【投稿】原発再稼働から核武装へと突き進む日本

【投稿】原発再稼働から核武装へと突き進む日本
     —-メルケル首相の訪日の意義—-
                            福井 杉本達也 

1 なぜ高浜3・4号機の再稼働を急ぐのか
 3月20日高浜町議会は高浜3.4号機の再稼働に同意するとした。統一地方選後の4月には野瀬高浜町長も再稼働に同意するものとみられ、焦点は福井県の同意に移る。県では2月17日に再稼働に向けた5条件というものを出している。そのうち①「中間貯蔵施設の県外設置に向けた積極的関与」、②「福島事故を教訓とした事故制圧体制の充実強化」の2点が注目される。①は、これまで使用済み核燃料を県外に搬出することが原発の建設・運転の条件となってきたこともあり、その延長線上にあるが、どこへ搬出するのか?受け入れる県があるとは思えない。福島第一3号機では燃料プールが水蒸気爆発を起し、4号機プールも危機的状況に陥ったが、使用済み核燃料をプールに保管し続けることは危険極まりない。住民の安全を取りあえず確保するためには、空気で冷却する乾式貯蔵方式がベターであるが、西川知事の頭には住民の安全を守ることはすっぽり抜け落ちている。①も②も駆け引きの道具で、知事は真剣に考えているとは思えない。
 政府は「規制委が世界最高水準の新基準に適合すると認めた場合は再稼働を進める」としているのに対し、規制委の田中委員長は「新基準の適合性は見ているが安全だと申し上げない」としており、知事としては、いったい誰が再稼働に最終的責任を持つのかという不信がある。しかし、知事の論理には無理がある。福島事故で原発は人類が制御できない危険なものであることが明らかとなった。それを無理やり安全だと言えということであるから別の目的がある。というか、官僚機構が知事に言わせている。住民の生命や財産を犠牲にしても再稼働しなければ、日本に核管理能力がないとして、核開発をやめさせられる恐れがあるからである。

2 メルケル首相と安倍首相・日独の違いはどこに
 ドイツ政府は3月7日、メルケル首相の日本訪問にあたってビデオメッセージを公式サイトに掲載した。その中で、首相は福島第一原発事故にふれ「この恐ろしい事故に私たちは同情しました。そして、ドイツはより早く原子力から撤退するという大きな決定をしました。私たちは再生可能エネルギーに、とても期待しています。私は日本も同じ道を取るべきだと思っています。…私は福島の事故を経験したドイツの首相として、できるだけ早く原子力から撤退するようにしています。」(訳:The Huffington Post)と述べている。共同記者会見で独メディアから日本はなぜ脱原発をしないのかと問われ、安倍首相は「日本での再生可能エネルギーの普及はまだわずかだ」(日経:3月10日)と都合の悪い質問にまともに答えようとはしなかった。事故当事者の日本で「脱原発」への舵が切れず、どうしてドイツでは「脱原発」へと進みえたのか。単なる政治指導者の資質だけの違いではあるまい。

3 核の「平和利用」と「宇宙開発」
 1969年2月3~6日まで東京と箱根において日本の外務省と旧西ドイツの外務省高官との秘密協議が行われた。協議の中で「日本は核弾頭を製造するための基礎となる核物質の抽出を行うことができる。もしいつか日本が必要だと思う日が訪れたら、核兵器をつくることができるだろう」と発言し、ドイツに核兵器開発への参加を求めたが、ドイツ側はこれを一蹴した(NHKスクープドキュメント「『核』を求めた日本~被爆国の知られざる真実~」2010.10.3:NHK「平和アーカイブス」)。
 ドイツは核による報復をしないことを決めたが、日本は核による報復を行うことを密かに決め、その核兵器開発のために旧科学技術庁(現文科省)が積極的に進めてきたものに、敦賀の高速増殖炉もんじゅがある。核燃料が運転すれば運転するほど増える(「増殖」)として「夢の原子炉」と呼ばれた。しかし、最近、政府は高速増殖炉の「増殖」という文字を外して「高速炉」と呼ぶこととした。「増殖」しないからである。だが、もんじゅの核燃料を囲むブランケットと呼ばれる場所で、純度98%の兵器級プルトニウムを年間62キロ生産できる能力を有している(5キロ程度で核兵器1発分)。「増殖炉」と呼んできたのは「平和利用」を標榜しつつ核兵器を開発する意図からである。
 もう一つ、旧科学技術庁が進めてきたものに宇宙開発がある。日本はHⅡA、HⅡBというロケットを開発し、15t~20tの打ち上げ能力がある。ロシアのプロトンが23t 、米国のデルタⅣが28,79tの能力であるから、核兵器を搭載できる大陸間弾道ミサイルとして遜色のないものである。北朝鮮のテポドン発射を非難するが、自らのやましさの裏返しである。
 また、3月12日三菱重工は電力をマイクロ波に変換して無線で送る実験に成功したと発表した。「宇宙太陽光発電」(宇宙空間のパネルで発電した電気を地上に無線で送る)の第一歩との触れ込みである。マイクロ波として最も身近なものは電子レンジであるが、第二次世界大戦中、静岡県島田市に海軍島田実験所が開設され、マイクロ波で米軍のB29爆撃機を撃墜する「殺人光線」を研究していた。後にノーベル物理学賞を受賞した理研の朝永振一郎氏も参加していた。近々理研理事長に就任する前京大総長の松本紘氏は『宇宙太陽光発電所』(2011)という著書もある宇宙空間におけるマイクロ波送電技術の専門家である。仮に実用化できるとすればミサイル迎撃態勢が整う。日本は核弾頭・運搬手段・迎撃態勢というフルセットを持つことになる。日本人は「平和利用」、「宇宙開発」という言葉にあまりにも無批判である。

4 核武装へ突き進む日本とドイツの違い
 村山連立政権において社民党は党内議論をいっさい行うことなく米国の「核の傘」に入ることを認め、その後何の反省もなされていない。共産党はかつて社会主義国の核を擁護し、中国の核実験に配慮するため部分的核実験禁止条約に反対し、今なお原発は「未完成の技術」(不破哲三『赤旗』2011.5.10:完成形があるという思考)との思想にしがみついている。また、「脱原発」の集会においても、日本の核武装については真剣な議論を避ける傾向がある。政府与党や民主党・維新ばかりでなく、共産党や社民党内にも核エネルギーを捨てきれない勢力が存在している。
 ドイツ(旧西ドイツは)1960年代末には既に、核による報復戦略をあきらめ、核による脅しではなく、対話による生き残り戦略=ブラント首相による東方外交を取り始めた。ポーランドとの国境であるオーデル・ナイセ線を確定し将来の紛争の芽を摘むとともに、旧ソ連からパイプラインでガスを輸入し、お互いの信頼を醸成していく政策であり、これにより、ドイツは事実上米国の「核の傘」から離脱した。現在、米が攪乱するウクライナを巡りぎくしゃくした関係にあるものの、45年に亘る信頼関係の延長線にメルケル首相の「脱原発」政策がある。
 日本の場合は、米国の「核の傘」すっぽり入るとともに、公に核兵器開発を宣言し(「我が国の安全保障に資することを目的として」との条文を加えた原子力基本法の改正・及びJAXA法の改正(「平和の目的」の削除)2012.6.20)、核の脅しを背景として近隣諸国と外交しようというのであるから、「戦後談話」をいくら出そうとも信頼を得ることは難しい。このままでは、ある日突然、北朝鮮やイランどころではなく、日本こそが核で世界を支配しようとする危険国家であるとして「テロ国家」に指定されることになろう。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に英仏独伊等が雪崩を打って参加表明をし、日本の国際的孤立が明らかとなったが、同様の孤立は「核の傘」においても突然起こりうる。
 横須賀基地や嘉手納基地をすぐに廃止するというのは困難であるが、サハリンや朝鮮半島からガス・石油のパイプラインを引き、または送電線を引いて近隣諸国との信頼を醸成しながら、「核の傘」からの離脱を図るとともに、直ちに「脱原発」を宣言し核開発を放棄することは可能である。与野党ともが核の幻想から目覚め、長期的な信頼醸成の政策を組み立てること。これがメルケル首相の助言の中身である。

 【出典】 アサート No.448 2015年3月28日

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【投稿】「戦争立法」をめぐって 統一戦線論(14) 

【投稿】「戦争立法」をめぐって 統一戦線論(14) 

<<「安倍首相のクーデター」>>
 3/20の参院予算委員会で、民主党の小西洋之参院議員が、政府、自民・公明両党が進める安全保障法制の整備に関連して、「日本の法秩序を根底からくつがえすクーデターだ」と鋭く追及した。小西氏は、「憲法9条すら、こんなに解釈変更ができるのであれば、憲法の他の条文、いつでも時の内閣と多数を持つ国会で解釈の変更ができることになる。こんなことを絶対許してはいけない。それを防ぐために、われわれ国会議員は死にものぐるいで戦った。それを安倍首相が蹂躙したという。日本の議院内閣制、民主主義を否定したことについて追及させていただく」「機関銃は撃たれていない。戦車は走り回っていない。しかし、日本の最高法規が、憲法が、その中身から根底から変わってしまって、絶対に許されることのなかった、そして憲法の平和主義とどう考えても矛盾する、義務教育の子供たちにも説明ができない、その集団的自衛権が解禁されている。こんなことを許しちゃあ、もうわが国は法治国家として成り立たなくなる。恐るべきクーデターが今日本社会で進行している。止めるのは国民しかない。我々民主党が国益と憲法を守る。ここに宣言する」と安倍首相に厳しく詰め寄った。
 安倍首相は口もとをゆがめてせせら笑いはすれども、肝心の論点には反論できず、「レッテル貼り、無責任な批判」「これはデマゴギーと言ってもいい。デマゴギーには負けずに責任を果たしていく」と威嚇し、問題をすり替えただけであった。
 しかしこの追及の最も重要な場面を、大手各紙、NHKをはじめメディアはすべて無視し、小西氏が「憲法を何も分からない首相とそれを支える外務官僚を中心とした狂信的な官僚集団がやっている」と発言したことについて、予算委員長から「発言中に不適切な言質があるとの指摘があった。十分気をつけて発言をお願いしたい」と注意され、小西氏が「後日の議事録の調査で不適切発言が確認されたのならおわびする」と述べたその部分だけがいかにも謝罪したかのように報道された。安倍政権に追従する大手メディアの実態をはしなくも露呈したと言えよう。

<<「憲法改正の最大のチャンス」>>
 問題となった政府・与党の安全保障法制をめぐる合意は、自衛隊の海外活動を大幅に広げる方向で一致、周辺事態法を抜本的に改正し、事実上の地理的制約となる「周辺事態」という概念を削除。集団的自衛権の行使容認も、「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」とした「新事態」を導入し、新たな「重要影響事態」と政府が認定すれば、米軍や米軍以外の他国軍への後方支援が海外でも可能、国連平和維持活動などでの武器使用基準も緩和、米軍中心の有志連合支援や治安維持活動にも参加が可能、まさにこれまでの安保政策でかろうじて抑制されてきたものが、根底から転換させられる。米軍のあらゆる戦争を支援し、自らも主体的に参加できるようにする「戦争立法」なのである。政府・与党は法案を5月下旬にも提出し、通常国会の会期(6/24)を8月まで大幅延長してでも成立させる構えである。
 日本国憲法第9条は、戦力の保持および国際紛争を解決する手段としての武力の行使を禁じている。この9条をまったく無視した、安保法「整備」と恒久法化、安倍首相が言明した「戦後以来の大改革」は、事実上のクーデターなのである。しかもそのクーデターには「平和」の旗を掲げる公明党まで組み込まれている。
 それでもなお9条そのものの改悪が必要だと言うのは、過去の9条解釈の上に立って、あくまで「日本の存立が脅かされる明白な危険がある場合(存立危機事態)」に限られており、それ以外の海外派兵にはいまだ制約があるからだという。
 3/19、憲法改正を目指す超党派の国会議員や保守系有識者らで構成する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は19日、国会内で総会を開き、憲法改正の早期実現を求める署名を、衆参両院で改正発議に必要な3分の2以上の議員から集める方針を決定した。10月末までのとりまとめを目指す。署名議員は既に衆院248人、参院107人に達しており、衆院は発議に必要な数の8割弱、参院は6割超に当たるという。同会共同代表の櫻井よしこ氏は「志を同じくする安倍晋三政権である今が憲法改正の最大のチャンスだ」と気勢を張り上げた。このクーデターを完成させるべく、いよいよ改憲勢力が暴走し始めたのである。
 民主党には「憲法を守る」と断言する小西議員のような人もいるが、同じく民主党の渡辺周元防衛副大臣はこの3/19の総会に出席し、「理想論だけで国家は守れない」と改憲機運を積極的に盛り上げるよう訴えている。

<<「たった8日間で作り上げた代物」>>
 これらのクーデター的安保法整備は、3/26に自民党の高村副総裁が訪米し、米政府関係者などに日本の安保法整備の状況を説明し、了解を取り付け、首相訪米の地ならしをする予定である。しかし同じ3/26には、国内では注目の北海道知事選など10の道県知事選が告示され、統一地方選が開始される。そこでこうした「戦争立法」論議は不利と見て、争点化することを封じ込め、いったん論議を凍結。4/12の知事選や道府県議選の投開票を終えた後、5月の連休前に法案を固め、4/26に安倍首相が訪米、4/29前後の首相の米上下両院合同会議での演説、そして日米軍事同盟強化を謳い上げ、5/12に閣議決定という、こうした一連の流れのための拙速・凍結・再開・国会上程・会期延長してでも採決強行の暴走スケジュールである。暴走のゴールは、9条改憲である。
 安倍首相は3/6、衆院予算委員会で、現行憲法を「GHQ(連合国軍総司令部)の素人がたった8日間で作り上げた代物」と言ってのけ、民主党の逢坂元総務政務官が「憲法をしっかり守る基本姿勢を貫くことが大事だ。総理大臣みずからが憲法をおとしめかねないような発言をするのは厳に慎むべきだ」と、この”問題発言”を追及されると、「総理大臣として、憲法を順守し、擁護する義務があるのは当然のことだ」と応えつつも、「原案が(憲法学に精通していないGHQ関係者により)短期間に作成された事実を述べたにすぎない。首相が事実を述べてはならないということではない」と開き直り、問題の「代物」発言をあくまでも撤回しなかったのである。傲慢不遜にもほどがある。いまだ右翼少年から抜け切れないような人物が、首相でございとおさまっている、日本の悲喜劇的状態である。

写真は、3/8「さよなら原発関西アクション」(大阪・扇町公園)、「力を合わせて闘おう」と訴える中島哲演さん(原発反対福井県民会議)。(筆者撮影) 

<<「原発反対と戦争反対、一緒にした大運動」>>
 しかし、笑っても悲しんでもいられない。3/10、大江健三郎氏、鎌田慧氏が記者会見を行い、「今、日本は戦後最大の危機を迎えている」と訴え、「私たちは3月28日、新宿で大江さんなどの講演会を開きまして、5月3日には、みなとみらいの臨港パークで3万人規模の大集会を開きます。これは原発反対運動と戦争反対運動、全ての運動を一緒にした大運動を行いながら、新たな日本に向かってやっていこうと思っています。」(鎌田氏)と述べ、大江氏は、「私は昨日インタビューや講演をなさったメルケル首相の発表に非常に強い印象を受けたものです。”ドイツは原発によるエネルギーでやっていこうとする方針を完全に放棄した、そして自分たちはそれを実現する”ということ、そして”これは自分たちの政治的決断だった”ということ。私は、この「政治的決断」という言葉が、ドイツの政治家と日本の政治家の違いを明確に示していると思います。今の首相が韓国、あるいは北朝鮮の政治家たちと話し合いをすることは途絶えたままですし、中国に対してもそうです。アメリカの占領期は別ですが、戦後、こんな日本に全くなかったことが行われて、福島以後の危機を最も全面的なものにしてしまっている。 それが現状だということが僕の申し上げたかったことなんです。」と強調した。
 3/15、「九条の会」が東京都内で全国討論集会を開き、その討論の中で、「運動の対象を改憲派にも拡げて、改憲派とも語り合おう」「革新・リベラル派だけの内向き運動だけでは勝てない。平和を希求する保守陣営とも協力して憲法を守ろう」「国内だけではなく、東アジアの草の民衆とも連帯しよう」「そして、8月15日には100万人大集会を成功させて改憲阻止へ大きなうねりを作っていこう」という、運動の拡がりと統一戦線の拡大を提案する発言が主流となったという(3/16、澤藤統一郎の憲法日記)。
 折りしも全国統一地方選に突入している。「地方の反乱から始めなければどうしようもない。中央の連中を自覚させていく、巻き込んでいくのは地方の反乱であって、本当はもっともっと原発問題でも何でも地方が反乱を起こすべきなんです。今の右傾化の状況に対抗する闘いは、少しずつ動いているんじゃないか。その闘いの一つの先頭に、辺野古の、沖縄のわれわれの闘いがあるんだと思います。」「この一年、沖縄にとっては選挙イヤーと言える一年でしたが、キチッと沖縄の民意を示すことができたと思います。それは「みんな」(大衆)の力で成し遂げたことです。」「いまの安部政権に立ち向かうには大同団結しかない。沖縄が「オール沖縄」というかたちで結集軸をつくったように、原発や、集団的自衛権、憲法・・・「この線を踏み越えてはダメなんだ」「踏み越えさせてはダメなんだ」という結集軸をつくらなければいけないということを、沖縄のこの一年の闘いは示していると思います。ヤマトにおいて、そういう指向性をどうもっていけるのかが問われています。」--これは、安次富浩・ヘリ基地反対協議会共同議長の訴えである(『現代思想』2015年4月臨時増刊号「菅原文太・反骨の肖像」-「戦いは仁と義で 辺野古へのメッセージ」)。
 運動の広がり、大同団結と結集軸、原発反対と戦争反対、一緒にした大運動、党派主義やセクト主義を乗り越えた多様で広範な日本の統一戦線がいま問われている。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.448 2015年3月28日

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【コラム】ひとりごと--大阪市廃止・分解構想が、いよいよ住民投票へ 

【コラム】ひとりごと--大阪市廃止・分解構想が、いよいよ住民投票へ 

○3月17日大阪府議会は、大阪市を解体し、特別区を設置する協定書を、維新の会・公明党の賛成によって可決した。これにより、大阪市解体の是非を問う住民投票が、5月17日に行われることがほぼ確定した。○協定書案は、昨年10月の府議会でも大阪市会でも、維新以外の反対多数で否決されたものと、ほとんど同じ内容である。何とも理解しがたい事態だ。○公明党・創価学会が、政府与党内の圧力に屈し、地方で議論しつくした問題を蒸し返し、中央の見解を地方に押し付けるという「中央集権」型政治を強行した結果であり、この政党・宗教団体が、地方分権や地方自治の発展に何の価値も見出せない犯罪的行為を行ったことは、記憶にとどめる必要がある。○また、マスコミは相次いで「大阪都構想」について世論調査を実施している。2月上旬に朝日新聞が行った世論調査では、反対44%、賛成35%で、橋下市長の説明については、66%が不十分と回答している。また、毎日新聞が3月中旬に行った調査では、賛成43.1%。反対41.2%で、賛成がやや上回ったものの、賛否は拮抗していると伝えた。この調査でも、橋下市長の説明は十分か、との質問には、70.1%が不十分と回答。○ここから見えてくるのは、協定書の説明が、まだまだ大阪市民に理解されていないという現実であり、解体のデメリットの宣伝は、これからも一層強めていく必要があるということであろう。○さらに、橋下人気に乗っかる維新支持の傾向は、根強いということだろう。○毎日新聞調査では、大阪市議選挙で投票先についての質問事項があり、維新の会36.2%。自民党16.0%、共産党7.7%、公明党7.6%、民主党3.6%という数字が出ている。昨年12月の衆議院選挙の大阪市内の得票率は、維新33.16%、自民党23.1%、公明党18.36%、共産党14.05%、民主党6.55%であった。(民主党本部は、維新の党を反自民勢力と規定し、大阪市内に候補者を立てないという誤りを犯した結果でもあるが)○4年前の統一地方選挙では、大阪府議・市議選では維新旋風が吹き荒れたわけだが、相次ぐ民間校長、区長の辞任、果ては橋下のお友達教育長のパワハラ問題での辞任など、独善的強権的姿勢への賛否は厳しくなっており、「維新旋風」は、台風並みから強風に落ちてはいると思われる。しかし、油断はできないということだ。もっとも先の世論調査結果に焦っているのは橋下自身ではないか、と私は考えるが。○統一地方選挙で、まずは維新候補を減らし、維新の気勢を削ぐことが重要であろう。○自民・民主・公明・共産の4党は、「大阪市解体はNO!」という共通のキャッチコピーを候補者・政党ビラに使用し、統一地方選挙を、「住民投票」の前哨戦として戦うとしている。また、連合大阪は、民主党候補の出ない大阪市内選挙区では自民党候補を支持すること決定したという。○前述の世論調査から見えてくるのは、大阪市解体派自身が、その構想のメリットを「二重行政」解消程度しか説明できていないという彼らの弱点が明らかになったということだろう。「大阪市を解体すれば、大阪が発展する」というのは、橋下が強弁しているから、橋下支持層には受け入れられているのであって、大阪市解体・特別区設置による新たな財政負担の問題、大阪市民の税金が大阪府に吸い上げられ、自分たちで使途を決められないという事実、「大阪市を解体すれば、大阪がよくなる」のではなく、財源は大阪府に取られ、特別区は、財源も自由にならず、都市計画決定も大阪府に取られ、市町村以下の「自治体」になるという現実をしっかりと宣伝・説明することが求められている。○今回の住民投票は、法的拘束力があり、賛成が1票でも上回ると、大阪市解体が決まることになる。4月5月大阪は、もっと燃えなければならない。(2015-03-22佐野)

 【出典】 アサート No.448 2015年3月28日

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【投稿】人質事件口実に進む安倍軍拡

【投稿】人質事件口実に進む安倍軍拡

<結論は「見殺し」>
 1月17日、中東歴訪中の安倍総理はカイロで、「イスラム国」(IS)と対決する周辺諸国に1億ドルを援助すると表明した。
 この発言は「イスラム国」と有志連合との武力紛争への参戦表明に他ならない。これに対して「イスラム国」は直ちに反応を示し、以前から拘束していた日本人2名の殺害を示唆した。
 あまりの急展開に驚愕した安倍政権は「2億ドルは人道援助だ。誤解されている」などという泣き言と「テロには屈しない」という強弁を繰り返すのみで、解決に向けての具体策をとらず、事態を放置した。
 アンマンに現地対策本部を設置し、中山外務副大臣に居残りを命じたものの、情報は東京の官邸のほうが早く入手する場合もあるなど、有効に機能したとは考えられない。
 それ以前に日本政府には独自に情報を入手する術はなく、ヨルダン政府やシリアの反政府組織に情報収集も交渉も丸投げするという、当初から当事者能力を喪失している状況にあった。 
 その結果1月24日に湯川遥奈氏、2月1日には後藤健二氏が殺害される動画が公開されるという最悪の結末となった。
 激高した安倍は「テ口リストたちを決して許さない。その罪を償わさせる」と口走った。一国の最高権力者がこうした表現を使えば、武力行使の表明と理解されるのが「グローバルスタンダード」であるが、安倍はその直後に「米軍の後方支援など軍事的な選択肢は考えていない」と腰砕けになった。
 さらに菅官房長官も2月2日の記者会見で「身代金は用意していなかった」と開き直り、2名の遺体引き取りについても「話のできる相手ではない」と責任を放棄する姿勢を見せた。
 これは、今後同様の事態が惹起しても日本政府としては「見殺しにする」と言っているのと同じである。「イスラム国」に人質を取られた他の国は、人質交換、身代金支払い、など条件に応じて様々なオプションを行使しているのもかかわらず、端からすべての選択肢を封じてしまうのは主権国家としての責任放棄であろう。
 
<政権批判は圧殺>
 安倍内閣は自らの無責任、無方針を棚に上げ、再発防止を大義名分に、ジャーナリストのパスポートを剥奪するという本末転倒の暴挙を行った。
 テロ対策のため、各国政府は自国民が「戦闘員」になるための渡航を阻止することを決定しているが、ジャーナリストの取材活動は禁止していない。
 政府のこの措置は、憲法違反であるとともに国際共同行動からの逸脱でもある。国際的には「反テロ」と「報道、表現の自由」は密接不可分のスローガンとなっているのである。
 安倍政権は自らの失敗を隠ぺいするため、批判封殺しようとしている。昨年末に施行されたばかりの特定秘密保護法を濫用し、さらに御用マスコミ、学者・文化人、ネトウヨなどを総動員し「反批判キャンペーン」を展開している。
 また世耕官房副長官は今回の事件に関し「自己責任論には立たない」としつつ「後藤さんには3回渡航中止を勧告した」と述べ、高村自民党副総裁も「後藤さんの行動は蛮勇である」として、政権の自己保身に汲々としている。
 自己責任論を錦の御旗のごとく振りかざせば、自衛隊員が海外で戦死した場合、「入隊時に『事にのぞんでは危険をかえりみず、身をもって責務の完遂につとめ』と宣誓し、生命の危険を承知で入隊したのだから自己責任」ということになりかねないだろう。
 今回の事件は、これまでの安倍外交が肝心な場合に全く役に立たないどころか、札束とともに緊張と憎悪をまき散らすものであることを、白日の下にさらしたことに意義があったと言える。
 さらに「強固な日米同盟」の一端も明らかとなった。アメリカはオバマ大統領や政府高官が、日本へのリップサービスを繰り返したものの、人質の所在や安否の確認に動いた形跡はなく、掌握している現地の状況を日本政府に提供したとは考えられない。
 アメリカは昨年7月、「イスラム国」の人質となっていたアメリカ人の救出作戦を実行したが失敗した。オバマ政権は8月のイラク国内での空爆を開始し、9月にはシリア国内にも攻撃対象を拡大した。さらに、先日3年間の期限付きで、地上戦への限定的な戦力投入も決定した。このようにアメリカは軍事作戦の拡大にはきわめて慎重になっている。
 安倍は集団的自衛権の解禁理由について「邦人を輸送するアメリカ軍を防護するため」と言っているが、今回の事態でそのような想定は画餅に過ぎないことが、ますます明らかとなった。

<「イスラム国」は想定外>
 それにもかかわらず、安倍政権は今回の事件を口実に、軍事行動の拡大を強行しようとしている。当初関心が集まったのは海外での自衛隊による日本人救出である。
 安倍は1月末のNHK「日曜討論」や国会答弁では、自衛隊による人質救出作戦を可能とする法整備に意欲を見せていた。しかし後藤氏殺害後の2月2日の参議院予算委員会では「集団的自衛権に係わる法整備には邦人救出なども入っているが、今回のような人質事案と直接かかわることではない」とトーンダウンした。
 人質事件を梃に、集団的自衛権解禁による自衛隊の活動範囲と内容の拡大を目論む安倍政権であるが、あまりに露骨なやり方には公明党など与党内からの批判も強い。
 昨年7月の集団的自衛権解禁等、安全保障に係わる閣議決定では「領域国の同意に基づき(領域国の施政権が及ぶ地域で)邦人救出に対応できるよう法整備を進める」と決定した。しかし今回のような事案については、シリア政府の承認があっても「イスラム国」の支配地域では不可能と判断したためと言われている。
 さらには、自衛隊の情報収集能力も装備も練度も人質救出作戦を遂行するレベルには至っていない事実も、方針修整の要因だろう。

<海外派兵を恒久化>
 これらを踏まえ安倍政権は、人質事件と集団的自衛権をひとまず切り離し、安全保障関連の法整備を強行しようとしている。
 2月13日から始まった与党協議で自民党は極めて危険な方針を提示した。それは「自衛隊派遣に係わる恒久法」「周辺事態法から周辺概念の削除」「グレーゾーンでの米軍以外の艦船の防護」である。
 2007年9月安倍は突然政権を投げ出した。インド洋で多国籍艦隊に洋上給油を行う「テロ対策特措法」の延長を、当時の小沢民主党代表に拒否されたのが、要因の一つと言われている。今回「恒久法」に拘るのは安倍の私怨もあるであろう。
 法案には「歯止め」として、国会の事前承認を得ることが盛り込まれるというが、「緊急の場合は事後承認が可能」という抜け道も用意されている。法案が成立すれば、「緊急」が常態化していくことは火を見るよりも明らかだろう。
 さらに国連決議も派遣要件から除外されようとしている。加えて「周辺概念」が削除されれば、アメリカ軍が軍事行動を開始すれば、その正当性を議論することなく、世界のどこにでも自動的に自衛隊が派遣されることとなる。
 一方「グレーゾーン事態」については、日本領域内での武力行使に至らない事態とされている。自民党は事態について「北朝鮮の弾道ミサイル警戒」、防護対象について「オーストラリア軍」を例示した。
 しかし、北朝鮮の弾道ミサイルを警戒するのに、イージス艦を持たないオーストラリア軍(イージス艦3隻を建造中であるが、予算超過などで1番艦の就役は早くて16年以降)が、遠路はるばる日本近海に出てくるなどという想定はあまりに非現実的である。
 実際は現時点においては、韓国軍を想定しているのだが、日韓関係が修復されていない中では明示できないのであり、安倍政権の外交・軍事政策の矛盾が如実に露呈している。
 
<際限なき軍拡>
 今後は、周辺事態法から周辺を除外したように、グレーゾーンの地理的範囲も拡大されていくだろう。しかし実際は「テロ対策特措法」施行下ではインド洋の対テロ多国籍艦隊に、現在ではソマリア沖の海賊対策多国籍艦隊に海自護衛艦が派遣されており、アメリカ軍以外との共同対処など当たり前の話となっている。5月からは海自が艦隊司令官を担うこととなっており、実態は法制化論議よりはるか先を進んでいるのである。
 実体先行は海上だけではない。西日本新聞のスクープにより陸上自衛隊が昨年1月から2月、カリフォルニア州の砂漠地帯で、アメリカ軍と合同で砂漠戦を想定した実動演習を行っていたことが明らかとなった。
 これまでも陸自はワシントン州の砂漠で戦車などの砲撃演習を行っていた。それには「日本国内では最大射程の砲撃ができない」という理由があったが、今回の演習はそれとはまったく質の違うものである。
 さらに後藤氏殺害が報じられ国内が騒然となった2月1日、それに隠れるかのように種子島から情報収集衛星が打ち上げられた。それに先立つ1月9日、政府は軍事利用の大幅な拡大を盛り込んだ、新たな「宇宙基本計画」を策定した。軍拡はついに宇宙空間にも及ぼうとしている。
 こうした既成事実の積み重ねを進める安倍政権に対する抵抗も、沖縄を中心に粘り強く取り組まれている。ここでも安倍政権や極右国家主義者は「政権や米軍批判を行うのは売国奴」などとばかりに言いがかりをつけてきている。
 設置が目論まれている「日本版CIA」もその矛先は、国内の民主勢力に向かうことは容易に考えられる。「テロに屈しない」と言いながら恐怖政治で批判を抑え込もうとする安倍政権には「イスラム国」を非難する資格はないであろう。(大阪O)

 【出典】 アサート No.447 2015年2月28日 

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【投稿】経済格差の拡大を問う―なぜ今「ピケティ」

【投稿】経済格差の拡大を問う―なぜ今「ピケティ」
                         福井 杉本達也 

1 なぜ今「ピケティ」
 フランスの経済学者トマ・ピケティの『21世紀の資本論』(CAPITAL)が売れている。1月末には来日し各地で講演も行っている。なぜ、いま電話帳のような経済専門書が売れるのか。
 ピケティの『CAPITAL』は当然ながらマルクスの『資本論』(Das Kapital:独語)を意識している。ヘーゲル哲学に基づく論理展開を重視した資本論と異なり、世界20ヶ国以上の税務統計などの300年にわたり遡ったデータを駆使し、富める者とそうでない者との格差が広がっていくという結論は、マルクスの予言した資本主義の暗い未来=窮乏化法則をマルクス経済学ではなく近代経済学の立場から実証的に証明しようとする試みである。ピケティの来日に当たり、毎日・朝日・日経などが特集記事を組んだが、なぜ、いまピケティなのか。新聞は「経済格差はない」、「企業利益は国民に滴り落ちる(トリクルダウン)」といいながらも、格差の拡大する資本主義の未来に大きな不安を抱きつつある。2012年秋にはユーヨーク・マンハッタンでウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)運動が行われたが、「We are the 99%」はその参加者たちのスローガンであった。

2 富の公平性
 ピケティの窮乏化法則は r>g という簡単な式に集約される。「 資本収益率(r)は経済成長率(g)を上回る」というものである。会社の利潤の一部は、資本家には配当として、もう一部が労働者の賃金となる。このとき、資本に回る分と労働者の賃金となる分が同じくらいなら、経済成長率、資本収益率、そして労働分配率(労働者の賃金に回る分)は同じくらいになるはず(『r=g』)。ところが、ピケティが明らかにしたのは、歴史を遡ると、労働者の賃金よりも資本に回るお金のほうがずっと多いという事実。つまり、『r>g』だった。ピケティは、資本収益率(r)は平均4%程度に落ち着き、先進国の経済成長率(g)は1.5%ほどになることを実証している(山形浩生氏・本田浩邦獨協大学教授「Harbour Bussiness Online」2014.1218)。
 経済学の公式では、自由競争により経済が成長すれば、富は平等化し、全ての人々が豊かになるという考えであるが、ピケティの式は、これを根本から否定し、経済成長すればするほど、資本を持つものに富が集中し、持たざる者は益々貧しくなるというものである。また、ピケティの詳細なデータは所得格差の縮小は第二次大戦期中・後の一時的現象に過ぎなかったことを裏付ける。
 ピケティらが運営する「世界トップ所得データベース(WTID)」によると、米国の所得上位のわずか1%の層がキャピタルゲイン(金融資産などの値上がり益)を含んだ2012年の全国民所得に占める割合(Top income shares)は、22.46%であった。これは1978年の8.87%をボトムとしてこの間一貫して上昇し続けている。同日本の場合の所得1%の層は、1977年で6.77%であったものが、2010年には9.51%となってきているものの米国ほどには格差の拡大は顕著ではない。しかし、所得上位層0.01%のキャピタルゲイン(金融資産などの値上がり益)を含んだ平均所得の推移(Top0.01% average income-including capital gains)は、1985年に1.6億円だったものが、平成バブルの頂点の90年には6.6億円と4倍以上に膨張している(バブル崩壊後は大きく低下し2010年は2.3億円)。同0.5~1.0%層では同じ期間に1400万円から1800万円にしか増加しておらず(2010年では1500万円)、キャピタルゲインの利益がいかに一握りの層にしか利益をもたらさないものであるかを如実に示している。アベノミクスは黒田日銀による異次元緩和と称し、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)やゆうちょ銀行による株式市場への介入によって株価を押し上げようとしているが(金魚鉢に二匹の鯨)、誰への利益誘導を図ろうとしているかは一目瞭然である。一方金融資産をほとんど持てない下位90%(Bottom 90%)の層は同期間に190万円から220万円へと増加したものの、その後一貫して低下し、2010年では150万円となっている。

3 低成長の世界
 水野和夫氏によれば、資本主義は、たった15%の先進国の『中心』が残りの85%の『周辺』から利益を吸い上げ、利潤を蓄積していくというシステムであった。先進国は新興国という『周辺』で生産される資源を安く買いたたき、先進国の工業製品を高く売りつけて利潤を上げてきた。ところが、新興国が力をつけてきた今、国外の『周辺』から利潤を得ることが不可能になった。特に中国を始めとするBRICS諸国の経済発展が先進国の利潤獲得を困難にしてきている。『周辺』に利潤獲得の源泉を得にくくなった先進国は、国内の『周辺』から搾り取るしかなくなってきた。それが、米国の低所得者層から搾り取るサブプライムローンであり、日本の非正規雇用による低賃金労働であり、ピケティの詳細な分析で1980年代から格差が拡大していることの背景である。
 日本の10年物国債金利は0.195~0.45%と日銀の市場介入もあり非常に不安定な動きをしているが(日経:2015.2.21)、ほぼ0に近い。金融機関は、国債を売り、日銀券を受け取っても企業は設備投資をしないため運用先がない。住宅ローンは都銀で0.775%(ネット銀行では0.57%:毎日:2.21)では管理費も出ない。タイは日系自動車産業の一大集積地であり生産能力は300万台/年もあるが、タイでの販売は100万台しかない。一部を輸出できたとしても残りは過剰生産設備である。投資をしても利潤の得られない時代=利子率の低下=資本主義の卒業証書=終焉を迎えようとしている(水野:『資本主義の終焉と歴史の危機』)。

4 不動産・資産への課税(資本税)-ピケティへの若干の疑問
 ピケティが格差拡大への処方箋として挙げたのは、グローバルな累進課税である。世界的な情報共有で、金持ちの保有資産を正確に捕捉し、累進税をかけ資産の再分配を行うというものである。
 一方、伊東光晴氏は資産課税については「一見軽いと見えるが、実現されている利益に課するものではないので、実態は重い。何より問題なのは、課税の原則に反するから、実現性はほとんどないことだ。税は実現した所得、利潤、利益に課するものだ。たとえ不動産の市場価格が上がっても、未実現の所得には課税しないのが定説だ。その不動産を販売し、利益が実現した時点で課税されるのだ。未実現の利益に課税すると経済の混乱を招きかねない。」(伊東:「誤読・誤謬・エトセトラ」(『世界』2015.3)と批判し、累進性を持った「相続税」と「均等相続」を提案している。
 日本では現に固定資産税が機能しており、伊東氏のいう資産課税が全く課税原則に反するとはいえまい。ただ、諸国家が連携して国際的な資産課税を一斉に実施するなどはありえない。ケイマン諸島やスイス・ルクセンブルク・シンガポール等々、金融資本には隠れ家:タックス・ヘイヴン(tax haven)は無数に用意されている。連携するとは世界国家=『帝国』を構想することであるが、『帝国』とは国際金融資本(1%)の言うことを最も聞く国家であり、99%を最も無視する国家である。そこで「再分配」という『国民国家』の“民主主義的”ルールが通用することはありえない。ルールを決めるのはウォール街&ロンドンの金融資本である。国内的には『国民国家』による相続税の強化であるが、相続税の強化自体も困難が予想される。ピケティは資本課税による再分配によって資本主義の軟着陸を構想しているが、『終焉』に向かって格差がより極端に拡大し、マルクスの予言=99%の『窮乏化』→『革命』=ハードランディングもありえる。ピケティを呼んだ側もピケティ自身もマルクスの予言が頭の片隅にある。

5 強欲な国際金融資本への対抗軸-ギリシャの新政権をめぐる動き
 ギリシャ危機をめぐり、EUは2月20日に4か月間の金融支援延長という一定の妥協がなされた。強欲な金融資本はギリシャ国民を貧困のどん底に追い込んでも自己の『資産』を確保したいということである。
 今年1月に誕生したギリシャ新政権は緊縮財政の転換を求め、「欧州委員会・IMF・欧州中銀(ECB)」のトロイカ体制の解体を求めてきた。ギリシャ新政権の強気の背景には「欧州とロシアの平和の架け橋になる」(日経:2015.2.2)とし、BRICS銀行からの金融支援の話も浮上している。一方、中国はギリシャ国債の購入拡大も検討していると伝えられる(日経:2.21)。また、昨年12月、欧米の圧力により中止した、ロシア産天然ガスを黒海(ブリガリア)経由で中東欧に送るガスパイプライン=サウス・ストリーム計画をトルコ・ギリシャ経由で中東欧に送る計画も浮上していることも強気を支えている。今後、ギリシャが最終的に国際金融資本の軍門に下るかどうか予断を許さないが、ギリシャの動きはウクライナ情勢と連動している。
 ウクライナ危機を巡り、欧米はロシアに対する経済制裁を科した。しかし、そのことが結果として、ロシアの中国接近をもたらした。昨年10月には中ロの通貨スワップ協定、また昨年5月の中ロの天然ガス供給契約の締結と建設資金の一部中国負担、ガス輸出代金の人民元での受け取りなど、西欧からアジア重視に軸足を移しつつある。中国の豊富な外貨によるBRICS銀行やアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設により、資金の蓄積や貿易決済におけるドル比重の低下が進んでおり、ドル基軸体制(=国際金融資本・『帝国』)に影響を与える可能性が出てきており(望月喜市「欧米の対露制裁が招くドル基軸体制のほころび」『エコノミスト』2014.12.30)、ピケティとは違った方向での『国民国家』群の動きも広がっている。 

 【出典】 アサート No.447 2015年2月28日

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【日々雑感】大阪「都」構想をめぐって  

【日々雑感】大阪「都」構想をめぐって  
 
 2月某日
友人と話す。大阪の教育現場が魅力を失っている。大阪の教員採用試験の応募者、応募者倍率が深刻に少ない。従来良質の教員を提供していた大学の学生は大阪に応募しないそうだ。大阪には様々な改革が必要だ。しかし、改革課題の取捨選択、どのような方向に変えるのか、変える手法、が大事。橋下維新政策はここで間違えている。
「大阪都構想」を巡り、安倍政権中央、宗教団体、橋下市長が仕掛ける口汚いバトル、と様々で露骨な介入・駆け引き。地方制度改革はもともと政治的事案だ。しかし、あまりにも下品に地方制度がもてあそばれている。

 2月某日
朝日新聞社と朝日放送による大阪市民を対象とした世論調査。「都構想」に賛成35%、反対44%。一方、実際に住民投票に行く可能性の高い層では賛成44%、反対45%と拮抗。住民投票に「関心はない」が計32%あり、この層では反対は62%。賛否理由は、構想賛成者では、「行政のむだ減らし」50%、「大阪の経済成長」28%、「住民サービスがよくなる」8%、「橋下市長の政策だから」9%、他方反対者では、「行政のむだ減らしにつながらない」19%、「大阪の経済成長につながらない」14%、「住民サービスがよくならない」31%、「橋下市長の政策だから」27%。橋下市長の都構想説明には「十分ではない」66%、「十分だ」は17%。区割り案を「知っている」53%、「知らない」43%、とのこと。
大阪市政への不満を煽り立て、二重行政の効率化だけをエサに、内容の説明もせずスローガンだけを示し、反対者を口汚くののしり、言論封殺まがいの圧力かけてまで進められている状況が良く見える。賛成者でも、住民サービス向上とは思っていない。
二重行政解消は、唯一の効果とマスコミが報道するが、それで浮く財源は驚くほど少ない事実や、新たに生じる行政庁舎確保等の財政負担などの議論は封じられている。大阪都制論が本質的に問うていることは、大阪市民の税財源を住民サービスに使うのか、橋下維新の考える大規模投資(健全な資本全体の利益ではない)に使うのかだ。

2月某日
「維新プレスVol.12」。大言壮語と自己矛盾が多い。都制(法上、「府」のまま)となれば、「衰退一途の大阪」が「成長する関西経済圏」が実現し、「大阪都・東京都二極で日本を支える」ことになるという。大阪が東京と並んで政治経済の決定権を得るという錯覚を狙う表現。そのような政策転換は首相答弁でも一言もない。
続いて「現在大阪はどんどん良くなっています」として、地価、有効求人倍率、外国人観光客、百貨店売上の文字が踊る。それならば現行の政策転換でよい。
 都構想Q&Aの例。
 Q1「財源は、全部もっていかれるのですか」、A「財政調整交付金、その80%は、医療・福祉・教育などの身近なサービスに使います」という。全くのすり替え。財政調整交付金の算定基礎内容(税金の使い道)が住民サービスとなるのは当然だ。
問題とされているのは、普通ならば市税である法人市民税、固定資産税、特別土地保有税がいったん府(都)税とされ、府と区で構成する協議会で調整して区に配分されるというシステムだ。区独自の自主財源でなくなり、一度府に入るから力関係はどうしても区が弱くなる。区と区の相互に争いも生じうる制度という点なのだ。東京都では長年の争いがある。
さらに、3税の20%が府の取り分となる点を明記せず、「残り20%は、特別区内の広域サービスへ。いずれも、特別区内で使うことになります。バラバラよりもムダなく効率的」とする。府の行う広域事業の内容が適当か効率的かはさておき、区民の手の届かないところへいくことの是非を隠している。
 Q2「区長は権限を持たないのでしょうか」、A「選挙で選ばれた特別区の区長は中核市並みの権限を持つ」「すべては大阪府が決定する、という噂は嘘です」という。すり替えた上、「すべて」という誘導を行い、「噂」という言葉を使って信憑性を落とす手口。
問題なのは、①本当に中核市の権限をもてるのか。法改正が必要なもの、現行法で可能であっても府と区との協議がととのわなければならないもの、などがある。法上東京都に影響のあるものはまず実現が不可能である。②非常に多くの事務が、一部事務組合となり、単独の区では判断、決定ができないこととなる。住民の手・目の届かないところで多くの重要な事務事業が行われることになる。小さな区になれば住民に近い行政が実現するという宣伝と全く相反する。③財政自主権が不十分な上深刻な財政危機が予想される(この点東京都とは決定的に異なる)区長の権限はたとい多くとも、真の自治とは程遠い。

2月某日
MBSテレビ、橋下市長と柳本市議の出席する討論番組。
大阪市の権限・事業が府に移るのは住民から遠い存在となるとの指摘に関して、橋下市長の、「区がやろうが、府がやろうが、国がやろうが、市民にとっては同じこと」という趣旨の発言。市民にとって受益の中身が同じであれば効率性だけを考えよ、という趣旨。それならば、区の権限を中核市並みに大きくすると必死に主張する必要もなかろう。ダブルスタンダードだ。
そもそも都構想とは、様々な権限・財源をもつべきところが、基礎自治体か、中間団体の府か、その是非、改革をテーマとするもの。「そんなことはどうでもよい。広域行政投資の財源さえ生めばよい」という本音が出た。
地方自治体の制度を考える判断基準は、単に財政効率性だけではない(効率性を無視するのではない)。基礎自治体を最優先順位としつつ、公平公正の確保、住民の利便性、民主性の確保、チェックシステム、など、時には矛盾対立する要素を、議論を慎重に戦わせる中で住民が自ら結論を出していくべきだ。(元) 

 【出典】 アサート No.447 2015年2月28日

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【投稿】大政翼賛体制と北海道知事選をめぐって 統一戦線論(13) 

【投稿】大政翼賛体制と北海道知事選をめぐって 統一戦線論(13) 

<<知事選4連敗の可能性>>
 3月26日告示の北海道知事選がにわかに注目されだしている。
 現職・高橋はるみ知事は前回(2011年)、自民・公明推薦で1,848,504票(得票率69.44%)を獲得し、民主・社民・国民推薦の木村俊昭氏(544,319票、20.45%)、共産推薦の宮内聡氏(176,544票、6.63%)を大きく引き離し、次点とは130万票以上もの大差で勝利している。自民党道連は早々と高橋知事の推薦を決定し、今回も差は多少縮まってもほぼ圧勝と見られていた。
 ところが昨年11月、北海道放送アナウンサーで、知名度の高いフリーキャスターの佐藤のりゆき氏が「道民党」を掲げて立候補を表明。ただちに北海道内で強い影響力を持つ「新党大地」が支持を明らかにし、さらに佐藤氏が北海道電力・泊原発の再稼働に反対する立場を鮮明にしたことから、情勢が大きく転換。反自民・原発再稼動反対で野党が一本化、統一候補が実現すれば、逆転、驕り高ぶる安倍自民が滋賀、沖縄、佐賀に続いて4連敗する可能性が現実化しだしたのである。
 民主党道連内では、横路孝弘・道連代表などが「推薦に値する候補ではない」として佐藤氏支援に難色を示し、あくまでも独自候補を模索し、具体名も挙がっていたが、2/3の道議会民主党の議員総会では「高橋知事4選阻止が最優先」「独自候補にこだわる必要はない」などの意見が相次ぎ、2/15、ついに独自候補擁立の断念を発表、佐藤氏を支援する方針を確認。横路氏はその責任を取り、同日付で代表を辞任。2/21、民主党道連は佐藤氏支持を正式決定するに至った。
 続いて、当初、佐藤支援に消極的であった共産党道委員会も、2/18に至って佐藤氏支援を発表。これまでと同様に、独自候補を立てれば、有権者から見放されてしまうのは間違いない。自民を利するばかりで、落選はしたが善戦・前進したと言う例のセクト主義的で党利優先の唯我独尊的な「自共対決」路線はここに来ておろさざるを得なくなったのである。

<<「支援の形にこだわらず、一騎打ちに」>>
 事実上の野党統一候補となった佐藤氏は、2/6、札幌市の事務所で記者会見を開き、「高橋道政の4期目を良しとしない人は一致団結してほしい。ぜひとも高橋知事と一騎打ちして道民の意思を確認したい」、「私の政策を良しとしてくれる政党、団体があればありがたい」と強調、共産党の支援について佐藤氏は、「推薦、支持ではない。勝手連みたいな感じでしょう」と述べ、「支援の形にこだわらず、一騎打ちになるよう応援してほしい」と、柔軟な形の反自民統一戦線の形成を訴えている。
 慌てだしたのは自民陣営である。「最も恐れていた事態だ」、自民道連の柿木克弘幹事長は渋い表情を浮かべた。「佐藤氏に組織力はないが、道民に知らない人がいないほどの知名度を持つ。昨年の衆院選で善戦して勢いがある共産、民主、大地の組織力が加われば相当手ごわい相手になる」と危機感を隠さない。(毎日新聞2015/2/6)
 2/6、選対事務所開きを行った高橋知事は「今回は今までの中で最も厳しい戦いになる。決戦までの2カ月、全道をできる限り自分の足で駆け巡って頑張っていきたい」と決意を表明。
 経済産業省の官僚だった高橋氏にとって、原発再稼働は当然の帰結であろうし、その再稼動の先頭に立つ北電の当時の会長を、自らの政治資金管理団体の会長に据えて憚らなかった高橋氏であるが、自然・再生エネルギーの宝庫ともいえる北海道で、原発再稼動を争点にすることは墓穴を掘るに等しい。
 さらに、TPPや農協改革をめぐっては安部政権の方針は、農協に敵対的である。JA北海道の政治団体「北海道農協政治連盟」は「(知事選対応は)何も決まっていない」というが、JA北海道は、全国のJA組合数の実に4分の1を占める大所帯で、組合員数は約34万人に上るという(日刊ゲンダイ、2015/2/12)。当然、自民陣営は苦戦を強いられるであろう。

<<「政府の足を引っ張るな」>>
 しかしいかに苦戦とはいえ、前回、自民陣営は、次点に3倍以上、130万票以上もの大差をつけて圧勝している。それにあぐらをかいてきた自民陣営のおごりが彼らの予期せぬ展開をもたらすであろう。
 その証左は、先月1月11日投開票の佐賀県知事選挙で、確認できる。投票日3日前、各紙がすでに自民候補者の樋渡氏「苦戦」と報じていた1/8、現地・佐賀市で自民党の茂木敏充選対委員長は、そのような報道を否定するかのように「ここ数日、樋渡氏がリードを広げつつあります。世論調査など3種のデータの傾向が一致、逃げ切り確実です」と、実質的な勝利宣言をしていたのである。ところが敗北である。
 さらにその前の12月14日投開票の衆院選挙でも、同じく自民党の茂木選対委員長は、自民単独300議席超えに自信をのぞかせていた。12月14日の選挙特番『ZERO×選挙』(日本テレビ系)で、安部首相は「300に届かないじゃないか。話が違っているのは、どういうことだ!」と“ブチ切れ”、「選挙を取り仕切っていた茂木選対委員長をはじめ、党幹部にすごい剣幕で怒鳴っていました」と報じられるほど、生放送とその舞台裏で怒りをあらわにするという異例の事態が展開されている。自民党が300議席を超えれば、次世代の党、維新、民主党の右派らで3分の2を超えると皮算用していた、その当てが外れて怒りも露わに、当たり散らしたわけである。
 とりわけ安倍首相のように思い上がった自己中心主義的な人間は、それに見合った取り巻きを配置し、冷静になることができない。それだけに一層危険でもある。
 安部政権はイスラム国人質事件を徹底的に利用して、安倍政権の対応を批判する者に「テロ擁護」のレッテルを貼り、“非国民”扱いする、大政翼賛的、ファシズム的政治状況をこの際一気に作り出そうとしていると言えよう。すでに憲法9条をないがしろにする新安全保障法制--自衛隊の海外恒久派遣を可能にする、出動範囲の地理的制約をとっぱらう、国連決議がなくても「テロとの戦い」を行う外国の軍隊を後方支援できる--に動き出している。もちろん、憲法9条改悪も具体的な視野に入れ始めた。

<<共産党の歴史的失態>>
 共産党の池内沙織代議士が人質事件での首相の対応に「こんなにも許せないと心の底から思った政権はない。『ゴンゴドウダン』などと、壊れたテープレコーダーの様に繰り返し、国の内外で命を軽んじ続ける安倍政権」などとツイートした。ごく当然な主張である。すると、「首相に責任を負わせるばかりでイスラム国批判がない」といった反論が殺到して炎上。批判におののき、共産党の志位和夫・委員長が「政府が全力を挙げて取り組んでいる最中だ。今あのような形で発信することは不適切だ」と池内氏を注意して全面謝罪させた、という(1/26志位委員長記者会見)。こうした事実経過は、共産党機関紙・しんぶん「赤旗」には一切報道されていない。都合の悪いことには触れないという、共産党の悪しき側面がまたしても露呈した。「自共対決」と喧伝していたはずの共産党、実に「情けない」事態である。看過できない歴史的失態と言えよう。民主党の岡田克也代表も「政府の足を引っ張るな」と党内に発言の自粛を指示したという。
 安部首相にとっては、「このような非常時には国民一丸となって政権を支えるべき」という願ってもない、どころか思い通りの展開である。
 2月9日、参議院会館内で「翼賛体制の構築に抗する言論人、報道人、表現者の声明」を発表する記者会見が行われた。
 声明は、「現政権を批判することを自粛する空気が国会議員、マスメディアから日本社会までをも支配しつつある」「『非常時』であることを理由に政権批判を自粛すべきだという理屈を認めてしまうなら、あらゆる『非常時』に政権批判ができなくなる」などと警鐘を鳴らし、「私たち言論・表現活動に携わる者は、政権批判の『自粛』という悪しき流れに身を委ねず、この流れを堰き止めようと考える。誰が、どの党が政権を担おうと、自身の良心にのみ従い、批判すべきだと感じ、考えることがあれば、今後も、臆さずに書き、話し、描くことを宣言する」と真正面から闘う姿勢を明らかにしている。
 いまあらためて、このような声明を生かした、多様で広範な統一戦線の形成と内実が問われていると言えよう。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.447 2015年2月28日

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【日々雑感②】 

【日々雑感②】 

 新年あけましておめでとうございます。
 久々に投稿させていただきます。今年の正月は、例年とはちがって、お宮参りをする人が、めっきり減っているように思います。例年ならば、大晦日から新年にかけて家の横の通りを、何人もの人々が、ぞろぞろと、お宮さんに向かうのですが、今年は、どういうわけか、人っ子一人通らないのです。こんな状態で、元旦の朝を迎え、私も気になるので、地の神社に行ったのです。
 やはり、そこはガラーンとしており、新年を祝う旗だけは、何本も立てられておりました。私は、何かの間違いではないかと、呆気にとられておりました。こんな様子が、2日も3日も続くのです。これでは神社も大変だろうなと思い色々と考えてみました。
 私が思うには、これだけ格差社会になり、貧富の差が拡大すれば、大多数を占める貧乏人が、「神も仏もあるもんか。」という考えになってしまったのではないかと勘ぐったりもしてしまいます。人々の宗教離れともとれるそんな動きは、良いことか悪いことか計り知れませんが、とにかく、おかしな新年でした。
 今年の正月も、亡き妻への配慮から、2日より箱根駅伝をテレビでかけておりました。彼女の好きだった箱根路を、彼女の、お位牌さんを、テレビに向けて見ていただいておりました。あの世で、充分納得していただけたかなあと、唯物論を自称していた自分も、苦笑しております。
 そんな亡妻も、生前は「私は、学問も教養もないアホやけど、そんなアホな私でも、今、安倍首相がやっていることが、どんなにデタラメかわかるわ。自分の友達の黒田さんを、日銀の総裁にしといて、必要以上にお金を印刷させる。そうして、政府が発行した国債を、日銀に買わせる。こんなことを続けてたら、いつか破綻するわ。そんなこと分かれへんのかなあ。」と言っておりましたが、全くその通りで、あなたは、アホやバカではなく、貧しい人の視点で物事を見ている、それが正しい物の見方なのだよ、と冗談にしても、亡妻のことを、バカ呼ばわりしたこともある私は、懺悔の意味を込めておわびします。
「あなたは、心根のやさしい、私にはもったいない良き妻であったよ、」と・・・・。
                        早瀬 達吉(2015-01-12)

PS:早瀬さんから、1月号の原稿として投稿いただいておりましたが、紙面構成から掲載できませんでした。2月号でも同様の経過となりましたので、ネット版での掲載とさせていただきました。早瀬さん、ご容赦ください。(佐野) 

 【出典】 アサート No.447 2015年2月28日

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【投稿】戦後70年を平和の年に

【投稿】 戦後70年を平和の年に
               -軍拡と歴史修整に歯止めを-

<軍拡突出した15年度予算>
 政府は1月14日、一般会計で総額96兆3420億円の来年度予案を決定した。歳入のうち税収は、54兆5250億円と前年度比9%の高い伸びを示した。
 これはアベノミクスで潤った大資本からの税収であり、本来社会保障費や文教費に投入すべきものである。
 しかし、文教費はマイナス1,3%、社会保障費は介護報酬を2,27%減とするなど抑圧する一方、軍事費は2%増と過去最大の4兆9801億円に増額された。
 さらに、今年度補正予算での先取り分約2千億円を合わせると、軍事費は実質5兆を突破する。
 軍事費の内訳は、イージス艦、F35など最新兵器やオスプレイ、水陸両用装甲車という「島嶼防衛」用の装備、さらには南西諸島への部隊配備など、あからさまな対中国シフトとなっている。
 昨年11月の「日中首脳会談」に至るなかで「合意文書」作成や「笑顔無き対面」など、「煮え湯」を飲まされた安倍総理は中国に対する敵愾心を一層激しくしており、その意向を色濃く反映したものとなっている。
 安倍内閣の閣僚にも総理の情念が憑依しているようである。
 中谷防衛大臣は、1月5日、防衛省での「年頭の辞」で東シナ海近辺での中国軍の活動を挙げ「中国軍が不測の事態を招きかねない危険な行為を繰り返している」と批判した。
 また中谷大臣は11日、中国軍に占領された離島の奪還を想定した、陸自第一空挺団の「降下始め」に参加した。
 中谷大臣は昔取った杵柄の訓練塔からの降下を披露し、「リーダーシップを持って、率先垂範でやろうという意気込みで飛んでみた」と一人悦に入っていたが、有事の際はぜひ先頭で突撃すべきであろう。
 さらに「産経新聞」によれば、岸田外務大臣は1月17日、訪問先のインドで中国との領有権紛争が継続しているアルナチャル・プラデシュ州について「インド領土と認識している」と明らかにしたという。
 こうした挑発的言辞に中国は「中国の脅威を誇張している」と反発し「首脳会談時の合意文書の順守」を求めている。

<覇権拡大狙う外遊>
 主要閣僚が総理の分身の様に妄言を呈するなか、安倍本人は1月16日、エジプト、ヨルダン、イスラエル、パレスチナをめぐる中東歴訪に出発した。
 翌17日は阪神淡路大震災20年にあたり、神戸など被災地では慰霊行事などが挙行されるにもかかわらず、これを欠席しての外遊である。いくら防災、東日本大震災からの復興を唱えても、まったくの上辺だけであることが露呈したと言えよう。
 エジプトに到着した安倍はギザのピラミッドなどを見物したのち、カイロ市内で演説、「中東の安定に貢献するため」25億ドル、約2900億円におよぶ経済支援を、中東地域に実施すると大見得を切った。
 その内容は、難民支援やインフラ整備など非軍事分野とされている。しかし今回の援助でもエジプトへの円借款430億円には、エジプト空軍も使用するカイロ国際空港の拡張事業が含まれている。
 日本政府はODAに関し、当該国軍への支援を可能とするよう、その大綱を11年半ぶりに改定する方針であるが、その目論見はすでに実質化していると言える。
 安倍は「積極的平和主義」の名のもと、先述のような対中軍拡を強行し、東アジアでの緊張を激化させているが、アフリカ大陸への影響力拡大も、一歩先を行く中国を牽制し、進めようとしている。
 2013年のクーデター後、14年の大統領選挙で成立した、事実上の軍事政権であるシシ政権に、人権問題については注文を付けずに大規模支援を約束し、訪日を要請したのは、その一環である。
 安倍は「イスラム国」を引合いにだし「反テロ」「中東の安定」を訴えたが、パリでのテロに対する抗議行動に各国首脳が参加する中、ゴルフに興じていた人間の訴えは虚しいものがある。
 今回の外遊もこれまでのものと同様、自己満足と魂胆の見え透いたものとなった。
 
<沖縄への差別、冷遇>
 安倍が外遊で大盤振る舞いを繰り広げているのとは対照的に、この間の沖縄への冷遇は常軌を逸するものであった。
 昨年末、上京した翁長雄志知事を、安倍政権は「官邸出禁」という屈辱的対応で迎えたうえ、沖縄関連予算の減額を示唆した。
 果たせるかな15年度予算で沖縄振興関連予算は、14年度から約160億円削減され約3300億円となった。逆に、辺野古新基地建設関連経費は倍増の約1700億円となった。
 菅官房長官や政府首脳は「13年度予算で38億円余っている。きちんと精査した結果だ」と開き直っているが、そうした予算執行状況を作ったのは仲井真県政であり、責任転嫁を超えたチンピラの言いがかりに等しい。
 こうしたなか、1月15日辺野古現地では基地建設に向けた準備作業が強行された。これに反対する運動も高揚してきているが、権力はさらなる弾圧強化で臨み、逮捕者、負傷者が続出している。
 この様な安倍政権の沖縄に対する対応は、宗主国が属国、植民地に行う仕打ちというものである。
 
<表現の自由擁護せず>
 安倍政権に批判的な人々に対する抑圧は政治レベルに止まらない。
 爆笑問題の政治家風刺ネタはNHKの「事前検閲」で禁止となった。籾井会長は「政治家ネタはよくない」とこの措置を追認した。
 「紅白歌合戦」でのサザン・オールスターズのパフォーマンスは、ライブであったため放映された。虚を突かれた形の籾井は「ピースとハイライト」について「歌詞の細かいところまで承知していない」とうろたえたが、放送直後から右翼、レイシストなどからの脅迫が相次ぎ、桑田佳祐は謝罪に追い込まれた。
 桑田は年末のライブでも、「総選挙なんか無茶」と批判したが、来場していた安倍は、恥をかかされたと思ったのだろう。
 ヘイトスピーチやヘイト本に関しては、野放しにしているにも関わらず、政権批判に関しては極めてナーバスになっているのが現在の日本の権力者である。
 両事件とも、直接政権幹部は言及していないが、政権の意向を忖度しての行動であったことは想像に難くない。
 これは沖縄への子供じみた対応と同様、日頃、安倍政権が批判する中国や北朝鮮の権力と同じメンタリティというべきである。
 安倍はパリのテロに関し「言論の自由、報道の自由に対するテロは許さない」などと表明しているが、まさに天に唾するというものである。

<地方の反発に動揺>
 これらの事象は、与党で12月の総選挙で絶対安定多数を獲得したものの、決して政権は安定していないことへの不安の表れである。
 1月11日の佐賀県知事選挙では、自公推薦の樋渡候補が県農協連などの支持を受けた山口候補に敗れた。
 与党候補の敗因は強引な農協改革への批判だけではない。古川前知事に玄海原発再稼働と佐賀空港への陸自オスプレイ配備を容認させた直後に、衆議院に転出させ、後釜に樋渡武雄市長を据えるという、地方自治を無視した官邸の手法に対する反発が大きい。
 政権の都合しか考えていないこうしたやり方は、「大名は鉢植え」と評された徳川幕府の政策を彷彿とさせるものがある。
 安倍政権はこの間滋賀、沖縄、佐賀、さらには相乗りに追い込まれた福島を含め、県知事選挙では連敗を重ねている。
 「地方創生」を内閣の最重要課題としているものの、それは政権に協力的な自治体を金の力で作るものでしかないことは、見透かされているのである。
 
<重要さ増す自治体選挙>
 政権基盤の動揺を糊塗するため、政策、政治手法はますます硬直化してきている。異を唱える者への排除や報復はさらに強まるだろう。
 この様な傾向は周囲にいるものも不安に陥れている。
 アメリカの議会調査局は、先日公表した日米関係に関する報告書の中で「安倍政権は周辺諸国との関係を悪化させ、アメリカの国益を棄損した可能性がある」と指摘した。さらに同報告では「安倍総理は過去の侵略を否定する歴史修正主義的視点」を持つと、危惧を露わにし、戦後70年に際しどのような発言をするか、世界が注目している、と「戦後70年安倍談話」に釘を刺した。
 「安倍談話」を巡って官邸からは「『村山談話』」を全体として継承する」=「侵略への反省など具体的な部分は変更する」との観測気球が挙げられている。
 このような危険な動きに対しはすでに中国、韓国から厳しい牽制が投じられているが、アメリカに加え天皇からも懸念の声が上っている。
 天皇は新年のあいさつで「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び・・・」と極めて異例な言及を行った。
 安倍政権は今後、有識者会議を立ち上げ内容を検討していくとしているが、御用学者の集まりでは歴史の批判に耐えうるものができるとは考えられない。
 毎日新聞は1月14日「安倍総理が5月連休に真珠湾訪問を検討」と報じた。菅官房長官は即座にこれを否定したが、強まる批判、とりわけアメリカからのそれを和らげるための方策であろうし、動揺の表れである。
 戦後70年を平和の年としていくため当面する統一自治体選挙では、民主勢力の糾合、前進を実現しなければならない。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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【投稿】ドル―IMF-世銀体制の没落か「水晶の夜」の再現か

【投稿】ドル―IMF-世銀体制の没落か「水晶の夜」の再現か
                              福井 杉本達也 

1 国家自らがデモを組織する不思議?-フランス紙襲撃事件
 1月11日フランス全土で、週刊紙シャルリ・エブド社襲撃事件に抗議するデモが行われた。370万人が参加し、オランド仏大統領やメルケル独首相、キャメロン英首相、レンツィ伊首相、ラホイ・スペイン首相のほか、イスラエルのネタニヤフ首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長らも参加するフルキャスト・フルメンバーであり、世界のデモ史上、最も華麗、かつ豪華絢爛なデモ行進と報道された。むろん、デモ大衆とは別の小さな通りで、治安機関職員に取り囲まれてのヤラセであるが(「The Voice of Russia 」2015,1,14)。
 しかし、国家権力が組織したデモとは何かが問われなければならない。普通、デモは権力も、暴力手段も、宣伝手段もない民衆が最後の抗議手段として自らの体を張って行うものである。国家権力は逆にこれら全てを持っている。その国家がデモを企画した目的が問われなければならない。武田邦彦中部大学教授は、仏のデモとナチスの行進を並べたブログを掲載した(2015.1.15)。ナチスの行進の目的は「反ユダヤ」・「反共産」という国家権力の意志を国民に力で押しつけ、国論を統一することにあった。まさか、国家権力が「ペンの自由」という間の抜けた呼びかけをすることはない。今回のデモは「反イスラム」・「反ユダヤ」ではない。アッバス議長もネタニヤフ首相も参加している。「反ロシア」でもない。ラブロフ外相も参加している。欧州国家がその権力を持ってしても背けず、デモで「抗議」しなければならない相手とは、消去法であるが「反ナチズム」=「反米」以外にはない。間髪を入れず米共和党・メディアはオバマ政権の反テロ行進への不参加を「手痛い失点」と非難した(日経:1.14)。今年に入り、オランド大統領は、ウクライナ危機の解決で進展があった場合、ロシアに対する各国の制裁を解除することを提案したとAFP通信が伝えていた。15日に独仏ロとウクライナによる首脳会談が行われる予定であった(日経:1.11)。これらの動きはウクライナのナチズムに裏から糸を引く米国にとっては非常に都合が悪いことであった。欧州の「移民問題」という弱点にテロを仕掛けることによって欧州を脅したのである。

2 ドル高・円安をどう捉えるか
 米国はウクライナのナチズムを支援してクーデーターを起こしたものの、現在の米国の経済力では支えきることはできない。ウクライナは破産状態であり、電力危機でウクライナの古い原発はこの間何度も事故を起こしている。このままではチェルノブイリの再来も間近である。石炭も不足しており、親ロ派の支配する共和国にしかない。南アフリカ・ポーランドからの石炭購入は支払い能力なしということで断られ、ロシアから輸入するしかない(ロシアNOW 2014.12.5)。
 ドル高・円安・ユーロ安というのは、米国に資金を集める政策である。ドルは基軸通貨であり、ドルに不安がないのであればなにもドル高にして無理に資金を集めることはない。ドルさえ持っていれば世界中で使用できるからである。しかし、米国はアフガン侵略・イラク侵略等々戦争に次ぐ戦争でドルを乱発し、ドルの信用に疑問符がついている。
 ドルの外貨準備が最も多いのは中国の3兆9,900億ドル、日本が1兆2,600億ドル、EUが5,859億ドル、ロシアが4,189億ドルなどとなっている。米国はこの海外ドル資産を米国に再投資するように圧力をかけており(マイケル・ハドソン『超帝国主義アメリカの内幕』1945年米国―カナダ協定等)、各国とも事実上ドル外貨準備は「肉を冷蔵庫に入れて電気を切る」状態に置かれている。
 外貨準備の中で金準備が最も多いのは米国の8,134トンであり、これに次いで、ドイツの3,348トン、イタリアの2,452トン、フランスの2,435トンとなっている。これに次ぐのが、この間ルーブル安であるものの、金準備を着実に増やしているロシアが1,150トン、そして中国の1,054トンである。日本はわずか765トンに過ぎずそのほとんどは米国の金庫に保管されていることとなっている。スイスでは「スイスの金を救え」というスローガンで中央銀行の金準備増強と海外保管の金(=米国保管)の国内へ移送するという政策は11月30日の国民投票で否決されたものの、フランスでも同様の要求が高まっており、オランダは一部移送を実施した。しかし、ドイツは米国の圧力により移送を断念している。スイスやオランダが金準備を国内に移送しようとしたのは、米国の金準備が実際はほとんど使われてしまってNY 連銀の金庫の中は空で、各国の米国内に保管されている金準備にまで手を付けているのではないかという「疑心暗鬼」によるものである。逆に言えば、ドルの信認が無くなり、紙くず同然となる日が近いということでもある。

3 ブレトンウッズ体制(金・ドル本位制)
 1944年、金だけを国際通貨とする金本位制ではなく、ドルを基軸通貨とする制度を作り、単なる紙幣(紙)に過ぎないドルを金と同様の価値があるとし、金とならぶ国際通貨とした。第二次世界大戦後は世界のほとんどの金が米国に集中しており、米国は圧倒的な経済力と軍事力を誇っていた。ドルと各国の通貨価値を連動させたことから、ブレトンウッズ体制(IMF体制)のことを、金・ドル本位制という。
 この制度では、金とドルの交換率を、金1オンス=35ドルと決め、金との交換を保証し、今日のように毎日・毎時為替レートが変動することはなく、為替が固定されていたことから、固定相場制という。ちなみに当時円は1ドル=360円に固定されていた。

4 変動相場制
 しかし、米国は、1960年代にベトナム戦争での大量支出や、軍事力増強などを行った結果、金の裏付けのないドル紙幣を大量に発行し、NY連銀の金庫からは金がどんどん流出し、金との交換を保証できなくなくなっていった。当時、ドル紙幣をため込んだフランスなどは、これを金に換えようとしたことから米国は破綻宣言=1971年8月15日、米大統領ニクソンは、ドルと金の交換停止を発表した(ニクソン・ショック)。これにより、米ドルは信用を失い、1973年よりに変動相場制へと移行した。
 その後、米国はドル危機を避けるため高金利政策を取り、資本の吸収を図ったものの、莫大な貿易赤字が計上され、財政赤字も累積していった。特に、日本とドイツがアメリカの圧力により赤字解消のための為替を大幅に切り上げざるを得なくなった(プラザ合意)。その後今日まで、米国はその軍事力を背景に、紙くず同然のドル紙幣を押しつけ、赤字を垂れ流す体制を続けてきた。「米国債本位制により、アメリカ経済は、アメリカの外交官がIMFを通じて他の債務国に命じる行動、つまり緊縮財政をみずから実践する必要がなくなった。アメリカだけが、国際収支への影響をほとんど気にせず、国内で拡大路線をとり、外交を推し進める。債務国に緊縮財政を押し付けながら、世界最大の債務国、アメリカは、一人金融的束縛なしに行動する」(マイケル・ハドソン)ことができることとなった。

5 BRICS銀行とアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設
 2014年は中国主導によるBRICS銀行とアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設が合意された。AIIBは基本は新興国が加盟するが、ニュージーランドも参加することを表明し、枠はどんどん拡大している。金の裏付けのなくなったドルを中心とするドル基軸体制=ドル―IMF―世銀体制を根本から揺るがす事態となっている。BRICS銀行やAIIBが機能するようになれば、新興国の貿易や投資はNYを経由することなく、決済が行われ、ドルは紙くず同然になる。「この合意は、第二次世界大戦後の米国主導の国際金融レジームに対するだけでなく、冷戦後の国際秩序そのものに対する一つの挑戦」(六辻彰二)である。これまでのIMF・世銀は借り入れ国に経済政策や制度の改革を求め、実行されなければ融資を引き揚げるという先進国の新興国収奪の先兵として権力をふるってきた。 場合によっては、その国の政権を転覆してでも債権を確保し、無理やりに市場経済化を推し進めてきた。たとえば、1973年チリではアジェンデ政権が転覆され、IMF/世銀の要求により1997年に南米のボリビアでは、水道事業が民営化され、米国ベクテル社の子会社に売却された。
 これまでも、IMFへの新興国の参加=具体的には中国の出資額の日本レベルへの引き上げやSDRの強化なども議論されてきたが、いずれも米国の強い反対により潰されてきた。そのような機関ができれば、これまでのような無制限なドルの垂れ流しも、新興国の収奪も出来なくなり手足を縛られてしまうからである。これまでと異なるのは、ロシア・中国の軍事力と中国を始めとする新興国の十分な外貨準備高によって担保されていることである。
 米国としては自らの覇権を根本から引っ繰り返される恐れのあるBRICS銀行やAIIBを何としても潰したい。そのための攻撃がウクライナであり、イスラム国であり、香港雨傘革命等々である。ウクライナ問題に対するロシア制裁を巡っては欧州には反対の意見が根強い。昨年12月に行われたG7でもドイツなどが米国の制裁強化に反対したと伝えられる(福井:2015.1.16)。しかし、正規の軍事行動は経済情勢から見ても制限せざるを得ない。とすれば非正規の軍事行動が幅を利かすこととなる。現代版「水晶の夜」(Kristallnacht)を再現してはならない。 

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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【投稿】15年1月・佐賀県知事選をめぐって 統一戦線論(12) 

【投稿】15年1月・佐賀県知事選をめぐって 統一戦線論(12) 

<<「佐賀の橋下徹」>>
 1月11日投開票の佐賀県知事選挙で、自民・公明両党が推薦する候補が敗れた。
 敗れた樋渡・前武雄市長は最年少市長で「佐賀の橋下徹」と呼ばれるほど、攻撃的、独善的で、武雄市長時代に図書館にTSUTAYAやスタバを入れて子供用スペースを潰して、運営を民間委託したり、地元医師会の反発を押し切って市民病院を民間移譲したり、そうした政治姿勢を批判する新聞記事に文句をつけ、記者を名指しで批判、ブログなどで徹底的に攻撃することでも名を馳せていた。
 そこへ降って湧いた昨年12月の衆院解散・総選挙の直前、前知事の古川康氏が突然、知事職を放り出して衆院選出馬を表明(佐賀2区、当選)。さらに知事職辞任直前に佐賀空港へのオスプレイ受け入れについて、「県は受け入れに向けて作業をしている」と表明。安倍政権に同調した見返りで衆院議員のポストを得る“天下り辞任”をした。その辞任に伴う1月の知事選候補について、自民党佐賀県連の頭越しに菅官房長官が「樋渡氏は古川氏の総務省の後輩です。」として、県連擁立候補(佐々木豊成・元財務省理財局長)に「ノー」を突きつけ、樋渡氏を古川氏の後継に指名、禅譲路線を明示して押し切った。
 樋渡氏は昨年4月の市長選で3度目の当選を果たしたばかりで、まだ任期は3年以上も残っていた。この樋渡氏とその政治手法を高く評価して持ち上げることが安倍政権の狙いでもあった。彼を「地方の改革派の旗手」として、安倍政権はアベノミクスと一体の「改革派」と位置づけて、知事選に引き揚げ、全面支援。知名度も抜群で圧勝、楽勝のはずであった。
 同知事選はアベノミクスが掲げたTPPや農協改革、自衛隊が導入する新型輸送機「オスプレイ」の佐賀空港への配備など日米安保・軍事同盟強化路線、そして玄海原発の再稼働などが争点となりかねないことから、争点隠しに大物議員を次々と送り込み、官邸は異例の支援態勢を敷いて臨んだ。その象徴が首相自ら乗り出す電話作戦であった。安倍首相の肉声=「佐賀県を全国に向けて発展させていくのは樋渡啓祐さんしかいません」と吹き込んだテープによる投票依頼の自動電話作戦が大々的に展開され、電話の最後は女性の声で「突然の録音電話で大変失礼しました。少しでも御不快などございましたらご容赦ください」と断わりが入る念の入れようで、これが逆に不快感を増幅させ、マイナスであったのではと反省の弁も聞かれるほどであった。

<<安倍政権の手痛い敗北>>
 知事選は、投票率は54.61%と、過去最低を更新、相手候補は土壇場の直前立候補で知名度も低いにもかかわらず、通常なら圧勝のはずが、安倍政権が直接推挙した樋渡候補は4万票もの差を付けられて落選したのである。安倍政権にとっては「番狂わせ」であり、厳しくかつ手痛い敗北である。
 当選したのは、元総務官僚で新顔の山口祥義氏である(18万2795票)。地元の多くの首長や県議、農協、有明海漁協などは山口氏の支援を表明、いわゆる「保守の分裂」が明瞭になった。
 山口氏は「佐賀のことを東京で決めていいのか」「中央対地方の戦いだ」と訴え、当選後の会見でも「佐賀のことは佐賀で決める。これが実現できたことは何よりも嬉しい。地方の英知を結集し、共感できる改革をしていきたい」と述べている。そして、原発については「再稼働の方向で考えたいが、安全性を確認し、県民の意見をしっかり聞く」、オスプレイについては「白紙であり、まったく判断していない。検討すべき点はかなり多い。まず国からオスプレイ受け入れ関連の情報を出してもらい、県民のあいだで議論する」と明言している。
 山口陣営の秀島・佐賀市長は、「『古川県政継承』を訴えた樋渡氏が当選したら、”特攻隊”のように佐賀空港軍事空港化を進める恐れがあると危惧」、山口氏の擁立と支援の先頭に立った、という(『週刊金曜日』2015/1/16号)。
 すでに佐賀空港を抱える佐賀1区では、昨年12月の総選挙で、民主党の原口一博元総務大臣が、オスプレイ受入に明確に反対して、病床から選挙運動をし、「奇跡」ともいわれる逆転勝利をしている。
 1/15、菅官房長官は、山口新知事が垂直離着陸機オスプレイの佐賀空港への配備受け入れを白紙にすると表明したことに関し、オスプレイ配備は「安全保障上、極めて重要、早期配備に向けて、知事の理解と協力を得られるよう丁寧に説明していきたい」と、あくまでも計画を見直さず推進するとの姿勢を強調し、2015年度予算案に、オスプレイ5機の購入費516億円を計上。佐賀空港には最終的に計17機を配備する予定で、基地や駐機場などを周辺に整備するための用地取得費として106億円も盛り込んでいる。

<<安倍政権の衝撃と動揺>>
 安倍政権は、昨年12月の自己都合の不意打ち解散であったにもかかわらず、実態は「大勝」などしていないし、自民党は党勢の回復も果たしていない。それでも、自公与党連合が議席の3分の2を確保したことで、年が明けていよいよその露骨な本来の路線を突き進まんとしていた矢先であった。ところがこの第3次安倍政権スタート直後の重要な地方選で、沖縄に続いて、基地拡大とオスプレイ配備に邁進する強権的な安倍政権の出鼻が挫かれ、「NO」を突き付けられたのである。政権に衝撃が走り、自公両党はうろたえているといえよう。総選挙を受けて「安倍総理の求心力が高まる」どころか、逆の事態が生じかねないのである。自民党の二階総務会長は「敗因を徹底分析すべき」と言いだし、高村副総裁も「負けに不思議なし」と言明、安倍首相自身が「敗因分析をしっかりしたい」と述べざるを得ない事態である。
 昨年7月の滋賀県知事選挙では、原発再稼働をひとつの重大な争点として、元民主党衆院議員の三日月大造氏が自公両党推薦の小鑓隆史氏を破って当選した。そして11月の沖縄県知事選挙では、名護市辺野古への米軍新基地建設反対を掲げた前那覇市長の翁長雄志氏が、政府与党の傀儡と化した現職の仲井真弘多氏を大差で破り当選した。そして今回の佐賀県知事選である。安倍政権にとっては、知事選の3連敗である。
3知事選に共通するのは、力ずくで地方をねじ伏せて中央主導の政策、安倍政権が推し進める新自由主義経済路線、原発再稼働、軍事力強化と緊張激化路線をしゃにむに遂行しようとする姿勢に、有権者が明確に反対し、「NO」を突き付けたことである。
 安倍政権を支える基盤が動揺し、脆弱化し、ほころびが出だしたともいえよう。おごれる政権ほど、浮き足立ち、これまでにもまして暴走しかねない。その矛盾と弱点がさらに露呈されざるを得ない。これに対抗するには、その矛盾と弱点をさらに拡大させ、保守勢力まで含めた、より裾野の広い広大で柔軟な統一戦線を構築することこそが求められている。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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【投稿】私の闘病(難病サルコイドーシス等)から得た実践的教訓(抜粋)

【投稿】私の闘病(難病サルコイドーシス等)から得た実践的教訓(抜粋) 

 この闘病記録は、私が難病サルコイドーシスをはじめとした闘病経験の中でも、特に読者の参考になるのではないかと思う教訓について、実体験型に整理したものである。従って事実経過等はできるだけ簡略化(ブログ「リベラル広場」<http://blog.zaq.ne.jp/yutan0619/>に全文掲載。参考にお読みください)している。誰でも長期入院を余儀なくされる可能性のある中で、科学的・客観的根拠には多少、欠けるが、実際には在り得る事柄として読んでいただければ幸いである。

《事実経過1》
 私の体調異変の始まりは、2013年9月1日以降、鬱病発生からである。
<突然の転倒―頚椎異変の前兆か?>
 同年11月5日、公園での運動の帰宅途中、気を失い転倒した。気づいたときには、既に救急車でU病院に緊急搬送、診察の結果、頚椎が異常に曲がる頚椎症性脊髄症を指摘された。そしてU病院には数箇所ほどの頚椎症性脊髄症の手術ができる病院を紹介されたが、その内でも最も家に近い某A病院に診察してもらうことにした。
 〔教訓1〕
 この自宅近所の某A病院を距離的理由だけで選んだのだが、後々に某A病院の主治医の対応には問題が多く、やはり口コミや治療実績等も参考に調べる等、とにかく距離的理由だけで治療病院を選ぶことは危険である。

《事実経過2》
 某A病院でMRI画像診断を行ったところ。頚椎症性脊髄症は事実で、2013年11月13日入院、同年12月3日、頚椎症性脊髄症の手術を受けた。この手術は、首の後部にスペーサーという物体を首後部肉に5枚も固定するものであった。
 なお、このMRI画像診断の際に別途、頚椎内に白い棒状の肉芽が認識されていたが、主治医は「頚椎症性脊髄症の腫れのようなものではー」と軽視した答えをして、実際にはあった「頚椎内腫瘍」の存在を明確に認識されることはなかった。
 〔教訓2-当てにならないセカンドオピニオン〕
 なおA某病院での頚椎症性脊髄症の手術を受けるに先立ち、鬱病の心療内科の医師に相談した。当該医師は、A某病院での手術には疑問を呈し、府立公的医療機関へのセカンドオピニオンを受けるべく、紹介状を書いてくれた。早速、同病院整形外科を訪ねたが、若い担当医は、少し面倒くさそうに「そのまま、A某病院で手術を受ければよい」と言い放った。しかし、疑問が払拭できず、そもそもA某病院での手術が脳神経外科であることから、再度、脳神経外科でのセカンドオピニオンを申し込んだが、これについては一蹴して拒否された。この経験で感じ取ったことは、せっかくセカンドオピニオンという制度があっても、実際には先に治療方針を示した病院と異なる(アゲインストな)セカンドオピニオンを呈することは、なかなか勇気のいることで、結局は病院同士で追随し合うのではないかという疑惑を抱いてしまうことである。特に医科大学が同系列の病院の場合は、なおさらではないかと思える。

《事実経過3-とりあえずリハビリ改善した頚椎狭窄症》
 そして「頚椎内腫瘍」の影を潜めながらも、頚椎症性脊髄症の術後リハビリに努め、徐々に歩行ができるほど改善した。そして本年3月末日の定年退職を契機にA某病院を退院した。

《事実経過4-やはり「頚椎内腫瘍」によって再び歩行困難に》
 一旦は退院したものの4月中旬以降、再び歩行困難に陥った。そして5月16日、予定を繰り上げ再受診、MRI画像診断も行った。今度は、頚椎内腫瘍も明確に判明し、A某病院主治医の診断書も、ここで初めて「頚椎内腫瘍」の言葉を使っている。

《事実経過5-主治医はサジを投げた》
 5月19日、A某病院主治医は「頚椎内腫瘍」について、ようやくその存在を正式に認めたものの、「A某病院としては、なす術がない。ついてはX大学病院に相談(紹介?)してみてはどうか?」と、要はA某病院としてはサジを投げ、X大学病院に転院を促すというものだった。
 〔教訓3-不明なものは、いい加減にしない〕
 A某病院主治医の薦めにより5月26日、X大学病院へのセカンドオピニオンを受けに行った。
 X大学病院セカンドオピニオンは、「脊椎腫瘍について、外見上、良性に見えても悪性の場合もあるし、その反対もある。また悪性・良性と関らず、第3の問題組織である場合もある。脊椎腫瘍を多少、切除し、組織検査=確定診断をしなければならない」というものだった。このX大学病院のセカンドオピニオンは、まだ一応、なす術がある意味で、希望が持てるものであった。
 同時に昨年12月3日のA某病院での脊椎症性脊髄症手術以前のMRI画像では一応、頚椎内腫瘍と思わしき白い肉芽が 映っていたのだから、何故、その時点でA某病院での確定診断の能力がないならないで、X大学病院等に紹介してくれなかったのかという疑問と怒りが沸き立つ。現に後程、転院したY大学病院医師は、「そもそも医学の世界で原因等が不明で放置しておくことは、原則、有り得ない」とまで明言している。
 なおY大学病院のセカンドオピニオンも受けたところ、ほぼX大学病院と同様の見解だったことから、6月20日にY大学病院に入院、7月8日に再び首―頚椎を切除、頚椎内腫瘍組織検査を受けた。そこで組織検査の結果、白い頚椎内腫瘍(肉芽)の正体は[サルコイドーシス]であることが判明したのである。
 そして現在は、9月10日にY大学病院も退院し、ステロイド系の経口薬を中心に服用し、車椅子と手の痺れに耐えながら、自宅リハビリに励む闘病生活送っている。
《その他、闘病生活を通じて得た教訓と問題意識等》
 〔教訓4-横柄な医師ほどヤブ医者(?)〕
◎このA某病院主治医は、詳しいエピソードは省略するが、日常的に患者に対して上から目線で横柄かついい加減な治療態度であった。
  ◎大学病院医師との主観的違いは
 そもそも大学病院等の医師と民間病院の医師との主観的な比較であるが、大学等病院の方が実に医学的で、わかりやすく説明しようとする姿勢が見られ、率直に言って横柄な医師ほど、ヤブ医者が多いのではないかと感じられる。
 〔教訓5-医大同系列でないと連携はとれないのか〕
 ある時、A某病院主治医が突然、病室に訪ねてきて、「Y大学病院は退院後も患者の面倒を見てくれるのか、聞いておいてくれ」と依頼するのである。どうも質問の意図は「Y大学病院とは日常的に連携関係がなく、後々の情報が入らないからだ」と言い訳していた。この件は後程、Y大学病院主治医にも報告したが、Y大学病院主治医は「日常的に医大学同系列であろうが、なかろうが、地域医療連携の中で淡々と処理するだけのこと」と聞いて安心した。しかし医大同系列に患者紹介すら躊躇する医師も、まだなお存在することは多少、認識した方がよいと感じた。

《問題指摘1-深刻化する医療スタッフの労働条件問題》
◎先ず民間病院であるA某病院では近年、退職金制度が廃止され、その事の不満、不安が結構、広がっているようである。
 一方、経営側に取ってみれば、人件費の後年度負担として重くのしかかってくるのも事実であろう。しかし看護師は国家資格であり、日進月歩に進化する医療技術の中で、それなりにモチベーションを維持して働き続けるためには、安定した労働条件の提供は必要不可欠である。逆に言えば、悪い労働条件では、それなりの医療スタッフしか確保されず、良い医療スタッフは良い労働条件で買えるのである。
 その他の問題把握も含めて、全体として経営コストを下げようとする民間病院経営側の意図と、それに不満があれども文句の言いようのない医療スタッフの意思が浮かび上がり、結果として民間病院の医療水準の低下を招いているように思える。
◎またY大学病院では、看護師のほとんどが20歳代の若い女性で、年配の看護師はあまりいない。この事は、Y大学病院に限らず一般的に看護師という職業が夜勤もあり、配偶者の相当の理解と条件がないと、長く働き続けることのでいない職業であることを物語っている。

《問題指摘2-医療検査に関する円滑な個人情報の還元を!》
◎民間病院でも大学病院等でも、意外と患者本人に対して医療検査結果等の本人情報の還元がされていない。医療検査結果等に関する個人情報保護法の規定は、先ず本人から医療検査結果等について開示請求があった場合は、病院側は遅滞なく開示しなければならないことになっている。しかし実際の運用実態は、多くの医療検査を行いながら、ほとんどが患者本人に医療検査結果を知る権利の説明もされずに、病院側だけが保有管理する状況が一般的である。そこで医療検査結果等の本人情報を、必ず患者本人に対して紙媒体等での検査結果の還元をルール化してはどうかと思う。その方が病院側の事務の煩雑さは増すかもしれないが、元々、患者の医療検査結果は患者の所有する本人情報であるし、病院と患者との信頼関係の醸成にも繋がる。

《これからどうなる医療行政》
 今回、サルコイドージスという難病を経験して、感じ取った教訓、問題意識等を羅列したが、その経験上から見える構図として、段々と医療水準が低下する民間病院、しかし、そこで何らかの医療アクシデントに見舞われ、紹介状がなければ、大学等病院では外来診療も受診できない現状。そして患者と医療機関側とでは、圧倒的にその専門的知識や経験上においても患者に不利にありながらも、患者自身の人権は患者自身が守らなければならない現実。また新たな問題としてAPEC自由診療導入も検討されている。
 厚生労働省が全体として医療費抑制にあることはわかるのだが、その先にあるグランドデザインが、勉強不足の自分にはわからない。今後、どなたか、日本の医療行政システムの見通し。解説と問題点を執筆していただくとありがたい。(民守 正義)

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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【投稿】安倍政権の「勝利」揺るがす潮流を

【投稿】安倍政権の「勝利」揺るがす潮流を

<異常な執念>
 第47回衆議院総選挙は、自公与党が定数の3分の2を超える326議席を獲得し「勝利」した。これはアベノミクスなどに対する批判票の受け皿=政策、候補者を、民主党などが「奇襲攻撃」に翻弄され満足に構築できなかったためである。
 こうした構図の中では投票機運は高まらず、与党への支持も確固たるものとはならなかったことが、投票率と議席数に反映された。
 マスコミ各社は押しなべて自民党単独で300議席を超えると報道していたが、実際は291議席と公示前から4議席を減らし、その分公明党が議席を増やし35議席とした。
 一方、民主党などその他の野党はほぼ予想通りとなったが、共産党の大幅増と、次世代の党の激減が際立った対照性を見せた。維新の党は30議席前後に低迷すると予想されていたが、41議席と1減にとどまった。
 自民党が予想ほどに伸びなかった要因として、沖縄の4選挙区で反基地統一候補、および大阪の5選挙区で維新に競り負けたのが響いたと言われているが、それは織り込み済みだっただろう。
 とくに大阪については、選挙終盤に安倍総理が来阪し「激戦区」で街頭に立ったが、対立候補である維新の批判は一切行わないという奇妙な応援となった。本当は橋下と握手をしたかったのだろう。
 これとは打って変わって、民主党と接戦となっている選挙区では、怨念の炎を燃えたぎらせるかのようなファナティックな言動で臨んだ。
 とりわけ、海江田代表、菅元総理、枝野幹事長、馬淵国対委員長ら民主党大物議員の落選を目論み、執拗な攻撃を続けた。
 しかし、安倍総理の異常な執念にもかかわらず、議席を奪うことができたのは海江田代表のみだった。
 安倍総理の批判者に対する偏執的な対応は、選挙期間中に続き開票時にも、望んだ勝利=「民主減、維新、次世代増」とは違う結果となった苛立ちを露わにしたものとなった。
 日本テレビの選挙特番で、キャスターが女性活用、賃上げ、中小企業対策など成果が表れていない分野での対応を質問したところ、安倍総理はイヤホーンを外して、自説を一方的にまくしたてるという異常な行動に出た。
 今回の総選挙で自民党は選挙報道への露骨な干渉を行ってきたが、総理自らがその先頭に立ったと言えよう。

<淘汰進んだ野党>
 その時大阪では維新の橋下共同代表が、安倍総理を超える醜態をさらけ出していた。
 議席数が流動的な中、記者会見に不機嫌な表情で臨んだ橋下は、質問に答えず「これはテレビで流れているのか」と確認したうえ「マスコミは3月の大阪市長選を低投票率で意味がないと報道したのだから、この選挙も意味がないと報道しろ」と意味不明な逆切れを起こした。
 同じ低投票率でも52,66%と23,59%では比べものにならないだろう。
 安倍にせよ橋下にせよ、自分の感情をコントロールできない人間は、政治指導者としては危険極まりない存在である。
 さらに党全体が危険な存在と言えた次世代の党は、公示前の20議席から2議席に激減し壊滅状態となった。
 この極右政党は選挙期間中、「タブーブタ」なる不気味なキャラクターを使い、ネット上でヘイトスピーチまがいの扇動を繰り広げ、自民党の反動性を覆い隠す「捨石」としての役割を果たした。
 反対に共産党は与党批判票の受け皿となり、公示前の8議席から21議席へと「大躍進」を果たした。
 しかし、唯一の小選挙区での議席となった沖縄1区は、選挙協力の賜物である。こうした要因を勘違いし、議席増を党路線の正しさの証明とするようでは、今後の建設的な役割は期待できないであろう。
 生活の党は5議席から2議席へと半減以下となり、社民党と並んだ。両党とも小沢代表と比例を除く小選挙区1議席はともに沖縄の議席であり、自力では獲得できなかったことを考えると、消滅したも同然となった。
 みんなの党は選挙前に自滅し、野党として残ったのは民主、維新、共産となった。「第3極」という美名のもと、事実上の与党など有象無象が乱立した野党は淘汰が進んだ。これは今次選挙の最大の成果であっただろう。

<民主党の責任>
 民主党は海江田代表が小選挙区は言うに及ばず、保険を掛けたはずの比例区でも落選するという惨憺たる事態となった。しかしながら公示前の62議席から73議席へと増加、維新を引き離し野党第1党の座は確保した。
 それでも伸び悩んだ要因は無節操な「野党共闘・選挙協力」にある。とりわけ政策的乖離が甚だしい維新との候補者調整は自らの首を絞めたも同然であった。
 準備不足を「野党共闘」という野合で糊塗しようとする戦略は、失敗したのであり、多くの選挙区で選択肢を提示できなかった責任は大きい。
 「野党共闘」の現場は、個別の選挙区事情が優先され政策は無きにひとしい状況となった。沖縄1区では下地候補が維新公認で立候補し、知事選に続き統一戦線の破壊者として登場したことで、維新の本質を如実に示した。
 維新の牙城で、都構想を巡りねじれ現象が惹起している大阪では、19選挙区中5選挙区でしか候補を立てられなかった。
 この惨状は候補者調整以前の問題で「ごみ箱をひっくり返しても候補者が出てこなかった」のが実際ではないか。
 小選挙区での擁立見送りは、結果として比例票の上積みにつながらず、近畿ブロック内では大票田の大阪が足を引っ張る形となり、共産党の後塵を拝することとなった。「案山子でもいいから立候補させればよかった」ということであろう。
 民主党としては「橋下チルドレン」を標的とした「維新主要打撃」で臨むべきだったのではないか。
 政策的に水と油の政党が協力など無理筋であるのに、党内でイニシアが発揮できなかった海江田は、落選以前に代表失格だったと言わざるを得ない。
 年明けの1月18日に選出される予定の次期代表の責任は重いものとなるが、今回の「野党共闘」の失敗を真摯に総括すべきであろう。

<認められない「白紙委任」>
 今回の選挙で与党へは消極的な支持しか集まらなかったにもかかわらず、安倍政権は白紙委任を得たかのようにふるまっている。
 安倍政権は12月17日、「子育て給付金」の来年度支給中止を決定した。政府は消費増税延期に伴う措置と説明しているが、それなら解散時に明言すべきであろう。
 消費税に関しては与党、とりわけ公明党の目玉公約であった軽減税率は、対象品目も固まらない中、再増税時に8%と相対的な軽減で幻惑しようとしている。
 また介護報酬の来年度からの引き下げも強行されようとしており、選挙終了を待って堰を切ったかのような負担増が押し寄せている。
 さらに、選挙翌日の記者会見で安倍総理は「経済最優先」を強調しつつ、「憲法改正にむけて努力したい」と本音をさらけ出した。
 原発についても「依存度を減らしていく方針に変わりはない」などと言いながら、17日には原子力規制委員会が高浜原発3,4号機の安全審査を「合格」とし、経済産業省も老朽化した原発の立て替えを検討することを明らかにするなど、逆方向の見切り発車が進もうとしている。
 しかし、安倍政権の反動的政策に対する防壁が高くなったのも事実である。
 与党は3分の2を超える議席数を獲得したが、国家主義的改憲勢力は後退した。次世代は壊滅し、維新は現状維持であるが、その中には石原慎太郎が「護憲勢力」と忌み嫌い、旧維新分裂のきっかけとなった旧結の党出身者が存在している。
 集団的自衛権関連法案について政府は、行使できる範囲を日本周辺に限定する方向となりつつある。さらに日米防衛協力の指針(新ガイドライン)改訂も来春以降への先送りが日米間で合意された。
 辺野古新基地建設も知事選に続く総選挙での自民敗北で、ますます困難となりつつある。
 安倍総理は戦後70年の「安倍談話」に意欲を見せているが、歴史修整を強行しようとすれば、中国、韓国のみならずアメリカなど「友好国」からも厳しい批判にさらされることは確実である。
 安倍政権は数の上では安定していても、実態は必ずしもそうではない。
 民主党を中心とする野党は、政界再編を目的とするのではなく、安倍政権に批判的な様々な動きと柔軟かつ丁寧に連携し、新たな政治勢力の構築に努め、当面する統一自治体選挙への展望を切り開かなければならない。(大阪O)

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【投稿】国際金融資本の手の内で踊った「アベノミクス総選挙」

【投稿】国際金融資本の手の内で踊った「アベノミクス総選挙」
                             福井 杉本達也

1 国家が株式市場まで操作する異常さ
 国家が日銀や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)・ゆうちょを使って、ばくち(株価の買支え)を大々的に打つということは前代未聞である。東短リサーチの加藤出氏は「日銀がETF(上場投資信託)を大規模に購入することによって株式市場をサポートしているが異様な政策だ。海外の主要な中央銀行で株やETFを買っているところは他にない。平時に中央銀行が株価を操作した場合、企業業績が伴わなければ株価は急落し含み損を抱えてしまう」(『週刊ダイヤモンド』2014.12.13)と警鐘を鳴らす。これまでも、国家は景気が後退したときに,政府支出を拡大する財政政策や基準金利を下げる金融緩和などの金融政策を行ってきており、米国では量的緩和政策(金融政策)によるITバブルやサブプライム・ローンなどの不動産バブル・リーマン・ショックを引き起こして来たが、株式市場(賭場)に国家が直接介入するというのは日本だけであろう。アベノミクスは従来的な国家による市場経済への介入である「第1の矢」(金融緩和=異次元緩和)や「第2の矢」(財政出動)によって一定の成果をあげてきているというが、市場経済への介入に成果があがっていないからこそ、「株価こそ政権の命綱」(日経:2014.6.16)として、実体経済に基づかない『根拠なき熱狂』(アラン・グリーンスパン)の場を作りだそうとしているのではないか。株式市場は本来不安定なものであり、賭場を規制し、『熱狂』を冷ますのが本来の国家の役割であるはずだが、国家自らが博徒となってマネーゲームを主導するというのは、もはや経済政策とはいわない。16世紀に始まったといわれる近代国家(Nation-state)の経済的役割は根本的な行き詰まりを見せ、自らの行先を探しあぐねてのたうちまわっている。ところが、与党はもちろん、野党も選挙期間中、国家によるカジノ開業についての異議を差し挟んだ形跡はない。

2 「消費増税延期」指令は9月米国発―クルーグマンから始まった
 マスコミは『争点なき総選挙』と書き、加藤哲郎一橋大名誉教授は「投票率は、戦後総選挙史上最低の52.66パーセント…師走の不意打ち選挙に、特定政党につながらない国民の足は、投票所に向かいませんでした。…マスコミの争点を『アベノミクス』の是非へと誘導し、消費税10%も、沖縄基地問題も、原発再稼働も、外交・安全保障も争点にならないよう仕組まれた選挙でしたから、ある意味では予想通りです。」と書いている(HP「ネチズン・カレッジ」2014.12.15)。
 しかし、仕組んだのは誰なのか。まさか、一度「はらいた」で降板した安倍にそのような能力があるはずもない。指令は米国発で、日本の「リフレ派」黒田日銀総裁や岩田規久男副総裁らの元締めでもあるノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンから下りてきたのである。
 「消費税率を2015年10月に10%に引き上げることの是非を決断する期限が近づきつつあった。今年4月の8%への引き上げの影響で、日本の景気は四半期ベースとして世界的な金融危機以降で最も深刻 な落ち込みに見舞われ、その後の回復の足取りもおぼつかない状況だった」(ブルームバーグ:2014.11.21)。「米国の経済学者でノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏が6日、安倍晋三首相と会談し、2015年10月からの消費税率10%への引き上げを先送りするよう促した。本田悦朗内閣官房参与がブルームバーグ・ニュースの取材に明らかにした。本田氏によると、クルーグマン氏は予定通りに増税した場合にアベノミクスが失敗する可能性を指摘」(同:2014.11.6)。「唯一の問題は消費増税だと訴えた。会談が終わるまでには、首相は延期を決めるだろうと本田氏は確信を持ったという」(同:2014.11.21)。本田氏は既に9月9日の時点で米ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに答え「政府にとっての『ベスト』の選択肢は、10%への消費税率引き上げを当初予定より1年半先送りすることだろうと話した。そうすれば、持続的な経済成長を確立する上で必要な、より大幅な賃金上昇を実現させる時間が稼げる、と指摘した」。しかも、共産党を含む全政党が消費増税先送りに賛成したのであるから、総選挙は最初から米金融資本=代理人[クルーグマン]=支店長[本田参与]の手の内で踊ったに過ぎない。
 
3 総選挙で取りあえずは増税派の反抗を抑え込んだ安倍
金融資本の言いなりにならず、近代国家としての筋を通そうとする反安倍勢力の結集を潰すには総選挙しかなかった。「仮想敵」は野党ではなく自民党内と財務省であった(後藤謙次:『週刊ダイヤモンド』同上)。それが表に出たのが野田毅自民党税制調査会会長の公認問題である。野田氏は会見で、日本の消費税率10%への引き上げについて、景気への悪影響には触れず、「予定通りというのが常識の線だ」と述べ、消費税法の「景気条項」を適用した見送りなどは検討せず、2015年の10月に増税すべきと言う考えを示した(参照:野田「社会保障財源の代案なき増税先送りは無責任に極み」『週刊ダイヤモンド』同上)。これに対し、官邸サイドは野田氏の公認を見送るよう党執行部に働きかけた(産経ニュース:2014.11.18)。

4 「アベノミクス批判」へと踊らされた野党
 アベノミクスの表向きの目的は「デフレからの脱却と景気回復」=「経済成長」である。しかし、全ての与野党のは「景気回復」=「経済成長」を掲げた。たとえば、志位共産党委員長は「現在の景気悪化は消費税8%を強行した結果で消費税不況だ。消費税増税は必ず景気を壊す。」と述べた。また、江田維新の党代表は「デフレを脱却して景気を増税に耐えられる体力にしないと逆に景気が悪化して税収が落ちる」とし、海江田民主党代表も「農業を成長戦略の柱にしなければならない。医療介護も、自然エネルギーも柱」(以上:朝日:8党首討論会:2014.12.2)と自らの成長戦略を語っている。アベノミクスは経済理論としては空理空論であり、国家詐欺であるが、株高でもなんでも、兎に角景気が良くなる“雰囲気”さえ作ればよいのである。「景気」=「雰囲気」というアベノミクス(=感情論)に「消費増税で景気が悪化した」「円安で格差が拡大した」などという理論的反論を行っても暖簾に腕押しである。結果、全野党が景気回復のために消費税の先送りを主張、クルーグマン=本田参与の術中にハマり、「大義なき総選挙」ではなく、自ら「大義を潰した総選挙」を踊ったのである。
 水野和夫氏が『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)で指摘するように、資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」というフロンティアを広げることによって自己増殖するシステムであるが、新興国の発展により拡大する「周辺」が無くなり、過剰投資、過剰設備を抱えた先進国では利子率が低下、だぶつく投機資金が金融市場を不安定にし、国内に「周辺」=国内格差を作り出している。今回の選挙でも全ての政党はいまだに「成長がすべての怪我を癒す」という価値観に引きずられている。右的立場ではあるが、佐伯啓思京大教授も、選択肢は「いっそうの規制改革を推進し、戦略的産業を打ち出し、過激化するグローバル競争のなかであくまで経済成長を追求する方向である。もうひとつは、あえてグローバル競争と成長主義から距離をおき、安定した地域や社会や国土を確保していくという方向である」(朝日:2014.12.2)と争点を整理している。

5 資金の流れは日本から米国へ…しかし、全政党が真実に口を噤む
 日銀は12月8日、国内の投資家が今年7~9月の3か月間に海外証券を8兆1千億円買い越したと発表した。GPIFは国内債券に偏った運用を見直しし、海外債券や株式の運用を増やすとしており、野村証券の池田氏によると、2015年度は公的年金・投信・生命保険で21兆円もの巨額の資金が海外へ流出すると試算している(日経:2014.12.19)。これを裏付けるように根岸明治安田生命社長は今下期に5000億円を外債運用に投じるという。日銀が追加緩和で国債を市場から吸い上げたため、マイナス金利の状況が続いており、運用利回りが逆ザヤになりかねないためであると解説している(日経:12.18)。我々が汗水たらして積み立てた公的年金の積立金を始め、生命保険や銀行の預貯金などは米国家財政の赤字補てんに使われ、将来ほとんど戻っては来ないだろう。1997年6月、橋本龍太郎首相は、コロンビア大学での講演において「大量の米国債を売却しようとする誘惑にかられたことは、幾度かあります。」と発言したことによりNY株式市場は一時暴落、米国から睨まれ翌年首相の座から引きずり降ろされてしまった。
 米沢GPIF運用委員長(早大教授)は株式運用比率の倍増について、「国債を大きく売る必要があり、日銀が大量に国債を買い入れ」なければならず、日銀の大規模緩和が前提だったとし(朝日:2014.11.21)、GPIFが国内株式というカジノに資金を投入するには、保有する国債を売却しなければならないが、売却される安全な国債に国内の銀行・投資家が向かわず、米国債等を購入させるために、日銀が国債を全て買い上げる連携が必要だったことを明らかにした。しかし、選挙期間中、共産党を含め全野党は、アベノミクスの真の目的が米国への資金還流であり、金融資本を手助けするものであることを語った党はない。新聞の行間を読めばそのようなことはすぐ分かるはずだが、①金融資本の代理人か、②勉強不足なのか(もちろんそのような政党に政権を担う力量はない)、③脅されたのか(橋本元首相のように)、いずれかであろう。高齢化が進みつつあり、社会保障費は自然増でも毎年1兆円ずつ増加する。国家に対する不信があろうがなかろうが、税を考えなければ、現在の制度は全て崩壊してしまう。誰も米国のように盲腸の手術に200万円も払いたい者はいない。近代国家は国民から強制的に(暴力による強制を含む)税金を徴収し、それを国民に再配分して様々な政策を行うものであるが、制度設計を放棄し、外国(国民国家の外)に資金を一所懸命貢ぐと共に、カジノに打ち興じる国家を何と呼べばいいのか。 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【翻訳】 日本はもっとドイツ的であるべきだ。

【翻訳】 日本はもっとドイツ的であるべきだ。
              (Japan Times 記事 on Nov. 25, 2014)
 Japan should be more German :
   by Mr. William Pesek, Bloomberg View columnist based in Tokyo

日本は、三つの事を重視すべき:
1. 革新 “Innovation” と小/中規模中堅企業 “Mittelstand”
2. 近隣諸国の重視、とりわけ中国
3. 人口減少問題/及び女性と退職技能者の活用

 “Made in Japan” が時代おくれの方向に押しやらているその時に、ここ15年ほどに渡り“Made in Germany”ブランドがすくすくと成長してきているのは何故であろうか?
 競争の激しい世界市場にあって、高い賃金、ユーロの過大評価および近隣諸国の財政危機にもかかわらずドイツは繁栄してきている。その秘訣は、日本株式会社でさえ思いつかないような方法での順応と革新ある。
 SLJ Marco Partners (1*) のMr. Stephen Jen, Managing Directorは述べている。即ち、ドイツの経営者は、為替相場について不平を言わなかった。彼らは、それを描き出して再構成した。事実世界経済の混沌がこの為替変動を導いているように見えた。ドイツはこの変動と向き合わず、共に歩んできた、と。
 安倍首相によるこの突然の解散総選挙は、最近の経済の低迷から日本を奇跡的に目覚めさせることにはならず、ドイツ経済がかって経験した同じ課題を学ばねばならなくなるであろう。即ち、上記に掲げた三点である。
 
1. 革新がすべてである。”Innovation is everything.”
 GDP (US$ 3.6兆)と人口(8千万人)で調整すれば、ドイツは今でも世界一の輸出国である。もっとも絶対額では、ドイツは中国と米国の後に続いているが、自動車、機械、電気、薬品、光学製品、プラスチック等の分野おいては、独自性を保持している。この成功は、企画/構想力の調和、生産性向上への注力、さらに調査/研究と開発における積極的投資や、旧来のリスク覚悟の投資を呼び込んでいる。ドイツは相対的優位性を引き出すために、競争力の向上と雇用の極大化の間に生じる緊張をうまくバランスさせてきている。
 他方、日本の製品は、世界的デフレの中にあって、価格面で弾力性に乏しい傾向にある。
 また日本の経営者は、既存の商品や生産工程の追加的な改良を好む、inter-net 時代になって趣向の変わっている消費者に対しても。
 Mr. S. Jen と同社所属の経済学者Ms. Joana Freire は論じている、即ち、問題は日本株式会社 (“ Japan Inc.”) は心理的に“バンド戦術”に陥っている。野球用語を使って言えば、ゴールはホームラン目当てで強振するのではなくて、ただ塁に出ることである。アベノミクスはブレークスルーを狙ってマクロ(デフレ予測)とミクロ(構造的硬直性)という障害の取り除く手助けは出来ようが、それ以外に何かが必要であると。
 日本は再度、もっと野心的に考えることを学ばねばならない。

 小さいことは、大きいこと。ここ二年の「円」の30%の下落は、ソニー、トヨタ、海運大手の商船三井そして建設機械の大手コマツ等の円高による切迫性を緩和してきている。
 代りにロボット企業のファナック、スマホアプリ開発のコロブラ、オートメーション装置のキーエンス、バイオ創薬のぺプチドリーム(2*) 等 -これらの企業は日本の“ミッテルスタンド”(3*)を構成しているーの企業に国は何らかの助成をすべきであろう。
 小及中規模中堅企業はヨーロッパの大きな経済のバックボーンを形成している。ドイツ政府は、機械装置の時代にあって、すべての仕事の芽はより小さい企業から出てくると理解している。これら企業は、ほとんどは家族所有で、長い目で考える。そして、価格よりも品質と創意において秀でており、バランスシートは健全で、強力な政府の支援に浴している。日本もまた、従業員300人以下の新しい企業の後押しをする必要がある。実際にこれらの企業は、革新し、人々を雇い入れ、見方/考え方を変えている。

2. 近隣を重視すべき。”Think Regionally”
 ダイムラー(Daimler)(4*) は言っている。ドイツはアメリカと中国と多く取引している。そして来年には、メルセデス・ブランドにとってこの二国は最大のマーケットとなるであろう、と。
 しかし、Mr. S. Jen と Ms. J Freireは、種々データが以下のことを暗示していると述べている。即ち、輸出における”global super-power” としてのドイツの出現は、日本が頼っている世界化/国際化(”globalization”)よりもより地域化(“regionalization”)、また障害のないEU諸国への接近に負うところが大きかった、と。
 米国やその他の国々とのTPP(Trans-Pacific Partnership)成立は日本のもっとも硬直化した産業部門の解放の助力となるであろうとの算段のもとで交渉に臨んでいる一方で、安倍首相は、アジア諸国との関係修復に注力して、中国も含めたこれらの国々と二国間自由貿易協定を結ぶべきである。

3. 移民受け入れと熟練退職者及び女性への権限付与:
 安倍首相はまた商品同様に国民に対しても扉を開くべきである。ドイツの人口構成は日本よりも健全である。しかし、65歳以上の人口が21%を占めている現実より(日本は26%である)ドイツは素早く行動している。さらなる移民受け入れ歓迎の政策と共に、技能熟練した退職者に対して労働力として復帰するよう説得してきており、また女性に対しても権限を与えてきている。
 日本はこれら3項目すべてにおいてドイツの先例に習うべきである。

 ドイツは、確かに問題も抱えている。6.7% の失業率とユーロ通貨危機等。そしてトルコやその他の国からの移民の流入にたいして、国民には不満も生じている。しかしドイツは、日本がいかにもっと活気ある未来を作り出すことができるか、の事例をを示している。(訳:芋森)

(1*) London拠点のHedge Fund
Mr. S. Jen はone of the world’s best known exchange strategist の評価あり。
(2*) 東京大学発のバイオベンチャーでペプチド治療薬の発見と開発を目指す。
(3*) ミッテルスタンド” Mittelstand” : ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)における用語でsmall & medium-sized enterprisesを意味し high employment and productivity を誇っている。
(4*) Daimler AG : ドイツの自動車メーカーで、乗用車はメルセデス・ベンツ、スマート等のブランド販売されている。またトラックでは世界最大手である。 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【投稿】14衆院解散・総選挙をめぐって 統一戦線論(11) 

【投稿】14衆院解散・総選挙をめぐって 統一戦線論(11) 

<<これで「自民圧勝」と言えるか>>
 今回の選挙結果を大手新聞各紙はすべて「自民圧勝」と報道している。果たしてそうであろうか?現実を冷静に見れば、安倍政権にとっては「圧勝」とは程遠い苦々しい現実が横たわっている。
 直前までの各紙世論調査も「自民単独で300台超え」「単独三分の二確保か」などと報道、持ち上げていたが、実際の選挙結果は、自民党の議席は295→291、公明党は31→35、で自民は議席を減らし、公明がその分を埋め、結果として自公与党の議席数は変わらず、民主党は62→73、と意外に善戦、維新の党は42→41、と微減、社民党は現有2議席を死守、共産党は改選前の3倍弱となる21議席を獲得、公明党に代わって自民との連立を目論んでいた次世代の党は19→2に激減、同じく与党入りを狙っていたみんなの党は選挙前に解党という事態であった。「安倍の、安倍による、安倍のため」の、まったくの「自己都合」解散・総選挙であったにもかかわらず、明らかにその目論見は外れてしまったのである。
 これによって、安倍首相執念の九条改憲をめざす自民党と次世代の党を合わせた議席は、単独三分の二確保どころか、解散前の、衆院での改憲発議に必要な定数の三分の二に迫る314から292に逆に減らす結果をもたらした。総じて維新の党も含めた、九条改憲をめざす勢力は明らかに後退したのである。たとえ九条改憲に消極的な公明を説得し、民主党の一部やその他の野党を引きずり込んで、衆議院で3分の2以上の賛成を確保したとしても、憲法改正の発議には、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要であり、参議院はいまだ約30議席足りない。安倍首相の執念達成にはまだまだ道遠しなのである。

<<「憲法改正は遠のいた」>>
 投開票日翌日の産経新聞12/15付「衆院選 首相が本気の民主潰し、『大物』狙い撃ちを徹底」と題した記事は、安倍首相にとってのこうした苦々しい現実を次のように報じている。(以下、引用)

 衆院選は自民党が勝利を収めたが、安倍には忸怩(じくじ)たる思いが残る。
安倍が年末の電撃解散で狙ったのは、自民党を勝たせるのはもちろんだが、むしろ自民党を含めた改憲勢力を増やし、護憲勢力を退潮させることに重きを置いていたからだ。
 見据えているのは平成28年夏の参院選だ。参院で自民党単独で3分の2超となるには、改選121議席中97議席以上獲得せねばならず、ほぼ不可能といえる。それならば維新の党や次世代の党など第三極にもっと実力を付けてもらい、参院での「改憲勢力3分の2超」を狙うしかない-。安倍はこう考えていたのだ。
 だが、みんなの党は選挙前に解党してしまい、維新や次世代などはいずれも苦戦が伝えられた。逆に民主党は議席を増やし、共産党は議席倍増の勢い。安倍は周囲にこう漏らした。
 「なぜ維新と次世代は分裂してしまったんだ。多少不満があっても党を割ったらおしまいだろ。平沼赳夫(次世代の党党首)さんは郵政解散での失敗をまた繰り返してしまったな…」
 「憲法改正はわが党の悲願だが、国民投票があり、その前に衆参で3分の2という勢力を作り上げねばならない。大変高いハードルでまだそこには至っていない。国民の理解が深まるように憲法改正の必要性を訴えていきたい」
 衆院選は自公で3分の2超の議席を得たが、憲法改正は遠のいた。任期4年で改憲勢力をどう立て直すのか。勝利とは裏腹に安倍の表情は終始険しかった。(引用、終わり)

 このような現実は、改憲や原発再稼働を煽り続けてきた読売や産経にとっても由々しき事態であろう。
 その原発再稼働をめぐっても、今回の選挙結果によって、慎重・反対を唱える野党の勢力は解散前の119議席から139議席に増えたのである。これも安倍政権にとっては由々しき事態であろう。

<<「よく言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応」>>
 議席数以上に深刻なのは、投票数の実態である。
 投票率は52.66%、戦後の最低記録を大きく更新し歴史的低投票率を記録した。総有権者数は1億396万2784人で、投票者は5474万3186人、自民得票は小選挙区で2543万1323票、比例区で1695万6321票であった。
 比例代表で見ると、自民は昨年の参院選と比べ90万票減、公明は29万票減、自民・公明で119万票の減である。これに対し、民主262万票増、共産88万票増。得票率も自民が1.57ポイント減、公明が0.51ポイント減である。小選挙区で見ても、有効投票総数は5293万票で、自民は2552万票、前回衆院選より12万票減である。全有権者比の絶対対得票率でみれば、自民は比例代表で16.99%、小選挙区で24.49%しか支持されていない。有効投票の半分以下、全有権者のわずか4分の1の支持でしかない。これをどうして「圧勝」などと表現できるのであろうか。政治不信から棄権票が増大したにもかかわらず、投票権を行使した有権者は明らかに、自公の独走に一定の、無視し得ない歯止めをかけた、と言えよう。
 自民党前幹事長の石破茂氏は、12/19付のブログで「それにしても、全国を廻ってみて今回の選挙ほど、有権者のよく言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応を感じたことはありませんでした。街角で、あるいは対向車から手を振って下さる方は前回の四分の一ぐらいしかおられなかったように思います。政権交代の高揚感に欠けたとはいえ、獲得議席数と有権者の心理に乖離があるとすればこれは由々しき事態なのであり、我々はその間隙を埋める努力をしなくてはなりません。」と書かざるを得ない事態である。
 「獲得議席数と有権者の心理」とは、言い換えれば得票数の割に自公で3分の2超の議席を獲得できたことを示しており、それは得票率に比べて議席獲得率が高くなる小選挙区制のおかげであり、自公協力が何よりも大きく貢献したのである。

<<「この政権の傲岸な姿勢」>>
 しかしこの自公協力は、1月の名護市長選、11月の沖縄県知事選で大きく破綻し、沖縄選挙区では4小選挙区すべてで自民党候補が大敗、敗退した。選挙期間中、安倍首相は一度も沖縄選挙区を訪れることができなかった。にもかかわらず、沖縄小選挙区の自民候補は全員が復活当選した。沖縄小選挙区の自民候補は全員が比例九州ブロック1位に位置づけられたからである。この九州比例区では8人当選しているが、そのうち4人、半分が沖縄の候補であった。彼らは沖縄の民意によってではなく、本土側の、安倍政権の差し金によって復活当選したのである。安倍政権の陰湿な策謀が透けて見える典型例とも言えよう。
 12/16付琉球新報社説は「『オール沖縄』全勝 犠牲強要を拒む意思表示」と題して、安倍政権を手厳しく論断している。(以下、引用)

 歴史的局面と言っていい。名護市長選、知事選と考え合わせると、保革の隔たりを超え、沖縄は一体で犠牲の強要をはねのけると意思表示したのだ。もう本土の犠牲になるだけの存在ではないと初めて宣言したのである。
 それなのに、この政権の傲岸(ごうがん)な姿勢はどう評すべきだろう。
 安倍晋三首相は開票当日、「説明をしっかりしながら進めていきたい」と、なお新基地建設を強行する考えを示した。翌日には菅義偉官房長官も、沖縄の自民党候補全敗について「真摯(しんし)に受け止めるが、法令に基づき(移設を)淡々と進めていきたい」と述べた。
まるで沖縄には彼らが相手にする民意など存在しないかのようだ。
 今回の選挙で奇異なのは小選挙区で落選した議員が全員、比例で救済され、復活当選したことだ。有権者の審判と逆の結果が生じたという意味で、現行選挙制度の問題が極端な形で表れたといえる。
 復活当選した自民党議員たちは今後選択を迫られる。比例区当選者として政府の代弁者となるか、沖縄の民意を体現するかだ。言い換えれば、日本への過剰同化を進めて「植民地エリート」となるか、誇りある立場で沖縄の自己決定権獲得に貢献するか、である。(引用、終わり)

<<「自共対決」の現実>>
 沖縄の選挙結果で際立つのは、当選したのは1区共産党、2区社民党、3区生活の党、4区元自民党という、それぞれの党派の候補者であるにもかかわらず、沖縄県知事選で構築された「オール沖縄」という、沖縄が直面する最も重要な課題において共に戦う統一戦線が継続、維持されたことである。その統一戦線が、それぞれ各個の政党政派にかかわりなく、小選挙区で互いに協力・連携・共闘すれば勝利できることを明確に実際に体現し、有権者がそれを強く支持したことである。1区では「共産党政権を阻止せよ!」「中国に沖縄を売り渡すな!」などと反共キャンペーンがしつこく展開されたが、それでも自民支持層の17%が共産党の赤嶺候補に投票している。2区、3区、4区においてもそれぞれの党派だけでは過半数を制することはできなくても、統一戦線こそが勝利をもたらしたのである。
 省みて本土側では、反自民の野党共闘は無きに等しく、中途半端で、対決政策のすり合わせさえできない、そもそも共闘する意思さえもたず、各党派エゴ、セクト主義が優位を占めて、安倍政権を大いに助けたといえよう。
 共産党は大きく前進したが、沖縄方式は本土側では一箇所もなく、「自共対決」の名のもとに全小選挙区に候補者を立てた。文字通り、「自共対決」となった選挙区が今回は25カ所にも増えたが(前回12年は4カ所)、共闘や、統一戦線、連携は一切なかったし、1議席も獲得できなかった。小選挙区で共産党が議席を獲得できたのは、沖縄1区のみなのである。これでは「自共対決」などととても言えたものではない。それでも野党共闘の乱れや失敗によって、共産党が安倍政権批判票の一定の受け皿となり、「自共対決」区では10%台後半から30%台の得票を獲得し、共産党に大きな前進をもたらしたが、そこまでである。大阪3区、大阪5区、兵庫8区では共産党と公明党の一騎打ちとなったが、相手は自公連合であり、議席の獲得は不可能であった。
 今回の解散・総選挙は、この選挙結果によってさらに暴走しかねない安倍政権を阻止する統一戦線形成に大きな課題と問題点を提起したと言えよう。(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【コラム】ひとりごと —総選挙後の雑感— 

【コラム】 ひとりごと —総選挙後の雑感— 

 今回の総選挙では「関心がわかない」と思っていたが結局、その心境は変わらず。でも期日前に投票には行った。ところが関心がわかないのは自分だけでなく、戦後最低の投票率、自分だけではなかった。総選挙結果はご存知のとおり与党の圧勝。投票率が低くても獲得投票率が一位のみが当選する小選挙区制のマジック。従って、与党の圧倒的議席獲得数と全有権者数から見た与党支持率とには相当のギャップがあることを表面化していない事実として認識はしておいた方がよい。
 それにしても2/3を上回る与党議席数は脅威だ。これまでも右振れできるだけ右振れした安陪内閣、今後の政権運営では、特に憲法改悪は公明党が慎重なので直ちにとは行かないにしても、相当に至近距離に近づいたことは確か。それに敢えて争点隠しされた集団自衛権に関る関連法案の改悪・特定秘密保護法の具体運用等をはじめとした反動的諸問題も白紙委任的に強引に推し進めてくる可能性がある。
 またアベノミックスの成否が、安陪政権の行末の重要ポイントとなると思うが、私は、アベノミクスの「三本の矢」の中でも第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」の内の内需(個人消費)拡大だと思っている。従って安陪内閣は経団連に対し、賃上げ等を要請し、経団連も一定、これに応えている。しかし折角の賃上げも中小企業に至るまでの波及効果は乏しく、国民的内需(個人消費)拡大には及ばない。そもそも、かつての国民春闘時代に労働側は「鉄鋼」を長年、第一次相場形成に設定していたが、「鉄鋼」構造不況の中で、「金属」「私鉄」等を第一次相場形成のバッターに工夫してみるも、結局は効果は上がらず、「産別自決」の名の下に春闘賃上げパターンが崩壊していった経過がある。つまり言いたいことは、安陪政権が言おうと労働側の賃上げ要求であろうと、賃金引上げの社会的波及効果は喪失しているということである。そこに加えて労働者派遣法改悪の目論み等、国民的内需(個人消費)拡大に相反する格差拡大策。これだけでもアベノミクス破綻―国民的納得感は得られず、失速の可能性はある。
 ただリベラル改革派としては、先述の「与党の圧倒的議席獲得数と全有権者数から見た与党支持率とには相当のギャップがある」ことに着目し、別稿「労働者派遣法」関連で既述したように、選挙投票行為に頼らず、署名・デモ・国会包囲行動等の「行動化」を提起し実践することだろう。
 なお因みにリベラル改革派の私としては、その避難所として共産党に投票した。
(民守 正義) 

【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【投稿】政権延命目論む解散総選挙

【投稿】政権延命目論む解散総選挙

<正当性無き粉飾解散>
 安倍総理は消費税の10%への引き上げを延期したうえ、12月14日に総選挙を強行しようとしている。これは内政外交の失政を糊塗し、政権の延命のみを目論む政治的策謀にほかならない。
 総選挙では、消費税増税延期について信を問うとしているが、市民はもとより野党も与党もほとんどが延期賛成であり、争点にはなりえない。
 安倍総理としては「増税派」の徹底抗戦で「抵抗勢力」を作り上げ、「小泉劇場」の再演を目論んでいるのかも知れない。
 現下の状況では再増税こそ信を問わねばならない判断であるのに、増税延期をさも自分の手柄の様に吹聴するのは滑稽でさえある。
 安倍政権はこの間様々な問題で、行き詰まりの兆候を見せていた。
 内政面では、改造内閣発足早々、小渕経済産業大臣、松島法務大臣が不透明な政治資金管理と有権者への寄付疑惑によって辞任に追い込まれた。
 さらに江渡防衛相、宮沢経産相にも政治資金に係わるさまざまな問題が浮上しており、第2次安倍内閣はまさに「地雷内閣」の様相を呈していた。
 野党の追及が厳しさを増すなか、アベノミクスの綻びは露わになり、経済環境は悪化の一途をたどっていた。
 この難問を前に安倍総理は、消費増税延期を匂わす動きを見せていたが、それを阻止せんとした日銀の量的緩和の再拡大という奇策による円安、株高を好機とし、いわば逆手にとる形で一気に解散・総選挙に突き進みだしたのである。
 予期せぬ事態に黒田総裁は「今回の金融緩和は予定通りの消費増税が前提」と慌てたが、菅官房長官は「増税は政権がきめること」とけんもほろろの対応である。
 部下が「万歳突撃」を敢行したのに指揮官は動かなかったのである。これは安倍総理の裏切り行為であり、黒田総裁は本来なら抗議の意を込め辞任してしかるべきであろう。
 アクセルを踏んだ車のブレーキを取り外したに等しい日銀、安倍政権の一連のちぐはぐな動きは、経済的整合性を無視し、制御不能な円安から市民生活破壊、財政破綻に落ち込む危険性を一層増大させた暴挙であろう。
 他の目玉政策での失敗も大きいものがある。北朝鮮による拉致問題は、完全に頓挫した。10月27日政府は拉致問題に関する、北朝鮮の調査の進捗状況を確認するため、調査団を平壌に派遣した。
 調査団は特別調査会の徐大河委員長らと会談したが、「日本側は拉致被害者の安否が最重要問題と考えている」と伝えるのが精いっぱいで、北朝鮮側からの具体的な回答は引き出せなかった。「夏の終わりから秋の初めに第1次回答を行う」という5月の日朝間ストックホルム合意は、完全に反故にされた。
 拉致被害者家族はもちろん政府・与党内からも「何をしにいったのか」との声が出されるほどの散々たる事態である。
 
<外遊は海外逃避か>
 様々な手詰まりから逃げるように、APEC首脳会議など11月9日から17日に渡る長期の外遊に出発した安倍総理であるが、これまでの外遊と同様、成果は残せなかった。
 10日には北京で2年半ぶりの「日中首脳会談」が開かれたが、事前に日中間で合意文書が作成されるという異例の展開を見せた。
 中国は首脳会談開催にあたって、「靖国不参拝の確約」と「尖閣諸島を巡る領有権問題の存在確認」を条件としていた。
 合意文書では「歴史を直視し・・・両国関係の政治的困難を克服」「尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」という表現で、中国の主張を安倍政権が受け入れることとなった。
 「前提条件なしの首脳会談」という前提条件は崩れ、安倍総理は習近平主席に会うこととなった。
 しかしわずか25分の「会談」は終始ぎこちない雰囲気で進み、内容の無いものとなった。中国にすれば合意文書ができた以上、会談などさほど重要ではないということだろう。
 合意文書発表直後から、安倍政権を支持してきた有象無象から「中国に屈した」という批判が巻き起こり、会談後も「笑顔、国旗のない中国の対応は無礼」という声が上がっている。
 慌てた政府は岸田外相が「文書に法的拘束力はない」「日中間に領土問題はない」などと火消しに躍起となっているが、後の祭りというものであろう。
 今回の会談は中国に屈したというよりはアメリカと経済界の圧力に屈したというべきものであろうが、安倍総理にとっては屈辱であったに違いない。
 一方、日中に先立って行われた日露首脳会談は笑顔に満ちたものであったが、内容はプーチン大統領の年内訪日中止の確認という、侘しいものであった。
 北京を後にした安倍総理はASEAN関連首脳会議に出席するため、12日ミャンマーを訪問した。
 ASEAN首脳との会議では、北京での握手を忘れたかのように「『海における法の支配の三原則』にのっとった行動を期待しており、本件が地域共通の課題であることを明確にすることが重要」と中国をけん制した。
 しかし議長声明等では、南シナ海問題に於ける中国包囲網は形成されず、逆に経済援助を拡大させる中国の存在が大きく印象づけられる結果となった。
 同地での首脳外交でもオバマ大統領が、アウンサン・スーチー氏と会見し、ミヤンマーの一層の民主化を促す等、存在感をアピールしたのに比べ、安倍総理はセイン同国大統領との会談で、国交樹立60周年記念銀貨を渡すという儀礼的な外交に終始した。
 15日からのG20首脳会議のため、訪れたオーストラリアで安倍総理はアベノミクスの成果を強調した。
 しかしこの場でも来年のG20議長国に初めて中国がつくことが明らかになった他、BRICS首脳会議が開かれ新たな開発銀行の設立加速がアピールされるなど、外遊全体にわたり習主席の後塵を拝する形となった。

<中国敵視は不変>
 安倍総理は「日中首脳会談」をもって政権の平和姿勢をアピールしているが、ASEANで見せたように、中国に対する敵視、警戒を解いていない。
 安倍総理留守中の日本では、中国を「仮想敵」とした大規模な軍事演習が行われた。
 安倍総理出発前日の11月8日からは「島嶼部に大規模な侵攻が発生」=「南西諸島に中国軍が上陸」したことを想定した日米合同軍事演習「キーンソード2015」開始された。
 これは日本海から東シナ海までの広大な区域で、陸海空自衛隊約3万人、アメリカ軍約1万人が参加する、海上、航空作戦を軸とした演習であり今年で12回目となる。
 また、陸上自衛隊は「キーンソード」の陸上作戦パート、さらに各自衛隊の「協同転地演習」の九州・沖縄方面作戦として、10月27日から11月26日まで「鎮西26」演習を展開している。
 これは、民間船を「徴用」しての北海道、東北から九州、奄美への部隊移動、兵站訓練のほか、上陸作戦、さらに捕虜移送訓練など、より中国を意識した実戦的色彩の強いものとなった。
 以前から計画されていたものとはいえ、首脳会談が実現するか否かの微妙な時期に、あからさまな挑発を行うようでは、習主席に笑顔を求めても無理であろう。
 自民党政権は1998年、江沢民主席の訪日直前にも、3自衛隊による硫黄島での大規模な上陸演習を実施し、中国を刺激した「前科」がある。

<沖縄から総選挙へ>
 オバマ政権は「キーンソード」に、空母「ジョージ・ワシントン」やF22戦闘機を参加させているが、中国とのバランスに腐心している。
 APEC終了後2日間に及んだ米中首脳会談でオバマ大統領は、香港のデモなど人権問題や南シナ海問題で釘を刺したものの、経済、環境など様々な分野での協力に合意した。
 この姿勢と軌を一にしてオバマ政権は軍部への牽制を強めている。
 今年初めに「中国軍は自衛隊を短期的、激烈な戦闘で撃破し、尖閣諸島や琉球列島南部を占領する新たな任務を与えられた」と発言した太平洋艦隊のファンネル情報部長(大佐)が、APEC開催に合わせるかのように更迭された。
 また、「日本の集団的自衛権を歓迎」し「アメリカには台湾を防衛する義務がある」と発言している、グリナート米海軍作戦部長(大将)は「沖縄に新型無人偵察機を配備する」と、11月4日に表明したが、1週間後に否定された。
 新な日米防衛協力の指針(新ガイドライン)に関し、年内に予定していた最終報告を先送りするための協議を開始したことを明らかにした。
 これは政府与党内で公明党との調整が難航しているためと言われているが、自衛隊が巡航ミサイルなどの敵基地(策源地)攻撃能力を保有することに、アメリカが難色を示していることと関係があるだろう。
 アメリカが、無人偵察機配備を否定したことや、「キーンソード」の実動演習区域から沖縄近海を除外したことは、中国に対する配慮とともに沖縄知事選を考慮しての措置だったと考えられる。
 しかしながら、11月16日の沖縄知事選挙では、辺野古移転反対を訴える翁長候補が当選した。妨害工作ともいえる喜納、下地両氏の立候補をはねのけての勝利である。
 仲井間知事は「普天間基地の5年以内(2019年2月まで)の運用停止」を起死回生の訴えとしたが、アメリカばかりでなく安倍政権も実現に向けての真摯な動きを見せなかった。仲井間氏は梯子を外されたに等しい。
 「知事選敗北は織り込み済み」と言わんばかりに選挙翌日安倍総理は素知らぬ顔で帰国した。
 予定される総選挙での「勝利」を持って、内政外交の行き詰まりをリセットし、新たな市民生活負担増と東アジアでの緊張激化への「承認」を得ようとする、安倍政権の目論見を、沖縄の勝利を梃に阻止しなければならない。(大阪O)

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【投稿】日本の全ての富を米金融資本に貢ぐ 世紀の国家詐欺「ハロウィ-ン追加緩和」 

【投稿】日本の全ての富を米金融資本に貢ぐ 世紀の国家詐欺「ハロウィ-ン追加緩和」 
                           福井 杉本達也

1 強引な黒田日銀の「ハロウィ-ン追加緩和」と年金資金による株買い
 10月31日、黒田日銀は突然の追加緩和を発表した。金融政策の目標としている資金供給量をこれまでの年60兆~70兆円から年80兆円へ増やす。長期国債の買い入れ額も年50兆円から80兆円へ大幅増。買い入れ国債の平均残存期間も7年から7~10年程度に延ばしてできるだけ先の長い期間の金利を下げる。加えて日本株と連動する上場投資信託〈ETF)や不動産投資信託(REIT)の購入も3倍増。GDP(国内総生産)に占める資金供給量や国債買い入れ高などは異次元緩和(QE3)の米国を大きく上回る。
 日銀の追加緩和と同時にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の新しい基本ポートフォリオも発表されて、市場が湧いた。今後、国内株式だけで10兆円以上を買い増しすると予想される。GPIFは約130兆円を運用する世界最大級の機関投資家である。運用しているのは、厚生年金、国民年金の積立金である。基本ポートフォリオでは全額債券並みのリスクで、「名目賃金上昇率+1.7%」とうたうが、そのような好都合で高い利回りが可能なのか。しかも、「想定運用期間」を25年として。しかし、変化の激しい時代、想定できるのは5年ではないか。山崎元氏は「「株式50%」新運用計画は素人でも許されない無責任な代物で、年間22兆5千億円の損失があり得る」と指摘する(「現代ビジネス」2014.11.13)。

2 日米の金利差拡大により資金を強制的に米国へ
 米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和(QE3)を10月末で止めたにもかかわらず、日銀が今回の追加緩和により、ゼロ金利政策をさらに続けるということは、当然日米の金利差が拡大することとなる。資金は金利の低い方から高い方に流れる。金利の低い円が売られドルが買われるので、為替レートは円安に傾く。「アベノミクス」の解説では「円安による輸出競争力の強化」と「物価目標2%の達成によるデフレからの脱却=景気回復」であるが、どちらも大嘘である。輸出が増えるはずの2013年度の経常収支はわずか8000億円に過ぎなかった。14年第1四半期は1兆4000億円の赤字になっている。円安にもかかわらず輸出が伸びず、しかも景気が低迷しているのに輸入が急増していることによる。海外工場移転先からの製品輸入や円安で原油・LNG価格などが高騰したことも大きい。燃料価格は1年半で20%も上昇している。輸入物価の上昇により中小企業と消費者は打撃を受け。当然ながら景気は冷え込んだままである。10月31日・日銀自身が成長率を0.6%へと下方修正せざるを得なくなった。
 円安誘導の真の狙いは、日本の資金を米国に持っていくことにある。資金が集まらなくなった米国をファイナンスすることにある。

3 中国を中心とするBRICS諸国の台頭により、資金が米国から新興国へ
 米国に資金が集まらなくなっているのは、特にBRICS開発銀行合意とアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の影響が大きい。BRICS銀行はIMFに対抗するものであり、AIIBはアジア開発銀行への対抗手段となる(FT:2014.10.31社説:日経)。中国はこれまで、米国への輸出で稼いだ金を米国債の購入に充て、米国の財政をファイナンスしてきた。2014年8月現在の中国の米国債保有残高は1兆2697億ドルであり、世界一ではあるが、ここ1・2年ほとんど変化していない。一方日本は1兆2301億ドルであり、貿易赤字の続くこの1年間にも800億ドル上乗せし、中国を再逆転しそうな雰囲気である。
 中国は貿易黒字で貯めた金を、米国に還流させることをやめ、新興国へのファイナンスに使い始めたのである。
 11月10日には中国とロシアは人民元決済による取引の拡大を発表したが、中国はその他カナダ・スイスとの通貨交換協定を、人民元建てのイギリス国債発行を、仏・独でも人民元決済サービスの提供を始めている。
 これまでは、中国を始めとする新興国の資金は、一旦、ニューヨークに集められ、米国の資金として米国の刻印を押されて他の発展途上国に貸し付けられていた。ところが、今後は米国をスル―して直接BRICS銀行などから発展途上国へ、または基軸通貨であるドルを使わず人民元決済が行われることとなる。こうした流れの中、6月・米ハゲタカ・ファンドから2001年デフォルト時の債務不履行を訴えられ、連邦地裁の支払い命令を受けたアルゼンチンは再デフォルト不可避と思われたが、ハゲタカの不当な要求を拒み対決している。
 この状況は基軸通貨ドル体制の崩壊であり、米国の崩壊へと通ずる道である。米国産のシェールオイルの原油やシェールガスのLNG化による輸出が盛んに叫ばれるようになっているが、ドルが米国に集まって来るなら、これまで通り国内資源保護政策として、豊富なドルで原油やガスを買えばよい。資金が集まらなくなっている(ドル暴落が時間の問題)から原油・ガスの輸出が叫ばれているのである。米国はウクライナ紛争によるロシアへの牽制、「イスラム国」騒動によるロシア・中国への牽制、香港『雨傘革命』による中国への牽制など、様々な手段によりBRICSが連携することを阻止しようとしてきたが、どれもうまくは行っていない。直近では、サウジを動かして原油安を仕掛けている。これは資源輸出に多くを依存するロシアの財政に打撃を与えるためである。「世界経済に与える影響、石油市場や地政学上の競争相手に与える打撃、そして安全保障の鍵を握る米国との関係。これらの戦略的判断がサウジの一手を決める」(小山堅日本エネルギー経済研究所:日経:2014.11.11)。原油価格は市場の需給関係で決まるというのは大嘘である。昔も今も政治商品である。
 こうした中、中国をどう取り込むか又は対決するかで米金融資本内においても意見の食い違いが大きくなっている。去る11月1・2日と箱根で開催された富士山会合(日本経済研究センターと日本国際問題研究所主催)ではデニス・ブレア元米国家情報長官は「中国主導で設立をめざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても『反対すべきではない。不安があるなら中から変えるべきだ』」と発言、一方、米軍産複合体を代表するマシュー・グッドマン米戦略国際問題研究所(CSIS)政治経済部長や西室泰三東芝相談役らは参加に否定的見解を示している(日経:2014.11.12)。

4 米QE3を引き継いだ日銀「ハロウィ-ン緩和」は無限の米国への資金の垂れ流し
 中国やBRICSからの資金還流が少なくなるならば、『同盟国』日本から徹底的に収奪する以外に方法はない。日本の国富(年金資金や郵貯)をできるだけ多く合法的に収奪することが米金融資本の狙いである。日銀に追加緩和させ、年間80兆円のカネで日銀は今後、長期国債もどんどん買い増すとしており、長期国債も現物が市場から払底しマイナス金利に近づいている。日銀の資産は傷み、国債市場は機能不全に陥ってしまう。民間が最も安全な国債を買えないようにし、トコロテン式に資金を米国債に振り向けざるを得ないようにしている。為替ヘッジがなく、円高に振れたならば為替損が発生してしまう。また、ETF を3倍の3兆円、REITも3倍の900億円増して、株価も、不動産価格も釣り上げようというのである。株が高騰し、つられて、個人投資家が日本株を買い始め、130兆円の年金積立金を運用して、さらに株高を演出し、バブルが起こしたところで、外資は大量の空売りを仕掛ける。 政府や黒田日銀はこのような 外資のシナリオを先刻承知の上で、米金融資本の代理人として、究極の国家詐欺=売国政策を行いつつある。
 量的緩和とは「バブルで空いた穴をバブルで埋める」ことである。しかし、危険なゲームは長続きしない。既に「自動車版サブプライムローン」の危険性もささやかれている(日経:2014.9.3)。金融緩和の「出口」が模索され、金融がおかしくなる前にマネーの蛇口を締める。FRBは緩和マネーを2014年1月から減らし、10月末に量的緩和を終了した。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和も始まる。米国が蟻地獄から抜けるのは黒田日銀の「ハロウィ-ン緩和」という“後釜”ができたからである。日本と欧州が緩和マネーをどんどん吐き出せば、米国の株式市場は暴落を避けることができる。しかし、その分、日本はバブルが弾けるときにはとてつもない打撃を受けることになろう。その時、日本の全勤労者が長年ため続けた、公的年金資金もろとも沈没するだろう。
 出口の全く見えない日銀の追加緩和を、米ヘッジファンドのゴールドマン・サックスは、旧日本軍の最後の玉砕突撃に重ねて「バンザイノミクス」と評している。 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【翻訳】 朝日をめぐるもめごとへの誇張は日本を辱しめる

【翻訳】 朝日をめぐるもめごとへの誇張は日本を辱しめる
          Hyperbole over Asahi affair shames Japan :
          [ 朝日をめぐるもめごとへの誇張は日本を辱しめる]
           by Mr. Jeff Kingston, Temple University Japan,
              Director of Asian Studies
               (Japan Times 記事 on Sept. 28, 2014)

Journalistic wrong-doing in several articles として
1. 任天堂社長とinterviewしたとの記事
2. 福島原発事故での吉田所長の作業員への指示
3. 慰安婦記事
4. Regular columnist池上彰氏の掲載一時停止

 朝日新聞(以下「朝日」)の編集者たちは倫理上の責任と信頼回復に信じられないくらい愚鈍さを示した。
 The right-wing mediaは朝日を叩いた。
 保守政治家、反動主義者、権力者、堕落した人々 – ずっと”Liberal”な朝日の的を得た正確な記事に苦しんできた – は喜んだ。ごく自然に”Team Abe is manipulating the Asahi affair for political advantages”. このことは “more about politics than journalism, part of large culture war.. 朝日は、ずっとこれら保守反動層に対して”the right(正しい)main media” だった。
 慰安婦については、朝日は吉田精二氏の証言を信頼していたが、この証言が事実でなかったとしても、慰安婦問題は消すことができない。証拠は他にたくさんある(例えば”AWF digital Library [ 国会図書館監修] にても見られる。)。反動主義者は、朝日の失態を利用して慰安婦問題がなかったこと(“to wipe the slate clean”)にしたいと欲している。このような言い逃れ(“quibble”) はかえって日本の威厳を損なっている。 安倍歴史白紙化内閣 (“Abe’s history-whitewashing Cabinet”) には15名の日本会議(a reactionary political group)会員が入っている。
 ドイツはその恥ずべき歴史(“vile history”)を正視し向き合ってきて、威信を取り戻してきている。他方、日本は未だ戦時の物語の正当性を立証することに執着している。このことは、日本の名声 (“Japan’s brand”)を汚すと共に和解を妨げている。
 もう一つの悪評は、3/11の福島原発事故での吉田昌郎所長の証言に関するものである。
 サンケイ新聞は、朝日は吉田所長の証言(作業員の退去についての)を歪めているとして非難した。しかし両紙は自紙の指針を彼の言葉に読み込んだだけのものと思われる。
 吉田所長は言った。「10Km離れた第二原発に危険を察知して逃れた作業員達は、所長の当初の指令を無視して、より安全なところ(第二原発)に避難したのは、正しかった。」
 それ故に、彼は、朝日が暗示したような、作業員達は意図的に彼の指令をうけいれなかった、とは感じなかった。しかしハッキリしていることは、作業員達は彼の指令に従わなかった。恐らく作業員達は大混乱の中で、実際にその指示を聞かなかったかまたは理解しなかった。彼はまた不平を言っている。東電本社が避難退去に関するかれの意見を誤解した上に、現場実情を官邸にはっきりと伝えなかったと。
核の安全について、所長は、押し寄せる災難に対処することにかかりっきりで、危機の中で、結果として、指示は歪曲されて (“garble”) 伝えられたことは明白である。
以下の事は、未だはっきりしていず確定されていない、即ち、 [所長の指示が必ずしも効果的に伝えられなかったし理解されなかった。また、正しく使命を果たすべき作業員達は、危機の中にあって、緊急に必要とされていたとしても、間に合わず用をなさなかった。]
 心配なことに、吉田所長は、いくつかの緊急安全装置の適切な使い方を知らなかったことを認めている。原子力規制委員会の新安全基準は、今回のような重大事故や、事故の際の30Km避難地域から逃れてくる住民への不適切な対応計画には言及していない。原子力産業は、危険が消え去っていくことに望みを託す愚かさを学んでいないし、未だ安全文化を欠いたままである。
 朝日のお蔭で吉田証言が公開された。そしてずっと無視され続けていた重大危機の出来事について多くを学ぶことができた。
 政治がかった中傷のまっただ中で、このことを忘れてはならない。即ち職権乱用、違法行為の暴露と透明性の推進によって、朝日がどれくらい日本における民主主義の発展に寄与してきたことか。また朝日の戦争への適切な対処によっていかに日本の名声を高めたことか。
 安倍首相は、気が進まない国民を「右」側(反対多数の中での原発再稼働、武器輸出、集団的自衛権そして秘密保護法)に引っぱっている中で、日本はかってないほど朝日を必要としている。その土台を取り戻し、かつ彼の詭弁、ごまかし (“chicaneries”) を国民の眼にさらすために。(訳:芋森) 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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