【投稿】原発再稼働と死滅する地方自治

【投稿】原発再稼働と死滅する地方自治
                            福井 杉本達也 

1 高浜4号機の再稼働、しかし、県民の生命と財産に無責任な福井県
 5月17日、関電高浜4号機が再稼働した。昨年3月に大津地裁の運転差し止め仮処分決定で3号機の原子炉を停止して以来1年3か月ぶりの再稼働である。福井県の西川知事は「実績を積み重ねることにより国民理解を得る」ことだというコメントを発表した(福井・2017.5.18)。ここには、福島第一原発事故の「災禍の甚大さに真筆に向き合い二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講じ」(大津地裁決定)ようとする姿勢は微塵もない。ようするに県民の生命・財産はどうでもよい。ともかく再稼働することによって既成事実を「積み上げ」県民に押し付けるということである。福島第一原発事故後、当時の野田政権下で、いち早く大飯3,4号炉の再稼働を受け入れた福井県の相変わらずの方針である。福島原発事故では事故処理要員を詰め込み、なんとか事故の影響を最小限に食い止める役割を果たした重要免震棟も未設置であり、住民避難計画もまともなものとはいえない、しかも、福島原発3号機では水蒸気爆発を起こした核燃料プールには大量の使用済み核燃料が放置されたままとなっている。知事は、中間貯蔵施設を県外に設置するべきだと関電に要求しているが、受け入れ先はない(福井:同上)。
 こうした知事の考えを「忖度」して、県庁前の交差点で毎日反原発を訴える市民グループに対し、県財産活用推進課長名で「桜の時期で美観上好ましくない」として、「景観に配慮し自粛を要請する」文書を出していることが明らかとなった(福井:2017.4.22)。同交差点での活動は約5年間、県条例に基づき県警に申請を出しており、県公安委員会の権限であり、知事部局の権限の全く及ばないものである。知事部局は何を根拠に文書を出したのか。明白かつ違法な恫喝行為であり厳しく責任が問われなければならない。

2 廃炉が決まった「もんじゅ」で命のやり取りをする福井県
 西川知事の関心は県民の安全にはない。廃炉が決まった「もんじゅ」を交渉材料に、敦賀市周辺での「国内の大学などの原子力研究を支援」・「原子力研究や人材育成の国際的拠点」など「新たな研究開発拠点化」を文科省に要求している(福井:2017.4.27)。かつて「もんじゅ」の運転再開を取引材料に北陸新幹線の金沢駅から敦賀駅までの延伸を国に認めさせたように(福井:2008.12.9「認可なしならもんじゅ再開認めず―新幹線『敦賀まで』求め県会」)、高浜3・4号機の再稼働もこうした取引材料の持ち駒の1つに過ぎないのである。
 敦賀駅前に「福井大学附属国際原子力工学研究所」という新しい建物がある。研究所の紹介欄では「実炉を対象とした原子力の基礎・基盤研究」・「フランス、アメリカをはじめとしる海外の研究機関との活発な学術交流」・「原子力に関する基礎教育・専門教育」を掲げている。県としては敦賀周辺に原子力関係の大学や研究機関を集めて一大研究拠点を作ろうという算段である。
 しかし、3.11を経験した今「原子力研究」とは時代錯誤も甚だしい。原子力を研究しようとする学生は益々減っている。「原子力産業は人材不足」と報じられており、「学生の原子力離れは依然として深刻な状況で、特に原子力“以外”の学問を専攻した学生の(原子力関連企業の就職)セミナー参加者が、顕著に減少している。」(HUFFPOST・2014.1.14)とされる。しかも、福井県の「研究拠点化計画」には栗田前知事時代の1998年に電力交付金を投入して立ち上げた「エネルギー拠点化計画」=「若狭湾エネルギー研究センター」という失敗前例がある。当初、研究センターでは加速器(シンクロトロン)による植物の品種改良や材料評価と新材料の開発などが掲げられたが、予算の制約から加速器の能力が「帯に短し襷に長し」という中途半端なものであったため施設の利用は低迷し、途中で計画を医療用に変更し、陽子線照射によるがん治療を研究目的の中心に据えた。しかし、がん治療も臓器が動かない前立腺がんなどに限られるとともに、厚労省が他の治療方法と大差ないとして健康保険の適用を頑として認めないため治療費は全額自己負担となり300万円もかかっている(現在、治療は福井県立病院内に同様の施設が設置されたため移管されている)。一体、誰が利用するのか。計画変更の痕跡は加速器に向かう通路の左側の壁の1mほどの不自然な出っ張りにある。当初、治療行為を想定していなかった部屋に陽子線を照射することとなったため、陽子線を漏れないようにするためである。
 エネルギーという括りでは、栗田前知事の時代・1989年から敦賀市の敦賀港と中池見湿地に大阪ガスのLNG基地を誘致する動きがあった。しかし、この計画は表向き湿地保存の環境団体の反対により頓挫することとなるが、裏では関西地区のエネルギー覇権を巡り大阪ガスとバトルを展開していた関西電力が暗躍したとも見られている。当時の河瀬敦賀市長も日本原電の3,4号機増設計画の金に目がくらみ誘致に消極的になったことがあげられる。西川知事も2014年に「エネルギー戦略特区」でLNG輸入基地やLNG火力の誘致を提案したが(福井:2014.4.25)、かつての中池見のような具体的候補地はなく、大阪ガスも消極的で尻すぼみとなった。ようするに、これまでの福井県の「原発地域振興策」は行きあたりばったりであり、県民・国民の命と引き換えにするようなものではない。

3 伊達市の「心の除染」という虚構(黒川祥子著)
 伊達市は福島県の北部、宮城県と県境を接している人口62,000人の自治体である。このうち小国地区は人口1,300人あまり。山間に広がる集落で、大きく上小国、下小国に分かれる。福島第一原発からは直線距離で50km離れているが、西隣には福島市内で最も放射線量が高い渡利(わたり)地区があり、全村避難した飯舘村は山一つ隔てて南東側に隣接している。仁志田昇司伊達市長は福島原発事故による放射性物質の「除染」よりも、放射能を怖れる気持ちを取り除く「心の除染」をすべきであると主張する(『「心の除染」という虚構 除染先進都市はなぜ除染をやめたのか』黒川祥子著 2017.2.24)。
 黒川が伊達市を取り上げたのは出身地であるということもあるが、福島原発事故の「縮図」がそこにあると感じたからである。事故後、伊達市には他の放射線量の高い市町村とは異なる「特定避難勧奨地点」という制度が適用された。「地域」ではなく、「地点」=世帯、家。家ごとに特定に避難を勧奨するという制度である。「同じ集落、同じ小学校、同じ中学校に、避難していい家と避難しなくてもいい家が存在する。『勧奨』だから、避難はしてもしなくてもいい。年寄りが今まで通り自宅で農作業をしながら暮らしても、東電から毎月慰謝料が支払われる。一方、『地点』にならなかったら、子どもが何の保障もなくこの土地に括り付けられる」(黒川:同上)。指定されて(2011.6)から解除される(2012.12)まで1年半という期間であった、この「制度」により地域社会はズタズタにされた。では、なぜ「地域」ではなく「地点」=家単位であったのか。「問題は、県庁です。小国から県庁まで直線で7キロ、裏道を使えば20分で行ける。ここを計画的避難区域にしてしまうかが、県と国の悩みの種だった。まさに、小国は県庁ののど仏ですよ。小国を計画的避難区域にすれば、渡利地区だって同じぐらいの線量ですから、ここもそうならざるを得ない。こうして避難が福島市に及んだら、何万人もの人間を避難させないといけなくなる。その人たちをどこに避難させるのか。当然、県庁も所在地を動かさざるを得ない」(黒川:同上)。福島県庁という官僚組織を守るために伊達市小国という地域はズタズタにされたのである。
 もう一つ、伊達市は2011年夏、「除染先進都市」として華々しくデビューした。2014年2月に市長は国際原子力機関(IAEA)本部にも招かれ除染の報告を行い、同市の除染担当職員・半澤氏は「除染の神様」と呼ばれるほどだった。伊達市の放射能アドバイザーに就任、除染を指導したのは原子力規制委員会委員長の田中俊一氏である。一地方都市に過ぎない伊達市が、国の動きに2か月も先立って「除染」を掲げたのは田中氏のバックによるところが大きい。田中氏は小学校時代を伊達市で過ごしている。伊達市の広報で市長は「地域が一体となって放射能と戦う体制を一日でも早く構築し、『放射能に負けない宣言』をしたいと考えております。全市民一丸となって、放射能と戦っていきましょう」と呼びかけたのである。人間が自然物であり、物理的法則のみに従う放射能と戦うなど馬鹿げたことである。「除染」は実験室など限られた空間が放射能で汚染された場合にのみ有効な手段である。福島のような膨大な空間が汚染されてしまった場合には、「除染」は放射能をあちらからこちらへと移動するだけの手段に過ぎない。空間に積み重ねた膨大な除染廃棄物の持っていき場はない。放射能とは戦わず逃げる=「避難」こそ重要である。その後、2015年1月の広報で市長は「除染は元の『安全なふるさと』を取り戻す手段として取り組むものでありますが、安全だと思えるようになるには心の問題という面もあります」として、掲げていた「除染」からも早々と撤退宣言をした。「伊達市は原子力推進機関にとって有利に作用する『実験場』としての使命を全うした」、「伊達市の『実験』は今後、原子力災害が起きた時の貴重な『前例』となるだろう」(黒川:同上)。
 「ひとたび原発事故が起きれば、この国に民主主義があったのかと疑わざるを得ないように、人々は大きな力に翻弄される。最も大事で最も優先されるべき、子どもの健康・子どもの未来さえ、原子力産業や原子力政策の前にあっけなく吹き飛ばされるさまを、まざまざと見た。伊達市が守ったのは『市民』ではなく、『伊達市』だった。福島県も国も、同じだろう。これは決して対岸の火事でも、他人事でもない。私たちは今、そうした社会に生きている。」(黒川:同上)。日本国憲法第92条は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」と書く。「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本」とし(地方自治法)、地方自治の本旨とは「住民自らが地域のことを考え、自らの手で治めること」であり「地域のことは地方公共団体が自主性・自立性をもって、国の干渉を受けることなく自らの判断と責任の下に地域の実情に沿った行政を行っていくこと」であるはずだ。しかし、伊達市においては地方自治は死滅した。

【出典】 アサート No.474 2017年5月27日

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【投稿】トランプ・朴槿恵・安倍晋三、三氏に通底するもの 統一戦線論(36) 

【投稿】トランプ・朴槿恵・安倍晋三、三氏に通底するもの 統一戦線論(36) 

<<「想像を絶する規模での悲劇」>>
 トランプ米大統領の一挙手一投足が、世界の戦争と平和、緊張激化と緊張緩和の間で右に左に揺り動かされ、その動揺と変転、戦争への危機は収まりそうにない。
 問題は、トランプ氏がすでに彼の大統領選挙時のキャンペーンの約束事、公約をほとんどすべて包括的に反故にし、裏切ってしまっていることである。トランプのスローガンは、移民排斥・人種差別・女性差別とミックスされてはいたが、「今日、労働者階級の反撃が始まる」「アメリカは世界の憲兵になる必要はない」に象徴されていた。そもそもトランプ氏は、トランプタワーや「ミス・ユニバース」で名をはせた不動産とエンタテインメント業界で財を成した人間であって、軍事畑の人間ではない。そこから、「世界の憲兵」としての膨大な無駄遣いをやめさせ、海外介入に反対し、非戦闘的外交政策への移行を目指して、ロシア・中国との関係を正常化し、NATOの存在そのものを疑問視し、NATOの目的を再考するべき頃合いだと発言した。しかし、その発言の正当性のゆえに、これに抵抗し、反抗する勢力が仕掛けた地雷=軍産複合体の恐ろしさには彼は気づいていなかったのであろう。
 発足したトランプ政権は、大富豪(Gazillionaire)、巨大金融資本ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という「3G」政権である。地雷を自らの政権の中枢に据え、抱え込んでしまったトランプ氏はたちまち軍産複合体に乗せられ、がんじがらめにされ、「軍の操り人形」と化し、大統領選挙で掲げた自らの政策を実行できない、自らの政府を支配できない事態に投げ込まれたともいえよう。そこでトランプ氏は、手っ取り早く、雇用拡大を軍事産業に求めた。軍事費を異例の540億ドルも増加させ、軍事予算が全体の実に56%を占める異常な事態である。経済面では法人税の大幅減税・大資本優遇、金持ち減税、規制緩和路線であり、非軍事分野はそのしわ寄せで環境・医療・社会保障・教育に至るまでほぼすべてにわたり大幅に削減。今やトランプ政権は、軍部、CIA、NSA、およびその他の軍産複合体と大手金融資本に奉仕し、操られる政権の様相を一層色濃くしている。
 トランプ氏の初の外遊先、サウジアラビアでは、米政府が1100億ドル(約12兆円)相当の武器をサウジに輸出する文書に両国が署名している。
 朝鮮半島をめぐる緊張の激化は、軍事予算をさらに増大させる最大の口実として利用され、煽られ、正当化されている。しかし、核戦争をも辞さないトランプ氏と朝鮮・金正恩氏、二人の挑発的言動と実際の行動のエスカレートは、これを煽り、利用してきた米軍産複合体にとっても都合の悪いものへと転化し始めている。
 5/19、現実的対処を迫られたマティス米国防長官は、北朝鮮問題をめぐるいかなる軍事的な解決も「想像を絶する規模での悲劇」を引き起こすとし、米政府は外交的な解決の模索に向けて取り組むとの意向を示さざるをえなくなった。

<<「トランプの核フットボールをやめさせよう」>>
 「想像を絶する規模での悲劇」に追い込もうとし、トランプ氏をその軌道に乗せたのは軍部であるが、統制も抑制も効かず、慎重さにはなはだしく欠け、「カメレオン大統領」と皮肉られるトランプ氏では都合が悪いどころか、その代償も測りがたい規模になることが憂慮されだしたのである。
 「想像を絶する規模での悲劇」とは、端的に言えば、大量破壊兵器=核兵器の使用によるものである。
 5/3、米国議会に提出された立法案「2017年の核兵器の第一次使用の制限」(民主党のカリフォルニア州選出テッド・リュー(Ted Lieu)とマサチューセッツ州選出エド・マーキー(Ed Markey)上院議員が提出)は、トランプ大統領が議会の宣戦認可なしに核兵器を発射すること、核兵器の第一次使用=先制攻撃の開始を禁止することを目的としたものである。これは、「トランプの核フットボールをやめさせよう」という、500,000人の人々の署名運動の急速な広がりに直接連動したものである。この署名運動を推進した反核平和運動のアクショングループCREDOのキャンペーンマネージャー、テッサ・レバインTessa Levine氏は、「”トランプの最初の100日間”は、彼の無謀と無能の一連の恐ろしいデモンストレーションによって特徴づけられており、私たちは国と世界の安全についてトランプを信頼することはできません。何億人もの人々を殺し、米国を破壊する可能性のある報復打撃を招く可能性のある核兵器による先制攻撃は、戦争あでり、違憲である」と語っている。また、この運動を同じく推進してきた軍縮運動の組織であるGlobal Zeroのネットワークキャンペーン担当者であるダギーレ氏Lillyanne Daigleは「現代の核兵器は、第二次世界大戦で爆破された爆弾よりも破壊的であり、そのような壊滅的な力が一人に集中しているということは、アメリカの創設原則に相反するものであり、侮辱である」と強調し、「この提案された法案は、この独裁体制に立ち向かい、核災害から世界をより安全にするための重要な第一歩である」と述べている。(以上、米ネットワークCommon Dreams、5/3より)

<<トランプ、まさかの「就任初年度弾劾」?>>
 こうした動きと軌を一にするように、トランプ氏の弾劾・罷免の動きが現実味を帯びだしてきている。テキサス州選出民主党のアル・グリーンAl Green議員が、米下院議場でトランプ氏弾劾を要求することを表明、共和党のジョン・マケイン上院議員までが、トランプの状況は「ウォーターゲート・サイズと規模のポイントに達している」と述べる事態である。トランプ弾劾運動の請願サイトimpeachDonaldTrumpnow.com では、すでに992,578の署名が集まっているという。(以上、5/17 Common Dreams より)
 公共政策世論調査Public Policy Pollingの新しい調査によると、初めて、トランプ弾劾が反対を上回り、回答者の48%が大統領弾劾に賛成、反対が41%であった。FBI長官であったジェームズ・コメイ氏を突如解任したことで実施されたこの世論調査では、投票者の38%だけがトランプを正直であるとみなし、51%は完全にトランプを嘘つきだと思うと回答している。(以上、5/16 Common Dreams より)
 米国の憲法では、「反逆罪、収賄罪、その他重大な罪、または軽罪」を犯した大統領を弾劾できる規定がある。大統領の弾劾手続きには下院の過半数の賛成が必要であり、上院で開かれる弾劾裁判で3分の2以上の賛成があれば、大統領は罷免される。トランプ大統領の弾劾訴追理由となり得る疑惑として、利益相反問題、ロシアとの不適切な関係、トランプ大学の詐欺訴訟、宣誓下での偽証罪、気候変動の無策による人類に対する犯罪など、偽証罪や利益相反で訴追の可能性が上げられている。共和党が上下両院で多数を占めており、弾劾訴追案は可決される可能性は容易ではない。しかし、来年11月には上下両院議員や州知事などを選ぶ中間選挙が行われる。しかも中間選挙前に、トランプ氏の意向に反して新たに任命されたモラー特別検察官がトランプを司法妨害容疑で訴追したら、共和党から多数の造反議員が出て、弾劾が成立することも現実的可能性として浮上している。大統領就任初年度で弾劾成立、その前の辞任といった前代未聞の事態が取りざたされているのである。権力内部の激しい闘争は、トランプ氏の当初のまともな政策をことごとく押しつぶしてきた勢力と連動しており、陰謀と裏切りが交錯しているとも言えよう。

<<安倍首相「実は憲法改正する必要がなくなったのです」>>
 翻って、日本ではアメリカや韓国のような最高権力者を罷免できる弾劾制度が存在していない。議院内閣制である以上、議会の過半数を押さえれば、罷免あるいは辞任に追い込むことは容易なのであるが、安倍政権は自民・公明連立で絶対過半数を確保、自民の別動隊である維新を加えれば改憲に必要な三分の二をさえ確保している。
 それをてこに、安倍政権は、歴代内閣が成し遂げられなかった様々な悪法や施策を、次から次へと強行突破し、暴走を重ねても平然と開き直っている。そしてついに戦前の治安維持法と同類の「共謀罪」までが衆院で強行採決されるに至った。
 そして安倍首相は遂に、祖父・岸伸介以来の個人的・親族的願望、自民党結党以来の野望とも言うべき憲法9条の改正を明言するまでに至っている。しかしその提案は、自民党主流にとっても唐突であった。5/3、憲法施行70周年の記念日に改憲派集会へのビデオメッセージで「9条の平和主義の理念については、未来に向けて、しっかりと堅持していかなければなりません。そこで『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います」と述べ、同じ5/3の読売新聞の朝刊1面トップに「憲法改正 20年施行目標 首相インタビュー」が掲載され、「9条に自衛隊明記」と「教育無償化前向き」との見出しが踊る。9条1項、2項を3項でぶち壊す「壊憲」案である。これを国会で民進党から追及された安倍氏は、「わたしの意見は、読売新聞でくわしく書いていますから、そちらを読んでください」「わたしはここでは総理大臣。憲法は議論しない。各党の間で議論を」と、改憲を発議する場である国会での論議を逃げたのである。しかし読売新聞のトップ見出しは「首相インタビュー」である。公明党は喜んで飛びついたが、憲法99条で憲法順守義務のある首相と自民党総裁との使い分けである。とても許されるものではない。
 首相は野党に対してはタカをくくっていたのであるが、自民党内からは異論と疑念が噴出しだした。石破茂元幹事長は「首相と論戦する」と明言し、「首相の改憲発言で今までの議論の積み重ねは一体、何だったのか、と思う。9条3項の条文追加案は敗北主義と言ってもいい。」と切り捨てている(週刊朝日5/26号)。
 石破氏に言わせれば、安倍氏は突然の「敗北主義」であるが、安倍氏は「実は憲法改正する必要がなくなったのです」と去年の8月末のインタビューで田原総一朗氏に語っていたというのである。「実は、集団的自衛権の行使を決めるまでは、アメリがやいのやいのとうるさかった。ところが、行使を決めたら、何も言わなくなった。だから改正の必要はない。ただ、日本の憲法学者の七割近くが、自衛隊は憲法違反だと主張しているので、憲法9条の3項に自衛隊を認めると書き込んではどうかと考えています」と述べていた(「週刊読書人、2017/5/12号、「田原総一朗の取材ノート」)。その後政権を揺るがしかねない安倍ファミリーの疑惑が次から次へと浮上し、森友学園・加計学園問題では窮地に追い込まれかねない事態である。これを一挙に転換し挽回する手段として、この9条改憲案を出す、まったく手前勝手な自己都合で機会をうかがっていたわけである。
 罷免と弾劾に直面したトランプ氏、韓国の朴槿恵氏、そして日本の安倍晋三氏、この三者は極めて似通っている。いずれも物言う直言居士を忌み嫌い、周りにおべんちゃらと友人、家族、親族を配置したがり、利益供与をし、自己保身に汲々とし、厄介な平和的交渉よりも安易な緊張激化を好む、物事を客観的に冷静に判断できない、共通性がある。まずは朴槿恵氏が巨大な民衆運動の力によって打倒された。トランプ氏も今や窮地に立たされている。安倍氏はそこまでには至っていない。
 しかし5/16、「朝日」の世論調査では、安倍首相が改憲を提案したことについて「評価しない」が47%、「評価する」が35%、自衛隊を憲法に明記する9条改定について「必要ない」が44%、「必要」が41%、そして、「安倍首相に今、一番力を入れてほしい政策を一つ選んでください」という設問には、「憲法改定」が一番低くて5%という数字である。
 日本の野党共闘、統一戦線は、こうした状況に対応した新しい連帯と連合の創設のための戦略・戦術を練り上げ、多様な層を結集し、政党エゴとセクト主義を排し、組織のあらゆる側面における根本的、参加的民主主義を徹底し、人々の政治的、社会的、経済的なニーズを的確に反映した根本的な代替案、分かりやすくシンプルなプログラムを提示することが切に望まれる。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.474 2017年5月27日

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【書評】『原発プロパガンダ』

【書評】『原発プロパガンダ』
       (本間龍著、岩波新書、2016年4月発行、820円+税) 

 「原発は日本のエネルギーの三分の一を担っている」、「原発は絶対安全なシステム」、「原発はクリーンエネルギー」、「原発は再生可能なエネルギー」というキャッチフレーズを聞き慣れた人は多いであろう。しかしこれらのフレーズは、実は「一つ一つの広告の中で必ず使用するように決められた言葉なのだ」。本書は、これを「原発プロパガンダ」と名づけ、その構造の解明を試みる。
 プロパガンダとは、政治的な思惑を伴う場面で人びとにその実施を悟られずにマインドコントロールする「宣伝広告」であるが、原発の場合、「一九五〇年代から国策として国が主導し、政官学と電力業界を中心とする経済界が展開した原発推進PR活動」を指し、「多くの人々の意識に原発推進を訴えかけ、無意識のうちに同調させる」こととなった。3・11以前の日本社会では、国民の8割近くが原発推進に肯定的だったという世論調査(2009年内閣府「原子力に関する特別世論調査」)も偶然ではなく、まさしく「戦後40年以上、原発礼賛の宣伝広告活動を延々と展開してきた」原子力ムラのプロパガンダの成果である。
 そのために費やした金額は、これまでに最低でも約2兆4000億円に上る(1970~2011年)。この巨大な金額は、ソニーやトヨタなどのグローバル企業の宣伝費(国内単体の広告費が年間500億円程度)に匹敵する。つまり「ローカル企業の集まりにすぎない電力会社が、グローバル企業と同等の広告費を四〇年以上にわたって投下してきたということになる」。最近まで競合が存在しなかった地域独占体の電力会社には、本来このような巨額の広告費は不要であったはずだが、この広告費は多くの国民に「原発推進への漫然とした是認意識を植えつける」ために使用されてきたのである。しかも驚くべきことは、これら広告費の原資がすべて、利用者の電気料金であったということである。電力会社の総括原価方式(すべての経費を原価に計上し、電気料金として利用者に請求できる)により、宣伝広告費も原価に含まれ、利用者に請求されてきたのである。「まるでブラックジョークだが、原発に反対する人からも電気料金は徴収され、その中から原発プロパガンダの原資に活用されたのだった」。
 本書は、こうしたプロパガンダを可能にしてきた条件を日本の広告業界の特殊性に見る。それは欧米のように、寡占防止のための一業種一社制(一つの広告会社は同時に二つ以上の同業種他社の広告を扱えない制度)や広告制作部門とメディア購入部門の分離の大原則がないことに加えて、日本では広告会社は「(メディアのために)メディアの枠をスポンサーに売る」=メディアは広告会社から「広告を売ってもらう」という体質である。このため、どの業種でも上位2社(電通と博報堂)がすべてのスポンサーを得意先に抱えているので、メディアはこの2社に反抗できないという仕組みになっている。
 この結果「反原発報道を望まない東電や関電、電事連などの『意向』は両社によってメディア各社に伝えられ、隠然たる勢力を発揮していった」。つまり「『広告費を形(かた)にした』恫喝を行うのが、広告代理店の仕事であった」のである。
 本書は、3・11に至るまでの原発プロパガンダの歴史を、「第1章 黎明期(1968~79)」、「第2章 発展期(1980~89)」、「第3章 完成期(1990~99)」、「第4章 爛熟期から崩壊へ(2000~11)」と時間を追って解明していく。その詳細は本書を見ていただくとしても、例えば普及開発費(東電の広告費)が原発事故の度事に飛躍的に膨張していく経過は異常としか言えない(1979年スリーマイル事故の翌年53億円→1986年チェルノブイリ事故の翌年150億円→2002年東電トラブル隠し発覚→2004年美浜原発3号機事故の翌年293億円)。
 このような「安全神話」は、2011年の福島第一原発の事故により、崩壊した。「しかし事故後の年月を経て、プロパガンダは次第に復活しつつある」。すなわち「かつてのような原発の安全性を謳う広告・PR展開がほぼ不可能になる中で、原子力ムラはついに安全性への言及を諦め、別の方策を実行し始めた。それが、原発事故の影響を極力矮小化し、『事故で放出された放射能の危険性は小さく、健康への影響はない』という『安心神話』の流布である」。この「安心神話」は、放射線リスクコミュニケーション(「元々自然の中にも放射線はあるのだから、福島第一原発の事故で出た放射線も大したことはない」という、自然放射線と事故による人工放射線を同一視する理屈で、安全対策に対する認識の共有を図るやり方)とタイアップして進められており、福島第一原発の実情を無視し、既に危機は去ったかのように言説を展開する。これに更に「風評被害の撲滅」という「新たな錦の御旗」が付け加わることにより、プロパガンダは一層進められていると言えよう。
 これに対して本書は、「しかし、そもそも風評という言葉の意味は非常に曖昧である。実際に害が発生しているからこそ、その周辺に噂が立つのであって、火のないところに煙は立たない。原発事故によって実際に放射能汚染や被害が発生しているのに、それらをすべて『風評被害』と呼ぶのは、真実を見て見ぬふりをするのと同じである」と、原子力ムラが「人々の素朴な感情」巧みに利用するのを批判する。
 このように本書は、原発をめぐるこれまでのプロパガンダが、国、電力業界、マスメディアによっていかに呼吸を合わせて巧妙かつ広範に実施されてきたかを炙り出す。そしてこのプロパガンダが今後も強力に持続されると警鐘を鳴らす。原発事故が次第に過去のものとされて行く危険性が現れつつある現在、貴重な視点を与えてくれる一冊である。(R)

【出典】 アサート No.474 2017年5月27日

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【投稿】朝鮮半島危機に便乗する安倍政権

【投稿】朝鮮半島危機に便乗する安倍政権
            ~緊張緩和でなく激化を希求する愚策~ 

シリアから朝鮮半島に
 4月4日、反政府派が支配するシリア北部ハーン・シャイフン市で行われた、化学兵器による攻撃では、子どもを含む100人近くが死亡し、数百人が負傷した。トランプはそれまでのアサド政権に対する方針を転換し、アメリカによる単独行動をも辞さない姿勢を示した。
 そして米中首脳会談最中の4月7日、トランプはシリアに対する攻撃命令を発出した。シリア沖に展開中のイージス駆逐艦2隻から発射された59発のトマホーク巡航ミサイルは、シリア軍のシャイラト航空基地の航空機、燃料庫などを破壊した。
 この攻撃は事前にロシアに通告されたと言われているが、ロシアがシリアに配備している早期警戒管制機を発進させるなど、十分な防御体制をとれる余裕はなかったと考えられる。
 また東地中海に展開していた強力なロシア空母機動部隊は既に撤収し、同海域には揚陸艦の他、曳舟やトロール船を改造した偵察艦など補助艦艇が残っているだけであり、トマホークの探知や迎撃も不可能だった。黒海艦隊のミサイルフリゲート艦が同海域に到着したのは4月8日であり、アメリカの攻撃はこの間隙をぬった形となった。
 今回の化学兵器による攻撃は、アサド政権によるものとほぼ断定されているが、トランプ政権の対応は検証が不十分かつ、国際法上の根拠も不明確なままの見切り発車である。また軍事的にも、反復攻撃もなく基地や装備の損傷も復旧が進み、シリア内戦の戦局には影響を与えていないことからも、「急所を外したジャブ」であり、政治利用の色合いが濃いものと言える。
 つまりトランプの唐突な攻撃は、政権が直面している苦境からの脱出を狙ったアピールであり、イニシアを発揮している軍人グループがこれを主導した。
 トランプ政権は発足以来、中東、アフリカのイスラム国からの入国禁止令の混乱、オバマケア廃止(代替)法案の撤回、さらにはフリンの辞任、バノンとクシュナーの対立など政権内部の矛盾が露呈し、支持率は下がり続けていた。
 また、外交面でも同盟国であっても安倍の他は友好的関係の構築に失敗しており内患外憂、四面楚歌の状態であった。
 こうした中、化学兵器による攻撃は、劣勢を挽回する格好の口実なった。苦しむ子供たちの被害映像を見たトランプは「考えが変わった」として、アメリカ単独での軍事行動を決断したと言われている。
 しかし、1月28日にイエメンで行われた、米軍特殊部隊によるアルカイダ系武装組織への攻撃では、女性、子どもを含む民間人16人が殺害されている。
 この時政権は「作戦は成功」と喧伝するなど、「子どもの犠牲」は方便に過ぎないことは明確であり、トランプはそれを巧妙に利用している。
 トランプは、ディナー後のデザートを喫していた習近平に攻撃の事実を伝え、虚を突かれた習は沈黙ののち「子どもが殺されたのなら仕方がない」と返答せざるを得なかった。
 また一貫してアサド政権に厳しい姿勢を見せてきたイギリスやドイツなどG7各国は、この攻撃について一定の評価を与えているが、手放しで称賛しているわけではない。難民受け入れを拒否しながらの攻撃は、人権や人道主義に基づく介入ではないことが見透かされているのである。
 4月10、11日、イタリアで開かれたG7外相会談での共同声明でも、ミサイル攻撃への支持は明記されず、シリア問題についてはロシアを含めた政治的解決が強調されたものとなった。
 こうした中、安倍政権は「化学兵器の使用と拡散を許さないとのアメリカ政府の強い決意を支持する」と賛辞を送った。トランプ政権は4月5日の弾道弾試射に関し「中国が動かないならアメリカが単独でやる」「シリア攻撃は北朝鮮対するメッセージ」と述べ、空母「カール・ビンソン」打撃群を朝鮮半島に向け急派するなど挑発姿勢を強めているが、森友事件や共謀罪の政局化を回避するため安倍政権はこれを最大限利用している。
 
朝鮮半島危機の虚実
 安倍は米中首脳会談前後の6,9日の2回、トランプと電話会談を行い「北朝鮮は重大な脅威」であり「中国の役割は重要」との認識を示した。
 このもとで安倍政権は軍事的な動きも加速させている。3月、アメリカ軍の戦略爆撃機と空自戦闘機の合同訓練を実施、「カール・ビンソン」との合同訓練も米韓演習を挟んで2回行ったが、今回再び朝鮮半島近海での訓練を実施することを明らかにした。
 さらに4月14日、参議院外交防衛委委員会で安倍は「北朝鮮ミサイルにサリンを搭載できる可能性がある」「抑止力をしっかり持つべき」と答弁した。これまで北朝鮮に関しては、核兵器に対する警戒が語られてきたが、テロ組織でも製造可能なサリンを対象に含めることにより、軍事力行使のハードルを一気に引き下げた。
 抑止力というものがあるなら、自分は使わず、相手に行動は起こさせないのが基本であろう。しかしシリア攻撃では、サリンが使われた後にミサイル攻撃が行われているわけであり、抑止力理論は破綻している。真の狙いは先制攻撃能力の確保である。
 自民党国防部会はこれまで「敵基地攻撃能力」の保持を提唱してきた。しかし、それでは先制攻撃を認めていると誤解されるとして「敵基地反撃能力」と言い換え、巡航ミサイルなどの保有を求める提言を3月29日にまとめた。
 しかし国防部会提言の「反撃能力」と「先制的自衛権」(「自衛権」行使としての「先制攻撃」)は「能力」と「権利」というまったく別の概念なのであり、姑息な誤魔化しであろう。今後、集団的自衛権が強引に法制化されたように、国際法上疑義が持たれている先制的自衛権も制度化が目論まれるだろう。
 この様な日米反動政権の動きに北朝鮮は過敏に反応しており、力による封じ込めは効を奏していない。4月15日、平壌で「金日成生誕105周年」の大規模な軍事パレードが行われ新型の「大陸間弾道弾」も登場、16日には失敗に終わったものの弾道弾が発射された。
 安倍政権を忖度するマスコミでは連日のように、「斬首作戦」などがまことしやかに語られ明日にでもアメリカの攻撃が始まるような報道を続けている。
 限定攻撃という選択肢にしても、内戦状態で対外戦争能力を持たないシリアと北朝鮮とでは全く条件が違うことは、マティスら軍人グループは承知している。実際16日の弾道弾発射にも米軍は反応しなかった。
 今後、北朝鮮が核実験を強行するかが焦点となるが、アメリカが先制攻撃を行う可能性は低いと考えられる。
 
外交努力の放棄
 北朝鮮、シリア、欧米を巡り国際情勢が混沌とするなかで、対話による解決に向けた外交努力が求められているが、緊張継続を望む安倍政権はその努力を放棄している。
 3月19日から22日にかけて訪欧した安倍は、米欧間の調整を試みたが進展はなかった。直前の3月17日にはワシントンで、米独首脳会談が握手拒否という異様な雰囲気のなか行われ、17,18日にはドイツでG20財務省・中央銀行総裁会議が開かれたが、アメリカの強硬姿勢で「反保護主義」での合意が得られなかった。
 こうした状況の中、20日にメルケルと会談した安倍は、一方的にトランプへの苦情を聞くこととなったが、それ以降トランプとの電話会談は北朝鮮問題に終始しており、5月下旬イタリアで開かれるG7サミットへ向けての欧米の橋渡しは困難であろう。
 朝鮮半島情勢への対応に関しては、韓国との連携が不可欠であるが全くと言って良いほど進展していない。安倍が問題視した釜山領事館前の少女像に関して何の進展もない中、4月3日長嶺駐韓大使が帰任した。
 振り上げた拳の置き所がない中、政府は安倍の支持基盤である民族排外主義者らの反発を収めるため「慰安婦問題日韓合意の履行要請」「大統領選挙の情報収集」「邦人保護」など後から様々と理屈をつけている。
 しかし「日韓合意の履行」を求めるなら、ソウルに止まり動くのが常道である。「大統領選挙」についても、昨年のアメリカ大統領選で大使館は安倍・クリントン会談をセットする失態を犯しているように、ほとんど無能力であろう。「邦人保護」も帰任を4月5日の弾道弾発射以降にすれば、もう少し説得力を持ったであろう。
 帰任した大使は「日韓合意の履行を求める」として、黄大統領代行との面会を申し入れたが拒否された。韓国側には、併合に至る明治時代の特命全権公使を彷彿とさせる非礼な行為と映ったであろう。こうした旧宗主国然とした対応は、日本国内の強硬派を意識し、そこへのフォーマンスを優先したものである。大使は10日になってようやく外務次官との会談にこぎつけたものの、安倍が日韓の協調を本気で考えていないことが露呈した。
 この間中露は外相の電話協議で6か国協議について言及しているが、当事者の一人であるはずの安倍の口からは、一切その話は出ていない。本来ならトランプを説得すべきであるが、「もし北朝鮮を攻撃するならこちらも準備があるので事前に言ってほしい」レベルの話しか聞こえてこないのである。
 朝鮮半島情勢の先行きが不透明の中、4月12日訪露中の鈴木宗男が「4月27,28日にモスクワで日露首脳会談が開かれる」と明らかにした。16日時点で外務省H.Pの日程は空白のままであり、個人の資格で訪れている人間が総理の日程を公表するのは異常事態である。
 4月いっぱい、さらには5月9日の韓国大統領選挙前後までは何が起こるかわからない、と自分たちで言っておきながら、こうした情報が独り歩きする状況は政権の箍が緩んでいる証左である。
 強権的な内政を推進するため、国際的な緊張を利用し、弄ぶ安倍政権への追及を強めなければならい。(大阪O)

【出典】 アサート No.473 2017年4月22日

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【投稿】原発企業「東芝」の破綻・それでも再稼働を擁護する司法

【投稿】原発企業「東芝」の破綻・それでも再稼働を擁護する司法
                            福井 杉本達也 

1 原発企業「東芝」の破綻
 1875年創業の巨大総合電機メーカーであり、かつては石坂泰三や土光敏夫といった経団連会長も輩出した「名門」東芝の破綻が目前に迫っている。東京府中市には原発など重電部門の東芝府中事業所(1968年発生した三億円事件の舞台)があるが、老舗の工場内は全面板張りで、加工部品が床に落ちても破損しないという贅沢な作りであった。東芝が巨額損失を抱えることとなったのは米国の原発子会社ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー(Westinghouse Electric Company LLC. 以下、旧WHと区別するため略称WEC))が発生させた損失が原因である。WECは3月29日に米連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用申請をした。WECは、原子力関連の広範な製品の販売とその関連サービスを行う多国籍原子力関連企業である。核燃料、サービスとメンテナンス、制御と計測、原子炉の設計などを行っている。GEと並ぶ総合電機メーカーであった旧ウェスティングハウス・エレクトリック(旧WE)の一部で独立した原子力企業であったが、1997年に旧WEはCBSを購入し、自身がCBSコーポレーションとなり、以降はその商標を除いて多くの部門が売却され、1999年にはCBS本体も買収され消滅した。商業用原子力部門は1997年に英国核燃料会社(BNFL)に売却され、ウェスティングハウス・エレクトリック・カンパニー(WEC)として再度立ち上げられたものである(Wikipedia)。
 その後、東芝はBNFLから2006年にWECを約6,000億円で買収した。当時から「適正価格の2倍以上」「社運をかけた買収」と指摘されていた。東芝が3月29日に公表した2017年3月期決算見通しによると、最終(当期)損失が1兆100億円と見込まれている。結果、15年には東芝は1兆840億円の自己資本があったが、17年3月末はマイナス6,200億円になる見込みである。東芝は1年前の16年3月期決算で、WHCにからむ損失約2,500億円を処理しており、これを加えると、2年間で約1兆4,000億円の損失になる。買収から10年、2年間で1兆4,000億円もの損失を出し、東芝本体が破綻に追い込まれたことを考えると、だれが考えても「高値で買収した判断は大失敗だった」という結論になる(毎日経済プレミア:2017.4.9)。

2 旧WHもWECも軍需産業
 旧WHは「原子力艦船の動力炉製造企業」という軍需産業でもある。旧WH解体の過程で、防衛産業部門のウェスティングハウス・エレクトロニック・システムズは1996年にノースロップ・グラマンに30億ドルで売却されたといわれる(2011年ノースロップ・グラマンは造船部門を分離。艦船用原子炉については最新のGerald R. Ford級原子力空母に搭載されているA1B原子炉の開発メーカー・総合エンジニアリング会社のベクテル社に移ったのではないかともいわれる)。加圧水型原子炉は軍事用の原子炉を発電用の原子炉に転用したもので、設計は民生部門も軍事部門も基礎は同じである。1954年、原潜ノーチラスに搭載されたWH製の加圧水型原子炉による原子力推進はそれまでのディーゼル推進では水中行動の運用に大きな制約を受けていた潜水艦に革命的な変化をもたらした。また、1961年には世界初の原子力空母エンタープライズにもWH製の加圧水型原子炉を搭載した。つまり旧WH社の原子力技術は米国の軍事力の心臓部をなしている、米国の世界戦略のカギを握る軍需産業である。しかし、原子力艦船は建造にも維持・運用にも莫大なコストを要求されるため、予算も削減されてきた。そのため発注は不安定かつ不定期で、いまや本家旧WHは衰退・消滅し、WECは原子力に特化した特殊な経営となっている。民生部門がなければ軍事部門を単体で支えるのは困難である。しかし、米国は絶対にこの会社を手放さないし、その核心技術も絶対に譲渡はしない(参照:ブログ「鈴木頌の発言」2015.8.12)。東芝がWECを買収した際に軍事部門の独立性と機密保護について米国議会で問題になったが、米国政府は分社化しているので問題は生じないと「保障」した。つまり軍事部門については東芝の「支配権」は一切及ばない。親会社は子会社のやっていることを全くコントロール出来ない。(たんぽぽ舎:山崎久隆「破たんの一歩手前・東芝の損失はどこから生じたか」2017.3.28)。
 また、Sputnikによれば「WHは、世界最大の核燃料供給企業であり(その割合は世界市場の31%を占め)、また世界の様々な国々にある何十もの原子力発電所や関連施設の安全を保障する業務を請け負う世界最大の企業である。燃料供給あるいは原発の安全の脅威について言えば、事は社会的に極めて重要な問題であり、こうした企業の破産は、世界的影響を及ぼす主要問題の一つになる。それは当初から、破産を通じての原子力事業のある種の再編にある」(2017.4.12)と指摘している。もし、核燃料の供給が止まれば、現在、北朝鮮や中国あるいは大統領選真っ只中の韓国国民を恫喝するために西太平洋に展開中の米原潜・原子力空母で構成する“空母打撃群”は運用できない。燃料が燃え尽きる数年先にはただの洋上の鉄屑になってしまう。

3 東芝はどうなる
 もし東芝が1兆円の負債を抱えて倒産することになれば、WECはどうなるのだろうか。3月18日の日経新聞によれば、3月16日、本来の目的である日米経済協議の事前打ち合わせの為に訪米した世耕経産相と商務省のロス長官・エネルギー省のペリー長官との会談では、経済協議そっちのけで、米側の方から、親会社である「『東芝の財政的安定性は、米国にとって非常に重要だ』と言った。」「『東芝再建は民間の問題』(日本政府関係者)と冷淡に対応してきた日米両政府の姿勢はここに来て変化している。」「WHの野放図な売却を見過ごせば、核兵器の原料となるプルトニウムを扱う高度な技術が漏れ、ひいては安全保障戦略を揺るがしかねないとの懸念が米政府内にある。」(日経:「東芝再建日米巻き込む・技術流出・雇用に懸念」2017.3.18)と書き、もし東芝が救済されないままに、苦し紛れにWECを投げ売りし、それが例えば中国に流れでもしようものなら日本に政治的・経済的制裁を科すと脅されたということである。東芝は、WECの「全ての損失」を押し付けられ、東芝にとっても日本にとっても虎の子の半導体事業を分社化し、経営権を「丸ごと」海外企業に売却してWECの損失を埋めていくしかない。たぶんそれでも全く足りないので、政府が日本政策投資銀行などを使って“救済”していくシナリオしか描けないのではないか。

4 大津地裁の高浜3,4号再稼働差し止め決定を否定した大阪高裁
 3月28日、大阪高裁は2016年3月の高浜3、4号機再稼働を差し止めた勇気ある画期的な大津地裁の仮処分決定を取り消す決定を下した。高裁は 原発の新規制基準により「炉心の損傷等を防止する確実性は高度なものとなっている」とし、新規制基準を評価。「関電の地震動評価は詳細な評価に基づき保守的な条件設定の下でなされており、基準地震動は十分な大きさだ。地域的な特性も踏まえると本件原発が基準地震動に相当する大きさの地震動に襲われる可能性は非常に低く、連続して発生することはほぼあり得ない。連続して襲われたとしても、本件原発の安全性は確保されるといえる。」との決定をした。
 原発の耐震設計のための基準地震動では震源断層の面積から地震の規模を見積る北米の地震データに立脚した計算式が過小評価ではないかといわれている(福井:2016.6.19)。また、実際の地震動では新潟中越沖地震や岩手宮城内陸地震では1,690~2,000ガルの地震動が観測されており、平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある。耐専スペクトルのバラツキをも考慮すれば、少なくとも2倍の偶然変動を考慮すべきだといわれている(長沢啓行:2015.11.30「クリフエッジ超え」)。これは原発の耐震の限界値(クリフエッジ)の倍の震動となる。いかなる原発構造物も破壊をまぬかれない。逆に言えば、倍の震動に堪えうる原発構造物を建設しようとすれば、建設費や既存原発の改修費が膨大なものとなり、電力会社や原発企業の破綻は免れないので、改修費から逆算したというのが正直なところである。
 WECはスリーマイル事故・原発テロ・福島事故などにも耐えうるような原発を米原子力規制委員会(NRC)などから求められ、非常時に自然循環で崩壊熱を除去できる「静的炉心冷却系」や原子炉一次系/二次系破断時に自然循環で格納容器を冷却する「静的格納容器冷却系」(Full Passive Safety System)などで、より安全な原発『AP1000TM』を目指したものの(東芝:「ウエスチングハウス社の活動の紹介」2014.5.16)、「机上の設計図は美しかったが、現場で実際に試してみると設計通りにできあがらない。確認作業や工事のやり直しが繰り返されて工期がずるずると伸び、想定以上にコストが膨れあがり」いつまでも完成しないため(小笠原啓「東芝粉飾の原点」『日経ビジネス』2017.3.13)経営破綻したのである。
 米NRCは少なくとも民生用の米原発の安全基準については利益重視ではなく「米国第一」の政策を取ろうとしている。一方、日本の原子力規制委員会には現在、地震動の専門家がおらず、十分な評価ができていない。しかし、政府は「新規制基準によって世界最高水準の安全性が確認された原発は順次再稼働」するとして再稼働を推し進め、また大阪高裁などの司法はそれを追認している。福島原発事故の経過を踏まえるならば、WEC設計のAP1000TMと比較しても、「静的炉心冷却系」もなくてどうして「炉心の損傷等を防止する確実性は高度なものとなっている」(大阪高裁)といえるのか。日本政府は「日本国民第一」ではなく、国民の安全を切り捨て、「米国第一」で米国の軍産複合体と原子力産業を守るために、山積する問題を残したまま、再稼働に突き進んでいる。

【出典】 アサート No.473 2017年4月22日

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【投稿】核戦争を煽る危険な火遊び 統一戦線論(35) 

【投稿】核戦争を煽る危険な火遊び 統一戦線論(35) 

<<米空軍トップ「戦闘態勢だ!」>>
 4/15は北朝鮮にとって、金日成・生誕105年の「最大の祝日」であり、なおかつ「切迫する朝鮮半島情勢の鍵となる一日」と表現される、緊張の激化と戦争勃発の危険に満ち満ちた一日であった。平壌の金日成広場で大規模な軍事パレードが展開され、この日に合わせた6回目の核実験強行が警戒されていた。
 4/13の米NBCテレビは、実験強行準備が探知されれば、米軍が通常兵器による「先制攻撃」を行う準備に入った、巡航ミサイル「トマホーク」を発射できる駆逐艦が近海に展開し、米領グアムの基地で重爆撃機も出撃態勢を整えている、と報じた。すでに米軍は、原子力空母カール・ビンソンを中心とする空母打撃群を朝鮮半島近くに向かわせたと公表しており、2つの上陸準備戦隊の上陸兵力4400人を集結させていた。4/14には、米空軍トップのゴールドフィン参謀総長が自らのツイッターで、沖縄の米空軍嘉手納基地の滑走路にF15戦闘機などが多数整列した写真を掲載して存在を誇示し、「戦闘態勢だ!」と強調する、興奮に満ちた異常で異例な事態があらわになった。
 こうした米軍の動きに対して、朝鮮労働党機関紙・労働新聞は「わが革命的に強力な軍は、敵部隊のあらゆる動きに目を光らせており、われわれの核の照準は韓国と太平洋区域の米国の侵略的基地だけでなく、米国本土にも向いている」と指摘し、米国による先制攻撃の兆候があれば米国に核攻撃すると警告した。中国の王毅外相は4/14、朝鮮半島情勢が取り返しのつかない事態に陥るのを防ぐ必要があるとの見解を示した。トランプ、キム・ジョンウン、両者の互いの冷静さを欠いた危険な挑発的姿勢からすれば、まさに一触即発の事態であった。
 しかし4/15当日は、軍事パレードは行われたが、60社200人とも言われる外国メディアが招待され、金正恩朝鮮労働党委員長がわざわざ何度も公の場に姿を現し、崔竜海党副委員長が「米国が挑発を仕掛ければ」という前提条件を付け、「全面戦には全面戦で、核戦争には我々式の核打撃で対応する」と述べると同時に、「我々は平和を愛する」とも演説して、衝突回避と対話姿勢への一端を表明したと言えよう。固唾をのんで世界は注視をしたが、この日に関しては、危機は回避されたのである。

<<「アクション映画のスター気分」>>
 しかし、熱核戦争にも発展しかねない危険な情勢は依然として収まる気配はない。最大の問題は、トランプ米大統領の情緒不安定な挑発的・好戦的姿勢である。4/14の韓国・ハンギョレ新聞は「トランプ外交の耐えがたい軽さ」と表現している。
 アメリカの俳優のロバート・デ・ニーロがその姿を端的に指摘している。「僕にはトランプが俳優になりたくて挫折した男のように見えるんだ。そんな彼が今や、アクション映画のスター気分なんだ。タフな白人男がイスラム教徒やメキシコ人、中国人ら悪人たちを敵に回して勇敢に戦う--そんな彼の思いが現実になってしまったんだから、恐ろしいことだよ。」(「トランプは俳優のなり損ないさ」ロバート・デ・ニーロ、月刊『文芸春秋』2017年5月号、インタビュー)
 問題は、トランプ個人にとどまらず、米軍幹部総体までもが、この際、冒険的先制攻撃の戦端を開くことに、次はいつか、今か今かと待ち構え、乗り出さんとしていることである。深刻な不安と恐怖を全世界に拡散させており、オバマ政権時代とは明らかに異なっている。
 すでに米軍は、4/6、突如シリア中部ホムス近郊のシュアイラート空軍基地に対し「トマホーク」ミサイル59 発を発射している。トランプ大統領は、シリア空軍が4/4、シリア北西部、イドリブ県の反政府武装勢力を攻撃した際、「恐ろしい化学兵器で罪のない市民を攻撃した」と断定し、シリアの虐殺を止めるための措置だとした。しかしこの攻撃は米国の自衛行動ではなく、国連安全保障理事会の決議によるものでもない。ましてや国際的な調査を尽くさず、証拠も示さないままのあまりに乱暴で無責任な軍事行動である。宣戦を布告していない国への国際法違反の、明らかな「侵略行為」である。スウェーデンの「人権医師」(swedhr.org)は、シリア政府軍による攻撃の疑いで救助されたビデオを分析した結果、ビデオが偽造品であることを明らかにしている。シリア政府は、わずか数週間前に、化学兵器禁止機関に、兵器用の有毒化学物質が、シリア国内で、聖戦戦士ネットワークによって移動されていると通知したと主張している。さらにこの巡航ミサイルによる攻撃の前日に、マイク・ポンペオCIA長官は分析部門の評価に基づき、アサド大統領は致死性毒ガスの放出に責任はなさそうだとドナルド・トランプ大統領に説明していたという。そんな警告もお構いなしに、ネオコンやシリア反政府勢力と連携した謀略行為と偽情報に踊らされて突っ走ってしまうトランプ政権ならびに軍部は、最低限の冷静ささえ失っているのであろう。シリアに対するミサイルの集中攻撃後、ホワイト・ハウス報道官ショーン・スパイサーは“これはシリアのみならず、全世界に対して信号を送ったのだ”と開き直っている。トランプ政権は、世界に対してこれから何をしでかすのか予測しがたいならず者国家だという現実を見せつけているのである。

<<安倍政権の「駆けつけ参戦」>>
 さらに米軍は、シリア攻撃から一週間後の4/13、実戦使用は初めてという、核兵器以外では最強の爆弾“すべての爆弾の母”(The Mother of All Bombs)と呼ばれる「大規模爆風爆弾(MOAB)」をアフガニスタンで投下した。重量2万1600ポンドのこの爆弾は、TNT換算で約11トンの威力に匹敵し、爆風による影響半径は1マイルに及ぶという。これは明らかに、単純な戦術目的ではなく、今後はこれをも実戦使用する「大量破壊兵器」の武力誇示を企図したものである。米テンプル大学メディア・コミュニケーション教授で、アフガニスタンから帰ったばかりの米国の軍事的・経済的戦争の終結を目指す運動を行う団体「Voices for Creative Nonviolence(創造的非暴力の声)」の共同コーディネーター、キャシー・ケリーは、現地の一般市民はこんな攻撃を行う母親がいるものか、母親への侮辱であると怒る様子を報告している(DemocracyNow 2017/4/14)。
 ところが安倍首相は、米軍が突如シリアを空爆した翌4/7にはすぐさま、電話会談でトランプ支持を明確にした。「東アジアでも大量破壊兵器の脅威は深刻さを増している。その中で、国際秩序の維持と、同盟国と世界の平和と安全に対するトランプ大統領の強いコミットメントを日本は高く評価する。」として、「米国政府の決意を支持する」と表明した。トランプ政権の違法な侵略行為を何ら検証することなく、大量破壊兵器の使用を躊躇しない、“武力行使を排除しない”トランプ政権の「決意」の支持を明確にしたのである。今さら確認するまでもないが、安倍首相は、完全にトランプ大統領の言いなりなのである。単に言いなりなだけではなく、むしろ危機を煽る悪質なものである。4/13の参院外交防衛委員会では、北朝鮮のミサイル開発について、「(化学兵器の)サリンを弾頭につけて着弾させる能力をすでに保有している可能性がある」と指摘し、恐怖を煽り、「先制攻撃」の必要性を暗示する、対話による外交努力、話し合いなどすっ飛ばして武力制圧することに期待をかける、明らかな悪乗りである。そして実際に、4/11には「東シナ海、日本海に入ってくるカールビンソンの空母打撃群に、(海自の)護衛艦を数隻派遣する」ことが明らかになった。まさに積極的な駆けつけ参戦である。外務省は4/11から、「韓国への滞在・渡航を予定している方、すでに滞在中の方は最新の情報に注意してください」と警戒情報、海外安全情報を流しだしている。
 そして、緊張を激化させ、領土紛争や民族主義的な対立をあおり、戦争挑発に民心を総動員する、それに反対する勢力を黙り込ませる、そのためにも安倍政権にとっては共謀罪の制定強行が必要不可欠なのである。すでに沖縄では、プレ「共謀罪」捜査が先取りされて、沖縄平和運動センターの山城博治議長らの異常ともいえる長期勾留や接見禁止措置が平然と行われ、米軍基地建設反対運動を、共謀罪にいう犯罪組織に見立てているともいえよう。
 この危険極まりない事態に、日本の反戦・平和勢力、全野党は、事態の推移を傍観するのではなく、第二の朝鮮戦争、地球規模の熱核戦争に発展しかねない人類的危機に対して、早急に明確な反戦・平和の共同のアピールを発し、共同行動・統一戦線を大胆に拡大、強化することが求められている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.473 2017年4月22日

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【書評】『燃える森に生きる—インドネシア・スマトラ島 紙と油に消える熱帯林』

【書評】『燃える森に生きる—インドネシア・スマトラ島 紙と油に消える熱帯林』
            (内田道雄著、新泉社、2,016年5月、2,400円+税) 

 地球温暖化と関係が深い森林破壊問題の中で、わが国ではあまり報道されない、インドネシアにおける油ヤシ園をめぐるレポートが本書である。著者は、インドネシアをはじめ、タイ、フィリピン、マレーシアなどの環境問題、少数民族の取材を続けているフォトジャーナリストである。
 とはいえ、森林破壊の元凶と言われているパルプ材伐採についてはともかく、インドネシアで森林破壊の最大の原因であるとされる油ヤシがどんな問題を引き起こしているかをわれわれはほとんど知らない。そもそも油ヤシとは、植物油の採れるヤシ科の植物であり、実の果肉からパーム油が、種(パーム核)からパーム核油が採れ、どちらも有用に使用される。2013年の日本の輸入量は、パーム油が59万トン、パーム核油が9万4000トンで、全植物油使用量の約42%にあたる(輸入先は現在のところ8割がマレーシア、2割がインドネシア)。
 2014年の生産量はインドネシアが3000万トン、マレーシアが2000万トンで世界の8割以上、しかも世界のパーム油・パーム核油生産で全植物油脂生産量全体の40%以上という数字が出ている。その理由は、値段の安さ(菜種油や大豆油の約6割の価格)、しかも単位面積当たりの収量の多さ、そして生産コストの低さである。だが「この安さは低賃金労働者に支えられたものなのだ」と本書は語る。そもそもインドネシアで油ヤシの大規模栽培が始まるのは1911年で、第二次大戦や政治的不安定のためそれ程の産業でもなかったが、政情安定から後、生産・輸出ともに増大し、現在では外貨獲得の重要産業となっている。しかも油ヤシの栽培適地が熱帯雨林地域であるという事情から、熱帯雨林が油ヤシ農園のために消えていく。「インドネシアでは1990年から2005年にかけて、油ヤシ農園のために350万ヘクタールの森林が消えたといわれる」。そしてヤシ油の製品化の性質上、搾油工場を農園の近くに設置する必要があるため、油ヤシは大規模栽培のプランテーション方式でしか栽培できない(最低でも3000ヘクタール)。
 こういった事情から、転換林(森林伐採の跡地、草原など)のみならず自然林や保護区までが開発され、当然のことながら土地の権利に関する争いも起こる。油ヤシ農園の企業の土地と昔から集落が保有している土地との境界や所有権があいまいということも手伝って、あちらこちらで紛争が生じ、多くは政府の後押しで企業がゴリ押しをし、極端な場合には村が消されていくこともある。しかも伐採が泥炭湿地林にまで及んでいるという由々しき状況もある。泥炭湿地とは、降水量の多い湿地では枯れた植物が水に浸かってしまい分解が進まない、その上に次々と植物遺体が積み重なって泥炭となった湿地を指すが、油ヤシはこうした土地でも栽培できるからである。ところがここを伐採すると、地中の有機物が酸素にさらされ分解が始まり、大量の温室効果ガスが排出される。(これについて言えば、世界の泥炭地に含まれる二酸化炭素の量は、世界の森林に蓄積されている量よりも多いという。)
 これだけでも近未来的には大問題であるが、さらに伐採によって森の居住地を奪われ止むなく油ヤシ農園の中や近辺に住まざるを得ないオランリンバといわれる狩猟採集民が紹介される。(インドネシア語で、オランは人、リンバは密林という意味。ちなみにオランウータンとは森の人という意味であるが、これは類人猿。)彼らは今でも密林で数が月単位で森を移動する狩猟採集生活を送っている。しかし油ヤシ農園の拡大により生活の基盤が危機にさらされている。地方政府の定住政策には馴染んでいず、また生活様式や所有観念の違いから定住住民とのトラブルも生じている。
 本書はこうした油ヤシ園の諸問題を、スマトラ島北部のリアウ州・ジャンビ州の村々において実際に体験観察しながら問題提起していく。それはわれわれの身近にあるパーム油が持つ背景—-近代資本主義世界の構造の一部を浮かび上がらせる。こうした視点から見れば、本書の次の指摘が何とも皮肉に聞こえる。
 「インドネシアでは油ヤシの二割から三割は泥炭地に植えられている。泥炭地の土壌は酸性が強いが、油ヤシは栽培できるからだ。ところが、泥炭地は開発するときに大量の温暖効果ガスを放出する。泥炭地に植えられた油ヤシでバイオ燃料を作ったとしても、炭素が相殺されるのに四二〇年から八四〇年もかかるという研究もある」。
 こうしてみれば、化石燃料に代わるとされるバイオ燃料も、ヤシ油から採れた植物性油脂で作られた「地球にやさしい洗剤」も、必ずしも環境に良いわけではないということに気づく。本書は環境問題について、また違う視点を与えてくれる。難を言えば、名前は知っているが、実地には馴染みのないスマトラ島の説明がもう少しあればと思うが、しかしそれを補って余りある油ヤシ農園の造成地—-見渡す限りの森林の伐採地=造成地—-や泥炭地などの写真は圧倒的に迫ってくる。これを契機にこの問題についての理解が深まっていくことを期待する。(R)

【出典】 アサート No.473 2017年4月22日

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【投稿】頓挫した「積極的平和主義」戦略

【投稿】頓挫した「積極的平和主義」戦略
              ―南スーダン撤兵と「統帥権混乱」―

「大本営発表」
 3月10日夕刻、安倍は緊急記者会見を開き南スーダンから、5月末を目途に自衛隊を撤兵させることを明らかにした。
 本来なら2013年12月の内戦発生時か、遅くとも昨年7月首都ジュバで大規模な戦闘が勃発した時点で撤兵を決断すべきであった。しかし官邸は正確な情報を把握できず派兵を継続してきたが、急転直下の決定となった。
 安倍政権は民主党政権時の政策をことごとく否定してきたが、南スーダン派兵と尖閣国有化のような軍拡、緊張激化政策は継承・増幅させてきたが、政策転換を余儀なくされた。 
 現地部隊の日報に「戦闘」との記載があったことが発覚して以降、安倍や稲田はしどろもどろの答弁を繰り返してきたが、事件が明らかになる前の2月1日の国会答弁が撤兵の要因となったといえる。
 安倍は「戦死者が出れば辞任する覚悟がある」趣旨の発言を行った。安倍は日頃「日本を普通の国」にすると吹聴しているが「普通の国」の権力者からは発せられようのない言葉である。
 この「辞任発言」で驚いたのは、現地の状況を隠蔽していた防衛省であろう。12月からは「駆け付け警護」任務が付与されることが決まっており、これが本当に発令されれば制服トップレベルでは死傷者が出ることも想定していたと考えられる。
 防衛省とりわけ陸自として、海外派兵は重要な利権となっている。冷戦終結後、自衛隊は軍縮を避けるため様々に活路を求めてきた。
 海自は東シナ海問題、ソマリア沖派遣(過去に対北朝鮮の海上警備活動)、空自は中露に対するスクランブルに出動を伴う軍事組織としての存在意義を持たせている。
 このなかで陸自は離島奪還などの演習を行っているが実動作戦としては、当初は外務省主導で始まったPKOが今では錦の御旗となっている。
 したがって陸自としては、海外派兵の継続は望むところであり、政権が動揺しないように楽観的な報告を挙げ、とりわけ撤兵に直結するPKO5原則に抵触するような現地状況は隠蔽してきたと考えられる。
 一方安倍は報告を鵜呑みにして、昨年10月には「南スーダンは永田町より危険」などと軽口をたたき、戦死者なんかでないと思い込んでいたため国会で大見得を切ったのである。日報への「戦闘」記載を1月27日に稲田が知ったと言うのが事実であるなら、2月1日時点では安倍はこの問題の深刻性を知らなかった可能性が高い。
 防衛省はこのまま隠し通そうとしたが、まさか総理大臣が「戦死者が出ればやめる」と言い出すとまでは思いもしなかったと考えられる。自らの責任で「首相を辞任させるわけにはいかない」ので、日報の存在が明らかにされて以降防衛相が「戦死者が出るかもしれない」と注進し、安倍も想像以上に緊迫した現地の状況に驚愕したのであろう。
 戦争法案審議から駆け付け警護閣議決定まで、自衛隊員のリスク増については懸念が表明されてきた。しかし政府は問題なしどころか「リスクは低減」としてきたが、事実上リスク増大を認めざるを得なくなった。
 国会では野党に対し失態を認めることができないため、「法的な意味での戦闘はない」「5原則は保たれている」と強弁してきたが、最悪の事態になることを恐れ、急遽撤兵計画が立案されたのである。
 安倍は「私は立法府の長」発言でも明らかなように、本当はよく総理大臣の職責を理解していないだけなのかも知れないが、表向きの「PKOの大義」よりも自己保身の方が重たかったことを証明してしまった。
 政権の本音としても安倍は「積極的平和主義」を掲げ、中国を念頭に世界各地でのプレゼンス拡大を目論んできた。とりわけアフリカ大陸は天然資源と今後の市場獲得への思惑から重要視されており、南スーダンはその最前線であり簡単に放棄できるものではなかった。
 
戦略的敗北
 今回の撤兵で安倍政権のアフリカ戦略は修正を余儀なくされた。政府は3月14日、アフリカ、中東の6カ国への民生支援として約30億円の無償協力を決定した。
 これは人的貢献が大きく後退する中で、この地域への影響力の維持を狙ったものであり、南スーダンには約6億9千万円が供与される。政府は撤兵の理由として、「国づくりが新たな段階を迎え」道路などインフラ整備が一定の成果が上がり「一区切り」とすると述べているが、現状は和平の見通しは立たず、100万人が餓死寸前と言われており安定化とは程遠いものがある。
 陸自が整備したインフラもメンテナンスが滞れば荒廃は免れない。自衛隊が現地に残す機材も活用されるか不透明である。6億9千万円は手切れ金とも言えるものである。
 アフリカ大陸に於いて、地歩を後退させる日本に比べ影響力を拡大しているのが中国である。中国は昨年7月ジュバでの戦闘で7人の死傷者を出したが引き続き南スーダンでの活動を続けている。 
 3月13日には南部の都市イエイで、中国部隊が政府軍と反政府軍の戦闘で身動きが取れなくなった国連職員7人をホテルから救出した。「駆け付け警護」の実践といえる。
 陸自は昨秋「駆け付け警護」訓練を公開したが、非武装の大人しい「暴徒」が自衛隊に威嚇され怯んだすきに「国連スタッフ」を救出するという、現実離れした内容であった。
 実際に起こるのは今回のような事態であり、最低でも自動小銃、ロケット砲で武装している相手に自衛隊では対処不能だったであろう。逆に3月18日、ジュバで南スーダン政府軍に自衛隊員が拘束される事件が発生した。
 防衛省によれば市内の市場で「買い物中」(情報収集活動中)の隊員5名が「誤解から」連行されたと言うが、戦闘服を着用し武装した隊員(外国人)を不審者と間違うはずはなく意図的な妨害である。
 南スーダン政府は「自衛隊の活動には感謝している」と言っているが、要は早く出ていけと言うサインである。下手をすれば政府軍との戦闘になる危険性があった事案であり、5月末までの逐次撤兵という悠長な計画ではなく前倒しすべきであろう。
 南スーダンを巡る今回の事態は、安倍政権の「積極的平和主義」の頓挫と、中国に対する戦略的敗北を印象付けるものとなった。

文民統制の空洞化
 一連の問題で明らかになったのは、指揮命令系統の混乱である。当初、防衛相は日報データについては、「破棄」したといいながら与党議員の請求を受け12月末に統幕でデータを「発見」したものの、稲田と統幕長への報告は1月末なってしまった。と説明していた。
 ところが1月中旬には陸自でもデータが保管されていることが判ったにも関わらず、2月以降の国会答弁では明らかにされてこなかったことが、3月15日NHKによって報道された。
 保管されていたのは「陸上自衛隊の司令部」(派遣部隊を指揮する中央即応集団)といわれており、判明後公表の動きがあったが国会審議を勘案した統幕幹部(背広組)がストップをかけ、その後データを廃棄させた可能性があるとされた。
 この件に関しては陸上幕僚長も報告を受けていたと指摘されているが、本人は「私は貝になりたい」のであろう、記者会見でも明確な説明はなかった。問題は稲田がこれを把握していたかである。知っていれば隠蔽に加担、知らなければ掌握不十分ということになり、いずれにせよ責任問題であるが追及の声をよそに、16日には自ら特別防衛監察を指示した。
 特別防衛監察は、海自の次期多用途ヘリコプター選定問題に関連しても実施され、昨年12月に当時の海上幕僚長が「機種選定に不当に介入した」と訓戒処分を受け辞職した。
 今回陸幕長が隠蔽に関与していたとなると更迭は免れないだろう。稲田が就任して以降、陸海制服トップの首が続けて飛ぶとなれば異常事態である。ただ海自に関する監察も開始から処分決定まで1年強を要しており、問題が先送りされる可能性がある。野党は厳しく追及すべきである。
 今年はミッドウェー海戦75周年であるが、大本営は大敗北の事実を隠蔽し、その後も虚偽の発表を続け、敗戦後は連合軍からの追及を恐れ膨大な資料を廃棄した。
 一連の問題で軍部の隠蔽体質は同様であることが暴露されたが、安倍や稲田が自衛隊を掌握できていないことも明らかになった。文民統制が空洞化するなか、そうした政権が中国に対し軍拡と挑発を続けている事態は非常に危険なことである。
 海自は3月初旬東シナ海で米空母「カール・ビンソン」との合同訓練を行ったのに続き、ヘリ空母「いずも」を5月から3か月にわたり南シナ海方面に派遣する。これは中国空母「遼寧」の巡航に対抗するものであり、安倍政権はこの地域での緊張をエスカレートさせようとしている。
 ただ、今回の混乱では「戦死」に対する国民感情が撤兵に追い込んだと言え、日本がそう簡単には「戦争をする国」にはならないことが明らかになった。
 安倍は自民党大会で任期を延長し、改憲に執念を燃やしているが、森友事件では、日本の極右エスタブの醜悪さが「内ゲバ」によって晒された。野党・民主勢力は平和主義的ポピュリズムを運動化すべく、最大限の努力を傾注すべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.472 2017年3月25日

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【投稿】“人権産業”が帝国主義を守る —アムネスティ・インターナショナルのプロパガンダ—

【投稿】 “人権産業”が帝国主義を守る
      —アムネスティ・インターナショナルのプロパガンダ—
                              福井 杉本達也 

 1 フェイクニュース(偽ニュース)
  トランプ米政権発足前後から、フェイクニュース(Fake News 偽ニュース)という言葉が飛びかっている。2017年2月6日のNHK「クローズアップ現代」でも『フェイクニュース特集“トランプの時代”真実はどこへ』「ウソ?真実? 混迷するアメリカ」との題で、「去年(2016年)のアメリカ大統領選挙では、「フェイクニュース」と呼ばれる偽の情報がインターネット上にあふれ、人々を惑わせ」大統領選にも影響を与えたとし、池上彰は「権力者というのは、何とか世論操作をしたいという思いがあって、例えば、事実を自分の都合のいいように解釈をちょっと変えることは、これまでやっていたんですけど、トランプ政権の場合はそもそも、うそを平然と言う」と解説、これを受けて司会者は、既存メディアが「正しい情報を出したとしても、それがフェイクニュースの拡散のスピードに全く追いつかない」と、あたかもインターネット企業に全ての責任があるようにて述べているが、事実とは異なる。米大統領選では、ほとんど全ての既成メディアはヒラリー側についたにもかかわらず、選挙戦ではトランプが勝利したのであり、既存メディアこそ、権力者の世論操作の道具であったが、今回は大統領選の世論工作に失敗したのである。SNSは既成メディアへの抵抗手段であることが明らかとなった。
 
 2 「人権団体」?アムネスティ・インターナショナルもフェイクニュースを垂れ流す
  2016年末にシリア最大の都市アレッポでの4年にもわたるアサド政権側と反体制側との戦闘が終結したが、2017年2月7日、各報道機関は「国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは7日、シリアの首都ダマスカス近郊の軍事刑務所で2011~15年に毎週絞首刑が執行されていたとする報告書を公表した。5千~1万3千人が処刑されたと推計。アサド政権が政策として組織的に実施したもので『人道に対する犯罪だ』と非難している。」(朝日:2017.2.7)とする記事を配信した。こうした国際的世論工作の支えに、国連安保理では米英仏主導で2月28日にシリアでの化学兵器使用に関与した個人・団体に制裁を科す決議案を採決したが、ロシアと中国は、この決議案が米国の濡れ衣であるとして拒否権を発動、葬り去られた。アレッポでの反体制派の足場がなくなり、イスラム国(IS)に占拠されていた古代遺跡のあるパルミラもシリア政府軍に再奪還されるなど、5年及ぶシリア内戦も収束の見通しが高まる中、アムネスティがアレッポ東部を占拠していた反体制派やISを批判せず、シリア政府と反政府派とで和平協議が行われるタイミングを狙って、一方的にアサド政権側の非を責める報告書を出したことは、中立性に欠けるどころか、内戦の再勃発を目論む、反人権団体と呼ぶにふさわしい行為である。
  桜井元は「問題の本質は、影響力のある国際人権団体が虚偽報告を発信し、マスコミがそれを無批判に掲載して拡散している点です。」と述べている。フェイクニュースそのものである。以下、桜井による「アムネスティの偏向」についてのブログ(在米の物理学者藤永茂HP『私の闇の奥』に掲載 2017.2.21~2.28)を基づきアムネスティの「反人権団体」としての実態をあぶり出したい。
 
 3 「国際人権団体」としての表の顔と「人権産業」としての裏の顔
  アムネスティ・インターナショナル日本支部は1970年に発足したが、1970年代は特に関西地区で活発であり、副理事長を努めた川久保公夫(当時大阪市立大学教授、後に大阪経済法科大学学長)らが中心となり、またインド生まれで大阪弁の巧みなタレント:イーデス・ハンソンを看板として1986年~1999年に日本支部長(現在は特別顧問)とした。また、岩波書店のリベラル系の雑誌『世界』には「アムネスティ通信」を連載しており、2017年2月号ではミャンマーのロヒンギャ問題を取り上げている。また、日本の死刑制度の廃止や袴田事件などを取り上げるなど国際人権団体と見なされている。
  これが「国際人権団体」としての表の顔であるとすれば、2月7日のシリアの記事は裏の顔である。報道では「アムネスティは15年12月からの1年間に刑務所の元看守や元収容者、元軍事法廷判事ら84人から聞き取り調査を実施。報告によると、ダマスカス北方にあるサイドナヤ軍事刑務所で毎週1、2回、20~50人が処刑されていた。多くが反体制デモの参加者、人権活動家、ジャーナリスト、医師、労働者、学生ら民間人だという。」とし、「収容者はイスラム法廷と軍事法廷で審理されるが、審理時間は1~3分間。有罪判決を受けると建物の地下に連行されて2~3時間殴られ、絞首刑にされる。」「アムネスティは『処刑が現在は行われていないと考える理由はない』と指摘。」(朝日:同上)しているというのであるが、「聞き取り調査」とあるように、「今回の報告書は、アムネスティのスタッフがシリア各地で実地に調査したものではなく、トルコ国内であるいは電話などを使ってのインタビューという方法をとり」、検証不可能な匿名の証人による曖昧な証言をもとに「被害者数を推定」、「匿名の証言者とのコンタクトを調整したのはすべて反政府側にくみする諸団体で、それ自体が偏向している」といえる。結果、記事に「5千~1万3千人」とあるように被害者推計も幅の大きい杜撰なものである。そもそもシリアの紛争は、国際法では許されない「主権国家の政権に対して外国が軍事力をもって干渉してその転覆を図る行為」(=侵略)であり、欧米・トルコ・サウジ・カタールなどが共同で軍事支援しているとものである。それらの行為を一切不問にして、アサド政権を一方的に批判する報告書は侵略に加担する以外の何物でもない。
 
 4 アムネスティはなぜ侵略戦争の代弁者になったのか
  アムネスティはNGO(Non-governmental Organization)=非政府組織であり、いかなる政府からも独立の立場にあるという建前であり、したがって公平性が担保されると考えられがちだが、実際には政府からの資金が流れている。イギリス国際開発省、欧州委員会、オランダ政府、米国政府、ノルウェー政府などから資金を受け取っており、「国内または世界の人権問題に関する理解を各国政府がより一層推進しようとしているかどうか、その熱意を測る」ための手段の一つとして、政府から資金を受け入れていると自己弁護している。また、資金提供者として世界的大富豪ジョージ・ソロスが率いるオープン・ソサエティ財団の名前があがっている。
  資金ばかりではなく人事的にも、政府とNGOとの間には回転ドアが健在で、例えばアムネスティ米国支部事務局長のスザンヌ・ノッセルは、米国国務省から直接引き抜かれてきた人物である。「ノッセルは、イラクでの方針を継続するよう民主党員に要請し、イラクで失敗すれば、“ベトナム後や、モガディシオ後の後遺症のようなもの”を解き放ちかねず、嘆かわしいことに“アメリカ大衆が武力の使用を強く留保する時代の到来を告げることになろう”と警告した。彼女は国務省幹部として、パレスチナ人に対する戦争犯罪で、イスラエルを告発したゴールドストーン報告書の信用を傷つけるべく働いた。国連人権理事会に出席する代表として、彼女は“我々のリストのトップは、イスラエルの擁護と、人権理事会でのイスラエルの権利の公正な扱い”だと語っていた。パレスチナ人については一言もない。彼女は、シリアやリビア等の国々における武装介入の拡大を提唱した。彼女は、イランが核濃縮計画を中止しないのであれば、対イラン軍事攻撃をすべきだと主張していた」のである(Chris Hedges 「人権ハイジャック」『マスコミに載らない海外記事』2013,5.14)。
  「人権擁護産業」という非政府組織には世界的な多国籍企業が資金面で支援をしており、軍産複合体の中枢との間のつながりを充実・発展させてきた。「慈善団体」という表向きの顔に隠れて、こうした団体の多くは、米国・NATOの戦争計画のためのPR機関として機能している。
  アムネスティはイラクやアフガニスタンやパキスタンやイエメンやガザの犠牲者は無視する。彼等はタリバンの残忍さは非難するが、アメリカの無人機が横行するアフガニスタンやパキスタンでの、アメリカが行なっている残虐行為は無視する。そしてこれらの嘘の発表を右から左に垂れ流す既成メディアは「フェイクニュース」とは言わないのであろうか。イラク侵略戦争はブッシュのイラクに大量破壊兵器があるという嘘から始まった。そして何百万人もの人々が殺害され続けているにもかかわらず、「人権擁護産業」はそのことに一言も触れようとはしない。その「人権」とはいったい誰の人権なのか。一握りの支配エリートのための「人権」ではないのか。欧米による「特権」ではないのか。米西部開拓では「インディアン」の人権などバッファローのように無視された。英国のインド支配でインド人の人権が無視されるように、アフリカの人々の人権は全くなく、奴隷として売り買いされたように、欧米が作った「人権擁護産業」アムネスティによって今もシリアの人権は無視され続けているのである。

【出典】 アサート No.472 2017年3月25日

カテゴリー: 人権, 政治, 杉本執筆 | 【投稿】“人権産業”が帝国主義を守る —アムネスティ・インターナショナルのプロパガンダ— はコメントを受け付けていません

【投稿】煽られる先制攻撃と安倍政権 統一戦線論(34) 

【投稿】煽られる先制攻撃と安倍政権 統一戦線論(34) 

 <<「行儀が悪い」>>
  3/2付米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「アメリカが北朝鮮攻撃を検討している」と報じた。トランプ米政権内部の対北朝鮮戦略の見直し作業に詳しい関係者が明らかにした情報として、「北朝鮮による核兵器の脅威に対応するため」、「大陸間弾道ミサイルの発射実験を阻止する」ために、武力行使や政権転覆などの選択肢を検討している、というのである。危険極まりない先制攻撃論が煽られだしていると言えよう。
  事実、米政府は最近の同盟諸国との協議の中で、対北朝鮮戦略に軍事的側面が含まれる可能性を意図的に強調しだしている。日本、韓国、中国を訪問した米国務長官ティラーソン氏は、「明確にさせておきたい。(オバマ前政権の)戦略的忍耐の政策はもう終わった」「今は北朝鮮と対話をする時ではない」と明言。一方で、「軍事的な葛藤までいくことを望んでいない」と述べながらも、「あらゆる選択肢」を検討している、「我々が行動を取らなければならない水準までいけば、行動を取る」とも語っている。
  その選択肢、水準の中には、北朝鮮が核・ミサイルの脅威を高める行動、大陸間弾道ミサイルの発射実験をする構えを見せた場合などに、米国が先制的軍事攻撃をすること、特殊部隊による奇襲作戦と爆撃隊や巡航ミサイルを組み合わせた限定空爆、核施設の空爆による破壊が有力視されている、という。
  3/18の中国・王毅外相との会談でも、ティラーソン氏は会談後の共同記者会見で、双方が「朝鮮半島情勢の緊張が極めて高く、かなり危険なレベルに達している」との認識を共有し、北朝鮮の核・ミサイル問題を打開するため米中両国が「できることは全て行うと確約した」ことを明らかにした。しかし中国側は「中国は一貫して6カ国協議が朝鮮半島問題を解決する有効なプラットホームだと考える」として、「北朝鮮とは対話で解決すべきだ」と強調している。
  問題は、決定を下す権限を持つトランプ大統領の態度である。トランプ氏は3/17、自らのツイッターで「北朝鮮は非常に行儀が悪い。何年にもわたり米国を手玉にとってきた」と書き込み、同時に「中国はほとんど助けになることをしてこなかった」と悪態をついている。
  トランプ氏の「行儀の悪さ」は、オーストラリアの首相との電話会話を突然打ち切ったことに典型的に表れている。その気ままで、軽率な振る舞いや発言、首尾一貫せず、ころころ変わる無定見、批判するメディアを「偽ニュース」と切り捨てて異論を封じる独善ぶり、突然の「盗聴被害という不規則発言」、不安定な精神状態や無謀さに満ち満ちたツイッター発言などが示していることは、彼が冷静さを欠き、理非をわきまえた行動ができない証とも言える。その意味では危険極まりない、どのような事態が起きても不思議ではない。そこで、閣僚の過半数の了承で、大統領の執行不能を宣言できるというアメリカ合衆国憲法修正第25条第4節を発動することが可能だとして、トランプの辞任、あるいは弾劾要求、そしてペンスが“大統領代理”となる、“宮廷クーデター”説まで取り沙汰される事態である(Ronald L. Feinman 2/18 “Raw Story”)。
 
 <<「仮面を剥ぎ、牙をむきだした」>>
  実は、こういう事態に立ち至ったトランプ政権には、すでに三つの政権が事実上存在し、いずれにも異なる権限があるという。
  第一の政権で、もっとも明らかに有力なのはトランプ側近。現時点で、構成メンバーは、バノン首席戦略官、トランプの娘イヴァンカと夫のクシュナー、ミラー政策担当大統領補佐官とセッションズ司法長官。
  第二の政権は、トランプが共和党大統領指名候補の座を確保した後に支持するようになった共和党主流派。
  第三の政権は、長年の“陰の政府”権益を代表しており、ネオコン活動家や、伝統的に共和党政治とつながっている強力なウオール街やヒューストン・ダラス石油事業の大立て者の連合。
  弾劾と有罪決定の結果、あるいは健康問題で、トランプが大統領の座を降りざるを得なくなった場合、第三のトランプ政権が権力を掌握しようとしている。国際的現状を代表する第三のトランプ政権の典型、ペンス副大統領とマティス国防長官は、ミュンヘンで、NATO、欧州連合の推進と、対ロシア経済制裁継続に余念がなかった。ペンスとマティスの発言は、それまでトランプが発言して来たことと矛盾していた。ペンス、マティスとティラーソンたちの第三のトランプ政権は、世界に、アメリカの“陰の政府”を代表する本当のトランプ政権が、アメリカ政府を動かし続けるというサインを送っている。第三の政権こそが、グローバル・エリート連中がもっとも居心地良く感じられるものである。(以上、Wayne MADSEN 2/24 Strategic Culture Foundationより)
  いずれもがせめぎ合い、暗闘しているのであろう。第三のトランプ政権は、トランプの政権公約(「アメリカは世界の憲兵になる必要はない」・ロシアとの友好関係の構築)を明らかに破棄し、トランプ自身もそれに取り込まれている。
  こうした中で、3/16、トランプ大統領は2018年度予算案を発表。この予算案はごうごうたる非難にさらされている。軍事費が異例の540億ドルの増加、非軍事分野はほぼすべてにわたり大幅に削減。国防予算の基本予算は前年度比10%増の5740億ドル。これとは別に国外作戦経費を646億ドル計上。軍事予算は全体の実に56%を占める。
  一方、環境、住宅、外交、教育プログラムの予算は大幅削減、19の政府機関の完全廃止も提案。環境保護局(EPA)予算は31%削減。また、国務省や米国際開発庁(USAID)の予算も28%削減、国際連合への負担金も数十億ドル削減。農務省21%減、労働省21%減、商務省16%減、教育省13%減、住宅・都市開発省13%減、運輸省13%減。低所得層の住宅光熱費援助プログラムや全米で無料の法律相談を支援する法律扶助機構、高齢者、貧しい人、退役軍人、障がい者などに食べ物を宅配するミールズ・オン・ホイールズ活動へのコミュニティ開発包括補助金(CDBG)などの削減、等々。
  長年にわたる消費者運動活動家で、元大統領候補のラルフ・ネイダー氏は、このトランプの予算について、「仮面を剥ぎ、牙をむきだした。1854年から続く党史の中で最も悪質で無知な状態の共和党と協力している」と酷評している(DemocracyNow 3/17)。
 
 <<無謀で危険な軍事作戦への参入>>
  政権発足当初からの支持率の低下と批判の渦、混迷の中で、トランプ氏が主導権を誇示できる最も有力な一つの選択肢として、北朝鮮への先制攻撃が浮上しているのである。
  これに真っ先に呼応しようとしているのが安倍政権である。まさに、トランプ=アベ枢軸の発動である。両者ともに「行儀」が悪く、独裁者気取りで、冷静さも、謙虚さもまるでかけた存在である。
  安倍政権にとっては、朝鮮半島、中国との緊張激化が政権維持と憲法改悪、長期独裁政権を目指し、自らの帝国主義的・植民地主義的野望を追求するうえで、何よりも望ましいのであろう。いよいよ好機到来、とばかりに手ぐすねを引き、トランプの先制攻撃への協力と便乗、戦争法の発動と、共謀罪の強行が画策されている。
  すでに日本の弾道弾迎撃ミサイル・システムを搭載したイージス艦が、韓国とアメリカとの共同演習に駆け付け、先週北朝鮮実験ミサイル四発が着水した海域で挑発的な活動を開始している。さらに、今年5月から日本最大の戦艦「いずも」を、もう一つの危険な一触即発状況にある、南シナ海の係争水域での三カ月の作戦に派遣・配備し、そこで、アメリカ海軍と共同演習を行う計画である。これまでとは質的に異なった無謀で危険な軍事作戦への参入である。
  このような危険な路線を突き進む安倍政権であるが、意外だが、必然的でもあった弱点とほころびが露呈し、盤石と見られた長期政権を揺さぶっている。森友学園問題は、政権を崩壊に導きかねない爆弾を孕んでいる。国有地をタダ同然で提供した政治的介入疑惑の背後に、厳然と横たわる安倍政権の教育反動、自民、維新、日本会議の右翼ラインによる教育支配策動のほころびが表面化したのである。憲法違反の教育勅語を唱和させ、「尖閣列島 竹島 北方領土を守り」、「安倍首相がんばれ! 安保法制 国会通過 よかったです」「日本を悪者として扱っている中国、韓国が心を改め」などと叫ばせる露骨な排外主義、民族主義教育は、安倍夫妻が心から称賛し、安倍政権が目指していた教育の公教育化路線の具現化であった。ところが問題が表面化するや、安倍首相は、相手がとてもしつこい人だった、教育内容なんて知らない、妻は私人で自分とは関係ない、こんな醜い言い訳しか語れず、証人喚問当日は首相夫妻は外遊で逃げ出す。トランプにとっては頼りない存在であろう。しかし独裁者気取りのトランプと同様、おごり高ぶった人間ほど、追い詰められると意外に脆い弱点が次から次へとさらけ出される。安倍首相には再度政権を投げ出させることを迫らなければならない。
  しかし、政権が危機に瀕すればこそ、彼らは無謀で危険なカケに出かねないし、事態は着実に危険な方向に進んでいると言えよう。朝鮮半島、中国をめぐる恐るべき事態の進行である。もはやどこか遠くの言い換えやごまかしですり抜けられるような「戦闘」どころではない。一触即発、戦端が開かれれば、途方もない規模と質の戦争、核の被害さえ想定される。楽観論など許されない、民族主義やセクト主義を乗り越えた、強大で広範な反戦・平和の大運動、民主主義運動、統一戦線が今こそ要請されている。
 (生駒 敬)

【出典】 アサート No.472 2017年3月25日
 

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【本の紹介】「教育費破産」を読んで—現代の大学事情を知る

【本の紹介】「教育費破産」を読んで—現代の大学事情を知る
           安田賢治 著 祥伝社 発行 2016年11月 760円+税 

 本書は、大学進学に係る費用や奨学金、国立と私学、都市圏と地方の大学などを比較しつつ、教育費によって学生や家族が大きな負担を強いられている現実を描き出そうとしている。ただ、私が興味を持ったのは、自分の学生時代と比較して、様変わりする現実であろう。
 特徴的な変化を挙げてみよう。まず、大学進学率の変化である。1976年に、大学・短大・専修学校への進学率は、42.7%であった。2015年には、それが79.8%に上昇、8割が進学している。その5割が4年制大学に進学する。大学進学者は、60年前に10人に一人、30年前に4人に一人、そして昨年は2人に一人、と急激に増えている。一方、短大進学者は1996年をピークに急落。女子の4年制志向が強まっているためである。
 進学希望に応え大学数も増え続けた。1956年大学は228校、65年は317校、73年405校と増えつづけ、2003年には702校、2015年には779校となった。
 一方、大学進学者は増加しているものの、少子化の影響もあって定員割れの私学を増加させ、「大学で中学校の授業をしている」ような状況も生まれているという。受験生が最も多かったのは、1992年で18歳人口は205万人、それが2015年は120万人に減少。大学志願者も92年は92 万人、入学者は54.2万人いたが、2015年は志願者66.2万人、入学者は61.8万人。大学が入りやすくなったと著者は語る。
 
 次の特徴は、大学進学にかかる費用負担の増加である。
 国立大学の初年度納付金は81万7千円、私立大学のそれは、文系の130万円弱から、医学系の700万前後まで、かなり相当高額になっている。こうした費用負担の増加の影響と世帯収入の減少から、「浪人」しても志望校をめざすということが減少しているという。「志願者から入学者を引いた浪人候補者数は、92年には37.8万人だったが、昨年は4.4万人にまで激減している。」
 また、学生運動が沈静化した1970年代後半以降、学費は毎年のように値上げされてきた。1990年代以降は、少子化と世帯収入の減少という状況を受けて、値上げ幅はやや横ばいとなり、国立大の場合、2005年以降値上げが行われていないという。
 進学させる家族の経済状況が厳しくなり、一部の難関大学や医学部系を除くと浪人しても志望校へ、という流れは減少し、浪人せずにランクを下げても入学するという傾向が強くなっている。近年、大きな予備校が閉校するという報道があったと記憶しているが、背景には「浪人」の減少があるようだ。
 「夜学」も減少している。志願者も減り、夜間学部の閉校が続いたためだ。ともかくも大学が入りやすくなったことが原因のようだ。
 
 勤労世帯の収入は、減り続けている。その中で、大学進学をめざそうとすれば「奨学金」に頼らざるをえない。しかし、高い学費の私学進学で下宿ともなれば、卒業時に多額の借金を背負うことになる。
 「国税庁調査による給与所得者の2014年の平均年収は415万円、国立大学の初年度納入金は81万7千円であり、年収の20%にもなる。私立大文系だと31%、私立大理系だと39%で、ほぼ4割になる。」30年前は平均年収320万円で、国立大の初年度納入金は、年収の14%であり、「年収は増えているものの、それを上回る学費の高騰ということがわかる。」
 そこで、奨学金に頼らざるをえない。奨学金には2種類ある。給付型と貸与型である。給付型は、大学が優秀な入学者に給付するわけだが、返済不要であり、私立大に数多く設けられている。貸与型が充実しているのが、神奈川大で、文系で年間100万円、理系で130万円、自宅外通学者にはさらに年間70万円が給付され、4年間で最大800万円になる。ただし、入試成績、進級時の成績点検など、4年間給付されるためにはハードルも高い。
 一方、貸与型では、独立行政法人日本学生支援機構(JASSO 旧日本育英会)の奨学金制度がある。無利息と利息付があるが、第1種の無利息型では私学で自宅外の場合、最大で6万4千円もらえ、4年間で総額307万余になる。18年間の返済で月14,222円を返済する。一方第2種の利息付では、最大月12万円、4年間で576万円、返済は20年利息込みでは総額614万円余の返済が必要となる。(実質金利ベースの場合)
 一方、返済滞納者は、2015年調査で17万3千人、4.7%となっている。2011年調査からは改善されているも、返済に苦しむ卒業者は多い。経済が右肩上がり、年齢と共に給料の増える時代ではない。卒業後も転職や失業、不安定就労の可能性も高い。経済が激変している以上、貸与型の奨学金制度は制度疲労を起こしていると著者は指摘する。
 
 次に著者が指摘するのは、進学先の傾向である。
家計の困難が増す中、より費用の掛からない方向へのシフトが強まっている。国公立大志向、地元公立大学志向が強くなっている。また、看護学科は、受験人口ピークの1992年には全国9大学だったが、「今や全大学の3校に1校、250大学以上に設置」されるようになり、全国47都道府県にある。看護の高度化も関係している。
 同様の傾向だが、首都圏では主要大学の「関東ローカル化」が進んでいるという。文科省調査によると、2005年の東京の大学への1都3県(東京・神奈川・千葉・埼玉)からの入学者は約8万2千人、東京の大学の全入学者の63.5%だった。2015年になると2万人増えて10万2千人、68.4%となった。特に私立大学のそれは69.2%で全大学よりも比率が高い。地方から下宿をさせても都市部の大学へ行かせることができる世帯というのが少なくなってきているということであり、地方で地元大学志向が強まっていると考えられる。

 教育費3000万円の時代と言われている。保育所・幼稚園から大学卒業まで、多額の費用が掛かる。本書第5章は「学歴をお金で買う時代――格差の再生産」と題されている。
本書は、大胆な問題提起をしているわけではない。ただ、丁寧に現在の大学教育をめぐる現状を描き出し、家計と費用の面から現状の大学進学がどのように選択されているか、奨学金等のリスクなどを明らかにしている。著者が、長く大学関係出版社に携わった方であり、事情にくわしい。「教育費破産」という題名は少々刺激的だが、こうした情報の積み上げにより、格差と貧困が進む日本の大学事情を明らかにしていると思われる。まだ学齢期の子供を持つ世代にとっては、大学情報満載の書でもある。
 本書を取り上げたのは、学生運動が元気だった時代を考える時、大学そのものの変化を見る必要があると考えたからでもある。そういう意味で現代の大学事情を俯瞰できる書とも言えると思うのだが。(2017-03-21佐野)

【出典】 アサート No.472 2017年3月25日

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【投稿】安倍価値観外交の新局面とオルタナティブファクト

【投稿】安倍価値観外交の新局面とオルタナティブファクト
             ―排外主義・人権軽視・ポスト真実―

<経済問題は先送り>
 安倍訪米に先立つ2月3日、韓国訪問を終えた国防長官マティスが来日した。
 同日の安倍との会談でマティスは「尖閣諸島は安保条約5条の適応範囲」「この地域での日本の施政権を損なう様ないかなる一方的な行動に反対」と述べ、従来のアメリカ政権の立場を踏襲することを明言した。
 大喜びの安倍は「日本の防衛力強化と役割拡大」「普天間基地の辺野古移転推進」と大盤振る舞いを約束し、早速6日には辺野古での本格的な海上工事を開始するなど、宗主国のご機嫌をとる植民地の現地吏員ばりの動きを見せた。
 今回の日韓歴訪を日本政府はアジア重視の表れとしているが、16日からのNATO国防相会議は既定方針であり、スケジュール調整の範囲内であろう。尖閣問題については、オバマ政権と同一の見解が示されたにすぎないにもかかわらず、トランプ政権がかました事前のハッタリに見事に引っかかったのである。
 翌日稲田は稲田で、自分とマティスの似顔絵が包み紙にプリントされた「バレンタインチョコ」をプレゼントするなどまたしても軽率さを発揮した。これに対しマティスも「私は1972年、少尉の時日本に赴任した。稲田大臣の生まれるずっと前と思うが」と1959年生まれの稲田に対し、歯の浮くようなお世辞を言い、在日米軍に関する経費の負担増は求めないことを明らかにした。
 こうしたなか3日ハワイ沖で、日米が共同開発を進める弾道弾迎撃ミサイルの発射実験が成功し、軍事同盟強化を祝福する花火となった。一連の会談で、日米首脳会談の懸案の一つである安全保障問題の地ならしが行われ、肩の荷が半分降りた形となった安倍は、4日にはゴルフに興じ首脳会談に備えた。
 これに対し中国政府は、米韓でのTHAAD配備推進という事態も踏まえ、東アジアでの日米韓軍事同盟の強化に懸念を示しが、トランプは安倍訪米直前の9日、習近平と電話会談を行い「一つの中国」という中国の主張を尊重するアメリカ歴代政権の見解を踏襲すると述べた。
 「一つの中国政策の見直し」というハッタリを、成果なしに自ら取り下げた形となり、日本に対する対応との違いが際立つこととなった。政府専用機上でこの知らせを聞いたであろう安倍は11日、ホワイトハウスに到着し、のっけから「19秒の握手」というトランプ流の術中に嵌った。しかし結局日米首脳会談は、米墨がドタキャンされたため、イギリス、ヨルダンに続く3番目となり、1989年、ブッシュ初会談に臨んだ竹下登を超えることはできなかった。
 こののちフロリダのトランプ別荘でも行われた一連の会談は、友好、親善のみが強調されたものとなった。経済問題については協力関係の推進は確認されたものの、具体的な課題は話し合われることとなく、日米経済対話を設け「麻生―ペンス」ラインに丸投げされる形となった。
 軍事同盟に関しては、共同声明でも先のマティス訪日で協議された内容を確認することに止まり、インパクトやサプライズは無しで終わるかに思えた。しかし一連のイベント最終日、皮肉なことに北朝鮮が弾道弾発射という祝砲をプレゼントし、緊急の共同会見で結束をアピールできたと言うおまけがついた。
 政府与党、官邸は今回の会談をほとんど手放しで評価しているが、トランプは為替や貿易不均衡の問題を言わなかっただけで、「一つの中国見直し」のように撤回はおろか修整したわけでもない。
 
<「トモダチはアベだけ」>
 今回トランプが対日要求を控え、安倍を破格の厚遇で迎えたのは、政権の態勢が整わないことと、就任直後からの強引な政策で、政権を取り巻く状況が急激に悪化したことが要因であろう。
 経済問題については、トランプ政権の体制が整い、経済対話が始まればFTAを含めた要求が出てくるだろう。後者については、中東、アフリカ7カ国からの入国禁止措置が決定的であった。アメリカ国内の反発はもちろん、多国籍企業やドイツ、フランスイタリアなどG7各国首脳、国連、からも批判や懸念の声が上がった。
 初の首脳会談を行ったイギリスのメイも帰国後議会で批判を浴び、間違っていると述べざるを得なかった。安倍の次にトランプと会談したカナダのトルドーはトランプ流の握手を巧みにいなし、「多様性こそ重要」という主張を貫いた。
 こうした中、安倍は国会の答弁でも「コメントは差し控える」の一点張りであり、事実上トランプの措置を容認していることを示した。これに対し「日本は従前から移民、難民の受け入れに消極的だから」との声もあるが、旅行や商用、親族訪問、グリーンカード保持者の再入国も止めるのは次元の違う問題である。
 国内外で四面楚歌の状況にあるトランプにとって、唯一ともいえる理解者として登場した日本の総理を、破格の厚遇で迎えたのは当然である。それを臆目もなく喜々として受け入れる安倍は、同じメンタリティを持つと思われても仕方がない。
 以前安倍は「オバマと私はケミストリーが合う」と言いながら盛大に外した。今回はトランプが「アベとはケミストリーがあう」と言ってくれている。安倍もウマが合うと言っているが、ロディオの暴れ牛トランプの背中に必死にまたがるカゥボーイのようでもある。
 真実に依拠せず、自分の思い込みに依存する政治手法や、一連の政治主張、国内外政策において二人の一致するところは多い。安倍は3月にもトランプの代弁者のごとく訪欧しメルケル、オランドと会談する意向というが、それぞれの国内でトランプとの連携を図る「ドイツのための選択肢(AfD)」や「フランス国民戦線(FN)」と対峙する二人に何を話すのか。安倍とウマが合うのはルペンらの方であろう。
 今回の訪米は、安倍がトランプという「トモダチ」を得て排外主義・人権軽視・緊張激化・自国第一を軸とする自身本来の価値観外交に踏み出した第一歩となったと言える。

<ポスト真実の先駆者>
 翻って、先進国の国内政治におけるポスト真実の世界的先駆者は、まぎれもなく安倍であろう。訪米に先立つ2月3日、衆議院予算委で民進党からトランプへの手土産にGPIFの年金資金を持参するのか、と問われ「私には権限はない、そんなことを約束したら詐欺だ」と反論、7日にも重ねて追及されたところ色をなして「デマだ」と逆切れを起こした。
 この問題は経産省のリークで、GPIF所管の厚労省、経済問題の対米窓口である財務省とも未調整だったと言われており、9日なって世耕が麻生に対して弁明を行った。
 しかしそれは省庁間の問題で、官邸内でこの絵を描いたのは経産省出身の総理秘書官と言われており、安倍が承知していないはずがないのである。この間の論議は手続き論に終始しており、年金資金投入自体の是非については示されておらず、今後「私に権限はないがGPIFが投入を決めたので尊重する」と白を切るだろう。
 さらに2月1日の同委員会では南スーダンの自衛隊派遣部隊で死傷者が出た場合、辞任する覚悟はあるのかと問われ、安倍は「その覚悟を持たなければならない」と大見得を切った。
 しかし、8日の同委員会で昨年7月「ジュバで戦闘」と記した派遣部隊の日報を、防衛省が隠蔽していたことが発覚した。
 ジュバでの事態について、現地部隊は軍事常識として日報に「戦闘」と記載した。政府軍と反政府軍で戦闘が発生すればPKO5原則が瓦解、それでも部隊が撤収しなければ憲法9条に抵触する。そのため稲田は答弁で「法的な意味での戦闘ではなく武力衝突」と食言した。
 その稲田自身、報告を受けたのは日誌データ発見から一月後の1月27日であり、制服トップの統幕長も知ったのは25日というお粗末さである。今回の事態はアフリカ大陸へのプレゼンスを巡る中国への対抗から「一旦派兵すれば撤退しない」という帝国陸軍を思わせる官邸の意向を忖度した防衛官僚と、権益擁護に汲々とする一部制服組の結託が引き起こしたと言える。
 戦闘という事実はなかったことにされ、武力衝突という「オルタナティブ・ファクト」が独り歩きし、情報公開と文民統制は蔑ろにされた。今後も「不都合な真実」は次々と出てくるであろう。
 その第1弾が「国有地払下げ問題」である。大阪府豊中市にある国有地が不当な廉価で「神道教育」を謳う学校法人に払い下げられた。法人は、安倍昭恵さんを名誉校長に戴き「安倍晋三記念小学校」設立を目論んでいた。 
 安倍は2月17日の衆院予算委で興奮しながら「私や妻が関わっていたのなら、首相も議員も辞める」と述べることで、かえって売買は問題だと認めてしまう事態となった。
 こうした暴政、失政、不祥事に対する反対の声を押しつぶすため、安倍政権は共謀罪の成立に躍起になっている。安倍は同委員会で「正当な団体でもその目的が犯罪の実行となった場合は取締りの対象となる」と、共謀罪の適用範囲を恣意的、無制限に拡大する可能性を明らかにした。
 安倍は繰り返し「テロ等準備罪」が無ければ東京オリンピックが開催できないと言っているが、テロと無関係な人々の入国を禁止する暴挙を肯定するかのような振る舞いこそ、オリンピックにとっては有害であろう。
 共謀罪の最大の標的は沖縄の反基地運動である。沖縄平和運動センターの山城議長は「威力業務妨害罪」等で逮捕された後、約4か月の長期間拘留され続けている。これは事実上の予防拘禁であり、共謀罪が成立、施行されればこうしたことが常態化され、全国の市民運動、さらには労働運動に拡大される危険性がある。
 安倍政権は国会での論議を踏まえないまま、3月10日にも閣議決定を目論んでいる。真実を伝え、広めようとする動きを封殺し「偽りの事実」を社会に蔓延しようとする動きを押しとどめなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.471 2017年2月25日

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【投稿】「廃炉」なんてできっこない。「石棺」も無理だ

【投稿】「廃炉」なんてできっこない。「石棺」も無理だ
                            福井 杉本達也 

1 ロボットも動かない福島第一原発の過酷な高放射線環境
 東電は2月9日、福島第一原発2号機の原子炉格納容器内に2日に投入した自走式ロボットで撮影した画像を分析した結果、内部の空間線量が毎時650シーベルト(Sv)と推定されると発表した。人は7Svの放射線を浴びると確実に死亡する。650Svはこの100倍にあたる。現場に数十秒でも留まれば死んでしまう。とても作業できる空間ではない。線量計が唸りだしても逃げ出せずに死んでしまう。また、2月16日にもサソリ型ロボットを投入し、溶融した核燃料のデブリなど現場の状況を撮影しようと試みたものの途中で動かなくなり、ロボットを現場に放棄せざるを得なくなった。ロボットは高放射線量の空間でも作動するよう放射線防御された機器であった、予想を超える放射線量で機能を破壊されたようである。こうした空間に人間が近づくことは不可能である。ちなみに、原発運転停止直後の核燃料棒表面の放射線量は数万~10万Svといわれる。今回の650Svは空間線量を推計したものであるが、停止直後に近い溶けた核燃料が近くに存在することを意味している。
 原子炉格納容器を設計していた元東芝技術者の後藤政志氏は「この高線量では、ロボットに使われている半導体やモーターがやられてしまうので、2時間程度しか動かせず、限定的な調査しかできません。もっとも、仮に線量がもっと低くても、ロボットが正常に動くかは分からない。あれだけの過酷事故を起こしておいて、簡単に廃炉までたどりつけると思う方が間違っています。今回の内部撮影によって、政府と東電の廃炉スケジュールが完全に破綻したことが露呈しました」と述べている(日刊ゲンダイ:2017.2.4)。

2 机上の空論:原子力損害賠償・廃炉等支援機構(東電)の「廃炉戦略プラン」
 事故後の2011年末に発表された廃炉工程表では、2年以内に1~4号機の貯蔵プールにある使用済み燃料の取り出し作業に着手、1~3号機の溶融燃料は10年以内に取り出し作業を始め、30~40年後に施設を解体撤去する廃炉が完了するというものだった。この間、使用済み核燃料棒を取り出せたのは、4号機貯蔵プールのみである。1~3号機では建屋内の線量が高すぎて人間が近寄れない。しかも溶け落ちたデブリがどんな状態で、どこにあるのかさえ分からない。その後何度も計画は変更され、2016年7月13日『廃炉のための技術戦略プラン2016』が最も新しいものである。同プランでは溶け落ちた核燃料デブリをどう取り出すかについて、「燃料デブリ取り出し工法の実現性の検討」の中で、①原子炉格納容器の上部まで完全に冠水する「完全冠水工法」、②水位を格納容器上部より下とした状態で燃料デブリ取り出しを行う「冠水工法」、③空冷による完全気中で行う「気中工法」を上げているが、膨大な放射線量を防いで作業するには、水を満たして放射線を遮るしかない。「冠水工法」は米スリーマイル島原発事故での実績もある。しかし、福島第一原発では、圧力容器がメルトダウンして底に穴が開き、恐らく格納容器も溶かして、原子炉建屋の地下に「メルトアウト」している可能性が高い。ようするに水が溜まらないのである。水が溜まらなければ「冠水工法」は使えない。同プランでは2号機の最大放射線量を73Svとして、作業を計画してきたが、その10倍近くの放射線量ではいかなる工法でも不可能である。

3 「メルトダウン」・「メルトアウト」を何としても認めたくなかった政府・東電
 2月2日のロボットによるカメラ撮影について後藤政志氏は「東電が公開したカメラ映像では、原子炉の真下に大きな穴が開いている様子が見えました。核燃料が圧力容器を破って外に漏れ出たことは間違いありません。ただ、それは、われわれ専門家が事故当初から指摘していたこと。東電や政府はなかなか認めようとしませんでしたが、メルトダウンは大前提なのです。今回、メルトダウンした核燃料が原子炉圧力容器を突き抜けて、外側の格納容器に漏れ落ちるメルトスルー(溶融貫通)が起きていることは裏付けられた。圧力容器を破るほどの核燃料では、格納容器はひとたまりもありません。圧力容器は70気圧に耐えられるよう設計されていますが、格納容器の設定はわずか4気圧です。建屋のコンクリート壁にいたっては単なる覆いであって、超高温のデブリ(溶融燃料)による浸食を防ぐことは難しいでしょう」核燃料が原子炉建屋の床を突き破る「メルトアウト」が起きている可能性は高い。これが地下水に達していれば、いくら循環冷却しても放射性物質の拡散を防ぐことはできない。チャイナシンドロームが進行中のような惨状下にあると考えるべきだろう」と述べている(同上:日刊ゲンダイ)。
 「メルトダウン」・「メルトアウト」し地下水と接触していれば、もはや安倍首相のいう「アンダーコントロール」とはいえない。政府が福島県内で進めている「避難指示区域」を解除して住民を帰還させようとすることなどはもってのほかである。もちろん震度6程度の地震などがあればいつ崩壊するかもしてない危険な施設の隣で「東京オリンピック」などできるはずはない。

4 「石棺」もできない
 「石棺」とはウクライナのチェルノブイリ事故の4号機のように巨大なシェルターで事故を起こした原発と建屋全体を覆い、放射能が外部に漏れないようにすることである。チェルノブイリ事故から30年、当初のコンクリート・鉄板製「石棺」が劣化し放射能が漏れ出ていたため、2016年11月に1,780億円をかけて鋼鉄製のシェルターが完成している。
 チェルノブイリの場合も、溶融した燃料が土台を溶かして地下水に入るという恐れがあり、探鉱夫の決死隊が突貫工事で地下にも坑道を掘り、冷却のため液体窒素で充填する対策が考えたが、幸いにも溶融燃料は途中で止まり地下水と接触することを防いだので、シェルターとしての機能を一応果たしているが(新潟県広報:泉田知事現地調査報告書 2015.11.27)、福島第一原発の場合には、抜け落ちた溶融燃料の一部は地下水と接触し、地下水に溶けだし続けている。その一部は太平洋に流れ込み続けているし、一部は汚染水タンクにたまり続けている。福島第一原発の敷地内は1,000基もの汚染水タンクで埋まっている。もうこれ以上敷地内に増設する余裕はない。規制委の田中委員長のいうように太平洋に垂れ流すか、原発敷地外の「帰還困難区域」にタンクを増設するしかない。しかし、太平洋への放出は国際的に許されないであろう。
 「石棺」化をするには、まず大量に流れ込む地下水を遮断しなければならない。しかし、凍土壁では遮断に失敗している。また、デブリを冷やす目的で大量の水を注入し続けている。これも乾式(空気)冷却に移行するする必要がある。さらに問題なのは地下である。地下空間は誰も近づいたことはない。もし、650Sv前後の放射線量に汚染された土壌があるならば、そのようなところに坑道を掘り、対策を行うことなど不可能である。チェルノブイリのような決死隊すら組むことはできない。つまり、上はシェルターで覆ったように見えても、地下は放射能が筒抜けの状態でどんどん太平洋に流れ込むのである。
 この「石棺」について上記戦略プランにおいて「なお、チェルノブイリ原子力発電所4号機の事故に対して取られた、通称“石棺方式”の適用は、原子炉建屋の補強などによる当面の閉じ込め確保に効果があるとしても、長期にわたる安全管理が困難である。」という表現で否定的にふれた個所があるが、林幹雄経済産業相は、「誤解を招かない表現に修正するよう機構に指示した」と明らかにしたとし、また、 内堀福島県知事は、石棺への言及について「福島県民は非常に大きなショックを受けた。(住民帰還などを)締めることと同義語だ」と強く非難した(福井:2016.7.16)。我々は、放射線からの隔離=住民の安全よりも、住民の強制帰還=住民の被曝を優先するとんでもない政府・自治体首長を持っていることを恥じなければならない。また、この政府の大本営発表を何の疑問も差し挟まず、汚染水のように垂れ流すマスコミの報道をも恥じなければならない。

5 「廃炉」なんてできない。現実を見据えるしかない
 ガンダーセン氏は「汚染水問題により福島第一廃炉は、チェルノブイリ廃炉に比べ100倍複雑性増しており、費用も100倍かかる」と警告する。その上で、「①日本人はまず、福島第一廃炉を30年で終えることは不可能であり、100年超はかかるということを自覚するべき。②福島第一から流出するプルトニウムを含む汚染水は今後数十年間に渡って継続する。地下水の浸食は止まらない。」という(http://www.fairewinds.org/nuclear-ene)。
 福井県では高速増殖炉「もんじゅ廃炉」決定や美浜1,2号機、敦賀1号機廃炉で県や敦賀市・商工会議所主導で「廃炉ビジネス」を推奨する動きが見られるが、もんじゅのMOX燃料は人間が取り扱えるまでに100~数百年の年月を要すると言われており、また、冷却媒体である液体ナトリウムは原子炉を停止したままでもナトリウムを循環させる必要があり、放射能化したナトリウムの抜き取り、保管方法も処理方法もどうできるのか全く未知である。少なくとも数百年のスパンで考える必要がある。日本で数百年前は江戸時代=脇差・チョンマゲの時代である。現実を見据え数百年の期間でどうできるかを考えていかねばならない。放射線量は半減期でしか減っていかない。物理法則を無視した「工程表」は不可能であり、いたずらに労働者や住民の被曝を増やすだけである。
 30年などという数字は物理的にも工学的にも何の根拠もない。単なる楽観的「思い」だけである。自らの官僚的権益のために架空の「廃炉工程」を作り、住民帰還を奨励する自治体は即刻解散すべきである。住民の安全を守るのが自治体の役割であり、住民を強制的に帰還させ住民を余計に被爆させる自治体に存続する意義はない。政府・原子力規制委はこの期に及んでも原発再稼働・再処理維持・福島棄民・放射能垂れ流しの道を歩み続けている。しかし、国民は政府の放射能地獄への道と心中するわけにはいかない。

【出典】 アサート No.471 2017年2月25日

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【投稿】トランプ=安倍枢軸の形成をめぐって 統一戦線論(33) 

【投稿】トランプ=安倍枢軸の形成をめぐって 統一戦線論(33) 

<<政権の中心にオルタナ右翼>>
 トランプ米新大統領は、発足早々、環太平洋経済連携協定(TPP)の「永久離脱」、メキシコ国境への「壁」建設、中東・アフリカ・イスラム7カ国からの入国禁止など、性急かつ独断的な大統領令を矢継ぎ早に繰り出した。こうした大統領令連発は、投票総数で敗北し、巨大な反トランプの押し寄せる波に何としても反撃し、存在感を維持するための焦りがもたらしたものと言えよう。批判するメディアを「偽ニュース」と切り捨てて異論を封じる独善ぶり、指導力を印象付けんがための、派手な行動と裏付けも配慮も欠いた政策、大げさで挑発的な発言、こうした言動に頼らざるを得ない、トランプ氏の支持基盤の弱さの裏返しでもある。しかし、それゆえにこそ危険でもある。
 しかもトランプ政権は、1か月を過ぎてもその陣容を固められないで動揺を重ねている。側近中の側近と呼ばれ、ロシアとの関係正常化の有力な唱導者でもあり、期待されていたフリン大統領補佐官が辞任に追い込まれてしまった。モスクワとの関係改善に敵意を抱く権力内部の抗争の結果とも言えよう。
 フリン氏の辞任で、今後は首席戦略官のバノン氏が政権のかなめとなりかねない。この大統領の主席戦略官兼上級顧問を務めるスティーブ・バノンはオルトライト(オルタナ右翼)と呼ばれる思想の持ち主であることを自認している。実際、トランプはバノンを政権の安全保障政策を企画、立案する最高意思決定機関の国家安全保障会議(NSC)の常任委員にバノンを昇格させると同時に、軍関係者を同会議から降格させるなど、バノンの重用ぶりを隠そうともしていない。バノンを国家安全保障会議メンバーに任命したことで、特定のイデオロギーに偏らない国益や、国際的関心によってではなく、特定の超保守右翼イデオロギーに沿って外交政策や防衛政策が形成されかねない。
 バノンの出身で、自らが立ち上げた極右サイト「ブライトバート・ニュース」(Breitbart News)は、「オルタナ右翼」のよりどころとされ、タイム誌は、「人種差別主義、性差別主義、外国人嫌いや、反ユダヤ主義文書」を発行する代弁機関だと表現する最右派系ニュースサイトである。バノンは、フランスの極右派党首マリーヌ・ルペンを「新たな人気急上昇中の人物」と賞賛している。最も危険なのは、バノンが自身のラジオ番組で、アメリカが世界中でイスラム過激派と「戦争中」であることを繰り返し述べており、「グローバルな生死をかけた戦争」であり、「再び中東での大規模な軍事闘争」に発展する可能性が高いとしていることである。さらに、中国との戦争も迫りつつあるとも断言している。イスラム圏7カ国の入国規制をまとめたのもバノン氏である。こんな人物がトランプ政権の中心に座ってしまったことは、世界の戦争と平和にとって重大な危険性を警告するものである。

<<「3G」政権>>
 さらにトランプ政権の動揺は、国内政策でも顕著である。当初労働長官に指名したファストフード企業CEOアンドリュー・パズダは、最低賃金の引き上げや超過勤務手当に反対してきた人物、自身の企業で30件以上の安全衛生基準違反をかかえ、女性差別主義者で労働権侵害長官として問題にされ、本人が指名を辞退する事態に追い込まれてしまった。その後、トランプが選んだ2人目の候補・アレックス・アコスタ弁護士も、黒人やラティーノの投票権侵害や警官の権力乱用に加担してきた問題人物である。
 極め付きは、トランプ自身が、わが娘「イバンカ・トランプ」の商品を、大手百貨店が売り上げ不振を理由に販売中止を決めたことに、ツイッターで激怒した。それを追いかけるようにコンウェー大統領顧問がテレビ局フォックス・ニュースに出演した際に、「イバンカ・トランプ」の商品を買うよう国民に呼びかけ、懲戒処分を勧告されている。その軽率さ、利益相反どころか、公私混同ここにきわまれり、である。こうした事態に、数十人の精神衛生の専門家が、最近、トランプ大統領は「重大な情緒不安定」を示していると警告する書簡を出し、連邦議会議員テッド・ルー氏が、ホワイトハウスへの精神科医配備を義務づける法案を提出予定だという(DemocracyNow 2017/2/15)。
 トランプのヒラリー・クリントンに対する政治的勝利の核心は、いかにそれが皮相で欺瞞的なものであったとしても、トランプのスローガン=「今日、労働者階級の反撃が始まる」「アメリカは世界の憲兵になる必要はない」に集約されているとも言えよう。サンダースとは違って、ヒラリーの民主党はこのスローガンに対抗できなかったのである。
 オバマ時代の「チェンジ」「イエス・ウイ・キャン」に象徴される革新的な公約と核軍縮を目指す姿勢とは逆に、新自由主義・市場原理主義・グローバリズムによって、ウォールストリート=金融資本の犯罪を見過ごし、逆に援助し、格差と貧困、不平等の拡大を黙認し、ラストベルト=さび付いた産業地帯を放置し、軍縮に取り組むどころか、中東を泥沼化させ、無人機による無差別爆撃など戦争犯罪を前政権よりも拡大させてきた、そうしたオバマやヒラリー・クリントンの政策によって、既成政治勢力・エスタブリッシュメントを攻撃することによって、トランプは勝利を獲得したのであった。
 しかしそのトランプの「アメリカ・ファースト」も実は、新自由主義と、対テロ戦争路線を継承するものである。経済面では大資本優遇、金持ち減税、規制緩和路線であり、軍事面では「同盟国」により一層の軍拡、新たな戦争準備への加担を強要するものである。それは本質的に反労働者政策であり、オバマケア撤回に見られる反福祉政策でもある。巨大金融資本と巨大軍事機構を直接代表する人物が臆面もなくトランプ政権の重要閣僚を占めている。大富豪(Gazillionaire)、巨大証券会社ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)、将軍(General)という三つの特徴から「3G」政権と呼ばれるのも当然である。2/17、トランプ大統領は、サウスカロライナ州の航空機・軍需大手ボーイングの工場で演説し、「労働者を解雇して他国に移転する企業には重い罰を科す」と表明すると同時に、ボーイング製の戦闘攻撃機FA18スーパーホーネットなどについて「真剣に大量発注を検討している」と述べている。まさに軍需と雇用の一体化である。
 ただし前政権との決定的な違いは、孤立主義ではないかと言われるほどのナショナリズム・排外主義と新自由主義との結合である。新自由主義政策がもたらした社会的惨状や雇用の喪失、貧困の責任を、おしなべて移民やマイノリティ、ムスリムに押し付け、憎悪を煽る。外国人憎悪、白人至上主義的な言辞や移民排斥の動き、マイノリティに対する暴力がトランプ政権の登場とともに大っぴらに闊歩しだしている。返す刀で、ウォール街占拠運動など、民衆運動の高揚と排外主義・人種差別・女性差別に反対する大衆運動、民主運動の存在を封じ込める、そのための反動・反革命としてのトランプ政権の登場とも言えよう。

<<「実はあなたと私には共通点がある」>>
 2/10、米タイム誌は「日本の首相はトランプの心をつかむ方法を教えてくれた。へつらうことだ」という見出しで、日米首脳会談を報道し、トランプが大統領選に勝利するとすぐさま駆けつけ、高価なゴルフクラブを進呈するなどして、いち早くトランプにすり寄った経緯を紹介し、その結果、今回の会談で手厚いもてなしを受けたと皮肉たっぷりに報じている。しかし実は、安倍政権はトランプの手法を先取りしていた、先輩格なのである。だからこそお互いに共鳴しあったのだとも言えよう。民主主義、憲法、立憲主義を公然と踏みにじる非民主的体質、ファシスト的手法、反中・反韓を煽る民族主義・排外主義は両者に共通した体質でもある。それは、安倍政権が対米従属をしているから、ごまをすり、こびへつらっているといったもの以上の、日本の帝国主義的・排外主義的・民族主義的本質から滲み出しているものである。トランプ大統領が「われわれはケミストリー(相性)も本当によい。この状況が変わることはおそらくないだろう」とも述べたが、両者の特性をよく示している。安倍首相は、米国からの兵器購入が「日米同盟の強化につながる」「米国経済や雇用に貢献する」とトランプに応じている。
 安倍首相の軽薄で醜悪な例が、2/11付産経新聞に紹介されている。

 「昨年11月の米ニューヨークのトランプタワーでの初会談で、軽くゴルフ談議をした後、安倍はこう切り出した。『実はあなたと私には共通点がある』
 怪訝な顔をするトランプを横目に安倍は続けた。
『あなたはニューヨーク・タイムズ(NYT)に徹底的にたたかれた。私もNYTと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った……』
 これを聞いたトランプは右手の親指を突き立ててこう言った。『俺も勝った!』
 トランプの警戒心はここで吹っ飛んだと思われる」

 この記事には朝日に敵愾心を燃やす産経新聞の本音と期待も実によく反映されている。
 「私は勝った」「俺も勝った」などと言って互いに共鳴しあう姿は、世界にも例をみないほどの軽薄な本質・体質を露呈したものである。しかしこの両者の共鳴しあう新たな日米枢軸関係を笑って見過ごしたり、軽く見てはならないであろう。安倍政権は、フクシマ原発事故を契機に草の根の民衆運動が高揚、拡大し、頑迷なセクト主義に取りつかれていた共産党が野党共闘に踏み出さざるを得なくなり、統一戦線が進展し、拡大つつある現状を前にして、これを敵視し、抑圧する反動・反革命路線でトランプと共鳴しあっているのである。その路線の中心に位置し、煽られているのが排外主義・民族主義である。安倍政権はこの民族主義と新自由主義を結合させることによって、いまだに高い支持率を確保し続けている。共産党までもが「日本固有領土論」を掲げて「北方領土」「竹島」「尖閣」問題で安倍政権を叱咤激励し、「慰安婦」少女像問題をめぐっては安倍政権の高圧的・植民地主義的な駐韓大使の引き上げに何の反論も反撃さえできない、現状である。文科省は領土教育を法制化して強制する小中学校の学習指導要領改訂案を出し、厚労省は保育所の運営指針で、3歳以上の幼児を対象に、国旗と国歌に「親しむ」と初めて明記して、保育所でも国旗国歌を義務付けようとしている。
 民族主義・排外主義と闘えない統一戦線は、多様な連帯を排除するものであり、本来発揮されなければならない国際主義的連帯を掘り崩すものであり、足元を根こそぎ掬い込まれかねない危険性を内包している。野党共闘と統一戦線は、日米の新たなトランプ=安倍枢軸といかに闘うかが問われている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.471 2017年2月25日

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【書評】『入門 被差別部落の歴史』

【書評】『入門 被差別部落の歴史』
  (寺木伸明・黒川みどり著、発行、解放出版社、2016年5月、2,200円+税) 

 「今日、いつの時代のことかと思うような差別が行われていることを見聞きしたりもします。しかし、総じて部落問題は見えにくくなっています。そうであるがゆえに、部落差別は解消しつつあり、そっとしておけばいい、何も知らせない方がいいという見方はずっと底流にあり、繰り返し頭をもたげてきます。しかしながら、近世社会には賤民身分が存在し、近代においては、『解放令』が発布されたにもかかわらず今日にいたるまで部落問題を存続させてきたという歴史的事実は消すことはできません」。
 だからこそ、中学・高校の歴史教科書にはこのことが掲載され、部落問題を直視することからは免れることはできない、と著者の一人(黒川)は指摘する。ならば、部落問題に向き合う努力が必要であり、本書はこのための手引きとなる。
 本書は、「前近代編」(寺木)と「近現代編」(黒川)の2部に分かれており、それぞれの専門家が執筆している。
 「前近代編」は、「第1章、国家の成立と身分差別の発生・変遷」から、古代律令国家、中世社会を経て、近世社会(織豊政権、江戸前期・中期・末期「第7章、近世社会の動揺・崩壊と被差別民衆」)までを扱い、それぞれの時代における被差別民衆–「賤民身分」(律令体制)、「穢多」「非人」身分(中世)、「皮多/長吏」身分(近世)等–の成立、身分制度、生業等について考察を進める。これらについてはその実態が充分に解明されていない点も多いが、著者は、諸説を紹介した上で、例えば近世部落の成立について、自説を次のように述べる。
 「筆者は、このように豊臣時代から江戸時代前記までに皮多/長吏が被差別身分として位置づけられた点が、系譜的には河原者・かわたにかなりつながっているとしても、中世において、程度の差はあれ、差別された職人身分であると推測されるところの河原者・かわたと質的にちがうところであると考え、身分差別としての部落差別あるいはそうした差別を受ける地域(被差別部落)は、この時期に成立したと見るのです。ただし、このことは、まだ十分検証されていいない研究状況なので、これはあくまで私の仮説であることに留意していただきたい」と。
 また江戸時代の身分制度についてはこうである。
 「従来、江戸時代の身分序列について『士農工商・えた・ひにん』という図式が使われていました。しかし、現在ではその図式は問題があるとして、小学校・中学校の教科書でも『士農工商』の部分は『百姓・町人』と表記されるようになってきています。筆者も、(略)『天皇–公家・武士–姓・町人–被差別身分』と表記しました」として、「士農工商」の図式の不備を指摘する。すなわちこの図式では「天皇・公家および漁師や杣人(そまびと)(林業従事者)など」が洩れてしまう。その他、僧侶・神官・医者・学者なども存在した。そしてそれぞれの身分の内でも、複雑な身分制度が存在した—-武士では将軍のもとに、旗本・御家人、大名のもとに、家中・徒士(かち)・足軽、農民では、本百姓・水呑・名子、町人では、地主・家主・地借・店借(たながり)・奉公人の別があった。「被差別民についても、(略)皮多/長吏・『非人』だけではなく、藤内・簓・茶筅・鉢屋・掃除・慶賀・猿曳・物吉などがいました。また皮多/長吏がどこの地域でも『非人』より上位の身分であったわけでもありません。関西などでは、両者に上下関係がなかった場合が多かったのです」と述べ、「このように江戸時代の身分制度はなかなか複雑でありまして、その全容解明は今後の研究課題です」とする。
 このような著者の記述の仕方は公平性を保つとともに、周囲に存在する他の諸問題にも関心を向けさせるという意味でも有効であると言えよう。
「近現代編」は、1871年(明治4)に出された「解放令」が「身分に基づく一切の境界を廃止すること」であり、それがその布告通りに実現していれば、今日、部落問題は存在していないはずであるのに、「何故に今日にいたるまで、そのことに因る差別が存在してきたのでしょうか」と問う。
 そして「解放令」発布以来140年以上を経て、「部落問題–むろんそのありようも大きく変化していますが–が存在しつづけてきた理由を、封建遺制のみに求めるのではなく、さらに近代社会のなかで存在しつづけるための理由づけが与えられ、境界の補強、ないしひき直しが行われてきたとみるべきではないでしょうか」と、近代社会における問題として提起する。
 「女性差別の存在理由も、かつては封建的性格をもった『家』制度によって説明がされてきました。しかし、近年の研究は、そればかりではなく、むしろ近代に適合的な『近代家族』というあり方が男女の役割分業をつくりだし、それが今日にいたる女性差別を支えてきた側面があることを明らかにしてきました。同様に部落差別についても、現実に近代社会が部落差別を存続させてきたことを正面から見据える必要があるはずです」。
 このような問題意識に立ち、明治以降の部落問題を検討する。そこには、「解放令」をめぐる「四民平等」と地租改正の問題、自由民権運動との関わり、「大和同志会」、「帝国公道会」、「同愛会」の成立、米騒動においてつくられた「暴民」・「特種民」像、そして「全国水平社」の創立と社会主義への接近、戦時下での「同和運動」の消滅、戦後の「部落解放委員会」、「部落解放同盟」の運動と広がり、全同教の成立、「同対審答申」、「特別措置法」の成立と廃止等の流れが取り上げられている。
 そして最後に、「第18章、『市民社会』への包摂と排除」、「第19章、部落問題の〈いま〉を見つめて」において、被差別部落の「悲惨さ」や「みじめさ」、反対に「ゆたかさ」のみの強調に走るのではなく、「いかに等身大の被差別部落像を伝えていくことができるかは、問われつづける課題です」と指摘する。
 また近年「部落問題を他の人権問題とのかかわりのなかで考えるという“開かれた”視野」を持つことについては、「それ自体は重要なことに違いありません。しかし、同時にそれは、部落問題の“人権一般”への解消として、かねてから部落問題を避けて通りたいと思ってきた人びとが部落問題を避けることの正当化のための方便になるとしたら、重大な問題をはらんでいるといわねばなりません」と警告を発し、「部落問題への向き合い方が問われている」、「部落問題を正面突破する道を断念していいのか」と批判する。
 本書は、被差別民衆の問題を歴史に沿って概説し、現在もなお厳然と存在している部落差別に対してどのように立ち向かうかについての手がかりと資料を与えてくれる適切な入門書である。広く読まれることを期待する。(R)

【出典】 アサート No.471 2017年2月25日

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【投稿】世界情勢の荒波に漂う安倍政権

【投稿】世界情勢の荒波に漂う安倍政権
          ―国際連帯で日本の分断・孤立を食い止めよう―

<偽りの和解を演出>
 昨年12月28日安倍は真珠湾を訪問、オバマと最後の首脳会談を行い、日米和解と同盟の深化をアピールした。戦後75年、冷戦下での打算から和解なしに日米同盟を継続してきた事に対する総括は無きままセレモニーは進められた。
 真珠湾攻撃で爆沈した戦艦アリゾナの上に建てられた記念館を訪れ、戦死者を慰霊した安倍は場所を移し、1945年9月降伏文書調印の舞台となった戦艦ミズーリを背にスピーチを行った。
 しかしそれは「散文詩」ともいうべき内容で、第三者的視点に貫かれたものであり、「戦後70年談話」の一部焼き直しに過ぎないものだった。
 冒頭「耳を澄ますと寄せては返す波の音が聞こえてくる」「あの日爆撃が戦艦アリゾナを二つに切り裂いた」等々、日本軍の攻撃には具体的に触れずに、あたかも天から降ってわいた災厄を目の当たりにした、傍観者のような物言いである。
 後段では、真珠湾攻撃で戦死した日本海軍将校慰霊碑を米軍が建立した事に触れ、戦後「みなさんが送ってくれたセーターやミルクで日本人は命をつなぐことができた」と述べたうえ、「誰に対しても、悪意を抱かず慈悲の心で向き合う」とリンカーンの言葉を引用し、アメリカの寛容の心に謝意を示した。
 こうしてアメリカの寛容を強調することで、間接的に中国、韓国の非寛容をあてこすると言うレトリックが示され、最後に「日米同盟は希望の同盟」との軍事同盟礼賛で終えた。
 安倍やコアな支持者の考えでは日米戦争は「やむにやまれず行った自衛戦争」であるから「謝罪」や「反省」は一切なく、日米両国軍人に対する哀悼の意はあっても、日米対立を決定的にした中国侵略に対する反省や、真珠湾から瞬く間にアジア・太平洋全域に拡大した戦地での犠牲者への視点などは、全く欠落したものであった。
 そもそも、戦争に関して様々な場で安倍の発する言葉には、総力戦で負けたアメリカには従わざるを得ず、寛容や敬意を表に出すが、中国や韓国に負けたわけではないとの思いがにじみ出ている。
 そうしたこれまでの言動を踏まえ、中国、韓国は今回の真珠湾訪問についても疑義を示したが、それを証明したのが稲田朋美である。真珠湾訪問に同行させられた稲田は帰国早々の12月29日、現職の防衛大臣としては初めて靖国神社を参拝した。
 稲田はマスコミの質問に対し「最も激烈に戦った日米が最も強い同盟関係にある」「忘恩の徒にはなりたくない」と述べた。しかし「最も激烈な戦い」は期間、犠牲者数からも独ソ戦であるし、「最も強い同盟」は大戦後も数々の戦争で連合を組んだ米英であろう。「忘恩の徒」に至っては参拝をしなかった閣僚のみならず議員、ひいては国民をも愚弄するものであろう。
 当日ゴルフ中にこのことを問われた安倍は「ノーコメント」と答えるにとどまり、稲田の参拝を事実上黙認していることを示した。
 この行動に対しては、当然のことながら中韓のみならず、顔に泥を塗られた形となったアメリカ国務省も苦言を呈した。とりわけ韓国は被害者に真摯に向き合わない安倍政権の姿勢を見せつけられたわけで、懸案の少女像の撤去など応じられる状況ではないだろう。「次は韓国が誠意を示す番」などと言う安倍は、日本の誠意=金銭という実態を露骨に示すこととなった。
 年末の一連の事態は、安倍政権が侵略戦争への反省を示さず、偽りの和解で世界を欺く姿を明らかにしたと言える。
 
<アベは後回し>
 ハワイにおける一連の行事で、オバマ政権との関係に区切りをつけた安倍は、トランプ政権を見据え秋波を送り続けている。しかしトランプの対応はつれないものがある。
 新年早々トランプは、ツイッターでアメリカのフォードやGMに加え、メキシコでの工場建設を進めるトヨタを非難し、関税強化を示唆した。これは最早TPP以前の問題で、保護主義はおろか統制経済まがいの恫喝である。
 さらに12日の記者会見でトランプは「ロシアや中国、日本、メキシコは我々をこれまでのどの政権よりも尊重するようになるだろう」と日本を対立国並みに扱った。
 こうした発言に自民党二階はテレビ番組で苦言を呈したが、総理大臣がフライングで「信頼できる」と言ってしまった以上、官邸はだんまりを決め込むしかないようである。
 ハワイでの日米首脳会談は「日米同盟の重要さを次期政権に伝えることも狙い」とされた。しかし伝わっていないどころかトランプは、当選直後にすっ飛んできたかと思えば、踵を返したようにオバマと組んでものを言ってくるような奴は信用できんと怒ったのではないか。
 安倍はトランプとの面談でTPPより「(トランプ孫が踊る)PPAPを話題にしたら喜んでくれた」と言っているが、能天気にもほどがあるだろう。
 12月中旬には「日米首脳会談は1月27日で調整中」との報道が流れた。これは1月20日の大統領就任直後であり、トランプ政権にとっては初の首脳会談となるであろうことから、日米同盟の重要性を全世界にアピールできるものと喧伝された。
 ところがその後、年明けには通常国会の1月20日開会が決定、政治日程が窮屈になるなか訪米報道は鳴りを潜め、12日安倍はトランプへの土産集めと対中牽制のため、東南アジア、および豪州の4か国を歴訪に出発した。
 フィリピンでは経済支援を示し、ドゥテルテから「アメリカとの同盟は重要」との言質を取ったと成果を示した。
 オーストラリアでは首脳会談で、アメリカのこの地域への関与は重要との認識で一致、先の豪軍潜水艦受注失敗は棚に上げ防衛協力の推進を確認した。
 インドネシアでは南シナ海を含む海洋安全保障面での協力、次期米政権との連携が重要との確認をした。
 ベトナムでは、新造の大型巡視船6隻を提供し、インフラ整備などに約1200億円の円借款を供与するなど大盤振る舞いを見せた。
 しかしドゥテルテは安倍に言われなくても、オバマと違い超法規的な麻薬犯射殺をとやかく言わないトランプなら組むのは容易だろうし、中国との関係改善を進める姿勢は変わっていない。さらに1月6日にはマニラを訪問中のロシア駆逐艦をドゥテルテが視察し、軍事面での協力を協議するなど多方面外交を進めている。
 またインドネシアは豪州との関係が不安定であり、1月上旬には両国の軍事協力が停止された。ベトナムも安倍訪越に先立ち、共産党書記長が訪中し習近平と会談、南シナ海での緊張関係を高めないことで一致している。
 このように各国とも利害関係が複雑であり、対中国での一枚岩化は望めそうにないのが現実である。トランプ政権との関係強化では概ね一致したが、問題はトランプがどう考えるかであり、展望は不確実のままであった。
 「訪米へのアプローチを作って」17日に帰国した安倍であるが、肝心の日程はようやく国会開会日になって「首脳会談は2月前半で調整」との見込みが明らかにされた。
 これについて政府筋は「新政権の発足準備でアメリカ側の受け入れ態勢が整わないため」と弁明をしていたが、就任直後に発表された大統領の外交日程では、1月27日には米英首脳会談が行われること明らかになった。最も強固な同盟の証左であろう。さらに31日には「宿敵」であるメキシコ大統領との会談も設定されており、日米は早くても3番目以降となり後回しにされた。
 
<日本の奴隷船化>
 トランプの就任直後に正式にTPP離脱が明らかにされ、一連の発言と合わせ希望の同盟は展望が不透明となってきた。一方対露関係は訪米日程に先立ち「4月、9月の安倍訪露」が明らかになり、20日にはフィリピンを訪問した件のロシア駆逐艦が舞鶴に寄港、海自と合同訓練を行うなど一見安定しているようである。
 しかし、世耕が1月11日に訪露しロシア高官や連邦議員との会談を行った直後に、極東発展省次官が「北方4島はロシア領として開発を進め、日本企業は中国や韓国の企業と同じ条件」と述べるなど、さらなる揺り戻しも想定される。
 20日の施政方針演説は、こうした先の見通せない対外政策への苛立ち、不安を発散さすかのようなものとなった。前置きに続く政策課題の冒頭に日米同盟への哀願を述べ、続けて「かつて『最低でも』と言ったことすら実現せず、失望だけがのこりました」と普天間基地移転に係わり当時の鳩山政権を力を込めて批判し、経済政策ではアベノミクスへの自画自賛に終始した。
 さらに与党内からも批判のある「テロ等準備罪(共謀罪)」については、東京オリンピック、パラリンピックを理由に正当性を強調した。しかしそもそも招致活動時には全く触れずに、この期に及んで「この法律がなければオリンピックが開催できない」などと息巻くのは、まさに息をするように嘘を言う典型であろう。
 長時間労度是正など働き方改革では「抽象的なスローガンを叫ぶだけでは世の中は変わりません」と、労働者を愚弄、保育士の処遇改革でも「あの3年3か月間、処遇は引き下げられていた」と民主党政権を罵った。
 最後は、野中兼山のハマグリ養殖を引合いに出したうえ「言論の府である国会の中でプラカードを掲げても何も生まれません」と野党批判をしたかと思うと、改憲に向けての論議を呼びかけるなど、支離滅裂なものとなった。
 不安定化する国際情勢の中で、確たる指針を示せず自国第一主義の動きに追随し、内政に於いては批判の声に対する抑圧を強める、安倍政権下の日本社会は荒波を漂う奴隷船と化そうとしている。
 とりわけ沖縄に対しては司法、行政、国会が三位一体となり、さらに差別排外主義セクター、一部マスコミが先兵となり手段を選ばない卑劣な攻撃を仕掛けている。当事者を無視した政府間の取り決めが正当性を持たないのは、辺野古移設問題も慰安婦問題も同じである。 
 こうした時こそ、沖縄の闘いを孤立させず国際連帯を進め、世界的に蔓延する危険な動きに日本から歯止めをかけていかなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日
 

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【投稿】問題はトランプではない。我々自身だ

【投稿】問題はトランプではない。我々自身だ
                               福井 杉本達也 

1 英EU離脱と米トランプ当選は『新自由主義の誤り』を国民投票で証明したことにある
 1月21日トランプ米国大統領が就任した。就任演説ではFrom this day forward, it’s going to be only America Firstを宣言した。資金力、組織力に劣り、放言と失言と繰り返し、共和党内でも泡林候補と思われたトランプがなぜ米大統領に当選したのか。経済学者の伊東光晴は「既存政治-出来上った政治システムへの不信は、アメリカに先行し英国でおこり、ヨーロッパにおころうとしている。そして両者の問には、共通する中間所得層の減少、働く人たちの労働の場の変化がある。アメリカでは、それが、ペンシルベニア、オハイオ、ミシガンという北部諸州を民主党から共和党に変え、民主党の大統領選での敗北」(伊東『世界』2017.1)となったと分析している。
 一方、経済アナリストの菊池英博は「英国のEU離脱と米国のトランプ当選を『ポピュリズム(国民の思いつき)』『大衆迎合』などと揶揄する論調がある。しかし、これは大きな間違いだと思う。両国民の選択は少なくとも経済理論に合う行動であり、私は、『さすがに民主主義の元祖の国に新自由主義の弊害を除去しようとする政治家が現れ、国民がしっかりと答えた』と評価する。…トランプ次期大統領の政策基準は、『米国の貧困層・中間層の雇用を増やして所得を引き上げる』ことだ。『アメリカファースト』のスローガンで国民全体の意識を統一させる政策である。そのためには、海外には貿易不均衡の是正を求めて、関税の新設、為替相場の見直し、米国負担の減少などを求めていくであろう。」(日刊ゲンダイ:2017.1.13)と述べている。

2 「サイバー攻撃」という大嘘で選挙結果を否定しようとする米軍産複合体
 「米中央情報局(CIA)が、米大統領選で共和党のトランプ氏が勝つようロシアがサイバー攻撃を仕掛けたと結論付けたと米紙ワシントン・ポスト(電子版)が9日伝えた。大統領選では、民主党全国委員会(DNC)や同党のクリントン氏の陣営がハッキング被害にあい、メールが相次いで内部告発サイト「ウィキリークス」上に暴露された。同紙によると、情報当局がウィキリークスに数千通のメールを提供した複数の人物を特定し、その人物らはロシア政府に関係していたという」(朝日:2016.12.9)。これに対する「報復」として、オバマは12月29日、35人のロシア外交官追放を行った。これは大統領選の結果を否定するもので、ロシアに扇動された『無知な国民がトランプを選んだ』というのである。オバマはトランプ次期政権の正当性を否定した。トランプを職引継ぎの対象から打倒する対象に変えたのである。国家の中の国家である米軍産複合体はトランプを認めないと宣言した。国内の工場を放棄したアメリカはドルという国際通貨を発行する権利だけで生きながらえている。カネだけが全ての基準である。これに従わない国はたとえロシアや中国であろうと、イラク・リビアのように武力で潰すと宣言している。米国大統領はこうした支配層=0.01%の富豪のためにだけ存在していた。トランプはこうした勢力に逆らうと見ている。だから、米国家安全保障局(NSA)やCIAが攻撃しているのである(日経:2017.1.18)。
 
3 トランプの移民規制を批判するがヒラリーのリビア破壊を批判しないリベラル派
 リベラル派はウィキリークスでアサンジが暴露したヒラリーメールの中身を忘れたのか。何万ページものヒラリーの秘密電子メールで既に米政府によって公表されているものの中に、ヒラリーと、彼女の内密の顧問シド・ブルーメンソールとの間の衝撃的なメールのやりとりがある。2011年、リビアの支配者カダフィを打倒するためにアメリカが画策した介入に関するものである(参照:「フランスと英国がリビアの石油を巡って争っている間、ヒラリーがカダフィを打つ手助けをしていた」(WIkileaks文書番号C05794498))。2011年10月20日、カダフィが虐殺されたが、その日ヒラリーはCBSニュースのインタビューで「We came, we saw, he died」(「来た、見た、彼は死んだ」参照: https://www.youtube.com/watch?v=Fgcd1ghag5Y 、『Sputnik』 2016.10.20 )と大喜びで笑いながら答えた。アサンジはメール公開にあたり「リビアは『ヒラリーのイラク』である。大統領になれば、彼女はさらに多くのことを行うだろう」「リビアは破壊され、ISISの温床となった。リビアの武器庫から略奪された数百トンの武器は、シリアのジハードの戦士たちに譲渡された」。「『ヒラリーの戦争』はテロを増長させ、罪のない数万人の一般市民を殺し、また中東の女性の人権を数百年分、後退させた」(2016.2.9「A vote today for Hillary Clinton is a vote for endless, stupid war」)と述べている。リベラル派はトランプの移民政策を批判するが、何百万人もの中東・北アフリカからの難民を生みだしたのは、ヒラリーによる軍事介入である。トランプの暴言を批判してもヒラリーの軍事介入に一切触れず、批判しないリベラル派(日本を含む)は自己欺瞞者かペテン師である。

4 スノーデンの警告
 2013年5月、英紙「ガーディアン」紙上で、NSAによる全世界的盗聴システムの実態が暴かれた。元CIA局員のスノーデンが暴露し世界を震撼させたのは①世界中に埋まる光ケーブルへのアクセスによる流通中のデータの傍受であり、世界各地の電話会社の協力により数千万人もの市民が監視された。②通信監視プログラム「PRISM」であり、エーオーエル、アップル、フェイスブック、グーグル、パルトーク、スカイプ、ヤフー、ユーチューブの各社が進んでサーバーの情報を提供している。身元情報の収集、eメール、ファイル伝送、インターネット電話傍受、ログインID、メタデータ。写真、ビデオなどを分類保存する。③スパイウェアのインストール等々である。NSAは個々の「テロリスト」を「標的型」で狙っているのではない。国家の中の国家である0.01%の支配層は99.99%の被支配層がいつ反乱するかと脅えており、「全体」を無差別監視しているのである。「だれひとり例外なく傍受され、同じバケツに入れられる」。ネットを通じた私たちの日常のコミュニケーション、携帯に放つ本音、チヤツトに打ち込む柔らかなつぶやきが、まるごと権力にさらわれている。「監視は最終的に、権力に抗する声を押しつぶすために」使われている。しかし、今回米国の民主主義はこうした全国民への監視網をも突破してしまったのである(参照:映画・オリバー・ストーン監督:『スノーデン』2017.1.27公開、ローラ・ボイトラス:『CITIZENFOUR』)。

5 国家の中の国家:軍産複合体の広報媒体CNNこそ「偽ニュース」の発信元
 トランプが当選後初の記者会見を開いた1月11日、質問しようとしたCNNの記者に対し、CNNは「偽ニュース」を流したとして質問を拒否した。CNNは10日、ロシア工作員がトランプの評判をおとしめるような個人・金融情報を取得したと報道。トランプはこれに反発し、ツイッターに「偽ニュース。完全に政治的な魔女狩りだ!」と書き込んだ。
 CNNは1980年創業という比較的新しい報道機関である。CNNを有名にしたのは今から27年前の茶の間への「湾岸戦争のライブ中継」である。それは軍のお先棒をかついで、ハイテク兵器による戦争のクリーンな面ばかりを強調するもので、イラク国民の爆弾の下の悲惨さは覆い隠くされた。CNNは当初より軍産複合体の広告媒体として成長してきたのである。「大手マスコミの主立った連中は皆CIAの手の者だ」( 元CIA長官ウイリアム・コルビー)。『買収されたジャーナリスト』であり、なんであれ、ご主人が、言ったり、書いたりしろということを、言ったり、書いたりしている、あやつり人形である。今回の大統領選ではほとんど全てのマスコミはクリントン側につき最後までヒラリー勝利という「偽」世論調査を報道し続けたが、米国民・特にラストベルトの労働者がこうしたマスコミの垂れ流す膨大な情報を一切信用しないで、自らの階級的信念に従い、産軍複合体のプロパガンダを打ち負かしたことにその歴史的意義がある。

6 トランプ暗殺か?弾劾で失職か?選挙を経ない「大統領」登場の予感
 2008年のノーベル経済学賞受賞者:ポール・クルーグマンは1月6日、ロシアが大統領選挙に介入していたとする政府報告書の発表を受けて「プーチン大統領のプードル的存在のトランプ大統領の元で、米国は次の数年間で、悲観主義者が考えているよりも遥かに深刻で危険な状況に陥るだろう」とTweetした。その上で、「米国が壊滅的な状況に陥った場合には、トランプ大統領を弾劾して、ペンス副大統領を大統領に昇格させるとことも可能かもしれない」(The GOP(共和党(Grand Old Party)) decides to impeach to install Pence?)と述べている。6日時点では、トランプはまだ正式の大統領にもなっていない。選ばれはしたが、まだ政策にも何の関与もしていない。大統領に選ばれたのはトランプであり、ペンスではない。これは、民主主義のあからさまな否定であり、ノーベル経済学者によるクーデターの呼びかけである。
 1945年4月ルーズベルトが病死したことで、凡庸な副大統領トルーマンが大統領となり、好戦派軍部のグローヴズらのいいなりで、広島・長崎に原爆投下の決定を下した。1963年11月ソ連との平和共存を図ろうとしたジョン・F・ケネディが暗殺され、副大統領のジョンソンが大統領となり、ベトナム戦争は泥沼化した。米国の社会が分裂しているのではない。0.01%の支配層が孤立しているのである。米国は0.01%の支配層のいいなりになるのか、民主主義が機能するのかの瀬戸際に立っている。それは人類が生き残れるかどうかの瀬戸際でもある(Until real politics return to people’s lives, the enemy is not Trump, it is ourselves.:ジョン・ピルジャー)。

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日

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【投稿】安倍政権の帝国主義外交をめぐって 統一戦線論(32)

【投稿】安倍政権の帝国主義外交をめぐって 統一戦線論(32)

<<「盗っ人たけだけしい」>>
 新年早々、安倍政権は取り返しのつかない失策に踏み出してしまったと言えよう。
 1/6、日本政府は唐突に、韓国・釜山の日本総領事館前に「慰安婦」を象徴する少女像が設置されたことに関し、(1)長嶺安政駐韓大使、森本康敬釜山総領事の一時帰国、(2)在釜山総領事館職員の釜山市関連行事への参加見合わせ、(3)日韓通貨スワップ(交換)協議の中断、(4)日韓ハイレベル経済協議の延期―の対抗措置を当面取ることを、韓国政府に突き付けたのである。極めて異例の強硬措置であり、外交断絶通告にも等しい暴挙である。わざわざ韓国の国政空白期や米政権交代期を狙った安倍政権のあざとい、陰険な「奇襲攻撃」である。してやったりのつもりなのであろう。しかし、その植民地主義的、帝国主義的で、しかも高圧的な姿勢が韓国、アジア、全世界にさらけ出されたのである。
 1/8、NHKの「日曜討論」で放送された収録インタビューで、安倍首相は、「日本は誠実に義務を実行し10億円をすでに拠出している。次は韓国がしっかりと誠意を示して頂かなければならない」と横柄な姿勢を披歴して日本の民族主義を煽り、さらには朴政権の機能喪失に付け込み、「たとえ政権が変わろうとも、それを実行するのが国の信用の問題だ」と次期韓国政権に指図までする傲慢さである。
 「こっちはカネを払ったんだから、韓国政府は市民団体を黙らせろ、少女像を撤去させろ」と言わんばかりの発言は、性奴隷被害者の「慰安婦」問題に対する、加害者側の謝罪や誠実さのひとかけらもない安倍政権の居直り姿勢を如実に示してしまったのである。
 当然、韓国の在野はあげて安倍発言に猛反発し、最大野党の禹相虎院内代表は「安倍に10億円を返そう」と述べ、野党第2党「国民の党」の朱昇鎔院内代表は、「加害者である日本が被害者である韓国政府に、それも我が領土にある少女像を撤去しろというのは盗っ人たけだけしい」とまで述べている。おりしも韓国の裁判所は合意に関連した交渉文書を公開せよとの判決を下している。
 当初釜山の少女像撤去に動いた釜山東区庁長は、逆に「少女像が歴史に長く残る文化遺産になることを期待する」と少女像の保護に転換させてしまった。韓国最大野党「共に民主党」の文在寅元代表は「日本は少女像の設置に対し、前例のない強い報復措置を取り、韓国がまるで詐欺でも働いたかのように主張している」と指摘し、釜山の少女像の視察に出向き、「共に関心を持って守っていこう」と訴えている。
 問題はさらに広がり、少女像設置運動が全国的に拡大、ソウル江北・銅雀区では推進委員会が設立され、全羅南道麗水、江原道春川では募金運動が展開され、平和碑または正義碑と呼ばれるものまで含めると、韓国内少女像は計55件にのぼり、今年末には韓国国内だけで少女像設置場所が70カ所を超えると予想される事態である。

<<“ならず者国家”の論理>>
 ところが、こうした日韓関係の緊張激化という泥沼の事態を招いてしまったにもかかわらず、あるいはこうした事態だからこそか、日本政府側は、「首相を含め、怒りを募らせている」(外務省関係者)、安倍首相は周辺に「外務省は大使たちを早く韓国に帰したがっているが、早く帰す必要はない。」とまで語っていると報道されている。安倍政権は、冷静な判断能力を失ってしまったのであろう。居丈高になればなるほど、緊張を緩和させることは難しく、在韓大使や釜山の総領事を帰任させることは困難となり、事態はさらに泥沼化するであろう。アメリカの要請でやむを得ず札びらと内容と実質の伴わない謝罪で日韓合意にこぎつけ、「慰安婦問題は最終決着」と楽観視していた安倍首相が、自らの手で墓穴を掘り、出られなくなっているのである。
 一昨年末の12・28日韓合意で岸田外相が明らかにした10億円の拠出は、少女像の撤去ではなく、あくまでも慰安婦被害者の「心の傷を癒やす措置」を講じるためのものであった。ところが、あたかも「10億円が少女像撤去の対価」であるかのように強引にすり替えられている。しかも、被害者に日本側の謝罪メッセージを伝える案が提起されると、安倍首相が「毛頭考えていない」(2016/10月)と開き直ってしまった。安倍首相がこうした本音を吐露したことは、12・28日韓合意がいかに人権を踏みにじり、被害当事者を無視、排除し、被害者を置き去りにしたままの合意であり、正義の原則を損ねたものであり、根本的に誤ったものであるかを暴露してしまったのである。
 そして少女像の撤去を要求するウィーン条約違反の主張にもこじつけの論理がある。日本は、相手国公館の安寧と品位を守る責務を規定した第22条違反を掲げているが、この条項の一般的な解釈は過激なデモに限られている。安寧と品位を害するものとは程遠い少女像の設置にまで拡大適用することは日本の一方的主張に過ぎないのである。
 釜山に設置された少女像(正式には「平和の碑」)は、「慰安婦」にさせられた被害者の苦痛を記憶し、二度と同じ過ちが繰返されないことを願う人々の思いを象徴するものとして、ろうそく集会の市民たちが一昨年末の慰安婦問題合意1周年を迎えて自発的に立てたものである。少女像の設置がこうした日本の責任回避と人権の蹂躙、歴史無視に対する韓国市民の抗議であり、謝罪と正義を求める声であることは自明である。本当に「心からおわびと反省の気持ち」を抱いているのであれば、安倍首相をはじめ全閣僚が現地に出向いて、少女像に花を手向け、真摯な謝罪と反省の姿勢をこそ示すべきなのである。さらに言えば、日本こそが性奴隷化を強制した「慰安婦」への謝罪と反省の意を表すモニュメントを建てるべきであろう。それを逆に、頑迷に少女像の撤去に固執し、強権的に封じ込める、それを韓国政府に要求すること自体、善隣友好外交とは全く真逆の、民主主義を踏みにじる“ならず者国家”の論理である。
 ドイツでは、「虐殺されたヨーロッパのユダヤ人のための記念碑」(通称ホロコースト記念碑)が、首都ベルリンのブランデンブルク門の南、1万9073㎡の広大な敷地にコンクリート製の石碑2,711基がグリッド状に並べて一般公開され、地下にはホロコーストに関する情報センターがあり、ホロコースト犠牲者の氏名や資料などが展示されている。ドイツは、自国が犯した戦争犯罪・民族迫害の歴史を記す建造物を自らの意思で設置している。これに反して安倍政権は、本来なされるべきこうした事態に発展することを、「次世代に継承する」ことをあくまでも拒否したいのである。

<<共産党の拱手傍観と自発的隷従>>
 この“ならず者国家”の論理に、日本の大手マスコミのほとんどが「韓国はけしからん」「日韓合意を守れ」と唱和している。まさに大政翼賛状態である。「慰安婦」問題で攻撃にさらされた朝日新聞の社説ですら「少女像問題の改善へ向けて、韓国政府は速やかに有効な対応策に着手すべきである。日本政府が善処を求める意思表示をするのも当然だ。」(1/7付)と安倍政権を擁護している。
 問題なのは、野党までがこの大合唱に参加し、安倍政権と同調するという嘆かわしい事態に陥っていることである。共産党をも含めて野党共闘に参加するどの党からもこうした安倍政権の論理を批判し、緊張を激化させる強硬措置に抗議し、糾弾する声が聞かれないという、異常な翼賛状態である。
 民進党の蓮舫代表は1/15、日本政府が駐韓大使と釜山総領事を一時帰国させるなどの対抗措置を取ったことについて理解を示し、「日韓合意の約束事が一方的に守られなかったことがあった。私たちが取り得る手段は限られており、仕方がなかった」と安倍政権にすり寄る姿勢を表明している。同党の野田幹事長に至っては、「ゴールポストがずるずる動く」と韓国の対応を批判し、「無責任なことを言う人たちが出てきている。政府間できちんと詰めた合意であり、さかのぼった議論に戻るのはおかしい」と息まき、記者が「まず相手(韓国)の気持ちを聞くべきだ」と質問すると、「ある意味ずっと聞いているじゃないですか」と色をなして反論する始末である。政権与党幹事長のごとき姿勢である。
 共産党はと言えば、各紙が日本政府の強硬措置を大々的に報道しているのに対して、1/7付しんぶん赤旗は1面が「党大会成功へ、連日、党勢拡大の大飛躍を」がトップ、中心記事、2面に小さな3段記事で「少女像設置で対抗措置」として報道記事を載せているだけで、論評は一切なし。翌1/8以降、各紙に韓国側の反発が大きく報道されたが、赤旗はその報道記事さえ一切なし。もちろん、強硬措置に対する安倍政権批判も一切なし。それ以降の赤旗「週刊日誌」政治・経済欄にさえ記事ゼロ。まるで報道管制をひいたかのごとくである。
 1/13付赤旗で、はじめて「在日本大韓民国民団の新年会 小池書記局長が祝辞」という記事の中で「日本軍「慰安婦」の問題について、一昨年末に両国政府の間でかわされた合意は、あくまで問題解決の出発点であり、すべての被害者の人間としての名誉と尊厳を回復してこそ、真の解決になると考えます。そのために日本政府は、過去、「慰安婦」被害者の方々の人権を著しく侵害したことへの謝罪を誠実に行うことが必要です。韓国政府と協力しながら、冷静に、誠実に問題の解決へと努力しなくてはなりません。」とこの問題についてほんの少し触れただけで、今回の安倍政権の強硬措置についてはやはり一切触れていない。
 1/15から開かれた共産党第27回大会でも、志位委員長報告をはじめ、討論でも結語でも、この問題には一切触れていない。大会を通して、安倍政権の帝国主義的・植民地主義的・脅迫的外交に対する批判や糾弾、抗議の声はまったく聞かれなかったし、封じ込められてしまったのであろう。1/21付赤旗は、共産党議員団総会での 志位委員長のあいさつを掲載し、「大会決定の力を、国会を舞台とした安倍政権との論戦をつうじて示していく、そういう論戦を展開しようではありませんか。」と述べているが、やはりこの問題には一切触れていない。論戦する気が全くないのである。
 共産党までもが、思考停止と拱手傍観によって、事実上、安倍政権への自発的隷従状態に陥っているのである。このような事態に直面して、野党共闘や統一戦線が民族主義に流されるような危険性について、真剣な警告が発せられるべきであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日

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【コラム】トランプ大統領就任に思う  

【コラム】トランプ大統領就任に思う  

○これだけ混乱の中で就任したアメリカ大統領はいないだろう。就任を前後して、世界中で500万を超える人々が反トランプデモに参加したと報道された。まさに評判の悪い大統領の誕生である。○1月20日の就任演説を読んだ。トランプ大統領は、新政権の意味について政党から政党への権力の移行ではなく、「首都ワシントン(の支配層)から、権力を取り戻し、あなた方米国民に戻した」、「あまりにも長い間我が国の首都の一握りの集団が統治の恩恵にあずかる一方で、国民は犠牲を払ってきた。ワシントンは繁栄したが国民はその富を共有できませんでした。政治家は豊かになったが、職は失われ工場は閉鎖された。」と語る。彼を大統領に押し上げた「アメリカ衰退」論だ。○そして、「工場が一つずつ閉鎖され、海外に流失していくのに、取り残された何百万人もの米国人労働者は顧みられることもありませんでした。中間層の富は彼らの家から奪われ、世界中にばらまかれたのです。」「私たちは二つの原則に戻っていきます、それは、米国製品を購入し、米国人を雇うということです。・・・私たちは一緒になって米国を再び強くします。」これが就任演説のエッセンスだろうと思う。○このように就任演説では、「アメリカ第一主義」以外の「理念」は、ほとんど語られなかった。8年前のオバマ就任の際の「多様性と寛容」や「平和の意義」表明とは大違いで、まさに「品格」の相違というところか。○果たしてトランプ大統領は、アメリカを再び豊かにできるのか。国民に雇用を取り戻せるのだろうか。おそらく、「アメリカ製品をアメリカ国民が買う」だけで豊かにはなれないだろう。アメリカ企業が中国に工場を作り、安いコストの製品を世界で売っている。ウォール街は世界中の金融資産を運用し、莫大な利益を上げている。この経済構造をどう変えるのか、何も語られていないし、政策もない。唯一の具体的メッセージは、今後国内工場の国外移転にNOと言うだけである。具体的に国内に雇用を増やせない限り、トランプ大統領への期待が失望に変わるのは時間の問題だろう。○何より、政府閣僚の人事が就任演説とは裏腹に、ウォール街の成功者と軍人強硬派が多数を占めている。富の再配分にも触れなかった。既得権益は維持されるのではないか。○一方、大統領選挙ではウォール街と軍産複合体は、ヒラリーに就いた。CIAもそうだ。アメリカの「支配層」はヒラリー支持だった。そういう意味では、トランプ大統領誕生は、アメリカ支配層に衝撃を与えた。どの方向に修復されるのか、新大統領の動向に注目だ。○そして、大きな変化は国際関係にある。ロシアへの対応、そしてEU、イギリスとの対応であろう。ロシアとの関係を対立から協調に外交基調を変更するだろうと伝ええられている。これは国際関係における根本的変化を生み出すことになる。当然、EU・NATOの位置づけも変わる。従来は、対ロシアへの緩衝機構、対抗機構としてNATOという軍事同盟が維持されてきた。米欧の協調体制である。これが対ロシア協調となれば、NATOの存在意義は薄れ、アメリカのヨーロッパ政策も変化せざるをえない。トランプ大統領が最初の首脳会談の相手にイギリスのメイ首相を選んだのは、EUからの完全離脱(ハードランディング)を決めた国との協調を鮮明にしEU分断介入意志の現れだろう。そして、欧州各国の移民反対派との連携を図ろうとしている。これは危険な動きである。この流れが確実なものになるかどうか、不透明だが、トランプ大統領は明らかにこの方向を進めようとしていると言える。○新政権はまだスタートラインに立ったばかりで、まだまだ不透明な部分が多い。差別主義。排外主義、保護主義の新大統領が誕生したという事だけで評価するのは、一面的なのかもしれない。アメリカの新政権がどんな具体的政策を実行するのか、それをアメリカ国民がどう評価するのか。今後も注目する必要があろう。ただただ、「日米同盟が基本」というだけの安倍従属政権に十分な対応ができると期待できないことだけは確かであろうが。(2017-01-23佐野)

【出典】 アサート No.470 2017年1月28日

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【投稿】米露間で右往左往の安倍政権

【投稿】米露間で右往左往の安倍政権
          ―自滅した早期解散総選挙戦略―

<2島を追ったが1島も得ず>
 12月15,16日に行われた日露首脳会談は「引き分け」どころか安倍の一本負けに終わった。年内のプーチン訪日がほぼ確定した時点での獲得目標は「最低でも歯舞、色丹の返還」であったのが、結果的にゼロ回答という安倍政権にとって惨憺たるものとなった。
 今回の山場は15日に山口の温泉旅館で行われた、6時間にも及ぶ首脳会談であったが、プーチンはこれに2時間半も遅れた(467号でシリア情勢如何では訪日も不安定になると指摘したが、遅刻で済んだようである)
 旅館のエントランスで待つ安倍は、時計を気にしたり、傍らの昭恵さんの服装を直すなどそわそわした様子で、どちらが武蔵か小次郎か会談前から明白であった。まさに所は同じく長州、21世紀の巌流島である。安倍を手玉に取ることなど、プーチンにとっては秋田犬を手なずけるより容易であっただろう。
 会談進行中も途中退席したラブロフ外相が「シリアやクリミアの問題で我々の見解は一致した」「日露2+2(外交、国防閣僚)会議再開に合意」と発言、会談終了後にはウシャコフ補佐官も「経済活動はロシアの法律に基づき行われる」と述べるなど、巧みにジャブを小出しにし、会談がロシア側のペースで進んでいることを印象付けた。
 16日には、ロシア側が望んでいた東京での首脳会談が行われたが、これもプーチンの山口出発が遅れ、後にはビジネス対話や大統領の「最重要ミッション」である講道館訪問があったため窮屈な日程となり、形式的なものとなった。
 会談終了後の共同記者会見で二人は、4島での共同経済活動実現に向けた協議開始で合意したと明らかにしたが、安倍は活動を「特別な制度」で行うための交渉開始も合意したと付け加えた。さらに安倍は領土問題解決に向けての「大きな一歩を踏み出すことができた」と指を立てて強調するなど、成果を誇示するのに懸命であった。
 これに対してプーチンは、安倍のロシア訪問招請と「4島での日本との協力が今後の平和条約交渉の雰囲気づくりを促進する」と外交辞令を述べるにとどまった。一方質疑応答では「1956年にダレス国務長官に『2島で合意したら沖縄は返さない』と言われ妥協した」と60年前の話を引合いに現在の日米関係に釘を刺すなどなど、日露の温度差が露呈した。
 また記者会見とは別に出されたプレス向け声明は、もう少し詳細な事項が書かれているが、平和条約、領土問題に関する合意事項は全くなかったことが明らかになった。
 しかし経済協力に関しては、漁業、養殖、観光、医療、環境など4島での共同活動へ向けての協議開始、さらに極東地域などでの医療やエネルギーなど8項目80件、総額3000億円の案件を進めることで合意した。
 ただプーチンは記者会見で「共同経済活動が実現すれば4島は対立の種ではなく、両国を結びつける場所になる」「経済活動ばかりに関心があるのではなく平和条約も重要」と述べ、日本側の淡い期待を継続させる配慮を忘れなかった。
 安倍政権としては4島での経済活動が推進すれば、日本の影響力が拡大し、平和条約交渉にも有利に働くとの期待があるのだろうが、そもそも千葉県程の面積がありながら、人口が1万7千人であり、生産も消費も期待できない4島で何をするのか。
 経済を活性化させようとすれば人口を増やさなければならない。しかし日本から移民を送り込むことなどできないわけであるから、ロシア本土からの移住者が重要となる。そうすれば日本側の目論見とは裏腹にますます「ロシア化」が進むと言う矛盾に直面するだろう。
 「特別な制度」についても昔の「租界」や「治外法権」的なものは考えられず、今後実施されるビザ発給要件緩和のさらなる拡大、日本人や企業に対する有利な在留資格か税制面での優遇ぐらいしかなく、4島の「日本化」などは容易に進まないと考えられる。
 今回の首脳会談で領土問題の成果が全くなかったことに関し、国内から批判が噴出している。プーチンへの手紙をしたためた元島民達には墓参の便宜が図られるにとどまった。
 与党幹部の多くは、成果を取り繕うのに躍起になっているが、二階幹事長などは「国民の大半ががっかりしている」と述べるなど政権内にも冷ややかな見方がある。
 
<情勢変化に対応できず>
 こうした拙速な対露外交の根底には、外交面での効を焦り、都合の良い情報のみに依拠する安倍の主観主義がある。
 5月のソチ会談で安倍はプーチンに「新たなアプローチ」として経済協力プランを提示した。これは四島の帰属問題を最優先とする外務省の領土原理主義から、甘言につられ経済産業省の実利主義に乗り換えたわけである。経産省にしてみれば財務省に続き外務省にも勝利したことになる。
 9月には世耕経産相をロシア経済分野協力担当相に任命、さらに前のめりの姿勢を強め、同月のウラジオストック会談後には、歯舞、色丹の返還は確定したような観測が流布された。
 この時期までは領土問題―平和条約での具体的な進展が見込まれたのだろうが、11月のリマ会談時にはトランプ当選など様相が一変していた。この直後からロシアは様々なアクション、メッセージを発してくる。
 11月末にロシアは国後、択捉両島にアメリカ艦艇に対する新型地対艦ミサイルを配備した。もともと、千島(クリル)諸島には中千島の新知(シムシル)島および択捉島に1960年代に開発された旧式のミサイルが配備されており、この更新は本来2014年に予定されていた。
 それが何度か延期されたのであるが、既定方針とはいえ、日露首脳会談直前にこれまで配備されていなかった国後島へも配備されたのである。このうち択捉島に配備された「バスチオン」は対地攻撃も可能で、直前にはシリアで実戦使用されたことが明らかになり、驚愕した安倍政権はロシアに「遺憾の意」を伝えざるを得なかった。
 さらに12月1日プーチンは年次教書演説を行い、重要な国の一つとして日本を挙げたが領土問題にはふれず、同日発表されたロシア政府の新たな外交指針でも対日平和条約問題は記載されなかった。
 7日には、読売新聞、日本テレビとの単独インタビューでプーチンは「ロシアは領土問題は存在しないと考えているが、日本が問題というのなら話はする」と言い放ち日本側の楽観に止めをさした。
 これら一連の言動はロシアの一方的なものでもなさそうである。朝日新聞によれば11月初旬に訪露した元外務次官の谷内国家安全保障局長は、ロシア高官が「歯舞、色丹が日本領になった場合米軍基地は置かれるのか」と尋ねたのに対し「その可能性はある」と答えたと言う。
 2001年の森・プーチン会談での同様のやり取りでは明確に否定された問題を、一官僚がひっくり返したのは、外務省の経産省に対する意趣返しでは済まないだろう。
 こうした流れの中、安倍政権もリマ会談以降は領土問題に関する見通しをトーンダウンさせてきたが、日本側が設定した首脳会談を止めることはできないまま12月15日を迎えることになった。
 おりしもこの日、アサド政権は要衝アレッポの完全制圧を宣言、これに対し日本を除くG7の米、英、仏、独、伊、加の6か国は、シリアとロシアを非難する声明を発表した。安倍は日頃「地球儀を俯瞰する外交」を吹聴しているが、実は自分の足元しか見ていないことが明らかになったのである。
 
<アメリカで取り戻す>
 日露首脳会談での領土問題の進展が潰えたるなか、12月5日、突如安倍の年内真珠湾訪問が発表された。1年前も突然の慰安婦問題合意があったが、今回はアメリカである。
 5月にオバマが現職大統領として初めて広島を訪問したにもかかわらず、安倍は真珠湾訪問に関し口をつぐんでいたどころか、早々にトランプに乗り換えるという変わり身の早さで世界を驚かせた。ところがオバマ政権から想像以上の苦言を呈され、11月20日リマAPECでは立ち話で終わった。さらに期待したプーチンにも袖にされることが明らかになり、外交失策を挽回するためオバマに戻ったのである。
 官邸は「オバマの広島訪問の返礼でいかざるを得ないようになった、と解釈されるのを避けるため時期が今になった。以前から慎重に検討しリマで首相が大統領に伝えた」取り繕っているが、安倍に行く気があったなら広島訪問と同時発表すればよかったのである。
 広島訪問後、オバマの任期中に行けば、いつであろうと返礼と思われるだろうし、そもそも現職総理としては初めてというのが真珠湾訪問のウリであった。しかし発表後に吉田茂首相が1951年に訪れていたことが明らかになるというドタバタが、いかに慌てて設定された訪問かを物語っている。
 菅は「当時はアリゾナ記念館が無かったので、そこを訪れるのは現職総理としては初めて」と苦しい弁明をせざるを得なかった。さらに右派からの批判に「謝罪に行くのではない」と釈明を重ねるなど、苦肉の策である真珠湾訪問はパフォーマンスとしてのインパクトに欠けるものになりつつある。
 このような中、沖縄でオスプレイ墜落事故が発生した。開き直る米軍に対しこの間いろいろお世話になった安倍政権は、形式的な申し入れを行うだけで早々に飛行再開を認めた。
 ロシア、アメリカには低姿勢の安倍であるが、内政での高圧的姿勢はますます酷くなり、先日閉会した臨時国会ではTPP、年金、カジノなど問題を抱える諸法案をまっとうな議論なしに可決、成立させた。
 「北方領土解散」も「真珠湾解散」も立ち消えとなり、総選挙は来秋以降に遠のいたとみられるが、民進党を始めとする野党は残された時間はあまりないと認識すべきであろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.469 2016年12月24日

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