Assert Webの更新情報(2025-11-07)

【最近の投稿一覧】
11月06日【投稿】ニューヨーク市長選:トランプ脅迫路線の敗北
10月31日【投稿】トランプ関税:脅しの敗退--経済危機論(171)
10月31日【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備
10月19日【投稿】反トランプ・「ノー・キングス」全米大規模抗議デモ
10月18日【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」
10月13日【投稿】トランプ政権:対中貿易戦争再開の脅し--経済危機論(170)
10月12日【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著
10月11日【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配
10月5日【投稿】「ガザ和平計画」:トランプ・ネタニヤフ政権の岐路
9月16日【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ
9月13日【投稿】「悪意のない差別」?
9月4日【投稿】選択迫る「平和か戦争か、対話か対決か」
9月2日【投稿】上海協力機構サミット vs. 米欧覇権の終焉--経済危機論(169)
8月31日【投稿】トランプ関税、再び違法判決--経済危機論(168)
8月26日【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)
8月18日【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価
8月18日【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない
8月13日【転載】「もし私の言葉があなたに届いたら、 イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知って下さい」
8月11日【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き
8月10日【投稿】トランプ大統領:大恐慌再来を警告--経済危機論(167)
7月29日【投稿】でたらめ闊歩の米・EU関税交渉--経済危機論(166)
7月28日【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞
7月27日【投稿】ずさんな日米関税交渉--経済危機論(165)
7月24日【投稿】参政党躍進の理由
7月21日【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方
7月14日【投稿】トランプ関税:破綻への再始動--経済危機論(164)
6月28日【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相
6月24日【投稿】トランプ大統領:「12日間戦争」終結の虚構
6月22日【投稿】トランプ米政権:対イラン直接爆撃、泥沼の幕開け
6月19日【転載】反戦の声、イスラエルの爆撃で殺害されたイラン人詩人パルニア・アッバシさんを追悼
6月18日【投稿】危険な乱心・トランプ:イランに「無条件降伏」を要求
6月16日【投稿】「ノー・キングス」デー:全米各地で500万人以上
6月14日【投稿】トランプ大統領:イラン奇襲攻撃「素晴らしい」と礼賛
6月6日【投稿】トランプ・マスク、蜜月から破局へ
5月25日【転載】11歳のヤキーン・ハマド:ガザ最年少のメディア活動家、イスラエルの空爆で死亡
5月24日【投稿】「一番困っている」国民の生活を守るには消費税減税しかない、財源は「外為特会」だ
5月24日【投稿】トランプ 氏 : 歯止めなきデマゴーグ政権を露呈
5月15日【投稿】トランプ関税の敗北--経済危機論(163)
5月12日【投稿】印パ戦争と排外主義の罠
5月10日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)
5月4日【投稿】トランプ : 対中国全面禁輸へのエスカレート--経済危機論(162)
5月1日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)
4月26日
【投稿】トランプ関税:後退と妥協へのディール--経済危機論(161)
4月26日【投稿】 「NEXUS 情報の人類史」を読んで
4月25日【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書
4月22日【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機
4月20日【投稿】反トランプ抗議デモ:全米規模へ拡大
4月13日【投稿】トランプ関税の混迷--経済危機論(160)
4月10日【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう
4月6日【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)
4月1日【投稿】「ヤルタ2.0」
3月30日【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)
3月19日【投稿】プーチン・トランプ電話会談、デタントへの前進と障碍
3月11日【投稿】トランプ関税:株価暴落を加速--経済危機論(157)
3月6日【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)
3月3日【投稿】トランプ・ゼレンスキー会談の決裂
3月2日【投稿】トランプ:対ウクライナで「平和」、対イスラエルで戦争拡大
2月26日【投稿】トランプ路線、拒否するEUの混迷
2月22日【投稿】西欧の敗北
2月16日【投稿】米ロ会談:軍事対決から外交への転換点
2月11日【投稿】内政干渉・政府転覆組織:米国際開発庁(USAID)の閉鎖と日本への影響
2月8日【投稿】トランプ:米軍ガザ「占領」のドタバタ
2月5日【投稿】「デープシーク(DeepSeek)ショック」
2月2日【投稿】トランプ政権:関税戦争の開始--経済危機論(155)
2月2日【投稿】トランプの「パリ協定」脱退とグローバル・サウス
1月31日【投稿】レーガン空港・航空機墜落事故とトランプ政権

1月22日【投稿】「帝国」再建に挑む:トランプ政権--経済危機論(154)
1月22日【書評】『反米の選択―トランプ再来で増大する“従属”のコスト』大西広著
1月18日【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著
1月16日【投稿】ガザ和平:イスラエルとハマスの停戦合意
1月9日 【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―
1月5日 【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文
1月5日 【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる
12月31日【投稿】移民排除:トランプ陣営、亀裂拡大--経済危機論(153)
12月25日【投稿】トランプ次期政権の失速と破綻--経済危機論(152)
12月17日【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は
12月15日【投稿】中東危機:米・イスラエル、イラン核施設攻撃へのエスカレート
11月22日【投稿】バイデン政権、退任直前の危険な世界戦争拡大への挑発
11月18日【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方
11月10日【投稿】トランプ勝利と日本の針路
11月6日 【投稿】米大統領選:バイデン/ハリス政権の敗北
10月30日【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)
10月29日【投稿】衆院選:自公政権の大敗と流動化
10月29日【投稿】総選挙結果について
10月27日【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』
10月23日【投稿】戦争挑発拡大と米大統領選--経済危機論(151)
10月12日【投稿】被団協・ノーベル平和賞受賞 vs. 石破首相「核共有」
10月2日【投稿】米/イスラエル:中東全面戦争への共謀--経済危機論(150)

【archive 情報】
2023年5月1日
「MG-archive」に新しい頁を追加しました。
民学同第3次分裂

2023年4月1日
「MG-archive」に以下のページを追加しました。
(<民学同第2次分裂について>のページに、以下の2項目を追加。
(B)「分裂大会強行」 → 統一会議結成へ
(C)再建12回大会開催 → 中央委員会確立

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【投稿】ニューヨーク市長選:トランプ脅迫路線の敗北

<<マムダニ氏:「希望は生きている」‘Hope Is Alive!’>>
11/4・投開票のニューヨーク市長選で、トランプ大統領から「ニューヨークを破壊しようとしている」「共産主義者の狂人」などと激しく攻撃を受けていた民主党左派のゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)氏が勝利を獲得した。

マムダニ氏は、2020年のNY州議会議員選挙で初当選し、22年、24年と当選を果たし、24年にニューヨーク市長選への立候補を表明、草の根の選挙運動に支えられ、25年6月の民主党予備選挙で、アンドリュー・クオモNY州前知事に勝利し、今回の市長選候補となった。その時点で「世論調査でわずか1%の支持率から始まったマムダニ氏は、現代アメリカ史における最も偉大な政治的番狂わせの一つを成し遂げた」(氏を支持するバーニー・サンダース上院議員)のであった。DSA(Democratic Socialists of America 米国民主的社会主義)に所属している。

3候補による激戦で、マムダニ氏は50.4%の票を獲得し、民主党予備選でマムダニ氏に敗れた後、無所属で出馬し、トランプ氏の支持を受けたアンドリュー・クオモ氏の41.6%、共和党候補のカーティス・スリワ氏の7%強を劇的に引き離しての勝利であった。約850万人の人口を抱える全米最大の都市での、トランプ政権、民主党右派の敗北は、歴史的でもある。

トランプ氏は、わざわざ投票日前夜に、「共産主義者の候補者ゾーラン・マムダニがニューヨーク市長選で当選すれば、必要最低限のものを除いて、連邦政府資金を拠出することはまずないだろう」と宣言。さらにマムダニ氏がICE(移民関税捜査局)の強制捜査を妨害しようとした場合、逮捕するとまで脅迫。
これに対してマムダニ氏はXで、「大統領は私を逮捕と強制送還で脅迫したが、それは私が法律を破ったからではなく、ICEが私たちの街を恐怖に陥れるのを許さないからだ」と反撃している。
 そしてトランプ氏は、投票日当日、投票開始からわずか数時間後に自らのTruthSocialに「ゾーラン・マムダニ、この明白な、そして自称するユダヤ人嫌いに投票するユダヤ人は、愚か者だ!」と、ユダヤ系住民の40%以上がゾーランに投票していることに怒りをぶちまける投稿までしている。

こうしたトランプ氏の必死の巻き返し、ニューヨーク市民への脅しにもかかわらず、マムダニ氏は勝利を獲得したのである。

 マムダニ氏はニューヨーク・ブルックリンのパラマウント・シアターで行われた勝利演説で、「希望は生きている」‘Hope Is Alive!’として、以下のように宣言した。
* 「専制政治ではなく希望を。巨額の資金と狭量な考えではなく希望を。絶望ではなく希望を。私たちが勝利したのは、ニューヨーカーたちが不可能を可能にできると信じることを許したからだ。そして、政治はもはや私たちに押し付けられるものではなく、私たちが自ら行うものだと主張したからこそ、私たちは勝利したのだ。」「数年後、私たちが唯一後悔するのは、この日が来るのにこれほど時間がかかったことだけでしょう」
* 「ドナルド・トランプに裏切られた国に、彼を打ち負かす方法を示すことができるとしたら、それは彼を生み出したこの街以外にないでしょう。」「もし専制君主を恐怖に陥れる方法があるとすれば、それは、彼が権力を蓄積することを可能にしたまさにその条件を解体することです。これはトランプを止める方法であるだけでなく、次の独裁者を止める方法でもあるのです。」「この政治的な暗黒の時代において、ニューヨークは光となるでしょう」
* 「ニューヨークは移民の街であり続ける。移民によって築かれ、移民によって支えられ、そして今夜からは移民によって率いられる街だ。だから、トランプ大統領、よく聞いてほしい。私たちの一人に手を出そうとするなら、私たち全員を相手にしなければならない。」

<<同時5選挙すべてで、トランプ敗北>>
トランプ政権にとって、さらなる痛手は、同じ日に実施された5つの選挙すべてで、トランプ大統領に痛烈な批判を浴びせ、物価高騰とトランプ氏を攻撃した候補者たちが勝利を収めたことであった。
* 民主党がバージニア州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、カリフォルニア州、ニューヨーク市の主要選挙で勝利しただけではない。どの選挙でも勝利の差は予想以上に大であった。
* バージニア州のアビゲイル・スパンバーガー氏とニュージャージー州のミッキー・シェリル氏は、法執行機関とのつながりを強調し、物価引き下げを公約し、トランプ氏の経済運営を批判することで大勝した。
* ペンシルベニア州では、民主党は反トランプ、中絶権利擁護のメッセージを掲げ、州最高裁判事選挙3議席すべてを獲得した。

AP通信は、「火曜日の選挙は、多くの有権者にとってトランプ氏への静かな非難だった」と有権者調査を報じ、フォックスニュースは「経済不安が、左派が有権者の不満を利用したことで、重要な選挙における民主党の圧勝の鍵となった。」と報じている。トランプとその取り巻きが、すべては順調で、インフレはなく経済は好景気だと主張し続けていることが状況を悪化させている、との指摘である。

 11/5、マムダニ氏は、来年1月の市長就任に先立つ、改革市政をリードする、全員女性からなる移行リーダーシップチームを発表、住宅、規制、社会政策の分野で経験と識見を持つ、5人からなるこのチームは、元連邦取引委員会(FTC)委員長のリナ・カーン氏、マリア・トーレス=スプリンガー氏、グレース・ボニラ氏、メラニー・ハーツォグ氏、そしてエレナ・レオポルド氏が共同議長を務めることを明らかにした。
マムダニ氏は、市政運営において「オーガナイザー、政策専門家、そして働く人々」の意見を取り入れる、「公的説明責任を優先する」と強調している。

マムダニ氏が選挙戦で掲げた
* 手頃な価格の住宅、テナント保護、ユニバーサル・ヘルスケア
* 生後6週間から5歳までのすべての子どもを対象とした無料保育プログラムの創設
* 時給30ドルの最低賃金
* 住宅政策:200万戸の家賃安定化アパートの家賃凍結、公共投資による20万戸の低価格住宅建設を公約
* 政府補助金による無料食料品店の設置、市バス運賃の無料化
* コミュニティ・ランド・トラスト(CLT)を通じて「土地と住宅の社会化」を提案し、地域社会が管理する低価格住宅への転換を目指す。
* 経済的正義:法人税の最高税率を11.5%に引き上げる

これらの政策が、マムダニ氏の移行チームの課題となろうが、
今やトランプ氏にとっては、こうした政策課題は、新自由主義政策に相反する、逆に唾棄すべき政策なのである。しかし、唾棄すればするほど、トランプ政権の孤立化は避けられない事態の進行である。
(生駒 敬)

 

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【投稿】トランプ関税:脅しの敗退--経済危機論(171)

<<「いじめっ子は、いじめ返された」>>
10/30、トランプ米大統領のアジア歴訪の締めくくりであった、韓国(釜山)・APEC会合での、米中首脳会談について、トランプ氏は、中国の習近平国家主席との会談は「本当に素晴らしいものだった」、「両国間には計り知れないほどの敬意があり、今回の会談によってそれがさらに深まるだろう。」、「0から10のスケールで、10が最高だとすれば、今回の会談は12点だったと言えるでしょう」と自らを礼賛した(TruthSocialへの投稿)。
 しかし、トランプ政権のおべんちゃら閣僚以外は誰も絶賛などしていない。ガーディアン紙の外交担当編集者パトリック・ウィンター氏は、トランプ氏は「いじめっ子はいじめ返される可能性があることを発見した」とまで述べている。

トランプ氏が仕掛けた一方的な関税戦争は、米中間においては、11/1に実施予定であった100%関税の脅しが撤回に追い込まれ、少なくとも4月までは一応とりあえず「休戦」、「安定」が確認されたというのが、実態なのである。

 米中間で、何が確認されたのか、列挙してみよう。
* 中国政府、米国産大豆の大量購入を再開へ : トランプ大統領「中国が米国産大豆やその他の農産物を「膨大な量」購入し、米国の農家に救済を提供する」
* 中国、レアアース輸出制限を1年間停止 : 中国商務省の声明によると、「中国は10月9日に発表した関連輸出管理措置の実施を1年間停止し、具体的な計画を検討・改善する」としている。
* トランプ大統領、中国のフェンタニル関税を即時10%に引き下げる。
* 中国政府は、米国は一部の相互関税の停止を1年間延長すると発表し、TikTokに関連した問題の解決に向けて米国と協力する。
* 米国、ブラックリストに掲載された中国企業の子会社を対象とした規則を一時停止する。
* 中国はアメリカからのエネルギー購入を開始する。
* 両国は特定の輸送関税と手数料を撤廃することにも合意。
* トランプ大統領は、中国が米国への投資を強化することに楽観的な見方を表明し、4月に中国を訪問すると表明。中国政府は、米国が習氏の訪米を招待したと発表。

<<「解決どころか、ごまかしているだけ」>>
しかし、これらの合意・確認では、真の解決策は何も提示されはていない。あくまで一時しのぎなのである。
 10/30、『アトランティック』誌や『ファスト・カンパニー』誌への寄稿で知られるジャーナリストのスロウィエツキ氏はXへの投稿で、「これはトランプが自ら作り出した問題を、解決どころか、ただごまかしているだけだ。トランプが最初に大統領に就任した当時、中国は米国から年間3000万トン以上の大豆を購入していた。トランプによる最初の対中貿易戦争でその量は激減し、ブラジルが市場シェアを奪った。そして、トランプの2度目の貿易戦争で状況はさらに悪化した。中国の大豆需要は2017年当時よりもはるかに大きい。しかし、今回の合意後でさえ、中国による米国産大豆の購入量は2017年当時よりもはるかに少ないだろう。これはすべてトランプのせいだ」、「トランプ氏は、最新の政策ミスによって、自らが引き起こした問題さえも解決できていない。トランプ大統領は問題を作り出しただけで、真の解決策は何も提示していない」と手厳しい。

これらの合意で露呈され、確認されたのは、米国の弱さと中国の強さであった。
* トランプ大統領が発動した中国の大豆規制は、米国農家が頼りにしていた126億ドル規模の市場を壊滅させたが、中国はブラジルなど他の供給元へ直ちに転換することが可能であった。
* また、トランプ大統領が中国企業に課した制裁は、逆に中国のレアアース輸出制限をもたらし、中国が保有し、米国のテクノロジー企業が電気自動車、スマートフォン、AI搭載デバイスに必要不可欠なレアアース(希土類金属)の入手を困難にさせ、米軍事企業まで悲鳴を上げ、操業停止にまで追い込まれる結果をもたらしたのであった。世界のレアアースの約70%は中国産なのである。
* 中国の習主席は、米中貿易協議について、「私たちは常に意見が一致するわけではなく、世界をリードする二つの経済大国が時折摩擦を抱えるのは当然のことです」と述べ、「風や波、そして様々な困難に直面する中で、中国と米国の関係を担う私たち二人は、正しい方向性を堅持し、米中関係という巨大な船が着実に前進していくことを確保しなければなりません」と念を押している。
* そして、この中国の強さは、ドル一極支配の弊害から自立的経済圏の形成を目指し、拡大しているブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカを中心とするBRICS+諸国の存在と協力に支えられているところにある。

トランプ政権は、中国と世界を相手に次から次へと違法な一方的関税を課し、貿易戦争を展開、過去6ヶ月間、脅迫と威嚇を繰り返してきたが、成果を得られるどころか、実際にはほとんど何も達成していないのが現実である。引き続き政治的経済的危機が押し迫り、根本的政策転換を迫られているのは、トランプ政権なのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備

【投稿】日本の5500億ドルで米国の電力(原発)などインフラを整備

                                                                                            福井 杉本達也

1 トランプ大統領との会談で徹底的に売国をアピールした高市首相

⾼市早苗⾸相は10月28⽇、都内でトランプ⼤統領と初の⽇⽶⾸脳会談を⾏った。会談後、トランプ⽒とともに横須賀基地を視察した。トランプ⽒のスピーチした際、⾼市⽒は表情を崩しながらサムアップで応じた。また、肩を引き寄せられる場⾯もあった。これが一国の首相の態度であろうか。目を疑わざるを得ない。宗主国の「国王」に媚びへつらい、従順に従う植民地の総統そのものである。しかし、我々国民の問題はその映像にあるのではない。会談での米国との正式の約束事にある。①5500億ドルの米国への投資、②米国産米の75%輸入増、③防衛装備品購入2兆5000億円、④ボーイング社の航空機100機の購入、⑤米産トウモロコシ・豚肉など1兆2000億円の購入、⑥アラスカ産LNGの新たな調達計画への参画などなど国民の生活を直撃するものばかりである。

これに加えて、小泉進次郎防衛相は、「へグセス米国防長官と会い、防衛力強化を前倒しする方針を説明した。へグセス氏は、「速やかな実行に期待を表明した。」(日経:2025.10.30)。これについいて、日経新聞は「日本の防衛費増額は米国の要求に先手を打つもので、財源や自衛隊の人材確保は見切り発車という危うさを抱える」とのコメントを付け加えた(日経:10.30)。防衛費GDP比2%強を前倒しにするというが、財源は国有財産の売却など一時的なものが多く、所得税の増税は先送りされている。トランプ政権内にはGDP比5%を求める発言もあり、5%強となれば30兆円、「25年度の一般会計歳出総額は115兆円あまり。防衛関連予算が却兆円に膨らむと全体の4分の1を占める」(日経:10.30)こととなり、社会保障費に匹敵することとなる。消費税のさらなる増税か、赤字国債の発行かしか財源の手当てはできない(日経:同上)。いったい、高市内閣は日本をどこへ導こうとしているのか。

2 江戸末期の不平等条約よりも不平等な5500億ドルの投資先

トランプ氏との会談で5500億ドルの71.5%=約4000億ドル(約60兆円)の投資先が「日米間の投資に関する共同ファクトシート」で少し明らかとなった。「原子力発電などのエネルギー、人工知能(AI) 向けの電源開発、AIインフラ開発、重要鉱物の4つの投資分野を列挙した。」ソフトバンク・東芝・日立・三菱電機・村田製作所など「日本企業8社が『プロジェクト組成に関心』を持っていると明らかにした。」(日経:2025.10.29)。

これについて、野村総合研究所の木内登英フェローは「投資計画の最終決定が米大統領に委ねられる点、日本企業を支援する日本の政府系金融機関が資金を出資、融資、融資保証の形で提供する枠組みに、米国企業が参加すること、米国政府が投資から得られる収益を得ること、など、米国主導で日本にとっては不平等な取り決めになってしまった」「日米合意の投資に関する覚書:米国優位の不平等な取り決めにである。」「また、投資対象は日米が協調する経済安全保障分野とすることで、日本の国益にもよりかなうもの、とされたが、実際には米国の製造業の復活と拡大に資する枠組み」である。「投資計画が日本にとって不平等なものであり、それが日本の国益を損ねていないか」とコメントしている。

3 80兆円でアメリカの原発を建てる

見た目は「投資」、中身は「公共事業の肩代わり」。日本の費用でアメリカの電力インフラを再建しようとするものである。日本が直接米国の電力会社に出資するのではなく、特別目的会社(SPC)を作り、日本政府系の金融機関──JBIC(国際協力銀行)、NEXI(貿易保険)、JOGMEC(資源機構)──がこのSPCに融資や保証を行い、SPCが原発や送電設備の建設を担う構造である。しかし、日本も同様だが、電力料金は勝手に電力会社が上げることはできない。米国でも州ごとの認可制である。日本でも建前は同様だが(実際は日本は電力会社優先だが)、消費者保護が最優先されるため、「外国投資家の利益確保」は理由にならない。その結果、電気料金は上げられず、融資返済の原資が失われる。原発建設には常に想定外のコスト超過と遅延がつきまとう。損失が出れば、融資保証をしているのは日本の政府系機関──JBIC、NEXI、JOGMECである。損失はアメリカではなく、日本の国費が負担することになる。「受益者はアメリカである。日本の資金によって、原発や送電網といった老朽インフラをほぼ無償に近い形で再建できる。建設に伴って地元では雇用が生まれ、関連企業にも発注が広がる。完成後は安定した電力供給を確保し、政治的にも『エネルギー再建の成果』としてアピールできる。さらに、電気料金を抑えることで国民の支持を得ることもできる。コストを負担せず、成果だけを享受する理想的な構図だ。」(くもnote:2025.10.28)。東芝の名前が出てきた時点で、東芝が倒産した、かつてのウエスチングハウス原発事業のみじめな過去を思い起こさざるを得ない。ウエスチングハウスは10月28日、全米で800億ドル分の新たな原子力発電所を建設すると発表した。「日米両政府が発表した投資枠組みを使うとみられる」(日経:2025.10.30)。日本は国内に投資できず、上下水道や道路など、老朽化したインフラの更新もできず、金は全て米国に巻き上げられ、ますます貧しくなる。これを売国といわずしてなんというのか。野党は投資の枠組みをまともに理解しているのか。

カテゴリー: 原発・原子力, 平和, 政治, 杉本執筆, 経済 | コメントする

【投稿】反トランプ・「ノー・キングス」全米大規模抗議デモ

<<米史上最大の抗議活動>>
10/18、当日の「ノー・キングス」抗議デモの主催者は、前回・6月14日の「ノー・キングス・デー」に結集した500万人を上回る人々が、全米50州、約2,500か所以上の集会に参加し、「これは間違いなく、アメリカ史上最大の抗議活動の日となるでしょう」、「トランプ大統領は自分の統治が絶対だと考えている。しかしアメリカには王などいないし、混沌、腐敗、そして残虐行為にも屈しない」と表明している。その抗議行動のライブ映像が、同サイトで公開されている。

 この「ノー・キングス」抗議活動を主催している団体には、ACLU(アメリカ自由人権協会)、全米教職員連盟、コモン・ディフェンス、50501、ヒューマン・ライツ・キャンペーン、インディビジブル、環境保護有権者連盟、ムーブオン、全米看護師連合、パブリック・シチズン、SEIU、ユナイテッド・ウィー・ドリーム、その他の地元の政治団体や社会団体を含む、全米140以上の団体などが結集している。
 集会の組織化を支援しているパブリック・シチズンの共同代表、リサ・ギルバート氏は、「前回の抗議活動以来、人々は現政権の何が間違っているのかをはるかに深く認識するようになりました。」と指摘している。

また、デモの主催団体の一つであるインディビジブルの共同創設者兼共同会長であるリア・グリーンバーグ氏は、「デモクラシー・ナウ!」の番組で、「私たちは、平和的な抗議のために結集している」が、トランプ大統領や他の共和党議員が、「ノー・キングス」集会を「アメリカ憎悪」集会だと非難したことに触れて、「抗議活動に対するトランプ大統領の脅しは、恐怖を煽り、脅迫し、人々を事前に退かせようとする、権威主義的な手法の典型的な例です」と、トランプ政権の対応を鋭く糾弾している。

<<「内なる敵」に対して軍隊を>>
トランプ政権と与党・共和党は「ノー・キングス」抗議活動の高まりに激怒し、デモ参加者を「テロリスト」「アンティファ」「過激で小規模で暴力的」などと中傷し、トランプ氏自身、特にワシントンD.C.で行われる抗議行動を「アメリカ憎悪集会」と断じている。ホワイトハウス報道官のキャロライン・リービット氏に至っては、「主要支持層はハマスのテロリスト、不法移民、暴力犯罪者で構成されている」とまで語っている。
ショーン・ダフィー運輸長官は、抗議行動参加者は、大統領に恥をかかせようとするアンティファの金で雇われたメンバーだと非難し、「キングがいなければ給料はなく、給料がなければ政府もない」と、「キング」礼賛にまで踏み込んでいる。共和党のマイク・ジョンソン下院議長も、抗議活動をアンティファとパレスチナ武装組織ハマスと関連付けて誹謗中傷。
 今や、ホワイトハウスから発せられる言語は、内戦を煽る言語にまで至り、トランプ大統領自身が、「内なる敵」に対して軍隊を投入するよう呼びかける事態である。ホワイトハウスは、トランプ大統領に直接の指揮下で全米に軍隊を展開する広範な権限を与える反乱法(Insurrection Act)発動の準備を進めている、と報じられている。トランプ氏は、裁判所が全米の都市への軍隊派遣を引き続き差し止める場合は、100年以上前に制定された反乱法を用いて不利な司法判断を回避する可能性、意向を明らかにしたのである
こうしたトランプ政権に呼応して、テキサス州のグレッグ・アボット共和党知事をはじめとする一部の州知事は、抗議活動に対応して州兵の出動を決定し、アボット知事は、「テキサス州は犯罪行為を抑止し、地元の法執行機関と協力して、暴力行為や器物損壊に関与した者を逮捕する」と脅しの声明を発表している。。バージニア州知事グレン・ヤングキン氏は、警察を支援するため「バージニア州民の安全を守る」ため州兵の動員を明らかにしている。
しかし、こうした事態の進展は、トランプ政権の焦りと孤立化が一層進んでいることをも明らかにしている。

今回の「ノー・キングス」抗議デモの高揚が明らかにしたものを列挙すれば、
* 前回よりも、新たな抗議活動参加者が大幅に増大した、その背景に、移民襲撃、都市への連邦軍配備、政府の人員削減、大幅な予算削減、選挙権の剥奪、ワクチン要件の撤回、等々、「もうトランプはいらない!」と抗議する人々を質的・量的にも増大させてしまった。
* ハーバード大学ケネディスクールとコネチカット大学の共同プロジェクトである群衆計測コンソーシアムを共同指揮する政治学教授のジェレミー・プレスマン氏は、トランプ氏の2期目の強引さが抗議活動参加者を増大させた可能性があると述べている。
* 抗議行動そのものにおいても、ワシントンD.C.のような大都市圏では、前回に比べていくつもの大集会が組織され、サンフランシスコでは抗議活動が5カ所に広がり、シカゴでの1回の集会は22回に及んだ。ニューヨークでは、市内5区すべてで10万人以上がデモが展開された。オレゴン州ポートランドの抗議行動では、3つの別々の行進が組織され、最終的には1つに合流するなど、創意と多様性が展開された。
* 全米各地でデモ参加者は「アメリカに王はいらない」「民主主義を守れ:ゼネストの時だ!」、「ICEゲシュタポを廃止せよ」「我々は臣民ではない」などと宣言する手作りのプラカードが多数掲げられた。
* 一部の集会では、少数の反対デモ参加者と警察の対峙が見られたが、挑発行動が組織的に回避され、雰囲気は明るく、子供たちや家族連れの参加者が大いに目立つ抗議行動であった。ニューヨーク市警は、抗議活動に関連した逮捕者はゼロだったと認めたが、これは「暴動」と「テロ集団」に関するトランプ大統領の主張を真っ向から否定するものであった。

大都市から小さな町や田舎の郡にまで及ぶこの運動の広がりは、トランプ独裁政権への抗議・反対運動は、一部地域に限定されているという、トランプ政権が広めてきた、「内なる敵」説を完全に打ち砕き、「キング」独裁政権の継続が不可能な事態をもたらしている、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」

【投稿】古色蒼然とした「安全保障」と「エネルギー政策」

                            福井 杉本達也

国民民主党の玉木雄一郎氏は立憲民主党との連立を組む条件として「安全保障」=安保法制肯定と「エネルギー政策」=原発推進の二つを修正することをあげている(日経:2025.10.14)。しかし、この条件は。あたかも1993年の細川連立内閣発足時に社会党に突き付けたような古色蒼然とした内容である。野党連立政権から32年、玉木氏の頭はなんらの進歩はないようである。

1 完全に破綻した「原発推進」政策

福井県内3原発の敷地内で計画する「使用済み核燃料の乾式貯蔵施設について、関電は10日、高浜1カ所目の着工が早くとも2026年、運用開始はお年ごろになるとの見通しを示した。」(福井:2025.10.11)。ようするに、原発内の使用済み核燃料プールが満杯になったので、プール外の乾式貯蔵施設を作らないと原発の運転ができないところまで追い込まれているということである。関電の計画では、使用済み核燃料を青森県六ケ所村の核燃料再処理施設に持ち込んで、核燃料プール内の使用済み核燃料を減らして、原発の運転を継続したいところであるが、核燃料再処理施設の稼働は延期に次ぐ延期を重ね、いつになったら動かせるかは全く見通しが立っていない。また、関電は、この使用済み核燃料を青森県六ケ所村の中間貯蔵施設や山口県上関町で中国電力が計画する中間貯蔵施設に搬入できないかを画策したが、青森県知事の反対や上関町での反対運動で見通しは全く立っていない。そこで、関電は福井「県外の中間貯蔵施設への使用済み核燃料搬出を開始できない場合は原発内の貯蔵プールに戻すとした」案を地元に提示したが、これに、これまで原発を一にも二にも推進・協力してきた美浜町や高浜町などが猛反発した。10月2日に美浜町会委員会はプールに戻すことに反対する「地元の改善を求める要望書」を関電に提出した(福井:2025.10.3)。そもそも、一旦、湿式貯蔵の核燃料プールから乾式貯蔵に取り出した使用済み核燃料を、受け入れ先がなかったという理由で再び使用済み核燃料プールに戻すというのである。かつて、物理学者の武谷三男氏は原発を「トイレのないマンション」と形容したが、いまやもう完全に物理的に破綻している。使用済み核燃料の持って行く場所はもう日本国中どこにもないのである。北海道などで調査されている高レベル放射性廃棄物の地下最終処分場などというのは全くの幻想である。これ以上、原発を動かし続けて使用済み核燃燃料を増やすことは物理的にできないのである。

3.11の福島第一原発事故により、原発というシステムがいかに危険かつ脆弱なものであるかが明らかとなった。さらには、使用済み核燃料は半永久的に冷却する必要があり、万一、冷却水がなくなれば再び核分裂反応を引き起こし、各暴走するやっかいなものである。稼働中の原発には広島型原爆1000発分以上の放射能がある。もし、玄海原発や高浜・大飯原発などがミサイル攻撃を受けた場合には、核攻撃以上の被害となり、日本は壊滅的状況に陥る。「安全保障」どころか「存立危機」である。玉木氏の「エネルギー政策」は原発の実態を全く踏まえない空理空論に過ぎない。そんなものを国民に押しつけてどうするつもりか。

2 米国に追随し「安全保障」を考えなかったドイツは今どうなったか

10月13日の日経新聞は「欧州最大のドイツ経済が正念場を迎えている。政府によると2025年の実質成長率は0・2%にとどまり、3年連続で景気低迷を避けられない見とおし」と書いた(日経:2025.10.13)。要因は「ロシアからの安価なガス調達が止まった」ことであるとするが、ロシアからの北海経由のノルドストリーム1・2ガスパイプラインの米国による破壊(2022年9月)を黙認したのは当のドイツであり、自業自得である。結果、エネルギー価格は高止まりし続け、「自動車大手や部品会社による大規模なリストラが相次」ぎ、VWの持ち株会社ポルシェSEが防葡産業への参入検討を明らかに」している(日経:同上)。

これに対し、YouTubeで米元海兵隊情報将校のスコット・リッター氏は「ポルシェにとっての問題はドイツ国内にはもはや鉄鋼を生産している企業が存在しないという点だ。安価なロシア産ガスを手放してしまったためもはや維持する余裕がない。つまり、もう鉄を作れないのだ。その結果、ポルシェはすべての鋼材をスウェーデンから購入しなければならず、そのコストが莫大な負担となっている。そして現実としてポルシェはいま防衛産業への転換に多額の資金を投じているものの実際にはその余裕がない。一台の戦車すら造ることはできないだろう。…彼らは戦車なんて作れない。資金がない。金がないんだ。いくら喋りまくろうが、言葉だけ流れるだけだ。大恐慌の時代には、少なくとも鉄鋼産業があった。ピッツバーグが鋼材を供給しフォードはモデルTをシャーマン戦車に改造できた。だがドイツには何もない。ポルシェは崩壊した企業だ。今まさに鉄鋼産業を解体している。スウェーデンは、装甲鋼板の価格を吊り上げるだろう。競争が起きる。フランスが戦車製造を計画しているが、もはや鋼鉄は生産していない。ヨーロッパで鋼鉄を生産しているのはスウェーデンだけだ。それだけだ。装甲鋼板を製造している国は存在しない。」「彼らは完全なパニック状態にある。」(スコット・リッター:2025.10.13)と述べている。

3 日米財務相会談で加藤財務大臣がサハリン2から手を引けと脅される

故ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官は、かつて、「アメリカの敵になることは危険かもしれないが、友人になることは致命的である」と発言している。「ベッセント米財務長官は、15日に行われた加藤勝信財務相との財務相会談で、日本がロシアからの原油購入を停止することを期待していると述べた」「『サハリン2』プロジェクトの最大株主はロシアのガスプロム社(77.5%)だが、日本の三井物産と三菱商事もそれぞれ12.5%と10%を保有している。そこで生産される多くが日本に供給されている。」(Sputnik日本:2025.10.16)。武藤経産相にいわれるまでもなく、「海外からの天然ガスの確保は、日本のエネルギー安全保障上大変重要」である。

『西の模範生』はいつも同じ試験で満点を取る:服従し、投資し、それがパートナーシップだと装う。プラザ合意から『5500億ドルの取引』まで、日本は管理された主権の優等生であり続け、従順さが知恵としてブランド化され、服従が外交として位置づけられる。すべての帝国には、その鎖を隠す成功物語が必要だ。」(X-C𝘰𝘳𝘳𝘪𝘯𝘦:2025.10,16)

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【投稿】トランプ政権:対中貿易戦争再開の脅し--経済危機論(170)

<<対中・100%関税を追加>>
10/10、トランプ米大統領は、自らのSNSに中国がレアアースに関する輸出規制を強化しようとしている、「陰湿で敵対的な動きだ」と批判し、既に適用されている30%の関税に加え、中国からの輸入品に対して100%の追加関税を課し、より厳しい輸出管理を表明。発動の時期は11月1日、もしくはそれ以前だ、と対中貿易戦争再開の脅しを明らかにした。

さらに、トランプ大統領は記者団に対し、10月31日から11月1日まで韓国で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に予定されていた中国国家主席との会談をキャンセルしたわけではないが、「再検討している」、習近平国家主席と会談する「理由はない」とまで述べ、これまで半年近くにわたって休戦状態(中国は米国からの輸出品に対する関税を125%から10%に引き下げ、米国は145%から30%に引き下げていた)が続いていた米中貿易戦争を、大幅にエスカレートする脅迫姿勢を鮮明にしたのであった。

10/12、これに対し中国商務省は、追加関税の脅しは「典型的な二重基準の例」だと非難し、アメリカが「長い間」、「国家安全保障の概念を拡大解釈し、輸出規制措置を乱用」して、「中国に対して差別的な慣行を採用してきた」と主張。トランプ氏がこの脅しを実行すれば中国は不特定の「対抗措置」を取る可能性があると警告し、中国は貿易戦争の可能性を「恐れてはいない」と表明したのであった。
商務省はまた、レアアースの新たな規制を「正当な措置」とし、最近の緊張の責任は米国側にあると主張。9月にスペインで行われた直近の協議以降、トランプ政権が複数の中国企業を輸出管理リストに追加するなど一連の制限措置を講じたことを指摘し、米国に対し、脅しではなく、交渉による解決を強く求めているのである。

 10/10、米金融市場は直ちにこれを悪材料と判断、軒並み大幅な下落を記録、発表前に792ドルで取引されていたゴールドマン・サックスの株価は、トランプ氏の投稿から数分後に3.4%下落し、765ドルとなった。
銀行(KBW)指数は4.0%下落し、地方銀行は5.5%下落。「プライベート・クレジット」株は、このニュースに特に敏感に反応、KKRは序盤の取引で上昇したものの、その後5.5%下落した。アポロは4.2%、ブラックストーンは5.0%、アレス・マネジメントは5.2%下落した。
さらに、大手ハイテク株は信用不安の高まりに過敏に反応、軒並み、大幅な下落となった。MAG7指数(「Alphabet(Google)」「Apple」「Meta Platforms(旧Facebook)」「Amazon」「Microsoft」「NVIDIA」「Tesla」の7銘柄)は金曜日の取引で3.8%下落し(週間では2.7%下落)、4月16日以来の最大の下落率を記録。テスラは5.1%、Amazon.comは5.0%、NVIDIAは4.9%、Metaは3.9%、Appleは3.5%、Microsoftは2.2%、Alphabetは2.1%下落。NVIDIAの下落率は4月16日以来最大であった。
ダウ工業株平均は1.9%安、S&P500は2.7%安、ハイテク株中心のナスダックは3.5%安、アメリカの主要500社を追跡するS&P500種株価指数は2.7%下落して取引を終え、今年4月以降で最大の下げ幅を記録。仮想通貨市場は、文字通り、暴落している。日経平均先物も下落し 夜間取引で2420円安の4万5200円で終了した。

米シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P500株価指数を対象とするオプション取引の変動率(ボラティリティ)をもとに算出し、公表している、株式市場の「恐怖指数」として知られるVIX指数も、20を超えて、21.34に急上昇、危険信号を発している。

<<「中国のことは心配しないで、大丈夫だ! 」>>
 ニューヨークの全国女性組織のメラニエさんは「トランプの中国に対する新たな100%の追加関税は、米国の平均的な世帯に最大2600ドルの負担をかけるでしょう。トランプは、ホリデーシーズン直前に、電子機器、おもちゃ、スニーカー、衣類、家電製品などを2倍以上の価格でアメリカ人に支払わせようとしています。これこそが本当の『クリスマスへの戦争』です」と投稿している。

こうした事態の進行に最も驚いたのは、トランプ氏本人であった。
10/12、慌てふためいたのか、トランプ氏はTruth Socialへの投稿で、冒頭、「中国のことは心配しないで、大丈夫だ! 」と述べ、「尊敬を集める習近平国家主席は、今まさに最悪の局面を迎えた。彼は自国が不況に陥ることを望んでいないし、私も望んでいない。アメリカは中国を助けたいのであって、傷つけたいのではない!」と書き込んだのであった。脅迫的発言から一転して、不本意ながらも融和的なおもねる姿勢を示し、事態を鎮める必要から、トランプ氏本人が弁解せざるを得ない事態に追い込まれてしまったのである。

またもや「TACO取引」=「Trump Always Chickens Out(トランプはいつも土壇場で尻込みする)」の登場かと揶揄される事態であり、しかも今回は、これまでで最も速いTACO反転となってしまったのである。

今回の、トランプ政権の対中貿易戦争再開の脅しと、その後の事態は、結果として何を示唆しているのであろうか。
* トランプ大統領が提案した中国からの輸出品に対する100%関税は、単なる貿易戦争以上の事態、流動性危機やデリバティブ市場の崩壊など、世界的な金融ショックを即時に引き起こす可能性があることを明らかにした。
* 中国は世界のレアアース採掘量の約70%を占め、世界の処理能力の約90%を掌握している現実は、脅しや封じ込めではなく、対等平等な交渉によってしか成果が得られないことを明らかにした。
* 消費財、部品、機械製造、レアアース、テクノロジーに至るまで、米国は中国を必要としており、中国は米国を必要としている以上に中国を必要としていることをも明らかにした。
* 米国一極支配に対する、中国やロシア、BRICS+諸国の潜在的な報復は、米国の経済崩壊と世界的な地政学的再編を引き起こす可能性が、事実上、確実に進行していること、米国一極支配はすでに非現実化していることを明らかにした。
* 当然、ドルの準備通貨としての地位は大きく崩壊する可能性を示している。
* 脱グローバリゼーション、アメリカファーストの保護主義政策、連邦政府によるレイオフ、そして破壊的な関税政策は、市場の混乱を引き起こし、AIバブルに支えられた楽観的な見通しを覆す事態をもたらした。

トランプ政権の、中国製品への100%関税の脅しは、トランプ政権自身へのブーメランとして跳ね返り、その政治的経済的危機をより一層激化させ、「アメリカは中国を助けたい」どころか、まかり間違えば、アメリカ経済崩壊の引き金となる可能性があることを明らかにしたのだと言えよう。
(生駒 敬)

 

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【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著

【書評】「西洋の敗北と日本の選択」・エマニュエル・トッド著・文集新書

                                                                                                福井 杉本達也

ベストセラー『西洋の敗北』の著者:エマニュエル・トッドの最新作である。中身はこれまでのここ1~2年の『文藝春秋』に掲載した論文を1冊の新書にしたといってよい。文章の骨子は既に『文藝春秋』で読んでいるはずであるが、やはり月刊誌ということもあり、読んだ当座から、右から左にどんどん忘れ去ってしまうことが多い。それを1冊にまとめ直すと、新たな視点も生まれてくる。

1 「民主主義」という言葉を「労働」から考える

著者は「米国、英国、フランスなどでは、グローバリゼーションによる生産基盤の海外移転が進みすぎて、もはや後戻りができなくなっている」と産業空洞化の悪影響を指摘する。「労働」は「単に『お金を稼ぐ』ためではなく、『自己実現をする』ためでもある」が、「米国の労働者階級は、安価で質の良い製品を自分で『生産』せず『消費』」してきたため、「『生産者』と違って『消費者』は『共同体』には属さない存在」だとする。続けて、「『民主主義』は『消費者』ではなく、『労働者』によって支えられるもので、そうした『労働者』が消滅したことで米国の『自由民主主義』は『リベラル寡頭制』へと変質」したとする。「労働」という観点からは、「産業基盤が残っている日独の方に『民主主義』に担い手が残っている」はずだが、残念ながら日本とドイツは「米国の〝占領〟が続き…『主権』を欠いていて」民主主義国家とはいえないとする。

同じ米国の占領下にあっても、韓国の李大統領は9月21日のSNSで、「重要なことはこうした軍事力、国防力、国力を持っていても、外国の軍隊がなければ自主国防が不可能だと考える一部の屈従的思考だ」と指摘し、「国防費をこれほど多く使う国で、外国軍隊がなければ国防ができないという認識を叱責した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が思い浮かぶ」と言及した。だいぶ日本の与野党の指導者とは心構えが違うようである。

2 「トランプ関税」をどうみるか

著者は「基本的に保護主義に賛成です」とし、「自国の産業を守るには、ある程度の保護主義が必要なのです」としつつも、「保護主義政策が効果を持つには、輸入品に関税を課すだけでは不十分であることです。『優秀での能力があり勤勉な労働人口』が必要なのです」と指摘する。それを念頭に、著者の診断は「米国はすでに手遅」だと引導を渡している。「米国のエンジニア不足」、「技術者や質の高い労働者も不足しています」「トランプの高関税から実際に『利益』を引き出すには優秀な労働力が必要なのに、今日の米国はこうした労働力を欠いている」「トランプの高関税は、実際には供給の困難、生活水準の低下、インフレの悪化」を引き起こし、「失敗するだろう」と切り捨てた。

さらに続けて著者は「『経済を守れ!』『産業を守れ!』『国内でモノをつくれ!』と繰り返すトランプは、ある意味、優れた直感の持ち主ですが、『保護主義の理論』きちんと理解できていない」と一旦上げてから、こき下ろす。「トランプがBRICSを脅迫して『ドル覇権』を死守しようとした時に、そのことが露わになりました」「むしろ米国の国内産業の復活を妨げているのは、この『覇権通貨ドル』なのです」「『ドル覇権』が『抽象的な記号でしかない通貨記号(=ドル)』と『外国からのモノ』との交換を可能にしているのです」「だから米国では、高学歴者ほど、産業やモノづくりの就職につながる科学やエンジニアの分野ではなく、抽象的な通貨記号であるドルという富の源泉に近づくために、金融や法律の分野に進んでいます」と分析し、「ひたすらドルという抽象的な貨幣にこだわる姿勢、ドル覇権を何としてでも維持するという意思は、トランプ個人の失敗だけでなく米国自体の失敗でもあります。」とし、「彼の大統領としての役割は、ロシア、さらにはイランや中国に対する軍事上の敗北、産業上の敗北を、要するに『世界における米国覇権の崩壊』をいかにマネジメントするかにあります」と言い切っている。

3 自己目的化した暴力の行使―イスラエル

著者はイスラエルについて「暴力自体が自己目的化している」とし、イスラエルの行動は「ニヒリズム」であるとする。イスラエル国家の振る舞いは「社会的・宗教的価値観を失い(『ユダヤ教・ゼロ』)、国家存続のための戦略に失敗し、周囲のアラブ人やイラン人に対する暴力の行使に自己の存在理由を見いだしている国家」であると定義する。

有名な『戦争論』を書いたクラウゼビッツによれば「戦争は決して政治的関係から切り離しえないものである。もし切り離して考えるようなら、関係するあらゆる糸が切断され、戦争は意味も目的もないものとならざるをえない。」とし、「戦争で何を達成するかが戦争の目的であり、戦争で何を得るかが戦争の目標である。この基本的構想により、すべて方向性が決まり、手段の範囲、力の分量が決められる」としているが、著者は「イスラエルは本来のアイデンティティを見失っている」「敵対勢力の指導者や幹部といった個人をターゲットにした暗殺には、戦略的意味はなく、自己目的化した『殺人要求』」を感じるとする。「イスラエル人の無意識の深層では、今日、『イスラエル人であること』は、もはや『ユダヤ人であること』を意味せず、『アラブ人やイラン人と戦うこと』を意味」するとする。つまり、「暴力的」こそイスラエルの目的であって、そこに「合理的」目的を定義することはできないということである。

10月8日、トランプ米大統領は、イスラエルとイスラム組織ハマスがパレスチナ自治区ガザを巡る和平計画の「第1段階」で、全ての人質を「間もなく」解放し、イスラエル軍がガザの一部から撤収すると発表したが(福井:2025.10.10)、スコット・リッター氏は10月9日のYouTubeで、これはハマスの勝利であるとの見解を示した。戦争を続けることを自己目的化していたイスラエルが停戦を受け入れざるを得ないこと自体がイスラエルの敗北であるということである。トランプの調停は、停戦だけが実行され、後の20項目については何も実行されることはないであろうと述べている。ハマスの武装解除もないであろう。

 

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【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配

【投稿】「下駄の雪」公明党の連立政権離脱と80年間もの米国支配

                           福井 杉本達也

1 高市自民新総裁下で完全にコケにされた「下駄の雪」

「下駄の雪」と称されてきた公明党がついに自公連立政権から離脱することを通告した。表向きは、公明党がとりわけ重要視したのが「政治とカネ」問題の取り扱いであり、自民党が最も飲めない「政治とカネ」の企業団体献金の問題を突き付けたことにあるとしている。しかし、政治評論家の後藤謙次氏は「これまでの『自公連立』は繰り返し、例えば大きく政権が交代する時には、事前の人事の前の段階で、『創価学会』とそれから公明党と幹部に『こういう人事やります』という意味で、仁義も切っていたわけですね。今回は全く通告なしにむしろ総裁就任直後から高市さんが公然とと言いますか、国民民主党の玉木雄一郎代表に会ったり、麻生さんが榛葉幹事長と、これもテレビカメラが見えるようなところで会ったりということで、ある面で公明党に喧嘩を売っている」(TBS:2025.10.10)と述べた。

そもそも、今回の高市新総裁就任後の自民党内人事は異常であった。本来ならば政権を維持するためには公明党との連立協議を最優先にするのが筋である。ところが、新聞紙上では公明党と協議することもなく、次期内閣の閣僚の名前までが取りざたされている。副総裁となった麻生太郎氏は、「かつて安全保障関連3文書への対応を巡って山口那津男代表ら当時の公問党幹部を名指しで『一番動かなかった、がんだった』と批判」(日経:2025.10.8)しており、麻生氏の露骨な公明党排除の動きに「下駄の雪」も、ついに反発せざるを得なかった。所詮は「下駄の雪」、国民民主党や維新を取り込めば、いやでもついてくるとタカくくっていた。自民党は公明党だけでなく国民をも舐め切っていた。統一教会・裏金の萩生田光一氏を幹事長代行に任命したが、高市氏は「あえての起用と思ってほしい」と述べた(NHK 2025.10.9)ことにも表れている。高市総裁は、開口一番、党首会談において「一方的に連立離脱を伝えられた」と怒りの形相で語ったというが、民主党政権の3年を含む26年間も連立を組んだ政党に対し、反省どころか相手が一方的に悪いというのでは政治倫理にも悖る救いようにない政党に成り下がってしまった。

2 自民党は解党しかない

昨年10月の衆院選挙を分析した元朝日新聞記者の佐藤章氏は「注目されていたのになぜ投票率が低かったのか? 自民党の集票システムがぶっ壊れたからである。インボイス導入で地方の中小土建業者が塗炭の苦しみを味わい、国内農家を無視したアメリカ農産物の輸入増加によって農家・JAが打撃を受けた。自民党への投票者はもういない!」とXに投稿した(2024.10.29)。日経新聞は「公明党は支持母体、創価学会の組織票を持つ。衆院選は大半の小選挙区で候補者を立てず、創価学会の会員らに自民党候補への投票を呼びかける。」として、公明党が自民党候補への支持をやめれば、2割の候補者が落選すると試算している(日経:2025.10.10)。さらに、衆院選では50人近くが落選するとの試算もある。孫崎享氏によるAI予測では、「公明離脱で自民の比例票が500 万票近く減少し、都市部での小選挙区競争が激化すると見込まれる。”衆議院(定数465、過半数233)現在の自民議席: 196(公明離脱で連立総数は220 から196 に減)。”離脱時の影響: 公明の選挙協力(推薦・組織動員)がなければ、自民の小選挙区当選率が低下。比例代表での票流出も深刻で、ボーダー議員(当選圏内の現職)の多くが落選リスクにさらされる。”予想議席減: 40~60 議席(自民単独で140~160 議席程度に)。」(孫崎:2025.10.11)。これでは永久に少数派になり、浮上できない。比較第1党ではあるが自民党は連立でないと政権につけない。これまで政権与党ということで、集まった集団が自民党であり、与党という利権の鏨が外れれば、バラバラになり、解党しかない。

3 自民党は分裂するか

経済評論家の植草一秀氏は「自民党内に異なる政治理念、歴史認識、政治哲学、基本政策を唱える勢力が同居している。今回は極右勢力が自民党実権を握ったために公明が連立を離脱したという側面も強い。これまでの与党勢力は、政治理念と基本政策で、極右、中道、新自由主義の三勢力に分類できる。この異なる三つの勢力が同居していることが政治を極めて分かりにくいものにしている。野党勢力では、公明、国民が中道、維新が新自由主義、参政と保守が極右に分類できる。自民が三つに分裂して、それぞれ同類の野党と合流すると政治は分かりやすくなる。自民と同じ問題を抱えているのが立民。立民も中道、新自由主義、革新の三つに分裂するべきだ。」(植草一秀の『知られざる真実』2025.10.10)と書くが、そのような「分かりやすい」分裂が起こるとは考えにくい。

上野千鶴子氏は「党内融和を最優先したすべての自民党総裁候補者。石破首相もしかり。結果、思うような政策をなにひとつ実現できなかった。政権与党であることにだけ価値がある自民党にとっては党を割る選択肢などないのだろう。」と述べている(yahooニュース:2025.11.11)。「党を割る選択肢」ではなく、政治的志しもエネルギーも人材もなくなっている。

4 米国の80年間もの支配から独立する以外に日本の政治を正す道はない

公明党の連立離脱発表と同時の10月10日に出された石破首相の『戦後80年所感』はあまりにも内向き過ぎている。誰に呼びかけたのか。「なぜあの戦争を避けることができなかったのか」という自問は「(今日への教訓)」としては中途半端なままである。今日的には思い切って9月3日の中国の戦勝記念日に敗戦国として出席して、対米従属を脱し、顔を西に向け、東アジア・東南アジアの諸国と協力していくと宣言してこそ意味をなしたであろう。

BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野龍太郎氏は、2013年4月からの安倍政権で行われたアベノミクスにおいて、円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、黒田日銀の異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている。低金利が円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっている。衰退する国家の制度は収奪的であり、一部の社会エリートが富を独占している。と同時に青天井の企業献金が容認され、金権政治がまかり通ている。包括的だったはずの日本の社会制度は、いつの間にか収奪的な社会に向かっていると分析する(河野:『日本経済の死角』)。

消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下している。昨年の衆院選の評価で、宮本太郎中央大学教授は「若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない…空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている(『世界』:2025.1)。

連立を離脱した公明党は「野党各党による国会対策委員長会談への公明の参加に向けて調整」することとなった(朝日:2025.10.11)。当然、責任ある野党として自民党に対抗してもらいたいものだが、アベノミクスをはじめ、26年間(民主党3年を除く)に亘り売国政策に加担し、国民の生活水準を大幅に低下させ、国民は生活苦に呻吟していることの罪と反省は厳しく問われねばならない。「国内」ではなく「海外」に80兆円もの大枚を気前よく投資して、衰退する金融帝国・米国と心中しつつあるが、日本の与野党には馬耳東風である。意図的に通貨の価値を減額させ、海外へと投資を誘導し、インフレを引き起こして実質賃金を減額させてきた売国政策を厳しく問える野党連携を作ることができるかが問われる。

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【投稿】「ガザ和平計画」:トランプ・ネタニヤフ政権の岐路

<<トランプ「ガザへの爆撃を直ちに停止する必要」>>
トランプ米大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が共同で、20項目からなる「ガザ和平計画」を発表したのが、9月29日であった。
10/3、ハマスはその一部の受け入れを表明、
 10/4、トランプ大統領は、直ちに「イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要」を表明。
事態の急速な展開である。

その焦点となった「ガザ和平計画」の主要な内容は、以下の通りである。
* ガザは住民の利益のために「再開発」され、軍事インフラや「テロ」インフラは存在しない。
* 撤退条件とイスラエル兵捕虜の釈放が満たされるまで、すべての軍事作戦と戦線は即時停止される。
* イスラエルの受諾後72時間以内に、生存者・死亡者を問わず、イスラエル軍捕虜全員が帰還する。
* 2023年10月7日以降に拉致された終身刑囚250名とガザ地区住民1,700名の釈放。
* 「平和共存」を約束し、武器の廃棄を約束するハマス構成員には恩赦と安全な通行を認める。
* 国連機関、赤新月社、その他の機関を通じ、干渉なく国際援助物資を入国させる。
* 「平和委員会」の監督の下、パレスチナのテクノクラート委員会による暫定統治を行う。(統治は、トランプ大統領が議長を務め、トニー・ブレア元英首相をはじめとする西側諸国の要人を含む暫定的な国際機関「平和委員会」が担当する。)
* 特別経済区を設置する。
* ガザからの出国または帰還を希望する住民の自由な移動を認める。
* 独立監視団の監視の下、ハマスおよびその他の抵抗勢力の武装解除を行い、武器の買い戻しと社会復帰プログラムを実施する。
* ガザが「近隣諸国」に脅威を与えないことを地域パートナーが保証する。
* パレスチナ警察の訓練・支援、国境警備、援助の円滑化を目的とした国際安定化部隊の派遣。
* イスラエルの撤退は、非軍事化と安全保障枠組みの確立、そして暫定政権への段階的な移譲を条件とする。

この「和平計画」で注目すべき点として、1.ガザの住民は誰もガザ地区を離れる必要がなく、住民の自由な移動を認める、2.ハマスはガザの行政に直接的・間接的に関与しない、3.さらに、アラブ諸国と非アラブ諸国で構成される国際安定化部隊(ISF)の創設が提案され、エジプトとイスラエルはISFと協力してガザの平和維持にあたる、4.イスラエルはガザの併合や占領ではなく、イスラエル軍はガザから段階的に撤退する、としていることである。

この「和平」案は、ガザ地区とヨルダン川西岸地区を現在のイスラエル領と見なす地域から分離し、パレスチナ主権国家を樹立するという二国家提案を、トランプ政権やネタニヤフ政権が受け入れるという保証を一切与えてはいない。ましてや、ハマスとパレスチナ自治政府によってそれぞれ統治されているガザ地区とヨルダン川西岸地区の現状承認とは程遠いものである。
しかし、ガザ地区のホロコーストの実態が今や全世界から糾弾され、イスラエル支援の西側諸国からさえ孤立し、米・イスラエルの「ガザ完全制圧」など不可能な事態に追い込まれた、衰退の象徴、「岐路」の象徴が、この「和平計画」だと言えよう。

ガザ地区住民に対するジェノサイド・戦争犯罪者であるイスラエルのネタニヤフ首相とその政権を全面支援してきたアメリカのバイデン前政権、それを引き継ぎ、「ハマスの根絶やし」まで要求してきたトランプ大統領が、たとえ眉唾であったとしても、このような「和平計画」に追い込まれたことは画期的な事態の進展であろう。もちろん、この提案は、トランプ大統領が、パレスチナ人をガザ地区からエジプトなど他の地域に強制的に移住させて、ガザ地区を「美しい場所」、観光リゾートに変えるなどといった夢想提案を完全に撤回させるものでもある。

<<「ネタニヤフ氏が望んだものではない」>>
10/3、この「和平計画」の提案をハマスが部分的に受け入れることを明らかにしたことで、事態は急速な展開を見せ始めている。
パレスチナ抵抗運動ハマスは、仲介者に回答を提出すると同時に、その声明で「イスラエルの侵略を阻止したいという強い思いから、この計画について、責任ある立場を確立するために広範な協議」を行ってきたことを明らかにし、「トランプ大統領の提案に従い、生存者と死亡者を含むすべての囚人を釈放する用意がある」こと、詳細について協議するための仲介交渉に「直ちに」応じる意向を表明したのであった。
ハマスはまた、アラブ諸国とイスラム諸国の支持を得た国民的合意に基づき、ガザ地区の行政を独立派で構成されるパレスチナ人組織に移譲することを受け入れる、「ガザ地区の政権をパレスチナの独立者(テクノクラート)に引き渡すことをいとわない」との立場も明らかにしたのである。

トランプ大統領は直ちにこれに反応し、「ハマスが発表した声明に基づくと、彼らは永続的な平和の準備ができていると信じています。イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要があります。そうすれば、人質を安全かつ迅速に解放することができます…これは中東での長年求められてきた平和に関するものです。」 と発表している。

トランプ政権はCBSニュースに、米国はハマスの反応を肯定的であると見なしていると述べると同時に、武器の廃止措置など、まだ進行が妨げられる詳細があるが、双方が取引を受け入れた場合、イスラエルの軍隊が「合意されたライン」に撤退し、戦闘の即時終了、ハマスが2023年10月7日に72時間以内に撮影されたすべての人質を解放し、イスラエルは紛争の開始後に拘留された終身刑と1,700人のパレスチナ人を解放することを求めている、と表明している。

問題は、あるいは障害は、実はハマスではなく、イスラエルのネタニヤフ政権の動向にかかってきていること、トランプ政権がそれにどのように対処できるかどうかにかかってきていることであろう。

ネタニヤフ政権にとっては、この「和平計画」は、当初、ハマスが拒否することを前提に、ガザ、西岸地区、パレスチナ全土を併合せんとしていた野望を打ち砕くものと化してしまったのである。
10/4付けニューヨークタイムズ紙は、「これは、.ネタニヤフ首相が望んだ方法ではなかった。ネタニヤフ氏は、現在、国内の政治的懸念と、中東のイスラム教徒とアラブ諸国からのトランプ氏からの地政学的圧力、そして平和がすでに勃発したかのように金曜日の夜の発展を迎えた国からの地政学的な圧力の両方によって、自分自身を縛ってきていることに気づいたのです。」「ネタニヤフは、これがすべてイスラエルの軍事的圧力の下で行われることを望んでいました。」「これらの交渉は、停戦の条件の下で行われます。これは、ネタニヤフの設計に反しています」。 トランプ氏から、「イスラエルはガザへの爆撃を直ちに停止する必要があります。」と告げられたのである。

事態の思いもよらぬ逆転にいら立つネタニヤフ政権は、この「ガザ和平計画」の頓挫に一番期待している、と言えよう。

トランプ氏が、イスラエルは「ガザ爆撃を停止した」と成果を誇っている、その日に、実はイスラエル軍は「ガザ地区のパレスチナ人の人々に対して恐ろしい犯罪と虐殺を続けている。」「10/4の朝から70人がイスラエルの攻撃で虐殺されている」と、ハマスは声明で「ネタニヤフの嘘」を明らかにしている。

「ガザ和平計画」で、戦争の継続か平和かで、もっともその責任が問われているのは、トランプ、ネタニヤフ両氏であり、岐路に立たされているのは両氏なのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ

【投稿】上海協力機構首脳会議と抗日戦勝80周年記念式典―日本はどこへ

福井 杉本達也

1 天津で上海協力機構首脳会議

中国・天津でSCO(上海協力機構)の首脳会議が開催され、24カ国と9国際組織の首脳が参加した。注目はロシア、中国、インドの結束である。9月1日付けの日経新聞は「中印『対トランプ』で協調演出」との見出しで、習近平主席とナレンドラ・モディ印首相の会談を「両国は202 0年、国境係争地で軍事衝突し関係が悪化したが、一方的な関税引き上げを繰り返すトランプ米政権に対抗する思惑から接近。関係を発展させる姿勢を演出した。」と報じた。また、ロシアのプーチン大統領とインドのモディ首相が同じリムジンに乗って移動するなど親密さをアピールした。

インドはこれまで、アメリカ、オーストラリア、日本とクワッドを編成、軍事的な連携を強めているように見えたが、トランプ関税の圧力がかえって、アメリカの服従することを拒否した。トランプ政権のインドに対する圧力は逆効果となった。トランプ大統領は年内にインドを訪問する計画をキャンセルせざるを得なくなった。

8月28日、「英海軍の空母『プリンス・オブ・ウェールズ』が東京国際クルーズターミナルに入港した。海上自衛隊などと共同で訓練し、米軍横須賀基地(神奈川県)で整備を受けた。海洋進出を強める中国を念頭に、英軍の主力装備が極東アジアで活動できる能力を示した。」(日経:2025.8.30)。5月にスエズ運河からインド洋に入り、マラッカ海峡を抜けて日本に来たものだが、中国のエネルギー供給ルートを遮断する目的を持っていると思われるが、肝心のインドが中国に接近する中では、浮かぶ棺桶となろう。

一水会の木村代表は「米国の流れに引きずられて、日本が過度に敵対的になることは、国益を失います。上海協力機構に参加する国々は日本の周辺に多く存在しています。ロシアや中国、さらにインドという国々がこの機構にいるわけですから、地政学的な視点とそれらの国々の経済発展の流れを我々も受け止めて見なければなりません。」「私の視点で言えば、米国との関係を強化するだけではなく、上海協力機構にも足場を築く必要があり、同じような間隔で見ていくということも必要です。日本は主体的に戦略を考えていかなきゃいけない。政治においても、経済においても、さらには文化においても、戦略的に考えていかなきゃいけないと思います。」と語っている(Sputnik日本2025.8.3)。

2 「抗日戦争勝利80年」記念式典

中国は9月3日、北京市中心部の天安門広場周辺で抗日戦争勝利80年を記念する軍事パレードを実施した。式典にはロシアのプーチン大統領・北朝鮮の金正恩総書記、そして、プーチン氏の横にのプラボウォ・インドネシア大統領が首都が騒乱状態であるにもかかわらず駆け付けた。マレーシア首相夫妻も出席。韓国は国会議長を派遣。台湾最大野党の国民党の洪秀柱元主席も出席した。イラン大統領も出席した。しかし、日本は出席どころか他国に出席しないよう工作した。これは日本が日中戦争の誤りを受け入れないというメッセージを中国側に送ったことになる。日本外交の大失態である。鳩山由紀夫元首相が列席したのはせめてもの救いである(日経:2025.9.4)。鳩山氏の出席を邪魔しようとした国民民主党の玉木雄一郎は完全に米ネオコンの使い走りである。

ところで、今回、金正恩氏が習近平氏・プーチン氏と演壇に並んだということは、北朝鮮が世界の孤児から国際的表舞台に完全に復帰したことを意味する。これは、朝鮮戦争の終結にも影響する。これに対し読売新聞は「中国とロシア、北朝鮮の首脳が北京に結集し、米国に対抗する姿勢を誇示した。戦後80年にわたって世界の安定を支えてきた国際秩序の転換を図る試みにほかならない。」としつつ、「戦後の国際秩序を主導してきた米国の影響力が相対的に低下したことが、中露朝を勢いづかせているのは間違いない。特にトランプ大統領は『米国第一』を掲げ、自由貿易や法の支配を軽視する姿勢が際立っている。高関税政策で同盟・友好国に厳しい要求を突きつける一方、ロシアや北朝鮮などの独裁的な指導者との『取引』にも前向きだ。」(読売:2025.9.4)と書いている。戦後80年たっても、過去の侵略を「反省」もせず、アジア大陸諸国や東南アジア諸国に背を向け、孤立を深めるのは日本ではないか。

 

3 都合の悪い過去の敗戦の歴史を消そうとする日本

日本は第二次世界大戦をいつ終えたか。日本が戦っていた相手の首脳、英国のチャーチル首相、米国のルーズベルト大統領、ソ連のスターリン等は1945年9月2日の降伏文書に日本側、連合国側が署名した時を持って敗戦という。したがって、中国は翌日の9月3日に「抗日戦争勝利80年」記念式典終戦記念日を行ったのである。「8月15日」というのはごまかしであり、トリックである。戦争には当然相手がある。相手が正式に認めもしていない日を持って戦争が終結するわけではない。「敗戦」を「終戦」という言葉に置き換え、80年も経過してしまったのが現在の日本である。

石破茂首相は、戦後80年を踏まえた先の大戦への見解に関し、日本が降伏文書に調印した9月2日の表明を見送った。これまで、国際法的に戦争が終結したのは1945年9月2日だとたびたび言及していた(福井:2025.9.3)。石破首相は言葉にしたことを一つも実行することなく、9月7日には辞任を表明し、侵略戦争を肯定する保守層の圧力に屈してしまった。

保阪正康は「終戦と敗戦という言葉の混乱は、日本人が戦争を理解するある種の知的な能力を持っていなかったことの証拠」であるとし、「大衆は二重、三重に」・「戦争中もなめられ、戦争が終わったときもなめられ、戦後もなめられ」ている。「日本人はこうした状態から抜け出て、自立していかなければならない」と書いている。これに白井聡は「米中対立が対決にまで発展するかもしれない」、「実際に武力衝突ということになると、日本は強制参戦することに」なると応えている(『「戦後」の終焉』白井聡×保阪正康:朝日新書:2025.8.30)。

4 シベリアの力Ⅱ

9月2日、ロシア、中国、モンゴルの三カ国3カ国は「パワー・オブ・シベリア2(POS2)」パイプラインに関する法的拘束力のある覚書に署名した。全長約2,600km、推定費用約136億ドルのこのパイプラインは、年間500億立方メートルの天然ガスをモンゴル経由で中国北部の工業地帯へ輸送する。「検討中の米中LNGプロジェクトにとって、これは大きなマイナスとなる。長期的な成長のために米国のLNGは必要ないという中国政府から米国政府へのシグナルとして捉えており、両国関係が悪化する中で送られたメッセージである」(RT:2025.9.2)とブルームバーグは書いた。単価の異常に高い米国産LNGなど一考に値しない。ましてや、日本が5500億ドルの投資の一部でアラスカ産LNGに参画するという投資詐欺とは比べようもない。

日本もそろそろインドの様に米国と縁を切る時期に来ている。サハリン2やアークテック2の事業を推進すべきである。サハリンから海底パイプラインで北海道を経て本州まで運べはガスの価格はLNGの1/3である。エネルギー価格は劇的に下がる。当然、ガス火力発電による電気料も劇的に下がり、産業の国際競争力は大きく改善する。ドイツ経済の生産性が高かったのはロシアからの天然ガスパイプラインに依存していたからである。そのパイプラインの破壊を許したため、ドイツ経済はいまがたがたである。「ヨーロッパの⼤製造業⼤国であるドイツは、パンデミック以来停⽌しています。国内総生産は5年間停滞している。ドイツの実質企業投資は、ユーロ圏全体よりも深刻に落ち込んでいる。ドイツの実質家計消費は打撃を受けている。ドイツ政府は⻄側諸国の政策に奴隷的に従ってきた。ロシアからの安価なエネルギーへの依存を終わらせ、重要なノルドストリーム‧ガス‧パイプラインの爆破にも同意した。その結果、ドイツの家庭のエネルギーコストが⾼騰しました。しかし、ドイツ資本にとってより重要なのは、製造業者のエネルギーコストの上昇です。経済から⼒が消えた。ロシアから輸⼊された安価な化⽯燃料は、制裁とウクライナ戦争をめぐるロシアとの決別の⼀環として廃⽌された。アメリカ産の⾼価なLNGに 取って 代わられたため、電気代が⾼騰している。ドイツ商⼯会議所(DIHK)は 、『エネルギー価格の⾼騰は、企業の投資活動、ひいてはイノベーション能⼒にも影響を及ぼします。産業企業の3分の1以上が 、エネルギー価格の⾼騰により、現在、中核的な運⽤プロセスへの投資が減っていると述べています。』」(『CADTM』 マイケル・ロバーツ:2025.2.22)。防衛産業に軸を移しロシアとの戦争経済を推進するというが、またまた破滅への道を進むこととなる。

残念ながら、日本の与野党にはロシアとの外交を改善すると公約する政党は一つもない。対米従属に「安住」する政党ばかりである。

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【投稿】「悪意のない差別」?

9/13付けの「しんぶん赤旗」に、「悪意のない差別」と題して、
作家のアルテイシアさんが、典型的な以下の4例を挙げて、
対処の仕方を書かれている。

● マンスプレイニング man-splaining 主に男性が説明・説教
● マンタラプト man-terrupt 主に男性が女性の発言を遮る
● ヒピート he-peat 女性の意見は無視、男性が言うと評価
● ヒムパシー him-pathy 性加害の男性に同情・擁護

これらは、政財界はもちろん、労組・社会運動幹部にもよく見られるが、
トランプ米大統領の女性蔑視・白人優越主義・排外主義とも通底している。

共産党の小池書記局長の田村委員長に対する、同様の「差別」が
問題視され、否定や釈明に追われたのはまだ最近のことである。
小池氏は、「強く叱責する」自らのパワーハラスメントを認め、
「深刻な反省と自己改革が必要」と謝罪したのは、2022年である。
これらの「悪意のない差別」は、本人に自覚があろうがなかろうが
本質的には、根底に「悪意」と「差別」があるからであろう。

誰もが、多かれ少なかれ、自覚・反省すべきことではあるが、
赤旗紙に掲載されたことは、いまだ脱し切れていない現状への、
共産党の旧態依然たる、党内民主主義など存在しない現状への、
党の改革など眼中になく、これら悪弊が跋扈している現状への、
そして、共産党の後退に歯止めがかからない、深刻な現状への
筆者の意図せざる、「大いなる皮肉」、警告とも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】選択迫る「平和か戦争か、対話か対決か」

<<抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会>>
9/3、中国・北京で開かれた「中国人民抗日戦争・世界反ファシズム戦争勝利80周年記念大会」で、習近平国家主席は、その冒頭演説で、「人類は再び平和か戦争か、対話か対決か、ウィンウィンかゼロサムゲームかの選択を迫られている」という言葉を強調した。
もちろん、選択は、「世界は平和を求め、戦争を望まない。対話を求め、対抗を望まない。ウィンウィンを求め、ゼロサムを望まない」と断言している。
演説は最後に、「新時代の新たな道のりにおいて、全国各民族は中国共産党の力強い指導のもと、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、「3つの代表」重要思想、科学的発展観を指導思想として堅持し、新時代の中国の特色ある社会主義思想を全面的に貫徹し、中国の特色ある社会主義の道を揺るぎなく歩み、偉大な「抗戦精神」を受け継ぎ発揚し、精神を奮い立たせ、勇敢に前進し、中国式現代化によって強国建設と民族復興の偉業を全面的に推し進めるために、団結し奮闘しましょう。」と結んでいる。

この記念大会には、駐中国米国大使のデビッド・パーデュー氏は、出席を辞退したが、

多くの来賓や各国首脳に加え、オーストラリア、日本、ニュージーランド、ベルギー、イタリア、ギリシャ、ハンガリー、ルーマニア、スイス、ブラジルの元指導者や政治家も出席している。

そして、北京市中心部の天安門広場一帯で5万人を超える観衆を前に、展開された大規模な軍事パレードでは、プーチン大統領や金正恩総書記らも見守る中、1万人以上の兵士が動員され、中国の増強・近代化された軍事力を誇示するかのように、次から次へと新兵器が公開された。
 米本土を射程に入れ、核弾頭が搭載可能なSLBM=潜水艦発射型の弾道ミサイル・「巨浪3」など、新型のICBM=大陸間弾道ミサイル、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイル、新型の極超音速ミサイル、それに無人戦闘車両のほか、4足歩行のロボット兵器まで相次いで公開し、中国の軍事力の増強が並々ならぬものであることを国内外に強くアピールしたのであった。
結果的にこのパレードは、単なる歴史的記念行事ではなく、米一極支配崩壊過程での地政学的なパワーバランスの急速な変化と中国の軍事力の強大化を印象付けたものと言えよう。

<<トランプ:「歴史的な方法で軍を再建、抑止力の再確立」を指示>>
9/3、この事態に慌てたトランプ米大統領は、北京で記念式典が行われている最中に、自身のプラットフォーム・Truth Social で、習近平国家主席に対し、「素晴らしい、そして永遠に続く祝賀の日」を祝す、と言いながら、「あなた方はアメリカ合衆国に対して陰謀を企てている」として、習近平主席、プーチン大統領、金正恩委員長を陰謀家として描いたのであった。
 トランプ氏はさらに、ラジオインタビューで、「もし彼らが米国に対する軍事行動を検討すれば、それは彼らにとって最悪の事態になるだろう」と述べ、アラスカでのプーチン大統領との首脳会談がウクライナ停戦の仲介に失敗したことについて、プーチン大統領への失望を表明している。
同じ9/3、米国防総省のピート・ヘグゼス長官は、FOXニュースのインタビューで、ヘグゼス長官は、北京で行われた中国の大規模な軍事パレードについて、「残念ながら、前政権の弱さがロシアと中国の接近を招いた。これは、アメリカのリーダーシップと力の欠如による、恐ろしい事態だ」と述べ、「しかし、だからこそトランプ大統領は国防総省に対し、備えを万全にし、歴史的な方法で軍を再建し、戦士の精神を取り戻し、抑止力を再確立するよう指示したのだ」と、大統領の指示を確認、「米国はロシアや中国との対立を望んではいないものの」、「戦略的優位性を維持する」ことを目指していると明言したのであった。
これは、新たな軍拡競争再開宣言、とも言えよう。

求められているのは、新たな軍拡競争の再開ではなく、対話と緊張緩和と平和外交、そして軍縮なのである。そのためのイニシャティブこそが、トランプはもちろん、習近平、プーチン、金正恩にも突きつけられているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】上海協力機構サミット vs. 米欧覇権の終焉--経済危機論(169)

<<冷戦思考・関税圧力に反対する「天津宣言」>>
2001年に設立された上海協力機構(SCO)の首脳会議が、20カ国以上の首脳に加え、国際機関の代表者も参加し、8月31日から9月1日まで中国の天津で開催された。
加盟国は、インド、イラン、カザフスタン、中国、キルギスタン、ロシア、タジキスタン、パキスタン、ウズベキスタンであり、2024年7月4日、ベラルーシが正式に加盟、オブザーバー国として、アフガニスタンとモンゴル、対話パートナー国に、アルメニア、アゼルバイジャン、バーレーン、エジプト、カンボジア、カタール、クウェート、モルディブ、ミャンマー、ネパール、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、トルコ、スリランカが参加している。
 これら諸国の首脳が出席する、SCO史上最大規模の首脳会議となったわけであるが、そのような事態を強力に推し進めたのは、当事国の努力はもちろんであるが、トランプ米大統領の全世界に対する無法かつ不当な関税戦争であったことは間違いない。

SCO首脳会議が採択した「天津宣言」は、「国際システムがより公正で平等な多極化の方向へ進化している」一方で、「地政学的対立は激化の一途をたどっている」と指摘し、「加盟国は一方的な経済制限措置に反対する」ことを明確に確認し、さらに、「冷戦思考」として「他国の内政干渉への反対」、「イスラエルとアメリカがイランを攻撃したことに対する強い非難」の文言まで盛り込まれている。

その「他国の内政干渉」への象徴が、「インドは石油や軍事製品のほとんどをロシアから購入」している、「ウクライナ戦争を煽っている」として、トランプ政権が対インド、50%関税という途方もない「一方的経済制限措置」を強行したことであった。トランプ大統領は、インドは米国の脅しに屈し、ロシアからの原油購入停止に同意する以外に選択肢がないと考えたのだろう。
ところが、事態はトランプ氏の思い通りにはいかず、対中国戦争でインドを同盟国の位置付けまでしていたはずが、トランプ氏にとってはむしろ最悪の事態に自らを追い込んでしまったのである。

今回、7年ぶりに訪中したモディ首相は、インドがロシアからの原油購入をやめるつもりはないことを示唆すると同時に、「相互信頼、尊重、そして感受性」に基づき、中国との関係を前進させていくというインドの明確な決断を表明し、中国の習主席は「世界は変革に向かっています。中国とインドは、最も文明的な二国です。私たちは世界で最も人口の多い二国であり、グローバル・サウスの一部です。…友人であり、良き隣人であり、龍と象が共に歩むことが不可欠です…」と応じ、モディ首相と習近平主席は、両国は「開発パートナーでありライバルではない。相違点を紛争に発展させるべきではない」と宣言し、強調する、中国・インドの関係改善・協力強化をもたらしたのであった。

ニューヨーク・タイムズ紙は、「中国東部で、ほぼ間違いなく世界の反対側の聴衆に向けた光景が見られた。西側諸国と連携しない三大国、中国、ロシア、インドの首脳が、月曜日のサミットでまるで親友のように笑顔で挨拶を交わした」、「インドのナレンドラ・モディ首相とロシアのウラジーミル・V・プーチン大統領が手をつなぎ、世界の首脳で埋め尽くされた会議場へと歩みを進める。二人はまっすぐ中国の習近平国家主席のもとへ向かい、握手を交わし、円陣を組む。通訳が加わる前に数言交わす。プーチン大統領は満面の笑みを浮かべ、モディ首相も大きな笑い声をあげる。ある場面で、モディ首相は両首脳と握手を交わす。」、タイムズ紙はさらに、SCO首脳会議は「中国とロシアに、イラン、カザフスタン、キルギスタン、ベラルーシ、パキスタンといったパートナー国を結集する場を与えた」と報じている。

 9/1、こうしたモディ首相と習近平主席、プーチン大統領の和気あいあいたる会談に反発して、トランプ大統領は米印貿易を「一方的な大惨事」と非難し、怒りをぶちまける声明を自身のメディア・Truth Socialに投稿している。
「あまり知られていないことですが、インドとは米国との取引はごくわずかですが、インドは米国と莫大な取引を行っています。言い換えれば、インドは最大の「顧客」である米国に大量の商品を売ってくれますが、私たちもインドにほとんど商品を売っていません。…完全に一方的な大惨事でした!また、インドは石油や軍事製品のほとんどをロシアから購入しており、米国からはほとんど購入していません。インドは現在、関税をゼロに引き下げると提案していますが、手遅れです。何年も前にそうすべきでした。これは、皆さんに深く考えていただくための単純な事実です。」
「手遅れ」なのは、トランプ氏自身であろう。

<<「傍観者、もしくは敵対者」>>
今回のSCOサミットのキーポイントとしては、
* SCO加盟国を結束させる原則として、内政不干渉、主権尊重、武力行使または武力による威嚇の拒否、そして一方的な制裁を強制手段としての反対を明確に確認した。
* 天津宣言の中で、これら「一方的な強制措置」が、「国際法を損ない」、世界貿易機関(WTO)および国連憲章の規範に反する、ことを明確にした。
* SCOは、国連憲章に正当性を確固たるものにすることで、米欧・西側諸国の一方的な「ルールに基づく」枠組みが、その原則に反するものであるものと位置付けてた。
* SCO は世界人口の 41%、世界 GDP (購買力平価) の 34%、世界陸地面積の 24% を占め、さらに拡大することが確実になっている。
* そしてSCOは、西側諸国の支援や拒否権を必要としない並行システムとして既に機能し、拡大、発展している現実を世界に示した。

 SCOサミットは、さらに、以下の重要な具体的成果と展望、国際的課題の解決への取り組みを明らかにしている。
* 上海協力機構の銀行からBRICSへの融資、そしてASEANとGCC間の潜在的な協調まで、西側諸国の監視なしに行動できる手続き上の道筋が確立された。
* SCOが、BRICSを補完する機関として多極化プロセスをより一層加速させる軌道を確固たるものにした。
* 新開発銀行の設立と自国通貨建て貿易の推進により、BRICSは現在、西側G7に対抗できる世界貿易発展の重要な役割を担う段階に至っている。共同投資やインフラプロジェクトへの資金提供にとどまらず、加盟国が西側諸国の金融メカニズムへの依存を減らし、制裁の影響を緩和する上でも大いなる前進である。
* アジアの貿易と基準を形成する10カ国からなる東南アジア諸国連合(ASEAN)は、SCOおよびBRICSのプロジェクトとの連携を強めている。
* バーレーン、エジプト、カタール、クウェート、サウジアラビア、UAEは既にSCOの対話パートナーであり、湾岸協力会議(GCC)とこれら6つのアラブ諸国は、より広範な石油輸出国機構(OPEC+)を通じて政策を調整し、主要な原油供給のコントロールを可能にしている。
* サミットではまた、人工知能(AI)による安全保障上の脅威の防止、軍事協力の深化、核兵器不拡散条約(NPT)の厳格な履行の維持に向けて協力する共通の意思も強調された。彼らは、すべての国がインターネットを規制し、自国のデジタル空間を管理する主権的権利を有することを再確認した。
* SCOは、麻薬密売対策における協力強化への支持を表明し、宇宙空間を武器のない領域として維持することを提唱した。また、国連安全保障理事会によるイランへの制裁を復活させる「欧州3カ国」の取り組みには、そのような行為は違法であるとして反対を表明した。
* SCOは、中央アジア中核諸国だけでなく、ベラルーシ、イラン、パキスタンの大統領も出席し、マレーシア、アルメニア、アゼルバイジャンは正式加盟への関心を示した。こうした参加者の多様性は、SCOがユーラシアを越えて、政治体制と開発モデルの多様性に根ざした、新たなグローバリゼーションの中核へと進化していることを示している。

このような事態の進展は、「自国ファースト」「自国第一」路線ではなく、多国間協力・協調、世界の緊張緩和と平和への前進にとって不可欠なものであろう。問題点や矛盾点が広範に存在しているとはいえ、それらを克服する粘り強い、絶え間ない努力こそが要請されている。
ところが、この前進への過程に、米国はもちろん、日本を含むG7、欧州連合(EU)は、「傍観者、もしくは敵対者」でしかない、まさに米欧覇権の終焉、そのような現状こそが、国際的な政治的・経済的危機を深化させているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】トランプ関税、再び違法判決--経済危機論(168)

<<ただし、判決は10月14日まで「一時停止」>>
8/29、米連邦巡回控訴裁判所は、トランプ大統領が国家非常事態を宣言し、地球上のほぼすべての国に広範な輸入税を課すことを正当化するには行き過ぎであり、「関税などの税を課す議会の中核的な権限は、憲法によって立法府にのみ付与されている」との判決を下した。つまり、トランプ関税は、違法である、と。
この判決は、5月にニューヨークの専門連邦貿易裁判所が下した判決を概ね支持するものであった。裁判所は関税そのものが違法だとは言っているわけではない。関税を課す際に用いた手続き、つまり経済緊急事態を宣言し、議会で法案を可決することもなく関税率を設定するという手続きが違法だと判断したのである。ここで、指摘されるべき重要な点は、トランプ氏自身が自ら招いた完全に自業自得の災難に直面しているということであろう。共和党議員が多数を占めている議会をさえ無視して、非常識・非合法な貿易政策を強行したことである。

この判決はさらに、緊急時権限の濫用をも禁止している。IEEPA(国際貿易促進法)は、資産凍結と敵国への制裁を目的として制定されたものであり、世界貿易の構造を再構築するためのものではない、との判決である。トランプ政権は、IEEPAは大統領に、国家緊急事態に対処するために必要だと判断した場合、あらゆるレベルで国別関税を効果的に課す権限を与えていると主張し、都合よく、関税の武器に変えたのであるが、判決はそれをも違法としたのである。

ただし、控訴裁判所は7対4で、トランプ政権が米国最高裁判所に上訴できるよう、10月14日まで判決の「一時停止」を決定している。最高裁判所がこの訴訟を審理するかどうかは未定であるが、トランプ支持判事が多数を占める最高裁判所であり、覆される可能性が大であるが、逆転させた場合の孤立を恐れて、あるいは躊躇し、単に訴訟を審理しないことで控訴裁判所の判決をそのまま維持し、10月14日に効力を発する可能性も指摘されている。

また、今回の判決は、商務省の調査で輸入品が米国の国家安全保障に対する脅威と結論付けられた後に大統領が課した外国製鉄鋼、アルミニウム、自動車への関税など、トランプ大統領が課した他の関税には適用されてはいない。

この訴訟は、米12州が起こした訴訟と米国の中小企業5社が起こした訴訟の2つの別々の訴訟を統合したものであり、トランプ政権にとっては、重大な敗北であり、強烈な痛手である。
この訴訟で中小企業原告団を代理したリバティ・ジャスティス・センターの弁護士ジェフリー・シュワブ氏は。、「この訴訟で連邦裁判所が大統領のいわゆる『解放記念日』関税は違法であるとの判断を下したのは2度目である」と述べ.、「この決定は、違法な関税によって引き起こされる不確実性と損害からアメリカの企業と消費者を守るものだ」と強調し、シュワブ氏の共同弁護士ニール・カティアル氏はさらに、「今日の判決は、建国の父たちが我が国の中核として掲げた憲法上の約束、特に大統領は法の支配の範囲内で行動しなければならないという原則を力強く再確認するものである」と声明で述べている。

 もちろん、トランプ氏はこの判決を激しく非難し、「もしこの判決が認められれば、文字通りアメリカ合衆国は破滅するだろう」と、彼は自身のソーシャルメディアに書き込んだ
「すべての関税は依然として有効だ!本日、極めて党派的な控訴裁判所が、関税を撤廃すべきだと誤って判断したが、最終的にはアメリカ合衆国が勝利することを裁判所は理解している。もしこれらの関税が撤廃されれば、国にとって壊滅的な事態となるだろう。財政的に弱体化するだろう。だからこそ、我々は強くならなければならない。」アメリカ合衆国は、敵味方を問わず、他国が課す莫大な貿易赤字、不公平な関税、そして非関税貿易障壁を、もはや容認しません。これらの措置は、製造業者、農家、そしてその他すべての人々を蝕むものです。もしこの決定がそのまま容認されれば、アメリカ合衆国は文字通り破滅するでしょう。レイバーデーの週末を迎えるにあたり、私たちは皆、関税こそが労働者を助け、優れた「メイド・イン・アメリカ」製品を生産する企業を支える最良の手段であることを改めて認識すべきです。長年にわたり、無思慮で愚かな政治家たちは、関税を不利に利用してきました。今、合衆国最高裁判所の助けを借り、私たちは関税を国家の利益のために活用し、アメリカを再び豊かで強く、力強い国にしていきます。この件にご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。」

<<「私は生きています」>>
ハワード・ラトニック商務長官は裁判所への宣誓供述書で、トランプ大統領がIEEPAに基づいて課した関税を撤廃すれば「現在および将来にわたり、米国とその外交政策および国家安全保障に甚大かつ回復不能な損害を与えることになる」と述べ、さらに「このような判決は、国内外における米国の幅広い戦略的利益を脅かし、外国貿易相手国による報復や合意済み取引の解消につながる可能性があり、外国貿易相手国との重要な継続交渉を頓挫させるだろう」と述べている。
さらに、トランプ大統領の関税が撤回された場合、徴収した輸入税の一部を返還せざるを得なくなり、財務省に財政的打撃を与える可能性があると主張している。関税による歳入は7月までに1590億ドルに達し、前年同時期の2倍以上に増加している。実際、司法省は提出した法廷文書で、関税撤回は米国にとって「財政破綻」を意味する可能性があるとまで警告している。
ましてや、関税回避のために生産体制を再構築した企業は、今やプロジェクトは遅延し、資本は凍結され、サプライチェーンは停滞、混迷している。トランプ大統領が新たな回避策を繰り出せば、不確実性はさらに深まる。

当面直面する重大な問題は、この連邦巡回控訴裁判所の判決により、「政権は数十億ドル相当の関税を返還せざるを得なくなる可能性がある」と報道され、関税・貿易専門家が最近「返還は物流上の悪夢となり、他の企業や業界団体による返金を求める訴訟の波を引き起こす可能性が高い」と警告していることである。

しかも、還付メカニズム、還付を処理するシステムは事実上存在していないし、インフラもない。あるのは混乱と不信のさらなる増大だけである。
全米小売業協会(National Retail Federation)は、「小売業者は通常、6~9ヶ月先まで在庫計画を立てている…予測不可能で急速に変化する関税政策は、コスト予測、発注、サプライチェーンの効果的な管理をほぼ不可能にしている。」と、麻痺状態を警告している。

8/30、偶然、というか、ピタリと一致したのか、「トランプ死去」というフェイクニュースが爆発的に拡大、ソーシャルメディアでトレンド入りしている。
きっかけは、J・D・ヴァンス副大統領の「トランプ氏が亡くなった場合、私は辞任する準備ができている」という発言からであった。トランプ大統領に何かあった場合、ヴァンス氏が大統領職を引き継ぐ用意があるという主旨であったが、反トランプ派のユーザーが「悪人を悼む者はいない」と書き込み、トランプ米大統領が2025年8月30日に亡くなったという「トランプ死去」、「ドナルド・トランプ、79歳で死去」のフェイクニュースとなり、爆発的に広がり、国旗が半旗に下げられ、数時間も経たないうちにインターネットは大統領死去のフェイクニュースを拡散したのであった。

慌てたトランプ氏は、自らのメディアで、
「ソーシャルメディアで『私が死んだ』というフェイクニュースが流れていますが、間違いです! 私は生きています。 強いです。
関税はこれまで以上に増額され続けるでしょう。
ノーベル賞を受賞するまで(私は絶対に受賞に値するのです)、私はどこにも行きません。この件にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。トランプ万歳!」と書き込んでいる。

イスラエル・ネタニヤフ政権のガザ虐殺に、バイデン政権以上に加担し、無法なイラン爆撃まで強行しておいて、何が「ノーベル賞を受賞に値する」というのか? あきれるばかりであるが、トランプ氏も必死である。

現在、米国の株式市場は、歴史的記録高に達しており、1929年の世界恐慌、1965年の危機前のピーク、そして1999年のドットコムバブル崩壊といったバブルの水準さえも上回り、S&Pは過去100年間で世界が経験したどのものよりも高値を記録している。日本の株価もつられて記録を塗り替えている。インフレとバブルの高進、実体経済、資産の基礎的価値との広がる乖離、そして関税をめぐる混迷は、経済的危機、そして政治的危機が抜き差しならない段階に突入しつつあることの警鐘でもある。
(生駒 敬)

 

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【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)

【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)

 リベラシオン社のホームページを運営されてきた岩田吾郎さんが、去る6月28日和歌山県で登山中に事故で亡くなられた。
 リベラシオン社のホームページは、ブンド(共産主義主義者同盟)関係を中心にした新左翼、市民運動情報、学生運動の歴史資料などを幅広く紹介されてきました。
 岩田さんは一人で、このサイトを運営されていたと思います。様々な情報が岩田さんの元に届くという背景があり、同報メールで、そうした最新情報を、私にも送ってくださいました。
 本年6月22日のメールが最後になりました。最近岩田さんのメール配信が止まっているな、とは気が付いていました。数年前、手術のため入院された時は、事前にお知らせメールもいただいていましたが、今回は突然の配信停止で心配していたところでした。
 
 岩田さんとは、お会いしたことがありません。2019年のこと、Assertのホームページで、大阪市大ビラコレシリーズとして、1960年代後半に大阪市大で配布された「ガリビラ」をデジタル化する作業をしていた頃、岩田さんからメールをいただいたのが、お付き合いの始まりでした。
 1967年10月8日の「羽田闘争」を扱った「大阪市大新聞」もアップしていたのですが、岩田さんから、リベラシオン社のホームページへの転載を許可されたい、との内容でした。他にも、社学同市大支部や赤軍派のビラについても、同様に転載依頼をいただきました。小生は、「どうぞご自由に活用ください」と返答。以来、岩田さん発出の同報メールをお送りいただくようになりました。
 小生は、かねて「時代の総括」が必要だと考えております。レボラシオン社のホームページが、ブンド関連に留まらず、新左翼全般、そして関西の学生運動や構造改革派の歴史的資料を公開されていることについて、その編集姿勢に感服しておりました。
 
 岩田さん無き後も、レボラシオン社のホームページが継続されることを願うばかりです。 岩田吾郎さんの取り組みに感謝しつつ、謹んで哀悼の意を表する次第です。
(佐野秀夫)

 
 リベラシオン社のホームページ : http://www.0a2b3c.sakura.ne.jp/

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【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価

【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価

                             福井 杉本達也

1 米ロ首脳会談の評価について

米ロ首脳会談の評価について、一水会の木村三浩代表は8月16日付けの『Sputnik日本』において「「プーチン大統領、ラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官が会談に臨み、忌憚のない意見交換ができたということはよかった。いろいろ意見を交換し合い、生産的にどうやって解決していくかということを率先したというところに、今回の米露首脳会談の意義がある。それを米国で実行したトランプ大統領の手腕を高く評価するべきだと思っている」と語っている(Sputnik日本:2025.8.16)。

これに対し米CSISに近い日経新聞のコメンテーター・秋山浩之氏は「トランプ氏は米同盟国を遠ざけ、独りで中口と交渉しようとしている。プチーン氏と習氏は密に連携しており、トランプ氏は手玉にとられる恐れが大きい。…ウクライナの停戦交渉をめぐっては、1938年のミュンヘン会議の教訓がよく引き合いに出される。ヒトラーの要求に屈し、チェンパレン英首相らは同会議で、チェコスロパキアの一部割譲を認めてしまった…ヤルタとミュンヘンという2つの亡霊を、世界は封じ込めなければならない」(日経:2025.8.17)と述べ、あくまでもウクライナ戦争の継続を主張している。

2 極めて危険な局面にあった米ロ

ドミトリー・ノビコフ高等経済学院准教授は「戦術的に、ロシアは再び交渉のペースを掌握することに成功した。クレムリンは、脅迫や圧力戦術で表れたトランプの不満の高まりを緩和した。このエスカレーションが続いていれば、ウクライナ交渉だけでなく、二国間関係正常化のプロセス全体が脱線する危険があった。…戦略的には、両者が利益を得たと言える。なぜなら、核保有大国間の意味のあるコミュニケーションが存在すること自体が、本質的にポジティブな結果だからである。ワシントンからの信号を見る限り、トランプ政権もその見方を共有しているようだ。…トランプはモスクワとの関係リセットに真剣だ。彼はロシアとの交渉を、欧州での戦略的目標を達成するためのより安価で効率的な手段と見なしている。そのため、即時のメディア的な成果や派手な突破口が得られなくても、真剣な対話にオープンな姿勢を示している。」(「電撃戦も敗北もない」会談後のロシア論評者の反応:RT:2025.8.18 池田こみち訳)と述べている。

周知のように、米ロ首脳会談の直前まで、「トランプ米大統領はロシアが停戦に応じない場合に追加制裁を科すと警告」する一方、ロシアのメドべージェフ安全保障会議副議長(前副大統領)は米国について『ロシアに対して最後通牒(つうちょう)を突きつけるゲームをしている』」と応じた(日経:2025.8.2)。さらにエスカレートしトランプ氏は「適切な海域」に原子力潜水艦2隻を配備するよう命じたと明らかにした(福井:2025.8.3)。加えるに「7月、英国に米国の核弾頭が17年ぶりに配備されたと報じられた。」(日経:2025.8.7)。

ティモフィー・ボルダチェフは「現在の世界では、人類文明を滅ぼす能力を持つ大規模な核兵器を保有する国家は、ロシアとアメリカ合衆国の2つだけなのだ。…この事実だけで、ロシアとアメリカの指導者には、特に現在、世界の端に立つ唯一の無敵の勢力として、互いに直接対話することほど重要な任務はない…ロシア(旧ソ連)とアメリカ合衆国は、過去3年間、両国は何度も破滅への道の一歩手前に立たされた。これが、アラスカが重要である理由だ。たとえ突破口が開かなくてもである。このような首脳会談は核時代の産物である。単なる重要な国家間の二国間会談として扱うことはできない。直接交渉が行われるという事実自体が、私たちが破滅にどれだけ近づいているかを測る尺度なのだ。(「プーチンとトランプ直接会談の理由―今回の会談は破滅を防ぐかもしれない」RT:2025.8.15 池田こみち訳)と述べている。我々は核戦争に対し、あまりにも鈍感である。

3 ウクライナ応援団の犯罪的役割

これまで、テレビ・新聞などに度々出演してきた、小泉悠東京大学准教授・東野篤子筑波大学教授ら「ウクライナ応援団」は、ウクライナ人は最後の一人になるまで戦い続けるので、「この戦争は終わらない」と主張し、ウクライナへの支援を、さらに強化すべきだとしてきた。米ロ会談についても、東野氏は「トランプ氏は負けなかった」というのはなんとも解釈に困る表現です。トランプ氏からすれば得たものがなく、和平に向けた決定打を放ったという感触が得られない会談でした。一方プーチン氏からすれば、…「ロシアにとっては大成功」という評価が可能なのではないでしょうか。プーチン大統領が今回の会談で失ったものはほとんどなかったと思われます。」とコメントした(Yahoo:2025.8.16)が、約7割のウクライナ国民が即時停戦を望んでいるという。さらには、全面核戦争への危険性も非常に高まっていた。「ウクライナは勝たなければいけない」主義の破綻は、最初から明らかであった。今さら全ての責任をトランプ大統領に押し付けても、全面核戦争までも煽ったその犯罪的役割を払拭できるものではない。小泉・東野氏を始め、全てのウクライナ応援団は速やかにマスコミの画面から消え、完全に破綻した軍事学や国際関係論などを教える大学の職なども辞すべきである。

4 日本の針路

木村代表は「米露関係は修復に向けて進んでいくものと思う、我が日本も世界の本当の意味での『平和』ということに関して、欧州がどういうような姿勢を持つか見定めていかなければならない。根本的な平和というものを構築するためには、何をすべきかということも日本も考えていかなければならない。少なくとも米露関係は修復に向かい、そして我が国の中でもきちんとそれを分かっている人たちが、それに賛成していくと思う」と述べている(Sputnik日本・同上)。

また、鈴木宗男自民党参議院議員はブログで「『次回の首脳会談はモスクワですね』という問いかけにプーチン大統領は『そうなるかも知れませんね』と答えている。首都でやることの重みを、ウクライナ戦争を終えらせる決意を示していると私は受け止めた。今回の会談を受け、日本は米ロ同様対ロ制裁を早急に解除すべきである。なぜならばプーチン大統領が訪米したということは少なくともプーチン大統領への制裁は解除されたと受け止めるべきである。 これからの世界はウクライナが中立化し、米ロ関係が改善する中で動いて行く。この流れの中で日本は日米連携し、日ロ関係を正常化していくことが喫緊の課題であることを石破総理以下、司々の人は頭に入れて戴きたい。」(鈴木宗男ブログ:2025.8.16)と書いている。日本は早急に制裁を解除し、真っ先にロシアからの原油・LNG・石炭の輸入を増やし、アークティック2やサハリン2の開発を推し進め、シベリア航空路を再開すべきである。

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【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない

【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない

                             福井 杉本達也

1 重大事故を起こした前歴のある美浜原発を建て替え?

関西電力が美浜原発での次世代型へのリプレース(建て替え)の検討に向け、2011年に中断した1号機(15年に廃炉)の後継炉設置を巡る自主調査を再開する方針を固めたことが18日、関係者への取材で分かった2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、建て替えに向けた動きが具体化するのは圏内初となる(福井:2025.7.19)これに対し、原子力規制委員会の山中伸介委員長は29日の同原発視察後、「近くに大きな活断層があり、敷地内にも多数の断層がある」とし、改めて慎重な調査を求めた。山中氏は「関電の三つのサイト(美浜、大飯、高浜)の中で(美浜は)地質に困難さがあるだろう」との見解を示した(福井・2025.7.30)。

周知のように、美浜原発は関電では最も古い原発である。既に美浜1.2号機の廃炉が決定している。美浜3号機は運転開始から40年を超えた原発として2021年6月に全国で初めて再稼働したが、3号機は2004年8月、「2次系配管」が破損して高温の蒸気が噴き出し、作業員11人が死傷する事故を起こしている。2階の天井付近にあった金属製の2次系配管(外径約56センチ)が破裂した。約140度に加熱された蒸気が一気に噴出。定期検査の準備などをしていた作業員が浴び、やけどなどで5人が死亡、6人が重傷を負った。76年の運転開始以来全く点検がなされず、厚さ約1センチの配管は、水流により、事故時には0・4ミリにまで薄くなっており、水圧に耐えられなくなったためである(読売:2021.9.7)。このような前歴のある発電所を建て替えするとはもってのほかである。20210907★読売「40年超」美浜原発3号機、過去には11人死傷する事故…140度の水が配管破り噴出:写真 _ 読売新聞

 

2 原発の建て替えなんてできるのか?

2011年3月に事故を起こした福島第一原発は、14年を経た現在でもそのままである。メルトダウンした炉心には大量の水が常時注入され続けている。その汚染水をALPSで処理したと自称する放射能汚染水は太平洋に垂れ流しである。大事故で周囲にまき散らされた放射能含む土地は除染されたというが、除染されたと称して「中間貯蔵施設」に一カ所に集められた土壌のうち、8000ベクレル以下の土壌を、環境“汚染”省は全国にまき散らせるべく、とりあえずは首相官邸に持ち込んだという(読売:2025.7.19)。汚染土は1時間当たり0.11マイクロシーベルトの放射線を出すが、年間被曝線量は1ミリシーベルト以下(0.11×24H×365)なので問題ないというのが環境“汚染”省の見解であるが、全くのパフォーマンスである。放射能汚染土を進んで受け入れる自治体などない。

もし、廃炉した原発を解体・撤去するとなれば、原子炉を取り巻くコンクリートや放射能に汚染された金属配管など膨大な廃棄物が出る。これを、知らないうちに埋めてしまおうというのが環境“汚染”省のやりかたである。だれが好んで年間1ミリシーベルトも確実に被曝するような公園や遊歩道のベンチで休憩するだろうか。

核エネルギーを発電に使う場合、そのエネルギーの三分の二を温排水として外部に捨てている。大量の海水で冷却している。化石燃料の燃焼などの化学変化においては数電子ボルトのエネルギー問題である。ところが、原子核現象で100万電子ボルトの問題である。ウラニウム核の核分裂から放出されるエネルギーは約2億電子ボルトである。分子現象とは比較にならぬ桁違いの巨大エネルギーが出される。この膨大な核エネルギーを化学変化レベルの工学技術で原子炉の中に閉じ込めようとしてきたのが原発である。それが地震によって破壊され、膨大なエネルギーが原子炉の外部に放出され、東北・関東の広大な地域が放射性物質で汚染されたのであり、我々の時間間隔では元には戻らない。

3 コバンザメ商法のクリアランス準備会社

美浜原発建て替えの動きに合わせ、福井県や関電が「福井県原子力リサイクルビジネス準備株式会社」を設立した。廃棄される金属類を集中的に溶融処理して再利用につなげる構想であるという。「クリアランスは、放射能レベルが極めて低く健康への影響がほとんどない廃棄物を、国の認可・確認を得て一般の産業廃棄物として再利用、処分できる制度。県の構想では、複数の原発から鉄やステンレスの廃棄物を集め、除染や分別、切断、溶融、測定・評価を集中的に行う。地元企業が元請けに近い立場で処理業務を受注できるようにする」というが(福井:2025.8.2)、他の金属と混ぜて放射能レベルを抑えようというもので、もし、このような試みが実施されるならば、購入したマンションの鉄筋から24時間放射線被曝を受けるという社会が来ないとも限らない。

4 行き詰まる六ケ所村の再処理工場

全国の原発に使用済み核燃料がたまり続けている。福井県内・関電の3原発にある貯蔵プルは、2025年2月末現在で全容量の87%が埋まっている。数年で満杯となる。使用済み核燃料を他に搬出できなければ原発を稼働し続けることはできない。1997年に当時の栗田福井県知事は使用済み核燃料を2010年をめどに県外に搬出するよう求めた。しかし、関電は県外搬出計画を誤魔化し、2025年2月、再処理工場の使用済み核燃料の受け入れが始まる28年度からの3年間、関電は他の電力事業者と調整し受け入れ枠の約6劃を確保。28年度に78トン、29年度に66トン、30年度に54トンを排出する計画を立てた。また、フランスへの搬出を27~29年度に高浜原発から200トンに加え、30~31年度に100トン、31年度以降に大飯原発から100トンを運び出すとしている(福井:2025.2.14)。海外への再処理委託が、どうして県外への搬出か理解に苦しむ。そして、より重要なのは六ヶ所村の再処理工場が動かなければ関電の県外搬出計画は絵にかいた餅となる。関電の3か所の原発は使用済み核燃料

が満杯になることによって稼働停止せざるを得なくなる。

7月17日、武藤経済産業相は杉本福井県知事に対し、使用済み核燃料の主な搬出先となる再処理工場(青森県六ケ所村)の2026年度内の完成目標実現ヘ「官民一体で責任を持って取り組む」と強調した(福井:2025.7.18)が、国主導の原発の再稼働計画の破綻は明らかである。

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【転載】「もし私の言葉があなたに届いたら、 イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知って下さい」

以下は、8月11日のパレスチナ・クロニクルからの転載である。(生駒 敬)

<<「パレスチナをあなたに託します」:アナス・アル=シャリフ氏の最後の遺言>>
イスラエル軍によるガザ攻撃で命を落としたアナス・アル=シャリフ氏は、力強い別れのメッセージ、つまり彼の民、家族、そして世界への最後の遺言を残しました。

アルジャジーラの報道によると、パレスチナ人ジャーナリストのアナス・アル=シャリフ氏とモハメド・クライケア氏は、日曜日にガザ市アル=シーファ病院近くのジャーナリスト用テントを襲ったイスラエル軍の爆撃で死亡しました。

イスラエル軍の無人機による攻撃で、カメラマンのイブラヒム・ザヘル氏とモハメド・ヌーファル氏も死亡しました。イスラエル軍は攻撃直後、アル=シャリフ氏を標的としたことを認めました。

ジャバリーヤ難民キャンプ出身の28歳のアル・シャリフ氏は、受賞歴のあるジャーナリストで、戦争中はガザの重要な発言者となっていました。

ジャーナリスト保護委員会は、わずか2週間前に、イスラエル軍報道官からの度重なる脅迫により、アル・シャリフ氏の命が「深刻な」危険にさらされていると警告していました。

アル・シャリフ氏は、死去前に、もし殺害された場合に共有するための別れのメッセージを用意していました。訃報を受け、家族や同僚たちはそれを彼のソーシャルメディアアカウントに投稿しました。

以下は、そのメッセージの全文です。

<<アナス・アル・シャリフ氏の最後のメッセージ>>
これは私の遺言であり、最後のメッセージです。

もし私の言葉があなたに届いたら、イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知ってください。

まず、あなたに平安がありますように。そして神の慈悲と祝福がありますように。

ジャバリーヤ難民キャンプの路地裏での生活に目覚めて以来、私は持てる力と努力のすべてを捧げ、民の支えとなり、彼らの声となることを願ってきました。神はご存知です。私の望みは、今は占領下にある故郷の町、アスカラーン(アル・マジダル)に、家族や愛する人たちと共に帰還できるまで生き延びることでした。しかし、神の御心が最優先であり、神の御心は最終的なものです。

私はあらゆる苦痛を細部まで味わい、幾度となく喪失を味わいました。それでも、偽りや歪曲することなく、ありのままの真実を語り続けることを決してやめませんでした。沈黙を守り、私たちの殺害を受け入れ、1年半以上も私たちの民が耐え忍んできた虐殺を止めるために何もしなかった人々について、神が証人となるためです。

私はあなたに、イスラムの王冠の宝石であり、この世界のすべての自由な人々の鼓動であるパレスチナを託します。イスラエルの爆弾とミサイルによって、清らかな肉体が砕かれたこの地の民と子供たちを、私はあなたに託します。

鎖に沈黙させられることなく、国境に束縛されることなく。尊厳と自由の太陽が、奪われた祖国に昇るまで、この地と人々の解放への架け橋となりなさい。

私の家族をあなたに託します。愛する娘シャム、愛する息子サラー、祈りが私の砦であった母、そして私の不在の間、力強く信仰をもって責任を果たしてくれた揺るぎない妻バヤン(ウム・サラー)。神の御許にあって、彼らと共にありなさい。

もし私が死ぬとしても、私は自らの信念を貫き、死にます。私は神の定めに満足し、神の御前に出ることを確信し、神の御前にあるものはより良く、永遠であると確信していることを証します。

神よ、私を殉教者の一人として受け入れ、私の罪を赦し、私の血を、民の自由への道を照らす光としてください。もし私の言葉が足りなかったなら、お許しください。そして慈悲深く私のためにお祈りください。私は誓いを守り、決して変わることはありません。

「ガザを忘れないでください…そして、祈りの中で私を忘れないでください。」

アナス・ジャマル・アル=シャリフ  2025年4月6日

<<アナス・アルシャリフとは?>>
以下は、パレスチナ最大の独立系ニュースネットワークQNN(Quds News Network ) 2025年8月11日 からの転載である。

* アナス・ジャマル・アルシャリフ氏は1996年12月3日、ガザ地区北部のジャバリア難民キャンプで生まれた。イスラエルによる度重なる戦争の中で育ち、キャンプ内の混雑した路地を歩き回って幼少期を過ごした。
* 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)とパレスチナ教育省が運営する学校で教育を受けた。2014年、アルアクサ大学に入学し、ラジオとテレビを学び、2018年に卒業した。
* アルシャリフ氏は、シャマル・メディア・ネットワークのボランティアとしてメディアのキャリアをスタートさせ、その後、アルジャジーラのガザ地区特派員として勤務した。
* 荒廃とイスラエルによる飢餓の渦中にあるジャバリアとガザ市を拠点に、彼は前例のない光景を世界に伝えた。夜、飢えに泣き叫ぶ子どもたち、瓦礫の中で食料を探す母親たち、そして寒さ、虫、病気に耐えながら避難所と化した何千人もの避難民たち。
* メディア封鎖を乗り越えるため、アル=シャリフは報道のためのインターネット信号を求めて、頻繁に住宅や病院の屋根に登った。ある放送で、彼は悲惨な状況を次のように描写した。「私を最も苦しめるのは、爆撃だけではありません。一日中食事も取れず、飢えで泣きながら眠りにつく子どもを見ることです。」
* 彼は、イスラエル軍がUNRWAの学校や病院、そして人口密集地の民間地域を繰り返し、意図的に攻撃している様子を記録した。
* 戦争犯罪を記録した勇気と、爆撃と飢餓の中で苦しむパレスチナ民間人の直接の証言を提供した献身を称え、アムネスティ・インターナショナル・オーストラリアは昨年、「人権擁護者」賞を授与しました。
* 彼の報道の影響力により、イスラエル占領軍はアル=シャリフ氏をメディア攻撃の対象に選びました。現在進行中の攻撃が始まって以来、彼らは彼を攻撃の正当化を図るため、ハマスとの関係を繰り返し非難してきましたが、アル=シャリフ氏は一貫してこれらの主張を否定しています。
* 2023年12月11日、イスラエル軍の空爆によりジャバリアにあるアル=シャリフ氏の自宅が襲撃され、父親が死亡しました。
* 自身に対する攻撃に対し、アル=シャリフ氏はソーシャルメディアで次のように述べています。「イスラエル軍報道官は、私がアルジャジーラで働いていることを理由に、私に対する脅迫と扇動のキャンペーンを開始しました。私は政治的所属を持たないジャーナリストであり、私の唯一の使命は現場から公平に真実を伝えることです。」 * 2023年7月、国連の言論・表現の自由に関する特別報告者アイリーン・カーン氏は、アル=シャリフ氏に対する脅迫と非難を非難し、それらが同氏の命を危険にさらしていると警告した。
* カーン氏は、イスラエルがジャーナリストを「テロリスト」と呼ぶ行為は根拠がないと批判し、国際社会に対し、そのような標的への攻撃を阻止するよう強く求めた。また、ジャーナリストの殺害と拘留は真実を隠蔽するための戦術であると強調した。
* 7月末、アルジャジーラは声明を発表し、イスラエル軍によるガザ地区のジャーナリスト、特にアル=シャリフ氏に対する扇動行為を非難するとともに、攻撃開始以来、同局スタッフに対する継続的な攻撃を非難した。
* 識者たちは、イスラエルがガザ地区での軍事作戦の新たな段階に向けて準備を進めている中、アル=シャリフ氏のような勇敢で声高なジャーナリストは容認できないと主張している。
* 彼の暗殺は、同僚たちと共に、先週イスラエル占領当局が承認した計画の一環としてガザ市を占領するイスラエルの計画と同時期に起こった。

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【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き

【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き

                           福井 杉本達也

1 「高福祉高負担路線」の破綻

参院選挙中、芳野連合会長の出身単産であるJAMの安河内賢弘会長は、野党が物価高対策として消費税減税を競う現状に懸念を示し、「減税ポピュリズムに流されずに戦い、あるべき社会像を作ることが重要だ」、「安易に減税に走るのではなく、徴収した税金で今何をするのかを国民に示すことが政治家の役割だ」と強調していた(日経:2025.6.5)。いわゆる、高福祉のためには高負担が必要であるという政策である。そのためには、安定財源としての消費税が欠かせないという理屈であり、自公・財務省だけでなく、旧民主党リベラル派・連合の理屈でもあった。

2024年10月の衆院選後、権丈善一慶応大教授は、政府は何のためにあるかを問い、「慈悲深い専制君主モデル」としての「税や社会保険料という形でいったん預かり、今必要な人たちに集中的に所得を再分配することにより、社会の厚生を高める」モデルと、「国民から可能な限り搾り取ることを考る」、英国の哲学者ホッブスが説いた「リパイアサン・モデル」があるとし、社会保険は、「人間の近視眼的認知バイアスゆえに生まれる将来の貧困を防ぐための政策でもある。賃金システムは、子育て期に生じる支出の膨張(養育費や教育費など)や収入の途絶(離職など)にも対応できない欠陥も持っている。」としながらも、今の政府の「長い間の所業はそのイメージとは乖離していたし、世代間格差や年金破綻など、国民の間の分断や政府不信」につながる話ばかりであったと語っている(福井:2024.11.16)。

昨年の衆院選・今回7月の参院選では、この「高負担」に異議が出た。8月10日付けの日経新聞コラム「風見鶏」は「税金は自分たちのために使われていない。現役世代を中心にこんな怒りが渦巻いている。」と書いている(2025.10.8)。同コラムで、成蹊大学の伊藤昌亮教授は、財務省解体デモについて、「参加者は賃上げを期待しにくい自営業者や主婦、中小企業従業員ら様々だ。「彼らは労働者ではなく納税者とレて団結している。…労組に入る労働者が2割を切った今は敵意の対象が政府に向かう」と分析する(同上)。また、京大の諸富徹教授は、「組織や団体から距離を置く人が多くなった現在は、業界向けの政策では響かない。結果として『減税のように幅広い人に一挙に利益を与える政策が選ばれやすくなっている』と分析する(同上)。そもそも、インフレで実質賃金が毎月のように目減りし、明日の米櫃の中身を測らなければならない世代に、「将来」という言葉は響かない。

2 五公五民

宮本太郎氏は雑誌『世界』2025年1月号の「『103万円の壁』引き上げは若者を救うか」において、「この政策を押し上げた空気をみることが大事である」、「基層にある現実は、若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない。雇用について様々な慣行や規制が中高年だけを守っている、等々。空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている。

消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下している。租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であった。それが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。

財務省は「減税すると財源が足りない」というが、取りやすいところから税金を搾り取り、半導体投資するラピダス(北海道)など大企業に4兆円の支援や補助金に巣食うホリエモンのロケット会社「インターステラテクノロジズ(IST)」などに30億円を投資するなど社会的寄生虫企業などの身内に偏った財政支出を行い、財源以上の放漫政策を行っている。これらの「財源」が議論されたことはない。

3 消費税

消費税は、国民の消費を抑圧して、GDPに対してマイナスの乗数効果をもつものである。本質は消費抑圧税である。インフレになればなるほど、政府の税収が増える。雇用者世帯平均所得金額は3700万世帯あるが、1997年の最高726万円から2018年には633万円とマイナス13%にもなっている。消費税は、消費懲罰税としての性格がある。消費せずに預金すれば当然ながら消費税はかからない(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)

米国は日本の消費税を非関税障壁ととらえている。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたすら社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。

「損益計算曹には出てこないが、輸出企業に見られる『消費税還付金』が巨額なのも同社の特徴だ。実際に消費される場所が海外でも、輸出車を造る際は国内の部品、資材、設備のメーカーに日本の消費税を上乗せして代金を支払っている。その税金部分が戻ってくる。SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティプアナリストは『(還付が)トヨタで年間7千億円程度、ホンダで3千億円程度に上っている』と試算する。」。これは「トヨタの2025年3月期営業利益と比べて15%に相当する」巨額の還付金である(日経:2025.5.17)。こうした輸出企業の還付金は、他の輸出に依存しない企業から徴収した消費税から還付され、消費税収入の1/4を占める。

4 売国円安政策としてのアベノミクス

2013年4月からのアベノミクスで円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている。低金利が「円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっています」とし、「円高が進めば、輸入物価の下落を通じて、家計の実質購買力の改善につながった」これでは「個人消費が回復しないのは当たり前」だと「アベノミクス」の失政を一刀両断で切り捨てた。石破政権は夏の参院選対策としてガソリン価格や電気・ガス料金の補助を復活するというが(日経:2025.4.19)、円高政策をとっていれば、当然に輸入物価は下がっていたはずであり、安倍―菅―岸田政権下の大失政(というよりも売国政策)を尻拭いするものである。(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。

黒田総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めたが、中身は金利ゼロと日銀の国債買いであり、言い換えれば円紙幣の増加発行500兆円であった。結果、円は2012年末の78円/1ドルから、2024年には148円にまで切り下がった。増発されたゼロ金利の円は、3%の金利差のつくドルに400兆円が流れこんだ。「日本はバカなことをしてきた。米国物価上昇との関係における円の価値の下落である。『日本は現金になった経済力を自国では使わないで米国に貸し付けた』。これが異次元緩和だった。」「円安は世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げである。」1ドル150円台の円安は輸入物価を上げて国内物価に遡及する。日本は1年に100兆円の必需の資源・エネルギー・食品を輸入する。賃金の上昇が十分ではない日本では、物価の上昇は商品の購買力である実質賃金を下げて、食品と必需生活財、電力、ガソリンなどを買う国民の生活を苦しくする。この売国政策を進めたのが財務官僚であり日銀である。結果、ガソリン補助金や電気・ガス補助金という本末転倒な何兆円もの補助金で財政をさらに肥大化して自らの権限を拡大している。

5 インフレ税(金融抑圧)

「インフレ税」という課税項目があるわけではないが、昨今のように円安が進めば。「インフレにより家計から政府への所得移転が進む」。「インフレで通貨価値が目減りすれば、これまで積み上げた政府債務の実質的な負担は減る。実質個人消費が低迷する一方、税収が改善することから『インフレ税』と呼ばれ」家計負担は一段と増す(日経:2024.7.1)。国家が国民が知らない間に国民の財産を没収していることになる。アベノミクスによる黒田日銀の国債の買い入れは、日銀紙幣の増発であり、実質的な円の切り下げであり、米国からのインフレの輸入となる。財務省が7月2日に発表した2024年度の一般会計決算発表でも「消費税は8%増の25兆212億円で、8年連続で過去最高を更新。国内消費が堅調だったほか、物価高の影響も受けた。」(日経:2025.7.3)と書かざるを得ない。

「昨今はインバウンド(訪日外国人)需要に奪われ、外食からホテル料金までが値上がりしてしまった。外資により不動産価格が上昇し、若い世代には手が届かなくなっている。しかるにこれらの問題はほとんどが円安に起因するものではないか。『弱い円』は今のコストプッシュ型インフレをもたらし、われわれの実質的な購買力を減少させている」、「ドル換算した日本人の平均所得は今や東南アジア諸国の高所得層に及ばない。この無力感こそが排外主義に力を与えている元凶であろう」(日経:『大機小機』「排外主義をもたらす円安の心理学」2025.8.8)と述べている。国民の生活をずたずたにした頑強の、アベノミクスの異次元緩和に対して、与野党ともに、まともな総括はなされていない。

「立民、政策実現へ自民接近」「政権延命に手を貸す」(日経:2025.8.5)等々、石破政権と立憲民主党の大連立が囁かれている。伊藤昌亮教授は、勃興する排外主義(「福祉排外主義」)について、「自分が払っている税金は自分の福祉のために、自分を守ってもらうために使ってほしいのに、なぜ外国人を守るために使うのか、そうした国のやり方は許せない、という考え方だが、その根底にあるのは、要は『国に自分を守ってもらいたい』という心情なのではないだろうか」と書くが(『世界』「取り残された人々の財政ポピュリズムー財務省解体デモの論理と心情)2025.7)、投資不足で賃上げもままならず青息吐息の「国内」ではなく「海外」に80兆円もの大枚を気前よく投資して、衰退する金融帝国・米国と心中しつつある日本の与野党には馬耳東風であろうか。「真に恐れるべきは外国人ではなく、われわれの通貨の価値が減じていること」である(日経:『大機小機』同上)というか、意図的に通貨の価値を減額させ、海外へと投資を誘導し、インフレを引き起こして実質賃金を減額させてきた売国政策にある。

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