【投稿】安倍政権が牽引した不安の1年

【投稿】安倍政権が牽引した不安の1年
              ―来年こそ安倍退陣の実現を― 

 戦後70年の年が終わろうとするなか、今年の漢字として「安」が選ばれた。「安心、安全」を願う民衆の思いが反映されていると言われるが、実際は不安の年であり、新たな戦争を予兆させる1年であったと言えよう。
 国際的には「イスラム国」による、1月の日本人殺害に始まり、11月パリのテロに終わった感があるが、国内的には様々な不安定状況を醸成したのは安倍政権であった。
 当の本人は今年の漢字についての記者団の問いに「『安』が『倍』になると『安倍』」などと軽口をたたくなどしていたが、安倍としては9月に戦争法を強行採決―成立させ、11月には盟友橋下の「おおさか維新の会」が大阪府知事、大阪市長W選挙に圧勝するなど、ほぼ満足の1年だっただろう。
 
<反中行脚続ける安倍>
 しかしそれは自己満足であることは明らかで、安倍政権は相も変わらず国内外に災厄をまき散らさんとしている。
 11月21日、クアラルンプールで開かれたASEAN+3(日中韓)首脳会議の席上、安倍は李克強首相を前に南シナ海情勢に関し「深刻な懸念」を表明した。ソウルでの日中韓首脳会談では友好ムードを演出したものの、今回は本音をさらけ出した。
 引き続き安倍は国会の閉会中審査から逃亡する形で、11月30日からパリで開かれたCOP21に出席し演説を行った。しかしその内容は、温室効果ガスの削減やクリーンエネルギー開発への意欲を強調する一方、原発再稼働に関しては口をつぐむという姑息なものとなり、十八番の「反中演説」ほどの力の入れようは伺えなかった。
 また2020年以降の温暖化対策に関する「新たな枠組み」を巡り、論議を牽引するアメリカ中国と、反発する途上国、さらには深刻な状況を訴える島嶼国のアピールの間に、日本政府の一般論は埋没してしまった。
 12月12日訪印した安倍は、モディ首相との間で原子力協定の締結を合意した。インドは核兵器を保有しながらNPT未加盟であり、原発を輸出することは日本のこれまでの立場と矛盾するものである。
安倍は「インドが核実験をすれば協力を停止すると伝えた」と明らかにしたが、効力には疑問符をつけざるを得ない。インドは核兵器の他、原子力潜水艦を保有、今後原子力空母を建造する計画であると言われており、原子力を利用した軍拡を進めようとしている。
 これに対しては広島、長崎両市長が遺憾を表明するなど、内外から批判が挙がっているが「平和利用」を口実に、核軍拡への支援が糊塗される危険性をはらんでいる。
 安倍はこうした懸念をよそに、「対中包囲網」を目論み、兵器や技術の移転、共有する軍事情報の保護、日米印海軍合同訓練の継続も確認している。
 11月26日には、オーストラリアに対し潜水艦に関する技術提供が国家安全保障会議で決定された。豪海軍の次期潜水艦については、日本の他、ドイツ、フランスが受注を目指しており、激しい競争が繰り広げられている。
 安倍政権はオーストラリアを「対中包囲網」に引き込まんとして、技術者の育成や現地での建造も含めた「破格」の提案をしており、兵器輸出にかかる制約の空洞化が、一層進もうとしている。
 12月17日には東京で、日本、インドネシア両政府の2+2(防衛、外交閣僚)会議が初めて開催され、同会議の定例化と日本からの飛行艇輸出交渉の開始などが決まり、高速鉄道導入で「中国に傾いた」同国を引き戻そうと、躍起になっている。
 このように安倍政権は緊張状態を東シナ海から南シナ海、さらにはインド洋、そして南太平洋にも拡大しようとしている。

<増大する軍事費>
 日本国内の軍拡にも歯止めはかからない。政府は12月24日、16年度予算案に於いて、軍事費を4年連続で増加させ、補正を含まない単年度予算としては初の5兆円台とすることを決定した。
 消費増税などの影響で来年度税収が57兆数千億円と、25年ぶりに高い伸びを示す中、社会保障費など生活関連予算は抑制され、軍事費が突出することとなった。
 中身的には、1機200億円のオスプレイやF35戦闘機など高額な兵器の調達費が嵩み、減額するとしていた「思いやり予算」も11~15年度分約130億円増の9465億円となった。
 政府・防衛省は「不要不急の装備調達は抑制する」としているが、14年度から18年度までの現「26中期防」期間内での調達予定兵器を見ても、来年度以降での大幅な削減は不可能と見積もられ、5年間で約24兆円とされた現中期防の予算計画の見直しも懸念される。
 さらに「次期中期防」では「弾道ミサイル防衛」を口実とした新型ミサイル「THAAD」や「早期警戒衛星」、「島嶼防衛」として1隻1500億程度と考えられる、「多機能輸送艦」(強襲揚陸艦)を最低でも3隻導入することなどが計画されるなど、軍事費の増大は継続される可能性が高い。
 安倍内閣はこうした軍拡を、情報操作と管理によって推し進めようとしている。安倍政権にとって都合のいい情報=「中国、北朝鮮の脅威」については、誇張をも憚らず拡散させる一方、都合の悪い情報に関しては軍事関連のみならず原発事故関連、TPP交渉などでも隠蔽が行われている。
 本来こうした問題は、臨時国会を開催し論議するのが「憲政の常道」であるが、安倍は外遊を口実に議論の場そのものを無くしてしまうという暴挙に出た。
 さらに政府は特定秘密保護法を駆使し、軍事関連の特定秘密などに関しては、会計検査院の会計検査さえ対象外とすることを目論んでいることが明らかになった。
 戦前海軍省は戦艦大和建造に当たり、架空の艦艇数隻分の建造費として予算を計上した。これらは軍事機密とされ大蔵省も検査院も手が出せなかった。こうしたことの反省から、日本国憲法ではすべての支出入の検査を義務付けているが再び「聖域」が設けられようとしている。

<極右利用し反対派攻撃>
 戦争関連法を筆頭に憲法の軽視が常態となった安倍政権に対しては、様々な立場の人々から批判の声が上がり続けている。
 とりわけ戦争関連法に対しては全国的な反対運動が展開されたが、安倍政権は「国際テロの脅威」を持ち出し、治安管理体制の強化を進めようとしている。
 とりわけ来年の「伊勢志摩サミット」及び関連国際会議、さらには東京オリンピックを口実に、漠然とした不安を増大させ、様々な団体、運動への監視、弾圧が顕著になるだろう。
 そうした極端な反応は社会そのものを自壊させる。フランスでは12月6日に行われた州議会選挙の第1回投票で、「国民戦線」(FN)が仏本土13州中6州で首位に躍進した。アメリカではトランプが排外主義的姿勢にも関わらず、共和党の大統領候補レースのトップを走り続けている。
 こうした現象は日本に於いても顕著になってきている、日本のレイシストは韓国・朝鮮人をはじめとする外国人、さらには沖縄を憎悪の対象としている。
悪質なのは日本の場合、権力が妄動暴挙を助長していることである。オバマもオランドもメルケルもイスラム国との対決を進める一方、排外主義に対しては、毅然たる態度をとっている。
 各国の極右はそれを攻撃しているのであるが、日本の場合は政権と極右が極めて親和的であることだ。安倍は聞かれてもいないのに「3本の矢」や「積極的平和主義」を口にするが、排外主義に対する批判は出てこない。欧米の政権とは価値観が違うのであろう。
 安倍政権はヘイトスピーチを規制する立法措置に消極的な対応をとることで、差別主義者に勇気を与え、公安など「官」とレイシストなど「民」を車の両輪として政権に批判的な人士、運動への攻撃に利用しているのである。

<安倍―橋下枢軸阻止を>
 これの最大の援軍が冒頭にも述べたおおさか維新の会である。12月19日、東京で安倍、菅、橋下、松井の4者会談が行われた。橋下は前日に大阪市長を退任したばかりであるが早速政治活動を再開したことになる。会談では参議院選挙での協力や、橋下の政界復帰のタイミングなどが話し合われたのだろう。両者の協力は改憲をめざし、さらに進むことが懸念される。
 フランスでは州議会選挙の第2回投票で「ルペンよりサルコジのほうがまし」との判断から与党社会党が共和党に協力し、FNの議席増大を阻止した。
軍拡と排外主義によりさらなる災厄をまき散らすのは、国内に於いては安倍―橋下枢軸であろう。
 1月4日からの通常国会では反安倍政権を掲げる野党は、徹底した審議を要求しなければならない。安倍政権は参議院選挙対策として、自衛隊のリスクが高まる「駆けつけ警護」発令などは先送りし、消費税軽減税率導入、臨時給付金などの懐柔策を準備している。
 野党は、戦争関連法だけでなく、まっとうな経済政策、社会保障政策を対置し与党の矛盾を追及するとともに、自・公とおおさか維新の間に楔を打ち込んでいかねばならない。
 そうした場合、先のフランス社会党の対応は極めて戦術的ではあったが、大いに参考にすべきであろう。少なくとも端から「共産党は除外」として、テーブルにもつかない対応は薄慮にすぎるであろう。様々な戦術を包摂する基本的な戦略の構築が求められるのである。「ReDEMOS」(リデモス)など柔軟な発想を持つ運動と連携し、再び国会を包囲する取り組みで安倍政権を追い詰めていかねばならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

カテゴリー: 政治 | 【投稿】安倍政権が牽引した不安の1年 はコメントを受け付けていません

【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か

【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か
                       福井 杉本達也 

1 CUI BONO(得をするのは誰か)
「イスラム国」(Islamic State in Iraq and the Levant=ISIL 又はIslamic State =IS以下ISと略)とは何か。池上彰は「パリから日本を思う」と題して、「フランスで生まれ育ったのに、貧しい生活で十分な教育が受けられず、仕事が得られない。…そんな若者たちが『聖戦』を呼びかける宣伝に惹(ひ)かれ『死に場所を見つけたと』思い込む。こんな負の連鎖を断ち切らないと」(日経:2015.12.7)と書いている。これが日本の多くの知識人・マスコミの論調であるが果たしてそうなのか。 物理化学者で現在カナダ在住の藤永茂アルバータ大学理学部名誉教授(著書に『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(朝日選書 1996年)等)はブログ『私の闇の奥』で「米国の支配権力にその気があれば、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルにIS扼殺の意向を伝えれば済むことです。ISを絞め殺すことが不可能な理由は、米国がそうしないから、そうする気がないからであって、ISが石油を掌握しているとか、シリアの市民に重税を課しているからではありません。しかし、本当の問題は、パリの虐殺の現場を花と蝋燭の灯りで満たしているパリの大衆たちが、誰を本当の悪と考えているか、CUI BONO(得をするのは誰か)の問いを、マスメディアの洗脳に抗って、正しく厳しく投げかけているか、にあります。」と書いている。

2 中東の混乱は欧米に責任
 日経はFinancial Timesを買収して少しは記事が変わったのであろうか。ジェフェリー・サックス米コロンビア大学教授(皇太子妃雅子のハーバード大学の指導教官であり、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』においては、エリツィン時代のロシア経済を粗暴な市場経済に投げ込んだ張本人として批判されている)は『中東の混乱、欧米の責任』という記事の中で「1979年以降、米中央情報局(CIA)は旧ソ連をアフガニスタンから追放するため多国籍のイスラム教スンニ派戦闘部隊「ムジャヒディン」(イスラム聖戦士)を組織した。この戦闘部隊とそのイデオロギーが、今でもISを含むスンニ派の過激派武装勢力の基盤になっている。」とし、「まず、オバマ米大統領はCIAの秘密作戦を打ち切るべきだ。CIAに起因する混乱に終止符を打つことが、テロを増幅している今の不安定、暴力、欧米に対する憎悪に歯止めをかけるために有効だろう。」(日経:2015.12.7 原文Ending Blowback Terrorism 2015.11.19)と述べている。ここまでISの正体と米国との関係を暴露した記事が日本の商業紙に掲載されるのは初めてである。無論、サックスは左派の経済学者ではなく、いわゆる「主流派」経済学者である。

3 ISはいつ現れたのか
 ISが発足したのは2013年4月といわれるが、急激に勢力を拡大したのは2014年6月のイラク・モスル占領前後からである。イラク軍はモスルに約3万人を配備していた。しかもイラク軍には大量のタンクや戦闘機、軍用車両、さらには米軍やイランから提供された武器・弾薬があったが、その全てがISの手に落ちた。イラク軍の将軍の一部がISに通じていたといわれる。結果、米軍の指示に従わなかったマリキ首相は政権から追い落とされたのである。その後、約1年半にわたって米国を中心とする「有志連合」はシリア政府の抗議を無視してシリア領内で空爆を繰り返し、特殊部隊も潜入させている。ISを攻撃することが目的だとしているが、その間、ISは勢力を拡大してきた。何百回となく空爆を行い、地上10㎝の物体も識別できる能力のある偵察衛星や偵察機による偵察も行ったが、ISの基地や軍用車のかけらも発見できなかったのであろうか。「テロとの戦争」は失敗しているが、その本来の目的はアサド政権転覆とシリアの破壊・シリア民衆の殺戮である。その意味で米軍産複合体の目的は達成されつつあった。

4 トルコによるISの石油密売とロシア軍機の撃墜
 11月24日、トルコによりISを空爆していたロシア空軍機が撃墜された。トルコが公開したロシア軍機の飛行経路を見たとしても、ロシア軍機の領空侵犯はわずか数秒に過ぎない。数秒の侵犯の航空機を撃墜するには、あらかじめ飛行経路が分かっており、待ち構えていなければならない。ロシア軍はあらかじめ飛行経路を米軍に伝え、米軍との衝突を避けようとしていたのであるが、この情報をトルコに伝えたのである。米軍の指示なしに、エルドアン政権がロシア軍機を撃墜することはありえない。なぜ、トルコはロシア軍機を撃墜したのか。答えは、12月2日発表の『Russian military reveals new details of ISIS funding(ロシア軍部がISISの資金調達の新しい詳細を明らかにする)』にある。
 https://www.rt.com/news/324252-russian-military-news-briefing/ 「ISの大型石油輸送トラックの大集団がシリアの油田とイラクの油田から盗みとった石油をトルコ内へ運び込む有様が詳細明瞭な動画像、静止画像で示され、画面上を動くポインターで適切な説明が行われます。具体的な数字としては、32の精油コンビナート、11の精油工場、23の石油輸送基地、1080台の石油タンカートラックがロシア空軍機によって破壊されたと報告されています。巨大な石油タンカートラックの大集団が蝟集し、蠢き、長蛇の列をなして、シリア、イラクからトルコ国内に流れ込み、逆方向に、武器や物資を運ぶと思われるトラックの大行列を見る」ことができる。「シリアとイラクから石油を泥棒して軍資金を調達し、その金で世界中の死の商人からたんまりと武器弾薬を購入し、世界中の若者たちを駆り集めて洗脳し、アサド政権打倒の米欧地上軍の代理傭兵軍隊としてアサド政権の打倒を目指す。この独立採算システム」(藤永茂『私の闇の奥』2015.12.9)こそISと呼ばれているものの正体であり、エルドアン政権にとってロシア軍機による空爆は実に都合の悪いものだったのである。

5 ケリー米国務長官のモスクワ訪問と今後の展開
 ロシアにより具体的証拠を突き付けられたことで、米財務省高官のアダム・ズービンはロンドンで、「石油の『いくらかの量は国境を越えてトルコにも入っている』と語り、ISへの資金流入を止めるため、トルコに対して国境管理を徹底するよう求めた。また、ISは石油の闇取引によって、これまでに少なくとも5億ドルを手にしたほか、シリアやイラクの支配地域にある銀行から最大で10億ドルを略奪したと説明した。」(日経:2015.12.12)。として、渋々ながらISを通じて石油がトルコに入っていることを認めざるを得なくなった。12月15日、ケリー国務長官はモスクワを訪問し、ラブロフ外相・ショイグ国防相と会談し、プーチン大統領とも会談した。ケリー国務長官は、会談後、「我々は、シリアのことを基本的には極めて近い見方をしており、同じ結果を望んでいる。アメリカは、ロシアと協力する用意がある。ロシアとアメリカ合州国は、シリア国内の戦闘も鎮めない限りは、ダーイシュ(ISIL)を打ち負かせないことに同意した。シリアの将来については、シリア国民が決める。政策として、ロシアを孤立化させようとは思っていない。」とし、アサド政権打倒の方針を変更することを明らかにした。米国もついに条件付きながらアサド政権の存続を容認したといえる。政権を支援し、シリア政府軍にISを駆逐させ、欧米ロの援助により戦乱でズタズタとなったシリアを復興させ難民が戻れるようにする以外に、現実的な解決策はない。しかし、この解決策は米軍産複合体の望む方向ではない。

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

カテゴリー: 平和, 杉本執筆 | 【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か はコメントを受け付けていません

【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19) 

【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19) 

<<なりふりかまわず>>
 安倍政権はいよいよ来年7月の参議院選挙、あわよくば衆参ダブル選挙、そして憲法改悪をも射程に入れた政策展開、予算対策、野党切り崩し、政治的策動にしゃにむに突き進みだしている。
 この間の安倍政権の一連の動きは、政策の整合性や一貫性などはどうでもよい、たとえその場しのぎであっても、直面する選挙対策に役立てば、乗り切りさえすればそれで結構、そんな姿勢がむきだしである。
 消費税引き上げ時の軽減税率はその典型といえよう。自民党税調、財務省、麻生副総理、谷垣幹事長らの抑制案、抵抗姿勢、党内の不満を排して、最後は首相・官邸側が公明党、創価学会の選挙協力を優先して、「軽減税率」で妥協、押し切った。対象品目をめぐる押し問答は、公明党の「手柄」を“演出”する茶番劇であった。しかし、その「財源」を確保するためとして、「4000億円の低所得者対策」をとりやめるという。さらに「子育て世帯臨時特例給付金」についても、財源捻出のため来年度から廃止する方針を決めた。子育て給付金は中学生までの子供約1600万人を対象として、2014年度は1人1万円、15年度は1人3000円を支給していた。これまで廃止してなにが「新3本の矢」だ。財源が足りないというなら、緊張激化政策をやめ、軍拡をストップし、危険極まりないオスプレイ購入をやめ、米軍への思いやり予算を減額するのが最善であり、これこそが究極の選挙対策と言えよう。
 いったい何のための「軽減税率」なのか。たとえ「軽減税率」を実施したとしても、10%への増税は4兆円を超える大増税であり、1家族あたり年4万円以上の負担増を強いる。空前の利益を計上する大企業・独占資本には減税を度重ね、庶民にはさらなる負担を強いる。そもそも景気回復・成長政策を唱えるならば、10%増税は取りやめるべきであり、それこそが最大の選挙対策となりうるものをみすみす逃したのである。あえてそこまでしたのは、単純に公明・創価学会の面子を配慮した取り込み策であり、彼らを手玉に乗せ、改憲を含むもろもろの裏取引をした結果なのであろう。
 さらに補正予算案は、その場限りの継続性のない、まるで選挙対策そのものである。「1億総活躍」の目玉政策として、年金額が少ない高齢者に1人あたり3万円、総額3300億円。TPPへの農林漁業者の不満や怒りを抑えるために、農水省所管の約4千億円の4分の3強、3千億円余りをTPP関連対策と「農業農村整備事業」へ。自民党内からでさえ、「バラマキのイメージが先行してしまう」と、疑問が噴き出すしろものである。「後は野となれ山となれ」である。
 あげくの果てが、沖縄選挙対策。「『宜野湾にディズニーリゾート誘致って? 選挙前の話くわっちーさー』(那覇市・もうだまされない)。普天間と牧港補給地区の一部先行返還の日米発表を、翁長雄志知事が「話くわっちー」、つまり話だけで何もないと批判した発言を念頭に、テーマパーク誘致も似たようなものだ、と。実体はテーマパーク関連のホテル建設だという。運営会社は「事実はない」と否定。政府は誘致支援を打ち出したが、一民間企業の事業に政府が口を出していいのか。」「選挙を意識した露骨な政策があまりにも多すぎる」(沖縄タイムス 12/13)。同紙の指摘の通りである。

<<安倍の別働隊「おおさか維新」>>
 しかしその一方で、安倍政権は2016年度予算案の防衛費を5兆5000億円超とする方針を固めている。防衛費の増額は第2次安倍政権になって4年連続、5兆円を突破するのは史上初の事態である。自らが仕込んだ対中国軍事的緊張激化の軍拡、オスプレイの購入や、辺野古新基地建設工事の本格化、米軍への思いやり予算など、安倍政権の軍事化が着々と推し進められている。
 そして改憲への目論見である。安倍首相は12/19、橋下徹・前大阪市長と東京都内のホテルで約3時間半会談、菅義偉官房長官、「おおさか維新の会」代表の松井・大阪府知事も同席、憲法改正など政策面の連携や来年の通常国会での協力について意見交換をしている。橋下氏は12/12「おおさか維新の会」の臨時党大会、その後の懇親会で「憲法改正の最大のチャンスがやってきた。参院選が勝負。」「参院選では自民、公明、おおさか維新で3分の2の議席を目指そう」と述べ、さらに大阪選挙区(改選数4)について「3人を取るくらいのことをしないと大阪の本気度は全国に伝わらない」と述べ、複数擁立までぶち上げ、松井氏も大会後の記者会見で「憲法改正は党の大きな考え方の一つだ。改正に必要な3分の2勢力に入る」と明言している。現在衆院(定数475)は、与党だけで326議席と3分の2(317議席)を超えているが、参院(定数242)は、与党の133議席におおさか維新(6議席)を加えても、3分の2(162議席)に達していない。
 安倍政権にとっては、裏で橋下氏らを支援してきた大阪ダブル選以来の目論見どおりの展開である。「おおさか維新」が民主党など野党の支持層を奪い、「参院選で十数議席は取る」と官邸側は期待する。おおさか維新の実質与党入りで、公明を天秤にかけ、さらに改憲でも同調させる効果も期待できる。
 さらに橋下氏に媚びを売る民主党・前原氏らを利用、民主党を分解させ、野党連合に楔を打ち込み、野党候補一本化の動きを阻止する効果も期待できる。「おおさか維新」は、安倍政権のあくどい画策を実行する別働隊となったといえよう。

<<統一候補擁立へ連携 「市民連合」>>
 しかし、これらはあくまでも安倍政権の虫のよい策謀、一方的な期待でしかないし、それはチャンスは今しかないという焦りの表れでもある。
 こうした動きに対し、橋下氏とたもとを分かった維新の党の江田憲司前代表は12/19、「大阪の皆さんは大阪都構想とかリニアモーターカー、カジノ誘致のため、大手を振って安倍官邸と協力し、与党化の道を進んでいっていただきたい。我々は自民党のライバル政党づくりに邁進していく」と皮肉っている。
 さらに 民主党の岡田代表も12/14、「戦後の平和主義が変わるかどうかの分岐点だ。結果次第では憲法改正までいってしまう」と強調し、参院選について、与党やおおさか維新など9条改憲をめざす勢力を、改正発議に必要な3分の2未満に抑えることが「第一目標」と明言、民主公認に加え、無所属の野党統一候補も積極支援する方針を明確にしている。同党の枝野幹事長も12/15、おおさか維新の会が来年夏の参院選に全国規模で候補者を擁立することを「邪魔」と断じ、「奈良、滋賀、三重に(候補者を)立てても邪魔するだけの選挙区に立てる政党は野党じゃない」と述べ、「1人区では一番勝てそうな候補以外は降りる。それがまさに安倍政治と戦うということだ」と述べている。
 そして12/15、熊本で初の野党統一候補が具体化している。民主、共産、維新、社民、新社会の5党の各県組織が、熊本市内で会合を開き、戦争法(安保法制)に反対する県内の市民グループ50団体でつくる「戦争させない・9条壊すな!くまもとネット」からの野党統一候補の擁立を求める要望を受けて、来夏の参院選熊本選挙区で無所属の統一候補を擁立することを確認、来夏の参院選熊本選挙区(改選定数1)に野党統一候補を擁立する方針を決めた。「くまもとネット」の要望する、▽集団的自衛権行使容認の「閣議決定の撤回」▽先の国会で採決された「11の安全保障関連法の廃止」▽日本の政治に「立憲主義と民主主義をとりもどす」―の3点で一致する候補を擁立する、として県弁護士会所属の女性弁護士を無所属で擁立することを前提に、すでに公認候補を発表済みの共産党は擁立を取り下げる。同選挙区では、自民党が現職の松村氏の擁立をすでに決めている。
 参院選の帰趨は地方の一人区の勝敗が決めると言っても過言ではない。全国32の1人区のうち、民主が公認候補を立てたのは9選挙区だけ。野党統一候補を擁立できる余地は、十分に残っており、むしろこれからが勝負である。「10増10減」で統合される鳥取・島根選挙区では、民主・社民の両県連などが無所属候補の支援組織を結成し、元消費者庁長官の福島浩彦氏に出馬を求めている。こうした地方発の野党共闘は鹿児島、石川、新潟、三重や岐阜の各選挙区でも動きだしている。複数区でも選挙協力が拡大されるべきであろう。
 12/9、こうした動きを下から強力に支え、推進し、統一候補擁立へ連携するための、安全保障関連法に反対する学生・市民団体と野党の意見交換会が、国会内で開かれ、民主、共産、維新、社民の各党と、「立憲デモクラシーの会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「安保関連法に反対するママの会」「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の各団体が出席、来年夏の参院選の改選一人区などで非自民系統一候補の擁立を促し、支援する枠組みとして「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の設立を表明、12/20に正式結成された市民連合は、野党に参院選1人区での候補絞り込みを求め、安保法廃止などを公約とする協定を候補と結ぶ方針であり、参院選で野党による過半数議席の獲得を目指すほか、来年4月に実施される衆院北海道5区補欠選挙でも、安保法に反対する野党候補を応援する、としている。これについて、民主党の枝野幹事長は「幅広い市民に応援していただける候補を立てる動きを、さらに加速していきたい」と歓迎。共産党の山下書記局長も「安保法廃止に向けた協働が、強固なものとして進むステップになった」と述べている。市民連合が、統一候補擁立への重要な結節点、結集軸となる可能性が高まったといえよう。
 安倍政権に対する支持は、安保法制強行採決後の一転した経済政策への転換によって、ある程度回復しているものの、不安定極まりないものである。消費税増税政策は彼らの致命的弱点でもある。そしてなによりも安保法制廃止に向けた裾野の広い、広範な闘いがその後も粘り強く展開され、拡大している。しかも、原発再稼働、アベノミクス、「一億層活躍社会」の功罪などに関して、多くの有権者は安倍政権の推し進める路線に反対していることが、各種世論調査で示されている。
 安倍政権を退陣させる政策的な要、決定的な対立軸は、野党側の幅広い強固な統一戦線であり、「安保法制の廃止と立憲主義の回復」を、緊張激化・軍拡経済から善隣友好・平和経済への転換といかに結びつけ、力強く押し出せるか、にかかっているといえよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

カテゴリー: 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 | 【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19)  はコメントを受け付けていません

【書評】「雇用身分社会」(森岡孝二 岩波新書 2015年10月) 

【書評】「雇用身分社会」(森岡孝二 岩波新書 2015年10月) 

 筆者は最近ある転職フェアに参加した。もちろん自身の転職ではなく、転職フェア出展ブースのお手伝いである。30代から40代くらいの年齢の人々が、出展会社ブースをたくさん訪れていた。「転職」という選択が今では日常茶飯事になっている現実を目の当たりにした。こうした転職フェアは、いくつもの団体が実施しているが、そこに見えるのは、雇用が不安定化している現実であろう。今や雇用者全体の4割が派遣や契約社員、パート労働者と言われる中、より条件の良い、また自分のスキルを活かせる仕事を探しているのであろうが、果たして、この転職フェアで、どれだけ「安定した」仕事を見つける人がいるのだろうか、と思う。
 本書は、「格差社会」「ブラック企業」など社会問題化している雇用の現状を、格差と差別が固定した「雇用身分社会」と捉え、非正規労働の増加と「正社員」の多様化が同時進行し、戦後確立された労働法制を無効化する事態が進行していることを明らかにする。そして成長戦略・規制緩和の大合唱の中で進む「格差と貧困」に対抗する方策を提言している。
 「日本では、ここ30年ほど、経済界も政府も「雇用形態の多様化」を進めてきた。・・・そして、あたかも企業内の雇用の階層構造を社会全体に押し広げたかのように、働く人々が総合職正社員、一般職正社員、限定正社員、嘱託社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣労働者のいずれかの身分に引き裂かれた『雇用身分社会』が出現した。
 ここにあるのは、単なる雇用・就業形態の違いではない。それぞれの雇用・就業形態のあいだには雇用の安定性の有無、給与所得の大小、労働条件の優劣、法的保護の強弱、社会的地位(ないし評価)の高低、などにおいて身分的差別とも言える深刻な格差が存在する。」
 
<労働者派遣法は、無権利労働者を増大させている>
 第1章で、戦前の紡績工場での身分化された労働実態を明らかにしつつ、そこに「ブラック企業」の原型を見出す。そして、現在、労働者の無権利化が進み、歴史が逆戻りしていることを明らかにする。
 第2章では、「派遣で戦前の働き方が復活」では、1985年に「労働者派遣法」が、成立したが、これは「既成事実化した労働者供給事業」の違法状態を法により許可するもので、労働者と使用者の間に仲介者が存在した戦前の「雇用身分制」への回帰の始まりであった。そして、労働者と使用者が分離され、無権利状態となっている現在の「派遣労働」が、戦後確立した労働法制を現場から空洞化させてきたことを明らかにする。
 
<格差と差別が蔓延する職場>
「派遣労働者は職員食堂が使えない」「正社員と使うトイレが違う」「問題を指摘しても、派遣会社と使用者でたらいまわしにされ、何ら解決しない」など、職場に厳然たる差別が存在していることが本書の随所に記されている。
 第3章では、パート・アルバイト問題が取り上げられている。現在のパート労働では、正社員と同様の仕事内容である場合も多く、身分による賃金格差は大きい。さらに性別による賃金格差も著しく、ここから「シングルマザー」の貧困問題が生まれる。同一労働同一賃金の原則では短時間の労働であれば、時間に見合う賃金と制度適用が行われるべきであろう。ヨーロッパでの短時間労働の場合のように、条件の違いは、時間の違いだけとなるはずだが、日本ではそうではない。
 派遣・パート労働には、賃金・社会保険・福利厚生制度などがら除外される「格差・差別」が厳然として存在し、これらの労働者が激増しているのである。

<正社員も多様化の中にある>
 第4章は、「正社員の誕生と消滅」では、非正規労働の多様化と増加により、一層「正社員化」を求める人々が増えているが、著者は今や「正社員」にも、不安定化・多様化の波が押し寄せていることを指摘する。
 そのひとつは、「限定正社員」増加である。2012年12月第2次安倍内閣が誕生し、規制改革会議が「正社員改革」を打ち出した。「無期雇用、フルタイム、直接雇用」の正社員に対して、職務、勤務地、労働時間等が特定されている「限定正社員」を増やすべきだと提言した。
 限定正社員は、正社員よりも賃金は低く抑えられ、4割も安い場合もある。そして何よりも「限定」の条件が消滅した時、解雇がしやすいということが問題であろう。店舗が閉鎖された時、職種が事業上無くなった時など、「限定」された条件がなくなれば解雇は容易となる。
 「正社員の多様化」という流れの中にあって、正社員も安定した「身分」ではなくなりつつある。その一つが「高度プロフェショナル制度」である。いわゆる残業代ゼロ法である。高度な専門職で、年収1075万円以上の雇用について、時間外手当を支給しないという内容だ。1075万円ということで対象は少ないと説明されているが、この基準を引き下げることが意図されており、長時間労働を強いても賃金が増えないことを常態化させようとしている。限定正社員の増加と、無制限労働を強いられる正社員を増やす目論見、これが経済界と安倍政権が進める雇用改革なのである。
 
<政府は貧困の改善を怠った>
 1985年の労働者派遣法、1995年の「新時代の日本的経営」(日経連)、そして今回の労働者派遣法改悪、残業代ゼロ法案など、一連の「雇用の多様化と流動化」策は、労働者の賃金を引き下げ、社会保障を後退させ、企業に利益をもたらした。そして社会に貧困を蔓延させた。
 安倍政権は、株価対策として大企業への賃上げ要請を行っているが、足元では労働者全体の賃金を引き下げる戦略を進め、それは、経済的貧困にとどまらず、健康や人としての生き方も否定する「差別的政策」に他ならない。
 著者は、第7章「まともな働き方の実現に向けて」で、「雇用身分社会から抜け出す鍵」として必要な対策を挙げている。
 1)労働者派遣法を抜本的に見直す、2)非正規労働者の比率を引き下げる、3)雇用・労働の規制緩和と決別する、4)最低賃金を引き上げる、5)8時間労働制を確立する、6)性別賃金格差を解消する。
 本書は、戦前・戦後の雇用制度を概観しつつ、「雇用身分社会」化している現実を明らかにして、近代的雇用関係を否定する流れを丹念に描き出している。読者各位には、ご一読をいただきたい。(2015-12-22佐野) 

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

カテゴリー: 労働, 経済 | 【書評】「雇用身分社会」(森岡孝二 岩波新書 2015年10月)  はコメントを受け付けていません

【投稿】アジア地域を不安定化させる安倍政権

【投稿】アジア地域を不安定化させる安倍政権

<中韓に挟撃された安倍>
 11月1,2日、ソウルで中韓、日中、日韓、さらに3カ国の首脳会談が連続して開かれた。
 安倍はこれまで「首脳会談は前提条件なしで」という条件を提示し、首脳会談で歴史認識問題が取り上げられるのを回避してきた。
 しかし1年前の日中会談では、中国の主張を受け入れ事前の合意文書を作らざるを得なかった。
 日韓会談に関しても、安倍は「解決済み」としてきた従軍慰安婦問題が、議題となるなら首脳会談などする気はなかったのであるが、それでは済まされなくなったのである。
 韓国側も会談を行うなら、具体的解決策まで引き出したかったところであるが、その点に関しては妥協せざるを得なかった。
 この背景には、アメリカの相当な苛立ちがあると考えられるが、一連の会談では、歴史認識問題での安倍の反動性が改めて浮き彫りになった。
 日中韓会談冒頭、李克強、朴槿恵両首脳が歴史認識を質したのに対し、安倍は「過去のことばかり言うのは生産的ではない」と色をなして反論した。
 安倍は日韓会談でも、朴大統領に対し日本大使館前の慰安婦像を撤去するよう求めたという。しかし途中で体調に異変を来し、ろれつが回らなくなったと11月9日発売の「週刊現代」に暴露された。非道な事を述べようとしたため、極度の緊張に陥ったのではないか。
 結局、韓国側の正論の前に、「気力、体力とも尽きかけていた」安倍は「慰安婦問題の早期妥結」という譲歩を迫られた。そもそも慰安婦問題を議題とした時点で、決裂は許されないなか、こうした結論は予定されていたことである。
 この会談自体を取り巻く環境も相当厳しいものであり、日本政府は「実務訪問」に甘んじなければならなかった。さらに会談後の共同記者会見や、昼食会も設定されず、安倍はソウルで「ひとり焼肉」を喫して帰国した。
 会談を受けて党内から「妥協しすぎだ」との批判が噴出するのを恐れた官邸は、弁明に追われた。帰国後の4日、安倍は谷垣幹事長との会談で「早期妥結」に関して「越年も有りうる」との考えを示したが、同日の自民党外交部会では、「安易な妥協はするな」などの強硬意見が続出し、会談での確認は早くも曖昧になりつつある。まさに「のど元過ぎれば熱さも忘れる」という不誠実な姿勢が露わになっていると言えよう。

<攻勢強める中国>
 もちろん中国、韓国も安倍政権が政治姿勢を転換するとは考えてはおらず、現に「過去ではなく未来を」などと言いながら、日中韓の懸案ではない南シナ海の領有権問題を持ち出す等、挑発を止めない以上、今後も緊張を持った対日関係を続けるであろう。
 ソウルで3か国会談が行われるなか、ニューヨークで開催中の国連総会で、そうした関係を象徴するような議論が行われた。11月2日の軍縮委員会では核兵器廃絶決議に関し、日本政府が求めた「各国首脳らの広島、長崎訪問」決議案に関して、中国代表は「歴史歪曲に利用しようとしている」と反対を表明、ロシア、北朝鮮が同調し、韓国は棄権した。
 ここまでは日本政府も織り込み済みだったと考えられるが、アメリカや英、仏までもが棄権した。とりわけアメリカはオバマ政権発足後初めて日本の決議案に賛成しなかった。中国の主張が一定受け入れられたと言えよう。
 安倍政権としては、もう一つの核廃絶に関する「人道の誓約」決議案に関しては、アメリカに配慮して棄権に回るという対応を示したにもかかわらず裏切られた形となり、痛手となった。
 両決議案は賛成多数で採択されたが、二つの核廃絶決議案で全く違った対応をとった日本政府のダブルスタンダードが浮き彫りになる結果となった。
 中国は歴史認識における価値観の共有化を拡大している。11月7日にはシンガポールで初めての中台首脳会談が行われた。現在、将来の課題である統一問題については一致しなかったが、日本の中国侵略に関する認識については、あらためて確認が図られた。
 アジアでの地歩後退に焦る安倍政権は、経済力と軍事力で失地回復を図らんとしている。日中韓会談に先立ち安倍は10月下旬に、カザフスタン、キルギスなど中央アジア5カ国を歴訪し、約280億円のODAなど経済援助をばら撒いた。
 旧ソ連のこれらの国々は、現在でも独立国家共同体、さらには上海協力機構参加国である。ロシア、中国の影響力の強いこの地域に楔を打ち込もうという狙いであろうが、巻き返しは不可能であろう。
 今回安倍が訪れた各国は、トルクメンスタンなど民主主義国家とは言い難いものがあり、安倍の掲げる「価値観外交」が、いかにいい加減なご都合主義であるかが明らかになったのが、最大の成果と言える。

<共通課題は「対テロ」>
 安倍が中央アジアで得意顔をさらけ出している最中の10月27日、アメリカ海軍のイージス駆逐艦が、スプラトリー諸島で中国の人工島から12カイリ内を航行した。この「航行の自由」作戦は極めて慎重に行われ、中国軍も冷静な対応をとり、両軍の接触はなかった。
 1988年2月黒海で沿岸12カイリのソ連領海内に侵入した米軍巡洋艦、駆逐艦に対し、ソ連軍の警備艦が体当たりを行うという事件が発生した。しかしその後の米ソ関係に変化はなく、冷戦終結の流れは逆行することはなかった。
 アメリカは今後も同様の作戦を継続するとしているが、中国は「抗議」はあるものの、具体的な阻止行動を実施することはないだろう。
 この事態に一人欣喜雀躍しているのが安倍である。安倍は国連総会など様々な国際会議で「力による現状変更は許されない」と中国非難を続けている。11月15日から開催されたG20首脳会議においても、同様の主張を繰り広げんとトルコに乗り込んだと考えられる。
 しかし直前に発生したパリの無差別テロにより、G20の位置づけは対テロ一色となった。会議の合間にもオバマ、プーチン両大統領がホテルのロビーで非公式協議を行うなど、各国首脳はイスラム国対策に忙殺され、安倍の付け入る隙はまったくなかった。
 この流れは、18,19日にフィリピンで開かれたAPEC首脳会議にも引き継がれた。同会議の宣言では、パリのテロ事件を厳しく非難し、被害者への連帯を明らかにする一方、南シナ海問題については言及されなかった。
 このように国際的な共通課題は「対テロ」であり、ことさら地域内の対立を煽る安倍外交は片隅に追いやられた結果となった。

<進む南シナ海への介入>
 宣伝戦で芳しい成果が得たれなかった安倍は、南シナ海での緊張激化策を推し進めようとしている。
 19日夜になり、半年ぶりに日米首脳会談がマニラのホテルで開かれた。この席でようやく南シナ海問題が協議され、安倍は「航行の自由」作戦への全面的な支持を表明、さらに同海域での「自衛隊の活動を検討する」と発言した。
 同日のフィリピン・アキノ大統領との会談では、防衛装備品移転協定締結で合意、これによりP3C哨戒機などの供与が可能になる。南シナ海を巡っては、すでにベトナムへの中古船舶の供与が進められており、着々と間接的介入が既成事実化されているなかでの今回の安倍発言は、直接介入が具体化する危険性が一層高まったことを示している。
 さらに21日からマレーシアで開催されたASEANを核とする関連国の首脳会議、東アジアサミットでも安倍は強硬姿勢を崩さなかった。
 しかし、南シナ海での自衛隊の活動(航空機、艦船による警戒監視・偵察)検討については政府、与党内にも踏み込み過ぎとの考えがあり、慌てた菅は20日の記者会見で「アメリカの作戦に自衛隊が参加する予定はありません。南シナ海で警戒監視活動を行う具体的な計画も有りません」と打ち消しに追われた。
 過剰なリップサービスを行い、東シナ海=尖閣諸島における米軍関与の担保を取ることに躍起の安倍であるが、アメリカは冷ややかである。自衛隊が南シナ海の監視活動に加わり、米軍の負担が軽減されることは歓迎されるだろうが、尖閣問題への介入は別問題であろう。
 特活「言論NPO」が4~9月にかけ実施した「北東アジアの未来と日米中韓7000人の声~日米中韓シンクタンク対話と4カ国共同世論調査」によれば、尖閣諸島を巡り日中が軍事衝突した場合の、米軍派遣の是非に関しアメリカの回答者の64%が反対であることが明らかとなった。
 アメリカは対イスラム国作戦でも、空爆の他は小規模な特殊部隊の派遣に止めており、尖閣への派兵など有りえないだろう。
 ASEAN各国も性急な日本の介入姿勢には警戒感を示しており、「当事者間の対話が第一」という原則を確認すべきである。戦争法成立で歯止めのない軍事行動を画策し、反対の声に対して「対テロ」を口実に、共謀罪新設などで圧殺を目論む安倍政権を許してはならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

カテゴリー: 政治 | 【投稿】アジア地域を不安定化させる安倍政権 はコメントを受け付けていません

【投稿】「もんじゅ」廃炉の可能性と核燃料サイクルの行方

【投稿】「もんじゅ」廃炉の可能性と核燃料サイクルの行方
                            福井 杉本達也

1 「もんじゅ」運営主体の「原子力機構」に「資質なし」勧告
 11月13日、原子力規制委員会は高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)を運営する「日本原子力研究開発機構」に「資質なし」として運営主体を代えるよう所管する文部科学省に勧告した。これは国策の核燃料サイクル政策に大きな影響を与える可能性がある。文科省は、海外の原子力企業や電力会社などとの提携も含めて「新組織」の検討を始めるが、技術面や能力面で選択肢は極めて限られる。報告期限までに示せなければ、もんじゅは廃炉を含めた抜本的見直しを迫られる。

2 文科省は一旦、規制委勧告の受け取りを拒否
 産経新聞の報道では「『もんじゅ』(福井県敦賀市)について、原子力規制委員会は、所管する馳浩文部科学相に対し、13日に直接面会して変更主体を求める勧告文を渡すことを打診したが、文科相側が拒否した…代わりに文科省の局長が受け取る。…規制庁が『翌週でも時間があるときに』と面会を要請したが、『研究開発局長がそちらに出向く』と回答し、直接の受け取りを拒否した。副大臣や政務官との面会も断られたという」(産経:2015.11.12)。その後、馳文科相が田中委員長から受け取ることとなったが、この期に及んでの文科省の受取り拒否の抵抗姿勢は、その体質を如実に示している。

3 核燃料サイクルに12兆円
 東京新聞によると、核燃料サイクルの費用は、高速炉開発が国家プロジェクトになった1966年度から2015年度まで、判明しただけで計約12兆22百億円に上った。廃炉費用は少なくとも1千億円は必要になるとみられるが、冷却材に危険なナトリウムを大量に使っており、きちんと見積もられていない。核燃サイクルのコストは、電気事業連合会(電事連)が10年以上前の2003年、各施設の建設、操業(40年)、解体、最終処分までの総額を約19兆円との試算をまとめていたと報じている(東京新聞:2015.11.17)。冷却材としてのナトリウムを固化させないように「もんじゅ」を維持管理するだけで1日に5,000万円、年間200億円もかかっている。

4 核燃料サイクルにこだわるのは核武装のため
 なぜ、政府は「もんじゅ」の運転と核燃料サイクルの維持にこだわるのか。高速増殖炉は、プルトニウム239とウラン238を燃やし、さらにウラン238をプルトニウム239に転換させるというものだ。「燃やせば燃やすほど燃料が増える」「夢の原子炉」という、キャッチフレーズが使われた。しかし、計算ではプルトニウムの倍増には50年以上かかる。それでは「もんじゅ」の建て替えが必要となる。「もんじゅ」の真の目的は軍事用プルトニウムの生産にある。そのプルトニウムは「もんじゅ」の炉心燃料にあるのではなく、炉心を取り巻く核分裂しないウラン238を主体とするブランケットと呼ばれる燃料集合体の部分にある。ウラン238が高速中性子を吸収し核分裂性のプルトニウム239に変わる。その燃料集合体を毎年半数取り出せば98%のプルトニウムを62kg生産することができる(原発でもプルトニウムを生産できるが、プルトニウム239の割合は58%程度であり、プルトニウム240などの不純物を多く含み、不完全爆発になったり、爆弾が巨大化してミサイルに搭載できないなど実戦には不向きである:参照:槌田敦『隠して核武装する日本』)。ところが、このことをマスコミも社民党・共産党も原水禁も取り上げない。日本に長年核武装の構想があるというのは3.11後もタブー視されたままである。日本の脱原発運動の根本的弱点はプルトニウムの危険性を指摘しながら、既に日本が核武装の道を着々と歩んでいることを頑として認めない(何らかの脅しにより認められない)ことにある。もちろん日本の宇宙開発も核弾頭の運搬手段としてのミサイルの開発にあり、H-2A・Bロケットの打ち上げ成功を手放しで喜ぶべきものでなない。2010年、小惑星の探査を目的として打ち上げられた「はやぶさ」が地球の大気圏に再突入し、小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰ったことが大きな話題となったが、「イトカワ」とは戦時中、戦闘機「隼」を設計し、戦後はいち早くペンシルロケットなどミサイルの開発に着手した軍事技術研究の第一人者である糸川英夫から命名されたものであり、軍事技術と宇宙開発は切っても切れない関係である。

5 なぜ規制委は勧告を出したか―米国の強い要求
 10月に来日したジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)は、「六ヶ所再処理工場の運転開始計画に関し、『日本にはすでに相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい』と述べ…『分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ』との考えを強調」したと報道されている(朝日:2015.10.12)。核燃料サイクルの放棄を最後の最後まで渋る文科省に最後通牒を出せるのは規制委の一存では不可能である。背後に米国の強い意向が働いていることは疑いがない。2018年7月に日米原子力協定の改定も迫っている。こうした中で、日本原燃は核燃料サイクルの中核である六ヶ所村の再処理工場の完成時期を2018年上期まで延期すると22回目の延期を発表した(日経:2015.11.18)。
 しかし、こうした米国の動きに対し、初代原子力調整官、初代外務省原子力課長(1977-82年)として米カーター政権からレーガン政権までの間・日米原子力交渉を担った金子熊夫は「日本は、1970~80年代に必死に対米交渉をした結果、非核兵器国ながら再処理、濃縮の権利を獲得した、いわば既得権者、特権階級である。」「1988年に発効した新日米原子力協定(2018年まで30年間有効)では、日本は再処理、濃縮(20%以下)、第三国移転について「長期包括的承認」を与えられることになった。それ以前の「ケースバイケースでの承認」ではなく、一定の条件下で一括して事前承認するという方式を確立した…このような形で再処理、プルトニウム利用などを行うことができる権利は、核兵器国(米露英仏中の5カ国)を除くと、日本とユーラトム(欧州原子力共同体)加盟のドイツ、イタリア等だけに認められた非常に貴重な権利である。」と述べ(『WEDGE』 2014,4,11)米軍産複合体の後押しもありやっと確保した独自核武装の『権利』を何が何でも失うまいと躍起である。これが、これまで「もんじゅ」の20年間もの長期間の運転停止、六ヶ所村の再処理工場の度重なる操業延期にもかかわらず核燃料サイクルを「廃止」しない理由である。

6 「もんじゅ」廃炉をどうするか―伴原子力資料情報室代表:コメントを訂正
「もんじゅ」の運営に対する規制委の勧告にあたり、中日新聞紙上で原子力資料情報室の伴英幸共同代表は、「大半を預けている英仏に引き渡すか、ウランと混ぜて通常の軽水炉で燃やす「プルサーマル発電」で消費するかの選択肢を示す。」(中日:2015.11.5)とコメントした。プルサーマル発電で消費するということは、現在の九州電力・川内1,2号の再稼働だけでは全く不十分であり、数十機を再稼働しなければならなくなる。伴氏は翌日「これだとプルトニウムをプルサーマルで処分することを推奨していると読める。しかし、これは私の本意ではない。本意を端的にいうと、プルトニウムを放射性廃棄物として処理・処分するべきとするのが伴の考えである。国内には高レベル放射性廃液が残っているので、これと混合することで放射性廃棄物となる。政策的方法としてこれを主張したい。」(伴代表コメント訂正:2015.11.6 CNICトピックス)。と訂正した。
 英国の20.7tと仏の16.3tを引き渡すのは当然として、問題は国内の10.8tをどうするか及び「もんじゅ」内に残る未処理のブランケット内の98%の超軍事用プルトニウム62kg(茨城県の高速増殖炉実験炉「常陽」のブランケットには22kg)をどうするかである。「もんじゅ」は元々文科省(旧科学技術庁)所管であり、独自核武装派の牙城である。一方、六ヶ所村の核燃料再処理施設は民間運営の日本原燃(株)という形態をとり、対米従属を国是と考える経産省所管である。六ヶ所村の再処理施設は隣接の三沢基地の米軍の監視下にあると考えてよい。原子力機構が運営主体であった茨城県東海村の再処理工場は2007年に閉鎖されるまで約7トンのプルトニウムを生産していたが、米軍の監視の目が行き届かないとして強引に廃止させられた。「もんじゅ」(「常陽」を含む)の虎の子のプルトニウムを米軍監視下に置くのか、独自武装派の支配下で敦賀半島先端の「もんじゅ」敷地内に止め置くのか、どのような形態で保管するのか。「原発ゼロ」では日本国内でのプルトニウムの消費=「平和利用」という口実を奪い、「独自核武装」疑惑を打ち消せなくなる。発電のために原発の再稼働が必要なのではない。核武装構想を打ち消すために再稼働とMOX燃料による純度の低い原発級プルトニウムの消費が求められているのである。12月5日に「もんじゅを廃炉に!全国集会」が「高浜原発3,4号機再稼働反対集会」と抱き合わせで福井市において開催される。伴代表と鈴木達治郎長崎大教授との対談も予定されている。高浜3,4号機においては、MOX燃料の装荷も予定される。今後、「もんじゅ」廃炉をめぐって核武装派ばかりでなく、脱原発派もその真価を問われることとなる。 

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | 【投稿】「もんじゅ」廃炉の可能性と核燃料サイクルの行方 はコメントを受け付けていません

【投稿】維新が制した大阪ダブル選 統一戦線論(18)

【投稿】維新が制した大阪ダブル選 統一戦線論(18)

<<最も喜んだ安倍政権>>
 11/22投開票の大阪府知事・大阪市長のダブル選、どちらも橋下大阪市長が率いる大阪維新の会が制する結果となった。非常に残念な事態である。
 この結果に最も喜んでいるのは、安倍首相であろう。安倍政権は官邸が中心となって、大阪の自民党推薦の候補ではなく、大阪維新の会の候補者を側面、あるいは全面支援していたのである。安倍首相は、安保法制審議の真っ只中にもかかわらず、9/4に大阪入りした際、大阪の公明党の議員や幹部とわざわざ会談し、「橋下大阪市長と和解してもらえませんか。橋下さんや松井一郎大阪府知事が国政進出する際にも、公明党の力添えが必要なのです。」(「週刊現代」9/26-10/3合併号)と要請、圧力をかけていたことが暴露されている。大阪の自民党は安倍首相の介入によって、完全なねじれ状態に追い込まれ、よく抵抗したとはいえ、立候補者の擁立も遅れ、一体となって闘う体制がそもそも崩されていたのである。
 そして、選挙戦に入るや公明党の佐藤茂樹大阪府本部代表は記者団に「どちらかにくみするのではなく、民意で選ばれたリーダーと、合意形成をしていく姿勢で臨みたい」などと大阪「維新」に公然と秋波を送った(11/2)。公明党は明らかに、衆参両選挙での橋下「維新」側からの対立候補擁立の脅しに屈して、維新との裏取引で「中立」、「自主投票」を装い、維新の勝利に手を貸す選択をしたのである。
 大阪維新の会の側も意図的、かつ本心の吐露でもあろう、安倍政権へのすりより路線をいっそう明確にした。首相の応援団を自任する橋下氏が、集団的自衛権の行使について「安倍さんは、どれだけ批判があっても実行する」(「産経」10/15付)と安保法制(戦争法)の強行成立などの強権的な“実行力”を絶賛し、松井氏も「安倍政権とは価値観が合う」「憲法改正を進めるのは協力できる」(「日経」10/1付)などと露骨に安倍暴走政治との一体性を誇示、安倍独裁政治の過激な別動隊としての橋下「維新」の役割を買って出ている。安倍首相が、自党候補の勝利ではなく、「維新」候補の勝利をこそもっとも喜んでいる所以でもある。

<<『ふにゃぎもとさん』>>
 選挙の争点は、本来は、つい半年前、5/17の住民投票で反対多数・否決となった「大阪都」構想の再提案の是非であった。そもそも、橋下氏は「都構想の住民投票は1回しかやらない」「賛成多数にならなかった場合には都構想を断念する」「今回が大阪の問題を解決する最後のチャンスです。2度目の住民投票の予定はありません」と明言し、退路を断ったかのように見せかけて、票をかき集める、嘘八百の手口で世論誘導をしたにもかかわらず、少数差とはいえ敗北した。その結果、橋下氏は「政界引退」表明に追い込まれたのであった。しかしその「政界引退」表明もまったくの大嘘であった。
 この手口は、安倍首相のアベノミクスの大嘘、福島原発事故汚染水「アンダーコントロール」の大嘘、そして「アベノミクス第二ステージ」の大ボラ、とまったくの相似形である。両者の独裁的、強権的政治姿勢も瓜二つである。
 そこで選挙戦では、このような政治姿勢を問われたのでは不利である。そこで橋下「維新」は論点を完全にすり替えた。大阪都構想の再提案ではなく、大阪「副首都」構想に「ヴァージョンアップ」したとごまかし、力点は、反維新のオール大阪共闘体制へのデマ・中傷路線に徹底したのである。「自民・共産・民主が共闘」→「暗黒の大阪に逆戻り!」「過去に戻すか、前に進めるか」とビラに大書し、橋下氏は「共産と組んだ大阪自民はろくでもない。維新をつぶすために、悪魔と一緒になって禁断の果実をかじってしまった」と連日連呼したのである。そしてついには、市長の対立候補である柳本氏を、橋下氏は「あの人は非常に紳士なんですけど、長い話で結論を言わない。テレビ討論でも、ふにゃふにゃふにゃふにゃ言ってる間にCMになっちゃう」とこき下ろし、「柳本さんと言うと僕が名前を広めてるみたいだから、これからは『ふにゃぎもとさん』と呼びます」などと、お粗末極まりない個人攻撃に終始していたのである。これが橋下「維新」選挙の実態であった。

<<「オール大阪」の共闘体制>>
 それにもかかわらず、あるいはそれだからこそと言うべきか、橋下「維新」が勝利を制した。本来の争点が完全にぼかされ、うやむやにされてしまったのである。橋下「維新」の狙いもそこにあったと言えよう。都構想は、大阪市民にとってはすでに決着していた政策の蒸し返しであり、投票率が前回から10.41%も下がってしまった(市長選50.51%、府知事選は7.41%減の45.47%)のは、当然と言えよう。
 そもそも「都構想」という政策自体が詐欺的であり、その実態は、政令指定都市である大阪市を解体し、その財源を大阪都に吸い上げ、橋下「維新」の投機的・カジノ的政策に流用する、それを独裁的・集権的に進める政治体制を構築することにある。その本質は、新自由主義政策であり、社会資本と福祉の切り捨て、あらゆる公的部門の民営化、格差と貧困と差別の拡大政策である。
 反「維新」の「オール大阪」の共闘体制は、残念ながらこれと対決する政策を明確に対置し得なかった。独裁的・集権的政治手法には「NO!」の声を大きく結集しえたが、肝心の経済政策で、どちらもリニア新幹線の大阪延伸を冒頭に掲げるなど、違いを明確化できなかったのである。
 それでもこの「オール大阪」の共闘体制には、これまでの政党間共闘とは違った、新しい統一戦線形成の芽生えが、希望が動き出している。その象徴は、この「オール大阪」の選挙戦に多くの学生、青年、若者が積極的に登場し、発言し、訴えていたことである。SADL(民主主義と生活を守る有志)に結集する若者が、各地域での「オール大阪」の政談演説会に積極的に参加し、会場を準備し、多種多様なプラカードやリーフレット、ビラを多く用意し、配布し、なおかつ演壇に立ち、一人ひとりが自らの見解を訴えていたことである。筆者が参加した投票日2日前の京橋駅頭での「オール大阪」の政談演説会では、登壇した若い女性が「私は自民党支持者ではありません。しかし今の橋下政治は許せません。住民福祉の増進を進める自治体、地元民に立脚した経済、一人ひとりが考え、みんなで作る大阪を望みます」と訴え、駅頭をうずめた多くの人々が声援と拍手で応えていたのである。(写真は、11/20京橋駅頭、筆者撮影)

<<「いま、大阪ではもう『同和』はありません」>>
 共産党が独自候補を立てずに、この「オール大阪」に合流し、活発な活動を展開した意義は大きく評価されよう。
 しかしその共産党は、橋下「維新」の社会資本切捨て・差別拡大政策では、橋下「維新」に同調してきたのである。人権資料博物館「リバティおおさか」への補助金全額カット、大阪市内10地区の市民交流センターの縮小・廃館政策、人権予算の大幅削減などでは、橋下「維新」をむしろ擁護、激励し、さらなるカットを要求して、橋下「維新」との統一戦線を形成してきたのである。共産党系の「民主主義と人権を守る府民連合」は、対大阪府交渉において「同和地区」「同和地区住民」は存在しないことを明言せよと迫り、今年1/21の対大阪府教育委員会との交渉では、府教委に「今、被差別部落なんてないよという言い方になると思います」と回答させて、大いなる成果と喜び、「いま、大阪ではもう『同和』はありません」と叫んでいる(『人権と部落問題』2015年6月号)事態である。
 人権政策をめぐるこの共産党の差別助長政策は大阪の統一戦線形成・発展にとって大きなマイナス要因であり、橋下「維新」はこれを大いに助長・利用したことを、今次ダブル選挙の一つの教訓としなければならないといえよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

カテゴリー: 人権, 大阪維新関連, 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 | 【投稿】維新が制した大阪ダブル選 統一戦線論(18) はコメントを受け付けていません

【報告】中日戦争70年記念展示を見て

【報告】中日戦争70年記念展示を見て(台北・中正紀念堂) 

 「抗日戦争の真相–特別展–」が、台北市の中正紀念堂の1階ロビーで、開催されていた。それを目的に訪れたわけではなく、台北ツアーの中に、蒋介石を紀念する建物の見学があり、この展示会を見ることができた。
 主な展示は、盧溝橋事件から始まる日中全面戦争の、歴史絵画が中心であろうか。中国全土の地図の上には、大きな会戦のあった場所が示され、全土に及ぶ日中戦争の規模と経過を示している。抗日戦争を最前線で闘ったのは、蒋介石の中華民国軍である。かつて、私は抗日戦争をテーマにした本の書評を書いている。(アサートNo345「「抗日戦争中、中国共産党は何をしていたか」)国共内戦を経て、台湾に逃れた経過があるとは言え、抗日戦争について語る資格があるのは、中華民国なのである。

 盧溝橋事件、上海の攻防、南京大虐殺、重慶無差別爆撃の絵を見ながら、日中戦争の歴史を再度辿ることができた。スタッフの女性に、日本語で書かれた歴史書はありませんかと尋ねたところ、売店にあると言われて探してみた。残念ながら、なかったのであるが、「1937南京真相」というDVDを見つけ、買うことができた。
 中々しっかりした内容で、盧溝橋事件から南京陥落、そして大虐殺と、中国軍の元兵士、市民、元日本兵の証言も収録されている。中国語は解せないが、字幕の雰囲気でも、充分に理解することができた。
 中華民国では、来年1月が総統選挙である。現総統は国民党の馬英九であるが、支持率は10%に満たず、民進党の蔡英文女史が有利と言われている。2014年中国との貿易協定に反対して、台北の学生が立法院を占拠した事件、そして、香港での「雨傘革命」と言われた学生の座り込み闘争などを経て、習近平の覇権主義に台湾でも批判が強まっており、習近平にすり寄る国民党は評判が悪いようだ。
 この展示も、そうした国民党政府の思惑も感じられるが、それを割り引いても、日中戦争の被害者、抗日戦争の当事者からの視点を、感じることは大切であろう。

 スタッフがくれた日本語の展示パンフレットには、馬英九総統の文章がある。その中に、英オックスフォード大学のミッター教授の著書から「中国の抗戦は、全く勝算がない中で苦難を耐え抜き、一切を顧みず徹底的に戦った英雄の物語である。外国人記者や外交官は異口同音に、中国はダメだ、中国は終わりだと予言していたが、これが全くの誤りだったことを証明した。この貧しく遅れた国は、四年間孤軍奮闘して日本に対抗し、80万の世界で最も近代化された精鋭部隊を牽制した。真珠湾攻撃後の4年間は連合国がヨーロッパ・アジアの戦場で同時に作戦を遂行し、次々に勝利を収めたが、これは中国が日本に抵抗をつづけたおかげである」を引用し、「中国が戦時中に世界四強となることができた理由はここにあります。」と述べている。
 戦後、1952年には中華民国政府と日本は日華平和条約を締結し、1970年代の中華人民共和国との国交正常化まで、正規の友好関係にあった。台湾統治以来の長い歴史の中で、特に本省人と言われる台湾国民は、日本に親しみを感じる方も多いと聞く。東日本大震災に際しては、200億円とも言われる義援金が台湾から送られた事も記憶に新しい。歴史を忘れているのは、日本の方であろう。現在、台湾には多くの日本人旅行者の姿があった。観光と美食が話題だ。しかし、この展示は是非、じっくりと見てほしいと感じた。この展示は、今年7月から始まり、来年6月24日まで開催されているので、もし機会があれば、ゆっくりと見ていただきたいと思う。(佐野) 

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

カテゴリー: 歴史 | 【報告】中日戦争70年記念展示を見て はコメントを受け付けていません

【投稿】大敗北の安倍外交  政権の失策追及する取り組みを

【投稿】大敗北の安倍外交  政権の失策追及する取り組みを

<国連で存在感無し>
 9月下旬、国連総会に合わせ主要国首脳は精力的な外交活動を繰り広げた。25日の米中首脳会談は、南シナ海問題では平行線で終わったものの、サイバー攻撃に関しては、これを禁止することで両国は合意し、今後年2回、同問題に係わる閣僚級会議を開くことでも確認された。
 さらに、南シナ海空域での両軍の偶発的衝突を回避するための行動規範策定や、地球温暖化対策、人民元の為替操作など経済問題でも米中の協力が確認された。
 28日には米露首脳会談が行われ、シリア情勢、ウクライナ問題等について突っ込んだ協議が行われた。このなかでオバマ大統領はロシア軍のIS攻撃には反対しないことを表明、これを受けてプーチン大統領は、即刻ISを含む反アサド勢力への空爆を開始した。
 米露中の首脳が存在感を示す中、意気込んでニューヨークに乗り込んだ安倍は完全に埋没した。オバマとは話もできずバイデン副大統領と会うのが精いっぱいだった。NHKなどマスコミは「大統領選挙に出馬が期待されているバイデン氏」などと、箔をつけるのに苦心していたが格落ちは明らかであろう。来年の大統領選挙を意識したのなら、ヒラリー・クリントンにも会えばよかったのではないか。
 29日午前(日本時間)には日露首脳会談が行われた。遅刻した安倍は小走りにプーチンに駆け寄り握手を求めた。その卑屈な姿勢は、国内、とりわけ国会における傲慢さと全くかけ離れたものであり、相手によって態度を変える賤しい姿勢があからさまになった。
 安倍、プーチン会談は第2次安倍政権発足以降、8回にもなるが毎回話し合いを継続することが確認されるだけであった。今回も同様で具体的成果は無かったどころか、これまで「年内」と明言されてきたプーチンの訪日について、「ベストなタイミング」と曖昧な表現に変わり、年内訪日は事実上断念された。
 その日の午後、国連総会での一般討論に臨んだ安倍は、空席が目立つ議場に向かって、拳を振り上げながら積極的平和主義と安保理改革をアピールした。
 安保理改革については、NY入り直後の26日、常任理事国入りを目指す独、伯、印首脳との共同会見というパフォーマンスを演出したが、支持率一桁のルセフ伯大統領、難民支援とVW社の排ガス不正の直撃を受けているメルケル独首相は、気もそぞろであり迫力のかけるものとなった。
 そのシリア難民支援に関しては、国際社会が最も注目しているところであるが、安倍は国連演説で「難民を生み出す土壌を変えるために貢献したい」と一般論を述べ、財政支援として昨年比3倍の8.1億ドルの拠出と難民通過国への追加支援を表明するにとどまった。
 現実問題として、日本が大量のシリア難民を受け入れることは不可能ではあるが、難民認定基準を排除の方向へ改悪したばかりの日本の首相の言説は空虚に響くばかりであった。
 問題なのは安倍の認識である。安倍は「日本は難民を受け入れるのか」との海外メディアの質問に「難民を受け入れる前に女性、高齢者を活用し、出生率を上げることだ」と難民と移民を混同し「一億総活躍社会」に牽強付会するという頓珍漢な回答を行った。
 これ以前に政府はシリア難民のうち、若者や有技能者の受け入れを検討中と伝えられたが、これも外国人を労働者と観光客としか見ていない安倍政権の限界を示すものであろう。
 
<アジアでも地歩後退>
 こうしたなか、これまでの安倍外交の無意味さを象徴するかのような出来事が連続した。9月29日インドネシアは建設予定の高速鉄道について、中国方式を採用することを決定し、日本の新幹線方式は脱落した。
 同高速鉄道計画は、8月に計画そのものを白紙に戻すこととなったが、一転して建設が決定した。ジョコ大統領はこの3月に来日し安倍と会談、4月にもパンドン会議の際にジャカルタで会談するなど、「親密な友好関係」を築き上げてきたはずであったのが、この有様である。
 高速鉄道を巡っては、ロスアンゼルス―ラスベガス間での中国方式採用を目指した米中合弁企業が先の習近平訪米直前に設立されており、安倍政権にとっては手痛い連敗となった。
 インドネシア政府の決定を同国担当閣僚から伝えられた菅官房長官は「日本は最良の提案をしてきた」「極めて遺憾だと大統領に伝えてほしい」と苦情を申し立てるなど、友好国の大臣に対して異例の対応を行った。
 その後の記者会見でも菅は「(資金計画は)常識的には考えられない」「うまくいくかどうか極めて厳しい」とやり場のない怒りをぶちまけたが、負け惜しみにしか聞こえなかった。
 追い打ちをかけるように、10月10日ユネスコは世界記憶遺産として「南京大虐殺」関連資料の登録を決定した。日本政府はこれを「ユネスコの政治利用」だとして抗議を行った。政府・自民党内からも不満が噴出し、ユネスコへの分担金停止や脱退という極論が飛び出している。
 国連安保理の常任理事国入りを目指す国が、国連機関の決定に不満だからと言って、恫喝や脱退をチラつかせるのは支離滅裂としか言いようがない。安倍は、首脳会談調整のため来日した中国の楊潔チ(よう・けつち)国務委員に直接苦言を呈するなど、動揺を隠せないでいる。
 さらに今回、記憶遺産にはシベリア抑留者に関する資料も登録されたが、これに関してロシアから早速「政治利用である」とのクレームがついた。安倍政権の大ブーメランであり、「歴史戦」の敗北は明らかである。
 今後、今回は認定されなかった従軍慰安婦関連資料の登録も現実味を帯びてきており、10月末以降、日中韓首脳会談や日中、日韓首脳会談が実現すれば安倍は苦しい立場に追い込まれるだろう。

<軍拡で対抗の愚>
 この様な地歩後退を安倍は軍事活動拡大と緊張激化で挽回しようとしている。9月30日戦争法案が公布され、半年以内に施行されることが決定した。焦点の一つであった「駆けつけ警護」に関しては、来春から南スーダンでの発令をめざし準備が進められようとしている。
 この「駆けつけ警護」の危険性を端的に示す事件がアフガニスタンで発生した。10月3日、同国北部のクンドゥズ市で「国境なき医師団」が運営する病院が、米軍機の攻撃を受け多数の犠牲者が出た。
 同市でタリバンと交戦中のアフガン政府軍から支援要請を受けた米軍攻撃機が「駆けつけ」たものの、目標が誤って伝えられたために発生した悲劇である。
 原因は情報が、アフガン軍→米軍特殊部隊→攻撃機と伝わる中で誤ったと考えられるが、多国籍の部隊が展開する戦場ではいつでも起こりうる問題である。
 オバマ政権はアフガンからの戦闘部隊の完全撤退を断念し、当面駐留を続けることを決定したが、これにより自衛隊の派兵可能性が浮上することも考えられる。
 安倍政権は、戦場の危険性に関して自衛隊のリスクさえ高まらないとしており、民間人を犠牲にする可能性など顧みずに、権益確保のための活動を推し進めようとするであろう。
 10月14日、インド東方海上で米、日、印3か国による「マラバール演習」が開始された。1992年に始まった同演習は米、印2国間演習を基本とするものであったが、近年日本は積極的に関与し、海上自衛隊は2年連続4回目の参加となった。
 日本の参加により演習の性格は、より中国を意識したものとなり、アジア地域の緊張を高めるのに一役を買っている。この演習さなかの10月18日には東京湾で海自観艦式が開催され、安倍は護衛艦艦上で訓示を行った。
 安倍は「自衛隊は心無い多くの批判にさらされてきた」と平和を願う国民の声を誹謗、さらに「積極的平和主義で世界に貢献」することを表明し「日本を取り巻く環境は厳しくなっている」と暗に中国を牽制した。
 そして「一国のみでは平和を維持できない」と集団的自衛権を解禁した戦争関連法を正当化した。このあと安倍は日本の総理としては初めて米空母を訪れ、日米同盟の強固さをアピールし、対中軍拡を一層進めようとしている。
 10月19日からは陸上自衛隊が九州・沖縄地域で西部方面隊基幹の実動演習を、隊員1万5000人、車両3500両、航空機75機などの動員で実施している。これは「対着上陸訓練」など中国の侵攻を想定したものであり極めて挑発的なものである。
 中国が、経済・文化で存在力を発揮するのに対し、軍事力で対抗しようというのは、戦わずして負けているのと同様である。

<海外逃亡図る安倍>
 相次ぐ外交的失策と裏腹の軍事力強化の下で内政はないがしろにされている。TPP交渉の大筋合意直後の10月7日、第三次安倍改造内閣が発足した。
 これに先立ち安倍は9月24日、次期内閣は「経済最優先」として「強い経済=GDP600兆円」「子育て支援=出生率1,8人」「安心の社会保障=介護離職ゼロ」という「新三本の矢」政策を進め、「進め一億火の玉だ」を彷彿とさせる「一億総活躍社会」を目指すことを表明した。
 しかし新三本の矢を実現するための具体策は示されず、「一億総活躍社会」に至っては、加藤担当相自身が「これから何をするか考える」などと述べるという無内容ぶりである。
 今後、自民党内から「ニートや引きこもりは自衛隊で鍛えなおせ」「生活保護受給を抑制せよ」という声が出てくるだろう。
 本来なら戦争関連法の問題点、TPP合意内容の検証と今後の交渉、そして「新三本の矢」の現実性等々の重要案件を審議する臨時国会を直ちに開催しなければならないはずである。
 しかし、政府与党は「総理の海外出張が立て込んでいる」という理由にならない理由で、臨時国会の開催を拒否している。まったく成果が見込めないどころか、恥と緊張をばらまきに行くだけの外遊は文字通り海外逃亡であろう。
 野党はこのような安倍政権の横暴を許してはならない。そして共産―民主―維新(非橋下)のブリッヂ共闘を展望した選挙挙力を実現すべきである。そして、国会を包囲した大衆運動の力で安倍政権を追い詰めていかねばならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.455 2015年10月24日

カテゴリー: 平和, 政治 | 【投稿】大敗北の安倍外交  政権の失策追及する取り組みを はコメントを受け付けていません

【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」

【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」
                           福井 杉本達也

1 高浜原発再稼働にあたっての地元同意に福井県の5条件
 10月15日、九州電力川内原発2号機も再稼働した。また、10月末には四国電力伊方原発3号機について林愛媛県知事も再稼働の地元同意をする見通しとなってきた。
 先行する2原発に対し、福井県の関西電力高浜3・4号機の再稼働は遅れている。高浜原発の再稼働にあたっては、運転差し止めを命じた福井地裁での異議審で決定が覆えらない限り不可能であるが、もう一点、福井県は再稼働の地元同意にあたって5項目の条件を掲げている。①原発の重要性に対する国民理解の促進、②使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外立地に右向けた国の積極的な関与、③電源構成比率の明確化、④事故制圧体制の強化、⑤立地地域の経済・雇用対策の充実であるが、③については、資源エネルギー調査会で結論が出た(原発比率20~22%)、④も規制委の新規制基準でクリアしたとしており、⑤も北陸新幹線の敦賀駅までの延伸のめどがついたと評価している。政府は10月6日に②について、使用済み核燃料の「乾式貯蔵」(使用済み核燃料を巨大な金属やコンクリートなどの円筒容器に入れて水冷ではなく空冷により貯蔵するという方法)の増加を目指すとともに、受け入れる自治体には交付金を交付するとした。福井県はこの国の姿勢を一定評価するとしており、再稼働同意に向けてそろりと動き出した(福井:2015.10.7)。

2 立地地域が核の「最終処分場化」されることへの福井県の懸念
 使用済み核燃料のプールでの「湿式貯蔵」は非常に危険なものである。福島第一3号機プールは全電源喪失により熱交換ができずプールの水が蒸発し使用済み核燃料の上部がむき出しとなり水蒸気爆発を引き起こした。大量の使用済み核燃料を保管していた4号機プールも危険な状態に陥った。使用済み燃料プールは蓋のない原子炉のようなものである。しかし、西川福井県知事は「湿式貯蔵」の危険性をほとんど理解していないのか、使用済み核燃料の「中間貯蔵」は県外に設置すべきとの持論である。福井県は原子力による発電は認めるが、核廃棄物は県外にということである。使用済み核燃料が立地地域になし崩し的に「永久貯蔵」され「最終処分場」とされることへの懸念でもある。広瀬隆の『東京に原発を!』を多少ねじ曲げ『東京に放射性廃棄物最終処分場を!』という論理でもある。しかも、この意見は一人知事の意見ではなく、原子力発電に反対する福井県民会議の事務局長でもあった故小木曽美和子氏を含めた、福井県の推進・脱原発派の “大枠の合意”でもある(福井:2014.6.23コラム「越山若水」:2015.3.23)。しかし、3.11以前ならまだしも、3号機プールの水蒸気爆発を経験した後では、いかなる地域でも「湿式貯蔵」の引き受け手などあるはずはない。唯一、再処理するというストーリーで引き受けてきた六ヶ所村の施設も満杯である。ここに西川知事が伊藤鹿児島県知事や中村愛媛県知事のように“軽く”再稼働に同意できない背景がある。今回、県の同意のハードルを低くしようと国が持ち出してきたのが「乾式貯蔵」と立地自治体への交付金である。

3 「乾式貯蔵」の選択による核燃料サイクルの中止を
 日本は、使用済み核燃料は全て六ヶ所村の再処理工場で再処理する方針の一方で、「利用目的のないプルトニウムを持たない」ことを国際公約としている。この再処理したプルトニウムを高速増殖炉もんじゅで使用するとしてきたが、もんじゅは止まったままであり、保安規定違反を原子力規制委から指摘されており、再稼働の見込みは全く立たない。日本がため込んだプルトニウムは2014年末で47.8トンもあり、核兵器の量にすると6,000発分にも相当する。来日したホルドレン米大統領補佐官からも「プルトニウムの備蓄がこれ以上増えないことが望ましい」とくぎを刺されている(朝日:2015.10.12)。このため、付け焼刃的にこのプルトニウムを少しでも減らそうと普通の原発(軽水炉)で燃やす「プルサーマル計画」(通常のウラン燃料にMOX燃料(二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜた)を加えて)を立てている。関電は再稼働予定の高浜3,4号炉にもMOX燃料を装荷するとしている。
「乾式貯蔵」を原発敷地内に限るならば、「核燃料貯蔵プールの容量オーバー」→「原発敷地外への移送」(「県外への移送」)→「六ヶ所村での再処理」→「プルトニウムの蓄積」という圧力を止めることが可能となる。しかも、「湿式貯蔵」というあまりにも危険性の高い状態を改善することにつながる。もちろん、東電と日本原電が青森県むつ市で建設中の六ヶ所村での再処理を前提とした「乾式貯蔵」方式をとる大規模「中間貯蔵」(リサイクル燃料貯蔵株式会社)の構想は論外ではある。
「乾式貯蔵」の利点を整理するならば、①使用済み燃料の貯蔵方法として―これまでの水冷による燃料プールでの貯蔵での、燃料集合体を非常に稠密に詰め込み、炉心のような状態になっており核分裂連鎖反応(臨界)の危険性があり、壊滅的な事故を生じる恐れを減らすことができる。②再処理における事故の危険性を少なくできる。特に高レベル放射性廃液は崩壊熱により高温化する恐れがあり、絶えず冷却し続ける必要があり爆発の危険が高い。最短で12時間で沸騰すると言われる。また、ガラス固化も容易ではない。③核兵器に利用可能なプルトニウムをこれ以上増やさないことができる(参考:フランク・フォンヒッペル「増殖炉開発・再処理から『乾式貯蔵』に進む世界」『世界』2012.8)。そして④「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する」(「わが国の外交政策大綱」1969年9月25日)という、わが国官僚機構に根強く巣食う独自核武装の考え方も最終的に放棄させることが可能となる。
 さらには、実施段階を逆戻りさせる「可逆性」を技術的に確保することができる。使用済み核燃料の「全量再処理」及び放射性廃棄物の不可逆的深地層処分という既存路線ではなく、すなわち技術的選択肢として、放射性廃棄物の「処分」と「貯蔵」とに明確に区分せず、「モニタリング付き地層処分」「可逆可能地下貯蔵」「超長期中間貯蔵」といった、「段階的方式」「可逆性」「回収可能性」という政策決定プロセスの柔軟性が生まれる(勝田忠広・尾内隆之「使用済核燃料問題に『乾式中間貯蔵』による転回を」『科学』2009.11)。

4 日本の核政策を左右する高浜原発の地元同意
 10月16日、福井県は同意への地ならしとして高浜原発において行政・電力事業者等関係者のみの参加による防災訓練を行った。IAEAは3.11以前から原子力緊急事態における防護対策として、「『緊急防護対策』は、有効であるためには速やかに(通常は数時間以内に)講じられなければならない対策である。原子力緊急事態における最も一般的な緊急防護対策は、避難、屋内退避、ヨウ素剤による甲状腺ブロック、汚染されている可能性のある食品の摂取制限及び個人の除染である」とし、このため、「(14)訓練、実地訓練及び演習を計画し、実施する」ことを要求している(「東京電力福島第一原子力発電所事故最終報告書」)。今回の訓練には住民が参加しておらず、国際的要件を満たすものではない。川内2号機の再稼働を認めた鹿児島県の伊藤知事は九月県議会で、「(福島第一原発事故より)放射性物質の放出は低く抑えられ、避難する事態は発生しない」(中日:2015.10.16)と答弁したが、訓練どころか「深層防護」の概念を全く理解しない住民切り捨てのとんでもない考えである。
 高浜原発の再稼働には上記のような様々な問題が絡み合っている。もちろん11月13日にも福井地裁で審理される差し止め処分の異議審も絡んでいる。福井県内の脱原発派においても元美浜町議の松下照幸氏などは使用済み核燃料の中間貯蔵施設の町内受け入れを提言している。建設から40年を超える原発を多数抱え廃炉が避けられないが、再処理が物理的にも行き詰っている中、そこに保管された使用済み核燃料を他県に搬出するというのは論理的に考えても、倫理的に考えても不可能である。福井県において住民の安全を確保するには原発敷地内における「乾式貯蔵」は避けて通れない。西川知事は民主党:野田政権時代の2012年には北陸新幹線敦賀延伸確約と引き換えに全く安全対策の取られていない大飯原発3,4号機の再稼働を認めた前歴があるだけに無原則な妥協もありうるが、今回は電力の需給が逼迫しているというプロパガンダを使えないことや北陸新幹線の敦賀以西のルートを決めるには、原発から5キロあるいは30キロ圏内にかかる京都・滋賀の意向を全く無視することもできないという事情もある。県の地元同意は知事本人の意思とは無関係に今後の日本の核政策を左右する要素を含んでいる。 

【出典】 アサート No.455 2015年10月24日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | 【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」 はコメントを受け付けていません

【投稿】包囲網の拡がりと自公政権の動揺 統一戦線論(17)

【投稿】包囲網の拡がりと自公政権の動揺 統一戦線論(17)

<<慌てふためく安倍政権>>
 戦争立法強行採決(9/19)直後の9/24、安倍首相は局面の打開をはかるべく、自民党総裁再選を決めた両院議員総会後、自民党本部で記者会見を開いた。しかし、連日、国会・首相官邸を取り巻き、そして全国各地で急速に拡がりだした強大な集会とデモの波に不安と動揺を隠し切れなかったのであろう。首相にのしかかる暗雲を振り払うべく、「デフレ脱却は、もう目の前です。この3年で、日本を覆っていた、あの、暗く、重い、沈滞した空気は、一掃することができました。日本は、ようやく、新しい朝を迎えることができました」などと現実とまったくかけ離れた言辞を弄し、唐突に、「アベノミクスは第2ステージへ移る」と宣言したのである。これからは経済に専心し、「1億総活躍社会」を目指し、「希望を生み出す強い経済」、「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」の新たな「3本の矢」なるもの掲げ、今後の政権課題を「強い経済を作るために全力を挙げる」と表明した。この「3本の矢」、ことごとく自らが先頭に立って市場原理主義の旗の下に規制緩和と非正規雇用の拡大、社会保障予算の削減によって「第1ステージ」でぶち壊してきたものである。「第1ステージ」が「希望」を萎えさせ、「夢」をぶち壊し、「安心」を「不安」に置き換え、失敗したが故の「第2ステージ」であることを自ら認めてしまっていることに本人は気付いていない。安倍政権登場の3年前とは違って、こんな絵空事で支持率を獲得できる事態ではない、むしろアベノミクスのファイナルステージになりかねない事態である。
 しかしよほどの付け焼刃であったのであろう。身内であるはずの石破茂地方創生相からでさえ、肝心の「1億総活躍」について、「最近になって突如として登場した概念。国民の皆様方には『何のことでございましょうか?』みたいな戸惑いのようなものも、全くないとは思っていない」と茶化され、突き放される始末である。慌てふためき動揺したあげくの思い付き、口先だけ、小手先だけのパフォーマンスであることが周辺からでさえ見透かされてしまっているのである。

<<「出さないほうが良かった」>>
 こうした安倍政権の動揺は、すでに8/14の「戦後70年談話」にも見て取れる。
 安倍政権の当初の狙いとしては、過去の植民地支配と侵略を認めた20年前の村山談話を、事実上撤回することが、首相個人にとっても譲れないぎりぎりの線であった。ところが、8/14、発表の当日、6カ所も談話を読み間違え、お得意のどうだといわんばかりの高揚感がまったく見られない、覇気を失った味気のないものとなってしまった。安倍首相としては、本来は否定したかったし、そうすることを確言していた、村山談話にある「侵略」「植民地支配」「痛切な反省」「おわび」は次々とそのまま踏襲せざるをえず、極力あいまいに薄めたものの、本人自身が無念さをこめた談話にしかならなかったのである。村山談話からの脱却にあれほど意欲を示していたにもかかわらず、である。
 7月16日の安保法案衆院通過後、各社の世論調査ですべて内閣支持率が不支持を下回る逆転現象が起き出し、戦争立法反対の闘いの急速な盛り上がりの前に恐れをなし、後退せざるを得なかったのである。期待した保守派は失望、失笑し、出さないほうが良かったとまで酷評される始末である。
 とはいえもちろん、精一杯の「安倍カラー」を盛り込んではいる。「日露戦争は、植民地支配のもとにあった、多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」などと侵略と植民地支配を合理化したり、慰安婦問題に言葉さえ割かず、「子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と謝罪外交の終わりを告げる。そういいながら、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも忘れてはなりません。」と付け足す。そして反省やおわびに「私は」という主語を一切つけない。こうした無責任きわまる曖昧模糊とした談話の発表は、その意義をまったく台無しにしてしまった安倍政権の動揺振りを如実に示していると言えよう。

<<共産党の方針転換>>
 安倍政権がここまで追い込まれたのは、何ゆえなのか。
 年初以来、とりわけ5月から9月にかけての、戦争立法反対運動が、60年安保闘争以来ともいえる急速な盛り上がり、60年安保闘争を超えるともいえる草の根の運動の広がり、学生や高校生まで含めた若者の運動前面への登場、学者・文化人から子連れのママさん、そして市民一人ひとりが自由に参加できる運動形態の広がり(「女の平和」国会ヒューマンチェーンや「誰でも入れる市民の列」、全国40箇所以上で展開されたという無言のプラカード行動・スタンディング、等々)、各界各層、全国津図浦々、保守層にまで拡散した「安倍政治を許さない!」闘いを前にして、安倍・自公政権は顔色を失ったといえよう。その狼狽振りが、「戦後70年談話」と「1億総活躍社会」にも現れたのである。
 さらなる力強い追い込みが不可欠であるが、「安倍政治を許さない!」闘いの盛り上がりに比して、野党の不統一、そのふがいなさ、中途半端さは目を覆うばかりである。ようやく戦争立法反対では、大衆運動の強い後押しによってようやく足並みを揃えるに至ったが、まだまだ力強さと粘り強さに欠ける。
 そうした中で共産党の志位委員長が9/20、「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」の実現に向けて、「“戦争法廃止、立憲主義を取り戻す”――この一点で一致するすべての政党・団体・個人が共同して」の選挙協力を呼びかけた。そして具体的には、来夏の参院選での野党選挙協力について「32の(改選数1の)1人区全部で自民を落として野党が勝つ構えで選挙協力をしたい」と述べたのである。
 志位氏が「私たちは党をつくって93年になりますが、これまでこういう全国的な規模での他党との選挙協力(の試み)というのは、実はやったことがないんです。」と言うとおり、共産党の画期的な方針転換である。
 志位氏は「どの選挙区にも擁立するこれまでと同じ対応では国民への責任は果たせなくなる。共産党も変わらなければいけない」と述べ、今回の構想について、「安倍政権が続くなかではすぐに降ろすものではなく、一貫して掲げたい」と述べ、中期的な構想であることも明らかにした。

<<「『我見』ではあかん。まとまってやらんと」>>
 なぜこうした方針転換がもっと早くからできなかったのか、せめて前回の都知事選や、衆院選でもできなかったのか悔やまれるところであるが、遅きに失したとはいえ、前向きな転換と言えよう。
 共産党が統一戦線成功のために本来一貫して追及すべき、なすべき方針転換が、ようやくのことで大衆運動の盛り上がりとその力強い要求に押されてなされた、「これまでと同じ対応では国民への責任は果たせなくなる」、またそうしなければ見放される現実に直面してなされた転換だとも言えよう。
 逆に言えば、これまでの共産党の全選挙区、地方選でもほぼすべての首長選で独自候補を立ててきたセクト主義的な独自路線、排他的な分断・分裂路線が、いかに自公政権に喜ばれ、彼らを助け、彼らに歓迎されてきたかの証左でもある。そして安倍政権と闘う側からは、いかに苦々しく情けなく見られて来たかの証左でもある。
 歓迎すべき方針転換ではあるが、共産党のセクト主義はなかなか克服できない一種の業病でもある。9/30付赤旗8面トップ見出しは、「大反響の『国民連合政府』提案」「党勢拡大は『統一戦線の発展のための決定的条件』」と逆立ちした論理を掲げている。統一戦線に先立つ「党勢拡大」なのである。本来は、統一戦線を成功させてこその「党勢拡大」である。ところが現実の共産党においては、「決定的条件」が「党勢拡大」となってしまっている。10/2付赤旗は、この間の「党勢拡大大運動」の中で5000人入党と誇らしげに報じている。何が何でも党員獲得なのである。共に闘うよりも、「わが党」への入党を優先する囲い込み運動なのである。それがいかに排他的分裂主義的であっても問われるものではない。同じ10/2付赤旗1面では、「国民連合政府」実現へ 「我見」排し団結を、という見出しで、有馬臨済宗相国寺派管長と市田副委員長・穀田国対委員長が懇談内容が掲載され、有馬管長は「仏教では、自分の立場に固執することを『我見(がけん)』といいます。『我見』ではあかん。まとまってやらんと」と応じている。まさに「我見」ではダメなのである。
 統一戦線は、本来一貫してそうあるべき基本戦略であって、党勢拡大のための戦術であってはならないものである。

<<致命的な弱点の存在>>
 この共産党の方針転換には、さらに指摘しなければならない、まだ顕在化してはいないが、致命的な弱点が存在している。それは、尖閣列島問題での共産党の立場である。
 10/16の外国特派員協会で志位委員長が講演をしたのであるが、記者が質問をして、「国民連合政府が政権運営している時に有事が起きたら、自衛隊と在日米軍の出動を要請するのか」と突っ込まれると、志位委員長は以下のように答えている。
 「(政府としては)『凍結する』と言っているのですから、自衛隊法がある以上、有事の時に自衛隊を活用するのは当然のことです。現行の日米安保条約の第5条で日本が武力攻撃を受けた際は共同で対処すると述べられています。」
 つまり、有事の際には、「日米安保条約の枠組みで対応する」、「急迫不正の時には自衛隊を活用する」「在日米軍を活用する」と明言したのである。
 共産党は、尖閣列島、竹島とも日本領土論を展開しているが、とりわけ尖閣列島問題では、右派も「正論」だと絶賛したニコニコ動画の中で志位委員長が登場して、「日清戦争(1894~95年)に乗じて日本が不当に尖閣諸島を奪った、という中国側の主張ですが、日清戦争によって日本が不当に奪ったのは「台湾とその付属島嶼(とうしょ)」および「澎湖(ほうこ)列島」で、尖閣諸島は含まれていません。中国側の主張は成り立たないのです。」と詭弁を弄して、あまつさえ、尖閣諸島を巡って「領土問題は存在しない」と繰り返すだけの日本政府の姿勢を「だらしない」と一蹴してみせたのである。民族主義への媚び、民族主義での反中・反韓路線への同調・激励路線である。この点に関しては、安倍政権を共に民族主義で叱咤激励する立場である。
 ここに明らかなことは、共産党の路線は、徹底した善隣友好・平和外交路線ではなく、「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした憲法9条を堅持する路線ではないのである。
 この点に関して、『絶望という抵抗 佐高信×辺見庸』(㈱金曜日2014/12発行)のなかで、「あの党(共産党)の領土問題についてのスタンスに共感できません。尖閣列島は日本の領土であるという。この点は自民党と殆ど代わらない。・・・日中戦争、そのとき共産党はどうするか、起きるのは「祖国防衛戦争」です。」(辺見庸)「戦争を生み出す最大のエネルギーはナショナリズムです。戦争に反対するということは、ナショナリズムに反対すると言うことです。その意味で、いまの共産党にその資格があるとは私には思えない。」(佐高信)という指摘が現実化しだそうとしているのである。
 もちろん、直面する課題は、安倍政権打倒のための統一戦線である。しかし、その成功はこうした懸念を払拭するものとしなければならない、と言えよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.455 2015年10月24日

カテゴリー: 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 | 【投稿】包囲網の拡がりと自公政権の動揺 統一戦線論(17) はコメントを受け付けていません

【コラム】ひとりごと—南京大虐殺 ユネスコ記憶遺産登録問題—

【コラム】ひとりごと—南京大虐殺 ユネスコ記憶遺産登録問題—

〇2015年10月9日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)は「南京大虐殺事件」を巡る資料を記憶遺産に登録することを決めた。中国は、昨年3月に「南京大虐殺文書」と「慰安婦関連資料」の記録遺産登録を申請しており、1年6か月の検討期間を経て、登録が決定されたことになる。○登録決定を受けて菅官房長官は、テレビ番組で、「南京で非戦闘員の殺害や略奪行為とかは否定できないと思っている。しかし、その人数にはいろんな議論がある。ユネスコが一方的に中国の言い分を受けて指定するのはおかしいということを、中国にも、ユネスコにも外交ルートを通じて抗議してきたものが、今回、このような形で指定されたのは残念で、抗議している」(産経)と発言した。二階総務会長も「分担金拠出の削減をするべき」と発言している。〇中国は、3つの文書を記録遺産文書として申請していたが、この内容は今後公表されるという。日本政府は、文書の公開後、その真実性等を問題にして「登録取り消し」を目指すと言われている。○政府外務省は、中国の申請が登録されないよう、政治的アプローチしてきたわけで、見事に敗北した形となった。「透明性や公平性が欠けている」との指摘は、登録決定前にこそ主張するべきであろう。その意味では、日本の外交的敗北であり、安倍外交の敗北である。〇菅官房長官も認めているように、日中の意見の相違の一つは、被害者の人数にある。中国側は、最大で30万人と主張している。日本の一部の歴史家は、2万人から3万人の捕虜を「処断」した事実は認めつつ(軍の報告書の中に記載されている数の合計)、中国の主張する人数については、反論する。○しかし、「ユネスコ拠出金の削減を行うべき」とまで主張する政治家の対応を見て、戦後70年を迎えても、侵略戦争の反省が何もできていない保守政治家の本音が露呈したと感じる人は多いと思う。○私の記憶では、1972年の日中共同声明では、日本の侵略戦争被害の賠償請求は、これを行わないことで合意された。しかし、賠償問題と戦争被害の実態解明は別の問題であろう。〇一部の論者は、1937年の盧溝橋事件の後、上海事変、そして南京攻略に伴う侵略戦争について、「双方とも宣戦布告を行っていないから、戦争法は摘要されない」などとして、「捕虜」の殺害も罪に問われない、などの主張をしているというが、情けない限りである。〇過去の過ちに謙虚に向き合うことなしに、「積極的平和主義」を訴えても、反省のない「侵略者」が再び息を吹き返したと思われるだけで、新たな平和的関係の構築は望めないだろう。〇上海攻略では「一撃で中国は屈服する」と現地軍が暴走し、それを参謀本部が追認。ドイツ・ソ連から軍事物資が供給され、増強された中国国民党軍の頑強な抵抗に、上海の攻防だけで、日本側の死傷者は4万人を超えた。事態が膠着する中、新たに派兵された3つの特設師団は、予備役中心で編成装備も不十分だったと言われている。さらに、杭州湾上陸作戦に向け、4個師団を増派し、上陸作戦の成功により、挟撃を受けることとなった国民党軍は総退却に転じ、首都を南京から重慶に移した。南京攻略については、参謀本部にも異論があったが、戦線拡大派が押切り戦端が開かれた。しかし兵站が十分ではなく、南京入城後日本軍による略奪、敗残兵・捕虜の殺害が相次ぐ。戦時記録では、第9師団が掃討戦で捕えた敗残兵6670人を刺殺・射殺したとの記録がある。これが、南京大虐殺と言われる事態である。数の問題に解消できる問題ではないのである。○今後、南京大虐殺の記憶遺産登録問題では、政府は「日本の見解」を訴えるとしているが、侵略の経過を明らかにした上での議論とすべきである。〇分担金削減の大合唱の中、先日アメリカのケリー国務長官は、パレスチナ問題を理由として2年間凍結してきた、ユネスコへの分担金拠出を再開すると表明した。安倍政権の対応と正反対の動きとなっており、削減を実施すればさらに日本は孤立することだろう。○戦後70年ということで、この夏は、歴史本をよく読んだ。「昭和陸軍全史」(1巻から3巻川田稔著 講談社現代新書)、「日米開戦の正体–なぜ真珠湾攻撃という道を選んだのか」(孫崎亨著)、「海軍の日中戦争 アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ」(笠原十九司著 平凡社)など。満州事変以後日米開戦に至る日本の中国侵略の歴史は、国民共有の認識として、しっかり語り継ぐ必要がある。(佐野秀夫)

【出典】 アサート No.455 2015年10月24日

カテゴリー: 歴史, 雑感 | 【コラム】ひとりごと—南京大虐殺 ユネスコ記憶遺産登録問題— はコメントを受け付けていません

【投稿】戦争法案強行採決を糾弾する

【投稿】戦争法案強行採決を糾弾する
            -武力行使阻止への取り組み継続を-

830戦争法案反対大阪集会

<異論は圧殺>
 9月19日未明、参議院本会議において戦争関連法案が、与党の強行採決により可決、成立した。
 民主党、共産党など野党は、国会を包囲するうねりと連携し、内閣不信任案などを連続して提出したが、与党は一部野党を抱き込み委員会、本会議での採決を連続した。
 世論の強い反対の声を無視した安倍政権の暴挙は、戦後憲政史上、1960年の日米安保改定と並ぶ民主主義の破壊行為であり、歴史に汚名を残すものとなるだろう。
 安倍は法案成立後の記者会見で、国民の理解が得られていない現状に「これからも、粘り強く丁寧に説明していきたい」と述べた。
 しかし、一方的に戦争法の「意義」を語るだけで、世論には耳を貸さないどころか、相も変わらず反対意見に対し「誤解だ」とか「レッテル貼り」と、国民が間違っているかのような的外れの非難を行い、あまつさえ異論は許さないというのが本音であることは明らかである。
 採決に先立つ9月8日、自民党総裁に安倍が無投票で再選された。野田聖子前総務会長は、官邸サイドの圧力により20人の推薦議員が集められず、立候補断念に追い込まれた。
 総裁選となっても野田が戦争法案反対を打ち出すことは考えられず、安倍の勝利は揺るがないにもかかわらず、自らに異を唱える者は少しでも許さない、という異常性に安倍政権の焦りと余裕の無さが表れている。
 力づくで対立候補の出馬を封じ込めるのは正真正銘独裁者の手法である。恣意的な新憲法規定でアウンサン・スーチーの大統領就任資格を剥奪している、ミャンマーの準軍事政権(議会の四分の一は軍人枠)のほうがよほど「合法的」であろう。
 無投票再選は戦争法案成立の為に、挙党体制を演出する強硬策であった。しかし直後の政治関連のポータルWebサイト「政治山」のアンケートでは、安倍支持を含む6割が「総裁選をやったほうが良かった」と回答、かえって安倍政権の反民主性を際立たせることとなった。
 さらに翌9日、政府と沖縄県の辺野古基地建設に関する協議が打ち切られ、安倍政権は工事再開を表明した。県との協議の場はのこされたものの、安倍政権による事実上の工事強行宣言であろう。
 こうして異論を圧殺する姿勢をこれまで以上に明確にし、戦争法案に集中する体制を整えた安倍は、強行採決に邁進したのである。
 
<情勢と乖離する戦争法>
 法案成立により、自衛隊発足以降、日本を取り巻く様々な情勢の変化があっても封じられてきた集団的自衛権は解禁となった。政府が恣意的に認定する「存立危機事態」が発生すれば行使可能となった。
 これまで周辺事態法で自衛隊の活動は極東地域に限られてきたが、地理的制約がなくなり、支援対象国も事実上無制限となった。
 さらに、個別に条件を勘案し、特別法で行われてきた「後方支援」が「国際平和支援法」で常時可能になるなど、政権が判断すれば「いつでも」「どこでも」「だれとでも」開戦が可能となる。しかし現実には戦争関連法が必要となる可能性は縮小している。
 安倍政権は戦争法の必要性を説くのに「避難邦人を乗せた米艦船の防護」「ホルムズ海峡の機雷掃海」を挙げてきたが、いずれも破綻した。
 こうして砂上の楼閣が次々と崩れるなか、拠り所としているのが中国に対する牽制である。アメリカ軍との連携で中国軍に対抗することを思い描く安倍政権であるが、それは同床異夢というものである。
 オバマ政権は、中国と事を構える考えはない。一部の軍人は中国を念頭に挑発的、対抗的なメッセージを発してきたが、何人かは更迭された。米海軍は南沙の人工島12海里(領海)内の哨戒を2013年以降実施していない。
 9月25日の米中首脳会談で、オバマは南シナ海における埋め立てや、サイバー攻撃に関して指摘はしたが、偶発的衝突を防止するシステム構築など信頼関係構築も進められた。
 中国も国際的な影響力の拡大と軍拡は進めているが、巧妙な戦略をとっている。アジアでの大規模インフラ整備を進め、軍事面では今年初めてシンガポール、マレーシアとの合同演習を実施するなどバランス感覚をアピールしている。
 また中国は国内の政治・経済状況が桎梏となっており、アメリカや日本への攻勢は論外であろう。
 さらにオーストラリアでは9月14日、突然の自由党党首選で「安倍の盟友」アボットが敗れ、「親中派」のターンブル首相が就任した。日本は軍事連携の一環として潜水艦の輸出を目論み独仏と競合していたが、早速豪国防省は「国内建造が条件」と表明、完成品の輸出を提案する日本の脱落は確定的となった。
このように日米(豪)連合軍対中国軍という単純な図式も成り立たない。
 北朝鮮への対処を戦争法の根拠とするには、さらに怪しいものがある。8月に発生した軍事境界線付近での地雷爆破に端を発する緊張状態は、南北間の協議の結果北朝鮮が折れることで解消した。
 北朝鮮は10月10日の朝鮮労働党創立70周年に合わせ、長距離弾道ミサイル発射、さらには「核実験」を強行するのではないかと言われている。
 金正恩が威信回復のための手段を考えていることは事実であろう。しかし中露との関係はこれまでになく悪化している。習近平とプーチンは、それぞれの戦勝70周年式典を「ボイコット」した金正恩を苦々しく思っている。
 とりわけ中国は一昨年の張成沢処刑以来関係は冷却しており、18日中国の王外相はこれまでにない厳しい口調で、ミサイル発射を牽制した。また8月下旬に沿海州で行われた初めての中露合同上陸演習も、この間の情勢の推移をみるならば北朝鮮に対する圧力とも考えられ、米韓合同演習と合わせ北朝鮮は東西から挟み撃ちとなった。
 こうしたなか、北朝鮮は金体制の維持自体、「国体護持」が目的化しており、実施可能な手段は限られている。金政権としては、周辺国との関係改善が喫緊の課題となっている。北朝鮮に関して戦争法が想定している「存立危機事態」「重要影響事態」の現出はあり得ない。
 中東情勢も変化している。ISに対してはこれまで融和的だったトルコが空爆を開始した。ロシアはアサド政権支援のためシリアに海軍歩兵、戦闘ヘリなどの派兵を開始した。アメリカは懸念を表明しているが、ロシアと軍事的に対抗することはなく、この地域におけるアメリカのイニシアは低下している。
 この間の世界の動きと今後の方向性は、開会中の国連総会で明らかになっていくが、そこでは戦争法と国際情勢との乖離が明らかになるだろう。

830戦争法案反対大阪集会

<闘い継続し参議院選へ>
 このように集団的自衛権行使を想定した事態の発生確率が低下する中、武力行使はどう現実のものになるか。最も危険なのは集団的自衛権とは関係ない中国との偶発的衝突と国連平和維持活動であろう。
 今回、警察力では対応しきれないとする「グレーゾーン事態対処」は法案には盛り込まれず、「海自と海保の連携強化」という運用で対応することとなった。民主、維新両党は法の縛りをかけるため「領域警備法案」を提出したが与党に否決された。
与党は尖閣諸島近海での「武装集団」の攻撃を想定しているが、極めて曖昧な規定である。1999年の能登半島沖不審船事件では「海保では対処しきれない」として、初の海上警備行動が発令された。海上自衛隊が出動し不審船からの攻撃がない中、護衛艦、哨戒機から艦砲射撃、爆弾投下が行われた。
 一方2001年の東シナ海での不審船事件では、不審船から機関砲やロケット弾による激しい攻撃があったものの海保のみの対処で終わった。
 民間人に化けた中国軍が尖閣諸島に上陸するというのは荒唐無稽な妄想であるが、中国海警と海保が対峙した際、海自が介入する事態はありうるだろう。
 今後、日中間の偶発的衝突の回避システムが構築されないまま、自衛隊の行動範囲が南シナ海に拡大されれば、不測の事態が惹起する危険性は拡大していく。
 こうした衝突がエスカレートした場合、少なくとも安倍政権にはコントロールする能力はないだろう。
 PKO活動はより危険である。南スーダン派遣部隊に係わる統幕の「駆けつけ警護」計画は、法案成立で「粛々と」進められることとなった。しかし現地の武装勢力は、前号でも指摘したように国連の部隊や駐屯地を正面から攻撃するほど強力である。
 これに対応するためには武装の強化が必要として、今後「機動戦闘車」(431号参照)などの配備が計画されるだろう。武器の使用基準も緩和され「駆けつけ警護」さらには「邦人防護・救出」という枠を超えた、武力衝突の危険性は他の地域に派遣された場合も含めますます高まるだろう。
 可能性は低いが、IS掃討が進展し、旧IS支配地域でのPKO、「後方支援」に自衛隊が参加するようなことがあるなら、かなり危険な事態に直面することとなるだろう。 
 このような武力行使を呼び起こす危険性のある戦争関連法の発動を許してはならない。そのため戦争法案阻止のため結集した勢力は、法廃止を求め安倍政権を追い込んでいくため運動を継続していかなければならない。
 とりわけ法案に反対した野党は連携し、来年の参議院選挙における、選挙区での統一候補、比例区での統一名簿の擁立、作成に向けて最大限の協力を進めるべきである。(大阪O)

 【出典】 アサート No.454 2015年9月26日

カテゴリー: 平和, 政治 | 【投稿】戦争法案強行採決を糾弾する はコメントを受け付けていません

【投稿】 IAEAの「福島原発事故最終報告書」を全く無視する日本政府とマスコミ

【投稿】 IAEAの「福島原発事故最終報告書」を全く無視する日本政府とマスコミ
                              福井 杉本達也 

1 事故の教訓を各国と共有したくない日本政府
 9月14日から19日まで、ウイーンで国際原子力機関(IAEA)年次総会が開催された。今総会には「東京電力福島第一原子力発電所事故最終報告書」が提出された。 報告書は240ページの要約版と1000ページを超える詳細な技術報告書からなる。報告書は「日本に原発は安全だという思い込みがあり、原発の設計や緊急時の備えなどが不十分だった」と指摘。東電や日本政府は巨大な津波の発生の危険性を認識していたにもかかわらず、実効性のある対策を取らなかった批判した。しかし、市民の健康については、これまでのところ事故を原因とする影響は確認されていないとし、健康影響の発生率が将来、識別できるほど上昇するとは予測されないと政府報告をそのまま追認するなど欠陥も多い。当該報告書は既に今年5月に英文案が紹介されており、東京新聞・朝日新聞を始め各紙共5~6月に記事に取り上げているので目新しくはないが、今回は朝日新聞は1段のみ・日経新聞は国際欄のダイジェスト扱い、共同通信もベタ記事で、ほとんど黙殺に近い。原子力推進を目的とする国際機関の最終報告書であるから、日本の福島原発事故への対処に大甘でもよいはずだが、どうも日本政府にとっては耳障りな文面も多いようである。日本政府代表を務める岡芳明原子力委員長は代表演説の報告書に触れ、「日本は同報告書の内容を真摯に受け止めている」と強調したが、言葉とは裏腹に「事故の教訓を各国と共有し、原発の安全性の向上」につなげたくはないようだ。
 
2 津波に対策に厳しい評価
 報告書は「事故以前に、合意に基づく手法を上回る波源モデルや手法を使用した幾つかの試算が事業者によって実施された。日本の地震調査研究推進本部が2002 年に提案した波源モデルを使用した試算は、最新の情報を使用し、シナリオについて異なるアプローチをとり、当初の設計及びそれ以前の再評価において出された見積りより相当に大きな津波を予想した。事故当時、更なる評価が実施されていたが、その間、追加の補完措置は実施されなかった。」とした。これは津波を「想定外」としていいわけしようとする日本政府にとっては痛い指摘である。
 さらに続けて報告書は「2007~2009 年の間に適用された新しいアプローチは、福島県の沿岸沖合でマグニチュード8.3の地震が起こることを想定した。このような地震は、福島第一原子力発電所において(2011 年3月11 日の実際の津波高さと同様の)約15m の津波遡上波につながる可能性があり、その場合主要建屋は浸水することとなる。」「東京電力は、これらの津波高さの予想値増加に対応した暫定的補償措置を取らず、原子力安全・保安院も東京電力にこれらの結果に迅速に対処するよう求めなかった」と厳しく東電・保安院を批判した。
 そして「事故に先立つ12 年間の日本及び他の地域での原子力発電所の運転経験は、洪水から重大な影響を受ける可能性を示していた。関連する運転経験には、1999 年にフランスのブレイエ原子力発電所の2 基の原子炉で洪水を引き起こした高潮、インドのマドラス原子力発電所の海水ポンプが浸水した2004 年のインド洋津波、及び2007 年の日本の新潟中越沖地震が含まれる。後者は、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所に影響を及ぼし、地下の外部消火配管の破損により、1 号機の原子炉建屋の浸水を引き起こした」と国外・国内の4事例を紹介、津波対策の教訓も期間も十分にあったと結論した。
 
3 過酷事故についての不十分な対応
 IAEAは事故時に適用される深層防護概念として、通常運転の故障から、過酷事故による放射性物質の大量放出までを5段階に分けているが、日本では事故が起きても設計基準内に抑え込むレベル3までの対応しかとっておらず、炉心溶融など過酷事故を意味するレベル4や、住民を放射性物質から守るため、避難させるレベル5の事故は、全く想定していなかった。東京電力は、「交流電源が迅速に回復されると想定していた」。また「直流電源及び高圧空気など、その他の主要なユーティリティが、計装に電力を供給し、弁の操作を行うために常時利用可能であると想定した」と、全く甘い防護手段しかなかったため、事故の進行を止め、その影響を抑えることは不可能であった。2007年にIAEA は日本に対し「設計基準を超える事故に関する規制要件の必要性を提案し、原子力安全・保安院がこれらの事象の考慮に対する系統的アプローチを開発し続けること、及び確率論的安全評価とシビアアクシデントマネジメントの補完的使用について提案した」が日本は何の対応もしなかったと厳しく批判している。ようするに、IAEAの勧告に全く耳を貸さなかった結果事故を起こしたと評価した。
 
4 報告書無視・開き直りの川内原発再稼働
 原子力規制委員会は、原発の新しい規制基準を制定。電力会社に想定する地震動、津波の見直しのほか、防潮堤の強化、海水ポンプの防護、建屋の防水強化、代替も含め注水手段や電源の確保などを再稼働の条件としている。九州電力川内原発1号機は8月11日に強引な再稼働を行ったが、再稼働にあたり、福島原発事故の教訓を踏まえでの「全交流電源喪失」に対処する高圧発電機車などをそろえた、「冷却材喪失による炉心損傷」に対しても可搬式注水施設(消防車)を用意したなどとしている。 レベル5の住民避難計画は全くおざなりであり、なんとかIAEA報告書のレベル4の過酷事故が起きた際の「事故拡大を防ぎ、放射性物質の放出を最小限にする」への対応はとったと言いたいのであろうが、そもそも、福島原発事故で消防車は全く役に立たなかった(冷却機能を喪失し水蒸気爆発した3号機使用済み燃料プールへの東京消防庁ハイパーレスキュー隊のスーパーポンパー車による放水は役に立ったが、それとは別に東電は消防車を使い圧力容器への注水を試みた)。炉心溶融で沸騰する高圧の圧力容器への水の注入には消防車程度の低圧力・注水量では全く歯が立たない。規制委の新規制基準では①弁を開放して減圧し、②可搬式注水施設(消防車)による炉心への注水」と指示しているが、低圧の消防車を使うということは高圧の注水を行う非常炉心冷却装置(ECCS)を使わないということであり、でスリーマイル島原発事故の教訓を踏まえた米原子力規制委員会(NRC)の指示を無視している。巨大地震が起これば高圧発電機車や空冷式のディーゼル発電機もあてにならない。 「全交流電源喪失」が起こったとしても、ECCSが使えるシステムを構築しなければ、レベル4に対応しているとはいえまい。IAEAは「過酷事故」に備えよとしているのであるが、福島の「過酷事故」が現実に起こったにもかかわらず、まだレベル3程度までの対策しか行わずに再稼働してしまったのである。むしろ、ECCSを使わないということによって、レベル3からレベル2(1979年のスリーマイル島原発事故以前)へ40年も後退したことになる。報告書を「真摯に受け止める」どころか全くの無視である。
 
5 報告書が避けた地震への対応と川内原発の基準地震動
 報告書は「発電所の主要な安全施設が2011 年3 月11 日の地震によって引き起こされた地盤振動の影響を受けたことを示す兆候はない。これは、日本における原子力発電所の耐震設計と建設に対する保守的なアプローチにより、発電所が十分な安全裕度を備えていたためであった。」としている。これは全くのでたらめである。「全交流電源喪失」はなぜ起こったのか。津波以前に6系統の送電線のうちの鉄塔1基が地震により倒壊し、他の系統も断線したからである。原発建屋本体の損傷ついては放射線値が高すぎて具体的に地震による損傷を確かめられない個所もある。そもそも震度6強(最大加速度550ガル)程度の地震動で「全交流電源喪失」が起こること自体、耐震設計が「保守的」とはいえない。
 九電は川内原発についてプレート間地震と海洋プレート内地震について検討用地震を選定せず、基準地震動を策定しなかった。基準地震動は過小評価されている。東日本大震災が起きたにもかかわらず、九電は過去に起こった地震だけを考慮するという非常に古い考え方にしがみついている。太平洋プレート・フィリピンプレートなど多数のプレートが複雑に絡み合う地震大国の日本列島において、地震への対応を意識的に避けたことは、当報告書の最大の欠陥の一つである。
 報告書は「発生が非常に低確率の極端な自然事象は、重大な影響を生じることがあり、また、極端な自然ハザードの予測は、不確実性が存在するために依然難しく、論争を招く。」「したがって、信頼できるハザードの予測を確保するため国内及び国外の入手可能な全ての関連データを使用すること、異常自然事象に対する信頼できる現実的な設計基準を定めること、及び十分な安全裕度をもって原子力発電所を設計することが必要である。」と書いている。川内原発の基準地震動評価はこの思想にも反している。
 IAEAの報告書は非常に欠陥のあるものであるが、一応、国際原子力機関として加盟各国に対し「世界中で原子力安全、緊急時への備え及び人と環境の放射線防護を更に向上させるための数多くの措置」をとるように勧告している。それさえ無視するというのが今の日本政府である。毎年、IAEA総会では事実上の核保有国であるイスラエルに核拡散防止条約(NPT)への加盟などを求める決議案が出され、今回も否決されたが、日本は報告書が採択されても都合の悪い個所は黙殺するという態度であり、イスラエル以上のグロテスクな国家である。 

 【出典】 アサート No.454 2015年9月26日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆, 災害 | 【投稿】 IAEAの「福島原発事故最終報告書」を全く無視する日本政府とマスコミ はコメントを受け付けていません

【書評】白井聡、カレル・ヴァン・ウォルフレン『偽りの戦後日本』

【書評】白井聡、カレル・ヴァン・ウォルフレン『偽りの戦後日本』
                  (2015年、角川学芸出版、1,600円+税) 

 『永続敗戦論』(2013年、太田出版)で知られている新進の政治学者とオランダの新聞の特派員として長年日本に滞在したジャーナリストとの対談である。ウォルフレンはまた世界的ベストセラーとなった『日本/権力の構造』(早川書房、1990年)の著者でもある。
 さて白井の言う「永続敗戦」とは、「戦争に負けたことをきちんと認めないために、ずるずると負け続けているという状態」、すなわち「本当の意味で、あの戦争の体制が否定されないままで現在に至っている」=「戦後」をずっと引きずっている状態を指すのであるが、そのことは、「敗戦」を「終戦」と言い換え、国際的にはそれほど評価されない8月15日を「終戦記念日」としてきたことに端的に示されている。(日本が国際的に正式に降伏したのは、降伏文書に調印した9月2日であり、多くの国々ではこの日を戦勝記念日・「VJ Day」と呼んでいる。)
 ウォルフレンもこう指摘する。「なぜ、日本人は敗戦を認められないのか。白井さんは、日本人が戦争を“起きた”こととして捉えていると指摘していますね。自分たちが“やった”ことだと考えていない、と。戦争を“やった”のは『日本軍』であって、そこに『日本人』は巻き込まれたという感覚を持っているわけですね」。
 そしていま安倍政権はこの状態を放置したまま、「戦後レジームからの脱却」を主張している。これはウォルフレンによれば「マッカーサーが戦後の日本にもたらした改革を否定すること」であり、「戦後レジーム」は「功罪はあるにせよ、彼がもたらした改革自体は民主的な性格が強かった」と評価される。
 これについて白井は、「脱却」という言葉に二つの意味があるする。
 その第一は、「まず『脱却』と言いながら、実は戦後レジームを守ろうとしていることです。戦後レジームの本質は対米従属にある。『脱却』するのであれば、まずはアメリカとの関係を根本から見直す必要があるのです。しかし、集団自衛権の容認を始めとする安倍さんの政策は、逆にレジームの維持につながってしまう」。
 そして第二に、「一方で、安倍さんは戦後の日本社会に根づいてきた重要なコンセンサスを壊そうとしている。そのコンセンサスとは、『戦争に強いことを国家の誇りにはしない』ということです。敗戦の反省に立ち、日本は軍事国家としての道を歩まないと誓いました。そのことは大部分の日本人の共通認識だったはずです。(略)しかしこのコンセンサスが安倍さんによって壊されようとしている」。これが「戦後レジームからの脱却」のもう一つの意味である。
 そして「安倍政権が推進するのが『積極的平和主義』です。この考え方が、政権の安全保障戦略の基本にもなっている。ただし、この場合の『平和主義』には全く意味がない。注目すべきは『積極的』というフレーズです。わざわざ『積極的』と言うのは、これまでの政策が『消極的』だったことを意味している」。つまりできるだけ戦争から距離を置くことで自国の安全を守ろうとする「消極的」なやり方ではなく、「敵を名指しして、武力を用いて攻撃して自国への危険を除去する」「積極的」なやり方への方針転換である。「こうした姿勢を貫いてきたのがアメリカです。安倍さんが『積極的平和主義』へと転換するというのは、要するに日本をアメリカ的な安全保障のやり方に改めることを意味している。そのためには、戦争に強い国でなければ話になりません」。
 ここに問題の核心があるが、しかし安倍政権のやり方には矛盾する諸要因が含まれている、と白井は指摘する。
「原発と核武装の関係を見る限り、安倍さんの政策や主張は一貫しています。自ら東アジアでの緊張状態をつくり出し、核武装を含めた軍事力の必要性をアピールする。一方で、原発再稼動によって核兵器の開発能力を維持しようとしている。(略)/だけども、安倍さんの政策全般を見ると、やっていることは支離滅裂です。彼に代表される右翼勢力は、日本を独立した状態にしたいとの希望を持っています。しかし実際には、アメリカへの従属を強める政策ばかりを実行しようとしている」。
そしてこれに輪をかけているのが、「メディアと官僚は『現状維持』を求め続ける」という状況である。ウォルフレンは、「秩序が乱れることへの恐怖は、日本社会を覆っている大きな特徴だと言えます。もちろん、ヨーロッパでもアメリカでも時の政権や官僚機構は、社会の安定を望むものです。しかし、日本の場合、単に『安定』というよりも『現状維持』へのこだわりが異常に強い」として、次のようなエピソードを語る。それは2、3年前に元官僚たちの集まりに招かれ、スピーチをした後のことである。
「グループのリーダー格の人が私にこう食ってかかってきました。『そんな勝手なことを言えるのも、あなたが日本人ではないからですよ。われわれは責任を持って、日本の将来について考えなくてはならないんです。日本には原発だって必要なんだ。アメリカに従属していてはダメだと言うが、他に日本が世界で生きていく道があるのですか』と。(略)/彼の意見を聞き、私は言葉を失ってしまいました。(略)人生の大半を日本に捧げてきましたが、徒労感すら覚えます」。
 確かにこれは白井が語った、元外務官僚、孫崎享との対談での「『在日米軍基地の見直し』と『中国との関係改善』は、日本にとっては踏んではならない“虎の尾”だという話になりました。この二つのテーマに手をつけようとした日本の政治家は皆、アメリカによって潰されてきた」という話と通じるものがある。
 このように現在の政権は、「戦後レジーム」を脱却しようと危険な方向に大きく舵を取っているが、しかしその流れは複雑怪奇であり、矛盾に満ちている。白井は、日本が閉塞状況から抜け出すことができないのは、「その背景には、過去を否定することへの不安があるのではないかと思います。言い換えれば、これまでの体制が間違っていたことを認めることができない。日本は戦後70年間、『アメリカにくっついて行けば何とかなる』という思考でやってきました。その結果、それ以外のやり方を想像することすらできなくなっている」と批判し、「では、次にどんなレジームを作るのか。安倍さんが描くような日本でいいのか。それとも、全く違う方向を取るべきなのか。日本人は今、深く考えるときにきています」と問いかける。
 そして「永続敗戦レジーム」の象徴である沖縄で、“オール沖縄”の力がこれを打ち破った事実に希望を見出し、「沖縄では『基地』という大きなテーマがありました。それと同様、本土にもテーマはある。『原発』などその典型だと思います。本土でも、沖縄で起きたようなことを現実のものにしていくことは決して不可能ではない」と提唱する。
 戦後の時代、「戦後レジーム」をどのように捉えるかについては、まだまだ論議されなければならないが、本書は、敗戦後70年に大きな石を投げかけている。
 なおこの他に白井には、笠井潔との対談『日本劣化論』2014年、ちくま新書)、内田樹との対談『日本戦後史論』(2015年、徳間書店)等があるが、いずれも興味深い内容である。(R) 

 【出典】 アサート No.454 2015年9月26日

カテゴリー: 政治, 書評, 書評R, 歴史 | 【書評】白井聡、カレル・ヴァン・ウォルフレン『偽りの戦後日本』 はコメントを受け付けていません

【投稿】戦争立法反対の強大な広がり 統一戦線論(16)

【投稿】戦争立法反対の強大な広がり 統一戦線論(16)

<<闘いの新しい質的な飛躍と広がり>>
 安倍内閣の戦争法案の採決が無理やり強行突破されたが、これは安倍政権、自民・公明両党にとって致命的・歴史的な汚点となるであろう。
 「法案が成立すれば、理解される」どころか、戦争法案反対の闘いはどんどんと裾野を広げ、あらゆる世代の人々がこの運動に参加し、大都市圏ばかりか地方においてもこれまでにない闘いが展開され、統一行動が前進している。
 とりわけ若い世代が自主的、主体的に運動の前面に躍り出てきており、高校生が独自にデモを主催し、5000人も結集する(8/2、東京)ほどであり、関西でも、9/13の若者を中心とした青年11グループの呼びかけた「戦争法案に反対する関西大行動」は2万人を結集して、御堂筋デモを敢行している。長い間、学生の非政治化・運動からの逃避傾向が指摘されてきたが、これほどの若い世代の決起は、60年安保闘争以来の事態である。
 5月3日に結成された「自由と民主主義のための学生緊急行動(SEALDs)」は、またたくまに何万人もの学生を結集し、国会前の抗議活動や包囲行動のの最前線に立ち、しかもこれまでの闘いを進めてきた諸団体との共同、統一行動の仲立ちを実現し、戦争法案反対の野党の全勢力・議員との共闘関係をも構築している。
 国会前ばかりか、宮城でSEALDsTOHOKU、京都でSEALDsKANSAI、沖縄でSEALDs RYUKYU など、SEALDsの呼びかけで、北海道や宮城、愛知、京都、福岡、そして沖縄など、8/23には全国64ヶ所で安保法制に反対するデモや集会を組織している。
 さらにSEALDsは、1万2千人を超える学者たちが賛同する「安保関連法案に反対する学者の会」と共同して国会前に集結し、デモ行進や抗議行動を成功させている。
 9/15、参院特別委の中央公聴会に出席したSEALDsの組織者の一人、奥田愛基さんが現役の学生として国会に公述人として呼ばれたこと自体がすでに異例であり、そこで彼があえて「強調しておきたいことがあります」として、「私たち政治的無関心といわれてきた若い世代が動き始めているということです」「この国の民主主義のあり方について、この国の未来について、主体的に一人一人、個人として考え、立ち上がっていったものです」と述べ、「法案が強行採決されたら、全国各地でこれまで以上に声が上がり、連日、国会前は人であふれ返るでしょう」「次の選挙にも、もちろん影響を与えるでしょう」「私たちは政治家の方の発言や態度を忘れません。3連休を挟めば忘れるだなんて、国民をバカにしないでください」と強調した。まさに誰もが無視し得ない、戦争立法反対の闘いの新しい質的な飛躍と広がりを象徴したものと言えよう。
 こうした事態に刺激を受け、連帯する闘いが、各界各層で続々と立ち上がっている。高校生が立ち上げた「T-ns Sowl」、働き盛り世代の弁護士や学者、報道関係者などによるMIDDLEs、「戦争法案に反対し、老人パワーを最大限発揮してその成立を阻止することを目的とする」OLDs、東京都内の現役教職員らでつくる「TOLDs」、海外からもOVERSEAsが立ち上がっている。
 とりわけ注目されるのは、「国会ヒューマンチェーン 女の平和」や「レッドアクション」、「安保法制に反対するママの会」など女性独自の行動の広がりと活発化である。
 筆者も参加した「安保法制反対の8・30国民大運動」の大阪の集会では、2万5千人の人々が久方ぶりに扇町公園を埋めつくし、創価学会員の壇上からの痛切な訴えは、圧倒的な歓呼と連帯の声で迎えられた。運動の質的な飛躍と拡大が進行している。

<<フラットで連携・連帯>>
 もちろんこうした事態は、SEALDs単独では成し遂げられなかったであろう。安倍政権のやりたい放題、暴走をストップさせるさまざまな闘いが先行していたが、90年代以降、こうした闘いを組織する諸団体・組織間の持続的共闘は形成されなかった。せいぜいが「一日共闘」で、多少の違いがあっても「なぜ共闘出来ないのか」という腹立たしい思いが多くの人々に鬱積していたのが現実であった。
 そうした現実を克服しようと、ようやく、三つの実行委員会の共同というかたちで新たな共闘が成立(「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」、「戦争する国づくりストップ!憲法を守り・生かす共同センター」、「戦争をさせない1000人委員会」の共同による「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の結成)したのが、2014/12であった。これについて「総がかり行動実行委員会」は「これまで私たちの運動がなかなか超えられなかった考え方の違いや運動の経過などから派生した相違点を乗り越え、戦争する国づくりを食い止め、日本国憲法の理念を実現するために共同行動するものであり、、画期的な試みです。」とその意義を述べている。以降、「総がかり」は、共同行動と統一戦線の中心的な担い手としてようやく力を発揮しだし、12万人が国会周辺を埋め尽くした安保法制反対の8・30国民大運動をSEALDsと共同で組織するにいたっている。持続的共闘体勢の形成は、60年安保闘争時の「安保改定阻止国民会議」以来のことである。
 三つの団体は、会議の議長も一回ごとに変え、シュプレヒコールも行動提起をする人も、一回ごとに順番を変え、中心が一つにならないよう、片寄らないように配慮を積み重ねている。主導権を奪い合うのではなく、多様性を尊重し、「オール沖縄」の闘いに学ぶ姿勢である。
 SEALDsの中心メンバーの牛田悦正さんも「SEALDsのデモ参加者から(“支部”設立の)申し出があれば、『それじゃ、お願いします』と言って出来ます。東京のSEALDsが本部のような機能を持ってはいますが、他よりも偉いわけではなく、フラットで連携する関係です。なおSEALDs自体にも代表者はいなくて、奥田愛基さんを含め15人くらいの中心メンバーがみんな『副代表』で、話し合って方針を決めます。緩やかな連帯が特徴で、だから広がっていったのかなと思います」と語っている。SEALDsの奥田愛基さんは「金曜日の国会前抗議では、毎週メンバーがスピーチをしていますがその原稿はみんなで読み合わせをしているんです。それは事実関係やつまらない部分で揚げ足を取られないようにするためです。」とも語っている。
 そこに見られるのは、多様な集団・組織・グループが自由で対等な連合を形成し、それぞれの団体、個人の主体性を尊重しながら、しかも非暴力を堅持した規律ある統一行動をとっていることである。暴力を否定し、ヘルメットや覆面マスク、もちろんゲバ棒など無用であり、持ち込まないことが前提であり、原則である。

<<平面主義と球面主義>>
 青土社の『現代思想』2015年10月臨時増刊号「安保法案を問う」の中で、最首悟さんが、平面主義と球面主義という視点を提起されている。平面主義は、神・天の下の平等で、平面の高みに中心があり、そこから与えられる。支配が根本で、恒常的リーダーを常に必要とする。それに対して球面主義は、人間同士の平等であって、球面には中心がなく、至るところが中心であり、お互いが中心であり、対等である。
 これは、民主主義のあり方を問う鋭い視点だといえよう。この視点をさらに敷衍するならば、平面主義には高みにある中心的権力あるいは指導部、それを補強する中央集権的ヒエラルキーが派生するか、または不可欠となる。その指導部がいかにすばらしくても、基本的には請け負い主義であり、指導-被指導は一方通行である。その体制に参加する個々の人々にとっては、受け身の「おまかせ民主主義」であり、あくまでも指導され、「動員」される側である。上部が下部から学ぶ回路がない。当然、指導部は美化され、下からのチェック・監視が機能しないために、「天上天下、ただ我れ独り尊し」の唯我独尊に陥りやすい。「われわれだけが一貫して正しかった、いまも唯一正しい」という宗派主義・セクト主義に陥りやすい。うまくいかなければ、別の英雄待望論となる。
 球面主義では、組織の通達や指令、動員ではなく、一人ひとりの個人が主体となって行動する。意見の相違や批判が生じれば、球面主義では、敬意と配慮と遠慮、あるいは妥協が常に付きまとい、互いに学びあい、意見の一致点を確認し、さらにより高い次元の合意も可能だが、平面主義では妥協し、学びあう前に排除と抑圧、抹殺の論理が先行し、言葉の暴力が横行し、果ては殺人をも含めた現実の暴力が正当化される。
 民主主義の徹底こそが社会変革の核心であるとすれば、その社会や組織の球面主義的な民主主義のあり方、その具体的なありようが問われているといえよう。何よりも、統一戦線の拡大・強化にとっては、フラットな連携・連帯こそが決定的であることを、現実の運動が示しているといえよう。

<<沖縄の闘いから学ぶ>>
 「オール沖縄」が示したことは、あしざまに言われることの多い「小選挙区制」ではあるが、それがもたらした反与党の統一候補の必要性と必然性が、きわめて大きいといえよう。直面する最も重要な課題で団結して闘う、そうしなければあらゆる政党も組織も運動も見放されてしまう。そうした事態を前にして、わが党、わが組織、わが運動こそが一貫して正しい、したがって全小選挙区に独自候補を擁立するといった手前勝手なセクト主義や囲い込み運動では支持を得られない。分裂していては敗北するだけという危機を前にして、統一候補を擁立する、それを可能にするような統一戦線の形成に結びついたということでもある。

 もう一つ沖縄の闘いの重視すべき、そして継承すべきなのは、非暴力の闘いの伝統とその原則の徹底である。
 阿波根昌鴻著『米軍と農民――沖縄県伊江島』、『命こそ宝―沖縄反戦の心』(いずれも岩波新書)で詳細に述べられているが、言葉の暴力を含めて、怒声を張り上げず、嘘も言わず、侮蔑もせず、興奮して立ち上がらず、耳より上に手を振り上げず、静かに話し、無益な挑発はせず、冷静に対処する、道理を確信し、逸脱を戒め、普段にこうした原則を確認する、という非暴力の闘いの原則である。その沖縄・伊江島の非暴力の闘いの原則のすばらしさ、粘り強い不屈の闘いの伝統は、辺野古の新基地建設反対の闘いにおいても、東村のヘリパッド建設反対の闘いにおいても脈々と受け継がれている。(写真は座り込み現場のガイドラインで、コトバの暴力を含めた非暴力が冒頭に掲げられている。)
 こうした言葉の暴力は、より根底的、本質的に言えば、共に闘うどころか、共に在ることさえ拒否し、排除する思想、個人としての人格を否定し、言葉を凶器に変え、差別とヘイトクライムに通底する思想だと言えよう。それはまた、ナチズムのユダヤ人・障害者撲滅、優生思想、スターリン主義の「帝国主義の手先論」・社会民主主義主要打撃論、昨日の同志が意見の相違によって突如「反共・反党分子」となる論理、暴力と殺人を合理化するかつての「新左翼」諸派の内ゲバの論理とも重なり合う。こうした暴力を肯定する醜悪なセクト主義の論理は、もはや過去の遺物ではあるが、運動の局面転換時にはいまだにしぶとく生き続け、別の形で再生産される可能性が存在している。
 嫌韓・嫌中論を闊歩させ、国賊論まで醸成させる安倍政権のもとで、その言葉の暴力に、対抗する側が同調し、はまり込んではならないし、多様性を排除し、言葉の暴力が許容されたり、鈍感であるような場や組織、社会に共生や協働、人間的連帯などありえないといえよう。
 このような非暴力闘争の原則はより広範で力強い統一戦線形成において不可欠であるばかりか、あらゆる人間関係にも適用されてしかるべきものでもある。えてして心ならずも感情が先立ちつことがあるが、コトバの暴力が先行してしまっては、共に成功させるべきことをぶち壊してしまう。共同の闘いを前進させ、より大きく拡大させるためには、こうした非暴力の闘いの原則が定着し、生かされることが望まれる。(生駒 敬) 

 【出典】 アサート No.454 2015年9月26日

カテゴリー: 平和, 政治, 生駒 敬, 統一戦線論 | 【投稿】戦争立法反対の強大な広がり 統一戦線論(16) はコメントを受け付けていません

【投稿】70年談話と戦争法案の欺瞞性

【投稿】70年談話と戦争法案の欺瞞性
        ~美辞麗句の陰で刀を研ぐ安倍政権~

<帝国日本は反植民地?>
 8月14日、「戦後70年談話」が閣議決定された。村山談話の3倍、約3300字にも及ぶ談話は、その長さに比して内容は様々な文言を散りばめ、第三者的な責任回避に終始しただけの空虚なものである。
 70年談話ははじめに「100年以上前」を振り返り、西洋諸国の植民地支配がアジアにも押し寄せてきた、とする。この点はその通りであるが「日露戦争は、植民地支配のもとにあった多くのアジアやアフリカの人々を勇気づけました」と、あたかも日露戦争が反植民地支配の「民族独立戦争」であったかのように述べている。
 そして次に談話は「世界を巻き込んだ第一次世界大戦」へと飛び「民族自決の動きが広がり、それまでの植民地化にブレーキがかかりました」と言う。
 その間に韓国を植民地化しておきながら、その事実には触れず、あたかも帝国日本が反植民地機運を醸造したかのような詭弁を呈するのは悪質であろう。
 さらに談話は、第一次大戦の結果国際連盟が創設され、平和への流れが生まれ、日本も当初足並みを揃えていたが、世界恐慌後のブロック経済化で「大きな打撃を受け」この行き詰まりを「力の行使によって解決しようと試みました」とする。
 ここでは日本をブロック経済化による被害者のように描いているが、打撃を拡大した国内の軍拡、小作農、寡頭支配など諸矛盾には触れていないし、中国侵略を開始、植民地支配を強化し自らブロック経済化を推し進めたことはスルーしている。 また「国内の政治システムは、その歯止めたりえなかった」と責任の所在を曖昧にしている。
 さらに次段では満州事変を引き起こし、国際連盟を脱退した日本を「新しい国際秩序」への「挑戦者(challenger)」と記し、肯定的ともとれる評価をしている。

<「私」は謝らない>
 こうして日本が起こした太平洋戦争での被害に関しては、さすがに広島、長崎、東京、沖縄そして中国、東南アジア、太平洋の島々で「無辜の民が苦しみ、犠牲となりました」「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいた」と述べざるを得なかった。
 重要なポイントであった「侵略」については、「二度と戦争の惨禍を繰り返してはならない」と表明しながら「事変、侵略、戦争」などと概念の異なる事象を並列に並べ、「侵略」の主体を曖昧にし、あたかもそれを「言葉のアヤ」のごとく流している。
 要は日本は戦争はしたが、それは侵略であったとは一言も言っていないのである。安倍らは日頃「侵略かどうかは後世の歴史家が決めること」などと学者に丸投げしており、談話でもその立場に固執をしている。
 しかし一方、戦争法案の違憲性指摘には「学者が決めることではない」と支離滅裂な主張をしているのが実態である。
「植民地支配」についても「植民地支配から永遠に決別し、すべての民族の自決の権利が尊重される世界にしなければならない」と、これまでの流れと同様「誰が」「誰を」支配したかには言及せず、だれも否定しようが無い一般論を述べているに過ぎない。
 こうした日本の国策に関する「痛切な反省」と「心からのおわび」に関しては、歴代内閣がやってきており「こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります」と自らの謝罪は拒んでいる。
 また戦後処理に関しては、「残留孤児」に対する中国人の保護、連合軍捕虜の寛容に謝意を表する形で、大日本帝国の過ちは許されたとすることによって、現在も戦争責任を追及し、戦後補償を求める人々を「心が狭い」と言わんばかりである。
 しかし「反省」も「おわび」も戦後生まれが人口の八割超として「あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」と「打ち切り」を宣言している。
 安倍は自分も戦後生まれだから責任はないと思っているのかもしれないが、それなら祖父の顕彰はやめるべきであろう。

<70年談話の本質>
 日頃「未来志向」を口にしている安倍が一番言いたかったのは、最後半部分であろう。「我が国は、いかなる紛争も、法の支配を尊重し、力の行使ではなく、平和的・外交的に解決すべきである。この原則を・・・世界の国々にもはたらきかけてまいります」
 これは一般論としては正しいであろうが、現下の情勢に照らせば、「力による現状変更は認めない」という中国に対する批判と同じである。さらに「経済のブロック化が紛争の芽を育てた」と再度強調し「いかなる国の恣意にも左右されない・・・国際経済システムを発展させ、途上国支援を強化・・・」と、明らかに中国主導のAIIBやBRICS銀行を意識した牽制球となっている。新興国の経済連携が「ブロック経済」なら、TPPもそうであろう。
 談話は「我が国は・・・『積極的平和主義』の旗を高く掲げ、世界の平和と繁栄にこれまで以上に貢献してまいります・・・終戦八十年、九十年、さらには百年に向けて、そのような日本を・・・創り上げていく」と、集団的自衛権と海外での武力行使解禁によるプレゼンス拡大を宣言し終わっている。
 長々とした文章を要約すると「日本は西洋列強の植民地支配に抗し、とりわけ日露戦争に勝利し、アジアやアフリカの人々を勇気づけた。第1次大戦後世界は平和に向かうかと思われたが、世界恐慌とブロック経済で頓挫した。その被害を蒙った日本は『新秩序への挑戦者』となって武力を行使したが、日本は負けた。植民地支配や侵略はいけない。第2次大戦では多くの国々、人々に犠牲と苦痛を与えたが、これへの反省とおわびは歴代内閣がしている。これは今後もそうである。寛容の心が大事である。謝罪はこの先も続けるものではない。紛争は法により平和的、外交的に解決すべき。積極的平和主義はこの先30年は続けたい」ということである。
 行間にいかに美辞麗句を挟みこもうと、キーワードを機械的に羅列しようとも本質は覆い隠せるものではない。この談話は「おわび」や「反省」の主体を曖昧にするため、主語はすべて「私たち」となっている。
「私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に・・・痛切な反省の意を表し、心からのおわびの気持ちを表明いたします」という村山談話と際立った違いを見せている。さらに、8月15日の戦没者追悼式での「さきの大戦に対する深い反省」という天皇の言葉に比しても、70年談話の不誠実さは否めないものがあり、それが談話を補完する形とさえなっている。

<追い込まれた安倍政権>
 しかし、当初は文言さえ入らないとされた「侵略」「植民地支配」などが盛り込まれたのは、中国、韓国、そしてアメリカなどの厳しい目、そしてなにより安倍政権を辺野古工事一時中断、岩手知事選不戦敗に追い込んだ戦争法案反対の国内世論の力であろう。その意味で安倍やファシスト、レイシストにとって談話は不満の残るものだったであろう。
 さらに、「磯崎発言」や「武藤金銭疑惑」というオウンゴール、自らの吐血という週刊誌報道にいら立ちを隠せない安倍は、8月21日の参議院特別委員会でまたしても自席からヤジを飛ばし、委員長から注意を受け撤回した。
 自民党は参議院の審議に於いて、与党の質問時間を増やし出来レースを演出することで、戦争法案への国民の理解を得ようと目論んでいた。
 しかし11日の同委員会では、戦争法案成立を前提とした自衛隊・統幕の内部資料を、共産党に暴露され窮地に追い込まれた。政府は当初「知らぬ存ぜぬ」で押し通そうとしたが17日に至り、これを認めざるを得なくなった。
 5月に作成されたという統幕資料の日程表には、8月の法案成立を前提に来年3月から南スーダン派遣部隊が「駆けつけ警護」発令に備えることが明記され、さらに南シナ海での日米共同の警戒監視・偵察活動(ISR)の在り方について検討していくとされている。
 南スーダンに関しては、韓国軍への弾薬供与が問題となったが、今後は部隊の派遣が計画されているということである。しかしながら現地の武装勢力はロケット砲や戦車を装備しており、隊員のリスクは高まらないなどというのはデタラメであることが改めて明らかとなった。
 南シナ海のISRに関しては、前号に記したとおり6月下旬にP-3Cによる日比共同訓練が行われたが、今後はこれをアメリカ、オーストラリアとも作戦として行って行くということであり、艦船の派遣も考えられる。
 このようにいくら70年談話で「平和、平和」と連呼しても実際は着々と、軍事的プレゼンスの拡大が目論まれていることが明らかとなった。談話に対し中国、韓国は冷静に対応しており、実際の行動が重要としているが、実際の行動の一端が陸幕資料では警戒心を高めるだけだろう。
 9月3日には北京で抗日戦争70周年の軍事パレードが実施され、朴大統領も参加する方向と言われている。談話に対する中韓の一つの回答であろう。こうした時に出てくるのが「苦しいときのロシア、北朝鮮」である。
 8月6日日朝外相会談が行われ、11日には韓国のYTNテレビが「月内の安倍訪朝の観測」との報道を行った。しかし17日に訪朝した民間団体に、北朝鮮当局が「来再調査等報告書完成を連絡したが日本政府が受け取らない」と述べたと報じられた。
 ロシアに関してはプーチン訪日をめざし、岸田外相が訪ロする予定であったが、8月22日、メドベージェフ首相が択捉島を訪問したことにより延期に追い込まれた。 さらに20日から28日に渡り日本海では中露合同演習が行われた。周辺国は70年談話と政策の欺瞞性を見透かしていると言えよう。
 延長国会も終盤を迎えようとしている、全国の平和勢力は沖縄、岩手の成果を梃に安倍政権を追及していかねばならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.453 2015年8月29日

カテゴリー: 平和, 政治 | 【投稿】70年談話と戦争法案の欺瞞性 はコメントを受け付けていません

【投稿】核武装能力保持の原発再稼働 しかし、「東芝粉飾」で核産業は終焉

【投稿】核武装能力保持の原発再稼働 しかし、「東芝粉飾」で核産業は終焉
福井 杉本達也

1 なぜ川内原発の再稼働を急いだのか
8月11日に九州電力の川内原発1号機が再稼働した。大飯原発以来2年ぶりに「原発ゼロ」ではなくなった。再稼働による問題の第1は川内原発1号機が運転開始から31年が経過した老朽炉(高経年炉)であることである。原子力規制員会は運転開始30年の高経年化対策に関する審査もろくろく行わず再稼働を認めてしまった。しかも、4年間も運転を停止していた原子炉をである。元東芝原子炉設計者の後藤正志氏は「4年も淀んだまま腐食が進んでいることがないとは言えません」(2015.8.18)と述べている。さっそく、8月20日には復水器配管(タービンを回した後の水蒸気を海水で冷却し水に戻す)に穴が開いていること明らかとなった。
問題の第2は規制委の新規制基準概要(2013 年7 月)において「①弁を開放して減圧、②可搬式注水設備(高性能消防ポンプ)により炉心への注水」との新規制基準は根本的な誤りである(川内原発民間規制委かごしま勧告)。「ECCS(緊急炉心冷却装置)を使用せず減圧したら原子炉の水は激しく蒸発して、燃料は空焚きになってしまいます。つまり、新規制基準による事故の深刻化です」(槌田敦 2015.8.11)。スリーマイル島事故、福島第一1,2号の再現である。『可搬式注水施設(高性能消防車)』では十分な注水量は確保できない。
8月19日、自民党内で原発を推進する「プロジェクトチーム」は原発の運転期間40年を見直さず、運転延長論を封印する提言をまとめた(日経:2015.8.20)。40年延長ができなければ、福井県内では、美浜3号は2016年、大飯1,2号は2019年、高浜3,4号も2025年には廃炉となる。敦賀2号も活断層が直下を走り廃炉必至である。残るは大飯3,4号のみとなる。3.11で打撃を受けた福島第二・巻・東海第2は廃炉必至、浜岡は東南海トラフ、青森大間、泊・志賀・島根も活断層を抱え、柏崎刈羽は泉田新潟県知事の強固な反対もある。全国でも動かせる原発は数少ない。
数少ない動かせる原発を再稼働させたのはなぜか。安保法制反対のSEALDsの学生を批判し金銭不祥事で自民党を形式上離党した武藤貴也議員は「いざとなったら、アメリカは日本を守らない…だからこそ、日本は自力で国を守れるように自主核武装を急ぐべきなのです。」(『月刊日本』2015.5)と述べている。高速増殖炉「もんじゅ」を廃炉にせず、青森六ヶ所村の民間再処理工場を国有化しでまでも維持しようとすることは、独自核武装にこそ真の目的があることが伺える。「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する(外務省HP「”核”を求めた日本」報道において取り上げられた文書等に関する調査についての関連文書No.2「わが国の外交政策大綱」P71 1969.9.25)ことにある。

2 壊滅する世界の原発産業
3.11以降、独・シーメンスは原発事業から全面撤退した。また、今年6月には仏原発大手アレバが事実上倒産、仏電力公社の傘下にはいること(「=事実上の国有化による救済」が明らかとなった。アレバの場合フィンランドなどで受注したEPR(欧州加圧水型炉)が10年近くの建設の遅れにより大幅な赤字となったことが命取りとなった(朝日:2015.6.5)。また、三菱重工業は2012年に蒸気発生器の事故を起こしたカリフォルニア州サンオノフレ原発が廃炉となったことで、電力会社:エジソン社から9,300億円もの損害賠償の訴えを起こされている(朝日:2015.7.29)。仏コンサルタントの調査によると、2014年に着工した世界の原発はアルゼンチン・ベラルーシなど3基のみで、建設中は62基あるというが、うち5基は米国・ロシアなどの30年以上も建設が中断した計画が含まれており(福井:2015.8.20)、世界の原発産業はほぼ壊滅状態に陥ったと見てよい。

3 東芝「粉飾決算」はWH買収にある
東芝の「粉飾決算」に係るマスコミの報道は非常に甘い。日経・読売は当初から、会社側の言うなりに「不適切会計」という言葉を使っている。「不適切」は「不正」とは違う。朝日・毎日は「不正会計」としているが、はっきり「粉飾決算」と書くべきである。
1979年のスリーマイル島原発事故以降、原発建設が止まってしまい米国でお荷物となった米原発大手ウェスチングハウス(WH)。東芝は日立製作所と並び、ゼネラルエレクトリック社の加圧水型原発を手掛けており、沸騰水型を手掛けるWHとは基本技術が違う。その東芝が法外な額を提示して三菱重工を差し置き横から割り込んで2006年に買収した。その“法外な買収額”がのれん代(ブランド価値などとして、市場価値よりも高額で買収した(買わされた)価値を長期間に償却していくために資産として計上したもの)の償却問題がある。原発の事業環境悪化による事業価値減少で、のれん代(買収金額6,000億円のうち4,000億円)が特別損失になる。WH買収を発表した当時、そのとき約2000億円だった東芝の原子力事業が15年には約7000億円、20年には約9000億円に拡大すると喧伝した。米国会計基準を厳正に適用するならば即、「減損処理」すべきものである。連続赤字が続けば、巨額の繰延税金資産(税金の払い過ぎを後に取り戻せることを見越し、資産計上すること)を黒字が出た期の利益から償却することはできず、否定される可能性がある。そうなれば、自己資本はマイナスとなり、東芝の財務は危機的状態に陥る。(参照:ダイヤモンド:2015.7.27、7.30 古賀茂明「東芝の粉飾問題「報道の粉飾」:『週刊現代』2015.8.8) もちろん米国はせっかく東芝に押し付けたWHという不良債権を買い戻すことはあり得ない。東芝は、WHをめぐって前に進むことも、切り離すこともできず、福島第一の1号機及び3号機の事故処理の責任を任されていることもあり、倒産することさえ許されず、東電同様の「ヌエ」的状態で国家資金を使ってでも核技術力を維持し「不適切」に生きながらえることとなろう。

4 「川内原発へのミサイル攻撃は?」秀逸な山本議員の質問と議論を避ける他の野党
映画『天空の蜂』が9月から全国でロードショー公開される。原発を標的としたテロを題材としている。原作はベストセラー作家:東野圭吾であり、20年前の作品であるが、核燃料プールの脆弱性、原発の安全神話など3.11を先取りしたテーマを扱っている。
7月29日の参院安保法制質疑は議論を避ける他の野党と比べ山本太郎議員の質問は秀逸であった。山本氏は、日本がミサイル攻撃を受けたときのシミュレーションや訓練を政府が行っていることを確認したうえで、鹿児島県の川内原発について、最大でどのぐらいの放射性物質放出を想定しているかをただした。これに対し、原子力規制委員会の田中俊一委員長は、原発へのミサイル攻撃の事態は想定しておらず、事故が起きたときに福島第一原発の事故の1000分の1以下の放射性セシウムが放出される想定だなどと、ごまかしの答弁をした。これに対して、山本氏は「要はシミュレーションしていないんだ」、「あまりにも酷くないですか」、「今回の法案、中身、仮定や想定を元にされてないですか?」、「都合のいいときだけ想定や仮定を連発しておいて、国防上ターゲットになりうる核施設に関しての想定、仮定できかねますって、これどんだけご都合主義ですか」(J-castニュース 2015.7.30)と切り捨てた。海岸に50基もの原発を並べて、集団的自衛権・ミサイル防衛を語る資格はない。隣国からミサイルが飛んでこないようにする外交努力こそ求められる。
田中委員長の「1000分の1」答弁はどこから出たのか。「1000分の1というのは何なのかなあと思ったのですが、あれは多分、格納容器が壊れないことが前提なのですね。格納容器が壊れると桁が違うし、福島どころじゃすまないのですね」(後藤正志 鹿児島県知事の『世界に冠たる規制』発言に対して 2015.8.18)。ようするに、ミサイル攻撃で格納容器が崩れないことを前提として発言しているが、そのようなことはあり得ない。1981年6月7日、イスラエル戦闘機はイラクの建設中の原子炉を破壊した。田中委員長も1984年の外務省の委託報告書「原子炉施設に対する攻撃の影響に関する一考察」を知らないはずはない(参照:常石敬一『日本の原子力時代』 NNNドキュメント「2つの“マル秘”と再稼働 国はなぜ原発事故試算を隠したのか?」2015.8.23放映)。

5 「地元同意」と自治体の「責任」
高浜原発の再稼働にあたって、福井県の西川知事は「地元同意」は立地町である高浜町と福井県の同意だけでよいとしている。しかし、京都府舞鶴市松尾地区・杉山地区は高浜原発から5キロ圏内にある。今年2月には地区住民に対し原発事故があった場合甲状腺被曝を抑える安定ヨウ素剤を配布しており、原発事故による被害は高浜町境界や福井県境で収まるものではない。「地元同意」が絶対であるというのなら、武田邦彦氏が「『自分が決定権がある』というものについてはその決定によって他人が被害を受けたら、決定の権限に応じて責任を分担する必要がある。『決定権』というのは『責任』を伴うもので、日本人ならそのぐらいの覚悟はしてほしい。『自分は一般の国民だから何を決めても義務は生じない』というと『民主主義』の原則にも反する。(武田邦彦:2015.2.23)」と述べているように、舞鶴市や京都府・滋賀県は高浜町や福井県に対し、「地元同意」をして事故による被った全損害については高浜町と福井県が賠償するという一札を取るべきであろう。
国のワーキンググループにおいて原発事故時の避難にあたって、滋賀県(高島市等)・京都府内(福知山・綾部市等)などでの放射能汚染スクリーニング検査場の指定したことを福井県が明らかにしたが(福井:2015.2.25)、市体育館などの場所を決めただけで、検査器具もなければ、放射線技師も、除染場所もない。福島事故では多数の避難者が押しかけた。計測だけで1人5~10分はかかる。数百人も押し寄せればパンクである。冬季の事故で、除染のために高濃度汚染した避難者に冷水をぶっかければどのような事態を引き起こすかは明らかである。京都・滋賀の自治体労働者はこのような常識的な避難対策を整理し、問題点を抽出して福井県・高浜町にぶつけるべきである。避難対策は国や関電の責任だと言って「思考停止」していたのでは住民の命は守れない。福島事故の棄民政策から明らかなように、日本の国家は「無責任」をその本質としており、電力会社も同様である。しかし、自治体は住民の生命と財産を守るという「責任」から逃れることはできない。9月6日:京都・梅小路公園で「さよなら原発全国集会in京都」が行われる。京都も志賀も「地元」だというスローガンだけで命は守れない。「責任」をとる具体的詰めが求められる。

【出典】 アサート No.453 2015年8月29日

カテゴリー: 歴史 | 【投稿】核武装能力保持の原発再稼働 しかし、「東芝粉飾」で核産業は終焉 はコメントを受け付けていません

【訳出】南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94

【訳出】南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94
     
          (international New York Times 記事 on July 20, 2015 )

“Yoichiro Nambu, physicist awarded Nobel Prize, dies at 94”
[ 南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94 ]
                             by Mr. William Grimes

 南部陽一郎氏、シカゴ大学の粒子物理学者、彼の ”spontaneous symmetry breaking “ (「自発的対称性の破れ」理論)として知られている現象の数理論的描写が、subatomic particles (「原子の構成粒子」)の相互作用の説明の一助となり、”Higgs boson” (「ヒッグス粒子」)または”God particle” (「神の粒子」)の存在予測に貢献し、自らを2008年のノーベル物理学賞に結実させた同氏は、7月5日大阪で亡くなられた。94歳であった。
 大阪大学、そこでは彼は傑出した教授であった、は17日(金)に公表した。
1950年代後半、南部教授は”super-conductivity” (「超電導現象」)の研究を始めた。その現象とは、超低温において、電流が突然に抵抗なく流れる。 彼は、”spontaneous symmetry breaking “「自発的対称性の破れ」理論 (以降 “SSB” と称する。) ― 科学者たちが原子の構成粒子レベルで気付き始めた”symmetric” (対称性)から”asymmetric”(非対称)状態への変化 ― が、物質がいかにして超電導状態になるか、のよりよい説明になるに違いないと判断した。 彼はこの現象の特徴を描写するために数理的モデルを発展させた。そして、急いで彼の関心を原子構成粒子群の分野 (“the world of subatomic particles”) に振り向けて行った。1960年になって、彼は “Standard Model” (以下「標準モデル」と称する)(1*) および “the unified theory” (以下「統一理論」と称する)(2*) ― そこでは物理学者は、自然界における4つの基本的力の内3つを説明してきた。即ち”strong”「強さ」、”weak”「弱さ」そして”electromagnetic”「電磁力」― の基礎/土台となる “SSB” の数理的描写の論文を出版した。4つ目 ”gravity” (「重力」) は「標準モデル」には、未だ編み入れられていない。

「“SSB” は一種の知性の集まり、心理の集まり、そして物質成分の集まりより生じる。」
 
ノーベル賞を受賞した後、シカゴでの講演で南部博士は述べている。彼は一つの寓話を示した。即ち、人々の集団が広場に集まった時、普通は人々は、まちまちの方向を見ている。しかし、そのうちの一人が、ある一方向を見始めると他の人々も同様に同じ方向を見ることが、時として起こる。「これが、”a broken symmetry” (「破れた対称性」)であると彼は言った。 彼の理論は、例えば、弱い核の力を保持した素粒子が、いかにして、質量を獲得するかの説明の一助となった。 そして「弱い力」と「電磁気力」の統一理論の発展・展開に寄与している。
Mr. Peter Higgs, Mr. Francois Englert 及びその他の学者たちは、南部理論を用いて1960年代に、 “the Higgs boson”(「ヒッグス粒子」) (3*)の存在を予測した。そしてその粒子は2012年に発見された。2004年 雑誌「物理学の世界」とのインタビューで Mr. Higgsは、「私の名前はこの分野において、第一人者となっているが、いかにして “fermion”(「フェルミ粒子」) (4*)の集まりが、超電導状態の物質におけるエネルギーの破れ目の形成に相似する方法において、作り出されるかを示した人は南部教授であった。」と語った。
南部博士は、”quarks”(「クウォーク」) (5*)の研究で認められた、小林誠教授と 益川敏英教授と共にノーベル物理学賞を受賞して、賞金の半分を受け取り、残り半分はお二人(小林/益川両教授)で分け合った。
 「科学者の中には、すべての分野の動きを方向付ける人がいる。南部博士はそのような偉大な人の一人であった。」シカゴ大学の教授であった Mr. Peter Freund (6*)はあるインタビューで述べている。
 南部博士は、1921年1月18日に東京で生まれ、その後福井に移り住んで成長した。彼の科学への関心は、父親が買い与えた科学雑誌によって呼び起こされた。「自然科学における基礎となる諸問題を研究する一つの手段である物理学を、私は好きになった。」と受賞後のシカゴ大学の新聞(”news service”)で述べている。1942年、東京帝国大学で修士号 (“master’s decree”)を得たが、すぐに召集されて陸軍のレーダー実験室に配属された。
1946年、彼は研究者として大学に戻り、1952年博士号を取得した。1950年から1956年まで彼は、大阪市立大学の教授であった。その間の二年間、彼は米国New Jersey 州Princetonにある”the Institute for Advanced Study”(「先進科学研究機構」)にて核物理学者の Mr. J Robert Oppenheimerと過ごしている。その機会に彼は、勇気を出して、その機構の有力な会員であったMr. Albert Einsteinに自己紹介している。
 シカゴ大学との関係は1954年に始まり、その後 “research associate”(「研究員」)として同大学に勤めている。1958年に教授に就任し、1974年から1977年の間、同大学の物理学部の部長となり、1991年に退職した。
 彼の受賞は、多くの物理学者の間で、遅きに資した、と受け取られている。「その一端は、彼は大変控え目であり、派手に自己宣伝しないこと、の為であろう。」と Mr. Jeffrey Harvey,シカゴ大学におけるEnrico Fermiの研究で有名な物理学者が語っている。「現実の世界では、人々はノーベル賞の為に働きかける。しかし彼はそのような人ではなかった。」と。
 南部博士は、その後も粒子物理学の研究を続け、きわめて重要な貢献をしている。1965年に、Mr.Moo-Young Han,現在 Duke Universityに在籍、と共に研究して、quantum chromodynamics( 「量子色力学」) の最新理論の先駆者になるまでになっていた。その理論は、「陽子」と「中性子」を縛り「原子核」にしている原子の力を解き証し説明している。
 「彼は”magician”(手品師/奇術師)であった。」Freund教授は述べている。「彼は帽子の中から兎を一匹、また一匹と取り出したであろう。そして突然その兎たちは整列して、あなた方が以前見たこともないダンスを始めたであろう。そこで彼は、あなた方が決して思いつくことができないアイディアを得たのだ。」
                              訳:芋森  [ 了 ]

(1*) 粒子物理学におけるStandard Model
 「標準モデル」、「標準模型」、「標準理論」とも称される
「強い力」「弱い力」「電磁気力」、この三つの基本的力の相互作用を記述するための理論の一つである。
(2*) the unified theory「統一理論」とも「大統一理論」とも称される
種々の相互作用力を一種類に統一する理論である。自然界の四つの力(「強い力」「弱い力」「電磁気力」プラス 「重力」)を全て統一することが到達点である

(3*)「ヒッグス粒子」)
もし、ヒッグス粒子が存在しなければ、宇宙を構成するすべての星や生命が生まれないことになるため、「神の粒子」とも呼ばれています。 お気に入り詳細を見る ヒッグス粒子は私たちの身の回りも含め、すべての宇宙空間を満たしている素粒子として、1964年にイギリスの物理学者、ピーター・ヒッグス氏が存在を予言しました。 お気に入り詳細を見る 私たちの宇宙は、1960年代以降、まとめられた現代物理学の標準理論で、17の素粒子から成り立っていると予言されました。 お気に入り詳細を見る これまでに、クォークやレプトンなど16については実験で確認されてきましたが、最後の1つ、ヒッグス粒子だけが見つかっていませんでお気に入り詳細を見る した。 ヒッグス粒子が担っている最も大きな役割は、宇宙のすべての物質に「質量」、つまり「重さ」を与えることです。2012年「ヒッグス粒子」はスイスにあるCERN(欧州原子核研究機構)おけるLHC(大型ハドロン衝突型加速器)計画によって見つかった。「ヒッグス粒子の可能性が極めて高い素粒子が見つかった」が正確で、実際はこれからヒッグス粒子かどうかを調べていきます。 ほぼ同じものが99.9999%以上の確率で存在していたから、「間違いない」と判断されている。

(4*) “fermion”(「フェルミ粒子」)
フェルミ粒子は、フェルミオン(Fermion)とも呼ばれるスピン角運動量の大きさが ħ (「換算プランク定数」。ħ は「エイチバー」と発音される。) の半整数 (1/2, 3/2, 5/2, …) 倍の量子力学的粒子であり、その代表は電子である。その名前は、イタリア=アメリカの物理学者エンリコ・フェルミ (Enrico Fermi) に由来する。

(5*) quark(「クォーク」)小林誠氏と益川敏英氏は、素粒子物理学の標準模型の枠組みで、素粒子を構成している基本粒子と考えられているクォークは、当時主流であった2世代4種類ではなく、3世代6種類以上存在することを予言しました。6種類のクォークの存在については1995年に実験的に確認され、CP対称性の破れについても2001年に実験的に検証され、小林誠氏と益川敏英氏両氏の理論が正しい理論であったことが実証されました。

(6*) Mr. Peter Freund – Wikipedia, the free encyclopedia
Peter George Oliver Freund (born 7 September 1936) is a professor emeritus of theoretical physics at the University of Chicago. He has made important contributions to particle physics and string theory. He is also active as a writer.

【出典】 アサート No.453 2015年8月29日

カテゴリー: 歴史, 科学技術, 追悼 | 【訳出】南部陽一郎氏、ノーベル賞を受賞した物理学者、逝去享年94 はコメントを受け付けていません

【書評】海軍の日中戦争 アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ

【書評】海軍の日中戦争 アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ
              (笠原十九司著 平凡社 2015年6月 2500円+税)

 昨年ヒットした映画に「永遠の0」がある。右派バリバリの百田作品だが、中々泣かせる場面も多い。しかし、なぜ零戦が開発されたのか、そしてなぜ真珠湾攻撃に始まる日米戦争に至ったのか、などの根本的問題はすべて回避され、愛する家族のために特攻で死んだことも、少々美談にしてしまうものだった。
 そこで、もう一度零戦について、いろいろと調べているうちに出会ったのが、表記の書物である。旧日本軍は、見事に陸軍・海軍が分立していた。満州事変から日中戦争を主導したのは、陸軍・関東軍であり、日米戦争については、アメリカの原油禁輸などの経済制裁によって、海軍が「止むなく」真珠湾攻撃という奇襲攻撃に至った、というような印象(「陸軍=悪玉、海軍=善玉」)を多くの日本人が持っていると思われる。私自身も、ぼんやりと、そんな意識を持っていた。
 しかし、本書を読めば、そのような考え方は吹き飛んでしまう。本書で明らかにされているのは、満州事変以降、日米戦争を想定・準備したのは、むしろ海軍であったということである。柳条湖事件のような謀略事件を、海軍も仕掛けていた。そして、まさに「自滅のシナリオ」を自ら歩み、中国人・日本人に大量の死傷者を生み出して、日本の敗戦にたどり着いた。
 
<海軍の謀略事件 「大山事件」>
 
 本書の内容に沿い時系列で、整理してみよう。
  1937年7月7日 盧溝橋事件
   同7月11日 現地軍間で停戦協定成立
   同   日 近衛首相「中国に反省を促す重大決意」の政府声明
   同7月11日 海軍軍令部 南京爆撃のための特別航空隊設置
   同7月17日 蒋介石 廬山談話で対日抗戦の決意を表明
   同7月28日 「北支事変」として、華北に日本軍総攻撃
   (この間も、日中戦争拡大派と不拡大派の対立続く)
   同7月30日 天皇 東北地区を平定し、戦線不拡大の意見
   同8月7日 「日支国交全般的調整案要綱」作成
   同8月8日  外務省「日華停戦条件」作成
   同8月8日 大村基地から、台北基地に海軍爆撃機が移動
   同8月9日 上海にて大山事件(大山中尉他1名が射殺される)
   同8月10日 大山中尉、大尉に昇進し、海軍大臣より家族に弔電
   同8月13日 第2次上海事変(海軍陸戦隊と中国軍が交戦)
   同8月14日 近衛内閣 「暴支膺懲」声明
   同8月14日 海軍 台北基地より、上海・南京へ渡洋爆撃開始
   
 盧溝橋事件を契機に、日中戦争をさらに拡大させるかどうか、すなわち中国東北部に作った傀儡政権「満州国」周辺で止め、対ソ戦に備えるべしとの不拡大派、中華民国の首都である南京まで攻めるべしとの拡大派が争ったが、天皇の意見もあり、停戦協議が進行している時期に、謀略事件である「大山事件」が起こるのである。
 大山事件とは、上海海軍陸戦隊の大山中尉と斎藤水兵が、上海で中国軍に殺害されたとする事件で、これを受けて「暴支膺懲」(横暴な中国を懲らしめろ)の掛け声のもと、海軍は宣戦布告もないまま、上海・南京爆撃を強行した。停戦協議は行き詰まり、華中に戦線は拡大し、第2次上海事変から全面的な日中戦争へと進んでいった。
 著者は、大山事件が海軍による謀略であり、二人を敢えて一触即発状況であった中国軍虹橋飛行場に向かわせ、大山少尉ら2名の死を持って、停戦協議を破綻させ、中国全土への空爆を強行したとの説を展開されているのである。
 海軍の上海爆撃で先を越された陸軍も、上海から南京へ攻撃を進め、兵站も十分に準備ないまま、南京を制圧する際、食料の略奪や婦女子への暴行、便衣隊の疑いと称して、民間人を含む大虐殺を起こすのである。
 本書では、大山事件が海軍により周到に準備された謀略事件であるとし、その根拠として、大山中尉の日記、8月8・9日の行動・態度、現地調査を待たず、翌10日午前3時には、戦死として家族に電報が発信されたこと、陸軍暗号担当が語った「大山事件は謀略だったとの発言」、「残された家族への弔慰金」などを挙げられている。
 大山中尉は、「七軍神」の一人として、敗戦まで靖国神社に胸像も建てられていた。日中全面戦争の勃発を招き寄せた功績により、というところであろう。

<海軍 重慶への市街地無差別爆撃>
 「海軍は南京渡洋爆撃、そしてこの南海空爆作戦において本格的に南京政府の屈服と中国国民の敗北を目標とした戦略爆撃を決行したのである。これらの事実から、日中全面戦争は、「陸軍が海軍を引きずっていった」のではなく、逆に「海軍が陸軍を引っ張っていった」ことが証明される」
 
 1937年12月蒋介石は、南京を放棄し、重慶を臨時首都とする。これ以後、海軍は、中国主要都市の軍事施設等への爆撃を行い、市街地への無差別爆撃を行う。
 南京や重慶にいた報道関係や医療関係の欧米人も犠牲になった。1937年9月国際連盟は、「都市爆撃に対する国際連盟の対日非難決議」を採択している。外交上の抗議を受け、外務省は「爆撃停止」と回答するも、これを不満とし海軍は爆撃を継続している。多くの中国民衆を犠牲にした、この中国各地への空爆が日米戦争への実践訓練そのものであったと著者は言う。
 日中戦争開始後の、1937年9月帝国議会は、総額20億円の「臨時軍事費」を容認、その10分の1が、航空戦力の拡充に充てられた。航空機の増産と航空兵力の錬成など、日米戦争を想定した航空戦力の強化は、制空権を確立した中国内で実践されたのである。
 1937年8月15日の渡洋爆撃では、護衛航空機なしで行われたため、「空前の戦果」報道にも関わらず、出撃した20機の九七式爆撃機の半数が、対空砲火と迎撃機によって撃墜・使用不能となった。そこで航続距離の長い護衛戦闘機の開発が求められ、それが零戦の開発となった。1940年に零式戦闘機が完成し、零戦が優秀な性能を持ち、戦果を挙げたため、日米戦争での航空決戦も可能との認識を海軍が持つに至ったという。
 
<自滅のシナリオ それは海軍が作った>
 日本の敗色が濃くなり、サイパン基地より、日本本土への爆撃が可能となって以降、米軍は日本国内の軍事施設は言うに及ばず、市街地への焼夷弾投下を行い、市街地への無差別爆撃により、民間人・女性・子どもも含めて大量殺戮をおこなった。原爆投下後も、無差別爆撃は続いた。
 アサート329号に吉村先生の寄稿「空襲の反省のために」があるが、まさに「戦意を喪失させる」ために、東京大空襲(3/10)や大阪大空襲(3/13)などの市街地・民間人への攻撃となっていった。
 米軍が、日本の市街地への無差別爆撃を実施したのは、明らかな国際法違反であり、広島・長崎への原爆投下こそ、その最たるものであろう。しかし、無差別爆撃を中国において行ったのは、海軍であった。
 
 「日本の侵略戦争により犠牲にされたアジア太平洋地域の民衆の死者は中国人もふくめおよそ2000万人といわれるほど、膨大なものとなった。また、日本国民も大きな被害をこうむり、その犠牲者は、軍人・軍属230万人、民間人を合わせて計役310万人が死亡したと言われる」
 
 しかし、東京裁判では海軍の司令長官以上には死刑判決は出なかった。敗戦時の嶋田海軍大臣もA級戦犯となったが、死刑になっていない。米軍(連合軍)と、旧海軍は、すべての責任を陸軍の暴走として処理し、共に行った市街地無差別爆撃を不問にしたと言わざるを得ない。
 
 本書は、膨大な手記や海軍の記録、日本海軍航空史からの引用などを通じ、読み物としても面白いが、コンセプトがはっきりしている。海軍の行動から「日中戦争」「アジア太平洋戦争」を分析するという手法も、興味深い。(2015-08-17佐野秀夫) 

【出典】 アサート No.453 2015年8月29日

カテゴリー: 平和, 書評, 歴史 | 【書評】海軍の日中戦争 アジア太平洋戦争への自滅のシナリオ はコメントを受け付けていません