化、発展して来た。それは常々、自身の悪、即ち、奴隷制度から植民地主義や権威主義までと対峙し打ち破らねばならなかった。各々の時代で、それは上手く行っていた。少なくとも、今までのところは。
 The West は、第二次大戦における、Nazism and Fascism を打倒した後でのみ、地政学的概念(“geopolitical concept”) となった。その最初の公式的な組織/機構は”NATO” であった。それは当初は、Europeにおける Americans のために設立された。そこでは、Russiansは “out”で, Germansは “down” であった。そして、その他は、今日European Unionとなっている組織に含まれた。
 多くの国々は、自分たちもthe Westの機関の一つなので、この組織に入りたいと望む。ウクライナ人はEuroの場において、2013-2014年にEU入りとMoscowから去りたいと望んだ。そのMoscowは、北京が台湾の人々に行い、Pyongyangが韓国人に行っているような権威主義を標榜し”East”を代表している。

 従って、non-American West (非米国の欧州) における、認識されている不協和音は、以下のようなものである。U.S.の政府高官が直接、Saudi Arabia にてRussiaの高官と協議する— Ukraineの運命、それにWashington and Moscowの全面的緊張緩和について。— さらに次のようなことまで。
 米ロ協議に招待されなかった the Europeansは、これらTrump尊敬者達がEuropeansを置き去りにすると見越して、別個に、平和を実現するために、Parisに集まった。
 また、Trumpの脅迫— CanadaやDenmarkへの、他方、優しい言葉を彼のMoscowやBeijingにいる相手方にかけていることを、Europeansはいつも注視していて、不安に陥っている。

 歴史において最も強力な国のリーダーたるTrumpは、the West の米国と世界の両方に値する価値を理解している、ということは、この度は何も暗示していない。さらにthe West は運命つけられている、ということは、重要ではない。しかし、それは、Ukrainians and Europeans にとっては、よくない前兆である。—より多くの自由と正当性を持つ世界を切望している、いかなる人々、いかなるところにとっても。 [完]
(訳:芋森)  

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【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)

<<関税計画の「粗雑さ」>>
4/2、トランプ米大統領は、「今日は、非常に良いニュースがあります」と演説を始め、この日を「解放記念日」とする宣言。4/5から米国への180を超える国と地域からのすべての輸入品に10%の基本関税を課す大統領令に署名。さらに貿易赤字を抱える対象国と地域をターゲットにした、事前の対話や交渉もない、まったく一方的な、より高い税率の、4/9に発効する個別の「相互関税」リストを、仰々しく大掲示板で並べ立て、発表した。
 実はこの発表、トランプ氏自身、マイナス反応を怖れて、「その時点で市場が閉まっているため」、午後3時から午後4時に変更したのだと報じられている。トランプ氏は、「これから(税率の)取引をする」のだというが、「一切、変更する気もない」、「なるようになる」と投げ出してもいる。

その相互関税リストの粗雑さ、ずさんさは目を覆うばかりで、「予想よりもはるかにひどい」とまで報じられ、120億ドル近くの黒字があるイギリスに対しては10%だが、カンボジア、ラオス、ベトナム、南アフリカの小さなレソトなどの国にはなんと50%もの「グロテスクな」関税が課せられ、もっとあきれるのは、アザラシやペンギンなどが生息するだけのオーストラリア領のハード島とマクドナルド諸島や、北極に近い無人島のノルウェー領ヤンマイエン島に対しても、トランプ政権は10%の関税を課す、というでたらめさである。その根拠を追求されて、ホワイトハウスが示

したのは、ギリシャ文

字で装飾した数式で「ざっと計算」しただけで、実は、各国との貿易赤字を調べ、その国の輸出額で割り、ご「親切に」その数字を半分にしたに過ぎなかったのである。ポール・クルーグマン氏は、トランプ氏の関税計画のこの「粗雑さ」を「悪質な愚かさ」とこき下ろしている。まさに、焦りと、ゴーマンとにわか仕立ての産物であろう。

このリストの発表後、中国は直ちに、米国に34%の輸入関税で反撃 中国財務省は4/4、4月10日から米国からのすべての輸入品に34%の関税を課すと発表。トランプ大統領が「最悪の違反国」と呼んだ中国は、米国への輸出品に既存の20%の関税に加えて新たに34%の関税を課され、関税総額は少なくとも54%に達している。中国は同時に、関税に対抗して世界貿易機関(WTO)に訴訟を起こし、ワシントンに対し、関税を「直ちに」撤廃し、貿易相手国との「公正かつ平等な対話」を通じて紛争を解決するよう求めている。

<<「血が流れる」>>
このリスト発表後、数時間のうちに金融資産は急落し始め、米国の株式市場は4月3日から4日にかけて、6兆6000億ドルもの損失を出し、史上最大の2日間の暴落の事態へと突入したのであった。
4/4、ダウ工業株30種平均は 2,231.07ポイント(5.5%)下落して38,314.86となり、これは4/3の1,679ポイントの下落に続くもので、2日連続で1,500ポイント以上下落したのは史上初である。
S&P 500も5.97%急落して5,074.08となり、2020年3月以来の大幅な下落となり、直近の高値から17%以上下落している。ハイテク企業が多数参入するナスダック総合指数は5.8%下落して15,587.79となり、4/3の約6%の下落に続き、同指数は12月の記録から22%下落である。

主な下落には、マイクロン26.8%、マイクロチップテクノロジー25.6%、デル22.4%、マーベルテクノロジー20.3%、ARMホールディングス18.6%、ラムリサーチ18.6%、アナログデバイス18.3%、エヌビディアは14.0%、アップルは13.6%、メタ・プラットフォームズは12.5%、アマゾンは11.3%、テスラは9.2%、アルファベットは5.7%、マイクロソフトは5.0%下落。ブルームバーグのハイテク株・MAG7指数は今週10.1%下落し、1か月間の損失は15.8%に拡大している。まさに「流血の事態」である。

さらに深刻な金融・信用ストレスが浮上し、KBW銀行指数は今週13.8%下落し、ブローカー・ディーラー指数は12.1%下落。シティグループは17.4%、バンク・アメリカは16.6%下落。ゴールドマン・サックスのCDSは今週20ベーシスポイント上昇し(86ベーシスポイント)、2020年3月以来の週間最大上昇となった。これは世界の銀行株にとって大打撃であった。日本のTOPIX銀行株指数は20.2%下落し、欧州のSTOXX600銀行株指数は13.9%下落。イタリアの銀行株指数は15.9%下落している。
直近、日本の日経225指数は9.0%(年初来15.3%下落)の大暴落を記録、イタリアで10.5%、スウェーデンで10.1%、スイスで9.3%、フランスとドイツで8.1%、英国で7.0%下落している。アジアでは、ベトナムが8.1%、台湾とタイが4.3%、韓国が3.6%、インドが2.9%、中国(CSI 300)が1.8%下落。ラテンアメリカ市場では、アルゼンチンが12.6%、ペルーが6.5%、ブラジルが3.5%、チリが2.5%、メキシコが3.2%下落している。世界的危機の拡大である。

4/3、フィナンシャル・タイムズ編集委員会は、「アメリカの驚くべき自傷行為」と題して、「ドナルド・トランプが2025年4月2日に米国の貿易相手国に広範囲な「相互」関税を課すと決定したことが、もし実行されれば、米国経済史上最大の自滅行為の一つとして記憶されるだろう。それは世界中の家庭、企業、金融市場に計り知れない損害を与え、

米国が恩恵を受け、その創出に貢献した世界経済秩序をひっくり返すことになる。」と論断し、「最悪のシナリオよりも悪い」 「解放記念日」は、悪名高い日として記憶される日となるであろう、と結論付けている。

同じく4/3、ウォール街の大手JPモルガンは顧客向けメモで、「流血の惨事になる」“There will be blood”という見出しをつけて、今年の世界的景気後退の可能性を40%から60%に引き上げ、「これらの政策が継続されれば、米国、そしておそらく世界経済は今年景気後退に陥る可能性が高い。今年の景気後退リスクは60%に上昇した」と警告している。

<<数百万人の「Hands Off!」抗議運動>>
4/5、こうした事態の中で、米欧を中心に数百万人規模の「Hands Off!」抗議運動が展開されている。
 この土曜日、トランプ大統領とその腹心のイーロン・マスクによる独裁主義と右翼寡頭政治、経済破壊プログラムに対する巨大な抗議運動が展開されている。全米各地で「Hands Off!手を引け」デモが行われ、数百万人が参加したと報じられている。
「米国には大統領がいるが、王はいない」と、この行動に関与した団体の一つである進歩主義擁護団体ピープルズ・アクションは、数百の都市や地域で抗議活動が始まった土曜日の朝、支持者に送った電子メールで述べた。「ドナルド・トランプは、あらゆる点で、自分を王にしようとしてきた。彼は裁判所、議会、そして米国民に対して説明責任を負わなくなった」

「Hands Off!」抗議運動の主催者・“Hands Off” protests 2025-4-5 は、この抗議運動を以下のように紹介している。https://handsoff2025.com/
「これは私たちがノーと言う瞬間です。労働者が生き残るのに苦労しながら、これ以上略奪、盗み、盗むことはなく、政府を襲撃する億万長者はもういません。4月5日はその行動日です。全国で、何千、何万人もの人々がこの億万長者の権力に立ち向かって行進し、結集し、混乱させ、要求します。州の首都、連邦の建物、議会の事務所、市内中心部に現れます。」
「彼らは私たちの国を解体し、政府を略奪している。そして私たちはただ傍観しているだけだと思っている。」「これは、現代史で最も勇敢なパワーグラブを止めるための全国的な動員です。トランプ、マスク、および彼らの億万長者の仲間は、政府、経済、そして私たちの基本的権利に対する全面的な攻撃を調整しています。彼らは、私たちの税金、公共サービス、そして私たちの民主主義を超富裕層に引き渡しています。私たちが今戦わなければ、保存するものは何もありません。」

 

「すべての手の背後にある核となる原則! それは、非暴力的な行動へのコミットメントです。私たちは、すべての参加者が、私たちの価値観に反対する人々との潜在的な対立を除外し、これらのイベントに合法的に行動することを求めていることを期待しています。法的に許可されたものを含むあらゆる種類の武器をイベントに持ち込むべきではありません。」

この日の抗議デモの主要な組織団体の1つであるインディビジブルは、数百万人が1,300を超える個別の集会に参加し、「トランプの独裁的な権力掌握の終結」を要求し、それを幇助するすべての人々を非難したと述べている。「数十万人の参加を予想していましたが、ほぼすべてのイベントで、予想を上回る参加者が集まりました」と、「300を超える「Hands Off!」デモは、労働組合、進歩的な擁護団体、民主主義支持の監視団体の大規模な連合によって組織され、土曜日にヨーロッパで最初に始まり、続いて米国東海岸のコミュニティで始まり、場所に応じてさまざまな時間に一日中続いた。ロンドンで、パリで、フランクフルトで、ブリュッセルで、…

反撃が組織され、開始された。全世界に、さらに拡大されることが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】「ヤルタ2.0」

【投稿】「ヤルタ2.0」

                       福井 杉本達也

1 「ヤルタ2.0」

米国とロシア主導のウクライナ停戦交渉について、2025年3月11日付けの日経のコラム「大機小機」(小五郎)は。「第2次世界大戦時のヤルタ会談と同様に、戦勝国が敗戦国の分割管理を含めて戦後体制を決め、世界の勢力図を変える可能性がある。」とし、「もし『ヤルタ2・0』となれば、戦勝国はロシアとトランプ氏の米国であり、敗戦国はパイデン氏の米国と欧州という構図になる。残念ながらウクライナは捨て駒となる。」と書いた。

周知のように。第2次大戦末期の1945年2月、ルーズベルト大統領・チャーチル首相・スターリン書記長の米英ソ首脳がクリミア半島のヤルタに集まり、密約を交わした。ドイツの分割占領、ポーランドの独立やバルト3国・東ヨーロッパの戦後処理、ソ連の対日参戦、朝鮮半島や台湾の処遇、南樺太や干島列島の扱い…米英ソで戦後の勢力圏を定め、国連の創設も決めた。戦後の世界は、ほぼその通りに動き出した。

 

2 トランプ大統領はウクライナ戦争の責任は「NATOの東方拡大にある」と認める

トランプ大統領は政権発足当初より、ウクライナ戦争の責任はパイデン前政権やウクライナが負っているという趣旨の発言を繰り返している。NATOの東方拡大がロシアとの緊張を高め、結果として戦争が勃発したもので、自分が大統領なら戦争にはならなかったというものである。ウクライナ戦争はロシアと米国がウクライナを介して正面からぶつかった戦争である。米国とNATOは核兵器以外の持てる武器を全て投入し、ロシアを経済制裁し、SWIFTからも除外し、ロシアの対外資産を盗み取り、ノルドストリーム1・2のパイプラインも破壊して、3年以上にわたり戦ったが、結果として敗北したということである。

3月29日付けのニューヨーク・タイムズ紙は、バイデン政権下、「米国とウクライナがロシアの侵攻開始直後から機密情報の共有や戦略立案を巡り、秘密の提携関係にあったと報じた」「提携拠点はドイツ西部ウィスパーデンにある米軍基地に置かれた。両国の軍関係者が協議し、対ロシア戦での攻撃対象の優先リストを作成。衛星画像や無線傍受によって正確な位置を特定し、ウクライナ軍部隊に伝えられた。その結果、南部ヘルソン州のロシア軍拠点やクリミアのロシア黒海艦隊の艦船に損害を与えることに成功した。」(福井=共同:2025.4.1)と報道された。ここまで米国側情報で、ウクライナ戦争への具体的軍事的関与が明らかになったのは初めてであり、そこまで関与しても戦争に負けたということは米国としては素直に認めざるを得ない。

トランプ政権としては、敗北の責任をバイデン前政権(ネオコン・民主党)に押しつけ、ウクライナを捨てるしか名誉ある撤退はできない。

 

3 徹底抗戦を主張する英仏

英スパイ機関、秘密情報部(MI6)のヤンガー元長官は、2024年11月、「トランプ氏は徹顕徹尾、ヤルタ人間だ」、大国の利益を優先するような世界観は「英国の利益と根本的に相いれない」と批判した(日経:秋田浩之コメンテーター:2025.1.14)。ゼレンスキーは戦争から利益を得ている欧州への依存を高めており、特に英国はウクライナ人の犠牲者をさらに増やすよう励まし続けている。2022年3月に停戦交渉が開始されたが、ウクライナは合意寸前になって、一方的に交渉を放棄した。アメリカがそうするように指示し、イギリスもそれに拍車をかけた。ボリス・ジョンソン元英首相が2022年4月初旬にキエフを訪れ、同じ主張をウクライナに伝えて事態をさらに悪化させた。現在のスターマー英首相はさらに悪く、より好戦的である(ジェフェリー・サックス:『長州新聞』2025.3.19)。

しかし、欧州連合は3月20日開いた首脳会議で、新たな400億ユーロのウクライナ支援策について合意できなかった。ハンガリーが反対した。イタリアとスペインも慎重姿勢を見せた。敗者連合は幻想にすぎない。

NATOの軍事費のほとんどをアメリカが負担している。アメリカが抜ければNATOは自ずと解体されることになる。最高司令官から米軍が抜けるということは、NATO解体に向かってアメリカは進んでいる。(遠藤誉:2025.3.23)

 

4 いまだネオコンに操作されている日本の立ち位置

3月18日のプーチン氏と電話会談後、トランプ大統領はFOXニュースのインタビュー番組で、「習近平主席は仲良くしたいと思っていると思いますし、ロシアも米国と仲良くしたいと思っていると思います。また、私たちの国はほんの数ヶ月前とはまったく違うと思います。私たちは今や尊敬される国です。私たちは尊敬されていませんでした。私たちは笑われていました。私たちの指導者は無能でした。たとえば、この戦争は、私が大統領だったら決して起こらなかったでしょう。」(遠藤誉:Yahooニュース 2025.3.23 「米露中vs.欧州」基軸への移行か? 反NEDと反NATOおよびウ停戦交渉から見えるトランプの世界)と述べている。

訪日した英マコネル上院議員は3月18日、「停戦後のウクライナを守る英仏主導の有志国連合への日本の参加に期待を示した。民主主義国家の結束は中国の抑止にもなると訴えた。」「英国はウクライナの停戦を見越して各国に有志国連合への参加を呼ぴかけている。日本は是非を明らかにしていないが、石破首相は15日に聞かれたオンライン形式の有志国連合の首脳会議に「時宣を得たもの」とする書面のメッセージを送た。」(日経:2025.3.20)。「ヤルタ2.0」の状況において、いまさら欧州敗者連合に組みしてどうするつもりか。

寺島実郎は『雑誌世界』2025年2月号において「中国の文明文化への憧憶を込めた米中関係の根深さは注視すべきで、太平洋戦争後の米外交の理論的指導者となった、H・キツシンジャーやプレジンスキーは『大陸主義』というべき論者で、歴史的に中国がアジア・ユーラシアの中核であり、正対すべき相手とする視座に立っていた」と書いているが(寺島実郎「日米中トライアングルの歴史的位相(その2)」、ユーラシアの中核は中国とロシアであり、トランプの米国は中ロに正対するということである。これが『ヤルタ2.0』の新しい枠組みである。

日本は戦後80年にして、再び「枢軸国」に分類されるつもりか。はたまた「東夷(とうい)・北狄(ほくてき)・西夷(せいい)・南蛮(なんばん)」に分類されるつもりか。石破政権ばかりか、野党からも何の反応がないという日本の現状は厳しい。

 

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【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)

<<4月2日「解放の日」Liberation Day in America >>
トランプ米大統領は、4月2日は「これはアメリカにおける解放記念日の始まりだ」と自らのSNSトゥルース・ソーシャルに投稿した(3/27)。米国は長年にわたり「世界のほぼすべての国にだまされてきた」と強弁し、「米国で製造されていないすべての自動車に25%の関税を課す」と新たな自動車関税の導入を打ち出し、鉄鋼・アルミに続く既存の関税キャンペーンを大幅に引き上げ、自動車と1カ月後にさらに自動車部品にも発効する関税が、米国にとって「解放の日」だとし(Liberation Day in America is coming soon)、この大統領令によって、「より多くの生産拠点が米国に移転する」と主張している。

 この新たな自動車関税は、中国からのすべての製品に20%の関税、すべての鉄鋼とアルミニウムの輸入に25%の関税など、すでに1月から実施されているより広範な貿易攻勢に続くものであり、進行中の関税・貿易戦争におけるさらなるエスカレーションである。トランプ大統領は3/27、欧州連合とカナダが報復措置で協力しないよう警告し、もし報復措置を取れば「現在計画されているよりもはるかに大きな」関税引き上げまでも言及している。
しかし、カナダのカーニー首相は、米国の関税はカナダの自動車労働者に対する「直接攻撃」であり、トランプの関税は「我々を傷つけるだろう」として、「我々は労働者、企業、そして国を守る」と断言し、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、Xに直ちに失望の投稿をしている。年間4740億ドルの自動車製品を輸出している他の主要同盟国との関係をも悪化させることは確実である。

このエスカレーションによって、すでに米国への乗用車輸出に2.5%の関税、小型トラックに25%の関税が課されていることから、乗用車の関税率は27.5%、小型トラックの関税率は50%に引き上げることを明らかにした。この新たな関税導入により、米国で購入される自動車の平均価格は 3,000 ドルから 10,000 ドル上昇すると予測されている。

このニュースが伝わるや、米国の大手GMとフォードの株価は3/27のニューヨーク証券取引所でそれぞれ7%と4%下落し、主要な外国ブランドの株価は3/28早朝、欧州とアジアの市場でそれぞれ2~4%下落を記録している。メルセデス・ベンツは3%以上、BMWとフォルクスワーゲンは2%以上、ポルシェAGは4%以上、コンチネンタルは2%、ステランティスは4%以上、ボルボ・カーは8%以上急落、アストン・マーティンは5%近く、トヨタは2%、日産は1.7%、ホンダは2.5%、それぞれ下落している。

そして米自動車メーカーは、実際には、カナダとメキシコから輸入される自動車部品に課税されることによって、海外の競合企業よりもさらに大きな打撃を受けるのが実態なのである。ここ数週間で大手自動車メーカーの時価総額は1000億ドル以上も減少している。

<<「不況ルーレットをプレイ」するトランプ>>
問題は、自動車産業の株価下落だけではない。それどころか、景気後退と成長鈍化、インフレ高進懸念をより一層高めたことにより、連鎖的に大手ハイテク企業が軒並み売られ、アップル2.7%、マイクロソフトは3%、アマゾンは4.3%、それぞれ下落。
 この1週間で、S&P500は1.5%下落(年初来5.1%下落)、ダウは1.0%下落(2.3%下落)、銀行株は1.9%下落(5.1%下落)、証券・ディーラー株は2.3%下落(0.9%上昇)。運輸株はほとんど変わらず(8.2%下落)。S&P400中型株は1.0%下落(6.6%下落)、小型株ラッセル2000は1.6%下落(9.3%下落)。ナスダック100は2.4%下落(8.2%下落)。半導体株は6.0%下落(14.0%下落)。バイオテクノロジー株は2.0%下落(0.6%下落)、等々。対照的なのは、金価格で、63ドル急騰し、HUI金指数は2.0%上昇(年初来実に30.4%の上昇)。金は1オンスあたり3,080ドルを超えて過去最高値を更新している。

 かくして、インフレ予測は再び上昇しており、トランプ関税こそが火に油を注ぐことになっている。フォックスニュースでさえ、「あまりにも多くの商品の価格が急騰している」とインフレについて警告している。
連邦準備制度理事会(FRB)の主要インフレ指標は2月に予想以上に上昇し、2024年1月以来最大の月間上昇率となり、12か月のインフレ率は2.8%となっている。そしてGDP予測も半分に削減されるかマイナスになり、失業率は増加すると予想され、一部の大企業は売上減少を予測する事態である。
3/28現在、 2025年第1四半期の実質GDP成長率の予測は-2.8%に落ち込んでいる。アトランタ連邦準備銀行は、米国の国内総生産(GDP)が現在3%近く減少するとの予測を発表している。

3/24のウォール・ストリート・ジャーナルの論説は、「トランプはアメリカ経済で不況ルーレットをプレイしている」と大統領を激しく

非難し、「トランプの行動はアメリカ経済を破滅に追い込むように設計されているようだ。これはまさにトランプ不況だろう」と論断している。

第二次トランプ政権発足以来の関税エスカレーションが、結果的には米国経済に明らかな逆効果をもたらしていること、さらには、世界的な政治的経済的危機のダイナミクスをより一層危険な領域に追い込む可能性が高まっていることが指摘されよう。ここでも、戦争政策に対してと同様、緊張を緩和する政治的経済的な政策の大転換こそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】プーチン・トランプ電話会談、デタントへの前進と障碍

<<「この紛争は決して始まるべきではなかった」>>
3/18、プーチン・トランプ両氏のロ・米両大統領の電話会談は、2時間半に及び、双方共に、「前向きな内容」であったと評価している。会談後、両国から発表された詳細は、以下の通りである。
* トランプ大統領は、モスクワとキエフがエネルギーインフラ施設への攻撃を30日間相互に停止することを提案した。
* プーチン大統領はこの考えを支持し、直ちにロシア軍に該当する命令を出した。
* ロシア大統領は、ワシントンが提案した30日間の全面停戦は、いくつかの「重要な」点を条件としていると説明した。それは、前線全体にわたる効果的な監視、ウクライナ軍の再武装(当然ながら国外からの武装を含む)、およびウクライナ国内での強制動員の停止である。
* 「首脳らは、平和への動きはエネルギーとインフラの停戦、および黒海の海上停戦、完全停戦、恒久平和の実施に関する技術的交渉から始まることで合意した。これらの交渉は中東で直ちに開始される」とホワイトハウスは声明で述べた。
* ホワイトハウスの声明はさらに、「この紛争は決して始まるべきではなかったし、誠実で誠意ある平和努力によってずっと前に終わらせるべきだった」と強調した。
* プーチン大統領とトランプ大統領は、ウクライナ紛争の一時的な解決ではなく「永続的な平和」を達成するという約束を再確認した。モスクワは、「危機の根本原因を排除する」こと、および「安全保障分野におけるロシアの

どんな発言があったにせよプーチン・トランプ電話会談は大成功だった (ロシアのサイト・RT、3/18)

正当な利益」を満たすこと、および「外国の軍事援助の完全な停止とキエフへの諜報情報の提供」が目標達成に必要な重要な要素であると考えていると、クレムリン報道官は指摘した。
* ロシアと米国の関係についても議論され、双

方が相互に利益のあるプロジェクトに取り組むことで合意した。ワシントンとモスクワは「両国が協力を確立できる幅広い分野」を検討していると、クレムリン報道官は述べた。* 「両首脳は、米国とロシアの二国間関係の改善による将来には大きな利点があるということで一致した。これには、大規模な経済取引や、平和が達成されたときの地政学的安定が含まれる」とホワイトハウスは述べた。

以上のような事態の前進は、緊張緩和・デタントへの明らかな前進であると言えよう。米・ロ関係は、バイデン前政権時代の、外交交渉を一切拒否した緊張激化関係から、平和的相互関係構築への転換点であることを浮き彫りにしているのである。トランプ政権は、バイデン前政権が引きずり込んだウクライナにおける西側諸国EU・NATO諸国の代理戦争よりも、ロシアとの協力を優先するデタント政策への転換に踏み出したのである。

<<「今、なぜロシアを攻撃しないのか」>>
しかし問題は、このような平和的解決・前進とは逆方向に動かそうとする、無視しがたい、緊張激化と戦争拡大を志向する動きである。それは、バイデン政権の果たした役割を、今やEU・NATO諸国が買って出ようとしていることである。EUとウクライナのゼレンスキー政権は、米・ロの交渉に関係なく戦争が続くこと、ウクライナのNATO加盟を望んでいるのは明らかなのである。
EUは、直近でも2回の首脳会談を開き、両首脳会談で、ゼレンスキー政権への支援継続を声高に訴え、米国抜きでは支援できないことが明らかであるにもかかわらず、「プーチン大統領は戦争を愛し、平和を嫌う男だ」と激しく非難し、「ロシアの脅威に対抗する」軍事力の強化を目的とした、7,000 億ユーロを投入する防衛パッケージを発表している。この資金は、従来の財政ルールを回避し、共同 EU 債券を通じて促進されようとている。ウクライナ戦争を長引かせることがその前提なのである。平和的解決など、もってのほかなのである。 ポーランドとバルト諸国は、もしロシアの勝利を許せば、次はロシアが攻撃してくるかもしれないと主張し、「なぜロシアが攻撃してくるのをじっと待つのではなく、今ロシアを攻撃しないのか」と問うており、「ロシアへの先制攻撃を協議中」とまで報じられている。

こうした動きは、フランスのマクロン大統領が最近、すべてのヨーロッパ人にロシアとの戦争に備えるよう促した演説、ロシアを標的とした核戦争拡大・「核の傘」発言を歓迎し、リトアニアのギタナス・ナウゼダ大統領は「核の傘はロシアに対する非常に重大な抑止力となるため、我々は大きな期待を抱いている」と述べ、ラトビアのエヴィカ・シリニャ首相もこれに同調。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「ウクライナの平和は現在進行中の戦争よりも危険だ」とまで宣言している。
イギリスのスターマー首相、フランスのマクロン大統領が先導するこうした危険な動きには、もちろん多くの意見の分岐が内包されており、混迷が引き続いている。
3/14には、NATO事務総長のルッテ氏が会見で、ウクライナのNATO加盟はもはや検討されていないことを確認し、さらに今年中にウクライナでの戦闘が終結する可能性について楽観的だと述べ、また、EUと米国とロシアの関係が長期的に正常化する可能性も否定しなかった、ことが明らかになり、「突然の方向転換?」と騒がれている。

<<「ジェノサイド・トランプ」>>
一方、3/18、プーチン・トランプ電話会談が行われた同じ日の早朝、中東・パレスチナのガザ地区全域で、イスラエルの空爆が集中的に行われ、400人以上が殺害され、わずか2か月余りで脆弱な停戦協定が崩壊している。
 このイスラエルの停戦期間中の突然の無謀な爆撃、ジェノサイド攻撃を、トランプ政権・ホワイトハウスのカロリン・リービット報道官は、ネタニヤフ政権が最新のガザ爆撃に先立ちトランプ政権と協議したことを確認し、ホワイトハウスがイスラエルの攻撃を全面的に支持すると表明した。
「事前に協議」し、「全面的に支持」など、トランプ氏が言うプーチン・トランプ電話会談で示した「誠実で誠意ある平和努力」など、ひとかけらもない、イスラエルのジェノサイド擁護は、まさに前大統領「ジェノサイド・ジョー」と同等、悪質な「ジェノサイド・トランプ」だと言えよう。
もっと言えば、これはトランプによる大量虐殺だとも言えよう。トランプ氏は、大統領就任前から、一貫してネタニヤフ政権の虐殺行為を公然と支持してきたばかりか、2/4には、ネタニヤフ政権の極右メンバーが大歓迎するトランプ氏のガザ全住民を追い出す、民族浄化の卑劣な計画、「中東のリビエラ」計画の張本人である。

 米国を拠点とする平和擁護団体「Win Without War」の事務局長サラ・ハグドゥースティ氏は声明で、「ネタニヤフ政権がガザでの停戦を破り、広範囲にわたる壊滅的な爆撃を再開した決定に、私たちは心を痛め、憤慨している」と述べ、「トランプ大統領は就任初日の前から、ネタニヤフ政権の戦争への回帰を支持してきた。封鎖と爆撃の再開は、どちらもパレスチナ人がガザ地区で生活できなくなる状況を作り出すために計画されている」、「我々と世界中の良心あるすべての人は、この民族浄化キャンペーンを断固として非難する」、と述べている。

トランプ氏にとっては、プーチン氏との電話会談も、イスラエルのジェノサイド擁護も、お得意の「ディール」・取引に過ぎないのかもしれない。しかし、こうした二面性は、ブーメランとして跳ね返り、政治生命そのもの障害となるであろうし、追い込む運動、力の結集が要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税:株価暴落を加速--経済危機論(157)

<<3・10「ブラックマンデー」>>
3月10日月曜日、トランプ大統領が就任して50日目。株式市場は急落を続け、ダウ平均株価は過去1か月で約2,500ポイント下落。3/10は1,100ポイント以上下落した後、約900ポイントの下落で引けた。

米国株式市場、トランプ関税で、4兆ドルの価値を失う

報道の見出しは
* 「景気後退の警告が鳴り響き、株価暴落が加速」(ブルームバーグ)
* 「米国株式市場、トランプ関税で、4兆ドルの価値を失う」(ロイター)
* 「トランプ大統領が景気後退の可能性を否定しないと発言したことで、ダウ平均株価は1,100ポイント下落」(CNN)
* 「関税と景気後退への懸念が高まる中、株価は再び下落」(NPR)
* 「関税への懸念が市場を支配し、ウォール街は下落」(ガーディアン)

CNNやガーディアンが指摘しているように、「トランプ米大統領が週末のフォックスとのインタビューで景気後退の可能性を否定できなかったため、市場がトランプ氏のより不安定な行動を抑制することができるという期待は崩れつつある」ことが、引き金となっている。
そして直接的なきっかけとして、「中国が米国による中国からの輸入品への 10% の関税に対抗して、農産物を標的とした米国からの輸入品に報復関税を課したことを受けて」、まさに「関税への懸念」が市場を支配し、下落が一気に広がったのである。

ダウの下落と同時進行で、ナスダック100だけでも1日で5%近くも急落、パニックが発生。S&P 500は11月以来初めて200日移動平均を下回り、ナスダックは2022年以来最悪の日となり、4%下落して17,468.32で取引終了し、ハイテク株には大打撃となったのであった。ナスダック総合指数は直近の高値から14%近くも下落している。アップル(AAPL.O)、NVIDIAが両方とも約5%下落し、テスラは15%下落、約1,250億ドルの価値を喪失している。かつて急騰していたNvidiaの株価が今や崩壊し、1月のピーク時には、Nvidiaの時価総額は3兆6,600億ドルだったものが、3/7には、なんと1兆ドルも失い、2兆6,600億ドルにまで落ち込んでいる。

<<「絶対にない。アメリカに不況は起こらない」>>
ところが、トランプ政権は、景気悪化の責任をすべてバイデン前大統領に押し付けている。トランプ大統領による関税の脅し、実施、撤回、延期、再開の繰り返し、そして連邦政府の労働力削減、緊縮策として数十万人に上る可能性のある政府職員の大量解雇にもかかわらず、国家経済会議のケビン・ハセット委員長は、経済の悪いニュースはすべてバイデン前政権の責任であると広言し、関税は、「貿易戦争ではなく、麻薬戦争だ」と言い逃れる始末である。
3/9、株価暴落の前日、ラトニック米商務長官は、NBCの「ミート・ザ・プレス」で、大手投資銀行が今後12カ月以内に景気後退が起きる可能性があると予測していることについて問われ、「絶対にない。 …アメリカに不況は起こらないだろう」と答えている。あきれた認識、無責任な放言であろう。

家計の不安が高まり株価が急落する中、ホワイトハウスは景気後退論に反発(March 11, 2025 reuters)

そしてトランプ氏自身が、「米国が不況に直面する可能性があるかどうか」を問われて、そんな予測は「嫌い」であると答え、予測そのものを拒否している。しかしそれでも、週末のフォックスとのインタビューで景気後退の可能性を否定できなかったのである。追い詰められているのは確かであろう。

いまやウォール街は、トランプ氏がソフトランディングを破壊し、ハードランディングに突き進んでしまうことを恐れだしている(WSJ March 10, 2025)。

まさに「史上最も愚かな貿易戦争」の警告が、具体的で危険なサインを出したのだ、と言えよう。しかし、これは始まったばかりである。トランプ政権が政策の大転換をしない限り、長引き、より大きく悪化する可能性が大なのである。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)

<<「史上最も愚かな貿易戦争」>>
3/4、米トランプ政権は、カナダ、メキシコ、中国に対する一方的な関税引き上げ戦争に突入した。
2/1にトランプ氏が署名した、メキシコとカナダからの輸入製品に25%の関税を課し、カナダのエネルギー製品には10%の関税引き上げを課し、中国に対しては10%の追加関税を課す、という大統領令は、2/3にカナダ、メキシコとの交渉を続けるとして、実施を30日間延期していたが、進展はなく、関税措置は3/4に発効、ついに関税・貿易戦争に突入する事態となった。

カナダのトルドー首相は直ちに、「カナダ国民の皆さん、甘い言葉は言いません。これは厳しいものになるでしょう」と宣言し、対抗措置として、第1段階には、3月4日午前12時1分から米国からの輸入品300億カナダドル(約210億米ドル)相当の商品に対する対抗関税を課す。対象製品には、オレンジジュース、ピーナッツバター、ワイン、酒類、ビール、コーヒー、電化製品、衣料品、履物、オートバイ、化粧品、一部のパルプおよび紙製品などが含まれる。次いで、21日間の意見募集期間が設けられ、米国からの輸入品1250億カナダドル(約890億米ドル)に対する追加対抗措置が行われる。その品目リストには、電気自動車、果物や野菜、牛肉、豚肉、乳製品、電子機器、鉄鋼、アルミニウム、トラック、バスなどの製品が含まれる、ことを明らかにし、米国が自国の措置を撤回するまで関税は継続すると明言している。
さらにトルドー首相は、今後起こる貿易戦争がアメリカ経済にどれほど深刻な打撃を与えるかを説明し、市場は低迷し、インフレが上昇する可能性があると指摘し、「彼らは、食料品やガソリンなどの日常必需品、車や住宅などの主要な購入品、その他あらゆるものについて、アメリカの消費者にかかるコストを上げることを選択した」と述べ、トランプ氏は「カナダ経済の完全な崩壊を望んでいる。そうすれば我々の併合が容易になるからだ」と語り、カナダを米国の51番目の州にしたいというトランプ氏の願望に言及、「これは非常に愚かな行為だ」と、まさに断腸の怒りを表明している。
この発言を聞いたトランプ氏は、カナダの「トルドー知事」などと揶揄し、報復関税に対しては「米国の相互関税も即座に同額引き上げる」と応じている。次元の低いエスカレートの応酬である。
カナダのオンタリオ州の首相ダグ・フォード氏はトランプ関税への対抗措置として、米国への電力と重要な鉱物の供給を停止する用意があると述べ、米ミシガン州、ミネソタ州、ニューヨーク州など、カナダの電力に依存している米国の州への電力供給・輸出を停止するとの脅しまで表明している。
事態の進行は、まさに危なっかしい、危険な領域に入っている、と言えよう。

トランプ大統領、最も愚かな関税に踏み切る

 

3/3、米ウォールストリート・ジャーナルの編集委員会は、トランプ大統領を激しく非難し、トランプ氏の関税措置を「史上最も愚かなもの」と断言し、「特定の国や企業に打撃を与える報復措置により、トランプ大統領は想像よりも早く考え直すかもしれない」が、「トランプ氏は、関税自体を望んでおり、それが新たな黄金時代の到来を告げると述べている。」、この「無制限の関税マンは、2期目では必ず大きな経済的リスクになるだろうが、今やそうなっている」と結論付けている。

<<「1930年代大恐慌に似た崩壊に直面する可能性」>>
3/4、メキシコのクラウディア・シャインバウム大統領は、メキシコは3/9に米国に対する報復関税を発表すると発表し、米国の関税引き上げを「不当」なものであると非難。トランプ政権が米国・メキシコ・カナダ協定に違反していると指摘し、メキシコ政府と組織犯罪を結びつけるホワイトハウスの主張を「攻撃的で根拠がない」と否定。「関税が課されれば、雇用の喪失、生産の遅れ、米国の消費者に対する自動車価格の上昇が見込まれる。これは保護主義政策が達成しようとしていることとはまったく逆の結果」をもたらすことを警告している。

同じく3/4、中国は、トランプ氏が中国からの輸入品に対する関税を10%から20%に倍増すると決定したことを受けて、米国の農産物や食品の幅広い製品に10~15%の関税引き上げを発表、米国企業25社に輸出および投資制限を課したことを発表している。米国からの鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花の輸入に15%の追加関税を課し、米国産のモロコシ、大豆、豚肉、牛肉、水産物、果物、野菜、乳製品には10%の追加関税が課される。さらに、環境保護と食品の安全を守るため、米国産木材の輸入を即時停止し、米国産大豆を中国に供給している3社の輸出資格を取り消すと発表している。
3/4、報道官・楼欽建氏は、北京で開かれた記者会見で、米国の一方的な関税措置は世界貿易機関の規則に違反し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安全と安定性を乱すものだと警告。
中国はすでに7,750億ドルの米国債務を手放し、欧州から62兆ドル相当の証券を引き揚げる準備をしており、これが勢いを増せば、西側諸国の金融システムの崩壊の引き金、世界金融秩序の再編成となる可能性が浮上している。

こうした事態の急速な進行を背景に、米株式市場は動揺を隠しきれず、3/3、3/4、ダウ工業株30種平均が2日連続で下落、48時間で1,300ポイント以上下落、銀行株と小売株が下落を主導し、S&P 500 は年初来で赤字に陥り、トランプ氏が当選した後に見られた株価上昇は完全に帳消しとなり、当選前よりも低い水準に下落している。
関税戦争により、今後12か月でインフレが2023年5月以来の高水準となる6.0%に達すると予測されており、すでに実質GDPの四半期変化率-2.5%は、FRBの記録開始以来、最悪の水準である。
高関税のブーメランを予測も想像もできない、ただ推進するのみ、とするトランプ政権は、政策の大幅な修正・転換に踏み切らない限りは、国内外で孤立せざるを得ない事態に追い込まれるであろう。すでにトランプ政権の不支持率=52% vs 支持率=48%、物価対策では、不支持=54% vs 支持=31% と、不支持が支持を逆転する事態である(2月末CNN調査)。

関税戦争開始によるこうした激しい変化にあわてたトランプ政権は、ハワード・ラトニック商務長官が急遽、トランプ大統領がカナダとメキシコの指導者と「妥協」する用意があるかもしれないと示唆、トランプ大統領が「おそらく」妥協を検討するだろうと発表している。動揺を隠し切れない事態の展開である。

関税戦争は世界を新たな大恐慌に陥れる恐れ

3/4、国際商業会議所(ICC International Chamber of Commerce)の幹部は、まもなく「1930年代の貿易戦争の領域に陥る下降スパイラル」に直面する可能性があると主張し、米国が輸入品に高関税を課す計画を撤回しなければ、世界経済は1930年代の大恐慌に似た崩壊に直面する可能性があると警告している

しかし、トランプの関税戦争は、まだ始まったばかりである。カナダ、メキシコ、中国に課せられた新たな関税により、米国の消費者と企業の総コスト負担はすでに 1,600 億ドルという驚異的な額にまで上昇している、と報じられている。しかしこれは、トランプ氏の関税戦争計画全体の、まだ 40% にすぎない。対日本や対EU 諸国を含めた、全世界的な相互関税が導入されれば、巨大な悪影響を及ぼし、歴史的な世界恐慌にまで突入しかねない、そのような緊張状態に突入しつつあると言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】「トランプ関税」:日本の消費税は「輸出補助金」

【投稿】「トランプ関税」:日本の消費税は「輸出補助金」

福井 杉本達也

1 「エンゲル係数」が約3割に

24年の家計の消費支出に占める食費の劃合を示す「エンゲル係数」は28・3%と、1981年以来、43年ぶりの高水準になった。生活に欠かせない食料への支出劃合が高いほど、家計にゆとりがない状態と見なされる(福井:2025.2.8)。フランス24%、英国22%、ドイツ19%、米国16%、韓国12%なのに、日本だけがどうしてこんなにも高いのか。先進国ではトップである。庶民は食べ物すらまともに買えない状況に陥りつつある。あらゆる分野で物価高が加速するが、賃上げも全く追いつかず、家計を極端に追い詰めている。アベノミクス=異次元緩和の帰結が、この異次元の物価高となっている。これは自民党政権による「人災」である(小沢一郎:2025.2.12)。この約30%の消費税のうち2.4%部分は消費税である。もちろん、この30%は1世帯当たりの平均的な消費支出であり、平均を上回る世帯も多々ある=ほとんどを食費にまわさざるを得ない世帯もあるということである。

2 トランプ氏:消費税還付は「輸出補助金」と発言

米ホワイトハウスの高官は、日本について名指しで「構造的な(非関税)障壁が高い」と言及、トランプ氏は「消費税も関税とみなす」と語った(日経:2025.2.15)。トランプ氏が問題視しているのは消費税の輸出還付制度である。輸出企業が消費税還付を受けられる仕組みがあり、これが「事実上の輸出補助金」として機能している点をトランプ氏は不公平だと主張している。アメリカの売上税にはこのような還付制度がないため、「消費税がある国々に対しては報復関税をかける」と警告している。

消費税(VAT)は全事業者の取引に課税されインボイスで管理されるが、米国の売上税(Sales Tax)は最終消費取引のみに課税される。消費税では輸出企業は仕入れ税の還付を受けられるが、売上税では還付金は発生しない。例えば、日本企業が3万円の商品を海外に輸出し、仕入れに1万円を支払った場合:国内①仕入れ時の消費税支払い:1,000円(10%)②輸出時の消費税:0円(輸出免税)③結果:1,000円が還付(還付金として受け取る)この仕組みのため、日本の大手輸出企業(例:トヨタなど)は年間何兆円もの消費税還付を受けている。

国内で商品を購入すれば、商品代金のみに消費税がかかる。しかし、海外から輸入する場合は、商品代金だけでなく関税・運賃・保険料まで含めた金額に消費税が課される。実質的に、輸入品の方が消費税の計算ベースが大きくなる可能性がある。これにより、輸入業者は同等のモノを国内で仕入れる場合よりも多くの税負担することとなる。

日本の輸出企業は、国内で支払った消費税が還付されるので実質負担がゼロに近い。一方、自社が日本市場に製品を輸出すると、関税とともに輸入消費税がかかる。トランプ政権では「実質的な保護貿易」と受け取られており、消費税の変更圧力: 米国からの圧力が強まることで、日本政府が税制改革を迫られる可能性がある。

 

3 自動車産業などの膨大な消費税還付金

日本の輸出還付制度では、輸出品に「ゼロ税率」が適用され消費税が課税されない。輸出企業は国内での仕入れや経費に支払った消費税を「仕入税額控除」として差し引け、輸出売上が多い企業は支払った消費税より控除額が大きくなり、その差額が還付される。消費税の輸出還付制度により、2023年度は輸出大企業20社に約2.2兆円、トヨタ単体で約6,100億円の還付金が支払われた。輸出売上にゼロ税率を適用し、仕入れ時の消費税を還付する仕組みで、実質的な「輸出補助金」となっている。トランプ氏はこれを「関税より懲罰的」と批判し、報復関税を示唆。日本は関税調整で対応する可能性が高い。今後、日本はどうするか、消費税制度の見直しが求められる。

4 下請業法違反―仕入消費税部分を実質値引きさせるー賃金原資を削る

自動車産業のような、ピラミッド型の産業構造の場合、トヨタなどは、下請けの組み立て会社に、「もっと安くしろ、仕事をおろさないぞ」と圧力をかける。24年7月、トヨタの系列の組み立て会社が、部品製造会社に対して、余計な経費を負担させていたとして、下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けた。日産自動車も、同じく下請け会社に支払う代金を一方的に値引きしていたということで、勧告を受けた。「乾いた雑巾を絞る」とはこのことである。下請け企業が賃金原資を削らなくを得なくなる。これでは中小企業はまともに賃上げができない。

 

5 円安による資源価格の上昇とトランプの「通貨安誘導」とうい攻撃

3月3日、トランプ氏は、「通貨を下げると我々に非常に不公平な不利益をもたらす」とし、円安を批判する発言を行った。円安は、日本が輸入する資源価格を高騰させ、日本国民の生活水準を低下させるとともに、自動車などの輸出価格をドル換算で低下させ、輸出しやすくする。トランプ氏はそのことを問題視している。円安によってガソリンや電気などのエネルギー価格をはじめ、工場などの原料も大幅に値上がりしている。儲かっているのは輸出大企業のみである。

円安が150~160円台/ドルまで進んだのは、日銀による国債の買い入れと、それによる円通貨の大量発行にある。結果、円の金利は低下し、資金は高金利のドルに流れるとともに、日銀の国債の買い入れによって、ゼロ金利の資金獲得により、財政負担を気にすることなく無原則な財政運営が行われるとともに、国民は物価高に苦しむこととなった。

 

6 壮大な無駄―日本もマスク氏のような「チェーンソー」が必要か

維新は、大失敗が確実視されている4月から始まる大阪万博の赤字穴埋めのため、たった1000億円の高校無償化で与党の2025年度予算案に賛成してしまった。万博にはインフラ整備費を含めると10兆円以上がかかっている。当初から与党にとっては一番安い買い物だとして妥協は想定されていた。

1996年度の消費税収(国税)は6.1兆円だったが2023年度には23.1兆円になった。20兆円税収が増えたが、そのうち17兆円が消費税の増大である。一般会計税収は2020年度が60.8兆円。2023年度は72.1兆円。この3年間で国税収入は11.3兆円増えた。消費税で509兆円もの金を国民から巻き上げた。その509兆円を一体何に使ったのか。同じ期間に法人の税負担は319兆円減った。同じ期間に個人の所得税・住民税負担は286兆円減った。消費税の税収のすべてを巨大企業と富裕層の減税に使った。減税規模は605兆円となった(植草一秀:2024.12.30)。

⾖腐「1丁」を買う感覚で1兆、2兆の⾎税が散財されている。ロケットを上げる補助⾦

には1兆円のお⾦がばら撒かれる。半導体の⼯場を作る補助⾦には3兆円のお⾦がばら撒かれる。コロナの病床確保の名⽬で国公⽴病院には6兆円ものお⾦がばら撒かれた。副作用が多々報告されるコロナワクチンに4.7兆円もの⾎税がばら撒かれた(植草一秀:2024.12.31)。1兆円のコロナ旅行支援は会計検査院に検証不能と指摘された(福井:2025.1.30)また、東電の福島第一原発の事故処理費には膨大が税金が投入されつづけている。これまでに13兆円が投入され、国の負担が5兆円、今後もさらに膨らむ。そこに全く役立たなかった凍土壁工事をはじめ原発関係企業が群がる。また、一般歳出に占める防衛費の割合は、3年で、8%から12%以上まで伸長し、今後もさらに増大の予想である。しかし、コメなどが不足し高騰している。食料がなければ安保もくそもない。巨大なブラックホールに膨大は資金が吸い込まれていく。トランプ新政権よりはしごを外されたが、既にバイデン政権の末期にはウクライナへの援助資金を日本は1.8兆円もを行っている。

経済的に行き詰った米国は、なりふりをかまってはいられない。トランプ2.0は各国の税制をはじめ、かなり政策を深く考えている。イーロン・マスク氏が政府効率化省を率いて、「チェーンソー」を振り回して、USAID閉鎖などブラックホールの枝を切り払おうとしている。また、米国の医療費はGDPの17%も占めるが、盲腸手術1日130万円・救急車を呼べば8万4千円ときわめて高額であり、無保険者も多い。ここ数年、乳幼児死亡率も上がっており、じわじわと社会的衰退が進みつつある。民間保険会社や医療機関の儲けとなっており、ロバート・ケネディ・Jr保健相は巨大な医療利権に切り込む構えである。かつての社会党時代のような安上がりな予算修正のみに汲々としていたのでは日本も沈没は免れない、省庁の廃止や補助金の廃止、消費税の廃止を含めて、相当の荒療治をしないと、ブラックホールの引力に太刀打ちできないであろう。

 

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【投稿】トランプ・ゼレンスキー会談の決裂

【投稿】トランプ・ゼレンスキー会談の決裂

                             福井 杉本達也

1 トランプ・ゼレンスキー会談の決裂

トランプ米大統領は2月28日、米ワシントンのホワイトハウスでウクライナのゼレンスキー大統領と会談した。ゼレンスキー氏は会談の途中で何度もウクライナの「security」(安全保障)を口にした。「security」を強調することは、ロシアとの停戦の考えがないことを示す。ゼレンスキーは、EUの同盟国が軍事的支援をしてくれると述べ、戦争を継続するため米国の支援が欲しいとほのめかした。これに対し、トランプ氏は戦争ではなく経済だと反論した。記者団を入れた49分の会談の終盤でロシアのウクライナ侵略を巡って激しい口論になり、同国の資源権益に関する協定への署名を急きょ見送った。ゼレンスキー氏がバンス副大統領に「あなたが話す外交とは何なのか」と質問し、バンス氏が「あなたの国の破嬢を終わらせる外交について話している」と答えたあたりから雰囲気がおかしくなった。トランプ氏は「あなたにはカードがないが、我々にはある」とし、「あなたは何百万人もの命をギャンブルにしている。第3次世界大戦をギャンブルにしている。米国に対して非常に失礼だ」と激高した。さらに、バンス氏は、かつてゼレンスキー氏が「激戦州ペンシルバニア州で民主党とともに選挙運動をしていたことを覚えているだろうか?私は覚えている。トランプ大統領も、たとえそれを見逃すつもりだったとしても、間違いなく覚えている。恩知らずの外国人が選挙に干渉した。」とハリス氏への応援を行ったと非難した。

 

2 公開の場でのゼレンスキー氏の追放

そもそも、ゼレンスキー氏は会談に戦闘服で登場した。全く停戦する気はないとのアピールである。米側の会談のドレスコードはスーツであった。会談の途中でFOXの記者がなぜスーツを着てこないと詰問されると、戦争が終わったら着ると誤魔化した。トランプ政権は、今回の会談を米国民へのゼレンスキー氏追放のショーとすることを決めていた。49分間の記者会見の間、ホワイトハウスの暖炉の部屋には少なくとも30台のテレビカメラがあった。。トランプは、公の場であるテレビで全米・全世界に放映することで、「横柄なゼレンスキー」を缶詰にし、アメリカのヨーロッパ安全保障からの撤退を宣言した。米国は、ロシアとの経済交渉を模索する。横柄な喜劇役者は米国民への不遜な態度を理由に、ホワイトハウスから追放された。会談の失敗後、強力なゼレンスキー支持者だった共和党のリンゼイ・グラハム上院議員も旗を降ろした。もう誰も公にトランプ氏の停戦案を止めるられる者はいない。ゼレンスキー氏は、米国の支援を受けたNATO軍が参入することを望んでいた。それでは、米国がロシアとの大規模な戦争に引き込まれることになるが、それをトランプ氏が拒否したのである。

3 ゼレンスキー氏をあきらめない英・仏

ウクライナはドル、ユーロ、円を見境なく吸収し続けるブラックホールとなっている。EUは、ウクライナへの肩入れ以外なんの代替案を持たなかった。真実と平和を恐れている。彼らは、ロシアと米国の関係が正常化し、さらに中国との関係も正常化されるのではないかと恐れている。

EU経済はロシアからの低廉な価格のエネルギーに依存していた。ところが、EUは「金のガチョウ」を殺した。EU の経済はロシアからのノルドストリームパイプラインの破壊によって、非常に高いエネルギー料金となり、ほぼ破綻した。彼らの唯一の希望は、米国を安全保障ビジネスに参入させる計画を練ることだった。だが、会談の失敗によって企みは終わった。

会談失敗後の3月1日、ゼレンスキー氏はその足でロンドンを訪問、スターマー英首相と会談した。リーブス英財務相は、ウクライナ支援に向けて22.6億ポンド(約4270億円)の融資を承認する合意に署名した。融資は、欧州で凍結されたロシア資産を活用するとのことである。しかしこれはロシア財産の窃盗である。ゼレンスキー氏は、テレグラムに投稿し、「これは我々の防衛力を強化するための融資であり、凍結されたロシア資産から返済される。この資金はウクライナでの兵器生産に充てられる」と書いた。

ミュンヘン安全保障会議でヘグセス米国防長官は①ウクライナのNATO加盟反対、②2014年以前の国境線への復帰反対、③「第5条」平和維持軍の後方支援反対、そして④ウクライナへの米軍駐留反対の4つの「ノー」を突きつけた。さらに、在欧米軍は「永遠」ではないと付け加えた。『櫻井ジャーナル』は「ゼレンスキーはイギリスの情報機関に操られている可能性が高く、今回の出来事の背景にはMI6が存在しているかもしれない。」と書く(2025.3.3)。英仏がどんなに工作しても、EUは産業革命以前のユーラシアの周辺国の地位に落ちぶれるであろう。

4 ネオコンに操られ、偏向する日本のメディア

読売3月2⽇社説は「ロシアの侵略を受けるウクライナの⼤統領を激しく責め⽴て、⽶国との取引に応じなければ(戦争から)⼿を引くと脅しをかける」とし「⽶国のトランプ⼤統領の異様な振る舞いが、メディアを通じて全世界に伝えられたことに、驚きと懸念を禁じ得ない。これがトランプ⽒が⾔う『偉⼤な⽶国』の姿と⾔えるのか」と批判した。日本のマスコミの報道は、すべて、トランプ大統領を「変人」としか報じていない。日本ではトランプ氏を侮る間違った印象が出来上がっている。しかし、それは、見当違いである。米国の民主党=ネオコンに強く情報操作された物語である。東京は、その反ロシア政策で最後まで取り残される。このままでは、最大の損失を被るのではないか。トランプ氏はウクライナは日本など世界有数の資産国が債務保証しているのだから動じる必要はないという。日本はウクライナの連帯保証人である。我々日本人は、頭が悪いのか、鈍感なのか。2024年末にウクライナは⽇本から復興⽀援⾦として88億円を受け取った。ウクライナのシュミハリ⾸相は、我々の政府間の合意案が承認されたと発表した。これは⽇本のJICA(⽇本国際協⼒機構)からの資⾦だ。今回の拠出までに⽇本が⽀払ったウクライナ⽀援は121億ドル(1兆8300億ドル)にものぼる(Sputnik日本:2025.2.11)。石破首相は予算委員会の答弁で「財源がない」というが、これは我々日本人の税金である。エネルギー安全保障の要であるサハリン1・2の先行きも危ない。

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【投稿】トランプ:対ウクライナで「平和」、対イスラエルで戦争拡大

<<ゼレンスキーとの決裂「この男は、我々を戦い続けさせようとしている」>>
2/28、トランプ氏得意の「ディール」=取引で、ウクライナとの鉱物資源協定(1兆ドルの希土類)の調印で、公式のバインダーが2つ用意され、ホワイトハウス・イーストルームの会議テーブルに座り、トランプ、ゼレンスキー両氏が署名し、その成功を大々的に宣伝する予定であった。
 ところが、その前の大統領執務室での会談が午前11時に始まり、和やかに行われ、報道陣にも途中から公開されていた40分後、ゼレンスキー氏が米副大統領ヴァンス氏の発言、「バイデン前大統領はプーチンを罵倒したが、それでは何も解決しない」という、ごく当然で穏やかな指摘をしたのであったが、ゼレンスキー氏はここぞとばかりに異議を唱え、「プーチンは停戦を決して守らない」と主張、「交渉は無意味だ」と示唆し、かみついたのである。これでは、トランプ氏のプーチンとの会談・交渉を頭から否定するぶち壊しの発言であった。
トランプ氏がこのやり取りを引き継ぎ、まずは停戦が当面の優先事項であると繰り返し、ロシアのプーチン大統領は和平に前向きな姿勢を示していることを指摘し、米国の政策は敵対行為を長引かせるのではなく、緊張緩和に重点を置くべきだと強調したのである。
しかし、ゼレンスキー氏は「停戦を検討する気はない」姿勢を取り続け、トランプ氏が同意しないであろうことを知りながら、米軍地上部隊の派遣を要求したのであった。ついにトランプ氏は怒鳴り声で「第三次世界大戦でギャンブルをしている」(’Gambling with World War III’)とゼレンスキー氏を糾弾、会談打ち切りの事態に至ったのであった。(会談の録画は、https://www.youtube.com/watch?v=h3WD9CUNgEE

 この会談の前、ゼレンスキー氏は、鉱物資源協定は成立したとルビオ国務長官に保証し、ルビオ氏は大統領に協定は成立しており、ゼレンスキー氏がホワイトハウスを訪れて署名する予定だと自信たっぷりに伝えていたのである。しかし、ゼレンスキー氏はゴールポストを変更し、会談をぶち壊したのであった。

ゼレンスキー氏が意図的であったかどうかは別として、結果として、大失態を演じてしまったのである。事実上、ゼレンスキー氏はホワイトハウスから追い出され、予定されていた両氏の記者会見はキャンセルされ、鉱物協定は署名されないまま放置され、ウクライナとのあらゆる合意が事実上破棄されてしまった。
その後、直ちに米国務省はウクライナのエネルギーインフラ復旧に対する支援(8億2500万ドル)停止を発表。さらに国務省はウクライナに派遣するUSAID(米国際開発庁)職員と請負業者の数を大幅に削減する決定を下した(64人→8人)のである。

トランプ氏はこの決裂直後、「今日、皆さんもご覧になったでしょう。あの人、ゼレンスキー氏は平和を望んでいる人ではありませんでした。私は、彼が流血を終わらせたいかどうかにしか興味がありません」、「彼は戦い、戦い、戦い続けることを望んでいる。我々は死を終わらせることを望んでいる」。「この男は、我々を参加させ、戦い続けさせようとしている。だが我々は、この国のためにそうするつもりはない。10年戦争に突入するつもりはない」と断言している。
トランプ氏は、みずからのSNS、Truth Social に、「今日はホワイトハウスで非常に有意義な会談が行われました。このような激しい攻撃と圧力の下での会話がなければ決して理解できない多くのことが学べました。感情を通して出てくるものは驚くべきもので、ゼレンスキー大統領はアメリカが関与すれば和平の準備ができていないと判断しました。なぜなら、彼は私たちの関与が交渉で大きなアドバンテージになると感じているからです。私はアドバンテージを求めているのではなく、平和を求めています。彼は、その大切な大統領執務室でアメリカ合衆国を軽視しました。和平の準備ができたら戻ってきてください。」と、ゼレンスキー氏を突き放している。

<<イスラエルへの30億ドルの武器取引>>
この会談でのトランプ氏の論理は一貫しており、明確に前バイデン政権からの政策転換を明示している。
バイデン政権は、一貫してロシアに対する緊張激化政策を追求し、NATO拡大路線でロシアを挑発し、EU経済のロシア天然ガス依存をガスパイプライン爆破で破壊し、ロシアをウクライナへの軍事侵攻に引きずり込み、際限なくウクライナに資金と軍事援助を提供し、EU・NATOをその路線に付き従わせ、ロシアとの外交、平和を仲介する努力、緊張緩和と平和外交を一切放棄してきたのであった。ゼレンスキー氏が、米国の援助は見返りを求めない無償援助であった、と開き直る根拠は、バイデン政権が提供してきたものであった。トランプ政権は、そうしたバイデン路線を根底から覆してしまったのである。ゼレンスキー氏が慌てふためき、EU・NATO諸国が混迷に陥っている事態は、滑稽でさえある。

しかし、このトランプ氏の政策転換は、ゆるぎないものであるかどうかは、これからの事態の進行の中で検証されるべきであろう。
トランプ氏お得意の「ディール」=取引は、平和と戦争の両政策においても、取引に過ぎない可能性が大なのである。ウクライナとの希土類鉱物取引でさえ、ロシアとのより大規模で重要な鉱物取引がすでに話し合われ、ウクライナの鉱物資源取引の必要性など薄れつつある可能性も指摘されている。

トランプ政権の、「我々は平和を求めている」という、いわば「新デタント」路線は、対ウクライナ政策では発動されたが、対イスラエルでは、バイデン路線と同様、あるいはそれ以上の「戦争拡大」路線である。

 2/28、ゼレンスキー氏との会談が行われた同じ日に、トランプ政権・ホワイトハウスは、緊急権限を行使して、イスラエルへの30億ドルの武器移転を承認している。この軍事支援・援助・販売パッケージには、バイデン政権がイスラエルへの送付をためらっていた武器までもが含まれている。国防総省が発表した3つの武器パッケージには、2,000ポンドの弾頭を備えたMK 84とBLU-117爆弾35,500発、2,000ポンドのバンカーバスター弾であるプレデター爆弾4,000発、これら約4万発の爆弾の費用は20億ドルを超える。さらに2番目の武器パッケージには、1,000ポンド爆弾5,000個と、弾薬を誘導爆弾に変えるJDAMキット1,500個が含まれている。1,000ポンド爆弾と誘導キットの価格は6億7,500万ドルと見込まれている。さらに3番目は、価格が3億ドル近くのキャタピラーD9ブルドーザーである。ホワイトハウスは、議会の監視を回避した緊急事態であると主張している。トランプ政権がイスラエルへの武器販売の承認を早めるために緊急事態を宣言したのは、この1か月ですでに2度目である。「我々は平和を求めている」とは、対極の武器取引、「戦争拡大」路線なのである。

3/1、6週間続いたガザ停戦の第1段階が終了し、イスラエルは、ガザでの猛攻撃の「一時的な再開」を検討していると報じられ、ラファとハーン・ユニス付近で激しい砲撃を開始し、停戦協定に重大な違反を犯しているとパレスチナ側が報じている。まさにその危険な段階での、トランプ政権のイスラエルへの武器支援である。

つまりは、トランプ氏は、ウクライナに対しては緊張緩和・平和路線を要求しつつ、その舌の根も乾かぬうちに、イスラエルのネタニヤフ氏に戦争をさらに拡大する武器を送っているのである。

もちろん、たとえ眉唾や取引であったとしても、「我々は平和を求めている」という路線をこそ、トランプ政権に堅持させなければならない。その路線に反する戦争路線を孤立させ、包囲する力の結集が要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ路線、拒否するEUの混迷

<<「平和への道筋を付ける第一歩」>>
トランプ政権の下で、米国は明らかに、ウクライナをめぐるバイデン政権の緊張激化路線から、実利取引と外交を優先する路線に転換している、と言えよう。
その象徴となるのが、ロシアによる対ウクライナ特別軍事作戦開始から3年となる節目の2/24、国連安全保障理事会が採択した「ロシアとウクライナの紛争の迅速な終結」を求める決議であった。紛争開始後、安保理がウクライナの戦闘終結を求める決議を採択するのは、初めてのことである。
米国が提出した決議は、米、ロシアなど10カ国の賛成多数で採択された。同決議は、ロシアによる「侵攻」などのロシア批判の表現を一切使わず、またEU諸国などが求めていた「ウクライナ領土の保全」にも言及しない、「紛争の早期終結」を求める決議であった。これに対し、英、仏、ギリシャ、デンマーク、スロベニアの欧州5カ国は棄権をしたが、安保理の決議には法的拘束力が発生する。
米国のシェイ国連臨時代理大使は採択後、「この決議は平和への道筋を付ける第一歩であり、私たち全員が誇りに思うべきだ」と強調している。

一方、安保理に先立ち開催された国連総会では、法的拘束力はないが、EU加盟国とウクライナが主導した「ウクライナ領土の保全」などを求める決議を、全193加盟国のうち日本を含む93カ国の賛成多数で採択した。しかし、米国やロシアなど18カ国が反対し、中国など65カ国が棄権している。23年2月の同様の決議は、141カ国の賛成であったが、約50カ国もの減少である。

 こうした事態の進行には、前バイデン政権による、NATO拡大政策、ロシアとの緊張激化政策、ウクライナへの膨大な軍事援助、無謀な軍事挑発政策、ロシアへの無限大の制裁政策、等々からの、明らかな転換が反映されている。
そして、すでにルビオ米国務長官は「ウクライナ戦争が解決した場合、西側諸国はロシア連邦に対する制裁を解除しなければならないだろう」と述べている。

トランプ政権は、対ロシアに関する限り、外交と実利追求の路線を優先し、緊張を緩和し、相互の経済協力を促進する路線に実際に踏み出しており、それが同時に、対ロシアを超えた、対中国を含む「軍事予算の50%削減」にまで及び始めている。
プーチン大統領はこの提案に前向きに反応し、「我々は反対していない。その考えは良いものだ。米国が50%削減し、我々も50%削減し、中国が望むなら中国も参加できる。」と応じる事態の展開である。さらに、プーチン大統領は、「主要な」共同経済プロジェクトでの協力について、米国と協議中であることまで明らかにしている(2/24)。

<<バイデン路線継承する英・仏・独の軍事対決路線>>
一方、バイデン路線に追随してきたEU諸国は、事態の進行から取り残され、逆に、こうしたトランプ路線を拒否し、バイデン路線を継承する混迷に陥り、方向を見失いつつある。

 2/17、パリで開かれた緊急首脳会議では、ウクライナに軍隊を派遣するかどうかをめぐって欧州諸国の間で意見の相違があらわとなり、英国のスターマー首相は、英国は「必要であれば自国の軍隊を地上に派遣することで、ウクライナの安全保障に貢献する用意と意志がある」と述べたが、スペインの外務大臣に「現在、ウクライナに軍隊を派遣することを検討している国はない」と断言されている。フランスは、ウクライナに「再保証部隊」なる軍事部隊配置を提案したが、ただちにドイツ、イタリア、ポーランド、スペインに反対されている。

2/23、英国は、ロシアに対する「過去最大」の制裁パッケージを導入する準備を進めていると、ラミー外務大臣が発表し、スターマー政権は、ウクライナでの戦争継続の主唱者としての地位をバイデンから引き継いだ、と言えよう。さらに英国は、ウクライナ紛争とロシアの侵略に関する安全保障上の懸念が高まっているとして、徴兵制の復活をさえ検討していることが明らかにされている。

そして、先のドイツ総選挙で、かろうじて第一党を確保したCDU/CSU(キリスト教民主同盟)のメルツ党首は、元ブラックロックのグローバリストで極右の大西洋主義者、そして熱狂的な親シオニストである。そのメルツ氏は、「外部からの干渉に対抗するためには欧州の団結が必要だ」と強調し、「ワシントンからの介入は、モスクワからの介入に劣らず劇的で過激で、最終的にはとんでもないものだ」と選挙後のパネルで述べて、反トランプ路線を鮮明にしている。大躍進したAfD(ドイツのための選択肢)との連立を拒否し、バイデン路線に追随して大敗した前ショルツ首相・社会民主党SPDとの「大連立」を画策している。メルツ氏は、すでにショルツ連立政権よりもさらに好戦的な反ロシア路線を示唆している。

かくして、英、独、仏は、明らかに対ロシア・ウクライナ戦争が続くことを望んでいるのだ、と言えよう。しかし、もはや、その土台が崩れつつあり、次第に孤立せざるを得ない事態の進行である。
(生駒 敬)

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【投稿】西洋の敗北

【投稿】西洋の敗北

                        福井 杉本達也

1 米ロ首脳電話会談と外相会談は歴史的な転換点

2月12日にトランプ氏とプーチン氏は電話会談を行った。ロシアのペスコフ報道官は「長く、非常に生産的だった」とし、トランプ氏は自身のSNSに投稿し、その中で「我々は、ウクライナ、中東、エネルギー、人工知能、ドルの力、その他様々な話題について話し合った」と書いた。トランプ氏は、両首脳は「ロシア/ウクライナとの戦争で起きている何百万人もの死者を止めたい」ことで合意したと述べ、ウクライナ紛争を解決するための交渉を「即時」開始すると発表した(RT:2025.2.12)。これは歴史的な転換点である。これに続いて、2月18日には、サウジアラビアのリヤドにおいて、ロシアとアメリカの代表団による数年ぶりの協議が行われた。ロシアのラブロフ外相は協議結果を①露米は、両国ができるだけ早期に互いの大使を任命することで合意した。②米国の代表との討議は非常に有意義だった。米国側がロシアの立場をよりよく理解するようになった。③近い将来、ウクライナ和平のプロセスが形成され、交渉担当者が任命されることで合意に至った。露米はウクライナに関する協議を定期的に行う。④露米は、地政学的領域と経済問題で力を結集するために全力を尽くす必要性で合意した。⑤ロシア代表団は米国側に、NATO軍のウクライナ駐留は容認できないと説明した(Sputnik日本:2025.2.19)。ロシアのウクライナ侵攻を巡って2022年2月にバイデン政権が世界の舞台からロシアを「孤立化」させる戦略の一環として事実上凍結したロシアと米国の関係正常化についても話しあった。大使の交換ばかりでなく、両国の経済問題についても協議するすることとなったのである。

2 西洋の敗北

ウクライナ戦争はロシアとウクライナのゼレンスキー傀儡政権との表面上の戦争ではなく、ロシアと米国・NATOとの直接対決の舞台であった。米国・NATOは当初、経済的にも軍事的にも、科学技術力においても簡単にロシアを打ち破れると考えていたが、そのロシアに対し、すべての軍事的能力を出し切り、ウクライナで戦ったが、既に財政的にも、兵器においてもこれ以上戦うことができない状況に追い込まれた。『後漢書』の表現では「刀折れ矢尽きる」状態である。トランプ氏はこのままではドル基軸体制が揺らぎ、米国が崩壊するとして、就任直後であるにもかかわらず、プーチン氏に会談を申し込んだのである。完全なる『西洋の敗北』である。『西洋の敗北』(文藝春秋、2024年)とは人類学者:エマニュエル・トッドの著書であるが、宗教的・社会的規範の喪失により西洋社会が内部崩壊してきているとする。「近代」という西洋の原理が衰弱し、ニヒリズムに覆われ、ロシアとの戦いが起こる以前にすでに、西欧は内部崩壊しつつあり、ロシアとの戦いとそこにおいて、それが表面化したすぎないとする。

3 過去にしがみつく西欧

パンス副大統領は2月14日、ドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議に登壇し「欧州で最も懸念している脅威はロシアでも中国でもない。(欧州の)内側にある脅威だ」と、世界各国の首脳らを前にこう言い放った。「米国と共有するはずの最も基本的な価値観が後退している」とし、SNSへの規制を「検閲」・「民主主義の破壊」などと厳しい言葉で非難した。「反体制派を検閲し、教会を閉鎖し、選挙を中止した側について考えてほしい」とし、根拠に乏しいネット上の主張を制限する欧州の姿勢をかつての共産主義体制に比し、欧州の指導者に向け「自国の有権者を恐れるような政治をするのなら、米国はあなた方のために何もできない」と批判する演説を行った(日経:2025.2.16)。この演説に対し英=米軍産複合体の代弁者:チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーターのギデオン・ラックマンは『FINANCIAL TIMES』紙上において「パンス氏は、西側同盟をこの80年間支えてきた自由と民主主義、共通の価値観という理念を否定した」、「もはや欧州諸国にとって米国を信頼できる同盟国とみなせないのは明らかだ。むしろトランプ政権が欧州に対し抱いている政治的野心を考えると、米国は今や欧州の民主主聾を脅か…す敵対国だ」と書いた(FT=日経:2025.2.21)。西欧はまだ、冷戦のイデオロギー的、地政学的な枠組みを維持することに専念しているように見える。西欧がウクライナに支援。経済制裁でロシアと対峙する。そこには冷戦時代と同様のイデオロギー戦争がある。ロシアは専制主義の「悪の帝国」である。民 主主義国家は専制国家と戦わなければならないという論理である。

4 ゼレンスキーは「独裁者」―その独裁者を支援する西欧

2月19日にはトランプ氏は、ウクライナ停戦に否定的なゼレンスキー氏を「独裁者」と呼「ゼレンスキーはひどい仕事をし、彼の国は打ちのめされ何百万人も死んだ」。「コメディアンのゼレンスキーが米国に3500億ドル(53兆円)も支出させ、始める必要もなかった勝てない戦争に関与させた」と非難した(日経:205.2.21)。未ロ主導による停戦交渉がウクライナ抜きて進む協議に耐えかねたゼレンスキー氏は焦っているが、これを裏で煽り・支えるのがスターマー首相の英であり、マクロン大統領の仏である。また、まだ懲りずにウクライナを応援する日本のマスコミも同罪である。トランプ米大統領は、ロシアとの紛争を終わらせるための交渉にウクライナのゼレンスキー大統領が参加する必要はないと述べた。トランプ氏はFOXニュースラジオに対し、ゼレンスキー氏は2022年2月のロシア侵攻開始以来、3年間会議の場にいたが、これまで紛争の終結に失敗してきたと主張した(Bloomberg:2025.2.22)。最後の脅しの決定打は、イーロン・マスク氏が2022年以降、4万台以上のインターネット端末を寄付し、戦場ではウクライナ軍はスターリンク衛星を広く使用しているが、米国当局はウクライナがイーロンマスクのスターリンクインターネット端末を使用するのをブロックする可能性があるとの警告を出した(ロイター:2025.2.22)。スターリンクが戦場で使えなければ、ウクライナ軍の全ての兵器は目を失ったようなもので、その時点で全滅である。ウクライナ戦争は米ロの当事者同士で早急に終わらせなければならない。

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【投稿】米ロ会談:軍事対決から外交への転換点

<<バイデン政権の「無謀、浅はかさ」>>
2/12のトランプ米大統領とプーチン露大統領の90分に及ぶ電話会談は、バイデン前大統領時代の米ロ緊張激化・軍事対決路線からの転換点を明示するものであったと言えよう。その後のトランプ氏の発言も踏まえて、要点を列挙すると、

1. トランプ氏は、バイデン氏のウクライナのNATOに加盟する可能性についての約束、発言、公言が、「ウクライナ紛争を引き起こした 」、「紛争に直接寄与した重大な挑発行為だった」、「それが戦争が始まった理由だと思う。」、「彼はそんなことを言うべきではなかった」と強調し、「より広範な国際的合意なしにそのような約束をすべきではなかった」として、バイデン氏の発言を「無謀」かつ「考えの浅はかさ」であったと評し、この紛争の原因は、モスクワが一貫して反対してきたウクライナのNATO加盟への野望を支持した前任者のジョー・バイデン氏にあると非難し、それをプーチン氏にあえて伝えたことであった。

2. そのことからの当然の結論として、ウクライナのNATO加盟はありえないし、「2014年以前の国境を取り戻し、NATOに加盟するという」ウクライナの目標は「非現実的」だと発言したヘグゼス米国防長官の発言をトランプ氏は擁護した。ドイツ・ミュンヘンで行われたEU諸国の安全保障当局とウクライナ指導部による高官級会合で、ヘグゼス氏は「明確に申し上げると、いかなる安全保障保証の一環としても、ウクライナに米軍を派遣することはない」と明言し、さらにヴァンス米副大統領も、「我々が常に言ってきたように、米軍は米国の利益と安全保障を促進できない危険な場所に派遣されるべきではない」と断言している。

3. ロシアと米国が直接の「高官級」会談を開催することで合意し、サウジアラビアでプーチン大統領と直接会談する可能性もあることを確認した。2/14、「サウジアラビアは自国での首脳会談開催を歓迎し、ウクライナ危機勃発以来始まったロシアとウクライナの永続的な平和を実現するための継続的な努力を表明する」とサウジ政府は発表している。

4. トランプ氏はプーチン大統領を「信頼」しており、「この問題に関しては、彼は何かが起きることを望んでいると思う」と述べ、「これはバイデン氏が何年も前にやるべきだった」ことであり、そもそもこの紛争が「起こるべきではなかった」ことを強調した。

5. さらに、ロシアがG7に復帰し、グループが以前のG8構成に戻ることを「とても楽しみにしている」とまで述べ、「彼らを追い出すのは間違いだったと思う。ほら、これはロシアが好きか嫌いかの問題ではなく、G8の問題だ。そして、私はこう言った。何をしているんだ? 君たちはロシアのことばかり話しているのに、彼らはテーブルに着くべきだ」と。トランプ氏は、ロシアを除外したことはウクライナ紛争の一因となったかもしれない戦略的な失策だったと示唆し、「もしそれがG8だったら、ウクライナの問題はなかった可能性が高い」と述べたのであった。

<<「軍事予算を半分に減らそう」>>
引き続いて行われたロシアのラブロフ外相と米国のルビオ外相が電話会談では、
* ロシアと米国の関係に蓄積された問題に対処するため、コミュニケーションチャネルを維持することで合意。相互に利益のある貿易、経済、投資協力を妨げてきた一方的な障壁を取り除くことを目指す。
* ウクライナ情勢の解決、パレスチナをめぐる動き、中東やその他の地域問題におけるより広範な問題など、差し迫った国際問題に取り組むという相互のコミットメントを表明。
* 2016年にオバマ政権が開始した、米国におけるロシア外交使節団の活動条件を大幅に厳しく政策を速やかに終了させる方法について意見を交換。
* 近い将来、ロシアと米国の外交使節団の海外での活動に対する障害を相互に排除するための具体的な措置を調整する専門家会議を開催することで合意。
* 両大統領が示した方針に沿って、敬意ある政府間対話の回復に向けて協力する用意があることを再確認。
* ロシアと米国の高官級会談の準備を含め、定期的な連絡を維持することに合意。

こうした合意が軌道に乗れば、画期的な前進であろう。その前進は、トランプ政権の姿勢転換が、より広範な戦略のさらなる転換への移行をも浮き彫りにしている。
2/13のホワイトハウス記者会見で、トランプ氏は、ロシアのプーチン大統領と中国の習近平国家主席と防衛予算の削減の可能性について話し合う予定であると述べたばかりか、「いつか事態が落ち着いたら、中国とロシアと会談し、軍事費に1兆ドル近くを費やす理由はないと言おう。そして軍事予算を半分に減らそうと言うつもりだ」とトランプ氏は述べたのである。大いに推進されるべき提言である。この発言を受けて、米防衛関連株は、ロッキード・マーティン(-4.86%)、ノースロップ・グラマン(-6.58%)、ゼネラル・ダイナミクス(-5.30%)など急落している(2/14)。

 そしてこうしたトランプ政権の政策転換に最も強く抵抗しているのは、ウクライナのゼレンスキー氏である。サウジアラビアで行われるとされるワシントンとモスクワの代表団による協議に「キエフは招待されなかったこと」にあからさまな不満を表明し、なおかつ、トランプ氏にプーチン氏との電話会談前に直接会うよう何度も促したが、トランプ氏は同意しなかったことまで暴露している。
さらに、自らの大統領としての任期が2024年5月に終了しているが、戒厳令を理由に選挙の実施を拒否していることについて、トランプ氏が、キエフはいずれ選挙を実施しなければならない、国内世論調査でのゼレンスキー大統領の支持率は「控えめに言っても特に良いわけではない」と発言。この発言に対して、ゼレンスキー氏は「ウクライナでの選挙を望んでいるのはプーチンと米国の少数派だけだ」と開き直っている。
ゼレンスキー氏と同調して、英国のデービッド・ラミー外相は、欧州諸国による共同声明を発表し、「我々の共通の目的は、ウクライナを強力な立場に置くことであるべきだ。ウクライナと欧州は、いかなる交渉にも参加しなければならない」と不満を表明している。。

しばしば、独裁者気取りの制御不能な大統領として、トランプ氏の発言は、一貫性がなく、不確実、場当たり的であると指摘されているところであるが、否定しがたい客観的な現実を忠実に反映しているとも言えよう。
バイデン前政権の「無謀かつ浅はかな」軍事対決路線が行き詰まってしまったからこそ、トランプ政権の登場がもたらされたのであり、これを真の転換点にできるかどうか、トランプ氏がそれを貫けるかどうか、こうした事態の進行に抵抗するEU、NATO諸国が転換をはかれるかどうか、それこそが問われている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】内政干渉・政府転覆組織:米国際開発庁(USAID)の閉鎖と日本への影響

【投稿】内政干渉・政府転覆組織:米国際開発庁(USAID)の閉鎖と日本への影響

                            福井 杉本達也

1 「急進的な狂人たちが運営する」USAIDを閉鎖

イーロン・マスク氏はUSAIDを『修復不可能な状態』とし、トランプ大統領もこれを閉鎖すべきだとした。トランプ大統領はUSAIDを『一部の急進的な狂人たちが運営してきた』とし、『私たちは彼らを追い出す』と述べた。USAIDは主に非政府組織、外国政府と国際機関、他の米国機関に資金を与える形で他国に人道主義的および開発援助を提供しながら米国の国際援助を主管する機関ということになっているが、現実はこれらのプロジェクトは、アメリカの政治的利益を推進するための手段であり、諜報機関と秘密裏に結びつき、他国の内政に干渉したり、他国の政府を転覆するために存在する。バイデン政権期にUSAIDの長官を務めたサマンサ・パワー氏は、オバマ政権時代は国連大使を務めた民主党タカ派の最右翼である。職員は約1万人、年間予算が428億ドル(約6兆6224億円)にのぼる。1961年のジョン・F・ケネディ政権当時、『外国援助法』によって設立された。2023会計年度基準で400億ドルを超える予算を策定し、世界130カ国に“支援”した。(参照:msn:2025.2.4など)

 

2 USAID閉鎖の目的

ロシア外交・防衛政策評議会幹部会議長のフョールド・ルキャノフはRT上で「何十年にもわたって世界の覇権国としての役割を果たしてきた米国では、文化革命が進行中です。トランプ政権は、単に外交政策を微調整しただけでなく、ワシントンが世界における自らの役割をどのように見ているかというパラダイムを根本的に変えた。かつては考えられなかったことが、今では公然と議論され、政策として追求されています。この変化は、世界観の見直しを表しており、世界がどのように組織されるべきか、そしてその中でのアメリカの地位を問うものである。」「アメリカの支配層は、世界的な遍在のコストが持続不可能であることをますます認識している。」と書いている(RT:2025.2.9)。ウクライナ戦争でも明らかなように、反ファシズム戦争として戦われた第二次世界大戦後の世界秩序であるヤルタ・ポツダム体制が80年を経て今、根本的に行き詰っていることは明らかである。

また、ヴィタリー・リュムシンはRT上において、「USAIDの凍結は、USAIDを完全に解体するものではない。むしろ、それは、以前は左派リベラルな価値観を世界的に押し進めるために利用していた民主党から支配権を奪い取るためのリストラである。」「トランプの目標は、USAIDを彼の政権の保守的なアジェンダの道具に変えることだ。トランプのUSAIDの全面的な見直しは、アメリカ外交政策の広範な転換を示唆している。アメリカの覇権を世界的な支配者として推進するのではなく、焦点は取引政治、つまり直接交渉や武力を通じて特定の利益を達成することに移るだろう。この実用的なアプローチは、政府機関の過去数十年を定義したイデオロギー的な輸出モデルとは根本に異なります。」と述べている(RT:2025.2.9)。

3 USADIの日本支部としてのJICA―工作員に池上彰やNHKの名前も

日本ではUSAIDに関する報道は極端に少ない。Sputnik日本は2月10日、「USAID(アメリカ国際開発庁)。 その日本版とも言えるのがJICA(国際協力機構)だ。JICAは日本の政府開発援助を通して、途上国の社会・経済開発を行っている。活動内容には重なる点が多く、両組織は緊密に連携している。『JICA USA』のSNS投稿によれば、2024年9月にJICAの田中理事長はUSAIDのトップと面会し、人道支援、民主主義、猛暑などのテーマで、グローバルな協力について話し合った。また、JICAの職員は、定期的にUSAIDに出向している。JICAは、池上彰氏を起用し、日経ビジネスに『ウクライナと世界の未来と私たち」』と題したPR記事を出している。その中で池上氏は『日本は、2017年から5年間にわたって、ウクライナ公共放送への支援を行ってきました。協力したのは私の古巣でもあるNHKです。様々な課題解決に共に取り組み、ジャーナリストとしての意識を高めるためのハンドブック制作なども行ってきました。』と明かしている。」と報道した。JICAの田中明彦理事長は、米民主党系のジャパン・ハンドラーの影響下にある日経新聞などが主催する「富士山会合」などに度々名前を連ねている。また、今後、トランプ氏による第二のCIAと称せられるNED(全米民主主義基金)やFBIなどへの攻撃が激しさを増すにつて、日本の協力者も明るみにでてくるかも知れない。その時こそ、USAID などから資金提供を受け、ジャパン・ハンドラーの指示の下、日本を対米従属に仕向けてきた、従属論者の本当の終わりが来るであろう。

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【投稿】トランプ:米軍ガザ「占領」のドタバタ

<<ガザを「中東のリビエラ」に変える>>
2/4、トランプ米大統領は、イスラエル・ネタニヤフ首相との会談で、「米国がガザ地区を占領する」と宣言し、パレスチナ人はどこか別の「美しい」場所、同盟国エジプトとヨルダンが受け入れ、永久に移住させ、「ガザを平らにし、破壊された建物を撤去する」と約束。米国が戦争で荒廃したガザ地区を再建し、米国の領土にすると述べ、この開発により、ガザを高級リゾート「中東のリビエラ」に変える、「世界中の代表者」がガザ地区に住み、働くようになるかもしれない、私は、世界中の人々がそこに住むことを思い描いている」と述べ、世界の富裕層や権力者のための利益の出る海岸リゾート開発を宣言したのであった。
自称「不動産王」、実は不動産詐欺師の面目躍如たる、醜い姿が突如、飛び出したのであった。この発言は、翌日、トランプ大統領本人だけが、政権当局者たちの誰にも諮らず、公表したことが明らかになり、大慌てでドタバタ騒ぎの修正、撤回に動き出した。
タイムズ紙は、「米国政府内では、このような大規模な外交政策提案ならともかく、どんな真剣な外交政策提案でも通常行われるような国務省や国防総省との会議は行われていなかった。作業部会もなかった。国防総省は必要な

兵力数の見積もりや費用の見積もり、さらにはそれがどのように機能するかの概要さえも示していなかった。」と報じている。

しかし、タイムズ・オブ・イスラエルは、トランプの義理の息子であるクシュナーが、ネタニヤフ首相との記者会見で大統領が行った衝撃的な発言の準備を手伝ったと報じている。クシュナーは、以前からすでに、ガザの海辺の土地を「非常に価値がある」、再開発を可能にするためにパレスチナ人を移住させるべきだとして、「私は人々を移住させ、その後、それをきれいにするために最善を尽くすつもりだ」と語っていたのである。つまりは、トランプ氏の発言は、クシュナーの提言そのものなのであった。

<<ネタニヤフの「最も偉大な友人」>>
このトランプ氏の提案は、怨本的に国際法とパレスチナ人の権利を侵害しており、全世界から非難の声が沸き上がる事態を招いている。

トランプ大統領のガザ計画は共和党議員にも受け入れられず

移住先に指定されたエジプト外務省は、住民を立ち退かせることなくガザ地区を再建する必要性を強調し、ヨルダンのアブドラ2世国王は、土地を併合してパレスチナ人を立ち退かせるいかなる試みにも断固反対すると表明した。エジプト、ヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタール、パレスチナ自治政府、アラブ連盟による共同声明は、「直接的な追放や強制移住」を拒否し、そのような行動は「地域の安定を脅かし、紛争を拡大するリスクがあり、人々の平和と共存の見通しを損なう」と警告している。
米国の重要な同盟国であるはずのイギリス、オーストラリア、ドイツなどもトランプ氏の発言を非難し、二国家解決の重要性と国際法の尊重の必要性を強調している。イギリスの外務大臣アンネリーゼ・ドッズ氏は、「英国はガザのパレスチナ人を彼らの意志に反して近隣諸国に追い出すいかなる試みにも反対する」と明言している。

トランプ氏の発言を大歓迎しているのは、もちろんイスラエルのみである。ネタニヤフ首相は、「これは歴史を変える可能性があると思う」、「従来の考え方を打ち破る意志、つまり何度も失敗してきた考え方、斬新なアイデアで既成概念にとらわれない考えを持つ意志は、私たちがこれらすべての目標を達成するのに役立つだろう」述べ、トランプ氏が「イスラエルがホワイトハウスでこれまでに持った中で最も偉大な友人」であると絶賛している。

しかし、イスラエルの指導者から熱烈な歓迎を受けたにもかかわらず、トランプ氏の提案は国際法の下で完全に違法である。これは、強制的な住民移送を禁止する複数の国際条約に違反している。ジュネーブ条約(1949年) – 第4回ジュネーブ条約とその追加議定書は、占領地からの民間人の強制移送、追放、または国外追放を禁止している。イスラエルと米国はともにこれらの協定に署名しており、こうした政策を承認することは国際法の直接的な違反である。民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR) – 米国とイスラエルが批准しており、人々が祖国に留まる権利を保証し、恣意的な移住を禁止している。ハーグ条約(1907年) – 大量追放を禁止し、民間人の保護を確保する占領国の責任を概説している。さらに、トランプが追放されたガザの人々を受け入れるよう圧力をかけている2カ国、エジプトとヨルダンもこれらの条約に署名している。

 そして厳然たる事実として、南部に追いやられていたパレスチナの人々が、民族浄化・抹殺計画に断固たる抵抗を示し、希望の大行進を組織、すでに1月27日には、100万人ものパレスチナ人がガザ南部から北部に帰還しているのである。

こうして、トランプ氏の発言で全世界的な孤立化においこまれ、与党共和党幹部からの批判も相次ぎ、修正と撤回に動かざるを得なくなり、ホワイトハウスは、ガザ地区に米軍を派遣する考えを弱め、恒久的な避難に関する発言も修正、報道のトーンを下げ始め、「大統領はガザに地上軍を派遣することを約束していない。また、米国はガザの再建に資金を拠出するつもりはない」と修正。

2/5、米民主党のアル・グリーン下院議員は、「民族浄化は冗談ではない。特にそれが世界で最も権力のある米国大統領から発せられ、彼が自分の発言を完璧に実行できる能力を持っている場合、ガザでの民族浄化は冗談ではない。」として、トランプ大統領の弾劾案を発議する意向を明らかにした。このトランプ氏弾劾案は、歴代大統領の就任後で最も早い弾劾案の登場である。。

2/6、ついに追い込まれたトランプ大統領自身が、米兵は関与しない、米軍を地上に派遣したくない、と、事実上の違法なガザ侵攻計画を撤回、方向転換である。まさに、トランプ劇場のドタバタ騒ぎである。

以上の経緯は、トランプ氏の計算された挑発か、それとも軽薄な信念の吐露か? いずれにしてもトランプ政権の政治的危機と脆弱さを全世界にさらけ出したものと、言えよう。
(生駒 敬)

付記:2/8の日米首脳会談、石破首相のトランプ詣では、トランプ氏が事実上の大失態で意気消沈していた最中であった。軍事オタクの石破首相にとっては、危うい綱渡りで、米軍ガザ「占領」への同意を求められることもなくやり過ごし、トランプ氏の「MAGA」(アメリカを再び偉大に)運動をことさらに称賛。共同声明で日米同盟の新たな「黄金時代」をうたい上げたのであった。しかし、その共同声明、中国を名指しして、「力または威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試み」に反対すると明記したが、トランプ氏の米軍ガザ「占領」発言自身が「一方的な現状変更の試み」であっただけに、トランプ・石破、両氏とも自らをかえりみない、その底の浅さは噴飯ものであろう。

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【投稿】「デープシーク(DeepSeek)ショック」

【投稿】「デープシーク(DeepSeek)ショック」

                            福井 杉本達也

1 「デープシーク(DeepSeek)ショック」

1957年に「スプートニク・ショック(Sputnik crisis)」があった。1957年10月4日、旧ソ連による人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げ成功の突然の報により、旧ソ連の科学技術力の高さに驚き、アメリカ全土はパニックに陥り、西側諸国は自信を喪失した。

今回の中国の生成AIアプリ「DeepSeekショック」はそれに匹敵、あるいはそれ以上のものをもたらすのかもしれない。日経は1月29日付けで、DeepSeekが「米国のアプリストアで一時首位に立った。低コストで開発した大規模言語モデルの性能が米国製の競合モデルの性能を上回ったと主張し、消費者が注目している。米国のAI産業の優位が揺らぐとの警戒感から、株式市場も反応した」開発の費用は560万ドル、開発期間は約2か月だとされ、」もし同社の主張が正しければ、米テック企業による巨額投資の前提となってきた法則が崩れる恐れがある」と報道した。DeepSeek創業者の梁文鋒氏は日経のインタビューに答えて、「我々は、中国のAI技術がいつまでも追随する立場にいるわけではない」、「中国でテクノロジーの最前線に立つ人が必要なのだ」と述べた(日経:2025.1.31)。

 

2 米半導体大手エヌビディア時価総額の91兆円が吹っ飛ぶ

同上29日付けの日経では「生成AI市場で米国の技術優位が崩れるとの見方から半導体大手エヌビディアの時価総額は27日だけで91兆円が吹き飛んだ」「米技術覇権シナリオに傾き過ぎた投資マネーは評価軸の修正を迫られている」と報道している。

Science & Technologyは「DeepSeekの登場は、AIコミュニティを震撼させただけでなく、ナスダック全体に衝撃を与え、近年の株式市場の歴史の中で最も重要な瞬間の1つとなりました」「ナスダックの下落:2025年1月27日、ナスダック総合指数は約3.1%下落し、2024年12月18日以来の大幅な1日の下落率を記録しました。エヌビディアの記録的な損失:大手AIチップメーカーであるエヌビディアは、株価が約17%下落し、時価総額の損失は約5,930億ドルとなり、これまでウォール街のどの企業にとっても最大の1日の損失となりました。その他の影響を受けた企業:Broadcom Inc.の株価は17.4%、Microsoftは2.1%、Alphabet(Googleの親会社)は4.2%の下落となりました。フィラデルフィア半導体指数も9.2%下落し、2020年3月以来の大幅な下落となりました。」と書いた(Raditio Ghifiardi:『Science & Technology』:「How DeepSeek Shook the Nasdaq and Redefined the Market: What Happened and What’s Next?」2025.1.30)。

3 米国はAIの独占化を望んでいた

億万長者のピーター・ティールは、独占を望んでいることを認め、「競争は敗者のためのものだ」と主張している。アマゾンとグーグルが出資するAI 企業AnthropicのCEO:ダリオ・アモデイは、米国は「一極世界」を維持しなければならないとし、「独占はすべての成功したビジネスの条件である」と述べた。米国のビッグテックが業界を支配することは、当然のことと考えていた。

ところが、DeepSeekは、OpenAIが作成したAIモデルよりもさらに優れたAIモデルを公開した。さらにDeepSeekモデルは米国のAIモデルが使用する計算能力とエネルギーのごく一部しか必要としない。それを、わずか約600万米ドルで開発した。一方、米国のビッグテックは、AIの設備投資に年間数千億ドルを注ぎ込んでいる。さらに、DeepSeekはオープンソースライセンスでR-1モデルをリリースし、世界中の誰もが自宅のコンピューターに無料でダウンロードして実行できるようにした(Ben Norton:Geopolitical Economy Report 2025.2.3)。

4 米国の経済モデルはバブルを煽り、富を集中し、競争者を打倒・買収し、AIを独占することだったが、それに失敗した

時には少ないものを持つことが、より多くの革新を意味する。DeepSeekは、以下のようなものは必要ないことを証明している:① 数十億ドルの資金–②数百人の博士号取得者– ③有名な家系。必要なのは素晴らしい若い頭脳、異なる考え方をする勇気、そして決して諦めない不屈の精神である。もう一つの教訓は、素晴らしい若い頭脳を金融投機の最適化に浪費するのではなく、実際に使えるものを作るために活用すべきだということだ。DeepSeekは、貿易や技術障壁によって競合他社から技術を遠ざけることが不可能であることを示した(耕助のブログ:「中国はいかにしてトランプとOpenAIに勝ったか。」2025.1.31)。

米国はAIという幻想と高金利で日本を含む世界中から投機資金を集め、その金で株式投機を行い、他の競争相手を潰し、AI覇権を狙った。しかし、それはDeepSeekの前にあえなく潰れるはめとなった。トランプ米大統領は30日、自身のSNSで、中国やインドなど有力新興国で構成するBRICSに対してドル離れを模索しないよう再び求めた。2024年11月30日にもほぼ同じ文面で投稿し、従わなければ「100%の関税を課す」と脅していた(日経:2025.1.31)。しかし、これは急激なドル離れが起こっていることの米国の危機の裏返しである。日経は2月5日、「金はニューヨーク先物とロンドン現物との価格差が、2024年後半の2倍に膨らんだ」とし、「一物二価」が常態化していると報じた。ようするに、ドル不安で先物市場で、現物の少ないNY市場での金買いが膨らんでいるということである。投機資金を集めてきた基軸通貨ドルの信用もAIの信用の低下とともに崩壊しつつあるということである。ドルは金に対して1/10以下に切り下げられるのか、円に対しては1/2~3に切り下げられ、日本の外貨準備金は踏み倒されるのか。それでは戦争もできない。そろそろ金融寡頭制の支配も終わりが近づいている。

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