【書評】三浦英之『南三陸日記』

【書評】 三浦英之『南三陸日記』 (2019年2月刊、集英社文庫、550円+税)

「遺体はどれも一か所に寄せ集められたように
 折り重なっていた。」
「リボンを結んだ小さな頭が泥の中に顔をうずめている。
 細い木の枝を握りしめたままの三〇代の男性がいる。
 消防団員が教えてくれた。
 『津波は引くとき、川のようになって同じ場所を流れていく。
 そこに障害物があると、遺体がいくつもひっかかってしまう・・・』。」
「遺体は魚の腹のように白く、濡れた布団のように膨れ上がっている。
 涙があふれて止まらない。
 隣で消防団員も号泣していた。」
 本書は、震災直後から約一年間、朝日新聞に連載された「南三陸日記」という短いコラム(2012年に単行本化)に、2018年取材の「再訪」を加えて文庫化したものである。
 震災から9年を経た現在ではあるが、本書にはまだその当時の悲惨さ、深刻さを思い起こす文章が並んでいる。その内容は、短い文章の連なりではあるが、心を引きつける。
「誰のために記事を書くのか。
その命題を忘れないよう、毎朝通う場所がある。/津波で骨組みだけになった南三陸町
役場の防災対策庁舎。
危機管理課職員だった故・遠藤未希さん(二四)が、津波の直前まで防災無線で住民に
避難を呼びかけ続けた建物だ。
何度も顔を合わせる人がいる。/ 三浦ひろみさん(五一)。危機管理課の課長補佐とし
て遠藤さんと一緒にマイクを握っていた夫の毅さん(五一)は、今も行方がわかってい
ない。(略)
あの日、公務員の次男(二〇)は、車の中で防災無線を聞いた。『避難しろ』と必死に叫
 ぶ父の声に促され、高台に逃げて助かった。/声は『ガガガ』という雑音にかき消され
 た。
『どうしても彼に伝えてあげたいんです』と三浦さんは言った。/『メッセージ、ちゃ
んと届いたみたいだよって、そして、あなたと暮らせて、私はとても幸せでしたって』」
 ここで著者は立ち止まる。
 「まるで広島の原爆ドームのように、廃墟になった南三陸の町に建つ。/何を書くべき
 か。/答えは『現実』が教えてくれる。」
 本書は、大震災の被害者とともに生活し、寄り添う中で彼らの心を駆けめぐる哀しみ、怒り、絶望、そして少しばかりの希望を描き出す。
 失なわれた命、新たに生まれてきた生命、被災地からの避難や学校や生活の再開等々、本書に載ったさまざまな切り口をぜひ読んでいただきたい。
 ただ巻末に新たに書かれた「再訪 二〇一八年秋」から、少しだけ引用する。上に出てきた遠藤未希さんの夫であったAさんと著者の会話である。
 「Aさんとの会食は取材が目的ではなかったため、私はそれまで未希さんのことにできるだけ触れないようにしていたが、Aさんが突然未希さんについて話し始めたので、私は禁を破って一つだけ彼に尋ねた。
 その回答を、私は一生忘れないでおこうと思った。/私は彼にこう聞いたのだ。
 『今でもやっぱり未希さんのこと、思い出す?』/
 彼は答えた。/『いや、全然』/『全然?』
 『「忘れた」ことなんてないんです。だから「思い出す」こともないんです──』
 そう言うと、Aさんは腕全体で体を隠すようにして、低く声を上げて泣き始めたのだ。」
 今も続くこの現実をどう受け止めて進むべきか。
 時折りしも東北大震災の慰霊式が、来年で10年を迎えるということで政府主催が取りやめになるというニュースが2020年1月21日に出されたばかりであるが、課題はまだまだ山積されたままであることは言うまでもない。本書が、コラムの一ページごとに挿入されている写真とともに、大震災の風化に歯止めをかけるささやかな一歩であることを願う。(R) 続きを読む

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【投稿】中東の激変とドル支配の危機--経済危機論(13)

<<“トランプ戦争”が明らかにしたもの>>
前回で触れた対イラン“トランプ戦争”の意図、それが期せずして明らかにした中東の激変とアメリカの孤立化、ドル支配をめぐる攻防が、これまでとは違った質的に新しい段階をもたらしつつあると言えよう。
第一に、トランプ政権は、キラードローン攻撃によってイランの司令官を暗殺するという無謀かつ危険極まりない冒険主義によって、イランを孤立化させるどころか、逆に中東においてもアメリカ国内においても自らを孤立化させてしまったことである。これは取り返しのつかない、意図せざる結果だとも言えよう。
軍事的には、これまで長年にわたって侵略・占領・支配し、足場を築いてきたはずのイラクから撤退を要求されるという、アメリカにとっては到底受け入れがたい、考えられない事態を招いてしまったことである。
事実、トランプ大統領は、米軍基地撤退を要求するイラク議会の決定に激怒し、「我々は彼らにこれまでに見たことのないような制裁を請求する」と宣言し、次いでイラクの中央銀行がニューヨーク連邦準備銀行に保有する口座へのアクセスをブロックできるとイラクに警告し、脅迫している。米軍の占領初期に、石油省のこの口座が開設され、実質的にすべてのイラクの石油貿易収入がこの口座に保有され、現在の残高は350億ドルだとされている。イラク政府は、支出のために、この口座から毎月20億ドルを引き出しているが、それがブロックされると、支払い不能・デフォルト、財政破綻の事態に直面させられる。
さらに、イラクの米軍基地に駐留する有志連合軍のうち、カナダはイラクにいる500人の兵士の「一部」をクウェートに撤退させ、ドイツは兵員を削減し、デンマークやポーランドなど他のいくつかのヨーロッパ諸国が、イラクの決定を尊重し、彼らの軍隊を撤退させる方針である。残るはイギリスの800人、オーストラリアの300人となる。この事態もまったくの想定外だったと言えよう。
軍事的に予期できなかったもう一つの手痛い現実は、イランの報復攻撃の一環として行われた、米軍のアイン・アル・アサド軍事基地への攻撃は、イラン側のこれ以上エスカレーションしない、死傷者を出さないという配慮から3時間前に通告されていたにもかかわらず、イランがアメリカの目標を非常に正確に爆撃し、しかも米軍側は、発射された13発の弾道ミサイルのただの一つも迎撃して、撃ち落とすことができなかったことである。(上図は、1/8、イランの報復攻撃を受けたイラク北部の米軍アルアサド空軍基地の比較写真、コンクリートの障壁と兵舎が破壊されている。) 続きを読む

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【投稿】明快な判断―広島高裁の伊方原発3号機運転差し止め仮処分決定

【投稿】明快な判断―広島高裁の伊方原発3号機運転差し止め仮処分決定
                           福井 杉本達也

1 広島高裁:森一岳裁判長・伊方原発3号機運転差し止め認める
1月17日、広島高裁:森一岳裁判長は、四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の運転差し止めを山口県の住民が求めた仮処分申し立てで、広島高裁は、運転してはならないとする決定を出した。決定の中で、原発付近に活断層がないとした四国電力の調査は不十分で、阿蘇山の大規模噴火時の想定も過小評価だと判断した。運転を差し止めの判断は5件目で、うち高裁段階では2件目となる。3号機は定期検査で運転を停止中であるが、司法判断が翻らない限り、運転再開はできない。ただし、差し止めの期間は山口地裁岩国支部で係争中の差し止め訴訟の判決言い渡しまでとした。
伊方3号機をめぐっては、広島高裁が2017年12月、阿蘇山の破局的噴火で火砕流の影響を受ける可能性があるとして、運転をしてはならないとする決定を出したが、同高裁の異議審では取り消されてしまった経過がある。

2 伊方原発の沖合数百mに「中央構造線」の活断層
今回の即時抗告審で一番大きな論点だったのは活断層と火山、特に弁護団が重視したのが、伊方原発の沖合500~700mの佐田岬沿岸に「中央構造線」(MTL)の活断層があるかどうかであった。四国電力は音波調査から、「中央構造線系断層帯」の南側・伊方原発がある佐田岬半島北岸部には活断層は存在せず、活断層が敷地に極めて近い場合の地震動評価は必要ないと主張したが、2017年12月の国の地質調査研究推進本部が断層帯の長期評価を見直し、佐田岬半島沿岸の中央構造線については「現在までに探査がなされていないために活断層と認定されていない。今後の詳細な調査が求められる」と活断層である可能性に言及した。新規制基準では、敷地から2km以内に震源域がある場合、より厳しい設置基準が要求されている。
原告側は、四国電力が音波検査によって確認したと主張する佐多岬半島沖合8kmの断層=「中央構造線系断層帯」と称される断層群はは副次的に形成された「偽物の活断層」にすぎず深部で基盤に達していないとする(抗告理由書3・補充書3:2019.10.15)。一方、本来の「中央構造線」は伊方発電所の600 m 沖付近を通過しており,直近に隣接する伊方発電所は「中央構造線」のダメージゾーンに位置している(早坂康隆広島大大学院准教授資料:2016.11.13)と反論した。
高裁決定は「長期評価の記載は音波探査では不十分であることを前提にしたもの」と指摘。ようするに、伊予灘での四国電力の地震波探査結果から伊予灘でも中央構造線が活動しており、「中央構造線」は四国電力が主張するような、沿岸から8km沖合の離れた断層帯ではなく、活断層の「中央構造線」は佐田岬半島の沿岸すれすれに走っており、「本件発電所の敷地至近距離において、地質境界としての中央構造線自体が正断層成分を含む横ずれ断層である可能性は否定できない」(決定要旨)として、山口地裁岩国支部決定の判断を覆したのである。 続きを読む

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【追悼】吉村 励先生とアサート

2020年1月3日 吉村励先生がご逝去されました。

私は、ゼミ生ではなかったが、卒業後は「労働講座」などで、先生の講演を拝聴して、自らの労働運動の指針としてきました。

「青年の旗」そして「アサート」の編集にあたっては、奈良市西大寺のお宅にも伺い、社会経済情勢、労働運動の課題など多岐にわたるお話を伺うことができました。

 以下に、「青年の旗」「アサート」にいただいた投稿等をご紹介して、先生とのお付き合いについて、思い出してみたいと思います。

 なお、生駒さんから拝借した「学生評論」誌(反戦学生同盟? 1950年10月 第7号)に、「大阪商大事件—昭和18-19年における反戦反ファシズムレジスタンス闘争の記録」という論稿がありました。もちろん、吉村先生の名前も出てきます。 次の機会に、ご紹介したいと考えております。(佐野秀夫)

追記:右上の写真は、2008年4月に訪問させていただいた時の写真ですが、
映像もありました。ご参考まで(MVI_0175

<吉村先生の投稿等リスト> 続きを読む

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【投稿】吉村励先生のご逝去を悼む

【投稿】吉村励先生のご逝去を悼む

             福井 杉本達也

2020年1月3日、吉村励先生がご逝去された。1922年お生まれでなので、97歳であった。先生は1948年に旧制大阪商科大学(現大阪市立大学)を卒業後、同大学副手(現在の助教的立場か)として採用され、1985年に同大学を経済学部教授を最後に退官された。その後、1997年まで奈良産業大学に奉職されておられた。

「大和のつるし柿」
手元に「大和のつるし柿」という先生の退官時の記念論文集がある。これは同大学文学部哲学科の故森信成先生が吉村先生につけられた「あなだ」である。奈良県の諺のようであるが、「みかけは悪いが、味は良い」という意味だそうだ。ところが、森先生のつけられた意味は異なっていて、「へたなりに固まっている」(へた=柿のの萼(がく)が脱落せずに台座のようになったもの)という意味で、吉村先生の将棋が上達しないことを揶揄したものとのことである。将棋と言えば、先生と我々11人で三朝温泉・出雲方面へ旅行した時があった。当時は山陽新幹線もなくディーゼル車が福知山線経由で走っていた。帰りは出雲から大阪まで7時間ほどかかったような記憶がある。行きの列車ではトランプのナポレオンゲームを、帰りの列車内では我々と延々と将棋を指し続けられたことを思い出す。先生はお一人になられた晩年にはサービス付き高齢者住宅に入所されたが、何度かお邪魔した我々の1人と将棋を指すことを楽しみにしておられたようである。

「荷物を積まない帰り車」
先生がある新聞記事を紹介された中に、米国の運送労働者の「荷物を積まない帰り車」というのがあった。道路運送車両法が改悪され、今日の日本のように超勤も支払わず、高速道路のサービスエリアを休憩所として仮眠と時間調整による「ジャストイン・タイム」での配送を強いられ、携帯を持たされて留守の家を何度もAmazonの商品を配達するような運送事業者の実態を見ていると、帰りに車に荷物を積まないで帰るなんてなんともったいないことだと思うかもしれない。「帰り荷がなかったら、何社でも回って営業して帰ってこい」というのが現状である。我々も最初、先生からこの言葉を聞いたときには「損をするのではないか」と即座には判断に迷った。しかし、帰り荷を積んで帰るということは、配達先の地域の運送業者と運送労働者の仕事を奪うことである。互いに仕事を奪い合うことによって、労働者間で競争し合い、最終的に自らの首を絞めることとなる。米国の労働者は労働者間の競争を制限して自らの地位を守っていたのである。先生の学説の根本には一貫して労働者の連帯を追求したことにある。そのためにどのよう賃金形態が理想なのか、労働組合の組織はどうあるべきかを生涯にわたり研究され、労働運動側に提起され続けたのではないか。

ロゾフスキー「左翼労働組合の意義と任務」とG・D・H・コール「労働組合入門」
先生から、「これらの本を読んでおくように」と、書籍リストのコピーを2枚渡された。100冊近くの書籍が並べられていたが、とても非力な個人の能力を超えており、そのほとんどの書物に直接あたることもなく今日まで来てしまった。しかし、その中でわずかではあるが印象に残るものがある。輪読のテーマにした1つがロゾフスキーの「左翼労働組合の意義と任務」があった。「ロゾフスキー」といっても今日ではほとんど名前を知る人もいないであろう。赤色労働組合インターナショナル(プロフィンテルン 1921~1937年)の責任者として組合を指導しているが、「革命的労働組合は社会主義の学校」であり、「改良主義的労働組合は資本主義の学校」であるという言葉がある。労働組合のそれ自身としての独自の価値を認めず、労働組合に特定の政党(共産党)が伝動のベルトをくっつけて政党の政治路線を労働組合に押し付けようとする、いわゆる「伝動ベルト論」である。先生はこうした考え方を一貫して批判され、労働組合は「労働力商品の一括販売の組織」であり、労働市場の過半数を制することによって、賃金、他の労働条件を有利に規制することができると説かれた。その理論的提起が『労働組合と戦線統一』(1972)であったといえる。もちろん同著の中で先生は「半労働組合」としての企業別組合の主体性の欠如を危惧しておられた。先生は「護送船団」を例にして、20ノットの船と13ノットの船が船団を組む場合、船団のスピードは13ノットで進むしかないと述べられておられた。しかし、現在の労働運動の現状を見るかぎり、結果として13ノットどころか3ノット程度にまで速度を落としてしまった結果責任は、企業別組合にどっぷりつかったまま、先生の理論を現実化できなかった我々の実践にある。
もう一冊、印象に残ったものとしてG・D・H・コール(英社会主義団体のフエビアン協会の代表)の『労働組合入門』(1953)がある。日本語版では上下2冊である。なぜか、コールの『労働組合入門』はノートを取ってあった。コールは本の最初の1Pで「労働組合とは、一種または二種以上の職業に就業する労働者の結社をいうのであって、その組合員の日常の作業に関連した経済的利益の保護推進を主要目的として運営する結社である」と書いている。続けて「しかしながら、労働組合がいかにいろいろの事をするといっても、その主要目的の一つがその組合員の経済的利益の擁護でない限りは、いかなる団体でも普通には労働組合とは考えられない」と述べている。ここからは「伝動ベルト論」などのような物騒なものは出てこない。先生がこの本を読んでおけといわれた理由が分かる。

奥様と年に二回の海外旅行
奈良産業大学を退職されてからは、悠々自適の生活をされておられたのであろう。先生は奥様とご一緒に年に2回は必ずと言っていいほどに海外旅行をされていたように思う。行先はヨーロッパや中国方面が多かったように記憶している。ルーブル美術館やウイーン美術史博物館なども見学されたのであろう。西洋絵画の鑑賞について、「やっぱり聖書の物語が分からないと絵画の意味がつかめないね」とおっしゃられていた。「聖○○の虐殺」などという題名では、特に旧約聖書の知識がないと「よくわからない、旧約聖書を読むべきだ」と話されていた。
また、1970年代に、旧ソ連邦のウクライナの首都キエフをご子息を連れられて旅行されている。5月1日のメーデーの行進を見学されたことを昨日のことのように印象的に語られていた。
旅のエピソードとしては、ヨーロッパ方面に旅行されたときに、1本前に出発したツアーの添乗員がツアー客全員の金券チケットを忘れて出発してしまったので、その後に出発する先生夫妻にそのチケットを追っかけて持って行って、添乗員に渡して欲しいと頼まれたとのことである。おかげで旅費の半分ほどがタダになったと話されておられた。
先生の奈良のご自宅には奥様との旅行の写真のスクラップブックが行先別にきちんと整理されて部屋全体を占拠するように並べられてある。お伺いしたときは、必ずその写真を出されて奥様との旅の思い出を懐かしく話されていたことを思いだす。今は主のいなくなった部屋に、まだスクラップブックが鎮座しているのだろう。

 

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【投稿】“トランプ戦争”とドル支配の危機--経済危機論(12)

<<巨大な反戦運動の波>>
トランプ米大統領が新年早々の1月2日(木)夜、イラク・バグダッド時間では3日の朝、「昨夜、戦争を止めるために行動を起こした。」「私の指示で、米軍がテロリストの首謀者を抹殺する完璧な作戦を実施した」と述べ、何の展望もない冒険主義的な対イラン戦争開始を明らかにしたのが1/3であった。それは全く衝動的な大統領選キャンペーンの一つとしての“トランプ戦争”開始宣言であった。大統領選に有利になると踏んだのであろう。しかしそれは思いもかけぬ巨大な反撃に直面することとなった。イランは、ただちに「厳しい報復攻撃」を明らかにしたのは当然であったが、アメリカ国内からの巨大な反戦の波、大運動が組織され始め、どんどん拡大し始めたのである。女性主導の反戦組織であるコード・ピンク(Code Pink)が先頭に立ち、「アメリカのわたしたち市民が立ち上がってそれを止めない限り、この戦争は地域全体を巻き込み、予測できない範囲と潜在的に最も重大な結果の世界的紛争にすぐに変わる可能性があります」と声明で述べ、全国的な抗議を呼びかけたのである。翌1/4には「NO WAR With IRAN !」(イランとの戦争をやめよ)を掲げたデモ、集会、抗議の波が全国主要都市で数多く組織され(1/4だけで約80都市、120か所)、若者や女性、一般市民がエネルギッシュに声を上げたのである。ワシントンのホワイトハウス周辺、ニューヨークのタイムズスクエア、トランプタワーの前での巨大な集会、アルバカーキ、インディアナポリス、メンフィス、マイアミ、セントルイス、フィラデルフィア、シカゴのダウンタウンにそれぞれ何百何千もの大群衆が「戦争をやめよ!」と要求。Code Pinkのディレクターであるベンジャミンさん(Medea Benjamin)は「これまでと今回の大きな違いの一つは、抗議するために非常に多くの若者や、白人はもちろん、非白人の人々もたくさん参加していることです」と述べている。これらの大規模な抗議運動は連日、場所も参加者も日ごとに増大して取り組まれ、1/25には世界抗議デー(Global Day Of Protest, January 25, No War With Iran!)が計画され、この呼びかけには、ANSWER連合、CODEPINK、Popular Resistance、平和のための黒人同盟、National Iranian-American Council(NIAC)、Veterans For Peace、米国労働反対戦争(USLAW)、Women’s International League for Peace and Freedom(WILPF)、米国反戦委員会、平和のための牧師/コミュニティ組織のための宗教間財団、国際行動センター、平和と正義のための連合、世界正義のための同盟(AFGJ)、12月12日の運動、戦争を越えてドミニカ共和国の姉妹/ ICAN、国際非暴力、食糧爆弾および他の多くの反戦および平和組織が加わっている。

上の動画は、ポピュラーレジスタンスのサイトに掲載された「イランへの愛と連帯のメッセージ」(A Message of Love and Solidarity to Iran from the US)と題するワシントンDCでの集会の動画である。 続きを読む

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【投稿】対イラン・中東戦争拡大の危険--経済危機論(11)

<<トランプの冒険主義>>
2020年、新年早々、1/2、米・トランプ政権は、危険極まりない新たな戦争に乗り出した。イランの国民的英雄であるイスラム革命防衛隊精鋭部隊の司令官カセム・ソレイマニ将軍が、イラク軍兵士31人の葬儀に出席し、イラク首相の指揮下にある公式のイラク治安部隊の副司令官であるアブ・マフディ・アル・ムハンデスによってイラクのバグダッド国際空港で迎えられ、車に移動したその車列を突如上空から急襲し、ソレイマニ司令官やイラクの重要民兵組織のトップら5人とともに殺害したのである。日本の真珠湾攻撃のような、宣戦布告なき戦争突入開始爆撃である。
トランプ大統領は、米国時間で2日(木)夜、バグダッド時間では3日の朝、ドローンによる襲撃を承認したことを明らかにし、「昨夜、戦争を止めるために行動を起こした。」「私の指示で、米軍がテロリストの首謀者を抹殺する完璧な作戦を実施した」と述べ、同時に「私たちは平和を愛する国であり、私の政権は世界の国々の間で平和と調和を確立することに固くコミットしています」「戦争も体制転換も求めない」と言い訳がましい発言もしている。
米国防総省は、「大統領の指示で、米軍は、米国指定の外国テロ組織であるイラン革命防衛隊の長であるカセム・ソレイマニを殺害することにより、海外の米国人員を保護するための決定的な防衛行動をとった」と声明で述べている。しかし、ソレイマニが「アメリカの外交官と軍人に対する差し迫った攻撃」を企てたという証拠などはまったく示してはいない。米軍は、すでにこの地域に約60,000人の軍部隊を派遣しており、昨春以来、14,000人を増派、今回さらに約3,500人の増派を進行させている。
戦争を始めたばかりの大統領が、「我々は戦争を求めていない」などとよくも言えたものである。マイク・ポンペオ米国務長官は、「イラクだけでなく、イランの人々は、昨夜のアメリカの行動を彼らに自由を与え、感謝してくれるだろう」と発言し、トランプによって解任されたはずのジョン・ボルトン元国家安全保障特別顧問に至っては、「カッセム・ソレイマニの排除に関与したすべての人にお祝いの言葉を述べます。これがテヘランの政権交代の第一歩であることを願っています。」とまで述べている。傲慢な帝国主義的本性をむき出しにした発言と言えよう。
イランのラバンチ国連大使はただちにこれは「戦争行為である」と断定し、報復の「軍事行動」に出ると宣言、ロウハニ大統領は「米国は自分たちの大きな過ちを理解していないだろうが、今日以降、その結果に直面するだろう」と報復を明らかにしている。イランの最高指導者、アヤトラ・アリ・ハメネイ師は、ソレイマニの死に対する3日間の追悼を宣言し、「厳しい報復が犯罪者を待っている」と述べている。
イラクのアブデル・マハディ首相は、「イラクの指揮官の標的とされた暗殺は合意に違反している。それはイラクと地域で戦争を引き起こす可能性がある。それはイラクにおける米国のプレゼンスの条件の明らかな違反である。」と述べ、すべての米軍の撤退を求める議会緊急会議を呼びかけている。 続きを読む

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【投稿】「過剰と不均衡」の警告--経済危機論(10)

<<米中通商合意の現実>>
米国株式市場は2019年年末、米中両国が12/13に発表した第1段階の通商合意や好調な米年末商戦のデータなどを受けて株価が急上昇し、史上最高値を連日更新し続け、12/27にはダウ工業株30種平均は前日終値比23.87ドル高の2万8645.26ドルの史上最高値の更新で終了した。ハイテク株中心のナスダック総合指数も11日間連続で過去最高を更新している。これに呼応するかのように、東京株式市場も12/30、2019年最後の取引の日経平均株価は前週末から181円10銭下落したが、2万3656円62銭、年末の終値としては1990年以来29年ぶりの高い水準で取引を終えた。これだけを見れば、危機的な景気後退は回避され、経済は順風満帆基調に戻ったかに見える。
しかし事態を冷静に見れば、トランプ大統領によって発動された2年にわたる関税・貿易戦争は、予想外の不安定な株式市場の動揺、米農家の破産の急増、製造業生産指数の明らかな後退といった、今後も深刻な影響を与え続ける犠牲を払ったあげくの「成果」でしかなく、オバマ前政権最後の年の状況に戻るだけ、あるいはそれ以下ということになりかねない。
そもそも今回の合意は、本来あるべき貿易協定というよりも、来年の大統領選を控え、成果を何としても誇示したいトランプ氏側の合意を急がざるを得ない切羽詰まった状況を反映したものが露骨に表れている。米側の12/15発動予定であった追加関税の見送りに対し、いわば中国側が譲歩したかに見える「大規模な輸入合意」が主軸となっている。しかもこの合意で、中国側は来年、500億ドル分の米農産品を輸入する用意があると報道されているが、中国側からは明示されておらず、そもそもアメリカから中国への農産品輸出高は300億ドルを超えたことがなく、生産能力からして疑問符が付き、関税戦争開始前の2016年実績でも214億ドル(米国産の大豆やトウモロコシ、豚肉など)である。
さらにこの米中合意は、あくまでもいまだ「第一段階」、ミニ合意にしかすぎないものであり、「第二段階合意」など今や視野にさえなく、あれほど罪悪視したアメリカの対中貿易赤字は、逆に膨らんでいるのが現実である。自分なら、製造業の雇用を中国から奪い返すことができる、というトランプ氏の公約が果たせる状況など皆無とも言えよう。それでも「第一段階の合意」だけでも一点の光明が見え、危うい株価の上昇に寄与したのは事実であろう。 続きを読む

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【投稿】海自中東派兵の本質―軍事力による海外権益確保に踏み出した安倍政権―

12月27日安倍政権は、海上自衛隊の中東派兵を国会に図ることなく閣議決定した。その根拠は防衛省設置法の「調査・研究」とされ、新規立法は見送られた。これにより部隊の運用に関しては官邸=国家安全保障会議(NSC)が事実上のフリーハンドを握る形となった。

予定ではジプチに駐留する海賊対処用P3C哨戒機2機が1月から、護衛艦「たかなみ」が2月下旬から、2020年12月26日まで任務に就くとされているが、政権の恣意でいくらでも延長できる。

これらの活動は国会に対しては報告義務があるが、閣議決定後と活動終了後という極めて形式的なものとされており、議会は事実上無視されている。派兵部隊がどの海域でどの様な行動を行っているか、リアルタイムで国民は知るすべはない。 続きを読む

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【投稿】「令和」の年号が引用された『万葉集』は本当に“国書”だったのか?

【投稿】「令和」の年号が引用された『万葉集』は本当に“国書”だったのか?
                             福井 杉本達也

和歌は、正月の宮中儀式の一つである「歌会始」にもあるように、過去から現在にいたるまで、天皇との関わりが深い。歌人の内野光子が和歌と天皇制との関係についてブログに書いている。敗戦直後、斎藤茂吉は「聖断はくだりたまひてかしこくも畏くもあるか涙しながる」と歌った。「『天皇に忠誠を表す形で戦争協力歌が量産された。その反省』もないままに…そのまま引き継がれ、さらにその関係は強化されようとしている…その要因は、直接的には、各歌人たちが天皇とつながりたいという名誉欲や自己顕示欲につながるのだが…日本政府はつねに天皇、皇室を政治的に利用しようと目論んでいること、天皇及び周辺も象徴天皇制のもとで天皇家の繁栄持続を願い続け…天皇制は『天皇家の物語』として深く、国民の間に浸透」していると述べる(内野光子:「短歌と天皇制」(2月17日『朝日新聞』の「歌壇時評」)をめぐって(2)2019.3.1)

『令和』の年号は、『万葉集』第5巻・大宰府での梅花の宴の歌32首の 序文中にある「初春令月 氣淑風和」(初春の令月にして、気淑(きよ)く風和(やわら)ぎ)から採られた。「新元号」は初めて漢籍からではなく“国書”から引用されたという触れ込みであった。しかし、『万葉集』は本当に“国書”だったのか?疑問なしとはしない。

そもそも、日本国(近畿王朝)の正史と言われる『日本書紀』には、天武・持統天皇と同時代を生きた『万葉集』中の最高の歌人「柿本朝臣人麿」の一言半句も登場しない。平安時代:905年頃に成立した『古今和歌集』の選者・紀貫之は「仮名序」において、人麿を「おほきみつのくらゐ(正三位)かきのもとの人まろなむ、歌の聖なりける」と書く。「正三位」とは「星の位」ともいわれ、上級貴族の位階である。「大納言」相当である。奈良時代の長屋王や近代では西郷隆盛らが正三位であるとする。勅撰和歌集の選者である紀貫之が位階を誤るなどとは考え難い。「柿本人麿」も『万葉集』も日本国(近畿王朝)の正史からは抹殺されたのである。“国書”ではあるが、日本国の“国書”ではない。 続きを読む

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【投稿】異常気象を地球温暖化のせいにするも何も決まらなかったCOP25

【投稿】異常気象を地球温暖化のせいにするも何も決まらなかったCOP25
                        福井 杉本達也

1 COP25は何も決められずに終了
日経の12月17日社説は「温暖化対策の緊急性はわかっても実行に移すのがいかに難しいことか。マドリードで開いた気候変動に関する国際会議『COP25』は、気象災害の多発などを防ぐのに必要な温暖化ガスの削減と、現実の政策との聞きを見せつけた」と書いた。予定された会期を2日間延長して協議を続けたものの、「パリ協定」の詳細なルールづくりは2020年に持ち越した。対策に前向きなEUや島しょ国と石炭産業などを保護したい米国やオーストラリアや石炭火力発電に頼るインドなどの発展途上国との対立が最後まで折り合わなかったことによる。さらに国際会議直前の11月に米国は正式に「パリ協定」からの離脱を通告しており、中国に次ぎ世界第二・二酸化炭素排出量の15%を占める米国の離脱は協定を有名無実化する。こうした現実の議論に対し、日本では「グレタ現象」や日本の石炭火力依存を揶揄する小泉進次郎環境相の「化石賞」受賞などの素人受けする話題を追うのみであり、まともな議論は皆無である。

2 異常気象を温暖化のせいにしての脅し
産経新聞は「今年の日本は未曽有の台風被害に見舞われた。地球温暖化が原因とされる異常気象が深刻化しており、対策は待ったなしだ。…10月に日本を直撃した台風19号は、海水温が高い海域を移動しながら急速に勢力を拡大。日本近海の海水温も高かったため、勢力を維持したまま上陸し甚大な被害をもたらした。海水温の上昇は温暖化が原因と考えられており、専門家は『温室効果ガスの削減は一刻を争う』と警告する」と脅している(産経:2019.12.15)。また東京新聞も社説において「過去20年間に、異常気象によって世界で50万人 が命を落とし、経済的損失は400兆円近くに上る。去年1年、豪雨や熱波など気象災 害の被害を多く受けた国は、その日本だったのだが」と書く(2019.12.17)。
しかし、温暖化と異常気象を結び付ける根拠は全くない。そもそも台風19号の豪雨被害をまともに予測できたのであろうか。結果として被害が大きかったことを温暖化のせいにすることは気象庁や国交省を始め専門家の責任逃れ以外の何者でもない。特にひどいのが岩波書店発行の雑誌『世界』2019年12月号「気候クライシス」特集である。同誌において(財)気象業務センターの鬼頭昭雄:地球環境・気候研究室長は「最新の気候モデルによる予測結果では、日本の南海上からハワイ付近にかけて猛烈な台風の存在頻度が増加する可能性が高いことが示されている。猛烈な台風は日本の南方海上から日本付近に来る途上で衰えることが多いが、温暖化で海洋表層水温が高くなるため勢力を長く維持できるからだと考えられる。また台風が最盛期を迎える海域が全体に高緯度側にずれるとの予測がある。」とし、「熱波や大雨などの極端気象は増えており、今後の気温の上昇に応じて、熱波や大雨などの極端気象による災害のリスクはさらに増えることは確実である」と書くが、何の計算根拠も数値も示していない。ブラックボックスである。根拠のないものを信じろと強制することを「科学」とはいわない。そのような計算結果が出るのであれば大発見である。台風の正確な進路予想や地域ごとの風力・雨量計算ももっと正確に計算できてしかるべきである。少なくとも根拠があるならば引用文献などでも示すべきであろう。 続きを読む

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【投稿】英総選挙とユーロの危機--経済危機論(9)

<<保守党の変身>>
12/12投開票の英総選挙で、ボリス・ジョンソン党首の与党・保守党(Con)が1987年にマーガレット・サッチャー首相が376議席を獲得して以来、364議席(+66)、絶対過半数をを獲得して圧勝した。対する労働党(Lab)は、203議席(-42)で、ジェレミー・コービン党首の下で2017年前回総選挙での躍進(30議席増の261議席を獲得)を帳消しにしたばかりか、それ以上の歴史的敗北を喫し、コービン党首は辞任を表明した。第三党に浮上したスコットランド国民党(SNP)は48議席(+13)を獲得して、ブレグジット(欧州連合離脱)をめぐる問題の深刻さを浮き彫りにしている。この勢力変化そのものが、イギリスの、そして欧州連合・ユーロ危機そのものを象徴しているとも言えよう。
ジョンソン首相が、大勝を受けて「ブレグジットを終わらせる」と胸を張ったその日に、反ブレグジットの左派であるスコットランド国民党を率いるニコラ・スタージョンは、離脱が進められれば、欧州連合にとどまることを明確にし、独立の是非を問う新しい「独立国民投票」が行われることを明言したのである。イギリスという連合王国(United Kingdom)が、政治的には統一と団結(united)とは程遠い実態と矛盾が露呈されているのである。(下の図で、青が保守党、赤が労働党、黄がSNP 、労働党の牙城だったイングランド北部・中部の「赤い壁」と呼ばれてきた地域が保守党の青色に塗り替えられた)
この選挙で、保守党のジョンソン首相は、徹底して混迷する状況を打開するキーワードとして「ブレグジットを終わらせる(Get Brexit Done)」を前面に打ち出したが、重要なことは、同時に労働党の政策を横取りする策に出たことである。実行する気もなければ、政策的裏付けもないにもかかわらず、これまでの保守党の緊縮政策を真逆に転換させたかのような姿勢を打ち出したのである。
ジョンソン氏は、この9年間保守党が推し進めてきた緊縮財政路線をやめて、公共投資を増やすと述べ、さらにブレグジットに次いで最大の争点となっていた国民保健サービス(NHS)縮減から一転して、「病院40棟の新規建設」「看護師5万人増員」などを公約。しかしこの看護師「増員」の中には退職意向の現職1万8500人の慰留などが含まれていたことが判明、メディアから「看板に偽りあり」と批判されても、選挙戦の最中に繰り返し病院を訪問し、NHS重視をアピールするという徹底ぶりであった。NHSは原則無料の国営医療制度であり、これまで保守党の緊縮政策によって、医療スタッフ不足や過重負担、患者の待ち時間の長期化や手術の先送りなどが常態化していたものである。NHSをアメリカ資本に売り渡そうとする裏取引に関しても、「いかなる状況でも、NHSを貿易交渉の議題に乗せないと絶対に保障する」などと力説したのであった。 続きを読む

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【投稿】世界の「日本化」懸念をめぐって  経済危機論(8)

<<アメリカのジャパナイゼーション>>
FRB(米中央銀行制度・連邦準備制度理事会)のメンバーは、連邦基金の金利をゼロ下限に戻すと、インフレ期待が低くなり、日本化(Japanification)の真のリスクになると懸念を表明し、超低金利によって、景気後退は金融政策を無効にする可能性があるとの認識を明らかにしたという(12/2、ZeroHedge)。現状のまま米国経済が不況に陥ると、「インフレは日本型デフレに近づく可能性が高いことは明らか」だとして、FRBは米国経済が日本化することを回避するために、インフレを一時的に目標範囲の2%を超える新しい「金融ツール」を試そうとしている、と報じ、ZeroHedgeのタイラー・ダーデン氏は、実はすでに「不況が始まろうとしているかどうかに関係なく、すでにアメリカのジャパナイゼーション(Japanization)・日本化が展開し始めている可能性がある」と指摘している。
ここで言われる「日本化」とは、低成長、インフレ不在、デフレ、超低金利、マイナス金利、出口なしの硬直化した金融・経済を総称するキーワードとなっている。
この「日本化」は、はまり込んだり、感染してしまってはならない「陥穽」、「日本病」、あるいは世界を徘徊する「妖怪」として警戒され、相当以前から懸念されてきたものであり、EUはすでに「日本化」に陥っているとも指摘されている。
とりわけこの「日本化」を強く警告してきたのは、「ヘリコプターマネー」を提起して、緊縮政策からの大胆な転換を訴えた元英金融サービス機構(FSA、日本の金融庁にあたる)長官・アデア・ターナー氏である。氏は、著書『債務、さもなくば悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか? 』(日経BP 2016/12/23)の中で、「本書の英語版を書き終えた2015年時点で、世界経済が過剰債務に起因する低インフレと低成長の罠にはまっていて、かつタブーとされた大胆な政策を実施しなければ脱却できないことは既にはっきりしていた。この1年でそうした現実はさらに明白になったが、どこよりも明白なのが日本である。」と指摘している。氏は、「金利がきわめて低い水準に達すると、さらに引き下げても個人消費や設備投資を刺激する効果は低い。そして、この一年の日本やユーロ圏のようにマイナス金利が導入されると、名目需要に対する効果はマイナスになるかもしれない。超低金利がもたらした結果として何より明白なのは、既存の資産保有者の資産が増加したことである。英国では、2008年以降、1人あたりの所得は2%しか増えていないが、既存資産の残高は30%増加している。景気の回復力は弱く、その果実は平等に分配されていない。政治的な反発から英国はEU(欧州連合)離脱を決め、米大統領戦で共和党のドナルド・トランプ候補が躍進しているが、それは驚くべきことではない。」と強調している。そして、「近い将来、日本政府が現在の政赤字を黒字に転換し、債務残高で持続可能水準にまで引き下げることができるという信頼に足るシナリオは存在しない。物価が2%の目標に達することも見込めない。」と断言している。これらの指摘は、世界に広がる「日本化」の実態と問題点を正確についていると言えよう。
アデア・ターナー氏の「ヘリコプターマネー」とは、「2013年に初めて主張した時、各国中央銀行の多くの仲間や友人は恐れおののき、タブー視されたが」、「問題が名目需要の不足なら、中央銀行と政府が連携すれば弾薬は尽きることがない。それが増大する財政赤字のマネタリファイナンスであり、ヘリコプターマネーと呼ばれる政策」であると主張する。単なるバラマキ政策ではない。デフレ脱却政策として財政支出を重視する現代貨幣理論(MMT Modern Monetary Theory)と相通ずるものと言えよう。
問題は、経済を疲弊させる緊縮政策を転換させる政策が、マネタリーファイナンスだけに集約され、投機経済を規制し、規制緩和と市場原理主義の新自由主義を転換し、いかなる名目需要にファイナンスさせるかというニューディール政策と結びついていなかったことにあると言えよう。 続きを読む

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【投稿】香港の暴動の背景と日本のマスコミ・リベラルの歪な「中国感」

【投稿】香港の暴動の背景と日本のマスコミ・リベラルの歪な「中国感」
                             福井 杉本達也

1 香港暴動で大きく破壊された公共インフラや商業施設
長引く香港の暴動で訪問観光客数は前年比39%(8月)も減少した。老舗高級ホテル:ザ・ペニンシュラ香港の稼働率は35%にまで低下した。宝飾品の売上は41%減、デーパートの売上も26%減、親中的企業と見られたスターバックスの店舗なども破壊された(日経:2019.11.29)。暴徒に繰り返し襲撃され、破壊された結果、人々で賑わい商売の繁盛していた銅鑼湾、旺角、尖沙咀など商業エリアの場景は雲散霧消した(人民網2019.10.28)。大量輸送インフラへの打撃も深刻で、香港国際空港占領に始まり、地下鉄駅への放火・車両の脱線、香港海底トンネル(クロスハーバートンネル)も破壊され通行止めになり、信号機も約730基が破壊された。移動の約90パーセントが公共輸送機関に依存している都市での衝突は、750万人もの香港住民にとって、外出する際に、もはや安全なスペースがない状態となった。今年第3四半期の香港の域内総生産(GDP)は前年同期比マイナ ス2.9%となる見通しだ。香港の小売業、ホテル業、飲食業の合計失業率はすでに過去2年余りで最高の4.9%に上昇。このうち飲食業の失業率は過去6年間で最高の 6.0%に達している(「香港ポスト」2019.11.28)。

2 香港暴動の目的は第二の「天安門事件」を引き起こすことにあった
香港暴動の裏の意図は、当初から「第二天安門事件」を引き起こすことであった。香港警察の防御網を突破し、中国人民解放軍を出動させるよう挑発することが目的だった。暴動の参加者は、英米政府から資金を供給され、リーダーはCIA謀略資金の公然組織である全米民主主義基金(NED)のような組織と共謀するためワシントン出向いている。しかし、香港と中国本土を不安定にするため、外国に支援された公然の取り組みは最終的に失敗した(参照:Tony Cartalucci 「マスコミ載らない海外記事」2019.10.17)。人民解放軍は暴動鎮圧に出動しなかった。香港駐留の人民解放軍は非武装でボランティアとして暴動により破壊された道路などのインフラの掃除をしただけであった。香港の公共インフラをあまりにも破壊した結果、香港市民の支持を失い孤立して、暴動の武装中核部隊は香港理工大学に追い込まれ、ほどんどが逮捕されてしまった。
中国政府が人民解放軍を出動させなかった理由は1989年の「天安門事件」による米欧からの徹底的な制裁にあった。結果、中国の経済発展はしばらくの間大きく遅れることとなった。今回も「第二天安門事件」を引き起こし、それを理由として中国に経済制裁を科して中国の経済発展を封じ込めるつもりであった。しかし、中国は「天安門事件」に学んだ。二度と同じ過ちは繰り返さないと誓った。暴動の首謀者の目算が外れた要因はもう一点、香港は北京ではないということである。北京が分裂すれば政治指導部が分裂し国家が解体してしまう。しかし、香港がどうなろうと、今の中国の経済力からすれば大した打撃ではない。 続きを読む

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【投稿】高知県知事選をめぐって・補論--統一戦線論(67)

<<大差敗北でも「大健闘」>>
11/28に高知県知事選をめぐって投稿したが、11/30付・しんぶん赤旗の1面記事を見て驚いた。見出しが、高知県知事選で大健闘 松本氏 各野党にあいさつ 「共闘進んだ」「次につながる財産」とある。
記事は、「高知県知事選で市民と野党の統一候補として大健闘した松本顕治氏が29日、国会を訪れ、応援をうけた野党各党・会派代表らにあいさつをしました。日本共産党の志位和夫委員長、穀田恵二国対委員長が同行しました。」として、「立憲民主党の枝野幸男代表、国民民主党の玉木雄一郎代表や小沢一郎衆院議員、社会保障を立て直す国民会議の野田佳彦代表、社民党の福島瑞穂副党首、無所属の会の岡田克也代表、元建設相の中村喜四郎衆院議員らが応対しました。」と、その際の写真付きである。
 同記事は、志位氏は、「党首のみなさんはじめ55人の国会議員に応援に入っていただき、本当に心のこもった演説をしていただいた。気持ちのいいたたかいができ、共闘が一歩進んだ。次につながる財産ができました」と感謝を述べました、と続き、最後に、どの部屋でも「大健闘だった」「素晴らしい候補だね」と歓迎され、志位氏らは「国会でもがんばりましょう」と語り、握手を交わしました、と結んでいる。
そこには知事選候補者であった松本顕治氏が、今年7月の参院選徳島・高知選挙区で野党統一候補として出馬し、高知では1万9000票差で落選したのであったが、今回の知事選では、差を縮め、肉薄するどころか、逆に6万2000票以上もの大差に広げてしまったことについては、一言も触れてはいないのである。言い訳も反省の弁すらない。あきれたものである。
安倍政権が、森友問題や「桜を見る会」をめぐって明白・厳然たる事実を無視して、批判と責任を問う声を一切無視して政権にしがみつき、事態が鎮静化するのを待とうとする態度と、この共産党指導部の姿勢は同一だと言うのは、言い過ぎであろうか。 続きを読む

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【投稿】高知県知事選をめぐって 統一戦線論(66)

<<内閣支持率急落のさなか>>
11/7告示・11/24投開票の高知県知事選挙は、安倍政権が、”権力必腐”を地で行くような、長期政権の驕りと緩みが噴出し、首相主催の「桜を見る会」の露骨な私物化、公職選挙法違反の事実が次々と明らかにされ、窮地に追い込まれ、逃げ切りに躍起となっているさなかに行われた。直前の各メディア世論調査でも、内閣支持率は前回10月調査から5~7%急落し、「桜を見る会」についての安倍首相の説明に「納得できない」と答えた人が69%にのぼり、「納得できる」はわずか18%であった(11/22-24日経調査)。それだけに、与野党一騎打ちとなったこの知事選で、野党統一候補がこの好機を生かし、どれだけ肉薄し、凌駕し、ひっくり返すか大いに注目もされ、期待もされたが、結果は以下の通りであった。
浜田省司、無所属・自民公明推薦、新。17万3758票。当選。
松本顕治、無所属・野党統一候補、新。11万1397票。
62,361票の大差で、自公候補に勝利をもたらした。投票率は47.67%と前回より1.75%上昇したが、これまでで2番目に低い投票率であった。
この結果を受けて、11/24、自民・下村選挙対策委員長は、「桜を見る会」の影響は小さかったとして胸をなで下ろし、「自民党と公明党が力を合わせて応援し、それなりの差が出てよかった。国政の影響が、マイナスに働くのではないかと危機感を相当持っていたが、払拭できたのではないか」、「いつあるか分からないが、衆議院選挙にも影響する大変重要な知事選挙だと捉えていた。今後の国政にも大きなプラスになると思う」と述べている。公明党の佐藤選挙対策委員長は、「今回の勝利は、自民・公明両党の協力体制が機能した結果だ」と述べている。
安倍政権退陣を要求する声は、まだまだ収まってはおらず、「胸をなで下ろす」のは、早計とは言えようが、政権与党陣営にひとまずの安堵感を与えたことは事実であろう。 続きを読む

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【投稿】危うい株価の乱高下--経済危機論(7)

<<「最悪のシナリオ」>>
11月中旬合意予定のはずであった「第1段階の合意」という名の米中関税交渉は、急遽とん挫しかねない情勢に陥っている。11/19、米上院が中国が香港に高度の自治を保障する「一国二制度」を守っているかどうか米政府に毎年検証を求めるという「香港人権・民主主義法案」を全会一致で可決した。これに対して11/20、中国の全国人民代表大会(全人代)外事委員会は「米上院が非難されるべき暴力犯罪を非難するどころか、むしろ『人権』や『民主』を口実にして暴徒を後押しし続けていることは、米議会の人権と民主問題における極端な偽善と、あからさまなダブルスタンダードであり、さらに中国に反対し香港地区を混乱させようという陰険な意図を十分に露呈している。」との声明を発表、中国外務省は、国家の主権と安全保障を守るために必要な措置を取る、法案が成立すれば「強い報復措置」を取ると警告している。
米下院はすでに先月、同様の法案を満場一致で可決しており、今後上下両院の調整を経た上で、トランプ大統領に送付される。トランプ大統領はこの法案に署名する意向かどうかをまだ明らかにしていないが、ペンス副大統領は11/19、香港でのデモが暴力に見舞われた場合、米国が中国との貿易協定に署名することは難しいと述べている。トランプ氏はこの合意を来年の大統領選再選に向けた大いなる「成果」として前面に押し出す構えであったが、怪しくなってきたのである。たとえトランプ氏が法案に拒否権を発動しても、上下両院はそれぞれ3分の2以上の賛成で覆し、成立させることができることからすれば、貿易協定ではなく、香港法案に署名する方をを選ぶ可能性が大であろう。
そして中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報の胡錫進編集長は11/20の投稿で、「米中が近く合意できると考えている中国人はほとんどいない」とし、「中国は合意を望んでいるが、貿易戦争の長期化という最悪のシナリオに備えている」と述べている。米中双方とも、合意困難との判断が大勢を占めだしたのである。
合意の破綻は、米中合わせて世界のGDPの約40%を占めていることからすれば、世界的な経済活動に劇的な悪影響を及ぼし、経済危機を一挙に高める可能性を現実化させると言えよう。
11/20のニューヨーク株式市場は、香港情勢が米中貿易協議の妨げになるとの懸念が広がり、ロイター通信が米中協議「第1段階の合意」の署名が来年にずれ込む可能性があると報じたことから、一時約258ドル安まで値を下げている。上海はもちろん、アジア各国の株式市場も一斉に値を下げている。 続きを読む

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【投稿】欧州発・世界不況をめぐって--経済危機論(6)

<<「不況ドミノ」の警告>>
毎日新聞社発行の『エコノミスト』誌11/12号(11/5発売)は、「欧州発 世界不況」の特集を組み、欧州経済は、(1)ドイツ自動車産業の減速、(2)ブレグジット、(3)銀行危機、(4)米欧貿易摩擦──により、景気が急失速する可能性が高い、これは世界経済を不況に導くリスクになりうる、として「欧州発 不況ドミノ」を警告している。その震源地は「欧州経済の機関車」と自他共に認めるドイツだ、「ドイツの産業界は、既に景気後退のまっただ中にいる、ドイツ企業の心理は極めて弱い」と指摘している。同誌はとりわけ、欧州経済をけん引してきたドイツ自動車産業の低迷に焦点を当てている。
そして現実に、ドイツの日刊紙・南ドイツ新聞は、11/8金曜日の朝、自動車メーカーの労使協議会で管理者側から配布された文書を引用して、ダイムラー・ベンツが、現在2年にわたって進行中の世界的な自動車産業の減速について警告し、グローバルな自動車産業の低迷から会社を守るためとして、徹底的なコスト削減プログラム、まず管理・経営陣の10%の削減、そしてより包括的なコスト削減プログラムの概要を提起したと報じている。当然、大量解雇を含むリストラ策が画策されているであろう。
11/6、IMF(国際通貨基金)は、欧州経済に関する最新情報を発し、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州の乗用車製造現場の写真を冒頭に掲げ「世界の他の国々と同様に、ヨーロッパの貿易と製造業は弱体化しています。 この減速が他の経済分野に拡大しているいくつかの兆候があります。 」(IMF NEWS 11/6)として、6つの図表(右図はその第一)を掲げて経済活動の減速を分析し、成長率は昨年実績の3分の1にとどまり、2018年の2.3%から今年の1.4%への成長の低下を予測している。それはとりわけ新興欧州諸国の経済に顕著であり、ロシアとトルコが堅調な成長を維持していることからすれば対照的である、としている。しかも、ブレグジットにかかわる混乱、保護主義や地政学的緊張の高まりによって、不確実性が強化されており、リスク選好度の急激な低下など、危険性に注意を促している。 続きを読む

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【書評】『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』 (平井美津子、2017年10月発行、高文研、1,500円+税)

 「『陛下はいわゆる戦争責任について、どのようにお考えになっておられますか、おうかがいいたします』という質問に、昭和天皇は『そういう言葉にアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究してないので、よくわかりませんから、そういう問題についてはお答えができなけます』。『戦争終結にあたって、原子爆弾投下の事実を、陛下はどうお受け止めになりましたのでしょうか、おうかがいいたしたいと思います』との質問には『原子爆弾が投下されたことに対しては遺憾には思ってますが、こういう戦争中であることですから、どうも、広島市民に対しては気の毒であるが、やむを得ないことと私は思っています』と答えている」。
 「私はこの二つの答えを聞いて、言いようもない虚しさというかあほらしさというかなんとも言えない気持ちになったのを今もはっきりと覚えている。大元帥として戦争を最終的に指揮する権限を持った人として、そしてひとりの人間としてあまりにも不誠実ではないのかと」。
 1975年10月31日の昭和天皇の記者会見に衝撃を受けた著者は、その後中学校で教鞭をとることになる。そして1989年1月7日、その昭和天皇が亡くなり、2月24日大喪の礼で学校に公休日と半旗を上げることを文部省が通知してきたことに対して、「現実には、憲法にも教育基本法にも違反していることがいとも簡単に押し付けられていく。国家神道に国民たちがからめとられた時代は決して過去のものではないのだ。当時中学二年生に歴史を教えていた私は、アジア太平洋戦争や憲法の成り立ちなどに授業の必要性を改めて実感した。自分の中で、社会科の教師として何を子どもたちに伝え、考えさせるのかがやっとはっきり見えてきた」と戦争、戦後史学習に焦点を合わせた授業実践を目ざす。
 その内容は、「日本政府『戦後50年決議(村山談話)』」、「沖縄での米兵による少女暴行事件」、「日米地位協定、日米安保をめぐる沖縄、政府の動き」、「誤った歴史認識を持った閣僚による相次ぐ発言」等と多岐にわたるが、中でも「慰安婦」として初めて名乗り出た金学順さんの証言から、授業にこの問題を取り上げることにした。
 しかし当時、この問題を否定したい右派メディアによる教科書への攻撃や「〈明るい日本〉国会議員連盟」(奥野誠亮会長、安倍晋三事務局長)、「新しい歴史教科書をつくる会」(藤岡信勝ら)などによる戦後歴史教育への批判が勢いを得て、著者の実践する戦争、戦後史学習は言うに及ばず「慰安婦」問題学習への圧力は増す一方であった。
 著者の場合、勤務校への在特会メンバーによる脅迫や市会議員からの教育委員会への圧力があり、これに対して事なかれ主義で事態を丸く収めようとする管理職の曖昧な態度などで苦しめられる。しかし著者は、この問題は学校教育全体に対してかけられている攻撃だとして職員会議でのオープンな議論をすることで、問題を共有することに努める。またそれを通じて同僚・教職員組合、そして数少ない骨のある校長などの支えがあったことが著者を励ました。そして何よりも授業実践によって生徒たちが戦争、沖縄戦、「慰安婦」問題についての目を開かれ、自分に関わる問題として考えるようになってきたことが──もちろん反発する生徒やわからないという生徒も当然いるが──授業後の感想文で出てきた。その個々の文章については本書を見られたい。
 「慰安婦」問題を20年にわたって教え続けてきた著者は、こう語る。
 「戦争によって非業の死を遂げたり、人生を破壊されたりした人々の悲惨な体験は何を物語るのか。それは単なる悲劇の物語ではない。終わった過去のことでもない。/そこから学ぶべきは、その真実を知り、記憶し、未来の平和を築くために継承していくことではないだろうか。体験をただ聞くだけでなく問いを立て、その答えを継承していくプロセスを大切にしなくてはいけない。『戦争はいけない』『平和がいい』という言葉をいくら並べても、本質にたどりつけないばかりか、形だけで時がたてば忘れられていくものでしかない」。
 未来をつくる子どもたちに向き合い、戦争の本質を子どもたちに伝える実践の貴重な記録である。ただ欲を言えば、本書に実際の授業計画・資料等が付けられていたら、同様の実践を行なおうとしている教育者たちに大いに参考になったと思われる。(R)

カテゴリー: 教育, 書評R | 【書評】『「慰安婦」問題を子どもにどう教えるか』 (平井美津子、2017年10月発行、高文研、1,500円+税) はコメントを受け付けていません。

【投稿】電気料金を還流させフトコロに入れていた関電幹部の告発を

【投稿】電気料金を還流させフトコロに入れていた関電幹部の告発を
福井 杉本達也

1 関電幹部は日本社会にとって異様・有害な反社会的集団
関西電力の役員等20名が、福井県高浜町の元助役森山栄治氏から約3億2千万円の金品を受領していたことが明らかになった。多額の金品の大元は、総括原価方式で積み上げられた電気料金の一部である吉田開発に発注された不当に水増しされた工事費から捻出され、森山氏に手渡されたものであるが、10月2日の記者会見では金品受領について「森山栄治氏の度重なる恫喝のために受領した」などと「被害者面」に終始し、続投を表明していた。だが、社会的批判は厳しく、10月9日、関電は、八木誠会長と岩根茂樹社長が辞任すること及び但木敬一弁護士(元検事総長)を委員長とする第三者委員会を設置したことを発表した。しかし、辞任表明は、遅きに失したものであり、本来ならば岩根社長が臨時記者会見をした9月27日に行われてしかるべきものであった。
10月2日の記者会見の場で配布された、昨年9月11日の「調査委員会報告書」(委員長:小林敬弁護士)では、森山氏に「『お前にも娘があるだろう。娘がかわいくないのか?』とすごまれた」などの伝聞に過ぎないことを事細かく書き、メディア利用して同和問題を煽り、自らの責任逃れをするという異様なものであった。郷原信郎弁護士も「彼らの言動は、残念ながら、全く理解できないどころか、異様なものだった。彼らが関電の経営トップの地位にとどまっていること自体が、関電という企業にとっても、日本社会にとっても、極めて有害であり、到底許容できないものである」と述べている(10月7日)。 続きを読む

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