【コラム】ひとりごと –橋下市長の「従軍慰安婦」発言に思う– 

【コラム】ひとりごと –橋下市長の「従軍慰安婦」発言に思う– 

<他人事のような必要悪論>
■橋下市長が、5月13日に「従軍慰安婦」問題について、次のように発言している。
「意に反してか意に即してかは別で、慰安婦制度っていうものは、必要だったということです。それが意に反するかどうかにかかわらず。軍を維持するとか軍の規律を維持するためにはそういうことがその当時は必要だったんでしょうね。」

■この発言で私が、最も問題意識を感じるのは、もちろん女性蔑視の意識が根底にあるのだが、「あの当時は必要だった」と、全く第三者的に考えているところである。そもそも太平洋戦争で日本は、アジア諸国を侵略し、他国の人命と財産、領土、資源を奪ったことは確か。よく「国際法上、侵略の定義は明確ではない」というが、他国の領土に侵攻し、あらゆるものを武力で略奪すれば、言うまでもなく「侵略」である。そういった侵略戦争自体が、最大の人権侵害であり、人類最高の罪悪である。

■そして少なくとも敗戦後、その深い反省の上に立って、平和立国日本として再スタートしたはずである。更に、それは、戦時中に日本が犯した戦争犯罪を後世に継いでまでも背負って世界平和の担い手としての平和国家を目指す決意を示したのであり、その証が日本国憲法でもある。

■従って、戦争自体が多面的にいかに罪悪であるかを認識し、加えて平和都市宣言をしている市長として、自ら平和創造の担い手(主体)になることを自覚しているなら、このような第三者的発言は為しえないのではないかと思うのである。

■よくマスコミに出演する右翼評論家は、日本の侵略戦争の反省を「自虐史観」だとか「いつまで謝罪すればよいのか」というが、例えば自分の家族が近隣の人に殺されば永久的に許せるものではないことと同じで、終わりのない謝罪意識を持ち続けなければならないものである。そして国家間でいえば、その謝罪意識を踏まえながら未来に向かって、どのような友好関係を構築するかが問われるのだと思う。

■橋下市長の発言は、それ自体、上述のように問題意識を感じるのだが、それを何となく同調もしくは受け流す国民の意識にも加害意識の欠如を感じ、その事の恐ろしさもまた強く感じるのである。(民) 

 【出典】 アサート No.428 2013年7月27日

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【投稿】破綻寸前のアベノミクスと原発トップセールス

【投稿】破綻寸前のアベノミクスと原発トップセールス

<<「年収150万円増」の大ウソ>>
 連日めまぐるしく変動する東証株価の乱高下に慌てふためき、アベノミクスの化けの皮が剥がれ落ちようとしているのをなんとか食い止め、巻き返そうと、安倍首相は6/5に発表した「成長戦略第三弾」なるものをぶち上げ、一人当たりの国民総所得(GNI)を「十年後には現在の水準から百五十万円以上増やす」と宣言した。マスメディアのほとんどは「10年で所得150万円増」とこれをこぞって大宣伝したが、肝心要の所得引き上げ政策、賃上げ政策が全く欠落した「成長戦略」であった。これがために巻き返しどころか、かえって東証株価は失望売りが殺到、500円以上の大幅反落という事態を招いた。
 それでも首相は無知か意図的か、そもそもこのGNIは国民や日本企業が一年間に国内外で得た所得を指すもので、従来の国内総生産 (GDP)に「海外からの所得の純受取」(対外資産から得られる利子や配当などの所得)を加えたものであって、企業の所得が含まれるため、個人の所得を示す指標とは別物であり、日本企業や国民が国内外で得た所得の総額を指し、「1人当たり」でも年収とは異なり、国民一人一人の給与や年収=所得とはまったく異なるものであるにもかかわらず、アベノミクスによってまるで国民一人当りの年収が150万円増えるかのように発表し、街頭演説でもそのように嘘をつきまくったのである。
 首相は6/8の都議選の自民党候補を応援する都内各地の街頭演説で、「10年間でみなさんの年収は150万円増えます」「十年間で平均年収を百五十万円増やすと約束する」「成長戦略を進めていけば、間違いなく年収が百五十万円増える」「今後10年で一人あたり平均所得を今より150万円増やす」などと、根拠のない幻想、まったくでたらめな大嘘を平然と繰り返したのである。
 首相は街頭で、「国民の総所得」とは言わずに、もちろんその中身も説明もせずに、「年収」「収入」「平均年収」「1年間の年収」「みなさんの所得」などという言葉にいいかえ、すりかえ、ごまかしたが、一部メディアの指摘に官房長官は、首相の演説はGNIを「わかりやすく説明」したものだと取り繕ったが、完全な詐欺的行為なのである。
 企業が国内の工場を閉鎖して労働者を解雇し賃下げを強行したとしても、海外展開して利益を上げれば、GNIは減らない。さらに国内で企業が儲けても労働者に分配しなれば、GNIは増えるが、労働者の所得は増えないし、圧倒的現実は企業は内部留保をどんどん積み増し、労働者への分配をどんどん減らし、非正規雇用を拡大することによってさらに給与所得を減少させている。解雇しやすくする「限定正社員」制度の導入など格差拡大と一層の人件費縮小を成長戦略の柱にし、最低賃金さえ上げようとしないアベノミクスではさらなる給与所得の減少が追い討ちをかけよう。年収増とはまるで逆の政策を推進しながら、「年収150万円増」などと嘘を平気で繰り返す、直面する都議選や参院選さえ乗り切れればいいということなのであろう。GNIについて無知であれば度し難く、わかっていて人々を欺くとすれば悪質極まりない。いずれにしてもその化けの皮は遅かれ早かれ剥がれざるを得ないといえよう。

<<「恥ずかしい大人の代表」>>
 この種の安倍首相の現実を顧みない軽薄さは、エネルギー分野での「成長戦略」に至っては、「原子力発電の活用」を盛り込み、原発の再稼働に向けて「政府一丸となって最大限取り組む」と明記して恥じない薄ら寒さである。これが「成長戦略」だというのであるから呆れたものである。福島原発事故で、十六万もの人たちが故郷を追われ、もはや故郷に帰れない事実上の厳然たる難民が大規模に発生しているにもかかわらず、除染も放棄し、被災者への援護の手もろくに差し伸べもせずに放置し、本来真剣かつ緊急に取り組むべきこうした課題は無限に先延ばしにし、事故の収束さえ覚束なく、事故収束など不可能な事態に直面しているにもかかわらず、原発再稼働に向けてだけは「最大限取り組む」とは、まったく現実を直視せずに、見たくないものには蓋をする、卑劣極まりない政治姿勢である。
 こうした首相自らの無責任な政治姿勢こそが、あのツイッターで被災者や市民団体を「左翼のクソども」などと暴言を繰り返していた復興庁の水野靖久参事官をのさばらさせていた元凶といえよう。彼は、福島復興に向けた「子ども・被災者生活支援法」に基づく基本方針策定問題などに携わっていたにもかかわらず、左翼のクソどもから、<ひたすら罵声を浴びせられる集会に出席。感じるのは相手の知性の欠如に対する哀れみのみ〉などとツィートし、社民党の福島瑞穂党首に対して〈20分の質問時間しかないのに29問も通告してくる某党代表の見識を問う〉と批判したり、共産党の高橋千鶴子衆院議員に〈通告出していないのはアンタだけ〉とブチ切れたり、タクシー運転手からの釣り銭が多かったことをネットで明かした、みどりの風の谷岡郁子代表を〈釣り銭詐欺〉と呼び、自民党の森雅子・少子化担当大臣を〈我が社の大臣の功績を平然と『自分の手柄』としてしまう某大臣の虚言癖に頭がクラクラ〉とメッタ切りにし、要するにそんなくだらない連中に比して「オレたちは日本の頭脳」と上から目線の「毒を吐く」エリート官僚、しかし自らの果たすべき責務や責任については、「今日は懸案が一つ解決。正確に言うと、白黒つけずに曖昧なままにしておくことに関係者が同意しただけ」と、課題の先送りとウヤムヤ化を「懸案が一つ解決」とほくそ笑むその程度の愚劣な人間なのである。しかしそこに現れている一貫した姿勢は安倍首相と全く同一線上にある、無責任極まりない政治姿勢である。
 そして問題は、安倍首相自身も、6/9、渋谷・ハチ公前で都議選候補の応援演説を行った夜、フェイスブックに<聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみ込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してましたが、かえってみんなファイトが湧いて盛り上がりました。ありがとう。前の方にいた子供に『うるさい』と一喝されてました。立派。彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした>と書き込んだのであるが、その場で反対の討論を行った人たちが持っていたプラカードが、あの自民党のTPP反対のプラカードで、ネット上で、TPP反対に右翼も左翼も関係ないと反撃され、6/10にはあわててこの書き込みを削除せざるをえなかった程度のこれまた愚劣な認識なのである。
 復興庁幹部の『左翼』発言と安倍首相の『左翼』発言とは期せずして一致してしまったのであるが、本質的に軽薄な短絡思考が同一であることを自己暴露しており、安倍首相も復興庁幹部、日本維新の会の橋下氏や石原氏と同様、その担当を、首相を解任されるべき、その程度の「恥ずかしい大人の代表」なのである。

<<「世界一安全な技術」>>
 しかしこの程度の首相が、6/15~20の日程で、ポーランド、英国、アイルランドの3か国を訪問し、日本企業の原子力発電所受注に向け、トップセールスを展開し、6/17-18、英・北アイルランドのロックアーンで開かれる主要8か国首脳会議(G8サミット)では、「アベノミクス」の取り組みを説明するという。
 すでに来日したフランスのオランド大統領との会談では、新興国への原発輸出の推進や、事実上の破綻状態にある核燃料サイクル政策での連携を盛り込んだ共同声明を出し、5月末には、インドのシン首相と、原発輸出を可能にする原子力協定の早期妥結で合意している。国内での現実とは全く相反する、世論の意向を全く無視した、すでに破綻が明確な原子力業界の利益しか代表しない、安倍首相のトップセールスは、日本の原発事故の現実を全く無視した虚言にしか過ぎないものである。
 今回訪問するポーランドでは、同国にチェコ、スロバキア、ハンガリーを加えた4か国と、初の首脳会談を行い、日本企業の原子力発電所受注に向け、トップセールスを展開する方針である。これら諸国でのセールストークは「安全な高い水準の原子力技術を提供したい」「世界一安全な、原子力発電の技術をご提供できます」である(5月、サウジアラビアでの演説)。空々しいのにも程がある。「世界一安全な技術」などとは程遠い、「世界一危険な現実」にどう向き合うかが問われており、その方策さえ見出し得ない現実を全く無視した、虚言そのものである。
 しかし 安倍政権はその「成長戦略」において、2020年の日本企業のインフラ受注額を、現在の約10兆円から3倍の約30兆円に拡大する目標を掲げ、エネルギー分野では、20年の日本企業の海外受注額を推計で9兆円程度と見込み、そのうち原子力は、現状の約3000億円の受注金額が20年までに2兆円に拡大すると見込んでいるのである。
 すでに福島原発事故以来、初めてとなる原発輸出の合意にこぎ着けたトルコとは、三菱重工業とアレバ(フランス)の合弁企業で、黒海沿岸に原子炉4基を建設する、総事業費約2兆2千億円のビッグプロジェクトであるが、日本と同様、周辺をユーラシア、アラビア、アフリカの各プレートに囲まれた地震大国である。安倍首相自身が地元通信社のインタビューに「世界で最も高い安全基準を満たす技術でトルコに協力したい」と答えているが、その世界最高の安全基準を保証できる具体的根拠は全く存在しないのである。にもかかわらずそう答えられる神経は、そうした現実を直視しえない、空約束でしかないものである。おりしも安倍首相のトップセールスに応じたエルドアン首相の独裁政権は、民衆の抗議に窮地に追い込まれている。そして日本の安倍首相のトップセールスも日本の原発事故の教訓や圧倒的多数の世論の動向からは全くかけ離れた原発業界の利益しか代表しないしろものである。地に足のつかない安倍政権は、浮き足立ってバタバタともがいている危険極まりない、原発事故を世界に拡散する「死の商人」の政権である。退陣に追い込むべき広範な世論の結集、一人一人の声の結集こそが要請されていると言えよう。参院選がそのような場になり得るかどうかが問われている。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

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【投稿】福島原発事故で子供の甲状腺がん多発か?

【投稿】福島原発事故で子供の甲状腺がん多発か?
                          福井 杉本達也 

1 事故後2年で甲状腺がん患者が急増
 福島県は6月5日、東京電力福島第一原発事故の発生当時18歳以下だった子供約17万4000人分の甲状腺検査の結果9人が新たに甲状腺がんと診断され甲状腺がん患者は計12人、疑いのある人は計16人となったと発表した(朝日:2013.6.6)。しかし、朝日新聞は記事を目立たない35面に掲載するなど各紙とも発表の扱いは地味なものであった。甲状腺がんは1万5000人に1人、疑いのある者を含めると6000人に1人割合であり、通常、小児甲状腺がんが見つかるのは100万人に1~2人程度であり、その30~70倍にもなる。福島県によれば、甲状腺検査の対象となる子どもは全部で、約37万人。11年度からの2年間では、約17万5000人の子どもが超音波検査(一次検査、11年度4万0764人、12年度13万4735人)を受けており、そのうち5.1ミリメートル以上のしこり(結節)が見つかったことなどで精密検査(二次検査)の対象となった子どもは、1140人(11年度分205人、12年度分935人)にのぼる。そのうち、すでに二次検査を受けた421人から27人が「甲状腺がんまたはその疑い」とされた(11年度11人、12年度16人、)12年度検査分では、二次検査対象者が935人なのに、実際に二次検査を実施したこどもは255人であり、検査の実施率はまだ3割にも満たない(福島県『県民健康管理調査』②-11 2013.6.5)。今後、二次検査の進捗とともに、甲状腺がんと診断される子どもがさらに増加し、100~200倍にのぼる可能性が高い。明らかな異常値である。

2 がん多発と放射線被曝との因果関係は?
 調査検討委員会の報告の記者会見では、記者の「統計学的には明らかにこれは多発ではないかという指摘もありますけれども」との質問に対し、鈴木眞一福島県立医科大教授は「根拠になる数字というものがまだ、そういうものが無いからこの検診をやっている」。星北斗座長(福島県医師会)は「明らかな(事故の)影響があるとは我々は考えていない。軽々に事故の影響があるとかないとかいえない」。とし、鈴木教授は続けて「甲状腺がんは放射線の影響があるとは明らかには言えない」。「このような大規模な受診率そのものが、普通のは受診率が高くないんですよこれほどに。高い受診率で大規模に、しかもいまの最新の超音波機器を使って専門医がやっている中での発見率ですので、いろんな、比較する元データがございません。」と逃げを打っている。
 統計学的に有意かどうかについては、2011年調査の既にがん手術を行った3例の評価の段階で津田敏秀・山本英二氏が「多発と因果関係-原発事故と甲状腺がん発生の事例を用いて」(『科学』 2013.5)において、「95%信頼区間が21.46倍~ 231.10倍と求められ、統計学的にも有意な多発であることがわかる」とし、「極めて珍しい事象が起こっている」としている。鈴木氏の「大規模な受診率」「最新の機器」というのは苦し紛れのいいわけに過ぎない。元々低線量の被曝において個々のがん発生事例との因果関係を証明するなどということは不可能である。ただ確率的にがんが増加するとだけしかえいない。公衆衛生学の役割は因果関係の有無を議論して対策を先延ばしすることではなく、火事の現場の消防隊長のように、病気が多発しているのに対策をとらなかった場合には、経済的損害に加えて人的損害が生じるとして事前に(予防)行動に出ることにある(津田・山本)。

3 最短でチェルノブイリの4年が常識か?
 鈴木教授は「甲状腺癌の潜伏期間は、最短でチェルノブイリの4年というのが医学的常識。いままで知り得ている状況を総合的に考えて、放射線の影響ではない」とし、清水一雄甲状腺外科学会理事長も「チェルノブイリと福島は規模がまったく違う。チェルノブイリで起こったことが福島で起こるとは限らない」として、わずか2年で多発し始めた福島県の甲状腺がんの事例を事故とは関係ないと否定しようとしている。そもそも「最も信頼できる最大規模の臨床データ」とする『チェルノブイリの知見』は事故後5年が経過した1991年(笹川プロジェクト)から始まったものである。それ以前については調査自体がない。山下俊一前福島県立医大副学長のように、「4年」という数字にこだわる根拠は何もない。むしろ、事故後1~2年でこのような有意な事例が生じているのはなぜか、チェルノブイリとの相違は何かを追究することこそ本来的な医療であり、科学であり、学問である。ロシアでは270万人が事故の影響を受け、1985年から2000年に汚染地域のカルーガで行われた検診ではがんの症例が著しく増加しており、甲状腺がん以外でも、乳がんが121%、肺がんが58%、食道がんが112%、子宮がんが88%、リンパ腺と造血組織で59%の増加を示した。過去の被曝者の健康調査の結果、白血病は被曝から発病まで平均12年、固形がんについては平均20 ~25年以上かかることが分かっている(Wikipedia)。調査委員会の役割は政府や東電の手先として事故の因果関係の否定にやっきとなることではなく、こうした将来のその他の疾病に対しても、今から対策を立てておくことこそ求められている。

4 チェルノブイリと比べて線量が全く低いのか?
 鈴木教授は「潜伏期間、線量すべて考えて、放射線の影響ではない。UNSCEARの報告(国連科学委員会報告書案)もあった。被ばく量は高くない。」と、被曝量の少なさを強調することによって、甲状腺がんの多発と事故との関係を意識的に否定しようとしている。清水委員も「チェルノブイリと比べて全然被ばく量が小さいでしょ」「チェルノブイリでは最短4年。福島はずっと線量が低い。チェルノブイリの方が(放射性物質の放出が)16倍、朝日新聞の記事(UNSCEAR報告)では31倍多い。よって放射線の影響は少ない。」という。
 5月27日付けの朝日新聞は「福島事故 国民全体の甲状腺被曝量 チェルノブイリの30分の1―国連委が報告書案」と1面トップで報じた。ヨウ素131の総放出量はチェルノブイリの3分の1以下としているが、事故後8日で半減したヨウ素131の放出量の推計はできていない。ヨウ素131は短時間で消滅するため、放出直後の被ばく回避措置、そしてヨウ素が消える前の正確な被ばく調査が重要となる。ところが福島原発事故ではいずれも行われなかった(『NHKスペシャル 空白の初期被ばく~消えたヨウ素131を追う~』NHK:2013.1.12)。福島第一1~3号機炉心内のヨウ素131は6100Bq(ベクレル)10×15あった、チェルノブイリ4号機のヨウ素131は3200 Bq10×15であった(Wikipedia)。福島第一の炉心内のヨウ素131がほとんど炉心内に留まったあるいは西風で太平洋に流れたという根拠は何もない。

5 調査対象地区から外された中核都市:いわき市
 さらに気がかりなのが、いわき市の調査対象である。人口32.8万人の仙台市に次ぐ東北第二の都市であるが、対象者がなぜか絞られており342人(一次検査実施者は341人)しかいない。前記NHKスペシャルによると、ヨウ素131の拡散経路は放射性セシウムの経路とは異なっている。シミュレーションでは第一原発から浜通り伝いにいわき市上空を通り茨城県に抜けた放射性ブルームもある。1万Bq/立米を超えるヨウ素131の高濃度放射性プルームが3月15日未明に福島・関東などを覆った。いわき市は放射性セシウムのブルームの直撃は免れたものの、ヨウ素131のブルームの直撃を受けたのではないかと心配される。福島県以外でも北関東から東京への汚染も心配される。調査検討委員会は政府・福島県・東電の犯罪を隠すのではなく、手遅れにならないうちに今後の県民の健康をしっかりと調査し対応をとっていくべきである。マスコミも又、がんが異常に増加しているという事実から逃げるのではなく、しっかりと報道すべきである。 

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

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【投稿】維新の会、終わりの始まり

【投稿】維新の会、終わりの始まり

<突然の提案>
 6月2日、松井一郎日本維新の会幹事長(大阪府知事)が、懸案となっているアメリカ海兵隊のオスプレイ輸送機の日本国内の訓練について「八尾空港で受け入れることを検討する」と発言した。
 あまりの唐突さに、地元八尾市の田中誠太市長が「事前の説明が一切ない」と苦言を呈すると、松井幹事長は「府知事ではなく政党の幹事長の立場での発言なので地元自治体への説明は不要」と開き直った。(それなら、地元選出の維新国会議員には相談したのか、との声が出ている)
 そもそも、八尾空港がどのような環境下にあるか、空港近隣に居住する松井幹事長が知らないわけがなく、オスプレイの訓練など実現の可能性が無いことを見越したうえでの三文芝居であり、首長、政治家として無責任極まりないものである。それとも「地元住民の提案」とでも強弁するつもりなのだろうか。
 今回の発言は、従軍慰安婦問題を巡る暴言で批判の嵐、とりわけアメリカからの厳しい批判にさらされた橋下徹日本維新の会共同代表(大阪市長)への援護射撃である。
 先に大阪市議会で問責決議案が可決されんとした際、松井幹事長は「問責決議が可決されれば出直し市長選挙=参議院とのW選挙になる」と恫喝をかけた。
 これに市議会公明党が動揺し、急転直下、問責決議案は否決され橋下市長は窮地を脱した。これに味をしめて2匹目のどじょうを狙ったのが今回の発言である。
 「沖縄の負担軽減」と大義名分を言いながら実際は、アメリカ政府への追従、安倍、自民党へのすり寄り、さらには一昨年の府知事、大阪市長W選挙の際、対立候補を支援した田中市長に対する意趣返しであることは、あまりに明白である。

<安倍も同じ穴のムジナ>
 橋下共同代表自身「実現性についてはわからない」などと評する無謀な提案を、安倍総理、自民党は「真剣に検討する」と受け入れた。あまりに愚劣な政治ショーに加わったことで、安倍総理はアメリカでの評価を一段と下げただろう。
 いくら周辺が「日本政府は橋下発言とは一線を画する」と言ってみても、官房長官が「防波堤」として面会しているにもかかわらず、総理自ら執務室に招き入れるようでは、同一視されても致し方なかろう。
 橋下発言は、例えるならサンフランシスコの市長が「黒人奴隷は必要だった」と発言したようなものである。同市からの姉妹都市宛とは思えない厳しい内容の拒否メールがそれを物語っている。

<終わりの始まり>
 そうしたなか一人訪米した松井知事は「批判も質問もなかった」と能天気そのものである。役に立たない視察をするくらいなら、自分の発言に責任を持つためにも、オスプレイの搭乗を希望すればよかったのではないか。今回は「府知事」としての訪問だからなのだろうか。
 一連のパフォーマンスにもかかわらず、維新の会の支持率は下降し続けている。この間の自治体選挙でも負け続きであり、風俗店活用発言で頼みの綱の「大阪のオバチャン」も引いてしまった。
 「みんなの党」からは早々に絶縁され、党からの離脱者が現れ始めた。参議院選挙も目玉候補がアントニオ猪木という惨憺たる状況である。まさに、維新の終わりの始まりというべきだろう。
 橋下共同代表は東京都議選、参議院選挙の結果では進退も考えると述べているが、早々に政界からは引退すべきだろう。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

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【コラム】ひとりごと —現在の労働実情雑感— 

【コラム】ひとりごと —現在の労働実情雑感— 

<更なる労働法制改悪の動き>
■今、安倍政権と財界(産業競争力会議等)の中で、解雇規制緩和の議論がなされている。その中でも特に「解雇無効の判決が出ても、使用者が労働者に補償金を支払えば雇用契約を終了できる」(事後型)が検討されているが、これでは、せっかく勇気と労力、資力を使って「解雇撤回・職場復帰」を勝ち取っても、金銭で解雇されることになり、「解雇濫用の法理」が空洞化し、「無効」の判断が、吹っ飛んでしまうことになる。こんな事が許されるなら、「有罪」を金銭支払いで「無罪」を得るようなもので、裁判自体の意味がなくなってしまう。
■また、最近は鳴りを潜めているが、ホワイトカラーエグゼンプション(要は残業代のタダ働き合法化法案)も、まだ議論が消え去った訳ではない。

<荒廃している労働実態>
■そもそも労働者派遣法が、「原則自由化」で改悪されたこともあって、現状においても非正規雇用が蔓延し、ハローワークの求人票を見ても非正規雇用が圧倒的に多い状況にある。もはや世の中は、終身雇用・年功序列賃金体系は崩壊したと言っても過言ではない。
■加えて現状の労働法制自体、ほとんど守られていないという状況なのではないか。例えば、有給休暇一つとっても「パートだから有給休暇がない(パート、アルバイトでも一定の基準により有給休暇が保障されている)」とか、会社全体でも「当社にはローカルルールがある」と言って、有給休暇を認めず、はばからない会社が常識的にある。また社会保険(健康保険・年金)や雇用保険でも強制適用であるにも関らず、加入していない事業所も山ほどある。現在、健康保険や年金の財源問題が議論されているが、先ずは「こうした、とっぱぐれから何とかしろ」と言いたいぐらいである。
■更に解雇でも、少し仕事の進め方で異論を唱えただけで、「明日から来なくてもよい」と言い放ったり、賃金未払いでも、残業代を支払わない使用者や退職を申し出ると、最後の給与を「辞めた者に給与を支払うのは、もったいない」と思ってか支払わない使用者も、よく聞く相談事例である。
■また最近では、職場のハラスメント(パワハラ・セクハラ)も労働相談件数では急増しているが、その中でも「これはひどい!」という事例を紹介しよう。
 パワハラでは、某会社の副社長が、部下に対して、靴を入れたビニール袋を振り回し、「調教したろか!」と威嚇し、挙句の果ては、暴行にまで及んだものである。他にも自己退職に追い込むために、日常的に過度な無視や暴言を繰り返す相談も多い。
またセクハラでは会社の会長が、女性社員に対し、いきなり突然にキスし胸を触るなどの行為に及んだものもある。
■実際上、セクハラはともかく、パワハラや職場の人間関係のトラブルは多くなってきているが、この背景には上記の非正規雇用の蔓延化にもあると思われる。一つの職場に正規社員、期間雇用、派遣社員が混在し、労働者間での利害関係の対立や一体感の欠如等があると思われる。

<荒廃した労働実態を改善するのは、やはり労働組合だがー>
■このように非正規雇用の増加と労働者間の分断化が進む中で、本来、対抗軸であるべき労働組合の組織化が極めて難しくなってきている。現に今でも正規雇用・企業内労働組合が圧倒的に多いが、それでも組織率が2割を下回っている現状である。かろうじて派遣・パート等であっても、一人でも加入できる合同労組もあるが、まだまだ広範で一般的ではなく、十分な受け皿にはなっていない。
■そこで、非正規雇用の蔓延化と孤立化が深まる中で、労働者の意識もいかにあるべきかが小生の言いたいことである。
■先ずは日本の労働法制は、労働者派遣法のように問題の多い法律もあるが、総じてまだ労働者保護性の強い法制度になっている。しかし、それがほとんど守られていないところに問題がある。ある人に言わせれば道路交通法と労働法制度ほど、守られていないものはないと言うほどである。
 労働法制度の中には、労働者の権利規定が多々、存在するが、ただ労働者権利規定=労働者の権利が実質的にも保障されていることには、ならないのである。前述の有給休暇一つとっても、労基法に「有給休暇の付与」が規定されているが、では有給休暇の取得を申し出ても、「有給休暇は認めない」と一言言われたときに、「それは労基法違反ですよ」と先ずは、自分で言う勇気が必要だと言う事だろう。即ち労働者の権利は、実質的には労働法制度によって守られるのではなく、権利行使をする労働者の勇気と自覚でもって、初めて守られるということだろう。
■そこで「それができるなら、苦労はいらないよ。それこそ解雇覚悟で言わなければならないよ」という反論が聞こえてきそうだ。確かに一人の力は弱く、結局のところ、労働組合が対抗軸になるのであろうが、そのためには従来型の正社員中心の企業別労働組合では対応不能で、やはり地域合同労組が受け皿にならざるを得ない。そのためには、かつての総評・地区労運動からの流れにある、比較的に老舗の合同労組や、比較的近年に結成された合同労組などが、今でもユニオンネットワーク等の連携関係があるものの、かつての確執や政党系列の枠組みを乗り越え、より大同団結して、大きな受け皿=一つの勢力となって形成していくことが求められる。言い換えれば非正規雇用労働者から見れば「保険代わりに合同労組には加入しておこう」という社会的認知度を高めることが重要だと考える。
■色々と思うがままに書いたが、現実の労働実態が、労働法制度違反が常態化し、今後、アベノミクスの経済・労働政策が進行する中で、更に凄まじく荒廃していくのではないかと言う危機感だけでも享受していただければ幸いである。(民) 

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

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【投稿】生活保護制度の改悪に思うこと

【投稿】生活保護制度の改悪に思うこと

 参議院選挙を前にして、安倍政権は依然として高い支持率を維持している。アベノミクス3本の矢で、経済を立て直すとの公約にまだ、国民は「幻想」を繋いでいるようだ。
 しかし、7月の参議院選挙を経て、8月1日から生活保護の給付基準が大幅に変更されることは、すでに決定済であり、保護受給者は、8月1日の「決定通知」を見て、大幅な減額が行われていることに気付くということになる。
 さらに、現在国会で審議中の「生活保護法改正案」は、扶養義務調査の厳格化・拡大などを内容としており、不正受給を減らすという目的を越えて、受給抑制に繋がる可能性が高い。

<高齢者の給付を大幅減額>
 給付基準の改定は、一律に削減という内容ではない。幼児層には単価引き上げも行われているが、第1類では、6才から11才で▲650円、12才から19才は▲4010円、20才から40才では、▲2920円。第2類では、1人世帯で、▲3780円の減額が行われ、60才から69才の高齢単身者では、月額で合計1990円の減額となる。(1級地-1の場合)
 アベノミクスの「効果」は、生保受給者には届かない。むしろ円安効果による物価の値上がりとの関係では、生活の一層の切り詰めを余儀なくされるだろう。
 
<保護受給者の孤立化と、沈殿・深層化>
 今回提案されている生活保護法の改正案が、根本的な貧困解決に資するとはとても思えない。昭和25年の制度創設以来、根本的な改正が行われてこなかったため生活保護制度が制度疲労を起こしており、今日の社会情勢に適応した制度にすると政府は説明しているが、残念ながら、程遠い内容となっている。
 労働への意欲喚起(インセンティブ)を高める内容と、他方で保護の適正化策を併せた内容になっており、重点は、「不正受給」への対応と思われる。
 就労開始による自立ができた場合、保護受給中に収入認定した収入額の一定額を「就労自立給付金」として、保護廃止時に給付し、就労自立に対する支援制度は、どれ程の効果をもたらすだろうか。これが、改正案の唯一の目玉策でもあるが。
 むしろ、調査権の強化や返還金を直接、保護費から差し引くことを可能にすること、医療費の一部自己負担などなど、正直に言って、小手先の「改正」であり、貧困対策の根本的対応策などとは間違っても言えない。
 貧困対策を求める団体からは、総スカンの内容となっている。
 
<子どもの貧困論について>
 生活保護受給者の子弟が、成長して、再び生活保護に陥る可能性が高いことは、以前から指摘されてきた。貧困の連鎖論である。実証的な研究もいくつかあり、また、福祉の現場に居るものとして実感的にも、感じることができる。
 そこで、保護行政の枠内でも、小中学校生への学力支援策、中学生への進学相談や支援、高校生への進学相談や支援が、メニューに掲げられてきている。
 これらの取組みが、いずれ一定の効果を齎すであろうことは確実ではあろう。しかし、あくまでも保護行政の枠内であり、生活保護受給者の子弟に対象は限られている。
 しかし、保護制度の枠内での「子どもの貧困状態」や「母子世帯の貧困状態」の議論だけでは、おそらく根本的な解決には成るまい。非正規労働者が、4割に達しようとする現状が、日本社会の底流にあるからである。
 
<教育負担の解消こそ、根本的な解決策>
 私自身の生い立ちを考えれば、どちらかと言えば「貧乏」の部類の家庭に育ったと思う。良く解釈しても、中の下というところだろう。しかし、まだまだ学費は安かったと思う。自宅通いで大学に進学したが、1万円に満たない奨学金と家庭教師のアルバイトで、学費と食事と活動費(?)は賄えた。
 最近のテレビ番組で、私学の大学に行くために卒業までの4年間の奨学金借金額が1000万円という学生の話題が取り上げられていた。残念ながら、その学生は内定も取れず、親にも頼れず、途方に暮れていた。
 現在の保護法では、大学に進学する場合は、世帯から分離し、バイトと奨学金で「自立」するようなシステムである。大学に行けば必ず就職できるという前提での制度設計である。私学に行けば、4年間で学費だけで600万円以上必要という実態だが、それで必ず安定した正社員になれるという保障はない。
 欧米では、大学はほとんど無償という場合が多いと言われている。貧富の格差を教育に持ち込まず、若者の可能性を社会に還元する仕掛けがあるのだろう。貧困からの脱却を平等に保障するというなら、高校の無償化に続いて、大学進学の無償化も必要ではないか。
 「子どもの貧困論」は、「教育の貧困論」に繋げる必要があると言える。(2013-06-18佐野秀夫) 

 【出典】 アサート No.427 2013年6月22日

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【投稿】孤立化・破綻を推進する極右・安倍政権

【投稿】孤立化・破綻を推進する極右・安倍政権

<<「どんな脅かしにも屈しない」>>
 この間に安倍政権が撒き散らした恥ずべき数々の暴言と行動は、あらためてこの政権が歴史に逆行する特異な政権であることを国内外に明らかにしたといえよう。
 4/21、安倍首相は東京・九段の靖国神社で行われている春季例大祭に、あえて「内閣総理大臣」の名で祭具の真榊(まさかき)を奉納し、麻生元首相は、首相として在任中は参拝しなかったにもかかわらず、今回は副総理・財務相として同日夜、自ら出向き参拝し、総務相や国家公安委員長も参拝、「国のために命をささげた英霊に哀悼の誠をささげるのは、国会議員という立場からして当然だ」と言い放つ。続く4/23には、記録がある1989年以降で最多の168人の国会議員(自民132、維新25、民主5、みんな3、生活1、無所属2)が参拝したのである。
 朝鮮・中国、アジア太平洋諸国に対する侵略戦争に重大な責任を有するA級戦犯を祀る靖国神社は、この侵略戦争を合理化し、「解放戦争」と偽る反動と軍国主義勢力が依拠する象徴であり、偏狭な民族主義感情を煽り、アジア諸国との関係を冷え込ませてきた象徴である。反発必至であることが明々白々であるにもかかわらず、安倍首相自身が2月の国会答弁では「(前回の)首相在任中に靖国参拝できなかったのは痛恨の極みだ」と語り、今度こそ首相在任中の靖国参拝を強行するのだという意思を表明し、あえて挑発的な行動をとる、ことを荒立てる。単なる軽薄さ、無神経さにとどまらない、わざわざ火種を撒くこの政権の意図的で悪意に満ち満ちた行為は、逆にこの政権を没落に導く決定的なアキレス腱ともなろう。
 4/22、直ちにというか当然とも言えよう、韓国外務省は、安倍内閣閣僚らの参拝などに対し「歴史を忘却した時代錯誤的な行為」と批判し、「深い憂慮と遺憾」を表明、「このような雰囲気の中で会談しても生産的な議論は難しい」と述べて4/26、27日に予定されていた政権発足後初の韓国外相の訪日、日韓外相会談の中止を決定した。中国外務省も閣僚の靖国参拝に抗議し「日本の指導者による靖国神社参拝の本質は、日本軍国主義による侵略の歴史を否認する企てである」と指摘、5月に予定されていた日中友好議員連盟の中国訪問も中止に追い込まれた。
 ところが、当然予想されたこうした事態に、安倍首相は冷静に判断するどころか、逆に更なる挑発的な暴言を発してしまった。4/24の参院予算委員会で、安倍内閣の閣僚らの靖国神社参拝に中国や韓国が反発していることに関して「国のために尊い命を落とした英霊に尊崇の念を表するのは当たり前だ。わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない。その自由は確保している。当然だろう」と言い放ったのである。なんという言い草であろうか。よりにもよって「わが閣僚はどんな脅かしにも屈しない」とは。最低限の節度、外交儀礼さえわきまえず、韓国や中国の抗議を「脅かし」と捉える、加害者が自らを被害者かのようによそおう、この低劣さは異様でさえある。しかも「その自由は確保している」という、これまた相手の主張を聞き分け、理解することのできないヤクザの論理である。要職にある、しかもトップにある人物が、これほど知性に欠け、平衡感覚に欠けていては、危なっかしい限りである。

写真は、 シュピーゲル紙に掲載された、陸上幕僚監部の広報室長から促されて、陸自の最新型戦車「10式戦車」に乗って、迷彩服の上着とヘルメットを着けて戦車の砲手席に立ち、笑顔で手を挙げて応える安倍首相(4/27午後、幕張メッセ「ニコニコ超会議2」)
 
<<「侵略という定義は定まっていない」>>
 さらに安倍首相の決定的とも言える暴言は、4/23日参院予算委での村山談話に対する答弁で 「侵略という定義は学会的にも、国際的にも定まっていない。国と国の関係でどちらから見るかで違う」と言ってのけたことである。
 「学会的にも」とはどこの学会が、「国際的にも」とは、どの国が、1945年以前の日本軍国主義の朝鮮・中国をはじめとするアジア太平洋諸国に対して行った政治的軍事的行動を侵略ではないと定義しているのか、明らかにすべきであろうが、それはできない。「自虐史観反対」を叫ぶ一部極右論者の口車に便乗しているにすぎないのである。安倍氏は、確かに一貫してこうした浅薄な歴史観に基づいて発言し、行動してきたが、そうした侵略否定論は学会的にも国際的にも、政治的にも、受け入れられるものではないし、個人の放言では済ませられない責任ある政治家としては受け入れてはならないものである。
 安倍首相が否定したい村山談話は、1995年8月15日に、当時の村山富市首相が閣議決定をもとに、「植民地支配と侵略によって、アジア諸国の人々に多大の損害と苦痛を与えた」と公式に植民地支配と侵略を認め、「痛切な反省の意」と「心からのおわびの気持ち」を表明したものである。これを覆すことは、これまで紆余曲折はあれ、まがりなりにも長年にわたって築いてきた周辺諸国との善隣友好関係や平和共存関係を崩壊させる、安倍氏お好みの「国益」にも反する、無責任極まる行動なのである。
 そしてこうした安倍氏の発言と行動は、1974年12月14日に国連総会で正式に採択された侵略の定義の第1条は「侵略とは、国家による他の国家の主権、領土保全若しくは政治的独立に対する、又は国際連合の憲章と両立しないその他の方法による武力の行使であって、この定義に述べられているものをいう」と定めている、その国際社会と敵対することをも意味している。こんなことは本来、常識以前のことであり、それを認識できない安倍氏はそもそもこの時点で首相に不適任であり、今回、国際的信用を著しく失墜させ、事実上周辺諸国との関係をぶち壊してしまった安倍氏はすでに首相失格なのである。これを担ぎ回っている自民党や維新の会も同罪といえよう。
 安倍氏の盟友であり、副総理でもある麻生氏は、2/25、韓国の朴槿恵大統領就任式に出席し、そのあとの朴大統領との面談で、米国の南北戦争を引き合いに「北部では市民戦争というが、南部では『北部の侵略と教える』。同じ国でも歴史認識は違う。まして異なる国ではなおさらのこと…となど奴隷解放の市民戦争と植民地支配の侵略を同一視する詭弁を弄した」(韓国紙、中央日報)と報じられている。「朴大統領の顔色が変わった」というこの放言、麻生氏はこの朴大統領との面談の内容については詳細を語らず、記者団には「歴史にはそれなりに(立場によって)見方が異なるというようなお話をした」とごまかしていたが、その軽薄さと知性のなさ、無責任さにおいては安倍氏に優るとも劣らない、国際的な恥さらしとも言えよう。

<<村山談話「全て踏襲」と路線修正>>
 日本の政権の骨の髄からの極右体質を思い知らされた朴大統領は、5/7、オバマ米大統領との初の首脳会談で、日本の安倍内閣閣僚らの靖国参拝などを念頭に、日本は正しい歴史認識をもたなければならないと、オバマ大統領に直接訴えかけ、ワシントンポスト紙とのインタビューでも「日本は過去の傷口を開き、大きくした」と、日本の姿勢を厳しく批判、さらに翌5/8、朴大統領は安部首相ができなかった米議会上下両院合同会議で演説を実現し、その中で北東アジア地域で「歴史から始まった対立はさらに深刻になっている」と表明、「過去に目を閉じる者には未来が見えないといわれてきた」「過去に起こったことを真摯に認識できないところに、未来はありえない」と安倍政権の姿勢を手厳しく指摘したのである。明らかにオバマ政権は、安倍政権への国際的批判を正当なものとして評価し、受け入れたたものともいえよう。
 さらに、安倍首相を追い込む重要な一撃が、5/9付東京新聞によってスクープされた。それは、5/1にまとめられた米国の議会調査局の日米関係に関する報告書である。報告書は環太平洋連携協定(TPP)について「事実上の日米FTA(自由貿易協定)」だとして日本の参加に歓迎を表明する一方で、安倍首相については「民族主義的言明」や「国防・安保問題での強力な立場」、「強硬な国粋主義者(ナショナリスト)」として知られ「帝国主義日本の侵略やアジア諸国民の犠牲を否定する歴史修正主義にくみしている」と指摘、閣僚には「超民族主義的」見解を持つ者もおり、安倍氏は「激しく民族主義的な維新の会の圧力を受けている」とも指摘、「地域の国際関係を混乱させ、米国の国益を害する恐れがあるとの懸念を生じさせた」と明記したのである。菅官房長官は5/9の記者会見で「誤解に基づくものだろう」「レッテル貼りではないか」などと取り繕ったが、すでに公表されてしまった報告書である。
 米紙ワシントン・ポストは4/26、安倍晋三首相が「侵略の定義は国際的にも定まっていない」と述べたことについて、歴史を直視していないと強く批判する社説を掲載、これまでの経済政策などの成果も台無しにしかねないと懸念を示し、他の米主要紙もそのほとんどが社説で安倍首相を批判、英紙フィナンシャル・タイムズも社説で批判、ドイツの シュピーゲル紙は、「隔世遺伝の安倍:危険な過去にすり寄る日本の首相」 と批判、軍服を着て戦車に乗り込む安倍首相の写真を大きく掲載する事態である。
 こうした事態の進展、深刻な外交的行き詰まりに慌てたのであろう、5/10、菅官房長官は、過去の侵略と植民地支配を謝罪した1995年の村山富市首相談話について「(談話)全体を歴代内閣と同じように引き継ぐと申し上げる」と明言せざるをえなくなった。完全な失態を何とかして覆い隠したい焦りでもあろう、「侵略の定義は定まっていない」との首相答弁に韓国から反発が起きたことに関しても、「安倍内閣として侵略の事実を否定したことは一度もない。こうした点も歴代内閣を引き継いでいる」との釈明に追い込まれてしまったのである。
 中国・韓国側から言われれば居丈高に開き直り、アメリカ側から言われればなんとかごまかし、切り抜けようとするその浅ましい魂胆は世界の笑いものであろう。しかも官房長官に言わせても、自分の言葉で語れない安倍首相である。ここまで追い込まれたのであるから即刻退陣すべきなのである。
 安倍政権は、まだ化けの皮が剥がれてはいないアベノミクスによってなんとか持ちこたえているが、日本維新の会と同様、「賞味期限切れ」が近づいているし、そうさせなければならない。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.426 2013年5月18日

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【投稿】マネーゲームとシェールガス「革命」?

【投稿】マネーゲームとシェールガス「革命」?
                           福井 杉本達也

1 ヘッジファンドの「演出」する“偽装”株高
 5月8日の毎日・朝日・日経の朝刊一面トップ記事は「東証14,000円台回復」であった。我々は毎日NHKニュースの最後に本日の株価と為替相場を聞かされる。しかし、本当に必要なニュースなのであろうか。我々の中で毎日の株価の上げ下げに一喜一憂する者がどれだけいるのか。まして、50銭、1円の為替相場の変動に直接関係する者がどれだけいるのか。アダム・スミスは市場経済を「神の見えざる手」という表現で価格メカニズムの働きにより、需要と供給が自然に調節され、結果として社会全体において適切な資源配分が達成されることを説いたが、果たしてそうであろうか。
 4月30日付の『ブルームバーグ』は国民的カジュアルウエアの代名詞になった「ユニクロ」株が業況の実態とかけ離れた投機的売買の温床になっていると指摘する。ファーストリテイリング の日経平均における構成ウエートは、26日時点で10.3% 。これは、同指数での時価総額比率1.4%と大きく乖離(かいり)し、ウエートから見た存在感は、東証1部の時価総額上位5社であるトヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ホンダ、JT、NTTドコモの合計(5.2%)のおよそ2倍だ。ブルームバーグ・データによると、過去2年間の日経平均の上昇率51%に対する同社の寄与度は16%となっていると指摘する。日経平均の2年間の値上がりが約5,000円として1,600円である。異常というほかない。
 ファーストリテイリングの株は柳井一族が2/3を保有しており、浮動株が極端に小さく実態はヘッジファンドが操る仕手株と化している(『東洋経済』2013.3.23)。「神の見えざる手」ならぬ「ヘッジファンドの手」が日経平均株価を操作しているのである。「ユニクロ」は就活学生の間では「ブラック企業」といわれている。繁忙期の労働時間は月間300時間を超え、入社後3年以内の離職率は46~53%にも上る(朝日:20130423 『東洋経済』2013.3.9)。「低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」と堂々と発言する会社の株で株高が「演出」され、それを官房長官が「ヨイショ」するアベノミクス相場とは国家的詐欺以外の何物でもない。

2 シェール「革命」?という詐欺
 国際エネルギー機関(IEA)の『世界エネルギー展望2012年版』によれば米国のエネルギーは様変わりしており、シェールガス・シェールオイル「革命」により、2020年頃までにサウジアラビアを抜き世界最大の石油産出国になる。米国はエネルギーで自給自足できるようになるというものである。アメリカのメディアも日本の政府・メディアも盛んにこの話題を取り上げている。
 確かに、2005年頃よりのシェールガス・オイル「革命」で米国のガス生産量は急激に拡大し、価格は1/3に下がってきている。しかし、今後世界最大の石油産出国となるというのは眉唾である。今年4月には資源開発会社のGMXリソシーズが破綻している(日経:2013.4.20)。シェールガスが本当にIAEの述べるような中身ならば、採掘企業が倒産することなどありえない。
 ニューヨーク・タイムズは石油会社は、「故意に、不法なまでに採掘生産量と埋蔵量を多く見積もっている」とし、「地下の頁岩からのガスの抽出は石油会社がそうみせかけているよりももっと難しく、もっとコストがかかるはずであると指摘している(ナフィーズ・モサデク・アーメド「大いなるペテン・シェールガス」『ル・モンド』)。シェールガスは在来型ガスと比べて貯留槽は不均質で包蔵メカニズムは複雑である。「革命」?の技術は水平坑井(水平にガス井戸を掘る)・水圧破砕(貯留槽の岩石に人工的に割れ目をつくりガスの流路を形成)・マイクロサイミックス(微小地震を起こして破砕した岩石を分析・評価する)の三要素技術といわれるが、1井当たりの生産性は在来型のガス井と比べると1桁低いといわれる(伊原賢JOGMEC『石油・天然ガスレビュー』2011.1)。技術が複雑であればあるほどそれに要するコストは上昇する。シェールガスは超広大な地域に散在し、地中深くにある。鉱物資源が「資源」として採掘されるのは、濃縮されて鉱床になって存在し、アクセスしやすい場所に集中的に大量に存在していることである。シェールガスはこの対極にある。そのため巨額の投資が必要になり、大きなリスクを伴う。在来型ガスと比較すればそのコストは数倍も高いはずである。
 経験上、シェールプレイの多くは急激な生産減退に見舞われてきている(Lucian Pugliaresi:JOGMEC『石油・天然ガスレビュー』2011.11)。雑誌『ネイチャー』によれば、シェールガス井の生産性は最初の1年の採掘で60~90%低下するという。ガス井が涸れてしまうと大急ぎで他の個所を採掘し生産量を維持し、資金返済に充当していく。このような自転車操業で数年間は人の目を欺くことができる(アーメド:同上)。
 『フィナンシャル・タイムズ』はシェールガス企業が「自己資本を2倍、3倍、4倍さらに5倍も上回る額を使い果たして土地を購入し、井戸を掘り自分たちの計画を実現しようとした」と指摘している。ゴールドラッシュの資金繰りのためには、膨大な金額を「複雑で面倒な条件で」借りている。1バレル100$を超す国際的な石油・ガスの高騰により、有り余る膨大な資金がシェールガス開発に投入されることとなった。しかし、この投機資金は儲けがないと分かればすぐ撤退するものである。シェールガス開発の循環はガス価格の地域的な低下により早晩終わらざるを得ない。『フィナンシャル・タイムズ』は「シェールガス井の生産性の持続しない一時的性格を考慮して、掘削は続けられなければならない。シェールガス価格は高くなり、高騰すらして落ち着くだろう。過去の負債だけでなく現在の生産にかかる費用に充当するためである」と指摘する(アーメド:同上)。米国内の天然ガス価格が下落しているのは、シェールガス生産地が既存のガスパイプライン近く、新たなパイプライン敷設をあまり必要としないこと、カナダからの輸入ガス・メキシコ湾からのガス、在来型ガスと競合し、ガスが米国内に留まっていてはけ口がないことによって米国内で一時的な過剰生産になっていることによる。しかし、これを日本に液化して輸出しようとすれば、天然ガス液化プラント・港湾設備・LNGタンカーが必要となる。それはかなり高いものとなる。

3 シェールガスで「脱原発」は目眩まし
 「シェール革命で日本は激変する」(『東洋経済』2013.2.16)、「シェールガス1兆円支援、政府・債務保証」(日経:2013.2.15)、「シェールガスが変える世界力学」(寺島実郎:『エコノミスト』2013.1.8)など、多くのメディア、「有識者」、「エコノミスト」が、シェールガスに対して過大な期待を煽っている。しかし、大騒ぎしているほどには、日本はシェールガス「革命」の恩恵を受けられない。政府・マスコミなどが米国のシェール「革命」を声高に叫ぶ背景には対ロシア戦略が見え隠れする。4月29日に安倍首相はプーチン大統領との首脳会談を行ったが、極東ウラジオストックのLNG基地の共同開発構想には「戦略的な消極姿勢」を決め込んだという(日経:4.30)。ロシアからのLNG輸入は2008年まではゼロだったものが、ここ数年で急激に増え最近では輸入額全体の1割を占めるまでになっている。今後の輸出余力から考えればロシアからの輸入しかない。原発の再稼働ができない状況の中で、LNG火力発電のポジションは急速に高まっている。高止まりするLNG価格を下げるためにも、天然ガスを始め資源開発でロシアとの関係改善を急がざるを得ない。しかし、対米従属・売国を国是とする日本の支配層にとってはロシアとの関係改善は不都合である。国民にはその現実を知らせたくないのである。シェール「革命」?は実態の目眩ましの役割を果たしている。
 安倍首相はロシア訪問に引き続きUAE、サウジ、トルコを訪問に原発技術の売り込みに回った。何のエネルギー確保手段も持たず、シェール「革命」詐欺を振りまき、国内では電気料金を上げて負担を国民に転嫁しつつ(電力に限れば石炭火力の利用を図ることが現実的である)、海外では米仏核企業の提灯持ちとして核の売り込みを図ることとは全く整合性はとれない。いかに現政権が売国的であるかを象徴している。 

 【出典】 アサート No.426 2013年5月18日

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【投稿】浮上する日本問題 

【投稿】浮上する日本問題 

<収束する「北朝鮮危機」>
 4月30日、約2か月間続いた米韓合同軍事演習が終了した。演習期間中、核戦争をも辞さないような姿勢をとり続けた北朝鮮も、開城工業団地問題や韓国系アメリカ人の拘束という「交渉カード」を持ちながら、ミサイルを撤去するなど、なし崩し的に臨戦態勢を解除している。
 この間、北朝鮮のパフォーマンスに呼応する形で、日本政府は今にも朝鮮半島で武力衝突が発生するかの様に、弾道ミサイルの迎撃態勢を常態化させ、マスコミもこれに追随し、盛んに危機キャンペーンを繰り広げ、日本は「半島危機祭り」の様相を呈した。
 とりわけ「スカッド」や「ムスダン」など中距離弾道ミサイルに関しては、北朝鮮東側沿岸に配備されたことから、発射は確実視され、「Xデー」は-金日成誕生日の4月15日などと、勝手に指定する始末であった。
 ただ、安倍政権は本気で北朝鮮への構えを考えていなかったことは明らかであり、これを軍拡-改憲の口実に利用したのである。
 「危機」が継続中の4月下旬、麻生副総理ら安倍内閣の閣僚4人が相次いで靖国神社を参拝し、中国、韓国の厳しい反発を招いた。本当に北朝鮮を脅威と認識していれば、日中韓の連携を自ら破壊する暴挙には出なかったであろう。
北朝鮮に対しては「中韓は頼みにならないので神頼み=戦勝祈願に行った」とでもいうのだろうか。
 関係国の一連の動きの中で際立ったのは安倍政権の異常さであり、北朝鮮危機が一応の収束に向かう一方で、日本問題が浮き彫りになってきたと言えよう。

<暴走する安倍政権>
 日本政府が、不誠実、不透明な対応を重ねている間に、東アジアを巡る政治状況は大きく変化した。閣僚、とりわけ麻生副総理の靖国参拝により、日中歴訪を予定していた韓国の尹炳世外相が訪日を中止した。
 4月24日予定通り中国を訪れた尹外相は王毅外相と会談、中韓ホットラインの開設や、経済関係の一層の拡大に加え、政治レベルでの関係強化を図ることを合意した。3時間にわたる会談の中で日本問題も議題になったことは想像に難くない。
 これについて日本政府は「外相の来日予定は固まってはいなかった」などと開き直る始末であり、あまつさえ安倍総理は同日の参議院予算委員会の答弁で「どんな脅しにも屈しない。閣僚の参拝の自由は守る」などと中国、韓国の懸念をヤクザの因縁かのように貶めた。
 また時を同じくして、自民党の教育再生実行本部は教科書検定基準の「近隣諸国条項は役割を終えた」として見直しを提言、中国、韓国への配慮は不要と宣言した。
安倍総理は前日の23日には同委員会で「侵略という定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と述べ、1995年の村山談話を事実上否定しており、一連の発言の前には北朝鮮の暴言も霞もうというものである。

<アメリカもあきれる>
 こうした安倍政権の暴走にはオバマ政権も懸念を強めている。4月22日国務省は記者会見で日韓双方に冷静な対応を呼びかける一方、25日には同省が非公式ながら外交ルートを通じて、「歴史問題に関する安倍内閣の言動が中韓を刺激し、東アジア情勢の混乱を生じさせかねない」旨を伝え、日本政府に自制を求めていたことが明らかになった。
 5月1日には、アメリカ連邦議会調査局が報告書で安倍総理を「強硬なナショナリスト」と指摘、閣僚の靖国参拝し対して中国、韓国から批判を浴びており、東アジア地域の安定を揺るがし、アメリカの利益を損なうおそれがある、と懸念を明らかにした。
 さらに同報告書は安倍総理について、過去の日本帝国主義による侵略や、アジア諸国の犠牲を否定する歴史修正主義を信奉、と指摘するなど、今後の外国政策の展開にも疑義を呈している。要は正しい歴史認識と国際感覚が欠如していると指摘しているということだ。
中国、韓国のみならず「強固な同盟国」のアメリカからも、厳しい視線が浴びせられるなか、4月28日の主権回復記念式典で「君主主権回復祈念」ともいうべき「天皇陛下万歳」を絶唱した、安倍総理や閣僚はこぞって外遊に出かけた。しかしその間も重要人物からの問題発言が相次いだ。

<国際感覚の欠如>
 5月4日訪印中の麻生副総理は、ニューデリーでの講演で「過去1500年以上の長い間、中国との関係がスムーズにいった歴史はない」と仰天の歴史観を披露した。
 麻生副総理がどのような史実を持って、このような発言を行ったのか理解に苦しむが、漢字が苦手で総理時代に大恥をかいたから、漢字を発明し日本に伝えた中国に嫌悪感を抱いているのでは、と思われても仕方がないだろう。
 追い打ちをかけたのが猪瀬東京都知事である。4月の訪米中、オリンピック招致を巡り、トルコ批判からイスラム世界に対する誹謗中傷を述べていたことが、ニューヨーク・タイムズによって暴露された。
 猪瀬都知事は発言を認めざるを得なくなり謝罪したが、直後にトルコを訪問した安倍総理にとってはまことにタイミングの悪い「内患外遊」となった。国際的には安倍総理のみならず周辺にも排外主義者が跋扈していることが広く認知されたわけである。
 帰国した安倍総理は、背番号「96」のユニフォームを纏って浮かれるという、猪瀬都知事以上のIOC行動規範違反=スポーツの政治利用にうつつを抜かしていた。トルコで形ばかりの謝罪をしても、実は何もわかっていないという国際感覚の欠如はここでも発揮された。

<朴大統領は厚遇>
 こうした醜態を尻目に訪米した韓国の朴槿恵大統領は、日本への批判を展開した。5月7日のオバマ大統領との首脳会談で朴大統領は「日本は正しい歴史認識を持つべき」と安倍内閣に対する不満を露わにした。
 朴大統領は翌8日には上下両院合同会議で演説し、このなかで北東アジアでは歴史問題で国家間の衝突が絶えず、政治や安全保障での協力関係が進展しない「アジア・パラドックス」にあると指摘、「歴史に目を閉ざす者に未来は見えない」と、名指しは避けながらも日本政府を厳しく批判した。
 オバマ大統領や議会の反応は伝えられていないが、価値観を同じくする朴大統領の発言は説得力を持ったであろう。昼食をはさんでの首脳会談、共同記者会見、そして議会演説と2月の日米首脳会談と違いは歴然としている。
 さらに、朴大統領は民生分野での連携を推進する「北東アジア平和協力構想」を提言、同構想へのアメリカの参加を呼びかけ、北朝鮮参加の可能性にも言及した。
 東日本大震災と原発事故、さらには鳥インフルエンザ問題が惹起している現在、この地域での国際協力の進展が求められており、韓国の構想は適宜な提案と言える。
 本来なら原発事故の責任と防災技術の支援という観点から、日本がイニシアをとるべき課題であるが、安倍政権にはそうした発想も能力もない。中国包囲網に血道を上げる安倍政権は、インド、ベトナムへの飛行艇や巡視船の輸出、供与など軍事的技術の移転を進めようとしている。
 一縷の光明として5月5,6日北九州で、日中韓環境相会合が開かれたが、中国の環境相は欠席した。(これを非礼と論難する一方、会談したかも定かでない川口参議院環境委員長の中国滞在延長を「国益」と擁護するのは、安倍政権として論理矛盾であろう)

<空気読み始めた安倍総理>
 このように近隣諸国に対しては強硬な対外姿勢をとってきた安倍政権であるが、展望は開けていない。「自由と民主主義の価値観外交」と言いながら、今回の外遊は価値観に疑問符のつくロシア、中東であった。勇躍乗り込んだクレムリンでは北方領土交渉の再開は決まったものの着地点は見えていない。
 頼みのアメリカからも冷たい視線で見られていることにようやく気付いてきたのか、ここにきて安倍総理は軌道修正を図ろうとしているようだ。
 5月7日の参議院予算委員会では、「ネット右翼」などレイシストのヘイト・スピーチに関連して「極めて残念」と述べた。「支持層」に対する裏切り、トカゲの尻尾切りであろう。
 先の米韓首脳会談を罵っているのは世界中で北朝鮮とネトウヨぐらいである。同じと思われてはかなわないと考えたのか。引き続く翌8日の同委員会に於いては「アジアの方々に多大な損害と苦痛を与えた」と村山談話を踏襲した答弁を行った。安倍総理はこの先しばらくは本音を封印し沈静化を図るだろうが、油断はできない。
 参議院選挙までは残り少ない。今後は日本の民主勢力の手によって、安倍政権の暴走を封じ込める取り組みの強化を急がねばならない。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.426 2013年5月18日

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【本の紹介】金融緩和でデフレ脱却はできるのか

【本の紹介】金融緩和でデフレ脱却はできるのか

★ 金融緩和の罠         萱野 稔人編 集英社新書   2013-04-22
★ 金融緩和で日本は破綻する 野口 悠紀雄 ダイヤモンド社 2013-01-31 

 アベノミクスと言われる安倍政権の経済政策だが、その中心にいるのが「リフレ論者」達である。彼らの主張は、「金融緩和によって通貨流通量を増やせば、インフレになって、デフレから脱却できる」というのだ。
 白川前日銀総裁は、安倍政権発足時に、インフレターゲット論を受入れた。続いて日銀総裁に就任した黒田総裁は、4月4日に行われた金融政策決定会合で、「異次元金融緩和」策を決定し、市中の国債買入を増やすこと、短期国債だけでなく長期国債も対象とするとした。
 安倍政権発足以前の、民主党政権が解散総選挙を明言した時点が今回の円安の出発点である。総選挙での公約で、自民党が金融緩和策や大型補正予算など、拡大政策を打ち出し、選挙では政権交代が起こるのが確実となった時点から円安が進行する。
 そして、円安と同時に、株式市場もそれに反応し、輸出企業を中心に株高が進行した。
 書店には、「今が投資のチャンス」「乗り遅れるな」のような投資本が溢れ出し、あたかもアベノミクスの成果でもあるような印象を与えている。
 しかし、本当にアベノミクスによって日本経済を立て直すことができるのか。アベノミクス礼賛本が溢れるなか、アベノミクス批判本の中でも注目すべき2冊を紹介してみたい。
 
 <金融緩和でデフレ脱却はできない>
 「金融緩和の罠」は、萱野稔人氏と3人のエコノミストとの対談集である。
 ます、登場するのが、「デフレの正体」の著者、藻谷浩介氏である。氏の従来の主張を整理すれば、長く続く日本のデフレ(小売消費高の逓減と価格の下落傾向)の原因が、90年代から始まる「生産年齢人口の減少」による購買力の低下であり、賃金の下落が一層拍車をかけて、モノの値段が下がり続けているということであろうか。
 対談の中で、藻谷氏は、「何よりも最大の問題は、金融緩和の始まった90年代後半以降の日本の景気低迷は貨幣供給量の不足が引き起こしているわけではないということです。足りないのはモノの需要です。今の日本では貨幣を増やしてもモノの需要を増やすことができません。・・・・リフレ理論は、そもそも『供給されたお金はかならず消費にまわる』という前提に立って構築された理論です」が、「ところが日本の現実は、企業も家計も金融機関も資本収支は黒字で、政府だけが赤字です。つまり、企業も家計も金融機関も、投資しても消費しても使い切れないお金を余して、国債を買っているわけです。リフレ論者が検証もせずに当然とみなしている前提が事実としては崩れてしまっているのです。」
 結論として「対処策をまとめると、①給料アップなど、高齢富裕層の貯蓄を若者の給与にまわすあらゆる努力、②女性の就労を促進し女性経営者を増やすこと、そして③外国人観光客の消費を伸ばすこと」だという。
 
 <積極緩和の長期化がもたらす副作用>
 次は、河野龍太郎氏との対談である。民主党政権時代に河野氏を日銀審議委員として起用するという国会同意人事案が自公・みんなの党の反対で否決されたその人であり、金融緩和に反対という主張をしてこられている。
 1995年から開始されている金融緩和政策、その長期化による副作用について、氏は「ひとつに、クラウディング・アウトの助長と言う問題がある。それは、本来財政支出の増大が引き起こす金利上昇による弊害のことを言います。国が財政政策によって借金を増大させると、金利が上昇し、そのせいで民間が迷惑をこうむる。つまり資本コストが上がるので、民間消費や設備投資が抑制される、それがクラウディング・アウトです。」
 「いま、日銀はゼロ金利政策をおこなうと同時に、資産買入等の基金を通じて、国債を大量に購入していますよね。ゼロ金利政策や国債買い入れ政策を長期化・固定化することが、資源配分をゆがめて成長分野への資金供給を抑制し、実質的にクラウディング・アウトと同じ状況を発生させてしまうんです」として、金融機関では、リスクをとって成長分野に投資をするより、国債を購入するほうが有利だ、という状況に陥っていると指摘される。
 さらに、金融緩和によって世界中でバブルが引き起こされる危険性について述べられている。サブプライム・ローン問題を契機に、主要各国が大胆な金融緩和を始めた。それが新興国に波及し、バブル的状況を作りだし、また原油や小麦大豆などのコモディティのバブルを引き起こした。「大国には極端な金融緩和をしないというルールづくりが必要になってくる。いずれにしても日本が考えることは、為替介入や金融緩和による単純な円高是正ではありません・・・。」と。
 
 <金融緩和で日本は破綻する>
 次の本は、野口悠紀雄氏の「金融緩和で日本は破綻する」である。
 野口氏が、前書きで強調するのは、次の点である。まず、これまでの金融緩和策が、実体経済を活性化させることができなかったということ。そして、国債の日銀引き受けは、インフレになるが、それにより資本逃避が生まれ、もはやコントロールはできない。円安とインフレの悪循環が生じ、日本経済が急速に破壊される危険性が高い。そして日本経済の活性化は、金融緩和や財政拡大では解決せず、構造改革によるしか方法はない、これが本書の結論と言える。
 私が注目するのは、「包括的な金融緩和策」導入の真の目的分析だ。
 「08年9月にリーマン危機が発生し、税収が激減した。これによって、国債の発行額が急増したのである。それまでは、毎年30兆円を超えることがかく、06,07年度には20兆円台まで減少していた新規国債発行額が、09年度にはいきなり50兆円になった。国債の供給が急増した反面で、需要面では大きな変化がなかった。貸付はそれまで減少してきたものの、景気が回復すれば増える可能性もある。これによる国債価格の暴落と長期金利の高騰を防ぐことが『包括的な金融緩和策』の隠された真の目的だ。」との指摘である。
 日本のゼロ金利政策は、経済や企業の投資のためではない。国債の暴落と長期金利の高騰によって国家財政が破綻する(している?)のを隠蔽しようとしているのだ。
 
 <バブルは必ず破綻する>
 世の中は、安倍バブルに酔っている。円安の進行と株高で、安倍政権の支持率も70%を維持している。しかし、この急激な変化こそがバブルであろう。海外からの投資ファンドが、日本をターゲットにしている。アベノミクスの化けの皮が剥がれる時が必ず来る。
 紹介した本の内容をすべて容認しているわけではないが、少なくとも現在の「超・異次元緩和策」の問題点を解明している点を評価して、紹介させていただいた。(2013-05-13佐野秀夫) 

 【出典】 アサート No.426 2013年5月18日

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【投稿】アベノミクスの現実と極右改憲大連合

【投稿】アベノミクスの現実と極右改憲大連合

<<“オンステージ”>>
 安倍政権は、野党の不甲斐なさ、だらし無さを横目に、各種世論調査での安倍内閣の支持率が上昇し続けていることに調子に乗り、過度の自信と自己満足、うねぼれが前面に出だし、浮き足だち、全てにおいて前のめりになりだしている。
 4/16の朝日の世論調査では、就任して4カ月になる安倍首相の仕事ぶりの評価を聞くと、「大いに評価する」16%、「ある程度評価する」61%、「あまり評価しない」17%、「まったく評価しない」4%と、評価が大きく上回り、77%に達している。一番評価する政策はアベノミクスに象徴される「経済政策」であるが、「原子力発電やエネルギー」と「憲法改正」がそれぞれ6%に過ぎない、そのことは完全に忘れ去られている。しかし安倍政権は、その不人気な原発再稼働と憲法96条改悪を参院選を待たずに前のめりに押し出し始めだしたのである。
 読売の調査も、安倍政権の経済政策を評価する人が67%に達しており、自民党支持率が39-45%なのに対し、2位の民主党は5、6%で、8倍前後もの大差がついている。こんな好機は二度とないであろう。この機会に安倍首相としては参院選で「衆参ねじれ」を解消し、野党を蹴散らし、圧倒的多数でもって念願の9条改悪に向けて、憲法改正や軍事力増強、教育改革などのウルトラ保守回帰路線に踏み込む意向なのであろう。
 4/17、安倍政権下で初めて行われた党首討論では、民主党・海江田氏の肝心の質問にはまともに答えないで、欧州金融危機の後退によって株高への反転基調が明確になりだしたのを手前勝手に都合よく解釈して、しかも昨年9月時点では解散も総選挙も全く確定もしていない段階であったにもかかわらず、「私が総裁になったのは昨年9月。次の総選挙で自民党が勝つのは既定路線だったから、マーケットはその段階(9月)で反応した。そういう見方で確定している」とまで放言、「日本を覆っていたどんよりした空気が変わったんですよ」と自らの“アベノミクス”の成果を延々としゃべりまくり、最近の円安・株高の成果を細かな数字を挙げて自画自賛、「討論というより“オンステージ”だった」(日刊ゲンダイ4/18号)。

<<絶好のマネーゲームの場>>
 この党首討論で安倍氏は、「まず最初に輸入品が上がり、これから半年かけて輸出も良くなる。今年度の経常収支は4.6兆円のプラスになり、それは間違いなく賃金にかわっていく」と述べ、4/18日朝の日本テレビ系朝の情報番組「スッキリ!!」に生出演した際にも、アベノミクスに絡み、「庶民への還元はいつになるのか?」との質問に対して、安倍首相は「夏を越えれば実感していただけるはず。間違いなく多くの方々の収入が増えていく」と断言した。
 確かに今のところ、円安と株高に沸いて大手メディアが意図的に持ち上げ、アベノミクスをはやし立てているが、賃金は上がるどころか、実態は円安とそれに連動した株高だけであり、危なっかしく寒々としたものである。
 株高の正体を見てみても、2012/10~2013/3の間にアメリカを中心とする外国人投資家が約6兆円も買い越している。これは2005年以来である。マネーゲームに一喜一憂する投機資本はアジア株から日本株へ資金を移動させており、米国上場の日本株投資信託の売買代金が急増したのであるが、その日本株を買いあさっていたのは、金利差や為替差益を徹底的に追求するマクロファンドやヘッジファンドで、ソロスファンドやポールソンなどはこの間に円売りや株式先物取引で空前の莫大な利益を稼いだと言われている。彼らはいち早く投機資金を仕込み、遅れて市場に参入して株価を引き上げてくれるのを待つだけで、数十億円で数百億円の利益がころがりこむという。彼らの日本株の平均的な保有期間は短くて数週間、長くても二、三ヶ月程度、政府や日銀の態度表明や経済指標を追いかけ、短期売買を繰り返し、不動産株や銀行株など流動性が大きく、株価変動の大きい銘柄に狙いをつけ、上がれば売り、下がれば買う、短期トレードを繰り返して莫大な利益を稼いでいる。こうしてアベノミクスは絶好のマネーゲームの場を提供したのである。
 そしてマネーゲームには必ず転機が訪れざるを得ない。真の日本経済の活性化が図られない限りは、ここが潮時と見切りをつけ、参院選前後にも大規模な利益確定売りが発生する可能性が大であり、株価急落が待ち受けているともいえよう。

<<間違いなく支出が増える」>>
 安倍首相は「間違いなく賃金が上がり、多くの方々の収入が増えていく」と断言しているが、これは嘘八百のたぐいである。労働力調査を見ても12月から2月までの3ヵ月間で、就業者数は5万人減少し、失業率は0.1%ポイント上昇している。賃金の上昇や雇用の改善などはまったく生じていない。
 首相の異例の賃上げ要請で注目された今年の春闘も、結果は寒々としたものである。連合が4/16に公表した春闘の回答結果(第4回集計)によると、傘下2139組合の平均賃金の上げ幅は、前年比で月額わずか67円である。300人未満規模の中小企業の回答集計では、妥結額が平均4179円、前年比0・10%減、金額で397円下回っているのである。
 大企業はこの10年間で計260兆円もの内部留保をため込んでおり、数万円前後の賃上げ余力は十分にあるが、経団連が発表した東証1部上場企業(500人以上規模)の回答・妥結状況をみると、製造業の平均月額が6204円増、前年比1・96%増、金額では前年の回答額よりマイナス115円、非製造業は6201円で、前年比1・81%増、プラス494円であるが、この金額にはいずれも定期昇給分を含むとしており、本来の賃金のベースアップがなかったことを示しており、首相の賃上げ要請などどこ吹く風で、徹底して賃上げを抑えたのが大企業の実態である。すでにこの時点で春闘は事実上集結しており、安倍首相の「間違いなく賃金が上がる」見込みは潰え去ったのである。
 そして収入が増えるどころか、この間の急激な円安による輸入インフレだけは、確実に消費者の負担増となって押し寄せてきている。燃料価格の高騰を理由にで5月から関電が電気料金を平均9.75%、九電が平均6.23%アップ、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガスが使用料金を98~140円値上げ、製紙業界もティッシュやトイレットペーパーの値上げに向け、スーパーと価格交渉を進めており、輸入穀物や果実の卸価格も昨秋と比べ、最大6割ほど上昇し始めている。収入が増えるどころか「間違いなく支出が増える」事態である。

<<アベコベノミクス>>
 そしてさらに問題なのは、安倍政権の「成長戦略」である。その柱が、小泉内閣以来の新自由主義・市場原理主義路線に基づく、徹底した規制緩和路線である。
 4/17の規制改革会議で、三つの規制緩和が提案されたが、その第一は、有料職業紹介の規制緩和で、今まで年収700万円以上の求職者、失業者からしか手数料をとれなかったのを、年収要件を撤廃する。一方では解雇しやすい規制緩和を推し進め、同時にそれによって、失業した人からは職業紹介に手数料を支払わせるというあくどさである。
 そして第二が、労働者派遣法の派遣禁止業務や派遣期間の緩和である。派遣労働者をさらにもっと増やそうというのである。深刻な格差と低賃金を蔓延させてきた派遣労働を規制するのではなく、昨年、改正したばかりの労働者派遣法を180度逆行させようというのであるから、あきれたものである。
 さらに第三は、保育の規制緩和で、保育士数を基準の8ー9割とすることを認める。保育の質を低下させ、子どもを犠牲にする規制緩和である。
 さらに安倍政権の産業競争力会議では、残業させやすくする労働時間規制の緩和、労働力移動をしやすくし、解雇しやすくする解雇規制の緩和、正社員を多様化し、勤務地限定正社員、職務・職種限定正社員、短時間正社員、専門職種型派遣社員のような多様な雇用管理区分の導入、これらが「成長戦略」の柱として提起されている。
 さらに驚くべきは、産業競争力会議の提案を受けて、厚生労働省と社会保障国民会議は、高額療養費の自己負担上限額の倍増、75才以上の医療費自己負担の1割から2割への引き上げを検討しており、さらには風邪の診療の自己負担を7割に引き上げ、軽度のデイサービスは全額自己負担、デイケアは3割自己負担、これでもかといわんばかりの徹底した国民収奪路線が浮上してきている。こんなものがなぜ「成長戦略」なのか、開いた口が塞がらない。
 低賃金、雇用不安、低所得者層の現状を固定化するばかりか、さらに一層のひどい格差を持ち込み、社会保障を切り捨て、庶民の負担を一層増大させる、その上の、インフレ政策の推進は、低所得者層をさらに苦しめる生活破壊路線であり、やることなすこと、これではまるで「成長」とは逆方向をひた走る”アベコベノミクス”である。安倍首相にとっては所詮、経済はその場しのぎの粉飾でしかないのであろう。

<<安倍・橋下=極右改憲大連合>>
 安倍首相の本音は、こうしたアベノミクスの本質が露呈してくる前に、参院選まではなんとか明るいバラ色路線で切り抜けられればいい、絶対多数を確保できさえすれば、弱肉強食の市場原理主義路線が大手をふろうと、経済は成り行き任せで、本来の使命と心得るウルトラ保守回帰路線に疾走する、ということであろう。そしてすでに参院選前から、高支持率にほくそ笑み、それに浮かれ出したのであろう、「国のかたち」を変えるなどと、前のめりに憲法9条改悪に向けた本音を吐露しだし、アベノミクス+憲法改正を参院選の争点として既成事実化させようと乗り出したのである。
 こうして自民党の石破幹事長は4/13の読売テレビの番組で、憲法改正の発議要件を緩和する96条改正は、将来的な9条改正を視野に入れた対応だとの認識を表明し、96条改正が国民投票にかけられた場合に「国民は(9条改正を)念頭に置いて投票していただきたい。国の在り方が変わるという認識を持って(投票すべきだ)」と述べ、そして自民党憲法改正推進本部の保利耕輔本部長は、96条改正の今国会提出の可能性にまで言及する事態である。
 これに呼応するかのように、日本維新の会の橋下徹共同代表は3/30の同党大会で、「日本国憲法が、ありえない国際社会観を掲げたことがものすごい問題だ」と日本国憲法前文を攻撃し、憲法前文の規定を「ユートピア的発想による自衛権の放棄」として削除し、不戦の決意や平和的生存権の規定を削除した自民党改憲案と同一路線に並び立つことを公式に宣言したのである。同じ維新の共同代表である石原氏は「あえて忠告するが、必ず公明党が足手まといになる」と述べて、安倍首相に、連立を組む同党との関係を見直すよう促し、4/9に会談した安倍首相と橋下徹日本維新共同代表は、改憲発議要件を現行の衆参両院議員の「3分の2」以上の賛成から過半数の賛成に緩和すべきとの認識で一致したとされ、ここに安倍自民党と橋下日本維新の会という、極右政治家が憲法改悪という共通目標に向かって手を結ぶ、最悪の改憲大連合がすでに動き出しているのである。
 9条と主権在民、基本的人権を頂点とする平和憲法にとって戦後最大の危機が訪れており、あらゆる平和・民主勢力、様々な市民運動や何よりも圧倒的な多数の個人が結集し、団結し、統一して、広範な反撃を組織する試練に立たされていると言えよう。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.425 2013年4月27日

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【投稿】全てのヒト・モノ・カネをイチエフへ

【投稿】全てのヒト・モノ・カネをイチエフへ
                           福井 杉本達也 

1.またも全電源喪失
 3月18日、福島第一原発の1、3、4号機の使用済み燃料プール代替冷却システムなどが停電で停止した。2号機燃料プールは幸い別系統であり停止を免れた。20日に全面復旧したが、その間29時間もかかった。原因は配電盤に入ったネズミだという。中部大学の武田邦彦氏が電源喪失して以降の燃料プールの状況を次のように整理している。1)東電が電源系を回復させれば、それ以後は大丈夫、2)電源系が回復できなければ、徐々にプールの水の温度が上がる、3)水が沸騰するのは今週終わり頃と計算されます、4)蒸発熱は1キロ530キロカロリーと大きいので、それから1週間ぐらいは100℃を保ちながら沸騰する、5)核燃料棒は露出していないので、この段階では放射性物質は漏れません、6)さらに2週間ぐらい後に燃料棒の上部が露出しやや危険な状態になります、7)時間的余裕が3週間(武田:2013.3.19)と整理している(東電の発表では65度に達するまでの時間は、4号機燃料プールが一番短くて4.52日)。電源を喪失するということが原発にとって何を意味するのか、東電、この国の原子力技術者・官僚は3.11で十分分かったはずであろうに、予備の対策は何も取られていなかった。かれらには「反省」という言葉も、「学習」という言葉も、「責任」という言葉もない。
 今回の停電では原子炉格納容器窒素封入設備の一部も停止した。原子炉格納容器内は冷却水の放射線分解によって継続的に水素及び酸素が発生しており、可燃限界に達する懸念がある。このため、水素爆発を防止することを目的に、窒素を封入することで原子炉格納容器内の水素濃度を可燃限界以下(水素濃度:4%以下)に保つものである。窒素の供給が停止してから格納容器内雰囲気が水素の可燃限界に至るまでは最短でも約2日程度と評価している(『中期的安全確保の考え方』に関する東京電力からの報告書 2011.12.6)。 周知のように、1号機は水素爆発により破壊されたのであり、4号機の破壊の一部も水素爆発によると言われる。わずか2日で可燃限界に達する恐れのあるものが簡単に停電するとはとんでもないことである。

2.地下貯水槽からの汚染水漏れ
 こうしたぼろぼろの管理状況に輪をかけて4月5日には大量の汚染水が2号地下貯水槽から漏れ出した。当初120トン:放射能量にして1兆ベクレル(Bq)ということであったが、その後3号地下貯水槽など他の貯水槽からも漏れ出ていることが明らかとなり、さらには漏れ出ている貯水槽から他の貯水槽に移送する配管からも漏れ出す事故などが相次いだ。 汚染水タンクの容量不足から原子力規制委は当初、漏れていない地下貯水槽を継続使用する予定だったが、結局茂木経産相は、地下貯水槽の汚染水は全て地上タンクに移すという方針を示さざるを得なくなった。そもそも、地下貯水槽は管理型産業廃棄物処分場に使用される地面を掘り下げ防水シートを3重に敷いた簡単な構造である。極めて危険な放射能を含む汚染水用のものではない。規制委の田中委員長も「あれだけ(大きな規模)の貯水槽をビニールシートで作ることは普通ない。」と、地下貯水槽を作ったことを失敗だった認めた(日経:2013.4.14)。移送中に配管の継ぎ手から漏れた汚染水は22リットルであるが、1立方センチメートル当たり29万Bqの放射能が検出されている。漏れた水が汚染水浄化装置で取りきれないストロンチウム90を主体とするならば影響が大きい。高エネルギーのベータ線を放出し、水中では10㎜までしか届かないが、誤って素手で触った場合、皮膚表面の1cm2に100万Bqが付着した時には、その近くで1日に100ミリシーベルト(mSv)以上の外部被曝を受けると推定される。トリチウムの場合は経口摂取した場合に問題となる(原子力資料情報室)。さらに、東電は、地上タンクの増設が間に合わない場合もあるとして、5・6号機地下の圧力抑制室(サプレッションチェンバー)への移送も検討するとした(福井:2013.4.18)。その地上タンクも急ごしらえで、溶接すべき所をボルト締めしてあったりして、何年も持つようなシロモノではない。まさに泥縄である。漏れ出た汚染水は地下水と混ざり海に流れ出ているはずである。隠しきれないと見た原子力規制委は10年後にはストロンチウム90が福島の海を汚染すると発表した(福井:4.20)。福島第一原発の放射能漏れは止まってはいない。いや、今後何十年~何百年にも亘り東日本の海を汚染し続けるであろう。地上タンクはすぐにも福島第一原発の敷地を覆い尽くし、国道6号を越えてその西側にも林立せざるを得なくなるであろう。

3.原発労働者がいなくなる
 現在、放射線現場で働く労働者の被曝限度は5年間で最大100mSv、年間最大で50mSvである。原子力資料情報室によると、2011年3月11日から12年12月末日までの作業者の外部被曝と内部被曝の累積線量は、約30万人・mSv(=300人・Sv)と膨大なものとなっている。うち約70%は下請け労働者の被曝である。2011年3月、事故直後から対応にあたった東電社員が圧倒的に大きな被曝をしたが、翌4月以降は下請け労働者の被曝が大きくなっている。1ヵ月の被曝線量が10mSvを超えた作業者数は12年10月で20人(最大16.94mSv)、11月は15人(最大19.28mSv)、12月は8人(最大15.85mSv)となっている。2009年度のデータでは、作業者の年間被曝線量は94%が5mSv以下、被曝の最大値が19.5mSv、平均線量1.1mSvであったことを考えると、現在の福島第一原発がいかに厳しい現場であるかが改めてわかる。100mSv以上が167人、50~100mSvが1,030人、20~50mSvが3,631人、10~20mSvが4,024人である(全作業者25,398人中 2013.3.1)。これまでは、冷却用パイプの敷設や炉外の外周などの作業が多かったが、さらに汚染水への対応が加わる。あと5年もすれば福島第一原発にはベテラン作業員は一人もいなくなる。
 関電高浜3.4号機、九電川内原発、四電の伊方原発などを再稼働させる動きがあるが、そのようなことをやっている時間は日本には残されていない。このままでは、福島第一の全敷地が汚染され、崩壊した原子炉に近づくことさえできず管理不能になる恐れもある。全原発で使用済核燃料の管理などの最重要作業以外の全ての作業はやめ、全てのベテラン作業員を福島第一原発に集中しなければ日本は終わりである。

4.「異次元緩和」という資産収奪を許さずイチエフの対策に使え
 黒田日銀は4月4日「異次元緩和」を宣言し、月間で7.5兆円の国債を買い入れることとした。政府が毎月発行する国債は10.5兆円しかない。その7割を日銀が吸い上げれば市場には国債は出回らない。景気が低迷し運用難に悩む生保・都銀・地銀・ゆうちょ・年金資金は全て国債の購入によって安定した収益を上げてきた。これをなくして資金を米国債の購入に振り向けさせようという算段である(『東洋経済』2013.4.20)。生保業界は1980年代後半・米国債への大量投資を行ったが、急激な円高により巨額の為替差損を被った過去がある。結果、生保業界の一部はAIGやプルデンシャルなどの外資の軍門に下った。黒田日銀は国債市場を事実上閉鎖し、日本の全ての資金を米国に持っていくつもりである。 4月19日、生保協会会長・明治安田生命の松田社長は「外債買い増しを選択肢とする」と述べた。日銀との間に何らかの妥協をしたということである(日経:4.20)。そのようなことをすれば、金融円滑化法切れで青息吐息の中小企業の資金源を絶ち、将来の年金資金を枯渇させ日本経済を不況のどん底に追い込むものである。しかし、福島第一原発の対策には今後数百兆円もの資金がかかる。1980年代のような“余裕”は全くなくなっている。日本の支配エリート層は、国土を放射能と米軍に占領させ放置したまま、資産を米英金融資本に叩き売り、海外逃亡を図るつもりなのであろうか。 

 【出典】 アサート No.425 2013年4月27日

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【投稿】保守体制復活で勢いなくす「維新」 

【投稿】保守体制復活で勢いなくす「維新」 

<兵庫 伊丹・宝塚市長選で維新派大敗>
 去る4月14日、関西ではマスコミも大きく取り上げる動きがあった。14日投開票を迎えた兵庫県伊丹市、宝塚市の市長選で、維新候補は現職に大敗。大阪での勢いは、周辺都市では届いていない現実が顕になった形だ。
 兵庫県の井戸知事は、道州制には慎重な姿勢であり、関西広域連合も、発足にあたって、「道州制に転化しない」との条件付で参加した府県もあった。大阪維新の会の松井知事などは、道州制に慎重な井戸知事に対抗し、7月知事選、11月神戸市長選に維新候補を擁立すると宣言し、今回の両市長選を前哨戦として、候補擁立に至っていた。
 選挙戦では、浅田大阪府議会議長が、「尼崎、芦屋、西宮、伊丹、宝塚、そして神戸まで、大阪都構想に組み込まないと東京都に対抗できない」と発言し、兵庫県民から反発を招いたり、伊丹空港廃港論を唱える橋下代表に対する反発が維新勢力の兵庫県進出を阻んだとも言える。
 橋下が乗り込もうが、大阪府域を越えた陣地戦では、その力は弱小であると言える。21日の名古屋市議補欠選挙でも維新候補は落選しており、維新勢力の伸び悩みは鮮明だ。

<憲法改正で、安倍・維新連合の動き>
 先の党首討論に立った維新の石原代表は、「公明党は(憲法改正で)あなた方の足手まといになる」と述べ、自公連立を批判している。一方、公明党の山口代表は、憲法96条改正は、連立合意に含まれていないと発言し、安倍首相の動きをけん制している。(自公政権合意文章では、「7憲法審査会の審議を促進し、憲法改正に向けた国民的な議論を深める」と慎重な表現となっている。)
 憲法改正に向けた安倍・維新の動きが報道されればされるほど、大阪都構想が遠のくという現実も無視できない。都構想の中心である大阪市会では、維新だけで過半数に達せず、辛うじて公明党の協力があるため、橋下市長の政策が進んできた。
 しかし、衆議院選挙も終わり、夏の参議院選挙では、公明と維新は議席を争う関係になる。この選挙が終われば、当分衆議院選挙もないと言う状況下、大阪市会での維新・公明連携も、より是々非々の関係になるだろう。
 橋下市長が提案した大阪地下鉄民営化条例も、3分の2の賛成が必要と言う中、自民・公明・民主の賛成を得られず、継続案件とせざるをえなかった。また、大阪都構想を進める第二回法定協議会では、公明党委員から、特別区30万では大きすぎる、20万程度の身近な規模も検討すべきとの発言が飛び出し、議論が足踏み状態となっている。
 
<支持率低迷の維新の会>
 各種世論調査も、維新の支持率が低下傾向にあることを示している。毎日新聞調査(4/22報道)では、政党支持率は3月調査と比べて、2%ダウンの7%。参院選で投票すると答えた割合も、2%ダウンの11%となった。同じく日経新聞調査でも、3月調査から政党支持率で1%ダウンの5%となっている。
 共同通信調査では、3月調査で、維新支持が7.1%だったが、今回の調査では5.5%に低下し、近畿地区調査でも、11.5%から8.3%へと支持率を低下させているのである。
 低迷の理由は明らかであろう。自民党に参議院選挙で過半数を許さないと言う一方、憲法改正では共闘できると言う。野党結集もできず、これでは第二極にもなれない。円安と株高で「支持」を増やしている安倍政権に対して、予算案にも賛成するなど、独自色が益々希薄になりつつある。元々、橋下以外は、民主党政権下で自民党から渡ってきた連中か、議員ポストに有り付きたいだけの連中が主流の政党である。参議院選挙後、次の衆議院まで存続するかどうか危うい「政党」なのであって、寄せ集め度は、民主党以上であろう。
 低賃金と社会の閉塞感に便乗し、公務員攻撃で庶民の鬱憤をはらすためだけの政党に過ぎない。去る3月30日に開催された「日本維新の会」党大会で採択された綱領なる文書も、自民党と何を区別するのかわからないような保守文言で溢れ、「占領憲法の改正」「既得権の排除」「労働市場の流動化」など、小泉以上の新自由主義的内容である。さらに、原発エネルギー問題には一言の言及もない。
 アベノミクスも、いずれ剥げ落ちるだろうが、それ以上に、有害な維新勢力との粘り強い闘いを進める必要があろう。(2013-04-22佐野秀夫) 

 【出典】 アサート No.425 2013年4月27日

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【書評】黒木亮『アジアの隼』(上、下)

【書評】黒木亮『アジアの隼』(上、下)
     幻冬舎文庫 平成24年10月発行(上686円+税、下724円+税) 

 1990年代、ベトナムが舞台の経済小説である。かつて90年代の香港は、鄧小平の南巡講話をきっかけとした中国の経済回復と同時に、急速にアジアの資金調達センターとしての優位的な地位を確立していく。そしてこれとともにベトナムは、ドイモイ(刷新)により経済的急発展を遂げることになる。この成長期のベトナムで政府のプロジェクト案件を獲得すべく邦銀の日本長期債券信用銀行からハノイの事務所に送り込まれた真理戸潤なる人物が主人公である。当然のことながら、そこでは既に欧米の金融機関や「ベトナム詣で」の多くの邦銀が熾烈な争いを繰り広げており、しかも当時の日本とは異なった取引習慣—現在では至極当たり前のこととなったシンジケートローン(協調融資)やマンデート(借手による融資条件受託)等—に苦しめられることとなる。この百戦錬磨のつわものたちの間で、いかにマンデートを取って行くかの丁々発止の駆け引き、協調と寝返りが本書の見せ場であり、欧米金融機関のハゲタカぶりと徹底した合理性=冷酷無情の振舞いがすごい。
 しかしその話の流れは本書で見ていただくとして、本書で語りたいのは少し違うところにある。それは例えば、真理戸がベトナム事務所開設の免許を取るための政府役人との交渉の次のようなシーンである。
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「ベトナムは今まで戦争で国造りが遅れたけれども、ドイモイ(刷新)により今後飛躍的に発展することは間違いないのです」(略)「この国のビジネス・チャンスは計り知れません。我々には天然資源に加えて、人的資源も豊富です。なにせ我々はあのアメリカに勝ったのですから」
ニエン(ベトナム政府金融機関局次長)が傲然とした視線を向けた。
真理戸は、これ以上自慢話を聞いてもしょうがない、と話の方向を変えることにした。
「では具体的には、私どもは何をしたらよいのでしょうか?」
「セミナーをやってもらいたい。それから日本で研修生を受け入れてほしい」
真理戸が投げたボールをニエンは間髪を入れずに打ち返してきた。(略)ベトナム政府のたかり体質は、つとに名高い。外国企業にセミナーをやらせるときは、外国から来る講師の旅費、宿泊費、日当は当然のこと、参加者に対する一日十ドルの日当、さらにはセミナー会場となる自分たちの役所内の会議室の使用料という名目で一日あたり千ドルをも払わせる。許認可権限を悪用した賄賂の強要以外の何ものでもない。それをベトナム側はコー・オペレーション(協力)と呼んではばからない。(略)
「日本での研修の方は、何人位をお考えですか?」
「こちらとしては五人から七人を考えている」
仮に五人を一週間東京に呼ぶとすると一人あたり五十万円として二百五十万円の金をどぶに捨てなければならない。
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次は、軽工業関係の国営企業との交渉シーンである。
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 案内された部屋で待っていると、やがて副社長以下六名がぞろぞろと入ってきた。副社長の年齢は六十歳くらい。(略)背が低く、枯れ木のように痩せている。煙草のヤニガこびりついた歯は朽ちてぼろぼろで、育ち盛りの頃に栄養状態が悪かったことが窺える。おそらくベトナム戦争の勇士なのだろう。国営企業ではこの手の北ベトナム軍出身者が能力とは関係なく、論功行賞で幹部の地位を与えられているケースが多い。(略)
(評者註・・・この後交渉が始まるが、通訳、財務部長の女性ともにファイナンスの問題が皆目分からず、ピンぼけが続く。)
 副社長は当然のことながら実務のことは何も知らない。口では「ファイナンスはわが社にとって非常に重要だ」と繰り返し言うが、いざ具体的な話になるとさっぱりだ。最近の輸出状況について質問すると、「ああそれは国際部長に訊いてほしい」、繊維製品の売上動向について訊くと「それはマーケティング部長に照会するとよい」、プロジェクト・ファイナンスについて興味があるかと訊くと「それはここにいる財務部長と話をしてくれ」(略)
「これは共産主義無能バリヤーですね」苛々している真理戸に尾白(真理戸の部下)がいった。
「何だい、その無能バリヤーって?」
「以前旧ソ連の共産主義国で経験したことがあるんですけど、決定権者に話がたどり着く前に、この無能バリヤーが何重にもわたって張りめぐらされてるんですよ」
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極めつけは、先ほどのセミナー後の日本での「研修」である。一行は五人。
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 五十過ぎの女性がいる。一行の団長をつとめる人事部次長のアイン女史だ。スーツ姿の若者がいる。(略)金融機関局職員のタインらしい。(略)小柄で利発そうな女性がいる。これは国際関係部のハウ。
 コートを着込んだ腰の曲がりかけた婆さんが二人いる。(略)政府の職員というよりは、ハノイの道端にしゃがんでサツマイモの天ぷらでも揚げていそうな感じだ。この二人が選ばれたのは何かの間違いとしか思えない。
(評者註・・・この「研修」と秋葉原での家電製品の買物等々で真理戸は散々な目に遭わされるが、彼らが帰った後、ナム(通訳)との会話でその事情を知ることになる。
「ところでナムさん・・・」真理戸が傍らのナムにいった。
「あの婆さん二人はいったい何者なんですか?英語も全然できないただの婆さんじゃないですか。ベトナム政府にとって、あんな連中を日本に研修に出す意味があるんですか?」
真理戸の質問にナムは一瞬白けた顔をした。
「真理戸さん、あの婆さんたちははなから勉強する気なんてないし、ベトナムの役所の方だってそんなことは期待していないんですよ」
「え!? じゃあ、なぜ」
「ベトナムの官庁や政府機関で偉くなるためには、まず下の人間から推薦してもらうことが必要なんです。いくら能力があっても、あるいは上の人の可愛がられていても、下の人間が推薦してくれないと出世はできない。共産主義体制ではそういう仕組みなんです。だから、推薦をもらうために上の人間は下の人間のご機嫌取りをするんですよ。ああいう無能な婆さんたちは上司にとっても結構厄介な存在なんです。助けにはならないが害だけは加えることができる。あいつらを黙らせておくためには時々海外旅行をさせてやる必要があるんですよ」
「うーん・・・」初めて裏の事情を知らされた真理戸は唸った。
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 悪意を持って社会主義ベトナムの批判をするわけではない。しかし本書が小説であるということを考慮した上でも、いわゆる旧ソ連型の官僚制の果たしている犯罪的な役割を確認できよう。本書はこの後、タイ・バーツの暴落を端緒としたアジア通貨危機、金融市場の行き詰まりの中で、主人公の勤める銀行も破綻に陥るという結末を迎える。
 以上のように本書は、アジア金融市場を舞台にした波乱万丈の経済小説であり、そこにはかつて実在し香港の金融市場の台風の目となった証券会社「ペレグリン」も登場する。 また巻末には日常あまり馴染みのない経済用語の解説も付けられている。一見とっつきにくい小説であるが、一種の経済情報小説としても読むことができよう。
 しかし最後に付言すれば、60~70年代にアメリカ帝国主義に対して英雄的に闘ったベトナムに対して、微力ながらも「ベトナム戦争」反対の運動に参加した者としては、本書で苦い読後感を味わった。アメリカと闘ったベトナムの勝利が偉大であっただけに、その後の経済政策で行き詰まり、開放経済政策ドイモイで息を吹き返すという状況は、革命後の旧ソ連型社会主義の官僚制の弊害とともに銘記すべきであろう。このような中でもなおベトナムの民衆の底力を信じるという本書の姿勢は救いではあるが、現存する社会主義を見る限りはなはだ複雑な感情を持たざるを得ないというのが正直なところである。(R) 

 【出典】 アサート No.425 2013年4月27日

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【日々雑感】—一切我今皆懺悔— 

【日々雑感】—一切我今皆懺悔— 

 私の亡き母は、よく言っておりました。「形だけでも良いから、仏様は良くおまつりしてね。」と。
 当時の私は唯物論の知識を振りかざして、観念論をボロクソに批判しており、母を悲しませました。しかし、今では、宗教とは自分の心の問題であって、正座して、亡き父や母を心静かに偲ぶと言う行為は、何の抵抗もなく行えるようになりました。
 形だけしておったのが魂が入ってきたように思いますのは、年の所為ですかねえ。
 話はそれましたが、私の小学校時代、5・6年生を担任してくださった、遠藤千代先生のことを思い起こします。先生は、戦後の民主主義教育をと、苦労なさっておられ、先生仲間の研修があれば、東京方面へも行かれているようで、その成果を私達に教えてくれました。
 「東シナ海と言うのはやめて、東中国海と言うようにしましょうね。」と言っておられたのを懐かしく思い出します。
 また、先生は、家族が貧しく、遠足にも行けなかった、三郎ちゃんの為に動きまわって、遠足に行けるようにしてあげたりして、三郎ちゃんのお母さんから感謝されたりしました。そんなすばらしい先生に対して、私は、ちょっと成績が良い位のことで、何かにつけて反抗的で、あのイヤーな橋下みたいな生徒でした。自信過剰で、うれしがり、目立ちたがりの私を、よく指導して下さったと思います。
 仏教では、お経を読む時、まず懺悔から始まるそうですが、遠藤千代先生、ご存命ならば一度お会いして、お許しを願いたいです。
 一切我今皆懺悔の気持ちでいっぱいです。(2013-04-18 早瀬達吉)

 【出典】 アサート No.425 2013年4月27日

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【投稿】安倍・維新連合-改憲・TPP推進路線の孤立化を

【投稿】安倍・維新連合-改憲・TPP推進路線の孤立化を

<<「今がラストチャンスだ」>>
 安倍政権は、先の民主党・野田政権と同じ土壺にはまろうとしているのであろうか。安倍首相自身が、アベノミクスの表層に浮かれた大手マスメディアの無批判なお追従に変に自信をつけ、昂揚感で有頂天になり、上から目線の空威張りと上滑り、そして焦りが同居する、躁的精神状態に浮かれているようである。憲法改悪、TPP参加、等々、参院選を待たずに、すべてを前のめりで進行させようとしている。
 3/15、安倍首相は、環太平洋経済連携協定(TPP)の交渉に参加することを正式に表明した。首相は「一日も早く交渉に参加しなければならない。今がラストチャンスだ。」、「日本は世界第3位の経済大国。参加すれば必ずルールづくりをリードできる」と語ったが、その同じ記者会見の場で、「すでに合意されたルールがあれば、遅れて参加した日本がひっくり返すのは難しい」と認めざるを得なかった。2011年に参加したカナダとメキシコには先行国の交渉内容を見直すことが許されなかったことがすでに明らかにされており、当然のことであろう。カナダとメキシコは、「交渉を打ち切る権利は九カ国のみにある」「現在の参加国間で合意した条文は原則として受け入れ、再交渉は要求できない」などと極めて不利な条件をのまされ、その念書を両国は極秘扱いにして隠していたのである。TPP交渉は秘密交渉であり、この両国同様、日本は、これまでの交渉内容、合意事項、その法的文書そのものさえ見ることも確認することも許されないまま、全てを受け入れざるを得ないのである。3/7付東京新聞が報じたように、「日本が交渉入りしても加盟国が合意した項目は、再協議することはない、と参加9ヵ国で決められている」のである。そして安倍首相は、こうしたことを承知しながら、先の日米共同声明ですべての物品をTPP交渉の対象にすることを認め、交渉参加をオバマ大統領に申し出たのである。
 このようにTPPは完全秘密主義で、物品・サービス・知的財産など21分野にわたる項目全てが妥結するまで交渉内容が一切公表されず、途中経過も知らされず、一括してすべてが妥結した後、初めて公表される。公表されてから個別の項目を変更することや、ましてや国民的議論の俎上に乗せることなどできないのである。およそ主権在民、自治権に反する、各国の経済主権や食料主権をないがしろにし、国家主権をも奪う徹底した反民主主義のしろものなのである。

<<「できる限りの対応」>>
 それでも首相は「参加は国家百年の計だ。国益になるだけでなく世界の繁栄につながる」と述べたが、中国・ロシア・インドネシア・タイなど環太平洋の主要国、そしてインドも含めて今や日本の最も重要な輸出入最大の相手国であるこれらの諸国が軒並み見送った交渉への参加が、なぜ「国益になるだけでなく世界の繁栄につながるのか」、一切明らかにできなかった。そこであわてて試算したTPPの影響額はこれまたずさん極まりなく、農水産業の生産額は3兆円落ち込む一方、輸出拡大でGDPは3・2兆円増えるという。だが、2011年には農水省は農水産業が7・9兆円の打撃を受けると試算していたのである。多大な犠牲に比して、たったこれだけの効果しかないとも言えるが、政権の要望に合わせて適当につじつま合わせをする官僚の試算を誰が信用するというのであろうか。
 3/13の自民党のTPP交渉参加を容認する決議は、
1.コメ、牛肉、乳製品、砂糖、小麦の5品目を関税撤廃の例外とする。 2.国民皆保険を守る。 3.日本の主張が受け入れられない場合にはTPP撤退を辞さない、の三つであった。これに対して安倍首相は 「必ず守る」と言いつつも、「国民皆保険を守ることは確約する。しかし、例外5品目については、できる限りの対応を取る。できる限りの対応とは、関税撤廃の緩和措置および国内対策のこと」だと、交渉入りする前段階から後退した内容を述べており、ここに既に関税撤廃の例外設定は実現できないこと、緩和措置と国内対策でごまかすことを見逃してくれ、という、露骨なTPP参加への前のめり姿勢のみが浮き彫りにされている。あとの2条件も、適当なガス抜き程度にしか位置づけられておらず、反故にされることを承知で、首相一任を取り付け、リップサービスのみで政権与党幹部は手を打ったつもりなのであろう。

<<「ウソつかない、ブレない」>>


「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。」-これは先の総選挙での自民党の選挙公約のポスターである。わずか3か月前である。ここまでくればお笑いである。「TPP断固反対」はどこかへ飛んで行ってしまって、言い訳しようのないブレまくりの大ウソつきと言えよう。

 このポスター、公約破りの民主党への面当て、対決の旗印として掲げられたものであろうが、今や自らに降りかかってきている。民主党は、消費税増税をはじめとする数々の明確な公約違反と居直り、ブレまくりの結果、圧倒的な有権者の怒りを買い、政権の座から引きずり下ろされ、断罪されたのであるが、自民党の公約破りはそれ以上に早すぎるし、厚顔無恥である。こんな公約違反が堂々とまかり通るようであれば、一体選挙や投票とは何であったのかが根本的に問われかねない。これほど明確な公約違反、本来ならこの問題一点に絞ってでも直ちに出直し選挙を行うべきであろう。またそうしなければ、まったくお寒い限りの薄っぺらな民主主義に堕落してしまうし、現実はそのように断罪されても抗弁できない状況と言えよう。
 このようにウソをついてでもTPP参加に前のめりになるもう一つの、そして決定的な理由は、「普遍的価値を共有する国々と経済的な相互依存関係を深めていくことは、我が国の安全保障にもアジア太平洋地域の安定にも寄与する}(3/15記者会見)、というまさに経済外の、「安全保障面の利点」なのである。そしてここにこそ本音があり、安倍氏特有の自民党最右翼の面目躍如たる存在理由が透けて見えよう。民主主義を屁とも思っていない安倍氏が、民主主義という「普遍的価値を共有する国々」などいうこと自体お笑い種だが、そうした国々とは付き合うが、それ以外とは断固対決するという意思表明としてのTPP参加なのである。まさに安倍氏がなんとしても成し遂げたい、憲法9条の改悪と自衛を超えた対外攻撃軍隊として活用できる、「集団的自衛権」を担いうる国防軍の創設、そして天皇「元首」化、さらには「公益・公序」によって基本的人権をも労働基本権をも生存権をも制限できる、そうした憲法改悪への道であり、「美しき大日本帝国復活」への道である。
 すでに安倍氏は、2/26の参院予算委員会で、自民党の改憲草案について問われ、「今の状況でただ自衛隊を国防軍に名前を変えるのではなくて憲法改正が必要だ。相当な議論をして(改憲を)成し遂げるべきだ。まず96条(改憲発議要件)を変えるというのがわれわれの考えだ」と表明している。既にこの時点で安倍氏は、憲法99条の、大臣や国会議員など公務員の憲法順守義務を明確に犯しており、現行憲法における首相の適格性は存在していないのである。

<<「いざという時は維新と組む」>>
 こうした危険極まりない危うい路線に、早速、石原・橋下連合の日本維新の会が、その本性も露わに飛びついている。維新の会の橋下徹共同代表は3/16、安倍首相がTPP交渉参加を表明したことについて「首相は維新の存在があったからTPPに踏み切れた。自民党内の反対派に『いざという時は維新と組む』との考えを表に出して党内が収まった」と語り、さらに橋下氏は踏み込んで、「憲法96条改正でも、自民党と公明党が連立を組んでいるが、首相はいざとなったら維新と組めばよいとの思いで前に進めることができる」とも指摘している。安倍氏の真意を代弁したのであろう。
 3/14、衆院憲法審査会は、昨年12月の衆院選後、初めての会合を開いたが、第1章「天皇」、第2章「戦争の放棄」に関する各党見解表明で、自民党、日本維新の会、みんなの党は、1条で天皇を「元首」と位置付けることや、集団的自衛権の行使を認める9条改正でほぼ足並みをそろえた。いよいよその時が到来しつつある、と安倍首相は意気込んでいるのであろう。
 安倍・維新連合の憲法改悪・TPP推進路線を徹底的に孤立化させる闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.424 2013年3月23日

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【投稿】被曝線量基準の切り下げを許すな

【投稿】被曝線量基準の切り下げを許すな
                            福井 杉本達也 

1 消される『東北』・『福島』―消えない『放射能』
 震災から丸2年の3月11日、新聞・テレビでは様々な震災・原発事故特集記事や番組が組まれた。しかしその多くが、お涙頂戴物語の類であった。宗教学者の山折哲雄は「『万の命』が海にのみこまれてしまった『東北地方』の人びとの『叫び』がまるでどこかにのみこまれてしまったかのように、この日本列島上から『東北』が消されてしまっていたのである」(山折哲雄「消された『東北』の名―静まらぬ万の命の叫び」福井:2013.3.10)と悲痛な叫びをあげた。山折は直接『福島』には触れてはいないが、『東北』と伴に『原発事故』も「消されてしまったのである」。IOC評価委員会の東京現地調査のプレゼンテーションにおいて、猪瀬東京都知事は一言も震災・原発に触れることはなかった(福井:2013.3.8)。安倍首相は1964年の東京オリンピック時の歌「より速く~より高く~より強く~」(「海を越えて友よきたれ」)を音程を外して歌い失笑を買った。ここまで『東北』が悲惨な状況に置かれているにもかかわらず「何事も学ばず」、高度成長の夢だけを追い求める「何事も忘れず」である。『東北』はあまりにも「政治都市」であり「経済都市」である『東京』に近すぎたのである。

2 日本は右傾化ではなく幼児化している
 福島第一原発の現状は原子炉格納容器が破損し、圧力容器や格納容器に崩落した核燃料をただただ大量の水で冷やし続けるだけであり、状況は益々悪化するばかりである。高レベルの放射能を含んだ冷却水の一部は原子炉の外に絶えず漏れだし、汚染水は増え続ける一方である。汚染水は既に約36万㎥。東電は2015年9月までに貯蔵タンクを増設し、容量を70万㎥にする計画だが、広かった福島第一の敷地内での増設も限界に近づいている。更に、地下水の汚染、海洋へ流出が続いている。3月15日には第一原発港湾内で74万ベクレル/kgもの“化け物”のようなアイナメが捕れた。1kg食べると11ミリシーベルト(mSv)も内部被曝する量である(日経:2013.3.16)。冷却方法を見なおさない限り、汚染水は管理不能になり、海洋投棄するしかなくなる。東電は破廉恥にも、福島第1原発で発生した大量の汚染水について、処理後に海洋放出することを検討し始めた(毎日:2013.3.5)。
さらに、破損した原子炉の処理については、全く不透明である。経産大臣を議長とする廃炉対策推進会議は「原子炉からの燃料デブリの取り出しの早期実現に向けて、号機毎に大きく異なる建屋の損壊状況、放射能汚染状態、内部状況、さらには、他の工程などを踏まえつつ、以下の諸点を検討しながら、可能な限りスケジュールを明確化すること。」(2013.3.7)と書くが、まったく具体性を欠いている。まずは、矢板やグラウド材で福島第一敷地境界をぐるりと囲う深さ数十mの止水壁を構築し放射能の周辺への拡散(=地下水や海洋への放射性物質の漏洩)を止めなければならない(地下に強固な岩盤があるならば)。使用済核燃料プール内の核燃料棒はもし取り出しが可能な部分があるならば「乾式キャスク」による「暫定保管」をしなければならない。しかし崩落した核燃料(デブリ)は取り出すことは不可能である。1979年のスリーマイル原発では格納容器を水棺して水中の作業で溶融した燃料棒(デブリ)を取り出すことができたが、それでも事故後11年もかかった。福島原発は底抜けであり水棺することができない。空気中に取り出そうとすれば作業員は即死である。処理作業は、今後数十年から100年という期間において数十兆円オーダーの費用が必要である。超長期間にわたる放射性廃棄物の管理・処分にはどれだけの資金が必要となるのか検討もつかない(参照:近藤邦彦・ブログ「環境問題を考える」)。事故の処理の巨額の出費のために日本の経済は「より遅く~より低く~より弱く~」ならざるをえない。安倍首相の思いとは裏腹に、残念ながら『東京』は放射能の影響を遮るには『東北』に“近すぎた”。『東北』・『福島』を地図から抹殺しようが、言葉を消し去ろうが、『東北』は『東北』として現存し、『放射能』は消し去ることはできない。日本は右傾化しているとの声が多く聞かれる。だが、目の前にある原発の崩壊という厳然たる事実から逃げることはできない。それは今後数百年も続く放射能との苦しい闘いの入り口に過ぎない。我々の心は予期せぬ異常や危険に対しては鈍感にできている。神経が疲れ果ててしまうので普段通りの生活をしたいと思うからである。「正常性バイアス」という。危険が迫っていても信じたくないのである(広瀬弘忠『人はなぜ逃げおくれるか』)。しかし、事実を事実として客観的に見ることができないこの国は右傾化ではなく幼児化しているに過ぎない。

3 住民を放射能に売り渡す「吸血鬼」佐藤雄平福島県知事・遠藤勝也富岡町長
 民主党政権下において「年間の被曝線量1mSv以下」という目標値を掲げた「除染」は難航している。「伊達市では40ヶ所以上の仮置き場ができて、除染が進みましたが、残念ながら元の線量には戻れません。国は毎時0.23マイクロシーベルト以上の地域は除染する方針ですが、この線量はなかなか達成できない。低いところをさらに除染してもあまり下がらない。現実的な目標設定が必要です。」と伊達市除染担当の半沢隆宏は言う(朝日:2013.3.12)。除染しても線量が下がらないため住民の帰還が進まないとみた国や県は、事実上の安全基準の緩和に向けて動き始めた。住民は、被曝の不安と生活の苦しさの間で揺れている。それに付け込んで生き血をすすろうと佐藤雄平知事は「風評被害の観点からも、新たな放射線の安全基準などを政府の責任で示してほしい」と国に要望、遠藤勝也富岡町長は「年間1mSvという除染の目標は達成できるか疑問。現実的な範囲で科学的、医学的な安全基準を国に示してほしい」と発言。菅野典雄飯舘村長は「同じ地域であっても、住人の年代や性別ごとに適切な数値を示すべきだ」と求めた。こうした発言を受ける形で復興庁が3月7日にまとめた『復興の現状と取組』の中で「国は避難指示解除を待つことなく、前面に立って以下の施策を速やかに実行に移す。これにより、今後1、2年で帰還を目指すことが可能となる区域等において、避難住民の早期帰還・定住を実現する。」と書いた。 安倍首相は11日、避難した住民の帰還について、今夏をめどに見通しを示す意向を示した。「緩和は避難者を福島に戻す圧力だとしか思えない。避難する権利が奪われている。住めない地区が広がれば、東電の賠償も増える。だから、我慢して住めということになる。加えて、国にとっては原発の再稼働や輸出をするため、原発事故の過小評価をしたいという意図もあるのだろう」と荒木田岳福島大学准教授はいう(東京:3.14)。福島県は原発事故翌日の2011年3月12日午前5時頃の大熊町避難所の貴重な放射線データをわざと消し去ってしまった(福井:2013.3.10)。犯罪を隠す準備は着々と進行している。

4 犯罪に荷担する学者(?)
 こうした意図を受けてか、またぞろあまりにも無責任な発言をする学者?が増えている。産業総合技術研究所フェローの中西準子もその1人である。「生きていくうえでは、さまざまなリスクがあります。放射能にも、移住にもリスクがある。両方を比べてどちらをちるか個々人が判断していくしかありません。放射線影響の専門家は、100ミリシーベルト以下だと影響は見えないとずっと言い続けています。私は、その見解は尊重できるように思います。私は、その見解は尊重できるように思います。リスクがないわけではありませんが、外部被曝の積算が15年で50~100ミリシーベルト程度なら、住む選択肢があっていい。」(朝日:2013.3.12)。中西は何を根拠に100mSv以下は影響ないというのか。福島県立医大副学長の山下俊一の言葉の受け売りなのか。福島原発事故に際し、ICRP(国際放射線防護委員会)は 「放射線源が制御されても汚染地域は残ることになります。国の機関は、人々がその地域を見捨てずに住み続けるように、必要な防護措置を取るはずです。この場合に、委員会は、長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして、これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベル1mSv/年~20mSv/年の範囲で設定すること(ICRP 2009b、48~50節)を用いることを勧告」している。( ICRP国際放射線防護委員会 2011.3.21)一般公衆が住む場合は「放射線レベルを1mSv/年へ低減する」べきであり、「参考レベル1mSv/年~20mSv/年」は事故後数年間の復興段階においてである。ICRPの前提は「放射線源が制御」されていることである。福島の場合には「放射線源が制御」されていない。いまなお放射能を環境中に出し続けている。今後確実に減り続けるとは言えない。崩壊した原発の核燃料の処理が旨くいかなければ増加するかもしれない。事故後2年も経って、除染に膨大なカネを注ぎ込んでも放射線量がそれ以上下がらないとなればもう復興段階とはいえない。中西は無責任にも「15年で50~100mSv程度なら」こうした環境中でも住民に住めというのである。中西のいう「15年で50~100mSv」には何の安全の根拠もない。何の根拠もないことを言いふらすのは学者のすることではない。国は「放射線レベルを1mSv/年へ低減」させなければならない。させられないならば住民を住まわせてはならない。ICRPは核(原発を含む)保有国が核を管理するための放射線防護に関する基準を定める国際機関であるが、何の根拠も無しに「勧告」しているわけではない。国がICRPの勧告に反するようなことをするならば、日本は核管理能力がない国だと国際的に見なされることとなるであろう。
「まだ恋も 知らぬ我が子と 思うとき 『直ちには』とは 意味なき言葉」・「子を連れて西へ西へと逃げてゆく愚かな母と言うならば言え」(俵万智3・11短歌集『あれから』より)。母のうたは吸血鬼には聞こえない。 

 【出典】 アサート No.424 2013年3月23日

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【投稿】孤立化の道歩む安倍政権

【投稿】孤立化の道歩む安倍政権

すり寄る安倍、かわすオバマ
 2月22日、オバマ大統領との初の日米首脳会談を終えた安倍総理大臣は、ワシントンのホテルで講演を行い「ジャパンイズバック」と大見得を切り、その後の日本政府主催の記者会見では「日米同盟は完全に復活した」と豪語した。
 しかし、肝心のオバマ大統領からは首脳会談直後の非公式の共同インタビューでも、その後の様々なスピーチでも「日米同盟の完全復活」を肯定するような発言はなかった。またしても安倍総理の独りよがりが先走った格好となった。
 安倍総理としては首脳会談のメインテーマを安全保障問題とし、とりわけ尖閣諸島問題に関して、首脳会談でオバマ大統領から「日米共同で中国に(軍事手段を含めて)対処する」旨の言質を引き出したかったのだろうが、その目論見は完全に外れ、逆に安倍総理は「日本は冷静に対処する」ことを表明せざるを得なかった。
 オバマ大統領は会談では中国に関し、その伸長を是認したうえ「(国際的な)ルールに従うことが求められる」としか言及しなかったと言われている。これはゼロ回答に近いものである。
 安倍訪米直前にアメリカ連邦議会調査局は、「アメリカが尖閣での日中軍事衝突に巻き込まれる恐れがある」との報告書を発表しており、アメリカ政府としては首脳会談を利用して、安倍総理に直接釘を刺しておきたかったのだろう。

北朝鮮も材料にならず
 東アジアに於ける安全保障問題についてオバマ大統領の関心は、中国よりも北朝鮮にある。昨年末の「人工衛星」打ち上げに続き、2月12日には「3回目」となる核実験を強行し、「米本土を核ミサイルで狙う」などと、アメリカに対する対抗意識を露わにしている。
 現実には、核兵器を搭載した大陸間弾道ミサイルが米本土に向かう可能性はないし、アメリカとしてはイスラエルにプレッシャーをかけ、中東地域の緊張を高めるイランの核開発阻止が最優先なのは自明のことである。
 しかし、度重なる北朝鮮の挑発に関しては、あまり無視することもできないとして、オバマ大統領は核実験直後の2月12日(米時間)、連邦議会上下両院合同会議で行った一般教書演説で「この種の挑発はさらなる孤立を招くだけである」と北朝鮮の核実験を厳しく非難した。
 さらに「安全と繁栄は、国際的な義務を果たすことによってのみ成しえることを知るべきだ」と述べ、2年前の一般教書演説よりも強いトーンで、北朝鮮へのメッセージを送った。
 こうした延長線上で行われた日米首脳会談で、スムーズに「北朝鮮に対する制裁強化を日米連携して進める」ことを確認するのは当たり前の話である。

アメリカは中韓と連携
 ともかく安全保障分野での数少ない成果となった「対北朝鮮共闘」であるが、その後の展開を見れば、アメリカが実際に連携したのは中国、韓国であった。
 中国は、北朝鮮が核実験強行の姿勢を見せて以降、これまでにない調子で再三にわたり、金正恩指導部に対し自制を求めてきた。そうした働きかけを無視して核実験が行われた結果、焦点は国連での北朝鮮制裁決議の内容となった。これまでは、中国の反対で実効ある決議は採択されず、国際社会の意思表示レベルに止まっていた。
 しかし今回は3週間にわたりアメリカと中国が調整を重ねた結果、3月8日国連安保理に於いて全会一致で採択された決議は、制裁に法的拘束力を持たせる国連憲章7章の41条(非軍事措置)に基づくと明記されたものとなった。
 その内容は、要人の海外渡航禁止などの対象を拡大し、違反が疑われる船舶等の検査や核・ミサイル開発に関わる金融取引の凍結・停止、さらに不法行為を行った北朝鮮外交官を国外退去させることも加盟国に義務付けるという、以前の「要請」どまりから一歩踏み出したものとなった。
 決議採択以降、中国は大連経由で北朝鮮に向かう船舶の航行を制限し、貨物検査も強化しているという。また北朝鮮東北部羅先市の経済特区への送電線の工事を中断し、同区を通じての貿易にも制限を加えていることが伝えられた。
 これらの動きが長期化すれば特権階層向けの「贅沢品」に加え、中国経由の一般輸入品にも禁輸が拡大することになり、平壌市在住の「核心階層」の生活にも影響を及ぼすことになるだろう。
 中国の制裁強化に呼応するかのように、アメリカ政府は3月11日北朝鮮に対する単独追加制裁として、「朝鮮貿易銀行」の米国内資産の凍結と米銀行との取引を禁止すると明らかにした。
 そして同日、米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」が開始された。同演習は毎年行われているものだが、朴槿恵政権成立後初となる今回は、米韓1万4千人の兵員、原潜などが参加し、北朝鮮に対し圧力をかけた。

アメリカの対中配慮
 日本では「キー・リゾルブ」が大々的に報じられているが、国連決議採択直前の3月4日~8日、インド洋でパキスタン海軍が主催する多国間海上演習「AMAN(平和)2013」が行われた。
主要な参加国はアメリカ、中国、オーストラリア、イギリス、インドネシア、スリランカ、アラブ首長国連邦などであり、欧州から中東、アジアまで幅広い国が参加した。
演習内容は補給、救難から攻撃、防御と多岐に及び、そのなかで中国海軍は、アメリカ、オーストラリア海軍と艦隊を編成し指揮を執ることもあったという。これに対し日本政府は、艦艇が中心の同演習に海自の哨戒機2機を派遣したのみであった。安倍政権が夢想する「対中包囲網」などどこにあるのか。
 「キー・リゾルブ」演習でも、昨年に引き続き空母は参加しなかったし、参加人員も09年の初回以来、最低レベルとなっている。これは連邦予算の執行強制停止という緊急事態もあるが、様々な配慮が働いたのだろう。
 さらに日本の国内世論を無視して行われた、本土でのオスプレイ飛行訓練でも、飛行コースが急遽、九州から四国に変更された。これについても中国に配慮したのではないかとの指摘が出されている。
 この間、アメリカがインドネシアへの「沿岸域戦闘艦」長期寄港及び、アラスカへの弾道弾迎撃ミサイル追加配備をもって、対中、対北朝鮮シフトが強化されたと報じられているが、実際はそれぞれ対イスラム武装勢力、海賊、対ロシアであろう。
 オバマ大統領は3月14日、中国新指導部発足を受け、習近平国家主席と電話会談を行い、主席就任に祝意を述べるとともに、北朝鮮に対し米中が協調して対応していくことなどを要請。一方サイバー攻撃問題については米中共通の懸念と述べるにとどめた。
 来月にはケリー国務長官が訪中する予定であり、アメリカ政府は硬軟織り交ぜ、韓国に配慮しながら、北朝鮮の「悪行」を巧みに利用し、中国との協調を進めているように見える。

日本は邪魔ものに?
 そうなれば安倍政権の緊張激化政策は邪魔になるだけだろう。
 安倍総理は日本を取り巻く状況の変化を的確に把握することができず、3月12日の衆議院予算委員会で東京裁判について「勝者の手で断罪がなされた」と自らの歴史認識を開陳した。
 中国は日本政府を「第2次大戦後の秩序を崩壊させようとしている」と批判しているが、日本の総理自らが国会の答弁でそれを肯定しているようなものである。さらに4月28日を「主権回復の日」として政府主催の式典を行うことを表明した。サンフランシスコ講和条約の調印国はいいとしても、中国、韓国、ロシアという未調印国との間の領土問題が惹起している時期に、式典挙行がどのようなメッセージになるのか分かっていないのではないか。
 これにはアメリカ政府もあきれただろう。安倍総理はオバマ政権の意思決定と無関係なアメリカ人に吹き込まれ、辺野古基地建設を強行さえすればアメリカが喜ぶと思い込んでいるのではないか。 
 5月には米韓首脳会談が予定されており、近いうちに米中首脳会談も開かれるだろう。今後、米中韓を軸として日本を考慮に入れない東アジアの地域安定システム構想が浮上する可能性がある。
 参議院選挙までは、タカ派的主張を封印するのではないかと見られていた安倍総理であるが、高支持率に浮かれて爪を露わにしている。自民党の一人勝ちと民主党の消滅が取り沙汰されるなか、平和勢力の再構築が急務となっている。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.424 2013年3月23日

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【投稿】「南京大虐殺展示撤去」に寄せて 

【投稿】「南京大虐殺展示撤去」に寄せて 

 2013年2月15日(金)毎日新聞に、次のような記事が載っていました。
『=南京大虐殺展示撤去へ=「ピースおおさか空襲などに特化」
 大阪府は14日、戦争と平和に関する展示施設「大阪国際平和センター」(ピースおおさか)の内容について、南京大虐殺など日本軍の加害行為に関する展示を14年度に撤去し、大阪空襲などに特化することを明らかにした。政治主導で歴史教育の場を再構築するという。
 ピース大阪の展示は<大阪大空襲・アジア侵略・平和への取り組み〉の三本柱。アジア侵略の展示では、く朝鮮人の強制連行や南京大虐殺の資料・写真〉を紹介している。しかし、大阪維新の会府議が「子供には残虐すぎる」と問題視。
 松井一郎大阪府知事は記者会見で「自虐的な部分があったので新たなピースおおさかを作りたい」と述べた。
 新たな展示では、大空襲・焦土からの復興・戦後の平和の取り組み・にテーマを絞り、内容も小中学生に理解しやすいように改めるという。
 旧日本軍による侵略行為の展示については、橋下大阪市長が構想を掲げる「近現代史館」で、国内外での認識の違いを踏まえ紹介することも検討する。』
 
『=不十分な展示に=                  
      立命大国際平和ミュージアムの安斎郁郎・名誉館長の話
 大阪空襲に絞った展示だけでは不十分で、空襲に至る背景や経緯を伝えるのも重要な使命ではないか。広島市の原爆資料館でも、かつて「なぜ原爆投下に至ったのか、先立つ日本側の加害行為に触れていない」という批判があり、広島が重要な軍事拠点だった背景も紹介するよう展示内容が見直された。悲惨な空襲の「前史」を紹介しなければ来館者は戦争の本質に触れられないことになる。』

 安斎氏の論述は全くその通りだと私も思います。最近では、慰安婦の強制連行はなかったとか、南京大虐殺も中国の虚言であるかのような事を論じている人たちが目につきます。
 戦争は、戦う人の人間性を変えてしまいます。橋下大阪市長の言う「認識の違い」で片付けて済む問題ではありません。
 1931年日本軍は、奉天郊外の柳条湖で南満州鉄道を破壊し、それを中国人の仕業と称し、武力行使に出たというのです。こうして15年戦争の幕が切って落とされ、太平洋戦争へとエスカレートしてゆきました。太平洋戦争は、中国本土、東南アジア、西太平洋と広域に渡っています。その残虐性については、戦後長らく語られることはありませんでした。しかし、細川首相は歴代首相の中で初めて、15年戦争を侵略戦争と公式に認めました。そして長い時間をかけてやっとその残虐性についても、当事者たちのロからぼちぼちと語られ始めました。また慰安婦問題でも、韓国女性たちの訴訟に対して政府は国の関与を否定し続けていましたが、国防庁防衛研究所図書館から旧陸軍の公文書が発見されもう言い逃れができない状態になり、当時の宮沢首相が訪韓の折、蘆泰愚大統領に謝罪を表明しました。こうした加害の歴史を踏まえることは「自虐」ではなく、再び過ちを繰り返さないために絶対必要な歴史認識であると思います。

 大阪府議の言う「子供には残虐すぎる」という口実は、ピース大阪の展示からアジア侵略を外す理由にはならないでしょう。子供の年齢に応じて何段階かに分けた説明と、展示物を掲げることは可能だと思います。加害の展示を全面撤去してしまえば、なぜ主要都市が殲滅的な空襲でやられたのか、更には世界初の原爆がなぜ広島と長崎に落されたのか、その原因について理解はできないでしょう。真実を包み隠さず伝えることによって、子供たちが小さな心で「戦争は絶対にしてはならない」としっかり受け止められるチャンスを与えて下さい。またそのように展示内容を工夫してほしいものです。
 大阪市長のコメントも非常に曖昧な表現で、今後どのような展示になるのか予断を許しません。
 大阪府知事並びに大阪市長の再考を促したいのと同時に、私たち戦争体験者もしっかりと見守っていかなければならないと思います。
                               横田 ミサホ

 【出典】 アサート No.424 2013年3月23日

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【日々雑感】悪意に満ちた情報操作と言えば —ひとつの思い出—    

【日々雑感】悪意に満ちた情報操作と言えば —ひとつの思い出—      

 アサート紙面の誠実な人々の投稿記事に教えられ、浅学の私は、いつも感謝して読ませていただいております。
 先月2月号(No423)の記事で、中国艦から海上自衛隊艦艇に対するレーダー照射問題について詳しく記されており、これはNHKをはじめ各メディアの「大本営」発表の垂れ流しであること。
 さらに、海上事故防止協定というものが存在し、その中では今回のような火器管制レーダーの照射は禁じていないこと。
 日中間でも協定締結が望ましいが、一方的な非難と世論操作の前に、本来なすべき対話と接触、外交が一切放棄されてしまっては、そこには悪意しか残らないと言えよう等々のことを学ばせていただきました。
 そして今回の大手メディアによる悪意に満ちた情報操作には、私の若かりし頃の思い出話を想起させられました。時代錯誤と笑われるかもしれませんが、御笑覧ください。
 あれは、親ソビエト政権であるカルマル政権がアフガニスタンを統治していた頃のこと。私の先輩の今は亡きK氏(当時茨木市在住)が、アフガニスタンとの友好団体が関係する旅行で、アフガン旅行に出かけました。
 約10日程の旅だったのですが、K氏が出かける前に私に「早瀬よ、ワシが旅行中に、メディアがどういう報道をするか、気をつけて見とけよ」との捨てゼリフを残して日本を発ちました。
 そうして2~3日が過ぎ、首都カブールでは大規模な銃撃戦が展開されているとの報道があり、私はK氏のことを大変心配しておりました。
 やがて帰って来られたK氏が「早瀬、何かあったか?」との問いに「首都カブールでの銃撃戦があったそうやないか?心配したでえ」と言ったところ、K氏は「何もあれへん、子供らは、歌を歌いながら、手をつないで幼稚園に行ってたわ、まあ、メディアってそんなもんやで」とのこと。
 当時、国内は反ソ宣伝であふれかえっていたので、当然と言えば当然のことなのかも知れませんが、私はあきれかえって物が言えない心境でした。
 事ほど左様に、メディアに乗せられないように注意をしていないと、真実を見誤ってしまうものだと思って過ごしてきた次第です。(2013-03-15早瀬達吉)

 【出典】 アサート No.424 2013年3月23日

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