【投稿】「慰安婦」問題・日韓合意と共産党(続) 

【投稿】「慰安婦」問題・日韓合意と共産党(続) 

<<「厚顔極まる神経」>>
 名護市辺野古への新基地建設をめぐり、安倍政権が工事の中止に追い込まれた、3/4に成立した代執行訴訟の和解条項。これには県側との「円満解決」に向けた協議をすることが盛り込まれていたのであるが、わずか3日後の3/7に、国は協議の段取りを一切踏まずに、埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事の処分に対し、石井啓一国土交通相は是正を指示した。
 3/8付け琉球新報・社説は、「辺野古是正指示 独善と強権に対抗しよう」と題して、冒頭、「分かりやすく構図を描こう」、「仲介者に促され、もめ事は話し合いで解決することを目指すと約束してみせる。だが、舌の根も乾かぬうちに相手方に短刀を突き付け、あるいは足を踏み付けながら、こちらに従えと威圧する。それでいて、世間には笑顔を見せて善人ぶる。そんな厚顔極まる神経を持っているとしか思えない。時代劇に出てくる悪代官の話ではない。沖縄を組み敷こうとする現代の為政者だから始末に負えない。」と厳しく指弾している。
 この構図は、「慰安婦」問題をめぐる日韓合意とそっくりそのままである。
 仲介者(アメリカ)に促され、もめ事(「慰安婦」問題)は話し合いで解決することを目指すと約束してみせる(日韓合意)。だが、舌の根も乾かぬうちに相手方に短刀を突き付け、あるいは足を踏み付けながら、こちらに従えと威圧する(「最終的・不可逆的解決」「蒸し返すな」)。
 同じ3/7、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は日本への勧告を公表した。委員会を代表して記者会見したジャハン委員(バングラデシュ)は慰安婦問題の日韓合意に言及し、12月の日韓合意については「被害者中心の立場に立ったものではない」として、「我々の最終見解は(慰安婦問題を)まだ解決されていない問題だと見なしている」と発言。最終見解の慰安婦に関する記述は、2009年の前回審査で9行だったが、今回は1ページ強と大幅に増加。日本がこれまでの審査で出された勧告を依然として実行していないとして「遺憾の意」を表明、日韓合意に元慰安婦たちが関与し、その意向が反映されるべきだとの考えを示し、同時に「指導者や当局者が責任を軽くみる発言をし、被害者に再び心的な傷を負わせるような行為を控える」といった新たな勧告、学校の教科書で慰安婦問題を取り上げることも求めている。これに対し、岸田文雄外相がすぐさま「国際社会の受け止めとはかけ離れている」と述べるなど、反発を表明している。

<<「元慰安婦自身からも疑問が投げかけられたのは重大」>>
 しかしさらに、3/10、「戦時性暴力」の問題で中心的な役割を果たしているゼイド・ラアド・フセイン国連人権高等弁務官がスイスのジュネーブで開かれた国連人権理事会の年次演説で、慰安婦被害者を「第2次世界大戦当時、日本軍の性奴隷生存女性」と規定し、慰安婦問題が日本政府の戦争犯罪であり、国の犯罪であることに注意を喚起し、「関連当局者がこの勇敢で尊厳のある女性たちに寄り添っていくのが極めて重要である」とし「最終的には彼女たちだけが、真の補償を受けたかどうかを判断できる」と強調。「最終的かつ不可逆的に解決する」とした日韓合意について、「国連の人権関係者はもとより、元慰安婦自身からも疑問が投げかけられたのは重大。結局、真の償いを受けたかどうかは彼女たちだけが決められる」と述べ、日韓両政府間の合意があったとしても、直接の苦しい経験をした慰安婦被害者が認めない限り、この問題は解決できないことをあらためて指摘したのである。
 そして韓国国会外交統一委員会の羅卿ウォン(ナ・ギョンウォン)委員長は3/8、日本の議会に慰安婦合意の誠実な履行を強調する書簡を送り、その中で、国連女子差別撤廃委員会から慰安婦問題についての声明があったことに言及し、「日本政府は合意当時とは違い、軍と官憲による慰安婦の強制連行を否認するなど、慰安婦問題に対する責任から逃れようとする姿を見せている」として、「日本政府が慰安婦動員の強制性を否定していることに対して懸念と遺憾を表明する」と伝えている。
 こうした国際社会の日韓合意に対する厳しい見解は、日韓合意を「前進」と評価する共産党のしんぶん赤旗も報道せざるを得ない。3/9同紙は、「民法の女性差別撤廃 再勧告 国連委 「慰安婦」問題で遺憾表明」と題する報道記事で、「日本軍「慰安婦」問題については、被害者への補償、加害者処罰、教育を含む「永続的な解決」など、同委員会をはじめ国際諸機関からの勧告が実施されていないと遺憾を表明。日韓合意も、「被害者中心の対応」が全面的には行われていないと指摘しています。被害者の権利を認識し、被害の回復と同時に、公人や政治家の「加害を否定する発言」の防止を求めました。」と報じている。しかし自らの党のこれに対する姿勢についてはまったく述べられてはいない。

<<「指摘を受け止め本気の改善を」>>
 それからやっと3/20に至って、しんぶん赤旗は「女性差別是正勧告 指摘を受け止め本気の改善を」と題する「主張」を掲載。その中で「国連女性差別撤廃条約にもとづく日本政府の実施状況について、今年2月、国連女性差別撤廃委員会(ジュネーブで開催)で検討がおこなわれ、今月7日に、同委員会は、日本についての評価と勧告を盛り込んだ文書(「総括所見」)を発表しました。とりわけ今回の審議で日本政府は、日本軍「慰安婦」をめぐる問題で異常な姿を示しました。日本政府代表団(団長・杉山晋輔外務審議官)は、“強制連行はなかった”“性奴隷という表現は事実に反する”“条約批准以前の問題だ。報告は必要ない”などの主張を居丈高に展開しました。女性差別撤廃委員からの厳しい批判とともに、審議をジュネーブで傍聴した日本のNGOから、「安倍政権下での異常な事態」という声が出されたのは当然です。」と述べている。
 しかしそこでは、国際社会から厳しく批判されている日韓合意の評価は完全に抜け落ちている。やはり、昨年12/29の共産党・志位委員長の談話(「問題解決に向けての前進と評価できる。」)がら抜け出られないのであろう。
 前号で紹介した醍醐聰さんの「日本共産党が今回の日韓合意後も、正しい見地に立って「慰安婦問題」の解決に貢献する運動に取り組むには、合意を「前進」と評価した12月29日の志位談話を撤回することが不可欠である。あの談話の誤りに頬かむりしたまま、合意後に示された韓国の世論、元「慰安婦」の意思とつじつまを合わせようとするから、我田引水の強弁に陥るのである。」という指摘、そして「日本共産党への4つの質問」に対して共産党はいまだ何も応えていないのである。「指摘を受け止め本気の改善を」なすべきなのは、安倍政権ばかりか、結果として安倍政権をつけあがらせ、免罪している共産党にも問われているのである。やはり、遅きに失しても早急に路線を転換すべきであろう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.460 2016年3月26日

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【投稿】驕り高ぶる安倍政権に、野党統一候補で闘おう!

【投稿】驕り高ぶる安倍政権に、野党統一候補で闘おう!

<北朝鮮「ミサイル」に欣喜雀躍>
 2月7日、北朝鮮は国営放送を通じ「地球観測衛星『光明星4号』」を同国東倉里の発射場から打ち上げたと発表した。テレビでは満面の笑みを浮かべる金正恩の姿が映し出されたが、安倍政権の喜びはそれ以上のものがあるだろう。
 今回発射されたとみられる「テポドン2改」は、弾頭部の大気圏再突入能力はなく、大陸間弾道弾としては未完成のものである。さらに打ち上げ後の解析では、発射直後、不随意に部品が脱落し「衛星」は地球周回軌道上に投入されたものの、正常に作動していないことが確認されており、衛星運用技術も未熟であることが改めて明らかとなっている。
 しかし日本政府は発射準備が進む中、これを「事実上の長距離弾道ミサイル」として1月28日自衛隊に破壊措置命令を発し、イージス艦、地対空ミサイルを日本近海、東京、南西諸島に配備、仰々しい迎撃態勢をとった。
 北朝鮮は事前に打ち上げ期間と飛行コースを、関係国際機関に通告しており、日本海や東京方面には落下するはずもないのに、繰り返し市ヶ谷の防衛省に展開するPAC3の映像をマスコミを通じて拡散したのは「安心してください、配備してますよ」というパフォーマンス以外の何ものでもない。
 実際は、当初2月8日からとなっていた打ち上げ期間を、北朝鮮が6日になって7日からとしたため、防衛省幹部は土曜日におっとり刀で休日出勤、翌日の宮古島への配置完了は、発射の数時間前というきわどいタイミングとなり、所管官庁が弛緩した状態だったことが明らかとなった。
 悠長かつ「あけっぴろげ」な「人工衛星」の打ち上げにもかかわらず、1日前倒しされただけで日本政府は翻弄された。これが地下サイロに秘匿され、奇襲が可能な中距離弾道弾「ノドン」であれば迎撃は間に合わなかったであろう。
 こうした失態には素知らぬ顔で政府は発射情報を受け、さも緊急事態の様に国家安全保障会議(NSC)を招集した。マスコミは緊張した面持ちで総理官邸に参集する安倍ら政府首脳を映し出したが、会議の場では笑みを溢していたであろう。
 2月10日には、独自制裁として、北朝鮮への10万円以下、人道目的以外の送金禁止、すべての船舶の日本入港禁止などの措置を発表した。これに対して北朝鮮は拉致被害者の再調査を中止し、「特別調査委員会」も解体することを明らかにしたが、安倍政権は「想定内」と涼しい顔である。
 安倍政権にしてみれば、政権浮揚効果の見込めない拉致問題など、日韓関係の「改善」が期待できる今日、本気で取り組む気などなく放置していたも同然の状況だった。故に今回の制裁強化は北朝鮮がこのような反応を示すのを期待してのことだったわけである。
 北朝鮮の脅威を口実に、軍拡、国内治安強化を図らんとする安倍政権にとって1月の「水爆実験」に続く、今回の「ミサイル発射」は格好の「燃料投下」となったわけである。

<対中軍拡に利用>
 安倍は今回のミサイル騒動を、戦争法の合理化にも利用しようとしている。アメリカを狙うミサイルを、集団的自衛権に基づき迎撃する「日米新ガイドライン」のケーススタディになったというわけである。
 おりしも1月24日からは横田基地などで日米合同指揮所演習「キーンエッジ16」が行われており、実戦さながらになったという。
 しかし、日本政府は北朝鮮の「ミサイル」がどこに向かおうと、個別的自衛権に基づく独自の対応を行っており、集団的自衛権とは無関係である。逆に戦争法施行前の段階で、集団的自衛権を前提とする対処が行われたならそのほうが問題であろう。
 しかし北朝鮮はあくまでダミーであり、安倍政権の本当の狙いが対中軍拡にあることは明らかである。
 1月28日、台湾の馬英九総統がスプラトリ―(南沙)諸島の太平島に上陸、1月30日にはアメリカ海軍が南シナ海のパラセル(西沙)諸島で「航行の自由」作戦を実施した。
 中国政府は、馬総統の行動を支持、米軍の作戦に対しては違法行為として厳しく非難した。これに対しアメリカ政府は馬総統の行動を批判、2月17日には、パラセル諸島の永興島に中国軍の地対空ミサイルが配備されていることを明らかにした。
 台湾総統選挙で大敗した国民党・馬総統の行動は「最後っ屁」のようなものであるが、各国の思惑が錯綜し南シナ海情勢は混沌としている。
 こうした中、海上自衛隊は2月16日~18日にP3C哨戒機をベトナムに派遣、同国海軍との合同訓練を実施した。P3Cはこの間フィリピンにも派遣されており、南シナ海を挟む形での活動範囲の拡大は、微妙な同海域の状況を複雑化させる露骨な軍事介入につながる。
 今後は海自艦船の越比両国への派遣も恒常化すると思われ、安倍政権はこの地域の緊張激化を一層進めようとしている。
 
<沖縄を愚弄する安倍政権>
 対中国の最前線となる沖縄県への圧力も強まっている。1月24日の宜野湾市長選挙では政府与党が推す現職が圧勝した。安倍政権はこの結果に大喜びし、辺野古新基地建設が沖縄県民の支持を受けたかのような幻想をふりまいている。
 しかし、宜野湾市民の民意はあくまで普天間基地の撤去であり、辺野古新基地建設容認ではないだろう。こうした中、1月29日には福岡高裁那覇支部が政府、沖縄県に対し二つの和解案を提示した。
「根本案」は辺野古新基地を建設したうえで、運用開始から30年以内に返還か、軍民共用化を求めて政府が対米交渉を行う。「暫定案」は政府が移設作業を中断し、代執行訴訟を取り下げ、県の埋め立て承認取り消しの違法性について提訴し県と再協議する。となっている。
 翁長知事は2月15日「暫定案」を念頭に協議を進める姿勢を明らかにしたが、政府は和解に否定的であり、埋め立て―建設強行を示唆している。裁判所は政府敗訴の可能性を示唆し「根本案」の検討を希望しているが、アメリカとの交渉を避けたい安倍政権は難色を示している。
 一方で県民世論の懐柔・分断を画策し、沖縄出身の著名人を参議院比例区に擁立するなど、あくまで強引な政治的決着を目論んでいるのである。
 さらに沖縄・本部町でのテーマパーク建設を計画していたUSJが、撤回を検討していることが明らかとなった。宜野湾市長選挙でも普天間跡地への「ディズニーランド」進出が打ち上げられたが、選挙が終われば用済みということであろう。
 もともと「美ら海水族館」などを擁する沖縄有数の観光地でさえ「採算が取れない」(USJ親会社)のに、宜野湾市ではさらに困難なことは火を見るより明らである。「ディズニーランド」など、選挙目当てで振り撒かれた幻想以外の何ものでもなく、あまりに沖縄県民を愚弄するものであろう。
 参議院選挙で再び沖縄の民意を示すことが望まれる。
 
<改憲勢力伸長阻止を>
 慰安婦問題の「解決」、甘利切り捨てなどで安倍政権の支持率は回復傾向にある。これに胡坐をかく安倍政権は改憲に向け強権的姿勢を強めている。
 安倍は1月21日の参議院決算特別委員会で、憲法のどの条項を改正すべきか検討する段階との考えを示し、2月4日の衆議院予算委員会では、国防軍の設置を盛り込んだ自民党の改憲案について「党として将来有るべき憲法の姿を示した」と評価し、自衛隊への疑いをなくすべきではないかとの考えもあると、9条2項改正の可能性にも言及するなど、改憲への傾斜を強めている。
 とりわけ大規模災害対処を口実とした「緊急事態条項」の設定を、改憲の突破口とせんとして、参議院選挙に於いておおさか維新の会など事実上の与党を含めた3分の2以上の改憲勢力の確保に躍起になっている。
 2月8日衆議院予算委員会で高市総務相は放送局への「電波停止」について言及した。政権に批判的なキャスターを飛ばすだけでは物足らず、放送局そのものを解体するぞという脅しである。
 今年は2,26事件80年での年である。このクーデター未遂事件を契機に陸軍を軸とする軍部の暴走は加速し、日本型ファシズム体制が確立したが、現在は安倍自民党自らが軍部の役割を担っていると言っても過言ではない。
 閣僚が民主主義を否定する言論弾圧を公言してはばからず、それを肯定する安倍政権の姿勢は「緊急事態条項」=戒厳令の真の目的とその危うさを如実に示しており、参議院選挙では改憲勢力を封じ込める必要がある。
 この間野党共闘は難航していたが、2月19日共産党は一人区に関しては、「国民連合政府」に拘らず戦争法廃止を軸とする「統一候補」に協力する方針を示したことで大きく動くこととなった。
 4月24日の北海道5区補欠選挙では、この動きの中で共産党が民主党に歩み寄り野党候補が一本化した。一方急遽行われることとなった京都3区補選については、安倍政権がおおさか維新に議席を譲り渡す可能性があり、民主、共産は何としても阻止すべきであろう。
 さらに参議院大阪選挙区では、最悪の場合おおさか維新2、自民1、公明1と「与党独占」の危険性さえある。民主、共産両党はこの間の流れを踏まえ、野党共倒れを防ぐため最大限の努力を傾注する必要があるだろう。
 世界的な右派勢力伸長の中、アメリカでは民主党の大統領候補選で格差是正を掲げるサンダース候補が大健闘を見せている。これには2011年のOccupy Wall Streetに通底するものがあるだろう。
 日本においても昨年の戦争法案反対行動で示されたエネルギーを、投票行動に結びつける取り組みが求められている。2月20日の社民党大会では5野党党首が共闘姿勢をアピールしたが、これを単なるパフォーマンスに終わらせないようさらなる努力が期待されている。(大阪O)

【出典】 アサート No.459 2016年2月27日

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【投稿】「福島県県民健康調査」甲状腺がんデータを巡る原発推進派と共産党系学者の奇妙なシンクロ

【投稿】「福島県県民健康調査」甲状腺がんデータを巡る原発推進派と
                      共産党系学者の奇妙なシンクロ
                            福井 杉本達也 

1 低放射線の影響について・雑誌『日本の科学者』が豊田論文を巡って・共産党系野口邦和氏らの反論掲載拒否
 日本科学者会議の機関誌『日本の科学者』2015年10月号において,増田善信氏の「福島原発事故による放射性ヨウ素の拡散と小児甲状腺がんとの関連性,およびその危険性」と題する論文が掲載されたが、この論文を「間違った情報と知見にもとづいて執筆された問題だらけの論文」と決めつけ、清水修二(「県民健康調査」検討委員会委員)・野口邦和・児玉一八3氏が連名により増田論文への反論文の掲載を同誌編集部に求めたが、これを拒否されたため、「放射線被曝、放射線影響に関する限り、日本科学者会議はもはや科学者集団ではなくなったと言わざるを得ません。」)として、3名が退会した(清水修二2015,12,9「左巻健男ブログ」から転載2015,12,19より)。
 野口氏らは反論文で「原発事故の影響で小児甲状腺がんがふえるかどうか、今の時点で結論を出すのは時期尚早である。…今度の事故による程度の低線量被曝では、統計的に確認できるほどの増加が観察される可能性は小さい。それでも考えられる評価基準のすべてにおいて「シロ」である確証が得られない限り、「疑わしきはクロ」とみるのが正義だ、と増田氏は主張されるだろうか。それで誰が救われることになるのか、考えてほしいものである。」(『放射線被曝の影響評価は科学的な手法で―甲状腺がんをめぐる増田善信氏の論稿について』清水修二・野口邦和・児玉一八 2015,10,13「同上:左巻」)と述べ、「放射線はシロ」の判断を下した。100万人に1~2人といわれる極めて稀な病気であるはずの小児甲状腺がんが、事故後なぜ20~50人と多発しているのか。野口氏らの論理は将来、小児甲状腺がんになるかもしれない被災者を切り捨てる国家・国家の意見を代弁する山下俊一氏らと同一である。このような、反論文を掲載すれば『日本の科学者』編集部は永久に「科学者」ではなくなる。編集部が掲載拒否したことは至極当然である。

2 山下俊一氏らと野口邦和氏らとの奇妙なシンクロ
 野口氏らはUBSCEAR(国連科学委員会)2013年報告書や政府・東電発表の資料を金科玉条のごとく扱っているが、事故直後に「メルトダウン」を認めた発言をした原子力保安院の中村幸一郎審議官を直ちに更迭し、事故を「レベル5」と発表したような政府の資料をそのまま鵜呑みにすることはできまい。水俣病に取り組んだ故宇井純氏が民間会社で働いていた時、氏は年間50kgの水銀を工場外に捨てていた。3人で150kg、20年間で3,000kgは流していた。ところが会社から国への報告はたった34 kgで2桁の差だったという。野口氏らが、チェルノブイリでは「5日間以上も国民に隠されていたため初期の緊急時対応がまったく採れなかったのに対し…それなりの緊急時対応を採ることができた」(同上:反論文)というが、全くのデタラメである。浪江町では放射性物質が流れた方向に避難させられ、飯館村が全村避難となったのは事故後1ヵ月もたった4月11日である。その間、山下俊一氏らは飯館村を訪れ「放射線は怖くない」と説得して回っていたのである。野口氏らはこうした事実に目を背けている。

3 28年前・チェルノブイリの重大な結果を学ばず「広瀬隆批判」を行い、3.11を招いた野口氏
 チェルノブイリ事故2年後の1988年5月、日本科学者会議は、「原子力をめぐる最近の諸問題」というシンポジウムを開催、「広瀬隆『危険な話』は危険な本」というテーマで、原沢進氏(立教大学原子力研究所教授)と野口邦和氏(日本大学)が報告した。野口氏は、「原発推進者を事実上免罪する『危険な話』の危険な結論、きわめてデタラメかつ危険な書物であると指摘」し、報告は、『文化評論』1988年7月号に「広瀬隆『危険な話』の危険なウソ」と題されて掲載され、『文藝春秋』1988年8月号にも「デタラメだらけの広瀬隆『危険な話』」として要約が転載された。
 野口氏は『文芸春秋』おいて、広瀬氏を「『甲状腺ガンがすさまじい勢いで発生する』は、文学的表現であろうか。…しかし『稀にみる真実』であると主張するのであれば、このように情緒的な表現だけを用いるのは間違いの元で、避けるべきであると思う。…甲状腺ガンおよび甲状腺結節の潜伏期はともに10年である。…広瀬さんは『(甲状腺ガン)の兆候は出はじめている』(括弧内の挿入は私)とあっちこっちで講演して回っているわけだから、完全なウソ、作り話である。」とチェルノブイリ事故での甲状腺がんの発生の事実を否定した。しかし、野口氏が強固に否定した甲状腺がんは発生した。今回の福島事故も同様の論理で否定している。
 この野口氏の広瀬批判に対し、吉岡斉氏は「野口の最も基本的な主張は、ソ連報告書をフィクションと断定する広瀬の主張は、広瀬自身がソ連報告書を反証するだけの解析結果を示さない限り、説得力がないという主張であった。つまり野口は事実上、ソ連報告書の内容の全面的な擁護をおこなったのである。ソ連政府による事故情報独占体制のもとで、広瀬がソ連政府の公式見解を反証する解析結果を示すことが不可能であることを承知のうえで、野口はソ連政府を全面的に擁護したのである。(吉岡『新版原子力の社会史』)とその体制擁護を的確に指摘した。情報を独占する体制を擁護し、情報が限られる市井の科学者やジャーナリストには厳しく当たる姿勢は、今回の増田氏への批判にそっくりそのまま当てはまる。野口氏はこの28年間まったく学習していない(参照:Hisato Nakajimaブログ『東京の「現在」から「歴史」=「過去」を 読み解く』2012.1.27)。
 
4 科学至上主義の「神話」
 “専門家”の“科学的評価”は、本当に正しいのか?“科学者”は“中立的立場”なのか?「大企業なり国家なりがスポンサーになるということが第一次大戦の後起こってまいりまして、これが一番成功したものはアメリカのマンハッタン計画であって、確かアメリカの80%以上の科学者がそこで組織されたといいます。」と宇井純氏は述べている。また佐藤文隆氏は米国の物理学の博士号取得者数が第二次大戦後、スプートニク・ショック以降の冷戦激化下で急増し、ベトナム戦争の泥沼化でピークアウトする推移を解説しながら「純粋な基礎研究でも国家に奉仕する仕組みに絡み取られてしまうことである。どんな基礎研究に没頭していても、国家の枠組みからのドロップアウトではなく、国家機構に組み込まれた営みなのである。逆説的だが、どんな役立たずのことをやっていても『お国の為』という網から逃れられないのである」(佐藤『科学者、あたりまえのことを疑う』2016.1.10)と喝破している。 野口氏らはあたかも自身を「国家機構に組み込まれない」、「中立的判断」が可能な第三者を装っているが、国家のステークホルダー(利害関係者)の一員であることに変わりはない。その立ち位置を誤魔化して、あたかも第三者を装い、福島の被災者に「今見つかっている甲状腺がんは、事故由来の放射線被曝の結果であるとは考えられない」と御託を並べることがいかがわしいのである。それを「御用学者」と呼ぶ。
 
5 甲状腺がんでも水俣病における厚生省・東大医学部と同様の役回り
 水俣病は1956年熊本大学医学部の研究チームにより、チッソ水俣工場の排水中の有機水銀原因説が有力視されたが、1960年、厚生省はこれをもみ消すため強引に東京大学医学部を中心に「田宮委員会」を設置し、清浦雷作東京工業大学教授らが「アミン説」という偽説を発表、あたかも原因は未解明であるかのような印象を振りまき、水俣病の解決を決定的に遅らせた苦い教訓がある。
 福島原発事故にかかる甲状腺がんについては、この間、岡山大学の津田敏秀氏らが疫学的な観点から報告しているが(国際環境疫学会・医学雑誌「Epidemiology」(インターネット版)2015.10.6)、野口氏らは争点の軸をずらし、「放射性物質の放出量が少ない」、「チェルノブイリでは4~5年後から急増しており、事故直後から発病することはありえない」、「スクリーニング効果である」、「日本は海産物を通して日頃からヨウ素を十分摂取している」、「日本は事故直後から食品摂取規制を行った」(反論文)等様々な理由をつけている。山下氏も同様であるが、津田氏の疫学からの指摘に対し、何の裏付けもなく、その場しのぎの「偽説」を強引に振り回すことではない。甲状腺に影響を及ぼす放射性ヨウ素131は事故から8日間で半減してしまったが、その動きはほとんど分かっていない。なぜ、20~50倍も発生しているかを真摯に考えることである。宇井純氏は「誤ちを認めることがなければ、今後も誤ちは繰り返されるであろう。」と指摘したが、同様のことが今回も繰り返されようとしている。まことに戦慄すべきことである。
 
6 「核」にしがみつく共産党と「核」からの離脱を目指す「日本科学者会議」
 「放射線被曝,放射線影響に関する限り」とする野口氏らの見解は、米原子力委員会主導のABCC(The Atomic Bomb Casualty commission)→重松逸造(放射線影響研究所(ABCC改組)理事長)→長瀧重信→山下俊一氏らと同一線上にあり、この分野については、部外者からの批判を一切受け付けないということである。なぜなら、放射線被曝,放射線影響は核戦略の根幹をなす部分であり、放射性降下物による内部被曝を一切無視し、核兵器の「放射線による長期にわたる殺傷」を隠蔽し、「核兵器は通常兵器と同じ」であるとする米核戦略に沿うように情報を操作する必要があるからである(矢ケ崎克馬『隠された被曝』)。野口氏は28年前のチェルノブイリ事故の隠蔽においては「日本の原発は安全だ」とする「原子力広報」PA(Public Acceptance)担当の役割を果たしたが、福島事故においては、「原子力発電問題は高度の科学論争をともないます。思想性の低さゆえに…『反原子力ムラ』を作ってしまうのは愚かなことだ」(清水:『放射線被曝の理科・社会』野口・清水・児玉共著)などと反原発の隊列を後ろから殴打するなど、野口氏らは国家・東電の犯罪に加担・隠蔽する共同正犯の役割を果たしている。「核」の暴走を化学エネルギーを土台とする現代の技術において制御できなかった福島原発事故直後、共産党の不破哲三前議長は『「科学の目」で原発災害を考える』において、「1930年代に人間は核エネルギーを発見しました。これは、“第二の火の発見”と呼ばれたほどの人類史的な大事件でした。ものすごい巨大なエネルギーの発見でしたから…このエネルギーを使いこなす、そして人間が人間の目的のために制御するには、たいへんな研究が必要でした。」(「しんぶん赤旗」2011.5.14)とし、いまだに「核」エネルギーの亡霊にひれ伏し、しがみついている。また、ネット上においても、野口氏らの論法を支持する投稿も多く、共産党内には「核」を放棄したくない勢力が根強く存在する。共産党が今後とも「核」=軍産複合体の側に留まるのか、「核」からの離脱を目指すのか厳しくその姿勢が厳しく問われている。 

【出典】 アサート No.459 2016年2月27日

カテゴリー: 原発・原子力, 政治, 杉本執筆 | 【投稿】「福島県県民健康調査」甲状腺がんデータを巡る原発推進派と共産党系学者の奇妙なシンクロ はコメントを受け付けていません

【投稿】参院選・野党共闘をめぐって 統一戦線論(21) 

【投稿】参院選・野党共闘をめぐって 統一戦線論(21) 

<<「もうダメかと思った」>>
 2/20に開かれた社民党大会で、来賓挨拶に立ったシールズの本間信和さん(筑波大)は、「正直なところ、もうダメかと思った。野党共闘、本当にうまくいかないと思っていた中で、昨日のニュース(野党5党の党首会談で共闘を確認したこと)を聞いて胸をなで下ろしていたところだ。今年の夏、政党間の利害関係や立場や世代の違いを超えて、今の強権的な安倍政治に対し「ノー」と声を上げないといけない。若者だけではなくあらゆる世代の人たちが声を上げたのが昨年の夏だ。こうした声を受けて今、野党の人たちが自分たちの責任をかけて共闘している。日本政治史では今までなかったことだ。ただ、これで状況が楽観できるものになったとは思っていない。困難な戦いになるということは百も承知。それでも私たちには小さな違いを超えて、一緒に安倍晋三政権を倒すという戦いを戦い抜く準備と覚悟はできている。支持政党がない人が40%いるこの国で、どう政治参加させるか。政治にかかわる全ての人が考えなければいけない。政党も市民もすべてがともに戦い、この参院選、勝ちを狙いにいきましょう。」と語った。ここにこれまでの失望と今後への熱い期待の両方がこめられている。
 シールズ(「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動)」)をはじめ、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「立憲デモクラシーの会」「安保法制に反対するママの会」、これらをさらにまとめ上げた「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」、それらを支え、それぞれに結集する多くの団体や個人の熱意こそが野党共闘の流れを作り出し、押し上げてきた原動力であった。
 あまりにも遅くイライラさせられてきた野党共闘ではあるが、ようやくのことでここまで来たというところであろう。
 2/19、民主党の岡田代表、共産党の志位委員長、維新の党の松野代表、社民党の吉田党首、生活の党の小沢代表の野党5党首が国会内で会談し、以下の4項目で合意した。
 (1)安保法制の廃止と集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回を共通の目標とする。
 (2)安倍政権の打倒を目指す。
 (3)国政選挙で現与党およびその補完勢力を少数に追い込む。
 (4)国会における対応や国政選挙などあらゆる場面でできる限りの協力を行う。
 5野党党首が、直面する参院選を前にしてこのような選挙協力で合意し、誠実で真剣な協議に入ることを確認したこと、その意義は大きい。これが早急に具体化されることが望まれる。

<<「自民党に天罰を、公明党に仏罰を!」>>
 その正否を左右する当面の焦点は、この4月に行われる北海道と京都の衆院補欠選での野党共闘が実現するかどうかであるが、北海道5区は候補者の一本化が実現。京都でも野党候補の一本化ができるかどうか、先の合意が試されている。
 北海道5区補選(4/24投開票)は、2/19、共産党北海道委員会と民主党北海道が候補者一本化に合意し、共産党が独自候補を取り下げ、維新、社民も推薦、新人の池田真紀氏(43)が統一候補となった。その「統一候補」勝利のための共闘協定は、
 1、立候補予定者は安保法制(戦争法)の廃止をめざす
 2、立候補予定者は立憲主義と民主主義の回復をめざす(集団的自衛権行使容認の閣議決定撤回を含む)
 3、立候補予定者は国会活動において、上記1、2の項目に従って行動し、所属会派の状況にかかわらず、その姿勢を最後まで貫くことを誓約する。
としている。
 問題は、この道5区補選は、自民党町村信孝議員の死去に伴うもので、町村氏の娘婿の和田義明氏(44)が立候補を表明しているが、公明に加えて、新党大地・鈴木宗男代表が共産党が入った野党統一候補の擁立に反対、安倍首相と取り引き、手のひら返しで自民候補推薦に廻ってしまったことである。さらには鈴木氏の長女・民主党の鈴木貴子衆院議員(比例北海道)を自民に引き抜き、次の衆院選で候補として擁立する取り引きをし、鈴木氏が「貴子を民主から離党させる用意はできている」と伝えたのに対し、安倍首相は「自民で育てたい」「北海道では大地が影響力を持っている。鈴木氏はキーマンだ」と応じたという。鈴木氏はこれを「ありがたく思っている」と堂々と公言している。
 前述の社民党大会で、『週刊金曜日』編集委員の佐高信さんは挨拶の中で、「やはり私たちが戦う敵は公明党を含めた自公政権だ。さっき志位委員長や小沢さんとかがいろいろ話をしていたが、北海道の鈴木宗男の大転換にみられるように、共産党と結ばないということは公明党、創価学会と結ぶということだ。それを私たちは強調していきたい。公明党なんて「平和の党」なんかじゃない。そんなことは全く頭にない。そして創価学会と公明党と使い分けをしてきた。そういうことにメディアも乗ってはならない。自民党に天罰を、公明党に仏罰を!」と強調した。まさにしかり、と言えよう。

<<「思い切った対応を行いたい」>>
 この2/20の社民党大会には民主、共産、維新、生活の野党4党の党首や幹事長が出席し、それぞれの野党共闘にかける思いを語っている。
 社民党・吉田党首:「私は党首に就任して、一貫して社会民主主義的なリベラル勢力結集を目指したいと訴えてきた。そのタイミングは近づきつつあるように思う。決断すべき時には大胆に決断し、皆さんとともに前進していく決意だ。昨日、野党5党共同で戦争法、安全保障関連法の廃止法案を国会に提出した。大きな一歩だ。統一署名運動、違憲訴訟団との連携、総掛かりの大衆行動など、これまでの私たちの歩みに自信と確信を持ち、戦争法廃止と活動阻止に向けて新たな運動を展開しようではないか。本日お見えの各政党の皆さんとともに、野党統一候補擁立に全力をあげていく。」
 民主党・枝野幹事長:「5党はそれぞれ政策には違いがある。違いはあるが、いまこの国が直面している3つの大きな危機を食い止めなければならない。この点については一致している。一つは何と言っても立憲主義の危機。権力が憲法に拘束されなければ何に拘束されるんだ。勝手に憲法の解釈を変えて社会が成り立つはずがない。この危機はどんな理念、政策が違っていても政治を行う上での共通の土俵でなければならないはずだ。二つ目に国民生活の危機だ。経済財政政策では違いがあるかもしれない。しかし、今の日本の現状は、中間層はどんどんどんどん崩れていって、貧困層がますます苦しくなって、国民生活の危機を迎えている。これを何とか食い止めなければならない。この点ではそれぞれ色々な違いがあっても共通しているのではないかと思う。そして民主主義の危機だ。この夏の参院選。もちろん民主党の幹事長として私は民主党の議席を一つでも多くしたいと思っているが、それ以上に大事なことは自公とその補完勢力をいかに最小化させるか、そちらの方こそが最優先だ。そんな立場で戦っていく。」
 共産党・志位委員長:「日本共産党が社民党の大会に招待いただき、ごあいさつをするのは、日本社会党時代も含めて今日が歴史上初めてだ。大変うれしく、光栄に思う。これからますます久しくお付き合いをさせていただきたい。昨日の合意、これは野党共闘を求める国民の声に応えた画期的な合意だと考えている。誠実かつ真剣に協議に臨み、速やかな合意を得るために全力を挙げたい。特に参院の32の1人区の戦いは非常に重要だ。この1人区の候補者の調整にあたっては、戦争法を廃止するという大義の実現のために、わが党としては思い切った対応を行いたいと考えている。」
 維新の党・今井幹事長:「私は今一番怖いのは安倍政治の本当に強引な政権運営のやり方だ。こういう人格を持っている人をこの国のリーダーにしておくことは本当に危険だ。今度の参院選、あるいは同時に行われるかもしれない衆院選、これは私たちの国に民主主義を取り戻す選挙だと思う。われわれは社民党の皆様と、そして今日いらっしゃる他の党の皆様と、とにかく民主主義を取り戻すこの1点で一緒に戦って参りたい。」
 生活の党と山本太郎となかまたち・小沢一郎代表:「要は、お招きいただいた4党と社民党、この5党が本当に口先だけではなくて、お互いに信じ合い、協力して、選挙に臨んで、安倍政権を打倒し政権交代をはかる。それがわれわれの使命であり、責任であると思う。そのために本当に格差のない平和な社会をつくる政権、われわれから言わせれば「国民の生活が第一」を目指す政権を樹立するために皆さんと一緒に全力で頑張る。」
 それぞれに決意を語り、温度差はあれども野党共闘前進への意気込みが感じられる。しかし、言や良し、現実が伴わなければいかんともしがたい。それぞれの政党エゴ、セクト主義が跋扈する苦い、情けない事態がこれまで続いてきた。そのようなことを許さず、野党共闘を前進させ、追い込む力、原動力は、さらに広範な人々を結集した多様な闘いと運動であることがあらためて再確認されよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.459 2016年2月27日

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【書評】古市憲寿『誰も戦争を教えられない』

【書評】古市憲寿『誰も戦争を教えられない』
         (2015年、講談社α文庫、850円+税) 

 『不幸な国の幸福な若者たち』で注目された社会学者による戦争・平和論である。そのトーンは時には挑発的であり、戦争を語るにしては不謹慎という批判を右からも左からも浴びそうである。しかし一面の真理は突いている部分もある。本書は「博物館という日常」と「戦争という非日常」の結節点に存在する各国の「戦争博物館」(「平和博物館」)に焦点を合わせ、そこから戦争(平和)を考えようとする。
 まず、「アリゾナ・メモリアル」(ハワイ真珠湾攻撃によって沈没した戦艦アリゾナの残骸の上に建設された記念館–その横には日本が降伏文書を調印したミズーリ号が停泊している)と、南京大虐殺記念館について語られる。
 「両者とも、第二次世界大戦において日本と戦火を交え、日本に勝利した国という点では共通している。/しかしその『勝利』の描き方は二つの場所で大きく異なっていた。比較的シンプルにアメリカの『勝利』が描かれるアリゾナ・メモリアルと違い、南京では日本軍の『残虐性』を強調した上で、中国共産党の寛大さによってもたらされた日中友好が提示される。/この二つの戦争博物館が描く物語は、中国とアメリカという国家の対日観に大きく関係している」。
 つまり戦争博物館は、その国家が戦争をどのように考えているかを可視化し、戦争の「記憶」をどのように後世に伝えていくのかという政治の場所である。著者によれば、近代国家は「政教分離という前提を認めつつ、これに対して新しい「国民神話を、国家プロデユースのもと作ろうとした」。この政策の一端が戦争博物館である。しかしこの「犠牲者を追悼するという崇高な施設」も、「理念が崇高なだけで人々は訪れはしない」という現実がある。「『富国強兵』や『戦争に勝つこと』が国民共通の物語ではなくなった時代において、いかにして人々に博物館に来てもらうことができるのか」ということが問題になっている。そこで対応に各国の姿勢が出てくる。
 たとえば、同じ敗戦国の「日本とドイツの決定的な違いは、歴史観という『態度』よりも、実施に移された『行動』に顕著に現れる。たとえばベルリン中心地だけでも、ナチスやホロコーストを語る大型歴史施設は、国立歴史博物館を含めて五つもある。(中略)注目したいのは、この記念館と博物館が建設された場所だ。ブランデンブルク門のすぐ側という政治的超一等地に、いきなり犠牲者追悼の巨大なモニュメントが置かれているのだ。半径数百mには、首相府、ドイツ連邦議会議事堂、連邦参議院などが位置する。日本でいえば、皇居前に外国人戦没者慰霊碑を建てるようなものだ」として、この他残されている強制収容所などを見学した後に、ドイツの姿勢を「本物」と「場」を重視する姿勢に見る。これに対して本書は「『戦争、ダメ、絶対』と繰り返しながら、僕たちはまだ、戦争の加害者にも被害者にもなれずにいる」と日本のアイマイさを語る。
 そして戦争に関する「大きな記憶」(歴史に関する博物館や教科書を作り、次の世代へ継承すること)と「小さな記憶」(個人の戦争体験)とを対比して、「平和博物館とは、まさに『小さな記憶』を拾い集めて、『大きな記憶』として次の時代へ残していく試みに他ならない」が、しかし「そもそも『小さな記憶』を素直に拾い集め、つなげたところで、それがそのまま『大きな記憶』になるわけではない」と指摘する。この点は議論のあるところであるが、本書は問いかけと感想に留まる。
 しかしエピソード的にはいろいろな事項が紹介されている。その主たる流れは戦前と戦後との連続性であり、一例をあげると「日本の各地では、旧日本軍関連施設を有効活用して戦後復興に役立ててきた。戦後、旧陸海軍省から大蔵省に移管された国有財産は土地だけで2669平方キロメートルに及ぶ。神奈川県に匹敵する大きさだ。/こうした国有財産は農地や学校、病院等に転用された。富士重工業や三洋電機などの民間企業に払い下げられた軍事関連施設も多い」。その他「総力戦体制」のために生まれた「日本型経済システム」(長期雇用契約、年功的賃金、間接金融システム、厚生省の設置と国民健康保険制度(1938年)、厚生年金保険制度(1944年)、給与所得者の源泉徴収(1940年以降)等々もそうである。
 さらに極めつけは、戦争関連施設(博物館、博覧会)の設計、建設、展示にまつわる乃村工藝という企業の存在である。この会社はショービジネスの専門企業として、戦前は戦意高揚の「支那事変聖戦博覧会」「大東亜建設博覧会」「墜落敵機B29展」等を受託(社名も「日本軍事工藝株式会社」に変更)。戦後は「平和産業大博覧会」をはじめ、ミュージアムブームに乗り、船の科学館、国立民族博物館、国立歴史民俗博物館、多くの企業博物館を手がけた。そしてこの博物館大手企業が「沖縄県平和祈念資料館」と「遊就館(靖国神社の資料館)」をも手がけているのである。この経緯から著者は「ある博物館を『偏向だ』とか『危険施設だ』と糾弾する意味はあまりないように思う。同じ乃村が関わっているのだ。そこに特別な洗脳の仕掛けが隠れているとはとても思えない」と述べるが、ここに本書の視点の限界が集約されている。
 それ故この視点から、「戦争博物館」(「平和博物館」)の活性化のために、「キーワードは『ディズニー化』」だ」として、さまざまな戦争博物館のエンターテインメント化を提唱し、また戦争自体も、ロボット兵士等の無人兵器の発達や「民営化」やサイバー戦争によって、国民の人命は尊重される時代になったと楽観的な予想を述べる。
 しかしながら本書の言う戦争の理解そのものがはなはだ狭いものであることを指摘しなければならない。「戦争のない状態が平和である」とするホッブズの時代とは異なり、「平和のない状態が戦争である」とするガルトゥングの現代には、国家対国家の古典的な戦争時代が過ぎ去り、世界的に政治的社会的イデオロギー的対立が日常的な戦争状態を引き起こし、多数の難民を出しているという現実がある。これをどう見るかについて本書は語らない。また「大きな時代」の「小さな記憶」をいかにして「大きな記憶」に反映させていくのか、という課題は残されたままである。本書の見識が問われるところである。(R) 

【出典】 アサート No.459 2016年2月27日

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【投稿】「慰安婦」問題・日韓合意と共産党

【投稿】「慰安婦」問題・日韓合意と共産党

<<ますます居丈高な安倍首相>>
 「慰安婦」問題に関する日韓合意をめぐって、安倍首相は「最終的かつ不可逆的」に解決した問題を、何をいまさら蒸し返すのだという態度でますます居丈高になっている。
 1/18の参院予算委員会で安倍首相は、先月の日韓合意について、「(旧日本軍慰安婦に関し)戦争犯罪のたぐいのものを認めたわけではない」と開き直り、「(慰安婦問題は)日韓請求権協定で解決済みとの立場は変わらない」と断言。さらに、「日本のこころを大切にする党」の中山恭子議員が「国際社会に日本に対する誹謗があるが、歴史的事実をきちんと知らせて名誉を守るべきだ」との発言に乗じて、「海外プレスを含め、正しくない誹謗中傷があることは事実だ。性奴隷、あるいは(慰安婦の数が)20万人といった事実はない。政府として、それは事実ではないと、しっかりと示していく」と強調、外国メディアの報道に噛み付いている。岸田外相も海外メディアが軍隊慰安婦を「性奴隷」と記述していることに対し、「不適切であり、使用すべきではないというのが日本の考え方」と述べ、「(性奴隷という表現は)事実に基づかないもので、日韓外相会談で韓国政府はこの問題の公式名称が『日本軍慰安婦被害者問題』であることを確認した」と答弁。
 こうした首相や外相の居直りとも言える発言に対して、韓国政府・外交部の当局者は「日本政府の慰安婦強制動員はすでに国際的にも立証された確固たる真実であり、日本側がこれを論議の対象にしようとすることにいちいち対応する価値もない」と一蹴。さらに「日本軍が慰安婦を強制動員したという事実は被害者の証言、連合国の文書、極東国際軍事裁判所の資料、インドネシア・スマラン慰安所関連のバタビア臨時法廷判決、クマラスワミ報告書、オランダ政府の調査報告書など、さまざまな資料で確認されている」と反論。岸田外相の発言に対しては、「名称が何であれ、その本質が戦時女性性暴行、すなわち戦争犯罪という事実は変わらない。国際社会でその本質通りに性奴隷と呼ぶのは当然のこと」と反論している。
 また、韓国外務省報道官は1/31、慰安婦問題に関し、日本が「政府が発見した資料の中に軍や官憲による強制連行を直接示す記述は見当たらなかった」という立場を示していることについて「慰安婦の動員、募集、移送の強制性は否定できない歴史的事実だ。国際社会が明確に判断を下している」と反論。さらに報道官は「日本政府が、慰安婦問題の(日韓)合意の精神、趣旨を損なう言動を控え、被害者の名誉と尊厳を回復し、傷を癒やすという立場を行動で示すよう」求めている。
 ところが、安倍首相は、1/22の相当に長い施政方針演説の中で、この日韓合意について触れたのは、「韓国とは、昨年来、慰安婦問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、長年の懸案に終止符を打ちました。」と、たったこれだけ、合意の内容について、首相自身の「心からのおわびと反省の気持ち」の表明について一切触れようとさえしなかったのである。岸田外相が合意の際、代読した「安倍内閣総理大臣は、日本の内閣総理大臣として、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やしにくい傷を負われたすべての方々に対し、心からのおわびと反省の気持ちを表明する」という立場など、まるでなかったかのようなそ知らぬ顔である。「長年の懸案に終止符を打った」という、安倍首相の傲慢で、何の誠意もなく、卑劣で、薄っぺらな政治姿勢が露骨に見て取れる。
 安倍政権は、日韓合意などどこ吹く風で、「慰安婦」問題の本質が「戦時女性性暴行、すなわち戦争犯罪である」「その本質通りに性奴隷と呼ぶ」という国際社会の共通認識の全否定に乗り出しているのである。

<<国際社会での蒸し返し>>
 さらに安倍政権が悪質なのは、日韓合意で「今後、国連等、国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」と合意していたにもかかわらず、日本側から再び「慰安婦」の強制連行はなかった、性奴隷ではなかった、などと国際社会の場で蒸し返しだしたことである。
 2/16、ジュネーブの国連欧州本部でおこなわれた国連女性差別撤廃委員会による日本報告に対する審議の中で、日本政府代表団の杉山晋輔外務審議官は「慰安婦」問題について、「日本政府が発見した資料の中には軍や官憲による、いわゆる強制連行を確認できるものはなかった」と問題をあらためて蒸し返し、さらに、「性奴隷という表現は事実に反する」と述べ、列席の委員から「だれも歴史を変えることはできないし、逆行することもできない」と厳しい批判を受けても、「委員のご指摘は、いずれの点においても、日本政府として受け入れられるものでない」とあくまでも固執したのである。
 こうした日本政府側の発言に対して、韓国外務省の趙俊赫報道官は2/17、「合意の精神と趣旨を損なうような言動を慎み、被害者の名誉と尊厳を回復し、心の傷を癒そうという立場を行動で示すように再度求める」と韓国政府の立場を明らかにしている。ところが、菅義偉官房長官は2/17の会見で「提起された質問に対し事実関係を述べただけであり、韓国政府を非難、あるいは批判するものに当たらないから、合意に反するものではないと思っている」と述べ、「非難・批判」には当たらないと、あくまでも歴史修正主義の立場を今後も蒸し返すことを示唆している。
 安倍政権にとって、日韓合意はもう二度と謝罪しない、反省もしない、しかし加害と戦争犯罪の歴史を否定する歴史修正主義は推し進める、誠に都合のよい空証文にしか過ぎなかったのである。

<<「どうしてこんな合意で私たちを愚弄する」>>
 「アジア女性基金」の中心メンバーだった和田春樹さんは、責任を認め謝罪するという意思が明確に伝わらなかったことが同基金事業の反省点との認識から、首相自らが謝罪の言葉を伝え、政府の拠出金は「謝罪のしるし」との趣旨をはっきりさせることが必要だと指摘している(「朝日」2015/12/29)。さらに和田さんは、突然の日韓外相会談の合意を「安倍さんの一種の奇襲作戦だった」「それをできるだけ目立たない形で、しかも記憶に残らないようなかたちでやって、アメリカの承認を得ることを狙ったと考えられる。」存在しているのが両国外相の共同発表文だけであり、「首相のやったことではない、外務大臣のやったことになっている。」ことにそのことが示されている。「その謝罪というものが隠された形で出されている。これでは被害者にまったく通じない。」「首相は国会で謝罪答弁を」と述べられている(「社会新報」2016/1/13号)。
 この問題が真の意味で前進するためには、まずは首相自らが直接、被害者に謝罪すること、さらに国会で謝罪答弁を明確に行うことこそが要請されているにもかかわらず、安部政権はこれから逃げ回り、拒否しているのである。
 1/26、来日した日本軍「慰安婦」被害者のイ・オクソンさん(90)とカン・イルチュルさん(89)は、衆議院第一議員会館の会議室で記者会見を開き、「どうしてこんな合意で私たちを愚弄するのか。なぜ安倍(首相)は一度も出てこないのか」「なぜ被害者の目を瞑らせて、隠し、いくらかのお金なんか持って来て、ハルモニたちの口を封じようとするのか。絶対そうは行かない。悔しくて仕方がない」と、日本政府が公式謝罪し法的責任を認めると共に、安倍晋三首相が直接謝罪することを要求した。この「悔しくて仕方がない」思いにこそ日本政府は応えなければならない。

<<「今からでも遅くはない」>>
 前号で、「慰安婦」問題の日韓合意をめぐって、筆者は、「共産党までが翼賛、評価」と小見出しをつけて、この合意直後の昨年12/29の共産党・志位委員長の談話(「問題解決に向けての前進と評価できる。」)を批判し、「今からでも遅くはない、こうした評価を転換すべきであろう。」と指摘した。いまだ転換はなされていないが、情けないのは、安倍首相の施政方針演説に対する志位委員長や山下書記局長をはじめ、共産党の衆参両院議員の誰一人として、本会議や予算委員会での質問で、この日韓合意について一切触れることがなく、当然、安倍首相自らが直接、被害者に謝罪すること、さらに国会で謝罪答弁を明確に行うことをまったく要求しなかったことである。
 「しんぶん赤旗」紙上では、さすがに無視しきれなくなったのであろう、ようやく1/24になって初めて、「どうみる日韓合意 弁護士・大森典子さん」を掲載した。しかしそれも「これから何が大事になるのでしょうか」「今回の合意には、被害者が求めている真相究明や教科書への記述に言及していないなど、足りない部分があるとの指摘もあります。」「ソウルの大使館前にある少女像の問題はどうお考えですか。」との、日韓合意を「前進」と評価した志位談話の重石から抜けられないおずおずとした質問で、あくまでもインタビュー記事である。
 しかし、前記の被害者お二人の来日という事態になって、共産党自身の姿勢が問われ、1/28の同紙記事は「笠井・紙議員「慰安婦」被害者と懇談 安倍首相は合意基づき具体的事実認め謝罪を」と題し、「問題解決に向け力を尽くすことを約束しました。」と報じている。しかしその姿勢は、「被害者や支援者らの粘り強いたたかいが今回の合意で安倍政権に『おわび』と『反省』を言わせたと敬意を表し、・・・」などと、いまだに、安倍首相のまやかしの「お詫び」と「反省」を「成果」と認識し、志位委員長の日韓合意を「前進」と評価する談話をあくまでも維持し、見直す意思がまったくないことを示している。それでも「問題解決に向け力を尽くす」ならまだしも、いまだに志位委員長が、あるいは両議員が、この間の幾度もあった国会質問の場で、安倍首相に対して日本の国会での公式な謝罪答弁や被害者への直接謝罪を要求し、まやかしの日韓合意を追及した事実はない。搾取と抑圧、差別と迫害に対して共に闘う、連帯と国際主義の精神はいったいどこに消えてしまったのであろうか。遅きに失したとはいえ、今からでも追及し、要求すべきであろう。
 「慰安婦」問題研究の第一人者である吉見義明(中央大学) さんは、岩波書店の『世界』2016年3月号で、「真の解決に逆行する日韓「合意」—-なぜ被害者と事実に向き合わないのか—- 」と題してこの問題を鋭く追及されている。吉見さんは【執筆者からのメッセージ】の中で「日韓『合意』は、よくない意味で衝撃的だった。まず、被害当事者をたなあげにして、両国政府が最終的・不可逆的に解決されることを確認する、としてしまったこと、ついで、この『合意』を歓迎するという声が内外でひろがったことだ。」と指摘されている。この内外の声の中には、志位談話も当然含まれているといえよう。

<<「志位談話の撤回は不可欠」>>
 さらに、前述の1/28の「しんぶん赤旗」の記事をめぐって、東京大学名誉教授の醍醐聰さんは、【「慰安婦問題」に関する志位談話の撤回は不可欠である】と題して、以下のように述べられている。(醍醐聰のブログ 2016年1月28日)

 「志位氏が代表質問で取り上げた課題は確かに、どれも目下の日本にとって喫緊の問題である。しかし、残虐な人権、個人の尊厳の蹂躙を意味する「慰安婦」問題をいろいろな国内問題と秤にかけてよいのか? 安倍首相の理性、政治家としても品性の崩壊を雄弁に表す彼の歴史認識を質すことは「安倍政治を許さない」運動の一翼とするのにふさわしい問題のはずである。日本共産党が今回の日韓合意後も、正しい見地に立って「慰安婦問題」の解決に貢献する運動に取り組むには、合意を「前進」と評価した12月29日の志位談話を撤回することが不可欠である。あの談話の誤りに頬かむりしたまま、合意後に示された韓国の世論、元「慰安婦」の意思とつじつまを合わせようとするから、我田引水の強弁に陥るのである。
日本共産党への4つの質問
 ①「今回の合意にもとづき、加害と被害の事実を具体的に認め、それを反省し謝罪することが重要」という発言を裏返すと、笠井氏も安倍首相の「お詫び」は加害と被害の事実を具体的に認めないままの謝罪だったと判断しているに等しい。的確な歴史認識に依拠しない「お詫び」がなぜ「前進」なのか、なぜ、たたかいの成果といえるのか?
 ②合意後の自民党議員の妄言というが、安倍首相が1月18日の参議院予算委員会で示した「慰安婦」集めに強制はなかった(強制を裏付ける資料は見つかっていない)という発言を笠井氏あるいは日本共産党は「妄言」と考えていないのか? この発言について韓国内では合意に違反するという反発が広がっていることを笠井氏は知らないのか?
 ③安倍首相や自民党議員の間から、10億円の資金拠出は日本大使館前の「少女の像」の移転とセットだとみなす解釈や意見が公然と出ているが、これについて日本共産党はどう考えているのか? 被害国の市民の発意で建立された「少女の像」の移転を加害国が要求することを日本共産党はどう考えているのか? 政府間の「合意」で移設したりできると考えているのか?
 ④笠井氏は昨年末の日韓合意で終止符を打ったとする安倍首相の発言を批判し、「今回の合意にもとづき加害と被害の事実を具体的に認め、それを反省し謝罪することが重要だ。安倍政権をこの立場に立たせるよう、一層努力していきたい」と発言しているが、そんな悠長なことを言っていてよいのか?
 今回の日韓合意で終止符ではないと日本共産党がいうなら、「不可逆的解決」が既成事実化しないよう、直ちに国会で日韓「合意」のまやかしを質すべきところ、昨日(1月27日)、衆議院で代表質問に立った志位委員長は安保法制の廃止、立憲主義の回復、アベノミックスの3年間の検証、貧困と格差の問題の解決、緊急事態条項の危険性などについて安倍首相に質問したが、日韓合意、慰安婦問題については一言も言及しなかった。
 「不可逆的解決」が既成事実化しつつある中で開かれた今国会で、このような代表質問では、懇談した元「慰安婦」に対して2人の国会議員が「一層努力したい」、「問題解決に向けて力を尽くす」と語った約束はどこへいったのか?」

 この醍醐聰さんの「日本共産党への4つの質問」にどのように応えるか、共産党の根本的姿勢が問われている。(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.459 2016年2月27日

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【投稿】「改憲」安倍政権に終止符を

【投稿】「改憲」安倍政権に終止符を
             ―急がれる選挙態勢づくり―

<砂上の「慰安婦解決」>
 昨年12月28日、ソウルで日韓外相会談が開かれ「従軍慰安婦問題」について「最終かつ不可逆的解決」が合意された。11月に行われた、初めての日韓首脳会談では、同問題について協議は進めるものの、決着時期や内容については明らかになっておらず、越年は不可避とみられる中、急転直下の合意となった。
 日韓両政府の合意内容は、日本政府が①軍の関与を認め②安倍首相がおわびと反省の気持ちを表明し③政府予算で補償費用10億円程度を拠出する。韓国側は日本大使館前の少女像について適切な処置を行う、となっている。
 韓国側は、謝罪の閣議決定や立法措置による補償など、日本政府の法的責任の明確化を求めてきたが、妥結内容は①、②という河野談話、村山談話の追認に止まり、③も国家補償という位置づけはなされていない。
 今回の合意内容は、2012年にあったとされる「幻の日韓合意」=①野田首相(当時)がお詫びの文書を元慰安婦に送る②日本政府の予算で補償を行う、とほとんど同様である。
 その意味でもっと早く合意できてもよいものであったのが、日韓の政権交代で反故にされ、その後の安倍政権の強硬姿勢でこの程度の内容でさえ遠のいた形となったと言える。
 問題解決の背景には、東アジアの不安定化を危惧するアメリカの強い意向があったと言われている。安倍政権は「慰安婦問題は解決ずみ」という立場に固執し、謝罪とわずかな補償でさえ拒否してきたのだから、今回の決定は大転換であり、また屈辱であったであろう。
 一方の韓国としても、これまでの原則的な主張から見れば、日本に対する大幅な譲歩、妥協ともいえる内容での決着を急いだのは、アメリカの考えを無視できなかったからと言われている。
 日韓首脳会談以降このような予兆はでていた。12月17日に朴大統領に対する名誉棄損裁判で、産経新聞前ソウル支局長に無罪判決、22日には元日本軍軍属の「請求権」訴訟に関して訴えが棄却された。
 これらの司法判断の背後にも、アメリカの意を受けた政府の意向があったと考えられる。
 こうした当事者抜きの政治決着に、元慰安婦や支援団体「挺対協」などは強く反発し、とりわけ少女像の取り扱いに関しては「移転は認められない」との決意を強めている。内容的な前進がないかな3年間放置され、その間多くの元慰安婦が亡くなり、生存者は46人となっている。
 反発の声に対し安倍政権は、「少女像は韓国政府が適切に処理するものと認識している」と、合意直後から素知らぬ顔をするばかりか「少女像が撤去されなければ財団への拠出はしない」趣旨の発言が相次ぐなど、早速合意を反故にしかねない二枚舌ぶりを見せている。
 4月には韓国総選挙、日本では7月には参議院選挙、あるいはW選挙が取り沙汰されている。この結果如何で今回の合意は崩れ去る可能性がある。
 2002年の日朝両首脳による「平壌宣言」では、拉致問題の決着がなされ、戦後補償問題解決、国交正常化に向けて動き出すはずであったが、一時帰国した拉致被害者の再出国取りやめ、再調査の不履行など、双方が強硬措置に出たため宣言は有名無実と化した。
 拉致問題に関しては、日本は被害者であり小泉内閣の措置は一定の支持を受けたが、小泉内閣の官房副長官であった安倍が、慰安婦問題に関しても何時態度を豹変させるか分かったものではないだろう。
 実際、今回の「妥協」に関しては安倍の支持基盤である排外主義者、レイシストなどから失望の声が相次いでいる。1月14日の自民党部内会議で桜田元文科副大臣が「慰安婦は職業売春婦なのに犠牲者として宣伝工作に使われている」と暴言を吐いた。
 外相会談で「今後はお互いに非難や批判を控える」と合意したにも関わらず、早くも本音がでた形となった。安倍や菅は苦しい弁明に追われ、発言は撤回されたが、こうした本物のゲスの極みはまだまだ多数いると思われ、日本側の不誠実さが浮き彫りとなった。
 
<緊張激化の利用を策動>
 このような安倍にとって追い風となったのが、1月6日突如として行われた北朝鮮の「水爆実験」である。第一報に官邸は色めき立ったものの、当初から「水爆」については、アメリカや韓国が疑念を示しており、爆発規模や放射性物質など様々な観測結果からも「水爆」を否定する物証が相次ぎ、核実験としても成功していないのではないかとの見方も示されている。
 この事実に安倍も「水爆とは考えられない」と認めざるを得なかった。しかし安倍は国会審議で「北朝鮮の核開発をより一層進展させるものであり、日本の安全に対する重大な脅威」との考えを示した。安倍は金正恩以上に核実験の成功を願っているようである。
 安倍政権は今回の「水爆実験」を軍拡、とりわけミサイル防衛の進展に利用し、内政面においては拉致問題放置の口実にしようと躍起になっている。日米が進めるミサイル防衛計画については、プーチンが12月31日に発表した新たな「ロシア連邦国家安全保障戦略」で、NATOの拡大を主要な脅威としつつ、欧州に加えアジア太平洋、中東へのミサイル防衛システム展開が地域を不安定化させている、と批判している。
 安倍政権はロシアの批判に対し、今回の北朝鮮の暴走を口実にミサイル防衛計画を正当化した。韓国に向けては慰安婦合意以降も燻る批判に対し、日韓連携を進める材料として利用している。
 さらに中国に対しては、北朝鮮への実行力ある制裁を求め、連携した対応を唱えながら軍事力での対抗を強めている。菅は1月12日の記者会見で「中国海軍艦艇が尖閣諸島周辺の領海内に入った場合、自衛隊に海上警備行動を発令する可能性がある」と述べ、武力衝突にも発展しかねない挑発を示唆した。
 安倍政権は南西諸島の軍事拠点化を進めているが、那覇地裁は昨年12月24日付で、与那国島陸自基地建設差し止めに関する仮処分決定申請を却下した。政府の動きに対する警戒感は石垣島でも高まっており、部隊配備候補地の周辺3地区は石垣市に反対の申し入れを行ったが、与党支持の市長は「市として抗議することはできない」と述べるなど、反対の声を封じ込める動きが強まっている。
 このような日本政府の言動を見せつけられながら、北朝鮮対応での共同歩調を求められても、中国としては信用しないだろう。中国政府としては「北朝鮮の行為が日本の軍拡を正当化している」と金正恩に言うべきであろう。
 安倍政権は東アジアの緊張激化を利用するには飽き足らず、中東地域の混乱も狙っているようである。イラン―サウジアラビアの対立に関し、国際社会は沈静化に向けて様々な動きを見せているが、日本政府は具体的な動きは見せていない。
 安倍政権は、戦争法の必要性を説明するために「ホルムズ海峡の機雷封鎖」を例に出してきたが、今回の事態がそうした見解に有利に働くのを待ち望んでいるようにも見受けられる。
 しかしこの地域、のみならず国際的な懸案はイスラム国であることは世界中が承知しており、イランもサウジアラビアも対立の拡大は望んでいない。現在ペルシャ湾には、アメリカ、フランスの原子力空母を中核とする多国籍艦隊が展開し、イスラム国に対する軍事作戦が進行中であり、イラン、サウジの武力衝突など論外である。
 1月12日にはアメリカ軍の小型艦艇2隻がイラン領海内で同国革命防衛隊に拿捕されたが、乗員は翌日には解放され、17日にはイランに対する経済制裁が解除された。このような世界史の転換点ともいえる動きを、客観的に捉えることができずに、牽強付会するのが安倍外交の一つの特性である。

<野党共闘進めよ>
 情勢を客観的に捉えられない安倍政治は内政に於いても引き続き発揮されている。安倍は年明け以降、改憲への執念を、誰にはばかることなく露骨に示している。 
 4日の年頭記者会見では「憲法改正を参議院選挙で訴えていく」と参議院選挙の争点とすることを明らかにし、1月10日のNHK「日曜討論」では「自公だけで(参議院の)3分の2議席は大変難しいので、おおさか維新を加えた改憲勢力で3分の2を確保したい」と踏み込んだ発言を行った。
 これに対して民主党や共産党は強く反発、公明党も安倍発言を牽制した。安倍は7日の参議院本会議で「改憲はできるだけ多くの党の支持をいただき、国民の理解を得るための努力が必要不可欠」と答弁した。
 しかし、これは戦争法案審議に関しても、耳にタコができるほど聞かされたセリフである。実際は与党の強行採決で成立させており、今回も全く信用できないものである。実際は議会内改憲勢力を糾合しての強行突破を目論んでいることは明々白々であろう。
 国会で安倍は、拉致問題の政治利用に関する蓮池透氏の著書に基づく追及、女性パート労働者問題についての糾問に対して相変わらずの逆切れを起こしている。
 民主、維新、共産は共同歩調で安倍政権を追及し、参議院選挙へ設けての態勢を整えなければならないが、なんとも心もとないものがある。共産党との協力については、維新のみならず連合も反対を示すという難局に直面している。
 「国民連合政府」に関しては論議すべきであるが、戦争法廃止のみで「政府樹立」は無理であろう。戦争法廃止は共通公約とし、具体的に可能な限りの選挙協力を比例、選挙区双方で進めるべきである。
 その際統一候補として、この間安倍政権の圧力で番組降板を余儀なくされたキャスターを担ぐくらいの成果を挙げなければ、有権者の支持は得られないだろう。(大阪O)

【出典】 アサート No.458 2016年1月23日

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【投稿】COP21・パリ協定は「京都議定書」の葬送

【投稿】COP21・パリ協定は「京都議定書」の葬送
                            福井 杉本達也

1 不平等条約「京都議定書」の死
 地球温暖化対策のための気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が12月12日までフランス・パリで開催された。採択されたパリ協定で何が決まったのか。日本の温暖化議論を主導してきた明日香壽川東北大学教授は協定を「京都からパリへの旅は終り、京都は歴史となった」とし、「手放しで喜ぶことには、少々違和感を覚える」と表現した(「パリCOP21:終わりと始まり」2015.12.24)。
 1997年の「京都議定書」では、温暖化ガス排出量の4割を占める米国・中国が参加せず、また1990年を基準としたことでEUは東欧併合後の非効率な石炭火力や工場などの削減可能量の余裕があったが、日本だけは1990年に対し2008~12年の間に6%の削減目標を義務付けられた。この間、日本は「第一約束期間」に減るどころか、1.4%増えるという結果に終わった。そのため1,562億円の税金を投じて海外から排出権を買うはめとなった。
 パリ協定では温暖化ガス削減の数値目標を持つ国は増えたが、目標は「通知」のみであり「義務」ではない。毎年1000億ドルの途上国への資金支援も「合意」ではなく、「決定」という扱いであり、法的拘束力はない。「パリ協定の誕生は京都議定書の死を意味する。名前だけでなく、京都議定書が持っていた各国目標などに対する法的拘束力も消えた」のである(明日香:同上)。『不平等条約』はようやく葬り去られた。

2 南極の氷は増えている:NASA衝撃の報告
 パリ協定を主導したのは米国である。開催直前に米航空宇宙局(NASA)が報告書を出した。人工衛星による観測の結果、1992年から2008年までの南極の氷が「減る」のではなく「増えている」というのである。南極の氷については地球が温暖化しても、寒冷化しても増えるという説があったが、それが裏付けられた。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2013年に出した『第5次評価報告書』では、「過去20年にわたり、グリーンランド及び南極の氷床の質量は減少しており、氷河はほぼ世界中で縮小し続けている(高い確信度)」(第1作業部会「政策決定者向け要約」) など、南極の氷は減り続けているとしていたが、ウソであることが明らかとなった(日経:2015.11.6)。これまで、IPCCは「地球温暖化」→「氷の融解」→「海面上昇」→「低地の水没」→「ツバルなどの島嶼国の消滅」という“素人に分かりやすい”絵をかいて温暖化の危機感を煽ってきたが、肝心な前提が崩れることとなった。もちろん「シロクマの生活圏である」北極の氷が減れば海面が上昇するというのはデマである。「低地の水没」という決定的な被害がなければ、「大雨の頻度、強度」・「干ばつ」・「熱波」などの「極端な気象現象の多発」といった現象は、必ずしも温暖化の影響によるものとは証明できず、むしろ、北極圏までの耕作適地面積の拡大といったプラスの面も出てくる。1000年頃の中世の温暖期には北欧のヴァイキングがグリーンランドで耕作を行っていた跡もある。

3 詐欺集団その1:気象庁
 気象庁は昨年12月21日、「世界の年平均気温がこれまでの最高値を更新」したと発表した。その要因として、「近年、世界と日本で高温となる年が頻出している要因としては、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響が考えられます。」としつつ、続けて、「世界の年平均気温が高くなった要因の一つとして、2014 年夏から続いていたエルニーニョ現象が2015 年春以降さらに発達したことが考えられます。」(「2015 年(平成27 年)の世界と日本の年平均気温(速報))と結論を書いている。エルニーニョ現象が今年の平均気温が高くなった要因だといえばよいところを、わざわざ近年の傾向を付け加えるという姑息な手段で、読者を混乱させている。無論、エルニーニョ現象と温室効果ガスの増加とは何の関係もない。気象庁の“期待”とは裏腹に2000年前後から温暖化は頭打ちとなっている。ところが2015年は最高値を更新したことから「温暖化傾向が復活した」と気象庁は“主張したい”ところだが、気象分析では過去最長のエルニーニョ現象が原因であり、仕方なく上記のような人を惑わす報告となったのである。

4 詐欺集団その2:マスコミ
 日経社説は「すでに温暖化が原因と疑われる気候の異変や海面上昇が各地で起きている。まず打撃を受けるのは途上国の貧しい人々だ」(2015.12.15)と主張する。それを受けるように、朝日社説は「国土の水没を恐れるツバルなど小さな島国の懸命な訴えを、大国も軽んじられなかった」と述べ、解説記事の方ではCOP21の議論をリードしたのはマーシャル諸島など「島国」の『野心連合』であり、「海面上昇の被害に直面する島国は、温室効果ガス排出が急増する中国やインドにも先進国と同等の取り組みを求め」、「温暖化被害の救済策の要求を弱める代わりに、1.5度目標」を記載させた(2015.12.15)と子供だましの『HERO』物語を創作した。欧米が本当に「島国」の訴えに聞く耳を持つなら、今日、国際的紛争などどこにも存在しないであろう。そもそも、島国に「海面上昇の被害」の事実はない。中国やインドが議論に参加したのは、今冬PM2.5に覆い尽くされた北京や世界一の大気汚染都市デリーなど、あまりにも国内の環境汚染がすさまじく、何らかの対策を打つ必要に迫られていたからである。一方、米国は最終合意で「温室効果ガスを総量で削減することを『shall』(しなければならない)から、『should』 (すべきだ)という表現に書き換え」させたことで、米議会の承認を得る必要がないと判断したからに過ぎない(朝日:2015.12.15)。どちらも国内事情を優先しての決定である。

5 「排出権取引」という詐欺の継続と新たな詐欺手段の開発
 「空気のような存在」というと、目立たない、あってもなくても良いような存在のたとえ話に使われるが、地球上の生命にとっては必要不可欠の社会的共通資本である。その「空気」を金儲けの手段にしようというのが「排出権取引」である。市場メカニズムを活用するなどと言って欧米の金融資本があえて複雑な制度を作り飯のタネにしてきただけである。
 さらに輪をかけて、最近化石燃料の投資から金融を撤退させよう「化石燃料ダイベストメント(投資撤退)」という動きもある。これは、原発に比べて圧倒的に安い石炭火力・特に最新鋭の石炭ガス化複合発電(LGCC)つぶしの匂いがする(日経:2015.12.25)。フランスでは昨年7月に「エネルギー転換法」が制定されたが、その中で、企業の事業計画や投資家の投資計画に対し、温暖化ガス削減の数値目標との整合性や情報の開示を要求している(明日香:同上)。また、国立環境研究所などが進めるCO2を地中に埋め込んでしまうCCS (Carbon Dioxide Capture and Storage、CO2分離回収・貯留)技術という新たな詐欺も加わる恐れがある。

6 パリ協定を利用して原発再稼働を目論む―「環境破壊」を所管する環境省
 経済産業省は昨年7月に2030年時点で原発の割合を20~22%にするという電源構成比を打ち出し、30年までに温室効果ガスを13年比で26%減らすという目標を決めた。さらに、パリ協定締結後、環境省は全電力会社に温暖化ガス排出量の開示を義務付け、経産省は2030年までに電源構成比を原発と再生エネルギーを合わせて44%にすることを法的に義務付けるとしている。達成できなければ罰則も課す厳しい内容である(日経:2015.12.23)。しかし、2020年までの電源構成比は原発ゼロを前提に温室効果ガスを05年比で3.8%減らす暫定目標となっている。これでは具合が悪いと見た環境省は今年1月8日に、川内原発などの再稼働を受け、新たな電源構成比を作成する準備を始めた(福井:2016.1.9)。電力自由化に当たり、原発という不良資産を有する9電力には有利に、石炭火力やLNG火力を主体とする新電力には不利に働くことになる。パリ協定は原発再稼働の『強力な武器』になろうとしている。
 環境省は、チェルノブイリでは居住が禁止されている年間:5ミリシーベルト以上被曝する恐れのある地域に住民を帰還させようと画策したり、除染作業で発生したフレコンが水害で流されても放置したり、8000ベクレルもある放射性廃棄物を全国に拡散しようとしたりするなど、とんでもない役所である。厚労省のような過去の法的な蓄積も、専門の技術職員も、しがらみもない新しい役所は、自ら都合のいいように過去を無視して環境の破壊に専念することができる。厚労省の場合には労働安全衛生法などの規制の上に行政が行われているので、年5ミリシーベルト以上被曝し、仕事と病気の因果関係が認められれば労災が認められるが(朝日「原発作業被曝に労災」2015.10.21)、環境省はそのようなことを一切無視して仕事を進めている。
 明日香教授は上記文の最後で「日本は京都議定書を殺した犯人一味の一人だ」とし、「あえてリーダーシップを取らない『普通の国』」になり、「気候変動対策が経済的な意味でも国全体にとっては『負担』ではなく『機会』になりつつある」(明日香:同上)と嘆いているが、国際的にリーダーシップを取らない国も、国内的にはその「機会」を最大限活用して、原発の再稼働を国民に押し付けようとしている。その尖兵が気象庁でありマスコミである。その国家犯罪の仕組みが国民に「伝わっていない」(同上)ことこそわが国の悲劇である。 

【出典】 アサート No.458 2016年1月23日

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【投稿】日韓合意をめぐって 統一戦線論(20) 

【投稿】日韓合意をめぐって 統一戦線論(20) 

<<実に奇っ怪な交渉経緯>>
 先月末、12/28、2015年末ぎりぎりの、慰安婦問題に関する日韓最終合意は、実に奇っ怪なものであった。これまで軍の関与を繰り返し否定してきた安倍政権の姿勢からして、何故に急ぎ、年内合意を目指そうとしたのか不可解なものであった。年明けにその謎の一端が浮かび上がってきた。北朝鮮の金正恩政権が1/6、水爆実験の成功を唐突に発表したが、少なくとも米政府はあらかじめ知っていた可能性があり、「慰安婦」問題で険悪な関係にある日韓双方になんとしても合意を急がせ、強い圧力をかけた構図である。好機到来と、実に都合よく、そして謀略的に金正恩政権が米・日・韓それぞれに利用された「三者談合」だともいえよう。
 問題は、この日韓外相会談が開かれる何日も前からすでに日本のマスコミでこの交渉最中の合意内容がすっぱ抜かれ、「最終的かつ不可逆的に解決」されるという報道が日本国内で流されたこと。そして、韓国メディアも後追いで一斉に続いた、情報操作を疑わせる事態の展開である。それは、慰安婦問題に関し「二度と提起しないという約束」やソウル日本大使館前の「少女像の撤去」といった日本政府側の前提条件をつけた合意であり、日本側の支援金拠出について、ある政府関係者は「1億円で韓国が納得するかわからない。20億円なら韓国はいいだろうが、日本はとてものめない」と話している、などといった、意図的なリーク情報であった。会談も合意もしていない段階で、事前交渉を暴露し、外交をゲーム感覚で有利に操ろうとするこうした安倍政権の卑劣な策動が臆面もなく展開された上での日韓合意であった。
 岸田外相は12/28の両国間の合意内容を発表する共同記者会見で、「慰安婦問題は当時の軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり、日本政府は責任を痛感している」と表明し、「安倍内閣総理大臣は、日本の内閣総理大臣として、慰安婦としてあまたの苦痛を経験され、心身にわたり癒やしにくい傷を負われたすべての方々に対し、心からのおわびと反省の気持ちを表明する」という立場を代読した。そして、韓国が設立する財団に10億円規模を日本政府から拠出し、日韓両政府が協力して元慰安婦を支援する事業を行っていく方針も表明、この枠組みを進める前提で、慰安婦問題についてそれぞれ「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」「国際社会で互いに非難することは控える」と強調した。
 同日、直ちに舞台裏の仲裁者である米政府は声明を発表し、「米国は両国政府が合意に達したことを祝福する」と表明、「勇気を持ち、この困難な問題に対する永続的和解を構築しようというビジョンを持った日韓両国のリーダーを称賛する」と日韓両首脳の決断と指導力をたたえた。

<<「最終的かつ不可逆的」とは>>
 しかしこの合意は、政治決着を急ぐあまりのにわか作りのためでもあろう、日本側の作為的な意図でもあろう、いくつもの問題が露呈している。
 まず、「軍の関与」はあくまでも岸田外相の口頭での発言であり、共同文書化もされていないし、閣議決定でもない。そして1993年河野内閣官房長官談話よりも明らかに後退している。河野談話は、「慰安所は、当時の軍当局の要請により設営されたものであり、慰安所の設置、管理及び慰安婦の移送については、旧日本軍が直接あるいは間接にこれに関与した。」と明確に述べており、さらに「われわれはこのような歴史の真実を回避することなく、むしろこれを歴史の教訓として直視していきたい。われわれは、歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ、同じ過ちを決して繰り返さないという固い決意を改めて表明する。」と述べて、「歴史の真実を回避しない」、「歴史教育を通じて、同じ過ちを決して繰り返さない」という、日本側の責任となる“再発防止”措置に言及している。しかし今回の合意はこの最も重要な項目について何も述べておらず、約束もしていない。安倍政権下で慰安婦問題が日本の教科書から一切削除されてしまっている現実までも不問に付されている。
 その反映でもあろう、ソウルでの共同記者会見の直後に、首相官邸で行われた記者会見で安倍首相は、肝心の「軍の関与」、「おわび」と「反省」には一言も触れず、「最終的かつ不可逆的に解決」についてのみ言及し、「先の世代の子供たちに謝罪し続ける宿命を背負わせるわけにはいかない。今後、日韓は新しい時代を迎える」と強調した。安倍首相は「合意に『最終的かつ不可逆的な』という文言が盛り込まれない場合は、交渉をやめて帰ってくるように」と岸田文雄外相に指示していたという(読売新聞12/29付)。さらに安倍首相は側近に「昨日ですべて終わりである。再び謝罪もしない。以後この(慰安婦)問題について一切話さない」と明らかにしたと産経新聞が12/30付で報じている。
 この「最終的かつ不可逆的」という文言は、韓国側から、日本側が再び国家や軍の関与がなかったなどと蒸し返させないために提起されたという報道もあるが、安倍政権側は、これをもう二度と謝らない、反省もしない、話題にもしない、取り上げることすらしない、という切捨ての論理に逆利用したのである。いわば逆ねじを食わしたわけである。だからこそ安倍首相は、このような問題を「永く記憶にとどめ」(河野談話)ることを拒否し、「昨日ですべて終わりである。再び謝罪もしない」と言ってのけたのである。
 さらに10億円の拠出について、岸田外相は、日本の記者団に 「(日本政府の予算拠出は)賠償ではない。道義的責任ということに変わりはない。(今回の交渉で日本側が)失ったものがあるとすれば、10億円だろう。予算から拠出するものだから」と述べ、被害者が強く求めている賠償ではなく、法的責任を認めたものでもないことを強調している。道義的責任に基づく一種の施しなのであって、法的責任、義務、賠償なのではない。10億円さえ出せば日本側は何もしなくても済む構図が作られたのである。
 しかもこの拠出は、「少女像撤去が前提」であって、「像が撤去されない限り、資金は出さないというのが首相の意向」であり、韓国側に伝えているという(時事通信12/31)。首相は、岸田外相に12/24、年内訪韓を指示した直後、自民党の派閥領袖に電話し、少女像の移転問題について、「そこはもちろんやらせなければなりません。大丈夫です」と語ったという。心の底から真摯に過去を反省し、真に日韓両国民の関係改善や建設的関係の新しい時代を迎えることを望んでいる人間が、このような発言をするであろうか。被害者にとって許しがたい発言であり、これは、歴史的な和解とは無縁な、むしろ和解を遠ざける帝国主義的な抑圧者の言い草である。
 菅官房長官は1/4、BSフジの「PRIME NEWS」に出演し、「慰安婦」問題に関する日韓両政府の合意について、「最終的かつ不可逆的な解決というのは、ゴールポストが動かないということだ」、「約束したことを、しっかり履行していくことが大事だ」と強調し、すべての責任を韓国側に丸投げし、同時に、「国際社会が見ている。アメリカのホワイトハウスも声明を発出している」と述べ、「安全保障を考えたときに、非常に大きなことだった」と本音を吐露している。
 結局、日韓両政府、そして米政府が手を組んで、被害者に「像を撤去しろ」「もうこれ以上は文句を言うな」と押さえ込む構図を作ったのである。

<<共産党までが翼賛、評価>>
 安倍政権はしてやったり、うまくいった、10億円で済んだ、とほくそ笑んでいるのかもしれないが、最も基本的な人権問題、とりわけ女性の人権重視に関して、これほど誠実さのひとかけらもない、卑劣な、汚点をさらけ出した外交交渉はなかったのではないだろうか。
 ドイツのメルケル首相はナチスの犯罪に関して「歴史に終止符はない」とし、「ナチスの蛮行を憶えていなければならないのは、ドイツ人の永遠の責務」だと宣言した、その視点、姿勢が安倍政権には皆無なのである。元「慰安婦」とされた当事者の意向を一度も確認せずに、むしろ意図的に排除して、「最終的かつ不可逆的に解決する」ことなどできようはずはないし、こんな上から目線の不誠実さの象徴のような謝罪が受け入れられるはずもない。
 ところが、日本側のこの日韓合意に関するマスコミ報道は、圧倒的に安倍政権への翼賛報道で埋め尽くされている。
 日韓合意翌日、12/29の各紙社説は、押しなべてこの合意を評価し、政権に擦り寄る姿勢を鮮明にしている。朝日新聞の社説「節目の年にふさわしい歴史的な日韓関係の進展である。両政府がわだかまりを越え、負の歴史を克服するための賢明な一歩を刻んだことを歓迎したい。」が、その典型である。毎日新聞も「戦後70年、日韓国交正常化50年という節目の年に合意できたことを歓迎したい。」、東京新聞、日経もほぼ同様である。読売は「慰安婦問題合意 韓国は『不可逆的解決』を守れ」、産経は「慰安婦問題で合意 本当にこれで最終決着か 日本軍が慰安婦を『強制連行』したとの誤解を広げた河野談話の見直しも改めて求めたい」と、韓国側への不信と不満を露骨に表明している。いずれにしても日本のナショナリズムをくすぐり、安倍政権を持ち上げる翼賛報道である。
 ところが、こうした翼賛報道と闘って来たはずの共産党までが、評価に値するものがあるのかどうか疑わしいこの日韓合意を持ち上げだしたのである。12/29の志位委員長の談話は、
 「一、日韓外相会談で、日本政府は、日本軍「慰安婦」問題について、「当時の軍の関与」を認め、「責任を痛感している」と表明した。また、安倍首相は、「心からおわびと反省の気持ちを表明する」とした。そのうえで、日本政府が予算を出し、韓国政府と協力して「全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復、心の傷の癒しのための事業」を行うことを発表した。これらは、問題解決に向けての前進と評価できる。
 一、今回の日韓両国政府の合意とそれにもとづく措置が、元「慰安婦」の方々の人間としての名誉と尊厳を回復し、問題の全面的解決につながることを願う。」
 これだけである。あきれたものである。事前報道がかけめぐり、当日の安倍首相発言まで明らかにされていて、これをなんら批判できない、むしろ持ち上げ、これにおもねり、評価している。共産党に根強く支配している民族主義のわなにからめ取られてしまったのであろうか。今からでも遅くはない、こうした評価を転換すべきであろう。
 さらに危ぶまれる共産党の政治姿勢の卑屈な変化が表面化している。国会の玉座の天皇の「(お)ことば」を聴くために、国会の開会式に志位委員長、山下書記局長ら6人が69年ぶりに出席し、起立して頭を下げ、志位氏は記者会見で「良かった」と感想を述べている。「象徴天皇制」を民主主義と平等原則に反すると「綱領」に記し、天皇制と向き合い、主権在民、民主主義の徹底のために闘ってきたはずの党が、この事態である。これと連動するのでもあろうか、2015年の天皇の歌会始の選者で、「勲章や選者としての地位が欲しい」と批判されている歌人の今野寿美氏が、こともあろうに赤旗「歌壇」の選者になるという。象徴天皇制のまさに象徴的なイベントである「歌会始」の選者が、赤旗「歌壇」選者になるのは初めてのことである。
 「国民連合政府」実現という共産党の統一戦線構想実現のためには、こうした政治姿勢の転換が必要だと判断されたのであろう。民主主義の徹底とは無縁な、ナショナリズムに立ち位置を変えた「民族民主統一戦線」路線に変質させようとしているのであろうか。こうした危なっかしい路線転換は早急に是正されるべきであろう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.458 2016年1月23日

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【本の紹介】「資本主義の終焉、その先の世界」

【本の紹介】「資本主義の終焉、その先の世界」
      (水野和夫・榊原英資 共著  詩想社新書) 

 本書は、利子率の低下が歴史の転換点のメルクマールであるとの理論など、現代資本主義の分析をされている水野和夫氏と、元大蔵省財務官でアベノミクスに批判的な榊原英資氏が、それぞれの理論と対談を通じて、資本主義が終焉を迎えていることを明らかにしようとするものである。
 第1章では、水野氏が、すでに成長が望めない現在の資本主義の転換点は、1971年からのゼロ金利時代が始まったこと。(不確定性の時代)、そして商品の生産消費から金融空間での資本増大路線へ転換したアメリカもリーマンショックで頓挫しゼロ金利に転換、現在ではヨーロッパ、そして日本も長期のゼロ金利となっていることは、すでに資本主義がその終焉を迎えつつある証左であるとの説を展開されている。
 特に、私が着目するのは、アベノミクスと言われる経済政策が、「資本の成長を目指すもので、勤労者収入が低下し続けている」こと、そしてアベノミクスが失敗していることを明快に論じている以下の部分であろうか。
 「資本の成長戦略としてのアベノミクス(本書P90) アベノミクスの成長戦略は、資本の成長を目指すものであって、雇用者報酬や一人当たり実質賃金を増やすものではありません。・・・・第1の矢で消費者物価を2年、すなわち2015年4月時点で2.0%の上昇にもっていき、実質GDP成長率を2.0%に引き上げ、名目GDP成長率年3.0%成長を達成することを目的にするものでした。
 そこで、2年と9か月のアベノミクスのパフォーマンスを経済全体でみると、3本の矢はすべて失敗と評価せざるを得ません。不良債権が顕在化した1995年1-3月期から小泉政権が「骨太の方針」で成長戦略を打ち出す直前の2002年1-3月期の実質成長率が、年0.76%増だったのに対して、アベノミクスのそれは0.8%、金額にして年2000億円の増加にすぎないのです。1995-2002年の時期は不良債権に追われて、将来不安が非常に高い時期でした。その時期と比較してこの結果です。
 一方、第2の矢である機動的な財政出動は、2014年4月に引き上げられた消費税の景気に対するマイナスを相殺するための政策です。しかし、結局消費税引き上げの直前の2014ね年1-3月期の実質GDP535.0兆円から2015年7-9月期には529.0兆円と減少しているのです。その間、国債残高は743.9兆円(2013年3月末)から、807兆円(2016年3月末見込み)へと63.2兆円も増加しています。第2の矢も失敗です。ところが、アベノミクスも誰の視点でみるかによって評価が180度変わってくるのです。資本家にとっては大変大満足な結果となり、働く人には悲惨な結果となっています。資本家にとって大事なのは企業業績と株価です。この間企業業績は営業利益(資本金1億円超の大企業)でみると、年率15.8%増で、1995-2002年の間の3.6%増益と比べると大幅増益となっています。」
 一人当たり実質賃金も、1997年をピークにして、2015年まで一貫して低下し続けていること。それに比べて企業収益は伸び続け、「資本の成長」が続いていることも明らかにされる。派遣労働の解禁、非正規労働の増加を推し進め、中間層の縮小を伴って、資本の成長・企業収益の巨大化と格差の拡大が進んでいる。日本をはじめ、アメリカ、欧州でも格差の拡大が進んでいる。 
 本書のもう一つのテーマが、長期に渡るゼロ金利、ゼロ成長状態が示す現代資本主義の行き詰まりにどう対応するべきかということであろう。「より速く、より遠くに、より合理的に」という近代の行動原理には、資本主義が永遠に成長し続けることが前提となる。しかし、この行動原理が機能不全に陥っているにも関わらず、この行動原理を継続しようとするから、「資本国家」にならざるをえないという。その前提が壊れているとすれば、新たな行動原理が必要になる。著者らは「よりゆっくりに、より近く、より寛容に」であると語る。
 「成長戦略」なる言葉が、現代資本主義で意味するものは、資本の成長であって、勤労者の収入には結びつかない。特に日本では人口減少に転換し、労働力人口の減少・消費の減退が続く。国民は、未だに「成長戦略」に淡い期待を持っているが、新たな価値観とシステムが必要になっていることを、本書は明らかにしている。(2016-01-19佐野) 

【出典】 アサート No.458 2016年1月23日

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【投稿】安倍政権が牽引した不安の1年

【投稿】安倍政権が牽引した不安の1年
              ―来年こそ安倍退陣の実現を― 

 戦後70年の年が終わろうとするなか、今年の漢字として「安」が選ばれた。「安心、安全」を願う民衆の思いが反映されていると言われるが、実際は不安の年であり、新たな戦争を予兆させる1年であったと言えよう。
 国際的には「イスラム国」による、1月の日本人殺害に始まり、11月パリのテロに終わった感があるが、国内的には様々な不安定状況を醸成したのは安倍政権であった。
 当の本人は今年の漢字についての記者団の問いに「『安』が『倍』になると『安倍』」などと軽口をたたくなどしていたが、安倍としては9月に戦争法を強行採決―成立させ、11月には盟友橋下の「おおさか維新の会」が大阪府知事、大阪市長W選挙に圧勝するなど、ほぼ満足の1年だっただろう。
 
<反中行脚続ける安倍>
 しかしそれは自己満足であることは明らかで、安倍政権は相も変わらず国内外に災厄をまき散らさんとしている。
 11月21日、クアラルンプールで開かれたASEAN+3(日中韓)首脳会議の席上、安倍は李克強首相を前に南シナ海情勢に関し「深刻な懸念」を表明した。ソウルでの日中韓首脳会談では友好ムードを演出したものの、今回は本音をさらけ出した。
 引き続き安倍は国会の閉会中審査から逃亡する形で、11月30日からパリで開かれたCOP21に出席し演説を行った。しかしその内容は、温室効果ガスの削減やクリーンエネルギー開発への意欲を強調する一方、原発再稼働に関しては口をつぐむという姑息なものとなり、十八番の「反中演説」ほどの力の入れようは伺えなかった。
 また2020年以降の温暖化対策に関する「新たな枠組み」を巡り、論議を牽引するアメリカ中国と、反発する途上国、さらには深刻な状況を訴える島嶼国のアピールの間に、日本政府の一般論は埋没してしまった。
 12月12日訪印した安倍は、モディ首相との間で原子力協定の締結を合意した。インドは核兵器を保有しながらNPT未加盟であり、原発を輸出することは日本のこれまでの立場と矛盾するものである。
安倍は「インドが核実験をすれば協力を停止すると伝えた」と明らかにしたが、効力には疑問符をつけざるを得ない。インドは核兵器の他、原子力潜水艦を保有、今後原子力空母を建造する計画であると言われており、原子力を利用した軍拡を進めようとしている。
 これに対しては広島、長崎両市長が遺憾を表明するなど、内外から批判が挙がっているが「平和利用」を口実に、核軍拡への支援が糊塗される危険性をはらんでいる。
 安倍はこうした懸念をよそに、「対中包囲網」を目論み、兵器や技術の移転、共有する軍事情報の保護、日米印海軍合同訓練の継続も確認している。
 11月26日には、オーストラリアに対し潜水艦に関する技術提供が国家安全保障会議で決定された。豪海軍の次期潜水艦については、日本の他、ドイツ、フランスが受注を目指しており、激しい競争が繰り広げられている。
 安倍政権はオーストラリアを「対中包囲網」に引き込まんとして、技術者の育成や現地での建造も含めた「破格」の提案をしており、兵器輸出にかかる制約の空洞化が、一層進もうとしている。
 12月17日には東京で、日本、インドネシア両政府の2+2(防衛、外交閣僚)会議が初めて開催され、同会議の定例化と日本からの飛行艇輸出交渉の開始などが決まり、高速鉄道導入で「中国に傾いた」同国を引き戻そうと、躍起になっている。
 このように安倍政権は緊張状態を東シナ海から南シナ海、さらにはインド洋、そして南太平洋にも拡大しようとしている。

<増大する軍事費>
 日本国内の軍拡にも歯止めはかからない。政府は12月24日、16年度予算案に於いて、軍事費を4年連続で増加させ、補正を含まない単年度予算としては初の5兆円台とすることを決定した。
 消費増税などの影響で来年度税収が57兆数千億円と、25年ぶりに高い伸びを示す中、社会保障費など生活関連予算は抑制され、軍事費が突出することとなった。
 中身的には、1機200億円のオスプレイやF35戦闘機など高額な兵器の調達費が嵩み、減額するとしていた「思いやり予算」も11~15年度分約130億円増の9465億円となった。
 政府・防衛省は「不要不急の装備調達は抑制する」としているが、14年度から18年度までの現「26中期防」期間内での調達予定兵器を見ても、来年度以降での大幅な削減は不可能と見積もられ、5年間で約24兆円とされた現中期防の予算計画の見直しも懸念される。
 さらに「次期中期防」では「弾道ミサイル防衛」を口実とした新型ミサイル「THAAD」や「早期警戒衛星」、「島嶼防衛」として1隻1500億程度と考えられる、「多機能輸送艦」(強襲揚陸艦)を最低でも3隻導入することなどが計画されるなど、軍事費の増大は継続される可能性が高い。
 安倍内閣はこうした軍拡を、情報操作と管理によって推し進めようとしている。安倍政権にとって都合のいい情報=「中国、北朝鮮の脅威」については、誇張をも憚らず拡散させる一方、都合の悪い情報に関しては軍事関連のみならず原発事故関連、TPP交渉などでも隠蔽が行われている。
 本来こうした問題は、臨時国会を開催し論議するのが「憲政の常道」であるが、安倍は外遊を口実に議論の場そのものを無くしてしまうという暴挙に出た。
 さらに政府は特定秘密保護法を駆使し、軍事関連の特定秘密などに関しては、会計検査院の会計検査さえ対象外とすることを目論んでいることが明らかになった。
 戦前海軍省は戦艦大和建造に当たり、架空の艦艇数隻分の建造費として予算を計上した。これらは軍事機密とされ大蔵省も検査院も手が出せなかった。こうしたことの反省から、日本国憲法ではすべての支出入の検査を義務付けているが再び「聖域」が設けられようとしている。

<極右利用し反対派攻撃>
 戦争関連法を筆頭に憲法の軽視が常態となった安倍政権に対しては、様々な立場の人々から批判の声が上がり続けている。
 とりわけ戦争関連法に対しては全国的な反対運動が展開されたが、安倍政権は「国際テロの脅威」を持ち出し、治安管理体制の強化を進めようとしている。
 とりわけ来年の「伊勢志摩サミット」及び関連国際会議、さらには東京オリンピックを口実に、漠然とした不安を増大させ、様々な団体、運動への監視、弾圧が顕著になるだろう。
 そうした極端な反応は社会そのものを自壊させる。フランスでは12月6日に行われた州議会選挙の第1回投票で、「国民戦線」(FN)が仏本土13州中6州で首位に躍進した。アメリカではトランプが排外主義的姿勢にも関わらず、共和党の大統領候補レースのトップを走り続けている。
 こうした現象は日本に於いても顕著になってきている、日本のレイシストは韓国・朝鮮人をはじめとする外国人、さらには沖縄を憎悪の対象としている。
悪質なのは日本の場合、権力が妄動暴挙を助長していることである。オバマもオランドもメルケルもイスラム国との対決を進める一方、排外主義に対しては、毅然たる態度をとっている。
 各国の極右はそれを攻撃しているのであるが、日本の場合は政権と極右が極めて親和的であることだ。安倍は聞かれてもいないのに「3本の矢」や「積極的平和主義」を口にするが、排外主義に対する批判は出てこない。欧米の政権とは価値観が違うのであろう。
 安倍政権はヘイトスピーチを規制する立法措置に消極的な対応をとることで、差別主義者に勇気を与え、公安など「官」とレイシストなど「民」を車の両輪として政権に批判的な人士、運動への攻撃に利用しているのである。

<安倍―橋下枢軸阻止を>
 これの最大の援軍が冒頭にも述べたおおさか維新の会である。12月19日、東京で安倍、菅、橋下、松井の4者会談が行われた。橋下は前日に大阪市長を退任したばかりであるが早速政治活動を再開したことになる。会談では参議院選挙での協力や、橋下の政界復帰のタイミングなどが話し合われたのだろう。両者の協力は改憲をめざし、さらに進むことが懸念される。
 フランスでは州議会選挙の第2回投票で「ルペンよりサルコジのほうがまし」との判断から与党社会党が共和党に協力し、FNの議席増大を阻止した。
軍拡と排外主義によりさらなる災厄をまき散らすのは、国内に於いては安倍―橋下枢軸であろう。
 1月4日からの通常国会では反安倍政権を掲げる野党は、徹底した審議を要求しなければならない。安倍政権は参議院選挙対策として、自衛隊のリスクが高まる「駆けつけ警護」発令などは先送りし、消費税軽減税率導入、臨時給付金などの懐柔策を準備している。
 野党は、戦争関連法だけでなく、まっとうな経済政策、社会保障政策を対置し与党の矛盾を追及するとともに、自・公とおおさか維新の間に楔を打ち込んでいかねばならない。
 そうした場合、先のフランス社会党の対応は極めて戦術的ではあったが、大いに参考にすべきであろう。少なくとも端から「共産党は除外」として、テーブルにもつかない対応は薄慮にすぎるであろう。様々な戦術を包摂する基本的な戦略の構築が求められるのである。「ReDEMOS」(リデモス)など柔軟な発想を持つ運動と連携し、再び国会を包囲する取り組みで安倍政権を追い詰めていかねばならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

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【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か

【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か
                       福井 杉本達也 

1 CUI BONO(得をするのは誰か)
「イスラム国」(Islamic State in Iraq and the Levant=ISIL 又はIslamic State =IS以下ISと略)とは何か。池上彰は「パリから日本を思う」と題して、「フランスで生まれ育ったのに、貧しい生活で十分な教育が受けられず、仕事が得られない。…そんな若者たちが『聖戦』を呼びかける宣伝に惹(ひ)かれ『死に場所を見つけたと』思い込む。こんな負の連鎖を断ち切らないと」(日経:2015.12.7)と書いている。これが日本の多くの知識人・マスコミの論調であるが果たしてそうなのか。 物理化学者で現在カナダ在住の藤永茂アルバータ大学理学部名誉教授(著書に『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(朝日選書 1996年)等)はブログ『私の闇の奥』で「米国の支配権力にその気があれば、トルコ、サウジアラビア、カタール、イスラエルにIS扼殺の意向を伝えれば済むことです。ISを絞め殺すことが不可能な理由は、米国がそうしないから、そうする気がないからであって、ISが石油を掌握しているとか、シリアの市民に重税を課しているからではありません。しかし、本当の問題は、パリの虐殺の現場を花と蝋燭の灯りで満たしているパリの大衆たちが、誰を本当の悪と考えているか、CUI BONO(得をするのは誰か)の問いを、マスメディアの洗脳に抗って、正しく厳しく投げかけているか、にあります。」と書いている。

2 中東の混乱は欧米に責任
 日経はFinancial Timesを買収して少しは記事が変わったのであろうか。ジェフェリー・サックス米コロンビア大学教授(皇太子妃雅子のハーバード大学の指導教官であり、ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』においては、エリツィン時代のロシア経済を粗暴な市場経済に投げ込んだ張本人として批判されている)は『中東の混乱、欧米の責任』という記事の中で「1979年以降、米中央情報局(CIA)は旧ソ連をアフガニスタンから追放するため多国籍のイスラム教スンニ派戦闘部隊「ムジャヒディン」(イスラム聖戦士)を組織した。この戦闘部隊とそのイデオロギーが、今でもISを含むスンニ派の過激派武装勢力の基盤になっている。」とし、「まず、オバマ米大統領はCIAの秘密作戦を打ち切るべきだ。CIAに起因する混乱に終止符を打つことが、テロを増幅している今の不安定、暴力、欧米に対する憎悪に歯止めをかけるために有効だろう。」(日経:2015.12.7 原文Ending Blowback Terrorism 2015.11.19)と述べている。ここまでISの正体と米国との関係を暴露した記事が日本の商業紙に掲載されるのは初めてである。無論、サックスは左派の経済学者ではなく、いわゆる「主流派」経済学者である。

3 ISはいつ現れたのか
 ISが発足したのは2013年4月といわれるが、急激に勢力を拡大したのは2014年6月のイラク・モスル占領前後からである。イラク軍はモスルに約3万人を配備していた。しかもイラク軍には大量のタンクや戦闘機、軍用車両、さらには米軍やイランから提供された武器・弾薬があったが、その全てがISの手に落ちた。イラク軍の将軍の一部がISに通じていたといわれる。結果、米軍の指示に従わなかったマリキ首相は政権から追い落とされたのである。その後、約1年半にわたって米国を中心とする「有志連合」はシリア政府の抗議を無視してシリア領内で空爆を繰り返し、特殊部隊も潜入させている。ISを攻撃することが目的だとしているが、その間、ISは勢力を拡大してきた。何百回となく空爆を行い、地上10㎝の物体も識別できる能力のある偵察衛星や偵察機による偵察も行ったが、ISの基地や軍用車のかけらも発見できなかったのであろうか。「テロとの戦争」は失敗しているが、その本来の目的はアサド政権転覆とシリアの破壊・シリア民衆の殺戮である。その意味で米軍産複合体の目的は達成されつつあった。

4 トルコによるISの石油密売とロシア軍機の撃墜
 11月24日、トルコによりISを空爆していたロシア空軍機が撃墜された。トルコが公開したロシア軍機の飛行経路を見たとしても、ロシア軍機の領空侵犯はわずか数秒に過ぎない。数秒の侵犯の航空機を撃墜するには、あらかじめ飛行経路が分かっており、待ち構えていなければならない。ロシア軍はあらかじめ飛行経路を米軍に伝え、米軍との衝突を避けようとしていたのであるが、この情報をトルコに伝えたのである。米軍の指示なしに、エルドアン政権がロシア軍機を撃墜することはありえない。なぜ、トルコはロシア軍機を撃墜したのか。答えは、12月2日発表の『Russian military reveals new details of ISIS funding(ロシア軍部がISISの資金調達の新しい詳細を明らかにする)』にある。
 https://www.rt.com/news/324252-russian-military-news-briefing/ 「ISの大型石油輸送トラックの大集団がシリアの油田とイラクの油田から盗みとった石油をトルコ内へ運び込む有様が詳細明瞭な動画像、静止画像で示され、画面上を動くポインターで適切な説明が行われます。具体的な数字としては、32の精油コンビナート、11の精油工場、23の石油輸送基地、1080台の石油タンカートラックがロシア空軍機によって破壊されたと報告されています。巨大な石油タンカートラックの大集団が蝟集し、蠢き、長蛇の列をなして、シリア、イラクからトルコ国内に流れ込み、逆方向に、武器や物資を運ぶと思われるトラックの大行列を見る」ことができる。「シリアとイラクから石油を泥棒して軍資金を調達し、その金で世界中の死の商人からたんまりと武器弾薬を購入し、世界中の若者たちを駆り集めて洗脳し、アサド政権打倒の米欧地上軍の代理傭兵軍隊としてアサド政権の打倒を目指す。この独立採算システム」(藤永茂『私の闇の奥』2015.12.9)こそISと呼ばれているものの正体であり、エルドアン政権にとってロシア軍機による空爆は実に都合の悪いものだったのである。

5 ケリー米国務長官のモスクワ訪問と今後の展開
 ロシアにより具体的証拠を突き付けられたことで、米財務省高官のアダム・ズービンはロンドンで、「石油の『いくらかの量は国境を越えてトルコにも入っている』と語り、ISへの資金流入を止めるため、トルコに対して国境管理を徹底するよう求めた。また、ISは石油の闇取引によって、これまでに少なくとも5億ドルを手にしたほか、シリアやイラクの支配地域にある銀行から最大で10億ドルを略奪したと説明した。」(日経:2015.12.12)。として、渋々ながらISを通じて石油がトルコに入っていることを認めざるを得なくなった。12月15日、ケリー国務長官はモスクワを訪問し、ラブロフ外相・ショイグ国防相と会談し、プーチン大統領とも会談した。ケリー国務長官は、会談後、「我々は、シリアのことを基本的には極めて近い見方をしており、同じ結果を望んでいる。アメリカは、ロシアと協力する用意がある。ロシアとアメリカ合州国は、シリア国内の戦闘も鎮めない限りは、ダーイシュ(ISIL)を打ち負かせないことに同意した。シリアの将来については、シリア国民が決める。政策として、ロシアを孤立化させようとは思っていない。」とし、アサド政権打倒の方針を変更することを明らかにした。米国もついに条件付きながらアサド政権の存続を容認したといえる。政権を支援し、シリア政府軍にISを駆逐させ、欧米ロの援助により戦乱でズタズタとなったシリアを復興させ難民が戻れるようにする以外に、現実的な解決策はない。しかし、この解決策は米軍産複合体の望む方向ではない。

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

カテゴリー: 平和, 杉本執筆 | 【投稿】「イスラム国」(IS)とは何か はコメントを受け付けていません

【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19) 

【投稿】16年夏・参院選をめぐって 統一戦線論(19) 

<<なりふりかまわず>>
 安倍政権はいよいよ来年7月の参議院選挙、あわよくば衆参ダブル選挙、そして憲法改悪をも射程に入れた政策展開、予算対策、野党切り崩し、政治的策動にしゃにむに突き進みだしている。
 この間の安倍政権の一連の動きは、政策の整合性や一貫性などはどうでもよい、たとえその場しのぎであっても、直面する選挙対策に役立てば、乗り切りさえすればそれで結構、そんな姿勢がむきだしである。
 消費税引き上げ時の軽減税率はその典型といえよう。自民党税調、財務省、麻生副総理、谷垣幹事長らの抑制案、抵抗姿勢、党内の不満を排して、最後は首相・官邸側が公明党、創価学会の選挙協力を優先して、「軽減税率」で妥協、押し切った。対象品目をめぐる押し問答は、公明党の「手柄」を“演出”する茶番劇であった。しかし、その「財源」を確保するためとして、「4000億円の低所得者対策」をとりやめるという。さらに「子育て世帯臨時特例給付金」についても、財源捻出のため来年度から廃止する方針を決めた。子育て給付金は中学生までの子供約1600万人を対象として、2014年度は1人1万円、15年度は1人3000円を支給していた。これまで廃止してなにが「新3本の矢」だ。財源が足りないというなら、緊張激化政策をやめ、軍拡をストップし、危険極まりないオスプレイ購入をやめ、米軍への思いやり予算を減額するのが最善であり、これこそが究極の選挙対策と言えよう。
 いったい何のための「軽減税率」なのか。たとえ「軽減税率」を実施したとしても、10%への増税は4兆円を超える大増税であり、1家族あたり年4万円以上の負担増を強いる。空前の利益を計上する大企業・独占資本には減税を度重ね、庶民にはさらなる負担を強いる。そもそも景気回復・成長政策を唱えるならば、10%増税は取りやめるべきであり、それこそが最大の選挙対策となりうるものをみすみす逃したのである。あえてそこまでしたのは、単純に公明・創価学会の面子を配慮した取り込み策であり、彼らを手玉に乗せ、改憲を含むもろもろの裏取引をした結果なのであろう。
 さらに補正予算案は、その場限りの継続性のない、まるで選挙対策そのものである。「1億総活躍」の目玉政策として、年金額が少ない高齢者に1人あたり3万円、総額3300億円。TPPへの農林漁業者の不満や怒りを抑えるために、農水省所管の約4千億円の4分の3強、3千億円余りをTPP関連対策と「農業農村整備事業」へ。自民党内からでさえ、「バラマキのイメージが先行してしまう」と、疑問が噴き出すしろものである。「後は野となれ山となれ」である。
 あげくの果てが、沖縄選挙対策。「『宜野湾にディズニーリゾート誘致って? 選挙前の話くわっちーさー』(那覇市・もうだまされない)。普天間と牧港補給地区の一部先行返還の日米発表を、翁長雄志知事が「話くわっちー」、つまり話だけで何もないと批判した発言を念頭に、テーマパーク誘致も似たようなものだ、と。実体はテーマパーク関連のホテル建設だという。運営会社は「事実はない」と否定。政府は誘致支援を打ち出したが、一民間企業の事業に政府が口を出していいのか。」「選挙を意識した露骨な政策があまりにも多すぎる」(沖縄タイムス 12/13)。同紙の指摘の通りである。

<<安倍の別働隊「おおさか維新」>>
 しかしその一方で、安倍政権は2016年度予算案の防衛費を5兆5000億円超とする方針を固めている。防衛費の増額は第2次安倍政権になって4年連続、5兆円を突破するのは史上初の事態である。自らが仕込んだ対中国軍事的緊張激化の軍拡、オスプレイの購入や、辺野古新基地建設工事の本格化、米軍への思いやり予算など、安倍政権の軍事化が着々と推し進められている。
 そして改憲への目論見である。安倍首相は12/19、橋下徹・前大阪市長と東京都内のホテルで約3時間半会談、菅義偉官房長官、「おおさか維新の会」代表の松井・大阪府知事も同席、憲法改正など政策面の連携や来年の通常国会での協力について意見交換をしている。橋下氏は12/12「おおさか維新の会」の臨時党大会、その後の懇親会で「憲法改正の最大のチャンスがやってきた。参院選が勝負。」「参院選では自民、公明、おおさか維新で3分の2の議席を目指そう」と述べ、さらに大阪選挙区(改選数4)について「3人を取るくらいのことをしないと大阪の本気度は全国に伝わらない」と述べ、複数擁立までぶち上げ、松井氏も大会後の記者会見で「憲法改正は党の大きな考え方の一つだ。改正に必要な3分の2勢力に入る」と明言している。現在衆院(定数475)は、与党だけで326議席と3分の2(317議席)を超えているが、参院(定数242)は、与党の133議席におおさか維新(6議席)を加えても、3分の2(162議席)に達していない。
 安倍政権にとっては、裏で橋下氏らを支援してきた大阪ダブル選以来の目論見どおりの展開である。「おおさか維新」が民主党など野党の支持層を奪い、「参院選で十数議席は取る」と官邸側は期待する。おおさか維新の実質与党入りで、公明を天秤にかけ、さらに改憲でも同調させる効果も期待できる。
 さらに橋下氏に媚びを売る民主党・前原氏らを利用、民主党を分解させ、野党連合に楔を打ち込み、野党候補一本化の動きを阻止する効果も期待できる。「おおさか維新」は、安倍政権のあくどい画策を実行する別働隊となったといえよう。

<<統一候補擁立へ連携 「市民連合」>>
 しかし、これらはあくまでも安倍政権の虫のよい策謀、一方的な期待でしかないし、それはチャンスは今しかないという焦りの表れでもある。
 こうした動きに対し、橋下氏とたもとを分かった維新の党の江田憲司前代表は12/19、「大阪の皆さんは大阪都構想とかリニアモーターカー、カジノ誘致のため、大手を振って安倍官邸と協力し、与党化の道を進んでいっていただきたい。我々は自民党のライバル政党づくりに邁進していく」と皮肉っている。
 さらに 民主党の岡田代表も12/14、「戦後の平和主義が変わるかどうかの分岐点だ。結果次第では憲法改正までいってしまう」と強調し、参院選について、与党やおおさか維新など9条改憲をめざす勢力を、改正発議に必要な3分の2未満に抑えることが「第一目標」と明言、民主公認に加え、無所属の野党統一候補も積極支援する方針を明確にしている。同党の枝野幹事長も12/15、おおさか維新の会が来年夏の参院選に全国規模で候補者を擁立することを「邪魔」と断じ、「奈良、滋賀、三重に(候補者を)立てても邪魔するだけの選挙区に立てる政党は野党じゃない」と述べ、「1人区では一番勝てそうな候補以外は降りる。それがまさに安倍政治と戦うということだ」と述べている。
 そして12/15、熊本で初の野党統一候補が具体化している。民主、共産、維新、社民、新社会の5党の各県組織が、熊本市内で会合を開き、戦争法(安保法制)に反対する県内の市民グループ50団体でつくる「戦争させない・9条壊すな!くまもとネット」からの野党統一候補の擁立を求める要望を受けて、来夏の参院選熊本選挙区で無所属の統一候補を擁立することを確認、来夏の参院選熊本選挙区(改選定数1)に野党統一候補を擁立する方針を決めた。「くまもとネット」の要望する、▽集団的自衛権行使容認の「閣議決定の撤回」▽先の国会で採決された「11の安全保障関連法の廃止」▽日本の政治に「立憲主義と民主主義をとりもどす」―の3点で一致する候補を擁立する、として県弁護士会所属の女性弁護士を無所属で擁立することを前提に、すでに公認候補を発表済みの共産党は擁立を取り下げる。同選挙区では、自民党が現職の松村氏の擁立をすでに決めている。
 参院選の帰趨は地方の一人区の勝敗が決めると言っても過言ではない。全国32の1人区のうち、民主が公認候補を立てたのは9選挙区だけ。野党統一候補を擁立できる余地は、十分に残っており、むしろこれからが勝負である。「10増10減」で統合される鳥取・島根選挙区では、民主・社民の両県連などが無所属候補の支援組織を結成し、元消費者庁長官の福島浩彦氏に出馬を求めている。こうした地方発の野党共闘は鹿児島、石川、新潟、三重や岐阜の各選挙区でも動きだしている。複数区でも選挙協力が拡大されるべきであろう。
 12/9、こうした動きを下から強力に支え、推進し、統一候補擁立へ連携するための、安全保障関連法に反対する学生・市民団体と野党の意見交換会が、国会内で開かれ、民主、共産、維新、社民の各党と、「立憲デモクラシーの会」「安全保障関連法に反対する学者の会」「安保関連法に反対するママの会」「SEALDs(自由と民主主義のための学生緊急行動、シールズ)」「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の各団体が出席、来年夏の参院選の改選一人区などで非自民系統一候補の擁立を促し、支援する枠組みとして「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の設立を表明、12/20に正式結成された市民連合は、野党に参院選1人区での候補絞り込みを求め、安保法廃止などを公約とする協定を候補と結ぶ方針であり、参院選で野党による過半数議席の獲得を目指すほか、来年4月に実施される衆院北海道5区補欠選挙でも、安保法に反対する野党候補を応援する、としている。これについて、民主党の枝野幹事長は「幅広い市民に応援していただける候補を立てる動きを、さらに加速していきたい」と歓迎。共産党の山下書記局長も「安保法廃止に向けた協働が、強固なものとして進むステップになった」と述べている。市民連合が、統一候補擁立への重要な結節点、結集軸となる可能性が高まったといえよう。
 安倍政権に対する支持は、安保法制強行採決後の一転した経済政策への転換によって、ある程度回復しているものの、不安定極まりないものである。消費税増税政策は彼らの致命的弱点でもある。そしてなによりも安保法制廃止に向けた裾野の広い、広範な闘いがその後も粘り強く展開され、拡大している。しかも、原発再稼働、アベノミクス、「一億層活躍社会」の功罪などに関して、多くの有権者は安倍政権の推し進める路線に反対していることが、各種世論調査で示されている。
 安倍政権を退陣させる政策的な要、決定的な対立軸は、野党側の幅広い強固な統一戦線であり、「安保法制の廃止と立憲主義の回復」を、緊張激化・軍拡経済から善隣友好・平和経済への転換といかに結びつけ、力強く押し出せるか、にかかっているといえよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

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【書評】「雇用身分社会」(森岡孝二 岩波新書 2015年10月) 

【書評】「雇用身分社会」(森岡孝二 岩波新書 2015年10月) 

 筆者は最近ある転職フェアに参加した。もちろん自身の転職ではなく、転職フェア出展ブースのお手伝いである。30代から40代くらいの年齢の人々が、出展会社ブースをたくさん訪れていた。「転職」という選択が今では日常茶飯事になっている現実を目の当たりにした。こうした転職フェアは、いくつもの団体が実施しているが、そこに見えるのは、雇用が不安定化している現実であろう。今や雇用者全体の4割が派遣や契約社員、パート労働者と言われる中、より条件の良い、また自分のスキルを活かせる仕事を探しているのであろうが、果たして、この転職フェアで、どれだけ「安定した」仕事を見つける人がいるのだろうか、と思う。
 本書は、「格差社会」「ブラック企業」など社会問題化している雇用の現状を、格差と差別が固定した「雇用身分社会」と捉え、非正規労働の増加と「正社員」の多様化が同時進行し、戦後確立された労働法制を無効化する事態が進行していることを明らかにする。そして成長戦略・規制緩和の大合唱の中で進む「格差と貧困」に対抗する方策を提言している。
 「日本では、ここ30年ほど、経済界も政府も「雇用形態の多様化」を進めてきた。・・・そして、あたかも企業内の雇用の階層構造を社会全体に押し広げたかのように、働く人々が総合職正社員、一般職正社員、限定正社員、嘱託社員、契約社員、パート・アルバイト、派遣労働者のいずれかの身分に引き裂かれた『雇用身分社会』が出現した。
 ここにあるのは、単なる雇用・就業形態の違いではない。それぞれの雇用・就業形態のあいだには雇用の安定性の有無、給与所得の大小、労働条件の優劣、法的保護の強弱、社会的地位(ないし評価)の高低、などにおいて身分的差別とも言える深刻な格差が存在する。」
 
<労働者派遣法は、無権利労働者を増大させている>
 第1章で、戦前の紡績工場での身分化された労働実態を明らかにしつつ、そこに「ブラック企業」の原型を見出す。そして、現在、労働者の無権利化が進み、歴史が逆戻りしていることを明らかにする。
 第2章では、「派遣で戦前の働き方が復活」では、1985年に「労働者派遣法」が、成立したが、これは「既成事実化した労働者供給事業」の違法状態を法により許可するもので、労働者と使用者の間に仲介者が存在した戦前の「雇用身分制」への回帰の始まりであった。そして、労働者と使用者が分離され、無権利状態となっている現在の「派遣労働」が、戦後確立した労働法制を現場から空洞化させてきたことを明らかにする。
 
<格差と差別が蔓延する職場>
「派遣労働者は職員食堂が使えない」「正社員と使うトイレが違う」「問題を指摘しても、派遣会社と使用者でたらいまわしにされ、何ら解決しない」など、職場に厳然たる差別が存在していることが本書の随所に記されている。
 第3章では、パート・アルバイト問題が取り上げられている。現在のパート労働では、正社員と同様の仕事内容である場合も多く、身分による賃金格差は大きい。さらに性別による賃金格差も著しく、ここから「シングルマザー」の貧困問題が生まれる。同一労働同一賃金の原則では短時間の労働であれば、時間に見合う賃金と制度適用が行われるべきであろう。ヨーロッパでの短時間労働の場合のように、条件の違いは、時間の違いだけとなるはずだが、日本ではそうではない。
 派遣・パート労働には、賃金・社会保険・福利厚生制度などがら除外される「格差・差別」が厳然として存在し、これらの労働者が激増しているのである。

<正社員も多様化の中にある>
 第4章は、「正社員の誕生と消滅」では、非正規労働の多様化と増加により、一層「正社員化」を求める人々が増えているが、著者は今や「正社員」にも、不安定化・多様化の波が押し寄せていることを指摘する。
 そのひとつは、「限定正社員」増加である。2012年12月第2次安倍内閣が誕生し、規制改革会議が「正社員改革」を打ち出した。「無期雇用、フルタイム、直接雇用」の正社員に対して、職務、勤務地、労働時間等が特定されている「限定正社員」を増やすべきだと提言した。
 限定正社員は、正社員よりも賃金は低く抑えられ、4割も安い場合もある。そして何よりも「限定」の条件が消滅した時、解雇がしやすいということが問題であろう。店舗が閉鎖された時、職種が事業上無くなった時など、「限定」された条件がなくなれば解雇は容易となる。
 「正社員の多様化」という流れの中にあって、正社員も安定した「身分」ではなくなりつつある。その一つが「高度プロフェショナル制度」である。いわゆる残業代ゼロ法である。高度な専門職で、年収1075万円以上の雇用について、時間外手当を支給しないという内容だ。1075万円ということで対象は少ないと説明されているが、この基準を引き下げることが意図されており、長時間労働を強いても賃金が増えないことを常態化させようとしている。限定正社員の増加と、無制限労働を強いられる正社員を増やす目論見、これが経済界と安倍政権が進める雇用改革なのである。
 
<政府は貧困の改善を怠った>
 1985年の労働者派遣法、1995年の「新時代の日本的経営」(日経連)、そして今回の労働者派遣法改悪、残業代ゼロ法案など、一連の「雇用の多様化と流動化」策は、労働者の賃金を引き下げ、社会保障を後退させ、企業に利益をもたらした。そして社会に貧困を蔓延させた。
 安倍政権は、株価対策として大企業への賃上げ要請を行っているが、足元では労働者全体の賃金を引き下げる戦略を進め、それは、経済的貧困にとどまらず、健康や人としての生き方も否定する「差別的政策」に他ならない。
 著者は、第7章「まともな働き方の実現に向けて」で、「雇用身分社会から抜け出す鍵」として必要な対策を挙げている。
 1)労働者派遣法を抜本的に見直す、2)非正規労働者の比率を引き下げる、3)雇用・労働の規制緩和と決別する、4)最低賃金を引き上げる、5)8時間労働制を確立する、6)性別賃金格差を解消する。
 本書は、戦前・戦後の雇用制度を概観しつつ、「雇用身分社会」化している現実を明らかにして、近代的雇用関係を否定する流れを丹念に描き出している。読者各位には、ご一読をいただきたい。(2015-12-22佐野) 

【出典】 アサート No.457 2015年12月26日

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【投稿】アジア地域を不安定化させる安倍政権

【投稿】アジア地域を不安定化させる安倍政権

<中韓に挟撃された安倍>
 11月1,2日、ソウルで中韓、日中、日韓、さらに3カ国の首脳会談が連続して開かれた。
 安倍はこれまで「首脳会談は前提条件なしで」という条件を提示し、首脳会談で歴史認識問題が取り上げられるのを回避してきた。
 しかし1年前の日中会談では、中国の主張を受け入れ事前の合意文書を作らざるを得なかった。
 日韓会談に関しても、安倍は「解決済み」としてきた従軍慰安婦問題が、議題となるなら首脳会談などする気はなかったのであるが、それでは済まされなくなったのである。
 韓国側も会談を行うなら、具体的解決策まで引き出したかったところであるが、その点に関しては妥協せざるを得なかった。
 この背景には、アメリカの相当な苛立ちがあると考えられるが、一連の会談では、歴史認識問題での安倍の反動性が改めて浮き彫りになった。
 日中韓会談冒頭、李克強、朴槿恵両首脳が歴史認識を質したのに対し、安倍は「過去のことばかり言うのは生産的ではない」と色をなして反論した。
 安倍は日韓会談でも、朴大統領に対し日本大使館前の慰安婦像を撤去するよう求めたという。しかし途中で体調に異変を来し、ろれつが回らなくなったと11月9日発売の「週刊現代」に暴露された。非道な事を述べようとしたため、極度の緊張に陥ったのではないか。
 結局、韓国側の正論の前に、「気力、体力とも尽きかけていた」安倍は「慰安婦問題の早期妥結」という譲歩を迫られた。そもそも慰安婦問題を議題とした時点で、決裂は許されないなか、こうした結論は予定されていたことである。
 この会談自体を取り巻く環境も相当厳しいものであり、日本政府は「実務訪問」に甘んじなければならなかった。さらに会談後の共同記者会見や、昼食会も設定されず、安倍はソウルで「ひとり焼肉」を喫して帰国した。
 会談を受けて党内から「妥協しすぎだ」との批判が噴出するのを恐れた官邸は、弁明に追われた。帰国後の4日、安倍は谷垣幹事長との会談で「早期妥結」に関して「越年も有りうる」との考えを示したが、同日の自民党外交部会では、「安易な妥協はするな」などの強硬意見が続出し、会談での確認は早くも曖昧になりつつある。まさに「のど元過ぎれば熱さも忘れる」という不誠実な姿勢が露わになっていると言えよう。

<攻勢強める中国>
 もちろん中国、韓国も安倍政権が政治姿勢を転換するとは考えてはおらず、現に「過去ではなく未来を」などと言いながら、日中韓の懸案ではない南シナ海の領有権問題を持ち出す等、挑発を止めない以上、今後も緊張を持った対日関係を続けるであろう。
 ソウルで3か国会談が行われるなか、ニューヨークで開催中の国連総会で、そうした関係を象徴するような議論が行われた。11月2日の軍縮委員会では核兵器廃絶決議に関し、日本政府が求めた「各国首脳らの広島、長崎訪問」決議案に関して、中国代表は「歴史歪曲に利用しようとしている」と反対を表明、ロシア、北朝鮮が同調し、韓国は棄権した。
 ここまでは日本政府も織り込み済みだったと考えられるが、アメリカや英、仏までもが棄権した。とりわけアメリカはオバマ政権発足後初めて日本の決議案に賛成しなかった。中国の主張が一定受け入れられたと言えよう。
 安倍政権としては、もう一つの核廃絶に関する「人道の誓約」決議案に関しては、アメリカに配慮して棄権に回るという対応を示したにもかかわらず裏切られた形となり、痛手となった。
 両決議案は賛成多数で採択されたが、二つの核廃絶決議案で全く違った対応をとった日本政府のダブルスタンダードが浮き彫りになる結果となった。
 中国は歴史認識における価値観の共有化を拡大している。11月7日にはシンガポールで初めての中台首脳会談が行われた。現在、将来の課題である統一問題については一致しなかったが、日本の中国侵略に関する認識については、あらためて確認が図られた。
 アジアでの地歩後退に焦る安倍政権は、経済力と軍事力で失地回復を図らんとしている。日中韓会談に先立ち安倍は10月下旬に、カザフスタン、キルギスなど中央アジア5カ国を歴訪し、約280億円のODAなど経済援助をばら撒いた。
 旧ソ連のこれらの国々は、現在でも独立国家共同体、さらには上海協力機構参加国である。ロシア、中国の影響力の強いこの地域に楔を打ち込もうという狙いであろうが、巻き返しは不可能であろう。
 今回安倍が訪れた各国は、トルクメンスタンなど民主主義国家とは言い難いものがあり、安倍の掲げる「価値観外交」が、いかにいい加減なご都合主義であるかが明らかになったのが、最大の成果と言える。

<共通課題は「対テロ」>
 安倍が中央アジアで得意顔をさらけ出している最中の10月27日、アメリカ海軍のイージス駆逐艦が、スプラトリー諸島で中国の人工島から12カイリ内を航行した。この「航行の自由」作戦は極めて慎重に行われ、中国軍も冷静な対応をとり、両軍の接触はなかった。
 1988年2月黒海で沿岸12カイリのソ連領海内に侵入した米軍巡洋艦、駆逐艦に対し、ソ連軍の警備艦が体当たりを行うという事件が発生した。しかしその後の米ソ関係に変化はなく、冷戦終結の流れは逆行することはなかった。
 アメリカは今後も同様の作戦を継続するとしているが、中国は「抗議」はあるものの、具体的な阻止行動を実施することはないだろう。
 この事態に一人欣喜雀躍しているのが安倍である。安倍は国連総会など様々な国際会議で「力による現状変更は許されない」と中国非難を続けている。11月15日から開催されたG20首脳会議においても、同様の主張を繰り広げんとトルコに乗り込んだと考えられる。
 しかし直前に発生したパリの無差別テロにより、G20の位置づけは対テロ一色となった。会議の合間にもオバマ、プーチン両大統領がホテルのロビーで非公式協議を行うなど、各国首脳はイスラム国対策に忙殺され、安倍の付け入る隙はまったくなかった。
 この流れは、18,19日にフィリピンで開かれたAPEC首脳会議にも引き継がれた。同会議の宣言では、パリのテロ事件を厳しく非難し、被害者への連帯を明らかにする一方、南シナ海問題については言及されなかった。
 このように国際的な共通課題は「対テロ」であり、ことさら地域内の対立を煽る安倍外交は片隅に追いやられた結果となった。

<進む南シナ海への介入>
 宣伝戦で芳しい成果が得たれなかった安倍は、南シナ海での緊張激化策を推し進めようとしている。
 19日夜になり、半年ぶりに日米首脳会談がマニラのホテルで開かれた。この席でようやく南シナ海問題が協議され、安倍は「航行の自由」作戦への全面的な支持を表明、さらに同海域での「自衛隊の活動を検討する」と発言した。
 同日のフィリピン・アキノ大統領との会談では、防衛装備品移転協定締結で合意、これによりP3C哨戒機などの供与が可能になる。南シナ海を巡っては、すでにベトナムへの中古船舶の供与が進められており、着々と間接的介入が既成事実化されているなかでの今回の安倍発言は、直接介入が具体化する危険性が一層高まったことを示している。
 さらに21日からマレーシアで開催されたASEANを核とする関連国の首脳会議、東アジアサミットでも安倍は強硬姿勢を崩さなかった。
 しかし、南シナ海での自衛隊の活動(航空機、艦船による警戒監視・偵察)検討については政府、与党内にも踏み込み過ぎとの考えがあり、慌てた菅は20日の記者会見で「アメリカの作戦に自衛隊が参加する予定はありません。南シナ海で警戒監視活動を行う具体的な計画も有りません」と打ち消しに追われた。
 過剰なリップサービスを行い、東シナ海=尖閣諸島における米軍関与の担保を取ることに躍起の安倍であるが、アメリカは冷ややかである。自衛隊が南シナ海の監視活動に加わり、米軍の負担が軽減されることは歓迎されるだろうが、尖閣問題への介入は別問題であろう。
 特活「言論NPO」が4~9月にかけ実施した「北東アジアの未来と日米中韓7000人の声~日米中韓シンクタンク対話と4カ国共同世論調査」によれば、尖閣諸島を巡り日中が軍事衝突した場合の、米軍派遣の是非に関しアメリカの回答者の64%が反対であることが明らかとなった。
 アメリカは対イスラム国作戦でも、空爆の他は小規模な特殊部隊の派遣に止めており、尖閣への派兵など有りえないだろう。
 ASEAN各国も性急な日本の介入姿勢には警戒感を示しており、「当事者間の対話が第一」という原則を確認すべきである。戦争法成立で歯止めのない軍事行動を画策し、反対の声に対して「対テロ」を口実に、共謀罪新設などで圧殺を目論む安倍政権を許してはならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

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【投稿】「もんじゅ」廃炉の可能性と核燃料サイクルの行方

【投稿】「もんじゅ」廃炉の可能性と核燃料サイクルの行方
                            福井 杉本達也

1 「もんじゅ」運営主体の「原子力機構」に「資質なし」勧告
 11月13日、原子力規制委員会は高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)を運営する「日本原子力研究開発機構」に「資質なし」として運営主体を代えるよう所管する文部科学省に勧告した。これは国策の核燃料サイクル政策に大きな影響を与える可能性がある。文科省は、海外の原子力企業や電力会社などとの提携も含めて「新組織」の検討を始めるが、技術面や能力面で選択肢は極めて限られる。報告期限までに示せなければ、もんじゅは廃炉を含めた抜本的見直しを迫られる。

2 文科省は一旦、規制委勧告の受け取りを拒否
 産経新聞の報道では「『もんじゅ』(福井県敦賀市)について、原子力規制委員会は、所管する馳浩文部科学相に対し、13日に直接面会して変更主体を求める勧告文を渡すことを打診したが、文科相側が拒否した…代わりに文科省の局長が受け取る。…規制庁が『翌週でも時間があるときに』と面会を要請したが、『研究開発局長がそちらに出向く』と回答し、直接の受け取りを拒否した。副大臣や政務官との面会も断られたという」(産経:2015.11.12)。その後、馳文科相が田中委員長から受け取ることとなったが、この期に及んでの文科省の受取り拒否の抵抗姿勢は、その体質を如実に示している。

3 核燃料サイクルに12兆円
 東京新聞によると、核燃料サイクルの費用は、高速炉開発が国家プロジェクトになった1966年度から2015年度まで、判明しただけで計約12兆22百億円に上った。廃炉費用は少なくとも1千億円は必要になるとみられるが、冷却材に危険なナトリウムを大量に使っており、きちんと見積もられていない。核燃サイクルのコストは、電気事業連合会(電事連)が10年以上前の2003年、各施設の建設、操業(40年)、解体、最終処分までの総額を約19兆円との試算をまとめていたと報じている(東京新聞:2015.11.17)。冷却材としてのナトリウムを固化させないように「もんじゅ」を維持管理するだけで1日に5,000万円、年間200億円もかかっている。

4 核燃料サイクルにこだわるのは核武装のため
 なぜ、政府は「もんじゅ」の運転と核燃料サイクルの維持にこだわるのか。高速増殖炉は、プルトニウム239とウラン238を燃やし、さらにウラン238をプルトニウム239に転換させるというものだ。「燃やせば燃やすほど燃料が増える」「夢の原子炉」という、キャッチフレーズが使われた。しかし、計算ではプルトニウムの倍増には50年以上かかる。それでは「もんじゅ」の建て替えが必要となる。「もんじゅ」の真の目的は軍事用プルトニウムの生産にある。そのプルトニウムは「もんじゅ」の炉心燃料にあるのではなく、炉心を取り巻く核分裂しないウラン238を主体とするブランケットと呼ばれる燃料集合体の部分にある。ウラン238が高速中性子を吸収し核分裂性のプルトニウム239に変わる。その燃料集合体を毎年半数取り出せば98%のプルトニウムを62kg生産することができる(原発でもプルトニウムを生産できるが、プルトニウム239の割合は58%程度であり、プルトニウム240などの不純物を多く含み、不完全爆発になったり、爆弾が巨大化してミサイルに搭載できないなど実戦には不向きである:参照:槌田敦『隠して核武装する日本』)。ところが、このことをマスコミも社民党・共産党も原水禁も取り上げない。日本に長年核武装の構想があるというのは3.11後もタブー視されたままである。日本の脱原発運動の根本的弱点はプルトニウムの危険性を指摘しながら、既に日本が核武装の道を着々と歩んでいることを頑として認めない(何らかの脅しにより認められない)ことにある。もちろん日本の宇宙開発も核弾頭の運搬手段としてのミサイルの開発にあり、H-2A・Bロケットの打ち上げ成功を手放しで喜ぶべきものでなない。2010年、小惑星の探査を目的として打ち上げられた「はやぶさ」が地球の大気圏に再突入し、小惑星「イトカワ」の微粒子を持ち帰ったことが大きな話題となったが、「イトカワ」とは戦時中、戦闘機「隼」を設計し、戦後はいち早くペンシルロケットなどミサイルの開発に着手した軍事技術研究の第一人者である糸川英夫から命名されたものであり、軍事技術と宇宙開発は切っても切れない関係である。

5 なぜ規制委は勧告を出したか―米国の強い要求
 10月に来日したジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)は、「六ヶ所再処理工場の運転開始計画に関し、『日本にはすでに相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい』と述べ…『分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ』との考えを強調」したと報道されている(朝日:2015.10.12)。核燃料サイクルの放棄を最後の最後まで渋る文科省に最後通牒を出せるのは規制委の一存では不可能である。背後に米国の強い意向が働いていることは疑いがない。2018年7月に日米原子力協定の改定も迫っている。こうした中で、日本原燃は核燃料サイクルの中核である六ヶ所村の再処理工場の完成時期を2018年上期まで延期すると22回目の延期を発表した(日経:2015.11.18)。
 しかし、こうした米国の動きに対し、初代原子力調整官、初代外務省原子力課長(1977-82年)として米カーター政権からレーガン政権までの間・日米原子力交渉を担った金子熊夫は「日本は、1970~80年代に必死に対米交渉をした結果、非核兵器国ながら再処理、濃縮の権利を獲得した、いわば既得権者、特権階級である。」「1988年に発効した新日米原子力協定(2018年まで30年間有効)では、日本は再処理、濃縮(20%以下)、第三国移転について「長期包括的承認」を与えられることになった。それ以前の「ケースバイケースでの承認」ではなく、一定の条件下で一括して事前承認するという方式を確立した…このような形で再処理、プルトニウム利用などを行うことができる権利は、核兵器国(米露英仏中の5カ国)を除くと、日本とユーラトム(欧州原子力共同体)加盟のドイツ、イタリア等だけに認められた非常に貴重な権利である。」と述べ(『WEDGE』 2014,4,11)米軍産複合体の後押しもありやっと確保した独自核武装の『権利』を何が何でも失うまいと躍起である。これが、これまで「もんじゅ」の20年間もの長期間の運転停止、六ヶ所村の再処理工場の度重なる操業延期にもかかわらず核燃料サイクルを「廃止」しない理由である。

6 「もんじゅ」廃炉をどうするか―伴原子力資料情報室代表:コメントを訂正
「もんじゅ」の運営に対する規制委の勧告にあたり、中日新聞紙上で原子力資料情報室の伴英幸共同代表は、「大半を預けている英仏に引き渡すか、ウランと混ぜて通常の軽水炉で燃やす「プルサーマル発電」で消費するかの選択肢を示す。」(中日:2015.11.5)とコメントした。プルサーマル発電で消費するということは、現在の九州電力・川内1,2号の再稼働だけでは全く不十分であり、数十機を再稼働しなければならなくなる。伴氏は翌日「これだとプルトニウムをプルサーマルで処分することを推奨していると読める。しかし、これは私の本意ではない。本意を端的にいうと、プルトニウムを放射性廃棄物として処理・処分するべきとするのが伴の考えである。国内には高レベル放射性廃液が残っているので、これと混合することで放射性廃棄物となる。政策的方法としてこれを主張したい。」(伴代表コメント訂正:2015.11.6 CNICトピックス)。と訂正した。
 英国の20.7tと仏の16.3tを引き渡すのは当然として、問題は国内の10.8tをどうするか及び「もんじゅ」内に残る未処理のブランケット内の98%の超軍事用プルトニウム62kg(茨城県の高速増殖炉実験炉「常陽」のブランケットには22kg)をどうするかである。「もんじゅ」は元々文科省(旧科学技術庁)所管であり、独自核武装派の牙城である。一方、六ヶ所村の核燃料再処理施設は民間運営の日本原燃(株)という形態をとり、対米従属を国是と考える経産省所管である。六ヶ所村の再処理施設は隣接の三沢基地の米軍の監視下にあると考えてよい。原子力機構が運営主体であった茨城県東海村の再処理工場は2007年に閉鎖されるまで約7トンのプルトニウムを生産していたが、米軍の監視の目が行き届かないとして強引に廃止させられた。「もんじゅ」(「常陽」を含む)の虎の子のプルトニウムを米軍監視下に置くのか、独自武装派の支配下で敦賀半島先端の「もんじゅ」敷地内に止め置くのか、どのような形態で保管するのか。「原発ゼロ」では日本国内でのプルトニウムの消費=「平和利用」という口実を奪い、「独自核武装」疑惑を打ち消せなくなる。発電のために原発の再稼働が必要なのではない。核武装構想を打ち消すために再稼働とMOX燃料による純度の低い原発級プルトニウムの消費が求められているのである。12月5日に「もんじゅを廃炉に!全国集会」が「高浜原発3,4号機再稼働反対集会」と抱き合わせで福井市において開催される。伴代表と鈴木達治郎長崎大教授との対談も予定されている。高浜3,4号機においては、MOX燃料の装荷も予定される。今後、「もんじゅ」廃炉をめぐって核武装派ばかりでなく、脱原発派もその真価を問われることとなる。 

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

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【投稿】維新が制した大阪ダブル選 統一戦線論(18)

【投稿】維新が制した大阪ダブル選 統一戦線論(18)

<<最も喜んだ安倍政権>>
 11/22投開票の大阪府知事・大阪市長のダブル選、どちらも橋下大阪市長が率いる大阪維新の会が制する結果となった。非常に残念な事態である。
 この結果に最も喜んでいるのは、安倍首相であろう。安倍政権は官邸が中心となって、大阪の自民党推薦の候補ではなく、大阪維新の会の候補者を側面、あるいは全面支援していたのである。安倍首相は、安保法制審議の真っ只中にもかかわらず、9/4に大阪入りした際、大阪の公明党の議員や幹部とわざわざ会談し、「橋下大阪市長と和解してもらえませんか。橋下さんや松井一郎大阪府知事が国政進出する際にも、公明党の力添えが必要なのです。」(「週刊現代」9/26-10/3合併号)と要請、圧力をかけていたことが暴露されている。大阪の自民党は安倍首相の介入によって、完全なねじれ状態に追い込まれ、よく抵抗したとはいえ、立候補者の擁立も遅れ、一体となって闘う体制がそもそも崩されていたのである。
 そして、選挙戦に入るや公明党の佐藤茂樹大阪府本部代表は記者団に「どちらかにくみするのではなく、民意で選ばれたリーダーと、合意形成をしていく姿勢で臨みたい」などと大阪「維新」に公然と秋波を送った(11/2)。公明党は明らかに、衆参両選挙での橋下「維新」側からの対立候補擁立の脅しに屈して、維新との裏取引で「中立」、「自主投票」を装い、維新の勝利に手を貸す選択をしたのである。
 大阪維新の会の側も意図的、かつ本心の吐露でもあろう、安倍政権へのすりより路線をいっそう明確にした。首相の応援団を自任する橋下氏が、集団的自衛権の行使について「安倍さんは、どれだけ批判があっても実行する」(「産経」10/15付)と安保法制(戦争法)の強行成立などの強権的な“実行力”を絶賛し、松井氏も「安倍政権とは価値観が合う」「憲法改正を進めるのは協力できる」(「日経」10/1付)などと露骨に安倍暴走政治との一体性を誇示、安倍独裁政治の過激な別動隊としての橋下「維新」の役割を買って出ている。安倍首相が、自党候補の勝利ではなく、「維新」候補の勝利をこそもっとも喜んでいる所以でもある。

<<『ふにゃぎもとさん』>>
 選挙の争点は、本来は、つい半年前、5/17の住民投票で反対多数・否決となった「大阪都」構想の再提案の是非であった。そもそも、橋下氏は「都構想の住民投票は1回しかやらない」「賛成多数にならなかった場合には都構想を断念する」「今回が大阪の問題を解決する最後のチャンスです。2度目の住民投票の予定はありません」と明言し、退路を断ったかのように見せかけて、票をかき集める、嘘八百の手口で世論誘導をしたにもかかわらず、少数差とはいえ敗北した。その結果、橋下氏は「政界引退」表明に追い込まれたのであった。しかしその「政界引退」表明もまったくの大嘘であった。
 この手口は、安倍首相のアベノミクスの大嘘、福島原発事故汚染水「アンダーコントロール」の大嘘、そして「アベノミクス第二ステージ」の大ボラ、とまったくの相似形である。両者の独裁的、強権的政治姿勢も瓜二つである。
 そこで選挙戦では、このような政治姿勢を問われたのでは不利である。そこで橋下「維新」は論点を完全にすり替えた。大阪都構想の再提案ではなく、大阪「副首都」構想に「ヴァージョンアップ」したとごまかし、力点は、反維新のオール大阪共闘体制へのデマ・中傷路線に徹底したのである。「自民・共産・民主が共闘」→「暗黒の大阪に逆戻り!」「過去に戻すか、前に進めるか」とビラに大書し、橋下氏は「共産と組んだ大阪自民はろくでもない。維新をつぶすために、悪魔と一緒になって禁断の果実をかじってしまった」と連日連呼したのである。そしてついには、市長の対立候補である柳本氏を、橋下氏は「あの人は非常に紳士なんですけど、長い話で結論を言わない。テレビ討論でも、ふにゃふにゃふにゃふにゃ言ってる間にCMになっちゃう」とこき下ろし、「柳本さんと言うと僕が名前を広めてるみたいだから、これからは『ふにゃぎもとさん』と呼びます」などと、お粗末極まりない個人攻撃に終始していたのである。これが橋下「維新」選挙の実態であった。

<<「オール大阪」の共闘体制>>
 それにもかかわらず、あるいはそれだからこそと言うべきか、橋下「維新」が勝利を制した。本来の争点が完全にぼかされ、うやむやにされてしまったのである。橋下「維新」の狙いもそこにあったと言えよう。都構想は、大阪市民にとってはすでに決着していた政策の蒸し返しであり、投票率が前回から10.41%も下がってしまった(市長選50.51%、府知事選は7.41%減の45.47%)のは、当然と言えよう。
 そもそも「都構想」という政策自体が詐欺的であり、その実態は、政令指定都市である大阪市を解体し、その財源を大阪都に吸い上げ、橋下「維新」の投機的・カジノ的政策に流用する、それを独裁的・集権的に進める政治体制を構築することにある。その本質は、新自由主義政策であり、社会資本と福祉の切り捨て、あらゆる公的部門の民営化、格差と貧困と差別の拡大政策である。
 反「維新」の「オール大阪」の共闘体制は、残念ながらこれと対決する政策を明確に対置し得なかった。独裁的・集権的政治手法には「NO!」の声を大きく結集しえたが、肝心の経済政策で、どちらもリニア新幹線の大阪延伸を冒頭に掲げるなど、違いを明確化できなかったのである。
 それでもこの「オール大阪」の共闘体制には、これまでの政党間共闘とは違った、新しい統一戦線形成の芽生えが、希望が動き出している。その象徴は、この「オール大阪」の選挙戦に多くの学生、青年、若者が積極的に登場し、発言し、訴えていたことである。SADL(民主主義と生活を守る有志)に結集する若者が、各地域での「オール大阪」の政談演説会に積極的に参加し、会場を準備し、多種多様なプラカードやリーフレット、ビラを多く用意し、配布し、なおかつ演壇に立ち、一人ひとりが自らの見解を訴えていたことである。筆者が参加した投票日2日前の京橋駅頭での「オール大阪」の政談演説会では、登壇した若い女性が「私は自民党支持者ではありません。しかし今の橋下政治は許せません。住民福祉の増進を進める自治体、地元民に立脚した経済、一人ひとりが考え、みんなで作る大阪を望みます」と訴え、駅頭をうずめた多くの人々が声援と拍手で応えていたのである。(写真は、11/20京橋駅頭、筆者撮影)

<<「いま、大阪ではもう『同和』はありません」>>
 共産党が独自候補を立てずに、この「オール大阪」に合流し、活発な活動を展開した意義は大きく評価されよう。
 しかしその共産党は、橋下「維新」の社会資本切捨て・差別拡大政策では、橋下「維新」に同調してきたのである。人権資料博物館「リバティおおさか」への補助金全額カット、大阪市内10地区の市民交流センターの縮小・廃館政策、人権予算の大幅削減などでは、橋下「維新」をむしろ擁護、激励し、さらなるカットを要求して、橋下「維新」との統一戦線を形成してきたのである。共産党系の「民主主義と人権を守る府民連合」は、対大阪府交渉において「同和地区」「同和地区住民」は存在しないことを明言せよと迫り、今年1/21の対大阪府教育委員会との交渉では、府教委に「今、被差別部落なんてないよという言い方になると思います」と回答させて、大いなる成果と喜び、「いま、大阪ではもう『同和』はありません」と叫んでいる(『人権と部落問題』2015年6月号)事態である。
 人権政策をめぐるこの共産党の差別助長政策は大阪の統一戦線形成・発展にとって大きなマイナス要因であり、橋下「維新」はこれを大いに助長・利用したことを、今次ダブル選挙の一つの教訓としなければならないといえよう。
(生駒 敬) 

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

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【報告】中日戦争70年記念展示を見て

【報告】中日戦争70年記念展示を見て(台北・中正紀念堂) 

 「抗日戦争の真相–特別展–」が、台北市の中正紀念堂の1階ロビーで、開催されていた。それを目的に訪れたわけではなく、台北ツアーの中に、蒋介石を紀念する建物の見学があり、この展示会を見ることができた。
 主な展示は、盧溝橋事件から始まる日中全面戦争の、歴史絵画が中心であろうか。中国全土の地図の上には、大きな会戦のあった場所が示され、全土に及ぶ日中戦争の規模と経過を示している。抗日戦争を最前線で闘ったのは、蒋介石の中華民国軍である。かつて、私は抗日戦争をテーマにした本の書評を書いている。(アサートNo345「「抗日戦争中、中国共産党は何をしていたか」)国共内戦を経て、台湾に逃れた経過があるとは言え、抗日戦争について語る資格があるのは、中華民国なのである。

 盧溝橋事件、上海の攻防、南京大虐殺、重慶無差別爆撃の絵を見ながら、日中戦争の歴史を再度辿ることができた。スタッフの女性に、日本語で書かれた歴史書はありませんかと尋ねたところ、売店にあると言われて探してみた。残念ながら、なかったのであるが、「1937南京真相」というDVDを見つけ、買うことができた。
 中々しっかりした内容で、盧溝橋事件から南京陥落、そして大虐殺と、中国軍の元兵士、市民、元日本兵の証言も収録されている。中国語は解せないが、字幕の雰囲気でも、充分に理解することができた。
 中華民国では、来年1月が総統選挙である。現総統は国民党の馬英九であるが、支持率は10%に満たず、民進党の蔡英文女史が有利と言われている。2014年中国との貿易協定に反対して、台北の学生が立法院を占拠した事件、そして、香港での「雨傘革命」と言われた学生の座り込み闘争などを経て、習近平の覇権主義に台湾でも批判が強まっており、習近平にすり寄る国民党は評判が悪いようだ。
 この展示も、そうした国民党政府の思惑も感じられるが、それを割り引いても、日中戦争の被害者、抗日戦争の当事者からの視点を、感じることは大切であろう。

 スタッフがくれた日本語の展示パンフレットには、馬英九総統の文章がある。その中に、英オックスフォード大学のミッター教授の著書から「中国の抗戦は、全く勝算がない中で苦難を耐え抜き、一切を顧みず徹底的に戦った英雄の物語である。外国人記者や外交官は異口同音に、中国はダメだ、中国は終わりだと予言していたが、これが全くの誤りだったことを証明した。この貧しく遅れた国は、四年間孤軍奮闘して日本に対抗し、80万の世界で最も近代化された精鋭部隊を牽制した。真珠湾攻撃後の4年間は連合国がヨーロッパ・アジアの戦場で同時に作戦を遂行し、次々に勝利を収めたが、これは中国が日本に抵抗をつづけたおかげである」を引用し、「中国が戦時中に世界四強となることができた理由はここにあります。」と述べている。
 戦後、1952年には中華民国政府と日本は日華平和条約を締結し、1970年代の中華人民共和国との国交正常化まで、正規の友好関係にあった。台湾統治以来の長い歴史の中で、特に本省人と言われる台湾国民は、日本に親しみを感じる方も多いと聞く。東日本大震災に際しては、200億円とも言われる義援金が台湾から送られた事も記憶に新しい。歴史を忘れているのは、日本の方であろう。現在、台湾には多くの日本人旅行者の姿があった。観光と美食が話題だ。しかし、この展示は是非、じっくりと見てほしいと感じた。この展示は、今年7月から始まり、来年6月24日まで開催されているので、もし機会があれば、ゆっくりと見ていただきたいと思う。(佐野) 

【出典】 アサート No.456 2015年11月28日

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【投稿】大敗北の安倍外交  政権の失策追及する取り組みを

【投稿】大敗北の安倍外交  政権の失策追及する取り組みを

<国連で存在感無し>
 9月下旬、国連総会に合わせ主要国首脳は精力的な外交活動を繰り広げた。25日の米中首脳会談は、南シナ海問題では平行線で終わったものの、サイバー攻撃に関しては、これを禁止することで両国は合意し、今後年2回、同問題に係わる閣僚級会議を開くことでも確認された。
 さらに、南シナ海空域での両軍の偶発的衝突を回避するための行動規範策定や、地球温暖化対策、人民元の為替操作など経済問題でも米中の協力が確認された。
 28日には米露首脳会談が行われ、シリア情勢、ウクライナ問題等について突っ込んだ協議が行われた。このなかでオバマ大統領はロシア軍のIS攻撃には反対しないことを表明、これを受けてプーチン大統領は、即刻ISを含む反アサド勢力への空爆を開始した。
 米露中の首脳が存在感を示す中、意気込んでニューヨークに乗り込んだ安倍は完全に埋没した。オバマとは話もできずバイデン副大統領と会うのが精いっぱいだった。NHKなどマスコミは「大統領選挙に出馬が期待されているバイデン氏」などと、箔をつけるのに苦心していたが格落ちは明らかであろう。来年の大統領選挙を意識したのなら、ヒラリー・クリントンにも会えばよかったのではないか。
 29日午前(日本時間)には日露首脳会談が行われた。遅刻した安倍は小走りにプーチンに駆け寄り握手を求めた。その卑屈な姿勢は、国内、とりわけ国会における傲慢さと全くかけ離れたものであり、相手によって態度を変える賤しい姿勢があからさまになった。
 安倍、プーチン会談は第2次安倍政権発足以降、8回にもなるが毎回話し合いを継続することが確認されるだけであった。今回も同様で具体的成果は無かったどころか、これまで「年内」と明言されてきたプーチンの訪日について、「ベストなタイミング」と曖昧な表現に変わり、年内訪日は事実上断念された。
 その日の午後、国連総会での一般討論に臨んだ安倍は、空席が目立つ議場に向かって、拳を振り上げながら積極的平和主義と安保理改革をアピールした。
 安保理改革については、NY入り直後の26日、常任理事国入りを目指す独、伯、印首脳との共同会見というパフォーマンスを演出したが、支持率一桁のルセフ伯大統領、難民支援とVW社の排ガス不正の直撃を受けているメルケル独首相は、気もそぞろであり迫力のかけるものとなった。
 そのシリア難民支援に関しては、国際社会が最も注目しているところであるが、安倍は国連演説で「難民を生み出す土壌を変えるために貢献したい」と一般論を述べ、財政支援として昨年比3倍の8.1億ドルの拠出と難民通過国への追加支援を表明するにとどまった。
 現実問題として、日本が大量のシリア難民を受け入れることは不可能ではあるが、難民認定基準を排除の方向へ改悪したばかりの日本の首相の言説は空虚に響くばかりであった。
 問題なのは安倍の認識である。安倍は「日本は難民を受け入れるのか」との海外メディアの質問に「難民を受け入れる前に女性、高齢者を活用し、出生率を上げることだ」と難民と移民を混同し「一億総活躍社会」に牽強付会するという頓珍漢な回答を行った。
 これ以前に政府はシリア難民のうち、若者や有技能者の受け入れを検討中と伝えられたが、これも外国人を労働者と観光客としか見ていない安倍政権の限界を示すものであろう。
 
<アジアでも地歩後退>
 こうしたなか、これまでの安倍外交の無意味さを象徴するかのような出来事が連続した。9月29日インドネシアは建設予定の高速鉄道について、中国方式を採用することを決定し、日本の新幹線方式は脱落した。
 同高速鉄道計画は、8月に計画そのものを白紙に戻すこととなったが、一転して建設が決定した。ジョコ大統領はこの3月に来日し安倍と会談、4月にもパンドン会議の際にジャカルタで会談するなど、「親密な友好関係」を築き上げてきたはずであったのが、この有様である。
 高速鉄道を巡っては、ロスアンゼルス―ラスベガス間での中国方式採用を目指した米中合弁企業が先の習近平訪米直前に設立されており、安倍政権にとっては手痛い連敗となった。
 インドネシア政府の決定を同国担当閣僚から伝えられた菅官房長官は「日本は最良の提案をしてきた」「極めて遺憾だと大統領に伝えてほしい」と苦情を申し立てるなど、友好国の大臣に対して異例の対応を行った。
 その後の記者会見でも菅は「(資金計画は)常識的には考えられない」「うまくいくかどうか極めて厳しい」とやり場のない怒りをぶちまけたが、負け惜しみにしか聞こえなかった。
 追い打ちをかけるように、10月10日ユネスコは世界記憶遺産として「南京大虐殺」関連資料の登録を決定した。日本政府はこれを「ユネスコの政治利用」だとして抗議を行った。政府・自民党内からも不満が噴出し、ユネスコへの分担金停止や脱退という極論が飛び出している。
 国連安保理の常任理事国入りを目指す国が、国連機関の決定に不満だからと言って、恫喝や脱退をチラつかせるのは支離滅裂としか言いようがない。安倍は、首脳会談調整のため来日した中国の楊潔チ(よう・けつち)国務委員に直接苦言を呈するなど、動揺を隠せないでいる。
 さらに今回、記憶遺産にはシベリア抑留者に関する資料も登録されたが、これに関してロシアから早速「政治利用である」とのクレームがついた。安倍政権の大ブーメランであり、「歴史戦」の敗北は明らかである。
 今後、今回は認定されなかった従軍慰安婦関連資料の登録も現実味を帯びてきており、10月末以降、日中韓首脳会談や日中、日韓首脳会談が実現すれば安倍は苦しい立場に追い込まれるだろう。

<軍拡で対抗の愚>
 この様な地歩後退を安倍は軍事活動拡大と緊張激化で挽回しようとしている。9月30日戦争法案が公布され、半年以内に施行されることが決定した。焦点の一つであった「駆けつけ警護」に関しては、来春から南スーダンでの発令をめざし準備が進められようとしている。
 この「駆けつけ警護」の危険性を端的に示す事件がアフガニスタンで発生した。10月3日、同国北部のクンドゥズ市で「国境なき医師団」が運営する病院が、米軍機の攻撃を受け多数の犠牲者が出た。
 同市でタリバンと交戦中のアフガン政府軍から支援要請を受けた米軍攻撃機が「駆けつけ」たものの、目標が誤って伝えられたために発生した悲劇である。
 原因は情報が、アフガン軍→米軍特殊部隊→攻撃機と伝わる中で誤ったと考えられるが、多国籍の部隊が展開する戦場ではいつでも起こりうる問題である。
 オバマ政権はアフガンからの戦闘部隊の完全撤退を断念し、当面駐留を続けることを決定したが、これにより自衛隊の派兵可能性が浮上することも考えられる。
 安倍政権は、戦場の危険性に関して自衛隊のリスクさえ高まらないとしており、民間人を犠牲にする可能性など顧みずに、権益確保のための活動を推し進めようとするであろう。
 10月14日、インド東方海上で米、日、印3か国による「マラバール演習」が開始された。1992年に始まった同演習は米、印2国間演習を基本とするものであったが、近年日本は積極的に関与し、海上自衛隊は2年連続4回目の参加となった。
 日本の参加により演習の性格は、より中国を意識したものとなり、アジア地域の緊張を高めるのに一役を買っている。この演習さなかの10月18日には東京湾で海自観艦式が開催され、安倍は護衛艦艦上で訓示を行った。
 安倍は「自衛隊は心無い多くの批判にさらされてきた」と平和を願う国民の声を誹謗、さらに「積極的平和主義で世界に貢献」することを表明し「日本を取り巻く環境は厳しくなっている」と暗に中国を牽制した。
 そして「一国のみでは平和を維持できない」と集団的自衛権を解禁した戦争関連法を正当化した。このあと安倍は日本の総理としては初めて米空母を訪れ、日米同盟の強固さをアピールし、対中軍拡を一層進めようとしている。
 10月19日からは陸上自衛隊が九州・沖縄地域で西部方面隊基幹の実動演習を、隊員1万5000人、車両3500両、航空機75機などの動員で実施している。これは「対着上陸訓練」など中国の侵攻を想定したものであり極めて挑発的なものである。
 中国が、経済・文化で存在力を発揮するのに対し、軍事力で対抗しようというのは、戦わずして負けているのと同様である。

<海外逃亡図る安倍>
 相次ぐ外交的失策と裏腹の軍事力強化の下で内政はないがしろにされている。TPP交渉の大筋合意直後の10月7日、第三次安倍改造内閣が発足した。
 これに先立ち安倍は9月24日、次期内閣は「経済最優先」として「強い経済=GDP600兆円」「子育て支援=出生率1,8人」「安心の社会保障=介護離職ゼロ」という「新三本の矢」政策を進め、「進め一億火の玉だ」を彷彿とさせる「一億総活躍社会」を目指すことを表明した。
 しかし新三本の矢を実現するための具体策は示されず、「一億総活躍社会」に至っては、加藤担当相自身が「これから何をするか考える」などと述べるという無内容ぶりである。
 今後、自民党内から「ニートや引きこもりは自衛隊で鍛えなおせ」「生活保護受給を抑制せよ」という声が出てくるだろう。
 本来なら戦争関連法の問題点、TPP合意内容の検証と今後の交渉、そして「新三本の矢」の現実性等々の重要案件を審議する臨時国会を直ちに開催しなければならないはずである。
 しかし、政府与党は「総理の海外出張が立て込んでいる」という理由にならない理由で、臨時国会の開催を拒否している。まったく成果が見込めないどころか、恥と緊張をばらまきに行くだけの外遊は文字通り海外逃亡であろう。
 野党はこのような安倍政権の横暴を許してはならない。そして共産―民主―維新(非橋下)のブリッヂ共闘を展望した選挙挙力を実現すべきである。そして、国会を包囲した大衆運動の力で安倍政権を追い詰めていかねばならない。(大阪O)

【出典】 アサート No.455 2015年10月24日

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【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」

【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」
                           福井 杉本達也

1 高浜原発再稼働にあたっての地元同意に福井県の5条件
 10月15日、九州電力川内原発2号機も再稼働した。また、10月末には四国電力伊方原発3号機について林愛媛県知事も再稼働の地元同意をする見通しとなってきた。
 先行する2原発に対し、福井県の関西電力高浜3・4号機の再稼働は遅れている。高浜原発の再稼働にあたっては、運転差し止めを命じた福井地裁での異議審で決定が覆えらない限り不可能であるが、もう一点、福井県は再稼働の地元同意にあたって5項目の条件を掲げている。①原発の重要性に対する国民理解の促進、②使用済み核燃料の中間貯蔵施設の県外立地に右向けた国の積極的な関与、③電源構成比率の明確化、④事故制圧体制の強化、⑤立地地域の経済・雇用対策の充実であるが、③については、資源エネルギー調査会で結論が出た(原発比率20~22%)、④も規制委の新規制基準でクリアしたとしており、⑤も北陸新幹線の敦賀駅までの延伸のめどがついたと評価している。政府は10月6日に②について、使用済み核燃料の「乾式貯蔵」(使用済み核燃料を巨大な金属やコンクリートなどの円筒容器に入れて水冷ではなく空冷により貯蔵するという方法)の増加を目指すとともに、受け入れる自治体には交付金を交付するとした。福井県はこの国の姿勢を一定評価するとしており、再稼働同意に向けてそろりと動き出した(福井:2015.10.7)。

2 立地地域が核の「最終処分場化」されることへの福井県の懸念
 使用済み核燃料のプールでの「湿式貯蔵」は非常に危険なものである。福島第一3号機プールは全電源喪失により熱交換ができずプールの水が蒸発し使用済み核燃料の上部がむき出しとなり水蒸気爆発を引き起こした。大量の使用済み核燃料を保管していた4号機プールも危険な状態に陥った。使用済み燃料プールは蓋のない原子炉のようなものである。しかし、西川福井県知事は「湿式貯蔵」の危険性をほとんど理解していないのか、使用済み核燃料の「中間貯蔵」は県外に設置すべきとの持論である。福井県は原子力による発電は認めるが、核廃棄物は県外にということである。使用済み核燃料が立地地域になし崩し的に「永久貯蔵」され「最終処分場」とされることへの懸念でもある。広瀬隆の『東京に原発を!』を多少ねじ曲げ『東京に放射性廃棄物最終処分場を!』という論理でもある。しかも、この意見は一人知事の意見ではなく、原子力発電に反対する福井県民会議の事務局長でもあった故小木曽美和子氏を含めた、福井県の推進・脱原発派の “大枠の合意”でもある(福井:2014.6.23コラム「越山若水」:2015.3.23)。しかし、3.11以前ならまだしも、3号機プールの水蒸気爆発を経験した後では、いかなる地域でも「湿式貯蔵」の引き受け手などあるはずはない。唯一、再処理するというストーリーで引き受けてきた六ヶ所村の施設も満杯である。ここに西川知事が伊藤鹿児島県知事や中村愛媛県知事のように“軽く”再稼働に同意できない背景がある。今回、県の同意のハードルを低くしようと国が持ち出してきたのが「乾式貯蔵」と立地自治体への交付金である。

3 「乾式貯蔵」の選択による核燃料サイクルの中止を
 日本は、使用済み核燃料は全て六ヶ所村の再処理工場で再処理する方針の一方で、「利用目的のないプルトニウムを持たない」ことを国際公約としている。この再処理したプルトニウムを高速増殖炉もんじゅで使用するとしてきたが、もんじゅは止まったままであり、保安規定違反を原子力規制委から指摘されており、再稼働の見込みは全く立たない。日本がため込んだプルトニウムは2014年末で47.8トンもあり、核兵器の量にすると6,000発分にも相当する。来日したホルドレン米大統領補佐官からも「プルトニウムの備蓄がこれ以上増えないことが望ましい」とくぎを刺されている(朝日:2015.10.12)。このため、付け焼刃的にこのプルトニウムを少しでも減らそうと普通の原発(軽水炉)で燃やす「プルサーマル計画」(通常のウラン燃料にMOX燃料(二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜた)を加えて)を立てている。関電は再稼働予定の高浜3,4号炉にもMOX燃料を装荷するとしている。
「乾式貯蔵」を原発敷地内に限るならば、「核燃料貯蔵プールの容量オーバー」→「原発敷地外への移送」(「県外への移送」)→「六ヶ所村での再処理」→「プルトニウムの蓄積」という圧力を止めることが可能となる。しかも、「湿式貯蔵」というあまりにも危険性の高い状態を改善することにつながる。もちろん、東電と日本原電が青森県むつ市で建設中の六ヶ所村での再処理を前提とした「乾式貯蔵」方式をとる大規模「中間貯蔵」(リサイクル燃料貯蔵株式会社)の構想は論外ではある。
「乾式貯蔵」の利点を整理するならば、①使用済み燃料の貯蔵方法として―これまでの水冷による燃料プールでの貯蔵での、燃料集合体を非常に稠密に詰め込み、炉心のような状態になっており核分裂連鎖反応(臨界)の危険性があり、壊滅的な事故を生じる恐れを減らすことができる。②再処理における事故の危険性を少なくできる。特に高レベル放射性廃液は崩壊熱により高温化する恐れがあり、絶えず冷却し続ける必要があり爆発の危険が高い。最短で12時間で沸騰すると言われる。また、ガラス固化も容易ではない。③核兵器に利用可能なプルトニウムをこれ以上増やさないことができる(参考:フランク・フォンヒッペル「増殖炉開発・再処理から『乾式貯蔵』に進む世界」『世界』2012.8)。そして④「核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘をうけないように配慮する」(「わが国の外交政策大綱」1969年9月25日)という、わが国官僚機構に根強く巣食う独自核武装の考え方も最終的に放棄させることが可能となる。
 さらには、実施段階を逆戻りさせる「可逆性」を技術的に確保することができる。使用済み核燃料の「全量再処理」及び放射性廃棄物の不可逆的深地層処分という既存路線ではなく、すなわち技術的選択肢として、放射性廃棄物の「処分」と「貯蔵」とに明確に区分せず、「モニタリング付き地層処分」「可逆可能地下貯蔵」「超長期中間貯蔵」といった、「段階的方式」「可逆性」「回収可能性」という政策決定プロセスの柔軟性が生まれる(勝田忠広・尾内隆之「使用済核燃料問題に『乾式中間貯蔵』による転回を」『科学』2009.11)。

4 日本の核政策を左右する高浜原発の地元同意
 10月16日、福井県は同意への地ならしとして高浜原発において行政・電力事業者等関係者のみの参加による防災訓練を行った。IAEAは3.11以前から原子力緊急事態における防護対策として、「『緊急防護対策』は、有効であるためには速やかに(通常は数時間以内に)講じられなければならない対策である。原子力緊急事態における最も一般的な緊急防護対策は、避難、屋内退避、ヨウ素剤による甲状腺ブロック、汚染されている可能性のある食品の摂取制限及び個人の除染である」とし、このため、「(14)訓練、実地訓練及び演習を計画し、実施する」ことを要求している(「東京電力福島第一原子力発電所事故最終報告書」)。今回の訓練には住民が参加しておらず、国際的要件を満たすものではない。川内2号機の再稼働を認めた鹿児島県の伊藤知事は九月県議会で、「(福島第一原発事故より)放射性物質の放出は低く抑えられ、避難する事態は発生しない」(中日:2015.10.16)と答弁したが、訓練どころか「深層防護」の概念を全く理解しない住民切り捨てのとんでもない考えである。
 高浜原発の再稼働には上記のような様々な問題が絡み合っている。もちろん11月13日にも福井地裁で審理される差し止め処分の異議審も絡んでいる。福井県内の脱原発派においても元美浜町議の松下照幸氏などは使用済み核燃料の中間貯蔵施設の町内受け入れを提言している。建設から40年を超える原発を多数抱え廃炉が避けられないが、再処理が物理的にも行き詰っている中、そこに保管された使用済み核燃料を他県に搬出するというのは論理的に考えても、倫理的に考えても不可能である。福井県において住民の安全を確保するには原発敷地内における「乾式貯蔵」は避けて通れない。西川知事は民主党:野田政権時代の2012年には北陸新幹線敦賀延伸確約と引き換えに全く安全対策の取られていない大飯原発3,4号機の再稼働を認めた前歴があるだけに無原則な妥協もありうるが、今回は電力の需給が逼迫しているというプロパガンダを使えないことや北陸新幹線の敦賀以西のルートを決めるには、原発から5キロあるいは30キロ圏内にかかる京都・滋賀の意向を全く無視することもできないという事情もある。県の地元同意は知事本人の意思とは無関係に今後の日本の核政策を左右する要素を含んでいる。 

【出典】 アサート No.455 2015年10月24日

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆 | 【投稿】高浜原発再稼働の動きと使用済み核燃料の「中間貯蔵」 はコメントを受け付けていません