【書評】『所有論』鷲田清一著(講談社:2024年1月30日)

【書評】『所有論』鷲田清一著(講談社:2024年1月30日)

                              福井 杉本達也

1 「水や空気のように」

東京新聞に「水が出ない―。水道料金の催促状は来ていたが、都の職員らからじかに「止めますよ」と言われたことはなかった。『生命に関わるのに。本当に止めるのか、とショックだった』。東京都板橋区の男性(64)は振り返る。」「都水道局が、料金滞納者への催告の仕方を変えたのは2022年度。それまで東京23区では、訪問による催告と徴収を民間に委託していたが、多摩地域と同様に郵送での催告に変更した。」「水道の停止件数は21年度の10万5000件から、22年度は18万件に増加。」したとの記事がある(2024.6.25)。能登半島地震では被災自治体で断水が続き、5月末でも「水が出ないので、家庭の食事も制約があります。食器を洗わないで済むようラップで包んだり、油を使ったメニューは避けたり。トイレや風呂が使えない人も多く、入浴支援も欠かせません。」との記事が目に入る(福井新聞:2024.5.29)。いかに人間の生活において水は大切かである。

一方、温室効果ガス(GHG)を削減するとして、鳴り物入りで導入された排出権(量)取引制度は「高度成長を追求しながらGHGを削減しようという虫のよい彌縫策の矛盾の集中的な現れで…大気という社会共通資本―代替不能な気候―を将来世代へ引き渡すこと…その社会共通資本を私的な利益のための投機の対象にする」と批判されている(赤木昭夫「気候売買は可能か―排出量取引の戎め」『世界』2008.9)。人間が生きるうえで絶対に必要な「空気」をも投機の対象としている。かつては「水や空気のように」ほとんど意識せずにタダで手に入るものと思われていた「水」や「空気」も「所有権」が設定され、「商品化」され、タダではなくなりつつある。

また、農業分野では2018年4月には「種子法」が廃止されてしまった。これまで、共有物とみなされてきた種子が「商品化」され、特定の民間企業の寡占状態となり、種子を含む資材価格は高騰する、海外資本の企業の参入を許せば遺伝子組み換えの農作物が食卓に並ぶことにもなる。視点は異なるが、最近のAIでは、「知的財産権」ということで、デザインなどの意匠は商品やサービスに使われることで権利侵害が生じる。一方、著作物も原則許諾なく学習できるが、創作的表現をそのまま出力する目的で学習させるのはダメだなどという所有権を巡る議論も盛んである(日経:2024.5.29)。

2 『私的所有権』の過剰という近代市民社会への疑問

鷲田は「近代社会になって『自由な主体』はなぜ『所有する主体』として規定されることになったのか」と問い、ロックは―「自然の諸物は共有物として与えられているが、人間は自らのうちに所有権の偉大なる基礎を持っていた」―と高らかに宣言した、「個人それぞれの身柄を『法』の下で保護するものとしてロックは市民社会を構想していた」と述べる。―「自由とは、ある人がそれに服する法の許す範囲内で、自分の身体[身柄]、行為、所有物(possessiones)、そしてその全固有権[所有権]を自らが好むままに処分し、処理し、しかも、その際に、他人の恣意的な意志に服従することなく、自分自身に従うことにあるのである」―(鷲田注:ガブリエル・マルセス『存在と所有・現存と不滅』)。

しかし、この高らかな宣言の「『(私的)所有権』という縛りが、人びとが長年にわたって積み上げてきた『良い習い』を潰えさせつつある」とし、「《所有[権]》という法的権利が過剰なまでに社会を覆うようになってきた」「『だから所有者はそれを意のままにしてよい』」という「『だから』の根拠は必ずしも自明ではない」と書く。

3 暴力による「占有」を<社会契約>による法律上の「所有権」にしたルソー

〈社会契約〉というかたちで近代市民社会の政治原理を最初に提示したのがルソーである。ルソーが社会構造の基底に据えるのは、自己以外の何ものにも服従しない「自由」であり、その条件は生存の維持(自己保存)に不可欠なものとしての「身体」と「財産」の保全であるとし、「一般意志」と呼ばれ、人びとがその共同生活のなかで交わす理性的な「約束」であり、「共同体の各構成員の権利と身柄すべての共同体への『全面的な譲渡』…各個人がその自由を護るために、総じてそれぞれの自由を譲渡する(=おのれの自由を差し出すべく強制される)という逆説である。」「共同体は…彼らにその合法的な占有を保証し、占有者は公共財の保管者とみなされ…彼らの与えただけのものを、すっかり手に入れたことになる」(ルソー『社会契約論』)。これは共同体に属する各個人が「自己自身との契約」をなすことであり、譲渡は放棄ではなく、最終的に何かを喪失することはないということである。

鷲田は「ルソーのいう自然状態においては、そもそも他者との関係は偶然的なものであって、共同性という契機はそこに内蔵されていない。」「共同体が『契約』の主体でありうるとすれば、諸個人が自然状態において潜在的にはすでに社会的・共同的な存在であったと想定するほかない」。ルソーの『社会契約』は「起源の偽造、つまり自然状態に『社会』を遡行的に投影する議論」であるとする。「《社会契約》とともに、『最初にとったものの権利[先占権]あるいは暴力の結果に他ならぬ占有』が『法律上の権限なくしては成り立ちえない所有権』へと変換されたのである」と書く。なお、ヘーゲルは所有論において、〈他〉に先行する〈自〉は存在しないとしている。

4 〈共有〉への指向

近代市民革命以降、国家・政府の役割として求められてきたのは私有財産の保護、その前提となる、《所有権》の確立であった。「しかしそれは、資本主義的な市場原理とあいまって、ほんらいは私的所有のなじまない領域にまで浸透し、過剰適用された。つまり「商品」という、売買や投機、譲渡やレンタルの対象となっていった。ひとは生活物資はいうにおよばず、知識や資格、交際や快楽も『買う』ことができると確信するようになった。もはやこの世界には商品化できないもの、消費の対象とならないものはない…遺伝子情報や臓器、…国籍さえ『買う』…お金さえあればじぶんもあそこまで行ける」という「軽い存在である。」市民的主体は「主体の内部がまるで鬆のように空洞化していく過程」でもある。「『自己所有』に見いだすこの過程は、いうまでもなく《共》(コモン)の瘦せ細る過程でもあった。」

そこで、鷲田は宇沢弘文が提唱した「社会的共通資本」という考えに依拠しつつ、「近代の市民社会がその基礎単位として前提にしている『自立する個人』は、いうまでもなく他者に依存することのない存在ではない。…分業と相互扶助の仕組みなしには個人の自立した生活もおよそありえない。…強大な権力も富も武器も持たない民が、いわば素手と丸腰で蓄え、伝承してきたのがまさにこの〈共〉(コモン)の力だということになる。」と述べる。

「『もつ』の対象は、孤立的なモノではないし、特定の人に匿し持たれるものではないし、だれかが貯め込むものでもない。モノはそれよりもむしろ、他者に分け与えたり、共有したり、譲り渡したりというぐあいに、人のあいだを巡るものである。そういう観点からあらためて《所有》という関係を考えなおそうと提案する」。

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【投稿】日本はガスライティングから正気に戻れー米大統領選テレビ討論で明らかになったことー

【投稿】日本はガスライティングから正気に戻れー米大統領選テレビ討論で明らかになったことー

福井 杉本達也

1 ガスライティング(gaslighting)

米国時間の、6 月 27 日午後 9 時から 、CNN が主催してバイデンと トランプの討論会が行われた。タイラー・ダーデンは『Zero Hedge』において、「先週のバイデンの悲惨な討論会のパフォーマンスは、彼の老衰を否定することをできなくなったが、正気を失った(gaslighting)欧米のエリートは、まだこのことに気づいていないと思われる。」と書いた(2024.6.30)。

転職サイト「BIZ REACH」の解説によれば「ガスライティングとは、誰かを心理的に操る目的で、その人が自らの記憶や精神状態に疑問を抱くよう仕向ける行為を指します。言葉の由来は、英国で生まれた1930年代の戯曲で、1944年にイングリッド・バーグマン主演で映画化された「Gaslight(邦題「ガス燈」)」です。作品は、主人公の女性の財産を狙う夫の策略により、女性が自らを信じられなくなり、精神を病んでいく様子が描かれます。」「実際にあったり、起きていたりすることを『うそだ』『想像に過ぎない』などと否定しつづけ、『正気を失った』と相手に思い込ませるマインドコントロール的な言動」を“ガスライティング”と呼ぶと解説している(2023.6.23)。

ダーデンは続けて「現実には、連中は、このことをずっと知っていたが、この趣旨の主張は”ロシアのプロパガンダ”や”陰謀論”だと嘘をついて隠蔽したのだが、それは全て、民主党が、リベラル-グローバリスト・エリートが支配できる、ホワイト・ハウスに、文字通りの代役を据えることを、連中が実際に承認したからだ。それは、時折彼らの要求に屈服するにもかかわらず、彼らの好みにはあまりにも独立心が強すぎたトランプからの新鮮な気分転換であり、彼を嫌っていたアメリカの同盟国を安心させることにもなった。二人とも、バイデンは政治的都合で精神状態が最高だという嘘に同調したが、今やこれ以上茶番を続けることは不可能であり、それゆえに彼らは皆、驚きとショックを装っているのだ。」「バイデンが2020年に民主党の候補者に選ばれたのは、彼がすでに老齢であり、それゆえに完全にコントロールできるからに他ならない。この政党は、前述したエリート・ネットワークの公的な顔として機能しており、内政と外交政策の面で、彼らが要求するものは何でもやってくれる人物を欲しがっていた。」と書いている(同上)。

 

2 米国という国家の管理者が誰もいない

イーロン・マスク氏は大統領選のテレビ討論に反応し。「討論から判断するに、米国を実際に管理できている人物は1人もいないかもしれない。」とコメントした。実業家のラマスワミ氏がSNSに投稿したが、その中で「バイデンが本当のところは国を管理できていないことを踏まえると、誰が管理しているのか、という厄介な疑問が生じる」と記したが、マスク氏はこの投稿に反応し、「誰もいないかもよ」と記した(X sputnik日本:2024.6.29)。

これは非常に危険である。米大統領は核兵器の発射ボタンを持っている。外遊しようがどこへ行こうが、核発射ボタンのカバンを常に携行している。世界人類を一瞬にして壊滅しかねない核発射ボタンの管理人が「誰もいないかも」というのはあまりにも危険なことである。

 

3 米憲法修正第25条の発動?

ジョンソン米下院議長は「バイデン氏は選挙戦から撤退するだけでなく、直ちに解任されるべきだと主張した。『これは政治的な問題だけではない。民主党だけではない。それは国全体です。なぜなら、どう見ても、その任務を果たせていない大統領がいるからだ』と彼は言った。ジョンソン氏は、バイデン政権は、副大統領と閣僚が大統領を『職務の権限と義務を遂行できない』と宣言するために投票できると定めた憲法修正第25条を発動し、副大統領を国家元首代行にすることで、バイデン氏を辞任に追い込むことができると述べた。」。しかし、この修正条項は、米国の歴史上、一度も使われたことがない(RTワールドニュース:2024.6.29)。

4 日本の立ち位置

日本は「誰が管理者かもわからない」国家に粛々と従っていていいのであろうか。しかも、自衛隊が米軍の指揮下に入り、「台湾有事」を引き起こし、対中国の先兵として使われるというのである。そもそも、日本を従わせている「米国からの命令」はいったい誰が出しているのか?痴呆性のバイデン氏でないことは確かである。米国の本当の支配者は金融資本=軍産複合体であり、バイデン氏は年老いた単なるピノキオに過ぎない。しかも、このグローバル・エリート・ネットワークは覇権を奪われることを恐れ、いつ核戦争を始めるかも知れない。日本は正気を失ったガスライティング(gaslighting)の状態から一刻も早く抜け出さなければならない。

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【投稿】米大統領選・党首討論とバイデン氏の失態--経済危機論(141)

<<「バイデンは終わりだ」>>
6/27夜(日本時間6/28午前10時~)に行われた、米大統領選への最初の討論会(CNN主催、90分間)、時折、口ごもったり、支離滅裂になり、バイデン氏の失態が誰の目にも明らかとなり、民主党執行部はパニックに陥る事態となっている。
ニューヨークタイムズ紙は「たどたどしいパフォーマンスとパニックに陥る党(A Fumbling Performance, and a Panicking Party)と題して、「バイデン大統領の不安定で途切れ途切れの討論会パフォーマンスにより、民主党のトップは彼を候補者リストから外すことを話し合っている。」と報じている。

 ポリティコ紙は、「民主党が騒然:バイデン氏は破滅だ」(Dems freak out over Biden’s debate performance: ‘Biden is toast’)と題して、民主党はバイデンの討論会でのパフォーマンスに激怒、「彼はどもり、つまずいた。そして、11月まで5か月を切った時点で、彼は民主党の最大の恐怖、つまり、彼がドナルド・トランプにこの選挙で負けてしまうという恐怖を真っ向から煽った。」と報じている。

討論の全体像の中で、バイデン氏が追及した、トランプ氏の度重なる虚偽発言と、2024年選挙の結果を受け入れるかどうか、という民主主義の根幹にかかわる問題では、トランプ氏の明言を避ける姿勢が浮かび上がったのであるが、鋭い首尾一貫した追及がなされず、はぐらかされ、逆にトランプ氏は、ほぼすべての話題を移民問題に戻そうとして、大統領の失敗をあざ笑う機会として利用し、「バイデンの失態がトランプとの論争を支配」する事態となったと報じられている

国家債務に関する質問に答える際、コロナウィルスを打ち負かしたと言うべきところを、バイデン氏は「我々はついにメディケア(医療保障)を打ち負かした」と発言してしまい、トランプ氏はこの発言に飛びつき、「そうだ、彼はメディケアを打ち負かした。彼はそれを徹底的に打ち負かし、メディケアを破壊している。」(何百万人もの不法移民に社会保障給付を与えることで)と、メディケア破壊の先頭に立ってきたトランプ氏に言わせてしまったのである。

逆に、同じAXIOSの報道の中で、トランプ氏は、当選しても中絶薬へのアクセスを制限しないと述べ、女性の権利を制限する連邦による中絶規制の支持を撤回している。これは、共和党にとってこれまで大きな政治的負担となっていたものである。
81歳のバイデン氏と3歳しか違わない78歳のトランプ氏は、幸運にも効果的に反論されることなく次々と嘘を並べ立てながらも、ほとんど問題なく討論会を乗り切ったかのように、表面上は見える実態であった。

<<「今夜、バイデンは選挙運動を台無しにした」>>
カマラ・ハリス副大統領は討論終了後、大統領の不安定なパフォーマンスについて、「出だしが遅かったのは誰の目にも明らかだ」が「最後は力強かった」と釈明している。しかし、大統領に近い人物の釈明として、実はバイデン氏は風邪をひいており、討論会が始まったときはバイデン氏の声はかすれ、夜が更けるにつれてそれがさらに強くなったのだと、AXIOSに語っている。討論会を視聴している未決定有権者のフォーカスグループは、「バイデン氏の声に驚き、懸念している」、「これは彼の健康に関する質問にとって良い前兆ではない。」とソーシャルメディアXに投稿している。

討論会終了直後のCNN視聴者の世論調査: 「討論会で勝ったのは誰か」という質問に対して: トランプ67%、バイデン33%、と言う結果が如実に示している通りである。
「今夜、バイデンは選挙運動を台無しにした」、「このままでは下院で20議席を失うことになる」と、ある下院民主党議員は語っている。すでに一部の民主党員は、バイデン氏は選挙戦を終わらせるべきだと公然と発言し、「バイデン氏は選挙戦から撤退すべきだ。疑問の余地はない」と単純に述べている。(上掲、ポリティコ紙)
すでに、「皆さん、民主党は手遅れになる前に別の人を指名すべきです」と、2020年の民主党候補指名争いでバイデン氏と対立したアンドリュー・ヤン氏は、討論会が終わる前にソーシャルメディアにハッシュタグ「#swapJoeout」を付けて投稿している。
しかし、現職大統領で選挙戦のこれほど遅い時期に撤退した人物は皆無であり、事実上もう手遅れではないかと懸念されている。

しかし、こうした論点以上に問題なのは、現米政権が直面する、経済危機、債務危機、スタグフレーション危機の現状について、これらと密接に結びついたウクライナ危機、ガザ虐殺危機、戦争拡大危機について、バイデン、トランプ両氏ともども、まったく何一つ提案もなければ、現状認識もなし、という討論の空虚さである。司会者から、ガザ虐殺を終わらせる方法について質問されたときでも、両者ともども、無視して終わりなのである。もちろん、緊張緩和や平和外交の必要性など、彼らには馬耳東風なのである。
バイデン氏は、討論の場で「我々は世界の羨望の的だ」と語ったが、「羨望の的」ではなく、「失望の的」なのである。こんな候補者しか立てられない現状こそが、現在のアメリカの政治的経済的危機の本質を露呈している、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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【投稿】再生エネルギー賦課金は官製詐欺商法

【投稿】再生エネルギー賦課金は官製詐欺商法

                           福井 杉本達也

1 再生エネルギーが環境破壊?

政治資金改正法が通過した通常国家閉会直前の6月21日、唐突にも6月に廃止したばかりの電気・ガス料金への補助金を8・9・10月と3か月間復活するという“猫の目”の政策変更が行われた。原油・ガス高、円安も加わり税金モドキの電気・ガス料金は空前の価格となる。鈍感岸田もさすがにこれでは政権は持たないと感じたのであろう。もう一つ、電気料金が高騰している要因に「再生エネルギー賦課金」がある。最近では電気料金の1割近くを占めるようになっている。

当方が代表を務めるNPO法人の総会で、会員から質問を受けた。会員は遺跡発掘の作業をてつだっていたのだが、作業場所は山頂付近の風力発電所の建設予定地である。周囲の森林を広範囲に伐採して施設を建設するが、たまたま遺跡があるとされる場所であったため発掘調査がなされている。会員の質問は、再生エネルギーは環境を守るという触れ込みで、各地で建設されているが、大規模な施設はむしろ環境を破壊しているのではないかという素朴な疑問である。

2 再生エネルギー賦課金とは

「再エネルギー賦課金」は2012年に制定された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」により、日本で電気を使用しているすべての世帯から徴収されている。再生エネルギーによる電気は、電力会社によって一定価格で買い取られている。再生エネルギーの普及を目的とした制度である。

買取対象は「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」いずれかの再生可能エネルギーを使用して発電される電力で、固定価格買取制度によって電気を買い取った電力会社は、買取費用の一部分をすべての電気利用者から「賦課金」という名目で集金している。月に300kWh使用した場合の支払額は、導入当初の2012年度は年額792円/月額66円で無視できるほどの金額であったが、年々上昇し、年額12,564円/月額1,047円となっている。単価が上昇していた背景には、再生エネルギーの電気の買取量が増加してきたことがある。電力多消費事業者には減免制度が設けられているが、個人は対象とはならない。

3 能登半島地震で壊滅した風力発電所

3月11日の東京新聞は「石川県能登地方で稼働している73基の風力発電施設全てが、能登半島地震で運転を停止した。本紙の調べで分かった。風車のブレード(羽根)が折れて落下したほか、施設を動かす電源が使えなくなるなどした。半数超で運転再開の見通しが立っておらず、能登で進む風力発電の大規模な新設計画への影響は避けられない。」と報道した。

防災推進機構理事長・鈴木猛康氏の現地調査報告によると(『長州新聞』:2024.5.28)「風車は、大きな加速度を受けたり外部電源が不安定になると制御できなくなるので、ストッパーがかかって回転を止め、固定するようになっている。」が、調査した酒見風力発電所の風車は「ブレードそのものは木材とカーボンファイバーによる軽薄な構造で、風には抵抗するが振動には絶えられない。落下したブレードの残骸を見ると、縦に2枚にはがされ、グニャーっと曲がっていた。それほど構造的に弱い。」とし、「今回のブレードの壊れ方を見る限り、風力発電施設で正当な耐震設計はおこなわれていないのではないかと懸念する。ブレードの性能まで含めた耐震設計がおこなわれていないのであれば、今一度わが国の自然条件に適合した高度な耐震設計を適用し、人の命にかかわるような崩壊をくいとめるべきだ。」と述べている。しかし、一般紙ではこのような報道はほとんど皆無に近い。

4 メガソーラーの悲惨

熊本県山都町:阿蘇外輪山の南側に、福岡ドーム17個分の約119ヘクタールの土地に、太陽光パネル約20万枚(出力約8万キロワット)のメガソーラーが突如あらわれ平地や斜面を覆い尽くしている。「JRE山都高森太陽光発電所」であり、2022年年9月から稼働し始めた。元々は牧草地であったが、ウクライナ戦争と円安の影響で輸入飼料が高騰し、廃業する畜産農家や、高齢化で、牧草地は荒れ放題になり、土地を売ることになった。農業委員会としては、130ヘクタールのうち1割程度を農地とし、あとは非農地としてしまったところにメガソーラーができてしまった(『長州新聞』2023.913)。

一方、長崎県の五島列島北端にある宇久島では、国内最大規模のメガソーラー事業が持ち込まれ、島の4分の1の土地を電力会社が抑えたうえで伐採・開発し、150万枚の太陽光パネルで覆うという前例のない計画が本格着工を迎えようとしている(『長州新聞』2024.6.7)。

こうした中、福島市では2023年に「ノーモアメガソーラ宣言」を出し、宮城県も2024年4月に森林開発事業者向けの新税を作った(再生可能エネルギー地域共生促進税は、0.5ヘクタールを超える森林を開発し、再生可能エネルギー(太陽光、風力、バイオマス)発電設備を設置した場合、その発電出力に応じて、設備の所有者に課税する)(日経:2024.2.27)。

5 「再生エネルギー」は「詐欺商法」

太陽光・風力発電所の国内保有量を調べると、1位の豊田通商は太陽光で68万キロワット問、風力で86万キロワット、2位ののパシフィコ・エナジー(東京・港)は太陽光だけで約90万キロワットを持つ。3位のヴィーナ・エナジー・ジャパンは米外資である。4位のENEOSは太陽光を中心に64万キロワットを動かしている。当初は国が設定した20年間の買い取り単価が高く、開発投資に対する十分なリターンが見込めたため、資金力にものを言わせて大規模開発を行った。「太陽光発電は政府の固定価格買い取り制度(FIT )の下で成長してきた官製市場」である(日経:2023.12.4)。当初の制度設計から太陽光パネルの負担をできる金持層ちが、家屋の改修もできない貧困層の電気料金からの所得を移転するもので再配分の原則反するとの指摘があったが、そこに巨大企業が「高利回りが期待できる『投員商品』」として大量参入したことで(日経:上記)、制度としては崩壊してしまった。当初は環境に関心のある善人ばかりという制度設計であったが、実際は、儲けのネタにする巨大金融資本という悪人ばかりであった。再生エネルギーとは「金融商品」であり、環境に名を借りた“詐欺商法”となった。というか、元々社会的共通資本であり、本来は売買の対象ではない環境を「商品化」して儲けの道具にしてきたEU諸国の環境規制や排出権取引自体が詐欺であり、「環境」と名の付くもののほとんどは詐欺と考えた方は良い。

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【投稿】G7・「不幸な集まり」--経済危機論(140)

<<「弱体化した西側諸国指導者」>>
6/13、米ニューヨークタイムズ紙は、「弱体化した西側諸国の指導者らがイタリアに集結し、無秩序な世界について議論」、「G7は主要先進国を集めているが、その指導者たちは政治的に弱く、ウクライナとガザの問題は未解決のままである。」と酷評、イタリアのメローニ首相を除き、G7各国の首脳は困難な内政状況を抱えながら会議に出席しており、その「不幸な集まり」は西側の政治的混乱を物語っている、と指摘している。

「日本の岸田首相は支持率が低

下しており、秋に退陣する可能性が高い。カナダのトルドー首相は8年以上も在任しており、国民の失望に直面している。ドイツのショルツ首相、及びフランスのマクロン大統領は欧州議会選挙で敗北し、政権維持が危ぶまれている。総選挙を目前に控えた英国の

スナク首相にとって今回のサミットは「お別れツアー」になる可能性が高い。加えてバイデン氏も支持率が低下しており、ドナルド・トランプ氏との大統領選では厳しい戦いが予想されている。」と、ロシア紙スプートニク(6/14)が紹介している。
そのG7で、「年末までに、我々の管轄区域で凍結されているロシア資産の利益を使って返済する融資メカニズムを通じて、ウクライナに約500億ドルの追加財政支援を提供するという政治的合意に達したことを確認した」とメローニ首相はイタリアでのG7サミットで述べた。ただし、あくまでもG7が没収するのは、凍結したロシア資産から得られた利息だけであり、凍結資産そのものではないと釈明している。「我々はこれらの資産の没収について話しているのではなく、時間の経過とともにそれらが生み出す利息について話しているのだ」と述べ、G7サミットで調印されるこのメカニズムでは、米国、欧州連合、その他の参加国がウクライナに融資を行い、ロシアの資産から得られる収入を返済に充てる、と言う。だが、他国の資産による利息の盗用である、と言う本質は否定できない。

これは明らかな国際法違反である。6/13、ロシア外務省報道官マリア・ザハロワ氏は、この展開についてコメントし、「ロシア資産を没収しようとするいかなる試みも窃盗であり、国際法違反である」、ロシアの凍結資産からの利益を使ってウクライナに500億ドルの融資を行う計画は西側諸国にとって有益ではなく、新たな経済危機を引き起こす可能性があると述べ、「このような措置は西側諸国にとって何の利益にもならない。他人の犠牲のもとでキエフ政権に資金を注入するという違法な取り組みは、最終的に金融システムの不均衡と壊滅的な危機をもたらす可能性がある」と警告している。

<<ドルの地位の劇的低下>>
第二次大戦中でも、敵対国の口座を凍結することはあっても、盗用することはなかったのである。これまでいまだかつて起こったことのない国際法違反の資産窃盗行為に踏み出すことは、多国間国際貿易決済、通貨取引全般の根本を揺るがすものであり、ドル離れを一層加速させ、ドル一極支配体制の事実上の崩壊を自ら認め、主要基軸通貨としてのドルの地位を劇的に低下させる行為であると言えよう。

さらにこのドル離れは、この6/9に、1974年に米国とサウジアラビアの間で締結されたいわゆる「オイルダラー協定」が、失効し、実態は別として公的にも、サウジアラビアは中国人民元や他国通貨、米ドル以外の通貨で石油やその他の商品を決済できるようになっており、現実に、サウジ主導の湾岸諸国から中国とアジア太平洋地域に輸出される原油は1日あたり約1200万バレル、中国は原油輸入1300万バレルをペトロ元で支払い、ロシアは原油と石油製品をルーブルとペトロ元で850万バレル販売し、インドは輸入500万バレルをルピーで支払っている。かくして現実は一層明確にドル離れの進行が先行している。すでに世界の原油取引の少なくとも52%がドル以外の通貨で販売されているのである。サウジアラビアはもちろんであるが、BRICS諸国もすでに貿易決済に米ドルを使用しなくなり、米ドルの需要はこの24年以降着実に減少、米国債の購入に米国に還流する米ドルが大きく減少し、それを防止するためにも、米国債の買い手を引き付けるためにも利上げが不可欠、しかしその利上げは経済を一層スタグフレーション化させる政治的経済的危機を激化させる、泥沼に自ら追い込んでいるのである。

そしてこの脱ドル化を決定的に加速させてきたのは、バイデン政権自身が推し進める緊張激化、対ロシア・対中国制裁・戦争挑発政策である。直接・間接の膨大な軍事支出の増大により、米国自身の国家債務がいまや34兆ドルを超え、米国財務省に6,600億ドルもの利息(2023年)がのしかかり、国の総利息(国家債務の支払いと政府口座が保有する債務の政府内支払いを含む)は2023年に合計8,790億ドルに上る事態である。この状況は、米ドルに対する信頼を損ない、脱ドル化の動きをさらに加速させている。つまりは、米国は自らの手でドル離れを加速させているのである。

<<欧州議会選挙「戦争党は罰せられた」>>
6月6日から9日までおこなわれた欧州議会選挙は、象徴的である。バイデン政権のこうした緊張激化・戦争挑発政策に追随してきたフランスとドイツの現政権が劇的な大敗を喫したのである。
フランスでは、エマニュエル・マクロン大統領は、極右民族主義のマリーヌ・ル・ペンの国民連合が最多の票を獲得し、マクロン大統領の同盟の得票率が約15%だったのに対し、2倍以上の32%と大敗である。
ドイツでは、やはり極右・民族主義のドイツのための選択肢(AfD)が15.9%の票を獲得し、キリスト教民主同盟(CDU)・キリスト教社会同盟(CSU)に次ぐ第2党となり、旧東ドイツ全体では第1党となっている。オラフ・ショルツ首相の社会民主党(SPD)に大きな打撃を与え、史上最悪の結果で、得票率14%で3位に落ち、ドイツの緑の党も大敗し、2019年の20.5%で第2位だったが、今回12.8%で第4位に転落である。

 6/10、元米中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデン氏は、自身のSNSで、「欧州議会選挙で戦争党の政治家は厳しく処罰されることになった。これはバイデンにとって良くない兆候だ。平和にチャンスを与えるときが来たのかもしれない」と、投稿している。
ここで注意を要するのが、スノーデン氏の言う「戦争党」である。極右・民族主義政党はその本質からして、「戦争党」であるはずだが、問題はそう単純ではない。本音は別として、フランスの極右・ルペン氏は、ウクライナ支援に非常に懐疑的な立場を何度も表明し、NATO統合軍司令部からフランスの撤退をさえ主張してきたのである。そしてドイツのAfDは、「常にロシアとの平和的対話」を主張してきたのである。
つまりは、「戦争党」とは、バイデン氏とともにウクライナをめぐって戦争挑発と緊張激化を煽り立てるフランスのマクロンとドイツのショルツの党なのであり、その戦争党が「罰せられた」ことに、今回の欧州議会選挙の本質が現れているのだと言えよう。

こうした事態にうろたえたフランスのマクロン大統領は、極右政党「国民連合」の台頭を阻止するために、議会を解散し、この6月30日と7月7日に2回の総選挙を予定するという賭けに打って出た。しかし、これは裏目に出る可能性が極めて高い。

 6/14、左派政党のほとんどを結集する新しい人民戦線の結成が急きょ浮上してきている。これはマクロンとの大同団結ではない。緑の党、社会党、共産党、屈しないフランス党の統一戦線である。この「新人民戦線」は、共同綱領と候補者の共同リストを発表し、「団結への期待が表明された」。
この新人民戦線(NFP)と呼ばれるこの新連合は、中道左派の社会党(PS)と左派の不服従のフランス(LFI)など複数の政党が力を合わせ、共通の政策を打ち出し、マクロン氏の政策からの「完全な決別」を推進すると発表。LFIのリーダー、ジャン=リュック・メランション氏は、連合結成を「フランスにおける重要な政治的出来事」と呼び、「これは非常に前向きな新しい展開だ!」と声明で述べている。1936年に結成された反ファシスト統一戦線である人民戦線にちなんで名付けられたNFPは、直近の世論調査で28%、ルペンの国民連合・RNは31%以上、マクロンのルネッサンスはわずか18%である。事態は劇的に変化する可能性を浮き彫りにしている。
問われているのは、バイデンやマクロン、ショルツ、彼らに追随する「戦争党」に対する闘いなのである。
(生駒 敬)

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【投稿】大賀正行氏のご逝去を悼む

【投稿】大賀正行氏のご逝去を悼む

                                                                                                    福井 杉本達也

部落解放・人権研究所名誉理事で大阪市立大学部落問題研究会創設者の大賀正行氏が2024年4月15日・淀川キリスト教病院で永眠された。86歳であった。

大賀さん

2020年12月

大賀氏で真っ先に思い出すのは「大賀ノート」のことである。「大賀ノート」とは、大賀氏の手書きの小野義彦教授の講義ノートを活字化して印刷したものである。大賀氏は大阪市立大学の文学部哲学科に在籍していたが、小野教授から経済学を勉強しなくては唯物論は正しく理解できないといわれ、その後、経済学部の小野教授の講義を熱心に受講し、また、小野ゼミにもヤミで出入りし、大学院生とも交流したものを一冊の講義ノートとして編集したものである。

当時、部落解放運動では同対審答申の評価をめぐり、答申を「毒饅頭」とする共産党と対立することになり、1970年ころから、共産党系の民青が主導する部落問題研究会ではなく、大阪大学や大阪教育大学、関西大学など各大学で、部落解放研究会が生まれてきた。1971年から、これらの大学の解放研のメンバーが集まって、夏に白馬のスキー場で夏合宿を行うようになった。当時は合宿用のテキストも不足しており、こうした合宿などにおいてテキストとして1972~3年ごろ?に1000部程度が印刷され、利用されたのが「大賀ノート」である。

共産党の部落問題に関する考え方は「封建遺制」であり、資本主義が発達していけばいずれ差別はなくなっていくというものである。したがって、今はもう部落差別は存在しないという考えである。しかし、部落解放運動に身を置く大賀氏はこうした共産党の考えに納得できない。資本主義が発達するにつれ、むしろ差別は強化されているのではないかと考えたのである。その理論を打ち立てる支柱として小野教授の講義があった。特に、明治維新論や講座派・労農派論争に興味を持ってノートを取っている。

大賀氏は晩年は特に市大部落研創設期の大阪市立大学の女子大生差別貼り紙事件について、当時の文書や落書きなどを含む資料を集めて研究されていた。また、扇町公園での各種の集会や尼崎の大阪哲学学校などでもたびたびお会いした。最後まで、研究熱心であった。帰りはいつも大阪駅で、「私は無料パスのある大阪地下鉄で帰るから」といってお別れした。そして私はJRに乗った。

大賀正行氏のご冥福をお祈りする。

なお、7月7日の午後1時半からに大阪公立大学杉本キャンパスで追悼の集いが開催されるようである。

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【投稿】危険な核戦争瀬戸際政策--経済危機論(139)

<<ロシア・戦略的早期警戒システムへの攻撃>>
5/25、ロシアのニュースサイトRTは、「ウクライナはロシアの核の傘の重要な要素を攻撃した」、とするロシア上院議員ドミトリー・ロゴジン(Dmitry Rogozin)氏の発言を報じている。ロゴジン上院議員は、ロシアの核の傘の重要な要素に対するウクライナによる攻撃の直接の責任は米国にあると述べ、そのような攻撃は世界の核安全保障構造全体の崩壊につながる可能性があると警告している。この攻撃は、2013年に運用が開始されたアルマビル(Armavir)市のヴォロネジ・レーダー基地を標的としたものとみられ、射程6,000kmで飛来する巡航ミサイルや弾道ミサイルを探知でき、最大500の目標を追跡できるシステムである。
 ロゴジン上院議員は、以前ロシア宇宙機関ロスコスモスのトップを務め、現在は軍事技術センターの責任者であり、同日の声明で、攻撃はクラスノダール地方南部のロシアの戦略早期警戒レーダーサイトを標的としたものだと述べている。ロゴジン氏は、この攻撃が、米国の関与なしにキエフ単独の主導で実行された可能性は極めて低いと述べている。

5/25、yahoo!news経由ザ・ウォー・ゾーン(WARZONE)の報道「ロシアの戦略的早期警戒レーダーサイトへの攻撃は大きな問題だ」によると、5/23 バイデン政権は、ウクライナの代理部隊を活用し、「ロシアの核の傘の重要な要素」に対して前例のない攻撃を開始し、ロシア軍が核搭載弾道ミサイルの飛来を事実上探知できないように攻撃。衛星画像は、複数の無人機が「国の南西端にあるロシアの戦略的早期警戒レーダー施設」に深刻な損傷を与え、モスクワを敵の攻撃に対してさらに脆弱にしたことを確認した、と言う。実際の衛星画像により、同サイトにある2つのヴォロネジ-DMレーダー建物のうちの1つの周囲に大きな破片が写っており、ロシアの戦略的早期警戒レーダー施設が大幅な損傷を受けたことが確認されている。これは、ロシアの総合戦略防衛に関連するサイトに対する初めての攻撃とみられる。しかし西側大手メディアのほとんどは、この事件に関する報道をほとんど黒塗りにしてしまった、つまり報道されていないと言う。

5/27になって、ウクライナの情報機関筋は、同国の無人機がロシア南部オレンブルク州オルスク近郊の早期警戒レーダー「ボロネジM」を標的にしたと発表し、無人機による攻撃はウクライナ軍の情報機関が5/26に実施、被害が出たかどうかは明らかにしていない。

いずれにしても、こうした核戦争前夜をほうふつさせる攻撃は、ロシアが南部軍管区で戦術核ミサイル演習を開始した直後、あるいはそれに合わせて仕掛けられたものとみられる。きわめて危険な挑発攻撃であると言えよう。

<<核戦争勃発への危険な段階>>
5/27のテレグラフ紙(The Telegraph)の報道は、「ウクライナによるロシアの核レーダーシステムへの攻撃で西側諸国が警戒」という見出しで、ウクライナはロシアの核インフラへの攻撃を避けるべきだとして、米国科学者連盟の核兵器専門家ハンス・クリステンセン(Hans Kristensen)は「ウクライナ側の賢明な決定とは言えない」と述べ、ノルウェーの軍事アナリスト、ソード・アー・イヴァーセン(Thord Are Iversen)氏が、ロシアの核警報システムの一部を攻撃することは「特に緊張の時代には特に良い考えではない」と述べ、「ロシアの弾道ミサイル警報システムがうまく機能することは誰にとっても最大の利益だ」との発言を紹介している。

しかし実際には、2024年、今年初めに米地対地長距離ミサイル・ATACMSの新たな部分を極秘に受領して以来、ウクライナ軍はこれらの兵器をロシアの空軍基地、防空拠点、その他の目標に対して使用してきていること、そして米軍がその標的に対して深く関与していることは紛れもない事実であろう。
今回攻撃の対象となったアルマビルのヴォロネジ・レーダー基地は、ロシアの大規模な戦略的早期警戒ネットワークの重要な部分を占めており、たとえ一時的であってもその機能喪失は、迫り来る核の脅威を探知するロシアの能力を低下させるものであり、同時に、特定の地域で重複するカバー範囲が失われる可能性があり、これが潜在的な脅威を評価し、誤検知を排除するロシア全体の戦略的警戒ネットワークの能力にどのような影響を与えるかについても懸念されているところである。

しかし問題は、そうした懸念以上に、この攻撃が、ロシア政府が2020年に核報復攻撃を引き起こす可能性のある行動について公的に定めた条件を満たす可能性があると指摘されていることである。
ロシアの早期警戒ネットワークは、同国の広範な核抑止態勢の一部である。「核抑止に関するロシア連邦国家政策原則」というその基本文書によれば、「ロシア連邦による核兵器使用の可能性を規定する条件」には、「ロシア連邦の重要な政府施設や軍事施設に対する敵対者による攻撃、その妨害により核戦力への対応行動が損なわれること」が含まれると明記されている。今回の攻撃は、その条件に合致しているとも言えよう。核戦争勃発への危険な段階の到来である。

米・バイデン政権は、成長期待が低下すると同時に、インフレ率が急上昇するスタグフレーション化で支持率がどんどん低下しているが、その根底には対ロシア・対中国政策において、一貫して緊張激化・戦争挑発政策を追求してきたことが横たわっている。緊張緩和と平和外交こそが、スタグフレーション化を阻止するかなめなのである。しかしバイデン政権は、核戦争をも招来しかねない核戦争瀬戸際政策に限りなく近づこうとしているのである。
 このバイデン政権に同調して、イギリス政府はすでにウクライナに対し、ロシアを攻撃するためのミサイル使用を許可しており、スナク首相は徴兵制の復活をさえ公言している(5/26)。フランスのマクロン大統領は、将来的にウクライナへの派兵を排除しないと何度も言明している。
本来あってしかるべき外交と緊張緩和政策が、西側諸国によってすべて拒否されている現実こそが、危険な核戦争瀬戸際政策に追いやっているのである。しかしそれは同時に、彼らの一層の孤立化と矛盾の拡大をももたらしている。西側米同盟国間でさえ、今や意見が分岐し、イタリアでさえ、ロシア国内の拠点を攻撃することに対する規制の解除を求めるNATO事務総長のストルテンベルグ氏を「危険人物」と呼ぶ事態である。
今要請されているのは、緊張激化を煽ることではなく、緊張緩和と平和外交こそが出番なのである。平和のための闘いが一層の重要さを増している。
(生駒 敬)

 

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【投稿】バイデン・トランプ共通の謬論--経済危機論(138)

<<「おお! バイデンの嘘は大胆になりすぎている」>>
5/15、米労働統計局が発表した4月の米消費者物価指数(CPI)は、前年同月比3.4%上昇したことが明らかにされた。これは主にガソリン価格の高騰と家賃の上昇が原因だという。GDP成長率の低迷と相まって、このデータは米国経済が再びスタグフレーションに入りつつあることをあらためて示している。(下図)
 この新しいインフレデータに基づいて再計算すると、1月21日以降、食料品は21.3%、家賃は20.8%、電気代は28.5%、自動車保険は52.1%、卵は43.5%、 離乳食と粉ミルクは 30.0% の上昇となる、と言う。実に驚くべき上昇速度である。
しかし、そのCPIの発表概要によれば、日常生活に多大な影響を及ぼす「食料とエネルギーを除く全品目の指数は、それまでの3か月それぞれ0.4%上昇した後、4月は0.3%の上昇であった」という。つまり上昇速度が少しはソフトになったというわけである。
現実には、バイデン大統領の政権下で、食料品価格は3分の1近く上昇し、ガソリン価格は50パーセント上昇し、インフレ率は総体として実に20%の上昇に達しているのである。
 ところが、バイデン氏は5/14のヤフー・ファイナンスでインフレについて語った際、インフレ率は「わずかに上昇」し、「現在は約3%まで下がっている」と確信していると述べている。しかもその際、2021年1月に大統領に就任した当時のインフレ率は9%だったと語ったのである。この発言は、その前週、CNNのタウンホールで同じ主張をした際、事実確認のファクトチェックが行われ、バイデン氏が就任した時のインフレ率は実際には1.4%だったことが明らかにされている。しかも、インフレ率が初めて9%に達したのはバイデン氏が大統領に就任して1年以上後の2022年6月であった。40年ぶりの高水準のインフレ率をもたらしたのは、バイデン政権なのである。ホワイトハウス当局が単に見過ごしているのか、加担しているのか、本人の思い込み、あるいは認知不全なのか、意図的なウソの拡散なのか、厳しく問われるところである。「おお! バイデンの嘘は大胆になりすぎている」(WOW! Biden’s Is Getting WAY TOO BOLD With His Lies)と揶揄される事態である。

<<トランプもバイデンも「ツケを払うことになる」>>
11月の大統領選を半年後に控えて、こんな発言をしているようでは、バイデン氏の再選は絶望的であるとさえ言えよう。

5/15に発表されたギャラップの世論調査によると、
「今日、あなたの家族が直面している最も重要な経済的問題は何ですか? 」という問いに対して
1. 高い生活費/インフレ: 41%
2. 住宅の所有/賃貸のコスト: 14%
3. 借金が多すぎる: 8%
4. 医療費: 7%
5. 金欠/低賃金: 7%
6. ガス価格: 6%
7. 税金: 4%
8. 学生ローン: 3%
9. 失業: 3%
10. 金利: 3%
という回答である。この1の同じ質問は、過去、2020 年 4 月 = 3%、 2021 年 4 月 = 8%、 2022 年 4 月 = 32%、 2023 年 4 月 = 35%、そして今回の 2024 年 4 月 = 41% と、過去最高である。

さらにこのインフレ率について危惧されるのは、CPI発表の前日、5/14に発表された 4 月の生産者物価指数(PPI)である。前月比 0.5% 、前年比 2.2%上昇を記録したのであるが、これは、2023 年 4 月以来、最高の上昇である。サービスコストが急騰し、エネルギーが2番目に重要な要素となり、コアPPIはさらに悪化し、前月比0.5%上昇(前月予想+0.2%の2倍以上)したため、コアPPIは前年比+2.4%に上昇し、米国の PPI 最終需要(食品を除く)エネルギーおよび貿易サービスは前月比 0.4%、前年比 3.1% 増加し、この12 か月で最高を記録している。
この生産者物価指数の上昇は、インフレ率を今後さらに押し上げることは明らかであろう。相当なインフレ対策、あるいは政策転換を取らない限りは、インフレを抑え込むことができないことを警告しているのである。

ところが、である。バイデン政権のインフレを高進させる対ロシア・対中国の緊張激化・戦争挑発政策と一体となった関税引き上げ政策が今回再び急浮上している。
5/14、バイデン氏は、トランプ時代の政策を継承し、多くの中国からの輸入品に対する関税を全面的に引き上げる政策を発表している。関税率の引き上げで、中国からの電気自動車、太陽光発電部品、半導体に最も大きな打撃を与え、25%から50%の引き上げ、他の分野の関税も25%に引き上げる、と言う。しかも、バイデン氏は演説の中で、トランプ前大統領が3000億ドル以上の中国製品に対して実施した関税の維持を正式に支持するとまで表明したのである。

当時、中国からの輸入品に対する関税についてトランプ大統領を何度も非難し、トランプ大統領の政策は「無意味」であると批判し、最終的にはアメリカ人が「ツケを払うことになる」と主張してきた民主党が、同じ立場にすり寄ったのである。当時、2019年9月、バイデン氏は「アメリカの農家と製造業者はそうだ。アメリカ国民はトランプ大統領の無分別な政治的駆け引きのツケを払い続けている」とツイートしていたのである。実際に、トランプ前政権の関税戦争は、2018年から2020年にかけて試みられたが、事実上完全な失敗に終わった政策である。

アメリカの庶民、有権者にとって悲劇的なのは、トランプ氏もまた、バイデン氏に負けじと、それでは足りないと、「中国製製品に60%」、「その他の輸入品に10%の関税」を対案として提起していることである。つまりは、バイデン、トランプ両氏とも、とんでもない謬論を振り回し、インフレ率上昇で互いに「ツケを払うことになる」政策で競い合おうとしているのである。イスラエルのガザ大虐殺支援で競い合う両者の立場とも共通している。両者ともに、ジェノサイドには無関心で、米国の経済を守るために何かをしているように見せかけているに過ぎない、その程度の軽さしか、両氏は持ち合わせていない、とも言えよう。

要請されているのは、国際的な平和外交と緊張緩和政策に裏付けられた経済政策の根本的な転換なのである。
(生駒 敬)

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【投稿】米経済:スタグフレーション化--経済危機論(137)

<<スタグフレーション・ショック>>
4/25、米経済分析局(BEA)が発表した最新の経済指標は、バイデン政権自身やエコノミストの予想や期待を裏切る厳しい現実を突き付けている。
インフレ率が下がるどころか再び上昇(3.7%に上昇)、2024年第1四半期のGDP成長率も予想を大きく下回り、3.4%から1.6%に減速、GDP成長率が低迷し、インフレ率が上昇するスタグフレーション(stagflation)、高インフレを伴う経済不況に突入しつつあることを明示したのである。これは、成長期待が低下すると同時に、インフレ率が急上昇するスタグフレーション化である。
バイデン氏が一般教書演説で「今、私たちの経済は世界の羨望の的となっています」どころか、真逆の事態である。ウソ・デタラメが露呈されたわけである。
米CNN/ビジネスニュースは、「スタグフレーションへの懸念が高まっている。 すべての中央銀行家にとって最悪の悪夢だ」と報じ 経済専門サイト・ゼロヘッジは、「スタグフレーション・ショック」と報じている。

この4/25の経済指標を受けて、株価は急落、ダウ工業株30種平均は600ポイント以上下落し、3万8085.80で取引を終えた。 S&P500指数も下落、5,048.42で取引を終え、ナスダック総合指数も下落して15,611.76となり、大型株の売りが広がっている。メタは約11%下落、売りは他のハイテク株にも及び、アルファベット、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトも下落、インテルは8%下落、ヘルスケア、不動産、金融、消費財も軒並み下落している。

さらに、このGDP統計の発表により、米国国債の利回りは急上昇、指標となる10年国債利回りは4.8ベーシスポイント上昇して4.702%、2年国債利回りは6.1ベーシスポイント上昇して4.998%となっている。

当然、米中銀が今後数カ月以内に利下げする可能性があるとの期待、とりわけ円安で窮地に追い込まれている日銀・岸田政権が期待していた、FRB利下げの夢は消えつつある(The Dream of Fed Rate Cuts Is Slipping Away)。

<<悪夢到来の警告>>
「stagnation(停滞)」と「inflation(インフレーション)」、不況と物価上昇が併存する悪夢が到来しつつあることを警告している、そのキーポイントは、以下の通りである。

* GDP 成長率は、2023年第4四半期の 3.4%から1.6%に大きく減速した。
* これはその前の2023年第3四半期の4.9%に引き続く後退であり、いずれの指標の半分にも満たない急落である。
* 政権当局やエコノミストのGDP予測はことごとく外れ(最高予想はゴールドマン・サックスによる3.1%)、最低予想(SMBC日興)の1.7%をさえ下回った。
* この名目GDPが、現実のインフレ率に正確に対応・調整された場合には、プラス1.6%ではなく、実際にはマイナスになっている段階だと言えよう。
* 消費者物価指数・CPIデータが示すインフレ率の上昇は、2023年第4四半期の1.8%から3.4%に上昇した。
* さらに悪いことに、変動が大きい食品とエネルギーを除いた、最も重要とされるコアインフレ率でも 2% から 3.7% に加速、これは予想の3.4%をはるかに上回る急上昇である。
* 目立つのは、サービス部門の年率上昇率は5%を超えていることである。家賃が 20 ~ 30% 値上げされ、自動車保険や住宅保険の費用が 20% 以上値上がりし、公共料金が 10% 以上増加している。
* 持続的なインフレ圧力が続いており、物価圧力が再燃していることを示している。

バイデノミクスそのものが、世界大戦化へ戦争を激化させる緊張激化政策から、平和外交・緊張緩和政策への根本的政策転換をはからない限りは、インフレを抑制することもできないし、スタグフレーションを招き入れる結果をもたらしているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】イラン報復攻撃とバイデン政権--経済危機論(136)

<<バイデン氏「米国は対イラン反撃には参加しない」と表明>>
4/13~14にかけての深夜、イラン・イスラム共和国は、数百のミサイルとドローンでイスラエルに対する初めての報復攻撃を実行。イラン側は、これはあくまでも、4/1のイスラエル軍によるダマスカスのイラン総領事館への致命的な攻撃に対する報復に限定された自衛攻撃に過ぎないものであり、「正当防衛に関する国連憲章第51条に基づいて行われた」もので、その反撃の限定的な性質について、イスラエルの同盟国である米国にも伝えたこと(米国とイランは直接交渉の体裁を避けるため、オマーンを通じて協議している)、そしてこの攻撃の「課題は遂行された」、「占領地にあるシオニスト・テロ軍の重要な軍事目標を攻撃し、破壊することに成功した」として、5時間後に終了したことを明らかにした。イスラエル軍側も、イランが発表してから数時間後にイランの攻撃が停止したと報告している。
イラン側は、同時に、イスラエルがこの自衛攻撃を口実に「新たな過ちを犯した場合、数十倍規模の攻撃が可能であり、イランの対応はより厳しいものになる」と警告し、同時に、「今回の報復攻撃はイランとイスラエル間の紛争であり、米国はこれに関与すべきでない」と牽制している。

中東全域への戦争拡大・世界大戦へのエスカレートは阻止されたのか。事態は流動的であるが、決定的なカギを握るのは、これまでイスラエルの無謀なジェノサイド・戦争挑発行為を無条件で支持し、支援してきた米・バイデン政権の対応である。
4/14のアクシオスの報道によると、バイデン氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会話の中で、イスラエルの対応が、壊滅的な結果を伴う地域戦争につながることを強く懸念しており、イスラエル国防軍によるいかなる報復攻撃も支持しないし、そのような作戦を支援しないと述べたこと、ネタニヤフ首相は理解を示したと、報じている。

また、米国防総省のオースティン長官はイラン報復攻撃後の声明で、米国はイランとの衝突を求めていないと発表。CNNの報道によると、米国当局者らはイスラエルに対し、いかなる軍事的対応を開始する前にも米国に通知するよう求めている、と報じている。
さらに、米国家安全保障会議・NSCのカービー報道官は、「大統領は明言した。我々はイランとの戦争を求めていない。 私たちはこの地域でのより広範な戦争を望んでいません」と4/14の朝、NBCで語っている。

このようなバイデン政権の対応で重要なのは、バイデン大統領がネタニヤフ政権に対し、攻撃は「完了」し、米国はイランに対する今後の反撃作戦を支持しないと強く伝えている、そういわざるを得ない立場に追い込まれている、と言う現実であろう。

<<「ほぼ全て撃墜」のウソ>>
今回のイラン側の報復攻撃に対して、バイデン氏は、イスラエルは米国の協力でイランの発射したミサイルとドローンをほぼ全て撃墜したと発表し、ネタニヤフ首相に対し「勝利を得た。勝利を掴み取ってほしい」と語った、と言う。
 イスラエルのネタニヤフ首相も、イランの攻撃を撃退、合同の尽力で勝利を勝ち取ったと発表している。イスラエル軍は、「イランの飛翔体のほとんど」はイスラエル領空に到達する前から同盟国によって迎撃された」と主張している。
しかしイスラエルの被害の実態は深刻であり、徐々に明らかになってきている。
最も深刻なのは、イスラエルの重要な空軍基地が被害を受けたことを、イスラエル軍自身が確認していることである。その一つは、ネゲブ砂漠南部にあるイスラエルのネヴァティム空軍基地に対するイランの弾道ミサイル攻撃を認めていることである。イラン領土から1100キロも離れたネヴァティム空軍基地には、ガザへの大量虐殺攻撃に使用された米軍の最新鋭のF-35戦闘機が配備されており、空港と 3 本の滑走路があり、4月1日のダマスカスのイラン総領事館襲撃事件の発端はこの基地だったと伝えられている。タイムズ・オブ・イスラエルはネバティムが土曜日の攻撃の主な標的の1つであることを認め、さらに、ネタニヤフ首相の公式飛行機「シオンの翼」が標的にされるのを避けるため、攻撃の数時間前にネバティムから離陸したことまで示唆している。
イラン革命防衛隊のホセイン・サラミ長官は、イランのミサイルと無人機がイスラエルの防空網を回避し、イスラエルの重要な軍事施設2か所を破壊したと主張しており、実際の動画映像で確認できる事態なのである。映像は、イスラエルの2つの主要なイスラエル軍事基地、ネバティム空軍基地とラモン空軍基地を直撃するミサイル、弾薬の塊が基地上空に降り注ぐ様子を映し出している。サラミ長官は4/14、イスラエルに対する「トゥルー・プロミス作戦」のミサイルと無人機による集中攻撃は「予想以上に成功」し、飛翔体はイスラエルの強力な多層防空システムを突破できたと述べている。それを可能にさせたものとして、新型極超音速ミサイルを使用した可能性がある、と報じられている。

イスラエルのネタニヤフ政権がバイデン氏の言うことを聞き、何もしないだろうと本気で信じている人はほとんどいないであろう。米国をイランとの戦争に引きずり込もうとした張本人である。バイデン氏自身もその路線に同調・加担してきたのである。重要なことは、タイムズ・オブ・イスラエルが、イスラエル軍が今後数日で報復が続く可能性が高い対応を準備していると報じていることである。匿名のイスラエル高官も地元メディアに対し、イランに対する「前例のない対応」を準備していることを報じている。

しかし、決定的なのは、こうした世界大戦化へのエスカレートは、政治的経済的危機を一層激化させ、バイデン政権自身が再選など期待できない事態に追い込まれることであろう。市場では、ビットコインはジェットコースターのように暴落し、上下動に揺すぶられている。休日明けの市場も不安定な動きに見舞われることは間違いない。すでに原油価格が1バレル当たり、WTIが86ドルを超え、ブレントが90ドルを超えている。これが 戦火拡大のエスカレートにより、1 バレルあたり 100 ドルを超える、あるいは150ドルに達することなど、到底容認できない事態なのである。すでにこの3月の米消費者物価指数は予想よりも高騰し、前月比0.4%上昇(2023年8月以来の最高値に相当)と予想よりも大幅に上昇し、前年比では3.5%上昇 コア CPI も予想を上回って上昇し (前月比 0.4% 増)、前年比上昇率は 3.8% 上昇している。結果として、バイデン政権下で、消費者物価指数は、19%以上も上昇しているのである。
バイデン政権自身が執着し、推進してきた、ウクライナ戦争、イスラエル無条件支持のジェノサイド戦争、対ロシア・対中国の執拗な戦争挑発、緊張激化政策こそが、インフレを高進させてきたのである。その根本を緊張緩和と平和外交に転換しない限りは、直面している危機を回避できないのである。
(生駒 敬)

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【投稿】米・橋梁崩壊事故が示したもの--経済危機論(135)

<「まずはマースク社に報告を」>>
3/26、米・東海岸、メリーランド州・ボルチモア市の港湾にかかるフランシス・スコット・キー橋の崩壊事故が注目を浴びている。
この橋に衝突した輸送用コンテナ船ダリ号「DALI」は、コペンハーゲンに本社を置く世界最大の海運会社の一つであるマースク・ライン社がチャーターし、スリランカに向け、シンガポールに拠点を置く船舶管理会社シナジー・マリン・グループが運航し、インドから乗船した22人の外国人労働者が乗組んでいた、と言う。この高さ984フィートの貨物船がボルチモア港を出港する際に、船の乗組員は船が電源を失ったと当局に通報し、メリーランド州交通局警察がこの緊急警報によって通行禁止措置を取り、高速道路上で取り残された車を除いて、多くの車両が巻き込まれる事態はかろうじて回避されたのであった。
 ところが、この緊急警報は、この橋の保全・補修にあたっていたラテン系移民労働者には伝えられず、2 人は救われ、1 人は重篤な状態、6人が行方不明となり、死亡したと推定されている。 6人全員がメキシコ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス出身の、長年在米移民労働者として働いてきた建設労働者であることが確認されている。午後9時から午前5時までの、明らかに危険な環境で働いているこの移民労働者たちには、緊急連絡手段を持たされていなかったのである。彼らの中には、ミゲル・ルナという3人の子を持つエルサルバドル人の父親、マイノール・ヤシル・スアゾ・サンドバルという2人の子を持つホンジュラス人の父親、グアテマラ人男性2人、そして少なくとも1人のメキシコ人が含まれている(3/27放送のDemocracyNowによる)。米国の全労働者の18%はラテン系だが、職場での死亡事故の23%はラテン系で、非正規・移民労働者が不釣り合いに多いことが明らかになっている。今回の事故は、移民労働者によって支えられているアメリカ社会が、移民労働者に不当で過酷な労働条件を押し付けている政治・経済の実態を浮き彫りにしたわけである。

そして問題は、マースク社が「従業員に懸念事項を[沿岸警備隊]やその他の当局に報告する前に、まず[マースク社]に報告することを義務付ける方針」を持っていたこと、この方針を危険な労働環境を報告した従業員に対する報復として実施していたこと、が今回の事故勃発で明らかにされたことである。これに対して、労働省の管轄下にある労働安全衛生局の連邦規制当局が、この方針は「不快」であり、「従業員を(沿岸警備隊に)連絡する気を失わせるものであり、従業員の権利に対するひどい侵害」である、船員保護法に違反していると「信じるに足る合理的な理由」があるとして、船員が安全上の懸念について会社に通知する前に沿岸警備隊に連絡できるようにする方針を修正するよう要求していたことである。
さらにマースク社は、昨夏以来、米アラバマ州の港での労働争議をめぐり、マースク従業員を含む海事労働者6万5000人を代表する労働組合である国際港湾労働者協会と係争中である。
この世界最大のコンテナ輸送船団の一つであるマースク社は、2023年には510億ドル以上の収益を報告しおり、2021年以来、労働者補償のほか、港湾混雑やインフラ問題などの懸念事項について、米議会や連邦規制当局にロビー活動をするために270万ドルをつぎ込んでいる。年次報告書によると、同社は130カ国で事業を展開し、10万人の従業員を雇用、2023年12月の時点で、310隻の船を所有し、362隻をチャーターしており、今回の「DALI」はマースク社により定期チャーターされていたコンテナ船なのである。当然、「DALI」号はまずは[マースク社]に電源喪失を報告し、その指示を経てから後に、港湾当局や警備隊に報告する、事故対処がどんどん遅れ、最大事故にまで直結したであろうことは容易に推察できることである。

<<バイデン:電車や車で「何度も」渡った>>
今回の橋梁崩壊は、アメリカの政治・経済にとって軽視できない、問題をも突き付けている。
ボルチモア港は米国内最大の海運拠点の一つであり、乗用車とトラックの輸出入ともに米国トップの港であり、石炭輸出では第2位でもある。
そしてフランシス・スコット・キー橋は北東回廊を移動する上で不可欠な橋梁であった。この橋には毎日約 34,000 台の車両が通行し、トンネルを通行できない農業機器や建設機器など大型輸送にとって代替手段がないことである。ボルチモアは、中西部向けの大型農業および建設機械の重要な入口点として機能してきており、橋の崩壊により、トラクター、農業用コンバイン、ブルドーザー、大型トラックの輸送が中断され、農家や建設プロジェクトに多大な影響が及ぶことが必至である。ジョージア州やフロリダ州などの代替港への貨物ルートの変更も、距離が長くなり、貨物コスト上昇が見込まれる。とりわけ中西部では、作付けの最盛期を迎え、農作物の生産に影響を与える可能性、特に農業と建設部門における地域および全国規模のサプライチェーンに混乱と、価格上昇、インフレ高進の要因となる現実的危機が到来しているのである。

さらなる問題は、インフラの老朽化・劣化である。問題のフランシス・スコット・キー橋は耐用年数 50 年という技術的な終わりに近づいていたのであり、不断の補修と保全が不可欠であった。建設業界団体は、米国の橋の7.4%(6万本以上)が「劣悪な」状態か「構造的に欠陥がある」、あるいはその両方であると指摘している。インフラの老朽化は橋梁に限らない。米国内の崩れかけた道路や空港の滑走路、100年を経過した鉄道や大都市の地下鉄システム、アスベスト抱え込んだ校舎や住宅、漏水や鉛で覆われた水道管、等々、インフラの老朽化対策は、それこそ喫緊の課題であり、大災害と表裏一体である。

もちろん、日本のインフラ老齢化もアメリカに負けず劣らずである。建設後50年を経過した橋梁は、2028年時点で50%にも上り、通行規制のかかる橋梁は9年で約3倍に増加しており、2022/3月時点で「早期に補修が必要」「緊急に補修が必要」と判断されながら、補修が行われていない橋やトンネルは全国であわせて3万3390か所のも及んでいる。

バイデン大統領は3/26、フランシス・スコット・キー橋の再建費用を連邦政府が全額負担すると約束した。 しかし、言うは易し、行うは難し、である。橋の再建のスケジュールと金額は不明であり、相当長期の期間を要することだけは明らかである。
ところが、バイデン氏はこの発言をした際に、フランシス・スコット・キー橋には鉄道が通っていないにもかかわらず、電車や車で「何度も」渡ったと語ってしまった。記者会見で、「私がデラウェア州から電車や車で旅行す

 

る際に何度も通

過した橋だ」と語ったのである。この橋には鉄道が敷設されたことはなく、1970 年代初頭に建設されて以来、道路としてのみ使用されてきたのである。ホワイトハウス当局者はあわてて、「大統領はデラウェア州とワシントンDC間を移動中、車を運転して橋を通過したと説明していた」と釈明している。またしても、バイデン氏の認知機能の劣化が現れたのであろうか。

「利下げ決定はリスクを伴う」
3/29、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、サンフランシスコで開かれたイベントで発言し、「利下げという重要な一歩を踏み出す前に、インフレ(物価上昇)率の低下についてもう少し確信を深めるための時間を確保できる」と説明。利下げ決定はリスクを伴うとの認識を示し、インフレ率の鈍化が続くかどうかは、「経済指標が教えてくれるのを待つしかない」と述べている。明らかに、今回の橋梁崩壊事故、それに伴う物価高騰、インフレ懸念を払しょくできないことが影響したのであろう。

問題は、バイデン政権の世界的な緊張激化政策、対ロシア・対中国戦争挑発政策、イスラエルのジェノサイド政策への加担、軍需経済依存こそが、インフレ高進要因であることを認識できていない、あるいはあえて無視していることが問われるべきなのである。
日米金利差の縮小を期待していた岸田政権や日銀にとっては期待外れとなり、円安・ドル高基調を利用して荒稼ぎをする金融資本の円キャリートレードのマネーゲームの横行が続行する事態を放置しているのである。実体経済と無縁で、むしろ実体経済にマイナス要因となる円安放置政策、そしてバイデン政権への追随政策、それ自体が、インフレ要因を加速させるものでしかない。
世界的な緊張緩和への全面的政策転換こそが要請されているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】日銀の「異次元緩和」解除と巨大な副作用

【投稿】日銀の「異次元緩和」解除と巨大な副作用

                              福井 杉本達也

1 異次元緩和の罪は万死に価する

日銀は3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を含む大規模緩和の解除を決定した。と同時に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC) の撤廃と上場投資信託(ETF)などリスク資産の新規買い入れの終了も決めた(日経:2024.3.20)。

立憲民主党の小沢一郎氏は、「日銀が大規模緩和解除へ、19日決定 長短金利操作も撤廃 自民党とその手先の日銀の敗北宣言。この11年の異次元緩和は、物価高・実質賃金下落で国民を苦しめ、日本の格差と貧困を拡大させただけ。残されたのは巨大な副作用の爆弾。その罪は万死に価する。取り返しがつかない」(小沢一郎X:2024.3.19)。「異次元緩和が行き詰まり、終了を発表したのに円安が加速。二進も三進も行かないことを市場は見透かしている。11年も異様な低金利を続けたために経済も家計も今や少しの金利上昇にも耐えられないほど衰退・弱体化した。結局、今後も物価高が続く。まず、異次元緩和に関する自民党と日銀の謝罪が不可欠。」(小沢一郎X:2024.3.21)とツイートした。

日銀の政策転換は遅すぎた。少なくとも、前黒田東彦日銀総裁が辞めた1年前に異次元緩和をやめるべきだった。日銀総裁は財務省官僚や日銀官僚の「上がり」のポストである。しかし、官僚は誰も手を挙げなかった。そこで、仕方なく学者である植田和男氏が説得された。その後も異次元緩和はつづけられ、円安が止まらず輸入物価が上昇、国民は2年もインフレに喘いでいる。植田日銀は本当は政策転換をしたかったようだが、政府と米金融資本から圧力をかけられ政策転換できなかった。

2 日銀による異次元緩和とは

日銀は2013年からの8年で500兆円の国債を買い、銀行・生保・政府系金融の当座預金に、大量の円の現金を供給し、その当座預金の増加分の58%をドル証券や預金として米国に貸し付け、ドル買い=円売りを行って円安にした。円は過小評価され、ゼロ金利の日本が約5%の金利があるドル債を買っているためドルが過大評価されてきた。米国は、アフガニスタンやイラク、シリアやウクライナ・ガザなど世界各地で戦争の火をつけ廻り、軍事費の負担に喘ぎ、ついに、ウクライナ支援を諦めた。バイデン政権はウクライナ戦争の張本人であるヴィクトリア・ヌーランド国務副長官の首を切った。その瀕死の米国の財政赤字を補填しているのが唯一日本である。日本の政治家と官僚は米国金融資本の指示に忠実にゼロ金利政策を続けた。米ドルと4%程度の金利差があれば、為替変動リスクを考慮しても銀行や生損保がドルを買うに決まっている。

3 上場投資信託(ETF)を買い支えるというばかげた政策

日経平均株価が4万円を突破したが、市民には好景気の実感はない。日銀はETFを簿価で37兆円分、時価ベースで67兆円も保有し、事実上、日本株の最大の株主になってしまった。日銀は10年以上にわたりETFを買い続け、事実上、株価を下支えしてきた。事実、日銀の拡大後の買い入れ枠の規模は、アベノミクス始動直後の2012年12月~2013年4月、日経平均株価を9000円台から1万4000円まで一気に引き上げた。ETFとは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数に連動する運用成果を目指し、個別株と同様に市場で売買できる投資信託である。日銀の購入によってFTFの市場価格が上昇すると、ETF構成銘柄の現物株との間に価格差が生じる。すると、相対的に割安となった現物株に買い注文が入り、現物株も値上がりするというもでである。しかし、日銀という中央銀行が株価を下支えするなどということは他の諸国の中央銀行では考えられない。賭場に国家資金をつぎ込む行為である。、いずれ日銀は「売却」というアクションを起こす必要がある。そのとき、株価には、大きな下押し圧力がかかる。株価が暴落しないように売却することは簡単ではない。2023年には日銀は株式の売り手に転じたもようである(日経:2024.1.9)。

 

4 日銀の国債の大量買入れで、国家財政は政治家の財布のように

日銀が国債を大量に買い入れることで、財政規律は低下し、政治家によるバラマキが大きくなっている。オリンピックや万博の名のもとに、大きな金を動かし、その中間マージンを政治家やIOCなどの主催者、政府と親しい企業が「抜く」ことで財政効率が極端に悪くなっている。まるで政治家の財布のようにバラ撒かれている。

さらに財政規律を緩めたのがゼロ金利政策、YCCである。通常、政府が財政赤字を拡大し、国債を大量発行すれば、債券市場では国債の需給悪化を読んで長期金利が上昇する。今のようなインフレになれば長期金利は3%程度になっていてもおかしくない。それが財政規律への圧力となる。ところが、日銀が国債の過半を買い上げ、国債需給が実態を反映しないのだから、財政悪化のシグナルは発せられない。政治家からは金利コストが低いうちに国債を大量発行してでも歳出を拡大しろとの声ばかりが大きくなる。

「果てしなく膨張しているのが『補助金』である。巨大な『補助金』がばらまかれている。『補助金』を受領した企業は与党に献金する。裏金も渡しているだろう。『補助金』を配分する官庁は補助金を受領した企業から『天下り』を受ける。『政』・『官』・『業』が『補助金』・『献金・裏金』・『天下り』で三位一体の関係を築いている。…文部科学省のロケット補助金が556億円計上されている。…『市場経済』、『市場原理』を主張する者が政府から補助金を受領するのはおかしいだろう。トヨタがリチウム電池を開発するのに、なぜ政府が1300億円もの補助金を投入するのか。…日本の財政運営は『補助金』で膨張の限りを尽くしている。」と植草一秀氏は書いている(「知られざる真実」2024.3.22)。

例えば、コロナ禍で売上が極端に落ちて1/2以下になった企業に対し持続化給付金という制度が設けられた。国はその業務を竹中平蔵が会長を務めるパソナという会社に委託した。当然、委託業務であるから業務の運営はパソナがしなければならない。ところが、パソナは説明会の場所だけを設定し、受付のアルバイトを雇うだけで、実務を全く行わない。売上が落ちたことを説明する資料の作り方を解説するのは経産省の役人である。もちろん、パソナには決算書を読める人材などは一人もいない。業務を行う能力など全くない。全くの中抜き業務が行われた。さらに、それに輪をかけたのが近畿日本ツーリストである。コロナ・コールセンター委託業務のアルバイト人数のごまかしが発覚した。これが、現在の国の委託業務の実態である。「ブルシット・ジョブ」という言葉がはやったが、それ以上のいらない業務である。極めつけは、女性問題で親子会社社長が3人も辞任したENEOSである。事実上ENEOSと出光の2社の独占状態にあるが、そこに6兆円を超えるガソリン補助金をじゃぶじゃぶと注ぎ込んだ。ENEOSは3400億円、出光は1400億円の営業利益である。補助金がお上から降って来るような経営では社長は何も考えることはない。しかし、円安を放置したまま個別の物価対策を講じても、巨大な財政赤字は膨らむ一方で、効果はない。日本が、これまで長期にわたり円安政策をとってきた結果である。

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【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用

【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用

                    福井 杉本達也

1 米国のTikTok規制法案

「米連邦議会下院は13日、中国発の動画共有アプリ『TikTok(ティックトック)』の米国内の利用禁止につながる法案を本会議で可決した。中国などの『敵対国』が影響力を及ぼすアプリを規制対象にする。…米議会と政府は中国による世論操作や米国人の個人情報流出といった安全保障の脅威があるとみている。」(日経:2024.3.15)。TikTokから定期的にニュースを受信している米国人は14%、月間利用者は1億7000万人といわれる。しかし、米国が本当に危惧するものは「安全保障」であろうか。南カリフォルニア大学などのアプリ別「幸せ」分析調査によると、経済状況や社会生活への満足度が高いユーザーを多く抱えるのがビジネスパーソン特化型のLinkedlnであり、Facebook やInstagramは中間、X(旧Twitter)はどちらかというと不満、TikTokは仕事や日常生活に不満を抱えるユーザーが多いという結果となっている(日経:2024.3.1)。その不満が国家に向かうことを恐れているということである。また、経済的には、コメディアンのRonny Chiengが、Banning #TikTok means “Communist China beat free market America at capitalism.” (共産主義中国が資本主義において自由市場アメリカを破ったことを意味する。)と皮肉ったように、“自由の国”米国は競争で負けそうになったら、「情報リーク」や「バックドア」などと全く未確認のデマでセキュリティ危機を煽り、「国家安全問題」を持ち出す。

2 メディア論

新聞やテレビなどのマスコミは、「事実をどう正確に伝えるか」に関心はない。編集局による「編集」がされたものが流される。編集局の方針に都合が悪い事実は、小さく扱かわれるか、無視される。たとえば、日経新聞の政治面:4面の最下欄には「無視」したいが「無視」できない言い訳記事が並ぶ。たとえば「安倍派幹部発言『無責任』と批判 公明幹事長」といった一段見出し記事である(2024.3.16)。一応書いておいたぞ、与党よりだと後ろ指を指されないように、という意味である。我々も写真において、ある風景を写すが、360度の風景が写真1枚におさまるわけがない。ある時間のある方角の特定の一部のみが写真の額縁に写される。そこでは既に写真家の編集がなされている。残った風景の全ては切り捨てられる。1枚の写真は事実ではあるが、事実ではない。無限の情報から、ある部分を、意図的に切り取って、評価し脚色されて流される。SNS は、切り取った写真・動画と短い文書で、真実だとして、我々のスマホに毎分・毎秒、膨大に流され続ける。

3 SNSとアルゴリズム

フェイスブック(現・メタ)の内部告発者フランシス・ホーゲン氏は、フェイスブックのアルゴリズムが偏っていると指摘した。アルゴリズムとは、「コンピューターが膨大なデータをもとに問題を解いたり、目標を達成したりするための計算手順や処理手順」である。このアルゴリズムがどう使われているか。例えば、FTのコラムニスト:ラナ・フォルーハーは、米住宅市場におけるアルゴリズムを使った談合について、「家主らは家賃を最大化するソフトウエアの活用をどんどん進め、全米の何千万にも上るアパートの家賃を通常の市況で想定される価格より高い水準に設定、維持している」と書いている。MetaやGoogleといった「プラットフォーマーと呼ばれる大手テック各社は、ダイナミックプライシングからリアルタイム・オークション、データ追跡、広告の優先表示まで合め、監視資本圭藷のトリックともいえるあらゆる手法を開発し、完成させてきた」。また、アマゾン・ドット・コムは同社が「高い価格を設定しても競合の通販サイトが追随してくる場合は販売価格を引き上げるアルゴリズムを使って様々な商品の相場を意図的に高くし」不当な利益を上げていた(日経=FT:2024.3.15)と指摘している。アルゴリズムは、公開されないブラック・ボックスである。どのように「編集」するかはテック企業の手中にある。

 

4 フェイスブックは監視システムであるースノーデン

2013年6月、米CIA職員のエドワード・スノーデン氏の内部告発により、米国家安全保障局(NSA)がIT技術を駆使して国家的な個人情報収集を行っているという実態が明らかとなった。当時、「極秘個人情報収集プログラムXKSにより、ネット上のあらゆる個人情報を最も広範に収集でき、メールの文面なども閲覧できる」(朝日:2013.8.2)と報道された。10年前に既に、監視機関はフェイスブックなどのインタ―ネット企業にアクセスし、情報を得ており、技術力、規模、権力などが非常に強い企業から物理的な協力を得ることで、監視が可能となっていると告発していた(『世界』2014.10「国家が仕掛ける情報収集の網」デイヴィッド・ライアン×田島泰彦)。それから10年、巨大プラットフォーム企業の情報収集能力は格段に強力になった。スノーデンは「フェイスブックは監視システムであり、ソーシャルネットワークの名のもとに人を欺いている」と発言している。

テスラCEOのイーロン・マスク氏は、旧Twitter(Xに改名)を買収し、それを言論の自由の砦にしようとしたことで、彼と彼のすべてのビジネスが政府とその検閲同盟国による絶え間ない攻撃の標的になったと主張している。旧Twitterは、2020年の米国大統領選挙でバイデン氏の家族がウクライナと中国で影響力を行使したとされる爆弾報道を検閲し、バイデン氏の勝利に貢献した(RT:2024.2.17)。日経新聞2月27日付け社説は「SNS運営企業は大規模なリストラで投稿を監視する体制を縮小したが、人員の拡充やを利用した対策の強化が急務だ」と主張するが、ブラック・ボックスのアルゴリズムは人手を借りずに自動的に検閲しているのではない。膨大な人員を投入して、政権や金融資本に不利な情報をチェックしてはじめて機能するものである。3月7日付けの日経新聞は「米企業の経営者が自社株の売りを増やしている。今年に入り、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーパーグ最高経営責任者(CEO)やアマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス会長などが相次いで大規模に売却した」と報じた。アルゴリズムを駆使して株価を最高値にまで吊り上げ、最高値で売り抜けるのは簡単である。トランプ氏はフェイスブックを「真の国民の敵」と批判した。理由として、TikTokを禁止すればフェイスブックを利すると主張している(CNN 2024.3.12)。

5 「忘れられた内戦」でSNSを武器とするイエメン(フーシ派)

大手テック企業のSNSは国家による監視システムの一部であるが、SNSを弱者の武器として使う動きも活発である。例えば、我々は、これまでイエメンという中東の”片田舎“で何が起こっているのかほとんど情報はなかった。そもそも、イエメンが世界のどこにあるかも知らなかった(モカ・コーヒーは有名であるが)。国際社会の関心が薄いことから「忘れられた内戦」ともいわれた。日本のマスメディアだけでなく、欧米を含む全てのメディアは完全に無視していた。そこでは、米英を後ろ盾としたサウジ・UAE軍がイエメンの内戦に介入・経済制裁を課し、イエメン国土の多くを占領し、空爆、大虐殺を行い、国民の3分の1以上にあたる1千万人近くが飢餓の状況にあるといわれる。今、そのイエメンがパレスチナ支援で国際的に注目を浴びている。紅海・アデン湾を航行しイスラエルに物資を運ぶイスラエル・米英船舶に対しミサイル攻撃を行い、事実上、空母を含む米英の艦隊は歯が立たないのである。イエメンは米英船舶への攻撃を、SNSを通じて配信している(日経:2023.12.23 「紅海襲撃、輸送能力 2割減、迂回で滞留時間大幅増」)。米欧支配層はSNSの完全支配はできないのである。そうした延長線上にTokTokの問題がある。

韓国主催でオンラインで行われている「第3回民主主義サミット」において、尹錫悦大統領は「偽情報が国民が誤った判断を下すよう扇動し、選挙を脅かす」と指摘した。4月の総選挙に向け偽動画が拡散しており、TikTokなどのSNSで流布されていると非難した(日経:2024.3.21)。

2月28日の日経新聞に、「岸田文雄首相は27日、米メタのマーク・ザッカーパグ最高経営責任者(CEO)と首相官邸で30分ほど面会した。人工知能(AI)を巡って意見交換した」との囲み記事があった。「首相はザッカーパーグ氏に選挙とAIをめぐる問題や、日本のAIの活用状況についての見方を質問した」と書いているが、どう世論操作をするかということであろう。

 

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【投稿】武器輸出の行き着く先

手始めはパトリオット

自民公明両党は、3月15日に与党ワーキングチームの提言を踏まえ「防衛装備移転三原則」の改訂に合意し、武器輸出に大きく踏み出した。
既に昨年末、第一弾としてパトリオットミサイルの対米輸出が決定しているが、ウクライナでは同ミサイル2セットが、3月初旬にロシアに初めて撃破された。
ウクライナは同ミサイルシステムを3セット(供与国はドイツ2,アメリカ1)しか保持しておらず、予備の発射機も4器(ドイツ2,オランダ2)しかない。
日本では北朝鮮の弾道弾対処として、同ミサイルを東京の中心部である市ヶ谷に展開する光景がお馴染みだが、この間ウクライナは、これまで専ら拠点防空用として運用されてきたパトリオットを前線近くに配備し、ロシア軍機を撃墜してきた。
しかしこうした大胆な戦術の代償も大きいものとなった。事態は急を要するものとなっており、今後日本からの追加輸出、さらにアメリカ議会、大統領選の状況によっては、事実上の無償提供も求められよう。

次世代戦闘機の夢

今回パトリオットに続き輸出が解禁されたのが次世代戦闘機である。これは日、英、伊3カ国による国際共同計画「グローバル戦闘航空プログラム」(GCAP)で開発されることとなっている。
戦闘機が完成すれば、第3国、具体的には装備品協定を結んでいる米、英、仏、独、伊、豪、印、比、越、秦など15カ国への輸出がもくろまれている。これらは現時点で紛争当事国ではないが、戦闘機を購入後に武力衝突が発生した場合、どうなるのか等、疑念が山積しているが、それ以前に開発が計画通りに進むかどうか分からないのである。
ヨーロッパでは仏、独、西、白が参画するもう一つの将来戦闘機開発計画「未来戦闘航空システム」(FCAS)が存在しており、以前から関係各国や航空産業から様々な提起がされている。
要は、欧州で同じものを同時に進めるのは、時間と経費のロスだからFCASとGCAPを統合せよ、という意見である。
元々、国際共同開発は先端技術の統合と各国の負担を軽減するという観点から推進されているものだから、「全欧州将来戦闘機」は極めて合理的である。

露宇戦争の影

さらに、露宇戦争の長期化でNATOは拡大するものの、その戦略の見直しは必至である。中でも想像以上の装備の損耗に対応するためには武器、弾薬の一層の共通化が求められよう。
冷戦期においても、欧米では兵器の共同開発が推進されたが戦車や水上戦闘艦では頓挫し、戦闘機も欧州では3種類の異なる機体が導入された。皮肉にも冷戦下の落ち着いた環境ではそれが許されたが、熱戦の時代ではそうした余裕はますます狭められている。
ウクライナでは、過去中東の砂漠でエイブラムス戦車がT72系列の戦車を圧倒したような光景は見られていない。
現在の情勢は欧州対ロシアという共通基盤での装備開発を一層後押しするだろう。イギリスは、安全保障においては欧州随一の反ロシアであるから、今後GCAPからの離脱も考えられる。
日本はF2戦闘機開発時にアメリカから煮え湯を飲まされた経緯から、アメリカにはことわりを入れた上、技術移転に寛容なイギリスをパートナーに選んだといわれている。しかし世界が驚くEU離脱を行った国を無条件に信頼するのは脳天気に過ぎるというものであろう。
そもそも日、英では仮想敵国が異なるわけであり、技術面からも用兵側の要求を満たすのには難航が予想される。

対中戦回帰へ

そうした場合、日本にとって共通する仮想敵、地理的条件、対等な関係など、共同開発の条件を備えるのは台湾、もしくは豪州しかないのである。豪州とは「円滑化協定」を結び、既に日本は装甲車を輸入、日本からの潜水艦の輸出はならなかったが、豪は現在「もがみ」型護衛艦の導入に関心を寄せていることから、共同開発も含めた軍事協力は今後も進むであろう。
問題は台湾であり、中国が台湾回収に踏み出せば、日本は何らかの形で介入する可能性が高まっている。昨年政府は台北に防衛省職員を配置し関係の緊密化を図っており、台湾有事を見据えた体制を作りつつある。
具体的な軍事協力については進められていないが、武器輸出、軍事協力のハードルが加速度的に下げられつつあるなか、今秋明らかになるであろう日米の次期政権の対応を厳しく監視していかなければならない。(大阪O)

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【投稿】バイデン氏の焦りと動揺--経済危機論(134)

<<「もしトラ」から「ほぼトラ」>>
11月の米大統領選で再選を目指すバイデン氏、3/7の一般教書演説でトランプ前大統領との対決姿勢を鮮明にし、トランプ氏が民主主義を脅かし、ロシアに屈していると非難、「今が平時でないことについて、議会に目を覚まさせて米国民に警告を発するのが私の目的だ」と述べ、自らの対ロシア・対中国緊張激化政策を、より鮮明に打ち出した。
しかし、この路線は、トランプ氏が前回大統領に就任するや明確に打ち出し、切り開いた路線でもある。バイデン氏は、前回大統領選での公約を反故にし、このトランプ路線を継承、より拡大してきたのだとも言えよう。
各種世論調査では、このバイデン路線の不人気が続き、今年に入っても、米ABCニュースの世論調査では、バイデン氏の支持率は33%で歴代政権で最低水準を記録している。トランプ再選の「もしトラ」から「ほぼトラ」が現実視され始め、ことごとくトランプ氏の優勢が示されてきたのである。
バイデン氏は焦りと動揺から、これまでの超党派合意路線、お得意でもあり、本質でもある共和党に媚びを売る路線から、表面上の反転攻勢・対決姿勢に転じたわけである。トランプ路線との違いを明確にするため、現在15%となっている法人税の最低税率について21%に引き上げる、所得税についても富裕層の最低税率を25%に引き上げる、などを打ち出した。イスラエルのネタニヤフ政権のジェノサイド・虐殺政策についても、それを容認しつつも、「人道支援」拡大政策として、ガザ地区に「暫定」港を建設すると発表。
そのおかげか、3/14のロイター/イプソスの最新世論調査によると、バイデン大統領が支持率でトランプ前大統領をわずか1%ながら、リードしている。しかし、バイデン氏が前回挽回した、当選者が入れ替わる激戦州7州では、逆にトランプ氏の支持率が40%と、バイデン氏の37%をリード、逆転している。このままなら、「ほぼトラ」の現実がいまだ優勢なのである。米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏を「好ましい」と答えた人は43%から44%と微増で、「トランプ氏は4年前と同様に不人気だが、それを下回るほど今のバイデン氏は不人気だ」と同紙は報じている。

バイデン氏の路線の「不人気」の根本原因は、前回当選したバイデン氏の「大統領になったとしても、誰も生活水準は変わらないし、根本的には何も変わらない」と公約した路線そのものにあると言えよう。順不同に列挙するなら、
・気候変動推進派の大統領であると主張しながら、石油とガスの掘削をエスカレートさせることに署名、推進。
・「米国史上最も労働者寄りの大統領」を装いながら、鉄道労働者のストライキを妨害・破棄させ、重要な労働法改革を進めなかった。
・米国のすべての州で女性の中絶する権利を保護し推進するために、大統領権限の行使に踏み切らなかった。
・黒人有権者の偉大な友人を装いながら、黒人の公民権と平等のために真剣かつ具体的な行動には踏み切らなかった。
・民主主義と平和を守ると主張しながら、緊張激化を煽るばかりで、緊張緩和政策には見向きもしなかった。
・イスラエルの大量虐殺的な民族浄化計画を公然と受け入れ、資金提供し、膨大な軍事援助で、「ジェノサイド・ジョー」と呼ばれる事態にまで至っている。

<<勝てるはずのないトランプ氏>>
一方のトランプ氏、前回敗退して以降、選挙戦結果そのものを覆そうとする、常軌を逸した行動、反民主的な発言、暴力的な同調者の赦免、敵対者に対する脅迫がより過激になっている。共和党は、トランプ氏に取り込まれ、白人対非白人、中絶など女性の権利の否定、富と所得の上方への極端な再分配、経済的および社会的分断をますます敵対的かつ不安定なものに助長させ、ファシズム化が進行しつつある。これでは、圧倒的多数の有権者を離反させるだけであり、とりわけ若い有権者はトランプ氏を見放しつつある。トランプ氏が当選した2016 年から 2024 年の選挙の間に、約 2,000 万人の高齢有権者が死亡し、約 3,200 万人の若いアメリカ人が投票年齢に達する。女性の権利、民主主義、環境など、いわゆるZ世代にとって最も重要な問題は、トランプ氏とは無縁、むしろ敵対的であり、前回より、今回の方が、客観的にはトランプ氏は不利であり、勝てるはずがないのである。共和党予備選挙有権者の約41%は、もし彼が起訴されている犯罪で有罪判決を受けた場合、11月には彼を支持しないだろうと述べている。
しかし、それでもバイデン氏は圧倒的優勢を獲得しえていない。若い有権者は、バイデン氏をも見放しつつある。「ジェノサイド・ジョー」という若い有権者の批判に端的に表れている。
イスラエルの大虐殺政策については、トランプ氏は、「イスラエルがテロ組織ハマスを打倒し、解体し、永久に破壊することを全面的に支持する」と発言し、ハマスがイスラエルを攻撃したのはバイデン氏が弱体化したためだったと主張、3/5のFOXニュースのコーナーでは、「問題を終わらせろ」とパレスチナ人に対する虐殺を奨励さえしている。
問題は、このイスラエル、ガザに対するトランプ氏の立場がバイデンの立場と何ら変わらないことにある。トランプ氏もバイデン氏も、イスラエルが「テロ組織ハマスを打倒し、解体し、永久に破壊する」という目標に同意しているのである。
 バイデン陣営は、トランプ氏と差別化を図るため、あるいは焦りと動揺から、イスラエル・ネタニヤフ政権への批判を公然化し始めている。
3/14、チャック・シューマー上院院内総務(民主党、ニューヨーク州)は、ネタニヤフ首相の辞任と政権の解散を求め、ネタニヤフ首相が「道に迷った」とし、「ガザでの民間人の犠牲を容認する姿勢が強すぎる」と述べ、「和平への大きな障害は、ネタニヤフ首相だ。もはやイスラエルのニーズに適合しない」と述べた。そしてこの発言を、バイデン氏は「良い」発言だと持ち上げている。シューマー氏は、自身を「イスラエルの生涯の支持者」と公言しており、バイデン氏も同様である。発言はここまでであって、翌日にはバイデン政権は膨大な軍事支援、武器弾薬の輸送を実行している。バイデン氏とトランプ氏の実態は変わってはいないのである。ただし、それぞれの矛盾が激化していることは見逃せないであろう。

<<バイデノミクスの悲惨な実態>>
バイデン氏にとって支持率が上がらない、決定的な原因は、バイデノミクスの悲惨な実態にあると言えよう。
最新の消費者物価指数(CPI)は、容赦ない生活費の上昇の厳しい現実を明らかにしている。 総合CPIは毎月0.4%上昇しており、年率に換算すると4.8%、2%のインフレ目標など絵空事である。バイデン政権の過去 3 年間、生活必需品セクター全体で価格が高騰しており、医療費は5.8%急増し、住宅価格は32.5%も上昇し、アパレルは9.8%という驚異的な増加となっている。 賃金上昇は追い付かず、実質賃金は減少している。バイデン大統領就任以来、消費者物価が19%上昇し、食料品価格が21%上昇する中、バイデンノミクスへの厳しい批判が、バイデン不支持と結びついているわけである。
 そしてインフレはいまだ収まる気配を見せてはいない。3/14、国際エネルギー機関(IEA)は、今年の石油需要が前月の日量120万バレルから日量130万バレル増加すると予想していると発表し、紅海でのフーシ派の攻撃による海上輸送の混乱により、1バレル当たり81ドル以上で取引され ブレント原油価格が1バレル=85ドルを超えている。つまりは、バイデン政権の中東戦争政策が、インフレを助長させているわけである。ガソリンは現在3.44ドルで取引されており、10月以来の高値で、卸売ガソリン価格は小売ガソリンの大幅な高騰が差し迫っていることを示唆している。
ハーバード大学共同住宅研究センターによると、2023年1月には約65万3,100人が家なしで暮らしていると報告されており、これは前年同時期から約12パーセント増加し、単年の増加としては過去最大となった。 全体として、ホームレスは 2015 年以来 48% 増加。国勢調査局の最新のパルス世帯調査によると、テナントの推定37パーセントが、今後2カ月以内に退去させられる可能性が非常に高い、あるいはある程度あると回答している。 調査対象となった世帯の大多数が過去1年間に家賃の値上がりを報告しており、データは明らかに何百万人もの人々が家賃値上げにより家を失うことを心配していることを示唆している。

バイデン氏は、先の一般教書演説で「我が国の経済は世界の羨望の的だ」と示唆したが、とんでもない実態である。米国の国債はバイデン政権下ですでに34兆5000億ドル近くまで膨れ上がり、2021年1月の大統領就任時の約27兆8000億ドルから増加し、 2月だけで国家債務は2,960億ドル増加し、同月に政府が受け入れた総額2,710億ドルを上回る事態である。連邦政府の債務は 2023 年第 4 四半期に 8,000 億ドル以上増加し、これは GDP 成長率の 2 倍以上に相当している。
米中銀・FRBが物価抑制のために利上げを開始してからすでに2年が経過、クレジットカードや自動車ローンの延滞率はここ10年以上で最高となり、記録上初めて、これらの債務やその他の住宅ローン以外の債務に対する利払いが、米国の家計にとって住宅ローンの利払いと同じくらい大きな経済的負担となっている。今や、クレジットカード金

利が過去最高の22%に上昇しているため、債務負担の増加はさらに悪化している。

リアルクリア・ポリティクスの世論調査の平均によれば、バイデンの経済政策を支持する人はわずか40%である。ブルームバーグとモーニング・コンサルトが2月に実施した世論調査でも、激戦州の有権者は金利と個人債務に関してバイデンよりもトランプ大統領を信頼していると回答した。

このようなバイデノミクスの悲惨な実態こそが、現在の政治的経済的危機を端的に象徴しているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】自然を無視した原発に場所はない―志賀原発の地震被害の公開

【投稿】自然を無視した原発に場所はない―志賀原発の地震被害の公開

                             福井 杉本達也

1 地震後2か月以上も経過して、ようやく志賀原発を公開

北陸電力は能登半島地震から2か月以上も経過した3月7日、志賀原発の敷地内を、初めてマスコミに公開した。東京新聞は「激しい揺れで変圧器の配管が壊れて油漏れを起こし、外部電源の一部から電気を受けられない状況が続いている。完全復旧の見通しは立っていない。」と報道した(東京:2024.3.7)。「公開までに地震発生から2カ月以上かかったことについて、中田睦洋・原子力部長は『余震リスクがあり、町内のインフラ復旧が滞っていたため、安全面に配慮した』」と屁理屈を述べたが(同上)、「能登半島地震直後の情報発信を巡っては、一度発表した情報を訂正するケースが何度かあった。7日の公開後に報道陣の質問に答えた中田部長は『会社を挙げて問題点を洗い出している』」と答えたが(日経北陸版:2024.3.8)、当然ながら、「問題点」が多すぎて、とてもマスコミには公開できない「現場」を抱えているからである。新聞の行間からは、地震後何カ月も放置しておくこともできず、きわめて苦しいマスコミ対応をせざるを得なかったことが読み取れる。

2 外部電源の喪失

同上の3月8日付けの日経新聞は「主変圧器は外部電源の受電のほか、発電した電力を外部に送るために必要な装置。主変圧器が使えなくなっていることから、3系統ある外部電源のうち1系統の受電ができない状態にある。」と書いている。また、福井新聞は北陸電力の話として、「復旧の見通しは立っていない。…『最大の課題。何か手はないか一生懸命検討している』と述べた。」と書いている(福井:2024.3.8)。現状はお手上げの状態であることを暴露した。万が一、志賀原発が稼働状態で外部電源が喪失していたならば、たとえ制御棒が挿入されていようが、原子炉の冷却ができず、福島第一原発のように核燃料の崩壊熱で爆発していたことは明らかであり、能登半島のみならず、日本壊滅の恐れがあった。そもそも、震度7で制御棒がまともに挿入されるかどうかも疑問である。それは圧力容器内の広島型原爆1000発分の放射能が大気中にばらまかれるということであり、世界の終わりである。

 

3 変圧器に焦げ

同じく、日経新聞は「2月29日に実施した内部点検では、変圧器内部にカーボンが付着していることが発覚した。変圧器の内部は絶縁状態を維持する必要があるが、カーボンの影響で本来の機能が損なわれている。現在、修復の方法を検討しているという。」との記述がある。カーボンが付着しているということは、変圧器のどこかで発火した可能性が高い。

地震直後の1月2日、鳩山由紀夫氏はX(旧Twitter)に「気になるのは志賀原発で、爆発音がして変圧器の配管が破損して3500ℓの油が漏れて火災が起きた。それでも大きな異常なしと言えるのか。被害を過小に言うのは原発を再稼働させたいからだろう。」とツイートした。これに対し、「志賀原発で火災が起きていたというのは誤報です」、「大規模災害直後には様々な誤報が出やすくなります。第一報だけでなく、継続的な事実確認が必要です。」「何故、素直に誤報を拡散した事を認められない・謝れないのですか?」と、原発推進派がすさまじい攻撃をかけた。国民民主党の玉木雄一郎代表もすかさず反応。「最初に変圧器から油が大量に漏れたのでそれを『焦げ臭い』と作業員が認識し、…その後、北陸電力が詳しく調べたら、油漏れだけで発火の事実はなかったことが確認」されたと攻撃した(東スポ:2024.1.5)。その後も、鳩山氏への攻撃は続き、小倉健一氏は、「鳩山元首相を含め、原発については『事実をよく確認せず、適当に不安をあおったままほったらかす』ということが許されてしまっているようだ。鳩山元首相に至っては、北陸電力の訂正後に『火災が起きた』とX(旧Twitter)に投稿。長男である国民民主党の鳩山紀一郎氏から撤回を求められるも『

火災がないに越したことはないが、作業員が何を火災と間違えたのか。では火もないのに消火済みとは?怪しさは消えず』という投稿を重ねたことで批判が集まっている。」と書く(『ダイヤモンド・オンライン』:2024.1.129)。原発推進側にとって、変圧器の火災はよほどぐわいが悪いのであろう。今回の変圧器のカーボンは「火災」の一部を明らかにするものである。

4 原発地盤面の変動は?

同上の東京新聞は「1号機原子炉建屋脇の地面に数センチの段差が生じていた。」と書いているが、建屋が変形したかどうかは明らかではない。能登半島では、今回の地震で能登半島北西部で最大4mの地盤面の隆起が起こっており、志賀原発では地盤面の変動はなかったのか、あるいは大きな変形が起こっているのか、マスコミへの公開では明らかになっていない。今回の地震では変動がなかったとしても、そのような変動のある地域に原発があること自体大問題である。原発は一瞬にして破壊される。核がひとたび暴走をはじめれば人間によるコントロールを回復することはできない。日本には原発を立地できるような安定した地盤はどこにもない。自然への畏怖の念を回復し、早急に全ての原発を廃炉にすべきである。

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【投稿】株価最高値更新の虚実--経済危機論(133)

<<主役は、金融・投機マネー>>
2/22、225銘柄で構成される日経平均株価が史上最高値を34年ぶりに更新した、バブル経済期の1989年12月29日につけた終値の最高値(3万8915円87銭)を、34年ぶりに上回った(3万9098円68銭)と、大手メディアは大騒ぎである。
 2/26、週明け、東京株式市場は続伸し、135円03銭(0・35%)高い3万9233円71銭で取引を終え、さらに2/27、0.01%高の3万9239円52銭終値の史上最高値を3営業日連続で更新している。
しかし、この株価史上最高値更新は、極めて危ういものである。最高値を更新した前日の2/21、米ニューヨーク株式市場で、AI(ArtificialIntelligence 人工知能)関連の米半導体大手・エヌビディア(NVIDIA)の好決算(前四半期比で売上が 22% 増加、利益が 33% 増加)を受け、同社株価が一夜にして時価総額2,500億ドルという記録的な額に達し、アマゾンとアルファベット、イーロン・マスク氏の電気自動車メーカー・テスラを上回ったのである。
このNVIDIA株の上昇により、市場前取引の段階で他のチップメーカーの株価が上昇、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ社は6%上昇、アプライド・マテリアルズ社は4%上昇、インテル社は2%以上上昇している。これが、ニューヨーク市場でのダウ工業株平均とS&P500指数が史上最高値につながり、このあわただしい動きが連鎖し、欧州株もAIフォリアとも言える恩恵を受け、Stoxx 600(ストックス欧州600指数)が史上最高値を更新、2/22、日本にも波及したわけである。

 日本でも株価を押し上げたのは、半導体製造装置の東京エレクトロンとアドバンテスト、SCREENホールディングス、半導体設計会社を傘下に持つソフトバンクグループ、この4社で日経平均を約2300円押し上げているのが実態なのである。
そして押し上げた主役は、1ドル=150円台という日本株の「割安」さに付け込み、7週連続、日本株を買い越した海外の投機マネーである。東証プライム市場の売買代金の7割近くを占める海外マネーにとって、日本は、マネーゲームの格好の足場となり、1月月間の日本株現物の買越額は2兆693億円と昨年5月以来の高水準に達し、2月第1週(5-9日)の海外勢の買越額は3664億円と勢いを増している。日経平均の年初来上昇率は17%と、4%台の米S&P500種株価指数を大きく上回っている。海外の投機マネーが日本に狙いをつけたわけである。

<<米株高騰は「カジノ的」>>
世界の時価総額の伸びの52%が、NVIDIA関連の半導体銘柄が主導という異様な実態は、AI関連の集中リスク、AI関連株を中心としたバブル形成の危うさを浮き彫りにしているとも言えよう。
2/27、そうした警戒感が早くも浮上し、史上最高値を牽引してきた半導体株が売られ、東京エレクトロンが前営業日比580円(1・59%)安、レーザーテックが880円(2・15%)安を記録している。日経平均は年初から6千円弱上昇しているが、ほんの一握りの銘柄が市場を左右する、集中リスクの増大に直面しており、すでに強い警戒感と過熱感が漂い始めてもいるのである。

 2/24、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイは、恒例の「株主への手紙」を公表し、米国の株式相場の高騰は「カジノ的」であり、「カジノは多くの家庭に浸透し、人々を日々誘惑している。」と警鐘を鳴らし、より広く目配りをし、日本の5大商社の株の保有比率を9%にまで高めたと明らかにした。
この報道によって、三菱商事、三井物産、住友商事の株価が上場来の高値を記録している。投機マネーも、右往左往である。

日本が現在、世界の投機マネーにとって格好の投機対象となっているのは、日本経済の構造的改善・ファンダメンタルズが改善され、向上してきているからと言うものでは全くない。むしろ、逆に昨年の日本の名目国内総生産(GDP)は591兆円(約4兆2106億ドル)と景気後退に苦しむドイツにさえも抜かれて、世界第4位に後退しており、インフレで実質賃金は1996年比74.1万円も減少している。この苦境を脱出するには、金融緩和政策をやめるわけにはいかない、続けざるを得ない、マイナス金利は解除したとしても、米欧との金利差はこれからも続く、あるいは拡大さえするであろう、当然、円安も続行するであろう、日本株の「割安」も続く、絶好の投機対象として存在するであろうという期待感から、うまみのある投機対象となっているにすぎないのである。潮目が変われば、こうした投機マネーはいつでも一斉に引き上げるものである。

岸田首相は、株式市場最高値の更新について、「国内外のマーケット関係者が評価してくれていることは、心強く、力強さも感じている」と語っている(2/22)が、とんでもない見当違いである。
(生駒 敬)

 

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投稿】岸田売国政権下の新NISA狂騒曲と株高

【投稿】岸田売国政権下の新NISA狂騒曲と株高

                                            福井 杉本達也

1 新NISA狂騒曲と株高

2024年1月から始まった新NISA(少額投資非課税制度)が、注目を浴びている。生涯投資額が1800万円まで大幅に拡大された。この範囲内なら、何度でも売買できる。22年9月末、日本の個人金融資産2,005兆円のうち、54・8%が現預金で保有されている。新NISAは個別株にも投資できる「成長投資枠」と投資信託を毎月積み立てる「つみたて投資枠」があるが、中心的な商品は投信になる。投信を長期で保有する、あるいは長期間積み立てていくことが、新NISAの最もオーソドックスな活用法だ。つみたてNISAの口座は1人1金融機関までしか作れない。新NISAの「つみたて投資枠」の年間投資額120万円まで積み立てたとしても、生涯投資額1,800万円を満たすには15年間かかる(「成長投資枠」限度額は240万円で「つみたて」と合わせて年間限度額は360万円)。ゼロ金利の預金をもつ高齢者がNISA の説明を聞き。関連本も売れている。証券会社は老後には 3,000 万円必要だと煽る(参考:「日経プラス1」2024.2.24)。

「購入額が開始から1カ月間で1兆8,000億円を超えた。過半は投資信託が占め、米国など世界の株式に投資する商品に人気が集中している」「投信の購入額が合計で9,788億円と全体の53%を占めた。」「投信購入ランキング上位10本のうち9本が全世界株や米国株で運用するす指数連動型の商品」である(日経:2024.2.14)。

2月22日に日経平均3万9,000円を超えた 23日の日経新聞は、生成AIが半導体株を引き上げだなどと、株価が上がった理由を様々に書いているが、「根拠のない推測」が含まれている。(1)証券会社の自己売買(6346億円ともっとも大きい)、2)24年1月から続いている外人買いが3013億円。1月からの株価上昇は、インサイダー相場である。世界最大のファンド、米ブラック・ロックの CEO が日本に営業に来て、岸田首相は、迎賓館でもてなしている(吉田繁治「ビジネス知識源」2024.2.24)。首相は2022年5月に、英金融街シティーのギルドホールで、「NISAの抜本的拡充、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設など、政策を総動員して『資産所得倍増プラン』を進めていく」と宣言し、「今後5年間で3,400万口座、投資総額56兆円まで倍増することをぶち上げた」(『東洋経済』:2023.2.4)。さらに鈴木俊一金融相は「2,115兆円ある家計金融資産の半分は、資産価値の高まりにくい現預金。これを投資に振り向けて、成長と分配の好循環を実現したい。家計が資金を投資に向ける」と説明している(日経:2024.2.18)。徹底した売国内閣の“成果”である。

 

2 新NISAで円安がさらに進む

「年間買い付け額が約5・2兆円ずつ伸びるという前提に立っと、27年までに対ドルの円相場を最大6円ほど押し下げる効果がある」(日経:2024.2.3)と試算する。別の試算では、1月以降、日に450億円の投資信託が買われており、これを年額で推計すると10兆円の資金が海外に流れるのではといわれる。「22年以降に本格化した円安局面は、国内外の金利差と貿易赤字の拡大という2つの要因が主導してきた。金利差の拡大には歯止めがかかり、貿易赤字も縮小基調にある。…それでも円が下落しているため、新NISAが3つめの円安圧力」になっていると解説する(日経:同上)。

現在、1 ドルが150 円を超える超円安である。「巨大ファンドは、円安の日本の良質な大企業の支配権を狙っています」。「高い株価が暴落したとき、あるいは敗戦のとき底値で買収するのは、ロスチャイルドが150年使った方法です」「日本で最高のトヨタの時価総額が48 兆円、アップルは2.92 兆ドル(420 兆円!)、マイクロソフトは3.12 兆ドル(450 兆円)、現金が要らない『株式交換』なら買収は容易です。」「米国のIT 企業の、高い株価(時価総額1,000 兆円)では、世界の主要企業を買収し、世界を植民地にすることができます。」(吉田:「ビジネス知識源」2024.2.10)。

日本経済は成長していない。むしろ景気後退局面に入った。不況なのに株価が上昇するのは、労働分配が圧縮され、企業収益が拡大しているからである。日銀や年金資金(GPIF)が86兆円も株式に投入されている。2013年4月からのアベノミクス以来、日本では通貨発行額(マネタリーベース)を5倍に増加させ、余剰資金には金利をマイナスにするマイナス金利政策を採用した。大量の余った資金が株式市場に向かうこととなった。企業は労働者の賃上げをせず、株主配当を増加し、自社株買いを行い株価を吊り上げようとしてきた。労働者の犠牲の上に企業利益拡大し、その結果としての株価上昇である。食料物価は2013年からの円安で趨勢的に上昇している。円安により資源・エネルギー価格も上昇している。しかし、雇用者の実質賃金は物価上昇と円安で落ち込みが大きい。2023年12月の実質賃金は前年同月比で1.9%減少した。21ヵ月連続の減少であり、日本の労働者の実質賃金は減少し続けている(賃金統計:2024.2.6)。

3 新NISAを政府は「ドル株買い」と考えている

米国は「貯蓄から株投資」へという政治のスローガンをかかげ、1500 兆円のゼロ金利の預金がある日本を「ATM」と考えている。新NISAの資金は米国の株式市場に向かっている。

一方、反対に日本の株式市場では外人が、売買シェアで70%を占め、持ち株シェアでも30%を占める。日本の株式相場は、70%を売買をする外人ファンドに支配されている。日本の株式市場はインサイダーによる「八百長相場」=「賭場」になっている。自社株買いは、完全なインサイダー取引であり、日銀・GPIFもそれに近い。株高は。外人ファンドによるマイナス金利の安い円を借りて株を買うキャリートレードによる日本株の買い越しと、自社株買いによってもたらされている。米国のシャドーバンクは国際金融資本の牙城であり、投資信託のバークシャーハサウェイを率いるウォーレン・バフェット、インデックス・ファンドのブラック・ロックは、運用総資産は10 兆ドルといった巨大な国際金融資本などが株の売買を行っており、世界での企業の買収を狙っている。1997年のアジア通貨危機では韓国はIMFの支配下に入り、韓国巨大企業である現代自動車、LG 電子、サムスンなどが米ファンドの手に落ちた(「ビジネス知識源」2024.1.17)。

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【投稿】核管理が完全に崩壊した日本

【投稿】核管理が完全に崩壊した日本

                              福井 杉本達也

1 核管理の無秩序を露呈

2月7日に福島第1原発の放射能汚染水浄化装置から220億ベクレルの放射性物質を含む約5.5トンの汚染水(その後2月15日に、1.5トン・66億ベクレルに修正)が漏えいする事故が起こったことに対し、在日中国大使館は「日本は福島放射能汚染水の処理過程で繰り返し事故を起こし、東京電力内部の管理が混乱し無秩序で、日本政府の監督措置が不確実かつ不十分であることを存分に露呈して、汚染水処理装置が長期的な信頼性を備えていないことを改めて証明し、国際社会による監督の必要性を一層鮮明にした。」(新華社:20240208)と述べた。原子力規制委は2月19日、「廃炉の実施計画に違反の疑いがある」とした。また、21日には経産大臣が東電社長を呼び直接指導するという。

「東電によると、漏れたのは配管の清掃作業中。本来閉じるべき弁が開いた状態で清掃をする作業員に引き渡され、確認も不十分だったため、確認の弁の先の排気口から汚染水が建屋外に漏れた」というが(朝日:2024.2.15)、東電発表の現場写真を見る限り、放射線量の異常に高い、無秩序に作業用具の置かれた雑然とした現場で、限られた作業時間内にできるだけ被ばく線量を避けながら確認も不十分な状況で、あわてて作業しているとしか見えない。昨年からの放射能汚染水の海洋放出をはじめ、全く不可能な福島第一1号機からのデブリの採取計画など、環境中への放射能汚染物質の大量放出防止対策はこの12年間、何一つ進歩していない。メルトスルーした炉心に触れる注入冷却水や地下水からは90トンという大量の放射能汚染水が毎日出し続けられている。このまま進めば、日本は世界最大の核汚染国家となる。

 

2 原子力規制委は規制を投げ出し

1月1日に発生したM7.6の能登半島地震を受け、原子力規制委は2月14日、原発事故時の住民避難や被ばく防護策をまとめた原子力災害対策指針について議論したが、指針では大量の放射性物質が放出される場合、原則として原発の5キロ圏内の住民は避難、5~30キロ圏内は屋内退避としている。会合では「基本方針は変更する必要がない」とし、山中伸介委員長は記者会見で、「避難所や道路の耐震化などは各自治体の地域防災計画で対応すべきだ」との考えを示した(福井:2024,2,15)。ようするに、能登半島地震では家屋の倒壊や道路の寸断により、屋内退避や避難が困難なことが判明したにもかかわらず。原発は稼働させるが、事故が起きた場合の退避や避難は知らないと投げ出したのである。山中委員長は「自然災害への対応はわれわれの範疇外」だと繰り返した。恐ろしい無責任さである。「後は野となれ山となれ」と核管理「規制」を完全に投げ出した。

 

3 地震18日後に老朽原発を再稼働する関西電力

能登半島地震による北陸電力志賀原発の被害状況も明らかとならない中、1月18日、関西電力は美浜原発3号機を再稼働した。美浜3号機は運転開始から47年を経過した古い原発であり、耐震基準も古く、いつ事故が起きてもおかしくない。しかし、電事連の池辺和弘会長(九州唱力社長)は19日の記者会見で、「能登半島地震が原子力発電所の再稼働の議論に『直ちに影響しない』との考えを示した。」(日経:2024.1.20)。

美浜原発の場合、使用済み核燃料プールの管理容量 (652体)であるが、現在の貯蔵量(432体)であり、稼働が続けはあと5.3年でプールは満杯となる(電事連方式で=長沢啓行『福井県を使用済燃料で溢れる「核の墓場」と化す関西電力の使用済燃料対策ロードマップ』資料2024.1.27)。大飯原発は、管理容量 (3,872体)、現在の貯蔵量(3,343体)であり、あと4.5年である。高浜原発は厳しく、管理容量 (3,758体)、現在の貯蔵量(3,035体)であり、あと3.3年で満杯となってしまう。この問題を何とか辻褄を合わせようと、厚かましく福井県に提起してきたのが原発敷地内への「乾式貯蔵施設」である。使用済み燃料の一部を乾式貯蔵に移し、プールを空けて運転を継続しようというのである。しかし、それでも3~5年の保管量しか確保できない。全くの付け焼刃である。

 

4 地震大国日本に原発の安全な場所などどこにも存在しない

東北電力は東日本大震災で大きな被害を受けた女川原発2号機を9月に再稼働するという。東電の「原子力改革監視委員会」の会合が2月13日に開かれたが、柏崎刈羽原発の再稼働について、昨年末に事実上の運転禁止命令が解除されたことから、委員から「フェーズ(局面)が変わった」と前向きな発言が相次いだという(東京新聞:2024.2.13)。能登半島地震では佐渡沖の断層までが連動して動いた。柏崎刈羽原発も地震の影響を受けた。それを、運転禁止命令解除を「フェーズが変わった」として再稼働に走ろうというのはノー天気も甚だしい。

原子力は「経験主義的に身につけてきた人間のキャパシティーの許容範囲の見極めを踏み越えた」。「私たちは古来、人類が有していた自然にたいする畏れの感覚をもう一度とりもどすべきであろう。自然にはまず起こることのない核分裂の連鎖反応を人為的に出現させ、自然界にはほとんど存在しなかったプルトニウムのような猛毒物質を人間の手で作りだすようなことは、本来、人間のキャパシティーを超えることであり許されるべきではない」(山本義隆:『福島の原発事故をめぐって』211.8.25)。

日本は福島第一において核管理に失敗した。そして、現在も失敗し続けている。放射能汚染は今後数百年~数万年も続く。起こってしまったことは元には戻せない。福島の汚染された国土を元には戻せない。せいぜい、現状を維持し、これ以上海洋を含む環境に放射能を出さない、再稼働している原発を全て停止して、これ以上使用済み核燃料などの放射性物質を増やさないようにすることだけが日本に課された責務である。2月7日の東京新聞<社説>は「地震国の原発 安全な場所はあるのか」とし、「志賀町の稲岡健太郎町長が『あらためて地震列島の中の原子力だと分かった』と語ったように、地震国と原発はあまりにも取り合わせが悪い。各地の原発はいずれも海岸沿いに立地しており、もし原発事故が起きるとすれば、地震や津波との複合災害になる可能性が高い。想定外の地殻変動や避難計画の破綻はどこでも起こり得る。…政府も、地震国日本に原発の『居場所』はないと悟るべきである。」と書いた。もう「想定外の津波」という誤魔化しは通用しない。地震大国・日本に安全な地域などはどこにも存在しない。

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【投稿】米政権:ガザ・ラファの虐殺、ゴーサイン--経済危機論(132)

<<バイデン「我々のラファ軍事作戦」>>
米バイデン政権は、イスラエル・ネタニヤフ政権にパレスチナ・ガザ地区南部ラファでの民間人殺害にゴーサインを出した。米・イスラエル両政権は、今や公然と、国際司法裁判所の大量虐殺阻止命令を無視し、全世界の世論、国際社会の湧き上がる非難の声に敵対する路線を選択したのである。

 ラファの面積は 33.2平方㎞で、東京都で言えば杉並区や板橋区と同程度(いずれも人口57万人)であるが、紛争前には約 28 万人が住んでいたが、イスラエル軍の北部・中部の虐殺攻撃で避難を余儀なくされ、今や150万人以上に膨れ上がっている。 ガザの人口230万人の半分以上がラファに詰め込まれ、虐殺攻撃を目前にし、エジプトとの南部国境は完全閉鎖され、逃げ場も行き場もない缶詰め状態に追いやられている。

2/11、米・イスラエル両首脳の会談から数時間後、イスラエルはこのラファへの激しい空爆を行い、2/11-12、日曜夜から月曜朝にかけて、たちまち約100人を殺害、完全包囲され、出口のない避難民に対する全面的な軍事攻撃、虐殺作戦を開始したのである。バラバラになった子どもたちの遺体の映像が流され、ネタニヤフ首相は、「我々の目標は…完全勝利だ」と宣言している。

この「完全勝利」とは、ハマスの停戦提案(イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人捕虜と引き換えに人質全員の段階的な解放を行う)を、「妄想的な要求だ」として全面拒否し、できるだけ多くのパレスチナ人を殺害し、ガザ地区からパレスチナ人をすべて追い出す「民族浄化」

作戦を意味している。すでにこの作戦で、昨年の10/7以来、2/13までの死者は2万8473人に達している。

ホワイトハウス公表の、2/11の45分間のバイデン・ネタニヤフ通話文によると、バイデン氏は「ハマスを打倒し、イスラエルと国民の長期的な安全を確保するという共通の目標を再確認した」という。これによってバイデン政権は、膨大な資金提供と武器・弾薬の提供だけではなく、「共通の目標」として、ガザ住民の大量虐殺を政治的に正当化し、その実行を支持し、実際にはジェノサイド作戦の強行を指示しているのである。 つまりは、バイデンのゴーサインでイスラエルのラファ虐殺作戦が開始されたのである。
ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は2/12の記者会見で、米国はイスラエルが攻撃を強行した場合に軍事援助を打ち切ることは考えていない、と明言している。 記者からの「援助を差し止めると脅したのか」との質問に対し、カービー氏は「我々はイスラエルを支援し続けるつもりだ…そして、イスラエルがそのための手段と能力を確実に備えられるようにし続けるつもりだ」とまで断言している。

そして、バイデン大統領自身が、2/13、ヨルダンのアブドラ2世国王との会談後の演説中に、イスラエル軍によるラファへの侵攻を米国によるものだとする「我々のラファ軍事作戦」”our military operation in Rafah.” と公言したのである。この発言は、フランスのマクロン大統領をミッテラン元大統領(1996年に死去)と言い間違えたり、「ドイツのミッテラン」と発言したり、このところ記憶間違いや取り違え発言をたびたび繰り返してきたバイデン氏のよくある「失言」の一つだと米大手メディアは報じているが、実は「本音」を吐露したものでもあろう。
さらに、米議会・上院がイスラエルへの140億ドルを含む950億ドルの対外軍事援助法案を民主・共和両党の多数で可決し、下院では民主党内左派よりも、共和党内反対派で難航が指摘されているが、議会もパレスチナ人の大量殺害を支持し続けることに同意している事態である。

<<テント都市への「強制移住」>>
バイデン氏は、ネタニヤフ首相との電話会談の際、「信頼できる計画なしにラファ作戦を開始しないよう」警告したとされているが、その「信頼できる計画」なるものは、 ガザ市の南端から南はラファ北のアル・マワシ地区まで、ガザ全域に15カ所、2万5000張のテントを設置する、というもので、エジプト当局者の話として、医療施設を含むキャンプに米国とアラブのパートナーが資金提供することをイスラエルが期待していると述べている。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、この「テント都市」は、イスラエルがエジプトに提示したもので、米国と中東の同盟国から資金提供され、 エジプトが運営する予定だという。つまりは、米国の直接の共謀、資金提供、参加によって、飢え、疲弊した100万人もの人々をこの「テント都市」に詰め込む「強制移住」なのである。この大量虐殺と民族浄化の「強制移住」作戦にエジプトを直接の当事者として参加させようというわけである。しかし、100万人以上もの人々をにわか作りの「テント都市」に詰め込むことそれ自体が不可能であり、なおかつ安全に避難できる可能性は無きに等しい。
あわよくば、国連をも、この「避難計画」なるものに参加させようとしているが、グテーレス国連事務総長の報道官、ステファン・デュジャリック氏は「我々は人々の強制移住には加担しない」と明言している。

一方、エジプトは2/11、ラファ侵攻は1979年の和平条約を無効にする可能性がある、1979年以来両国間の平和を維持してきた条約の停止の引き金となる可能性があると警告している。この条約では、イスラエルかエジプトが国境沿いおよび国境近くのいくつかの境界地帯に配置できる軍隊の数に制限が設けられており、大

量のイスラエル軍と装甲車両の駐留は許可されていない。
ガザとエジプトの国境に沿って 9 マイルにわたって伸びる、いわゆるフィラデルフィ・ルートまたはフィラデルフィ回廊について、昨年12月下旬、ネタニヤフ首相は、ガザを効果的かつ恒久的に非武装化するには、フィラデルフィ・ルートを「我々の手に渡さなければならない」と述べている。
エジプトは、イスラエルによるガザ地区の民族浄化を促進していると見られることを望んでいない。ここ数日、エジプトは数十台のM60A3パットン主力戦車とYPR-765歩兵戦闘車をラファ国境検問所付近に再配備している。

実際は、このイスラエルと米国の間で練り上げられた「信頼できる計画」なるものが頓挫し、実行もされないうちに、ラファ虐殺作戦の強行によってさらなる戦火の拡大が進行しているわけである。
2/14、イスラエルは隣国レバノンに対してガザ戦争開始以来最長かつ最も激しい攻撃を開始し、南部の数カ所を爆撃、これに対し、レバノンのヒズボラが、イスラエル北部にこれまた「前例のない」反撃を開始 、イスラエル軍は声明で、「レバノンからネトゥア、マナラ地域、そしてイスラエル北部のイスラエル国防軍基地への多数の発射が確認された」と述べている。イスラエルメディアは今回の攻撃を「前例のない」もので、10月にレバノン国境で戦闘が勃発して以来最大かつ最も深刻なものだと報じている。

<<バイデン任期中に18%以上のインフレ>>
戦火の拡大は、当然のこととして経済危機をも激化させる。
まずは原油価格が、供給が混乱する可能性があるとの懸念から、最近の上昇幅を拡大、原油価格の上昇とガソリン卸売価格の高騰が現実のものとなってきている。WTI(原油先物)価格は、1バレル=77.80ドル付近で推移してきたものが、すでに上昇幅を拡大させている。
 2/13に発表された米消費者物価指数(CPI)は、3.1%であったが、3%を下回ると予測・期待していた米政権にとっては、冷や水を浴びせられた結果である。
いわゆるコアインフレ(食品とエネルギー価格を除く)は、3.9%上昇し、前月比0.4%上昇は「昨春以来最大」であった。このコアCPIは、実際に加速しており、1月の3カ月年率は4%で、12月の3.3%から上昇している。食料とエネルギーサービスのコストが輸送サービスとともに前月比で跳ね上がり、自動車保険や医療などのサービスが高止まりしたままである。つまりは、「経済の主要分野で依然として堅調な物価上昇」を示しているという現実である。このインフレの再加速は、賃金の伸びが物価に比べて赤字に戻ったこと、実質賃金の低下が再び現実のものとなってきたことを意味している。
この2/13の予想より悪いインフレ指標の発表で、10年物米国債金利は4.27%(今年最高水準)に上昇する一方、S&Pとナスダック株価はともに1%以上下落している。

そしてバイデン大統領にとって決定的なのは、自身の任期が始まって以来、消費者物価の実際の指数は、過去最高を更新し、18%以上上昇している(トランプ大統領の任期全体の4年間と比べて8%上昇した)ことである。

直近のフィナンシャル・タイムズ紙とミシガン州立大学スティーブン・ロス経営大学院の世論調査によると、アメリカ人の3分の1はバイデンの経済政策がアメリカ経済に大きなダメージを与えたと信じており、回答者のほぼ半数(49%)が、バイデン大統領の任期中に自分たちの金銭状況が悪化したと答えており、財務状況が改善したと答えたアメリカ人はわずか17%であった。

バイデン政権が意図的に緊張を激化させ、戦火を拡大させていることが、人びとの生存そのもを追い詰め、生活を苦しめ、なおかつインフレを持続・拡大させているのである。
(生駒 敬)

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