【投稿】能登半島地震と志賀原発

【投稿】能登半島地震と志賀原発

                            福井 杉本達也

1 あまりにも遅い!非常災害対策本部設置

発災から72時間経過した1月4日現在、「令和6年能登半島地震」による死者は84人、行方不明者は179人に上っている。「17:30に特定災害対策本部でなく非常災害対策本部を設置する判断を下すべきでした。また、その第一回会議は20:00からでした。遅い」。ちなみに「2016年4月14日熊本地震」では、「21:26 地震発生⇒22:10 非常災害対策本部設置(河野防災担当大臣が本部長)⇒22:21 第1回対策本部会議(総理大臣出席)」と発生から55分で非常災害対策本部を設置している(早川由紀夫X:2024.1.2)。3日午前の対策本部会議では「『発生72時間』はあす午後、自衛隊員2,000人に倍増…岸田首相『救命・救助に全力』」「生存率が急速に下がるとされる『発生から72時間』を4日午後に迎えることを意識したものだ」(読売:2024.1.3)と書いたが、ともかく対応が遅すぎる。発災日に10,000万人規模の投入が必要であろう。名古屋市消防局・大阪市消防局など各都府県の消防は発災日に緊急援助隊を派遣して現地活動を行っている。ちなみに、2016年4月の熊本地震時においては自衛隊は発災後2日間で590人の被災者を救出した(緊急援助隊・地元消防で86人救出)。「まともな知事とまともな首相なら、一昨日の発災後、直ちに救援に全力投入すべき激甚地震のデータは出ていたのだが、みすみす見逃されてしまったことで、救えたはずの生命がどれほど失われるのか残念でならない。」(飯田哲也X:2024.1.3)「今回の地震の救助活動がなんだかものすごくゆっくり感じる。最初から。そして、ものすごく言葉にしたくないんだけど…地震からも津波からも逃れたのに餓死とか起こらないよね?…そのくらい、不思議な位に物資が届いていない…」(ゆきX:2024.1.4)と書かれてしまった。ちなみに、馳石川県知事は正月休みを東京で過ごしており、自衛隊ヘリで石川県に戻ったとのことである。

2 情報統制か?―ドローンの飛行禁止

国土交通省は1月2日・12時00分:「令和6年1月1日に石川県能登地方で発生した令和6年能登半島地震について、以下のとおり国土交通大臣による航空法第132条の85による無人航空機の飛行禁止空域の指定を行いました。なお、航空法第134条の3による航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為(凧、気球等)の許可及び通報についても適用になります。」と今回被災が集中した石川県輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、七尾市、志賀町、中能登町でのドローンの飛行を禁止の緊急用務空域に指定した。ドローンを飛ばすには特別の許可が必要になった。捜索救難活動の緊急用務を行う有人機を優先するための処置だ。しかし、いまはまだ有人機がなかなか飛べない。そして能登半島は広い。被害状況把握のためにドローンを活用したいが、できない。現在、被害状況把握のために活用できる写真情報データは、国際航業:「防災情報提供サービス無料版」https://bois-free.bousai.genavis.jp/diarsweb。国土交通省・接写https://ehihdagjcj.reearth.io。読売新聞等などがある。

「七尾市以北の奥能登の状況は本当に深刻です。取材に入った穴水町は中心部と町の北側を結ぶ動脈が寸断され、陸の孤島となっている集落がいくつもあり、未だに実態が把握できていません。支援物資も思うように行き渡っていません。同様の事態が奥能登のあちこちで起きています」。「昨日12時に指定した緊急用務区域をすみやかに終了したほうがいいなあ、航空局。いま能登半島をそれに指定するのは益なくして害ばかりだ。能登半島は人口密集地とは違う。ドローンで被災状況の把握をするのが最適。有人機では低空と迅速な撮影がむずかしい。ドローンの手軽さを生かせ。」とツイートしている(早川由紀夫X:2024.1.3)。

3 未知の断層が原因か?

国の地震調査委員会は最大震度7を記録した能登半島地震の分析や今後の動向について検討したが、平田直委員長は「国は主要な活断層について長期評価を公表しているが、今回地震のあった断層は対象外だった」と説明した(日経:2024.1.2)。また、1月3日0時のNHK報道によると、政府の地震調査委員会は「大地震は、北東から南西にのびるおよそ150キロの活断層がずれ動いて起きた可能性があると指摘。」また、「地震活動の範囲は、これまで能登半島の北東部や北側の海域が中心だったのに比べ拡大している。」としている。日経は上記記事で、「世界でも有数の地震大国の日本では各地に断層が存在し、リスク評価が追いついていない側面が浮き彫りになった。今後、政府の長期評価のあり方も問われそうだ。」と指摘している。

 

4 志賀原発の状況

志賀原発は、活断層が原発の敷地内にあるのではないかと指摘され、1.2号機とも停止中であったが、志賀町では震度7・最大加速度2826ガルを記録、岩盤まで掘り下げた1号機原子炉建屋地下2階でも震度5強、399.3ガルが観測された。北陸電力は、相変わらず情報を後から小出しにしているが、①「1号機の放水槽の周囲(全周約108m)に津波対策として設置した鋼製の防潮壁(高さ4m)の南側壁が、地震の影響により数cm程度傾いていることを確認した。」②1,2号機 廃棄物処理建屋エキスパンションジョイントシールカバーの脱落、③「1号機 純水タンク漏水」④「2号機 使用済燃料貯蔵プール落下物」、⑤1・2号機変圧器油漏れ(「現場では火災と認識」)、⑥1・2号機使用済燃料貯蔵プール水の飛散、⑦冷却ポンプ一時停止、⑧1号機タービン補機冷却水系サージタンクの水位低下、⑨2号低圧タービン「伸び差大」警報が確認さたとしている。

志賀原発は、新規制基準への対応で、震度6強以上の地震は来ないとして、原子力規制庁に1000ガルに耐えうるまで強度を上げたとして再稼働申請し、現在審査中である。北陸電力のHPには、「想定される最強の地震や、およそ現実的に起こるとは考えられないような限界的な地震が起きた場合の影響を受けても…安全上重要な機能は失われないよう考慮した設計」をしていると書かれている(2024.1.3)。

原子力規制委員会は、2023年3月3日の審査会で「新たに出された膨大なデータに基づいて評価し直したところ、将来活動する可能性のある断層ではないと判断できる、非常に説得力のある証拠が得られた」とし、原発炉心に活断層はないとの見解を示し、再稼働に道を開いた。経団連も、十倉会長が志賀原発を視察し、「やっと敷地内の活断層の問題にけりをつけ、今まさに前に進もうとされている。安全安心と地元住民のご了解が前提ではあるが、一刻も早く再稼働できるよう心から願っている」と(朝日:2023.11.29)、再稼働を急ぐよう強く圧力をかけていた。

北陸電力は、巨大な断層が連続して動くことを想定していない。延長150キロの「未知の断層」がM7.6の地震を起こしたとなると、原発の耐震想定は全てやり直しとなるであろう。「国土地理院が人工衛星の観測データを分析したところ、輪島市西部では最大で4メートル程度の隆起が検出されるなど大規模な地殻変動も確認された」(NHK:同上)。原発のある志賀町富来の海岸が隆起している。地元の聞き取りでは30~40cm程度隆起している。①の防潮壁の傾きは津波とは考えられず隆起(又は地震動)の影響かも知れない。国土地理院地殻変動情報(衛星SAR)において、原発のある志賀町付近など、能登半島の西側の隆起データがないのは不思議である。⑤変圧器の油漏れも原子炉の操作や燃料棒を冷やすこともできない全電源喪失事故につながるものであり非常に危険なものである。原発から30キロ圏内にある輪島市や穴水町の放射線モニタリングポスト15カ所が機能していない。もし、志賀原発が再稼働していたとすれば、電気も水も避難場所も避難できるルートも手段もない被災者にさらに恐ろしい事態が待っていた。

 

カテゴリー: 原発・原子力, 杉本執筆, 災害 | コメントする

【翻訳】Ukraineの将来は、ドイツやイスラエルの事例ではなくて、朝鮮半島の事例的である。

The Japan Times Weekend、  Sept. 2-3, 2023 
“ Ukraine’s future isn’t German or Israeli but Korean. ”
「Ukraineの将来は、ドイツやイスラエルの事例ではなくて、朝鮮半島の事例的である。」 
Andreas Kluth
[ Bloomberg Opinion columnist covering U.S. diplomacy, national security and geopolitics. He is author of “Hannibal and Me”.]

「Kyiv の攻勢は立ち往生している中で、世界はこの戦争の終結を見つけるべく、歴史のモデルを手探りしている」

Ukraineは、Russiaの侵入者を追い出すことはできないであろうし、Moscowは、また、Ukraineのさらに多くの領土を飲み込むことには、成功しないであろう。想像しがたい人間の苦悩はさて置くとして、一体、次に何が起こるのであろうか?
Russiaの侵略の始まりより、専門家、評論家や指導者が考えてきたように、彼らの思考を導く歴史の類似事例を直感的に掴めば、3例が明らかになる。Ukraineの一つのモデルは、1950年代のWest Germanyである。もう一つは、1970年代に始まったIsraelであり、三つ目は、1950年以来の朝鮮半島である。

West Germanyの例を引き合いに出す人々は、NATOは出来るだけ早くUkraineの占領されていない部分を西側の同盟に受け入れるべきであると主張している。このことは、Russiaが、さらなるUkraineの領土を強奪することを思い止まらせ、自由なUkraineを許し、繁栄する民主主義国に再建する、冷戦 (“the cold war”)の間のWest Germanyのように。
Ukraineの自由の部分をNATOの陣営に受け入れること、この推論は成り立つ、法的、政治的、戦略的に可能なはずである。そのことは、およそ1955年にNATOがWest Germanyと共に行ったことだから。 Germanyは、その時は第二次大戦の勝者である連合国に分割、占領されていた。それにもかかわらず、NATOは、Article 5 (集団的安全保障)- 1 memberに対する攻撃は全memberに対する攻撃と見なす― を正にWest Germany – その実体は西側3同盟国(U.S.,U.K., France)の支配地域を表していた-に広げて適用したがEast Germany―Sovietの支配地域にある―には適用されていない。
その集団的安全保障は、論争は続いているが、冷戦の残りの期間においてもSoviet Unionからの攻撃を抑止していた。そして、Ukraineも、またいつか、そのようになるであろうように、結果としてGermanyは平和的に再統合した。結論:Ukraineの人々がコントロールしている領土が何であれ、どのようであれ、それをもってNATOに参加させる。

他の識者は、より良いモデルとしてIsraelを挙げる。この国は、いかなる集団的同盟にも入らなかった。しかしながら、1970年代より初めて、米国は安全保障を正式なものとし、徹底的に武装させた。不敗の戦士国家として、また米国の協力者として、Israelもまた繁栄した。そして結果的に、力ある位置より、アラブの敵国との間で平和を作り始めていた。
UkraineにIsraelと同じような相互保障を与え、金と武器を与えよ。そして議論は進む。
そうすれば、Russiaは勝利できないことを理解するであろう。

第三の識者グループは提案する。Ukraineの戦線は、1952年頃よりの朝鮮半島の戦況に一番よく似ている。どちらの陣営も大きな勝利を得ることが出来ないように見える。両陣営は、保持できない法外な被害と費用を被るようにも見えない。すべての陣営―好戦的な国もそれを支持する国々も―は、話し合いを拒否すればするほど、局面を変えることなく、死者負傷者は増加し、苦難は続く。唯一の出口は、1953年の朝鮮半島におけるがごとく、平和条約の調印ではなく、解けない問題はそのままにするが、銃火は止める、とりあえず休戦するとの見識をもって、戦うと同時に交渉を行うということである。

West Germanyの例えは、魅力的に思えるが、しかし、的を外している。正確にはBonnは依然として、論理上は国全体を代表すると主張していたが、一国の一部のみを統治したに過ぎない。米国、英国、Franceの援助で西側ドイツ人は、Sovietを含めた4つの連合国が同意した国境でもって新しい国、共和国を設立した。その時はNATO*が設立された時であり、戦いはなかった。
*訳者: NATO: North Atlantic Treaty Organization, 北大西洋条約機構
     1949年4月4日欧州10か国(英国、仏国、ベルギー、デンマーク、アイスランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウエー、ポルトガル)、米国、Canadaの計12か国で発足。集団防衛、危機管理、協調的安全保障の三つの中核的任務を担うとする。 尚、ソビエト率いる東欧共産勢力のワルシャワ条約機構は、10か国で1955年に結成されている。
     1949年5/23 発足の西ドイツ政府に対抗して、同年10/7に、ソビエト統治の諸州が東ドイツ政府を設立している。
     そして、1955年5/6 西ドイツは、NATOに加盟した。

さらに、西ドイツの首相 Konrad Adenauerは、正式に国の分割を受け入れた。見返りとして、それ(東ドイツ部分)を、西側に統合することを、あいまいにして。このことで、彼は対抗勢力から激しい反感を買った。その勢力は、中立の見返りとして、再統一を目指して頑張りたかったのである。その道のりとは、Austria (その時は第三帝国”the Third Reich”*の部分であった。)が取った策であった。
 
*訳者:the Third Reich : 神聖ローマ帝国を、第一帝国、ビスマルク統治下の帝政ドイツを第二帝国、そして、その後を継ぐドイツ民族による三度目の帝国として、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)統治下のドイツで用いられた。

これらすべての道のりにおいて、Ukraineは1955年の西ドイツと異なっている。Russiaの支配下にあるUkraine国内の国境は、認証も固定もされていない。NATOは常時、Article5を、たとえその支配が変わった時でも(例えば、Bakhmutは、昨年はほとんどRussiaに占領されずに、Ukraineの支配下のままだった。)同じ町に適用するか否かを決めねばならないであろう。結果として、連合国は、戦いに介入してRussia人に発砲するか、(World War Ⅲのリスクを冒す。)又は、自慢の相互防衛条項(Article 5)を薄めるか、いずれかであろう。しかし、その場合にはArticle 5 は、その抑止効果を失ってすべての同盟国をリスクに曝す。
或いは、その代わりに、Ukrainian President Volodymy Zelenskyyは、Adenauerが行ったのと同じように(同じ例として東ドイツを切り離したように)、彼の好敵手であるVladimir Putinが併合したと言っている、Ukraineの5つの州にサヨナラしてPutinに渡すこともありうるであろう。しかし、Kyivは、すべての領土を取り戻すことを望んでいる。
Zelenskyyのみならず、Ukraineの他のリーダー達も、今日の時点でも、領土を取り戻すという目標を捨てることが出来ない。
偶発的で平穏だった(戦いのなかった)1990年の東西ドイツの再統合のような望みでさえ、積み上がって来ていない。Sovietは、45年の統治の間に東ドイツが民族浄化を試みないように統治、運営したし、地元住民のRussia化もしていなかった。Donetsk, Luhansk, Kherson, Zaporizhzhia and Kremea においても、浄化やRussia化は行ってきていない。

Israelとの類似は、もっとあるように見えるかも知れない。しかし、よく見るとドイツの例と同様に、ポッカリと穴が開いていることがわかる。米国の安全保障は、Israelが敵対するアラブ諸国との4度の戦争に勝利した後に、正式なものになった。Ukraineの自国の領土での戦いと違って、Israelは1970年代まで敵地で戦っていた。その頃Israelはまた、自身で核兵器を作った。―もっとも、その兵器工場のありかは確認されていないが。敵対するアラブ諸国は、今日に至るまで、核兵器を有していない。(これとは、別問題であるが、Iran―アラブではないが―は核開発に近づいている。)
それゆえに、Ukraineは、1970年代のIsraelとは、逆の状況に置かれている。Ukraineは決してRussiaを打ち負かすことはなかった。かれらは、2014年から2022年の間、Donbas地方ににおいて窮地に陥った自軍を保持した時においても。さらにUkraineは核を持とうとしたこともなかった。Ukraineは、1990年代にSoviet時代の在庫品をRussiaに引き渡した。Moscowより全地域の安全を保障してもらう代わりに。他方、Israelは米国の同盟国になった時には、すでに勝利者となっていて、核抑止力を保持していたのに、アラブの国々は打ち負かされて、原子爆弾も持っていなかった。その状況からIsraelは繁栄する経済と社会の国となった。しかし、Ukraineは、核なしで、常に核のサーベルを打ち鳴らす敵国Putinと戦っている。

Cease-fire without peace. [ 平和なき停戦 ]
朝鮮半島での類似の事例では、その時はどうだったのであろうか? 不完全ではあるものの、その事例が、一番手に入れやすく、役立てられやすいかもしれない。当時も今も、Moscow and Beijingは、侵略者側(北朝鮮 in 1950)を支持、支援した。他方、米国は犠牲地域(南朝鮮―訳者)の防衛のため国際連合軍を指導した。Ukraineにおけると同様に、朝鮮半島においても、活発な動きの開戦の段階から、しばらくして厳しく血なまぐさい膠着状態に入った。その時までには、米国、Soviet両国は、核を持っていた。
動かない状態が長く続いても、主要対戦国は話し合う用意すらなかった。PyongyangとBeijingは、その考えを心に抱いていたが、Mr. Joseph Stalin in Moscowは、柔軟性がなく堅かった。米国側にしても、Harry Trumanと彼の後継者 Dwight Eisenhowerは、国内政治に気を配らねばならなかったし、共産主義に対して説得力を欠いていたように見えた。
南朝鮮といえば、整理しきれていない自身の利害を追求していた。President Syngman Rhee(李承晩大統領)は、朝鮮半島全部を要求し、多くの囚人を開放するというような唐突なゼスチャーで味方である米国人を驚かせた。
そして、まだ戦闘が続いている中で、ついに話し合いが始まった。米国の海軍大学院のMr. Carter Malkasianによれば、「あなた方は、話し合いと戦いの準備を同時にしなければならない。」これは朝鮮戦争の一つの教訓である。
それでも、交渉は失敗し続けた。1953年3月、Stalinが亡くなった後、当事者が、再び交渉を再開したが、結論は双方誰をも満足させるものではなかった。
事実上、休戦(“armistice”)でもって、2年ぶりの戦争を始めた時の最前線を認めた。それ以外に重大な問題は、何も解決しなかった。単なる争いの凍結であった。しかし、この停戦
(“cease-fire”) は、今日まで続いている。そして、この70年間に南朝鮮は、活気ある豊かな民主主義社会になっている。
もし、朝鮮半島のモデルが正しければ、教訓は、どちらのサイドも軍事的には勝てず、結果は変わらない。ただ一つ残された特性は、それが認められるまでに多くの人々が不必要に死ぬ、ということがはっきりして、あまりにも長い間の後、はじめて戦火を止めて、戦闘部隊が話し合いの席に着くということである。
これは、どれも誰が正しいか、と言うことではない。歴史は一人の男、Vladimir Putinを記録することであろう。彼は、Ukraineにおいて未だ治まらず続いている災難において有罪である。 しかし、過去よりの知恵は、戦うと同時に、共に話し合う時期が到来したことを暗示している ― いかなる形であれ勝利を望(“hope”)まずして、しかし、何としてもこの悲惨なことは終わらせねばならないという諦め(“resignation”)の気持ちを持って。
                           [ 完 ] (訳:芋森)

 

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【投稿】ノーモア・ジェノサイド:米一極支配の歴史的後退--経済危機論(127)

<<紅海封鎖が西側経済に「激震」を与える可能性>>
世界経済全体、とりわけ西側・米欧経済に「激震」を与える可能性が取りざたされ、現実化している。その象徴的な事態が、エジプトのスエズ運河につながる紅海海峡を通るイスラエル向けの船舶に対する、イエメンのアンサール・アッラー抵抗運動Ansarallah(フーシ派)による封鎖(12/9 発表)である。イエメン軍の報道官、ヤヒヤ・サレエ氏は、イスラエルがガザ地区での虐殺・ジェノサイド戦争を終了し、包囲されたパレスチナ領土の封鎖を解除するまで、200万人以上の飢えている人々への人道援助が許可されるまで封鎖を続けると発表している。これは、反イスラエル・反米欧・反西側「抵抗枢軸」のアラブ諸国の中核となっている、ヒズボラ、ハマス、アンサール・アッラーによる協調した反撃行動の一環でもある。この抵抗枢軸グループは、この中東地域全体で連携し、統一戦線としてイスラエルと対峙し、ガザとヨルダン川西岸、レバノン、シリア、イラクで協調した行動をとっており、いずれも、過去20年間で軍事能力を大幅に向上させている。そして今回、実際に、アンサール・アッラーは石油を積んでイスラエルのアシュドド港に向かうノルウェーの船にミサイルを発射し、12/14には、イスラエル行きのマースク・ジブラルタル船をドローン攻撃したと発表している。紅海封鎖の標的となっているのは、イスラエルの大量虐殺という国際法違反を支援し、イスラエルにエネルギーや物資を届ける、日本を含む西側諸国の船舶である。すでにミサイルやドローンによる封鎖攻撃は実行されているが、イスラエルの港に向かわない船は攻撃されないと繰り返しており、ロシアのタンカーや、中国、イラン、グローバル・サウスの船舶は、紅海を平穏に航行し続けている。

 この交通量の多い紅海海峡は、最狭地点=バブ・アル・マンデブ海峡は33kmに過ぎないが、世界貿易の実に10% から 12% を担っている。パナマ運河の5%よりも倍以上大きいのである。紅海を通過する石油輸送量は、日量 880 万バレル、貨物輸送量が 1 日あたり約 3 億 8,000 万トンに達している。
すでに、エネルギー大手BP社は声明で、「紅海における海運の治安状況の悪化を考慮し、紅海を通るすべての輸送を一時的に停止することを決定した」と発表(12/18)、続いて世界の大手海運会社5社が航行を停止(マースク、ハパックロイド、イタリア・スイスおよびフランスの企業であるCMA CGM、地中海海運会社)、これに台湾のコンテナ輸送会社エバーグリーンも追随。現実に、紅海通過を目指していた46隻のコンテナ船が現在、南アフリカ・喜望峰回りに迂回を余儀なくされている。
当然、輸送コストが大幅に高騰し、航海距離が 40% 増加し、航海期間も2週間の追加が必要となり、輸送保険料も上昇。BP発表後の12/20のブレント原油価格は、2.7%上昇し、1バレル=78.64ドルとなり、米国産原油も2.8%上昇し、1バレル=73.44ドルに上昇。天然ガス価格も上昇、ヨーロッパの天然ガス価格は 7.7% 上昇している。商品価格とインフレの上昇がさらに想定されるのは当然と言えよう。それは必然的に、サプライチェーン不足と消費者物価上昇により、苦境に立たされている米欧・西側経済に危機の深化と悪影響を与えることは言うまでもない。

<<動揺し、うろたえる米バイデン政権>>
こうした予期せぬ事態の進行に動揺し、うろたえる米バイデン政権は、12/20、「イエメンのフーシ派による無謀な攻撃」に怒りに駆られて、「すべての国の航行の自由を確保し、地域の安全と繁栄を強化することを目標に、紅海南部とアデン湾の安全保障上の課題に共同で対処する」ために、「繁栄の守護者作戦(Operation Prosperity Guardian)」なる軍事作戦を開始すると発表した。「イエメン発のフーシ派による最近の無謀な攻撃の激化は、自由な通商を脅かし、罪のない船員を危険にさらし、国際法に違反している。」などとぬけぬけと述べているが、アメリカが直接関与し、支援しているイスラエルの国際法無視の、「罪のない」パレスチナ人大量虐殺・ジェノサイドには一言も言及していない。
 この米国防総省・ペンタゴン主導の海軍機動部隊は、紅海全域を航行する商業船舶を保護することを名目に、イエメンの攻撃からイスラエル関連の商船を守ると主張している。オースティン米国防長官の発表によると、この作戦、有志連合には、英国、バーレーン、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、セーシェル、スペイン、そして米国が参加する、と言う。
 ところが、である。この地域のアラブ諸国のうち、名を連ねているのはバーレーンだけである。アメリカの同盟国であったはずの肝心のサウジアラビアが欠落している。スペイン、フランス、イタリアといった他の帝国主義国家でさえ、ペンタゴン主導の介入への参加を拒否している。スペインは関与を否定し、「紅海作戦には一方的に参加しない」と表明し、フランスはペンタゴン指揮系統の下で機能することは望んでいない、と言う。
バイデン政権が最も期待をかけていたサウジアラビアは、もはやイエメンとの8年間続いたアメリカが支援した戦争を継続する意思が失せ、イエメン諸派との関係を改善する方向に傾き、親イスラエルの「プロスペリティ・ガーディアン作戦」への参加に関心がないことがすでに報じられている(12/25 ニューヨークタイムズ紙)。この米国主導の軍事作戦・有志連合は、発表されるやたちまち政治的困難と内部危機に直面しているのである。

<<バイデン:2期目獲得できなかった過去4人の支持率よりも低い>>
かくして、2023年・年末は、米国一極支配・ドル一極支配のリーダーシップが象徴的に崩れ去る歴史的「転換点」を全世界に明らかにしたのである。ウクライナ、BRICS、ガザ、いずれにおいても、米帝国一極支配構造は、後退と敗退を余儀なくされている。

ロシアをウクライナ危機に引きずり込み、ロシア・EUのノルド・ストリームパイプラインを破壊して、欧州のエネルギーコストを戦前の2.5倍とさせ、EU経済をガタガタにし、さらに全面的金融制裁でロシアを孤立させたはずが、ウクライナを疲弊と泥沼の戦争に追い込み、ブーメランで逆にドル一極支配体制自体が維持できない事態をもたらしてしまった。

対照的に、BRICS諸国は 11か国と拡大し、世界の GDP の 37% を占めているのに対して、西側 G7 諸国では 30% に落ち込んでいる。その中でも重要なのは、米国の忠実な同盟国であったサウジアラビアがBRICSに加盟し、ロシアと合わせて世界の石油の44%を生産、石油と密接に結びついていた国際基軸通貨としてのペトロダラー体制が有名無実化し、脱ドル化を加速させる事態をもたらしてしまったのである。

そして、イスラエルのパレスチナ・ガザ大虐殺攻撃へのバイデン政権の無条件加担・共謀は、決定的に米国一極支配の優位性、道義的信頼性を一挙に崩壊させ、「ノーモア・ジェノサイド」の声の前に世界的な孤立化を促進させてしまい、結果として、米帝国一極支配の慢心は、行き詰まり、孤立と動揺に揺れ動いているのである。
米帝国が過小評価していたイエメンの紅海封鎖攻撃にたいしても、それを防止しえない、阻止することも、未然に囲い込むこともできない、場合によってはイエメンのミサイル攻撃に対して米重量艦隊が意外に脆弱であることを

さらけ出してしまったのが現実である。

アメリカン・リサーチ・グループが12月17~20日に実施した最近の世論調査によると、バイデン大統領の支持率は37%で、57%が不支持であった。この支持率は、2期目を獲得できなかった過去4人の大統領の支持率よりも低いことが明らかにされている。ハリス大学とハーバード大学の最新世論調査によると、有権者の62%がバイデン氏が大統領の職務を遂行するのに適任であると疑っており、さらに48%が彼の大統領職は年々、月ごとに悪化していると考えている、と報道されている。NYTの世論調査によると、18歳から29歳までの有権者の75%近くがバイデン氏のガザへの対応を支持していない。

この2023年末の「画期的」な「転換点」は、もはや元に戻りえない、米帝国、ドル一極支配体制の全面的後退の到来を明らかにしていると言えよう。
(生駒 敬)

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【書評】吉田繁治著『金利と通貨の大転換』

【書評】吉田繁治著『金利と通貨の大転換』(2023年11月 ビジネス社 2,200円+税)

                             福井 杉本達也

1「猫の目相場」の金利と通貨の変動

12月16日付けの日経新聞は「日本国債『猫の目相場』」との見出しで、新発10年債利回りは15日、一時、前日比0.05%上昇し0・705%を付けた。14日には米連邦公開市場委員会(FOMC)後の米金利低下が波及し、前日比0.06%低下する場面があった。」と書いている。円・ドル為替レートは、11月13日の150円38銭という円安相場から、日銀の植田総裁が参議院でマイナス金利の解除と受けとられる発言をした12月7日には141円70銭、FRBの「米利上げ事実上終結」と報道された14日には140円94銭へ、大きく変動し、その後15日には142円15銭に戻している。「日米金利差を背景とした円売り・ドル買いは逆回転を始めている」(日経:2023.12.17)としているが、どうして、「円安亡国論」がいわれる150円台まで対ドル相場が下がったのか、また、最近の「猫の目」といわれる極端な為替変動はどうとらえるべきなのか。本書はその解を示している。

2 第二次安倍内閣の「異次元緩和」とその出口

「2013年からの8年で500兆円の国債を日銀が買うという方法で」「銀行・生保・政府系金融の当座預金に、円の現金を供給した」が、国内では空回りし、「当座預金の増加分の58%をドル証券や預金として米国に貸し付け」、「ドル買い=円売りが超過すればドル高で、円安になる」。「円が過小評価され、ゼロ金利の日本が約5%の金利があるドル債を買っているためドルが過大評価」されているのである。米国は、アフガニスタンやイラク、シリアやウクライナ・ガザなど世界各地で戦争の火をつけ廻り、軍事費の負担に喘ぎ、共和党の反対で債務の上限も制限されるような財政赤字を補填しているのが日本なのである。著者は「日本は、どこまで米国への忠誠を続けるつもりか?」と問いかけ、「いや日本人が忠実なのではない。政治家と官僚が忠実なのである」と回答する。「米ドルと4%の金利差があれば、銀行や生損保がドルを買うに決まっている。」「日銀が奨励している」。

しかし、今後、日銀は「ゼロ金利」を脱却し、米欧のように利上げできるのだろうか。平均残存期間が8年の1200兆円もある既発国債は、金利を2%上げれば17%下がる。国債を持つ日銀と金融機関は180兆円の含み損を抱えることとなり、債務超過の陥り、政府が発行する新たな国債を買う余力がなくなる。著者は「インフレ3%であっても長期金利を1.0%以上には上げることはできない。2%から銀行危機と財政危機になる」と見ている。

3 変動相場制とは

1971年まで米ドルは金と交換ができた。金はドルの価値を保証している重要な金属である。ところが、ベトナム戦争で経常収支が赤字に転落した米国は、金とドルの交換を停止した。「価値のアンカーを失った世界の通貨は固定相場から…変動相場制に移行した」。「金の裏付けがない信用通貨での変動相場制は5000年の世界史でははじめてだった」。基軸通貨とはキー・カレンシー、「価値の固定軸になる通貨」である。「変動相場は金との関係が切れた信用通貨のドルが価値の安定した基軸ではなくなったことを意味する」。「外為市場の自然では、経常収支が長期にわたって赤字なら通貨は下がる」、「他方、経常収支の黒字国の通貨は上がる。これが変動相場を成り立たせる原理である」はずなのだが。

4 ペトロダラー通貨システム

「ドルの相対価値が変わる変動相場」において、「基軸通貨」としての地位を守るというのは全くの矛盾である。「米国が40年もの長期間貿易赤字であってもドルを増刷して支払えば、相手国は基軸通貨だからと受け取る」、「米国は、輸出を増やして輸入を減らして貿易を黒字にする産業界の努力がいらず、FRBと銀行がコンピュータのキーを叩いてドルの増刷を続ければいい」。「経常収支の赤字がいくら多額に続いても、ドルを増発して海外に渡せばいい」という地位を50年も保つことができるというまことに不思議な解を与えたのは、11月に死亡したニクソン政権の国務長官キッシンジャーである。キッシンジャーは、金の価値の裏付けがなくてもドルが基軸通貨を続ける手段を考えた。1974年、キッシンジャーは産油国・サウジに出かけ、当時のファイサル国王に、米軍が駐留して王家の体制を民主革命から守る。その交換条件として原油をドルで売ることを提案した。「世界は、原油を必需のエネルギーとして産油国から輸入しなければならない」、原油は「米ドルでしか買うことができない」、「米国以外の国がドルを得るには経常収支を黒字にして、ドルの外貨準備を貯めておかねばならない」、貯めたドルは「米銀またはFRBに預金するか、米国債を買う」ことによって、再び米国に還流するというシステムである。

5 BRICS通貨の登場

米国は、2022年2月にウクライナ侵攻したロシアへの金融制裁として、通貨の国際送金網であるSWIFTからルーブルを排除した。SWIFTから排除されると、ドルとの交換ができず、貿易ができない。「金融の核兵器」である。しかし、ロシアは人民元のCIPSを利用し、人民元とルーブルを交換した。また、インドとも相互の通貨で原油取引を開始した。グローバルサウスの国々は、自分たちもSWIFTから排除されるのではないかと危惧した。そこで、今年8月、BRICSが連合し「金ペックとされる新国際通貨(仮称BRICSデジタル通貨)に結成会議」が開催された。世界経済の成長の重心はBRICS+産油国+グローバルサウスに移行している」。欧米日は中国のマネー・パワーを「過小評価したい願望を持っている。ロシアには、膨大なエネルギーと鉱物資源がある…20年後には世界最大のエネルギー・資源供給大国」になり、「ルーブルの価値の裏付けなるものは、金と資源である」。BRICS+産油国は「2023年後半期から相互の貿易決済に使うデジタル通貨になっていく」。「ドル基軸のG7がBRICS加盟予定国と逆転された時期と認識しなければならない」。「加盟国間の貿易では、現在のドルの外貨準備がいらなくなる。そこで通貨加盟国のドル準備(推計7兆ドル:980兆円)の売りが始まり、ドル下落になっていく。1年に7000億ドル売っても98兆円のドル売りになる…ドル体制は縮小していく」、「ドル支配の終焉と同時に日本は資産を失う!そしてデジタル通貨戦争でロシアと中国が勝つ!?」と著者は予測する。まさに、今、読むべき著作である。

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【追悼】パレスチナ「ガザの語り手」レファアト・アラリール

<<“If I must Die.”>>
今月、12/6、パレスチナの著名な詩人、作家で、何よりもパレスチナ人の権利を訴え続けてきた活動家である、レファアト・アラリール氏(Refaat Alareer)が、ガザ北部シャジャイヤでイスラエル軍の爆撃によって殺害された。一緒にいた兄弟姉妹やその子ども4人も死亡した。自分が殺されることも想定して、「“If I must Die.”もし私が死ななければならないのなら」という詩を書き残していた。米ニューヨークや英ロンドンでは追悼集会が開かれている。

 ガザ地区にあるイスラム大学で2007年から比較文学の教授を務めていたアラリール氏は、ガザの経験を記録に残す活動、「ガザの語り手」として、広く知られており、2014年のイスラエル攻撃後にガザで立ち上げられた「私たちは数字ではない We Are Not Numbers 」の創設者の1人でもあった。
アラリール氏は、2014年、イスラエルに封鎖された生活を若い作家たちが記録した短編集「Gaza Writes Back: Short Stories from Gaza, Palestine」を編纂、エッセーや写真、詩をまとめた2015年の「Gaza Unsilenced」(2015 年)では共同編集者として、イスラエルに封鎖されたパレスチナ人の苦痛と喪失、信仰を描き、2022年に出版されたコレクション「Light in Gaza: Writings Born of Fire」への寄稿「ガザは尋ねる:いつ過ぎ去るのか?」の中で、アラリール氏は「きっと過ぎ去ります、私はそれを望み続けます。 それは過ぎ去ります、私は言い続けます。 …ガザが命にあえぎ続ける中、私たちはそれが過ぎ去ろうともがき、反撃し、ガザの物語を伝える以外に選択肢はありません。 パレスチナのために。」と書いている。

アラリール氏は英BBCのインタビューの中で10月7日の攻撃を「パレスチナの抵抗勢力による先制攻撃」と形容し、「正当かつ道徳的」だったと発言。ハマスのこの攻撃を、ユダヤ人の抵抗勢力がドイツに対して起こした1943年の武装蜂起「ワルシャワ・ゲットー蜂起」になぞらえた。当然かつ正当なアラリール氏の発言である。ところが、この発言を問題視したBBCは、今後はアラリール氏をコメンテーターとして起用しないと表明したのであった。

12/14、しかしそのBBCは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のスタッフと学生のネットワークである「UCLパレスチナ連帯 UCL Palestine solidarity 」が企画した、アラリール氏を追悼する徹夜祭が12/13の午後に開催されたことを詳細に報じている。

 アラリール博士が2007年にこのUCLに留学していたことから、この大学の広報担当者は「われわれはこの影響を受けたすべての人々を支援するために取り組んでいる」との発言を紹介したが、同時に東ロンドン出身のUCLの現学生アムナ・ガッファーさんの発言、「彼はUCLの卒業生でしたが、大学が彼を認識したり認めたり、敬意を払ったりしていないと私たちは感じています。」を紹介し、学生や職員らは、「大学の当局は依然として彼の殺害を非難せず、声明を発表することを拒否している」ことに不満を表明したことも報じている。この通夜に同席したBBCロンドンのアルパ・パテル記者によると、トルコ人、エジプト人、イギリス人などさまざまな国籍の学生たちが、アラリール氏の詩「もし私が死ななければならないとしたら“If I must Die.”」の朗読中に泣き、手を握り合っていたという。

<<爆撃にさらされた子どもたち>>
アラリール氏は、10月12日と13日にガザから米CNNの取材に応じ、もし自分が死亡した場合には、インタビューなどの記録を公表することを承諾していた。CNNは、12/12、そのインタビューの内容を報じている。

 アラリール氏は、「我々には信仰があり、信念がある。自由のために、基本的人権のために反撃する正当な理由、公正な理由がある。我々はそれをはく奪された」。アラリール氏はCNNにそう語り、国際社会に対してはパレスチナの人たちの「人間性」に目を向けてほしいと訴え、「彼らの痛みを感じ、彼らの身になってみてほしい」と呼びかけている。
その中でとりわけ子供たちのことに触れ、ガザ市民は執拗に続くイスラエルの空爆から自分たちや子どもたちを守る術がなく、「無力感と絶望」を感じているとアラリール氏は話し、爆撃にさらされた子どもたちは心と体に傷を負っていると指摘。「私たちはそのことを語りたがらない。あの子どもたちや家や生活が、数年ごとに何度も、何度も破壊されていることを、考えたいとさえ思わない」、建物が爆撃される音は「地球全体に鳴り響く」ように感じられ、「ドアが閉まる音でさえも、そうした記憶がよみがえることがある」、「最初の2~3日は恐怖にとらわれる」「それがやがて無感覚に変わり、完全な無関心状態、放心状態になる」、「祈りたくても爆撃があるから途中でやめる。食べたくても爆撃があるから食べるのをやめる」、「子どもを抱きしめて物語を聞かせたり、頭をポンポンとたたいたりしたいと思う」、「でも、それが最後のお別れのように感じたり、子どもにそう感じさせたくないと考えてやめようと思う」、「我々は子どもたちが生き延びた戦争の数で年月を数える」、と語っている。

<<圧力をかけ、結集し、街頭に繰り出すこと>>
これが、イスラエルの無差別爆撃・ガザ虐殺攻撃の実態である。10/9に、イスラエル国防相はパレスチナ人を「人獣 human animals 」と表現し「それに合わせて行動する」、「我々は、人獣と闘っている We are fighting Human Animals 」と公言し、12/12に、バイデン米大統領が「彼らは動物です They’re animals. They’re animals. 」と繰り返し語った、パレスチナの人々を人間以下の動物扱いする、まさに典型的な差別・ヘイトクライム、大量虐殺・ジェノサイド=“ ガザサイド ”である。

 今年の10/10のアメリカの独立ニュースメディア、デモクラシー・ナウにガザから参加したアラリール氏は、「イスラエル当局者はナチスの言説やナチスの言葉を使い、パレスチナ人を野蛮人や絶滅すべき動物として語り、ガザは駐車場にする必要があると語っている。私たちは、西側諸国とアメリカの税金の援助と支援を受けて、パレスチナ人を絶滅させるという組織的、構造的、植民地的な試みに直面しています。アメリカは80億ドルを送金している。これは本当に非常識です。アメリカはまた、より多くのパレスチナ人を殺害するためにイスラエルに軍艦や爆弾や弾丸を送っている。」と糾弾し、
「私たちにある唯一の希望」は、「アメリカ国内で大衆の支持が高まり、アメリカとヨーロッパ全土の運動、人権運動、人権運動が街頭に出て、政治家にこの問題を終わらせるよう圧力をかけることだ。アフリカや世界中でホロコーストや他の大量虐殺がどのようにして許されたのかと人々が尋ねているなら、今ではそれをテレビやソーシャルメディアでライブで見ることができます。パレスチナ人の街区全体、病院、学校、企業が破壊された。私たちはイスラエルによって破壊された何千もの住宅について話しています。したがって、世界中の自由な人々への私のメッセージは、圧力をかけ、結集し、街頭に繰り出すことです。」と訴えている。

このアラリール氏の「唯一の希望」に応えることが、私たちに問われている。
(生駒 敬)

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【投稿】孤立する米・イスラエル:ガザ虐殺路線--経済危機論(126)

<<国連総会、即時停戦要求決議を圧倒的多数で可決>>
12/6、国連のグテーレス事務総長が国連憲章・第99条「事務総長は、国際の平和及び安全の維持を脅威すると認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができる」にもとづいて、この第99条発動という異例の措置を講じ、国連の安全保障理事会に書簡を送り、パレスチナ・ガザ地区での破滅的事態を回避するための緊急行動を求めた。
書簡では「ガザ地域にある家屋の半数以上が破壊され、220万人の住民の80%が家を追われ、国連施設に110万人が避難を求め、ガザ地区の医療システムが崩壊しつつあり、36の医療施設のうち部分的にも機能しているのは14にすぎない」と述べ、ガザ地区への人道支援体制が崩壊の危機に瀕しており、これが地域の国際平和と安全保障に重大な危険な状況をもたらしているとして、安保理に「人道的大惨事」を回避する「人道的停戦」を宣言するよう促したのであった。

12/8、安全保障理事会は「人道的即時停戦」と人質全員の無条件解放を求める決議案を採決したのであるが、米国は15カ国からなる理事会の中でこの法案に反対票を投じた唯一の国であった。この措置に賛成票を投じた安全保障理事会加盟国13カ国は、アルバニア、ブラジル、中国、エクアドル、フランス、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、モザンビーク、ロシア、スイス、UAE(アラブ首長国連邦)である。米国の緊密な同盟国であるはずの英国は棄権した唯一の国であった。13対1で可決したのであったが、決議案は米国の拒否権行使により採択されなかった。しかしこの時点で、米国とイスラエルは孤立に追い込まれていることが明らかである。
その翌日、イスラエルのネタニヤフ首相はアメリカの拒否権使用を「感謝」、「評価」し、「正義の戦争を継続する」と、あくまでもガザ虐殺路線の継続を宣言したのである。

すでに、10/16、ロシアが提起した人道危機を回避するための即時停戦決議に、ロシア、中国、UAEなど5か国が賛成、米国と英国、フランス、日本の4か国が反対、残る6か国が棄権で採択されず、その2日後のブラジルが提出したガザ地区での「人道的一時停止」を求める決議案にも、理事国15カ国のうち12カ国が賛成票を投じたが、採択に必要な9カ国以上の賛成は得られたものの、反対したのは米国のみが拒否権を行使し、否決となっている。

12/12、米国が拒否権を発動して破棄した4日後、緊急に招集された緊急特別会合の国連総会は、ガザでの人道的即時停戦を要求する決議を圧倒的多数で可決したのであった(賛成: 153 反対: 10 棄権: 23)。決議は、人道的停戦、民間人の保護、人質全員の即時無条件解放と人道的アクセスを要求している。
この決議案を起草したアラブ20カ国とイスラム協力機構は、193カ国の機関の大多数の支持を獲得し、12/12の総会の緊急特別会期中に153カ国が決議案に賛成票を投じた。 この決議案には10カ国が反対票を投じたのは、米国、イスラエル、パプアニューギニア、パラグアイ、オーストリア、チェコ、グアテマラ、リベリア、ミクロネシア、ナウルの10か国であった。
決議に反対票を投じた米国は、グリーンフィールド米国国連大使が総会で演説し、米国は「ガザの人道状況は悲惨であり、民間人は国際人道法で保護されなければならないことに同意する」として、圧倒的多数の賛成に配慮せざるを得ない苦渋をにじませながらも、「今の停戦はよく言えば一時的で、最悪の場合は危険だ」とイスラエル擁護に回り、イスラエルのギラド・エルダン国連大使は、この決議案をイスラエルの手を拘束しようとする「恥ずべき」試みであると非難し、「ガザでのイスラエルの作戦継続が人質を解放する唯一の方法だ」と強弁した。

この国連総会の即時停戦要求決議について、パレスチナのリヤド・マンスール国連大使は、この決議案は「『呼びかけ』でも『促す』ものでもなく、要求するものであり(The resolution “does not ‘call for’ or ‘urges’ – it demands)、「歴史的」であると称賛している。ハマス政治局員のイザット・アルリシュク氏も、声明の中で、イスラエルのパレスチナ人民に対する「大量虐殺と民族浄化の戦争」と呼ぶものを非難すると同時に、この決議を歓迎している。
国境なき医師団の事務局長アヴリル・ブノワ氏は、「今日、世界の大多数がガザでのこの流血と苦しみの終結を要求するために団結した。米国は再びガザでの民間人に対する大虐殺の継続を容認する決定を行った」と、米バイデン政権を糾弾している。

<<バイデン「イスラエルは支持を失い始めている」>>
明らかにバイデン政権は、窮地に立たされている。イスラエル・ネタニヤフ政権のガザ大虐殺・ガザ地区のガレキ化、パレスチナ住民のエジプト・シナイ半島への追い出し作戦は、全世界からのますます増大する批判の前に孤立化し、何よりも、いくら隠しても隠し切れない230万人近い人的被害と見捨てられた女性と子どもたちの虐殺は、道徳的、政治的深淵・危機の深刻な現実をさらけ出している。これを無条件で支持し、加担してきたバイデン政権自身も、「ジェノサイド・ジョー!」として糾弾され、全世界から孤立化に追い込まれる事態である。

そして、政治的・経済的危機として、バイデン、ネタニヤフ両政権が終始追求してきた「ガザを地図から一掃する」こと、その成果として巨大なガザのすべての海洋沖合ガス埋蔵量を没収することが頓挫しかねないことである。イスラエルがあってこそ、このガス鉱床が当てにできる。バイデン氏は、それを、「もしイスラエルがなかったら、我々はイスラエルを発明しなければならなかったでしょう。」と発言している。

12/12、バイデン氏は、ワシントンD.C.での非公開の募金活動中選挙キャンペーンレセプションで、この発言を再び確認し、ネタニヤフ首相をあだ名のビビで呼び、「私たちはイスラエルの強力な支持者として、自分たちが何をしているのか、何が目標なのかについて正直でなければなりません。私たちは、ハマスに対して、イスラエルが自らを守り、任務を完了するために必要なものを提供することから、当面は手を引くつもりはない。何よりもまず、ハマスの責任を追及するために全力を尽くしてください。 彼らは動物です。」とまで発言している。なんと、イスラエル国防相の「人獣」とたたかっている、という発言と同類である! 「ジェノサイド・ジョー」を自己暴露している。

しかしバイデン氏は同時に、イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの「無差別」の爆撃によって支持を失いつつあると述べ、ネタニヤフ首相は強硬路線の政権を変える必要があるとの認識を示さざるをえなくなったのである。バイデン氏はさらに、イスラエルの極右政治家、ベングビール国家治安相に特に言及し、イスラエル現政権は「史上最も保守的な政府だ」と指摘。「ネタニヤフ首相はこの政府を変えなければならない」と、ネタニヤフ政権再編にまで踏み込んでいる。しかし、バイデン氏自身も急速に「支持を失い始めている」ことには言及できない。
窮地に追い込まれたバイデン政権のあがき、とも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】米・イスラエル:ガザ虐殺の第二段階--経済危機論(125)

<<「子どもたちに対する戦争」>>
イスラエルのガザ攻撃再開によって、パレスチナ・ガザ地区は「停戦協定締結」前の段階よりもより一層過酷な、ジェノサイド・大虐殺の様相を濃くした「悪夢のような状況」をもたらしている。
 赤十字国際委員会のロバート・マルディーニ事務局長は、爆撃再開によりガザの人々は「停戦協定締結前の悪夢のような状況に逆戻り」し、以前よりもさらに何百万人もの人々が切実に支援を必要としている、食料、医薬品、きれいな水、そして衛生的な生活環境が皆無に近くなり、「人々は限界点にあり、病院も限界点にあり、ガザ地区全体が非常に不安定な状態にある」と語っている。
ガザ南部のカーンユニスに滞在中の国連国際児童緊急基金(ユニセフ)のジェームズ・エルダー報道官は、多くの人が避難している市内のナセル病院の近くまでが空爆されており、「ガザの人道状況は非常に危険であり、持続的な平和と大規模な緊急支援以外はガザの子どもたちにとって破滅を意味する」と警告し、ガザへの攻撃は「子どもたちに対する戦争」であると告発している。

この2か月弱の間に、イスラエルは子供6000人、女性4000人を含む少なくとも1万5000人以上を殺害し、約3万人が負傷し、6000人以上が行方不明1となり、その多くは瓦礫の下に埋もれている。 殺害された人の70%は女性と子供である。10万棟の建物を破壊・損傷し、170万人のパレスチナ人を南部へ避難させ、その南部まで爆撃し、ガザの医療施設のほとんどを破壊した。まさにジェノサイドそのものである。

 停戦・人質交換協定の過程で、ネタニヤフ政権内最右派から、イスラエル国防軍(IDF)は、「勢いを失っている」との繰り返しの苦情と首相罷免要求、さらには支持率急落の中で、ネタニヤフ首相は何が起こっても軍事行動を再開することをすでに決定していたのである。ガザへの攻撃を継続させると約束し、「地上攻撃の最も集中的な段階が2024年初頭まで続き、1年以上続く」、新たな段階の戦争準備を進めていることを請け合ったのである。

12/3に公開されたハマスの公式声明は、「私たちは、民間人捕虜交換作戦の後、侵略がガザに戻るだろうという情報を持っていました。ガザへの侵略が続く限り捕虜交換は行われない。私たちは解放の戦いの最中にあり、占領者は私たちの土地から立ち去らなければなりません。」と述べている。ハマス上級報道官オサマ・ハムダン氏は、「一時停戦の過去7日間、イスラエルは毎日、プロセス全体を弱体化させるような行動をとっていた」と語り、「解決策は停戦を結ぶことではない。本当の解決策は、この占領を終わらせる仕組みを見つけることである。」と強調している。

<<ガザの巨大なガス鉱床>>

ガザにおけるイスラエルの大量虐殺作戦の第1段階から、第2段階への移行は、停戦などとは全く無縁な、さらに高いレベルのパレスチナ住民の死、ガザ地区全体のガレキ化と占領をもたらす危険性を現実のものとしており、すでにイスラエル情報省は、漏洩した報告書の中で、ガザ地区住民をエジプトのシナイ半島へ強制移住するよう求めている。

11/30、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ政権幹部らと会談したブリンケン米国務長官は、イスラエルに対し、ガザ地区の民間人保護に一層の努力をするよう求めたと伝えられている。しかし、イスラエル政府は、バイデン政権が表明した公的および私的な懸念を繰り返し無視しており、懸念への言及さえ拒否している。ブリンケン氏は、停戦の一時停止は「ハマスのせいで終わった。ハマスは約束を反故にした」というイスラエルの嘘・いつわりを支持し、この期に及んでも、米国が「自国を守るイスラエルとの強い団結」を繰り返している。その一方で、米国は「民間人を守るためにあらゆることを行っている」と主張しているが、ニューヨーク・タイムズ紙からは「しかし、彼はイスラエルによる具体的な約束には言及しなかった。」と皮肉られている。
 それどころか、膨大な数の民間人や子供の死者数にもかかわらず、米国はイスラエルに無条件の軍事援助を提供し続けている。 ホワイトハウスは、イスラエルがガザ地区で何千人もの罪のない人々を殺害していることを認めているが、米国の支援に影響を与える「越えてはならない一線」はないと述べた。

イスラエルのガザ大虐殺の共同正犯として、今や「ジェノサイド・ジョー」と怒りを込めて糾弾されるバイデン大統領は、自らの政治的延命をあきらめざるを得ない段階に追い込んでいる、とも言えよう。アメリカ国民と全世界が目撃してきたパレスチナ人虐殺の恐るべき残虐性、規模、アパルトヘイト政策を無条件に支持してきたバイデン氏は、1年を切った大統領選で最も頼りにすべき民主党支持層からでさえ見放されつつあり、18歳から40歳までの民主党員の実に70%が、イスラエル・ガザ「戦争」に対するバイデンの「対応」に「反対」であることが世論調査で明らかになっている。「この世論調査は驚くべきものだ。イスラエル・ハマス戦争がバイデンに与えている影響を考えると、驚くべきものだ」と報道される事態である。2020年にトランプ大統領ではなくバイデン氏のために懸命に働いた多くの活動家は、気候変動、人種的正義、ガザ虐殺、その他で、今やバイデン氏に対してほとんど熱意を持っていないのである。
さらに、ミシガン州、ミネソタ州、アリゾナ州、ウィスコンシン州、フロリダ州、ジョージア州、ネバダ州、ペンシルベニア州のイスラム系米国人の指導者らがミシガン州ディアボーンに集まり、「これら激戦州の指導者らは2024年の選挙でバイデン氏の敗北を保証するために協力する」#AbandonBidenと呼ぶキャンペーンを開始する予定を明らかにしている。アラブ系アメリカ人やイスラム系アメリカ人の怒りは、2020年に勝利した激戦州のほとんどでバイデン大統領の再選の見通しに直接的な悪影響を与える可能性がある、と指摘されている。

それでもなおバイデン氏は、イスラエルの無条件指示にこだわり続けるのか? それは民主党議員の大多数に膨大な政治資金支援を続けてきているイスラエルロビーの政治的経済的影響力、そして戦争利権と固く結びついたネオコン勢力とバイデン氏が切っても切れない関係にあること、
そしてさらにイスラエル・ガザ地区沿岸の巨大なガス鉱床の存在が、国際石油・エネルギー独占資本、金融資本にとって、BRICS諸国から

の追い上げ、中東での影響力の後退を跳ね返す機会到来、と手ぐすねを引いていることと無関係ではないであろう。
その巨大なガス鉱床は、1兆立方フィート(約3000億立方メートル)をはるかに超えており、世界のエネルギー供給分野で大きなプレーヤーとなる可能性を秘めており、ガザのパレスチナ住民を追い払うことがこのガス鉱床を略奪する決め手でもある。米・イスラエル両政権が結託する根底に横たわっているこの政治的経済的利害こそが、ガザ大虐殺をもたらしているとも言えよう。
すでにパレスチナ人は、「我々のガスは、我々の権利である」と宣言し、昨年9/13にはパレスチナと世界を結ぶ海路の建設を要求している。(Our Gas is Our Right Palestinians rally on Sept 13 2022)。(the Washington Post November 25, 2022

このようなバイデン・ネタニヤフ両政権のジェノサイド路線は世界から孤立しつつあるが、それをさらに破綻させることが要請されている。ガザ虐殺の第二段階への移行は、さらなる政治的経済的危機を深化させるであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】岸田軍拡に歯止めを

11月27日の参議院予算委員会で岸田総理は、円安が進行する中でも今後5年間の軍事費は43兆円とする考えを改めて示した。しかし初年度のレートを1ドル=137円、2年目以降は108円という想定を元にした予算は、1ドル=150円という現実の前に、約3割のロスが生じるとみられており、破綻することは明らかである。
そのため政府は、ミサイルや艦艇、航空機の取得を最優先として、なんとしても軍拡計画を維持・推進しようとしている。
2024年度の軍事費は概算要求段階で7兆7385億円という過去最大のものとなっている。その内訳は東シナ海、南西諸島を主戦場としつつ、中国本土攻撃も想定した兵器の開発に重点が置かれている。
なかでも最優先とされているのが「スタンド・オフ防衛能力」の取得、すなわち長距離、高速ミサイルの取得、開発であり、約7500億円が投じられる。
既存の地対艦誘導弾能力向上型の開発・取得などに624億円、島嶼防衛用高速滑空弾の開発に836億円、極超音速誘導弾の開発・製造態勢の拡充などに85億円、さらに新地対艦・地対地精密誘導弾の開発に320億円など、国産各種誘導弾の開発、装備化を進めようとしている。
これらは「南西諸島に侵攻する中国軍の空海戦力」を迎撃し、さらには中国の航空基地を破壊することを狙ったものである。
さらに政府は、これら兵器の戦力化までの対中武力衝突を想定し、10月の日米防衛相会談を踏まえ、巡航ミサイル「トマホーク」を25年度から前倒しで配備することを決定した。当初は、最新型の「ブロック5」を26年度から導入する計画であったが間に合わないため、旧型の「ブロック4」を先行配備するとしている。
次に約1兆3787億円という最も多額の経費が投じられるのが、陸海空各自衛隊の兵器購入である。陸自の各種戦闘車両を始め、海自の新型護衛艦、潜水艦、補給艦、さらに空自のF35などの取得、建造が予定されている。
これに加え2隻の「イージスシステム搭載艦」建造を核とする、「統合防空ミサイル防衛能力」に約1兆2713億円が当てられる。
このように今後経済情勢が見通せない中でも、岸田政権は計画の修正をしつつ軍拡を進めるものと考えられるが、求められるのは計画全体の見直しである。
近い将来の台湾有事、対中軍事衝突惹起という軍拡の前提こそ、改めなければならない。西南諸島の要塞化が進むなか、11月23日那覇市で開かれ約1万人が結集した県民平和大集会では、対話による信頼構築が強く訴えられた。
11月16日の日中首脳会談では「戦略的互恵関係」が確認され、26日の日中韓外相会談でも首脳会談の早期開催で一致したが、それらを形式的なものにとどまらせないためにも、沖縄に連帯し岸田政権に軍拡政策の転換を求めていかなければならないのである。(大阪O)

 

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【投稿】イスラエルの「核」とバイデン政権--経済危機論(124)

<<ガザへ核爆弾:一つの「選択肢」発言>>
この11月初旬までに、イスラエルのネタニヤフ政権は、パレスチナのガザ地区にすでに2万5000トンをはるかに超える大量の爆弾を投下しており、これだけですでに広島型核兵器・原爆2発分に相当すると言われる。
11/20現在、この空爆やミサイル発射で死亡したパレスチナ人はすでに1万3千人以上に達し、その半数以上が女性と子供である。爆撃対象は住宅街、市場、モスク、教会、病院、生活に不可欠なインフラ、救急車、民間輸送車等々、無差別で

ワシントン大行進1「ジェノサイド・ジョー!」

、今や動くものは何であれ爆撃し、ガザ地区の文字通りのガレキ化を進行させている。しかし、それでも戦況は長期化の様相を呈している。
ネタニヤフ政権は、このガザ地区の大量虐殺・ジェノサイドを米バイデン政権の強力な支援、無条件の支持の下に推し進めてはいるが、その非人道的で許しがたい実態が次々と明らかにされ、全世界的な孤立化が急速に進行し、米・イスラエル両政権の内部矛盾もどんどん拡大し、両政権とも危険なジレンマに立たされている。バイデン氏自身が、ホワイトハウス前の10万人の抗議デモで「ジェノサイド・ジョー!」と糾弾される事態である。

その中で飛び出したのが、核兵器使用も一つの「選択肢」だという、ネタニヤフ政権の閣僚アミチャイ・エリヤフ(Amichay Eliyahu)文化遺産大臣の発言であった。11/5、地元イスラエルメディアとのインタビューで、報復攻撃の規模に不満を表明し、さらに「人道支援など行うべきではない」、なぜなら、「ガザ地区にハマスに関わっていない者などいないからだ」と、大量虐殺・ジェノサイドを正当化し、司会者から、ガザに核兵器を使用して「皆殺し」にする手法を容認するのかと問われると、「それは選択肢のひとつだ」と述べたのであった。
この発言には世界中から非難が相次ぎ、もちろんアメリカも11/6、米国務省のパテル副報道官が、パレスチナ自治区ガザへの核攻撃を認めるようなイスラエル閣僚による発言は「全く容認できない」と強く非難している。とりわけ近隣のアラブ諸国は直ちに反応し、UAEの報道官は「このような発言は国際法違反であるだけでなく、戦争犯罪など国際人道法への重大な違反を扇動するものであり、大量虐殺の意図があるという重大な懸念を引き起こしている。」と述べ、ヨルダン政府もエリヤフ市の発言は「無視できない虐殺と憎悪犯罪の呼びかけ」であると主張する声明を発表、アラブ連盟事務総長アフメド・アブル・ゲイト氏は「イスラエルは核兵器を保有しているが、これは公然の秘密である(…)(大臣のコメントは)イスラエル人がパレスチナ人に対して抱いている人種差別的見解の真実を裏付けるものである(…)これが占領政府の本当の姿である。」と強硬な声明を発表している。

このエリヤフ氏の発言に驚いたネタニヤフ首相は、「現実とかけ離れている」と否定する声明を発表し、イスラエル国防軍は「無実の人々への危害を避けるため、国際法の最高基準に従って活動している」と強調、すぐさまエリヤフ氏を停職処分とした。続いて、イスラエルの国防長官ギャラント氏は、彼の発言を「根拠のない無責任な言葉」と非難したのであった。
しかし、当のエリヤフ氏は、「私の原爆に関する発言は、たとえ話だということが明らかだ」と釈明しつつも、それでも「テロに対する強力かつ不釣り合いな対応が間違いなく必要だ」と、あくまでも「強力な武力行使」を引き続き主張している。そして、ネタニヤフ氏自身も閣議でイスラエルを「核強国」と表現し、自ら「エネルギー強国」と訂正した経歴の持ち主である。

<<イスラエルの「核保有」の実態>>
それでもなぜ、ネタニヤフ首相が驚き、急いでエリヤフ氏を停職処分に付したのか、それは、自国が核武装していることをイスラエル当局者自身が公然と認めたことに直接につながるからである。言ってはいけないことを言ってしまったので、彼を黙らせようとしたにすぎないのである。
今日に至るまで、イスラエルは核兵器の所有を公然と認めたことは一度もなく、国際原子力機関の査察官がディモナにある秘密基地を訪問することを一貫して拒否してきたからでもある。イスラエルは事実上の核保有国でありながら、米国の庇護によって核拡散防止条約(NPT)に非加盟である。
それは、ネタニヤフ首相自身が何年も前によく言っていた、「我々は中東に最初に核兵器を持ち込まないという長年の政策を持っている」という発言が全くのでたらめで、「噓」であったことをあからさまにしてしまい、公然の秘密=「核保有」が公然化してしまえば、国連や国際原子力機関の査察を拒否できなくなるからである。
そして、それ以上に重大かつ決定的なのは、米国の膨大なイスラエルへの軍事援助は、核非保有が前提条件であり、核保有が公然化されれば、米側の予算措置、議会通過が不可能となるからである。
イスラエルが米国政府から毎年得ている金額は巨大である。イスラエルは米国から年間38億ドルを得ているが、バイデン大統領は今年さらにイスラエルに対し、従来の38億ドルに加えてさらに143億ドルを要求している。そしてイスラエルは武器輸入の80%以上を米国から調達しており、米国政府はボーイング、レイセオン、ノースロップ・グラマンなどの米国軍需企業に年間数百万ドルを超える補助金を提供して、軍産複合体を構築し、緊張激化政策と軍事挑発政策で、政治的経済的危機に対処しようとしているのである。

 ストックホルム国際平和研究所は現在、イスラエルの核兵器は80の兵器で構成されていると推定している(そのうち50は弾道ミサイルによる運搬用、30は航空機による運搬用)。イスラエルはまた、未知数の核砲弾や核破壊兵器を保有していると考えられている。実際の核兵器備蓄量は80発から300発と推定されており、後者の数とすれば、中国の保有量を上回っている。
さらにイスラエルでは、核生産施設を積極的に拡張する「大規模プロジェクト」が2021年に進行中であり、核爆弾で励起されるX線レーザー、流体力学、放射線輸送といった次世代兵器の集中研究にも取り組んでいるが、公の場で議論されたことはない。
この2021年には、バイデン大統領とイスラエルのナフタリ・ベネット首相が、ベネット大統領のホワイトハウス訪問中に、イスラエルの未申告の軍事核開発計画に関する米国とイスラエル間の戦略的理解を再確認、合意を更新(axios Sep 1, 2021 )している。

問題は、イスラエルがすでに核兵器の使用を検討しているかどうかに関係なく、実際には孤立し、行き詰まる戦況の打開を目指して、最も急進的なイスラエルのシオニスト過激派の側からこの核兵器使用「要求」が現れる可能性が非常に高いことを、エリヤフ発言が明らかにしたことである。
バイデン政権とイスラエル政権をさらに孤立化させ、即時停戦と緊張緩和に追い込む闘いが要請されている。
(生駒 敬)

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【映画評論】『福田村事件』

【映画評論】『福田村事件』

                         福井 杉本達也

関東大震災5日後の1923年9月6日、千葉県東葛飾郡福田村(現・野田市)三ツ堀の利根川で薬売り行商人15名が自警団に襲われ、香川県から来た薬行商人を襲い、幼児や妊婦を含む9人を殺害した。襲われた行商人は全員、被差別部落出身者であった。

9月1日に関東大震災が起こり、人々はパニック陥った。震災直後から「朝鮮人が井戸に毒薬を投げた」「朝鮮人が暴動を起こす」とのデマが流れ、政府は9月2日に戒厳令を出し、関東各県に命令して在郷軍人や青年団、消防団などによる自警団を結成した。彼らは猟銃や日本刀・竹やり等で武装して、「朝鮮人」と疑問を抱く人を次々と尋問し、多くの朝鮮人や、朝鮮人と疑われた人が犠牲になった。行商は部落産業の一つであり、多くの人々が行商に従事したが、行商人への偏見も強い時代であった。関東大震災100年映画「福田村事件」はこの史実を元に映画化したものである。

日本統治下の京城(現ソウル)で教師をしていた津田智一(井浦新)と妻の静子(田中麗奈)は、智一の故郷の福田村に戻る。程なくして関東大震災が起り……

2 映画における知識人の位置

知識人である智一にしても、妻の静子にしても、村長の田向龍一(豊原功補)・新聞記者の恩田楓(木竜麻生)にしても、朝鮮人差別や自警団の結成には批判的なように描かれている。時流に批判的ではあるが、積極的に止める勇気はなく、時流に流されるままに過ごしている。唯一の抵抗が静子に促された智一が虐殺を止めに入る。映画の終わりで、智一と静子が朝靄のかかった利根川の渡し船に乗り、あてどもなく漕ぎ出すが、これが、知識人への見方を総括しているといえる。映画には静子と渡し船の船頭・田中倉蔵(東出昌大)との関係やその倉蔵と戦争未亡人となった島村咲江(コウムアイ)との関係、井草マス(向井祐香)と舅の井草貞次(榎本明)の関係などが、副旋律をかなでている。もちろん行商人差別や朝鮮人差別を強調するだけでは重すぎる内容となり、映像の娯楽面をなくしてしまうが、果たして必要なストーリーなのか疑問の残るところである。

映画はもちろん現代人から見た100年前の知識人の解釈であり、傍観者であり、ニヒリスティックであるが、それが虐殺を止めることができなかったという反省(贖罪意識)でもあるが、その見方が正しいのかどうか。

3 プロパガンダにおける知識人の役割

映画においては朝鮮人虐殺のプロパガンダは政府・内務省から発せられた通知と、虐殺を煽る警察の活動によって、長谷川秀吉(水道橋博士)らの在郷軍人や青年団、消防団などの自警団が煽られ、虐殺に動員されていく。最初に行商団の団長・沼部新助(永山瑛太)を殺害し、虐殺の口火を切ったのは、夫が震災直後に朝鮮人に殺されたのではないかと信じる下条トミ(MIOKO)であるが、子供を背負った主婦がいきなり虐殺に加担するという描写には違和感がある。トルストイは『日露戦争論』において、「知識人が先頭に立って人々を誘導している。知識人は戦争の危険を冒さずに他人を扇動することのみに努め、不幸で愚かな兄弟、同胞を戦場に送り込んでいるのだ」と知識人を批判している(孫崎享『同盟は家臣ではない』2023.8.20)。福田村でも、政府・内務省からの通知や警察による画策の間に知識人による扇動があったのではないか。映画では記者の恩田が編集長の砂田伸次朗(ピエール瀧)を非難するシーンがあるが、新聞の見出しだけで民衆が行動を起こしたとは思われない。当時の民衆がいつも新聞を読んでいたとは思われない。政府⇒警察⇒新聞⇒と情報から遮断された民衆の間をつなぐ村の知識人の回路があったはずである。

4 水平社宣言について

自警団に捕まった行商団の6人が殺されようとしたときに、浄土真宗のお経が唱えられる。最初は『正信偈』だったものが途中で『水平社宣言』に変わる。水平社は1922年3月に創立された。福田村事件は1923年9月であるから、わずか1年半で宣言が全国に広がったはずはない。映画は娯楽性を持ったフィクションであり、必ずしも史実に忠実である必要はないが、行商団と被差別部落をどう表現するかを悩んだのであろう。しかし、抽象論に迷い込んだのではないか。

本来、人を虐殺するという行為は、相手を人間とみなしていないからできるものである。イスラエルによるガザのパレスチナ人虐殺を巡って、イスラエルのジャーナリスト:ギデオン・レヴィ氏は『差別の構造』という小論において、「米国からイスラエルに送りこまれてきたゴルダ・メイア女史(元首相1969−1974 )は言った。この忘れ難き女性は、『ホロコーストの後、ユダヤ人はやりたい放題やる権利を手にした』と言った。」とし、「イスラエル人が共に生きることを許したパレスチナ人を構造的に非人間化するものだ。もしも彼らが我々のような人間でなければ、人権は問題にならない」「ほぼ誰もパレスチナ人を自分と同じ人間として見ていない」「イスラエル人はパレスチナ人を動物のように扱う」「彼らは我々のような人間ではないという信仰だ。こうした犯罪行為により我々イスラエル人は平穏に生きることが許されるという信仰だ。何年も続いてきた犯罪行為で、あらゆる人間性を失ってきたのだ。人間性、価値観を」と書いている(2023.11.7)。水平社宣言を暗唱できるような集団が非人間的集団とはいえない。かなりの知識人集団である。実態は違うであろう。地元では食えないから行商に出たのである。差別によって読み書きもままならなかったであろう。非人間とみなされていたから虐殺されたのである。けして朝鮮人と間違われたからではない。朝鮮人も非人間とみなされていたのである。『非人間』を映像表現できるかどうかは課題である。

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【投稿】21世紀のホロコースト「ガザサイド」--経済危機論(123)

<<「ガザ抹殺」包囲作戦の現実>>
イスラエル・ネタニヤフ政権が推し進め、米バイデン政権が公然と無条件で支援する、パレスチナ・ガザ地区をがれき化し、エジプト・シナイ半島にパレスチナ住民を追いやる「ガザ抹殺」包囲作戦の現実は、21世紀のホロコースト・ジェノサイドGenocide=「ガザサイド」Gazacideであることを明瞭にしつつある。ナチスによる20世紀のホロコーストが、米・イスラエルによる21世紀のホロコースト「ガザサイド」として推し進められているのである。

 隠し切れぬガザ大虐殺の実相は、21世紀で最も大規模なものとなりつつある。イスラエルの無差別・焦土化大爆撃作戦によって、11/5現在、すでに9,770人以上のパレスチナ住民(実にその半数近くが子供である!)が虐殺されている。モスク、保健施設(120)、学校、集合住宅、スーパーマーケット、上下水処理場、発電所、病院、人々が寄り添い、生活する、不可欠なすべての場所、インフラが破壊され、救急車までもが「ハマスが使っているから」と標的として爆破され、ガザ地区は今や瓦礫と化そうとしている。これは、ナチスがワルシャワ・ゲットーやその他で反ファシズムの武力抵抗に直面したときに常用した戦術そのものの悪質極まりない再現でもある。

 避難を余儀なくされた140万人もの人々がガザ地区南部に押し込められ、ジャーナリスト(すでに26人)、医療従事者、教師、国連パレスチナ難民救済事業機関の国連職員までもが殺害され、60万人がホームレス状態で、その避難地域まで空爆される、およそ11万6000人の難民が登録しているジャバリア難民キャンプが2日連続で爆撃され(10/31)国連人権機構や難民インターナショナルのジェレミー・コニンダイク会長は10/31、ガザ最大の難民キャンプに対するイスラエルの攻撃は「明白な戦争犯罪だ」と告発している。こうした難民キャンプへの爆撃は10月7日以来すでに少なくとも6度にわたり、ガザは壁に囲まれた傷ついた人々の虐殺場、まさに21世紀のホロコーストの現場そのものと化そうとしている。

10/28、国連人権機構の幹部モクヒバー氏は、抗議の辞職声明の中で、「私たちの目の前で再びジェノサイドが展開されている」と主張、「これは大量虐殺の教科書的な事例」であり、アメリカ、イギリス、そしてヨーロッパの多くの国はジュネーブ条約に基づく条約上の義務を果たすことを拒否しているばかりか、イスラエルを武装させ、経済や情報の面でも支援し、イスラエルの残虐行為を政治的、外交的に援護していると厳しく批判している。

こんな許しがたいイスラエル・ネタニヤフ政権のジェノサイド政策を、米・バイデン政権は無条件で支援し、実際に軍事・経済・政治的に全面加担し、バイデン大統領自身が、ガザ地区の死者数について、そんなに多くの数ではないはずだと「疑問視」し(10/25)、「真実なのかわからない」、「確信は持てない」などと発言。あげくの果てに「罪のない人々が殺されているのは確かだが、戦争の代償である」とまで開き直っている。パレスチナのガザ保健省は、このバイデン氏の発言を受け、犠牲者の名前を記した212ページの報告書を公表し、バイデン氏は反論もできず、虐殺の実態を突き付けられているのである。このバイデン氏の「戦争の代償」発言そのものが、最も非人道的で、戦争犯罪人の発言であることを、全世界に発信してしまったものと言えよう。

11/3当日、ブリンケン米国務長官がイスラエル・ネタニヤフ首相と会談しているそのさなかでさえ、イスラエル軍は救急車、国連学校、避難途中の家族を標的に空爆を行い、数十人が死亡したことが明らかにされ、それでもブリンケン氏は「米国はイスラエルが自国を守る権利を断固として支持する」と宣言しているのである。

<<拡大する反バイデン・反ネタニヤフ>>
10/26、パレスチナ国連大使リヤド・マンスールRiyad Mansourが、力強く感動的なスピーチをして、涙を抑えることができなかったが、国連総会の国際代表団は鳴り止むことなく拍手を送り、一方、これに対抗したギラド・エルダンGilad Erdanイスラエル国連大使がスピーチをしたときには、拍手する人は誰一人として現われない、イスラエルがこれほど孤立したことはかつてなかった事態が現出している。10/7のハマス奇襲攻撃の当初、いくらかは存在した同情が、今やあからさまな軽蔑に変わってきたのである。

イスラエルを取り巻く、イスラエルとの関係改善を狙っていたアラブ諸国においても、イスラエル批判が日増しに高まり、エジプト外務省は「明白な国際法違反」の「残酷」な攻撃だと述べ、「曖昧にせず断固」批判するよう国際社会に呼びかけている。ヨルダン外務省は「人間的および道徳的な価値観と国際人道法に反する」と非難。カタール外務省は「無防備なパレスチナ人の新たな大虐殺」であり、カタールによるイスラエルとハマスの仲介を損なうと警告。サウジアラビア外務省は「民間人の密集する場所を繰り返し標的にすることを完全に拒絶する」と非難する事態である。

11/4、イスラエルにおいてさえ、ネタニヤフ政権の戦争政策に抗議し、

停戦を求めるデモが勃発し、若者たちが「即時停戦せよ!」と声を上げている。

そして、こうしたバイデン・ネタニヤフ両政権のガザ虐殺・抹殺作戦、それに追随するNATO・G7グループに対する抗議行動が、当のアメリカはもちろん、全世界に拡大している。すでに4週連続で、何百万人もの人々が、このガザ虐殺・抹殺作戦を「即刻停止せよ」と立ち上がっている。すでにアメリカでは、イラク侵攻に反対する2003年のデモ以来、米国で最大の戦争反対・抗議デモとなってきている。

11/4、バイデン氏の足元、ホワイトハウスで、実に10万人の大規模抗議デモ、「ワシントン大行進」が展開され、ホワイトハウス前は身動きできないほどの人々が集結、バイデン氏に対して「ジェノサイド・ジョー!」と連呼し、「バイデン バイデン、あなたは隠すことはできません、私たちはあなたを大量虐殺の罪で告発します!」 “Genocide Joe!” and “Biden Biden you can’t hide, we charge you with genocide!” と糾弾される事態である。主催者の一人、コードピンクのヌール・ジャガマ氏は、デモ参加者に「私たちは、人類に対するこのような忌まわしい壊滅的な攻撃に私たちを参加させた政府に対して激怒していることを政府に示す必要がある」と呼びかけ、バイデン大統領に対して「あなたはこうやって記憶されたいのですか?虐殺的で破壊的で戦

争屋ですか?恥ずべきことです!この群衆を見てください、明らかにアメリカ国民はあなたの意見に同意していません 」と糾弾している。

バイデン政権に同調し、抗議デモを禁止しているパリやベルリン、そしてロンドンでも大規模抗議デモが引き続きさらに拡大して展開され、全世界的規模で反バイデン・反ネタニヤフの抗議行動が相次ぐ事態である。

新たな段階、新たな虐殺を推進しつつある、21世紀のホロコースト・「ガザサイド」は、米・NATO・G7の政治的経済的危機の、最も悪質な表現であり、許されてはならない事態の出現である。
(生駒 敬)

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【投稿】中東での戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」の維持にある

【投稿】中東での戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」の維持にある

                            福井 杉本達也

1 長期金利5%超で、米国は金融危機へ

10月21日の日経新聞は「米長期金利、16年ぶり5%」という見出しで、「米長期金利が一段と上昇(債券価格は下落)している。指標となる10年物国債利回りは19日に一時5%台と、16年ぶりの高水準を付けた。上昇幅は直近3カ月で約1・3%に達する」と報道した。

海外のドルは、米国の経常収支(貿易収支+所得収支)の赤字として、海外に支払ったものである。米国は、40 年も経常収支の赤字が続いている。2022 年も2 兆ドルの赤字を垂れ流している。海外のドル残高は、430 兆ドル(4500 兆円)である。米国は30 兆ドルの利払い(5%なら1.5 兆ドル(225 兆円)/年)をしている。米国が対外負債(日本・中国・ドイツ・スイスの対外資産)の利払い(1.5 兆ドル/年)ができなくなったときが、ドルのデフォルト=「ドル暴落」である。国債の利払いの危機→通貨の暴落→インフレ→金利の高騰→国債の利払いの不能(国債の発行不能)となる。

米国債の時価=4800兆円で、ドル国債の含み損は、4800-3550=1250兆円となる。米銀の自己資本は、総資産の5%(=リスク資産の10%)=4000兆円×5%=200兆円しかないが、国債時価の下落で(1250 -200=)1050兆円の債務超過に陥った。米銀は、9兆ドルの国債+債券をもつFRBを先頭に、大手・中小の全銀行が実質破産状態。金融危機は避けられない状態にある(『ビジネス知識源』:2023.10.28)。

2 なぜこれまで「ドル暴落」とならなかったか

米国の経常収支の赤字で海外に流れたドルは、輸入代金決済で、米銀に還流してくる。この仕組みが、ドル基軸通貨体制である。一般的には、経常収支の赤字は、海外にその国の通貨の支払い超過を示すので、赤字国の通貨は下がって(=輸入物価は上がり)、経常収支の赤字は、⾧期間続けることはでない。金を裏付けにしない基軸通貨の発行国は、経常収支が赤字だと、その通貨が下がっていくので、ドル金利が上がっていくと海外が使う基軸通貨の維持は、できない。ところが赤字のドルは79 年も基軸通貨を続け、「ドルの暴落」はなかった。

第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。だが、ベトナム戦争により米国経済は大きく傾むいた米国はドルの金兌換を要求されても支払うべき金はなくなっていた。そこで、1971年のニクソンショックにより、金・ドル交換停止され、ドル紙幣は金という「貨幣としての貨幣」の裏付けのないただの紙切れとなった。金という錨がなくなれば、インフレーションによってその価値はどんどん下落し続ける。そこで米国は、産油国のリーダーのサウジと「『原油はドルで売る、代わりに米国は王家の体制の維持を米軍が守る』とするキッシンジャー・ヤマニ密約」をし、「信用通貨になったドルが、基軸通貨であることを続けた」。石油を持たなに非資源国は「産油国から原油を買わねばならない。その決済通貨はドルである。従って、世界はドル準備(外貨準備=ドル預金またはドル国債)をもたねばならない。これが世界に、赤字通貨のドル買いとドル貯蓄(外貨準備)を促してきた」・いわゆる『ペトロダラー・システム』である(「ビジネス知識源」:2023.7.17)。世界はこれを1971 年から52 年も是認してきた。

米ドルは、海外が貿易通貨として使い、米銀へのドル預金、MMF、ドル国債、ドル債券、ドル株として還流してくるので、「変動相場での貿易均衡(通貨下落)の原理」が働かない。米国はいくら赤字を続けても、ドルは下がらない。

3 超低金利の『異次元緩和』が米国財政を支え、円安をもたらす

短期金利0%、⾧期金利0.8~0.9%時(10月30日、一時0・890%まで上昇)と低いので、1 ドル≒150 円の、超円安となっている。ドルの金利は5%であり、ドル安というリスクをとっても、3%はドルの金利が高い。このため、円が売られ、円安となっている。

2021年から中国が米国債を売るように変わった。そこで、日本はドル買いを一手に引き受けることとなっている。日本からのドル買い・ドル国債買い(=円安)が、米国金融を支えている(「ビジネス知識源」同上)。もし、ここで日本が金利を上げ、米国並みの金利にすれば、米国債を買うものがいなくなり、米国債は暴落する。そのようにさせないことが米国からの属国=岸田内閣への恫喝である。岸田内閣は円安を続けることによって、日本経済=日本国家の全てを米国に売り渡し続けている。日本で設備投資に回されるはずの金融資産を米国債の購入=米国の戦争経済体制につぎ込み続けている。これでは、経済が回復するはずはない。失われた30年が40年になるだけである。これが「新しい資本主義」の中身の全てである。

1996年から2008年(18年間)は、金融危機円安。2012年から2020年(8年間)は、アベノミクス円安。、黒田日銀の「異次元緩和」で2012年からは100→60 …40%円安となった。一方、この間にドルは2012年100→ 130 …30%ドル高となった。2021年からの3年は、コロナで大量の紙幣を供給したコロナ円安である(「ビジネス知識源」同上)。

4 中国は米国債売り

10月29日の日経新聞の一面トップは「中国が米国債の保有を減らし続けている。 8月末の残高は14年ぶりの低水準となり、足元では減少ペースが速まっている。米金利上昇(債券価格は下落)の一因」と見られると書く。「中国の米国債保有減が止まらなければ、金利上昇圧力として意識され続ける。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策も影響を及ぼしかねない」。

1990年代の中国の人民元は、通貨の信用がなかった。通貨が外貨と交換できないと、貿易はできない。1994年から開放経済の輸出入のため、人民元をドルペッグにして、人民元の通貨の信用を確保した。その後、中国経済は飛躍的な成⾧をして貿易は増え、ドル買いで、日本とドイツを抜き1 位になった。中国も貿易黒字を米銀に還流した(『ビジネス知識源』同上)。

その中国が米国債を売り始めた。原因を作ったのは、米国である。ロシアへのウクライナ侵攻に対抗して、ドル決済システムであるSWIFT(電子銀行清算システム)から排除、ロシアの資産を凍結し、G7諸国やEU諸国による原油や天然ガスの禁輸などの経済制裁を行って、ロシアを破綻させようとした。ドルを海外に持つことは危険である。万が一の時に資産を凍結される恐れがある。中国やグローバルサウスの国々は、米国に逆らえば、次は自分たちの番だ、という結論に達した。そこで、中国は急いで米国債を売り始めている。中国がドル離れを起こしているのは米国の自業自得である。

5 BRICS通貨の構想

ドルは紙に印刷するだけで、他国の経済を犠牲にして利益を得るフリーランチである。他のすべての通貨に対し不当に過大評価されている。グローバルサウスはドルを稼ぐために一生懸命働かなければならない。こうした不当な状況からぬけだすために、BRICSは国際収支の黒字化に伴い、より多くのドルを得る代わりに、金を購入し、お互いの通貨を購入している。米ドルの需要は減少しているが、米国の貿易赤字と財政赤字のために供給は増加している。財務省証券を購入させなければならないが、もし、それが不可能な場合、彼らは軍事費の国際収支コストを支払うことはできなくなる。ウクライナやパレスチナ・中東どころの騒ぎではない。

BRICS通貨の構想は通貨バスケットで金・コモディティペッグ通貨で、金・コモディティのバスケット(加重平均の価格)が上がると、通貨も上がる。加盟国にとっては、国際貿易商品(原油、資源、穀物、食肉)が上がるインフレはなくなる(「ビジネス知識源」10.28)。

6 中東の戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」を守ること

中東地域の戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」を守ることである。今回のイスラエル・ハマス戦争もその例外ではない。既にサウジはOPECプラスでロシアと共同して、原油の価格を決め始めている。これまでドル体制を支えていた1974年以来の「ペトロダラー」システムは崩壊しつつある。また、中国とも原油の人民元取引を始めた。サウジが原油をBRICS通貨で売れば、他の産油国も全部、ドルでなくBRICS通貨で売ることになる。「ペトロダラー」システムが崩壊すれば、金の裏付けもコモディティである原油の裏付けもないドルはタダの紙切れになる。この動きを阻止するため、米国は必死で中東に介入しようとしている。今回もネタニヤフを動かして、中東大戦争を引き起こし、サウジを恫喝するつもりであったが、サウジ外務省は声明でイスラエルを名指し、アル・アハリ病院爆撃を「凶悪な犯罪だ」と非難した。米国の計画は完全に裏目に出た。ドルを買い支えるのは日本以外になくなった。タダの紙と化す米ドルにイスラエルの戦争を支え続けるだけの信用はない。最後はネタニヤフの首を挿げ替える以外にない。ドルの信用がなくなっているからこそ、米長期金利は16年ぶり5%台に上昇しているのである。「ドル暴落」は避けられない。

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【投稿】バイデン・ネタニヤフ枢軸の危険と孤立化--経済危機論(122)

<<全世界に拡がる反バイデン・反ネタニヤフ>>
10/28、イスラエル・ネタニヤフ政権が、パレスチナ・ガザ地区への地上侵攻作戦を拡大し、戦争は「次の段階」に入ったと発表したその当日、このパレスチナ人民大虐殺作戦を厳しく糾弾する大規模な抗議活動が全世界各地で展開される、これまでにない新しい展開を生み出している。ロンドン、イスタンブール、ニューヨーク、バグダッド、ローマなど世界の主要都市の中心部は抗議活動参加者で埋め尽くされる事態となったのである。
 ロンドン行進には実に50万人もの人々が参加したと、イギリスのパレスチナ連帯キャンペーン(PSC)が報告している。この日、イギリス全土でパレスチナ連帯行進が連続して行われる3週目の週末となり、デモはマンチェスター、ベルファスト、グラスゴーなどでも行なわれたが、大手メディアはこれを一切報道していないし、真実を伝えていない。

サンフランシスコでの抗議行動

もちろん、バイデンの足元、米国でも主要都市のほとんどで大規模なバイデン・ネタニヤフへの抗議行動が展開されている。ニューヨークでは、それぞれ5万人から10万人規模の大規模かつ多様な抗議行動が展開され、その一つは、ブルックリン美術館からバークレイズセンターを通り、ブルックリン橋を渡り、日没後のマンハッタンの通りを通り、市内で最も交通量の多い大通りの多くが閉鎖される事態となった。「バイデン、バイデン、隠れることはできない、大量虐殺を犯しているのだ」というおなじみのシュプレヒコール“Biden, Biden, you can’t hide, you’re committing genocide”が何度も繰り返された。
シカゴで数万人、ロサンゼルス、デトロイトで1万人以上、サンフランシスコで15,000人以上が抗議活動、高速道路101号線を封鎖している。
この前日10/27には、「ユダヤ人の平和の声」の支持者数千人が、市民的不服従の大規模行動を主導し、ガザでの虐殺に抗議するためニューヨーク市マンハッタンのグランドセントラル駅を占拠 駅は閉鎖に追い込まれている。
世界最大の海軍基地の本拠地であり、欧州および中央軍の米海軍兵站司令センターの拠点であるバージニア州ノーフォークでも抗議デモが展開されている。

バイデンに追随するヨーロッパ各地、パリ、ベルリンでもパレスチナ連帯行動禁止を無視して抗議デモが展開され、スコットランドのグラスゴーとエディンバラで数十万人、ローマ、スウェーデンのストックホルムでも抗議活動が行われた。
オーストラリアでも、数万人の労働者や若者が街頭に繰り出し、シドニーでは1万5000人以上が行進、メルボルンでは2万5000人が参加、ブリスベンでも抗議集会におおくの人々が参加している。ニュージーランドでもウェリントンをはじめ全土で、数万人が3週連続の抗議活動が行われている。
マレーシアの首都クアラルンプールでは、数万人が米国大使館まで行進し、マレーシアのクアラルンプールでも、そしてインド南部ケーララ州では、約10万人がパレスチナ連帯デモが行われている。
トルコのイスタンブールでは、エルドアン大統領が、当初トルコ建国100周年記念式典として予定されていたイベントを、急きょ「大パレスチナ集会」と変更、このパレスチナ連帯抗議活動には推定100万人が参加している。

<<Warmonger「戦争屋」・バイデン>>
そして、当のイスラエルのテルアビブでは、10/28、土曜日の夜、数百人の怒れる若者がイスラエル国防軍(IDF)本部の外に集結、「今すぐ停戦せよ」と書かれた横断幕を掲げ、ネタニヤフ首相の自宅前では数百人がデモを行い、ネタニヤフ首相の戦争責任を非難し、辞任を要求する抗議行動が展開されている。

ユダヤ人とパレスチナ人の両方が住む北部の港湾都市ハイファでは数百人が集会に参加し、ベールシェバ、ヘルズィリア、ネタニヤ、クファル・サバなどの町でも抗議集会が行われている。

問題は、バイデン米大統領がこの段階に来て謙虚さ、冷静さを失い、10/19、大統領執務室からの全国民向けの演説で、自らを「戦時大統領」であると宣言してしまっていることである。この演説で、バイデン氏は、パレスチナのハマスとロシアのプーチン大統領、イランを含む、悪のテロリスト枢軸、「独裁的」勢力に対する歴史的な戦いにおいて、自らを「善のための民主的」勢力を結集する「国家」の指導者として、第三次世界大戦を示唆し、全面戦争を戦う、米国の世界的な役割を強調する、「私たちはアメリカ合衆国であり、私たちが一緒にやれば、私たちの能力を超えることは

何もありません。」と、きわめて危険で、かつ傲慢な演説を行なったのである。これは、世界から孤立し、焦りつつある現状の反映でもあろう。

今や、Warmonger「戦争屋」・バイデンとしてアメリカの抗議行動で指弾されるバイデン政権は、実際にすでに深く世界大戦化に直接参加しつつある事実がすでに報道されている。10/28のテヘランからの報道によると、5000人の米兵がイスラエルの地上作戦に直接参加しているという。報道によると、ガザへの地上作戦は米軍の3個師団と複数の旅団が参加する形で実施されたという。

バイデン氏の焦りはまた、来年11月の米大統領選を間近に控え、どの世論調査でもトランプ前大統領にリードされている焦りの反映でもあろう。それは同時に、ウクライナに加え、イスラエルに惜しみなく資金を提供し、バイデノミクスは空証文と化し、米国経済の刺激策としてガザ大量虐殺を売り込む、「民主主義の兵器を構築し、自由の大義に貢献している『愛国的なアメリカの労働者』を呼び起こす」、軍需産業にのみ貢献するバイデン路線の破綻、政治的経済的危機の反映でもあろう。
(生駒 敬)

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【投稿】イスラエルによるガザ大虐殺と中東から第3次世界大戦を画策する米産軍複合体

【投稿】イスラエルによるガザ大虐殺と中東から第3次世界大戦を画策する米産軍複合体

                           福井 杉本達也

1 イスラエルによるパレスチナの民族浄化

ユダヤ人国家のイスラエルは、第2次世界大戦のあと、1948年5月に、パレスチナを実効支配していた英国によって建国された。1)アラブには旧オスマン帝国(トルコ)にアラブ人国家の建設を約束。2)ユダヤ人に対しては、パレスチナにイスラエル建国を認める。3)フランス・ロシアには、旧オスマン帝国を3国で分割することを約束した。英国が得意な、三枚舌外交と言われる(バルフォア宣言:1917年)。この英国の外交が、戦後の、終わりなき中東紛争の原因である。米国・英国・フランスはイスラエルを支持し、イスラムの中東はイスラエルを不倶戴天の敵としてパレスチナ側である。イスラエルとアラブの和解は、イスラエルのパレスチナ占拠を正当化することであり、原理的にあり得ない。イスラエル建国のあと、第1次中東戦争から4次まで、大きな戦争が4回起おきた。2000年以降はレバノン侵攻(06年)、ガザ侵攻(06年)、ガザ紛争(08年から09年)、ガザ侵攻(14年)と、絶え間ない紛争が続いている。米国がテロ組織と決めれば、犯罪者であり、いつ攻撃してもいいということである。

10月24日の安保理でグテーレス国連事務総長「ハマスによる攻撃は、何もないところで突然起こったのではないことを認識することも重要だ。パレスチナの人々は56年間、息苦しい占領下に置かれてきている。彼らの土地は入植地によって着実に食い荒らされ、暴力に悩まされ、経済は抑圧され、人々は家を追われ、取り壊されてきた。自分たちの苦境を政治的に解決したいという希望は消えつつある。しかし、パレスチナの人々の不満は、ハマスによるひどい攻撃を正当化することはできないし、そうしたひどい攻撃は、パレスチナの人々に対する集団罰を正当化することもできない。」と述べた。

イスラエルはパレスチナを国家と認めていない。武器をもたない、ガザ地区のパレスチナ人は投石で対抗し、抵抗者は、イスラエルの兵士に惨殺されている。イスラエルのガサへの『入植』とは、パレスチナ人の放逐、占拠、強奪である。

2 ハマスについて

10月7日のハマスよる攻撃はイスラエルにとっては不意打ちではなく、攻撃は予想しており、大きな驚きではなかった。また、ハマスにとっても、イスラエルによる反撃・ガザ地区への無差別爆撃は当然に予想されていた。イスラエルのネタニアフは、ハマスの攻撃の計画を事前の知っていて、ガザ地区入植と惨殺で挑発していたととの説がある。ネタニアフの、イスラエルの世論の支持は低く、政権維持の困難に直面していた。世界最強とも言われるイスラエルのモサド(秘密警察)が、ハマスの攻撃計画のかけらも知らなかったというのは不自然である。ハマスの4万人もの軍の動きが分からないはずはない。ネタニアフが知っていたとすれば、奇襲したハマスをテロリストとして悪者にし、パレスチナ虐殺の理由作りだすことであった。

ハマスは、イスラエルが元々資金提供して育成したものである。目的は①過激派を育成して、ガザとヨルダン川西岸地域のパレスチナを分断し、パレスチナ主流派のPLOとアラファト議長を弱める。②国際世論でパレスチナへの支持を弱める。③恒常的に戦争状態として和平交渉進展させず、パレスチナ国家を永久に建設させず、パレスチナの地を全面的に支配し、大イスラエルを建設する、ことであり、そのためのパレスチナ人へのアパルトヘイトとホロコーストが含まれる。イスラエルの元国連常駐代表ダン・ギラーマンは「世界中がパレスチナ人のことを心配していて非常に困惑」しているとし、「パレスチナ人は非人間的な動物」だと発言している(Sky News2023.10.26)。「非人間的な動物」だから虐殺してもかまわないと。

ネタニヤフは2019年3月に「パレスチナ国家の樹立を阻止したい者は、ハマスの強化とハマスへの送金を支持しなければならない。これは我々の戦略の一部だ」と発言している。パレスチナ自治政府政府(ファタハ)は、ガザ地区のハマスと2006年以来、対立している。パレスチナは、1)ハマスが支配するガザ地区と、2)米国・欧州・日本が正統とするヨルダン河の西岸に分裂している。「ネタニヤフが明確に要求したように、ハマスを生かし、十分な資金を維持することは、永続的な不安定性を生み出します。不安定性は、今度は、平和ではなく、活発な戦争または戦争の絶え間ない脅威のいずれかに役立ちます。そして戦争はイスラエル国家の健康です。」(ベン・バーティー:『Zero Hedge』2023.1017)。

3 病院「爆撃」を巡っての情報戦

10月18日、ヨルダン・パレスチナ・エジプトのアラブ3カ国は、病院「爆撃」について、イスラエルとアメリカを強く非難し、バイデン大統領との4者会談を急遽キャンセルした。アル・アハリ病院の事件について、元米軍情報将校のスコット・リッターは、「戦争の霧は、イベント中に何が起こったのかに関する不確実性によって生成され、戦闘関連のストレスによって引き起こされる混乱の副産物です。しかし、時には、真実の追求を妨げるために、煙幕のように意図的に戦争の霧が生成されます。」と書く。ネタニヤフ首相のSNSアドバイザー、ハナニャ・ナフタリが削除したバプテスト病院空爆直後の投稿では「速報:イスラエル空軍が、ガザの病院の中にあるハマステロリストの基地を空爆。何人ものテロリストが死んだ。ハマスは、人々を人間の盾にして病院・モスク・学校からロケットを撃っている」と速報した。これがイスラエルにとって都合が悪いとして即、削除された。この投稿は、アルジャジーラによって提供されたビデオで見ることができるが、「イスラエルは、進行中の特殊作戦および・または諜報活動を公に認めていません。イスラエルの否定は、元のナフタリのツイートが正確な情報に基づいていた可能性を補強する」。もし、「攻撃がイスラエルの無差別爆撃の結果ではなく、ミホリット・ロケットを使って行われた」正確なピンポイントであるならば、「ハマスが病院の駐車場に詰め込まれたパレスチナの民間人を人間の盾と

して使用しているという物語に役立つ場合」、「一つの統一された事実とのひねくれた共謀:結果として生じる人間の大虐殺に犯罪的に無関心である2つの対立する力の間のより大きな権力闘争における悲劇的な駒としてパレスチナ」という図式が浮かび上がる(スコット・リッター:RT:2023.10,20)。ブリンケン国務長官がカタール首相に、アルジャジーラ放送の戦争の報道を「抑制」するように要請したことは、アルジャジーラ放送の信憑性を裏付けている。

4 狙いは、イラン・シリアを巻き込む第5次中東大戦争

10月27日、新たに米下院議長に選出された共和党のマイク・ジョンソン氏はその最初の演説で、「我々の親愛なる友人イスラエル」の支援に注力すると述べたが、ウクライナについて一言も発言しなかった。今、西側諸国の目をウクライナから逸らせる可能性があるのはイスラエルだけである。米国は4隻の空母打撃群などの艦艇30隻を地中海や中東周辺に派遣した。しかし、米国と欧州は、中東の勝利がウクライナの勝利より容易だと考えるなら、存亡の罠に足を踏み入れることになる。レバノンの、イスラム原理主義のヒズボラ(シーア派:戦闘員4万5000人)とイラン(シーア派:兵力は12万500人)までくれば、中東戦争である。米国はイランを標的にしようとたくらんでいるが、戦略における核心はホルムズ海峡である。ホルムズ海峡は、世界の石油の少なくとも20%(1日約1700万バレル)と液化天然ガス(LNG)の18%(少なくとも1日35億立方フィート)を通過させる。 イランはホルムズ海峡を一瞬にして封鎖することができる。

米国には、650万人のユダヤ人の団体があり、議会に対して強いロビー活動を行っている(アメリカ・ユダヤ人委員会:AJC)。こうしたロビー活動により、米議会の議員のほとんどはイスラエル支持である。しかし、近年、米民主党内のイスラエル支持は著しく低下しているといわれる(ジョン・ジョゼフ・ミアシャイマー シカゴ大学教授:2017年)。戦争がビジネス(お金儲け)である米国の軍産複合体は、政府予算獲得のために、危機をねつ造する。短期的に懸念されるのが、イスラエルが米国を中東→世界大戦に引き込むための偽旗作戦である。イスラエルは、1967年第3次中東戦争時に前科あり。米海軍リバティ号をイスラエル軍が攻撃し米兵34人死亡・174人負傷し、エジプトのせいにしようとした前歴もある。

米軍は、シリア、イラクに合わせて兵員3400人の米軍基地を維持しているが、クウェートからの補給路がアキレス腱となっている。イラク民兵組織はイラクで米軍と交戦する必要はなく、クウェートから米軍の兵站線を遮断するだけでよく、イラクとシリアのすべての米軍基地は避難せざるを得なくなる。米国がこれらの兵站ラインを確保したいのであれば、少なくとも10万人の米陸軍人員を配備する必要があるだろうとスコット・リッターは述べている(スコット・リッター:Short Sort News:2023.10.25)。総員45万人の米軍は、今、欧州に10万人が張り付いており、さらに10万人の派兵などは不可能である。

5 アラブの大義からイスラム・BRICSの大義へ

10月13日のサウジ・イラン両国首脳が会談で、サウジが「イスラエルとの和解は凍結する」と表明した瞬間から、事態は一気に急変していった。習近平主席は今年3月、サウジとイランを和解させ、その後「中東和解外交雪崩現象」をもたらした。今回、「中国は明確にイスラエルのガザ地区に対する過度な報復攻撃を非難し、アラブの盟主・サウジやイランあるいはロシアと足並みを揃えながらアメリカに対峙する姿勢を明確にしつつある」。「もしサウジがパレスチナ問題を放置したまま、その最大の敵であるイスラエルと国交を締結すれば、パレスチナの怒りが爆発し、そのパレスチナをイランが支援するとなれば、サウジは再びイランと対立することになるからだ。そうなると中東における数多くのイスラム国家が再び結束してイスラエルと戦う「中東戦争」へと拡大していく可能性がある。サウジは何としても、それを避けたい」(遠藤誉:yahoo:2023.10.18)。イスラエルは中東では、孤立している。米国は空母2隻を派遣し、イスラエルを支援、10月25日・27日イスラエルと米特殊部隊がガザ地区北部へ侵入し限定的な地上戦を行った。しかし、戦車が破壊されるなど大損害を受け撤退した(ダグラス・マクレガー米陸軍退役大佐)。

イスラエルはガザの地上戦を戦えるのか。ガザ北部は空爆でガレキと化している。そこに、ハマスは500㎞もの地下トンネルを掘っているといわれる。どこに戦闘員が潜んでるか見当もつかない。動くものは全て敵とみなされる。その様な市街地で戦闘すればさらに多くのパレスチナ人が虐殺される。既に、ウクライナでのバフムートでの市街戦でも、その困難さは明らかになっている。950万人の人口しかない中で、イスラエル軍に優位はない。予備役のイスラエル兵はそのような戦場で戦闘を行いたくないと考えている。2006年のヒズボラとの敗戦も脳裏にある。100万人のロシア人を始め彼らの多くは二重国籍で帰る母国を持っている。戦闘が膠着した場合、彼らはイスラエルを捨てて、二度と国へは戻らないであろう。イスラエルは地中海に追い出される。それはイスラエルという国家の消滅である。もし、イスラエルが国家としての存続を図るならば、パレスチナ国家の承認しかない。

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【書評】樋口英明『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々』

【書評】 樋口英明『南海トラフ巨大地震でも原発は大丈夫と言う人々』
                    (2023年7月、旬報社、1,300円+税)

 本書は、2014年5月、関西電力大飯原発3,4号機の運転差し止めを命じる判決を下した元福井地裁判事による原発訴訟の核心を衝く書である。(ただしこの後、執行停止のまま行われた名古屋高裁の控訴審で運転差し止め命令は取り消された。)
 そこでは「問題の所在」は次のように述べられる。
 「皆さんは、原発の運転差止裁判で何が争われていると思いますか?
 多くの人は『住民側は、強い地震が原発を襲った場合に原発は耐えられないと主張し、電力会社側は、強い地震に原発は耐えられると主張し、裁判所はそのどちらの主張が正しいかを判断している』と思っていることでしょう。これは極めて正常な感覚だと思います」。
 「ところが、現実の裁判の争点は、皆さんの正常な感覚とはかけ離れたところにあります。たとえば、私が担当した大飯原発の訴訟では、関西電力は1260ガルを超える地震に原発が耐えられないことを認めていたのです。それにもかかわらず、関西電力は『大飯原発の敷地に限っては基準地震動(註:設計の基準となる模擬計算で作られた地震の強さ)である700ガルを超えるような地震は来ません。ましてや1260ガルを超えるような地震(註:1260ガルは事故が起こる危険性を電力会社も認めざるを得ないクリフエッジ【崖っぷち】と言われる数値)は来ませんから安心して下さい』と主張していたのです」。
 ガルとは、地震の揺れの加速度に用いる単位で、速度が毎秒1cmずつ速くなる加速状態が1ガルとされる。従って数値が大きいほど地震動も大きくなる。熊本地震では1580ガルが記録されている。車で例えるならば、シートベルトも締めず心構えもなく突然の急発進で加速度に見舞われるというのが大地震である。
 つまり当事者双方とも、原発が強い地震に耐えられないことを認めている、ところが電力会社側は「原発敷地に限っては強い地震は来ませんから安心して下さい」と主張している。「この電力会社の主張を信用するか否かが原発差止裁判の本質なのです」と本書は、問題を明確にする。
 本書はこの主張に対して、次のような極めてシンプルな理由から運転停止の判決を下した経緯を述べる(「樋口理論」と言われる)。
 その論理とは、①原発の過酷事故のもたらす被害は極めて甚大で、広範囲の人格権侵害をもたらす。②それ故に原発には高度の安全性が要求される。③地震大国日本において原発に高度の安全性が要求されるということは原発に高度の耐震性が要求されるということにほかならない。④しかし、わが国の原発の耐震性は極めて低く、それを正当化できる科学的根拠はない。⑤よって、原発の運転は許されない。
 これが極めて常識的で納得できる論理であることが理解できるであろう。
 この理論に基づいて、2020年3月に住民側から、広島地裁に四国電力伊方原発の運転停止の仮処分が提起された。
 この裁判では上記と同じく、「クリフエッジ855ガルを超える地震が来れば伊方原発は耐えられない」ことについては争いがない。しかし四国電力は「伊方原発の敷地には基準地震動である650ガルを超えるような地震は来ませんし、ましてやクリフエッジである855ガルを超えるような地震は来ませんから安心して下さい」、しかも、南海トラフ地震については伊方原発には181ガル(震度五弱相当──気象庁にによれば、棚から物が落ちることがある、稀に窓ガラスが割れて落ちることがある)の地震動しか来ない」と主張した。
 これに対して住民側は、地震観測記録をあげて181ガルがいかに低水準の数値であるか──例えば2000年以降の20余年間で、伊方原発の基準地震動650ガルを超える地震は30回以上、181ガルを超える地震動を記録した地震は優に180回を超えていること等々を考えれば、南海トラフ地震による地震動が181ガルであると主張することは合理性に欠けると主張立証した。
 しかし判決は、広島地裁も高裁も、この四国電力の言い分を採用して、住民側の申し立てを却下した。
 特に広島高裁の決定は次のようなものであった。
 「四国電力は規制基準の合理性及び適用の合理性を立証する必要はなく、原子力規制委員会の審査に合格していることさえ立証すれば足りる。他方、住民側は規制基準の不合理性及び適用の不合理性を立証しなければならないし、具体的危険性についても立証しなければならない」。
 要するに電力会社は、原子力規制委員会の審査を通っているから問題はなく、危険というのであれば住民側が調査して証明しなさい、ということである。原子力問題や地震の専門家がいる国や電力会社に命じるのでではなく、素人集団の住民側に問題を押し付けた形の決定であると言わざるを得ない。まさしく広島高裁がどちらの側に立っているかを如実に示したものである。これについて本書は、「広島高裁決定は、公平性も、論理性も、リアリティーも、感性も、科学性も、責任感もないものでした」と手厳しく批判し、「この決定は、訴訟が正義を実現する場であるために、数十年にわたって全国の裁判官、弁護士、学者が積み重ねてきた努力を一夜にして台無しにするものである」とまで言い切る。
 これについて本書は述べる。「『南海トラフ181ガル問題』をめぐる双方の主張については、その主張を理解するに当って何ら専門的知識を要しないのです」として、裁判所が国民の側に軸足を置くのか、国や大企業の側に軸足を置くのか、の問題であるとする。
 その上で、下級審が上級審の判決の結論を推測して判決を書く忖度的な傾向や上級審の裁判官がいわゆる「五大法律事務所」と呼ばれる法律事務所(これらは東京電力から原発問題に関する弁護活動の依頼を受けて多額の利益を得ている)とつながりがあることなどの利権構造の一部が指摘される。
 そしてこれに対して、「原発の問題は、本来、利権とか、忖度とか、圧力とか、しがらみとか、出世とか、左遷とかという問題とはかけ離れたところにある問題なのです。原発事故はわが国の崩壊に繋がるからです。わが国が崩壊すれば、現在の司法制度も、社会機構も人間関係もすべて崩壊するのです。原発の問題は他の全ての問題と次元を異にするものです。『私たちが生き続けることができるかどうか』の問題なのです」として、「裁判官は、『国策に関わる事項が、憲法と法律に照らして正当性があるのかどうかを判断しなさい』と憲法に命じられているのです」、「これが法の支配です」と裁判及び裁判官本来のあり方の再確認を強調する。骨のある裁判官の良心からの叫びの書である。(R)

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【投稿】イスラエル・報復大虐殺、支援する米政権--経済危機論(121)

<<ジェノサイドの予告>>
10/13、イスラエル・ネタニヤフ政権は、パレスチナ・ガザ地区の北部住民に対し、24時間以内にガザ南部へ避難するよう警告を発した。「現地時間の日付が変わる少し前(日本時間午前6時前)、イスラエル軍から国連人道問題調整事務所とガザ警備安全保障省に対し、24時間以内にワジガザ以北のガザ住人が南部に避難するようイスラエル側から通達があった」と発表された。
10/15現在、イスラエル軍の大規模な地上侵攻は、避難ルートの2本の幹線道路を指定して時間限定の住民避難を促したが、避難は遅々として進んではいない。そもそも不可能なのである。

ネタニヤフ自ら空爆動画を投稿

ガザ地区は、人口230万人余り、避難対象住民は実に110万人を超えている。世界一の人口密集地帯で、なおかつイスラエルによって陸、空、海の出口はすべて完全封鎖され、ガザ地区以外に出口がない。人口の半数を南部に受け入れる余地などないことは歴然としている。
長年にわたって、ガザ地区への人々の出入りや市場へのアクセスが厳しく制限されており、住民の63パーセントが食糧不安に陥り、国際援助に依存しており、人口の81.5パーセントが貧困の中で暮らしており、2022年第3四半期末の全体の失業率は46.6パーセント、キャンプで暮らすパレスチナ難民は48.1パーセント、若者の失業率は62.3パーセント、2023 年 7 月の時点で、電気は 1 日あたり平均 11 時間しか利用できず、人口の95パーセントはきれいな水を利用できない、当然、保健・衛生・医療サービスは極度に制限されている。もちろん、経済とその雇用創出能力は壊滅的な打撃を受けている。これらはすべてイスラエルによる、イスラエル国家のための占領政策、経済封鎖、アパルトヘイト(人種隔離政策)政策がもたらしたものであり、ガザが世界最大の「天井のない野外刑務所、強制収容所」と言われる所以である。
このようなパレスチナ人に対する、人権を根こそぎ踏みにじるアパルトヘイト、人種隔離政策、それに基づく戦争行為こそが、最大の差別なのである。ハマス(イスラーム抵抗運動)による反撃、暴力の爆発は、彼らが「テロリスト」であるから起こったものでは決してないのである。パレスチナの人々はもちろん、世界中の人権専門家、国連職員、人権団体が、イスラエルの政策をすでにアパルトヘイトと認定し、それはいつか耐えられなくなるだろうと長年警告してきたところである。

イスラエル国防相:「人獣」とたたかっている

ところがイスラエル当局は、今回のハマスの反撃に対して、「これはイスラエルの9/11だ」(イスラエルの国連大使)と叫び、アメリカにおける9/11の余波と同様、テロと闘っているだけだと強弁し、イスラエル国防相はパレスチナ人を「人獣」と表現し「それに合わせて行動する」、「ガザを平坦化する」と公言している。ヘルツォーク大統領に至っては、ガザ住民にまで言及し、「民間人が気づいていない、関与していないというこのレトリックは、絶対に真実ではない」、「我々は彼らの背骨を打ち砕くだろう」と、全住民対象の集団懲罰まで発言している。ネタニヤフ首相は戦時統一政府の樹立を発表し、「ハマスのメンバーは全員死んだ人間だ」と宣告、パレスチナ人民への明らかな大量虐殺、報復ジェノサイドを予告、宣言しているのである。

しかし、このネタニヤフ氏自身は、汚職疑惑をめぐり公判中で、それを回避する司法制度改革に対しては大規模な反政府デモが何カ月も繰り返され、この抗議を支持する動きは軍や情報機関にまで広がり、予備役兵が軍務を拒否する事態にまで広がっていたのである。そのネタニヤフ氏が、ハマスの反撃に乗じて、一夜にして窮地に陥っていた事態から、戦時統一政府の指導者に変身し、野党を含めた挙国一致政府にこぎつけたのであった。

<<バイデン「気を付けるがよい」>>
問題は、本来孤立化されるべきこうしたイスラエル政権を、米バイデン政権が必至になって弁護、支援していることである。
バイデン政権は、ハマスの反撃後すぐさま、何の躊躇もなく、イスラエルにより多くの武器と弾薬を提供し、最新鋭の空母フォードと多数の駆逐艦を東地中海に派遣し、イスラエルに駐留する他の部隊を強化することを明言し、実行に移している。事態を鎮静化させ、平和を促せるのではなく、イスラエルの人道・人権無視、地上軍の投入、大量虐殺を背後から煽り立てているのである。パレスチナの武装抵抗運動と、この抵抗が代表するパレスチナ人民の主張には全く耳を傾けない、ガザで展開している人道危機に対して、信じがたいほど冷淡かつ無知、無関心は、驚くべきものである。

イスラエルの人権団体 ネタニヤフ首相の「復讐の犯罪政策」を非難

アメリカで唯一のパレスチナ系議員であるラシダ・トレイブ下院議員(民主党、ミシガン州)は「バイデン大統領は、残忍な空爆と、この人道危機を激化させるであろうガザへの地上侵攻の脅威に直面している数百万のパレスチナ民間人に対して、一片の共感も表明していない」と、「バイデン政権はガザにいるすべての民間人とアメリカ人の命を守る義務を怠っている。」と厳しく批判している。広がる批判に直面して、10/15段階に至ってようやく、民間人の犠牲を抑える「安全地帯」に言及した程度なのである。
バイデン氏は、国務長官をイスラエルに派遣して、無条件支持を言明、ブリンケン氏はテルアビブでネタニヤフ首相と会談後、「自分自身で自分を守るのに十分強いかもしれないが、米国が存在する限りそうする必要はない」と請け合い、「私たちはいつもあなたのそばにいます。」と明言している。

さらに危険なのは、紛争の中東戦争全体への拡大、世界大戦化への緊張激化である。バイデン氏は、10/11、米国のユダヤ系社会団体が主催した会合に出席し、「イランに対しては、気をつけろとはっきり伝えた」と述べ、中東情勢の緊迫化を当然の前提にしていることである。
すでに英国がイスラエルへの軍事支援を表明、P8ポセイドン航空機、監視装置、海軍艦艇2隻(ライムベイとアーガス)、マーリン・ヘリ3機、および英海兵隊が派遣され、英国の海上哨戒機と偵察機は早くも13日にはこの地域で飛行を開始している。

こうした事態を受けて、10/9、ロッキード・マーティン株の約9%上昇は、2020年3月以来最大の値上がりとなり、ノースロップ・グラマン株も2020年以来最高の日となった。こうした軍事紛争激化から最も多くの利益を得たのは、ロッキード・マーチン、ボーイング、レイセオン、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマンの軍産複合体大手5社である。

 ネタニヤフ政権は、パレスチナ封じ込め政策が破綻している現実を受け入れられず、これを不問にしたアラブ諸国との国交正常化を進めれば乗り切れるという甘い幻想を抱いていたのである。バイデン政権も同様である。パレスチナとの和平を実現させない限り、そのアパルトヘイト政策を放棄しない限り、パレスチナ領土への違法な入植地政策を撤回しない限り、中東和平はあり得ないのである。
米国国務省当局者は、ガザについて「緊張緩和/停戦」という用語を使用しないよう指示 「国務省職員らは、高官らは報道資料に『緊張緩和/停戦』、『暴力/流血の終結』、『暴力の終結』という3つの特定の文言を含めることを望んでいない、と報じられている。
逆に言えば、常に戦争状態を維持し、拡大することが、ネタニヤフ政権やバイデン政権が延命できる唯一のあがきでもある、と言えよう。しかし、それは彼ら自身を孤立化させ、政治的経済的危機をより一層激化させ、破綻せざるを得ないものである。
(生駒 敬)

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【書評】『資本主義の<その先>へ』大澤真幸の「力学」の勘違い

【書評】『資本主義の<その先>へ』 ―大澤真幸の「力学」の勘違い -(筑摩書房:2023.6.30)

                           福井 杉本達也

1 日本語訳の「力学」を勘違い

大澤は、第3章の2「科学革命の可能性―万有引力を考える」において、「科学革命における最大の獲得物は『力』の概念ではないでしょうか。」「『力』は、本来は擬人的な観念です。科学の中に取り込まれたときには、次第に擬人的な痕跡は洗い落とされていきます。最終的に到達したのが、ニュートンの万有引力です。…万有引力の概念の中に、最初の『力』概念に含まれている擬人的な含みがまだ反響しているいるのか、『引く』とかいった、力についての原初の体験は全く含まれていません。…万有引力とは遠隔作用の一種だということになります。ここが問題なのです。」「前提が遠隔作用であるということさえカッコにいれてしまえば、ニュートン理論は、まさに機械論としてずばぬけた説明力をもっていたからです。」と述べる。

しかし、大澤の「本来」が誤っている。日本語の「力学」は、明治期に西欧からmechanics(メカニクス)という言葉を輸入し和訳した時の単なる符丁である。「擬人的な観念」などはそもそも含まれていない。単なる思い込みに過ぎない。佐藤文隆の『「メカニクス」の科学論』(2020.12.20)によれば、「物理学訳語会」(1883~87年)で策定されたのであるが、「訳語には日常語に近づける努力と手垢のついていない新語を製造する方向がある。この選択は『誰を相手にした用語か?』による。『訳語会』では、相手を『一見さん』でない『常連さん』に変えたのである。専門家相手だと用語は単なる『意味』の符丁シンボルでよい。」しかし、「『一見さん』は日常語との類推で『意味』を想像する」から危ういとしている。佐藤は続けて「中身なしに看板をみる人には力学は『力の学』なのかと思わせる。なにしろ『力』という日常語は人々の気持ちに絡む味の濃い言葉だから。たしかに力学の主題は力で物体の運動が変わることなので、力の意味を限定すれば『力の学』でもいいのだがこの見方は熱力学、量子力学、統計力学ないは通用しない。これはメカニクスに『力学』の訳語をあてた日本独自の不具合にもみえる」と述べている(佐藤:上記)。

 

2 スコラ哲学・形而上学への回帰

大澤は「近代科学という知の体系の中に収められている命題は、真理ではありません。それらは、原理的には、すべて『仮説』です。つまり、真理の、せいぜい候補に過ぎないのです。」とし、「ある時期に『通説』としての評価を得たとしても、またどんなに厳しい検証に耐えてきたとしても、原理的には、いつまでも仮説という地位を返上することができません。それが、『真理』そのものに昇格することはない」と述べる。大澤は「近代科学」の外に『真理』を求めている。これは17世紀の科学革命が批判した、かつてのスコラ哲学・形而上学への回帰ではないのか。

大澤は、続けて「今日、グローバルなレベルで真理ととして認められている知は、科学の知だけだからです。」「『真理候補(仮説)』に過ぎないという控えめな主張をしている知だけが、グローバルな標準として受け入れられ」たとする。そして、ユヴァル・ノア・ハラリを引用して「近代科学をもたらしたのは『われわれは知らない』ということの自覚、われわれの無知についての知です。科学革命は、知の革命である以前に、無知(の知)の革命と理解すべきです。」と書いている。

もちろん、真理=世界を100%認識できることはありえない。「分かっている現在」を完全に認識するということも原理的にありえない。あっという間に過ぎ去る「現在」は調べる暇もない。科学はベーコンの表現では、「自然の秘密もまた、その道を進んでゆくときよりも、技術によって苦しめられられるとき、よりいっそうその正体を現す」のであり、17世紀の科学革命は自然の力に対する物理学的で数学的な把握にある。佐藤は、科学の「発祥時の目標は『経験からする予測の合理化、客観化』にある。技術と新しい機器を用いた実験で経験の合理的、客観的世界を拡大し、これらの情報から有用な予測情報を導く手法として論理や数学や統計の計算などが発達した」とする。また、山本義隆の言葉を借りれば、ガリレオの実験思想。デカルトの機械論。ニュートンの力概念による機械論の拡張、ベーコンの自然支配の思想は、「自然と宇宙に見られるさまざまな力を探りだし、その法則を突き止め、それを自然支配のために制御し使役する…近代科学は古代哲学における学の目的であった『事物の本質の探究』を『現象の定量的法則の確立』に置き換え、…魔術における物活論と有機体的世界像を要素還元主義にもとづく機械論的で数学的な世界像に置き換えることで、説明能力においてきわめて優れた自然理論を作りだした」のである(山本義隆・『福島の原発事故をめぐって』2011.8.25)。決して「無知の知」ではない。「知っているという錯覚は意識の流れと外界とが肯定的関係にあることの確認」である(佐藤:上記)。

 

3 科学革命は技術を引き込んだ「下剋上」であった

近代社会の最大の発明品のひとつが科学技術である。「客観的法則として表される科学理論の生産実践への意識的適用」としての技術である(武谷三男)。15世紀までは「技術」が作るものは「まがい」であり自然に劣る不完全なものとされてきた。それが、16世紀の文化革命において西欧文明だけが思弁的な論証知(ギリシャ哲学やキリスト教神学)と技術的な経験知(航海・鉱山・軍事・錬金術など)の両者を結合させたのである。知の世界の地殻変動である。古代~15世紀までは、奴隷的で機械的な職業、活動的生活でない観想的な閑暇、技術でない自然に理念の価値をおいた。経験から生まれる知識は卑賤(メカニック)であり、精神のうちに生まれ、そこで終わる知識が学問とされていた。16世紀の文化革命はこの「卑賤」な学問世界から遠ざけられていたメカニカルの実世界に価値を見出した。17世紀の科学革命はこの学問世界から遠ざけられていた「卑賤」な技術職能集団を引き込んで、学問世界の主導権を争った革命・「下剋上の物語」であった。ガリレオ・ニュートンらの大発見によって、「至高の天上世界と卑賤な機械装置が同じ運動と力の法則に従う」こととなったのである(佐藤:上記)。

しかし、大澤は「通説的には、近代科学がもたらした革新のポイントは、『権威』よりも『経験』を重んじたことにある」と、「通説」には批判的である。通説とは逆に、「近代科学が出現した背景にあるのは、経験への素朴な信頼とはほど遠い…経験に対して疑いの目が向けられていた」。そこで、「経験から経験らしさを消し去り、それを実験に仕立て上げ」たとする。科学が、経験から生まれる「卑賤」なメカニックと組んで主導権を握ったとの認識はない。その後、「断片的な技術知やノウハウが、科学の体系的な知の中で統合され、背後にある原理や法則が見出され」、資本主義においては「『知恵』の伝統を引き継いでいる近代科学と、技術知の近現代的形態であるテクノロジーの間には、相互交流が」あると述べているが、あくまでも主体は「体系的な知」であり、「断片的な」メカニックの「下剋上」はないのである。

 

4 「科学的」という“免罪符”

政府・東京電力による放射能汚染水の海洋放出の強行について、福井新聞の『時言』というコラムは、「放出に反対する人や不安を訴える人に対して、岸田文雄首相をはじめ多くの人が口にするのが『科学』という言葉だ。『科学に基づいて説明をすれば理解が得られるはずだ』という考えらしい。」。「科学の結論を受容しないのは、その人に科学的知識が『欠如』していることが原因なのだから、説明して知識を増やせば問題は解消するはずだという想定に立つ」。しかし、「欠如しているのは、人々の科学的リテラシーではなく、政府や東電の真摯な姿勢と信頼」なのだと結んでいる(福井:2023.9.17)。

何十年にもわたり大量の放射能を、しかも事故を起こした張本人が、海洋にバラマキ続けるということこそ自然を畏れぬ行為である。山本義隆は、3・11が「科学技術は万能という19世紀の幻想を打ち砕いた」とし、「私たちは古来、人類が有していた自然に対する畏れの感覚をもう一度とりもどすべきであろう。自然にはまず起こることのない核分裂の連鎖反応を人為的に出現させ、自然界にはほとんど散在しなかったプルトニウムのような猛毒物質を人間の手で作りだすようなことは、本来、人間のキャパシティーを超えることであり許されるべきではないことを、思い知るべきであろう」と書いている(山本:上記)。近代社会=「資本主義の<その先>」を論じるならば、16世紀以前の「技術」が持っていた自然に対する畏れ」の感覚をもう一度取り戻すことから始めなければならない。

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【投稿】斜陽の帝国アメリカと供に、没落する日本

【投稿】斜陽の帝国アメリカと供に、没落する日本

                        福井 杉本達也

1 「カニが高い」と日本人観光客がひと騒動

「カニでひと騒動」:9月30日付けの日経新聞は、シンガポールの名物料理「チリクラブ」で、「日本人観光客が食事後にカニ1匹に 938シンガポールドル(約10万円)を請求されたことに反発し、警察を呼ぷ騒動となった」、「来店した日本人客が料金を高額に感じた背景には、円相場がシンガポールドルに対して過去2年で3割下落した影響もあるだろう」(日経:2023.9.30)との小話が掲載された。

「円の実力過去最低」・「8月 円安響き1970年を下回る」。国際決済銀行(BIS)の21日発表によると、8月の実質実効為替レー卜(2020年=100)は73.19と、これまで過去最低だった1970年8月(73.45)を53年ぷりに下回った。「足元の円安が1ドル=360円の固定相場制だった当時よりも円の価値が相対的に割安になった」ことを意味する。「実質実効レートの低下は、日本人が海外旅行で支払ったりモノを輸入したりする際の負担が増えていることを示す」。逆に、インバウンドは日本のモノ・サービスが割安であることを意味する(日経:2023.9.22)。

2 「円」の崩落が始まっている

千葉商科大学の磯山友幸教授は「ひと昔前は安かったアジア諸国でもレストランに入ると日本と変わらないくらいの価格になっている。アジア諸国が経済発展して物価が上昇していることもあるが、それ以上に日本円が猛烈に安くなったことが大きな要因になっている」、「もはや『円』の崩落が始まっている」と書いている(2023.9.30)。

「『安いニッポン』の元凶は10年続くアベノミクスだ。安倍、菅、岸田の歴代自民党政権が、30年以上、浮上できずにもがき苦しむ日本経済にトドメを刺した」。「ドルベースの1人あたりのGDP(国内総生産)は、民主党政権の頃は6兆ドルありました。ところが、円安が加速し、安倍政権で4兆ドル、岸田政権では3兆ドルまで縮んでいます。安倍氏は『悪夢の民主党政権』と批判していましたが、民主党政権当時の日本は頑張っていた。いまや日本は先進国とは言えず、中進国です。汗水たらして働いても、海外の物が買えなくなった日本人は幸せなのでしょうか。購買力平価やビッグマック指数、企業の実力から考えても、バランスが取れるのは1ドル=100円程度です。超円安の結果、実質実効レートは1970年ごろに戻っている。1ドル=360円の時代です。歴史を50年前に戻してしまった。50年間の日本の成長を全部吹っ飛ばしてしまいました」(斎藤満氏:『日刊ゲンダイ』2023.10.1)。

3 没落する日本

『日刊ゲンダイ』は、「円の価値を下げ、国の価値を下げたことで、産業、物流、小売り、人材、あらゆる現場に構造的なひずみが生まれている。それなのに、岸田は根本的な対策に手を付けることなく、相変わらずのバラマキ政策に邁進する」と続けるが(2023.10.1同上)、問題は、なぜ、「円の価値を下げ、国の価値を下げ」続けるのかである。

日本没落の原因はどこにあるのか。コロンビア大学のジェフェリー・サックス教授によれば、1980年代日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(Japan as Number One: Lessons for America)となった。日本は半導体やその他の分野で圧倒的な製造大国となった。しかし、米国は、日本の経済を止めなければならないと考えた。そこで、対米輸出を止めさせるため輸出制限を課した。そして日本円を大幅に切り上げた。いわゆる、1985年9月のプラザ合意である。「これは驚くべきアイデアであった」。1980年代末には日本の成長は止まった。日本は公の場でそれを受け入れた。1990年代半ば、日本のある経済政策立案者と話をしたとき、私は「通貨安にできないのか」と尋ねた。そうすると彼は「ジェフ、アメリカがそれを許してくれない」と答えた。日本が直面したのは地政学だった。アメリカの支配下にあったため、直接文句を言わなかったと述べている(ShortSort News 2023.9.20)。

現在も同様の状況が続いている。円安を阻止するにはドル売り介入する必要がある。日本の外貨準備高は1兆2510万ドルであり、他のG7諸国の約4〜13倍に積み上がっている。過去20年間で4倍となっている。そのほとんどを米国債が占めている。一方、3.1兆ドルと、世界最大の外貨準備高を持つ中国の米国債が占める比率はどんどん少なくなっている。中国が保有する米国債の2022年12月末の保有額は8670億ドル(約116兆円)と、12年半ぶりの低水準になっている(日経:2023.2.16)。日本以外には誰も米国債を買うものはいない。そこに日本が米国債を売り円買い介入するということはドル暴落を誘発する。債務上限問題で揺れる米国としては何としても避けねばならない事態であり、今日も「アメリカはそれを許してくれない」のである。米国債を買わされることによって、日本がウクライナ戦費を負担している。

4 米欧の物価を支配するOPECプラス

「サウジアラビアは5日、ロシアの輸出制限とともに自主減産の延長を表明し、市場の価格に大きな影響をあたえる自国の力を誇示した」「インフレ克服に苦しむ米国を露骨に挑発している。」「サウジは8月、南アフリカで開いたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南ア)首脳会議に外相が参加し、正式にこの枠組みに加わることを決めた」(日経:2023.9.7)。原油は1バレル100ドルの大台に迫ってきた。世界的なインフレ再燃の懸念が強まっている。

1986年、CIA長官を務めていたウィリアム・ケーシーはサウジを訪れ、原油採掘量を増やすよう協議した。サウジは採掘量は日産200万バレルから1000万バレルに増やした。価格は1バレル32ドルから10ドルに急落した。ソ連経済にとっては、石油による大収入にすでに慣れていたため、これは致命的な打撃だった。1986年だけでも、ソ連は200億ドル(ソ連の歳入の約7.5%)以上を失った(ゲオルギー・マナエフ「サウジアラビアの石油政策がいかにソ連崩壊につながったか」:『ロシア・ビヨンド』2020.3.14)。そのサウジとロシアが今度は同盟を組んで米欧の物価を支配する権限を握った。米国はインフレに対応するためさらにドル紙幣を印刷する必要に迫られた。また、インフレを他国に“輸出”するため高金利政策をとる必要がある。結果、日本の円は実効為替レートでは50年前の1ドル=360円台に戻ることとなった。米国にとって日本への債務(米国債)は返さなくてもよい借金である。ドルを切り上げ、円安に誘導すれば、安い日本製品を手に入れることができる。結果的にインフレを抑えることができる。いくら輸入しても紙屑となる恐れのあるドル紙幣を印刷して支払えばよい。しかし、それは日本だけである。サウジは「ペトロ・ダラー」体制に見切りをつけた。BRICSはドルを使わない貿易決済を始めた。ドル暴落の足音は着実に迫っている。岸田政権は、これ以上国を売ることをやめるべきである。

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【書評】白川真澄「脱成長のポスト資本主義」

【書評】白川真澄「脱成長のポスト資本主義」(社会評論社 2023-04)

<<「脱成長」論が提起する課題と現実>>
    (初出:「季報唯物論研究」第164号 2023/8)

脱成長のポスト資本主義

脱成長のポスト資本主義

    
<新自由主義経済路線の「脱成長」>
 今我々が直面している現実の資本主義は、産業資本主義段階から、金融資本が支配する金融独占資本主義段階にあり、1971年のブレトンウッズ体制の崩壊、ドル・金兌換廃止以降は、米国は他のどの国も持たない債務特権、つまりは「いつでも紙幣を印刷できるので、米国はどんな借金でも返済できる」(アラン・グリーンスパン、1987~2006年米連邦準備制度理事会・FRB議長)、基軸通貨としてのドル一極支配体制に移行した。この下で、金融規制緩和政策が推し進められ、金融資本が支配するマネーゲームが横行し、規制緩和万能・市場原理主義路線=新自由主義経済路線が世界中に跳梁跋扈する段階となった。
 米国はかくしてポストブレトンウッズ体制から多大な恩恵を受け、世界中にドル国債をばらまき、買い支えさせ、厳密に計算すれば破産状態にあるにもかかわらず、対外債務を返済する能力も、支払う意図もなく、この債務特権にあぐらをかき、ドル一極支配体制を通じて、通貨はもちろん、世界中の他の地域の労働力や実物商品・製品を組織的に過小評価し、取得することを可能にし、グローバリズムがそれを一層促進させ、そうした事態の進行に依存する経済、米国内の実体経済がどんどん空洞化し、実体経済の生産額とGDPの間に前段階には見られなかった乖離が露呈する段階となったのである。米国では、金融と保険と不動産業界の対GDP比率は15~24%増加し、すでに製造業を上回っている事態である。対して、米国の製造業は最新データによると7ヶ月連続の縮小となっている。
 金融資本の金融資産(預金)は、歴史的にGDPの約40%であったが、2020~2021年には GDPの70%以上にまで上昇している。2007年11月の金融危機前のピークから15年間で、銀行預金の総額は 6.6 兆ドルから 17.6 兆ドル、年率 6.2%にまで急増している。FRBが金融緩和政策の名のもとに市場にあふれさせたイージーマネーによって、2020年3月以降は、その成長率は年率10% 近くまで加速、対照的に、2007年第4四半期以降、名目GDPは年率 3.8% しか拡大していないのである。しかも、米国がGDPと呼ぶものの大部分は金融サービスによって肥大化されている。それでも、2023年第1四半期の米国経済は年率1.1%の成長にとどまっているが、この減速はやみそうにもない。インフレ率を意図的に低下させる現在のCPI算出を、1980年代と同じ計算方法を用いれば、GDPは実はマイナスなのである。
 かくして金融資本は、収益のかなりの部分を成長のための資本に投下するのではなく、さらなる最大限利潤追求の場としてのマネーゲームへの資本投下と、上位1%層への配当と自社株買いに割り当てたのである。 その路線を最大限利潤追求者として合理的であり、良しとしたのである。言い換えれば、新自由主義とは、経済を金融化させ、実体経済を破壊させ、社会保障を削減・民営化させ、新たな債務危機を引き起こす金融システムでもある。
そして、新自由主義経済政策の始動後、世界の成長グラフは実際に下降、ないしは鈍化しているのが現実なのである。その意味で、新自由主義経済推進論者は、米国は言うに及ばず、全世界に「脱成長」の課題を強制し、経済活動を急速に衰退させる、かれらこそが、世界で最も先鋭かつ実践的な「脱成長」論者なのだとも言えよう。もちろんこのことは、新自由主義路線そのものが、「脱成長」を掲げている、あるいは意図的に「脱成長」に追い込んでいるというわけではない。結果的に「脱成長」路線を推進しているにすぎないのであって、地球環境危機や気候危機から「脱成長」を主導しているわけでは全くない。むしろ、新自由主義経済路線は、アメリカの、環境を破壊し、危険で有害で高価なフラッキングガスをヨーロッパに押し付けていることに象徴的なように、地球環境危機・気候変動危機をより悪しく激化させているのである。
 白川氏は、「ブレーキがなく、アクセルしかない資本主義では、気候危機は解決しない」、「経済成長をダウンさせ経済を縮小する脱成長への転換が求められる」と主張されているが、如上のような、現実に進行している「脱成長」路線をどのように評価されるのであろうか。主観的には別として、客観的には結果としてもたらせられる「脱成長」は大いに歓迎されるべき、同盟軍なのであろうか、それとも無視しても何ら差し支えない、論議すべき対象ではないと考えておられるのであろうか、基本的な疑問である。「経済成長をダウンさせ経済を縮小する」ことそれ自体が目的となれば、その「脱成長」の中身、実態、本質が問われることはない。白川氏がそんなことを主張しているとは考えられないので、より前向きな議論の展開が望まれるところである。
 
<ウクライナ危機の現実>
 白川氏は、序文の冒頭で、「新型コロナ感染症の世界的な大流行とロシアによるウクライナ侵略」を、「私たちの予測能力や想像力をはるかに超えた2つの出来事」と述べておられる。コロナ危機は別として、ウクライナ危機は、突如勃発したものではなく、ある程度予測されていたことである。
 それは当事者自身が自己暴露していることからも明らかである。2015年2月17日に国連の安全保障理事会は、13項目からなるウクライナ東部紛争の停戦を実現する「ミンスク合意」を承認する決議をしているが、アンゲラ・メルケル元独首相は、昨年12月7日のツァイト紙のインタビューでミンスク合意は軍事力を強化するための時間稼ぎにすぎなかったと認め、その直後に、フランソワ・オランド元仏大統領もメルケル氏の発言を事実だと語っている通りである。当事者のウクライナ政権自身がこの合意など守る意思はさらさらなかったことを公言し、挑発的な軍事行動を絶え間なく繰り返していたことは周知の事実であった。ロシア側の抗議と米ロ首脳会談にもかかわらず、停戦交渉を意図的に妨害し、ぶち壊してきたのはアメリカとイギリスなのである。
 とりわけ米エネルギー産業独占資本と産軍複合体、ネオコン勢力は、何年も前からユーロ経済圏のロシア天然ガス依存政策を問題にし、ノルドストリーム天然ガスパイプライン爆破攻撃につながるユーロ経済破壊政策を、米国防省ペンタゴン配下のランド研究所がすでに提起していたことが明らかになっている。
 このウクライナ危機に関する最も重要な点は、歴史上最も回避可能な戦争であったということであり、米英がロシアを泥沼の戦争に引きずり込み、プーチン政権は大ロシア民族主義からそのワナにはまり込み、一連の誤算に基づくウクライナ侵攻に突き進んでしまったのだと言えよう。
 プーチン政権のスターリン主義路線への回帰ともとれるレーニン路線(民主主義の徹底としての社会主義、民族自決権の擁護)の否定(侵攻開始にあたってのプーチン演説)が、このウクライナ危機解決に芳しからぬ悪影響をもたらしていることも指摘されねばならない、見逃し得ない論点であろう。
 しかし、一見、米英の悪辣な戦略が成功したかに見えるウクライナ危機は、対ロシア経済制裁政策によって、逆に巨大なブーメランとなって跳ね返り、今やドル一極支配体制が足元から崩れ去る、世界的な脱ドル危機として跳ね返ってきているのが現実である。
 冷静に分析し、評価がなされれば、こうした事態の進行は、「私たちの予測能力や想像力をはるかに超えた出来事」ではないのである。
 そしてウクライナ危機の現実は、対ロシア、対中国の緊張激化路線を一層拡大することによって米英はもちろん、日本を含むG7諸国の軍事費を巨大化させ、国家債務を膨大化させ、インフレを進行させ、米欧側が望む「経済成長」をさえ阻害し、経済的治的危機を深化させ、ここでも結果として、「脱成長」路線を推し進めてしまっているのである。

<問われているオルタナティブは何なのか>
 こうした新自由主義経済路線と核戦争にもつながりかねない緊張激化路線に対するオルタナティブこそが問われている、と言えよう。何よりも優先されるべきは、ウクライナ危機の平和的・外交的解決は可能であり、「戦車ではなく、外交官を送れ!」(欧州平和運動のスローガン)という、軍拡に反対する緊張緩和政策・平和外交政策であろう。これなしには、他のオルタナティブが成り立たないからである。
 新自由主義経済路線に対しては、金融資本の規制緩和を撤廃し、金融資本の独裁を許さないトータルな規制、民主的規制、金融資本を社会化するオルタナティブ、気候危機・環境危機に対応した社会的インフラ投資に重点を置いたオルタナティブ、ニューディール政策こそが提起され、優先されるべきであろう。そのもとでこそ、白川氏が主張される「医療、介護、子育て、教育などケアに重点を移行させる」オルタナティブが生かされるのではないだろうか。
 白川氏が強調する、気候変動危機に対するオルタナティブとして提起されている連帯経済への様々な取り組みや問題提起は貴重であり、生かされるべきは、言うまでもない。(生駒 敬)

※ 本書評の掲載については「季報唯物論研究」編集部の了解をいただいております。

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【翻訳】「海中火山と2023年の暑さとの関連」

Japan Times on September 16-17
 Incorporating The New York Times International Edition

“An undersea volcano and its link to 2023 heat”
「海中火山と2023年の暑さとの関連」
By Alister Doyle, Oslo : Thomson Reuters Foundation

 記録的高温よりの世界的蒸し暑さについて、科学者たちは、部分的に責めるべきかもしれない、興味ある容疑者として、昨年、南太平洋にある Tonga 近くで起こった海中/海底火山の爆発/噴火を挙げている。
 ほとんどの大噴火は、太陽を薄暗くする靄/霞によって地球を冷やす一方で、2022年1月に噴火した Hunga Tonga-Hunga Ha’apai (訳者:以下「トンガ火山」と称する)は、オリンピック用水泳プール 6万個に等しい水を地球上空の成層圏に吹き上げた。
  (訳者: 地球を取り囲む大気は、500 Kmまで存在すると言われている。
       0 ~ 10 Kmは対流圏、10 ~ 50 Km までは成層圏と呼ばれている。)

 水蒸気は、自然の温室効果ガス (“greenhouse gas”) である。地球の周りを渦巻くように熱を閉じ込める。対照的に、地上での噴火は、— 例えば、1991年に起きた Pinatubo,Philippines の噴火のように — 一時的に火山灰による日よけ効果によって、地球に降り注ぐ前に、日光を薄暗くする。
 Mr. Peter Thorne, a professor of climate science at Maynooth University in Ireland は述べている。「火山の大半は、冷やす効果を持つであろう。トンガ火山は、ルールの例外であり、我々はかって経験したことがない、意味ある wild card (予測できない要因) である。」と。 今年の 6 -8 月は、世界中で最も暑い記録だった。不可解なほどの大きい差をつけて、日本から米国にかけての熱波でもって。
 科学者たちは述べている。即ち、太平洋を温める El Nino 現象、船舶の燃料よりの光を反射する排気ガスや火山による小さい影響もあるが、人間による温室効果ガスの放出は、圧倒的に責任を負わされるべきである、と。
 多くの科学者たちは、地球の温暖化はまず第一に化石燃料(”fossil fuels”)を燃やすことによって、もたらされるのであるが、火山の噴火が温暖化の長期トレンドに、どれほど長く影響を与えているのかを、計測し判断するに、火山のさらなる調査が重要である、と述べている。 2015年のパリ協定は、産業革命以前の気温より、できるだけ上昇をプラス 1.5℃程度に止めることを求めている。気温は、すでに 1.2℃ 上昇している。

Past huge eruptions [ 過去の巨大噴火]
 ポリネシア諸島における噴火(訳者:昨年のトンガ火山の噴火のこと)は、約1億5千万トンの水蒸気を成層圏に吹き上げ運び込んだ。これは、成層圏を取り巻いている 10.4 億トンの水蒸気のおよそ 10 % に相当している、と Margot Clyne, an atmospheric scientist at the University of Colorado, Boulder, in the U.S. は、述べている。さらに、「我々は、かなり自信をもって言える。即ち、1883年の Krakatoa 火山の噴火に遡るまで、昨年のトンガ火山のような噴火は、起こっていなかった、と彼女は述べている。
 (訳者:Krakatoa 火山:Indonesia スマトラ島とジャワ島の間のスンダ海峡にある小さい島の火山で、 8/26日に噴火して津波も発生したことより、
             36,417人が死亡したと伝えられている。)
 その噴火は、同時におよそ 50万トンの二酸化硫黄(Sulfur Dioxide”)を成層圏に吹き上げた。これは地球を冷やす傾向にある。水と硫黄の混合は、火山の影響を理解しにくくする。

 定期刊行誌 “Nature” の一月号のある論文は、地球の気温は今後五年間のうちの少なくとも一年は、一時的に、1.5℃を超えて上昇するであろう、と述べている。
「このトンガの噴火は、地表を冷やすよりは、むしろ温めるであろう観測史上最初の噴火である」と Luis Millan, a scientist at NASA’s Jet Propulsion Laboratory at the California Institute of Technology は述べている。さらに、予備的研究であるが、水蒸気は、成層圏において、最大8年間持続して留まる可能性がある、と彼は述べている。
Holger Voemel, a senior scientist at the U.S. National Center for Atmospheric Research (NCAR) は、その噴火は、地球の温暖化に何らかの効果をもたらすであろう可能性はある。しかし、その判断/判定は、まだ出ていないと考える、と述べている。
U.N.’s Intergovernmental Panel on Climate Change (IPCC) によれば、太陽を暗くする噴火は、過去 2,500年以来、大まかに言って 100年に二回ペースで起こっていて、最近のものは、Pinatubo, Philippines である。この噴火は、曇らせた太陽によって、地球の平均気温を、一年以上約 0.5 ℃押し下げた。 IPCCによれば、過去2,500年間に、およそ8回大きな噴火があった。これらの中では、 1815年の Indonesia での Tambora 噴火は、「夏のない一年」をもたらし、フランスから米国まで収穫できずにいた。 
  (Tambora 火山 : バリ島東側のロンボク海峡近くのSumbawa島にある火山で 4/10-4/12の噴火で死者約 1 万人、その後の飢饉、疫病で 7~ 12万人が死亡したと伝えられている。) )

 さらにもっと酷いケースでは、1257年頃の、Indonesia の Samalas 噴火は、飢饉を引き起こし小氷河期(”little ice age”)のきっかけとなったであろうし、その異常な寒冷期は 19世紀まで続いた可能性がある。
   ( Samalas 火山 : ロンボク海峡にあるロンボク(“Lombok”)島の火山。年代古く
             被害の詳細は定かではない。)   

 かっての噴火の規模は、グリーンランドや南極の氷の中に捕えられ見つけられる硫黄から判定される。 トンガ火山のような、水を吹き上げた何百年前の大きな火山の数は、水がシミや汚れを氷の中に残さないので、未知である。 噴火前、トンガ火山は、海面下およそ 150mにあった。どれくらいの火山が、もし噴火した時に物質を大気まで吹き上げるに十分な海面下の浅さにあるかは、不明である。

Catastrophic risks [ 壊滅的なリスク]
 IPCCは述べている。少なくとも今世紀中には、Pinatubo クラスの噴火は、一つは起こると。しかし、そのような噴火は地球規模の温暖化 — 産業革命以来の人間が作り出した温室効果ガスによって助長されている — の全体的傾向に、ほとんど効果なしで来ている。
 Ingo Bethke, of the Bjerknes Center for Climate Research at the University of Bergen in Norway は、「火山活動は不規則で予測不可で、制御不能である。」と述べている。
 Bethke and Thorne は論じている。「IPCCは、一連の火山のリスクを調査すべきである。我々は、Pinatubo 規模の火山であれば、一つだけなら対処できる。しかし、気候変動の中にあって、いくつもの噴火が起きれば、社会にとっては大きな試練となるであろう。」
 予測不能の中にあって、しかしながら、何人かの科学者は、気候変動は、氷河の重量が火山の蓋を押さえている、いくつかの氷のある地域では、噴火をたびたび起こさせるであろう、と述べている。例えば、 Iceland では、約 12,000年前の最後の氷河期の終了は、噴火の回数が増えたのと、期を一つにしている。その時は、最近の噴火回数より、約 100回も多かった。そして、気候変動とリンクした雨の土砂降りは、火山の斜面を侵食する可能性がある。
2018年、ハワイで起こった異常なる大雨が Kilauea 火山の側面を弱めてしまった可能性がある。

Geoengineering [ 地球工学 ]
 各国の政府が、長い時間をかけて解決策を探求する一方で、地球を冷やす近道として、何人かの科学者たちは、慎重に太陽光を曇らせることに前向きである。 Pinatubo 噴火のような靄や霞 — おそらく硫黄を成層圏に吹き上げる特殊な飛行物体の一編隊によって — を一年あまり持続させる時間稼ぎは可能であろう。
 昨年、米国のある新興企業 (“start-up”) “Make Sunsets” は、成層圏に二酸化硫黄を積んだ気球を投入し始めた。その会社は、”cooling credit” として、硫黄 1 gram $10.- で売り始めた。それは一年間で二酸化炭素(炭酸ガス)1 ton 分の温室効果と相殺出来ると謳っている。それでは、費用は掛かりすぎである。何故ならば、炭酸ガスは大気中では、数百年の間、留まり続けることが出来る。その会社の売り上げは、この8月には、$ 2,852.- であった。

 多くの科学者たちは、そのような geoengineering に反対している。それは、気候の型、傾向を乱すであろうし、いくつかの国々に排出の大幅削減を避ける口実を与えるであろうから。Mr. Voemel at NCAR は言った。「私に第二の地球を与えて下さい。そうすれば、それ(気球を飛ばすこと)は、一つの good idea です。」「そして、貰った私の地球では、それをしないで下さい。」

                     [ 完 ] ( 訳 : 芋森 )

 

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