【投稿】過去の反省を無視し「軍事研究」に踏み出そうとする日本学術会議

【投稿】過去の反省を無視し「軍事研究」に踏み出そうとする日本学術会議
                              福井 杉本達也 

1 「軍事研究」に前のめりの日本学術会議
 科学者の代表機関とされる日本学術会議は第二次世界大戦で科学者が戦争に協力した反省から、1949年「わが国の科学者がとりきたった態度について反省し、今後は科学が文化国家ないしは平和国家の基礎である」という発足声明を発し出発した。1950年の第6回総会では物理学者の坂田昌一(2008年ノーベル物理学賞受賞者の小林誠、益川敏英の恩師)らが主導して「戦争を目的とする科学の研究には絶対従わない」と決意表明をした。ところが、1959年から1967年にかけ、アメリカ軍極東研究開発局から全国の大学、民間研究機関が研究資金をうけていたことが明らかとなった。日本物理学会では米軍から半導体国際会議の資金援助を受けていた。そこで改めて1967年に「戦争を目的とした科学の研究を行わない」という声明を出した。ところが、今回、軍事目的の研究を否定する原則の見直しに向け検討を始めた。政府が「デュアルユース(軍民両用)」技術の研究を掲げる中、「時代に合わない」として、5月20日の幹事会では、「安全保障と学術に関する検討委員会」を設置し、声明が見直される可能性が出てきた。2015年度から防衛省が防衛装備品に応用できる最先端研究に資金を配分する「安全保障技術研究推進制度」を始め、大学などの研究9件が対象に選ばれた。2016年度から始まった国の「第5期科学技術基本計画」でも関連技術の研究開発推進が盛り込まれた。今回の制度を受け、声明の見直しも含めて、議論を続けている(毎日:2016.5.21)。大西隆会長(豊橋技術科学大学学長)は11月28日の日経紙上においては、「自衛装備が直ちに戦争につながるとの主張は強弁にすぎる」とし、「自衛目的に限定して、大学などの研究者が将来の装備品開発に役だつかもしれない基礎的な研究をすることを可能とする」(大西隆:日経:2016.11.28)と述べるなど、軍事研究に前のめりの発言を繰り返している。

2 札束で研究者の顔を引っ叩く防衛省
 防衛省は5月31日、過去最大の総額5兆1685億円に上る2017年度予算の概算要求を発表した。16年度当初予算比2.3%増。このうち、企業や大学に対し、軍事に応用可能な基礎研究費を助成する「安全保障技術研究推進制度」予算として、16年度の6億円から18倍増となる110億円を要求した。安全保障技術研究推進制度は、防衛技術の基盤強化などを目的に2015年度からスタート。防衛装備庁が提示した研究分野に、大学や企業の研究者が研究計画を提案。採択された研究者は、3年間で最大9千万円の研究費を得て、同庁の助言を受けながら研究する。2015年度事業として助成を受けた主な研究は、東京工業大学の「運搬可能な超小型バイオマスガス化発電システム」3900万円、理化学研究所の「光を完全に吸収する特殊素材の開発」3898万円、豊橋技術科学大学の「極細繊維による有害ガス吸着シートの開発」390万円などがある。
 これまでも防衛予算のうち科学技術関連予算は1千億~1500億円、毎年計上されてきた。防衛装備庁は来年度から、導入済みの委託研究制度に加えて、1件あたり5年間で最大10億~20億円の大型研究プロジェクトを新たにスタートさせる。防衛産業の市場規模は約1.8兆円。国内の靴・履物小売市場(約1.4兆円)に等しく、勢いはない。国内防衛産業は、防衛省の発注でほとんどが支えられているが、ここ数年、急速に輸入比率が高まっており開発への焦りが背景となっている。
 
3 仁科芳雄と戦前の原爆研究
 兵器は技術者や軍人によって経験主義的に試行錯誤をへて作られたが、原爆はその原理も可能性も「科学が主導した技術」(武谷三男)として100%物理学者の頭脳の中から生みだされた。第二次世界大戦中継続して原爆の製造を追求したのは米国と日本だけである(ドイツは1942年頃には製造を諦めている)。米国のマンハッタン計画では12万人もの研究者や技術者が動員され、230億ドルの資金(現在価値)が投じられたといわれるが、日本では1941年に陸軍が理化学研究所に原子爆弾の開発を委託した。仁科行雄が研究を主導し「二号研究」と呼ばれ、武谷や朝永振一郎らの物理学者が従事した。今日の価値で10億円という金額が投じられた。一方、海軍は京大理学部教授の荒勝文策に委託し「F号研究」と呼ばれた。湯川秀樹らが従事している。
 
4 生物化学兵器の研究を行った731部隊の医師・研究者
 1936年、日本は中国・満州ハルピンの郊外平房の広大な敷地に研究施設を作り細菌兵器の開発を目指した。その中心が陸軍軍医少佐の石井四郎であった。中国人・朝鮮人・ロシア人・モンゴル人などをマルタと称して生体実験・生体解剖などをし、試行錯誤を重ね、より強力な細菌兵器の開発を目指した。戦後、731部隊の戦犯追及は停止され、詳細なデータはアメリカが独占することになり、東京裁判では731部隊のことは裁かれなかった。マッカーサーは自国の遅れていた細菌兵器の開発に日本軍のデータが役立つとして、細菌戦や細菌兵器のデータが欲しかったのである。
 731部隊をはじめとする生物化学兵器研究の幹部は、エリートが多く、そのほとんどは戦後になって、東京大学や京都大学を初めとする医学部の教授、国立予防衛生研究所所長など、日本の医学界、医薬品業界、厚生行政の重鎮となった。北岡正見731部隊ウイルスリケッチア部長は国立予防衛生研究所の幹部となった。福見秀雄(細菌第2部長)は戦後も国立第1病院等で乳児に致死性大腸菌の感染人体実験を行ない、国立予防衛生研究所所長をへて55年長崎大学長となっている。

5 宇宙開発と軍事研究に「垣根」はない(糸川英夫から始まる日本のロケット開発)
 12月9日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工は国際宇宙ステーションへの無人補給機「こうのとり」6号をH-2Bロケットで軌道に載せることに成功した。日本のロケット技術は最近安定してきているが、日本はHⅡA、HⅡBというロケットを開発し、15t~20tの打ち上げ能力がある。核兵器を搭載できる大陸間弾道ミサイルとして遜色のないものである。打ち上げ成功を手放しで喜ぶべきものではない。2010年、小惑星の探査を目的として打ち上げられた「はやぶさ」が地球の大気圏に再突入し、小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰ったことが大きな話題となったが、「イトカワ」とは戦時中、戦闘機「隼」を設計し、戦後はいち早くペンシルロケットなどミサイルの開発に着手した軍事技術研究の第一人者である糸川英夫から命名されたものであり、最初から軍事技術と宇宙開発は切っても切れない関係である。宇宙の軍事利用に合法的道を開く宇宙基本法が08年に施行され、JAXAと防衛省の技術交流が拡大した。小惑星探査機「はやぶさ」の耐熱シールドは、弾道ミサイル技術に通じる。核弾頭が大気圏再突入の際、大気圏外で爆発されては効果がない―どころか自国に被害が生じる。宇宙基本法の施行以来、学術研究の場といえども研究情報が機密保護の管理下に置かれつつある。

6 作ったもの(兵器)は必ず使用される―「デュアルユース」などというものはない
 防衛省は安全保障技術研究推進制度の募集要領で「広く外部の研究者の方からの技術提案を募り、優れた提案に対して研究を委託するものです。得られた成果については、防衛省が行う研究開発フェーズで活用することに加え、デュアルユースとして、委託先を通じて民生分野で活用されることを期待しています」と書いている。しかし、兵器の最終目的は人間を「より大量に」・「より素早く」・「より残虐に」殺すことである。作った兵器は必ず試されなければその効果は分からない。原爆はアインシュタイン書簡により、当初、ナチス・ドイツの原爆研究に対抗する目的で科学者の動員が図られたが、1945年5月のドイツ降伏前の44年9月には米大統領ルーズベルトと英首相チャーチルは投下目標を日本に絞ることで合意していた。日本への原爆投下は米国を第二次世界大戦後の世界において有利な立場を置き、主導権を握るために行われたのである。そして、原爆の破壊力を試すのに、市民殺傷効果を見るのに最適な規模の人口密集地で空襲を受けていない都市である広島・長崎が選らばれた。しかも、長崎に投下されたファットマン(Fat Man)はプルトニウム型原爆であり、広島に投下されたウラン濃縮型とは異なった効果を試すために戦略的には無用な2発目の原爆が落とされたのである。古田貴之・千葉工業大未来ロボット技術研究センター所長は「軍事利用を含め、自らの研究成果が世の中でどう使われるか、用途を研究者も考える責任があるということは特に強調したい。真理の追究が職務だと言い逃れる人もいるが、それでは今の時代は済まされない。私たちは不可能を可能にし、社会を良くしたいと願ってロボットを研究している。その成果が悪用されないよう、少なくとも用途を予測する努力は必要だ」(古田:毎日2016.7.27)と述べる。 兵器には「デュアルユース」などというものはない。必ず人間を殺すために使用される。予算で締め付けを食う研究者はいま大きな転換点を迎えている。学術会議は「カネ」のために最後の一線を越える気である。

【出典】 アサート No.469 2016年12月24日

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【投稿】日露首脳会談をめぐって 統一戦線論(31)

【投稿】日露首脳会談をめぐって 統一戦線論(31) 

<<「期待で風船を膨らませて針でぶすっと刺した」>>
 12/15、安倍首相は当初の目論見として、プーチン大統領をわざわざ首相の地元である山口県長門市の大谷山荘の温泉地に招き、日露首脳会談を演出、北方領土返還への大きな外交成果を誇大宣伝し、衆院解散・総選挙に持ち込む腹であった。ところが日露首脳会談は、正式な共同声明すら出せず、「プレス向け声明」にとどまるものであった。
 「解散近し」と煽ってきた自民党幹部は、「期待で風船を膨らませて針でぶすっと刺した」とその落胆ぶりをぶちまけている。安倍首相のお先棒を担ぎ、自ら先頭に立って年内あるいは1月解散さえ吹聴してきた二階幹事長は臆面もなく「日露問題で解散、解散とあおったのは誰か。我々は解散のテーマにはならないと思っていた」と語る始末である。自らに唾して嘆いて見せて、開き直っている。
 民進党の蓮舫代表は「引き分けどころか、一本取られた形で終わったなら残念」「四島の帰属をまず確認して平和条約の締結という基本は変わっていないけれども、今回は大幅にここを言及することなく踏み越えて経済協力、経済援助というところに舵を切りすぎたように思う。率直に申し上げて、なぜなんだろうかという思いしかない」と語る。
 又市・社会民主党幹事長の日ロ首脳会談についての談話も「全くの期待外れに終わった。経済協力の満額回答を勝ち取ったプーチン大統領に、「一本」取られた感じがする。」と述べている。
 マスメディアの主張もほとんどがこの類である。12/17付・朝日社説は「日ロ首脳会談 あまりに大きな隔たり」と題して「今回あらわになったのはむしろ、交渉の先行きが見えない現実だ。近い将来、大きな進展が見込めるかのような過剰な期待をふりまいてはならない。」とくぎを刺す。
 共産党の志位委員長に至っては、「日本国民が何よりも願ったのは、日露領土問題の前進だったが、今回の首脳会談では、この問題はまったく進展がなかった。」「『共同経済活動』を進めるというが、平和条約に結びつく保障はなく、逆に4島に対するロシアの統治を後押しするだけの結果となる。」「『「新しいアプローチ』の名で、安倍首相がとった態度は、首脳間の『信頼』、日露の『経済協力』をすすめれば、いずれ領土問題の解決に道が開けるというものだった。しかし、日露領土問題が、『信頼』や『経済協力』で進展することが決してないことは、これまでの全経過が示している。」と述べ、「日露領土問題の根本は、米英ソ3国がヤルタ協定で『千島列島の引き渡し』を取り決め、それに拘束されてサンフランシスコ条約で日本政府が『千島列島の放棄』を宣言したことにある。」と述べている。これは事実上、第2次世界大戦の戦後処理の大原則であり、「戦後レジーム」の重要な柱の一つである1951年のサンフランシスコ講和条約の放棄・破棄をさえ主張するものである。

<<「戦後レジーム」への怨念>>
 第2次世界大戦は日本の自衛のための戦争であったと主張し、憲法9条改悪を柱に、安倍首相が覆そうとしている「戦後レジーム」、その中の重要な構成部分である北方領土をめぐる問題の概要は以下の通りである。
 第2次世界大戦末期、1945年2月4日~11日の米英ソ首脳のヤルタ会談でルーズベルト米大統領がソ連に対して対日参戦を求め、ドイツ降伏3ヵ月後に、ソ連は対日参戦すること、樺太・千島はソ連領となることが合意された。1945年8月9日、ドイツ降伏のちょうど3ヵ月後、ソ連は対日参戦、日本政府はポツダム宣言を受諾、連合国に無条件降伏、9月2日降伏文書に調印。ポツダム宣言八条にしたがって、日本の領土は、四つの主要な島(北海道、本州、九州及び四国)及び連合国が定めた諸小島に限定された。そして1946年1月29日、連合軍総司令部・GHQは日本の行政区域を定める指令(SCAPIN-677)を出し、クリル(千島)列島、歯舞、色丹は日本の行政範囲から正式に省かれる。このとき竹島も日本の行政範囲から省かれている。1951年、サンフランシスコ講和条約批准、条約第2条C項『日本国は、千島列島並びに樺太の一部及びこれに近接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する。』と明記されている。吉田首相は演説で、国後・択捉は南千島と明確に述べている。同年10月衆議院で、西村外務省条約局長は、放棄した千島列島に南千島(国後・択捉島)も含まれると答弁、国内外に向けて国後・択捉島の放棄を宣言。但し、歯舞・色丹島は北海道の一部と説明。
 他方、1956年の日ソ共同宣言では「ソヴィエト社会主義共和国連邦は,日本国の要請にこたえかつ日本国の利益を考慮して、歯舞諸島及び色丹島を日本国に引き渡すことに同意する。ただし,これらの諸島は、日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約が締結された後に現実に引き渡されるものとする」と明記された。
 こうした歴史的経緯を覆そうとすることは、日本の侵略戦争がもたらした現実を否定するものであり、「戦後レジーム」への怨念と報復、歴史への反動と言えよう。
 当然、今回来日したプーチン大統領が「1956年の日ソ共同宣言には平和条約後に二つの島を引き渡すと書いてある」「私たちにとって一番大事なのは平和条約締結だ」として、1956年の日ソ共同宣言を堅持する姿勢を示している。これに対して安倍首相は「北方四島が日本領だという日本の立場を“正しいと確信している“として、サンフランシスコ条約の国後・択捉放棄の事実を踏まえてはいない姿勢にこだわり続けている。その意味では、今や安倍政権と共産党は、同列に並んでいるのである。共産党は、いやそれ以上に、これまで、国後、択捉からロシアのカムチャツカ半島の南西に隣接する占守(しゅむしゅ)までの諸島、「北千島を含めて日本の領土ですから全部返せという交渉」、「全千島返還をロシアに求めるべき」だとして、政府の弱腰外交を叩き、日本のナショナリズムを煽ってきたのであった。

<<「新たなアプローチ」>>
 しかし今回、安倍首相は、日露交渉の局面を打開せんとして、「新たなアプローチ」を提起し、首脳間の「信頼」、日露の「経済協力」を前面に打ち出した。共同記者会見で「『新たなアプローチ』に基づく(北方領土での)共同経済活動を行うための『特別な制度』について、交渉を開始することで合意した」と発表。安倍首相は「私はプーチン大統領と、日本とロシアはすべての分野で関係を発展させる無限の可能性を持っているという考えで一致した」とし、「平和条約締結に向けた重要で大きな一歩になった」と表明、日本側は今回、ロシアへの80件もの経済協力で合意したという。
 これらの合意は、千島歯舞諸島居住者連盟に結集する元島民や関係者の、「返還」の二文字にこだわることなく、「経済交流の促進」をと強く主張してきた願いとも合致するものである。
 ただし、安倍首相の外交姿勢は、毀誉褒貶が激しく、信頼性に欠けるものである。しかし、ともかくもナショナリズムに基づいて対立をあおるのではなく、首脳間の「信頼」と「経済協力」を前面に打ち出したことは、日ロの平和的友好関係を構築・維持する上で前進と言えよう。安倍首相は、対中国、対韓国の領土問題においてもこのような姿勢をこそ貫くべきなのである。こうした姿勢、「新たなアプローチ」にこれまで踏み出さなかったことこそが厳しく問われるべきなのである。これを共産党・志位委員長のように、領土問題の解決は「『信頼』や『経済協力』で進展することが決してない」などと切って捨てることは、日露、日中、日韓の対立と緊張激化をあおりたてる好戦主義的な勢力や内外の軍需利益を追求する勢力をを利するものでしかない。

<<安倍首相にとってのパールハーバー>>
 12/5、安倍首相は12月26~27日、アメリカ・ハワイを訪問し、オバマ大統領とともに真珠湾を訪問する、と唐突に発表した。首相が忌み嫌う、日本軍の真珠湾への先制・奇襲攻撃を「謝罪」するためではなく、責任を不問にした抽象的な「慰霊」のためであることが見え透いている。今年5月、オバマ大統領の広島訪問に際しての記者会見で、首相は「現在、ハワイを訪問する計画はない」ときっぱり否定していたものが、わずか半年後の方針転換である。この右往左往は、11/17にニューヨークで行われた、現職大統領を無視して行われた“異例”の次期大統領との「トランプ・安倍会談」、これによってペルー・リマで11/20に予定されていたオバマ大統領との日米首脳会談が流れ、それを埋め合わせ、なおかつ日ロ交渉にも役立てる、何よりも解散・総選挙に向けて支持率向上をはかる、姑息な意図の反映でもあった。すべてが首相の安易で軽薄な政治的打算とも言えよう。しかし、それが客観的に持つ意味は重大である。
 問題の1941/12/8パールハーバー奇襲攻撃は、単なる日米開戦の日ではない。それは、1874年の台湾出兵から始まり、1894年の日清戦争、1904年の日露戦争、1910年の日韓併合、1914年第一次世界大戦への参戦、1915年対華21か条要求、1931年の満州事変、1937年日中全面戦争、1941年の仏領インドシナへの侵略、それに引き続く東南アジア諸国への侵略を経た、「大日本帝国」ファシズム・軍国主義が犯してきたアジア侵略戦争の必然的な帰結点であったのである。パールハーバー訪問の前に、これらアジア諸国への侵略に対する真摯な謝罪がなされるべきなのである。
 しかし安倍首相にとっては、そのような謝罪は眼中にない。安倍首相にとってのパールハーバー訪問は、単なる日米軍事同盟の意義を高らかに喧伝する場と言えよう。なにしろ、「米国にだけ負けた」、「米国に邪魔されなかったら中国には勝っていた」「あの戦争はアジア解放のためだった」という言葉がのどに出かかる歴史観を持つ人物である。しかしそれでもパールハーバー訪問は、安倍首相にアジア侵略戦争への反省を厳しく迫るものであり、そうさせなければならない。
 「アベ政治を許さない!」野党共闘と統一戦線にとって、日ロ首脳会談とパールハーバー訪問は、何よりもアジア諸国との善隣友好関係の構築へと外交姿勢を全面転換させる契機とさせなければならない。それを逆に、ナショナリズムに取り込まれて、領土問題の解決は「『信頼』や『経済協力』で進展することが決してない」などと叫んで、日露、日中、日韓の対立と緊張激化に同調したり、民族主義におもねっていたのでは、圧倒的な多数の人々から見放されてしまうであろう。
 折しも、沖縄県名護市沖に問題の米軍輸送機オスプレイが大破、墜落。在沖米海兵隊トップのニコルソン四軍調整官は、沖縄県の安慶田副知事の抗議に対して「被害与えず、感謝されるべき」と激高する事態が露呈された。同副知事は記者団に「謝罪は全くなかった。本当に植民地意識丸出しだなと感じた」、「県民に被害がないのは表彰ものだと言い、抗議に興奮して怒っていた。感覚が全然違う。私たちはオスプレイそのものがいらない」と述べている。オスプレイを購入し全国展開しようとしていた安倍政権は、墜落事故に驚き衝撃を受け、動揺し、これを矮小化することにのみ腐心している。稲田防衛相は「墜落ではなく不時着水」、菅義偉官房長官は「パイロットの意思で着水したと報告を受けている」とシラを切り、沖縄の世論は怒りで渦を巻いている。「アベ政治を許さない!」野党共闘と統一戦線は、領土問題や民族主義に煩わされることなく、いまこそオスプレイNOの広範で強大な運動のすそ野を広げ、強化することが求められている。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.469 2016年12月24日

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【日々雑感】カジノ法成立 

【日々雑感】カジノ法成立  

12月某日
 IR(総合型リゾート、カジノ)法(特定複合観光施設区域の整備に関する法律)案が国会で可決成立。わずかな審議時間で強行採決。ギャンブル依存症やマネーロンダリング、治安などへの対応は中身が全く無いまま。公明党は自主投票、党首が反対票。国の各省庁も、面倒なことは引き受けたくない、と及び腰。マスコミも最近になく各社揃って批判。強行理由は、またしても橋下・松井の日本維新の会と安倍、菅ライン。IRをセットにして誘致したい大阪万博のタイムリミットだから。憲法改正などを控えて、安倍政権の諸悪法に無条件で賛成票を投じてきた日本維新の会への見返りとのこと。
 と、ここまでは、マスコミも及び腰ながら報じている。だが、肝心なところが議論されないように誘導されている。
 IR報道は、経済効果が多大という前提に立ち、ギャンブル依存症など副作用にどう対処するのか、という論理で構成されている。しかし、IR問題の本質は経済効果の点にある。本当に経済効果があるのか。効果ありとして、“金”は誰から誰にどう流れるのか。蓮舫民進党代表の、“対策・整備の資金は結局、庶民の掛け金でしかない”旨の国会質問は、経済刺激を知らないバカだと一蹴された。
 IRは“国際競争力の高い魅力ある観光地”として、設置区域の申請は地方公共団体、全国に最終的に10か所程度の設立を予定。売上は1か所数千億から1兆円規模、波及効果は全国で2兆円を超すと宣伝されている。松井知事は1,000万人の海外観光客増を吹聴する。
 だが、旨い話は疑え。レクリエーション・展示・宿泊の総合施設とはいえ、売上の約8割を施設面積の3~5%のカジノが担う施設。寺銭狙いの豪華宿泊賭博場でしかない。誘致を検討したある自治体の幹部からかつて、「市財政で見る限り、固定資産税や住民税(所得)などの歳入増加と、治安やギャンブル依存症などで必要とされる歳出増を比較すると、歳出の方が多くなる可能性は高い。(市財政の悪化)」と聞いた。もちろん、周辺整備は自治体の負担。このような検討結果は推進派議員への配慮により表には出されない。納付金や入場料が設置自治体に収められるとしても、ギャンブル依存自治体となるわけで、教育などへの影響その他環境悪化は避けられないだろう。
 売上も、取らぬ狸の皮算用に注意だ。後発IRに海外の富豪が押し寄せるだろうか。アジア各地でカジノは不振だ。かつて、日本では、地方競馬の不振、総合保養地整備法の大失敗の過去がある。ディズニーやUSJとも同じではない。周辺商店街は来場者に期待するというが、豪華カジノで遊ぶ人が周辺地で散財するだろうか。やけ酒はあるかもしれないが。経済効果の試算には常に試算者の思惑が入っている。
 賭博とは胴元だけが確実に儲かるシステムだ。土建業や機器などの企業も建設することで儲かる。IR運営のノウハウを日本企業は持たない。一般日本人市民(上位1%は海外に行く)の富がアメリカ資本の胴元に吸い上げられ、自治体が赤字を出して警備する。市民は低下する行政サービスの下でギャンブル依存症に怯える。もし閑古鳥が鳴けば壮大な廃墟がレガシーとして残るだけ。金持ちが儲けるだけ儲けてそれでお仕舞い。毎度の社会的格差拡大の再生産の構図が見えている。
 こうした疑問に一切答えない、検討を拒否するのが、日本維新の会を先頭とする推進派だ。 (元)

【出典】 アサート No.469 2016年12月24日

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【投稿】トランプに追従する安倍政権

【投稿】トランプに追従する安倍政権
      ~軍拡と差別、分断に対抗する取り組みを~

<「親米倭王」>
 12月18日、ニューヨークで安倍は高級ゴルフセットを携えトランプ次期大統領と面談した。面談は非公式、非公開とされ詳しい内容は公表されず、数枚の写真と雰囲気だけが伝えられた。
 安倍は面談後のコメントで「トランプ氏は信頼できる指導者だと確信した」と述べ、菅や麻生も「大きな一歩を踏み出す素晴らしい会談」「予定時間を超えての会談は波長が合うと言うこと」と会見で述べるなど、会うこと自体が大目的であった今回の面談の性格を、億べもなく吐露している。
 そもそも、9月、早々と国連総会出席に合わせヒラリー・クリントンとの会談を設定したのは勇み足であった。11月9日トランプ当確が報じられると安倍は「話が違うではないか」と周囲に当り散らしたと言う。
 その後の囲み取材で安倍は、「お祝い申し上げる」と言いながら、とても喜んでいるとは見えない緊張した面持ちで「日米同盟は普遍的価値で結ばれた揺るぎない同盟であります」と言うのが精いっぱいであった。
 9月の失態を挽回するため、「いざ鎌倉」とばかりに各国の指導者が電話協議に止める中、真っ先に面談を取り付けたが、トランプ政権の基本政策や、主要人事が定まらない中、これもある意味勇み足であったと言えよう。
 安倍はこれまで、「民主主義」「法の支配」という価値観外交を前面に押し出しながら、当該国民や国際社会から「非民主的」「独裁的」と批判される権力者と親交を結んできたわけで、今回のトランプ訪問もその延長線上にある。
 かつて安倍は「オバマ大統領とはケミストリーが合う」と語っていたが、その後、歴史認識や人権問題など政治理念の違いから溝が深まり、結局疎遠になっていった。今回オバマとは正反対のポリシーを持つトランプと早速「ウマが合う」とは、いかに表面的な付合いに終始しているかが窺い知れる。
 それでもオバマは安倍に対し2015年4月に、日本の総理としては54年ぶりとなる上下両院合同議会での演説という栄誉を送るなど、手厚く処遇をしてきた。しかし、安倍政権は今回トランプとの面談に奔走するあまり、APECでのオバマとの会談調整は後回しにするという、手のひらを返したたような非礼さである。
 さらに安倍は、訪米前に空港で「トランプ大統領に会えるのが楽しみ」などと、すでにオバマは過去の人と言わんばかりの浮ついた様子を晒した。片やトランプサイドが今回の面談に関し「アメリカの大統領は一人だから」と非公式を強調して、オバマに気配りを見せていたのとは好対照であり、軽薄さが際立つこととなった。
 今回の行動に関して、民進党などは「朝貢外交」などと批判を強めており、確かに安倍の姿は「親米倭王」に相応しいとも言える。それにも増して明らかになったのは「ウマが合う」のは結局価値観が同じだからという、理念、価値観、政策より人間関係優先の安倍外交の本質であると言えよう。
 
<トモダチ外交>
 そうした観点からいえば、この間官邸や政権はクリントン勝利前提で動いていたものの、安倍本人はそれを望んでいたとのではないかも知れない。人権問題に機敏なクリントンであれば、靖国参拝や従軍慰安婦問題に関して今後もプレッシャーをかけられるだろうが、トランプは心配ないだろう。
 政策面に関してもTPPは空中分解の危機に瀕しているが、もともと2012年の総選挙で自民党は「TPP断固反対」を謳っていたわけである。さらに先の参議院選挙において北海道、東北で野党共闘が功を奏した背景にはTPPへの根強い批判がある。
 次期総選挙の勝敗を考えるならば、実際はさしたる経済効果も望めないTPPがアメリカの都合で立ち消えになるのは、安倍政権にとって願ったり叶ったりであろう。こうした状況の中、APECの諸会合で各国が情勢の推移を伺いつつ、建前としてTPPの枠組み維持を確認する中、日本が一人TPP推進の旗を振る姿は戯画に等しいものがある。
 日米軍事同盟についても、トランプ政権から駐留経費の負担問題にかかわる「片務性の解消」要求が出たとしても、それは安倍政権にとってはさらなる自衛隊の任務拡大、軍拡合理化に利するだろう。
 これまでアメリカの歴代政権、とりわけオバマ政権は日本の軍拡が東アジアでの緊張を高めることに懸念を持っていたが、トランプ政権でそれは解消の方向に向かうだろう。
 南シナ海に関しては、米中関係が改善されれば、ドゥテルテの対中融和姿勢と相まって、南シナ海での日本のプレゼンスは後退を余儀なくされる。
 一方沖縄の米軍基地、のみならず在日米軍に関しては、米軍部の既得権益の問題なので、大きな変化が起きるとは考えられない。軍は圧倒的にトランプ支持であり(10月の調査では4軍平均トランプ68%、クリントン18,5%海兵隊に至ってはトランプ74%、クリントン9%)その意向は尊重されるだろう。
 東シナ海についても、もともと米中は緊張激化を避けたい思惑があり、状況に大きな変化はないと思われるが、南シナ海での圧力が軽減した中国がリソースを東シナ海に振り向ければ、日本の軍拡の格好の口実になる。
 このようにトランプ政権は、日米同盟や自由貿易の危機という表立った懸念とは裏腹に、安倍にとってはまたとない「トモダチ」となる可能性が高い。
 もう一人の「トモダチ」であるプーチンとの関係は微妙になるかもしれない。トランプはかねてからプーチンを称賛していたが、米露関係が修復に向かえばロシアにとっての日本の利用価値は低下する。
 11月15日、プーチンは収賄容疑で拘束されていたウリュカエフ経済発展相を解任した。これは2018年の大統領選挙を見据えた政略との見方もあるが、対日交渉よりもロシアの国内政治が優先されたことは間違いない。
 こうした、先行き不透明の中、18日リマで開かれた日露経済次官級協議で、資源、エネルギー開発など経済8項目の作業計画が合意され、経済協力は見切り発車される形となった。
 一方、領土問題―平和条約交渉に関する20日の日露首脳会談では、目立った成果は無かった。9月のウラジオ会談後安倍は「領土交渉の道筋は見えてきた」「手ごたえを強く感じとることができた」と胸を張った。
 しかし今回は「70年間できなかったわけでそう簡単ではない」「道筋は見えているが、一歩を進めることは簡単ではない」と足踏み状態であることを認めざるを得なかった。そればかりかNHKの報道によると、会談でプーチンは「日露貿易が今年の半年で対前年比36%も減少した。これは第3国の圧力の所為だ」とネガティブな発言をしたという。
 秋口の「2島返還+α」などという楽観的な見方は影を潜めた。潮目は変わりつつあり、今後のトランプ、プーチンの動向如何では「トモダチ」どころか三角関係になる可能性も出てきた。 

<軍拡と社会の分断>
 不安定さが付きまとう「トモダチ」は他にもいる。10月26日の日比首脳会談でドゥテルテは法の支配と民主主義の重要性を強調、中国寄りの姿勢を修正するかに思えた。しかし今回のAPEC首脳会議で、中国とは兄弟のようになりたい、南シナ海問題は協力して平和的に解決する、と述べるなど基本は対中融和であることが明らかとなった。
 それでも対中包囲網を取り繕うことに懸命な安倍は、11月2日ミャンマーに対し5年間で8000億円の経済支援を行うことを確認、7日にはカザフスタンとの間で、同国の原発建設計画への協力や、軍事交流の強化に関する共同声明を発表した。
 そして11日にはインドとの間で内外の批判をよそに日印原子力協定を締結、17日にはマレーシアに対し、退役した海保の巡視船2隻を供与することが決定された。これらは、いずれも訪日した各国元首級VIPとの会談で確認されており、次々とやってくるアジア各国の首脳を前に「アジアの盟主」を夢想したのであろう。
 さらに安倍はアフリカへの権益拡大をめざし、先のTICAD6(第6回アフリカ開発会議)で「自由で開かれたインド太平洋戦略」を掲げ、その最前線として南スーダンへの派兵を継続している。
 11月15日政府は、新たに南スーダンに派遣される部隊に対し「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」任務を付与することを閣議決定した。これに基づき20日から交代部隊が順次出発し、12月12日から実施が可能となる。 
 南スーダンでは、マシャール前第一副大統領派のSPLM-IO「スーダン人民解放運動」が11月16日に3つの町を武力制圧、国連も「民族大虐殺」の危機が迫っていると警告を発し、日に日に緊張は激化している。国連側も7月の戦闘で各国のPKO部隊が民間人救出を拒否したとして問題となり、ケニア人司令官が解任された。これに反発したケニア軍が撤収するなど、PKO部隊の統率が乱れているのが現状である。
 安倍政権は「駆け付け警護」が発令されるのは「首都周辺で少人数の武装集団が国連関係者を拉致しようとした場合」などと「限定運用」を強調しているが、現地の状況では有りえない楽観的な想定である。
 首都ジュバの攻防戦が始まれば、7月のように戦車、攻撃ヘリなど重火器を用いた戦闘になると思われ、駆け付けるどころか宿営地に籠城していても損害を受ける危険性がある。
 安倍はこうした軍事活動拡大で実績を重ねながら、強引に総裁任期を延長し改憲に向けた長期独裁政権作りを目指している。そのためにはトランプに追従し、ある時はその手法を利用しながら強権政治を進めるだろう。すでにアメリカでのポリティカル・コレクトネス批判に乗っかり、「土人が差別か理解できない」という鶴保を擁護、レイシストを増長させ憎悪を拡大しようとしている。
 さらには、経済政策の失敗で増大する格差は分断支配には格好の材料である。これらに対抗すべき野党共闘、市民運動の連携再構築が求められている。(大阪O)

【出典】 アサート No.468 2016年11月26日

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【投稿】廃炉・賠償費用さえ電気料金に転嫁する「資本主義」の腐臭

【投稿】廃炉・賠償費用さえ電気料金に転嫁する「資本主義」の腐臭
                             福井 杉本達也 

1 福島第一原発の廃炉費用・賠償費用を電気料金に上乗せ検討
 経済産業省は11月11日、「総合資源エネルギー調査会」の下部委員会である「電力システム改革小委員会」を開催し、東京電力・福島第1原子力発電所の廃炉費用を,電気料金の一部として,国民に負担させる検討を行っている。具体的には,託送料金(送電線の利用料)に上乗せするかたちで、原発の廃炉コストを「回収」しようというものである。経産省の内部資料によると、福島第一原発の廃炉費用「総額8兆円」と想定し、このうち4兆円について、東電の営業エリアである関東地区のユーザーに負担させるとし、電気料金への影響は「標準家庭で1ヵ月当たり120円」と試算。さらに原発事故被災者への賠償費用(原賠機構法成立前の過去分)を東電営業エリアで1兆円(「標準家庭で1ヵ月当たり30円」)、他の電力会社エリアで2兆円、その他通常の原発の廃炉費用や解体費の上振れ分を含む「8.3兆円」を、「電気の託送料金」に転嫁し、合計171円/月を広く全国民から回収する算段をしている(『東洋経済』2016.10.22)。この8.3兆円は本来、福島事故に責任をもつべき東京電力や原発を有する九電力会社が自らの経営努力で負担すべきものであり、原発を持たない新電力から競争力を不当に奪い、経産省が旗を振る電力自由化の趣旨にも反するであろう。
 
2 そもそも福島第一原発の廃炉費用が8兆円で済むのか?
 アーニー・ガンダーセン(Arnold Gundersen)氏によると、福島第一原発電の廃炉には100年、総費用にして5000億ドル(約60兆円)の費用がかかるとする推計を公表している。メルトダウンした核燃料コアがどのような状態にあるか、誰も正確には把握できていない。核燃料コアは地下水と接触し大量の汚染水に変わってしまっている。この汚染水問題により福島第一原発の廃炉は、チェルノブイリ原発の廃炉に比べて100倍複雑性を増しており、費用も100倍かかるとしている(bisinessnewsline:2015.7.24)。また。時事通信は「東京電力福島第一原発事故で、3号機使用済み燃料プールからの核燃料取り出しに向けた作業が遅れ、目標としていた2018年1月の取り出し開始が困難となっていることが18日、東電への取材で分かった。3号機プールの燃料取り出しは昨年も延期しており、事故を起こした原発を廃炉にする難しさが改めて鮮明となっている。」(時事:2016.11.18)と報じたが、廃炉費用の計算どころか、果たして「廃炉」できるかどうかさえ不明なのである。
 廃炉費用4兆円を40年の長期で回収するものとして仮定し、電気料金で回収するとした場合、0.4円/kwhとなるが、ガンダーセン氏の推計からは6~7年程度で回収しなければならない。とすれば2.6円/kwh=780円/月にもなる。標準家庭月額の1割にあたる。当然これに、賠償費用+他の福島第一6,7号機・福島第二・柏崎刈羽原発の廃炉費用等々を加えれば膨大な額になってくる。電気料金はまさに青天井となる。

3 資本主義の経済行為を逸脱する東電救済
 盗人猛々しい経産省も福島第一原発の廃炉費用はさすがに他のエリアの電気料金への上乗せはできないと考えたが、賠償費用3兆円のうちの2/3(2兆円)については他のエリアの電気料金から回収するという。福島原発事故は電力を販売する一私企業の経済行為の中で、東電の過失により事故が起こったのであり、それによる損害賠償や事故処理は東電自身が100%負担して行うべきである。1961年に制定された原子力損害賠償法では電力会社の無限責任をうたっており、今回の原子力委員会の検討会でも無限責任を維持する方向となった(2016.11.14)。負担できなければ東電は倒産すべきである。

4 租税法律主義を否定する安易な電気料金による回収
 全ての民主主義国家では、国民の代表者から成る議会が定めた法律によってのみ租税が賦課される。これを、租税法律主義という。今回の経産省の廃炉費用や賠償費用を電気料金によって回収しようという発想は、国会での原発に関する議論を回避しようとするもので実に安易な発想である。福島第一の廃炉費用だけで電気料金の1割になる。これは消費税10%に相当する。むろん、福島第一原発事故による損害については、原子力損害賠償法は1,200億円の電力会社の支払い能力を超えた損害賠償についてはこれを租税で負担できるとしているが、その場合には、東電の全ての財産を処分し、清算してからである。当然、東電の株主は株価が0円となり「有限責任」を被らなければならない。金融機関や社債保有者も債券をカットしなければならない(「原賠機構法」2011.9.12により東電への援助に上限を設けず、株の減資や債権カットもないこととされている)。「東電を破綻処理しない」ことを前提として、福島原発事故関連費を「国が肩代わり」し「公的資金を投入する」ことには国民の理解が得られない。「東京電力改革・1F問題委員会」は東電の事故責任を棚上げにして、あたかも東電が自力で費用負担するかのように見せかけて費用を捻出しようとするもので、国家詐欺である。
 
5 電気事業は既に「資本主義」ではなくなった
 「電気事業は普通のビジネスでは考えがたい要素が多く、リスクも非常に高いことから、廃炉会計制度のような別の会計があって当たり前のように思う。」(伊藤委員)「小売の規制料金がなくなり、規制料金として残っているのは託送料金しかない場合に、託送料金の仕組みを使いながら回収していくのは仕方ないと思う。」(圓尾委員)「今回の検討内容は、自分を含め、普通にビジネスをしている人にとって、本当にクリアになるまで何度読み直してもわからない要素が出てくる。」(伊藤委員)「電力システム改革小委員会 2016.11.11資料」での委員の発言は既に電力事業が「資本主義」の枠をはみ出していることを如実に表している。「普通にビジネスしている人にとっては」理解しがたいということである。
 これまで電気事業は広く一般の需要者をサービス供給の対象とすること及び電気料金の算定基礎となるため一般に公正妥当な会計の原則に従うことが求められてきた(「総括原価方式」)。しかし、この間原発推進を後押しする国に都合の良いように会計規則が作り変えられてきた。たとえば、2015年には発電を終了し廃炉にも役立たない原子力発電設備などが、「原子力廃止関連仮勘定」として資産計上され、料金回収に応じて定額償却されることとなった。将来にわたり全く利益を生まない資産が減損されず電気料金の原価に参入されていくことはとんでもないことである。もはや、電気事業会計は電力会社の損失を国民に転嫁するためにだけある(金森絵里「電力会社を優遇する原発会計」『科学』2016.11)ものとなっている。

6 電力会社の姿は「株式会社」の崩壊過程に入った日本の先取り
 16世紀から17世紀の大航海時代、ヨーロッパでは、共同資本により、貿易や植民地経営のための大規模な企業が設立されるようになった。しかし、初期の貿易会社は、航海の都度出資を募り、航海が終わる度に配当・清算を行い、終了する事業でリスクを分散する意味もあった。しかし、18世紀の産業革命の勃興とともに、鉄道事業を始め多額の資本を集めなければ実行できない事業が急速に増加した。会社が大規模化した結果、株主が直接経営を行うことが難しくなり、専門的経営者に経営が委ねられるようになった。多額の資金を集めるために、株主の責任を「無限責任」から「有限責任」とし、株主の財産を会社の債権者から守り、出資をしようとする者にとってのリスクを限定することによって、多数の出資者から広く出資を集めることを可能にするためのものである。これはグローバルな世界という「無限空間」を前提とし、「利潤の極大化」が可能なシステムであった。
 ところが、東電の場合は事故処理費用というブラックホールのような「無限の負債空間」を抱えることとなった。いくら投資してもどんどん債務が膨らむシステムである。「資本の自己増殖」どころか「自己減衰」が起こっているのである。経産省はこれを電気料金という「打ち出の小槌」によってなんとか「株式会社」の体裁の中で動かそうとしているが、全く「資本主義」の逆を行くものであり、破綻は目に見えている。既に電気事業は放射性廃棄物の処分を含め「資本主義」の枠を越えている。国民国家による税金の投入しか方法がないのである。「資本主義」は「より速く、より遠く、より合理的に」「無限の空間」を猛スピードで進んできた結果、我々の生活水準も飛躍的に向上した。しかし、20世紀末には「無限の空間」は閉じ「有限」になってしまった。成長は終わったのである。その結果、金利もマイナスとなり、成長率もマイナスとなり(『株式会社の終焉』水野和夫)、さらには、福島は放射能に汚染されて「空間もマイナス」となってしまった。水野和夫は今後の思考ベースを「よりゆっくり、より近くに、より寛容に」と提案しているが、「有限責任」の株主がその最低の資本主義的責任すら果たさず無理やり国民に転嫁しようとする姿からは、国民は「寛容」だが、国家・資本は「より不寛容に、より不平等に、より暴力的に、より強欲に」という未来しか見えない。

【出典】 アサート No.468 2016年11月26日

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【投稿】米大統領選が明らかにしたこと 統一戦線論(30) 

【投稿】米大統領選が明らかにしたこと 統一戦線論(30) 

<<ヒラリーの誤算>>
 映像を通じて現代アメリカ社会・政治の問題を鋭く提起してきたマイケル・ムーア監督は、今年7月、早々と、自分のウェブサイトに、ドナルド・トランプの当選を予測するエッセイを投稿している。そして投票日直前の11/4のアメリカの独立放送番組・デモクラシーナウで、予備選では「大統領選で社会主義者と億万長者のどちらかを選ぶ大きな決定が下されるのだと私は期待していました」とバーニー・サンダース候補を支持していた彼が、クリントン候補を支持するようになった経過を語っている。
 ムーアは語る。「悪いニュースを知らせる人になってしまうのは残念だが、昨年夏にも、僕は、ドナルド・トランプが共和党の指名を受けるとはっきり言ったよね。今、もっと悪いニュースを告げよう。この11月、ドナルド・J・トランプは、当選するよ。卑劣で、無知で、危険な、時に道化師、常に狂ったこの男が、僕らの次の大統領になるんだ。」
 ムーアは、トランプが、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウィスコンシンの4つの州に集中したキャンペーンを行うと予測。そこは、かつて工業地区として栄えた地域。「もし本当に工場を閉鎖し、メキシコに製造を移すなら、メキシコで作られた車がアメリカに送られてくる時、35%の税金をかけてやる」「iPhoneを中国で作るのをやめさせ、アメリカにそのための工場を作らせてやる」というトランプの言葉は、まさにここの住民が聞きたい言葉だったのだ。ここはイギリスのど真ん中と同じ。イギリスのEU離脱で起こったことが、ここで起こるのだ、とも述べる。
 トランプに対するクリントンについては、「彼女はタカ派です。彼女はオバマより右寄り。それが事実です」、「ヒラリーがイラク戦争に賛成した時、自分は絶対に今後彼女には投票しないと決めた」と言う。だが、「ファシストが僕らの軍を率いる人になることを防がなくてはいけないので、僕は自分に対して結んだ約束を破る」と、消極的ながら、今度の選挙ではクリントンに投票すると述べる。しかし、自分が選挙に勝つことだけを重視している彼女は、古い政治の象徴だとし、「若者は彼女が嫌い。ミレニアル(2000年代に成人あるいは社会人になる世代)が彼女には投票しないと僕に言ってこない日は、1日たりともない。民主党支持者ですら、この11月8日、オバマの時みたいに、あるいはバーニーの名前が投票用紙にあった時みたいに、興奮に満ちて投票所に出かけることはしないだろう」と述べている。そしてこれが現実となってしまったのだ。
 ヒラリーがトランプ支持者たちを指して「a basket of deplorables」(嘆かわしく恥ずべき人々)と、いかにも上から目線で見下したエリート主義が、逆にこの言葉を利用され、「I am an adorable deplorable」(私は愛すべき恥ずべき人間です)という言葉を印刷したバッチが作られ、1つ2ドルで売り出され、飛ぶように売れるという皮肉な現象を招き、ヒラリーの誤算をさらに深めてしまったのである。金融資本の横暴を許し、貧困と雇用不安と格差の拡大をもたらしてきた新自由主義と闘うことを明示せず、このような従来の政治に取り残された人々に歩み寄ることをせず、トランプを支持する「残念な嘆かわしい人々」への批判に明け暮れ、マスメディアのヒラリー支持に慢心し、これで圧勝できると楽観した結果が、この事態をもたらしたと言えよう。日本の野党共闘や統一戦線にとっても貴重な教訓である。安倍政権やその支持者を見下し、こき下ろすだけでは、有権者の支持を獲得できないのである。

<<「驚いた」、「ショックだ」と言うのはやめないか>>
 さらにこの米大統領選の争点として、トランプの、移民排斥ナショナリズム、人種差別、女性差別、反グローバリズムなどが目立つ争点として取り上げられてきたが、本質的にはより重要な争点としてヒラリーのタカ派的好戦性 対 トランプの非軍事的外交政策というメディアが見過ごし、あるいは過小評価した隠れた争点の存在がある。ヒラリーの好戦性は、ムーアも指摘しているところであるが、クリントン夫妻財団が軍事産業から数百万ドルもの寄付を受けていること、ISISよりもロシアそのものに敵対する世界戦争をも辞さないタカ派的外交政策。対するトランプの、海外介入反対、ロシア・中国との関係改善など非戦闘的外交政策、軍事撤退発言、NATOの存在そのものを疑問視する(堤未果「戦争が隠れた争点」エコノミスト誌10/25号)という政策対立である。そしてこの政策対立でも敗北したのである。
 しかし、なおそれでも実際の投票結果は、クリントン氏が約5973万票で得票率48%、トランプ氏が約5952万票で得票率47%と、クリントン氏が僅差だが勝っている。州ごとでの得票数が一番多かった候補が、大統領を指名する「選挙人」をその州で総取りできる選挙人制度のゆえに、総得票数で敗北したトランプに勝利をもたらしたのである。
 ムーアは、投票日翌日の11/9、IN THESE TIMES WEB 上で、「「驚いた」、「ショックだ」と言うのはやめないか。そんなことを言うのは、君が泡の中に生きていて、まわりの人たちのことやその人たちの絶望に見て見ぬふりをしていたことを告白しているだけだ。何年も両方の政党に見放されてきた人たちの間で、現在のシステムへの怒りと復讐心がたまりにたまってきたのだ。トランプの勝利は驚きではない。彼はメディアが作り出したのだが、同時にメディアを作り出してきた。そしてメディアの手に負えなくなった。トランプが大統領に当選したのは、選挙人という不可解な、まともでない、18世紀に考え出された制度のせいなのだ。この制度を変えない限り、私たちは選んでもいないし、望んでもいない大統領を戴き続けるのだ。」と語っている。
 敗北した民主党では、クリントンと闘ってきたサンダース氏が、米民主党上院指導部入りし、新設のアウトリーチ(普及)委員会の責任者となり、上院予算委員会の上級議員にも再任、サンダース氏とともにウォール街・金融資本の横暴を批判し、改革を訴えてきたエリザベス・ウォーレン上院議員も指導部入りし、再建に乗り出している。
 サンダース氏は11/16、ワシントンのジョージタウン大学で行われた演説で、「人種差別や男女差別、性的マイノリティーへの差別、イスラム教敵視などとは徹底してたたかう」と語ると同時に、いくつかの問題についてトランプ次期大統領とともに働けることを希望していると述べて、以下の6点の大多数の共和党の政治家とは異なる公約を具体的に取り上げて、その実行をせまっている(保立道久の研究雑記、11/19より)。
 (1)トランプ氏は社会保障予算をカットすることはしない。メディケアとメディケードを切ることはしないといった。私は拡充せよと主張するが、切らないというのは前提であり、重要な約束だ。
 (2)トランプ氏は、1兆ドルを我々の公共的なインフラ整備に投下すると約束した。それをすれば何百万もの給料の良い仕事口ができる。これも私の主張に共通する。
 (3)私は、今日の連邦の最低賃金が飢餓賃金であり、それは1時間につき15ドルにアップされねばならないと主張した。トランプ氏は、1時間につき10ドルまで最低賃金を上げなければならないと言った。これは十分ではないが、一つのスタートだ。
 (4)トランプ氏は、ウォール街の許しがたい強欲さと悪行を批判し、ニューディールで採用されたグラス・スティーガル法を復活するといった。これは最大の焦点のひとつだ。賛成なことはいうまでもない。
 (5)トランプ氏は、6週の有給出産休暇を実現すると約束した。地球上で主要な文明国といえば少なくとも12週の有給の家族と病気療養休暇が条件だが、これもスタートとしては重要だ。
 (6)トランプ氏はTPPなどの我々の壊滅的な貿易政策を変えるといった。これも賛成だ。
 時代錯誤の無知で頑迷な人種差別、外国人ヘイト、性差別などではまったく妥協はしない。しかし、以上が、誠実に行われるかどうかが問題だ。一緒にできることはいくらでも協力する。期待していると言ってもよい。
と語っている。これを紹介した保立氏が言う通り、「アメリカ政治はトランプ対バーニー・サンダースで動き始めた」と言えよう。

<<自衛隊を「災害救助隊」に>>
 安倍政権は、このトランプ次期米大統領に便乗し、この機会を逃さずと、防衛費をさらに増大させ、軍事政権化をますます強め、独自核武装をさえ視野に入れ、改憲への動きを一層加速させる強い衝動に駆られていると言えよう。
 安倍首相のこの衝動は、すでに9/26の衆院本会議で行った所信表明演説で、領土や領海、領空の警備に当たっている海上保安庁、警察、自衛隊をたたえ、「現場では夜を徹し、今この瞬間も海上保安庁、警察、自衛隊の諸君が任務に当たっている」と強調。「今この場所から、心からの敬意を表そうではありませんか」と呼びかけ、首相自ら壇上で拍手をして演説を中断、自民党議員らのスタンディングオベーションを促し、この呼び掛けに、自民党議員が一斉に立ち上がり大きな拍手で呼応した、そのまるで「国防戦士」をたたえるヒトラー気取りの姿勢とぴたりと重なり合っている。これに対して共産党は、「自衛隊が災害時の救命・救援に当たっていることを多くの国民は共感し支持していますが、…」(しんぶん赤旗10/2号)と完全に腰が引けてしまったのである。
 このヒトラーまがいの独裁的姿勢は、参院選さなかの6/26のNHK「日曜討論」で共産党の藤野政策委員長が防衛費について「人を殺すための予算」と形容したことをここぞとばかりに攻撃、これに屈して共産党が政策委員長を辞任させ、「自衛隊員の皆さまの心を傷つけた」として取り消し、謝罪させたこと。さらには7/4にはNHK番組の中で、小池書記局長が「私は、熊本地震や東日本大震災で、本当に自衛隊員のみなさんが大きな役割を果たしていると思います。・・・もし日本に対して急迫不正の侵害があれば、自衛隊のみなさんに活動していただくということは明確にしているんです。」と、自衛隊の違憲性を主張するどころか、自衛隊を持ち上げる路線に踏み出したことと軌を一にしており、このスタンディングオベーションはさらに共産党に対してより一層屈服するように畳みかけたものとも言えよう。
 先ごろ、日本共産党が11/15-16の両日に開いた第7回中央委員会総会で、志位和夫委員長が行い、承認された、来年1月の第27回党大会決議案は、自衛隊に関して
「安保条約を廃棄した独立・中立の日本が、世界やアジアのすべての国ぐにと平和・友好の関係を築き、日本を取り巻く平和的環境が成熟し、国民の圧倒的多数が「もう自衛隊がなくても安心だ」という合意が成熟したところで初めて、憲法9条の完全実施に向けての本格的な措置に着手する。
 ――かなりの長期間にわたって、自衛隊と共存する期間が続くが、こういう期間に、急迫不正の主権侵害や大規模災害など、必要に迫られた場合には、自衛隊を活用することも含めて、あらゆる手段を使って国民の命を守る。日本共産党の立場こそ、憲法を守ることと、国民の命を守ることの、両方を真剣に追求する最も責任ある立場である。」と述べている。
 これでは、「かなりの長期間にわたって」自衛隊批判が許されない風潮を蔓延させる完全な屈服路線である。
 森永卓郎氏は、マガジン9NEWS ’16.11.16号「森永卓郎の戦争と平和講座」で、トランプ大統領誕生を機に、防衛費増大ではなく、自衛隊の「災害救助隊」への改組を提案している。森永氏は言う、「私のアイデアはこうだ。まず、自衛隊を『災害救助隊』に改組する。自衛隊の本務を災害救助に変更するのだ。だから日常的に行う活動や訓練は、災害救助だけにする。ただし、災害救助隊は、日本の本土が侵略された場合には、国土を守る任務を別途持つことにする。つまり災害救助隊は、副次的に、有事の際の本土防衛に限定した機能を持つのだ。だから、災害救助隊は、海外には災害派遣以外の目的では行かないし、装備も災害救助のためのものを最優先し、武器は本土防衛に必要なものしか保有しない。イージス艦は持たない、空母も持たない、敵軍を攻撃したり、敵地を侵略するための兵器は一切持たないのだ。イメージとしては、海上保安庁と同じだ。」
 すでにこうした政策提起は、全国水平社設立の中心となり、水平社宣言の起草者として知られる西光万吉さんの「和栄隊」構想と軌を一にするものである。西光さんは、戦前軍部に利用された苦い経験から、原水爆禁止の運動に挺身し、破壊的な武力で国を守るよりも、日本の一切の武力を否定し、知識や技能の訓練を受けた若者らを平和建設の部隊として、世界の平和と人類の幸福に貢献すべきだとして、「国際和栄隊」の創設を提唱したのであった。(加藤 昌彦著『水平社宣言起草者 西光万吉の戦後』‐世界人権問題叢書、明石書店、2007/5/17発行に詳説)
 日本の野党共闘と統一戦線は、安倍政権の軍事対決・緊張激化路線に対して、受け身で屈服するのではなく、こうした明確な平和・軍縮政策をこそ積極的に対置し、打ち出すべきであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.468 2016年11月26日

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【本の紹介】「日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか」

【本の紹介】「日本はなぜ「戦争ができる国」になったのか」(矢部宏治著)
      —「自衛隊」は発足時から米軍の指揮下にあることを解明— 

 11月17日安倍首相は、アメリカのトランプ次期大統領と会談を行った。大統領就任前で政策も定まらず、新政権のスタッフ人選も混乱している中、何を目的に会談したのか。TPPや日米安保について語ったと言われているが、おそらくその本質は、日本は引き続きアメリカに「隷属」いたしますと伝えに行ったということだろう。米軍の駐留は引き続き日本に必要だと。
 著者矢部宏治さんは、前著「日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか」を2014年10月に出版している。米軍が平和条約締結後も60年以上駐留し、そして福島原発事故があっても原発を止められないのは日本政府を陰で支配するアメリカの存在があり、それは条約の裏にある「日米密約」の存在が原因であるとの内容であった。
 今回の著書では、①米軍が日本の基地を自由に使うための密約(基地権密約)と②米軍が日本の軍隊を自由に使うための密約(指揮権密約)の存在について、アメリカ公文書館の公開資料等を基に明らかにされる。
 本書の注目点は、1、戦争と軍備を放棄した憲法9条があるにも関わらず、なぜ自衛隊という軍隊が存在しているのか、2、サンフランシスコ平和条約で、日本は占領から脱したはずなのに、なぜ米軍基地が占領状態のごとく日本に存在しているのか、3、昨年強行採決された安保関連法によって、自衛隊は国内に限定した活動から国外での米軍の軍事行動を支援することが可能になった。米軍の指揮権のもと、日本が「戦争ができる国」になったことを明らかにしている点である。

<朝鮮戦争勃発で状況は一変した>
 1947年5月2日に日本国憲法は施行された。日中戦争・太平洋戦争を引き起こした旧陸海軍を解体し軍隊を持たず戦争を二度と繰り返さない国にする事は、敗戦時の連合国軍司令長官マッカーサーの構想であった。しかし、1950年に勃発した朝鮮戦争を起点とする「冷戦」時代の到来によってアメリカの日本に対する位置付けは大きく変化していくことになる。
 社会主義のソ連と中国に対抗するため、日本がアジアにおける防衛拠点とされていくのである。さらにマッカーサーは朝鮮戦争の最中、一進一退の戦争状態の責任を問われ、司令官を解任されてしまう。その後の日米関係(占領終了後も米軍が駐留できる)を構想し実行したのは、後に米国務長官となるジョー・ダレスであったと著者は言う。
 
1950年代前半の歴史的経過は、以下の通りである。
(1947年5月2日に日本国憲法は施行。)
1950年6月25日 朝鮮戦争勃発(北朝鮮軍が「国境」を超える)
1950年8月10日 「警察予備隊令」交付
1951年4月11日 マッカーサー解任
1951年9月8日 サンフランシスコ平和条約調印(1952年4月28日施行)
  同日 旧安保条約締結(別に「交換公文」手交)
1952年7月 旧日本軍将校の追放解除(警察予備隊に採用)
1952年10月 警察予備隊廃止し、「保安隊」発足
1953年7月27日 朝鮮戦争休戦協定締結 

 1945年9月日本に進駐した米軍は、連合国軍として日本占領を行い、陸海軍の武装解除や戦後改革を実施した。ポツダム宣言には、「平和条約締結後は、連合国軍は速やかに撤収する」との条項があった。朝鮮戦争には駐留米軍が「国連軍」として投入され、日本国内の米軍基地防衛のため「警察予備隊」が米軍の指示により創設された。米軍基地を警護する活動のみ行うとされた。平和条約締結後ポツダム宣言に基づく占領状態の終結を前に、日本に引き続き米軍を駐留させることを米軍もアイゼンハワー大統領も望んだ。

 著者は、1950年の朝鮮戦争の勃発により、マッカーサーが構想した「軍備を持たず、戦争をしない」という戦後日本の国の形は、朝鮮戦争へ参戦した米軍を「将来の国連軍」と見なして、「国連軍」としての米軍の戦争行動に、基地も「軍隊」も協力できる国へと変貌させたと指摘する。「・・・正規の国連軍ができない間は、国連憲章の中にある「暫定条項(106条)」を使って、日本が「国連軍のようなアメリカ」との間に、「特別協定のような二カ国協定(旧安保条約)」を結んで「国連軍基地のような米軍基地」を提供することしすればいい。それは国際法の上では合法である」と。基地権は、その後安保条約の改定を経ても維持され、「占領下の基地提供」が続いている。
 
<「自衛隊」が発足時から米軍の指揮下にあることを解明>
 さらに著者は、米軍の指揮権について、どのように成立したのかを明らかにする。
 1951年サンフランシスコ平和の締結後、旧安保条約が吉田首相によって調印されるが、その際別の「交換公文」が存在するという。それが「吉田・アチソン交換公文」である。
 「こうして国民が全く知らないうちに生み出された「吉田・アチソン交換公文」という、この日米間の巨大な不平等条約が意味しているのは、日本は占領下で米軍(朝鮮国連軍)に対して行ってきた戦争支援を、独立後も続ける法的義務を負わされてしまったという事実です。」「吉田・アチソン交換公文の全文と解説を読んでいただければ、「占領体制の継続」よりはるかに悪い「占領下における戦時体制(戦争協力体制)の継続」であることがはっきり理解してもらえると思います。」
 これで、基地権と戦争協力について、不平等な日米の法的関係は完成することになった。 次に、指揮権の問題である。1952年7月「有事の際に単一の司令官は不可欠であり、現状ではその司令官は合衆国によって任命されるべき」と吉田茂が発言した口頭の密約が存在し、さらに1954年2月に2度目の口頭密約が行われた。そして、統一指揮権を含む「国連軍地位協定・合意議事録」1954年2月に調印され、同年7月自衛隊が発足している。
 「完全にアメリカに従属し、戦時には米軍の指揮下に入る自衛隊」が出現したのだという。基地の提供、戦争協力・指揮権をアメリカに差し出した日本。そして司法までアメリカへの戦争協力体制に加担することになる。
 
<安保条約の違憲性を裁判所は判断しない—統治行為論—>
 司法もアメリカの圧力に屈し、高度な政治的問題は、司法は判断できないとする「統治行為論」を1959年12月9日砂川事件の最高裁判決の中で展開。これにより、数々の違憲訴訟において「裁判所の範囲ではない」と判断を回避した。統治行為論によって、以後裁判所は、日米の軍事同盟問題について、違憲判断を行わないのが慣例となってしまった。
 そして、昨年9月に強行採決された安保関連法によって、国内の活動(専守防衛)に限定されていた自衛隊の活動範囲を、米軍の指揮下に世界のどこでも行動(戦争)ができる「法的根拠」が整備されたのである。
 
 本書の内容は、私も初めて知ったことも多く示唆されるものが多かった。専守防衛と言われるが、米軍指揮下においては、自衛隊の交戦は認められる、それは憲法9条に違反しないとのロジック。朝鮮戦争が終結しておらず、国連軍が組織されていないあいだは「国連軍(米軍)」の指揮下で有事の際は、戦争ができる自衛隊。
 日米同盟は基本と、自民党も民進党も主張するが、「不平等な日米同盟」を脱することこそ、まず求められるのではないかと感じた。
 
 戦後史をめぐる書籍は、戦後70年を前後して数多く出版されている。
「検証法治国家崩壊–砂川裁判と日米密約交渉 創元社 戦後史再発見双書2」・「戦後史の正体 1945-2012 孫埼亨著 創元社 戦後史再発見双書1」などがある。もう一度読み返してみたい。(2016-11-20佐野)

【出典】 アサート No.468 2016年11月26日

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【投稿】国会翼賛化進める安倍政権

【投稿】国会翼賛化進める安倍政権
            ―野党は解散総選挙の準備進めよ―

<与党ペースの前半国会>
 9月26日開会された192回臨時国会で、安倍政権は不誠実な対応をとり続けている。安倍は所信表明演説で自衛隊、海保、警察に敬意を示そうと呼び掛け、自民党の多くの議員がスタンディングオベーションで答えた。自己陶酔と阿諛追従の極みであろう。
 これには民進、共産などの野党、さらには「ほぼ与党」と言ってもよい維新までもが、異常な事態だとし再発防止を求め、27日の衆院議運理事会で確認された。しかし当の本人の安倍や閣僚は意にも介せず、野党の質問に対し不誠実な対応に終始している。
 民進党などは衆参の代表質問で、憲法審査会再開の前提として、超復古主義的な自民党改憲草案の撤回を求めた これに対し安倍は頑なに撤回を拒否、あくまでも現行憲法の全面的否定に拘泥する姿勢を示したが、結局自民党は改憲草案の事実上の棚上げで妥協し、審査会の論議が再開される方向となった。
 10月3日の衆院予算委では、韓国の元従軍慰安婦への対応に関し「(自らの)お詫びの手紙は毛頭考えていない」と言い放ち、元慰安婦など関係者の神経を逆なでした。手紙等は昨年末の日韓最終合意に含まれていないとしているが、「10億円渡したのだからごちゃごちゃ言うな」との安倍政権の考え露骨に表れている。こうした不誠実な対応が続けば、韓国の次期政権による合意見直しの動きも浮上するだろう。
 国会では連日、野党からアベノミクスの行き詰まりを追及されたが、安倍は農協改革や電力自由化などを進めてきた、働き方改革は待ったなし、年金運用(GPIF)は民主党政権時よりうまくいっているなどとはぐらかした。
 ところが10月3日の日銀短観では、業況判断指数(DI)は6月調査と変わらず、2期連続の横ばいであることが明らかとなった。さらに6日、ワシントンで開かれたG20財務相、中央銀行総裁会議では「毎度おなじみ」の政策総動員が確認されたものの具体策は打ち出せず、同会議では日本経済に関しても、デフレ脱却が進まずに金融緩和が長期化し今後も低成長が続くと、ネガティブな見通しが示された。
 国民生活レベルでも電通社員の過労自殺が衝撃を与え、新たな年金ルールでの支給額削減が明らかになった。このように国内外でアベノミクスの行き詰まりが明らかにされているにもかかわらず、安倍は今国会を「アベノミクス加速国会」と位置づけ、「マイナス金利の深堀り」=「墓堀」などという異常な金融政策に依拠せざるを得ない経済政策を強引に進めようとしている。
 こうした失政を糊塗するための16年度補正予算3兆2869億円が、11日自民、公明に加え日本維新の会も賛成し成立した。維新は事実上の閣外協力の立場を鮮明にし、あまつさえ自公維連立政権―翼賛体制の様相を呈した。
 このような維新の対応を批判した民進党の江田憲司に対し、大阪府知事でもある松井一郎は「江田は痴呆症」と暴言を吐いた。猖獗を極める「3分の2勢力」の知性レベルを如実に示すものである。

<軍拡は着実>
 足元がおぼつかない経済、金融政策に対して、安倍政権の軍拡、緊張激化政策は着実に実行されている。安倍政権は自衛隊への「駆け付け警護任務」「宿営地の共同防護任務」の付与を目論んでいる。
 10月8日、先月南スーダン訪問をドタキャンした稲田防衛相が首都ジュバを訪れた。稲田は国会前半で、核武装に関する過去の言動等について追及され、満足な答弁ができなかった。
 中国漁船を「公船」、中国艦艇を「戦艦」(これは右派が批判する福島瑞穂の「米空母からB52が飛び立つ」に匹敵する)と言い間違え、さらには「防衛費」を軍事費と本当のこと言ってしまい(これは仙谷由人の「暴力装置」に匹敵するヒット)審議を混乱させた。
 さらに9月30日の衆議院予算委では、戦没者追悼式に関する矛盾した言動を指摘され泣き出してしまった。これは靖国参拝問題をクリアさせるための稲田への官邸の配慮が裏目に出た形となった。
 こうしたなかジュバ入りした稲田だが、視察は陸自の軽装甲機動車に便乗、前後をいつ敵対するか判らない政府軍部隊に挟まれてのものだった。現地の滞在は約7時間であり文字通りとんぼ返りの形式的なもとなった。
 南スーダンでは7月に発生したジュバでの大規模な戦闘の後も、大統領派、元副大統領派の交戦や民間人への襲撃が続いている。11月になれば乾期に入るため、泥濘で移動が困難だった北部でも戦闘が激化すると懸念されている。
 稲田は帰国後の11日の記者会見で「ジュバの市内、かなり何点か行きましたけれども、そこは比較的落ち着いているという印象をこの目で見て感じたところであります」と感想を述べた。
 同日の参議院予算委では安倍が「衝突はあったが戦闘行為ではなかった」と詭弁を呈した。これは小泉元総理の「自衛隊の活動する地域が非戦闘地域」はおろか、戦争を「事変」と強弁した旧軍部にも通じるものがある。
 翌日の衆院予算委では共産党の質問に対し安倍は「南スーダンは永田町より危険」と国会を愚弄するような答弁を行い、18日の閣議後の記者会見で稲田は「ジュバではPKO5原則は保たれている」と再度強弁、新任務付与を押し通そうとしている。新任務では隊員の戦傷死の危険性が高まるが、戦場医療体制はお粗末なままであり、国会での拍手も空虚に響くのみである。
 この動きに連動し、アフリカ大陸に対する軍事的プレゼンスが強化されようとしている。NHKは10月14日、ソマリア沖での海賊対処活動について、防衛省は近年海賊が激減したことと、中国、北朝鮮への対応から、年内にも派遣護衛艦を2隻から1隻に減勢する方針と伝えた。これが事実なら海賊対処のため設けたジプチ基地は縮小するのが筋であるが、事態は逆である。
 政府はすでに昨年ジプチ基地の拡張方針を示していたが、13日のロイター通信によれば、今後ジプチに輸送機と新型装甲車を常駐させる方向だと言う。護衛艦は減らすが、対地攻撃も可能な哨戒機については2機のまま据え置くとしており、基地の任務が海賊対処からアフリカ大陸における橋頭堡へと変貌したことを示している。これはアフリカにおける権益確保とともに、同地、東シナ海における対中シフトの強化という安倍政権の方針に沿ったものである。
 
<孤立化進む日本、民進党>
 8月のTICAD6(第6回アフリカ開発会議)開催にも明らかなように、アフリカへの思いを強くする安倍であるが、アフリカ諸国はプラグマチックである。 
 10月4日南アフリカのヨハネスブルグで開かれていた、ワシントン条約締約国会議は、米国やケニアなど10か国が提案した象牙の国内取引禁止=市場閉鎖決議を採択した。日本は修正を求めていたが押し切られた形となった。政府は半ば負け惜しみかのように「日本の市場は対象外」と強弁している。
 しかしTICAD6を「大成功」「日本はパートナー」と称賛したケニアは今回「日本市場も当然対象」と手のひらを返したようにけんもほろろである。決議は中国が米国、アフリカ諸国と協調し賛成に回ったのが大きいが、またしても、安倍外交の無価値さが露呈し、アフリカ大陸での対中劣勢が明らかとなった。
 安倍の片思いはアジアでも進行している。ドゥテルテ大統領の反米、親中路線が加速している。フィリピンではアメリカとの合同軍事演習が行われているがドゥテルテは「これが最後だ」と突き放した。
 武器購入を巡っても「アメリカが売らなくても、中国やロシアから買えばよい」と発言するなど、ますますアメリカへの対決姿勢を強めている。10月18日の中比首脳会談では、南シナ海問題は脇に置かれ、共同声明では経済協力の推進など友好関係の発展が確認された。
 この動きに安倍政権は困惑を隠せないが、25日に訪日するドゥテルテにどう対応するのか。アジアでは先にプミポン国王が死去したタイでも、潜水艦購入など対中接近を進める軍部の影響力が強まるのは明らかであり、インドシナ半島はベトナム以外すべて親中になろうとしている。
 10月15日からインドのゴアで開かれたBRICs首脳会議は、各国の思惑が交錯し強力なメッセージは発信できなかったが、それでも共同声明で「第2次世界大戦の結果を否定することは許されない」と名指しはしないが、日本を牽制することでは一致した。このようにアジアでも対中劣勢が進むのは確実であるが、世界的にも孤立が進もうとしている。
 パリ協定を巡り、9月以降アメリカ、中国、インド、EUなど主要国、地域が雪崩を打ったように批准を決定し、11月4日の発効が確定した。慌てた日本政府は10月11日ようやく閣議決定を行ったものの、批准手続きは11月7日からの協定締約国会議には間に合わず、温暖化対策における影響力の低下は避けられない情勢となった。
 日本の孤立化が進む中、同盟国アメリカは大統領選の混沌とその後の動きが不透明であり、現在安倍が頼るのはロシアしかないようである。この間、歯舞、色丹の返還は既定路線の様に喧伝され、あるいは日露共同統治など安倍政権に都合の良い観測気球が揚げられている。しかし、ロシアは足元を見て「対日68項目の要求」などハードルを高めてきており、楽観できる状況ではないだろう。
 11月にはロシアの空母機動部隊がシリア沖に到着し、イスラム国など反アサド勢力に対する攻撃を始めると見られている。アメリカとの緊張がさらに高まれば、12月のプーチン訪日も不安定となるかもしれない。
 こうした中にあっても安倍が国内では失政をものともせず高支持率を維持し、依然1月解散説が根強いのは、民進党の軸足が定まっていないことにある。
 東京、福岡の補選結果は織り込み済みとはいえ、ここで野党が動揺すれば安倍政権の思う壺であろう。2012年野田が3党合意の直後に解散していれば、民主党のあそこまでの惨敗は無かっただろう。解散権を持つ野田が躊躇している間に、安倍の復活を許し維新に十分な準備期間を与えてしまった。 
 次期衆院選には小池新党は間に合わないかもしれないが、新党が旗揚げすれば東京の民進党は壊滅し、蓮舫の足元も崩れ去るだろう。新潟知事選で民進党は市民共闘から脱落した。中途半端な対応ではさらに窮地に追い込まれ、孤立化するだろう。野党4党には新潟知事選の教訓を踏まえ、後半国会では経済政策、TPP問題での追及を強めながら、安倍政権の解散戦略を受けて立つ選挙協力体制の構築が求められている。(大阪O)

【出典】 アサート No.467 2016年10月22日

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【投稿】「もんじゅ」廃炉をめぐる課題

【投稿】「もんじゅ」廃炉をめぐる課題
                            福井 杉本達也  

1 やっと「もんじゅ」の廃炉が決定
 「政府が,高速増殖炉『もんじゅ』について廃炉を含め抜本的に見直すことを前提に,新たな高速炉開発の司令塔機能を担う『高速炉開発会議(仮称)』を設置する方針であることが21日わかった」)(朝日デジタル:2016.9.21)。存続を求める文部科学省と、「もんじゅ」抜きの核燃料サイクル政策をめざす経済産業省の主張が対立したが、経産省の意向が通るかたちで決着した。「規制委は日本原子力研究開発機構に代わる新たな運営主体を求めたため、文科省は電力会社などを新たな受け皿に期待したが、かなわなかった」(日経:2016.9.22)。
 高速増殖炉「もんじゅ」は1983年の原子炉設置許可から33年,1994年の初臨界から22年,その間,実働わずか250日で1兆2000億円もの莫大な予算が投じられてきた。使用済み核燃料からプルトニウムを取出し,再び燃料とすることで“夢の原子炉”、“ 核燃料サイクルの本命”といわれたが,1995年8月29日の初発電から4カ月も経たない12月8日に冷却材のナトリウム漏れ事故が発生し運転が停止。5年後の2010年5月には再び運転が開始されたが、45日後には炉内中継装置の落下事故で再び運転が停止された。その後も数々の点検漏れなどの不祥事が続き,2013年には原子力規制委から事実上の運転禁止命令が出されるなど再稼働のメドがつかない状態が続いていた。この間,設備維持などで年間200億円もの公費が投入されていた。では、政府が廃炉を決定した要因は何か。まさかたかが規制委の「勧告」の力ではあるまい。背景には米国の圧力がある。
 
2 「もんじゅ」存続にこだわり続けた理由は日本の独自核武装にある
 日経は「ここまで政府がもんじゅの存続に固執続けてきた理由は核燃料サイクルにある…高速増殖炉の存在が危うくなれば、核燃料サイクルや原子力政策自体が揺らぐ。日本にプルトニウムの平和利用を認め、18年に更新時期を迎える日米原子力協定にも影響を及ぼしかねない」(日経:同上)と書くが、「核燃料サイクル」とは核兵器の材料としてのプルトニウムを取り出すことである。
 「もんじゅ」は「増殖炉」というが燃料のプルトニウムの倍増には50年以上がかかる。50年以上となれば建て替えも必要となってしまう。とても増殖どころではない。しかも、プルトニウムは圧倒的に炉心燃料に存在する。ところが炉心は核分裂で貴金属が大量に作られ、これは再処理するための硝酸には溶けない。「もんじゅ」の真の目的は炉心の再処理にあるのではなく、炉心を取り巻くウラン238で構成されるブランケットと呼ばれる燃料集合体にある。これを毎年取り出せば(燃焼し過ぎでプルトニウム239以外の放射性物質ができないよう生焼き状態で)、プルトニウム98%という超純粋の兵器級プルトニウムを62kg製造することが可能である。これを東海村の特殊再処理工場(RETF)で再処理すれば超兵器級プルトニウムを抽出できる。3kgで1発の核兵器が製造できるとすれば20発分である。3.11後においても、石破茂前地方創生相は「報道ステーション」に出演して「日本は(核を)作ろうと思えばいつでも作れる。1年以内に作れると。それはひとつの抑止力ではあるのでしょう。それを本当に放棄していいですかということは、それこそもっと突き詰めた議論が必要だと思うし、私は放棄すべきだとは思わない」(2011.8.16)と述べるなど、文科省(旧科学技術庁)を中心とする独自核武装の動きは続いている。

3 「高速炉開発会議」・実験炉「常陽」の活用・仏と共同の「ASTRID」計画は独自核武装研究の隠れ蓑
 政府は「もんじゅ」が廃炉にすることを決定したが、核燃料サイクル構想=独自核武装を完全に諦めたわけではない。主導権は文科省から経産省に移るものの、新たな「高速炉開発会議」を設け、茨城県にある実験炉「常陽」とRETFを活用して独自核武装を推し進める方針に変わりはない。原子力機構は既に「常陽」の再稼働に向け規制委に安全審査申請する方針を明らかにしている(福井:2015.12.2)。「常陽」は、2007年に「もんじゅ」と同様の燃料棒引き抜き装置の事故を起こしている。「常陽」は99.2%の超兵器級プルトニウムを製造することが可能であるが、1982年に炉心を改造してブランケットを取り外している(それまでに19.2キロ=原爆6発分のプルトニウムを生産している)。「もんじゅ」廃炉となればブランケットを再び設置し、2000年から工事が中断しているRETF(福井:2015.9.2)の工事を再開、超兵器級プルトニウムを製造することは可能である(毎日「核回廊を歩く」:2015.11.28)。
 一方、「もんじゅ」に代わり,経産省が推し進めるのがフランスの高速炉計画「ASTRID」プロジェクトである。工業用実証のための改良型ナトリウム技術炉で,日仏で共同開発を進め2030年までの実用化をめざすというが、計画はすでに2年前から決まっており、「もんじゅ」廃炉後の目くらましで国民からの批判をかわし核兵器の研究を続けることができる。

4 シリア問題と余剰な兵器級プルトニウム廃棄に関する米ロ協定の停止との関係
 シリア内戦での米国による停戦破りにからみ、ロシアのプーチン大統領は10月3日、対米関係の悪化などを理由に、余剰な兵器級プルトニウム廃棄に関する米ロ協定を停止する大統領令を発表した。2000年に米国との間で双方が核爆弾数千個分に相当する34トンのプルトニウムを処分するとしていた。2010年、米国は、ロシアとの「プルトニウム管理・処分協定」において、同協定の対象となる34トンの兵器級プルトニウムのすべてをウラン・プルトニウム混合燃料(Mixed Oxide Fuel(MOX 燃料))として焼却処分すると約束した。しかし、2014年4月、オバマ政権は、MOX に変わる方法について希釈又は固定化することを選択し、MOXで焼却することをやめた(核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM):「MOX利用に代わる道」2015.4)。つまり、米政府は、自国のプルトニウムを「焼却」せず、他の材料でそれを薄め、放射性廃棄物貯蔵所に置くことを計画している。プルトニウムを回収し加工して、再び核兵器製造に適した材料に替えることが可能となる(Sputnik:2016.10.5)。
 米国は2014年、ウクライナでクーデターを起こし、ポーランド・ルーマニアで対ロミサイル迎撃網(MD)の構築を図るとともに、デンマークやNATOに加盟しないフィンランドでも計画している。また、9月30日、韓国は北朝鮮の核に対抗するという名目で、実質は中ロのミサイルに対抗する米ミサイル迎撃システム(THAAD)の配備先候補地をロッテグループのゴルフ場に決定した。また、南シナ海では西沙諸島を巡り、米太平洋艦隊が中国に対する威圧航行を行っており、これらに日本も加担している。
 今年3月には東海村・原子力機構の高速炉臨界実験装置(FCA)に使用していた兵器級プルトニウム331キロ(核兵器100発以上)を米国に返還させられた。また、京大原子炉の兵器級高濃縮ウラン45キロ(核兵器2発分)も返還されることとなった。これら一連の動きはバラバラのものではなく、先制核攻撃を準備するために日本などに分散保管されていた兵器級プルトニウムなどを米国に集中しようとするものである。冷戦がもたらした危険な遺産としての約220トンの兵器級プルトニウム(そのうちの95%を米ロ両国が所有)があるが、冷戦終結以降、米ロは核兵器保有量を大幅に減らしており、兵器級プルトニウムの約半分が余剰として処分対象となるとしてきた。米国の一連の動きは、こうした核兵器削減の流れに逆行するものであり、「もんじゅ」廃炉もこの渦中にある。中東・アフガンに多くの通常兵力を固定された米軍は、ロシア・中国を牽制するために、「核なき世界」どころか再び核兵器に頼ろうとしており、「属国」に独自核武装を認める余裕は益々少なくなっているようである。

5 「もんじゅ」廃炉後の使用済みMOX燃料の課題
 福島第一原発の事故において、使用済み核燃料の恐ろしさについて再認識した。3号炉では貯蔵用プールの冷却機能が失われ、大爆発を起こした。4号機核燃料プールの水がなくなれば、首都圏3000万人の避難という事態も想定されていた。貯蔵された使用済み核燃料に爆発事故などが起これば、大量の放射性物質が飛散する。「もんじゅ」の使用済みMOX燃料を直接処分する場合には、中間処分(使用済み燃料プールに入れて間断なく水冷する)期間として数世紀(500年)を必要とする。MOX燃料の発熱量は、ウラン燃料を10年間冷却した後の発熱量と100年経過してやっと等しくなる。ひたすら燃料プールで冷やし続けるしかない。日本で500年前といえば北条早雲が活躍した戦国時代である。
 一方、使用済みMOX燃料の実質的な再処理は極めて難しい。プルトニウムを燃やした燃料は大変溶けにくく、放射能含有量は通常使用済み核燃料の10倍にもなり、特に遮蔽の難しい中性子線が10倍と大量に出る。これが米ロ合意でロシアが兵器級プルトニウムのMOXによる処分を提案していた理由である。「もんじゅ」は廃炉になっても子々孫々への放射能処分という重い課題は残る。

【出典】 アサート No.467 2016年10月22日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | 【投稿】「もんじゅ」廃炉をめぐる課題 はコメントを受け付けていません

【投稿】新潟県知事選と野党共闘 統一戦線論(29)

【投稿】新潟県知事選と野党共闘 統一戦線論(29)  

<<首都圏大規模停電と原発再稼働>>
 10/12に発生した、埼玉県新座市での爆発を伴う東京電力・地下送電線の火災は、軽く見過ごされてはならない深刻な問題を提起している。この火災による首都圏の大規模停電は、東京都新宿区、豊島区、板橋区、練馬区、中野区、北区、文京区など広範囲に及び、延べ58万6千戸が停電、政府中枢施設や鉄道・交通網にも影響が出たのであるが、問題はその原因である。
 第一は、電力設備の重要かつ不可欠なインフラである送電線網が極度に老朽化・劣化しているというごまかしようのない事実が露呈されたことである。問題の電線ケーブルは、最長25年という耐用年数を無視して、設置以来35年を経過していたこと。中には敷設から57年経過したケーブルもあるという。しかも、保守点検は年に1回、目視検査だけであったこと。さらにこの出火した送電ケーブルは「OFケーブル」と呼ばれるタイプで、電気が通る銅製の電線が通り、その内側に絶縁のための油が流れるパイプがあり、電線の外側にはパイプからしみ出た油を含んだ絶縁紙が巻かれているが、東電は10/12の記者会見で、「(経年劣化により)絶縁紙にひびが入るなどして、高圧の電流が漏れて火花が発生。油に引火して燃え広がった可能性がある」と説明して、経年劣化による漏電、引火、爆発の可能性を認めている。いったん事故が発生すれば、引火が連鎖し、容易に消火することができないため、東京消防庁はこの「OFケーブルはガソリンスタンド並みに危険」と指摘していたが、それを無視して埋設高圧線に使用され続けてきたのである。現在はより安全度の高い「CVケーブル(架橋ポリエチレンビニルシースケーブル)」(油を使わないプラスチック使用ケーブル)が実用化され、この古いOFケーブルを新しいCVケーブルに交換する作業を進めているが、東京電力管内のケーブルのうち、7割が35年以上交換されていないのである。現時点で約1500kmものOFケーブルが残っており、このうち設置から35年以上経過したOFケーブルは約1000kmもあるという。

<<人為的・意図的な安全軽視>>
 第二は、原発事故との密接不可分な関係である。今回の東電の大規模停電事故で露呈された「メンテナンスには金をかけない」「事故が起こるまで使い続ける」というどの電力会社にも蔓延している「利益第一」「コスト削減」優先体質である。各電力会社が抱える老朽化原発が実際にはどうなっているかという極めて重大な安全点検が実際の詳細な点検を経ずに、40年も超えて老朽化が明らかなのに配管の全数点検は行われず、事実上書類審査だけですまされ、動かしてみなければわからないという根源的なずさんさが電力会社にも原子力規制委にも蔓延してしまっていることである。そして現実に、東京電力柏崎刈羽原発では、国の基準に違反して敷設されたケーブルが1700本以上、工事の設計管理不備が700件以上あり、原子力規制委から指摘されていた。関電高浜原発では、重要な1次系高圧バルブの点検が8年間も行われていなかった。九電では、復水器の冷却用配管を全数検査しておらず、細減肉や 腐食 損傷の全数点検も行われていない。四国電力の伊方原発の送電、受電所は、問題の可燃性「OFケーブル」を使用しているにもかかわらず、原子力規制委はこれを問題にもしていないまま再稼働を強行させている。
 こうした実態と、今回の首都圏大規模停電が明らかにしたことは、地震や津波といった自然災害のみならず、人為的・意図的な安全軽視による原発事故が非常に高い確率で発生し、それは大量の放射能を放出する重大な苛酷事故の現実的可能性をあきらかにしたことである。大手マスコミも原発立地の地元マスコミも、電力業界の広告宣伝費の甘い汁にむらがって、こうした現実をほとんど報道しようとはしていない。原発再稼働容認路線は、人為的・意図的な事故原因隠蔽路線と一体のものであり、「人類的な犯罪・破滅への道」なのである。警鐘乱打されなければならない事態である。

<<新潟県知事選、再稼働容認路線を拒否>>
 10/16・投開票の新潟県知事選挙は、この原発再稼働容認をめぐる激しいせめぎあいであった。実質上の野党統一候補が、圧倒的優勢を伝えられていた自民・公明推薦の原発再稼働推進候補を打ち破ったのである。大逆転であり、歴史的、画期的な快挙といえよう。「柏崎刈羽原発の再稼働は認めない」という県民の明確な審判が下されたのであり、原発再稼働を推し進める安倍政権にとっては、決定的な敗北であり、今後の政局を左右しかねない痛打である。
 「脱原発」「再稼働反対」のシンボルでもあった泉田裕彦知事が地元紙・新潟日報との対立で間際になって突如、立候補を辞退し、再稼働推進派で自公推薦の森民夫・前長岡市長の無投票当選の可能性さえ出ていた新潟県知事選。今年7月の参議院選挙では、野党共闘の森ゆうこ氏が自民公認・公明推薦の中原八一氏を僅差で勝利している。しかし、比例代表の票では、自公両党の得票は計57万票余り、対する民進、共産、社民、生活4党の合計票は43万票余り。そこへ民進党の有力な支援団体である連合新潟が、柏崎刈羽原発の再稼働に前向きな自公推薦の森民夫候補の支持を表明した。連合新潟の代表は「連合新潟の一番大きな母体は電機連合で、原発を動かしてほしいとの思いで森候補を決めた」と語っている。
 民進党は、候補者選定ができないでいるうちに最大の支持団体の連合新潟が森氏支持を決定したため、自主投票にとどめてしまった。代表選で「野党共闘は維持する」と表明した蓮舫代表であったが、この時点でその約束は早くも反古にされ、原発再稼働推進の自公連合側にほぼ勝負あったとみられていた。

<<原発再稼働反対を明示した野党共闘の前進>>
 だが、告示が9/29に迫る中、民進党の次期衆院選新潟5区候補として総支部長を務めている米山隆一氏に、新潟県の野党各党と幅広い立場の市民で構成する「オールにいがた平和と共生」や「新潟に新しいリーダーを誕生させる会」などに結集した新潟県の市民グループなどが粘り強く努力し、出馬を要請。民進党県連が自主投票を決めたため、いったん出馬を見送っていた米山氏は、これに応えて民進党に離党届を提出し、無所属での立候補を決意、記者会見を行ったのが9/23であった。米山氏は「県民の命と財産を守り、子どもたちの未来、ふるさとのさらなる発展のためこの身をささげたい。世界最大の柏崎刈羽原発を擁する新潟県として、泉田裕彦知事の『福島原発事故の検証なくして、再稼働の議論はしない』との路線を継承し、県民の安全・安心を確保する」と力説。さらに「医師・弁護士の経験を生かし、子育て支援、医療、介護、福祉の充実をはかる。新潟の農業を守るため、TPP(環太平洋連携協定)では県民の意思を主張していきたい。情報公開を強め、県民と対話していきたい」とその政治的立場と政策の基本を明確に示した。民進党は逆にこれを受けて、民進党本部が、党新潟県連からの要請に従い、米山隆一氏の新潟5区総支部長解任を決定、米山氏の公認内定を取り消し、見放してしまったのである。
 しかしこうした事態の進展は、形式的な連合、お付き合い、野合ではなく、実質的な野党共闘の進展に大いに寄与したとも言えよう。民進党本部、民進党新潟県連の決定にもかかわらず、選挙戦は自公陣営を追い詰める切迫した激戦に発展。終盤近くになると、取り残され、遅れてはならじと多くの民進党の国会議員が米山氏の応援にかけつけ、前原誠司衆院議員、近藤昭一衆議院議員、阿部知子衆院議員、松野頼久衆院議員、黒岩宇洋県連代表などが米山候補の応援に立ち、実態的には4野党の共闘にまで発展してしまったのである。いたたまれなくなったのであろう、ついに民主党の蓮舫代表までが米山氏の応援にかけつける事態となった。選挙戦の最終盤、10/14、「新潟に新しいリーダーを誕生させる市民の会」が、新潟市万代シティの街頭で緊急市民集会を開き、そこに駆け付けた蓮舫氏は、「この場に立って何としても応援したいと思って来ました。県民の命と安全を守る政治、ママたちの声を受けとめ、同じ母親として子どもたちの未来を守るため、一緒になって頑張っていきたい」と訴えたのである。この緊急市民集会には、共産党の笠井亮衆院議員ら野党各党国会議員、民進党の阿部知子、小熊慎司両衆院議員、自由党の山本太郎参院議員も応援に立ち、河合弘之弁護士、佐高信氏、五十嵐暁郎・立教大学名誉教授や市民ら十数人が次々に訴え、市民の会の佐々木寛共同代表が強調したように、「この知事選は原発再稼働が最大の争点。無党派と普通の市民が立ち上がる選挙になっている」という、これまでの戦争法反対の野党共闘からさらに進んで、原発再稼働反対を政策として明示した新しい野党共闘の質的な前進が形成されたのである。
 民進党は、政党として自主投票を掲げながら、党首が応援演説をするという変則事態に直面し、野田佳彦幹事長は「(蓮舫氏が)行くと言っても止める」と語っていたにもかかわらず、それも果たせず、市民レベルで原発再稼働を容認しない巨大な運動の波と世論の転換に置き去りにされてしまったのである。草の根レベルの統一戦線の前進が、政党間の思惑をも乗り越える貴重な教訓を提起したと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.467 2016年10月22日

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【コラム】ひとりごと—新潟知事選結果から学ぶこと– 

【コラム】ひとりごと—新潟知事選結果から学ぶこと– 

○16日に投開票が行われた新潟県知事選挙は原発再稼働推進の自公推薦候補者を、告示わずか1週間前に立候補を表明した原発再稼働慎重派の「野党共闘」の候補者が6万票の大差を付けて破り当選を果たした。まさに、新潟知事選挙は、参議院選挙に続いて、明確な対立軸を設定すれば、圧倒的に有利な与党勢力に対抗し且つ勝利できることを証明する結果となった。久しぶりに胸の好く勝利であった。さらに「1月解散説」を流布し、TPP国会を強引に乗り切ろうと目論む安倍政権にも痛打を与える結果となった。○野党共闘と言っても、何とも情けない話だが、野党第一党の民進党は自主投票で臨み、拮抗した選挙戦を見て最終日に蓮舫代表が新潟入りし、辛うじて民進党の姿を選挙民に残したに過ぎない。代表の新潟入りについて聞かれた野田幹事長は「行けとも行くなとも言っていない」と答え、党としての「派遣」ではないニュアンスを匂わせた。何とも情けない。その心は、自公候補を支持した連合新潟に配慮したから、と言う事らしい。○確かに連合新潟のHPには、「連合新潟は、長岡市長選挙で三期目から推薦してきたことや連合新潟中越地域協議会と日常的に協力関係があったことなどをふまえて、四年間の県政に期待をこめ、森民夫氏を「支持」し応援します。」(2016-09-14自公候補支持を決定)との記事が掲載されている。原発推進の電力総連に遠慮をし、県民の抱く原発再稼働への不安に背を向けた態度である。○知事選挙では相乗りもありだろう(民主党政権時代には、相乗り一切まかりならぬという時期があったことを思い出すのだが)。しかし、国政選挙ではないからと言って県民の不安を軽視した自公相乗り姿勢は、県民の選択によって厳しい批判を受けた。原発再稼働・電力総連・民進党というキーワードが結びつく時、民進党の今後は限りなく厳しいものになると思う。せめて自主投票という選択も連合新潟にもあったはずだし、民進党にも自主投票から踏み込む対応もあったにも関わらずそれができなかったことは、蓮舫指導部の調整力、対応力の限界を示した。○さて、連合、共産党(全労連)、民進党の関係の話である。連合結成から27年が経過した。「自派のナショナルセンター」を持ちたいと考えた共産党指導部の意向で、産別分裂を強行した上で全労連は結成されて今に至っている。大企業・公務職場の人員削減と非正規労働者の増加の中で、残念ながら連合も全労連も組織人員は減少している。ここ数年の組織人員を、厚労省の労働組合基礎調査から調べてみた。H23年調査では連合666.9万人(683.9万人)全労連62万人(86万人)となっている(カッコ内は地域労組を加えた数字)。それが、H27年調査では連合674.9万人(689.1万人)全労連56.9万人(80.5万人)となり、全労連は5万人強の減少となっており、毎年の減少が続いている。全労連は150万人組織を目指しているというが、減少傾向に歯止めがかかっていない。○政党との関係では諸々の議論や課題があるものの、安倍政権に対抗して野党共闘がその力を発揮し始め、市民運動の努力もあり、野党は「共闘」を始めたわけだが、連合も各産別も結成30年を見据えて、労働戦線の再統一を目指すという目標設定はできないのか、と言う問題意識である。もちろん連合幹部にも「全労連」憎しの感情も実態も存在していることは承知しているが、それ以上に労働組合運動後退の危機の方が深刻なのではないか。組織統一や加盟問題は議論のあるところだが、長い目で見て決して無い話ではない。むしろ全労連の組織減少が今後も続けば、その可能性は高まる。○非正規労働者の権利擁護、悪徳労働環境の打破という課題では、労働組合は組織を問わず一致して運動できるし、しなければならない。「同一労働同一賃金」を安倍政権が掲げ、「働き方改革」と称して安価な労働力として女性労働を増やそうとしている時、力を合わせる努力が必要ではないのか。「野党共闘」路線に共産党が大転換し、来る衆議院選挙でも野党共闘が実現すれば民進党候補の推薦に躊躇はしないだろう。労働戦線における共闘の追及は、野党共闘をさらに強めることになると思われる。○そこで問題は、連合労働運動そのものであろう。未だに大企業労働組合中心の運動に留まっているのではないか。非正規労働者の拡大に対応した取組が行われているが決定的に不十分なのではないか。そして新潟県知事選でも表面化した原発への対応が、一部の原発推進産別の影響で国民・県民の意識とかい離している現実をどうするのか。国民的課題の上に産別利害を置くようでは、ナショナルセンターと言えるのだろうか。○滋賀・鹿児島・新潟と原発が存在するか、近接している知事選はいずれも原発再稼働を支持する自公与党候補が敗北しているのである。この事実から導かれる結論は明らかだろう。新潟知事選挙結果から学ぶことは大きい。(2016-10-18佐野)

【出典】 アサート No.467 2016年10月22日

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【投稿】安倍長期独裁政権を阻止しよう

【投稿】安倍長期独裁政権を阻止しよう
      ―外患あれど内憂なしの状況打破を―

<「早回り・空回り」の安倍外遊>
 8月21日、安倍はリオデジャネイロオリンピック閉会式で、スパーマリオに扮し土管の中から現れ、この奇妙奇天烈な演出に世界は驚いた。
 このブラジル訪問を皮切りに矢継ぎ早に安倍は外遊を重ねた。8月25~28日にはケニア・ナイロビでTICAD6(第6回アフリカ開発会議)等に参加、9月2,3日には、ウラジオストックで東方経済フォーラム出席と日露首脳会談をおこなった。いったん帰国した安倍は息も継がさない形で、杭州に飛びG20参加および日中首脳会談をこなした。
 その足で6~8日には、ラオス・ビエンチャンでASEAN関連の諸会議に顔を出し、日韓首脳会談を行った。さらに9月20日からは国連総会出席とキューバ訪問と安倍の旅は留まるところを知らないようである。しかし、今回の一連の外遊も移動距離と費やした経費に比べて、12月のプーチン訪日決定以外は、さしたる成果はなかったといても過言ではない。
 これまで5年に一度、日本にアフリカ各国首脳を呼び寄せる形だったTICADは、今回初めてアフリカの地で開催された。この間中国のアフリカ地域への進出は著しく、安倍政権は挽回に躍起になっているのである。
 ナイロビで安倍は、「自由で開かれたインド太平洋戦略」として、アフリカ諸国へ3年で300億ドルの投資を約束、中国を意識し、自由と法の支配に基づく発展のため、「質の高い援助協力」を表明した。
 これに対して参加各国首脳からは歓迎の声が上がった。ケニヤの大統領は「会議は大成功」とし「日本は各国の独立以来のパートナー」と最大限持ち上げたものの、昨年の中国とのフォーラムで南アフリカの大統領は「中国は世界の平和と発展に寄与している」と賛辞を送っている。
 アフリカ各国にしてみれば、日本であれ中国であれ競うようにどんどん投資してくれるのは願ってもないことである。
 むしろ実際には、開発独裁を基本とするいくつかの政権にとっては「法」「自由」「民主主義」という「先進国の価値観」をちらつかせない中国の援助のほうがありがたいのが本音であり、さらに支援と安全保障=対中包囲網をリンクさせようとする日本は迷惑であろう。
 さらに先月号で南スーダン内戦での中国軍の損害を指摘したように、人道支援分野においても中国の存在感は高まっている。日本も第2次安倍政権発足直後の2013年1月、アルジェリアで発生した合弁プラント襲撃テロにより10名が犠牲となったが、国連平和維持活動と企業活動では、現地での意味合いが違ってくる。
 こうした状況に焦りを禁じ得ない安倍政権は、「血を流す貢献」に備えるため、11月からの南スーダン派遣予定部隊へ「駆け付け警護」任務を付与することを目論んでいる。
 南スーダンでは7、8月の激しい戦闘以降も緊張状況が続いてる。9月に入ってからも首都ジュバ一帯を支配するキール大統領派は、「国連は反政府勢力に手を貸している」「国連は我々を監視している」(スーダントリビューン電子版)と国連敵視姿勢を露わにしており、TICADの華やいだ雰囲気とは全くの別世界となっている。
 
<司令官は「キャンセル姫」>
 このような現地情勢での「国連側」である自衛隊の任務拡大は、不測の事態を招く危険性が高い。稲田防衛大臣は「南スーダンは安全」と言っておきながら、ジプチ慰問訪問でお茶を濁した(先月号既報)。
 これには各方面から批判があったのだろう。稲田のアメリカ、南スーダン歴訪が発表され、9月17日にジュバの自衛隊派遣部隊を視察することとなった。
 ところが訪米中の15日、突然体調不良により南スーダン訪問がキャンセルされた。報道等によると、風土病の予防接種の副作用でアレルギー(蕁麻疹)症状が出たためと言われているが、同日のカーター国防長官との会談には元気な姿で臨み、その後はF35戦闘機に笑顔で乗り込んでいる。過日竹島の領有権問題で、鬱陵島に乗り込もうとした勢いがあればどこへでも行けただろう。
 稲田は訪米前の10,11日に予定されていた就任後初の沖縄訪問も、北朝鮮の核実験への対応を理由にキャンセルしている(実際は12日に出された、高江ヘリパッド建設への自衛隊ヘリ投入命令が要因だろう)が、当初は北朝鮮のミサイル問題を論議する14日の参議院外交防衛委員会を欠席して訪米する日程を組んでいた。
 稲田は自民党政調会長時の昨年9月、オバマ政権に戦争法案の説明をするため訪米予定と報じられたが、これは立ち消えになった経緯があり、なんとしてもアメリカに行きたかったのだろう。
 訪米日程を短縮して出席した同委員会では、民進党から危機感の無さを指摘され、「緊張感を持って職務に邁進したい」と答えざるを得なかった。さらに議員バッジをつけずに出席したことに対し、味方であるはずの「平成だまれ将軍」佐藤正久委員長から「バッジの重みを自覚せよ」と厳しく注意を受けた。本当に蕁麻疹が出たなら精神的ストレスも一因であろう。
 安倍は稲田を後継者の一人として経験を積ませようとしていると言われているが、定例の防衛大臣記者会見でも頓珍漢な問答が散見され、お姫様抱っこを続けるようでは先行きは大いに不安と言わざるを得ない。佐藤のいら立ちもイラク派遣部隊長の経験者からすれば、ジプチでも国会でも「最前線」に何をチャラチャラと来ているのか、という思いもあるのだろう。
 
<緩和より激化を優先>
 不安視される防衛大臣のもと安倍政権は軍拡を進めている。8月31日、防衛省は来年度予算として、5兆1685億円の概算要求を決定した。これは今年度当初予算に比べ2,3%の増となり過去最高となっている。
 その内容は新型潜水艦の建造に加え、道弾迎撃用ミサイルSM3(海上)PAC3(陸上)の改良型の取得、南西諸島に配備するための地対空、地対艦ミサイル、空母など大型艦船を攻撃するための空対艦ミサイルの取得、開発、新型水陸両用車両の開発など、対中国色が色濃くにじみ出たものとなっている。
 実動訓練も活発化している。南スーダンに派遣予定の部隊では「駆け付け警護」「宿営地の共同防護」に係わる訓練が進められている。当該の青森5連隊は、日露戦争前の八甲田雪中行軍に続き不運な役割が回ってきたのではないか。
 9月14日には、グアムから飛来した米軍のB-1爆撃機と空自のF-2戦闘機が編隊を組む形で共同訓練が実施された。これは実戦の場合、空爆に向かう米軍機の護衛ということであり、集団的自衛権発動を想定したより踏み込んだ訓練であると言えよう。
 こうした動きは中国を一層刺激している。この間の北朝鮮の弾道ミサイル乱発や核実験強行に関しては、尖閣や南シナ海の領有権よりも喫緊の課題であるはずだが、安倍はG20など様々な国際会議で執拗に中国に対する牽制を続けた。
 そのような険悪な空気の中開かれ、またしても笑顔なし、国旗なしとなった日中首脳会では、ようやく偶発的な交戦を回避するための「空海連絡メカニズム」確立に向けての議論を再開することが確認された。
 これを受けた実務者会議「日中高級事務レベル海洋協議」が9月14,15日広島市で開かれ、年内にも防衛当局者の間で協議を開始することとなった。偶発的衝突の防止は国際的な課題となっている。
 9月5日杭州でオバマとプーチンが30センチの距離で睨みあったが、7日には黒海上空で米露両軍機が3メートルにまで、異常接近したことが明らかになった。6月にはシリア沖で米露艦船が約100メートルまで接近している。
 アジアに於いては米中の衝突よりも、日中の衝突のほうが現実味を帯びている。アメリカは南シナ海で「航行の自由作戦」を行っているが、米露ほどの緊張関係にはない。
 
<対中包囲網の崩壊と日本の孤立>
 一連の外遊で対中包囲網構築に腐心する安倍であるが、その姿は賽の河原での石積みのごとくである。G20では日米中で南シナ海問題について個々の論議はされたものの、全体的には世界経済のリスク回避と成長加速の為に、あらゆる政策を総動員することが合意された。続いて開かれたASEAN首脳会議や東アジアサミットでも、南シナ海に関する仲裁裁判所の判決などは、全体の議論にはならならず、中国ペースで会議は進んだ。
 それどころか一連の会議の中で、対中包囲網の「要」であるフィリピンの離脱が明確になった。ドゥテルテ大統領はASEANの場に南シナ海判決は持ち出さないと明言、帰国してからも、ミンダナオ島の米軍部隊の退去を要求、さらには南シナ海でのアメリカとの共同哨戒活動への不参加を表明した。背景には、アメリカのドゥテルテへの批判もあると考えられるが、就任以前から表明していた対中対話路線が加速するものと思われる。ドゥテルテは「フィリピンのトランプ」と渾名されるが、チャベスになるかも知れない。
 オバマが会談をキャンセルする中、9月6日におこなわれた日比首脳会談で安倍は、先の小型巡視船10隻に続き大型巡視船2隻の追加供与を表明した。小型船は国内治安対策であろうが、航洋機能のある大型船は台湾に向けられる可能性も指摘されている。やらずぼったくり以下になればどうするのか。
 安倍政権はロシアに対しては、担当大臣を置いて経済協力を進めるという異例の態勢で臨み、中露の接近に楔を打ち込もうとしている。しかし9月13日から中露海軍合同演習「海洋協同2016」が広東省近海の南シナ海で開始された。
 これは毎年恒例の演習であるが総仕上げとして、昨年から合同の上陸、空挺降下訓練が行われる実戦的なものとなった。両国とも他にも様々な国と合同演習を実施しているが、上陸演習まで行うのは中露間だけである。
 もっともロシアが牽制している主要な相手はアメリカであるが、余計に中露離反を目論むことは困難であろう。第2次安倍政権発足以降、歴史認識における日本包囲網が形成されたが、今後それが実体化する可能性もある。
 本来なら、危機的な国際情勢の中枕を高くして寝られるはずもない安倍が、異例の長期夏期休暇と外遊を重ねても安穏としていられるのは、野党、民主勢力の不甲斐なさに起因するものである。安倍政権はこの間、民進党の代表選をまったく気にかけた形跡がなく、蓮舫選出後も余裕を見せている。
 総選挙自民勝利から総裁任期延長、長期独裁政権樹立~日本の国際的孤立という最悪の道を阻止しなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.466 2016年9月24日

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【投稿】天皇の「生前退位」を考える

【投稿】天皇の「生前退位」を考える
                            福井 杉本達也 

1 突然の「生前退位」報道
 天皇の「生前退位」が7月13日に突然NHKで報道され、翌14日の各紙は一斉に「天皇陛下退位の意向」との「退位特集」を掲載した。当初は宮内庁側が事実を否定するなどしたが、8月8日には、天皇の直接国民に向けて生前退位への思いを表明した11分間にわたるビデオメッセージが公表された。各放送局もこれを一斉に放送。記者会見など以外で、天皇が国民に直接話しかける放送は異例であり、1945年の天皇裕仁による「玉音放送」と今天皇明仁の2011年東日本大震災の発生直後に国民に向けたビデオメッセージとの2回しかない。
 天皇は2010年夏ごろから退位の意向を示し、それを受けて官邸は水面下の特別チームで検討を始めたが、結論は「退位ではなく摂政で対応すべきだ」だった。天皇の意向が公になった7月13日の報道も寝耳に水だったという。ビデオメッセージは官邸と宮内庁で原稿案のやりとりを数回したが、摂政に否定的な表現は最後まで残った。皇室典範は退位を想定しておらず、官邸関係者は「宮内庁から官邸に陛下の本気度が伝わっていなかった」と証言。「だからおことばに踏み切らざるを得なかったのだろう」。それでも安倍政権は、退位の条件などを制度化するのは議論に時間がかかるとして、特別立法を軸に検討している(毎日:2016.9.7)。一方、世論調査では生前退位に91%が賛成している。反対は4%しかない。同時に「女性も天皇に」は74%、「そうは思わない」は21%という結果となっている(朝日:2016.9.13)。

2 安倍政権・日本会議は「生前退位」に反対
 日本会議の「大原康男・国学院大名誉教授は、退位の前例を作れば皇位継承の安定性が失われると懸念。『国の根幹に関わる天皇の基本的地位について、時限立法によって例外を設けるのは、立法形式としても重大な問題がある』と特措法にも反対する。」また、「日本会議代表委員の一人で外交評論家の加瀬英明氏は『畏(おそ)れ多くも、陛下はご存在自体が尊いというお役目を理解されていないのではないか』と話し、こうクギを刺す。『天皇が『個人』の思いを国民に直接呼びかけ、法律が変わることは、あってはならない』と主張する(朝日:2016.9.10)。「国家」・「民族」・「万世一系」・「男系」など「血統原理」を全面に出して天皇の生前退位に反対する。
 自民党改憲草案第1条は「天皇は日本国の元首であり」として、旧大日本帝国憲法第4条の「天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ」との「統治権」までには触れないものの同様の規定を設けている。「国民主権」から「天皇主権」に戻そうとする意図がある。国民も議会も無視して専制的な支配体制=官僚独裁の無責任体制を目論むものである。官僚それ自身は選挙で選ばれたものでも、神から選ばれたものでもなく、天皇の威光によってのみ「権威」(=支配の正当性)を得る。ところが「生前退位」はこの「権威」に空白を生じさせる恐れがある。退位した天皇をどう扱うか(「権威」の二重状態が生ずる)ということである。官僚独裁(国家無答責=官僚とは天皇制にのみ責任を持つ機構であり、国民の為に存在するものでなく、その結果国民に被害を与えても責任を持たない。)を維持する為「血の論理」を持ち出しているのである。
 
3 「皇室典範」を改正しなければ天皇制の存続が難しいと考える天皇
 天皇明仁は8月8日のビデオメッセージにおいて、「天皇が象徴であると共に、国民統合の象徴としての役割を果たすためには、天皇が国民に、天皇という象徴の立場への理解を求めると共に、天皇もまた、自らのありように深く心し、国民に対する理解を深め、常に国民と共にある自覚を自らの内に育てる必要を感じて来ました」とし、その対処方法として「国事行為や、その象徴としての行為を限りなく縮小していくことには無理」があるとし、生身の人間として、高齢により、代わりの利かない象徴としての公務を十分に果たせなくなってきていると述べる。その上で「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」るとして、憲法に定める象徴としての天皇制を今後も安定的に維持しようとすれば、現在の皇室典範に定める「皇位継承」規定には不備があると、あくまでも天皇制=「国体護持」の観点から述べている。

4 命乞いと「国体護持」のため全てを米国に売り渡した天皇裕仁
 そもそも現皇室典範の皇位継規定に「退位」規定がないのは、天皇裕仁が自らの戦争責任の追及を恐れていたからに他ならない。1945年の敗戦直後の緊迫した情勢の下、米国では昭和天皇に処刑や国外追放など何らかの処置をとるべきというとの声が70%にも達していたこともあり、天皇裕仁は東京裁判での追訴を恐れ、憲法の早期の改正と表裏の関係で皇室典範には「退位」規定を置かなかったのである。さらには、共産主義の脅威に対抗するため、「天皇は米国が沖縄及び他の琉球諸島の軍事占領を継続することを希望されており、その占領は米国の利益にもなり、また日本を保護することにもなる」(『昭和天皇実録』1947.9.19)として、沖縄を米国に売り渡したのである(豊下楢彦『昭和天皇の戦後日本』 「沖縄メッセージ」)。さらに天皇裕仁は講和条約に向けて米ダレス国務長官との間で、当時の吉田茂内閣の外交チャンネルとは別の「非公式チャンネル」を展開し、明らかな日本国の「主権侵害」であるはずの米軍駐留を「日本側の要請に基づいて米軍が日本とその周辺に駐留すること」に「同意」と「十分なる了解」を与え、これが日米安保条約の基となったのである。さらには1953年4月、朝鮮戦争の休戦で国際的な緊張緩和が進む中、マーフィー駐日大使の離任に当たり、「日本の一部からは、日本の領土から米軍の撤退を求める圧力が高まるであろうが、こうしたことは不幸なことであり、日本の安全保障にとって米軍が引き続き駐留することは絶対に必要なものと確信している」と述べ、天皇制維持のために、象徴としての振る舞い以上の「政治的行為」を続けたのである(豊下:同上)。
 豊下楢彦は『昭和天皇実録』について「そこにおける徹底したリアリズムは『実録』の行間に溢れ、率直なところ”感嘆“の声をあげることもしばしばであったが、しかしそのリアリズムは『皇統』を維持するという至上の目的に他の一切を従属させるものであり、従って危機の突破は『象徴天皇』という憲法規定を逸脱する重大な政治的行為を伴い、それが戦後日本のあり方に深刻な影響を及ぼすこととなった。」(豊下:同上「あとがき」)と総括している。

5「皇室典範」は憲法の規定に合わせて改正するしかない
 政府は、憲法と法律との整合性をチェックする内閣法制局などは、生前退位を将来にわたって可能にするためには「憲法改正が必要」と指摘しているという。一方、生前退位を今の天皇にだけに限定するのであれば、特例法の制定で対応が可能だと説明している(「日本テレビ」2016,8.22)。日本国憲法第2条は、皇位継承について「皇位は、世襲のものであつて、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する。」と定めている。これをうけ皇室典範第4条で「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。」としており、皇位継承の原因は天皇の死去のみであり、生前退位は認められていない。生前退位を制度化するには、憲法の下にある法律としての皇室典範を改正すればよく、日本国憲法を改正する必要はない。皇室典範は通常の法律と同じ手続で改正することができる。
 皇室典範は「男系」・「長子」・「嫡出子」規定を含め、日本国憲法の基本的人権規定と齟齬がある。戦前の旧皇室典範を「万世一系歴代継承シ…」などの国家神道につながる神話的部分を削り、無理やり現憲法に辻褄合わせしたもので、通常の法律である以上、憲法の規定に合わせるべきである。現皇室典範の規定では、誰がどう考えても天皇制はここ数十年で行き詰る。天皇明仁が政府とは別のチャンネルでメッセージを公表したのはそこにある。
 
6 「万世一系」ではない天皇制
 526年(?)出自不明の第26代・継体天皇がヤマト王権を武力制圧して王位を簒奪したとする継体新王朝説がある。「継体」とは死後の漢風諡号(しごう・おくり名)でありヲホド(『日本書記』では男大迹王(をほどのおおきみ))の生前の事績への評価に基づいて奈良時代・淡海三船によって贈られた名であり、明らかに前王朝を「引き継いだ」=系統が断絶していることを表している。また672年の壬申の乱は大海人皇子(天武天皇)が前近江朝(天智天皇―大友皇子)を武力で滅ぼしたもので、現天皇王朝は天武からと見るべきである。663年、朝鮮半島・白村江での唐・新羅連合軍に対する倭の決定的敗北後、中華帝国に対抗するため、『日本書記』は天武以前の王朝を全て否定し、その歴史を簒奪・粉飾・焚書して天武―持統期以降に作られたものである。
 小林節は天皇・皇族にも「人権」はあるとし、「そこまで認めたら天皇制が不安定になる……という指摘があることは前述の通りである。しかし、世界一長く続いた王家としての天皇制も当然に永久不滅であると考えるべきではない。あらゆる制度は、それを支える社会的事実が変わった場合には、その条件の変更を直視して対応を考えていくべきである。そして、人権概念と民主制が確立した現代にあっては、天皇制といえども、人権と民意とを無視してその存続と内容を語るべきものではないはずである。」(小林節:『日刊ゲンダイDIGITAL』 2016.9.13)と述べているが、天皇裕仁も天皇明仁もその時々の情勢を天皇という「職業」に徹する形で冷徹に分析し、天皇制維持=国体護持のリアリズムに沿って発言し・行動している。柄谷行人は「戦後憲法の9条は、本来1条を作るために必要なものであり、二次的なものであった」とし、その後「1条と9条の地位が逆転した…その理由は1条(象徴天皇制)が定着したことにある」と述べ、その定着は天皇明仁の時代に入ってからであるとする(柄谷『憲法の無意識』)。象徴天皇制の定着は上記朝日新聞の世論調査でも表れている。しかし、歴史的に作られた制度は永久不変なものではない。我々は基本的人権と民主主義により、しかも天皇を上回る冷徹なリアリズムをもって「象徴天皇制」の今後を考えねばならない。

【出典】 アサート No.466 2016年9月24日

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【投稿】民進党新代表と野党共闘 統一戦線論(28) 

【投稿】民進党新代表と野党共闘 統一戦線論(28) 

<<「私はバリバリの保守ですよ」>>
 民進党の新代表に蓮舫氏が選出された。民主党自らが招いた民主党政権転落の苦境から脱出するホープとして、「『ワクワクする政治』と『さわやかな戦い』『女性の挑戦』を頑張りたい」「民進党をしっかりと選択してもらえる政党にしていく」「私たちには政策も対案もある」― を掲げる蓮舫氏の登場に、民進党のネガティブなイメージから脱却する、失った党への信頼を取り戻す、そうした幅広い期待と願いが寄せられた結果であったといえよう。それはまた民進党内外の多くの人々の期待でもあった。
 しかしその期待は出鼻からくじかれようとしている。すでに代表戦の過程で蓮舫氏はわざわざ「私はバリバリの保守ですよ。みんな間違っているけど。野田佳彦前首相並みの保守ですよ」、「世界最高水準の基準に合格した原発は再稼働」などと広言し、旧民主党・野田政権の失態と誤謬を反省するどころか受け継ぐことを表明。さらに決定的なのは、安倍政権が強引かつ暴力的に押し進める沖縄の米軍普天間基地の名護市辺野古への移設方針を後押しする政治姿勢を明確にし、「辺野古移設堅持」を公言、現行の移設計画は旧民主党政権が米側と確認した内容であることを踏まえ、「結論は基本として守るべきだ。どんなに米国と話をしても選択肢は限られてくる。基軸はぶれるものではない。それが外交の基本戦術だ」と断言してしまったことである。代表選後、「今の政権の沖縄への手法はあまりにも県民の声に寄り添っていないやり方だ」と修正したが、「辺野古移設堅持」では、蓮舫氏が掲げる「対案の提示」さえできるものではない。「県民の声に寄り添い」、基地問題を民意に基づいて解決するには、辺野古移設反対、高江ヘリパッド建設反対の政策を明確に打ち出す以外の対案はありえないのである。
 そして極め付けが、野田佳彦氏の幹事長起用である。野田氏は旧民主党が政権から転落した2012年末の衆院選時の首相であり、大飯原発再稼働や尖閣諸島国有化、消費税増税など、民主党政権への期待をことごとく裏切り、総選挙に追い込まれて大敗し、第二次安倍政権誕生をお膳立てした人物である。民主党政権瓦解のA級戦犯とも言われ、デモの声を「大きな音だね」と言い捨てた人物である。しかも今年、安倍政権が消費税増税の延期を決めた際には、あくまで増税履行を迫るなど、安倍政権に得点を稼がせることに大いに貢献した人物である。こうした路線や態度を真摯に反省し、克服しようとしているならまだしも、先の参議院選挙のさなかには、「消費税の10%への引き上げは不可欠」「人情に流されれば国家財政はもちません」などと述べて、民進党躍進の芽を踏み潰した人物である。安倍政権にとって最も好ましい幹事長の誕生である。ワクワクするどころか、さわやかどころか、完全に後ろ向きの暗いイメージへの逆転である。相当民意に鈍感でなければ、こんな選択はあり得ない。自らが所属するグループの「親分」を幹事長に選択するなどという、よくもこんなバランスを欠いた人事がまかり通ったものである。つまるところ、蓮舫氏には、民主党政権を瓦解させた野田路線を克服する政策をそもそも持ち合わせていないし、安倍政権と対峙する政策によほど自信がないことの現れとも言えよう。

<<「鳥越シンドローム」>>
 民進党代表戦の開票結果を見ると、新代表に選ばれた蓮舫氏は、特に地方の党員・サポーター票の71%という圧倒的な支持を得て、「圧勝」と報道されているが、蓮舫氏が獲得したのは、23万5211票ある党員・サポーター票のうち5万9539票を獲得したに過ぎない。投票率が40.89%と昨年1月に岡田代表が選ばれた時より6ポイントも下回り、実際には4人に1人の支持しか得られていないのである。そして蓮舫氏が民意を無視する発言をした沖縄県では、党員、サポーターの投票率は20.32%と全国最低で、433人の有権者のうち、88人しか投票しておらず、蓮舫氏に投票したのは13人に過ぎず、忌避されたに等しい結果である。これが「圧勝」の実態である。
 代表選は1回目の投票で過半数のポイントを取る候補がいない場合は上位2人で決選投票となるしくみで、前原、玉木両氏の陣営は「2・3位連合」による決選投票での逆転を狙っていたが、蓮舫氏が1回目の投票で制したわけである(蓮舫氏503、前原氏230、玉木氏116ポイント)。次の衆院選に向けて、知名度の高い蓮舫氏を党の顔に担ぎ出しさえすれば、何とか難局をしのげるのではないかとする安易な作戦が民進党内に広がり、功を奏したのであろう。
 ニューズウィーク日本版2016/9/2号に、「『鳥越シンドローム』が民進党をむしばむ」という記事が出ている。「お茶の間人気で勝利するはずが、次第に政策のなさと知名度頼みがあらわになり急速に支持を失う。鳥越氏同様、お茶の間での人気を誇りながら政策のなさが目立つ蓮舫氏」、「『安倍政治と対抗する若き女性』を党トップに担げば、無党派層の支持は得やすい。」、しかし、そこには都知事選のような落とし穴があるかもしれない、という警告記事である。
 その都知事選について民進党は、敗北の総括には全く触れようともしていない。共産党に至っては、敗北どころか「東京都知事選 鳥越氏が大健闘」「4野党プラス市民」という共闘の枠組みが、首都・東京でも実現し、野党共闘の成功例と自賛するばかりで、1か月以上経っても、敗北の真摯な反省もない志位委員長の8/5の党創立94周年記念講演をいまだに押し頂き固執している。9/3付赤旗は、「9月こそ出足早く前進を」という中央委員会書記局の訴えを掲載、「8月は『記念講演』の一大学習運動に取り組み、…しかし1か月の入党数は第26回大会後で最少となりました。日刊紙621人減、日曜版6453人減、参院選後2カ月連続で後退する重大な結果となりました。記念講演の学習・討議支部は43.7%にとどまっています。記念講演の一大学習運動を新たな意気込みで立ち上がるには機関と長の役割が決定的」であると、党後退の原因と責任を機関役員に転嫁している。なぜ後退したのか、自由闊達な討論は一切封印されてしまっている。相も変わらずの上意下達主義である。9/15付赤旗は「党員拡大を根幹に据えた党勢拡大の飛躍を」と題して、党建設委員会が「党創立94周年記念講演のダイジェストDVDを必ず視聴」することを呼びかかけている。冷静な分析と真摯な反省が欠落した自画自賛のDVDを視聴することが直面する最大の課題になってしまっているのである。

<<「この道しかない」>>
 しかし、今や野党共闘路線は、そして野党と市民との共闘は、「行き詰まる」どころか「この道しかない」というのが現実である。それのさらなる質的、量的な発展はあり得ても、各党それぞれの党勢拡大や穴掘り主義では、事態は打開できないのである。共産党においてさえ、統一戦線路線を放棄して、これまでの自民党を利するばかりの「自共対決路線」に戻ることはもはや不可能であろう。
 民進党においてさえ、共同通信社が行った民進党47都道府県連幹部による聞き取り調査によると、次期衆院選での野党共闘について、22都道県が「継続」を求め、「やめるべきだ」とした9府県を大きく上回っている現状である。蓮舫氏は、代表選を通じて「参院選での選挙協力は、次の衆院選の前例にならない。綱領が違う。政策が違う。それでも選挙の街頭演説で党首同士が並ぶというのはあり得ない。ただ、野党が一緒になる力は否定しない。代表になり自分たちが作り出す政策を持ったうえで、他の野党と連携のあり方を考えることはある。公党間の約束はほごにできない。しかし私が代表になったらこれまでの連携の延長線上にあるとは思わないでほしい。」と広言していたのであるが、代表選後は、次期衆院選での共産党との選挙協力について「公党間の基本的枠組みの約束は重い。維持していく」と述べ、岡田克也前代表が進めてきた野党共闘路線を継続する考えを示し、「『与党』対『野党』というシンプルな構図が一番、有権者には選んでいただきやすい」とも語り、共産党や社民党などと一体的に選挙戦に臨む意向も強調しだしている。そして問題の野田新幹事長でさえ、次期衆院選に向けた共産党などとの共闘に関し「強い自民党、公明党連合軍にしっかり挑んで戦うには、野党間の連携は不可欠だ。(共産党との)対話が必要だ。国会対策、選挙の在り方について、対話の中でどういう解があるか見いだしていきたい」と述べざるを得なくなっている。
 しかし、野党共闘体制さえ維持・継続できればいい、といった安易で、しかも知名度だけで右往左往し、それに依存するような共闘路線では、都知事選のような手痛いしっぺ返しを食らうであろうことは間違いない。
 野党と市民との共闘を粘り強く推進してきた「総がかり運動」について、福山真劫(フォーラム平和・人権・環境共同代表)さんは、月刊『社会民主』2016年9月号「総がかり運動の今後の展開」の中で、「多くの克服すべき課題」として、「ア:世論の多数派は、戦争法・9条改悪反対であるにもかかわらず、この世論を闘いの場に十分に巻き込めていない。イ:貧困と格差社会が進行し、非正規労働者や権利が保障されていないにもかかわらず、連携できていないこと、ウ:各県段階での連携強化と自分の町・地域での取り組みがさらに求められていること、エ:労働運動・ナショナルセンター・連合との連携が不十分、オ:沖縄課題は、数回の国会包囲行動以上に取り組めなかった、カ:選挙闘争では、野党共闘の政策・体制・連携のあり方の改革、野党共闘の限界と可能性を明確にし、再確立することなどが必要です。時代は大きく変わろうとしています。それは運動団体に自己変革を強要します。自己改革できない団体は、舞台から降りるしかありません。総がかり行動実行委員会は、舞台に立ち、その役割を果たし続けたいと思います。」と述べている。
 この福山真劫さんが、9/6付「赤旗」1面、「戦争法強行1年 各界に聞く」に登場し、「参院選挙で32ある1人区で野党統一候補が実現し、11の選挙区で勝ったことは一つの希望です。改憲勢力に3分の2を許したことについては、どこに原因があるか冷静に分析していく必要があります。次の衆院選挙を野党共闘でたたかい勝つためには、共闘で政権を獲得するという基本原則を立て、共闘を組み立てる明確な政策が必要です。安保法制と立憲主義問題だけではなく、社会保障や働き方、TPPやエネルギー政策、安保では沖縄基地問題も入れる必要があります。それだけの幅を持った政策を野党間で合意できれば一番いいが困難も予想されます。そこでは市民連合が大胆な政策提起をしていく必要があります。」と語っている。
 こうした路線の展開・発展こそが、立ちはだかる困難を打開する鍵だと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.466 2016年9月24日

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【コラム】ひとりごと—民進党代表選挙に思う—

【コラム】ひとりごと—民進党代表選挙に思う—  

 9月15日民進党代表選挙が行われた。代表選挙には、蓮舫参議院議員、前原衆議院議員、、玉木衆議院議員の3候補が立候補し選挙戦となった。事前予想通り蓮舫氏が第1回投票で過半数を獲得し臨時党大会で代表に選出された。党員・サポーター票では過半数票を獲得、地方議員枠・国会議員枠でも過半数を獲得している。唯一、次期選挙に立候補予定の「公認予定候補者」枠では、前原候補が蓮舫候補に肉薄することとなった。
 初めての女性代表であり人気も高い蓮舫代表が誕生したので「民進党の前途は明るいか」というとそんな簡単な話ではない。
 今回の代表選挙における党員・サポーターの投票率は40.89%。23万人とカウントされている総数に対して、9万6千人が投票したに過ぎない。かつては50万人はいたと記憶しているサポーターが減少し、さらにこの低投票率が示しているのは、蓮舫優勢の情勢があったにせよ党内の関心の低さであり、代表が変わっても変わらない民進党の現状・体質を表していると言える。
 さらに、私も含めて失望感を強くしたのが、野田幹事長の就任であろう。もともと野田と蓮舫代表は、同じグループである。野田は消費税増税路線を「堅持」しているし、蓮舫代表も民主党政権時代の「事業仕分け」で有名となった。消費増税を前提に行政改革を徹底して行政の無駄をなくす、という路線で共通している。代表・幹事長ともに、この緊縮・増税路線で、果たして安倍政権とどう対決していくというのだろうか。
 蓮舫代表は、代表就任挨拶で「巨大与党に対しては、批判ではなく私たちの提案力、創造、国のあり方を持って、しっかりと戦って、選択していただける政党に」していくと、新世代の民進党をアピールした。「批判ではなく提案」は聞えは良いが、対決姿勢という意味では、少々力に欠ける。「増税と行政改革」のイメージからの脱却こそが民進党に求められているのではないか。党名をも変えた以上、旧政権イメージを払しょくすることが必要だと思うのだが。
 もう一つのテーマは、野党共闘をめぐる代表の姿勢である。代表選挙の中では「野党共闘」の在り方をめぐっては、候補3人に余り差はなく、積極的推進を訴える発言もなかったように思う。共産党にすり寄ると見られることを避けていたと思われるが、見直すという明確な言葉もなかった。総選挙ともなれば共産票が喉から手が出るほしい候補はたくさんいるという状況の中、一応野党共闘の追及は行われると思われるが、要は、民進党が積極的に推進するか否かである。
 次の総選挙を想定した場合、当然政権選択選挙であり、自公政権に代わる政権構想が求められる。政権構想までいかなくとも選挙協定で調整し、野党共闘を推進することが確実に求められていると考える。次期総選挙で、7月議院選挙と同様の野党共闘が実現すれば、自公勢力が大幅に議席を失うことは確実である。自公政権こそ「野党共闘」を恐れており、分断を執拗に追及している。共産党と政権を組むのは無責任だ、などの攻撃である。改憲反対、安保法制の廃止、脱原発に加えて、非正規労働の根絶や社会保障の拡充の課題で、統一政策をまとめることは十分に可能であり、その政策を軸とした政権構想は可能と考える。10月末の2補選を野党勝利で乗り切り、野党共闘の在り方についての議論を進める必要があろう。
 代表の国籍問題も選挙中マスコミが大きく取り上げかけたことに注意が必要であろう。ハーフであること自体を右翼は問題にするだろうと予想はできた。イメージダウンを狙ったマスコミリークが発端だったが、案外与党側は冷静だったように思う。台湾籍問題だったこと、台湾が非常に親日派であることなども要因と思われる。しかし、国籍と選挙権問題には、未解決の課題も存在する中、攻撃に対しては受け身ではなく、在日外国人の選挙権問題などに積極的に対応する姿勢こそ求められていると感じる。(2016-09-19佐野)

【出典】 アサート No.466 2016年9月24日

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【投稿】核軍縮に背を向ける安倍政権

【投稿】核軍縮に背を向ける安倍政権
             ~野党・民主勢力の立て直しを急げ~

<高まる核軍縮への機運>
 国際的な核軍縮の動きが進む中、安倍政権は阻害物として登場している。
 7月上旬、ワシントン・ポスト紙はオバマ大統領が、核兵器先制不使用宣言を検討していると伝えた。さらに8月にはアメリカが核実験の全面禁止決議案を、国連安保理に提出することを検討しているとも報じた。
 核実験に関しては1996年に核実験全面禁止条約(CTBT)が国連で採択されたものの、アメリカ、中国などの核保有国が批准していないため発効のめどが立っていない。
 とりわけアメリカでは共和党の反対で、上下両院での議決が困難な状況が続いており、国連での全面禁止決議案はこの隘路を突破するものと思われる。5月の広島訪問を踏まえ、オバマの核軍縮に向けた取り組みが加速しているように見える。
 こうしたなか、8月19日にはジュネーブで国連核軍縮作業部会が開かれ、2017年中の核兵器禁止条約に関する交渉開始を、国連総会に勧告する報告書が採択された。
 作業部会には、核保有国は参加していないがアフリカ、中南米、東南アジアを中心とする非核保有国がイニシアティブを発揮し、賛成68、反対22、棄権13の圧倒的多数で可決され、これを支持する国は107か国にのぼった。
 今後報告書は9月に始まる国連総会に提出され、これを踏まえた総会決議案が作成される方向となっている。
 この間の 動きをみると、核保有国(アメリカ)と非核保有国がそれぞれの立場で核軍縮プロセスを模索しており、法的拘束力を持った包括的な核兵器禁止から廃棄に至るスキーム構築までには、困難な道程が存在している。
 しかしながら、既存のCTBT、核拡散防止条約(NPT)に現在提案されている宣言、条約を結合させることにより、より効果的な核兵器への規制が作り出されるであろう。
 そして何よりも、核保有国、非核保有国を問わず様々な核軍縮に向けた提案がなされることにより、核廃絶に向けた国際的な機運が醸成されることが、期待されているのである。
 
<核兵器信者>
 このような国際的な動きに水を差そうとしているのが安倍政権である。7月26日ハリス米太平洋軍司令官と会談した安倍は、オバマが検討している「核先制不使用宣言」に反対する意向を示したと、ワシントン・ポスト紙(8/15)が報じた。
 安倍はアメリカが核先制不使用を宣言すれば北朝鮮に対する抑止力に影響が出る、と懸念したと言う。これは「核の傘」という都合のいい言葉ではなく、核による脅しを全面的に肯定するものである。そもそもオバマは北朝鮮の「脅威」を勘案したうえで先制不使用を検討しているのであり、安倍は北朝鮮の「脅威」がそれほど高くないことが、明らかになるのが不都合なのだろう。
 主要な核兵器保有国のうち中国はすでに先制不使用を明らかにしている。さらに英仏が先制使用するとはだれも考えないだろう。
 ロシアは、NATO軍がロシア領内に侵攻した場合に核先制使用の可能性を排除していないが、ロシア軍が通常兵力で防ぎきれない規模の介入が生じることは考えられない。
 この様に国際的にも核兵器の先制使用は非現実的であるにもかかわらず、安倍政権は核抑止力にしがみついている。ジュネーブでの作業部会報告書採択に於いても日本は棄権に回った。日本は昨年の作業部会設置の際も国連総会で棄権しており、一貫して核軍縮に背を向け続けている。
 安倍政権は核兵器保有国が参加した枠組みでないと実効性がない、と理由をつけているが、核兵器廃絶を目指すどころか、実際には核兵器依存政策に拘泥し続ける姿勢が露わとなった。
 消極的な安倍政権の対応に批判が高まっている。8月6日広島、長崎の被爆者団体を始めとする国内外の115名の有識者らが連名で、オバマ大統領の核兵器先制不使用に反対しないように、とする書簡を安倍に送付した。
 9日の長崎平和宣言では、日本政府は核兵器廃絶を言いながら、核抑止力に依存していると、安倍政権の姿勢が厳しく批判された。さらに15日にはバイデン副大統領が、日本国憲法が日本の核武装を押しとどめている旨の、異例ともいえる発言を行った。
 こうした動きに動揺した安倍は20日羽田空港で、報道陣からワシントン・ポスト紙の報道について聞かれ、ハリス司令官とは「核兵器先制不使用に関するやりとりは全くなかった。どうしてこんな報道なるのかわからない」(8/20「毎日」)、と言い捨ててリオデジャネイロに出発した。
 
<軍拡は積極的>
 核軍縮に消極的な安倍政権は、戦争法成立1年を迎えようとする中、軍拡、緊張激化には極めて積極的となっている。8月3日の内閣改造で稲田朋美が防衛大臣に就任した。これは小池百合子に対するあてつけもあるだろうが、中国、韓国はもちろんアメリカからも警戒の声が上がった。
 そして同日、北朝鮮は中距離弾道ミサイル「ノドン」の試射を行い、その一部が秋田県沖250㎞の排他的経済水域に落下した。7月の潜水艦発射弾道ミサイル試射につづき、事前に察知できなかった日本政府は8日、破壊措置命令を発令、これを3か月ごとに更新し常時発令状態とすることを決定した。
 中国に対する、挑発、牽制も引き続き強められている。8月2日閣議了承された防衛白書では、中国に対して「強い懸念を抱かせる」と南シナ海や東シナ海での動きに言及し、厳しい批判を行った。
 8日には東シナ海の中国ガス田施設に水上レーダーと監視カメラが設置されているとして、外務省が抗議を行った。政府は軍事利用の可能性があるとしているが、件のレーダーは漁船やプレジャーボートについているのと同等のもので、軍事的脅威にはなりえない。中国としては「倭寇」対策のつもりで設置したのではないか。
 さらに安倍政権は、オーストラリア、フィリピンの政権交代で綻びた「対中包囲網」を取り繕おうと躍起になっている。
 8月12日ダバオで日比外相会談が行われ、中国に対する「懸念を共有」することで一致し、「法の支配を尊重」することを確認した。18日には円借款で沿岸警備隊に供与する10隻の巡視船の一番船がマニラに到着した。
 これは自衛隊練習機貸与につづく「軍事援助」となるが、いずれもアキノ前政権時に決まったものである。今後対中交渉を模索するドゥテルテ大統領がこれらをどう利用するか不透明であり、国内の犯罪組織や武装勢力対策に活用されることも考えられる。
 この様な「努力」にかかわらず、この間中国は海警局などの公船を連日多数尖閣近海に出動させている。事態は泥沼化しており収束の兆しは見えていないが、安倍政権としては、このまま緊張状態が続くことを望んでいるのだろう。
 
<軍拡阻止へ総力を>
 中国の脅威を利用した沖縄への圧力も強まっている。7月22日政府は、辺野古埋め立て承認取り消しの撤回を求めた国の是正指示に従わない沖縄県を提訴した。そして同日同県高江地区のヘリパッド工事を再開し、辺野古での陸上工事も近く再開しようとしている。
 さらに菅は8月4日の記者会見で、これまで別問題としてきた基地と沖縄振興措置についてリンクさせることを明言した。これは兵糧攻めを行うと言うことであり、あまりに露骨な圧力である。
 19日には普天間基地の施設が老朽化しているとして、大規模補修を行うことを明らかにし、普天間基地の固定化から辺野古基地の併存をも目論んでいることが明らかになった。これら軍拡は中国の脅威に対抗するためのもので、それに反対する沖縄は問題だ、との宣伝が進められている。
 自衛隊の任務拡大も止まらない。参議院選挙を勘案し先延ばしになっていた「駆けつけ警護」が、11月に南スーダンに派遣される部隊から可能となる。南スーダンでは7月以降、現大統領派と前第1副大統領派との間で内戦状態に陥っている。
 8月に入り前副大統領はコンゴに脱出、8月13日には国連がPKO部隊4000人の増派を決定したが、戦闘は南部の首都ジュバから北部にも拡大している。稲田は15日の記者会見で南スーダンの現状は「『PKO5原則』は満たしている=安全」と強弁しているが、それならジプチ訪問でお茶を濁さず自らジュバに乗り込み「安全」を証明すべきだった。
 安倍政権はアメリカと稲田の面目を立てるためジプチに派遣したが、服装のチャラさとも相まって(さすがに基地では「戦闘服」に着替えたが)逆効果だったと言えよう。
 7月の戦闘では、国連の装甲車が戦車の砲撃を受け中国兵7人が死傷した。正規軍同士の衝突に等しい状況下に駆けつければ、多大な損害を被るのは明らかであり、安倍政権は新たな戦死者を生み出す方向へと向かっている。
 8月15日の戦没者追悼式で安倍は「戦争の惨禍を決して繰り返さない」と述べたが、加害責任や謝罪抜きの言葉は白々しいものだった。
 同式典で「深い反省」を述べた天皇は、8月8日に「生前退位」の意向を強く滲ませたメッセージを発した。天皇が「任期短縮」を望んでいる一方、安倍は総裁=総理の任期延長を目論んでいる。その目的が改憲にあることは火を見るよりも明らかであろう。
 これに対抗すべき野党は、東京都知事選挙の惨敗以降まったく存在感を示せていない。民進党は代表選挙があるにもかかわらず、政策抜きの党内政治が優先され社会から遊離している。
 共産党も選挙が終われば日常の風景に戻った感があり、社民、生活は相変わらず風前の灯である。市民運動も8月15日をもってSEALDsは解散し、三宅洋平は安倍昭恵さんと高江に現れ現地を混乱させた。
 野党、民主勢力はこの間の選挙総括を踏まえ、早急に立て直しを進めなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.465 2016年8月27日

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【投稿】熊本地震で実証された原発基準地震動の「過小評価」

【投稿】熊本地震で実証された原発基準地震動の「過小評価」
    —島崎邦彦前原子力規制委員長代理の指摘—
                           福井 杉本達也 

1 原発基準地震動が「過小評価」されている と島崎邦彦氏の指摘に慌てふためく規制委
 6月19日の福井新聞は「原発基準地震動の『過小評価』:指摘、規制委、異例の検証へ」と題する記事を掲載した。この記事は6月24日発売の雑誌『科学』2016年7月号の島崎邦彦:前原子力規制委員長代理の『最大クラスではない日本海「最大クラス」の津波―過ちを糾さないままでは「想定外」の災害が再生産される』との掲載論文での指摘に対応するもので、福井新聞の記事は「関西電力大飯原発などの基準地震動(耐震設計の目安となる揺れ)が、計算式の不備が原因で過小評価されている可能性を原子力規制委員会の前委員長代理の島崎邦彦・東京大名誉教授(地震学)が指摘。慌てた規制委が島崎氏から説明を受け、検証を検討する異例の展開になった。島崎氏の指摘が重要な新知見と確認されれば、規制委の審査基準改定や、一部原発の再審査も必要になる。だが、実は規制委は2年前にも同じ問題を指摘されていた。地震の規模(地震モメント)を見積もる計算式は、北米の地震データに立脚し、日本の原発で適用すると過小評価につながる」と書いている。

2 基準地震動とは何か
 原発の地震に対する安全性の検証は、大きく三段階に分けられる。①影響を及ぼす巨大地震をきちんと想定しているのか(地震想定)、②その地震で原発はどれくらい揺すられるのか(基準地震動Ss の策定)、③揺れによって建物や設備・機器・配管などは壊れないのか(耐震評価)とういう段階で評価されるが、この原発の設計の前提となる原発の耐震性を決めるための基礎は「揺れの大きさ」=「基準地震動・Ss」である。原発ごとに、周辺の活断層などで起こりうる大地震を想定して、地盤の状態を加味し、原発直下の最大の揺れを見積もる。これをもとに原子炉、建屋、配管などの構造や強度を決める。揺れの大きさを加速度で表現する。地震の揺れで単位はガルで、1ガルは1秒ごとに1センチずつ加速することであり、地球上で物が落ちる時の加速度(重力加速度)は980ガル=1Gである。
 
3 柏崎刈羽原発の教訓
 2007年7月に新潟県中越地方で新潟県中越沖地震が発生した。マグニチュード6.8という、内陸地震の規模としては普通規模の地震であったが、柏崎刈羽原発では1号機で南北方向311ガル、東西方向680ガル、上下方向408ガルを記録した。いずれも設計時に想定した加速度を大幅に上回っていた。3号機タービン建屋1階では2058ガル(想定834gal)を記録した。柏崎刈羽原発では、2700カ所以上の機器類の破損があった。3号機の起動変圧器は炎上し、外部電源も失われた。非常用ディーゼル発電機の一部は起動せず電力不足に陥り、タービン駆動給水ポンプを動かすために補助ボイラーが起動したが、1~5号機と6,7号機でそれぞれ一台しか使用できなかった。そのため運転していた3、4号機で一台を取り合う結果となり、起動変圧器が炎上していた3号機を優先したため4号機の冷温停止には丸2日掛かっている。後一歩深刻な事態に陥っていたならば、福島第一原発と同じようなメルトダウンあるいは炉心損傷の事態に至っていた可能性もある。6号機のクレーンは両側のレールで支えられて原子炉の真上を移動できるが、そのレール上を走る車輪の車軸が両側とも折損・車軸の継手も破損。最悪の場合原子炉内に落下していた。この柏崎刈羽原発の被害の甚大さは耐震性評価において、電力会社は地震動を著しく過小評価し、規制当局はそれを追認していたことを明るみに出した。
 
4 規制庁は基準地震動を意図的・作為的に小さく計算―田中委員長さえも規制庁の「無能力」を認める大失態を犯すも、再稼働推進は諦めず
 島崎氏の批判に応えて、規制委はしぶしぶ、大飯原発の基準地震動を「武村式」(武村雅之名古屋大学教授による地震動から断層運動のエネルギー(Mo)を求める経験式)という、より厳しい経験式に基づいて計算すると、現行で採用している「入倉・三宅式」(入倉孝次郎京大名誉教授―三宅弘恵東大准教授)という緩い経験式に基づく計算結果を大幅に上回る地震動となることが、規制庁自身による「計算」で明らかとなった。自らの計算結果に規制庁は、関西電力が計算したよりも、より楽観的で、より緩い条件を置いて計算し直して再計算結果を出し、7月13日の田中委員長会見では「再計算では最大で644ガルで、基準地震動の856ガルを下回った。」と“胸を張って”述べたものの、すかさず、島﨑氏より「関電と同様の設定で計算すべきなのに、されていない。関電の計算結果に比べて約6割と過小評価になった。補正すべきだ。補正したうえで予測の「不確かさ」を加味すれば、結果は推定で最大1500ガル超になる。ストレステストで炉心冷却が確保できなくなる下限値として関電が示した1260ガルを上回る。」と論破され、自らの再計算で墓穴を掘り大恥をかいてしまった。
 その後、7月20日に田中委員長は「再計算のやり方に無理があった。拙速だった。能力不足だった。判断を白紙に戻す」と規制庁の再計算の誤魔化しを認めざるを得なかった。しかし、再稼働が至上命題の規制委としては、7月28日の会見で「安全審査で了解した大飯原発の基準地震動は見直さない。「入倉・三宅式」を見直す理由は見つからず、同方式による算出は継続する。」と居直った。

5 推定した震源断層の大きさから実際に起きる地震動を正確に予測することはできない
 東大地震研究所の纐纈一起教授は、「原発の耐震評価で用いられている地震動の予測手法を熊本地震に適用すると、地震動は過小評価になる(「東洋経済」2016.8.17)と指摘する。「入倉・三宅式」では大地震が起こる前に電力会社が原発の敷地内や周辺の地質や地層を詳細に調べても、そこで推定した震源断層の大きさから実際に起きる地震動を正確に予測することはできない。熊本地震を引き起こした布田川・日奈久断層帯北東部の長さは地震が起こる前は約27キロメートルと見積もられていたが、実際に地震が起きたところ、震源断層の長さは約45キロだった。「入倉・三宅式」そのものは、これまでに起きた数多くの活断層型の地震のデータに対して、一本の線を引いた回帰式にほかならない。その背後には、平均値に対して大きなばらつき(不確かさ)が存在している。
 規制庁は「入倉・三宅式」に基づいて出されている基準地震動を小さく見せかけるため、武村式を用いて大飯原発の基準地震動を現行の関電方式で評価するとき、結果を現行評価枠内に抑えるため、式の入れ替えを「不確かさ」の範疇に入れてしまい、「不確かさへの考慮」部分をカットし(関電は式の中に「不確かさへの考慮」を参入していたにもかかわらず)、「入倉・三宅式」による現行最大加速度596 ガル(関電が提示していた)をなぜか356 ガルになるよう、評価のベースを引き下げる小細工を弄した。しかし、そこに「武村式」を適用すると、356 ガルが644 ガルへと1.81 倍にも高まることを自らの計算で認めてしまった。藤原広行・防災科学技術研究所・社会防災システム研究部門長は、「東日本大震災が起きて地震学の知見の限界が改めて明らかになった。こうした中で、『不確かさ』の扱いがそもそも十分だったのかについても議論すべき。そして、不確かさを体系的に原子力の安全規制の中で扱うルールづくりをしない限り、適切な基準地震動の設定はできない」と警鐘を鳴らす(「東洋経済」同上)。

6 それでも伊方原発3号機を再稼働し、大飯原発や高浜原発も再び動かそうとする規制委
 「武村式」で計算し直せば、大飯原発3・4号機では炉心溶融につながる「クリフエッジ」を超えてしまうので、原発は再稼働できなくなる。美浜3号でも993 ガルが1800 ガルにもなり、やはりクリフエッジを超えるので、40 年超運転などとんでもない。伊方原発でも、敷地前面海域の54km長の断層の地震動評価が1.6倍強、69km長の断層では2.0倍以上になり、855ガルのクリフエッジを超える可能性が高い。ほかの原発も再稼働が困難になる可能性が高い。これでは、再稼働を是が非でも進めようとする規制委の方針は根底から覆る。そこで田中委員長は新たな方法による再計算を拒んだのである。
 「入倉・三宅式」はアラスカ・カナダ・地中海など世界中の地震データの平均値であるのに対し、武村式は日本だけの強い地震の特性を反映している。熊本地震の結果は、ほぼ「武村式」によってうまく再現される。「武村式」を用いて大飯原発をはじめ、すべての原発の基準地震動評価をやり直すべきである。再稼働中の川内原発・8月12日に再稼働した伊方3号機を停止させ、また、その他すべての原発の運転再開を許してはならない。

7 島崎氏が「入倉・三宅式」批判を始めた理由
 島崎氏が「入倉・三宅式」批判を始めたのは、 2015年5月からであり、2014 年の規制委退職からわずか8ヶ月、当時は「何を今更」という感じで受け取られた。 島崎氏の今回の行動は「二年前に発端」があり、長沢啓行大阪府大名誉教授らが、2014年に川内原発の基準地震動評価で、規制庁と交渉した際、答えに窮した審査官が、島崎氏らに相談して検討すると約束。その場を切り抜けた。審査官から相談を受けた島崎氏は規制庁に検討を指示したものの、報告はなかった。規制庁のサボタージュで踏みにじられたのである。6 月 19 日付の福井新聞の記事は「島崎氏は、長沢氏の指摘を『ポイントを突いた議論だった』と話す。」と書く。地震学の専門家でもなく、まさに孤軍奮闘だった長沢氏らの闘いは、今回の島崎氏による問題提起で、ようやく「入倉・三宅式」批判がマスコミで広く取り上げられ、地震動の過小評価が表舞台に立ったといえる(長沢啓行:『反原発新聞』:2016.8.1)。

【出典】 アサート No.465 2016年8月27日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | 【投稿】熊本地震で実証された原発基準地震動の「過小評価」 はコメントを受け付けていません

【投稿】都知事選惨敗をめぐって 統一戦線論(27) 

【投稿】都知事選惨敗をめぐって 統一戦線論(27) 

<<都知事選敗北の実態>>
 7/31投開票の都知事選の結果は、野党共闘にとってまったく惨憺たる敗北であった。
 直前に行われた参院選の東京選挙区での得票を見ると、鳥越支持は、民進党1,631,276票、共産党665,836票、社民党93,677票、合計2,390,789票、対する小池・増田支持は、自民党1,529,622票、公明党770,535票、合計2,300,157票であり、優位ないしは拮抗し、なおかつ保守分裂で、野党統一候補が勝利する可能性が極めて高い選挙戦であった。野党統一候補として鳥越俊太郎氏が名乗りを挙げた当初、そして告示日前後の世論調査では鳥越氏が首位だったものが、日を経るにしたがって、急失速、終盤では接戦どころか、大きく引き離されてしまったのである。結果は、
小池百合子   2,912,626(得票率44.5%)
増田寛也    1,793,453( 〃 27.4%)
鳥越俊太郎   1,346,103( 〃 20.6%)
という厳しいもので、小池百合子氏が次点の増田氏に110万票以上の差、3位の鳥越氏にはダブルスコア以上の大差で当選。
 前回(2014年2月9日投票)の結果は、
舛添要一    2,112,979(42.9%)
宇都宮健児     982,595(19.9%)
細川護煕     956,063(19.4%)
 保守の統一候補に、宇都宮氏と細川氏が分裂して臨み、両者合わせればそれこそ大接戦であったが、今回は統一候補であったにもかかわらずの大敗である。保守2候補が7割以上を得票し、野党統一候補が2割の得票に過ぎないという惨敗である。
 得票数そのものでも、前回の宇都宮・細川の200万票近い得票が、今回、投票率が13.59%も上昇したにもかかわらず、逆に得票数を59万票も減らし、参院選で獲得していた239万票どころか、それを100万票以上も下回る134万票へと大幅に後退させてしまったのである。保守に対抗する野党陣営の大幅な後退、退潮は目を覆うばかりである。

<<3つの「よし」>>
 なぜ当初の期待がかくも裏切られてしまったのであろうか。
 確かに、選挙戦開始最中の7/21発売「週刊文春」、続いて翌週の「週刊新潮」の「女子大生淫行疑惑」という鳥越氏の女性問題に関する謀略的な醜聞報道は、明らかに鳥越氏を標的にした悪質な選挙妨害であり、これが結果として大きなダメージを与えたと言えよう。鳥越氏は、事実無根であり、無いものを説明するのは「悪魔の証明」だとして、「この問題は弁護士に任せているので、私から言うことはありません」という説明に終始ししてしまった。ところがその一方で7/28のテレビ番組では、問題の女性の現在の夫と3人で会ったことを認め、問われて断片的に「事実」の一端を話しはするが、どこまでは事実で、どこからは事実でないのかを説明できない、それを真摯に打ち消す努力を放棄していたと言えよう。これでは女性の人権問題を本当に重視しているのかと見放されてしまっても当然といえよう。
 しかしより以上に致命的で決定的ともいえるのは、都知事選に臨む政策の問題である。告示が2日後に迫った7/12、野党統一候補として名乗りを上げた鳥越氏の最初の決意表明、公約が「がん検診受診率100%」にするというものであった。これはたとえ重要であったとしても、都政が直面し、与野党が対決する焦眉の課題、争点ではないし、しかもがん検診に疑問を投げかける専門家が多数存在する、都民の合意が得られていない政策である。自らのがん闘病体験から出てきたものではあろうが、舛添前知事が辞任にまで追い込まれた、与党と一体化した都政私物化問題とはまったく関係がないし、そこに切り込む迫力さえこの政策には反映されていない。
 次いで7/15に発表された鳥越氏の政策は、(1)都政への自覚と責任(2)夢のある東京五輪の成功へ(3)都民の不安を解消します(4)安全・安心なまちづくり(5)笑顔あふれる輝く東京へ(6)人権・平和・憲法を守る東京を―の6本柱であった。政策スローガンが「『住んでよし』『働いてよし』『環境によし』を実現する東京を!」に集約された。この3つの「よし」が公約とでもいえるのであろうか。抽象的でありきたりで具体的政策提起がない。途中で「学んでよし」の4点目も入れられ、さらに投票日の3,4日前になって、「女性によし!」というポスターを掲げた。まるで思いつきと、事態に翻弄されたあわてふためきがそのまま出てしまったとしか言いようのない「よし」の羅列である。
 そこには、野党統一候補の擁立が日替わりのように混迷し、ようやく直前になって鳥越氏に一本化させたことから、統一候補の擁立自体が自己目的化し、国政の課題を優先させ、都政の課題をなおざりにさせてしまったこと。知名度優先で、政策の相互討論や論点の明確化が行われず、野党共闘を支えるべきそれぞれの政党のサポートがなきに等しき状態であったこと。知名度だけで票が取れると目算した野党共闘側の各政党の安易で有権者を見くびった姿勢、野党共闘体制さえ維持・継続できればいい、といったことの露骨な反映とも言えよう。この点ではとりわけ、民進党、共産党の責任が厳しく問われるべきであろう。
 一方の小池氏は、都議会自民党との対決姿勢を強烈にアピールし、最初に自分が知事になれば、①都議会を冒頭解散する。②利権追及チームを作る。③舛添問題の第三者委員会設置を行うという政策を打ち出した。実際に実行するかどうかはすでに怪しくなっているが、対決店・争点を明確にしたことは間違いがないし、民進・共産支持者の相当部分が小池氏支持に廻ったことが出口調査でも明らかにされている。

<<これが“大健闘”か>>
 ところがである。共産党のしんぶん赤旗は、7/31投票日当日「都知事選 今日投票」という記事で、「野党統一候補でジャーナリストの鳥越俊太郎氏と、自民、公明が推す元岩手県知事の候補、前自民党衆議院議員の女性候補大激戦、大接戦です。」と書いている。さらに、その選挙結果が明らかになった翌日、8/1付赤旗は、「東京都知事選 鳥越氏が大健闘」と大見出しで伝え、小池晃書記局長が「鳥越俊太郎さんは勝利できませんでしたが、大健闘されました。今回の選挙戦を通じて、首都東京で野党と市民の共闘が発展したことは極めて重要な意義があります。」、志位委員長は「野党と市民が共同して推した鳥越俊太郎さんは、勝利できませんでしたが、134万票を獲得し大健闘されました。一つは、鳥越俊太郎さんが、都民の願いに応えた政治の転換の旗印を鮮明に掲げたことであります。「住んでよし、働いてよし、学んでよし、環境によし――四つのよしの東京」という旗印。いま一つは、参議院選挙で大きな成果をあげた「4野党プラス市民」という共闘の枠組みが、首都・東京でも実現し、野党と市民が肩を並べてたたかったことであります。」と述べている。「大激戦、大接戦」などと選挙情勢を見くびっていたことに何の反省もなく、翌日は、「大健闘」と厳しい現実から目をそらすまったくの我田引水そのものである。
 さらに共産党の志位委員長は、8/5の党創立94周年記念講演で「冒頭、7月31日の東京都知事選挙についてお話ししたいと思います。野党と市民が統一候補として推した鳥越俊太郎さんは、勝利はできませんでしたが、134万票を獲得し、大健闘されました。「4野党プラス市民」という共闘の枠組みが、都知事選挙でも発展したことです。」と述べている。それは、今回の都知事選を野党共闘の成功例と自賛するばかりで、それが直面し、見放されてしまった現実、野党統一候補が大きく後退したという厳しい現実については一切触れようともしていない、一言も述べていないのである。もちろんこれでは冷静な敗因分析や反省や教訓もあったものではない。こんな都知事選総括しかできないようであれば、野党共闘にも未来はないし、さらなる支持を獲得することはできないであろう。
 8/2付赤旗は、共産党の「7月の党勢拡大」について、「例月を大きく上回る購読中止があり、日刊紙、6559人減、日曜版2万8856人減という大きな後退となりました。」と報じ、8/9付赤旗は、中央委員会書記局名で「党の自力はどうでしょうか。党員、日刊紙、日曜版とも大幅に後退しました」と認めた後、「もっと伸びると思いガッカリしていたが、」「もやもや感があったが、」、と言う声を断片的に紹介しつつも、党創立94周年の志位委員長の記念講演の「一大代学習運動が何よりも重要」と強調、これがなければ「ガッカリ感」を残したままになります、と訴えている。こんな程度のことしか言えない、これが共産党指導部の実態である。
 共産党の選挙敗北後の「よく善戦した」「大健闘した」と常に繰り返される声明・発表は、まるで戦前・日本軍部の大本営の発表を聞くようなものである。そこからは、敗北を直視し、何が良くて何が悪かったのかを、自らの姿勢と問題点を抉り出す姿勢がまるで欠如しているのである。多くの党員の真剣な努力や疑問、抱える困難、難問に答える姿勢が皆目見られないのである。
 今回のような都知事選の明白な敗北を、「大健闘」で済ましてしまうような姿勢では、野党共闘、統一戦線の真の発展は望めないというところから、真摯な総括が行われるべきであろう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.465 2016年8月27日

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【投稿】「横田先生の遺されたもの」

【投稿】「横田先生の遺されたもの」       大曽良 宏

ついに横田先生も亡くなられた。やはり生きるものは永遠ではないことをあらためて知るべきだ。森先生は授業で「君は死んだら灰と思うか」と問いかけられていた。頑張ってみても仕方がないと思うか、と。そうでもない、とたいていの学生は答える。それでは生きがいとはどういうものか、何か残すほどのものを考えたことはあるか、と。

横田三郎 著
現代人権教育の思想と源流
—横田三郎コレクション—
2016年8月31日発行
鳥影社 2800円+税
ISBN978-4-86265-564-6

横田先生は終戦後入学された京都大学で鈴木祥蔵先生が主催されていた勉強会で『共産党宣言』を学び「目から鱗」でマルクス主義に傾倒された。1950年代に入ってすぐに大阪市立大学に勤めるようになると、そこでドブロリューボフの『オブローモフ主義とは何か』に出会い、大きな衝撃を受けられた。同時に同じ市大文学部におられた森先生と意気投合し唯物論哲学を学び、ロシア文学なども大いに語り合われたという。お二人の住まいは大学のあった大阪市内杉本町の駅の近くで、互いによく行き来して、将棋をさしたりしながら雑談に花を咲かせておられたようだ。横田先生のお宅には直木孝次郎先生も手みやげに寿司などを持って遊びにこられ、楽しいひとときを過ごされたこともよくあったと奥様からお聞きしている。このころはまだ時はゆっくりと過ぎていた。

1960年前後から世の中は騒然とし始め、大阪の部落解放運動も起こりはじめ、大学でも差別事件が告発されるようになってきた。60年代後半には大阪市内で誰もが知ってはいるが、どうしようもない問題として見て見ぬふりをされていた「差別越境」の問題に小学校の子どもたちも立ち上がった。そして越境していた子どもたちが地元の学校に戻ってくるにつれ、同和教育のあり方が真剣に問われることとなり、ついに「矢田教育差別事件」がおこった。この中で部落解放運動がおこなう糾弾とは何か、同和教育と先生の労働条件の関係、解放教育が任務とする「解放の学力」と進学できる学力との関係、非行や荒れる子どもたちをどう受けとめるかなど、問題や論点は多くの面に広がった。
横田先生はこの60年代をふり返って、「当時でもオレは十分に差別主義者だったよ」とおっしゃっていた。当時はまだ在日朝鮮人問題、障害者問題、女性問題、原爆被爆者問題、まして性同一性障害の問題などは、社会的にはほとんど受けとめられていなかった。部落解放運動や同和教育にかかわる人たちが先頭切って社会に問いかけ、孤軍奮闘している時代だった。

1960年代終わりから70年代にかけてのころ、大阪の人権運動は激動期を経て大きな発展をみた。横田先生は大学紛争や大学内部の差別事件、それに矢田教育差別事件などの渦中の人となって、相当深く考え、考え直して、真に民主主義的な考え方を体得されていったようだ。
誰が言ったのだったか、「横田さんは相当晩稲(おくて)だったのですなぁ」とは尊敬によるものか、真面目すぎるほどの繊細さを軽くからかったのかは知れないが、その両方に値する頑固な真面目さによって、終戦から長い時間をかけて幼いころからの軍国少年のくびきから自らを解放したのである。

横田先生の言葉には長い思索と苦しい自問とによって得た強い信念と迫力がこもっている。
このたび刊行された書籍には軍国主義を拒否し、民主主義に徹した一人の人間が求めた未来が描かれている。今日の教育問題に真摯に取り組もうとする人は、先ずこの本から始め、そしてこの本を乗り越えることが求められる。

【出典】 アサート No.465 2016年8月27日

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【投稿】英EU離脱と「米英同盟」の事実上の崩壊

【投稿】英EU離脱と「米英同盟」の事実上の崩壊
                          福井 杉本達也 

1 EU離脱にヒステリックに対応する日本のマスコミ
 英国の国民投票でEU離脱派が多数を占めた6月24日の翌日の東京新聞社説は「英がEU離脱 歴史の歩み戻すな」、朝日新聞社説は「内向き志向の潮流が、世界を覆う事態を防がねばならない。偏狭な一国中心の考え方が広がれば、地球温暖化やテロ対策、租税問題など、地球規模の問題に対処する能力を世界は鍛えることができなくなってしまう。」と述べ、日経新聞社説は「大陸欧州の各地でも排外的なポピュリズムが広がり、反移民や反EUを掲げる政治勢力が支持を伸ばしている。…戦後世界の平和と安定を目的とした欧州統合が逆回転を始める意味は深刻だ。」と書いた。総じて離脱に批判的である。「英国がナショナリズムの誘惑に屈した」、「移民への圧力が心配」、「シルバー民主主義」、「離脱に賛成しながら結果に後悔する人もいる」、「国内世論も投票結果に揺れている」とし、ブレア氏は「国民投票の再実施も」(日経:2016,6.28)との紹介記事を載せ、「解散総選挙で離脱回避も」、「国民に直接賛否を問うというのは一見民主的だが『選んだのは国民』と責任を全て押し付けられてしまう」(日経:7.6)、さらには英紙の世論調査では「再投票なら残留多数」(福井:2016.7.3)という記事を書く始末である。
 なぜ、日本のマスコミはEUの構成国でもなく、“遠い”他国の国民投票に否定的な論調をとるのか。直接的には参院選挙の真っただ中ということもあり、離脱で極端な円高が進めば看板の「アベノミクス」の化けの皮が剥げてしまうことを恐れたこと、英国は日本の日立、日産や野村證券などが欧州大陸に進出する橋頭堡としての位置づけが大きいことがあげられるが、一番の論点は英国民の51%が「グローバル化」に明確に反対したことである。英調査機関によると、低所得者の64%が離脱に賛成し、高所得者・中所得者の57%が残留に投票した(日経:7.11)。メディアのヒステリックな反応を見ると、メディアを支配する勢力にとって、今回の英のEU離脱を絶対に阻止しなければならない重大問題であると捉えられていた。一言で表現するなら、グローバル化とは米金融資本の旗印である。日本の全マスコミは米金融資本の意向を受けて、グローバル化反対の波が広がらないようにと情報統制した。

2 EUとは何か・NATOとどう関係するのか
 二度もの世界大戦の戦禍に懲り、「欧州は一つ」との理想をかかげることで、利害が対立していた国や諸国連合をも吸収し、東西冷戦終結後、2004年には、中東欧諸国10ヶ国が集団加盟するなど拡大を続けてきたというのが、EUの公式の歴史であるが、実際EUは、米国の欧州支配を容易にする手段である。米国にとって、28の個別の国々を支配するより、EUを支配するほうがはるかに楽で、米国が主導権を握る軍事同盟・NATOと表裏一体の関係にある。
 グローバル化とは、米金融資本が、世界を一つの市場として包含し、その世界市場からの収奪することを指し、経済活動において国境の撤廃を目指すものでEUは欧州を単一市場化することによって、金融資本と1パーセントの支配層ために奉仕するためにある。また経済理論としての「新自由主義」とは表裏一体の関係にある。英国がこれまでEUに片足を突っ込んできたのは、自国通貨ポンドの維持を認められたがゆえであり、EU貴族の金を運用してGDPの10%を占める金融業を米国と共同で運営することを認められてきたからである。米国は、60年間もかけて、ヨーロッパの全ての国々を、米国が支配可能なEUという袋に押し込んできたのである。

3「米英同盟」の事実上の崩壊
 第二次世界大戦以降、米英は「特別関係」(special relationship)といわれた。2002年7月、イラク侵略戦争参加の8か月前、ブレア英首相はブッシュ米大統領に対して、I will be with you, whatever.(何があろうとも、私はあなたと共にいる)と述べた(BBC:2016.7.6)ことが明らかとなっている。しかし、その後英はこの「特別関係」を何度か裏切ることになる。2013年8月、米・オバマ政権はシリアのアサド政権が化学兵器を使用したといいがかりをつけ、英国にシリア攻撃の同調を求めたが、英下院は攻撃案を否決した。この英国の裏切りのため腰砕けとなったオバマ政権はシリア攻撃を行うことができなくなった。
 2015年3月、英国は中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への突然の参加表明を行った。英国が長年の盟友である米国を切り捨てて中国主導の投資銀行に参加することとした。「英政府の関係筋は『国際金融において中国の良きパートナーでありたい』と語った。また、『米国が同じ立場でないことは理解していたが、それを承知で動いた』と述べた。」(ロイター:2015.3.24)そして、今回の裏切りである。サッチャー・レーガン革命において蜜月が頂点に達した米英の「特別関係」は事実上崩壊したといえる。

4 英国のもう一つの離縁状「イラク戦争独立調査委員会報告書」
 1991年に始まるユーゴ内戦(スロベニア紛争・クロアチア紛争・ボスニア紛争・コソボ紛争・マケドニア紛争)において、旧ユーゴスラビアの人民を戦禍に陥れ、旧ユーゴをズタズタに解体した。2008年のジョージア(旧グルジア)紛争への介入、2001年から今日までのイラク・アフガン戦争への介入、2011年のリビア国家の解体、2014年のウクライナ紛争への介入等々、EU拡大は、他国の主権無視と諸国民の殺りくに他ならない。欧州は米国とNATOによって、ロシアとの紛争に追いやられている。愚かなドイツ政府がそれを可能にしており、欧州は戦争からの難民に圧倒されている。
 英国もこの愚かな戦争に2013年までは愚直につき合ってきた、あるいは米国に代わり欧州に指示してきたが、イラク・アフガン戦争において、これ以上米国と付き合っていれば、米国との心中・国家が崩壊しかねかねないことを自覚し始めた。7月6日、英国の「イラク戦争独立調査委員会」(チルコット・レポート)は2003年のブレア政権のイラク戦争介入を巡る調査結果を発表した。報告書は2002年4月のブッシュとの会見でブレアがイラク・フセイン政権転覆についての見通しを固めたと思うと証言したことが書かれている。つまり、現在に至るまで延々と続くアメリカ帝国の、中央アジア~旧ソ連圏~中東~北アフリカでの(南米を加えるべきかもしれないが)政権転覆・地域流動化の戦略に、イラク戦争開戦の以前にイギリスがしっかりと組み込まれたこと、ブレアがその中心にいたことを示している。 報告はイラクの脅威について政府が「正当化できないほど確かなものとして説明した」と批判。そのうえで「イラクをめぐる政策が誤った情報と評価のうえで進められたことは明らかだ」と結論づけた。また「軍事介入の失敗によってイラクの人々が大きな苦痛を味わった」と指摘した。チルコット・レポートはブラウン前政権からの調査であり時期も異なるが、米国へのもう一つの離縁状である。

5 英EU離脱で誰が得をするのか
 英EU離脱はプーチンのさしがねであるとのニュースがまことしやかに流れたが、EU=NATOが弱体化することは、ウクライナ問題を巡りEUの経済制裁を受けているロシアにとってはチャンスである。NATO首脳会議が英EU離脱投票後の7月8,9日とワルシャワで行われたが、ニコラス・バーンズ元米国NATO常任代表は、モスクワはNATOの共通の立場を分割することに成功した、と述べた(Sputnik2016,7.11)。英国はNATO軍事費の1/4を占め、核保有国でもあるが、「EU離脱決定は(NATO)の集団的自衛権が本当に機能するかという疑問を投げかけた…英国が他の加盟国のために反撃に乗り出すのか疑念が広がる…EUの対ロ政策が軟化するとの警戒がにじむ」(日経:2016.7.9)と解説する。
 中国はどうか。英国の離脱で欧州景気が減速する不安があるものの、アジアインフラ投資銀行(AIIB)を窓口に、英政府は、EUとの経済関係が疎遠になることによるマイナスを、中国など新興市場との経済関係の強化によって埋めようとしている。ロンドンを世界の主要通貨の一つに成り上がっている中国人民元の国際センターにしようとしている。
 もう1ケ国、英離脱投票の直後にトルコのエルドアンがロシアと和解した。昨年11月トルコ軍がシリア上空でイスラム国を攻撃中のロシア軍機を撃墜した事件を機に冷え込んでいたが、トルコが「謝罪」をしたため急激に関係修復に動きだした。プーチン外交の全面的勝利である。撃墜事件はトルコ1ケ国で判断したものではなく、米軍産複合体の指示に基づくものであるが、トルコも米国の中東政策に見切りをつけようとしているようである。7月16日にトルコ軍の一部によるクーデター未遂事件があったが、政権側に鎮圧された。NHKの16日11時34分のニュースによると、「フランス政府は、トルコで軍の一部がクーデターを試みる2日前の今月13日、首都アンカラにある大使館と最大都市イスタンブールにある総領事館を当面休館にすると発表していました。」と報道しており、仏は何らかの形で、クーデター計画を事前に知っていた可能性が大であり、クーデター自体がエルドアン政権側の自作自演、あるいは挑発により追い込められた暴発の可能性もある。いずれにしても、死神・米国から決別する動きが加速すると思われる。
 水野和夫の言葉を借りれば、17世紀に「陸の帝国」スペインから「海の帝国」英国に覇権が移り、その後「海の帝国」を米国が引き継いだが、再び「陸の帝国」としてのロシアや中国が台頭しつつある。EUは当初理念による統合によって資本主義を乗り越えようとしたが、結局近代資本主義の範疇である「陸の帝国」として、「海の帝国」米国の覇権の下でロシア・中国の「陸の帝国」に対抗する存在になり下がってしまった。資本主義には「中心」と「周辺」があり、中心が周辺を収奪するシステムであるが、ロシア・中国の「陸の帝国」化により周辺が極端になくなってしまった。1%の支配者は戦争によって強制的に周辺を作りだすか、中心の中間層を周辺に落とし込めて収奪するしかない。今回の英国の反乱はこの収奪システムに反旗をひるがえしたことである。けっして、「右翼民族主義者」による「移民排斥運動」が英EU離脱の投票結果をもたらしたのではない。米の「海の帝国」の覇権を維持しようとする1%の野望が大量の移民を作りだしているのである。

【出典】 アサート No.464 2016年7月23日

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