【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」

【投稿】タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビューと「トランプ2.0」

                              福井 杉本達也

1 タッカー・カールソンのプーチン大統領インタビュー

2月6日、米国保守系のFOXニュースの元司会者で有名ジャーナリストのタッカー・カールソン氏がモスクワでプーチン大統領にインタビューした。X(旧Twitter)上での公開は8日で、2時間以上にわたるインタビューは、公開から数時間でカールソン氏のXアカウントで4600万回以上再生され、YouTubeでは100万回弱の再生回数を記録した。https://twitter.com/i/status/1756099572383072333

元米海兵隊情報将校のスコット・リッターは、このインタビューの意義について、「タッカー・カールソンのブランドと執念がなければ実現しなかっただろう。」とし、「彼はロシアの専門家ではない。ロシアの歴史家でもない。ロシアの複雑な生活に精通している人物でもない。ウラジーミル・プーチンはロシアの大統領だ。彼はロシアの歴史を知っている。彼はロシアの魂を知っている。」「ロシア大統領がアメリカの聴衆に、ロシアの歴史のニュアンスを、ロシアの魂の複雑さを紹介したのだ。もしあなたがロシアの歴史を理解せず、ロシアの魂を理解しないなら、あなたは基本的に地図のない旅に出ることになる。それがこのインタビューの価値だと思う。」と述べている。「彼がしたことは、アメリカの聴衆が近づきやすい文脈でこれらの情報を提供したことだ。」「タッカー・カールソンは現代ロシアへの扉を開き、ウラジーミル・プーチンの人格への扉を開き、ロシアの歴史への扉を開き、ロシアの魂への扉を開いた。」そして、「ロシアについて学ぶために時間と努力を惜しまない個人、アメリカ市民にとって必要な積み木ができあがった。」「私たちが前進し始めるための強固な基盤を構築することができるだろう。」「そして、タッカー・カールソンが今日、ロシアのプーチン大統領とのインタビューをアメリカ国民、西側諸国、そして世界に向けて行ったことは、人類を救うことができる旅への最も重要な第一歩なのだ。」と結んだ(スコット・リッターX:2024.2.9)。確かにインタビューの最初の30分ほどはプーチンによるロシアの歴史の「講義」である。

 

2 インタビューのポイント

カールソンが、プーチンのインタビューから得た感触は、(1)モスクワは2022年に戦争を始めたのではなく、ウクライナが2014年に始めた戦争を止めようとしている。(2)ロシアがウクライナに対して核兵器を使用したり、紛争をエスカレートさせたりするのではないかという憶測は、「ロシアとの対立で、米国の納税者と欧州の納税者から追加の金を強要するための脅しである。(4)米国と違って、ロシアは中国の台頭を恐れていない。BRICSが「中国経済に完全に支配される」リスクがあるというカールソン氏の提案は「ブギーマンの話」(お化けの話)だと述べた。(5)アメリカがウクライナ紛争を止めたいのなら、キエフへの武器送付をやめるべきだ。(6)ロシアはソビエト連邦の崩壊を受け入れ、イデオロギーの違いがすべて解消されれば、西側諸国と協力できると期待していたが、西側諸国は拒絶し、「非常に傷ついた」(7)クリントン元米大統領に、ロシアがNATOに加盟できるかどうか尋ねたが、クリントン氏は、それは不可能だと答えたと述べた。しかし、もしアメリカの指導者がイエスと言ったら、モスクワと軍事同盟の間の和解の時代が到来していたかもしれないとプーチンは述べた。(8)バルト海経由でロシアとドイツをつなぐノルド・ストリーム・ガス・パイプラインを爆破したのは誰だと思うかとカールソンに尋ねられ、攻撃から利益を得るであろう人々、そして攻撃を実行する能力を持つ人々を探すべきだと述べた。(9)米ドルを政治闘争の道具として使うと決めたとたん、アメリカに打撃が与えられた。これは愚かなことだ。そして重大な過ちである。(10)カールソンのバイデン大統領についてはどう思うかの質問に、プーチン氏は「彼は国を運営していないと確信しています」と述べた。既にバイデン大統領の私邸で機密文書が見つかった問題で、ハー特別検察官は2月8目、パイデン氏が「記憶力が著しく限られている」として訴追を見送ったことを明らかにしている(日経:2024.2.10)。(11)一方、トランプ氏については、ロシアは米国の数世代前政治家から、数々の侮辱や中傷を受けてきた。トランプ氏はそれとは一線を画していると指摘した。

 

3 米国政治への影響

米国家安全保障会議のカービー調整官は米国民の間でウクライナに対する支持が損なわれる懸念はないと述べ、カールソンのインタビューを見る人は、プーチン大統領の話を聞いているということを忘れず、同大統領の言うことを「うのみにすべきではない」と警告した(Forbes JAPAN:2024.2.10)と報道されたが、正直、焦りがあることは免れない。

このことについて、CIAの元分析官、ラリー・ジョンソン氏がスプートニクに語ったことによると、米メディアに対する国民の信頼は低くなる一方で、「嘘つきでプロパガンダ機関」だと考えられている。カールソン氏が行ったインタビューはウクライナ支援をさらに弱める可能性がある。「プーチン氏は効果的に発言したと思う。米国はすでに33兆ドルの債務を抱えているのになぜ支援する必要があるのかと」。プーチン氏はロシア人とウクライナ人の文化的、宗教的、民族的な強い結びつきをよりよく説明するために、ロシアの歴史を意図的に簡潔に語ったと指摘した。「プーチン氏はウクライナ紛争が1世紀前ましてや半世紀前に起源を発しているのではないことをすぐにわからせた。これは約1000年に及ぶ歴史であり、この歴史が存在しないようなふりをしてはならない」。しかし、米国は歴史が浅いため、平均的な米国人がこれを理解するのは難しいと指摘した(Sputnik日本:2024.2.9)。

 

4 SNSの役割について

ロシアではこれまで他のSNSを含めXもブロックされていたので、現地ではVPN経由、つまり他の国のIPアドレスを購入してこのプラットフォームを利用していた。しかし、ロシア議会は、プーチン大統領のタッカー・カールソン氏とのインタビュー公開後、中立性を理由に2月10日、Xメディアの禁止を解除した。

グーグルやメ夕、オープンAIなどの米巨大IT独占企業は「生成AI(人工知能)がつくった画像を判別できるようにする仕組みを相次ぎ導入する。SNS上に氾濫する悪質な偽画像や偽動画の排除につなげる。…米大統領選挙を前に各社は共同歩調を取り対応を急ぐ。…『選挙や民主的なプロセスを偽メディアからの介入を受けずに進める』」(日経:2024.2.10)というのが建前であるが、事実上の露骨な巨大IT独占企業による検閲である。マスク氏のXが今回、こうした米エリート支配層のテクノロジー検閲を破ったことは意義がある。既にカールソン氏のインタビューは1億5千万回以上再生されているという。「カールソンのプーチン・インタビューの最大の成果は、間違いなく、欧米が描く白黒の世界情勢に、切望されていた灰白質を加えたことだ。欧米の支配層にとっての問題は、グレーゾーンは、コントロールが難し」い(RT:2024.2.9)。これをXはそのまま米国市民に提供している。ドミトリー・ペスコフ:ロシア大統領報道官は「最初の 24 時間で、[タッカー カールソン] のインタビューは X プラットフォームだけで 1 億 5,000 万回以上視聴されました。これはサポートがあるという意味ではまったくありません。そして、私たちの視点が支持されることも期待できません。私たちにとって最も重要なことは、大統領の意見を聞いてもらうことです。もし彼の声が聞こえれば、より多くの人が彼の言うことが正しいのか間違っているのか考えるようになるということだ。少なくとも彼らは考えるだろう。アングロサクソン人があらゆる最大の放送局と主要新聞を何らかの形で支配しているため、ロシアがプロパガンダの面で米国に対抗することは困難である。このような背景から、重要なことは人々に私たちの世界観を知ってもらう機会を提供することです。この点において、これは非常に良い機会です。」(X:2024.2.11)と述べた。

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【投稿】バイデン:中東全域への緊張激化--経済危機論(131)

<<イラク、シリアへ大規模爆撃作戦>>
2/2夜、バイデン米大統領はまたもや、議会の承認を求めることもなく、国際法に違反して、イラクとシリアへの大規模な爆撃作戦を軍に命じ、米中央軍(CENTCOM)が長距離爆撃機を含む航空機で85以上の目標を攻撃したと発表、「イラン・イスラム革命防衛隊(IRGC)コッズ部隊と関連民兵組織」が使用する軍事施設を標的にしたとし、多数の標的に100発以上の爆弾が投下され、民間人を含む約40人が殺害されている。
 この大規模爆撃は、1/28にヨルダンの米軍事基地を襲ったイスラム抵抗勢力によるドローン攻撃で死亡した米軍人3人に対する「報復」でり、「防衛」であるとし、バイデン氏は「我々に危害を加えようとするすべての人にこのことを知らせてほしい。もし米国人に危害を加えれば、我々は対抗する」と脅迫。同時に、「米国は中東や世界の他の場所での紛争を求めていない」と宣言したのであるが、今回の爆撃は第一波にすぎず、「私たちの対応は今日始まりました。 それは私たちが選んだ時間と場所で継続されます」と述べ、さらなる戦火の拡大をさえ示唆したのである。米国防総省報道官のシムズ大将は、記者団に対し「アメリカの爆撃機の利点は、我々が選択した時間に世界のどこでも攻撃できることだ」とまで豪語している。
 米国家安全保障会議のカービー報道官は、厚かましくも、「今回の空爆は地域の緊張緩和が目的だ」「私たちはイランとの戦争を望んでいません。」と述べている。「緊張緩和が目的」ならば、軍事ではなく、外交でなければならない。逆行しているバイデン政権のこの感覚こそが、逆に緊張を激化させているのである。案の定、イラク・イスラム抵抗勢力は翌日には、米兵が駐留する基地に対して報復攻撃を行っている。
爆撃を受けたイラク政府当局者は、この攻撃を「容認できない」、「イラクの主権侵害」であり、「イラクと地域を予期せぬ結果に引きずり込む脅威」であると非難した。当然の怒りの表明である。シリア国営メディアも「アメリカの侵略」行為を非難している。
イラン外務大臣アミラブドラヒアン氏は2/3、シリアとイラクに対する攻撃を非難し、それらを「武力と軍国主義によって問題を解決しようとするワシントンの誤った失敗したアプローチの継続」であると述べ、米国政府の軍事的アプローチが状況を複雑にし、政治的解決に至ることをより困難にしていると強調している。

<<バイデン政権の愚行と過小評価>>
さらに2/3 米中央軍は、米国と英国がイエメン全土13か所の少なくとも36の標的に対して空・海上からの複合攻撃を実施したと発表した。 この共同作戦は米海軍艦艇から発射されたトマホークミサイルと空母アイゼンハワーから発射されたF/A-18戦闘爆撃機によって行われ、「複数の地下貯蔵施設、指揮統制、ミサイルシステム、無人航空機の保管・運用施設、レーダー、ヘリコプター」を標的としたと発表している。 さらなる緊張の激化と戦線の拡大である。 これに対し、イエメンの

アンサール・アッラー(フーシ派)政治高官兼報道官のムハンマド・アル・ブハイチ氏は 「イスラエル・シオニストに対する我々の軍事作戦は、たとえ我々がどんな犠牲を払っても、ガザへの侵略が止まるまで継続するだろう」と、たとえ米英軍がエスカレートさせても。それを台無しにさせるであろう、と述べている。

事態の緊張激化の中で、バイデン政権が過小評価しているのは、イスラム抵抗勢力の政治的経済的、そして軍事的力量である。
イランの主要な地域同盟国――レバノンのヒズボラ、イエメンのアンサール・アッラー、イラクのPMU、パレスチナのハマス/イスラム聖戦、そしてシリア政府――はすべて単なるイランの「代理」にすぎないという米国の主張は、実態を直視できない空言なのである。これらのそれぞれのグループは「独自の国内政策を持っており、自主性を持って活動しており」、人びとの要求に密着した基盤を形成している。そして、互いに相互に依存し、協力し、米・英・欧・イスラエルの中東支配に対抗する政治的・経済的、軍事的にも統一戦線を形成し、力量を大きく前進させていることである。イスラエルのガザ大虐殺・ジェノサイド政策、それを無条件に支援するバイデン政権の愚行は、その前進をより一層促進させたのである。その結果、これまでアメリカと親密な同盟関係にあったアラブ諸国が政策転換を余儀なくされ、長年の盟友であったサウジアラビアでさえ、米国と英国のイエメン攻撃には参加しないばかりか、「自制とエスカレーションの回避」の必要性を強調する事態である。

 こうしたバイデン政権の過小評価は、緊張を激化させ、戦線を拡大させれば、それ以上に取り返しのつかない事態に追い込まれ、中東情勢は手に負えなくなる事態に陥る可能性が大なのである。

中東戦争への拡大は、紅海ばかりか、ペルシャ湾閉鎖に直結し、石油とガス、そしてあらゆる商品・製品の膨大な貿易が止まり、世界経済への深刻な危機を引き起こすことが必至なのである。

No War with Iran が言うとおり、「中東における現在の暴力のけいれんを大幅に軽減するための唯一の真の道は、ガザ地区での即時停戦を確保し、この地域の地獄の中心の火に冷水を浴びせることだ。」
(生駒 敬)

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【投稿】能登半島地震1か月―『天災のあとは、すべて人災』

【投稿】能登半島地震1か月―『天災のあとは、すべて人災』

                             福井 杉本達也

1 増え続ける死者数・初動が遅かった政府

石川県は1月29日、地震による住宅被害が 4万3786棟になったと発表した。断水は輪島市や珠洲市などのほぼ全域で継続し、県全体では4万2千戸、避難者数は 1万4288人、災害関連死15人を含む死者数は238人で、28日に珠洲市の2名の死者を発表するなど災害関連死でない死者数がいまだに少しづつ増え続けている(福井:2024.1.30)。「地震当日から救命救助に当たった自衛隊の報告では、救出した生き埋め者は、2日4人、3日3人、4日4人の合計11人だったと読める。これは、2016年4月熊本地震の16人より少ない。熊本地震の直接死は50人だった。津波と火災による死者はなかったから、すべて生き埋めによる死者だ。生き埋めになったが救出された人の割合は24%(16/66)だった。これと比較すると、能登半島地震で救出された人の割合はわずか5%(11/231)だ。極端に少ない。なぜこれほどの違いが生じたのか“」(早川由紀夫note2024.1.22)。岸田政権は能登半島地震対策の初動対応で、首相が本部長の非常災害対策本部より格下の特定災害対策本部を設置するという決定的誤りを犯した(それとも、能登は過疎地であり、首都圏に影響はないと無視したのか。さらに穿った見方をすれば、能登がどこにあるかも知らなかったのか。)。2016年4月14日の熊本地震では21:26 地震発生、22:10 非常災害対策本部設置22:21 第1回対策本部会議で、安倍総理大臣出席している。ところが今回、政府は自衛隊を、発災日の1日に1,000人、3日に2,000人、4日に4,600人、6日に5,400人と逐次投入した。これは最初から災害の規模を誤認していたからである。4日では発災から72時間を経過し生存率が大幅に下がる。助かったであろう人も死んでいる。

岸田首相は発災後2週間も経過した1月14日に現地視察をしたが、内田樹氏は志賀原発の放射能漏れを警戒していたのではという穿った見方をしているが、そこまで頭が回る政府であればこのような地震地帯に原発などは造らない。首都圏から遠く離れた過疎地ならばどこでもよかったのである。

2 自治体による「緊急消防援助隊」と「対口支援」

発災日の1日夜、消防庁長官が近隣の11府県に「緊急消防援助隊」の派遣を要請し、1,900人が活動にあたった。しかし、道路状況が最悪で、2日に現地入りできたのは、隣県の福井県と大阪市消防局の約60人のみである。4日に1,000人程度となった。阪神大震災後の1995年に制度化されている(福井:2024.1.29)。

珠洲市や輪島市などは職員の多くも被災しており、行政組織としてほとんど機能していない。そこで、能登半島地震からは、「被災自治体ごとに支援役の自治体を割り振る「対日(たいこう)支援」が採用されている。ペアになることで役割を明確にし、やりとりを円滑にする狙いがある。」1月26日現在で1,253人の自治体職員が派遣されている。「『対口』は中国語の『ペア』の意昧で、2008年の四川大地震で内陸部の被災地にほかの地域の省や直轄市を割り当てた仕組みがモデルになっている。」(日経:2024.1.29)。2011年の東日本大震災において、関西広域連合が被災県ごとに分担して職員を派遣したが、2018年に総務省が「応急対策職員派遣制度」として制度化したものである。これによって、応援に入る自治体の買任を朋確にして人員の確保や業務の引き継ぎを円滑にするメリットが得られる(日経:同上)。ただ、今回は、愛知県などの「総括支援チーム」が現地入りしたのは発災から3日目以降で、総務省は初動が遅れたと反省している。断水や停電が続く中、宿泊場所の確保も困難を極めている(福井:2024.1.25)。ちなみに、東日本大震災時に岩手県陸前高田市に入った福井県の部隊の一部は、津波の被害を免れた高台にあるお寺や、盛岡市のホテルから車で三陸沿岸まで通ったが、今回は半島という奥まった地形もあり、そうした対応もできない。医療関係は日赤やDMATなど制度化された組織が独自に動いている。DMATは熊本地震を上回る延べ1,028隊が派遣されている。幸い、医療機関の被災は少ない(日経:2024.1.30)。

ところで、全く影が薄いのが国交省である。衛星通信車・道路補修機械や大量の給水車・港湾局の船など自治体ではとても保有できない機材を多数所有しているはずであるが、全く動きが見えない。いったい、どこで何をしているのか。

3 石川県行政の陥没

石川県は当初、道路事情が悪く、被災地が混乱するのでボランティアは来ないでというキャンペーンを張った。その後、ボランティアを事前登録制としたが、金沢市からバス二台・80名程度を被災自治体に運ぶ程度であり、圧倒的にボランティアは足りていない。

能登から金沢市や加賀市などに2次避難所を設けているが、「馳知事は避難している人に対し、3月に北陸新幹線の敦賀延伸を控え、観光客の受け入れもあることから旅館での避難に一定の区切りが必要になるという考えを示し」た(NHK:2024.1.24)と報道されたように、北陸新幹線が敦賀まで開業するから被災者はそれまでに出て行けというとんでもない発言を平気で行っている。能登は厄介者という意識である。

「多くの大震災では発災から2、3日後までに自衛隊が温かい食事や風呂を被災者に提供してきたが今回は遅れた」、「被災地で起きていることを把握するシステムが機能せず、国や県のトップがこの震災を過小評価してしまった」。「阪神淡路大震災から積み重ね、受け継がれてきた教訓が、ゼロになってしまっている印象だ」と室崎益輝神戸大名誉教授は述べる(ゲンダイ:2024.1.17)。

「この先、東京が、みずから進んで地方を見捨てる、わけではないだろう。」しかし、このままでは能登は「いつの間にか、だれも責任を取らないかたちで、なんとなく、見捨てたことになっていくのではないか。見捨てたことへの後ろめたさもないままに、なし崩しに、予算も人もモノも出さないし、出せない。」(鈴木洋二神戸学院大:プレジデント:2024.1.10)という暗澹たる未来が待っている。

「後藤田正晴元副総理が、阪神淡路大震災直後に官邸を訪ね、村山首相にこう告げたという。『天災は人間の力ではどうしようもない。しかし起きたあとのことはすべて人災だ。政治がやるべきことは、やれることは何でもやるということだ』、この後藤田の『天災のあとは、すべて人災』というのは、まさに大災害の際に、政治が自らにに厳しく課すべき」名言である(ゲンダイ:2024.1.17)。

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【投稿】国際司法裁:イスラエルへの大量虐殺阻止命令--経済危機論(130)

<<バイデン・ネタニヤフ政権への痛打>>
1/26、オランダ・ハーグに本部を置く国連の国連の最高司法機関・国際司法裁判所(ICJ)は、パレスチナのガザ地区でイスラエルが国際条約違反のジェノサイドを行っているとして南アフリカが起こした訴訟で、イスラエルに対してジェノサイド・大量虐殺を防止するためのあらゆる措置を取ることを命じ、「殺害、重度の身体的および精神的危害を与える、全体的または物理的破壊をもたらすために集団に生活条件を与える」などの大量虐殺に相当する犯罪を防止するために「権限の範囲内であらゆる措置を講じる」よう命じる判決を下したたのである。

 1948年、国連総会で採択されたジェノサイド条約(集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約)には、「国民的、人種的、民族的又は宗教的な集団の全部又は一部を破壊する意図をもって行われる」行為を処罰することを明記しており、ICJの命令には法的拘束力があり、締約国であるイスラエルは順守しなければならないのである。
法廷で裁判官が読み上げた声明の中で、「国際司法裁判所はイスラエルに対し、大量虐殺と大量虐殺の扇動を阻止するために、権限の範囲内であらゆる措置を講じるよう要求」、ICJ命令を1か月以内に発効させるために講じられたすべての措置について1か月以内に報告書を提出するなど、ガザで何が起きているかの証拠を保存すべきことを命じている。
法廷は同時に、大統領や国防大臣を含む複数のイスラエル政府高官による大量虐殺を擁護する発言にも厳しく言及し、政府やその他の当局者による声明は、大量虐殺の犯罪を立証しようとする際の「意図」要素の重要な要素を形成することを明らかにしている。

ICJはイスラエルに対し、大量虐殺行為を防ぐための6つの暫定措置を講じるよう命じており、「大量虐殺への直接的かつ公的な扇動を阻止し、処罰する」こと、「緊急に必要な基本的サービスと人道支援の提供を可能にする即時かつ効果的な措置を講じる」こと、パレスチナ民間人を保護すること、ガザで出産する約5万人の女性を保護すること、「パレスチナ人に対する虐殺犯罪の防止と処罰に関する条約第2条および第3条の範囲内の行為の申し立てに関連する証拠の破壊を防止し、確実に保存するための効果的な措置を講じる」ことを命じている。
裁判長であるジョーン・ドナヒュー判事は、命令の緊急性について、「ガザの医療制度は崩壊しつつあります。ガザには安全な場所はありません。イスラエル国防軍による絶え間ない砲撃の中で、避難所や生き残るための必需品がない中、限られた人道支援さえ不可能にする絶望的な状況により、治安が崩壊し、近いうちに完全に崩壊するだろうと私は予想しています。伝染病や近隣諸国への大量避難の圧力の増大など、さらに悪い状況が展開する可能性がある。私たちは人道体制が崩壊する深刻な危険に直面しています。状況は急速に大惨事へと悪化しており、パレスチナ人全体と地域の平和と安全に取り返しのつかない影響を与える可能性がある。このような結果は何としてでも避けなければなりません」と強調している。
そしてドナヒュー判事は、イスラエル国防大臣やイスラエル大統領による大量虐殺の意図を示す明確な声明、「彼らの骨を折るまで戦う」という誓約や、ヨアヴ・ガラント国防大臣のパレスチナ人を「人獣」「人間の動物」と表現し「それに合わせて行動する」とした発言など、「イスラエル政府高官らによる明らかに大量虐殺的で非人間的な発言」を厳しく指摘している。
このような発言では、バイデン氏自身も追及されるべきであろう。彼は、昨年12/12に、大統領選関連の会合で、パレスチナ人について「彼らは動物です They’re animals. They’re animals. 」と繰り返していたのである。バイデン氏にとって皮肉なのは、2010年に世界法廷に着任する前は米国国務省と財務省で働いていた米国人弁護士である現在のICJ裁判長であるジョーン・ドナヒュー判事によって今回の判決が読み上げられたことであろう。

判決は、最も肝心な「即時停戦」には言及していないが、具体的な「大量虐殺阻止命令」は、停戦がなければどれ一つとして実現できない命令である。

バイデン・米政権、ネタニヤフ・イスラエル政権にとっては最も手厳しい痛打である。両政権は、もはや孤立せざるを得ず、とりわけ、ネタニヤフ政権を無条件で支持し、財政のみならず、大量の武器弾薬の供給から共同作戦にまで至る、ジェノサイド行為を支援してきたバイデン政権にとっては、取り返しの利かない打撃となろう。

<<「世界が黙って見ているわけにはいかない」>>
今回の裁判を主導した南アフリカ当局は、声明で、国際司法裁の決定を「国際法の支配に対する決定的な勝利であり、パレスチナ人民の正義の追求における重要なマイルストーン」であると称賛すると同時に、この判決が意味するのは停戦が必要であるということであると述べ、ラマポーザ大統領は、「この命令はイスラエルを拘束するものであり、大量虐殺犯罪の防止と処罰に関する条約の締約国すべてによって尊重されなければならない」と強調している。

イスラム抵抗運動 — ハマスは、1/26 「この決定は、ガザにおけるパレスチナ人民に対するあらゆる形態の侵略の停止を意味する。私たちは国際社会に対し、裁判所の判決を履行するよう敵に義務付け、我が国国民に対する進行中の「大量虐殺の犯罪」を阻止するよう求めます。私たちハマス運動に携わる者は、南アフリカ共和国の真の立場、パレスチナ人民に対するその支援と大義の正義、ガザ地区への侵略を撃退するための真摯な努力、そしてパレスチナ人民による残忍な犯罪の拒否を高く評価しています。私たちはまた、この崇高な人道的行動への支持を表明したすべての国に感謝の意を表します。」と表明している。
アムネスティ・インターナショナル事務総長のアニエス・カラマールは、「今日の決定は、大量虐殺を防止し、残虐犯罪のすべての被害者を保護する上での国際法の重要な役割を権威ある形で思い出させるものである」と述べ、「これは、イスラエルがガザ地区の人口を大量に殺戮し、前例のない規模でパレスチナ人に対して死、恐怖、苦しみを解き放つ無慈悲な軍事作戦を追求する中、世界が黙って見ているわけにはいかないという明確なメッセージを送っている。」と述べている。
 イスラエルの攻撃により、ガザ地区では少なくとも1万人の子供たちが死亡している。「名前を知ろう」プロジェクト(Know Their Names 10,000 project)は1/25、最新アップデートを発表し、これまでに殺害された数千人の子どもたちの一部を特定、幼児から17歳までの4,216人のパレスチナ人が登録されている。 名前が挙がった人のうち、75%は10代まで生きておらず、半数以上が10歳未満、500人近くが2歳未満であった。

一方、イスラエルのネタニヤフ首相は、公式声明で「イスラエルに対する大量虐殺の告発は虚偽であるだけでなく、言語道断であり、世界中のまともな人々はそれを拒否すべきである。イスラエルは今後も大量虐殺テロ組織ハマスからの防衛を続けるだろう。…私たちの戦争はハマスのテロリストに対するものであり、パレスチナ民間人に対するものではありません。」と、あくまでも大量虐殺行為を「ハマスからの防衛」として、続行することをあきらかにしている。実際、ICJが判決を下している最中でさえ、イスラエル軍はガザ南部のハーンユニスに爆弾を投下している。法廷から扇動容疑で名指しされたギャラント国防相は、イスラエルは法廷から「道徳について説教される必要はない」と吐き捨てている。

バイデン政権はICJの決定を尊重するかどうかについて明言を避けているが、米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は、1/26、記者団に対し、「イスラエル国防軍による大量虐殺の意図や行動の主張を裏付ける証拠は見当たらない」と述べ、ICJ訴訟は違法であるというこれまでの発言を支持すると付け加え、 「無益で、逆効果で、実際には何の根拠もありません。」と、イスラエルのジェノサイド行為を全面的に擁護している。

バイデン政権と歩調を合わせてきたはずの、ヨーロッパ連合(EU)は、1/26、上級代表と欧州委員会による共同声明を発表し、「我々は、暫定措置の指示を求める南アフリカの要請に対する国際司法裁判所の本日の命令に留意する。
EUは、国連の主要司法機関である国際司法裁判所への継続的な支援を再確認する。国際司法裁判所の命令は締約国を拘束し、締約国はそれに従わなければなりません。 EUは、それらが完全かつ即時かつ効果的に実施されることを期待している。」として、「国際司法裁判所の命令が完全かつ即時かつ効果的に実施されることを期待」していると、明らかに、米・イスラエル政権とは異なる立場を表明している。

もちろん、ICJの判決だけでジェノサイドを止めることはできない。虐殺を止められるのは、「世界が黙って見ているわけにはいかない」という、世界中の大衆運動、政府への圧力、米、イスラエル政権を孤立化させる闘いである。

世界から孤立するバイデン政権が、ICJに反論するだけでなく、その判決の履行を妨げ、あくまでもイスラエル支援を続ければ、バイデン政権は自己崩壊への道を加速させ、政治的経済的危機をより一層深刻化させるであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】バイデン:イエメンへの戦争拡大--経済危機論(129)

<<「戦争状態にはない」が、首都爆撃!>>
1/22、米バイデン政権は「本日、米国と英国の軍は、イエメンのフーシ派の標的8か所に対して、比例的かつ必要な追加攻撃を実施した。紅海を航行する国際船舶や商船、海軍艦艇に対するフーシ派の継続的な攻撃に対するものだ」と発表。オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支援を受けた6カ国の共同声明として、「世界貿易と無実の船員の生命を脅かすためにフーシ派が利用する能力

を混乱させ、低下させることを目的としており、フーシ派のミサイルおよび航空監視能力に関連する場所を標的とした」と述べている。
イエメン人ジャーナリストで人権活動家のファティク・アル・ロダイニ氏はソーシャルメディアで「首都サナアで大規模な爆発音が大音量で聞こえた」と報告し、ネット上で公開された複数の動画では大規模な爆発が都市を揺るがす様子、子どもを含む死傷者が映されている。

この首都爆撃は、バイデン氏自身が米国のイエメン空爆が「機能していない」ことを認めてから数日後であり、議会の承認なしに追加攻撃を開始したものである。1週間以上にわたってほぼ毎日行われてきたイエメンへの爆撃が、フーシ派を阻止するのに何の役にも立たず、守勢に追い込まれたただけであるにもかかわらず、首都爆撃によってむしろ状況を劇的にエスカレートさせようとしているのである。 バイデン氏は、これまでのイエメンに対する攻撃に効果があったのかどうなのかと問われて、「いいえ」と効果がないことをしぶしぶ認め、それでも「とにかく続ける」のだと語っている。「中東でのより広範な戦争は望んでいない」、と述べながら、「より広範な戦争」に突き進んでいるのである。

なおかつ、バイデン政権は「現在、米国はイエメンで戦争状態にあると言えるでしょうか?」と問われて、国防総省報道官サブリナ・シン氏は「我々は戦争状態にあるとは考えていない」と応え、記者が「これまでに5回も爆撃を行っています…これが戦争でないとしたら、戦争とは何でしょうか?」と重ねて問われても、「我々はフーシ派と戦争状態にはない。」と、議会の承認なしの戦争行為を言い抜けようとしているのである。国防総省はフーシ派と「戦争状態にあるとは考えていない」と宣言している。

バイデン政権が、国際法も国内法も無視してイエメンを不

法に攻撃し、際限のない戦争へ、戦線を拡大させようとしているのは、イスラエルが同じく不法にガザを攻撃し、大量虐殺・ジェノサイドを続行可能にさせるためでもある。

この同じ1/22、こうしたバイデン政権の戦争行為拡大に応じて、欧州連合(EU)加盟国の外相らが、紅海での海上警備活動の創設に「原則合意」したと、欧州連合外交政策責任者のジョゼップ・ボレル氏が発表。ボレル氏は記者会見で「紅海はわれわれの議論の上位にあり、われわれは欧州連合の海上警備活動を設立し、これらの任務のさまざまな選択肢について話し合うことで原則合意した」と述べている。欧州連合諸国が、紅海での軍事作戦を開始することで大筋合意し、バイデン政権の戦争拡大行為へ加担し、バイデン政権への危険な追随路線に踏み出したのである。

<<紅海効果はすでに「現れ始めている」>>
1/22、イエメンのアンサララ(フーシ派)のムハンマド・アル・ブハイチ報道官は、ソーシャルメディアで「米英の侵略は、ガザで抑圧されている人々に対する道徳的・人道的責任を果たそうとするイエメン国民の決意を高めるだけだ」と断言。国際

法に基づき、紅海を通ってイスラエルへの輸送を阻止する法的権利を有しており、イスラエルと米国によるガザ人に対する大量虐殺を阻止する義務があることを再確認している。

イエメンの隣国、イエメンと国境を接するオマーン政府は、「友好国」が行った軍事行動を公然と非難し、軍事エスカレーションの即時停止を求め、湾岸アラブ諸国の中で唯一米国と英国への領空を禁止し、すべての米英連合軍航空機の飛行禁止空域を宣言している。公式声明で、イエメン情勢に深い懸念を表明し、軍事的エスカレーションの即時停止を求め、同時に、イスラエルの行動、地域に深刻な人道危機をもたらしたガザ地区での恐ろしい戦争と包囲に対するオマーンの懸念を強調し、攻撃を受けているガザやその他のパレスチナ領土でイスラエル軍が主導する殺害、虐待、破壊、飢餓作戦を弾劾している。

 米国にとって長年の盟友であったサウジアラビアでさえ、米国と英国のイエメン攻撃には好意的ではなく、「自制とエスカレーションの回避」の必要性を強調している。もはや米英・欧州連合は、すでに紅海とイランとエジプトの間の石油をめぐる支配権を失っている、のが実態である。

当然、紅海を航行するコンテナ輸送への影響は、国際貿易、石油市場ばかりか、間違いなくイスラエル経済そのものにも重大な影響を与えている。とりわけ、イスラエルの主要港・エイラート港の操業に影響を与えており、コンテナ輸送量の40%減少やエイラートでの収益の85%減少など、報告された数字は大きな影響を浮き彫りにしている。特に極東、インド、オーストラリアとの貿易に関して、広範な経済的脆弱性を浮き彫りにしている。

一部のコンテナ船会社が停止し、他のコンテナ船会社が新たな追加料金を課す中、イスラエルへの海上輸送経費はここ数日上昇、経済を海上貿易に依存しているイスラエル政権は追加輸送費用負担や、供給のボトルネックの深刻な懸念が生じているのが実態である。マースクやハパック・ロイドなどの大手海運会社は、紅海航路

を避けるため、数百隻の船舶を喜望峰周辺のより長く高価

な航路に迂回させており、シェルは紅海への出荷をすべて停止している。

紅海を通って輸送されているコンテナは毎日約20万個で、11月の50万個から減少し、紅海の運賃変動の世界的なスポット貨物指数は、同じ期間で 2 倍以上に上昇している。

 当然、この紅海効果は、世界経済全体に現在「現れ始めている」。貨物指数の大幅な上昇は、販売される商品の原価に織り込まれ、消費者に転嫁されるのは必然である。紅海からの最初の迂回は、アジアへの帰路に遅れを生じさせ、定期船はその余裕を補うために「追加の積込み船」として船を短期間チャーターするようになっている。目的地変更がより重視されるようになった今、喜望峰周辺の航海距離が長くなったことから、定期船は毎週のスケジュールを維持するために運航ラインに船舶を追加する必要がある。価格の再設定は世界中のすべての輸送に影響を与えている。このインフレによる被害は世界中で急速に増大する可能性が大である。すでに過去 1 か月間で、英国とカナダでもインフレ率が上昇に戻ってきており、中央銀行が急速に利下げを行うという夢は、急速に燃え尽きつつある。

2024年は、2022年や2023年よりもはるかに多くの戦争拡大へのエスカレートが予測され、政治的的経済的危機がより一層深刻化する可能性が大である。バイデン政権の好戦的緊張激化政策をストップさせることが第一義的課題となっている。
(生駒 敬)

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【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界

【投稿】志賀原発・能登半島地震で被害ーそれでも再稼働に突き進む政府・規制委・財界

                                  福井 杉本達也

1 志賀原発で変圧器の破壊
1月1日の能登半島地震で北陸電力志賀原発1、2号機の変圧器の配管が壊れて油漏れが発生、外部電源とつながる最も規模の大きい送電線が使えなくなった。敷地外の送電網は断たれなかったが、原発の外部電源の一部を失った。原子力規制委の山中伸介委員長は記者会見で、「変圧器の故障原因の究明は必要」としたが、「安全上の影響が及ぶとは考えていない」と原発の再稼働路線を見直すつもりは全くない。3.11の福島第一原発事故では、1号機から4号機まで、送電線の鉄塔が倒れ、全ての外部電源が失われ大事故になり、今もなすすべがない。非常用電源があるというが、非常に危うい。

2 想定地震動を上回る激しい揺れ
地震の揺れについて、1月1日に北陸電力は、「志賀原発1号機原子炉建屋地下2階震度5強(399.3ガル)が観測されました」と広報した。その後、後出しじゃんけんよろしく10日に、東西方向の0.47秒の周期で、1号機は 想定地震動918ガルのに対し 957ガル、2号機は 846ガルの想定に対し 871ガルだったと発表した。しかし、それは報道発表ではなく、原子力規制庁の報告である(「志賀原発で一部想定上回る揺れ=規制庁に報告も公表せず―北陸電」:時事:2024.1.11))。ところが、規制委は「想定を一部でわずかに上回っていたが、使用済み燃料の冷却に必要な電源などは確保され、安全上の問題はない」という見解である。想定地震動は原発の全ての建物・設備の設計の基準であるが、上回っても「わずか」だから問題ないというのである。
技術評論家の桜井淳氏は原子炉建屋地下2階と自由解放面である地上1階の地震加速度は地下2階の地震加速度の2倍であるため、720 gal.(振動周期0.02秒)であるとし、さらに、志賀原発は、「新規制基準の適用前では、基準地震動は、600 gal.(振動周期0.02秒)、しかし、新規制基準…では…安全審査と工事が同時に開始されていたため、申請中の2号機は、工事が完了しており…1000 gal.対応になっており、志賀原発で観測された360 gal.は、基準地震動の約1/3であり、問題なく、それどころか、設計許容値に対し、工学的安全余裕度が、3-4倍、破壊限界に対して、7-8倍も確保されていますから、施工と運用が、的確ならば、懸念すべきことは、ありません」(kiyoshi sakurai:note:2024.1.10)と2号機が1000ガルまで対応しているかのように述べるが、「工学的安全余裕度が、3-4倍」というのは嘘である。主要配管などは1.3倍程度しかない。肉厚を厚くするなど安全余裕度を何倍にもすれば、費用は天文学的になり、溶接などの現場施工も容易ではない。また、2004年に起きた関電美浜3号機の二次系大口径配管(560㎜・肉厚10㎜)の破断事故では、運転開始後28年で事故を起こしたように、設備の経年劣化は避けられない。地震加速度360ガル

⇒600ガル⇒1000ガルへの対応というのは、骨折した腕に添木するようなもので(左:北陸電力:工事の実施例:2012.3)、骨(配管などの設備)が新しくなるわけではない。全く机上の空論である。

3 陸地の隆起
産総研は1月11日、能登半島北西部の海岸で行った2024年能登半島地震に伴う海岸の地殻変動調査の結果を報告した。最大4 mの隆起が起きた輪島市門前町鹿磯周辺・鹿磯漁港では防潮堤壁面に固着したカキなどの生物が隆起によって離水した様子を観察されている(写真1)。「能登半島北部沿岸にはおよそ6千年前以降に形成されたと考えられる3段の海成段丘が分布しており、過去に海成段丘を形成するような大きな隆起が少なくとも3回起きていたことを示している」としており、1500年に1回程度は今回のような大地震が発生していることとなる。未確認情報では志賀原発周辺でも数十㎝の隆起があるとされている。また、2012年に建設された基礎のしっかりした高さ4mの原発の防潮堤の一部も破壊されており、津波ではなく地盤変動による破壊の可能性が高い。とすれば、原発建屋本体の破壊の可能性もある。

4 長年止まっていたのが幸い
志賀原発は今も1号機の燃料プールに672体、2号機に200体の使用済み核燃料が貯蔵されているが、運転停止から12年以上が経過して、核燃料の発する熱量は下がっている。関電大飯・高浜原発のように現在運転中の原子炉とは違い、3.11のように核燃料の再臨界により爆発する危険性は低い。
2016年には、原子力規制委員会の専門家チームが、1号機の原子炉建屋直下にある「S-1断層」などを「活断層の可能性は否定できない」と評価。事実上、再稼働は不可能とされた。ところが、2023年3月、隣接する2号機の再稼働の前提となる新規制基準への適合審査会合で、規制委は「敷地内に活断層はない」とする北陸電の主張が妥当だとし、16年の判断を覆した。もし、再稼働していたならば、福島原発事故の二の舞になる恐れがあった。原発直下で地震が発生すれば、ひとたまりもない。いつも、政府・電力会社は「原発の直下で地震は起こらない」との非科学的なロジックを繰り返すが、狂気の沙汰である。

5 「分かっちゃいるけど・やめられない」―再稼働に突き進む政府・規制委・財界
原子力規制委の山中伸介委員長は大丈夫か。電力会社に忖度しすぎではないかとの声が聞かれる。原発の外部電源の一部を失ったことについて、山中委員長は記者会見で、「変圧器の故障原因の究明は必要としたが『安全上の影響が及ぶとは考えていない』と従来の考え方を見直そうとはしなかった。」(東京新聞:2024.1.13)。
また、M7.6の地震が起きたことについて、今後「事故対策に向けて想定する地震の大きさについて…稼働中の原発が停止する可能性も出てくるが、山中委員長は『他の原発にも影響あるかどうかは分析次第。一定の時間がかかる』と述べるだけで動きは全く鈍い(東京新聞:同上)。 さらに、空間放射線量を測るモニタリングポスト18カ所で一時測定ができなくなったが、山中委員長は、「自動車やドローンなどで線量を測る手段もある」と見直しについて具体的に言及せず(東京新聞:同上)、“規制”委とは名ばかりの存在となっている。 日経新聞のコラム『春秋』が「世界の地震の1割が日本で起きるといわれる。列島は地震の巣なのだ。国土はいつどこで大きな揺れに見舞われでもおかしくない。そういう大地の上に、そして海のすぐそばに、私たちは原子炉を抱えている…東日本大震災以降、長らく停止していた原発を順次動かしていくとおととし政治は決断した…能登の鳴動が伝えた自然の警告を真正面から受け止めて、日本は『地震と原発』の相克を乗り越えねばなるまい。」(2024.1.15)と書くにいたっでは、「分かっちゃいるけど、やめられない」=日本は放射能と心中すべきだとあからさまに宣言しており、支離滅裂以外の何物でもない。これが、現在の政府・財界・電力会社・規制委の本音である。こやつらに日本の未来をゆだねることはできない。

6 地震のメカニズムは?
能登半島地震のメカニズムとして加藤愛太郎東大地震研究所教授(地震学)など複数の専門家が指摘するのが、地下の水(流体)が、断層運動を誘発した可能性である。「地下深くから上がってきた水などの『流体』だ。海のプレート(岩盤)が水を取り込んだ状態で日本列島の下に沈み込み、能登半島の地下で水が上昇、断層を滑りやすくしたとの見方がある。こうした動きが今回、半島神にある複数の断層を広範囲に動かすきっかけとなった可能性がある。」(福井:2024.1.8:メカニズム・イメージ)とする。また、京都大学の西村卓也教授は「能登半島の沖合で起こるような地震としては、また日本海側全般に言えることですけれども、今回マグニチュード7.6とか8に近い地震というのは、おそらく最大級と考えてもいいと思っております。正直、ここまで大きい地震が起こるってのはかなり意外でした」(khb-tv:2024.1.1)とインタビューに答えている。要するに、地震を日本海特有の地震であり、太平洋側のプレート地震とは異なるメカニズムの内陸型の地震であり、太平洋プレートの動きとは切り離され、これ以上の規模の地震は起こらないという前提に立っているように見える。
これに対し、巽好幸神戸大学客員教授は「今回の地震を含む群発地震の原因となった流体は沈込むプレートから供給されたと解説していますが、その可能性は極めて低いです。そうであれば能登半島に火山があるはずです」と、「地下水原因」説に異議を唱える(巽好幸X:2024.1.3)。「松代や中部〜東北地方の地下ではプレート起源の水がマグマを発生させ、多くの火山が分布する。つまり太平洋プレートと地表の間には、プレート沈み込みに伴う一種のマントル対流によって『高温領域』が存在し、水がプレートから上昇してくるとマグマが発生する…ところが能登半島では、過去数百万年の間全く火山活動は起きていない」(巽好幸:「まだ続く能登半島群発地震:その原因は本当にプレート起源の水なのか?。」:yahooニュース:2022.8.10)。「日本列島が地震・地殻変動大国になったのは300万年前のフィリピン海プレートの方向転換が主要原因。地下で太平洋プレートと衝突して向きを変え、その結果日本海溝が西進し始め、中央構造線が再活動化。東日本で山地や半島が隆起、西日本では瀬戸内海にシワ状の隆起・沈降域が形成。」・「今回の地震は地殻内の流体移動に伴う破壊現象だが、巨視的には日本海の島々や突き出す半島を形成した逆断層隆起(オレンジ域)。これらの断層活動は300万年前のフィリピン海プレートの方向転換に伴う日本海溝西進による圧縮が原因。」と「フィリピン海プレート方向転換」説を主張する(巽好幸X:2024.1.8)。

7 若狭湾の原発が危ない
巽教授の説では若狭湾はさらに危ない。「若狭湾には沈降海岸である『リアス海岸』が発達し、特にその東端では断層に沿って急激に落ち込んでいる。また琵琶湖は、低地(盆地)が南から移動して約100万年前にほぼ現在の位置までやってきた。濃尾平野が広がるのは、地盤が沈降してその凹地に土砂が厚く堆積したからだ。そして伊勢湾は西と東に走る断層によって大きく沈んでいる、…中部沈降帯(伊勢湾―琵琶湖―若狭湾沈降帯)である。」・「沈み込み角度が小さい中部日本では、この補償流が、海溝に近く温度が低い領域まで届かない。そのために、中部地方の地下ではマントル物質がどんどんと引きずられ…その上の領域が沈んでしまうことになる。」・「将来、1

891年に起きた日本史上最大級の直下型(内陸)地震である濃尾地震(M8.0)のような地震を引き起こす可能性」があると指摘している(巽好幸:「『日本沈没』は始まっている:(1) 中部地方が沈没して本州が2つの島に?」yahooニュース:2021.12.12)。

冬場、セイコガニ漁が行われる越前海岸は250 ~350mと急峻な崖となっている。今回の能登半島地震の隆起のように、甲楽城断層が過去何回も変動して、若狭湾が沈降し、その東側が隆起し海岸段丘が形成されたものである。そのようなところで、関西電力の高浜原発1・2・3号機(4号機は定検中)と、大飯原発3,4号機が稼働中である。もし、若狭湾で濃尾地震(M8.0)クラスの直下型地震が起きた場合は、今回の能登半島地震の4倍ものエネルギーであるから稼働中の原発はひとたまりもない。

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【投稿】バイデンの危険なエスカレート--経済危機論(128)

<<「歴史上最大の愚行」>>
1/11夜、米英両軍が中東・イエメン北部にあるフーシ派の拠点16カ所、60以上の標的に対して、航空機、船舶、潜水艦から攻撃が行われ、150発のロケット弾とミサイルが発射され、紅海に進入した米誘導ミサイル潜水艦「フロリダ」が攻撃に加わり、巡航ミサイル「トマホーク」を発射する、という大規模な戦線拡大のエスカレートであった。
 米国防総省・ペンタゴンのパトリック・ライダー報道官は、今回の攻撃は「良い効果」があったと発表。バイデン米大統領は当日の声明で、「紅海における国際海上船舶に対する前例のないフーシ派の攻撃への直接の対応として」攻撃を命令したと述べ、「本日、私の指示により、米軍は英国と協力し、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支援を受けて、フーシ派反政府勢力がイエメンの航行の自由を危険にさらすために利用したイエメン内の多数の目標に対する攻撃を成功させた。 世界で最も重要な水路の一つだ」と指摘し、「必要に応じて我が国国民と国際商取引の自由を守るため、さらなる措置を躊躇なく指示する」と明言。英国のスナク首相も、自国は「常に航行の自由と自由な貿易の流れを擁護する」とし、そのため英国は「自衛のために限定的かつ必要かつ相応の行動をとった」と言明、いずれもエスカレートを正当化した。
米国と英国は事実上、議会や国会の承認すら得られずに新たな戦争を開始したのである。バイデン大統領は、報道陣の前に出て作戦を発表、質問に答えることを放棄し、代わりに、ホワイトハウスはバイデンの名前で声明を発表したに過ぎない。

この共同攻撃には、さらにデンマーク、ドイツ、ニュージーランド、韓国の名前も挙げられた。ただし、昨年12月下旬に編成された、この米英主導の「繁栄の守護者作戦(Operation Prosperity Guardian)」に名を挙げられていたフランス、イタリア、ノルウェー、セイシェル、スペイン、ギリシャの6カ国は脱落している。同盟国であるはずのトルコのエルドアン大統領は今回の空爆を激しく非難し、米国と英国が紅海を「血の海」に変えたと非難しており、イタリア政府当局者は匿名で報道陣に対し、イタリアは紅海での「沈静化」政策を追求することを好み、襲撃への参加や支援を拒否したと語っている。

今回のエスカレートの特筆すべき第一は、米英とその追随諸国は、より広範な戦争を回避することが可能であるにもかかわらず、逆に、地域の緊張を高め、すでにレバノン、シリア、イラク、イエメン、紅海にまで波及している紛争の火に油を注ぎ、さらには対イランにまで戦争を拡大、大規模な中東戦争にエスカレートさせようとしていることである。
この攻撃のもう一つの特徴は、厳密に言えば、国連憲章に基づいて武力行使を承認できる国際システムの唯一の機関である国連からの安全保障理事会決議もなしに実行されたことである。
しかもこのエスカレートは、イエメン爆撃の当日、1月11日と12日、オランダのハーグの国際司法裁判所(ICJ)で、南アフリカが提訴したイスラエルのパレスチナ人ジェノサイドの初公判が開催され、 国際司法裁判所(ICJ)で南アフリカが「イスラエルの空爆と地上攻撃はガザの『人口の破壊』・ジェノサイドを狙っている」と主張されている最中に行われた、恥知らずな爆撃であったことである。

イエメン当局は、この露骨な侵略によって、首都サナアのほか、

南西部のダマル、北西部のサッダ、最大規模のアル・フダイダが空爆を受けたことを認め、爆撃による被害で5人が死亡したと発表、フーシ派指導者ムハンマド・アル・ブハイチは1/12、英国と米国はイエメンへの攻撃が「歴史上最大の愚行」だったことを「すぐに認識する」だろう、と述べ、「この世界のすべての人は、2つの選択肢に直面している。大量虐殺の被害者側に立つか、それとも加害者側に立つかのどちらかだ」と言明している。
イエメンのフーシ派はイスラエルへ向かう船舶に対する軍事行動は、イスラエルによるガザでの大量虐殺を阻止、罰するというジェノサイド条約の第1条を実行に移したのだ、としており、フーシ派報道官のムハンマド・アブドゥサラム氏は、「紅海とアラビア海での国際航行に対する脅威はなく、標的はイスラエルの船舶や占領下のパレスチナの港に向かう船舶に影響を与え続けており、今後も影響を及ぼし続ける」と断固として言明している。
イエメンでは、攻撃を受けた翌日、この攻撃に抗議し、パレスチナ人民との連帯を継続する大規模なデモンレーションが行われている。。

<<「これは容認できない憲法違反だ」>>
バイデン政権自身が、米国内での大規模な抗議行動が再び拡大しているばかりか、今やアメリカ議会からさえ追求される事態に追い込まれている.政権当局者らは議会指導者らにイエメン爆撃計画について説明したが、議員からの正式な許可は得られなかった。逆に、議会は、イエメン戦争は違憲であることを追求する事態である。
ロー・カンナ下院議員 (民主党、カリフォルニア州 )
イエメンにおける大統領のストライキは憲法違反である。「イエメンのフーシ派に対する攻撃を開始し、我々を新たな中東紛争に巻き込む前に、大統領は議会に来る必要がある。 それが憲法第1条だ」 私たちは湾岸同盟国の意見に耳を傾け、緊張緩和を追求し、新たな中東戦争に巻き込まれるのを避ける必要がある。
・ トーマス・マッシー議員 (共和党、ケンタッキー州 4)
宣戦布告をする権限があるのは議会だけです。
ラシダ・トレイブ下院議員(民主党、ミシガン州)
バイデン米国大統領が「議会の承認なしにイエメンで空爆を実施

することで憲法第1条に違反している」。「アメリカ国民は終わりのない戦争にうんざりしている」
プラミラ・ジャヤパル下院議員(民主党、ワシントン州)
「これは容認できない憲法違反だ」「第1条は軍事行動が議会によって承認されることを要求している。」
民主党のコリ・ブッシュ下院議員は「国民は、これ以上私たちの税金が終わりのない戦争や民間人の殺害に費やされることを望んでいない」、「議会の承認なしに

イエメンを空爆することはできない。これは違法であり、憲法第 1 条に違反します。

バイデンの手には血が付いている!
「バイデンはフェンス、憲兵、屋上の狙撃兵に守られホワイトハウス内

に隠れているが、包囲されたガザ地区の子供たちはイスラエルによる大量爆撃から無防備に放置されており、1時間に5人の子供が命を落としている。これは毎日約117人の子供が殺害されていることになる!」 直接行動の先頭に立った反戦団体「コードピンク」の共同創設者ジョディ・エヴァンス氏はそう宣言した。ガザでのバイデンの共謀に抗議するため、血まみれの赤ちゃん人形がホワイトハウスの前にアピールしている。

全世界で広がる抗議

「イエメンから手を引け!」
「正義が欠けている」:パレスチナと連帯する大規模なデモがイギリス全土で展開され、ロンドンでは、50万人もの人々が国会議事堂広場に行進し、ガザの即時停戦を要求し、イスラエルの不釣り合いな「大量虐殺」猛攻撃に対する自国英国政府の支援を非難し、より危険な中東戦争、より広範な地域戦争、世界戦争への危険を警告し、「イエメンから手を引く」ことを要求している。


ダブリンでは、10万人以上が市街を行進したデモ行進の主催者らは、これをアイルランド史上最大のパレスチナ人の権利を求める集会と称した。アイリッシュ・タイムズ紙は次のように報じている。 群衆はパレスチナの国旗や「ガザ虐殺の終焉」を訴えるポスター、そして紛争で失われた多くの若い命を象徴するベビー服が吊るされた仮設の洗濯物で埋め尽くされた。

ケープタウンでガザ住民を支援する大規模な抗議活動

ケープタウンの主催者が発表した声明では、「私たちは今日、66以上の都市、少なくとも36か国で計画されているデモが行われる世界行動デーに参加するためにここに来ている」と述べた。 「今日の集会は、即時かつ恒久的な停戦を無条件に求める世界的な声の統一戦線の一環となるだろう。」

米英軍によるイエメン空爆の開始により、ブレント原油が上昇し、80ドルの壁を突破した。「繁栄の守護者作戦」なるものは、彼ら自身の政治的経済的危機の激化を解決しがたいものにし、「繁栄の守護者」は、「破壊者」にならんとしている、と言えよう。
(生駒 敬)

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【映画評論】『破戒』―監督:前田和男―

【映画評論】『破戒』―監督:前田和男―

                            福井 杉本達也

島崎藤村が1906年に発表した同名小説の映画であり、過去、2度にわたり映画化されている。主人公の教師・瀬川丑松(間宮祥太朗)は被差別部落出身であることを隠して生きてきたが同じ出目の活動家・猪子蓮太郎(眞島秀和)との出会いや士族出身の娘・志保(石井杏奈)との恋愛を経て、理不尽な差別の現実と人間の尊厳の間で葛藤する姿を描いている。全国水平社創立100周年を記念して映画化されたものであり、2022年7月に全国映画館で公開されており、若干間延びしたしたが、最近、映画館以外の各地で上映会が企画されている。上映の前に主催者のY氏は、原作をそのまま映画化したのでは差別映画になってしまうので、最後の場面は希望が持てるようなストーリとしたと述べていた。「丑松」については、長年部落解放運動では、「『丑松』になるな」というのが、被差別部落の出身であることを隠し続けず、部落解放運動に参加するよう若者に呼びかける合言葉であった。

丑松は父親(田中要次)から、「自らの出目を隠し通せ、誰も信じるな」と厳命されていた。映画の冒頭、丑松は下宿先の理不尽な差別に直面する。宿の女将から、この宿には被差別部落の出身者であることを隠して泊まっていた客がいたので全ての部屋の畳を変えると言われる。裕福そうな老人・大日向(石橋蓮司)が人力車に乗って宿を出ていくが、人々は大日向に石を投げつける。そこで、丑松はこの宿を出ていく決意をし、新たに蓮華寺という寺に下宿することとした。

猪子の演説シーンは原作にはない、差別用語を使った「我は穢多なり。されど我は穢多を恥じず」という言葉がある。原作では猪子の著述『懺悔録』にある言葉であるが、これを演説中のセリフとして使うことで、猪子の思想家としての力強さと、映画全体として、部落差別に反対する監督の意図が伝わったのではなかろうか。また、志保が丑松の部屋に与謝野晶子の詩集を忘れ、それを丑松が手にすることで、二人が会話するきっかけとなり、志保が丑松に心惹かれていくシーンが描かれている。これも原作にはないシーンであり、志保の描き方が弱いと批判された原作の弱さを補っている。

丑松が父親の戒めを破って被差別部落の出身であることを明かそうとした猪子が暴漢に襲われたことで、丑松は同僚や生徒たちに全てを明かす決意を固めまた。同僚の土屋銀之助(矢本悠馬)は早まるなと説得したが、丑松は学校を辞め、飯山を離れる決意を固めた。教壇に立った丑松は、生徒たちに自分は被差別部落の出身であることを告白した。涙を流しながら、大人になった時にこの学校に瀬川という教師がいたこと、伝えてきたことを思い出してほしい、自分は卑しいと言われる身ではあったがみんなには常に正しいと思うことを伝えてきたと語った。生徒たちも涙を浮かべながら丑松の話に聞き入り、校長(本田博太郎)にも辞めさせないでほしいと嘆願した。丑松は東京で再び教師として再出発することにした。そこに銀之助が志保を連れて見送りに現れ、志保は全てを知ったうえで丑松と一緒になるといって荷車を引いて旅立っていく。この最後のシーンも、原作では真冬の雪の中、丑松は教職を捨て大日向と供にテキサスに旅立つ、志保とは今生の別れとなることでハピー・エンドではない。

ところで、映画では原作の最も重要な省かれたシーンがある。丑松の父親が死去し、丑松が帰郷し、父親の葬儀に立ち会う中で、丑松の出自が事細かく書かれた箇所である。藤村の小説の根底であり、ストーリー上避けて通れないものであるが、被差別部落に対する予断と偏見の差別意識が藤村の筆の行間に強く漂い、読むに堪えない箇所も多々あり、前田監督は思い切ってカットしたのであろう。それが映画を見るものにとって、丑松の「不安」を分かりにくくした面があるが、踏み込まなかったことによって、ハッピー・エンドの恋愛物語として映画に娯楽性を持たせたともいえる。

佐藤文隆は、学校教育について「学校は生徒を『未来』に導く仕掛けであり、教員は子供を『未来』へ導く導師だった。」(佐藤文隆:『転換期の科学』2022年)とし、「19世紀、中央集権的に国民国家形成を行ったフランス、プロシアそれに日本でも学校教育の『運動』は現存していた世の中を肯定せず、それを革新していく人材育成を学校は担っているという自負が教育界にはあった…教員は遅れた世の中の全国津々浦々に築かれた橋頭保の守り手であり、教員は世の中の革新者という攻めの意識を持っていた。…『世間並みに堕落してはいけない』という世の中の改造者としての使命感を昂揚させる旗であった。遅れた世間を跳ね返し遮断する」(佐藤文隆:『科学と人間』2013年)。と書いた。その師範学校を出た国家エリートである教師が生徒に土下座したのである。「遅れた世間を跳ね返し遮断」し、「世の中の改造者」としての国家使命を背負った教師が、「遅れた世間」の予断と偏見による差別意識に屈して土下座したのであるから一大スキャンダルである。丑松にはモデルがあるといわれており、藤村はこの一大スキャンダルを小説化したのであるが、60年ぶりに映画化された『破戒』はどこまで藤村に迫ったか。

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【投稿】能登半島地震と志賀原発

【投稿】能登半島地震と志賀原発

                            福井 杉本達也

1 あまりにも遅い!非常災害対策本部設置

発災から72時間経過した1月4日現在、「令和6年能登半島地震」による死者は84人、行方不明者は179人に上っている。「17:30に特定災害対策本部でなく非常災害対策本部を設置する判断を下すべきでした。また、その第一回会議は20:00からでした。遅い」。ちなみに「2016年4月14日熊本地震」では、「21:26 地震発生⇒22:10 非常災害対策本部設置(河野防災担当大臣が本部長)⇒22:21 第1回対策本部会議(総理大臣出席)」と発生から55分で非常災害対策本部を設置している(早川由紀夫X:2024.1.2)。3日午前の対策本部会議では「『発生72時間』はあす午後、自衛隊員2,000人に倍増…岸田首相『救命・救助に全力』」「生存率が急速に下がるとされる『発生から72時間』を4日午後に迎えることを意識したものだ」(読売:2024.1.3)と書いたが、ともかく対応が遅すぎる。発災日に10,000万人規模の投入が必要であろう。名古屋市消防局・大阪市消防局など各都府県の消防は発災日に緊急援助隊を派遣して現地活動を行っている。ちなみに、2016年4月の熊本地震時においては自衛隊は発災後2日間で590人の被災者を救出した(緊急援助隊・地元消防で86人救出)。「まともな知事とまともな首相なら、一昨日の発災後、直ちに救援に全力投入すべき激甚地震のデータは出ていたのだが、みすみす見逃されてしまったことで、救えたはずの生命がどれほど失われるのか残念でならない。」(飯田哲也X:2024.1.3)「今回の地震の救助活動がなんだかものすごくゆっくり感じる。最初から。そして、ものすごく言葉にしたくないんだけど…地震からも津波からも逃れたのに餓死とか起こらないよね?…そのくらい、不思議な位に物資が届いていない…」(ゆきX:2024.1.4)と書かれてしまった。ちなみに、馳石川県知事は正月休みを東京で過ごしており、自衛隊ヘリで石川県に戻ったとのことである。

2 情報統制か?―ドローンの飛行禁止

国土交通省は1月2日・12時00分:「令和6年1月1日に石川県能登地方で発生した令和6年能登半島地震について、以下のとおり国土交通大臣による航空法第132条の85による無人航空機の飛行禁止空域の指定を行いました。なお、航空法第134条の3による航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為(凧、気球等)の許可及び通報についても適用になります。」と今回被災が集中した石川県輪島市、珠洲市、穴水町、能登町、七尾市、志賀町、中能登町でのドローンの飛行を禁止の緊急用務空域に指定した。ドローンを飛ばすには特別の許可が必要になった。捜索救難活動の緊急用務を行う有人機を優先するための処置だ。しかし、いまはまだ有人機がなかなか飛べない。そして能登半島は広い。被害状況把握のためにドローンを活用したいが、できない。現在、被害状況把握のために活用できる写真情報データは、国際航業:「防災情報提供サービス無料版」https://bois-free.bousai.genavis.jp/diarsweb。国土交通省・接写https://ehihdagjcj.reearth.io。読売新聞等などがある。

「七尾市以北の奥能登の状況は本当に深刻です。取材に入った穴水町は中心部と町の北側を結ぶ動脈が寸断され、陸の孤島となっている集落がいくつもあり、未だに実態が把握できていません。支援物資も思うように行き渡っていません。同様の事態が奥能登のあちこちで起きています」。「昨日12時に指定した緊急用務区域をすみやかに終了したほうがいいなあ、航空局。いま能登半島をそれに指定するのは益なくして害ばかりだ。能登半島は人口密集地とは違う。ドローンで被災状況の把握をするのが最適。有人機では低空と迅速な撮影がむずかしい。ドローンの手軽さを生かせ。」とツイートしている(早川由紀夫X:2024.1.3)。

3 未知の断層が原因か?

国の地震調査委員会は最大震度7を記録した能登半島地震の分析や今後の動向について検討したが、平田直委員長は「国は主要な活断層について長期評価を公表しているが、今回地震のあった断層は対象外だった」と説明した(日経:2024.1.2)。また、1月3日0時のNHK報道によると、政府の地震調査委員会は「大地震は、北東から南西にのびるおよそ150キロの活断層がずれ動いて起きた可能性があると指摘。」また、「地震活動の範囲は、これまで能登半島の北東部や北側の海域が中心だったのに比べ拡大している。」としている。日経は上記記事で、「世界でも有数の地震大国の日本では各地に断層が存在し、リスク評価が追いついていない側面が浮き彫りになった。今後、政府の長期評価のあり方も問われそうだ。」と指摘している。

 

4 志賀原発の状況

志賀原発は、活断層が原発の敷地内にあるのではないかと指摘され、1.2号機とも停止中であったが、志賀町では震度7・最大加速度2826ガルを記録、岩盤まで掘り下げた1号機原子炉建屋地下2階でも震度5強、399.3ガルが観測された。北陸電力は、相変わらず情報を後から小出しにしているが、①「1号機の放水槽の周囲(全周約108m)に津波対策として設置した鋼製の防潮壁(高さ4m)の南側壁が、地震の影響により数cm程度傾いていることを確認した。」②1,2号機 廃棄物処理建屋エキスパンションジョイントシールカバーの脱落、③「1号機 純水タンク漏水」④「2号機 使用済燃料貯蔵プール落下物」、⑤1・2号機変圧器油漏れ(「現場では火災と認識」)、⑥1・2号機使用済燃料貯蔵プール水の飛散、⑦冷却ポンプ一時停止、⑧1号機タービン補機冷却水系サージタンクの水位低下、⑨2号低圧タービン「伸び差大」警報が確認さたとしている。

志賀原発は、新規制基準への対応で、震度6強以上の地震は来ないとして、原子力規制庁に1000ガルに耐えうるまで強度を上げたとして再稼働申請し、現在審査中である。北陸電力のHPには、「想定される最強の地震や、およそ現実的に起こるとは考えられないような限界的な地震が起きた場合の影響を受けても…安全上重要な機能は失われないよう考慮した設計」をしていると書かれている(2024.1.3)。

原子力規制委員会は、2023年3月3日の審査会で「新たに出された膨大なデータに基づいて評価し直したところ、将来活動する可能性のある断層ではないと判断できる、非常に説得力のある証拠が得られた」とし、原発炉心に活断層はないとの見解を示し、再稼働に道を開いた。経団連も、十倉会長が志賀原発を視察し、「やっと敷地内の活断層の問題にけりをつけ、今まさに前に進もうとされている。安全安心と地元住民のご了解が前提ではあるが、一刻も早く再稼働できるよう心から願っている」と(朝日:2023.11.29)、再稼働を急ぐよう強く圧力をかけていた。

北陸電力は、巨大な断層が連続して動くことを想定していない。延長150キロの「未知の断層」がM7.6の地震を起こしたとなると、原発の耐震想定は全てやり直しとなるであろう。「国土地理院が人工衛星の観測データを分析したところ、輪島市西部では最大で4メートル程度の隆起が検出されるなど大規模な地殻変動も確認された」(NHK:同上)。原発のある志賀町富来の海岸が隆起している。地元の聞き取りでは30~40cm程度隆起している。①の防潮壁の傾きは津波とは考えられず隆起(又は地震動)の影響かも知れない。国土地理院地殻変動情報(衛星SAR)において、原発のある志賀町付近など、能登半島の西側の隆起データがないのは不思議である。⑤変圧器の油漏れも原子炉の操作や燃料棒を冷やすこともできない全電源喪失事故につながるものであり非常に危険なものである。原発から30キロ圏内にある輪島市や穴水町の放射線モニタリングポスト15カ所が機能していない。もし、志賀原発が再稼働していたとすれば、電気も水も避難場所も避難できるルートも手段もない被災者にさらに恐ろしい事態が待っていた。

 

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【翻訳】Ukraineの将来は、ドイツやイスラエルの事例ではなくて、朝鮮半島の事例的である。

The Japan Times Weekend、  Sept. 2-3, 2023 
“ Ukraine’s future isn’t German or Israeli but Korean. ”
「Ukraineの将来は、ドイツやイスラエルの事例ではなくて、朝鮮半島の事例的である。」 
Andreas Kluth
[ Bloomberg Opinion columnist covering U.S. diplomacy, national security and geopolitics. He is author of “Hannibal and Me”.]

「Kyiv の攻勢は立ち往生している中で、世界はこの戦争の終結を見つけるべく、歴史のモデルを手探りしている」

Ukraineは、Russiaの侵入者を追い出すことはできないであろうし、Moscowは、また、Ukraineのさらに多くの領土を飲み込むことには、成功しないであろう。想像しがたい人間の苦悩はさて置くとして、一体、次に何が起こるのであろうか?
Russiaの侵略の始まりより、専門家、評論家や指導者が考えてきたように、彼らの思考を導く歴史の類似事例を直感的に掴めば、3例が明らかになる。Ukraineの一つのモデルは、1950年代のWest Germanyである。もう一つは、1970年代に始まったIsraelであり、三つ目は、1950年以来の朝鮮半島である。

West Germanyの例を引き合いに出す人々は、NATOは出来るだけ早くUkraineの占領されていない部分を西側の同盟に受け入れるべきであると主張している。このことは、Russiaが、さらなるUkraineの領土を強奪することを思い止まらせ、自由なUkraineを許し、繁栄する民主主義国に再建する、冷戦 (“the cold war”)の間のWest Germanyのように。
Ukraineの自由の部分をNATOの陣営に受け入れること、この推論は成り立つ、法的、政治的、戦略的に可能なはずである。そのことは、およそ1955年にNATOがWest Germanyと共に行ったことだから。 Germanyは、その時は第二次大戦の勝者である連合国に分割、占領されていた。それにもかかわらず、NATOは、Article 5 (集団的安全保障)- 1 memberに対する攻撃は全memberに対する攻撃と見なす― を正にWest Germany – その実体は西側3同盟国(U.S.,U.K., France)の支配地域を表していた-に広げて適用したがEast Germany―Sovietの支配地域にある―には適用されていない。
その集団的安全保障は、論争は続いているが、冷戦の残りの期間においてもSoviet Unionからの攻撃を抑止していた。そして、Ukraineも、またいつか、そのようになるであろうように、結果としてGermanyは平和的に再統合した。結論:Ukraineの人々がコントロールしている領土が何であれ、どのようであれ、それをもってNATOに参加させる。

他の識者は、より良いモデルとしてIsraelを挙げる。この国は、いかなる集団的同盟にも入らなかった。しかしながら、1970年代より初めて、米国は安全保障を正式なものとし、徹底的に武装させた。不敗の戦士国家として、また米国の協力者として、Israelもまた繁栄した。そして結果的に、力ある位置より、アラブの敵国との間で平和を作り始めていた。
UkraineにIsraelと同じような相互保障を与え、金と武器を与えよ。そして議論は進む。
そうすれば、Russiaは勝利できないことを理解するであろう。

第三の識者グループは提案する。Ukraineの戦線は、1952年頃よりの朝鮮半島の戦況に一番よく似ている。どちらの陣営も大きな勝利を得ることが出来ないように見える。両陣営は、保持できない法外な被害と費用を被るようにも見えない。すべての陣営―好戦的な国もそれを支持する国々も―は、話し合いを拒否すればするほど、局面を変えることなく、死者負傷者は増加し、苦難は続く。唯一の出口は、1953年の朝鮮半島におけるがごとく、平和条約の調印ではなく、解けない問題はそのままにするが、銃火は止める、とりあえず休戦するとの見識をもって、戦うと同時に交渉を行うということである。

West Germanyの例えは、魅力的に思えるが、しかし、的を外している。正確にはBonnは依然として、論理上は国全体を代表すると主張していたが、一国の一部のみを統治したに過ぎない。米国、英国、Franceの援助で西側ドイツ人は、Sovietを含めた4つの連合国が同意した国境でもって新しい国、共和国を設立した。その時はNATO*が設立された時であり、戦いはなかった。
*訳者: NATO: North Atlantic Treaty Organization, 北大西洋条約機構
     1949年4月4日欧州10か国(英国、仏国、ベルギー、デンマーク、アイスランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウエー、ポルトガル)、米国、Canadaの計12か国で発足。集団防衛、危機管理、協調的安全保障の三つの中核的任務を担うとする。 尚、ソビエト率いる東欧共産勢力のワルシャワ条約機構は、10か国で1955年に結成されている。
     1949年5/23 発足の西ドイツ政府に対抗して、同年10/7に、ソビエト統治の諸州が東ドイツ政府を設立している。
     そして、1955年5/6 西ドイツは、NATOに加盟した。

さらに、西ドイツの首相 Konrad Adenauerは、正式に国の分割を受け入れた。見返りとして、それ(東ドイツ部分)を、西側に統合することを、あいまいにして。このことで、彼は対抗勢力から激しい反感を買った。その勢力は、中立の見返りとして、再統一を目指して頑張りたかったのである。その道のりとは、Austria (その時は第三帝国”the Third Reich”*の部分であった。)が取った策であった。
 
*訳者:the Third Reich : 神聖ローマ帝国を、第一帝国、ビスマルク統治下の帝政ドイツを第二帝国、そして、その後を継ぐドイツ民族による三度目の帝国として、国家社会主義ドイツ労働者党(ナチ党)統治下のドイツで用いられた。

これらすべての道のりにおいて、Ukraineは1955年の西ドイツと異なっている。Russiaの支配下にあるUkraine国内の国境は、認証も固定もされていない。NATOは常時、Article5を、たとえその支配が変わった時でも(例えば、Bakhmutは、昨年はほとんどRussiaに占領されずに、Ukraineの支配下のままだった。)同じ町に適用するか否かを決めねばならないであろう。結果として、連合国は、戦いに介入してRussia人に発砲するか、(World War Ⅲのリスクを冒す。)又は、自慢の相互防衛条項(Article 5)を薄めるか、いずれかであろう。しかし、その場合にはArticle 5 は、その抑止効果を失ってすべての同盟国をリスクに曝す。
或いは、その代わりに、Ukrainian President Volodymy Zelenskyyは、Adenauerが行ったのと同じように(同じ例として東ドイツを切り離したように)、彼の好敵手であるVladimir Putinが併合したと言っている、Ukraineの5つの州にサヨナラしてPutinに渡すこともありうるであろう。しかし、Kyivは、すべての領土を取り戻すことを望んでいる。
Zelenskyyのみならず、Ukraineの他のリーダー達も、今日の時点でも、領土を取り戻すという目標を捨てることが出来ない。
偶発的で平穏だった(戦いのなかった)1990年の東西ドイツの再統合のような望みでさえ、積み上がって来ていない。Sovietは、45年の統治の間に東ドイツが民族浄化を試みないように統治、運営したし、地元住民のRussia化もしていなかった。Donetsk, Luhansk, Kherson, Zaporizhzhia and Kremea においても、浄化やRussia化は行ってきていない。

Israelとの類似は、もっとあるように見えるかも知れない。しかし、よく見るとドイツの例と同様に、ポッカリと穴が開いていることがわかる。米国の安全保障は、Israelが敵対するアラブ諸国との4度の戦争に勝利した後に、正式なものになった。Ukraineの自国の領土での戦いと違って、Israelは1970年代まで敵地で戦っていた。その頃Israelはまた、自身で核兵器を作った。―もっとも、その兵器工場のありかは確認されていないが。敵対するアラブ諸国は、今日に至るまで、核兵器を有していない。(これとは、別問題であるが、Iran―アラブではないが―は核開発に近づいている。)
それゆえに、Ukraineは、1970年代のIsraelとは、逆の状況に置かれている。Ukraineは決してRussiaを打ち負かすことはなかった。かれらは、2014年から2022年の間、Donbas地方ににおいて窮地に陥った自軍を保持した時においても。さらにUkraineは核を持とうとしたこともなかった。Ukraineは、1990年代にSoviet時代の在庫品をRussiaに引き渡した。Moscowより全地域の安全を保障してもらう代わりに。他方、Israelは米国の同盟国になった時には、すでに勝利者となっていて、核抑止力を保持していたのに、アラブの国々は打ち負かされて、原子爆弾も持っていなかった。その状況からIsraelは繁栄する経済と社会の国となった。しかし、Ukraineは、核なしで、常に核のサーベルを打ち鳴らす敵国Putinと戦っている。

Cease-fire without peace. [ 平和なき停戦 ]
朝鮮半島での類似の事例では、その時はどうだったのであろうか? 不完全ではあるものの、その事例が、一番手に入れやすく、役立てられやすいかもしれない。当時も今も、Moscow and Beijingは、侵略者側(北朝鮮 in 1950)を支持、支援した。他方、米国は犠牲地域(南朝鮮―訳者)の防衛のため国際連合軍を指導した。Ukraineにおけると同様に、朝鮮半島においても、活発な動きの開戦の段階から、しばらくして厳しく血なまぐさい膠着状態に入った。その時までには、米国、Soviet両国は、核を持っていた。
動かない状態が長く続いても、主要対戦国は話し合う用意すらなかった。PyongyangとBeijingは、その考えを心に抱いていたが、Mr. Joseph Stalin in Moscowは、柔軟性がなく堅かった。米国側にしても、Harry Trumanと彼の後継者 Dwight Eisenhowerは、国内政治に気を配らねばならなかったし、共産主義に対して説得力を欠いていたように見えた。
南朝鮮といえば、整理しきれていない自身の利害を追求していた。President Syngman Rhee(李承晩大統領)は、朝鮮半島全部を要求し、多くの囚人を開放するというような唐突なゼスチャーで味方である米国人を驚かせた。
そして、まだ戦闘が続いている中で、ついに話し合いが始まった。米国の海軍大学院のMr. Carter Malkasianによれば、「あなた方は、話し合いと戦いの準備を同時にしなければならない。」これは朝鮮戦争の一つの教訓である。
それでも、交渉は失敗し続けた。1953年3月、Stalinが亡くなった後、当事者が、再び交渉を再開したが、結論は双方誰をも満足させるものではなかった。
事実上、休戦(“armistice”)でもって、2年ぶりの戦争を始めた時の最前線を認めた。それ以外に重大な問題は、何も解決しなかった。単なる争いの凍結であった。しかし、この停戦
(“cease-fire”) は、今日まで続いている。そして、この70年間に南朝鮮は、活気ある豊かな民主主義社会になっている。
もし、朝鮮半島のモデルが正しければ、教訓は、どちらのサイドも軍事的には勝てず、結果は変わらない。ただ一つ残された特性は、それが認められるまでに多くの人々が不必要に死ぬ、ということがはっきりして、あまりにも長い間の後、はじめて戦火を止めて、戦闘部隊が話し合いの席に着くということである。
これは、どれも誰が正しいか、と言うことではない。歴史は一人の男、Vladimir Putinを記録することであろう。彼は、Ukraineにおいて未だ治まらず続いている災難において有罪である。 しかし、過去よりの知恵は、戦うと同時に、共に話し合う時期が到来したことを暗示している ― いかなる形であれ勝利を望(“hope”)まずして、しかし、何としてもこの悲惨なことは終わらせねばならないという諦め(“resignation”)の気持ちを持って。
                           [ 完 ] (訳:芋森)

 

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【投稿】ノーモア・ジェノサイド:米一極支配の歴史的後退--経済危機論(127)

<<紅海封鎖が西側経済に「激震」を与える可能性>>
世界経済全体、とりわけ西側・米欧経済に「激震」を与える可能性が取りざたされ、現実化している。その象徴的な事態が、エジプトのスエズ運河につながる紅海海峡を通るイスラエル向けの船舶に対する、イエメンのアンサール・アッラー抵抗運動Ansarallah(フーシ派)による封鎖(12/9 発表)である。イエメン軍の報道官、ヤヒヤ・サレエ氏は、イスラエルがガザ地区での虐殺・ジェノサイド戦争を終了し、包囲されたパレスチナ領土の封鎖を解除するまで、200万人以上の飢えている人々への人道援助が許可されるまで封鎖を続けると発表している。これは、反イスラエル・反米欧・反西側「抵抗枢軸」のアラブ諸国の中核となっている、ヒズボラ、ハマス、アンサール・アッラーによる協調した反撃行動の一環でもある。この抵抗枢軸グループは、この中東地域全体で連携し、統一戦線としてイスラエルと対峙し、ガザとヨルダン川西岸、レバノン、シリア、イラクで協調した行動をとっており、いずれも、過去20年間で軍事能力を大幅に向上させている。そして今回、実際に、アンサール・アッラーは石油を積んでイスラエルのアシュドド港に向かうノルウェーの船にミサイルを発射し、12/14には、イスラエル行きのマースク・ジブラルタル船をドローン攻撃したと発表している。紅海封鎖の標的となっているのは、イスラエルの大量虐殺という国際法違反を支援し、イスラエルにエネルギーや物資を届ける、日本を含む西側諸国の船舶である。すでにミサイルやドローンによる封鎖攻撃は実行されているが、イスラエルの港に向かわない船は攻撃されないと繰り返しており、ロシアのタンカーや、中国、イラン、グローバル・サウスの船舶は、紅海を平穏に航行し続けている。

 この交通量の多い紅海海峡は、最狭地点=バブ・アル・マンデブ海峡は33kmに過ぎないが、世界貿易の実に10% から 12% を担っている。パナマ運河の5%よりも倍以上大きいのである。紅海を通過する石油輸送量は、日量 880 万バレル、貨物輸送量が 1 日あたり約 3 億 8,000 万トンに達している。
すでに、エネルギー大手BP社は声明で、「紅海における海運の治安状況の悪化を考慮し、紅海を通るすべての輸送を一時的に停止することを決定した」と発表(12/18)、続いて世界の大手海運会社5社が航行を停止(マースク、ハパックロイド、イタリア・スイスおよびフランスの企業であるCMA CGM、地中海海運会社)、これに台湾のコンテナ輸送会社エバーグリーンも追随。現実に、紅海通過を目指していた46隻のコンテナ船が現在、南アフリカ・喜望峰回りに迂回を余儀なくされている。
当然、輸送コストが大幅に高騰し、航海距離が 40% 増加し、航海期間も2週間の追加が必要となり、輸送保険料も上昇。BP発表後の12/20のブレント原油価格は、2.7%上昇し、1バレル=78.64ドルとなり、米国産原油も2.8%上昇し、1バレル=73.44ドルに上昇。天然ガス価格も上昇、ヨーロッパの天然ガス価格は 7.7% 上昇している。商品価格とインフレの上昇がさらに想定されるのは当然と言えよう。それは必然的に、サプライチェーン不足と消費者物価上昇により、苦境に立たされている米欧・西側経済に危機の深化と悪影響を与えることは言うまでもない。

<<動揺し、うろたえる米バイデン政権>>
こうした予期せぬ事態の進行に動揺し、うろたえる米バイデン政権は、12/20、「イエメンのフーシ派による無謀な攻撃」に怒りに駆られて、「すべての国の航行の自由を確保し、地域の安全と繁栄を強化することを目標に、紅海南部とアデン湾の安全保障上の課題に共同で対処する」ために、「繁栄の守護者作戦(Operation Prosperity Guardian)」なる軍事作戦を開始すると発表した。「イエメン発のフーシ派による最近の無謀な攻撃の激化は、自由な通商を脅かし、罪のない船員を危険にさらし、国際法に違反している。」などとぬけぬけと述べているが、アメリカが直接関与し、支援しているイスラエルの国際法無視の、「罪のない」パレスチナ人大量虐殺・ジェノサイドには一言も言及していない。
 この米国防総省・ペンタゴン主導の海軍機動部隊は、紅海全域を航行する商業船舶を保護することを名目に、イエメンの攻撃からイスラエル関連の商船を守ると主張している。オースティン米国防長官の発表によると、この作戦、有志連合には、英国、バーレーン、カナダ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、セーシェル、スペイン、そして米国が参加する、と言う。
 ところが、である。この地域のアラブ諸国のうち、名を連ねているのはバーレーンだけである。アメリカの同盟国であったはずの肝心のサウジアラビアが欠落している。スペイン、フランス、イタリアといった他の帝国主義国家でさえ、ペンタゴン主導の介入への参加を拒否している。スペインは関与を否定し、「紅海作戦には一方的に参加しない」と表明し、フランスはペンタゴン指揮系統の下で機能することは望んでいない、と言う。
バイデン政権が最も期待をかけていたサウジアラビアは、もはやイエメンとの8年間続いたアメリカが支援した戦争を継続する意思が失せ、イエメン諸派との関係を改善する方向に傾き、親イスラエルの「プロスペリティ・ガーディアン作戦」への参加に関心がないことがすでに報じられている(12/25 ニューヨークタイムズ紙)。この米国主導の軍事作戦・有志連合は、発表されるやたちまち政治的困難と内部危機に直面しているのである。

<<バイデン:2期目獲得できなかった過去4人の支持率よりも低い>>
かくして、2023年・年末は、米国一極支配・ドル一極支配のリーダーシップが象徴的に崩れ去る歴史的「転換点」を全世界に明らかにしたのである。ウクライナ、BRICS、ガザ、いずれにおいても、米帝国一極支配構造は、後退と敗退を余儀なくされている。

ロシアをウクライナ危機に引きずり込み、ロシア・EUのノルド・ストリームパイプラインを破壊して、欧州のエネルギーコストを戦前の2.5倍とさせ、EU経済をガタガタにし、さらに全面的金融制裁でロシアを孤立させたはずが、ウクライナを疲弊と泥沼の戦争に追い込み、ブーメランで逆にドル一極支配体制自体が維持できない事態をもたらしてしまった。

対照的に、BRICS諸国は 11か国と拡大し、世界の GDP の 37% を占めているのに対して、西側 G7 諸国では 30% に落ち込んでいる。その中でも重要なのは、米国の忠実な同盟国であったサウジアラビアがBRICSに加盟し、ロシアと合わせて世界の石油の44%を生産、石油と密接に結びついていた国際基軸通貨としてのペトロダラー体制が有名無実化し、脱ドル化を加速させる事態をもたらしてしまったのである。

そして、イスラエルのパレスチナ・ガザ大虐殺攻撃へのバイデン政権の無条件加担・共謀は、決定的に米国一極支配の優位性、道義的信頼性を一挙に崩壊させ、「ノーモア・ジェノサイド」の声の前に世界的な孤立化を促進させてしまい、結果として、米帝国一極支配の慢心は、行き詰まり、孤立と動揺に揺れ動いているのである。
米帝国が過小評価していたイエメンの紅海封鎖攻撃にたいしても、それを防止しえない、阻止することも、未然に囲い込むこともできない、場合によってはイエメンのミサイル攻撃に対して米重量艦隊が意外に脆弱であることを

さらけ出してしまったのが現実である。

アメリカン・リサーチ・グループが12月17~20日に実施した最近の世論調査によると、バイデン大統領の支持率は37%で、57%が不支持であった。この支持率は、2期目を獲得できなかった過去4人の大統領の支持率よりも低いことが明らかにされている。ハリス大学とハーバード大学の最新世論調査によると、有権者の62%がバイデン氏が大統領の職務を遂行するのに適任であると疑っており、さらに48%が彼の大統領職は年々、月ごとに悪化していると考えている、と報道されている。NYTの世論調査によると、18歳から29歳までの有権者の75%近くがバイデン氏のガザへの対応を支持していない。

この2023年末の「画期的」な「転換点」は、もはや元に戻りえない、米帝国、ドル一極支配体制の全面的後退の到来を明らかにしていると言えよう。
(生駒 敬)

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【書評】吉田繁治著『金利と通貨の大転換』

【書評】吉田繁治著『金利と通貨の大転換』(2023年11月 ビジネス社 2,200円+税)

                             福井 杉本達也

1「猫の目相場」の金利と通貨の変動

12月16日付けの日経新聞は「日本国債『猫の目相場』」との見出しで、新発10年債利回りは15日、一時、前日比0.05%上昇し0・705%を付けた。14日には米連邦公開市場委員会(FOMC)後の米金利低下が波及し、前日比0.06%低下する場面があった。」と書いている。円・ドル為替レートは、11月13日の150円38銭という円安相場から、日銀の植田総裁が参議院でマイナス金利の解除と受けとられる発言をした12月7日には141円70銭、FRBの「米利上げ事実上終結」と報道された14日には140円94銭へ、大きく変動し、その後15日には142円15銭に戻している。「日米金利差を背景とした円売り・ドル買いは逆回転を始めている」(日経:2023.12.17)としているが、どうして、「円安亡国論」がいわれる150円台まで対ドル相場が下がったのか、また、最近の「猫の目」といわれる極端な為替変動はどうとらえるべきなのか。本書はその解を示している。

2 第二次安倍内閣の「異次元緩和」とその出口

「2013年からの8年で500兆円の国債を日銀が買うという方法で」「銀行・生保・政府系金融の当座預金に、円の現金を供給した」が、国内では空回りし、「当座預金の増加分の58%をドル証券や預金として米国に貸し付け」、「ドル買い=円売りが超過すればドル高で、円安になる」。「円が過小評価され、ゼロ金利の日本が約5%の金利があるドル債を買っているためドルが過大評価」されているのである。米国は、アフガニスタンやイラク、シリアやウクライナ・ガザなど世界各地で戦争の火をつけ廻り、軍事費の負担に喘ぎ、共和党の反対で債務の上限も制限されるような財政赤字を補填しているのが日本なのである。著者は「日本は、どこまで米国への忠誠を続けるつもりか?」と問いかけ、「いや日本人が忠実なのではない。政治家と官僚が忠実なのである」と回答する。「米ドルと4%の金利差があれば、銀行や生損保がドルを買うに決まっている。」「日銀が奨励している」。

しかし、今後、日銀は「ゼロ金利」を脱却し、米欧のように利上げできるのだろうか。平均残存期間が8年の1200兆円もある既発国債は、金利を2%上げれば17%下がる。国債を持つ日銀と金融機関は180兆円の含み損を抱えることとなり、債務超過の陥り、政府が発行する新たな国債を買う余力がなくなる。著者は「インフレ3%であっても長期金利を1.0%以上には上げることはできない。2%から銀行危機と財政危機になる」と見ている。

3 変動相場制とは

1971年まで米ドルは金と交換ができた。金はドルの価値を保証している重要な金属である。ところが、ベトナム戦争で経常収支が赤字に転落した米国は、金とドルの交換を停止した。「価値のアンカーを失った世界の通貨は固定相場から…変動相場制に移行した」。「金の裏付けがない信用通貨での変動相場制は5000年の世界史でははじめてだった」。基軸通貨とはキー・カレンシー、「価値の固定軸になる通貨」である。「変動相場は金との関係が切れた信用通貨のドルが価値の安定した基軸ではなくなったことを意味する」。「外為市場の自然では、経常収支が長期にわたって赤字なら通貨は下がる」、「他方、経常収支の黒字国の通貨は上がる。これが変動相場を成り立たせる原理である」はずなのだが。

4 ペトロダラー通貨システム

「ドルの相対価値が変わる変動相場」において、「基軸通貨」としての地位を守るというのは全くの矛盾である。「米国が40年もの長期間貿易赤字であってもドルを増刷して支払えば、相手国は基軸通貨だからと受け取る」、「米国は、輸出を増やして輸入を減らして貿易を黒字にする産業界の努力がいらず、FRBと銀行がコンピュータのキーを叩いてドルの増刷を続ければいい」。「経常収支の赤字がいくら多額に続いても、ドルを増発して海外に渡せばいい」という地位を50年も保つことができるというまことに不思議な解を与えたのは、11月に死亡したニクソン政権の国務長官キッシンジャーである。キッシンジャーは、金の価値の裏付けがなくてもドルが基軸通貨を続ける手段を考えた。1974年、キッシンジャーは産油国・サウジに出かけ、当時のファイサル国王に、米軍が駐留して王家の体制を民主革命から守る。その交換条件として原油をドルで売ることを提案した。「世界は、原油を必需のエネルギーとして産油国から輸入しなければならない」、原油は「米ドルでしか買うことができない」、「米国以外の国がドルを得るには経常収支を黒字にして、ドルの外貨準備を貯めておかねばならない」、貯めたドルは「米銀またはFRBに預金するか、米国債を買う」ことによって、再び米国に還流するというシステムである。

5 BRICS通貨の登場

米国は、2022年2月にウクライナ侵攻したロシアへの金融制裁として、通貨の国際送金網であるSWIFTからルーブルを排除した。SWIFTから排除されると、ドルとの交換ができず、貿易ができない。「金融の核兵器」である。しかし、ロシアは人民元のCIPSを利用し、人民元とルーブルを交換した。また、インドとも相互の通貨で原油取引を開始した。グローバルサウスの国々は、自分たちもSWIFTから排除されるのではないかと危惧した。そこで、今年8月、BRICSが連合し「金ペックとされる新国際通貨(仮称BRICSデジタル通貨)に結成会議」が開催された。世界経済の成長の重心はBRICS+産油国+グローバルサウスに移行している」。欧米日は中国のマネー・パワーを「過小評価したい願望を持っている。ロシアには、膨大なエネルギーと鉱物資源がある…20年後には世界最大のエネルギー・資源供給大国」になり、「ルーブルの価値の裏付けなるものは、金と資源である」。BRICS+産油国は「2023年後半期から相互の貿易決済に使うデジタル通貨になっていく」。「ドル基軸のG7がBRICS加盟予定国と逆転された時期と認識しなければならない」。「加盟国間の貿易では、現在のドルの外貨準備がいらなくなる。そこで通貨加盟国のドル準備(推計7兆ドル:980兆円)の売りが始まり、ドル下落になっていく。1年に7000億ドル売っても98兆円のドル売りになる…ドル体制は縮小していく」、「ドル支配の終焉と同時に日本は資産を失う!そしてデジタル通貨戦争でロシアと中国が勝つ!?」と著者は予測する。まさに、今、読むべき著作である。

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【追悼】パレスチナ「ガザの語り手」レファアト・アラリール

<<“If I must Die.”>>
今月、12/6、パレスチナの著名な詩人、作家で、何よりもパレスチナ人の権利を訴え続けてきた活動家である、レファアト・アラリール氏(Refaat Alareer)が、ガザ北部シャジャイヤでイスラエル軍の爆撃によって殺害された。一緒にいた兄弟姉妹やその子ども4人も死亡した。自分が殺されることも想定して、「“If I must Die.”もし私が死ななければならないのなら」という詩を書き残していた。米ニューヨークや英ロンドンでは追悼集会が開かれている。

 ガザ地区にあるイスラム大学で2007年から比較文学の教授を務めていたアラリール氏は、ガザの経験を記録に残す活動、「ガザの語り手」として、広く知られており、2014年のイスラエル攻撃後にガザで立ち上げられた「私たちは数字ではない We Are Not Numbers 」の創設者の1人でもあった。
アラリール氏は、2014年、イスラエルに封鎖された生活を若い作家たちが記録した短編集「Gaza Writes Back: Short Stories from Gaza, Palestine」を編纂、エッセーや写真、詩をまとめた2015年の「Gaza Unsilenced」(2015 年)では共同編集者として、イスラエルに封鎖されたパレスチナ人の苦痛と喪失、信仰を描き、2022年に出版されたコレクション「Light in Gaza: Writings Born of Fire」への寄稿「ガザは尋ねる:いつ過ぎ去るのか?」の中で、アラリール氏は「きっと過ぎ去ります、私はそれを望み続けます。 それは過ぎ去ります、私は言い続けます。 …ガザが命にあえぎ続ける中、私たちはそれが過ぎ去ろうともがき、反撃し、ガザの物語を伝える以外に選択肢はありません。 パレスチナのために。」と書いている。

アラリール氏は英BBCのインタビューの中で10月7日の攻撃を「パレスチナの抵抗勢力による先制攻撃」と形容し、「正当かつ道徳的」だったと発言。ハマスのこの攻撃を、ユダヤ人の抵抗勢力がドイツに対して起こした1943年の武装蜂起「ワルシャワ・ゲットー蜂起」になぞらえた。当然かつ正当なアラリール氏の発言である。ところが、この発言を問題視したBBCは、今後はアラリール氏をコメンテーターとして起用しないと表明したのであった。

12/14、しかしそのBBCは、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のスタッフと学生のネットワークである「UCLパレスチナ連帯 UCL Palestine solidarity 」が企画した、アラリール氏を追悼する徹夜祭が12/13の午後に開催されたことを詳細に報じている。

 アラリール博士が2007年にこのUCLに留学していたことから、この大学の広報担当者は「われわれはこの影響を受けたすべての人々を支援するために取り組んでいる」との発言を紹介したが、同時に東ロンドン出身のUCLの現学生アムナ・ガッファーさんの発言、「彼はUCLの卒業生でしたが、大学が彼を認識したり認めたり、敬意を払ったりしていないと私たちは感じています。」を紹介し、学生や職員らは、「大学の当局は依然として彼の殺害を非難せず、声明を発表することを拒否している」ことに不満を表明したことも報じている。この通夜に同席したBBCロンドンのアルパ・パテル記者によると、トルコ人、エジプト人、イギリス人などさまざまな国籍の学生たちが、アラリール氏の詩「もし私が死ななければならないとしたら“If I must Die.”」の朗読中に泣き、手を握り合っていたという。

<<爆撃にさらされた子どもたち>>
アラリール氏は、10月12日と13日にガザから米CNNの取材に応じ、もし自分が死亡した場合には、インタビューなどの記録を公表することを承諾していた。CNNは、12/12、そのインタビューの内容を報じている。

 アラリール氏は、「我々には信仰があり、信念がある。自由のために、基本的人権のために反撃する正当な理由、公正な理由がある。我々はそれをはく奪された」。アラリール氏はCNNにそう語り、国際社会に対してはパレスチナの人たちの「人間性」に目を向けてほしいと訴え、「彼らの痛みを感じ、彼らの身になってみてほしい」と呼びかけている。
その中でとりわけ子供たちのことに触れ、ガザ市民は執拗に続くイスラエルの空爆から自分たちや子どもたちを守る術がなく、「無力感と絶望」を感じているとアラリール氏は話し、爆撃にさらされた子どもたちは心と体に傷を負っていると指摘。「私たちはそのことを語りたがらない。あの子どもたちや家や生活が、数年ごとに何度も、何度も破壊されていることを、考えたいとさえ思わない」、建物が爆撃される音は「地球全体に鳴り響く」ように感じられ、「ドアが閉まる音でさえも、そうした記憶がよみがえることがある」、「最初の2~3日は恐怖にとらわれる」「それがやがて無感覚に変わり、完全な無関心状態、放心状態になる」、「祈りたくても爆撃があるから途中でやめる。食べたくても爆撃があるから食べるのをやめる」、「子どもを抱きしめて物語を聞かせたり、頭をポンポンとたたいたりしたいと思う」、「でも、それが最後のお別れのように感じたり、子どもにそう感じさせたくないと考えてやめようと思う」、「我々は子どもたちが生き延びた戦争の数で年月を数える」、と語っている。

<<圧力をかけ、結集し、街頭に繰り出すこと>>
これが、イスラエルの無差別爆撃・ガザ虐殺攻撃の実態である。10/9に、イスラエル国防相はパレスチナ人を「人獣 human animals 」と表現し「それに合わせて行動する」、「我々は、人獣と闘っている We are fighting Human Animals 」と公言し、12/12に、バイデン米大統領が「彼らは動物です They’re animals. They’re animals. 」と繰り返し語った、パレスチナの人々を人間以下の動物扱いする、まさに典型的な差別・ヘイトクライム、大量虐殺・ジェノサイド=“ ガザサイド ”である。

 今年の10/10のアメリカの独立ニュースメディア、デモクラシー・ナウにガザから参加したアラリール氏は、「イスラエル当局者はナチスの言説やナチスの言葉を使い、パレスチナ人を野蛮人や絶滅すべき動物として語り、ガザは駐車場にする必要があると語っている。私たちは、西側諸国とアメリカの税金の援助と支援を受けて、パレスチナ人を絶滅させるという組織的、構造的、植民地的な試みに直面しています。アメリカは80億ドルを送金している。これは本当に非常識です。アメリカはまた、より多くのパレスチナ人を殺害するためにイスラエルに軍艦や爆弾や弾丸を送っている。」と糾弾し、
「私たちにある唯一の希望」は、「アメリカ国内で大衆の支持が高まり、アメリカとヨーロッパ全土の運動、人権運動、人権運動が街頭に出て、政治家にこの問題を終わらせるよう圧力をかけることだ。アフリカや世界中でホロコーストや他の大量虐殺がどのようにして許されたのかと人々が尋ねているなら、今ではそれをテレビやソーシャルメディアでライブで見ることができます。パレスチナ人の街区全体、病院、学校、企業が破壊された。私たちはイスラエルによって破壊された何千もの住宅について話しています。したがって、世界中の自由な人々への私のメッセージは、圧力をかけ、結集し、街頭に繰り出すことです。」と訴えている。

このアラリール氏の「唯一の希望」に応えることが、私たちに問われている。
(生駒 敬)

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【投稿】孤立する米・イスラエル:ガザ虐殺路線--経済危機論(126)

<<国連総会、即時停戦要求決議を圧倒的多数で可決>>
12/6、国連のグテーレス事務総長が国連憲章・第99条「事務総長は、国際の平和及び安全の維持を脅威すると認める事項について、安全保障理事会の注意を促すことができる」にもとづいて、この第99条発動という異例の措置を講じ、国連の安全保障理事会に書簡を送り、パレスチナ・ガザ地区での破滅的事態を回避するための緊急行動を求めた。
書簡では「ガザ地域にある家屋の半数以上が破壊され、220万人の住民の80%が家を追われ、国連施設に110万人が避難を求め、ガザ地区の医療システムが崩壊しつつあり、36の医療施設のうち部分的にも機能しているのは14にすぎない」と述べ、ガザ地区への人道支援体制が崩壊の危機に瀕しており、これが地域の国際平和と安全保障に重大な危険な状況をもたらしているとして、安保理に「人道的大惨事」を回避する「人道的停戦」を宣言するよう促したのであった。

12/8、安全保障理事会は「人道的即時停戦」と人質全員の無条件解放を求める決議案を採決したのであるが、米国は15カ国からなる理事会の中でこの法案に反対票を投じた唯一の国であった。この措置に賛成票を投じた安全保障理事会加盟国13カ国は、アルバニア、ブラジル、中国、エクアドル、フランス、ガボン、ガーナ、日本、マルタ、モザンビーク、ロシア、スイス、UAE(アラブ首長国連邦)である。米国の緊密な同盟国であるはずの英国は棄権した唯一の国であった。13対1で可決したのであったが、決議案は米国の拒否権行使により採択されなかった。しかしこの時点で、米国とイスラエルは孤立に追い込まれていることが明らかである。
その翌日、イスラエルのネタニヤフ首相はアメリカの拒否権使用を「感謝」、「評価」し、「正義の戦争を継続する」と、あくまでもガザ虐殺路線の継続を宣言したのである。

すでに、10/16、ロシアが提起した人道危機を回避するための即時停戦決議に、ロシア、中国、UAEなど5か国が賛成、米国と英国、フランス、日本の4か国が反対、残る6か国が棄権で採択されず、その2日後のブラジルが提出したガザ地区での「人道的一時停止」を求める決議案にも、理事国15カ国のうち12カ国が賛成票を投じたが、採択に必要な9カ国以上の賛成は得られたものの、反対したのは米国のみが拒否権を行使し、否決となっている。

12/12、米国が拒否権を発動して破棄した4日後、緊急に招集された緊急特別会合の国連総会は、ガザでの人道的即時停戦を要求する決議を圧倒的多数で可決したのであった(賛成: 153 反対: 10 棄権: 23)。決議は、人道的停戦、民間人の保護、人質全員の即時無条件解放と人道的アクセスを要求している。
この決議案を起草したアラブ20カ国とイスラム協力機構は、193カ国の機関の大多数の支持を獲得し、12/12の総会の緊急特別会期中に153カ国が決議案に賛成票を投じた。 この決議案には10カ国が反対票を投じたのは、米国、イスラエル、パプアニューギニア、パラグアイ、オーストリア、チェコ、グアテマラ、リベリア、ミクロネシア、ナウルの10か国であった。
決議に反対票を投じた米国は、グリーンフィールド米国国連大使が総会で演説し、米国は「ガザの人道状況は悲惨であり、民間人は国際人道法で保護されなければならないことに同意する」として、圧倒的多数の賛成に配慮せざるを得ない苦渋をにじませながらも、「今の停戦はよく言えば一時的で、最悪の場合は危険だ」とイスラエル擁護に回り、イスラエルのギラド・エルダン国連大使は、この決議案をイスラエルの手を拘束しようとする「恥ずべき」試みであると非難し、「ガザでのイスラエルの作戦継続が人質を解放する唯一の方法だ」と強弁した。

この国連総会の即時停戦要求決議について、パレスチナのリヤド・マンスール国連大使は、この決議案は「『呼びかけ』でも『促す』ものでもなく、要求するものであり(The resolution “does not ‘call for’ or ‘urges’ – it demands)、「歴史的」であると称賛している。ハマス政治局員のイザット・アルリシュク氏も、声明の中で、イスラエルのパレスチナ人民に対する「大量虐殺と民族浄化の戦争」と呼ぶものを非難すると同時に、この決議を歓迎している。
国境なき医師団の事務局長アヴリル・ブノワ氏は、「今日、世界の大多数がガザでのこの流血と苦しみの終結を要求するために団結した。米国は再びガザでの民間人に対する大虐殺の継続を容認する決定を行った」と、米バイデン政権を糾弾している。

<<バイデン「イスラエルは支持を失い始めている」>>
明らかにバイデン政権は、窮地に立たされている。イスラエル・ネタニヤフ政権のガザ大虐殺・ガザ地区のガレキ化、パレスチナ住民のエジプト・シナイ半島への追い出し作戦は、全世界からのますます増大する批判の前に孤立化し、何よりも、いくら隠しても隠し切れない230万人近い人的被害と見捨てられた女性と子どもたちの虐殺は、道徳的、政治的深淵・危機の深刻な現実をさらけ出している。これを無条件で支持し、加担してきたバイデン政権自身も、「ジェノサイド・ジョー!」として糾弾され、全世界から孤立化に追い込まれる事態である。

そして、政治的・経済的危機として、バイデン、ネタニヤフ両政権が終始追求してきた「ガザを地図から一掃する」こと、その成果として巨大なガザのすべての海洋沖合ガス埋蔵量を没収することが頓挫しかねないことである。イスラエルがあってこそ、このガス鉱床が当てにできる。バイデン氏は、それを、「もしイスラエルがなかったら、我々はイスラエルを発明しなければならなかったでしょう。」と発言している。

12/12、バイデン氏は、ワシントンD.C.での非公開の募金活動中選挙キャンペーンレセプションで、この発言を再び確認し、ネタニヤフ首相をあだ名のビビで呼び、「私たちはイスラエルの強力な支持者として、自分たちが何をしているのか、何が目標なのかについて正直でなければなりません。私たちは、ハマスに対して、イスラエルが自らを守り、任務を完了するために必要なものを提供することから、当面は手を引くつもりはない。何よりもまず、ハマスの責任を追及するために全力を尽くしてください。 彼らは動物です。」とまで発言している。なんと、イスラエル国防相の「人獣」とたたかっている、という発言と同類である! 「ジェノサイド・ジョー」を自己暴露している。

しかしバイデン氏は同時に、イスラエルがパレスチナ自治区ガザへの「無差別」の爆撃によって支持を失いつつあると述べ、ネタニヤフ首相は強硬路線の政権を変える必要があるとの認識を示さざるをえなくなったのである。バイデン氏はさらに、イスラエルの極右政治家、ベングビール国家治安相に特に言及し、イスラエル現政権は「史上最も保守的な政府だ」と指摘。「ネタニヤフ首相はこの政府を変えなければならない」と、ネタニヤフ政権再編にまで踏み込んでいる。しかし、バイデン氏自身も急速に「支持を失い始めている」ことには言及できない。
窮地に追い込まれたバイデン政権のあがき、とも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】米・イスラエル:ガザ虐殺の第二段階--経済危機論(125)

<<「子どもたちに対する戦争」>>
イスラエルのガザ攻撃再開によって、パレスチナ・ガザ地区は「停戦協定締結」前の段階よりもより一層過酷な、ジェノサイド・大虐殺の様相を濃くした「悪夢のような状況」をもたらしている。
 赤十字国際委員会のロバート・マルディーニ事務局長は、爆撃再開によりガザの人々は「停戦協定締結前の悪夢のような状況に逆戻り」し、以前よりもさらに何百万人もの人々が切実に支援を必要としている、食料、医薬品、きれいな水、そして衛生的な生活環境が皆無に近くなり、「人々は限界点にあり、病院も限界点にあり、ガザ地区全体が非常に不安定な状態にある」と語っている。
ガザ南部のカーンユニスに滞在中の国連国際児童緊急基金(ユニセフ)のジェームズ・エルダー報道官は、多くの人が避難している市内のナセル病院の近くまでが空爆されており、「ガザの人道状況は非常に危険であり、持続的な平和と大規模な緊急支援以外はガザの子どもたちにとって破滅を意味する」と警告し、ガザへの攻撃は「子どもたちに対する戦争」であると告発している。

この2か月弱の間に、イスラエルは子供6000人、女性4000人を含む少なくとも1万5000人以上を殺害し、約3万人が負傷し、6000人以上が行方不明1となり、その多くは瓦礫の下に埋もれている。 殺害された人の70%は女性と子供である。10万棟の建物を破壊・損傷し、170万人のパレスチナ人を南部へ避難させ、その南部まで爆撃し、ガザの医療施設のほとんどを破壊した。まさにジェノサイドそのものである。

 停戦・人質交換協定の過程で、ネタニヤフ政権内最右派から、イスラエル国防軍(IDF)は、「勢いを失っている」との繰り返しの苦情と首相罷免要求、さらには支持率急落の中で、ネタニヤフ首相は何が起こっても軍事行動を再開することをすでに決定していたのである。ガザへの攻撃を継続させると約束し、「地上攻撃の最も集中的な段階が2024年初頭まで続き、1年以上続く」、新たな段階の戦争準備を進めていることを請け合ったのである。

12/3に公開されたハマスの公式声明は、「私たちは、民間人捕虜交換作戦の後、侵略がガザに戻るだろうという情報を持っていました。ガザへの侵略が続く限り捕虜交換は行われない。私たちは解放の戦いの最中にあり、占領者は私たちの土地から立ち去らなければなりません。」と述べている。ハマス上級報道官オサマ・ハムダン氏は、「一時停戦の過去7日間、イスラエルは毎日、プロセス全体を弱体化させるような行動をとっていた」と語り、「解決策は停戦を結ぶことではない。本当の解決策は、この占領を終わらせる仕組みを見つけることである。」と強調している。

<<ガザの巨大なガス鉱床>>

ガザにおけるイスラエルの大量虐殺作戦の第1段階から、第2段階への移行は、停戦などとは全く無縁な、さらに高いレベルのパレスチナ住民の死、ガザ地区全体のガレキ化と占領をもたらす危険性を現実のものとしており、すでにイスラエル情報省は、漏洩した報告書の中で、ガザ地区住民をエジプトのシナイ半島へ強制移住するよう求めている。

11/30、イスラエルを訪問し、ネタニヤフ政権幹部らと会談したブリンケン米国務長官は、イスラエルに対し、ガザ地区の民間人保護に一層の努力をするよう求めたと伝えられている。しかし、イスラエル政府は、バイデン政権が表明した公的および私的な懸念を繰り返し無視しており、懸念への言及さえ拒否している。ブリンケン氏は、停戦の一時停止は「ハマスのせいで終わった。ハマスは約束を反故にした」というイスラエルの嘘・いつわりを支持し、この期に及んでも、米国が「自国を守るイスラエルとの強い団結」を繰り返している。その一方で、米国は「民間人を守るためにあらゆることを行っている」と主張しているが、ニューヨーク・タイムズ紙からは「しかし、彼はイスラエルによる具体的な約束には言及しなかった。」と皮肉られている。
 それどころか、膨大な数の民間人や子供の死者数にもかかわらず、米国はイスラエルに無条件の軍事援助を提供し続けている。 ホワイトハウスは、イスラエルがガザ地区で何千人もの罪のない人々を殺害していることを認めているが、米国の支援に影響を与える「越えてはならない一線」はないと述べた。

イスラエルのガザ大虐殺の共同正犯として、今や「ジェノサイド・ジョー」と怒りを込めて糾弾されるバイデン大統領は、自らの政治的延命をあきらめざるを得ない段階に追い込んでいる、とも言えよう。アメリカ国民と全世界が目撃してきたパレスチナ人虐殺の恐るべき残虐性、規模、アパルトヘイト政策を無条件に支持してきたバイデン氏は、1年を切った大統領選で最も頼りにすべき民主党支持層からでさえ見放されつつあり、18歳から40歳までの民主党員の実に70%が、イスラエル・ガザ「戦争」に対するバイデンの「対応」に「反対」であることが世論調査で明らかになっている。「この世論調査は驚くべきものだ。イスラエル・ハマス戦争がバイデンに与えている影響を考えると、驚くべきものだ」と報道される事態である。2020年にトランプ大統領ではなくバイデン氏のために懸命に働いた多くの活動家は、気候変動、人種的正義、ガザ虐殺、その他で、今やバイデン氏に対してほとんど熱意を持っていないのである。
さらに、ミシガン州、ミネソタ州、アリゾナ州、ウィスコンシン州、フロリダ州、ジョージア州、ネバダ州、ペンシルベニア州のイスラム系米国人の指導者らがミシガン州ディアボーンに集まり、「これら激戦州の指導者らは2024年の選挙でバイデン氏の敗北を保証するために協力する」#AbandonBidenと呼ぶキャンペーンを開始する予定を明らかにしている。アラブ系アメリカ人やイスラム系アメリカ人の怒りは、2020年に勝利した激戦州のほとんどでバイデン大統領の再選の見通しに直接的な悪影響を与える可能性がある、と指摘されている。

それでもなおバイデン氏は、イスラエルの無条件指示にこだわり続けるのか? それは民主党議員の大多数に膨大な政治資金支援を続けてきているイスラエルロビーの政治的経済的影響力、そして戦争利権と固く結びついたネオコン勢力とバイデン氏が切っても切れない関係にあること、
そしてさらにイスラエル・ガザ地区沿岸の巨大なガス鉱床の存在が、国際石油・エネルギー独占資本、金融資本にとって、BRICS諸国から

の追い上げ、中東での影響力の後退を跳ね返す機会到来、と手ぐすねを引いていることと無関係ではないであろう。
その巨大なガス鉱床は、1兆立方フィート(約3000億立方メートル)をはるかに超えており、世界のエネルギー供給分野で大きなプレーヤーとなる可能性を秘めており、ガザのパレスチナ住民を追い払うことがこのガス鉱床を略奪する決め手でもある。米・イスラエル両政権が結託する根底に横たわっているこの政治的経済的利害こそが、ガザ大虐殺をもたらしているとも言えよう。
すでにパレスチナ人は、「我々のガスは、我々の権利である」と宣言し、昨年9/13にはパレスチナと世界を結ぶ海路の建設を要求している。(Our Gas is Our Right Palestinians rally on Sept 13 2022)。(the Washington Post November 25, 2022

このようなバイデン・ネタニヤフ両政権のジェノサイド路線は世界から孤立しつつあるが、それをさらに破綻させることが要請されている。ガザ虐殺の第二段階への移行は、さらなる政治的経済的危機を深化させるであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】岸田軍拡に歯止めを

11月27日の参議院予算委員会で岸田総理は、円安が進行する中でも今後5年間の軍事費は43兆円とする考えを改めて示した。しかし初年度のレートを1ドル=137円、2年目以降は108円という想定を元にした予算は、1ドル=150円という現実の前に、約3割のロスが生じるとみられており、破綻することは明らかである。
そのため政府は、ミサイルや艦艇、航空機の取得を最優先として、なんとしても軍拡計画を維持・推進しようとしている。
2024年度の軍事費は概算要求段階で7兆7385億円という過去最大のものとなっている。その内訳は東シナ海、南西諸島を主戦場としつつ、中国本土攻撃も想定した兵器の開発に重点が置かれている。
なかでも最優先とされているのが「スタンド・オフ防衛能力」の取得、すなわち長距離、高速ミサイルの取得、開発であり、約7500億円が投じられる。
既存の地対艦誘導弾能力向上型の開発・取得などに624億円、島嶼防衛用高速滑空弾の開発に836億円、極超音速誘導弾の開発・製造態勢の拡充などに85億円、さらに新地対艦・地対地精密誘導弾の開発に320億円など、国産各種誘導弾の開発、装備化を進めようとしている。
これらは「南西諸島に侵攻する中国軍の空海戦力」を迎撃し、さらには中国の航空基地を破壊することを狙ったものである。
さらに政府は、これら兵器の戦力化までの対中武力衝突を想定し、10月の日米防衛相会談を踏まえ、巡航ミサイル「トマホーク」を25年度から前倒しで配備することを決定した。当初は、最新型の「ブロック5」を26年度から導入する計画であったが間に合わないため、旧型の「ブロック4」を先行配備するとしている。
次に約1兆3787億円という最も多額の経費が投じられるのが、陸海空各自衛隊の兵器購入である。陸自の各種戦闘車両を始め、海自の新型護衛艦、潜水艦、補給艦、さらに空自のF35などの取得、建造が予定されている。
これに加え2隻の「イージスシステム搭載艦」建造を核とする、「統合防空ミサイル防衛能力」に約1兆2713億円が当てられる。
このように今後経済情勢が見通せない中でも、岸田政権は計画の修正をしつつ軍拡を進めるものと考えられるが、求められるのは計画全体の見直しである。
近い将来の台湾有事、対中軍事衝突惹起という軍拡の前提こそ、改めなければならない。西南諸島の要塞化が進むなか、11月23日那覇市で開かれ約1万人が結集した県民平和大集会では、対話による信頼構築が強く訴えられた。
11月16日の日中首脳会談では「戦略的互恵関係」が確認され、26日の日中韓外相会談でも首脳会談の早期開催で一致したが、それらを形式的なものにとどまらせないためにも、沖縄に連帯し岸田政権に軍拡政策の転換を求めていかなければならないのである。(大阪O)

 

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【投稿】イスラエルの「核」とバイデン政権--経済危機論(124)

<<ガザへ核爆弾:一つの「選択肢」発言>>
この11月初旬までに、イスラエルのネタニヤフ政権は、パレスチナのガザ地区にすでに2万5000トンをはるかに超える大量の爆弾を投下しており、これだけですでに広島型核兵器・原爆2発分に相当すると言われる。
11/20現在、この空爆やミサイル発射で死亡したパレスチナ人はすでに1万3千人以上に達し、その半数以上が女性と子供である。爆撃対象は住宅街、市場、モスク、教会、病院、生活に不可欠なインフラ、救急車、民間輸送車等々、無差別で

ワシントン大行進1「ジェノサイド・ジョー!」

、今や動くものは何であれ爆撃し、ガザ地区の文字通りのガレキ化を進行させている。しかし、それでも戦況は長期化の様相を呈している。
ネタニヤフ政権は、このガザ地区の大量虐殺・ジェノサイドを米バイデン政権の強力な支援、無条件の支持の下に推し進めてはいるが、その非人道的で許しがたい実態が次々と明らかにされ、全世界的な孤立化が急速に進行し、米・イスラエル両政権の内部矛盾もどんどん拡大し、両政権とも危険なジレンマに立たされている。バイデン氏自身が、ホワイトハウス前の10万人の抗議デモで「ジェノサイド・ジョー!」と糾弾される事態である。

その中で飛び出したのが、核兵器使用も一つの「選択肢」だという、ネタニヤフ政権の閣僚アミチャイ・エリヤフ(Amichay Eliyahu)文化遺産大臣の発言であった。11/5、地元イスラエルメディアとのインタビューで、報復攻撃の規模に不満を表明し、さらに「人道支援など行うべきではない」、なぜなら、「ガザ地区にハマスに関わっていない者などいないからだ」と、大量虐殺・ジェノサイドを正当化し、司会者から、ガザに核兵器を使用して「皆殺し」にする手法を容認するのかと問われると、「それは選択肢のひとつだ」と述べたのであった。
この発言には世界中から非難が相次ぎ、もちろんアメリカも11/6、米国務省のパテル副報道官が、パレスチナ自治区ガザへの核攻撃を認めるようなイスラエル閣僚による発言は「全く容認できない」と強く非難している。とりわけ近隣のアラブ諸国は直ちに反応し、UAEの報道官は「このような発言は国際法違反であるだけでなく、戦争犯罪など国際人道法への重大な違反を扇動するものであり、大量虐殺の意図があるという重大な懸念を引き起こしている。」と述べ、ヨルダン政府もエリヤフ市の発言は「無視できない虐殺と憎悪犯罪の呼びかけ」であると主張する声明を発表、アラブ連盟事務総長アフメド・アブル・ゲイト氏は「イスラエルは核兵器を保有しているが、これは公然の秘密である(…)(大臣のコメントは)イスラエル人がパレスチナ人に対して抱いている人種差別的見解の真実を裏付けるものである(…)これが占領政府の本当の姿である。」と強硬な声明を発表している。

このエリヤフ氏の発言に驚いたネタニヤフ首相は、「現実とかけ離れている」と否定する声明を発表し、イスラエル国防軍は「無実の人々への危害を避けるため、国際法の最高基準に従って活動している」と強調、すぐさまエリヤフ氏を停職処分とした。続いて、イスラエルの国防長官ギャラント氏は、彼の発言を「根拠のない無責任な言葉」と非難したのであった。
しかし、当のエリヤフ氏は、「私の原爆に関する発言は、たとえ話だということが明らかだ」と釈明しつつも、それでも「テロに対する強力かつ不釣り合いな対応が間違いなく必要だ」と、あくまでも「強力な武力行使」を引き続き主張している。そして、ネタニヤフ氏自身も閣議でイスラエルを「核強国」と表現し、自ら「エネルギー強国」と訂正した経歴の持ち主である。

<<イスラエルの「核保有」の実態>>
それでもなぜ、ネタニヤフ首相が驚き、急いでエリヤフ氏を停職処分に付したのか、それは、自国が核武装していることをイスラエル当局者自身が公然と認めたことに直接につながるからである。言ってはいけないことを言ってしまったので、彼を黙らせようとしたにすぎないのである。
今日に至るまで、イスラエルは核兵器の所有を公然と認めたことは一度もなく、国際原子力機関の査察官がディモナにある秘密基地を訪問することを一貫して拒否してきたからでもある。イスラエルは事実上の核保有国でありながら、米国の庇護によって核拡散防止条約(NPT)に非加盟である。
それは、ネタニヤフ首相自身が何年も前によく言っていた、「我々は中東に最初に核兵器を持ち込まないという長年の政策を持っている」という発言が全くのでたらめで、「噓」であったことをあからさまにしてしまい、公然の秘密=「核保有」が公然化してしまえば、国連や国際原子力機関の査察を拒否できなくなるからである。
そして、それ以上に重大かつ決定的なのは、米国の膨大なイスラエルへの軍事援助は、核非保有が前提条件であり、核保有が公然化されれば、米側の予算措置、議会通過が不可能となるからである。
イスラエルが米国政府から毎年得ている金額は巨大である。イスラエルは米国から年間38億ドルを得ているが、バイデン大統領は今年さらにイスラエルに対し、従来の38億ドルに加えてさらに143億ドルを要求している。そしてイスラエルは武器輸入の80%以上を米国から調達しており、米国政府はボーイング、レイセオン、ノースロップ・グラマンなどの米国軍需企業に年間数百万ドルを超える補助金を提供して、軍産複合体を構築し、緊張激化政策と軍事挑発政策で、政治的経済的危機に対処しようとしているのである。

 ストックホルム国際平和研究所は現在、イスラエルの核兵器は80の兵器で構成されていると推定している(そのうち50は弾道ミサイルによる運搬用、30は航空機による運搬用)。イスラエルはまた、未知数の核砲弾や核破壊兵器を保有していると考えられている。実際の核兵器備蓄量は80発から300発と推定されており、後者の数とすれば、中国の保有量を上回っている。
さらにイスラエルでは、核生産施設を積極的に拡張する「大規模プロジェクト」が2021年に進行中であり、核爆弾で励起されるX線レーザー、流体力学、放射線輸送といった次世代兵器の集中研究にも取り組んでいるが、公の場で議論されたことはない。
この2021年には、バイデン大統領とイスラエルのナフタリ・ベネット首相が、ベネット大統領のホワイトハウス訪問中に、イスラエルの未申告の軍事核開発計画に関する米国とイスラエル間の戦略的理解を再確認、合意を更新(axios Sep 1, 2021 )している。

問題は、イスラエルがすでに核兵器の使用を検討しているかどうかに関係なく、実際には孤立し、行き詰まる戦況の打開を目指して、最も急進的なイスラエルのシオニスト過激派の側からこの核兵器使用「要求」が現れる可能性が非常に高いことを、エリヤフ発言が明らかにしたことである。
バイデン政権とイスラエル政権をさらに孤立化させ、即時停戦と緊張緩和に追い込む闘いが要請されている。
(生駒 敬)

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【映画評論】『福田村事件』

【映画評論】『福田村事件』

                         福井 杉本達也

関東大震災5日後の1923年9月6日、千葉県東葛飾郡福田村(現・野田市)三ツ堀の利根川で薬売り行商人15名が自警団に襲われ、香川県から来た薬行商人を襲い、幼児や妊婦を含む9人を殺害した。襲われた行商人は全員、被差別部落出身者であった。

9月1日に関東大震災が起こり、人々はパニック陥った。震災直後から「朝鮮人が井戸に毒薬を投げた」「朝鮮人が暴動を起こす」とのデマが流れ、政府は9月2日に戒厳令を出し、関東各県に命令して在郷軍人や青年団、消防団などによる自警団を結成した。彼らは猟銃や日本刀・竹やり等で武装して、「朝鮮人」と疑問を抱く人を次々と尋問し、多くの朝鮮人や、朝鮮人と疑われた人が犠牲になった。行商は部落産業の一つであり、多くの人々が行商に従事したが、行商人への偏見も強い時代であった。関東大震災100年映画「福田村事件」はこの史実を元に映画化したものである。

日本統治下の京城(現ソウル)で教師をしていた津田智一(井浦新)と妻の静子(田中麗奈)は、智一の故郷の福田村に戻る。程なくして関東大震災が起り……

2 映画における知識人の位置

知識人である智一にしても、妻の静子にしても、村長の田向龍一(豊原功補)・新聞記者の恩田楓(木竜麻生)にしても、朝鮮人差別や自警団の結成には批判的なように描かれている。時流に批判的ではあるが、積極的に止める勇気はなく、時流に流されるままに過ごしている。唯一の抵抗が静子に促された智一が虐殺を止めに入る。映画の終わりで、智一と静子が朝靄のかかった利根川の渡し船に乗り、あてどもなく漕ぎ出すが、これが、知識人への見方を総括しているといえる。映画には静子と渡し船の船頭・田中倉蔵(東出昌大)との関係やその倉蔵と戦争未亡人となった島村咲江(コウムアイ)との関係、井草マス(向井祐香)と舅の井草貞次(榎本明)の関係などが、副旋律をかなでている。もちろん行商人差別や朝鮮人差別を強調するだけでは重すぎる内容となり、映像の娯楽面をなくしてしまうが、果たして必要なストーリーなのか疑問の残るところである。

映画はもちろん現代人から見た100年前の知識人の解釈であり、傍観者であり、ニヒリスティックであるが、それが虐殺を止めることができなかったという反省(贖罪意識)でもあるが、その見方が正しいのかどうか。

3 プロパガンダにおける知識人の役割

映画においては朝鮮人虐殺のプロパガンダは政府・内務省から発せられた通知と、虐殺を煽る警察の活動によって、長谷川秀吉(水道橋博士)らの在郷軍人や青年団、消防団などの自警団が煽られ、虐殺に動員されていく。最初に行商団の団長・沼部新助(永山瑛太)を殺害し、虐殺の口火を切ったのは、夫が震災直後に朝鮮人に殺されたのではないかと信じる下条トミ(MIOKO)であるが、子供を背負った主婦がいきなり虐殺に加担するという描写には違和感がある。トルストイは『日露戦争論』において、「知識人が先頭に立って人々を誘導している。知識人は戦争の危険を冒さずに他人を扇動することのみに努め、不幸で愚かな兄弟、同胞を戦場に送り込んでいるのだ」と知識人を批判している(孫崎享『同盟は家臣ではない』2023.8.20)。福田村でも、政府・内務省からの通知や警察による画策の間に知識人による扇動があったのではないか。映画では記者の恩田が編集長の砂田伸次朗(ピエール瀧)を非難するシーンがあるが、新聞の見出しだけで民衆が行動を起こしたとは思われない。当時の民衆がいつも新聞を読んでいたとは思われない。政府⇒警察⇒新聞⇒と情報から遮断された民衆の間をつなぐ村の知識人の回路があったはずである。

4 水平社宣言について

自警団に捕まった行商団の6人が殺されようとしたときに、浄土真宗のお経が唱えられる。最初は『正信偈』だったものが途中で『水平社宣言』に変わる。水平社は1922年3月に創立された。福田村事件は1923年9月であるから、わずか1年半で宣言が全国に広がったはずはない。映画は娯楽性を持ったフィクションであり、必ずしも史実に忠実である必要はないが、行商団と被差別部落をどう表現するかを悩んだのであろう。しかし、抽象論に迷い込んだのではないか。

本来、人を虐殺するという行為は、相手を人間とみなしていないからできるものである。イスラエルによるガザのパレスチナ人虐殺を巡って、イスラエルのジャーナリスト:ギデオン・レヴィ氏は『差別の構造』という小論において、「米国からイスラエルに送りこまれてきたゴルダ・メイア女史(元首相1969−1974 )は言った。この忘れ難き女性は、『ホロコーストの後、ユダヤ人はやりたい放題やる権利を手にした』と言った。」とし、「イスラエル人が共に生きることを許したパレスチナ人を構造的に非人間化するものだ。もしも彼らが我々のような人間でなければ、人権は問題にならない」「ほぼ誰もパレスチナ人を自分と同じ人間として見ていない」「イスラエル人はパレスチナ人を動物のように扱う」「彼らは我々のような人間ではないという信仰だ。こうした犯罪行為により我々イスラエル人は平穏に生きることが許されるという信仰だ。何年も続いてきた犯罪行為で、あらゆる人間性を失ってきたのだ。人間性、価値観を」と書いている(2023.11.7)。水平社宣言を暗唱できるような集団が非人間的集団とはいえない。かなりの知識人集団である。実態は違うであろう。地元では食えないから行商に出たのである。差別によって読み書きもままならなかったであろう。非人間とみなされていたから虐殺されたのである。けして朝鮮人と間違われたからではない。朝鮮人も非人間とみなされていたのである。『非人間』を映像表現できるかどうかは課題である。

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【投稿】21世紀のホロコースト「ガザサイド」--経済危機論(123)

<<「ガザ抹殺」包囲作戦の現実>>
イスラエル・ネタニヤフ政権が推し進め、米バイデン政権が公然と無条件で支援する、パレスチナ・ガザ地区をがれき化し、エジプト・シナイ半島にパレスチナ住民を追いやる「ガザ抹殺」包囲作戦の現実は、21世紀のホロコースト・ジェノサイドGenocide=「ガザサイド」Gazacideであることを明瞭にしつつある。ナチスによる20世紀のホロコーストが、米・イスラエルによる21世紀のホロコースト「ガザサイド」として推し進められているのである。

 隠し切れぬガザ大虐殺の実相は、21世紀で最も大規模なものとなりつつある。イスラエルの無差別・焦土化大爆撃作戦によって、11/5現在、すでに9,770人以上のパレスチナ住民(実にその半数近くが子供である!)が虐殺されている。モスク、保健施設(120)、学校、集合住宅、スーパーマーケット、上下水処理場、発電所、病院、人々が寄り添い、生活する、不可欠なすべての場所、インフラが破壊され、救急車までもが「ハマスが使っているから」と標的として爆破され、ガザ地区は今や瓦礫と化そうとしている。これは、ナチスがワルシャワ・ゲットーやその他で反ファシズムの武力抵抗に直面したときに常用した戦術そのものの悪質極まりない再現でもある。

 避難を余儀なくされた140万人もの人々がガザ地区南部に押し込められ、ジャーナリスト(すでに26人)、医療従事者、教師、国連パレスチナ難民救済事業機関の国連職員までもが殺害され、60万人がホームレス状態で、その避難地域まで空爆される、およそ11万6000人の難民が登録しているジャバリア難民キャンプが2日連続で爆撃され(10/31)国連人権機構や難民インターナショナルのジェレミー・コニンダイク会長は10/31、ガザ最大の難民キャンプに対するイスラエルの攻撃は「明白な戦争犯罪だ」と告発している。こうした難民キャンプへの爆撃は10月7日以来すでに少なくとも6度にわたり、ガザは壁に囲まれた傷ついた人々の虐殺場、まさに21世紀のホロコーストの現場そのものと化そうとしている。

10/28、国連人権機構の幹部モクヒバー氏は、抗議の辞職声明の中で、「私たちの目の前で再びジェノサイドが展開されている」と主張、「これは大量虐殺の教科書的な事例」であり、アメリカ、イギリス、そしてヨーロッパの多くの国はジュネーブ条約に基づく条約上の義務を果たすことを拒否しているばかりか、イスラエルを武装させ、経済や情報の面でも支援し、イスラエルの残虐行為を政治的、外交的に援護していると厳しく批判している。

こんな許しがたいイスラエル・ネタニヤフ政権のジェノサイド政策を、米・バイデン政権は無条件で支援し、実際に軍事・経済・政治的に全面加担し、バイデン大統領自身が、ガザ地区の死者数について、そんなに多くの数ではないはずだと「疑問視」し(10/25)、「真実なのかわからない」、「確信は持てない」などと発言。あげくの果てに「罪のない人々が殺されているのは確かだが、戦争の代償である」とまで開き直っている。パレスチナのガザ保健省は、このバイデン氏の発言を受け、犠牲者の名前を記した212ページの報告書を公表し、バイデン氏は反論もできず、虐殺の実態を突き付けられているのである。このバイデン氏の「戦争の代償」発言そのものが、最も非人道的で、戦争犯罪人の発言であることを、全世界に発信してしまったものと言えよう。

11/3当日、ブリンケン米国務長官がイスラエル・ネタニヤフ首相と会談しているそのさなかでさえ、イスラエル軍は救急車、国連学校、避難途中の家族を標的に空爆を行い、数十人が死亡したことが明らかにされ、それでもブリンケン氏は「米国はイスラエルが自国を守る権利を断固として支持する」と宣言しているのである。

<<拡大する反バイデン・反ネタニヤフ>>
10/26、パレスチナ国連大使リヤド・マンスールRiyad Mansourが、力強く感動的なスピーチをして、涙を抑えることができなかったが、国連総会の国際代表団は鳴り止むことなく拍手を送り、一方、これに対抗したギラド・エルダンGilad Erdanイスラエル国連大使がスピーチをしたときには、拍手する人は誰一人として現われない、イスラエルがこれほど孤立したことはかつてなかった事態が現出している。10/7のハマス奇襲攻撃の当初、いくらかは存在した同情が、今やあからさまな軽蔑に変わってきたのである。

イスラエルを取り巻く、イスラエルとの関係改善を狙っていたアラブ諸国においても、イスラエル批判が日増しに高まり、エジプト外務省は「明白な国際法違反」の「残酷」な攻撃だと述べ、「曖昧にせず断固」批判するよう国際社会に呼びかけている。ヨルダン外務省は「人間的および道徳的な価値観と国際人道法に反する」と非難。カタール外務省は「無防備なパレスチナ人の新たな大虐殺」であり、カタールによるイスラエルとハマスの仲介を損なうと警告。サウジアラビア外務省は「民間人の密集する場所を繰り返し標的にすることを完全に拒絶する」と非難する事態である。

11/4、イスラエルにおいてさえ、ネタニヤフ政権の戦争政策に抗議し、

停戦を求めるデモが勃発し、若者たちが「即時停戦せよ!」と声を上げている。

そして、こうしたバイデン・ネタニヤフ両政権のガザ虐殺・抹殺作戦、それに追随するNATO・G7グループに対する抗議行動が、当のアメリカはもちろん、全世界に拡大している。すでに4週連続で、何百万人もの人々が、このガザ虐殺・抹殺作戦を「即刻停止せよ」と立ち上がっている。すでにアメリカでは、イラク侵攻に反対する2003年のデモ以来、米国で最大の戦争反対・抗議デモとなってきている。

11/4、バイデン氏の足元、ホワイトハウスで、実に10万人の大規模抗議デモ、「ワシントン大行進」が展開され、ホワイトハウス前は身動きできないほどの人々が集結、バイデン氏に対して「ジェノサイド・ジョー!」と連呼し、「バイデン バイデン、あなたは隠すことはできません、私たちはあなたを大量虐殺の罪で告発します!」 “Genocide Joe!” and “Biden Biden you can’t hide, we charge you with genocide!” と糾弾される事態である。主催者の一人、コードピンクのヌール・ジャガマ氏は、デモ参加者に「私たちは、人類に対するこのような忌まわしい壊滅的な攻撃に私たちを参加させた政府に対して激怒していることを政府に示す必要がある」と呼びかけ、バイデン大統領に対して「あなたはこうやって記憶されたいのですか?虐殺的で破壊的で戦

争屋ですか?恥ずべきことです!この群衆を見てください、明らかにアメリカ国民はあなたの意見に同意していません 」と糾弾している。

バイデン政権に同調し、抗議デモを禁止しているパリやベルリン、そしてロンドンでも大規模抗議デモが引き続きさらに拡大して展開され、全世界的規模で反バイデン・反ネタニヤフの抗議行動が相次ぐ事態である。

新たな段階、新たな虐殺を推進しつつある、21世紀のホロコースト・「ガザサイド」は、米・NATO・G7の政治的経済的危機の、最も悪質な表現であり、許されてはならない事態の出現である。
(生駒 敬)

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【投稿】中東での戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」の維持にある

【投稿】中東での戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」の維持にある

                            福井 杉本達也

1 長期金利5%超で、米国は金融危機へ

10月21日の日経新聞は「米長期金利、16年ぶり5%」という見出しで、「米長期金利が一段と上昇(債券価格は下落)している。指標となる10年物国債利回りは19日に一時5%台と、16年ぶりの高水準を付けた。上昇幅は直近3カ月で約1・3%に達する」と報道した。

海外のドルは、米国の経常収支(貿易収支+所得収支)の赤字として、海外に支払ったものである。米国は、40 年も経常収支の赤字が続いている。2022 年も2 兆ドルの赤字を垂れ流している。海外のドル残高は、430 兆ドル(4500 兆円)である。米国は30 兆ドルの利払い(5%なら1.5 兆ドル(225 兆円)/年)をしている。米国が対外負債(日本・中国・ドイツ・スイスの対外資産)の利払い(1.5 兆ドル/年)ができなくなったときが、ドルのデフォルト=「ドル暴落」である。国債の利払いの危機→通貨の暴落→インフレ→金利の高騰→国債の利払いの不能(国債の発行不能)となる。

米国債の時価=4800兆円で、ドル国債の含み損は、4800-3550=1250兆円となる。米銀の自己資本は、総資産の5%(=リスク資産の10%)=4000兆円×5%=200兆円しかないが、国債時価の下落で(1250 -200=)1050兆円の債務超過に陥った。米銀は、9兆ドルの国債+債券をもつFRBを先頭に、大手・中小の全銀行が実質破産状態。金融危機は避けられない状態にある(『ビジネス知識源』:2023.10.28)。

2 なぜこれまで「ドル暴落」とならなかったか

米国の経常収支の赤字で海外に流れたドルは、輸入代金決済で、米銀に還流してくる。この仕組みが、ドル基軸通貨体制である。一般的には、経常収支の赤字は、海外にその国の通貨の支払い超過を示すので、赤字国の通貨は下がって(=輸入物価は上がり)、経常収支の赤字は、⾧期間続けることはでない。金を裏付けにしない基軸通貨の発行国は、経常収支が赤字だと、その通貨が下がっていくので、ドル金利が上がっていくと海外が使う基軸通貨の維持は、できない。ところが赤字のドルは79 年も基軸通貨を続け、「ドルの暴落」はなかった。

第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。だが、ベトナム戦争により米国経済は大きく傾むいた米国はドルの金兌換を要求されても支払うべき金はなくなっていた。そこで、1971年のニクソンショックにより、金・ドル交換停止され、ドル紙幣は金という「貨幣としての貨幣」の裏付けのないただの紙切れとなった。金という錨がなくなれば、インフレーションによってその価値はどんどん下落し続ける。そこで米国は、産油国のリーダーのサウジと「『原油はドルで売る、代わりに米国は王家の体制の維持を米軍が守る』とするキッシンジャー・ヤマニ密約」をし、「信用通貨になったドルが、基軸通貨であることを続けた」。石油を持たなに非資源国は「産油国から原油を買わねばならない。その決済通貨はドルである。従って、世界はドル準備(外貨準備=ドル預金またはドル国債)をもたねばならない。これが世界に、赤字通貨のドル買いとドル貯蓄(外貨準備)を促してきた」・いわゆる『ペトロダラー・システム』である(「ビジネス知識源」:2023.7.17)。世界はこれを1971 年から52 年も是認してきた。

米ドルは、海外が貿易通貨として使い、米銀へのドル預金、MMF、ドル国債、ドル債券、ドル株として還流してくるので、「変動相場での貿易均衡(通貨下落)の原理」が働かない。米国はいくら赤字を続けても、ドルは下がらない。

3 超低金利の『異次元緩和』が米国財政を支え、円安をもたらす

短期金利0%、⾧期金利0.8~0.9%時(10月30日、一時0・890%まで上昇)と低いので、1 ドル≒150 円の、超円安となっている。ドルの金利は5%であり、ドル安というリスクをとっても、3%はドルの金利が高い。このため、円が売られ、円安となっている。

2021年から中国が米国債を売るように変わった。そこで、日本はドル買いを一手に引き受けることとなっている。日本からのドル買い・ドル国債買い(=円安)が、米国金融を支えている(「ビジネス知識源」同上)。もし、ここで日本が金利を上げ、米国並みの金利にすれば、米国債を買うものがいなくなり、米国債は暴落する。そのようにさせないことが米国からの属国=岸田内閣への恫喝である。岸田内閣は円安を続けることによって、日本経済=日本国家の全てを米国に売り渡し続けている。日本で設備投資に回されるはずの金融資産を米国債の購入=米国の戦争経済体制につぎ込み続けている。これでは、経済が回復するはずはない。失われた30年が40年になるだけである。これが「新しい資本主義」の中身の全てである。

1996年から2008年(18年間)は、金融危機円安。2012年から2020年(8年間)は、アベノミクス円安。、黒田日銀の「異次元緩和」で2012年からは100→60 …40%円安となった。一方、この間にドルは2012年100→ 130 …30%ドル高となった。2021年からの3年は、コロナで大量の紙幣を供給したコロナ円安である(「ビジネス知識源」同上)。

4 中国は米国債売り

10月29日の日経新聞の一面トップは「中国が米国債の保有を減らし続けている。 8月末の残高は14年ぶりの低水準となり、足元では減少ペースが速まっている。米金利上昇(債券価格は下落)の一因」と見られると書く。「中国の米国債保有減が止まらなければ、金利上昇圧力として意識され続ける。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策も影響を及ぼしかねない」。

1990年代の中国の人民元は、通貨の信用がなかった。通貨が外貨と交換できないと、貿易はできない。1994年から開放経済の輸出入のため、人民元をドルペッグにして、人民元の通貨の信用を確保した。その後、中国経済は飛躍的な成⾧をして貿易は増え、ドル買いで、日本とドイツを抜き1 位になった。中国も貿易黒字を米銀に還流した(『ビジネス知識源』同上)。

その中国が米国債を売り始めた。原因を作ったのは、米国である。ロシアへのウクライナ侵攻に対抗して、ドル決済システムであるSWIFT(電子銀行清算システム)から排除、ロシアの資産を凍結し、G7諸国やEU諸国による原油や天然ガスの禁輸などの経済制裁を行って、ロシアを破綻させようとした。ドルを海外に持つことは危険である。万が一の時に資産を凍結される恐れがある。中国やグローバルサウスの国々は、米国に逆らえば、次は自分たちの番だ、という結論に達した。そこで、中国は急いで米国債を売り始めている。中国がドル離れを起こしているのは米国の自業自得である。

5 BRICS通貨の構想

ドルは紙に印刷するだけで、他国の経済を犠牲にして利益を得るフリーランチである。他のすべての通貨に対し不当に過大評価されている。グローバルサウスはドルを稼ぐために一生懸命働かなければならない。こうした不当な状況からぬけだすために、BRICSは国際収支の黒字化に伴い、より多くのドルを得る代わりに、金を購入し、お互いの通貨を購入している。米ドルの需要は減少しているが、米国の貿易赤字と財政赤字のために供給は増加している。財務省証券を購入させなければならないが、もし、それが不可能な場合、彼らは軍事費の国際収支コストを支払うことはできなくなる。ウクライナやパレスチナ・中東どころの騒ぎではない。

BRICS通貨の構想は通貨バスケットで金・コモディティペッグ通貨で、金・コモディティのバスケット(加重平均の価格)が上がると、通貨も上がる。加盟国にとっては、国際貿易商品(原油、資源、穀物、食肉)が上がるインフレはなくなる(「ビジネス知識源」10.28)。

6 中東の戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」を守ること

中東地域の戦争は、全て「ドル基軸通貨体制」を守ることである。今回のイスラエル・ハマス戦争もその例外ではない。既にサウジはOPECプラスでロシアと共同して、原油の価格を決め始めている。これまでドル体制を支えていた1974年以来の「ペトロダラー」システムは崩壊しつつある。また、中国とも原油の人民元取引を始めた。サウジが原油をBRICS通貨で売れば、他の産油国も全部、ドルでなくBRICS通貨で売ることになる。「ペトロダラー」システムが崩壊すれば、金の裏付けもコモディティである原油の裏付けもないドルはタダの紙切れになる。この動きを阻止するため、米国は必死で中東に介入しようとしている。今回もネタニヤフを動かして、中東大戦争を引き起こし、サウジを恫喝するつもりであったが、サウジ外務省は声明でイスラエルを名指し、アル・アハリ病院爆撃を「凶悪な犯罪だ」と非難した。米国の計画は完全に裏目に出た。ドルを買い支えるのは日本以外になくなった。タダの紙と化す米ドルにイスラエルの戦争を支え続けるだけの信用はない。最後はネタニヤフの首を挿げ替える以外にない。ドルの信用がなくなっているからこそ、米長期金利は16年ぶり5%台に上昇しているのである。「ドル暴落」は避けられない。

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