【投稿】全国知事会での小池都知事の「地方切り捨て」発言と46道府県の批判
福井 杉本達也
1 東京都vs46道府県:丸山島根県知事が小池都知事を徹底批判
8月1・2日、福井県で開催された全国知事会で、人口減少問題に対する宣言の”一極集中”の表現を巡り、東京都の小池知事と、地方の知事と間で意見が対立した。この議論の中で、小池都知事は「人口減少問題と一極集中との因果関係は不明確だ」と発言し、「特定の地域に人口や産業が集中している」という文言を削除するよう要求した(福井:2024.8.2、山陰放送:2024.8.10)。
これに対し、島根県の丸山達也知事は「子育て世代と言われる年代の方々が、一番集積している地域が日本で一番出生率が低いということは、出生率を引き下げる要因になってる。明らかだ、算数的にいって、これは、数学じゃなくて算数のレベルだと思う。カイロ大学を首席で卒業されている小池都知事が、分からないわけがない。私は、分かっているけど分からないふりをしてるんじゃないかと思う。それは自分にとって都合が悪いから」(山陰放送:2024.8.10)と批判した。
全国の若者が進学期、就職期、転職期に東京に集まり、一度東京に行った若者が故郷に帰ることがないため、地方は担い手を失い、消費が落ち込み、高齢化が加速している。東京に行った若者たちは、高コストを強いられた生活の中で出産・子育てを躊躇し、東京都の出生率は全国で最も低い状況となっている。こうした循環が人口減少問題となっているのであり、「因果関係が分からない」とするのは、おとぼけ以外の何物でもない。3・11においては、民主党菅直人首相の下、一時、首都圏3000万人避難が検討されたように、東京都は高コストに加えてハイリスクを抱えている。
2 東京都とは米金融寡頭制の6分の1の出先機関
東京都の一般会計・特別会計を含む15兆円という予算規模は、インドネシアやノルウェー・スウェーデンにも匹敵する巨額である。GDPでは東京都のシェアは19%強であり、人口以上に経済活動が集中している。東京都の法人事業税でのシェアは25%前後で、法人住民税のシェアも27~30%であり、それぞれ名目GDPのシェアよりも5~10ポイントほど上回っている。財政力指数(基準財政収入額/基準財政需要額)を比較すると、2013年度における東京都1・093、道府県0・532から2018年度は東京都1・328、道府県0・578であり、その差は0・56から0・75へと拡大している。これは、第3次産業化、地方支店・支社の子会社化の進行、コンビニなどのフランチャイズ経営の成長、ネット取引の増加、外国法人の東京集中などによって本社機能のある大都市部である東京にさらに企業所得が集中する傾向が強まっている(関野満夫:「現代の地方税収と税源偏在問題」自治体問題研究所:2019.6.1)。
東証の株価が大暴落し、一旦、調整局面にあるが、米国株と日本株は一体で、東証の売買高の65%から70%は、外国人。売りの主犯は外国人=国際金融資本である。「海外投資家が日本株の買い持ち高を一旦『リセット』した。金融市場が揺らいだ7月第5週(7月29日~8月2日)に、株価指数先物を合めて1兆617億円を売り越した」(日経:2024.8.9)。売買では、東証はNY 市場と一体であり、時価総額は1/6、1 日の売買の総額も1/6 くらいであり、東京証取はNY 証券取引所の東京支部と考えていい。日銀は、FRB の東京支店。自民党は米民主党の、極東支部(吉田繁治『ビジネス知識源』2024.8.3)であると書いている。東京都は日本国中で稼いだ富を一旦、東京支部という金融都市に集めたうえで、国際金融寡頭制に貢ぐ役割を持っている。国際金融寡頭制の東京支店長としては、「因果関係が分からない」という発言は頷ける。
3 東京都の災害脆弱性
「南海トラフ地震臨時情報」が出されているが、東京都は枠外にあるかのようである。大石久和氏は『クライテリオン』2014年7月号で『東京一極集中による国家崩壊の恐怖』を書いている。「土木学会は、東京直下地震の想定被害額がこのまま何もしないと1000兆円にもなるとの研究結果を発表」した。大石氏は①愚かにも最大の災害危険地帯に人口や企業の集中、②東京湾岸には2200万キロワットの大規模火力発電所が林立し全滅の恐れ、③公共空間がまるで不足、④大火を引き起こす木造密集地帯が環7や江東区周辺に、⑤建設就業者大幅に減少し、万一に備えられない、⑥地域コミュニティ崩壊、⑦東京都のカロリーベスの食料自給率は0%、⑧車は440万台もあり、災害時にどう動くのか?東京都の防災拠点は立川市にあるが、都心まで青梅街道のみ。にっちもさっちもいかない。⑨関東大震災の瓦礁で埋め立てた豊洲などに建設されたタワーマンションの孤立化、⑩帰宅困難者が500万人発生、⑪首都高や立体交差などの耐震性、⑫地下鉄や地下街が縦横無尽に、等々を指摘し、「現在の東京首都圏は1912年頃よりはるかに地震に脆弱になっている」と結論している。社会的共通資本・インフラの老朽化や耐震性など、課題は山積みとなっているが、上水道の外国資本への身売りや三井不動産や電通、パソナなどへ貢ぐ発想しかない。
4 能登半島被災地など人口減少地域の切り捨て
大石は上記で「財政制度等審議会は、最近『能登半島地震被災地の復興は、人口減少地域でもあることから集約的まちづくりを行うべき』との提言…棄民思想を顕わにして、東京首都圏への一極集中推進是認」したと指摘している。
「『地方を見捨てる』という悪魔の選択が出る可能性があるのではないか。人口規模、将来の発展の見込み、といった、いわばリターンのようなものを勘案する、つまりはコストパフォーマンスを考えて、小さな再建にとどめる方向性が議論されるのではないか。」「お金がなくても、燃料がなくても、どちらもほぼ強制されるように電波を止めざるを得なかったからである。そこには見捨てる決断も、取り残さない判断も、どちらもない。金とモノ、そうした外からの強制力によって余儀なくされただけだからである。この先、東京が、みずから進んで地方を見捨てる、わけではないだろう。倫理の面でも、気持ちの上でも、誰もそんな断定はしない。それよりも、いつの間にか、だれも責任を取らないかたちで、なんとなく、見捨てたことになっていくのではないか。見捨てたことへの後ろめたさもないままに、なし崩しに、予算も人もモノも出さないし、出せない。そうした未来は、そう遠くはないだろう。」と鈴木洋仁神戸学院大学准教授は震災直後に書いた(『プレジデント』:2024.1.10)。また、鈴木宣弘氏は上記『クライテリオン』に、政府は「農業・農村の崩壊を前提にしているのだ。農業就業人口が急速に滅少し、もうすぐ農家はさらに潰れ、農業・農村は崩壊する。だから、わずかに残る人が『成長産業化』するか、企業などの参入で儲かる人だけ儲ければいいではないかと。みなが潰れないように支える政策を強化すれば事態は変えられるという発想はない。『食料自給率』や『農村』という概念は希薄だ。『国消国産』のために食料自給率を向上するという考え方もないし、農村コミュニティが維持されることが地域社会、伝統文化、閉土・治水も守るといった長期的・総合的視点はない」と書いている。小池都知事の発言は国際金融寡頭制の僕としての新自由主義に心から毒された「悪魔の選択」を裏付けている。丸山知事は新自由主義の「悪魔」に本能的に反論したのである。「外に朔び、内を脅かす者は、天下の賊である」(吉田松陰)。