【投稿】核戦争リスク増大を主導するG7--経済危機論(109)

<<核兵器の使用権さえ強調>>
5/19、被爆地・広島で開催中のG7サミットは、「核軍縮に関するG7首脳の広島ビジョン」(G7 Leaders’ Hiroshima Vision on Nuclear Disarmament May 19, 2023 Hiroshima)という共同声明を発表。その声明の冒頭で、「我々G7の首脳は、1945 年の原爆投下により広島・長崎の人々が経験した未曾有の破壊と甚大な人的被害を、長崎とともに思い起こさせる歴史的な節目に、広島で会合した。厳粛かつ内省的な瞬間に、我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの最初のG7首脳文書において、すべての人のための安全保障が損なわれない核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認した。」と述べながら、「核兵器のない世界の実現」ではなく、「我々の安全保障政策は、核兵器が存在する限り、防衛的な目的を果たし、侵略を抑止し、戦争と強制を防止すべきであるという理解に基づくものである。」と、逆にG7参加の米・英・仏が保有する核兵器の合理化を公然と前面に打ち出し、核兵器の使用権をさえ強調するものとなっている。

G7広島サミット、核軍縮の進展に失敗

ICAN・核兵器廃絶国際キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)は、直ちにこの声明に対し、「G7広島サミット、核軍縮の進展に失敗」と題して、厳しい批判を公表している

・ これは核軍縮のための有意義な成果を提供するには程遠いものである。
・ 「核兵器のない世界」を実現するという目標に向けた具体的な対策を提示できず、逆に核兵器の使用権を保持することの重要性まで強調している。
・ G7は、何十年も前の不十分な取り組みを新しい「ビジョン」として売り込もうとしており、同時に、彼ら自身が核リスクの増大に加担している。
・ G7の無策は被爆者と広島で亡くなった人々の記憶に対する侮辱である。
・ 声明は、何よりも、核兵器廃絶のための真の行動を求める被爆者の要求に応えていない。

<<「これはG7の責任逃れだ」>>
ICANのダニエル・ホグスタ事務局長は、このG7の声明に対して、「これは機会を逸した以上のことだ。広島と長崎に原爆が投下されて以来、初めて核兵器が使用されるかもしれないという深刻なリスクに世界が直面している今、これはグローバル・リーダーシップの重大な失敗である。ロシアや中国を指弾するだけでは不十分である。核兵器のない世界という公言する目標を達成するためには、核兵器の保有、使用を是認するG7諸国が、他の核保有国を巻き込んで軍縮協議に乗り出す必要がある」と強調している。

 被爆者で広島県被爆者団体連絡協議会事務局長の田中聡氏は、被爆者、ICAN、日本のNGOネットワークとの共同記者会見で次のように述べている。
「これは、被爆者が求めている真の核軍縮ではありません。これは彼らの責任逃れです。岸田首相は「核兵器禁止条約は核兵器のない世界を実現するための最終的な道筋だ」と述べている。いや、最終通過点ではない。入口なのです。岸田総理をはじめとするG7首脳は、核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons TPNW)を受け入れ、核兵器廃絶のための真のプロセスを開始すべきなのです。」
 被爆者であり活動家の佐久間邦彦氏は、 G7Hiroshimaの指導者たちに「人道的影響について学んだことを自国民と共有するよう求めています。今回の広島訪問を核兵器の継続保有を正当化するために利用しないでください。」と述べている。

5/20、フランスの空軍機で広島に到着したウクライナのゼレンスキー大統領は「日本。G7。ウクライナのパートナーや友人との重要な会合がある。私たちの勝利のための、安全保障や強化された協調だ。」とツィート。岸田首相が3月にゼレンスキー氏へ贈った「必勝しゃもじ」に応えたものでもあろう。
同じ日、米ホワイトハウスは、欧州の同盟国などが米国製のF16戦闘機をウクライナに提供することを認める方針を決めたことを発表。
ロシアのグルシコ外務次官は、「彼ら自身にとって大きなリスクを伴う」と米欧の動きを牽制、西側諸国が「エスカレーションのシナリオに固執している」と批判。「我々は目的を達成するために必要な全ての手段を有している」と応じている。
G7サミットでは、ウクライナ危機の平和的解決、外交交渉、緊張緩和政策は、一切提起されていない。あるのは対ロシア・対中国への挑発と制裁、比重が低下し、経済的政治的危機、脱ドル経済圏の台頭、制裁政策のブーメランにあせりながら、さらなる制裁の強化しか打ち出すことができない、次元の低さである。

いよいよ危険極まりない、第三次世界大戦への挑発、核戦争への危機が動き出そうとしている。G7広島サミットが、その危険な跳躍台として、歴史を画するものとなろうとしている。戦争と平和をめぐる闘いが、一層の重大な段階にさしかかっている。
(生駒 敬)

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【書評】吉野実『「廃炉」という幻想──福島第一原発、本当の物語』

【書評】吉野実『「廃炉」という幻想──福島第一原発、本当の物語』
(2022年2月刊、光文社文庫、1100円+税)


福島第一原発(1F)の事故から10年以上、未だに解決の途が見えていない最中に、原発再稼働の動きが進んでいる。しかしこの事故には未だ解決困難な課題が山積していることを今一度知らしめる書である。

 例えば、現在焦点を集めているが、約129万トンの汚染水を処理した水、いわゆる「処理水」の海洋放出問題である。これは地下水・雨水が原子炉建屋に入ってデブリ(溶け落ちた燃料)に触れたり、デブリで汚染した汚水に混ざることで発生した。この汚染水は、アルプス(ALPS:多核種除去設備)で放射性核種63種を取り除く。しかし1核種(トリチウム)だけは取り除けない。これを溜め込んだ「処理水」のタンクが129万トン=およそ1000基のタンクになっていて第一原発の敷地が間もなく満杯になる。そこで海洋放出という案が出てきた。本書ではこれについて、トリチウムのみの分離は微量なだけに技術的に困難であるので、「おそらく、国の基準を大幅に下回る形で海に捨てるのが、現在の科学技術で許された、精いっぱいの解決方法だろう」と示唆するが、同時に、いつまでも希釈した処理水を放出し続けるのもどうかとして、「国と東電は、放出とセットで、汚染水発生を抑制する新たな方策を考えるべきだと思う」とも述べる。
 しかしここでもう一つ重要なのは、建屋汚染水は「セシウムやストロンチウムを吸着する」(前処理)、アルプスを通して63核種を取り除く(後処理)ということで処理されるが、そのいずれのプロセスにおいても沈殿物や吸着材がゴミ(スラリー【上澄み】・スラッジ【沈殿物】)として出るということである。つまり「汚染水は浄化されるが、放射性物質はなくならない。スラリー・スラッジなどの形で溜まっていくのである」。
 このスラリー・スラッジは、HIC(ヒック:高性能ポリエチレン容器)という円筒形の容器(大きいもので直径1.52m、高さ1.85m)に収められている。2021年現在約3000個であり、当然のことながら増え続けている。そして容器の下部にゴミが沈殿、ヒック底部の密度が上がり、線量が高まっていて、積算吸収線量が容器の破損限界に達している可能性があるという。そこでこれの移し替えが差し迫っている。しかし東電にはその危機意識が希薄ではないかと問う。というのも2021年10月、東電による移し替えの「試行」的な作業報告では、作業員がヒックの蓋を開け、デカい管のような装置を突っ込み、管に連結している別の管を空の容器に突っ込んでスラリー・スラッジを吸い上げて移すというのであるが、これは人の手なくしては成り立たない作業であるし、危険極まりない作業であることは言うまでもない。この作業では線量は跳ね上がり高線量警報が鳴りっぱなしという可能性がある。この点を指摘されたが、東電は高線量から作業員を守る手立てを回答できなかった。
 そしてこれよりも更に深刻なのが廃炉の問題である。廃炉費用は8兆円と試算されている。そして廃炉で出る放射性廃棄物は、線量が高い順に、①使用済み燃料を再処理する過程で出た高レベル放射性廃液などをガラス固化した「ガラス固化体」、②原発の原子炉内にある『制御棒」や炉内の構造物、③廃液、ポンプ、配管など、④ほとんど放射化していないコンクリートなどに分類される。しかしいずれも人間にとって高い放射性廃棄物であり、安全な管理に数100年~10万年要する。「低レベル廃棄物」などという言葉のあやで誤魔化されるものではない。
 しかもこれは「通常炉」での廃棄物の話であり、1Fは「事故炉」であることを忘れてはならない。「炉心融解してしまったため、燃料体は制御棒を巻き込んだ熱い塊となり、圧力容器の底を突き抜け、ペデスタルに設置されている金属性の足場を溶かしてさらに落下し、格納容器底部でコンクリート構造物とも混ざり合って固まっているものとみられる」。原子力学会のリポートでは、1~6号機の廃炉を含めた過程で今後発生する1Fの廃棄物量を約780万トンと見積もっているが、そのほとんどが「高レベル」廃棄物とみて間違いはないであろう。さらに「たとえデブリを取り出せたとしても、原子炉や建屋の解体ができたとしても、一体どこでどのように処分するというのだろうか。しかも、肝心なことは、8兆円と試算されている『廃炉費用』には、廃棄物の処理費用は含まれて『いない』。つまり、本当に更地化を目指すのであれば、処理費用は8兆円では全く足りないのである」と指摘される。
 このように1Fの廃炉に至る道筋は技術的、財政的、場所的に困難を極めている。その上に1Fには、今後起こり得る同程度もしくはそれ以上の地震に耐えられる対策が要請されているが心もとないと本書は語る。そんな中、再稼働を目指す東電・柏崎刈羽原発において重大な「核物質防護規定」違反──職員が他人のIDカードを使って中央制御室に入室、また原発敷地境界の侵入検知センサー故障の放置──が発覚した。この結果柏崎刈羽原発は再稼働どころか、事実上の「運転禁止命令」を受けることとなった。何ともはや、「そもそも東電って何なんだ?」という言葉すら原子力規制委員会では出た。
 この他本書には、東電の破綻した賠償スキーム問題、指定廃棄物──1F事故で拡散した放射性物質(焼却した後の焼却灰、下水処理した際の汚泥、稲わらやたい肥などの農業系副産物など10都県で発生した)──の管理・処理問題が取り上げられている。いずれも簡単に処理できるものではなく、今後も尾を引く問題である。
 八方塞がりの状況にもかかわらず必要な情報を出さず、言葉の言い換えで辻褄合わせをする国・東電の姿勢こそが批判されねばならないが、本書は最後に、「エネ庁と東電は『30年で廃炉』などといつまでも言い続けるのではなく、地元住民に十分な情報を開示しつつ、廃炉が長期化することから素直に認め、誠実に説明していくべきだと考える」として、「真実の開示」と議論を訴える。何とも重苦しい超長期的課題であるが、現実的な方策を探るために一石を投じた書であると言えよう。(R)

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【投稿】米銀行危機:止まらぬ連鎖--経済危機論(108)

<<「どうしてこのレベルの無能が可能なのか」>>
5/3、米中央銀行・連邦制度準備理事会(FRB)パウエル議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)の決定として、22年3月以来、10会合連続の利上げ、0・25%引き上げで政策金利の誘導目標は5~5・25%になることを明らかにした。
 その際、同議長は、「依然としてインフレ率が高すぎる」、「利上げサイクルが終わったと考えるのは早すぎる」としながら、だが次回6月会合では利上げを停止する可能性を示唆し、なおかつ、米経済についてはなお「ソフトランディング(軟着陸)に期待している」、「リセッション(景気後退)に陥るよりもリセッションを回避する可能性が高い」と表明しながら、「リセッションを排除するつもりはない」と述べ、「緩やかなリセッションの可能性はある」と、景気後退を認めざるを得ない自らの動揺をそのままさらけ出す記者会見となった。
 その動揺の最大の原因となっている銀行危機について、パウエル氏は、米国の銀行システムは「健全で回復力がある」と、何の皮肉も込めずに述べたのであったが、直近5/1に、3月のシリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行(SB)、シルバーゲート(SGB)の連鎖的な破綻に続いて、次なる標的となったファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank)の破綻、JPモルガンによる買収が発表されたばかりである。この経緯のどこに「健全」さがあるというのか。結果としてパウエル氏は「米国民に公然と嘘をついた」と非難される事態を招いているのである。
この会見の1日前、5/2のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株平均が一時、前日より600ドル超も下落、米銀最大手JPモルガン・チェースによるファースト・リパブリック買収が決まったにもかかわらず、預金流出不安は収まらず、地方銀行株価は軒並み大きく下落し、地方銀行の株価指数は2008年以来最大の下落を記録していたのである。FRBの連続利上げによる含み損の拡大が追い打ちをかけているのである。
さらに問題は、この会見のちょうど2時間前、カリフォルニア州のさらに別の最大の銀行が危機に瀕していたのである。そして会見終了直後、ブルームバーグは、カリフォルニアに本拠を置くパックウェストバンコープ(PacWest Bancorp. )が売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討していると報じたのであった。パウエル議長は、このパックウェストバンコープが危機に瀕していることに気づいていない、あるいは報告がない、把握していなかったのか。しかしこの銀行はすでに株価が60%以上急落していたのである。どうしてこのレベルの認識の低さ、対処の無能さが可能なのか、と問われているわけである。よくもぬけぬけと米国の銀行システムは「健全で回復力がある」と語ったものである。しかし、こうした発言は、バイデン大統領、イエレン財務長官も同罪で、臆面もなく同様の発言を繰り返している。

銀行システムは健全ではないどころか、いつ倒れて

市場全体が大混乱、地方銀行は大暴落

もおかしくない脆弱さを露呈しだしたのである。中小規模の銀行にとどまらず、チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)やその他の大手銀行も破産する可能性が指摘され出している。事実上の破産に近い可能性のある銀行として、ハワイ銀行(Bank of Hawaii)とプエルトリコ人民銀行 (BPPR) 、フェニックスに拠点を置くウェスタン・アライアンス(Western Alliance Bancorp)が挙げられている。ハワイ銀行、BPPR、チャールズ シュワブの 3 つの銀行はすべて、先月で時価総額の 3 分の 1 から 2 分の 1 を失っている。
株価が年初から大幅に下落し、空売りの対象となっている他の銀行には、コメリカ、ザイオンズバンク、リパブリックファーストバンコープが挙げられており、これらの株は年初来で 45 ~ 60% 下落している。ハワイ銀行、BPPR、チャールズシュワブの 3 つの銀行はすべて、先月で時価総額の 3 分の 1 から 2 分の 1 を失っている事態である。

<<「利益を民営化し、損失を社会化する」>>
5/1のファースト・リパブリック銀行の破綻は、米国史上2番目の大きな銀行破綻であった(1番目は、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻、3番目は、今年/310のシリコンバレー銀行の破綻)。
すでにこの時点で、今年、2023年の金融危機は、2008年の金融危機よりも公式に危機が拡大していることが明らかになっている。この2023年に破綻した3つの銀行は、2008年に破綻した25の銀行すべてよりも多くの資産を保有していたのである。この3つの銀行の合計資産は 5,320 億ドルになり、2008年に破綻したすべての米国の銀行が保有する 5,260 億ドルをすでに超えていたのである。
2008年の金融危機の際、JPモルガン・チェースがワシントン・ミューチュアル(WaMu )を買収した時点で、WaMuは米国史上最大の銀行破綻であった。今回、JPモルガン・チェースはまたもや、米国史上2番目に大きな銀行破綻であるファースト・リパブリック・バンクの買収を許可されたわけである。エリザベス・ウォレン上院議員が指摘する通り

、「監督不行き届きの銀行が、さらに大きな銀行に買収され、最終的には納税者が負担することになる」のである。
問題は、JPモルガン・チェースがファースト・リパブリック銀行を買収する取引の際、連邦預金保険公社(FDIC)は、JPモルガンが取得している住宅ローンと商業ローンの損失のほとんどを吸収することに同意し、500 億ドルの与信枠も提供、FDICがこの取引で約130億ドルの損失引き受けていることである。FDIC は、一戸建て住宅ローンの損失の 80%を7年間カバーし、商業用不動産 (CRE) ローンを含む商業ローンの損失の 80% を5年間カバーするのである。これぞ、まさにFDIC・マッカーナン理事が「わが国の救済文化」への嘆きとして語った「利益を民営化し、損失を社会化する」典型である。

愛国者か、犯罪組織のボスか

JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、買収発表後の声明で、「わが政府はわれわれと他の人々にステップアップを呼びかけた。われわれはそうした」と述べ、バイデン政権の働きかけに応えたもので、「自分は愛国者だ」とまで発言、JPモルガンはニュースリリースで、「(この取引は)わが社全体に適度な利益をもたらす」と胸を張っている。
JPモルガンによると、この買収には次のようなメリットがあるという。
・2023 年に 26 億ドルの一時的な「バーゲン購入利益」。
・年間純利益の増加は「5億ドル以上」。
・20% を超える「IRR」 (内部収益率) を生み出す。
・JPMの米国資産戦略における「成長イニシアチブの加速」。
・「米国の富裕層のクライアントへの浸透率の向上
・「裕福な市場に一等地を追加」(サンフランシスコのベイエリア、ロサンゼルス、ポートランド、シアトル、ニューヨーク市、ボストン、ジャクソン(ワイオミング州)など)…
・「一株当たりの有形の帳簿価額を増加させる。
JPモルガンは、こうしてファースト・リパブリック「救済」劇を演じながら、実は同行をむさぼり食ったのだと言えよう。
しかし皮肉なことに、この「救済」劇を発表した5/1、JPモルガン・チェースが規制当局によって米国で最もリスクの高い銀行としてランク付けされていることが明らかにされている。金融資本の寡占支配のリスクである。

ここで問題なのは、2022年12月31日現在で、JPモルガン・チェースは国内オフィスに2兆1,000 億ドル、海外オフィスに4,260億ドルの預金を保有しており、合計で2兆4,000億ドル、米国内の総預金の 11.36% を保有しており、上限の 10% をはるかに超えており、さらに別の銀行を買収する資格などあってはならないことなのである。
しかもこの買収は、2021年7月9日のバイデン大統領の大統領令に反するものでもある。バイデン大統領は、「過度の市場支配力から守り」、反トラスト法を施行すると約束し、「アメリカ人が金融機関の中から選択できるようにし、過剰な市場支配力から守るために、司法長官は、連邦準備制度理事会の議長、連邦預金保険公社の理事会の議長と協議しておよび通貨監督官は、銀行合併法および 1956 年銀行持株会社法に基づく合併監視の活性化のために、この命令の日から 180 日以内に現在の慣行を見直し、計画を採用することが奨励されます。」としていたことから、大きく背反していることが明らかなのである。明らかな、バイデン政権の自らの大統領令に対する裏切り行為なのである。
しかも、JPモルガン・チェースが競合他社を食い物にしてきた歴史は誰もが知ることであり、市場を不正操作し、マネーロンダリングを行い、5 つの重罪を認めてきた悪名高き、巨大金融独占資本なのである。バイデン政権にとって、この事態は、実は、裏切りではなくて、結託なのであろう。

バイデン政権はこんな事態に触れられたくないのであろう、ウクライナ危機、対ロシア・対中国緊張激化策動、世界大戦化に懸命である。金融危機打開への根本的な反独占・ニューディール政策への転換とともに、一刻も早く、即時停戦、緊張緩和、平和外交への転換が、巨大な圧力として提起されるべきであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】コロナ5類移行と失敗続きで反省なしの日本のコロナ対策

【投稿】コロナ5類移行と失敗続きで反省なしの日本のコロナ対策

                            福井 杉本達也

1 コロナ「空気感染」をいまだに認めない厚労省

 4月30日の福井新聞は、コロナ5類何が変わると題して「5類には法律に基づき実施できる措置がほとんどありません。感染対策は個人や事業者の判断が基本となります。…受診の流れや療養期間の考え方も変わります。」と書いている(福井:2023.4.30)。いかにも日本流の曖昧ななし崩し的緩和という印象を持たざるを得ない。

 この間、特にオミクロン株発生以降の政府のコロナ対策はどこでどうなったのか。北村滋人東大大学院教授は「欧米各国は2020年に大量の感染者・死者を出したものの、その後は比較的抑え込みに成功…2022年後半にはマスク着用義務が解除されるなどほぼコロナ前の生活状況に戻った」。一方、「日本は2022年に入っても基本的に2021年と同様の対策を継続…『第7波』の『世界最多』と言われるほどの感染者数を記録し…感染症対策は明らかに失敗だった」と書いている(『世界』:2023.2)。

 では、なぜ、日本の感染対策は失敗したのか。2021年8月には、東北大学の本堂毅准教授らが、新型コロナウイルスは「空気感染する」と定義するように求めていた。感染研は「感染経路は主に飛沫感染と接触感染」としている 。感染経路が飛沫感染と接触感染なら感染の起こりやすさは換気とは関係しない。本堂氏は「日本では未だに接触感染と飛沫感染を主たる感染経路としこれを前提とした感染対策が行われている。」「必然として多くの的外れな感染対策を生み出してきた。そのミスリーデイ ングが,現場での無用な感染拡大を招い てきたと考えざるを得ない」と指摘していた(本堂毅『科学』:2022.4)。「空気感染」では「人流抑制」や「3密対策」だけで感染を防ぐことはできない。換気するしかない。建築基準法上は、2003 年7⽉以降に建てられた住宅では通常0.5[回/h]以上となる機械換気設備の設置(いわゆる24 時間換気設備)が義務づけられている。しかし、現実には守られない。こうした議論が一切なされずに、なし崩し緩和だけがなされようとしている。

2 感染症の専門家ではない行政官が専門部会長

 児玉龍彦東大先端研教授は、そもそも感染症の専門家でもない「行政官が専門部会長」になったことが日本の感染症対策の根本的誤りだったと指摘している。尾身茂部会長((独)地域医療機構(JCHO)理事長)のことであるが、氏はこの間、何の科学的な査読論文も出していない単なる行政官であるとし、専門部会に、行政官のような専門家でもないものが入るから専門家同士の議論が捻じ曲げられ、まともな議論が成り立たなくなったと批判した(児玉龍彦+金子勝『ARC TIMES』2023.2.22)。また、北村氏は「従来の日本の感染症対策は、緊急事態宣言と人流抑制などのマクロ対策に大幅に依存しており、ミクロ対策はなおざりにされてきたという点である。…日本では、2020年4月から現在に至るまで、一貫してマクロ対策中心の規制方針」が継続されてきたと指摘している(北村:同上)。社会経済的な損失が大きい割に、予想される効果が小さい接触機会削減を中心とするマクロ政策が採用されてきた」が、「政策決定の根拠となる基礎データが不適切・不正確であること」を、外部専門家から指摘を受けても、感染研は、「誤りを認めず訂正も行わないのみならず、その判断に至った理由や根拠等についての説明もほとんど行っていない」など(北村:同上)、また、空気感染が感染拡大の主因であれば、保健所の積極的疫学調査による濃厚接触者探しは無意味である。それは厚労省や、国立感染症研究所や保健所の権限縮小につながる。政府の専門家の多くは、このような組織の関係者である。

3 ウイルス進化のメカニズムに対応しない泥縄対策

 厚生労働省クラスター対策班で西浦博北大教授(当時:現在京大)は「人と人との接触を減らすなどの対策をまったくとらない場合、国内で約85万人が重篤になるとの試算を公表しました。うち約42万人が死亡する恐れがあるといいます」(しんぶん赤旗:2020.4.16)」と強調した。日本では、「緊急事態宣言」と「人流抑制」など、一般住民の行動を制限する対策がとられてきたが、その過程で影響力を持ったのが西浦氏の「数理モデル」であった。国民に恐怖心を与え、飲食機会の感染防止が中心的な目的となったが、飲食による感染の比率は1~2割程度というわずかなものであった(北村:同上)。飲食店にだけ営業制限をかける合理的理由は全くなかった。

 我々はこれまで試験管内で行ってきたような進化をリアルで見ている。繰り返しながら変わっていく、進化が初めて世界的にリアルタイムで観測された。ウイルスのタイプが変わってきていることであり、当初のα型までは抗体薬品がよく効いたが、逆にその時期に、政府はPCR検査を制限し、また維新の橋下徹氏らはそれを当然視する発言を行った。  また、尾身氏は無症状者の存在を否定していた。その後、VOC型となると抗体薬品が効かなくなくなり、ワクチン一本やりとなったが、8か月間間隔を空けるという指導を行った。現在のBA亜種(オミクロン型)ではワクチンは細胞性免疫で重症化リスクを低くしている。そこでは中国も「ゼロコロナ政策」の終了を宣言し、世界的には集団免疫論となっている。しかし、日本ではmRNAワクチンを何回打てば良いかという評価もしていない(児玉・金子:同上)。ウイルスの変化に対応していかない科学的に合理的でない対策は日本社会に大きな負の結果を残した。

4 「緊急事態宣言」一本鎗の対策と公的医療機関の少なさ

 日本は人口あたりの病床数が世界一で、OECD平均の2倍以上となっているが、その多くが民間医療機関である。日本は民間医療機関が多く公的医療機関が少ない。日本は自由開業医制となっており、自由に開業できる。これは、戦後、国民皆保険制度導入にあたり、開業医を制度に取り込むために開業医優先の医療制度としたことによる。その為、病院の規模も小さく、10万人あたりのICU(集中治療室)は米国の34.7人、ドイツの29.2人、イタリアの17.5人と比較して、日本は4.3人であり(厚労省医政局 2020.5.6)、新型コロナの初期の2020年4月1日において、「集中治療体制の崩壊を阻止することが重要」「マンパワーのリソースが大きな問題」だと日本集中治療医学会が、理事長声明を出さざるを得なかった要因である。感染防止対策と称して、政府が「緊急事態宣言」を連発し、宣言を終了しても「マンボウ」(「まん延防止等重点措置」)という愚策を続けた理由である。

 民間医療機関は感染症病床を空けておくよりも1床でも稼働させる方が得であり、本来は公的医療機関である(独)地域医療機構(JCHO)や自治体病院が感染症病床を主に担うところであるが、かつての陸海軍病院や結核療養病院の後継であるJCHOは独法化によって規模を大きく減らし、一部の公的病院に負荷が大きくかかり大混乱することとなった。また、大阪などでは当時の橋下徹大阪市長による二重行政批判で市立住吉病院の廃止などが行われた。5類移行後も、こうした日本の医療体制の弱点はそのままであり、何らの対策も取られてはいない。

5 政策の検証を

 コロナ第8波の2022年の暮れから2023年の初めにかけ、オミクロン型で高齢者施設が最もダメージを受けた。多くの高齢者施設でクラスターが発生した。職員の感染が増え、離職者も多数出て、介護施設が成り立たなくなった。福井新聞によれば、「第7波以降にクラスターが発生した県内の高齢者施設は延べ132カ所(4月4日時点)、障害者施設は24カ所(同)。医療体制の逼迫を背景に、軽症の入所者は、感染後も施設内での療養が始まった。症状が悪化し、そのまま施設でみとるケースもあった。」「県老人福祉施設協議会の小川弥仁会長は『入所者の多くは基礎疾患がある。本来、施設は治療や療養の場ではない。』と語る(福井:202.4.20)。こうして、介護保険自体が機能しなくなりつつある。感染しても無症状あるいは軽症で、逆にワクチンの副作用が強い若い人にむやみに回数を打つという選択肢は成り立たない。高齢者もむやみにワクチンを打てば免疫機能が低下し、帯状疱疹などが発生する。高齢者施設の防護に医療資源を持っていく必要があったが、政府は何の対策を行わなかった。逆に高齢者の「集団自決論」などが出てくる(成田悠輔)。この間の政策の検証をしっかり行う必要がある。しかし、厚労省・感染研などからのデータは全く出てこない(児玉・金子:同上)。こうした基本姿勢が、わが国のコロナ対策を非科学的なものにして、進歩を阻んでいる。

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【投稿】自民辛勝・維新躍進・共産後退が突きつけるもの--統一戦線論(78)

<<統一地方選・自民、かろうじての辛勝>>
今回の統一地方選、岸田政権にとって、内閣支持率が45%、一部では50%超えなど復調傾向にあるなかにもかかわらず、想定外の大接戦・辛勝となったことは、政権運営、今後の解散・総選挙戦略にとって不安定要因をいくつもさらけ出したものと言えよう。
まず第一に、岸田政権は安倍政権以上に明確な大軍拡路線と原発推進政策、増税路線に大転換したにもかかわらず、直面する選挙戦ではどれ一つ前面に打ち出すことができず、むしろ意図的に封印し、最重要課題として、少子化対策を提起したが、具体政策で混乱し、結果として争点回避と逃げの選挙戦に終始してしまった、そうせざるを得なかった、と言えよう。

そうした象徴が、衆院・山口2区、4区の補選であった。それぞれ岸元防衛相、安倍元首相が、10万票前後で圧勝の選挙区、後継の吉田氏は5万票、岸氏は6万票しかとれなかったのである。岸氏が6万1369票、元衆院議員で民主党・野田政権の法相であった平岡秀夫氏が5万5601票、その差、5768票に迫られたのである。
安倍氏後継の吉田氏は、「安倍先生の無念晴らす」「弔い選挙」「安倍イズムの継承」を掲げ、それに対し立憲民主の有田芳生氏は「安倍政治の検証」を正面から問い、アベノミクスの批判と統一教会との癒着を争点に挑み、吉田氏は安倍昭惠氏が期待した「圧勝」どころか、5万1961票にとどまり、有田氏はこの選挙区では初出馬にもかかわらず、2万5595票獲得している。投票率は、過去最低、前回より13.93ポイント低い34.71%であった。

第二の象徴が和歌山1区の補選である。自民候補は、衆院議員を3期務めた門博文氏で、統一地方選前半の和歌山県議選では、公認と推薦の自民候補を全員当選させている。選挙中は、茂木敏充・幹事長、萩生田光一・政調会長ら党幹部がこぞって応援に入り、4/15には岸田首相が応援に駆け付け、しかも難を逃れしも、雑賀崎漁港・首相への爆発物テロ襲撃事件で「通常は同情票が集まる」はずが、6千票以上の差をつけられて維新候補に敗北したのである。選挙戦最終日には小池都知事までサプライズ応援に駆けつけ、JR和歌山駅前に1500人も集め、圧勝して当たり前のはずの選挙区であった。それが、昨年8月の和歌山市議補選で初当選したばかりで、自民内の確執から勝機ありと急きょにわか仕立てで立候補した日本維新の会の林佑美氏に敗北したのである。

そして第三の象徴は、野党の候補者乱立で救われた千葉5区での自民党の辛勝であった。この衆院千葉5区補選では、立憲民主、日本維新の会、共産、国民各党が公認候補を擁立、自民新人・英利アルフィヤ=50,578票に対し、立民・矢崎氏=45,635票、国民・岡野氏=24,842票、維新・岸野氏=22,952票、共産・斉藤氏=12,360票という結果から明らかなように、わざわざ自民に、どうぞと議席を提供したような野党のふがいなさである。「(候補者を)一本化できていれば、かなり余裕を持って勝てた選挙だった」(4/23、NHK番組で立憲・岡田氏)ことは、「野党共闘」を掲げながら独自候補を擁立し、低迷を象徴するような共産党も含め、それぞれの党の責任問題でもあろう。有権者は、さじを投げたのであろうか、ここでも投票率38.25%で過去最低を記録している。

<<対決軸の設定こそがカギを握っている>>
参議院大分選挙区の補欠選挙は、千葉5区の補選とは打って変わって、今回の衆参5補欠選挙で唯一、事実上の「野党共闘」を実現した選挙戦であった。結果は、自民・白坂亜紀氏=196,122票に対し、立憲・吉田忠智氏=195,781票、「わずか341票という差」の大激戦であった。しかしここでも、投票率は42.48%、県内の国政選挙では過去最低、有権者の4割あまりを占める大分市では33%ほどまで落ち込んでいる。「野党共闘」も無党派層を引き付ける魅力と政策を発揮しえなかったのである。
今回の補選は、大分県知事選出馬のために3月に辞職した野党系無所属の安達澄氏の議席をめぐる補選で、実施は与野党ともに10月になると期待していたものが、安達氏が知事選告示を待たずに辞職したことにより、「超短期決戦」となり、共闘関係を構築はしたものの、準備もすり合わせも不十分、共闘への温度差、対決政策の不明瞭さ、国民民主党は県連による支援にとどまったこと、など、あと一歩のところで「野党共闘の勝利」を逃してしまったのであった。それでも、肉薄し、勝利できる展望は明らかにし得たと言えよう。
問題は、たとえ「短期決戦」ではあっても、決定的なのは、有権者に明確な政策を訴えられる、対決軸の設定、その政策に基づいた共闘、統一戦線の形成こそがカギを握っている、ということであろう。

こうした野党共闘側の弱点とは対照的に、維新は、新自由主義的改革、自由競争原理主義、規制緩和の幻想を対決軸に据えている。その幻想がいまだ暴かれず、立憲民主党までが維新との共闘に未練を残している現状こそが、維新の躍進を許しているものであろう。
日本維新の会の馬場伸幸代表は、「統一地方選挙で600議席」を目標に掲げていたが、今回の統一地方選で、首長や地方議員が計774人になったと発表している。しかし、774人のうち、505人が近畿2府4県内で、”維新のお膝元”である大阪府内でも、高槻市長選挙や、寝屋川市長選挙など維新新人候補が現職に挑み敗北している。すでに周知のとおり、大阪市の都構想・住民投票では二度も敗北しているのが現実である。
維新の政策の基本は、「身を切る改革」の名のもとに、行政改革=緊縮政策と公務員削減、議員定数削減、行政区統合による自治の縮小と独裁化、医療・公共サービスの縮小と民営化、公教育への支出削減と塾通いへの補助金、カジノ誘致などに重点が置かれ、危険なネオリベ政策を手を変え、品を変え、融通無碍、無責任に提起し、一方でウソと空手形に包まれた教育無償化を前面に掲げる、こうした路線が、改憲・軍拡・右翼路線と一体となっているのである。立憲がこうした路線を不問にした維新との共闘を模索し続ける限り、立憲は衰退・自滅する一方となろう。

一方、「野党共闘」をしっかりと構築し、前進させなければならない共産党は、これまでにない後退、敗北を鮮明にしている。4/24の記者会見で小池書記局長「おわびを申し上げたい」「期待に応える結果を出すことができず、奮闘している多くの候補者を落選させてしまったことは悔しく残念であり、おわびを申し上げたい」と言わざるを得ない事態である。
4/25付け、しんぶん赤旗トップに掲載された日本共産党中央委員会常任幹部会の、「130%の党」づくり、岸田政権の暴走とのたたかいに立ち上がろう――統一地方選挙後半戦の結果について、という声明では、「23日、投票が行われた統一地方選挙の後半戦で、日本共産党は、東京区議選挙で94議席、一般市議選挙で560議席、町村議選挙で255議席、合計で909議席を獲得しました。補欠選挙では、3市1町で4議席を獲得しました。4年前の選挙と比べると、東京区議選挙で13議席減、一般市議選挙で55議席減、町村議選挙で23議席減となり、合計91議席の後退となりました。議席占有率は前回の8・08%から7・28%に後退しました。」と述べ、「統一地方選挙の全体からどういう総括と教訓を引き出すかは、党内外の意見に耳を傾け、次の中央委員会総会で行います。そのなかでも、私たちは、最大の教訓にすべきは、党の自力の問題にあると考えています。3月末までに4年前の党勢を回復・突破するという目標は達成できず、私たちは、4年前に比較して91%の党員、87%の日刊紙読者、85%の日曜版読者でたたかうことになりました。統一地方選挙の結果は、「130%の党」づくりの緊急で死活的な重要性を、明らかにするものとなりました。選挙の後退の悔しさは、党勢拡大で晴らそうではありませんか。」とむすんでいる。
これまでの敗戦の弁と同様、またもや、「最大の教訓にすべきは、党の自力の問題」だという。選挙の政策的対決やその政策に基づいた幅広い統一戦線の形成、大衆運動の盛り上がりに党の力を傾けることよりも、党員拡大や読者拡大を上位に置く、まずは主体形成という、責任を下部に押し付ける責任回避路線である。
下部党員の真摯な声が反映されない、共産党の体質的弱点は、大阪・富田林市の共産党現職であったパワハラ市議の岡田ひでき氏が、同数最下位(18位)のくじ引きで落選し、議席が減少したにもかかわらず、4/24付け・しんぶん赤旗一面トップに臆面もなく、「市町議選の全員当選」に富田林を見出しに入れてい

ることに象徴的である。こんなことが党内でまかり通っている限り、党勢回復さえできないであろう。

今回の統一地方選、それぞれの既成政党に深刻な問題を提起している、と言えよう。まずは「野党共闘」の再建に向けて、一から出直すべき課題が山積しているのではないだろうか。
(生駒 敬)

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【投稿】歴史的転換期の時代状況--経済危機論(107)

<<「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」>>
先日、筆者は、『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』を見る機会に恵まれた。同展は、東京に引き続き、2023年2月4

日(土)~ 2023年5月21日(日)まで、大阪市北区中之島の国立国際美術館で開かれているもので、ドイツ・ベルリンにあるベルリン国立ベルクグリューン美術館のコレクション97点をまとめて紹介する日本初公開となる展覧会である。第一次世界大戦から第二次世界大戦、ピカソの初期から晩年にいたるまでの作品と、同時代に活躍したクレー、マティス、ジャコメッティら4人の芸術家たちを中心とした作品展である。
ドイツ生まれで、ファシズムと戦争の時代、ベルリンで美術商として活躍し、ユダヤ人迫害を逃れて米国に渡り、ナチス敗北後ただちにベルリンに戻ったベルクグリューン(Berggruen 1914-2007年)が収集した、同時代に生きたピカソを中心とした最も敬愛し、また同時に当時の時代状況に鋭く切り込んでいることにおいて際立った芸術家たちのコレクションである。なお、今年はピカソ没後50年の年である。
美術には、とんと疎い筆者ではあるが、1937年のピカソの大作「ゲルニカ」につながる、戦争とファシズムに鋭い感性と知性で格闘する芸術家

たちが問いかける姿勢は、今現在の再び世界戦争への危険性をさえ切迫化させている時代状況を鋭く問い直している、と感じられるものであった。

それらの中で、パウル・クレー(Paul Klee)の「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと( Knowledge, Silence, Passing By )」と題する作品(1921)は、キュビズム的な繊細な女性の表情、姿勢を描いているのではあるが、題そのものからして、歴史的危機の時代における鋭い問いかけであり、告発でもあろう。知ってはいるが、あるいは感付いてはいるが、見てみぬふりをして、知らぬかのように装い、やむなく、あるいはあえて沈黙し、何とかやり過ごす、そんな陥りがちな時代状況への問いかけである。

<<回復しがたいドル覇権の低下>>
ウクライナ危機をめぐって、世界の政治・経済は、より広範な規模と深さで歴史的転換期にさしかかっていることが明らかになりつつある。今現在直面している時代状況は、まさにこの「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」に対する鋭い問いかけが提起されているのだ、と言えよう。

ヨーロッパの平和運動は沈黙しない!「戦車ではなく、外交官を送れ!」

提起されてきたものを列挙すれば、
・ ウクライナ危機をめぐって、隠されてはいたが、次々と明らかになってきた真実は、米欧側がロシアを泥沼の戦争に引きずり込もうとしてきた数々の罠である。その典型は、米・仏・独・ウクライナ首脳自身の言葉で、2014年のミンスク合意、2015年のミンスク合意2は、停戦合意を守る気などさらさらない、ウクライナ軍強大化の時間稼ぎでしかなかったことを吐露したことである。欧米側の政権、大手マスコミはすべてこうした事実を知ってはいても、無視し、沈黙し、やり過ごしてきたのである。
・ ロシアの天然ガス・ノルドストリームパイプライン爆破は、バイデン政権がユーロ諸国にくさび打ち込み、ユーロ経済をロシア経済から引き離し、米ドル支配体制に組み込むための決定的なカギであったこと、それはウクライナ危機以前から計画されていたことが明らかにされている。これもひそかに進められてはいたが、米国防省ペンタゴン配下のランド研究所がすでに提起していたことが明らかになっている。これもウクライナ危機の進行に乗じて、無視され、沈黙され、見過ごされてきたものである。
・ 米欧・G7側の最大の見込み違いは、ロシアのウクライナ侵攻に乗じた経済制裁の全面発動が効を奏せず、逆に制裁のブーメランが制裁側に逆襲し、政治的経済的危機を深化させていることである。さらにこの制裁に、唱和・同調し、実際に参加しているのは世界のごく少数の国々、地域に限定され、米欧諸国、オーストラリア、ニュージーランドそして日本、韓国にしかすぎないことである。しかも、制裁の掛け声とは逆に、欧州連合とG7の企業のうち、ロシアから撤退したのは9%未満にしかすぎないことが暴露されている(4/15付ワシントン・ポスト紙)。これまで見過ごされてきたが、ようやくこうした事態を認識し、報道せざるを得ない段階に至ったのであろう。
・ 結果として、ドル一極支配体制の強化を目指したはずの、米欧・G7側の思惑は、日本を含むG7やNATO諸国以外はどんどんドル離れに移行するきっかけを与え、ドル覇権の低下は今や回復しがたく、これまでよりも脱ドル化を質的にも新しい段階へ加速させる事態を招いていることである。しかし、これは無視し、沈黙し、見過ごすことはできない段階に至りつつある。
・ こうした事態の進行は、歴史的転換期の時代状況を反映しているものと言えよう。
・ 問題は、バイデン政権の緊張激化政策・大軍拡政策に一貫して反対し、抵抗してきたはずの米民主党最左派、民主的社会主義を掲げるバ

ニューヨーク・ブロンクス、AOC議員主催の米軍採用イベント・ミリタリーフェアへの抗議運動

ーニー・サンダース議員やアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員(AOC) らが、今やバイデン政権の軍拡政策にことごとく賛成し、弁明さえできずに、それこそ「知ってはいるが、沈黙し、やり過ごしている」ことである。ヨーロッパの平和運動は沈黙しない!「戦車ではなく、外交官を送れ!」と声を上げているにもかかわらず、AOCに至っては、米軍徴兵のための米軍採用イベント・ミリタリーフェアを、米軍の協力のもと、ニューヨーク・ブロンクスの公立学校で自ら主催(3/20)して、同地域の保護者、教師、学生、地域活動家から強力な抗議を突き付けられ、それでも反戦運動を公然と忌避する発言までしていることである。

まさに「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」が厳しく問われている、歴史的転換期の時代状況だと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】非ドル化と米金融資本の没落

【投稿】非ドル化と米金融資本の没落

                           福井 杉本達也

1 「ドルが基軸通貨でなくなる」―トランプ

トランプ前米大統領は4月5日、ニューヨーク州の民主党系検事による不倫疑惑の不当な起訴に対する反論集会の閉会の辞において、「ドルが基軸通貨でなくなる」(DONLD TRUMP says the US Dollar will no longer be the world standard.)と述べた。「私達の通貨は暴落し、まもなく世界標準ではなくなります。これは私達の最大の敗北です。(略)たとえ大国であっても存在できなくなる。米国史上最悪の5 人の大統領を足し合わせたとしても、バイデンほど我が国に破壊をもたらした大統領はいない 非ドル化とは、何十年にもわたるいじめ、戦争、嘘に基づくいじめ、世界通貨の特権を乱用して、他国の支援を受けてアメリカのエリートを利己的に豊かにしてきたことで、米国政府が得たもの。」と集会を締めくくった。

同様にドル基軸通貨体制の崩壊について、6日のFOX NEWS ではTUCKER CARLSONが「第二次世界大戦の終結以来、ほぼ 80 年間、米ドルは世界の通貨でした。しかし、それが終わったらどうしますか?」とふれ、また、7日のCNNでもJIMMY DOREが「America’s Economic Empire Is Done」との見出しで、「ロシアが14か月前にウクライナを侵略した後、米国とその同盟国によって課されたその後の制裁は、ロシアを追い詰め、米国の経済力を示すことになっていた。ところが、ロシアはかつてないほど強く、中国、サウジアラビアやその他の諸国は、米国を寒さの中に置き去りにしながら関係を強化しようとしています。」と述べている。ここ1か月ほどの間の、シリコン・バレー銀行(SVB)の破綻やクレディ・スイスの破綻以降のドル離れの動きはきわめて急速である。

2 習近平主席がマクロン大統領を歓待―フランスも人民元でLNG取引

4月5日、フランスのマクロン大統領が企業トップ50人を引き連れて訪中した。航空機160機の受注や豚肉など農産物の輸出などで中国と合意した。1日前の4日、China Radio International(CRI) は「中国とフランスのエネルギー大手、中国海洋石油とトタルエナジーズはこのほど、初めてとなる人民元建ての液化天然ガス(LNG)取引の決済を完了した。中国が人民元建てでLNGの輸入決済をするのはこれが初めてとなる。今回取引されたLNGはアラブ首長国連邦産の約6万5000トン。取引量はさほど多くないが、大きな意味を持つとみられている。」と報道した。

同記事は「ドルの為替相場の変動による不確実性を回避することができる。ドル相場の変動は各国、さらにはグローバルな経済活動に不確実性をもたらしており、米国がドルを『武器化』することで、その不確実性は無限に拡大されている。米国は頻繁に金融手段を通じて他国に制裁を科し、その国のドル建て取引のルートを遮断することで、国際貿易を停止させ、その国の経済発展に深刻な影響を与えている。また、米国はしばしば利上げと大量の紙幣放出を通じて自国の金融リスクを他国に転嫁しており、これが多くの国で連鎖反応を引き起こし、国際金融市場にゆさぶりをかけ続けている。これらの行為は、ドルを基準とした原油の価格設定と決済システムが極めてリスクが高いこと、自国通貨による決済がこうしたリスクを回避するのに有効であることを各国に気づかせつつある。」と解説したが、フランスは明らかにドルから距離を取り始めた。

3 中国主導によるイランとサウジアラビアの和解

4月8日の日経新聞は「『米国抜き』で進んだサウジアラビアとイランの関係正常化は中東で米国の影響力低下という現実を突きつけた。国際社会で台頭する中国が主導した合意に米国は不満と焦りを募らせるが、対米不信を強める中東との関係立て直しは容易ではない」と書いた。イランは、1979年の革命以来、米国などの西側の制裁を長年にわたって受け、大きな経済的打撃を被ってきた。北京で行われた3月6~10日の会議で、イランとサウジアラビアが国交を回復することで合意した。RTによれば、「サウジアラビアとイランは、中国が仲介した、外交関係を正式に回復するための画期的な取引を北京で発表した。この合意により、中東の2つの宗派間のライバルは、彼らの違いを脇に置き、関係を正常化することに同意しました。これは、中国が監督するこの種の取引としては初めてであり、和平工作者としての地位を確立し、地域のすべての国と良好な関係を築くという中国のコミットメントがレトリックだけでなく実際の内容に基づいていることを示しています。」とし、「これはアメリカ合州国にとって悪いニュースであり、サウジアラビアなどの国々との戦略的関係を通じて、ワシントンがこの地域を長い間支配してきたほぼ無制限の地政学的影響力に大きな打撃を与える。」ものであり、「世界は、これらの国々が、その明確な外交政策目標である比類のない米国の支配がもはや彼らの最善の利益ではないと認識する」こととなったと書いた(RT:2023.3.14)。また、3月29日にはウォールストリート・ジャーナルはサウジアラビアが中国の上海協力機構に加盟すると報じた。既に、昨年7月、バイデン大統領はサウジを訪れ、原油増産を働きかけたが、OPECプラスにおいてロシアとの関係を重視するムハンマド皇太子に袖にされたが、今回の中国の仲介によるイランとサウジの和解はこうした地政学的関係を確立するものとなった。

 

4 OPECプラスの減産と「ペトロ・ダラー・システム」の崩壊

4月2日、ロシアを含むOPECプラス諸国は、今年5月から年末まで原油の自主的な減産を行うと発表した。ロシアとサウジアラビアは日量50万バレル減産するほか、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、アルジェリア、オマーンなども、それぞれ日量4~21万バレル減産する。OPECプラス全体では少なくとも世界の石油埋蔵量の4分の3以上を握ることになる。パリのESCP経営大学院のマムドゥフ・サラメ教授は「OPECプラスの産油国は1バレル80~100ドルの価格帯で推移するのが財源不足を避けるのに最も良いとみなしている。そのため、世界中の金融危機や景気後退の流れを受けた昨今の石油価格低下は、産油国全体にとって不都合だった。また、ロシア産石油への上限価格の設定は、他の産油国にとってもマイナス要因となっており、西側諸国に対抗する『産油国同盟』でお互いを支援する動きが広がっている」と語った(Sputnik:2023.4.4)。

第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。しかし、1971年、ニクソン大統領はドルの金への兌換をやめ、理論上はいくらでもドル紙幣を印刷することが可能となった。しかし、金という錨がなくなれば、その価値はどんどん下落し続ける(インフレとなる)。これを避けるため、1974年、米国は、「ペトロ・ダラー・システム」を導入した。キッシンジャー国務長官は①サウジの石油販売を全てドル建てにすること、②石油輸出による貿易黒字で米国債を購入すること、その代わり、③米国はサウジを防衛するという協定を結んだ。石油というコモディティの裏付けを持つことによって、米国はドル借用金を、自由意志で、無制限に、世界経済に作り出し、使うことができた。しかし、今、この「ペトロ・ダラー・システム」は崩壊した。ドルはただの紙切れとなった。

ロン・アンスは『The Unz Review』において「我が国の恐ろしい財政赤字と貿易赤字を考えると、アメリカの生活水準は特に石油販売のためのドルの国際使用に大きく依存しているため、これは非常に脅威的な進展だ。何十年間も我々は我が国の札を世界中の商品と自由に交換してきたが、それが困難になれば我々の世界的立場は悲惨なものになる可能性がある。1956年スエズ危機はイギリス・ポンド崩壊の危機で、世界舞台におけるイギリスの影響力の終焉を示したが、アメリカは自身の『スエズの瞬間』に急速に近づいている可能性がある。」と書いている(「マスコミ載らない海外記事」2023.4.8)。

ほとんどの米銀は、FRBの連続的な利上げを受けて、支払不能の状態にある。金利が4.75%に上がったことで、保有国債の満期前の時価が下落=約20%=13 兆円の損失が表面化し、預金の引き出しで現金が不足する事態に陥っている。米銀の、「システミックな全体危機」が明確になってきた。米ドルの信用恐慌(=ドルの価値低下)の序幕があいた。今回はリーマン危機のときと違い、中央銀行の通貨増刷に限界がある。資産額が上位の大手銀行が危機になったとき、十分な量のマネーの増刷できない。一定量を超えて増発すれば、ドルとユーロの暴落の恐れがある(「ビジネス知識源」:2023.3.31)。もはや、米ドルに石油という支え(モノサシ)はない。

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【投稿】脱ドル化の加速--経済危機論(106)

<<「各国はドルを捨てたがる」>>
ロシアのウクライナ侵攻にに対する、米・バイデン政権の全面的な制裁・緊張激化政策が、逆に全世界的な脱ドル化政策を加速させている。皮肉で不可逆的な脱ドル化を自ら招く事態の進行である。
バイデン政権は、国際間貿易取引の主要な金融ネットワークである世界銀行間金融通信協会 (SWIFT)システムからロシアを一方的に排除することによって、つまりはドルを兵器化することによって、ロシアを有無言わせることなく経済崩壊に追い込む算段であった。しかし、その目論見は、ドル資産の安全性に疑問符をつけ、逆にブーメランのごとく米欧経済を苦境に追い込み、インフレを激化させ、あえなくも破綻しつつある。
ウクライナ危機は、米政権とNATOが何年にもわたって仕掛けてきた、ロシアを軍事紛争の罠に引きずり込み、ロシアを分割支配するための罠であったこと、ユーロ圏経済をもロシア・中国経済から引き離す格好の仕掛けであったことが明らかになりつつある。バイデン政権によるロシア・ユーロ経済圏の天然ガスパイプライン・ノルドストリーム破壊工作はそのことを白日の下にさらけ出させている典型でもあった。それはまた、ドル支配の優位性を受け入れない他の地域の多くの諸国に対して、世界共通の準備通貨としてのドル経済圏支配に逆らえば、経済を崩壊させるぞ、という脅しでもあった。
しかし事態は、こうしたバイデン政権のたくらみとは逆の方向、世界経済のドル支配、ドル覇権を掘り崩す、崩壊させる方向への、脱ドル化への志向を加速させる事態を招いている。すでに多くの諸国が、貿易での決済方式をドル

から自国通貨や相手国通貨、地域通貨への変更に踏み出しているのである。

あのイーロン・マスクでさえ、これは「深刻な問題。米国の政策は強引すぎて、各国はドルを捨てたがる。」と嘆いている。

今や、ドルへの

政治的経済的依存を減らすことが、米国の無責任な金融政策に左右されることを避け、不安定なドルの金融危機リスク、特に為替レートによるリスクを回避するうえでも不可欠な事態と認識され、脱ドル化を推し進めることが世界共通の課題として浮上し、着実に現実に実行される段階へと移行しつつある、と言えよう。

<<BRICS「根本的に新しい通貨」に取り組む>>
直近、3月末はとりわけ、多くの諸国が脱ドル化を鮮明に打ち出したことで際立っている。
3/28、インドネシアで開催された会議で、ASEAN 諸国の財務大臣が 「米ドル、ユーロ、円、英国ポンドへの依存を減らす」方法について話し合い、現地通貨での決済に移行するための議論を開始したことを明らかにしている。「現地通貨取引(LCT)スキームを通じて主要通貨への依存を減らすための取り組み」を議論し、ASEAN 加盟国間ですでに実施が開始されている現地通貨決済 (LCS) スキームを拡張するという方向性である。(昨年11月に、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイの間で、このような協力に関する合意に達していた。)

同じ3/28、中国初の人民元建てで決済を行う輸入液化天然ガス(LNG)の調達取引が成立。これにより中国が石油・天然ガス貿易分野におけるクロスボーダー人民元建て決済取引において、実質的な一歩を踏み出したことになる。中国海洋石油と湾岸協力会議(GCC)加盟国のアラブ首長国連邦(UAE)から輸入される約6万5千トンのLNG資源が取引され、人民元建て決済が行われ、石油取引には必ずドルを使用するというペトロダラー取引が放棄されたのである。ペトロダラー取引を支えてきたサウジアラビアでさえ、ケニアへの石油出荷の支払いとして、米ドルではなくケニアシリングを受け入れることに同意している。そのサウジの国営石油大手サウジアラムコは、中国北東部に統合された製油所と石油化学コンビナートを建設することに合意している。

3/29、ブラジル政府と中国政府は今後、米ドルを中間通貨として使用せず、自国通貨で貿易決済を行うことで合意したと表明している。SWIFTを使わない決済である。ブラジル輸出投資促進庁(Apex)は、中国とブラジルが、自国通貨で直接行う両国の貿易・投資交渉を進めるための新たなステップに入ったと発表。両国の合意では、ブラジルの銀行BBMが、中国の通信銀行(BOCOM)が管理するアジア諸国の国際的なSWIFTシステムの代替となる中国銀行間決済システム(CIPS)に参加する方式である。

BRICS「根本的に新しい通貨」に取り組む

3/30、新興経済圏であるBRICSブロック(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が「新通貨」の開発に取り組んでいることを明らかにしている。BRICS諸国は、世界の総人口の 40% 以上、世界の GDP の 4 分の 1 近くを占めており、アルゼンチンとイランが加盟申請し、サウジアラビア、トルコ、エジプトまでもが参加検討に入っている段階である。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシアで構成されているユーラシア経済連合 (EAEU) が国際化を推進、イランとの EAEU 自由貿易協定の最終決定に至っている。これらの諸国を含む100ヵ国近くがドル支配のSwiftに依存しない国際送金システムの構築に踏み出し始めたのである。

さらにこの間、明らかになったことでは、サウジアラビアが「上海協力機構SCOの対話パートナー」になることに同意、SCOは、中国、ロシア、インド、パキスタン、中央アジアの 4 カ国に加え、イランを含む 4 つのオブザーバー国と、サウジアラビア、カタール、トルコを含む 9 つの対話パートナーを結集している。
次いで、インド政府が、ドル不足に直面している国々に貿易の代替手段として、マレーシアとの貿易に自国通貨インドルピーを使うなど、米ドルの「代替」として自国の通貨を提供することを明らかにしている。

G7とBRICSの成長格差

もちろん、ドルは依然として外貨準備高の58%を占めている。しかしこれとて、2014年の66%から明らかに後退している。ウクライナ危機に乗じたドル覇権の狙いは、ここからさらなる、より大幅な後退への流れを作ってしまったのである。G7とBRICSの成長格差は、明らかに衰退しつつあるG7に対し、発展途上のBRICSは、購買力平価はもちろん、実際のGDPにおいてもG7をを追い越す途上にあることが明確になろうとしている。
かくして、もはや脱ドル化への世界の流れを阻止することは不可能な段階にまで至っている。米欧・G7の政治的経済的危機の淵源は、まさにここにあるとも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】大失策の岸田首相のウクライナ訪問

【投稿】大失策の岸田首相のウクライナ訪問

                    福井 杉本達也

1 子供じゃあるまいし

鳩山由紀夫氏は「中国が和平提案を示し習近平主席がプーチンと会談をしている時、岸田首相はゼレンスキーに会いに行くと言う。G7で自分だけ行ってないかららしいが、自分も欲しいという子供じゃあるまいし」とツイートした。続けて「世界は和平に向けて動き始め出した。単にウクライナを支援しますではなく、戦争終結の和平提案を出すべき時だ」とした。また、原口一博氏は21日、岸田氏のウクライナ訪問について、「無事に帰ってきてほしいが帰ってきたら(内閣)総辞職してほしい」と、かなり厳しい意見をツイッターに投稿した。首相はゼレンスキー大統領に地元・広島名物の「必勝しゃもじ」を贈呈したそうであるが、笑い話にもならない。

2 キエフ訪問の否定的結果を予想

日経は「ロシアと中国の首脳が会議するさなか『法の支配』に基づく秩序を守る主要7カ国(G7)議長の役割を示すことを迫られた訪問だった」と極めて否定的に書いた(日経:2023/3/23)。成算のない、要するに追い詰められてのウクライナ訪問であった。元駐日ロシア大使のアレクサンドル・バノフ氏はSputnikで「現在、日本政府の外交政策全体は、広島で今後開催されるG7サミットの準備に集中している。そして、日本はG7の中で唯一、首脳がまだウクライナを訪問していない国であった。そのため、イメージギャップを埋めようとする試み」であった。「日本が西側諸国に対して独自の忠誠心を明確に示し」、「しかし、その忠誠心は、旧来の日露関係、特に経済分野への打撃になるのではないのだろうか。」、松野官房長官は「ロシア連邦とのビザなしの交流の再開と、漁業に関連する問題の解決であると強調した。ロシア領クリル諸島地域のロシア経済圏での漁業は日本にとって非常に重要であり、実際のところ、日本の漁師自身にとって死活問題になっている。」「日本は現段階ではロシアのエネルギー資源を手放すつもりはなく、ガスや石油を積極的に購入している。特に、サハリン2プロジェクトは日本にはLNG輸出総量の9%に与えている。日本政府は再三にわたって、サハリン2が適切な価格によるガスの安定供給のために重要である点を強調している。」と解説している(Sputnik:2023.2.23)。しかし、岸田首相の間抜けなキエフ訪問はによって、ロシア側からどのような対抗措置が出されてくるのかは全く読めない。、日本の経済的利益が、この政策の犠牲になってしまう。日本にとっては全く国益を売る訪問だったといえる。

3 ロシアに安全を保障されてのキエフ訪問

日経は「日本政府が岸田文雄首相のウクライナ訪問をロシアに事前通告していたことが22日、分かった」「事前通告はロシア軍の攻撃を避け、安全を確保する狙いだった」と報じた(日経:2023.3.23)。日経の同記事の中で「松野博一官房長官ほ22日の参院予算委員会で『ロシア軍による攻撃の情報入手を合め、ウクライナ政府が全面的に責任を負って実施した』」と答弁したが(日経:同上)、全くのデタラメである。元防衛次官の黒江哲郎氏は「ロシアの軍事能力であれば、どこからでもミサイルを撃てる。万が一の事態になったときには領域主権の問題でウクライナ軍に守ってもらわないといけない」と書いたが、寝言も甚だしい(日経:同上)。制空権はロシア軍が握っている。列車は線路上を走るので位置が確定でき、容易にミサイルの標的になる。 キエフまで10 時間、往復で 20 時間もかけて列車で行くとなると、どうぞ撃ってくれという話になる。ウクライナ軍に岸田首相の安全など保障できるわけもない。せいぜい、自らの発射したブークミサイルがあたらないようにすることぐらいである。2月のバイデン大統領のキエフ訪問同様、ロシアは外交上の礼儀と御情けで岸田首相のキエフ訪問を認めたのである。

4 再度:安倍元首相暗殺と対ロシア外交

孫崎享氏は3月20日のメルマガ「バイデン政権は安倍元首相をどの様にみていたであろう」かという見出しで「バイデン首相にとって安倍氏は決して親しみのある相手ではない。ではウクライナ問題で、バイデン政権には安倍氏はどの様に見えるか。① 安倍氏はプーチン大統領と極めて近い(と見なしうる)② ウクライナ支援に懐疑的なトランプに近い(と見なしうる)③ 安倍派は森派の継承であり、ロシア問題では森元首相の影響が強いと見なしうる。その森氏は『ロシアは負けない』『このようにウクライナ支援に突っ込んでいいか』との考えを持たれ、最近それを公までしている。④ 制裁では、石油・天然ガスが一番重要であったが、日本はサハリン2からの撤退を行っていない。⑤ 安倍氏の側近も対ロ制裁には批判的である。安倍氏に最も近かったのは今井尚哉氏である。彼も対ロ制裁に消極的である。」故安倍氏は「2023 年2 月28 日は次のように述べている。『決定的にやってはいけないことは、外交を断つことだ。確かに、今回はどう考えてもプーチン大統領が悪い。ウクライナに利があり、国際社会もロシアが併合した4 州を絶対認めないだろう。しかし、レオパルド2などの主力戦車を300 台配備したところで、あの四州を力で押し戻すのは極めて難しい。このままでは、どんどん人が死ぬだけだ。日本政府は先の大戦を経て、もう戦争はしないと決めた。だから、どうして岸田政権は停戦に向け、動かないのか。私は怒りすら感じている』」と書いている。また、ミハイル・ガルージン前駐日ロシア大使は離任前に「2012年から2020年にかけての露日関係発展におけるきわめて肯定的な段階…双方にとって有益な複数の分野における進歩的な関係発展に向けた、質的に新しい創造的な相互協力の雰囲気を作り出すことができた段階でした。そしてそれは、多くの点において、両国にとっての突破期だったと感じています。…その最たるものは、北極圏で共同で開発した天然ガス田から液化天然ガスを日本に輸送するプロジェクト『アークティックLNG2』を始めとするエネルギー分野の事業です」と述べ、安倍政権の対ロ外交を評価していた(Sputnik:2022.8.12)。

こうした状況下で安倍氏は7月に暗殺された。犯人は山上容疑者だと言われるが、山上容疑者が持っていたまっすぐに銃弾が飛ばないような手製の銃で人が殺せるとは思えない。拳銃の場合、犯人を特定するにはどの銃で撃ったのかという銃弾が必要だが、「疑惑の銃弾」(週刊文春:2023.2.16)は奈良県警が“故意に”紛失したままで発見されていない。しかも、現場検証は事件後5日もたってからである。当時、県警は故意に警備を手薄にしていたことは奈良県警本部長の辞職からもうかがえる。警察庁・県警・検察・裁判所まで指令できるのは米国しかいない。マスコミは事件後わずか15分で山上容疑者の身元を特定し(県警のリークによる)、母親の大学時代の同窓生の名簿まで手に入れて取材に狂奔した。ジャパンハンドラーにとって、プーチン氏に近く、ウクライナ停戦を考えるような安倍氏は邪魔だったのであろう。

岸田氏や司法権力は完全に「ネオコン」の手中にあるが、原口氏によれば、まだ官僚機構には日本の国益を第一に考えるものも残っている。サハリン1.2の権益維持や日ロ漁業交渉、ロシア産魚介類の輸入、日本領空のロシア機飛行を禁止しないなど、独自の道も探っており、「子供」のようにジャパンハンドラーの虚言に惑わされるのではなく、自らの国益に合致した「大人」の行動をとる自立した外交が求められる。

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【投稿】拡大する金融危機--経済危機論(105)

<<「銀行システムは安全」の大ウソ>>
3/18現在、世界の金融危機が直面している二つの焦点、アメリカのファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank :FR)とヨーロッパのクレディ・スイス(Credit Suisse :CS)は、それぞれ破綻寸前の事態に追い込まれている。それぞれ、300億ドル(FR)と540億ドル(CS)の初期救済後も、預金流出が続き、株価が下落し続けている。

まず、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行(SB)、シルバーゲート(SGB)の連鎖的な破綻の後、次なる標的となったファースト・リパブリック銀行に対して、アメリカの大手銀行は破綻を食い止めるために急遽、300億ドルを自主的に提供、規制当局はこの動きを “大歓迎 “と高く評価したのであるが、3/17には、同行の株価はさらに50%も暴落している。この2週間で実に80%の下落である。
JPモルガンなど大手行は自行への預金流出を煽ってほくほく顔であったのが、地方銀行のデフォルトが連鎖すれば、再び大恐慌につながる、跳ね返りの危険が巨大化し始め、3/17、取り急ぎ、「バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、 JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、BNYメロン、PNC銀行、ステート・ストリート、トライスト、USバンクが、ファースト・リパブリック銀行に合計300億ドルの無保険預金を行う」ことを公式プレスリリースで明らかにしたのであった。
この動きを歓迎して、ジャネット・イエレン財務長官、連邦準備制度理事会ジェローム・パウエル議長、FDIC 議長マーティン・グルエンバーグ、および通貨監督官代理のマイケル・シューによって、米中銀(FRB)、米財務省、米連邦預金保険公社(FDIC) の共同声明を発表、「本日、11 の銀行が First Republic Bank への 300 億ドルの預金を発表しました。 大手銀行グループによるこの支援の表明は大歓迎であり、銀行システムの回復力を示しています。」と高く評価したのであった。
しかしそれは、一日も持たなかったのである。
バイデン大統領は、3/13、アメリカ国民に「銀行システムは安全だ」と請け合ったのだが、それは虚勢を張った、拱手傍観し、事態を冷静に評価

バイデン「銀行システムは安全だ」

できない大嘘であったと言えよう。銀行システムは崖っぷちに追いやられているのである。
3/17、事態の危険な進展に慌てたバイデン大統領は、破綻した銀行の幹部に対する罰則を強化するよう求める声明を発表し、クローバック(資金の取り戻し)、民事罰、業界追放を要求する事態に追い込まれている。

地方銀行、中小銀行は米国の商業・工業向け融資の50%、住宅不動産ローンの60%、商業不動産ローンの80%、そして消費者ローンの45%を占めており、ファースト・リパブリック銀行の危機は、氷山の一角にすぎないのである。シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行と同じように、FRも保有していた国債が急速な金利上昇のために莫大な未実現損失を抱えていたのであり、経営幹部自身がインサイダー取引で事前に自社株を売却していたことも判明している。
バイデン政権の危険な対外緊張激化政策、高インフレのブーメランをもたらした対ロシア・対中国制裁政策、超低金利とイージーマネーに大きく依存し、マネーゲームに明け暮れる金融独占資本を野放しにしてきた経済政策こそが、直接、間接、中小、地方銀行の経営危機、経済危機を一層激化させていることからすれば、バイデン氏自身が政界から追放されるべきであろう。

<<WSJ「数十の銀行、破綻の可能性」>>
事態の深刻さは、シリコンバレー銀行が破綻して以降、たったの7日間で米国内の各銀行が連邦準備制度理事会(FRB)から借入れた合計額が1648億ドル(約21兆9千億円)という記録的な数字となったことが公表データから明らかとなっている。これらの資金は切迫する資金繰りに注ぎ込まれたのであるが、合計額のうち1528.5億ドル(約20兆3千億円)は、商業銀行を対象に最大90日間の短期貸出として割引窓口(ディスカウントウィンドウ)経由で貸し出されている。FRBのデータによると、今回の貸出額は同機能始まって以来の最高額となり、2008年のリーマンショック時の水準(1110億ドル=約14兆7600億円)をすでに上回っているのである。
しかし、これで事態が収束するどころか、さら

WSJ「数十の銀行、破綻の可能性」

に危険な金融危機に進展する可能性の方が大なのである。3/17、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、「シリコンバレー銀行は、金利上昇により資産価値が下落し、不安になった顧客が保険対象外の預金を引き出したことで破綻した。経済学者らは新たな研究で、同様のリスクにさらされる可能性のある186の銀行を発見したと発表した」、「数十の銀行がシリコンバレー銀行と同じ運命をたどる可能性」があるとまで報じる事態である。

<<クレディ・スイス、破綻寸前>>
さらに、も一つの焦点であるクレディ・スイスも、破綻寸前である。
近年、一連の損失とスキャンダルに見舞われている投資銀行、クレディ・スイスは、スイスで2番目の巨大銀行であるが、2022年末の総資産は 5,740 億ドルで、2020年末の 9,120 億ドルから 37% も減少している。なお、破綻したシリコンバレー銀行の総資産は2,120 億ドルであった。このクレディ・スイスは、国際金融安定理事会によってシステム上重要であると指定された 30 のグローバル金融機関の 1 つで、大きすぎて潰せない銀行の一つなのである。しかし、今やこの銀行でさえ、文字通り崩壊の瀬戸際にあり、次に倒れるドミノの最有力候補である。
直近の破綻のきっかけは、この銀行への最大の投資家で、筆頭株主であるサウジ国立銀行 (SNB) が、規制および法定の制限により財政支援をもはや提供できないと発表した直後からであった。第4四半期に預金の純流出が1,190億ドルに達し、株価急落が顕著となり、スイス国立銀行(SNB)が急遽、500 億ドルの救済資金を投入、それでも事態は悪化している。3/15には、株価がまたもや史上最安値を記録、午前中だけで株取引が数回停止させられる事態に追い込まれている。

クレディ・スイスの預金流出

危機打開に向けて、スイス国立銀行が全額預金保証で介入するか、クレディ・スイスの投資銀行全体を閉鎖するか、より現実的には、スイス第一の銀行であるUBSとの統合が提起されている。SNBは3/17日夜、米英の金融当局に対し、2行の統合がCSの崩壊を阻止する「最善策」であると説明した、と報じられている。しかし、この2つの銀行が統合される場合、10,000人の雇用を削減しなければならない可能性があると警告されている。

もちろん、こうした事態はヨーロッパ全体に波及しつつある。フランスのソシエテ・ジェネラル、スペインのバンコ・デ・サバデル、ドイツのコメルツ銀行が最大の株価下落を記録し、イタリアの銀行、UniCredit、FinecoBank、Monte dei Paschi などが自動取引停止の対象となっている。
いずれも各国が放置してきた金融バブルの中で、金融独占資本主導のマネーゲーム、自由競争原理主義の新自由主義が実体経済を弱体化させてきた当然の帰結でもある。しかも、破綻する金融資本救済策が、大量の資金投入がさらにまたインフレ激化要因となり、利上げ、緊縮政策と相矛盾する混迷に追い込まれているのである。

こうした金融危機の拡大は、これまでに経験したことのない経済危機の瀬戸際に追い込まれているということであり、2008年のリーマン危機を上回る事態ともいえよう。当時は、欧米 VS ロシア・中国の緊張激化、世界大戦の危機など存在していなかったのであるが、現在の危機はその真っ只中で危機が煽られているのである。金融危機打開のために、まず第一になされるべきなのは、実は、世界的な緊張緩和・平和政策なのである。
(生駒 敬)

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【書評】『綿の帝国―グローバル資本主義はいかに生まれたか』

【書評】『綿の帝国―グローバル資本主義はいかに生まれたか』(スヴェン・ベッカート著 鬼澤忍・佐藤絵里訳 2022年12月 紀伊国屋書店 4,500円+税)

                             福井 杉本達也

1 新疆綿                 

『綿の帝国―グローバル資本主義はいかに生まれたか』は原注・索引などを含めると847ページにも及ぶ訳書であるが、訳はこなれていて読みやすい。本書の原書は2014年に刊行され、ピュリッツァー賞の最終候補にもなっている。鬼澤忍氏の訳者あとがきは「昨年(2021年)のこと、新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された綿を使用しているとして、大手アパレル企業が批判を受けたというニュースが流れた。…人権意識が高まっている現代においても、こうした劣悪な労働環境はなかなか解消されない」と書き出しているが、事実はどうなのであろうか。

シュライバー米国防次官補は、「2018年5月現在『ウイグル人の少なくとも100万人(ウイグル人の約8.9%)、しかし、おそらくは300万人(ウイグル人の約27%)の市民』が強制収容所である新疆ウイグル再教育収容所に勾留されている。」と中国を非難した。2021年1月、米国は、中国政府による新疆ウイグル自治区での少数民族ウイグル族弾圧を、国際条約上の「民族大量虐殺」である「ジェノサイド」であり、かつ「人道に対する罪」に認定したと発表し、新疆産の綿の輸入を停止した(Wikipedia 2023.3.14)。米国は綿製品について「収容所の収容者や受刑者を労働力として活用し、強制労働を行っている実態が合理的に示唆される」と説明、「中国政府が現代の奴隷制による搾取を行うことを容認しない」とした(CNN:2021.1.14)。しかし、丸川知雄東京大学社会科学研究所教授によれば、中国の公式統計を基に「『ジェノサイド』というほどのことが起きている証拠はまだ提示されていない」と指摘している(Record China 2021.8.16)。

ウイグル自治区の一次産品としては、小麦・綿花・テンサイ・ブドウなどが挙げられるが、どうして、小麦ではなく、綿花が「強制労働」の標的にされたのか。確かに新疆綿は繊維が長く光沢があり高級品とされ国際的な評価は高いが、それだけが理由ではない。本書は「綿」という特殊な農産物の秘密から、強制と暴力が大きな役割を果たしてきた資本主義発展の歴史の本質を解き明かす。

 

2 戦争資本主義

『綿の帝国』はヨーロッパ人の才能を「世界を『内部』と『外部』に分ける」ことだと書く。三十年戦争の講和条約として1648年にウェストファリア条約が締結された。これによってヨーロッパは主権国家間の秩序となり、相互承認関係で域内の戦争を抑止しながら西洋的価値観を『外部』の世界に広めていく。西洋的価値観や社会原理は、西洋固有の特権ではなく、諸国家の「自立・共存」の多様世界となり、「西洋」はみずからが編成した世界の中にその一部として解消されるべきものであるが、実際はそうならなかった(西谷修:『世界』2023.1)。「『内部』の世界は母国の法律、制度、慣習を内包しており、国家が強制する秩序によって支配されていた」が、西洋以外の「『外部』の世界は、帝国主義的支配、広大な領地の収奪、先住民の大量殺戮、彼らの資源の強奪、人間の奴隷化、民間の資本家による広大な土地の支配などを特徴としていた。これらの民間の資本家が、遠く離れたヨーロッパ諸国から監督されることはほとんどなかった。こうした帝国主義的属領には『内部』のルールは適用されなかった。そこでは奴隷の所有者が国家を凌駕し、暴力が法律を無視し、民間人による剝き出しの物理的強制が市場を再編した」。18世紀には「複数の大陸にまたがり、多くのネットワークを通じて広がっていた勢力が、ヨーロッパの資本家と国家が支配するひとつの中心に向かって次第に収束していった。こうした変化の中心にあったのが綿だった。この商品の生産と流通にかかわる多種多様な世界が、グローバルな規模で組織された階層的な、<帝国>に徐々に侵食されていった」(『綿の帝国』)。

 

3 奴隷制の支配

「新たに生まれた<綿の帝国>にとっては奴隷制とは適切な気候や肥沃な土壌と同じく欠かせないものだった。農園主が上昇する価格や拡大する市場に素早く対応できたのは、奴隷制のおかげだった。奴隷制があればこそ、大量の労働者をあっというまに動員できたばかりか、暴力的な監督と事実上不断の搾取という体制を築くことができた」。アメリカの農園主が他の地域と異なるのは「大量の安価な労働力」=「『世界一安価で世界一入手しやすい労働力』―の供給力に恵まれていた」からである。「綿花栽培には文字どおり、労働力の探求とそれを管理するための永続的な奮闘が必要だった。奴隷商人、奴隷小屋、奴隷の競売、何百万人もの奴隷の拘束に伴う身体的・精神的暴力は、アメリカにおける綿花生産の拡大とイギリスにおける産業革命にとって何よりも重要だった」。

「奴隷制は、反乱を起こす恐れのある奴隷への暴力を常に必要とし、その暴力は国家の黙認に基づいている。そのため、国家に支配力を及ぼしつづけること、あるいは少なくとも奴隷制反対論者を国家権力機関から締め出すことの必要性を、奴隷所有者は痛感していた」(『綿の帝国』)。

 

4 アメリカ先住民の虐殺

綿にとって適切な気候と肥沃な土壌がアメリカ南部に広がっていた。アメリカの農園主は「土地。労働、資本の供給をほぼ無限に受け入れられた」。課題は土地だった。「2,3年以上にわたって同じ畑を綿花の栽培に利用するのは不可能だった」。「かれらはひたすら、さらに西へ、さらに南へと転身した」。18世紀後半「アメリカ先住民は海岸地帯からわずか数百マイル内陸のかなり広い土地を依然として支配していた。だが、彼らは白人入植者の絶え間ない侵入を阻止できなかった。入植者は最終的に、数世紀にわたる血なまぐさい戦争に勝利を収め、アメリカ先住民の土地を法律的に「無人の」土地とすることに成功した。こうした土地は、そこに存在していた社会構造が壊滅的に弱体化ないし消滅させられた土地であり、その住人がいない、したがって歴史とのかかわりが失われた土地だった。邪魔者がいない土地という点で言えば、アメリカ南部は綿花を栽培する世界において敵なしだった」。

「1938年、連邦軍は奪った土地を綿花プランテーションに変える目的で、チェロキー族をジョージアの彼らの父祖の地から追放しはじめた。さらに南方のフロリダでは、1835年から42年にかけて、きわめて肥沃な綿作農地がセミノール族から収奪された。この第二次セミノール戦争は、ヴェトナム戦争以前ではアメリカ史上も長く続いた戦争だった」。

1838年の先祖伝来の土地を奪われるに際して、チェロキー族の首長ジョン・ロスは議会に対し「『われわれの土地は目の前で強奪されるだろう。われわれの仲間には暴力が振るわれるだろう。われわれの生命さえ奪われかねない。それなのに、誰もわれわれの言い分に耳を貸そうとしない。われわれは国民としての権利を奪われている。公民権を奪われている。人類社会の一員としての権利を奪われているのだ!』」と訴えた(『綿の帝国』)。

だが、時の大統領アンドリュー・ジャクソンは一万数千人のチェロキー族の1300キロの強制集団移住を強行した。その代表的な惨劇が『涙の道』」“Trail of Tears and Death”である。「ジャクソンは老若男女を問わぬ北米先住民大虐殺に血道をあげた。『やつらには知性も勤勉さも道義的習慣さえない。やつらには我々が望む方向へ変わろうという向上心すらないのだ。我々優秀な市民に囲まれていながら、なぜ自分たちが劣っているのか知ろうともせず、わきまえようともしないやつらは環境の力の前にやがて消滅しなければならないのは自然の理だ』と演説した」(藤永茂ブログ:「私の闇の奥」2020.8.1):詳しくは、藤永茂著『アメリカ・インディアン悲史』1972参照)。

 

5 『内部』と『外部』が一体となった『綿の帝国』米国の成り立ち

アメリカ先住民の徹底した排除・弾圧による、米国の歴史からの文字通りの抹殺と、黒人奴隷の暴力による「強制労働」から米国の国家は始まった。彼らは初めから『内部』ではなく、『外部』としてあった。「普遍的人権」は「人間の生存にとって欠くことのできない権利および自由」とされ、人が生まれつき持ち、国家権力によっても侵されない基本的な諸権利とされる。それは、西洋人固有の特権ではなく、あまねく世界のものであるはずだが、現実には「自由」や「人権」は「権利主体たりうるキリスト教ヨーロッパ出自の移住者にしか帰属しない」(西谷修『世界』同上)。そして今もアメリカ先住民や黒人は人権の外側にある。その延長線上に現代の中国やインド、東南アジアや中東、アフリカや中南米があり、また、スラブやロシアなど東方正教会の世界がある。

今日の米国による中国のウイグル「強制労働」への非難は、他国も“我々”と同じように、『外部』としての先住民を抹殺し、土地を奪い、「無主物」とした土地に綿花を植え、『外部』から持ち込んだ奴隷の強制労働によって綿花が摘まれているはずだという、<綿の帝国>の自己意識の反映である。

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【投稿】金融危機への直面--経済危機論(104)

<<「2008年の金融危機以来、破綻した最大の銀行」>>
3/9、米金融バブルの崩壊が突如押し寄せ、拡大する、その先駆けとなりかねない銀行破綻が浮上した。米カリフォルニア州サンタクララに本拠を置くシリコンバレー銀行(SVB:Silicon Valley Bank)、その親会社SVBファイナンシャル・グループの株価が60%安の暴落で取引を終え、株式の取引を停止する事態となった。3/9の営業終了時点で、SVBは「当行の現金残高は約9億5800万ドルのマイナス」となり、「急激な預金引き出しにより、当行は期日が到来した債務を支払うことができなくなり、現在債務超過に陥っています

シリコンバレー銀行メルトダウン伝染拡大の恐れ(March 11 NYPost)

。」という事態に追い込まれたのであった。たった数時間の内に、銀行の資金の4分の1が流出したことになる。この急激な預金引き出しには、大手メガバンク・JPモルガンなどメガバンクの加担などが取りざたされている。
3/10、直ちにこの銀行は「預金保護のため」に閉鎖され、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行、すべての支店を一時的に閉鎖し、預金引き出しを凍結、SVBの資産を差し押さえ、預金保険国立サンタクララ銀行 (DINB) を設立、SVB銀行のすべての保険付き預金を直ちに DINB に転送、遅くとも2023年3月13日(月)の午前中には、その被保険預金に完全にアクセスできるようになると発表。ただし、このFDIC保険は25万ドルまでの預金だけををカバーするものであり、25万ドル以下であれば、月曜日の朝にはその全額が利用可能になる。しかし、SVBの顧客のほとんどは、300万ドル前後のもっと高額な残高を持つ法人企業であり、多くの企業の次の給与支給日が3/15に控え、それぞれの企業の給与支払いさえ不可能な事態が目前に迫っているのである。被害は次から次へと連鎖的に広がる可能性が高いのである。
このSVBは、米国内で16番目に大きな中堅銀行であり、預金額は 1,750 億ドル(うち1515億ドルは無保険)を超え、資産は 2,090 億ドル(約28兆円)、この資金力を背景に、ベンチャーキャピタル企業に特化して、米国のスタートアップ産業・企業の中心的な銀行と長い間評価されてきた。テクノロジー企業の半数以上(250社)が「現金の大部分を SVB に保有している」とまで言われている。SVBは米国のベンチャーキャピタルが出資するスタートアップのほぼ半数と取引しており、テクノロジーおよびヘルスケア企業で昨年上場した企業の44%は同社顧客だったと報じられている。そして何しろ、破綻直前の3/8まで、格付け会社のムーディーズは、このSVBファイナンシャルを A3 という高格付けを維持してきたのである。
しかしこのSVBの実態は、米連邦準備制度・FRBがインフレ対策の名のもとに低金利・ゼロ金利の量的緩和から、金利引き上げ・緊縮政策への転換に移行するとともに、SVBのバランスシートは、1年前にはほとんどなかった含み損が、第3四半期の時点で160億ドルにまで増えていたのである。SVBの破綻は「ハイテクブームの絶頂期に、910億ドルの預金を住宅ローン債権や米国債などの長期の有価証券に保管することを決定し、これらは安全だと考えられていたが、SVBが購入したときよりも150億ドルも価値が下がった」ことから始まったと報じられている(フィナンシャル・タイムズ紙 3/10)。
かくして、このSVBの破綻は、「2008年の金融危機以来、破綻した最大の銀行」(ニューヨークタイムズ紙)となった。もちろん、この事態は、SVB一行、米国内にとどまるものではない。

<<世界的金融危機への拡大>>
3/10、銀行のパニックは、大小を問わず他の銀行にも急速に拡大。パックウェスト・バンコープは終値で市場価値の 25.45% を失い、ファースト・リパブリック バンク は 16.51% 下落。バンク・オブ・アメリカは 6.20% を失った一方で、米国最大の銀行である JP モルガン・チェース も 5.41パーセント下落している。「2008 年よりもはるかに大きな崩壊の危機」に直面しているのである。預金引き出しは、わずか1日で記録的な 420 億ドルが銀行から引き出されたと報じられている。サンフランシスコに本拠を置くファースト・リパブリック銀行が次の破綻の第一候補なのかもしれない。
 KBW・銀行株指数は15.7% 下落し、ナスダック銀行指数は 16.1% 下落、NYSE 金融指数は 7.5% 下落、ブローカー/ディーラー インデックス (XBD) は 9.3% 下落。欧州ストックス 600 銀行指数は 5.0% 下落、ハンセン中国金融指数も 5.1% 下落する、銀行パニックの世界的傾向が鮮明になりつつある事態である。。  金融危機の拡大は、カナダ、インド、中国にまで及び、英国では、SVB のユニットは支払不能と宣言される予定で、すでに取引を停止、3/11、約 180 のテクノロジー企業のリーダーが、英国のハント首相に介入を求める書簡を送っている。SVB は、中国、デンマーク、ドイツ、インド、イスラエル、スウェーデンにも支店を持っており、破綻により、政府の介入なしに世界中のスタートアップ企業が全滅する可能性があると警告している。 SVB の中国合弁会社である SPD Silicon Valley Bank Co. は、業務が独立して安定していると釈明している。
カナダでは、同国の SVB Financial Group の部門が昨年、4 億 3500 万カナダドル (3 億 1400 万ドル) の有担保ローンを報告 トロントに本拠を置く広告技術企業 AcuityAds Holdings Inc. は土曜日、SVB に 5,500 万ドルの預金があり、現金の 90% 以上に相当することを明らかにした。 同社は、シリコンバレー銀行との

Sun, March 12, 2023

「展開中の状況」を理由に、14%の下落の後、3/10、株式の取引を停止している。
アジアの銀行株も、3/10の取引で軒並み値を下げ、MSCIアジア太平洋指数で金融株指数は一時1.6%下落、三菱UFJフィナンシャル・グループは一時3.3%安、豪オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)と韓国のKBフィナンシャルグループもともに一時2.7%下げている。
今回のSVBの破綻のスピードの速さは、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻以来最大で、ウォール街を動揺させ、3/13、月曜日は、21世紀の最新の「ブラック マンデー」になるかもしれないのである。問題は、まだまだ気づかれていない時限爆弾がいたるところにあるある可能性が高いということでもある。金利引き上げの誤算が明確になりつつあるFRBは、SVB の崩壊を受けてこの月曜日に緊急非公開会議を開催するという。要注意であろう。
(生駒 敬)

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【映画評論】ドキュメンタリー映画『私のはなし 部落のはなし』

【映画評論】ドキュメンタリー映画『私のはなし 部落のはなし』

                               福井 杉本達也

満若勇咲監督、大島新プロデューサーによる自主製作・ドキュメンタリー映画『私のはなし 部落のはなし』を見た。上映時間3時間25分(途中休憩あり)という大作である。雪も降る夜7時20分からの上映ということもあり、このようなマイナーな映画などあまり見る人もいないのではないかと劇場に入ったところ、既に7~8人の若い観客がいた。

最初の方で伊賀市の被差別部落の松村さん・同僚の中村さん・その後輩の林さんと林さんのお母さんの4人が座卓を囲んんで部落差別について語り合うのだが、あたかもカメラが存在しないかのように自然にしゃべるシーンは非常に新鮮である。また、部落史を専門とする静岡大学の黒川みどり教授が、大学の参考図書や資料で埋めつくされた狭い研究室のテーブルに黒板を置いて、それいっぱいにチョークを使って大きな文字で「部落」の呼称の変遷について語る。江戸時代の身分の「穢多・非人」が明治維新後の1971年の解放令で廃止されたものの、新たに「新平民」や「特種部落」という差別的呼称が生まれた経過や「未解放部落」・「被差別部落」という呼称。また、行政用語としての「同和地区」、また「細民部落」や「貧民部落」という呼称がなぜ使われなくなったのかを分かりやすく解説している。

1 改良住宅と地域共同体の崩壊

対話をできるだけ取り入れたいドキュメンタリーであるが、対話がなりたたない地区もある。高橋さんが居住する京都市最大の被差別部落は、戦後は1万人も住み、闇市もあり活気にあふれていたが、今は1300人に減り、その半数以上が高齢者である。部落解放運動により建て替えられた高橋さんの住む改良住宅は、今となってはエレベーターもなく、耐震補強もなされず、行政の不作為のままに長年にわたり放置されてきた。住みにくく、安全でもない住宅から居住者のほとんどは出ていき、わずかな灯が残るのみで、芸術大学の移転先として取り壊される。山内さんが1960年代に製作した8ミリの自主映画が修復されたが、そこには消防車もゴミ収集車も入らない改善前のバラックがひしめく地区が映し出される。そのバラックが解放運動により、鉄筋の集合住宅に建て替えられた。貧弱な日本の住宅政策に一石を投じる画期的な運動であった。しかし、そこの入居者は制限された。京都市は「属地属人主義」をとり、対象者を被差別部落出身者に限った。

その後も、日本の住宅政策は非常に貧弱なままである。住宅を社会的共通資本とする考え方は薄い。あくまでも、貧困対策であり、住宅政策の基本は持ち家一本鎗で私有財産を優先し、住宅ローン減税など税制を含め、個人所有に誘導しようとしている。各市町村とも公営住宅の入居条件は厳しく、事実上は母子(一人親)家庭・高齢者世帯・外国人などに限られる。となれば、公営住宅の建つ地区は、貧困層が多く、年齢構成も偏り、地域共同体が構成しにくい地区となる。

伊賀市の被差別部落に住む廣岡さんは、市営住宅が同和対策事業終了後も地域にルーツがあることを入居条件にしている。廣岡さんは「他所の人もここに入ってきてほしい。それが差別が解消される第一歩だと思う」と行政の政策に怒りを隠さない。市営住宅の住民が高齢化し、空き部屋が増えれば増えるほど地域の共同体は成り立たなくなる。共同体が崩壊すれば、住民自治も運動もなりたたなくなる。高橋さんの住宅からの引っ越しのシーンはそれを映し出している。だが、箕面市の被差別部落のように「開かれた部落」として、共同体の再構築を試みている地区もある。

2 「鳥取ループ」と関電の金品受領問題

満若監督が「鳥取ループ」を取材しているとは思わなかった。突然、画面に高速道路で車を運転する「鳥取ループ」の宮部氏が登場する。「鳥取ループ」は勝手に部落の地区を撮影し。ネット上に動画を公開する「部落探訪」や「部落地名総鑑」のネット公開で裁判になっている。「鳥取ループ」の行為は、明かすものではなく、晒すもので就職差別や結婚差別に繋がるというものである。これを「鳥取ループ」は差別する個人の問題だとする。

関西電力役員の故森山高浜町助役から金品受領が発覚した時、「鳥取ループ=示現舎」は「関電が恐怖した高浜町助役は地元同和のドンだった!」との見出しで、「再稼働や拡張工事など地元の理解を得るため電力会社側が有力者に金品を提供するというシナリオならばありえる話だ。しかし地元側から電力会社に金品提供とは前代未聞。なぜこんな事態が起こりえたのか? それは“同和のドン”森山が解放運動を背景に高浜町、そして関西電力を屈服させてきたからだ」(部落差別解消推進 神奈川県人権啓発センター 示現舎2019.10.2)と書いた。森山氏こそが同和問題を背景に関電を脅したという書きぶりである。関電役員の犯罪は完全に免責されている。

この論調はマスコミも同様である。2019年10月3日付けの福井新聞は、故森山助役を「県客員人権研究員として人権行政のアドバイザー的役割」として、町助役以外の職務をわざわざ紹介した。岩根関電社長は金品受領問題の記者会見で「金品を帰さなかった理由を『脅された』と険しい表情で強調。『森山案件』は特別で、おびえてレまった」と釈明を重ねた」とまで、岩根社長の“本音”に共感する形で書いた。関電の第三者委員会報告書(委員長:但木敬一弁護士:元検事総長)は「本心としては金品を受け取りたくないという関西電力の役職員の心情を十分認識した上で」(P23)、「森山氏の要求は執拗かつ威圧的な方法でなされる場合も多く、時には恫喝ともいえる態様であり」(P100)、「あたかも自身や家族に危害を加えるかのような森山氏の言動を現実化するおそれがある、などといったことが綯い交ぜになった漠然とした不安感・恐怖感」(P188)からであると書いているが、これこそ、差別発言を糾弾する人々が、差別を再生産していると、主客を転倒し、問題は部落解放同盟側にあるかのようにして、巧妙に関西電力を「被害者」に仕立て上げるものである。第三者委に先立つ関電の社内調査報告書を作成した社内調査委員会の委員長は元大阪地検検事正の小林敬氏である。また、但木氏の数代前の検事総長の土肥孝治氏は16年間にわたって社外監査役を務めている。国家権力の中枢にあった検察幹部を何人も抱えながら、たった一人の森山氏の「脅し」に屈服したという言い訳が通じるものではない。「鳥取ループ」も国家権力・関電・マスコミエリート支配層の差別に全面的に加担するものであり、差別する個人の問題ではない。折角、「鳥取ループ」を取材したのであれば、さらなる切込みが欲しい。会話の話題が個人による差別・結婚差別の問題のみに流れるのはどうだろうか。

3 ネットによる情報操作

映画のの最後の方で、松村さんはひたすらネット上の差別書き込みを朗読する。ネット上の差別をどのように映像化するかというのは難しい。しかし、ネット上への差別書き込みは個人の問題であろうか。

我々がアクセスするネットは全ての情報を無条件にUPしているわけではない。支配エリートにとって都合の悪い情報は検閲され、削除される。また、アカウント自体を削除されてしまう。また、支配エリートにとって都合の良い情報は次から次へと拡散されている。その作業はオンラインサービスを提供するAIのロボット型検索エンジンだけに頼ることはできない。2022年10月にツイッター社を買収したイーロン・マスクは全体の2/3もの社員を解雇した。これは、経営の赤字を解消するためと新聞紙上で解説されているが、実際はその社員のほとんどが、ネット上の検閲に関与していた。

イーロン・マスクは「11月30日、自分が買収する前の同社幹部らがコンテンツモデレーション(投稿監視)を使って選挙に介入し、社会の信頼を損ねていたとしてこれを非難した。2018年、中間議会選挙の年にすでに共和党はツイッターのアカウント削除について警鐘を鳴らしていた。当時、ツイッター幹部は数千件のアカウントをブロック。この措置は、『ロシアのボット』が活動しているからという嫌疑によって正当化されたが、実際にツイッターの被害を受けたのはロボットではなく『生きた』ユーザーの方だった」。また、「共和党や民主党、バイデン氏の周辺から『不都合な』情報を含む投稿を削除するよう求める圧力があったことを示すツイッターの内部文書を公開」し、SNSの内情を暴露したが(Sputnik 2022.12.3)、こうしたネット上の検閲や情報拡散は日常的に行われている。ネット上の差別文書は差別する個人の責任・結婚差別も差別する個人の責任だという見方は甘い。支配エリートの情報操作が深くかかわっている。

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【投稿】ウクライナ戦争を止めさせたくない米国(ネオコン)と中国の和平提案

【投稿】ウクライナ戦争を止めさせたくない米国(ネオコン)と中国の和平提案

                              福井 杉本達也

2月24日でロシアがウクライナに侵攻して1年となった。日経新聞は23日「ロシア、支配地5割失う」、「死傷者20万人規模」、「プーチン氏、戦果なく焦り」と書いた。しかし、この1年、日本のマスコミは全く事実を報道していない。人的にも弾薬も枯渇したウクライナ=NATOの敗北は必至の状況である。

1 ロシアを孤立させる試みは完全に失敗

ワシントン・ポスト紙は2月23日、「『西側諸国の外からよく見てみると、世界が一致団結しているとは言い難いことがわかる』と指摘した上で、『この紛争は、世界の分断と、急速に変化する世界秩序に対する米国の影響力の限界を明らかにしている』と報じている。また同紙は、『中国やイランなど、ロシア政府を支援するとみられるロシアの同盟国の間だけでなく、(ロシアの)プーチン大統領を孤立させようとする努力が失敗したことを示す十分な証拠がある』と伝えている。」(Sputnik:2023.2.23)。

また、米国のPEWの世論調査では、「対ウクライナ支援」が「あまりに多い」とするものが、2022年3月にはわずか7%であったものが、2022年9月には26%になった。これを共和党支持者だけに限ると、3月:9%が9月:40%にもなった。マージョリー・テイラー・グリーン 氏は、今月初めに列車の脱線事故が環境災害を引き起こしたオハイオ州を訪問しなかったバイデンを非難し、「『バイデン氏は大統領の日にオハイオ州東パレスチナに行かなかった。彼はNATO 非加盟国であるウクライナに行き、その指導者は俳優であり、現在、米軍に世界大戦を指揮しているようです。手遅れになる前に、このアメリカの最後の愚か者を弾劾しなければなりません。』」とツイートした(孫崎享:2023.2.23)。

2 ノルドストリーム爆破の犯人は米国とノルウェー

昨年9月26日のロシアのガスを欧州・ドイツに供給するパイプライン「ノルド・ストリーム」が爆破された。ベトナム戦争時のソンミ村虐殺報道でピューリッツア-賞を受賞した経歴の米国報道記者:シーモア・ハーシュは、2022年夏のNATO軍事演習「バルトップス」に参加した複数の米国人ダイバーらが「ノルド・ストリーム」の下部に爆破装置を設置し、それを3か月後にノルウェーが作動させたために起きたとするすっぱ抜き記事を表した。この破壊工作は、バイデン米大統領が国家安全保障チームと9カ月以上にわたって秘密裏に協議し、サリバン米大統領補佐官・国家安全保障担当が関与していたと断言した(Sputnik:2023.2.8)。「バイデンは、ドイツと西ヨーロッパがパイプラインを開くのを防ぎ、西ヨーロッパがNATOを支持し続け、明らかにロシアに対する代理戦争に武器を注ぎ込むことを確実にするために、政治的な目的で米国は破壊を行いました。」(シーモア・ハーシュ:ゴーイング・アンダーグラウンドでのインタビュー:RT:2023.2.23)とシーモア・ハーシュは述べている。

ノルドストリーム・パイプラインは二つの大陸を結びつけ、最終的に世界最大の自由貿易地域になる経済コモンズをもたらす重要な動脈だったのでノルドストリームがアメリカによる攻撃の主要標的になったのはそのためだ。これがワシントンが最も恐れていたことで、それがバイデンと仲間がドイツとロシア間の経済関係強化を防ぐためにそうした必死の措置を講じた理由だ(マイク・ホイットニー『マスコミに乗らない海外記事』:2023.2.24)。

ところが、日本の主要マスコミはこの重大事実を全く報道しない。『現代ビジネス』が『「ノルドストリーム爆破」は米国の仕業だった…!? 新説急浮上でバイデン政権に噴出するいくつもの疑惑』と報道するが、数少ない(2023.2.14)。いかに日本のマスコミが米軍産複合体に抑えられているかを示している。

3 ウクライナ政権内部の分裂・粛清

1月14日には、ドニプロの高層住宅にウクライナ軍の防空ミサイルが着弾し、数十名の死者が出た責任を取らされる形で、17日、アレストビッチ大統領府長官顧問が辞意を表明し、大統領府は承認した(毎日:2023.1.17)。アストレビッチは辞任後「戦争におけるウクライナの勝利は、もはや保証されていないように見える。…戦争に勝つことが保証されていると誰もが思っているとしたら、それは非常に異なっています。」「ウクライナ当局はロシアとの軍事衝突に勝つチャンスだけでなく、内部の政治的なチャンスも逃した」とツイートした(2023.2.22)。また、18日にはキエフ近郊で「内務省高官を乗せたヘリコプターが墜落した。モナステイルスキ内相を含む少なくとも14人が死亡」し、内務省の高官が全滅した(日経:2023.1.19)。2月6日のBloombergは「レズニコフ国防相が任を解かれ、後任に国防省情報総局長のキリロ・ブダノフ氏が就任」との記事を流した。共同通信は「ウクライナでは軍を巡る汚職疑惑が報じられており、引責の司能性がある」と報道した(共同=福井:2023.2.7)。さらに11日には、CNNはゼレンスキー大統領は国家親衛隊のルスラン・ジュバ副司令官を解任したと報道した。また、1月末に大統領府のティモシェンコ副長官が辞任を発表したのに続いて、国防次官、副検事総長、地域開発次官らが次々と解任されたり、辞任したりしていると報じている。なお、CNNは「レズニコウ国防相が更迭されるとの情報もあるが、議会幹部の一人は先日、当面交代はないと述べた。」と報道し、その後、公の場に姿を現した。ウクライナ政権の内部は分裂・崩壊状態にある。

4 中国の気球を巡っての米中の緊張

オースティン米国防長官は、2月4日、米軍が南部サウスカロライナ州沖の大西洋上空で中国の偵察気球を撃墜したと発表した。中国はコントロール不能の研究用の気球が米国内に入っただけだと反論した。王毅氏は訪ロに先立って、ドイツ南部ミュンヘンでプリンケン米国務長官と会談した。王氏は「米国の気球撃墜を非難し『米国が事態を拡大させるなら、中国はとことん相手をする。すべての結果は米国が負うことになる』と発言した。」(日経:2023.2.22)。元米中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデンは、米国およびカナダ上空で撃墜された飛行物体はノルトストリーム爆破の調査から目をそらすために作られたものだとの考えを示した(Sputnik:2023.2.14)。

5 バイデンのキエフ訪問

日経のワルシャワ支局の中村亮記者は、バイデン大統領は2月20のウクライナのキエフを訪問について、数か月前から極秘に計画し、「不測の事態への緊急対応計画を練り、17日に訪問を決断した。ロシア側に事前通告したが訪問中に防空サイレンが鳴り響き、安全へのリスクを物語った」。「鉄道に乗り換えて暗闇の中を約10時間かけてキーウ」に向かった(日経:同上)と書いた。米国大統領が10時間も列車で移動するというのは異例中の異例である。ウクライナ上空の制空権がロシアに握られている現在、安全を保障するのはロシア以外にはない。バイデン大統領がキエフでどう発言しようが、ロシアの手の内にある猿回しの猿以上のものではない。

 

6 「NATOの弾薬は尽きた」とストルテンベルグNATO事務総長

ストルテンベルグNATO事務総長は2月18日、ミュンヘン安全保障会議でのCNNの取材に対して、「ロシアはこれまでのところウクライナよりも多くの弾薬と人員を最前線にもたらすことができたと述べ」「ウクライナの弾薬消費量は『NATOの総生産量よりも多い』と彼は続け、この状況は『継続できない』と付け加えた」。「昨年の秋以来、ウクライナでの紛争は『消耗戦争に移行した』とストルテンベルグ氏は述べ、『消耗戦争は兵站の戦いである。物資、スペアパーツ、弾薬、燃料など、どうすれば十分なものを最前線に届けることができますか。』」と語ったが(RT:2023.2.23 自動翻訳)、逆に問えば届けられるはずもない。NATOの敗北は必至である。

7 中国の和平交渉の動きとウクライナの解体

中国の王毅氏は18日にウクライナのクレバ外相と会談した。「『中国は常に和平交渉の促進を堅持している』と語りかけた。その後、24日に、中国外務省はウクライナ情勢を巡る『政治解決案』を公表した。①すべての国の主権と領土保全の尊重、②冷戦精神の放棄、③敵対行為をやめ、戦争を止める、④対話と交渉、⑤人道問題、⑥捕虜交換・民間人と捕虜の保護、⑦原発に対する武力攻撃に反対、⑧核兵器の使用反対、⑨穀物の輸送に関する合意の遵守、⑩一方的制裁の乱用に同意しない、⑪生産とサプライチェーンの安定、⑫戦後復興の支援 の12項目を提案した。これを受けて、AFPは「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻開始から1年となった24日、中国の習近平国家主席と会談する予定だと明らかにした。」と報道した(AFP=時事:2023.2.24)。

しかし、戦闘継続が利益となる米国の軍産複合体勢力は中国の動きを妨害しようとしている。先の気球撃墜事件もその一環であるが、2月18日、ブリンケン国務長官は「中国がロシアに殺傷力のある武器を供与する可能性に懸念を示し、会談は平行線だった。」(日経:同上)と伝えられた。遠藤誉氏は「ウクライナの国民を殺戮する武器支援を中国がロシアに提供しているとなれば、絶対に王毅がミュンヘン会議で習近平の考え方として提唱した『和平論』には乗らないだろう。つまり、ブリンケンの発言は、ゼレンスキーが習近平が唱える『和平論』に乗らないようにすることが目的だったにちがいない。」との中国主導の和平交渉を妨害する謀略と分析した(Yahoo:2023.2.23)。「バイデン大統領はABCテレビが24日夜、放送したインタビューの中で、中国が24日に発表した、ロシアとウクライナに対話と停戦を呼びかける文書について『プーチン氏が称賛している提案だ。そのどこに見るべき中身があるのか?中国の提案が実行されたとして、ロシア以外の誰も利するようには見えない』と述べ、検討に値しないとの考え」だと述べた(NHK:2023.2.25)。とにかく戦争を終わらせないことを考えている。

「数十人のポーランド軍部隊がウクライナで何ヶ月も地雷処理で活動し、部隊は現在帰国していると、ポーランドの国家安全保障局の責任者であるヤツェク・シエヴィエラは水曜日に述べた。」(RT:2023.2.23)と報道された。形上の外国人傭兵としてではない正規軍としての本格的な介入である。ポーランドのウクライナ支援の規模は国家能力を超えている。支援諸国中その規模は5番目であるが、上位4カ国の国力と比べれば、きわめて無理を生じている。ポーランドがかつての支配地域であった西ウクライナを分割しようとすれば、戦線がウクライナから東ヨーロッパに拡大する可能性もある。早く停戦に持ち込まねばならない。

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【投稿】反戦運動の復活の始まり--経済危機論(103)

<<「イラク戦争以来最大の反戦デモ」>>
バイデン米大統領は、2/20、ウクライナを予告なしに電撃訪問したのであるが、漏洩を避けるために出発したのは、2/19午前4時15分であった。ワシントン郊外の米空軍基地を出発し、ドイツのラムシュタイン空軍基地での給油を経て、ポーランド南東部のジェシュフ・ヤションカ空港に到着、そこから車で1時間のウクライナ国境付近の駅に向かい、鉄道に乗り換え暗闇のなかを約10時間かけてキーウに移動したという。
その同じ2/19、日曜日、ワシントンD.C.では、ウクライナでの戦争1周年に際し、大規模な反戦集会が開かれた。「Rage against the War Machine Anti-War Rally – Washington,D.C.」(戦争マシーンに対する怒りの反戦行動)である。この行動は、「米国政府はウクライナでの戦争にこれ以上 1 ペニーも費やすべきではない」「アメリカの代理戦争ノー! No To US Proxy War」「エスカレーションではなく交渉」という

バイデンはノルドストリーム爆破者

切実な要求で団結し、幅広く、左派も右派をも巻き込んだ行動として提起されたものであった。従来の反戦行動の主体であった諸団体をも巻き込んで、主催者として、人民党(People’s Party)と自由党(Libertarian Party)が組織者となり、集会の演説者には、3 人の元下院議員と女性 (デニス・クシニッチ、トゥルシ・ギャバード、ロン・ポール) と元大統領候補 (緑の党のジル・スタイン) が登場するなど、党派を超えた団結した行動を体現するものであった。
人民党の創設者であるニック・ブラナ(Nick Brana)氏は、この集会は「イラク戦争以来最大の反戦デモであり、切実に必要とされていた」と語り、「右派だ左派だのレッテル貼りは人為的なものである」と述べ、「そんなことでねじ曲げられてはならず、手を取り合って反撃する必要がある」と語っている。
 また、自由党全国委員会のパット・フォード(Pat Ford)氏は、「この集会は連合を構築するうえで完全な成功だった」と語り、「やりがいがあり、骨の折れる、厄介なものになる可能性がありますが、草の根の主催者が社会の変化に影響を与えるための最良の方法であり」、「異なる見解を持つ人々が集まってこそ成功するのです」と語っている。
デニス・クシニッチ (民主党-オハイオ州) 氏の演説は、ノルド・ストリームパイプライン爆破について、米国政府の非難すべき行為は、「元諜報機関職員でさえ仰天する」ほど「米国憲法を傷つけ、世界の平和を脅かしている」と、鋭くバイデン政権を糾弾、法の支配を回復し、国を「破壊」する前に政府を変えようと訴えている。
トゥルシ・ギャバードは、この集会に参加した人々は、人命を尊重し、核のホロコーストで死にたくないという点で団結していると語り、「私は、2020年の民主党大統領予備選で新たな冷戦の危険性について警告したが、悲しいことに、その時以来状況は悪化しており、ロシアとの代理戦争の出現により、簡単に直接的な核戦争に変わる可能性がある」と訴えている。
集会は、最後にピンク・フロイドの創設者であるロジャー・ウォーターズ氏が、アメリカの指導者たちがジェームズ・ベイカー国務長官の1991年の約束、NATOを1インチも拡大しないという約束を守っていたら、また、2019 年のミンスク和平協定を支持し、ノルドストリーム・パイプラインを爆破しないことを選択していれば、今日のような混乱に陥らなかっただろう。これは、戦争行為であり、国際テロ行為なのです、と締めくくった。集会は非暴力を徹底し、さまざまなイデオロギー的視点を持つ人々が戦争に反対するために集まったことは素晴らしいことであり、このイベントは、実際の政治的変化に影響を与える反戦運動の復活の始まりを示す可能性があることを示すものであった。(以上、集会の模様はCovertActionMagazine By Jeremy Kuzmarov – February 20, 2023 より抄訳)

<<ミュンヘン安全保障会議=「戦争挑発者」>>
2/17からドイツ・ミュンヘンで開かれていた第59回ミュンヘン安全保障会議(MSC)に対しても、この会議の参加者を「戦争挑発者」として抗議する、大規模な運動が繰り広げられたことも、反戦運動の復活の始まりとして注目される。2/18、当地ミュンヘンでの反戦抗議デモには数万人が参加し、会議を非難し、ドイツのNATOからの脱退、平和を訴えている。

 

ロシアと和平を!ドイツはNATOから脱退!
「ミュンヘン安保会議」に抗議(2/18)

反戦運動が、バイデン政権のノルドストリーム・天然ガスパイプライン破壊攻撃に象徴される、ウクライナ危機をめぐる政治的経済的危機、とりわけ西側陣営の制裁ブーメランによる経済的危機の一層の激化に対する、生活要求と結びついた抗議行動として拡大し始めていることが注目されるし、さらなる運動の拡大が要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】バイデン政権のノルドストリーム爆破テロ--経済危機論(102)

<<「衝撃のレポート」>>
2/8、ピューリッツァー賞受賞者で、米国の著名な独立調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュ()の独自調査レポート(How America Took Out The Nord Stream Pipeline)「アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?」「ニューヨーク・タイムズ紙は『ミステリー』と呼んだが、アメリカは今まで秘密にされていた海上作戦を実行した。」が発表、ネットで公開された。

内容が衝撃的である。
ロシアとヨーロッパを結ぶ天然ガスパイプライン・ノルドストリーム(Nord Stream 1,2)の妨害・破壊工作は 米CIA、米海軍の秘密作戦であった。計画は2021年12月、米国国家安全保障顧問のジェイク・サリバンの下に特別タスクフォースが結成され、CIAは、議会との関係でアメリカの特殊部隊を使わない作戦として、準備と実行は徹底した秘密作戦でなければならないと主張、海軍は、パイプラインを直接攻撃するために新たに就役した潜水艦を使用することを提案、空軍は、リモートで起動できる遅延ヒューズを備えた爆弾を投下することを提起。「次の数週間で、CIAのワーキンググループのメンバーは、深海ダイバーを使用してパイプラインに沿って爆発を引き起こす秘密作戦の計画を作成し始めた」。2022年の初めに、CIA 作業部会はサリバンの省庁間グループに「パイプラインを爆破する方法がある」と報告。議会に通知する必要がある秘密作戦ではなく、米軍の支援を受けた高度に機密の諜報作戦として、この秘密作戦計画が策定されたのであった。行政府が議会の承認なしにこうした戦争行為を行うことは、アメリカにおいても憲法違反なのである。
「次に来たのは驚くべきことでした。」とハーシュのレポートは言う。「ロシアのウクライナ侵攻が避けられないように見える3週間前の2月7日(2022年)、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのショルツ首相と会見、その直

後の記者会見で、「If Russia invades . . . there will be no longer a Nord Stream 2. We will bring an end to it」(ロシアが侵攻すれば、Nord Stream 2 はなくなります。私たちはそれを終わらせます)と断言したのであった。その 20 日前に、すでにヌランド国務次官は、

国務省のブリーフィングで本質的に同じメッセージを発し、「今日ははっきりさせておきたいと思います」、「ロシアがウクライナに侵攻した場合、いずれにしてもノルドストリーム 2 は前進しません」と述べていたのである。ハーシュの情報源は、「それは、東京

ヌランド、パイプライン爆撃を称賛。

に原爆を置いて、それを爆発させるつもりだと日本人に告げるようなものだった」と語っている。「バイデンとヌランドの無分別さが、一部の計画立案者を苛立たせたかもしれない。しかし、それはまた機会をも生み出した」のであった。
ハーシュは、「作戦計画を直接知っている」ある情報源を引用し、米海軍のダイバーが2022年6月、BALTOPS22として広く知られたバルト海でのNATO演習を隠れ蓑に、研究開発作業に関わる演習を装って、遠隔操作で爆発物を仕掛け、3カ月後の2022年9月26日、米海軍が演習場から退去した後に、ノルウェー海軍の P8 哨戒機が一見通常の飛行を行い、投下された「超音波ブイ」・ソナーブイによって爆発させられ、4本のNord Streamパイプラインのうち3本を破壊した、というのである。ハーシュの情報源は、この作戦の実行命令がバイデン大統領のオフィスから直接出されたことを強調している。
この情報源は、この作戦はノルウェーと調整されていたとハーシュに語っている。ノルウェーは、精鋭の米海軍の深海潜水チームが作戦を遂行するのを支援する上で、ロジスティクスとインテリジェンスの重要な役割を果たしたのであった。ノルドストリームの破壊により、ノルウェーとアメリカは自国の天然ガスをはるかに多くヨーロッパに販売できるようになったのは当然と言えよう。ノルウェーはロシアのガスを年間約400億ドル、直接置き換え、次いでアメリカが急速に増大させている。いずれもロシア産ガスよりもはるかに高価、高コストである。インフレの高進と政治的経済的危機のさらなる深化を決定づける戦争行為でもあったのである。

<<「なぜ、サブスタックなのか?」>>
このハーシュ・レポートは、タイムズ紙(英国)、ロイター通信、およびロシアの国営メディア、その他のメディアによってすぐに報道され、ロシアのRIAノーボスチに対しハーシュ氏が「もちろん、私が書いたのだ」とノードストリーム爆発に関する記事の執筆を確認、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、この報道に対して「ホワイトハウスはこれらの事実すべてについてコメントしなければならない」と述べ、ホワイトハウスは無視する構えであったが、

「もちろん、私が書いたのだ」

反論せざるを得なくなった。
バイデン政権は、2/8、直ちにこのレポートを全面否定して、「まったくの虚偽であり、完全なフィクションである」と述べたのである。
しかし会見した米国務省の報道官ネッド・プライスは、シーモア・ハーシュの記事を読んでいないことをはからずも認めてしまい、何が論点なのかを把握していないことを露呈し、冷静さを失い、この記事はとにかく「プロパガンダ」だとして一方的に攻撃し、ハーシュの誹謗・中傷に終始してしまったのであった。

ところが、すでに1/27、トップ外交官で、同じ国務省のヴィクトリア・ヌランド副長官が、米上院公聴会で、ノルドストリームパイプライン破壊攻撃を称賛して、「ノルドストリームが現在、海の底にある金属の塊であることを知って、政権は非常に満足していると思います。」と発言して、米政権が直接関与していることを事実上、自ら暴露しているのである。ブリンケン国務長官も、欧州をロシアのガスから引き離す「とてつもない機会」だとまで述べていたのである。
前回すでに紹介したように、米国防総省系のシンクタンクである RANDコーポレーションの報告書は 「最初のステップはノルドストリームを停止することである」「ヨーロッパ諸国はロシアのガスの輸入を減らし、米国が供給した液化天然ガスに置き換えるようにしなければならない」と提唱していたのである。

2/10、ロシア外務省のザハロワ報道官は、パイプライン破壊工作に関するハーシュ氏の記事を「ナンセンス」と一蹴する米国務省の試みは、アメリカの歴史に対する驚くべき無知を示す明白な嘘であると記者団に述べ、「米国はまたしても生放送で嘘をつき、正当な質問をしたジャーナリストを公然と馬鹿にしている」と述べている。さらに、ザハロワ報道官は、デンマークとスウェーデンがロシアからの調査協力の申し出を拒否し、ノルウェーもEUの制裁を理由に拒否したことを指摘し、このことは3カ国政府が真実を解明することに関心がなく、むしろ隠蔽することに関心があることを示していると告発している。

しかし、日本も含めて西側の主要メディアは、このハーシュ・レポートを明白に、そして故意に無視し、抑制し、バイデン政権に追随しているのが実態である。ほとんど報じていないし、短い紹介すらしていないのである。当初は、このパイプライン破壊攻撃をロシアになすりつけていたのであるが、最近になって、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』が、モスクワの関与を示す証拠はないことを認めたに過ぎない段階である。西側「民主主義」の実態は、現実と真実を否定する共謀関係にあるとも言える事態である。

 シーモア・ハーシュ氏は、このレポートを、個人でニュースレターを配信することができるプラットフォーム・Substack (サブスタック)で発表している。
『なぜ、サブスタックなのか?』と題して、ハーシュ氏は、「私はキャリアの大半をフリーランサーとして過ごしてきました。1969年、私はベトナムで恐ろしい戦争犯罪を犯した米軍兵士の部隊の話を紹介した。彼らは、数人の将校が知っているように、敵のいない普通の農民の村を攻撃するように命じられ、見つけ次第殺すように言われた。兵士たちは、敵のいないところで何時間も殺害し、強姦し、手足を切断した。この犯罪は18ヵ月間、軍の指揮系統の最上層部で隠蔽されていたが、私がそれを暴露するまで続いた。私はこの仕事で国際報道部門のピューリッツァー賞を受賞したが、アメリカ国民の前にこの記事を出すのは簡単なことではなかった。私の最初の記事は、友人が経営するかろうじて存在する通信社の下で発表されたが、当初は『ライフ』誌と『ルック』誌の編集者に拒否された。『ワシントン・ポスト』紙に掲載されたときには、国防総省の否定と、リライト担当の無思慮な懐疑論で埋め尽くされた。2004年、アブグレイブでのイラク人捕虜への拷問に関する最初の記事を発表した後、国防総省の報道官は私のジャーナリズムを「ナンセンスの織りなす物語」と呼んだ。…今でも優秀なジャーナリストはたくさんいるが、報道の多くは、私がタイムズ紙で毎日記事を書いていた時代には存在しなかったガイドラインや制約の範囲内で行わなければならない。…そこで登場したのがSubstackです。ここでは、私が常に求めてきた自由があります。このプラットフォームで、出版社の経済的利害から解放され、文字数やコラムインチを気にすることなく記事を書き、そして何よりも読者に直接語りかける作家を次々と見てきたのです。」と述べ、「今日読んでいただく記事は、私が3カ月かけて探し出した真実です。出版社や編集者、仲間たちから、ある特定の考え方に沿うように、あるいは彼らの恐怖心を和らげるために内容を縮小するようなプレッシャーを受けることなく、この記事を書き上げました。」と結んでいる。

バイデン政権は、時間軸はたとえ長短ずれたとしても、いずれ追い詰められ、政治的経済的危機のただなかで右往左往し、出口を模索せざるを得ないであろうし、追い込む平和への闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】電気料金高騰の原因は国のエネルギー政策の大失敗にある

【投稿】電気料金高騰の原因は国のエネルギー政策の大失敗にある

                            福井 杉本達也

1 電気料金が30%も値上げに

東電は、6月から標準家庭の電気料を月11,737円と29%も値上げすると発表した。電気代の高騰を受け、政府は電気代支援で全国一律で、1月分の電気代から1キロワット時当たり7円値引きするとし、標準家庭で2,800円・電気代の2割相当が値引きされる。割引分を差し引くと、東京電力管内では月9,917円になるという(日経:2023.1.28)。東電が2月1日発表した2022年4~12月期の連結最終損益は6509億円の赤字億円の黒字)となった。福島第一原発事故の賠償基準変更で特別損失を計上したほか燃料高が響いたという(日経:2023.2.2)。

2 新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働まで料金の計算に入れるが、再稼働は不可能

しかも、東電の値上げ幅にはカラクリがある。「東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の7号機を今年4月に、6号機を2025年4月にそれぞれ動かす前提で、一般家庭の値上げ幅を月550円程度圧縮」しで電気代を計算をしている。さすがに経産省も「そこまでは面倒見切れない」との声も。だが、テロ対策不備など不祥事が相次いだ柏崎刈羽原発は「原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受け、地元の再稼働への同意」も受けられず再稼働の見通しなど立つはずもない(福井:2023.1.27)。山中原子力規制委員長は1月28日に柏崎刈羽原発現地を視察し、「『まだまだ課題がある』との認識を示した。『3号機の審査書類に2号機の記載内容を流用したことには小さな問題ではない』と指摘。…『原因や誤記に対する意識は納得できる説明ではなかった』と苦言を呈した」(日経北陸版:2023.1.30)。

3 東電・中電・経産省のカタールLNG調達の歴史的大失敗のつけ

JERA(東電+中電が共同出資)は2021年12月、カタール産LNG500万トン超(年間ベース)の引き取りを終了した。25も年続いた調達契約を更新しなかったのである。日経は「世の中は脱炭素へ傾き、今後も20年単位の長期引き取りを続けられるのか。電力・ガス自由後の競争にさらされる企業としての判断である」と言い訳したものの、そのすぐ後に、「国全体で見れば、…ロシア産LNGの途絶におびえ、電力の供給力確保に苦しむ足元の状況とのちぐはぐさが否めない。安定供給に誰が責任を持つのか。エネルギー危機は、その不在をあらわにした。」と書いている(日経:2022.6.20)。

そもそも、東電は福島第一原発事故後は事実上の国営企業となっており、経産省の意向が働かなかったなどということはない。LNGのスポット価格の安さに目がくらみ、いつでも市場から調達できるとする経産省の安直さが招いた危機である。「エネルギー業界では、アラビア石油権益延長失敗、イラン・アザデガン油田開発撤退と合わせて、カタール契約解消は『3大失敗』ともいわれる」。「仕向け地条項(転売防止面からLNG船の帰港地を限定)などの撤廃をカタ―ルに要求し、購入延長を破談にしてしまった。その背景には、エネルギー基本計画にLNG火力削減を盛り込んだ日本政府の脱炭素方針も影響してした」(『エコノミスト』2023.1.24)。その大失敗のツケを電力料金の29%もの値上げという形で国民に押しつけているのである。

4 再生可能エネルギーで問題は解決しない

温暖化対策の切り札として、各国は風力発電や太陽光発電などを大量に導入した。今回の電力高騰においても再生エネルギーの拡大を主張する者もいる。しかし、2022年1月9日付け日経新聞は「世界の天候不順が再生可能エネルギーによる発電に打撃を与えている2021年は欧米や中国など世界各地で干ばつや寒波、熱波などの自然災害が相次ぎ、太陽光や風力、水力による発電所の稼働率が低下。大規模停電も発生した。…再生エネ発電を増やしてきたが、本来の想定通りに動かない展開になっている。」と書いていた。いくら健忘症とはいえ、わずか1年前のことを忘れたわけではあるまい。

5 高浜4号機事故―古い原発に頼るな

割引分を差し引いた関電の6月の電気代は5,677円になるとし、東電と関電の差は7割になるという。関電は原発は5基動いている影響が大きく、電気代を下げている(日経:2022.1.27)。しかし、1月30日、関電高浜4号機で中性子の量が急速に減ったことを示す警報が鳴り、運転が自動停止した。核分裂反応を止める制御棒が落下したのではないかと思われる。山中原子力規制委員長は原発の安全確保の原則である「『止るめる、冷やす、閉じ込める』のうち、『止める』関わる重要機能の一つにトラブルが発生した」と述べ、重大事故であるとの認識を示した。制御棒が突然落下するということは、逆に核分裂反応を抑えようとしても、制御棒が落下せず原子炉が暴走することもありうるということである。古い原発を使い続けていればこのような事故は今後さらに増えることになる。原発の暴走との引き換えに電気代が安くなるなどということは御免被りたい。

6 ロシアのからのエネルギーこそ国民の生活を守る

日本はサハリン1・2についてようやく契約を更新した。日本にとって非常に重要なエネルギー権益である。しかし、岸田首相は何を血迷ったのか、バイデン大統領に指示されたのか、ウクライナのキエフを訪問したいとの意向である。いまウクライナを訪問したところで、ゼレンスキー大統領に莫大なムダ金を渡すだけになる。ロシアは敵対国にエネルギー資源を供給しないとしている。やっと確保したサハリン1・2の権益がなくなるかもしれない。ウクライナと電気代の高騰のどちらが大事かをよくよく考えなければならない。

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【投稿】世界大戦への危険なエスカレート--経済危機論(101)

<<「われわれはロシアと戦争している」>>
1/30、バイデン米大統領は、ホワイトハウスの会見で、「米国はウクライナにF-16戦闘機を派遣しないだろう」と述べた。しかし、これは「今のところ」という注釈付きが本音である、と報じられている(Biden Says “No” To US Providing F-16 Jets For Ukraine (..For Now))。

バイデン大統領:2022/3/11「ウクライナに戦車を送れば、それは第3次世界大戦と呼ばれます」 2023/1/25「本日、私は米国がウクライナにエイブラム戦車を送ることを発表します」

最近、非常に長い戦車の列がカンザス州を横切っているのが目撃された。戦争の決断はすでになされているようだ。

すでに1/25、バイデン政権は米軍の主力戦車「エイブラムス」31両のウクライナへの供与を決めている。この「エイブラムス」供与は、実質上、ドイツが戦車「レオパルト2」供与を早急に開始するための隠れ蓑に過ぎない、とワシントン・ポスト紙が報道。同じ1/25、ドイツ政府は14両の独製主力戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与することを決定したと発表、また、他国が「レオパルト2」をウクライナへ供与することにも承認したのであった。
米国はこれまで、ウクライナにはドイツ製戦車が供与されるべきだと主張してきており、この「レオパルト2」は、米製「エイブラムス」に比べて設計が単純であり、ウクライナ軍が使用方法を習得しやすい、交換部品も十分な数がある、しかしドイツのショルツ首相は、ドイツが一方的に行動した場合、ドイツが紛争に直接関与していると受け止められ、ロシアの報復がある可能性を懸念していたもので、ドイツは「レオパルト2」供与と「エイブラムス」供与を連動させるよう求めていたのである。
ドイツのショルツ政権は、ドイツはウクライナを支援すべきだが、ロシアとの直接対決は避けるべきだと主張してきたのであるが、もはやそのブレーキも効かない事態に追い込まれていると言えよう。政権の連立パートナーである「緑の党」のベアボック外相は、よりタカ派的な立場を一貫して主張、「ドイツの有権者がどのように考えようとも、私はウクライナの人びとを支援する」と極論し、1/24の欧州議会で「われわれはロシアと戦争しているのだから、団結すべきだ」と公言し、ロシアとの戦争を回避し、ウクライナへの軍事支援に消極的だったランブレヒト国防相は辞任に追い込まれる事態である。
すでにドイツでは、アンゲラ・メルケル前首相は昨年12月に、ベルリンとパリが仲介した2014年の停戦協定は、実はウクライナに軍事増強のための「貴重な時間を与える」ための策略だった、「ウクライナを強化し、ミンスク協定を当てにしていなかった」とドイツのメディアに語っている。当時のフランスのオランド前大統領もこれを認め、ウクライナのポロシェンコも公然とそれを認めている。つまりは、ウクライナ危機とは、米英と組んで、NATOがロシアを泥沼の戦争に引きずり込むための罠であったことを告白しているのであり、その策略が、現実となったわけである。そしていまや、ウクライナのゼレンスキー政権は、「現在の紛争はNATOとロシアの間の『代理戦争』である」と公言してはばからない事態である。
ゼレンスキー政権は、こうして米独、NATOに要求していた戦車を手に入れたので、さらに進んでロシアを砲撃するために米国のジェット戦闘機と長距離砲を要求しているわけである。1/28、ウクライナの高官は、ウクライナと西側の同盟国が、長距離ミサイルと軍用機の両方を送る可能性について「迅速な」交渉に取り組んでいる、F-16 だけではありません。第 4 世代の戦闘機、これが私たちが望んでいるものです、とまで述べている。
ここで問題は、バイデン政権の対応である。昨年3月の段階では、「攻撃的な装備を送り込み、飛行機や戦車や列車をアメリカ人パイロットとアメリカ人クルーで送り込むという考え方は、冗談抜きで、それは第三次世界大戦と呼ばれている」と断言して、否定していたのである。ところが、今回、主力戦車を送り込むことに踏み込んだ。
たとえ、米国が F-16 を送らないとしても、他のNATO諸国は供給できる米国製の戦闘機を持っており、オランダのヘクストラ外務大臣は、オランダ議会で、キエフが要請すれば内閣はF-16の供給を検討すると語っている。

米軍当局者のウクライナへの派遣団は国防総省に対し、F-16 戦闘機をウクライナへの派遣承認をすでに迫っている、と報じられ、ホワイトハウスは、これについてコメントすることを拒否したが、ジョン・ファイナー国家安全保障副補佐官は、米国はキエフとその同盟国と「非常に慎重に」戦闘機について話し合うだろうと述べている。
こうした経緯からすれば、F-16戦闘機についても、主力戦車と同様の危険な手のひら返しに進むのは、おそらく時間の問題だと言えよう。しかし、ここまでくれば、もはや「冗談抜きで、第三次世界大戦」への突入である。危険極まりない事態が待ち構えている、と言えよう。

<<「悲惨なことになりかねない」>>
ロシアを泥沼の戦争に引きずり込む罠は、2019年5月にランド社によって作成された「過度に拡張し、バランスを崩すロシア」と題された機密報告で暴露されている。主に国防総省、米陸軍、空軍から資金提供を受けているシンクタンクである RANDコーポレーションは、リークされたレポートの中で、第一に、「ロシアは攻撃されるべきであり、その最も脆弱な点である、その経済を支える石油とガスの輸出である」と指摘、この目的のために、「金融および商業制裁を適用しなければならず、同時にヨーロッパ諸国はロシアのガスの輸入を減らし、米国が供給した液化天然ガスに置き換えるようにしなければならない」. 「ウクライナに致命的な援助を提供することは、ロシアの脆弱性を悪用し、より大きな紛争につながることなくロシアに害を及ぼすように調整された、戦争のために多額の費用を支払うことを強制することになる」とあからさまに、その目的を述べている。しかし、この時点では、ランドが思い描いたようにユーロ諸国やロシアが乗ってこないことに当惑し、失望していたのであるが、
 2022年1月25日付けの機密扱いの研究報告書(Rand Executive Summary)では、「ドイツを弱め、アメリカを強くする」というタイトルで、米国経済が崩壊の危機に瀕しているが、ウクライナ紛争にロシアとヨーロッパを巻き込む努力によって、ドイツが数千億ユーロの損失を出し、経済の崩壊、GDPの減少を引き起こし、最終的にはEU経済も総崩れになると予測、すべてのヨーロッパの通貨は有害で、ドルよりもはるかに望ましくないものとなり、必然的にアメリカ経済が強化され、アメリカが最も有利な国として再位置づけされることになる、と予測している。
事態は、このランド社の予測通りに進んだかに見えたのであるが、事態はそう甘くはないし、彼らの期待と予

測は完全に裏切られているのである。
2023年1月のランド研究所による新しい長文の報告書(長期戦の回避 Avoiding a Long War)は、米国側がウクライナ危機のエスカレーションを続ければ「悲惨なことになりかねない」という結論を主張し始めているのである。
現在は、ウクライナにおいて「米国の利益は長引く紛争を避けることによって最も良くなる」、「長い戦争のコストとリスクは・・・考えられる利益を上回る」と論じ、「紛争を長引かせること自体が危険である」と結論付けている。クライナがロシアの支配下にある領土を奪還することは、米国の計画に関連するべきではないと主張し、「メリットはほとんどなく、コストが高くなり、戦争を長引かせることは、米国にいくらかの利益をもたらすとしても、それにはさらに多くのリスクとコストが伴う」とまで警告しているのである。以前とはまるで逆の主張に転換せざるを得ない事態に追い込まれている、と言えよう。

しかし、バイデン政権はこのランドの警告に耳を傾けられるような状態ではなく、さらに危険なエスカレートに突き進む可能性の方が大であろう。ドルの優位性が、このウクライナ危機を激化させたことによって、劇的に低下し始め、日本を含むG7やNATO諸国以外はどんどんドル離れに移行、ペトロダラーはもちろん、ドル覇権の低下は今や回復しがたい段階に突き進みつつある。バイデン政権は、自らアメリカの政治的経済的危機を招き、激化させているのである。誤算ではあるが、対ロシア・対中国の危険な戦争挑発エスカレーションが、バイデン政権の政治生命延長の支柱となってしまっているのである。しかし、誤算には、大衆的支持基盤は維持できるものではないし、離反する一方であり、政権基盤は弱体化せざるをえない。この事態を打開させるものは、有害無益な戦争行為とエスカレーションを停止させ、ウクライナ危機の平和的解決に向かわせる、あらゆる広範かつ強大な平和の力の結集以外にないと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】ミハイル・ゴルバチョフと米原万里

【投稿】ミハイル・ゴルバチョフと米原万里

                         福井 杉本達也

1 ロシア語を締め出すウクライナと日本

ウクライナでは2019年に「国家言語としてのウクライナ語の利用を保証する法律」が採択された。2021年には販売、飲食、運送でウクライナ語の使用が義務づけられた。…違反すると320ドルの罰金が科される。キエフの学校では政令で2022年9月以降、ロシア語による教育が禁止された。7月、ロシア人アーティストの曲の放送を禁止する法律が成立した(日経:2022.11.29)。昨年12月開催されたウクライナ国立歌劇場バレエ団の日本公演では、人気作品が上演されない事態となった。初日の17日は横浜市での公演は、近世のスペインを舞台にした演目「ドン・キホーテ」を上演した。大前仁氏は「チャイコフスキーを『排除』し、『白鳥の湖』も『くるみ割り人形』もないバレエ――。観客を納得させることはできるだろうか。」と書いている(毎日:2022.12.25)。

ヨーロッパにおいても「著名な指揮者でサンクトペテルブルク・マリインスキ劇場の芸術総監督であるワレリ・ゲルギエフは、侵攻が始まって以降の欧米での指揮が相次いでキャンセルになった。ミュンヘン・フィル首席指揮者などのポストも失った。プーチン政権と親密」だという理由である。また、英国の猷劇場ロイヤル・オペラハウスも、2022年夏のポリショイ・バレエの招へいを中止した(日経:2022.3.7)。

日本はどうであろうか。政府は2022年3月31日、ウクライナの首都「キエフ」の表記をウクライナ語の発音に近い「キーウ」に変更するとした。同時に、原発事故を起こした「チェルノブイリ」を「チョルノービリ」とするとしたが(日経:2022.2.1)、こちらは原発事故の記憶があまりにも大きく、浸透はしていないようである。

極めつけはNHKのEテレで長年放送されていたロシア語講座「ロシアゴスキー」(「テレビでロシア語」の後継番組)が2022年3月で終了したことである。ウクライナ侵攻以前から番組終了が決定していたとのことではあるが、ロシア文化・ロシア語教育にとっての「致命的な打撃」である。もちろんラジオでの「まいにちロシア語」は継続されているが、文化の理解という観点からはテレビという映像媒体の影響は計り知れない。ロシア各都市の美しい街並みや、おいしそうなロシア料理・音楽演奏など、紙媒体では得られないものが多々あった。今のNHKが「公共放送」という概念から、「政府のプロパガンダ機関」に成り下がっていることを如実に示すものである。

2 米原万里氏のこと

1979年末にソ連はアフガニスタンに侵攻する。それ以降、日本においてはソ連の評判は地に落ちた。1980年夏のモスクワオリンピックを西側諸国はボイコットした。そのような中で、1981年、たまたま暇な時期ができた。背広とネクタイではなくTシャツとジーパンで過ごした。もちろん、5時以降は全くのフリーであった。折角のチャンスに何かをしようという気になり、世田谷区の小田急線経堂の日ソ学院(現東京ロシア語学院)に通う。ロシア語の人気は最低で、受講者は、1年後にソ連に派遣されるという経団連職員の某氏と女性が2人、そして私のたった4人であった。その講師が故米原万里氏である。ある日、万里氏の父親が亡くなったので、今日は代理しますと男性の講師が入ってきた。そこで、万里氏の父親が元日本共産党の衆議院議員であった米原昶氏であることを知った。米原昶氏は日本共産党から1960年代にチェコにあった各国共産党の理論情報誌『平和と社会主義の諸問題』編集委員として赴任したため、家族でプラハに移り住み、外国共産党幹部子弟専用のソ連大使館付属学校に通い、ロシア語を学び、ネイティブのロシア語を身に着けた。イタリア料理研究家で作家井上ひさし氏の妻・井上ユリ氏は万里氏の妹であり、万里氏と一緒に付属学校に通った。

講義は欠席も多く、万里氏と私が1対1という日もあった。当時は私も暇だったが、通訳駆け出しの万里氏も、それほど忙しくはなかった。受講者たちとよく、経堂駅前の寿司屋などに立ち寄った。万里氏はよく熱燗を飲んだような気がする(井上ユリ氏の『姉・米原万里』(2016.5.15)によれば、「飲まない万里のまっ茶な真実」と書いているが)。動物のメスは良い子孫を残すために相手を選ぶが、オスは繁殖にためにともかくメスに種付けまわる、といった、後々のエッセー集のネタとなるような話題もあった。別の日に、六本木のディスコや新宿の四川料理店などにも出かけた。

数年後、万里氏が突然テレビの画面に現れた。1985年ジュネーブで米ソ首脳会談が開催されるが、万里氏はソ連のゴルバチョフ書記長の会見の同時通訳を務めていた。ゴルバチョフ書記長が「ペレストロイカ」を打ち出したことで、万里氏の通訳の仕事は急激に増え、「過労死するほど働いた」という。

3 ミハイル・ゴルバチョフ自伝『我が人生』について

ミハイル・ゴルバチョフソ連書記長(ソ連大統領)は2022年8月30日に死亡した。1985年11月、レーガン米大統領とゴルバチョフ書記長はジュネーブで会談した。既にソ連は全面的核実験停止の交渉を再開することを表明し、一方的にすべての核実験を停止していた。会談では2人は「核戦争は許されない。核戦争は決して起こしてはならず、そこに勝者はいない、という認識」を持った(ゴルバチョフ:『我が人生』2022.8.10)。それまで、レーガン政権は、ソ連の脅威を強調すると共に、「アメリカや同盟国に届く前にミサイルを迎撃」し、「核兵器を時代遅れにする」手段の開発を呼びかける、いわゆる「スター・ウオーズ計画」を提唱した。これは、それまでの核の均衡は相互確証破壊(MAD)を根本から修正すもので、核兵器が実際に使われる恐れが非常に高まっていた時期であり、特にヨーロッパにおいて使

われることが危惧されており、会談での合意は世界中で新しい時代が到来すると歓迎された。

1986年10月のレイキャビック会談では「核実験を完全かつ最終的に禁止する本格的な条約締結への道を提案しよう…私たちは解決への枠組みをほぼ見つけるところまで来ていた」と書いた(ゴルバチョフ:同上)。しかし、その後の展開はゴルバチョフの楽観論を打ち砕いた。

4 相互確証破壊(MAD)とウクライナ戦争

ランド研究所の軍事歴史家、バーナード・プロディは広島への原爆投下を受けて次のように書いた。「従来は軍事体制が掲げる最大の目的は戦争に勝つことだった。これからは戦争を回避することが最大の目的となる。これ以外に有益な目的はほとんど見当たらない」・「報復を恐れなければならないとすれば、先制攻撃を仕掛ける意味はない」と(『ランド世界を支配した研究所』アレックス・アベラ著:2008.10.30)。「核兵器の使用を考慮に入れなければならない戦争は、もはやいずれか一方の勝利という結果をもたらさず、戦争当事国(同盟国を含む。)すべての破滅を招致するということ、つまり勝者はなく全員が敗者となること、したがって戦争はもはや『政治の継続・延長』としての手段(選択しうる政策の一つという位置づけ)ではあり得なくなったことが認識されるに至った」(浅井基文2011,7.3)。

これを、1965年、「相互確証破壊」(Mutual Assured Destruction, MAD)として打ち出したのが、ロバート・マクナマラ米国防長官である。核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し先制的に核兵器を使用した場合、もう一方の国家は破壊を免れた核戦力によって確実に報復することを保証する。これにより、先に核攻撃を行った国も相手の核兵器によって甚大な被害を受けることになる。

しかし、その後も米国は先制攻撃への誘惑にかられ続け、ソ連もそれに対抗し、膨大な核兵器が米ソ両国に蓄積された。ゴルバチョフは上記『我が人生』において、「その水準は驚愕すべきものだった。ソ連も米国も、互いに何度も全滅させられるだけの力を持ったのである」と。そして、ジュネーブ会談が行われる。「核の世紀には新しい思考が必要だ。そして何よりもそれは、米国とソ連にとって必要だった」と書いている(ゴルバチョフ:同上)。

2019年2月トランプ政権は中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を通告した。ロシアと米国の間で唯一効力を持っている新戦略兵器削減条約(新START)は2026年2月4日に失効する予定である。「ロシア外務省のセルゲイ・リャブコフ次官は、露米間の新戦略兵器削減条約(新START)の失敗には無念さを覚えるものの、条約に米国を『無理に』とどめようとは思わないとの声明を表した」(Sputnik:2023.1.27)。

ウクライナ戦争において、ロシアが戦術兵器を使う可能性について、米国は絶対に回避しなければならない大惨事として捉えるより、ロシアを国際的無法者に仕立て上げるチャンスだと見なしている。核兵器が使われるとしても、ウクライナ限り、せいぜい欧州までという誤った前提に立っている(ロシアの世界経済国際関係研究所主席研究員:トレーニン:浅井基文訳:2022.10.20)。ウクライナ軍によるザボロジェ原発への執拗な攻撃も同様の誤った前提に立っている。ゴルバチョフ書記長とレーガン大統領とのジュネーブ会談から37年、我々はまた核戦争の危機に直面している。

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【投稿】日本の先制攻撃への抑止力強化を

岸田政権は、この間の国際情勢を口実として戦後再軍備以来の軍拡を進めている。
昨年末、安保3文書が改定された。その内容は、中国を主要な仮想敵国と位置づけ、高性能の兵器を調達し戦争準備を進めるという、中期的な軍事ドクトリンとなっている。
安倍政権下で策定された「戦争法」は骨格であったが、今回の3文書は、それに肉付けをするものといってもよかろう。

周辺有事は台湾有事として具体化し、中国の台湾侵攻が発生すれば自動的に日本が参戦する可能性が極めて高くなっている。
先日アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が日米台と中国間の武力衝突に関するシミュレーションを公表した。それによると中国の台湾侵攻は失敗するものの、日米台にも甚大な損害が生じる結果が導き出された。

この中では様々なシナリオが検討されたといわれているが、それらは中国の侵攻が前提で、日米台は反撃することとなっている。
しかし、この間日本政府が掲げる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」論を考慮すれば違ったシナリオが見えてくる。

過去の日清、日露、日中、そして日米戦争のいずれも日本の先制攻撃によって戦端が開かれた。当時の清国、帝政ロシア、アメリカは日本を上回る軍備を保有していたが抑止力にはならなかった。

これを教訓として日本国憲法および第9条が制定されたわけであるが、今回の安保3文章により事実上「国権の発動たる戦争」抑止の箍は緩んだ。
先の日米首脳会談でバイデンは「背に腹はかえられない」とばかりにこれを追認したわけであるが、真珠湾攻撃も忘れてしまったのだろう。

中国国内での動員が確認された時点での長距離ミサイルによる攻撃は、「反撃能力(敵基地攻撃能力)」論上では「日本に対する武力攻撃の着手」と強引に見なせば可能だが、さすがに現実性は低い。

最も危惧されるのは、中国軍の台湾に対する経空攻撃に続く中国揚陸部隊への攻撃であろう。水上部隊への攻撃は、陸上の目標に比べ周囲の民間施設への被害を考慮しなくてよい分「反撃能力」行使へのハードルは低い。

毎日新聞の連載企画「平和国家はどこへ」によれば、自衛隊、防衛省幹部が当時の安倍総理に「中国に勝てるのか」と尋ねられた時、皆無言であったというエピソードが紹介されていた。中国の脅威を口実に軍拡を進めているにもかかわらず、見通しを示せないというのは「中国は広うございまして」と昭和天皇に弁明した戦前の軍部を彷彿とさせる。

今回の「岸田軍拡」により戦力が向上したにもかかわらず、またもや「自信なし」では済まされないだろう。「勝利」を印象づけるには先制攻撃が効果的であり、選択肢は狭まっていくだろう。

海上自衛隊幹部学校は研修会講師として曰く付きの右派論客を招聘し偏向教育を進めている。 幹部学校のHPによれば「上級の部隊指揮官又は幕僚としての職務を遂行するに必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練」と正当化している。

日清開戦の二日前、巡洋艦乗組みの大尉が「当局者は弱腰だ、今回も戦になるかどうかわからない。しかし、いくら当局者が弱腰でも、一発ポンとブッ放したらそれまでだ。俺は明日支那の船に出会ったら最後、一発ブッ放す」と放言したという。(「海戦から見た日清戦争」戸高一成、角川書店)

この逸話の落ちは「当局者(艦長)」の方がよほど好戦的であったというものである。しかしそれにもまして明治政府の開戦決意は強固であり、現場の雰囲気はそれを反映したものに過ぎないということである。

今後政府と自衛隊の危険なシンクロはますますんでいく傾向にある。それらが高性能な兵器を持てば、緊張はさらに激化するというものである。内に向けた抑止力の強化が求められているのである。(大阪O)

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