【投稿】米経済:スタグフレーション化--経済危機論(137)

<<スタグフレーション・ショック>>
4/25、米経済分析局(BEA)が発表した最新の経済指標は、バイデン政権自身やエコノミストの予想や期待を裏切る厳しい現実を突き付けている。
インフレ率が下がるどころか再び上昇(3.7%に上昇)、2024年第1四半期のGDP成長率も予想を大きく下回り、3.4%から1.6%に減速、GDP成長率が低迷し、インフレ率が上昇するスタグフレーション(stagflation)、高インフレを伴う経済不況に突入しつつあることを明示したのである。これは、成長期待が低下すると同時に、インフレ率が急上昇するスタグフレーション化である。
バイデン氏が一般教書演説で「今、私たちの経済は世界の羨望の的となっています」どころか、真逆の事態である。ウソ・デタラメが露呈されたわけである。
米CNN/ビジネスニュースは、「スタグフレーションへの懸念が高まっている。 すべての中央銀行家にとって最悪の悪夢だ」と報じ 経済専門サイト・ゼロヘッジは、「スタグフレーション・ショック」と報じている。

この4/25の経済指標を受けて、株価は急落、ダウ工業株30種平均は600ポイント以上下落し、3万8085.80で取引を終えた。 S&P500指数も下落、5,048.42で取引を終え、ナスダック総合指数も下落して15,611.76となり、大型株の売りが広がっている。メタは約11%下落、売りは他のハイテク株にも及び、アルファベット、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフトも下落、インテルは8%下落、ヘルスケア、不動産、金融、消費財も軒並み下落している。

さらに、このGDP統計の発表により、米国国債の利回りは急上昇、指標となる10年国債利回りは4.8ベーシスポイント上昇して4.702%、2年国債利回りは6.1ベーシスポイント上昇して4.998%となっている。

当然、米中銀が今後数カ月以内に利下げする可能性があるとの期待、とりわけ円安で窮地に追い込まれている日銀・岸田政権が期待していた、FRB利下げの夢は消えつつある(The Dream of Fed Rate Cuts Is Slipping Away)。

<<悪夢到来の警告>>
「stagnation(停滞)」と「inflation(インフレーション)」、不況と物価上昇が併存する悪夢が到来しつつあることを警告している、そのキーポイントは、以下の通りである。

* GDP 成長率は、2023年第4四半期の 3.4%から1.6%に大きく減速した。
* これはその前の2023年第3四半期の4.9%に引き続く後退であり、いずれの指標の半分にも満たない急落である。
* 政権当局やエコノミストのGDP予測はことごとく外れ(最高予想はゴールドマン・サックスによる3.1%)、最低予想(SMBC日興)の1.7%をさえ下回った。
* この名目GDPが、現実のインフレ率に正確に対応・調整された場合には、プラス1.6%ではなく、実際にはマイナスになっている段階だと言えよう。
* 消費者物価指数・CPIデータが示すインフレ率の上昇は、2023年第4四半期の1.8%から3.4%に上昇した。
* さらに悪いことに、変動が大きい食品とエネルギーを除いた、最も重要とされるコアインフレ率でも 2% から 3.7% に加速、これは予想の3.4%をはるかに上回る急上昇である。
* 目立つのは、サービス部門の年率上昇率は5%を超えていることである。家賃が 20 ~ 30% 値上げされ、自動車保険や住宅保険の費用が 20% 以上値上がりし、公共料金が 10% 以上増加している。
* 持続的なインフレ圧力が続いており、物価圧力が再燃していることを示している。

バイデノミクスそのものが、世界大戦化へ戦争を激化させる緊張激化政策から、平和外交・緊張緩和政策への根本的政策転換をはからない限りは、インフレを抑制することもできないし、スタグフレーションを招き入れる結果をもたらしているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】イラン報復攻撃とバイデン政権--経済危機論(136)

<<バイデン氏「米国は対イラン反撃には参加しない」と表明>>
4/13~14にかけての深夜、イラン・イスラム共和国は、数百のミサイルとドローンでイスラエルに対する初めての報復攻撃を実行。イラン側は、これはあくまでも、4/1のイスラエル軍によるダマスカスのイラン総領事館への致命的な攻撃に対する報復に限定された自衛攻撃に過ぎないものであり、「正当防衛に関する国連憲章第51条に基づいて行われた」もので、その反撃の限定的な性質について、イスラエルの同盟国である米国にも伝えたこと(米国とイランは直接交渉の体裁を避けるため、オマーンを通じて協議している)、そしてこの攻撃の「課題は遂行された」、「占領地にあるシオニスト・テロ軍の重要な軍事目標を攻撃し、破壊することに成功した」として、5時間後に終了したことを明らかにした。イスラエル軍側も、イランが発表してから数時間後にイランの攻撃が停止したと報告している。
イラン側は、同時に、イスラエルがこの自衛攻撃を口実に「新たな過ちを犯した場合、数十倍規模の攻撃が可能であり、イランの対応はより厳しいものになる」と警告し、同時に、「今回の報復攻撃はイランとイスラエル間の紛争であり、米国はこれに関与すべきでない」と牽制している。

中東全域への戦争拡大・世界大戦へのエスカレートは阻止されたのか。事態は流動的であるが、決定的なカギを握るのは、これまでイスラエルの無謀なジェノサイド・戦争挑発行為を無条件で支持し、支援してきた米・バイデン政権の対応である。
4/14のアクシオスの報道によると、バイデン氏はイスラエルのネタニヤフ首相との会話の中で、イスラエルの対応が、壊滅的な結果を伴う地域戦争につながることを強く懸念しており、イスラエル国防軍によるいかなる報復攻撃も支持しないし、そのような作戦を支援しないと述べたこと、ネタニヤフ首相は理解を示したと、報じている。

また、米国防総省のオースティン長官はイラン報復攻撃後の声明で、米国はイランとの衝突を求めていないと発表。CNNの報道によると、米国当局者らはイスラエルに対し、いかなる軍事的対応を開始する前にも米国に通知するよう求めている、と報じている。
さらに、米国家安全保障会議・NSCのカービー報道官は、「大統領は明言した。我々はイランとの戦争を求めていない。 私たちはこの地域でのより広範な戦争を望んでいません」と4/14の朝、NBCで語っている。

このようなバイデン政権の対応で重要なのは、バイデン大統領がネタニヤフ政権に対し、攻撃は「完了」し、米国はイランに対する今後の反撃作戦を支持しないと強く伝えている、そういわざるを得ない立場に追い込まれている、と言う現実であろう。

<<「ほぼ全て撃墜」のウソ>>
今回のイラン側の報復攻撃に対して、バイデン氏は、イスラエルは米国の協力でイランの発射したミサイルとドローンをほぼ全て撃墜したと発表し、ネタニヤフ首相に対し「勝利を得た。勝利を掴み取ってほしい」と語った、と言う。
 イスラエルのネタニヤフ首相も、イランの攻撃を撃退、合同の尽力で勝利を勝ち取ったと発表している。イスラエル軍は、「イランの飛翔体のほとんど」はイスラエル領空に到達する前から同盟国によって迎撃された」と主張している。
しかしイスラエルの被害の実態は深刻であり、徐々に明らかになってきている。
最も深刻なのは、イスラエルの重要な空軍基地が被害を受けたことを、イスラエル軍自身が確認していることである。その一つは、ネゲブ砂漠南部にあるイスラエルのネヴァティム空軍基地に対するイランの弾道ミサイル攻撃を認めていることである。イラン領土から1100キロも離れたネヴァティム空軍基地には、ガザへの大量虐殺攻撃に使用された米軍の最新鋭のF-35戦闘機が配備されており、空港と 3 本の滑走路があり、4月1日のダマスカスのイラン総領事館襲撃事件の発端はこの基地だったと伝えられている。タイムズ・オブ・イスラエルはネバティムが土曜日の攻撃の主な標的の1つであることを認め、さらに、ネタニヤフ首相の公式飛行機「シオンの翼」が標的にされるのを避けるため、攻撃の数時間前にネバティムから離陸したことまで示唆している。
イラン革命防衛隊のホセイン・サラミ長官は、イランのミサイルと無人機がイスラエルの防空網を回避し、イスラエルの重要な軍事施設2か所を破壊したと主張しており、実際の動画映像で確認できる事態なのである。映像は、イスラエルの2つの主要なイスラエル軍事基地、ネバティム空軍基地とラモン空軍基地を直撃するミサイル、弾薬の塊が基地上空に降り注ぐ様子を映し出している。サラミ長官は4/14、イスラエルに対する「トゥルー・プロミス作戦」のミサイルと無人機による集中攻撃は「予想以上に成功」し、飛翔体はイスラエルの強力な多層防空システムを突破できたと述べている。それを可能にさせたものとして、新型極超音速ミサイルを使用した可能性がある、と報じられている。

イスラエルのネタニヤフ政権がバイデン氏の言うことを聞き、何もしないだろうと本気で信じている人はほとんどいないであろう。米国をイランとの戦争に引きずり込もうとした張本人である。バイデン氏自身もその路線に同調・加担してきたのである。重要なことは、タイムズ・オブ・イスラエルが、イスラエル軍が今後数日で報復が続く可能性が高い対応を準備していると報じていることである。匿名のイスラエル高官も地元メディアに対し、イランに対する「前例のない対応」を準備していることを報じている。

しかし、決定的なのは、こうした世界大戦化へのエスカレートは、政治的経済的危機を一層激化させ、バイデン政権自身が再選など期待できない事態に追い込まれることであろう。市場では、ビットコインはジェットコースターのように暴落し、上下動に揺すぶられている。休日明けの市場も不安定な動きに見舞われることは間違いない。すでに原油価格が1バレル当たり、WTIが86ドルを超え、ブレントが90ドルを超えている。これが 戦火拡大のエスカレートにより、1 バレルあたり 100 ドルを超える、あるいは150ドルに達することなど、到底容認できない事態なのである。すでにこの3月の米消費者物価指数は予想よりも高騰し、前月比0.4%上昇(2023年8月以来の最高値に相当)と予想よりも大幅に上昇し、前年比では3.5%上昇 コア CPI も予想を上回って上昇し (前月比 0.4% 増)、前年比上昇率は 3.8% 上昇している。結果として、バイデン政権下で、消費者物価指数は、19%以上も上昇しているのである。
バイデン政権自身が執着し、推進してきた、ウクライナ戦争、イスラエル無条件支持のジェノサイド戦争、対ロシア・対中国の執拗な戦争挑発、緊張激化政策こそが、インフレを高進させてきたのである。その根本を緊張緩和と平和外交に転換しない限りは、直面している危機を回避できないのである。
(生駒 敬)

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【投稿】米・橋梁崩壊事故が示したもの--経済危機論(135)

<「まずはマースク社に報告を」>>
3/26、米・東海岸、メリーランド州・ボルチモア市の港湾にかかるフランシス・スコット・キー橋の崩壊事故が注目を浴びている。
この橋に衝突した輸送用コンテナ船ダリ号「DALI」は、コペンハーゲンに本社を置く世界最大の海運会社の一つであるマースク・ライン社がチャーターし、スリランカに向け、シンガポールに拠点を置く船舶管理会社シナジー・マリン・グループが運航し、インドから乗船した22人の外国人労働者が乗組んでいた、と言う。この高さ984フィートの貨物船がボルチモア港を出港する際に、船の乗組員は船が電源を失ったと当局に通報し、メリーランド州交通局警察がこの緊急警報によって通行禁止措置を取り、高速道路上で取り残された車を除いて、多くの車両が巻き込まれる事態はかろうじて回避されたのであった。
 ところが、この緊急警報は、この橋の保全・補修にあたっていたラテン系移民労働者には伝えられず、2 人は救われ、1 人は重篤な状態、6人が行方不明となり、死亡したと推定されている。 6人全員がメキシコ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス出身の、長年在米移民労働者として働いてきた建設労働者であることが確認されている。午後9時から午前5時までの、明らかに危険な環境で働いているこの移民労働者たちには、緊急連絡手段を持たされていなかったのである。彼らの中には、ミゲル・ルナという3人の子を持つエルサルバドル人の父親、マイノール・ヤシル・スアゾ・サンドバルという2人の子を持つホンジュラス人の父親、グアテマラ人男性2人、そして少なくとも1人のメキシコ人が含まれている(3/27放送のDemocracyNowによる)。米国の全労働者の18%はラテン系だが、職場での死亡事故の23%はラテン系で、非正規・移民労働者が不釣り合いに多いことが明らかになっている。今回の事故は、移民労働者によって支えられているアメリカ社会が、移民労働者に不当で過酷な労働条件を押し付けている政治・経済の実態を浮き彫りにしたわけである。

そして問題は、マースク社が「従業員に懸念事項を[沿岸警備隊]やその他の当局に報告する前に、まず[マースク社]に報告することを義務付ける方針」を持っていたこと、この方針を危険な労働環境を報告した従業員に対する報復として実施していたこと、が今回の事故勃発で明らかにされたことである。これに対して、労働省の管轄下にある労働安全衛生局の連邦規制当局が、この方針は「不快」であり、「従業員を(沿岸警備隊に)連絡する気を失わせるものであり、従業員の権利に対するひどい侵害」である、船員保護法に違反していると「信じるに足る合理的な理由」があるとして、船員が安全上の懸念について会社に通知する前に沿岸警備隊に連絡できるようにする方針を修正するよう要求していたことである。
さらにマースク社は、昨夏以来、米アラバマ州の港での労働争議をめぐり、マースク従業員を含む海事労働者6万5000人を代表する労働組合である国際港湾労働者協会と係争中である。
この世界最大のコンテナ輸送船団の一つであるマースク社は、2023年には510億ドル以上の収益を報告しおり、2021年以来、労働者補償のほか、港湾混雑やインフラ問題などの懸念事項について、米議会や連邦規制当局にロビー活動をするために270万ドルをつぎ込んでいる。年次報告書によると、同社は130カ国で事業を展開し、10万人の従業員を雇用、2023年12月の時点で、310隻の船を所有し、362隻をチャーターしており、今回の「DALI」はマースク社により定期チャーターされていたコンテナ船なのである。当然、「DALI」号はまずは[マースク社]に電源喪失を報告し、その指示を経てから後に、港湾当局や警備隊に報告する、事故対処がどんどん遅れ、最大事故にまで直結したであろうことは容易に推察できることである。

<<バイデン:電車や車で「何度も」渡った>>
今回の橋梁崩壊は、アメリカの政治・経済にとって軽視できない、問題をも突き付けている。
ボルチモア港は米国内最大の海運拠点の一つであり、乗用車とトラックの輸出入ともに米国トップの港であり、石炭輸出では第2位でもある。
そしてフランシス・スコット・キー橋は北東回廊を移動する上で不可欠な橋梁であった。この橋には毎日約 34,000 台の車両が通行し、トンネルを通行できない農業機器や建設機器など大型輸送にとって代替手段がないことである。ボルチモアは、中西部向けの大型農業および建設機械の重要な入口点として機能してきており、橋の崩壊により、トラクター、農業用コンバイン、ブルドーザー、大型トラックの輸送が中断され、農家や建設プロジェクトに多大な影響が及ぶことが必至である。ジョージア州やフロリダ州などの代替港への貨物ルートの変更も、距離が長くなり、貨物コスト上昇が見込まれる。とりわけ中西部では、作付けの最盛期を迎え、農作物の生産に影響を与える可能性、特に農業と建設部門における地域および全国規模のサプライチェーンに混乱と、価格上昇、インフレ高進の要因となる現実的危機が到来しているのである。

さらなる問題は、インフラの老朽化・劣化である。問題のフランシス・スコット・キー橋は耐用年数 50 年という技術的な終わりに近づいていたのであり、不断の補修と保全が不可欠であった。建設業界団体は、米国の橋の7.4%(6万本以上)が「劣悪な」状態か「構造的に欠陥がある」、あるいはその両方であると指摘している。インフラの老朽化は橋梁に限らない。米国内の崩れかけた道路や空港の滑走路、100年を経過した鉄道や大都市の地下鉄システム、アスベスト抱え込んだ校舎や住宅、漏水や鉛で覆われた水道管、等々、インフラの老朽化対策は、それこそ喫緊の課題であり、大災害と表裏一体である。

もちろん、日本のインフラ老齢化もアメリカに負けず劣らずである。建設後50年を経過した橋梁は、2028年時点で50%にも上り、通行規制のかかる橋梁は9年で約3倍に増加しており、2022/3月時点で「早期に補修が必要」「緊急に補修が必要」と判断されながら、補修が行われていない橋やトンネルは全国であわせて3万3390か所のも及んでいる。

バイデン大統領は3/26、フランシス・スコット・キー橋の再建費用を連邦政府が全額負担すると約束した。 しかし、言うは易し、行うは難し、である。橋の再建のスケジュールと金額は不明であり、相当長期の期間を要することだけは明らかである。
ところが、バイデン氏はこの発言をした際に、フランシス・スコット・キー橋には鉄道が通っていないにもかかわらず、電車や車で「何度も」渡ったと語ってしまった。記者会見で、「私がデラウェア州から電車や車で旅行す

 

る際に何度も通

過した橋だ」と語ったのである。この橋には鉄道が敷設されたことはなく、1970 年代初頭に建設されて以来、道路としてのみ使用されてきたのである。ホワイトハウス当局者はあわてて、「大統領はデラウェア州とワシントンDC間を移動中、車を運転して橋を通過したと説明していた」と釈明している。またしても、バイデン氏の認知機能の劣化が現れたのであろうか。

「利下げ決定はリスクを伴う」
3/29、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、サンフランシスコで開かれたイベントで発言し、「利下げという重要な一歩を踏み出す前に、インフレ(物価上昇)率の低下についてもう少し確信を深めるための時間を確保できる」と説明。利下げ決定はリスクを伴うとの認識を示し、インフレ率の鈍化が続くかどうかは、「経済指標が教えてくれるのを待つしかない」と述べている。明らかに、今回の橋梁崩壊事故、それに伴う物価高騰、インフレ懸念を払しょくできないことが影響したのであろう。

問題は、バイデン政権の世界的な緊張激化政策、対ロシア・対中国戦争挑発政策、イスラエルのジェノサイド政策への加担、軍需経済依存こそが、インフレ高進要因であることを認識できていない、あるいはあえて無視していることが問われるべきなのである。
日米金利差の縮小を期待していた岸田政権や日銀にとっては期待外れとなり、円安・ドル高基調を利用して荒稼ぎをする金融資本の円キャリートレードのマネーゲームの横行が続行する事態を放置しているのである。実体経済と無縁で、むしろ実体経済にマイナス要因となる円安放置政策、そしてバイデン政権への追随政策、それ自体が、インフレ要因を加速させるものでしかない。
世界的な緊張緩和への全面的政策転換こそが要請されているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】日銀の「異次元緩和」解除と巨大な副作用

【投稿】日銀の「異次元緩和」解除と巨大な副作用

                              福井 杉本達也

1 異次元緩和の罪は万死に価する

日銀は3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を含む大規模緩和の解除を決定した。と同時に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール:YCC) の撤廃と上場投資信託(ETF)などリスク資産の新規買い入れの終了も決めた(日経:2024.3.20)。

立憲民主党の小沢一郎氏は、「日銀が大規模緩和解除へ、19日決定 長短金利操作も撤廃 自民党とその手先の日銀の敗北宣言。この11年の異次元緩和は、物価高・実質賃金下落で国民を苦しめ、日本の格差と貧困を拡大させただけ。残されたのは巨大な副作用の爆弾。その罪は万死に価する。取り返しがつかない」(小沢一郎X:2024.3.19)。「異次元緩和が行き詰まり、終了を発表したのに円安が加速。二進も三進も行かないことを市場は見透かしている。11年も異様な低金利を続けたために経済も家計も今や少しの金利上昇にも耐えられないほど衰退・弱体化した。結局、今後も物価高が続く。まず、異次元緩和に関する自民党と日銀の謝罪が不可欠。」(小沢一郎X:2024.3.21)とツイートした。

日銀の政策転換は遅すぎた。少なくとも、前黒田東彦日銀総裁が辞めた1年前に異次元緩和をやめるべきだった。日銀総裁は財務省官僚や日銀官僚の「上がり」のポストである。しかし、官僚は誰も手を挙げなかった。そこで、仕方なく学者である植田和男氏が説得された。その後も異次元緩和はつづけられ、円安が止まらず輸入物価が上昇、国民は2年もインフレに喘いでいる。植田日銀は本当は政策転換をしたかったようだが、政府と米金融資本から圧力をかけられ政策転換できなかった。

2 日銀による異次元緩和とは

日銀は2013年からの8年で500兆円の国債を買い、銀行・生保・政府系金融の当座預金に、大量の円の現金を供給し、その当座預金の増加分の58%をドル証券や預金として米国に貸し付け、ドル買い=円売りを行って円安にした。円は過小評価され、ゼロ金利の日本が約5%の金利があるドル債を買っているためドルが過大評価されてきた。米国は、アフガニスタンやイラク、シリアやウクライナ・ガザなど世界各地で戦争の火をつけ廻り、軍事費の負担に喘ぎ、ついに、ウクライナ支援を諦めた。バイデン政権はウクライナ戦争の張本人であるヴィクトリア・ヌーランド国務副長官の首を切った。その瀕死の米国の財政赤字を補填しているのが唯一日本である。日本の政治家と官僚は米国金融資本の指示に忠実にゼロ金利政策を続けた。米ドルと4%程度の金利差があれば、為替変動リスクを考慮しても銀行や生損保がドルを買うに決まっている。

3 上場投資信託(ETF)を買い支えるというばかげた政策

日経平均株価が4万円を突破したが、市民には好景気の実感はない。日銀はETFを簿価で37兆円分、時価ベースで67兆円も保有し、事実上、日本株の最大の株主になってしまった。日銀は10年以上にわたりETFを買い続け、事実上、株価を下支えしてきた。事実、日銀の拡大後の買い入れ枠の規模は、アベノミクス始動直後の2012年12月~2013年4月、日経平均株価を9000円台から1万4000円まで一気に引き上げた。ETFとは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数に連動する運用成果を目指し、個別株と同様に市場で売買できる投資信託である。日銀の購入によってFTFの市場価格が上昇すると、ETF構成銘柄の現物株との間に価格差が生じる。すると、相対的に割安となった現物株に買い注文が入り、現物株も値上がりするというもでである。しかし、日銀という中央銀行が株価を下支えするなどということは他の諸国の中央銀行では考えられない。賭場に国家資金をつぎ込む行為である。、いずれ日銀は「売却」というアクションを起こす必要がある。そのとき、株価には、大きな下押し圧力がかかる。株価が暴落しないように売却することは簡単ではない。2023年には日銀は株式の売り手に転じたもようである(日経:2024.1.9)。

 

4 日銀の国債の大量買入れで、国家財政は政治家の財布のように

日銀が国債を大量に買い入れることで、財政規律は低下し、政治家によるバラマキが大きくなっている。オリンピックや万博の名のもとに、大きな金を動かし、その中間マージンを政治家やIOCなどの主催者、政府と親しい企業が「抜く」ことで財政効率が極端に悪くなっている。まるで政治家の財布のようにバラ撒かれている。

さらに財政規律を緩めたのがゼロ金利政策、YCCである。通常、政府が財政赤字を拡大し、国債を大量発行すれば、債券市場では国債の需給悪化を読んで長期金利が上昇する。今のようなインフレになれば長期金利は3%程度になっていてもおかしくない。それが財政規律への圧力となる。ところが、日銀が国債の過半を買い上げ、国債需給が実態を反映しないのだから、財政悪化のシグナルは発せられない。政治家からは金利コストが低いうちに国債を大量発行してでも歳出を拡大しろとの声ばかりが大きくなる。

「果てしなく膨張しているのが『補助金』である。巨大な『補助金』がばらまかれている。『補助金』を受領した企業は与党に献金する。裏金も渡しているだろう。『補助金』を配分する官庁は補助金を受領した企業から『天下り』を受ける。『政』・『官』・『業』が『補助金』・『献金・裏金』・『天下り』で三位一体の関係を築いている。…文部科学省のロケット補助金が556億円計上されている。…『市場経済』、『市場原理』を主張する者が政府から補助金を受領するのはおかしいだろう。トヨタがリチウム電池を開発するのに、なぜ政府が1300億円もの補助金を投入するのか。…日本の財政運営は『補助金』で膨張の限りを尽くしている。」と植草一秀氏は書いている(「知られざる真実」2024.3.22)。

例えば、コロナ禍で売上が極端に落ちて1/2以下になった企業に対し持続化給付金という制度が設けられた。国はその業務を竹中平蔵が会長を務めるパソナという会社に委託した。当然、委託業務であるから業務の運営はパソナがしなければならない。ところが、パソナは説明会の場所だけを設定し、受付のアルバイトを雇うだけで、実務を全く行わない。売上が落ちたことを説明する資料の作り方を解説するのは経産省の役人である。もちろん、パソナには決算書を読める人材などは一人もいない。業務を行う能力など全くない。全くの中抜き業務が行われた。さらに、それに輪をかけたのが近畿日本ツーリストである。コロナ・コールセンター委託業務のアルバイト人数のごまかしが発覚した。これが、現在の国の委託業務の実態である。「ブルシット・ジョブ」という言葉がはやったが、それ以上のいらない業務である。極めつけは、女性問題で親子会社社長が3人も辞任したENEOSである。事実上ENEOSと出光の2社の独占状態にあるが、そこに6兆円を超えるガソリン補助金をじゃぶじゃぶと注ぎ込んだ。ENEOSは3400億円、出光は1400億円の営業利益である。補助金がお上から降って来るような経営では社長は何も考えることはない。しかし、円安を放置したまま個別の物価対策を講じても、巨大な財政赤字は膨らむ一方で、効果はない。日本が、これまで長期にわたり円安政策をとってきた結果である。

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【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用

【投稿】米国のTikTok規制法案とSNSの利用

                    福井 杉本達也

1 米国のTikTok規制法案

「米連邦議会下院は13日、中国発の動画共有アプリ『TikTok(ティックトック)』の米国内の利用禁止につながる法案を本会議で可決した。中国などの『敵対国』が影響力を及ぼすアプリを規制対象にする。…米議会と政府は中国による世論操作や米国人の個人情報流出といった安全保障の脅威があるとみている。」(日経:2024.3.15)。TikTokから定期的にニュースを受信している米国人は14%、月間利用者は1億7000万人といわれる。しかし、米国が本当に危惧するものは「安全保障」であろうか。南カリフォルニア大学などのアプリ別「幸せ」分析調査によると、経済状況や社会生活への満足度が高いユーザーを多く抱えるのがビジネスパーソン特化型のLinkedlnであり、Facebook やInstagramは中間、X(旧Twitter)はどちらかというと不満、TikTokは仕事や日常生活に不満を抱えるユーザーが多いという結果となっている(日経:2024.3.1)。その不満が国家に向かうことを恐れているということである。また、経済的には、コメディアンのRonny Chiengが、Banning #TikTok means “Communist China beat free market America at capitalism.” (共産主義中国が資本主義において自由市場アメリカを破ったことを意味する。)と皮肉ったように、“自由の国”米国は競争で負けそうになったら、「情報リーク」や「バックドア」などと全く未確認のデマでセキュリティ危機を煽り、「国家安全問題」を持ち出す。

2 メディア論

新聞やテレビなどのマスコミは、「事実をどう正確に伝えるか」に関心はない。編集局による「編集」がされたものが流される。編集局の方針に都合が悪い事実は、小さく扱かわれるか、無視される。たとえば、日経新聞の政治面:4面の最下欄には「無視」したいが「無視」できない言い訳記事が並ぶ。たとえば「安倍派幹部発言『無責任』と批判 公明幹事長」といった一段見出し記事である(2024.3.16)。一応書いておいたぞ、与党よりだと後ろ指を指されないように、という意味である。我々も写真において、ある風景を写すが、360度の風景が写真1枚におさまるわけがない。ある時間のある方角の特定の一部のみが写真の額縁に写される。そこでは既に写真家の編集がなされている。残った風景の全ては切り捨てられる。1枚の写真は事実ではあるが、事実ではない。無限の情報から、ある部分を、意図的に切り取って、評価し脚色されて流される。SNS は、切り取った写真・動画と短い文書で、真実だとして、我々のスマホに毎分・毎秒、膨大に流され続ける。

3 SNSとアルゴリズム

フェイスブック(現・メタ)の内部告発者フランシス・ホーゲン氏は、フェイスブックのアルゴリズムが偏っていると指摘した。アルゴリズムとは、「コンピューターが膨大なデータをもとに問題を解いたり、目標を達成したりするための計算手順や処理手順」である。このアルゴリズムがどう使われているか。例えば、FTのコラムニスト:ラナ・フォルーハーは、米住宅市場におけるアルゴリズムを使った談合について、「家主らは家賃を最大化するソフトウエアの活用をどんどん進め、全米の何千万にも上るアパートの家賃を通常の市況で想定される価格より高い水準に設定、維持している」と書いている。MetaやGoogleといった「プラットフォーマーと呼ばれる大手テック各社は、ダイナミックプライシングからリアルタイム・オークション、データ追跡、広告の優先表示まで合め、監視資本圭藷のトリックともいえるあらゆる手法を開発し、完成させてきた」。また、アマゾン・ドット・コムは同社が「高い価格を設定しても競合の通販サイトが追随してくる場合は販売価格を引き上げるアルゴリズムを使って様々な商品の相場を意図的に高くし」不当な利益を上げていた(日経=FT:2024.3.15)と指摘している。アルゴリズムは、公開されないブラック・ボックスである。どのように「編集」するかはテック企業の手中にある。

 

4 フェイスブックは監視システムであるースノーデン

2013年6月、米CIA職員のエドワード・スノーデン氏の内部告発により、米国家安全保障局(NSA)がIT技術を駆使して国家的な個人情報収集を行っているという実態が明らかとなった。当時、「極秘個人情報収集プログラムXKSにより、ネット上のあらゆる個人情報を最も広範に収集でき、メールの文面なども閲覧できる」(朝日:2013.8.2)と報道された。10年前に既に、監視機関はフェイスブックなどのインタ―ネット企業にアクセスし、情報を得ており、技術力、規模、権力などが非常に強い企業から物理的な協力を得ることで、監視が可能となっていると告発していた(『世界』2014.10「国家が仕掛ける情報収集の網」デイヴィッド・ライアン×田島泰彦)。それから10年、巨大プラットフォーム企業の情報収集能力は格段に強力になった。スノーデンは「フェイスブックは監視システムであり、ソーシャルネットワークの名のもとに人を欺いている」と発言している。

テスラCEOのイーロン・マスク氏は、旧Twitter(Xに改名)を買収し、それを言論の自由の砦にしようとしたことで、彼と彼のすべてのビジネスが政府とその検閲同盟国による絶え間ない攻撃の標的になったと主張している。旧Twitterは、2020年の米国大統領選挙でバイデン氏の家族がウクライナと中国で影響力を行使したとされる爆弾報道を検閲し、バイデン氏の勝利に貢献した(RT:2024.2.17)。日経新聞2月27日付け社説は「SNS運営企業は大規模なリストラで投稿を監視する体制を縮小したが、人員の拡充やを利用した対策の強化が急務だ」と主張するが、ブラック・ボックスのアルゴリズムは人手を借りずに自動的に検閲しているのではない。膨大な人員を投入して、政権や金融資本に不利な情報をチェックしてはじめて機能するものである。3月7日付けの日経新聞は「米企業の経営者が自社株の売りを増やしている。今年に入り、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーパーグ最高経営責任者(CEO)やアマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス会長などが相次いで大規模に売却した」と報じた。アルゴリズムを駆使して株価を最高値にまで吊り上げ、最高値で売り抜けるのは簡単である。トランプ氏はフェイスブックを「真の国民の敵」と批判した。理由として、TikTokを禁止すればフェイスブックを利すると主張している(CNN 2024.3.12)。

5 「忘れられた内戦」でSNSを武器とするイエメン(フーシ派)

大手テック企業のSNSは国家による監視システムの一部であるが、SNSを弱者の武器として使う動きも活発である。例えば、我々は、これまでイエメンという中東の”片田舎“で何が起こっているのかほとんど情報はなかった。そもそも、イエメンが世界のどこにあるかも知らなかった(モカ・コーヒーは有名であるが)。国際社会の関心が薄いことから「忘れられた内戦」ともいわれた。日本のマスメディアだけでなく、欧米を含む全てのメディアは完全に無視していた。そこでは、米英を後ろ盾としたサウジ・UAE軍がイエメンの内戦に介入・経済制裁を課し、イエメン国土の多くを占領し、空爆、大虐殺を行い、国民の3分の1以上にあたる1千万人近くが飢餓の状況にあるといわれる。今、そのイエメンがパレスチナ支援で国際的に注目を浴びている。紅海・アデン湾を航行しイスラエルに物資を運ぶイスラエル・米英船舶に対しミサイル攻撃を行い、事実上、空母を含む米英の艦隊は歯が立たないのである。イエメンは米英船舶への攻撃を、SNSを通じて配信している(日経:2023.12.23 「紅海襲撃、輸送能力 2割減、迂回で滞留時間大幅増」)。米欧支配層はSNSの完全支配はできないのである。そうした延長線上にTokTokの問題がある。

韓国主催でオンラインで行われている「第3回民主主義サミット」において、尹錫悦大統領は「偽情報が国民が誤った判断を下すよう扇動し、選挙を脅かす」と指摘した。4月の総選挙に向け偽動画が拡散しており、TikTokなどのSNSで流布されていると非難した(日経:2024.3.21)。

2月28日の日経新聞に、「岸田文雄首相は27日、米メタのマーク・ザッカーパグ最高経営責任者(CEO)と首相官邸で30分ほど面会した。人工知能(AI)を巡って意見交換した」との囲み記事があった。「首相はザッカーパーグ氏に選挙とAIをめぐる問題や、日本のAIの活用状況についての見方を質問した」と書いているが、どう世論操作をするかということであろう。

 

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【投稿】武器輸出の行き着く先

手始めはパトリオット

自民公明両党は、3月15日に与党ワーキングチームの提言を踏まえ「防衛装備移転三原則」の改訂に合意し、武器輸出に大きく踏み出した。
既に昨年末、第一弾としてパトリオットミサイルの対米輸出が決定しているが、ウクライナでは同ミサイル2セットが、3月初旬にロシアに初めて撃破された。
ウクライナは同ミサイルシステムを3セット(供与国はドイツ2,アメリカ1)しか保持しておらず、予備の発射機も4器(ドイツ2,オランダ2)しかない。
日本では北朝鮮の弾道弾対処として、同ミサイルを東京の中心部である市ヶ谷に展開する光景がお馴染みだが、この間ウクライナは、これまで専ら拠点防空用として運用されてきたパトリオットを前線近くに配備し、ロシア軍機を撃墜してきた。
しかしこうした大胆な戦術の代償も大きいものとなった。事態は急を要するものとなっており、今後日本からの追加輸出、さらにアメリカ議会、大統領選の状況によっては、事実上の無償提供も求められよう。

次世代戦闘機の夢

今回パトリオットに続き輸出が解禁されたのが次世代戦闘機である。これは日、英、伊3カ国による国際共同計画「グローバル戦闘航空プログラム」(GCAP)で開発されることとなっている。
戦闘機が完成すれば、第3国、具体的には装備品協定を結んでいる米、英、仏、独、伊、豪、印、比、越、秦など15カ国への輸出がもくろまれている。これらは現時点で紛争当事国ではないが、戦闘機を購入後に武力衝突が発生した場合、どうなるのか等、疑念が山積しているが、それ以前に開発が計画通りに進むかどうか分からないのである。
ヨーロッパでは仏、独、西、白が参画するもう一つの将来戦闘機開発計画「未来戦闘航空システム」(FCAS)が存在しており、以前から関係各国や航空産業から様々な提起がされている。
要は、欧州で同じものを同時に進めるのは、時間と経費のロスだからFCASとGCAPを統合せよ、という意見である。
元々、国際共同開発は先端技術の統合と各国の負担を軽減するという観点から推進されているものだから、「全欧州将来戦闘機」は極めて合理的である。

露宇戦争の影

さらに、露宇戦争の長期化でNATOは拡大するものの、その戦略の見直しは必至である。中でも想像以上の装備の損耗に対応するためには武器、弾薬の一層の共通化が求められよう。
冷戦期においても、欧米では兵器の共同開発が推進されたが戦車や水上戦闘艦では頓挫し、戦闘機も欧州では3種類の異なる機体が導入された。皮肉にも冷戦下の落ち着いた環境ではそれが許されたが、熱戦の時代ではそうした余裕はますます狭められている。
ウクライナでは、過去中東の砂漠でエイブラムス戦車がT72系列の戦車を圧倒したような光景は見られていない。
現在の情勢は欧州対ロシアという共通基盤での装備開発を一層後押しするだろう。イギリスは、安全保障においては欧州随一の反ロシアであるから、今後GCAPからの離脱も考えられる。
日本はF2戦闘機開発時にアメリカから煮え湯を飲まされた経緯から、アメリカにはことわりを入れた上、技術移転に寛容なイギリスをパートナーに選んだといわれている。しかし世界が驚くEU離脱を行った国を無条件に信頼するのは脳天気に過ぎるというものであろう。
そもそも日、英では仮想敵国が異なるわけであり、技術面からも用兵側の要求を満たすのには難航が予想される。

対中戦回帰へ

そうした場合、日本にとって共通する仮想敵、地理的条件、対等な関係など、共同開発の条件を備えるのは台湾、もしくは豪州しかないのである。豪州とは「円滑化協定」を結び、既に日本は装甲車を輸入、日本からの潜水艦の輸出はならなかったが、豪は現在「もがみ」型護衛艦の導入に関心を寄せていることから、共同開発も含めた軍事協力は今後も進むであろう。
問題は台湾であり、中国が台湾回収に踏み出せば、日本は何らかの形で介入する可能性が高まっている。昨年政府は台北に防衛省職員を配置し関係の緊密化を図っており、台湾有事を見据えた体制を作りつつある。
具体的な軍事協力については進められていないが、武器輸出、軍事協力のハードルが加速度的に下げられつつあるなか、今秋明らかになるであろう日米の次期政権の対応を厳しく監視していかなければならない。(大阪O)

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【投稿】バイデン氏の焦りと動揺--経済危機論(134)

<<「もしトラ」から「ほぼトラ」>>
11月の米大統領選で再選を目指すバイデン氏、3/7の一般教書演説でトランプ前大統領との対決姿勢を鮮明にし、トランプ氏が民主主義を脅かし、ロシアに屈していると非難、「今が平時でないことについて、議会に目を覚まさせて米国民に警告を発するのが私の目的だ」と述べ、自らの対ロシア・対中国緊張激化政策を、より鮮明に打ち出した。
しかし、この路線は、トランプ氏が前回大統領に就任するや明確に打ち出し、切り開いた路線でもある。バイデン氏は、前回大統領選での公約を反故にし、このトランプ路線を継承、より拡大してきたのだとも言えよう。
各種世論調査では、このバイデン路線の不人気が続き、今年に入っても、米ABCニュースの世論調査では、バイデン氏の支持率は33%で歴代政権で最低水準を記録している。トランプ再選の「もしトラ」から「ほぼトラ」が現実視され始め、ことごとくトランプ氏の優勢が示されてきたのである。
バイデン氏は焦りと動揺から、これまでの超党派合意路線、お得意でもあり、本質でもある共和党に媚びを売る路線から、表面上の反転攻勢・対決姿勢に転じたわけである。トランプ路線との違いを明確にするため、現在15%となっている法人税の最低税率について21%に引き上げる、所得税についても富裕層の最低税率を25%に引き上げる、などを打ち出した。イスラエルのネタニヤフ政権のジェノサイド・虐殺政策についても、それを容認しつつも、「人道支援」拡大政策として、ガザ地区に「暫定」港を建設すると発表。
そのおかげか、3/14のロイター/イプソスの最新世論調査によると、バイデン大統領が支持率でトランプ前大統領をわずか1%ながら、リードしている。しかし、バイデン氏が前回挽回した、当選者が入れ替わる激戦州7州では、逆にトランプ氏の支持率が40%と、バイデン氏の37%をリード、逆転している。このままなら、「ほぼトラ」の現実がいまだ優勢なのである。米紙ニューヨーク・タイムズは、トランプ氏を「好ましい」と答えた人は43%から44%と微増で、「トランプ氏は4年前と同様に不人気だが、それを下回るほど今のバイデン氏は不人気だ」と同紙は報じている。

バイデン氏の路線の「不人気」の根本原因は、前回当選したバイデン氏の「大統領になったとしても、誰も生活水準は変わらないし、根本的には何も変わらない」と公約した路線そのものにあると言えよう。順不同に列挙するなら、
・気候変動推進派の大統領であると主張しながら、石油とガスの掘削をエスカレートさせることに署名、推進。
・「米国史上最も労働者寄りの大統領」を装いながら、鉄道労働者のストライキを妨害・破棄させ、重要な労働法改革を進めなかった。
・米国のすべての州で女性の中絶する権利を保護し推進するために、大統領権限の行使に踏み切らなかった。
・黒人有権者の偉大な友人を装いながら、黒人の公民権と平等のために真剣かつ具体的な行動には踏み切らなかった。
・民主主義と平和を守ると主張しながら、緊張激化を煽るばかりで、緊張緩和政策には見向きもしなかった。
・イスラエルの大量虐殺的な民族浄化計画を公然と受け入れ、資金提供し、膨大な軍事援助で、「ジェノサイド・ジョー」と呼ばれる事態にまで至っている。

<<勝てるはずのないトランプ氏>>
一方のトランプ氏、前回敗退して以降、選挙戦結果そのものを覆そうとする、常軌を逸した行動、反民主的な発言、暴力的な同調者の赦免、敵対者に対する脅迫がより過激になっている。共和党は、トランプ氏に取り込まれ、白人対非白人、中絶など女性の権利の否定、富と所得の上方への極端な再分配、経済的および社会的分断をますます敵対的かつ不安定なものに助長させ、ファシズム化が進行しつつある。これでは、圧倒的多数の有権者を離反させるだけであり、とりわけ若い有権者はトランプ氏を見放しつつある。トランプ氏が当選した2016 年から 2024 年の選挙の間に、約 2,000 万人の高齢有権者が死亡し、約 3,200 万人の若いアメリカ人が投票年齢に達する。女性の権利、民主主義、環境など、いわゆるZ世代にとって最も重要な問題は、トランプ氏とは無縁、むしろ敵対的であり、前回より、今回の方が、客観的にはトランプ氏は不利であり、勝てるはずがないのである。共和党予備選挙有権者の約41%は、もし彼が起訴されている犯罪で有罪判決を受けた場合、11月には彼を支持しないだろうと述べている。
しかし、それでもバイデン氏は圧倒的優勢を獲得しえていない。若い有権者は、バイデン氏をも見放しつつある。「ジェノサイド・ジョー」という若い有権者の批判に端的に表れている。
イスラエルの大虐殺政策については、トランプ氏は、「イスラエルがテロ組織ハマスを打倒し、解体し、永久に破壊することを全面的に支持する」と発言し、ハマスがイスラエルを攻撃したのはバイデン氏が弱体化したためだったと主張、3/5のFOXニュースのコーナーでは、「問題を終わらせろ」とパレスチナ人に対する虐殺を奨励さえしている。
問題は、このイスラエル、ガザに対するトランプ氏の立場がバイデンの立場と何ら変わらないことにある。トランプ氏もバイデン氏も、イスラエルが「テロ組織ハマスを打倒し、解体し、永久に破壊する」という目標に同意しているのである。
 バイデン陣営は、トランプ氏と差別化を図るため、あるいは焦りと動揺から、イスラエル・ネタニヤフ政権への批判を公然化し始めている。
3/14、チャック・シューマー上院院内総務(民主党、ニューヨーク州)は、ネタニヤフ首相の辞任と政権の解散を求め、ネタニヤフ首相が「道に迷った」とし、「ガザでの民間人の犠牲を容認する姿勢が強すぎる」と述べ、「和平への大きな障害は、ネタニヤフ首相だ。もはやイスラエルのニーズに適合しない」と述べた。そしてこの発言を、バイデン氏は「良い」発言だと持ち上げている。シューマー氏は、自身を「イスラエルの生涯の支持者」と公言しており、バイデン氏も同様である。発言はここまでであって、翌日にはバイデン政権は膨大な軍事支援、武器弾薬の輸送を実行している。バイデン氏とトランプ氏の実態は変わってはいないのである。ただし、それぞれの矛盾が激化していることは見逃せないであろう。

<<バイデノミクスの悲惨な実態>>
バイデン氏にとって支持率が上がらない、決定的な原因は、バイデノミクスの悲惨な実態にあると言えよう。
最新の消費者物価指数(CPI)は、容赦ない生活費の上昇の厳しい現実を明らかにしている。 総合CPIは毎月0.4%上昇しており、年率に換算すると4.8%、2%のインフレ目標など絵空事である。バイデン政権の過去 3 年間、生活必需品セクター全体で価格が高騰しており、医療費は5.8%急増し、住宅価格は32.5%も上昇し、アパレルは9.8%という驚異的な増加となっている。 賃金上昇は追い付かず、実質賃金は減少している。バイデン大統領就任以来、消費者物価が19%上昇し、食料品価格が21%上昇する中、バイデンノミクスへの厳しい批判が、バイデン不支持と結びついているわけである。
 そしてインフレはいまだ収まる気配を見せてはいない。3/14、国際エネルギー機関(IEA)は、今年の石油需要が前月の日量120万バレルから日量130万バレル増加すると予想していると発表し、紅海でのフーシ派の攻撃による海上輸送の混乱により、1バレル当たり81ドル以上で取引され ブレント原油価格が1バレル=85ドルを超えている。つまりは、バイデン政権の中東戦争政策が、インフレを助長させているわけである。ガソリンは現在3.44ドルで取引されており、10月以来の高値で、卸売ガソリン価格は小売ガソリンの大幅な高騰が差し迫っていることを示唆している。
ハーバード大学共同住宅研究センターによると、2023年1月には約65万3,100人が家なしで暮らしていると報告されており、これは前年同時期から約12パーセント増加し、単年の増加としては過去最大となった。 全体として、ホームレスは 2015 年以来 48% 増加。国勢調査局の最新のパルス世帯調査によると、テナントの推定37パーセントが、今後2カ月以内に退去させられる可能性が非常に高い、あるいはある程度あると回答している。 調査対象となった世帯の大多数が過去1年間に家賃の値上がりを報告しており、データは明らかに何百万人もの人々が家賃値上げにより家を失うことを心配していることを示唆している。

バイデン氏は、先の一般教書演説で「我が国の経済は世界の羨望の的だ」と示唆したが、とんでもない実態である。米国の国債はバイデン政権下ですでに34兆5000億ドル近くまで膨れ上がり、2021年1月の大統領就任時の約27兆8000億ドルから増加し、 2月だけで国家債務は2,960億ドル増加し、同月に政府が受け入れた総額2,710億ドルを上回る事態である。連邦政府の債務は 2023 年第 4 四半期に 8,000 億ドル以上増加し、これは GDP 成長率の 2 倍以上に相当している。
米中銀・FRBが物価抑制のために利上げを開始してからすでに2年が経過、クレジットカードや自動車ローンの延滞率はここ10年以上で最高となり、記録上初めて、これらの債務やその他の住宅ローン以外の債務に対する利払いが、米国の家計にとって住宅ローンの利払いと同じくらい大きな経済的負担となっている。今や、クレジットカード金

利が過去最高の22%に上昇しているため、債務負担の増加はさらに悪化している。

リアルクリア・ポリティクスの世論調査の平均によれば、バイデンの経済政策を支持する人はわずか40%である。ブルームバーグとモーニング・コンサルトが2月に実施した世論調査でも、激戦州の有権者は金利と個人債務に関してバイデンよりもトランプ大統領を信頼していると回答した。

このようなバイデノミクスの悲惨な実態こそが、現在の政治的経済的危機を端的に象徴しているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】自然を無視した原発に場所はない―志賀原発の地震被害の公開

【投稿】自然を無視した原発に場所はない―志賀原発の地震被害の公開

                             福井 杉本達也

1 地震後2か月以上も経過して、ようやく志賀原発を公開

北陸電力は能登半島地震から2か月以上も経過した3月7日、志賀原発の敷地内を、初めてマスコミに公開した。東京新聞は「激しい揺れで変圧器の配管が壊れて油漏れを起こし、外部電源の一部から電気を受けられない状況が続いている。完全復旧の見通しは立っていない。」と報道した(東京:2024.3.7)。「公開までに地震発生から2カ月以上かかったことについて、中田睦洋・原子力部長は『余震リスクがあり、町内のインフラ復旧が滞っていたため、安全面に配慮した』」と屁理屈を述べたが(同上)、「能登半島地震直後の情報発信を巡っては、一度発表した情報を訂正するケースが何度かあった。7日の公開後に報道陣の質問に答えた中田部長は『会社を挙げて問題点を洗い出している』」と答えたが(日経北陸版:2024.3.8)、当然ながら、「問題点」が多すぎて、とてもマスコミには公開できない「現場」を抱えているからである。新聞の行間からは、地震後何カ月も放置しておくこともできず、きわめて苦しいマスコミ対応をせざるを得なかったことが読み取れる。

2 外部電源の喪失

同上の3月8日付けの日経新聞は「主変圧器は外部電源の受電のほか、発電した電力を外部に送るために必要な装置。主変圧器が使えなくなっていることから、3系統ある外部電源のうち1系統の受電ができない状態にある。」と書いている。また、福井新聞は北陸電力の話として、「復旧の見通しは立っていない。…『最大の課題。何か手はないか一生懸命検討している』と述べた。」と書いている(福井:2024.3.8)。現状はお手上げの状態であることを暴露した。万が一、志賀原発が稼働状態で外部電源が喪失していたならば、たとえ制御棒が挿入されていようが、原子炉の冷却ができず、福島第一原発のように核燃料の崩壊熱で爆発していたことは明らかであり、能登半島のみならず、日本壊滅の恐れがあった。そもそも、震度7で制御棒がまともに挿入されるかどうかも疑問である。それは圧力容器内の広島型原爆1000発分の放射能が大気中にばらまかれるということであり、世界の終わりである。

 

3 変圧器に焦げ

同じく、日経新聞は「2月29日に実施した内部点検では、変圧器内部にカーボンが付着していることが発覚した。変圧器の内部は絶縁状態を維持する必要があるが、カーボンの影響で本来の機能が損なわれている。現在、修復の方法を検討しているという。」との記述がある。カーボンが付着しているということは、変圧器のどこかで発火した可能性が高い。

地震直後の1月2日、鳩山由紀夫氏はX(旧Twitter)に「気になるのは志賀原発で、爆発音がして変圧器の配管が破損して3500ℓの油が漏れて火災が起きた。それでも大きな異常なしと言えるのか。被害を過小に言うのは原発を再稼働させたいからだろう。」とツイートした。これに対し、「志賀原発で火災が起きていたというのは誤報です」、「大規模災害直後には様々な誤報が出やすくなります。第一報だけでなく、継続的な事実確認が必要です。」「何故、素直に誤報を拡散した事を認められない・謝れないのですか?」と、原発推進派がすさまじい攻撃をかけた。国民民主党の玉木雄一郎代表もすかさず反応。「最初に変圧器から油が大量に漏れたのでそれを『焦げ臭い』と作業員が認識し、…その後、北陸電力が詳しく調べたら、油漏れだけで発火の事実はなかったことが確認」されたと攻撃した(東スポ:2024.1.5)。その後も、鳩山氏への攻撃は続き、小倉健一氏は、「鳩山元首相を含め、原発については『事実をよく確認せず、適当に不安をあおったままほったらかす』ということが許されてしまっているようだ。鳩山元首相に至っては、北陸電力の訂正後に『火災が起きた』とX(旧Twitter)に投稿。長男である国民民主党の鳩山紀一郎氏から撤回を求められるも『

火災がないに越したことはないが、作業員が何を火災と間違えたのか。では火もないのに消火済みとは?怪しさは消えず』という投稿を重ねたことで批判が集まっている。」と書く(『ダイヤモンド・オンライン』:2024.1.129)。原発推進側にとって、変圧器の火災はよほどぐわいが悪いのであろう。今回の変圧器のカーボンは「火災」の一部を明らかにするものである。

4 原発地盤面の変動は?

同上の東京新聞は「1号機原子炉建屋脇の地面に数センチの段差が生じていた。」と書いているが、建屋が変形したかどうかは明らかではない。能登半島では、今回の地震で能登半島北西部で最大4mの地盤面の隆起が起こっており、志賀原発では地盤面の変動はなかったのか、あるいは大きな変形が起こっているのか、マスコミへの公開では明らかになっていない。今回の地震では変動がなかったとしても、そのような変動のある地域に原発があること自体大問題である。原発は一瞬にして破壊される。核がひとたび暴走をはじめれば人間によるコントロールを回復することはできない。日本には原発を立地できるような安定した地盤はどこにもない。自然への畏怖の念を回復し、早急に全ての原発を廃炉にすべきである。

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【投稿】株価最高値更新の虚実--経済危機論(133)

<<主役は、金融・投機マネー>>
2/22、225銘柄で構成される日経平均株価が史上最高値を34年ぶりに更新した、バブル経済期の1989年12月29日につけた終値の最高値(3万8915円87銭)を、34年ぶりに上回った(3万9098円68銭)と、大手メディアは大騒ぎである。
 2/26、週明け、東京株式市場は続伸し、135円03銭(0・35%)高い3万9233円71銭で取引を終え、さらに2/27、0.01%高の3万9239円52銭終値の史上最高値を3営業日連続で更新している。
しかし、この株価史上最高値更新は、極めて危ういものである。最高値を更新した前日の2/21、米ニューヨーク株式市場で、AI(ArtificialIntelligence 人工知能)関連の米半導体大手・エヌビディア(NVIDIA)の好決算(前四半期比で売上が 22% 増加、利益が 33% 増加)を受け、同社株価が一夜にして時価総額2,500億ドルという記録的な額に達し、アマゾンとアルファベット、イーロン・マスク氏の電気自動車メーカー・テスラを上回ったのである。
このNVIDIA株の上昇により、市場前取引の段階で他のチップメーカーの株価が上昇、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ社は6%上昇、アプライド・マテリアルズ社は4%上昇、インテル社は2%以上上昇している。これが、ニューヨーク市場でのダウ工業株平均とS&P500指数が史上最高値につながり、このあわただしい動きが連鎖し、欧州株もAIフォリアとも言える恩恵を受け、Stoxx 600(ストックス欧州600指数)が史上最高値を更新、2/22、日本にも波及したわけである。

 日本でも株価を押し上げたのは、半導体製造装置の東京エレクトロンとアドバンテスト、SCREENホールディングス、半導体設計会社を傘下に持つソフトバンクグループ、この4社で日経平均を約2300円押し上げているのが実態なのである。
そして押し上げた主役は、1ドル=150円台という日本株の「割安」さに付け込み、7週連続、日本株を買い越した海外の投機マネーである。東証プライム市場の売買代金の7割近くを占める海外マネーにとって、日本は、マネーゲームの格好の足場となり、1月月間の日本株現物の買越額は2兆693億円と昨年5月以来の高水準に達し、2月第1週(5-9日)の海外勢の買越額は3664億円と勢いを増している。日経平均の年初来上昇率は17%と、4%台の米S&P500種株価指数を大きく上回っている。海外の投機マネーが日本に狙いをつけたわけである。

<<米株高騰は「カジノ的」>>
世界の時価総額の伸びの52%が、NVIDIA関連の半導体銘柄が主導という異様な実態は、AI関連の集中リスク、AI関連株を中心としたバブル形成の危うさを浮き彫りにしているとも言えよう。
2/27、そうした警戒感が早くも浮上し、史上最高値を牽引してきた半導体株が売られ、東京エレクトロンが前営業日比580円(1・59%)安、レーザーテックが880円(2・15%)安を記録している。日経平均は年初から6千円弱上昇しているが、ほんの一握りの銘柄が市場を左右する、集中リスクの増大に直面しており、すでに強い警戒感と過熱感が漂い始めてもいるのである。

 2/24、米著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイは、恒例の「株主への手紙」を公表し、米国の株式相場の高騰は「カジノ的」であり、「カジノは多くの家庭に浸透し、人々を日々誘惑している。」と警鐘を鳴らし、より広く目配りをし、日本の5大商社の株の保有比率を9%にまで高めたと明らかにした。
この報道によって、三菱商事、三井物産、住友商事の株価が上場来の高値を記録している。投機マネーも、右往左往である。

日本が現在、世界の投機マネーにとって格好の投機対象となっているのは、日本経済の構造的改善・ファンダメンタルズが改善され、向上してきているからと言うものでは全くない。むしろ、逆に昨年の日本の名目国内総生産(GDP)は591兆円(約4兆2106億ドル)と景気後退に苦しむドイツにさえも抜かれて、世界第4位に後退しており、インフレで実質賃金は1996年比74.1万円も減少している。この苦境を脱出するには、金融緩和政策をやめるわけにはいかない、続けざるを得ない、マイナス金利は解除したとしても、米欧との金利差はこれからも続く、あるいは拡大さえするであろう、当然、円安も続行するであろう、日本株の「割安」も続く、絶好の投機対象として存在するであろうという期待感から、うまみのある投機対象となっているにすぎないのである。潮目が変われば、こうした投機マネーはいつでも一斉に引き上げるものである。

岸田首相は、株式市場最高値の更新について、「国内外のマーケット関係者が評価してくれていることは、心強く、力強さも感じている」と語っている(2/22)が、とんでもない見当違いである。
(生駒 敬)

 

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投稿】岸田売国政権下の新NISA狂騒曲と株高

【投稿】岸田売国政権下の新NISA狂騒曲と株高

                                            福井 杉本達也

1 新NISA狂騒曲と株高

2024年1月から始まった新NISA(少額投資非課税制度)が、注目を浴びている。生涯投資額が1800万円まで大幅に拡大された。この範囲内なら、何度でも売買できる。22年9月末、日本の個人金融資産2,005兆円のうち、54・8%が現預金で保有されている。新NISAは個別株にも投資できる「成長投資枠」と投資信託を毎月積み立てる「つみたて投資枠」があるが、中心的な商品は投信になる。投信を長期で保有する、あるいは長期間積み立てていくことが、新NISAの最もオーソドックスな活用法だ。つみたてNISAの口座は1人1金融機関までしか作れない。新NISAの「つみたて投資枠」の年間投資額120万円まで積み立てたとしても、生涯投資額1,800万円を満たすには15年間かかる(「成長投資枠」限度額は240万円で「つみたて」と合わせて年間限度額は360万円)。ゼロ金利の預金をもつ高齢者がNISA の説明を聞き。関連本も売れている。証券会社は老後には 3,000 万円必要だと煽る(参考:「日経プラス1」2024.2.24)。

「購入額が開始から1カ月間で1兆8,000億円を超えた。過半は投資信託が占め、米国など世界の株式に投資する商品に人気が集中している」「投信の購入額が合計で9,788億円と全体の53%を占めた。」「投信購入ランキング上位10本のうち9本が全世界株や米国株で運用するす指数連動型の商品」である(日経:2024.2.14)。

2月22日に日経平均3万9,000円を超えた 23日の日経新聞は、生成AIが半導体株を引き上げだなどと、株価が上がった理由を様々に書いているが、「根拠のない推測」が含まれている。(1)証券会社の自己売買(6346億円ともっとも大きい)、2)24年1月から続いている外人買いが3013億円。1月からの株価上昇は、インサイダー相場である。世界最大のファンド、米ブラック・ロックの CEO が日本に営業に来て、岸田首相は、迎賓館でもてなしている(吉田繁治「ビジネス知識源」2024.2.24)。首相は2022年5月に、英金融街シティーのギルドホールで、「NISAの抜本的拡充、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設など、政策を総動員して『資産所得倍増プラン』を進めていく」と宣言し、「今後5年間で3,400万口座、投資総額56兆円まで倍増することをぶち上げた」(『東洋経済』:2023.2.4)。さらに鈴木俊一金融相は「2,115兆円ある家計金融資産の半分は、資産価値の高まりにくい現預金。これを投資に振り向けて、成長と分配の好循環を実現したい。家計が資金を投資に向ける」と説明している(日経:2024.2.18)。徹底した売国内閣の“成果”である。

 

2 新NISAで円安がさらに進む

「年間買い付け額が約5・2兆円ずつ伸びるという前提に立っと、27年までに対ドルの円相場を最大6円ほど押し下げる効果がある」(日経:2024.2.3)と試算する。別の試算では、1月以降、日に450億円の投資信託が買われており、これを年額で推計すると10兆円の資金が海外に流れるのではといわれる。「22年以降に本格化した円安局面は、国内外の金利差と貿易赤字の拡大という2つの要因が主導してきた。金利差の拡大には歯止めがかかり、貿易赤字も縮小基調にある。…それでも円が下落しているため、新NISAが3つめの円安圧力」になっていると解説する(日経:同上)。

現在、1 ドルが150 円を超える超円安である。「巨大ファンドは、円安の日本の良質な大企業の支配権を狙っています」。「高い株価が暴落したとき、あるいは敗戦のとき底値で買収するのは、ロスチャイルドが150年使った方法です」「日本で最高のトヨタの時価総額が48 兆円、アップルは2.92 兆ドル(420 兆円!)、マイクロソフトは3.12 兆ドル(450 兆円)、現金が要らない『株式交換』なら買収は容易です。」「米国のIT 企業の、高い株価(時価総額1,000 兆円)では、世界の主要企業を買収し、世界を植民地にすることができます。」(吉田:「ビジネス知識源」2024.2.10)。

日本経済は成長していない。むしろ景気後退局面に入った。不況なのに株価が上昇するのは、労働分配が圧縮され、企業収益が拡大しているからである。日銀や年金資金(GPIF)が86兆円も株式に投入されている。2013年4月からのアベノミクス以来、日本では通貨発行額(マネタリーベース)を5倍に増加させ、余剰資金には金利をマイナスにするマイナス金利政策を採用した。大量の余った資金が株式市場に向かうこととなった。企業は労働者の賃上げをせず、株主配当を増加し、自社株買いを行い株価を吊り上げようとしてきた。労働者の犠牲の上に企業利益拡大し、その結果としての株価上昇である。食料物価は2013年からの円安で趨勢的に上昇している。円安により資源・エネルギー価格も上昇している。しかし、雇用者の実質賃金は物価上昇と円安で落ち込みが大きい。2023年12月の実質賃金は前年同月比で1.9%減少した。21ヵ月連続の減少であり、日本の労働者の実質賃金は減少し続けている(賃金統計:2024.2.6)。

3 新NISAを政府は「ドル株買い」と考えている

米国は「貯蓄から株投資」へという政治のスローガンをかかげ、1500 兆円のゼロ金利の預金がある日本を「ATM」と考えている。新NISAの資金は米国の株式市場に向かっている。

一方、反対に日本の株式市場では外人が、売買シェアで70%を占め、持ち株シェアでも30%を占める。日本の株式相場は、70%を売買をする外人ファンドに支配されている。日本の株式市場はインサイダーによる「八百長相場」=「賭場」になっている。自社株買いは、完全なインサイダー取引であり、日銀・GPIFもそれに近い。株高は。外人ファンドによるマイナス金利の安い円を借りて株を買うキャリートレードによる日本株の買い越しと、自社株買いによってもたらされている。米国のシャドーバンクは国際金融資本の牙城であり、投資信託のバークシャーハサウェイを率いるウォーレン・バフェット、インデックス・ファンドのブラック・ロックは、運用総資産は10 兆ドルといった巨大な国際金融資本などが株の売買を行っており、世界での企業の買収を狙っている。1997年のアジア通貨危機では韓国はIMFの支配下に入り、韓国巨大企業である現代自動車、LG 電子、サムスンなどが米ファンドの手に落ちた(「ビジネス知識源」2024.1.17)。

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【投稿】核管理が完全に崩壊した日本

【投稿】核管理が完全に崩壊した日本

                              福井 杉本達也

1 核管理の無秩序を露呈

2月7日に福島第1原発の放射能汚染水浄化装置から220億ベクレルの放射性物質を含む約5.5トンの汚染水(その後2月15日に、1.5トン・66億ベクレルに修正)が漏えいする事故が起こったことに対し、在日中国大使館は「日本は福島放射能汚染水の処理過程で繰り返し事故を起こし、東京電力内部の管理が混乱し無秩序で、日本政府の監督措置が不確実かつ不十分であることを存分に露呈して、汚染水処理装置が長期的な信頼性を備えていないことを改めて証明し、国際社会による監督の必要性を一層鮮明にした。」(新華社:20240208)と述べた。原子力規制委は2月19日、「廃炉の実施計画に違反の疑いがある」とした。また、21日には経産大臣が東電社長を呼び直接指導するという。

「東電によると、漏れたのは配管の清掃作業中。本来閉じるべき弁が開いた状態で清掃をする作業員に引き渡され、確認も不十分だったため、確認の弁の先の排気口から汚染水が建屋外に漏れた」というが(朝日:2024.2.15)、東電発表の現場写真を見る限り、放射線量の異常に高い、無秩序に作業用具の置かれた雑然とした現場で、限られた作業時間内にできるだけ被ばく線量を避けながら確認も不十分な状況で、あわてて作業しているとしか見えない。昨年からの放射能汚染水の海洋放出をはじめ、全く不可能な福島第一1号機からのデブリの採取計画など、環境中への放射能汚染物質の大量放出防止対策はこの12年間、何一つ進歩していない。メルトスルーした炉心に触れる注入冷却水や地下水からは90トンという大量の放射能汚染水が毎日出し続けられている。このまま進めば、日本は世界最大の核汚染国家となる。

 

2 原子力規制委は規制を投げ出し

1月1日に発生したM7.6の能登半島地震を受け、原子力規制委は2月14日、原発事故時の住民避難や被ばく防護策をまとめた原子力災害対策指針について議論したが、指針では大量の放射性物質が放出される場合、原則として原発の5キロ圏内の住民は避難、5~30キロ圏内は屋内退避としている。会合では「基本方針は変更する必要がない」とし、山中伸介委員長は記者会見で、「避難所や道路の耐震化などは各自治体の地域防災計画で対応すべきだ」との考えを示した(福井:2024,2,15)。ようするに、能登半島地震では家屋の倒壊や道路の寸断により、屋内退避や避難が困難なことが判明したにもかかわらず。原発は稼働させるが、事故が起きた場合の退避や避難は知らないと投げ出したのである。山中委員長は「自然災害への対応はわれわれの範疇外」だと繰り返した。恐ろしい無責任さである。「後は野となれ山となれ」と核管理「規制」を完全に投げ出した。

 

3 地震18日後に老朽原発を再稼働する関西電力

能登半島地震による北陸電力志賀原発の被害状況も明らかとならない中、1月18日、関西電力は美浜原発3号機を再稼働した。美浜3号機は運転開始から47年を経過した古い原発であり、耐震基準も古く、いつ事故が起きてもおかしくない。しかし、電事連の池辺和弘会長(九州唱力社長)は19日の記者会見で、「能登半島地震が原子力発電所の再稼働の議論に『直ちに影響しない』との考えを示した。」(日経:2024.1.20)。

美浜原発の場合、使用済み核燃料プールの管理容量 (652体)であるが、現在の貯蔵量(432体)であり、稼働が続けはあと5.3年でプールは満杯となる(電事連方式で=長沢啓行『福井県を使用済燃料で溢れる「核の墓場」と化す関西電力の使用済燃料対策ロードマップ』資料2024.1.27)。大飯原発は、管理容量 (3,872体)、現在の貯蔵量(3,343体)であり、あと4.5年である。高浜原発は厳しく、管理容量 (3,758体)、現在の貯蔵量(3,035体)であり、あと3.3年で満杯となってしまう。この問題を何とか辻褄を合わせようと、厚かましく福井県に提起してきたのが原発敷地内への「乾式貯蔵施設」である。使用済み燃料の一部を乾式貯蔵に移し、プールを空けて運転を継続しようというのである。しかし、それでも3~5年の保管量しか確保できない。全くの付け焼刃である。

 

4 地震大国日本に原発の安全な場所などどこにも存在しない

東北電力は東日本大震災で大きな被害を受けた女川原発2号機を9月に再稼働するという。東電の「原子力改革監視委員会」の会合が2月13日に開かれたが、柏崎刈羽原発の再稼働について、昨年末に事実上の運転禁止命令が解除されたことから、委員から「フェーズ(局面)が変わった」と前向きな発言が相次いだという(東京新聞:2024.2.13)。能登半島地震では佐渡沖の断層までが連動して動いた。柏崎刈羽原発も地震の影響を受けた。それを、運転禁止命令解除を「フェーズが変わった」として再稼働に走ろうというのはノー天気も甚だしい。

原子力は「経験主義的に身につけてきた人間のキャパシティーの許容範囲の見極めを踏み越えた」。「私たちは古来、人類が有していた自然にたいする畏れの感覚をもう一度とりもどすべきであろう。自然にはまず起こることのない核分裂の連鎖反応を人為的に出現させ、自然界にはほとんど存在しなかったプルトニウムのような猛毒物質を人間の手で作りだすようなことは、本来、人間のキャパシティーを超えることであり許されるべきではない」(山本義隆:『福島の原発事故をめぐって』211.8.25)。

日本は福島第一において核管理に失敗した。そして、現在も失敗し続けている。放射能汚染は今後数百年~数万年も続く。起こってしまったことは元には戻せない。福島の汚染された国土を元には戻せない。せいぜい、現状を維持し、これ以上海洋を含む環境に放射能を出さない、再稼働している原発を全て停止して、これ以上使用済み核燃料などの放射性物質を増やさないようにすることだけが日本に課された責務である。2月7日の東京新聞<社説>は「地震国の原発 安全な場所はあるのか」とし、「志賀町の稲岡健太郎町長が『あらためて地震列島の中の原子力だと分かった』と語ったように、地震国と原発はあまりにも取り合わせが悪い。各地の原発はいずれも海岸沿いに立地しており、もし原発事故が起きるとすれば、地震や津波との複合災害になる可能性が高い。想定外の地殻変動や避難計画の破綻はどこでも起こり得る。…政府も、地震国日本に原発の『居場所』はないと悟るべきである。」と書いた。もう「想定外の津波」という誤魔化しは通用しない。地震大国・日本に安全な地域などはどこにも存在しない。

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【投稿】米政権:ガザ・ラファの虐殺、ゴーサイン--経済危機論(132)

<<バイデン「我々のラファ軍事作戦」>>
米バイデン政権は、イスラエル・ネタニヤフ政権にパレスチナ・ガザ地区南部ラファでの民間人殺害にゴーサインを出した。米・イスラエル両政権は、今や公然と、国際司法裁判所の大量虐殺阻止命令を無視し、全世界の世論、国際社会の湧き上がる非難の声に敵対する路線を選択したのである。

 ラファの面積は 33.2平方㎞で、東京都で言えば杉並区や板橋区と同程度(いずれも人口57万人)であるが、紛争前には約 28 万人が住んでいたが、イスラエル軍の北部・中部の虐殺攻撃で避難を余儀なくされ、今や150万人以上に膨れ上がっている。 ガザの人口230万人の半分以上がラファに詰め込まれ、虐殺攻撃を目前にし、エジプトとの南部国境は完全閉鎖され、逃げ場も行き場もない缶詰め状態に追いやられている。

2/11、米・イスラエル両首脳の会談から数時間後、イスラエルはこのラファへの激しい空爆を行い、2/11-12、日曜夜から月曜朝にかけて、たちまち約100人を殺害、完全包囲され、出口のない避難民に対する全面的な軍事攻撃、虐殺作戦を開始したのである。バラバラになった子どもたちの遺体の映像が流され、ネタニヤフ首相は、「我々の目標は…完全勝利だ」と宣言している。

この「完全勝利」とは、ハマスの停戦提案(イスラエルの刑務所にいるパレスチナ人捕虜と引き換えに人質全員の段階的な解放を行う)を、「妄想的な要求だ」として全面拒否し、できるだけ多くのパレスチナ人を殺害し、ガザ地区からパレスチナ人をすべて追い出す「民族浄化」

作戦を意味している。すでにこの作戦で、昨年の10/7以来、2/13までの死者は2万8473人に達している。

ホワイトハウス公表の、2/11の45分間のバイデン・ネタニヤフ通話文によると、バイデン氏は「ハマスを打倒し、イスラエルと国民の長期的な安全を確保するという共通の目標を再確認した」という。これによってバイデン政権は、膨大な資金提供と武器・弾薬の提供だけではなく、「共通の目標」として、ガザ住民の大量虐殺を政治的に正当化し、その実行を支持し、実際にはジェノサイド作戦の強行を指示しているのである。 つまりは、バイデンのゴーサインでイスラエルのラファ虐殺作戦が開始されたのである。
ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は2/12の記者会見で、米国はイスラエルが攻撃を強行した場合に軍事援助を打ち切ることは考えていない、と明言している。 記者からの「援助を差し止めると脅したのか」との質問に対し、カービー氏は「我々はイスラエルを支援し続けるつもりだ…そして、イスラエルがそのための手段と能力を確実に備えられるようにし続けるつもりだ」とまで断言している。

そして、バイデン大統領自身が、2/13、ヨルダンのアブドラ2世国王との会談後の演説中に、イスラエル軍によるラファへの侵攻を米国によるものだとする「我々のラファ軍事作戦」”our military operation in Rafah.” と公言したのである。この発言は、フランスのマクロン大統領をミッテラン元大統領(1996年に死去)と言い間違えたり、「ドイツのミッテラン」と発言したり、このところ記憶間違いや取り違え発言をたびたび繰り返してきたバイデン氏のよくある「失言」の一つだと米大手メディアは報じているが、実は「本音」を吐露したものでもあろう。
さらに、米議会・上院がイスラエルへの140億ドルを含む950億ドルの対外軍事援助法案を民主・共和両党の多数で可決し、下院では民主党内左派よりも、共和党内反対派で難航が指摘されているが、議会もパレスチナ人の大量殺害を支持し続けることに同意している事態である。

<<テント都市への「強制移住」>>
バイデン氏は、ネタニヤフ首相との電話会談の際、「信頼できる計画なしにラファ作戦を開始しないよう」警告したとされているが、その「信頼できる計画」なるものは、 ガザ市の南端から南はラファ北のアル・マワシ地区まで、ガザ全域に15カ所、2万5000張のテントを設置する、というもので、エジプト当局者の話として、医療施設を含むキャンプに米国とアラブのパートナーが資金提供することをイスラエルが期待していると述べている。
 ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、この「テント都市」は、イスラエルがエジプトに提示したもので、米国と中東の同盟国から資金提供され、 エジプトが運営する予定だという。つまりは、米国の直接の共謀、資金提供、参加によって、飢え、疲弊した100万人もの人々をこの「テント都市」に詰め込む「強制移住」なのである。この大量虐殺と民族浄化の「強制移住」作戦にエジプトを直接の当事者として参加させようというわけである。しかし、100万人以上もの人々をにわか作りの「テント都市」に詰め込むことそれ自体が不可能であり、なおかつ安全に避難できる可能性は無きに等しい。
あわよくば、国連をも、この「避難計画」なるものに参加させようとしているが、グテーレス国連事務総長の報道官、ステファン・デュジャリック氏は「我々は人々の強制移住には加担しない」と明言している。

一方、エジプトは2/11、ラファ侵攻は1979年の和平条約を無効にする可能性がある、1979年以来両国間の平和を維持してきた条約の停止の引き金となる可能性があると警告している。この条約では、イスラエルかエジプトが国境沿いおよび国境近くのいくつかの境界地帯に配置できる軍隊の数に制限が設けられており、大

量のイスラエル軍と装甲車両の駐留は許可されていない。
ガザとエジプトの国境に沿って 9 マイルにわたって伸びる、いわゆるフィラデルフィ・ルートまたはフィラデルフィ回廊について、昨年12月下旬、ネタニヤフ首相は、ガザを効果的かつ恒久的に非武装化するには、フィラデルフィ・ルートを「我々の手に渡さなければならない」と述べている。
エジプトは、イスラエルによるガザ地区の民族浄化を促進していると見られることを望んでいない。ここ数日、エジプトは数十台のM60A3パットン主力戦車とYPR-765歩兵戦闘車をラファ国境検問所付近に再配備している。

実際は、このイスラエルと米国の間で練り上げられた「信頼できる計画」なるものが頓挫し、実行もされないうちに、ラファ虐殺作戦の強行によってさらなる戦火の拡大が進行しているわけである。
2/14、イスラエルは隣国レバノンに対してガザ戦争開始以来最長かつ最も激しい攻撃を開始し、南部の数カ所を爆撃、これに対し、レバノンのヒズボラが、イスラエル北部にこれまた「前例のない」反撃を開始 、イスラエル軍は声明で、「レバノンからネトゥア、マナラ地域、そしてイスラエル北部のイスラエル国防軍基地への多数の発射が確認された」と述べている。イスラエルメディアは今回の攻撃を「前例のない」もので、10月にレバノン国境で戦闘が勃発して以来最大かつ最も深刻なものだと報じている。

<<バイデン任期中に18%以上のインフレ>>
戦火の拡大は、当然のこととして経済危機をも激化させる。
まずは原油価格が、供給が混乱する可能性があるとの懸念から、最近の上昇幅を拡大、原油価格の上昇とガソリン卸売価格の高騰が現実のものとなってきている。WTI(原油先物)価格は、1バレル=77.80ドル付近で推移してきたものが、すでに上昇幅を拡大させている。
 2/13に発表された米消費者物価指数(CPI)は、3.1%であったが、3%を下回ると予測・期待していた米政権にとっては、冷や水を浴びせられた結果である。
いわゆるコアインフレ(食品とエネルギー価格を除く)は、3.9%上昇し、前月比0.4%上昇は「昨春以来最大」であった。このコアCPIは、実際に加速しており、1月の3カ月年率は4%で、12月の3.3%から上昇している。食料とエネルギーサービスのコストが輸送サービスとともに前月比で跳ね上がり、自動車保険や医療などのサービスが高止まりしたままである。つまりは、「経済の主要分野で依然として堅調な物価上昇」を示しているという現実である。このインフレの再加速は、賃金の伸びが物価に比べて赤字に戻ったこと、実質賃金の低下が再び現実のものとなってきたことを意味している。
この2/13の予想より悪いインフレ指標の発表で、10年物米国債金利は4.27%(今年最高水準)に上昇する一方、S&Pとナスダック株価はともに1%以上下落している。

そしてバイデン大統領にとって決定的なのは、自身の任期が始まって以来、消費者物価の実際の指数は、過去最高を更新し、18%以上上昇している(トランプ大統領の任期全体の4年間と比べて8%上昇した)ことである。

直近のフィナンシャル・タイムズ紙とミシガン州立大学スティーブン・ロス経営大学院の世論調査によると、アメリカ人の3分の1はバイデンの経済政策がアメリカ経済に大きなダメージを与えたと信じており、回答者のほぼ半数(49%)が、バイデン大統領の任期中に自分たちの金銭状況が悪化したと答えており、財務状況が改善したと答えたアメリカ人はわずか17%であった。

バイデン政権が意図的に緊張を激化させ、戦火を拡大させていることが、人びとの生存そのもを追い詰め、生活を苦しめ、なおかつインフレを持続・拡大させているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」

【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」

                              福井 杉本達也

1 タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビュー

2月6日、米国保守系のFOXニュースの元司会者で有名ジャーナリストのタッカー・カールソン氏がモスクワでプーチン大統領にインタビューした。X(旧Twitter)上での公開は8日で、2時間以上にわたるインタビューは、公開から数時間でカールソン氏のXアカウントで4600万回以上再生され、YouTubeでは100万回弱の再生回数を記録した。https://twitter.com/i/status/1756099572383072333

元米海兵隊情報将校のスコット・リッターは、このインタビューの意義について、「タッカー・カールソンのブランドと執念がなければ実現しなかっただろう。」とし、「彼はロシアの専門家ではない。ロシアの歴史家でもない。ロシアの複雑な生活に精通している人物でもない。ウラジーミル・プーチンはロシアの大統領だ。彼はロシアの歴史を知っている。彼はロシアの魂を知っている。」「ロシア大統領がアメリカの聴衆に、ロシアの歴史のニュアンスを、ロシアの魂の複雑さを紹介したのだ。もしあなたがロシアの歴史を理解せず、ロシアの魂を理解しないなら、あなたは基本的に地図のない旅に出ることになる。それがこのインタビューの価値だと思う。」と述べている。「彼がしたことは、アメリカの聴衆が近づきやすい文脈でこれらの情報を提供したことだ。」「タッカー・カールソンは現代ロシアへの扉を開き、ウラジーミル・プーチンの人格への扉を開き、ロシアの歴史への扉を開き、ロシアの魂への扉を開いた。」そして、「ロシアについて学ぶために時間と努力を惜しまない個人、アメリカ市民にとって必要な積み木ができあがった。」「私たちが前進し始めるための強固な基盤を構築することができるだろう。」「そして、タッカー・カールソンが今日、ロシアのプーチン大統領とのインタビューをアメリカ国民、西側諸国、そして世界に向けて行ったことは、人類を救うことができる旅への最も重要な第一歩なのだ。」と結んだ(スコット・リッターX:2024.2.9)。確かにインタビューの最初の30分ほどはプーチンによるロシアの歴史の「講義」である。

 

2 インタビューのポイント

カールソンが、プーチンのインタビューから得た感触は、(1)モスクワは2022年に戦争を始めたのではなく、ウクライナが2014年に始めた戦争を止めようとしている。(2)ロシアがウクライナに対して核兵器を使用したり、紛争をエスカレートさせたりするのではないかという憶測は、「ロシアとの対立で、米国の納税者と欧州の納税者から追加の金を強要するための脅しである。(4)米国と違って、ロシアは中国の台頭を恐れていない。BRICSが「中国経済に完全に支配される」リスクがあるというカールソン氏の提案は「ブギーマンの話」(お化けの話)だと述べた。(5)アメリカがウクライナ紛争を止めたいのなら、キエフへの武器送付をやめるべきだ。(6)ロシアはソビエト連邦の崩壊を受け入れ、イデオロギーの違いがすべて解消されれば、西側諸国と協力できると期待していたが、西側諸国は拒絶し、「非常に傷ついた」(7)クリントン元米大統領に、ロシアがNATOに加盟できるかどうか尋ねたが、クリントン氏は、それは不可能だと答えたと述べた。しかし、もしアメリカの指導者がイエスと言ったら、モスクワと軍事同盟の間の和解の時代が到来していたかもしれないとプーチンは述べた。(8)バルト海経由でロシアとドイツをつなぐノルド・ストリーム・ガス・パイプラインを爆破したのは誰だと思うかとカールソンに尋ねられ、攻撃から利益を得るであろう人々、そして攻撃を実行する能力を持つ人々を探すべきだと述べた。(9)米ドルを政治闘争の道具として使うと決めたとたん、アメリカに打撃が与えられた。これは愚かなことだ。そして重大な過ちである。(10)カールソンのバイデン大統領についてはどう思うかの質問に、プーチン氏は「彼は国を運営していないと確信しています」と述べた。既にバイデン大統領の私邸で機密文書が見つかった問題で、ハー特別検察官は2月8目、パイデン氏が「記憶力が著しく限られている」として訴追を見送ったことを明らかにしている(日経:2024.2.10)。(11)一方、トランプ氏については、ロシアは米国の数世代前政治家から、数々の侮辱や中傷を受けてきた。トランプ氏はそれとは一線を画していると指摘した。

 

3 米国政治への影響

米国家安全保障会議のカービー調整官は米国民の間でウクライナに対する支持が損なわれる懸念はないと述べ、カールソンのインタビューを見る人は、プーチン大統領の話を聞いているということを忘れず、同大統領の言うことを「うのみにすべきではない」と警告した(Forbes JAPAN:2024.2.10)と報道されたが、正直、焦りがあることは免れない。

このことについて、CIAの元分析官、ラリー・ジョンソン氏がスプートニクに語ったことによると、米メディアに対する国民の信頼は低くなる一方で、「嘘つきでプロパガンダ機関」だと考えられている。カールソン氏が行ったインタビューはウクライナ支援をさらに弱める可能性がある。「プーチン氏は効果的に発言したと思う。米国はすでに33兆ドルの債務を抱えているのになぜ支援する必要があるのかと」。プーチン氏はロシア人とウクライナ人の文化的、宗教的、民族的な強い結びつきをよりよく説明するために、ロシアの歴史を意図的に簡潔に語ったと指摘した。「プーチン氏はウクライナ紛争が1世紀前ましてや半世紀前に起源を発しているのではないことをすぐにわからせた。これは約1000年に及ぶ歴史であり、この歴史が存在しないようなふりをしてはならない」。しかし、米国は歴史が浅いため、平均的な米国人がこれを理解するのは難しいと指摘した(Sputnik日本:2024.2.9)。

 

4 SNSの役割について

ロシアではこれまで他のSNSを含めXもブロックされていたので、現地ではVPN経由、つまり他の国のIPアドレスを購入してこのプラットフォームを利用していた。しかし、ロシア議会は、プーチン大統領のタッカー・カールソン氏とのインタビュー公開後、中立性を理由に2月10日、Xメディアの禁止を解除した。

グーグルやメ夕、オープンAIなどの米巨大IT独占企業は「生成AI(人工知能)がつくった画像を判別できるようにする仕組みを相次ぎ導入する。SNS上に氾濫する悪質な偽画像や偽動画の排除につなげる。…米大統領選挙を前に各社は共同歩調を取り対応を急ぐ。…『選挙や民主的なプロセスを偽メディアからの介入を受けずに進める』」(日経:2024.2.10)というのが建前であるが、事実上の露骨な巨大IT独占企業による検閲である。マスク氏のXが今回、こうした米エリート支配層のテクノロジー検閲を破ったことは意義がある。既にカールソン氏のインタビューは1億5千万回以上再生されているという。「カールソンのプーチン・インタビューの最大の成果は、間違いなく、欧米が描く白黒の世界情勢に、切望されていた灰白質を加えたことだ。欧米の支配層にとっての問題は、グレーゾーンは、コントロールが難し」い(RT:2024.2.9)。これをXはそのまま米国市民に提供している。ドミトリー・ペスコフ:ロシア大統領報道官は「最初の 24 時間で、[タッカー カールソン] のインタビューは X プラットフォームだけで 1 億 5,000 万回以上視聴されました。これはサポートがあるという意味ではまったくありません。そして、私たちの視点が支持されることも期待できません。私たちにとって最も重要なことは、大統領の意見を聞いてもらうことです。もし彼の声が聞こえれば、より多くの人が彼の言うことが正しいのか間違っているのか考えるようになるということだ。少なくとも彼らは考えるだろう。アングロサクソン人があらゆる最大の放送局と主要新聞を何らかの形で支配しているため、ロシアがプロパガンダの面で米国に対抗することは困難である。このような背景から、重要なことは人々に私たちの世界観を知ってもらう機会を提供することです。この点において、これは非常に良い機会です。」(X:2024.2.11)と述べた。

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【投稿】バイデン:中東全域への緊張激化--経済危機論(131)

<<イラク、シリアへ大規模爆撃作戦>>
2/2夜、バイデン米大統領はまたもや、議会の承認を求めることもなく、国際法に違反して、イラクとシリアへの大規模な爆撃作戦を軍に命じ、米中央軍(CENTCOM)が長距離爆撃機を含む航空機で85以上の目標を攻撃したと発表、「イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)コッズ部隊と関連民兵組織」が使用する軍事施設を標的にしたとし、多数の標的に100発以上の爆弾が投下され、民間人を含む約40人が殺害されている。
 この大規模爆撃は、1/28にヨルダンの米軍事基地を襲ったイスラム抵抗勢力によるドローン攻撃で死亡した米軍人3人に対する「報復」でり、「防衛」であるとし、バイデン氏は「我々に危害を加えようとするすべての人にこのことを知らせてほしい。もし米国人に危害を加えれば、我々は対抗する」と脅迫。同時に、「米国は中東や世界の他の場所での紛争を求めていない」と宣言したのであるが、今回の爆撃は第一波にすぎず、「私たちの対応は今日始まりました。 それは私たちが選んだ時間と場所で継続されます」と述べ、さらなる戦火の拡大をさえ示唆したのである。米国防総省報道官のシムズ大将は、記者団に対し「アメリカの爆撃機の利点は、我々が選択した時間に世界のどこでも攻撃できることだ」とまで豪語している。
 米国家安全保障会議のカービー報道官は、厚かましくも、「今回の空爆は地域の緊張緩和が目的だ」「私たちはイランとの戦争を望んでいません。」と述べている。「緊張緩和が目的」ならば、軍事ではなく、外交でなければならない。逆行しているバイデン政権のこの感覚こそが、逆に緊張を激化させているのである。案の定、イラク・イスラム抵抗勢力は翌日には、米兵が駐留する基地に対して報復攻撃を行っている。
爆撃を受けたイラク政府当局者は、この攻撃を「容認できない」、「イラクの主権侵害」であり、「イラクと地域を予期せぬ結果に引きずり込む脅威」であると非難した。当然の怒りの表明である。シリア国営メディアも「アメリカの侵略」行為を非難している。
イラン外務大臣アミラブドラヒアン氏は2/3、シリアとイラクに対する攻撃を非難し、それらを「武力と軍国主義によって問題を解決しようとするワシントンの誤った失敗したアプローチの継続」であると述べ、米国政府の軍事的アプローチが状況を複雑にし、政治的解決に至ることをより困難にしていると強調している。

<<バイデン政権の愚行と過小評価>>
さらに2/3 米中央軍は、米国と英国がイエメン全土13か所の少なくとも36の標的に対して空・海上からの複合攻撃を実施したと発表した。 この共同作戦は米海軍艦艇から発射されたトマホークミサイルと空母アイゼンハワーから発射されたF/A-18戦闘爆撃機によって行われ、「複数の地下貯蔵施設、指揮統制、ミサイルシステム、無人航空機の保管・運用施設、レーダー、ヘリコプター」を標的としたと発表している。 さらなる緊張の激化と戦線の拡大である。 これに対し、イエメンの

アンサール・アッラー(フーシ派)政治高官兼報道官のムハンマド・アル・ブハイチ氏は 「イスラエル・シオニストに対する我々の軍事作戦は、たとえ我々がどんな犠牲を払っても、ガザへの侵略が止まるまで継続するだろう」と、たとえ米英軍がエスカレートさせても。それを台無しにさせるであろう、と述べている。

事態の緊張激化の中で、バイデン政権が過小評価しているのは、イスラム抵抗勢力の政治的経済的、そして軍事的力量である。
イランの主要な地域同盟国――レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサール・アッラー、イラクのPMU、パレスチナのハマス/イスラム聖戦、そしてシリア政府――はすべて単なるイランの「代理」にすぎないという米国の主張は、実態を直視できない空言なのである。これらのそれぞれのグループは「独自の国内政策を持っており、自主性を持って活動しており」、人びとの要求に密着した基盤を形成している。そして、互いに相互に依存し、協力し、米・英・欧・イスラエルの中東支配に対抗する政治的・経済的、軍事的にも統一戦線を形成し、力量を大きく前進させていることである。イスラエルのガザ大虐殺・ジェノサイド政策、それを無条件に支援するバイデン政権の愚行は、その前進をより一層促進させたのである。その結果、これまでアメリカと親密な同盟関係にあったアラブ諸国が政策転換を余儀なくされ、長年の盟友であったサウジアラビアでさえ、米国と英国のイエメン攻撃には参加しないばかりか、「自制とエスカレーションの回避」の必要性を強調する事態である。

 こうしたバイデン政権の過小評価は、緊張を激化させ、戦線を拡大させれば、それ以上に取り返しのつかない事態に追い込まれ、中東情勢は手に負えなくなる事態に陥る可能性が大なのである。

中東戦争への拡大は、紅海ばかりか、ペルシャ湾閉鎖に直結し、石油とガス、そしてあらゆる商品・製品の膨大な貿易が止まり、世界経済への深刻な危機を引き起こすことが必至なのである。

No War with Iran が言うとおり、「中東における現在の暴力のけいれんを大幅に軽減するための唯一の真の道は、ガザ地区での即時停戦を確保し、この地域の地獄の中心の火に冷水を浴びせることだ。」
(生駒 敬)

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【投稿】能登半島地震1か月―『天災のあとは、すべて人災』

【投稿】能登半島地震1か月―『天災のあとは、すべて人災』

                             福井 杉本達也

1 増え続ける死者数・初動が遅かった政府

石川県は1月29日、地震による住宅被害が 4万3786棟になったと発表した。断水は輪島市や珠洲市などのほぼ全域で継続し、県全体では4万2千戸、避難者数は 1万4288人、災害関連死15人を含む死者数は238人で、28日に珠洲市の2名の死者を発表するなど災害関連死でない死者数がいまだに少しづつ増え続けている(福井:2024.1.30)。「地震当日から救命救助に当たった自衛隊の報告では、救出した生き埋め者は、2日4人、3日3人、4日4人の合計11人だったと読める。これは、2016年4月熊本地震の16人より少ない。熊本地震の直接死は50人だった。津波と火災による死者はなかったから、すべて生き埋めによる死者だ。生き埋めになったが救出された人の割合は24%(16/66)だった。これと比較すると、能登半島地震で救出された人の割合はわずか5%(11/231)だ。極端に少ない。なぜこれほどの違いが生じたのか“」(早川由紀夫note2024.1.22)。岸田政権は能登半島地震対策の初動対応で、首相が本部長の非常災害対策本部より格下の特定災害対策本部を設置するという決定的誤りを犯した(それとも、能登は過疎地であり、首都圏に影響はないと無視したのか。さらに穿った見方をすれば、能登がどこにあるかも知らなかったのか。)。2016年4月14日の熊本地震では21:26 地震発生、22:10 非常災害対策本部設置22:21 第1回対策本部会議で、安倍総理大臣出席している。ところが今回、政府は自衛隊を、発災日の1日に1,000人、3日に2,000人、4日に4,600人、6日に5,400人と逐次投入した。これは最初から災害の規模を誤認していたからである。4日では発災から72時間を経過し生存率が大幅に下がる。助かったであろう人も死んでいる。

岸田首相は発災後2週間も経過した1月14日に現地視察をしたが、内田樹氏は志賀原発の放射能漏れを警戒していたのではという穿った見方をしているが、そこまで頭が回る政府であればこのような地震地帯に原発などは造らない。首都圏から遠く離れた過疎地ならばどこでもよかったのである。

2 自治体による「緊急消防援助隊」と「対口支援」

発災日の1日夜、消防庁長官が近隣の11府県に「緊急消防援助隊」の派遣を要請し、1,900人が活動にあたった。しかし、道路状況が最悪で、2日に現地入りできたのは、隣県の福井県と大阪市消防局の約60人のみである。4日に1,000人程度となった。阪神大震災後の1995年に制度化されている(福井:2024.1.29)。

珠洲市や輪島市などは職員の多くも被災しており、行政組織としてほとんど機能していない。そこで、能登半島地震からは、「被災自治体ごとに支援役の自治体を割り振る「対日(たいこう)支援」が採用されている。ペアになることで役割を明確にし、やりとりを円滑にする狙いがある。」1月26日現在で1,253人の自治体職員が派遣されている。「『対口』は中国語の『ペア』の意昧で、2008年の四川大地震で内陸部の被災地にほかの地域の省や直轄市を割り当てた仕組みがモデルになっている。」(日経:2024.1.29)。2011年の東日本大震災において、関西広域連合が被災県ごとに分担して職員を派遣したが、2018年に総務省が「応急対策職員派遣制度」として制度化したものである。これによって、応援に入る自治体の買任を朋確にして人員の確保や業務の引き継ぎを円滑にするメリットが得られる(日経:同上)。ただ、今回は、愛知県などの「総括支援チーム」が現地入りしたのは発災から3日目以降で、総務省は初動が遅れたと反省している。断水や停電が続く中、宿泊場所の確保も困難を極めている(福井:2024.1.25)。ちなみに、東日本大震災時に岩手県陸前高田市に入った福井県の部隊の一部は、津波の被害を免れた高台にあるお寺や、盛岡市のホテルから車で三陸沿岸まで通ったが、今回は半島という奥まった地形もあり、そうした対応もできない。医療関係は日赤やDMATなど制度化された組織が独自に動いている。DMATは熊本地震を上回る延べ1,028隊が派遣されている。幸い、医療機関の被災は少ない(日経:2024.1.30)。

ところで、全く影が薄いのが国交省である。衛星通信車・道路補修機械や大量の給水車・港湾局の船など自治体ではとても保有できない機材を多数所有しているはずであるが、全く動きが見えない。いったい、どこで何をしているのか。

3 石川県行政の陥没

石川県は当初、道路事情が悪く、被災地が混乱するのでボランティアは来ないでというキャンペーンを張った。その後、ボランティアを事前登録制としたが、金沢市からバス二台・80名程度を被災自治体に運ぶ程度であり、圧倒的にボランティアは足りていない。

能登から金沢市や加賀市などに2次避難所を設けているが、「馳知事は避難している人に対し、3月に北陸新幹線の敦賀延伸を控え、観光客の受け入れもあることから旅館での避難に一定の区切りが必要になるという考えを示し」た(NHK:2024.1.24)と報道されたように、北陸新幹線が敦賀まで開業するから被災者はそれまでに出て行けというとんでもない発言を平気で行っている。能登は厄介者という意識である。

「多くの大震災では発災から2、3日後までに自衛隊が温かい食事や風呂を被災者に提供してきたが今回は遅れた」、「被災地で起きていることを把握するシステムが機能せず、国や県のトップがこの震災を過小評価してしまった」。「阪神淡路大震災から積み重ね、受け継がれてきた教訓が、ゼロになってしまっている印象だ」と室崎益輝神戸大名誉教授は述べる(ゲンダイ:2024.1.17)。

「この先、東京が、みずから進んで地方を見捨てる、わけではないだろう。」しかし、このままでは能登は「いつの間にか、だれも責任を取らないかたちで、なんとなく、見捨てたことになっていくのではないか。見捨てたことへの後ろめたさもないままに、なし崩しに、予算も人もモノも出さないし、出せない。」(鈴木洋二神戸学院大:プレジデント:2024.1.10)という暗澹たる未来が待っている。

「後藤田正晴元副総理が、阪神淡路大震災直後に官邸を訪ね、村山首相にこう告げたという。『天災は人間の力ではどうしようもない。しかし起きたあとのことはすべて人災だ。政治がやるべきことは、やれることは何でもやるということだ』、この後藤田の『天災のあとは、すべて人災』というのは、まさに大災害の際に、政治が自らにに厳しく課すべき」名言である(ゲンダイ:2024.1.17)。

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【投稿】国際司法裁:イスラエルへの大量虐殺阻止命令--経済危機論(130)

<<バイデン・ネタニヤフ政権への痛打>>
1/26、オランダ・ハーグに本部を置く国連の国連の最高司法機関・国際司法裁判所(ICJ)は、パレスチナのガザ地区でイスラエルが国際条約違反のジェノサイドを行っているとして南アフリカが起こした訴訟で、イスラエルに対してジェノサイド・大量虐殺を防止するためのあらゆる措置を取ることを命じ、「殺害、重度の身体的および精神的危害を与える、全体的または物理的破壊をもたらすために集団に生活条件を与える」などの大量虐殺に相当する犯罪を防止するために「権限の範囲内であらゆる措置を講じる」よう命じる判決を下したたのである。

 1948年、国連総会で採択されたジェノサイド条約(集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約)には、「国民的、人種的、民族的又は宗教的な集団の全部又は一部を破壊する意図をもって行われる」行為を処罰することを明記しており、ICJの命令には法的拘束力があり、締約国であるイスラエルは順守しなければならないのである。
法廷で裁判官が読み上げた声明の中で、「国際司法裁判所はイスラエルに対し、大量虐殺と大量虐殺の扇動を阻止するために、権限の範囲内であらゆる措置を講じるよう要求」、ICJ命令を1か月以内に発効させるために講じられたすべての措置について1か月以内に報告書を提出するなど、ガザで何が起きているかの証拠を保存すべきことを命じている。
法廷は同時に、大統領や国防大臣を含む複数のイスラエル政府高官による大量虐殺を擁護する発言にも厳しく言及し、政府やその他の当局者による声明は、大量虐殺の犯罪を立証しようとする際の「意図」要素の重要な要素を形成することを明らかにしている。

ICJはイスラエルに対し、大量虐殺行為を防ぐための6つの暫定措置を講じるよう命じており、「大量虐殺への直接的かつ公的な扇動を阻止し、処罰する」こと、「緊急に必要な基本的サービスと人道支援の提供を可能にする即時かつ効果的な措置を講じる」こと、パレスチナ民間人を保護すること、ガザで出産する約5万人の女性を保護すること、「パレスチナ人に対する虐殺犯罪の防止と処罰に関する条約第2条および第3条の範囲内の行為の申し立てに関連する証拠の破壊を防止し、確実に保存するための効果的な措置を講じる」ことを命じている。
裁判長であるジョーン・ドナヒュー判事は、命令の緊急性について、「ガザの医療制度は崩壊しつつあります。ガザには安全な場所はありません。イスラエル国防軍による絶え間ない砲撃の中で、避難所や生き残るための必需品がない中、限られた人道支援さえ不可能にする絶望的な状況により、治安が崩壊し、近いうちに完全に崩壊するだろうと私は予想しています。伝染病や近隣諸国への大量避難の圧力の増大など、さらに悪い状況が展開する可能性がある。私たちは人道体制が崩壊する深刻な危険に直面しています。状況は急速に大惨事へと悪化しており、パレスチナ人全体と地域の平和と安全に取り返しのつかない影響を与える可能性がある。このような結果は何としてでも避けなければなりません」と強調している。
そしてドナヒュー判事は、イスラエル国防大臣やイスラエル大統領による大量虐殺の意図を示す明確な声明、「彼らの骨を折るまで戦う」という誓約や、ヨアヴ・ガラント国防大臣のパレスチナ人を「人獣」「人間の動物」と表現し「それに合わせて行動する」とした発言など、「イスラエル政府高官らによる明らかに大量虐殺的で非人間的な発言」を厳しく指摘している。
このような発言では、バイデン氏自身も追及されるべきであろう。彼は、昨年12/12に、大統領選関連の会合で、パレスチナ人について「彼らは動物です They’re animals. They’re animals. 」と繰り返していたのである。バイデン氏にとって皮肉なのは、2010年に世界法廷に着任する前は米国国務省と財務省で働いていた米国人弁護士である現在のICJ裁判長であるジョーン・ドナヒュー判事によって今回の判決が読み上げられたことであろう。

判決は、最も肝心な「即時停戦」には言及していないが、具体的な「大量虐殺阻止命令」は、停戦がなければどれ一つとして実現できない命令である。

バイデン・米政権、ネタニヤフ・イスラエル政権にとっては最も手厳しい痛打である。両政権は、もはや孤立せざるを得ず、とりわけ、ネタニヤフ政権を無条件で支持し、財政のみならず、大量の武器弾薬の供給から共同作戦にまで至る、ジェノサイド行為を支援してきたバイデン政権にとっては、取り返しの利かない打撃となろう。

<<「世界が黙って見ているわけにはいかない」>>
今回の裁判を主導した南アフリカ当局は、声明で、国際司法裁の決定を「国際法の支配に対する決定的な勝利であり、パレスチナ人民の正義の追求における重要なマイルストーン」であると称賛すると同時に、この判決が意味するのは停戦が必要であるということであると述べ、ラマポーザ大統領は、「この命令はイスラエルを拘束するものであり、大量虐殺犯罪の防止と処罰に関する条約の締約国すべてによって尊重されなければならない」と強調している。

イスラム抵抗運動 — ハマスは、1/26 「この決定は、ガザにおけるパレスチナ人民に対するあらゆる形態の侵略の停止を意味する。私たちは国際社会に対し、裁判所の判決を履行するよう敵に義務付け、我が国国民に対する進行中の「大量虐殺の犯罪」を阻止するよう求めます。私たちハマス運動に携わる者は、南アフリカ共和国の真の立場、パレスチナ人民に対するその支援と大義の正義、ガザ地区への侵略を撃退するための真摯な努力、そしてパレスチナ人民による残忍な犯罪の拒否を高く評価しています。私たちはまた、この崇高な人道的行動への支持を表明したすべての国に感謝の意を表します。」と表明している。
アムネスティ・インターナショナル事務総長のアニエス・カラマールは、「今日の決定は、大量虐殺を防止し、残虐犯罪のすべての被害者を保護する上での国際法の重要な役割を権威ある形で思い出させるものである」と述べ、「これは、イスラエルがガザ地区の人口を大量に殺戮し、前例のない規模でパレスチナ人に対して死、恐怖、苦しみを解き放つ無慈悲な軍事作戦を追求する中、世界が黙って見ているわけにはいかないという明確なメッセージを送っている。」と述べている。
 イスラエルの攻撃により、ガザ地区では少なくとも1万人の子供たちが死亡している。「名前を知ろう」プロジェクト(Know Their Names 10,000 project)は1/25、最新アップデートを発表し、これまでに殺害された数千人の子どもたちの一部を特定、幼児から17歳までの4,216人のパレスチナ人が登録されている。 名前が挙がった人のうち、75%は10代まで生きておらず、半数以上が10歳未満、500人近くが2歳未満であった。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、公式声明で「イスラエルに対する大量虐殺の告発は虚偽であるだけでなく、言語道断であり、世界中のまともな人々はそれを拒否すべきである。イスラエルは今後も大量虐殺テロ組織ハマスからの防衛を続けるだろう。…私たちの戦争はハマスのテロリストに対するものであり、パレスチナ民間人に対するものではありません。」と、あくまでも大量虐殺行為を「ハマスからの防衛」として、続行することをあきらかにしている。実際、ICJが判決を下している最中でさえ、イスラエル軍はガザ南部のハーンユニスに爆弾を投下している。法廷から扇動容疑で名指しされたギャラント国防相は、イスラエルは法廷から「道徳について説教される必要はない」と吐き捨てている。

バイデン政権はICJの決定を尊重するかどうかについて明言を避けているが、米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、1/26、記者団に対し、「イスラエル国防軍による大量虐殺の意図や行動の主張を裏付ける証拠は見当たらない」と述べ、ICJ訴訟は違法であるというこれまでの発言を支持すると付け加え、 「無益で、逆効果で、実際には何の根拠もありません。」と、イスラエルのジェノサイド行為を全面的に擁護している。

バイデン政権と歩調を合わせてきたはずの、ヨーロッパ連合(EU)は、1/26、上級代表と欧州委員会による共同声明を発表し、「我々は、暫定措置の指示を求める南アフリカの要請に対する国際司法裁判所の本日の命令に留意する。
EUは、国連の主要司法機関である国際司法裁判所への継続的な支援を再確認する。国際司法裁判所の命令は締約国を拘束し、締約国はそれに従わなければなりません。 EUは、それらが完全かつ即時かつ効果的に実施されることを期待している。」として、「国際司法裁判所の命令が完全かつ即時かつ効果的に実施されることを期待」していると、明らかに、米・イスラエル政権とは異なる立場を表明している。

もちろん、ICJの判決だけでジェノサイドを止めることはできない。虐殺を止められるのは、「世界が黙って見ているわけにはいかない」という、世界中の大衆運動、政府への圧力、米、イスラエル政権を孤立化させる闘いである。

世界から孤立するバイデン政権が、ICJに反論するだけでなく、その判決の履行を妨げ、あくまでもイスラエル支援を続ければ、バイデン政権は自己崩壊への道を加速させ、政治的経済的危機をより一層深刻化させるであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】バイデン:イエメンへの戦争拡大--経済危機論(129)

<<「戦争状態にはない」が、首都爆撃!>>
1/22、米バイデン政権は「本日、米国と英国の軍は、イエメンのフーシ派の標的8か所に対して、比例的かつ必要な追加攻撃を実施した。紅海を航行する国際船舶や商船、海軍艦艇に対するフーシ派の継続的な攻撃に対するものだ」と発表。オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支援を受けた6カ国の共同声明として、「世界貿易と無実の船員の生命を脅かすためにフーシ派が利用する能力

を混乱させ、低下させることを目的としており、フーシ派のミサイルおよび航空監視能力に関連する場所を標的とした」と述べている。
イエメン人ジャーナリストで人権活動家のファティク・アル・ロダイニ氏はソーシャルメディアで「首都サナアで大規模な爆発音が大音量で聞こえた」と報告し、ネット上で公開された複数の動画では大規模な爆発が都市を揺るがす様子、子どもを含む死傷者が映されている。

この首都爆撃は、バイデン氏自身が米国のイエメン空爆が「機能していない」ことを認めてから数日後であり、議会の承認なしに追加攻撃を開始したものである。1週間以上にわたってほぼ毎日行われてきたイエメンへの爆撃が、フーシ派を阻止するのに何の役にも立たず、守勢に追い込まれたただけであるにもかかわらず、首都爆撃によってむしろ状況を劇的にエスカレートさせようとしているのである。 バイデン氏は、これまでのイエメンに対する攻撃に効果があったのかどうなのかと問われて、「いいえ」と効果がないことをしぶしぶ認め、それでも「とにかく続ける」のだと語っている。「中東でのより広範な戦争は望んでいない」、と述べながら、「より広範な戦争」に突き進んでいるのである。

なおかつ、バイデン政権は「現在、米国はイエメンで戦争状態にあると言えるでしょうか?」と問われて、国防総省報道官サブリナ・シン氏は「我々は戦争状態にあるとは考えていない」と応え、記者が「これまでに5回も爆撃を行っています…これが戦争でないとしたら、戦争とは何でしょうか?」と重ねて問われても、「我々はフーシ派と戦争状態にはない。」と、議会の承認なしの戦争行為を言い抜けようとしているのである。国防総省はフーシ派と「戦争状態にあるとは考えていない」と宣言している。

バイデン政権が、国際法も国内法も無視してイエメンを不

法に攻撃し、際限のない戦争へ、戦線を拡大させようとしているのは、イスラエルが同じく不法にガザを攻撃し、大量虐殺・ジェノサイドを続行可能にさせるためでもある。

この同じ1/22、こうしたバイデン政権の戦争行為拡大に応じて、欧州連合(EU)加盟国の外相らが、紅海での海上警備活動の創設に「原則合意」したと、欧州連合外交政策責任者のジョゼップ・ボレル氏が発表。ボレル氏は記者会見で「紅海はわれわれの議論の上位にあり、われわれは欧州連合の海上警備活動を設立し、これらの任務のさまざまな選択肢について話し合うことで原則合意した」と述べている。欧州連合諸国が、紅海での軍事作戦を開始することで大筋合意し、バイデン政権の戦争拡大行為へ加担し、バイデン政権への危険な追随路線に踏み出したのである。

<<紅海効果はすでに「現れ始めている」>>
1/22、イエメンのアンサララ(フーシ派)のムハンマド・アル・ブハイチ報道官は、ソーシャルメディアで「米英の侵略は、ガザで抑圧されている人々に対する道徳的・人道的責任を果たそうとするイエメン国民の決意を高めるだけだ」と断言。国際

法に基づき、紅海を通ってイスラエルへの輸送を阻止する法的権利を有しており、イスラエルと米国によるガザ人に対する大量虐殺を阻止する義務があることを再確認している。

イエメンの隣国、イエメンと国境を接するオマーン政府は、「友好国」が行った軍事行動を公然と非難し、軍事エスカレーションの即時停止を求め、湾岸アラブ諸国の中で唯一米国と英国への領空を禁止し、すべての米英連合軍航空機の飛行禁止空域を宣言している。公式声明で、イエメン情勢に深い懸念を表明し、軍事的エスカレーションの即時停止を求め、同時に、イスラエルの行動、地域に深刻な人道危機をもたらしたガザ地区での恐ろしい戦争と包囲に対するオマーンの懸念を強調し、攻撃を受けているガザやその他のパレスチナ領土でイスラエル軍が主導する殺害、虐待、破壊、飢餓作戦を弾劾している。

 米国にとって長年の盟友であったサウジアラビアでさえ、米国と英国のイエメン攻撃には好意的ではなく、「自制とエスカレーションの回避」の必要性を強調している。もはや米英・欧州連合は、すでに紅海とイランとエジプトの間の石油をめぐる支配権を失っている、のが実態である。

当然、紅海を航行するコンテナ輸送への影響は、国際貿易、石油市場ばかりか、間違いなくイスラエル経済そのものにも重大な影響を与えている。とりわけ、イスラエルの主要港・エイラート港の操業に影響を与えており、コンテナ輸送量の40%減少やエイラートでの収益の85%減少など、報告された数字は大きな影響を浮き彫りにしている。特に極東、インド、オーストラリアとの貿易に関して、広範な経済的脆弱性を浮き彫りにしている。

一部のコンテナ船会社が停止し、他のコンテナ船会社が新たな追加料金を課す中、イスラエルへの海上輸送経費はここ数日上昇、経済を海上貿易に依存しているイスラエル政権は追加輸送費用負担や、供給のボトルネックの深刻な懸念が生じているのが実態である。マースクやハパック・ロイドなどの大手海運会社は、紅海航路

を避けるため、数百隻の船舶を喜望峰周辺のより長く高価

な航路に迂回させており、シェルは紅海への出荷をすべて停止している。

紅海を通って輸送されているコンテナは毎日約20万個で、11月の50万個から減少し、紅海の運賃変動の世界的なスポット貨物指数は、同じ期間で 2 倍以上に上昇している。

 当然、この紅海効果は、世界経済全体に現在「現れ始めている」。貨物指数の大幅な上昇は、販売される商品の原価に織り込まれ、消費者に転嫁されるのは必然である。紅海からの最初の迂回は、アジアへの帰路に遅れを生じさせ、定期船はその余裕を補うために「追加の積込み船」として船を短期間チャーターするようになっている。目的地変更がより重視されるようになった今、喜望峰周辺の航海距離が長くなったことから、定期船は毎週のスケジュールを維持するために運航ラインに船舶を追加する必要がある。価格の再設定は世界中のすべての輸送に影響を与えている。このインフレによる被害は世界中で急速に増大する可能性が大である。すでに過去 1 か月間で、英国とカナダでもインフレ率が上昇に戻ってきており、中央銀行が急速に利下げを行うという夢は、急速に燃え尽きつつある。

2024年は、2022年や2023年よりもはるかに多くの戦争拡大へのエスカレートが予測され、政治的的経済的危機がより一層深刻化する可能性が大である。バイデン政権の好戦的緊張激化政策をストップさせることが第一義的課題となっている。
(生駒 敬)

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【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界

【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界

                                  福井 杉本達也

1 志賀原発で変圧器の破壊
1月1日の能登半島地震で北陸電力志賀原発1、2号機の変圧器の配管が壊れて油漏れが発生、外部電源とつながる最も規模の大きい送電線が使えなくなった。敷地外の送電網は断たれなかったが、原発の外部電源の一部を失った。原子力規制委の山中伸介委員長は記者会見で、「変圧器の故障原因の究明は必要」としたが、「安全上の影響が及ぶとは考えていない」と原発の再稼働路線を見直すつもりは全くない。3.11の福島第一原発事故では、1号機から4号機まで、送電線の鉄塔が倒れ、全ての外部電源が失われ大事故になり、今もなすすべがない。非常用電源があるというが、非常に危うい。

2 想定地震動を上回る激しい揺れ
地震の揺れについて、1月1日に北陸電力は、「志賀原発1号機原子炉建屋地下2階震度5強(399.3ガル)が観測されました」と広報した。その後、後出しじゃんけんよろしく10日に、東西方向の0.47秒の周期で、1号機は 想定地震動918ガルのに対し 957ガル、2号機は 846ガルの想定に対し 871ガルだったと発表した。しかし、それは報道発表ではなく、原子力規制庁の報告である(「志賀原発で一部想定上回る揺れ=規制庁に報告も公表せず―北陸電」:時事:2024.1.11))。ところが、規制委は「想定を一部でわずかに上回っていたが、使用済み燃料の冷却に必要な電源などは確保され、安全上の問題はない」という見解である。想定地震動は原発の全ての建物・設備の設計の基準であるが、上回っても「わずか」だから問題ないというのである。
技術評論家の桜井淳氏は原子炉建屋地下2階と自由解放面である地上1階の地震加速度は地下2階の地震加速度の2倍であるため、720 gal.(振動周期0.02秒)であるとし、さらに、志賀原発は、「新規制基準の適用前では、基準地震動は、600 gal.(振動周期0.02秒)、しかし、新規制基準…では…安全審査と工事が同時に開始されていたため、申請中の2号機は、工事が完了しており…1000 gal.対応になっており、志賀原発で観測された360 gal.は、基準地震動の約1/3であり、問題なく、それどころか、設計許容値に対し、工学的安全余裕度が、3-4倍、破壊限界に対して、7-8倍も確保されていますから、施工と運用が、的確ならば、懸念すべきことは、ありません」(kiyoshi sakurai:note:2024.1.10)と2号機が1000ガルまで対応しているかのように述べるが、「工学的安全余裕度が、3-4倍」というのは嘘である。主要配管などは1.3倍程度しかない。肉厚を厚くするなど安全余裕度を何倍にもすれば、費用は天文学的になり、溶接などの現場施工も容易ではない。また、2004年に起きた関電美浜3号機の二次系大口径配管(560㎜・肉厚10㎜)の破断事故では、運転開始後28年で事故を起こしたように、設備の経年劣化は避けられない。地震加速度360ガル

⇒600ガル⇒1000ガルへの対応というのは、骨折した腕に添木するようなもので(左:北陸電力:工事の実施例:2012.3)、骨(配管などの設備)が新しくなるわけではない。全く机上の空論である。

3 陸地の隆起
産総研は1月11日、能登半島北西部の海岸で行った2024年能登半島地震に伴う海岸の地殻変動調査の結果を報告した。最大4 mの隆起が起きた輪島市門前町鹿磯周辺・鹿磯漁港では防潮堤壁面に固着したカキなどの生物が隆起によって離水した様子を観察されている(写真1)。「能登半島北部沿岸にはおよそ6千年前以降に形成されたと考えられる3段の海成段丘が分布しており、過去に海成段丘を形成するような大きな隆起が少なくとも3回起きていたことを示している」としており、1500年に1回程度は今回のような大地震が発生していることとなる。未確認情報では志賀原発周辺でも数十㎝の隆起があるとされている。また、2012年に建設された基礎のしっかりした高さ4mの原発の防潮堤の一部も破壊されており、津波ではなく地盤変動による破壊の可能性が高い。とすれば、原発建屋本体の破壊の可能性もある。

4 長年止まっていたのが幸い
志賀原発は今も1号機の燃料プールに672体、2号機に200体の使用済み核燃料が貯蔵されているが、運転停止から12年以上が経過して、核燃料の発する熱量は下がっている。関電大飯・高浜原発のように現在運転中の原子炉とは違い、3.11のように核燃料の再臨界により爆発する危険性は低い。
2016年には、原子力規制委員会の専門家チームが、1号機の原子炉建屋直下にある「S-1断層」などを「活断層の可能性は否定できない」と評価。事実上、再稼働は不可能とされた。ところが、2023年3月、隣接する2号機の再稼働の前提となる新規制基準への適合審査会合で、規制委は「敷地内に活断層はない」とする北陸電の主張が妥当だとし、16年の判断を覆した。もし、再稼働していたならば、福島原発事故の二の舞になる恐れがあった。原発直下で地震が発生すれば、ひとたまりもない。いつも、政府・電力会社は「原発の直下で地震は起こらない」との非科学的なロジックを繰り返すが、狂気の沙汰である。

5 「分かっちゃいるけど・やめられない」―再稼働に突き進む政府・規制委・財界
原子力規制委の山中伸介委員長は大丈夫か。電力会社に忖度しすぎではないかとの声が聞かれる。原発の外部電源の一部を失ったことについて、山中委員長は記者会見で、「変圧器の故障原因の究明は必要としたが『安全上の影響が及ぶとは考えていない』と従来の考え方を見直そうとはしなかった。」(東京新聞:2024.1.13)。
また、M7.6の地震が起きたことについて、今後「事故対策に向けて想定する地震の大きさについて…稼働中の原発が停止する可能性も出てくるが、山中委員長は『他の原発にも影響あるかどうかは分析次第。一定の時間がかかる』と述べるだけで動きは全く鈍い(東京新聞:同上)。 さらに、空間放射線量を測るモニタリングポスト18カ所で一時測定ができなくなったが、山中委員長は、「自動車やドローンなどで線量を測る手段もある」と見直しについて具体的に言及せず(東京新聞:同上)、“規制”委とは名ばかりの存在となっている。 日経新聞のコラム『春秋』が「世界の地震の1割が日本で起きるといわれる。列島は地震の巣なのだ。国土はいつどこで大きな揺れに見舞われでもおかしくない。そういう大地の上に、そして海のすぐそばに、私たちは原子炉を抱えている…東日本大震災以降、長らく停止していた原発を順次動かしていくとおととし政治は決断した…能登の鳴動が伝えた自然の警告を真正面から受け止めて、日本は『地震と原発』の相克を乗り越えねばなるまい。」(2024.1.15)と書くにいたっでは、「分かっちゃいるけど、やめられない」=日本は放射能と心中すべきだとあからさまに宣言しており、支離滅裂以外の何物でもない。これが、現在の政府・財界・電力会社・規制委の本音である。こやつらに日本の未来をゆだねることはできない。

6 地震のメカニズムは?
能登半島地震のメカニズムとして加藤愛太郎東大地震研究所教授(地震学)など複数の専門家が指摘するのが、地下の水(流体)が、断層運動を誘発した可能性である。「地下深くから上がってきた水などの『流体』だ。海のプレート(岩盤)が水を取り込んだ状態で日本列島の下に沈み込み、能登半島の地下で水が上昇、断層を滑りやすくしたとの見方がある。こうした動きが今回、半島神にある複数の断層を広範囲に動かすきっかけとなった可能性がある。」(福井:2024.1.8:メカニズム・イメージ)とする。また、京都大学の西村卓也教授は「能登半島の沖合で起こるような地震としては、また日本海側全般に言えることですけれども、今回マグニチュード7.6とか8に近い地震というのは、おそらく最大級と考えてもいいと思っております。正直、ここまで大きい地震が起こるってのはかなり意外でした」(khb-tv:2024.1.1)とインタビューに答えている。要するに、地震を日本海特有の地震であり、太平洋側のプレート地震とは異なるメカニズムの内陸型の地震であり、太平洋プレートの動きとは切り離され、これ以上の規模の地震は起こらないという前提に立っているように見える。
これに対し、巽好幸神戸大学客員教授は「今回の地震を含む群発地震の原因となった流体は沈込むプレートから供給されたと解説していますが、その可能性は極めて低いです。そうであれば能登半島に火山があるはずです」と、「地下水原因」説に異議を唱える(巽好幸X:2024.1.3)。「松代や中部〜東北地方の地下ではプレート起源の水がマグマを発生させ、多くの火山が分布する。つまり太平洋プレートと地表の間には、プレート沈み込みに伴う一種のマントル対流によって『高温領域』が存在し、水がプレートから上昇してくるとマグマが発生する…ところが能登半島では、過去数百万年の間全く火山活動は起きていない」(巽好幸:「まだ続く能登半島群発地震:その原因は本当にプレート起源の水なのか?。」:yahooニュース:2022.8.10)。「日本列島が地震・地殻変動大国になったのは300万年前のフィリピン海プレートの方向転換が主要原因。地下で太平洋プレートと衝突して向きを変え、その結果日本海溝が西進し始め、中央構造線が再活動化。東日本で山地や半島が隆起、西日本では瀬戸内海にシワ状の隆起・沈降域が形成。」・「今回の地震は地殻内の流体移動に伴う破壊現象だが、巨視的には日本海の島々や突き出す半島を形成した逆断層隆起(オレンジ域)。これらの断層活動は300万年前のフィリピン海プレートの方向転換に伴う日本海溝西進による圧縮が原因。」と「フィリピン海プレート方向転換」説を主張する(巽好幸X:2024.1.8)。

7 若狭湾の原発が危ない
巽教授の説では若狭湾はさらに危ない。「若狭湾には沈降海岸である『リアス海岸』が発達し、特にその東端では断層に沿って急激に落ち込んでいる。また琵琶湖は、低地(盆地)が南から移動して約100万年前にほぼ現在の位置までやってきた。濃尾平野が広がるのは、地盤が沈降してその凹地に土砂が厚く堆積したからだ。そして伊勢湾は西と東に走る断層によって大きく沈んでいる、…中部沈降帯(伊勢湾―琵琶湖―若狭湾沈降帯)である。」・「沈み込み角度が小さい中部日本では、この補償流が、海溝に近く温度が低い領域まで届かない。そのために、中部地方の地下ではマントル物質がどんどんと引きずられ…その上の領域が沈んでしまうことになる。」・「将来、1

891年に起きた日本史上最大級の直下型(内陸)地震である濃尾地震(M8.0)のような地震を引き起こす可能性」があると指摘している(巽好幸:「『日本沈没』は始まっている:(1) 中部地方が沈没して本州が2つの島に?」yahooニュース:2021.12.12)。

冬場、セイコガニ漁が行われる越前海岸は250 ~350mと急峻な崖となっている。今回の能登半島地震の隆起のように、甲楽城断層が過去何回も変動して、若狭湾が沈降し、その東側が隆起し海岸段丘が形成されたものである。そのようなところで、関西電力の高浜原発1・2・3号機(4号機は定検中)と、大飯原発3,4号機が稼働中である。もし、若狭湾で濃尾地震(M8.0)クラスの直下型地震が起きた場合は、今回の能登半島地震の4倍ものエネルギーであるから稼働中の原発はひとたまりもない。

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【投稿】バイデンの危険なエスカレート--経済危機論(128)

<<「歴史上最大の愚行」>>
1/11夜、米英両軍が中東・イエメン北部にあるフーシ派の拠点16カ所、60以上の標的に対して、航空機、船舶、潜水艦から攻撃が行われ、150発のロケット弾とミサイルが発射され、紅海に進入した米誘導ミサイル潜水艦「フロリダ」が攻撃に加わり、巡航ミサイル「トマホーク」を発射する、という大規模な戦線拡大のエスカレートであった。
 米国防総省・ペンタゴンのパトリック・ライダー報道官は、今回の攻撃は「良い効果」があったと発表。バイデン米大統領は当日の声明で、「紅海における国際海上船舶に対する前例のないフーシ派の攻撃への直接の対応として」攻撃を命令したと述べ、「本日、私の指示により、米軍は英国と協力し、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支援を受けて、フーシ派反政府勢力がイエメンの航行の自由を危険にさらすために利用したイエメン内の多数の目標に対する攻撃を成功させた。 世界で最も重要な水路の一つだ」と指摘し、「必要に応じて我が国国民と国際商取引の自由を守るため、さらなる措置を躊躇なく指示する」と明言。英国のスナク首相も、自国は「常に航行の自由と自由な貿易の流れを擁護する」とし、そのため英国は「自衛のために限定的かつ必要かつ相応の行動をとった」と言明、いずれもエスカレートを正当化した。
米国と英国は事実上、議会や国会の承認すら得られずに新たな戦争を開始したのである。バイデン大統領は、報道陣の前に出て作戦を発表、質問に答えることを放棄し、代わりに、ホワイトハウスはバイデンの名前で声明を発表したに過ぎない。

この共同攻撃には、さらにデンマーク、ドイツ、ニュージーランド、韓国の名前も挙げられた。ただし、昨年12月下旬に編成された、この米英主導の「繁栄の守護者作戦(Operation Prosperity Guardian)」に名を挙げられていたフランス、イタリア、ノルウェー、セイシェル、スペイン、ギリシャの6カ国は脱落している。同盟国であるはずのトルコのエルドアン大統領は今回の空爆を激しく非難し、米国と英国が紅海を「血の海」に変えたと非難しており、イタリア政府当局者は匿名で報道陣に対し、イタリアは紅海での「沈静化」政策を追求することを好み、襲撃への参加や支援を拒否したと語っている。

今回のエスカレートの特筆すべき第一は、米英とその追随諸国は、より広範な戦争を回避することが可能であるにもかかわらず、逆に、地域の緊張を高め、すでにレバノン、シリア、イラク、イエメン、紅海にまで波及している紛争の火に油を注ぎ、さらには対イランにまで戦争を拡大、大規模な中東戦争にエスカレートさせようとしていることである。
この攻撃のもう一つの特徴は、厳密に言えば、国連憲章に基づいて武力行使を承認できる国際システムの唯一の機関である国連からの安全保障理事会決議もなしに実行されたことである。
しかもこのエスカレートは、イエメン爆撃の当日、1月11日と12日、オランダのハーグの国際司法裁判所(ICJ)で、南アフリカが提訴したイスラエルのパレスチナ人ジェノサイドの初公判が開催され、 国際司法裁判所(ICJ)で南アフリカが「イスラエルの空爆と地上攻撃はガザの『人口の破壊』・ジェノサイドを狙っている」と主張されている最中に行われた、恥知らずな爆撃であったことである。

イエメン当局は、この露骨な侵略によって、首都サナアのほか、

南西部のダマル、北西部のサッダ、最大規模のアル・フダイダが空爆を受けたことを認め、爆撃による被害で5人が死亡したと発表、フーシ派指導者ムハンマド・アル・ブハイチは1/12、英国と米国はイエメンへの攻撃が「歴史上最大の愚行」だったことを「すぐに認識する」だろう、と述べ、「この世界のすべての人は、2つの選択肢に直面している。大量虐殺の被害者側に立つか、それとも加害者側に立つかのどちらかだ」と言明している。
イエメンのフーシ派はイスラエルへ向かう船舶に対する軍事行動は、イスラエルによるガザでの大量虐殺を阻止、罰するというジェノサイド条約の第1条を実行に移したのだ、としており、フーシ派報道官のムハンマド・アブドゥサラム氏は、「紅海とアラビア海での国際航行に対する脅威はなく、標的はイスラエルの船舶や占領下のパレスチナの港に向かう船舶に影響を与え続けており、今後も影響を及ぼし続ける」と断固として言明している。
イエメンでは、攻撃を受けた翌日、この攻撃に抗議し、パレスチナ人民との連帯を継続する大規模なデモンレーションが行われている。。

<<「これは容認できない憲法違反だ」>>
バイデン政権自身が、米国内での大規模な抗議行動が再び拡大しているばかりか、今やアメリカ議会からさえ追求される事態に追い込まれている.政権当局者らは議会指導者らにイエメン爆撃計画について説明したが、議員からの正式な許可は得られなかった。逆に、議会は、イエメン戦争は違憲であることを追求する事態である。
ロー・カンナ下院議員 (民主党、カリフォルニア州 )
イエメンにおける大統領のストライキは憲法違反である。「イエメンのフーシ派に対する攻撃を開始し、我々を新たな中東紛争に巻き込む前に、大統領は議会に来る必要がある。 それが憲法第1条だ」 私たちは湾岸同盟国の意見に耳を傾け、緊張緩和を追求し、新たな中東戦争に巻き込まれるのを避ける必要がある。
・ トーマス・マッシー議員 (共和党、ケンタッキー州 4)
宣戦布告をする権限があるのは議会だけです。
ラシダ・トレイブ下院議員(民主党、ミシガン州)
バイデン米国大統領が「議会の承認なしにイエメンで空爆を実施

することで憲法第1条に違反している」。「アメリカ国民は終わりのない戦争にうんざりしている」
プラミラ・ジャヤパル下院議員(民主党、ワシントン州)
「これは容認できない憲法違反だ」「第1条は軍事行動が議会によって承認されることを要求している。」
民主党のコリ・ブッシュ下院議員は「国民は、これ以上私たちの税金が終わりのない戦争や民間人の殺害に費やされることを望んでいない」、「議会の承認なしに

イエメンを空爆することはできない。これは違法であり、憲法第 1 条に違反します。

バイデンの手には血が付いている!
「バイデンはフェンス、憲兵、屋上の狙撃兵に守られホワイトハウス内

に隠れているが、包囲されたガザ地区の子供たちはイスラエルによる大量爆撃から無防備に放置されており、1時間に5人の子供が命を落としている。これは毎日約117人の子供が殺害されていることになる!」 直接行動の先頭に立った反戦団体「コードピンク」の共同創設者ジョディ・エヴァンス氏はそう宣言した。ガザでのバイデンの共謀に抗議するため、血まみれの赤ちゃん人形がホワイトハウスの前にアピールしている。

全世界で広がる抗議

「イエメンから手を引け!」
「正義が欠けている」:パレスチナと連帯する大規模なデモがイギリス全土で展開され、ロンドンでは、50万人もの人々が国会議事堂広場に行進し、ガザの即時停戦を要求し、イスラエルの不釣り合いな「大量虐殺」猛攻撃に対する自国英国政府の支援を非難し、より危険な中東戦争、より広範な地域戦争、世界戦争への危険を警告し、「イエメンから手を引く」ことを要求している。


ダブリンでは、10万人以上が市街を行進したデモ行進の主催者らは、これをアイルランド史上最大のパレスチナ人の権利を求める集会と称した。アイリッシュ・タイムズ紙は次のように報じている。 群衆はパレスチナの国旗や「ガザ虐殺の終焉」を訴えるポスター、そして紛争で失われた多くの若い命を象徴するベビー服が吊るされた仮設の洗濯物で埋め尽くされた。

ケープタウンでガザ住民を支援する大規模な抗議活動

ケープタウンの主催者が発表した声明では、「私たちは今日、66以上の都市、少なくとも36か国で計画されているデモが行われる世界行動デーに参加するためにここに来ている」と述べた。 「今日の集会は、即時かつ恒久的な停戦を無条件に求める世界的な声の統一戦線の一環となるだろう。」

米英軍によるイエメン空爆の開始により、ブレント原油が上昇し、80ドルの壁を突破した。「繁栄の守護者作戦」なるものは、彼ら自身の政治的経済的危機の激化を解決しがたいものにし、「繁栄の守護者」は、「破壊者」にならんとしている、と言えよう。
(生駒 敬)

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【映画評論】『破戒』―監督:前田和男―

【映画評論】『破戒』―監督:前田和男―

                            福井 杉本達也

島崎藤村が1906年に発表した同名小説の映画であり、過去、2度にわたり映画化されている。主人公の教師・瀬川丑松(間宮祥太朗)は被差別部落出身であることを隠して生きてきたが同じ出目の活動家・猪子蓮太郎(眞島秀和)との出会いや士族出身の娘・志保(石井杏奈)との恋愛を経て、理不尽な差別の現実と人間の尊厳の間で葛藤する姿を描いている。全国水平社創立100周年を記念して映画化されたものであり、2022年7月に全国映画館で公開されており、若干間延びしたしたが、最近、映画館以外の各地で上映会が企画されている。上映の前に主催者のY氏は、原作をそのまま映画化したのでは差別映画になってしまうので、最後の場面は希望が持てるようなストーリとしたと述べていた。「丑松」については、長年部落解放運動では、「『丑松』になるな」というのが、被差別部落の出身であることを隠し続けず、部落解放運動に参加するよう若者に呼びかける合言葉であった。

丑松は父親(田中要次)から、「自らの出目を隠し通せ、誰も信じるな」と厳命されていた。映画の冒頭、丑松は下宿先の理不尽な差別に直面する。宿の女将から、この宿には被差別部落の出身者であることを隠して泊まっていた客がいたので全ての部屋の畳を変えると言われる。裕福そうな老人・大日向(石橋蓮司)が人力車に乗って宿を出ていくが、人々は大日向に石を投げつける。そこで、丑松はこの宿を出ていく決意をし、新たに蓮華寺という寺に下宿することとした。

猪子の演説シーンは原作にはない、差別用語を使った「我は穢多なり。されど我は穢多を恥じず」という言葉がある。原作では猪子の著述『懺悔録』にある言葉であるが、これを演説中のセリフとして使うことで、猪子の思想家としての力強さと、映画全体として、部落差別に反対する監督の意図が伝わったのではなかろうか。また、志保が丑松の部屋に与謝野晶子の詩集を忘れ、それを丑松が手にすることで、二人が会話するきっかけとなり、志保が丑松に心惹かれていくシーンが描かれている。これも原作にはないシーンであり、志保の描き方が弱いと批判された原作の弱さを補っている。

丑松が父親の戒めを破って被差別部落の出身であることを明かそうとした猪子が暴漢に襲われたことで、丑松は同僚や生徒たちに全てを明かす決意を固めまた。同僚の土屋銀之助(矢本悠馬)は早まるなと説得したが、丑松は学校を辞め、飯山を離れる決意を固めた。教壇に立った丑松は、生徒たちに自分は被差別部落の出身であることを告白した。涙を流しながら、大人になった時にこの学校に瀬川という教師がいたこと、伝えてきたことを思い出してほしい、自分は卑しいと言われる身ではあったがみんなには常に正しいと思うことを伝えてきたと語った。生徒たちも涙を浮かべながら丑松の話に聞き入り、校長(本田博太郎)にも辞めさせないでほしいと嘆願した。丑松は東京で再び教師として再出発することにした。そこに銀之助が志保を連れて見送りに現れ、志保は全てを知ったうえで丑松と一緒になるといって荷車を引いて旅立っていく。この最後のシーンも、原作では真冬の雪の中、丑松は教職を捨て大日向と供にテキサスに旅立つ、志保とは今生の別れとなることでハピー・エンドではない。

ところで、映画では原作の最も重要な省かれたシーンがある。丑松の父親が死去し、丑松が帰郷し、父親の葬儀に立ち会う中で、丑松の出自が事細かく書かれた箇所である。藤村の小説の根底であり、ストーリー上避けて通れないものであるが、被差別部落に対する予断と偏見の差別意識が藤村の筆の行間に強く漂い、読むに堪えない箇所も多々あり、前田監督は思い切ってカットしたのであろう。それが映画を見るものにとって、丑松の「不安」を分かりにくくした面があるが、踏み込まなかったことによって、ハッピー・エンドの恋愛物語として映画に娯楽性を持たせたともいえる。

佐藤文隆は、学校教育について「学校は生徒を『未来』に導く仕掛けであり、教員は子供を『未来』へ導く導師だった。」(佐藤文隆:『転換期の科学』2022年)とし、「19世紀、中央集権的に国民国家形成を行ったフランス、プロシアそれに日本でも学校教育の『運動』は現存していた世の中を肯定せず、それを革新していく人材育成を学校は担っているという自負が教育界にはあった…教員は遅れた世の中の全国津々浦々に築かれた橋頭保の守り手であり、教員は世の中の革新者という攻めの意識を持っていた。…『世間並みに堕落してはいけない』という世の中の改造者としての使命感を昂揚させる旗であった。遅れた世間を跳ね返し遮断する」(佐藤文隆:『科学と人間』2013年)。と書いた。その師範学校を出た国家エリートである教師が生徒に土下座したのである。「遅れた世間を跳ね返し遮断」し、「世の中の改造者」としての国家使命を背負った教師が、「遅れた世間」の予断と偏見による差別意識に屈して土下座したのであるから一大スキャンダルである。丑松にはモデルがあるといわれており、藤村はこの一大スキャンダルを小説化したのであるが、60年ぶりに映画化された『破戒』はどこまで藤村に迫ったか。

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