【映画評論】ドキュメンタリー映画『私のはなし 部落のはなし』

【映画評論】ドキュメンタリー映画『私のはなし 部落のはなし』

                               福井 杉本達也

満若勇咲監督、大島新プロデューサーによる自主製作・ドキュメンタリー映画『私のはなし 部落のはなし』を見た。上映時間3時間25分(途中休憩あり)という大作である。雪も降る夜7時20分からの上映ということもあり、このようなマイナーな映画などあまり見る人もいないのではないかと劇場に入ったところ、既に7~8人の若い観客がいた。

最初の方で伊賀市の被差別部落の松村さん・同僚の中村さん・その後輩の林さんと林さんのお母さんの4人が座卓を囲んんで部落差別について語り合うのだが、あたかもカメラが存在しないかのように自然にしゃべるシーンは非常に新鮮である。また、部落史を専門とする静岡大学の黒川みどり教授が、大学の参考図書や資料で埋めつくされた狭い研究室のテーブルに黒板を置いて、それいっぱいにチョークを使って大きな文字で「部落」の呼称の変遷について語る。江戸時代の身分の「穢多・非人」が明治維新後の1971年の解放令で廃止されたものの、新たに「新平民」や「特種部落」という差別的呼称が生まれた経過や「未解放部落」・「被差別部落」という呼称。また、行政用語としての「同和地区」、また「細民部落」や「貧民部落」という呼称がなぜ使われなくなったのかを分かりやすく解説している。

1 改良住宅と地域共同体の崩壊

対話をできるだけ取り入れたいドキュメンタリーであるが、対話がなりたたない地区もある。高橋さんが居住する京都市最大の被差別部落は、戦後は1万人も住み、闇市もあり活気にあふれていたが、今は1300人に減り、その半数以上が高齢者である。部落解放運動により建て替えられた高橋さんの住む改良住宅は、今となってはエレベーターもなく、耐震補強もなされず、行政の不作為のままに長年にわたり放置されてきた。住みにくく、安全でもない住宅から居住者のほとんどは出ていき、わずかな灯が残るのみで、芸術大学の移転先として取り壊される。山内さんが1960年代に製作した8ミリの自主映画が修復されたが、そこには消防車もゴミ収集車も入らない改善前のバラックがひしめく地区が映し出される。そのバラックが解放運動により、鉄筋の集合住宅に建て替えられた。貧弱な日本の住宅政策に一石を投じる画期的な運動であった。しかし、そこの入居者は制限された。京都市は「属地属人主義」をとり、対象者を被差別部落出身者に限った。

その後も、日本の住宅政策は非常に貧弱なままである。住宅を社会的共通資本とする考え方は薄い。あくまでも、貧困対策であり、住宅政策の基本は持ち家一本鎗で私有財産を優先し、住宅ローン減税など税制を含め、個人所有に誘導しようとしている。各市町村とも公営住宅の入居条件は厳しく、事実上は母子(一人親)家庭・高齢者世帯・外国人などに限られる。となれば、公営住宅の建つ地区は、貧困層が多く、年齢構成も偏り、地域共同体が構成しにくい地区となる。

伊賀市の被差別部落に住む廣岡さんは、市営住宅が同和対策事業終了後も地域にルーツがあることを入居条件にしている。廣岡さんは「他所の人もここに入ってきてほしい。それが差別が解消される第一歩だと思う」と行政の政策に怒りを隠さない。市営住宅の住民が高齢化し、空き部屋が増えれば増えるほど地域の共同体は成り立たなくなる。共同体が崩壊すれば、住民自治も運動もなりたたなくなる。高橋さんの住宅からの引っ越しのシーンはそれを映し出している。だが、箕面市の被差別部落のように「開かれた部落」として、共同体の再構築を試みている地区もある。

2 「鳥取ループ」と関電の金品受領問題

満若監督が「鳥取ループ」を取材しているとは思わなかった。突然、画面に高速道路で車を運転する「鳥取ループ」の宮部氏が登場する。「鳥取ループ」は勝手に部落の地区を撮影し。ネット上に動画を公開する「部落探訪」や「部落地名総鑑」のネット公開で裁判になっている。「鳥取ループ」の行為は、明かすものではなく、晒すもので就職差別や結婚差別に繋がるというものである。これを「鳥取ループ」は差別する個人の問題だとする。

関西電力役員の故森山高浜町助役から金品受領が発覚した時、「鳥取ループ=示現舎」は「関電が恐怖した高浜町助役は地元同和のドンだった!」との見出しで、「再稼働や拡張工事など地元の理解を得るため電力会社側が有力者に金品を提供するというシナリオならばありえる話だ。しかし地元側から電力会社に金品提供とは前代未聞。なぜこんな事態が起こりえたのか? それは“同和のドン”森山が解放運動を背景に高浜町、そして関西電力を屈服させてきたからだ」(部落差別解消推進 神奈川県人権啓発センター 示現舎2019.10.2)と書いた。森山氏こそが同和問題を背景に関電を脅したという書きぶりである。関電役員の犯罪は完全に免責されている。

この論調はマスコミも同様である。2019年10月3日付けの福井新聞は、故森山助役を「県客員人権研究員として人権行政のアドバイザー的役割」として、町助役以外の職務をわざわざ紹介した。岩根関電社長は金品受領問題の記者会見で「金品を帰さなかった理由を『脅された』と険しい表情で強調。『森山案件』は特別で、おびえてレまった」と釈明を重ねた」とまで、岩根社長の“本音”に共感する形で書いた。関電の第三者委員会報告書(委員長:但木敬一弁護士:元検事総長)は「本心としては金品を受け取りたくないという関西電力の役職員の心情を十分認識した上で」(P23)、「森山氏の要求は執拗かつ威圧的な方法でなされる場合も多く、時には恫喝ともいえる態様であり」(P100)、「あたかも自身や家族に危害を加えるかのような森山氏の言動を現実化するおそれがある、などといったことが綯い交ぜになった漠然とした不安感・恐怖感」(P188)からであると書いているが、これこそ、差別発言を糾弾する人々が、差別を再生産していると、主客を転倒し、問題は部落解放同盟側にあるかのようにして、巧妙に関西電力を「被害者」に仕立て上げるものである。第三者委に先立つ関電の社内調査報告書を作成した社内調査委員会の委員長は元大阪地検検事正の小林敬氏である。また、但木氏の数代前の検事総長の土肥孝治氏は16年間にわたって社外監査役を務めている。国家権力の中枢にあった検察幹部を何人も抱えながら、たった一人の森山氏の「脅し」に屈服したという言い訳が通じるものではない。「鳥取ループ」も国家権力・関電・マスコミエリート支配層の差別に全面的に加担するものであり、差別する個人の問題ではない。折角、「鳥取ループ」を取材したのであれば、さらなる切込みが欲しい。会話の話題が個人による差別・結婚差別の問題のみに流れるのはどうだろうか。

3 ネットによる情報操作

映画のの最後の方で、松村さんはひたすらネット上の差別書き込みを朗読する。ネット上の差別をどのように映像化するかというのは難しい。しかし、ネット上への差別書き込みは個人の問題であろうか。

我々がアクセスするネットは全ての情報を無条件にUPしているわけではない。支配エリートにとって都合の悪い情報は検閲され、削除される。また、アカウント自体を削除されてしまう。また、支配エリートにとって都合の良い情報は次から次へと拡散されている。その作業はオンラインサービスを提供するAIのロボット型検索エンジンだけに頼ることはできない。2022年10月にツイッター社を買収したイーロン・マスクは全体の2/3もの社員を解雇した。これは、経営の赤字を解消するためと新聞紙上で解説されているが、実際はその社員のほとんどが、ネット上の検閲に関与していた。

イーロン・マスクは「11月30日、自分が買収する前の同社幹部らがコンテンツモデレーション(投稿監視)を使って選挙に介入し、社会の信頼を損ねていたとしてこれを非難した。2018年、中間議会選挙の年にすでに共和党はツイッターのアカウント削除について警鐘を鳴らしていた。当時、ツイッター幹部は数千件のアカウントをブロック。この措置は、『ロシアのボット』が活動しているからという嫌疑によって正当化されたが、実際にツイッターの被害を受けたのはロボットではなく『生きた』ユーザーの方だった」。また、「共和党や民主党、バイデン氏の周辺から『不都合な』情報を含む投稿を削除するよう求める圧力があったことを示すツイッターの内部文書を公開」し、SNSの内情を暴露したが(Sputnik 2022.12.3)、こうしたネット上の検閲や情報拡散は日常的に行われている。ネット上の差別文書は差別する個人の責任・結婚差別も差別する個人の責任だという見方は甘い。支配エリートの情報操作が深くかかわっている。

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【投稿】ウクライナ戦争を止めさせたくない米国(ネオコン)と中国の和平提案

【投稿】ウクライナ戦争を止めさせたくない米国(ネオコン)と中国の和平提案

                              福井 杉本達也

2月24日でロシアがウクライナに侵攻して1年となった。日経新聞は23日「ロシア、支配地5割失う」、「死傷者20万人規模」、「プーチン氏、戦果なく焦り」と書いた。しかし、この1年、日本のマスコミは全く事実を報道していない。人的にも弾薬も枯渇したウクライナ=NATOの敗北は必至の状況である。

1 ロシアを孤立させる試みは完全に失敗

ワシントン・ポスト紙は2月23日、「『西側諸国の外からよく見てみると、世界が一致団結しているとは言い難いことがわかる』と指摘した上で、『この紛争は、世界の分断と、急速に変化する世界秩序に対する米国の影響力の限界を明らかにしている』と報じている。また同紙は、『中国やイランなど、ロシア政府を支援するとみられるロシアの同盟国の間だけでなく、(ロシアの)プーチン大統領を孤立させようとする努力が失敗したことを示す十分な証拠がある』と伝えている。」(Sputnik:2023.2.23)。

また、米国のPEWの世論調査では、「対ウクライナ支援」が「あまりに多い」とするものが、2022年3月にはわずか7%であったものが、2022年9月には26%になった。これを共和党支持者だけに限ると、3月:9%が9月:40%にもなった。マージョリー・テイラー・グリーン 氏は、今月初めに列車の脱線事故が環境災害を引き起こしたオハイオ州を訪問しなかったバイデンを非難し、「『バイデン氏は大統領の日にオハイオ州東パレスチナに行かなかった。彼はNATO 非加盟国であるウクライナに行き、その指導者は俳優であり、現在、米軍に世界大戦を指揮しているようです。手遅れになる前に、このアメリカの最後の愚か者を弾劾しなければなりません。』」とツイートした(孫崎享:2023.2.23)。

2 ノルドストリーム爆破の犯人は米国とノルウェー

昨年9月26日のロシアのガスを欧州・ドイツに供給するパイプライン「ノルド・ストリーム」が爆破された。ベトナム戦争時のソンミ村虐殺報道でピューリッツア-賞を受賞した経歴の米国報道記者:シーモア・ハーシュは、2022年夏のNATO軍事演習「バルトップス」に参加した複数の米国人ダイバーらが「ノルド・ストリーム」の下部に爆破装置を設置し、それを3か月後にノルウェーが作動させたために起きたとするすっぱ抜き記事を表した。この破壊工作は、バイデン米大統領が国家安全保障チームと9カ月以上にわたって秘密裏に協議し、サリバン米大統領補佐官・国家安全保障担当が関与していたと断言した(Sputnik:2023.2.8)。「バイデンは、ドイツと西ヨーロッパがパイプラインを開くのを防ぎ、西ヨーロッパがNATOを支持し続け、明らかにロシアに対する代理戦争に武器を注ぎ込むことを確実にするために、政治的な目的で米国は破壊を行いました。」(シーモア・ハーシュ:ゴーイング・アンダーグラウンドでのインタビュー:RT:2023.2.23)とシーモア・ハーシュは述べている。

ノルドストリーム・パイプラインは二つの大陸を結びつけ、最終的に世界最大の自由貿易地域になる経済コモンズをもたらす重要な動脈だったのでノルドストリームがアメリカによる攻撃の主要標的になったのはそのためだ。これがワシントンが最も恐れていたことで、それがバイデンと仲間がドイツとロシア間の経済関係強化を防ぐためにそうした必死の措置を講じた理由だ(マイク・ホイットニー『マスコミに乗らない海外記事』:2023.2.24)。

ところが、日本の主要マスコミはこの重大事実を全く報道しない。『現代ビジネス』が『「ノルドストリーム爆破」は米国の仕業だった…!? 新説急浮上でバイデン政権に噴出するいくつもの疑惑』と報道するが、数少ない(2023.2.14)。いかに日本のマスコミが米軍産複合体に抑えられているかを示している。

3 ウクライナ政権内部の分裂・粛清

1月14日には、ドニプロの高層住宅にウクライナ軍の防空ミサイルが着弾し、数十名の死者が出た責任を取らされる形で、17日、アレストビッチ大統領府長官顧問が辞意を表明し、大統領府は承認した(毎日:2023.1.17)。アストレビッチは辞任後「戦争におけるウクライナの勝利は、もはや保証されていないように見える。…戦争に勝つことが保証されていると誰もが思っているとしたら、それは非常に異なっています。」「ウクライナ当局はロシアとの軍事衝突に勝つチャンスだけでなく、内部の政治的なチャンスも逃した」とツイートした(2023.2.22)。また、18日にはキエフ近郊で「内務省高官を乗せたヘリコプターが墜落した。モナステイルスキ内相を含む少なくとも14人が死亡」し、内務省の高官が全滅した(日経:2023.1.19)。2月6日のBloombergは「レズニコフ国防相が任を解かれ、後任に国防省情報総局長のキリロ・ブダノフ氏が就任」との記事を流した。共同通信は「ウクライナでは軍を巡る汚職疑惑が報じられており、引責の司能性がある」と報道した(共同=福井:2023.2.7)。さらに11日には、CNNはゼレンスキー大統領は国家親衛隊のルスラン・ジュバ副司令官を解任したと報道した。また、1月末に大統領府のティモシェンコ副長官が辞任を発表したのに続いて、国防次官、副検事総長、地域開発次官らが次々と解任されたり、辞任したりしていると報じている。なお、CNNは「レズニコウ国防相が更迭されるとの情報もあるが、議会幹部の一人は先日、当面交代はないと述べた。」と報道し、その後、公の場に姿を現した。ウクライナ政権の内部は分裂・崩壊状態にある。

4 中国の気球を巡っての米中の緊張

オースティン米国防長官は、2月4日、米軍が南部サウスカロライナ州沖の大西洋上空で中国の偵察気球を撃墜したと発表した。中国はコントロール不能の研究用の気球が米国内に入っただけだと反論した。王毅氏は訪ロに先立って、ドイツ南部ミュンヘンでプリンケン米国務長官と会談した。王氏は「米国の気球撃墜を非難し『米国が事態を拡大させるなら、中国はとことん相手をする。すべての結果は米国が負うことになる』と発言した。」(日経:2023.2.22)。元米中央情報局(CIA)職員のエドワード・スノーデンは、米国およびカナダ上空で撃墜された飛行物体はノルトストリーム爆破の調査から目をそらすために作られたものだとの考えを示した(Sputnik:2023.2.14)。

5 バイデンのキエフ訪問

日経のワルシャワ支局の中村亮記者は、バイデン大統領は2月20のウクライナのキエフを訪問について、数か月前から極秘に計画し、「不測の事態への緊急対応計画を練り、17日に訪問を決断した。ロシア側に事前通告したが訪問中に防空サイレンが鳴り響き、安全へのリスクを物語った」。「鉄道に乗り換えて暗闇の中を約10時間かけてキーウ」に向かった(日経:同上)と書いた。米国大統領が10時間も列車で移動するというのは異例中の異例である。ウクライナ上空の制空権がロシアに握られている現在、安全を保障するのはロシア以外にはない。バイデン大統領がキエフでどう発言しようが、ロシアの手の内にある猿回しの猿以上のものではない。

 

6 「NATOの弾薬は尽きた」とストルテンベルグNATO事務総長

ストルテンベルグNATO事務総長は2月18日、ミュンヘン安全保障会議でのCNNの取材に対して、「ロシアはこれまでのところウクライナよりも多くの弾薬と人員を最前線にもたらすことができたと述べ」「ウクライナの弾薬消費量は『NATOの総生産量よりも多い』と彼は続け、この状況は『継続できない』と付け加えた」。「昨年の秋以来、ウクライナでの紛争は『消耗戦争に移行した』とストルテンベルグ氏は述べ、『消耗戦争は兵站の戦いである。物資、スペアパーツ、弾薬、燃料など、どうすれば十分なものを最前線に届けることができますか。』」と語ったが(RT:2023.2.23 自動翻訳)、逆に問えば届けられるはずもない。NATOの敗北は必至である。

7 中国の和平交渉の動きとウクライナの解体

中国の王毅氏は18日にウクライナのクレバ外相と会談した。「『中国は常に和平交渉の促進を堅持している』と語りかけた。その後、24日に、中国外務省はウクライナ情勢を巡る『政治解決案』を公表した。①すべての国の主権と領土保全の尊重、②冷戦精神の放棄、③敵対行為をやめ、戦争を止める、④対話と交渉、⑤人道問題、⑥捕虜交換・民間人と捕虜の保護、⑦原発に対する武力攻撃に反対、⑧核兵器の使用反対、⑨穀物の輸送に関する合意の遵守、⑩一方的制裁の乱用に同意しない、⑪生産とサプライチェーンの安定、⑫戦後復興の支援 の12項目を提案した。これを受けて、AFPは「ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアの侵攻開始から1年となった24日、中国の習近平国家主席と会談する予定だと明らかにした。」と報道した(AFP=時事:2023.2.24)。

しかし、戦闘継続が利益となる米国の軍産複合体勢力は中国の動きを妨害しようとしている。先の気球撃墜事件もその一環であるが、2月18日、ブリンケン国務長官は「中国がロシアに殺傷力のある武器を供与する可能性に懸念を示し、会談は平行線だった。」(日経:同上)と伝えられた。遠藤誉氏は「ウクライナの国民を殺戮する武器支援を中国がロシアに提供しているとなれば、絶対に王毅がミュンヘン会議で習近平の考え方として提唱した『和平論』には乗らないだろう。つまり、ブリンケンの発言は、ゼレンスキーが習近平が唱える『和平論』に乗らないようにすることが目的だったにちがいない。」との中国主導の和平交渉を妨害する謀略と分析した(Yahoo:2023.2.23)。「バイデン大統領はABCテレビが24日夜、放送したインタビューの中で、中国が24日に発表した、ロシアとウクライナに対話と停戦を呼びかける文書について『プーチン氏が称賛している提案だ。そのどこに見るべき中身があるのか?中国の提案が実行されたとして、ロシア以外の誰も利するようには見えない』と述べ、検討に値しないとの考え」だと述べた(NHK:2023.2.25)。とにかく戦争を終わらせないことを考えている。

「数十人のポーランド軍部隊がウクライナで何ヶ月も地雷処理で活動し、部隊は現在帰国していると、ポーランドの国家安全保障局の責任者であるヤツェク・シエヴィエラは水曜日に述べた。」(RT:2023.2.23)と報道された。形上の外国人傭兵としてではない正規軍としての本格的な介入である。ポーランドのウクライナ支援の規模は国家能力を超えている。支援諸国中その規模は5番目であるが、上位4カ国の国力と比べれば、きわめて無理を生じている。ポーランドがかつての支配地域であった西ウクライナを分割しようとすれば、戦線がウクライナから東ヨーロッパに拡大する可能性もある。早く停戦に持ち込まねばならない。

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【投稿】反戦運動の復活の始まり--経済危機論(103)

<<「イラク戦争以来最大の反戦デモ」>>
バイデン米大統領は、2/20、ウクライナを予告なしに電撃訪問したのであるが、漏洩を避けるために出発したのは、2/19午前4時15分であった。ワシントン郊外の米空軍基地を出発し、ドイツのラムシュタイン空軍基地での給油を経て、ポーランド南東部のジェシュフ・ヤションカ空港に到着、そこから車で1時間のウクライナ国境付近の駅に向かい、鉄道に乗り換え暗闇のなかを約10時間かけてキーウに移動したという。
その同じ2/19、日曜日、ワシントンD.C.では、ウクライナでの戦争1周年に際し、大規模な反戦集会が開かれた。「Rage against the War Machine Anti-War Rally – Washington,D.C.」(戦争マシーンに対する怒りの反戦行動)である。この行動は、「米国政府はウクライナでの戦争にこれ以上 1 ペニーも費やすべきではない」「アメリカの代理戦争ノー! No To US Proxy War」「エスカレーションではなく交渉」という

バイデンはノルドストリーム爆破者

切実な要求で団結し、幅広く、左派も右派をも巻き込んだ行動として提起されたものであった。従来の反戦行動の主体であった諸団体をも巻き込んで、主催者として、人民党(People’s Party)と自由党(Libertarian Party)が組織者となり、集会の演説者には、3 人の元下院議員と女性 (デニス・クシニッチ、トゥルシ・ギャバード、ロン・ポール) と元大統領候補 (緑の党のジル・スタイン) が登場するなど、党派を超えた団結した行動を体現するものであった。
人民党の創設者であるニック・ブラナ(Nick Brana)氏は、この集会は「イラク戦争以来最大の反戦デモであり、切実に必要とされていた」と語り、「右派だ左派だのレッテル貼りは人為的なものである」と述べ、「そんなことでねじ曲げられてはならず、手を取り合って反撃する必要がある」と語っている。
 また、自由党全国委員会のパット・フォード(Pat Ford)氏は、「この集会は連合を構築するうえで完全な成功だった」と語り、「やりがいがあり、骨の折れる、厄介なものになる可能性がありますが、草の根の主催者が社会の変化に影響を与えるための最良の方法であり」、「異なる見解を持つ人々が集まってこそ成功するのです」と語っている。
デニス・クシニッチ (民主党-オハイオ州) 氏の演説は、ノルド・ストリームパイプライン爆破について、米国政府の非難すべき行為は、「元諜報機関職員でさえ仰天する」ほど「米国憲法を傷つけ、世界の平和を脅かしている」と、鋭くバイデン政権を糾弾、法の支配を回復し、国を「破壊」する前に政府を変えようと訴えている。
トゥルシ・ギャバードは、この集会に参加した人々は、人命を尊重し、核のホロコーストで死にたくないという点で団結していると語り、「私は、2020年の民主党大統領予備選で新たな冷戦の危険性について警告したが、悲しいことに、その時以来状況は悪化しており、ロシアとの代理戦争の出現により、簡単に直接的な核戦争に変わる可能性がある」と訴えている。
集会は、最後にピンク・フロイドの創設者であるロジャー・ウォーターズ氏が、アメリカの指導者たちがジェームズ・ベイカー国務長官の1991年の約束、NATOを1インチも拡大しないという約束を守っていたら、また、2019 年のミンスク和平協定を支持し、ノルドストリーム・パイプラインを爆破しないことを選択していれば、今日のような混乱に陥らなかっただろう。これは、戦争行為であり、国際テロ行為なのです、と締めくくった。集会は非暴力を徹底し、さまざまなイデオロギー的視点を持つ人々が戦争に反対するために集まったことは素晴らしいことであり、このイベントは、実際の政治的変化に影響を与える反戦運動の復活の始まりを示す可能性があることを示すものであった。(以上、集会の模様はCovertActionMagazine By Jeremy Kuzmarov – February 20, 2023 より抄訳)

<<ミュンヘン安全保障会議=「戦争挑発者」>>
2/17からドイツ・ミュンヘンで開かれていた第59回ミュンヘン安全保障会議(MSC)に対しても、この会議の参加者を「戦争挑発者」として抗議する、大規模な運動が繰り広げられたことも、反戦運動の復活の始まりとして注目される。2/18、当地ミュンヘンでの反戦抗議デモには数万人が参加し、会議を非難し、ドイツのNATOからの脱退、平和を訴えている。

 

ロシアと和平を!ドイツはNATOから脱退!
「ミュンヘン安保会議」に抗議(2/18)

反戦運動が、バイデン政権のノルドストリーム・天然ガスパイプライン破壊攻撃に象徴される、ウクライナ危機をめぐる政治的経済的危機、とりわけ西側陣営の制裁ブーメランによる経済的危機の一層の激化に対する、生活要求と結びついた抗議行動として拡大し始めていることが注目されるし、さらなる運動の拡大が要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】バイデン政権のノルドストリーム爆破テロ--経済危機論(102)

<<「衝撃のレポート」>>
2/8、ピューリッツァー賞受賞者で、米国の著名な独立調査ジャーナリスト、シーモア・ハーシュ()の独自調査レポート(How America Took Out The Nord Stream Pipeline)「アメリカはいかにしてノルドストリーム・パイプラインを破壊したのか?」「ニューヨーク・タイムズ紙は『ミステリー』と呼んだが、アメリカは今まで秘密にされていた海上作戦を実行した。」が発表、ネットで公開された。

内容が衝撃的である。
ロシアとヨーロッパを結ぶ天然ガスパイプライン・ノルドストリーム(Nord Stream 1,2)の妨害・破壊工作は 米CIA、米海軍の秘密作戦であった。計画は2021年12月、米国国家安全保障顧問のジェイク・サリバンの下に特別タスクフォースが結成され、CIAは、議会との関係でアメリカの特殊部隊を使わない作戦として、準備と実行は徹底した秘密作戦でなければならないと主張、海軍は、パイプラインを直接攻撃するために新たに就役した潜水艦を使用することを提案、空軍は、リモートで起動できる遅延ヒューズを備えた爆弾を投下することを提起。「次の数週間で、CIAのワーキンググループのメンバーは、深海ダイバーを使用してパイプラインに沿って爆発を引き起こす秘密作戦の計画を作成し始めた」。2022年の初めに、CIA 作業部会はサリバンの省庁間グループに「パイプラインを爆破する方法がある」と報告。議会に通知する必要がある秘密作戦ではなく、米軍の支援を受けた高度に機密の諜報作戦として、この秘密作戦計画が策定されたのであった。行政府が議会の承認なしにこうした戦争行為を行うことは、アメリカにおいても憲法違反なのである。
「次に来たのは驚くべきことでした。」とハーシュのレポートは言う。「ロシアのウクライナ侵攻が避けられないように見える3週間前の2月7日(2022年)、バイデン大統領はホワイトハウスでドイツのショルツ首相と会見、その直

後の記者会見で、「If Russia invades . . . there will be no longer a Nord Stream 2. We will bring an end to it」(ロシアが侵攻すれば、Nord Stream 2 はなくなります。私たちはそれを終わらせます)と断言したのであった。その 20 日前に、すでにヌランド国務次官は、

国務省のブリーフィングで本質的に同じメッセージを発し、「今日ははっきりさせておきたいと思います」、「ロシアがウクライナに侵攻した場合、いずれにしてもノルドストリーム 2 は前進しません」と述べていたのである。ハーシュの情報源は、「それは、東京

ヌランド、パイプライン爆撃を称賛。

に原爆を置いて、それを爆発させるつもりだと日本人に告げるようなものだった」と語っている。「バイデンとヌランドの無分別さが、一部の計画立案者を苛立たせたかもしれない。しかし、それはまた機会をも生み出した」のであった。
ハーシュは、「作戦計画を直接知っている」ある情報源を引用し、米海軍のダイバーが2022年6月、BALTOPS22として広く知られたバルト海でのNATO演習を隠れ蓑に、研究開発作業に関わる演習を装って、遠隔操作で爆発物を仕掛け、3カ月後の2022年9月26日、米海軍が演習場から退去した後に、ノルウェー海軍の P8 哨戒機が一見通常の飛行を行い、投下された「超音波ブイ」・ソナーブイによって爆発させられ、4本のNord Streamパイプラインのうち3本を破壊した、というのである。ハーシュの情報源は、この作戦の実行命令がバイデン大統領のオフィスから直接出されたことを強調している。
この情報源は、この作戦はノルウェーと調整されていたとハーシュに語っている。ノルウェーは、精鋭の米海軍の深海潜水チームが作戦を遂行するのを支援する上で、ロジスティクスとインテリジェンスの重要な役割を果たしたのであった。ノルドストリームの破壊により、ノルウェーとアメリカは自国の天然ガスをはるかに多くヨーロッパに販売できるようになったのは当然と言えよう。ノルウェーはロシアのガスを年間約400億ドル、直接置き換え、次いでアメリカが急速に増大させている。いずれもロシア産ガスよりもはるかに高価、高コストである。インフレの高進と政治的経済的危機のさらなる深化を決定づける戦争行為でもあったのである。

<<「なぜ、サブスタックなのか?」>>
このハーシュ・レポートは、タイムズ紙(英国)、ロイター通信、およびロシアの国営メディア、その他のメディアによってすぐに報道され、ロシアのRIAノーボスチに対しハーシュ氏が「もちろん、私が書いたのだ」とノードストリーム爆発に関する記事の執筆を確認、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、この報道に対して「ホワイトハウスはこれらの事実すべてについてコメントしなければならない」と述べ、ホワイトハウスは無視する構えであったが、

「もちろん、私が書いたのだ」

反論せざるを得なくなった。
バイデン政権は、2/8、直ちにこのレポートを全面否定して、「まったくの虚偽であり、完全なフィクションである」と述べたのである。
しかし会見した米国務省の報道官ネッド・プライスは、シーモア・ハーシュの記事を読んでいないことをはからずも認めてしまい、何が論点なのかを把握していないことを露呈し、冷静さを失い、この記事はとにかく「プロパガンダ」だとして一方的に攻撃し、ハーシュの誹謗・中傷に終始してしまったのであった。

ところが、すでに1/27、トップ外交官で、同じ国務省のヴィクトリア・ヌランド副長官が、米上院公聴会で、ノルドストリームパイプライン破壊攻撃を称賛して、「ノルドストリームが現在、海の底にある金属の塊であることを知って、政権は非常に満足していると思います。」と発言して、米政権が直接関与していることを事実上、自ら暴露しているのである。ブリンケン国務長官も、欧州をロシアのガスから引き離す「とてつもない機会」だとまで述べていたのである。
前回すでに紹介したように、米国防総省系のシンクタンクである RANDコーポレーションの報告書は 「最初のステップはノルドストリームを停止することである」「ヨーロッパ諸国はロシアのガスの輸入を減らし、米国が供給した液化天然ガスに置き換えるようにしなければならない」と提唱していたのである。

2/10、ロシア外務省のザハロワ報道官は、パイプライン破壊工作に関するハーシュ氏の記事を「ナンセンス」と一蹴する米国務省の試みは、アメリカの歴史に対する驚くべき無知を示す明白な嘘であると記者団に述べ、「米国はまたしても生放送で嘘をつき、正当な質問をしたジャーナリストを公然と馬鹿にしている」と述べている。さらに、ザハロワ報道官は、デンマークとスウェーデンがロシアからの調査協力の申し出を拒否し、ノルウェーもEUの制裁を理由に拒否したことを指摘し、このことは3カ国政府が真実を解明することに関心がなく、むしろ隠蔽することに関心があることを示していると告発している。

しかし、日本も含めて西側の主要メディアは、このハーシュ・レポートを明白に、そして故意に無視し、抑制し、バイデン政権に追随しているのが実態である。ほとんど報じていないし、短い紹介すらしていないのである。当初は、このパイプライン破壊攻撃をロシアになすりつけていたのであるが、最近になって、『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』が、モスクワの関与を示す証拠はないことを認めたに過ぎない段階である。西側「民主主義」の実態は、現実と真実を否定する共謀関係にあるとも言える事態である。

 シーモア・ハーシュ氏は、このレポートを、個人でニュースレターを配信することができるプラットフォーム・Substack (サブスタック)で発表している。
『なぜ、サブスタックなのか?』と題して、ハーシュ氏は、「私はキャリアの大半をフリーランサーとして過ごしてきました。1969年、私はベトナムで恐ろしい戦争犯罪を犯した米軍兵士の部隊の話を紹介した。彼らは、数人の将校が知っているように、敵のいない普通の農民の村を攻撃するように命じられ、見つけ次第殺すように言われた。兵士たちは、敵のいないところで何時間も殺害し、強姦し、手足を切断した。この犯罪は18ヵ月間、軍の指揮系統の最上層部で隠蔽されていたが、私がそれを暴露するまで続いた。私はこの仕事で国際報道部門のピューリッツァー賞を受賞したが、アメリカ国民の前にこの記事を出すのは簡単なことではなかった。私の最初の記事は、友人が経営するかろうじて存在する通信社の下で発表されたが、当初は『ライフ』誌と『ルック』誌の編集者に拒否された。『ワシントン・ポスト』紙に掲載されたときには、国防総省の否定と、リライト担当の無思慮な懐疑論で埋め尽くされた。2004年、アブグレイブでのイラク人捕虜への拷問に関する最初の記事を発表した後、国防総省の報道官は私のジャーナリズムを「ナンセンスの織りなす物語」と呼んだ。…今でも優秀なジャーナリストはたくさんいるが、報道の多くは、私がタイムズ紙で毎日記事を書いていた時代には存在しなかったガイドラインや制約の範囲内で行わなければならない。…そこで登場したのがSubstackです。ここでは、私が常に求めてきた自由があります。このプラットフォームで、出版社の経済的利害から解放され、文字数やコラムインチを気にすることなく記事を書き、そして何よりも読者に直接語りかける作家を次々と見てきたのです。」と述べ、「今日読んでいただく記事は、私が3カ月かけて探し出した真実です。出版社や編集者、仲間たちから、ある特定の考え方に沿うように、あるいは彼らの恐怖心を和らげるために内容を縮小するようなプレッシャーを受けることなく、この記事を書き上げました。」と結んでいる。

バイデン政権は、時間軸はたとえ長短ずれたとしても、いずれ追い詰められ、政治的経済的危機のただなかで右往左往し、出口を模索せざるを得ないであろうし、追い込む平和への闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】電気料金高騰の原因は国のエネルギー政策の大失敗にある

【投稿】電気料金高騰の原因は国のエネルギー政策の大失敗にある

                            福井 杉本達也

1 電気料金が30%も値上げに

東電は、6月から標準家庭の電気料を月11,737円と29%も値上げすると発表した。電気代の高騰を受け、政府は電気代支援で全国一律で、1月分の電気代から1キロワット時当たり7円値引きするとし、標準家庭で2,800円・電気代の2割相当が値引きされる。割引分を差し引くと、東京電力管内では月9,917円になるという(日経:2023.1.28)。東電が2月1日発表した2022年4~12月期の連結最終損益は6509億円の赤字億円の黒字)となった。福島第一原発事故の賠償基準変更で特別損失を計上したほか燃料高が響いたという(日経:2023.2.2)。

2 新潟県の柏崎刈羽原発の再稼働まで料金の計算に入れるが、再稼働は不可能

しかも、東電の値上げ幅にはカラクリがある。「東電は柏崎刈羽原発(新潟県)の7号機を今年4月に、6号機を2025年4月にそれぞれ動かす前提で、一般家庭の値上げ幅を月550円程度圧縮」しで電気代を計算をしている。さすがに経産省も「そこまでは面倒見切れない」との声も。だが、テロ対策不備など不祥事が相次いだ柏崎刈羽原発は「原子力規制委員会から事実上の運転禁止命令を受け、地元の再稼働への同意」も受けられず再稼働の見通しなど立つはずもない(福井:2023.1.27)。山中原子力規制委員長は1月28日に柏崎刈羽原発現地を視察し、「『まだまだ課題がある』との認識を示した。『3号機の審査書類に2号機の記載内容を流用したことには小さな問題ではない』と指摘。…『原因や誤記に対する意識は納得できる説明ではなかった』と苦言を呈した」(日経北陸版:2023.1.30)。

3 東電・中電・経産省のカタールLNG調達の歴史的大失敗のつけ

JERA(東電+中電が共同出資)は2021年12月、カタール産LNG500万トン超(年間ベース)の引き取りを終了した。25も年続いた調達契約を更新しなかったのである。日経は「世の中は脱炭素へ傾き、今後も20年単位の長期引き取りを続けられるのか。電力・ガス自由後の競争にさらされる企業としての判断である」と言い訳したものの、そのすぐ後に、「国全体で見れば、…ロシア産LNGの途絶におびえ、電力の供給力確保に苦しむ足元の状況とのちぐはぐさが否めない。安定供給に誰が責任を持つのか。エネルギー危機は、その不在をあらわにした。」と書いている(日経:2022.6.20)。

そもそも、東電は福島第一原発事故後は事実上の国営企業となっており、経産省の意向が働かなかったなどということはない。LNGのスポット価格の安さに目がくらみ、いつでも市場から調達できるとする経産省の安直さが招いた危機である。「エネルギー業界では、アラビア石油権益延長失敗、イラン・アザデガン油田開発撤退と合わせて、カタール契約解消は『3大失敗』ともいわれる」。「仕向け地条項(転売防止面からLNG船の帰港地を限定)などの撤廃をカタ―ルに要求し、購入延長を破談にしてしまった。その背景には、エネルギー基本計画にLNG火力削減を盛り込んだ日本政府の脱炭素方針も影響してした」(『エコノミスト』2023.1.24)。その大失敗のツケを電力料金の29%もの値上げという形で国民に押しつけているのである。

4 再生可能エネルギーで問題は解決しない

温暖化対策の切り札として、各国は風力発電や太陽光発電などを大量に導入した。今回の電力高騰においても再生エネルギーの拡大を主張する者もいる。しかし、2022年1月9日付け日経新聞は「世界の天候不順が再生可能エネルギーによる発電に打撃を与えている2021年は欧米や中国など世界各地で干ばつや寒波、熱波などの自然災害が相次ぎ、太陽光や風力、水力による発電所の稼働率が低下。大規模停電も発生した。…再生エネ発電を増やしてきたが、本来の想定通りに動かない展開になっている。」と書いていた。いくら健忘症とはいえ、わずか1年前のことを忘れたわけではあるまい。

5 高浜4号機事故―古い原発に頼るな

割引分を差し引いた関電の6月の電気代は5,677円になるとし、東電と関電の差は7割になるという。関電は原発は5基動いている影響が大きく、電気代を下げている(日経:2022.1.27)。しかし、1月30日、関電高浜4号機で中性子の量が急速に減ったことを示す警報が鳴り、運転が自動停止した。核分裂反応を止める制御棒が落下したのではないかと思われる。山中原子力規制委員長は原発の安全確保の原則である「『止るめる、冷やす、閉じ込める』のうち、『止める』関わる重要機能の一つにトラブルが発生した」と述べ、重大事故であるとの認識を示した。制御棒が突然落下するということは、逆に核分裂反応を抑えようとしても、制御棒が落下せず原子炉が暴走することもありうるということである。古い原発を使い続けていればこのような事故は今後さらに増えることになる。原発の暴走との引き換えに電気代が安くなるなどということは御免被りたい。

6 ロシアのからのエネルギーこそ国民の生活を守る

日本はサハリン1・2についてようやく契約を更新した。日本にとって非常に重要なエネルギー権益である。しかし、岸田首相は何を血迷ったのか、バイデン大統領に指示されたのか、ウクライナのキエフを訪問したいとの意向である。いまウクライナを訪問したところで、ゼレンスキー大統領に莫大なムダ金を渡すだけになる。ロシアは敵対国にエネルギー資源を供給しないとしている。やっと確保したサハリン1・2の権益がなくなるかもしれない。ウクライナと電気代の高騰のどちらが大事かをよくよく考えなければならない。

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【投稿】世界大戦への危険なエスカレート--経済危機論(101)

<<「われわれはロシアと戦争している」>>
1/30、バイデン米大統領は、ホワイトハウスの会見で、「米国はウクライナにF-16戦闘機を派遣しないだろう」と述べた。しかし、これは「今のところ」という注釈付きが本音である、と報じられている(Biden Says “No” To US Providing F-16 Jets For Ukraine (..For Now))。

バイデン大統領:2022/3/11「ウクライナに戦車を送れば、それは第3次世界大戦と呼ばれます」 2023/1/25「本日、私は米国がウクライナにエイブラム戦車を送ることを発表します」

最近、非常に長い戦車の列がカンザス州を横切っているのが目撃された。戦争の決断はすでになされているようだ。

すでに1/25、バイデン政権は米軍の主力戦車「エイブラムス」31両のウクライナへの供与を決めている。この「エイブラムス」供与は、実質上、ドイツが戦車「レオパルト2」供与を早急に開始するための隠れ蓑に過ぎない、とワシントン・ポスト紙が報道。同じ1/25、ドイツ政府は14両の独製主力戦車「レオパルト2」をウクライナへ供与することを決定したと発表、また、他国が「レオパルト2」をウクライナへ供与することにも承認したのであった。
米国はこれまで、ウクライナにはドイツ製戦車が供与されるべきだと主張してきており、この「レオパルト2」は、米製「エイブラムス」に比べて設計が単純であり、ウクライナ軍が使用方法を習得しやすい、交換部品も十分な数がある、しかしドイツのショルツ首相は、ドイツが一方的に行動した場合、ドイツが紛争に直接関与していると受け止められ、ロシアの報復がある可能性を懸念していたもので、ドイツは「レオパルト2」供与と「エイブラムス」供与を連動させるよう求めていたのである。
ドイツのショルツ政権は、ドイツはウクライナを支援すべきだが、ロシアとの直接対決は避けるべきだと主張してきたのであるが、もはやそのブレーキも効かない事態に追い込まれていると言えよう。政権の連立パートナーである「緑の党」のベアボック外相は、よりタカ派的な立場を一貫して主張、「ドイツの有権者がどのように考えようとも、私はウクライナの人びとを支援する」と極論し、1/24の欧州議会で「われわれはロシアと戦争しているのだから、団結すべきだ」と公言し、ロシアとの戦争を回避し、ウクライナへの軍事支援に消極的だったランブレヒト国防相は辞任に追い込まれる事態である。
すでにドイツでは、アンゲラ・メルケル前首相は昨年12月に、ベルリンとパリが仲介した2014年の停戦協定は、実はウクライナに軍事増強のための「貴重な時間を与える」ための策略だった、「ウクライナを強化し、ミンスク協定を当てにしていなかった」とドイツのメディアに語っている。当時のフランスのオランド前大統領もこれを認め、ウクライナのポロシェンコも公然とそれを認めている。つまりは、ウクライナ危機とは、米英と組んで、NATOがロシアを泥沼の戦争に引きずり込むための罠であったことを告白しているのであり、その策略が、現実となったわけである。そしていまや、ウクライナのゼレンスキー政権は、「現在の紛争はNATOとロシアの間の『代理戦争』である」と公言してはばからない事態である。
ゼレンスキー政権は、こうして米独、NATOに要求していた戦車を手に入れたので、さらに進んでロシアを砲撃するために米国のジェット戦闘機と長距離砲を要求しているわけである。1/28、ウクライナの高官は、ウクライナと西側の同盟国が、長距離ミサイルと軍用機の両方を送る可能性について「迅速な」交渉に取り組んでいる、F-16 だけではありません。第 4 世代の戦闘機、これが私たちが望んでいるものです、とまで述べている。
ここで問題は、バイデン政権の対応である。昨年3月の段階では、「攻撃的な装備を送り込み、飛行機や戦車や列車をアメリカ人パイロットとアメリカ人クルーで送り込むという考え方は、冗談抜きで、それは第三次世界大戦と呼ばれている」と断言して、否定していたのである。ところが、今回、主力戦車を送り込むことに踏み込んだ。
たとえ、米国が F-16 を送らないとしても、他のNATO諸国は供給できる米国製の戦闘機を持っており、オランダのヘクストラ外務大臣は、オランダ議会で、キエフが要請すれば内閣はF-16の供給を検討すると語っている。

米軍当局者のウクライナへの派遣団は国防総省に対し、F-16 戦闘機をウクライナへの派遣承認をすでに迫っている、と報じられ、ホワイトハウスは、これについてコメントすることを拒否したが、ジョン・ファイナー国家安全保障副補佐官は、米国はキエフとその同盟国と「非常に慎重に」戦闘機について話し合うだろうと述べている。
こうした経緯からすれば、F-16戦闘機についても、主力戦車と同様の危険な手のひら返しに進むのは、おそらく時間の問題だと言えよう。しかし、ここまでくれば、もはや「冗談抜きで、第三次世界大戦」への突入である。危険極まりない事態が待ち構えている、と言えよう。

<<「悲惨なことになりかねない」>>
ロシアを泥沼の戦争に引きずり込む罠は、2019年5月にランド社によって作成された「過度に拡張し、バランスを崩すロシア」と題された機密報告で暴露されている。主に国防総省、米陸軍、空軍から資金提供を受けているシンクタンクである RANDコーポレーションは、リークされたレポートの中で、第一に、「ロシアは攻撃されるべきであり、その最も脆弱な点である、その経済を支える石油とガスの輸出である」と指摘、この目的のために、「金融および商業制裁を適用しなければならず、同時にヨーロッパ諸国はロシアのガスの輸入を減らし、米国が供給した液化天然ガスに置き換えるようにしなければならない」. 「ウクライナに致命的な援助を提供することは、ロシアの脆弱性を悪用し、より大きな紛争につながることなくロシアに害を及ぼすように調整された、戦争のために多額の費用を支払うことを強制することになる」とあからさまに、その目的を述べている。しかし、この時点では、ランドが思い描いたようにユーロ諸国やロシアが乗ってこないことに当惑し、失望していたのであるが、
 2022年1月25日付けの機密扱いの研究報告書(Rand Executive Summary)では、「ドイツを弱め、アメリカを強くする」というタイトルで、米国経済が崩壊の危機に瀕しているが、ウクライナ紛争にロシアとヨーロッパを巻き込む努力によって、ドイツが数千億ユーロの損失を出し、経済の崩壊、GDPの減少を引き起こし、最終的にはEU経済も総崩れになると予測、すべてのヨーロッパの通貨は有害で、ドルよりもはるかに望ましくないものとなり、必然的にアメリカ経済が強化され、アメリカが最も有利な国として再位置づけされることになる、と予測している。
事態は、このランド社の予測通りに進んだかに見えたのであるが、事態はそう甘くはないし、彼らの期待と予

測は完全に裏切られているのである。
2023年1月のランド研究所による新しい長文の報告書(長期戦の回避 Avoiding a Long War)は、米国側がウクライナ危機のエスカレーションを続ければ「悲惨なことになりかねない」という結論を主張し始めているのである。
現在は、ウクライナにおいて「米国の利益は長引く紛争を避けることによって最も良くなる」、「長い戦争のコストとリスクは・・・考えられる利益を上回る」と論じ、「紛争を長引かせること自体が危険である」と結論付けている。クライナがロシアの支配下にある領土を奪還することは、米国の計画に関連するべきではないと主張し、「メリットはほとんどなく、コストが高くなり、戦争を長引かせることは、米国にいくらかの利益をもたらすとしても、それにはさらに多くのリスクとコストが伴う」とまで警告しているのである。以前とはまるで逆の主張に転換せざるを得ない事態に追い込まれている、と言えよう。

しかし、バイデン政権はこのランドの警告に耳を傾けられるような状態ではなく、さらに危険なエスカレートに突き進む可能性の方が大であろう。ドルの優位性が、このウクライナ危機を激化させたことによって、劇的に低下し始め、日本を含むG7やNATO諸国以外はどんどんドル離れに移行、ペトロダラーはもちろん、ドル覇権の低下は今や回復しがたい段階に突き進みつつある。バイデン政権は、自らアメリカの政治的経済的危機を招き、激化させているのである。誤算ではあるが、対ロシア・対中国の危険な戦争挑発エスカレーションが、バイデン政権の政治生命延長の支柱となってしまっているのである。しかし、誤算には、大衆的支持基盤は維持できるものではないし、離反する一方であり、政権基盤は弱体化せざるをえない。この事態を打開させるものは、有害無益な戦争行為とエスカレーションを停止させ、ウクライナ危機の平和的解決に向かわせる、あらゆる広範かつ強大な平和の力の結集以外にないと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】ミハイル・ゴルバチョフと米原万里

【投稿】ミハイル・ゴルバチョフと米原万里

                         福井 杉本達也

1 ロシア語を締め出すウクライナと日本

ウクライナでは2019年に「国家言語としてのウクライナ語の利用を保証する法律」が採択された。2021年には販売、飲食、運送でウクライナ語の使用が義務づけられた。…違反すると320ドルの罰金が科される。キエフの学校では政令で2022年9月以降、ロシア語による教育が禁止された。7月、ロシア人アーティストの曲の放送を禁止する法律が成立した(日経:2022.11.29)。昨年12月開催されたウクライナ国立歌劇場バレエ団の日本公演では、人気作品が上演されない事態となった。初日の17日は横浜市での公演は、近世のスペインを舞台にした演目「ドン・キホーテ」を上演した。大前仁氏は「チャイコフスキーを『排除』し、『白鳥の湖』も『くるみ割り人形』もないバレエ――。観客を納得させることはできるだろうか。」と書いている(毎日:2022.12.25)。

ヨーロッパにおいても「著名な指揮者でサンクトペテルブルク・マリインスキ劇場の芸術総監督であるワレリ・ゲルギエフは、侵攻が始まって以降の欧米での指揮が相次いでキャンセルになった。ミュンヘン・フィル首席指揮者などのポストも失った。プーチン政権と親密」だという理由である。また、英国の猷劇場ロイヤル・オペラハウスも、2022年夏のポリショイ・バレエの招へいを中止した(日経:2022.3.7)。

日本はどうであろうか。政府は2022年3月31日、ウクライナの首都「キエフ」の表記をウクライナ語の発音に近い「キーウ」に変更するとした。同時に、原発事故を起こした「チェルノブイリ」を「チョルノービリ」とするとしたが(日経:2022.2.1)、こちらは原発事故の記憶があまりにも大きく、浸透はしていないようである。

極めつけはNHKのEテレで長年放送されていたロシア語講座「ロシアゴスキー」(「テレビでロシア語」の後継番組)が2022年3月で終了したことである。ウクライナ侵攻以前から番組終了が決定していたとのことではあるが、ロシア文化・ロシア語教育にとっての「致命的な打撃」である。もちろんラジオでの「まいにちロシア語」は継続されているが、文化の理解という観点からはテレビという映像媒体の影響は計り知れない。ロシア各都市の美しい街並みや、おいしそうなロシア料理・音楽演奏など、紙媒体では得られないものが多々あった。今のNHKが「公共放送」という概念から、「政府のプロパガンダ機関」に成り下がっていることを如実に示すものである。

2 米原万里氏のこと

1979年末にソ連はアフガニスタンに侵攻する。それ以降、日本においてはソ連の評判は地に落ちた。1980年夏のモスクワオリンピックを西側諸国はボイコットした。そのような中で、1981年、たまたま暇な時期ができた。背広とネクタイではなくTシャツとジーパンで過ごした。もちろん、5時以降は全くのフリーであった。折角のチャンスに何かをしようという気になり、世田谷区の小田急線経堂の日ソ学院(現東京ロシア語学院)に通う。ロシア語の人気は最低で、受講者は、1年後にソ連に派遣されるという経団連職員の某氏と女性が2人、そして私のたった4人であった。その講師が故米原万里氏である。ある日、万里氏の父親が亡くなったので、今日は代理しますと男性の講師が入ってきた。そこで、万里氏の父親が元日本共産党の衆議院議員であった米原昶氏であることを知った。米原昶氏は日本共産党から1960年代にチェコにあった各国共産党の理論情報誌『平和と社会主義の諸問題』編集委員として赴任したため、家族でプラハに移り住み、外国共産党幹部子弟専用のソ連大使館付属学校に通い、ロシア語を学び、ネイティブのロシア語を身に着けた。イタリア料理研究家で作家井上ひさし氏の妻・井上ユリ氏は万里氏の妹であり、万里氏と一緒に付属学校に通った。

講義は欠席も多く、万里氏と私が1対1という日もあった。当時は私も暇だったが、通訳駆け出しの万里氏も、それほど忙しくはなかった。受講者たちとよく、経堂駅前の寿司屋などに立ち寄った。万里氏はよく熱燗を飲んだような気がする(井上ユリ氏の『姉・米原万里』(2016.5.15)によれば、「飲まない万里のまっ茶な真実」と書いているが)。動物のメスは良い子孫を残すために相手を選ぶが、オスは繁殖にためにともかくメスに種付けまわる、といった、後々のエッセー集のネタとなるような話題もあった。別の日に、六本木のディスコや新宿の四川料理店などにも出かけた。

数年後、万里氏が突然テレビの画面に現れた。1985年ジュネーブで米ソ首脳会談が開催されるが、万里氏はソ連のゴルバチョフ書記長の会見の同時通訳を務めていた。ゴルバチョフ書記長が「ペレストロイカ」を打ち出したことで、万里氏の通訳の仕事は急激に増え、「過労死するほど働いた」という。

3 ミハイル・ゴルバチョフ自伝『我が人生』について

ミハイル・ゴルバチョフソ連書記長(ソ連大統領)は2022年8月30日に死亡した。1985年11月、レーガン米大統領とゴルバチョフ書記長はジュネーブで会談した。既にソ連は全面的核実験停止の交渉を再開することを表明し、一方的にすべての核実験を停止していた。会談では2人は「核戦争は許されない。核戦争は決して起こしてはならず、そこに勝者はいない、という認識」を持った(ゴルバチョフ:『我が人生』2022.8.10)。それまで、レーガン政権は、ソ連の脅威を強調すると共に、「アメリカや同盟国に届く前にミサイルを迎撃」し、「核兵器を時代遅れにする」手段の開発を呼びかける、いわゆる「スター・ウオーズ計画」を提唱した。これは、それまでの核の均衡は相互確証破壊(MAD)を根本から修正すもので、核兵器が実際に使われる恐れが非常に高まっていた時期であり、特にヨーロッパにおいて使

われることが危惧されており、会談での合意は世界中で新しい時代が到来すると歓迎された。

1986年10月のレイキャビック会談では「核実験を完全かつ最終的に禁止する本格的な条約締結への道を提案しよう…私たちは解決への枠組みをほぼ見つけるところまで来ていた」と書いた(ゴルバチョフ:同上)。しかし、その後の展開はゴルバチョフの楽観論を打ち砕いた。

4 相互確証破壊(MAD)とウクライナ戦争

ランド研究所の軍事歴史家、バーナード・プロディは広島への原爆投下を受けて次のように書いた。「従来は軍事体制が掲げる最大の目的は戦争に勝つことだった。これからは戦争を回避することが最大の目的となる。これ以外に有益な目的はほとんど見当たらない」・「報復を恐れなければならないとすれば、先制攻撃を仕掛ける意味はない」と(『ランド世界を支配した研究所』アレックス・アベラ著:2008.10.30)。「核兵器の使用を考慮に入れなければならない戦争は、もはやいずれか一方の勝利という結果をもたらさず、戦争当事国(同盟国を含む。)すべての破滅を招致するということ、つまり勝者はなく全員が敗者となること、したがって戦争はもはや『政治の継続・延長』としての手段(選択しうる政策の一つという位置づけ)ではあり得なくなったことが認識されるに至った」(浅井基文2011,7.3)。

これを、1965年、「相互確証破壊」(Mutual Assured Destruction, MAD)として打ち出したのが、ロバート・マクナマラ米国防長官である。核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し先制的に核兵器を使用した場合、もう一方の国家は破壊を免れた核戦力によって確実に報復することを保証する。これにより、先に核攻撃を行った国も相手の核兵器によって甚大な被害を受けることになる。

しかし、その後も米国は先制攻撃への誘惑にかられ続け、ソ連もそれに対抗し、膨大な核兵器が米ソ両国に蓄積された。ゴルバチョフは上記『我が人生』において、「その水準は驚愕すべきものだった。ソ連も米国も、互いに何度も全滅させられるだけの力を持ったのである」と。そして、ジュネーブ会談が行われる。「核の世紀には新しい思考が必要だ。そして何よりもそれは、米国とソ連にとって必要だった」と書いている(ゴルバチョフ:同上)。

2019年2月トランプ政権は中距離核戦力(INF)廃棄条約の破棄を通告した。ロシアと米国の間で唯一効力を持っている新戦略兵器削減条約(新START)は2026年2月4日に失効する予定である。「ロシア外務省のセルゲイ・リャブコフ次官は、露米間の新戦略兵器削減条約(新START)の失敗には無念さを覚えるものの、条約に米国を『無理に』とどめようとは思わないとの声明を表した」(Sputnik:2023.1.27)。

ウクライナ戦争において、ロシアが戦術兵器を使う可能性について、米国は絶対に回避しなければならない大惨事として捉えるより、ロシアを国際的無法者に仕立て上げるチャンスだと見なしている。核兵器が使われるとしても、ウクライナ限り、せいぜい欧州までという誤った前提に立っている(ロシアの世界経済国際関係研究所主席研究員:トレーニン:浅井基文訳:2022.10.20)。ウクライナ軍によるザボロジェ原発への執拗な攻撃も同様の誤った前提に立っている。ゴルバチョフ書記長とレーガン大統領とのジュネーブ会談から37年、我々はまた核戦争の危機に直面している。

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【投稿】日本の先制攻撃への抑止力強化を

岸田政権は、この間の国際情勢を口実として戦後再軍備以来の軍拡を進めている。
昨年末、安保3文書が改定された。その内容は、中国を主要な仮想敵国と位置づけ、高性能の兵器を調達し戦争準備を進めるという、中期的な軍事ドクトリンとなっている。
安倍政権下で策定された「戦争法」は骨格であったが、今回の3文書は、それに肉付けをするものといってもよかろう。

周辺有事は台湾有事として具体化し、中国の台湾侵攻が発生すれば自動的に日本が参戦する可能性が極めて高くなっている。
先日アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)が日米台と中国間の武力衝突に関するシミュレーションを公表した。それによると中国の台湾侵攻は失敗するものの、日米台にも甚大な損害が生じる結果が導き出された。

この中では様々なシナリオが検討されたといわれているが、それらは中国の侵攻が前提で、日米台は反撃することとなっている。
しかし、この間日本政府が掲げる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」論を考慮すれば違ったシナリオが見えてくる。

過去の日清、日露、日中、そして日米戦争のいずれも日本の先制攻撃によって戦端が開かれた。当時の清国、帝政ロシア、アメリカは日本を上回る軍備を保有していたが抑止力にはならなかった。

これを教訓として日本国憲法および第9条が制定されたわけであるが、今回の安保3文章により事実上「国権の発動たる戦争」抑止の箍は緩んだ。
先の日米首脳会談でバイデンは「背に腹はかえられない」とばかりにこれを追認したわけであるが、真珠湾攻撃も忘れてしまったのだろう。

中国国内での動員が確認された時点での長距離ミサイルによる攻撃は、「反撃能力(敵基地攻撃能力)」論上では「日本に対する武力攻撃の着手」と強引に見なせば可能だが、さすがに現実性は低い。

最も危惧されるのは、中国軍の台湾に対する経空攻撃に続く中国揚陸部隊への攻撃であろう。水上部隊への攻撃は、陸上の目標に比べ周囲の民間施設への被害を考慮しなくてよい分「反撃能力」行使へのハードルは低い。

毎日新聞の連載企画「平和国家はどこへ」によれば、自衛隊、防衛省幹部が当時の安倍総理に「中国に勝てるのか」と尋ねられた時、皆無言であったというエピソードが紹介されていた。中国の脅威を口実に軍拡を進めているにもかかわらず、見通しを示せないというのは「中国は広うございまして」と昭和天皇に弁明した戦前の軍部を彷彿とさせる。

今回の「岸田軍拡」により戦力が向上したにもかかわらず、またもや「自信なし」では済まされないだろう。「勝利」を印象づけるには先制攻撃が効果的であり、選択肢は狭まっていくだろう。

海上自衛隊幹部学校は研修会講師として曰く付きの右派論客を招聘し偏向教育を進めている。 幹部学校のHPによれば「上級の部隊指揮官又は幕僚としての職務を遂行するに必要な知識及び技能を修得させるための教育訓練」と正当化している。

日清開戦の二日前、巡洋艦乗組みの大尉が「当局者は弱腰だ、今回も戦になるかどうかわからない。しかし、いくら当局者が弱腰でも、一発ポンとブッ放したらそれまでだ。俺は明日支那の船に出会ったら最後、一発ブッ放す」と放言したという。(「海戦から見た日清戦争」戸高一成、角川書店)

この逸話の落ちは「当局者(艦長)」の方がよほど好戦的であったというものである。しかしそれにもまして明治政府の開戦決意は強固であり、現場の雰囲気はそれを反映したものに過ぎないということである。

今後政府と自衛隊の危険なシンクロはますますんでいく傾向にある。それらが高性能な兵器を持てば、緊張はさらに激化するというものである。内に向けた抑止力の強化が求められているのである。(大阪O)

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【投稿】「理念としての欧州」は、もたない―「普遍的価値」への疑問ー

【投稿】「理念としての欧州」は、もたない―「普遍的価値」への疑問―

                             福井 杉本達也

1 「普遍的価値」への疑問―「理念としての欧州」はもう、もたない

岸田首相は1月4日の年頭記者会見において、「ロシアのウクライナ侵略という暴挙によって国際秩序が大きく揺らぐ中で、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を守り抜く」と述べた(2023.1.4)。また、1月12日の日本・カナダ共同記者会見においても、「日本とカナダの関係は著しく深化しています。両国は、自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的な価値を共有する」と述べ(2023.1.12)再度、「普遍的価値」に言及した。さらに、1月13日の日米首脳会談でも、「両首脳は、自由で開かれたインド太平洋と平和で繁栄した世界という共通のビジョンに根ざし、法の支配を含む共通の価値に導かれた、前例のない日米協力を改めて確認」したと、「共通の価値」を強調した。

しかし、この「普遍的価値」は自明のことであろうか。哲学者の中島隆博氏は「分断のいま『普遍』を鍛え直す」と題して、「ウクライナ戦争、難民問題、温暖化、資本主義のゆくえ、極右勢力の台頭、来たるべき民主主義など多彩な話題が俎上(そじょう)にのぼる中で感じたのは、欧州の人々の強い危機感である。自由と平等、人権や民主主義、平和構築や正義など、『普遍』とされてきた理念が様々なかたちで試練に遭っている。難民問題にしても、ロシアへの対応にしても、高邁(こうまい)な理想と現実のあいだのダブルスタンダードの存在や、矛盾と欺瞞(ぎまん)が指摘され…「『理念としての欧州』は、もう、もたない」との声さえあった。」(朝日:2023.1.10)と書く。

2 『西側』の「普遍主義」に対抗するプーチン大統領のヴアルダイ会議演説

プチーン大統領は10月27日、モスクワ郊外で行われたヴアルダイ会議での演説において、「伝統的な価値観は、すべての人が守らなければならない固定的な決まり事ではありません…伝統的な価値観は誰かに押し付けるものではなく、それぞれの国が何世紀にもわたって選択してきたものを大切にするものでなければならないのです」。「私たちは皆の意見を聞きあらゆる視点、国家、社会、文化、世界観、思想、宗教的信念の体系を考慮に入れ、誰にも1つの真実を押し付けることなく、ただこの基盤の上に、運命、すなわち国家、地球の運命に対する責任を理解し人類文明のシンフォニーを構築しなければならないのです。」(ロシア大統領府HP:2022.10.27:佐藤優訳『東洋経済』2022.12.3)と述べた。佐藤優氏の要約では、プーチン氏は「単一のルール(自由、民主主義、市場経済)を掲げる米国の普遍主義に対抗する原理」を主張したのである(佐藤優『東洋経済』上記)。

3 『西洋文明』だけを「普遍的な標準」だとする大澤真幸

哲学者の大澤真幸氏は、文明の衝突は「諸文明が対等で横並びであることを前提にしている」という建前であるが、実際にはそうではないとし、「すべての文明が平等に尊重されているわけではない」とする。「諸文明の中でひとつだけが特権化され…普遍的な標準としての地位を有している」文明=「西洋文明だけが、文明間の競争・闘争のための場を与える普遍的な標準として機能している」と書き、「プーチン=ロシアのウクライナへの軍事侵攻が含意していることは、この暗黙のルール拒否」であり、「ヨーロッパへの帰属を望むウクライナへの軍事力の行使は、西洋文明を受け入れ、前提とした上での競争や葛藤処理という方法そのものを拒絶」であるとし、プーチン=ロシアの西側(ヨーロッパ)への羨望=ルサンチマンにあるとの分析をしている(大澤真幸『この世界の問い方―普遍的な正義と資本主義の行方』2022.11.30)。

その価値観こそが、「リベラル・デモクラシー」であるとする。しかし、なぜ、それが標準となっているのか。大澤氏は明確に答えていない。「単純である。その倫理的な優位性が認められているから…リベラル・デモクラシーが普遍的に妥当し、受け入れられる公正な規範だと承認されているからだ」という(大澤:同上)大澤氏の回答は自らを価値尺度であるとする「西側」の優越的な観点に立つ誤魔化しである。

4 「グローバルサウス」に「偽善」を押し付ける大澤氏

大澤氏はロシアのウクライナ侵攻に対して、国連総会の緊急特別会合で反対した国が5か国、棄権した国が35か国もある、「どうして、かくも多くの国が、ロシアを非難する決議案に、賛成票を投じなかったのか?」と自問自答し、「ロシアを非難する西側諸国の“偽善性”にある」との結論を導き出す。

アメリカをはじめとする西側がやってきたことは、「『西側』に象徴される理念に反すること、まさにその正反対のことを、いわゆる『グローバルサウス(第三世界)に属する諸国』に対して行ってきた…植民地化し、また経済的に搾取してきた…掲げている理念とは真逆の仕方で自分たちを搾取してきた(搾取している)連中を、積極的に応援する気にはなれない」(大澤:同上)ことだと、ようやく「西側」の「偽善性」を認める。

しかし、大澤氏が悪質なのは、「しかし、どっちもどっち、ということにはならない。西側の方がはるかによい。西側の方がはるかに正義に近い位置にいる。われわれは西側の方を全力で支援すべきである」とする。どうして、西側が正義に近いのかさっぱり不明でる。そこで続けて大澤氏は、なぜかといえば、「偽善が生じるのは、誰にも適用されるような倫理の普遍的基準がある場合である。そのような基準を前提として認めているのに、一部の人に対して、それが適用されなかったとき、偽善が生じる」としつつ、自らのおかしな論理を無理やり正当化するため、「しかし、偽善には希望がある。偽善は、まさにそれを偽善とみなす基準に依拠して克服することができるからである。偽善をなす者は、自らがかかげ、引き受けている倫理的な基準に反していることを、自ら自覚できる」。他者から指摘されたとき「悪いことであると認識し、自らの行いを恥じる」ことができる(大澤:同上)。「普遍的基準」を持つ西洋だけにはそれができるが、「西側」の「周辺」であり、「普遍的基準」の埒外にあるロシアにはそれができないとする、大澤氏の論理は全く破綻している。「西側」が「倫理的な基準に反していることを、自ら自覚できる」ならば、そのような行為を犯す(し続ける)はずはない。「普遍的基準」が「普遍」ではないか、「『西側』に象徴される理念」とやらを力(軍事力・経済力・イデオロギー)で無理やりグローバルサウスなどの「周辺」に押し付けているか、あるいはむしろ両方である。

5 欧州起源の人間中心主義の再考

エマニュエル・トッドは『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』(2022.10.30:文藝春秋)において、西洋が唯一絶対の「進んだ」社会だという通説を否定する。例えば女性のステータスが低い「非西洋」社会は遅れているのではない、酉洋こそが「周縁」に他ならないとする。「誤った歴史ビジョンに錨を下ろしていると、われわれは現在をデタラメに捉え、そのデタラメさによって無理解、不寛容、暴力を生み出してしまう」と書いている。

また、中島氏は「欧州起源の人間中心主義は再考が必要だ。理性に根差した自立した個人という強い概念は、近代の神話ではないのか。人間はもっと不完全で弱い存在であり、公正な世界実現のために連帯しなければならない」。「文化の固有性という罠から出て、普遍化の努力を続けること。それはあらかじめ、これが普遍だと定義することとは異なる。人権にしても、初めから普遍だったわけではなく、時代とともに変容したからこそ、鍛えられたのだ。他者の声に耳を澄ませ、議論を下から積み上げる水平的なやり方が求められる」と説く(中島:同上)。

一方、佐藤優氏は「西側のリベラリズムは同質のアトム(原子)的個体によって構成されている単一の普遍的世界なので、そこでは単一のルールが適用される。経済的には新自由主義的な市場万能思想であり、政治的には自由主義的な民主主義だ。これとは異なる原理を西側が理解しようとしないゆえに、ロシアとの対立が生じている」とする、ヴアルダイ会議におけるプーチン氏の論理を整理している(「プーチン氏は西側に文化闘争を仕掛け、勝利を確信している」佐藤優:『東洋経済』2022.11.26)

西谷修氏は「民主主義や人権を自己の専売特許と振りかざして『自由』と同じようにそれを他者に押しつけるのではなく、むしろそれを奪われてきた人びとや国々が自分たちのものとして『西側』(西洋白人)に要求するのを認めるときに、それは初めて普遍的なものとなる」と述べる(西谷修「交錯する『二つの西洋』と日本の『脱亜入欧』」『世界』2023.1)。

「西側の理念」について、統計学者の竹内啓氏は、「個人をいわば社会を構成する基本的な『実体』として捉える「人間社会の基本的な単位は、いわばその構成原子としての『個人』であり、そうしてそのような『個人』は本質的に対等なものとされる。『個人』はお互いに絶対的に独立なものとされ、個人と個人の間は、形式的なルールによってのみ規制されるべきものと考えられる。個人を越えた共同体の実体的存在やそれ自体としての価値は否定される」(竹内啓『近代合理主義の光と影』新曜社1979.5.25)と書いているが、「数量的合理性に貫かれた『計画』の重視」・「建て前としての民主主義と個人の尊重」・「『科学』の尊重と反宗教」を含めて、16・17世紀以降の「西側」で生まれた「近代的合理主義」そのものを再考しなければならない時代にある。

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【投稿】より一層深化する経済恐慌--経済危機論(100)

<<インフレ率6.5%を祝う?>>
1/12、米労働統計局(BLS)は新たな物価上昇率のデータを発表、12月の消費者物価指数(CPI)インフレ率は前年同月比6.5%上昇であった。早速、官庁エコノミストやバイデン政権当局者や大手マスコミは、昨夏のピーク時の8.5%から約2%ダウンしていることから、「インフレ率6.5%を祝う」かの報道である。バイデン政権は物価上昇を表現するのに、”fall “あるいは “falling “という言葉を繰り返し使って、あたかもインフレ率が下落”fall “し、コントロールに成功しているかの如く強弁している。
FRB・中央銀行の度重なる金利の上昇政策は、新たな住宅暴落を引き起こし、テクノロジー産業を押しつぶし、大不況以来最大のレイオフの波を引き起こし、経済不況をを深化させれば、物価が抑えられるのは当然なのである。
 しかもこのインフレの実態は、かつての安倍政権の原発「アンダー・コンロール」=虚言と同じく、「制御下」とは程遠いものである。FRBが任意に設定したインフレ目標値2%を、20ヶ月連続上回っており、なおかつ物価上昇率6.0%を上回るのは15ヶ月連続なのである。まったく「制御」できていないのである。前月比のインフレ率は5ヶ月ぶりに低下し、CPIは11月から12月にかけて0.1%低下したのであるが、その12月の前年比伸び率は、1990年代、2000年代、2010年代のどの月の物価上昇率をも上回っている。
 さらに、いわゆるコア・インフレ(CPIから食品とエネルギーを除いたもの)は、9月に記録した40年ぶりの高水準からほとんど低下していない。12月のコア・インフレ率は前年比5.7%であった。これは、11月の5.9%からわずかに低下しているにすぎない。この指標の前月比上昇率は、11月から12月にかけてもプラスで、前月比の伸びは、2020年5月以降、すべての月でプラスとなっている。つまりは、衣食住とエネルギーを含めて、すべて、まだ勢いよく上昇しているのが実態なのである。
実質インフレ率は、公表インフレ率よりもはるかに高く、インフレ率の計算方法が 1980年以降、20回以上も変更され、変更されるたびに、実際よりも低く見せており、インフレ率が 1980年当時と同じように計算されれば、現在の実質インフレ率は15%近くになり、この数字こそがインフレの実態なのである(上図)。不況進行下で、下がるはずが、依然として高インフレ環境にあることは間違いない。

<<「世界同時不況の可能性」>>
この高インフレを相殺すべき、実質賃金の低下は、実に21ヶ月間連続の減少である。それでも、パウエルFRB議長はさらに賃金引き下げを公言しており、米下院議会多数派となった共和党に便乗して、バイデン政権と米国議会は「超党派で」、社会保障とその他の給付をさらに削減する緊縮政策が目白押しとなっている。
 実質賃金は、1982年以降、年平均4%以上の下落を記録している。1982年以降のインフレ率208.8%の上昇に対し、1982年以降の名目賃金は、米国の下位90%の世帯で29%しか上昇していないが、一方、1982年以降、上位1%の世帯の所得は206%、上位0.1%の世帯の所得は465%上昇している。まさにこの格差拡大は、弱肉強食、自由競争原理主義、強欲資本主義・新自由主義政策の結果がもたらしてきた、惨憺たる経済実態の象徴である。

1/12 ニューヨークの7000人の看護師が3日間のストライキの後、暫定的な合意で「歴史的勝利」を獲得。実質賃金の低下と過労と疲弊で

、2019年以降、50万人が離職している看護師たちの闘いは、これから起こるであろう多くのストライキの最初の一歩に過ぎない、と言えよう。

この実質賃金の低下は、限度額一杯のクレジットカード、度重なる金利上昇で、焦げ付きが増大し始めたことが明らかになっている。

1/13、米銀大手(JPモルガン、バンカメ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴ)4行が2022年12月期決算を発表、その中で、住宅ローンや自動車ローンの需要は急速に鈍化、バンカメでは10~12月期の住宅ローンの新規組成が前年同期比8割減少、ウェルズ・ファーゴの自動車ローン組成も半減、各行とも貸倒引当金を積み増し、回収困難な与信費用の計上が、22年12月期に4行合計で157億ドル(約2兆円)となったのである。景気後退入りに、各行とも貸倒引当金を積み増したのであるが、それでも、FRBの利上げによる利ザヤ拡大・純金利収入の増加によりJPモルガンやバンカメは最終増益を確保している。踏みにじられるのは庶民なのである。

1/12付け日経新聞「世界同時不況の可能性」で、ハーバード大教授のカーメン・ラインハート氏は、「世界同時不況が来ると予想しますか」との問いに対し、「可能性は非常に高い。家計負債は80年代前半のほぼ2倍、あらゆる種類のリスクが顕在化している。リスクを過小評価するのはあまりいい考えではない。」と語っている。

こうした事態は、より一層深化する政治的経済的危機・経済恐慌の反映と言えよう。
米、英、EU、日本などG7諸国の危険な対ロシア・対中国緊張激化・挑発政策が、経済恐慌をより一層深化させているのである。先ずは一刻も早く、ウクライナ危機の解決に向けた外交交渉こそが優先されるべきである。
(生駒 敬)

 

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【投稿】なぜ物価は上がるが賃金が上がらないのか

【投稿】なぜ物価は上がるが賃金が上がらないのか

                           福井 杉本達也

1 実質賃金が3.8%も低下

厚生労働省の1月6日発表の毎月勤労統計調査よると、2022年11月の1人あたりの実質賃金は前年同月比で3・8%も減った。過去最大の減少幅で、実質賃金の水準も最低に沈んだ。消費者心理を冷やし、個人消費には逆風となる(日経:2023.1.7)。岸田首相は1月4日の年頭記者会見では、「この30年間、企業収益が伸びても想定されたトリクルダウンは起きなかった。この問題に終止符を打ち。賃金が毎年伸びる構造をつくる。23年春闘で連合は5%程度の賃上げを求めている。ぜひインフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい。」とようやくトリクルダウン理論の大ウソと賃上げしかないことを認めたが(日経:2023.1.5)、「インフレは昨年来、予測を上回るペースで進んでいる。物価上昇が長引けば、政府が求めるハードルは高くなる」(日経・上記1.7)。

2 労働運動を「マクロ経済を守る守護神」としてしまった宮田義二鉄鋼労連委員長

なぜ、物価が上昇し、実質賃金が3.8%も低下しているのに賃金は上がらないのか。濱口桂一郎氏は、その理由を、オイルショックによる狂乱物価の中、1974年春闘では、32.9%という空前の賃上率を実現したが、当時の福田政権から過度な賃上げがコストプッシュ・インフレを生み出しているとして『所得政策』を求められた宮田義二鉄鋼労連(現連合:IMF・JC)委員長は「賃上げを控える」として、「その後の日本の労働運動をインフレからマクロ経済を守る守護神という位置に縛り付けてしまった」からであるとする(濱口「日本の賃金が上がらないのは『美徳の不幸』ゆえか? 」(『世界』2023年1月号)。「労働組合が自らの独善的利益よりも優先して、世間常識的に正しいこと、美徳とされるようなことを、率先垂範してきたことが、結果的に賃上げできなくなってしまった最大の要因なんではないか、」「オイルショックで狂乱物価になっているのに、労働組合がそれを取り戻そうとして大幅賃上げを要求して勝ち取ったりしたら、ますますインフレが昂進して、賃金と物価のスパイラルがとめどなく進行する。だから、ここは労働組合がマクロ経済のためにあえて本来やれるはずの賃上げを要求しない。それによって物価を沈静させることが天下国家のためになるんだ。」、「マクロ経済のために自分たちの局部的利益を捨てて天下国家に奉仕」したことであると書いている(濱口:hamachanブログ:2022.12.22)。

3 「美徳の不幸」の第二幕―山岸連合会長の「物価引下げ」要望

濱口氏のブログはさらに続けて、1990年の山岸章連合会長が日経連(現経団連に合併)と連名で出した「内外価格差解消・物価引下げに関する要望」にふれ、「消費者の利益こそが一番大事だ。物価が高いことが一番悪いことだ。労働者も一面消費者なんだから、企業と一緒になって、物価の引下げに粉骨砕身しようという、これは今から30年ほど前の連合の運動です。」「日本の物価が高すぎることが諸悪の根源であって、物価を引き下げれば世の中万事うまく廻るようになるという思想」「これこそまさに『虚偽意識』という意味で、その後の30年間の日本社会を呪縛してきた『イデオロギー』そのものというべきでしょう。」と述べている(濱野ブログ:上記)。その後の失われた30年は、この「物価引下げ⇒実質所得向上⇒経済成長」というもっともらしい経済理論は「100%ウソであったことを証明している。名目賃金も実質賃金も下がり続け、…企業の研究開発や設備投資も欧米どころか中国など他のアジア諸国にも見劣りする水準にまでで後退し、これら全てが日本の経済力の劇的な引下げに大きく貢献してきたことは明らかであろう。よくぞこんなパラ色の未来図を白々しくも描けたものである。日本の労働者の『美徳の不幸』第二幕と評すべきであろうか。」と酷評している(濱口:『世界』上記)。

4 産業別最低賃金(特定最低賃金)を使った横断的な産業別賃金交渉

1月7日の日経新聞では「マック、8割商品値上げ、ハンバーガーは150―170円」・「雪印メグミルク再値上げ」との見出しが躍る。渡辺努氏によると、商品の値上がり率は2022年12月時点で6%くらいどんどん上がる状況がうかがえる。消費者は物価上昇は仕方ないと考えるようになってきたことを企業が認識し、また、値上げする品目も増えている。デフレで据え置きになっていた品目も上昇してきた。いままでは物価が上がらなかったので、賃金がそのままでも生活が困ることはなかった。しかし、物価高が進む中では賃上げに生活がかかっており、労働組合には腰が据わった強い態度を求められると書いた(渡辺努:「世界的インフレ続く、日本も2%超。物価高を賃上げにつなげられるかが鍵」楽天証券『トウシル』2023.1.6)。

渡辺氏は、日本はこれまで名目賃金(実際に支払われる賃金の額。これと別に名目賃金から物価変動を考慮し算出した実質賃金がある)が全然上がってこなかった。欧米は物価も上がっていますが、賃金も上がっている。」「欧州、特に英国は生産性が向上していなくても物価も賃金も上がっている。日本もそうしたメカニズムを少し導入して、価格転嫁と賃上げがぐるぐる回るサイクルを作って」いけるかと述べている(渡辺:同上)。

今日、日本では労働組合のストライキは全くなく、欧米の労働者のストライキなどもほとんど報道されないが、2022年11月上旬Nurses across UK voted to strike!(英国看護師、一斉ストライキ突入へ!)という見出しが英国のメディアのトップニュースとなった。英国のNHS(National Health Service:国民保健サービス)の看護師として働くビネガー由希氏は「2010年代は英国の看護師が国によって翻弄され続けた10年間だった。リーマンショックの不況がまだ残る当時、国は看護師の2 years pay freeze(2年間の賃上げ凍結)を実行 し、その後5年間は毎年1%の賃上げにとどまった。この賃上げ率は英国の物価上昇に全く追い付いておらず、看護師の低収入化が進んでいった。2022年の今、英国では前年比 で10%以上のインフレが起きている。役職のない看護師にとって、今の給与では『普通の生活』が難しくなったのだ。」「to improve the working conditions(労働環境の改善)のためには看護師を増やす必要がある。そのためには『普通の生活ができる』程度の賃金は必要なのだ。ストライキに賛否両論があることは重々承知している。しかし現在のような、安全性に疑問が残るチームの人数では、看護師にとっても患者にとっても良い状態とは思えない。」と書いている(ビネガー由希:『日経メディカル』2022.12.14)。

しかし、日本の企業別労働組合が、個別企業相手に賃上げを求めても、企業は簡単に言うことを聞くはずはない。濱野氏は「『そんなに賃金を上げたら価格が高くなって消費者に買ってもらえない。他社の商品やサービスに流れてしまう』という反論は厳然たる事実であり、あるべき論で突破できるものではない。」として、そこで、横断的に「個別企業を超えてある産業の中で働く労働者の労働の価格の最低限を決め、それ未満の低賃金を禁止することで、その賃金が払えないような企業が低価格で商品やサービスを販売することを不可能とし、それなりの高価格での商品やサービスの購入を消費者に受け入れてもらうという筋道」をとるしかない。だが、現在は産業別労働組合の土俵のかけらも存在しない。そこで、各産業の普通の労働者の最低限を定める産業別最低賃金(特定最低賃金)を使って産業別賃金交渉を行い、土俵を個別企業から業界全体に変え、事業者同士ではできない賃金カルテルを、産業別最低賃金という形で行っていくことであると説く(濱口:『世界』同上)。

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【投稿】関電美浜3号機運転差し止めを認めず「原発60年超運転」を決定

【投稿】関電美浜3号機運転差し止めを認めず「原発60年超運転」を決定

                          福井 杉本達也

1 稼働40年超運転の関電美浜3号機の運転差し止め認めず

運転開始から40年を超えて稼働する国内唯一の関西電力美浜原発3号機について、大阪地裁(井上直哉裁判長)は12月20日、「安全性に問題なし」として運転の差し止めを認めない仮処分決定を出した。美浜3号は1976年に運転を開始した。2004年8月9日にはタービン建屋において、運転開始から1度も点検していなかった復水配管(二次系の大口径配管)が破断し、作業員5人が死亡、6人が負傷するという国内原発では当時としては最大規模の事故を引き起こした原発である。破損した配管は、点検リストから欠落し、中を流れる水の作用により徐々に薄くなって破損、約140℃の熱水と蒸気が噴出したものである(関西電力)。

このいわくつきの原発に対し、福島第一原発事故後の新規制基準にのっとり、関電は補強工事を実施し余裕を持って安全性を評価しているとして、耐震安全性は問題ないと判断した。また、40年を超える高経年化に対しては、規制蚕が運転延畏を認可しており「審査にも問題があるとは認められない」と指摘。基準で定める対策以上に「安全性を厳格、慎重に判断しなければならない事情はない」とした。避難計画についても「不備は認められない」と結論付けた。(福井:2022.12.21)。

2 原発の安全に関する「樋口ドクトリン」

原発の安全性については。2014年5月に関電大飯原発3、4号機の運転差し止めを命じる判決を下した樋口英明元福井地裁裁判長の「樋口ドクトリン」がある。(1)原発事故のもたらす被害は極めて甚大。(2)それ故に原発には高度の安全性が求められる。(3)地震大国日本において原発に高度の安全性があるということは、原発に高度の耐震性があるということに他ならない。(4)わが国の原発の耐震性は極めて低い。(5)よって、原発の運転は許されないというものである(樋口英明『私が原発を止めた理由』(旬報社))。

樋口氏は「地震大国の日本で原発の高い安全性を担保するのは、信頼できる強度な耐震性に尽きます。原発の耐震設計基準を「基準地震動」と呼び、施設に大きな影響を及ぼす恐れがある揺れを意味します。美浜3号機の基準地震動は993ガル(揺れの強さを示す加速度の単位)。しかし、この国では1000ガル以上の地震が過去20年間で17回も起きているのです。」とし、「美浜3号機の基準地震動は建設当時の405ガルからカサ上げされています。建物の耐震性は老朽化すれば衰えるのに、原発だけは時を経るにつれて耐震性が上がるとは不可思議です。電力会社は『コンピューターシミュレーションで確認できた』と言い張りますが、計算式や入力する数値でどうにでも変わる。」「日本の原発の基準地震動は、ほぼ600ガルから1000ガル程度です」。「改正後の建築基準法は一般住宅も震度6強から震度7にかけての地震に耐えられるよう義務づけています。ガルで言うと1500ガル程度の地震には耐えられます」。「つまり、原発の耐震性は信頼度も基準値も一般住宅より、はるかに劣るのです。『1000ガルを超える地震はいくらでも来ます』という動かしがたい事実に基づく判断こそが合理的であり、『真の科学』と言えます。」と述べている(樋口英明「耐震性に着目すれば全ての原発を止められる」『日刊ゲンダイ』2021.6.14)。

3 美浜3号が立地する若狭湾は地震の巣

美浜3号が立地するのは沈降海岸の若狭湾である。この辺りでは、日本列島は若狭湾と伊勢湾の存在で大きく括れ、日本最大の湖=琵琶湖が存在する「若狭湾-琵琶湖-伊勢湾沈降帯」が形成されている。この辺りはフィリピン海プレートの沈み込み角度が緩く、プレートに引きずられて深部へ持ち込まれるマントル 物質を補う「補償流」がコーナー奥まで入り込めない。結果質量欠損が生じて上盤の地殻が沈降する。フィリピン海プレートによる地殻変動で隆起域と沈降域が繰り返される。当然その境には断層が存在する。未確認なだけである。若狭湾での直下型地震は必ず起こる(巽好幸 Twitter 2022.12.2~22)。

地震学は観察不可、実験不可、資料なしの“三重苦”と言われており、予測はできない。「地震予知というのは、地震の場所、時期、規模を予想することであるが、電力会社の主張は、『強い地震が来ないことを予知できる』と言っていることにほかならない。わが国で地震の予知に成功したことは、一度もない(樋口:上記)。

原発の主要設備は放射能の影響が大きく、交換できない設備が多い。「45年前の家電を今も使いますか? 大量生産の家電は壊れても最新技術の製品に買い替えればいいけど、原発」は壊れたら終わりである(樋口:上記)。最重要設備の圧力容器は交換はできない。核燃料から発生した熱を取り出し蒸気を発生させ、タービンを回し、再び水にして圧力容器に戻す配管のほとんども交換できない。美浜3号の技術は50年以上前の技術である。設計も材料も部品も50年前の技術で作られている。主要設備は阪神大震災前の耐震評価で作られている。まして東日本大震災のような大規模地震の知見による評価は受けていない。単にコンピュータシミュレーションしただけである。しかも、金属もコンクリートも錆びたり、劣化したりする。新しい地震の知見に基づいて全部交換すれば莫大な費用がかかり原発の採算はとれない。劣化した設備の交換もできない40年超の原発を動かし続けるなど狂気の沙汰である。

美浜原発に入るには全長455mの丹生大橋を利用するが、地震で崩落した場合には、丹生湾を大きく迂回する必要があり、原発に重大事故が発生した場合の資材・人員の搬入に極めて大きな支障を伴う。しかも、半島ということもあり敷地内は狭く、美浜1・2号機の廃炉作業も行われており、下請け会社の作業棟や工事用仮設道路などでごった返しており、福島第一原発のような大規模な処理水や放射能汚染物質の置き場も確保できない、事故に対してはきわめて脆弱な施設である。2022年9月に、テロ対策となる「特定重大事故等対処施設」(特重施設)を完成したとしているが、万一、このような場所で重大事故がおきるならば、原発の制御は全くできず、福島第一原発事故のように運よく8割の放射能が太平洋に落下したというわけにはいかず、放射能のほとんどが中京・関西方面に落下し、日本列島が寸断されるという恐ろしい状況が出現することは目に見えている。

4 原発ムラと米国の要求で無理やり「原発60年超運転」を決定

福井新聞によると、政府は12月22日、「次世代型原発への建て替えや、運転期間60年超への延長を盛り込んだ脱炭素化に向げた基本方針を決定した。東京電力福島第一原発事故後、原発の依存度低減を掲げてきたが、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー危機などを背景に原発の最大限活用に政策を大きく転換する」と書いた(福井:2022.12.23)。

しかも、規制する側の原子力規制委と推進側の経産省との関係は、「軌を一にして規制委の変質が進む。3月、発足からのメンバーで、続投の見方もあった更田氏が9月に委員長を退き、山中伸介委員に交代する人事案が国会に示された。事務局の原子力規制庁も長官、次長、原子力規制技監のトップ3を初めて経産省出身者が占めた。」「独立性の確保を掲げて発足した制委が、経産省と二人三脚で制度改正を推し進める構図。規制委内からも『完全に失敗だった。推進と両輪でやっていると言われて仕方ない』との声が漏れる」「“重し”が取れた」と福井新聞も書かざるを得ないほどひどい状況である(福井:2022.12.22)。

米国はこの「60年超運転」の決定を歓迎している。エネルギー資源にない日本にとって、サハリン1.2などのロシア産の石油・ガスは生命線である。何としても、日本をロシアから離脱させるには、どんなに古い原発でも再稼働させる必要があると踏んでいる。GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で決定したというが、脱炭素とは何の関連もない。

 

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【投稿】インフレから不況への移行--経済危機論(99)

<<パウエル氏の逆立ちした論理>>
12/14 米連邦公開市場委員会(FOMC)は、3か月ごとに開かれる同委員会で政策金利の0.5%引き上げを発表した。今年の3月以降、4回連続で0.75%引き上げてきたことからすれば、金利引き上げ幅の減速に転じたとも言えよう。追随してきた欧州中銀(ECB)も0.5%に減速した。
急速な金利引き上げによる不況促進政策が、全世界的な景気後退と経済危機を招き、重大な岐路にさしかかっている証左でもある。
米中銀FRBのパウエル議長は同日、「物価の安定なくして堅調な労働市場は維持できない」、しかし「金融引き締めの完全な効果はまだ感じられない」、したがって「十分なインフレ抑制に向け、利上げ継続が適切」と述べ、現

赤=公式インフレ率に対して、青=1980年代と同じ計算方法による

状は、「米国経済は昨年に比べ大幅に減速」し、「住宅市場の活動が大幅に低下」し、「金利上昇は企業の設備投資にも重し」となっているが、「10、11月のインフレ率がき鈍化を示している」が、依然として「インフレリスクは上向き」であり、「現状に甘んじている余裕はない」と断言。「インフレが持続的に下向くと確信できるまで金利をピーク水準で維持する必要があるというのがFOMCの確固たる見解」であり、「インフレが持続的に下向いているとFOMCが確信するまで利下げを検討することはない」と述べ、まだまだ金利引き上げ・引き締め政策を継続することを明らかにしたのであった。

実質賃金の低下

パウエル氏がとりわけ問題視しているのが、「強い労働市場」である。「平均時給はほとんど下向いていない」と不平を公然と言い募り、「賃金がより正常な水準に落ち着くことを期待する」と賃下げを主張しているのである。インフレの犠牲者(名目賃金上昇にもかかわらず、実質賃金の低下)がインフレの原因であると主張する逆立ちした論理である。賃金とインフレの因果関係を逆転させて、これが大手マスコミではほとんど取り上げられず、平然とまかり通っているわけである。

民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は、FRBの決定は、「数百万人を失業させる」リスクがあると警告している。
パウエル氏は、毎月何十万もの雇用が創出され、米労働省の雇用調査による「強い労働市場」がその証拠であると言及し続けている。しかしこの言及も天に唾するものである。この労働省の雇用調査は、直近2回行われたのであるが、2回目の調査は、1回目より200万人以上少なくなっている。この200万人以上の減少は、最初の調査ではパートタイムとフルタイムの雇用を区別していなかったのに対し、2回目の調査では区別した結果であった。そこで明らかになっていることは、ほとんどの雇用はパートタイムで、フルタイムの雇用は逆に減少していたのである。ここまで現実をウソで塗り固めてでも、もっと失業者を増やし、賃下げを実現したいのである。

<<異なる二つの変動要因>>
当然、人員削減が正当化され、拡大するのは必至である。
すでに11月は、米テック業界では人員削減が最多となっている。11月までに8万人削減され、過去20年での最多を記録している。株価は、年初から、実に4割の下落である。アマゾン=1万人規模、メタ=1万1千人(全従業員の13%)、ツイッター=5000人(同、50%超)、オンライン決済大手ストライプ=1100人(同、14%)、配車大手リフト=1割削減、等々、人員削減が拡大している。
金融部門でも、モルガン・スタンレー=1600人(このほど実施)、ゴールドマン・サックス(GS)=すでに数百人削減しているが、202

赤=公表失業率と青=実際の失業率

3年1月に4000人削減実施予定である。GSは、22/7~9月期の純利益43%減で、ボーナス40%カットである。
フォード・モーター、ウォルマート、ペプシコなど、数千人規模の人員削減が他の業界にも波及している。
2022年11月の人員削減数は、 2021年11月よりも417%増加している。

こうしたFRBの不況促進政策に照応して、米株式市場は乱高下を繰り返しているが、今や傾向的に下落方向が鮮明になっている。
12/19の米国株式市場は続落。ダウ平均は162.92ドル安の32757.54ドル、ナスダックは159.38ポイント安の10546.03で取引を終了、4日連続の下落である。いくらかの反転はあれども、年間で2008年の金融危機以降最大の下げを記録する見通しとなっている。

そしてついにこれまで利上げを否定してきた日銀が、12/20、長期金利を「0・25%程度」から「0・5%程度」への引き上げを決定。この日銀の決定を受けた12/20の東京株式市場は、国内景気減速懸念が一気に広がり、一時800円超下落し、全面安の展開となっている。ここでも4営業日連続の値下がりである。

インフレは相も変わらず根強いが、不況が進化すれば当然、経済は収縮し、インフレ傾向が弱まらざるを得ないであろう。市場の主な懸念が、インフレから不況へ移行するのは当然でもある。
しかし今回の経済危機には、これまでとは明らかに異なった、しかも重大な変動要因が経済危機を複雑化、深刻化させている。
一つは、新型コロナウイルスによるパンデミック危機であり、もう一つは、ウクライナをめぐる世界戦争への危機の拡大である。パンデミック撃退には、ワクチン特許権放棄をめぐる国際協力が欠かせないが、製薬会社と特許権保有国の強欲が阻害して、一向に進展しておらず、新たな変異株の蔓延が幾派にもわたって、世界を席巻している。感染の再拡大さえ、懸念される。
ウクライナ危機も、即時停戦し、和平交渉に即刻着手すべきであるのに、制裁が先行し、それがブーメランとして跳ね返り、エネルギー価格の急上昇、サプライチェーンの混乱をもたらし、インフレをより一層激化させ、それどころか核戦争への危機にまで進まんとしている。
いずれも、一国規模では制御できないものであり、国際的交渉と協力が不可欠である。インフレ制御さえも不可能であり、より深く根付いたインフレ問題が再燃する可能性さえ大である。
バイデン政権、EU、NATO、日本を含むG7諸国は、相も変わらず、対ロシア・対中国緊張激化政策にのみ傾斜し、軍事的緊張激化を追い求め、政治的・経済的危機をより一層深刻なものにさせているのである。こうした政策を、各国においてストップさせる闘い、孤立化させる闘いは、経済危機・不況政策に対する闘いと密接不可分に連動している、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】イーロン・マスク氏のツイッター買収とその影響

【投稿】イーロン・マスク氏のツイッター買収とその影響

                                                                                       福井 杉本達也

1 イーロン・マスク氏のツイッター買収

ツイッターは、米国のアカウントが8000 万人だが、日本は5000 万人と人口の割に多い。人口比では、米国では4 人に1 人、日本では2.5 人に1 名がアカウントをもっている。EV の株価で、世界1の大富豪になったイーロン・マスク氏は、10月27日、ツイッターの買収を完了した。買収資金440 億ドル(5.9 兆円)の大半を自己資金などでまかない、130億ドル分については米モルガン・スタンレーをはじめとする金融機関からの借り入れた。イーロン・マスク氏は「自らを『言論の自由の絶対主義者』と称し、買収後は投稿管理の取り組みを極力なくす方針」を示している。「月間約4億人が利用し、ネット空間の言論基盤にもなっている巨大SNS(交流サイト)は1人の富豪の所有物になる」(日経:2022.10.29)。しかし、日経新聞の論調は「言論の自由とネットの公共性をどう両立するか問われる」と、イーロン・マスク氏のツイッター買収劇に否定的である(日経:同上)。日経の11月6日付け社説は「民主主義社会が依拠し標榜する言論・表現の自由は、どんな形の言説の流布も放任するということでは決してない」とイーロン・マスク氏を牽制している(2022.11.6)。

2 米SNSの役割とツイッター従業員の大量解雇

米国の主流メディアは、米国民主党の広報紙である。Youtube、ツイッター、フェイスブックなどのSNS はビッグテックが支配している。ウクライナ戦争支援金と兵器供給で、ゼレンスキー氏の腐敗を擁護している。米国の大統領選挙、中間選挙での不正選挙を工作し、トランプ氏の言論は封殺された。2021年1月の米連邦議会議事堂襲撃事件を扇動したとしてツイッターが永久追放したトランプ氏の復帰をイーロン・マスク氏は認めた。メディアが排斥したトランプ氏は、8877 万人のフォロワーをもっていた。サーバーは全文検索をしているので、検閲すべきキーワードがある投稿記事の削除は、AI で自動化されている。ツイッターは、バイデン・ファミリーのウクライナ利権に関連した全部の投稿を検閲して削除していた。

ツイッターも買収前は同様であった。ウクライナでのロシア軍の動きを報道するようなツイッターは即アカウントを削除された。米海兵隊出身のスコット・リッター氏のウクライナ戦争に関するアカウントは凍結された。そこで、スコット・リッター氏は現在、ロシア人技術者が2013年に開発したTelegram (テレグラム) を利用している。6月にコロンビア大統領選で左派のペトロ氏が勝利したが、選挙期間中ペトロ氏を扱うツイートはほとんどなかった。最近、クーデターでひっくり返されたペルー政権しかり、ベネズエラの政権しかり、ボリビアの政権しかり、イランの情報しかり、シリアでの米軍の動きしかりである。米産軍複合体に都合の悪い情報は全て検閲され削除されていた。ツイッター買収の後に、検閲に関する内部文書を見たイーロン・マスク氏は、関係者を即刻解雇した。イーロン・マスク氏は、7400 人のうち約半分の従業員を、即座に解雇した。現在の社員数は36%の2700 人である。

3 米国民主党は軍産複合体の代弁者

「AP通信は22日、ポーランドに『ロシアのミサイル』が15日に着弾したと報道したのは『言語道断の誤り』だったとして、記事に関与した安全保障担当の記者を解雇したと公表した」(福井=共同:2022.11.24)。ニューヨーク・タイムズやCNNやNBCなど主要ニュース全てがAPの表現を繰り返した。プーチンの仕業だという脚本に従って、ゼレンスキー大統領はは即座にロシアのポーランド攻撃を非難した。この事件をきっかけにNATOをロシアに対する全面戦争に引きずり込めると期待した。危うく第三次世界大戦になりかけるところであった。

欧米主流メディアは米民主党のサービス機関である。真実を語るために存在しているのではない。軍産複合体に反対する者をつぶすために、軍産複合体の政策に同意するよう大衆を操るために存在している。軍産複合体から政治献金を受ける米国民主党は兵器産業の代弁者である。台湾海峡の危機を煽り、民主党のペロシ米下院議長が台湾を訪問したのは、兵器を台湾に(ついでに日本に)売りつけるためであった。戦争が無ければ武器は売れない。「危機」が作られている。

一方、日本のメディアはどうか。日本の情報において、海外情勢の「外信」は、ほとんどが、米国の主流メディアの翻訳である。特派員は、海外紙や外信の情報を買って、翻訳するだけであり、独自の取材記事は全くない。外信を買うだけであり、海外に駐在する意味は全くない。日本の海外情報は、米国民主党の広報紙である。日本では、米国民主党の色眼鏡を通した偏向記事のみが配信される。日本人や日本のほとんどの政党は「米国民主党の歪んだ目」で世界情勢を見させられ、判断させられている。

5 イーロン・マスク氏のウクライナ情勢発言

イーロン・マスク氏は10月の初めに「ロシアの人口はウクライナの3倍あり、総力戦でウクライナが勝利する可能性は低い」とツイートした。また「平和的解決をめざすためにウクライナは領土の損失を受け入れるべきかどうか」のアンケートも行った(日経:2022.10.17)。さらに、ウクライナに人工衛星を使ったネット接続サービス『スターリング』を無償提供していることに対し、10月15日には、「うんざりだ…我々はただでウクライナ政府に資金を提供し続けることになる」とツイートした(日経:同上)。

こうしたイーロン・マスク氏の言動に反発したウクライナの外交官アンドリー・メーリヌィク氏は「うせろというのが私の外交的な返事だ」と返信し、不快感をあらわにした(日経:2022.12.9)。しかし、『スターリンク』はロシア軍の攻撃によって通信網が寸断された中、ウクライナ軍にとっての通信基盤の生命線である(日経。同上)。結果、キエフの敵と思われるものをリストし暗殺する『Mirotvorets』というウェブサイトに、一時、イーロン・マスクの名前がブラックリストに記載された。記事には「スターリンク技術をウクライナに提供してきたマスクは、クレムリンに忠実な”ロシア愛好者”だ」と記載されていた。

同『偽情報対策センター』は、ウクライナの国家安全保障・国防省の一部として、2021年3月に設立された。その目的は、「情報テロリズム」とみなされるもの、つまり、政府に関する反体制的な意見や、大まかにさえ「親ロシア・プロパガンダ」と見なされるものに対抗することだとされる。8月20日に、戦争特派員で、ロシアの国家主義思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリ

ア・ドゥーギン氏が自動車爆弾で暗殺されたが、『Mirotvorets』のサイトでは「清算された」と記載されている。

「ツイッター社は14日、同社を買収したイーロン・マスク氏が搭乗するプライベートジェットの動きを追跡してきたアカウントを一時凍結した。『言論の自由』を重視すると主張してきたマスク氏による言行不一致との批判があがり、同社は利用規約の蛮更を伴う措置と釈明した。」アカウントの凍結に「批判的なな意見が相次いだ。」と日経新聞は書いているが(日経:2022.12.16)、誰の目かは一目瞭然である。「マスク氏は、記者らが自分の位置情報をリアルタイムで投稿しており、『事実上、自分が(狙われて)殺されかねない情報を公開しており、これは明らかなルール違反だ』と説明している。マスク氏は、これは『ドキシング(晒し行為)』であるとしている。」(Sputnik 2022.12.16)。

イーロン・マスク氏は11月25日、2024年の大統領選では出馬に意欲を示す共和党の若手ホープ、南部フロリダ州のデサンティス知事を支持するとツイッターで明らかにした(東京2022.11.26)。日本人のツイッター利用者の人口に占めるユーザーの割合では、米国の23%に対し47%と2倍近くになる(日経:2022.11.24)。もし、日本人や日本の言論人がツイッター上で真実の海外情報が得られるならば、日本の政治状況も大きく変わることができるのだが。

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【書評】『犬の心』と『奪われた革命』

『犬の心 怪奇な物語』ミハイル・A・ブルガーコフ 著 / 石井信介 訳・解説
(発行:未知谷、2022/11/30 四六判上製272頁 2,400円)

『奪われた革命 ミハイル・ブルガーコフ『犬の心』とレーニン最後の闘争』 石井信介 著
(発行:未知谷、2022/11/30 四六判上製248頁 3,000円)

ここに紹介する二冊の書籍は、それぞれが不可分に補い合っている。『犬の心』はすでに邦訳『犬の心臓』(増本/V.グレチュコ訳、2015年)として出版されているが、訳者・著者の石井信介氏は、「犬の心」を「犬の心臓」としたのでは、ブルガーコフが意図したものとは異なる、まったく見当はずれの作品となってしまいかねないとの危惧から、今回あえて新訳に踏み切られた、と思量される。
 ブルガーコフが取り上げた「犬の心」の核心は、この作品発表の1924年当時のソ連の政権を、レーニンが意図した社会主義政権とは異なる、スターリンの独裁政権、民族主義政権、国家資本主義政権に実質上変質させつつあった、せめぎあいが繰り広げられていた、ある意味で切羽詰まった状況を反映したところにある。ブルガーコフは、その当時の政治・思想・文化・社会状況を正面から取り上げ、鋭い批判と辛らつな風刺を展開したのである。その中で、「犬の心」とは、日本語でも「この犬め!」「犬畜生!」と罵倒するときに表される、卑怯で下卑、粗野で噛みつく、それでいて飼い主にへいこらする心性を、スターリン主義にへつらう政治姿勢に重ねて表現したのであった。犬にとっては責任のない失礼な用法なのであるが、犬から人間に改造された「犬の心臓」ではなく、「犬の心」なのである。臓器としての「心臓」ではなく、感情、意志、意識、思いやり、精神といった意味での「心」である。

レーニンが死去したのは、1924年1月21日であった。この『犬の心』は、そのレーニンの死去から一年もたたない状況の中で執筆され、様々な文学仲間の会合などで発表され、検閲当局と発行をめぐってのやり取りで何度も修正、加筆、削除等が行われたのであるが、原稿は家宅捜索で押収され、結局は発行禁止となった作品である。ゴルバチョフ政権成立後のペレストロイカ政策によってようやく出版許可となったのが、1987年6月、実に62年間の発行禁止であった。この作品を除くブルガーコフの主要作品は、実は、1953年にスターリンが死去し、1960年代・フルシチョフ政権の「雪解け」政策で出版許可となったのであるが、この『犬の心』だけは許可されなかった作品なのである。それだけこの作品が、ソ連政権の核心、弱点を突いていたということであろう。ゴルバチョフ政権は、それを乗り越える課題を提起されていたのであった。
この紹介文を書いている筆者自身が、ブルガーコフその人、作品にからむこうした事情を、今回の石井氏の訳書・著書を通じて初めて知った次第で、お恥ずかしい限りである。
この新訳『犬の心 怪奇な物語』には、筆者のような「ブルガーコフ未知」を前提に、実に懇切、丁寧な訳注が97項目50頁超にまで及び、その広がりと奥行きの深さは、この訳書の価値を一層高めていると言えよう。
訳者・著者にしてみれば、もちろん、これではまだまだ足りない、論及が及んでいない問題点も多々あると思われる。そのいくつか、中でも最も重要なのは、「レーニン最後の闘争」をめぐる問題であろう。

「レーニン最後の闘争」が提起するもの

『奪われた革命 ミハイル・ブルガーコフ『犬の心』とレーニン最後の闘争』の目次は以下の通りである。

1 犬の心と人の心
手術後の心 /カラブホフの家と住宅委員会 /プレチスチェンカ通り /シャリクはどこで拾われた? /ブルジョアとプロレタリア
2 『犬の心』における社会主義批判
秘密警察のレポートから /ブルガーコフのソビエト政権批判 /ブルガーコフの日記に見るロシアの政治状況
3 『犬の心』の主題
プレオブラジェンスキー教授のモデルは誰か /シャリコフのモデルは誰か /ヨッフェのなぞ解き /レーニンから見たスターリン /ボルトコ監督の変身? /レーニン記念入党と新しい支配者の誕生 /『エンゲルスとカウツキーの書簡集』 /「全部かき集めて山分けする」 /攻撃の矛先はどこへ? /カーメネフ政治局員への直訴
4 家宅捜査と取調べ
道標転換派とブルガーコフ /家宅捜索のいきさつ /取調べ
5 『犬の心』のその後
ソ連の支配者になったシャリコフたち /『犬の心』とペレストロイカ /ソ連は社会主義国じゃなかった? /隠居のまとめ

この目次からも明らかな通り、この著書の全体が、『犬の心』発刊をめぐる、当時の具体的な人間関係を含めた政治・思想状況のち密な分析である。推察される最大の論点は、レーニンとスターリンの関係である。第二の論点は、レーニン死去後の「レーニン記念入党と新しい支配者の誕生」と、それが何をもたらしたかということである。

レーニンとスターリンの関係に関しては、最大の問題は、レーニンによるスターリン解任の問題提起である。レーニンがスターリンを解任すべきだとした理由の第一は、その独裁主義的・行政主義的手法であるが、より本質的に重要な問題であったのが、スターリンの大ロシア民族主義であった。スターリンは、レーニンの言う「少数民族の権利の尊重」を、「譲歩」とみなし、「許してやっている」と公言し、さらにスターリンが起草した民族政策の計画案では、ロシア以外のウクライナ、ベラルーシ、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンの5共和国をロシア共和国の中に吸収する、「赤熱の鉄で民族主義の残滓を焼き払う」というものであった。病気療養中であったレーニンは、当然、この計画案に強く反対し、ロシアを含めた6共和国がソヴィエト連邦の下にまったく平等に並び、なおかつ無条件での分離独立の権利をふくめた諸民族の民族自決を擁護し、「各民族は平等でなければならない」と強調したのであった。

そしてまさにこの論点こそが、現在のロシアのプーチン政権のウクライナ侵攻に直接的につながる問題なのである。
プーチン大統領は、今年2月21日、ウクライナ侵攻に際してウクライナは「我々にとって単なる隣国ではない」と述べ、「我々の歴史、文化、精神的空間の不可侵の一部である 」と述べた後、「現代のウクライナは、すべてロシアによって、より正確にはボルシェビキ、共産主義ロシアによって作られたのです。このプロセスは実質的に1917年の革命直後に始まり、レーニンとその仲間は、歴史的にロシアの土地であるものを分離、切断するという、ロシアにとって極めて過酷な方法でそれを行ったのです。」と、述べている。「ウクライナはレーニンの過ちの産物」であると断じているわけである。プーチン氏は、「スターリンはもちろん独裁者だった。しかし問題は彼の指導のもと我が国は第二次世界大戦に勝利したのであり、この勝利は彼の名と切り離せないことだ。」とまで述べて、自らスターリンの直接の後継者であることを認めているのである。米英が仕掛けた、ロシアを泥沼の戦争に引きずり込む戦争の罠から脱出するには、この民族主義の罠からまず脱出すべきだと言えよう。

民族主義は、第二次世界大戦での日本、ドイツの民族主義に典型的に示されたように、歴史上一貫して戦争行為に随伴してきたものであり、ふつふつと醸成されてきた民族主義こそが戦争を合理化し、優越主義と差別主義をのさばらせ、人類の連帯・平等・人権を踏みにじってきたのである。

本書は、まさにそうした現在進行中の危険極まりない情勢に対する警告の書である、とも言えよう。

なお、残された論点として、レーニンの新経済政策(NEP)と協同組合論について、さらなる展開が期待されるところである。それは、社会主義とは何か、という論点でもある。
(生駒 敬)

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【投稿】米国の圧力で借金してでもポンコツ兵器を爆買いする日本

【投稿】米国の圧力で借金してでもポンコツ兵器を爆買いする日本

                           福井 杉本達也

1 防衛費の全てを借金で賄うのか

2021年度の防衛費は補正予算分を含め6兆1160億円である。これはGDP比で1.09%になる。岸田首相は11月28日、2027年度には防衛費をGDP比2%=約11兆円とするよう指示を出し、12月5日には2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とすることを決定した。現行の中期防衛力整備計画5年間の27兆4700億円から5割以上増えることとなる。しかし、その増額分の財源のめどは全くたっていない。岸田首相の側近と言われる木原誠二官房副長官は12月4日のフジテレビの番組において、防衛費の増額に充てる財源について、「いま決め打ちする必要はない」、23~27年度の5年間は「財源の有限にかかわらずやる」として全てを国債の借金で賄う方針を示した(日経:2022.12.5)。

植草一秀氏はブログ『知られざる真実』において、「2021年度の日本のGDPは542兆円。これが、日本人全体が1年間に生み出す経済的果実だ。財政は270兆円ものお金を動かしている。国債費の93兆円の多くは国債償還費で、償還する資金の多くは新しい国債の発行で賄われる(借り換え国債)から、この数字は見かけ上のものに過ぎない。また、社会保障支出のうち、国費を投入している部分は約36兆円で、多くは年金保険料、健康保険料などの保険料収入によっている。社会保障支出以外のすべての政策経費が1年間で約34兆円なのだ(この政策支出の中に、公共事業、文教および科学振興 防衛関係、食料安定供給、エネルギー対策、中小企業対策、その他のすべての政策が含まれる。)。このなかで、防衛費だけが突出して激増される。この論議の先に国民負担の増額、増税も浮上すると見込まれる。」と書いた(2022.12.1)。

2 新「防人の歌」

万葉集に「防人の歌」がある。「韓衣(からころも) 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来ぬや 母(おも)なしにして」((現代語訳) 韓衣にすがって泣きつく子どもたちを(防人に出るため)置いてきてしまったなあ、母もいないのに。)(巻20-4401)

日経新聞の論説フェロー:芹川洋一氏は『核心』欄に、「令和の国難に防人の備え」と題して、「歴史が教える負担の覚悟」として、「白村江の戦い」・「蒙古来襲」・「黒船~日露戦争」の過去の3度の「国難」をあげ、「中国の軍拡で東アジアの軍事バランスがくずれた」、「台湾有事になれば…南西諸島が戦域に入るのは必至で、そうなるとおのずと日本有事になる」「令和の国難に必要なものもまた、それぞれの立場で負担を受け入れる覚悟と気概のはずだ」と書いている(日経:2022.12.5)。しかし、台湾有事がどうして日本の「国難」となるかの説明は一切ない。しかも、芹川氏は奇妙なことに、「現実を直視しない政治指導者たちによって国が滅んだ1945年は別にして」と、過去の「国難」の事例から外してしまった。77年前の過去に学ばず「台湾有事」を煽り、「現実を直視しない」のは芹川氏ではないのか。

3 米国の圧力―岸田首相は防衛費の財源を指示したが、自民は無視

11月28日、GDP比2%の防衛費を指示した岸田首相は同時に、浜田防衛相・鈴木財務相に「防衛力強化に向け、歳出、歳入両面での財源確保の措置を年末に一体的に決定する」よう指示した(福井:2022.11.29)が、自民党内は完全無視を決め込んでいる。「『増税ありきは駄目。赤字国債を発行すればいい』。29日午前、自民党本部。国防部会・安全保障調査会の合同会議て、増税による財源確保に対する批判が噴出した。…『首相は財務省に振り付けられているのだろう。支持率が低いのに増税なんでできない』」と(福井:2022.11.29)。追い詰められた岸田首相は12月8日の政府与党懇談会において、2027年度以降の必要となる防衛費増額の財源について、3兆円の歳出削減と1兆円の法人税を中心とする増税を表明したが、決算余剰金や税外収入などという財源とはいえない“カスミ”を積み上げ、後退に次ぐ後退を重ねている(日経:2022.12.9)。しかも、西村康稔経済産業相は9日の閣議後の記者会見で、「このタイミングで増税については慎重にあるべきだと考える」と、ついに閣内からまで“異論”が出た(朝日:2022.12.9)。自民党内が岸田首相を完全無視するのは、首相権限を上回る米国からの強い圧力による。

4 「敵基地攻撃能力(反撃能力)」という自己欺瞞で米製トマホークを“爆買い”

敵基地攻撃能力(ごまかし用語の「反撃能力」)の手段として、射程1600kmで、上海までもが攻撃範囲に入る米国製巡航ミサイル「卜マホーク」を500発も“爆買い”するという(日経:2022.12.1)。しかも、迎撃に特化した現在のシステムから「米軍が掲げる『統一防空ミサイル防衛(IAMD)』に移行する」。IAMDは「陸海空や宇宙、サイバーなどあらゆる手段を用いて空からの攻撃に対応する体制」であり、「ミサイル発射基地への反撃を含む」(日経:2022.12.8)としており、発射権限は米軍が握ることとなる。他にも、自衛隊が要求せず官邸案件として内局が要求した既に米軍が運用停止した旧式の無人偵察機グローバルホーク(ブロック30)3機を629億円で買う契約や、クラッチの不具合で飛行停止となったオスプレイの購入、秋田・山口で中止した陸上イージスを海上に浮かべる洋上イージスに9000億円もの巨費を投ずる契約など掴み金で米国製ガラクタ兵器の数々を爆買いする契約(いずれも後年度負担が大きい)が目白押しである(半田滋「デモクラシータイムス」2022.11.29)。

9月2日付けの日経のコラム『大機小機』は、昨今の防衛論議は、財政赤字も膨れるままなど、基本的な問題を放置して、いきなり尖閣諸島や台湾有事対応のシナリオ、『宇宙・サイバー・電磁波』といった具体論に入っている。しかも『額ありき』の議論を急いでいる」とし、「安全保障の議論にはもっと大きな視野が必要であろう。食料やエネルギーの安定供給も含めて論じるべきではないか。いわばまっとうな保守主義が欠けている」と述べている。

「台湾有事」を声高に騒ぐが、そもそも、1972年9月29日の『日中共同声明』において、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」と書かれている。台湾問題はあくまでも中国の内政問題である。そして、1978年10月署名の日中平和友好条約の第一条には「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。」とうたわれている。さらに台湾は1895年・日清戦争により、1945年まで日本が植民地にしたが、ポツダム宣言の結果中国に返還されたものであることを忘れてはならない。もし、日本が台湾問題に介入するなら、中国の内政に対する露骨な干渉であり、平和友好条約を破棄し、再び中国との戦争を行うということになってしまう。

5 「ルールに基づく国際秩序」という属国の思考から離脱を

12月5日、参議院で、「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が自公・維新・立憲民主・国民民主党などの賛成多数で採択された。決議は「人権問題は、人権が普遍的価値を有し、国際社会の正当な関心事項であることから、一国の内政問題にとどまるものではない。」と、「普遍的価値」という言葉を持ち出して自らの論理のみが“正義”であり、後進国はその「ルール」に従うべきだとする高慢な論理に貫かれている。賛成した共産党は、日本が中国に対して、「人権侵害の是正を働きかけることを求める」よう主張した(赤旗:2022.12.6)。決議には反対したれいわ新選組は、輪をかけ、「日本政府は中国へ、そのような行為を直ちに停止し、抑圧・拘束された人々を解放するよう求めるべきである。」との声明を出した(2022.12.5)。日中共同声明など読んだこともないであろう。西洋諸国の価値観は上位にあり、中国などの“人権意識”の遅れた諸国に強制すべきとする150年前の独善さそのままである。これが今日の米欧の価値観に洗脳された与野党の思考水準である。こうした思考回路では、財政が破綻してでも膨大な武器を買わされる属国の立場から抜け出すことなどできない。

浅井基文氏は、「アメリカを先頭とする西側諸国が唱えるのは『ルールに基づく国際秩序』という名の覇権的一極的秩序です。」「しかし、『ルールに基づく国際秩序』における『ルール』が具体的に如何なる内容であるかに関しては、アメリカ以下の西側諸国は一度として明確に説明したことがありません。有り体に言えば、”弱肉強食の世界を認めろ、西側支配の旧秩序にこれからも従え”と言っている」「岸田首相はことあるごとに『ルールに基づく国際秩序』の重要性を強調します。これほど岸田首相の見識のなさ、というより無知をさらけ出すものはありません。対米一辺倒外交の醜悪さの極致というべきです。しかし、日本国内にはそのことを指摘するだけの成熟した世論も不在であるという悲しい現実があります。実は、そのことこそが真の問題の所在なのです。政治の貧困と世論の未熟が相乗作用を起こし、『井の中の蛙大海を知らず』の日本が再生産され続けているということです」(浅井基文 2022.12.5)と述べる。

「海(うみ)行(ゆ)かば、水漬(みづ)く屍(かばね)、山行かば、草生(くさむ)す屍(かばね)、大君(=米国)の、辺(へ)にこそ死なめ、かへり見は、せじ」(大伴家持:万葉集 巻18―4094)とはならないようにしなければならない。

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【投稿】「反ゼロコロナ」抗議行動で第二の天安門事件を画策する米欧

【投稿】「反ゼロコロナ」抗議行動で第二の天安門事件を画策する米欧

                            福井 杉本達也

1 中国の「反ゼロコロナ」抗議行動で1989年の天安門事件の“再現”を期待する西側

12月4日午後6時からの日本テレビの『真相報道バンキシャ』は杭州市や上海市の路上取材と称し、中国の「反ゼロコロナ」抗議行動を報道した。そもそも、中国の「反ゼロコロナ」抗議行動はどのように発生したのか。

ニューヨーク・タイムス紙は10月28日、中国・新疆ウイグル自治区のウルムチの高層住宅で起こった火災で住民10人が死亡したことで、「新型コロナウイルスによるロックダウンが救助活動を妨げたり、犠牲者を家の中に閉じ込めたりしたのではないかと疑い、怒りのコメントがソーシャルメディアに殺到し、住民は火災が発生した街の通りに繰り出した。現在、新疆ウイグル自治区の首都であるウルムチでの事件は、与党共産党に対する大衆の怒りのここ数年で最も反抗的な爆発を解き放った。今週末、中国全土の都市で、何千人もの人々がろうそくと花を持って集まり、火事の犠牲者を悼んだ。キャンパスでは、多くの学生が無言の抗議で空白の白い紙を掲げました。上海では、共産党とその指導者である習近平氏に退陣を求める住民もいたが、これは珍しく大胆な挑戦だった」とし、中国では「コロナウイルスによる死亡者数は他の地域よりもはるかに低く抑えらたが、多くの中国の都市がほぼ停止し、何億人もの人々の生活と旅行が混乱し、多くの中小企業が閉鎖を余儀なくされた」。そのため、「共産党の最大の懸念は、学生、労働者、小規模な商人、そして「民主的変化を要求する抗議行動に共通の原因を見いだした 1989 年の反響のように、これらの同様の不満が異なる背景からの抗議者を協力に導いくことにある。」と報じた。この報道の結論は、最終的に、「反ゼロコロナ」の抗議行動の裏で、1989年の天安門事件の“再現”を期待していることである。

これを裏付けるように、天安門事件の学生リーダーの1人・王丹氏は日本外国特派員協会での12月1日の記者会見で「最近の(中国の)学生は政治に関心がないといわれていたが、(今回の抗議の)最前線にいる」と話した。「非常に勇敢な行動で、抗議行動は多くの人々に影響を与えている」と語った。さらに続けて、政府による抗議行動の弾圧に警戒して、国際社会には「拘束される人々などに注目しい」と訴えたと書いた(日経:2022.12.3)。

2 西側一斉報道への違和感―「反ゼロコロナ」抗議運動の背後にDAO司令塔

こうした西側の一斉の報道に対し、筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は「11月26日から28日に掛けて、中国各地でほぼ同時に反ゼロコロナ抗議デモが展開されたが、もしこれらが完全に自発的であるならば、どの都市においても同じように白い紙を掲げて抗議意思を表明することに関して違和感を覚えた。」とし、ウルムチの火災が起きたビルが建っている吉祥苑団地は、「コロナ流行の有無に関係なく、もともと道幅が細く、消防車が入るのが困難な場所で、日本で言うならば『建築法違反』であった。コロナなどなくても、火事が起きたら消防車が入るのが困難で、救助活動に支障をきたすような場所だった。しかし、何者かが『コロナによる封鎖のせいで消防活動ができなかった』という『偽情報』を流したのである。」背後で動いていたのは『全国封鎖解除 戦時総指揮センター』であり、「このような『組織』があったからこそ、中国の主要都市で、一斉に同じ行動に出ることができたのであって、決して『自発的行動』ではなかったことが判明した。」と指摘した。「センター」はアメリカのNED(全米民主主義基金)とも関係しているとし、「10月25日、NEDや台湾民主基金会などが主催する『世界民主運動』の世界大会が台北で開催された。蔡英文総統が出席して、1ヵ月後の統一地方選挙に向けて、民意が民進党に向かうように力を入れたのだが、…民進党が大敗した。反ゼロコロナ『白紙運動』デモはその直後から起き始めた。もし民進党が勝っていたら、このようなデモは起きなかったかもしれない。」と分析し、香港が「宣伝部」司令塔になっていると指摘している(遠藤誉「反ゼロコロナ『白紙運動』の背後にDAO司令塔」Yahoo 2022.11.30)。

ツイッター上の「白纸公民White Paper Citizen」は11月30日の新宿南口での「反ゼロコロナ」集会の映像を流していた。チベット独立運動の旗が演説者の後ろに。そのすぐ横にはユニオンジャックの入った中国返還前の香港の旗が、さらに右隅には米国が2020年11月6日にテロ組織認定リストから除外した東トルキスタン・イスラム運動の旗が見える。誰が暴動を煽っているかは遠藤氏の指摘通りである。

周知のようにNEDは1982年にレーガン政権により「アメリカ政治財団」(American Political Foundation)の研究による提案という形で設立が決定された 。それは、これまでアメリカ中央情報局(CIA)が非公然でやってきたことを公然とやる目的をもったものであり、毎年米国家予算から資金提供を受けている。そのうちには国務省の米国国際開発局 (USAID) 向けの予算も含まれている(Wikipedia)。

3 自らがまいた種を中国の「ゼロコロナ」政策のせいにする

米欧諸国は中国の内政である「ゼロコロナ」の公衆衛生政策に不当に介入し、ウクライナ侵攻を理由としたロシア経済制裁やバブル崩壊によって不況に陥った自らの愚かな政策の責任を中国に転嫁し、「反ゼロコロナ」暴動を煽っている。11月23日付けの日経新聞は「中国感染拡大・市場に冷水」との見出しで、「ゼロコロナ」政策の「規制緩和期待しぼむ」とし、「テスラなど中国関連銘柄の株価が下落。2023年以降の世界経済のけん引役としての期待が高まっていただけに、市場は冷や水を浴びせられた格好だ。」と、あたかも中国に不況の全ての責任があるかのように書く。ヤクザ顔負けのいいいがかりである。そもそも、3年前の2020年、ロンドンやニューヨークなどの主要都市をロックダウンしつつも、最大の死者を出し続けたのは米国や英国など米欧諸国だったのではないか。その舌の根を乾かぬうちに中国の「ゼロコロナ」政策を暴動まで用いて強制的に政策転換しようとすることは盗人猛々しいにも程がある。

既に、広州は事業を再開し、リスクの低い地域での食事サービスを許可している。北京のショッピングモールも徐々にオープンし、一部の都市では、密接な接触者が特定の条件下では自宅検疫を行うことを許可し、一部では定期的なPCR検査が免除されるとしている。孫春蘭副首相は、オミクロンウイルスの病原性が弱まるにつれて、予防と管理において新しい状況と新しい課題に直面していると述べ、コロナに対する中国の対応を継続的に最適化するとしている。「中国で何らかの革命を期待しているタイムズの記者は、おそらく失望するでしょう。中国経済はそこそこ好調です。人々はほとんど合理的な健康対策に満足しており、他のすべては交渉可能です。『欧米』の論説作家は、中国を国民を抑圧する独裁政権として描くのが好きだ」(MoA 2022.12.1)。第二の天安門事件は起こりようがない。

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【投稿】ポーランドへミサイルーウクライナとポーランドの偽旗―

【投稿】ポーランドへミサイルーウクライナとポーランドの偽旗―

                             福井 杉本達也

1 第三次世界大戦にNATOを引きずり込もうとしたポーランドとウクライナ
 NHKは日本時間11月16日朝10時37分のニュースで「ウクライナ各地で15日、大規模なミサイル攻撃が行われる中、ウクライナの隣国ポーランドの外務省は、ロシア製のミサイルが国内に落下し、2人が死亡したと明らかにしました。ロシアによる軍事侵攻後、NATO=北大西洋条約機構の加盟国で初めて、ロシアの攻撃による犠牲者が出たことで、国際社会の緊張が高まっています。」と報道した。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は16 日、インドネシアで開催されていたG20にオンライン演説し、ミサイル攻撃はロシアによるものだと非難し、「ウクライナ、ポーランド、全欧州はテロリストのロシアから完全に防衛されなければならない」「行動が必要だ」と訴えた。また、ツイッター上で、「ロシアはどこでも殺す。今日はその手がポーランドに届いた」と書き、「欧州・大西洋地域の集団安全保障への攻撃は、重大なエスカレーションだ」と述べた。
 ラトビアの国防相は「ロシアは罰せられなければならない」と非難した。また、ミサイルはロシア製と欧米メディアは大々的に報道しだした。
 現地時間15日の夜、ポーランド国家安全保障局長のヤツェク・シエヴィエラは、アンジェイ・ドゥダ大統領がイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長と話し、NATOの第4条案件かどうかについて協議が行われたと伝えた。また、ポーランドは国内の一部の部隊の戦闘準備を強化した。G20では16日朝、この事態について西側諸国が緊急会合を開かれた。米国、英国、欧州連合(EU)、スペイン、ドイツ、カナダ、フランス、日本、オランダの首脳が急きょ集まり、情勢を協議する「緊急ラウンドテーブル」が開催された。
 しかし、バイデン米大統領は16日朝、「ロシアから発射された軌道ではなさそうだ」と発言した。これを受けてロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は16日午前、毎日定例の記者会見で、ポーランドをはじめ「たくさんの国が」「ヒステリック」に反応し、何の証拠もないままロシアを糾弾したと非難。そのうえで、「アメリカ側とアメリカ大統領の、抑制的ではるかにプロフェッショナルな反応は、特筆に値する」と称賛した。
ポーランドのドゥダ大統領とストルテンベルグNATO事務総長はそれぞれ16日午後、ウクライナの防空ミサイルが原因との見方を示した(Yahoo:2022.11.16)。17日、ポーランドのドゥダ大統領は、ミサイルの着弾現場を視察し、「専門家や私たちの見立てによると、これは事故だった」と述べ、ミサイルの着弾は意図的な攻撃ではなかったという見方を示し、軌道修正した(NHK:2022.11.18)。

2 ウクライナ・ポーランドによる偽旗―21世紀版「サラエボ事件」・「トンキン湾事件」―
 軍事アナリストで米海兵隊の元情報将校:スコット・リッターは、もし、ロシアのミサイルを迎撃する目的でウクライナが発射したものならば、「入ってくるロシアの標的に対して発射されたS-300ミサイルは、レーダービームに従って目標に向かって、ほぼ西から東の方向に発射されます。要するに、ウクライナのS-300は、ポーランドを攻撃したミサイルが飛行した経路からほぼ180度離れた方向に発射されます。」。したがって、ミサイルは誤動作ではないとし、「ポーランドに着弾したウクライナのS-300は事故の結果ではなく、ミサイルがポーランドの領土に衝突するように設計された意図的な行動でした。」とし、「NATOを紛争に引き込むように計画された偽旗事件の陰謀があります」と分析している。さらに続けて、「問題のミサイルがウクライナであることを知っているにもかかわらず、ポーランドへの攻撃についてロシアを非難する結論に飛びついたポーランドとバルト諸国の引き金のような反応は、攻撃の加害者とすぐにロシアに非難の指を向けた人々との間のある程度の事前調整を示唆しています。」と指摘。ポーランドやラトビアなどバルト諸国も偽旗作戦の共犯であると非難した。「ポーランドをめぐるNATOとロシアの直接の軍事的対立は、アメリカとロシアの間の一般的な核戦争に発展する本当の可能性を秘めている。ウクライナ、ポーランド、バルト諸国で、偽旗攻撃を助長してNATOをウクライナ紛争に引きずり込む陰謀に関与している人は誰でも、地球上のすべての人間に対する直接の脅威を表しています」と締めくくっている(A False Flag over Poland_ – Scott Ritter 2022.11.19)。
 また、スコット・リッターは別のインタビューにおいて、「ポーランドやバルト諸国など、ロシアの勝利によってNATOがさらに弱体化することを恐れる国々にとっては不満の残る結果となる。そして、現時点では、NATOをウクライナに深く関与させることがこれらの国々の利益となる。彼らはNATOが2023年にこの件(ウクライナ問題)を放棄することがないように用心している。だから、ポーランドとバルト諸国は、他のNATO加盟国が外交的な提案を求めているのに、ウクライナに巻き込んでNATOがエスカレートする環境を作ろうとする、極めて無責任で極めて危険な行動をしていると私は見ている」と答えている(Sputnik 2022.11.19)。

3 戦争を裏で操る英国
 米国や他のNATO加盟諸国がウクライナから一歩引いたにもかかわらず、19日、英国のリシ・スナク首相はウクライナの首都キエフを訪問し、英国は2022年にウクライナに30億ポンド(約5000億円)以上の軍事支援を提供したと述べ、さらなる資金を拠出する用意があることを確認した。スナク首相は「英国は、ウクライナが信頼できる平和と安全を手に入れるまで、引き続き支援を行っていく」と演説した(Sputnik:2022.11.20)。ポーランドとウクライナの背後には、なんとしてもNATOを第三次世界大戦に巻き込み、欧州大陸を三度戦場とし、独仏を立ち上がれなくして、自国の潰れかかった国力の再浮上を図りたい英国の思惑がある。英国はクリミア橋爆破においても、ウクライナを支援していた。
 こうした、英国の危険な思惑を察してか、米国は一歩引き、オースティン米国防長

官は、カナダで開かれNATOの会議において「皆さん、NATOは防衛同盟であり、NATOはロシアとの対立を求めるものではない。ロシアに脅威与えるものではない。間違いなく、我々はプーチンが選んだ戦争に巻き込まれることはない」と、英国の行動にクギを刺した(Sputnik:2022.11.20)。

4 「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている」と批判した森喜朗
 米国が手を引き、ポーランドも方針を転換する中、NHKは11月18日の昼のニュースにおいてもまだ、「欧米側は、ロシアによるミサイル攻撃を迎撃するため、ウクライナ軍が発射したミサイルだった可能性を指摘する一方で、ロシアにこそ責任があると非難しています。これに対してウクライナは、ロシア軍が発射したミサイルだと主張するなど、欧米側との見解に隔たりもみられます。」とのフェイクニュースを垂れ流し続けた。
 こうした、危険な日本のマスコミの姿勢に対し、森喜朗元首相は11月18日夜、鈴木宗男氏のパーティーでの挨拶で、「ロシアのブーチン大統領だけ批判され、ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。ゼレンスキー氏は、多くのウクライナの人たちを苦しめている」と発言した。また、「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている。欧州や米国の報道のみを使っている感じがしてならない」と批判した(福井=共同:2022.11.19)。
 福井新聞の『キッズこだま』欄に、大野市有終南小学校6年の松崎康生さんの「不思議」という題の作文が掲載されていた。「ふとテレビを見る。ウクライナとロシアの戦争がニュースで取り上げられていた。そのときふと思った。人は、同じ人なのにどうして争うのだろう…。ロシアにはロシアなりの理由があって、ウクライナにはウクライナの理由があることがわかった。でもいずれ正義が牙をむく。今世界がウクライナに協力してロシアを倒そうとしている。けれど、それが本当の正義とは限らないので、これらもしんちょうに見極めたい。」と結んであった(福井:2022.10.13)。日本のマスコミのレベルは小学6年生の作文よりもはるかに劣る。

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【投稿】米中間選挙の結果と民主党の「財布」=仮想通貨取引所FTXの破綻

【投稿】米中間選挙の結果と民主党の「財布」=仮想通貨取引所FTXの破綻

                          福井 杉本達也

1 米国は徹底的な金権選挙

米国の中間選挙が11月8日行われた。当初、「赤い波」が起きるといわれていたが、上院で民主党が50、共和党が49 議席になり、ジョージアの再選挙(12 月6 日)で共和党が勝っても、上院の多数は民主党に決まった。50:50 になっても、1 票をもつ議長の副大統領がカマラ・ハリス(民主党)であり、選挙前と同じ「民主党多数」となる。不正が多い郵便投票の身元確認すらできない。これが米国「民主主義」の実態である。共和党の上院のリーダー、マコーネル(反トランプ)は、激戦州の共和党候補の選挙資金を20 億円も取りあげTV宣伝ができないようにして、共和党の落選を増やした。

米国の金権政治は非常に深刻である。選挙は「1 人 1 票」ではなく、「1$1票」である。「政治=金=権力=支配」である。彼らは納税者ではなく、寄付者の利益に奉仕する。

2 仮想通貨取引所FTXの破綻

中間選挙2日後の11月10日、日経新聞は大谷翔平投手がアンバサダー契約を結んでいる「暗号資産(仮想通貨)交換業大手のFTXトレーディングが資金繰りに行き詰まり、同業最大手パイナンスによる救済買収に発展した。グループ内で保有資産を水増ししているのではとの疑念から顧客資金が流出した。」と報じた。翌日、バイナンスは買収を断念し、FTXは破産申請した。FTXのサム・パンクマン・フリードCEOが保有するる投資会社アラメダ・リサーチとグループ内でFTXが発行するトークン=FTTの貸し借りをして資産の水増しを行っており、実質上資産はゼロであり、とんでもない詐欺会社であることが明らかとなった。裁判所への提出資料によると、債権者は10万人以上、負債は100億ドル~500億ドルであるといわれる。FTXは2019年に設立され、個人顧客は全世界に100万人以上、全世界の仮想通貨取引の1割・1日150億ドルの仮想通貨の取り引きを行っていた(日経:2022.11.13)。

3 FTXと民主党との深いつながり

サム・パンクマン・フリードCEOの父親:ジョセフ・バンクマンはスタンフォード大学ロースクールの教授として勤務、弁護士としてキャリアを積んでいる。母親は民主党のコネクションがあり、弁護士でスタンフォード大学で法律を教えている。ヒラリークリントンの弁護士でもあった。バックマン=フリードCEOのガールフレンド:キャロライン・エリソンはアラメダ・リサーチ(FTX商社)のCEOで、父親(グレン・エリソン)はゴールドマン・サックスの元トップ弁護士であった。バンクマン=フリードは、2021年から2022年の選挙サイクルで民主党への2番目に大きな個人寄付者であり、投資家であり、ネオコンの実質的応援者・ウクライナ・マイダン・クーデーターの資金提供者でもあるジョージ・ソロスに次いで多額の寄付を行っていた(Moon of Alabama 2022.11.12)。

4 ウクライナとFTXのつながり

ロシアのウクライナ侵攻の中、FTXのバンクマン・フリードは、仮想通貨寄付プロジェクトの支援に名乗りをあげ、FTXがウクライナ財務省や他のコミュニティが同国のために仮想通貨寄付を集めるのを支援することを発表した。3月15日には「ウクライナ政府が、世界的大手暗号資産取引所「FTX」などと提携し、暗号資産の寄付に関するWebサイトを開設しました。…寄付は、ウクライナ軍と人道援助を必要としているウクライナの民間人を支援するために使用されされるとしており、ドルやポンドなどの法定通貨の寄付先も記載されています。」と述べられていた。ウクライナ政府は、世界中から6000万ドル以上の仮想通貨寄付を受け取った。

5 米国からウクライナに流れた「軍事援助」が民主党に回帰

FTXは中間選挙で民主党の候補者に少なくとも4000万ドルを寄付した。しかし、それはこの巨大詐欺の表面でしかない。ロシアと戦うために使用されたとされるウクライナへの数百億ドルのアメリカの「軍事援助」が、ウクライナがロシアと戦うために使用されず、代わりにFTXに投資した現金であった。米国の「軍事援助」を使用する代わりに、ウクライナはその一部またはすべてをFTXに「投資」した。そして今、すべての金がなくなった。ウクライナは米国から金を受け取り、ウクライナはそれをFTXに送り、FTXはそれを民主党に送った。これは、マネーロンダリングであり、選挙資金法に違反する犯罪である。つまり、ウクライナに渡った数百億ドルは、実はFTXの仮想通貨で民主党議員やエリートを買収するために、アメリカにマネーロンダリングされて戻ってきた。しかし、今その金はなくなり、中間選挙直後に、用済みとなった「財布」=FTXは破綻させられ、証拠隠滅を図った。

 

6 FTXの破綻によって金融危機は起きるのか?

日経新聞は「世界の暗号資産(仮想通貨)の時価総額が、叩日までの2日で約32兆円消失した。…価値の裏付けがない暗号資産は期待で価値が膨らみゃすい分、逆回転するともろい。市場は破綻の連鎖に身構え始めた。」(2022.11.11)と書く。『ビジネス知識源』は「FTX の破産の金額は最大でも10 兆円でしょう。当時の史上最大の破産だったエンロン(負債総額400 億ドル:5.4 兆円;2001 年12 月に破産)のときのような危機には、至らないと見ています(連鎖の規模は小さいからです)。…政府の規制が及ぶ銀行に対しては、自己資本に対するデリバティブの規制があります。ノンバンクに対しては、規制がないのです。…ノンバンク:ヘッジ・ファンド、インデックスファンド、仮想通貨取引所…等多数の基金的金融。総額では4000 兆円あると見ています。これが、金融危機の引きがねになります。」と書いている(2022.11.13)。仮想通貨のみでは金融危機にはならないであろう。

『ビジネス知識源』は「日本の投票システムは、投票用紙を、18 歳以上の戸籍に基づき政府が与える点では平等です。しかし人口に対する議員定数には自民党の都合による不平等があります。選挙委員会での集計には、時折、不正があることが噂されますが、米国よりはずいぶんマシでしょう。」と書く(同上)。

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【投稿】米「中間選挙」の真の勝者--経済危機論(98)

<<トランプ=「共和党の最大の敗者」>>
周知のように、2016年の米大統領選の際に、リベラル派のドキュメンタリー映画監督・活動家であるマイケル・ムーア氏は、大手マスコミの圧倒的な予想に反して、民主党候補のヒラリー・クリントンを、ニューヨークの不動産王から極右政治家に転身したドナルド・トランプが打ち負かすだろうと予測し、この予測が見事に的中してしまったのであった。そのムーア氏が、今回、2022年11月8日の米中間選挙について、大手マスコミの「赤い津波」=共和党圧勝予測に対して、逆に「青い津波」=民主党圧勝予測を対置したのであった。 中間選挙の結果は、最終的にはいまだ未確定ではあるが、共和党の「赤い津波」は実現せず、「さざ波」程度にまで縮小し、トランプ氏自身の期待を完全に裏切る結果となったのであった。とりわけ、トランプ氏再選が盗まれた、選挙そのものが不正であったと主張する「選挙否定派」が 多くのの地域で落選相次ぐ事態となり、トランプ氏は怒りに任せて、またもや不正選挙を叫ぶ醜態を演じている。

これまでトランプをほめそやしおだててきたはずの保守系ジャーナリズムを束ねる億万長者ルパート・マードックのメディア各社 : フォックス・ニュース、ニューヨーク・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルは、軒並み、トランプ氏を非難、ウォールストリートジャーナルの社説は、トランプを「共和党の最大の敗者」と決めつけ、ニューヨーク・ポストは、表紙に「トランプが共和党中間選挙を妨害した方法」と報じる事態である。

ムーア氏が、「青い津波」を予測した最大の根拠は、トランプ政権によって保守系右派判事が多数を占めた米最高裁が「ロー対ウェイド裁判」を覆して、中絶の憲法上の権利を否定し、合法性の判断は各州に委ねられたこと。これに乗じて、中絶非合法化へ道を開き、南部の保守的な州を中心に、26州が事実上の禁止を含む厳しい規制を設け、保守系右派がこぞって中絶禁止に動き出したこと。こうした事態に激怒した有権者、とりわけ女性と若者が、大規模な「青い津波」を起こすという、実際の有権者の動きとその切実な声を高く評価したものであった。
そのことは、共和党のバージニアの幹部自身が、「共和党は中絶問題の強さを過小評価していた」ため、黒人、ヒスパニック、アジア系といった多様なコミュニティでうまくいかなかった、「共和党は多様なコミュニティーにリーチできていない」と語っており、「全国的に見れば、それは間違いない。そして、ここバージニアでは、60対40で民主党に有利な問題」であったと述べている。実際に、出口調査では61%が最高裁判決に「不満」もしくは「怒りを感じている」と回答し、60%が中絶は「合法化されるべきだ」と答えている。投票で最も重視した問題として「中絶」は27%で、「インフレ」の31%に次ぐ関心の高さであった。

さらにこの中絶の権利を、中間選挙と同時に実施に持ち込んだミシガン、カリフォルニア、バーモントでは、住民投票で中絶の権利を保障する州憲法改正案を提示し、いずれも可決されたのである。
当然、多くの女性や若者の投票を促し、投票率も高くなっている。これまでの中間選挙は通常、38%から40%程度であったものが、大統領選挙の投票率、58%~66%(2020年)に匹敵し、それを上回る可能性が高い、とみられている。
出口調査によると、18歳から29歳までのZ世代とミレニアル世代の有権者の63%が民主党に投票し、35%が共和党に投票。ミレニアル世代を中心とする30歳から44歳の人々は、51%が民主党に、45%が共和党に投票している。さらに、若い有権者は、メディケアフォーオール、グリーンニューディール、学生債務の帳消しといった明確な進歩的政策を支持する傾向がすべての年齢層の中で最も高いことが明らかになっている。民主党左派のオカシオ・コルテスは11/10のツイートで、民主党が「赤い波」を打ち消すことができたのは、若者の投票率が大きな要因であると強調している。

その象徴が、元「March for Our Lives 命のための行進」の活動家で25歳のGeneration Z. Z世代のメンバーであるマックスウェル・フロストで、フロリダ州オーランド地域の代表として、同世代で初めて下院議員に選出されたのである。

<<「青い壁」が「醜い赤い波」を食い止めた>>
ムーア氏は、「青い津波」=民主党圧勝の「最大のハードルは、民主党だ」と断言する。「とてもがっかりさせられるし、どうやってこれを成功させるのか、私でさえ疑問に思うほどだ。民主党のコンサルタントは、あまりにいい加減で弱い路線を流している。……我々は非常に重要な選挙の崖っぷちに立っているが、我々の最大の敵は民主党そのものかもしれない」と述べる。
 投票日の翌日、11/9、ムーア氏は「マイクの中間選挙・津波の真相」(Mike’s Midterm Tsunami Truth)#41で、以下のように述べている。
・民主党が予想された「赤い波」をかわし、もし何らかの理由で選挙の日に青い津波を起こせなかったとしても、2番目に良い選択は、赤い波を起こさないようにすることだと、みなさんが分かっていたことが素晴らしいです。共和党の赤い波の予想を阻止するために「青い壁」を作ったことに感謝しています。
・昨夜は心強いニュースがたくさんありました。バーモント州、カリフォルニア州、ミシガン州、ケンタッキー州で妊娠中絶の権利に関する法案が可決され、モンタナ州もそれに続く勢いである。メリーランド州とミズーリ州ではマリファナが合法化された。多くの州で中間選挙の投票率が過去最高を記録した。
・もう一度、醜い赤い波を止める「青い壁」を作ってくれた皆さんに、心から感謝します。
ムーア氏は、「嘘は、真実の前にさらされたとき、短い賞味期限しか持たない。だから、大多数の人々と8000万人の無投票者の両方を真に活性化し、受け入れる方法を考えよう。そのための一つの方法は、公約を実行に移すことです。富裕層に課税し、労働者階級とその家族を支援し、すべての女性は平等であり、私たちは読んで行動し、愛する、市民的に活動する批判的な思想家の新しい世代を作り上げるのです。」と強調している。

バイデン政権は上院を維持したことで、最悪の結果は免れたが、共和党が「勝利」を宣言した下院選で最終的に多数派を失えば、議会で予算案や重要法案を思うように通せなくなり、政権運営が難航するのは必至である。この米中間選挙の結果は、結果的には、「赤い波」でも「衝撃の青い勝利」でもなく、民主党の勝利というより、共和党の自滅・敗北である、と言えよう。。
そして、最大の問題は、この選挙期間中、アメリカが世界中に展開する途方もない軍事的・帝国的プレゼンス、対ロシア・対中国への制裁政策、核戦争をも招来しかねない核先制攻撃政策への転換等、政治的経済的危機をより一層激化させるバイデン政権の緊張激化政策について、共和党はもちろん、民主党内左派まで含めて、緊張緩和・平和政策への転換に固く口を閉ざしたこと、今や軍・産・議会一体となった、この選挙の真の勝者について、一切不問に付されたことが看過されてはならない、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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