【投稿】戦争法案強行採決を許すな

【投稿】戦争法案強行採決を許すな

<国民理解は不必要か>
7月15日、自公与党は衆院特別委で「安全保障関連法案」の採決を強行、さらに翌16日の本会議でも同様に採決を行い、衆議院を通過させた。
これは憲政史上稀に見る暴挙であり、厳しく糾弾されなければならない。政府は当初「与野党共同で円滑に」国会を通過させるため、安倍、橋下のボス交で維新の党の抱き込みを目論んだ。
しかし、法案に反対する世論の高まりと、橋下の独断専行に反発した松野、江田ら元民主党、旧結の党グループが反発、紆余曲折はあったものの、最終的に7月8日維新の独自修正案2本に加え、領域警備法を民主党と共同提出したことにより「自民・維新共闘」の目論見は頓挫した。
この動きを見て、官邸、自民執行部も維新との連携に見切りをつけ、与党単独の採決強行へ動かざるを得なくなったのである。
維新が提出した「対案」も事実上店晒しにされ、日頃与党が口にする「反対なら対案を出せ」という批判の欺瞞性が明らかになった。
採決を巡っては政権内からも石破地方相が前日の記者会見で「国民の理解が進んでいるとは言えない」と発言、当の安倍も当日の特別委総括質疑で「国民の理解が進んでいないのも事実だ」と認めざるを得なかった。
にもかかわらず直後に採決を強行したのは、まさに日程優先、成立ありき以外の何ものでもない。
安倍は「今後も国民に丁寧に説明していく」と表明しているが、自民党は反発を恐れ、当面街頭宣伝は行わないことを決定した。また自民執行部は「百田発言問題」以降、マスコミへの露出を規制し、さらに報道機関からの戦争法案関連の質問には回答しないよう、所属議員に「箝口令」まがいの指示を出したという。
自民党は今後参議院でも形式的な議論で誤魔化し、「60日」が過ぎるのを待つという「籠城戦」を決め込んだようである。「私は貝になりたい」とでも言うのだろうか。

<国際潮流から逸脱>
安倍政権が身を潜めるかのようにしている間にも、国際情勢はドラスティックに展開している。
7月14日、ウィーンでイランと関係6か国(米英仏独中露)は核開発問題での最終合意を達成した。2002年にイランの核兵器開発計画が明らかになって以来、7カ国は、各国での政権交代を経ながら交渉を進め、平和的手段による国際問題の解決に至ったのである。
安倍は戦争法案の必要性を説くのに一つ覚えの様に「ホルムズ海峡の掃海」を持ち出してきた。当事者の努力をよそに「機雷封鎖」を大地震のような不可避のものとして、集団的自衛権解禁の論拠として利用してきたのである。このような対応はアメリカにも失礼であろう。
本来なら、アメリカの「同盟国」であり、イランとも関係を維持してきた日本としては、積極的にこの地域の安定に寄与すべきであった。しかし民主党を含む歴代政権は、思考、行動とも停止してきた揚句、「結果にコミット」できず、国際的な動きから取り残されることとなった。
そもそも軍事的整合性が希薄だった「ホルムズ海峡の機雷封鎖」という想定は、ますます非現実的なものとなったにも関わらず、安倍政権は今後もこれを理由として使い続けるつもりなのだろうか。それともこれからは「ISがホルムズ海峡を封鎖する」とでも言うのだろうか。
戦争法案は戦争が起こること、起ったことを前提としたものであり、紛争防止方策として、安倍政権は「武力による抑止」しか示していない。
安倍政権には、緊張を緩和し、平和的手段で安全を確保する包括的な外交、安全保障政策が根本的に欠如しているのである。
その中で、戦争遂行に関する各論、施策を突出させ強引に推し進めようとするのは戦争準備と思われても仕方ないだろう。
今回のイラン核問題最終合意は、安全保障のあるべき道筋を明らかにしたが、安倍政権はこれを教訓とすることなく、外交能力の無さの露呈と法案論拠の崩壊から、むしろ煙たがっているのではないか。

<未来の戦争へ>
中東での緊張が緩和される中、戦争法案に係わる「予定戦場」は東アジア地域に集約されていく。ここでも安倍は「邦人を移送する米艦の防衛」を繰り返すばかりで朝鮮半島の安定は語らない。
北朝鮮に関しては、日本政府が朝鮮総連への国策捜査を行って以降、拉致問題は放置されている。7月4日の再調査回答期限はなし崩し的に延長されたが、イラン核合意のようにはいかないだろう。
韓国に対しても関係改善の歩みは遅々としている。先ごろボンで開かれた第39回世界遺産委員会で懸案となった「明治日本の産業革命遺産」は、日程延期の末、からくも選出された。
今回日本、韓国を除いた委員国は19カ国であったが、このうち議長国のドイツをはじめ10カ国は安倍が外遊で訪問している。さらに副議長国のクロアチアは6月に首相が来日したばかりであり、安倍外交が有意義であれば多数決でも選出されたであろう。
ところが韓国の説得で多数派工作が危うくなり、日本政府は最終局面に至ってスピーチで「against their will」「forced to work」という表現を使わざるを得なくなった。これにより国際的には強制労働が確認された形となったが、安倍政権は認めようとしていない。
さらに従軍慰安婦問題でも、こうした不誠実な対応を続けるようでは、事態好転にはつながらないだろう。
中国に対してもこの間2度の「首脳会談」を行う一方で、対中軍備増強、アメリカ、フィリピンなど関係国との合同演習が進められている。
とりわけ南シナ海問題への介入は露骨である。6月23,24日には海自のP-3C哨戒機をフィリピン・パラワン島に派遣し、比軍要員を搭乗させ周辺海域での飛行を実施した。
これは中国軍機が韓国軍人を乗せて竹島(独島)近海を飛ぶようなものである。中国政府は不快感を示し、フィリピンの平和団体も「火に油を注ぐようなもの」と批判している。
この様に自ら緊張を拡大しておきながら、「国際環境が変わった」として戦争法案を合理化する安倍政権が、周辺国に「未来志向」を語りかけても「未来の戦争を志向」しているのではないかと疑われても仕方ないだろう。

<8月、反対運動の高揚を>
安倍は世論の歓心を買うため、強行採決後の17日に新国立競技場建設計画の白紙撤回を表明した。
不透明な選考と法外な建設費は以前からわかっていたにもかかわらず、戦争法案の強行採決までは見直しはできないと強弁していたものが、一転してゼロベースに戻った。本人が悪いとはいえ、元総理の森の顔に泥を塗って踏みにじっても延命を図ろうという、あまりに露骨な政治決断である。
しかし17,18日の世論調査では、「支持35%、不支持51%」(毎日)「支持37,7%、不支持51,6%」(共同通信)と軒並み内閣支持率は急落した。今後舞台は参議院に移るが、そのなかで70年目の8月6日、9日、そして15日を迎える。安倍政権は盆前後の自然休会を利用し、嵐が過ぎ去るのを待つ構えである。
しかし、8月には原水禁大会を軸とした大衆行動が準備されている。過去原水禁運動統一の試みは頓挫してきたが、この危機的な情勢を踏まえ、原水禁、原水協は共同行動を実現すべきである。
そして、既存勢力のみならず、この間新たに登場した各地、各層の取り組みを糾合するプラットフォームを構築しなければならない。
さらに8月には「戦後70年談話」が発表されることとなっている。国内外世論の厳しい監視により「談話」に関しては閣議決定を行わないなど、当初の意気込みよりはトーンダウンしつつあるが、内容は不確定である。
ぎりぎりまで過去の侵略に対する明確な謝罪表現―和文と英文の表現の誤魔化しなどではない―を盛り込むよう、国際世論と共同で追い込んでいかねばならない。
参議院は来年改選予定であり「合区法案」における与野党ねじれ現象、さらには18,19歳の新有権者の動向など、流動的要素が多い。
野党は国会を取り囲む闘いと連携し、一致して与党の動揺を誘い戦争法案の廃案を追及しなければならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.452 2015年7月25日

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【投稿】情報戦の中の安保法案と日本エスタブリッシュメントの正体

【投稿】情報戦の中の安保法案と日本エスタブリッシュメントの正体
福井 杉本達也

1 エシュロン・プリズム・スノーデン
かつて「エシュロン」(Wikipedia:(Echelon)は、アメリカ合衆国を中心に構築された軍事目的の通信傍受(シギント)システム。同国の国家安全保障局(NSA)主体で運営されていると欧州連合などが指摘している一方、アメリカ合衆国連邦政府自身が認めたことはない。エシュロンはほとんどの情報を電子情報の形で入手しており、その多くが敵や仮想敵の放つ電波の傍受によって行われている。1分間に300万の通信を傍受できる史上最強の盗聴機関といわれている。参加している国は、アメリカ合衆国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドであり、英米同盟(UKUSA)とも呼ばれるアングロサクソン諸国とされる。日本での基地は青森県三沢基地に置かれ、日本政府・企業も監視対象などという言葉を口にすれば「陰謀論」か「きわもの」扱いで、「どこに根拠があるのか」、「新聞には書いてあるのか」などと言われるのが落ちであった。これまで、こうした米国を中心とする不法な諜報活動を指摘してきたのは、池上彰・中尾茂夫・本山美彦氏などごく少数であり、日本の言論界ではタブー扱いであった。最近では加藤哲郎氏(『CIA日本人ファイル』)、有馬哲夫氏(『日本テレビとCIA 発掘された「正力ファイル」』)、松田武氏(『対米依存の起源――アメリカのソフト・パワー戦略』)などの地道な研究も進み、ようやく一般化しつつある。
6月23日、ウィキリークス(WikiLeaks)はNSAがオランド仏大統領ら歴代3大統領の盗聴活動を行っていたことを暴露した。2013年にも独メルケル首相らの盗聴を行っていたことが暴露されている(日経:2015.6.25)。また独連邦情報局(BND)がNSAと協力して仏大領府の監視や独電機大手シーメンスの企業情報を傍受し米国に情報提供していたことが明るみになっている。BNDはナチス政権下の対ソ戦の秘密情報機関が前身で、戦後CIAの管轄下に入り、その後も「現政権が望まない活動を続けてきた」(日経:2015.5.17 玉利信吾「スパイ疑惑に揺れるドイツ」)といわれるが、こうした裏の動きがようやく新聞紙面でも見えるようになってきたことは、アサンジ氏が創設したWikiLeaksやロシアに亡命し「プリズム」(PRISM:全世界で970億件/月のインターネットと電話回線の厖大な通信傍受が行われており、電子メールやチャット、電話、ビデオ、写真、ファイル転送、ビデオ会議等あらゆる情報が収集・分析され、Microsoft、Yahoo!、Google、Facebook、PalTalk、YouTube、Skype、AOL、Appleなどが協力しているとされる)を暴露した元CIA・NSA職員:スノーデン氏の功績である。独にBNDのような組織があるということは、日本にも同様の組織があると考えることが自然である。

2 スプートニク・ショック
ロシアの通信社:スプートニク(sputnik)は、英ガーディアン紙の報道として「NATO加盟国の指導者の多くは攻撃的な反ロシア的論調を展開」しているが、「これらの国の有権者らはこうした政策を支持する構えにない。」とし、これらの要因は「説得力のあるような嘘や生半可な真実を流布することが多く、秤にかけた客観的分析をしない西側マスコミ」にあると指摘している(sputnik 日本:2015.7.8)。これまで、米欧は旧ユーゴ内戦やイラク攻撃などにあたり、まず情報戦で勝利してから実際の戦闘行為に移っている。たとえば、イラク攻撃ではフセイン政権に大量破壊兵器を保有しているとして攻撃に入ったが、後に大量破壊兵器は無いことが明らかとなった。しかし、最近のウクライナクーデターなどでは、米欧のプロパガンダに対しスプートニクがすぐさま反論するため(マレーシア航空機撃墜事件等)、EU諸国は国民を十分説得できなくなっている。「西側が今、極度に恐れているのは『情報戦争』でロシアに敗北すること」(sputnik 同上)である。
情報戦でのロシアの勝利はスノーデン氏の亡命によることも大きい。英サンデー・タイムズ紙は、身分が明らかになることを恐れ、英秘密情報局(M16)のスパイを「敵国」から引き上げる決定をしたと報道している(共同:2015.6.16)。

3 岸信介と60年安保の評価
元外務省国際情報局長孫崎亨氏のベストセラー『戦後史の正体』において、これまでの認識を大きく改めさせられた箇所がある。「岸首相は、イメージとちがって、大いに研究すべき人物です」という項目がある。結論を要約すれば、岸首相を引き摺り下ろすために60年安保闘争は米軍やCIAなどが企てたというものである。安保闘争の当初目的は「安保条約」だったが、途中「岸打倒」に変質した。安保闘争を指揮した全学連(ブント)は後に右翼活動家田中清玄らから金を貰っていたことが明らかとなっている。孫崎氏のシナリオは「国際政治という視点から見れば、CIAが他国の学生運動や人権団体、NGOなどに資金やノウハウを提供して、反米政権を転覆させるのはよくあること」で「岸首相の自主独立路線に危惧を持った米軍およびCIA関係者が、工作を行った」が、「岸の党内基盤および官界の掌握力は強く、政権内部から切り崩すという通常の手段が通じなかった」ため、「独裁国に対してよくもちいられる反政府デモの手法を使った」ということである(孫崎)。結果、安保の根幹である日本の米軍基地を占領下と同様にフリーハンドで使える日米地位協定(「われわれ(米国)が希望するだけの軍隊を、希望する場所に、希望するだけのあいだ、駐留させる権利」―ジョン・F・ダレス:1951年)はそのまま残り、岸だけが退陣した。表向きは「憲法」→「安保条約」→「地位協定」であるが、内実は「地位協定」→「安保条約」→「憲法」であり、米国が最重視したものは「地位協定」の墨守であった。その後55年、「地位協定」に全く変更はない。占領下のままである。60年安保を闘った当事者はとても認めたくないシナリオであるが、国際政治の冷徹な現実である。

4 「9.11」と田中真紀子VS鈴木宗男
2001年4月、小泉内閣の外務大臣に日中国交を回復した田中首相の娘:田中眞紀子氏が任命された。中ロも政治的・経済的混乱から抜け出してきたことで、日本が東アジアでの冷戦構造の打破に動く内閣布陣と期待された。しかし、米軍産複合体の画策した9.11により一気に軍事緊張が高まり、鈴木宗男氏(当時衆議院議院運営委員長)との確執を理由に邪魔となった田中氏を更迭、鈴木氏も、共産党の佐々木憲昭氏のロシア友好の家を鈴木氏の利権であるとして「ムネオハウス」と攻撃、当時社民党の辻元清美氏(現民主党)は「疑惑のデパート」批判、国会中継はさながら劇場型となったが、結果、鈴木氏・外務官僚の佐藤優氏(現作家)ら外務省ロシア派も田中氏らの中国派も共に粛清され、外務省内は対米追従派に独占されてしまうこととなった。疑惑を追求した辻元氏も辞職に追い込まれるなど後味の悪さが残ったが、シナリオを描いた者は背後に存在する。以降、小泉内閣は「アーミテージ・ナイ・レポート」・「年次改革要望書」どおりの操り人形と化し、アーミテージに「Boots on the ground」と脅されて自衛隊のイラク派兵を行い、辞任直前にはブッシュ大統領の前でエルビス・プレスリーの物まねまでしてご機嫌伺いをし、NYTに「impersonators」(物まね芸人)とこき下ろされる醜態を演ぜざるを得なくなった。

5 鳩山政権の崩壊とその評価
2010年6月の鳩山政権の崩壊を内田樹氏は「アメリカ・官僚・メディアの複合体が日本のエスタブリッシュメント」を形作っており、「日本という国がどういうふうにできているかということを、白日の下に露わにしたという所が、最大の功績」である(内田:『最終講義』)と評している。民主党つぶしは東京地検特捜部の陸山会事件捜査に始まり、共産党による小沢一郎氏攻撃などもからめた小沢氏封じ、鳩山由紀夫氏の孤立、辺野古基地問題での米・官僚・メディアからの総攻撃と、メディアに煽られるままの予定調和的な社民党福島瑞穂大臣の罷免と内閣の瓦解、菅直人氏の裏切りと徹底した親米路線への転換・尖閣諸島を舞台とする中国への挑発が我々の目前で行われた。演目もキャストも異なるが、どこか既視感がある。共産党・社民党も知らないはずはない。
検事出身の郷原信郎弁護士も指摘するように東京地検特捜部の前身はGHQ配下の「隠退蔵物資事件捜査部」(旧日本軍が民間から集めた貴金属等の軍事物資をGHQが接収しようとして組織された)であり、現在も米国の影響下にあると見なされており、犯罪要件を構成しないものを犯罪としてでっち上げる組織である。政治家の税金に関わる不祥事は国税庁が、スキャンダルについては警察庁が、政治資金規正法は総務省が握っているなど、全ての情報は官僚の手中にある。米国がシナリオを書き、どのカードをいつ出すかだけである。最近、クリントン氏の大統領選出馬問題で個人メールが公開されたことにより、2009年12月の鳩山政権時に沖縄県の普天間基地移設を巡る問題で、外務省から(藤崎一郎駐米大使が)「ヒラリー・クリントン米国務長官に呼び出された」と発表されていた情報が虚偽である可能性が高いことが判明した(東京新聞:2015.7.8)。日本側のエスタブリッシュメントは常に「主人」の意向を先回りして奉仕している。
7月16日、安保法案が衆院を通過したが、これまでの日米地位協定による「基地の自由使用」に「軍隊の自由使用」(「われわれ(米国)が希望するだけの傭兵を、希望する場所に、希望するだけのあいだ、派兵させる権利」)が新たに加わろうとしている。かつての大英帝国の「英印軍」を想起させる。日経「美の美」に山下菊二が1954年に日本と米国の関係を怪物的な想像力を駆使して描いた『新ニッポン物語』が掲載された。「YELLOW STOOL」(日本人を侮蔑する隠語)と書かれた醜い雌犬の姿は「黒ずんだ眼窩、視点の定まらない瞳」をしている。「感情をなくし、考えることをやめた者の顔」である(2015.7.12)。日本を内側から占領するエスタブリッシュメントの影響をはねのけ、民主主義をもう一度しっかりとつかみ直す必要がある。

【出典】 アサート No.452 2015年7月25日

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【書評】『琉球独立論』

【書評】 『琉球独立論』
    (松島泰勝著、バジリコ、2014年。1800円+税)

 日本の安全保障政策の大きな転換点において自衛隊の海外派遣の日常的現実化の危険が前面に出て、ごく最近までマスコミを賑わしていた辺野古へのアメリカ軍基地移転問題が沖縄一地方の問題として扱われているかのような印象を与えている現在である。しかしまさしくこの状況の本質を問うことが本書の問題意識である。著者は「琉球」の視点から、次のように述べる。
 「多くの日本人は、近現代における『本土』(日本)との関係の中で琉球人が強いられてきた苦難の歴史を潜在意識のうちに感じながらも、知らない、知りたくない、知らないふりをする、といった行動様式に終始しているのではないでしょうか」。
 そのことは、自衛隊の海外派遣=「戦争への道」の問題が中心となっても(もちろんこれは重要な問題ではあるが)、その自衛隊の連携先の(?)米軍の行動が議論にはならず、ましてや米軍基地が日本国内に多数存在し、それが「沖縄」に集中していることが議論になっていないことに端的に示されている。そしてその一方で日本人の間で日米安保が日本の平和に寄与しているとの意識は根強く、「米軍基地は日本の抑止力である」とされる。しかし「その『日本』の中に琉球は含まれていません」と著者は指摘する。
 そしてこうも述べる。
 「日本の安全保障の目玉が在琉米軍基地であるとして(それ自体私には幻想としか思えませんが)、なぜそれが琉球に集中せねばならないのか、なぜ、常に日本のリスクが琉球に集約されねばならないのか。補助金は、本当に琉球人を潤わせているのか。日本の人々は、他者の中に自己を投影して考えてみる、ということを一度くらい試みてみてもよいでしょう」。
 それはかつての「沖縄奪還、沖縄返還」を叫んだ復帰運動でもそうであり、著者は、この運動で広く歌われた『沖縄を返せ』(1956年)の歌詞中の「民族の怒りに燃える島沖縄よ」、「我等のものだ沖縄は」の「民族」「我等」という言葉が意味するのは、「あくまでも日本人」ではなかったのか、と問い返す。
 つまり「琉球の置かれている状況は、アメリカの植民地である日本の植民地である琉球、というまるでロシアのマトリョーシカ人形のような入れ子構造となっている」。そして日本の現状を見ると、「未だに日本には他国の軍隊が駐留軍のように存在し、不平等条約である日米地位協定を改正さえできない日本は独立国家の体をなしていないのではないでしょうか。また、琉球に基地を集中させて自らは平和と繁栄を享受したいと考えることは道徳的に、または人間として正しい姿でしょうか」と厳しく批判する。
 そして今や「琉球にとって、こうした中央政府対地方自治体という構図の中での議論は既に意味を持ちません。現在の課題は、同化するための差別撤廃というテーマから、独立するために構築すべき日本との関係性というテーマに移っている」として、「琉球の独立」を正面から主張する。
 本書はこの「琉球の独立」を、歴史(琉球王国、琉球併合、戦時下、米軍統治、「復帰」という名の琉球再併合という経緯)、理念(琉球独立論・琉球ナショナリズムの系譜)、政治経済(基地経済の実態と骨くされ根性)、国際関係(多角的国際関係と安全保障)等さまざまな角度より論じたものであり、海洋国家・琉球の歴史・現実を直視することによって、その独立の必要性を強調すると同時に、琉球に対する日本の政治・意識のあり方そのものをわれわれに足元から問い直すことを促す書である。(R) 

【出典】 アサート No.452 2015年7月25日

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【紹介】「戦争法案-粉砕」から「安倍政権‐打倒へ」(14) 

【紹介】「戦争法案-粉砕」から「安倍政権‐打倒へ」(14) 

《「戦争法案-廃案!」と「安陪内閣打倒!」が現実的に!》
 昨日(18日)、この間、本「リベラル広場」でも宣伝してきた【戦争法案は廃案に!おおさか1万人大集会】に取材を兼ねて参加した。それこそ長年(中学時代から)社会運動に参加してきた自分が、ひいき目なく客観的に見て「強行採決」後の始めての「一斉行動デー」にしては、本当に元気よく参加人数も、なかなかデモ行進に移れないほど長蛇の列。ほぼ1万人は集まったと見てよいだろう。
 挨拶の方々の中に辻元議員(民主)と福島議員(社民)もいたが、辻元議員は安陪総理に「昨日の天気は?」と質問して「一昨日の天気は~。え~と?」と答えているようなもので「審議不十分は否めない」と力説した。また福島議員は「リベラル広場」方針提起と同様に 「戦争法案-廃案!」と「安陪内閣打倒!」とがセットで闘う必要性を力説した。
 長年の社会運動経験から見て「安陪内閣-支持率急落」の可能性が相当に高いことと「これやったら(運動の継続的エネルギー等)いけるな!」と思わすものがあった。
 ただ痛烈に批判するが、労働組合(特に連合と自治労)の参加が殆ど見られないことだ。
 そこで、ちょっと調べてみると連合(中央)は15日に「強行採決に関する(事務局長)談話」を出したくらい。連合大阪に至ってはホームページを見ている限り直接「戦争法案」等に関する行動予定どころかコメントの一行すら掲載されていない。自治労大阪府本部も「強行採決」の前の前6月14日に「えさきたかし参議院議員-派遣法改悪、安全保障関連法案の国会対応」について若干の報告を行ったぐらい。 別に労働組合が参加しなくても、連日の報道のとおり、今回の「戦争法案-反対」「安陪内閣打倒」の闘いはリベラル野党と「若者・女性・市民(団体)・各種団体(弁護士会・学者の会等)等のリベラル勢力」の広範な連携・結束の下に展開されているが、ここに連合等-労働組合が参加すれば、より「国民運動」として盛り上がり締まる。
 私の勝手な推測だが連合がまともに取り組まないのは連合傘下の中には「武器製造関連会社(F重工業・M重工業等)」が有り、その企業体の「労使関係」を気兼ねしての事ではないかと推察する。ちょうど「要論文」で当時の会長・事務局長が裁判で「敗北和解」したように♭また自治労大阪が取り組まないのは橋下市長の労組締付けに対する萎縮もあるのではないか。それはそれで理解できない訳ではないが、土・日曜日でも集会・デモは計画的に行われている。少数でもいいから土・日曜日でも「自治労大阪」の旗を持って参加すべきではないか!
 なお「安倍政権」が本当に「支持率低落⇒内閣退陣⇒解散総選挙」が現実的になったときに連合・自治労が、今まで「戦争法案-廃案」「安陪内閣打倒」の闘いをサボり逃亡していたくせに総選挙のときだけ「組織内候補の支持・推薦をよろしく」と依頼に来られても「大変、迷惑千万」であることは付言しておく。
 
《「戦争法制」自民、街頭演説を当面見送り「ヤジ・批判がコワ~イ♭」》
 自民党は17日「戦争関連法案」の国民への理解を深めるために立ち上げた「平和安全法制理解促進行動委員会」(委員長=衛藤晟一首相補佐官)の初会合を開いた。今後、党本部から安保に詳しい役員や学者を全国に派遣して勉強会を開く。
 ただ反対派からヤジや批判を浴びかねない街頭演説は当面行わず、9月に集中的に実施する。同委は今後、安倍首相の話を編集したビデオを作って全国組織に配布し安保専門の議員や学者を講師にし、講演会やセミナー等を開く。
 ただ6月に谷垣幹事長が街頭演説中、聴衆に「戦争反対」「帰れ」等とヤジを飛ばされた事から「批判される姿がメディアで映ると参議院審議に影響が出る」として、街頭演説は当面行わない。
「戦争関連法案」は16日に衆議院通過したが、安倍首相は「国民の理解が進んでいない」と認める。
 小泉内閣政務官は16日の衆議院通過後、記者団に「原因の一端は自民にある。自身が呼んだ学者が、党にそぐわない事を言うと『学者は無責任だ』と、その責めを、その学者さんに負わす。昔の自民党の良くない部分が垣間見え、結果として法案の理解も進んでいない」と指摘した。

《「戦争関連法案‐「強行採決抗議!」の声・抗議行動のウネリ!」》
<「今日集まった5万人は、強行採決されても諦めない5万人だ!」IWJ >
「私は声をあげることをやめない!」。「憲法違反の『戦争法制』の衆議院での強行採決」を受け、3日連続で行われた国会前抗議は7月17日に最終日を迎えた。集まった延べ5万人(主催者発表)の国民は「勝手に決めるな!」のコールを響かせた。抗議は学生ら有志の「SEALDs」(自由と民主主義のための学生緊急行動)と「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」が共同で主催。野党議員の他、全国からも多くの若者が集結し、スピーチした。
 札幌市で「戦争したくなくてふるえる」デモを立ち上げた19歳のフリーターAさんは緊張した面持ちでマイクを握り「無関心はダメだから声をあげたんです」と語った。「声をあげたら『バカだからしゃべんな』とか、『ギャルだから何も考えてない』とか、いろんな誹謗中傷がきたけど、私はここに立っています。いっぱい傷ついたけど、ここに立って声をあげています!」安倍、聞こえるか!。お前のせいで、うちは一杯傷ついた。だけどここに立って声を上げている。怖いからだよ。怖くてふるえるから。戦争したくなくてふるえるから、ここに立って声をあげています」
(民守 正義 2015-07-18)

追伸:オリジナルは、少々長いので、後半を一部省略しています。また、一部表現を修正しております。全文は、民守さんのブログ「リベラル広場」にアクセスください。(http://blog.zaq.ne.jp/yutan0619/)(佐野)

【出典】 アサート No.452 2015年7月25日

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【投稿】 戦争法案反対の攻勢を

【投稿】 戦争法案反対の攻勢を

<拡大する戦争法案反対の声>
 安倍政権は今国会での「戦争法案」成立を強行しようと躍起になっている。しかし、国会での審議を重ねるにつけ、法案の矛盾点が次々と明らかになり、反対の声も日増しに強くなっている。
 6月7日には谷垣幹事長が新宿駅頭で街頭演説に立ったが、「法案反対」「帰れ」コールに包囲され「帰れで平和は守れない」と頓珍漢な反論しかできなかった。
 さらに学識経験者、法曹界はもとより、与党内からも批判の声が上がり始めている。5月12日の自民党総務会では、村上元行革相がただ一人反対を明らかにしていたが、ひと月後の6月12日には山崎拓、亀井静香、武村正義、藤井裕久の元自民党重鎮4名が記者会見を開き法案反対を訴えた。
 14日は2万5千人が国会を包囲し怒りの声を上げ、全国各地でも抗議行動は活性化している。こうした動きは同日夕刻の民法報道番組で、取り上げられたがNHKは7時のニュースで黙殺し、「代わりに」香港の民主化デモを長時間報道するという自主規制が行われた。
 しかしこれは逆効果で、批判にさらされたNHKは18日には瀬戸内寂聴師の反戦スピーチを報道することとなった。
 政府は日程の遅れに焦燥感を深め、国会会期の9月までの大幅な延長の検討に入ったが、時間を稼ぐほど、法案に対する批判が増大するという矛盾に苛まれている。こうした状況を打開するため、安倍政権は維新の会を取り込み法案の早期成立を画策している。安倍、菅、橋下、松井の「トップ会談」を踏まえ、菅、松野の「実務者会談」が開かれた。
 維新は対案を法案化して提出する動きを見せているが、与党とすれば野党出席のもと審議が進み、円滑に採決できる環境が整えられればよいだけのことである。
 維新の対応は、対案の内容以前に敵に塩を送ったも同然であるが、この間の「労働者派遣法」を巡る動きを見れば、想定の範囲内である。
 想定外だったのは衆議院憲法審査会における参考人の見解であろう。6月4日の参考人質疑では、出席した与党側の長谷川早大教授も含めた憲法学者3人全員が「安保法案は違憲である」と断言し、安倍政権を慌てさせた。狼狽した菅は「合憲という学者もたくさんいる」と取り繕ったが、具体的な名前、人数は示せず、10日になって西駒大名誉教授、百地日大教授ら3名を挙げたにすぎなかった。
 稲田政調会長らは「違憲か合憲は最高裁が決める」と再び「砂川判決」を合憲の根拠として持ち出してきたが、砂川事件弁護団から厳しく批判され、法案に反対する学者、研究者の署名は3千人を超えている。
 こうした状況に政権は「学者の意見は参考程度」「学者の言うとおりにしていれば大変だった」と開き直った。18日の衆議院予算委員会で安倍は「国際情勢に目をつぶり、従来の憲法解釈に固執するのは、政治家としての責任放棄」と放言した。安倍らにとって憲法学者は「曲学阿世の徒」なのであろう。行き着く先は「焚書坑儒」であろう。国立大への「日の丸」「君が代」要請はその手始めである。

<護憲の国民投票を>
 戦争法案に関しては「国民投票」で信を問うべきとの意見がある。現在法的規定があるのは改憲かかわる国民投票だけであるが、「国民投票」は是非とも必要であろう。
 先の「大阪都構想」を巡る住民投票は、改憲に係わる国民投票の予行演習とも言われたが、その意味で「改憲派」の敗北に終わった。
 今回の「戦争法案」は「都構想」に比べ論旨は明快であろう。「国民投票」が実施されれば、沖縄知事選以上に公明―創価学会の動揺は激しいであろう。さらにこれが改憲ともなれば有権者の判断は明確に示されるであろう。
 安倍政権としては「96条改定」から徐々に進め、「環境権」などとの抱き合わせで「9条改廃」を目論んでいるが、この期に及んで公明党が「環境権」の「加憲」に消極的になるなど足踏み状態になっている。
 安倍は任期中の改憲を最大の目標としているが、功を焦れば失敗するのは橋下と同じある。
 橋下は改憲協力を手土産に安倍政権に接近し、公明党を翻意させ強引に住民投票の実施にこぎつけたが、あまりの拙速さで逆効果となった。最低2期でも市長を務め、その総決算として住民投票に臨んだなら違った結果になったかもしれないが、橋下は待てなかったのである。
 「都構想」否決の要因として高齢者が攻撃をされているが、これを教訓とするなら安倍としては、戦争体験者がいなくなるまで改憲発議は先送りすべきではないか。
 大阪では、橋下の言う「ふわっとした民意」で賛成した20~30代が多かったが、「戦争法案」や「改憲」ではそのようにはならないだろう。「徴兵」や「戦死」に一番身近な世代が選挙権を持った現在、それがリアルに捉えられれば、世代を超えたうねりになるだろう。
 政府、与党は、国民投票~改憲のハードルの高さがわかっているから、絶対安定多数を握る議会で違憲法案を押し通そうとするのである。法案への対応とは別に国会での憲法論議は活性化すべきであるが、自民党は憲法審査会の失敗に懲り、責任を船田筆頭幹事に押し付け、「当面審査会開催しない」として論議そのものを封じ込める挙に出た。
 この際平和勢力、野党としては96条を改定せずに、国民を信頼し「憲法9条の是非のみを問う改憲発議なら賛成する」と攻勢をかけることも考慮すべきではないか。(大阪O)

 【出典】 アサート No.451 2015年6月27日

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【投稿】 米国の凋落と安保法案

【投稿】 米国の凋落と安保法案
                           福井 杉本達也 

1 米国の経済は復調していない
 米国経済が復調し、FRB(米連邦準備制度理事会)は量的緩和を抜け出し、秋にも利上げに踏みきるとの論調が新聞紙面を埋めている。米国経済はあたかも2008年のリーマンショックを完全に克服したかのような論調であるが、本当だろうか?対して、中国を始めとする新興国の景気は下降局面にあり、中国の成長率が7%台から6%台に下がったから不況だ・バブル崩壊だ、通貨下落の恐れがあると大騒ぎする(参照:日経社説:2015.6.14)。
 リーマンショックによる米金融機関の巨大な損失はいつ解消されたのか。2008年以降は高成長を続け不良債権は雲散霧消したなどという話はとんと聞いたことはない。FRBは量的緩和により不良債権の先延ばしを図ったことだけである。不良債権はそっくりそのまま残っている。「戦争」「憲法」等、いくら『物忘れの進んだ』日本人とはいえ、7,8年前のことを忘れるものではない。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は、対象の債権がデフォルト(支払不能)になったとき、回収を保証する保険であり、CDSをかけると、不良債権も正常債権と見なされる。その保証料(リスクプミアム)は、$5930億(71兆円)もあって、元本である債権額($16兆:1920兆円)の3.7%に相当し、短期金利がゼロの現在、とても高いもので、回収が危ぶまれる不良債券が相当数含まれる。BIS(国際決済銀行)発表の統計によると、シャドー・バンキング(金融当局の規制逃れのため、銀行ではない投資銀行やヘッジファンドなどの金融機関(銀行の子会社を含む)が行う金融仲介業務=影の銀行)は、2008年のリーマン危機で、$20兆(2400兆円)から$16兆(1920兆円)にまで、不良債権の発生によって$4兆(480兆円)の資産額を減らしている。「480兆円の損失は、金融機関の有価証券 報告書での損失としては、計上されてはいない」、巨額損を計上すれば、米国の全金融機関が債務超過となって、取付けが起こるからであり、 米国政府は、「(時価にでは含み損を多く含む)デリバティブも、その理論価格(額面など)を計上し、損失は計上しなくていい」としている。「 米国の金融機関の、全部の自己資本を合計しても$2兆(240兆円)」しかない。480兆円もの損失 が生じた場合、「損失を恐れる投資家が、投資を引きあげる取付け(Bank Run)」が起こり、金融機関は破綻する。ちなみに、日本の全銀行の資産は1440兆円(15年3月)であり、米のシャドーバンキングの資産がいかに巨額化かがわかる(以上:吉田繁治:「ビジネス知識源」2015.5.31)。貸借対照表で480兆円の資産があるとして、一方、480兆円の借入金があるとして貸借が合っているように見えるが、資産が回収不能の不良債権で実際の評価が0円ならば、即、倒産ということである(子会社が焦げ付けば親会社の大手銀行も倒産、信用収縮・金融危機へとつながる)。

2 ウクライナ問題でロシアに降伏した?オバマ政権
 ロシア中央銀行は、ロシアの外貨準備高が、5月29日から6月5日までに51億ドル増えて、3,616億ドルとなったと発表した。今後、ロシアの外貨準備高を5,000億ドルまで増加する計画だという。米国がサウジと共謀して画策した原油価格暴落によるロシア経済への打撃も、今年に入り1バレル60ドル前後で推移しており、米国のロシア封じ込め戦略は完全に破綻した。むしろ、シェールオイルバブルがはじけた米国経済への重しとなって跳ね返ってきている。こうした中、5月12日にはケリー米国務長官がロシアの保養地ソチでプーチン大統領と4時間に亘る会談をしたが、米国内ではオバマ政権がロシアに屈した証だと批判されているようである(英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)2015.5.26=日経)。
 ウクライナの命運を握るのはロシアのガスである。マケイン上院議員やヌーランド米国務次官補などの米軍産複合体・ネオコンの危険な火遊びにより、529億ドル(5兆3千億円)を抱えることとなったウクライナの債務を誰が負担するのか米欧金融資本家の暗闘が繰り広げられつつある(日経:2015.6.16)。最大の債権者・ロスチャイルド財団の米投資ファンド:フランクリン・テンプルトンは約64億ドルと、海外投資家が保有するドル建てウクライナ国債の3分の1超を保有している。次がロシアの30億ドルである(ロシアNOW:2015.6.4)。では、なぜ米国はロシアに屈せざる(?)を得なくなったのか。答えは、4月の中国主導によるアジア・インフラ投資銀行(AIIB)への英国の参加表明にある。米国がウクライナで火遊びをしている間に、英国は長年にわたるアングロサクソン同盟を破棄し中国に組する宣言した。完全に孤立した米国はロシア―中国の二正面作戦を放棄せざるを得なくなった。ここに来て、オバマ大統領の名代として、ロシア・欧州・イラン・中国と飛び回ってきたケリー長官が滞在先のジュネーブで自転車事故により重傷を負ったとの不審なニュースが流れてきた(CNN:2015.6.1)。SPに囲まれた覇権国の最重要人物が滞在先で自転車事故に遭うなどとは考えられない。

3 南シナ海岩礁埋め立て問題
 あわてた米国は5月に入り東アジアにおいて急遽「南シナ海岩礁問題」を取り上げだした。中国が埋め立てた人工島の周囲を中国の領海・領空とは認めないとして、米軍の艦船、航空機を、人工島周囲12カイリ以内で航行させるとの恫喝を行った(WSJ:2015.5.12)。これに連動する形で、日本の自衛隊もフィリピン軍と共同訓練を同海域で実施している。南シナ海の岩礁埋め立てについては中国ばかりでなく、ベトナムもフィリピンも過去から行っている。CSIS(米戦略国際問題研究所)はベトナムが実効支配するサンド・ケイの軍事施設の衛星写真を公開した。また、フィリピンが実効支配するバグアサ諸島には1970年代から滑走路がある(日経:2015.5.13)。昨年、ベトナムは南シナ海での中国の油田開発で対立し、ベトナムで反中国暴動が発生している。暴動の背景には、反共産ベトナムのアメリカへの亡命者の組織、ベトナムタンの役割が示唆されている(BBC:2014.5.16)。ベトナム人の海外居住者は年1兆円もの資金を還流させている。ベトナムの国家予算が4兆円であることと比較すれば、海外居住者の経済力の大きさが分かる(ジェトロ・ホーチミン事務所)。
 その後、中越が首脳会談で紛争の妥協を図ったにもかかわらず、今回、米国が直接南シナ海問題に首を突っ込んだ背景にはAIIB問題がある。欧州というこれまでの米国の属国を引き連れての中国主導のAIIB創設は、ドル基軸―IMF体制に対する直接の脅威であり、世界経済秩序への挑戦、米覇権体制の根幹を揺るがす一大事である。米ユーラシア・グループのイアン・ブレマは「中国の経済的影響力の拡大の別の話だ。中国はアジア・インフラ投資銀行(AIIB)の設立を提案することで、米国主導の世界経済秩序に全面攻撃を仕掛けた。中国ほど効果的に国家主導の経済力を使って影響力を拡大しようとしている国は他にない」(日経:2015.6.1)と露骨に米国の本音を述べている。
 しかし、南シナ海に米軍基地はない。この地域では「米国は小さな棍棒しか保有しない」(FT:2015.6.11=日経)。フィリピンでは、米軍は、1991年のピナツボ火山噴火にかこつけて、かつて東洋一を謳われ、ベトナム戦争時の北爆に使用されたクラーク空軍基地・スービック海軍基地から撤退せざるを得なくなった。しかも、フィリピンの憲法は米軍の駐留を認めておらず、協定は米軍が建設した施設の所有権はフィリピン側が持つことや、核の持ち込み禁止などを規定している。独立国家とは言えない日本の地位協定とは雲泥の差である。しかも、「北京の行動が明らかに不法だとは言えない」、「中国があからさまに航行の自由を脅かしているわけではない」(FT:同上)のである。

4 日本の役割
 日本は安保法制の国会審議をからめて、いたずらに中国の脅威を煽り、中国による南シナ海岩礁埋め立てを「不法行為」だと非難し、「大本営発表」を垂れ流し、米国と連動してG7でも中国を牽制する声明を出している。
 しかし、こうした行動は自らに跳ね返ってくる。日本が領有を主張する東京から1,740km南に位置する沖ノ鳥島は満潮時には東露岩・北露岩を除いて海面下となる。日本はこれを「島」と言いくるめ、「島」の周囲200カイリに広大な排他的経済水域(EEZ)を設定しているが国際的には認められていない。国連海洋法条約は、「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、高潮時においても水面上にあるものをいう。」とし、「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできない岩は、排他的経済水域又は大陸棚を有しない。」と定義している。この「島」を水没しないよう日本は膨大な予算をかけて護岸工事を行っている。中国が現在埋め立てているのは岩礁であるが、西沙諸島には他に人の住める島が多数ある。領有権を主張しても不法ではない。しかし、沖ノ鳥島が岩礁だとするならばEEZの設定は国際法上認められない不法行為である。
 AIIB加入問題で日本はアジアで完全に孤立するという大失態をおかしてしまった。逃した魚は大きかった。G7の直前の6月6日というギリギリのタイミングで、3年ぶりに再開された日中財務対話において、アジアのインフラ整備を共同で行うことで日中が合意し修復の兆しも見える。三菱東京UFJ銀行が人民元債を発行するという動きも出始めている(日経:2015.6.18)。また、岸田外相もプーチン大統領の訪日調整の為に9月までに訪ロする予定である。新聞は、情けない話だが「米国の許可待ち」と書いている。
 フィリピンを含め、ASEAN10ヶ国で米軍基地を置く国は1つもない。5月、タイ軍司令部は、ミャンマー・ロヒンギャ族難民問題にからめ、プーケット島に基地を起きたいとの米軍当局の求めを拒否し、5日以内に島から航空機と軍人を退去させるよう求めた。外国軍隊に基地を提供するような(自国領土を70年間も占領させている)国はアジアでは独立国とは認められない。まして、外国軍隊の指揮下に入るような部隊(自国軍隊とも呼べない)を持つ国は「属国」と呼ばれ、安保法案を推進する者は、その外国の利益代表者であり、一国を代表できる「首相」ではなく、「代官」と呼ぶことが相応しい。日本がアジアにおいてしかるべき地位と尊厳を確保したいならば、少しでも外交的自主判断ができる国になることである。

 【出典】 アサート No.451 2015年6月27日

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【投稿】隊員を死地に送る最低指揮官 

【投稿】隊員を死地に送る最低指揮官 

 今回の戦争法案審議で問題となっているのが自衛隊員の「リスク」である。国会では野党のみならず与党議員も、自衛隊員のリスクが高まる危険性について追及を繰り返しているが、安倍総理や中谷防衛相は「リスクは高まるとは考えていない」と木で鼻をくくった答弁を繰り返している。
 これは未だに「原発は安全だ」と言っているのと同じであり、対策を放棄すると言っているのと同様であるが、これは今に始まったことではない。
 元々自衛隊は冷戦時代でも、戦争をすることなど考えてこなかった。隊員募集も一期で除隊することを前提に「再就職に有利な様々な資格が取得できる」が一番の売りだった。隊員定数と正面装備を充足させれば十分で、戦死者を出さないための処置など後回しにされてきたのである。
 こうした自衛隊の衛生部門の後進性がこの間明らかにされている。(東洋経済ONLINE「自衛隊員の命はここまで軽視されている」「自衛官を国際貢献で犬死させてよいのか」清谷真一)
 この記事では、自衛隊の個人用救急品は最近改善されたものの、米軍に比べて貧弱であることがわかる。記事では海外向けの救急携行品の一覧が記載されているが、日本アルプスの登山者でも、多くはこれ以上の救急品を持っているだろう。
 衛生面の軽視は身体だけではなく、精神衛生面でも深刻な状況がある。
5月27日の衆院特別委の政府答弁で、イラク派遣陸自隊員約5600人のうち21人、空自約2980人のうち8人、アフガン関連派遣の海自約320人のうち25人が帰国後に自殺していることが明らかとなった。
 自殺に至らずとも、PTSDや精神疾患を発症している「帰還兵」はかなりの数に上るであろう。先日、小豆島で両親を惨殺したとして逮捕された犯人も海自「アフガン帰還兵」であった。
 1日3万円の「危険手当」が加算され、戦闘に従事しなくてもこうした結果である。アメリカはアフガンやイラクで戦死者の抑制に努めたが、年間8千人の帰還兵が自殺し、犯罪発生率も一般市民のそれを大きく上回っている実態がある。
 こうした状況で海外に派遣されれば、戦地で屍累々、帰国後も地獄の日々に苛まれる隊員が続出するだろう。リスク拡大に隊員や家族には不安が広がっており、元将官クラスからも懸念の声が上がっている。
 これに対し安倍政権は処罰強化で臨もうとしている。戦争法案には、防衛出動した隊員が海外で抗命した場合、国内法で処罰する規定が盛り込まれた。この規定は、6月18日の衆院予算委で、民主党議員から「敵前逃亡を処罰するものであり、外国領地での武力行使が前提ではないか」と追及された。
 安倍は「集団的自衛権による海外派遣はホルムズ海峡しか想定していない」として「掃海部隊が途中どこかに寄港した時、隊員の反抗が起こりうる」と掃海部隊を信用していないかのような答弁でごまかした。最高指揮官が口に出す言葉ではないだろう。
 太平洋戦争では、食糧、医薬品の欠乏と稚拙な戦争指導で多くの将兵、民間人が犠牲となったが、安倍政権は同じ過ちを繰りかえすだろう。(大阪O)

 【出典】 アサート No.451 2015年6月27日

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【書評】『本当は憲法よりも大切な「日米地位協定入門」』

【書評】『本当は憲法よりも大切な「日米地位協定入門」』
         ──前泊博盛編著、2013年、創元社。1,500円+税 

 ①「日米地位協定って何ですか?」、④「なぜ米軍ヘリの墜落現場を米兵が封鎖できるのですか?」、⑤「東京大学にオスプレイが墜落したら、どうなるのですか?」、⑥「オスプレイはどこを飛ぶのですか? なぜ日本政府は危険な軍用機の飛行を拒否できないのですか? また、どうして住宅地で危険な低空飛行訓練ができるのですか?」、⑦「ひどい騒音であきらかな人権侵害が起きているのに、なぜ裁判所は飛行中止の判決をださないのですか?」、⑧「どうして米兵が犯罪をおかしても罰せられないのですか?」、⑨「米軍が希望すれば、日本全国どこでも基地にできるというのは本当ですか?」
 本書の「日米地位協定Q&A(前17問)」の一部である。本書は、現在問題となっているオスプレイ配置の根拠である「日米安全保障条約」とともに結ばされた「日米地位協定」(旧「日米行政協定」)の重要性を解明する。上記の諸項目を見れば、われわれ国民が抱いている素朴な疑問が並んでいる。しかしこれらについてわれわれは日常、何となく不問に付してしまっている。本書はその疑問に真正面から答える。
 本書は、日本が置かれた戦後体制(サンフランシスコ体制)を、講和条約–安保条約–地位協定という3重構造において、一般の見方【講和条約>安保条約>地位協定】とは逆に、【地位協定>安保条約>講和条約】という順番に見るべきだとする。
 例えば、現在日本には、沖縄のみならず、全国に米軍基地があるが、首都東京を取り囲むように、横田、座間(ざま)、厚木、横須賀の基地がある。そして首都圏の上空には「横田ラプコン(RAPCON=レーダー侵入管制=米軍の管理空域)」が一都八県の上空を覆っている。(要するに一都八県の上空が米軍の巨大な支配空域になっていて、これを横田基地が管理している。)このため羽田空港を離陸した民間機は、4000~5000メートルの高さがある「横田ラプコン」を越えるために、一度房総半島(千葉)方面に向かい、急旋回と急上昇を行わなければならない。「日本の首都である東京は、こうした巨大な外国軍(引用者註:米軍)の支配空域によって上空を制圧」されている。これと地上の米軍基地を重ね合わせると、首都圏はすぐに外国軍によって制圧されてしまう状況に置かれていることが理解されるであろう。
 このような状況を作り出した戦後の政治家たちとそれを補強してきた官僚たちや司法制度であるが、その問題点を本書は鋭く批判する。旧安保条約が「秘かに」結ばれた時、そしてその半年後に「日米行政協定」が結ばれた時の吉田茂首相や政府の卑屈な対応は本書を読んでいただきたい。
 そしてこの戦後占領体制を追認したのが「砂川事件際高裁判決」の「統治行為論」である。すなわち「安保条約のごとき、(略)高度の政治性を有するものが、違憲であるか否かの法的判断は、(略)裁判所の司法審査権の範囲外にある」という判決である。本書はこの判決が出るにあたって、アメリカ側から露骨な圧力があり、最高裁(田中耕太郎長官)もこれに応えたという事実を検証した上で、この「憲法判断をしない」という判決によって「安保を中心としたアメリカとの条約群が日本の法体系よりも上位にあるという戦後日本の大原則が確定するのです」と指摘する。
 かくして、占領期の【GHQ=アメリカ(上位)>日本政府(下位)】という権力構造が、【安保を中心としたアメリカとの条約群(上位)>日本の国内法(下位)】という形となり、現在に至っている。そしてこの結果、「アメリカの意向をバックにした日本の官僚たちまでもが、日本の国内法を超越した存在になってしまった」=「『アメリカの意向』を知る立場にあると自称する日本の官僚たちの法的権限」が生まれてしまったと警告する。
 例えばなぜ米軍機は日本の住宅地を低空飛行できるのか? それは日本の国内法に特例法があるからである。「日米地位協定と国連軍地位協定の実施にともなう航空法の特例に関する法律」(1952.7.15.施行)にはこうある。
「3項 前項の航空機〔米軍機と国連機〕およびその航空機にのりくんでその運航に従事する者については、航空法第六章の規定は、政令で定めるものをのぞき、適用しない」。
 「航空法・第六章」とは、航空法第57条~99条であるが、ここには最低安全高度を含むいわゆる航空機が飛んではならない区域・高度等が規定されている。ということは、「米軍機はもともと、高度も安全も、なにも守らなくてよい」のである。
 こうして日米地位協定は、免法特権・治外法権・米軍優位の権利関係を規定し、実行されている。本書ではそれを「ドラえもん」の「ジャイアンとスネオ君」の関係に例える。「いじめっ子のそばにいれば、自分はいじめられない。いじめる側にいれば、自分は安心。(略)ジャイアンの不条理な要求、横暴な態度、暴力の前に奴隷のようにひれ伏すスネオ君が、日米関係の日本にたとえられる。しかも、ほかならぬ日本人自身が、そんな自虐的な表現で日米関係を描いている」とされる。
 ではこのような状態は、脱出不可能であるのか? 本書はこれに大きなヒントも与えてくれる。先ほどのQ&Aには、次のような項目も提供されている。
⑪「同じ敗戦国のドイツやイタリア、また準戦時国家である韓国などではどうなっているのですか?」、 ⑫「米軍はなぜイラクから戦後八年で完全撤退したのですか?」、⑬「フィリッピンが憲法改正で米軍を撤退させたというのは本当ですか? それとASEANはなぜ、米軍基地がなくても大丈夫なのですか?」と。
 こうしてわれわれは本当に身近な問題としての日米安保体制に直面することになる。本書の意義は、まさしくこの問題提起にある。一読を勧める次第である。(そして本書によってわれわれはまた、この異常な状況に置かれている首都東京の石原前知事が、自らの足元も見ずに小さな無人島〔尖閣諸島〕の件で「愛国心」をあおって自分の政治的立場を強化しようとした的外れと卑小さをも理解することができるであろう。)(R)

 【出典】 アサート No.451 2015年6月27日

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【コラム】ひとりごと—「労働者派遣法改悪」の嘆き— 

【コラム】ひとりごと—「労働者派遣法改悪」の嘆き— 

 本日、衆議院厚生労働委員会で「労働者派遣法改悪案」が可決した。これまで3年だった派遣労働の受け入れを事実上撤廃し、上限がなかった専門職も一般と同様の扱いにするという今回の改悪は、これまで野党の反対で2度も廃案になった代物。
安倍首相は「働き方の選択が実現できる環境を整備する」等とまるで労働の権利やライフワークバランスを重んじるが如くの主張をしているが、それはハッキリ言って欺瞞だ。特に「労働者派遣法」と女性労働者の貧困との関係では生活保護、両親との不和、若きシングルマザー、ネグレクトと、貧困は多種多様だ。貧困のために学歴もなくキャバクラや風俗業界、出会い系で生き延びる女性達。夫からのDVで精神的に不安定になり離婚後も就業できない女性達。知的障害があるために福祉行政にさえ繋がらず最貧困となった女性達。
 しかし貧困は決して“恵まれない例外的ケース”ではない。現在では学歴もあり、ごく一般的生活を営んできた女性でも貧困は目の前にある。それは “非正規雇用”“派遣労働”という労働形態と大きな相関性が存在するからだ。
『女性たちの貧困 “新たな連鎖”の衝撃』(NHK「女性の貧困」取材班/幻冬舎)ではシングルマザーや恵まれない家庭環境で育った女性達の貧困も取り上げられたが、しかし更に衝撃的なのが“普通の女性たち”が直面する貧困の実態だ。
 近畿地方で暮らす40代のAさんのケースはその典型例だろう。国立大学を卒業し一部上場企業の正社員として就職したAさんは若きエリートのキャリアウーマンでもあった。英語能力も抜群でTOEICは800点台だ。その後結婚したが、夫の転勤を機に退職、2人の息子をもうけた。しかし幸せは長くは続かなかった。原因は夫の長年にわたるDVだ。
 外面はいい夫のモラハラ。そのためAさんは心療内科へ通うほど追い詰められていく。そんな生活を10年近く続けたが、ついに子供を連れ実家に逃げ帰ったという。英語が得意なAさんはそのスキルを活かす職場を求めたが、正社員では見つからず、派遣会社に登録し、その後3年更新の契約で貿易事務の仕事に就いた。しかし、そこは不条理な世界だった。「仕事の内容は正社員とほぼ変わらない。むしろ入社して数年の社員よりも責任の思い仕事を任されることさえある。残業は断れない。それでも正社員と比べると、年収は半分以下。昇給は望めず、ボーナスはもちろん交通費さえ支給されない」
 たまりかねて「正社員になる道はないか」と上司に聞くと「正社員は入社試験を受けて入ってきた。暫く、ここで働いているから正社員になれるなんて不公平ですよ」と信じがたい言葉を投げつけられたという。
 その後、別の貿易事務の仕事に就いたが、ここも3カ月ごとの契約だった。「他に選択肢もないし、自分よりしんどい人と比べて気持ちを落ち着かせるしかないんです。その先に何か希望があれば、辛くても頑張っていけるんですけど。
どんなに理不尽な条件でも、生きるためには黙って受け入れるしかない。この国は結局、そういう我慢強い女性達が支えているんですよ」
 これが貧困の一つの実態だ。高学歴で一部上場企業就職というキャリアがある女性でも、一度レールから外れれば貧困はすぐそこだ。Aさんにしても決して好んで派遣という業態についているのではない。仕方なく、そこに甘んじるしか仕事が、生活する手段がないのだ。
 もう1人、4年制大学を卒業した24歳のBさんも正社員を希望しながら派遣社員とした働く女性だ。
 幼い頃に両親は離婚したが、近くに祖父母も健在で、貧しいながらも母子仲睦まじく、高校の成績も優秀だった。大学へは学校の 奨学金と社会福祉協議会の教育支援を借りて進学した。バイトをしながらも勉学にも励んだというBさん。しかし卒業後は正社員を希望するもリーマンショック後の不景気もあり、東京の観光名所のインフォメーション業務の派遣社員となる。やりがいはあった。でも収入は手取りで月14万円。しかも 2年間正社員と同様に働いたにも関らず、昇給はたった1円、ボーナスもなし。
正社員への道筋もなく、この収入や将来の見通しでは生活がもたないため辞めざるを得なくなったという。「新人研修も担当していたが、入ってきたばかりの新人と10円しか変わらない待遇に、本当に悲しい気持ちになった」
 何とも身に詰まされるエピソードだ。一生懸命働いても、派遣というだけで昇給も賞与もキャリアも詰めない。Bさんのケースだけでなく、多くの派遣労働者達が口にするのは、不安定な身分と給与、職場に蔓延する「社員になどしない」「代りはいくらでもいる」という空気。それ以上に働いても何のキャリアにもならないという絶望感だ。
 大学を卒業しても貧困から逃れられないとなれば、他は推して知るべしだろう。そして結婚もできず50代、60代となれば派遣すら見つけるのも難しい。もちろんキャリアもないシングルマザーも同様だ。多くが希望する正社員等は夢のまた夢。にも関らず、安倍首相は派遣労働をまるで素敵な業態かのような妄言を振りまいているのだ。
「人がライフスタイルや希望に応じて働き方を主体的に選択し、キャリア形成できる」「働き過ぎを防止できる」「働く人のニーズに応える」これらボンボン育ちの安倍首相の言葉が、派遣労働者にとっては妄言、妄想であることは明白だ。
 日本の雇用者全体のうち、非正規雇用者は38.2%、そのうちの女性の割合は実に7割だという。更に2013年の厚生労働省「派遣労働者実態調査」によれば、こうした派遣労働者全体の60.7%もが非正規雇用から正社員として働きたいとの希望をもっている。
多くの女性達にとって派遣労働は“ライフスタイルの選択”等ではなく“不本意”な労働形態なのだ。若い女性も例外ではない。
 それだけではない。20歳から64歳の単身女性の貧困は3人に1人という発表もある(2011年国立社会保障・人口問題研究所)。シングルマザー、単身女性だろうが学歴、キャリアの有無さえも関係なく、貧困は進行している。
 現状でさえ「派遣労働」の実態は「非人間的雇用」なのに、これに「派遣法改悪」されれば、更に派遣社員は正社員にはなれず、企業にとって都合良く使われ、切り捨てられ、貧困へまっしぐらだ。
 現行では派遣期間が3年を超える場合、派遣を解消し企業が直接雇用しなくてはならなかったが、同法改悪案では派遣を“入れ替えれば”いくらでも別の派遣を受け入れることが可能となる。企業や経済界にとっては好都合の法案であり、その先には派遣難民や生涯派遣社員の増加、そして派遣の更なる固定化と貧困層の増大が待っているのだ。
「戦争の出来る国-戦争法制」と「貧困製造マシーン」労働者派遣法改悪。このまま安倍政権が続けば、日本は本当に「雇用関係のモラルハザード」等々、奈落の底に落ちていく。(民守 正義)

 【出典】 アサート No.451 2015年6月27日

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【投稿】 戦争法案を廃案に~求められる平和勢力の連帯~

【投稿】 戦争法案を廃案に~求められる平和勢力の連帯~

<法案成立目論む安倍政権>
 安倍政権は5月14日の臨時閣議で、集団的自衛権の解禁などを核とする「武力攻撃事態法改正案」「重要影響事態法案」「自衛隊法改正案」等日本の交戦権に係わる10法案からなる「平和安全法制整備法」と、PKO活動など海外での武力行使に係わる「国際平和支援法」を決定した。これらの法案は15日、国会に提出され自公与党は夏までの成立を目指すことを確認した。
 これら法案が成立すれば、個別自衛権に基づく専守防衛政策は改廃となり、「憲法9条=戦争の放棄」は事実上放棄される。これにより政権は海外における武力行使についてフリーハンドを得ることとなる。
 さらに、アメリカからの軍事行動への参加要請に対し断る理由がなくなるため、自衛隊が海外で他国や武装勢力などと交戦する危険性は格段に高まることとなる。
 安倍首相は14日夕刻、首相官邸で記者会見を開き「国民に対する説明」を行った。安倍は冒頭「北朝鮮の弾道ミサイル」や「国籍不明機の飛行増加」を例示し危機を煽ったうえ、日米同盟により抑止力は高まり日本が侵攻される可能性は低減する、などという本末転倒の詭弁を並べ立て、戦争法案成立の合理化を目論んだ。
 北朝鮮の弾道ミサイルに関しては、日朝協議の進展による安定的な関係構築が、脅威を除去する最善の方法であろう。
 しかし日本人拉致問題に関する報告内容が、安倍政権の意にそぐわないことを察知した官邸は、朝鮮総聯の本部ビルからの放逐が失敗すると、次は「松茸の密輸」を口実に国策捜査を強行し、北朝鮮を挑発している。
 安倍政権は拉致被害者の帰国が絶望的になった現在、日朝協議の破壊に躍起になっており、そのすべての責任を北朝鮮に負わせようとしているのである。
 中国の偵察行動の背景には、日本の対中国にシフトした急激な軍拡がある。安倍は4月22,23日の「アジア・アフリカ会議」(バンドン会議)で空虚な「反省」を述べ、習近平と偽りの握手を演出し、大事の前の小事を済ませたかのようにそそくさと遣米に出発した。

<存在しない「抑止力」>
 そして、4月29日に上下両院合同議会で自己陶酔的な演説を垂れ流し、外交辞令を勘違いしたのか、翌日日本テレビのインタビューに答え、日米新ガイドラインの制定は北朝鮮、中国の脅威に対抗するため、とオバマも口にしてないことを明言した。
 自ら東アジアの緊張を激化させる行動をとりながら、中国、北朝鮮がその原因であるかのように強弁し、さらなる軍拡の口実としているのが安倍政権の手口である。
「日米同盟強化による抑止力向上」も詭弁である。国家間の紛争防止は当事国間、さらには多国間、国家連合による外交交渉によるところが大きい。
 それが破綻した場合「抑止力」の有無などは関係ない。日露戦争、太平洋戦争は交渉の行き詰まりで日本が先制攻撃をかけたことで始まった。当時の帝政ロシア、アメリカの強大な軍備は抑止力として機能しなかったし、第2次世界大戦以降の国際紛争を見ても、抑止力は砂上の楼閣に過ぎないことは明らかである。
 14日の記者会見では「戦争法案」という指摘に対し「無責任なレッテル」と色をなして反論した。自民党も「平安法案」などという本質を糊塗した愚にもつかないネーミングを提起している。
 安倍は、湾岸戦争やイラク戦争のような国際紛争に自衛隊を派遣することは決してない、現在の対「イスラム国」攻撃への後方支援も行わない、アメリカの戦争に巻き込まれることはない、と述べ集団的自衛権など武力行使に関しては「厳格な歯止め」をかけたことを強調しているが、その場しのぎの弁明であろう。

<「歯止めなき対応」>
そもそも「厳格な歯止め」と「切れ目のない対応」は矛盾し両立するものではない。
個別法案自体も、現行法の制約を撤廃し容易に武力行使への道を拓くものであるが、関連法案は平時から「グレーゾーン」さらには低強度紛争から本格的な戦争へと「切れ目なく」対応していく法体系となっている。
 つまり「厳格な歯止め」が外れて一端個別法案に基づく作戦が発動してしまうと「切れ目のない対応」により、「一発の銃声」から大規模紛争へと連続的にエスカレートしていく危険性を内包している「戦争ドミノ」なのである。
集団的自衛権の行使より敷居が低く、「積極的平和主義」の名のもと今後自衛隊が派遣される機会が増えると考えられる「国際平和支援法案」に基づく活動についても懸念が広がっている。
 軍事ジャーナリストの田岡俊次氏は、アフガンに派遣された豪州軍を参考に、1000人規模の自衛隊が海外で治安維持、補給任務に就いた場合、18名程度の戦死者が出るとの見積もりを出している(DIAMONDonline4月2日号「自衛隊海外派遣で想定される死傷者に我々は耐えられるか」)
 記者会見で安倍は「自衛隊発足以来1800人の隊員が殉職した」と、田岡見積もりの100倍の数字をあげ、戦死に対する予防線を張るという姑息な手段に訴えた。
自衛隊発足以来、「敵弾」で戦死した隊員は皆無、負傷者も不測の事態ではあるが、先ごろのチュニジアテロ事件の元2等陸佐が初めて、というのが現実であり、安倍の発想はあまりに飛躍しすぎであろう。
 記者会見だけでは到底様々な疑念を払拭できないと思ったのであろう、安倍は「国会を通じて丁寧な説明をしていきたい」と述べている。

<矛盾だらけの「Q&A」>
自民党も閣議決定を受け、国民向けに43問にわたる「切れ目のない『平和安全法制』に関わるQ&A」を策定した。
 逐条批判は別の機会にするとして、ここでも問2「我が国を取り巻く安全保障環境の変化とは・・・」に答える形で「中国の対外姿勢と軍事動向等は我が国を含む国際社会の懸念事項」「北朝鮮は日本が射程に入る様々なミサイルを配備」と両国を名指しし、戦争法案制定を正当化しようとしている。
 さらに問10の徴兵制を危惧する問いに対し「全くありえません。憲法18条は『何人も(中略)その意に反する苦役に服させられない』と定めており、徴兵制ができない根拠になっています。自衛隊は『志願制』であり、徴兵制が採用されるようなことはありません」と回答している。
 改憲を志向する自民党が現行憲法を論拠にするのは、そもそも矛盾であろう。また、自民党の現改憲案でも18条の条文はほぼそのままではあるが、徴兵は苦役ではない、と解釈すれば終わりである。
 現行憲法は集団的自衛権を否定していないと解釈する自民党にとっては簡単なことだろう。「自衛隊は志願制」と言っても現在はそうであるというだけである。実際は「予備自衛官」制度に加え陸自「予備自衛官補」制度を設立、今後空海にも拡大し「裾野」を広げようとしている。
 さらに改憲で「国防軍」「自衛軍」が設置されれば話は全く別である。軍事的、経済的整合性からいえば大規模な徴兵など不可能であるが、自民党の改憲案が「だらけた国民を鍛えなおす」意識に立脚したものである以上警戒が必要であろう。
 また他の項目でも今回の戦争法案が、現行憲法の理念に沿ったものなどと強引なこじつけが説明されており、この自民党「Q&A」は怪しげな投資の勧誘手引書のようなものとなっている。
 このような文書で国民の理解は得られないだろうし、丁寧な説明が約束されたはずの国会でも、自公与党は7月末成立ありきの拙速な審議日程を提示し、野党の反発を招いた。
 今後、国会で繰り広げられるのは、数の論理による審議打ち切り―強行採決の連続であろうことは火を見るより明らかである。

<法案の既成事実化>
 法案審議の外では、着々と法案内容の先取り、既成事実化が進んでいる。
 5月12日、海上自衛隊の護衛艦2隻がフィリピン海軍とマニラ湾近海で合同軍事演習を行った。両国の合同演習は初めてである。
 さらに5月13日にはP‐3C哨戒機がベトナムを訪問したことが明らかとなった。艦船、航空機とも海賊対処行動からの帰還途中の行動であるが、日本が南シナ海への進出を具体化させる端緒である。
 また陸上自衛隊は石垣島、宮古島など南西諸島に対艦、対空ミサイル部隊や監視部隊を配備する計画である。これらは中国艦船を「第1列島線」以西に封じ込め、バシー海峡に迂回を強要しそこで補足する戦略であろう。
 こうした自衛隊の活動は、リバランスを言いながらフィリピンへの再駐留は財政的に困難なアメリカにとってありがたいものだろう。そこを見た安倍は日本の国会を無視し、オバマにガイドライン改訂を約束し恩を売ったのである。
 訪米時の厚遇に安倍は喜んでいるが、オバマはその歴史認識、対中、対韓関係まで肯定したわけではない。戦後70年談話発表が近づくにつれ日本には国内外から厳しい視線が注がれている。
 5月6日には世界の歴史学者187人が歴史的事実の歪曲に反対する声明を発した。5月17日那覇市では辺野古新基地建設反対集会に3万5千人が結集した。
8月を再び悔恨の夏としないため、平和勢力は国会内外で連帯して、戦争関連法案を廃案に追い込むことが求められている。(大阪O)

 【出典】 アサート No.450 2015年5月23日

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【投稿】法を守らない国家に法を守らせるには

【投稿】法を守らない国家に法を守らせるには
          —原発再稼働をさせないために—
                        福井 杉本達也 

1 法律を作ったものが法律を守らないとんでもない社会
 日本の法令では1㎡あたり4万ベクレルを超えて放射能で汚れているものは、どんなものでも放射線管理区域外に持ち出してはならないことになっているが、福島原発事故では1万4000平方キロもの大地が4万ベクレル以上の放射能で汚染され、政府はそこに住む数百万人の人々を棄民してしまっている(小出裕章:『世界』2015,5)。日本では被曝の基準は「一般人1年1ミリシーベルト、職業人1年20ミリシーベルト」と決まっている。しかし、「法律には被曝量の規定はない」と多くの専門家が発言するようになった。法律にあるものを「ない」とし、政府、マスコミ、専門家は法令で決まったことを無視し、「1年1ミリ」は分かっているが、それを言うと福島の人が移動しなければならない。お金はもったいないし、原発は再開できないという。「法律で1年1ミリと決まっているのだから、みんなでそれを守ろう。」というのが理屈だが、政府が率先して「約束は守らなくても良い」、「事態が変わったのだから、約束は反故にすべきだ」という。(参照:武田邦彦 2015.5.9~11)
「1年1ミリシーベルト」は国際放射線防護委員会(ICRP)で決められたものだから、日本だけが勝手に基準を変更しようとすると、国際的な非難を浴びることとなる。

2 高浜3、4号機再稼働差し止め仮処分決定の意義と限界
 4月14日の福井地裁の判決は、高浜3,4号の安全性だけでなく、国の新規制基準の在り方をも批判している。判決は、「万が一の事故に備えなければならない原子力発電所の基準地震動を地震の平均像を基に策定することに合理性は見い出し難いから、基準地震動はその実績のみならず理論面でも信頼性を失っていることになる」「本件(高浜)原発の安全施設、安全技術には多方面にわたり脆弱性がある。この脆弱性は、①基準地震動の策定基準を見直し、基準地震動を大幅に引き上げ、それに応じた根本的な耐震工事を実施する、②外部電源と主給水の双方について基準地震動に耐えられるように耐震性をSクラスにする、③使用済み核燃料を堅固な施設で囲い込む、④使用済み核燃料プールの給水設備の耐震性をSクラスにするという各方策がとられることによってしか解消できない」「新規制基準に求められるべき合理性とは、原発の設備が基準に適合すれば深刻な災害を引き起こすおそれが万が一にもないといえるような厳格な内容を備えていることである。しかるに、新規制基準は緩やかにすぎ、これに適合しても本件原発の安全性は確保されていない」と、基準地震動の評価の信頼性を指摘し、原発施設の脆弱性、新規制基準の非合理性を指摘している。全く理路整然とした判決である。外部電源と主給水、使用済み核燃料プールの給水設備を原子炉と同じSクラスの耐震性を持つように工事することも可能であろうが、膨大な費用が掛かる。それでは、再稼働のメリットはなにもない。
 これに対し、判決文でも引用されているが、田中原子力規制委員会委員長の「基準の適合性を審査した。安全だということは申し上げない」としている。基準には適合するが安全ではないという責任逃れをしている。にもかかわらず、菅義偉官房長官は14日午後の定例会見で、「原子力規制委員会が専門的見地から十分に時間をかけて基準に適合すると判断した。その判断を尊重して再稼働を進める方針に変わりはない」と話し、「粛々と進める」と強調し、こちらは安全判断を規制委に丸投げする無責任さであり、政府と規制委のキャッチボールで誰も責任を取らない体制が構築されている。

3 原発再稼働圧力と日米原子力協定について
 今回の福井地裁の決定に関連し、住民側弁護士を務める河合弘之氏(映画『日本と原発』監督)が雑誌『世界』2015年5月号において、「日米原子力協定は脱原発の障害か」として、矢部宏治氏の『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』(集英社インターナショナル:2014)を批判しているので触れておく。河合弁護士は日米原子力協定には「原子力発電」という文言は出てこない。「原子力の平和利用」という文言が出てくるだけで、「原子力の平和利用」と原子力発電は同義ではなく、「原子力の平和利用」を義務づけるのは、核不拡散を定めるためであるとし、原子力発電の分野においては、米国は明確な国際戦略は持たず、強固な国家意思に基づいて政策は決定していないと述べ、敵を実態以上に強大に描いていると矢部氏を批判している。しかし、原発は、1949年、ソ連も核実験を行い、米国の核独占が崩れたことにより、同盟国ばかりか米国自身も動揺したことを受け、米アイゼンハワー大統領が、1953年12月8日にニューヨークの国連総会で行った演説で提唱した「Atoms for Peace」(核の平和利用)という名目で、同盟国の懐柔を図った中で生まれたものである。したがって、明確な国際戦略に基づいていることは疑いえない。河合弁護士の論旨は米核軍産複合体との対決を奇妙に避けている。「原子力の平和利用」と原発を峻別し、あたかも原発以外の核の利用方法があるかのような印象が与えるが、そのようなものはあり得ない。核兵器に使用する濃縮ウランを、また一方で大量に使うことができるのは原発以外にはない。「医療分野」などというのはほとんど付けたしである。氏の論理は脱原発を裁判の枠内に閉じ込めることになりはしないか。

4 街頭デモまたは一揆
 裁判で敗訴しようがどうしようが、徹底して法を守らない国家に対して「国民」はどうすべきか。日本では1980年代以降、3.11までほとんどデモらしきデモはなくなってしまっていた。日本の歴史を紐解くと、「飛礫を打つ」という単純きわまる行動がある。単純であるだけに人間の本源と深くかかわっており、飛礫、石打ちにまつわる習俗は、民族を越えて人類の社会に広く根をはり、無視しがたい大きな役割を果たしてきたと歴史学者:故網野善彦が『異形の王権』(平凡社ライブラリー):「中世の飛礫について」において 指摘している。「飛礫は三宝の所為」といい、つぶてが単なる石ころではなく、神仏の意志がこもっているものとの理解があった。また、つぶてには悪霊を清める力があり、こらしめの呪力があると信じられた。飛礫打ちは、時の権力への不服従を表明している。
 なぜ、デモが無くなっていたかというと、1960年以後のデモは、学生と労働者との断絶が続き、学生デモはより過激になってしまい、これまで普通の市民は参加できなかった。しかも、連合の中心労組は電力総連であり、当然再稼働支持。連合の支援を受ける民主党も原発支持となる。これではデモはできない。
 国民主権といわれ、選挙で投票はするが、「国民」は、それ以降は、議員という代行者(選ばれた時点で国家機構=官僚機構の一部に転化する)に従うほかない。内実は、国家機関としての官僚に従うこととなる。誰かがやってくれるのを待っていると、結局、橋下大阪市長のようなデマゴーグを担ぎ上げることになる。3.11以降毎週金曜日に官邸前でデモがあるが、当初、新聞もテレビも全く報道しなかった。わざわざ遠い海外の出来事である中国の反日デモや香港のデモは大々的に報道するのにである。しかし、今日、インターネットがあり、もはや隠し通すことはできない。
 裁判闘争は脱原発には重要であり、論点を緻密に整理することができる。しかし、裁判所も国家機構の一部であり、費用も時間も労力もかかり、四大公害裁判やハンセン病裁判のような例外もあるが、水俣病裁判のように運動が弱くなれば官僚の設けた枠を突破することは困難である。そこに留まっていては脱原発はできない。自民党は来年度中に年間50ミリシーベルト以下の居住制限区域にも福島県民を住まわせようとしている(朝日:2015.5.14)。日本の法令は1ミリシーベルトなので、その50倍も汚染されている「放射線管理区域」にである。官僚が法令を無視するなら、デモで抗議することが当たり前だというふうにならなければならない(参照:柄谷行人ブログ)。

5 「国際法」あるいは「諸国家連邦」
 台湾は放射性物質が含まれている恐れがあるとして福島第1原発事故後に導入した日本の食品に対する輸入規制を強化する問題で、日台協議が行われたが、物別れに終わり、日本からの食品輸入が全て停止するという(産経:2015.5.14)。発端は、台湾の輸入会社が輸入した味の素や永谷園・はごろもフーズなどのメーカーの食品283種類が、輸入を禁じている福島、茨城、群馬、栃木、千葉の5県産だったが、東京・大阪など他県産と偽る中国語のシールが貼られており、産地偽装が明らかとなったからである。台湾は米国・香港に次ぐ3位の日本からの食品輸出先である。林農相はWTOに提訴すると息巻いているが、日本「国民」には通用する偽装も国際法上は通用しない。米国も5県産については厳しい輸入規制を行っている(JETRO)。
 「一般人1年1ミリシーベルト、職業人1年20ミリシーベルト」についてもICRPの議論の中で決まったことであり、「科学的根拠ない」という批判もあるが、もとも放射線量の考え方はがまん値の考えであり(武谷三男)、核を利用する側と利益を受けず浴びる側との及び諸国家間のせめぎあいの妥協の産物である。もし、仮に日本が一般人の許容基準を「1年20ミリシーベルト」に変えるならば、日本からの輸出食品・工業製品は全て放射能検査されることなる。また、日本に行けば20ミリシーベルトも被曝する恐れがあるとするならば外国からの観光客は激減することとなる。日本で働く外国人は勤務を拒否することもある。そのようなことはこの時代可能なのか。被曝基準を弄るということ=国際基準を無視するということは大変な事態を招くということである。
 田中規制委員長は再三、福島第一原発内に留まる膨大な汚染水の海洋への放出に言及しているが(朝日:2014.12.13)、ロンドン条約では1993年には全て放射性廃棄物の海洋投棄が禁止となっている。太平洋沿岸諸国家に日本政府の無法を訴え、諸国家連邦からの国際的圧力が必要である。 

 【出典】 アサート No.450 2015年5月23日

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【書評】 孫崎享『戦後史の正体 1945-2012』

【書評】 孫崎享『戦後史の正体 1945-2012』
        (2012年、創元社、1,500円+税)
     矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』
        (2014年、集英社インターナショナル、1,200円+税) 

 一方において安倍政権がアメリカ軍との連携を世界的規模ですすめ、「戦争のできる国」への途が着々と施行されており、他方において原発事故、軍事基地によって国民の生命が深刻に脅かされている。この危機的状況にも拘らず、一向に反対運動が目に見える力とならないのは何故なのか。この問題の回答へのヒントを与えてくれる書が出されている。それらはいずれも、第2次大戦後の歴史を根底から見直す視点を提示する。
 孫崎享『戦後史の正体 1945-2012』は、「日米の外交におけるもっとも重要な課題は、つねに存在する米国からの圧力(これは想像以上に強力なものです)に対して『自主』路線と『対米追随』路線のあいだでどのような選択をするか」が「終戦以来、ずっと続いてきたテーマ」であるという視点から、戦後の日本政治を概観する。将棋の盤面に例えれば、「米国は王将」であり、「この王将を守り、相手の王将をとるためにすべての戦略がたてられます」。そこでは米国にとって、日本は「歩」、「桂馬」、「銀」かもしれず、「ときには『飛車』だといってチヤホヤしてくれるかもしれません」(最近国賓待遇でオバマと会見した安倍などはその例であろう)。そして「対戦相手の王将も、ときにソ連、ときにアルカイダ、ときに中国やイランとさまざまに変化」するが、「米国の世界戦略の変化によって、日米関係は大きく揺らいでいる」と要約する。
 ここから戦後の首相たちを「対米追随派」(吉田、池田、中曽根、小泉)と「自主派」(石橋、岸、鳩山一郎、佐藤、田中、福田赳夫、細川、鳩山由紀夫)に分類し、それぞれの政権時の政治状況を分析する。そして長期政権となったのは「対米追随」グループで、「年代的に見ると一九九〇年代以降、積極的な自主派はほとんどいません」。これ以前でも「自主派」は、佐藤を除いて「だいたい米国の関与によって短期政権に終わっています」と指摘する。そしてさらに重要なことは、「占領期以降、日本社会のなかに『自主派』の首相を引きずりおろし、『対米追随派』にすげかえるためのシステムがうめこまれている」。それは戦後「米国と特別な関係をもつ人びと」が政治家、官僚、報道、大学、検察の中に育成され、未だに主導権を握っているという事実を認識しなければならないということである。
 本書は、この米国からの圧力とそれへの抵抗という軸に戦後史を見ることを提唱する。
 また、矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』は、戦前戦後を通じて日本社会の最大の欠点は、「憲法によるコントロールが欠けて」いることであり、その結果として「国民の意思が政治に反映されず、国民の人権が守られない」ことであるとする。そしてその最大の原因は「天皇制というシステムのなかに、憲法を超える(=オーバールールする)機能が内包されている」ことであるとされる。
 すなわち日本の国家権力構造は、(1)戦前(昭和前期)には、【天皇】+日本軍+内務官僚。(2)戦後①(昭和後期)には、【天皇+米軍】+官僚+自民党。(3)戦後②(平成期)には、【米軍】+外務・法務官僚という経緯を経てきたのであり、昭和天皇が亡くなると、米軍と外務・法務官僚が一体化した「天皇なき天皇制」が完成したとされる。それはまさしく「憲法によるコントロール」=「法治国家として日本」の存在が否定されていることを示している。
 本書はこのカラクリを解明するという視点から、「沖縄の謎」(「日米地位協定」の支配ということでは東京も同じ支配下にあることは、オスプレイの配備をみても理解される)、「福島の謎」(「裁量行為論」や法規での「放射性物質の適用除外」の基礎にある「日米原子力協定」の仕組みも「地位協定」と同じ構造を持っている)、「安保村の謎」、「自発的隷属とその歴史的起源」という問題に迫る。
 この日本を支配している構造は、戦後日本のスタート時に、そのボタンを決定的にかけちがったことから始まっているが、その最たるものは、「日本国内で有事、つまり戦争状態になったとアメリカが判断した瞬間、自衛隊は在日米軍の指揮下に入ることが密約で合意されている」(吉田茂の1952年と1954年の口頭での約束–アメリカの公文書に存在している)ことである。このことは、自衛隊の前身である警察予備隊の訓練において号令がすべて英語であったという事実と合致するであろう。
 その上で本書は、「オモテの憲法をどう変えても、その上位法である安保法体系、密約法体系との関係を修正しないかぎり、『戦時には自衛隊は在日米軍の指揮下に入る』ことになる。『戦力』や『行動の自由』をもてばもつほど、米軍の世界戦略のもとで、より便利に、そしてより従属的に使われるというパラドックスにおちいってしまいます」と警告し、「唯一、状況を反転させる方法は、憲法にきちんと『日本は最低限の防衛力をもつこと』を書き、同時に『今後、国内に外国軍基地をおかないこと』を明記する」、「フィリッピンモデル」であることを提唱する。前者の防衛力の問題にはまだまだ議論があろうが、後者の外国軍基地の存続の問題については大いに考えさせる主張である。思えばわれわれは、この問題についてきちんと考えることもしてこなかったという反省を含めて、本書の問題提起を謙虚に受け止めるべきであろう。(R) 

 【出典】 アサート No.450 2015年5月23日

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【投稿】「働く者の労働ニュース1」

【投稿】「働く者の労働ニュース1」

(その1)「育児・介護休業法」で「介護休業・見直し検討へ

<介護休業の拡大検討・離職防止に向けて>
 「育児・介護休業法」の内「育児休業法(制度)」は暫時、見直し改正が行われてきた。しかし「介護休業法(制度)」の方は、利用の実体乖離があるにも関らず見直し・法改正が1995年度以降、行われてこなかった。一方、高齢社会の中で「現行-介護休業制度」が実態上、活用し難い点も顕著化してきた。そこで厚生労働省は、介護休業の規定を大幅に見直す方向で検討に入った。「現行=家族1人に対し、通算93日」としている介護休業の期間の拡大を目指す。年間約10万人が介護を理由に離職する現状を重く見て、仕事と介護を両立できる環境整備を進める。
 本月19日に有識者による研究会を設置し、来年6月頃までに報告書をまとめる。その後、経営者と労組の代表が参加する労働政策審議会の分科会で具体的な制度の在り方を協議し、早ければ2016年の通常国会に改正法案を提出⇒2017年からの導入を目指す。
 厚生労働省によると、高齢化の進展で要介護認定を受けている人は10年前の約1.6倍に急増した。政府は施設での介護から住み慣れた自宅での介護推進へと方針転換しており、仕事を辞めざるを得ない人が増える恐れがある。
 仕事と介護の両立をしやすくするため、厚生労働省は休業期間の延長を検討。また休みを細かく分けて取りたいとの声も多く、短期間の介護休業が取りやすくなるよう制度を見直す。認知症高齢者の徘徊などにも対応できるようにする。
 具体的な見直し検討課題は、①病気やケガ毎に1回のまとめ取りしかできない「介護休業」を分割できるようにする。②また年5日までの「介護休暇」も細かく取りやすく見直す。③特に認知症患者の場合、公的介護サービスを使っていても家族による世話が必要なケースもあり、断続的に休める仕組みを目指す。④一日単位の介護休暇も半日や時間単位で取得可能を検討する。

<「介護」の現状>
 介護する労働者は2012年で約240万人だが、介護休業利用は3.2%、介護休暇は2.3%に留まる。また介護の為に連続して休んだ人の4割が年次有給休暇を利用していた。
 労働者側からは「仕事と介護を両立させるには分けて休める方がいい」といった声も強まっている。
 また介護開始時に仕事をしていた人の内、2割弱が辞職したという調査もある。こうした「介護離職」を少しでも減らす事も「介護制度見直し」の目的だ。
 厚生労働省は昨秋、有識者の研究会を立ち上げ、制度見直しの検討を始めた。

(その2)「長時間労働-ブラック企業公表」に「新基準」
 違法な「長時間労働」を繰り返す、いわゆる「ブラック企業」について、塩崎厚生労働大臣は本月15日、企業名を早期に公表する新たな基準を明らかにした。
 今の企業名の公表基準は「長時間労働」で法律違反した場合、労働基準監督署が是正勧告する。その是正勧告に従わない悪質な企業に限って書類送検して社名を原則公表している。それでも2013年に公表された件数は、僅か100件程度だという。
 今度の新基準は本月18日から実施されるが、複数の都道府県に支店や工場を持つ「大企業」に限られて対象になる。
 具体的には「残業代未払い」といった違法行為があり、残業時間や休日に働いた時間が月100時間を超える労働者が、一か所に10人以上または全体の4分の1以上いる事等を基準にする。ただ年間に3カ所以上で違法な長時間労働がなければ公表されないため、実際の公表企業数は限られ、基本的に「ザル法」の誹りは免れない。
 また実際には「長時間労働」が常態化・蔓延化しており、なおかつ圧倒的に多い「中小企業」への特段の対策は講じられていない。
 私は以前にも述べたが、本当に今の派遣労働者をはじめとする「非正規雇用労働者」は、労働基準監督署等の「行政監督庁」の行政指導等を信用していない。
 だから、このような「企業名の公表」を小出しに提示しても、あまり期待されず、それよりも「ツイッターで流しちゃえ!」と自分で「企業名公表」する事も流行りだしている。
 厚生労働省は「余程、酷い企業だけでも見せしめ的に『企業名公表』すれば―」と思っているかも知れないが、労働者も企業からの従属意識離れが進んでいる。その意識状況変化の先には「雇用関係全般のモラルハザードがある」ことぐらいは予測して、結局は「小手先ばかりで収拾つかず」となることを解っておくべきだ。

(その3)「生涯『派遣労働』法案-「労働者派遣法改悪案」実質審議入り」
 「生涯『派遣労働』法案-「労働者派遣法改悪案」が12日、衆院本会議で実質審議入りした。「同法改悪案」は二度、廃案になった経緯があるものだ。
 今国会には「残業代ボッタクリ法案=労働基準法改悪案」も控えており、これから労働法制を巡る論議が本格化する。今回の「同法改悪案」の具体内容は先の「今、闘わなければ、いつ闘う!改悪労働者派遣法」に詳しく記載しているので再度、一読して頂きたいが、特に大きな改悪ポイントは「派遣労働者(本人)個人単位の派遣期間が3年が限度(クビ)」に対し派遣先事業所は事実上、3年毎の更新手続(労働組合or従業員代表の意見聴取)さえ行えば、永続的に派遣労働者を使用できる点だ。
 安倍総理は12日の国会で「派遣期間が終わった場合、正社員になったり、別会社で働き続けたりする事ができるようにする。賃金等の面で待遇改善を図る」と実際には根拠となる仕組みもなく詭弁説明した。しかし、この安倍総理の詭弁説明に社民党・共産党等は当然のこと、多くの派遣労働者から反発ブーイング。今まで「労働者派遣法改悪」で何度も騙してきた結果のブーイングだ。本当に「今こそ闘うとき」だ!(民守 正義) 

(編集委員会より)
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 【出典】 アサート No.450 2015年5月23日

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【コラム】 ひとりごと–大阪都構想否決に思う–

【コラム】 ひとりごと–大阪都構想否決に思う–

〇5月17日に、「大阪市廃止・分割構想」の賛否を問う住民投票が行われた。結果は、1万票の差を付けて、反対が賛成を上回り、橋下維新が推進しようとした「大阪都構想」は、住民によって否決された。(反対705585票、賛成694844票 投票率66.83%)〇事前調査では、賛否が拮抗し、その結果が注目されていた。〇そもそも、大阪都構想は、大阪市民にとって財源と権限を大阪府に吸い上げられ、住民サービスも低下することが確実な構想である。〇橋下維新は、住民投票告示後、潤沢な資金を投入し、テレビCMや宣伝ビラの全戸配布などを行ったが、その内容は、イメージ戦術の域を出るものではなかった。最後まで橋下人気にすがった戦略であった。少々上滑りの感があったようだ。〇一方、反対派は、財政や住民サービスの低下、特別区設置による新たな財政負担が生じるなどの具体的問題点を突き、迷っているなら「反対票」を入れようと、4党が共同して、反対運動を展開したことが、僅差であっても反対多数を獲得した要因だろうと思われる。〇象徴的だったのは、否決後の橋下の記者会見である。橋下が「政治家引退」を発言すると、この問題に質問は終始した。都構想という「改革案」に問題はなかったのか、との質問も出ないし、橋下も「住民投票の結果で、それは終わった話である」という。〇すべて、橋下に「ふりまわされてきた」ここ数年の大阪であった。〇今日の時点では、まだまだ不透明な点もあるが、「大阪都構想」を党是としてきた維新の党も、改憲政党として期待してきた自民党中央にも、大きな影響を与えることだろう。〇そもそも、住民投票の根拠となった「特別区設置法」は、大阪都構想実現のためだけに制定されたものであり、今回の住民投票も、維新・公明の野合によって強行された。制度改正についての真摯で徹底した議論は橋下によって意図的に回避された。しかし、橋下の人気だけで勝利するという目論見は退けられ、「住民投票で敗北したら、政治家引退」を口にする戦略も、功を奏さなかった。〇正直、ほっとしているところだが、橋下引退・維新解体ということは、自民党が大阪府・大阪市で多数になることを意味し、また新たな政治地図が生まれることになる。〇橋下によって弱体させられた労働組合運動も新たな出発というか、再建をめざす必要があるだろう。(2015-05-18佐野)

【出典】 アサート No.450 2015年5月23日

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【投稿】アメリカの衰退と孤立する安倍政権

【投稿】アメリカの衰退と孤立する安倍政権

<中国の影響力拡大>
 安倍政権はアメリカの覇権を前提として、新たな安全保障法制整備を目論んでいる。このうち集団的自衛権解禁の論拠の一つとして、紛争地から邦人を輸送する米艦護衛を挙げている。
 しかし先日、混迷を深めるイエメンでこの想定に重大な疑義が生じる事態が発生した。4月2日、アメリカ国務省はイエメン在住アメリカ市民に対し、同国の空港のほとんどが戦闘激化により使用不能となったので、外国艦船に便乗して退去することを勧告した。
 イエメン近海には、ペルシャ湾に対「イスラム国」作戦中の、アメリカ、フランスの原子力空母部隊、ソマリア沖に海賊対策、さらにテロ対策に従事している多国籍艦隊が展開している。
 フランス、ロシア、韓国、インドなどは自国市民保護のため、艦艇を派遣したが、アメリカは、空母に随伴している駆逐艦などを救出活動に派遣することはなかった。アメリカは早期にイエメンから大使館員や軍部隊を撤収させ、「フーシ」を攻撃するサウジアラビアなどへの軍事的支援を継続している。
 しかし民間人保護に関しては他国任せとなっており、この地域での部隊の運用に余裕がないことを物語っている。
 これと対照的な動きを見せたのが中国である。中国はいち早く3月下旬からイエメンに艦隊を派遣、港湾に特殊部隊を配置したうえ、自国民のみならず多数の外国人を収容し、ジプチなどに移送している。
 4月7日には補給艦「微山」が日本人を乗せてオマーンに入港したことが明らかとなった。
 この想定外の事態に菅官房長官も中国に対し渋々「謝意」を表さざるを得なかった。安倍政権が思い描く朝鮮半島有事での主役はアメリカであるが、万が一南北武力衝突が惹起した場合、民間人保護に重要な役割を果たすのは中国、ロシアであろう。
 中国を巡るこの間最大の想定外の事態は、AIIB(アジアインフラ投資銀行)を巡る動きである。同銀行への創設時加盟申請は57か国に及んでいる。開発途上国、新興国は言うに及ばず、G20、G7加盟国からも加盟申請が相次いだ。
 アジア、オセアニアからは韓国、インド、オーストラリアに加え、中国とは南シナ海を巡る領土問題で激しく対立しているはずのフィリピン、ベトナムも加盟する。
 安倍政権の「価値観外交」がいかに無価値であったかを如実に物語っている。安倍は官邸で状況報告を受け「聞いていた話と違うではないか」と官僚に当り散らしたという。己の無知蒙昧さを恥じるべきであろう。こうした一連の出来事は、国際社会におけるアメリカの地位低下と中国の影響力拡大を示すものである。

<アメリカ世界戦略の実態>
 この間アメリカは中国の軍拡、海洋進出に関し盛んに警鐘を鳴らしている。しかしそれらはリップサービスに止まり、1996年台湾総統選挙に係わり、台湾海峡に空母部隊を派遣したような実態を伴うものとはなっていない。
 4月1日には岩国基地から嘉手納を経由し、シンガポールに向かっていた海兵隊の戦闘機2機が台南空港に「緊急着陸」した。武装した米軍機の台湾着陸は35年ぶりであり、これは意図的なものとも考えられているが、96年の空母2隻とは比べものにならない。
 中国はこの「台湾海峡危機」以降、アメリカ軍のプレゼンスを排除する「接近阻止戦略」に基づき海軍力の増強を進めており、状況は大きく変わっている。南シナ海に空母部隊を展開させるのはリスクが大きすぎる。
 それどころかアメリカでは、政権内からも「中国に近すぎる沖縄などに部隊を配備しておくのは危険である」という主張が唱えられている。
 アメリカの対中軍事戦略としては、従来の前方展開戦略を改め、日本本土からグアムに至るライン以東からの長距離攻撃を軸とする「エアシーバトル戦略」が主軸になってきている。
 ワームス国防次官は、南シナ海や東シナ海での中国の動きに警戒を示したうえで「沖縄に集中している兵力のハワイ、グアムや日本本土、オーストラリアへの分散を進めている」と述べている。
 またカーター国防長官は訪日を前にした4月6日の講演で、「中国がアメリカをアジアから排除するとか、この地域でのアメリカの経済的機会が中国により奪われるとの主張があるが、そうした見解には与しない」旨を明らかにしている。
 オバマ政権の唱えるリバランス政策とは、今後経済的発展が見込まれるアジア地域でのTPPに基づく権益の確保が第1義であり、中国と本気で軍事的に対峙しようという考えではない。
 だからこそ「危険な」最前線から撤退するのであり「エアシーバトル戦略」は、旧日本軍の大本営発表における「転進」と同様であろう。
 世界的に見てもオバマ政権の基本政策は「緊張回避」である。中東地域からの地上部隊の撤収、キューバとの関係正常化、イランとの核開発問題合意などを「切れ目なく」推進している。
 一方でアメリカ軍部としては、存在力と予算を確保しなければならない。中東地域における限定的な空爆だけでは、多数の原子力潜水艦や空母、戦略爆撃機を維持する理由にはならない。
 そこで中国との正面衝突は避けつつ、適当な緊張状態は維持していくことが基本となっている。「エアシーバトル戦略」はそのようにも利用され、海軍、空軍の権益を擁護している。
 陸軍はイラク戦争以降その価値は低下し、第2次大戦後最少まで縮小されようとしている。しかしウクライナ危機が僥倖となった。この間アメリカ陸軍はロシアと国境を接する東欧諸国を縦断する形で演習を実施し、存在意義をアピールしている。 ただオバマ政権は、ウクライナには訓練部隊の派遣に止め、同国への重火器類の供与にも慎重であり、危機回避に基づくコントロールに腐心している。

<的外れな安倍軍拡
 安倍政権は、このようなアメリカの思惑を一知半解的に捉え、アジアから世界へ緊張を拡大しているが、核心は対中軍拡と東シナ海での武力行使である。
 そしてその要となるのがアメリカ海兵隊と考えているようである。実はアメリカ3軍が巧妙に存在意義を演出しているのに対し海兵隊は宙に浮いている。今後予想される中東地域での作戦でも海兵隊の出番はなく、投入されるのは「Navy SEALs」などの特殊部隊となる。
「エアシーバトル戦略」でも沖縄駐留海兵隊は撤収、縮小の対象である。この海兵隊の最大の援軍が安倍政権である。海兵隊が「中国軍に占領された尖閣諸島」に上陸するかのような幻想をふりまき、沖縄居座りを継続しようとしている。このおかげで海兵隊は「日本政府が駐留を望んでいる」とアピールできる。
 この様な「対中日米共同作戦」を推進するため、「見返り」として世界的規模での日米共同作戦を可能にする、新たな安全保障法制整備を強行しようとしている。これまでに与党協議会では、現行の周辺事態法から周辺概念を撤廃したうえ「重要影響事態法」として、地理的制約なしでのアメリカ軍への後方支援を可能としようとしている。
 集団的自衛権の根拠として「武力攻撃事態法」に「存立危機事態」が規定される。この発動要件として「我が国の存立を全うし、国民を守るために他の適当な手段がない」との文言が、対処基本方針に記載され、これが歯止めとなると言われている。
しかしこのような抽象的な表現では、時の政権の判断でどのようにでも解釈できるものである。「敵」の投入戦力の評価など、具体的な数値基準がなければ無意味であろう。
 自衛隊が集団的自衛権を行使する地域として、中東とりわけホルムズ海峡での機雷掃海が考えられている。しかし、イランの核開発問題が包括合意に向かう中で、アメリカも要請してない作戦を吹聴するのは常軌を逸している。
 同海域で機雷封鎖があるとすれば引き金はイスラエルの暴発であろう。当のアメリカさえ距離を置いているネタニヤフ首相に、のこのこと会いに行き、中東地域の混迷に油を注いだ安倍が、機雷掃海などというのは「マッチポンプ」以外の何物でもないだろう。
 安倍政権がこのまま新たな安保法制に基づく軍拡と緊張激化政策を続ければ、中東地域はもとよりアジアでもアメリカの戦略と齟齬をきたすだろう。
 アメリカのアジアに於ける最大の懸念事項は、安倍の歴史修正主義と強権的政治姿勢である。4月17日安倍は翁長沖縄県知事と初めての会談を持った。訪米前に「沖縄と話し合いはしています」との体裁を整えたかったのだろうが、翁長知事は「辺野古移設は無理という沖縄の民意をオバマ大統領に伝えてほしい」と要望し安倍を慌てさせた。
 予定されるアメリカ議会での演説は、関係国に配慮せざるを得ないだろうが、戦後70年談話は、官邸のなすがままにすれば「新たな宣戦布告」になりかねない。安倍政権の動きに対し国内外での憂慮と警戒の声は高まっている。天皇も年頭あいさつに続き、パラオ訪問に先立つ行事で安倍を前に「悲しい歴史があったことを忘れてはならない」と発言した(※)。
 これに対し政府、自民党は言論抑圧、運動弾圧で臨もうとしている。4月5日沖縄を訪問した菅官房長官は翁長知事、県民の厳しい追及に「今後粛々は言わない」と述べた。しかし高浜原発再稼働差し止めに関し記者会見で「政府の原発政策は粛々と進める」と発言、国会で「粛々」「我が軍」と発言した安倍と相まって政権は全く反省していないことが露呈した。
 こうした状況の中、今回の統一自治体選挙では、府県議会で共産党が80議席から111議席に増加したが、総体的に平和勢力の力不足が明らかとなった。地域からの運動の再構築が求められている。(大阪O)

【出典】 アサート No.449 2015年4月25日

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【投稿】ブレトンウッズ体制に対抗するアジアインフラ投資銀行

【投稿】ブレトンウッズ体制に対抗するアジアインフラ投資銀行
                            福井 杉本達也 

1 ドル基軸通貨体制から離脱する英国
 中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)をめぐる激震は3月13日の英国の突然の参加表明から起こった。国際金融は米(ウオール街)と英(シティ)を結ぶアングロサクソン枢軸によって長年握られてきた。その枢軸が崩れたのである。英国が長年の盟友である米国を切り捨てて中国主導の投資銀行に参加する必要性がどこにあったのか。
 ロイターによると「英政府の関係筋は『国際金融において中国の良きパートナーでありたい』と語った。また、『米国が同じ立場でないことは理解していたが、それを承知で動いた』と述べた。」(ロイター:2015.3.24)と報道している。既に、ロンドンは人民元取引の中核市場の一角として、人民元の決済システムを導入している。また、イングランド銀行(中央銀行)は2013年、中国とポンド・人民元通貨スワップ協定を締結している。また、実質上香港に拠点を構える英金融最大手のHSBC(香港上海銀行:英国による東アジア植民地経営の発展とともに成長した銀行)などは2014年11月から開始された上海証券取引所と香港証券取引所の相互取引(将来、深圳取引所も参加か)などを活用して中国―アジア金融市場に確固とした橋頭堡を築こうとしている。
 米国はこうした一連の流れを阻止しようと2014年にはニューヨーク、ロンドンに次ぐ国際金融センターである香港の中環(「セントラル」)を占拠する「雨傘革命」を企てたが失敗に終わっている。New Eastern Outlook(2014.10.1)によると「Hong Kong’s “Occupy Central” is US-backed Sedition」という見出しで、米国務省が資金を提供している全米民主主義基金(National Endowment for Democracy NED)が香港のデモに関与していると指摘した。NEDは非営利団体として、国務省との関連が強いばかりか、連邦議会からも活動資金を受け取っている。NEDは香港が返還されて以降、自分たちが権力に付けたい候補に金銭的、戦略的な支援を行っている。
 中国と英国はリーマンショック以来8年、賞味期限がとっくに過ぎ悪臭をぷんぷんと放つドル基軸通貨体制(ブレトンウッズ体制)を切り捨て、新しいドルに代わる国際決済インフラの整備に乗り出したといえる。既に英国は通貨ばかりではなく、米国のシリア空爆を止めさせたほか、軍事予算においてもナポレオン戦争以来最低の水準にまで通常兵力を削減。対「イスラム国」有志連合へは「驚くほど控えめな役割を演じ」、ウクライナ問題では「悲劇的な読み違え」をしたと揶揄されるほど米国との距離をとり始めている(日経=英フィナンシャル・タイムズ特約2015.2.28)。

2 「日本は迷走」ではなく「金融インフラを掘り崩し」
 AIIBへの参加締切日の翌日、日経新聞は「日本の対処後手に・英の参加誤算・6月末までに再判断」との見出しで「『お粗末だった』。首相周辺の一人は後手に回ったアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対応を、自戒の念を込めてこう振り返える」と書いた(2015.4.1)。一方、内田樹は「AIIBへの不参加が客観的な情勢判断に基づいて『国益に資する』としてなされた決定であるなら、それはひとつの政治的見識であることを私も認める。けれども、その決定の根拠が『アメリカによく思われること』であるというのなら、それは主権国家のふるまいとは言いがたい。主権国家はまず自国の国益に配慮する。韓国も台湾もオーストラリアもそうした。日本だけがしなかった。というかできなかった」と述べる(HP内田樹の研究室:2015.4.4)。確かに米国の属国の分際であるから韓国や台湾のように国益を主張できるわけはない。しかし、それ以前の一連の安倍政権のアジア金融制度への対応を見ているとさらに深刻な景色が見て取れる。
 今年2月23日、金融危機に備えて緊急時に通貨を融通しあう日韓通貨交換(スワップ)協定が失効した。通貨交換協定は外貨不足に陥った場合、自国通貨と引き換えに締結相手国が持つ米ドルを融通してもらえる仕組みである。1997年のアジア通貨危機を教訓に日韓両政府は2001年に協定を結び2011年の欧州危機でウォンが急落した際には融通枠を700億ドルまで拡大したが(福井:2015.2.15)、冷却化により終焉することとなった。一方、日中通貨交換協定の方は尖閣問題などで悪化する中、2013年9月の停止以降1年半以上も店晒しとなっている(日経:2014.8.10)。チェンマイ・イニシアチブ(ASEAN+日中韓)の方は、アジア地域で連携して通貨暴落などによる経済危機を防ぐ仕組みがあり、IMFに依存せず、域内で自律的に危機対応できる体制で、2014年7月に資金枠を2400億ドルに倍増したので、直ちに影響が出るわけではないが、中枢に位置する日⇔中、日⇔韓のスワップ停止は根幹を揺るがすこととなりかねない。日本は、アジア通貨危機以来積み重ねてきた金融インフラを自ら壊し始めている。この政権はなんら建設的な提案をできず、ひたすらこれまでの良好な経済・金融関係を崩すという、『破壊』のみを目的としているようである。
 G20会議においても、麻生財務相は、AIIBについて「国際的なスタンダードに基づく運営が重要だ」と述べたが(日経:4.18)、「国際的なスタンダード」とは旧態然たるIMF体制(ドル基軸体制)のことを繰り返しているに過ぎない。建設的な意見は何もない。
 いずれドル基軸体制は行き詰る。ドルをいくら抱えていても、その時には紙くずになりかねない。中国はそれを恐れて米国債の売却を始めている。米財務省の統計によると、中国の米国債保有額は1兆2237億ドルで、6年半ぶりに日本の保有額1兆2244億ドルを下回ったと発表された(日経:4.17)。日本ではそのような将来を想像することすらはばかれる。いつか、日本が所有する米国債は紙くずになるが、日本は「それも仕方ない」とあきらめるのであろう。長年、属国の地位にあると、『国益』とは『米国益』と考える習性が染み付いてしまっている。

3 中国を拒絶するIMF、それでも中国は資本輸出国へ
「中国が主要な国際金融機関を「迂回」する決断を下した要因は、それらの機関を率いる先進諸国が中国に対し、その経済力にふさわしい役割を与えなかったことにある。例えばアジア開発銀行(ADB)では、日本とアメリカの議決権数はそれぞれ全加盟国投票権数の約13%だが、中国は6%に満たず、総裁は常に日本人が務めている。世界銀行の総裁は常にアメリカ人、IMF(国際通貨基金)の事務局長は常にヨーロッパ人だ。IMFについては、10年に20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)で中国の出資割当額の増額が合意されたものの、米議会が批准を拒んでいるために改革が進んでいない。」(ハビエル・ソラナ(元EU上級代表)ニューズウィーク日本語版:2015.4.14)
 こうした中、中国は「資本の純輸出国」に変化しつつある。2014年10~12月期で資本収支が912億ドルの赤字となっていることからも裏付けられるが、先の全人代では中国の発展戦略として「一帯一路」戦略を打ち出し、中国から中央アジア(陸)・東南・南アジア(海)を経由して欧州に至る「シルクロード」構想を打ち出している(梶谷懐:「資本の純輸出国に定着へ」日経:2015.3.26)。

4 アジア通貨危機の教訓を引き継ぐAIIBと世界を『破壊』するIMF
 1997年のアジア通貨危機の直前、90年代のアジアは高成長をしていたが、投資資金を国際金融市場から短期調達し、それを国内向けに長期運用していた。ところが、米国は経常収支の赤字を補填するため「強いドル政策」を採用し、市場からドルを吸収したことで、ドル高となった。アジア諸国の通貨はドルに連動するドルペッグ制が採られていたため、通貨が過大評価されることとなった。ジョージ・ソロスなど米国のヘッジファンドはアジア各国通貨を売り崩せれば巨額の利益を得られと考え、売りを浴びせたことで通貨が暴落。通貨危機にあたりIMF が融資の条件として景気後退期に緊縮財政や高金利政策を課したことが危機をより深刻なものとした。それまで好景気を謳歌していた東南アジアや韓国経済はどん底に突き落とされ、インドネシアでは32年間続いたスハルト独裁政権が崩壊した。
 その後、アジア諸国は再び高成長をしているが、アジア通貨危機の傷はいまも深く残っている。インドネシアのジャカルタやタイのバンコクなど、アジアの諸都市は資金難からインフラ投資ができず大渋滞である。わずか10分ほどの距離に1時間以上もかかる。バンコクから観光地アユタヤに向かう途中、高速道路と並行して「レッドライン」(都市鉄道)が建設中である。そのすぐ脇に黒ずんだ建設途中で放棄された橋脚が林立している。1993年に香港資本によって着手された高架上に六車線の高速道路を建設する総額3,200億円もの計画であったが、アジア通貨危機により建設が中止されてしまった。タイ人は今もその橋脚を苦々しく見続けている。
 3月末に訪日したインドネシアのジョコ大統領は、日中を天秤にかけ、遅れているインフラ開発への協力を呼びかけた。また、タイ軍事政権のプラユット暫定首相は、2月に先進国としては初めて日本に外遊をした。当初、日本はタクシン金融資本を支持する米国に追随し、軍事政権には批判的であったが、4000社が進出し、10万人もの日本人が滞在するタイの現状を無視することはできなかった。プラユット首相も日中を天秤にかけている。タイに対する今回の大きな政策転換は、対米従属を国是とする日本にとって最近では唯一の「反抗」である。東アジア+ASEANとの経済関係において日本は追い詰められている。
 ドル基軸体制はドル=石油=軍事体制でもある。ドルの揺らぎを石油のドル取引きや軍事手段によって補完する。石油価格の暴落によってロシアやベネズエラなど産油国経済に打撃を与え、暴騰によって中国経済などに打撃を与えることができる。ウクライナやイラン・シリア・「イスラム国」・イエメンなどにおける軍事的脅しもある。しかし、自暴自棄の『破壊』からは何も生まれない。2014年5月、中ロ間で石油・ガスに関する戦略的エネルギー協力関係に合意したことで、石油から自由になり、中国の「シルクロード」構想が開ける。AIIBは『破壊』による脅しだけで自らの地位を守ろうとするIMF体制に代わる第一歩となろう。

【出典】 アサート No.449 2015年4月25日

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【投稿】統一地方選をめぐって 統一戦線論(15) 

【投稿】 統一地方選をめぐって 統一戦線論(15) 

<<道知事選が示したもの>>
 統一地方選で与野党の直接対決が注目を集め、現職・高橋はるみ氏を立てる安倍自民が、滋賀、沖縄、佐賀に続いて4連敗をする可能性が最も期待された北海道知事選ではあったが、その逆転劇は成らなかった。
 結果は、投票率:59.62%(前回比:+0.16ポイント)
高橋はるみ   1,496,915票 得票率56.6%
佐藤のりゆき   1,146,573票    43.4% であった。
 4年前の前回は、高橋氏=1,848,504票(得票率69.44%)で、次点の民主・社民・国民推薦の木村俊昭氏(544,319票、20.45%)、共産推薦の宮内聡氏(176,544票、6.63%)、次点とは130万票以上もの大差で勝利していたことからすれば、高橋氏は大きく票を減らした。今回、過去に高橋氏と争った候補では初めて100万票台を超えた佐藤氏は、民主党北海道と市民ネットワーク北海道が支持、共産党道委員会、新党大地、維新の党道総支部、社民党道連が支援する、野党連合の結集によって大いに接戦したとは言える。
 しかしその統一戦線は、その形成があまりにも遅く、民主党は足並みの乱れで直前までもつれ、様子見で出遅れた共産党の支持決定も遅すぎたと言える。とりわけ民主党は、地元の横路孝弘衆院議員らが佐藤氏の適格性を問題視し、岡田代表も民主党・道連からの要望がないことを理由に党を挙げた支援をせず、同日投票日であった札幌市長選の応援に入った蓮舫参院議員が北海道知事選では街宣車にも乗らず、素通りしたという。北海道で最大の支持基盤を持つ民主党が事実上の不統一、混迷を露わにするものであった。結果として、それぞれがちぐはぐで、かみ合った統一した力を発揮することができなかったところに重要な敗因の一つがあると言えよう。有権者はそうした厳しい現実を冷静に直視していたとも言える。昨年12月衆院選の沖縄全小選挙区で実現したような選挙協力、統一戦線構築ができなかったのである。
 そして一方の野党連合の挑戦を受ける側の高橋氏は、徹底した争点隠しに徹し、本来は最大の争点であった北海道電力・泊原発の再稼動問題について、3/26の第一声でも、「脱原発依存社会を目指す」と訴え、「再稼働は慎重に」とまで発言していたと言う。しかし、たとえ「二枚舌」と揶揄・批判されても、相手候補の主張を取り入れ、肩透かしを食らわせたその選挙戦術は、とりあえずは成功したとしても、自らの今後をも縛るものである。沖縄の仲井眞前知事のように、自らの言辞を翻せば、重大なしっぺ返しを受けることになろう。

<<過去最低の投票率>>
 今回の統一地方選で、北海道知事選は与野党の直接対決としては唯一とも言え、投票率が少しではあるが上がっている。しかし、統一地方選前半戦の10道県知事選の確定投票率は47・14%で、統一選として過去最低だった2003年の52・63%を下回り、初の50%割れとなった。41道府県議選の投票率も過去最低の45・05%となり、これまで最低だった前回2011年の48・15%から3・10ポイント低下している。
 5政令市長選は51・57%(前回比2・38ポイント減)、17政令市議選は44・28%(同3・31ポイント減)で、いずれも過去最低だった。
 知事選や政令市長選の投票率低下は、与野党が相乗りで現職を支援した例が多く(10知事選で6知事選)、41道府県議選は5人に1人が無投票当選で、自民系348人が開票前に当選している。
 与野党相乗りや無投票当選の続出は、当然のこととして投票率の低下を招く。結果として、地方政治は形骸化し、野党の出番はなく、見限られ、議会や政党政治への根強い不信感があまねく広がり、選挙制度も含めた民主主義自体も形骸化し、劣化して行く。これらは独裁政治の温床であり、安倍政権が期待しているのは、まさにこういう事態、ファシズム移行期の政治とも言えよう。
 それは、野党が選択に値する政策を提示できず、事実上自民党と変わらない政策で混迷を深めている現状では、野党の出番はなく、見限られている現われでもある。「有権者の関心が十分に高まらなかった」というよりは、事実上の野党の不在、自民党と対抗する野党勢力の結集、統一戦線の不在こそが、こうした事態の根本原因とも言えよう。
 野党各党は、それぞれ離合集散を繰り返しているが、いずれも請け負い主義が基本であり、「わが党に託せば」という代行主義であって、大きく野党を結集し、統一戦線によって、主権者と共に政治を変革していくという根本的な政治姿勢が欠如しているのである。それは、「自共対決」を独りよがりに叫ぶ共産党についても、この代行主義・請負主義が一貫している。唯一自民党に対する対案を提示しているとして、確かに一定の反自民の受け皿の一つとして評価もでき、支持もされているのであるが、牢固としたセクト主義と請負主義から脱しえていないために、統一戦線を大きく広範に形成する主導勢力になりえていない。

<<「重く受け止めなければいけない」>>
 ファシズム的温床の重要な一角を担い、安倍政権から最も期待をかけられているのが、橋下徹氏率いる「大阪維新の会」である。
 その維新は、今回の統一地方選で同日に行われた府議選と大阪市議選を都構想の賛否を問う住民投票(5月17日実施)の前哨戦と位置付け、府議選(定数88)で前回同様過半数獲得、市議選(定数86)で第1党の維持を目指していたが、ともに第1党になったものの、府議選では獲得議席が42と過半数に届かなかった。もちろん、市議選でも過半数に届いていない。
 大阪府議選の結果は、維新 42(選挙前45)、自民 21(〃12)、公明 15(〃21)、共産 3(〃4)、民主 1(〃7)、無所属6(〃12)であった。
 「大阪維新の会」の松井一郎幹事長(大阪府知事)は4/12夜、党本部で記者会見し、大阪市を五つの特別区に分割する「大阪都」構想の是非が争点となった大阪府議選(定数88)で過半数に届かなかったことについて、「負け」と総括し、「幹事長である僕の力不足。都構想の中身を十分に伝えきれなかった」と敗因を分析した。
 大阪市議選の結果は、維新 36(選挙前29)、自民 19(〃18)、公明 19(〃19)、共産 →9(〃8)、民主 →0(〃6)、無所属→3(〃5)であった。
 大阪維新の会の橋下徹代表(大阪市長)は4/13午後、統一地方選の結果について「一定の結果を出してくれたというのは、各候補者がこれまでの改革の必要性をしっかり説明してくれた結果なのかと思う」と評価する一方で、府議選で大阪市内の維新候補が7人落選したことを挙げ、「重く受け止めなければいけない」と語らざるをえなかった。
 ここでも民主党は、大阪府議会で議席数1、大阪市議会では議席ゼロという、立て直しどころか壊滅的打撃を蒙り、有権者から見離されている事態である。
 そして公明党も厳しい事態に立たされていた。昨年12月の衆院選に際し、創価学会と維新、公明の裏取引で、突如、住民投票実施に賛成したものの、「都構想反対」を明確にしなかったことによって苦境に立たされ、選挙終盤になって、公明党大阪府本部幹部は4/5、「中途半端な対応で票が逃げている」として、大阪市議選の候補らに「今後の演説会などでは、まず冒頭で維新単独での都構想反対のスタンスは改めてきちっと訴えた方が良い」とするメールを送信したという(日経新聞2015/4/9)。維新・公明の裏取引は有権者の厳しい目にさらされていたのである。
 こうした府議選・市議選の結果は、維新が一定の健在振りを示したとはいえ、過半数獲得を目指した維新にとっては、やはり手痛い敗北と言えよう。5月17日実施の都構想の賛否を問う住民投票の楽観的な帰趨が見えなくなったのである。この住民投票を、憲法改悪の住民投票の前哨戦と位置づけている安倍政権にとっても、この事態は気が気ではない。都構想反対を貫く自民党大阪府連と、裏で橋下・維新を激励し、支持する安倍政権のねじれは顕在化しており、5月17日実施の住民投票で、橋下・維新と安倍政権のたくらみを決定的な敗北に追い込む、幅広い広範な闘い、統一戦線こそが要請されている。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.449 2015年4月25日

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【訳出】古賀氏の追い出しの意図はその目的を果たさないかも知れない

【訳出】古賀氏の追い出しの意図はその目的を果たさないかも知れない
                        Japan Times 記事 on April 5, 2015
          “Koga’s parting shot may not hit its target”   by Mr. Philip Brasor

 この二月、Reporters without Borders (1*) は報道,出版の自由(“press freedom”)についての年間ランキングを公表した。日本は、昨年より2ランク下がって61位で台湾(51位)や韓国(60位)よりも下になった。下落の理由は、昨年12月に施行された国家機密保護法による。この法律は、政府の内外にかかわらず機密情報のリークを罰するものである。
 日本はずーとランクを落としている。2010年には11位であった。この急激な信頼の崩壊は、2011年3月に起こった原発事故とその後の除染作業報道の不明瞭さ( “ambiguous”)によってもたらされた、と神戸大学の内田教授は「アエラ」で述べている。さらに同教授は、日本の報道機関は、東京電力と政府の行為、行動を十分に精査しなかった。そのために Reporters without Borders はこの国のメディアは政府の統治のもとにあると想定した結果である、とした。

 もし、あなたが日本のメディアを詳しく見続ければこの主張を受け入れることは容易である。しかし、報道機関が上からの圧力に屈服する明瞭な実例を見つけることはむつかしい。
 先週、メディアは、「報道ステーション」での、古館アンカーと古賀コメンテイターのちょっとした諍いに、騒がしかった。
 古賀氏は、経産省の前職員で数年前退職してそれ以来政府の政策を批判してきている。しばらくは、彼は「報道ステーション」のゲスト博識を勤めてきた、そして同ステーションは我々が他の番組から得られるよりも、より掘り下げた報道を誇っている。番組製作者は古賀氏が思っていることを語る自発性を評価しているが、テレビ朝日の彼らの上司は違った感想を持っていると伝えられていた。
古賀氏は、人質事件―イスラム国の手による二人の日本人の死亡によって終結したーの政府の対応に対する彼の実況コメント故に、4月以降「報道ステーション」に出ることはないであろうと、1月に告げられたことを公表した。2月25日の外国特派員協会での記者会見で、彼は、テレビ朝日の上層部は安倍政権へのへつらいに努めていて (”trying to curry favor with”)、その為に「報道ステーション」の製作者に彼を辞めさせるよう圧力をくわえた、と語った。
 事前に知らされなかったが、古賀氏は3月27日の「報道ステーション」での出演が最後と思っていた。そして彼はイエメンにおける危機について討議すると思われていた。しかし古館アンカーが古賀氏にその解説を依頼したところ、古賀氏が話題をかえて、彼がこの番組を去るであろうと述べた。テレビ朝日の上層部と番組制作に携わっている古館アンカーの所属会社の意向によって。「報道ステーション」はライブ番組であり、このような突発的出来事は異例であった。古館アンカーは優れた機転で、「ここは古賀さんが下される場面ではない。」と古賀氏に反論して、その場を取り繕った。しかし古賀氏は答えた。それはおかしい。古館さんはずっと前に、私の降板について「何もできなくて」と謝った、と。古賀氏は、会話を録音しているのでこのことは証明できるとした。それから古賀氏は安倍政権の批判を続けた。
 古館アンカーのインタビューアーとしての際立った誠実さ/公平さは、主役としての役目である、そして彼は明らかに古賀氏に番組を乗っ取られたことで腹を立てていた。テレビ朝日は週末にかけて、その広報部は政府による関与は事実に基づいていないとして古賀氏を非難する声明を出した。。また彼を不作法だとして非難し、視聴者にたいして謝罪した。たとえこの出来事が、おそらく、「報道ステーション」始まって以来の楽しませる場面であったとしても。この騒動に付随して、内閣府は元経産省職員の降板について何らテレビ朝日に圧力を加えていないと菅官房長官は述べた。
 我々はその見識故に降ろされたという古賀氏の言葉のみを受け入れることができる。たとえテレビ朝日や政府が真実を言っているとしても、日本の主流の報道機関のメンバーは、古賀氏と異なり、既定路線としての権力と共に歩む、脅されていなくても。
「国境なき記者団」のランキングについての雑誌「現代ビジネス」の最近の記事で長谷川氏(前東京新聞編集者)は、実際の報道の自由(“real press freedom”)は日本にはない、と述べている。それは「機密保護法」によるものではない。大抵の報道者は決して秘密情報を漏らさないだろう。なぜなら厳密に言えば彼らは報告者であり、サラリーマンである。彼らは仕事に気を配るよりも、より会社での地位/職位に気を使っている。彼らはすべて昇進/昇格を待つ流れにいる、と長谷川氏は述べている。
 よく知られている記者クラブーそこでは報道関係者は政府機関よりスプーンでお口に運ばれる情報をオウム返しに繰り返すーはいかなるニュースも一つの物語として公正で公平なものであるように仕向けられている。それは公表された秘密である。記者が政治家に話しかける時、彼らはメモをお互いに共有する、と長谷川氏は指摘する。このことはあらゆるニュースの発信元は同じ情報を報じる。違いがあるとすれば、個々の情報元の考え方である。政府の助けになろうがなるまいが、長谷川氏は、このことはいかなる相違も作らない、と考える。連合軍の軍事行動への自衛隊の参加を許す安倍首相の努力に関して、メディアは、集団的自衛権(”collective forces”)を余すところなく完璧に報じている。しかし一般大衆はこれについて何も知らない、と長谷川氏は言う。二月毎日新聞のインタビューで、報道の自由について小説家浅田次郎氏は愚民思想―人々のより良い統治のための限られた情報―を非難した。しかしメディアが関連ニュースを報道できないとき、何故に政府は無知な大衆を増殖することを必要とすべきなのか?長谷川氏が政治的に保守であるということは関係ない。彼は機密保護法についても論理上の意見も持っていない。彼は日本のリベラルな日刊紙で働いていた。彼は真実がいかにご都合主義に奉仕し役立ってきたかを、じかに、見てきている。古賀氏の即興劇は賞賛と非難を巻き起こした。しかし彼は最後に虚空に向かって絶叫し訴えている。
訳:芋森  [ 了 ]

(1*) Reporters without Borders
国境なき記者団 は、言論の自由(または報道の自由)の擁護を目的とした、ジャーナリストによる非政府組織。1985年、フランスの元ラジオ局記者ロベール・メナールによってパリで設立された。世界中で拘禁されたジャーナリストの救出、死亡した場合は家族の支援、各国のメディア規制の動きへの監視・警告が主な活動としている。2002年以降、『世界報道自由ランキング』(Worldwide press freedom index) を毎年発行している。2006年11月には「インターネットの敵 (Enemies of the Internet) 」13カ国を発表し、2014年現在には19カ国が挙げられている。日本に対しては、従来から記者クラブ制度を「排他的で報道の自由を阻害している」と強く批判しているほか、2011年の福島第一原子力発電所事故に関連した報道規制や、秘密保護法などの政府情報開示の不透明さに対して警告を発している
2014年 ランキング:
1. Finnland, 2. Netherland, 3. Norway, 4. Luxembourg, 5. Andorra, 6. Liechtenstein,7.Denmark, 8.Iceland, 9.New Zealand, 10. Sweden
ちなみに Germany 14, Canada 18, UK 33, France 39, USA 46  

【出典】 アサート No.449 2015年4月25日

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【コラム】 ひとりごと–西堺警察署「自白強要」と「権力犯罪」

【コラム】 ひとりごと–西堺警察署「自白強要」と「権力犯罪」

 私は学生運動等を行っていた事もあって、警察権力からの「不当捜査・暴言」等の類は何度もある。だから「西堺警察署『自白強要』事件」は「さもありなん。むしろ氷山の一角」と言うのが正直の感想。でも、あまり警察との接触・厄介(?)になった事がない方は「警察が、そんな事するの~?」とか「(犯罪を)やってなかったら、何で『やった』と言ったの~?」とか、にわかには本当の捜査実態で、どれだけ自白強要・誘導等がキツイものか、分かって貰えない。そこで「西堺警察署『自白強要』事件の概要・問題点」と、「刑事捜査の改善点」等について述べてみたい。

《「西堺警察署『自白強要』事件の概要・問題点」》
1.堺市の81歳の男性Aは知人の男性Bを殴ったとして去年、在宅起訴された。
2.しかし今月、大阪地方裁判所堺支部が無罪を言い渡し無罪判決が確定。3.またAは「西堺署の巡査長(男性)から自白を強要される等、違法な取調べにより精神的な苦痛を受けた」として2月24日、大阪府に損害賠償(2百万円)を求める訴えを起こした。 ◎なおAは、一昨年9~11月に5回、任意の事情聴取受け、その内1回をICレコー ダー録音に成功した。

○その執拗な「自白強要」の概要は以下のとおり。
〔巡査長〕「口があるんですから答えろ。黙らなくてもいいから答えろ」「『やりました』て一言言うたら、すぐ済む話やで」「あんたがそうまでしてやってないと言いきる理由は何や。答えろ、命令に答えろ」「別にいつでもいいんやで。いつ認めてくれても。あんまり言うと自白の強要になるな」「あんたがウソついてるんやろ、認めたくないんやろ。あんたのことや、答えろ。どっちやねん。黙りこくって生きて いける世の中ちゃうの、知ってるやろ」等。
◎Aは元小学校の校長で、取り調べの際に、仕事等を侮辱された。
   ○〔巡査長〕「ええ?先生さんよお、あんたどうやって物事教えてきたんや。ガキやから適当にあしらっとったんちゃうん。そういう回答するんやったら、あんたの人生そういうふうにしか見えへんで、ああ?」
◎また刑事訴訟法で義務付けられた黙秘権の告知はなく、黙秘権の侵害があった。
◎さらに無断で所持品検査もされた。

4.本「自白強要」事件の問題点
(1)本事件は、まだ「任意の事情聴取」段階で弁護士と接触し、その弁護士の助言に基き、ICレコーダーによる録音に成功。それが「自白強要」の動かぬ証拠となり発覚したものである。しかし一般的には「任意の事情聴取」録音することは至難の事で、事後に口頭だけで「自白の強要があった」と訴えても警察は「事情聴取は適正に行われたもの」との見解を示し闇に葬むされるのが殆どである。
(2)なおそこに「自白の強要」に耐えかねて一旦、「虚偽自白」をしてしまうと、それを裁判で「自白の強要による虚偽自白」と何度、主張しても、なお更に認められない。

【この場合の注意事項】
①捜査官は「自白」を得るために「裁判で否認すればいいじゃないか」と「自白誘導」する。(これは明らかな「騙し」である。でも捜査官は、そんな事は平気で行う)
②「後程、裁判で否認は困難」と述べたが、基本的に「警察→検察庁→裁判所」は日常的な人間関係も含めて「『馴れ合い』の関係にある」と思っておいた方がよい。
(3)本「自白の強要」事件では「刑事訴訟法で義務付けられた黙秘権の告知はなく、黙秘権の侵害があった」ことが問題になっているが、私の知る限り、そんな「黙秘権の事前告知」をきっちり行われる事等、聞いたこともないし、先ず有り得ない。
警察は自分達に不都合な市民(被疑者等)の権利知識は教えないのが通常だ。
(4)そもそも、この巡査長は何故「暴行を受けた」と被害届、及び刑事告訴した告訴人の主張だけを鵜呑みにして「自白の強要」に走ったのか。被疑者Aが「否認」を続けている段階で、告訴人の被害主張、及び被害届等も「虚偽刑事告訴」の疑いをもって、再事情聴取しなかったのか疑問が残る。その理由に考えられるのは
◎予め定めた捜査シナリオに固執し、柔軟かつ融通が効かなくなっていることがある。私の経験上でもあったが、通常、捜査を始める前に「捜査会議」を開催し、だいたい「どこまで捜査し、何を立件し、どの範囲で検察庁起訴するか」を決め、それに沿った捜査を進める。そして、そのシナリオに外れる捜査方針の変更は、あまり捜査指揮する者はしたがらない。その結果、捜査シナリオを大きく変更する事実が出てきても、その事実証拠を無視したり隠したりする。厚生労働省村木厚子さん冤罪事件、松本サリン事件等々は、その例とも言える。

《「西堺警察署『自白強要』事件を風化狙い」》
私は大阪府警が「取調に問題がなかったか調査する」と言っているので、マスコミ各社に報道提供しながら下記公開質問を行った。その質問と口頭回答(電話)が以下のとおり。
{質問事項}
1.今後、「自白強要した」と言われる氏名等と処分内容を、明らかにする意思はあるのか? また明らかにする予定があるとすれば、いつ頃か?
2.「警察は問題がなかったか調査を進めている」との事ですが、その「調査」の進捗状況、公表の時期を示してください。
<その〔西堺警察署回答(口頭電話)〕は、以下のとおり。>
◎「まだ全てが捜査途中で、お答えできるものはない」
◎「文書で回答を求められても、その判断は当署にある」
◎「仮に捜査・調査が終了しても、公表の有無も含めて、現段階では分からず、また公表するにしても、前もって貴方に知らす事はない」

{西堺警察署回答(口頭電話)の評価}
要は「ゼロ回答」以下で、実際は「時間のかかり過ぎ」で何の調査・捜査もしておらず、このまま本「自白強要事件」の風化を狙っているのだろう。また「自白強要」も、それだけ日常茶飯事ということだろう。このまま「警察の逃げ得」を許すのか、それとも最後まで警察の「自白強要」責任を追及するのか、マスコミの責任も問われている。(民守 正義)

<ブログ「リベラル広場」を開設>
 この寄稿者でもある民守さんが、ブログを開設し、政治・人権・医療等の問題をテーマに幅広く発信してされています。ご活用をお願いします。

 http://blog.zaq.ne.jp/yutan0619/
 
【出典】 アサート No.449 2015年4月25日

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【投稿】急がれる安倍政権包囲網構築

【投稿】急がれる安倍政権包囲網構築

<拡大する海外派兵>
 自民・公明両党は3月20日、「安全保障法制整備」について合意した。その内容は自衛隊の行動に関し、地域、活動内容の制限を撤廃し、国連決議はもとより国会の承認もなしに、官邸が恣意的に決定できるというものである。
 さらに防衛省設置法改悪により制服組の権限が大幅に拡大しようとしている。
これらは、「専守防衛」から積極的な海外展開=「積極的平和主義」へと舵を切る軍事政策の大転換であり、極めて危険なものである。
 これまで自衛隊については自衛隊法における「防衛出動」「治安出動」という冷戦時代の、ソ連軍の日本上陸と左翼勢力の武装蜂起という想定に基づいた対処のみが想定され、部隊の運用や人事については防衛省(庁)設置法に基づく文官統制が規定されていた。
 冷戦崩壊以降の様々な事態に対してはPKO協力法、各種特別措置法、周辺事態法と個別法の施行による対応で、不十分とはいえ一定の歯止めがなされてきた。自衛隊の活動は日本周辺の武力衝突に限っての米軍への補給、輸送などの後方支援、それ以外の地域では、戦闘終結後、「非戦闘地域」の支援、人道援助に事実上限られてきたのである。
 ところが今回の安全保障法制改悪では、これら各法制の制限は取り払らわれることになる。集団的自衛権の行使に関しては、官邸が「他国が攻撃され日本の存立が脅かされると判断」すれば参戦できる。
 政府はホルムズ海峡の機雷封鎖を例示しているが、「シーレーン防衛」を根拠にするなら、中国とフィリピンやベトナムが南シナ海で衝突し「バシー海峡に至る海域が危険になった」と判断すれば参戦可能だ。
 政府はすでに比、越両国との関係強化に動いているが、この間インドネシアや東チモールとの軍事面での協力も推進しようとしており、中国への牽制を強めている。
トーマス米第7艦隊司令官はこれを後押しするように、自衛隊が南シナ海まで哨戒区域を拡大するよう提言し、ASEAN諸国の合同海上部隊創設も提案している。安倍政権にとっては渡りに船だろう。
 今後中東に加えアフリカ各地域で不安定な状況が拡大すると考えられるが、紛争国での「武装解除の監視」「治安維持」などを任務とする、PKO協力法改悪で日本単独の武力行使も可能になる。
 すでに自衛隊はジプチに初の海外基地を持っており、護衛艦と哨戒機が海賊対策で展開している。しかしこの海域は「イスラム国」に対する空爆を行っている米、仏の原子力空母部隊の航行ルートでもある。
 さらに自衛隊はエボラ出血熱対策支援を理由に、リベリア沖に海自輸送艦と陸自ヘリ部隊を展開させようとしたが、流行が収束に向かうなかでの派遣は、さすがに不要不急として官邸が止めた。このように、「安全保障法制整備」を見据えて自衛隊の海外展開は準備されてきている。 

<再軍備とその背景>
 70年前、大日本帝国は敗北し陸海軍は解体されたが、わずか5年にして日本は再軍備を開始した。
 戦力の不保持を規定する憲法との矛盾を合理化するために「個別的自衛権」「専守防衛」という概念が保持されてきた。冷戦崩壊後もしばらくは、この法体系、運用構想は変化することはなかった。
 アメリカも1950年の警察予備隊創設に当たり、旧軍部への不信は強いものがあり、日本には最小限の役割しか想定していなかった。共産圏との武力衝突は朝鮮半島やベトナムなど局地的なものであり、当時の西ドイツや日本へのソ連軍(ワルシャワ条約機構軍)の直接侵攻は、想定はしていても実際に起こるとは考えられていなかった。
故にそれらを飛び越してのキューバ危機に際して、アメリカはパニックに陥りかけたのである。
 日本国内に於いて再軍備に際して反発を強め、警戒感を高めたのは、左翼陣営や平和勢力だけではない。政府機構である旧大蔵、外務、警察各省庁の官僚組織である。戦前、戦中時、これらの組織は軍部に振り回されたという被害者意識が強い。
旧大蔵省は日露戦争を財政面で支えたにもかかわらず、226事件で高橋是清が殺された。その後も野放図な軍拡を止めることができず、日米開戦後は、戦時国債の乱発や予算のみで決算は戦後という異常な財政運営を強いられた。
外務省は、中国に於いて軍部が勝手に戦争を始めてしまい存在意義を喪失した。外務省出身の松岡洋右は、生家に仇なすように国際連盟脱退、日独伊三国同盟締結と暴走を繰り返した。揚句に広田弘毅元外相が文官としてはただ一人、東京裁判で死刑となるという不名誉を味わった。
 内務省警察(特高)も共産党などへの弾圧では軍部以上であったが、ゴー・ストップ事件や226事件などでは煮え湯を飲まされたのである。
 軍部への警戒心は戦後も解けず、弾圧を受けた吉田茂を始めとする「旧リベラル派」の政治家は自衛隊創設に当たって、前述の防衛省設置法により、内局(背広組)に外務、警察官僚を送り込み制服組を統制させたのである。 
国内に於いて再軍備を主導した旧日本軍幹部も、軍艦、戦車、戦闘機など形ができれば所期の目的は達せられたのであり、不満はあっても文官統制については妥協したのであった。予算面でも自衛隊の定数や装備については、内局が編み出した「基盤的防衛力構想」という妙手で、永らくGNP1%以内に封じ込められてきたのである。
戦後の保守政治家は、国民の総意ともいうべき平和意識とそれを具現化した日本国憲法、そしてアメリカの意向も踏まえ、このような奇妙なバランスの上になかば軍事政策を放置する形で国政を運営してきたと言える。
 自民党的には「改憲」、社会党的には「非武装中立」自衛隊的には「国軍」という「理想」は保持しつつ、国際情勢や国民意識を勘案し、折り合いをつけてそれぞれの地位に安住してきたのが、これまでの日本の形であった。

<歴史認識の再確認を>
 しかし、冷戦崩壊、中国の台頭、北朝鮮の暴走、さらには湾岸戦争、イラク戦争からイスラム原理主義の拡散という国際情勢の変化、国内的にはバブル経済の崩壊以降の低成長、自民党一党支配の終焉と左翼勢力の衰退、というこの20年間の変動は、それを大きく揺るがしている。
 こうした混迷に対しては、その都度「細川連立政権」「自社さ政権」「民主党政権」という解が出されたが、状況に対応しきれず無残な結果に終わった。その間隙を突くかのように登場し、日本の形を軍事政策を端緒として、根底から覆そうとしているのが安倍政権である。
 安倍は第1次政権時から「戦後レジームからの脱却」というフレーズを唱えているが、それはアメリカと保守勢力の承認によって成り立ったシステムであることを理解しているのか。
 国家主義者、排外主義者は日本が軍拡に踏み出せないのは左翼や中国、韓国が反対するからだと主張しているが、安倍も「戦後レジーム」は左翼が作り上げた桎梏だと吹聴している。
 これまでの保守政治家も自らの「反軍思想」と「アメリカや官僚の反対があるから」とは口が裂けても言えないので、もっぱら野党や周辺国の意向を利用してきた。
しかし野党や周辺国の意向、さらには憲法さえも気にかけない=勝手に解釈を変える安倍政権の誕生で、実は軍拡を抑えてきた実体はアメリカや官僚であることが、はからずしも明らかとなってしまった。
 そこで安倍は消費税に対する国民の反発を利用し、財務省を押さえ込んだ。消費増税が先送りされたにもかかわらず、来年度予算で軍事費は過去最高となった。財務省の敗北は明らかであろう。さらに自衛隊の運用から文官の関与を排除し、外務、警察をも屈服させようとしている。
 元制服の中谷防衛大臣は「文民統制が戦前の反省にもとづき導入されたかは私の生まれる前のことなので知らない」と詭弁を呈しているが、防衛大では文民統制について教えていないと言っているのと同じである。
 アメリカに対しては、その足元を見て集団的自衛権解禁、後方支援の拡大さらには辺野古新基地強行で恩を売り、根強い対日批判をかわそうとしている。
 アメリカの軍部は自らの権益確保のため、日本の対中強硬路線を利用しているが、オバマ政権は疑念を払拭していない。そうしたなか安倍は「戦後70年総理談話」において「過去の侵略への反省」を消し去ろうとしている。
 安倍は中国、韓国しか念頭にないのかもしれないが、「日本の過去の侵略」はアメリカも共有する価値観である。安倍はG.Wの訪米中、上下両院での議会演説を希望しているが、中韓両国のみならずアメリカの退役軍人や遺族も厳しい視線を向けている。
 国家主義者はアメリカのシャーマン国務次官が(中国、韓国を念頭に)「過去にこだわりすぎるな」という趣旨の発言をした、あるいは「メルケル首相は慰安婦問題に言及していない」として、鬼の首をとったように喜んでいるが大変な思い違いであろう。「共通の価値観」から離脱しているのは安倍政権である。
 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関し、日本政府は当初無視を決め込んでいた。しかしこの間、英、仏、独、伊さらには豪などが堰を切ったように参画を表明。慌てた政府は麻生財務相が「協議の可能性」を示唆するなど動揺が広がっている。
 3月21日の日中韓外相会談で岸田外務大臣は、中国の王外相、韓国の尹外相から歴史認識について追及され「安倍総理は歴代内閣の立場を引き継いでいる」と述べ「歴史を直視」することが3者で確認された。
 このように外濠は埋められつつある。今後、国内においても統一自治体選挙と連動しつつ、8月に向け安倍政権を包囲し追い詰める取り組みが重要になってきている。(大阪O)

 【出典】 アサート No.448 2015年3月28日

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