Assert Webの更新情報(2025-09-01)

【最近の投稿一覧】
8月31日【投稿】トランプ関税、再び違法判決--経済危機論(168)
8月26日【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)
8月18日【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価
8月18日【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない
8月13日【転載】「もし私の言葉があなたに届いたら、 イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知って下さい」
8月11日【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き
8月10日【投稿】トランプ大統領:大恐慌再来を警告--経済危機論(167)
7月29日【投稿】でたらめ闊歩の米・EU関税交渉--経済危機論(166)
7月28日【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞
7月27日【投稿】ずさんな日米関税交渉--経済危機論(165)
7月24日【投稿】参政党躍進の理由
7月21日【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方
7月14日【投稿】トランプ関税:破綻への再始動--経済危機論(164)
6月28日【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相
6月24日【投稿】トランプ大統領:「12日間戦争」終結の虚構
6月22日【投稿】トランプ米政権:対イラン直接爆撃、泥沼の幕開け
6月19日【転載】反戦の声、イスラエルの爆撃で殺害されたイラン人詩人パルニア・アッバシさんを追悼
6月18日【投稿】危険な乱心・トランプ:イランに「無条件降伏」を要求
6月16日【投稿】「ノー・キングス」デー:全米各地で500万人以上
6月14日【投稿】トランプ大統領:イラン奇襲攻撃「素晴らしい」と礼賛
6月6日【投稿】トランプ・マスク、蜜月から破局へ
5月25日【転載】11歳のヤキーン・ハマド:ガザ最年少のメディア活動家、イスラエルの空爆で死亡
5月24日【投稿】「一番困っている」国民の生活を守るには消費税減税しかない、財源は「外為特会」だ
5月24日【投稿】トランプ 氏 : 歯止めなきデマゴーグ政権を露呈
5月15日【投稿】トランプ関税の敗北--経済危機論(163)
5月12日【投稿】印パ戦争と排外主義の罠
5月10日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)
5月4日【投稿】トランプ : 対中国全面禁輸へのエスカレート--経済危機論(162)
5月1日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)
4月26日
【投稿】トランプ関税:後退と妥協へのディール--経済危機論(161)
4月26日【投稿】 「NEXUS 情報の人類史」を読んで
4月25日【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書
4月22日【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機
4月20日【投稿】反トランプ抗議デモ:全米規模へ拡大
4月13日【投稿】トランプ関税の混迷--経済危機論(160)
4月10日【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう
4月6日【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)
4月1日【投稿】「ヤルタ2.0」
3月30日【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)
3月19日【投稿】プーチン・トランプ電話会談、デタントへの前進と障碍
3月11日【投稿】トランプ関税:株価暴落を加速--経済危機論(157)
3月6日【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)
3月3日【投稿】トランプ・ゼレンスキー会談の決裂
3月2日【投稿】トランプ:対ウクライナで「平和」、対イスラエルで戦争拡大
2月26日【投稿】トランプ路線、拒否するEUの混迷
2月22日【投稿】西欧の敗北
2月16日【投稿】米ロ会談:軍事対決から外交への転換点
2月11日【投稿】内政干渉・政府転覆組織:米国際開発庁(USAID)の閉鎖と日本への影響
2月8日【投稿】トランプ:米軍ガザ「占領」のドタバタ
2月5日【投稿】「デープシーク(DeepSeek)ショック」
2月2日【投稿】トランプ政権:関税戦争の開始--経済危機論(155)
2月2日【投稿】トランプの「パリ協定」脱退とグローバル・サウス
1月31日【投稿】レーガン空港・航空機墜落事故とトランプ政権

1月22日【投稿】「帝国」再建に挑む:トランプ政権--経済危機論(154)
1月22日【書評】『反米の選択―トランプ再来で増大する“従属”のコスト』大西広著
1月18日【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著
1月16日【投稿】ガザ和平:イスラエルとハマスの停戦合意
1月9日 【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―
1月5日 【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文
1月5日 【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる
12月31日【投稿】移民排除:トランプ陣営、亀裂拡大--経済危機論(153)
12月25日【投稿】トランプ次期政権の失速と破綻--経済危機論(152)
12月17日【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は
12月15日【投稿】中東危機:米・イスラエル、イラン核施設攻撃へのエスカレート
11月22日【投稿】バイデン政権、退任直前の危険な世界戦争拡大への挑発
11月18日【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方
11月10日【投稿】トランプ勝利と日本の針路
11月6日 【投稿】米大統領選:バイデン/ハリス政権の敗北
10月30日【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)
10月29日【投稿】衆院選:自公政権の大敗と流動化
10月29日【投稿】総選挙結果について
10月27日【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』
10月23日【投稿】戦争挑発拡大と米大統領選--経済危機論(151)
10月12日【投稿】被団協・ノーベル平和賞受賞 vs. 石破首相「核共有」
10月2日【投稿】米/イスラエル:中東全面戦争への共謀--経済危機論(150)

【archive 情報】
2023年5月1日
「MG-archive」に新しい頁を追加しました。
民学同第3次分裂

2023年4月1日
「MG-archive」に以下のページを追加しました。
(<民学同第2次分裂について>のページに、以下の2項目を追加。
(B)「分裂大会強行」 → 統一会議結成へ
(C)再建12回大会開催 → 中央委員会確立

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【投稿】トランプ関税、再び違法判決--経済危機論(168)

<<ただし、判決は10月14日まで「一時停止」>>
8/29、米連邦巡回控訴裁判所は、トランプ大統領が国家非常事態を宣言し、地球上のほぼすべての国に広範な輸入税を課すことを正当化するには行き過ぎであり、「関税などの税を課す議会の中核的な権限は、憲法によって立法府にのみ付与されている」との判決を下した。つまり、トランプ関税は、違法である、と。
この判決は、5月にニューヨークの専門連邦貿易裁判所が下した判決を概ね支持するものであった。裁判所は関税そのものが違法だとは言っているわけではない。関税を課す際に用いた手続き、つまり経済緊急事態を宣言し、議会で法案を可決することもなく関税率を設定するという手続きが違法だと判断したのである。ここで、指摘されるべき重要な点は、トランプ氏自身が自ら招いた完全に自業自得の災難に直面しているということであろう。共和党議員が多数を占めている議会をさえ無視して、非常識・非合法な貿易政策を強行したことである。

この判決はさらに、緊急時権限の濫用をも禁止している。IEEPA(国際貿易促進法)は、資産凍結と敵国への制裁を目的として制定されたものであり、世界貿易の構造を再構築するためのものではない、との判決である。トランプ政権は、IEEPAは大統領に、国家緊急事態に対処するために必要だと判断した場合、あらゆるレベルで国別関税を効果的に課す権限を与えていると主張し、都合よく、関税の武器に変えたのであるが、判決はそれをも違法としたのである。

ただし、控訴裁判所は7対4で、トランプ政権が米国最高裁判所に上訴できるよう、10月14日まで判決の「一時停止」を決定している。最高裁判所がこの訴訟を審理するかどうかは未定であるが、トランプ支持判事が多数を占める最高裁判所であり、覆される可能性が大であるが、逆転させた場合の孤立を恐れて、あるいは躊躇し、単に訴訟を審理しないことで控訴裁判所の判決をそのまま維持し、10月14日に効力を発する可能性も指摘されている。

また、今回の判決は、商務省の調査で輸入品が米国の国家安全保障に対する脅威と結論付けられた後に大統領が課した外国製鉄鋼、アルミニウム、自動車への関税など、トランプ大統領が課した他の関税には適用されてはいない。

この訴訟は、米12州が起こした訴訟と米国の中小企業5社が起こした訴訟の2つの別々の訴訟を統合したものであり、トランプ政権にとっては、重大な敗北であり、強烈な痛手である。
この訴訟で中小企業原告団を代理したリバティ・ジャスティス・センターの弁護士ジェフリー・シュワブ氏は。、「この訴訟で連邦裁判所が大統領のいわゆる『解放記念日』関税は違法であるとの判断を下したのは2度目である」と述べ.、「この決定は、違法な関税によって引き起こされる不確実性と損害からアメリカの企業と消費者を守るものだ」と強調し、シュワブ氏の共同弁護士ニール・カティアル氏はさらに、「今日の判決は、建国の父たちが我が国の中核として掲げた憲法上の約束、特に大統領は法の支配の範囲内で行動しなければならないという原則を力強く再確認するものである」と声明で述べている。

 もちろん、トランプ氏はこの判決を激しく非難し、「もしこの判決が認められれば、文字通りアメリカ合衆国は破滅するだろう」と、彼は自身のソーシャルメディアに書き込んだ
「すべての関税は依然として有効だ!本日、極めて党派的な控訴裁判所が、関税を撤廃すべきだと誤って判断したが、最終的にはアメリカ合衆国が勝利することを裁判所は理解している。もしこれらの関税が撤廃されれば、国にとって壊滅的な事態となるだろう。財政的に弱体化するだろう。だからこそ、我々は強くならなければならない。」アメリカ合衆国は、敵味方を問わず、他国が課す莫大な貿易赤字、不公平な関税、そして非関税貿易障壁を、もはや容認しません。これらの措置は、製造業者、農家、そしてその他すべての人々を蝕むものです。もしこの決定がそのまま容認されれば、アメリカ合衆国は文字通り破滅するでしょう。レイバーデーの週末を迎えるにあたり、私たちは皆、関税こそが労働者を助け、優れた「メイド・イン・アメリカ」製品を生産する企業を支える最良の手段であることを改めて認識すべきです。長年にわたり、無思慮で愚かな政治家たちは、関税を不利に利用してきました。今、合衆国最高裁判所の助けを借り、私たちは関税を国家の利益のために活用し、アメリカを再び豊かで強く、力強い国にしていきます。この件にご関心をお寄せいただき、誠にありがとうございます。」

<<「私は生きています」>>
ハワード・ラトニック商務長官は裁判所への宣誓供述書で、トランプ大統領がIEEPAに基づいて課した関税を撤廃すれば「現在および将来にわたり、米国とその外交政策および国家安全保障に甚大かつ回復不能な損害を与えることになる」と述べ、さらに「このような判決は、国内外における米国の幅広い戦略的利益を脅かし、外国貿易相手国による報復や合意済み取引の解消につながる可能性があり、外国貿易相手国との重要な継続交渉を頓挫させるだろう」と述べている。
さらに、トランプ大統領の関税が撤回された場合、徴収した輸入税の一部を返還せざるを得なくなり、財務省に財政的打撃を与える可能性があると主張している。関税による歳入は7月までに1590億ドルに達し、前年同時期の2倍以上に増加している。実際、司法省は提出した法廷文書で、関税撤回は米国にとって「財政破綻」を意味する可能性があるとまで警告している。
ましてや、関税回避のために生産体制を再構築した企業は、今やプロジェクトは遅延し、資本は凍結され、サプライチェーンは停滞、混迷している。トランプ大統領が新たな回避策を繰り出せば、不確実性はさらに深まる。

当面直面する重大な問題は、この連邦巡回控訴裁判所の判決により、「政権は数十億ドル相当の関税を返還せざるを得なくなる可能性がある」と報道され、関税・貿易専門家が最近「返還は物流上の悪夢となり、他の企業や業界団体による返金を求める訴訟の波を引き起こす可能性が高い」と警告していることである。

しかも、還付メカニズム、還付を処理するシステムは事実上存在していないし、インフラもない。あるのは混乱と不信のさらなる増大だけである。
全米小売業協会(National Retail Federation)は、「小売業者は通常、6~9ヶ月先まで在庫計画を立てている…予測不可能で急速に変化する関税政策は、コスト予測、発注、サプライチェーンの効果的な管理をほぼ不可能にしている。」と、麻痺状態を警告している。

8/30、偶然、というか、ピタリと一致したのか、「トランプ死去」というフェイクニュースが爆発的に拡大、ソーシャルメディアでトレンド入りしている。
きっかけは、J・D・ヴァンス副大統領の「トランプ氏が亡くなった場合、私は辞任する準備ができている」という発言からであった。トランプ大統領に何かあった場合、ヴァンス氏が大統領職を引き継ぐ用意があるという主旨であったが、反トランプ派のユーザーが「悪人を悼む者はいない」と書き込み、トランプ米大統領が2025年8月30日に亡くなったという「トランプ死去」、「ドナルド・トランプ、79歳で死去」のフェイクニュースとなり、爆発的に広がり、国旗が半旗に下げられ、数時間も経たないうちにインターネットは大統領死去のフェイクニュースを拡散したのであった。

慌てたトランプ氏は、自らのメディアで、
「ソーシャルメディアで『私が死んだ』というフェイクニュースが流れていますが、間違いです! 私は生きています。 強いです。
関税はこれまで以上に増額され続けるでしょう。
ノーベル賞を受賞するまで(私は絶対に受賞に値するのです)、私はどこにも行きません。この件にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます。トランプ万歳!」と書き込んでいる。

イスラエル・ネタニヤフ政権のガザ虐殺に、バイデン政権以上に加担し、無法なイラン爆撃まで強行しておいて、何が「ノーベル賞を受賞に値する」というのか? あきれるばかりであるが、トランプ氏も必死である。

現在、米国の株式市場は、歴史的記録高に達しており、1929年の世界恐慌、1965年の危機前のピーク、そして1999年のドットコムバブル崩壊といったバブルの水準さえも上回り、S&Pは過去100年間で世界が経験したどのものよりも高値を記録している。日本の株価もつられて記録を塗り替えている。インフレとバブルの高進、実体経済、資産の基礎的価値との広がる乖離、そして関税をめぐる混迷は、経済的危機、そして政治的危機が抜き差しならない段階に突入しつつあることの警鐘でもある。
(生駒 敬)

 

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【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)

【追悼】岩田吾郎さん(リベラシオン社)

 リベラシオン社のホームページを運営されてきた岩田吾郎さんが、去る6月28日和歌山県で登山中に事故で亡くなられた。
 リベラシオン社のホームページは、ブンド(共産主義主義者同盟)関係を中心にした新左翼、市民運動情報、学生運動の歴史資料などを幅広く紹介されてきました。
 岩田さんは一人で、このサイトを運営されていたと思います。様々な情報が岩田さんの元に届くという背景があり、同報メールで、そうした最新情報を、私にも送ってくださいました。
 本年6月22日のメールが最後になりました。最近岩田さんのメール配信が止まっているな、とは気が付いていました。数年前、手術のため入院された時は、事前にお知らせメールもいただいていましたが、今回は突然の配信停止で心配していたところでした。
 
 岩田さんとは、お会いしたことがありません。2019年のこと、Assertのホームページで、大阪市大ビラコレシリーズとして、1960年代後半に大阪市大で配布された「ガリビラ」をデジタル化する作業をしていた頃、岩田さんからメールをいただいたのが、お付き合いの始まりでした。
 1967年10月8日の「羽田闘争」を扱った「大阪市大新聞」もアップしていたのですが、岩田さんから、リベラシオン社のホームページへの転載を許可されたい、との内容でした。他にも、社学同市大支部や赤軍派のビラについても、同様に転載依頼をいただきました。小生は、「どうぞご自由に活用ください」と返答。以来、岩田さん発出の同報メールをお送りいただくようになりました。
 小生は、かねて「時代の総括」が必要だと考えております。レボラシオン社のホームページが、ブンド関連に留まらず、新左翼全般、そして関西の学生運動や構造改革派の歴史的資料を公開されていることについて、その編集姿勢に感服しておりました。
 
 岩田さん無き後も、レボラシオン社のホームページが継続されることを願うばかりです。 岩田吾郎さんの取り組みに感謝しつつ、謹んで哀悼の意を表する次第です。
(佐野秀夫)

 
 リベラシオン社のホームページ : http://www.0a2b3c.sakura.ne.jp/

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【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価

【投稿】戦争から対話へ―米ロ首脳会談の評価

                             福井 杉本達也

1 米ロ首脳会談の評価について

米ロ首脳会談の評価について、一水会の木村三浩代表は8月16日付けの『Sputnik日本』において「「プーチン大統領、ラブロフ外相、ウシャコフ大統領補佐官が会談に臨み、忌憚のない意見交換ができたということはよかった。いろいろ意見を交換し合い、生産的にどうやって解決していくかということを率先したというところに、今回の米露首脳会談の意義がある。それを米国で実行したトランプ大統領の手腕を高く評価するべきだと思っている」と語っている(Sputnik日本:2025.8.16)。

これに対し米CSISに近い日経新聞のコメンテーター・秋山浩之氏は「トランプ氏は米同盟国を遠ざけ、独りで中口と交渉しようとしている。プチーン氏と習氏は密に連携しており、トランプ氏は手玉にとられる恐れが大きい。…ウクライナの停戦交渉をめぐっては、1938年のミュンヘン会議の教訓がよく引き合いに出される。ヒトラーの要求に屈し、チェンパレン英首相らは同会議で、チェコスロパキアの一部割譲を認めてしまった…ヤルタとミュンヘンという2つの亡霊を、世界は封じ込めなければならない」(日経:2025.8.17)と述べ、あくまでもウクライナ戦争の継続を主張している。

2 極めて危険な局面にあった米ロ

ドミトリー・ノビコフ高等経済学院准教授は「戦術的に、ロシアは再び交渉のペースを掌握することに成功した。クレムリンは、脅迫や圧力戦術で表れたトランプの不満の高まりを緩和した。このエスカレーションが続いていれば、ウクライナ交渉だけでなく、二国間関係正常化のプロセス全体が脱線する危険があった。…戦略的には、両者が利益を得たと言える。なぜなら、核保有大国間の意味のあるコミュニケーションが存在すること自体が、本質的にポジティブな結果だからである。ワシントンからの信号を見る限り、トランプ政権もその見方を共有しているようだ。…トランプはモスクワとの関係リセットに真剣だ。彼はロシアとの交渉を、欧州での戦略的目標を達成するためのより安価で効率的な手段と見なしている。そのため、即時のメディア的な成果や派手な突破口が得られなくても、真剣な対話にオープンな姿勢を示している。」(「電撃戦も敗北もない」会談後のロシア論評者の反応:RT:2025.8.18 池田こみち訳)と述べている。

周知のように、米ロ首脳会談の直前まで、「トランプ米大統領はロシアが停戦に応じない場合に追加制裁を科すと警告」する一方、ロシアのメドべージェフ安全保障会議副議長(前副大統領)は米国について『ロシアに対して最後通牒(つうちょう)を突きつけるゲームをしている』」と応じた(日経:2025.8.2)。さらにエスカレートしトランプ氏は「適切な海域」に原子力潜水艦2隻を配備するよう命じたと明らかにした(福井:2025.8.3)。加えるに「7月、英国に米国の核弾頭が17年ぶりに配備されたと報じられた。」(日経:2025.8.7)。

ティモフィー・ボルダチェフは「現在の世界では、人類文明を滅ぼす能力を持つ大規模な核兵器を保有する国家は、ロシアとアメリカ合衆国の2つだけなのだ。…この事実だけで、ロシアとアメリカの指導者には、特に現在、世界の端に立つ唯一の無敵の勢力として、互いに直接対話することほど重要な任務はない…ロシア(旧ソ連)とアメリカ合衆国は、過去3年間、両国は何度も破滅への道の一歩手前に立たされた。これが、アラスカが重要である理由だ。たとえ突破口が開かなくてもである。このような首脳会談は核時代の産物である。単なる重要な国家間の二国間会談として扱うことはできない。直接交渉が行われるという事実自体が、私たちが破滅にどれだけ近づいているかを測る尺度なのだ。(「プーチンとトランプ直接会談の理由―今回の会談は破滅を防ぐかもしれない」RT:2025.8.15 池田こみち訳)と述べている。我々は核戦争に対し、あまりにも鈍感である。

3 ウクライナ応援団の犯罪的役割

これまで、テレビ・新聞などに度々出演してきた、小泉悠東京大学准教授・東野篤子筑波大学教授ら「ウクライナ応援団」は、ウクライナ人は最後の一人になるまで戦い続けるので、「この戦争は終わらない」と主張し、ウクライナへの支援を、さらに強化すべきだとしてきた。米ロ会談についても、東野氏は「トランプ氏は負けなかった」というのはなんとも解釈に困る表現です。トランプ氏からすれば得たものがなく、和平に向けた決定打を放ったという感触が得られない会談でした。一方プーチン氏からすれば、…「ロシアにとっては大成功」という評価が可能なのではないでしょうか。プーチン大統領が今回の会談で失ったものはほとんどなかったと思われます。」とコメントした(Yahoo:2025.8.16)が、約7割のウクライナ国民が即時停戦を望んでいるという。さらには、全面核戦争への危険性も非常に高まっていた。「ウクライナは勝たなければいけない」主義の破綻は、最初から明らかであった。今さら全ての責任をトランプ大統領に押し付けても、全面核戦争までも煽ったその犯罪的役割を払拭できるものではない。小泉・東野氏を始め、全てのウクライナ応援団は速やかにマスコミの画面から消え、完全に破綻した軍事学や国際関係論などを教える大学の職なども辞すべきである。

4 日本の針路

木村代表は「米露関係は修復に向けて進んでいくものと思う、我が日本も世界の本当の意味での『平和』ということに関して、欧州がどういうような姿勢を持つか見定めていかなければならない。根本的な平和というものを構築するためには、何をすべきかということも日本も考えていかなければならない。少なくとも米露関係は修復に向かい、そして我が国の中でもきちんとそれを分かっている人たちが、それに賛成していくと思う」と述べている(Sputnik日本・同上)。

また、鈴木宗男自民党参議院議員はブログで「『次回の首脳会談はモスクワですね』という問いかけにプーチン大統領は『そうなるかも知れませんね』と答えている。首都でやることの重みを、ウクライナ戦争を終えらせる決意を示していると私は受け止めた。今回の会談を受け、日本は米ロ同様対ロ制裁を早急に解除すべきである。なぜならばプーチン大統領が訪米したということは少なくともプーチン大統領への制裁は解除されたと受け止めるべきである。 これからの世界はウクライナが中立化し、米ロ関係が改善する中で動いて行く。この流れの中で日本は日米連携し、日ロ関係を正常化していくことが喫緊の課題であることを石破総理以下、司々の人は頭に入れて戴きたい。」(鈴木宗男ブログ:2025.8.16)と書いている。日本は早急に制裁を解除し、真っ先にロシアからの原油・LNG・石炭の輸入を増やし、アークティック2やサハリン2の開発を推し進め、シベリア航空路を再開すべきである。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 政治, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない

【投稿】原発の使用済み核燃料の行き場所がない

                             福井 杉本達也

1 重大事故を起こした前歴のある美浜原発を建て替え?

関西電力が美浜原発での次世代型へのリプレース(建て替え)の検討に向け、2011年に中断した1号機(15年に廃炉)の後継炉設置を巡る自主調査を再開する方針を固めたことが18日、関係者への取材で分かった2011年3月の東京電力福島第1原発事故後、建て替えに向けた動きが具体化するのは圏内初となる(福井:2025.7.19)これに対し、原子力規制委員会の山中伸介委員長は29日の同原発視察後、「近くに大きな活断層があり、敷地内にも多数の断層がある」とし、改めて慎重な調査を求めた。山中氏は「関電の三つのサイト(美浜、大飯、高浜)の中で(美浜は)地質に困難さがあるだろう」との見解を示した(福井・2025.7.30)。

周知のように、美浜原発は関電では最も古い原発である。既に美浜1.2号機の廃炉が決定している。美浜3号機は運転開始から40年を超えた原発として2021年6月に全国で初めて再稼働したが、3号機は2004年8月、「2次系配管」が破損して高温の蒸気が噴き出し、作業員11人が死傷する事故を起こしている。2階の天井付近にあった金属製の2次系配管(外径約56センチ)が破裂した。約140度に加熱された蒸気が一気に噴出。定期検査の準備などをしていた作業員が浴び、やけどなどで5人が死亡、6人が重傷を負った。76年の運転開始以来全く点検がなされず、厚さ約1センチの配管は、水流により、事故時には0・4ミリにまで薄くなっており、水圧に耐えられなくなったためである(読売:2021.9.7)。このような前歴のある発電所を建て替えするとはもってのほかである。20210907★読売「40年超」美浜原発3号機、過去には11人死傷する事故…140度の水が配管破り噴出:写真 _ 読売新聞

 

2 原発の建て替えなんてできるのか?

2011年3月に事故を起こした福島第一原発は、14年を経た現在でもそのままである。メルトダウンした炉心には大量の水が常時注入され続けている。その汚染水をALPSで処理したと自称する放射能汚染水は太平洋に垂れ流しである。大事故で周囲にまき散らされた放射能含む土地は除染されたというが、除染されたと称して「中間貯蔵施設」に一カ所に集められた土壌のうち、8000ベクレル以下の土壌を、環境“汚染”省は全国にまき散らせるべく、とりあえずは首相官邸に持ち込んだという(読売:2025.7.19)。汚染土は1時間当たり0.11マイクロシーベルトの放射線を出すが、年間被曝線量は1ミリシーベルト以下(0.11×24H×365)なので問題ないというのが環境“汚染”省の見解であるが、全くのパフォーマンスである。放射能汚染土を進んで受け入れる自治体などない。

もし、廃炉した原発を解体・撤去するとなれば、原子炉を取り巻くコンクリートや放射能に汚染された金属配管など膨大な廃棄物が出る。これを、知らないうちに埋めてしまおうというのが環境“汚染”省のやりかたである。だれが好んで年間1ミリシーベルトも確実に被曝するような公園や遊歩道のベンチで休憩するだろうか。

核エネルギーを発電に使う場合、そのエネルギーの三分の二を温排水として外部に捨てている。大量の海水で冷却している。化石燃料の燃焼などの化学変化においては数電子ボルトのエネルギー問題である。ところが、原子核現象で100万電子ボルトの問題である。ウラニウム核の核分裂から放出されるエネルギーは約2億電子ボルトである。分子現象とは比較にならぬ桁違いの巨大エネルギーが出される。この膨大な核エネルギーを化学変化レベルの工学技術で原子炉の中に閉じ込めようとしてきたのが原発である。それが地震によって破壊され、膨大なエネルギーが原子炉の外部に放出され、東北・関東の広大な地域が放射性物質で汚染されたのであり、我々の時間間隔では元には戻らない。

3 コバンザメ商法のクリアランス準備会社

美浜原発建て替えの動きに合わせ、福井県や関電が「福井県原子力リサイクルビジネス準備株式会社」を設立した。廃棄される金属類を集中的に溶融処理して再利用につなげる構想であるという。「クリアランスは、放射能レベルが極めて低く健康への影響がほとんどない廃棄物を、国の認可・確認を得て一般の産業廃棄物として再利用、処分できる制度。県の構想では、複数の原発から鉄やステンレスの廃棄物を集め、除染や分別、切断、溶融、測定・評価を集中的に行う。地元企業が元請けに近い立場で処理業務を受注できるようにする」というが(福井:2025.8.2)、他の金属と混ぜて放射能レベルを抑えようというもので、もし、このような試みが実施されるならば、購入したマンションの鉄筋から24時間放射線被曝を受けるという社会が来ないとも限らない。

4 行き詰まる六ケ所村の再処理工場

全国の原発に使用済み核燃料がたまり続けている。福井県内・関電の3原発にある貯蔵プルは、2025年2月末現在で全容量の87%が埋まっている。数年で満杯となる。使用済み核燃料を他に搬出できなければ原発を稼働し続けることはできない。1997年に当時の栗田福井県知事は使用済み核燃料を2010年をめどに県外に搬出するよう求めた。しかし、関電は県外搬出計画を誤魔化し、2025年2月、再処理工場の使用済み核燃料の受け入れが始まる28年度からの3年間、関電は他の電力事業者と調整し受け入れ枠の約6劃を確保。28年度に78トン、29年度に66トン、30年度に54トンを排出する計画を立てた。また、フランスへの搬出を27~29年度に高浜原発から200トンに加え、30~31年度に100トン、31年度以降に大飯原発から100トンを運び出すとしている(福井:2025.2.14)。海外への再処理委託が、どうして県外への搬出か理解に苦しむ。そして、より重要なのは六ヶ所村の再処理工場が動かなければ関電の県外搬出計画は絵にかいた餅となる。関電の3か所の原発は使用済み核燃料

が満杯になることによって稼働停止せざるを得なくなる。

7月17日、武藤経済産業相は杉本福井県知事に対し、使用済み核燃料の主な搬出先となる再処理工場(青森県六ケ所村)の2026年度内の完成目標実現ヘ「官民一体で責任を持って取り組む」と強調した(福井:2025.7.18)が、国主導の原発の再稼働計画の破綻は明らかである。

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【転載】「もし私の言葉があなたに届いたら、 イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知って下さい」

以下は、8月11日のパレスチナ・クロニクルからの転載である。(生駒 敬)

<<「パレスチナをあなたに託します」:アナス・アル=シャリフ氏の最後の遺言>>
イスラエル軍によるガザ攻撃で命を落としたアナス・アル=シャリフ氏は、力強い別れのメッセージ、つまり彼の民、家族、そして世界への最後の遺言を残しました。

アルジャジーラの報道によると、パレスチナ人ジャーナリストのアナス・アル=シャリフ氏とモハメド・クライケア氏は、日曜日にガザ市アル=シーファ病院近くのジャーナリスト用テントを襲ったイスラエル軍の爆撃で死亡しました。

イスラエル軍の無人機による攻撃で、カメラマンのイブラヒム・ザヘル氏とモハメド・ヌーファル氏も死亡しました。イスラエル軍は攻撃直後、アル=シャリフ氏を標的としたことを認めました。

ジャバリーヤ難民キャンプ出身の28歳のアル・シャリフ氏は、受賞歴のあるジャーナリストで、戦争中はガザの重要な発言者となっていました。

ジャーナリスト保護委員会は、わずか2週間前に、イスラエル軍報道官からの度重なる脅迫により、アル・シャリフ氏の命が「深刻な」危険にさらされていると警告していました。

アル・シャリフ氏は、死去前に、もし殺害された場合に共有するための別れのメッセージを用意していました。訃報を受け、家族や同僚たちはそれを彼のソーシャルメディアアカウントに投稿しました。

以下は、そのメッセージの全文です。

<<アナス・アル・シャリフ氏の最後のメッセージ>>
これは私の遺言であり、最後のメッセージです。

もし私の言葉があなたに届いたら、イスラエルが私を殺害し、私の声を封じることに成功したことを知ってください。

まず、あなたに平安がありますように。そして神の慈悲と祝福がありますように。

ジャバリーヤ難民キャンプの路地裏での生活に目覚めて以来、私は持てる力と努力のすべてを捧げ、民の支えとなり、彼らの声となることを願ってきました。神はご存知です。私の望みは、今は占領下にある故郷の町、アスカラーン(アル・マジダル)に、家族や愛する人たちと共に帰還できるまで生き延びることでした。しかし、神の御心が最優先であり、神の御心は最終的なものです。

私はあらゆる苦痛を細部まで味わい、幾度となく喪失を味わいました。それでも、偽りや歪曲することなく、ありのままの真実を語り続けることを決してやめませんでした。沈黙を守り、私たちの殺害を受け入れ、1年半以上も私たちの民が耐え忍んできた虐殺を止めるために何もしなかった人々について、神が証人となるためです。

私はあなたに、イスラムの王冠の宝石であり、この世界のすべての自由な人々の鼓動であるパレスチナを託します。イスラエルの爆弾とミサイルによって、清らかな肉体が砕かれたこの地の民と子供たちを、私はあなたに託します。

鎖に沈黙させられることなく、国境に束縛されることなく。尊厳と自由の太陽が、奪われた祖国に昇るまで、この地と人々の解放への架け橋となりなさい。

私の家族をあなたに託します。愛する娘シャム、愛する息子サラー、祈りが私の砦であった母、そして私の不在の間、力強く信仰をもって責任を果たしてくれた揺るぎない妻バヤン(ウム・サラー)。神の御許にあって、彼らと共にありなさい。

もし私が死ぬとしても、私は自らの信念を貫き、死にます。私は神の定めに満足し、神の御前に出ることを確信し、神の御前にあるものはより良く、永遠であると確信していることを証します。

神よ、私を殉教者の一人として受け入れ、私の罪を赦し、私の血を、民の自由への道を照らす光としてください。もし私の言葉が足りなかったなら、お許しください。そして慈悲深く私のためにお祈りください。私は誓いを守り、決して変わることはありません。

「ガザを忘れないでください…そして、祈りの中で私を忘れないでください。」

アナス・ジャマル・アル=シャリフ  2025年4月6日

<<アナス・アルシャリフとは?>>
以下は、パレスチナ最大の独立系ニュースネットワークQNN(Quds News Network ) 2025年8月11日 からの転載である。

* アナス・ジャマル・アルシャリフ氏は1996年12月3日、ガザ地区北部のジャバリア難民キャンプで生まれた。イスラエルによる度重なる戦争の中で育ち、キャンプ内の混雑した路地を歩き回って幼少期を過ごした。
* 国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)とパレスチナ教育省が運営する学校で教育を受けた。2014年、アルアクサ大学に入学し、ラジオとテレビを学び、2018年に卒業した。
* アルシャリフ氏は、シャマル・メディア・ネットワークのボランティアとしてメディアのキャリアをスタートさせ、その後、アルジャジーラのガザ地区特派員として勤務した。
* 荒廃とイスラエルによる飢餓の渦中にあるジャバリアとガザ市を拠点に、彼は前例のない光景を世界に伝えた。夜、飢えに泣き叫ぶ子どもたち、瓦礫の中で食料を探す母親たち、そして寒さ、虫、病気に耐えながら避難所と化した何千人もの避難民たち。
* メディア封鎖を乗り越えるため、アル=シャリフは報道のためのインターネット信号を求めて、頻繁に住宅や病院の屋根に登った。ある放送で、彼は悲惨な状況を次のように描写した。「私を最も苦しめるのは、爆撃だけではありません。一日中食事も取れず、飢えで泣きながら眠りにつく子どもを見ることです。」
* 彼は、イスラエル軍がUNRWAの学校や病院、そして人口密集地の民間地域を繰り返し、意図的に攻撃している様子を記録した。
* 戦争犯罪を記録した勇気と、爆撃と飢餓の中で苦しむパレスチナ民間人の直接の証言を提供した献身を称え、アムネスティ・インターナショナル・オーストラリアは昨年、「人権擁護者」賞を授与しました。
* 彼の報道の影響力により、イスラエル占領軍はアル=シャリフ氏をメディア攻撃の対象に選びました。現在進行中の攻撃が始まって以来、彼らは彼を攻撃の正当化を図るため、ハマスとの関係を繰り返し非難してきましたが、アル=シャリフ氏は一貫してこれらの主張を否定しています。
* 2023年12月11日、イスラエル軍の空爆によりジャバリアにあるアル=シャリフ氏の自宅が襲撃され、父親が死亡しました。
* 自身に対する攻撃に対し、アル=シャリフ氏はソーシャルメディアで次のように述べています。「イスラエル軍報道官は、私がアルジャジーラで働いていることを理由に、私に対する脅迫と扇動のキャンペーンを開始しました。私は政治的所属を持たないジャーナリストであり、私の唯一の使命は現場から公平に真実を伝えることです。」 * 2023年7月、国連の言論・表現の自由に関する特別報告者アイリーン・カーン氏は、アル=シャリフ氏に対する脅迫と非難を非難し、それらが同氏の命を危険にさらしていると警告した。
* カーン氏は、イスラエルがジャーナリストを「テロリスト」と呼ぶ行為は根拠がないと批判し、国際社会に対し、そのような標的への攻撃を阻止するよう強く求めた。また、ジャーナリストの殺害と拘留は真実を隠蔽するための戦術であると強調した。
* 7月末、アルジャジーラは声明を発表し、イスラエル軍によるガザ地区のジャーナリスト、特にアル=シャリフ氏に対する扇動行為を非難するとともに、攻撃開始以来、同局スタッフに対する継続的な攻撃を非難した。
* 識者たちは、イスラエルがガザ地区での軍事作戦の新たな段階に向けて準備を進めている中、アル=シャリフ氏のような勇敢で声高なジャーナリストは容認できないと主張している。
* 彼の暗殺は、同僚たちと共に、先週イスラエル占領当局が承認した計画の一環としてガザ市を占領するイスラエルの計画と同時期に起こった。

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【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き

【投稿】旧民主党リベラル派の「高福祉高負担政策」の破綻と大連立の動き

                           福井 杉本達也

1 「高福祉高負担路線」の破綻

参院選挙中、芳野連合会長の出身単産であるJAMの安河内賢弘会長は、野党が物価高対策として消費税減税を競う現状に懸念を示し、「減税ポピュリズムに流されずに戦い、あるべき社会像を作ることが重要だ」、「安易に減税に走るのではなく、徴収した税金で今何をするのかを国民に示すことが政治家の役割だ」と強調していた(日経:2025.6.5)。いわゆる、高福祉のためには高負担が必要であるという政策である。そのためには、安定財源としての消費税が欠かせないという理屈であり、自公・財務省だけでなく、旧民主党リベラル派・連合の理屈でもあった。

2024年10月の衆院選後、権丈善一慶応大教授は、政府は何のためにあるかを問い、「慈悲深い専制君主モデル」としての「税や社会保険料という形でいったん預かり、今必要な人たちに集中的に所得を再分配することにより、社会の厚生を高める」モデルと、「国民から可能な限り搾り取ることを考る」、英国の哲学者ホッブスが説いた「リパイアサン・モデル」があるとし、社会保険は、「人間の近視眼的認知バイアスゆえに生まれる将来の貧困を防ぐための政策でもある。賃金システムは、子育て期に生じる支出の膨張(養育費や教育費など)や収入の途絶(離職など)にも対応できない欠陥も持っている。」としながらも、今の政府の「長い間の所業はそのイメージとは乖離していたし、世代間格差や年金破綻など、国民の間の分断や政府不信」につながる話ばかりであったと語っている(福井:2024.11.16)。

昨年の衆院選・今回7月の参院選では、この「高負担」に異議が出た。8月10日付けの日経新聞コラム「風見鶏」は「税金は自分たちのために使われていない。現役世代を中心にこんな怒りが渦巻いている。」と書いている(2025.10.8)。同コラムで、成蹊大学の伊藤昌亮教授は、財務省解体デモについて、「参加者は賃上げを期待しにくい自営業者や主婦、中小企業従業員ら様々だ。「彼らは労働者ではなく納税者とレて団結している。…労組に入る労働者が2割を切った今は敵意の対象が政府に向かう」と分析する(同上)。また、京大の諸富徹教授は、「組織や団体から距離を置く人が多くなった現在は、業界向けの政策では響かない。結果として『減税のように幅広い人に一挙に利益を与える政策が選ばれやすくなっている』と分析する(同上)。そもそも、インフレで実質賃金が毎月のように目減りし、明日の米櫃の中身を測らなければならない世代に、「将来」という言葉は響かない。

2 五公五民

宮本太郎氏は雑誌『世界』2025年1月号の「『103万円の壁』引き上げは若者を救うか」において、「この政策を押し上げた空気をみることが大事である」、「基層にある現実は、若者を含めて多くの国民が直面し呻吟している物価高騰と生活苦である。このリアルな現実に、既存の社会保障と税さらには雇用の制度が機能していない、むしろ若者をつぶしているという感覚が折り重なり…社会保障はもはや高齢者向けの給付に限られ現役世代は負担だけを強いられる。税はとられるだけで決して還つてはこない。雇用について様々な慣行や規制が中高年だけを守っている、等々。空気は幻影ではない。その根底には紛れもない現実がある」と書いている。

消費支出に占める食費の割合を示すエンゲル係数は28%と42年ぶりの水準となり、当然ながら、年収200万円未満の世帯は33.7%と、低所得世帯ほど影響は大きい。国民の生活水準が低下している。租税と社会保障費は1980年には所得の30.5%であった。それが、2025年には46.2%にもなった。財政赤字2.6%を入れた潜在国民負担は、48.8%となっている。

財務省は「減税すると財源が足りない」というが、取りやすいところから税金を搾り取り、半導体投資するラピダス(北海道)など大企業に4兆円の支援や補助金に巣食うホリエモンのロケット会社「インターステラテクノロジズ(IST)」などに30億円を投資するなど社会的寄生虫企業などの身内に偏った財政支出を行い、財源以上の放漫政策を行っている。これらの「財源」が議論されたことはない。

3 消費税

消費税は、国民の消費を抑圧して、GDPに対してマイナスの乗数効果をもつものである。本質は消費抑圧税である。インフレになればなるほど、政府の税収が増える。雇用者世帯平均所得金額は3700万世帯あるが、1997年の最高726万円から2018年には633万円とマイナス13%にもなっている。消費税は、消費懲罰税としての性格がある。消費せずに預金すれば当然ながら消費税はかからない(吉田繁治:『失われた1000兆円を奪還せよ』)

米国は日本の消費税を非関税障壁ととらえている。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたすら社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。

「損益計算曹には出てこないが、輸出企業に見られる『消費税還付金』が巨額なのも同社の特徴だ。実際に消費される場所が海外でも、輸出車を造る際は国内の部品、資材、設備のメーカーに日本の消費税を上乗せして代金を支払っている。その税金部分が戻ってくる。SBI証券の遠藤功治チーフエグゼクティプアナリストは『(還付が)トヨタで年間7千億円程度、ホンダで3千億円程度に上っている』と試算する。」。これは「トヨタの2025年3月期営業利益と比べて15%に相当する」巨額の還付金である(日経:2025.5.17)。こうした輸出企業の還付金は、他の輸出に依存しない企業から徴収した消費税から還付され、消費税収入の1/4を占める。

4 売国円安政策としてのアベノミクス

2013年4月からのアベノミクスで円を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている。低金利が「円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっています」とし、「円高が進めば、輸入物価の下落を通じて、家計の実質購買力の改善につながった」これでは「個人消費が回復しないのは当たり前」だと「アベノミクス」の失政を一刀両断で切り捨てた。石破政権は夏の参院選対策としてガソリン価格や電気・ガス料金の補助を復活するというが(日経:2025.4.19)、円高政策をとっていれば、当然に輸入物価は下がっていたはずであり、安倍―菅―岸田政権下の大失政(というよりも売国政策)を尻拭いするものである。(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。

黒田総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めたが、中身は金利ゼロと日銀の国債買いであり、言い換えれば円紙幣の増加発行500兆円であった。結果、円は2012年末の78円/1ドルから、2024年には148円にまで切り下がった。増発されたゼロ金利の円は、3%の金利差のつくドルに400兆円が流れこんだ。「日本はバカなことをしてきた。米国物価上昇との関係における円の価値の下落である。『日本は現金になった経済力を自国では使わないで米国に貸し付けた』。これが異次元緩和だった。」「円安は世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げである。」1ドル150円台の円安は輸入物価を上げて国内物価に遡及する。日本は1年に100兆円の必需の資源・エネルギー・食品を輸入する。賃金の上昇が十分ではない日本では、物価の上昇は商品の購買力である実質賃金を下げて、食品と必需生活財、電力、ガソリンなどを買う国民の生活を苦しくする。この売国政策を進めたのが財務官僚であり日銀である。結果、ガソリン補助金や電気・ガス補助金という本末転倒な何兆円もの補助金で財政をさらに肥大化して自らの権限を拡大している。

5 インフレ税(金融抑圧)

「インフレ税」という課税項目があるわけではないが、昨今のように円安が進めば。「インフレにより家計から政府への所得移転が進む」。「インフレで通貨価値が目減りすれば、これまで積み上げた政府債務の実質的な負担は減る。実質個人消費が低迷する一方、税収が改善することから『インフレ税』と呼ばれ」家計負担は一段と増す(日経:2024.7.1)。国家が国民が知らない間に国民の財産を没収していることになる。アベノミクスによる黒田日銀の国債の買い入れは、日銀紙幣の増発であり、実質的な円の切り下げであり、米国からのインフレの輸入となる。財務省が7月2日に発表した2024年度の一般会計決算発表でも「消費税は8%増の25兆212億円で、8年連続で過去最高を更新。国内消費が堅調だったほか、物価高の影響も受けた。」(日経:2025.7.3)と書かざるを得ない。

「昨今はインバウンド(訪日外国人)需要に奪われ、外食からホテル料金までが値上がりしてしまった。外資により不動産価格が上昇し、若い世代には手が届かなくなっている。しかるにこれらの問題はほとんどが円安に起因するものではないか。『弱い円』は今のコストプッシュ型インフレをもたらし、われわれの実質的な購買力を減少させている」、「ドル換算した日本人の平均所得は今や東南アジア諸国の高所得層に及ばない。この無力感こそが排外主義に力を与えている元凶であろう」(日経:『大機小機』「排外主義をもたらす円安の心理学」2025.8.8)と述べている。国民の生活をずたずたにした頑強の、アベノミクスの異次元緩和に対して、与野党ともに、まともな総括はなされていない。

「立民、政策実現へ自民接近」「政権延命に手を貸す」(日経:2025.8.5)等々、石破政権と立憲民主党の大連立が囁かれている。伊藤昌亮教授は、勃興する排外主義(「福祉排外主義」)について、「自分が払っている税金は自分の福祉のために、自分を守ってもらうために使ってほしいのに、なぜ外国人を守るために使うのか、そうした国のやり方は許せない、という考え方だが、その根底にあるのは、要は『国に自分を守ってもらいたい』という心情なのではないだろうか」と書くが(『世界』「取り残された人々の財政ポピュリズムー財務省解体デモの論理と心情)2025.7)、投資不足で賃上げもままならず青息吐息の「国内」ではなく「海外」に80兆円もの大枚を気前よく投資して、衰退する金融帝国・米国と心中しつつある日本の与野党には馬耳東風であろうか。「真に恐れるべきは外国人ではなく、われわれの通貨の価値が減じていること」である(日経:『大機小機』同上)というか、意図的に通貨の価値を減額させ、海外へと投資を誘導し、インフレを引き起こして実質賃金を減額させてきた売国政策にある。

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【投稿】トランプ大統領:大恐慌再来を警告--経済危機論(167)

<<裁判所への警告、脅し>>
8/8、トランプ大統領は、無謀で国際法違反が明白な自らの関税政策に対して、自身のソーシャルメディア・Truth Socialへの投稿で、「もし過激な左派の裁判所が、この段階で私たちに不利な判決を下し、アメリカがこれまでに見たことのない最大の資金、富の創造、影響力を崩壊させたり混乱させようとした場合、これらの莫大な資金と名誉を回復したり返済したりすることは不可能になります。それは1929年の大恐慌が再び起こるようなものになるでしょう!」との警告を発した。

 その全文は、以下の通りである。
「関税は株式市場に大きなポジティブな影響を与えています。ほぼ毎日、新たな記録が更新されています。さらに、数百億ドルが我が国の国庫に流入しています。もし過激な左派の裁判所が、この段階で私たちに不利な判決を下し、アメリカがこれまでに見たことのない最大の資金、富の創造、影響力を崩壊させたり混乱させようとした場合、これらの莫大な資金と名誉を回復したり返済したりすることは不可能になります。それは1929年の大恐慌が再び起こるようなものになるでしょう! もし彼らがアメリカの富、力、権威に反対する判決を下すなら、それはこの事件の初期段階で、私たちの国が二度とこのような偉大さを得る機会を失うことなく、1929年のような危機に陥らないようにすべきでした。アメリカはこのような司法の悲劇から回復する方法はありませんが、私は裁判制度を誰よりもよく知っています。歴史上、私のような試練、苦難、不確実性を経験した人は
いません。絶望的なこともあれば、驚くほど美しいことも起こり得ます。私たちの国は、混乱、失敗、恥辱ではなく、成功と偉大さを得るに値します。神よ、アメリカを祝福せよ!  Aug 08, 2025, 11:38 PM 」

つまり、トランプ氏は、裁判所が自身の関税政策に反対の判決を下した場合、その判決は、世界恐慌の引き金となる可能性があると警告、あるいは脅しているわけである。1929年型の経済崩壊と大不況到来の脅しである。なぜ、突如こうした発言がなされたのであろうか?
実は、米連邦控訴裁判所がトランプ氏の関税政策への対応方法について審理を行っている最中なのである。その意味では、トランプ氏の直接的な裁判への、司法への干渉である。しかもそれは、危機感と焦りを伴った干渉なのである。

米ニュースサイトCNNは、8/8、「米国国際貿易裁判所はすでに5月に、トランプ大統領が外国製品への広範な関税の多くを課す法的権限を逸脱したとの判決を下した。先週、連邦巡回控訴裁判所はトランプ政権の控訴審を審理し、11人の判事からなる審理部は、政権が実施したような強引な方法で関税を課す権限をトランプ大統領に与えているかどうかについて懐疑的な見解を示した」と報じているのである。ポール・ライアン元下院議長も、CNBCに対し、最高裁が国際緊急経済権限法(IEPA)に基づく関税発動を最終的に無効とする可能性があると述べている。
もちろん、たとえ無効との判決が下されて、裁判所が関税命令の撤回を命じる可能性があるとしても、直ちに控訴すれば、最高裁はなにしろトランプ派が多数を占めており、逆転する現実的な可能性は大である。トランプ氏は、それを見越してもいよう。
しかし、関税発動の無効判決が出たこと自体による、政治的経済的打撃、影響は、軽視できないほど重大な事態を招くであろうことも否定しがたい現実であろう。

<<手痛い現実への焦りと責任転嫁>>
そして、このトランプ氏の警告と脅しは、8/7に、トランプ政権による一方的で包括的な「相互関税」が発効し、その結果、米国の輸入関税が1929年大恐慌以来の最高水準に引き上げられたことの、直接的反映でもある。この脅しは、追加関税が発効し、国内大手メーカーや小売業者の一部が価格引き上げを発表した、その翌日に行われたのである。インフレにはならないと、強弁してきたトランプ氏にとっては、手痛い現実への焦りと責任転嫁を目論む抗いである。

新たな関税が発効し、輸入税は大恐慌以来の最高水準に引き上げられる。 EU諸国製の家電製品から日本製の自動車、食品、家具、玩具など、幅広い製品が影響を受ける。(NBC News Aug. 7, 2025)

8/7のNBC News は、1929年大恐慌時の写真をトップに据え、「新たな関税が発効し、輸入税は大恐慌以来の最高水準に引き上げられる。EU諸国製の家電製品から日本製の自動車、食品、家具、玩具など、幅広い製品が影響を受ける。」と報じている。
そして実際に関税コストの価格転嫁が本格的に始まる、すでに行われている現実が報じられている。
ニューヨーク・タイムズ紙は、「アディダス、スタンレー・ブラック・アンド・デッカー、プロクター・アンド・ギャンブルなどの企業の幹部は、投資家に対し、関税コストの一部を顧客に転嫁する予定、あるいは既に転嫁したと伝えている」と報じている。「ウォルマートや玩具メーカーのマテル、ハズブロも、関税が消費者のコスト上昇につながる可能性が高いと、同様の警告を既に発していた。」

 しかも、この関税率は、1930年代大恐慌時の関税以来の高関税である(Average tariff rate 1929 – 2024)。当時、「スムート・ホーリー法」によって、「自国の産業を守るため」として、実に輸入品2万品目に平均60%という高い関税を課し、1930年から1933年の間に世界全体の貿易量を3分の1から半分近くまで落ち込ませ、関税の報復合戦が始まり、世界的大恐慌をもたらし、さらには第二次世界大戦にまで導いた、歴史的には「大きな政策ミス」と結論づけられている関税政策である。トランプ氏の「アメリカ・ファースト」を旗印に掲げた関税政策は、自身が認識せざるを得ないほど、この大恐慌時の関税政策と酷似しているのである。

トランプ氏は、「関税は株式市場に大きなポジティブな影響を与えています。ほぼ毎日、新たな記録が更新されています。さらに、数百億ドルが我が国の国庫に流入しています。」などと虚勢を張っているが、
この関税収入なるものは、結局は、米国企業と消費者が負担する、数千億ドルもの課税なのである。
米輸入額の対GDP比は、1930年時の実に3倍に上昇しており、これらに対する関税の重要性は当時より格段に高まっているのが現実である。全米小売業協会(NRF)は、年間2,000億ドルの輸入コストが家計に打撃を与えると推計しているとおり、「ポジティブ」どころか、ネガティブな影響の方が拡大しているのである。
高関税政策を推し進めればするほど、消費者価格の高騰はもちろん、関税報復合戦さえ再燃させ、グローバルサプライチェーンの混乱と分断をもたらし、世界的経済恐慌という、重大な政治的経済的危機を自ら招かんとしているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】でたらめ闊歩の米・EU関税交渉--経済危機論(166)

<<「暗黒の日」、EUは「屈服した」>>
7/27、トランプ米大統領と欧州連合・EUのフォン・デア・ライエン委員長は、英スコットランドのターンベリーで首脳会談を開き、関税交渉での合意を発表した。
トランプ大統領の発表によると、米国からの輸出に対する関税はゼロであるが、EU加盟27カ国から米国への輸入品に対しては、一律に15%の関税が課せられる。見返りとして、EUは3年間で7500億ドル(約110兆円)相当の米国産LNGを購入し、さらに6000億ドルを米国産業に投資することを約束した。この合意により、8月1日に発動予定の30%への関税引き上げは停止される、その一方で、EUは米国への関税を一切課さないことに同意した、と言う。

 ホワイトハウスは、この合意は「歴史的な構造改革と戦略的コミットメントを実現し、何世代にもわたって米国の産業、労働者、そして国家安全保障に利益をもたらす」と述べている。日米関税交渉での「史上最大の貿易協定」と自負したあの同じ表現で、今回も「史上最大級のディールだ」とトランプ氏は胸を張った。トランプ氏にすれば、「してやったり」の心境であろう。
まさに、日米合意をそのままなぞったような「合意」であるが、やはり、その具体的な内容は、今回も公表されていない。

ところが今回は、EU加盟国首脳や野党からも、あからさまな不満と懸念、非難が公然と表明されている。なにしろ、トランプ政権以前の平均税率4.8%に代わり、15%の関税で、コストは3倍になったのである。
7/28、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相は、「今回の関税はドイツ経済、欧州、そして米国経済に「相当な損害」をもたらすであろう」、「インフレ率が上昇するだけでなく、大西洋横断貿易全体にも影響が出るだろう」、「この結果は我々を満足させるものではない。」と手厳しい。しかし、「それでも、現状では達成可能な最良の結果であった」と、EU委員長を擁護している。ドイツ野党第一党の「ドイツのための選択肢」AfD共同党首、アリス・ヴァイデル氏は、これは「合意ではなく、欧州の消費者と生産者への侮辱だ!」と糾弾している。
フランスのフランソワ・バイルー首相は、さらに辛辣な発言で、今回の貿易協定は「暗黒の日」であり、EUは「屈服した」とまで述べ、「自らの価値観を肯定し、利益を守るために結集した自由な人々の同盟が服従を決意した今日は、暗黒の日だ」と断言している。右翼フランスのマリン・ル・ペン氏は、EUの「政治的、経済的、道徳的な大失敗」と呼んで、この取引を非難し、英国が10%の関税であるのに、「政治的には、27の加盟国と欧州連合が英国よりも悪い状況を獲得した」と述べ、「これは、フランスの産業と私たちのエネルギーと軍事的主権にとって完全な降伏なのです。」と非難している。

 しかし、問題はこれからである。まず、この「合意」はEU加盟27カ国全てによって承認される必要がある。加盟国はそれぞれに異なる利害関係を持ち、米国への輸出への依存度も異なる。EU内部の分岐・分裂が浮上するのは当然であろう。こうした懸念と非難で、ユーロは対ドルで5月以来最大の1日下落を記録している。

とりわけ問題にされているのが、3年間で7500億ドルの米国産LNG(液化天然ガス)購入である。フォン・デア・ライエン委員長は、「米国産LNGガスはロシア産ガスよりも「手頃な価格で優れている」と主張して、この合意をを正当化しようとしているが、実際は、米国産LNGの価格は、ロシアのパイプラインガスの3~5倍なのである。
しかも、3年間で7500億ドル、ということは、年間2500億ドルである。ところが、欧州の現在のLNG支出は900億ドル以下である。3倍近い、現状をさえ無視した、まったくのでたらめな購入額なのである。トランプ政権、米エネルギー資本への貢ぎ物なのであろうか。これまでEUにとって最も安価で信頼できるエネルギー供給国であったロシアに対し、バイデン政権に同調し、米国との連帯として課した対ロシア制裁の結果がこれである。その結果、欧州は「ロシアから競争力のある価格でエネルギーを購入するのではなく、米国から非常に高い価格でエネルギーを購入せざるを得ない」事態に自らを追い込んだのである。こんなでたらめを闊歩させ、正当化させる政策こそが、3年間で7500億ドルもの米国産LNG購入を約束させたのだとも言えよう。

<<「これを超えるパロディは存在しない」>>
Euronews のリポーターJorge Liboreiro氏は、「これを超えるパロディは存在しない」と題して、
「VDL(フォン・デア・ライエン)は、米国産LNGガスがロシア産ガスよりも「より手頃で優れている」と主張し、彼女が欧州のために署名した不平等な条約を正当化しようとしている。この条約では、さまざまな譲歩の中でも、今後3年間で7500億ドル分の米国産LNGを購入することを約束している。
 常識のある人なら誰でも、近隣の国からパイプラインで直接送られてくるガスは、液化されて大西洋を何千マイルも特殊タンカーで運ばれ、欧州で再ガス化されるガスよりも、定義上はるかに安価であると理解できる。
ここに見られるのは、大西洋をまたぐ関係の完璧な例だ:EUのエリートたちが、米国への従属を正当化するために自国民に嘘をつき、すべてはEUの全政策の基礎をロシア嫌悪に置いた結果だ。後者は、米国が欧州でNATOを拡大し続ける決定の直接的な結果でもある。
米国の視点から見れば、これは完全に合理的だ。古き良き「分断して征服する」戦略であり、その恩恵を享受している。EUの視点から見れば、彼らは合理的な決定であるかのように見せるために嘘をつく必要があるが、明らかな真実は、彼らがまんまと利用されたということだ。」と、今回の合意の本質を突いている。

さらにこれらに加えて、いくつもの問題点が列挙されている。
* 米国に6000億ドルの投資を約束しているが、出所は明らかにされていない。もちろん、タイムラインもなし、執行はワシントンの、トランプ氏の気分次第である。
* 鉄鋼、アルミニウム、銅といった最も重要な工業素材は、航空宇宙、防衛、重工業といった中核セクターで重要な役割を果たしているにもかかわらず、最大50%の税率のままである。インフレは再び勢いづく。
* 建設業者、加工業者、そしてサプライチェーン管理者は、より多くの税負担に追い込まれる。
* 自動車はEUから米国への主要輸出品の一つであり、ドイツの自動車部門は2025年上半期に15億ドルの利益減に直面しているが、さらにこれが拡大する。ドイツ自動車工業会(VDA)は、関税率が15%であっても「ドイツの自動車産業は年間数十億ドルの損失を被る」と警告している。
* 米国の軍産複合体は、NATO加盟国である欧州諸国にGDPの5%という膨大な防衛負担を強いることで大きな利益を獲得する一方、EU各国の防衛費急増は、加盟各国経済をむしばむことが確実である。
* 医薬品と半導体は免税対象から除外され、救済措置もなく、課税される。欧州の輸出医薬品の約6割は米国向けであり、製薬業界には最大190億ドルの追加コストが発生する可能性がある。
* EUは今後5年間で6,000億ドルを米国の産業に投入する。これには、LNGターミナル、AIチップ製造工場、軍用ロボットへの投資が含まれる。
* IMFは、今年のドイツ経済はゼロ成長になると予測し、G7諸国の中で唯一停滞すると予測している。

トランプ政権は、EUとの貿易協定総額、1兆3000億ドルを大々的に宣伝しているが、実際に存在するのはわずか165億ドルにすぎない。残りは融資、約束、合意文書のない口約束だけである。そして日米関税交渉でも、日本側の総額5500億ドル投資という数字が発表されているが、このうち実際の直接投資はわずか1%から2%、約55億ドルから110億ドルに過ぎないと日本の財務省は明言している。これも残りは、融資、保証、そして政府保証付き信用枠の再パッケージ化、第三国の米国への投資への部分融資まで計上し、無理やり膨らませているが、実質的、経済的には空虚な数字の計上に過ぎないのである。

EUにとっての「暗黒」、「屈服」、「降伏」、「屈辱」、「侮辱」、「大失敗」等々は、EUの支配層、エリート層が、米支配層と手を組み、それを正当化するための最大の根拠として、ロシア嫌い・ルッソフォビアがEUのあらゆる政策の根幹に据えられてきた、煽ってきた結果が、もたらしたものである。その根本政策を転換させ、平和と緊張緩和の路線に転換しない限り、政治的経済的危機は引き続き深化するであろう。同じことは、トランプ政権についても、もちろん、日本の政権についても言えることである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞

【投稿】 究極の売国的行為―トランプ関税合意と「石破降ろし」という欺瞞

                            福井 杉本達也

1 「日本は関税15%を80兆円で買った」―究極の売国的合意

自動車関税が15%で決着した日米交渉は、日本にとって「勝利」だったのか。日経は「車・相互関税15%に」「税率下げ日米合意」「対米投資を巡っても不明点が残ると報じた。・「日本は私の指示のもとに、5500億ドル(約80兆円)を米国に投資する」。トランプ米大統領は22日、自身のSNSに投稿した。米側文書は、資産と投資家を結びつける枠組みをさす「投資ビークル」と表現し、投資利益の90 %を米国が得ると説明した。80兆円という金額は日本政府の1年分の税収を超える。日本側の説明によれば、5500億ドルは政府系金融機関の出資・融資・融資保証の枠を指す。真水の財政支出ではなく、企業が対米投資に踏み切らなければ使われない可能性もある。」などと解説し(日経:205.7.25)、翌26日の記事では赤沢経財相が記者会見で『5500億ドルを米国にとられたという理解は的外れだ』との見解を示した。」との一方的政府見解を垂れ流した(日経:2025.7.26)。

カギは、米商務長官のハワード・ラトニック氏のBloombergで独占インタビューに答えにある。「アメリカがプロジェクトを選び、日本がその実行に必要な資金を提供するという形になります。」「運営は企業に任せ、得られた利益はアメリカの納税者に9割、日本には1割が配分されます。これは実質的に、日本がこの公約によって関税率を引き下げたことを意味します。」「日本は、アメリカが選定したプロジェクトを実現させなければなりません。」(Yahooニュース:2025.7.26)としている。

経済学者で京都大学・慶應義塾大学名誉教授の大西広氏はスプートニクの取材に応じた中で、合意を「自動車を守るために多くのものを手放した、売国的な合意だった」と述べている(Sputnik日本:2025.7.26)。5500億ドルの根拠は外為特別会計で保有する証券1兆1350億ドル(2025年6月末)の半分であり、財務省が保有する米国債の半分を米国向け投資に振り替えて長期固定化する。つまり米国債のように市場売却は不可能となり、利子配当も激減するのである。

『ビジネス知識源』はさらに分かりやすく、「トランプの任期の3 年で、日本が80 兆円を米国政府ファンドに預託した場合、毎年26.7 兆円のマネーを日本政府の保証で米国政府ファンドに預託することになります。資産は日本のものですが、運用益は米国というとんでもない条件です。日本政府が米国債への投資として運用したときの⾧期金利は、現在4.5%付近です。今回の米国の要求では、債券の運用利益の90%は米国政府の利益になって、日本に還元されるのは4.5%×0.1=0.45%です。」(ビジネス知識源:2025.7.26)。

小沢一郎氏も「そもそも政府は米国による一連の関税措置の完全な撤廃を目標としていたのではないのか。新たな関税負担は、サプライチェーンや多くの中小企業に影響を及ぼす。また、特にコメ等の農産物輸入拡大は、我が国の生産体制を破壊しかねない。外交交渉が「バナナのたたき売り」であってはならない。」「もはやトランプ氏による「商い」と化した交渉。あまりに品位に欠け、日本に対する敬意も欠く。高関税を圧力に対米投資を強要し、根拠なき数字により日本を脅す米国の態度はあまりに異様。対米投資80兆円などというが、そんな資金があるなら、まず日本国内に投資すべき。国民を犠牲にするつもりか」「最大の問題は、日米間に合意文書がなく、合意内容の認識も日米で大きく食い違っていること。トランプ氏が再び難癖をつけてくる可能性が高く、その場合は更なる不利益を被る。米国からここまで突き放されているのだから、逆に日本はこれを奇貨としてより自立する道を選ぶことも検討すべきだろう。」(X小沢一郎事務所:2025.7.28)と批判している。

これに対し、野党では立憲民主党の野田佳彦代表は「国益にかなった交渉だったのかは検証したい」といつもの煮え切らない見解に終始した。国民民主党の玉木雄一郎代表は「自動車を合めて15%にしたのは大きな成果だ」と評価した(後に撤回?)。維新の岩谷良平幹事長は「25%という最悪の事態を避けることができた点は政府の努力に敬意を表したい」と評価した。与党の公明党の斉藤哲夫代表は「粘り強い交渉の結果、日米両国の国益に資する合意となった」と評価した(日経:2025.7.24)。なんとも情けない限りである。

 

2 石破降ろし騒動は、売国的合意を隠すための茶番劇

7月23日付けの読売新聞号外の大誤報をはじめ、新聞各紙・テレビなどマスコミは石破降ろしの大合唱である。しかし、トランプ関税の究極の売国的合意とする報道はほとんどない。そもそも、参院選挙期間中に、この売国的合意は決まっていたはずであるが、選挙結果を恐れて、選挙後の発表となった。参院選挙後の自民党・新聞・マスコミ等の石破降ろしの大合唱は、売国的関税合意を隠す狙いが濃厚である。トランプ関税合意の詳しい説明は、米国からの一方的説明のみで、新聞でもテレビでも誰も解説もしていない。

スポーツニッポンでは赤沢経財相は5500億ドルの数字について「丁寧に説明すると、誤解がこれもあるんですけど」と前置き。「5500億ドル、“真水”という言い方をしますが、キャッシュで5500億ドルがアメリカに行くわけではありません」と説明した。5500億ドルの内訳は、出資、融資、融資保証だといい、取り分については出資の部分だけだという。出資について、赤沢氏は「プロジェクトに出資して、やった時の利益をどうやって分けるかという話(2025.7.26)と究極の売国的ごまかしをしているが、石破政府・自民党・自民党退陣要求派・財務省・外務省・経済界・マスコミ・野党等々を含め、こんな関税合意を「勝利」などとし、喧伝しているが、政府・自民党・財務省・外務省・財界・マスコミ・野党を含めての解体的出直しがなければ、日本は米国と共に沈没するしかない。一刻も早く、ドル基軸体制からの離脱を図り、中国やロシア・東南アジアやBRICSなどと協力関係を築くべきである。

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【投稿】ずさんな日米関税交渉--経済危機論(165)

<<合意文書無し、米側「ファクトシート」追認のみ>>
7/23、石破首相は難航していた日米関税交渉について、「トランプ大統領と合意に至った」と表明。米側に最大5500億ドル(約80兆円)を投資する一方、追加関税を当初の25%から15%に抑えたと、その「成果」を強調。しかし、肝心の「合意」内容については、その合意内容を確認する文書が存在しないことが明らかになった。

7/24、日本側の関税交渉代表である赤沢亮正経済再生担当相は、日米間の貿易協定は日本の利益に合致すると述べたものの、合意の実施方法について米国当局者とはまだ協議していないことを明らかにし、
* 貿易協定は日本の利益に合致する。
* 協定の実施方法について米国当局者とはまだ協議していない。
* 日本は米国との貿易交渉において常に投資に重点を置いてきた。
* 貿易協定を通じ、米国との相互理解と信頼関係を築いてきた。
* 石破首相は米国訪問の可能性について自ら判断する予定。
* 8月1日の一時的な関税引き上げは避けていただきたいと考えている。
* 現時点では、法的拘束力のある協定に署名することは考えていません。
と、述べ、「8月1日の一時的な関税引き上げ」の懸念をさえ表明している。
結果として、
* 日本政府は合意内容を一切確認していない
* 当事者である経済産業省は公式声明を発表していない
* 15%の関税を主張したのはトランプ大統領であり、日本ではない
* 共同プレスリリースも署名もなく、拘束力のある条件も提示されていない
という、厳然たる現実である。合意と言いながら、合意文書が存在しないのである。

 ところが、同じ7/24(米時間では7/23)、日米関税交渉の合意内容を列挙した「ファクトシート」を米側が公表し、以下の「合意」事項の存在が明らかになって来たのである。
* 米国による対日関税が25%から15%に引き下げられる。
* 引き換えに、日本は米国のインフラ、エネルギー、製造業プロジェクトに5,500億ドル(80兆円)を投資することを約束、米国で数十万人の雇用を創出し、自動車、トラック、その他の米国産農産物の貿易を開放する。
* 投資先として、エネルギーインフラと生産、半導体製造と研究、重要鉱物の採掘、加工、精製、医薬品・医療機器の生産、商船・軍事造船―を列挙。支援対象には、艦船の建造や関連施設の近代化など軍事支援まで含まれる。
* 投資5500億ドルによる利益の9割が米側に配分される。
* 医薬品と半導体への関税は別途交渉される予定であり、他の貿易相手国と比べて悪影響はないと表明。
* この協定により自動車関税は引き下げられるが、日本製鉄鋼に対する既存の50%の米国関税は据え置かれる。
* 米ボーイング製の航空機100機を含めた米製の商業航空機の購入で合意。。
* 米国からのコメの輸入については、年間77万トン程度を無税で輸入する現行の最低輸入量の枠内で、米国の輸入を即時に75%拡大する。
* トウモロコシ、大豆、肥料などの米国産品を80億ドル(約1兆1700億円)相当購入する。
* 日本側は、米国の武器(防衛装備品)を毎年数十億ドル(数千億円以上)追加購入する。

この「ファクトシート」について問われた赤沢氏は、「紙の形で合意しているわけではない。法的拘束力ある形で署名するものではない」と述べたばかりか、実は、「(ファクトシートは)機内Wi―Fi(ワイファイ)でざっと目を通しただけだ」とその内実について、日米間で確認されてもおらず、米側が一方的に発表したことを、自ら暴露しているのである。

7/25の党首会談で、石破首相は、合意文書が存在しないことを認めると同時に、日本側は武器や航空機の追加購入について、「従来の計画を説明しただけだ」と釈明し、事実上、すべては日本側の口約束が、米側の「ファクトシート」に列挙され、それらをすべて事後承諾に追い込まれた、ずさん極まりない関税交渉の実態があぶり出されている。

党首会談の際に、「米国の関税措置に関する日米協議:日米間の合意」という、たった1枚の「概要」が配布されたが、事後承認として、「日本は、その実現に向け、政府系金融機関が最大5500億ドル規模の出資・融資・融資保証を提供することを可能にする。出資の際における日米の利益の配分の割合は、双方が負担する貢献やリスクの度合いを踏まえ、1:9とする。」という米側「ファクトシート」の表現を、そのまま認め、武器やボーイング機の追加購入とその金額についてはもちろん、米側の重要な「ファクト」の追認については一切言及されていない、これが関税交渉なるものの、ずさんでお寒い実態なのである。

<<「必要だと思うものは何でも、日本がその費用を負担」>>
トランプ米大統領は、日本とのこの「画期的な」貿易協定を発表し、「史上最大の貿易協定」と自負し、 「我々は日本との大規模な取引を締結したばかりだ。おそらく史上最大の取引だ。私の指示の下、日本は米国に5,500億ドルを投資し、その利益の90%を米国が受け取ることになる」、「この取引は数十万人の雇用を生み出すだろう。このような取引はかつてなかった。」とトランプ大統領は自慢たらたらである。
 このトランプ氏以上に舞い上がっているのが、日米関税交渉の当事者であるアメリカ商務省のラトニック商務長官である。ラトニック氏は、この日米関税交渉の成果について、何と、次のように誇らしげに語っている。
「あなたが原子力施設を建設したいなら、建設してください。パイプライン、半導体工場、必要だと思うものは何でも、日本がその費用を負担します。これまでにない大規模な取引です。」
この厚かましさには、口あんぐり、であるが、それらに加えて、ベセント米財務長官は、「ファクトシート」に盛られた日本側の「譲歩内容の実行状況」を四半期ごとに検証し、「それ次第で25%に戻す」とまで発言している。さらに、「トランプが不満なら日本の関税が25%に戻る可能性」があると、まさに脅しと恐喝である。

しかし、こうした事態を許したのは、日本側、石破政権の対応でもある。トランプ政権の国際法、日米貿易協定の一方的な破棄、世界貿易機関(WTO)協定違反という、重大な二国間ならびに国際的なルール違反を一切問うことなく、またその是正要求を一切提起することなく貿易交渉に臨んだ卑屈な姿勢こそが、米側の尊大・傲慢な姿勢を許したのである。その意味では、この関税交渉は米側の完勝であり、日本側の大惨敗だと言えよう。

ほとんどのアメリカ企業はトランプ大統領の関税を好んでいない

問題は、こうした「史上最大の取引だ」と自慢しているトランプ政権の姿勢そのものが、実は米経済を取り巻く環境に、一層マイナスの影響を増大させるところにある。トランプ政権のこうした貿易取引は、アメリカ経済を強くするどころか、国際的に孤立化させ、弱体化させる可能性の方が大なのである。
7/25付けワシントンポスト紙は、「これらの関税はまだ驚くほど高く、すべての関税は、アメリカの企業や消費者に費用がかかる税金である。そして第一に、「取引」は、米国がより多様なサプライチェーンを構築するのに役立つ重要な同盟国を罰している。第二に、明確な戦略的根拠なしに、アメリカのメーカーと消費者の両方のコストを引き上げる。最後に、トランプは、多国間協力の利点を無視して、貿易取引の交渉を一度に1つずつ交渉することを主張し続けている。結論として、ほとんどのアメリカ企業はトランプ大統領の関税を好んでいない」、と指摘している。

最大の問題は、こうしたトランプ関税が米国離れをさらに加速させることである。こんな貿易取引を切望する貿易相手国はごくごく限られた現実の反映にしかすぎない。現実に、米国を除外した新たなサプライチェーンや同盟を通じて、世界の他の国々がどんどん経済力を増大させており、結果として、各国や企業に米国への依存度を強めるのではなく、サプライチェーンの多様化と米国以外の市場開拓を促進させ、高関税の米国への貿易依存度をどんどん減少させ、世界の貿易の流れを方向転換させる現実的可能性を一層増大させていることである。それはもはや押しとどめがたい流れとなっている。BRICSへの期待とその実力の拡大は、トランプ政権自体が招いたものだとも言えよう。結果として、無謀な関税が反トランプの世界再編を促しているのである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】参政党躍進の理由

【投稿】参政党躍進の理由

                         福井 杉本達也

1 貧困化にまともな対応策を出さない立憲民主党

昨年秋の衆院選と今回の参院選比例との得票比較で、立憲民主党は1146万票を739万票と▲417万票も減らしてしまった。一方、国民民主党は617万票→762万票(+145万)、参政党は187万票→742万票(+555万)、自民党は1458万票→1280万票(▲178万)、維新は510万票→437万票(▲73万)、公明党は596万票→521万票(▲75万)である。いかに立憲民主党が国民から愛想をつかされたかがわかる。

消費税で立憲民主党とは食料品にかかる軽減税率8%を1年間ゼロに下げるとし、延長しても最大2年までという公約であり、財務省に徹底的に配慮し、自分でも何を言っているのか訳のわからないしろものであった。

総務省が2⽉発表した「2024年の家計調査によると、2⼈以上の世帯が使ったお⾦のうち、⾷費を⽰すエンゲル係数は28.3%。28.8%を記録した1981年以降で最も⾼く、43年ぶりの⾼⽔準となった。上昇は2年連続。いわゆる先進国の中で断トツと⾔っていい。」(日刊ゲンダイ:2025.2.14)と報じられていた。大企業寄りの日経新聞のコラム『大機小機』でさえ、「国民の所得から税金や社会保険料がどれだけ支払われているかを示す『国民負担率』は、2025年度は前年度比0・4ポイント高い46・2%となる見通しだという。SNSでは『五公五民』の悲鳴が聞こえる」「国民が生活苦に直面している主因は、…生鮮食品価格のほか、コメ価格や電気代、ガソリン代の高騰だ。総合的な物価高対策が急務である。国会は国民の『インフレ実感』に焦点を当てた議論をする場であり、国民はそれを注視している。」(日経:2025.3.20)と書いていたが、立憲民主党はこうした声を黙殺した。吉田徹同志社大教授は、行き場を失った「特に現役世代の負担感が強い。親の介護、育児の出費、自分の給料が増えない不満が第三極への支持につながった。参政は現役世代の中でも政治に関心がなかった層を新規開拓」したと分析する(日経:2025.7.22)。

2 排外主義は参政党の専売特許ではない

吉田徹教授は「外国人がスケープゴートになった。『自分は真面白に働いているのに報われないのは理由があるはずだ』と考える人にわかりやすいターゲットができた」「外国人間題が票になることが皆にわかつてしまった。今後は争点として存在しなかったことにするのは難しい。これからの展開の分岐点となる選挙だった。」(日経同上)と結論付ける。

しかし、これには伏線がある。FNNは「国際的な安全保障環境の変化も、今回の選挙結果に⼤きな影響を与えた。近年、中国の海洋進出や台湾海峡を巡る緊張、北朝鮮の核ミサイル開発、ロシアと北朝鮮の軍事協⼒の強化など、⽇本を取り巻く地政学的リスクは増⼤している。これにより、⽇本国内では『⾃分の国は⾃分で守る』という意識が強まり、ナショナリズムが再燃している。」「新興保守勢⼒は、このナショナリズムの⾼揚を巧みに取り込んだ。」(FNN 2025.7.22)と書くが、これは米ネオコンと日本政府・自民党とマスコミが描く排外主義の典型である。1972年9月の日中共同声明の2項において、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」、第3項において「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」としている。にもかかわらず、2024年9月25日海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」が当時の岸田首相の直接の支持により台湾海峡を初通過した(福井:2024.9.27)。また、その後、護衛艦「たかなみ」が2015年6月12日に台湾海峡を通過している。日経新聞は「護衛艦の航行は中国軍機の異常接近に対抗するほか、台湾への軍事的圧力を強める中国へのけん制を狙った」と解説している(日経:2025.6.20)。これは“台湾独立”を支援する日中共同声明に違反するものであり、中国の内政に露骨に介入する行為である。日中関係がここまで悪化したのは、尖閣諸島をめぐって、それまでの「棚上げ論」を反故にした旧民主党時代の野田氏や岡田氏、また、当時国交大臣であった維新共同代表の前原氏の責任は重大である。こうした、政府、既存政党、マスコミの排外主義の積み重ねが、投票行動に結びついてしまったのである。

3 日本リベラルの惨憺たる人権状況

アジア記者クラブは「順風で4議席減らした共産党、ラサール石井が出なければ政党要件を失っていた可能性の強い社民党、目標の7議席に遠く及ばなかったれいわ新選組の獲得議席数は合計7議席。敗因を総括できるのか。近隣諸国と対立する右翼と改憲派、ネオリベが日本を崖っぷちに追いやるのは必至。」(2025.7.21)と書いた。れいわは、2022年12月の参院における「新疆ウイグル等における深刻な⼈権状況に対する決議」において、決議に反対した声明において、「新疆ウイグル、チベット、⾹港などでの⼈権侵害は断固として許さない。その考え⽅については、今回の決議の内容に共鳴する部分はある。それ以上に、れいわ新選組は、新疆ウイグルの深刻な⼈権侵害に対して、ウルムチの⽕災をきっかけに中国国内外で広がる抗議運動と⾃由を求める⼈びとの切実な闘いに連帯し、⽇本政府に対して、新疆ウイグル等の深刻な⼈権侵害を直ちに停⽌させるよう中国へ求めるとともに、迫害を受けた⼈々を保護し難⺠を受け⼊れるよう要請する。」などと書き、他国の人権に露骨に干渉しているのでは排外主義を防げるはずもない。

ロシアを訪問して維新を事実上除名された鈴木宗男氏だが、今回は自民党から立候補し、辛くも当選した。2024年のロシア訪問から帰国後「日ロ関係は戦後最悪と言われ、誰かが首の皮をつながないといけない」(2024.8.4)の述べているが、一方的に排外主義に加担しているようでは、日本のリベラルに救いはない。石破首相は訳のわからないアラスカLNGなどに80兆円もの投資すると約束したそうだが、ロシア・北極圏の「アークティック2」や「サハリン2」の方が1/3とものすごく安い。いたずらに排外主義を煽るのでななく、善隣外交こそが日本の生き残りの基本である。

4 スピリチュアルから排外主義へと軸足を移す

参政党が初の国政選挙に挑んだのは新型コロナ禍だった2022年の参院選だった。新型コロナウイルスワクチン接種推奨の是正を訴えてきたが、今回、政策の軸足を「外国勢力の脅威」に移した(福井:2025.7.24)。作家の古谷経衡氏は、「6月の都議選だ。れいわの牙城とされた「練馬」「世田谷」で同党候補が落選し、参政の候補が勝った。あるれいわ関係者は、「支持層がかぶる参政党に取られた」と嘆く。消費税廃止、積極財政を柱とするれいわの経済政策は、後発の参政党が模倣した。しかし国家観や人権問題で進歩的なれいわと、真逆を行く参政の支持者が重複するとはどのような意味か。実際には、れいわ支持層には反ワクチンや陰謀論的世界観を好む支持層が少なくない。この意味においてれいわと参政は近似的だ。」と分析する(日刊ゲンダイ:2025.7.24)。反ワクチン派や有機農業者に参政党支持に回った者は多かった。

5 新参にしては参政党の極めてオーソドックスな選挙方式

参政党は8万人以上の組織をを持つといわれ、選挙の1年以上前から街頭や駅前などの定点に立ち旗振りやチラシ配布を行っていた。また、ポスターもオーソドックスに1枚1枚、掲示場所を頼みに歩いている。「資金の調達構造も草の根型を示す。24年公表の政治資金報告書によると、収入は約12億円。党員が払う会費が約4億4千万円、個人献金が約1億3干万円と、両方の収入で計45%超を占める。他にも全国で開かれるタウンミーティング…4億2千万円ある。」一方、「国民民主党は約14億円の収入額中、党費は約3千万円、個人献金は約600万円と計3%未満に過ぎない。多くの収入を政党交付金に依存する」(福井:2025.7.23)。

党費が数千万円では党員数も推して知るべしであるが、立憲民主党も国民民主党も結成以来年数が経つが、ろくろく地方組織を作ろうとはしてこなかった。ポスター張りなども労組の動員に頼らざるを得ない。一方、参政党は今回はポスター張りを40代の男女が熱心に行っていた。参政党はわずか3年で8万人規模の組織力があるということは、かつての統一教会や幸福の党のような宗教団体が組織的に関与していると考えられる。

長州新聞は「⽐例区のみならず全選挙区に候補者を擁⽴すること⾃体、新興政党としては膨⼤な供託⾦を⽤意しなくてはならずハードルは極めて⾼いことに加えて、ポスター貼りの⼈員確保、全選挙区で選挙実務を担う⼈材確保など巨額の資⾦や組織⼒を擁することが不可⽋になるが、これらをそつなくクリアして選挙戦を展開した。…SNS戦略だけでなく公選法に則った選挙⼿続きの実務など、選挙をそつなく回していくプロ集団(経験者)の⼒が加わっていることや、組織⼒を有する集団の存在を浮き彫りにし、⾦銭的なバックボーンなしにはあり得ない選挙のこなし⽅を⾒せた。…選挙期間中はみずからの政党発信だけでなく、周囲の影響⼒ある媒体も巻き込んで過剰プロモーションともいえる⼒が働いた」(長州新聞:2025.7.21)と分析している。政権から外された自民党旧安倍派や宗教団体、ネオコン、マスコミなどの大合作が疑われる。国益を「第一」とするトランプや欧州の右翼と参政党を同一視する見方もあるが、「売国」と「既成右翼」・「既得権益」の大合作とでは根本が異なる。

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【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方

【投稿】参院選での自公与党の大敗と日米関税交渉の行方

                           福井 杉本達也

1 「なめられてたまるか」の石破首相発言は外交交渉ではない

7月20日投票の参院選の全125議席が確定した。自民は39議席、公明は8議席で合わせて自公は47議席と参院でも過半数を割り込む大敗となった。一方、 国民民主党はは17議席、参政は14議席で大きく伸ばした。立憲民主党は22議席と全く追い風は吹かなかった。

ところで、7月9日、千葉県船橋市の駅前の参院選挙応援で、石破首相は米国関税交渉を巡って、「国益を懸けた戦いだ。なめられてたまるか。同盟国でも正々堂々、言わなげればならない」と演説した(福井:2025.7.12)。さらに、10日のBSフジにおいて、9日の発言の真意を問われた首相は、「米国依存から自立する努力しなければならないということだ。」「“いっぱい頼っているのだから言うことを聞けよ”ということならば、侮ってもらっては困る」と主張した(スポーツニッポン2025.7.12)。新聞紙上では、これらの発言は、対米交渉への悪影響を配慮し、無視されたが、SNS上で話題になり、遅れて12日頃に各紙が取り上げるようになった。

しかし、外交交渉とは相手側との交渉である。相手と、こちら側の要求を突き合わせて交渉し、着地点への妥協を探るものであり、やくざの出入りではない。石破首相の外交センスのなさが如実に出ている。

2 トランプのMAGAはドル安政策、

そもそも、石破首相を含め、日本のマスコミ・世論は、トランプのMAGA(Make America Great Againメイク アメリカ グレート アゲイン、日本語訳:アメリカ合衆国を再び偉大な国にする)は論理のない支離滅裂な政策で、トランプ関税は理不尽な要求であり一貫性がないと宣伝している。しかし、これは米民主党やネオコンなどのプロパガンダである。トランプ政権は、この半年、貿易赤字の削減や製造の再生へ追加関税・国防費の削減(EU国防費のGDP比5%要求・日本への3.5%要求などで国防費の削減)・米国務省の予算・人員の削減や米国際開発局(USAID)の廃止などを行ってきている。しかし、トランプ減税など、個々の政策は矛盾しているが、全体としては国民の所得を上昇させることを目指している。ドル指数(米ドルインデックスは、主要通貨バスケットに対するドルの強さを反映するもの)は10%以上下落しており、ドル安となっている。今後数年かけて30%程度下落する。貿易赤字を減らすためのドル安政策を指向しており、強いドルによるドルの米国への還流は起こらない。トランプの政策は金融資本主義の帝国循環とは矛盾する。

3 非関税障壁としての消費税

トランプは当初から日本の消費税を非関税障壁ととらえている(日経:2025.2.15)。①米国製品を海外へと輸出すれば、それが輸入された国でその国の付加価値税(消費税)が課税される、②海外から米国へと輸出されてくる製品に対しては、原産地で課税免除されるために還付金が与えられる。付加価値税(消費税)を採用している国では輸出国は免税・ゼロ税率による関税非課税となり、その分国際的な価格競争力を増すことになる・一方米国では還付金なしで、海外の付加価値税が課税されるため競争力が低下する。日本国内では消費税増税はひたする社会保障費捻出、あるいは財政再建のためと喧伝されるが、むしろ非関税障壁として認識されている(『アメリカは日本の消費税を許さない』:岩本沙弓)。トヨタなど輸出企業への『消費税還付金』は巨額である。消費税も関税に換算しなおし税率を決めている(日経:同2.15)。もし、消費税率を下げるとすれば、25%関税交渉の余地もある。消費税を撤廃すれば対日関税が15%に下げる可能性もある。既に、ドイツのメルツ政権は、飲食店向けの軽減税率を現行の税率19%から7%への引下げるという(日経:2025.7.18)。

4 財務省の強固な消費税率下げ拒否姿勢の裏に米の防衛費増額要求

財務省が7月2日発表した2024年度の国の一般一会計の決算概要で、税収は見込み額より1兆7970億円上振れた。。消費税収も見込みを約6700憶円上回った(日経:2025.7.3)。

しかし、財務省の消費税減税に対する拒否姿勢は強固である。7月1日の日経新聞の首相インタビューでも石破首相に「消費税の減税だ、という方々には『社会保障の財源どうするんですか』と聞いたい。」と発言させている。首相は選挙選最終日にも「将来に責任を持たないような政策は政策とは言わない」とし、医療や年金を支えてきたのは消費税だと、野党の減税論の主張を批判した(日経:2025.7.20)。

政府は岸田文雄内閣の2022年末に策定した安全保障関連3文書で、防衛力を抜本的に強化するため、防衛費をGDP2%にすると決めた。23~27年度総額を43兆円程度と定め、必要な追加財源をは14. 6兆円と見込んだ。内訳は①税外収入で4・6兆~5兆円強②決算剰余金で 3・5兆円程度③歳出改革で 3兆円強④残りを増税としている。増税は法人税・所得税・たばこ税の3税を対象とするが、法人・たばこ税は26年4月から引上げが決まっているが、所得税増税の実施時期は先送りとなっている(日経:2025.7.11)。さらに、これに輪をかけて米国防次官のコルビー氏が、「最近、日本に防衛費をGDP比3・5%まで積み増すよう求めた。さらに1・5ポイント引き上げるには9兆円強もの財源が新たに必要になる。」「減税を求める声が吹き荒れるなかで消費税率3%強に当たる増税は難しいだろう」と日経コラム『大機小機』は書く(日経:2025.7.3)。

日本の、GDP比3.5%の防衛費は、21兆円となる。現在の防衛費7.9兆円から、13兆円の増加(現在はGDP費1.3%;増加分がGDPの2%)。日本は21兆円を要求されている防衛費は毎年の財政支出であり、10 年間では、210兆円もの巨額 となる。防衛費の増額13兆円/年のほとんどが、米国からの武器輸入となる。財務省は消費税15%(12兆円分の増税)を欧州並みと言い、最終的に は20%(24兆円の増税)を影で狙っている(『ビジネス知識源』2025.6.29)。

しかし、これはトランプのMAGAとは相いれない。米関税25%の根拠は、消費税10%の換算と米国からの武器輸入による約10兆円/年(武器の国内生産が少ないので、輸入80%と仮定)により、米国の貿易赤字を解消しようという算段である。日本は防衛費は赤字国債の発行で補填しろということである。赤沢経財相が9回訪米しようが10回訪米しようが解決できるものではなく、加藤財務相を出せということになる。

5 財務省主導の「消費税増税派」による大連立か・閣外協力か?

物価は上がるが、賃金は増えていない。1994年以来30年間スタグフレーション状態で、日本の平均賃金は19ドルとOECDで最低になり、賃金が4%以上上がらないと、実質賃金は下がる。ついに、世帯所得は世帯所得はOECD26カ国で最下位で、南欧のイタリア・スペインだけでなく韓国にも抜かれてしまった。

今回の参院選挙はこうした自民党の大失政に対し、大審判を下さなければならない選挙であったが、残念ながら政権を担える野党はなかった。ねじれ議会となり、衆議院解散もありうるが、自公は今後も得票を伸ばす可能性はない。50議席を割ると、次回は少数派のままになる。永久に少数派になり、浮上できない。比較第1党ではあるが自民党は連立でないと政権につけない。これまで政権与党ということで、集まった集団が自民党であり、与党という利権の鏨が外れれば、バラバラになり、解党である。財務省派と旧安倍派などの保守派に分裂の可能性がある。野田立憲民主党との大連立や、玉木国民民主党などと閣外協力という手段もある。2012年に消費税10%を通したのは野田氏であり、旧民主党を分裂に追い込んだA級戦犯である。「野合連合」は、かつての1994年の自社さ連立政権の再来となる。実質所得を挙げて欲しいという願いを無視する財務省派の政権となる。「積極財政と減税」の反財務省派と「緊縮財政と増税」の財務省派に分かれる。8.6兆円の防衛費増税(6兆円を12兆円に)、38兆円社会保障費、歳入は租税77.8兆円、消費税24.9兆円(所得税・法人税を超えて)。28兆円の国債発行である。防衛費は大きく増えていく場合、増税するのは消費税のみであり、ある意味自然な結びつきとなる(参考:『ビジネス知識源』)2025.7.19)。「ミスター年金」長島昭立憲民主党代表代行は大連立を否定するが、年金制度を安定的に維持していくためには、国庫による財源支出が不可避である」とし、「消費税増税以外に現実的な選択肢は存在しない」との立場である。もちろん、103万円の壁を力説するものの、消費税ではピントのぼけた玉木国民民主党代表も財務省主計局出身者である。

7 日銀の議事録(2015年)公開に見る、自公大敗の原因・「異次元緩和」・アベノミクスの大失政

安倍自民党は、2013年4月からのアベノミクスで円紙幣を600兆円も増刷したが、GDPへの効果がなかった。それは消費税を5%から8%、8%から10%への増税をしたため、ゼロ金利マネーは、2%から5%金利のつく米国債とドル株の買いになった。推計400兆円のドル買い・円売りで、1ドル80円台(2012年)が120円、140円、160円の円安になって海外に流出した。

日銀は7月16日、2015年1~6月に開いた金融政策決定会合の議事録を公表した。物価上昇率の停滞で、異次元緩和開始時に掲げた「2年程度を念頭に2%」の目標達成の先送りに追い込まれた。大規模な金融緩和策を続けたことで日銀の保有国債は積み上がり、今なお出口を巡る問題に悩まされていると書いている(日経:2025.7.17)。これに日銀元調査統計局長の亀田制作氏がコメントしている。「14年4月の消費税率引き上げ以降、消費が思ったより低迷した。増税が消費に与える影響を過小評価していた。」「円安による物価上昇が年金生活者や中小・零細企業に与える負の影響も予想以上に大きかった。」と解説している。

10年に及ぶ大実験によっても日本の経済成長率は低いままであり、異次元緩和が引き起こした超円安による輸入インフレにより日本の家計はひどく苦しめられている。原油など資源価格の上昇は、海外への支払いを増やし、交易条件を大きく悪化させ、賃金は上がらず、物価上昇が続くため、実質賃金は3年連続の減となり、家計の実質購買力を大きく悪化させている(『日本経済の死角』 河野龍太郎)。この黒田東彦日銀(元財務省財務官)による自民党・財務省あげての大失政の責任を誰も取ろうとはしない。「増税が消費に与える影響を過小評価」との亀田氏のコメントを待つまでもなく、財務省派の石破首相・野田氏らにも反省の弁はない。

 

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【投稿】トランプ関税:破綻への再始動--経済危機論(164)

<<「TACO」から「TATA」へ>>
トランプ大統領のでたらめな関税マシンが再び動き出した。
4月2日のトランプ氏自ら命名した「解放記念日」に発表した「相互関税」(対中国34%、対EU20%、対日本24%、…等々)は、4/9、午前零時に発効したはずであったが、トランプ氏自身が動揺を隠し切れず、国民に「冷静に」と呼びかけた後、その日の午後、突然、90日間の関税発動停止を発表したのであった。
その90日期限がこの7月9日であったが、一方的な関税戦争開始による威嚇と脅し、関税率上げ下げの応酬が繰り返されたが、貿易協定締結の合意に至ったのはベトナムとイギリスだけであった。成果はゼロに等しい。
この経過から、TACO=Trump Always Chickens Out「トランプはいつもビビってやめる」と揶揄され、トランプ氏はこのTACO表現に激怒したのであるが、再び、「相互関税」の発動期限を8月1日まで延期する大統領令に署名し、今度は、8月1日までに合意に至らなければ、4月2日の「解放記念日」の関税率が再び適用される、そればかりかさらなる関税率の上乗せ、対象の拡大にまで乗り出すことを明らかにしている。今度は、TATA=Tramp Always Tries Again「トランプは常に再挑戦する」、と言うわけである。
そして問題は、今回はブレーキがかかっていない、ことである。単なる再挑戦ではなく、「タコがタカになるリスク」、強硬な「タカ派」路線、極端な高関税の脅し、政治主義的・独裁主義的路線が前面に飛び出してきているのである。ブラジルへの「50%関税」がその典型である。

ブラジル大統領宛のトランプ氏の手紙

その主な動きを列挙すると、
* トランプ政権は新たな関税率の概要を示す書簡を20通以上、各国政府に送付した。(日本と韓国は8月1日から25%、カナダに35%の関税を課す)
* 日本宛ての警告書では、米国に輸入されるすべての日本製品に25%の関税が課され、「既存のすべてのセクター別関税とは別に適用されます」と強調、、日本の関税、非関税政策、そして貿易障壁が、持続的で持続不可能な貿易赤字の原因であると指摘し、両国の関係は長きにわたり非互恵的であったと主張し、日本が関税を引き上げた場合、米国は既存の25%の関税にその額を上乗せする、と警告。
* カザフスタン、マレーシア、チュニジアからの輸入品にも25%の関税を課し、南アフリカとボスニア・ヘルツェゴビナ(30%)、インドネシア(32%)、セルビアとバングラデシュ(35%)、タイとカンボジア(36%)、ベトナム、ラオス、ミャンマー(40%)からの輸入品には、より高い税率が適用される。
* 7/8、米国外で生産された医薬品は最大200%の関税、さらに自動車や鉄鋼・アルミニウムに続く分野別の追加関税の対象を広げ、「輸入銅に50%の追加関税」を表明、銅価格は史上最高値を更新。先物価格は17%急騰している。
* 脱ドル化の試みに対し、「BRICSの反米政策」に同調する国には10%の追加関税を課すと表明。
* 7/12、トランプ氏はTruth Socialを通じて2通の貿易警告書を発出し、8月1日からメキシコとEUからの輸入品すべてに30%の関税を課すと通告。ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長に宛てた2通目の書簡で、EUの関税と非関税障壁に起因する長年の貿易不均衡が是正されない限り、8月1日からすべてのEU製品に30%の関税を課すとブリュッセルに通告。

<<BRICSへの動揺と「怒り」>>
そして極めつけは、ブラジルのルイス・イグナシオ・ルラ・デ・シルバ大統領に宛てた手紙の中で、米国が南米ブラジルからのすべての輸入品に50%の関税を課すと発表し、「ブラジルによる自由選挙とアメリカ国民の基本的言論の自由に対する陰湿な攻撃」を理由として、ブラジルの元大統領でトランプ氏の盟友である「南米のトランプ」=ジャイル・ボルソナーロ氏の裁判を「魔女狩り」と呼び、直ちに終結させるべきだと述べ、米国に輸出されるブラジル製品すべてに50%の関税を課す」と主張したことであった。
しかも、トランプ氏は手紙の中で、米国はブラジルとの貿易赤字を抱えていると嘘をついているが、これはまったくのでたらめで、真実は、米国は長年にわたりブラジルとの貿易黒字を維持しており、2024年だけでも74億ドルに上っているのである。経済的な、貿易収支上の理由などまったくなしである。関税戦争によって損失を被るのは、むしろ米国側なのである。

ルラ大統領はトランプ氏のこの書簡に対し、声明の中で「いかなる一方的な関税引き上げも、ブラジルの経済相互主義法に従って対処される」と述べ、対抗関税の可能性に言及し、貿易にドルを使う義務はないことまで言明している。

トランプ氏は、明らかに7月6日にブラジルで開催されたBRICS首脳会議に動揺し、BRICS諸国が国際貿易の主要通貨として米ドルに取って代わろうとしていると非難し、BRICSへの「怒り」が、この突飛な「50%関税」の背景にあることを自己暴露しているのである。

今や、BRICS加盟国(B・ブラジル、R・ロシア、I・インド、C・中国、S・南アフリカ)とそのパートナー20カ国(BRICS+)は、世界のGDP(購買力平価)の44%、世界人口の56%を占めるに至っており、その組織力が減少するどころか、増大しており、公正な貿易ルールとWTO改革の推進で協力・前進している。
その現状を列挙すれば、
* BRICS諸国のGDP合計は購買力平価ベースで77兆ドル(2025年)で、G7の1.3倍に相当
* BRICS+は世界のGDP成長の40%以上を牽引
* BRICS+の平均成長率は4%(2025年)と予測されており、G7の1.7%の2倍以上
* エネルギー、金属、食料など、主要な世界市場を支配する11の加盟国と10のパートナー
* BRICS+諸国は、世界のガスの約32%、原油の43%を生産しており、エネルギー自立を達成

米国経済は(英国、日本、ドイツ経済と同様に)縮小している

対して、米国主導のG7は、米国、英国、ドイツ、日本のGDPがいずれも引き続き減速し、停滞している。
7/11、米国経済分析局(BEA)発表の2025年第1四半期の米国GDPは、0.5%減少である。7/9発表の日本のGDPは年率0.2%の縮小であり、ドイツは2年連続で経済が縮小している。英国国家統計局(ONS)が発表した最新の月次成長率によると、5月の英国の国内総生産(GDP)は前月比0.1%減少し、4月の0.3%の縮小に続くものである。つまりは、トランプ政権の無謀な関税政策とともに、G7の中心たる米国、英国、ドイツ、日本のGDPがいずれも経済の弱さを示していることから、米主導の世界経済は引き続き減速し、停滞しているのが実態なのである。G7が、トランプ政権に追随している限り、その政治的経済的危機は強まりこそすれ、緩和される展望は開けないのである。
(生駒 敬)

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【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相

【投稿】イラン核施設攻撃と停戦の真相

                           福井 杉本達也

1 イラン核施設への攻撃
6月22日、トランプ大統領は、米軍がイラン国内にあるフォルドゥ、ナタンズ、イスファハンの三つの核関連施設に対し爆撃を実施し、破壊したと発表した。爆撃の対象となった核関連施設は、放射性物質を含む施設であり、放射性物質が拡散した場合、長期的かつ回復不能な環境災害を引き起こす。イラン原子力庁は同日、核施設が米軍の攻撃を受けたことを認めたうえで「放射性物質による汚染の兆候は確認されず、周辺住民に危険はない」と発表。また、IAEAも、現在までにイランの核施設での放射能漏れは確認されていないとしている。しかし、イランのアラグチ外相は26日、同国の核施設に対する米国の攻撃が「広範かつ深刻な」被害をもたらしたとの認識を示した(CNN:2025.6.26)。もし、稼働中の原発や放射性廃棄物貯蔵施設が破壊された場合、福島原発事故やウクライナのチェルノブイリ原発事故を上回る放射性被害が出る恐れがある。稼働中の原発には広島型原爆1000発分の放射能が含まれており、核関連施設への攻撃は極めて悪質な犯罪行為である。

2 核施設攻撃を当然視する危険な論調
6月23日付けの日経新聞トップの見出しは「米、イラン核施設空爆」「3カ所攻撃、地下貫通弾も」とあり、核施設の攻撃が、地球全体に核爆弾よりもさらに大きな被害をもたらす恐れがあるという認識は薄い。どのように破壊するのか、破壊されたのか、されなかったのかという軍事面に偏った見出しである。イスラエル・イラン停戦合意後の共同=福井新聞の見出しも「なお核開発能力、禍根」というものであり、軍事に視点を置いたままである(福井:2025.6.25)。トランプ米大統領が広島、長崎への原爆投下を引き合いに、米軍の攻撃がイスラエルとイランの戦争を終結させたと発言したことを、イランのセアダッド駐日大使は「言語同断」だと厳しく批判した(福井:2025.6.28)。さらに続けて「被爆国である日本に「もっと声を上げて欲しい」と注文した(同上)。欧米のみならず、日本のマスコミの論調の低さにはあきれかえる。このままでは、近い将来、全面核戦争に引き込まれてしまう。米国のジェフェリー・サックス・コロンビア大学教授は「イスラエルによるイランへの攻撃は、本格的な戦争へとエスカレートする恐れがあり、イスラエル側には米国と欧州、イラン側にはロシア、そしておそらくはパキスタンも巻き込むことになるだろう。近い将来、複数の核保有国が互いに対立し、世界を核による破滅へと引きずり込む事態が見られるかもしれない。終末時計は午前0時まで89秒を指し、1947年の設置以来、核による終末に最も近づいている。」「ネタニヤフ首相の手を止めない限り、核によるハルマゲドンで私たち全員が滅亡することになるかもしれない。」(2025.6.19)と述べている。

3 IAEAの犯罪的役割と結果責任
今回のイスラエルによるイラン奇襲攻撃で明らかになったことは、IAEAの犯罪行為である。今回、イスラエルは、「斬首作戦」ともゆうべき、イランに対して、核計画、科学者、軍幹部を標的とした前例のない攻撃を行ったが、各科学者の名前などが、IAEAを通じて、事前にイスラエルに流れていたという。「IAEAグロッシが6月13日から24日にかけてイランの核施設を巡る事態についてコメントした方法は、『IAEAの主な機能は監視ではなく、隠蔽された諜報活動であることが明確に示している』と指摘した。『クレムリンは以前からこの事実を知っていた。グロッシが現在、ロシアのカリニングラードを越えて移動することを許可されておらず、ロスアトム以上の高官と会談することを禁止されているのは偶然ではない』」と政治アナリストのザロフ氏は指摘している(2025.6.25)。元々、IAEAは核保有国の核独占という都合のために作られた組織であり、これまでも旧ソ連邦のチェルノブイリ原発事故における被害の隠蔽や、日本の福島第一原発事故においても、放射能汚染水の海洋放出へのお墨付きを与える行為、また、ロシアのウクライナ侵攻においても、ウクライナ側によるザポリージャ原発への度重なる攻撃についても、攻撃主体をあいまいに発表するなどの犯罪行為を積み重ねている。しかし、今回のイラン核科学者の名前の漏洩は非常に悪質である。「IAEAは核施設が攻撃された事実を深刻に捉える必要がある。そうでなければ、今後、世界ではますます核施設への攻撃が容認される。そうなれば、相手も敵国の核施設に報復攻撃を行うことになる。この結果についてIAEAはどのような結果責任を負うのか説明する義務がある。」(olivenews 2025.6.25)。

4 イスラエルは崩壊の瀬戸際まで追い詰められた
元米情報将校のスコット・リッターは。「この問題の本当の目的は核ではなく、政権転覆にある」と指摘する。だから奇襲攻撃で軍幹部・核科学者を標的とした「斬首作戦」を行ったのである。しかし、結果、イスラエルは「10年、もしくはそれ以上かけて築いた諜報作戦を自ら台無しにした」「ドローン操縦士の中に工作員を潜入、ドローン工場への浸透、その全てが消えた。」「彼らは全員モサドの工作員だ。そのネットワークは壊滅した。」「通信面でもイスラエルはあらゆる手を使った。あらゆるトリックを駆使してイランに仕掛けたが、うまくいかなかった。今やイランは体制を立て直しつつあり、もはや通用するトリックは残っていない。イスラエルの正体は完全に露呈した。要するに、イスラエルとイランが再び戦闘に突入しても、F-35やF-22の運用方法には限界があり、イスラエルはそれら全てを使い切った。」と述べている。
また。『アラバマの月』のコメントでは「計画が進展するにつれ、48時間以内、あるいはその直後にイランが降伏することを本質的に予想しているように見えた主要な目標を達成することができなかった。イランがAD能力を回復し、イスラエルに対するロケット弾攻撃を成功させ始めると、紛争は急速に性格を変え、イスラエルにとって非常に破壊的な形で発展した。これは、イスラエルがロケット弾攻撃を止め、面目を保つことを可能にする何らかの出口を提供するよう、アメリカに嘆願する必要があった。」(2025.6.27)。と述べている。

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【投稿】トランプ大統領:「12日間戦争」終結の虚構

<<「皆様、おめでとうございます!戦争は終結します」>>
6/24、トランプ大統領は自らのソーシャルメディアで、イスラエルとイランが停戦に合意したと発表した。
「皆様、おめでとうございます!イスラエルとイランの間で、12時間の完全かつ全面的な停戦(今から約6時間後、イスラエルとイランがそれぞれ進行中の最終任務を縮小し完了した時点)を行うことで完全に合意し、その時点で戦争は終結したとみなされます!公式には、イラン側が停戦を開始し、12時間目にイスラエル側が停戦を開始し、24時間目に12日間戦争の公式終結が世界から祝福されます。各停戦中、相手側は平和と敬意を保ちます。すべてがうまくいくという前提で(そうなるでしょうが)、イスラエルとイランの両国が、いわゆる「12日間戦争」を終わらせるスタミナ、勇気、そして知性を持っていることを祝福したいと思います。」

その詳細は、以下の経緯を取るという。
* 0時間:イランが停戦を開始。これは6月23日東部時間午前0時に始まった。
* 12時間:イスラエルが停戦に参加し、全戦線での攻撃作戦を停止。
* 24時間:停戦が完全発効。両陣営は軍事的に沈黙を守ることが予想される。空爆、ミサイル発射、動員は行われない。

トランプ大統領はこの発表の中で、さらにいくつかの具体的な事実を明らかにした。
* イランはカタールのアル・ウデイド空軍基地へのミサイル発射前に米

軍に事前通知を行った。これにより、防衛準備と撤退が可能になった。
* 米軍の死傷者は報告されていない。被害は軽微だった。国防総省は攻撃を確認したが、停戦の発端についてはこれ以上のコメントを控えた。
* 湾岸地域全域で米大使館による警戒警報が発令中である。カタールとイラクの空域制限は、今後の展開を見据えて引き続き実施されている。

この発表の経緯から明らかになったことは、イランがカタールの米軍基地を標的とした攻撃を開始してから数時間後に行われたものであった、ということである。

 6/23、イランは、カタールにある中東最大の米軍基地であるアル・ウデイド空軍基地を標的とした弾道ミサイル攻撃を敢行した。即座にパニックを引き起こし、空域は全面的に閉鎖された。ただし、米軍側に事前の通知を行い、米国大使館はカタール在住の全アメリカ国民に、具体的な時期や説明なしに屋内退避命令と警告を発令、防衛準備と撤退を可能とさせた。イラン軍司令部は、今回の作戦は「標的を絞った均衡の取れた」ものだと、きわめて限定的で抑制された攻撃(6発のミサイル攻撃)にしかすぎないことを明らかにした。イラン指導部は、米国がイスラエル・イラン紛争への関与を続けるならば、さらなる攻撃を行うことを明らかにし、この地域にあるすべての米軍基地が今や標的となっている、と警告し、実際にアル・アサド空軍基地など、イラクの複数の米軍基地が攻撃を受けている。このことは、米軍のStars and Stripes紙も確認している。

(この米軍基地攻撃について、イラン革命防衛隊は声明を発表し、「アメリカは火遊びを選んだ…しかし、その炎の大きさを計算に入れていなかった。この地域の米軍基地は危険地帯にある…驚きの出来事が待ち受けている。」と警告している(Iran military @Iran_military00 午前0:01 · 2025年6月24日)。)

<<「イスラエルよ、爆弾を投下しないでくれ」>>
しかし問題は、広範な和平合意としては成立しておらず、敵対行為の停止のみが焦点となっている点に留意すべきであろう。
トランプ氏の発表後、数時間にわたる沈黙が続いたが、イスラエルは、停戦協定の当事国であることを確認、イランのアッバス・アラグチ外相は、「イスラエル政権がイラン国民に対する違法な侵略を停止する限り、(イスラエルによる戦争開始への)対応を継続する意図はない」と確認し、事態は前進するかに見えた。

ところが、イスラエルは、イランが期限後にミサイルを発射したと主張し、イラン側が否定しているにもかかわらず、イスラエルは「テヘラン中心部への強力な対応」を実行するとして、カッツ国防相は軍に「テヘラン中心部」への報復を指示している。
ネタニヤフ首相は閣僚に対し停戦に関するコメントを控えるよう求めたが、強硬派のイスラエル・ベイテヌ党党首アヴィグドール・リーベルマン氏は、トランプ氏の停戦合意には、イランの「無条件降伏」が欠如していることを非難し、ネタニヤフ首相率いるリクード党のダン・イルーズ氏は、「敵は降伏したのか?それとも、これは我々がポイントで勝利しただけのラウンドなのか?」と同調している。イスラエルの右派や米国に拠点を置くイスラエル支援者の間では、既に始まったばかりの和平に不満の声が吹き上がっている。
一方、野党党首のヤイル・ラピド氏は、ネタニヤフ政権はガザでの戦争を今すぐ終わらせるべきだと述べ、「ガザでも(戦争を)終わらせる時が来た。人質を返還し、戦争を終わらせるべきだ。イスラエルは復興に着手する必要がある」と述べている。混迷の事態の進展である。

トランプ大統領は、こうした危うい事態の進展にいら立ち、「イスラエルよ、爆弾を投下しないでくれ。もし投下したら、重大な違反だ。今すぐパイロットを帰国させろ!」と投稿し、 「イスラエルにもイランにも満足していない」、「どちらも「自分たちが何をしているのか分かっていない」と、怒りをぶちまけている。

しかし、これはトランプ氏自身がまいた種である。この「12日間戦争」終結の危うさは、トランプ氏自身が、ほんの数日前の国際法違反の無謀なイランへの奇襲攻撃で、巨大爆弾を投下し、「米軍はイラン政権の3つの主要核施設、フォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンに対し、大規模かつ精密な攻撃を実施しました。今夜、私は世界に対し、今回の攻撃が目覚ましい軍事的成功を収めたことを報告できます。イランの主要な核濃縮施設は完全に壊滅しました。」など自慢した、その強引さ、虚構の破綻の結果でもある。
真の緊張緩和と平和的解決を達成するためには、この我田引水的、トランプ的「取引」そのものを停止し、軍事的緊張激化それ自体を禁止すること、その合意こそが求められているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ米政権:対イラン直接爆撃、泥沼の幕開け

<<ネタニヤフ「トランプ大統領、おめでとうございます」>>
6/21夜、トランプ大統領は、米国東部時間午後10時にホワイトハウスからテレビ演説を行い、米軍が夜間の大規模軍事作戦を実行し、「米軍はイラン政権の3つの主要核施設、フォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンに対し、大規模かつ精密な攻撃を実施しました。今夜、私は世界に対し、今回の攻撃が目覚ましい軍事的成功を収めたことを報告できます。イランの主要な核濃縮施設は完全に壊滅しました。」と主張、「華々しい軍事的成功」と表現し、それでもなお、「もし平和がすぐに訪れなければ」、我々は「迅速かつ巧みに」イランの残りの地域を攻撃するだろう、との警告まで発した。
 イスラエルとの関係についても発言し、「ビビ・ネタニヤフ首相に感謝と祝意を表します。私たちは、おそらくかつてないほどのチームワークで協力し、イスラエルに対するこの恐ろしい脅威を根絶するために大きな進歩を遂げました。イスラエル軍の素晴らしい任務に感謝します。」とイスラエルをことさらに持ち上げ、トランプ大統領は最後に、「中東に神の祝福あれ、イスラエルに金の祝福あれ、そしてアメリカ合衆国に神の祝福あれ」と締めくくった。
イスラエルの国際法違反の「先制攻撃」を賛美するばかりか、自らも、突如イラン爆撃に踏み切った危険なエスカレートを「かつてないほどのチームワーク」と賛美したのであった。まさに、これは、「正気の沙汰」ではない、危険な本性を露わにしたテレビ演説であった。

早速、これに応えて、イスラエルのネタニヤフ首相は、「トランプ大統領、おめでとうございます」と、イスラエルによるイランへの爆撃作戦への米軍の参加という「大胆な決断」を称賛し、今回の行動は「歴史の転換点となり、中東のみならず、さらに広い地域を繁栄と平和の未来へと導くものとなる」とほめたたえたのであった。

 さらにトランプ氏は、自身のTruth Socialに次のように投稿した。
「すべての航空機は現在、イラン領空外にいる。主要施設であるフォルドゥには、爆弾が満載で投下された。すべての航空機は無事に帰還している。偉大なアメリカの戦士たちに祝意を表す。世界でこれほどのことを成し遂げた軍隊は他にない。今こそ平和の時だ!」と述べ、
同時に、「平和が訪れるか、イランにとって過去8日間で我々が目撃してきたよりもはるかに大きな悲劇が訪れるかだ」、「まだ多くの標的が残っていることを忘れてはならない。今夜の攻撃は、これまでで最も困難で、おそらく最も致命的だった。しかし、もし平和がすぐに訪れなければ、我々は他の標的を精密、迅速、そして巧みに攻撃する。そのほとんどは数分で排除できるだろう」と主張している。

<<「悪のパンドラの箱」>>
問題は、トランプ氏自身が「まだ多くの標的が残っていることを忘れてはならない」、「はるかに大きな悲劇が訪れる」可能性を自認しており、「数分で排除できる」どころか、実は容易ではない事態をさらに増大させていることである。

まず、「イランの主要な核濃縮施設は完全に壊滅しました。」と、トランプ氏は述べているが、イランの公益性判断評議会メンバーであるモフセン・レザイ氏は、イランは事前にすべての「濃縮核物質」を安全な場所に移動させたと述べており、また、イラン国会議長顧問のメフディ・モハンマディ氏は、フォルドゥ核施設への攻撃を予想し、避難措置を取り、施設に回復不能な損害はなかったと述べ、「イランの立場からすれば、驚くべきことは何も起こらなかった。イランは数日間、フォルドゥへの攻撃を予想していた。この核施設は避難させられたが、今日の攻撃で回復不能な損害は発生していない」と述べていることである。

さらに、イラン原子力庁(AEOI)は6/22早朝に発表した公式声明で、米国の空爆がフォルドゥ、ナタンズ、エスファハーンの核施設を現地時間日曜日早朝に攻撃したことを確認し、この作戦を違法かつ「残虐な」行為だと非難し、同時に、国際査察官の監視下で稼働していた施設への攻撃を米国が行った違法性を非難し、声明で、「この行為は残念ながら、無関心の影で、国際原子力機関(IAEA)の支援を受けて行われた」と主張していることである。
そして、イランの国家核安全システムセンター(AEOI)は別の声明で、3カ所の施設すべてで緊急査察が実施されたことを確認し、同センターは「汚染の兆候は記録されていない」と述べ、「上記施設周辺住民への危険はない」と付け加えている。

「残虐な」放射能汚染を防いでいるのは、まさにイラン当局なのである。「残虐な」放射能汚染を拡大させようとしたのは、アメリカとイスラエルなのである。イランが、米国を核拡散防止条約違反で非難し、告発する当然の権利を有してるのである。イランのアラグチ外相は、米国の攻撃は広範囲にわたる影響を及ぼすだろうとし、イランは自衛権を留保すると述べ、「米国はイランの平和的な核施設を攻撃することで重大な違反を犯した」と強調している。

 アントニオ・グテーレス国連事務総長は、米国のイラン攻撃を「既に危機に瀕している地域における危険なエスカレーションであり、国際の平和と安全に対する直接的な脅威」であると非難し、「この危険な時期に、混乱の連鎖を回避することが極めて重要だ。軍事的解決策はない。前進する唯一の道は外交であり、唯一の希望は平和だ」と強調している。

アメリカの著名なジャーナリスト、クリス・ヘッジス氏は、アメリカのイランとの戦争は「悪のパンドラの箱を開ける」と指摘して、以下のように述べている。
* 戦争は悪のパンドラの箱を開ける。一度解き放たれた悪は、誰にも制御できない。イランの核施設への米軍爆撃を命じた戦争屋たちは、アフガニスタン、イラク、リビア、シリアでの攻撃と同様に、イランにおける今後の展開について何の計画も持っていない。
* イランとの戦争は、地域全体でシーア派に対する戦争と解釈されるだろう。間もなく報復が行われるだろう。それも大量に。最初は散発的なミサイル攻撃で始まり、次に捉えどころのない敵による船舶、軍事基地、軍事施設への攻撃へと発展するだろう。そして、着実にその規模と致死性は増大していくだろう。中東に駐留する約4万人の兵士と海兵隊員を含む死者数は増加するだろう。空母を含む艦船が標的となるだろう。
* イラクやアフガニスタンでやったように、我々は盲目的な怒りをもって攻撃を開始し、自らが引き起こした大惨事に油を注ぐことになるだろう。我々をこの戦争に誘い込んだ者たちは、戦争という手段についてほとんど知らず、彼らが支配しようとしている文化や民族についてはなおさら知らない。傲慢さに目がくらみ、自らの幻覚を信じ、過去20年間の中東における戦争の教訓を全く学んでいない。
* イランとの戦争は自滅的で、多大な犠牲を伴う泥沼となり、帝国の朽ちかけた建造物に打ち込まれる釘の一本となるだろう。

トランプ政権は、「悪のパンドラの箱」を開けているのである。
(生駒 敬)

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【転載】反戦の声、イスラエルの爆撃で殺害されたイラン人詩人パルニア・アッバシさんを追悼

以下は、6月18日のコモン・ドリームズからの転載である。(生駒 敬)

「紛争の時代において、女性は常に最初の犠牲者となってきた」と、あるイラン人学者は述べた。
ブレット・ウィルキンス 2025年6月18日

著名なイラン人学者や、パリで開催された国連イベントに参加したベネズエラ代表団を含む平和活動家たちは水曜日、先週イスラエルによるテヘラン爆撃で両親と10代の弟と共に殺害されたイラン人若き詩人パルニア・アッバシ氏に追悼の意を表した。

24歳の誕生日を数日後に控えていたパルニア・アッバシ氏は、6月13日、テヘランのサッタルハン地区にある住宅団地への空爆で死亡した。これは、米国が支援するイスラエルによるイランへの一方的な戦争の第一波であり、水曜日早朝時点で少なくとも585人が死亡、1,300人以上が負傷したと報じられている。

イランのメディアによると、パルニアさんの引退した両親、パルヴィズ・アバシさんとマソウメ・シャリアリさん、そして弟のパルハム・アバシさんもイスラエルの攻撃で死亡した。一家は自宅が爆撃された時、眠っていたと伝えられている。

ワシントン・ポスト紙のイェガネ・トルバティ記者によると、

アバシさんはコールドプレイのコンサートを観ることを夢見ていた。新しい食べ物を試すのが大好きで、イタリア語も勉強していた。詩を絶えず書き、友人や家族と分かち合っていた。イラン最高峰のダマヴァンド山に登頂したことをとても誇りに思っており、会う人会う人すべてにそのことを伝えていた。今週、友人たちが電話インタビューやテキストメッセージで語ったように、彼女は愛するひまわりのように明るく、生命力に満ち溢れていました…

アッバシさんの友人たちは、インタビューやメッセージ、ソーシャルメディアで、彼女との思い出を語ってくれました。初めてキャンプに連れて行ってくれたこと、惜しみなくプレゼントをくれたこと、彼女のユーモアのセンスに思わず笑ってしまったこと、カメラの前でおどけたダンスを披露してくれたことなどです。

テヘラン・タイムズ紙は、英語教師でもあったアッバシさんを「イランの新世代詩人の中で期待の星」であり、「心を打つ、内省的な詩で高く評価されている」と評しました。

文芸誌「ヴァズニ・エ・ドニャ」の追悼記事で、アッバシさんはこう語っています。「私は自分に起こるすべての出来事を、書き留めることができるかもしれない、その瞬間に抱いた感情を詩を通して表現できるかもしれない、と捉えています。」

以下は、アッバシの最も有名な詩『消えた星』からの抜粋で、ガザル・モサデクが翻訳したものです。

あなたと私はいつか終わりを迎えるでしょう。

世界で最も美しい詩は

静まり返ります。

あなたはどこかで

泣き始めます。

生命のささやきを

しかし私は終わりを迎えます。

私は燃え尽きます。

私は、あなたの空に消えた星となるでしょう。

煙のように。

テヘラン・タイムズ紙によると、著名なイラン人学者で芸術家のザーラ・ラーナヴァール氏は、水曜日に行われたアッバシへの追悼式で、「紛争の時代におい

て、女性は常に最初の犠牲者でした」と述べました。

「今回は、ガザからイランに至るまで、女性や子供を殺害したことで世界的に悪名高い犯罪者による爆撃の犠牲になったのです」と彼女は付け加えた。ネタニヤフ首相は、パレスチナにおける戦争犯罪と人道に対する罪の容疑でハーグの国際刑事裁判所から指名手配されているイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相のことだ。

パリで開催された国連教育科学文化機関(ユネスコ)の文化的表現の多様性に関する条約第10回総会に出席したベネズエラ代表団も水曜日にアバシ氏を称え、「一つの声が消え、一つの遺産が築かれ、民族間の文化的対話の新たな機会が失われた」と嘆いた。

アッバシ氏の多くの友人の一人であるアルビン・アベディ氏は、ワシントン・ポスト紙に対し、「戦争が起こると、犠牲になるのは軍人だけではない…一般の人々も簡単に破滅させられる可能性がある」と語った。

アベディ氏はさらに、アッバシ氏は「忘れ去られない権利がある」と付け加えた。

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【投稿】危険な乱心・トランプ:イランに「無条件降伏」を要求

<<「我々は今やイラン上空を完全に掌握している」>>
6/17、午前11時55分(米現地時間)、トランプ大統領は自らのソ-シャル・メディアTruth Socialに次のように投稿した。
 「我々は今やイラン上空を完全に掌握している。イランは優れた空中追跡装置やその他の防衛装備を豊富に保有していたが、米国が開発、考案、製造した『もの』には及ばない。古き良き米国以上に優れた技術を持つ国は他にない。」
イスラエルのネタニヤフ首相も、「イスラエルはテヘラン上空を制圧している」と主張し、テヘラン市民に避難を一方的に命じている。
次いで、20数分後の午後12時19分、トランプ氏はこう付け加えた。「我々は、いわゆる『最高指導者』がどこに隠れているかを正確に把握している。彼は格好の標的だが、そこは安全だ。少なくとも今のところは、我々は彼を排除(殺害!)するつもりはない。だが、民間人や米兵へのミサイル攻撃は避けたい。我々の忍耐は限界に達している。この問題にご関心をお寄せいただき、ありがとうございます!」
 そして、その3分後、午後12時22分、今度は大文字で「無条件降伏!」をイランに要求した。

この経過の中で、「我々は」という言葉を使ったということは、もちろん、「イスラエルと我がアメリカ」を指していることが、容易に見て取れる。
しかし、アメリカはまだイランとは、戦争状態に入っていないはずである。もちろん、宣戦布告もなされていない。トランプ氏自身が、ほんの数日前まで、米国はイスラエルとイランの戦争には「関与していない」と声高に主張していたのである。
わずか数日で、『関与していない』、『これは我々の作戦ではない』という立場から、『我々は今やイラン上空を完全に掌握している』、『我々の忍耐は限界に達している』、『無条件降伏せよ!』という立場に変わってしまったのである。6/15の段階でも、トランプ氏は、米軍が戦闘に参加する可能性は「ある」と述べていた、さらに6/16の段階でも、記者団に対し、米国の戦争介入の可能性について問われると、「その件については話したくない」と述べると同時に、「我々は関与していない。関与する可能性はあるが、現時点では関与していない」と付け加えていた。それが、一気に「我々の戦争」「無条件降伏要求」への変心である。もはや、この戦争に積極的に参加していないふりをすることができなくなってしまったことの裏返しでもあろう。

<<「これは我々の戦争ではありません」>>
「無条件降伏せよ!」とは、本来、宣戦布告後の戦争用語であろう。絶対不可欠な米議会の宣戦布告は、もちろんなされてはいない。第一、イランとは戦争状態ではない、今後は別として、イランはいまだイスラエルの攻撃に加担している米軍基地をさえ攻撃していない。イランは、トランプ大統領がイスラエル加担に明確に踏み出した場合、中東地域の米軍基地を攻撃する用意があると警告し、「イランはホルムズ海峡に機雷を敷設する可能性がある」と述べている。「これは、ペルシャ湾でアメリカの軍艦を足止めするための戦術である」とニューヨーク・タイムズは報じている。

こうした経緯における、トランプ氏の投稿の特異性、異様さを、弁護士のジョージ・コンウェイ氏は、「この瞬間を思い出してほしい。@realDonaldTrumpは、他者を暴力的な死で脅すというナルシスティックでサディスティックなスリルに浸っている。彼はその感覚を渇望し始めるだろう。」と書いている。

ブルワークのサム・スタイン氏もトランプ氏の投稿は、「新たな中東戦争の開始をツイートしているだけだ。米国によるイラン爆撃の可能性をリアリティ番組の一エピソードのように扱っている。」と指摘している。

しかしこの「乱心」は、見過ごし得ない危険な「乱心」でもある。トランプ氏があたふたとカナダで開かれていたG7会合を途中退席したのは、もちろん、G7の形骸化もあろうが、ホワイトハウスの発表によると「中東での状況が理由」だという。Axiosによると、トランプ大統領は、米軍直接参加、あるいは直接的な軍事支援での、イランの核施設への攻撃を真剣に検討しているという。
 すでにアメリカは、アメリカ軍基地を守る戦闘機の支援や、イランの核施設への攻撃に投入される可能性のある爆撃機の航続距離延長のために、約34機の給油機を派遣した、と報じられている。空母もこの地域に続々と移動している、と言う。

すでに、米議会では、トランプ氏の「乱心」を防ぐ動きが活発化している。
 民主党のトーマス・マッシー議員は、「これは我々の戦争ではありません。
しかし、もしそうであれば、議会は憲法に従ってそのような問題を決定しなければなりません。超党派の戦争権限決議案を提出します。」

トランプ氏の熱烈な支持者であるマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党、ジョージア州選出)でさえも、米国によるイスラエル戦争への支援を強く批判している。「米国がイスラエル・イラン戦争に全面的に関与することを熱望する者は、アメリカ・ファースト/MAGA(アメリカ第一主義)の信奉者ではない」と、彼女は日曜日にXに書いた。「罪のない人々の殺害を望むのは吐き気がする。私たちは外国での戦争にうんざりしている。あらゆる戦争に」

米議会でさえ、反トランプの動きが活性化しだしている。いずれにしても、トランプ氏の危険極まりない「乱心」は、ストップさせられなければならない。
(生駒 敬)

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【投稿】「ノー・キングス」デー:全米各地で500万人以上

<<アメリカ史上最大規模の抗議行動>>
6/14、朝から、アメリカの都市や地区では「ノー・キングス」デーを迎え、シュプレヒコールを上げ、トランプ政権に抗議する人々が街頭に溢れ、デモはワシントンD.C.からニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコ、ヒューストン、フィラデルフィア、シカゴなどの主要都市へと拡大、夜に至るまで一日中、巨大な波のように繰り返された。主催者発表によると、全米各地で500万人以上、2000か所以上で反トランプデモが展開された。この運動は、アメリカ史上最大の大規模抗議の日であった可能性が指摘されている。

 地方の小規模な集会から、ニューヨーク、フィラデルフィア、シカゴなどの大都市で行われた大規模な集会まで、その内容は多岐にわたっている。ニューヨーク市では20万人が集結、「我々は何を望む? 移民税関捜査局(ICE)反対! 」、「国外追放反対! トランプは去らなければならない!」「正義なくして平和なし!」と書かれた横断幕を先頭に、デモ行進が繰り広げられた。
カリフォルニア州では、10万人以上の抗議者が200以上の市町村でデモを行い、人口わずか3600人の山間の町アイディルワイルドでさえ、約600人が街頭に繰り出し、デモは南カリフォルニアの沖合約35キロにあるサンタカタリナ島でも行われた。 アトランタでは、数千人のデモ参加者がリバティ・プラザに集結し、

政権に反対するメッセージを書いたプラカードを掲げ、名曲「野球に連れてって(Take Me Out to the Ball Game)」を「トランプをホワイトハウスから追い出せ(Take Trump Out of the White House)」と言い換えた抗議バージョンが歌われた。

シカゴでは7万5000人から10万人が参加し、その模様は、右のシカゴ北ループ地区のパノラマ動画で見られるとおり、延々と続く人の波である。

移民法執行をめぐる不安の中心地となり、数日間にわたる抗議活動が続くロサンゼルス市では、3万人に達し、6時間以上にわたる抗議活動が行われ、同市のカレン・バス市長は「ロサンゼルスで私たちが目にしているのは、トランプ政権が引き起こした混乱であり、ホーム・デポや職場を襲撃し、親子を引き裂き、装甲車を街中に走らせることで、恐怖とパニックを引き起こしている」、「今日、3万人もの人々が憲法で保障された平和的な抗議活動の権利を行使するために、市内各地に集結しました。これは大きな力です」と述べている。

 

<<トランプ・軍事パレードの私物化>>
一方、この巨大な抗議行動と対照的なのが、同じ日、6/14、首都ワシントンで行われた、実に34年ぶりという、米陸軍創設250周年を記念する軍事パレードであった。
トランプ政権は、連邦政府機関への予算を大幅な削減を強行しながら、この軍事パレードに推定2,500万ドルから4,500万ドルも費やし、しかも大統領自らの誕生日祝賀行事として、徹底的に政治利用されたのであった。パレードは、79歳の誕生日を迎えた大統領へ「ハッピーバースデー」の歌をささげる場へと変じた。まさに Kings 的私物化であった。

米陸軍創立250周年記念パレードで群衆がトランプ大統領に「ハッピーバースデー」を歌う

皮肉なことに、抗議運動の拡がりに怯え、パレードで抗議活動を行う者は「非常に大きな力」に直面するだろうとわざわざトランプ氏自身が「警告」し、自らの就任式よりも警備が厳重な、「祝賀」どころか、芝居がかった「支配力の誇示」の場と化したのであった。
トランプ政権内には、この米軍の私的な政治利用、私物化、今や自らを称えるパレードを命じるという無謀な決断に、異論を唱えるものが誰一人として存在しないことをここでもさらけ出したのであった。

対極的に、「ノー・キングス」デーを主催する、No Kings連合は、6/8に発表した声明の中で、「私たちは共に立ち上がり、こう宣言します。政治的暴力を拒否します。恐怖による統治を拒否します。一部の人だけが自由に値するという神話を拒否します」と、その共通の立場を宣言。米連邦移民局がロサンゼルスで強制捜査を行い、トランプ大統領が州兵を連邦軍に召集した決定を非難し、「人々は政権の権力乱用と移民関税執行局(ICE)による近隣住民の拉致に対し、平和的かつ合法的に抗議している」、「トランプ政権は人々の声に耳を傾けるどころか、緊張を高めている」、「地方指導者の指示に反し、言論の自由を抑圧するために軍事力を行使している。彼らは私たちの安全など気にしていない。反対意見を封じ込めることに躍起になっている。これは、家族を脅迫し、恐怖を煽り、反対意見を抑圧することを目的とした、あからさまな権力の乱用だ」と述べ、この運動の目的は「対立ではなく、対照を生み出すこと」である、と述べている。そして、「ノー・キングスは、全国規模の反抗の日です。街区から小さな町まで、裁判所の階段から地域の公園まで、私たちは権威主義に抵抗し、真の民主主義の姿を世界に示すために行動を起こします。」、「私たちは彼のエゴを満たすために集まっているのではありません。彼を置き去りにする運動を作り上げているのです。」と訴えている。
運動に参加する原則として、「No Kingsのすべてのイベントの根底にある基本原則は、非暴力行動へのコミットメントです。参加者の皆様には、私たちの価値観に賛同しない方との潜在的な対立を鎮静化し、イベントにおいて法に則った行動をとるようお願いいたします。法的に許可されているものも含め、いかなる種類の武器もイベントに持ち込むことはできません。」と言う立場を明示している。
この運動には、インディビジブル、全米教師連盟、アメリカ自由人権協会、パブリック・シチズン、ムーブオン、50501、スタンド・アップ・アメリカ、コモン・ディフェンス、ヒューマン・ライツ・キャンペーン、環境保護投票連盟など、150を超える進歩的な団体、平和運動団体、人権監視団体、気候変動団体、その他多数の組織が、「ノー・キングス」集会に参加・協力していることを明らかにし、公開している

このような、政策の明示をも含めた、確固とした統一戦線の原則の有りようが、連帯の拡がり、運動の拡がりを支えている、と言えよう。
(生駒 敬)

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