【投稿】新型コロナウイルス感染対策失敗と「大阪市廃止」の住民投票での再否決
福井 杉本達也
1 大阪市廃止の2回目の住民投票も否決
⼤阪市廃⽌の是⾮を問う2回目の住⺠投票が11月1⽇に⾏われたが、「反対」多数で⼤阪市の存続が決まった。そもそも、2015年の住民投票で否決された案件を2度も住民投票にかけるのは住民無視も甚だしいが、大阪維新の会が2010年の結党時から掲げてきた、⼤阪市をつぶし、権限も財源も「府」に吸い上げ、道州制という国家による地方自治の圧殺と、土地や財産を外資や民間に叩き売り新自由主義の草刈り場をつくろうとした「大阪都構想」は頓挫し、維新代表の松井一郎大阪市長は23年4月の市長任期満了での政界引退を表明した。
前回投票では反対に回った公明党を抱き込み、また、NHK、朝日放送、関西テレビ、読売テレビ、テレビ大阪、朝日新聞、産経新聞、読売新聞、日経新聞などほとんどの在阪メディア(距離を置いたのは、毎日新聞、毎日放送くらい)からべったりの支援を受け、吉本興業の芸人なども総動員した。吉村洋文大阪府知事は、新型コロナウイルス対応では「大阪モデル」なる呼称を創出して連日テレビ出演、「最も評価する政治家」の第1位に躍り出でた。また、9月には「自助」ありきの新自由主義政策を推し進めようという、維新・松井市長と蜜月関係にある菅義偉政権も誕生し、住民投票は「賛成多数は確実」と予想されたが、まさかの敗北となった。
1日深夜の会見で、松井市長は「制度が変わることへの不安を解消するには、僕の説得力が不足していた」と敗戦の弁を述べたが、そうではあるまい。高千穂大学の五野井郁夫氏はtwitterで「大阪市民の反対派は当初から物量ともに劣勢だった中、草の根運動を展開して他の市民に熟慮し、熟慮した人々は合理的投票を行った。そして再び反対の民意が上回った。今回の逆転劇は再び民主主義を信じるに値する制度だと教えてくれた」(五野井郁夫 2020.11.2)と評価した。草の根の市民の活動の結果であり、反対多数は票差以上に重みがある。
2 じわじわ増える大阪の新型コロナウイルス感染
大阪府では新型コロナウイルスの感染者が増加傾向にある。11月1日発表では東京都の116人を上回る123人と全国最多となった(東京都は土日は極端に検査能力落ちるという要因もあるが)。「堺市の『泉北陣内病院』では患者11⼈の感染が新たに判明。22⽇までの感染者は計69⼈となった。また、亡くなった80代男性は、クラスターが⽣じた東⼤阪市の『市⽴東⼤阪医療センター』の患者」(サンスポ:2020.10.22)。「松原市の⾼齢者施設では、クラスターが発⽣」(関西テレビ:2020.10.29)、「大阪市北区の加納総合病院で同じ病棟の患者3人と職員6人、門真市立中学校で生徒ら7人の感染が判明」(秋田魁新報:2020.10.31)などと連日クラスター発生の報道をしている。
児玉龍彦東大先端研教授は、感染症対策の基本は感染者がどこに集まっているかを把握し、感染集積地と非集積地を分ける。さらに、非感染者の中で感染したら危険な人を選り分けることだとし、検査、診断、陽性者の追跡を精密に行う。包括的かつ網羅的な検査体制をつくり、感染実態を正確に把握することである。感染集積地を網羅的に把握し、学校や会社、病院、高齢者施設などの集積地でのPCR検査を徹底することだとしている。
春の第一波下で、橋下徹元大阪市長は3月まで、本人がPCR検査を受けるまではPCR検査不要論を唱えていた。大阪市では4月中旬、相談から検査までに最長10 日間かかっていた。当時、府内では、大阪健康安全基盤研究所(大阪市)や医療機関などで1日当たり計約 420件の検査能力しかなかった(時事:2020.5.4)。ちなみに、人口76万人しかいない福井県でも3台の機器を所有し、1日最大196件の検査が可能であり、明らかに大阪府の検査能力は不足していた。5月に、吉村知事は「大阪モデル」を打ち出したが、大阪市内では、「なみはやリハビリテーション病院」(生野区)での130人感染、「大阪府済生会泉尾(いずお)病院」(大正区)での14人の感染(産経:2020.5.3)、天王寺区の「第二大阪警察病院」など、府内でも吹田市の「大和病院」、「市立ひらかた病院」、「明治橋病院」(松原市)など院内感染が多発した。「医療崩壊」が起きていた。
ところが、これへの対応は、松井市長の公衆衛生における自治体の役割を放棄した「雨がっぱ」であり、吉村知事の非科学的な「イソジン」(ポビドンヨード入りうがい薬)会見であった。吉村知事は「検査数だけが注⽬されることには 『(PCR検査は)命を守るためにやってま す。“数”も⼤事ですけど、誰がどこで早くやれる かが⼤事。命を考えた検査を』」(デイリースポーツ:2020.8.6)と記者取材で答えていたが、8月の時点でも「医療目的検査」と「社会的検査」の違いを理解していないことは明らかであった。島田悠一コロンビア大学医学部助教授が指摘するように、PCR検査の目的には、治療方針などを決めるための個人に対する検査と、どういった政策を打ち出すべきかなどの集団に対する検査があるとし、PCR検査に基づいて集団としての戦略を決定するためには多くの検査数が必要で、数が多くなればそれだけ正確なデータに基づいた政策決定ができるとしている。こうした、非科学的なパフォーマンスだけの愚策と新型コロナウイルスの検査に対する“敵意”が、新型コロナウイルスをしっかり抑え込めず、秋以降の第二波の状況を招いたといえる。
仁坂和歌山県知事や大村愛知県知事などは国の“指導”に従わず、徹底したPCR検査を行った。和歌山県知事は「早期発見し重症化させないことが大事。『医者にかかるな』というのはおかしい、従わない」共同:2020.2.28)と国の指導に抵抗し、徹底した検査を行い医療崩壊を食い止めた。また、愛知県の大村知事は「病院に入れない、救急を断るのは医療崩壊で東京と大阪で起きた。医療崩壊を起こしたら行政としては負け。何を言いつくろっても結果だ」と批判した(朝日:2020.5.27)。住民は知事や政令市長の“能力”によっては殺されかねないことを肌で感じとった。 続きを読む →