【投稿】15年1月・佐賀県知事選をめぐって 統一戦線論(12) 

【投稿】15年1月・佐賀県知事選をめぐって 統一戦線論(12) 

<<「佐賀の橋下徹」>>
 1月11日投開票の佐賀県知事選挙で、自民・公明両党が推薦する候補が敗れた。
 敗れた樋渡・前武雄市長は最年少市長で「佐賀の橋下徹」と呼ばれるほど、攻撃的、独善的で、武雄市長時代に図書館にTSUTAYAやスタバを入れて子供用スペースを潰して、運営を民間委託したり、地元医師会の反発を押し切って市民病院を民間移譲したり、そうした政治姿勢を批判する新聞記事に文句をつけ、記者を名指しで批判、ブログなどで徹底的に攻撃することでも名を馳せていた。
 そこへ降って湧いた昨年12月の衆院解散・総選挙の直前、前知事の古川康氏が突然、知事職を放り出して衆院選出馬を表明(佐賀2区、当選)。さらに知事職辞任直前に佐賀空港へのオスプレイ受け入れについて、「県は受け入れに向けて作業をしている」と表明。安倍政権に同調した見返りで衆院議員のポストを得る“天下り辞任”をした。その辞任に伴う1月の知事選候補について、自民党佐賀県連の頭越しに菅官房長官が「樋渡氏は古川氏の総務省の後輩です。」として、県連擁立候補(佐々木豊成・元財務省理財局長)に「ノー」を突きつけ、樋渡氏を古川氏の後継に指名、禅譲路線を明示して押し切った。
 樋渡氏は昨年4月の市長選で3度目の当選を果たしたばかりで、まだ任期は3年以上も残っていた。この樋渡氏とその政治手法を高く評価して持ち上げることが安倍政権の狙いでもあった。彼を「地方の改革派の旗手」として、安倍政権はアベノミクスと一体の「改革派」と位置づけて、知事選に引き揚げ、全面支援。知名度も抜群で圧勝、楽勝のはずであった。
 同知事選はアベノミクスが掲げたTPPや農協改革、自衛隊が導入する新型輸送機「オスプレイ」の佐賀空港への配備など日米安保・軍事同盟強化路線、そして玄海原発の再稼働などが争点となりかねないことから、争点隠しに大物議員を次々と送り込み、官邸は異例の支援態勢を敷いて臨んだ。その象徴が首相自ら乗り出す電話作戦であった。安倍首相の肉声=「佐賀県を全国に向けて発展させていくのは樋渡啓祐さんしかいません」と吹き込んだテープによる投票依頼の自動電話作戦が大々的に展開され、電話の最後は女性の声で「突然の録音電話で大変失礼しました。少しでも御不快などございましたらご容赦ください」と断わりが入る念の入れようで、これが逆に不快感を増幅させ、マイナスであったのではと反省の弁も聞かれるほどであった。

<<安倍政権の手痛い敗北>>
 知事選は、投票率は54.61%と、過去最低を更新、相手候補は土壇場の直前立候補で知名度も低いにもかかわらず、通常なら圧勝のはずが、安倍政権が直接推挙した樋渡候補は4万票もの差を付けられて落選したのである。安倍政権にとっては「番狂わせ」であり、厳しくかつ手痛い敗北である。
 当選したのは、元総務官僚で新顔の山口祥義氏である(18万2795票)。地元の多くの首長や県議、農協、有明海漁協などは山口氏の支援を表明、いわゆる「保守の分裂」が明瞭になった。
 山口氏は「佐賀のことを東京で決めていいのか」「中央対地方の戦いだ」と訴え、当選後の会見でも「佐賀のことは佐賀で決める。これが実現できたことは何よりも嬉しい。地方の英知を結集し、共感できる改革をしていきたい」と述べている。そして、原発については「再稼働の方向で考えたいが、安全性を確認し、県民の意見をしっかり聞く」、オスプレイについては「白紙であり、まったく判断していない。検討すべき点はかなり多い。まず国からオスプレイ受け入れ関連の情報を出してもらい、県民のあいだで議論する」と明言している。
 山口陣営の秀島・佐賀市長は、「『古川県政継承』を訴えた樋渡氏が当選したら、”特攻隊”のように佐賀空港軍事空港化を進める恐れがあると危惧」、山口氏の擁立と支援の先頭に立った、という(『週刊金曜日』2015/1/16号)。
 すでに佐賀空港を抱える佐賀1区では、昨年12月の総選挙で、民主党の原口一博元総務大臣が、オスプレイ受入に明確に反対して、病床から選挙運動をし、「奇跡」ともいわれる逆転勝利をしている。
 1/15、菅官房長官は、山口新知事が垂直離着陸機オスプレイの佐賀空港への配備受け入れを白紙にすると表明したことに関し、オスプレイ配備は「安全保障上、極めて重要、早期配備に向けて、知事の理解と協力を得られるよう丁寧に説明していきたい」と、あくまでも計画を見直さず推進するとの姿勢を強調し、2015年度予算案に、オスプレイ5機の購入費516億円を計上。佐賀空港には最終的に計17機を配備する予定で、基地や駐機場などを周辺に整備するための用地取得費として106億円も盛り込んでいる。

<<安倍政権の衝撃と動揺>>
 安倍政権は、昨年12月の自己都合の不意打ち解散であったにもかかわらず、実態は「大勝」などしていないし、自民党は党勢の回復も果たしていない。それでも、自公与党連合が議席の3分の2を確保したことで、年が明けていよいよその露骨な本来の路線を突き進まんとしていた矢先であった。ところがこの第3次安倍政権スタート直後の重要な地方選で、沖縄に続いて、基地拡大とオスプレイ配備に邁進する強権的な安倍政権の出鼻が挫かれ、「NO」を突き付けられたのである。政権に衝撃が走り、自公両党はうろたえているといえよう。総選挙を受けて「安倍総理の求心力が高まる」どころか、逆の事態が生じかねないのである。自民党の二階総務会長は「敗因を徹底分析すべき」と言いだし、高村副総裁も「負けに不思議なし」と言明、安倍首相自身が「敗因分析をしっかりしたい」と述べざるを得ない事態である。
 昨年7月の滋賀県知事選挙では、原発再稼働をひとつの重大な争点として、元民主党衆院議員の三日月大造氏が自公両党推薦の小鑓隆史氏を破って当選した。そして11月の沖縄県知事選挙では、名護市辺野古への米軍新基地建設反対を掲げた前那覇市長の翁長雄志氏が、政府与党の傀儡と化した現職の仲井真弘多氏を大差で破り当選した。そして今回の佐賀県知事選である。安倍政権にとっては、知事選の3連敗である。
3知事選に共通するのは、力ずくで地方をねじ伏せて中央主導の政策、安倍政権が推し進める新自由主義経済路線、原発再稼働、軍事力強化と緊張激化路線をしゃにむに遂行しようとする姿勢に、有権者が明確に反対し、「NO」を突き付けたことである。
 安倍政権を支える基盤が動揺し、脆弱化し、ほころびが出だしたともいえよう。おごれる政権ほど、浮き足立ち、これまでにもまして暴走しかねない。その矛盾と弱点がさらに露呈されざるを得ない。これに対抗するには、その矛盾と弱点をさらに拡大させ、保守勢力まで含めた、より裾野の広い広大で柔軟な統一戦線を構築することこそが求められている。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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【投稿】私の闘病(難病サルコイドーシス等)から得た実践的教訓(抜粋)

【投稿】私の闘病(難病サルコイドーシス等)から得た実践的教訓(抜粋) 

 この闘病記録は、私が難病サルコイドーシスをはじめとした闘病経験の中でも、特に読者の参考になるのではないかと思う教訓について、実体験型に整理したものである。従って事実経過等はできるだけ簡略化(ブログ「リベラル広場」<http://blog.zaq.ne.jp/yutan0619/>に全文掲載。参考にお読みください)している。誰でも長期入院を余儀なくされる可能性のある中で、科学的・客観的根拠には多少、欠けるが、実際には在り得る事柄として読んでいただければ幸いである。

《事実経過1》
 私の体調異変の始まりは、2013年9月1日以降、鬱病発生からである。
<突然の転倒―頚椎異変の前兆か?>
 同年11月5日、公園での運動の帰宅途中、気を失い転倒した。気づいたときには、既に救急車でU病院に緊急搬送、診察の結果、頚椎が異常に曲がる頚椎症性脊髄症を指摘された。そしてU病院には数箇所ほどの頚椎症性脊髄症の手術ができる病院を紹介されたが、その内でも最も家に近い某A病院に診察してもらうことにした。
 〔教訓1〕
 この自宅近所の某A病院を距離的理由だけで選んだのだが、後々に某A病院の主治医の対応には問題が多く、やはり口コミや治療実績等も参考に調べる等、とにかく距離的理由だけで治療病院を選ぶことは危険である。

《事実経過2》
 某A病院でMRI画像診断を行ったところ。頚椎症性脊髄症は事実で、2013年11月13日入院、同年12月3日、頚椎症性脊髄症の手術を受けた。この手術は、首の後部にスペーサーという物体を首後部肉に5枚も固定するものであった。
 なお、このMRI画像診断の際に別途、頚椎内に白い棒状の肉芽が認識されていたが、主治医は「頚椎症性脊髄症の腫れのようなものではー」と軽視した答えをして、実際にはあった「頚椎内腫瘍」の存在を明確に認識されることはなかった。
 〔教訓2-当てにならないセカンドオピニオン〕
 なおA某病院での頚椎症性脊髄症の手術を受けるに先立ち、鬱病の心療内科の医師に相談した。当該医師は、A某病院での手術には疑問を呈し、府立公的医療機関へのセカンドオピニオンを受けるべく、紹介状を書いてくれた。早速、同病院整形外科を訪ねたが、若い担当医は、少し面倒くさそうに「そのまま、A某病院で手術を受ければよい」と言い放った。しかし、疑問が払拭できず、そもそもA某病院での手術が脳神経外科であることから、再度、脳神経外科でのセカンドオピニオンを申し込んだが、これについては一蹴して拒否された。この経験で感じ取ったことは、せっかくセカンドオピニオンという制度があっても、実際には先に治療方針を示した病院と異なる(アゲインストな)セカンドオピニオンを呈することは、なかなか勇気のいることで、結局は病院同士で追随し合うのではないかという疑惑を抱いてしまうことである。特に医科大学が同系列の病院の場合は、なおさらではないかと思える。

《事実経過3-とりあえずリハビリ改善した頚椎狭窄症》
 そして「頚椎内腫瘍」の影を潜めながらも、頚椎症性脊髄症の術後リハビリに努め、徐々に歩行ができるほど改善した。そして本年3月末日の定年退職を契機にA某病院を退院した。

《事実経過4-やはり「頚椎内腫瘍」によって再び歩行困難に》
 一旦は退院したものの4月中旬以降、再び歩行困難に陥った。そして5月16日、予定を繰り上げ再受診、MRI画像診断も行った。今度は、頚椎内腫瘍も明確に判明し、A某病院主治医の診断書も、ここで初めて「頚椎内腫瘍」の言葉を使っている。

《事実経過5-主治医はサジを投げた》
 5月19日、A某病院主治医は「頚椎内腫瘍」について、ようやくその存在を正式に認めたものの、「A某病院としては、なす術がない。ついてはX大学病院に相談(紹介?)してみてはどうか?」と、要はA某病院としてはサジを投げ、X大学病院に転院を促すというものだった。
 〔教訓3-不明なものは、いい加減にしない〕
 A某病院主治医の薦めにより5月26日、X大学病院へのセカンドオピニオンを受けに行った。
 X大学病院セカンドオピニオンは、「脊椎腫瘍について、外見上、良性に見えても悪性の場合もあるし、その反対もある。また悪性・良性と関らず、第3の問題組織である場合もある。脊椎腫瘍を多少、切除し、組織検査=確定診断をしなければならない」というものだった。このX大学病院のセカンドオピニオンは、まだ一応、なす術がある意味で、希望が持てるものであった。
 同時に昨年12月3日のA某病院での脊椎症性脊髄症手術以前のMRI画像では一応、頚椎内腫瘍と思わしき白い肉芽が 映っていたのだから、何故、その時点でA某病院での確定診断の能力がないならないで、X大学病院等に紹介してくれなかったのかという疑問と怒りが沸き立つ。現に後程、転院したY大学病院医師は、「そもそも医学の世界で原因等が不明で放置しておくことは、原則、有り得ない」とまで明言している。
 なおY大学病院のセカンドオピニオンも受けたところ、ほぼX大学病院と同様の見解だったことから、6月20日にY大学病院に入院、7月8日に再び首―頚椎を切除、頚椎内腫瘍組織検査を受けた。そこで組織検査の結果、白い頚椎内腫瘍(肉芽)の正体は[サルコイドーシス]であることが判明したのである。
 そして現在は、9月10日にY大学病院も退院し、ステロイド系の経口薬を中心に服用し、車椅子と手の痺れに耐えながら、自宅リハビリに励む闘病生活送っている。
《その他、闘病生活を通じて得た教訓と問題意識等》
 〔教訓4-横柄な医師ほどヤブ医者(?)〕
◎このA某病院主治医は、詳しいエピソードは省略するが、日常的に患者に対して上から目線で横柄かついい加減な治療態度であった。
  ◎大学病院医師との主観的違いは
 そもそも大学病院等の医師と民間病院の医師との主観的な比較であるが、大学等病院の方が実に医学的で、わかりやすく説明しようとする姿勢が見られ、率直に言って横柄な医師ほど、ヤブ医者が多いのではないかと感じられる。
 〔教訓5-医大同系列でないと連携はとれないのか〕
 ある時、A某病院主治医が突然、病室に訪ねてきて、「Y大学病院は退院後も患者の面倒を見てくれるのか、聞いておいてくれ」と依頼するのである。どうも質問の意図は「Y大学病院とは日常的に連携関係がなく、後々の情報が入らないからだ」と言い訳していた。この件は後程、Y大学病院主治医にも報告したが、Y大学病院主治医は「日常的に医大学同系列であろうが、なかろうが、地域医療連携の中で淡々と処理するだけのこと」と聞いて安心した。しかし医大同系列に患者紹介すら躊躇する医師も、まだなお存在することは多少、認識した方がよいと感じた。

《問題指摘1-深刻化する医療スタッフの労働条件問題》
◎先ず民間病院であるA某病院では近年、退職金制度が廃止され、その事の不満、不安が結構、広がっているようである。
 一方、経営側に取ってみれば、人件費の後年度負担として重くのしかかってくるのも事実であろう。しかし看護師は国家資格であり、日進月歩に進化する医療技術の中で、それなりにモチベーションを維持して働き続けるためには、安定した労働条件の提供は必要不可欠である。逆に言えば、悪い労働条件では、それなりの医療スタッフしか確保されず、良い医療スタッフは良い労働条件で買えるのである。
 その他の問題把握も含めて、全体として経営コストを下げようとする民間病院経営側の意図と、それに不満があれども文句の言いようのない医療スタッフの意思が浮かび上がり、結果として民間病院の医療水準の低下を招いているように思える。
◎またY大学病院では、看護師のほとんどが20歳代の若い女性で、年配の看護師はあまりいない。この事は、Y大学病院に限らず一般的に看護師という職業が夜勤もあり、配偶者の相当の理解と条件がないと、長く働き続けることのでいない職業であることを物語っている。

《問題指摘2-医療検査に関する円滑な個人情報の還元を!》
◎民間病院でも大学病院等でも、意外と患者本人に対して医療検査結果等の本人情報の還元がされていない。医療検査結果等に関する個人情報保護法の規定は、先ず本人から医療検査結果等について開示請求があった場合は、病院側は遅滞なく開示しなければならないことになっている。しかし実際の運用実態は、多くの医療検査を行いながら、ほとんどが患者本人に医療検査結果を知る権利の説明もされずに、病院側だけが保有管理する状況が一般的である。そこで医療検査結果等の本人情報を、必ず患者本人に対して紙媒体等での検査結果の還元をルール化してはどうかと思う。その方が病院側の事務の煩雑さは増すかもしれないが、元々、患者の医療検査結果は患者の所有する本人情報であるし、病院と患者との信頼関係の醸成にも繋がる。

《これからどうなる医療行政》
 今回、サルコイドージスという難病を経験して、感じ取った教訓、問題意識等を羅列したが、その経験上から見える構図として、段々と医療水準が低下する民間病院、しかし、そこで何らかの医療アクシデントに見舞われ、紹介状がなければ、大学等病院では外来診療も受診できない現状。そして患者と医療機関側とでは、圧倒的にその専門的知識や経験上においても患者に不利にありながらも、患者自身の人権は患者自身が守らなければならない現実。また新たな問題としてAPEC自由診療導入も検討されている。
 厚生労働省が全体として医療費抑制にあることはわかるのだが、その先にあるグランドデザインが、勉強不足の自分にはわからない。今後、どなたか、日本の医療行政システムの見通し。解説と問題点を執筆していただくとありがたい。(民守 正義)

 【出典】 アサート No.446 2015年1月24日

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【投稿】安倍政権の「勝利」揺るがす潮流を

【投稿】安倍政権の「勝利」揺るがす潮流を

<異常な執念>
 第47回衆議院総選挙は、自公与党が定数の3分の2を超える326議席を獲得し「勝利」した。これはアベノミクスなどに対する批判票の受け皿=政策、候補者を、民主党などが「奇襲攻撃」に翻弄され満足に構築できなかったためである。
 こうした構図の中では投票機運は高まらず、与党への支持も確固たるものとはならなかったことが、投票率と議席数に反映された。
 マスコミ各社は押しなべて自民党単独で300議席を超えると報道していたが、実際は291議席と公示前から4議席を減らし、その分公明党が議席を増やし35議席とした。
 一方、民主党などその他の野党はほぼ予想通りとなったが、共産党の大幅増と、次世代の党の激減が際立った対照性を見せた。維新の党は30議席前後に低迷すると予想されていたが、41議席と1減にとどまった。
 自民党が予想ほどに伸びなかった要因として、沖縄の4選挙区で反基地統一候補、および大阪の5選挙区で維新に競り負けたのが響いたと言われているが、それは織り込み済みだっただろう。
 とくに大阪については、選挙終盤に安倍総理が来阪し「激戦区」で街頭に立ったが、対立候補である維新の批判は一切行わないという奇妙な応援となった。本当は橋下と握手をしたかったのだろう。
 これとは打って変わって、民主党と接戦となっている選挙区では、怨念の炎を燃えたぎらせるかのようなファナティックな言動で臨んだ。
 とりわけ、海江田代表、菅元総理、枝野幹事長、馬淵国対委員長ら民主党大物議員の落選を目論み、執拗な攻撃を続けた。
 しかし、安倍総理の異常な執念にもかかわらず、議席を奪うことができたのは海江田代表のみだった。
 安倍総理の批判者に対する偏執的な対応は、選挙期間中に続き開票時にも、望んだ勝利=「民主減、維新、次世代増」とは違う結果となった苛立ちを露わにしたものとなった。
 日本テレビの選挙特番で、キャスターが女性活用、賃上げ、中小企業対策など成果が表れていない分野での対応を質問したところ、安倍総理はイヤホーンを外して、自説を一方的にまくしたてるという異常な行動に出た。
 今回の総選挙で自民党は選挙報道への露骨な干渉を行ってきたが、総理自らがその先頭に立ったと言えよう。

<淘汰進んだ野党>
 その時大阪では維新の橋下共同代表が、安倍総理を超える醜態をさらけ出していた。
 議席数が流動的な中、記者会見に不機嫌な表情で臨んだ橋下は、質問に答えず「これはテレビで流れているのか」と確認したうえ「マスコミは3月の大阪市長選を低投票率で意味がないと報道したのだから、この選挙も意味がないと報道しろ」と意味不明な逆切れを起こした。
 同じ低投票率でも52,66%と23,59%では比べものにならないだろう。
 安倍にせよ橋下にせよ、自分の感情をコントロールできない人間は、政治指導者としては危険極まりない存在である。
 さらに党全体が危険な存在と言えた次世代の党は、公示前の20議席から2議席に激減し壊滅状態となった。
 この極右政党は選挙期間中、「タブーブタ」なる不気味なキャラクターを使い、ネット上でヘイトスピーチまがいの扇動を繰り広げ、自民党の反動性を覆い隠す「捨石」としての役割を果たした。
 反対に共産党は与党批判票の受け皿となり、公示前の8議席から21議席へと「大躍進」を果たした。
 しかし、唯一の小選挙区での議席となった沖縄1区は、選挙協力の賜物である。こうした要因を勘違いし、議席増を党路線の正しさの証明とするようでは、今後の建設的な役割は期待できないであろう。
 生活の党は5議席から2議席へと半減以下となり、社民党と並んだ。両党とも小沢代表と比例を除く小選挙区1議席はともに沖縄の議席であり、自力では獲得できなかったことを考えると、消滅したも同然となった。
 みんなの党は選挙前に自滅し、野党として残ったのは民主、維新、共産となった。「第3極」という美名のもと、事実上の与党など有象無象が乱立した野党は淘汰が進んだ。これは今次選挙の最大の成果であっただろう。

<民主党の責任>
 民主党は海江田代表が小選挙区は言うに及ばず、保険を掛けたはずの比例区でも落選するという惨憺たる事態となった。しかしながら公示前の62議席から73議席へと増加、維新を引き離し野党第1党の座は確保した。
 それでも伸び悩んだ要因は無節操な「野党共闘・選挙協力」にある。とりわけ政策的乖離が甚だしい維新との候補者調整は自らの首を絞めたも同然であった。
 準備不足を「野党共闘」という野合で糊塗しようとする戦略は、失敗したのであり、多くの選挙区で選択肢を提示できなかった責任は大きい。
 「野党共闘」の現場は、個別の選挙区事情が優先され政策は無きにひとしい状況となった。沖縄1区では下地候補が維新公認で立候補し、知事選に続き統一戦線の破壊者として登場したことで、維新の本質を如実に示した。
 維新の牙城で、都構想を巡りねじれ現象が惹起している大阪では、19選挙区中5選挙区でしか候補を立てられなかった。
 この惨状は候補者調整以前の問題で「ごみ箱をひっくり返しても候補者が出てこなかった」のが実際ではないか。
 小選挙区での擁立見送りは、結果として比例票の上積みにつながらず、近畿ブロック内では大票田の大阪が足を引っ張る形となり、共産党の後塵を拝することとなった。「案山子でもいいから立候補させればよかった」ということであろう。
 民主党としては「橋下チルドレン」を標的とした「維新主要打撃」で臨むべきだったのではないか。
 政策的に水と油の政党が協力など無理筋であるのに、党内でイニシアが発揮できなかった海江田は、落選以前に代表失格だったと言わざるを得ない。
 年明けの1月18日に選出される予定の次期代表の責任は重いものとなるが、今回の「野党共闘」の失敗を真摯に総括すべきであろう。

<認められない「白紙委任」>
 今回の選挙で与党へは消極的な支持しか集まらなかったにもかかわらず、安倍政権は白紙委任を得たかのようにふるまっている。
 安倍政権は12月17日、「子育て給付金」の来年度支給中止を決定した。政府は消費増税延期に伴う措置と説明しているが、それなら解散時に明言すべきであろう。
 消費税に関しては与党、とりわけ公明党の目玉公約であった軽減税率は、対象品目も固まらない中、再増税時に8%と相対的な軽減で幻惑しようとしている。
 また介護報酬の来年度からの引き下げも強行されようとしており、選挙終了を待って堰を切ったかのような負担増が押し寄せている。
 さらに、選挙翌日の記者会見で安倍総理は「経済最優先」を強調しつつ、「憲法改正にむけて努力したい」と本音をさらけ出した。
 原発についても「依存度を減らしていく方針に変わりはない」などと言いながら、17日には原子力規制委員会が高浜原発3,4号機の安全審査を「合格」とし、経済産業省も老朽化した原発の立て替えを検討することを明らかにするなど、逆方向の見切り発車が進もうとしている。
 しかし、安倍政権の反動的政策に対する防壁が高くなったのも事実である。
 与党は3分の2を超える議席数を獲得したが、国家主義的改憲勢力は後退した。次世代は壊滅し、維新は現状維持であるが、その中には石原慎太郎が「護憲勢力」と忌み嫌い、旧維新分裂のきっかけとなった旧結の党出身者が存在している。
 集団的自衛権関連法案について政府は、行使できる範囲を日本周辺に限定する方向となりつつある。さらに日米防衛協力の指針(新ガイドライン)改訂も来春以降への先送りが日米間で合意された。
 辺野古新基地建設も知事選に続く総選挙での自民敗北で、ますます困難となりつつある。
 安倍総理は戦後70年の「安倍談話」に意欲を見せているが、歴史修整を強行しようとすれば、中国、韓国のみならずアメリカなど「友好国」からも厳しい批判にさらされることは確実である。
 安倍政権は数の上では安定していても、実態は必ずしもそうではない。
 民主党を中心とする野党は、政界再編を目的とするのではなく、安倍政権に批判的な様々な動きと柔軟かつ丁寧に連携し、新たな政治勢力の構築に努め、当面する統一自治体選挙への展望を切り開かなければならない。(大阪O)

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【投稿】国際金融資本の手の内で踊った「アベノミクス総選挙」

【投稿】国際金融資本の手の内で踊った「アベノミクス総選挙」
                             福井 杉本達也

1 国家が株式市場まで操作する異常さ
 国家が日銀や年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)・ゆうちょを使って、ばくち(株価の買支え)を大々的に打つということは前代未聞である。東短リサーチの加藤出氏は「日銀がETF(上場投資信託)を大規模に購入することによって株式市場をサポートしているが異様な政策だ。海外の主要な中央銀行で株やETFを買っているところは他にない。平時に中央銀行が株価を操作した場合、企業業績が伴わなければ株価は急落し含み損を抱えてしまう」(『週刊ダイヤモンド』2014.12.13)と警鐘を鳴らす。これまでも、国家は景気が後退したときに,政府支出を拡大する財政政策や基準金利を下げる金融緩和などの金融政策を行ってきており、米国では量的緩和政策(金融政策)によるITバブルやサブプライム・ローンなどの不動産バブル・リーマン・ショックを引き起こして来たが、株式市場(賭場)に国家が直接介入するというのは日本だけであろう。アベノミクスは従来的な国家による市場経済への介入である「第1の矢」(金融緩和=異次元緩和)や「第2の矢」(財政出動)によって一定の成果をあげてきているというが、市場経済への介入に成果があがっていないからこそ、「株価こそ政権の命綱」(日経:2014.6.16)として、実体経済に基づかない『根拠なき熱狂』(アラン・グリーンスパン)の場を作りだそうとしているのではないか。株式市場は本来不安定なものであり、賭場を規制し、『熱狂』を冷ますのが本来の国家の役割であるはずだが、国家自らが博徒となってマネーゲームを主導するというのは、もはや経済政策とはいわない。16世紀に始まったといわれる近代国家(Nation-state)の経済的役割は根本的な行き詰まりを見せ、自らの行先を探しあぐねてのたうちまわっている。ところが、与党はもちろん、野党も選挙期間中、国家によるカジノ開業についての異議を差し挟んだ形跡はない。

2 「消費増税延期」指令は9月米国発―クルーグマンから始まった
 マスコミは『争点なき総選挙』と書き、加藤哲郎一橋大名誉教授は「投票率は、戦後総選挙史上最低の52.66パーセント…師走の不意打ち選挙に、特定政党につながらない国民の足は、投票所に向かいませんでした。…マスコミの争点を『アベノミクス』の是非へと誘導し、消費税10%も、沖縄基地問題も、原発再稼働も、外交・安全保障も争点にならないよう仕組まれた選挙でしたから、ある意味では予想通りです。」と書いている(HP「ネチズン・カレッジ」2014.12.15)。
 しかし、仕組んだのは誰なのか。まさか、一度「はらいた」で降板した安倍にそのような能力があるはずもない。指令は米国発で、日本の「リフレ派」黒田日銀総裁や岩田規久男副総裁らの元締めでもあるノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンから下りてきたのである。
 「消費税率を2015年10月に10%に引き上げることの是非を決断する期限が近づきつつあった。今年4月の8%への引き上げの影響で、日本の景気は四半期ベースとして世界的な金融危機以降で最も深刻 な落ち込みに見舞われ、その後の回復の足取りもおぼつかない状況だった」(ブルームバーグ:2014.11.21)。「米国の経済学者でノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン氏が6日、安倍晋三首相と会談し、2015年10月からの消費税率10%への引き上げを先送りするよう促した。本田悦朗内閣官房参与がブルームバーグ・ニュースの取材に明らかにした。本田氏によると、クルーグマン氏は予定通りに増税した場合にアベノミクスが失敗する可能性を指摘」(同:2014.11.6)。「唯一の問題は消費増税だと訴えた。会談が終わるまでには、首相は延期を決めるだろうと本田氏は確信を持ったという」(同:2014.11.21)。本田氏は既に9月9日の時点で米ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューに答え「政府にとっての『ベスト』の選択肢は、10%への消費税率引き上げを当初予定より1年半先送りすることだろうと話した。そうすれば、持続的な経済成長を確立する上で必要な、より大幅な賃金上昇を実現させる時間が稼げる、と指摘した」。しかも、共産党を含む全政党が消費増税先送りに賛成したのであるから、総選挙は最初から米金融資本=代理人[クルーグマン]=支店長[本田参与]の手の内で踊ったに過ぎない。
 
3 総選挙で取りあえずは増税派の反抗を抑え込んだ安倍
金融資本の言いなりにならず、近代国家としての筋を通そうとする反安倍勢力の結集を潰すには総選挙しかなかった。「仮想敵」は野党ではなく自民党内と財務省であった(後藤謙次:『週刊ダイヤモンド』同上)。それが表に出たのが野田毅自民党税制調査会会長の公認問題である。野田氏は会見で、日本の消費税率10%への引き上げについて、景気への悪影響には触れず、「予定通りというのが常識の線だ」と述べ、消費税法の「景気条項」を適用した見送りなどは検討せず、2015年の10月に増税すべきと言う考えを示した(参照:野田「社会保障財源の代案なき増税先送りは無責任に極み」『週刊ダイヤモンド』同上)。これに対し、官邸サイドは野田氏の公認を見送るよう党執行部に働きかけた(産経ニュース:2014.11.18)。

4 「アベノミクス批判」へと踊らされた野党
 アベノミクスの表向きの目的は「デフレからの脱却と景気回復」=「経済成長」である。しかし、全ての与野党のは「景気回復」=「経済成長」を掲げた。たとえば、志位共産党委員長は「現在の景気悪化は消費税8%を強行した結果で消費税不況だ。消費税増税は必ず景気を壊す。」と述べた。また、江田維新の党代表は「デフレを脱却して景気を増税に耐えられる体力にしないと逆に景気が悪化して税収が落ちる」とし、海江田民主党代表も「農業を成長戦略の柱にしなければならない。医療介護も、自然エネルギーも柱」(以上:朝日:8党首討論会:2014.12.2)と自らの成長戦略を語っている。アベノミクスは経済理論としては空理空論であり、国家詐欺であるが、株高でもなんでも、兎に角景気が良くなる“雰囲気”さえ作ればよいのである。「景気」=「雰囲気」というアベノミクス(=感情論)に「消費増税で景気が悪化した」「円安で格差が拡大した」などという理論的反論を行っても暖簾に腕押しである。結果、全野党が景気回復のために消費税の先送りを主張、クルーグマン=本田参与の術中にハマり、「大義なき総選挙」ではなく、自ら「大義を潰した総選挙」を踊ったのである。
 水野和夫氏が『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)で指摘するように、資本主義は「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」というフロンティアを広げることによって自己増殖するシステムであるが、新興国の発展により拡大する「周辺」が無くなり、過剰投資、過剰設備を抱えた先進国では利子率が低下、だぶつく投機資金が金融市場を不安定にし、国内に「周辺」=国内格差を作り出している。今回の選挙でも全ての政党はいまだに「成長がすべての怪我を癒す」という価値観に引きずられている。右的立場ではあるが、佐伯啓思京大教授も、選択肢は「いっそうの規制改革を推進し、戦略的産業を打ち出し、過激化するグローバル競争のなかであくまで経済成長を追求する方向である。もうひとつは、あえてグローバル競争と成長主義から距離をおき、安定した地域や社会や国土を確保していくという方向である」(朝日:2014.12.2)と争点を整理している。

5 資金の流れは日本から米国へ…しかし、全政党が真実に口を噤む
 日銀は12月8日、国内の投資家が今年7~9月の3か月間に海外証券を8兆1千億円買い越したと発表した。GPIFは国内債券に偏った運用を見直しし、海外債券や株式の運用を増やすとしており、野村証券の池田氏によると、2015年度は公的年金・投信・生命保険で21兆円もの巨額の資金が海外へ流出すると試算している(日経:2014.12.19)。これを裏付けるように根岸明治安田生命社長は今下期に5000億円を外債運用に投じるという。日銀が追加緩和で国債を市場から吸い上げたため、マイナス金利の状況が続いており、運用利回りが逆ザヤになりかねないためであると解説している(日経:12.18)。我々が汗水たらして積み立てた公的年金の積立金を始め、生命保険や銀行の預貯金などは米国家財政の赤字補てんに使われ、将来ほとんど戻っては来ないだろう。1997年6月、橋本龍太郎首相は、コロンビア大学での講演において「大量の米国債を売却しようとする誘惑にかられたことは、幾度かあります。」と発言したことによりNY株式市場は一時暴落、米国から睨まれ翌年首相の座から引きずり降ろされてしまった。
 米沢GPIF運用委員長(早大教授)は株式運用比率の倍増について、「国債を大きく売る必要があり、日銀が大量に国債を買い入れ」なければならず、日銀の大規模緩和が前提だったとし(朝日:2014.11.21)、GPIFが国内株式というカジノに資金を投入するには、保有する国債を売却しなければならないが、売却される安全な国債に国内の銀行・投資家が向かわず、米国債等を購入させるために、日銀が国債を全て買い上げる連携が必要だったことを明らかにした。しかし、選挙期間中、共産党を含め全野党は、アベノミクスの真の目的が米国への資金還流であり、金融資本を手助けするものであることを語った党はない。新聞の行間を読めばそのようなことはすぐ分かるはずだが、①金融資本の代理人か、②勉強不足なのか(もちろんそのような政党に政権を担う力量はない)、③脅されたのか(橋本元首相のように)、いずれかであろう。高齢化が進みつつあり、社会保障費は自然増でも毎年1兆円ずつ増加する。国家に対する不信があろうがなかろうが、税を考えなければ、現在の制度は全て崩壊してしまう。誰も米国のように盲腸の手術に200万円も払いたい者はいない。近代国家は国民から強制的に(暴力による強制を含む)税金を徴収し、それを国民に再配分して様々な政策を行うものであるが、制度設計を放棄し、外国(国民国家の外)に資金を一所懸命貢ぐと共に、カジノに打ち興じる国家を何と呼べばいいのか。 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【翻訳】 日本はもっとドイツ的であるべきだ。

【翻訳】 日本はもっとドイツ的であるべきだ。
              (Japan Times 記事 on Nov. 25, 2014)
 Japan should be more German :
   by Mr. William Pesek, Bloomberg View columnist based in Tokyo

日本は、三つの事を重視すべき:
1. 革新 “Innovation” と小/中規模中堅企業 “Mittelstand”
2. 近隣諸国の重視、とりわけ中国
3. 人口減少問題/及び女性と退職技能者の活用

 “Made in Japan” が時代おくれの方向に押しやらているその時に、ここ15年ほどに渡り“Made in Germany”ブランドがすくすくと成長してきているのは何故であろうか?
 競争の激しい世界市場にあって、高い賃金、ユーロの過大評価および近隣諸国の財政危機にもかかわらずドイツは繁栄してきている。その秘訣は、日本株式会社でさえ思いつかないような方法での順応と革新ある。
 SLJ Marco Partners (1*) のMr. Stephen Jen, Managing Directorは述べている。即ち、ドイツの経営者は、為替相場について不平を言わなかった。彼らは、それを描き出して再構成した。事実世界経済の混沌がこの為替変動を導いているように見えた。ドイツはこの変動と向き合わず、共に歩んできた、と。
 安倍首相によるこの突然の解散総選挙は、最近の経済の低迷から日本を奇跡的に目覚めさせることにはならず、ドイツ経済がかって経験した同じ課題を学ばねばならなくなるであろう。即ち、上記に掲げた三点である。
 
1. 革新がすべてである。”Innovation is everything.”
 GDP (US$ 3.6兆)と人口(8千万人)で調整すれば、ドイツは今でも世界一の輸出国である。もっとも絶対額では、ドイツは中国と米国の後に続いているが、自動車、機械、電気、薬品、光学製品、プラスチック等の分野おいては、独自性を保持している。この成功は、企画/構想力の調和、生産性向上への注力、さらに調査/研究と開発における積極的投資や、旧来のリスク覚悟の投資を呼び込んでいる。ドイツは相対的優位性を引き出すために、競争力の向上と雇用の極大化の間に生じる緊張をうまくバランスさせてきている。
 他方、日本の製品は、世界的デフレの中にあって、価格面で弾力性に乏しい傾向にある。
 また日本の経営者は、既存の商品や生産工程の追加的な改良を好む、inter-net 時代になって趣向の変わっている消費者に対しても。
 Mr. S. Jen と同社所属の経済学者Ms. Joana Freire は論じている、即ち、問題は日本株式会社 (“ Japan Inc.”) は心理的に“バンド戦術”に陥っている。野球用語を使って言えば、ゴールはホームラン目当てで強振するのではなくて、ただ塁に出ることである。アベノミクスはブレークスルーを狙ってマクロ(デフレ予測)とミクロ(構造的硬直性)という障害の取り除く手助けは出来ようが、それ以外に何かが必要であると。
 日本は再度、もっと野心的に考えることを学ばねばならない。

 小さいことは、大きいこと。ここ二年の「円」の30%の下落は、ソニー、トヨタ、海運大手の商船三井そして建設機械の大手コマツ等の円高による切迫性を緩和してきている。
 代りにロボット企業のファナック、スマホアプリ開発のコロブラ、オートメーション装置のキーエンス、バイオ創薬のぺプチドリーム(2*) 等 -これらの企業は日本の“ミッテルスタンド”(3*)を構成しているーの企業に国は何らかの助成をすべきであろう。
 小及中規模中堅企業はヨーロッパの大きな経済のバックボーンを形成している。ドイツ政府は、機械装置の時代にあって、すべての仕事の芽はより小さい企業から出てくると理解している。これら企業は、ほとんどは家族所有で、長い目で考える。そして、価格よりも品質と創意において秀でており、バランスシートは健全で、強力な政府の支援に浴している。日本もまた、従業員300人以下の新しい企業の後押しをする必要がある。実際にこれらの企業は、革新し、人々を雇い入れ、見方/考え方を変えている。

2. 近隣を重視すべき。”Think Regionally”
 ダイムラー(Daimler)(4*) は言っている。ドイツはアメリカと中国と多く取引している。そして来年には、メルセデス・ブランドにとってこの二国は最大のマーケットとなるであろう、と。
 しかし、Mr. S. Jen と Ms. J Freireは、種々データが以下のことを暗示していると述べている。即ち、輸出における”global super-power” としてのドイツの出現は、日本が頼っている世界化/国際化(”globalization”)よりもより地域化(“regionalization”)、また障害のないEU諸国への接近に負うところが大きかった、と。
 米国やその他の国々とのTPP(Trans-Pacific Partnership)成立は日本のもっとも硬直化した産業部門の解放の助力となるであろうとの算段のもとで交渉に臨んでいる一方で、安倍首相は、アジア諸国との関係修復に注力して、中国も含めたこれらの国々と二国間自由貿易協定を結ぶべきである。

3. 移民受け入れと熟練退職者及び女性への権限付与:
 安倍首相はまた商品同様に国民に対しても扉を開くべきである。ドイツの人口構成は日本よりも健全である。しかし、65歳以上の人口が21%を占めている現実より(日本は26%である)ドイツは素早く行動している。さらなる移民受け入れ歓迎の政策と共に、技能熟練した退職者に対して労働力として復帰するよう説得してきており、また女性に対しても権限を与えてきている。
 日本はこれら3項目すべてにおいてドイツの先例に習うべきである。

 ドイツは、確かに問題も抱えている。6.7% の失業率とユーロ通貨危機等。そしてトルコやその他の国からの移民の流入にたいして、国民には不満も生じている。しかしドイツは、日本がいかにもっと活気ある未来を作り出すことができるか、の事例をを示している。(訳:芋森)

(1*) London拠点のHedge Fund
Mr. S. Jen はone of the world’s best known exchange strategist の評価あり。
(2*) 東京大学発のバイオベンチャーでペプチド治療薬の発見と開発を目指す。
(3*) ミッテルスタンド” Mittelstand” : ドイツ語圏(ドイツ、オーストリア、スイス)における用語でsmall & medium-sized enterprisesを意味し high employment and productivity を誇っている。
(4*) Daimler AG : ドイツの自動車メーカーで、乗用車はメルセデス・ベンツ、スマート等のブランド販売されている。またトラックでは世界最大手である。 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【投稿】14衆院解散・総選挙をめぐって 統一戦線論(11) 

【投稿】14衆院解散・総選挙をめぐって 統一戦線論(11) 

<<これで「自民圧勝」と言えるか>>
 今回の選挙結果を大手新聞各紙はすべて「自民圧勝」と報道している。果たしてそうであろうか?現実を冷静に見れば、安倍政権にとっては「圧勝」とは程遠い苦々しい現実が横たわっている。
 直前までの各紙世論調査も「自民単独で300台超え」「単独三分の二確保か」などと報道、持ち上げていたが、実際の選挙結果は、自民党の議席は295→291、公明党は31→35、で自民は議席を減らし、公明がその分を埋め、結果として自公与党の議席数は変わらず、民主党は62→73、と意外に善戦、維新の党は42→41、と微減、社民党は現有2議席を死守、共産党は改選前の3倍弱となる21議席を獲得、公明党に代わって自民との連立を目論んでいた次世代の党は19→2に激減、同じく与党入りを狙っていたみんなの党は選挙前に解党という事態であった。「安倍の、安倍による、安倍のため」の、まったくの「自己都合」解散・総選挙であったにもかかわらず、明らかにその目論見は外れてしまったのである。
 これによって、安倍首相執念の九条改憲をめざす自民党と次世代の党を合わせた議席は、単独三分の二確保どころか、解散前の、衆院での改憲発議に必要な定数の三分の二に迫る314から292に逆に減らす結果をもたらした。総じて維新の党も含めた、九条改憲をめざす勢力は明らかに後退したのである。たとえ九条改憲に消極的な公明を説得し、民主党の一部やその他の野党を引きずり込んで、衆議院で3分の2以上の賛成を確保したとしても、憲法改正の発議には、衆参両院で3分の2以上の賛成が必要であり、参議院はいまだ約30議席足りない。安倍首相の執念達成にはまだまだ道遠しなのである。

<<「憲法改正は遠のいた」>>
 投開票日翌日の産経新聞12/15付「衆院選 首相が本気の民主潰し、『大物』狙い撃ちを徹底」と題した記事は、安倍首相にとってのこうした苦々しい現実を次のように報じている。(以下、引用)

 衆院選は自民党が勝利を収めたが、安倍には忸怩(じくじ)たる思いが残る。
安倍が年末の電撃解散で狙ったのは、自民党を勝たせるのはもちろんだが、むしろ自民党を含めた改憲勢力を増やし、護憲勢力を退潮させることに重きを置いていたからだ。
 見据えているのは平成28年夏の参院選だ。参院で自民党単独で3分の2超となるには、改選121議席中97議席以上獲得せねばならず、ほぼ不可能といえる。それならば維新の党や次世代の党など第三極にもっと実力を付けてもらい、参院での「改憲勢力3分の2超」を狙うしかない-。安倍はこう考えていたのだ。
 だが、みんなの党は選挙前に解党してしまい、維新や次世代などはいずれも苦戦が伝えられた。逆に民主党は議席を増やし、共産党は議席倍増の勢い。安倍は周囲にこう漏らした。
 「なぜ維新と次世代は分裂してしまったんだ。多少不満があっても党を割ったらおしまいだろ。平沼赳夫(次世代の党党首)さんは郵政解散での失敗をまた繰り返してしまったな…」
 「憲法改正はわが党の悲願だが、国民投票があり、その前に衆参で3分の2という勢力を作り上げねばならない。大変高いハードルでまだそこには至っていない。国民の理解が深まるように憲法改正の必要性を訴えていきたい」
 衆院選は自公で3分の2超の議席を得たが、憲法改正は遠のいた。任期4年で改憲勢力をどう立て直すのか。勝利とは裏腹に安倍の表情は終始険しかった。(引用、終わり)

 このような現実は、改憲や原発再稼働を煽り続けてきた読売や産経にとっても由々しき事態であろう。
 その原発再稼働をめぐっても、今回の選挙結果によって、慎重・反対を唱える野党の勢力は解散前の119議席から139議席に増えたのである。これも安倍政権にとっては由々しき事態であろう。

<<「よく言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応」>>
 議席数以上に深刻なのは、投票数の実態である。
 投票率は52.66%、戦後の最低記録を大きく更新し歴史的低投票率を記録した。総有権者数は1億396万2784人で、投票者は5474万3186人、自民得票は小選挙区で2543万1323票、比例区で1695万6321票であった。
 比例代表で見ると、自民は昨年の参院選と比べ90万票減、公明は29万票減、自民・公明で119万票の減である。これに対し、民主262万票増、共産88万票増。得票率も自民が1.57ポイント減、公明が0.51ポイント減である。小選挙区で見ても、有効投票総数は5293万票で、自民は2552万票、前回衆院選より12万票減である。全有権者比の絶対対得票率でみれば、自民は比例代表で16.99%、小選挙区で24.49%しか支持されていない。有効投票の半分以下、全有権者のわずか4分の1の支持でしかない。これをどうして「圧勝」などと表現できるのであろうか。政治不信から棄権票が増大したにもかかわらず、投票権を行使した有権者は明らかに、自公の独走に一定の、無視し得ない歯止めをかけた、と言えよう。
 自民党前幹事長の石破茂氏は、12/19付のブログで「それにしても、全国を廻ってみて今回の選挙ほど、有権者のよく言えば冷静、悪く言えば冷淡な反応を感じたことはありませんでした。街角で、あるいは対向車から手を振って下さる方は前回の四分の一ぐらいしかおられなかったように思います。政権交代の高揚感に欠けたとはいえ、獲得議席数と有権者の心理に乖離があるとすればこれは由々しき事態なのであり、我々はその間隙を埋める努力をしなくてはなりません。」と書かざるを得ない事態である。
 「獲得議席数と有権者の心理」とは、言い換えれば得票数の割に自公で3分の2超の議席を獲得できたことを示しており、それは得票率に比べて議席獲得率が高くなる小選挙区制のおかげであり、自公協力が何よりも大きく貢献したのである。

<<「この政権の傲岸な姿勢」>>
 しかしこの自公協力は、1月の名護市長選、11月の沖縄県知事選で大きく破綻し、沖縄選挙区では4小選挙区すべてで自民党候補が大敗、敗退した。選挙期間中、安倍首相は一度も沖縄選挙区を訪れることができなかった。にもかかわらず、沖縄小選挙区の自民候補は全員が復活当選した。沖縄小選挙区の自民候補は全員が比例九州ブロック1位に位置づけられたからである。この九州比例区では8人当選しているが、そのうち4人、半分が沖縄の候補であった。彼らは沖縄の民意によってではなく、本土側の、安倍政権の差し金によって復活当選したのである。安倍政権の陰湿な策謀が透けて見える典型例とも言えよう。
 12/16付琉球新報社説は「『オール沖縄』全勝 犠牲強要を拒む意思表示」と題して、安倍政権を手厳しく論断している。(以下、引用)

 歴史的局面と言っていい。名護市長選、知事選と考え合わせると、保革の隔たりを超え、沖縄は一体で犠牲の強要をはねのけると意思表示したのだ。もう本土の犠牲になるだけの存在ではないと初めて宣言したのである。
 それなのに、この政権の傲岸(ごうがん)な姿勢はどう評すべきだろう。
 安倍晋三首相は開票当日、「説明をしっかりしながら進めていきたい」と、なお新基地建設を強行する考えを示した。翌日には菅義偉官房長官も、沖縄の自民党候補全敗について「真摯(しんし)に受け止めるが、法令に基づき(移設を)淡々と進めていきたい」と述べた。
まるで沖縄には彼らが相手にする民意など存在しないかのようだ。
 今回の選挙で奇異なのは小選挙区で落選した議員が全員、比例で救済され、復活当選したことだ。有権者の審判と逆の結果が生じたという意味で、現行選挙制度の問題が極端な形で表れたといえる。
 復活当選した自民党議員たちは今後選択を迫られる。比例区当選者として政府の代弁者となるか、沖縄の民意を体現するかだ。言い換えれば、日本への過剰同化を進めて「植民地エリート」となるか、誇りある立場で沖縄の自己決定権獲得に貢献するか、である。(引用、終わり)

<<「自共対決」の現実>>
 沖縄の選挙結果で際立つのは、当選したのは1区共産党、2区社民党、3区生活の党、4区元自民党という、それぞれの党派の候補者であるにもかかわらず、沖縄県知事選で構築された「オール沖縄」という、沖縄が直面する最も重要な課題において共に戦う統一戦線が継続、維持されたことである。その統一戦線が、それぞれ各個の政党政派にかかわりなく、小選挙区で互いに協力・連携・共闘すれば勝利できることを明確に実際に体現し、有権者がそれを強く支持したことである。1区では「共産党政権を阻止せよ!」「中国に沖縄を売り渡すな!」などと反共キャンペーンがしつこく展開されたが、それでも自民支持層の17%が共産党の赤嶺候補に投票している。2区、3区、4区においてもそれぞれの党派だけでは過半数を制することはできなくても、統一戦線こそが勝利をもたらしたのである。
 省みて本土側では、反自民の野党共闘は無きに等しく、中途半端で、対決政策のすり合わせさえできない、そもそも共闘する意思さえもたず、各党派エゴ、セクト主義が優位を占めて、安倍政権を大いに助けたといえよう。
 共産党は大きく前進したが、沖縄方式は本土側では一箇所もなく、「自共対決」の名のもとに全小選挙区に候補者を立てた。文字通り、「自共対決」となった選挙区が今回は25カ所にも増えたが(前回12年は4カ所)、共闘や、統一戦線、連携は一切なかったし、1議席も獲得できなかった。小選挙区で共産党が議席を獲得できたのは、沖縄1区のみなのである。これでは「自共対決」などととても言えたものではない。それでも野党共闘の乱れや失敗によって、共産党が安倍政権批判票の一定の受け皿となり、「自共対決」区では10%台後半から30%台の得票を獲得し、共産党に大きな前進をもたらしたが、そこまでである。大阪3区、大阪5区、兵庫8区では共産党と公明党の一騎打ちとなったが、相手は自公連合であり、議席の獲得は不可能であった。
 今回の解散・総選挙は、この選挙結果によってさらに暴走しかねない安倍政権を阻止する統一戦線形成に大きな課題と問題点を提起したと言えよう。(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【コラム】ひとりごと —総選挙後の雑感— 

【コラム】 ひとりごと —総選挙後の雑感— 

 今回の総選挙では「関心がわかない」と思っていたが結局、その心境は変わらず。でも期日前に投票には行った。ところが関心がわかないのは自分だけでなく、戦後最低の投票率、自分だけではなかった。総選挙結果はご存知のとおり与党の圧勝。投票率が低くても獲得投票率が一位のみが当選する小選挙区制のマジック。従って、与党の圧倒的議席獲得数と全有権者数から見た与党支持率とには相当のギャップがあることを表面化していない事実として認識はしておいた方がよい。
 それにしても2/3を上回る与党議席数は脅威だ。これまでも右振れできるだけ右振れした安陪内閣、今後の政権運営では、特に憲法改悪は公明党が慎重なので直ちにとは行かないにしても、相当に至近距離に近づいたことは確か。それに敢えて争点隠しされた集団自衛権に関る関連法案の改悪・特定秘密保護法の具体運用等をはじめとした反動的諸問題も白紙委任的に強引に推し進めてくる可能性がある。
 またアベノミックスの成否が、安陪政権の行末の重要ポイントとなると思うが、私は、アベノミクスの「三本の矢」の中でも第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」の内の内需(個人消費)拡大だと思っている。従って安陪内閣は経団連に対し、賃上げ等を要請し、経団連も一定、これに応えている。しかし折角の賃上げも中小企業に至るまでの波及効果は乏しく、国民的内需(個人消費)拡大には及ばない。そもそも、かつての国民春闘時代に労働側は「鉄鋼」を長年、第一次相場形成に設定していたが、「鉄鋼」構造不況の中で、「金属」「私鉄」等を第一次相場形成のバッターに工夫してみるも、結局は効果は上がらず、「産別自決」の名の下に春闘賃上げパターンが崩壊していった経過がある。つまり言いたいことは、安陪政権が言おうと労働側の賃上げ要求であろうと、賃金引上げの社会的波及効果は喪失しているということである。そこに加えて労働者派遣法改悪の目論み等、国民的内需(個人消費)拡大に相反する格差拡大策。これだけでもアベノミクス破綻―国民的納得感は得られず、失速の可能性はある。
 ただリベラル改革派としては、先述の「与党の圧倒的議席獲得数と全有権者数から見た与党支持率とには相当のギャップがある」ことに着目し、別稿「労働者派遣法」関連で既述したように、選挙投票行為に頼らず、署名・デモ・国会包囲行動等の「行動化」を提起し実践することだろう。
 なお因みにリベラル改革派の私としては、その避難所として共産党に投票した。
(民守 正義) 

【出典】 アサート No.445 2014年12月27日

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【投稿】政権延命目論む解散総選挙

【投稿】政権延命目論む解散総選挙

<正当性無き粉飾解散>
 安倍総理は消費税の10%への引き上げを延期したうえ、12月14日に総選挙を強行しようとしている。これは内政外交の失政を糊塗し、政権の延命のみを目論む政治的策謀にほかならない。
 総選挙では、消費税増税延期について信を問うとしているが、市民はもとより野党も与党もほとんどが延期賛成であり、争点にはなりえない。
 安倍総理としては「増税派」の徹底抗戦で「抵抗勢力」を作り上げ、「小泉劇場」の再演を目論んでいるのかも知れない。
 現下の状況では再増税こそ信を問わねばならない判断であるのに、増税延期をさも自分の手柄の様に吹聴するのは滑稽でさえある。
 安倍政権はこの間様々な問題で、行き詰まりの兆候を見せていた。
 内政面では、改造内閣発足早々、小渕経済産業大臣、松島法務大臣が不透明な政治資金管理と有権者への寄付疑惑によって辞任に追い込まれた。
 さらに江渡防衛相、宮沢経産相にも政治資金に係わるさまざまな問題が浮上しており、第2次安倍内閣はまさに「地雷内閣」の様相を呈していた。
 野党の追及が厳しさを増すなか、アベノミクスの綻びは露わになり、経済環境は悪化の一途をたどっていた。
 この難問を前に安倍総理は、消費増税延期を匂わす動きを見せていたが、それを阻止せんとした日銀の量的緩和の再拡大という奇策による円安、株高を好機とし、いわば逆手にとる形で一気に解散・総選挙に突き進みだしたのである。
 予期せぬ事態に黒田総裁は「今回の金融緩和は予定通りの消費増税が前提」と慌てたが、菅官房長官は「増税は政権がきめること」とけんもほろろの対応である。
 部下が「万歳突撃」を敢行したのに指揮官は動かなかったのである。これは安倍総理の裏切り行為であり、黒田総裁は本来なら抗議の意を込め辞任してしかるべきであろう。
 アクセルを踏んだ車のブレーキを取り外したに等しい日銀、安倍政権の一連のちぐはぐな動きは、経済的整合性を無視し、制御不能な円安から市民生活破壊、財政破綻に落ち込む危険性を一層増大させた暴挙であろう。
 他の目玉政策での失敗も大きいものがある。北朝鮮による拉致問題は、完全に頓挫した。10月27日政府は拉致問題に関する、北朝鮮の調査の進捗状況を確認するため、調査団を平壌に派遣した。
 調査団は特別調査会の徐大河委員長らと会談したが、「日本側は拉致被害者の安否が最重要問題と考えている」と伝えるのが精いっぱいで、北朝鮮側からの具体的な回答は引き出せなかった。「夏の終わりから秋の初めに第1次回答を行う」という5月の日朝間ストックホルム合意は、完全に反故にされた。
 拉致被害者家族はもちろん政府・与党内からも「何をしにいったのか」との声が出されるほどの散々たる事態である。
 
<外遊は海外逃避か>
 様々な手詰まりから逃げるように、APEC首脳会議など11月9日から17日に渡る長期の外遊に出発した安倍総理であるが、これまでの外遊と同様、成果は残せなかった。
 10日には北京で2年半ぶりの「日中首脳会談」が開かれたが、事前に日中間で合意文書が作成されるという異例の展開を見せた。
 中国は首脳会談開催にあたって、「靖国不参拝の確約」と「尖閣諸島を巡る領有権問題の存在確認」を条件としていた。
 合意文書では「歴史を直視し・・・両国関係の政治的困難を克服」「尖閣諸島など東シナ海の海域において近年緊張状態が生じていることについて異なる見解を有していると認識」という表現で、中国の主張を安倍政権が受け入れることとなった。
 「前提条件なしの首脳会談」という前提条件は崩れ、安倍総理は習近平主席に会うこととなった。
 しかしわずか25分の「会談」は終始ぎこちない雰囲気で進み、内容の無いものとなった。中国にすれば合意文書ができた以上、会談などさほど重要ではないということだろう。
 合意文書発表直後から、安倍政権を支持してきた有象無象から「中国に屈した」という批判が巻き起こり、会談後も「笑顔、国旗のない中国の対応は無礼」という声が上がっている。
 慌てた政府は岸田外相が「文書に法的拘束力はない」「日中間に領土問題はない」などと火消しに躍起となっているが、後の祭りというものであろう。
 今回の会談は中国に屈したというよりはアメリカと経済界の圧力に屈したというべきものであろうが、安倍総理にとっては屈辱であったに違いない。
 一方、日中に先立って行われた日露首脳会談は笑顔に満ちたものであったが、内容はプーチン大統領の年内訪日中止の確認という、侘しいものであった。
 北京を後にした安倍総理はASEAN関連首脳会議に出席するため、12日ミャンマーを訪問した。
 ASEAN首脳との会議では、北京での握手を忘れたかのように「『海における法の支配の三原則』にのっとった行動を期待しており、本件が地域共通の課題であることを明確にすることが重要」と中国をけん制した。
 しかし議長声明等では、南シナ海問題に於ける中国包囲網は形成されず、逆に経済援助を拡大させる中国の存在が大きく印象づけられる結果となった。
 同地での首脳外交でもオバマ大統領が、アウンサン・スーチー氏と会見し、ミヤンマーの一層の民主化を促す等、存在感をアピールしたのに比べ、安倍総理はセイン同国大統領との会談で、国交樹立60周年記念銀貨を渡すという儀礼的な外交に終始した。
 15日からのG20首脳会議のため、訪れたオーストラリアで安倍総理はアベノミクスの成果を強調した。
 しかしこの場でも来年のG20議長国に初めて中国がつくことが明らかになった他、BRICS首脳会議が開かれ新たな開発銀行の設立加速がアピールされるなど、外遊全体にわたり習主席の後塵を拝する形となった。

<中国敵視は不変>
 安倍総理は「日中首脳会談」をもって政権の平和姿勢をアピールしているが、ASEANで見せたように、中国に対する敵視、警戒を解いていない。
 安倍総理留守中の日本では、中国を「仮想敵」とした大規模な軍事演習が行われた。
 安倍総理出発前日の11月8日からは「島嶼部に大規模な侵攻が発生」=「南西諸島に中国軍が上陸」したことを想定した日米合同軍事演習「キーンソード2015」開始された。
 これは日本海から東シナ海までの広大な区域で、陸海空自衛隊約3万人、アメリカ軍約1万人が参加する、海上、航空作戦を軸とした演習であり今年で12回目となる。
 また、陸上自衛隊は「キーンソード」の陸上作戦パート、さらに各自衛隊の「協同転地演習」の九州・沖縄方面作戦として、10月27日から11月26日まで「鎮西26」演習を展開している。
 これは、民間船を「徴用」しての北海道、東北から九州、奄美への部隊移動、兵站訓練のほか、上陸作戦、さらに捕虜移送訓練など、より中国を意識した実戦的色彩の強いものとなった。
 以前から計画されていたものとはいえ、首脳会談が実現するか否かの微妙な時期に、あからさまな挑発を行うようでは、習主席に笑顔を求めても無理であろう。
 自民党政権は1998年、江沢民主席の訪日直前にも、3自衛隊による硫黄島での大規模な上陸演習を実施し、中国を刺激した「前科」がある。

<沖縄から総選挙へ>
 オバマ政権は「キーンソード」に、空母「ジョージ・ワシントン」やF22戦闘機を参加させているが、中国とのバランスに腐心している。
 APEC終了後2日間に及んだ米中首脳会談でオバマ大統領は、香港のデモなど人権問題や南シナ海問題で釘を刺したものの、経済、環境など様々な分野での協力に合意した。
 この姿勢と軌を一にしてオバマ政権は軍部への牽制を強めている。
 今年初めに「中国軍は自衛隊を短期的、激烈な戦闘で撃破し、尖閣諸島や琉球列島南部を占領する新たな任務を与えられた」と発言した太平洋艦隊のファンネル情報部長(大佐)が、APEC開催に合わせるかのように更迭された。
 また、「日本の集団的自衛権を歓迎」し「アメリカには台湾を防衛する義務がある」と発言している、グリナート米海軍作戦部長(大将)は「沖縄に新型無人偵察機を配備する」と、11月4日に表明したが、1週間後に否定された。
 新な日米防衛協力の指針(新ガイドライン)に関し、年内に予定していた最終報告を先送りするための協議を開始したことを明らかにした。
 これは政府与党内で公明党との調整が難航しているためと言われているが、自衛隊が巡航ミサイルなどの敵基地(策源地)攻撃能力を保有することに、アメリカが難色を示していることと関係があるだろう。
 アメリカが、無人偵察機配備を否定したことや、「キーンソード」の実動演習区域から沖縄近海を除外したことは、中国に対する配慮とともに沖縄知事選を考慮しての措置だったと考えられる。
 しかしながら、11月16日の沖縄知事選挙では、辺野古移転反対を訴える翁長候補が当選した。妨害工作ともいえる喜納、下地両氏の立候補をはねのけての勝利である。
 仲井間知事は「普天間基地の5年以内(2019年2月まで)の運用停止」を起死回生の訴えとしたが、アメリカばかりでなく安倍政権も実現に向けての真摯な動きを見せなかった。仲井間氏は梯子を外されたに等しい。
 「知事選敗北は織り込み済み」と言わんばかりに選挙翌日安倍総理は素知らぬ顔で帰国した。
 予定される総選挙での「勝利」を持って、内政外交の行き詰まりをリセットし、新たな市民生活負担増と東アジアでの緊張激化への「承認」を得ようとする、安倍政権の目論見を、沖縄の勝利を梃に阻止しなければならない。(大阪O)

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【投稿】日本の全ての富を米金融資本に貢ぐ 世紀の国家詐欺「ハロウィ-ン追加緩和」 

【投稿】日本の全ての富を米金融資本に貢ぐ 世紀の国家詐欺「ハロウィ-ン追加緩和」 
                           福井 杉本達也

1 強引な黒田日銀の「ハロウィ-ン追加緩和」と年金資金による株買い
 10月31日、黒田日銀は突然の追加緩和を発表した。金融政策の目標としている資金供給量をこれまでの年60兆~70兆円から年80兆円へ増やす。長期国債の買い入れ額も年50兆円から80兆円へ大幅増。買い入れ国債の平均残存期間も7年から7~10年程度に延ばしてできるだけ先の長い期間の金利を下げる。加えて日本株と連動する上場投資信託〈ETF)や不動産投資信託(REIT)の購入も3倍増。GDP(国内総生産)に占める資金供給量や国債買い入れ高などは異次元緩和(QE3)の米国を大きく上回る。
 日銀の追加緩和と同時にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の新しい基本ポートフォリオも発表されて、市場が湧いた。今後、国内株式だけで10兆円以上を買い増しすると予想される。GPIFは約130兆円を運用する世界最大級の機関投資家である。運用しているのは、厚生年金、国民年金の積立金である。基本ポートフォリオでは全額債券並みのリスクで、「名目賃金上昇率+1.7%」とうたうが、そのような好都合で高い利回りが可能なのか。しかも、「想定運用期間」を25年として。しかし、変化の激しい時代、想定できるのは5年ではないか。山崎元氏は「「株式50%」新運用計画は素人でも許されない無責任な代物で、年間22兆5千億円の損失があり得る」と指摘する(「現代ビジネス」2014.11.13)。

2 日米の金利差拡大により資金を強制的に米国へ
 米連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和(QE3)を10月末で止めたにもかかわらず、日銀が今回の追加緩和により、ゼロ金利政策をさらに続けるということは、当然日米の金利差が拡大することとなる。資金は金利の低い方から高い方に流れる。金利の低い円が売られドルが買われるので、為替レートは円安に傾く。「アベノミクス」の解説では「円安による輸出競争力の強化」と「物価目標2%の達成によるデフレからの脱却=景気回復」であるが、どちらも大嘘である。輸出が増えるはずの2013年度の経常収支はわずか8000億円に過ぎなかった。14年第1四半期は1兆4000億円の赤字になっている。円安にもかかわらず輸出が伸びず、しかも景気が低迷しているのに輸入が急増していることによる。海外工場移転先からの製品輸入や円安で原油・LNG価格などが高騰したことも大きい。燃料価格は1年半で20%も上昇している。輸入物価の上昇により中小企業と消費者は打撃を受け。当然ながら景気は冷え込んだままである。10月31日・日銀自身が成長率を0.6%へと下方修正せざるを得なくなった。
 円安誘導の真の狙いは、日本の資金を米国に持っていくことにある。資金が集まらなくなった米国をファイナンスすることにある。

3 中国を中心とするBRICS諸国の台頭により、資金が米国から新興国へ
 米国に資金が集まらなくなっているのは、特にBRICS開発銀行合意とアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の影響が大きい。BRICS銀行はIMFに対抗するものであり、AIIBはアジア開発銀行への対抗手段となる(FT:2014.10.31社説:日経)。中国はこれまで、米国への輸出で稼いだ金を米国債の購入に充て、米国の財政をファイナンスしてきた。2014年8月現在の中国の米国債保有残高は1兆2697億ドルであり、世界一ではあるが、ここ1・2年ほとんど変化していない。一方日本は1兆2301億ドルであり、貿易赤字の続くこの1年間にも800億ドル上乗せし、中国を再逆転しそうな雰囲気である。
 中国は貿易黒字で貯めた金を、米国に還流させることをやめ、新興国へのファイナンスに使い始めたのである。
 11月10日には中国とロシアは人民元決済による取引の拡大を発表したが、中国はその他カナダ・スイスとの通貨交換協定を、人民元建てのイギリス国債発行を、仏・独でも人民元決済サービスの提供を始めている。
 これまでは、中国を始めとする新興国の資金は、一旦、ニューヨークに集められ、米国の資金として米国の刻印を押されて他の発展途上国に貸し付けられていた。ところが、今後は米国をスル―して直接BRICS銀行などから発展途上国へ、または基軸通貨であるドルを使わず人民元決済が行われることとなる。こうした流れの中、6月・米ハゲタカ・ファンドから2001年デフォルト時の債務不履行を訴えられ、連邦地裁の支払い命令を受けたアルゼンチンは再デフォルト不可避と思われたが、ハゲタカの不当な要求を拒み対決している。
 この状況は基軸通貨ドル体制の崩壊であり、米国の崩壊へと通ずる道である。米国産のシェールオイルの原油やシェールガスのLNG化による輸出が盛んに叫ばれるようになっているが、ドルが米国に集まって来るなら、これまで通り国内資源保護政策として、豊富なドルで原油やガスを買えばよい。資金が集まらなくなっている(ドル暴落が時間の問題)から原油・ガスの輸出が叫ばれているのである。米国はウクライナ紛争によるロシアへの牽制、「イスラム国」騒動によるロシア・中国への牽制、香港『雨傘革命』による中国への牽制など、様々な手段によりBRICSが連携することを阻止しようとしてきたが、どれもうまくは行っていない。直近では、サウジを動かして原油安を仕掛けている。これは資源輸出に多くを依存するロシアの財政に打撃を与えるためである。「世界経済に与える影響、石油市場や地政学上の競争相手に与える打撃、そして安全保障の鍵を握る米国との関係。これらの戦略的判断がサウジの一手を決める」(小山堅日本エネルギー経済研究所:日経:2014.11.11)。原油価格は市場の需給関係で決まるというのは大嘘である。昔も今も政治商品である。
 こうした中、中国をどう取り込むか又は対決するかで米金融資本内においても意見の食い違いが大きくなっている。去る11月1・2日と箱根で開催された富士山会合(日本経済研究センターと日本国際問題研究所主催)ではデニス・ブレア元米国家情報長官は「中国主導で設立をめざすアジアインフラ投資銀行(AIIB)についても『反対すべきではない。不安があるなら中から変えるべきだ』」と発言、一方、米軍産複合体を代表するマシュー・グッドマン米戦略国際問題研究所(CSIS)政治経済部長や西室泰三東芝相談役らは参加に否定的見解を示している(日経:2014.11.12)。

4 米QE3を引き継いだ日銀「ハロウィ-ン緩和」は無限の米国への資金の垂れ流し
 中国やBRICSからの資金還流が少なくなるならば、『同盟国』日本から徹底的に収奪する以外に方法はない。日本の国富(年金資金や郵貯)をできるだけ多く合法的に収奪することが米金融資本の狙いである。日銀に追加緩和させ、年間80兆円のカネで日銀は今後、長期国債もどんどん買い増すとしており、長期国債も現物が市場から払底しマイナス金利に近づいている。日銀の資産は傷み、国債市場は機能不全に陥ってしまう。民間が最も安全な国債を買えないようにし、トコロテン式に資金を米国債に振り向けざるを得ないようにしている。為替ヘッジがなく、円高に振れたならば為替損が発生してしまう。また、ETF を3倍の3兆円、REITも3倍の900億円増して、株価も、不動産価格も釣り上げようというのである。株が高騰し、つられて、個人投資家が日本株を買い始め、130兆円の年金積立金を運用して、さらに株高を演出し、バブルが起こしたところで、外資は大量の空売りを仕掛ける。 政府や黒田日銀はこのような 外資のシナリオを先刻承知の上で、米金融資本の代理人として、究極の国家詐欺=売国政策を行いつつある。
 量的緩和とは「バブルで空いた穴をバブルで埋める」ことである。しかし、危険なゲームは長続きしない。既に「自動車版サブプライムローン」の危険性もささやかれている(日経:2014.9.3)。金融緩和の「出口」が模索され、金融がおかしくなる前にマネーの蛇口を締める。FRBは緩和マネーを2014年1月から減らし、10月末に量的緩和を終了した。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和も始まる。米国が蟻地獄から抜けるのは黒田日銀の「ハロウィ-ン緩和」という“後釜”ができたからである。日本と欧州が緩和マネーをどんどん吐き出せば、米国の株式市場は暴落を避けることができる。しかし、その分、日本はバブルが弾けるときにはとてつもない打撃を受けることになろう。その時、日本の全勤労者が長年ため続けた、公的年金資金もろとも沈没するだろう。
 出口の全く見えない日銀の追加緩和を、米ヘッジファンドのゴールドマン・サックスは、旧日本軍の最後の玉砕突撃に重ねて「バンザイノミクス」と評している。 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【翻訳】 朝日をめぐるもめごとへの誇張は日本を辱しめる

【翻訳】 朝日をめぐるもめごとへの誇張は日本を辱しめる
          Hyperbole over Asahi affair shames Japan :
          [ 朝日をめぐるもめごとへの誇張は日本を辱しめる]
           by Mr. Jeff Kingston, Temple University Japan,
              Director of Asian Studies
               (Japan Times 記事 on Sept. 28, 2014)

Journalistic wrong-doing in several articles として
1. 任天堂社長とinterviewしたとの記事
2. 福島原発事故での吉田所長の作業員への指示
3. 慰安婦記事
4. Regular columnist池上彰氏の掲載一時停止

 朝日新聞(以下「朝日」)の編集者たちは倫理上の責任と信頼回復に信じられないくらい愚鈍さを示した。
 The right-wing mediaは朝日を叩いた。
 保守政治家、反動主義者、権力者、堕落した人々 – ずっと”Liberal”な朝日の的を得た正確な記事に苦しんできた – は喜んだ。ごく自然に”Team Abe is manipulating the Asahi affair for political advantages”. このことは “more about politics than journalism, part of large culture war.. 朝日は、ずっとこれら保守反動層に対して”the right(正しい)main media” だった。
 慰安婦については、朝日は吉田精二氏の証言を信頼していたが、この証言が事実でなかったとしても、慰安婦問題は消すことができない。証拠は他にたくさんある(例えば”AWF digital Library [ 国会図書館監修] にても見られる。)。反動主義者は、朝日の失態を利用して慰安婦問題がなかったこと(“to wipe the slate clean”)にしたいと欲している。このような言い逃れ(“quibble”) はかえって日本の威厳を損なっている。 安倍歴史白紙化内閣 (“Abe’s history-whitewashing Cabinet”) には15名の日本会議(a reactionary political group)会員が入っている。
 ドイツはその恥ずべき歴史(“vile history”)を正視し向き合ってきて、威信を取り戻してきている。他方、日本は未だ戦時の物語の正当性を立証することに執着している。このことは、日本の名声 (“Japan’s brand”)を汚すと共に和解を妨げている。
 もう一つの悪評は、3/11の福島原発事故での吉田昌郎所長の証言に関するものである。
 サンケイ新聞は、朝日は吉田所長の証言(作業員の退去についての)を歪めているとして非難した。しかし両紙は自紙の指針を彼の言葉に読み込んだだけのものと思われる。
 吉田所長は言った。「10Km離れた第二原発に危険を察知して逃れた作業員達は、所長の当初の指令を無視して、より安全なところ(第二原発)に避難したのは、正しかった。」
 それ故に、彼は、朝日が暗示したような、作業員達は意図的に彼の指令をうけいれなかった、とは感じなかった。しかしハッキリしていることは、作業員達は彼の指令に従わなかった。恐らく作業員達は大混乱の中で、実際にその指示を聞かなかったかまたは理解しなかった。彼はまた不平を言っている。東電本社が避難退去に関するかれの意見を誤解した上に、現場実情を官邸にはっきりと伝えなかったと。
核の安全について、所長は、押し寄せる災難に対処することにかかりっきりで、危機の中で、結果として、指示は歪曲されて (“garble”) 伝えられたことは明白である。
以下の事は、未だはっきりしていず確定されていない、即ち、 [所長の指示が必ずしも効果的に伝えられなかったし理解されなかった。また、正しく使命を果たすべき作業員達は、危機の中にあって、緊急に必要とされていたとしても、間に合わず用をなさなかった。]
 心配なことに、吉田所長は、いくつかの緊急安全装置の適切な使い方を知らなかったことを認めている。原子力規制委員会の新安全基準は、今回のような重大事故や、事故の際の30Km避難地域から逃れてくる住民への不適切な対応計画には言及していない。原子力産業は、危険が消え去っていくことに望みを託す愚かさを学んでいないし、未だ安全文化を欠いたままである。
 朝日のお蔭で吉田証言が公開された。そしてずっと無視され続けていた重大危機の出来事について多くを学ぶことができた。
 政治がかった中傷のまっただ中で、このことを忘れてはならない。即ち職権乱用、違法行為の暴露と透明性の推進によって、朝日がどれくらい日本における民主主義の発展に寄与してきたことか。また朝日の戦争への適切な対処によっていかに日本の名声を高めたことか。
 安倍首相は、気が進まない国民を「右」側(反対多数の中での原発再稼働、武器輸出、集団的自衛権そして秘密保護法)に引っぱっている中で、日本はかってないほど朝日を必要としている。その土台を取り戻し、かつ彼の詭弁、ごまかし (“chicaneries”) を国民の眼にさらすために。(訳:芋森) 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(10) 

【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(11) 

▼ にわかに政局は衆院解散・総選挙へと走り出した。安倍政権の走狗と化しつつある読売・NHKがリークし、主導する報道によれば、安倍首相は年内に総選挙を行うことを決断し、来年10月の消費税率10%への引き上げを延期する方針を表明するという。首相自身の表明もないうちに、「12月2日公示-14日投開票」が既定路線として駆け巡っている。
 自民党の石破前幹事長でさえ「総理が何一つ発言しておられないにも拘らず、一部のマスコミ報道によって端を発し、急速にこのような雰囲気が醸成されつつあるのは、正直何とも不思議な気が致します。消費税率アップなら消費減退を最小限に留めるとともに低所得者に対する対策を、先送りなら財政再建のための歳出改革の道筋を示すのが当然であって、それを示さないのなら何のための解散なのかわからない、と言われても仕方ないでしょう。」と発言し、自民党の岐阜県連は「消費税を解散の大義名分とするのは後付けで、国民のことを一切考えない党利党略」として、「年内の衆院解散・総選挙に反対する決議」を採択している。
 9月に内閣改造を行ったばかりで、次から次へと閣僚のぼろが出始め、当初は10%への消費税増税判断を12月上旬に行うとしていたものを、11/17の今年7~9月のGDP速報値発表で景気の落ち込みがさらに深刻化している実態、アベノミクスのボロがもはや覆い難い事態の進展を前に、政権の延命と保身のために、急遽、増税の延期と「引きかえ」に解散をするという全く、国政を私物化した解散・総選挙である。しかしそれは、今のうちに解散しておかなければ、事態はさらに悪化しかねないという、追い込まれた解散・総選挙だとも言えよう。
 安倍政権は、今年に入ってからの都知事選、滋賀県知事選、福島県知事選、そして沖縄県知事選、いずれにおいても安倍政権が推し進める原発再稼働政策、対中国対韓国緊張激化政策、特定秘密保護法、集団的自衛権と憲法改悪、そして沖縄辺野古の米軍新基地建設、等々の基本政策は全て選挙の争点とすることを徹底して避け続け、アベノミクスとその場しのぎのバラマキ政策を中心に据えて選挙戦をしのいできた。
▼ 10/26投開票の福島県知事選はその典型であった。自民党は、県連が擁立決定した候補を、首相官邸と党本部が引きずり降ろしてまでも相乗りを決める異例さであった。この時点で自民党は既に敗北しているのである。しかしその相乗りを認めた民主党や社民党も、自民党との対決を放棄し、政府・自民党の原発再稼働・福島切り捨て路線が明確な争点にならない、うやむやで曖昧な無責任な路線に同調してしまったのである。
 あの原発事故から三年七カ月以上を経ても収束どころか、「アンダーコントロール」もできず、放射能を拡散し、汚染水をたれ流し、補償にも力を入れず、県民不在のずさんな健康管理調査で、避難の権利さえ認めない、エネルギー政策の転換にさえ踏み出せない、そうした東電や政府の棄民政策とも言える日本の政治の冷厳な現実に福島県民は直面させられてしまったのである。
 その結果が、投票率は45.85%とワースト2位を記録。知事選では現職60万票が当然であったにもかかわらず、当選した前副知事の内堀氏は現職同然で、民主・社民・自民・公明等の相乗り、逆「オール福島」でありながら50万票を割る49万票であった。それでも候補者6名のなかでの得票率は、実に66.8%、他の5候補を大差で引き離したのであった。
 政府・自民党の原発再稼働路線に対して明確な対決姿勢を打ち出した、次点の新党改革=支持、共産=自主的支援の熊坂氏は13万票弱、元双葉町長の井戸川氏は3万票弱、と惨敗であり、選挙間際の付け焼刃的な統一戦線政策では有権者の信頼を勝ち取ることができないことが明示された。
 自民党は政策不在の「無風選挙」で原発政策が明確な争点にならず、形式上は連敗を逃れたことに安堵しているのであろうが、自らの政策選択をさえ迫ることができない、実質的には敗北なのである。
 急遽浮上した12月解散・総選挙も、これまた政権の延命と保身のために、アベノミクスの破綻を覆い隠すための増税先送りをいわば〝えさ〟にした、全くのご都合主義的な争点隠しの選挙戦略と言えよう。
▼ しかしこのような争点隠しの安倍政権の選挙戦略は、沖縄県知事選の現職・仲井眞氏の敗北によって吹き飛んでしまったといえよう。唐突な解散・総選挙説が浮上したのは、この敗北濃厚であった11/16の沖縄県知事選に焦点を合わせ、仲井眞陣営に喝を入れ、普天間基地県外移設で揺らいできた沖縄選挙区選出の自民党議員を引き締め、対抗馬である「オール沖縄」を体現する翁長氏の票を少しでも引き下げるための姑息な策略でもあったからである。
 菅官房長官は、翁長氏が知事選出馬を表明した9/10に、米軍の辺野古新基地建設を「(仲井真氏が)承認し、それに基づき粛々と工事している。この問題は過去のものだ」と傲慢極まりない発言をしたのであったが、実はこれが最大の争点であったことが逆に証明されてしまったのである。
 基地建設を強行せんとする安倍政権にとって、これは過去の問題ではなく、現実最大の問題であり、もはや基地建設を強行すれば安倍政権は完全に見放されてしまう、政権基盤をさえ脅かされかねない、最大の難関が沖縄県民の総意として突きつけられたのである。事態をここまで追い込んだ安倍政権、そしてこの沖縄県知事選の敗北は、自民・公明連合にとって最大の衝撃といえよう。
 当選を決めた翁長氏は11/16夜、「(辺野古埋め立て承認の)取り消し、撤回に向けて断固とした気持ちでやっていく」「私が当選したことで基地を造らせないという県民の民意がはっきり出た。それを日米両政府に伝え、辺野古の埋め立て承認の撤回に向けて県民の心に寄り添ってやっていく」と述べ、同日選となった那覇市長選でも、翁長氏の後継の前副市長が自民、公明が推す候補を破った。
 沖縄県知事選の翁長氏陣営の勝利は、沖縄の新しい歴史を切り開くとともに、日本の統一戦線史上、時代を画するものと言えよう。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【コラム】ひとりごと —「難病とは何か」—

【コラム】ひとりごと —「難病とは何か」—

 最近、私が難病サルコイドーシスに罹患して、難病について考えてみた。
先ず難病についての定義だが、一つは概念上の定義で、要約すれば、、1972年の難病対策要綱を参考に「1,原因不明、治療方法未確立であり、かつ、後遺症を残すおそれが少なくない疾病 2,経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く、また精神的にも負担の大きい疾病」とある。そして、もう一つの定義として、「厚生労働省健康局長の私的諮問機関である特定疾患対策懇談会において検討の上で決定される、特定疾患」がある。この特定疾患には「難治性疾患克服研究事業(臨床調査研究分野対象疾患)-130疾患」、「特定疾患治療研究事業対象疾患-56疾患(2009年10月1日現在)」に大別されるが、いずれにしても、これら指定された特定疾患の医療費の一部または全額が公費で受けることができる。
 難病を巡る問題で、よく言われるのは、一つは、特定疾患に指定されていなくても、原因不明、治療困難で実質、難病とも言えるものもあり、その場合、医療費の公費負担を受けられず、本人と家族の厳しい看護・介護を強いられる現実もあるということである。もう一つは、一旦、難病に罹患すると、難病一般をまとめた偏見もあって、直ちに就職問題の壁にあたり、生活困窮に陥るということである。
 一方、難病をテーマとした運動側主体は、特定非営利活動法人 大阪難病連があるが、そこではホームページ等で情報の提供と、毎年1回、大阪府行政交渉等も行っている。自分も公務員現役時代、行政側立場で交鈔に臨んだことがあるが、大阪難病連の「もっと難病に対する啓発に努めてほしい」という要望に何とか応えようと、限られた予算とスペースの中で、僅かであるが啓発記載をしたことを覚えている。ただ苦言を呈すれば、大阪難病連の大阪府行政交鈔は、多少、マンネリズムで「今年は、何を具体的に焦点化し、獲得するか」等について、もう少し、戦略化した方がよいと思われる。今は一市民の立場に立った者の浅意見として許し願いたい。なお私のサルコイドーシスについては、組織されていないようである。
 難病については、古くて新しい問題だと思うが、障害者問題が注目されてきている中で、同類的に多少、関心の高まりがないわけでもない。ただ難病は難病として正確に理解されなくてはいけないし、医学的研究は当然のこと、難病だからこそある社会的問題にも直視し、具体的に対策を講じなければならない。難病は、あまりクローズアップされてこなかった問題だが、原因不明だけに誰でもが難病に罹患する可能性があるとの認識のもと、様々な問題意識の一つに加えていただければありがたい。(民守 正義) 

 【出典】 アサート No.444 2014年11月22日

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【投稿】経済政策破綻糊塗する安倍軍拡

【投稿】経済政策破綻糊塗する安倍軍拡

<景気後退と憎悪拡大>
 景気の実態が急速に悪化している。4~6月期の国内総生産(GDP)は低下し、内閣府が10月7日に発表した8月期の景気動向指数でもそれが明らかとなった。
 一致指数の基調判断では「景気動向指数(CI速報値)は、下方への局面変化を示している」とされ、7月期の「足踏み」判断から後退した。
 この判断は、今年の春ごろが景気の山だった可能性が高いことを示しており、消費税引き上げが決定的となったと考えられる。今後の景気動向指数では「悪化」判断がなされるかが焦点となってきている。
 労働者の収入は政府主導の賃上げなどにより、名目賃金は上昇したものの、物価上昇率を踏まえ修整した実質賃金は、14か月連続の前年割れとなっている。
 これらを衆参両院の予算委員会で野党各党から追及された安倍政権は、「消費税引き上げの反動減だ」などと、都合の良い判断と数字を持ち出して反論した。
 しかしこの間明らかとなった経済指標は勢いに欠けるものばかりで、とりわけ委員会開催期間中に公表された先述の景気動向指数は痛打となり、政府の弁明は説得力を持たなかった。
 さらに安倍総理が「円安には良い面と悪い面がある」と述べたのに対し、黒田日銀総裁は「円安は全体的にはプラス」と述べるなど、政府と日銀の経済政策の迷走が露呈した。
 安倍政権はいまだにアベノミクスの成果を喧伝しているが、三本の矢は的の手前ですでに地面に落ちている。
 「大胆な金融政策」は限界が来ている。さらなる金融緩和が実施されれば、日米金利格差はさらに拡大し、「悪い円安」が一層昂進するだろう。
 「機動的な財政政策」はもうばら撒くものも、ばら撒き先もない。9月の内閣改造で打ち出した「地方創生戦略」に関しては、早々に政権自ら「バラマキはしない」と地方の期待にくぎを刺した。渋々地方創生担当相を引き受けた石破大臣は、手ぶらでの地方行脚を強いられようとしている。
 「新たな成長戦略」も具体的成果はない。「女性が輝く社会」は管理職登用の数値目標などが取り沙汰されているが実効性は不透明である。現状は安倍政権の女性閣僚、党役員が不気味な光を放つばかりである。
 海外や民間投資も湿りがちとなっている。そこで政府は自ら投資を進めようとしている。塩崎厚労相らが目論む年金積立金の投機的運用が始まれば、不安定な経済情勢の中で巨額の損失が危ぶまれる。
 現在国会では「カジノ法案」が審議されているが、安倍政権は「成長戦略」の名のもと日本経済のカジノ化を進めているのである。
 安倍政権はIMFに急き立てられ「経済成長と財政再建を両立するため」と法人税減税と消費税増税を強行しようとしているが、現下の情勢では危うくなりつつある。
 日本経済の失速感が強まるにつれ、アベノミクスの「四本目の矢」を求める声が、政府・与党、経済界から強まっている。しかし、「矢」が尽きてしまった安倍政権は残る「刀」を振り回し、経済的失政を軍拡とナショナリズムで糊塗しようとしている。
 安倍政権は発足以来、中国、韓国との緊張関係を靖国参拝などで挑発的に激化させ、それを口実に軍備増強と集団的自衛権の解禁を強行してきた。
 さらに政権寄りのマスコミやネットによる「朝日新聞」攻撃につづき、東アジア大会や御嶽山噴火に際してもデマや誹謗中傷が拡散され、排外主義的なナショナリズムが扇動されている。

<「新ガイドライン」の危険性>
 こうしたなか10月8日、新たな日米防衛協力の指針(新ガイドライン)に関する中間報告が公表され、危険な動きが一層露わになった。
 今回の中間報告では「Ⅰ 序文」において、「新ガイドライン」策定が「(集団的自衛権解禁の)閣議決定の内容を適切に反映し・・・日米両政府が、国際の平和と安全に対し、より広く寄与することを可能とする」として、安倍政権の進める「積極的平和主義」=軍事的プレゼンス拡大に沿ったものと規定している。
 さらに「Ⅱ 指針及び日米防衛協力の目的」では「平時から緊急事態までのいかなる状況においても・・・アジア太平洋及びこれを超えた地域が安定し、平和で繁栄したものとなる」ため「切れ目のない、力強い・・・実効的な日米共同の対応」を「日米同盟のグローバルな性質」に基づき進めるとしている。
 これは「新ガイドライン」の目的が、「敵国」からの攻撃対応だけではなく、計画から演習、動員、出動という平時から有事まで連続した戦略を、日米一体で地域的な制約なしに進めることであることを明らかにしている。
 こうした戦略の「歯止め」として「Ⅲ 基本的な前提及び考え方」で「日本の行為は、専守防衛、非核三原則等の日本の基本的な方針に従って行われる」としているが、「平時から・・・アジアを超えた地域」と「専守防衛」は明らかに矛盾するものであろう。
 そして「Ⅳ 強化された同盟内の調整」では「地域の及びグローバルな安定を脅かす状況、・・・同盟の対応を必要とする可能性があるその他の状況に対処するため・・・切れ目のない実効的な政府全体にわたる同盟内の調整を確保する」としている。
 これは、地球的規模での作戦行動に関し、平時から日米両「国家安全保障会議」(NSC)がイニシアをとり、戦時指導部としての権限を強化していくことを意味している。
 次に具体的な措置として「Ⅴ 日本の平和及び安全の切れ目ない確保」では「日本に対する武力攻撃を伴わないときでも・・・平時から緊急時のいかなる段階においても切れ目のない形で・・・措置をとる」とし「訓練・演習」「後方支援」などに加え「アセット(装備品等)の防護」をあげている。
 「アセット」とはアメリカ軍が装備するすべての兵器のことであり、弾薬から艦艇、航空機までが含まれ、地球上のどこでも米軍が攻撃されれば自衛隊が参戦する可能性を示唆している。
 こうして「Ⅵ 地域及びグローバルな平和と安全のための協力」では「日米同盟のグローバルな性質を反映するため、協力の範囲を拡大する」としている。その対象分野は「平和維持活動」「人道支援・災害救援」「海洋安全保障」「能力構築」「情報収集、警戒監視、偵察」「後方支援」「非戦闘員の退避活動」などとしているが「これに限定されない」とも述べており、事実上無制限となっている。
 加えて「Ⅶ 新たな戦略的領域における日米共同の対応」として「宇宙及びサイバー空間」での「安全保障上の課題に切れ目なく、実効的かつ適時に対処する」とし、日米軍事同盟を宇宙空間までに拡大しようとしているのである。
 「Ⅷ 日米共同の取り組み」として「様々な分野における緊密な協議を実施し・・・安全保障及び防衛協力を強化し、発展させ続ける」として「防衛装備・技術協力」すなわち兵器の共同開発などをあげている。
 最後に「Ⅸ 見直しのための手順」では「新ガイドライン」において、さらなる将来の見直し手順を記載するとしている。
 
<国際連帯で軍拡阻止へ>
 現ガイドラインが、日本への武力攻撃及び周辺有事が惹起した場合の対処に重点が置かれていたのに対し、「新ガイドライン」では、平時から宇宙を含む世界的規模での日米共同作戦を想定し、スムーズに「切れ目なく」戦時体制に移行できるよう、演習、訓練に止まらず、両国政府がNCSを軸として綿密な計画を策定していくという、これまでの日本の防衛政策を大転換するものとなっている。
 集団的自衛権に係わる具体的内容は、年末に策定が予定されている最終報告に先送りされた。安倍内閣は尖閣諸島を巡る中国との武力衝突に際し、アメリカ軍のより具体的な支援を求めている。
 しかし中国との戦争など望んでいないオバマ政権は、「北朝鮮がいきなり(韓国、日本をスルーして)公海上のアメリカ艦船を攻撃する」という有りえないシナリオを、集団的自衛権行使の具体例とする程度でお茶を濁したいところだろう。
 一方オバマ政権はシリアの「イスラム国」空爆作戦を、「自衛権の行使」として実行している。自衛権がいかに曖昧かつ恣意的に行使されているかがわかる。安倍政権は「イスラム国空爆への参加などありえない」と表明しているが、「新ガイドライン」策定は、日米両国を縛るものである以上、何らかの形での「自衛権の行使」は十分考えられる。
 こうした問題を追及すべき国会では、経済政策に関しては野党から鋭い追及がなされたが、それ以外では「うちわ問題」や「侮蔑的ヤジ」などで有効な論陣が張れているとは言い難い。
 この間もっとも安倍政権を驚愕させたのは、「憲法9条とそれを保持する日本国民」がノーベル平和賞の有力候補とされたことである。狼狽した安倍総理、石破大臣は「平和賞は政治的」と口を滑らせた。語るに落ちるとはこのことで、佐藤栄作の墓前でそれが言えるのだろうか。
 平和賞はパキスタンのマララさんらに決まり、両名は胸をなでおろしているだろう。しかし、マララさんも昨年最有力とされていたが受賞を逃しているのであり、「9条」が候補である限り改憲派は安心できないだろう。
 この動きは国際連帯活動の優れた成果であり、今後もこうした取り組み、とりわけ沖縄からの発信が非常に重要となっている。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.443 2014年10月18日

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【投稿】米に脅されプーチン来日中止–ガスパイプライン計画の行方は

【投稿】米に脅されプーチン来日中止–ガスパイプライン計画の行方は
                             福井 杉本達也 

1 プーチン大統領の来日中止
 ロシアは9月11日、日本側が招待したプーチン大統領の秋の来日を中止すると発表した(福井=共同:2014.9.12)。事の重大さと比較するとマスコミの反応は極めて静かというべきか、事実上の「無視」である。日経は2面に僅かな言い訳記事を載せたに過ぎない。『The Voice of Russia』は「日本政府は、ウクライナ情勢に関連した欧米諸国の対ロシア制裁強化を考慮し、プーチン大統領の日本招聘を取り消すよう求める米国大統領の主張を受け入れた。」という見出しで、3.11後「今や国内で生産される電気のほぼ半分は、LNG(液化天然ガス)によるものだ。昨年日本では、エネルギー重要がピークに達したが、日本へのエネルギー供給国としてのロシアの役割は、重くなり続けている」にもかかわらず「日本のような強い国力を持つ独立国が、自分達の国益と他の国の利益の間でバランスを取らざるを得ないという事、そしてしばしば自分自身を害する選択をするというのは、ロシア人の多くにとってひどく奇妙に見える」(2014.9.24)と報じた。プーチンの来日中止は、安倍首相が日本の国益を全く無視した、根っからの対米従属主義者であることを証明した。

2 日本のエネルギーの現況をごまかす『エネルギー基本計画』
 4月11日に閣議決定された新『エネルギー基本計画』は「発電用燃料の負担は、東日本大震災後、原子力を利用した場合と比べ、 約3.6兆円/年 増加 する(一人当たり年間約3万円、一日当たり約100億円の負担増)とし、→電気料金は家庭で約2割、企業で約3割増加/企業の雇用・収益・株価にも影響 →この負担は国内には受益をもたらさず、国の富が海外に流出 」(参照:RIETI:後藤 収 (資源エネルギー庁大臣官房審議官))していると書き、あたかも原発の停止が国富流出のような書きっぷりであるが、茂木経産相の答弁からも約3割の1.08兆円は、資源相場の上昇や円安による輸入費用増加によるものであることが明らかとなっている(東京新聞特報:2014.4.12)。
 一方、天然ガスについては、米国については、「シェール革命が進む米国の天然ガス市場は、原油価格と連動せずに市場の需給バランスで天然ガスの価格が決定される市場であり、このような価格決定方式を持つ米国からの天然ガスを輸入することは、石油価格と連動しないLNGの価格決定方式を我が国の取引環境に取り込むことを意味している。」とする書き、ロシアについては、「シェール革命が進行する中、ロシアは既存の主力販路である欧州における需要不振等の問題に直面し、新たな市場として我が国や中国などアジア市場進出に真剣に取り組まざるを得ない状況となっている。」と述べ米国産シェールガスが価格的にも有利でロシアは販売先に困り、日本に頼らざるを得ないような分析である。

3 「シェール革命」は米国の国家詐欺である
 9月29日、住友商事は米テキサスのシェールオイル開発で1,700億円の損失を出したと発表した(日経:2014.9.30)。大阪ガスも2013年12月に同じテキサスで進めていたシェールガス開発で290億円の特別損失を出しており、また伊藤忠も2014年1~3月期でオクラホマ州のシェールガス開発で290億円の特別損失を計上している。米国のシェール開発で大損を出しているのは日本企業ばかりではない。2013年10月にはロイヤル・ダッチ・シェルが240億ドル、英BPも21億ドルの評価損を出している。
 損失の原因は最初から明らかである。シェールガス・オイル自身は決して安い化石燃料ではない。掘削が困難なため採算性の面から石油メジャーは開発に二の足を踏んでいる。シェールガス田の場合、産出が始まって3年経つと産出量が75%以上減少するといわれ、次々と新しい井戸へリプレースしなければならず、自転車操業状態となっている。米国全体で2012年に420億ドルものコストがかかったと言われ、一方産出されるシェールガスの売り上げは325億ドルで毎年100億ドルの赤字経営を強いられている。米国のシェールガス開発企業はバラ色の未来像を振りまき、外国企業に採掘権を高値で転売し売り逃げているとの懸念が高まっている(「なぜシェールガスはカベにぶつかっているのか」藤和彦 世界平和研究所:2014.1.24)。まさに米の国家あげての詐欺である。

4 日本のLNG輸入価格にはどう影響があるのか―そもそも船がパナマ運河を通れない
 JOGMEC調査部の野神隆之氏の計算によると、米国内のシェールガス開発・生産コストは4~6ドル/百万Btu(Btu:熱量単位 天然ガス1Nm3の発熱量は約9,000kcal 1Btu = 0.252kcal)で2025年には7ドル超といわれ、これに液化燃料費(天然ガス価格の15%)、液化施設使用料(3ドル/百万Btu)、タンカー運賃(3ドル/百万Btu)を加えると日本への到達価格は14ドル/百万Btuとなる。2012年の日本の平均LNG価格は16.80ドル/百万Btu 程度であり、引下げ効果は最大でも7.7%に過ぎない(野神:『石油・天然ガスレビュー』 2013.9)。また、米国内価格が極端に上昇する可能性もある。ハリケーン・カトリーナの影響では10ドル以上に達したし、2003年の厳冬では18ドルにも高騰している。
 さらに、問題は液化基地であるメキシコ湾岸から運び出すのに、幅40mのLNG船は最大幅32mのパナマ運河を通れないことである。現在のルート選択は南アフリカ喜望峰回りで最大45日もかかる。運河拡張の完成は16年以降となる。安いシェールガスなどというのは日本が勝手に描く幻想に過ぎない。

5 米国の仕掛けたウクライナ紛争はロシアと欧州の経済関係を破壊することにある
 ウクライナ紛争はロシアが仕掛けたという報道が日本や欧米では流布されている。7月17日にはマレーシア航空機が撃墜され乗員乗客298人全員が死亡しているが、撃墜したのはウクライナの親ロシア派のミサイルであるということとなっていた。ところが、9月9日のオランダ調査団の中間報告では、コクピットに機関砲の様な貫通跡が見られるとし犯人特定は行わなかった(日経:9.10)。航空機の前方上部を地対空ミサイルで攻撃することは不可能である。コックピットを狙えるのはウクライナ軍の戦闘機しかない。米国側のウソがばれた時点で「マレーシア航空機撃墜事件」は欧米報道から完全に消された。しかし、この事件によって、当初はロシアへの経済制裁に消極的だった欧州各国を無理矢理米国の謀略に加担させることに成功した。
 ロシアと欧州の経済関係は天然ガスパイプラインによって深く結びついている。これは1969年・旧西独のブラント首相の考えから始まった。1973年10月の稼働開始以来、欧州へのガス供給はソ連崩壊時にさえ止まったことはなかったが、米国がロシアと欧州の経済関係を破壊しようと「オレンジ革命」を仕掛けた2009年に初めてウクライナから先への輸送ができなくなった。今回はウクライナを回避するパイプラインルートであるNord Streamは操業中である。3月26日、ロシアをG8から放逐したブリュッセルにおいて、オバマ大統領は欧州をロシア産ガスへの依存から解放するために、米国産ガスの輸出を許可する用意があると発表した。しかし、米国の輸出用LNG基地建設はこれからであり、輸出開始は2016年以降となる。しかも、価格は15ドル/百万Btuになるという。一方ロシアのガスは12ドルである。さらには受入ターミナルが整備されているのは、スペイン、イギリス、フランス・イタリアなどに限られる。ロシアのガスに100%依存するリトアニアやポーランドなどへの輸送は不可能である。オバマ大統領の脅しは今後数十年は実現不可能である(ヴズリアド紙2014.4.1)。

6 ロシア―中国・世紀のガス契約
 5月21日、ロシアと中国は年間380億?・30年間の長期契約・契約総額4,000億ドル・ガス価格350ドル/1,000㎥という世紀の契約に調印した。供給は東シベリアのチャヤンダからパイプライン「シベリアの力」の支線を利用して2018年から開始される。量としては欧州に供給する全量の1/3に相当する。価格は現在のロシアの最大顧客であるドイツの価格に近いといわれる(ロシアNOW 2014.5.22)。
 これにより、ロシアはようやく欧州に次ぐ安定的な市場を東方に確保することができるようになった。ロシアの東方シフト政策は昨今の思いつきで始まったわけではなく、ロシア全体の理にかなった戦略のとして積み重ねが実ってきたのであり、安倍首相のように、米国の脅しによって、コロコロと政策変更をさせられるような代物とはレベルが違う。

7 日本へのパイプラインの可能性
 LNGかパイプラインかの分岐点は2,500海里といわれる。サハリンのガス田から北海道までの距離はこれよりもはるかに短い。もし、パイプラインによる輸送が可能となれば、日本のガス価格は1/3になる。サハリンから首都圏の茨城県日立市までのガスパイプラインの総延長は1,350km、建設費用は6,000億円と見積もられている。これにより、年間200億㎥のガスを首都圏まで供給できる。日本の総輸入量の17%に当たる(ロシアの声:2014.5.28)。プーチン来日に当たり、「日露天然ガスパイプライン推進議員連盟」は提案しようとしていた。もし、このパイプライン計画が具体化するならば、日本とロシアとの関係は飛躍的に安定する。しかし、これは米国が最も嫌うことである。安倍はこのせっかくのチャンスを自ら潰してしまった。今後、米国からシェール権益のババを掴まされ、国際価格よりも異常に高いLNGを買わされ続け、どんどん日本の「国富」は米国に吸い取られていくであろう。 

 【出典】 アサート No.443 2014年10月18日

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【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(9)

【投稿】都知事選をめぐって 統一戦線論(9)

▼ 9/26付沖縄タイムス社説は「[混とん県知事選] なんでそうなったのか」と題して、「県知事選をめぐって前例のない政治状況が生まれている。こんな選挙、過去にあっただろうか。民主党県連代表の喜納昌吉氏が知事選への出馬を正式に表明した。仲井真弘多知事、翁長雄志那覇市長、下地幹郎元郵政民営化担当相はすでに立候補を明らかにしており、県内政治に大きな影響力を持つ4氏が知事選に名乗りを上げたことになる。民主党本部は自主投票の方針を決めている。喜納氏を公認しない考えだ。喜納氏が予定通り出馬すれば、党本部と県連の亀裂がいっそう深まるのは避けられない。仲井真、翁長両陣営から熱烈なラブコールを受ける公明党は、この段階になってもまだ最終的な態度を決めていない。なぜ、こういう複雑な状況になってしまったのか。」と、県知事選の混とん状況をあぶりだしている、
 同社説はしかし同時に、安倍政権の姿勢を「菅義偉官房長官は記者会見で、埋め立ての是非は『争点にならない』と語った。沖縄の人々の切実な思いを無視した不遜な発言と言うしかない。」と、安倍政権がそれを否定すれども、真の争点は辺野古移設問題にあることに鋭く切り込む。そしてさらに「有力4氏は、辺野古移設問題について、『推進』『反対』『県民投票』『承認撤回』など、4者4様の公約を掲げている。違いは鮮明だ。」と明らかにした上で、「有権者の中には『誰が知事になっても変わらない』というあきらめにも似た声がある。本当にそうだろうか。」と問題を投げ返し、「変わっていないように見えるが、そうではない。大田昌秀、稲嶺恵一、仲井真弘多ら3知事の対応をつぶさに検証すると、その時々の選挙公約や知事の政策、方針転換などが、日米の取り組みに影響を与え、状況を変えていったことが分かる。知事のアプローチの仕方が変われば状況も変わる。選挙で選ばれた知事の力は決して小さくない。」と来るべき知事選の及ぼす力を見くびってはならないこと、あきらめてはならないことを強調している。
▼ その後、10/10、民主党の枝野幹事長は「喜納氏は党本部の選挙方針(米軍普天間飛行場の辺野古移設を容認する)、基地問題への方針を無視し、党本部への批判を繰り返している」と指摘し「県民を混乱させ、党の信用を失墜させた」と説明し、喜納氏を除名する方針を決め、県知事選には自主投票で臨むことを明らかにしている。喜納氏は除名されても「知事選には当然出る」と出馬する意向である。安倍政権やそれに追随する仲井真陣営は、民主党が分断され、翁長陣営から脱落してかき回してくれることを大いに歓迎し、ほくそ笑んでいることであろう。民主党政権の成立、そして福島原発事故以来、「県民を混乱させ、党の信用を失墜させ」てきたその当の枝野氏が言えたセリフではないが、沖縄県民の民意と全く無縁なこの民主党の混迷ぶりは目を覆うばかりである。
 そしてこの混迷のもう一方の当事者でもある公明党は、自民党から最大限の期待をかけられながらも、公明党沖縄県本部があくまでも米軍普天間基地の辺野古移設に反対の姿勢を崩さず、仲井真陣営に与することができないことが明瞭となり、これまた自主投票に逃げ込もうとしている。公明は普天間移設が争点となった今年1月の名護市長選でも移設推進を掲げた自民推薦の候補を支援せず、自主投票を選択している。
 知事選では2002年以降続いてきた自公協力態勢が今回崩れることは、安倍政権や自民党、仲井真陣営にとって最大の痛手であろう。
 自公協力で臨んだ2013年の参院選比例代表で公明は沖縄県内で約9万票を得票している。「最新の世論調査やマスコミの取材を総合すると、それぞれの得票数は」、翁長氏が30万票余り、仲井真氏は17万票、下地氏は6万票、喜納氏は1万票以下となっている(『週刊金曜日』2013/10/3号)。この予測であれば、たとえ公明が仲井真陣営に寝返っても、辺野古新基地建設反対を掲げる翁長陣営の圧勝である。新基地建設を阻止する闘いと統一戦線の強化は、この圧勝を決定的なものとするかなめといえよう。
▼ 10/9公示、10/26投開票の福島県知事選もいわば一種の混とん状況であるが、沖縄とは違って、ここではもはや自民党は独自候補を擁立できなかったのである。安倍政権の原発再稼働路線は、福島原発災害の惨憺たる状況を前に、受け入れられることなどありえず、全てを争点隠しへと逃げ込む戦略である。
 自民党福島県連側は「県内原発全基廃炉」を主張し、独自の候補者として、鉢村健氏(元日銀福島支店長)の推薦を決定したが、自民党本部側が「鉢村氏では幅広い支持は厳しい」として鉢村氏をおろさせ、民主、社民、公明、維新の各党や県町村会が推す内堀雅雄氏(元副知事)への相乗りを決定。しかし、自民党、政権側の幹部が前面に出れば原発再稼働路線と、自民党福島県連や内堀氏の「県内原発全基廃炉」路線との矛盾は覆いがたく、原発争点回避と福島切り捨て政策を覆い隠すまやかしの復興政策で内堀氏を取り込む選挙戦を展開している。
 一方、この内堀氏に対して、「県内原発全基廃炉」はもちろん、原発再稼働反対をも含め、明確に反原発を前面に掲げる候補は、元岩手県宮古市長の熊坂義裕氏=新党改革・支持=と、元双葉町長の井戸川克隆氏である。告示もまじかに迫った9/24になって、共産党を含む「みんなで新しい県政をつくる会」が、熊坂氏を自主的に支援することを発表し、選挙戦に突入している。「自共対決」論を掲げる共産党が独自候補擁立を断念し、政策協定も行わずに「自主的支援」とする政治姿勢を選択したことは評価できたとしても、それは同時に、沖縄知事選では、共産党をも含めて県内5党・会派が知事選に臨む基本姿勢および組織協定に調印していることからすれば、広範な統一戦線を形成し得なかったことの反映でもあろう。
▼ ネット上で公開されていた「福島県知事選に脱原発候補の統一を願うレター」に寄せられた意見を紹介しよう。

■ 福島県知事選において原発事故を争点としない勢力が野合しているときに、まさか脱原発・被害者救済・脱被曝などを掲げる立候補予定の方々が共同・統一への努力を何もされていないとは思いたくありません。しかし、それについての情報が残念ながら未だに聞こえてこないまま、10月9日の告示日が迫っています。どういう事情があるのかはわかりませんが、どうか最後まで共同・統一への努力をしていただけるよう切望します。原発事故で6歳まで生まれ育った双葉郡富岡町夜の森の故郷を奪われ、脱原発に余生をかけている一老人の心からのお願いです。なにとぞどうぞよろしくお願いします。
■ 佐藤知事と、その後継とされるナンバー2の内堀副知事。この2人はまさに2人3脚で、311以前は住民意向を盾にプルサーマルを認め、その結果として原発事故を一層過酷なものにしました。さらに、311以降はSPEEDI隠しや、被曝との因果関係なしというシナリオありき、そのための意見すり合せの秘密会開催など県民不在の健康管理調査を主導して来たのが、佐藤知事と、実質的な政策決定者としての内堀副知事であったことは、衆目一致する所です。仮に、内堀氏当選ということになれば、彼自身の勝利というよりも、福島をなかったことにしようと画策してきた安倍自民党の高笑い?になってしまうのです。多事争論はあってもいい。だが、負けてはいけない闘いを目前にして、ほぼ同じ理想のベクトルを持つ勢力がしのぎを削り、互いの勢力を殺ぎ、愚だけは何としても避けなくてはならない。我々福島人もまた、有力者のあの人が言ったから?などという、貴方任せの思考停止から、今度こそ自由にならなくてはならない。
■ 東京都知事選は反原発派にとって手痛い経験でした。反原発派の並立で一番得をしたのは誰か?火を見るより明らかです。勝たなければ意味がないというのは一面の真理です。都知事選の結果、残ったものは選挙の敗北と両派の間のしこりでした。ますます勝者を利することになります。せめて福島ではそのようにならないことを強く願います。

 付け焼刃的な対処ではなく、このような痛切な声が生かされるような統一戦線の形成こそが、切実な課題である。
(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.443 2014年10月18日

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【ひとりごと】コラム—大阪都構想をめぐる激突– 

【ひとりごと】コラム—大阪都構想をめぐる激突– 

○すでに大阪府議会で過半数を失い、大阪市会でも公明と決裂し少数会派に転落した大阪維新だが、大阪都構想実現にむけて、最後のあがきを続けている。○「法定協が機能していない」と決めつけ、信任投票だと任期途中での市長選挙を強行したのは、今年3月。共産党含め各党は、選挙実施そのものに大義なし、対抗馬の擁立を行わなかったため、橋下市長は再選されたが、問題は何も解決しかなった。むしろ、対立構造を一層際立たせ、議会運営では、両議会で多数を持つ反維新勢力が、ことごとく、松井・橋下の提案する議案を否決するという事態になった。○法定協議会の委員構成を、議会会派構成に戻す条例を野党多数が可決すれば、それに対抗して、知事・市長は「再議」を連発。3分の2確保していない野党は、再議を否決できないなど、混乱が続いている。○こうした混乱に終止符を打つのは、来年4月の統一地方選挙であろう。府議・市議で、維新勢力を3分の1以下に抑え込み、全くの少数与党に追い込むことが必要であろうし、松井・橋下はこれをもっとも恐れていることだろう。(もっとも、前回当選した議員達は、自民党でも最下位当選がやっとだった自民党離党組、品格も経験もない橋下頼みの「新人」ばかりであった。ただでさえ維新凋落という情勢下で、特に1人区では、厳しい選挙になるだろう。)○9月に実施されたTBSの世論調査では、自民49.4%、民主8.1%、公明3.4%、維新1.1%、結いの党0.0%という結果だった。もはや「日本維新の会(維新の党)」に、2年前、再度の政権交代となった総選挙当時の勢いはすでになく、相次ぐ維新議員の不祥事・会派離脱という状況下、来年の統一地方選挙では、大阪において維新勢力が凋落する可能性が極めて高い。○そこで、最後の望みをかけているのが、橋下人気であろう。9月末の読売新聞世論調査では、橋下大阪市長の支持率は、56%。就任半年後(2012年6月)の71%からは、大きく低下しているが、依然高い数字であるとも言える。ただ、同調査では、都構想への賛成・反対では、「賛成・どちらかと言えば賛成」は53%、「反対・どちらかと言えば反対」が40%。松井や橋下が都構想を十分に説明しているとするのは、17%と低迷している。○松井知事と橋下市長は、法定協議会の構成委員から自民・民主・公明・共産の全員を排除し、維新単独で法定協を開催し、「大阪市分割案」を決定する暴挙に出た。そして、この案を総務省に提出したが、両議会で議決される可能性は、100%有り得ない状況にある。○そこで喧伝されているのが、「専決」で住民投票実施という暴挙に打って出るという話である。さらに、知事選挙・大阪市長選挙も前倒しで、統一地方選挙と同時実施などという話も出てきている。まさに、何でもありの状況である。○それだけ追いつめられていると考えてしまうのは、少々気が早い。橋下という人間性は、なかなかしぶといと理解すべきであろう。決して油断することなく、徹底的に維新潰しを行わなければならない。(2014-10-12佐野) 

 【出典】 アサート No.443 2014年10月18日

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【本の紹介】「21世紀の資本」トケ・ピケティ著(みすず書房) 

【本の紹介】「21世紀の資本」トケ・ピケティ著(みすず書房) 

 この本は、まだ日本語版は出版されていない。フランス人経済学者であるトケ・ピケティ氏の著作であり、今年4月に英語版が出版されると、40万部を売り上げると言うベストセラーとなった。フランス・ヨーロッパではなく、アメリカ国内の売り上げが75%という。本書が展開している「資本主義が格差を拡大している」という内容に、機敏に反応したのであろう。
 7月26日号の「週刊東洋経済」が、「『21世紀の資本論』が問う中間層への警告」という特集を組んでいる。週刊エコノミスト誌も大きく取り上げていた。
 ピケティ氏は、43歳のフランス人。フランス社会党のブレーンとしても活躍し、一貫してフランス社会の不平等について研究してきたという。
 本書のポイントは、資本収益率が常に経済成長率を上回っている、という事実を、フランス・イギリス・アメリカ・日本など20か国以上の統計を基に、富と所得の変遷を検証して、この事実を証明した事にある。資本収益率は4-5%に収まり、経済成長率は、平均して1-2%の範囲になった。つまり、資本・資本を持つ富裕層は、資産を雪だるま式に増やし、対して勤労者への配分は、それを大きく下回る。よって、富めるものは更に富み、持たざるものとの格差は縮まることはない。
 さらに、この関係が21世紀を通じてさらに強まることを予測している。「富と不平等は、21世紀を通じてさらに拡大していく」そして、中間層は消滅していくという結論を導き出している。そして、こうした止めどない格差の拡大を止めるために、所得と資産への累進課税の強化をすべきと提言しているのだ。
 グローバル資本主義の進行は、富める国を益々富ませると共に、アメリカや日本国内では、経済格差を拡大させてきた。資本主義経済の根底にあるこうした構造を、実証的に解明し、その解決策を提言しているからこそ「21世紀の資本(論)」と命名されたのだろう。
 安倍政権が、歴代自民党内閣が行わなかった財界への「賃上げ要請」は、マヌーバーとは言え、低賃金や賃金格差の固定化に何らかの対応をしなければ、「夢も希望」もない社会になりつつあることへの「恐怖」があったのではないか。
 格差社会が益々固定化・拡大していことは、特に若者にしわ寄せされていく。そこからの脱出策として、ドロップアウトや反社会的立場への選択が増加する可能性は高い。中東の戦場への参加を選ぶ大学生も出てきている要因の一つは、まさにこうした夢も希望もない格差社会そのものなのだろう。
 資本が主人公の社会ではなく、人が主人公の社会へと変えていくためにも、本書が問題提起している富めるものと富まざるものへの両極化社会を根本的に変えていくことが必要であろう。本書の内容に対しては、賛否両論がある。むしろ大いに議論すべきである。日本では、12月初旬にみすず書房から出版が予定されている。私もしっかりと読み込んでみたいと思っている。(2014-10-14佐野) 

 【出典】 アサート No.443 2014年10月18日

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【コラム】ひとりごと 人口減少で地方消滅とは?

【コラム】ひとりごと 人口減少で地方消滅とは?

○今年7月、「日本創成会議」(代表は増田寛也元岩手県知事、元総務大臣)は、このまま人口減少が継続すると2040年に896の自治体が消滅する(消滅可能性都市)、さらに523自治体は、2040年時点で人口1万人を切り、消滅可能性が高いとのレポートを自治体名入りで発表した。すでに2008年から、日本は死亡数が出産数を越えて、人口は減少する段階に入っているが、今回のレポートは、「消滅」というショッキングな規定、若年女性の人数を「人口再生産」の指標として取り上げた点、また、現状でも、都市部からの移住・定住者を呼び込む努力をしている自治体などの取り組みを軽視しているなどに批判も多く出てきている。○また、このレポートの発表と、安倍政権の「地方創生本部」などの取り組みが、妙にマッチングしている事実から、政府・省庁と連携した世論操作との面も否定できない。○中央公論誌で、6月号は「消滅する市町村523全リスト」、7月号には「すべての町は救えない」、などの特集を掲載してきたが、8月に出版された中公新書「地方消滅」では、これら一連のレポートが整理されており、この内容を見ると論点は明確になっているようにも思える。○新書の内容を、整理してみる。すでに、2008年から人口減少社会に入ったが、全国一律に人口が減少しているのではない。特に地方部で著しい。そして一貫して人口が増加しているのが、東京・首都圏である。それは、継続的に若者が特に首都圏・関東圏に仕事や進学で移動している傾向が続いているからである。そして、特殊出生率は、全国平均では1.43に回復しているものの、東京都のそれは1.13程度で、人口が集中する都市部で出生率が低下している。都市部の格差社会、出産育児環境の厳しい現実が反映している。さらに、人口の東京一極集中を「極点社会」と名づけ、今後、大量の高齢者を抱える、東京・首都圏の問題も指摘されている。○今後、出生率が回復するとしても、現在の人口減少は、40年から50年は続くので、現状の都市部への人口移動を食い止め、地方で生活する人々を増やす政策が必要だ、という内容になっている。○そして、人口減少への対応は、国家戦略として策定されるべきであり、従来の地方分権論を超えて、グランドデザインが描かれるべき、としており、ここから、「国家戦略」が、妙に前に出てくるのである。○当然ながら、高齢化は食糧事情、医療環境の改善、そして平和の問題も含めて、自然現象の側面が強いが、少子化は、全く別の要因があると私は考えている。長時間労働の解消や不安定雇用・低賃金政策の改善こそが、第1の課題であろう。しかし、本書の著者は、都市と地方の問題を前面に出して、論じ、何か新しい問題であるように演出しているのである。だから、地方の雇用対策や、都市部への人口流出防止策として、「地方拠点都市構想」のような「ダム機能論」が出てくるのである。30万人程度の地方都市に、広域自治体的な機能を持たせ、「すべての町は救わず」、拠点都市に重点的に財源を投入すべき、との結論に至るのである。国と地方の財源問題は後景に追いやられ、地方分権よりも、「国家戦略」だというのである。ここに違和感を感じるのである。○そして、何よりも、来年の統一地方選挙を前に、これらレポートに対応したかのように、「まち・ひと・しごと創生本部」なる戦略機能の組織(担当大臣は石破茂)が設置され、次年度予算では1兆円の特別枠を設けるなどなど、俄か作りの「選挙対策」として現出しつつある、という極めて政治的色合いの濃い構図に繋がっていくのである。○中公の「地方消滅」は、事実・現実としての人口減少問題に目を向けようという「善意」は感じるものの大きな流れとしては、何か政治的意図先行を感じざるを得ない。○現在総務省が実施している「地域起こし協力隊」という事業がある。40歳以下の都市の若者を2年間地方で雇用し、地域起こし事業に従事させるというもので、昨年度は930名余が対象となった。安倍は来年3000人に増員すると発言した。しかし、国の補助は、賃金分として一人200万円。月額16万6千円。地方は物価が安いとはいえ、低賃金労働者そのものであろう。当然、地方公務員の賃下げにも利用されそうである。○来年4月から予備校の代々木ゼミが、全国で20校を閉鎖、7校にするとの報道があった。大学進学を希望する学生の人数が激減し、浪人生も一時28万人も存在したのが現在は6万人、そして私学では定員割れ校も続出し、いわば、大学志望者全入時代となっているのが背景にあるという。少子化が現実に、着々と進行していると言えよう。○着々と進行する「人口減少」への対策は、まさに政治の対抗軸となりうるものである。しかし、野党の対応は、遅きに失しているのが現実である。(2014ー09ー22佐野)

【出典】 アサート No.442 2014年9月27日

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【投稿】暴走加速する安倍政権

【投稿】暴走加速する安倍政権

<「安倍専制」>
 9月3日、自民党役員人事と内閣改造が行われた。焦点だった自民党幹事長には谷垣禎一前法相、安保担当相は江渡聡徳防衛大臣の兼務となった。
 今回の改造の主目的は石破茂前幹事長を党三役から追い払うことだった。そのため安保担当大臣という「指定席」までしつらえたのであるが、官邸の思うようにはいかなかった。
 石破が固辞するなら安保担当相などいらない、という声が自民党内から出ていたことと、結局防衛相との兼務となったことが、安保担当相の本質を如実に表している。
 改造前は「集団的自衛権は最重要課題なので、安保担当相は安全保障に精通した人材が専任でつくべき」と言いながら、集団的自衛権問題を政争の具としていたことが露呈したのである。
 こうしたお粗末な改造劇を糊塗するため、上辺だけの「女性活用」を前面に押し出し5名の女性大臣を任命した。しかしこれら大臣は「女性」というより、ほとんど「思想」によって選ばれたというべき面々である。
 早速、高市早苗総務大臣、稲田朋美政調会長がハーケンクロイツを掲げるファシスト団体幹部との「記念写真」を暴露され弁明に追われた。さらに山谷拉致担当相も在特会との関係が指摘されている。
 こうした本当の「危険思想」の持ち主が優遇される一方で、集団的自衛権の解禁に疑問を呈した野田聖子前総務会長は追放された。小渕優子経産相は思想は関係なく野田へのあてつけであろう。
 さらに危なさでは、高市、稲田に引けをとらない片山さつきは、石破支持であるため冷遇の憂き目にあっている。
 また第1次安倍政権をして「お友達内閣」たらしめた塩崎泰久元官房長官を、厚生労働大臣に任命するなど、安倍総理の卑しい人間観がストレートに反映した人事であり、安倍専制がより露骨にあらわれた内閣と言えよう。
 しかし見た目の新鮮さから内閣支持率は上昇し、さらに朝日新聞の相次ぐ誤報という「敵失」もあり、原発再稼働、歴史改竄など安倍政権は内外政策における暴走をさらに加速させようとしている。

<IWCでの歴史的敗北>
 国内的には専制を強める安倍政権であるが、国際的にはこれに冷や水を浴びせかける事態が続出している。9月15日から18日までスロベニアで開催された国際捕鯨委員会(IWC)総会では、日本の強い反対にもかかわらず「IWC総会が検討するまで捕獲調査の許可を発給しないよう勧告する決議案」が、賛成35、反対20、棄権5で採択された。
 安倍総理が外遊で訪問した49か国のうち、IWC加盟の反捕鯨国はインド、オーストラリアなど19か国に及ぶが、総会において歴訪の成果は発揮されなかった。(オーストラリアには「鉄の鯨(潜水艦)」建造を持ちかけてるが、本物の鯨ではよい返事は得られなかった)
 それどころか安倍総理が2か月前に訪問したニュージーランドが、今回の決議を提案、さらにその後鳴り物入りで訪問したブラジルは、南大西洋での商業捕鯨を一切禁止する「聖域設置提案」を南米各国と共同して行っているのである。
 この提案も賛成多数となったものの、賛成40、反対18、棄権2で既定の4分の3以上には達せず不採択となったが、安倍総理は何をしに行っていたのかと問われるだろう。
 歴訪で国連常任理事国入り支持を得られたとしても、国際機関の議決を「法的拘束力はない」と言って開き直り、「調査捕鯨」を強行するようでは国連での支持はとうてい得られないだろう。
 安倍総理を支持する勢力からは「IWCなど脱退してしまえ」という威勢のいい声があがっている。安倍総理はこの声にどのように応えるのだろう。
 
<インドへの期待と現実>
 「地球儀外交」「価値観外交」の破綻はそれだけにとどまらない。
 8月30日、訪日したインドのモディ首相に対し、安倍総理は京都で迎えるなど破格の待遇で接し、9月1日、東京での首脳会談では経済協力のほか、飛行艇輸出など軍事協力まで幅広い分野で論議を行った。
 両首相は「日印間での戦略的グローバルシップを一層強固にする」ことで合意し、対中包囲網形成が進展するかに思えた。
 しかし、土壇場で日本が目論んだ「日印2+2」(外務、防衛閣僚会議)設置はインド側の難色で頓挫した。
 それどころか帰国したモディ首相は、中国包囲網とは真逆のスキームである「上海協力機構」への正式加盟を表明し、安倍政権を驚愕させた。
 さらに追い打ちをかけるような事態となったのが、中国の習近平国家主席のインド訪問である。
 9月17日訪印した習主席を、モディ首相は自らの誕生日ということもあって故郷で歓迎、さらにはガンジー旧宅に案内するなど、安倍訪印時以上の厚遇ぶりを示した。
 中印協力はセレモニーレベルに止まらず、日本を脅かす勢いとなっている。日本はインドに対し今後5年で350億ドルの投資を決定し、中国の同200億ドルを上回っているが、中国は今後貿易拡大や高速鉄道導入などでさらなる追加投資が考えられる。
 軍事面でもインドは以前からの旧ソ連、ロシアに加え欧米製の装備を導入しており、価格の安い中国製の兵器を買っても何ら不思議ではない。なにがなんでも日本の飛行艇が必要というわけではないのである。
 安倍政権は、新幹線セールスのため急遽9月22日太田国交相を、インドに派遣するという慌てぶりである。そうした話は本来モディ首相の訪日時に詰めておくべきことであろう。
 さらに、訪印前日にスリランカを訪問した習主席はここでも、約半月前に訪れた安倍総理を凌ぐ歓迎を受けた。
 まさにオセロゲームで、盤上の石を次々とひっくり返されていく如き様相を呈しているのが安倍外交である。
 
<拉致被害者帰らず>
 成果を求め世界を彷徨う安倍総理であるが、期待の対北朝鮮政策でも行き詰りつつある。
 日本政府が認定している拉致被害者17人について、北朝鮮は「5人帰国、8人死亡、4人は入国の記録なし」としており、これを覆すのは当初から困難と見られていた。
 日朝政府間協議では、拉致被害者等の消息についての第1回目の報告を「夏の終わりから秋の初め」に受け取ることが確認されていたが、延期となった。
 政府は9月19日に拉致被害者の家族に対し説明を行ったが、具体的な見通しに関しては何ら説明できなかった。
 翌日、菅官房長官は読売テレビの報道番組で「何が効果的なのか安倍首相も自分もよく知っているので、考えながら交渉していく」と述べ、無為無策ぶりを露呈した。
 北朝鮮としては、日本人遺骨の調査、いわゆる日本人妻の帰国を先行させ、制裁解除を取り付ける思惑と考えられるが、拉致被害者、特定失踪者の相当数の帰国を要求する日本政府の要求とは大きな隔たりがある。
 調査機関の立ち上げなど、細部の調整が済んだのち、形式を整えるための儀式と考えるのが普通であろう。
 その総仕上げとして考えられていた安倍訪朝が、アメリカの意向を忖度した日本の都合で実現が難しくなった以上、北朝鮮も出したくても出せないとなっているのかもしれない。
 大見得を切った安倍政権としては、引っ込みがつかなくなっているのである。

<「対イスラム国有志連合」へ>
 安倍政権が右往左往している間に、国際情勢は大きく転換した。ウクライナでは政権側と親露派との間で停戦が発効し、散発的な戦闘はあるものの東部地域は平穏を取り戻しつつある。
 パレスチナガザ地区に於いてもイスラエルとハマスとの停戦は概ね履行されており、破壊された市街地やインフラの復興が課題となっている。
 こうしたなか急浮上してきたのが「イスラム国」問題である。イラクにおいて伸長した「イスラム国」は支配地域をシリアにも拡大している。
 イスラム国にはスンニ派原理主義者だけでなく、もともと世俗派であったフセイン政権の幹部クラスも多数参加し、支配地域の行政運営を担っているという。
 「イスラム国」はイラク戦争とその後のイラク傀儡政権が生み出した怪物であり、責任はアメリカにある。 
 これに対し、オバマ政権は空爆を開始、イギリス、オーストラリア、フランスも同調することを表明している。
 9月15日にはパリでイスラム国対策国際会議が開かれ、NATO諸国、ロシア、中東など26カ国から外相が参加し、イスラム国は国際社会の脅威との認識で一致した。さらに19日には国連安保理でも外相級会議が開かれ、同様の議長声明を採択した。
 現在のところ日本は、この対イスラム有志連合から外されている。パリの会議に岸田外相は招請されなかったし、戦力の提供は期待されていない。
 しかしイラク戦争時とは違いジプチに前線基地を置き、アラビア海に艦艇を常駐させている状況下、今後安倍政権に対する圧力は強まるだろう。
 北朝鮮とロシア外交で睨まれているアメリカに媚を売り、一連の外交破綻を取り繕うため、イラク再派兵を進める危険性は十分あり、暴走のアクセルを踏まさぬよう警戒を強めていかねばならない。(大阪O)

 【出典】 アサート No.442 2014年9月27日

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【投稿】「戦後」の価値観をめぐる潮流と「脱成長」の社会像

【投稿】「戦後」の価値観をめぐる潮流と「脱成長」の社会像
                          福井 杉本達也

 哲学者の内山節は「戦後」をめぐって三つの潮流があるという。①高度成長とともに成立した戦後の価値観を守り抜きたい人々、②強い国家を目指して戦後を見直そうとしている人々、③新しい社会づくりを志してその視点から戦後を見直そうとする人々 がせめぎあっているとする(雑誌『世界』2014.9)

1 「劣化」する国家。
 9月11日、政府はできれば永久に隠し通そうとしてきた、政府事故調での聞き取り調査における『吉田調書』を公開せざるを得なくなった。この件で朝日新聞は「撤退」か「退避」かという日本語解釈をめぐる「誤報」?の責任を取り社長が辞任せざるを得なくなった。本来は公開すべき重要な情報を隠し通そうとした菅官房長官こそが事故原因隠しの責任をとって辞任すべき案件であるが、政権が吹っ飛ぶ恐れがあるため、朝日新聞社長の首を取ってごまかしを図ったものである。「誤報」?の伏線は官邸筋からの産経新聞への『吉田調書』の再リークに始まり、朝日新聞自らの、きわめて不自然な時期の「慰安婦問題誤報謝罪」である。
 故吉田所長は「結局放射能が2F(福島第二原発)まで行ってしまう。2Fの4プラントも作業できなくなってしまう。注水だとかができなくなってしまうとどうなるんだろうというのが頭の中によぎっていました。最悪はそうなる可能性がある」(『吉田調書』中日:2014.9.12)と述べており、「東日本5000万人の避難」=「日本壊滅」の可能性について、現場責任者である吉田氏の脳裏をよぎったという事態の深刻さこそが『調書』の核心であり、他の言葉づかいや官邸⇔本社⇔現場のやり取りなどは枝葉末節に過ぎない。我々が3年半後の今日、こうしてまだ日本に暮らしていられるのは単に“運が良かった”に過ぎない。国家滅亡の時期に「何も対処できない」国家とは何ぞや?である。そのような国家は不要である。菅官房長官が「朝日新聞誤報ショー」を企画して、必死で隠したかったことは現日本国家そのものの「無能さ」である。

2 「劣化」した官僚
 官僚の「劣化」を早くから指摘したのは松下圭一法政大学名誉教授ではなかろうか。しかし、原発事故で明らかとなったことは、「劣化」どころか「無能」そのものの官僚の群の実態であった。それをあからさまに表現したのが、国会事故調での参考人質疑で、官僚の原発事故対策のトップであるべき寺坂信昭原子力・安全保安院長の「私はどうしても事務系の人間でございますので、これだけの非常に大きな事故、技術的な知見というものも極めて重要になってくる、そういった中で、私が残るよりも、官邸の方に技術的によりわかった人間が残ってもらう方がいいのではないかというふうに、これは私自身が判断いたしまして、私が原子力安全・保安院の方に戻った次第でございます。」(2012.2.15)という発言である。5000万人もの国民が難民化する国家存亡の危機にあっても、「事務屋だから技術的なことは全く分からない」と官僚のトップが、平然と恥も外聞もなく、国会という我が国の最高機関の場で自らの「無能」をさらけ出したことは、自らがこの社会にとって不要な存在であること、「劣化」国家に寄生する寄生虫以外の何ものでもないことを告白している。しかも、本人自身は告白の意味を理解できないほど「劣化」しているということである。
 この官僚機構は第二次世界大戦における「敗戦」を「終戦」と言い換え、「敗戦」を認めず、自らの責任を回避し、「天皇の官僚」から「米国の官僚」へと船を乗り換えることによって権力を維持してきたのである。“親分”を変えたからこそ国民に対しては「責任を取らない」のである。

3 専門家・科学者の「劣化」
 日本における専門家・科学者は特別な位置を占めてきた。特に原子力などについては専門的すぎて、一般市民にとっては理解不能であり、専門家に管理を任せるしかないと思われてきた。また、科学技術による「イノベーション」によって「経済成長」が見込まれるとし、研究開発に対し財政からの多額の支援が行われてきた。今回『吉田調書』と同時に福山哲郎官房副長官の調書も公開された。福山氏によると、福島第一原発1号機の爆発について、班目春樹原子力安全委員長は菅首相に対し原子炉は構造上爆発しませんと説明していたが、爆発の映像を見ながら「爆発ではないかと首相と私はほぼ同時にぐらいに叫んだ。班目さんは『あちゃー』という顔をされた」(中日:同上)という。この『あちゃー』によって、原子力の専門家・科学者という人たちはほとんど信用がおけないことが明らかになった。
 こういった人たちが、日本社会におけるパワー・エリートとして、日本国家を取り仕切ってきたのであるが、その中身は何もないスカスカであることが明らかとなった。
 
4 「経済の成長」を追い求め続ける市民社会
 市民社会も、日本国家が「劣化」していること、官僚機構も「無責任」で「無用」なこと、専門家・科学者も「信頼がおけない」ことにうすうす気づいてはいる。しかし、それでもなお、それらにしがみつこうとしている。それを、内山節は①戦後の価値観を守り抜きたい人々と②強い国家を目指そうとしている人々との合流・奇妙な一体化が生まれているからだと指摘する。それは戦後の価値観を守り抜きたい人々にとって「経済成長は必須の条件」だったとし、「経済成長があってこそすべての可能性が開ける」のであり、「この思考は必然的に強い企業、強い日本経済を志向」し、「強い国家」と合致するという。また、経済は「数字で表され」、「明確な形で結果が生まれる」ことが、「国家の明確化」というも現政権との親和性を増しているとする。
 経済成長がなければ、これ以上の生活の改善は望めない。年金財政も経済成長を前提に計算されている。成長がゼロ・マイナスであれば将来の年金も減る。医療費も年平均約8000億円上昇し、平成25年には39兆3千億円となっており、GDPの10%を超えた。75歳以上の人口も10年前の1.5倍となり、介護負担も増すであろう。経済成長は、こうした難問を解決できるという強固な「信仰」である。
 それは、先の東京都知事選をめぐる選挙戦の総括で、宇都宮候補を支持した各氏が「原発やエネルギー政策は重視する政策としては三番目で、福祉や雇用を最優先に考える人が多数なのです。」「現実に都民の多くが脱原発を最優先課題だと思っていない中で、脱原発のシングルイシューで勝つことはできない」(海渡雄一『世界』2014.4)。「原発問題は重視するけれども、その奥底にもまた目前にも経済問題がある。経済左派と経済右派に分けると、宇都宮さんと田母神さんは経済左派でした」(池田香代子(『世界』同上)と述べていることからも分かる。
 「マイナス金利」という、お金の貸し手が金利を負担するという生活常識とは逆転した現象が起きている(日経:2014.9.18)。通常はお金の借り手が金利を支払うものである。これは日銀が「異次元緩和」により損失覚悟で短期国債の買い占めた特殊要因の影響であるが、それだけ、国内的には国家を除いて、資金の借り手がいないということでもある。つまり企業が国内では設備投資をしないということである。日銀は9月4日に今年度4~6月間の実質経済成長率を発表したが消費税増税の影響もありマイナス6.8%であった。また、藻谷浩介氏も指摘するように1995年をピークとして日本の生産年齢人口は減少の一途を辿っており、「限りない経済成長」は益々幻想になりつつある。
 福島第一原発事故は「拡大・成長」の延長にあったのであり、無尽蔵のエネルギーを求めて核エネルギーを発見・開発し、核燃料を再処理し・高速増殖炉『もんじゅ』を運転して核燃料サイクルシステムを回して「永遠のエネルギー」を手に入れ「無限大」に生産力を発展させ、「限りない経済成長」をしようとしてきたのである。事故は飽くなき「成長」を求めつづけた結果である。
 「アベノミクス」は実質的に終わっている。『FINANCIAL TIMES』は「安倍晋三首相の『3本の矢』は明らかに的を外している。理由はそもそも矢が3本ないことで、あるのはたった1本、通貨の下落のみである」(日経:2014.8.29)と揶揄している(より理論的には伊東光晴氏が『アベノミクス批判』で分析している)。それをあたかもまだ「飛んでいる」かのように喧伝しているのは、どうしても「成長」をあきらめ切れない①戦後の価値観を守り抜きたい人々の幻想である。
 
5 「戦後」の価値観
 「戦後」の価値観を一言でいえば「平和と繁栄」ではないか。「繁栄」=「成長」であるが、一方の「平和」は日米安保体制の下で、米国の従属下における「平和」であり、「戦後民主主義」であった。それは冷戦という特殊事情によるもので、米国がソ連圏と対峙するにおいて、日本の経済力を必要としたからであった。「戦後」は日本が経済成長しなくなった時期(=1990年前後)で実質的に終わっているのであるが、それが自覚されるまでにはしばらく時間がかかった。「繁栄」から「失われた20年」として自覚され、中国が「日本に勝ったにもかかわらず、負けた日本のほうが繁栄している」状態から、GDPにおいては日本に逆転したこと、また同時に冷戦が終了したことに伴い、「平和」という“建前”の方もいらないとして独自核武装論や歴史修正主義、中韓に対する排外主義が勃興してきている。
 さらに内山は踏み込んで「今日の原因をもたらした原因のひとつに、戦後のリベラリストや体制批判派の思考があった」とする。「これらの人びとは、憲法、とりわけ第九条が明確に維持されれば平和が守られるかのごとく主張し」、「あたかも明確な民主主義の国家が形成可能で、明確な平和国家が可能だという思考」で述べてきたが、それは「『左』からの明確な国家をめざす要求」だったのではないか。今日それを逆手に『右』からの「明確な国家」の要求が進み始めても(内山「戦後的曖昧さの一掃について」:『自治労通信』 2014,9-10)全く対抗できないのだという。
 「劣化した国家」、「成長しない経済」に対し、今後どのような社会像を構築していくのか、我々の力量が試されている。

 【出典】 アサート No.442 2014年9月27日

カテゴリー: 思想, 政治, 杉本執筆 | 【投稿】「戦後」の価値観をめぐる潮流と「脱成長」の社会像 はコメントを受け付けていません