【投稿】NATOの亀裂と核戦争への危険--経済危機論(113)

<<バイデン「(プーチンは)すでに負けた」>>
7/13、リトアニアのヴィリニュスで開かれたNATOサミットを終えたバイデン米大統領は、NATOの新加盟国フィンランドを訪問。ヘルシンキでの記者会見で、フィンランドの若い女性記者から、ウクライナのNATO加盟への希望が打ち砕かれ、あいまいに先延ばしにされたのは、NATO内部の亀裂、そして米国内の政治的不安定性が将来同盟関係に問題を引き起こすのではないかと危惧しているからでしょうか? と質問された。バイデン氏は、このジャーナリストとしては当然な質問に、急に怒りだし

、「将来の保証ができないとは言ってないよ!」と叫び、「今晩家に帰れるかどうかも分からないんだよ!」と突飛もない発言をし、その冷静さを失ってしまった事態を取り繕うために、プーチン大統領は「すでに負けている」と宣言したのであった。
プーチンが「すでに負けた」のであれば、すぐにでも停戦交渉に入るべきであろう。しかし実態は、逆にNATOにとって深刻であり、大規模な軍事支援にもかかわらず、ウクライナの巻き返しは失敗していることが明瞭になりつつある。こうした事態を逆転させるには、ウクライナへの大規模な軍事支援、世界大戦への戦線拡大、さらには、核戦争への危険なエスカレートをさえ排除しない、挑発的・冒険主義的路線さえ浮上していると言えよう。
 プーチン敗北宣言の同じ7/13、バイデン大統領は、ヨーロッパへの米軍増派を明らかにし、国防総省が3000人の予備役を動員することを認める大統領令に署名した。すでにアメリカはヨーロッパに20,000人以上の兵力を追加配備しており、ヨーロッパ大陸における米軍の兵力レベルがすでに100,000人を超えている。
今回のサミットで、ウクライナのNATO加盟を見送る代償として、新たに「NATO・ウクライナ評議会」なるものを設立、「対等な立場で会合し、危機協議を行い、共同で決定を下す」とし、ウクライナ軍がNATO軍と完全に相互運用可能になるよう支援する複数年にわたる支援プログラムに取り組むことを明らかにした。フランスは長距離SCALP-EG巡航ミサイル(ストームシャドウミサイル)を送ることに合意し、英国は装備修理費として6,500万ドル、追加の軍用車両70台とチャレンジャー2号戦車用の数千発の弾薬を保証、ドイツは追加のマーダー歩兵戦闘車40台、レオパルト1 A5主力戦車25台、パトリオット防空システム用発射装置2台を含む7億7,100万ドルのパッケージを約束、ノルウェーは小型偵察無人機1,000機をウクライナに供与する、とメディア報道が伝えた。 米、英、NATOは、核爆弾搭載可能なF-16戦闘機パイロットの訓練を加速することで合意した。かくして、NATOの即応兵力は4万人から30万人に増強される。
さらに、日本の岸田首相を含むG7は7/12、共同声明を発表し、「本日、我々はウクライナとの交渉を開始し、この多国間の枠組みに沿った二国間の安全保障の約束と取り決めを通じて、それぞれの法的・憲法的要件に従い、ウクライナに対する我々の永続的な支援を正式に表明する」と述べ、より多くの軍事援助、訓練、情報共有、サイバー協力、ウクライナの軍産複合体への支援などが含まれることを明らかにした。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領は、「G7の約束はNATO加盟の代わりにはならない」と不満を表明している。

つまりは、米国とNATOの中枢は、停戦や平和的解決などまるで眼中になく、ウクライナがどれだけ犠牲を被ろうと、ロシアを出口の見えない罠に追い込み、泥沼の戦争を永続させるために全力を尽くそうとしているのである。大規模かつ世界的な軍事エスカレーションを組織し、世界大戦化と、原発の破壊攻撃を含む核戦争さえも、すでに射程に入っているのだとも言えよう。

<<「武器よりも平和が必要だ」>>
NATO内部の亀裂に関して言えば、ハンガリーのオルバン首相が、「ウクライナでは武器よりも平和が必要だ」と明確に述べ、「我々が代表するハンガリーの立場は変わらない。ウクライナに提供されるべきは、武器よりもむしろ平和である」と語り、停戦と和平交渉の緊急開始を求めたのである。「戦争は我々の隣で起こっており、トランスカルパティアに住むハンガリー人のために、何万人ものハンガ

NATOサミットでのオルバンとバイデン

リー人が直接的な危険にさらされている。ハンガリーは、NATOが以前の立場を堅持することを望んでいる。NATOは加盟国を守るために設立されたのであって、他国の領土で軍事作戦を行うために設立されたのではないとオルバン氏は述べている。

ヴィリニュスのアメリカ代表団は、NATOサミットのコミュニケに失望を表明し、批判したゼレンスキー大統領に対して「激怒」しているとワシントンポスト紙は報じている。ベン・ウォレス英国防長官は、ウクライナは恩知らずで、NATOの支援者をアマゾンの倉庫のように扱う癖があると揶揄している。
共和党のランド・ポール米上院議員は、「われわれは1000億ドルを彼らに与えたのに、彼はわれわれに、もっとスピードアップしたほうがいいと言うような図々しさを持っているのか? 大胆としか言いようがない。図々しいとしか言いようがない。これまで彼に与えた1000億ドルに対する感謝もない。」とこきおろし、さらにバイデン大統領がウクライナにクラスター爆弾を送る決断を下したことを批判し、「紛争は交渉による解決によってのみ終わらせることができる。我々がゼレンスキーに無制限の武器を供給し続ける限り、彼は交渉する理由がないと思う。だから交渉を先延ばしにしているのだと思うが、最終的に敗者となるのはウクライナの人々だ」と批判し、バイデンは代わりに流血を長引かせないよう外交的解決策を模索することに集中すべきだと、バイデンの最も痛いところを鋭く突いている。

今回のNATOサミットでさらに問題なのは、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの「アジア太平洋パートナー」4カ国を特別に招待し、これら4カ国の新たな名称を特別に創設し「アジア太平洋4カ国(AP4)」と称し、アジア太平洋地域における事実上の「NATO+」の新たな同盟国とすることを明らかにしたことである。NATOの共同声明発表の段階では、「インド太平洋4国(IP4)」に変更されているが、これは明らかに、バイデン政権の対中国緊張激化政策と連動するものであり、日本の岸田政権が果たしている極めて悪質な役割が厳しく指摘されるべきであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】債権者(債権国)の請求権を債務者(債務国)の財産に優先させない―現代の『徳政令』(マイケル・ハドソン教授らの論稿紹介)

【投稿】債権者(債権国)の請求権を債務者(債務国)の財産に優先させない―現代の『徳政令』(マイケル・ハドソン教授らの論稿紹介)

                              福井 杉本達也

1 ロシアへの経済制裁の結果、BRICS諸国などが雪崩を打つようにドル離れ

エマニュエル・トッド氏は池上彰氏との対談『問題はロシアより、むしろアメリカだ 第三次世界大戦に突入した世界』 (朝日新書:2013.6.13)の中で、「ヨーロッパ人は現実を直視していない」として、「インフレもあり、生活水準もだんだんと下がってきてしまっています」と述べ、一例として「ICCがプーチンに逮捕状を出すといったようなばかげた行動」などをあげ、西欧の「世界支配の終焉」を迎えている中で、「ヨーロッパ人も病んでいる」と書いている。

G7の構成国であるフランスのマクロン大統領は8月に開催されるBRICSの会議に参加したいと主催者の南アフリカに申し入れている。また、マクロン大統領はG7が一致して攻撃する中国に対しても非難しないとした。さらには、中国からガスと石油を購入し人民元で支払うと表明している。ロシアへのウクライナ侵攻に対抗して、ドル決済システムであるSWIFT電子銀行清算システムから排除し、ロシアの資産を凍結し、G7諸国やEU諸国による原油や天然ガスの禁輸などの経済制裁を行って、ロシアを破綻させようとした。しかし、ロシア経済は大きな打撃を受けなかった。ロシアの石油は中国やインドが大量に買い付け、ロシアはドルという基軸通貨がなくても経済は正常に機能することを実証した。逆に制裁を行った側のG7やEU諸国の方がインフレの高進などで大きな打撃を受けている。ドルは世界から疎まれ、他方では国際社会における中国の影響力をさらに増大させた。これからさらに何が起ころうとしているのか。ドル体制の崩壊とその後の世界経済の動向について、最近、ミズーリ大学カンザスシティ校のマイケル・ハドソン教授らが示唆に富む論陣を張っているので紹介する。一部機械翻訳であり、引用文面のみで読みにくいが、お許し願いたい。

レーガン政権下で財務次官を務めたポール・クレイグ・ロバーツ氏は「米ドルが全ての国で準備通貨として需要があり、彼らが国際取引の支払いのために使用する限り、それはアメリカにとって問題ありません。また、貿易黒字を持つ国々は自国の通貨余剰を米国の国債に保持することで、アメリカの貿易赤字と予算赤字の両方の資金調達を行っています。信じられないほどの愚かさで、ワシントンは世界の基軸通貨である米ドルの心臓を短剣で突き刺し、結果としてワシントンのお金を刷り増すことによる支払い能力を終わらせました。その短剣とは、バイデン政権によるロシアをはじめとする制裁とロシアの中央銀行預金の差し押さえです。これにより、ドル残高を保有することはその国がワシントンに収奪されたり支配されたりするリスクにさらされることを世界の他の国々がついに確信したのです。その結果、世界はドルの使用から離れ、代わりに自国通貨または他の通貨で貿易収支を決済するようになりました。したがってドルの需要は減少しているが、米国の貿易赤字と財政赤字のために供給は増加している」と述べている(『耕助のブログ』「アメリカは支配者層エリートによって破壊された」The United States Has Been Destroyed by Its Ruling Elites by Paul Craig Roberts2023.6.13)。また、イエレン米財務長官も6月13日の米下院財務委員会の公聴会で、米国が制裁を発動した場合、制裁の対象となる可能性のある国は「ドル以外の決済手段を模索する動機があるだろう」と述べた。

スプートニクス日本によると米ユーチューブの番組「Redacted News」の司会者であるクレイトン・モリス氏は、ロシアと中国は、BRICSの枠組みの中でドルに取って代わろうとすることで、ドルに壊滅的な打撃を与えた。さらにラオス、パキスタン、アルゼンチンなど取引に米ドルを使わないことを決めた国が最近増えつつあるとモリス氏は指摘している。米国通貨の魅力が低下しているのは、貿易赤字とだという。同時に、米政府は中国から資金を借りて軍産複合体に費やしているが、これは公的債務の状況を悪化させると述べた(Sputnik日本:2023.5.30)。これより先、南アフリカは、相互決済のための単一通貨創設の可能性について議論する計画があると明らかにした。

2 債権者の請求権を債務者の財産に優先させない―現代の『徳政令』

マイケル・ハドソン教授は、「バビロニアの律法学者が最初に行った数学の練習は、「負債が2倍になるのにどれくらいの時間がかかるか」というものでした。どんな借金でも、有利子負債でも、2倍になる時間がある。それが指数関数的な成長であることを彼らは発見した。倍増、倍増、倍増、倍増。それがS字カーブです。指数関数的な上昇曲線を描いている」「債務の数学は生産と消費の経済を記述する数学とは異なる」「負債は、実体経済の成長能力を超えて、指数関数的に、そして不可避的に成長する」「ギリシャやローマでは…人々が支払えなくなると、土地を失い、自由を失う。債権者の束縛」に陥いる。これが、西洋文明であると述べる(マイケル・ハドソン:負債と古代の崩壊:2023.4.21)。

ビジネス知識源はこれを『羊毛刈り』という言葉で表現している。「通貨の増発と、金利を下げた貸付金の増加によって、 国民経済に、インフレから資産バブルを作って・インフレ対策として、金利を上げ(金融を引き締めて)、 ・不況を作り、資産価格(株価、不動産)を暴落させて、 結果として、銀行が担保の資産を接収することです。 国民経済の果実を刈りとる。これを『羊毛刈り』といったのです」。「『羊は太らせて食え』」ということである(ビジネス知識源:2023.5.30)。

マイケル・ハドソン教授は新著『The Collapse of Antiquity(古代遺物の崩壊)において、「すべての欧米の金融システムに共通するものがあることだ。それは負債であり、複利によって必然的に増大する負債である。」西アジアでは「借金を帳消しにすることの重要性を知っていた。さもなければ臣民は束縛されることになるだろう。抵当権を持つ債権者たちに土地を奪われ」ると。しかし、ギリシャ・ローマででは「債権者が融資を始め、債務者が支払えなくなり、債権者はますます多くのお金を得るようになる。そして寡頭制は世襲制になり、貴族制になる」(『耕助のブログ』「崩壊に向かう借金帝国アメリカ」US Empire of Debt Headed for Collapse by Pepe Escobar 2023.5.28)。

「ローマの契約法は、債権者の請求権を債務者の財産に優先させるという西洋法哲学の基本原則を確立した(今日では「財産権の保障」と婉曲に表現されている)。社会福祉への公的支出は最小限に抑えられ、それを今日の政治イデオロギーは『市場』に問題を委ねるという言い方をしている。その市場とは、ローマとその帝国の市民が基本的な生活必需品を裕福なパトロンや金貸しに依存し、パンとサーカスについては公的な給付金や政治候補者によって負担されるゲームに依存し、政治候補者自体もしばしば裕福なオリガルキーたちから資金援助を受けて選挙活動を行った。」このローマの契約法こそ今日、米国が強調する『法の支配』といわれるものである。そして、ローマは「奪うべき土地と略奪すべき貨幣がなくなったとき、西の帝国が崩壊した」。「今日の銀行危機で起きているのは、経済が支払える速度よりも借金の方が速く成長すること」だと述べている(『耕助のブログ』同上)

「多くの人々は、借金、利息の支払い、そしてすべての債務者が借金を支払わなければならないという事実は、金融のルールが普遍的であると想定されていると考えています。」「現代経済史の政治的メッセージは…すべての債務は支払われなければならず、債権者の利益は債務者の利益、および債務社会全体の利益よりも優先されなければなりません。」(『耕助のブログ』同上)と。

しかし、いま、この2000年にわたる『法の支配』は『法の支配者』自らによって破られようとしている。EU委員長のフォンデアライエン氏は「ロシアは大規模な破壊の代債を払うべきだ」とし、約2000億ユーロの「ロシア資産をウクライナ復興に活用する」ために「強力な法的手段」をとると言明し、ローマの契約法を自らが破ると宣言した(日経:2023.6.28)・。

 

3 不均衡をどのように是正するか:BRICSがドル基軸体制以外のまったく新しい金融システムを作る可能性

マイケル・ハドソン:「重要なことは、…実際に通貨の相対為替レートを決定するのは貿易ではないということです。」「為替レートは実際には金融市場の関数であり、特に貿易、特に対外債務返済ではありません」。

ラディカ・デサイ「投機的な資産市場」「ある人々から他の人々に収入を移すことによって少数の人々を非常に豊かにすることを除いて、誰も養わないだけでなく、生産を絞め殺します」「それに加えて、本質的には金持ちや大きな機関が供給する需要であるドルの需要を生み出すことによって、このシステムが行ったことは、ドル以外のほとんどの通貨の交換価値を下げた」「ドルは他のすべての通貨と比較して過大評価されており、貧しい国の一般の人々はドルを稼ぐために一生懸命働かなければならないだけでなく、ドルが不当に過大評価されているので不当に一生懸命働かなければなりません。」

連邦準備制度の量的緩和は「資産市場を支えるために使用している」「外貨はもはや資産市場を維持するために必要なほど入ってこない」「もしこれらの資産価格が下落すれば、連邦準備制度の介入がなければ、もちろん、最も裕福なアメリカと世界のエリートの富は一掃されるだろう」

ラディカ・デサイ:「インフレの復活はドルシステム自体の危機です。そしてまた、帝国主義の重要な基盤の一つは、豊かな国々、特に米国に来る資源を安く保つことであるという単純な意味での帝国制度の危機である」「ドルの価値が下がるにつれて、インフレが上がるにつれて、これらのものはもはや安くはなく、これらの国々の生活費と生産コストを本質的に低く抑えることはもはやできません。」「世界の準備通貨に占める米国のシェアが大幅に低下している」

ラディカ・デサイは他の解説でも「米国はすでにインフレに苦しんでおり、それはすでにその帝国の力が低下しているという事実の印です。結局のところ、なぜ米国はインフレに苦しんでいるのでしょうか。なぜなら、世界の他の国々に商品やサービスを無料で販売することを強制する能力が低下しているからです。」と述べている(「中国は米国主導の金融秩序の崩壊としてグローバルな代替案を構築」China builds globalalternative as US-ledfinancial order decays:マイケル・ハドソン×ラディカ・デサイ×ミック・ダンフォード:2023.5.28)

マイケル・ハドソン:「米国債が、アメリカ人と友好的なヨーロッパ人にとって、あらゆる投資の中で最も安全であることは間違いありません。」「米国はいつでもドルを印刷でき、アメリカ人であれば安全であり、上下する株を保有するよりも安全ですが、外国人の場合、連邦準備制度は外貨を印刷できません。」アメリカ人にとって米国債は「『良い債務』です。アメリカ人が外国人に所有している国庫による債務は『不良債権』です。お支払いはできません。」「それが彼らが金に移行している理由です」

ラディカ・デサイ:「世界の他の地域がまったく新しい金融システムを作る可能性です」「この壊れたシステムを、まったく新しい原則に基づくまったく新しいシステムに置き換えることです。」

マイケル・ハドソン:「それ自体は脱ドル化ではありません。それは脱新自由主義です」、「解決策は明らかに次のようになります:あなたは人工通貨を作成します。前にも言いましたが、金ではないことを除いて、それは紙の金のようなものです。」「ケインズのバンコールのようなもの(バンコールと国際通貨同盟(ICU)に対するケインズの提案)、または中央銀行間、政府間でのみ独自の目的のために使用できる一種のクレジットとして政治的に定義されるものです。そして、これは米国が本当に恐れていることです。」

「世界経済は、通貨をフリーランチとして印刷するだけで他の経済を犠牲にして利益を得る特定の経済に集中することなく、私たちに利益をもたらし、相互に利益をもたらす方法」

ラディカ・デサイ:「バンコールと国際通貨同盟の原則を受け入れた場合、その考えは、大手金融企業を含む大規模な民間企業の力を増やすことではなく、逆に、経済は生産、生産性、および広範な繁栄の創造に焦点を当てるように運営される」「ドルシステムは、本質的に米国の経常赤字に基づいているため、体系的には不均衡の生成に基づいています。不均衡が大きければ大きいほど、世界のシステムに提供される流動性は多く」なる。ケインズの、「ICUの設計方法は、不均衡が持続しないようにすること」「世界貿易、世界の投資関係のバランスが多ければ多いほど、それは実際に通貨の使用の必要性を減らすことです、なぜなら解決する不均衡がなければ、お金は必要ない」

マイケル・ハドソン:「どんな経済でも、特に債務のために、自然な傾向は二極化することです。債務が経済よりも速く成長する」それが不均衡な場合、「債権国による債務の蓄積をキャンセルし、債務国の債務を一掃」する。緊縮財政を押し付けず、「不均衡の結果は一掃されます。不均衡自体は治りませんが、不均衡の結果は一掃され、世界は秩序をある程度回復し、正常と支払能力を回復することができます。」「唯一の解決策は金融債権者によって蓄積された債務を一掃することです。」(「脱ドル化は通貨以上のものですードルシステムが衰退するにつれて、次に何が来るのでしょうか?―」(De-Dollarization Is About More Than Currencies As dollar system declines, what comes next?)マイケル・ハドソン×ラディカ・デサイ:2023.4.28)。

 

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【投稿】核の脅威の再浮上--経済危機論(112)

<<ハーシュ氏の警告>>
「世界終末のパートナー」(PARTNERS IN DOOMSDAY)と題して、バイデン、プーチン、米ロ両大統領の握手写真を冒頭に掲げながら、著名なジャーナリストのシーモア・ハーシュ氏は、「ウクライナが反撃を開始し、バイデンのタカ派が見守る中、ロシアからの新たなレトリックは核の脅威の復活を示唆している」と警告を発している。(Seymour Hersh 2023/6/15)

 ここでハーシュ氏が指摘する「バイデンのタカ派」とは、米国務省内では、この6/30にウェンディ・シャーマン国務副長官が退任し、国務省内では、後任に選ばれるのではないかと恐れている人物について、パニックに近い状態になっている、という。その人物とは、ビクトリア・ヌーランド欧州・ユーラシア担当国務次官補である。彼女は、反ロシア・タカ派の急先鋒で、2014年にウクライナにアメリカの傀儡政権を樹立させた最大の功労者として、「バイデン大統領の意見とぴったり一致する」人物であり、「バイデンは、ウクライナ戦争の勝利、あるいは何らかの満足のいく解決によって、再選の可能性があると確信している」ことから、ヌーランドは現在、政治問題担当の次官として、ブリンケン国務長官が出張している間、国務省の各局の間で「暴走している」状況だという。
ハーシュ氏は言及していないが、この「バイデンのタカ派」を支えるネオコンシンクタンク=アメリカン・エンタープライズ研究所(American Enterprise Institute AEI)は、すでに6/9、「バイデンはロシアのウクライナへの核攻撃を抑止できるのか? イエス、もし彼がウクライナに戦術核を与えれば可能だ」(Can Biden Deter a Russia Nuclear Attack on Ukraine? Yes, if He Gives Ukraine Tactical Nukes )と題するマイケル・ルービンの論文を掲載し、アメリカの核政策は、「希望的観測ではなく、現実に即している」べきだと主張し、ホワイトハウスは、「核兵器の使用を抑止する最善の方法は、核兵器を使用する意思を示すことだ」と要求し、「キエフに核兵器を持たせることを約束すべきだ」と、ウクライナの核兵器保有を提案している。危険極まりない動きである。

ハーシュ氏がもう一方で指摘する「ロシアからの新たなレトリック」とは、プーチン氏に近いことで知られているモスクワの学者で、ロシア外交防衛政策評議会の会長を務めるセルゲイ・A・カラガノフ氏(ロシア外交防衛政策評議会名誉議長、モスクワ高等経済学校(HSE)国際経済・外交学部学術指導教授)が、6/13にロシア語と英語で発表し、6/14、ロシアの実質国営メディア・RT上で、全文掲載された「ロシアは核兵器を使用することで、人類を地球規模の破局から救うことができる」(Sergey Karaganov: By using its nuclear weapons, Russia could save humanity from a global catastrophe )という論文である。

カラガノフ氏の主張の一つは、ロシアが圧勝しても、現在進行中のロシアとウクライナの戦争は終わらないということである。「武器で武装した超国家主義的な人々がさらに憤慨し、その傷口は必然的に複雑化し、新たな戦争に発展する恐れがある」と書いている。「最悪の事態は、莫大な犠牲を払ってウクライナ全土を解放しても、ウクライナが廃墟と化し、そのほとんどが我々を憎む人々で占められることだ」、「休戦は可能だが、平和はありえない」「欧米の動きのベクトルは、第三次世界大戦への転落を明確に示している」と。ハーシュ氏は、「このエッセイは、絶望に満ちている」、と指摘する。
その「絶望」を回避するためには、「容認できないほど高く設定された核兵器使用の閾値を下げ、抑止力とエスカレーションの梯子を迅速かつ慎重に上ることによって、核抑止力を再び説得力のある議論にする必要がある」とカラガノフ氏は主張する。「それは道徳的に恐ろしい選択です。私たちは神の武器を使い、大きな精神的損失を自ら宣告することになるのです。しかし、このままではロシアが滅びるだけでなく、人類文明全体が終わってしまう可能性が高い。」として、「ロシアは核兵器を使用することで、人類を地球規模の破局から救うことができる」と、結論する。
ハーシュ氏は、「カラガノフの運命論はどう受け止めたらいいのだろう。彼の発言は上層部の政策を反映しているのだろうか。プーチンとともに、いつ、どこで、爆弾を落とすか、そのアイデアをめぐらせているのだろうか。」と、深刻な懸念を表明している。

<<「性急さは常に劇的な誤算をもたらす」>>
このカラガノフ氏の主張に対して、6/16、同じロシアのメディアRT上で、「イリヤ・ファブリチニコフ ロシアが西側諸国に対して核兵器を使用するという呼びかけに私が同意しない理由」と題する論文が発表された。異例の展開である。筆者は、外交・防衛政策評議会メンバー、コミュニケーション・アドバイザー、イリヤ・ファブリチニコフ氏である。

ファブリチニコフ氏は冒頭、「カラガノフの先制攻撃の呼びかけは、大きな議論を巻き起こしたが、私はNATOの餌になることには賛成できない。」と述べる。カラガノフは、ウクライナ軍に近代兵器を投入している集団的西側諸国との駆け引きをやめ、原子エスカレーションのはしごを素早く始めるべきだと提案している。しかし、ロシアの核ドクトリンは、2020年6月2日付で「核抑止力分野におけるロシア連邦の国家政策の基礎」に明記された。そこには、はっきりとこう書かれている: 「ロシア連邦は、核兵器を専ら抑止の手段として捉え、その使用は極端かつ強制的な手段であり、核の脅威を低減し、核を含む軍事衝突を誘発し得る国家間関係の悪化を許さないために必要なあらゆる努力を行っている。ロシア連邦は、以下の4つのシナリオ(またはその組み合わせ)において、核兵器を使用する用意がある:
a) ロシア連邦および/またはその同盟国の領土を攻撃するための弾道ミサイルの発射に関する信頼できる情報を得た場合;
b) 敵がロシア連邦および/またはその同盟国の領土で核兵器またはその他の大量破壊兵器を使用する場合;
c) ロシア連邦の重要な国家施設または軍事施設に対する敵の攻撃で、その不活性化により核戦力の対応行動が混乱するもの;
d) 国家の存立が脅かされる通常兵器によるロシア連邦への侵略。
現時点では、ロシア大統領が核兵器の使用を命じることができるシナリオは、いずれも実現可能な初期段階ですらない。
と、断言する。
ファブリチニコフ氏は、「西側の情報キャンペーンの目的は明確で、ロシアのメディアや専門家コミュニティからだけでなく、ロシアの外交政策決定者に心理的圧力をかけ、そのような決定を下す可能性の閾値を低くすることで、世論の反発を誘うことであった。つまり、世界で初めて、そして唯一、戦場で原子兵器を使用した米国と、ロシアを道徳的に対等の立場に立たせることである。」と主張する。そして、「原爆使用の閾値を下げ、非核保有国に対して使用することは、その政策や意図がいかに反ロシア的であっても、西側世界の宥和につながらないという事実が重要なのです。」「逆説的に思えるかもしれないが、NATO諸国は今、エスカレーションというデリケートで間違いを犯しやすいビジネスにおいて、実証的に積極的である。そして、ロシアの外交政策指導部は、こうした取り組みに遅ればせながら反応したようだ。実際、西側諸国の落ち着きのなさは、主導権の喪失を裏付けるだけであり、性急さは常に劇的な誤算をもたらす。」、なされるべきは、「西側が支配する英語メディア空間を含め、洗練された多角的な道徳的・心理的作戦を実施し、彼らの余裕と長期的な継続の意志を損なうことを目指すべきである。」と結んでいる。性急さを排し、理性的、現実的、道徳的であれ、というまともな主張であろう。

プーチン大統領は6/16、サンクトペテルブルク国際経済フォーラム(SPIEF)の全体会合で演説し、ロシアは領土保全もしくは国家存立への脅威に対し「理論的には」核兵器を使用できるとしつつも、「その必要はない」という認識を示している。プーチン氏は、このフォーラムでの演説で「欧米の経済的圧力にさらされた後、ロシアは孤立を選択せず、代わりに世界経済の主要な牽引役となる国々との協力を強化した」と述べ、世界経済におけるロシアの現在の位置づけについて、「その指導者が、しばしば行われる外国の圧力に屈せず、他国の利益よりも自国の国益に導かれている国々との貿易は、数十%ではなく、数倍に伸びている」ことを明らかにし、「これは、常識、ビジネス、エネルギー、客観的な市場法則が政治的な配慮よりも強いということをさらに証明するものであり、多極化した世界秩序は強化されつつある。そして、このプロセスは必然である。」と強調している。

米・ロ、両当事者間の緊張激化政策が危険な段階に達し、核戦争の危機が意図的に醸成されている過激な動きや言論がエスカレートしている今日、このエスカレートをストップさせ、緊張緩和と平和的外交的解決への努力が第一義的に優先されるべきであろう。政治的経済的危機の打開は、その平和への努力如何にかかっているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】米・FRB利上げ政策の行き詰まり--経済危機論(111)

<<「インフレ圧力はまだ強い」>>
6/14、米中央銀行・連邦制度準備理事会(FRB)は、2022年初頭から10回連続、1年以上にわたって続けてきた利上げ政策の「一時停止」を発表せざるを得なくなった。連続利上げによる保有国債の含み損の拡大が銀行危機の連鎖を生み出し、いまだくすぶり続ける事態を鎮静化する必要に迫られたのである。
 それでもパウエルFRB議長は、「物価高(インフレ)の圧力はまだ強い」として、早ければ7月、年内あと2回の追加利上げを示唆している。
6/13、米連邦政府・労働統計局(BLS)が発表した5月の消費者物価指数(CPI)インフレ率は、伸びは確かに鈍化したのであるが、それでも前年同月比4.0%上昇であった。FRBが目標値とする2.0%には程遠い。
CPIの上昇率は、昨年6月の前年同月比9・1%をピークに、11カ月連続で鈍化しているが、主たる要因は、世界経済が減速し、原油需要が減少し、

1980年代と同じ計算方法を用いているShadowstatsのCPI

エネルギー全体の価格が前年同期比で11.7%下落し、ガソリン価格は同期間で19.7%も下落したことを反映している。
問題は、CPIの中で最も変動の激しい2つの構成要素である食品とエネルギーを除けば、物価上昇率はほとんど減速しておらず、前月比で加速さえしていることにある。前月比では、5月のCPIは0.4%

上昇しており、2ヶ月連続の上昇である。
5月の食品価格は、前年同月比で6.7%上昇し、今後もさらなる上昇が見込まれ、アパレル、パーソナルケア、教育の指数も上昇している。経済の80%を占めるサービスはすべて前年比6.6%増と、依然として上昇している。

<<「もっとイージーマネーをよこせ!」>>
かくして、インフレ率は26ヶ月連続、賃金上昇率を上回り続けて、実質賃金が低下し続けているのである。ありもしない「賃金主導のインフレ」論を振り回して、賃金抑制こそがインフレ抑制と主張してきたFRBは、ここでも対インフレ政策において破綻しているのである。
 つまりは、FRBの連続利上げ政策は、インフレ抑制という看板を掲げながら、実態はほとんど成果なし、ということであろう。
大手独占企業の寡占支配、独占価格のつり上げ、金融資本のマネーゲームに切り込まず、自社株買い等を放置してきた結果として、FRBの金融政策は「非効率的」かつ「効果的でない」ものとなってしまった、自らそうさせてきてしまったのである。
今後、ウォール街からは、FRBに対し、「もうインフレは終わった。もっとイージーマネーをよこせ!」という圧力が強まり、実態的にも、3月に地方銀行危機が勃発して以来、FRBの金融資本への救済総額は今四半期で10億ドルに迫ろうとしているが、これも一種のイージーマネーである。イージーマネーは、実体経済には回らず、金融資本のマネーゲームに組み込まれることが歴然としており、これまたインフレ促進要因でもある。
結果として、すでにFRBは、政策遂行能力不全状態に陥ってしまっている、と言えよう。問われているのは、政治的経済的危機を克服する根本的な政策転換、新自由主義の金融資本支配政策からの脱却・ニューディール政策への転換である。
(生駒 敬)

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【投稿】米債務上限合意:軍拡への政治劇--経済危機論(110)

<<典型的な新自由主義政策の合意>>
6/2 バイデン米大統領は、「リスクがかつてないほど高かった」米国史上初のデフォルト(債務不履行)によってもたらされる「経済危機」から米国を救ったと、ホワイトハウスと下院共和党の間で合意された債務上限合意を自賛した。「私が大統領選に立候補した時、超党派の時代は終了し、民主党と共和党の協力はもはや不可能だと聞かされていた。しかし、私はそれを信じようとはしなかった。米国はそうした考え方に決して屈することはないからだ」と。
合意の一方の当事者である共和党マッカーシー下院議長も「これは納税者にとっての勝利です」と自賛している。
 しかし、その合意の本質は、「超党派」の名の下に軍事費の増大をさらに推し進め、社会保障費と社会プログラムの支出を削減し、富裕層の減税(トランプ減税)を引き続き容認し、格差を拡大する、新自由主義政策そのものが露骨に打ち出された合意である。これは、バイデン政権自身が「超党派」の名の下で合意したかった、むしろその合意を前提に、一見、共和党右派の「緊縮」政策と対立するかに見せかけていたバイデン政権の政策が、実は新自由主義政策そのものであることを明確に示している。デフォルト危機を煽りながら、新自由主義政策を「進歩派」にも受け入れさせる、いつもの「またか」と繰り返される政治劇なのである。バイデン氏は、この協定は「妥協であり、誰もが望むものを手に入れることができるわけではない」という口実で、都合よく、共和党を利用した、いや実は必要だったのだとも言えよう。今回は、その上に、対ロシア・対中国緊張激化政策とドル一極支配体制の危機が「合意」をさらに促進させたのである。

 この「合意」の結果、「2023年財政責任法」と呼ばれるこの協定によって、フードスタンプと困窮家族向け一時援助プログラムが削減される。何万世帯もの世帯が家賃援助削減の危機にさらされる。補足栄養支援プログラム(SNAP)給付金と困窮家族一時支援(TANF)の一部受給者に新たな就労要件が課される。さらにパンデミック以来実施されてきた学生ローンの支払い猶予も解除され、バイデン氏が公約していた学生ローン免除どころか、今年2023年8月に学生ローンの支払い再開を強制する。一方、富裕層や企業と投資家には、2018年12月から28年までのトランプ時代の4.5兆ドルの減税が継続されることが明らかになり、なおかつ脱税行為を捕捉するIRS税務当局・内国歳入庁IRSの予算を削減する。等々、弱肉強食・自由競争原理主義の新自由主義政策のオンパレードである。
共和党指導部は、これでももちろん、「まったく不十分」と非難しており、共和党大統領候補に名乗り出たロン・デサンティス氏は、削減が足りない、と非難している。

<<ロッキード「合意は、わが社の勝利」>>
6/1、ロッキード・マーチン社のトップ、ジェームズ・タイクレ(James Taiclet)CEOは、投資家向けの会合(Bernstein Annual Strategic Decisions Conference)で、防衛予算の引き上げを自社の勝利として祝い、「最近、債務上限をめぐる政治的な動きが活発になっています。しかし、そのような状況でも、現在の合意は、国防予算は2年間3%増で、他の予算は削減されています。これは、私たちの業界や会社が現時点で求めることのできる最高の結果だと思います。」と自慢たらたらである。

タタイクレ氏はさらに、「現時点で我々は本当に強い立場にあると思う。当初、例えばF-35に対する大統領の予算は、当初の大統領予算に含まれていた米国向けの航空機の数80機以上であり、したがってそれが我々が必要とするレベルである。これに海外からの受注を加えると、今後数年間で前年比 156 件の目標まで増加する可能性があります。他の多くのプログラムにも、大統領の予算には十分な資金が用意されている。」と報告している。
タイクレ氏は、3つの「戦略的取り組み」として、「複数年にわたる調達、つまり、需要が大幅に高まった場合に、第二の供給源を認定したり、実際に利用できる海外の工場を確保」すること、「2つ目は、防衛企業へのデジタルの加速です。」、「そして国際的な面では、会社を真にグローバル化し、米国政府を本当に助ける方法で海外での生産と維持を推進すること」として、米政権と一体となって世界の軍事産業を領導せんと、宣言しているのである。
米国防総省・ペンタゴンの支出の半分以上は軍事産業請負業者に支払われており、世界最大の兵器会社ロッキード・マーチンのCEOは、この事態を「最高の結果」「わが社の勝利」と謳歌しているわけである。

バイデン政権は、下院共和党との間で合意された債務上限合意は、ウクライナ戦争への支出には「何の制約も与えない」ことを明確にしている。すでに、これまでにウクライナ戦争への支出が認められた1130億ドルは、緊急追加資金として可決されたもので、債務上限合意の一部である支出上限が免除される、というのである。都合の良い、勝手な論理である。「緊急要件として指定された資金や海外有事作戦のための資金は制約を受けず、その

他の特定の資金も上限の対象にはならない 」という論理からすれば、8860億ドルの軍事予算がさらに増やされることは明瞭である。緊急資金はウクライナにとどまらず、台湾への武器供与や、対中戦略の一環としてさらなる軍事費増大に使われる可能性が大なのである。

新自由主義財政政策の特徴は、軍事支出の拡大・加速と並行して、企業・投資家・富裕層の減税を拡大し、結果として拡大する財政赤字、国家債務の増大を社会保障・社会プログラムの支出の削減に利用することにある、しかしこうした政策は、政治的経済的危機をより一層深刻なんものとさせ、自らの政権基盤そのものを掘り崩すものでもある。すでに、5月末のCNNの世論調査では、66%が、ジョー・バイデンの再任は「災害を招く」と考えているのも当然と言えよう。
(生駒 敬)

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【書評】日野行介『原発再稼働──葬られた過酷事故の教訓』

【書評】日野行介『原発再稼働──葬られた過酷事故の教訓』
                   (2022年8月刊、集英社新書、900円+税)

本書は、元毎日新聞記者の原発再稼働をめぐる詳細な報道調査を通して、その安全規制と避難計画の実態を告発する。本書の内容を端的に表しているのが、最後に補遺として掲載の著者による「広瀨弘忠氏インタビュー」である。広瀨氏(東京女子大学名誉教授)は、災害リスク学の専門家であり、著者の伴走者として専門的見地から助言した。そのインタビューでは避難計画について、こう語られている。
「避難計画がなければ再稼働は認められないということになったので、作っていますが、どう作っても実現不可能な避難計画になる。だから机上の空論、絵に描いた餅と同じです。骨抜きよりももっと悪質で、官僚の作文によって実効性を虚偽的に作り出している。(略)根拠となるデータを国も県も隠すとなると、まったく検証ができない。安倍政権で相次いだ公文書スキャンダルと同根です」。
「確かに稼働していなくても事故は起きますが、運転しているとリスクは格段に大きくなる。それは言わずに、『核燃料があるから避難計画に協力してください』と迫られると、避難先の自治体や住民は『それならいいよ』と受け入れざるを得ない。そうすると、原発を再稼働するときに反対したとしても、『避難計画を受け入れただろ』と反論を受けてしまう。こうした詐欺的な手法を『フット・イン・ザ・ドア』と言います。何かを売りつけるときに、ドアをノックして、開いた瞬間に足先だけを差し込んで、断れない状態にしてしまう。避難計画は再稼働するための方便ですよね」。
つまり「日本が歩んでいるのは、原子力規制委員会による安全審査に『合格』した原発は動かすことができるという、フクシマ以前から続く一本道である。多くの政治家や官僚たちはこれを『安全が確認された原発は動かす』という常套句に言い換えている」ということであると本書は指摘する。まさにこの視点を押さえることが、原発再稼働への動きの本質を捉えることである。
この視点から本書は、「第一部 安全規制編」では原発規制の基準の曖昧さを、「第二部 避難計画編」では避難所の確保計画の杜撰さを鋭く追及する。それはまさに著者自身が「狂気と執念」と名付るような地道な調査の記録である。それだけに読者としては忍耐強く足跡を追って行く他ないが、しかしそこに次々と現れる原発行政の再稼働への固執の姿勢には驚くばかりである。
例えば「第一部 安全規制編」では、新規制基準の火山噴火リスクの影響評価で、関電三原発の再稼働へ向けた空気中の火山灰の最大層厚の予測の問題で関電側が過小評価していた疑惑が詳細に検討される。
また「第二部 避難計画編」では、本書では日本原電東海第二原発(茨城県東海村)を対象にしての避難計画が検証されている。しかしそこでは30キロ圏外への避難計画が策定されてはいるが、避難する住民の収容可能人数をめぐっての問題が多数指摘される。即ち受け入れ先の自治体において収容可能人数の算定(1人2平方メートルで計算するとされる)にあたって、避難所の体育館等の面積にトイレや倉庫等の非居住面積を含んで計算していたという事実=収容人数の水増しをしていた自治体、あるいは避難先とはされていなかった県立高校も避難所とされていた等々の報告である。これについては茨城県と受け入れ先の自治体との間での齟齬があり、未だに整合性のとれた結論は出ていない。つまり茨城県も内閣府も収容可能人数の辻褄合わせに終始していた可能性があるということ、しかもそのことについては、「実は避難所が不足しています」とは言いにくいとして、情報公開でも明らかにされてこなかったということが指摘される。
さらには受け入れ側から、収容可能人数を出したとしても、実際に受け入れられる人数=「(機械的に出した)収容可能人数が1000人でも、校庭が狭くて50人分しか駐車場が確保できない場合はどうするのか」といった質問が出ても、茨城県と内閣府の担当者からはまともな回答はなかったという事実も暴露される。「しかし、よく考えてみると、基本的に自家用車で避難する前提なのだから、駐車場のキャパを超える人数の受け入れはできない。そもそも、現実には受け入れられない収容人数などはじき出す意味はないはずだった」と本書は批判する。
こうした地道な取材の結果から、本書は指摘する。
「原発避難計画は対象人員が数十万人規模に上り、実効性を確かめられるほど大規模な訓練を行うのは現実的に難しい。とはいえ、机上のシミュレーションには限界がある。そうすると、計画の記載事項を一つひとつ、何が根拠なのか、裏付けとなるデータはあるのか、誰がどのように決めたのか、策定プロセスを検証する以外に、計画の実効性というより、信頼性を確かめる方法はない。だが、原発避難計画の策定プログラムはほとんど明らかにされていない」。
そしてこう結ぶ。
「この取材を経て分かったことがある。原発再稼働を後押しするだけの避難計画など作らないほうがマシだ。原発行政につきまとう大きなウソに騙されてはいけない。思考停止した傍観者になることなく、そこにウソがないのか、疑い続けなければならない。大きなウソほど見抜くのが難しい」と。(R)

【補遺】本書でも少し触れられているが、避難所に関しての国際基準である「スフィア基準(人道憲章と人道支援における最低基準)」(1998年初版)については、もっと広く知られる必要がある。これは、「避難所だから仕方がない」という意識を変える、被災者の権利と支援活動の基準を定めたものであるが、日本ではまだ十分に知られていない。
スフィア基準では、「人道憲章」、「権利保護の原則」、「コア基準必須のプロジェクト基準」とともに、命を守る4分野──(1)給水、衛生、衛生推進、(2)食料の確保と栄養、(3)シェルター、居留地、ノン・フードアイテム(非食糧物資)、(4)保健活動──の最低基準が記されている。そこでは、生命維持に必要最小限な水の供給量、食料の栄養価、居留地内のトイレの設置基準・数、避難所一人当たりの最小面積、保健サービスの概要などが具体的に紹介されている。被災者の人間としての尊厳ある生活を保障する意識の向上が目指されなければならない。こういった事項を考慮せずに避難所の収容人数だけで作られている避難計画がどのようなものであるかは想像に難くない。

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【投稿】犯罪国家英国が持ち込んだ劣化ウラン弾の爆発で、ウクライナやポーランドが放射能汚染

【投稿】犯罪国家英国が持ち込んだ劣化ウラン弾の爆発で、ウクライナやポーランドが放射能汚染

                              福井 杉本達也

日本では完全な報道管制下におかれ、全く情報がないが、「ウクライナに対する大規模な空襲とミサイル攻撃で、ロシア軍は同国西部のフメルニツキーにある弾薬庫を攻撃し、敷地内で巨大な爆発を引き起こしました」。「5月12日頃、フメルニツキーでガンマ線の急上昇が検出され、翌日も上昇し、その後も上昇したままである。」とインテル・スラヴァが報じた。

また、5月20日のRTは「ロシア安全保障理事会のニコライ・パトルシェフ長官は金曜日に、英国が供給した劣化ウラン弾薬を保管しているウクライナの倉庫が破壊された後、放射性雲が西ヨーロッパに向かっていると警告した。」と報道した。

同報道はスプートニクニュースを引用する形で、欧州放射線リスク委員会の物理化学者のクリス・バスビー博士の話を掲載しており、博士は「劣化ウラン(DU)弾薬をウクライナに提供するという西側の決定が、大陸全体の生態学的災害を引き起こした可能性がある」と警告した。ロシア軍によるミサイル攻撃で、「キエフから約200km離れたフメリニツキーの町での大規模な爆発のビデオを提供しました。2つの大きな爆発があり、原子爆弾のように上向きに発達し、黒いキノコ雲を形成した巨大な渦巻く火の玉を生み出し」た。「攻撃された武器庫には、対戦車ペネトレーターとして英国のチャレンジャー戦車で使用するために英国からウクライナに送られた劣化ウラン(DU)兵器が含まれていたことが示唆されました。爆発は火の玉でDUを燃や」した。「ウラン238がアルファ放出で崩壊すると、トリウム234とプロトアクチニウム234mに変わり、その後ウラン234に変わるということです。トリウム234はベータおよびガンマエミッターであり、崩壊エネルギーの6%をガンマ線として供給します。したがって、DU粒子状エアロゾルの大きな雲は、ガンマ検出器によって検出可能」になる。「酸化ウランは黒く、黒いプルームはゆっくりと北西に移動し、気象パターンは安定しており、風はポーランドに吹いています。ポーランドのEU検出器はすべて、プルームの到着が予想される時間にガンマ線が増加することを示しています。」とし、ウラン238のアルファ―崩壊は直接には検出できないが、ガンマ線を測定して、放射能汚染を測ることができることを示唆している。また、「インターネット上には、ウクライナ人が通常の消防士ではなくロボット車両を使用して爆発現場を片付けているビデオ」もあり、放射能災害であることを裏付けている。これは「環境災害があり、劣化ウラン粒子はポーランド、ドイツ、ハンガリーを横断し、バルト諸国、おそらく後に英国を含むヨーロパ全体に行き着くでしょう」「DUは禁止されなければなりません。それは無差別効果の武器であり、敵とあなた自身の軍隊」をかまわず破壊するもので、「武器を提供する人々、この場合は英国政府は道徳的に破産しています。ウクライナの人々を破壊することが彼らの意図でない限り。もう誰が知っていますか?世界は狂ってしまった。」と結んでいる。

2 劣化ウラン弾の危険性

劣化ウラン弾はどう危険なのであろうか。改竄前の広島市のホームページQA(FAQID-5801)によれば「アメリカ軍などは湾岸戦争、ボスニア紛争、コソボ紛争、イラン戦争などで劣化ウラン弾を使用しました。劣化ウランとは核兵器の製造や原子力発電で使われる天然ウランを濃縮する過程で生じる放射性廃棄物で、天然ウランよりウラン235の割合が少なくウラン238の割合が高くなったものです。劣化ウランの成分の約99.8パーセントはウラン238で、その放射能が半分になるまでの半減期は45億年です。ウランは自然界で最も密度が高い物質で、極めて堅く重いため、戦車の厚い装甲を破壊する砲弾や戦車の装甲などに利用されています。劣化ウラン弾が目標物に当ると爆発し、霧のようになった劣化ウランの細かい粒子が空中に飛散します。これを吸い込むと、科学的毒性により腎臓などを損傷するとともにがんなどの放射線障害を引き起こします。また、土壌などに付着し、半永久的に環境汚染を引き起こします」と正しく述べていた。

3 G7広島サミット対策で劣化ウラン弾表記を改竄した広島市

正しく表記されていた劣化ウラン弾の危険性を、G7広島サミット対策で広島市は後半部分「劣化ウラン弾頭が着弾し、あるいは劣化ウラン装甲に被弾することによって劣化ウランが燃焼すると、酸化ウランの微粒子となり周囲に飛散することから、放射線による人体や環境への影響が危惧されています。劣化ウラン弾の人体や環境への影響については、今後国際機関等の調査の動向を引き続き見守っていく必要がありますが、本市としては、そうした危惧や懸念がある以上、国際人道法の諸原則に沿って対処すべきことから、使用すべきではないと考えています。」と改竄した。これを、4月2日付の毎日新聞は、「広島市が、公式ホームページ(HP)に掲載していた劣化ウラン弾の危険性に関する記述を一時削除した。ツイッターでは、5月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)で広島を訪問するイギリスへの配慮を疑う意見が拡散されているが、当の市は心外な様子。事情を取材してみると、ウクライナを巡る緊迫した情勢が背景に見えてきた。」と擁護した。

4 放射能汚染の最大の犯罪国家イギリス

3月に、ロンドン発の共同通信は「英政府は23日までに、ロシアの侵攻を受けるウクライナに供与する主力戦車『チャレンジャー2』の弾薬に劣化ウラン弾を含めることを決定した。破壊力が強く、敵戦車の装甲を貫通する能力が高い」と。これに対しロシアのジョイグ国防相は「核による軍事的衝突に、また一歩近づくことになる」と懸念を表明していると報じた(福井:2023.3.24)。

5月16日付けの『東洋経済オンライン』において、岡田広之氏は「ウクライナに『ウラン弾』供与、英国の重大責任 放射能汚染で『イラク戦争の悲劇』再現も」として、「イギリス政府が主力戦車『チャレンジャー2』とともにウクライナに供与する軍事物資に劣化ウラン弾が含まれていることが、BBCなどの報道によって明らかになった。ロシアは反発を強めており、対抗策として核兵器の使用も辞さないとの姿勢を示している。」と書いている。

岡田氏は「劣化ウラン弾は核兵器ではないものの、放射能汚染を引き起こす危険性を持つ。人権NGOヒューマンライツ・ナウの伊藤和子副理事長は、『【自然環境に対して広範、長期的かつ深刻な損害を与えることが予測される戦闘の方法および手段を用いることは禁止する】と定めた、ジュネーブ条約第1追加議定書』の条文にも反する』と指摘する。劣化ウラン弾が大量に使用された場合、ウクライナの復興にも重大な支障をもたらしかねない。『唯一の戦争被爆国』を自認し、『核兵器なき世界』を目指す日本政府は、イギリスに供与撤回を求めることを含めて、今こそ劣化ウラン弾禁止に向けて働きかけを強めるべき時だ。」と文章を締めくくったのだが、今回のG7では岡田氏の思いとは正反対のことばかりが行われたといえる。核戦争を引き起こそうと挑発を重ねる好戦的犯罪国家がイギリスである。

広島で被爆し、カナダを拠点に核兵器廃絶を訴えている被爆者のサーロー節子さんは「G7広島サミットは大きな失敗だった。首脳たちの声明からは体温や脈拍を感じなかった」と批判した(福井:2023.5.22)。また、鳩山由紀夫氏は「核抑止として自国の核兵器は許し対立する国の核兵器を非難するのは許されないと。あらゆる核の保有も禁ずる核兵器禁止条約に広島ビジョンは触れず。謝罪どころか原爆資料館に核ボタンを持ち込むとは言葉を失う。」とツイートした(2023.5.21)。

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【投稿】福島第一原発1号機の圧力容器土台崩壊とG7でさえあきれる日本の原発事故対応

【投稿】福島第一原発1号機の圧力容器土台崩壊とG7でさえあきれる日本の原発事故対応

                                福井 杉本達也

1 完全に崩壊した福島第一原発1号機の原子炉圧力容器の土台

5月7日付けの東京新聞によれば、溶融事故を起こした福島第一原発1号機の圧力容器土台

が損傷しており、「土台は鉄筋コンクリートの円筒形で、厚さ1.2メートル、内側の直径は5メートル。核燃料が入っていた重さ440トンの圧力容器を支えている。昨年2月〜今年3月に実施した水中ロボット調査で、土台開口部のほか、内周の壁面が床から高さ1メートルにわたって全周でコンクリートがなくなり、鉄筋が露出していたことが判明。事故時の溶融燃料の熱で崩壊した可能性がある。」。地震などで、「土台が崩壊し、核燃料が残る圧力容器が落下すれば、高濃度の放射性物質が新たに放出される恐れがある。」と報じている。また、5月1日の東京新聞でも「土台は厚さ1メートル強の壁でできた円筒だが、コンクリートは厚みの半分以上が崩落し、壁の中央にある鉄の構造材と鉄筋でかろうじて圧力容器の重みを支えている可能性がある。」と報じている。本来ならば土台を耐震補強しなければならないが、現場は極めて高い放射線量で人が近づくことなどできない。

 

2 国際的に全く無責任―放射能汚染水の海洋放出を進める政府

圧力容器土台が明日にも崩れるかもわからないというにもかかわらず、放射能汚染水を海洋放出を推し進める日本は、G7広島サミット共同声明において、今年「春から夏ごろ」(松野博一官房長官)の海洋放出に向けてのG7のお墨付きを得て環境整備を図る狙いがあったが(福井:2023.5.19)、ドイツから「歓迎できない」と指摘され、気候・エネルギー・環境相会合に引き続き「人間や環境に害を及ぼさないための国際原子力機関(IAEA)の独立した検証を支持する」との表現に止まった(福井:2023.5.21)。無責任国家の集まりであるG7でさえ、日本の居直り強盗には愛想をつかしている。

中国は汚染水の海洋放出に明確に反対しており、「核汚染水の海洋放出は国を跨ぐ影響を生む。一般国際法及び『国連海洋法条約』などの規定によると、日本側は環境汚染を回避するすべての措置を講じ、影響を受け得る国と充分に協議し、環境への影響を評価・観測し、予防的措置を講じ危険を最小化させ、情報の透明性を保証し、国際協力を展開する義務がある。日本側はさまざまな口実を設け責任を押し付け、国際的な義務から逃れようとし、海洋放出の決定及び準備の進捗を関連国に一方的に報告しているだけだ。現在も中国とロシアの専門技術部門による、日本側の海洋放出案に対する科学的な見地に基づく数多くの疑問に全面的に回答しておらず、国際社会から信頼を得ていない。」と述べ、さらに続けて「核汚染水の処置という世界の重大な公共の利益に関わる問題をめぐる日本側の行為は、国際社会の期待からかけ離れている。日本側は核汚染水海洋放出の各種準備を早急に停止し、かつ海洋放出以外の最良の処置方法の模索を含め、周辺の隣国や国際機関と充分かつ有意義な協議を行うべきだ。核汚染水の科学的でオープンで透明で安全な処置を保証し、かつ厳しい国際監督を受けるべきだ。」と厳しく指摘している(「中国網日本語版(チャイナネット)」2023.4.14)。しかし、こうした情報は日本のマスコミではほとんど報道されない。あたかも海洋放出が規定の路線のように進められている。

 

3 事故の尻ぬぐいもできないで、60年超原発の運転を進める

高レベルの放射線で人も近づけない福島第一原発の「事故処理」などできるわけがないが、その尻ぬぐいも全くしないで、政府は60年超原発の運転を推進している。「原則40年、最長60年」という福島第一原発事故後にできた運転期間の規定を、規制委の審査などで停止した期間を計算から除外して60年を超えて運転できるようにするもである。

原発を長期間運転すると、放射線や熱の影響でさまざまな機器や設備が劣化するいわゆる「老朽化」が進む。2004年に関西電力の美浜原発3号機で起きた配管の破断事故では、吹き出した蒸気などで作業員5人が死亡している。破断した配管は、運転開始以来一度も点検が行われていなかった。鋼鉄製の原子炉は核分裂で発生する中性子によって強度が落ち、脆性破壊を起こすほか、金属製の配管は中を流れる熱水や蒸気による浸食や腐食で厚さが薄くなり、ケーブルは熱などで性能が低下する。また、コンクリートの構造物も熱や放射線によって強度が低下する(参照:NHK:2022.11.2)。

地震大国の日本であるが、基準地震動は建設時の基準のままであり、耐震補強など全くなされていない。そもそも原発のような構造物は耐震補強などしようもない。大規模地震が起きればいつ崩壊してもおかしくない。福島第一1号機もいつ崩壊してもおかしくない。放射能を世界に拡散する海洋放出などに金を投じるのではなく、崩壊した場合にも放射能が周囲にこれ以上拡散しないような措置が講じられるべきである。

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【投稿】核戦争リスク増大を主導するG7--経済危機論(109)

<<核兵器の使用権さえ強調>>
5/19、被爆地・広島で開催中のG7サミットは、「核軍縮に関するG7首脳の広島ビジョン」(G7 Leaders’ Hiroshima Vision on Nuclear Disarmament May 19, 2023 Hiroshima)という共同声明を発表。その声明の冒頭で、「我々G7の首脳は、1945 年の原爆投下により広島・長崎の人々が経験した未曾有の破壊と甚大な人的被害を、長崎とともに思い起こさせる歴史的な節目に、広島で会合した。厳粛かつ内省的な瞬間に、我々は、核軍縮に特に焦点を当てたこの最初のG7首脳文書において、すべての人のための安全保障が損なわれない核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認した。」と述べながら、「核兵器のない世界の実現」ではなく、「我々の安全保障政策は、核兵器が存在する限り、防衛的な目的を果たし、侵略を抑止し、戦争と強制を防止すべきであるという理解に基づくものである。」と、逆にG7参加の米・英・仏が保有する核兵器の合理化を公然と前面に打ち出し、核兵器の使用権をさえ強調するものとなっている。

G7広島サミット、核軍縮の進展に失敗

ICAN・核兵器廃絶国際キャンペーン(International Campaign to Abolish Nuclear Weapons)は、直ちにこの声明に対し、「G7広島サミット、核軍縮の進展に失敗」と題して、厳しい批判を公表している

・ これは核軍縮のための有意義な成果を提供するには程遠いものである。
・ 「核兵器のない世界」を実現するという目標に向けた具体的な対策を提示できず、逆に核兵器の使用権を保持することの重要性まで強調している。
・ G7は、何十年も前の不十分な取り組みを新しい「ビジョン」として売り込もうとしており、同時に、彼ら自身が核リスクの増大に加担している。
・ G7の無策は被爆者と広島で亡くなった人々の記憶に対する侮辱である。
・ 声明は、何よりも、核兵器廃絶のための真の行動を求める被爆者の要求に応えていない。

<<「これはG7の責任逃れだ」>>
ICANのダニエル・ホグスタ事務局長は、このG7の声明に対して、「これは機会を逸した以上のことだ。広島と長崎に原爆が投下されて以来、初めて核兵器が使用されるかもしれないという深刻なリスクに世界が直面している今、これはグローバル・リーダーシップの重大な失敗である。ロシアや中国を指弾するだけでは不十分である。核兵器のない世界という公言する目標を達成するためには、核兵器の保有、使用を是認するG7諸国が、他の核保有国を巻き込んで軍縮協議に乗り出す必要がある」と強調している。

 被爆者で広島県被爆者団体連絡協議会事務局長の田中聡氏は、被爆者、ICAN、日本のNGOネットワークとの共同記者会見で次のように述べている。
「これは、被爆者が求めている真の核軍縮ではありません。これは彼らの責任逃れです。岸田首相は「核兵器禁止条約は核兵器のない世界を実現するための最終的な道筋だ」と述べている。いや、最終通過点ではない。入口なのです。岸田総理をはじめとするG7首脳は、核兵器禁止条約(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons TPNW)を受け入れ、核兵器廃絶のための真のプロセスを開始すべきなのです。」
 被爆者であり活動家の佐久間邦彦氏は、 G7Hiroshimaの指導者たちに「人道的影響について学んだことを自国民と共有するよう求めています。今回の広島訪問を核兵器の継続保有を正当化するために利用しないでください。」と述べている。

5/20、フランスの空軍機で広島に到着したウクライナのゼレンスキー大統領は「日本。G7。ウクライナのパートナーや友人との重要な会合がある。私たちの勝利のための、安全保障や強化された協調だ。」とツィート。岸田首相が3月にゼレンスキー氏へ贈った「必勝しゃもじ」に応えたものでもあろう。
同じ日、米ホワイトハウスは、欧州の同盟国などが米国製のF16戦闘機をウクライナに提供することを認める方針を決めたことを発表。
ロシアのグルシコ外務次官は、「彼ら自身にとって大きなリスクを伴う」と米欧の動きを牽制、西側諸国が「エスカレーションのシナリオに固執している」と批判。「我々は目的を達成するために必要な全ての手段を有している」と応じている。
G7サミットでは、ウクライナ危機の平和的解決、外交交渉、緊張緩和政策は、一切提起されていない。あるのは対ロシア・対中国への挑発と制裁、比重が低下し、経済的政治的危機、脱ドル経済圏の台頭、制裁政策のブーメランにあせりながら、さらなる制裁の強化しか打ち出すことができない、次元の低さである。

いよいよ危険極まりない、第三次世界大戦への挑発、核戦争への危機が動き出そうとしている。G7広島サミットが、その危険な跳躍台として、歴史を画するものとなろうとしている。戦争と平和をめぐる闘いが、一層の重大な段階にさしかかっている。
(生駒 敬)

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【書評】吉野実『「廃炉」という幻想──福島第一原発、本当の物語』

【書評】吉野実『「廃炉」という幻想──福島第一原発、本当の物語』
(2022年2月刊、光文社文庫、1100円+税)


福島第一原発(1F)の事故から10年以上、未だに解決の途が見えていない最中に、原発再稼働の動きが進んでいる。しかしこの事故には未だ解決困難な課題が山積していることを今一度知らしめる書である。

 例えば、現在焦点を集めているが、約129万トンの汚染水を処理した水、いわゆる「処理水」の海洋放出問題である。これは地下水・雨水が原子炉建屋に入ってデブリ(溶け落ちた燃料)に触れたり、デブリで汚染した汚水に混ざることで発生した。この汚染水は、アルプス(ALPS:多核種除去設備)で放射性核種63種を取り除く。しかし1核種(トリチウム)だけは取り除けない。これを溜め込んだ「処理水」のタンクが129万トン=およそ1000基のタンクになっていて第一原発の敷地が間もなく満杯になる。そこで海洋放出という案が出てきた。本書ではこれについて、トリチウムのみの分離は微量なだけに技術的に困難であるので、「おそらく、国の基準を大幅に下回る形で海に捨てるのが、現在の科学技術で許された、精いっぱいの解決方法だろう」と示唆するが、同時に、いつまでも希釈した処理水を放出し続けるのもどうかとして、「国と東電は、放出とセットで、汚染水発生を抑制する新たな方策を考えるべきだと思う」とも述べる。
 しかしここでもう一つ重要なのは、建屋汚染水は「セシウムやストロンチウムを吸着する」(前処理)、アルプスを通して63核種を取り除く(後処理)ということで処理されるが、そのいずれのプロセスにおいても沈殿物や吸着材がゴミ(スラリー【上澄み】・スラッジ【沈殿物】)として出るということである。つまり「汚染水は浄化されるが、放射性物質はなくならない。スラリー・スラッジなどの形で溜まっていくのである」。
 このスラリー・スラッジは、HIC(ヒック:高性能ポリエチレン容器)という円筒形の容器(大きいもので直径1.52m、高さ1.85m)に収められている。2021年現在約3000個であり、当然のことながら増え続けている。そして容器の下部にゴミが沈殿、ヒック底部の密度が上がり、線量が高まっていて、積算吸収線量が容器の破損限界に達している可能性があるという。そこでこれの移し替えが差し迫っている。しかし東電にはその危機意識が希薄ではないかと問う。というのも2021年10月、東電による移し替えの「試行」的な作業報告では、作業員がヒックの蓋を開け、デカい管のような装置を突っ込み、管に連結している別の管を空の容器に突っ込んでスラリー・スラッジを吸い上げて移すというのであるが、これは人の手なくしては成り立たない作業であるし、危険極まりない作業であることは言うまでもない。この作業では線量は跳ね上がり高線量警報が鳴りっぱなしという可能性がある。この点を指摘されたが、東電は高線量から作業員を守る手立てを回答できなかった。
 そしてこれよりも更に深刻なのが廃炉の問題である。廃炉費用は8兆円と試算されている。そして廃炉で出る放射性廃棄物は、線量が高い順に、①使用済み燃料を再処理する過程で出た高レベル放射性廃液などをガラス固化した「ガラス固化体」、②原発の原子炉内にある『制御棒」や炉内の構造物、③廃液、ポンプ、配管など、④ほとんど放射化していないコンクリートなどに分類される。しかしいずれも人間にとって高い放射性廃棄物であり、安全な管理に数100年~10万年要する。「低レベル廃棄物」などという言葉のあやで誤魔化されるものではない。
 しかもこれは「通常炉」での廃棄物の話であり、1Fは「事故炉」であることを忘れてはならない。「炉心融解してしまったため、燃料体は制御棒を巻き込んだ熱い塊となり、圧力容器の底を突き抜け、ペデスタルに設置されている金属性の足場を溶かしてさらに落下し、格納容器底部でコンクリート構造物とも混ざり合って固まっているものとみられる」。原子力学会のリポートでは、1~6号機の廃炉を含めた過程で今後発生する1Fの廃棄物量を約780万トンと見積もっているが、そのほとんどが「高レベル」廃棄物とみて間違いはないであろう。さらに「たとえデブリを取り出せたとしても、原子炉や建屋の解体ができたとしても、一体どこでどのように処分するというのだろうか。しかも、肝心なことは、8兆円と試算されている『廃炉費用』には、廃棄物の処理費用は含まれて『いない』。つまり、本当に更地化を目指すのであれば、処理費用は8兆円では全く足りないのである」と指摘される。
 このように1Fの廃炉に至る道筋は技術的、財政的、場所的に困難を極めている。その上に1Fには、今後起こり得る同程度もしくはそれ以上の地震に耐えられる対策が要請されているが心もとないと本書は語る。そんな中、再稼働を目指す東電・柏崎刈羽原発において重大な「核物質防護規定」違反──職員が他人のIDカードを使って中央制御室に入室、また原発敷地境界の侵入検知センサー故障の放置──が発覚した。この結果柏崎刈羽原発は再稼働どころか、事実上の「運転禁止命令」を受けることとなった。何ともはや、「そもそも東電って何なんだ?」という言葉すら原子力規制委員会では出た。
 この他本書には、東電の破綻した賠償スキーム問題、指定廃棄物──1F事故で拡散した放射性物質(焼却した後の焼却灰、下水処理した際の汚泥、稲わらやたい肥などの農業系副産物など10都県で発生した)──の管理・処理問題が取り上げられている。いずれも簡単に処理できるものではなく、今後も尾を引く問題である。
 八方塞がりの状況にもかかわらず必要な情報を出さず、言葉の言い換えで辻褄合わせをする国・東電の姿勢こそが批判されねばならないが、本書は最後に、「エネ庁と東電は『30年で廃炉』などといつまでも言い続けるのではなく、地元住民に十分な情報を開示しつつ、廃炉が長期化することから素直に認め、誠実に説明していくべきだと考える」として、「真実の開示」と議論を訴える。何とも重苦しい超長期的課題であるが、現実的な方策を探るために一石を投じた書であると言えよう。(R)

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【投稿】米銀行危機:止まらぬ連鎖--経済危機論(108)

<<「どうしてこのレベルの無能が可能なのか」>>
5/3、米中央銀行・連邦制度準備理事会(FRB)パウエル議長は、連邦公開市場委員会(FOMC)の決定として、22年3月以来、10会合連続の利上げ、0・25%引き上げで政策金利の誘導目標は5~5・25%になることを明らかにした。
 その際、同議長は、「依然としてインフレ率が高すぎる」、「利上げサイクルが終わったと考えるのは早すぎる」としながら、だが次回6月会合では利上げを停止する可能性を示唆し、なおかつ、米経済についてはなお「ソフトランディング(軟着陸)に期待している」、「リセッション(景気後退)に陥るよりもリセッションを回避する可能性が高い」と表明しながら、「リセッションを排除するつもりはない」と述べ、「緩やかなリセッションの可能性はある」と、景気後退を認めざるを得ない自らの動揺をそのままさらけ出す記者会見となった。
 その動揺の最大の原因となっている銀行危機について、パウエル氏は、米国の銀行システムは「健全で回復力がある」と、何の皮肉も込めずに述べたのであったが、直近5/1に、3月のシリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行(SB)、シルバーゲート(SGB)の連鎖的な破綻に続いて、次なる標的となったファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank)の破綻、JPモルガンによる買収が発表されたばかりである。この経緯のどこに「健全」さがあるというのか。結果としてパウエル氏は「米国民に公然と嘘をついた」と非難される事態を招いているのである。
この会見の1日前、5/2のニューヨーク株式市場では、ダウ工業株平均が一時、前日より600ドル超も下落、米銀最大手JPモルガン・チェースによるファースト・リパブリック買収が決まったにもかかわらず、預金流出不安は収まらず、地方銀行株価は軒並み大きく下落し、地方銀行の株価指数は2008年以来最大の下落を記録していたのである。FRBの連続利上げによる含み損の拡大が追い打ちをかけているのである。
さらに問題は、この会見のちょうど2時間前、カリフォルニア州のさらに別の最大の銀行が危機に瀕していたのである。そして会見終了直後、ブルームバーグは、カリフォルニアに本拠を置くパックウェストバンコープ(PacWest Bancorp. )が売却を含むさまざまな戦略的オプションを検討していると報じたのであった。パウエル議長は、このパックウェストバンコープが危機に瀕していることに気づいていない、あるいは報告がない、把握していなかったのか。しかしこの銀行はすでに株価が60%以上急落していたのである。どうしてこのレベルの認識の低さ、対処の無能さが可能なのか、と問われているわけである。よくもぬけぬけと米国の銀行システムは「健全で回復力がある」と語ったものである。しかし、こうした発言は、バイデン大統領、イエレン財務長官も同罪で、臆面もなく同様の発言を繰り返している。

銀行システムは健全ではないどころか、いつ倒れて

市場全体が大混乱、地方銀行は大暴落

もおかしくない脆弱さを露呈しだしたのである。中小規模の銀行にとどまらず、チャールズ・シュワブ(Charles Schwab)やその他の大手銀行も破産する可能性が指摘され出している。事実上の破産に近い可能性のある銀行として、ハワイ銀行(Bank of Hawaii)とプエルトリコ人民銀行 (BPPR) 、フェニックスに拠点を置くウェスタン・アライアンス(Western Alliance Bancorp)が挙げられている。ハワイ銀行、BPPR、チャールズ シュワブの 3 つの銀行はすべて、先月で時価総額の 3 分の 1 から 2 分の 1 を失っている。
株価が年初から大幅に下落し、空売りの対象となっている他の銀行には、コメリカ、ザイオンズバンク、リパブリックファーストバンコープが挙げられており、これらの株は年初来で 45 ~ 60% 下落している。ハワイ銀行、BPPR、チャールズシュワブの 3 つの銀行はすべて、先月で時価総額の 3 分の 1 から 2 分の 1 を失っている事態である。

<<「利益を民営化し、損失を社会化する」>>
5/1のファースト・リパブリック銀行の破綻は、米国史上2番目の大きな銀行破綻であった(1番目は、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻、3番目は、今年/310のシリコンバレー銀行の破綻)。
すでにこの時点で、今年、2023年の金融危機は、2008年の金融危機よりも公式に危機が拡大していることが明らかになっている。この2023年に破綻した3つの銀行は、2008年に破綻した25の銀行すべてよりも多くの資産を保有していたのである。この3つの銀行の合計資産は 5,320 億ドルになり、2008年に破綻したすべての米国の銀行が保有する 5,260 億ドルをすでに超えていたのである。
2008年の金融危機の際、JPモルガン・チェースがワシントン・ミューチュアル(WaMu )を買収した時点で、WaMuは米国史上最大の銀行破綻であった。今回、JPモルガン・チェースはまたもや、米国史上2番目に大きな銀行破綻であるファースト・リパブリック・バンクの買収を許可されたわけである。エリザベス・ウォレン上院議員が指摘する通り

、「監督不行き届きの銀行が、さらに大きな銀行に買収され、最終的には納税者が負担することになる」のである。
問題は、JPモルガン・チェースがファースト・リパブリック銀行を買収する取引の際、連邦預金保険公社(FDIC)は、JPモルガンが取得している住宅ローンと商業ローンの損失のほとんどを吸収することに同意し、500 億ドルの与信枠も提供、FDICがこの取引で約130億ドルの損失引き受けていることである。FDIC は、一戸建て住宅ローンの損失の 80%を7年間カバーし、商業用不動産 (CRE) ローンを含む商業ローンの損失の 80% を5年間カバーするのである。これぞ、まさにFDIC・マッカーナン理事が「わが国の救済文化」への嘆きとして語った「利益を民営化し、損失を社会化する」典型である。

愛国者か、犯罪組織のボスか

JPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)は、買収発表後の声明で、「わが政府はわれわれと他の人々にステップアップを呼びかけた。われわれはそうした」と述べ、バイデン政権の働きかけに応えたもので、「自分は愛国者だ」とまで発言、JPモルガンはニュースリリースで、「(この取引は)わが社全体に適度な利益をもたらす」と胸を張っている。
JPモルガンによると、この買収には次のようなメリットがあるという。
・2023 年に 26 億ドルの一時的な「バーゲン購入利益」。
・年間純利益の増加は「5億ドル以上」。
・20% を超える「IRR」 (内部収益率) を生み出す。
・JPMの米国資産戦略における「成長イニシアチブの加速」。
・「米国の富裕層のクライアントへの浸透率の向上
・「裕福な市場に一等地を追加」(サンフランシスコのベイエリア、ロサンゼルス、ポートランド、シアトル、ニューヨーク市、ボストン、ジャクソン(ワイオミング州)など)…
・「一株当たりの有形の帳簿価額を増加させる。
JPモルガンは、こうしてファースト・リパブリック「救済」劇を演じながら、実は同行をむさぼり食ったのだと言えよう。
しかし皮肉なことに、この「救済」劇を発表した5/1、JPモルガン・チェースが規制当局によって米国で最もリスクの高い銀行としてランク付けされていることが明らかにされている。金融資本の寡占支配のリスクである。

ここで問題なのは、2022年12月31日現在で、JPモルガン・チェースは国内オフィスに2兆1,000 億ドル、海外オフィスに4,260億ドルの預金を保有しており、合計で2兆4,000億ドル、米国内の総預金の 11.36% を保有しており、上限の 10% をはるかに超えており、さらに別の銀行を買収する資格などあってはならないことなのである。
しかもこの買収は、2021年7月9日のバイデン大統領の大統領令に反するものでもある。バイデン大統領は、「過度の市場支配力から守り」、反トラスト法を施行すると約束し、「アメリカ人が金融機関の中から選択できるようにし、過剰な市場支配力から守るために、司法長官は、連邦準備制度理事会の議長、連邦預金保険公社の理事会の議長と協議しておよび通貨監督官は、銀行合併法および 1956 年銀行持株会社法に基づく合併監視の活性化のために、この命令の日から 180 日以内に現在の慣行を見直し、計画を採用することが奨励されます。」としていたことから、大きく背反していることが明らかなのである。明らかな、バイデン政権の自らの大統領令に対する裏切り行為なのである。
しかも、JPモルガン・チェースが競合他社を食い物にしてきた歴史は誰もが知ることであり、市場を不正操作し、マネーロンダリングを行い、5 つの重罪を認めてきた悪名高き、巨大金融独占資本なのである。バイデン政権にとって、この事態は、実は、裏切りではなくて、結託なのであろう。

バイデン政権はこんな事態に触れられたくないのであろう、ウクライナ危機、対ロシア・対中国緊張激化策動、世界大戦化に懸命である。金融危機打開への根本的な反独占・ニューディール政策への転換とともに、一刻も早く、即時停戦、緊張緩和、平和外交への転換が、巨大な圧力として提起されるべきであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】コロナ5類移行と失敗続きで反省なしの日本のコロナ対策

【投稿】コロナ5類移行と失敗続きで反省なしの日本のコロナ対策

                            福井 杉本達也

1 コロナ「空気感染」をいまだに認めない厚労省

 4月30日の福井新聞は、コロナ5類何が変わると題して「5類には法律に基づき実施できる措置がほとんどありません。感染対策は個人や事業者の判断が基本となります。…受診の流れや療養期間の考え方も変わります。」と書いている(福井:2023.4.30)。いかにも日本流の曖昧ななし崩し的緩和という印象を持たざるを得ない。

 この間、特にオミクロン株発生以降の政府のコロナ対策はどこでどうなったのか。北村滋人東大大学院教授は「欧米各国は2020年に大量の感染者・死者を出したものの、その後は比較的抑え込みに成功…2022年後半にはマスク着用義務が解除されるなどほぼコロナ前の生活状況に戻った」。一方、「日本は2022年に入っても基本的に2021年と同様の対策を継続…『第7波』の『世界最多』と言われるほどの感染者数を記録し…感染症対策は明らかに失敗だった」と書いている(『世界』:2023.2)。

 では、なぜ、日本の感染対策は失敗したのか。2021年8月には、東北大学の本堂毅准教授らが、新型コロナウイルスは「空気感染する」と定義するように求めていた。感染研は「感染経路は主に飛沫感染と接触感染」としている 。感染経路が飛沫感染と接触感染なら感染の起こりやすさは換気とは関係しない。本堂氏は「日本では未だに接触感染と飛沫感染を主たる感染経路としこれを前提とした感染対策が行われている。」「必然として多くの的外れな感染対策を生み出してきた。そのミスリーデイ ングが,現場での無用な感染拡大を招い てきたと考えざるを得ない」と指摘していた(本堂毅『科学』:2022.4)。「空気感染」では「人流抑制」や「3密対策」だけで感染を防ぐことはできない。換気するしかない。建築基準法上は、2003 年7⽉以降に建てられた住宅では通常0.5[回/h]以上となる機械換気設備の設置(いわゆる24 時間換気設備)が義務づけられている。しかし、現実には守られない。こうした議論が一切なされずに、なし崩し緩和だけがなされようとしている。

2 感染症の専門家ではない行政官が専門部会長

 児玉龍彦東大先端研教授は、そもそも感染症の専門家でもない「行政官が専門部会長」になったことが日本の感染症対策の根本的誤りだったと指摘している。尾身茂部会長((独)地域医療機構(JCHO)理事長)のことであるが、氏はこの間、何の科学的な査読論文も出していない単なる行政官であるとし、専門部会に、行政官のような専門家でもないものが入るから専門家同士の議論が捻じ曲げられ、まともな議論が成り立たなくなったと批判した(児玉龍彦+金子勝『ARC TIMES』2023.2.22)。また、北村氏は「従来の日本の感染症対策は、緊急事態宣言と人流抑制などのマクロ対策に大幅に依存しており、ミクロ対策はなおざりにされてきたという点である。…日本では、2020年4月から現在に至るまで、一貫してマクロ対策中心の規制方針」が継続されてきたと指摘している(北村:同上)。社会経済的な損失が大きい割に、予想される効果が小さい接触機会削減を中心とするマクロ政策が採用されてきた」が、「政策決定の根拠となる基礎データが不適切・不正確であること」を、外部専門家から指摘を受けても、感染研は、「誤りを認めず訂正も行わないのみならず、その判断に至った理由や根拠等についての説明もほとんど行っていない」など(北村:同上)、また、空気感染が感染拡大の主因であれば、保健所の積極的疫学調査による濃厚接触者探しは無意味である。それは厚労省や、国立感染症研究所や保健所の権限縮小につながる。政府の専門家の多くは、このような組織の関係者である。

3 ウイルス進化のメカニズムに対応しない泥縄対策

 厚生労働省クラスター対策班で西浦博北大教授(当時:現在京大)は「人と人との接触を減らすなどの対策をまったくとらない場合、国内で約85万人が重篤になるとの試算を公表しました。うち約42万人が死亡する恐れがあるといいます」(しんぶん赤旗:2020.4.16)」と強調した。日本では、「緊急事態宣言」と「人流抑制」など、一般住民の行動を制限する対策がとられてきたが、その過程で影響力を持ったのが西浦氏の「数理モデル」であった。国民に恐怖心を与え、飲食機会の感染防止が中心的な目的となったが、飲食による感染の比率は1~2割程度というわずかなものであった(北村:同上)。飲食店にだけ営業制限をかける合理的理由は全くなかった。

 我々はこれまで試験管内で行ってきたような進化をリアルで見ている。繰り返しながら変わっていく、進化が初めて世界的にリアルタイムで観測された。ウイルスのタイプが変わってきていることであり、当初のα型までは抗体薬品がよく効いたが、逆にその時期に、政府はPCR検査を制限し、また維新の橋下徹氏らはそれを当然視する発言を行った。  また、尾身氏は無症状者の存在を否定していた。その後、VOC型となると抗体薬品が効かなくなくなり、ワクチン一本やりとなったが、8か月間間隔を空けるという指導を行った。現在のBA亜種(オミクロン型)ではワクチンは細胞性免疫で重症化リスクを低くしている。そこでは中国も「ゼロコロナ政策」の終了を宣言し、世界的には集団免疫論となっている。しかし、日本ではmRNAワクチンを何回打てば良いかという評価もしていない(児玉・金子:同上)。ウイルスの変化に対応していかない科学的に合理的でない対策は日本社会に大きな負の結果を残した。

4 「緊急事態宣言」一本鎗の対策と公的医療機関の少なさ

 日本は人口あたりの病床数が世界一で、OECD平均の2倍以上となっているが、その多くが民間医療機関である。日本は民間医療機関が多く公的医療機関が少ない。日本は自由開業医制となっており、自由に開業できる。これは、戦後、国民皆保険制度導入にあたり、開業医を制度に取り込むために開業医優先の医療制度としたことによる。その為、病院の規模も小さく、10万人あたりのICU(集中治療室)は米国の34.7人、ドイツの29.2人、イタリアの17.5人と比較して、日本は4.3人であり(厚労省医政局 2020.5.6)、新型コロナの初期の2020年4月1日において、「集中治療体制の崩壊を阻止することが重要」「マンパワーのリソースが大きな問題」だと日本集中治療医学会が、理事長声明を出さざるを得なかった要因である。感染防止対策と称して、政府が「緊急事態宣言」を連発し、宣言を終了しても「マンボウ」(「まん延防止等重点措置」)という愚策を続けた理由である。

 民間医療機関は感染症病床を空けておくよりも1床でも稼働させる方が得であり、本来は公的医療機関である(独)地域医療機構(JCHO)や自治体病院が感染症病床を主に担うところであるが、かつての陸海軍病院や結核療養病院の後継であるJCHOは独法化によって規模を大きく減らし、一部の公的病院に負荷が大きくかかり大混乱することとなった。また、大阪などでは当時の橋下徹大阪市長による二重行政批判で市立住吉病院の廃止などが行われた。5類移行後も、こうした日本の医療体制の弱点はそのままであり、何らの対策も取られてはいない。

5 政策の検証を

 コロナ第8波の2022年の暮れから2023年の初めにかけ、オミクロン型で高齢者施設が最もダメージを受けた。多くの高齢者施設でクラスターが発生した。職員の感染が増え、離職者も多数出て、介護施設が成り立たなくなった。福井新聞によれば、「第7波以降にクラスターが発生した県内の高齢者施設は延べ132カ所(4月4日時点)、障害者施設は24カ所(同)。医療体制の逼迫を背景に、軽症の入所者は、感染後も施設内での療養が始まった。症状が悪化し、そのまま施設でみとるケースもあった。」「県老人福祉施設協議会の小川弥仁会長は『入所者の多くは基礎疾患がある。本来、施設は治療や療養の場ではない。』と語る(福井:202.4.20)。こうして、介護保険自体が機能しなくなりつつある。感染しても無症状あるいは軽症で、逆にワクチンの副作用が強い若い人にむやみに回数を打つという選択肢は成り立たない。高齢者もむやみにワクチンを打てば免疫機能が低下し、帯状疱疹などが発生する。高齢者施設の防護に医療資源を持っていく必要があったが、政府は何の対策を行わなかった。逆に高齢者の「集団自決論」などが出てくる(成田悠輔)。この間の政策の検証をしっかり行う必要がある。しかし、厚労省・感染研などからのデータは全く出てこない(児玉・金子:同上)。こうした基本姿勢が、わが国のコロナ対策を非科学的なものにして、進歩を阻んでいる。

カテゴリー: 医療・福祉, 新型コロナ関連, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】自民辛勝・維新躍進・共産後退が突きつけるもの--統一戦線論(78)

<<統一地方選・自民、かろうじての辛勝>>
今回の統一地方選、岸田政権にとって、内閣支持率が45%、一部では50%超えなど復調傾向にあるなかにもかかわらず、想定外の大接戦・辛勝となったことは、政権運営、今後の解散・総選挙戦略にとって不安定要因をいくつもさらけ出したものと言えよう。
まず第一に、岸田政権は安倍政権以上に明確な大軍拡路線と原発推進政策、増税路線に大転換したにもかかわらず、直面する選挙戦ではどれ一つ前面に打ち出すことができず、むしろ意図的に封印し、最重要課題として、少子化対策を提起したが、具体政策で混乱し、結果として争点回避と逃げの選挙戦に終始してしまった、そうせざるを得なかった、と言えよう。

そうした象徴が、衆院・山口2区、4区の補選であった。それぞれ岸元防衛相、安倍元首相が、10万票前後で圧勝の選挙区、後継の吉田氏は5万票、岸氏は6万票しかとれなかったのである。岸氏が6万1369票、元衆院議員で民主党・野田政権の法相であった平岡秀夫氏が5万5601票、その差、5768票に迫られたのである。
安倍氏後継の吉田氏は、「安倍先生の無念晴らす」「弔い選挙」「安倍イズムの継承」を掲げ、それに対し立憲民主の有田芳生氏は「安倍政治の検証」を正面から問い、アベノミクスの批判と統一教会との癒着を争点に挑み、吉田氏は安倍昭惠氏が期待した「圧勝」どころか、5万1961票にとどまり、有田氏はこの選挙区では初出馬にもかかわらず、2万5595票獲得している。投票率は、過去最低、前回より13.93ポイント低い34.71%であった。

第二の象徴が和歌山1区の補選である。自民候補は、衆院議員を3期務めた門博文氏で、統一地方選前半の和歌山県議選では、公認と推薦の自民候補を全員当選させている。選挙中は、茂木敏充・幹事長、萩生田光一・政調会長ら党幹部がこぞって応援に入り、4/15には岸田首相が応援に駆け付け、しかも難を逃れしも、雑賀崎漁港・首相への爆発物テロ襲撃事件で「通常は同情票が集まる」はずが、6千票以上の差をつけられて維新候補に敗北したのである。選挙戦最終日には小池都知事までサプライズ応援に駆けつけ、JR和歌山駅前に1500人も集め、圧勝して当たり前のはずの選挙区であった。それが、昨年8月の和歌山市議補選で初当選したばかりで、自民内の確執から勝機ありと急きょにわか仕立てで立候補した日本維新の会の林佑美氏に敗北したのである。

そして第三の象徴は、野党の候補者乱立で救われた千葉5区での自民党の辛勝であった。この衆院千葉5区補選では、立憲民主、日本維新の会、共産、国民各党が公認候補を擁立、自民新人・英利アルフィヤ=50,578票に対し、立民・矢崎氏=45,635票、国民・岡野氏=24,842票、維新・岸野氏=22,952票、共産・斉藤氏=12,360票という結果から明らかなように、わざわざ自民に、どうぞと議席を提供したような野党のふがいなさである。「(候補者を)一本化できていれば、かなり余裕を持って勝てた選挙だった」(4/23、NHK番組で立憲・岡田氏)ことは、「野党共闘」を掲げながら独自候補を擁立し、低迷を象徴するような共産党も含め、それぞれの党の責任問題でもあろう。有権者は、さじを投げたのであろうか、ここでも投票率38.25%で過去最低を記録している。

<<対決軸の設定こそがカギを握っている>>
参議院大分選挙区の補欠選挙は、千葉5区の補選とは打って変わって、今回の衆参5補欠選挙で唯一、事実上の「野党共闘」を実現した選挙戦であった。結果は、自民・白坂亜紀氏=196,122票に対し、立憲・吉田忠智氏=195,781票、「わずか341票という差」の大激戦であった。しかしここでも、投票率は42.48%、県内の国政選挙では過去最低、有権者の4割あまりを占める大分市では33%ほどまで落ち込んでいる。「野党共闘」も無党派層を引き付ける魅力と政策を発揮しえなかったのである。
今回の補選は、大分県知事選出馬のために3月に辞職した野党系無所属の安達澄氏の議席をめぐる補選で、実施は与野党ともに10月になると期待していたものが、安達氏が知事選告示を待たずに辞職したことにより、「超短期決戦」となり、共闘関係を構築はしたものの、準備もすり合わせも不十分、共闘への温度差、対決政策の不明瞭さ、国民民主党は県連による支援にとどまったこと、など、あと一歩のところで「野党共闘の勝利」を逃してしまったのであった。それでも、肉薄し、勝利できる展望は明らかにし得たと言えよう。
問題は、たとえ「短期決戦」ではあっても、決定的なのは、有権者に明確な政策を訴えられる、対決軸の設定、その政策に基づいた共闘、統一戦線の形成こそがカギを握っている、ということであろう。

こうした野党共闘側の弱点とは対照的に、維新は、新自由主義的改革、自由競争原理主義、規制緩和の幻想を対決軸に据えている。その幻想がいまだ暴かれず、立憲民主党までが維新との共闘に未練を残している現状こそが、維新の躍進を許しているものであろう。
日本維新の会の馬場伸幸代表は、「統一地方選挙で600議席」を目標に掲げていたが、今回の統一地方選で、首長や地方議員が計774人になったと発表している。しかし、774人のうち、505人が近畿2府4県内で、”維新のお膝元”である大阪府内でも、高槻市長選挙や、寝屋川市長選挙など維新新人候補が現職に挑み敗北している。すでに周知のとおり、大阪市の都構想・住民投票では二度も敗北しているのが現実である。
維新の政策の基本は、「身を切る改革」の名のもとに、行政改革=緊縮政策と公務員削減、議員定数削減、行政区統合による自治の縮小と独裁化、医療・公共サービスの縮小と民営化、公教育への支出削減と塾通いへの補助金、カジノ誘致などに重点が置かれ、危険なネオリベ政策を手を変え、品を変え、融通無碍、無責任に提起し、一方でウソと空手形に包まれた教育無償化を前面に掲げる、こうした路線が、改憲・軍拡・右翼路線と一体となっているのである。立憲がこうした路線を不問にした維新との共闘を模索し続ける限り、立憲は衰退・自滅する一方となろう。

一方、「野党共闘」をしっかりと構築し、前進させなければならない共産党は、これまでにない後退、敗北を鮮明にしている。4/24の記者会見で小池書記局長「おわびを申し上げたい」「期待に応える結果を出すことができず、奮闘している多くの候補者を落選させてしまったことは悔しく残念であり、おわびを申し上げたい」と言わざるを得ない事態である。
4/25付け、しんぶん赤旗トップに掲載された日本共産党中央委員会常任幹部会の、「130%の党」づくり、岸田政権の暴走とのたたかいに立ち上がろう――統一地方選挙後半戦の結果について、という声明では、「23日、投票が行われた統一地方選挙の後半戦で、日本共産党は、東京区議選挙で94議席、一般市議選挙で560議席、町村議選挙で255議席、合計で909議席を獲得しました。補欠選挙では、3市1町で4議席を獲得しました。4年前の選挙と比べると、東京区議選挙で13議席減、一般市議選挙で55議席減、町村議選挙で23議席減となり、合計91議席の後退となりました。議席占有率は前回の8・08%から7・28%に後退しました。」と述べ、「統一地方選挙の全体からどういう総括と教訓を引き出すかは、党内外の意見に耳を傾け、次の中央委員会総会で行います。そのなかでも、私たちは、最大の教訓にすべきは、党の自力の問題にあると考えています。3月末までに4年前の党勢を回復・突破するという目標は達成できず、私たちは、4年前に比較して91%の党員、87%の日刊紙読者、85%の日曜版読者でたたかうことになりました。統一地方選挙の結果は、「130%の党」づくりの緊急で死活的な重要性を、明らかにするものとなりました。選挙の後退の悔しさは、党勢拡大で晴らそうではありませんか。」とむすんでいる。
これまでの敗戦の弁と同様、またもや、「最大の教訓にすべきは、党の自力の問題」だという。選挙の政策的対決やその政策に基づいた幅広い統一戦線の形成、大衆運動の盛り上がりに党の力を傾けることよりも、党員拡大や読者拡大を上位に置く、まずは主体形成という、責任を下部に押し付ける責任回避路線である。
下部党員の真摯な声が反映されない、共産党の体質的弱点は、大阪・富田林市の共産党現職であったパワハラ市議の岡田ひでき氏が、同数最下位(18位)のくじ引きで落選し、議席が減少したにもかかわらず、4/24付け・しんぶん赤旗一面トップに臆面もなく、「市町議選の全員当選」に富田林を見出しに入れてい

ることに象徴的である。こんなことが党内でまかり通っている限り、党勢回復さえできないであろう。

今回の統一地方選、それぞれの既成政党に深刻な問題を提起している、と言えよう。まずは「野党共闘」の再建に向けて、一から出直すべき課題が山積しているのではないだろうか。
(生駒 敬)

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【投稿】歴史的転換期の時代状況--経済危機論(107)

<<「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」>>
先日、筆者は、『ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展』を見る機会に恵まれた。同展は、東京に引き続き、2023年2月4

日(土)~ 2023年5月21日(日)まで、大阪市北区中之島の国立国際美術館で開かれているもので、ドイツ・ベルリンにあるベルリン国立ベルクグリューン美術館のコレクション97点をまとめて紹介する日本初公開となる展覧会である。第一次世界大戦から第二次世界大戦、ピカソの初期から晩年にいたるまでの作品と、同時代に活躍したクレー、マティス、ジャコメッティら4人の芸術家たちを中心とした作品展である。
ドイツ生まれで、ファシズムと戦争の時代、ベルリンで美術商として活躍し、ユダヤ人迫害を逃れて米国に渡り、ナチス敗北後ただちにベルリンに戻ったベルクグリューン(Berggruen 1914-2007年)が収集した、同時代に生きたピカソを中心とした最も敬愛し、また同時に当時の時代状況に鋭く切り込んでいることにおいて際立った芸術家たちのコレクションである。なお、今年はピカソ没後50年の年である。
美術には、とんと疎い筆者ではあるが、1937年のピカソの大作「ゲルニカ」につながる、戦争とファシズムに鋭い感性と知性で格闘する芸術家

たちが問いかける姿勢は、今現在の再び世界戦争への危険性をさえ切迫化させている時代状況を鋭く問い直している、と感じられるものであった。

それらの中で、パウル・クレー(Paul Klee)の「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと( Knowledge, Silence, Passing By )」と題する作品(1921)は、キュビズム的な繊細な女性の表情、姿勢を描いているのではあるが、題そのものからして、歴史的危機の時代における鋭い問いかけであり、告発でもあろう。知ってはいるが、あるいは感付いてはいるが、見てみぬふりをして、知らぬかのように装い、やむなく、あるいはあえて沈黙し、何とかやり過ごす、そんな陥りがちな時代状況への問いかけである。

<<回復しがたいドル覇権の低下>>
ウクライナ危機をめぐって、世界の政治・経済は、より広範な規模と深さで歴史的転換期にさしかかっていることが明らかになりつつある。今現在直面している時代状況は、まさにこの「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」に対する鋭い問いかけが提起されているのだ、と言えよう。

ヨーロッパの平和運動は沈黙しない!「戦車ではなく、外交官を送れ!」

提起されてきたものを列挙すれば、
・ ウクライナ危機をめぐって、隠されてはいたが、次々と明らかになってきた真実は、米欧側がロシアを泥沼の戦争に引きずり込もうとしてきた数々の罠である。その典型は、米・仏・独・ウクライナ首脳自身の言葉で、2014年のミンスク合意、2015年のミンスク合意2は、停戦合意を守る気などさらさらない、ウクライナ軍強大化の時間稼ぎでしかなかったことを吐露したことである。欧米側の政権、大手マスコミはすべてこうした事実を知ってはいても、無視し、沈黙し、やり過ごしてきたのである。
・ ロシアの天然ガス・ノルドストリームパイプライン爆破は、バイデン政権がユーロ諸国にくさび打ち込み、ユーロ経済をロシア経済から引き離し、米ドル支配体制に組み込むための決定的なカギであったこと、それはウクライナ危機以前から計画されていたことが明らかにされている。これもひそかに進められてはいたが、米国防省ペンタゴン配下のランド研究所がすでに提起していたことが明らかになっている。これもウクライナ危機の進行に乗じて、無視され、沈黙され、見過ごされてきたものである。
・ 米欧・G7側の最大の見込み違いは、ロシアのウクライナ侵攻に乗じた経済制裁の全面発動が効を奏せず、逆に制裁のブーメランが制裁側に逆襲し、政治的経済的危機を深化させていることである。さらにこの制裁に、唱和・同調し、実際に参加しているのは世界のごく少数の国々、地域に限定され、米欧諸国、オーストラリア、ニュージーランドそして日本、韓国にしかすぎないことである。しかも、制裁の掛け声とは逆に、欧州連合とG7の企業のうち、ロシアから撤退したのは9%未満にしかすぎないことが暴露されている(4/15付ワシントン・ポスト紙)。これまで見過ごされてきたが、ようやくこうした事態を認識し、報道せざるを得ない段階に至ったのであろう。
・ 結果として、ドル一極支配体制の強化を目指したはずの、米欧・G7側の思惑は、日本を含むG7やNATO諸国以外はどんどんドル離れに移行するきっかけを与え、ドル覇権の低下は今や回復しがたく、これまでよりも脱ドル化を質的にも新しい段階へ加速させる事態を招いていることである。しかし、これは無視し、沈黙し、見過ごすことはできない段階に至りつつある。
・ こうした事態の進行は、歴史的転換期の時代状況を反映しているものと言えよう。
・ 問題は、バイデン政権の緊張激化政策・大軍拡政策に一貫して反対し、抵抗してきたはずの米民主党最左派、民主的社会主義を掲げるバ

ニューヨーク・ブロンクス、AOC議員主催の米軍採用イベント・ミリタリーフェアへの抗議運動

ーニー・サンダース議員やアレクサンドリア・オカシオ・コルテス議員(AOC) らが、今やバイデン政権の軍拡政策にことごとく賛成し、弁明さえできずに、それこそ「知ってはいるが、沈黙し、やり過ごしている」ことである。ヨーロッパの平和運動は沈黙しない!「戦車ではなく、外交官を送れ!」と声を上げているにもかかわらず、AOCに至っては、米軍徴兵のための米軍採用イベント・ミリタリーフェアを、米軍の協力のもと、ニューヨーク・ブロンクスの公立学校で自ら主催(3/20)して、同地域の保護者、教師、学生、地域活動家から強力な抗議を突き付けられ、それでも反戦運動を公然と忌避する発言までしていることである。

まさに「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」が厳しく問われている、歴史的転換期の時代状況だと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】非ドル化と米金融資本の没落

【投稿】非ドル化と米金融資本の没落

                           福井 杉本達也

1 「ドルが基軸通貨でなくなる」―トランプ

トランプ前米大統領は4月5日、ニューヨーク州の民主党系検事による不倫疑惑の不当な起訴に対する反論集会の閉会の辞において、「ドルが基軸通貨でなくなる」(DONLD TRUMP says the US Dollar will no longer be the world standard.)と述べた。「私達の通貨は暴落し、まもなく世界標準ではなくなります。これは私達の最大の敗北です。(略)たとえ大国であっても存在できなくなる。米国史上最悪の5 人の大統領を足し合わせたとしても、バイデンほど我が国に破壊をもたらした大統領はいない 非ドル化とは、何十年にもわたるいじめ、戦争、嘘に基づくいじめ、世界通貨の特権を乱用して、他国の支援を受けてアメリカのエリートを利己的に豊かにしてきたことで、米国政府が得たもの。」と集会を締めくくった。

同様にドル基軸通貨体制の崩壊について、6日のFOX NEWS ではTUCKER CARLSONが「第二次世界大戦の終結以来、ほぼ 80 年間、米ドルは世界の通貨でした。しかし、それが終わったらどうしますか?」とふれ、また、7日のCNNでもJIMMY DOREが「America’s Economic Empire Is Done」との見出しで、「ロシアが14か月前にウクライナを侵略した後、米国とその同盟国によって課されたその後の制裁は、ロシアを追い詰め、米国の経済力を示すことになっていた。ところが、ロシアはかつてないほど強く、中国、サウジアラビアやその他の諸国は、米国を寒さの中に置き去りにしながら関係を強化しようとしています。」と述べている。ここ1か月ほどの間の、シリコン・バレー銀行(SVB)の破綻やクレディ・スイスの破綻以降のドル離れの動きはきわめて急速である。

2 習近平主席がマクロン大統領を歓待―フランスも人民元でLNG取引

4月5日、フランスのマクロン大統領が企業トップ50人を引き連れて訪中した。航空機160機の受注や豚肉など農産物の輸出などで中国と合意した。1日前の4日、China Radio International(CRI) は「中国とフランスのエネルギー大手、中国海洋石油とトタルエナジーズはこのほど、初めてとなる人民元建ての液化天然ガス(LNG)取引の決済を完了した。中国が人民元建てでLNGの輸入決済をするのはこれが初めてとなる。今回取引されたLNGはアラブ首長国連邦産の約6万5000トン。取引量はさほど多くないが、大きな意味を持つとみられている。」と報道した。

同記事は「ドルの為替相場の変動による不確実性を回避することができる。ドル相場の変動は各国、さらにはグローバルな経済活動に不確実性をもたらしており、米国がドルを『武器化』することで、その不確実性は無限に拡大されている。米国は頻繁に金融手段を通じて他国に制裁を科し、その国のドル建て取引のルートを遮断することで、国際貿易を停止させ、その国の経済発展に深刻な影響を与えている。また、米国はしばしば利上げと大量の紙幣放出を通じて自国の金融リスクを他国に転嫁しており、これが多くの国で連鎖反応を引き起こし、国際金融市場にゆさぶりをかけ続けている。これらの行為は、ドルを基準とした原油の価格設定と決済システムが極めてリスクが高いこと、自国通貨による決済がこうしたリスクを回避するのに有効であることを各国に気づかせつつある。」と解説したが、フランスは明らかにドルから距離を取り始めた。

3 中国主導によるイランとサウジアラビアの和解

4月8日の日経新聞は「『米国抜き』で進んだサウジアラビアとイランの関係正常化は中東で米国の影響力低下という現実を突きつけた。国際社会で台頭する中国が主導した合意に米国は不満と焦りを募らせるが、対米不信を強める中東との関係立て直しは容易ではない」と書いた。イランは、1979年の革命以来、米国などの西側の制裁を長年にわたって受け、大きな経済的打撃を被ってきた。北京で行われた3月6~10日の会議で、イランとサウジアラビアが国交を回復することで合意した。RTによれば、「サウジアラビアとイランは、中国が仲介した、外交関係を正式に回復するための画期的な取引を北京で発表した。この合意により、中東の2つの宗派間のライバルは、彼らの違いを脇に置き、関係を正常化することに同意しました。これは、中国が監督するこの種の取引としては初めてであり、和平工作者としての地位を確立し、地域のすべての国と良好な関係を築くという中国のコミットメントがレトリックだけでなく実際の内容に基づいていることを示しています。」とし、「これはアメリカ合州国にとって悪いニュースであり、サウジアラビアなどの国々との戦略的関係を通じて、ワシントンがこの地域を長い間支配してきたほぼ無制限の地政学的影響力に大きな打撃を与える。」ものであり、「世界は、これらの国々が、その明確な外交政策目標である比類のない米国の支配がもはや彼らの最善の利益ではないと認識する」こととなったと書いた(RT:2023.3.14)。また、3月29日にはウォールストリート・ジャーナルはサウジアラビアが中国の上海協力機構に加盟すると報じた。既に、昨年7月、バイデン大統領はサウジを訪れ、原油増産を働きかけたが、OPECプラスにおいてロシアとの関係を重視するムハンマド皇太子に袖にされたが、今回の中国の仲介によるイランとサウジの和解はこうした地政学的関係を確立するものとなった。

 

4 OPECプラスの減産と「ペトロ・ダラー・システム」の崩壊

4月2日、ロシアを含むOPECプラス諸国は、今年5月から年末まで原油の自主的な減産を行うと発表した。ロシアとサウジアラビアは日量50万バレル減産するほか、イラク、アラブ首長国連邦、クウェート、アルジェリア、オマーンなども、それぞれ日量4~21万バレル減産する。OPECプラス全体では少なくとも世界の石油埋蔵量の4分の3以上を握ることになる。パリのESCP経営大学院のマムドゥフ・サラメ教授は「OPECプラスの産油国は1バレル80~100ドルの価格帯で推移するのが財源不足を避けるのに最も良いとみなしている。そのため、世界中の金融危機や景気後退の流れを受けた昨今の石油価格低下は、産油国全体にとって不都合だった。また、ロシア産石油への上限価格の設定は、他の産油国にとってもマイナス要因となっており、西側諸国に対抗する『産油国同盟』でお互いを支援する動きが広がっている」と語った(Sputnik:2023.4.4)。

第二次大戦後の経済体制を決めた1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。しかし、1971年、ニクソン大統領はドルの金への兌換をやめ、理論上はいくらでもドル紙幣を印刷することが可能となった。しかし、金という錨がなくなれば、その価値はどんどん下落し続ける(インフレとなる)。これを避けるため、1974年、米国は、「ペトロ・ダラー・システム」を導入した。キッシンジャー国務長官は①サウジの石油販売を全てドル建てにすること、②石油輸出による貿易黒字で米国債を購入すること、その代わり、③米国はサウジを防衛するという協定を結んだ。石油というコモディティの裏付けを持つことによって、米国はドル借用金を、自由意志で、無制限に、世界経済に作り出し、使うことができた。しかし、今、この「ペトロ・ダラー・システム」は崩壊した。ドルはただの紙切れとなった。

ロン・アンスは『The Unz Review』において「我が国の恐ろしい財政赤字と貿易赤字を考えると、アメリカの生活水準は特に石油販売のためのドルの国際使用に大きく依存しているため、これは非常に脅威的な進展だ。何十年間も我々は我が国の札を世界中の商品と自由に交換してきたが、それが困難になれば我々の世界的立場は悲惨なものになる可能性がある。1956年スエズ危機はイギリス・ポンド崩壊の危機で、世界舞台におけるイギリスの影響力の終焉を示したが、アメリカは自身の『スエズの瞬間』に急速に近づいている可能性がある。」と書いている(「マスコミ載らない海外記事」2023.4.8)。

ほとんどの米銀は、FRBの連続的な利上げを受けて、支払不能の状態にある。金利が4.75%に上がったことで、保有国債の満期前の時価が下落=約20%=13 兆円の損失が表面化し、預金の引き出しで現金が不足する事態に陥っている。米銀の、「システミックな全体危機」が明確になってきた。米ドルの信用恐慌(=ドルの価値低下)の序幕があいた。今回はリーマン危機のときと違い、中央銀行の通貨増刷に限界がある。資産額が上位の大手銀行が危機になったとき、十分な量のマネーの増刷できない。一定量を超えて増発すれば、ドルとユーロの暴落の恐れがある(「ビジネス知識源」:2023.3.31)。もはや、米ドルに石油という支え(モノサシ)はない。

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【投稿】脱ドル化の加速--経済危機論(106)

<<「各国はドルを捨てたがる」>>
ロシアのウクライナ侵攻にに対する、米・バイデン政権の全面的な制裁・緊張激化政策が、逆に全世界的な脱ドル化政策を加速させている。皮肉で不可逆的な脱ドル化を自ら招く事態の進行である。
バイデン政権は、国際間貿易取引の主要な金融ネットワークである世界銀行間金融通信協会 (SWIFT)システムからロシアを一方的に排除することによって、つまりはドルを兵器化することによって、ロシアを有無言わせることなく経済崩壊に追い込む算段であった。しかし、その目論見は、ドル資産の安全性に疑問符をつけ、逆にブーメランのごとく米欧経済を苦境に追い込み、インフレを激化させ、あえなくも破綻しつつある。
ウクライナ危機は、米政権とNATOが何年にもわたって仕掛けてきた、ロシアを軍事紛争の罠に引きずり込み、ロシアを分割支配するための罠であったこと、ユーロ圏経済をもロシア・中国経済から引き離す格好の仕掛けであったことが明らかになりつつある。バイデン政権によるロシア・ユーロ経済圏の天然ガスパイプライン・ノルドストリーム破壊工作はそのことを白日の下にさらけ出させている典型でもあった。それはまた、ドル支配の優位性を受け入れない他の地域の多くの諸国に対して、世界共通の準備通貨としてのドル経済圏支配に逆らえば、経済を崩壊させるぞ、という脅しでもあった。
しかし事態は、こうしたバイデン政権のたくらみとは逆の方向、世界経済のドル支配、ドル覇権を掘り崩す、崩壊させる方向への、脱ドル化への志向を加速させる事態を招いている。すでに多くの諸国が、貿易での決済方式をドル

から自国通貨や相手国通貨、地域通貨への変更に踏み出しているのである。

あのイーロン・マスクでさえ、これは「深刻な問題。米国の政策は強引すぎて、各国はドルを捨てたがる。」と嘆いている。

今や、ドルへの

政治的経済的依存を減らすことが、米国の無責任な金融政策に左右されることを避け、不安定なドルの金融危機リスク、特に為替レートによるリスクを回避するうえでも不可欠な事態と認識され、脱ドル化を推し進めることが世界共通の課題として浮上し、着実に現実に実行される段階へと移行しつつある、と言えよう。

<<BRICS「根本的に新しい通貨」に取り組む>>
直近、3月末はとりわけ、多くの諸国が脱ドル化を鮮明に打ち出したことで際立っている。
3/28、インドネシアで開催された会議で、ASEAN 諸国の財務大臣が 「米ドル、ユーロ、円、英国ポンドへの依存を減らす」方法について話し合い、現地通貨での決済に移行するための議論を開始したことを明らかにしている。「現地通貨取引(LCT)スキームを通じて主要通貨への依存を減らすための取り組み」を議論し、ASEAN 加盟国間ですでに実施が開始されている現地通貨決済 (LCS) スキームを拡張するという方向性である。(昨年11月に、インドネシア、マレーシア、シンガポール、フィリピン、タイの間で、このような協力に関する合意に達していた。)

同じ3/28、中国初の人民元建てで決済を行う輸入液化天然ガス(LNG)の調達取引が成立。これにより中国が石油・天然ガス貿易分野におけるクロスボーダー人民元建て決済取引において、実質的な一歩を踏み出したことになる。中国海洋石油と湾岸協力会議(GCC)加盟国のアラブ首長国連邦(UAE)から輸入される約6万5千トンのLNG資源が取引され、人民元建て決済が行われ、石油取引には必ずドルを使用するというペトロダラー取引が放棄されたのである。ペトロダラー取引を支えてきたサウジアラビアでさえ、ケニアへの石油出荷の支払いとして、米ドルではなくケニアシリングを受け入れることに同意している。そのサウジの国営石油大手サウジアラムコは、中国北東部に統合された製油所と石油化学コンビナートを建設することに合意している。

3/29、ブラジル政府と中国政府は今後、米ドルを中間通貨として使用せず、自国通貨で貿易決済を行うことで合意したと表明している。SWIFTを使わない決済である。ブラジル輸出投資促進庁(Apex)は、中国とブラジルが、自国通貨で直接行う両国の貿易・投資交渉を進めるための新たなステップに入ったと発表。両国の合意では、ブラジルの銀行BBMが、中国の通信銀行(BOCOM)が管理するアジア諸国の国際的なSWIFTシステムの代替となる中国銀行間決済システム(CIPS)に参加する方式である。

BRICS「根本的に新しい通貨」に取り組む

3/30、新興経済圏であるBRICSブロック(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が「新通貨」の開発に取り組んでいることを明らかにしている。BRICS諸国は、世界の総人口の 40% 以上、世界の GDP の 4 分の 1 近くを占めており、アルゼンチンとイランが加盟申請し、サウジアラビア、トルコ、エジプトまでもが参加検討に入っている段階である。アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、ロシアで構成されているユーラシア経済連合 (EAEU) が国際化を推進、イランとの EAEU 自由貿易協定の最終決定に至っている。これらの諸国を含む100ヵ国近くがドル支配のSwiftに依存しない国際送金システムの構築に踏み出し始めたのである。

さらにこの間、明らかになったことでは、サウジアラビアが「上海協力機構SCOの対話パートナー」になることに同意、SCOは、中国、ロシア、インド、パキスタン、中央アジアの 4 カ国に加え、イランを含む 4 つのオブザーバー国と、サウジアラビア、カタール、トルコを含む 9 つの対話パートナーを結集している。
次いで、インド政府が、ドル不足に直面している国々に貿易の代替手段として、マレーシアとの貿易に自国通貨インドルピーを使うなど、米ドルの「代替」として自国の通貨を提供することを明らかにしている。

G7とBRICSの成長格差

もちろん、ドルは依然として外貨準備高の58%を占めている。しかしこれとて、2014年の66%から明らかに後退している。ウクライナ危機に乗じたドル覇権の狙いは、ここからさらなる、より大幅な後退への流れを作ってしまったのである。G7とBRICSの成長格差は、明らかに衰退しつつあるG7に対し、発展途上のBRICSは、購買力平価はもちろん、実際のGDPにおいてもG7をを追い越す途上にあることが明確になろうとしている。
かくして、もはや脱ドル化への世界の流れを阻止することは不可能な段階にまで至っている。米欧・G7の政治的経済的危機の淵源は、まさにここにあるとも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】大失策の岸田首相のウクライナ訪問

【投稿】大失策の岸田首相のウクライナ訪問

                    福井 杉本達也

1 子供じゃあるまいし

鳩山由紀夫氏は「中国が和平提案を示し習近平主席がプーチンと会談をしている時、岸田首相はゼレンスキーに会いに行くと言う。G7で自分だけ行ってないかららしいが、自分も欲しいという子供じゃあるまいし」とツイートした。続けて「世界は和平に向けて動き始め出した。単にウクライナを支援しますではなく、戦争終結の和平提案を出すべき時だ」とした。また、原口一博氏は21日、岸田氏のウクライナ訪問について、「無事に帰ってきてほしいが帰ってきたら(内閣)総辞職してほしい」と、かなり厳しい意見をツイッターに投稿した。首相はゼレンスキー大統領に地元・広島名物の「必勝しゃもじ」を贈呈したそうであるが、笑い話にもならない。

2 キエフ訪問の否定的結果を予想

日経は「ロシアと中国の首脳が会議するさなか『法の支配』に基づく秩序を守る主要7カ国(G7)議長の役割を示すことを迫られた訪問だった」と極めて否定的に書いた(日経:2023/3/23)。成算のない、要するに追い詰められてのウクライナ訪問であった。元駐日ロシア大使のアレクサンドル・バノフ氏はSputnikで「現在、日本政府の外交政策全体は、広島で今後開催されるG7サミットの準備に集中している。そして、日本はG7の中で唯一、首脳がまだウクライナを訪問していない国であった。そのため、イメージギャップを埋めようとする試み」であった。「日本が西側諸国に対して独自の忠誠心を明確に示し」、「しかし、その忠誠心は、旧来の日露関係、特に経済分野への打撃になるのではないのだろうか。」、松野官房長官は「ロシア連邦とのビザなしの交流の再開と、漁業に関連する問題の解決であると強調した。ロシア領クリル諸島地域のロシア経済圏での漁業は日本にとって非常に重要であり、実際のところ、日本の漁師自身にとって死活問題になっている。」「日本は現段階ではロシアのエネルギー資源を手放すつもりはなく、ガスや石油を積極的に購入している。特に、サハリン2プロジェクトは日本にはLNG輸出総量の9%に与えている。日本政府は再三にわたって、サハリン2が適切な価格によるガスの安定供給のために重要である点を強調している。」と解説している(Sputnik:2023.2.23)。しかし、岸田首相の間抜けなキエフ訪問はによって、ロシア側からどのような対抗措置が出されてくるのかは全く読めない。、日本の経済的利益が、この政策の犠牲になってしまう。日本にとっては全く国益を売る訪問だったといえる。

3 ロシアに安全を保障されてのキエフ訪問

日経は「日本政府が岸田文雄首相のウクライナ訪問をロシアに事前通告していたことが22日、分かった」「事前通告はロシア軍の攻撃を避け、安全を確保する狙いだった」と報じた(日経:2023.3.23)。日経の同記事の中で「松野博一官房長官ほ22日の参院予算委員会で『ロシア軍による攻撃の情報入手を合め、ウクライナ政府が全面的に責任を負って実施した』」と答弁したが(日経:同上)、全くのデタラメである。元防衛次官の黒江哲郎氏は「ロシアの軍事能力であれば、どこからでもミサイルを撃てる。万が一の事態になったときには領域主権の問題でウクライナ軍に守ってもらわないといけない」と書いたが、寝言も甚だしい(日経:同上)。制空権はロシア軍が握っている。列車は線路上を走るので位置が確定でき、容易にミサイルの標的になる。 キエフまで10 時間、往復で 20 時間もかけて列車で行くとなると、どうぞ撃ってくれという話になる。ウクライナ軍に岸田首相の安全など保障できるわけもない。せいぜい、自らの発射したブークミサイルがあたらないようにすることぐらいである。2月のバイデン大統領のキエフ訪問同様、ロシアは外交上の礼儀と御情けで岸田首相のキエフ訪問を認めたのである。

4 再度:安倍元首相暗殺と対ロシア外交

孫崎享氏は3月20日のメルマガ「バイデン政権は安倍元首相をどの様にみていたであろう」かという見出しで「バイデン首相にとって安倍氏は決して親しみのある相手ではない。ではウクライナ問題で、バイデン政権には安倍氏はどの様に見えるか。① 安倍氏はプーチン大統領と極めて近い(と見なしうる)② ウクライナ支援に懐疑的なトランプに近い(と見なしうる)③ 安倍派は森派の継承であり、ロシア問題では森元首相の影響が強いと見なしうる。その森氏は『ロシアは負けない』『このようにウクライナ支援に突っ込んでいいか』との考えを持たれ、最近それを公までしている。④ 制裁では、石油・天然ガスが一番重要であったが、日本はサハリン2からの撤退を行っていない。⑤ 安倍氏の側近も対ロ制裁には批判的である。安倍氏に最も近かったのは今井尚哉氏である。彼も対ロ制裁に消極的である。」故安倍氏は「2023 年2 月28 日は次のように述べている。『決定的にやってはいけないことは、外交を断つことだ。確かに、今回はどう考えてもプーチン大統領が悪い。ウクライナに利があり、国際社会もロシアが併合した4 州を絶対認めないだろう。しかし、レオパルド2などの主力戦車を300 台配備したところで、あの四州を力で押し戻すのは極めて難しい。このままでは、どんどん人が死ぬだけだ。日本政府は先の大戦を経て、もう戦争はしないと決めた。だから、どうして岸田政権は停戦に向け、動かないのか。私は怒りすら感じている』」と書いている。また、ミハイル・ガルージン前駐日ロシア大使は離任前に「2012年から2020年にかけての露日関係発展におけるきわめて肯定的な段階…双方にとって有益な複数の分野における進歩的な関係発展に向けた、質的に新しい創造的な相互協力の雰囲気を作り出すことができた段階でした。そしてそれは、多くの点において、両国にとっての突破期だったと感じています。…その最たるものは、北極圏で共同で開発した天然ガス田から液化天然ガスを日本に輸送するプロジェクト『アークティックLNG2』を始めとするエネルギー分野の事業です」と述べ、安倍政権の対ロ外交を評価していた(Sputnik:2022.8.12)。

こうした状況下で安倍氏は7月に暗殺された。犯人は山上容疑者だと言われるが、山上容疑者が持っていたまっすぐに銃弾が飛ばないような手製の銃で人が殺せるとは思えない。拳銃の場合、犯人を特定するにはどの銃で撃ったのかという銃弾が必要だが、「疑惑の銃弾」(週刊文春:2023.2.16)は奈良県警が“故意に”紛失したままで発見されていない。しかも、現場検証は事件後5日もたってからである。当時、県警は故意に警備を手薄にしていたことは奈良県警本部長の辞職からもうかがえる。警察庁・県警・検察・裁判所まで指令できるのは米国しかいない。マスコミは事件後わずか15分で山上容疑者の身元を特定し(県警のリークによる)、母親の大学時代の同窓生の名簿まで手に入れて取材に狂奔した。ジャパンハンドラーにとって、プーチン氏に近く、ウクライナ停戦を考えるような安倍氏は邪魔だったのであろう。

岸田氏や司法権力は完全に「ネオコン」の手中にあるが、原口氏によれば、まだ官僚機構には日本の国益を第一に考えるものも残っている。サハリン1.2の権益維持や日ロ漁業交渉、ロシア産魚介類の輸入、日本領空のロシア機飛行を禁止しないなど、独自の道も探っており、「子供」のようにジャパンハンドラーの虚言に惑わされるのではなく、自らの国益に合致した「大人」の行動をとる自立した外交が求められる。

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【投稿】拡大する金融危機--経済危機論(105)

<<「銀行システムは安全」の大ウソ>>
3/18現在、世界の金融危機が直面している二つの焦点、アメリカのファースト・リパブリック銀行(First Republic Bank :FR)とヨーロッパのクレディ・スイス(Credit Suisse :CS)は、それぞれ破綻寸前の事態に追い込まれている。それぞれ、300億ドル(FR)と540億ドル(CS)の初期救済後も、預金流出が続き、株価が下落し続けている。

まず、シリコンバレー銀行(SVB)、シグネチャー銀行(SB)、シルバーゲート(SGB)の連鎖的な破綻の後、次なる標的となったファースト・リパブリック銀行に対して、アメリカの大手銀行は破綻を食い止めるために急遽、300億ドルを自主的に提供、規制当局はこの動きを “大歓迎 “と高く評価したのであるが、3/17には、同行の株価はさらに50%も暴落している。この2週間で実に80%の下落である。
JPモルガンなど大手行は自行への預金流出を煽ってほくほく顔であったのが、地方銀行のデフォルトが連鎖すれば、再び大恐慌につながる、跳ね返りの危険が巨大化し始め、3/17、取り急ぎ、「バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、 JPモルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、BNYメロン、PNC銀行、ステート・ストリート、トライスト、USバンクが、ファースト・リパブリック銀行に合計300億ドルの無保険預金を行う」ことを公式プレスリリースで明らかにしたのであった。
この動きを歓迎して、ジャネット・イエレン財務長官、連邦準備制度理事会ジェローム・パウエル議長、FDIC 議長マーティン・グルエンバーグ、および通貨監督官代理のマイケル・シューによって、米中銀(FRB)、米財務省、米連邦預金保険公社(FDIC) の共同声明を発表、「本日、11 の銀行が First Republic Bank への 300 億ドルの預金を発表しました。 大手銀行グループによるこの支援の表明は大歓迎であり、銀行システムの回復力を示しています。」と高く評価したのであった。
しかしそれは、一日も持たなかったのである。
バイデン大統領は、3/13、アメリカ国民に「銀行システムは安全だ」と請け合ったのだが、それは虚勢を張った、拱手傍観し、事態を冷静に評価

バイデン「銀行システムは安全だ」

できない大嘘であったと言えよう。銀行システムは崖っぷちに追いやられているのである。
3/17、事態の危険な進展に慌てたバイデン大統領は、破綻した銀行の幹部に対する罰則を強化するよう求める声明を発表し、クローバック(資金の取り戻し)、民事罰、業界追放を要求する事態に追い込まれている。

地方銀行、中小銀行は米国の商業・工業向け融資の50%、住宅不動産ローンの60%、商業不動産ローンの80%、そして消費者ローンの45%を占めており、ファースト・リパブリック銀行の危機は、氷山の一角にすぎないのである。シリコンバレー銀行やシグネチャー銀行と同じように、FRも保有していた国債が急速な金利上昇のために莫大な未実現損失を抱えていたのであり、経営幹部自身がインサイダー取引で事前に自社株を売却していたことも判明している。
バイデン政権の危険な対外緊張激化政策、高インフレのブーメランをもたらした対ロシア・対中国制裁政策、超低金利とイージーマネーに大きく依存し、マネーゲームに明け暮れる金融独占資本を野放しにしてきた経済政策こそが、直接、間接、中小、地方銀行の経営危機、経済危機を一層激化させていることからすれば、バイデン氏自身が政界から追放されるべきであろう。

<<WSJ「数十の銀行、破綻の可能性」>>
事態の深刻さは、シリコンバレー銀行が破綻して以降、たったの7日間で米国内の各銀行が連邦準備制度理事会(FRB)から借入れた合計額が1648億ドル(約21兆9千億円)という記録的な数字となったことが公表データから明らかとなっている。これらの資金は切迫する資金繰りに注ぎ込まれたのであるが、合計額のうち1528.5億ドル(約20兆3千億円)は、商業銀行を対象に最大90日間の短期貸出として割引窓口(ディスカウントウィンドウ)経由で貸し出されている。FRBのデータによると、今回の貸出額は同機能始まって以来の最高額となり、2008年のリーマンショック時の水準(1110億ドル=約14兆7600億円)をすでに上回っているのである。
しかし、これで事態が収束するどころか、さら

WSJ「数十の銀行、破綻の可能性」

に危険な金融危機に進展する可能性の方が大なのである。3/17、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、「シリコンバレー銀行は、金利上昇により資産価値が下落し、不安になった顧客が保険対象外の預金を引き出したことで破綻した。経済学者らは新たな研究で、同様のリスクにさらされる可能性のある186の銀行を発見したと発表した」、「数十の銀行がシリコンバレー銀行と同じ運命をたどる可能性」があるとまで報じる事態である。

<<クレディ・スイス、破綻寸前>>
さらに、も一つの焦点であるクレディ・スイスも、破綻寸前である。
近年、一連の損失とスキャンダルに見舞われている投資銀行、クレディ・スイスは、スイスで2番目の巨大銀行であるが、2022年末の総資産は 5,740 億ドルで、2020年末の 9,120 億ドルから 37% も減少している。なお、破綻したシリコンバレー銀行の総資産は2,120 億ドルであった。このクレディ・スイスは、国際金融安定理事会によってシステム上重要であると指定された 30 のグローバル金融機関の 1 つで、大きすぎて潰せない銀行の一つなのである。しかし、今やこの銀行でさえ、文字通り崩壊の瀬戸際にあり、次に倒れるドミノの最有力候補である。
直近の破綻のきっかけは、この銀行への最大の投資家で、筆頭株主であるサウジ国立銀行 (SNB) が、規制および法定の制限により財政支援をもはや提供できないと発表した直後からであった。第4四半期に預金の純流出が1,190億ドルに達し、株価急落が顕著となり、スイス国立銀行(SNB)が急遽、500 億ドルの救済資金を投入、それでも事態は悪化している。3/15には、株価がまたもや史上最安値を記録、午前中だけで株取引が数回停止させられる事態に追い込まれている。

クレディ・スイスの預金流出

危機打開に向けて、スイス国立銀行が全額預金保証で介入するか、クレディ・スイスの投資銀行全体を閉鎖するか、より現実的には、スイス第一の銀行であるUBSとの統合が提起されている。SNBは3/17日夜、米英の金融当局に対し、2行の統合がCSの崩壊を阻止する「最善策」であると説明した、と報じられている。しかし、この2つの銀行が統合される場合、10,000人の雇用を削減しなければならない可能性があると警告されている。

もちろん、こうした事態はヨーロッパ全体に波及しつつある。フランスのソシエテ・ジェネラル、スペインのバンコ・デ・サバデル、ドイツのコメルツ銀行が最大の株価下落を記録し、イタリアの銀行、UniCredit、FinecoBank、Monte dei Paschi などが自動取引停止の対象となっている。
いずれも各国が放置してきた金融バブルの中で、金融独占資本主導のマネーゲーム、自由競争原理主義の新自由主義が実体経済を弱体化させてきた当然の帰結でもある。しかも、破綻する金融資本救済策が、大量の資金投入がさらにまたインフレ激化要因となり、利上げ、緊縮政策と相矛盾する混迷に追い込まれているのである。

こうした金融危機の拡大は、これまでに経験したことのない経済危機の瀬戸際に追い込まれているということであり、2008年のリーマン危機を上回る事態ともいえよう。当時は、欧米 VS ロシア・中国の緊張激化、世界大戦の危機など存在していなかったのであるが、現在の危機はその真っ只中で危機が煽られているのである。金融危機打開のために、まず第一になされるべきなのは、実は、世界的な緊張緩和・平和政策なのである。
(生駒 敬)

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【書評】『綿の帝国―グローバル資本主義はいかに生まれたか』

【書評】『綿の帝国―グローバル資本主義はいかに生まれたか』(スヴェン・ベッカート著 鬼澤忍・佐藤絵里訳 2022年12月 紀伊国屋書店 4,500円+税)

                             福井 杉本達也

1 新疆綿                 

『綿の帝国―グローバル資本主義はいかに生まれたか』は原注・索引などを含めると847ページにも及ぶ訳書であるが、訳はこなれていて読みやすい。本書の原書は2014年に刊行され、ピュリッツァー賞の最終候補にもなっている。鬼澤忍氏の訳者あとがきは「昨年(2021年)のこと、新疆ウイグル自治区で強制労働によって生産された綿を使用しているとして、大手アパレル企業が批判を受けたというニュースが流れた。…人権意識が高まっている現代においても、こうした劣悪な労働環境はなかなか解消されない」と書き出しているが、事実はどうなのであろうか。

シュライバー米国防次官補は、「2018年5月現在『ウイグル人の少なくとも100万人(ウイグル人の約8.9%)、しかし、おそらくは300万人(ウイグル人の約27%)の市民』が強制収容所である新疆ウイグル再教育収容所に勾留されている。」と中国を非難した。2021年1月、米国は、中国政府による新疆ウイグル自治区での少数民族ウイグル族弾圧を、国際条約上の「民族大量虐殺」である「ジェノサイド」であり、かつ「人道に対する罪」に認定したと発表し、新疆産の綿の輸入を停止した(Wikipedia 2023.3.14)。米国は綿製品について「収容所の収容者や受刑者を労働力として活用し、強制労働を行っている実態が合理的に示唆される」と説明、「中国政府が現代の奴隷制による搾取を行うことを容認しない」とした(CNN:2021.1.14)。しかし、丸川知雄東京大学社会科学研究所教授によれば、中国の公式統計を基に「『ジェノサイド』というほどのことが起きている証拠はまだ提示されていない」と指摘している(Record China 2021.8.16)。

ウイグル自治区の一次産品としては、小麦・綿花・テンサイ・ブドウなどが挙げられるが、どうして、小麦ではなく、綿花が「強制労働」の標的にされたのか。確かに新疆綿は繊維が長く光沢があり高級品とされ国際的な評価は高いが、それだけが理由ではない。本書は「綿」という特殊な農産物の秘密から、強制と暴力が大きな役割を果たしてきた資本主義発展の歴史の本質を解き明かす。

 

2 戦争資本主義

『綿の帝国』はヨーロッパ人の才能を「世界を『内部』と『外部』に分ける」ことだと書く。三十年戦争の講和条約として1648年にウェストファリア条約が締結された。これによってヨーロッパは主権国家間の秩序となり、相互承認関係で域内の戦争を抑止しながら西洋的価値観を『外部』の世界に広めていく。西洋的価値観や社会原理は、西洋固有の特権ではなく、諸国家の「自立・共存」の多様世界となり、「西洋」はみずからが編成した世界の中にその一部として解消されるべきものであるが、実際はそうならなかった(西谷修:『世界』2023.1)。「『内部』の世界は母国の法律、制度、慣習を内包しており、国家が強制する秩序によって支配されていた」が、西洋以外の「『外部』の世界は、帝国主義的支配、広大な領地の収奪、先住民の大量殺戮、彼らの資源の強奪、人間の奴隷化、民間の資本家による広大な土地の支配などを特徴としていた。これらの民間の資本家が、遠く離れたヨーロッパ諸国から監督されることはほとんどなかった。こうした帝国主義的属領には『内部』のルールは適用されなかった。そこでは奴隷の所有者が国家を凌駕し、暴力が法律を無視し、民間人による剝き出しの物理的強制が市場を再編した」。18世紀には「複数の大陸にまたがり、多くのネットワークを通じて広がっていた勢力が、ヨーロッパの資本家と国家が支配するひとつの中心に向かって次第に収束していった。こうした変化の中心にあったのが綿だった。この商品の生産と流通にかかわる多種多様な世界が、グローバルな規模で組織された階層的な、<帝国>に徐々に侵食されていった」(『綿の帝国』)。

 

3 奴隷制の支配

「新たに生まれた<綿の帝国>にとっては奴隷制とは適切な気候や肥沃な土壌と同じく欠かせないものだった。農園主が上昇する価格や拡大する市場に素早く対応できたのは、奴隷制のおかげだった。奴隷制があればこそ、大量の労働者をあっというまに動員できたばかりか、暴力的な監督と事実上不断の搾取という体制を築くことができた」。アメリカの農園主が他の地域と異なるのは「大量の安価な労働力」=「『世界一安価で世界一入手しやすい労働力』―の供給力に恵まれていた」からである。「綿花栽培には文字どおり、労働力の探求とそれを管理するための永続的な奮闘が必要だった。奴隷商人、奴隷小屋、奴隷の競売、何百万人もの奴隷の拘束に伴う身体的・精神的暴力は、アメリカにおける綿花生産の拡大とイギリスにおける産業革命にとって何よりも重要だった」。

「奴隷制は、反乱を起こす恐れのある奴隷への暴力を常に必要とし、その暴力は国家の黙認に基づいている。そのため、国家に支配力を及ぼしつづけること、あるいは少なくとも奴隷制反対論者を国家権力機関から締め出すことの必要性を、奴隷所有者は痛感していた」(『綿の帝国』)。

 

4 アメリカ先住民の虐殺

綿にとって適切な気候と肥沃な土壌がアメリカ南部に広がっていた。アメリカの農園主は「土地。労働、資本の供給をほぼ無限に受け入れられた」。課題は土地だった。「2,3年以上にわたって同じ畑を綿花の栽培に利用するのは不可能だった」。「かれらはひたすら、さらに西へ、さらに南へと転身した」。18世紀後半「アメリカ先住民は海岸地帯からわずか数百マイル内陸のかなり広い土地を依然として支配していた。だが、彼らは白人入植者の絶え間ない侵入を阻止できなかった。入植者は最終的に、数世紀にわたる血なまぐさい戦争に勝利を収め、アメリカ先住民の土地を法律的に「無人の」土地とすることに成功した。こうした土地は、そこに存在していた社会構造が壊滅的に弱体化ないし消滅させられた土地であり、その住人がいない、したがって歴史とのかかわりが失われた土地だった。邪魔者がいない土地という点で言えば、アメリカ南部は綿花を栽培する世界において敵なしだった」。

「1938年、連邦軍は奪った土地を綿花プランテーションに変える目的で、チェロキー族をジョージアの彼らの父祖の地から追放しはじめた。さらに南方のフロリダでは、1835年から42年にかけて、きわめて肥沃な綿作農地がセミノール族から収奪された。この第二次セミノール戦争は、ヴェトナム戦争以前ではアメリカ史上も長く続いた戦争だった」。

1838年の先祖伝来の土地を奪われるに際して、チェロキー族の首長ジョン・ロスは議会に対し「『われわれの土地は目の前で強奪されるだろう。われわれの仲間には暴力が振るわれるだろう。われわれの生命さえ奪われかねない。それなのに、誰もわれわれの言い分に耳を貸そうとしない。われわれは国民としての権利を奪われている。公民権を奪われている。人類社会の一員としての権利を奪われているのだ!』」と訴えた(『綿の帝国』)。

だが、時の大統領アンドリュー・ジャクソンは一万数千人のチェロキー族の1300キロの強制集団移住を強行した。その代表的な惨劇が『涙の道』」“Trail of Tears and Death”である。「ジャクソンは老若男女を問わぬ北米先住民大虐殺に血道をあげた。『やつらには知性も勤勉さも道義的習慣さえない。やつらには我々が望む方向へ変わろうという向上心すらないのだ。我々優秀な市民に囲まれていながら、なぜ自分たちが劣っているのか知ろうともせず、わきまえようともしないやつらは環境の力の前にやがて消滅しなければならないのは自然の理だ』と演説した」(藤永茂ブログ:「私の闇の奥」2020.8.1):詳しくは、藤永茂著『アメリカ・インディアン悲史』1972参照)。

 

5 『内部』と『外部』が一体となった『綿の帝国』米国の成り立ち

アメリカ先住民の徹底した排除・弾圧による、米国の歴史からの文字通りの抹殺と、黒人奴隷の暴力による「強制労働」から米国の国家は始まった。彼らは初めから『内部』ではなく、『外部』としてあった。「普遍的人権」は「人間の生存にとって欠くことのできない権利および自由」とされ、人が生まれつき持ち、国家権力によっても侵されない基本的な諸権利とされる。それは、西洋人固有の特権ではなく、あまねく世界のものであるはずだが、現実には「自由」や「人権」は「権利主体たりうるキリスト教ヨーロッパ出自の移住者にしか帰属しない」(西谷修『世界』同上)。そして今もアメリカ先住民や黒人は人権の外側にある。その延長線上に現代の中国やインド、東南アジアや中東、アフリカや中南米があり、また、スラブやロシアなど東方正教会の世界がある。

今日の米国による中国のウイグル「強制労働」への非難は、他国も“我々”と同じように、『外部』としての先住民を抹殺し、土地を奪い、「無主物」とした土地に綿花を植え、『外部』から持ち込んだ奴隷の強制労働によって綿花が摘まれているはずだという、<綿の帝国>の自己意識の反映である。

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【投稿】金融危機への直面--経済危機論(104)

<<「2008年の金融危機以来、破綻した最大の銀行」>>
3/9、米金融バブルの崩壊が突如押し寄せ、拡大する、その先駆けとなりかねない銀行破綻が浮上した。米カリフォルニア州サンタクララに本拠を置くシリコンバレー銀行(SVB:Silicon Valley Bank)、その親会社SVBファイナンシャル・グループの株価が60%安の暴落で取引を終え、株式の取引を停止する事態となった。3/9の営業終了時点で、SVBは「当行の現金残高は約9億5800万ドルのマイナス」となり、「急激な預金引き出しにより、当行は期日が到来した債務を支払うことができなくなり、現在債務超過に陥っています

シリコンバレー銀行メルトダウン伝染拡大の恐れ(March 11 NYPost)

。」という事態に追い込まれたのであった。たった数時間の内に、銀行の資金の4分の1が流出したことになる。この急激な預金引き出しには、大手メガバンク・JPモルガンなどメガバンクの加担などが取りざたされている。
3/10、直ちにこの銀行は「預金保護のため」に閉鎖され、米連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に移行、すべての支店を一時的に閉鎖し、預金引き出しを凍結、SVBの資産を差し押さえ、預金保険国立サンタクララ銀行 (DINB) を設立、SVB銀行のすべての保険付き預金を直ちに DINB に転送、遅くとも2023年3月13日(月)の午前中には、その被保険預金に完全にアクセスできるようになると発表。ただし、このFDIC保険は25万ドルまでの預金だけををカバーするものであり、25万ドル以下であれば、月曜日の朝にはその全額が利用可能になる。しかし、SVBの顧客のほとんどは、300万ドル前後のもっと高額な残高を持つ法人企業であり、多くの企業の次の給与支給日が3/15に控え、それぞれの企業の給与支払いさえ不可能な事態が目前に迫っているのである。被害は次から次へと連鎖的に広がる可能性が高いのである。
このSVBは、米国内で16番目に大きな中堅銀行であり、預金額は 1,750 億ドル(うち1515億ドルは無保険)を超え、資産は 2,090 億ドル(約28兆円)、この資金力を背景に、ベンチャーキャピタル企業に特化して、米国のスタートアップ産業・企業の中心的な銀行と長い間評価されてきた。テクノロジー企業の半数以上(250社)が「現金の大部分を SVB に保有している」とまで言われている。SVBは米国のベンチャーキャピタルが出資するスタートアップのほぼ半数と取引しており、テクノロジーおよびヘルスケア企業で昨年上場した企業の44%は同社顧客だったと報じられている。そして何しろ、破綻直前の3/8まで、格付け会社のムーディーズは、このSVBファイナンシャルを A3 という高格付けを維持してきたのである。
しかしこのSVBの実態は、米連邦準備制度・FRBがインフレ対策の名のもとに低金利・ゼロ金利の量的緩和から、金利引き上げ・緊縮政策への転換に移行するとともに、SVBのバランスシートは、1年前にはほとんどなかった含み損が、第3四半期の時点で160億ドルにまで増えていたのである。SVBの破綻は「ハイテクブームの絶頂期に、910億ドルの預金を住宅ローン債権や米国債などの長期の有価証券に保管することを決定し、これらは安全だと考えられていたが、SVBが購入したときよりも150億ドルも価値が下がった」ことから始まったと報じられている(フィナンシャル・タイムズ紙 3/10)。
かくして、このSVBの破綻は、「2008年の金融危機以来、破綻した最大の銀行」(ニューヨークタイムズ紙)となった。もちろん、この事態は、SVB一行、米国内にとどまるものではない。

<<世界的金融危機への拡大>>
3/10、銀行のパニックは、大小を問わず他の銀行にも急速に拡大。パックウェスト・バンコープは終値で市場価値の 25.45% を失い、ファースト・リパブリック バンク は 16.51% 下落。バンク・オブ・アメリカは 6.20% を失った一方で、米国最大の銀行である JP モルガン・チェース も 5.41パーセント下落している。「2008 年よりもはるかに大きな崩壊の危機」に直面しているのである。預金引き出しは、わずか1日で記録的な 420 億ドルが銀行から引き出されたと報じられている。サンフランシスコに本拠を置くファースト・リパブリック銀行が次の破綻の第一候補なのかもしれない。
 KBW・銀行株指数は15.7% 下落し、ナスダック銀行指数は 16.1% 下落、NYSE 金融指数は 7.5% 下落、ブローカー/ディーラー インデックス (XBD) は 9.3% 下落。欧州ストックス 600 銀行指数は 5.0% 下落、ハンセン中国金融指数も 5.1% 下落する、銀行パニックの世界的傾向が鮮明になりつつある事態である。。  金融危機の拡大は、カナダ、インド、中国にまで及び、英国では、SVB のユニットは支払不能と宣言される予定で、すでに取引を停止、3/11、約 180 のテクノロジー企業のリーダーが、英国のハント首相に介入を求める書簡を送っている。SVB は、中国、デンマーク、ドイツ、インド、イスラエル、スウェーデンにも支店を持っており、破綻により、政府の介入なしに世界中のスタートアップ企業が全滅する可能性があると警告している。 SVB の中国合弁会社である SPD Silicon Valley Bank Co. は、業務が独立して安定していると釈明している。
カナダでは、同国の SVB Financial Group の部門が昨年、4 億 3500 万カナダドル (3 億 1400 万ドル) の有担保ローンを報告 トロントに本拠を置く広告技術企業 AcuityAds Holdings Inc. は土曜日、SVB に 5,500 万ドルの預金があり、現金の 90% 以上に相当することを明らかにした。 同社は、シリコンバレー銀行との

Sun, March 12, 2023

「展開中の状況」を理由に、14%の下落の後、3/10、株式の取引を停止している。
アジアの銀行株も、3/10の取引で軒並み値を下げ、MSCIアジア太平洋指数で金融株指数は一時1.6%下落、三菱UFJフィナンシャル・グループは一時3.3%安、豪オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)と韓国のKBフィナンシャルグループもともに一時2.7%下げている。
今回のSVBの破綻のスピードの速さは、2008年のワシントン・ミューチュアルの破綻以来最大で、ウォール街を動揺させ、3/13、月曜日は、21世紀の最新の「ブラック マンデー」になるかもしれないのである。問題は、まだまだ気づかれていない時限爆弾がいたるところにあるある可能性が高いということでもある。金利引き上げの誤算が明確になりつつあるFRBは、SVB の崩壊を受けてこの月曜日に緊急非公開会議を開催するという。要注意であろう。
(生駒 敬)

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