Assert Webの更新情報(2025-12-22)

【最近の投稿一覧】
12月19日【投稿】トランプ:対ベネズエラ・帝国主義戦争開始宣言
12月14日【投稿】トランプ政権の新しい国家安全保障戦略と日本
12月3日【投稿】トランプ米大統領:一晩に「陰謀論」投稿、数百回
11月30日【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く
11月22日【投稿】トランプ大統領:極まる独裁者・ファシストの叫び
11月19日【投稿】台湾有事で「存立危機事態」との高市答弁は日本に大損害をもたらす
11月15日【投稿】特定食品関税撤廃:トランプ関税の敗北--経済危機論(172)
11月06日【投稿】ニューヨーク市長選:トランプ脅迫路線の敗北
10月31日【投稿】トランプ関税:脅しの敗退--経済危機論(171)
10月31日【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備
10月19日【投稿】反トランプ・「ノー・キングス」全米大規模抗議デモ
10月18日【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」
10月13日【投稿】トランプ政権:対中貿易戦争再開の脅し--経済危機論(170)
10月12日【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著
10月11日【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配
10月5日【投稿】「ガザ和平計画」:トランプ・ネタニヤフ政権の岐路
9月16日【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ
9月13日【投稿】「悪意のない差別」?
9月4日【投稿】選択迫る「平和か戦争か、対話か対決か」
9月2日【投稿】上海協力機構サミット vs. 米欧覇権の終焉--経済危機論(169)
8月31日【投稿】トランプ関税、再び違法判決--経済危機論(168)
8月26日【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)
8月18日【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価
8月18日【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない
8月13日【転載】「もし私の言葉があなたに届いたら、 イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知って下さい」
8月11日【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き
8月10日【投稿】トランプ大統領:大恐慌再来を警告--経済危機論(167)
7月29日【投稿】でたらめ闊歩の米・EU関税交渉--経済危機論(166)
7月28日【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞
7月27日【投稿】ずさんな日米関税交渉--経済危機論(165)
7月24日【投稿】参政党躍進の理由
7月21日【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方
7月14日【投稿】トランプ関税:破綻への再始動--経済危機論(164)
6月28日【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相
6月24日【投稿】トランプ大統領:「12日間戦争」終結の虚構
6月22日【投稿】トランプ米政権:対イラン直接爆撃、泥沼の幕開け
6月19日【転載】反戦の声、イスラエルの爆撃で殺害されたイラン人詩人パルニア・アッバシさんを追悼
6月18日【投稿】危険な乱心・トランプ:イランに「無条件降伏」を要求
6月16日【投稿】「ノー・キングス」デー:全米各地で500万人以上
6月14日【投稿】トランプ大統領:イラン奇襲攻撃「素晴らしい」と礼賛
6月6日【投稿】トランプ・マスク、蜜月から破局へ
5月25日【転載】11歳のヤキーン・ハマド:ガザ最年少のメディア活動家、イスラエルの空爆で死亡
5月24日【投稿】「一番困っている」国民の生活を守るには消費税減税しかない、財源は「外為特会」だ
5月24日【投稿】トランプ 氏 : 歯止めなきデマゴーグ政権を露呈
5月15日【投稿】トランプ関税の敗北--経済危機論(163)
5月12日【投稿】印パ戦争と排外主義の罠
5月10日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)
5月4日【投稿】トランプ : 対中国全面禁輸へのエスカレート--経済危機論(162)
5月1日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)
4月26日
【投稿】トランプ関税:後退と妥協へのディール--経済危機論(161)
4月26日【投稿】 「NEXUS 情報の人類史」を読んで
4月25日【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書
4月22日【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機
4月20日【投稿】反トランプ抗議デモ:全米規模へ拡大
4月13日【投稿】トランプ関税の混迷--経済危機論(160)
4月10日【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう
4月6日【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)
4月1日【投稿】「ヤルタ2.0」
3月30日【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)
3月19日【投稿】プーチン・トランプ電話会談、デタントへの前進と障碍
3月11日【投稿】トランプ関税:株価暴落を加速--経済危機論(157)
3月6日【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)
3月3日【投稿】トランプ・ゼレンスキー会談の決裂
3月2日【投稿】トランプ:対ウクライナで「平和」、対イスラエルで戦争拡大
2月26日【投稿】トランプ路線、拒否するEUの混迷
2月22日【投稿】西欧の敗北
2月16日【投稿】米ロ会談:軍事対決から外交への転換点
2月11日【投稿】内政干渉・政府転覆組織:米国際開発庁(USAID)の閉鎖と日本への影響
2月8日【投稿】トランプ:米軍ガザ「占領」のドタバタ
2月5日【投稿】「デープシーク(DeepSeek)ショック」
2月2日【投稿】トランプ政権:関税戦争の開始--経済危機論(155)
2月2日【投稿】トランプの「パリ協定」脱退とグローバル・サウス
1月31日【投稿】レーガン空港・航空機墜落事故とトランプ政権

1月22日【投稿】「帝国」再建に挑む:トランプ政権--経済危機論(154)
1月22日【書評】『反米の選択―トランプ再来で増大する“従属”のコスト』大西広著
1月18日【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著
1月16日【投稿】ガザ和平:イスラエルとハマスの停戦合意
1月9日 【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―
1月5日 【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文
1月5日 【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる
12月31日【投稿】移民排除:トランプ陣営、亀裂拡大--経済危機論(153)
12月25日【投稿】トランプ次期政権の失速と破綻--経済危機論(152)
12月17日【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は
12月15日【投稿】中東危機:米・イスラエル、イラン核施設攻撃へのエスカレート
11月22日【投稿】バイデン政権、退任直前の危険な世界戦争拡大への挑発
11月18日【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方
11月10日【投稿】トランプ勝利と日本の針路
11月6日 【投稿】米大統領選:バイデン/ハリス政権の敗北
10月30日【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)
10月29日【投稿】衆院選:自公政権の大敗と流動化
10月29日【投稿】総選挙結果について
10月27日【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』
10月23日【投稿】戦争挑発拡大と米大統領選--経済危機論(151)
10月12日【投稿】被団協・ノーベル平和賞受賞 vs. 石破首相「核共有」
10月2日【投稿】米/イスラエル:中東全面戦争への共謀--経済危機論(150)

【archive 情報】
2023年5月1日
「MG-archive」に新しい頁を追加しました。
民学同第3次分裂

2023年4月1日
「MG-archive」に以下のページを追加しました。
(<民学同第2次分裂について>のページに、以下の2項目を追加。
(B)「分裂大会強行」 → 統一会議結成へ
(C)再建12回大会開催 → 中央委員会確立

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【投稿】米国の敗北による焦りー高市政権官邸幹部の核保有発言の支離滅裂

【投稿】米国の敗北による焦りー高市政権官邸幹部の核保有発言の支離滅裂

福井 杉本達也

1 高市政権官邸幹部の核保有発言

12月18日、官邸幹部が記者団の取材で「日本は核保有すべきだ」と語った。だが、大手マスコミはオフレコ発言だとして、いまだ発言者名を明らかにしていない。しかし、『週刊文春』の取材で、尾上定正総理大臣補佐官であることがわかった。「発言をしたのは〈核軍縮・不拡散問題担当〉の尾上定正総理大臣補佐官です。元航空自衛官で、2023年から防衛大臣政策参与を務め、高市早苗政権で補佐官に。首相と同郷の奈良出身のお友だちで、防衛問題のブレーンです。本音では核を持つべきと考えている人物を核軍縮担当にしている時点で、適材適所には程遠い。首相の任命責任も問われる事案で、本来は更迭され得る発言ですが、その距離の近さから斬れていないのが現状です」と書いた(『文春オンライン』2025.12.24)。日本のマスコミは一部を除き腐り果てている。

 

2 背景には米国の敗北による焦りと対米自立

米国は日本が核攻撃を受けたからと言って、必ずしも相手国に核反撃を行うなどとは一度も言ってはいない。東洋人のために自国民を核報復の危険にさらすようなことはしない。『文藝春秋』2026年1月号で、用田和仁元陸将×神保謙慶大教授×小黒一正法政大教授の対談「高市首相『持ち込ませず』見直しでは甘い…中国には核保有も選択肢だ」において、神保は「日本が直面する安全保障環境を考えれば、核を含む抑止のあり方を正面から点検し直すことは、もはや避けて通れない課題」とし、「米国は自国のみならず同盟国が核攻撃を受けた場合、報復として核を使用する『拡大抑止』で国際秩序と地域の安定を保ってきました」が、「米国の核の傘の信頼性をめぐる国際環境は不確実性」を増しているとし、小黒も「日米同盟と米国の核の傘で日本は守れるかと疑問を持つようになり、その危機感は強まるばかりだ」と応え、用田は神保・小黒に同意する形で、「米国から見て日本は、黙っていても大切だから守ってやるという状況ではない」そこで、「中国を封じ込めるための通常戦力が米国に十分にないことが明らかになりつつある今、日本などの核保有が問題の解決策になり得る」と、日本の核武装を公然と求めている。これは、米国は敗北しつつあり、覇権が縮小しつつあることを実感している同盟国からの焦りの発言である。しかし、そこには、米国に従属しながら、核武装を考えるという甘さがたっぷりの発想である。また、用田は陸将という立場にあったにもかかわらず軍事知識に乏しく「核保有するにしても、米中露のような大量保有は不用で、最小限の核抑止力で十分」だと、核抑止力に対する理解も浅く、核戦争というものの結果に甘々と言える。

一方、同誌で、エマニュエル・トッドは佐藤優の対談「米国の敗北を直視して核武装せよ」において、米国はウクライナにおいて敗北しつつあり、日米同盟の「核の傘」というものは幻想であるから、日本が核武装して対米自立すべきであるという主張であり、「私は多くの日本人の代わりに、日本の核保有を提案した…敢えて口にしないことを私が言葉にした」と述べる。

 

3 核の抑止理論―相互確証破壊(Mutually Assured Destruction, MAD)」

米ランド研究所の軍事歴史家、バーナード・プロディーは核兵器によって戦争を抑止する「核抑止」の概念を生みだした。「従来は軍事体制が掲げる最大の目的は戦争に勝つことだった。これからは戦争を回避することが最大の目的になる」(プロディー)。プロディーは核の数や運搬手段で勝っていても、核戦争において勝利は保障されないと考えた。「たった一つの爆弾だけで想像を絶する破壊をもたらせる事実…敵国から先制攻撃を受けても報復する能力を身に付けなければならない。」「報復を恐れなければならないとすれば、先制攻撃を仕掛ける意味はない。敵国の都市を破壊しても、自国の都市が数時間後か数日後に破壊されるのだから」「アメリカがソ連の先制攻撃によって致命的な打撃を受けても、なお十分に反撃する軍事能力を持っていると分かれば、ソ連はよほどのことがない限り核兵器を使用しようとは思わないはずだ」と(『ランド・世界を支配した研究所』アレックス・アベラ)。

核の抑止理論は、どちらかが先制攻撃を行えば必ず自分も壊滅的な報復を受けるため、理論上は先制攻撃を思いとどまらせる効果がある。しかし、その要件は①十分な核兵器を保有し、報復攻撃の能力(第二撃能力)が確実に保証されること。②報復能力の非脆弱性と残存性が必要で、核搭載戦略爆撃機の常時待機や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、移動式大陸間弾道ミサイル(ICBM)など、探知や迎撃を困難にする手段が求められる。③発射の早期探知と迅速な報復指令の遂行が可能な体制が不可欠となる。(参照:コトバンク・Wikipedia )

尾上定正は日本は核保有すべきだと発言したが、上記の条件を考慮しているとは思えない。このような者を核戦略の助言者として官邸に置くとは、日本の自滅を招く。危険極まりない。

 

4 原発への攻撃

3.11の福島第一原発事故以降、全ての原発が停止したが、その後、再稼働が進み、関電の高浜原発や九電の川内原発など13基が稼働中である。さらに、今後、東電の柏崎刈羽原発6号機や北海道電力泊原発3号機も再稼働することとなる。しかし、稼働中の原発がミサイルで攻撃された場合は防ぎようがない。ウクライナ戦争ではザポリージャ原発への攻撃がしばしば行われてきた。100万Kw級原発が稼働中に攻撃された場合、広島型原爆1000発分の放射能がまき散らされる。現在関電高浜原発は4基の原発が稼働中であるが、4基とも制御不能に陥る恐れが高く、日本は壊滅状態となる。原発を考えずに核武装のみを考える尾上はとても核問題のブレーンとはいえまい。

 

5 核輸送手段の進歩

ロシアはウクライナで最大射程5500kmの中距離極超音速弾道ミサイル「オレシュニク」を実戦に投入している。オレシュニクは複数の独立標的再突入体(MIRV)を搭載可能な中距離弾道ミサイル(IRBM)であり、高精度の複数標的攻撃を可能にする。極超音速推進システムに組み込まれており、音速の10倍にあたるマッハ10まで速度に達することができ、パトリオットやTHAADのような従来のミサイル防衛システムによる迎撃が困難となる。飛行時間をわずか数分に短縮しながら防空網を突破し、敵に反応する時間をほとんど与えない。このようなミサイルを迎撃することなど全く不可能である。

一方の日本の核運搬手段のミサイルは、12月22日に失敗したH3・8号機など、全く技術的に不安定である。ミサイルや原潜などの運搬手段を含めると核武装には100兆円もかかるという。尾上は「空将」の軍事知識で高市首相にアドバイスするのではなく「空想」で高市首相を煽っている。核実験場もなく運搬手段も考えずに核保有を宣言しても袋叩きにあうだけである。

日本は「独自核武装」で核保有超大国のロシアや中国、そして北朝鮮と対決するのではなく、平和外交で核を持たずとも安全を守れる体制を模索していく現実的な道を選ぶべきである。その中で、米国の属国から、いかに自立した外交に踏み出せるかが試される。

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【投稿】トランプ:対ベネズエラ・帝国主義戦争開始宣言

<<「石油、石油、石油、石油、石油だ」>>
12/17、トランプ米大統領は、自らのソーシャルメディア・Truth Socialで「ベネズエラに出入りするすべての制裁対象石油タンカーの全面封鎖」を発表し、「ベネズエラは南米史上最大の艦隊に完全に包囲されている。この包囲は今後さらに拡大し、彼らにはかつて見たことのないような衝撃が降りかかるだろう。彼らがかつて我々から奪った石油、土地、その他の資産をすべてアメリカ合衆国に返還するまでは」と述べ、「私は本日、ベネズエラに出入りするすべての認可済み石油タンカーの完全かつ完全な封鎖を命令します。」と宣言した。
 「以前我々から奪った石油、土地、その他の資産の全て」を米国に返還するまで継続する、と表明して恥じない、あからさまな帝国主義戦争開始宣言である。

トランプ氏は、記者会見で、「彼らは我々の石油権を奪った。我々はそこに豊富な石油を持っていた」、「彼らは我々の企業を追い出した。我々はそれを取り戻したい」と述べ、ベネズエラがかつてアメリカ企業が保有していた資産を掌握することを可能にした、過去の米政権の弱腰をも非難したのであった。トランプ氏は、前日12/16の投稿で、石油、石油、石油、石油、石油、と5回も石油利権を繰り返していたのである。

この宣言で決定的に重要なことは、国際法に違反してまで、これまでカリブ海域でベネズエラの麻薬密輸船とされる船舶への爆撃で100人近くも殺害してきたのであるが、真の目的は、麻薬密売とは何の関係もない、「石油利権を取り戻す」という、対ベネズエラ戦争の真の自国帝国主義の目的を露骨に表明したことである。これまでの対麻薬戦争は、単なる口実で、ウソとでっち上げに過ぎないことを自ら認め、その空虚さ、アメリカの外交・戦争政策の本質的目的とその欠陥を自らさらけ出したことである。

20年以上も前、ベネズエラの故ウゴ・チャベス大統領の下で行われた大規模な石油産業の国有化、これによってエクソンモービル、コノコフィリップス、BP、トタル、シェブロンといった石油エネルギー大手の国有化、2000年代初頭のボリバル革命による国有化、これを絶対に忘れることも、許すこともできない、とトランプ氏は宣言したのである。

 ベネズエラは、世界最大の確認済み原油埋蔵量を保有し、2024年時点で約3030億バレルと推定されており、なおかつ、中国、ロシア、インド、BRICS諸国と緊密な経済関係を維持しており、これも許しがたい、というわけである。

歴史を20年以上も前に逆転させ、1999年以来、米国の支配から独立した道を歩んできたベネズエラ政府を打倒し、ベネズエラ政府を米国企業の支配に友好的な傀儡国家に置き換える、それこそがこの戦争開始宣言の真の目的であることを明らかにしたのである。
ベネズエラどころか、ラテンアメリカを含む南半球の資源は自分たちの所有物だと本気で信じ、行動してきたトランプ政権のあきれ返るほどの時代錯誤であるが、それがまかり通っているのが、トランプ政権である。トランプ氏はベネズエラ以外のラテンアメリカ諸国への攻撃も否定してはいない。「必ずしもベネズエラである必要はない」とまでのべている。

<<「今や誰もが真実を目の当たりにしている」>>
12/17、ベネズエラのマドゥロ大統領は、首都カラカスでの演説で、「これは単なる好戦的で植民地主義的な見せかけに過ぎない。我々は何度もそう言ってきたが、今や誰もが真実を目の当たりにしている。真実は明らかにされたのだ」、「トランプ政権の目的はベネズエラの政権交代であり、傀儡政権を樹立し、憲法、主権、そしてすべての富を手放し、ベネズエラを植民地化することにある。そんなことは決して起こらない」と強調。
 同じく、ベネズエラのロペス国防相は、ベネズエラが米国から石油、土地、その他の資産を奪ったという「錯乱した」主張を強く非難し、ロドリゲス副大統領は「我々はエネルギー関係において自由かつ独立した立場を維持する。マドゥロ大統領と共に、祖国を守り続ける」と述べている。

12/17現在、ベネズエラ産原油の輸送経歴がある石油タンカーは、少なくとも34隻が現在カリブ海を航行している。国際貿易情報会社Kplerの船舶位置情報データによると、これらのタンカーのうち少なくとも12隻はベネズエラ産原油を積載している、とされる。ロシアのタンカー「ハイペリオン」は12/17、カリブ海に入ったところである。
なおかつ、2025年には、中国はベネズエラが輸出する原油の約76%を購入しており、中国政府は、ベネズエラによる国連安全保障理事会会合の要請を支持し、一方的な圧力戦術に反対することを明確にし、カラカスが主権と正当な利益を守る姿勢を支持すると述べ、王毅外相は、ベネズエラ外相に対し、中国は米政権の「国際的な脅迫」を拒否すると伝えている。

 12/17、トランプ政権与党のトーマス・マシー下院議員(ケンタッキー州選出、共和党)は、トランプ大統領が米国議会の承認なしにベネズエラに対していかなる軍事行動も取るべきではないと主張し、「(合衆国憲法の)起草者たちは、戦争遂行権限が一人の人間に集中するほど、自由は消滅するという単純な真理を理解していた」と述べ、 イラクやリビアといった政権転覆戦争におけるアメリカの過去の失敗を例に挙げ、南米で同様の事態を起こすべきではないと警告し、「歴代大統領は、存在しない大量破壊兵器のために戦争をしろと命じてきた」と大量破壊兵器について述べ、「今は同じやり方だ。ただ、麻薬が大量破壊兵器だと教えられているだけだ。もし麻薬が問題なら、メキシコや中国、コロンビアを爆撃するだろう」、もしトランプ大統領が本当に米国への違法薬物の流入を懸念しているのであれば、2024年に400トンのコカインを米国に密輸した罪で有罪判決を受けたホンジュラスの元大統領、フアン・オルランド・エルナンデス氏を恩赦しなかったはずであると、トランプ氏の最も痛いところを明確にし、「これは石油と政権転覆の問題だ」とマッシー氏はトランプ氏を痛烈に批判している。

トランプ氏は、明らかに孤立しており、歴代大統領で最低の支持率への転落という事態で、その孤立はより一層鮮明になりつつある。その孤立を挽回するために、この時期に緊張を激化させ、戦争事態に突入させれば、関税や国内経済政策の失敗や、社会保障費削減に伴う差し迫った医療危機等々から、都合よく目を逸らすことができるだろう、という敗者の論理が透けて見えている。
つまりは、今回の事態は、アメリカの強さの象徴ではなく、アメリカ帝国の疲弊の兆候、政治的経済的危機の象徴である、と言えよう。

問題は、こうした客観的評価とは別に、事態を放置すれば、危険極まりない戦争拡大が現実のものとなる可能性が差し迫っていることであり、そうした事態を食い止める闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】トランプ政権の新しい国家安全保障戦略と日本

【投稿】トランプ政権の新しい国家安全保障戦略と日本

                         福井 杉本達也

1 「ロシアの脅威」という表現は時代の遺物

米国の新しい国家安全保障戦略(National Security Strategy of the United States of America November 2025 ・NSS)の序文は「冷戦終結後、アメリカの外交政策エリートたちは、アメリカが世界全体を永続的に支配することが我が国の最善の利益であると自分たちに信じ込んだ。しかし、他国の問題は、彼らの活動が我々の利益を直接脅かす場合にのみ我々の関心事である。」と述べている。これは悪名高いウルフォウィッツ・ドクトリン(1992年~)の終焉を意味する。

NSSは「ロシアがヨーロッパやアメリカ合衆国にとって脅威ではないという現実、ロシアが何十年も前から人工的にそのような脅威として描かれてきたこと、そしてこの誤った解釈の結果がヨーロッパにとって全くの大災害であり、アメリカ合衆国の国家安全保障に対する脅威であった」と書く。

スコット・リッター元米軍情報将校は、「トランプ政権は、これが本質的に不安定化をもたらす政策であることを認識しており、さらに『極めて危険』であることも指摘している。なぜなら、ロシアとの対立は『最終的には核戦争を意味する』からだ。」と指摘している。「この新たな地政学的計算において、現在のヨーロッパの軌跡はロシアよりも自ら、米国、国際平和と安全保障にとってはるかに大きな脅威である」と主張している(Sputnik日本:2025.12.5)。欧州のロシア政策は米国の国家安全保障目標と「両立しない」。

2 NATOは終わった

スコット・リッターはさらに、「新しいNSSは、NATO加盟に関するウクライナの非現実的な期待と、ウクライナがいつかNATO加盟国になるかもしれないというヨーロッパの同様に非現実的な期待に終止符を打ち、心臓部に杭を打ち込む」と述べ、アメリカは「いいえ、あなたは終わりだ」と言います。さらに、あなた方の進む軌道はアメリカの国家安全保障と両立しないと述べ、もしヨーロッパがロシアと戦争を始めた場合、アメリカは救済をしないと。「NATOが真に防御的な同盟に変貌しない限り…NATOが存在する正当な理由はない」。「NATOは死んだ。NATOは決して復活しない」と述べる(Sputnik日本:2025.12.5)。

3 ウクライナ戦争の終結

NSSはウクライナ戦争について「米国の核心的関心は、ウクライナでの敵対行為の迅速な停止を交渉し、ヨーロッパ経済の安定化を防ぎ、戦争の予期せぬエスカレーションや拡大を防ぎ、ロシアとの戦略的安定を再確立し、ウクライナの戦後の再建を可能にして国家としての存続を可能にすることです。」と述べている。これは実質的な当事者である米国の敗北宣言である。とにかくウクライナの泥沼から早く撤退したいのであるが、米国の覇権への打撃をできるだけ少なくしたいがために、あたかも第三者として交渉しているかのように装っている。さらに、NSSはウクライナ戦争に対するヨーロッパの好戦的政権を批判し、「トランプ政権は、不安定な少数政権に支えられた非現実的な期待を持つ欧州の当局者たちと対立している。これらの政権の多くは民主主義の基本原則を踏みにじって反対派を抑圧している。大多数のヨーロッパ人は平和を望んでいますが、その願いが政策に反映されていないのは、その政府が民主的プロセスを歪めている」からだと述べている。

4 中国は対等な競争相手

NSSでは、中国はもはや主要脅威、「最も重要な挑戦」、「ペース設定脅威」等の表現で定義されていない。中国を同盟国やパートナーとして定義していないが、主に1) 経済競争相手、2) サプライチェーンの脆弱性の源泉、3) 地域支配を「理想的には」拒否すべきプレーヤーとして扱っており、それは「米国の経済に重大な影響を及ぼす」からであるとする。そこにはイデオロギー的な次元が一切ない。民主主義対独裁の枠組みも、守るべき「ルールに基づく国際秩序」も、価値観に基づく十字軍もない。中国は、敗北させるべきイデオロギー的敵対者ではない。彼らは「世界の諸国と良好な関係および平和的な商業関係を求め、彼らの伝統と歴史から大きく異なる民主主義や他の社会的変革を強制しない」。 そして、彼らは「我々の統治システムと異なる統治システムを持つ国々と良好な関係を求める。」と述べる。また、2017年に始まった関税アプローチが中国に対して本質的に失敗したことを認めている。これに「中国は適応」してしまい、逆に「サプライチェーンへの支配を強化した」と書く。

5 台湾問題

NSSは「台湾に大きな注目が集まっているのは当然である。半導体生産で台湾が圧倒的な地位を占めていることも理由の一つだが、より重要なのは、台湾が第二列島線への直接的なアクセスを提供し、東アジア(北東アジアと東南アジア)を二つの明確な戦域に分断している点である。世界の海上輸送の3分の1が南シナ海を通過していることを踏まえれば、これは米国経済にとって重大な影響を及ぼす。」と書く。米国の関心は「米国経済」への影響である。「したがって、台湾をめぐる紛争を抑止すること、できれば軍事的優勢を維持することによってそれを実現することが最優先事項となる。また、台湾に関する米国の長年の声明政策も維持する。つまり、米国は台湾海峡の現状をいかなる一方的な形でも変更することを支持しない、という立場である」と書く。

高市首相は、台湾有事の際、米国が防衛しようとするが、それは「日本の存立危機事態になり得る」ので、日本も軍事介入するとの答弁をしたが、これは「現状維持」を望むトランプ政権としては看過しがたい。高市首相は中国を挑発し、いまだに悪名高いネオコンのウルフォウィッツ・ドクトリンの思考線上にあるが、NSSはそれを否定する。米国が介入するかどうか(できるかどうか)は米国経済への影響による。結果、壊滅的な損失を被るのは日本国民である。高市首相は二階に上がって梯子を外されたどころか、最初から梯子をかけられてもいない。

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【投稿】トランプ米大統領:一晩に「陰謀論」投稿、数百回

<<「一体何が起こっているんだ?」>>
12/1、トランプ大統領は月曜日の夜、自らのソーシャルメディア・Truth Socialに、一夜にして1時間に「数百」回、「10秒ごとに新しい投稿を1時間も続け、合計約400件の投稿があった」という。常軌を逸した、通常では考えられない異常さである。

CNNのエグゼクティブ・プロデューサー、ヴォーン・スターリング氏は「昨夜は一体何が起こっていたんだ?」と疑問を呈している

しかもその投稿の大部分は、「陰謀論」で占められており、「ミシェル・オバマが『バイデンのオートペンを操っていた』とか、バイデンの大統領令は実際にはミシェル・オバマによって発令されていた」、オバマ大統領の毎週の『殺害リスト』といった、何の裏付けもない、実証しようとさえする気のない、得手勝手な主張を矢継ぎ早に連射しているのであった。挙句の果てに、「バラク・オバマが軍事法廷にかけられることを保証する」と宣言する投稿までしている。

 さらには、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領がトランプ氏に屈服し、トランプ氏がベネズエラを支配していると主張するAIビデオまで投稿、おまけに、マドゥロ氏は「ジョー・バイデン前大統領が彼らのカルテルのリーダーだと自白したことを認めた」とまで主張。さらに、カナダが不正選挙に関与していたという投稿までしている。2020年大統領選挙に関する嘘、翌年、自らが煽り立てた1月6日の議会突入占拠事件を、民主党下院議長ペロシ氏のせいにする、民主党を扇動者呼ばわりする、イルハン・オマル氏、ティム・ウォルツ氏への怒りなど、

要するにトランプ氏の気に入らない人々に片っ端から当たり散らし、自らの被害妄想に基づいた「陰謀論」を、立て続けに投稿したのであった。完全な精神異常状態をさらけ出したものと言えよう。

トランプ氏の、追い詰められた精神状態がもたらしたものとはいえ、これらは、まだほんの一部であり、「明らかに精神的に衰弱しかけており、頭に浮かんだことを何でも投稿していた。今後さらに悪化するだろう」と指摘される事態の進行である。

<<「トランプ氏の完全な失敗」>>
こうしたトランプ氏の異常な事態の進行は、彼に追従し、付き従うことしかできない取り巻きを除いては、かつてないほど孤立していることの反映にほかならない。

 そして今や、これまでのトランプ支持者自身からさえ孤立しつつある。
アトランティック誌のジョナサン・レミア氏によると、縮小する支持基盤の支持を集める代わりに、トランプ氏は「海外旅行、個人クラブでのゴルフ、裕福な友人、ビジネスリーダー、大口献金者との会食」を選んでいるという。「集会以外では、トランプ大統領は就任1年目と比べて、演説、公のイベント、国内旅行を大幅に削減している」。「そして、有権者との定期的な接触の欠如は、共和党員とホワイトハウスの支持者たちの間で、トランプ氏が孤立しすぎていて、国民が大統領に何を求めているのか分からなくなっているのではないかという懸念を強めている」、さらに、「トランプ氏の鈍感さは、彼の側近たちをも動揺させ始めている」と指摘している。

ガーディアン紙のモイラ・ドネガン記者は、共和党への影響力が低下するにつれ、「トランプ大統領の権力の衰退は無視できなくなっている」、「政府閉鎖の間、彼はマール・アー・ラーゴでギャツビー・パーティーを開いている。ほとんどの時間を舞踏室の建設に費やしているようだ。それに、イースト・ウィングの破壊は、一部の人が予想していなかった象徴的な打撃を与えたかもしれない」、「トランプ大統領はある程度の個人的な衰退に陥っているように思われ、その衰退は無視できなくなっている」とも指摘している。

12/2、深夜の「Truth Social」での異常な投稿の連発の直後、トランプ大統領は火曜日にテレビ中継された閣議を招集。冒頭、まずはバイデン前大統領を攻撃し、自らのホワイトハウス復帰以来、アメリカ経済は急成長を遂げていると、またもや大嘘を繰り返し主張、「電気料金が下がっている」と、現実とかけ離れた虚をつき、「有権者のコスト上昇に対する懸念は、すべて彼らの空想に過ぎない」と、インフレを「空想」だと言い募り、「『手頃な価格』という言葉は民主党の詐欺だ」と断言、「彼らはそう言って、次の話題に移り、皆『ああ、物価が安かったんだ』と思うんです。いいですか、住宅価格の高騰という問題は、民主党が仕掛けた作り話です。民主党が価格問題を引き起こしたのです。」と開き直っている。

 12/3、シルビア・ガルシア下院議員(テキサス州選出、民主党)は、「トランプは「手頃な価格は民主党の詐欺だ」と言う。億万長者で、食料品と電気代のどちらかを選ばなければならなかったことがない人には、簡単に言えることだ。テキサスの労働者家庭は、本当の詐欺が彼の関税、彼の保険料の高騰、そして住宅危機に対処したり、実際に価格を下げるためのいかなる計画も提供しない彼の完全な失敗であることを知っている。」と、手厳しく批判している。

トランプ氏は、今や窮地に追い込まれつつある、と言えよう。追い詰められた政権が危険な賭けに打って出ることを、封じ込める政策、闘いの戦略が要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く

【投稿】高市政権の経済政策は円安から物価高騰を招く

                            福井 杉本達也

1 高市政権の積極財政

高市首相は「責任ある積極財政」を唱えるが、実態は。11月5日付けの日経新聞によれば、「高市氏は自民党総裁選の勝利後、デフレでなくなったと安心するのは早い」と早期利上をけん制し、金融政策について『政府が責任を持つ』と唱えた。」(日経:2025.11.5)。しかし、高市首相の「デフレ」という意識は完全に現実とは乖離している。2022年以降の世界的なインフレの波は、日本においてもインフレによって生活苦が高まっている。もうデフレではない。金融緩和や野放図な財政出動に依存しないインフレ抑制的な経済政策をとるべきである。

 

2 日本経済停滞の主因は大企業による労働者の収奪にある

BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、日本経済の長期停滞の主因は、大企業が利益を内部にため込み、賃上げや人的資本投資、国内按買に対して消極的なことにあると指摘する。実質賃金の低迷を指摘すると、多くの人は生産性の低さを理由に挙げる。しかし、河野によると、1998年から2023年の間に日本の生産性は30%上昇しているが、実質賃金は横ばいで、この間のインフレにより2%減少している。生産性が上がっても賃金が引き上げられていない。賃上げを抑えて労働分配率をどんどん下げてきたのである。しかも定期昇給の枠外にある非正規労働者をどんどん増やしてきたのである。かつては包摂的だった日本の社会制度は収奪的社会に向かっている。労働者から絞りとっで、配当と内部留保を増やしている。結果、大企業の利益剰余金は600兆円にも積み上がっている(河野龍太郎『日本経済の死角』)。

 

3 「アベノミクス」への反省が全くない

11月21日に閣議決定された高市政権の総合経済対策は財政支出21・3兆円、事業規模41・8兆円という大型のものとなった。また、28日には18.3兆円という大型の補正予算も組むとした。日経新聞11月27日付けのコラム『大機小機』は「季節は外れのアベノミクス」と題して、アベノミクスの結果は犯罪的であったことを上げている。①積極的な財政も緩和的な金融もデフレからの脱却には効果が小さく、長期的な成長率を引き上げることには無力だった。②為替レートはアベノミクス直前の11~12年の円の対ドルレートは80円前後だった。これが「異次元緩和」によって円安に向かった。ここ数年は140 ~150円へと円安が進むことで、輸入物価の上昇を通じて物価情勢を一段と困難なもとしている。③金利のある世界に入った近年では、財政赤字の累積は国債費を増加させ、今後の財政運営をさらに厳しくなる、と総括している。

高市政権発足後、金融市場ではこの1か月間で警戒感が一気に強まり、国債と円を売る動きが加速している。円は157円台と1カ月で7円も円安となった。10年物国債利回りは1.835%と17年半ぶりの高水準になった。東短リサーチの加藤出氏は「市場には円安が止まりづらくなることでインフレ率も高止まりするとの予想」もあるとし、「足元のインフレは円安で押し上げられ…食料も顕著に値上がりしており、家計は圧迫されている。」とし、「円安を放置したまま、財政で物価高に対応してもきりがない」と高市政権の経済対策に全く否定的である(日経:2025.11.28)。

4 「インフレ税」をとる高市経済政策

島澤諭氏は「物価高で財政が改善するのは、インフレにより所得税率の適用区分を超える人が増える『ブラケットクリープ』や名目額で固定された債務を目減りさせる『インフレ税』のためだ。」それにより、「意図的な財政健全化を行わずともインフレ税によって財政再建が自動的に進む」。また、「インフレ税は、所得税や消費税のように法律によって決められたわけではなく、特定の税率があるわけでもない」から財政民主主義の破壊でもあると書いている(日経:2025.11.24)。

政府には①「支出を減らす」か、②「税収を増やす」か、③「インフレを進める」の3つの選択肢しかない。①と②は国民の抵抗が大きいので選択が難い。そこで、高市政権は③の「インフレ税」を選択し、家計への負担はどんどん重くなる。増税せずに、インフレによって「家計から政府へと所得が移転する」現象が起きている。物価が上がると生活費が増えるので、これまでためていた預金などを取り崩して、モノやサービスの購入に回す。国民はインフレのせいで、今までよりも控えめな量や質での財やサービスの購入を強いられ、国民の可処分所得は減って消費を手控える。所得や貯蓄の少ない人、つまり社会的に最も弱い立場の人々ほど、その影響を受ける(河野龍太郎×唐鎌大輔『世界経済の死角』)。

今の高市政権の経済政策は③の「インフレ税」である。野党も給付金や減税要求のみで「インフレ」や「円安」の効果についてはよく理解いていない。しっかりと批判しなければ、いつの間にか国民はさらに貧しくなっていることになる。

 

5 円安で物価は上がるのに、賃金が上がらないスタグフレーションに

トヨタなどの大手輸出型企業の海外事業では、円安で為替差益が利益となる。しかし、国内経済は円安ではインフレになり、国民の所得(賃金+年金)の上昇はインフレ率より低いので、スタグフレーションになってきている。貿易のほとんどが、ドル建てで行われている。95%以上を輸入に頼る資源・エネルギー、30%しか国内自給率のない食品は、価格がどんどん上がっても輸入しなければならない。

2012年末からの安倍内閣による「異次元緩和」で、日銀による国債の買い→円の増刷(約500兆円)が行われたが、膨らんだ資金は国内には投資されず、マイナス金利となった円が売られて、2%から4%の金利差のあるドルが買われ(円が売られ)円安が進んだ。さらに、2020年からは、コロナ危機の財政対策で100兆円もの国債が発行され、それを日銀が買い、円を増刷したため、1ドルは150台の超円安になってしまった。2023年:23兆円、2024年:27兆円、2025年:30兆円のペースで、「円売り/外貨買い」の超過がある。日銀の短期政策金利は0.5%であるが。インフレ率は約3%であり、本来は2.5%程度の政策金利でなければならない。しかし、それでは、安倍→菅→岸田の自民党政権下で積み上がった1300兆円の国債残高があり、国家財政が支払金利で破綻してしまうので金利を上げられない。低い金利を嫌って、海外の高い金利の通貨に資金が移動し、さらなる円安を引き起こし物価は高騰する(参照:『ビジネス知識源』吉田繁治:2025.11.29)。

高市政権にはアベノミクスの大失態の責任を問われているが、全く反省することなく、また同じことを繰り返そうとしている。失態の負担はインフレとして国民の肩に重くのしかかる。消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は3割にもなり、国民は必要な消費を削減せざるを得ず、日本経済の低迷と国民の苦痛はさらに続く。発足1カ月・マスコミは高市政権を盛んにもてはやすが、「死神」でもあり、「貧乏神」でもある。

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【投稿】トランプ大統領:極まる独裁者・ファシストの叫び

<<「民主党議員6人を絞首刑にすべきだ」>>
11/20、トランプ大統領は、民主党議員6人が、軍務に就く者に対し、軍法と法律に基づき、大統領の違法な命令に従わない義務があることを訴える90秒のビデオを公開したことに対して、「これは最高レベルの扇動行為だ。国家を裏切るこれらの者たちは全員逮捕され、裁判にかけられるべきである。彼らの言葉は許されるものではない。もはや私たちの国は存在しなくなる!!! 模範を示さなければならない。大統領、DJT」と自らのソーシャルメディアTruth Socialに投稿。
これに応えた「反乱」「国内テロリスト」「ジョージ・ワシントンなら絞首刑にするだろう!!」といった右翼のコメントをリポストし、トランプ氏自身が、「民主党員は死刑に値する」と述べ、「扇動行為、死刑に値する」、「民主党議員6人を絞首刑にすべきだ」と書き込んだのであった。

 民主党の6人の議員は、主に退役軍人で、アリゾナ州選出のマーク・ケリー上院議員(海軍担当)、ミシガン州選出のエリッサ・スロットキン上院議員(CIA担当)、ペンシルベニア州選出のクリス・デルジオ下院議員(海軍担当)、ニューハンプシャー州選出のマギー・グッドランダー下院議員(海軍予備役)、ペンシルベニア州選出のクリッシー・ホウラハン下院議員(空軍担当)、コロラド州選出のジェイソン・クロウ下院議員(陸軍担当)であった。彼らが公開したビデオで述べられた内容はすべて完全に合法であり、トランプ政権の現在および過去の行動を考慮すると、全く適切なものであり、彼らは、トランプ政権は「軍服姿の軍人と情報機関の専門家をアメリカ国民と対立させている」と述べ、「違法な命令を拒否することはできるし、拒否しなければならない」と述べ、「我々の法律、我々の憲法のために」立ち上がるよう呼びかけ、「あなた方は我々と同じように、この憲法を守り、擁護する誓いを立てた」、「今、我々の憲法に対する脅威は、海外からだけでなく、まさにここ国内からも来ている」と「船を放棄するな」(“Don’t give up the ship.”)というメッセージで締めくくられていた。

 11/22、トランプ氏が、民主党議員6人を絞首刑にすべきだと示唆した翌日、ビデオ・メッセージの議員の1人、クリス・デルジオ下院議員が複数の爆破脅迫を受けたことが明らかになった。「本日午後、カーネギー郡とビーバー郡の選挙区事務所が爆破脅迫の標的となりました。議員と議会職員は無事であり、迅速な対応をしてくれた法執行機関に感謝します。このような政治的暴力と脅迫は容認できるものではありません」と明らかにしている。
 草の根の退役軍人団体コモン・ディフェンスは、この爆破予告を確認した後、
「第一に、コモン・ディフェンスは、あらゆる形態、あらゆる政党による政治的暴力を断固として非難します。暴力は我々の民主主義にあってはならないものです。我々は法の支配を信じています。しかし、ここでの因果関係を無視することはできません」と指摘している。

トランプ大統領の今回の暴言は、これまでのような単なる暴言の繰り返しではない、と言えよう。明らかに、自分に敢えて反対する者の殺害を要求し、死刑を要求するとき、それは、自らが独裁者であり、ファシストであることを宣言したものだ、と言えよう。

<<「トランプ氏は今やレームダック=「死に体」、誰もがそれを知っている」>>
トランプ氏は、11/20の1日だけで、民主党議員を反逆罪と扇動罪で非難する16件もの錯乱した投稿と再投稿を繰り広げている。そこまでパニックに陥ってしまったのであろう。隠しおおせない、パニックの現実である。

こうした現実の展開に直面して、もはや与党・共和党議員でさえ、トランプ氏に同調できない段階に追いやられ、上院多数党院内総務ジョン・スーン氏は、記者の追及に対して、「大統領による同僚議員の処刑要請には同意できない」と認めるに至った。そして、最も忠実なトランプ氏の報道官、キャロライン・リービット氏でさえ、数時間後にはトランプ氏の発言を撤回せざるを得なくなり、大統領は野党議員の殺害を望んでいないという速報が流れるという、予期せぬ、驚くべき混乱を招いたのであった。

 11/21付けロサンゼルス・タイムズ紙は、「トランプ氏は今やレームダックであり、誰もがそれを知っている」として、共和党全体がトランプ大統領に背を向けつつある、少なくとも5つの主な理由がある、との分析を掲載している(Five reasons the GOP is finally bucking Trump 共和党がついにトランプに反抗する5つの理由)。
1.憲法違反となる3期目の就任を公然と示唆しているにもかかわらず、トランプ氏は2028年以降も大統領職にとどまることはできず、トランプ氏よりも長く政権にとどまりたい共和党員を怯えさせている。
2.2024年の大統領選では僅差で一般投票での勝利を収めたかもしれないが、支持率は急落しており、今週初めのロイターの世論調査では38%となっている。
3.トランプ氏が有権者からますます孤立している。これは、最初の任期に比べて集会の回数が減っていることに象徴される。「今や彼は物理的に孤立し、支持基盤との接点もますます薄れている。彼の側近はイデオローグと億万長者で構成されている。彼らは牛乳の価格を気にしない人々だ。」
4.彼の健康と死亡率への懸念があり、「MRI検査も受けているが、その検査内容については誰も十分に説明できない」という報道も、懸念に拍車をかけている。
5.トランプ氏の政治連合は常に不安定なものだった。その結束力が弱まるにつれて、矛盾が露呈し、あからさまな争いは避けられなくなってきている。

トランプ政権に好意的なFOXニュースでさえ、自社の世論調査の結果を踏まえ、回答者の76%が、経済は「それほど良くない」または「悪い」と回答し、共和党支持者でさえ、食料品、公共料金、医療費がトランプ政権下で上昇したと回答し、住宅価格、賃金、医療、気候変動問題に関しては、民主党の方がより良い計画を持っていると回答したと報じている。

レームダックに陥り、パニックに陥ったトランプ政権が、危機打開により危険な内戦や対外戦争挑発に乗り出しかねない、危険な展開であり、それを孤立させ、阻止する広範な闘いが要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】台湾有事で「存立危機事態」との高市答弁は日本に大損害をもたらす

【投稿】台湾有事で「存立危機事態」との高市答弁は日本に大損害をもたらす

                           福井 杉本達也

1 高市早苗首相が台湾有事で「存立危機事態」と答弁

高市首相は11月7日の衆院予算委員会で、中国が台湾に侵攻する台湾有事に関し、状況次第で安全保障関連法に基づく存立危機事態に該当するとの認識を示した。これに対し、中国側は日本が台湾情勢に武力介入する意思を示したと受け止た。「存立危機事態」は日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合を指す。「仮に中国が台湾を武力侵攻し、米国がそれを防衛しようとした場合、日本領内にある在日米軍基地が攻撃される可能性は高い」場合(日経:2025.11.10)などであるが、米国は必ずしも台湾を防衛をするとは限らない。中国からは、日本が台湾「防衛」のために自衛隊を派遣し、米国を巻き込むと受け止められた、これには伏線がある。

2 日中首脳会談後、手のひらを返しての台湾代表と会談・元駐日台湾代表に旭日大綬章

高市首相は10月31日にの習近平主席との会談後、11月1日に慶州で台湾の元行政院副院長(副首相)の林信義と会談し、握手する写真を自身のXに投稿した。また、11月3日付けで、台湾の謝長廷・前台北駐日経済文化代表処代表(=事実上の台湾駐日大使)に旭日大綬章を授与した(日経:2025.11.7)。

この一連の行動の前段で、高市首相による市川恵一氏の国家安全保障局長(NSS局長)への任命(2025年10月21日)がある。これは、高市政権の外交・安全保障政策の基本設計図を変える行為である。「発足直後の高市政権は、石破前内閣による『市川氏をインドネシア大使とする』という閣議決定を覆すという極めて異例の手段に訴えた 。これは、前政権の方針・政策を『一変させる強い意志』 の表れである。そして、そのポストにあてられた市川氏は、安倍政権下で「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略の策定に深く関与した人物である」(https://note.com/takeokmt )。「高市政権の統治戦略の最も巧妙かつ重要な点は、『官邸』のイデオロギー的中枢と、『閣僚』の実務的な布陣との間に見られる、意図的な乖離(かいり)である。これは矛盾ではなく、計算された『二重構造(デュアル・ストラクチャー)』である。…首相官邸は日本の最も自己主張の強い外交政策の設計者たち(市川、今井、秋葉)によって固められた 。ここが、高市政権の真の国家戦略を策定し、推進する「エンジン」となる。…対照的に、高市首相が任命した閣僚、特に国民の目に触れる安全保障の主要ポストは、『穏当で比較的バランスの取れた布陣』と評されている 」(同上:2025.11.15)。

したがって、高市首相の発言は、「偶発的な失言ではなく、政権交代に伴う日本の国家戦略の意図的な転換を示唆している。従来の自民党・公明党連立政権下では抑制されてきたタカ派的な安全保障観が、公明党の連立離脱と日本維新の会との連携強化という国内政治基盤の変容を経て、一気に表面化した形である。これに対し、中国政府は『断じて容認しない』とする激しい反発」を見せているのである(同上:2025.11.16)。

3 高市首相には手持ちのカードは何もないが、中国にはカードはいくつもある

『観察者』11月18日付けにおける劉承輝氏によれば(中文機械翻訳)、「中国は高市早苗に対し誤った発言の撤回、火遊びをやめ、中国への約束を果たすよう繰り返し強調しているが、これまでのところ高市は関連する発言の撤回を拒否している」。強硬派の高石首相が、「中国と妥協すれば大きな政治的反発に直面すると見ている。これにより日本は最大の貿易相手国である中国と膠着状態に陥りますが、緩和の明確な方法はありません。中国は、状況が制御不能になれば制裁を課す」。「中国の日本経済や企業への圧力が予想を超える可能性があることです。 中国の重要鉱物供給は日本の自動車産業の重要な依存であり、自動車産業は中国にとって最も明確な圧力手段の一つでもあります」。ブルームバーグの吉田達雄氏は「もし(中国)が希土類禁輸措置を課せば、特に希土類含有量の高い電気自動車の生産が混乱するでしょう。」と述べている。グローバリゼーション・シンクタンク創設者の王輝耀氏は「この(危機)は完全に日本の首相によって引き起こされた。」と述べている。11月18日の日本の株式市場は引き続き急落した(日経:2025.11.19)。ブルームバーグは、中国の反撃が日本に大きな損失をもたらすと警告した。

 

4 なぜ中国はトランプに対し、レアアースカードを切れたのか

なぜ中国は今初めて、米国に対して、レアアースカードを切れたのか?石原順氏がX上に投稿しているが(2025.11.18)、「2022年まで中国はヘリウムの95%を輸入に依存しており、その大半は米国が支配していた」。ヘリウムは「量子コンピューティング、ロケット技術、MRI装置、半導体リソグラフィ装置の冷却剤など、数多くの産業用途がある」。もし、2022年時点で、米国がヘリウム輸出の「締め付け」をすれば、中国は深刻な影響を受けることとなる。そこで中国は「ヘリウムの枷」を断ち切るため7つのヘリウム抽出施設が稼働を開始。さらに輸入先を米国からロシアなどへ転換した。結果「2024年末までに中国の米国ヘリウム依存度は5%未満に低下」した。「力とは意図やレトリックではなく、実際に何ができるかだということだ」。今、米国にはレアアースの代替手段も、技術も、サプライチェーンも欠けている。「中国は、あらゆる圧力ポイントを体系的に排除するために、途方もない努力を払った…だからこそ、今になってようやくレアアースという切り札が使えるのだ。中国が突然攻撃的になったからではなく、彼らが『ノー』と言える能力を育んできたからだ。」

 

5 共同通信のばかげた世論調査と日中対立を煽るマスコミ・SNS

国民民主党の玉木雄一郎代表は定例記者会見において、メディアに対し、「台湾有事の際に集団的自衛権を行使すべきか否かのような設問で、国民のみなさんにイエス・ノーを聞くケースがありますけど、結論を言うと『簡単には答えられない』」とした。「日本は何重ものハードルをくぐらないと、武力行使はできないんです。でも、台湾有事で武力行使すべきかと単に設問で聞くと『やったらいいんじゃないか』みたいな答えになることが多くなる」とし「そういった設問が分断と緊張感をあおりかねない。」と述べた(『スポーツ報知』2025.11.18)。これは、集団的自衛権の行使について、「台湾有事での行使について賛否を聞いたところ『どちらかといえば』を合わせ『賛成』が48・8%、『反対』が44・2%だった。」(福井:2025.11.17 共同通信世論調査)との世論調査を踏まえての発言である。さらに、薛剣・駐大阪総領事の「勝手に突っ込んできたその汚い首は一瞬のちゅうちょもなく斬ってやるしかない。覚悟ができているか」とのXへの投稿を「国外退去」だとマスコミ各社は激しく煽った。また、11月16日放送のTBS「サンデー・ジャポン」に出演したタレントの杉村太蔵は、予算委員会での岡田克也立憲民主党元幹事長の質問に対し、「聞く方も聞く方で、どういう状況だったら武力行使をするか、これ、敵国のスパイからすると、最も欲しい情報じゃないですか。これをわざわざ世界中が見ているこの国会の予算委員会で追及する」。「こういうふうに厳しく追及する。いったい誰が得するの」かと、あたかも高市答弁を引き出した質問者の岡田氏が悪いかのように発言した。日本は、高市首相の発言をSNSばかりでなく、大手マスコミもこぞって煽っているという非常に危うい状況にある。

6 中国を「G2」と呼ぶトランプ・

キッシンジャーは「中国と日本を比較した場合、中国は伝統的に世界的な視野を持ち、日本は部族的な視野しか持っていない。」「日本は突然の大変化も可能で、三ヵ月で天皇崇拝から民主主義へと移行した。日本人は自己中心的で他国に対する感受性に欠ける」。と述べている(周恩来・キッシンジャー極秘会談録:1971年)。

米国は伝統的に、台湾について「戦略的曖昧さ」を維持してきた。日本が台湾について踏み込んことに警戒感がある。しかし、トランプ政権は中国との取引を優先しており梯子を外されるリスクがある。

トランプ米大統領は10月30日の米中首脳会談を「G2会談」と表現した。トランプ氏は自身のSNSに「習近平国家主席とのG2会談は両国にとって非常に有意義だった」と記した。(日経:2025.11.3)。この「G2」表現は、重要なことは2国間で決めると言うことである。「トランプ米政権は静観の構えを見せている。中国が反発を強め、日中関係の緊張が高まる中、米中通商交渉への影響を避けたい思惑がある」、「米シンクタンクのアジア協会政策研究所のエマ・シャンレットエイブリー氏は『トランプ政権は中国政策で広く曖昧な立場を取っているが、高市氏の発言はこの方針から逸脱している』と指摘し、対中政策を巡る日米関係の行方に懸念を示した。」(時事:2025.11.18)。

篠田英朗氏は、属国日本は、米国という覇権国による「巻き込まれ」や、逆に「米国第一」のトランプ政権下では「見放され」ることを恐れる。そこで高市政権はタカ派路線をとり、米国を「巻き込む」作戦に活路を見出そうとしたが、トランプ政権に見透かされ、かえって「見放され」つつある(参照:篠田英朗X:2025.11.16)と分析する。

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【投稿】特定食品関税撤廃:トランプ関税の敗北--経済危機論(172)

<<ウソ、でたらめの破綻>>
11/14、トランプ政権は、「牛肉、ココアとスパイス、コーヒーと紅茶、バナナ、オレンジ、トマト、その他の熱帯果物と果汁、そして肥料への関税を撤廃する。」ことを明らかにした。主要輸入品に対する「相互」関税という、怪しげな違法関税の撤廃に、ついに追い込まれたのである。
 発表された大統領令は、「本日の命令は、大統領が二国間貿易関係においてより互恵的な条件を確保する上で成し遂げた重要な進歩を踏まえたものである。」と言い訳しながら、「米国では十分な量が栽培または生産されていない農産物を大量に生産している国々が関与している。したがって大統領は、特定の農産物は相互関税の対象から外されることを決定した。これらの製品には次のようなものがあります。」として、上記の広範な食品、ならびに肥料への関税撤廃を明らかにしている。

これは、明らかなトランプ関税政策の破綻である。CNNのジム・シュート記者は、「トランプ政権は今、経済学者やビジネスリーダーたちが当初から指摘してきたことを認めている。関税が価格を押し上げているのだ」と断じている。

 トランプ氏は、この大統領発令の直前、11/12、11/13両日に至っても、「食料品は大幅に下落している」と強弁していたのである。「あらゆるものが大幅に下落している」、「トランプ政権下で物価は下落しており、しかも大幅に下落している」、「誰もがトランプ政権下では物価がバイデン政権下よりもはるかに安くなっていることを知っている。そして、物価は大幅に下落している」と大うそとでたらめをばらまいていたのである。11/9には、「関税に反対する奴らは愚か者だ! 我々は今や世界で最も裕福で、最も尊敬される国であり、インフレ率はほぼゼロ、株価は史上最高値を記録している。」とまでうそぶいていたのである。

CNNのダニエル・デール記者は、こうした大ウソを厳しく検証し、ファクトチェックとして発表、トランプ氏が「インフレについて嘘をつき続けている」ことを明らかにした(11/10)。「インフレは依然として存在しているだけでなく、(関税発表の)春以降加速している」、「この政権下で物価は上昇している。連邦消費者物価指数の最新データによると、9月の平均物価は1月より??1.7%上昇し、2024年9月より3%上昇した。政権期間中、毎月インフレが発生しており、価格が上昇した製品は安くなった製品よりもはるかに多かった」、「9月時点で、前年比のインフレ率は5ヶ月連続で上昇している」。「あらゆる価格が下落している」、「バイデン政権下よりもはるかに安くなっている」と言ったトランプ氏の「これらの言葉はどれも真実ではない。」と断言されていたのである。

しかも、食料品価格はとりわけ上昇している筆頭でもある。消費者物価指数(CPI)によると、食料品の平均価格は1月から9月の間に1.4%上昇し、2024年9月から2025年9月の間には2.7%上昇している。一方、2025年7月から2025年8月にかけての平均食料品価格の0.6%上昇は、過去3年間で最大の月間上昇率であり、その後、8月から9月にかけて0.3%上昇している。牛肉だけではない。数十種類の食料品が値上がりしている。

「関税は物価上昇につながらない」、「食料品は大幅に下落している」などと、平気で、現実からかけ離れた大嘘を繰り返し吐き続けられるのは、庶民の生活実態を全く知らない大金持ち故なのか、認知不全、あるいはあえて固執する人格破綻なのか、問われるところであろう。

<<「他の何千もの品目についても当てはまる」>>
しかし、トランプ氏にとっては、直近のニューヨーク市長選挙の敗北に引き続いて、ニュージャージー州とバージニア州の知事選でも敗北、シアトル市長選でも敗北濃厚という、有権者の怒りで、連続惨敗を喫し、トランプ政権の「存続危機」に直面し、ついに関税政策の変更に追い込まれたのが、実態であろう。

この政策変更は、議会合同経済委員会の民主党議員が、「トランプ大統領が1月に大統領に復帰して以来、米国の世帯が生活必需品に毎月約700ドル多く支払っている、アラスカ州やカリフォルニア州など、一部の州では、世帯平均で毎月1,000ドル以上の負担に直面している。」ことを明らかにした報告書を発表した、その翌日に発せられたものであった。トランプ政権が追い込まれ、対応せざるを得なかったのである。

物価問題は、「民主党によるペテンだ」と主張してきたトランプ氏に対して、下院歳入委員会貿易小委員会のドン・ベイヤー下院議員(民主党、バージニア州選出)は、11/14の声明で、「トランプ大統領はついに、我々がずっと知っていたことを認めた。つまり、彼の関税はアメリカ国民にとって物価上昇をもたらしているのだ」と述べている。
 さらにベイヤー氏は、「トランプ大統領の関税がコーヒー、果物、その他の食料品の価格を押し上げているという同じ論理は、関税が残っている他の何千もの品目についても同様に当てはまる。今回の措置はトランプ大統領が引き起こしたコスト上昇をいくらか緩和するかもしれないが、インフレの上昇、企業の不確実性、そしてトランプ大統領の狂気じみた関税政策による経済的損害といった、より大きな問題を止めることはできない。憲法に基づく貿易規制の法的責任を取り戻し、トランプ大統領の貿易戦争の混乱に恒久的に終止符を打つことができるのは議会だけだ。」、「議会の共和党議員は、ごく少数を除いて、依然としてトランプ大統領に立ち向かい、関税を中止し、アメリカ国民のコストを削減することを拒否している。彼らが決意を固めない限り、我が国の経済は引き続き苦境に立たされるだろう。」、「関税を撤廃し、関税に関する議会の合法的な権限を取り戻す。」ことを呼びかけている。

今や、トランプ政権の破滅的な関税政策が岐路に立たされ、その撤廃、全面的な政策転換に踏み切らない限り、政治的経済的危機は止められない段階に直面しているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】ニューヨーク市長選:トランプ脅迫路線の敗北

<<マムダニ氏:「希望は生きている」‘Hope Is Alive!’>>
11/4・投開票のニューヨーク市長選で、トランプ大統領から「ニューヨークを破壊しようとしている」「共産主義者の狂人」などと激しく攻撃を受けていた民主党左派のゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)氏が勝利を獲得した。

マムダニ氏は、2020年のNY州議会議員選挙で初当選し、22年、24年と当選を果たし、24年にニューヨーク市長選への立候補を表明、草の根の選挙運動に支えられ、25年6月の民主党予備選挙で、アンドリュー・クオモNY州前知事に勝利し、今回の市長選候補となった。その時点で「世論調査でわずか1%の支持率から始まったマムダニ氏は、現代アメリカ史における最も偉大な政治的番狂わせの一つを成し遂げた」(氏を支持するバーニー・サンダース上院議員)のであった。DSA(Democratic Socialists of America 米国民主的社会主義)に所属している。

3候補による激戦で、マムダニ氏は50.4%の票を獲得し、民主党予備選でマムダニ氏に敗れた後、無所属で出馬し、トランプ氏の支持を受けたアンドリュー・クオモ氏の41.6%、共和党候補のカーティス・スリワ氏の7%強を劇的に引き離しての勝利であった。約850万人の人口を抱える全米最大の都市での、トランプ政権、民主党右派の敗北は、歴史的でもある。

トランプ氏は、わざわざ投票日前夜に、「共産主義者の候補者ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長選で当選すれば、必要最低限のものを除いて、連邦政府資金を拠出することはまずないだろう」と宣言。さらにマムダニ氏がICE(移民関税捜査局)の強制捜査を妨害しようとした場合、逮捕するとまで脅迫。
これに対してマムダニ氏はXで、「大統領は私を逮捕と強制送還で脅迫したが、それは私が法律を破ったからではなく、ICEが私たちの街を恐怖に陥れるのを許さないからだ」と反撃している。
 そしてトランプ氏は、投票日当日、投票開始からわずか数時間後に自らのTruthSocialに「ゾーラン・マムダニ、この明白な、そして自称するユダヤ人嫌いに投票するユダヤ人は、愚か者だ!」と、ユダヤ系住民の40%以上がゾーランに投票していることに怒りをぶちまける投稿までしている。

こうしたトランプ氏の必死の巻き返し、ニューヨーク市民への脅しにもかかわらず、マムダニ氏は勝利を獲得したのである。

 マムダニ氏はニューヨーク・ブルックリンのパラマウント・シアターで行われた勝利演説で、「希望は生きている」‘Hope Is Alive!’として、以下のように宣言した。
* 「専制政治ではなく希望を。巨額の資金と狭量な考えではなく希望を。絶望ではなく希望を。私たちが勝利したのは、ニューヨーカーたちが不可能を可能にできると信じることを許したからだ。そして、政治はもはや私たちに押し付けられるものではなく、私たちが自ら行うものだと主張したからこそ、私たちは勝利したのだ。」「数年後、私たちが唯一後悔するのは、この日が来るのにこれほど時間がかかったことだけでしょう」
* 「ドナルド・トランプに裏切られた国に、彼を打ち負かす方法を示すことができるとしたら、それは彼を生み出したこの街以外にないでしょう。」「もし専制君主を恐怖に陥れる方法があるとすれば、それは、彼が権力を蓄積することを可能にしたまさにその条件を解体することです。これはトランプを止める方法であるだけでなく、次の独裁者を止める方法でもあるのです。」「この政治的な暗黒の時代において、ニューヨークは光となるでしょう」
* 「ニューヨークは移民の街であり続ける。移民によって築かれ、移民によって支えられ、そして今夜からは移民によって率いられる街だ。だから、トランプ大統領、よく聞いてほしい。私たちの一人に手を出そうとするなら、私たち全員を相手にしなければならない。」

<<同時5選挙すべてで、トランプ敗北>>
トランプ政権にとって、さらなる痛手は、同じ日に実施された5つの選挙すべてで、トランプ大統領に痛烈な批判を浴びせ、物価高騰とトランプ氏を攻撃した候補者たちが勝利を収めたことであった。
* 民主党がバージニア州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、カリフォルニア州、ニューヨーク市の主要選挙で勝利しただけではない。どの選挙でも勝利の差は予想以上に大であった。
* バージニア州のアビゲイル・スパンバーガー氏とニュージャージー州のミッキー・シェリル氏は、法執行機関とのつながりを強調し、物価引き下げを公約し、トランプ氏の経済運営を批判することで大勝した。
* ペンシルベニア州では、民主党は反トランプ、中絶権利擁護のメッセージを掲げ、州最高裁判事選挙3議席すべてを獲得した。

AP通信は、「火曜日の選挙は、多くの有権者にとってトランプ氏への静かな非難だった」と有権者調査を報じ、フォックスニュースは「経済不安が、左派が有権者の不満を利用したことで、重要な選挙における民主党の圧勝の鍵となった。」と報じている。トランプとその取り巻きが、すべては順調で、インフレはなく経済は好景気だと主張し続けていることが状況を悪化させている、との指摘である。

 11/5、マムダニ氏は、来年1月の市長就任に先立つ、改革市政をリードする、全員女性からなる移行リーダーシップチームを発表、住宅、規制、社会政策の分野で経験と識見を持つ、5人からなるこのチームは、元連邦取引委員会(FTC)委員長のリナ・カーン氏、マリア・トーレス=スプリンガー氏、グレース・ボニラ氏、メラニー・ハーツォグ氏、そしてエレナ・レオポルド氏が共同議長を務めることを明らかにした。
マムダニ氏は、市政運営において「オーガナイザー、政策専門家、そして働く人々」の意見を取り入れる、「公的説明責任を優先する」と強調している。

マムダニ氏が選挙戦で掲げた
* 手頃な価格の住宅、テナント保護、ユニバーサル・ヘルスケア
* 生後6週間から5歳までのすべての子どもを対象とした無料保育プログラムの創設
* 時給30ドルの最低賃金
* 住宅政策:200万戸の家賃安定化アパートの家賃凍結、公共投資による20万戸の低価格住宅建設を公約
* 政府補助金による無料食料品店の設置、市バス運賃の無料化
* コミュニティ・ランド・トラスト(CLT)を通じて「土地と住宅の社会化」を提案し、地域社会が管理する低価格住宅への転換を目指す。
* 経済的正義:法人税の最高税率を11.5%に引き上げる

これらの政策が、マムダニ氏の移行チームの課題となろうが、
今やトランプ氏にとっては、こうした政策課題は、新自由主義政策に相反する、逆に唾棄すべき政策なのである。しかし、唾棄すればするほど、トランプ政権の孤立化は避けられない事態の進行である。
(生駒 敬)

 

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【投稿】トランプ関税:脅しの敗退--経済危機論(171)

<<「いじめっ子は、いじめ返された」>>
10/30、トランプ米大統領のアジア歴訪の締めくくりであった、韓国(釜山)・APEC会合での、米中首脳会談について、トランプ氏は、中国の習近平国家主席との会談は「本当に素晴らしいものだった」、「両国間には計り知れないほどの敬意があり、今回の会談によってそれがさらに深まるだろう。」、「0から10のスケールで、10が最高だとすれば、今回の会談は12点だったと言えるでしょう」と自らを礼賛した(TruthSocialへの投稿)。
 しかし、トランプ政権のおべんちゃら閣僚以外は誰も絶賛などしていない。ガーディアン紙の外交担当編集者パトリック・ウィンター氏は、トランプ氏は「いじめっ子はいじめ返される可能性があることを発見した」とまで述べている。

トランプ氏が仕掛けた一方的な関税戦争は、米中間においては、11/1に実施予定であった100%関税の脅しが撤回に追い込まれ、少なくとも4月までは一応とりあえず「休戦」、「安定」が確認されたというのが、実態なのである。

 米中間で、何が確認されたのか、列挙してみよう。
* 中国政府、米国産大豆の大量購入を再開へ : トランプ大統領「中国が米国産大豆やその他の農産物を「膨大な量」購入し、米国の農家に救済を提供する」
* 中国、レアアース輸出制限を1年間停止 : 中国商務省の声明によると、「中国は10月9日に発表した関連輸出管理措置の実施を1年間停止し、具体的な計画を検討・改善する」としている。
* トランプ大統領、中国のフェンタニル関税を即時10%に引き下げる。
* 中国政府は、米国は一部の相互関税の停止を1年間延長すると発表し、TikTokに関連した問題の解決に向けて米国と協力する。
* 米国、ブラックリストに掲載された中国企業の子会社を対象とした規則を一時停止する。
* 中国はアメリカからのエネルギー購入を開始する。
* 両国は特定の輸送関税と手数料を撤廃することにも合意。
* トランプ大統領は、中国が米国への投資を強化することに楽観的な見方を表明し、4月に中国を訪問すると表明。中国政府は、米国が習氏の訪米を招待したと発表。

<<「解決どころか、ごまかしているだけ」>>
しかし、これらの合意・確認では、真の解決策は何も提示されはていない。あくまで一時しのぎなのである。
 10/30、『アトランティック』誌や『ファスト・カンパニー』誌への寄稿で知られるジャーナリストのスロウィエツキ氏はXへの投稿で、「これはトランプが自ら作り出した問題を、解決どころか、ただごまかしているだけだ。トランプが最初に大統領に就任した当時、中国は米国から年間3000万トン以上の大豆を購入していた。トランプによる最初の対中貿易戦争でその量は激減し、ブラジルが市場シェアを奪った。そして、トランプの2度目の貿易戦争で状況はさらに悪化した。中国の大豆需要は2017年当時よりもはるかに大きい。しかし、今回の合意後でさえ、中国による米国産大豆の購入量は2017年当時よりもはるかに少ないだろう。これはすべてトランプのせいだ」、「トランプ氏は、最新の政策ミスによって、自らが引き起こした問題さえも解決できていない。トランプ大統領は問題を作り出しただけで、真の解決策は何も提示していない」と手厳しい。

これらの合意で露呈され、確認されたのは、米国の弱さと中国の強さであった。
* トランプ大統領が発動した中国の大豆規制は、米国農家が頼りにしていた126億ドル規模の市場を壊滅させたが、中国はブラジルなど他の供給元へ直ちに転換することが可能であった。
* また、トランプ大統領が中国企業に課した制裁は、逆に中国のレアアース輸出制限をもたらし、中国が保有し、米国のテクノロジー企業が電気自動車、スマートフォン、AI搭載デバイスに必要不可欠なレアアース(希土類金属)の入手を困難にさせ、米軍事企業まで悲鳴を上げ、操業停止にまで追い込まれる結果をもたらしたのであった。世界のレアアースの約70%は中国産なのである。
* 中国の習主席は、米中貿易協議について、「私たちは常に意見が一致するわけではなく、世界をリードする二つの経済大国が時折摩擦を抱えるのは当然のことです」と述べ、「風や波、そして様々な困難に直面する中で、中国と米国の関係を担う私たち二人は、正しい方向性を堅持し、米中関係という巨大な船が着実に前進していくことを確保しなければなりません」と念を押している。
* そして、この中国の強さは、ドル一極支配の弊害から自立的経済圏の形成を目指し、拡大しているブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを中心とするBRICS+諸国の存在と協力に支えられているところにある。

トランプ政権は、中国と世界を相手に次から次へと違法な一方的関税を課し、貿易戦争を展開、過去6ヶ月間、脅迫と威嚇を繰り返してきたが、成果を得られるどころか、実際にはほとんど何も達成していないのが現実である。引き続き政治的経済的危機が押し迫り、根本的政策転換を迫られているのは、トランプ政権なのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備

【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備

                                                                                            福井 杉本達也

1 トランプ大統領との会談で徹底的に売国をアピールした高市首相

⾼市早苗⾸相は10月28⽇、都内でトランプ⼤統領と初の⽇⽶⾸脳会談を⾏った。会談後、トランプ⽒とともに横須賀基地を視察した。トランプ⽒のスピーチした際、⾼市⽒は表情を崩しながらサムアップで応じた。また、肩を引き寄せられる場⾯もあった。これが一国の首相の態度であろうか。目を疑わざるを得ない。宗主国の「国王」に媚びへつらい、従順に従う植民地の総統そのものである。しかし、我々国民の問題はその映像にあるのではない。会談での米国との正式の約束事にある。①5500億ドルの米国への投資、②米国産米の75%輸入増、③防衛装備品購入2兆5000億円、④ボーイング社の航空機100機の購入、⑤米産トウモロコシ・豚肉など1兆2000億円の購入、⑥アラスカ産LNGの新たな調達計画への参画などなど国民の生活を直撃するものばかりである。

これに加えて、小泉進次郎防衛相は、「へグセス米国防長官と会い、防衛力強化を前倒しする方針を説明した。へグセス氏は、「速やかな実行に期待を表明した。」(日経:2025.10.30)。これについいて、日経新聞は「日本の防衛費増額は米国の要求に先手を打つもので、財源や自衛隊の人材確保は見切り発車という危うさを抱える」とのコメントを付け加えた(日経:10.30)。防衛費GDP比2%強を前倒しにするというが、財源は国有財産の売却など一時的なものが多く、所得税の増税は先送りされている。トランプ政権内にはGDP比5%を求める発言もあり、5%強となれば30兆円、「25年度の一般会計歳出総額は115兆円あまり。防衛関連予算が却兆円に膨らむと全体の4分の1を占める」(日経:10.30)こととなり、社会保障費に匹敵することとなる。消費税のさらなる増税か、赤字国債の発行かしか財源の手当てはできない(日経:同上)。いったい、高市内閣は日本をどこへ導こうとしているのか。

2 江戸末期の不平等条約よりも不平等な5500億ドルの投資先

トランプ氏との会談で5500億ドルの71.5%=約4000億ドル(約60兆円)の投資先が「日米間の投資に関する共同ファクトシート」で少し明らかとなった。「原子力発電などのエネルギー、人工知能(AI) 向けの電源開発、AIインフラ開発、重要鉱物の4つの投資分野を列挙した。」ソフトバンク・東芝・日立・三菱電機・村田製作所など「日本企業8社が『プロジェクト組成に関心』を持っていると明らかにした。」(日経:2025.10.29)。

これについて、野村総合研究所の木内登英フェローは「投資計画の最終決定が米大統領に委ねられる点、日本企業を支援する日本の政府系金融機関が資金を出資、融資、融資保証の形で提供する枠組みに、米国企業が参加すること、米国政府が投資から得られる収益を得ること、など、米国主導で日本にとっては不平等な取り決めになってしまった」「日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めにである。」「また、投資対象は日米が協調する経済安全保障分野とすることで、日本の国益にもよりかなうもの、とされたが、実際には米国の製造業の復活と拡大に資する枠組み」である。「投資計画が日本にとって不平等なものであり、それが日本の国益を損ねていないか」とコメントしている。

3 80兆円でアメリカの原発を建てる

見た目は「投資」、中身は「公共事業の肩代わり」。日本の費用でアメリカの電力インフラを再建しようとするものである。日本が直接米国の電力会社に出資するのではなく、特別目的会社(SPC)を作り、日本政府系の金融機関──JBIC(国際協力銀行)、NEXI(貿易保険)、JOGMEC(資源機構)──がこのSPCに融資や保証を行い、SPCが原発や送電設備の建設を担う構造である。しかし、日本も同様だが、電力料金は勝手に電力会社が上げることはできない。米国でも州ごとの認可制である。日本でも建前は同様だが(実際は日本は電力会社優先だが)、消費者保護が最優先されるため、「外国投資家の利益確保」は理由にならない。その結果、電気料金は上げられず、融資返済の原資が失われる。原発建設には常に想定外のコスト超過と遅延がつきまとう。損失が出れば、融資保証をしているのは日本の政府系機関──JBIC、NEXI、JOGMECである。損失はアメリカではなく、日本の国費が負担することになる。「受益者はアメリカである。日本の資金によって、原発や送電網といった老朽インフラをほぼ無償に近い形で再建できる。建設に伴って地元では雇用が生まれ、関連企業にも発注が広がる。完成後は安定した電力供給を確保し、政治的にも『エネルギー再建の成果』としてアピールできる。さらに、電気料金を抑えることで国民の支持を得ることもできる。コストを負担せず、成果だけを享受する理想的な構図だ。」(くもnote:2025.10.28)。東芝の名前が出てきた時点で、東芝が倒産した、かつてのウエスチングハウス原発事業のみじめな過去を思い起こさざるを得ない。ウエスチングハウスは10月28日、全米で800億ドル分の新たな原子力発電所を建設すると発表した。「日米両政府が発表した投資枠組みを使うとみられる」(日経:2025.10.30)。日本は国内に投資できず、上下水道や道路など、老朽化したインフラの更新もできず、金は全て米国に巻き上げられ、ますます貧しくなる。これを売国といわずしてなんというのか。野党は投資の枠組みをまともに理解しているのか。

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【投稿】反トランプ・「ノー・キングス」全米大規模抗議デモ

<<米史上最大の抗議活動>>
10/18、当日の「ノー・キングス」抗議デモの主催者は、前回・6月14日の「ノー・キングス・デー」に結集した500万人を上回る人々が、全米50州、約2,500か所以上の集会に参加し、「これは間違いなく、アメリカ史上最大の抗議活動の日となるでしょう」、「トランプ大統領は自分の統治が絶対だと考えている。しかしアメリカには王などいないし、混沌、腐敗、そして残虐行為にも屈しない」と表明している。その抗議行動のライブ映像が、同サイトで公開されている。

 この「ノー・キングス」抗議活動を主催している団体には、ACLU(アメリカ自由人権協会)、全米教職員連盟、コモン・ディフェンス、50501、ヒューマン・ライツ・キャンペーン、インディビジブル、環境保護有権者連盟、ムーブオン、全米看護師連合、パブリック・シチズン、SEIU、ユナイテッド・ウィー・ドリーム、その他の地元の政治団体や社会団体を含む、全米140以上の団体などが結集している。
 集会の組織化を支援しているパブリック・シチズンの共同代表、リサ・ギルバート氏は、「前回の抗議活動以来、人々は現政権の何が間違っているのかをはるかに深く認識するようになりました。」と指摘している。

また、デモの主催団体の一つであるインディビジブルの共同創設者兼共同会長であるリア・グリーンバーグ氏は、「デモクラシー・ナウ!」の番組で、「私たちは、平和的な抗議のために結集している」が、トランプ大統領や他の共和党議員が、「ノー・キングス」集会を「アメリカ憎悪」集会だと非難したことに触れて、「抗議活動に対するトランプ大統領の脅しは、恐怖を煽り、脅迫し、人々を事前に退かせようとする、権威主義的な手法の典型的な例です」と、トランプ政権の対応を鋭く糾弾している。

<<「内なる敵」に対して軍隊を>>
トランプ政権と与党・共和党は「ノー・キングス」抗議活動の高まりに激怒し、デモ参加者を「テロリスト」「アンティファ」「過激で小規模で暴力的」などと中傷し、トランプ氏自身、特にワシントンD.C.で行われる抗議行動を「アメリカ憎悪集会」と断じている。ホワイトハウス報道官のキャロライン・リービット氏に至っては、「主要支持層はハマスのテロリスト、不法移民、暴力犯罪者で構成されている」とまで語っている。
ショーン・ダフィー運輸長官は、抗議行動参加者は、大統領に恥をかかせようとするアンティファの金で雇われたメンバーだと非難し、「キングがいなければ給料はなく、給料がなければ政府もない」と、「キング」礼賛にまで踏み込んでいる。共和党のマイク・ジョンソン下院議長も、抗議活動をアンティファとパレスチナ武装組織ハマスと関連付けて誹謗中傷。
 今や、ホワイトハウスから発せられる言語は、内戦を煽る言語にまで至り、トランプ大統領自身が、「内なる敵」に対して軍隊を投入するよう呼びかける事態である。ホワイトハウスは、トランプ大統領に直接の指揮下で全米に軍隊を展開する広範な権限を与える反乱法(Insurrection Act)発動の準備を進めている、と報じられている。トランプ氏は、裁判所が全米の都市への軍隊派遣を引き続き差し止める場合は、100年以上前に制定された反乱法を用いて不利な司法判断を回避する可能性、意向を明らかにしたのである
こうしたトランプ政権に呼応して、テキサス州のグレッグ・アボット共和党知事をはじめとする一部の州知事は、抗議活動に対応して州兵の出動を決定し、アボット知事は、「テキサス州は犯罪行為を抑止し、地元の法執行機関と協力して、暴力行為や器物損壊に関与した者を逮捕する」と脅しの声明を発表している。。バージニア州知事グレン・ヤングキン氏は、警察を支援するため「バージニア州民の安全を守る」ため州兵の動員を明らかにしている。
しかし、こうした事態の進展は、トランプ政権の焦りと孤立化が一層進んでいることをも明らかにしている。

今回の「ノー・キングス」抗議デモの高揚が明らかにしたものを列挙すれば、
* 前回よりも、新たな抗議活動参加者が大幅に増大した、その背景に、移民襲撃、都市への連邦軍配備、政府の人員削減、大幅な予算削減、選挙権の剥奪、ワクチン要件の撤回、等々、「もうトランプはいらない!」と抗議する人々を質的・量的にも増大させてしまった。
* ハーバード大学ケネディスクールとコネチカット大学の共同プロジェクトである群衆計測コンソーシアムを共同指揮する政治学教授のジェレミー・プレスマン氏は、トランプ氏の2期目の強引さが抗議活動参加者を増大させた可能性があると述べている。
* 抗議行動そのものにおいても、ワシントンD.C.のような大都市圏では、前回に比べていくつもの大集会が組織され、サンフランシスコでは抗議活動が5カ所に広がり、シカゴでの1回の集会は22回に及んだ。ニューヨークでは、市内5区すべてで10万人以上がデモが展開された。オレゴン州ポートランドの抗議行動では、3つの別々の行進が組織され、最終的には1つに合流するなど、創意と多様性が展開された。
* 全米各地でデモ参加者は「アメリカに王はいらない」「民主主義を守れ:ゼネストの時だ!」、「ICEゲシュタポを廃止せよ」「我々は臣民ではない」などと宣言する手作りのプラカードが多数掲げられた。
* 一部の集会では、少数の反対デモ参加者と警察の対峙が見られたが、挑発行動が組織的に回避され、雰囲気は明るく、子供たちや家族連れの参加者が大いに目立つ抗議行動であった。ニューヨーク市警は、抗議活動に関連した逮捕者はゼロだったと認めたが、これは「暴動」と「テロ集団」に関するトランプ大統領の主張を真っ向から否定するものであった。

大都市から小さな町や田舎の郡にまで及ぶこの運動の広がりは、トランプ独裁政権への抗議・反対運動は、一部地域に限定されているという、トランプ政権が広めてきた、「内なる敵」説を完全に打ち砕き、「キング」独裁政権の継続が不可能な事態をもたらしている、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」

【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」

                            福井 杉本達也

国民民主党の玉木雄一郎氏は立憲民主党との連立を組む条件として「安全保障」=安保法制肯定と「エネルギー政策」=原発推進の二つを修正することをあげている(日経:2025.10.14)。しかし、この条件は。あたかも1993年の細川連立内閣発足時に社会党に突き付けたような古色蒼然とした内容である。野党連立政権から32年、玉木氏の頭はなんらの進歩はないようである。

1 完全に破綻した「原発推進」政策

福井県内3原発の敷地内で計画する「使用済み核燃料の乾式貯蔵施設について、関電は10日、高浜1カ所目の着工が早くとも2026年、運用開始はお年ごろになるとの見通しを示した。」(福井:2025.10.11)。ようするに、原発内の使用済み核燃料プールが満杯になったので、プール外の乾式貯蔵施設を作らないと原発の運転ができないところまで追い込まれているということである。関電の計画では、使用済み核燃料を青森県六ケ所村の核燃料再処理施設に持ち込んで、核燃料プール内の使用済み核燃料を減らして、原発の運転を継続したいところであるが、核燃料再処理施設の稼働は延期に次ぐ延期を重ね、いつになったら動かせるかは全く見通しが立っていない。また、関電は、この使用済み核燃料を青森県六ケ所村の中間貯蔵施設や山口県上関町で中国電力が計画する中間貯蔵施設に搬入できないかを画策したが、青森県知事の反対や上関町での反対運動で見通しは全く立っていない。そこで、関電は福井「県外の中間貯蔵施設への使用済み核燃料搬出を開始できない場合は原発内の貯蔵プールに戻すとした」案を地元に提示したが、これに、これまで原発を一にも二にも推進・協力してきた美浜町や高浜町などが猛反発した。10月2日に美浜町会委員会はプールに戻すことに反対する「地元の改善を求める要望書」を関電に提出した(福井:2025.10.3)。そもそも、一旦、湿式貯蔵の核燃料プールから乾式貯蔵に取り出した使用済み核燃料を、受け入れ先がなかったという理由で再び使用済み核燃料プールに戻すというのである。かつて、物理学者の武谷三男氏は原発を「トイレのないマンション」と形容したが、いまやもう完全に物理的に破綻している。使用済み核燃料の持って行く場所はもう日本国中どこにもないのである。北海道などで調査されている高レベル放射性廃棄物の地下最終処分場などというのは全くの幻想である。これ以上、原発を動かし続けて使用済み核燃燃料を増やすことは物理的にできないのである。

3.11の福島第一原発事故により、原発というシステムがいかに危険かつ脆弱なものであるかが明らかとなった。さらには、使用済み核燃料は半永久的に冷却する必要があり、万一、冷却水がなくなれば再び核分裂反応を引き起こし、各暴走するやっかいなものである。稼働中の原発には広島型原爆1000発分以上の放射能がある。もし、玄海原発や高浜・大飯原発などがミサイル攻撃を受けた場合には、核攻撃以上の被害となり、日本は壊滅的状況に陥る。「安全保障」どころか「存立危機」である。玉木氏の「エネルギー政策」は原発の実態を全く踏まえない空理空論に過ぎない。そんなものを国民に押しつけてどうするつもりか。

2 米国に追随し「安全保障」を考えなかったドイツは今どうなったか

10月13日の日経新聞は「欧州最大のドイツ経済が正念場を迎えている。政府によると2025年の実質成長率は0・2%にとどまり、3年連続で景気低迷を避けられない見とおし」と書いた(日経:2025.10.13)。要因は「ロシアからの安価なガス調達が止まった」ことであるとするが、ロシアからの北海経由のノルドストリーム1・2ガスパイプラインの米国による破壊(2022年9月)を黙認したのは当のドイツであり、自業自得である。結果、エネルギー価格は高止まりし続け、「自動車大手や部品会社による大規模なリストラが相次」ぎ、VWの持ち株会社ポルシェSEが防葡産業への参入検討を明らかに」している(日経:同上)。

これに対し、YouTubeで米元海兵隊情報将校のスコット・リッター氏は「ポルシェにとっての問題はドイツ国内にはもはや鉄鋼を生産している企業が存在しないという点だ。安価なロシア産ガスを手放してしまったためもはや維持する余裕がない。つまり、もう鉄を作れないのだ。その結果、ポルシェはすべての鋼材をスウェーデンから購入しなければならず、そのコストが莫大な負担となっている。そして現実としてポルシェはいま防衛産業への転換に多額の資金を投じているものの実際にはその余裕がない。一台の戦車すら造ることはできないだろう。…彼らは戦車なんて作れない。資金がない。金がないんだ。いくら喋りまくろうが、言葉だけ流れるだけだ。大恐慌の時代には、少なくとも鉄鋼産業があった。ピッツバーグが鋼材を供給しフォードはモデルTをシャーマン戦車に改造できた。だがドイツには何もない。ポルシェは崩壊した企業だ。今まさに鉄鋼産業を解体している。スウェーデンは、装甲鋼板の価格を吊り上げるだろう。競争が起きる。フランスが戦車製造を計画しているが、もはや鋼鉄は生産していない。ヨーロッパで鋼鉄を生産しているのはスウェーデンだけだ。それだけだ。装甲鋼板を製造している国は存在しない。」「彼らは完全なパニック状態にある。」(スコット・リッター:2025.10.13)と述べている。

3 日米財務相会談で加藤財務大臣がサハリン2から手を引けと脅される

故ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、かつて、「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることは致命的である」と発言している。「ベッセント米財務長官は、15日に行われた加藤勝信財務相との財務相会談で、日本がロシアからの原油購入を停止することを期待していると述べた」「『サハリン2』プロジェクトの最大株主はロシアのガスプロム社(77.5%)だが、日本の三井物産と三菱商事もそれぞれ12.5%と10%を保有している。そこで生産される多くが日本に供給されている。」(Sputnik日本:2025.10.16)。武藤経産相にいわれるまでもなく、「海外からの天然ガスの確保は、日本のエネルギー安全保障上大変重要」である。

『西の模範生』はいつも同じ試験で満点を取る:服従し、投資し、それがパートナーシップだと装う。プラザ合意から『5500億ドルの取引』まで、日本は管理された主権の優等生であり続け、従順さが知恵としてブランド化され、服従が外交として位置づけられる。すべての帝国には、その鎖を隠す成功物語が必要だ。」(X-C𝘰𝘳𝘳𝘪𝘯𝘦:2025.10,16)

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【投稿】トランプ政権:対中貿易戦争再開の脅し--経済危機論(170)

<<対中・100%関税を追加>>
10/10、トランプ米大統領は、自らのSNSに中国がレアアースに関する輸出規制を強化しようとしている、「陰湿で敵対的な動きだ」と批判し、既に適用されている30%の関税に加え、中国からの輸入品に対して100%の追加関税を課し、より厳しい輸出管理を表明。発動の時期は11月1日、もしくはそれ以前だ、と対中貿易戦争再開の脅しを明らかにした。

さらに、トランプ大統領は記者団に対し、10月31日から11月1日まで韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に予定されていた中国国家主席との会談をキャンセルしたわけではないが、「再検討している」、習近平国家主席と会談する「理由はない」とまで述べ、これまで半年近くにわたって休戦状態(中国は米国からの輸出品に対する関税を125%から10%に引き下げ、米国は145%から30%に引き下げていた)が続いていた米中貿易戦争を、大幅にエスカレートする脅迫姿勢を鮮明にしたのであった。

10/12、これに対し中国商務省は、追加関税の脅しは「典型的な二重基準の例」だと非難し、アメリカが「長い間」、「国家安全保障の概念を拡大解釈し、輸出規制措置を乱用」して、「中国に対して差別的な慣行を採用してきた」と主張。トランプ氏がこの脅しを実行すれば中国は不特定の「対抗措置」を取る可能性があると警告し、中国は貿易戦争の可能性を「恐れてはいない」と表明したのであった。
商務省はまた、レアアースの新たな規制を「正当な措置」とし、最近の緊張の責任は米国側にあると主張。9月にスペインで行われた直近の協議以降、トランプ政権が複数の中国企業を輸出管理リストに追加するなど一連の制限措置を講じたことを指摘し、米国に対し、脅しではなく、交渉による解決を強く求めているのである。

 10/10、米金融市場は直ちにこれを悪材料と判断、軒並み大幅な下落を記録、発表前に792ドルで取引されていたゴールドマン・サックスの株価は、トランプ氏の投稿から数分後に3.4%下落し、765ドルとなった。
銀行(KBW)指数は4.0%下落し、地方銀行は5.5%下落。「プライベート・クレジット」株は、このニュースに特に敏感に反応、KKRは序盤の取引で上昇したものの、その後5.5%下落した。アポロは4.2%、ブラックストーンは5.0%、アレス・マネジメントは5.2%下落した。
さらに、大手ハイテク株は信用不安の高まりに過敏に反応、軒並み、大幅な下落となった。MAG7指数(「Alphabet(Google)」「Apple」「Meta Platforms(旧Facebook)」「Amazon」「Microsoft」「NVIDIA」「Tesla」の7銘柄)は金曜日の取引で3.8%下落し(週間では2.7%下落)、4月16日以来の最大の下落率を記録。テスラは5.1%、Amazon.comは5.0%、NVIDIAは4.9%、Metaは3.9%、Appleは3.5%、Microsoftは2.2%、Alphabetは2.1%下落。NVIDIAの下落率は4月16日以来最大であった。
ダウ工業株平均は1.9%安、S&P500は2.7%安、ハイテク株中心のナスダックは3.5%安、アメリカの主要500社を追跡するS&P500種株価指数は2.7%下落して取引を終え、今年4月以降で最大の下げ幅を記録。仮想通貨市場は、文字通り、暴落している。日経平均先物も下落し 夜間取引で2420円安の4万5200円で終了した。

米シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500株価指数を対象とするオプション取引の変動率(ボラティリティ)をもとに算出し、公表している、株式市場の「恐怖指数」として知られるVIX指数も、20を超えて、21.34に急上昇、危険信号を発している。

<<「中国のことは心配しないで、大丈夫だ! 」>>
 ニューヨークの全国女性組織のメラニエさんは「トランプの中国に対する新たな100%の追加関税は、米国の平均的な世帯に最大2600ドルの負担をかけるでしょう。トランプは、ホリデーシーズン直前に、電子機器、おもちゃ、スニーカー、衣類、家電製品などを2倍以上の価格でアメリカ人に支払わせようとしています。これこそが本当の『クリスマスへの戦争』です」と投稿している。

こうした事態の進行に最も驚いたのは、トランプ氏本人であった。
10/12、慌てふためいたのか、トランプ氏はTruth Socialへの投稿で、冒頭、「中国のことは心配しないで、大丈夫だ! 」と述べ、「尊敬を集める習近平国家主席は、今まさに最悪の局面を迎えた。彼は自国が不況に陥ることを望んでいないし、私も望んでいない。アメリカは中国を助けたいのであって、傷つけたいのではない!」と書き込んだのであった。脅迫的発言から一転して、不本意ながらも融和的なおもねる姿勢を示し、事態を鎮める必要から、トランプ氏本人が弁解せざるを得ない事態に追い込まれてしまったのである。

またもや「TACO取引」=「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも土壇場で尻込みする)」の登場かと揶揄される事態であり、しかも今回は、これまでで最も速いTACO反転となってしまったのである。

今回の、トランプ政権の対中貿易戦争再開の脅しと、その後の事態は、結果として何を示唆しているのであろうか。
* トランプ大統領が提案した中国からの輸出品に対する100%関税は、単なる貿易戦争以上の事態、流動性危機やデリバティブ市場の崩壊など、世界的な金融ショックを即時に引き起こす可能性があることを明らかにした。
* 中国は世界のレアアース採掘量の約70%を占め、世界の処理能力の約90%を掌握している現実は、脅しや封じ込めではなく、対等平等な交渉によってしか成果が得られないことを明らかにした。
* 消費財、部品、機械製造、レアアース、テクノロジーに至るまで、米国は中国を必要としており、中国は米国を必要としている以上に中国を必要としていることをも明らかにした。
* 米国一極支配に対する、中国やロシア、BRICS+諸国の潜在的な報復は、米国の経済崩壊と世界的な地政学的再編を引き起こす可能性が、事実上、確実に進行していること、米国一極支配はすでに非現実化していることを明らかにした。
* 当然、ドルの準備通貨としての地位は大きく崩壊する可能性を示している。
* 脱グローバリゼーション、アメリカファーストの保護主義政策、連邦政府によるレイオフ、そして破壊的な関税政策は、市場の混乱を引き起こし、AIバブルに支えられた楽観的な見通しを覆す事態をもたらした。

トランプ政権の、中国製品への100%関税の脅しは、トランプ政権自身へのブーメランとして跳ね返り、その政治的経済的危機をより一層激化させ、「アメリカは中国を助けたい」どころか、まかり間違えば、アメリカ経済崩壊の引き金となる可能性があることを明らかにしたのだと言えよう。
(生駒 敬)

 

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【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著

【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著・文集新書

                                                                                                福井 杉本達也

ベストセラー『西洋の敗北』の著者:エマニュエル・トッドの最新作である。中身はこれまでのここ1~2年の『文藝春秋』に掲載した論文を1冊の新書にしたといってよい。文章の骨子は既に『文藝春秋』で読んでいるはずであるが、やはり月刊誌ということもあり、読んだ当座から、右から左にどんどん忘れ去ってしまうことが多い。それを1冊にまとめ直すと、新たな視点も生まれてくる。

1 「民主主義」という言葉を「労働」から考える

著者は「米国、英国、フランスなどでは、グローバリゼーションによる生産基盤の海外移転が進みすぎて、もはや後戻りができなくなっている」と産業空洞化の悪影響を指摘する。「労働」は「単に『お金を稼ぐ』ためではなく、『自己実現をする』ためでもある」が、「米国の労働者階級は、安価で質の良い製品を自分で『生産』せず『消費』」してきたため、「『生産者』と違って『消費者』は『共同体』には属さない存在」だとする。続けて、「『民主主義』は『消費者』ではなく、『労働者』によって支えられるもので、そうした『労働者』が消滅したことで米国の『自由民主主義』は『リベラル寡頭制』へと変質」したとする。「労働」という観点からは、「産業基盤が残っている日独の方に『民主主義』に担い手が残っている」はずだが、残念ながら日本とドイツは「米国の〝占領〟が続き…『主権』を欠いていて」民主主義国家とはいえないとする。

同じ米国の占領下にあっても、韓国の李大統領は9月21日のSNSで、「重要なことはこうした軍事力、国防力、国力を持っていても、外国の軍隊がなければ自主国防が不可能だと考える一部の屈従的思考だ」と指摘し、「国防費をこれほど多く使う国で、外国軍隊がなければ国防ができないという認識を叱責した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が思い浮かぶ」と言及した。だいぶ日本の与野党の指導者とは心構えが違うようである。

2 「トランプ関税」をどうみるか

著者は「基本的に保護主義に賛成です」とし、「自国の産業を守るには、ある程度の保護主義が必要なのです」としつつも、「保護主義政策が効果を持つには、輸入品に関税を課すだけでは不十分であることです。『優秀での能力があり勤勉な労働人口』が必要なのです」と指摘する。それを念頭に、著者の診断は「米国はすでに手遅」だと引導を渡している。「米国のエンジニア不足」、「技術者や質の高い労働者も不足しています」「トランプの高関税から実際に『利益』を引き出すには優秀な労働力が必要なのに、今日の米国はこうした労働力を欠いている」「トランプの高関税は、実際には供給の困難、生活水準の低下、インフレの悪化」を引き起こし、「失敗するだろう」と切り捨てた。

さらに続けて著者は「『経済を守れ!』『産業を守れ!』『国内でモノをつくれ!』と繰り返すトランプは、ある意味、優れた直感の持ち主ですが、『保護主義の理論』きちんと理解できていない」と一旦上げてから、こき下ろす。「トランプがBRICSを脅迫して『ドル覇権』を死守しようとした時に、そのことが露わになりました」「むしろ米国の国内産業の復活を妨げているのは、この『覇権通貨ドル』なのです」「『ドル覇権』が『抽象的な記号でしかない通貨記号(=ドル)』と『外国からのモノ』との交換を可能にしているのです」「だから米国では、高学歴者ほど、産業やモノづくりの就職につながる科学やエンジニアの分野ではなく、抽象的な通貨記号であるドルという富の源泉に近づくために、金融や法律の分野に進んでいます」と分析し、「ひたすらドルという抽象的な貨幣にこだわる姿勢、ドル覇権を何としてでも維持するという意思は、トランプ個人の失敗だけでなく米国自体の失敗でもあります。」とし、「彼の大統領としての役割は、ロシア、さらにはイランや中国に対する軍事上の敗北、産業上の敗北を、要するに『世界における米国覇権の崩壊』をいかにマネジメントするかにあります」と言い切っている。

3 自己目的化した暴力の行使―イスラエル

著者はイスラエルについて「暴力自体が自己目的化している」とし、イスラエルの行動は「ニヒリズム」であるとする。イスラエル国家の振る舞いは「社会的・宗教的価値観を失い(『ユダヤ教・ゼロ』)、国家存続のための戦略に失敗し、周囲のアラブ人やイラン人に対する暴力の行使に自己の存在理由を見いだしている国家」であると定義する。

有名な『戦争論』を書いたクラウゼビッツによれば「戦争は決して政治的関係から切り離しえないものである。もし切り離して考えるようなら、関係するあらゆる糸が切断され、戦争は意味も目的もないものとならざるをえない。」とし、「戦争で何を達成するかが戦争の目的であり、戦争で何を得るかが戦争の目標である。この基本的構想により、すべて方向性が決まり、手段の範囲、力の分量が決められる」としているが、著者は「イスラエルは本来のアイデンティティを見失っている」「敵対勢力の指導者や幹部といった個人をターゲットにした暗殺には、戦略的意味はなく、自己目的化した『殺人要求』」を感じるとする。「イスラエル人の無意識の深層では、今日、『イスラエル人であること』は、もはや『ユダヤ人であること』を意味せず、『アラブ人やイラン人と戦うこと』を意味」するとする。つまり、「暴力的」こそイスラエルの目的であって、そこに「合理的」目的を定義することはできないということである。

10月8日、トランプ米大統領は、イスラエルとイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザを巡る和平計画の「第1段階」で、全ての人質を「間もなく」解放し、イスラエル軍がガザの一部から撤収すると発表したが(福井:2025.10.10)、スコット・リッター氏は10月9日のYouTubeで、これはハマスの勝利であるとの見解を示した。戦争を続けることを自己目的化していたイスラエルが停戦を受け入れざるを得ないこと自体がイスラエルの敗北であるということである。トランプの調停は、停戦だけが実行され、後の20項目については何も実行されることはないであろうと述べている。ハマスの武装解除もないであろう。

 

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【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配

【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配

                           福井 杉本達也

1 高市自民新総裁下で完全にコケにされた「下駄の雪」

「下駄の雪」と称されてきた公明党がついに自公連立政権から離脱することを通告した。表向きは、公明党がとりわけ重要視したのが「政治とカネ」問題の取り扱いであり、自民党が最も飲めない「政治とカネ」の企業団体献金の問題を突き付けたことにあるとしている。しかし、政治評論家の後藤謙次氏は「これまでの『自公連立』は繰り返し、例えば大きく政権が交代する時には、事前の人事の前の段階で、『創価学会』とそれから公明党と幹部に『こういう人事やります』という意味で、仁義も切っていたわけですね。今回は全く通告なしにむしろ総裁就任直後から高市さんが公然とと言いますか、国民民主党の玉木雄一郎代表に会ったり、麻生さんが榛葉幹事長と、これもテレビカメラが見えるようなところで会ったりということで、ある面で公明党に喧嘩を売っている」(TBS:2025.10.10)と述べた。

そもそも、今回の高市新総裁就任後の自民党内人事は異常であった。本来ならば政権を維持するためには公明党との連立協議を最優先にするのが筋である。ところが、新聞紙上では公明党と協議することもなく、次期内閣の閣僚の名前までが取りざたされている。副総裁となった麻生太郎氏は、「かつて安全保障関連3文書への対応を巡って山口那津男代表ら当時の公問党幹部を名指しで『一番動かなかった、がんだった』と批判」(日経:2025.10.8)しており、麻生氏の露骨な公明党排除の動きに「下駄の雪」も、ついに反発せざるを得なかった。所詮は「下駄の雪」、国民民主党や維新を取り込めば、いやでもついてくるとタカくくっていた。自民党は公明党だけでなく国民をも舐め切っていた。統一教会・裏金の萩生田光一氏を幹事長代行に任命したが、高市氏は「あえての起用と思ってほしい」と述べた(NHK 2025.10.9)ことにも表れている。高市総裁は、開口一番、党首会談において「一方的に連立離脱を伝えられた」と怒りの形相で語ったというが、民主党政権の3年を含む26年間も連立を組んだ政党に対し、反省どころか相手が一方的に悪いというのでは政治倫理にも悖る救いようにない政党に成り下がってしまった。

2 自民党は解党しかない

昨年10月の衆院選挙を分析した元朝日新聞記者の佐藤章氏は「注目されていたのになぜ投票率が低かったのか? 自民党の集票システムがぶっ壊れたからである。インボイス導入で地方の中小土建業者が塗炭の苦しみを味わい、国内農家を無視したアメリカ農産物の輸入増加によって農家・JAが打撃を受けた。自民党への投票者はもういない!」とXに投稿した(2024.10.29)。日経新聞は「公明党は支持母体、創価学会の組織票を持つ。衆院選は大半の小選挙区で候補者を立てず、創価学会の会員らに自民党候補への投票を呼びかける。」として、公明党が自民党候補への支持をやめれば、2割の候補者が落選すると試算している(日経:2025.10.10)。さらに、衆院選では50人近くが落選するとの試算もある。孫崎享氏によるAI予測では、「公明離脱で自民の比例票が500 万票近く減少し、都市部での小選挙区競争が激化すると見込まれる。”衆議院(定数465、過半数233)現在の自民議席: 196(公明離脱で連立総数は220 から196 に減)。”離脱時の影響: 公明の選挙協力(推薦・組織動員)がなければ、自民の小選挙区当選率が低下。比例代表での票流出も深刻で、ボーダー議員(当選圏内の現職)の多くが落選リスクにさらされる。”予想議席減: 40~60 議席(自民単独で140~160 議席程度に)。」(孫崎:2025.10.11)。これでは永久に少数派になり、浮上できない。比較第1党ではあるが自民党は連立でないと政権につけない。これまで政権与党ということで、集まった集団が自民党であり、与党という利権の鏨が外れれば、バラバラになり、解党しかない。

3 自民党は分裂するか

経済評論家の植草一秀氏は「自民党内に異なる政治理念、歴史認識、政治哲学、基本政策を唱える勢力が同居している。今回は極右勢力が自民党実権を握ったために公明が連立を離脱したという側面も強い。これまでの与党勢力は、政治理念と基本政策で、極右、中道、新自由主義の三勢力に分類できる。この異なる三つの勢力が同居していることが政治を極めて分かりにくいものにしている。野党勢力では、公明、国民が中道、維新が新自由主義、参政と保守が極右に分類できる。自民が三つに分裂して、それぞれ同類の野党と合流すると政治は分かりやすくなる。自民と同じ問題を抱えているのが立民。立民も中道、新自由主義、革新の三つに分裂するべきだ。」(植草一秀の『知られざる真実』2025.10.10)と書くが、そのような「分かりやすい」分裂が起こるとは考えにくい。

上野千鶴子氏は「党内融和を最優先したすべての自民党総裁候補者。石破首相もしかり。結果、思うような政策をなにひとつ実現できなかった。政権与党であることにだけ価値がある自民党にとっては党を割る選択肢などないのだろう。」と述べている(yahooニュース:2025.11.11)。「党を割る選択肢」ではなく、政治的志しもエネルギーも人材もなくなっている。

4 米国の80年間もの支配から独立する以外に日本の政治を正す道はない

公明党の連立離脱発表と同時の10月10日に出された石破首相の『戦後80年所感』はあまりにも内向き過ぎている。誰に呼びかけたのか。「なぜあの戦争を避けることができなかったのか」という自問は「(今日への教訓)」としては中途半端なままである。今日的には思い切って9月3日の中国の戦勝記念日に敗戦国として出席して、対米従属を脱し、顔を西に向け、東アジア・東南アジアの諸国と協力していくと宣言してこそ意味をなしたであろう。

BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、2013年4月からの安倍政権で行われたアベノミクスにおいて、円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、黒田日銀の異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている。低金利が円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっている。衰退する国家の制度は収奪的であり、一部の社会エリートが富を独占している。と同時に青天井の企業献金が容認され、金権政治がまかり通ている。包括的だったはずの日本の社会制度は、いつの間にか収奪的な社会に向かっていると分析する(河野:『日本経済の死角』)。

消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下している。昨年の衆院選の評価で、宮本太郎中央大学教授は「若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない…空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている(『世界』:2025.1)。

連立を離脱した公明党は「野党各党による国会対策委員長会談への公明の参加に向けて調整」することとなった(朝日:2025.10.11)。当然、責任ある野党として自民党に対抗してもらいたいものだが、アベノミクスをはじめ、26年間(民主党3年を除く)に亘り売国政策に加担し、国民の生活水準を大幅に低下させ、国民は生活苦に呻吟していることの罪と反省は厳しく問われねばならない。「国内」ではなく「海外」に80兆円もの大枚を気前よく投資して、衰退する金融帝国・米国と心中しつつあるが、日本の与野党には馬耳東風である。意図的に通貨の価値を減額させ、海外へと投資を誘導し、インフレを引き起こして実質賃金を減額させてきた売国政策を厳しく問える野党連携を作ることができるかが問われる。

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【投稿】「ガザ和平計画」:トランプ・ネタニヤフ政権の岐路

<<トランプ「ガザへの爆撃を直ちに停止する必要」>>
トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が共同で、20項目からなる「ガザ和平計画」を発表したのが、9月29日であった。
10/3、ハマスはその一部の受け入れを表明、
 10/4、トランプ大統領は、直ちに「イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要」を表明。
事態の急速な展開である。

その焦点となった「ガザ和平計画」の主要な内容は、以下の通りである。
* ガザは住民の利益のために「再開発」され、軍事インフラや「テロ」インフラは存在しない。
* 撤退条件とイスラエル兵捕虜の釈放が満たされるまで、すべての軍事作戦と戦線は即時停止される。
* イスラエルの受諾後72時間以内に、生存者・死亡者を問わず、イスラエル軍捕虜全員が帰還する。
* 2023年10月7日以降に拉致された終身刑囚250名とガザ地区住民1,700名の釈放。
* 「平和共存」を約束し、武器の廃棄を約束するハマス構成員には恩赦と安全な通行を認める。
* 国連機関、赤新月社、その他の機関を通じ、干渉なく国際援助物資を入国させる。
* 「平和委員会」の監督の下、パレスチナのテクノクラート委員会による暫定統治を行う。(統治は、トランプ大統領が議長を務め、トニー・ブレア元英首相をはじめとする西側諸国の要人を含む暫定的な国際機関「平和委員会」が担当する。)
* 特別経済区を設置する。
* ガザからの出国または帰還を希望する住民の自由な移動を認める。
* 独立監視団の監視の下、ハマスおよびその他の抵抗勢力の武装解除を行い、武器の買い戻しと社会復帰プログラムを実施する。
* ガザが「近隣諸国」に脅威を与えないことを地域パートナーが保証する。
* パレスチナ警察の訓練・支援、国境警備、援助の円滑化を目的とした国際安定化部隊の派遣。
* イスラエルの撤退は、非軍事化と安全保障枠組みの確立、そして暫定政権への段階的な移譲を条件とする。

この「和平計画」で注目すべき点として、1.ガザの住民は誰もガザ地区を離れる必要がなく、住民の自由な移動を認める、2.ハマスはガザの行政に直接的・間接的に関与しない、3.さらに、アラブ諸国と非アラブ諸国で構成される国際安定化部隊(ISF)の創設が提案され、エジプトとイスラエルはISFと協力してガザの平和維持にあたる、4.イスラエルはガザの併合や占領ではなく、イスラエル軍はガザから段階的に撤退する、としていることである。

この「和平」案は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区を現在のイスラエル領と見なす地域から分離し、パレスチナ主権国家を樹立するという二国家提案を、トランプ政権やネタニヤフ政権が受け入れるという保証を一切与えてはいない。ましてや、ハマスとパレスチナ自治政府によってそれぞれ統治されているガザ地区とヨルダン川西岸地区の現状承認とは程遠いものである。
しかし、ガザ地区のホロコーストの実態が今や全世界から糾弾され、イスラエル支援の西側諸国からさえ孤立し、米・イスラエルの「ガザ完全制圧」など不可能な事態に追い込まれた、衰退の象徴、「岐路」の象徴が、この「和平計画」だと言えよう。

ガザ地区住民に対するジェノサイド・戦争犯罪者であるイスラエルのネタニヤフ首相とその政権を全面支援してきたアメリカのバイデン前政権、それを引き継ぎ、「ハマスの根絶やし」まで要求してきたトランプ大統領が、たとえ眉唾であったとしても、このような「和平計画」に追い込まれたことは画期的な事態の進展であろう。もちろん、この提案は、トランプ大統領が、パレスチナ人をガザ地区からエジプトなど他の地域に強制的に移住させて、ガザ地区を「美しい場所」、観光リゾートに変えるなどといった夢想提案を完全に撤回させるものでもある。

<<「ネタニヤフ氏が望んだものではない」>>
10/3、この「和平計画」の提案をハマスが部分的に受け入れることを明らかにしたことで、事態は急速な展開を見せ始めている。
パレスチナ抵抗運動ハマスは、仲介者に回答を提出すると同時に、その声明で「イスラエルの侵略を阻止したいという強い思いから、この計画について、責任ある立場を確立するために広範な協議」を行ってきたことを明らかにし、「トランプ大統領の提案に従い、生存者と死亡者を含むすべての囚人を釈放する用意がある」こと、詳細について協議するための仲介交渉に「直ちに」応じる意向を表明したのであった。
ハマスはまた、アラブ諸国とイスラム諸国の支持を得た国民的合意に基づき、ガザ地区の行政を独立派で構成されるパレスチナ人組織に移譲することを受け入れる、「ガザ地区の政権をパレスチナの独立者(テクノクラート)に引き渡すことをいとわない」との立場も明らかにしたのである。

トランプ大統領は直ちにこれに反応し、「ハマスが発表した声明に基づくと、彼らは永続的な平和の準備ができていると信じています。イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要があります。そうすれば、人質を安全かつ迅速に解放することができます…これは中東での長年求められてきた平和に関するものです。」 と発表している。

トランプ政権はCBSニュースに、米国はハマスの反応を肯定的であると見なしていると述べると同時に、武器の廃止措置など、まだ進行が妨げられる詳細があるが、双方が取引を受け入れた場合、イスラエルの軍隊が「合意されたライン」に撤退し、戦闘の即時終了、ハマスが2023年10月7日に72時間以内に撮影されたすべての人質を解放し、イスラエルは紛争の開始後に拘留された終身刑と1,700人のパレスチナ人を解放することを求めている、と表明している。

問題は、あるいは障害は、実はハマスではなく、イスラエルのネタニヤフ政権の動向にかかってきていること、トランプ政権がそれにどのように対処できるかどうかにかかってきていることであろう。

ネタニヤフ政権にとっては、この「和平計画」は、当初、ハマスが拒否することを前提に、ガザ、西岸地区、パレスチナ全土を併合せんとしていた野望を打ち砕くものと化してしまったのである。
10/4付けニューヨークタイムズ紙は、「これは、.ネタニヤフ首相が望んだ方法ではなかった。ネタニヤフ氏は、現在、国内の政治的懸念と、中東のイスラム教徒とアラブ諸国からのトランプ氏からの地政学的圧力、そして平和がすでに勃発したかのように金曜日の夜の発展を迎えた国からの地政学的な圧力の両方によって、自分自身を縛ってきていることに気づいたのです。」「ネタニヤフは、これがすべてイスラエルの軍事的圧力の下で行われることを望んでいました。」「これらの交渉は、停戦の条件の下で行われます。これは、ネタニヤフの設計に反しています」。 トランプ氏から、「イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要があります。」と告げられたのである。

事態の思いもよらぬ逆転にいら立つネタニヤフ政権は、この「ガザ和平計画」の頓挫に一番期待している、と言えよう。

トランプ氏が、イスラエルは「ガザ爆撃を停止した」と成果を誇っている、その日に、実はイスラエル軍は「ガザ地区のパレスチナ人の人々に対して恐ろしい犯罪と虐殺を続けている。」「10/4の朝から70人がイスラエルの攻撃で虐殺されている」と、ハマスは声明で「ネタニヤフの嘘」を明らかにしている。

「ガザ和平計画」で、戦争の継続か平和かで、もっともその責任が問われているのは、トランプ、ネタニヤフ両氏であり、岐路に立たされているのは両氏なのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ

【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ

福井 杉本達也

1 天津で上海協力機構首脳会議

中国・天津でSCO(上海協力機構)の首脳会議が開催され、24カ国と9国際組織の首脳が参加した。注目はロシア、中国、インドの結束である。9月1日付けの日経新聞は「中印『対トランプ』で協調演出」との見出しで、習近平主席とナレンドラ・モディ印首相の会談を「両国は202 0年、国境係争地で軍事衝突し関係が悪化したが、一方的な関税引き上げを繰り返すトランプ米政権に対抗する思惑から接近。関係を発展させる姿勢を演出した。」と報じた。また、ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が同じリムジンに乗って移動するなど親密さをアピールした。

インドはこれまで、アメリカ、オーストラリア、日本とクワッドを編成、軍事的な連携を強めているように見えたが、トランプ関税の圧力がかえって、アメリカの服従することを拒否した。トランプ政権のインドに対する圧力は逆効果となった。トランプ大統領は年内にインドを訪問する計画をキャンセルせざるを得なくなった。

8月28日、「英海軍の空母『プリンス・オブ・ウェールズ』が東京国際クルーズターミナルに入港した。海上自衛隊などと共同で訓練し、米軍横須賀基地(神奈川県)で整備を受けた。海洋進出を強める中国を念頭に、英軍の主力装備が極東アジアで活動できる能力を示した。」(日経:2025.8.30)。5月にスエズ運河からインド洋に入り、マラッカ海峡を抜けて日本に来たものだが、中国のエネルギー供給ルートを遮断する目的を持っていると思われるが、肝心のインドが中国に接近する中では、浮かぶ棺桶となろう。

一水会の木村代表は「米国の流れに引きずられて、日本が過度に敵対的になることは、国益を失います。上海協力機構に参加する国々は日本の周辺に多く存在しています。ロシアや中国、さらにインドという国々がこの機構にいるわけですから、地政学的な視点とそれらの国々の経済発展の流れを我々も受け止めて見なければなりません。」「私の視点で言えば、米国との関係を強化するだけではなく、上海協力機構にも足場を築く必要があり、同じような間隔で見ていくということも必要です。日本は主体的に戦略を考えていかなきゃいけない。政治においても、経済においても、さらには文化においても、戦略的に考えていかなきゃいけないと思います。」と語っている(Sputnik日本2025.8.3)。

2 「抗日戦争勝利80年」記念式典

中国は9月3日、北京市中心部の天安門広場周辺で抗日戦争勝利80年を記念する軍事パレードを実施した。式典にはロシアのプーチン大統領・北朝鮮の金正恩総書記、そして、プーチン氏の横にのプラボウォ・インドネシア大統領が首都が騒乱状態であるにもかかわらず駆け付けた。マレーシア首相夫妻も出席。韓国は国会議長を派遣。台湾最大野党の国民党の洪秀柱元主席も出席した。イラン大統領も出席した。しかし、日本は出席どころか他国に出席しないよう工作した。これは日本が日中戦争の誤りを受け入れないというメッセージを中国側に送ったことになる。日本外交の大失態である。鳩山由紀夫元首相が列席したのはせめてもの救いである(日経:2025.9.4)。鳩山氏の出席を邪魔しようとした国民民主党の玉木雄一郎は完全に米ネオコンの使い走りである。

ところで、今回、金正恩氏が習近平氏・プーチン氏と演壇に並んだということは、北朝鮮が世界の孤児から国際的表舞台に完全に復帰したことを意味する。これは、朝鮮戦争の終結にも影響する。これに対し読売新聞は「中国とロシア、北朝鮮の首脳が北京に結集し、米国に対抗する姿勢を誇示した。戦後80年にわたって世界の安定を支えてきた国際秩序の転換を図る試みにほかならない。」としつつ、「戦後の国際秩序を主導してきた米国の影響力が相対的に低下したことが、中露朝を勢いづかせているのは間違いない。特にトランプ大統領は『米国第一』を掲げ、自由貿易や法の支配を軽視する姿勢が際立っている。高関税政策で同盟・友好国に厳しい要求を突きつける一方、ロシアや北朝鮮などの独裁的な指導者との『取引』にも前向きだ。」(読売:2025.9.4)と書いている。戦後80年たっても、過去の侵略を「反省」もせず、アジア大陸諸国や東南アジア諸国に背を向け、孤立を深めるのは日本ではないか。

 

3 都合の悪い過去の敗戦の歴史を消そうとする日本

日本は第二次世界大戦をいつ終えたか。日本が戦っていた相手の首脳、英国のチャーチル首相、米国のルーズベルト大統領、ソ連のスターリン等は1945年9月2日の降伏文書に日本側、連合国側が署名した時を持って敗戦という。したがって、中国は翌日の9月3日に「抗日戦争勝利80年」記念式典終戦記念日を行ったのである。「8月15日」というのはごまかしであり、トリックである。戦争には当然相手がある。相手が正式に認めもしていない日を持って戦争が終結するわけではない。「敗戦」を「終戦」という言葉に置き換え、80年も経過してしまったのが現在の日本である。

石破茂首相は、戦後80年を踏まえた先の大戦への見解に関し、日本が降伏文書に調印した9月2日の表明を見送った。これまで、国際法的に戦争が終結したのは1945年9月2日だとたびたび言及していた(福井:2025.9.3)。石破首相は言葉にしたことを一つも実行することなく、9月7日には辞任を表明し、侵略戦争を肯定する保守層の圧力に屈してしまった。

保阪正康は「終戦と敗戦という言葉の混乱は、日本人が戦争を理解するある種の知的な能力を持っていなかったことの証拠」であるとし、「大衆は二重、三重に」・「戦争中もなめられ、戦争が終わったときもなめられ、戦後もなめられ」ている。「日本人はこうした状態から抜け出て、自立していかなければならない」と書いている。これに白井聡は「米中対立が対決にまで発展するかもしれない」、「実際に武力衝突ということになると、日本は強制参戦することに」なると応えている(『「戦後」の終焉』白井聡×保阪正康:朝日新書:2025.8.30)。

4 シベリアの力Ⅱ

9月2日、ロシア、中国、モンゴルの三カ国3カ国は「パワー・オブ・シベリア2(POS2)」パイプラインに関する法的拘束力のある覚書に署名した。全長約2,600km、推定費用約136億ドルのこのパイプラインは、年間500億立方メートルの天然ガスをモンゴル経由で中国北部の工業地帯へ輸送する。「検討中の米中LNGプロジェクトにとって、これは大きなマイナスとなる。長期的な成長のために米国のLNGは必要ないという中国政府から米国政府へのシグナルとして捉えており、両国関係が悪化する中で送られたメッセージである」(RT:2025.9.2)とブルームバーグは書いた。単価の異常に高い米国産LNGなど一考に値しない。ましてや、日本が5500億ドルの投資の一部でアラスカ産LNGに参画するという投資詐欺とは比べようもない。

日本もそろそろインドの様に米国と縁を切る時期に来ている。サハリン2やアークテック2の事業を推進すべきである。サハリンから海底パイプラインで北海道を経て本州まで運べはガスの価格はLNGの1/3である。エネルギー価格は劇的に下がる。当然、ガス火力発電による電気料も劇的に下がり、産業の国際競争力は大きく改善する。ドイツ経済の生産性が高かったのはロシアからの天然ガスパイプラインに依存していたからである。そのパイプラインの破壊を許したため、ドイツ経済はいまがたがたである。「ヨーロッパの⼤製造業⼤国であるドイツは、パンデミック以来停⽌しています。国内総生産は5年間停滞している。ドイツの実質企業投資は、ユーロ圏全体よりも深刻に落ち込んでいる。ドイツの実質家計消費は打撃を受けている。ドイツ政府は⻄側諸国の政策に奴隷的に従ってきた。ロシアからの安価なエネルギーへの依存を終わらせ、重要なノルドストリーム‧ガス‧パイプラインの爆破にも同意した。その結果、ドイツの家庭のエネルギーコストが⾼騰しました。しかし、ドイツ資本にとってより重要なのは、製造業者のエネルギーコストの上昇です。経済から⼒が消えた。ロシアから輸⼊された安価な化⽯燃料は、制裁とウクライナ戦争をめぐるロシアとの決別の⼀環として廃⽌された。アメリカ産の⾼価なLNGに 取って 代わられたため、電気代が⾼騰している。ドイツ商⼯会議所(DIHK)は 、『エネルギー価格の⾼騰は、企業の投資活動、ひいてはイノベーション能⼒にも影響を及ぼします。産業企業の3分の1以上が 、エネルギー価格の⾼騰により、現在、中核的な運⽤プロセスへの投資が減っていると述べています。』」(『CADTM』 マイケル・ロバーツ:2025.2.22)。防衛産業に軸を移しロシアとの戦争経済を推進するというが、またまた破滅への道を進むこととなる。

残念ながら、日本の与野党にはロシアとの外交を改善すると公約する政党は一つもない。対米従属に「安住」する政党ばかりである。

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【投稿】「悪意のない差別」?

9/13付けの「しんぶん赤旗」に、「悪意のない差別」と題して、
作家のアルテイシアさんが、典型的な以下の4例を挙げて、
対処の仕方を書かれている。

● マンスプレイニング man-splaining 主に男性が説明・説教
● マンタラプト man-terrupt 主に男性が女性の発言を遮る
● ヒピート he-peat 女性の意見は無視、男性が言うと評価
● ヒムパシー him-pathy 性加害の男性に同情・擁護

これらは、政財界はもちろん、労組・社会運動幹部にもよく見られるが、
トランプ米大統領の女性蔑視・白人優越主義・排外主義とも通底している。

共産党の小池書記局長の田村委員長に対する、同様の「差別」が
問題視され、否定や釈明に追われたのはまだ最近のことである。
小池氏は、「強く叱責する」自らのパワーハラスメントを認め、
「深刻な反省と自己改革が必要」と謝罪したのは、2022年である。
これらの「悪意のない差別」は、本人に自覚があろうがなかろうが
本質的には、根底に「悪意」と「差別」があるからであろう。

誰もが、多かれ少なかれ、自覚・反省すべきことではあるが、
赤旗紙に掲載されたことは、いまだ脱し切れていない現状への、
共産党の旧態依然たる、党内民主主義など存在しない現状への、
党の改革など眼中になく、これら悪弊が跋扈している現状への、
そして、共産党の後退に歯止めがかからない、深刻な現状への
筆者の意図せざる、「大いなる皮肉」、警告とも言えよう。
(生駒 敬)

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