【投稿】福島原発事故後8年・処理費用81兆円…日本は少しは現実に向き合えるのか

【投稿】福島原発事故後8年・処理費用81兆円…日本は少しは現実に向き合えるのか
福井 杉本達也

1 事故処理費用81兆円(日本経済研究センターの試算)
3月7日、日本経済研究センター(岩田一政理事長)は「続・福島第1原発事故の国民負担」と題して、総額で81兆円になるという試算を発表した。親会社の日経新聞ばかりでなく、他の新聞でも取り上げられ、かなりの反響を呼んでいる。81兆円の内訳は、「廃炉・汚染水処理」で51兆円、「賠償」が10兆円、「除染」を20兆円で計算している。ここで、「汚染水処理」については、現在120万トン、今後発生分80万トンの計200万トンとして、「トリチウム水の処理費(2000 万円/㌧、総量の 200 万トン)を含む。」としている。これを希釈して海洋放出した場合には11兆円という試算も同時に出している。試算では原発の「石棺」化や「水棺」化などの永久管理費用35兆円を含むとしているが、少なくとも数百年管理するには極めて過小な数字である。また、汚染水の海洋放出などもっての外であるが、政府の22兆円(2016年12月)という数字よりは現実的である。

2 8年間、何事もなかったかのように思考停止中の原発推進派
3月11日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した東京工業大学の澤田哲生助教(原子核工学)は「日本の場合は再処理をし、使えるプルトニウムやウランを取り除いてリサイクル、そこで残ったゴミだけを捨てる」、「もんじゅのような高速増殖炉を使い、そこに閉じ込められないカスだけにする」、「青森県六ヶ所の再処理施設…が、あと数年以内には動く」、「冷静な判断力を持っていくことが必要…感情論に陥らない」と述べている。また、作家の乙武洋匡氏は「3.11から8年も経つのだから、そろそろ原発が是か否かという問いの立て方は止めよう」、「メリット・デメリットを勘案しながら…トータルで考える議論に行かなければいけない」などとし、ジャーナリストの佐々木俊尚氏も「テクノロジーは進化するもの」、「現状では10万年かかったとしても、100年後には10年でできるようになっているかもしれない」「0か100かという議論はすべきではない」と答えている。
物理学の法則にしたがう放射性物質の半減期が数万年から10年になることなど未来永劫ない。澤田助教はもんじゅが廃炉になったことを知らないとでもいうのであろうか。この8年、政府(経産省・環境省などを含め)を含め、原発事故への対応は思考停止の状態にある。

3 完全に行き詰った放射性汚染水の「海洋放出」
上記、日本経済研究センターでも51兆円かかると試算されている高濃度の放射性物質を含む汚染水を、東電はALPS(アルプス)という放射能除去装置でろ過し、トリチウム以外の放射性物質は、ほぼ除去できていると主張してきた。しかし、処理水のうち、84%が基準を超えるトリチウム以外の放射性物質が含まれていた。このうち6万5000トンは、法令の100倍を超える放射性物質が含まれていた。また、一部のタンクでは、特に有害なストロンチウム90などが、基準の2万倍に当たる1リットル当たり60万ベクレル検出されている。流入する地下水を遮蔽する目的で凍土壁を設置したものの、汚染水は毎日130トンずつ増えている。政府・東電は浄化と防水のすべてに失敗したのである。原発敷地内は汚染水タンクで一杯であり、保管する場所がなくなってきている。田中俊一前規制委員長は、早い段階から、『薄めて海に流せば問題ない』と発言していた。しかし、全漁連は「海洋放出には反対、地上に保管すべき」と反対姿勢を明確にした(福井:2018.12.28)。もちろん、このような高濃度汚染水を太平洋に放出しようとすれば、西太平洋を漁場とする、韓国や台湾、ロシア、中国はもちろん米国も反対するであろう。いくら付け焼刃とはいえボルト締めの汚染水タンクを設置したり、現実的な矢板工法ではなく、効果も定かでない凍土壁で遮蔽しようとするなど、現実を直視せず、夢想しかしないツケが回ってきている。

4 高放射能汚染地域への帰還政策ー南相馬市で死亡率が増加
南相馬市の人口は2010年までは7万人を超えていたものが、2011年の事故で一旦1万人にまで減少し、その後、6万5千人に回復したものの、2017年には5万5千人にまで減少してきている。しかし、死亡者は2010年:819人だったものが、人口が1.5万人も減った2017年には逆に837人に増加している(住民票ベース:市外への避難者を含む)。南相馬市の10万人当たり死亡率は、2014年までは福島県の死亡率とほぼ同じだが、2015年で急増している。2014年から福島県の帰還政策が始まり、避難者が一斉に帰り始めた結果、死亡率の増加がもたらされたと解釈される。いったん避難した人が高放射能汚染地域に帰還する。そうすると死亡率が増加する。南相馬の場合だけでなく、他の市町村でもいったん避難した後に帰還した者にも同じような危険が迫っているのではないかと、矢ケ崎克馬琉球大学名誉教授は危惧する(矢ケ崎克馬:「南相馬市の死亡率増加は「帰還」の危険性を物語るのか︖」2019.1.20)。

5 一般公衆に年間線量限度20mSvという非常識な被曝線量を強いている日本政府
現在、政府は一般公衆に対して、年間線量限度20mSvという非常識な被曝線量を強いているが、ICRPの一般公衆への人工放射線の年間線量限度の変遷では、1953年勧告:15mSv/年 、1956年勧告:5mSv/年、1985年勧告:1mSv/年(例外は認める)、1986年のチェルノブイリ原発事故を経験後の1990年勧告:1mSv/年(例外は認めない)と、健康被害の現実を踏まえて減少させている。日本の対応は異常である。政府はこうした高汚染地域に住民を帰還させようとしている。今年4月にも原発所在町である大熊町の一部の避難指示を解除するという。東京大学大学院教授の小佐古敏荘氏が、2011年4月30日、涙ながらに内閣官房参与を辞任したが、その辞任理由は「法と正義」の原則に則しておらず、「国際常識とヒューマニズム」にも反しているという抗議であった。政府の行為は多数の国民を危険な汚染地区に閉じ込め放射線被爆させようという壮大な人体実験場であり、基本的人権の無視である。

6 増える小児甲状腺がん:214人(あるいは更に多く273人にも)
2018年12月27日、第33回福島県「県民健康調査」検討委員会が開かれ、甲状腺検査3順目の結果が発表された。悪性または悪性の疑いが前回から3人増えたとし、避難区域等が設定された13市町村 は罹患率が0.064%(検査 34,558人21中人) 避難区域外の中通り 0.031%(検査152,697人45中人)で、13市町村は2倍の罹患率となった。当初、小児甲状腺がんは非常に稀な病気であり、人口100万人当たり2,3人と見積もられていたが、結果は1万人当たり7人と非常に高い罹患率となっている。しかし、委員会の見解は「事故当時5歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がないことから、総合的に判断 して、放射線の影響とは考えにくいと評価する。」というものであり、あくまでも放射線の影響を認めない犯罪的な姿勢を貫いている(参照「めげ猫「タマ」の日記」2018.12.27)。
これとは別に2015年7月にスタートした「甲状腺サポート事業」で県の甲状腺検査を受け、2次検査で結節性病変などが見つかり、保険診療となった患者に対して医療費を支給する制度があるが、今年3月までに医療費を受給した患者233人のうち、手術後に甲状腺がんではなかった5人を除くすべてが甲状腺がん患者であることが福島県議会の答弁で判明した。検討委員会のデータと合算すると273人となり、これまで公表されていた人数を大幅に上回ることとなる(OurPlanetTV:2018,12,14)。小児甲状腺がんの主要な原因は ヨウ素131 による内部被曝であり、外部被曝の寄与は小さい。ヨウ素131は半減期が8日であり、事故直後、政府は事故を小さく見せようと調査を意識的に行わなかったため、ヨウ素131の被曝線量を確認できない。確認できないことを“奇貨”として甲状腺がんとの因果関係を否定しようとしているのである。犯罪国家そのものである。

7 溶融した核燃料(デブリ)を取り出しできるかのように情報操作する政府・東電
東電は2月13日、福島第一2号機の溶融した核燃料(デブリ)をつかみ持ち上げることに成功したと発表したが、東電の廃炉責任者の小野明氏は「デブリを全て取り出すことはかなり難しい」と日経のインタビューに正直に答えている(日経:2019.3.5)。作業員に膨大な被曝をさせて、極一部のデブリを取り出すことは可能かもしれないが、そのような行為は大量虐殺行為である。出来もしないことを工程計画とし,あたかも出来るかのような幻想を振りまいているに過ぎない。犯罪のアリバイ工作である。

8 露骨な世論操作-インターネット上のダウンロード規制法の頓挫
インターネット上の違法ダウンロード規制を強化する著作権法改正案が市民の猛反発を受け、今国会への提出見送りに追い込まれた。改正案は、音楽と映像に限っていた違法ダウンロードの対象を漫画や論文、写真などあらゆるコンテンツに拡大。個人ブログ、SNSからのダウンロードや画像保存なども規制対象とし、悪質なケースは刑事罰を課すことが柱となっていた。これまで原発関係においても、過去の専門家や政治家の論文や発言・マスコミの写真などが繰り返しネット上で取り上げられ、真偽が確認されていた。福島第一原発事故の3号機の核爆発の写真や御用学者の山下俊一福島県立医科大学副学長の発言、安倍首相の「アンダーコントロール」発言の録画などもその一例である。こうした行為を違法だとして全てを規制されると、まともな議論は封殺されてしまう。完全なる秘密国家・犯罪国家の完成となる。事故後8年、被害が大きすぎて隠そうにも隠し切れない世界最悪の原発事故を必死で隠し通そうとする政府を野放しにするのか、国民の真価が国際的にも問われている。「都合悪きことのなければ詳細に報じられゆく隣国の事故」(歌人:俵万智「海と船」)。

【出典】 アサート No.496 2019年3月

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【投稿】維新=安倍政治終焉のチャンス 統一戦線論(58)

【投稿】維新=安倍政治終焉のチャンス 統一戦線論(58)
アサート No.496 2019年3月

<<「投げ出し交換選挙」>>
3/21に大阪府知事選、3/24に大阪市長選が告示され、4/7に投開票されることとなった大阪のダブル・クロス選挙の帰趨は、安倍政権の命運をも左右すると言えよう。
松井一郎・大阪府知事と吉村洋文・大阪市長は、2人がそれぞれの立場を入れ替えて立候補する。まったく党派的思惑、私的政治的な打算だけで、任期途中に、ともに経験も職責もない、市と府の役割の違いも無視して、互いのポストを交換しようというのである。立場を入れ替わることで、半年後の任期満了を待たずに、それぞれの任期を丸々4年間引き延ばし、居座ろうという、これほどあからさまな、住民不在の党利党略、有権者を置き去り、無視した、脱法的行為はないと言えよう。
「どの面下げて選挙」「投げ出し交換選挙」と言われるようなこんな奇策に追い込まれた経緯が明らかにしていることは、維新政治が瀬戸際に追い込まれている現実の反映でもある。それを巻き返す最後の手段としてこんな投機的な賭けに打って出たのであろう。カジノを誘致せんとする維新は、まさにこのダブル・クロス選挙をカジノの賭場と見立てているのである。
維新が掲げる「都」構想は、「二度と住民投票を行わない」という前提(2015維新の会HP掲載「今回が大阪の問題を解決する「最後のチャンス」です。二度目の住民投票の予定はありませ。」)で2015年5月17日に実施され、反対(得票率50.4%)、賛成(得票率49.6%)でたとえ僅差といえ明確に否決されている。決着済みなのである。
その後の現実は、維新以外に「都」構想などという怪しげな集権主義に賛成・支持する政党や政治勢力はは存在していないし、広がりや支持の拡大さえ見込めていない。維新の前代表である橋下徹氏からさえ「今の状況で、都構想の必要性が(市民に)うまく伝わっていない」、「無理してやらない方がいい」と突き放されていたものである(2018/1/25朝日新聞インタビュー)。その「都」構想を再び住民投票に持ち込むためには、府・市両議会の過半数超えの支持を取り付け、議決しなければならない。しかし両議会で維新は過半数に及んでいないどころか、肝心の大阪市議選で過半数を制することはほぼ絶望的である。維新は、都構想が争点になった堺市長選でも敗北し、2017年の衆院選でも議席を減らしている。
そこで登場したのが、2015年大阪都構想住民投票では自主投票の立場をとっていた公明党との「密約」の存在を暴露する脅しであった。公明党と維新は、2017年4月17日付で「特別区設置協議会において、慎重かつ丁寧な議論を尽くすことを前提に、今任期中で住民投票を実施する」との密約を交わしていたのである。この時点で公明は、維新との密約を維持することで、国政選挙での「選挙区棲み分け」を継続することを優先させていたのである。しかし、松井知事は昨年末12/26、密約していたこの住民投票の実施に煮え切らない公明に業を煮やし、「もういい、全部ばらす」として記者会見でこの「密約」を暴露、「責任ある政党なら合意書に基づいた対応をしていただきたい」と開き直ったのである。表向きは都構想を批判しながら、こうした裏取引に応じていた公明の責任も重大である。公明という名とは裏腹な、維新・公明の陰湿な関係を表面化させ、有権者をあきれさせてしまったことには多少の意義はあるかもしれないが、政治不信をさらに増大させてしまったことは確実である。

<<“親維新”安倍首相の孤立化>>
しかし、こうした事態に最も困惑しているのは安倍政権、とりわけ安倍首相本人と菅官房長官であろう。松井維新代表があくまでもこうした強硬・強気姿勢を崩さない、崩せないのはなぜか。それは第一には、統一地方選とのダブル・同時選挙に持ち込まなければ、埋没しかねない維新の統一地方選候補を押し上げられないという切羽詰まった状況に追い込まれてしまっていることにあろう。
しかしそれにもまして維新を最も公然・隠然、支持し支え続けてきた安倍政権の存在こそが維新を暴走させていると言えよう。首相と官房長官は、維新代表の松井氏、前代表の橋下徹氏と、頻繁かつ定期的に食事を共にし、意見を交換する密接な関係で結ばれていることは周知の事実である。安倍首相が悲願とする憲法改正では、維新の協力が不可欠であり、維新は公明よりも公然と改憲を主張し、安倍政権を叱咤激励している。維新政治と安倍政権は一体なのである。互いに気脈を通じ、公明への対処も話し合ったであろう。松井氏らが誘致を進めた2025年の国際博覧会(万博)の大阪開催も、安倍政権の肩入れで実現にこぎつけた経緯もある。
こうした蜜月関係の中で、維新が敗北するようなことになれば、それは安倍政権への直接の打撃となり、改憲戦略は一気に崩れ、政権崩壊の引き金になりかねないのである。その及ぼす影響は単なる一地方首長選挙の域にはとどまらないことは、歴然としている。
しかも今回の場合、府知事、市長とも敗北すればもちろんのことであるが、府知事、市長いずれかだけで敗北しても、都構想は断念せざるを得ず、維新としては致命的な敗北であり、起死回生は望めないと言えよう。
安倍首相は、3/14、自民党大阪府連の要請に応じて小西禎一・府知事候補と一応会見して「必ず勝利しよう」と激励の言葉をかけたが、菅官房長官は同席しなかったという。安倍首相の真意は維新の側にあったとしても、表向きは自民党総裁としての対応せざるを得ず、昨年の総裁選では大阪府連に支援してもらった借りがあり、維新を「思いあがっている」と批判し、安倍総裁四選まで支持する二階幹事長を配慮せざるを得なかった、というところであろう。首相サイドは今回のダブル選を「あちらを立てればこちらが立たず」(側近)と述懐しているが、一種の孤立化である。

<<想定外の事態>>
時事通信が3/8-11に実施した3月の世論調査で、安倍内閣の支持率は前月比3.4ポイント減の39.0%、不支持率は1.9ポイント増の36.4%となり、支持率下落傾向が明らかになりつつある。厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査問題や、沖縄県の県民投票で反対が多数を占めた名護市辺野古移設をめぐる政府対応が影響したとみられる、と報じている。潮の変わり目ともいえよう。
安倍一強支配に胡坐をかき、野党分断と改憲への補完勢力として維新を手なづけ、着々と9条改憲を準備していたはずの安倍政権にとって、支持率低下に追い打ちをかけるような今回の事態の進展は、安倍首相にとっては想定外のことであろう。
そして安倍首相の意に反して、“反維新”で自民、公明、立憲、国民、共産の主要政党が結集し、包囲網が形成されれば、いくら“親維新”の安倍政権であっても、それを押しとどめることはできない段階に入ってしまったと言えよう。
これを決定的なものにし、今回のダブル・クロス選を維新の自滅選挙とさせる絶好の機会到来として、安倍政治終焉のチャンスとさせるのは、“反維新”の共闘であり、広範な草の根の市民・府民の力を結集した多種多様な統一戦線の形成である。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.496 2019年3月

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【書評】 『米軍が恐れた「卑怯な日本軍」─帝国陸軍戦法マニュアルのすべて』

【書評】 『米軍が恐れた「卑怯な日本軍」──帝国陸軍戦法マニュアルのすべて』
(一ノ瀬俊也、文春文庫、2015年、730円+税)

本書が取り上げる主な米陸軍の兵士向け対日戦マニュアルの原題は、“The Punch below the Belt”(1945年8月)である。直訳すれば、「ボクシングで相手のベルトの下を狙う(卑怯な)一発」ということになるが、本書ではわかりやすく、これを『卑怯な日本軍』として紹介する。
さてその出だしは次のようである。(以下、『・・』はそれぞれの原著からの引用である。)
『日本軍は卑怯な手を好む。戦争の歴史上、背信とずる賢さにおいて日本軍にかなう軍隊は存在しない。真珠湾のだまし討ち以来、アジアや太平洋の島での作戦を通じて、日本軍はあらゆるトリック、優勢を獲得するためのまやかしを使った。今や彼らはどんどん追い詰められて劣勢を強いられ、自殺的な戦いをしていることを自覚している。(略)日本兵と戦う将兵がまず学ぶべきことは、どんな状況でも奴らを信用してはならないということだ』。
前線の将兵向けということもあり、その基調は日本軍への差別や憎悪に満ちていることを念頭に置いておかなければならないが、 日本軍の繰り出す「策略」は、四つのパターンに分類されるとする。
「①降伏するふりをする、②傷を負ったり死んでいるふりをする、③我が軍の一員のふりをする、④友好的な民間人のふりをする、である。『すべては我々を油断させて殺したり、捕虜にしたり、混乱させたり、資材や設備を破壊するため』であり、これまで戦場から報告されている策略のうち少なくとも九〇%は、それら四つのトリックのうちの一つであるとされる」。
例えば「②死んだふり」についての報告では、『クェゼリンでは、日本兵が戦友たちの死体の中に、目標がすべて現れるまで、完全に身をさらして寝そべっていた。米軍の下級将校が、これらの生きている死体のすぐ横に長い間立って、完璧な目標を提供した。けれども日本兵はあえて彼を撃とうとせず、他の数人がやって来るまで、死んだままでいた』。
この他、欺騙(ぎへん)戦術(軍の強さや意図について誤った印象を与える戦術)、忍び込み、通信に介入、待ち伏せ、狙撃兵、偽装とダミーの兵器や陣地の設置、地雷、仕掛け爆弾が、ガダルカナル、ニューギニア、ペリリュー、ソロモン、ビルマ、セブ等の諸戦線での事例で詳細に説明されている。
なかでも地雷と仕掛け爆弾が、米軍の機械化戦法に追い詰められた日本軍の「対米戦法」の中心的兵器として活用されたという事実が指摘される。
すなわち、「日本軍が米軍陣地に突撃すると『主抵抗線の前面に全火力を集中するを主義とするが、後方にも多数の機関銃、迫撃砲を排列し、砲兵火力とあいまって陣内における強靭な抵抗を企図す』(『米英軍常識』、教育総監部、1943年)るのが米軍のやりかた」であり、日本軍の白兵攻撃を猛烈な火力で破砕する(阻止弾幕射撃)。また日本陣地に攻撃してくるときには、「連日昼夜の別なく猛烈な砲爆撃を行って人員を殺傷、陣地設備を破壊、ジャングル地帯も約一か月で清野と化し、その支援下に歩兵を進め」たとしても、「戦車に歩兵が膚接(近接)して突撃してくることは少ない。(略)じりじりと火力・機械力で押してくるのである」(ソロモン諸島ニュージョージア島での記録、1943年8月、日本軍撤退)。
このような圧倒的な火力という現実を見、米軍の強大さに対抗手段が存在しないことが認識されたにもかかわらず、日本軍は「伝統」の白兵・肉弾戦に執着する希望的観測と、(国民性から見れば)「ひたすら人命を奪えばアメリカは折れる」、「〇〇の戦場で××人殺した」などという空想的ではあるが、一見客観的に思える「戦訓」が付け加わって、とにかく米軍を足止めして人命を奪い戦意をくじき、戦争を遂行するということに一縷の望みをかけはじめたのである。その結果、土壇場での「対米戦法」として登場したのが、地雷と仕掛け爆弾であった。
その詳細は本書を見ていただきたいが、米軍の報告書には『作戦のなかで遭遇した地雷は量も質も多数であった。標準的に製造された地雷の使用は例外であった。地雷を即製で作るなかで、撃針用の針から手榴弾用の水道管まで、あらゆるものが使用された』(フィリピン、セブ島の戦闘工兵大隊の報告書、1945年7月)と述べられている。それは米軍の対日戦法に無力であった日本軍の必死の抵抗と工夫の跡でもあった。
このような急造の地雷や仕掛け爆弾による抗戦は戦争の状況を変えるには如何ともし難いものであったことは明らかである。しかし地雷は「敗勢挽回の焦りの中でプロの軍人たちの頭ではいつのまにか一発逆転の決戦兵器へと変化してしまっていたのである」という本書の指摘は、兵士を「一個の“地雷”視」する特攻作戦すら実行した日本軍の本質を言い当てている。
なおここでは詳しく紹介する余裕はないが、米軍が日本軍を『卑怯な日本軍』として描いたのと同様の構図を、かつての日本軍が中国軍に対して描いていたということも言っておかなければならない。
例えば上述の「死んだふり」について、『手榴弾教育の参考』(陸軍歩兵学校集会所、1939年)には、『攻防いずれを問わず敵〔日本軍〕の射撃などに対して仮死を装い、敵兵が近接すると不意に乗じて手榴弾を投擲する方法をしばしば実行する』とある。
本書はこれについて、「死体のふりという罠は、(略)『卑怯な日本軍』の専売特許ではなかったということになるし、対米戦で追いつめられた日本兵がかつて体験した中国軍の戦法を想起し応用した、という可能性もなくはない」と指摘する。追いつめられた中国軍と追いつめられた日本軍との対応の類似は興味深い。双方の軍の相違とともに探求されるべき課題であると言えよう。(R)

【出典】 アサート No.496 2019年3月

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【投稿】問われる野党共闘の内実 統一戦線論(57)

【投稿】問われる野党共闘の内実 —統一戦線論(57)—

<<「あの悪夢のような」>>
野党の質問と追及をせせら笑い、適当に口から出まかせでその場を取り繕う、安倍首相のウソとごまかし、暴言と妄言、その支離滅裂がいよいよ御しがたいものになってきたと言えよう。
新春早々、1/6のNHK日曜討論「あそこのサンゴは移している」という大ウソ発言以来、勤労統計の偽装が暴露され、厚労省や総務省が2018年の実質賃金はマイナスであることを認めているにもかかわらず、平然と「最高水準の賃上げが続いている」(2/10、自民党大会)とまたもやウソをつく。何の臆面もなく、「成長と分配の好循環によって、アベノミクスはいまなお進化をつづけています」 「この6年間、三本の矢を放ち、経済は10%以上成長しました」「戦後最大の国内総生産(GDP)600兆円に向けて、着実に歩みを進めてまいります」と言い放ったのである。
ところが、基幹統計である勤労統計の手抜きと賃金かさ上げを「首相案件」として当時の首相秘書官が厚労省に圧力をかけたことを追及されると、安倍首相は「統計なんかに関心を示すわけない。根本的に知らない」と開き直る。これでは自ら偽装統計を根拠に誇大宣伝してきた「戦後最長の景気回復」「最高水準の賃上げ」とは何だったのか、「統計なんかに関心を示すわけない」本人はもちろん、政権・与党幹部でさえ釈明しがたい、手の付けられない事態である。「賃金増」は虚構、家計消費も減、「戦後最長の景気回復」どころか「景気悪化」の深刻化、これでは、消費税増税の根拠は総崩れである。ここまでくると、次なる手として消費税増税再延期を掲げて衆参同日選挙を画策する手の内が見え隠れするのも当然と言えよう。
2018年の実質GDP成長率平均値は、かさ上げされた数値でも+1.3%で、景気が最低最悪と言われた民主党政権時代の+1.7%をも大幅に下回っているのである。もちろん、一人当たり実質賃金は約5%も減少している。それでも所得をめぐっては、毎月勤労統計でも、実質の値がマイナスであることを認めざるをえなかったにもかかわらず、「名目では良くなっている」と強弁する。
安倍首相は先の自民党大会で、前回の亥年選挙で参院選に敗北した経緯に触れ、「(その後)あの悪夢のような民主党政権が誕生した。あの時代に戻すわけにはいかない」と、強い口調で呼びかけた。安倍首相にとってはよほどの「悪夢」であったのであろう。しかしこの表現、暴言・妄言のたぐいである。「悪夢」の撤回を求められて、「言論の自由」などと見当違いの答弁しかできない。民主主義を深める「言論の自由」ではなく、民主主義を貶める暴言でしかない。底の浅さが自覚できないのである。そして答弁に詰まると、「総理大臣でございますので、森羅万象すべて担当しておりますので、日々さまざまな報告書がございまして、そのすべてを精読する時間はとてもないわけでございます。世界中で起こっている、電報などもあるわけです」(2/6、参院予算委)と、都合の悪いことはひたすら逃げる。森友問題で追及された時には、「森羅万象、私が説明できるわけではない!」とキレていたのが、手のひら返しである。
当然の結果として、首相が自慢するアベノミクスの実態は、その「悪夢」のような民主党政権時代をも下回っているのである。「悪夢」は安倍政権自らに命名されてしかるべきなのである。
そして首相の暴言・妄言は、さらに続く。2/12の衆院予算委では、総額6000億円超に及ぶ地上配備型ミサイル防衛システム「イージス・アショア」導入について、その必要性に疑問を投げかけられると、こう言ってのけた。「まさに陸上においての勤務となる。これは(洋上勤務となるイージス艦とは)大きな差なんですよ、全然ご存じないかも知れませんがね。(隊員が)自分の自宅から通えるわけですから。勤務状況としては違うんですよ。そういうことも考えていかなければいけない」。まるで「自宅通勤の戦争」礼賛発言である。この危なっかしい仰天答弁が安倍政権では堂々とまかり通っているのである。
そこへさらに、自衛官募集に自治体の協力が得られていないから、憲法9条に自衛隊の明記が必要だ、「自治体の6割以上が自衛隊の募集業務に協力していない」などと言い出した。9条改憲の根拠が突如変わってしまい、事実や実態を歪曲し、将来の徴兵制につながりかねない個人情報収集義務を地方自治体に強制する、「自衛隊募集に協力しない自治体があるから、憲法を変える」という論理展開である。底意を自ら露呈する底の浅さを、改めて示したとも言えよう。
もはや安倍首相には、政権担当能力も職務遂行能力も根底的に疑われる段階にきていると言えよう。

<<内閣の支持率は上昇?>>
ところがである。各メディアの世論調査は、安倍内閣の支持率は上昇しているという。1/27の日経新聞の世論調査では、安倍内閣の支持率が前回から6ポイント上昇して53%、不支持率が前回から7ポイント低下して37%と大幅に好転、同じく読売新聞の世論調査でも、内閣支持率は2ポイント上がって49%、不支持率は5ポイント下がって38%だという。2/15発表の時事通信の世論調査では内閣支持率は前月比1.1ポイント減の42.4%だったが、不支持率も微減。2/13のNHK世論調査では、安倍内閣 支持44%、 不支持37%、安倍内閣を「支持する」と答えた人は、先月の調査より1ポイント上がって44%だったのに対し、「支持しない」と答えた人は先月より2ポイント上がって37%であったという。政党支持率は、自民党37.1、立憲民主党5.7、国民民主党 0.6、公明党 3.3、共産党 3.1、日本維新の会1.2、自由党0.2、社民党 0.4、支持なし41.5、であった。ここ数年、世論調査で自民党の支持率が35%から40%で、他の少数諸野党に対して圧倒的に高く、野党はすべて合計しても10%程度という悲惨な状況である。
その象徴が、2019年最初の注目選挙であった山梨県知事選挙の結果であった。現職の旧民主系候補に対し自民系が一本化した推薦候補を擁立、1/27投開票の結果は、自・公推薦の長崎幸太郎(無所属・新)氏が19万8047票で、立憲民主党や国民民主党が推薦した後藤斎(無所属・現)を3万票差で破ったのである。「民主王国」とも呼ばれていた山梨県での野党側の完全な敗北である。自民党県連を二分するほどまでの保守分裂を克服したしたたかさや狡猾さが、バラバラで連携も結束も意気も上がらない野党側を上回ったのである。野党は結集よりも、分裂に向かっている実態が浮かび上がったのである。
しかもここでは前回に続き2度目の県知事選出馬の共産党山梨県委員長の花田仁氏が立候補、16,467票(得票率4.1%)で、前回2015年の 49000票(得票率17.5%)を大幅に下回る、共産党の2000年代の最低の得票数・率を更新するという最悪の事態である。共産党の小池晃書記局長は、「(今回の)選挙戦では、中央政府言いなりの(山梨)県政ではなく、暮らしを守り、地域経済を元気にする県政への転換を訴え、多くの県民の皆さんの共感が得られた。勝利には至らなかったが、掲げた公約の実現のため、県民の皆さんと力を合わせる」というコメントを発表したが、こんな得票でどこに「多くの県民の皆さんの共感が得られた」というのだろうか。このところしきりに「本気の共闘」で“安倍政治サヨナラ選挙”を呼号しているが、実態は相も変わらずのセクト主義と民族主義によって、野党共闘と統一戦線を空洞化させ、大いに安倍政権を喜ばせているのである。この敗北を真摯に反省できなければ、有権者からさらに突き放されるであろう。
2/14に、「立憲野党と市民連合の意見交換会」が開かれ、立憲民主党・福山哲郎幹事長、辻元清美国対委員長、国民民主党・平野博文幹事長、日本共産党・小池晃書記局長、穀田恵二国対委員長、社会保障を立て直す国民会議・玄葉光一郎幹事長、自由党・森裕子幹事長、日吉雄太国対委員長、社会民主党・吉川元幹事長が参加し、市民連合より各野党へ以下の通常国会における7項目の要望が渡された。
1 ねつ造された数字に基づく虚飾のアベノミクスを総括し、正直な政治・行政の回復とエビデンス(事実根拠)に基づく政策形成を図る
2 沖縄県民の意思を尊重し、沖縄県名護市辺野古における新基地建設の即時中止を決断するとともに、普天間基地撤去の道筋をつける
3 米国の言いなりに高価な装備品を購入し、次世代につけを回す防衛予算を徹底的に吟味し、国民生活を守る予算への転換を図る
4 消費税増税を延期し、消費増税対策に名を借りた不公正なばらまき予算を撤回する
5 入管法改正の再検討と外国人労働者導入の制度設計を精査するとともに、人権侵害の温床となっている外国人技能実習制度を廃止する
6 排外主義から国際協調主義への転換を図り、東アジアにおける平和の創出と非核化に向けて、日本が積極的に行動する
7 安倍首相が進める憲法破壊の動きに反対するとともに、安倍政治を終わらせ、個人の尊厳の擁護を基調とした政治を実現するという国民の願いを受け止めて、立憲野党が相互の信頼とリスペクトの上に、国会の内外で協力して戦う
この要望を受け、各党・会派と市民連合の各構成団体から意見交換が行われ、夏の参議院選挙に向けて野党と市民の共闘をさらに強めていくことが確認された、という。

<<国会パブリックビューイング>>
この意見交換会で、安保法制に反対する学者の会・広渡清吾氏は、「市民連合はもともと、2015年12月に当面参議院選挙で野党が共闘して、安倍政権にかわる政権を出すことを目標に結成されたものです。市民と野党が共闘するといったこのスタイルは、日本の戦後政治史の中でも非常にユニークなスタイルのように思います。これは、安倍政権が日本の歴史の中で、ある意味キーになるような政治を展開しているということに対するカウンターとしてあると思います。このユニークなスタイルをどうやって今から、日本の社会を開くために位置付け、そのためのエネルギーを集中させることが私たちにとっての大きな課題であり、今後とも新しく市民連合との意見交換会に参加していただいた野党の皆さんも含めて一緒に参議院選挙に向けて新しい力を社会の中に作り出していく方向で頑張っていきたいと思います。」と述べている。大いに期待されるところである。
この「ユニークなスタイル」とも関連して、国会での聞くに耐えないやり取りや安倍政権の実態が、「~国会を市民に『見せる』(可視化)から、市民が国会を『見る』(監視)に~」=国会パブリックビューイングという新しい活動(法政大学の上西充子教授・#国会パブリックビューイング 代表)で注目されている。国会での質疑応答、首相の暴言・妄言、そのやりとりのビデオを可視化するのである。多くの人々が行きかう街頭、公衆の場で、大きなモニター画面で見ながら、場面場面で解説が行われ、画面には適切なフリップも入れられていて、人だかりの中から怒りや驚き、歓声、笑いや拍手も起こる。NHKや民放のニュースや解説、報道番組で垂れ流される内容希薄な政権持ち上げ番組などとはなどとは比べものにならない懇切さと分かりやすさが人々を引き付けている。実態の暴露、可視化と監視が一体となった活動として、大きく広がることが期待される活動である。
こうした「ユニークなスタイル」を、新しい力をいかに社会の中に作り出していくか、表面的な「絵に描いたような野党共闘」や、あるいは口先だけの「本気の野党共闘」では、たとえ多くの選挙区で候補者一本化が実現したとしても、それは単なる各野党間の取引と棲み分けによる「名ばかり野党共闘」に堕してしまいかねない。人々の共感と期待を真に担える、そして誰もが参加できる、草の根の力に成長させる政策綱領と共闘、多様な統一戦線のあり方が問われていると言えよう。前号に紹介した薔薇マークキャンペーンも、そうした努力の現れと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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【投稿】参議院選挙 勝利のカギは野党共闘の前進だ!

【投稿】参議院選挙 勝利のカギは野党共闘の前進だ!

7月の参議院選挙まであと5ヵ月を切った。一強多弱と言われる中、少なくとも自公と改憲勢力を3分の2以下に減少させることができるかどうかがメルクマールと言える。そこで、自公に対抗する野党勢力に問われているのは、如何に野党勢力の足並みを揃え、一人区(32選挙区)での統一候補を実現できるかどうかである。
そこで、筆者が把握している全国の状況について整理しつつ、今後の課題について考えてみたい。
複数区では、6人区(東京)、4人区(埼玉・神奈川・愛知。大阪)、3人区(北海道・千葉・兵庫・福岡)2人区(茨城。静岡・京都・広島)、そして一人区が32選挙区という中、一人区について、見ていきたい。

<15区(県)で、一本化進む>
共産党候補の去就問題を残しているとは言え、15県で野党統一候補、または立憲民主党と国民民主党との間で調整が進み、候補者の名前が明らかになっている。栃木・群馬・石川・長野・岐阜・三重・奈良・和歌山・岡山・愛媛・長崎・熊本・大分・鹿児島・沖縄である。無所属での野党統一候補擁立となっている県もある。
東北6県は、現状ではまだ調整が進行中である。前回の選挙では東北6県では、野党候補が勝利しており、統一・共闘が実現すれば大きな力となる。新潟は、前回選挙では野党統一候補が勝利、さらに原発再稼働問題を焦点とした2度の知事選挙を通じても野党統一を実現、地域レベルまで「市民連合」が活動している地域である。
問題は残り10選挙区の状況である。滋賀では立憲・国民両党間の調整が難航している。すべての一人区での調整が求められている。ほとんどの一人区では、共産党は候補者の擁立を行っているが、野党共闘・市民共闘重視との方針であれば、候補1本化のための決断も共産には求められており、野党共闘路線の本気度が試されている。

<2人区では若干の混乱>
2人区では、自公・野党が一人ずつ当選ということが最低求められるわけだが、茨城では立憲・国民間で問題が起こっている。現職の国民民主党候補が、立憲民主党への鞍替えを表明。原発関連の電機・電力系労組の力が強い連合との間で軋みが生じている。他方、安倍政権側は自民候補2人擁立の動きも出ている。両党での調整が課題である。京都でも立憲・国民からそれぞれ立候補の動きがある。広島では、現職で野党は一本化している。
このように、2人区では、茨城・京都で、立憲・国民間での競合問題が惹起しており、野党共闘とは名ばかりとなっている。

<3・4人区で野党の戦い方が問われる>
3・4人区には、自民2、または自公で2名が立候補し、野党と激突という構図である。4人区では立憲・国民・共産・自民・公明がそれぞれ立候補する構図となる。前回3人区の北海道では、2議席を野党が獲得。4月の北海道知事選挙では、野党統一候補が実現し、自公候補との一騎打ちとなり、参議院選挙の前哨戦という状況になっている。すでに、共産党を含む全野党と市民連合が石川候補と政策協定を結ぶ方向となっており、注目されている

<立憲民主党と国民民主党、分裂の構造>
こうした選挙区状況を見てみると、野党共闘に大きな影を落としているのが、立憲民主党・国民民主党という旧民進党グループの分裂状況である。
国民民主党は、結党以来支持率が低迷し、統一地方選挙でも、地方議員が国民民主党を離党し、立憲民主党への入党・推薦での立候補という流れが強まり、参議院選挙結果次第では、党存立の危機を迎える可能性が高い。そうであるが故に、安易な妥協ができないというお家事情があるため、野党統一の大きな障害となっている。
同様に、立憲民主党も「安易な政党の離合集散」には組みしないという枝野代表の、頑なとも言える姿勢は、少なくとも野党共闘という課題にとっては、評価できないものがある。
両党の分立状況を抱えつつ、少なくとも一人区では、自公に議席を渡さないという原点に立ち返ることが求められている。

<両党支援という連合の矛盾>
旧民進党が、二つに分裂し、一昨年の総選挙以降連合は、立憲民主党・国民民主党の両党を支援するというスタンスを取っている。自治労・日教組・私鉄総連・情報労連などは立憲民主党支持、電機連合・電力総連・UIゼンセンなどが国民民主党支持と、産別の政党支持は分断されている。そこで大きな意見の違いが、原発再稼働など原発への考え方であろう。国民民主党の玉木代表は、民進党時代の「原発ゼロ」をめざすという考え方に理解を示してはいるが、支持労組の電力総連や電機連合は、脱原発を訴える立憲民主党の候補者には明らかな拒否姿勢であり、野党統一候補への調整や選挙行動において消極的な姿勢で、さらには妨害行動も起きている。
原発再稼働を支持するとは、公言できない。もし、そうなれば国民民主党支持は限りなくゼロになり、政党としても残ることはできない。せめて、原発は将来的に自然エネルギーに置き換えるという姿勢に転換が求められている。連合内も各県連合で色合いが異なっており、市民連合などの統一推進派にも慎重で寛容な姿勢が求められていると言える。

<沖縄県民投票・統一地方選挙・北海道知事選挙で弾みをつけて>
7月参議院選挙までには、2月24日の辺野古基地建設の是非を問う県民投票、沖縄などの2つの衆議院補欠選挙、そして北海道知事選挙など統一地方選挙がある。政権末期状態の安倍政権に対する国民の意思はどう示されるのか。そして、改憲勢力を参議院で3分の2以下にできれば、さらに展望が開かれることになる。
野党統一に本気かどうかで、参議院選挙後も生き残れるかが決まるだろう。総選挙に向けた野党の再編も
その結果次第ということであろう。
立憲民主党・国民民主党・共産党・社民党・自由党などの野党への働きかけを強めて、野党共闘・統一候補で、参議院選挙に勝ち抜いていきたい。(2019-02-19 佐野秀夫)
【出典】 アサート No.495 2019年2月

 

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【投稿】事故を“なかった”こととするため、住民に大きな被曝を強いて帰還させる人権無視の政府―宮崎真・早野龍五論文不正の背景―

【投稿】事故を“なかった”こととするため、住民に大きな被曝を強いて帰還させる人権無視の政府―宮崎真・早野龍五論文不正の背景―
福井 杉本達也

1 福島原発事故、丸8年の恐るべき現実―加速する福島からの避難
2月9日付けの福島の地元紙:福島民友は「福島県立高25校を13校に再編 県教委・実施計画、近隣校 と統合へ」という、福島県民にとってショックな記事を掲載した。再編理由は「本県は少子化が深刻化しており17年3月と比べて28年3月の中学校卒業者数が約5300人減少する見通し」としている。福島県の人口は原発事故時・202万人であったものが、2017年には190万人を割り込み、今年1月では185万人にまで減少している。しかも、女性の減少率は男性の2倍となっており、今後、さらに少子化が進むと見られる。また、共同通信の小さな記事では、放射能から逃げ遅れた飯館村が「三つの小学校と一つの中学校を統合し、小中9年間の教育を一貫して行う『義務教育学校』を設置する方針を決めた。」(福井:2019.2.14)としており、人口減少と共に公共機能もどんどん縮小しており、小さな自治体から解体に近づいていることが伺える。

2 国連人権理事会が日本政府の福島帰還政策に苦言。 日本政府の避難解除基準は適切か?
昨年10月25日、国連人権理事会が日本政府の福島帰還政策に通知を出した。要旨は①日本政府には、子供らの被曝を可能な限り避け、最小限に抑える義務がある。②子供や出産年齢の女性に対しては、避難解除の基準を、これまでの「年間20mSv(ミリシーベルト)」以下から「年間1mSv」以下にまで下げること。③無償住宅供与などの公的支援の打ち切りが、自主避難者らにとって帰還を強いる圧力となっている。というものである。ところが、これに対して、日本政府は、「避難解除の基準はICRPの2007年勧告に示される値を用いて設定している」、「こういった批判が風評被害などの悪影響をもたらすことを懸念する」と反論した。事故直後は半減期が短いセシウム134等が多く、空間放射線量は比較的早く低下するが、事故後8年も経過すると、半減期が長いセシウム137(約30年)からの放射線が空間線量率の大部分を占め、空間線量率はなかなか下がらなくなっている。事故直後と8年後の現在では同じ年間20mSvでも、合計の被曝量は大きくなってしまう(参照:井田真人「ハーバー・ビジネス・オンライン」2018.11.1)。住民に大きな被曝を強い、無理やり帰還させようとし、これを批判する国連人権理事会を逆に「風評被害」と攻撃するとんでもない政府を持ってしまったことを恥なければならない。

3 個人被曝線量は低いと主張した宮崎真・早野龍五論文のウソがばれる
雑誌『女性自身』2月26日号が「東大名誉教授が福島調査で作成 政府の被曝基準論文データは『虚偽だらけ』」という見出しで、伊達市の主婦が2年間にわたり伊達市の被曝隠しに疑問を持ち追い続けた経緯を書いている。伊達市では事故後いち早く、仁志田前市長がガラスバッジと呼ばれる個人の累積線量計を配布したが、線量計は室内に放置されたままだったり、子供のランドセルに入れっぱなしになっていた。この線量計を基にして放射線量が低いからと、主婦が住むCエリアでは除染がなされなかった。これを追及する主婦に、高エネルギー加速器研究機構の黒川眞一名誉教授が協力の手を差しのべた。その中で、黒川氏は伊達市のアドバイザー宮崎真氏・早野龍五東大名誉教授の論文の中に、被曝線量がゼロの人が99%もあるという誤り等々を見つけた。これは「ガラスバッジが正しく装着されていなかったか、解析の過程で自然放射線の部分を引き過ぎたか」であるとして、宮崎・早野論文の誤りを指摘した。結果、市民の被曝線量を実際の3分の1に少なく見積もっていたことがわかった。

4 「空間線量が高いところでも、住んで問題はない」「除染も必要ない」と主張した宮崎・早野論文
宮崎・早野論文は2017年7月に国際専門誌に発表されたが、黒川氏の指摘により、2018年12月27日の毎日新聞で、伊達市・政府と早野・宮崎氏らによる、放射線量を低く見積もり、住民を避難させずに強制的に住まわせようとする犯罪が暴露された。
論文の内容を簡単に要約すると、第一論文では、伊達市は2011年8月から市民を対象としたガラスバッジによる個人線量測定のデータを使い、空間線量率の調査結果から、個人線量を推定する方法を確立するための研究をおこなっている。実測された個人の外部被ばく線量と航空機モニタリング調査における居住する場所の空間線量率を比較し、その比例係数はおよそ0.15倍だった。原発事故による被曝線量は、市内で最も汚染された場所に70年間住み続けても「データの中央値で18ミリシーベルトを超えない」と結論づけた。第二論文では、第一論文の結果を使った解析を行い、住民が受ける追加積算線量を推定し、また、除染が地域全体の個人線量の分布を全体として低減させる効果は見えない、と結論している。論文は、①空間線量が高いところでも、実際の被曝は少ないのだから住んで問題はない。②除染で空間線量が下がっても、被曝量は減らないのだから除染には意味がない。という、非常に政治的な主張になっている。(牧野淳一郎:「ハーバー・ビジネス・オンライン」2019.1.10)。
上記、毎日新聞の記事によると、指摘された問題点は、a) 論文では、約5万9000人分のデータを解析しているが、約2万7000人分について本人の同意を得ていない。b) 論文の著者の一人が所属する福島県立医大の倫理委員会に研究計画書の承認申請を行う前の15年9月に早野氏が解析結果を公表している。c) 図の一部に不自然な点があり、「線量を過小評価するための捏造が疑われる」。の3点であり、早野氏は、 (a) については「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」(c)については「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していたとして出版社に修正を要請した」とし、(b) についてはノーコメントである。a)の同意を得ているかどうかについては、測定に参加した5万8000人あまりのデータが提供されたが、同意しなかった97人と同意書が未提出だった2万7233人が含まれていた。

5 誤った論文を「削除はするが問題はない」とした放射線審議会の異常さ
放射線審議会では「東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線障害防止に係る技術的基準の策定の考え方について」の議論を2回(第141回:2018年6月22日、第142回:9月28日)行ない、宮崎・早野論文を引用した。宮崎早野論文の不正が明らかとなった後の2019年1月25日に第143回の放射線審議会が開催されたが、事務方の佐藤暁放射線防護企画課長は「事務局としては、当該論文の学術的な意義について全否定されるものではないと考えるが、論文の筆者が対象となるデータの影響を認めていること、またこの論文を根拠としない場合でも本審議会の今説明している資料の他の3つはその信頼性を確認しているので、この審議会の結論には影響を与えないのではないかと考える。したがって、当該宮崎・早野論文の引用を差し控えることが適切ではないかと認識している。学術論文としての信頼性が確認された場合には再度掲載するとしてどうかというのが事務局の考えです。今回は引用を差し控える。」と“まとめ”た。要約すれば、早野氏自身が1月8日に論文の誤りを認めたにもかかわらず、事務局としては(a) 「学術的な意義について全否定するものではない。」つまり、個人情報的な問題があっても学術的な意義は否定されない(b) さらに、「論文を根拠としない場合も結論に影響しない」という驚くべき結論を出した(参照:たんぽぽ舎:木村雅英・2019.2.12。上記:牧野淳一郎)。ようするに論文は帰還政策の単なるお飾りにしか過ぎない。いかに被曝線量が高かろうが、住民を強制的に帰還させるという結論は政治的に最初から決まっており、政策の変更はしないというのである。
なお、b)の研究計画書の承認申請を行う前に解析結果を公表したことについて、宮崎氏は2月5日、個人線量測定会社「千代田テクノル(本社:東京都文京区)」から提供を受けたデータを使っていたことを認めた。要するに千代田テクノルにいる教え子に頼んでデータを提供してもらったということである。同社は個人線量計測サービス事業者で、福島原発事故後、福島県内の多数の自治体からガラスバッジによる外部被曝線量測定業務を受託してきた。中でも伊達市とは、2011年8月から、他の自治体に先駆けて契約している。また研究は、仁志田昇司前伊達市長に持ちかけられたことも明かした。宮崎氏はさらに「2014年に伊達市長から、ガラスバッジ測定データの活用について相談を受けたことに端を発し、伊達市依頼の下、データの活用方法について伊達市と綿密なやり取りを行ってきた 。」と説明。論文執筆の背景に、市長の関与があったことを明らかにした。伊達市は住民の不安を打ち消すため、被ばく線量は十分に低いという報告書が欲しかった。その意向を受けた早野、宮崎両氏が不正論文をデッチ上げたというのが結論である(OurPlanet-TV 2019.2.8)。

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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【書評】『餓死(うえじに)した英霊たち』

【書評】『餓死(うえじに)した英霊たち』
(藤原彰、ちくま学芸文庫、2018年7月発行、1,100円+税)

本書は2001年に刊行され、昨年7月に文庫化されたものである。かなり以前の書であるとはいえ、語られる事実は、今なお生々しい。
「第二次世界大戦(日本にとってはアジア太平洋戦争)」について、本書は述べる。
「この戦争で特徴的なことは、日本軍の戦没者の過半数が戦闘行動による死者、いわゆる名誉の戦死ではなく、餓死であったという事実である。『靖国の英霊』の実態は、華々しい戦闘の中での名誉の戦死ではなく、飢餓地獄の中での野垂れ死にだったのである」。
ところで飢餓には「完全飢餓」(食物を全く摂取しないで起こる飢餓)と「不完全飢餓」(栄養の不足や失調によって起こる飢餓)があるが、「この戦争における日本軍の戦闘状況の特徴は、補給の途絶、現地で採取できる食物の不足から、膨大な不完全飢餓を発生させたことである」。この結果病気に対する抵抗力の低下から、マラリア、アメーバ赤痢、デング熱等による多数の死者を出した。
「この栄養失調に基づく病死者も、広い意味で餓死といえる。そしてこの戦病死者の数が、戦死者や戦傷死者の数を上回っているのである」。
「戦死よりも戦病死の方が多い。それが一局面の特殊な状況ではなく、戦場の全体にわたって発生したことが、この戦争の特徴であり、そこに何よりも日本軍の特質を見ることができる」。
本書はこの視点から、アジア太平洋戦争での餓死の実態に迫る。本書で取り上げられる地域は、ガダルカナル島作戦、ニューギニアのポートモレスビー攻略戦およびアイタベ作戦、インパール作戦、敗戦局面でのフィリピン戦、さらにはアメリカ軍の後方に取り残されたメレヨン島やウェーク島の飢餓地獄、そして中国での「大陸打通作戦」である。
その個々の作戦の悲惨な実態は本書に詳細に述べられているが、本書はこれらの諸作戦を通して「何が大量餓死をもたらしたのか」と問う。そしてその原因3点を指摘する。
それらは、①補給無視の作戦計画(=作戦が他のすべてに優先する作戦第一主義と情報の軽視)、②兵站軽視の作戦指導(=兵要地誌の調査不足と現地自活主義)、③作戦参謀の独善横暴(=幕僚が人間性を欠いた作戦も決めた)である。この結果もたらされた凄惨な状況はもろに最前線の兵士たちに降りかかってきた。その状況は辛うじて生還した兵士たちからの証言が物語っている。
そして本書は、こうした事態を招くに至った日本軍隊そのものの特質に迫る。
これについての項目を上げれば、「精神主義への過信」(=白兵主義への固執)、「兵士の人権の無視」(=厳正な軍紀への絶対服従)、「兵站部門の軽視」(=輜重兵科、経理部、軍医部への差別)、「幹部教育の偏向」(=精神教育の重視と陸軍幼年学校出身者の要職独占)等々である。
さらに「戦陣訓」の「生きて虜囚の辱めを受けるな」という「日本軍の捕虜の否定、降伏の禁止というきびしい方針は、戦況不利の場合に日本軍にたいし悲劇的な結末を強制することになった。餓死か玉砕かという選択を、いやがおうなしに迫られることになったのである」。
これについて本書は厳しく批判する。
「尽くすべきことをすべて尽くし、抵抗の手段がまったくなくなっても、捕虜となることを認めない思想、万策尽きた指揮官が部下の生命を守るために降伏という道を選ぶことを許さない方針が、どれだけ多くの日本軍人の生命を無駄な犠牲にしたかわからない。どんな状況の下でも捕虜を許さず、降伏を認めないという日本軍の考え方が、大量な餓死と玉砕の原因となったのである」。
「そもそも無茶苦茶な戦争を始めたこと自体が、非合理な精神主義、独善的な攻勢主義にかたまった陸海エリート軍人たちの仕業であった。そして補給輸送を無視した作戦第一主義で戦闘を指導し、大量の餓死者を発生させたことも彼らの責任である。無限の可能性を秘めた有為の青年たちを、野垂れ死にとしかいいようのない無残な飢え死に追いやった責任は明らかである」。
まさしくこのような戦争を遂行できた構造を明らかにし、その根底的な批判へと導く必読書であると言えよう。

なお兵站部門について付記すれば、本書では、対米英戦争を開始するにあたっても、日本陸軍は基本的には馬編成であったことが指摘されている。そして開戦時までに自動車編成になったのはわずか3個師団のみで(36年度の動員計画では全軍30個師団、人員148万人、馬35万頭であった)、他のすべての部隊に、乗馬、輓馬(ばんば、砲や車をひく馬)、駄馬(荷物を背負う馬)が配属されていた。この事実だけでも、戦車や牽引車や自動車を全面採用していた欧米諸国の軍隊との差は歴然としているが、これは国内の自動車工業の未発達と関係があった。
戦争が拡大するにつれて多数の馬が徴発されたが、軍需品としての馬は戦地に送られて死ぬまで使われた。戦争の全期間を通じて、どれだけの馬が犠牲になったのかは明らかでない。しかし41年開戦当時の陸軍の兵員は228万人、馬は39.4万頭という数字から推定すれば、敗戦時の陸軍総兵力は547万人であったから、100万頭近い馬がいたことになる。
本書は述べる。「日中戦争いらいの損害、とくに戦争末期の大陸打通作戦や南方諸地域での犠牲と、敗戦のさい外地に置きざりにされた数を加えると、戦争による馬の犠牲は、100万頭に近い数に達するはずである。少なくとも生きて還った馬は一頭もいない」と。
「補給の軽視と地誌調査の不足」という日本陸軍の方針がもたらした結果の一端がここにも垣間見える。(R)

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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【投稿】泥沼にはまった安倍外交

【投稿】泥沼にはまった安倍外交
-統一自治体選踏まえ野党共闘再構築を-

「さらば国際捕鯨委員会」
年も押し迫った12月26日、安倍政権は国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明した。1960年代以降国際的に捕鯨は縮小していき、1982年にはIWCで商業捕鯨モラトリアムが採択され、日本も87年には南極海での商業捕鯨を停止した。
これに代わり開始された調査捕鯨も捕獲した鯨肉の一部は食品として流通していることから、事実上の商業捕鯨として国際的な非難を浴びてきた。
2014年には国際司法裁判所で日本の調査捕鯨を商業捕鯨モラトリアム違反とする判決が確定、同年9月のIWC総会でも調査捕鯨許可不発給勧告決議が採択されるなど、日本政府は窮地に立たされていた。
第2次政権成立以降この時まで、安倍は外遊のなかで反捕鯨国19か国を訪問し、経済援助を行うなど「買収」とも言える活動を進めていたが、これらの国々の態度を変えさせる事はできなかった。
そして業を煮やした揚句、ついに国際機関からの脱退と言う暴挙に出たのである。日本は自民党政権下においても、国際協調を基本とした外交を唱えてきたが、今回のIWC脱退はそうした原則の放棄を国際的に宣言する、象徴的な事件となった。
国民生活にとって死活問題ではない商業捕鯨を強行するために、国際協調を破壊する行為は自国第一主義そのものである。
政府の決定に対し、これを1933年の国際連盟脱退に擬える論調が多くみられるが、これを嚆矢として今後、アメリカの後を追うように国連人権理事会やユネスコからの脱退論も安倍周辺から噴出するだろう。
歴代政権は国連安保理常任理事国入りを目指してきたが、この間そうした主張は影を潜めている。
12月22日、国連総会第5委員会で合意された、19~21年の国連予算分担金比率で、日本は中国に抜かれ3位となったことが判明した。
これはGDPからも明らかなように、経済力の反映であるが、国連での発言力が低下するに伴い、国際協調からの離脱傾向は強まっていくだろう。こうした動きこそまさに安倍の言う「戦後外交の総決算」の一環であると言えよう。
安倍は自らの主張が通らず、意見集約が難しい国連のような形態よりも、共通の敵に対する同盟外交を志向している。それこそ「日独伊枢軸」への道であるが、現実は破綻の道を歩んでいる。
この間安倍は対中牽制をめざしているが、フランスとは「ゴーン問題」でギクシャクし、イギリスはEUブレグジットで混乱する中、あらたに捕鯨問題でオーストラリアなどの反発を買う形となってしまったのである。

フランスは素通り
とりわけフランスに関しては、「ゴーン容疑者」の拘留が長期化し、日本国内の刑事事件に止まらず、国際的な人権問題となりつつある。前近代的な日本の捜査機関、司法は、欧米に於いて中世の魔女裁判や江戸幕府のキリシタン弾圧を想起させるものとなっている。
こうしたなか、フランス検察は1月11日、東京オリンピック、パラリンピックの招致活動で贈賄があったとして、JOC会長竹田への捜査を本格化させたことが判った。
ゴーン逮捕以降の日仏捜査当局の微妙な動きについては先月号で触れたが、重大案件に急展開が起こったのである。これに対し安倍支持者からは「ゴーン逮捕に対する意趣返し」との非難が上がった。
時系列的には、東京疑惑については2年以上前から操作が進められており、直接の対抗措置ではないが、ブレストで行われた日仏外務・国防閣僚会議(日仏2+2)に公表のタイミングを合わせたことを考えるなら、ゴーン事件を意識していないとは言い切れないだろう。
日仏2+2ではこうした懸案事項は議題にならず、日本が対中牽制とするインド太平洋地域での軍事協力が論議され、日本側は世界で唯一核兵器を搭載する原子力空母「シャルル・ド・ゴール」との共同訓練を要請し合意された。
会議では重大な懸案事項は論議されず、河野、岩屋両大臣はマクロン大統領とも面会したが「表敬訪問」というセレモニーで終わっており、日仏協調を取り繕うための、及び腰での訪仏であったことは否めないだろう。
一方、安倍は9日から11日での日程でオランダとイギリスを訪問した。昨年11月のG20でマクロンから詰問された安倍は今回2大臣を身代りにし、フランスに降り立つことは無かった。訪仏を避けるため、オランダを利用したと思われても仕方がないだろう。
今回安倍はスルーしたが、フランス政府はルノーと日産の経営統合を要求していることが明らかとなり、いつまでも逃げおおせることはできないだろう。
安倍は10日イギリスでメイ首相と会談し、共同記者会見では合意なきEU離脱を避けるため、英政府の離脱協定案を全面的に支持すると大見得を切った。しかし協定案は15日、英議会に於いて2倍以上の圧倒的大差で否決され、安倍のスピーチは全く援軍にならなかった。
むしろ、多忙を極める時期での訪問は英政府に迷惑をかけただけだったのではないか。さらに17日には日立による原発計画が凍結され、トルコに続く計画の頓挫により原発輸出計画は失敗したが、一連の事案で安倍の外交力の程度が改めて露呈した。
今回日英はインド太平洋での軍事協力では合意したが、薄氷を踏む政権運営を強いられているイギリスに、フランスの様に計画通り空母「クイーン・エリザベス」をアジアに派遣できる余力があるかは未知数であり、日本の思惑通りには進まないだろう。

遠のく「北方領土」
この間の安倍外交の破綻を如実に物語っているのが日露交渉である。安倍は年頭会見で「北方領土のロシア住民には帰属が変わると言うことを理解してもらわないといけない」さらに「ロシアに対し元島民への賠償を求めない」(読売1/8)などと先走った発言をした。
さらに1月9日には自民党の河井外交特別補佐がワシントンで「日露提携は中国の脅威に共同対処するためにも有効」と発言した。
安倍はロシア人が居住する島が日本領になることを既成事実のように述べたうえ、内政干渉に等しい要求を行ったのである。河井に至ってはアメリカに対するリップサービスのつもりであったのだろうが、現在の中露関係を理解せず、ロシアを手駒の様に扱った。
安倍政権の平和条約交渉に臨む姿勢は、74年間にわたり強弱はあるけれども、常にロシアが優位であという現実を直視せず「領土はこれくらい(歯舞、色丹)にしといたるわ」という吉本新喜劇のセリフのような、滑稽と言うほかない対応を続けているのである。
こうした上から目線の発言に対しロシアは態度を硬化、早速9日にロシア外務次官が駐露大使を呼び出し抗議、11日の声明で「クリル諸島は第2次世界大戦の結果ロシア領になったことを認めよ」と重ねて要求した。
こうした雰囲気のなか、14日モスクワで開かれた日露外相会談は当然のことながら領土問題に関する進展はなく、次回の会談が決まっただけだった。
さらにロシアは日本側が会談後の共同記者会見を拒否したと暴露、日本側は「会談ではなく『交渉』だったから会見は開かないのが普通」と詭弁を呈して、会談の内容を隠蔽するのに躍起になった。
ラブロフ外相は会談後の記者会見で「大きな不一致があったことは隠せない」としたうえ「日本が北方領土と呼ぶことは受け入れられない」とも述べ、日本側に「第2次世界大戦の結果を認めなければならない」と伝えたことを明らかにした。
北方領土への米軍配備問題については、9日に在日米軍のマルティネス司令官が記者会見で「現時点で戦力を配備する計画はない」と明言したように、三沢に米軍が展開している現状では、軍事的に必要性のないことは明確である。
また、プーチンとトランプが直談判すればそうしたことは、案外簡単に合意できるかもしれない。それでもプーチンが安倍にトランプから証文をとって来いと求めるのは、踏み絵を踏まそうとしているのである。

国会から自治体選、参院選へ
安倍は外交的なアクションを起こす毎に「敵」を拡大しているようなものである。韓国とは国交回復後最悪の状況となっている。徴用工判決、慰安婦財団解散、と相次ぐ問題提起に対しては「解決済み」との硬直した姿勢を変えず、この間の「レーダー照射問題」については官邸が防衛当局を飛び越えて政治問題化させた。
以前ならオバマが、トランプ政権でもマティスがいれば「留め男」として登場したかもしれないが、1か月以上経過した今での着地点は見えていない。
安倍は国軍保持と言う原理主義的改憲も、北方4島も簡単に見限るポピュリストであるが、「韓国」と「沖縄」=「リベラル」に対してはイデオロギーを超越した生理的な憎悪感を抱いて忌み嫌っているようである。
安倍の周辺は、文大統領が新年会見でNHKの記者に「あなたを指名したのではない」と言ったことに無礼だと批判しているが、文は質問に答えており、河野太郎のほうがよほど悪質だろう。
安倍外交が泥沼にはまる中、通常国会は1月28日召集され、2月24日沖縄県民投票、4月7,21日統一自治体選、沖縄補選、6月26日国会閉会、7月21日参議院選という政治日程がほぼ固まった。
安倍政権は新年早々に発覚した勤労統計捏造問題の早期収拾に躍起になっている。野党は幕引きを許さず、安倍政権に有利なように操作されている疑念がある各種統計を徹底的に精査させるべきである。
増税の前提条件は瓦解しつつあるが、理路整然と政府の経済政策を追求し、消費増税の中止を求めていくべきである。
さらに引き続き新入管法の問題点を洗い出し、政府の思惑を超える共生社会への具体策を確立させ、それらが不可能であれば施行の延期も求めていかなければならない。
大阪W選、衆参W選という不確定要素はあるものの、限られた時間のなか、野党共闘の再構築は最重要、喫緊の課題となっている。そのためには統一自治体選挙の結果を参議院の候補者調整に反映させなければならないだろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【投稿】日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権

【投稿】日立も英原発事業から撤退するのに再稼働を諦めない安倍政権
福井 杉本達也

1 日立も英原発事業からようやく撤退
「コストを民間企業が全て負担することには限界がある」。日立は1月17日、英原子力発電所の新設事業を凍結し、201 9年3月期に3,000億円の損失を計上すると発表した。東京電力福島第一原発事故後に安全対策費が高騰し、三菱重工のトルコ案件を含め、日本の原発輸出は全て暗礁に乗り上げた。欧米企業も苦戦が続き、国家が主導する中国.ロシア勢が台頭する。原発ビジネスは世界で「国策民営」の限界を露呈した(日経:2019.1.18)。第二の東芝かと思われていた日立であるが、英での原発撤退が伝わった11日、日立の株価は前日比9%上昇した。市場は英原発からの撤退を株価に織り込んでいる。「原発のように先行き不透明な事業を持つ企業の株を中長期で持ちたいとは思わない」(投資顧問幹部・日経:同上)というのが投資家の本音である。

2 海外では建設費が高騰し撤退、日本国内では旧式の原発を再稼働させる矛盾
経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は1月15日の記者会見で、福島第一原発事故後に停止している原発について「再稼働をどんどんやるべきだ」と述べた。原発の新設や増設も認めるべきだとの認識を示し、「自治体が再稼働にイエスと言わない。これで動かせない。」と発言した。ほんの10日前、年初の報道各社とのインタビューでは「国民が反対するものはつくれない。反対するものをエネルギー業者や日立といったベンダーが無理につくることは民主国家ではない」と原発村企業としては正反対の本音発言したことで、安倍官邸から激怒されて慌てて官邸に聞こえるように“原発推進”を叫んだのではないかとみられている。中西経団連会長の新春インタビューについて、東京新聞では「経団連と足並みをそろえて原発再稼働を進めてきた安倍政権。『パートナー』のはずの経団連からも見直し論が出てきたことで、コスト高騰で競争力の失われた原発を無理に進めようとする政策の矛盾が鮮明になっている(東京新聞:2019.1.5)と書いた。日立の川村隆前会長は現在、東電の会長でもある。原発村の中核企業である日立の会長が国策に反旗を翻すというのは政府としては全く「想定外」だったに違いない。日立の英原発撤退発表後も安全運転や福島原発事故の収束のためにも「人材、技術、産業基盤の維持、強化は不可欠だ」と強弁する菅官房長官ではあるが(福井:2019.1.19)、先行きは真っ暗である。

3 再稼働を推し進める決定を下した広島高裁の「伊方3号再稼働差し止め却下」
伊方原発の3号機再稼働差し止め訴訟においては阿蘇山の破局的噴火については議論されたが、2018年9月25日に出された広島高裁の決定は、原発の立地の適合性は「自然災害の危険をどの程度容認するかという社会通念基準とせざるを得ない」との判断枠組みを示した。発生頻度は著しく低く、国が破局的噴火の具体的対策を定めておらず、国民の多くもそのことを問題にしていないことを踏まえ、「破局的噴火で生じるリスクは発生可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原発の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが、少なくとも現時点におけるわが国の社会通念だと認めるほかない。そこで原発の運用期間中に破局的噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されない限り、これを前提として立地不適としなくても法の趣旨に反するということはできない。」として、「伊方原発の安全性は欠けていないというのが社会通念だ」と判断。四国電力が想定する火山灰の堆積量は合理的で、非常用電源確保の対策も取っているとし、噴火による対応不可能な具体的危険性は存在しないと結論付けた。しかし、東日本大震災までの原発の設計方針は、予想されるあらゆる事態に対応するには経済的に無理があるので、発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたものであり、これを高裁決定は「社会通念」と呼んでいる。東日本大震災の地震・津波はこの「社会通念」を根底からひっくり返したのであるが、「決定」は、また2011年以前の方針に逆戻りさせ、原発を何としても再稼働をさせるための「開き直り」である。

4 ようやく「破局的噴火」の調査を始めた原子力規制委
今年に入り、原子力規制委員会は2021年度にも、鹿児島湾にある火山「姶良(あいら)カルデラ」の海底に地震計などを設置し、地殻変動の観測を始める方針を出した。極めて大規模な「破局的噴火」が過去に起こった火山のデ―タを集め、原子力発電所の安全審査などに活用するとの方針を示した(日経:2019.1.8)。福井県若狭町にある年縞博物館の水月湖の年縞から、姶良噴火は、3万78年(±48年)前と極めて正確に推定されているが、同噴火によって、水月湖の湖底には火山灰が30センチも降り積もったことが年縞から確認される(年縞は季節ごとに異なるものが堆積することにより形成される。明暗1対の縞が1年に相当し、その縞には過去の気候変動や自然災害の履歴を知る重要な手がかりが記録されており、年代測定の精度を飛躍的に高めることとなった)。火山灰が30センチも稼働中の高浜原発や大飯原発に降り積もれは壊滅である。
カルデラ噴火は普通の噴火とはメカニズムが違い、エネルギーが桁違いである。日本には屈斜路カルデラ、阿蘇カルデラ、姶良カルデラなどがあり、そのどれもが噴火の可能性を持っている。約7300年前に九州南方の海域で起きた「鬼界カルデラ噴火」では、九州地方から西日本一帯にかけての縄文文化が途絶えた。カルデラ噴火は、日本全体では過去12万年間に10回起きている。
また、規制委は昨年12月12日に、福井県にある関西電力の美浜、大飯、高浜3原発について、約200キロ 離れた鳥取県の大山で大規模噴火が起きた場合の火山灰の影響評価を見直すよう関電に指示した。 関電は審査申請の際、3原発敷地内への降灰の厚さを10センチと想定し、規制委は妥当としたが、その後、大山からの距離がほぼ同じ京都市で、約8 万年前の地層に30センチの火山灰層があるとする論文が発表されたことを受けての指示である(福井:2018.12.12)。通常の大噴火であっても、大量の噴出物がまき散らされて、その火山の近辺で大飢饉を起こすだけでなく、世界中に異常気象を引き起こしたというケースはいくつもある。「大噴火」は日本の場合、100年間に4~6回ほどは必ず起きている。だが、20世紀は、1914年の桜島と、1929年の駒ヶ岳で「大噴火」があっただけで、ずっと静かな状態が続いていた。しかし、そろそろ活動期を迎えている。現代社会では、噴火による被害は甚大である。たった1ミリの火山灰で、空港の滑走路は使えなくなり、鉄道も道路も大混乱になる。電線の切断や水道やガスなどライフラインにも大きな影響が出る。雪と違って溶けてなくなるわけではなく、被害は長期にわたる。

5 火山の噴火予知はできない
2014年の御嶽山噴火に続いて、2018年1月の草津白根山の噴火も、警戒レベル1という噴火から遠いと思われてきたものが突然噴火して、大きな被害を生んだ。浅間山や桜島以外のほとんどの火山は観測を開始してから噴火が繰り返されていない。噴火予知のデータとしては不十分である。かつて噴火予知は「見逃し」はないが「空振り」はあると言われた。しかし、地震予知については2017年の秋に政府が“白旗”を揚げが、「噴火予知」も「現在の科学では不可能」ということが明らかになっている。
日本は大規模な噴火や地震が繰り返し起きてきた国である。フィンランドのオンカロ(核廃棄物貯蔵施設)は、安定した地盤に作られていると言われているが、スカンジナビア半島でもこれまで、いくつかの地震があったことは分かっている。そもそも、10万年間という長期間、絶対に地震や噴火が起きないと言い切れる場所など、この地球上にはない。まして、太平洋プレートやユーラシアプレート、フィリピンプレートなどプレートのせめぎ合う地震・火山大国の日本ではそのような場所はない。日立の英原発からの撤退は安全対策費が嵩んだためであるが、既存の再稼働している原発は安全対策を削っているから撤退しないのである。広島高裁はカネに対する欲望を社会に転嫁し、「社会通念」という言葉で表現したが、そろばん勘定で旧式原発の再稼働を推し進めることは必ずや自然のしっぺ返しを受けざるを得ない。

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【投稿】問われる野党の民族主義への同調 統一戦線論(56)

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<<「あそこのサンゴは移している」>>
ウソと詭弁と偽装、そして責任転嫁が日常茶飯事となってしまった安倍政権、新年早々から決定的ともいえる躓きを露呈している。一つは、「あそこのサンゴは移している」という大ウソ。もう一つは、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の悪質極まるデータ改ざん。どちらも、もはや通用しがたい、押し通すことが不可能な、本来なら政権崩壊に連なる性格のものである。
1/6の今年最初のNHK「日曜討論」に登場した安倍首相、沖縄県・名護市辺野古の米軍基地建設工事を巡って、「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移している」と言い放ったのである。とんでもない大ウソ、偽装である。安倍首相は「辺野古へ土砂が投入されている映像がございましたが、サンゴについては(他の場所に)移しております。(砂浜の)絶滅危惧種は(砂を)さらって別の浜に移していくという、環境の負担をなるべく抑える努力をしながら行っているということでございます」と平然と述べたのであるが、これは事実、現実に反する虚言以外の何ものでもない。埋め立て海域全体では実に約7万4千群体の移植が必要だが、現在土砂が投入されている「埋め立て区域2―1」からサンゴは一つたりとも移植していない。試験的に移植したのは、別海域のオキナワハマサンゴ9群体のみであり、サンゴを移植しても生き残るのはわずかで、その移植困難性はすでに学会から強く指摘されており、「そもそも環境保全策にはならない」と指摘されている。沖縄県は政府に対して、「移植対象や移植先の選定が不適切」と指摘し、環境保全措置の不備を埋め立て承認撤回の理由に挙げていることは周知のことである。それを全く無視して、工事を強行しているのである。玉城デニー知事は翌1/7、「安倍総理…。それは誰からのレクチャーでしょうか。現実はそうなっておりません。だから私たちは問題を提起しているのです」とツイッター上で反論したのは当然のことである。
安倍首相は、確認すればすぐわかることを、それさえできないほど、劣化、一人よがりに陥っているか、あるいは実態を熟知しながらそれを平然と否定するほど腐敗してしまっているのである。
この問題でさらに指摘されなければならないのは、NHKの姿勢である。この安倍首相の出演部分は事前収録であり、「討論」どころか独り舞台で長々と持論を展開させ、あげくごまかしようのない“フェイクニュース”を放送したのである。調べればすぐにわかる事実確認すらせず、時間も十分あったにもかかわらず(収録があったのは、放送2日前)、NHKが“フェイクニュース”を垂れ流した責任について、訂正や釈明の姿勢を一切とらず。「番組内での政治家の発言についてNHKとしてお答えする立場にない。事実と異なるかどうかという他社の報道についてもNHKとしてコメントする立場でない」(1/10、NHKの山内昌彦・編成局計画管理部長)と開き直っている。安倍官邸にこびへつらい、忖度するNHK上層部の姿勢があらためて浮き彫りになっている。
首相を先頭にウソと詭弁と偽装がまかり通っているこの政権で、さらに決定的な偽装が明らかにされたのが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」である。法律で定められた「基幹統計」という最も信頼性が問われるデータが改ざんされていたのである。根深き国家的信用失墜事件なのである。
その影響は、雇用保険や労災保険の算定をはじめ国民生活の多岐にわたる分野から、国内総生産(GDP)にまで及んでいる。雇用保険には、失業給付だけでなく、傷病手当金、育児休業給付、介護休業給付など16種類あるほか、同統計は最低賃金、人事院勧告などの指標にも使用されている。したがってこの偽装の深刻さは、実に広範囲に及ぶものである。その意図的な「データ補正」という名のデータ改ざんによって、雇用保険の失業給付、労災保険の休業補償給付、育児休業や介護休業の給付など、さまざまな制度の給付額算定のベースとなる統計が低く抑え込まれ、当然、給付額も減少し、厚労省の発表では、給付不足がのべ2000万人、推計で総額約537億5000万円に達している。。
さらにこの偽装の悪質さは、昨年1月からは「データ補正」のソフトまでつくって、隠ぺいを重ねるもので、この「データ補正」の際にも隠し切れない問題として把握しながら意図的に放置し、昨年6月の現金給与総額が高い伸び率を示した際にもそのデータ変化が疑問視されながらも、組織的に隠ぺいしてきたものである。隠ぺい、放置してきたがための実害も深刻である。賃金台帳は3年保存のため、正確な給付確定ができず、推計による「追加給付」しかできない、しかも対象者のうち1000万人以上の住所は不明であるという。その隠ぺい、放置は、ひとえにアベノミクスを傷つけてはならない、日本経済は「戦後最長の景気拡大」を実現しつつあるというウソを喧伝するためのものであった。

<<「常軌を逸した国」>>
そして昨年来からことさらに煽られているのが日韓関係の緊張激化である。
安倍政権は、これほどのごまかしきれないウソと詭弁と偽装をあくまでも押し通し、切り抜け、目前の4月の統一地方選挙、7月の参議院選挙を乗り切り、内憂を吹き飛ばす格好の標的として、意図的、政治的に、韓国に対する強硬論を煽り、民族主義的な対立激化を押し進めていると言えよう。これに呼応し、さらに倍化さえしているメディアあげての韓国非難・罵倒は異様な日本の言論空間である。当然ながら、4月の天皇退位と代替わり、その宗教儀式としての大嘗祭も、安倍政権にとってまたとない民族主義高揚のチャンスとして、政権浮揚に利用されている。
1/11、自民党が行った外交部会・外交調査会の合同会議では、出席した議員から「韓国人に対する就労ビザの制限」や「駐韓大使の帰国」「経済制裁」などを求める声が相次ぎ、「徴用工判決」「レーダー照射事件」は韓国・文政権が仕組んだ策略だと放言し、内閣府政務官である自民党の長尾敬衆院議員に至っては、「一般論として、内戦などで危険な国へは渡航制限がなされます。今の韓国の様に、常軌を逸した国へ渡航した場合、日本人が何をされるかわかりません。感情だけで理が通じない。協議や法の支配、倫理、道徳も通用するとは思えない。先ずは、日本人の韓国への渡航を控えるなど出来る事はある筈です。」とツィートしている。
朝鮮半島を暴力的・軍事的に植民地支配したのは日本政府であり、徴用工問題は、三菱や新日鉄住金などの日本企業が、朝鮮半島の人々を労働力として不法に強制動員してきたことは紛れもない歴史的事実なのである。それを「慰安婦問題」と同様、「解決済み」と強弁し続けることで、その歴史を隠蔽しようとしているのは日本政府のほうであり、国際的にも許されるものではない。現に、日韓両国の政府と最高裁は「請求権協定の下でも個人の請求権は消滅していない」との認識では一致しており、「個人の請求権が消滅したわけではない」(河野太郎外相、昨年11/14、衆院外務委員会)と認めざるを得ないものである。個人の請求権が消滅していない以上、その実現、救済の問題は残されており、安倍政権がなすべきことは、日本の植民地支配とその下での人権侵害の責任に謙虚に向き合い、被害者の人権回復と救済に向けた努力を誠心誠意尽くすことなのである。それを「韓国側によって協定違反の状態が作り出されている」と突き放し、「責任を負うべきは韓国側」(1/15、菅官房長)などと居直っているのである。
韓国の文大統領が「〔徴用工問題は〕韓国政府がつくりだした問題ではなく、不幸な歴史によってつくられた問題だ。日本政府はもっと謙虚な立場をとらなくてはいけない」と語ったのは至極、当然なのである。自制心を失って「常軌を逸し」ているのは、日本政府であり、「レーダー照射事件」もそのために利用されており、安倍首相自身が強硬論の先頭に立っているのである。それはまた、危機感をあおり、野党をかく乱するための計算された策略でもある。

<<頼もしい援軍>>
問題は、この策略に野党が乗せられてしまっていることである。とりわけ、安倍政権を退陣に追い込み、野党共闘のかなめとならなければならない立憲民主党の立ち位置が、こうした民族主義的な扇動に乗せられ、迎合さえしていることである。
立憲民主党は、新年早々、「枝野代表、福山幹事長と仲間の国会議員達」が伊勢神宮を参拝し、公式ツイッターで「本日4日、枝野代表は福山幹事長らと伊勢神宮を参詣し、一年の無事と平安を祈願しました。」と報告している。なぜ、わざわざ安倍首相一行と「同日」に「同じ伊勢神宮」に「代表、幹事長、蓮舫副代表と仲間の国会議員達同道で」行く必要があるのか。歴代首相が伊勢神宮に参拝して年頭会見を行うこと自体、憲法の政教分離(憲法20条3項 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。)に反するものである。その伊勢神宮の参拝をめぐって、立憲民主党の逢坂誠二衆院議員が昨年1月に、「伊勢神宮の活動に関する助長、促進につながるものと考える」「憲法20条に反するのではないか」との質問主意書を政府に提出、問いただしていたものである。この「助長、促進」になぜ立憲民主党の幹部が揃いも揃ってやすやすと乗せられてしまったのか、その思慮の足りなさが、立憲民主党のふがいなさの象徴ともいえよう。
さらに「レーダー照射問題」をめぐっても、1/19、枝野代表は「いま我々が承知している範囲では、明らかに我が方に理があると思っている」と安倍政権を弁護している。この問題をめぐっては、安倍政権が先鋭化させている緊張激化ではなく、緊張緩和をこそ要求すべきなのである。
こうした民族主義迎合路線は、共産党も同罪と言えよう。1/6放送のNHK「日曜討論」各党党首インタビューで、「日本とロシアの関係で、平和条約や北方領土問題をめぐる政府の交渉をどう考えますか」と問われて、共産党の志位委員長は、「歯舞、色丹の返還で領土問題はおしまい、それ以上の国後、択捉などの領土要求は放棄する。これはとんでもないことで、私たちは、絶対にやってはならないことだと、思います。全千島列島が日本の領土だということを正面から訴える交渉をやってこそ、道が開けるということを、私は、強く言いたいと思います」と答えている。安倍政権以上の領土要求で、緊張激化路線を鼓舞し、民族主義迎合路線を下支えしているのである。日韓、日中間の竹島、尖閣列島問題をめぐっても、共産党は民族主義的な「独自領土論」・「固有領土論」を執拗に展開しており、安倍政権にとっては、利用できる頼もしい援軍とも言えよう。問われているのは、こうした野党の民族主義への同調なのである。

<<薔薇マーク・キャンペーン>>
政治に対する信頼は地に墜ち、安倍政権退陣への絶好のチャンスが到来しているにもかかわらず、安倍政権のかく乱戦法と民族主義的扇動に振り回されているのであろうか、野党共闘は一向に前進した姿を見せるに至っていない。
こうした事態を打開するために、この1/5、「反緊縮の経済政策」に賛同する立候補予定者を薔薇マークに認定し、有権者にアピールする「薔薇マークキャンペーン」が始動し、そのキックオフ記者会見が2/1に開かれることが発表されている。(ホームページ https://rosemark.jp)
その「趣意書」では、<2019年は、4月の統一地方選挙から7月の参議院選挙と、日本の今後が決まる重要な年になります。残念ながら野党側は、民主党政権のイメージをいまだ払拭できないままで、有権者に安心と希望を与える力強い経済政策を提起できていません。…
今度こそ安倍自民党に選挙で勝たなければなりません。そのためには野党は、人々の生活を良くするための経済政策を最優先の課題として争点にしなければなりません。強者から優先的に税金を取る所得再分配の考えに立ち返ること。介護、医療、保育など、人々が不安に思っている問題の解決に、圧倒的に投資すること。そのことで経済を底上げしてまっとうな雇用を拡大し、人々の暮らしを豊かにすることを、真っ向から訴えるべきです。私たちは、その過程で、政党を問わず、「反緊縮の経済政策」を打ち出す立候補予定者個人に、「薔薇マーク」を認定します。「薔薇マーク」は、人々が豊かな生活と尊厳を求める世界的な運動の象徴です。薔薇マークキャンペーンは、人々の抱える生活不安を希望に変える、新たな波を起こすことができると確信します。>と述べ、
<薔薇マーク認定基準として、財政規律を優先させる緊縮的な政策は正しくないと考え、おおむね以下の反緊縮の経済政策を第一に掲げている立候補予定者を「薔薇マーク」に認定します。>として
1. 消費税の税率を5%に
2. 100 万人分のまっとうな労働需要を追加創出
3. 同一労働同一賃金を実現
4. 最低賃金を1500円に
5. 雇用・賃金の男女格差を是正
6. 違法な不払い残業を根絶
7. 望む人が働いて活躍できる保障を
8. 外国の労働者を虐げて低賃金競争を強いる「労働ダンピング」は許しません!
9. 法人税の優遇措置をなくし、すべての所得に累進課税を
10. 富裕層に対する資産課税を強化
11. 金融機関の野放図な融資を抑制
12. 社会保険料も累進制にして、国保など庶民の保険料負担を軽減
13. 環境税・トービン税を導入
14. 「デフレ脱却設備投資・雇用補助金」創設
15. 健全財政の新たな基準を
16. 財務省による硬貨発行で政府債務を清算
17. 日銀法を改正
18. すべてのひとびとのため公金支出
19. 経済特区制度は廃止
20. ベーシックインカムの導入をめざします
21. 「デフレ脱却手当」で月 1万円配布
22. 社会保障制度を組み換え
23. 地方でも常に仕事が持続するインフラ事業
24. ひとびとの命や暮らしを守るのに必要な施設は建設を
25. 奨学金債務を軽減・解消
26. 教育・保育を無償化
27. 介護、保育、看護などの賃金大幅引き上げ
28. 待機児童ゼロ、介護離職ゼロを実現します
を掲げている。
呼びかけ人には、松尾匡立命館大学教授、森永卓郎獨協大学教をはじめとする経済学者、社会学者、ブレイディみかこさん、斉藤美奈子さん、池田香代子さんら、22名の人々が名を連ねている。その中の一人、西郷南海子さん(安保関連法に反対するママの会)は、<わたしはこれまで、「安保関連法の廃止、立憲主義の回復、個人の尊厳」という立場から野党共闘を求めてきました。でも、なぜ野党は勝てないのか、なぜ自民党が勝ち続けるのか、納得のいく答えに出会えませんでした。そして考えるうちに、この国で生きる多くの人が直面しているのは「来月暮らしていくお金があるか」「来年暮らしていくお金があるか」だということに突き当たりました。もちろんこれはわたし自身の現実でもあります。この現実に正面から取り組む運動として、わたしは「薔薇マークキャンペーン」を支持します。>と述べている。
野党共闘の前進と、統一戦線の質的な飛躍のために、このキャンペーンにも大いに賛同し、期待したいものである。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.494 2019年1月

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【紹介】「日本人と<戦後>」 

【書籍紹介】「日本人の戦後意識 日本人と<戦後>」 新泉社 2018-12発行

 アサートに継続的に書評投稿いただいているRさんが、書評集を出版されました。。「書評論集・戦後思想をとらえ直す」との副題が添えられ、約20年に渡って書き溜められてきた論考が収納められています。
 
 第1章 <戦後>とは何かを考える
 第2章 日本とは何かを考える
 第3章 思想とは何かを考える
 
 3章構成にまとめられ、アサート掲載の<R>署名で書かれた書評も数多く収められております。読者各位には、是非購入いただき一読願えれば幸いです。                         (佐野)
 
 「日本人の戦後意識 日本人と<戦後>」
   新泉社 2018-12発行 ¥2400+税
   https://www.shinsensha.com/books/1955/

出典:アサート No494 2019年1月

 

 

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【投稿】安倍2元政治で噴き出す矛盾

【投稿】安倍2元政治で噴き出す矛盾
―軍拡路線は一元化で暴走―

ゴーンショック
11月に開かれた、ASEANやG20など一連の国際会議は、米中対立を軸としてロシア、中東が絡み合う混沌とした展開なった。
国際情勢が不安定さを増すなか安倍政権は、対中、対露融和を見せる一方、とりわけ中国を仮想敵とする軍拡を進めると言う矛盾した政策を一層強めている。これを、従来の対米追従一辺倒の外交を転換し、リスクヘッジを進める中長期的戦略と見る向きもある。
しかし、自己保身と承認要求の塊である安倍を頂点とする政権に、こうしたグランドデザインが描けるか甚だ疑問と考えざるを得ない。矛盾する動きの背景には官邸に於いて影響力を拡大させる経済産業省と、国家安全保障会議(NSC)―国家安全保障局(NSS)を取り仕切る外務、防衛官僚の勢力争いがあることが明らかになっており「特別なパートナーシップ」を結ぶ国との関係にも影響を与えている。
11月19日、カルロス・ゴーンらが東京地検特捜部に逮捕された。罪状は金融証券取引法違反であるが、無理筋の指摘が国内外からされており、経産省、日産、東京地検の合作による国策捜査であることは公然の秘密となっている。
この間日本とフランスは、2014年の外務、国防担当大臣会合を皮切りに、15年には防衛装備品および技術の移転に関する日仏政府間協定、今年に入り物品役務相互協定(ACSA)を締結、さらには仏海軍艦艇の訪日、自衛隊の革命記念パレード参加など、対中国を掲げ軍事提携を進めてきた。
しかし10月17日には訪仏した安倍と、合同演習の拡大など軍事面での協力を確認したにもかかわらず、手のひらを返したような今回の逮捕劇にマクロンは激怒し、G20で安倍との直談判に及んだ。フランス政府としては安倍政権の一連の対応に不信感を強めたことは疑いなく、今後の軍事協力を含む日仏関係に影を落とすだろう。
10月の日仏首脳会談時、エリゼ宮の記者会見場に、7月末から日光で行方不明となっているフランス人女性の妹が現れ、早期発見を訴えたが捜査は進展していない。一方ゴーン逮捕の当日フランス検察は、一昨年から不明となっている日本人女性の遺体捜索を打ち切ったことを明らかにした。一連の事件に関係性はないものの両国関係を暗示しているかのようである。

ファーウェイショック
中国に対しても融和と対立の狭間で揺れ動いている。安倍はこの間「自由で開かれたインド太平洋戦略」を「構想」と言い換えるなど、「一帯一路」に関わる投資環境の整備に腐心し、10月の訪中では52件の「商談」が成立した。
ところが河野は11月23日ローマで開かれた地中海周辺国の国際会議「地中海対話」に出席、「一帯一路」に関し「透明性があれば歓迎」としたものの、複数の国が借金漬けになっていると批判した。「一帯一路」の西端を意識しての発言であると考えられるが、場違いな発言のそしりは免れない。
またに日本と中国は、電気自動車関連の規格を統一するなど先端技術面での協力を進めているが、ファーウェイ問題ではアメリカに追随し、防衛省、総務省などがファーウエイなど中国製製品の排除を決定した。
安倍は、G20に合わせた米中との首脳会談で、双方の調停役として振る舞い、「90日の休戦」という結果に安堵していたが、とんだちゃぶ台返しにあった。
中国製品の排除を決定したのは、12月初旬でアメリカと英語を公用語とする同盟国(ファイブ・アイズ)と日本のみであり、安倍政権の対応が突出していることが判る。
米中首脳会談時も、裏ではファーウェイに対する捜査は進められていたことが明らかとなっているが、ファイブ・アイズは知っていても日本は知らなかっただろう。
中国外務省は11月7日の記者会見で日本政府の対応に不満を示した。今回の問題ではカナダ人2名が拘束されているが、日本人も2015年以降8名がスパイ容疑で逮捕され、3名に実刑判決が出ている。今後の日本政府の対応次第では、投資環境にも悪影響を及ぼすだろう。今後安倍政権は米中の狭間でさらなる苦しい立場に立たされよう。

蚊帳の外の河野
安倍政権内の矛盾は日露関係に於いてもより深化している。安倍は11月14日の日露首脳会談を踏まえ、領土問題の着地点を「2島+α」に方針転換したことを事実上認めた。
毎日新聞によればこの会談の終盤、両首脳は谷内NSS局長、秋葉外務事務次官、ラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官を部屋に呼び、交渉に入ることを指示したと言う。
今回の日露交渉は元々経産省マターであった。ロシア経済分野協力担当相の世耕は10月の産経新聞のインタビューで「これまでは日本は領土問題が決着しない限り、経済も動かさないとしてきたが、安倍総理がそれを変えてうまくいっている。これを進め平和条約を締結したい」と得意げに述べている。
こうしたなか安倍は最も困難な領土問題を、土壇場になって四島原理主義である外務省にポイと投げ渡したのである。
外相である河野はその場にはいなかったにもかかわらず、 11月23日にローマで日露外相会談が開かれ、難敵ラブロフと相対することになった。
その後のG20首脳会議に合わせて開かれた日露首脳会談にも世耕は同席したが河野は参加しなかったが、両国外相が交渉責任者となることが決められ、難題を押しつけられることとなった。
こうしたことが伏線となり、12月11日の外相記者会見は大荒れとなった。ラブロフが「日本が第2次世界大戦の結果を認めなければ話しにならない」と言い切ったことへの対応を問われた河野は逆切れを起こし、記者の質問を遮り4度にわたって「次の質問」を繰り返した。
自分(外務省)は蚊帳の外であると言いたかったのだろうが、トランプとCNN記者の応酬を想起させるこの醜態は世界に発信された。中国への批判もそうだが、河野は外務大臣と言うより外務省の代弁者であろう。
翌日菅も自身の記者会見で苦言を呈さざるを得なかったが、長期化し弛緩する政権の中で官邸が、官僚と閣僚を制御できてないことが明らかになった。

「空母」保有の目的 
こうした2元政治によって外交が混迷の度を深める中、12月11日新「防衛大綱」と「中期防」の素案が明らかとなった。これは外務、防衛官僚の独壇場で自民党国防族はもちろん自衛隊制服組の意向をも押さえ込んだものとなった。
大綱素案では宇宙空間、サイバー分野、電子戦などの新領域での攻防を重視した、「領域横断(クロスドメイン)作戦」を新たな戦略概念として打ち出した。その意味でこの間の政府調達からの中国製品排除は、新戦略のハード面での先取りであり、これに追随するソフトバンク社の対応は「民間防衛」といえよう。
これとともに焦点化したのが「いずも」級護衛艦の空母化である。鳩山政権で予算化された「22DDH」は改装でF35Bの運用が可能になることは、当時から指摘されていたが現実のものとなった。
今回与党のワーキングチーム(WT)では専守防衛の観点から「攻撃型空母」か否かを巡り自公間で論議が進められ、F35Bは常時搭載せず必要な場合に運用すること、「母艦」とは呼称せずヘリ搭載護衛艦(DDH)のままとすることなど、で決着したが、これらまったくの誤魔化しである。
F35Bが運用できれば十分な攻撃能力を保有することとなり、他国への攻撃に使わなければ攻撃型ではないというのは詭弁である。問題は空母を攻撃に使うか使わないかである。
常時搭載しないと言うのもまやかしである。現在も海自護衛艦の多くは常時ヘリを搭載していないし、アメリカ軍空母も常時艦載機を搭載しているわけではない。航空兵力を保有する海軍は、フランスでもロシアでも必要な場合に空母に搭載し運用しているのである。
WTの論議では公明党が「垂直離着陸のF35Bは離島でも運用が可能で、空母化そのものが不要」と指摘したが、これは正鵠を得ている。そもそも官邸・NSCは空母を離島奪還で使うことなど本気で考えていない。
先の国会で共産党により、石垣島を想定した2012年の陸自の図上(シュミレーション)演習結果が暴露された。このシナリオでは「敵」の侵攻で守備隊はほぼ全滅するが増援で奪還する、ことが想定されている。損害については陸戦だけで「敵」の損耗3821人、味方2901人とされており、石垣島民約4万7千人の被害は考慮されていない。
離島奪還の実例と言える1982年のフォークランド諸島を巡る紛争での戦死者は、海戦を含みイギリス253人、アルゼンチン654人、島民約千人のうち犠牲者は英軍の誤射による3人だけであった。
石垣島の場合「奪還成功」という都合の良い結果でも、膨大な犠牲が想定されており、これからの兵器の性能向上を考慮すると、南西諸島での武力衝突など不可能なのである。
官邸・NSCの狙いは、この間の「いずも」「かが」の南シナ海派遣、さらにはジプチ基地恒久化、インドとのACSA締結、シンガポール艦船整備拠点化計画などを見れば、近い将来南シナ海からインド洋、アフリカ沖までの空母部隊によるパトロールが考えられていると見てよい。
これは「自由で開かれたインド太平洋『構想』」における軍事的プレゼンスの拡大である。海外における権益擁護の為に軍事力を利用することは「専守防衛」の逸脱どころか憲法違反であろう。そのために空母を保有するとは言えないので、「離島奪還」のためという方便を使っているのである。
このように、サイバー戦、空母保有など防衛大綱、中期防の矛先は中国に向けられていることは明らかである。軍拡がこのまま進められれば、危ういバランスの上に成り立っている安倍政権の矛盾はますます拡大することとなる。
安倍政権はこうした混乱を隠蔽し、臨時国会で「移民」法案や「水道民営化」法案を強行採決し、議論の場を封じた後、12月14日に辺野古への土砂投入、18日の新防衛大綱閣議決定などを矢継ぎ早に進めている。
これに対し未だ野党の足並みは乱れているが、2月の沖縄県民投票、4月の沖縄3区補選から統一自治体選挙、参議院選への展望を指し示すことが求められている。(大阪O)

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【投稿】水道民営化法は外資に公共財産を売り飛ばす新自由主義的政策

【投稿】水道民営化法は外資に公共財産を売り飛ばす新自由主義的政策
福井 杉本達也
1 水道事業の民営化
今臨時国会では外国人労働者の待遇を改善せず搾取を強化する改正出入国管理法や大企業の漁業権への参入を認める改正漁業法、水道民営化法など新自由主義的な規制緩和の悪法が相次いで可決成立してしまった。先に、今年3月には種子法が廃止されている。モンサントのような多国籍企業の要求を受け入れ、遺伝子組換え(GM)種子やF1種子(ハイブリッド種)などが販売されることとなる。GM食物は、除草剤とセットで種子が販売され、一度GM種子が使用されると、元の栽培法には戻れない。日本の農業は多国籍種子企業に支配されることとなる。水道民営化法は水道事業の民営化をしやすくするため、運営権を民間企業に一定期間売却する「コンセッション方式」を導入できる。導入は自治体の判断だが、宮城県や大阪市が意欲を示しているし、既に下水道では今年4月に浜松市が初めて取り入れ、仏ヴェオリア社日本法人などが参加する運営会社が、20年間の運営権を25億円で手に入れている。

2 「コンセッション方式」とは
「コンセッション方式」とは、市が水道資産の所有権を有したまま、水道施設の運営権を民間事業者に設定し、長期間運営を委ねる事業の方式であり、完全民営化とは異なるが、水道利用者から直接料金を徴収し運営を行っていくコンセッション方式は、限りなく完全民営化に近い手法である。下水道では浜松市が初めてであるが、関西国際空港や大阪国際空港(伊丹)、愛知県の有料道路などで同方式が導入されている。運営権は売却が可能であり、水道事業を投資目的に売却することも可能である。なお、浜松市が2018年4月に導入した下水道のコンセッション方式は終末処理場と二カ所の中継ポンプ場のみであり、肝心の幹線管渠は対象外となっている。地中埋設物である管渠は事業開始時に管理状態を確認することが困難で、運営権者のリスク負担の程度が計り知れないという理由で外されている。あくまでも水道事業などへの本格的な方式導入のための可能性調査である。ちなみに、浜松市の水道事業は管路の延長だけで5,000kmもあり、今後50年間の更新投資額は2,900億円(年間50億円)としており、人口減や節水機器の普及などにより需要は減少傾向にあり、今後運営が厳しくなると予想されている(『月刊自治研』2018.8:浜松市水道労組:河村栄二)。外資が水源や配水場などを儲かる施設だけを乗っ取り、老朽化した管渠などはほったらかしにする可能性もある。

3 既に公営水道では外資への窓口業務の委託が進んでいる
福井市のHPではガス水道料金について「平成25年4月1日からガス・水道等に関する業務をヴェオリア・ジェネッツ株式会社に委託し…お客様への応対やメーター検針などをヴェオリア・ジェネッツ株式会社の職員が行います」との案内がある。大阪市水道局や尼崎市も同様の委託がなされている。窓口業務を押さえれば、その公営企業の経営実態が把握できる。河川から取水し、水処理が必要な場合は処理場があるため業務内容を把握するのに少し時間がかかるが、福井市のように地下水(実質は河川の伏流水)を使用する場合は水処理にほとんど金はかからない。水道用に次亜塩素酸ソーダをまぜ塩素殺菌すれば即供給できる。後は水道配管が古いかどうかだけである。日本の水道効率は極めて優秀で、流した水の数十%が途中で漏水や盗水で消えてなくなる諸外国とは異なり、漏水率はわずかに5%程度であり、こうした自治体は外資にとっては喉から手が出るほど美味しいものである。

4 背景に新自由主義を推し進める米戦略国際問題研究所(CSIS)からの指令
安倍二次政権発足直後の2013年4月19日、麻生財務大臣はジャパン・ハンドラーの 米戦略国際問題研究所(CSIS)に呼びつけられ、マイケル・グリーンが司会する中、ハレム所長の前で「アベノミクスとは何か~日本経済再生に向けた取組みと将来の課題~」というタイトルで「規制緩和」という名の外資への公共財産の売却を約束させられた。アベノミクスの「第三の矢」の規制緩和の質問に対する説明の中で、「いま日本で水道というものは世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しているが、日本では自治省以外ではこの水道を扱うことはできません。しかし水道の料金を回収する99.99%というようなシステムを持っている国は日本の水道会社以外にありませんけれども、この水道は全て国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものを全て民営化します。」と約束し、さらに「いわゆる学校を造って運営は民間、民営化する、公設民営、そういったものもひとつの考え方に、アイデアとして上がってきつつあります。」とまで語った(財務省のHPはスピーチの冒頭のみを掲載)。
この麻生の説明の裏には『立地競争力の強化に向けて』という竹中平蔵(国家戦略特別区域諮問会議議員・パソナ会長・オリックス社外取締役)の2013年4月17日付けのペーパーがある。「世界一ビジネスのしやすい事業環境に ~交通・都市インフラの改善」という項目において「・これまで官業として運営されてきたインフラで、利用料金の伴うもの(空港、有料道路、上下水道、公営地下鉄等)について、民間開放を推進。」「・上下水道について、国交省(下水道)、厚労省(上水道)、農水省(農業集落排水)、経産省(工業用水)という縦割りを排し、省庁横断でのコンセッションに係る制度運用体制を構築。」「・また、インフラの延長上で、官業の民間開放の一環として、公立学校の民間委託(公設民営)。」と書き、「・こうしたインフラは全国で約185兆円の資産規模と推計され、全国的に民間開放の動きを進めることで、少なくとも数十兆円規模の財源創出が見込まれる。」としている。麻生のスピーチは竹中のペーパーをなぞったのである。

5 水道は社会的共通資本
経済学者の宇沢弘文は「社会的共通資本は、土地、大気、土壌、水、森林、河川、海洋などの自然環境だけでなく、道路、上下水道、公的な交通機関、電力、通信施設などの社会的インフラストラクチャー、教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本を含む」とし、「それぞれの分野における職業的専門家によって、専門的知見にもとづき、職業的規律にしたがって管理、運営されるもので」、「市場的基準にしたがっておこなわれるものではない」と規定する。さらに「そこから生み出されるサービスが市民の基本的権利の充足にさいして、重要な役割を果たすものであって、社会にとってきわめて『大切な』ものである。」と書いている(宇沢弘文:岩波新書『社会的共通資本』)。人間は水なしでは1日たりとも生きていくことはできない。まさに基本的人権にかかわるものである。こうした社会的共通資本を外資に売り払い、一儲けを企んでいるのが竹中平蔵らの新自由主義者でありオリックスなどの企業グループである。
もう一つ宇沢は「共有地」(コモンズ)という概念を提起する。コモンズとは、ある特定のコミュニティーにとって、「その生活上あるいは生存のために重要な役割を果たす希少資源」であり、その利用にかんして「歴史的に定められたルールにしたがって行動することを要請されている」と定義しているが(宇沢:同上)、外資に運営を任せれば、必ずやコミュニティー(自治体)外の大企業などに水を安く売り払い、住民への料金は値上げするであろう。少量の水を配管で戸別に配水し、料金を徴収するよりも、大口径の配管で大量の水を大企業に供給する方が効率的であり。資本の論理にはかなっているからである。

6 「コンセッション方式」では災害時の対応はできない―関西空港の台風被害
2018年10月13日の日経新聞の社説は「台風が試す民営空港の真価」と題して、「関空をはじめ域内3空港の運営主体である関西エアポートの危機対応能力だ。同社はオリックスと仏空港運営会社パンシ・エアポートが各40%を出資する民間企業。関空については国との契約で2060年まで長期の運営権を持ち、公的設備の運営を「民」が担うコンセッションの先駆けとして注目された。だが、今回の被災では各方面から問題点が指摘されている。被災時に空港島内に取り残された人数の把握に手間取り、バスや船での脱出にも時間を要した。関空に乗り入れる航空会社によると、復旧への取り組みも当初は不十分で、空港再開のメドが全く立たない状態が36時間以上も続いた。政府が介入・主導することで、ようやく復旧作業が軌道に乗ったという。日本航空の赤坂祐二社長が『航空会社のオペレーションについて(関西エアは)経験が多くない』と苦言を呈する一幕もあった。」と書いた。
関西エアと新関空会社の間で結んだ運営権実施契約書には災害時の空港機能の回復がどちらが担うか明記していない。関西エアの対応の遅さや情報開示の姿勢などに航空各社から不満が噴出した(日経:2018.10.26)。国土交通省の事務方は、急ピッチの復旧には人件費や修復費がかさむ。「関西エアポートの対応は、追加負担を極力避けたいという民間の感覚」と国交省幹部は受け止め「日本経済や訪日客の落ち込みを『国難』と考える政府とは危機感がまるで違った」と振り返った(福井:2018.9.22)と書くが、これがコンセッション方式の実態である。当座の資金の節約の為に社会的共通資本を民間に売り渡した場合、どのような結果が待ち受けているかを示す悲惨な例の一つである。

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【投稿】仏「黄色いベスト」運動が投げかけるもの 統一戦線論(55)

【投稿】仏「黄色いベスト」運動が投げかけるもの 統一戦線論(55)

<<トランプとマクロン>>
12/8、トランプ米大統領は広がるフランス政府への抗議デモに便乗して「デモや暴動がフランス全土で起きている。国民は環境保護のために多額の金を支払いたくないのだろう」と述べ、「パリ協定をやめよ」とツイッターで発信した。これに対してフランスのルドリアン外相は翌12/9、仏民放テレビで、不快感あらわに「トランプ大統領に言いたい。われわれは米国内の議論に口出ししない。だから、わが国のことも放っておいてほしい」と反論した。
大規模な抗議デモとなった「ジレ・ジョーヌ」(Gilets Jaunes フランス語でイエロー・ベスト、黄色いベスト)運動は、トランプ氏の軽薄な理解と違って、トランプ氏と同様の金持ち優遇、規制緩和や「小さな政府」路線、市場競争原理主義・新自由主義路線に対する巨大な抗議運動であり、すでにマクロン大統領の辞任を求める政権打倒の運動となっている。
確かにその発端は、「燃料税引き上げは環境政策に不可欠」だとして燃料税増税をさらに進めることを明らかにしたことにある。すでにマクロン政権は発足以来、ディーゼルエンジン用軽油一リットルあたり31セント(約40円)値上げしただけでなく、来年1月には更に6,5セント課税することを議会で可決させている(レギュラーとハイオクガソリンの増税はその半分強)。軽油・ガソリン価格の約6割が税金であり、なおかつ原油価格高騰で2016年6月以来、ガソリンは14,2%、軽油は26,5%値上がりしているところへ今回の増税である。
そのマクロン氏は、2014年、前オランド政権で経済大臣に就任した際には、「ディーゼルはフランスの産業政策の主軸だ」と断言していたのである。長年「CO2が少ないクリーン車」と宣伝され、政府の優遇措置も続き、すでにディーゼル車は、1990年代33%から、2000年50%、2008年78%の保有率に達しており、現在も三分の二の保有率を維持している。マクロン氏は、「環境保護のため」というのを口実として「脱ディーゼル」を掲げ、ここに増税の狙いをつけたのである。しかしこの増税は、低所得層を直撃する一方で、増税分はほとんど脱炭素化には使われず、環境保護の口実に反して安価でクリーンな地方の公共交通サービス網の閉鎖が進められている。フランスの緑の党は、この炭素税の19%しか脱炭素化政策に利用されない点を指摘し、この増税に反対している。
マクロン氏は就任以来、議会過半数確保を背景に、トランプ氏と同様の規制緩和や「小さな政府」路線に基づく「新自由主義的改革」を強権的に推し進め、就任直後には、労働組合の抵抗を押し切って、企業の解雇手続きの簡素化、不当解雇補償額の上限設定などの「労働市場改革」を断行。法人税率の段階的な引き下げ、各省予算の一律削減、雇用契約や農産物貿易の規制緩和や、公共サービス削減など、農村部では郵便局、学校、病院の閉鎖 医療の民営化への段階的な措置などなりふり構わぬ歳出削減を強行。2018年の税制改革では、超富裕層に有利となる金融資産にかかわる富裕税(ISF)を廃止し、逆に、庶民に広く影響のある一般社会貢献税(CSG)の税率引き上げを行い、富裕層に巨額の利益を与える一方、庶民や貧しい層からとりたてる政権への怒りに、「黄色いベスト」運動が火をつけたのである。

<<「民衆の綱領」>>
そのきっかけは、2018年10月10日、2人のトラック運転手がFacebookのイベントを作成、11月17日にガソリン価格の上昇に対して全国的な封鎖を呼びかけたことにあった。その際、“黄色いベスト”を着用して抗議すること、が呼びかけられたのである。2008年に、フランスではすべての運転者に車両の視認性の高い蛍光黄色のベストを搭載することが安全対策として義務付ける法律が可決されている。したがってこのベストは運転する限り誰もが持っている。まさかこの“黄色いベスト”が「マクロン辞任せよ!」の象徴となり、抗議行動そのものが「ジレ・ジョーヌ」と呼ばれるとは、政権側は予想だにしなかったであろう。呼びかけに応じて、全国の約2000のグループが、道路、有料道路料金所、ガソリンスタンド、さらには製油所にまで押しかけ、抗議行動やデモを実行。11月19日の「道路封鎖」の日から主要な高速道路や路線の封鎖が拡大、製油所にまで波及、多くのガソリンスタンドに燃料がなくなる事態となった。次いで翌週の土曜日11月24日には全国行動が呼びかけられ、フランス全土での行動と、大規模デモでパリに集結するよう呼びかけられたのである。この日以来、“黄色いベスト”を身に着けた10万人を超すデモ隊が、週末のたびに、パリ中心部や凱旋門の周辺、各地のショッピング・モールなどに集結し、大規模な抗議行動が展開される事態となった。
パリの抗議行動では、救急車の労働者が労働条件の変更に抗議して国会につながる橋を封鎖、農民が警察の前で肥料を投棄して参加したり、抗議行動を制圧せんとする警察との衝突が各地で発生、これを暴動として、7000名以上もの逮捕者を出している。
メディアは暴動のみを大きく報道するが、この抗議行動の最大の特徴は、単なる燃料税増税反対から、マクロン政権の新自由主義政策全般に対する闘いへ、あらゆる階層の人々が自らの要求を掲げ、マクロン政権に退陣を迫る巨大な大衆運動へと大きく進展していることである。
デモには初期から連帯していた農民団体と貨物労組とともに、フランス労働総同盟(CGT)は12月8日を大規模行動の日に決め、他の労組の多くも連帯を示している。中高校生までストライキや学校封鎖でこの運動に参加し、12/6には360の中高等学校の一時的閉鎖 87の学校が全面閉鎖され、一斉検挙された高校生らが頭の後ろで両手を組まされ、ひざまずかされ、機動隊が声を荒らげて脅している映像が公開され、激しい非難が巻き起こる事態となったのである。
11/29に発表された「民衆の綱領」と題する『黄色いベスト』運動の要求事項は、42項目にわたっており、冒頭、「フランスの代議士諸君、我々は諸君に人民の指令をお知らせする。これらを法制化せよ。」として、最初の10項目では、(ATTAC JAPAN訳)
1)ホームレスをゼロ名にせよ、いますぐ!
2)所得税をもっと累進的に(段階の区分を増やせ)。
3)SMIC〔全産業一律スライド制最低賃金〕を手取り1300ユーロに。
4)村落部と都心部の小規模商店への優遇策(小型商店の息の根を止める大型ショッピング・ゾーン〔ハイパーマーケットなど〕を大都市周辺部に作るのを中止)。+ 都心部に無料の駐車場を。
5)住宅断熱の大計画を(家庭に節約/省エネを促すことでエコロジーに寄与)。
6)〔税金・社会保険料を〕でかい者(マクドナルド、グーグル、アマゾン、カルフールなど)はでかく、小さな者(職人、超小企業・小企業)は小さく払うべし。
7)(職人と個人事業主も含めた)すべての人に同一の社会保障制度。RSI〔自営業者社会福祉制度〕の廃止。
8)年金制度は連帯型とすべし。つまり社会全体で支えるべし〔マクロンの提案する〕ポイント式年金はNG)。
9)燃料増税の中止。
10)1200ユーロ未満の年金はNG。
を掲げている。すべてマクロン政権の新自由主義政策に対する対案である。
日本でも問題となっている外国人労働者についても、
14)〔東欧等からの〕越境出向労働の中止。フランス国内で働く人が同じ給与を同じ権利を享受できないのはおかしい。フランス国内で働くことを許可された人はみなフランス市民と同等であるべきであり、その〔外国の〕雇用主はフランスの雇用主と同レベルの社会保険料を納めるべし。
と要求している。

<<「怒りの多くは正当だ」>>
この巨大な運動の中で、マクロン大統領の支持率は26%に急落し、12/1のデモ直前にはさらに18%に下がり、就任19カ月目としては前任者(フワンソワ・オランド大統領)の48%、前々任者(ニコラ・サルコジ大統領)の29%を下回る事態となり、ついに12/4、来年1月からの増税を半年延期すると表明、翌12/5にはさらに来年中の実施は断念することを表明せざるを得なくなった。そして12/10、マクロン大統領はテレビを通じて演説し、「怒りの多くは正当だ。私が責任を取る」と表明し、来年から月額最低賃金を100ユーロ(約1万3000円)引き上げると発表し、残業代と年末賞与への非課税、社会保障増税の一部中止を発表した。しかし、ベニコー労働相は「今の財源では最低賃金を上げることはできない」とテレビ番組のインタビューで答えており、一時しのぎ空約束の可能性が大であり、富裕税の廃止についてはマクロン氏自身が「投資家を誘致し雇用を生み出す目的だ」と述べ、撤回しない意向を表明している。
当然闘いはまだまだ続くであろうし、拡大し成長するか、縮小し減衰するか不確定である。しかしこの運動が、ここまでの事態をもたらし、大きく前進させてきたもの、それが投げかける問題提起を受け止めることは、日本の野党共闘や統一戦線の前進にとって不可欠と言えよう。
まず第一に、この運動は既成の運動や政治から独自に自主的に提起され、組織され、なおかつ、上位下達の組織構造を持たずに行動提起がなされ、毎週土曜日の巨大な統一行動への結集を可能とさせたことであろう。同運動には特定の主催者がいるわけではなく、スポークスマンや「代表」のネット投票も行なわれたが、それらは広がらず、代表も組織の構造もない。しかし切実な課題に即して運動はたちまちに組織され、多様な形で急速に拡大したのである。逆に言えば、既成の運動や政治諸勢力が焦眉かつ緊切な課題にいかに鈍感であったかの証左でもある。
第二に、運動の組織のされ方が上位下達方式では、多様な人々の自主性や創意・工夫が生かされず、その多様性も保証されず、運動の発展・前身の芽が生かされず、つぶされてしまうことである。この運動ではさまざまな立場の参加者が、それぞれの分野の新自由主義政策に反対し、生活の不満と緊切な要求を持って、反マクロンで一致し、結集・参集したのである。分散化や多極化も恐れない、むしろそれらを生かす運動形態が提起されていると言えよう。
そして第三は、運動のダイナミズムである。韓国の朴槿恵前大統領を退陣に追い込んだ「ろうそく」運動は、「2016年10月29日の夜に最初の徹夜ろうそく集会が行なわれて以来、抗議する人々の数は瞬く間に膨れ上がり、同年12月初旬にはソウル市だけで200万人を超えた。この爆発的な市民行動の主役および特徴については慎重に定義しなければならない。あまりに多くの人が参加し、共感したがゆえに、主役を特定するのは難しい。従来の社会運動組織のメンバーは国会前広場を埋めた人々のほんのわずかな割合しか占めていない。参加者の大半は自分の意志でデモにやってきた人々だ。だが、その人々を烏合の衆と呼ぶことはできない。彼らはソーシャルメディアを介してさまざまなネットワークを作り、広場をその出会いの場に使った。中にはただ自発的に広場に集まった団体もある」(李泰鎬(イ・テホ)韓国・参与連帯(PSPD)政策委員会 委員長)。この運動のダイナミズムが今回の「黄色いベスト」運動にも特徴的にみられる。この運動のダイナミズムをいかに獲得していくかが問われている。もちろんそれは恣意的に獲得できるものではないが、既成の運動や政治組織がその障害となってはならないことを示している。
トランプやマクロンの政策、その独裁主義的政治手法で酷似する安倍政権と闘ううえで、この「黄色いベスト」運動が投げかける問題提起は軽視できないと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【書評】『骨が語る兵士の最期──太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実』

【書評】『骨が語る兵士の最期──太平洋戦争・戦没者遺骨収集の真実』
(楢崎修一郎、筑摩選書、2018年7月発行、1,500円+税)

本書は最初にこう述べる。
「法医学は医学の一部で、主に死体から、個体数・性別・死亡年齢・死因・民族等を推定する学問である。ちなみに、主に死体の歯から推定する学問を法歯学という」。
「一方、『法医人類学』は、白骨死体、つまり骨や歯から法医学や法歯学と同様な情報を推定する学問である」。
そして著者は「法医人類学」の専門家として、日本各地の遺跡から出土する発掘人骨を鑑定している。その著者が、太平洋の激戦の地、玉砕の島々に未だ多数残されたままの兵士の遺骨を発掘し、分析したのが本書である。
第二次世界大戦でのわが国の戦没者は、総数で三一〇万人(ただし、ここには一般市民も含まれている)、そのうち海外での戦没者は二四〇万人(これには、硫黄島と沖縄の戦没者が含まれている)である。
「そしてそのうち、収骨開始以来これまでに約一二七万人分の兵士の遺骨が収骨されている。したがって、まだ海外には約一一三万人分の遺骨が未収骨のまま眠っている。この未収骨のうち、飛行機や船で海没したために収骨が困難な数が約三〇万人、そして、中国や韓国など相手国の事情から収骨が困難な数が約二三万人と言われている。したがって、現在の遺骨収集の対象は、約六〇万人となる」。
本書は、太平洋諸島に散らばる遺骨を収集し続けた記録である。その範囲は、マーシャル諸島(ミリ島、クェゼリン環礁等)、北マリアナ諸島(サイパン島、テニアン島)、ミクロネシア連邦チューク州(トラック諸島)、パラオ共和国ペリリュー島など広範囲にわたり、しかも短期間という派遣の制約もあって、部分的なものではある。しかし戦後七〇年以上も経過しながらまだこれだけの遺骨が残されていることを日常ほとんど意識にのぼらせていないわれわれに、戦争について考えさせる貴重な知識を与えてくれる。以下、いくつかを紹介しよう。
サイパン島では、一九四四年七月七日、最後の万歳突撃を敢行したが、途中のタナパグ海岸付近で待ち構えていた米軍の反撃を受け、全滅してしまう。「夜があけると、タナパグ海岸には四三一一体もの死体が累々と積み重なっていたという。/さすがにそれだけの数の死体処理は大変だったのか、米軍はブルドーザーで溝を掘り、その中に次々と死体を投げ込んでいった」。このタナバグ地区の集団埋葬地は古くから知られており、厚生省による調査が何回か実施され、収骨している。
この後多くの民間人と日本軍兵士は、サイパン北部の洞窟に避難したことが知られているが、著者は洞窟での遺骨収集の後、こう述べる。
「洞窟で遺骨収集を行うと、集団埋葬地と異なる点が明らかになった。集団埋葬地では,戦史通り、毎回、出土するのは成人男性であった。ところが洞窟では、まさしく老若男女が出土するのである。/(略)/結果、一六ケ所の洞窟から、合計で五九体の遺骨を収骨することができた。この内訳は、三七体の成人男性、八体の成人女性、一四体の未成年が鑑定された。この中で、女性と言っても、若い女性のみではなく老齢個体の女性が多いことが特徴である。また、未成年と言っても、一歳、二・五歳、三歳、七歳、八~九歳と、本当に子供が多いことも特徴である」。
このように民間人が多数出土するのは、このサイパン島とテニアン島のみであると著者は語るが、テニアン島では次のような遺骨に対面する。
「テニアン島第23遺跡は、小さな洞窟であった。ここで出土した人骨を鑑定していて、私ははっとした。五体の人骨が鑑定されたが、成人男性一体、成人女性二体、未成年二体であった。こう書くと、衝撃は感じられないかもしれない。/だが、成人女性二体のうち一体は比較的若い女性で、もう一体は老齢女性であった。さらに未成年二体は、約一歳と胎児であった。つまり、この洞窟には若い男女の夫婦とどちらかの年老いた母親がおり、孫であろう一歳の子供の四人が避難していたことになる。さらに、若い夫婦の妻は妊娠中であったということになるのである。/家族一同が同じ場所で発見されたとなると、手榴弾で自決したのではないかと推定された。まさに、悲劇の洞窟であった」。
科学的分析によって明らかにされた戦争の残酷さである。
このように本書は、戦後の長期間埋没され続けた遺骨収集を綴っていくが、著者の怒りを込めた問題意識が最後に語られる。
「最近、『日本兵の遺骨は各地で土に還っている』という発言をちらほらと聞く機会がある。その発言の裏には、遺骨収集事業を早期に終了させたいという意図があるのかもしれない。だが、本書をご覧いただくと遺骨は決して土に還っていないことがおわかりだろう。そもそも、もし遺骨が七〇年で土に還るのであれば、日本のみならず世界中の人類学者が職を失ってしまう。骨が土に還らないからこそ、旧石器時代から江戸時代までの人骨が各地から出土しており、人類学者はその鑑定や研究ができるのである」。
過去の戦争の犠牲者に対して人道を尽くすことが、現在の国民の生命を尊重し平和への道につながっているということを、地味な遺骨収集から考えさせてくれる書である。
なお遺骨収集に関して米国では、わが国とは比べ物にならない規模の組織がいまなお活動しているということが紹介されている。
「第二次世界大戦中、アメリカ軍は一六〇〇万人の兵士を動員し、四〇万人以上が戦死している。このうち、現在でも七万二〇〇〇人が行方不明だという。国防総省の指揮下にJPAC(米国戦争捕虜および戦争行方不明者遺骨収集司令部)という組織があり、人類学者や歯科医、考古学者約四〇〇人が働いている。国家の責任で、最後の一兵まで発見することに全力を注いでいるのだ」。           (R)

【出典】 アサート No.493 2018年12月

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【投稿】捏造政治を強行する安倍政権

【投稿】捏造政治を強行する安倍政権
―内政、外交とも嘘と誤魔化し―

反省、謝罪は無し
10月24日召集された197臨時国会の所信表明演説で安倍は、「謙虚、丁寧、低姿勢」を演出したが、三文芝居となった。
演説の文字数は約6200字で、安倍政権で最短となった昨年11月の特別国会における約3500字に比べれば増えたものの、無味乾燥の内容は変わらなかった。
安倍は冒頭「強い日本を創るため私が次の3年その先頭に立つ」とナショナリズムとナルシズムを混濁させた決意を開陳した後、「強靭な故郷づくり」として、最初にこの夏相次いだ自然災害の犠牲者に哀悼の意を表したが、「赤坂自民亭」などの愚行への反省の言葉は無かった。
その後も、「地方創生」では全世代型社会保障、外国人材、「外交・安全保障」に於いてはロシア、中国との関係改善、日米同盟の強化などで自画自賛を繰り返した。
さらに「平成のその先の時代の国創り」を進めるため、「国の理想を語るものは憲法」とし、「制定から70年以上を経た今議論を深め」と改憲への野望を改めて露わにしたのである。
最期に、維新礼賛、薩長史観への批判を気にしてか、「戊辰戦争から50年」で政党内閣を樹立した南部藩出身の原敬の「常に民意の存するところを考察すべし」を引用し、「長さゆえの慢心は無いか」「国民の懸念にも向き合う」「身を引き締めて政権運営に当たる」と締めくくった。
しかし、これらの美辞麗句は森友・加計事件で厳しい追及をかわすため、何回も聞かされた言葉であるが、それが実行されたことは無かった。
今回も沖縄県民の民意、懸念を無視し、対話ポーズをとりながら辺野古基地建設を強行している中での決意は、口から出まかせの最たるものであろう。
こうした嘘で塗り固められた所信表明は、そのなかで安倍が強調した日中、日露、日米関係、そして外国人労働者問題で次々と破綻していくことになる。

対中政策の矛盾
10月26日、訪中した安倍は7年ぶりとなる単独での日中首脳会談を行った。この会談で安倍は習近平と「新たな日中関係」を構築していくことで一致したと成果を強調した。
とりわけ「競争から協調へ」「パートーナーとして互いに脅威にならない」「自由で公正な貿易体制の発展」の「3原則」を確認したと述べていたが、それが捏造であったことが明らかとなったのでる。
26日外務省は、李首相、習主席との会談で「3原則」という言葉での確認は無かった、との文書を発表し、翌日には安倍はそうした趣旨の内容を話したが、「3原則」とは言っていない、と重ねて否定した。
中国外務省も「3原則」については一切言及しておらず、功を焦った安倍のフライングである可能性が高まった。
今回の首脳会談で合意したのは、保護貿易主義への反対、朝鮮半島非核化等の抽象的合意と通貨交換(スワップ)の復活ぐらいである。懸案の尖閣諸島を巡る緊張緩和、ガス田開発問題では「不測の事態を避ける」ことでは一致したが、棚上げとなり、習近平への訪日要請も「真剣に検討したい」との回答で「来年のしかるべき時期」等の承諾までには至らなかった。
それでも安倍は26日「日中第3国市場協力フォーラム」で「中国は長らく日本のお手本だった」と、歯の浮くようなお世辞を述べた。これまで様々な国際会議で中国を、無法者国家のように非難してきたことを忘れたかのような発言である。
このことは今回の訪中の核心が「フォーラム」であったことを物語るものである。この場には日本企業からも多数が参加、両国の金融機関や総合商社により投資案件など52件の協力覚書が締結された。
これは「一帯一路」への日本の参入を促進するものであり、安倍政権が資本の要求に突き動かされた結果である。これを仕切ったのは経済産業省であり、「3原則」発言で右往左往する外務省を後目に官邸、政権内での存在感をアピールした。
一方、中国への大幅譲歩と受け取られないために、直後に来日したモディ首相を厚遇し、「一路」への対抗措置である「自由で開かれたインド太平洋構想」のアピールに努めた。
しかし中国はこの地域への経済、軍事面での影響力を拡大しており、安倍政権も挑発を続けている。9月中旬、海自潜水艦による南シナ海での訓練が突如公表された。これは海自の行動を官邸が追認したものと考えられるが、安倍が自分で述べた「3原則」に悖る行為であり、中国は警戒を強めるだろう。
安倍は対中国政策をいわゆる「先易後難」「先経後政」へと改めつつあるが、中途半端は否めず、このままでは米、印、豪との野合を画策したところで、この地域おいてもジリ貧になるのは必至である。
したがって、中国包囲網、帯路分離工作は放棄し、全面的融和を進めるべきだろうが、政権内、支持基盤からの反発も予想され、今回の幻の「3原則」発言もそうした矛盾を糊塗するためのものであったと考えられる。
しかし今後、経済協力と政治(軍事)対立がそれぞれ深化すればするほど権力内部の亀裂は深刻化し、安倍は窮地に立たされるだろう。

日露も行き詰まり
帰国した安倍は臨時国会での論戦を避けるように、11月14日から18日にわたり、シンガポール、オーストラリア及びパプアニューギニアの歴訪に出発した。
この間、ASEANやAPECなど様々な国際会議への出席や各国首脳との会談がセッティングされたが、それらはアリバイ作りとセレモニーに過ぎず、14日の日露首脳会談こそ真の目的であった。
シンガポールで行われた23回目の会談後、安倍は「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速化させる」ことで合意し「年明けにも訪露し会談を行う」と述べ、4島から2島への方針転換を明らかにした。
「2島返還論」は以前から水面下であったが、今回安倍はそれを浮上させ公的に認める方針転換を行ったのである。菅は15日の記者会見で「4島の帰属問題を解決し平和条約を締結する政府の立場に変更は無い」と釈明した。
しかし安倍は「私とプーチンでこの領土問題に終止符を打つ」と言っており、この間の文脈と2人の任期も勘案すると、歯舞、色丹返還は第1段階ではなく、領土問題の最終的な解決と言うことになる。
そもそも「共同宣言」は出発点であり、そこからどう前進させるかが求められていたはずであるが、突然それがゴールになってしまったのである。もし2島返還後に、国後、択捉の返還を求めれば、韓国を「『完全かつ最終的』『不可逆的』を反故にする」と非難する立場と矛盾することが判っているのだろうか。
しかし、15日プーチンは「56年の共同宣言には2島の帰属の問題は何も書かれていない」と発言した。このプーチンの見解は以前から明らかにされてきたのであるが、今回の会談に向けた事前折衝でそれが覆る見通しも無しに、安倍は会談に臨み、あたかも鬼の首を獲ったかのような発言をしたのである。
さらにプーチンは2島に米軍基地を置かないことを、日米政府が文書で確認することも求めていたことが明らかになった。これに対して安倍は北方4島の非武装地帯化を提起したと言うが、どちらの提案も論議を停滞させるものであり、駆け引きの材料にもならないだろう。
今回の首脳会談では平和条約、領土問題について譲歩したのにも関わらず、安倍は前進したかのような虚偽の説明を行ったのである。これは「退却」を「転進」と誤魔化した大本営発表より姑息である。
一昨年のプーチン来日前も2島返還確定のような情報が流されたが、来年6月の再来日(G20)を睨み、またしても楽観論が捏造され続けるだろう。

排外主義と決別を
安倍は第2次世界大戦の結果を覆し、戦後外交の総決算を言うのであれば、尖閣諸島問題を棚上げした日中平和条約、2島の帰属について曖昧にした日ソ共同宣言を見直すと表明すべきだろう。しかし、そうした外交を推進してきたのは歴代の自民党政権であり、その結果に責任を持たなければならない。
安倍が大好きであろう「西郷どん」では不平等条約の改定に苦悶する明治政府の姿が描かれた。時の力関係の下、不利な条件を飲まされた国がその是正を求めるのは当然であろう。
その意味で日韓基本条約の事実上の見直しを進める韓国の対応は当然である。一方安倍政権は、とりわけ対米関係に於いて、日米地位協定ひいては日米安保の見直しに背を向けている。さらには貿易問題に於いても「国益」を棄損する譲歩を重ねようとしている。
11月13日来日したペンスは安倍に対して貿易不均衡の是正を強く求めた。会談後の記者会見でペンスは「free trade agreement」と述べ、NHKは最初これをFTA(自由貿易協定)と報じた。しかし、直後に「先程の訳は誤りで正しくはTAG(物品貿易協定)です」とあからさまに捏造するという醜態を見せた。
こうした安倍の捏造政治は止まることなく、国会でも外国人労働者問題の受け入れは移民政策ではないと誤魔化し続けている。そのため、基本的人権が制約されたまま日本で就労すれば賃金、労働条件のみならず生活上の様々な問題が惹起することは火を見るより明らかである。
すでに実習生はそうした劣悪な条件下で労働を強いられているにも関わらず、法務省が調査結果を捏造し、審議を強行しようとしたことが明らかとなった。
この様に、安倍政権は内政、外交の諸問題において「不都合な真実」を隠蔽し、捏造を積み重ねながら、延命を図らんとしている。これに対して野党は徹底追及すべきであるが、この間ナショナリズム、排外主義に取り込まれ民主主義、人権擁護の観点からの論議が欠落している状況がある。
韓国最高裁の判決に対しては、野党はもちろんマスコミも「挙国一致」で批判を加えている。国家間の取り決めに、個人や司法が異を唱えることができないのであれば、辺野古基地建設反対も日米地位協定の改定も求めることが出来なくなる。この間の野党、マスコミの対応はダブルスタンダードであろう。
外国人労働者問題も、移民受け入れ、多文化社会の構築を前提としながら、政府案に対しては基本的人権、市民としての諸権利の欠落をもって反対すべきことを徹底しなければならない。
野党はこうしたスタンスに立たなければ、自ら政権延命に手を貸し、国会の大政翼賛会化への道を拓くことになるだろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.492 2018年11月

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【投稿】「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」に全面的に賛成する

【投稿】「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」に全面的に賛成する
福井 杉本達也
1 「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」を大歓迎する
シンガポールで開催された東アジア首脳会議を利用して、11月14日、安倍首相はロシアのプーチン大統領との会談後、日ロ平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことを明記した1956年の日ソ共同宣言を基礎に、平和条約交渉を加速させることで一致したと語った。実に62年ぶりに日ロは第二次世界大戦後の世界秩序にようやく復帰することとなる。ありもしない、国際的にも通用しない「固有の領土」論という虚妄を繰り広げ、全く時間を無駄にしたものである。

2 「北方領土」問題はなかった
1945年8月、日本はポツダム宣言を受諾して連合国側に無条件降伏した。ポツダム宣言では「日本国の主権は本州、北海道、九州及四国並に吾等の決定する諸小島に極限せらるべし」と書かれてある。これを受けた1951年のサンフランシスコ講和条約では「第二章(c)日本国は千島列島に対するすべての権利、請求権を放棄する」とうたっている。南千島などという言葉はどこにもない。同条約を批准するため国会が開催されたが、10月19日、衆議院での西村条約局長の国会答弁において、「条約にある千島の範囲については北千島、南千島両方を含むと考えております」と答えている。したがって、元々「北方領土」なる用語は国際的には存在しないのである。もし、日本の領土だとして要求するなら、第二次世界大戦の結果を認めず、サンフランシスコ講和条約を破棄し、ポツダム宣言を否定して連合国側ともう一度戦争しなければならない。馬鹿げた論理構成であり、子供にもわかる道理であり、報復論である。

3 「ダレスの恫喝」と千島列島の一部の虚妄な「返還」要求
1951年のサンフランシスコ講和条約には旧ソ連邦は参加していない。法的には日本とは依然戦争状態が継続していた。日ソ間で国交を回復し、日本人の抑留問題を解決し、国連への加盟を果たす必要に迫られていた。そこで、1955年から鳩山内閣において日ソ交渉が進められたが、米国側からの強い干渉があった。いわゆる「ダレスの恫喝」である。ダレス国務長官は重光外相に対し「もし日本が国後、択捉をソ連に帰属せしめたら、沖縄を米国の領土とする」と言ったのである。米国は日ソが急速に関係を改善することに強い警戒心を持っていた。「北方領土」問題を残すことによって日ソ関係の進展を拒もうとした。そのため、1956年10月、鳩山首相は平和条約の締結を諦め、「両国間に正常な外交関係が回復された後,平和条約の締結に関する交渉を継続することに同意する。…歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし,これらの諸島は,日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする。」という日ソ共同声明に署名したのである。
その後、米国の意向を反映して、日本政府はソ連との距離を置き始め、サンフランシスコ講和条約で放棄した千島の中には国後・択捉島は含まれないと主張し、今日に至った。

4 なぜ千島列島全体をソ連が占領したのか
そもそも、なぜ、ソ連が占領したのか。ルーズベルト米大統領は、第二次世界大戦末期に米国単独での日本占領は不可能だと考え、1943年のテヘラン会談でソ連の対日参戦をスターリンに強く求めた。ドイツの敗北が濃厚となった1945年2月の戦後処理のためのヤルタ会議において、「千島列島がソヴィエト連邦に引き渡されること」というヤルタ協定が結ばれ、同協定に基づき、ソ連は日ソ中立条約を破棄して8月8日に対日参戦した。これによって米国は膨大な兵力の損耗を避け得ると考えたのである。それがサンフランシスコ講和条約第二章における千島列島の放棄の条文につながっている。しかし、7月16日に米国はトリニティ原爆実験に成功すると単独で日本占領ができると考え始めた。その為、ソ連参戦直前の8月6日に広島に、9日には長崎に原爆を投下しソ連の対日参戦を牽制しようとしたのである。

5 日米地位協定を意識したプーチン
プーチン氏は共同宣言には「何を基礎に引当渡すのか」「どう引き渡すのか」も明記されていないと指摘。主権を含めて「真剣な検討」が必要との見解を示した。プーチン氏の危惧は日本が米国の従属下から少しでも離れて独自外交を貫けるかである。その試金石が「日米地位協定」である。1951年、ダレスは日本との講和にあたり「われわれの望むだけの軍隊を、望む場所に、望む期間だけ駐留させる権利を確保する、それが米国の目標である」との考えを示した。講和後67年たっても米軍が日本に駐留している。平時の主権国家のなかに他国の軍隊が多数駐留するとはいったいどういうことか。その答えは、日本は米国の「被占領地」か「植民地」ということにならざるを得ない。それを何とも思わないというところに「永続敗戦」があり、「辺野古」があり、沖縄の切り捨てがある。
11月16日の朝日新聞のトップ記事は「安倍晋三首相がプーチン大統領に対し、1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞群島、色丹島が日本に引き渡された後でも、日米安保条約に基づいて米軍基地を島に置くことはないと伝えていたことが分かった。」とし「日米安保条約と付随する日米地位協定は、米軍による日本の防衛義務を定め、米国は日本国内のどとにでも基地を置くことを求められると解されている」と解説している。ようやく少しずつ独自外交を始めたといえる。これまで政府は沖縄で殺人事件が起きようが、ヘリコプターが大学に墜落しようが、どんな問題が起ころうとも「日米地位協定」の改正を頑として拒否してきたが、今後は「日米地位協定」に踏み込まざるを得なくなる。

6 「拙速な転換は禍根残す」と対ロ交渉を牽制する朝日新聞
朝日新聞は11月16日の社説で「拙速な転換は禍根残す」とし、「平和条約を結べば、国際社会からどんな視線を受けるかも留意すべきだ」と牽制している。サンフランシスコ講和条約以降、日本は長々と領土ゲームの虚妄中で生き続けてきた。いかに国際社会の現実を見ないか、リアリズム・外交感覚の壮大な喪失である(進藤榮一『「日米基軸」幻想』)。プチーン政権は長大な国境線も持ち、アムール川の中州の小島で戦火を交えたこともある中国とも国境問題を解決してきた。唯一残るのは日本だけである。同紙の『耕論』においては東郷和彦元外務省欧亜局長は「今回が最後の機会です。ここでまた日本の腰が引けたら、ロシアはもう交渉のテーブルにもつかなくなるでしょう。そこまで日本が追い込まれていることを知ってもらいたいと思います。」と述べている。

7 輪をかけてリアリズム・外交感覚の欠落する立憲民主党と共産党
立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は「歯舞群島と色丹島が返還され、択捉島や国後島が棚上げにされる懸念もある。慎重に交渉してほしい」と指摘した(日経:2018.11.16)とし、4島返還という国際的にあり得ない虚妄をいまだに追いかける答弁に終始している。さらに輪をかけて歴史的現実を見ようとしないのが共産党であり、志位和夫委員長は11月15日の記者会見で、「2島先行返還」は「ありうる」としながらも、その際は「中間的な友好条約」を結ぶべきで、この段階での平和条約締結は「絶対やってはならない」と主張。平和条約を締結する際は、「全千島列島返還」を盛り込むべきだとした(J-CASTニュース2018.11.16)。講和条約後67年間も日本を占領し続けているのは米軍であり、その現実のとして横田空域があり、沖縄があり、「辺野古」の問題がある。一方、千島列島は第二次世界大戦の日本の侵略戦争の結果として国際的にソ連(ロシア)に引き渡されたのである。「辺野古」移設反対を叫びつつ、一方では「4島返還」を唱えるのは全くの外交的無知以外のなにものでもない。野党の根本的欠陥は外交リアリズムが全くないことである。この期に及んでも「永続敗戦」にどっぷりつかって際限のない対米従属を見直さず、対米独自外交を模索しないようではあまりに不甲斐ない。政策能力が問われる。まだ、ジャパンハンドラーの子飼いといわれる長島昭久衆院議員の方が「1993年の東京宣言よりも後退したとの批判はあり得るが、当時のロシアは…藁をも掴む窮状だったことを想起すべき。現状とは全く異なる」(同J=CASY)と理解を示している。

8 トランプ政権の「米国第一」で始まった対米独自外交
なぜ、今、安倍政権の対米独自外交が恐るおそるも始まったのか。それはトランプ政権が「米国第一」を掲げてこれまでの「同盟国」(従属国)を切り捨て始めたからである。11月13日、ペンス副大統領が来日したが、安倍政権がTAGと呼ぼうが何と呼ぼうが、トランプ政権は来年に始まる貿易交渉を包括的な自由貿易協定(FTA)の締結に照準を合わせていることを鮮明にした(福井:2018.11.14)。しかもサービス分野も交渉の対象とするということであり、このまま従順な植民地にとどまれば、日本は米国に収奪される一方となる。日本人が汗水たらした富は一方的に米国に持っていかれることになりかねない。そのため安倍政権は10月26日には習近平氏との首脳会談を行い、対中接近を図ったのである。日経はそれを「冷戦が終結し、米国の1強時代が終わった今、従来の米国追従は万能な解とは言えなくなった。」(2018.11.27)と解説している。
6月に行われた米朝首脳会談以降、極東の情勢は急激に変わりつつある。いつまでも外務省のような冷戦=「日米同盟のさらなる強化」を唱えていたのでは日本は自滅するのみである。韓国の文政権のように北朝鮮と米国・北朝鮮と中国・中国と米国を結ぶ、ロシアと韓国が交渉するといった立ち回りが要求されている。近い将来、韓国から在韓米軍が撤退するということもありうる。そうした場合、駐留米軍はどうするのか。いやでも考えざるを得なくなる。もし、朝鮮半島が非核化されるならば、朝鮮半島を経由してシベリア鉄道を通じて欧州への輸送・シベリアからのガス・石油パイプラインの日本までの敷設も考えられる。また、ロシアとの平和条約が結ばれれば、サハリンから北海道への石油・ガスパイプラインや電力網の敷設も考えられる。そうなれば日本はエネルギー的にも安定する。下らない、しかも危険すぎる核開発を考える必要性もなくなる。米国抜きではないが、ロ・中・北朝鮮・韓国・ASEANという広域圏で大きな絵を描く時期に来ている。

【出典】 アサート No.492 2018年11月

カテゴリー: 平和, 政治, 杉本執筆 | 【投稿】「日ソ共同宣言を基礎に日ロ交渉」に全面的に賛成する はコメントを受け付けていません。

【投稿】米中間選挙の結果が提起したもの 統一戦線論(54)

【投稿】米中間選挙の結果が提起したもの 統一戦線論(54)

<<トランプ氏の「とてつもない」敗北>>
この11月6日の2018年米中間選挙の結果について、トランプ大統領は大勢が判明した6日夜、「我々の大きな勝利について、もう、たくさんのお祝いをもらった」、「今夜はとてつもない成功だ。みんなありがとう!」とツイッターに投稿した。まったくの「負け惜しみ」で強がりでしかない。現実の結果に驚き、怯えてしまった投稿とも言えよう。
この「中間選挙」は、4年ごとに実施される大統領選の中間の年に、上下両院の議員、州知事、地方議員などを一斉に決める選挙である。任期2年の下院は、全議席(435議席)が改選される。任期6年の上院は、2年ごとに定数100のうち3分の1ずつが改選される。今回の中間選挙では、補欠選挙の2議席を含め35議席が争われた。選挙前の議席数は、下院が共和235、民主193、欠員7、上院が共和51、民主49であった。上院選挙ではこの内、共和42、、民主23議席は非改選で、35議席が争われたのである。したがって上院では、民主党が上院で過半数を確保するためには、35選挙区中28選挙区以上での勝利が必要なのに対して、逆に与党・共和党は42議席が非改選であるため35選挙区中9選挙区で勝てば51議席、過半数を確保できる、楽勝の選挙戦であったはずである。
上院では、共和党がようやっとのことで9議席、51議席の過半数を確保したものの、民主党は47議席を確保、共和党は、2016年大統領選でトランプ候補が勝利したウェストバージニアはじめ少なくとも5州以上で民主党候補に議席を奪われている。上院で勝利したというが、実態は敗北なのである。
一方、下院では、民主党は前回より最低でも35議席増、最終的には40議席近くまで上積みするとみられている。これは同党にとって、1973年以来、中間選挙としては45年ぶりの大躍進である。ニューヨーク・タイムズ紙の分析によると、全体の21%にあたる317地区が今回、共和党から民主党支持へと入れ替わったという。
トランプ氏は中間選挙を自分自身の信任投票と位置づけ、「私が投票用紙に載っていると考えて投票して欲しい」と訴えた。その効果あってか、逆効果なのか、今回の中間選挙の投票率は49.2%、前回2014年の36.7%より12ポイント以上も増加、中間選挙としては約50年ぶりの高水準、米史上最大の増加率となったのである。接戦州ばかりか、「無風」といわれる州でも、投票率が上昇した。その結果、トランプ氏の与党・共和党は、都市部で下院議席が一つも獲得できず、野党・民主党が30議席以上を取り返して下院の過半数以上を民主党に譲り渡してしまったのである。与党・共和党にとっては「大きな勝利」どころか、「とてつもない」敗北であり、トランプ氏は、手厳しい審判を受けたのである。

<<カギとなったのは、女性と若者と非白人有権者>>
そのカギとなったのは、女性と若者と非白人有権者の投票率の記録的な上昇である。ニューヨークの独立放送局デモクラシー・ナウ(DemocracyNow 2018/11/6)は、「今回の中間選挙は、連邦議会の上下両院と36州の知事選の結果によって、ドナルド・トランプ政権に対する国民による審判が示されると考えられています。実際には、すでに記録的な3600万人の米国人が期日前投票をし、中でも若者と有色人種の間で高い投票率が見られています。これは4年前の2700万人からの増加で、多くの人々はこの結果から、中間選挙での記録的な投票率を予測しています。いつもなら中間選挙には行かないような多くの人々が投票所に向かうのを目撃しています。なぜなら彼らは今回の選挙が非常に重要だと信じているからです」と報じている。これら圧倒的多数、99%を代表する多くの人々が、トランプ大統領の女性差別発言、移民蔑視政策、暴力的分断政策、銃政策、医療保険政策、大金持ち優遇の税政策、環境政策、規制緩和政策、独善的な政治手法などをめぐって、例年以上に大挙して選挙権を行使したことが民主党躍進の原動力となったのである。
とりわけ重要になったのが女性有権者の動向であった。それは、「今回女性の投票先では民主が共和を19ポイント上回っており、16年の大統領選(13ポイント)よりその傾向は強まっている。有権者が投票で一番重視した問題は、医療(41%)、移民(23%)、経済(22%)、銃政策(10%)の順で多かったが、投票した政党別に見ると、移民、経済と答えた人の6~7割は共和に投票。一方、医療、銃政策と答えた人の7割は民主に投票していた。「公職に少数人種の人を増やすことは重要か」との問いに「重要」と答えた人の6割が民主、「重要ではない」と答えた人の8割が共和に投票。女性が公職に就く重要性についての問いも同様の傾向が出た」(11/17 朝日新聞)、という結果に示されている。
この結果、民主党の女性候補が下院の奪還と7州の知事選勝利に貢献し、米国史上初めて女性下院議員の数が100人を超え(改選前85)、これも史上初めて、先住民女性2人とムスリム女性2人が当選を果たしたのである。これまでにイスラム教徒の下院議員は男性が2人いるが、女性は初めてである。
さらに付け加えなければならないのは、高年齢層の有権者においても今回、13ポイント以上、民主党支持が共和党を上回っていたという世論調査の結果である。「彼らは、富裕層への2兆ドルの減税の一方で、メディケアから5000億ドル、メディケイドから1兆5000億ドルを削減することを提案した下院共和党の予算を忘れることはない。高齢者が共和党を大いに拒絶したのである。」(11/13、米ネット誌Common Dreams)

<<「私たちの革命(Our Revolution)」>>
かくして民主党は下院で主導権を獲得することができ、下院トップのペロシ民主党院内総務は11/7の記者会見で「女性が民主党を勝利に導いた。30人以上の新人の女性が議員になるなんて、わくわくする」と述べた。しかし同時に、下院でトランプ政権の政策を阻止できるようになり、大統領を弾劾できる権利も獲得したにもかかわらず、「政権監視の役割を果たす」が、同時にトランプ大統領と融和・協力する意向を示している。ペロシ氏は、「ユニバーサル・ヘルスケア(すべての人のための医療保険)」支持を一貫して拒否しており、国防予算の大幅な増加を常に支持してきた民主党既成指導部の強固な砦であり、民主党が共和党のように行動する砦なのである。
「わくわくする」新人女性議員たちは、まさにこのような民主党既成指導部とも闘ってきたのである。彼女たちを押し上げ、民主党既成指導部に連なる候補者を破り、下から突き上げ、盛り上げた運動と組織、重層的で社会的なパワーの質と多様性こそが、トランプに対する闘いでの勝利を導いたのである。
その象徴的存在として、「ニューヨーク州14区」で当選したオカシオ=コルテス(Alexandria Ocasio -Cortez)が、しばしば取り上げられている。彼女は、プエルトリコ出身の母親とサウスブロンクス生まれの父親を持つ28歳の女性で、下院議員として史上最年少の当選者である。2016年の大統領選ではバーニー・サンダース上院議員の選挙スタッフとして働き、その後もサンダース氏が提唱した「私たちの革命(Our Revolution)」のメンバーとして活動し、同時に「民主主義的社会主義者(Democratic Socialists of America DSA)」のメンバーであることを明らかにしている。DSAが提起したカレッジ・フォー・オール(すべての人のための大学)、すべての人の平等な権利、労働運動の活性化をめざした闘い、そして彼らが提起していたユニバーサル・ヘルスケアや単一支払者制度(連邦政府が徴収した税金ですべての医療費をまかなう制度)への移行といった政策要求は、共和党支持者の52%がこれらに賛成票を投じるまでになったのである。
そのDSAの執行部(NPC=全国政治委員会)が11/7に声明を発表している。声明は、「昨日、民主主義的社会主義者たちは全国で活発な選挙戦を闘って勝利し、アメリカ社会主義運動が何世代もの後退ののち再生したことを示した。最も有意義なのは、DSAメンバーであるアレクサンドリア・オカシオコルテス(ニューヨーク州)とラシダ・トライブ(ミシガン州)が正式に下院議員に選出されたこと、そしてサマー・リーやガブリエル・アセベロ、マイク・シルベスターなど多くのDSA支援候補が社会正義を求める労働者階級の運動の先頭に立って劇的に勝利したことです。民主党指導部は真剣に反対運動に取り組む能力も意思もなかったのです。復活した左翼のこれらの勝利は、まだ始まりにしかすぎません。私たちの社会を平等で人間的で公正なものに変える真の仕事は、何年もの組織化と教育を必要とするでしょう。私たちが直面する障害はまだまだ巨大なのです。」「これらの候補者のそれぞれは、企業の支援を受けた共和党や民主党の既成指導部に対抗し、緊縮と抑圧政策を終わらせ勇気づける政策綱領を掲げて闘ってきたのです。労働者階級の大多数のための運動だけが、裕福な少数者ではなく多数者のための世界をかちとることができるのです。」と訴えている。これらが総体として「私たちの革命(Our Revolution)」運動となったと言えよう。

<<問われる「市民と野党の共闘」>>
さて果たして日本の野党共闘に、あるいは統一戦線形成の闘いの中に、若者や女性、非正規労働者や高齢者、様々な被抑圧者を鼓舞する、このような「私たちの革命」と呼べるような運動が存在するであろうか。
11/16、来年の参院選で安倍政権打倒の市民と野党の共闘の本格化に向け、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(市民連合)と野党との意見交換会が行われ、初めて国民民主党が参加し、共産党、立憲民主党、無所属の会、自由党、社民党の5野党・1会派の書記局長・幹事長と国対委員長が一堂に会した。市民連合世話人の山口二郎法政大学教授が「いまは参院選の1人区で野党協力を行うことは共通の了解事項になっている」と指摘。山口氏は「私たちは野党の協力の機運を高め、共通して掲げるべき政策を議論し、野党と政策合意を結び共通の旗印としたい」と述べたのである。しかしこれに対し、共産党の小池晃書記局長は、相互推薦、相互支援など党の方針を示し、同時にどの党も「5野党1会派がまとまることが重要だ」と強調はした。相互推薦、相互支援などを共に戦うことの条件にすること自体がおかしいのであるが、とにもかくにも「5野党1会派がまとまること」、それはそれで前進ではあろう。しかしその場で自由党の森ゆうこ幹事長が、6月の新潟県知事選での敗北にふれ「なんとなくの連携では勝利をつかめない。争点を掲げ、結束してたたかうことが必要だ」と強調したが、その重要性に対して一向にそれに応える具体化が見えてこないのである。
地域に根ざさないトップだけの「市民と野党の共闘」、「なんとなくの連携」、どのような政策・政権構想を掲げて自民党と対決するのか、それさえ不明確で、不明瞭なまま時間を経過させ、熱意も希望も覚悟も感じられない「堂々巡り」、その間、それぞれの党派がそれぞれの党勢拡大にいそしむ、直前まで来なければまとまらない候補者の一本化協議、これでは先が思いやられるばかりであろう。
米中間選挙の結果が提起したものは、そのような状況を打破する下からの突き上げ、それを可能とする運動と組織、広範かつ重層的で社会的なパワーの結集こそが求められているということであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.492 2018年11月

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【書評】『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』

【書評】『日本軍兵士──アジア・太平洋戦争の現実』
(吉田裕、中公新書2465、2017年12月発行、820円+税)

本書の終章に次のような指摘がある。
1990年前後から「およそ非現実的で戦場の現実とかけ離れた戦争観が台頭してきた」、「もしミッドウェー海戦で日本海軍が勝利していたら」などの「イフ」を設定し、実際の戦局の展開とは異なるアジア・太平洋戦争を描く「仮想戦記」などである。このブームはしばらくして退潮するが、近年また「日本礼賛本」、「日本礼賛番組」が目立ち始めている。軍事の分野では「日本軍礼賛本」—-井上和彦『大東亜戦争秘録 日本軍はこんなにつよかった!』(2016年)などが出ている、と。
本書は、このような風潮に対して、実証的でクールな歴史学の目で、「死の現場」での「兵士の目線」で、「帝国陸海軍の軍事的特性」との関連で、アジア・太平洋戦争における日本軍兵士を分析の対象にする。
まず、開戦後の戦局を、【第一期】(日本軍の戦略的攻勢期)1941年12月~42年5月、【第二期】(戦略的対峙期)42年6月(ミッドウェー海戦直後)~43年2月、【第三期】(米軍の戦略的攻勢期・日本軍の戦略的守勢期)43年3月(ガダルカナル島撤退直後)~44年7月、【第四期】(絶望的抗戦期)44年8月(サイパン島、グアム・テニアン両島全滅直後)~45年8月、に区分し、それぞれの戦局の特徴を述べるが、ほぼ妥当な区分であろう。
さて「日本政府によれば、1941年12月に始まるアジア・太平洋戦争の日本人戦没者数は、日中戦争も含めて、軍人・軍属が約230万人、外地の一般邦人が約30万人、空襲などによる日本国内の戦災死没者が約50万人、合計約310万人である」とされている。
ところがここで本書は、「この310万人の戦没者の大部分がサイパン島陥落後の絶望抗戦期(【第四期】・・・引用者)の戦没者だと考えられる」と意表を突く指摘をする。そしてその根拠は次の通りであるとする。
「実は日本政府は年次別の戦没者数を公表していない」。また新聞社からの問い合わせに対しても、そのようなデータは集計していないと回答しており、各都道府県も、戦死者の年ごとの推移は持っていないということであった。ただ唯一、岩手県のみが年次別の陸海軍の戦死者数を公表していた。そこでこれを参考資料にして、1944年1月1日以降の戦死者のパーセンテージを出すと、87.6%という数字が得られるのである。
「この数字を軍人・軍属の総戦没者数230万人に当てはめてみると、1944年1月1日以降の戦没者は約201万人になる。民間人の戦没者数約80万人の大部分は戦局の推移をみれば絶望的抗戦期のものである。これを加算すると1944年以降の軍人・軍属、一般民間人の戦没者数は281万人であり、全戦没者のなかで1944年以降の戦没者が占める割合は実に91%に達する」。
まさしく驚くべき数字であり、アジア・太平洋戦争での戦没者に対してわれわれが持ってきた記憶を揺るがすほどのものであろう。本書はこれについて、「日本政府、軍部、そして昭和天皇を中心にした宮中グループの戦争終結決意が遅れたため、このような悲劇がもたらされたのである」と厳しく批判する。さらに本書はこの数字のうち、戦病死者の割合が異常に高いという事実が存在し、これと密接な関係がある餓死者も高率であったと推定せざるを得ないとする。
本書は、一方で、このような数字を生み出した帝国陸海軍の軍事思想—-短期決戦、作戦至上主義、極端な精神主義、米英軍への過小評価等を検討するとともに、他方で、前線に送られた兵士たちの戦争栄養失調症、精神神経症、海没死者、自殺と戦場での「処置」という名の殺害、教育としての「刺突」、覚醒剤(ヒロポン)の多用等の問題を解明していく。本書でそれらの詳細と兵士たちの置かれた具体的で凄惨な状況に注視されたい。
この意味で本書は、「日本軍礼賛本」に流れている「日本軍の戦闘力に対する過大評価とある種の思い入れ」—-「日本は戦争に負けても戦艦大和は世界一」的な風潮など—-への反論として、有効で説得的な書であると言えよう。(R)
追記:例えば、「日本軍礼賛本」で米軍に対して勇敢で頑強に戦った例として取り上げられるのがペリリュー島の防衛戦(1944年9月15日~11月24日)である。確かに、ペリリュー島の戦闘ではそれまでの水際撃滅作戦の失敗から学び、堅固な陣地や洞窟に立てこもって粘り強く反撃した結果、2ヶ月間にわたって持ちこたえた。しかしこの戦闘での日本軍の戦死者は、約1万22人、戦傷者は446人(捕虜となった者を含む)であるのに対して、米軍の戦死者は1950人、戦傷8516人であり、しかもその損害の38%は上陸作戦と戦略的目標とされた飛行場制圧作戦期間(上陸後1週間)のものである。さらに日本軍戦没者の中には、545人の朝鮮人軍属が含まれている。これらの客観的事実を踏まえない限り、ペリリュー島の「死の現場」はとらえられないのではないか。
このペリリュー島の戦闘に関しては、米軍との戦闘よりも飢餓と「渇き」という無残な死に直面した日本軍兵士の状況を描いたコミックの作品に、武田一義『ペリリュー 楽園のゲルニカ』(2016年~、現在第5巻まで)がある。こちらにも目を通していただきたい。

【出典】 アサート No.492 2018年11月

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【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣

【投稿】暴投連発の安倍「全員野球」内閣
-総裁選、沖縄知事選で既に1アウト状態-

暑く長い9月終わる
9月20日行われた自民党総裁選は、安倍が3選を果たしたものの、石破の予想外の善戦により圧勝の目論見は崩れた格好となった。
国会議員票は安倍329票、石破73票と圧倒したが、それでも20票程度の「造反」が発生し、党員票に至っては224対181と石破に45%が集中した。
2012年の総裁選では「新人」同志の闘いであったため、党員票は石破が上回ったが、2015年には他者の立候補を許さないまでに、安倍の権力基盤は強固になったかに見えた。
しかし3年の間に森友、加計事件に代表される、腐敗堕落した政権の体質が露わになり支持率は低迷、経済政策でも地方、庶民置き去りのアベノミクスの本質が明らかとなって、党員の不満は鬱積していた。
大阪では安倍11813対石破7620と勝利したものの、地方議員の2連ポスターから、安倍の顔が消えると言う事態が現れている。大阪では安倍支持と維新支持が重なっており、旧来の自民党員は憂いているのが実情である。
沖縄でも安倍1753対石破1086であったが、投票率は38,94%と平均の61,74%を大きく下回り全国最低(全国最高は鳥取の83,38%)となり、故翁長知事を支持した保守層の自民離れと極右・カルト支配が露呈し、10日後に行われた知事選の結果に大きな影響を与えた。
安倍は開票後の記者会見で「党員票は前回の2,5倍だ」と虚勢を張った。しかし現職総裁が、災害対応を始めとする総理としての公務を蔑ろにしながら、恫喝、締め付けをなどなりふり構わない選挙戦を展開したにもかかわらず、圧勝できなかったことは「民意に対する敗北」と言っても過言ではない。
この結果にから目を背けるように、9月23日安倍は訪米の途に就いたが、本来なら総裁選勝利の余勢をかって、沖縄知事選の応援に駆け付けるべきであった。
しかし知事選は菅に丸投げ状態であり、6月23日の沖縄戦戦没者追悼式以降、訪れることはなかった。この時も安倍は県民から怒号を浴びたが、知事選で応援に入ればより厳しい批判を受けることに怖気づいたのだろう。
各種世論調査では「玉城リード」であり「捨てた」との評価もあるが、「僅差」「佐喜真が追い上げ」という状況の中、21日には鈴木宗男や「北海道女将の会」と面談する暇はあったのである。
「汚れ役」を引き受けた形となった菅は再三沖縄入りし、表では「携帯通話料4割値下げ」と低次元の利益誘導を行い、裏では建設業界、各種団体の引き締めに血道をあげた。
9月16日には「総裁選を忘れるぐらい」とアピールし、同行した小泉進次郎を前面に押し出したが、効果は無く来沖するたびに票を減らしたのではないか。同日引退した安室奈美恵の「翁長知事の遺志を受け継ぎ」という言葉の前には、耐えられない軽さとして空虚に響くのみであったと言える。
菅は17日には「沖縄に吹いている(政権からの)大きな追い風を受け止めのるは佐喜真」と石垣島で絶叫したが、相次ぐ大型台風の前ではシャレにもならなかった。
その台風24号の被災が続くなか行われた知事選の投票率は、63,24%と前回比-0,89ポイントの微減にとどまった。災害対応に追われつつ投票所に足を運んだ沖縄県民に敬意を表さなければならない。
台風、地震、厳しい残暑と相次ぐ天変地異に見舞われた今年の9月は、自民党総裁選の辛勝、沖縄知事選の大敗と安倍にとっては、寒風吹きすさび身も凍る最後で終わったのである。

アメリカでも寒風
総裁選の結果に落胆し沖縄知事選の展望も見えないまま、気も漫ろの状況で訪米した安倍を待っていたのは、トランプからの猛吹雪のお見舞いだった。
23日に行われた非公式の夕食会で、トランプはいきなり通商問題を切り出した。日本側は本格議論は26日の首脳会談で行う考えだったが、冒頭からアメリカのペースに乗せられた格好となった。
シナリオが突然変わったため、24日午後に予定されていた日米閣僚級貿易協議は先送りとなり、アメリカ側がより強硬に対日貿易赤字の削減を求めてくることが必至となった。
予想通り25日の茂木-ライトハイザー会談で日本側は、アメリカに2国間通商協議の開始を迫られ拒絶しきれなくなった。窮地に立った日本政府は苦肉の策として「日米物品貿易協定(TAG)」という新なスキームを編み出し、これは関税問題に限定した内容で、包括的なFTAとは違うものとして26日の首脳会談で合意したのである。
首脳会談での日米共同声明について日本側は、農業分野の対米関税はTPPの水準以下に引き下げないとする日本の立場をアメリカは尊重する。協議中は日本車、部品への追加関税措置などは行わない、などと日本の主張が認められたかのような説明を行った。
安倍も現地での記者会見でTAGについて納得のいく説明を避け、話を内閣改造と党役員人事にそらし、翌27日午前、逃げるように政府専用機に乗り込んで帰国した。
訪米中安倍は、9月18~20日に行われた南北首脳会談の成果を踏まえ、韓、米首脳との会談で北朝鮮問題に関する成果を得ようとしたが叶わなかった。文在寅からは「金正恩は適切な時期に日本と対話の用意があると言っていた」と伝えられたが、それが何時なのかなど具体的な提示は無かった。
トランプとの会談でも拉致、ミサイル問題は貿易協議によって、脇に追いやられた形となったのである。今回はさすがにゴルフをする余裕もなかった様だが、コースに出た場合、厳しいアゲインストに見舞われる中、今度は自ら池に落ちるぐらいのパフォーマンスが必要だったであろう。
10月に入り弥縫策ははやくも綻びだした。1日アメリカ政府は、メキシコ、カナダとの北米自由貿易協定(NAFTA)見直しで、新協定に為替条項が導入されたことを明らかにした。
そして13日にはムニューシン財務長官が日本との2国間交渉でも、為替条項の導入を求めていくことを明らかにした。これに対して茂木は14日のNHK「日曜討論」で為替の話は入っていないとしながら、「為替問題は財務大臣同士の話」と、麻生にお鉢を回し逃げをうった。
4日にはパーデュー農務長官が農産物の関税について、日本側にTPPの水準を上回る引き下げを求めていくと表明するなど、日米の認識の違いが次々と明らかになり、TAGの実態が暴かれてきたのである。
国内でも10日には国民民主党の玉木代表が「TAGは政府が意図的に誤訳し捏造した」と指摘、立憲民主党や共産党も追及していく構えを見せており、臨時国会の重要な論点となる。
安倍は常日頃、薩長政権を憧憬しているが、日本政府の対応はアメリカの開国要求に対する徳川幕府の狼狽ぶりと同様である。自民党も「押し付け協定」には断固反対すべきであろう。

スリーアウトを目指して
沖縄知事選敗北の衝撃も冷めやらぬ中、10月2日第4次安倍改造内閣が発足した。麻生、河野、世耕と公明党の石井らを留任させ、後は派閥均衡の結果、74歳の原田環境相など12人が初入閣すると言う、当初から勢いに欠ける布陣となった。
また党人事でも、不祥事で表舞台から消えていた甘利や稲田を復権させるなど、相変わらずの側近政治を性懲りもなく続けている。
組閣直後の報道各社の世論調査では、内閣支持率は上向かず、総裁3選と内閣改造による政権浮揚効果は無かったことが明らかとなった。そればかりか早速、片山さつきが安倍の期待通り、2人分3人分のマイナスパワーを発揮するなど、新任閣僚による問題発言、不祥事が相次ぐ事態となっている。
「在庫一掃内閣」「閉店セール内閣」と揶揄される改造内閣であるが、店先に並べた商品から不良品が続出したのである。
新内閣が出だしから躓く中、安倍は10月15日、来年10月の消費税引き上げを明言した。今回は「リーマンショック並み」云々との前提条件を付けず、自ら退路を断った形となった。
昨年の総選挙における、増税分を教育無償化などの財源とすると言う、その場しのぎの公約のツケが回ってきたのである。安倍は漫然とリフレ政策を続けてきたが一向に効果が表れず、ここに来て白旗を掲げることとなった。
安倍は全世代型の社会保障を充実させると言いながら実際は、年金支給開始年齢の引き上げ、そのための「70歳定年制」導入、医療、介護保険料、負担割合の引き上げなど高齢者の負担を増大し、社会保障政策の破綻を糊塗しようとしているのである。
政府は増税の負担軽減策として、中小小売業でのキャッシュレス決済に限った2%の1年限定のポイント還元などを検討している。しかし個人店舗の経営者や客層を鑑みるなら、このような姑息な手法では焼け石に水となるのは明らかである。
10月24日から始まった臨時国会で野党は、暴投を連発する「全員野球内閣」への追及を強めるとともに、経済、社会保障政策の対案を提示し、安易な消費増税を追及しなければならない。
さらに、外交、安全保障についても日米通商問題を筆頭に、韓国、ロシア、北朝鮮との関係改善が停滞している。安倍は中国との関係改善に活路を見出そうとしているが、対中軍拡、挑発行為は継続しており、26日の首脳会談でも領土、歴史問題の具体的進展は無かった。日本の孤立化を阻止するため、安倍外交の総決算が求められている。
沖縄に対しても12日の玉城新知事との会談から5日後に、県の辺野古埋め立て承認撤回に対する対抗措置を強行するなど、知事選の意趣返しともいうべき対応を進めている。
強硬姿勢を変えない安倍政権であるが、総裁選、沖縄知事選の打撃で既に1アウト状態と言ってもよいだろう。安倍は起死回生策として、三度増税を延期するのではないかとの観測も流れているが、来年の統一自治体選挙で2アウト、そして参議院選挙で3アウトをとり、チェンジさせなければならないのである。

【出典】 アサート No.491 2018年10月

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