【投稿】核戦争リスクの危険な応酬--経済危機論(94)

<<バイデン「核のハルマゲドンリスク」62年危機以来最も高い>>
10/6、バイデン米大統領は、民主党上院選挙委員会の資金調達パーティーで、核の「ハルマゲドン」のリスクは1962年のキューバ・ミサイル危機以来最も高くなったと語った。「ハルマゲドン」とは、人類絶滅への「類例のない最終戦争」を指す。バイデン氏は、ロシアのプーチン大統領が「戦術核兵器の使用について話すとき、冗談を言っているのではない」(Putin is “not joking”)と述べ、「戦術核兵器を容易に使用でき、ハルマゲドンに至らないというようなことはないと思う」と述べた

のである。この発言は、公的な記者会見の場ではなく、民主党上院議員候補のための私的な資金調達の場でなされたもので、このところしばしば不用意に脱線し、失言、失念するバ

イデン氏ではあるが、事の重大性は当然認識しているはずであり、たちまち大きく取り上げられている。
慌てたホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は、「われわれ自身の戦略的核態勢を調整する理由は見当たらないし、ロシアが間もなく核兵器を使用する準備をしているという兆候もない」と述べている。
ところが、こうした動きといかにも連動するかのような動きが報道されている。「米国は “核の非常事態 “で使用するために2億9000万ドル相当の抗放射線薬を購入」との報道である。
10/4、米国保健社会福祉省によると、同省は、「放射線および原子力緊急事態後の人命救助に向けた長期的かつ継続的な取り組みの一環として、アムジェンUSA社から医薬品「Nplate」の供給を受けることになりました。Nplateは、成人および小児患者の急性放射線症候群(ARS)に伴う血球損傷の治療薬として承認されています。」という。
「同省が購入しようとしている Nplate は、皮下注射用粉末で、 125 mcg(1 回の注射)は約 1,195 ドル、彼らは250,000回分未満しか購入していません。議会のすべてのメンバー、その家族、および 100 万ドル以上を寄付したすべての人に行き渡るものです。」とツイッターで批判されている。
こうした批判に対して同省のスポークスマンは、テレグラフ紙に「これは、我々の継続的な準備と放射線安全保障のための作業の一部であって、ウクライナ情勢によって加速されたものではありません」と述べている。

10/7、ロシアのタス通信は、ホワイトハウスのトップは、ロシアのプーチン大統領が 「核兵器使用の可能性について冗談を言っているのではない 」と考えていると前書きした上で、以下のように報道している。
「プーチン大統領は9/21のテレビ演説で、ワシントンがキエフをロシア領への軍事行動へと向かわせ、核の恐喝が行われていると述べています。大統領は、この問題は、核の大惨事を招く危険性のあるザポロージエ原子力発電所への砲撃だけでなく、NATOの主要国の特定の高官代表による、ロシアに対する大量破壊兵器、すなわち核兵器の使用の可能性と容認性に関する発言についても言及しているのです。『私は、ロシアに対してこのような発言をする人々に、わが国にもさまざまな破壊兵器があり、その一部はNATO加盟国よりもさらに新しいものであることを思い出してもらいたいのです。そして、我が国の領土保全が脅かされた場合、我々は当然、ロシアと国民を守るために、自由に使えるすべての手段を用いるだろう』と警告し、『これはハッタリではありません。ロシア国民は、祖国の領土保全、そして独立と自由が確保されることに確信を持つことができる。そして、もう一度強調したいのは、われわれは自由に使えるすべての手段を持っているということです』と強調しているのです。」

<<ゼレンスキー「ロシアへの先制核攻撃をNATOに要請」>>
同じ10/7、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア領への先制核攻撃をNATOに要請したと報じられている。
ゼレンスキー氏は、10/6、オーストラリアの独立系シンクタンク・ローウィー研究所でビデオ演説を行った中で、「NATOは何をすべきか。ロシアによる核兵器使用の可能性を排除するのだ。予防攻撃を行って、彼らが行使するとどうなるか、先にわからせるのだ。その逆はだめだ。ロシアによる核攻撃を受けて、よくもやったな、いいか、今に見ていろよ!という態度ではいけない。自らの圧力行使を見直すのだ。これこそまさにNATOのやることだ。(核兵器の)使用方法を見直すのだ」と、呼びかけたという。(sputnik 2022年10月7日, 11:39)
ゼレンスキー氏の危険な本性がむき出しにされた、と言えよう。
ゼレンスキー氏の発言を受け、国連のステファン・デュジャリック事務総長報道官はブリーフィングの中で、核兵器の使用に関する議論は一切受け入れられないと反発している。

米国務省は先週、米国自身が関与したと疑われているノルドストリームパイプラインの破壊行為の後、すべてのアメリカ人に「できるだけ早く」ロシアから離れるように勧告している。退避勧告の本当の理由は、パイプライン爆破を通じて、本格的な戦争が勃発するリスクが高まることを予見したものと言えよう。
このノルドストリームパイプライン破壊後、ドイツの経済大臣は、米国と他の同盟国、「友好的」なはずのガス供給国が、実は天文学的な価格で供給していると非難し、「戦争で利益を得ている」、世界のエネルギー価格を高騰させているウクライナ戦争の影響から利益を得ていると非難せざるを得ない状況に陥っているのである。(cnbc.com/2022/10/05/)

バイデン氏は、2月のウクライナ危機勃発の際には、アメリカ人は核戦争を心配すべきではないと述べていたのであるが、その後、現在に至るまでその言葉とは裏腹に、ロシアと中国を「最大の敵」として危機を煽り、ウクライナ危機から最大限の政治的経済的利益をかっさらい、核戦争の可能性をこれまで以上に高めるために、際限のない挑発を続けてきたのである。緊張緩和と外交努力こそが要請されているときに、バイデン政権は逆のことを行い、米国自身の政治的経済的危機をより一層深めているのだと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】岸田政権:「原子力政策の大転換」?ではなく、倒産企業「東電救済」のための姑息な柏崎刈羽原発再稼働

【投稿】岸田政権:「原子力政策の大転換」?ではなく、倒産企業「東電救済」のための姑息な柏崎刈羽原発再稼働

                       福井 杉本達也

1 原子力政策の「大転換」?

9月22日、国の審議会である『総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会』が開催され、経済産業省は原発活用の議論を始めた。内容は①再稼働の推進、②運転期間の延長、③次世代型原発の開発・建設という3ステップがあるとする。①の「焦点となるのはテロ対策の不備が相次ぎ判明し事実上、運転が禁じられた東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の2基」、②は「原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、60年までの延長が認められている」「運転期間の延長」(日経:2022.9.23)であり、「経産省は22日の審議会で『一つの目安であり、明確な科学的な根拠はない』」(日経:同上)との、現行の法律を全く無視した、とんでもない認識を示した。「省内では安全審査で停止している時間を運転期間から除外するなどして実質的に延ばす案」があるとしているが(日経:同上)、安全審査の履き違えも甚だしい。③は「多額の設備投資」や「住民の理解」などハードルが高いとしつつも、委員の1人は「事業環境を整備するのが政策側の仕事だ」と述べたとしている(日経:同上)。

2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを主力電源として、2030年度までに21%とする一方、原発を20から22%程度とし、合わせて非化石電源比率44%を目指すとされた。ここでは「原発再稼働は進めるが、原子力依存度はできる限り低減していく」という基本方針が踏襲されている。ところが、今回、岸田政権は、これまでのエネルギー基本計画を全く無視して、運転期間のさらなる延長と原発の新増設にまで踏み込んだ。岸田首相は10月3日の所信表明演説で「十数基の原子力発電所の再稼働」と「次世代革新炉の開発・建設」をうたった。これに、電力業界の御用雑誌『ENERGY for the FUTURE』2022年no.4は大喜びで「原子力政策の大転換と今後の課題」という電事連会長らの対談のヨイショ記事を掲載した。

2 原子力規制委を無視して柏崎刈羽原発の再稼働

元経産官僚の古賀茂明氏によると「今冬、来冬の電力需給が厳しくなるので、東京電力柏崎刈羽原発を再稼働させる仕組みを作るということ。原子力規制委員会が認めない限り原発の稼働は法律上不可能だが、現時点では、東電の危機管理体制などに大きな問題があるため、柏崎刈羽原発には、安全審査通過後も規制委が事実上の運転停止命令をかけている。そこで、停電のおそれがある場合などには、規制委の承認なしで国の責任で緊急に動かすことにしようというのだ。その際、東電に対して、国が柏崎刈羽の再稼働を保障することで、東電が狙う家庭向け電力料金値上げを止めることも併せて検討されている。規制委の権限を無視して原発を動かすためには、新たに法律が必要になるが、それも『一気に国会に議論してもらう』」という(日刊ゲンダイ:2022.9.23)。

柏崎刈羽原発は2021年にテロ対策の不備が多数見つかり、規制委から2021年4月に核燃料の移動を禁止する是正措置命令が出され、同原発は事実上運転が禁じられている。9月14日、規制委はテロ対策の改善に向け今後の検査で確認する33項目を提示したが、これでは「当面、柏崎刈羽原発の再稼働は見込めない」(日経:2022.9.15)。

古賀氏の予想する再稼働のシナリオは「東電と経済産業省は、今冬以降の『電力不足』をことさらに宣伝する。その上で、柏崎刈羽原発を緊急時に備えて試運転することを認めてもよいのではないかと国民に訴え、規制委が認めていない段階での『緊急運転命令』を政府が出せる法律を国会で通す。そして、冬や夏のピーク時直前に、『停電になる!』と称して、柏崎刈羽原発を再稼働させ、これにより『停電回避できた!』と宣伝する。国民は安堵し、反原発の勢いは一気に衰える。規制委も運転を認め、地元も同意する……。」(日刊ゲンダイ:同上)というものである。

3 倒産企業東電を救済するための柏崎刈羽原発再稼働

資源高や円安が進み、電力や燃料の調達コストが供給価格を上回る状態が続いている。高騰する燃料価格などを転嬢しきれず、東電の電力小売り子会社は22年6月末時点で約66億円の債務超過に陥った。電気を売れば売るほど赤字が積み上がる状況で、東電は法人向けの標準料金メニューの新規契約を停止した。電力会社が新規契約を停止したことで、電力小売会社と契約できない全国の「電力難民」企業は9月1日時点で前月比16%増の4万件超となっている。東電の2023年4月からの法人向け新料金プランでは、電源構成の前提に、再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所7号機も織り込んで燃糾費の転嫁分を抑え、顧客の負担軽減につなげるという(日経:2022.9.17)。現状は全く発電できず維持管理費のみがかかる完全な不良資産で、経営の重大な重しとなっている柏崎刈羽6・7号機の合計出力は270万キロワット。もし再稼働させることができれば、東電エリアの供給力の5%程度をまかなえる計算となる。

岸田政権は「原子力政策の大転換」という大上段の話ではなく、倒産企業の東電を救済するための姑息な「原発再稼働」に打って出た。

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【投稿】ノルドストリーム破壊と欧州の分割支配--経済危機論(93)

<<「ありがとう、アメリカ」>>
9/26、月曜日、ロシアの天然ガスをバルト海を通じてドイツ・欧州に供給するノルドストリーム1および ノルドストリーム2、この二本の海底パイプラインが何者か、あるいはいずれかの軍事組織、軍事作戦によって、同じ日に同時に発生、デンマークの海域で爆破された。爆発は巨大で、「前例のない」損傷が発生、数百億ドル規模の基幹的なインフラストラクチャーが「意図的な行動」(デンマーク・フレデリクセン首相)によって破壊されたのである。その規模からして、軍事作戦であったことが明らかである。

この破壊工作が行われた当時、どちらのパイプラインもヨーロッパにガスを供給してはいなかったが、送出圧力を保持した状態であったがために、爆発によるガス漏れは、爆風から、直径 1 km にわたるガスが海上に噴出し、過去最大規模のメタンガスの放出と、それによる大規模で深刻な環境汚染の進行が憂慮されている(9/29 ワシントンポスト)。

ガス漏れは、デンマーク当局によると、ノルドストリー

ム2が10/1に、ノルドストリーム1は10/2になってようやくおさまったという

この破壊工作にいち早く反応したのが、元ポーランド外相で現・欧州議会議員であるシコルスキー氏で、「ありがとう、アメリカ」”Thank you, USA “とキャプションをつけて、海底からガスが上がっている海面の写真を載せ、アメリカへの感謝を表明したツイートを投稿している(現在は、削除されている)。いち早く、最も露骨にアメリカの関与を明らかにしたものであった。シコルスキー氏は、9/28、「ノルドストリームが麻痺したことを嬉しく思います。ポーランドにとってはいいことだ。」ともツイートしている

慌てた米欧側、その大手メディアは一斉に、ロシアがパイプラインを爆破したと非難したのであるが、そのような論調は今や急速に崩壊、ニューヨーク・タイムズでさえ、 ロシア爆破説を出せなくなってしまっている。

アメリカのジャーナリストであるMax Blumenthalは、この破壊行為を「何百万人ものヨーロッパ人を凍てつく冬に運命づける、アメリカの国家テロ行為」と断言している。

しかも、この「意図的な行動」が発生した同じ海域、同じ場所、デンマークの東海岸沖の島、ボーンホルムの海岸近くで、バルト海作戦(BALTOPS 22)と名付けられた米・英・NATO諸国の軍事演習が開催されていたという事実が明らかとなっている。この軍事演習には、水陸両用作戦能力、砲術、対潜水艦、防空、地雷除去作戦、爆発物処理、無人水中車両の演習が含まれていたのである。スウェーデン軍と常駐 NATO 海上グループの演習が終了したのは、ノルドストリーム爆破が実行されたほんの少し前の9/4であったと発表されている(米海軍News September 2022)。

<<「途方もない機会」>>
そもそもロシアにはノルドストリームパイプラインを破壊する動機も利益もなく、ドイツ、フランス、オランダの株主とともにパイプラインの半分を所有しており、パイプラインは、ウクライナでのNATOとの停戦が成立した場合、ヨーロッパとの経済関係を再構築するというモスクワの計画の中心に位置していることから、自社のパイプラインを爆破する理由は存在しないのである。

「途方もない機会」

9/30、ブリンケン米国務長官は、カナダのトップ外交官との共同記者会見で、ノルドストリームパイプラインの損傷と混乱に触れて、「これはまたとてつもない機会でもあります。これは、ロシアのエネルギーへの依存を完全に取り除き、ウラジーミル・プーチンから彼の帝国の計画を前進させる手段としてのエネルギーの兵器化を奪う絶好の機会です。これは非常に重要なことであり、今後数年間にとてつもなく大きな戦略的機会を提供します」と。興奮を抑えきれないのか、「途方もない機会」、「ヨーロッパのエネルギー危機」という言葉を3回以上も繰り返し、強調したのであった。
ブリンケン氏は、米国が今や「ヨーロッパへの LNG [液化天然ガス] の主要な供給者」になっていることを強調し、バイデン政権はヨーロッパの指導者が「需要を減らし」、「開発を加速できるようにするのに役立っている」とも強調したのであった。
これは露骨な米政権の本音の吐露と言えよう。すでに3週間前、ロシアのプーチン大統領はサマルカンドでの記者会見で、ドイツがロシアへの経済制裁を解除すれば、ロシアはドイツへの天然ガス供給を再開する用意があると述べたばかりであった。プーチン氏は、「ガスプロムとロシアは、これまでにも、そしてこれからも、協定や契約に基づくすべての義務を、これまで一度も失敗することなく、履行していく」と表明している。
 9/28には、サウジアラビア政府が、ロシア・ウクライナ危機解決への支援を表明し、和平と引き換えにウクライナがロシアに領土を割譲するというサウジ主導の和平交渉を提案している。
こうした和平や和解に目を向けさせてはならない、ヨーロッパがロシアの天然ガスの代わりにアメリカの天然ガス輸入にもっと依存するように仕向けること、それこそが、最初からウクライナ戦争におけるアメリカの主要な目的であったことを明らかにしている。ロシア・中国を挑発し、軍事紛争の罠を仕掛け、エネルギー主導のロシアとドイツの和解の可能性を破壊し、ヨーロッパを分割支配する、進行する経済危機を冷戦・挑発路線で乗り切る、しかしそうはうまくはいかない事態への焦り、危機感こそが、今回のノルドストリーム破壊作戦となってしまったのだとも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】統一教会を巡る問題と隠された狙い

【投稿】統一教会を巡る問題と隠された狙い

福井 杉本達也

1 突然に問題とされ始めた「自民党と統一教会の関係」への違和感

安倍晋三元首相を銃撃したとされる山上徹也容疑者が犯行の動機として安倍氏と統一教会との関係を口にしたという奈良県警のリークから、突然のようにして自民党と統一教会の関係が問題視され始めた。しかし、ここには「なぜ今」という違和感がある。周知のように、人気アイドル歌手だった桜田淳子が韓国で統一教会の合同結婚式を行ったことがマスコミで大きく取り上げられたのは1992年であり、霊感商法が摘発されたのは2009年である。途中、オウム真理教事件があったとはいえ、この間、統一教会に関してマスコミは何も取材しなかったのか。何も問題はなかったのか。

片岡亮氏は「2006年、ある情報番組の出演で、一般ニュースにコメントする仕事の際、制作サイドから『これらを口にするときは内容に気をつけてほしい』と渡されたリストがあった。そこには広告代理店の電通、創価学会、朝鮮総連、ディズニー、ジャニーズ、食品環境ホルモン、コンビニ弁当など、多数のワードが並び、そこに統一教会もあった。」「2012年、第2次安倍政権になると、さらに統一教会がらみの記事は激減。2014年に週刊新潮が山谷えり子国家公安委員長と統一教会の関係を記事にした程度になっていた」と書いている(「現代ビジネス」2022.8.2)。

2 奈良県警のリークから始まった

奈良県警は安倍元首相銃撃事件の当初からリークによって世論形成を図ろうと試みており、朝日新聞は「宗教団体に恨み、容疑者『安倍氏とのつながり』」という見出しで、「県瞥によると、山上容疑者は『特定の団体に恨みがあり、安倍民とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ』という趣旨の供述をしている。」(朝日:2022.7.9)と、事件当日から積極的に「統一教会」を全面に出している。本来ならば、警備の不手際での県警本部長の謝罪会見がすぐに行われるべきところである。奈良県警から情報を得たマスコミは、その日から教会信者といわれる山上容疑者の母親の出身大学である大阪のS大学の同級生宅を執拗に取材している。全く異様な展開と言わざるを得ない。そこには、奈良県警(当然、上部組織としての警察庁)の当初から(事件前から)の筋書きによって、「統一教会」を銃撃事件の煙幕に使うという意図が感じられる。

3 ほとんど報道されない銃撃事件

9月27日の安倍元首相の国葬のベタ報道においては、一部関連で、山上容疑者の「銃撃事件」が報道され、怪しげな“手製銃”のアップ画面も出されたが、それ以外ではほとんど報道されることはなくなった。8月25日に中村格警察庁長官と鬼塚友章奈良県警本部長の警備の不備による引責辞任会見報道があった程度である。検察は、「鑑定留置で、事件当時の精神状態の調査が続いている。…鑑定結果を踏まえて、刑事責任能力の有無を見極め」起訴するかどうか判断する(日経:2022.9.8)と、犯行に使われた弾丸が見つからないといった事件の矛盾点を追究されては困るという姿勢がありありで、精神鑑定期限の11月29日までは今後も事件を掘り下げる報道はほとんどないと思われる。

4 統一教会とは

統一教会は米CIAとKCIAによって作られた宗教団体を装った政治団体である。統一教会は1954年に韓国で文鮮明が創設、日本では59年から伝道が開始された。1964年・宗教法人の認可を獲得、68年には「国際勝共連合」を設立している。右翼の大物・笹川良一(旧船舶振興会=現日本財団)は1970年、政治団体「国際勝共連合」のイベントに参加したアメリカ統一教会幹部に胸を叩きながら「私は文(鮮明)氏の犬だ」と語った。1974年5月、文鮮明が東京・帝国ホテルで開いた「希望の日晩餐会」は、岸信介元首相が名誉実行委員長を務め、約2000人が集り、自民党国会議員40人が出席した。岸派閥の後継者で当時の福田赳夫蔵相は「アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明である。」とスピーチ、文と抱擁を交わした。福田は1976年に首相となり、その福田の派閥後継者が安倍晋三元首相の父親である安倍晋太郎である。「霊感商法」や高額献金が社会問題化したのは、1980年代後半である。霊感商法対策連絡会に寄せられた被害相談は計3万4537件、被害額は約1237億円にのぼるという。2009年には警察が大規模な摘発を行っている(日経:2022.9.2)。フリーライターの青葉やまと氏の記事によると、ニューヨークタイムズ紙は「1976年から2010年のあいだに日本の旧統一教会は、アメリカに36億ドル(4700億円)以上を送金しているという」(PREZIDENT Online 2022.8.1)。これが、「ワシントン・タイムズ」などのマスコミ対策資金や米国の政治工作・また日本にリターンされて、日本政界の工作に利用されていると思われる。

したがって、今回の安倍元首相暗殺を契機に突如浮上した統一教会を巡る問題は、米CIAの絡んだ事件であり、今日の米国の分裂した政治情勢が反映している。小沢一郎氏は「元々思想や理念が無いから、反日的な外国カルト団体とも平気で結びつく。自民党という利権を打破できなければ、日本は茹で蛙になって滅び行く」とツイートしたが(2022.9.27)、結びついているのは米CIA傘下の「外国カルト団体」である。日本は、戦後77年、このような属国状態を打破できていない。

5 米「台湾政策法案」と極東のウクライナ化

米上院外交要員会は9月14日、「台湾の防衛力強化を支援する『台湾政策法案』を超党派の賛成多数で可決した。これまで売却していた武器を『譲渡』でも供与できるようにする。盛り込まれた支援額は軍事演習を含め5年間で65億ドル(約9300億円)規模。」という。台湾政策法案は台湾を『主要な非北大西洋条約機構(NATO)同盟国』に指定する。台湾を『国』と同等に扱う」ものであり、イスラエルに適用している武器譲渡資金供給(FMF)を利用して無償の武器譲渡も可能となる(日経:2022.9.16)。9月29日付けの日経は「ウクライナはNATOなどの装備品や弾薬を活用し7カ月を超える長期戦が可能になった。自国備品などの保有だけでなく、米国や準同盟国との共通基準」を作ることが大事だと書いているが、米軍は正面に出ず、武器・弾薬を無制限に供給することで、台湾軍が中国軍と戦うという極東のウクライナ化を目指している。その場合、武器・弾薬・傭兵の兵站基地としての日本の役割は必須であり、何としても日本を極東のウクライナ化に巻き込まねば、シナリオは成立しない。ウクライナ問題に火をつけたネオコンのヌーランド米国務次官は7月25日に来日し山田外務審議官らと会談している。その後、韓国を訪問している。こうした極東のウクライナ化に韓国は拒否反応を示している。ペロシ米下院議長が訪台後に韓国を訪問したが、尹韓国大統領は「休暇中のため」と称して、ペロシ氏と会わなかった。韓国民主党の議員は「ペロシに会うのは米中対立という火の中に蓑を着て飛び込むようなものだ」と語っている(孫崎享:2022.7.6)。いま、その「蓑」を着つつあるのは日本である。統一教会を巡る問題は日本国内だけの問題ではなく、「外国勢力」である米国の政治的分裂の反映であると同時に、台湾関与への煙幕でもあり、また、9月27日の安倍国葬も9月29日の日中国交正常化50年の根本的な意義を薄める煙幕でもある。

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【投稿】米FRBの世界的同時不況化路線--経済危機論(92)

<<「火を付けて、消火に当たる放火犯」>>
米連邦準備制度理事会(FRB)は、9/20-21に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の0.75%引き上げ決定を明らかにした。通常の3倍となる大幅な引き上げで、6月以来、3会合連続の利上げとなり、次回11月の会合でも、大幅利上げを継続し、2022年末までに、追加で計1.25%引き上げる計画である。その結果、政策金利は年3.00~3.25%と、08年以来の高水準となる見通しである。
FRBのパウエル議長は、これによって失業率上昇と経済成長鈍化という代償が伴うことを示唆しつつ、それでも「インフレ抑制に向け手を緩めることはない。物価の安定なくして、経済は誰のためにも機能しない。仕事を成し遂げたと確信するまで続けるだろう」と断言している。
この発表を受けた9/21の米株式市場は、利上げが織り込み済みだったにもかかわらず、不安定な取引に追い込まれ、終盤大きく下落、主要株価3指数はいずれも1.7%超下落、優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比522.45ドル安の3万0183.78ドルで終了、ハイテク株中心のナスダック総合指数は204.86ポイント安の1万1220.19で引け、米国債市場では、政策金利に敏感な2年債利回りが2007

年以来の高水準に上昇し、景気後退(リセッション)のシグナルとされる逆イールド(長短金利の逆転)が進行する事態となっている。
インフレなど、一時的なことだと軽視し、ゼロ金利政策で投機バブル経済を煽り、マネーゲームにどんどん資金を提供し続けてきたてきたパウエル議長らが、「自ら火を付けた後に自発的に消火に当たって英雄を気取る放火犯のようにも見える。」(9/22 BloombergNews センター・アセット・マネジメントのJ・アベート

氏のコメント)とこき下ろされる事態である。

ところが、こうしたパウエル路線を「もっと推し進めろ」と激励し、奨励しているのが、億万長者マイケル・ブルームバーグが設立した BloombergNews で、9/21の社説は、連邦準備制度理事会に対し、さらなる解雇と賃下げの必要性を「理解していることを示す」ように促し、ブルームバーグの編集委員会が公然と、米中央銀行に対し、高騰するインフレを抑制するために「不況を引き起こす」意思があることを示すよう奨励しているのである。「この社説が、経済の生命線であり、不況の代償を負うことになる労働者、家族、地域社会について全く触れていないことに、私がどれほどショックを受けたか、想像してみてほしい。」とグラウンドワーク共同体のキャンペーン・パートナーシップ担当マネージングディレクターのクレア・グズダーはTwitter投稿で指摘している。

<<24年ぶりの円売り・ドル買い介入>>
9/22、米金利引き上げ発表とすぐさま連動した円安の進行に慌てた政府・日銀は、ついにドル売り円買いの為替介入を実施し、「伝家の宝刀」を24年ぶりに抜かざるを得ない事態に追い込まれた。日本政府が最後に円売り介入を行った2011年11月以来である。円は、対ドル145.50から142.50まで変動したが、日米協調介入とはなりようもなく、根本的な政策転換がない限り、せいぜい、円安のペースを遅らせる程度であることは目に見えている。

17か月連続、実質賃金低下

問題は、こうしたパウエル路線、利上げと緊縮、不況推進路線は、世界的な景気後退と同時不況の同期化を推し進める結果をもたらそうとしていることである。

問題のインフレであるが、8月の米消費者物価は予想を吹き飛ばし、27ヶ月連続上昇となった。エネルギー指数は23.8%上昇と、7月期の32.9%上昇に比べ上昇幅が縮小したが、食品指数は11.4%上昇と、1979年5月期以来12ヶ月ぶりの大幅上昇となり、家庭用食品指数は13.5%上昇と1979年3月期以来12ヶ月ぶりの大幅上昇を記録している。さらに注目すべきは、食料やエネルギーなどの不安定な項目を除いたコアCPIが前月比0.6%上昇(予想の+0.3%の倍)と予想を大きく上回ったことである。家賃のインフレ率は6.74%と、1980年代前半までさかのぼらないと確認できないほどの高水準に達している。実質賃金は、17か月連続の低下を記録している。

問われているのは、こうしたエネルギー価格の上昇、食品コストの上昇、サプライチェーンの縮小に起因する価格変動に、利上げ政策は何の役にも立たないことである。独占的市場支配と価格操作を規制する反独占政策こそが問われているのである。サプライチェーンの混乱は、無謀な反ロシア・反中国の制裁政策や緊張激化政策こそが問われているのである。
(生駒 敬)

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【翻訳】北京から見たウクライナの戦争

The Japan Times August 6-7, 2022
【O p i n i o n 】
“ Ukraine’ war viewed from Beijing” 
Mark Leonard, Beijing, Project Syndicate

「北京から見たウクライナの戦争」

 ロシアによるウクライナへの侵攻は、来年には、欧州が中東であるかのように思われる紛争の続きの、単なる最初のものなのだろうか?
 先週、匿名を希望する一人の中国の学者は、私にそのような問いを投げかけた。そして彼の論法は、欧州の地政学秩序を塗り替える戦争への見方が非西洋人(”non-Westerners”)では、いかに違っているかを示していた。
 彼らは、どのように世界を観ているかを理解する為の中国の大学の先生方や学究の人達(“academics”) との話し合いにおいて、彼らは、西側 (“the West”) が行っている多くの事について、全く異なった立ち位置からスタートしているということを私は見つけた。彼らは、ウクライナの戦争を Kremlin よりも NATOの拡大のせいにする傾向にある、ということではない。それは、彼らの中核となる戦略的な考え方、想定の多くが、又しても、我々自身のものの反対側にある、ということである。

 欧州人や米国人が、この紛争を世界歴史の転換点 (“turning point”) と見なしている一方で、中国人は、それを一つの干渉戦争 (“war of intervention”) と見ている。この紛争は、過去75年間に起こった朝鮮半島、Vietnam, Iraq, Afghanistanの戦争に比べれば、むしろその重要性は大きくない。彼ら中国人の理解の中で、今回の紛争で、ただ一つ違うところは、干渉しているのは西側 (“the West”) ではない、ということである。
 さらに、欧州の多くの人々が、この戦争は、米国の国際舞台への復帰を特徴付けた、と考えている一方で、中国の知識人たち (“intellectuals”) は、次にやって来る post-American world の確固たる証拠と見なしている。彼ら中国人にとっては、米国の指導権 (“American hegemony”) の終焉が、真空地帯を作り出したのであり、その真空地帯は、今ロシアによって満たされつつある、と見ている。

 西側の人々、国々 (“Westerners”) は、法/規則に基づいた秩序/治安 (“rule-based order”) への攻撃と見なしている一方で、私の中国の友人達は、多元的世界 (“pluralistic world”) の出現と見ている。そこにおいては、American hegemony の終焉は、異なった地域やそれに準じる局地での企みを許している。彼らは論じている、即ち、rule-based order はいつも正当性/合法性 (“legitimacy”) を欠いてきている。西側の勢力 (Western powers”) は法/規則 (“rules”) を作り上げた。そして彼らは、それが彼らの目的に叶う時には ( Kosovo や Iraq におけるごとく)、それらを置き換えることについて、良心の痛み/罪の意識 (“compunction”) を決して示して来ていない、と。

 これらは、中東の似たような出来事に導く議論である。私の中国における対話者は、以下のように見ている。即ち、ウクライナにおける状況は、主権国家間の侵略戦争ではなくて、むしろ Western hegemony の終焉に続く、植民地時代の後の国境(“post-colonial border”) の改定であり、中東において、国々は第一次大戦後に西側 (“the West”) が線引きした国境に疑問を持っているのと同じである、と。
 しかし、最も際立った対比は、ウクライナ紛争は広く一つの代理戦争 (“a proxy war”) と見なされていることである。まさに、Syria, Yemen, Lebanon における戦争は、列強 (“great powers”) によって焚きつけられ、助長され、利用されてきたのと同様に、ウクライナにおける戦争も同じことである。 誰が一番の受益者であるか? 私の中国の友人は、それは、確かに、ロシア、ウクライナ、欧州ではない、と論じている。むしろ、最終的には、米国と中国が大部分を占める位置に立ち、両者はより拡大する対立関係に於ける代理戦争として、この戦争に接近し、対応して来ている、と論じている。

 米国は、欧州諸国、日本そして韓国を取り込んで、米国の指令優先の新しい同盟に引き入れ、ロシアを孤立させ、中国に対しては、領土の保全のような問題について、いずれに立つかはっきりさせるように仕向けることで、恩恵を得てきている。 同時に中国は、ロシアの従属的位置(“Russia’s subordinate position”)*を強化することや、“the Global South”** のより多くの国々を、非同盟 (“non-alignment”) に応じ促すことによって、恩恵を得てきている。

*訳者注 : 総体として、ロシアより中国が上と見ている。参考までに
           GDP比較は以下のごとくです。
         面積   人口( 2021. 12.)  名目GDP (2022.)
ロシア  1,712.5 万Km2    1.26 億       1.8 兆  US$
中国    960 万 Km2    14.13 億       19.9 兆 US$
米国    980 万 Km2     3.31 億       25.3 兆 US$
日本     36 万 Km2     1.25 億        4.9 兆 US$

**訳者注 : the Global South
国連などの機関が、Africa, Asia, 南米を指す地理的な区分としての用語や、研究者、活動家が現代資本主義のglobal化によって、負の影響を受けている世界中の場所や人々を指して使う。

 ヨーロッパのリーダー達が、自身を21世紀の Churchill (訳者注:ご存知のごとくイギリスの首相 [1874-1965] 第二次世界大戦でファシストのドイツと戦った。) に擬えて振舞っている一方で、中国人は彼らを、より大きな地政学のゲームにおける手先(”pawns”)と見なしている。 私が話し合った中国の学者達、見識ある人々のすべての間で一致した見解は、短期間ながら COVID-19 による混乱や、長期にわたる米国と中国の支配権を巡る争い (“struggle for supremacy”) に比べれば、ウクライナにおける戦争は、むしろ、つまらない、取るに足らない気晴らし (“unimportant diversion”) である、というものである。

 言うまでもなく、私の中国における対話者の重要な論点について、異論ある人は議論も出来よう。確かにヨーロッパの人々(国々) (“Europeans”)は、中国人が暗に示したより、多くの手段を持っている。そして、ロシアの侵攻に対して、the West の力強い反攻が、1990年代の Yugoslav 継承をめぐる 10数年に渡り起こっていたように長期化がつきものの国境紛争の、最初の段階で、首尾よく拡大を防ぐことが出来た。
 それにもかかわらず、中国の観察者達 (“observers”)は、我々が行っているのとは異なって、物事を組み立てて、言い表しているという事実は、我々に、ためらいを与える。 少なくとも、西側 (“the West”) にいる我々は、残りの世界の人々(国々)が、我々をどう理解しているか、もっと真剣に考えるべきだ。 そうは言っても、中国人の議論を、単なる話題として、さっさと片付けたくなる。その議論とは、敵対的で非民主的な政権(ウクライナについての公な討議は、中国では統制されている)の良い面を維持するように目論まれている。 しかし待てよ!多分、いくらかの謙虚さも必要ではないか。

 中国の観察者達が、そのような一風変わった大局観 (“radically different perspective”) を持っているという事実は、何故に、ロシアに対する制裁で、西側 (“the West”) に、ほぼ全世界の支持 (“near-universal support”) が集まらなかったということを説明する助力になるかもしれない。
 ウクライナにおいて、支配をロシアから取り戻す政策が優勢になっている一時期において、我々は他の国々では、ウクライナの重要性を割り引いて (“discounting”) 考えている、ということを知っても驚くべきではない。 我々が rule-based order の英雄的自衛と見なしている一方で、他の国々(人々)は、急速に多極化が進んでいる世界における Western hegemony の、最後のあがき (“last gasp”) を見ている。

Mark Leonard, Director of the European Council on Foreign Relation, is the author of “The Age of Unpeace: How Connectivity Causes Conflict” (Bantam Press, 2021)

                          (訳: 芋森)   [ 完 ]

                  

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【書評】『東日本大震災──3・11 生と死のはざまで』

【書評】『東日本大震災──3・11 生と死のはざまで』
         (金田諦應著、2021年1月刊。春秋社。1,800円+税)

 本書によってわれわれは「臨床宗教師」というものの活動を知ることができる。著者は、宮城県内陸部にある曹洞宗・通大寺住職。そして傾聴移動喫茶「カフェ・デ・モンク」を主宰する。そのメッセージボードにはこうある。
 「Cafe de Monkはお坊さんが運営する喫茶店です。Monkは英語でお坊さんのこと。(略)『文句』の一つも言いながら、ちょっと一息つきませんか?お坊さんもあなたの『文句』を聴きながら、一緒に『悶苦』します」。
 こうして3・11東北大震災の避難所、仮設住宅を巡って被災者の言葉を傾聴する。
 その原点には、二つの体験がある。
 その一。大震災の後、新聞記者から沿岸から多数の遺体が来るという情報を得る。地震と津波によって遺体を荼毘に付す火葬場がほぼ壊滅し、内陸の火葬場に運ばれてくる多数の遺体。これに最後の祈りを捧げようと、僧侶たちに呼びかけ6名ほどの僧侶が応じてくれた。しかしここで普段とは異なる事態に直面する。「檀家の火葬ではなんの問題もなく読経できるのだが、ボランティアとして不特定多数の方々に読経するとなると、話が違う。私たち僧侶といえども、火葬場という公共空間で檀徒以外の方に向き合うためには、行政との取り決めが必要なのだ」ということである。つまり政教分離の原則の枷である。このため読経にあたっては、斎場管理の市、特定指定業者の社長、そして現場で働く職員への説明と了解が必要となる。この手続きを踏まずに火葬場や遺体安置所に入った宗教者がいたために、その後「宗教者お断り」となったところもあった。
 著者の場合、「最初に来た遺体は小学生5年生の女の子二人。小さな棺を前に祈りの言葉が震え、声が出ない。(略)にわか作りのお棺に入っている祖父、トラックの荷台に載せられてきた父、青いブルーシートに包まれた母、宅配便の冷凍トラックに妻と子を載せてきた夫、父の死骸に何度も話しかけている息子・・・。/静謐で残酷な『生と死』。そこには凍り付いてしまった心と、未来への物語が紡げなくなった人々がいた。火葬場での読経ボランティアは一ケ月半ほど続き、あわせて三五〇体ほどのご遺体に祈りを捧げた」。
 その二。震災から四十九日目。僧侶一〇名と牧師一名が参加しての「四十九日犠牲者追悼行脚」。南三陸町戸倉海蔵寺から海岸まで僧侶と牧師で歩く。「遺体の見つかった瓦礫の山には赤い旗が立っている。周囲には死臭とヘドロが入り混じった臭いが漂う。私たち僧侶の唱える経文はやがて叫びに変わり、後ろを振り返ると、牧師は讃美歌集を頻繁に閉じたり開いたりしている。この状況の中で歌う讃美歌が見つからないのだ」。
 そして自分に問う。「瓦礫が散乱する海岸に立つ。破壊の海を前に、教理・教義、あらゆる宗教的言語が崩れ落ちる。/大乗仏教中観哲学の祖、龍樹(りゅうじゅ)の『中論』を思い起こす。龍樹は『認識の不成立』を徹底的に説く。ならば、目の前の惨状は虚亡なのか。この惨状も不成立なのか。不成立なのに慟哭する自分がいるのはなぜだ。この湧き上がる慟哭も虚妄なのか」と。
 かくして著者は、これまでの教理・教義、宗教・宗派以前の「宗教者としての基底を支える」部分、「現場から立ち上がる『言葉』と、自らが信ずる宗教の教義とを厳しく対峙させる、その無限循環」こそが重要であるとして、ここから大災害現場に立ち、被災者の言葉をひたすら傾聴する運動を始める。
 その一環として「カフェ・デ・モンク」があり、具体的な活動の経緯は本書の至る所に記されている。被災者の体験はそれぞれの地獄、苦しみであり、それへの対応の難しさは言うまでもないが、この運動の継続的発展として「臨床宗教師」の活動・育成が志される。
 「臨床宗教師」とは、「被災地や医療機関、福祉施設などの公共空間で、心のケアを提供する宗教者」、「布教・伝道を目的とせずに、相手の価値観、人生観、宗教を尊重しながら、宗教者としての経験を活かして、苦悩や悲嘆を抱える人々に寄り添う」、そして「スピリチュアルケア」「宗教的ケア」を行なう宗教者とされる。
 この構想は東北大学大学院に「実践宗教学寄附講座」の設置と、そこでの超宗教・超宗派の宗教者の育成というかたちで結実し、欧米の「チャプレン教育」(教会・寺院に属さずに施設や組織で働く聖職者)を参考にはするが、日本人の宗教感情を踏まえて開講されている。
 こうした宗教者のケア活動に対して、とあるシンポジウムで、精神科の医師でもなく、臨床心理の専門家でもない宗教者が「心のケア」と称して介入するのはいかがなものか、という意地悪い質問が出た、と著者は語る。そしてこれに対して、こう切り返した、と。
 「私の住む栗原市は・・・(略)。その山から宮城県側に三本の川が流れている。(略)人と物はこの川を利用して行き交っていたのだ。つまり、私たちは彼らと風土・言語・文化を共有しているのである。川上の人間が川下の危機にあたり援助するのは当然のことで、ことさら心のケアということではない。/しかるに、精神科医も臨床心理士も、この地方の方言を理解できるか?文化はどうだ?なにか芸能の一つでも知っているか?信仰のありようはどうだ?あなたたちは何者で、誰に向き合おうとしているのか?(略)まあ、目的は一つ、それぞれの役割があるので、互いに専門性の囲いをはずし、一緒にやりましょうよ。会場のあちこちから笑いが起こる」。
 そして続ける。「人々は蛸壺の中に居座る専門家たちの『下心』には、決して心は開かない。専門家たちよ。蛸壺を出でよ!そこに待っているのは、命をつなぐ北上川と三陸の豊かな海だ」。
 こうした視点から被災者に寄り添う宗教者として、福島第一原発事故についてもこう語られる。
 「宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』は、現場に『行って』のフレーズが繰り返される。これは宗教者としての基本的な態度である。しかし、であるならば、『福島第一原発に行って、怖がらなくともいい』ということを、心の底から言えるだろうか。(略)宗教はこの原子力災害とどう向き合うのか。それは、『宗教はこの文明とどう向き合うのか』と言い換えることができるだろう」。
 以上のように本書は、宗教者の立場からの根底的な自省を含めて被災者の「心のケア」に取り組んできた僧侶の記録である。その活動には様々な議論があると思われるが、しかしこれまで大震災、原発事故に対して行なわれてきた活動に別の深まりの視点を提供するものであろう。いわんや昨今メディアを賑わしているカルト宗教などはこの爪の垢でも煎じて飲めば、と思われる。(R)

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【投稿】「いくらかの代償・苦痛」路線--経済危機論(91)

<<パウエル発言で金融・先物市場、大荒れ>>
8/26、金曜日、米連邦制度準備理事会・FRBのパウエル議長は、ワイオミング州ジャクソンホールで開催された金融資本エリートを集めたシンポジウムで演説し、米国の中央銀行はインフレとの戦いを続けるために、経済への「痛み」を与えざるを得ないと宣言するに至った。
パウエル議長は、「金利の上昇、成長の鈍化、労働市場の軟化はインフレ率を低下させる一方で、家計や企業にいくらかの苦痛をもたらすでしょう。これらは、インフレ抑制の不幸な代償です。しかし、物価の安定を回復できなければ、はるかに大きな苦痛を伴うことになります。」と断言したのである。
ゼロ金利と金融緩和政策であふれかえるイージーマネーで投機経済バブルを煽り続け、実体経済を掘り崩し、自分たちがインフレを作り出しながら、インフレなどは「一時的な現象に過ぎない」と言い続けてきたパウエル議長やイエレン財務長官。彼らは、昨年末来のインフレ高進をもはや否定できないとみるや、その責任も取らずに急遽、需要破壊路線としての引き締め・緊縮路線、つまりは不況促進と大量解雇を、「いくらかの代償」「いくらかの苦痛」などとする責任転嫁路線への転換を明確に打ち出したのである。
 すでにレイオフ・人員削減の「津波」が始まっており、Best Buy、Ford Motor、HBO Max、Peloton、Shopify、Re/Max、Walmart、Wayfairなどが、すでにレイオフ、人員削減を発表しており、CNBCの報道によると、50%の企業が今後6~12ヶ月の間に全体の人員削減を見込んでいる。米労働省が9/2に発表した8月の雇用統計でも、実態を過小評価してはいるが、それでも失業率が3.7%に上昇している。

全米のフードバンクは物価高の影響を受け、生活費を稼ぐのに苦労する家庭が増える中、長い行列ができ、新しい顔ぶれが増えている。(8/30 CBS EveningNews

8/29 先物市場暴落 Hi:4217.25 Lo:4006.75

パウエル氏の発言を受けて、週明けの8/29以来、いくらかの緩和路線路線への復帰を期待していたニューヨーク市場をはじめ、世界の金融・先物市場は期待を裏切られ、大荒れの事態に突入している。

9/2 Hi:4219.25 Lo:3989.25

米国株式市場は、それ以降4日間続落、月間では7年ぶりの大幅な下落に見舞われ、主要株価3指数いずれも8月としては2015年以来7年ぶりの大幅な下落率を記録した。S&P総合500種は8月半ばに付けた4カ月ぶりの高値から8%超下落。ダウ工業株30種は4.06%安、ナスダック総合は4.64%安と大荒れの展開となった。もちろん、欧州、東京市場も同様の事態である。

(上図、2つはEmini S&P Futures シカゴ・マーカンタイル取引所において電子的に取引される先物契約の一日の動き)

<<対ロシア制裁のブーメラン>>
そこへさらに、9/2、ロシアのガスプロムが「予期せぬ」漏洩によりノルドストリーム1を無期限で「完全に停止」したことを発表、米欧の株価は再び暴落の事態に見舞われたのである。S&P 500、Eurostoxx 50、日経の「モメンタム シグナル」がさらに悪化する可能性が指摘されている。
この同じ9/2 東京外国為替市場では円が対ドルで一時1ドル=140円半ばまで下落し、一時140円40銭と1998

S&P 500、Eurostoxx 50、日経「モメンタム シグナル」さらに悪化する可能性

年8月以来の安値を更新、ドル・円相場は146円台に乗せて日米協調介入が行われた1998年の水準に接近しつつある事態に突入している。今や円は、日銀・政府の無策により、資金を安い金利通貨で調達して、高い金利通貨で運用する円キャリートレード・マネーゲームの格好の対象となり、キャリートレード絡みの円売りが円安のけん引役にまでならんとしているのである。

 

ガスプロム、「油漏れ」の疑いのある写真を公開

ところで、本来、ガスプロムは3日間の定期検査終了後の9/4にもガス供給を再開する予定であったが、定期保守作業中に油漏れが発見され、欠陥が是正されるまで、ノルトストリームパイプラインへのガス輸送は完全に停止される、供給再開の時期は不明と発表したのであった。
EU諸国にとってこの「衝撃的な展開」は、この地域の冬場の貯蔵管理能力に関する市場の不確実性が再燃し、9/5以降、天然ガス価格の大幅な上昇に再び見舞われ、8月の高値を更新する可能性があると見られている。それはさらなるエネルギー価格の世界的な再上昇を招きかねないものである。Bloombergは、「欧州のエネルギー危機が劇的に悪化し、価格も緩和されつつあった矢先の出来事だ。もし停止が続けば、家庭や工場や経済が危険にさらされ、対ロシア戦争でウクライナを支援するヨーロッパの手腕が弱まってしまう」と報じている。
ここでも明らかなことは、米・欧・日の対ロシア制裁・緊張激化路線が完全にブーメランとして自らに跳ね返ってきていることである。不毛な戦争を対話と緊張緩和で一刻も早く平和的解決に導かない限り、さらなる苦境を自ら招き込むだけなのである。

そして根本的な問題は、インフレ対策としての金利引き上げは、景気を悪化させ、失業率を高め、賃金の伸びを鈍らせはするが、ガスや食料品の価格を押し上げている供給側の要因に影響を与えることはできないし、「価格を上げられるから上げている」巨大独占企業を規制・解体することはできないのである。さらに緊張激化路線で巨大な超過利潤を稼いでいる軍需・軍産複合体、軍需経済への依存などを断ち切ることはできないのである。しかし、こうしたことに根本的なメスを入れる反独占・反恐慌政策、つまりはニューディール政策が実行されない限りは、現在直面する経済危機の解決はあり得ない、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】米学生ローン免除をめぐる攻防--経済危機論(90)

<<「平手打ちだ、無謀で違法だ」>>
8/24、バイデン米大統領は、学生ローンを抱えて苦しむ数百万人の借り手に対し1人当たり1万ドル(約136万円)の返済を免除する「学生債務救済計画」(Student Debt Relief Plan)を明らかにした。返済免除の対象は、年収12万5000ドル(夫婦の場合、25万ドル)以下で、ペル・グラント(Pell Grant)と呼ばれる低所得者向け学生ローンは2万ドルを返済免除、とするもので、この部分的な債務免除措置は、過去2年半の学生の債務免除期間が終了したときに有効となることから、2023年1月1日が、債務の取り消しと債務免除の終了、および毎月の学生ローンの支払いの再開となる。この学生ローン返済免除措置は最大で4300万人に恩恵をもたらし、約2000万人は債務が全額免除にな

ホワイトハウスのTwitter

るという。
バイデン大統領は、2020年11月の大統領選で、学生ローン債務の帳消し(最高5万ドル)、年収125,000ドル未満の家庭の学生に対して公立大学の授業料を無料にすることを公約に掲げ、最終的に若い有権者の支持を獲得することができたのであったが、政権就任後は事実上放置していたのである。コミュニティ・カレッジを無料にする試みは、与党・民主党右派からの反対で葬り去られていた。しかし、この秋の中間選挙(上院の三分の一、下院の全議席改選)を前に、支持率低下を挽回する切り札として着手した、着手せざるを得なかったのであろう。
この学生ローン返済免除に対

借金を返すってどういうこと?(PPPでローン免除の共和党議員たち)

して、共和党は直ちに反撃を開始、米上院共和党トップのマコネル院内総務は、学生ローン返済免除は「犠牲を払って大学資金を貯めた全ての家庭、負債を返済した全ての卒業生、そして負債を背負わないために特定のキャリアパスを選んだり、軍隊に志願したりした全ての米国人に対する平手打ちだ」、「学生ローン社会主義」だと、同じく共和党のエリス・ステファニック下院議員は「無謀で違法だ」と非難している。
こうした非難に対してホワイトハウスは、直ちに反撃し、8/25のツイッターのスレッドで、学生ローン免除に不満を持つ共和党議員全員を、企業を支援するために2020年に創設されたパンデミック・エイドであるペイチェック・プロテクション・プログラム(PPP)を通じて免除された彼らの何十万、何百万ドルにも及ぶローンの額まで明示してリストアップしている。

<<「森林火災にバケツ一杯の氷水」>>
しかし問題は、この「学生債務救済計画」は一歩前進ではあるが、いくつかの深刻な問題が浮上していることである。まず、債務者4500万人のうちの2500万にしかすぎないということ。置き去りにされた2000万人が持続不可能な債務の山の下に放置され、債務が今後も膨らみ続けることである。
 さらに、平均的な学生の負債は 37,000 ドルで、授業料は年5~10% 昇し、金利は間もな現在の5%をはるかに超えるため、1 万ドルの債務免除では追い付かないのである。たとえば、カリフォルニア州立大学の平均費用は、年間 1万5000ドルから 1万7000 ドルを超え、さらに上昇している。1万ドルの元本の減額は、授業料、手数料、宿泊費などの増加による自己負担額の増加と、それに加えて現在の金利の急速な上昇によってほぼ確実に相殺されることが明らかなのである。かつてバイデンが検討していたとされる5万ドルの学生ローン債務帳消し政策こそが現実的であり、必要だったのである。
さらに大学が授業料と手数料を引き上げることができる上限が設定されていない限り、何百万人もの学生債務の元本は今後も増加し続けることである。その上に、インフレ調整がなく、金利に上限がないため、残存債務の未払いまたは部分的な利息の支払いは、未払いの元本のレベルを上昇させ続けることである。結果として、負債総額は年々増加し続け、今回の10,000ドルの免除は、わずか3~ 5年で元の状態に戻る可能性が現実的なのである。「たった 1 万ドルの借金を帳消しにするだけでは、森林火災にバケツ一杯の氷水を注ぐようなものだ」という批判が正当なのである。
要するに在学時も卒業後も学生を食い物にする金融資本主義の支配体制の危機的経済政策がそのまま保持されているのである。

 学生ローンの完全廃止とすべての人のための公立大学の無償化のために闘ってきたDebt CollectiveのAstra Taylorさんは「バイデン氏が昨日提案したこの提案は、彼の選挙公約の限界を完全には満たしていません。とはいえ、これはこの運動への足がかりです。それはマイルストーンです。忘れてはならないのは、大企業や億万長者が、平均して約 90,000 ドル相当のPPPローンを免除されていたとき、これがどこにあったのかということです。銀行が救済されたとき、彼らはどこにいましたか?政府が何十億ドルもの不良債権を買っていたとき、彼らはどこにいたのだろうか? だから、それは非常にシニカルです。私たちは戦略を立て、債務者間の連帯を生み出し、分裂して征服されるのを許しません. そして、私たちはそれを続けていきます。彼らは支払いの一時停止、支払いモラトリアムを1月1日まで延長したため、実際に債務ストライキが開始されています。」(8/24 DemocravyNow)と述べている。

バイデン政権が、この6か月間でウクライナの軍事および経済援助に矢継ぎ早につぎ込んだ640億ドルの援助だけでも、学生ローン免除の提案額の2倍以上である。学生ローン免除はまだ大統領令段階であり、議会にかけられるのはこれからであり、攻防はさらに激化すると言えよう。
(生駒 敬)

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【翻訳】銃についての オーストラリアの教訓

The New York Times, International Edition  June 15, 2022
“Lessons in Australia on guns”  
By Mr. Aaron Timms, a freelance writer covering politics and culture,
who lives in New York.
[ Opinion ] 「意見」 
( The New York Times publishes opinion from a wide range of perspectives in hopes of promoting constructive debate about consequential questions. )

「銃についての オーストラリアの教訓」

前月の Texas, Uvalde の小学校での発砲事件の後、数時間以内に、アジアからの帰路、Biden 大統領は自問していた。自由な民主国家である Australia*, Canada, 英国では、銃による暴力が、うまくコントロールされている、しかし米国では、何十年も試みているのに何故に成功していないのだ、と。「それらの国々でも、心の病気を持っている人もいるだろうし、国内での議論もあることだろう。」Bidenは、その夜遅くに、国民への演説でさらに続けて述べた。「それらの国々では、死亡する人はいる。しかし、こんなにしばしば、このような銃乱射事件(“mass shooting” )は、決して起こっていない。なのに米国では起こっている。何故か?」 * Australia : 以降「豪州」と記載。

Biden大統領の心は、豪州 に思いを巡らしていることは容易に想像できる。農村(“rural”)*の銃所有者や保守的(“conservative”)**考えの活動家達との、激しい攻防の後に豪州は、1996年の 35人の犠牲者を出した銃撃事件(訳者注:Port Arthur massacreのことで後述)をきっかけとして、銃の入手を制限する抜本的な方策を導入した。その改革は、実際には広範囲であり、すべての automatic and semi-automatic shotgunsの禁止を含み、さらに厳格な免許制、許可条件を伴うものであり、すべての銃保有者―彼らは、自衛のための保持を含まない火器の所有の為の、真の理由をも提出することを要請された―にたいして包括的な安全講習の導入をも含んでいた。 連邦政府は又、銃の特赦と買い戻しを発表した。 これによって、65万丁以上の武器が警察に引き渡されて、破棄された。

* “rural” : 訳者注:”urban” 都市の、都会の、都市に住む:の対比としての “rural” で、田舎の、農村の意。 ** conservative : 保守的な、保守主義の、保守党 の意。
   訳者注:参考までに豪州、米国の人口比較は以下のごとく。
                豪州        米国
    人口: 1996年  abt. 18 million   abt. 270 million
        2021年  abt. 26 million    abt. 332 million
    国土面積      7,688,000 ㎢    9,834,000 ㎢ 

Mass shooting や自殺を含む銃器による死亡事件は、豪州においては、この26年間において、著しく減少した。銃暴力と、その悲劇を減少させることで、時として国は変わる。Biden大統領にとって、Air Force One に乗って太平洋を越えて豪州にやってくれば、その物語は希望の、かすかな光を提供したに違いない。そして、もしそのような悲劇(Texas, Uvaldeでの事件)が豪州で起こっていたならば、何故に米国で起こらないのか、と考えるだろうか?

米国と同じように、豪州は、大量に殺戮された原住民、先住民の血の中で設立された、ヨーロッパの植民者の植民地*だった。そして、そこでは銃と征圧が歴史的に重要な文化的役割を果たして来た、フロンテア神話を持った。

*植民地 
   :訳者注:豪州は、1606年オランダ東インド会社の Mr. Willem Janszoon
        によって、北東のヨーク半島西側が発見される。
     1770年、英国人 James Cook が東岸の Sydney 近くに上陸。
     1778年、本格的植民者として、英国より、第一船団 11隻、1500名
             (内、流刑囚約780名)が上陸。
     1851年、Sydney郊外にて金鉱山の発見によりgold rush が起こり
        労働力として中国人等のアジア系の人々が流入し、人口の増加。
     1901年イギリス連邦の一員としてのオーストラリア連邦 (Commonwealth of      Australia)の発足。
         
米国は、その国の独特の用語、cowboys, buckaroos(訳者: cowboy に同義) and gunslingers (殺し屋、hit man)を有しているが、豪州においても、squatters(開拓者), drovers(運転手), and bushrangers(山奥の山賊) を有している。そして、米国同様に、豪州は今日、多民族をベースとする、連邦国家であり、銃に好意的な rural area においては、彼らは、かなりの政治的な影響力を有している。

しかしこれらの類似性は、事実に基づく、ほんの一部分であることを物語っている。1996年の Port Arthur での大量殺戮 (“massacre”)* をきっかけとしての銃改革を通して、推し進められた豪州の成功は、大部分がタイミング、巡り合わせ、そして豪州の憲法の特異性の成果であった。

*Port Arthur massacre : 訳者注: 1996. 4. 28 豪州タスマニア(”Tasmania”)島の中心都市Hobart 郊外の観光地 Port Arthur で起きた銃乱射殺人事件。死者 35人、負傷者 15人を出した。犯人、Martin Bryant 29才は、翌日逮捕された。彼には知的障害があり、知能テストの結果も平均以下であったとされている。彼は、AR-15 Assault Rifle (全自動の射撃能力を持つ自動小銃)) で観光地のカフェ、ギフトショップ、駐車場、サービス・ステーションや出入りの道路上で就業員や観光客を無差別に乱射した。豪州には死刑制度がないので、現在も服役中と報じられている。
銃の政策については、豪州と米国では、類似点より相違点のほうが多い。もし何かあるとすれば、豪州の銃改革の成功のより詳しい調査、検証が、米国が直面している課題の大きさを鮮明にするであろう。

豪州における銃改革への抵抗は、Port Arthur massacre に至るまでも激しかった。1987年に Melbourne において、二つの massacre* があり、計15人が死亡した。そして、この事件がこの国の政治議事日程に、はっきりと銃規制の必要性を提起した。しかし武器の院外圧力団体(”firearms lobby”)や、 QueenslandやTasmania のような銃に寛容な州の国会議員達は、連邦国家の改革への努力を挫折させるべく働いた。問題の一部分は、銃は、ほとんど各々の州によって統制されていて、これが銃改革を結果として国の調整に依存するようになっていた。このことは、今日の米国における銃規制が進まない状況と明らかに類似している。

  *Melbourne massacre : 訳者注 :
1. Hoddle Street massacre : Aug. 9, 1987, Mr. Julian Knight 19才は、同Streetで、行きかう車に乱射。死者7、負傷者19人を出した。動機は不明とされている。同日、逮捕されている。元豪州陸軍の軍人だった。
2. Queen Street massacre: Dec. 8, 1987, Mr. Frank Vitkovic 22才は、同
Street にあるPost Officeに押し入って銃を乱射。死者 8, 負傷者 5人を出した。大学を中退して、精神的にも悩みを持っていたと。警察に追われてビルの11階の窓から這い出ようとして地上に落下して死亡。

Port Arthur massacre の数週間前、連邦選挙があり、13年続いた反対党の政権に終止符が打たれて、保守党 (the conservatives) — urban & suburban 中道右派 Liberal Party とrural National Party の連合— が帰り咲いた。この勝利の衝撃は、新政権に大きな権限を与えた。Port Arthurでの殺戮(”slaughter”)によって、国の全地域に広がった嫌悪の大きさを、おもんばかり、新首相となった John Howard は、Melbourne での銃撃事件をきっかけに、始まってはいたが立ち止まっていた、銃改革を、すべての州と調整して、素早く推し進めた。
豪州 gun lobby は、これらの銃改革を黙っては受け入れなかった。銃所有者達は、何千人と集まって、改革に抗議した。National Party leader Mr. Tim Fischerの肖像画が、いくつかのrural でのデモで焼かれた。そして、Howard 首相は、Victoria州の海岸沿いの町 Saleでの銃支持者の集会で、防弾チョッキ(“bulletproof vest”) を着けての異常なる方法で、演説を行った。(彼は、後になって、防弾チョッキを着けたことを後悔していた。)しかし、米国におけると同様に、豪州における1990年代は、政治的には、より天真爛漫で潔白な (”innocent”)時期であった。あまり分極化していず、正義と公正の基本の上に立った両党合意、そして、我々が、慣れっこになって来ているものよりも、より毒々しさの少ないメディア環境にあった。

Conservative leader達にとって、選挙民に向かって立ち、銃改革を主張することは信念と勇気を必要とした。特に、Tim Fischerは、Howard首相の銃改革への支持ゆえに、自身の党内で激しい反対に直面した。そして、これらの分裂は、国の政治上での言説を害し、事実、長きにわたり被害をもたらした。しかし、それでも改革は可能であった。お互いの基盤をおろそかにするリスクを冒してまでも、実現の大部分は、原則に基づき行動し二党で共有する規範とconservativesの前向きの意欲のお陰であった。

さらに加えて言えば、豪州は、米国における銃改革に立ちはだかっている制度上や憲法上の障害に、直面していなかった。また、豪州には、議事妨害行為 (filibuster)* はないし、Bill of Rights** もない。さらに、憲法上保証されている銃所有の権利もない。 豪州の憲法では、公正な裁判や信教の自由のような、ほんの一握りの権利を明白に成文化している。 また、豪州高等裁判所は、以下の決定をしている。即ち、憲法は、政治的な交信、連絡の自由への暗黙の権利を含んでいる。しかし、銃については、この国の創立時の文書には何も述べられていない。 現代に至る豪州の法体系の卓越した物語は、憲法に規定されている諸権利を、削除するのではなく、大事なものとして、大切にして来ていることである。そこでは、個人の権利や自由について、議論がなされてきている。これらは米国におけるそれとは、明らかに異なっている。

*filibuster : 訳者注:「海賊」を意味するオランダ語が語源とされている。米国では他国で非合法な軍事行為によって革命、反乱、分離独立などを起こし政治的、経済的利益を得る者を言う。しかし政治を巡る報道での filibuster とは、上院規則第19条に謳われている「いかなる上院議員も、他の議員の討論を、その議員の同意なしには中断させることはできない。」を指す。 上院議員の発言時間が無制限となり、議事進行を意図的に遅延させる行為ともなり「議事妨害(行為)」と訳される。 これが際限なく認められれば、議会機能不全に陥ることがあることより、現在では、上院の 3/5 以上 (160議席) の賛成を得て “closure” (討議終結)と呼ばれる決議を行えば、発言時間に制限が加えられるようになった。
 さらに、1975年の上院規則修正において、filibuster を行うには filibuster の行使を宣言して議場にいれば、演説をしなくても行っていると見なされるようになったので、長時間の filibuster は、あまり見られなくなった由。

 **Bill of Right : 訳者注: 英国より独立して、しばらくしてからの 1791年、憲法に加えられた人権保障規定のことで、修正第一条から十条まである。銃所持の権利は第二条 (the second amendment) に謳われている。

豪州は、この憲法の不完全性/規定不足(”deficiency”) によって、得ているものと同量のものを失っている。 一つを挙げれば、銃乱射事件の後の感情的になっている日々における銃政策に関する米国メディアの報道で、しばしば抜け落ちていることである。(訳者の解釈:なぜ銃規制をしないのか、個人の銃所有を禁止しないのか、という論説を米国メディアは、憲法に銃保持の権利が謳われている以上、正面切って書いていない。もしそれを主張すれば、共和党やその支持者から大反撃に会う。筆者- Mr. Aaron Timms は、New York 在住とあるので、おそらく米国人であろうから、このことに敏感なのであろう。)     
The Second Amendment(訳者:米国憲法の修正第二条、銃保持の権利が謳われている。) の廃止/破棄に必要とされるであろう、極めて困難な努力に比べれば、豪州の銃改革は、比較的簡単に法制化された。しかし、”Bill of Rights” なくしては、豪州では、亡命を求める人への強制的な又は不確定な拘留を防ぐこと、や名誉棄損訴訟の身も凍る恐怖から、言論の自由を遮断することを防ぐ憲法の枠組みがない。

Port Arthur の銃撃犯は、植民地暴力の血だらけの豪州の歴史への敬意としての一部において、以前の流刑地の一つで、今は野外博物館になっているところを事件の現場として選んだと伝えられる。予期せぬことに、個人の自由を表現するに弱点のある豪州の法的構造は、しばしば起る mass shootings に終止符を打つことを手助けした。 しかし、a Bill of Rights の欠如は、議論のあるところではあるが、Port Arthur を建設した植民者(西洋人)によって、土地や財産を取り上げられたり、殺害されたりした土着の先住民* が、平均寿命や生活水準が国の平均より相当に低い状態に、耐え続けている理由の一つでもある。

 *先住民:訳者注 アボリジニ(Aborigine)を指す。
 Aborigineと呼ばれる人々が豪州に来たのは、約10 – 5万年前とされている。1788年    英国の植民地化時、Aborigine の人口は、50~100万人とされていたが、1920年には、7万人にまで激減していた。
  一番の原因は、免疫のない先住民に西洋人が持ち込んだ伝染病によるもとされているも、初期の英国移民の多くを占めた流刑囚は sports huntingとして多くのAborigineを虐殺してきた現実もある。
  Aborigine に市民権が与えられたのは、1967年になってからである。
  1996年には、35万人に回復している(豪州人口 17,500,000万人の 2%相当)。
  2008年2月、当時の首相 Kevin Rudd は、議会において政府として初めて、抑圧され  てきた先住民Aborigineに謝罪した。

1990年代の中頃以来、豪州の全地域で確認された銃による暴力の大幅な減少にもかかわらず、銃規制の全国的な枠組みの弛みの兆候が浮上し始めている。 銃の所有は、Port Arthur Massacre の時より増加している。〔1996年の 320万丁より 2020年の 380万丁へ〕 そして、最近の報告では、静かによみがえっている gun lobby は、一人当たりのベースで NRA (全米ライフル協会)と同じほどの金を使っている 。厳格な銃規制の基準は、自国で過激化した殺人者を育て、また、暴力を海外に輸出することを阻止できていない。2019年の51人の死者を出した Christchurch massacre* の gunman は、豪州人であった。

  *Christchurch massacre : 訳者注: March 15, 2019 New Zealand南島の          Christchurch で起こった銃撃事件。犯人Mr. Brenton Tarrant 28才は、二つのモスクで、金曜日の礼拝に訪れていた人々を銃で乱射し死者 51, 負傷者 49人を出した。犯人は、2016/2017年、ヨーロッパで起きたイスラム教徒によるテロ事件に執着するようになり、それ以来、犯行を計画していたと伝えられる。2020年8月、終身刑の判決が下された。

それゆえに、この豪州の銃規制の経験は、容易に米国に置き換えることが、相当にむつかしいということを示している。 しかし、豪州が何らかの例として役立つ場合があるとすれば、それは、conservative and rural leaders が、地元の銃を大切にしている有権者に、銃改革を説得する際に、自身の政治使命を賭けての、彼らが示した勇気と信念であろう。この度量/器の大きい特性を、1990年代の豪州の conservatives より引き出したことに比べれば、今日の米国のRepublican Party (共和党) の集団より引き出すほうが、遥かにむつかしく困難であろう。

                  ( 訳: 芋森 )   [完]

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【投稿】自暴自棄でザポリージャ原発を攻撃する敗北必至のウクライナ

【投稿】自暴自棄でザポリージャ原発を攻撃する敗北必至のウクライナ

                             福井 杉本達也

1 ウクライナの敗北

日本の新聞報道とは全く異なり、「Сводка генштаба ВСУ: российские войска продолжают наступать, наносят удары по всем направлениям」(ウクライナ軍参謀総長の要約: ロシア軍は前進を続け、あらゆる方向に攻撃している。2022.8.19))。ウクライナ軍は約束した反撃を遂行することができず、ロシア軍は今やウクライナの黒海沿岸全体を乗っ取る可能性が高いと、トランプ政権の元国防長官顧問ダグラス・マクレガー大佐は語っている(RT:2022.8.15)。

ウクライナは戦争に敗北した。ドンバスが陥落すれば終わりである。10億ドルの援助も「ウクライナ政府に届く援助は決して私たちには届きません」とウクライナ兵は語った。米NATOが供与した武器が前線に届く量は30%を切り残りは闇市場に消える。ウクライナの国会議員は先月、給与の70%増額を可決した。援助はこのようにして消えてゆく。政権の腐敗は頂点に達している。「バイデン米政権がロシアの侵攻を受けるウクライナに供与した大量の兵器を追跡管理しきれず、一部がロシア側に流出した疑いがあることが15日、米政府関係者の話で分かった。ウクライナの混乱を背景にテロ組織や武装勢力に兵器が拡散、横流しされる可能性も指摘され、新たな紛争を含む地域の不安定化や治安悪化の火種になる懸念がある。」(ワシントン共同:2022.7.15)と報道されている。ゼレンスキー大統領は7月17日、検事総長とウクライナ保安庁トップを解任した(AFP:2022.7.18)。「ニューヨークタイムズのコラムニスト、トーマス・フリードマン氏は、米政府はウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領を含むウクライナ政府に対して、公にされているよりもはるかに大きな懸念と不信感を持って接していると記した(AP:2022.8.3)。

2 アムネスティは「市民を盾に」とウクライナ軍を批判

国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは4日「ウクライナの軍が、国際法に違反する形で学校や病院を含む民間人居住地域に軍事拠点を構築して市民の命を危険にさらしていると批判した。」との報告書を公表した(AFP=時事:2022.8.4)。4か月にわたる調査の結果をまとめた報告書では、「ウクライナ軍が19の自治体で学校や病院に基地を設け、人口密集地から攻撃を仕掛けていたと結論。こうした戦術は市民を危険にさらし、国際人道法に違反すると指摘」した(AFP:2022.8.6)。ようやく、アムネスティが、ウクライナ軍の人道犯罪を指摘した。これに対し、ウクライナ政府は激怒し、米国側の権威筋の中からも「利敵行為だ」といって猛然と非難した。こうした状況は早い段階からロシア軍や現地に入って取材している独立系ジャーナリストが報告していたことであるが、アムネスティはそれを遅ればせながらも「公式に」確認したのである。

3 ウクライナ軍による無謀な欧州最大のザポリージャ原発への攻撃

完全に劣勢に回り、敗北が確定したウクライナ軍は自暴自棄に陥っている。自国の領土を放射能の汚染地域にし、国民を放射能で殺しててでも、ロシアの進撃を止めることが目的である。欧州最大のザポリージャ原発を、ウクライナ軍が対岸のニコポルから砲撃し続け、重大な核災害を起こしかねない。それは、ゼレンスキー大統領の一存では不可能である。恐らく、米政府に命令され、幇助されて、ザポリージャ原発に、ある種のバンカーバスター爆弾、おそらく戦術核を使用するだろうといわれている。巨大な核事故を引き起こし、それをロシア人のせいにしようとしている。ウクライナ危機により原発が攻撃対象になりうることが立証された。村田耕平氏は、市民社会の直観でたとえばミサイル攻撃に対する原発の防衛は自衛隊に頼るにしても不可能と判断されます。(村田耕平2022.8.11)と書いている。

 

4 ゼレンスキー大統領はザポリージャ原発を攻撃と表明

8月13日・ゼレンスキー大統領は「原発に向けて撃ったり、原発から撃ったりするロシア兵は我が軍の特別な目標となっている」と警告し、ウクライナ軍側がザポリージャ原発を攻撃していることを公式に認めた(日経:2022.8.15)。ウクライナのザポリージャ原発は3月中旬からロシア軍の管理下にあり、ロシア軍の兵士がいる。その兵士を攻撃するとした。その発言通り、ウクライナ軍はイギリスが開発した兵器、米国の精密誘導弾で原発を攻撃しており、すでに数十発を撃っている。使用済み核燃料貯蔵庫から10メートルしか離れていない場所に着弾した誘導弾もある。使用済み核燃料貯蔵庫に命中すると、冷却が失われた使用済み核燃料は放射能漏れや爆発を引き起こす。当然、ロシアがIAEAに対し、原発が攻撃されている状況の査察を要求したが、国連上層部・米英によって妨害されている。米英はウクライナ軍の原発攻撃を黙認しているだけでなく、そそのかして原発を攻撃させている。

5 原発が破壊されればチェルノブイリや福島第一をはるかに上回る大惨事に

ウクライナの砲兵隊がエネルゴダールのザポリージャ原発内の冷却システムと核廃棄物貯蔵施設に複数のロケット弾を直接発射した、と地元政府のウラジミール・ロゴフ氏は語った。「誘導ミサイルの1発が、使用済み核燃料保管容器からわずか10メートルに命中した」。「50~200メートル離れたところで爆発したものもあった」と述べている。

100万キロワットの6基のザポリージャ原発の格納容器の「コンクリートの厚さは80~100センチ、ミサイルがどの部分に当るか、重さ・スピード・爆発性にもよりますが、破壊度が変わります。ミサイルが当たった場合の計算なんか誰もしたことはありません。誰も思いつきませんから。」と述べた(RT:ロゴフ:2022.8.17)。「貯蔵場所は公開されているので、いかなる打撃も数十から数百キログラムの範囲の核廃棄物の放出と地域の汚染につながる」、「平易な言葉で言えば、それは汚い爆弾のようなものです」。「6基のリアクターには使用済み核燃料発電所で最も危険な場所です。2001年に建てられた使用済み核燃料コンテナですが、なぜ屋根がないのか施設全体を覆わなかったのか分かりませんが、核燃料が保管されており、膨大な放射能がそれぞれのコンテナに保管されており、300の核燃料を保管できますが、現在その3分の1が埋まっています。コンテナが近すぎて、もしロケットがコンテナに落ちれば、コンテナはグループで破損し崩壊します。核物質が火災を起こした場合、風向きは神のみぞ知る。20~30のコンテナが破壊された場合、放射性物質は9か国に飛散する。そして西ウクライナ領土に。」とその危険性を警告している(ロゴフ:同上)。

ザポリージャの惨事は、意図的に仕組まれた大惨事となる。IAEAは、ザポリージャ原発への攻撃を「自殺行為」として非難した。しかし、国連は、原発攻撃でウクライナを特に非難しておらず、誰が責任を問われるべきかについての「矛盾する報告」があったと主張している。全くの責任の放棄である。ロシアのキリロフ中将は、ザポリージャ原発でのキエフの行動により、チェルノブイリとフクシマで起こったことと同様の状況が生じる可能性があると考えていると述べた。1プラントの少なくとも1つの原子炉の内容物の約4分の1が空気中に放出されると、放射性物質は、ポーランド、ドイツ、スロバキア、さらに、「スカンジナビアまでをもカバーする」。「このような緊急事態は人口の大量移住を引き起こし、多くのヨーロッパの専門機関の予測によって確認されているヨーロッパで差し迫ったガスエネルギー危機よりも壊滅的な結果をもたらすでしょう」と述べている。

元裁判官の樋口英明氏は、我が国原発に触れ「我が国の面積は全世界の国土の0.3%ししかすぎませんが、そこに世界の全原発の10%余の原発が、海岸沿いに立ち並んでいるのです」。「国防と称して敵基地攻撃能力の必要性を説く自称保守政治家たちが、同時に原発の維持や再稼働を唱えています」「原発が我が国の海岸沿いに立ち並んでいる限り、我が国にには戦争遂行能力がないのです。開戦したとたんに敗戦が確定するのです。」「『原発は自国に向けられた核兵器である』という言葉は原発の危険性を如実に示したものです」と警告している(樋口英明「ロシアのウクライナ侵攻と原発問題」『季節』2022夏号)。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 原発・原子力, 平和, 杉本執筆 | コメントする

【投稿】対ロ経済制裁の惨めな結末と「ペトロ・ルーブル」の出現

【投稿】対ロ経済制裁の惨めな結末と「ペトロ・ルーブル」の出現

                           福井 杉本達也

1 ロシアへの経済制裁の目的とその無残な結果

ロシアに貿易と金融制裁を課すことは、ロシアの消費者や企業が、慣れ親しんだ米国・NATO輸入品を購入するのを阻止すると予想されていた。ロシアの外貨準備を没収することは、バイデン大統領が約束したように、ルーブルを「瓦礫に変える」ルーブルをクラッシュさせるはずだった。ロシア石油とガスをヨーロッパに輸入することに対する経済制裁を課すことは、ロシアから輸出収入を奪い、ルーブルを崩壊させ、ロシア国民の輸入価格(ひいては生活費)を上昇させるはずだった(マイケル・ハドソン「悲劇的なドラマとしてのアメリカ外交」2022.7.29)。しかし、それは最終的に失敗に終わった。8月10日のFINANCIALTIMES(日経)は、欧州各国はロシア産原油の禁輸措置を緩和した。原油価格の上昇と世界的なエネルギ供給の逼迫を背景に、ロシアを世界最大級の船舶保険市場である英ロイズ保険組合から締め出す計画を延期し、一部の原油輸送を可能にした。」と報じた。

2 ドルの金兌換の停止と「ペトロダラー・システム」

ドイツ降伏の10カ月前の1944年7月、連合国側はブレトンウッズに集まり、連合国通貨国際会議(ブレトンウッズ会議)が開催された。会議での合意の内容は2つ、①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることとした。

しかし、米国はベトナム侵略戦争などに苦しみ、財政赤字とインフレーションの為、金兌換の約束を守れなくなった。そこで、当時のニクソン大統領は1971年8月にドルの金への兌換が終わらせた。

金とのリンクが外れた政府は理論上はいくらでも貨幣を印刷することは可能である。しかし、金という錨がなくなった船は、インフレーションによってその価値はどんどん下落し続ける。これでは国際通貨としての信用は得られない。そこで米国がとった方法は、ドルと石油とのリンクである。いわゆる「ペトロダラー・システム」である。ニクソン政権下のキッシンジャー国務長官はサウジを訪問し、1974年、①サウジの石油販売を全てドル建てにすること、②石油輸出による貿易黒字で米国債を購入すること、その代わり、③米国はサウジを防衛するという協定を結んだ。1975年、他のOPEC諸国も石油取引をドル建てで行うことを決めた。

金とのリンクよりも、石油とのリンクは米国にとって格段に有利であった。金との兌換の約束はなくなり、無制限にドルを印刷することが可能となった。サウジなど石油産出国による米国債購入によって、ドルは米国に還流し、米国は財政赤字を気にすることもなくなった。

米国は「ドル借用金を、自由意志で、無制限に、世界経済に作り出し、使うことができるということだ。他の国々がしなければならないように、貿易黒字を計上して国際的な支出力を獲得する必要はない。米国財務省は、外国の軍事支出や外国の資源や企業の購入に資金を供給するために、単にドルを電子的に印刷することができる。そして「例外的な国」であるため、これらの負債を支払う必要はありません。それは支払われるには大きすぎると認識されています。外国ドルの保有は、米国に対する米国の自由なクレジットであり、私たちの財布の中の紙のドルが(流通から引退することによって)完済されることが期待される以上に返済を必要としません。」(マイケル・ハドソン:同上)。

3 米国自身がドルの国際通貨体制を終わらせる

「トランプ政権は2018年11月、ロンドンで保有されているベネズエラの公式金株約20億ドルを没収」した。過去においては、「1979年11月14日、カーター政権はシャーが打倒された後、ニューヨークのイランの銀行預金を麻痺させた。この法律は、イランが予定していた対外債務返済を妨害し、債務不履行に追い込んだ。」(マイケル・ハドソン:同上)。2011年2月に米国とNATOはリビアを攻撃し、カダフィを惨殺した。カダフィが石油取引にドルでもユーロでもなく、準備通貨300億ドルの金にリンクされた「ゴールド・ディナール」提唱したからである。その後、300億ドルは行方不明であり、米・NATOに盗まれたと思われる。また、2022年2月11日、バイデン米大統領は、9.11の攻撃の犠牲者への賠償に使うと称し、米国で保有する70億ドルの凍結されたアフガン資金の半分を使用する行政命令を出した。アフガンは、米国の70億ドルを含む海外の資産で約90億ドルを持っている。残りは主にドイツ、アラブ首長国連邦、スイスである。タリバンはこの押収を「窃盗」と表現した。現在、アフガンは外貨不足のため食料輸入もままならず極貧の状態で苦しんでいる。そのなけなしの資産を米国自らが仕組んだ9.11詐欺のために分捕るというでである。タリバンは米国が「人間性と道徳性が最低レベルであることを示している」と批判した(福井:2022.2.13)。

そして今回、ロシアのウクライナ侵攻に対抗して、「バイデン政権とそのNATO同盟諸国が、2022年3月にロシアの外貨準備高と通貨保有の約3000億ドルのはるかに大きな資産を掌握した」「米国政府の利益にかなわない政策に従う国は、米国当局が米国の銀行や証券の外貨準備の保有を没収する」「通貨準備金が大きい国は、FRB(および制裁に参加している他の西側中央銀行)との残高がまだ安全であるかどうかという疑問が生じる」(マイケル・ハドソン:同上)。最大の外貨準備を持つ国は中国である。サウジや他の湾岸首長国連邦も相当なドルを保有している。

4 ロシア資産の「没収」は資本主義を最終的に崩壊させる

6月1日のFINANCIALTIMES紙上(日経)で、ジリアン・テットは「ロシア資産、没収できるか」と書いている。5月下旬にゼレンスキー・ウクライナ大統領がダボス会議で、「ロシア中央銀行の資産を没収し使えるようにして欲しい」と演説したからである。「一貫性のある透明な枠組みがないままロシアの資産の没収・分配が実行されれば、西側諸国の政府は何年もの歳月と多額の費用がかかる裁判に見舞われるか、あるいは自国の政治経済を支えている信頼の基盤を失うことになる。」と書く。さすがのイエレン米財務長官も「中銀資産の没収は「米国では合法ではない」と指摘した(日経:2022.5.20)。もし、「資本主義」の原理に反して、「没収」すれば、サウジや中国を始め、世界の非西側諸国の米国への投資は直ちに全て引き上げられるであろう。それは米国の「破産」を意味する。

5 「ペトロ・ルーブル」の出現

ロシアは、GDP 比の国債残が17.7%しかない。133%の米国、230%の日本の財政状況と比較して超健全である。エネルギー・資源・穀物の輸出から、貿易でも黒字が続き、2020 年の黒字は225 億ドル(2.7 兆円)であった。ロシアは、海外に依存せず、自立できる経済である。米国は資源では自立できるが、消費財の商品輸入では中国への依存が大きい。アップルは、100%中華圏で委託製造、輸入・販売している。西側は、必須なエネルギーと資源・穀物を輸出するロシア経済の現実を見ていない。、資源(コモディティ)リンクのルーブルに向かっている。そして、金兌換ではないが、ルーブルには金という準備金の裏付けがある。

「『ガス・ルーブル』(エネルギー資源のルーブル決済)は、今のところまだ『オイル・ダラー』と同等ではないが、前例のない規模での対ロシア制裁の実施後に『ガス・ルーブル』という手法が現れたのは、国際通貨制度がターニングポイントに近づいたことを意味しているSputnik 2022.4.24)。中国社会科学院の徐坡岭は『環球時報』において、「当初、ルーブルの為替レートはドルとユーロに対して下落したが、その後、急速に高騰し始め、過去6カ月での最高値に近づいたと指摘した。また、徐坡岭氏は、このことは、ロシア経済をただちに破壊しようとする米国と欧州の目標が達成不可能であることを示唆していると語った。また、同氏は、ロシア政府によるタイムリーで効果的な対応を特別に注視しており、その例として、ロシアのガスをルーブル建てでのみ取引するよう、ウラジーミル・プーチン大統領がガスプロム社に指示したことが上げられると語った。また、同氏は、現在、「ガス・ルーブル」は「オイル・ダラー」ほど強力ではなく、普及もしていないが、その存在自体がすでに既存の国際通貨制度に風穴をあけていると強調する。」(Sputnik 同上)と語っている。また、徐坡岭は、「米国と欧州連合(EU)は、ロシアの外貨準備を凍結し、独立国家の信用通貨と国際決済システムを政治的手段と武器に変え、信頼できる準備通貨としてのドルとユーロへの信頼を損ねたと指摘した。同氏は記者に対し、『より競争力のある国際通貨が国際準備通貨制度に加わることで、より収益性が高く便利な決済システムが前面に出てくることになる。短期的には、これまでのようなドルの覇権を揺るがすのは難しいが、変化はすでに始まっている』と語った(同上)。

6 フィクションとしての「GDP」信仰

ロシアのGDPは韓国を下回る世界第11位の1.3兆ドル、米国の23.0兆ドルと比較すると6%以下である。一方購買力平価ベースでは世界6位で米国の1/5となる。しかし、このGDPという指標は経済学における一つの決まりに過ぎない。統計学の竹内啓はGNP(GNP =GDPは国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額。 “国内”のため、日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含まない。一方GNPは“国民”のため、国内に限らず、日本企業の海外支店等の所得も含んでいる。)は「極端なことを言えばうそ、フィクションなんです。フィクションですけれども、ちゃんと権威のあるところが決まった方法で決まったフィクションをつくっていくと、それをみんながいろいろ指標として使うようになる。みんなが使えば、実質的意味をもつようになる」(森毅+竹内啓:『数学の世界』1973・3中公文庫 2022.4.25)と書いている。GDPという指標が役に立つというのは、国民経済の特徴と大きさを大雑把に掴むという「構造的理解を含めて実際に役に立つということであり、一つはことばとして役に立つ…数学で表現すると意思疎通がうまくいく…数式的な表示をしないと、ことばでは追っつかない」(同上)ということであり、必ずしも実体経済を正確につかんでいるというものではない。産業資本主義の段階では実体経済との差は大きくずれてはいなかったかもしれないが、金融資本が実物資産の何倍にも肥大化した現在では、必ずしも実体経済を反映した数字とはならない。米国や西側のGDPは金融取引などで何倍にも肥大化され、逆に資源国などは何分の一かに過小評価されていると考えられる。通貨も同様であり、ドルは実質価値の何倍にも肥大化され、ロシアなどの資源国通貨は何分の一かに減価されている。
西側はロシアへの経済制裁によって、GDPで世界11位で、石油と天然ガスしかないロシア経済などは取るに足らず、簡単に崩壊させることができると考えたのであろうが、これは大きな誤算であった。自ら作り上げたフィクションに自らが騙されたのである。世界の資源の過半を独占する自らより大きな経済体に「制裁」を課すことで、逆に自らを「経済制裁」することになっている。その評価基準がドルであり、「石油にリンクしない」ドルの没落ととともに、自らに課した「経済制裁」の重圧により、西側は最終的に「自己崩壊」せざるを得なくなる。

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【投稿】米国の内乱への恐れとペロシ米下院議長の訪台―日本はどう振舞うべきか

【投稿】米国の内乱への恐れとペロシ米下院議長の訪台―日本はどう振舞うべきか

                                福井 杉本達也

1 FBIによるトランプ邸の捜索と米国の分裂

FINANCIALTIMES紙上でコラムニストのラナ・フォルーハーは「社会や政府の不安定さ、政治を巡って暴力が発生するリスク、さらには民主主義を脅かすリスクなどだが、米国の場合、これらの数値の推移と蜜動ぷりからすると、先進国というより途上国のようにみえる」「武力闘争はどこか外国で起きるものとされてきた。だが、もはやそうではない。銃を持っか否かにかかわらず、米国は自らとの戦争を始めてしまったのだ。」と書いている(日経:2022.7.22)

FBIは8月8日、フロリダ州に所有するトランプ氏邸宅を捜索した。「大統領在任中に扱った機密を合む文書をホワイトハウスから持ち出した疑い」からである。「トランプ前大統領の邸宅を家宅捜索したことに野党・共和党が反発している。11月に迫る中間選挙を前にした『政治利用』(下院共和党トップのマッカーシー院内総務)などと批判した」(日経:2022.8.11)。「大統種選を控えている時に次期大統領になる可能性がある人物を被告人席に座らせるなど『前代未聞』だ。内乱が起きる危険もある。…今も熱狂的支持者が数百万人」いる。「トランプ氏が起訴されれば、その罪状は極めて深刻なものになる。19世紀の米国人哲学者ラルフ・ウォルドー・ェマソンが言ったように『王を討っときは殺さなければならない』」(エドワード・ルース FINANCIALTIMES2022,8,5)。「トランプが2024年に再び勝利するにせよ、あるいは選挙が行われる前でさえも、彼は起訴され有罪判決を受け、大統領の座に就くことを禁じられ、おそらく数年間刑務所で過ごさなければならなくなる」。「ソーシャルメディア上の一部の人々や一部のジャーナリストは、米国が今、内戦の衝突危機にいる可能性があると正確に言っている。この国はすでに政治的に分裂している」(Bradley Blankenship「FBIのトランプ邸襲撃は、彼が2024年に立候補できないことを意味する可能性があり、彼の過激派信者は立ち上がるだろう」(RT:2022.8.7)。

 

2 ペロシ米下院議長の台湾訪問と中国の台湾封鎖の可能性

こうした、米国内の大混乱の中、ペロシ米下院議長が8月2日、台湾を訪問した。日経ワシントン支局長の大越匡洋は「米政権が与党内の一政治家の『信念』に基づく行動を持て余していることだ。パイデン大統領はペロシ氏の訪台計画について『米軍は今は良くないと考えている』と記者団に漏らした」「パイデン政権は『ペ口シ訪台後』のシナリオを描けていない。」と書いた(日経:2022.8.5)。米国の外交は危険な大混乱状態にあるといえる。米中の歴史的な和解は1971年のキッシンジャーが画策した「ニクソン・ショック」に始まる。米国はソ連の封じ込めと中国市場を得るために、中国はソ連への対抗と、経済発展のために、歴史的な妥協を行った。その後45年間、台湾問題をめぐっては、米中関係に影響を与えたが、「一つの中国」という一連の妥協を相互で理解していた。中国にとって、1895年の日清戦争で“戦利品”として日本に奪われ、その後、1949年に蒋介石が本土で敗退して米軍の占領する台湾に逃げ込んだが、失われた領土を取り返すことは、100年以上にわたる中国の悲願である。しかし、米占領下の台湾が独立を宣言しなければ、中国は忍耐強く対応することを明言していた。

しかし、こうした米中関係の相対的安定性が終わりを告げた。「非常に危険な状況である。両国の関係はすべての予測可能性を失った。以前は、米中関係は、互いの立場に対する確立された深い相互理解と尊敬に基づいていたが、今はほとんどなく、時には全くないように見えることもある。」(Martin Jacques「ナンシー・ペロシ、米国を無秩序と不安の時代へ導く」『耕助のブログ』2022.8.11より)。米軍は台湾近海に空母2隻を派遣し、ペロシの飛行機はフィリピンの東海上、マリアナ沖に迂回させるなど、衝突のシナリオを想定していた。しかし中国政府は冷静であった。台湾の中国への再統合は緊急の問題ではない。台湾の独立派政府を服従させるための長期的な対策を練っていた。台湾をめぐる軍事衝突の危険性は、1970年代以降、かつてないほど高まっている。中国は今や米国と対等であり、はるかに手強い軍事的敵対者であるため、そのような紛争が起きれば、以前よりもはるかに深刻な事態となる。

台湾の定める接続水域に中国軍の艦船が侵入した。台湾軍は「排除」に動けず、安全保障の大穴を開けられてしまった。空と海の封鎖は台湾に大きな打撃を与える。電力の約40%は天然ガスで賄われており、そのすべてが輸入されなければならない。もう一つの大きな部分は、輸入している石炭で賄われている。石油製品についても同じことが言える。ペロシが訪台する前は、島のガス貯蔵量はわずか11日間であった。石炭と石油は貯蔵が容易だが、封鎖が解除される前に枯渇する。2018年の台湾の食料自給率はわずか35%である。台湾の全面封鎖では、数週間か数ヶ月以内に中国にひざまずく可能性が高い(参照:Moon of Alabama 「China’s Reaction To Pelosi’s Visit Reveals Its Taiwan Conflict Plans」2022.8.6)。

『前USA海兵隊情報将校・国連兵器査察官スコット・リッターのアップデート/台湾戦争勃発の瞬間が近づいている』において、スコットは「毎年、ペンタゴンは「戦争ゲーム」を通して、台湾をめぐる米中戦争のシミレーションをやっています。結果は毎年同じで、それはアメリカが負けるという結果です。あらゆる条件でシミュレーションしても出てくる結果はいつも同じです。つまりアメリカは負けるのです。」「現在、台湾にあるアメリカ軍兵備はほとんどゼロに等しいので、アメリカは一から上陸を開始する必要があります。非常に重量のある大型の兵器も必要ですが、それらを空輸することはできませんから、全て船で運ばなければなりません。」「中国は台湾に向かうすべてのアメリカ艦艇を海に沈めるでしょう」「そして、私たち(軍関係者)はみんなそのことを知っているのです。任務を帯びた航空母艦の提督でその事を知らないものはいないからです。中国に近づけば近づくほど生きて帰れる可能性は少なくなるということをみんな知っています。」(2022.8.11)と答えている。

 

3 ペロシ訪台への韓国の対応と日本:中国は岸田政権を見限ったか?

尹錫悦韓国大統領は夏休みのためにペロシとの会談の予定はないと、ペロシを鼻であしらった。一応、電話会談を行ったものの台湾には一切触れなかった。韓国は「大人」の外交を演じた

一方の日本は中国軍の4日の軍事演習中に中国軍が撃った5発のミサイルが日本のいわゆる「排他的経済水域」(EEZ)に落下したと主張した。しかし、関連海域では中日間で境界線についての合意はなく、いわゆる「日本の排他的経済水域」なるものの主張はもともと存在しない。日本側は中国の軍事演習の報道に熱を入れたが、アジア・アフリカのその他の国々は何らかの形で中国の「一つの中国」への支持を打ち出していた。

バイデン政権は先進7カ国(G7)と中国の軍事演習を非難する共同声明を発した。日本もメンバーとして名を連ねた。そのため、8月4日、ASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国と、日本やアメリカ、中国などが参加する東アジアサミット外相会議で予定されていた林芳正と王毅の外相会談が突然キャンセルされた。台湾問題は中国にとってのレッドラインである。日本は、中国の警告を無視して台湾に言及し続けた。結果、中国は「自分の外交を持たない国」として日本を見切った(参照:富坂聰:『ペロシ訪台があぶりだした日本外交とアジア各国との埋めがたい距離』2022.8.11)。鳩山由紀夫元首相は3日、自身のツイッターを更新。「ペロシ米下院議長が台湾を訪問した。ウクライナのNATO加盟を巡って、米国はロシアの不安を無視して突っ走り、戦争を招く大きな原因となった」とし、その上で「米国はウクライナ戦争から教訓を学ぶどころか、台湾でも同じ間違いを繰り返そうとしている。愚かだ」とし、「その米国に唯々諾々とついて行けば、日本もまた愚かだ」とツイートした(東スポ:2022.8.3)。米国の内政・外交が大混乱する中、いつまでも金魚のフンのような属国外交を続けるようではアジアにおいては誰も相手をしなくなる。

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【書評】「帰れない村──福島県浪江町『DASH村』の10年」

【書評】 『帰れない村──福島県浪江町『DASH村』の10年」
            三浦英之著、2022年1月刊、集英社文庫。620円+税)

 「福島県浪江町にある『旧津島村』(現・津島地区)。/その旧村名は知らなくても、かつて日本テレビ系列のテレビ番組でアイドルグループ『TOKIO』が住み込んで農業体験をした『DASH村』と言われれば、あるいは耳にしたことがあるかもしれない」。人口約1400人が暮す山間の小さな村。そこを2011年3月、東京電力福島第一原発の事故が襲った。「村」は原発から北西に20~30キロ、まさにその方向に風に乗って大量の放射性物質が運ばれ、住民は避難を余儀なくされたばかりか、「事故から11年が経った今でさえ、誰一人故郷に戻れない」。本書は、この「帰れない村」に、「ペンとカメラと線量計を持って」3年半(2017年秋~2021年春)通い続けた記録である。本書の構成は、見開き2ページの記事とそれに続く4ページの写真とからなっている。元住民それぞれの思いとそれを裏打ちする写真は、原発事故の深刻さとそれをそのまま現在まで引き摺っている苦悩に満ちている。
 「DASH村」についてはひとまず置いておこう。その「地主」は「まさか、あんなに有名になるとは思わなかった」と語る。「復興のシンボルとして使ってくれるなら、あの土地を無償提供したいと思っているんだ」とも。
 しかし現地の精神科医は語る。
 「2019年に旧津島村の約500人を調査したところ、48.4パーセントの人がPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を訴えました。非常に高い値です」。この医師はかつて長く沖縄戦を原因とするPTSDの診療を続けてきて、2013年に被災地の力になりたいと相馬市に赴いた。両者を比較して明確な差異があるという。「福島の特徴は『過去の体験を語れない』ということです。『放射能が怖い』と言うと変人扱いされ、避難先で被災者であることを告げると、周囲から『あの人は補償金をもらっている』と言われてしまう」。津島は全域が帰宅困難区域で、住民が散らばって避難生活を送っている、震災当時の体験を周囲と話し合うことができず、風化しないのでトラウマがより脳や心に深く刻まれる、と指摘する。「ここに暮している限り、風の強い日には除染されていない地域から飛んでくる放射性物質を吸い込むのではないか、飲み水や魚は安全かなど、本来なら心配しなくてもいいことを気にかけなければならない。神経の過覚醒が継続していて、相撲で言えば、『はっけよい』『見合って、見合って』の状態がずっと続いているような状態で、心が疲れないはずなどないのです」。
 ところが政府は2020年、「除染をしなくても避難指示を解除できるようにする方針」を進めることを表明した。それ以前に政府は、浪江町内の帰宅困難区域約7平方キロ(帰宅困難区域のわずか4%)を「特定復興再生拠点区域」として除染し、2023年にも避難指示解除を目指す計画を示したが、ここにきて方針の転換である。町議会にこの方針に反対の意見書を提出(全会一致で可決)した町議は憤る。「『汚したものは、きれいにして返す』。それが大前提じゃないか。汚染地域をしっかりと除染し、住民に『帰れる』という選択肢を示す。その上で、実際の帰還については、それぞれの判断に任せる。除染がなされなければ、住民は帰れるかどうかの判断すらできないのです」。
 また本書に登場する人びとのうちの幾人かは、旧津島村・赤宇木集落の住民であった。ここは戦後、旧満州(現・中国東北部)からの多くの帰還者を受け入れた地域である。苦難の末帰国し、赤宇木集落の開拓団で「山林を切り開き、ササで屋根をふいただけの小屋で寝泊まりしながら炭やジャガイモなどを作った」。その人びとが、「原発事故。敗戦から半世紀を経て、(略)再び家を追われた」。
 本書は最後に、震災の年の秋に自死した男性の件にふれて問いかける。
 「旧津島村の人たちにとって故郷とは、自らが生まれ、育ち、遊び、祭りを楽しみ、恋に落ち、結婚し、子を産み、家族とともにこれからも暮し続けていきたいと願う、唯一無二の土地だった。それほど大きく大切なものを予期せぬ理由で一方的に剝奪される経緯は、あるいは『死』に直結するほどの痛みを伴うものではなかったか」。
 なお本書を読み進める中で、S.アレクシェービッチ『チェルノブイリの祈り』(松本妙子約、初刊1998年、岩波書店。現在・岩波現代文庫)が念頭に浮かんだ。この書も是非とも読んでいただきたいが、終わり方に「子どもたちの合唱」という子どもたちからの聞き取りがある。原発による汚染で強制移住させられるときのことである。
 「私たちの家にお別れするとき、おばあちゃんは、お父さんに物置からキビの袋を運び出してもらって、庭一面にまいた。『神様の鳥たちに』って。ふるいに卵を集め、中庭にあけた。『うちのネコとイヌに』。サーロ(註:豚の脂身の塩漬け。ウクライナの代表的な伝統料理)も切ってやった。おばあちゃんのぜんぶの袋からタネをふるいおとした。ニンジン、カボチャ、キュウリ、タマネギ、いろんな花のタネ。おばあちゃんは菜園にまいた。『大地で育っておくれ』。そのあと家に向かっておじぎをした。納屋にもおじぎをした。一本一本のリンゴの木のまわりをぐるりとまわって、木におじぎをした」。
 原発事故の罪深さ、政府権力者の傲慢さ、故郷の家を追われた人びとの哀しみがひしひしと伝わってくる書である(R)

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【投稿】ペロシ訪台と半導体--経済危機論(89)

<<暗闇に紛れて訪台>>
8/2の真夜中、ナンシー・ペロシ米下院議長は、台湾・台北市中心部に近い松山空港、普段あまり使われることのない、照明を意図的に落とし、滑走路や地上の灯りまで消した真っ暗闇の空港に降り立った、と報じられている。過去25年間で台湾を訪問した最高位の米国高官が、暗闇に紛れて訪問せざるを得ないという異例な展開となったわけである。囮の米軍用機がマレーシアから離陸し、南シナ海と中国沿岸沿いから台北まで直行した数時間後に、フィリピンの東海岸をわざわざ遠回りして、空母ロナルド・レーガンから飛び立った米軍戦闘機が護衛し、戦闘機の航続距離を伸ばすため

「戦争議長ペロシ」「ペロシ議長は台北から出て行け」と抗議する台北市民

に空中給油タンカーまで伴い、台湾の領空に近づくと、台湾軍ジェット機が護衛を引き継いだ、という。
そのようにしてまで強行されたペロシ議長の台湾訪問は、中国側の強い反対と厳正な申し入れを完全に無視した、一種の戦争挑発行為であり、台湾を紛争の最前線に追いやり、一挙に米中の緊張激化を危険な段階へと推し進めてしまったのである。
中国側は、対抗措置としてペロシ到着の前日、台湾からの輸入停止措置を発表、その対象は3000品目以上に及んでいる。そのほとんどは食料品と農産物である。さらに8/5、中国・外交部は、次の8項目の対抗措置を取ると発表している。
1.中米両軍戦区リーダー間の対話の中止
2.中米間の国防部(省)事務レベル会合の中止
3.中米間の海上軍事安全交渉メカニズム会合の中止
4.中米間の不法移民の送還に関する協力の停止
5.中米間の刑事司法協力の停止
6.中米間の国境を越えた犯罪捜査協力の停止
7.中米間の麻薬取締に関する協力の停止
8.中米間の気候変動問題に関する交渉の停止

中国は米国との軍事協議を打ち切り、ペンタゴンのトップリーダーからの電話にも応じないばかりか、ほとんどの重要な協議・交渉を停止する措置である。台湾をめぐる軍事活動の活発化とコミュニケーションの欠如は、両軍の間に不測の事故・衝突、一触即発の危険な事態が起こる可能性を高めている。

表面上はバイデン政権、ペンタゴン幹部でさえ、台湾海峡に大きな危機をもたらすと警告していたにもかかわらず、ペロシ議長はあえてそうした警告を無視して台湾訪問を強行したのはなぜなのか。もちろん、暗黙の、あるいは用意周到なバイデン政権の了解があったのだと言えよう。しかしそれは広言できるものではない。

<<「なぜまた別の罠に飛び込むのでしょうか?」>>
このペロシ議長の台湾訪問をめぐって、西側報道でほとんど見落とされているのが、台湾積体電路製造公司(TSMC)のマーク・リュー会長との面会であった。ペロシ氏の訪台は、米国が大きく依存している世界最大のチップメーカーであるTSMCに、米国内に製造拠点を設け、中国企業向けの高度なチップ製造をやめるよう説得するバイデン政権のたくらみと重なるものである。バイデン政権は、米国内のチップ生産能力を高めるために、TSMCを米国に誘致するため、アリゾナ州に用地を購入し、2024年の完成を目指している。
 台湾の国営日刊紙リバティ・タイムズは、 TSMC はアリゾナ州にチップ工場を建設する予定であるため、米国でのチップ製造を促進するために新しい法律(Chips and Science Act)によって割り当てられた 520億ドルの恩恵を受けることが期待されている、ただし、この法律では、資金援助を受ける企業は、中国での先端チップの生産を促進しないことを約束しなければならないとされている、と報じている。
TSMCにとって、米国は最大の市場であり、2021年の全売上高の64%を占め(2年前の60% から増加している)、Apple だけでも、昨年のTSMC の収益の 4分の1を占めている。Liberty Timesによると、ペロシとリューの会談のニュースが広まった後、TSMCの株価は1.8%上昇している。したがって、今回の会談は、米国主導のチップ同盟を強化し、中国大陸の技術産業の包囲網を強化することを目的としているかのようにも見えるが、事態は単純ではない。
TSMC側から言わせれば、米国内での半導体製造は賃金もその他のコストも高すぎると広言し、「より大規模で定期的な補助金」なしでは継続できないと要求しており、アリゾナ工場の完成を急ぐ姿勢を示してはいないこと、「不吉な不確実性」が指摘されている。ペロシ氏との会談では、それを詰める必要があったのであろう。
さらに「不吉な不確実性」の一つに、ペロシ氏自身の問題も浮上している。ペロシ議長は、問題のCHIPSおよび科学法案に関するインサイダー情報を利用して家族が現金化したという厳しい批判と非難に直面しているのである。以前からペロシ夫妻は、議会内部情報に基づいた株取引が問題視されており、今回また、米議会がこの半導体業界に多額の補助金を提供するCHIPS法を可決する数週間前に、ペロシ氏の夫であるポール・ペロシ氏が半導体大手Nvidiaの株を100万ドルから500万ドル購入したと暴露されたのである。
今回、中国政府は、ペロシ氏の訪問に対する報復の手段の一つとして、チップ製造に使用される原材料である天然砂の輸出を禁止すると発表している。中国国営メディアのチャイナ・デイリー は8/3、砂の禁止は台湾のチップ製造能力を損なうだろうと書いているが、台湾が中国から輸入している天然砂は3%にすぎない。2021年、中国本土は4325億5000万ドル相当の集積回路を輸入し、そのうち36%が台湾島からのものであることが、税関の数字で明らかになっている。TSMCのリュー氏は、「(中国が)我々を必要としているなら、それは悪いことではない」と述べ、「ビジネスの世界では誰も戦争が起こるのを見たくない。なぜまた別の罠に飛び込むのでしょうか?」と、根本的な疑問を投げかけている。
「別の罠」という、米中緊張激化政策は、まさに米帝国一極支配体制の政治的・経済的危機の現われと言えよう。ペロシ議長の訪台は、図らずもその一端を露呈させてしまったのである。
(生駒 敬)

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【翻訳】「アメリカは、修復を飛び越えて、壊されるかもしれない。」

Japan Times May 31, 2022
“America may be broken beyond repair”  
  Michelle Goldberg, the New York Times opinion columnist

「アメリカは、修復を飛び越えて、壊されるかもしれない。」

昨年リリースされた広告の中で、Arizona州の上院の共和党予備選挙の有力候補者である Mr. Blake Masters は、半自動の武器を、不吉な音楽が流れる中で、ゆらゆら揺らせて「これは短銃身のライフル(short-barreled rife) である。これは狩猟用ではない。人を殺すために設計されている。」と述べた。Mr. Masters にとっては、そのことは、銃が激増することを許すことに反対する議論ではなくて、むしろ、これら武器へのアクセスが何故に権利として重要であるかという認識である。さらに、「The Second Amendment は鴨の狩猟に関するものではない。」とも述べている。さらに、「それは、あなたの家族とあなたの国に関するものである。Mr. Joe Biden が Taliban に Afghanistan を渡した時、Taliban が最初にしたことは何でしょうか? Taliban は国民が保有している銃を取り上げた。」 銃は、この世界の見識では、行き過ぎた、やりすぎる政府 (“ Government overreach”) に対する保証者(物)である。そして、やりすぎる政府は、諸施策の中で銃の規制を試みる。

最近では、共和党員が個人の武器をあえて抑制しようとする人々に対して脅威に聞こえる何かを出版しても、ほとんど注目されない。 Florida州の代表である Mr. Randy Fine は、水曜日(May 25 か—訳者)にツイートしている。「私は、我々の大統領であると主張している、迷惑な人のニュースを持っている。我々の持っている銃を取り上げようとすればあなたは学ぶであろう。何故に the Second Amendment が最初の時点で草起されたのかということを。」

少なくとも国家レベルにおいては、民主党員が暴動/反乱 (“insurrection”) の可能性を保持している、ある政党 (“a party”) [ 共和党のことか—訳者] の協力に頼っている限りは、銃についてのいかなる試みも不可能であろう。Texas州における児童の大量殺戮* は、この動きをほとんど変えてはいない。
* 訳者注:5/24 Texas, Uvalde, Robb primary school で起こった殺人事件。
           児童 19人、教師2 人が死亡、負傷者 17人を出している。

共和党員は、民主党員達が銃所持の背後の事情のチェックのような、もっとも緩い法案を通させることには何の反対意図も持っていない。そして民主党上院議員の Mr. Joe Manchin & Mr. Kyrsten Sinema が議事妨害法案の修正を拒否する限りは、共和党員は、国の政策への拒否権を保持している。増加していてしばしば起こっている大量銃撃の犠牲者たちは、恐ろしい内戦における被害に相並んでいる。最も民主党員の中には、それを認めることに応じない人もいるが、一人で戦わせておけばいい。

2016年の選挙の期間、上品ぶったTrump の言葉が繰り返された。その時、彼は言った。”Second Amendment people” (「修正第二条を信奉する人々」と訳すべきか。— 訳者)は、a President, Hillary Clinton が最高裁判所の判事を任命することを防止することが出来るかもしれない、と。 かっては、何かと隠された暴力のほのめかしであったものが、意味を変えて来ている。とりわけ、1月6日*以降、さらなる単刀直入の脅威として。
Pro Publica** が報じているように、The Oath Keepers militia ***の 10 数名のメンバーが首都の攻撃に関連して逮捕された。しかし、このことは、この組織が、「共和党内での一つの勢力に進化してゆくのを」阻止していない。
訳者注:* 1月6日 : 昨年、2021. Jan 6.
    前年の大統領選挙で不正があったと訴えて、Trump支持の人々    
    は大挙、国会議事堂に押し寄せ乱入した。10人近くの死者を出している。
刑事事件として未だ調査、告訴中。
    ** Pro Publica : 2007 年設立の米国の報道機関で非営利、独立系                       
             で公益を目的とした調査報道を行う。
    *** The Oath Keepers militia : 2009年米国 Nevada で設立された
            American far – right, anti – government militia.
            米国憲法を守ると主張。

Northern California の保守的な地方の Shasta County において、militia と提携した勢力が、行政政務官の委員会で多数を占めた。これは、運動のメンバーが、全国的に展開できる青写真と見なしているもののようである。 The New York Times は報じている。即ち、全国いたるところに「彼 — meaning Trump— を権力から追い払った人々に対抗して、正当と認められるものとしての力の行使について、right-wingな共和党員達は話し合っている」、と。 このような同じ考えの共和党員が、公共の安全保障について、民主党議員と共同作業するのを期待することは、愚の骨頂である。

恐ろしい予期に反する結末、ぞっとするような恐怖のラチェット、これらは、アメリカが無分別な暴力に包囲されればされるほど、American-right の準軍事的勢力が強化される、という現実である。 銃の売買は、大量銃撃 (“mass shooting”) の後に、増加する傾向にある。
共和党員達は、Texas, Uvalde における大量殺戮に対して、教師を武装させ、学校を強化せよ、との要望を倍増させることで、答えていた。 連邦主義者 (“The Federalist”) の、ある論文では、以下のことが議論されていた。 即ち、両親は home-school * をしなければならない。 そうすれば子供たちは、 制御された環境 — そこでは銃は自身の防御の為に安全に保持されるし、不使用の時はロックされる — 」で学習することが出来る。 もしあなたがそう呼ぶなら、それは社会の未来図である。 そこでは、各々の家族は、一つの要塞 (“fortress”) である。
         訳者注:* home-school
              学校に通学せずに、家庭に拠点を置いて学習すること。

銃は米国の子供達の死亡の主要な原因となっている。多くの保守的な人々は、このことは自由の表現に支払う対価であるとみなしている。我々の慣行/制度では、選挙に勝つか否かで、これら保守的な人々に、不釣り合いな権限を与えている。 議事妨害は、上院をほとんど無力にしている。Mr. Trump — 彼は国民の選挙で負けた — は、隠し持った武器を保持することを制限する New York 州の法規を、覆すこともできる最高裁の判事の任命ができた。小さな民主的改革への道程を見ることは増々むつかしくなっている。

進歩的な人々 (“liberals”) の間では、絶望的な感情が大部分を占めている。たとえ、人々がこれら殺されたすべての子供たちの名前を記憶するとしても、最も一般的心情は、「再びあってはならない。」(“never again”)ということではない。 何事も変わっていくことはない、というつらい自認 ( bitter acknowledgement) である。 アメリカはあまりにも病的になっていて、壊されている。それは、おそらく修復を飛び越えている。

二年前、反トランプの保守的な Mr. David French は、合衆国の崩壊の可能性に警鐘を鳴らして、”Divided We Fall” (分割された我々は落ちてゆく)とのタイトルの本を出版した。
この本は、この国の溶解がいかにして起こるか、というシナリオをイメージした二つの章を含んでいる。一つは、California のある学校での mass shooting についてで、この事件について州の人々は、「白熱の怒りで」(“with white-hot rages”) 反発した。Mr. French は、the Second Amendment に抗して、連邦法適応拒否の危機や、民主党支持者の多い州の連邦離脱に至る怒り狂った州の政治家を思い描いていた。
彼はそのことを、警告を促す物語として描いたが、しかし、Texas, Uvaldeの小学校での
銃乱射事件の後、この章を再び読み返してみて、この現実に比べて、怖い光景には感じない。
Mr. French のシナリオにおいては、残虐行為は、人々を動けなくするよりは、むしろ人々を活気付ける効果を出している。彼らは戦う決意をしていて、打ち負かすことを放棄していない。彼らは大胆さと希望を持っている。

現実の悪夢は、無政府主義者のテロの繰り返しがアメリカ政治にもたらす屈折点ではない。それは起こらない。 悪夢は、我々が簡単に躓き、事態が段々と悪化してゆくことに無力であることである。

                  ( 訳: 芋森 )   [ 完 ]

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【翻訳】「自由、恐怖 :アメリカの銃文化」

Japan Times May 30, 2022
“Freedom, fear : America’s gun culture”  Washington AFP Jiji

「自由、恐怖 :アメリカの銃文化」

“Debate rages as world wonders why so many in the U.S. love guns.”

銃を愛好する米国で、なぜそんなに多くと世界が不思議に思う中で、議論が荒れ狂っている。

それは、1776年であった。アメリカ植民地連合が、英国から独立を宣言した。
そして、戦争がおさまった時、合衆国の創始者たち(“the Founding Fathers”)は、深く議論した。 米国民は、個人として小火器(”firearms”)* を所有する権利を持つべきか、又は地方の市民軍団(”militia”)** の構成員としての所有であるべきか?

   訳者注:firearms : ピストル、ライフル、散弾銃等
       militia : 正規軍との対比で市民軍、民間人を要員として編成した
           実力組織。民兵、私兵、義勇兵等多岐に渡る。

5/24 Texas の町で、19人の児童と 2人の教師が殺害された惨劇*の後、外部の人々にとっては、何故に米国人はぞっとするような恐ろしい事件をたびたび起こす、そのような大量虐殺を掻き立てる firearms に執着するのか、という議論が荒れ狂っている。

    訳者注 :5/24 Texas州、Uvalde市の小学校(Robb Primary School)に乱入した18才の少年が銃を乱射し児童 19人、教師 2人が死亡、負傷者 17人を出した。少年は駆け付けた警備隊によってその場で、射殺された。
    米国議会は、その直後、21才未満の銃購入者の身元確認の厳格化などの
    銃規制法案を可決して、6/24のバイデン大統領の署名を得て発効している。          

専門家によれば、答えは、英国から自由を勝ち取った、この国を支える伝統の中に、また最近では個人の安全の為に銃を必要とする人々の間で高まっている信念の中にある、と。
過去20年間 ― この間、米国では、2億丁以上の銃が売れている ― この国は、銃文化の第一段階 (“Gun Culture 1.0”)、ここでは銃は、競技会や狩猟に使われた、から第二段階
(“Gun Culture 2.0”)、ここでは、多くの米国人は銃を家庭と家族を守るに不可欠なものと見なしている、に移行した。
この移行は、約 200億ドル(約2兆540億円)の売り上げを誇る銃産業による宣伝によって拍車がかかって来ている。この産業の前取締役であったMr. Ravan Busseによれば、この業界は、犯罪の恐怖と人種間衝突によって存在価値を高めていると。 
最近の大量殺戮は、「増加する憎しみ、恐怖や陰謀から利益を得るように仕組んだ銃産業のビジネスモデルの副産物である。」と Mr. Busseは先週、オンライン雑誌 “The Bulwork” (防波堤)で述べている。

Guns and the new nation. (銃と新しい国家)
1770年代および1780年代において、新しいアメリカを立案した人々にとっては、銃の所持について、いかなる疑問もなかった。 彼らは述べている。即ち、ヨーロッパの王国やその軍隊による銃砲の独占が、アメリカの植民地の人々が、そのために戦った圧政の根源そのものであった、と。 憲法の父である James Madison は述べている。即ち、武装していることの強味は、米国民が他の国々の人々にたいして有している優位性である、と。
しかし、彼やその他の建国者たちは、この問題は複雑であるということを理解していた。
新しい国々、又は州政府(”states”)は初期の連邦政府(“federal government”) を信頼しなかった。 そして州独自の法体制を欲し、かつ独自の武器も欲した。 彼らは、人々が狩猟することや、野生動物や泥棒より自身を守ることが必要であることは承知していた。しかし、いくらかの人々は、より私的な銃の所持について、辺境での無法性を大きくするのではないかとの懸念を抱いていた。
私的に保持された銃は、暴政への防御として不可欠であったか? 地方の武装したmilitiaは、その役割をまっとうすることが出来たのか? またさらに、militiaは、地方の圧政の根源になってはいなかったか? 1791年になって、妥協が成った。憲法の中で最も解析された名句節である、銃の権利を保証する “the Second Amendment” *「修正第二条」となった。ここでは、以下のごとく規定されている。 
「よく統制された民兵、市民軍は、自由な国家の安全にとって必要であるので、人民が武器を保持し携帯する権利は、侵害されてはならない。」 (“A well regulated militia, being necessary to the security of a free state, the right of the people to keep and bearing arms shall not be infringed”)

訳者注 : 1776年の英国からの独立と憲法制定から15年経った1791年になって
       初めて憲法への追加、改定、修正が行われている。
        この時は、第一条から第十条まで追加されている。
        銃保持の権利は第二条で「修正第二条」と訳されている。
                      参考までに、第一条は、信教、言論、出版、集会の自由を定める。
        尚、奴隷制の廃止/禁止は、1865年、南北戦争終結の時に「修正第13                         条」として制定されている。

1960s gun control. (1960年代の銃規制)
続く200年に渡り、銃は米国の生活と神話の欠かせない部分となった。 Mr. David Yamane, professor of Wake Forest University が述べているように、”Gun Culture 1.0” は、アメリカ原住民への虐殺による征服と奴隷を支配、制御することと同様に、開拓者達にとっては、狩猟や野生動物から身を守る為の欠かせない道具としての銃に関するものであった、と。 しかし、20世紀の初期までに、著しく都市化した合衆国には、銃、火器類で溢れ、他の国では見られないような、注目すべき銃犯罪を体験していた。
歴史家の故 Mr. Richard Hofstadter は書いていた。即ち、この国は 265,000 件以上の  殺人事件、330,000件の自殺、そして 139,000 の銃事件を記録していた、と。 増大する
組織犯罪暴力への反動として、1934年になって、連邦政府は、機関銃(”machine guns”)の禁止と、必要不可欠な銃の登録と課税を決めた。 各々の州は、独自の規制を付け加えた。
例えば、公の場での、明らかであれ隠してであれ、銃器の携行の禁止。
人々はそのような規制に対して賛同していた。 Mr. Pollster Gallup は述べている。1959年において、60%の国民は、個人での “hand-gun” (拳銃)の所持の完全なる禁止を支持していた、と。John F. Kennedy, Robert F. Kennedy さらには、Martin Luther King の
暗殺が、世論を盛り上げて、1968年の厳しい規制に結実した。しかし、銃製造会社や自己主張を強めている全米ライフル協会(“National Rifle Association”) [以下”NRA”と称す] は、”the Second Amendment” を引用して、新しい規制が、郵送での直接の銃売買の規制に、容易に抜け道の売買ができる方法まで規制することを妨げた。

The Second Amendment.(修正第二条)
その後20年に渡り、NRAは“Republicans” (共和党員達)と共に、the Second Amendmentは銃の権利の防御において絶対的であり、銃に対するいかなる規制もアメリカの自由への攻撃であると主張して、共通の根拠を作り上げた。
Mr. Matthew Lacombe, professor of Barnard Collage of Colombia University によれば、
NRAを巻き込んで、銃所有者の為に明らかな銃中心のイデオロギーと社会的一体性を作り上げ宣伝することを成し遂げている。 銃所有者達は、そのイデオロギーの周囲でお互いに団結して強力な投票集団を形成した。 とりわけ、共和党が民主党から議席を勝ち取ろうとしている農村地域においては。
Jessica Dawson, a professor at the West Point military academy, は述べている。NRAは
宗教の権利や米国文化におけるキリスト教の優位と憲法を信じるあるグループと共に共通の動機/根拠を作り上げた、と。 さらに Mr. Dawson は書いている。”the New Christian
Right”* の、道徳の腐敗、政府への不信を信ずること、また、悪の存在を信じること、を引用して、NRA 上層部は、世俗の政府の法律や規制の上に、the Second Amendment を引き上げて、より宗教的に暗号化された言語を使い始めた、と。
   訳者注:“the New Cristian Right”
          1970年代後半の米国で、モラル、家族や宗教の退潮の中で、福音的、原理主義的            プロテスタントの中で広まった政治、社会、文化活動で生まれる。

Self-defense. (自己防衛)
The Second Amendment への焦点の移行を行ったとしても、大きな助けにはならなかった。
1990年代までに、狩猟や、スポーツとしての射撃分野の落ち込みで、銃の売り上げは横這いであった。 Mr. Ravan Busse によれば、このことが、”Gun culture 2.0” への方向に導いた、と。 その時にNRA と銃産業は、自身を守る為には個人の火器 (firearms) が必要であると、言い始めた。 暴徒や泥棒の攻撃に会う、と人々に徐々に宣伝して銃販売を行い、個人の戦術的な備品 (personal “tactical” equipment) として必要であると誇大宣伝した。「15年前、NRA の要請によって、銃産業は攻撃的で戦闘的な銃や戦術的装備のマーケッチングを強める方向に暗転した。」とMr. Ravan Busseは書いている。 
他方、多くの州は答えている。 即ち、人々が許可なくして、公の場で銃を持ち歩くのを許すことによって、犯罪の増加をうすうす気付くことでの不安について。
事実、暴力犯罪はここ20年間、下降傾向にあるが、銃が関係する殺人事件は、最近は急増してきている。 Mr. David Yamane, professor は述べている。このことが”Gun Culture 2.0” の重要なターニングポイントであって、多数の共倒れの死者を出す暴力の誇張された恐怖の中でhand-gun の売買— すべての人種の人々が買っている— の飛躍的伸びが起きている、と。 2009年以来、売り上げが急上昇し、2013年以降、一年に一千万丁(10 million)以上となっている。これらの大部分が、AR-15 type assault rifle と semi-automatic pistol である。
「今日、大部分の銃所有者―特に新しい所有者―は、所有の主要な理由として自己防衛を挙げている。」とMr. David Yamaneは述べている。

                      (訳:芋森)   [ 完 ]

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【投稿】検察審査会、原発マネー不正環流した反社会的企業:関電に「起訴相当」

【投稿】検察審査会、原発マネー不正環流した反社会的企業:関電に「起訴相当」

                            福井 杉本達也

1 関電原発マネーの不正環流で検察審査会:役員報酬補填は「起訴相当」

「関電の原発マネー不正還流を告発する会」が2022年1月7日に大阪地方裁判所の検察審査会に関電の原発マネー不正還流告発を不起訴にしたことは不当であるとの申立てについて、8月1日に第2検察審査会の決定が発表された。検察審査会は役員報酬補塡を巡る問題について、八木誠前会長、岩根茂樹元社長、森詳介元会長の3名に対して「起訴相当」とした。それ以外には、不起訴処分は、いずれも「不当」という扱いであった。

議決書によると、八木氏と森氏については、金品受領で発生した豊松秀己元副社長の追加納税分を関電で負担したとする業務上横領などの罪▽業績悪化で減額した18人分の役員報酬を退任後の嘱託報酬で補塡したとする特別背任の罪を「起訴相当」と判断。岩根氏についても業務上横領罪などについては「起訴相当」とした。本来の訴えた中心は、関電役員への原発マネーを使った金品受領の不法行為であるが、残念ながら不起訴処分は「不当」との判断であった。地検が再度捜査して起訴すればよいが、不起訴にすれば、申立ては出来ない。今回「起訴相当」とした案件を大阪地検が再度不起訴とした場合には、再度、検察審査会にかけ、徹底的に事実の解明をすることが出来る。

一連の問題をめぐっては、関電側が福井県高浜町の元助役、森山栄治氏(故人)から多額の金品を受領し、関連業者に原発関連工事で便宜を図ったほか、業績悪化で減額した18人分の役員報酬計2億5900万円を退任後の嘱託報酬で補塡したとして、告発する会が旧経営陣のうち9人を告発。特捜部は告発状を受理したが、昨年11月に全員を嫌疑不十分で不起訴処分としていた。

議決は7月7日付。特捜部が今後再捜査し、改めて起訴か不起訴かを判断する。不起訴となっても、改めて起訴議決が出れば強制起訴される。残る6人は不起訴不当で、特捜部が再捜査後に改めて不起訴とすれば捜査は終結する。「起訴相当」が2回続けば、強制起訴となる。(図は福井新聞:2022.8.2)

2 関電役員金品受領事件・役員報酬闇補填の告発の経緯

関西電力の役員等20名余が、森山栄治高浜町元助役やその関連会社から計約3億6千万円の金品を受領していた。それらは、関電の発注した原発関係の工事費からの還流であることに疑いの余地はなく、それを受け取ることは犯罪である。八木会長らは辞任し、関電第三者委員会(委員長:但木敬一弁護士:元検事総長)は調査報告書を公表したが、原発マネーの還流が解明されたとは言えず、政治家への不正な資金の流れはなかったのかなど、強制的な権限を持った捜査当局が動く必要があると考え、「告発する会」では、2019年12月13日に、関電役員12人に特別背任罪(会社法960条1項)、背任罪(刑法247条)、贈収賄罪(会社法967条1項)、所得税法違反(238条1項、120条1項)の疑いがあるとして、3272人が告発状が大阪地検に提出された。その後2020年1月31日には、告発人は3371人となった。

また、6月9日には、関電第三者委員会が明らかにした役員報酬等の闇補填問題で、森元会長、八木前会長、岩根前社長を業務上横領と特別背任で追加告発した。告発人は2172人(後の追加をあわせると2193人)となった。2020年10月5日、上記2つの告発状を一本化して、被告発人を森元会長ら9名に絞った告発状が提出され、大阪地検に正式に受理された。

しかし、大阪地検は強制捜査等は行わず、2021年11月9日に嫌疑不十分で全員を不起訴処分にした。地検OBが多数、関電役員に天下りした経過もあり、不都合な真実の隠ぺいに加担した。そこで、2022年1月7日、1194人が検察審査会に申し立てていた。

3 弁護団の声明

8月1日、関電不正マネー還流事件刑事告発弁護団は「日本を代表する公益企業の幹部たちによってなされたこれほど明白な犯罪行為に対し、大阪地検は不可解にも、すべての被疑事実について不起訴処分をした。検察審査会はこの不起訴処分を是認せず、一部の被疑事実については「起訴相当」と結論付け、その余の事実についての全てについて不起訴不相当とした。これは、大阪地方検察庁の本件についての全ての判断が誤っているものと判断したものである。」「今回の関西電力役員による一連の事件は、原発の立地及び維持のために、公益企業である電力会社が原発地元の一部の企業や個人と癒着し、不明朗な金が注ぎ込まれるという原発問題の闇の部分が明るみになった事件であり、また、電力会社の幹部が、消費者に電気料金の値上げの負担を押し付けながら、その電気料金で自分たちの損失を解消したという倫理観の喪失を赤裸々に証明した事件である。」大阪地検は、「直ちに再捜査に着手して、起訴相当とされた被疑事実のみならず、不起訴不当とされた被疑事実についても速やかに起訴すべきである。」との声明を出した。

4 関電は特別背任罪だけでなく、部落差別を助長する「反社会的な企業」である

関電第三者委員会報告書において、森山氏が「社会的儀礼の範囲をはるかに超える多額の金品を提供」してきたのは、「森山氏の要求は執拗かつ威圧的な方法でなされる場合も多く、時には恫喝ともいえる態様であり」(P100)、「あたかも自身や家族に危害を加えるかのような森山氏の言動を現実化するおそれがある、などといったことが綯い交ぜになった漠然とした不安感・恐怖感」(P188)からであるとして、死去した森山氏に一切の責任を擦り付けた。

この、全く説得性に欠ける言い訳に持ち出したのが部落差別である。「1987年末には、関西電力の高浜原子力発電所の従業員による差別事件等が生じ…関西電力の幹部を対象とした人権教育がほぼ毎年開催されるようになり、…この人権研修も、森山氏が関西電力の経営陣を叱りつけるなどの出来事により、関西電力への影響力を維持、強化する効果をもたらした」(P159~P160)とし、「その後年月が経つにつれて、なぜ森山氏を丁重に扱う必要があるのかは不明確になっていく一方で、業務上、森山氏への対応を行わなければならない地位についた者は…とにかく何があっても耐え忍んで」という「歪な構造が形成されたことが推認される」と、部落差別事件を契機として森山氏との「歪な」関係が深まったかのような装いをこらした。部落差別を利用して、公共料金である電気料金を懐に入れた自らの犯罪を隠蔽しようとした関電こそ「反社会的企業」である。8月3日、40年超の古い原発:美浜3号機補助建屋内の一次冷却水ポンプにつながるシール水からの放射能漏れをごまかして、強引に再稼働しようとしたが、延期された。こうした企業に危険な原発の運転をさせてはならない。

(なお、関電の原発マネー不正還流を告発する会では、8月20日まで、高浜町前議員への贈収賄で関電旧経営陣らを新たに告発し、告発人を募っている。)

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【投稿】「バイデン不況へ、ようこそ」--経済危機論(88)

<<バイデンの不況戦略>>
7/31、バイデン米大統領は、コロナウイルスの陽性反応が出て隔離された後、「皆さん、今日またコロナウイルスの陽性反応が出ました。これはごく一部の人に起こることです。症状は出ていませんが、周りの人々の安全のために隔離するつもりです。」とツイートしている。バイデン氏は、おそらくBA.5オミクロン亜種に感染、7/21に初めて陽性反応が出た後、抗ウイルス剤パックスロビド(

「皆さん、今日またCOVIDの陽性反応が出ました。」

Paxlovid、ファイザー社製)による治療を受け、隔離を解除されてから3日余り経って再び陽性反応が出たと発表されている。
ホワイトハウスのコロナウイルス・コーディネーターの Dr. Ashish Jha は記者団に対し、このパックスロビッドは、コロナウイルスによる重症化のリスクが高い人向けの家庭用抗ウイルス療法で、その治療後に「5 ~ 8 % の人がリバウンドしていることを示唆する」データを示している。バイデン氏は、このリバウンドを経験する少数派に入るというわけである。
問題は、隔離解除後、ホワイトハウス内で行われた会議では、マスクを外してスピーチを行い、政府高官やCEOたちとのラウンドテーブルに参加し、いずれの場でもフェイスマスクは着用しなかった、という。”社会的に距離を置いていた “ので安全であると発表している。しかし屋内では、それはマスクを装着しない理由とはならないし、高濾過マスクの装着や換気をよくすることのほうが、社会的距離を置くことよりも感染に対する防御になることが推奨されている。リバウンド中に他の人に感染させている可能性があることは間違いない。意図的なのか、無意識なのかは別として、バイデン氏自身が事態を甘く評価し、軽視していたと言えよう。

4半期GDP2期連続マイナス

この再度、陽性と判断される前の7/28、木曜日に発表された政府の新データ、米商務省経済分析局が発表した国内総生産(GDP)は2四半期連続でマイナス0.9%成長となったことが明らかにされた。
第1四半期の-1.6%から改善されたとはいえ、これは2四半期連続のGDP減少であり、少なくとも市場に関する限り、これがリセッション=景気後退の定義であることは否定しようがない現実である。記録的な高インフレと金利上昇により消費者と企業が支出を控えたため、景気後退の基準を満たしたのである。
ところがバイデン氏は声明を発表し、「昨年の歴史的な経済成長から、パンデミック危機の間に失われた民間部門の雇用をすべて取り戻したのだから、連邦準備制度理事会がインフレを抑えるために行動する中で、経済が減速するのは当然だ」と述べ、これはリセッションではない、リセッションに入ることはない、「失業率は3.6%で、第2四半期だけで100万人以上の雇用が創出され、歴史的に好調を維持している」のだから、「私の考えでは、我々は不況に突入していない 」と強弁している。しかし、新規失業保険申請件数はコロナウイルス政権後の最高値に近い水準にとどまっていることさえ認知できず、事態を甘く評価し、軽視しているのはコロナウイルス評価と同様であるが、ここでは意識的、意図的にリセッション入りを否定しているのである。しかし、米国経済が上半期に縮小したという事実に変わりはないし、変えようがない。
最初は「不況ではない」と言い、次に「減速」、「テクニカル・リセッションは本当の不況ではない」と言い、その次は「不況は短く、浅い」、「間もなく回復するだろう」と、次から次へと不況戦略=ゴールポストが動かし続けられるのであろう。

<<認知症状態のバイデン政権>>
バイデン政権が自慢する公式の失業率は3.6%であるが、実態を厳密に反映してきたシャドーガバメント統計(SGS)では、24.3%、じつに8倍近い開きがある(下図表)。
季節調整済みSGS代替失業率は、SGSが推定する長期離職者(1994年に公式には存在しないと定義された)を調整した現在の失業報告方法を反映したものである。この推定値は、短期落胆労働者を含むBLSのU-6失業率の推定値に加えられる。U-3失業率は毎月のヘッドラインの数字である。U-6失業率は、労働統計局(BLS)の最も広範な失業指標であり、短期落胆労働者やその他のマージン労働者、またフルタイム雇用が見つからずパートタイム労働を余儀なくされている労働者も含まれる。
 失業率と同様、2022年6月のインフレ率は9.1%であり、1980年当時と同じ方法で計算すると20%に近い水準である。この水準は2007年12月の4.1%よりはるかに大きい。コアCPI(食品とエネルギーを除く)は前月比0.7%上昇し、これは前月より速いペースで、前年比では5.9%の上昇である。インフレ率は景気後退とともに今後数ヶ月は低くなる可能性はある。しかし、今のところ、異常に高いインフレが経済を蝕んでおり、6月の米国における雇用削減数は3万2517人で、前月比57%増、年間ベースでは59%増となっている。
物価上昇と連動した雇用喪失の増加は、GDPの低下と並んでスタグフレーションの最後の技術的指標である。しかしバイデン政権は、経済がすべて順調である証拠に、高い雇用率を誇示している。GDP、物価の上昇、負債の増加、個人消費力の低下など、他の重要な要因はすべて一貫して無視ないしは軽視している。雪崩のような雇用崩壊が今年から2023年にかけ到来しかねないのに、意図的な認知症のごとくふるまっているのだとも言えよう。主観的にも客観的にもバイデン政権はもはや認知症状態なのだと言えよう。
ウクライナ危機にロシアを引きずり込んで、ロシアとEUの経済崩壊を企図した制裁がブーメランとして自らに跳ね返り、対ロシア・対中国緊張激化路線をいまだ変更もできず、妥協と話し合いの道さえ開けない、ドル一極支配がいよいよ継続できない事態に追い込まれたバイデン政権、そして米中銀FRBが、自らが作り出した人類史上最大の投機的金融バブルの修正に向けて金利を引き上げ、金融市場がいよいよメルトダウンし、政策の劇的な転換がない限り、史上最悪の経済危機=経済恐慌が到来しつつある、こうした事態を軽視、過小評価している限り、危機打開の道は開かれないであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】安倍元首相「暗殺」と「国葬」に米ネオコンの影

【投稿】安倍元首相「暗殺」と「国葬」に米ネオコンの影

                           福井 杉本達也

1 法の支配と法治主義が崩される「閣議決定」による「安倍国葬」

憲法学者の小林節慶応大名誉教授は「憲法上、日本国の意思を決定する機関は、(改憲の場合を除いて)『国会』であり内閣ではない。内閣は、国会が決めた国家の意思を執行する機関である(73条)。」「これが憲法に明記された国家権力の行使に関する基本ルールである。」「元首相の国葬の根拠になる法律は存在しない。」「現憲法下での元首相の国葬は吉田茂氏の一例があり、それも閣議決定による。しかし、違憲は違憲である。」「国葬にはその根拠を定めた法律が不可欠である。だから、今回、『安倍国葬』がふさわしいと岸田首相が考えるなら、時間はあるのだから、議案として堂々と国会に提出すべきである。」「また、『法の支配』(憲法)と『法治主義』(立法権)が侵された。」と述べている(『日刊ゲンダイ』2022.7.26)。

今回の岸田内閣による「安倍国葬」は「暗殺」というショックから抜け出す間もなく唐突に閣議決定され、その根拠も曖昧であり全く説得力に欠ける。あたかも、安倍氏を祀り上げて「暗殺」という事実自体の議論を封じようとする意図が感じられる。

2 まともな発表もなされない奈良県警の警備体制

奈良県警察本部 鬼塚友章本部長は「警護・警備に関する問題があったことは否定できないと考えており、早急に問題点を把握し適切な対策を講じたい」と述べているが、なぜ問題があったのか、一向に明らかとなっていない。また、マスコミも警察からの一方的情報を垂れ流すのみで、まともに警備の不備を分析するような記事は皆無である。関西テレビによると「立憲民主党の関係者によると、ことし4月に泉健太代表が同じ場所で演説したいと申し出ると、警察から『後方の警備が難しい』と指摘され、断念していたことが分かりました。そのため泉代表は、少し離れた場所で演説。警察から車の上で演説することや、車を防弾パネルで覆うことなどを要望されたといいます。」(2022.7.21)。

また、産経新聞の『主張』は「警護の成否は、警護対象が死亡すれば0点である。重大な結果が生じた以上、警備に問題があったことはすでに明らかだ。どこにどんな問題があったのか。反省点を速やかに検証すべきである。疑問点は多々ある。なぜ、やすやすと山上容疑者に背後からの接近を許したのか。1発目の発砲から致命傷となったとみられる約3秒後の2発目まで、警備陣はなぜ安倍氏の防御に動くことはできなかったのか。山上容疑者は犯行の約1時間半前から現場を徘(はい)徊(かい)する姿が確認されている。不審者として職務質問の機会はなかったか。帯同する警視庁警備部警護課員(SP)1人という態勢に問題はなかったのか。奈良県警による警備実施の計画を、警察庁はどこまで把握し、確定していたのか。適切な指示、指導は行われたのか。」(2022.7.13)等々の数々の疑問点が当初より出されている。しかし、警察からはまともな説明も言い訳も一向に出されていない。警察のリークでは、「1発目の発砲を車のパンクの音と誤認した」などという間の抜けた情報のみがマスコミに流されている。事件翌日のNHKニュース7に生出演した元警視総監で警視庁公安部長などを警備、公安の要職を歴任した米村敏朗氏は「不審者がいれば未然に確保することは大事なこと」とし、「ここで言う背後からの接近、この状態というのは不審そのものじゃないですか?なぜそこで動かなかったのか、ということが大きなポイントだと思います」と指摘した。1発目の「銃声を聞いた時に安倍元総理を倒してでも地面に押さえて、自分が守るということができなかったのか。十分に見るべきだろうと思います」と話した(『スポーツニッポン』2022.7.10)。後方警戒の人員は置かれず、ガラ空きの背後から接近されて撃たれ、誰も元首相をカバーしない。素人目にもあまりにも杜撰な警備である。これが全て偶然だというには無理がある。奈良県警、そしてその上部機関の警察庁も一枚かんでの警備の意識的手抜きが引き起こした「暗殺」事件と捉える以外には説明のしようがない。

3 「消えた」銃弾

警察庁側は、安倍氏について銃弾が身体を貫かず、体内にとどまっている傷「盲管銃創」が確認されたと説明した。奈良県立医科大学付属病院によると、「安倍氏の首の右前部に約5センチの間隔で2カ所の小さな銃創があった。銃弾が首から体内に入り、心臓と胸部の大血管を損傷したとみられる。心臓の壁には大きな穴が開いていたという。左肩に銃弾が貫通したとみられる傷が一つあったという。体内から銃弾は発見されていない」(朝日:2022.7.9)・という。そもそも、背後から撃たれたにもかかわらず、首の前部に2か所の銃創があるというのも疑問である。別なスナイパーがいたという説を唱える者もいる。また、警察庁の説明では「盲管銃創」であり、銃弾が体内に留まっているはずであるが、病院の説明では「銃弾は発見されていない」。銃弾が「消えた」のである。もし、弾が出たところとすれば、右首の傷口の損傷は大きくなって、大量出血になる。しかし、現場の写真を見る限り、ほとんど出血がなく、傷は丸く小さい。これも、物理的にあり得ない。自民党の青山繁晴氏は体外に弾は出ず、肺などの体内空洞に大量出血して、失血死したとの説である。その後13日に現場から90m先の壁に「銃弾発見か?」の見出しの記事が出たが(福井:2022.7.14)、これが安倍氏を殺害した銃弾なのかどうかは不明である。容疑者の手製の銃から発射された銃弾かどうか、あるいは安倍氏の体内を「通過」した銃弾かどうかも全く不明である。これでは容疑者がどの銃を使って殺傷したのかの証拠を確定することはできない。

4 容疑者の手製の銃では人を殺傷できない?

銃というのは精密な工業製品である。こんな粗悪な、手製の銃で、人間を殺傷出来るのか。しかも頸元に正確に2発もの銃弾を撃ち込むことができるのか。海上自衛隊トップの酒井良海上幕僚長は19日の記者会見で、「銃の自作能力を自衛隊の教育や訓練で得ることは無理だ。所要もなく、教育訓練を行うこともない」「銃を自ら作り、火薬を調達して自分で作製することは砲雷科の通常の動務では穫得し得ない知識、技術だ」と述べている(福井:2022.7.20)。警察は容疑者は奈良県の山中

で試し打ちしたとか、集合住宅の1室で火薬を乾かしたなどとリークしているが、そのようなもので薬きょうなどを作れるはずもない。子供騙しにもならない戯言である。

 

5 容疑者の動機には論理の飛躍:「安倍氏は本来の敵ではない」

奈良地検は25日、容疑者の鑑定留置を始めたと発表した。「11月29日まで約4カ月間にわたる精神鑑定の結果は刑事責任能力を判断する根拠」となる(日経:2022.7.26)。容疑者のブログには「強い恨みがつづられており、安倍氏については『苦々しくは患っていましたが、本来の敵ではない』」とつづられていたと報道されている(日経:2022.7.18)。近畿大学の辻本典央教授(刑事訴訟法)は「殺意が宗教団体ではなく安倍氏に向かったのは論理の飛躍がある。」と解説する。統一教会に恨みがあったのに、安倍氏殺害に向かったという動機が不明なのである。通常、このような裁判は裁判員裁判で行われる。あまりにも動機があいまいで、論理が飛躍し過ぎておれば、裁判員裁判での公判維持は難しいと検察は考えている。あるいは、裁判を遅らせることにより、国民の目をそらせようと考えているのかもしれない。

6 米国にお伺いを立てなければ何事も決められない対米従属国家日本

白井聡氏は「戦後の国体とは何なのかといえば、いわば日本の上にワシントンが乗っかっている」「戦後天皇制というのは頂点にアメリカがある」とし(『誰がこの国を動かしているのか』鳩山由紀夫+白井聡+木村朗)、また、別のところで白井氏は「対米関係における永続敗戦、すなわち無制限かつ恒久的な対米従属をよしとするパワー・エリートたちの思考である」とし、「岸信介は『真の独立』と言い、…安倍晋三は『戦後レジームからの脱却』を唱えてきた。これら永続敗戦レジームの代表者たちの真の意図が、これらのスローガンを決して実現させないことにある」と書いている(白井聡『永続敗戦論』)。首相退任後の鳩山由紀夫氏は、「特に安全保障においては常にアメリカにお伺いを立てなければ何事も決められない」「日本の官僚と米国、特に米軍が常に密接につながっていて、我々日本の政治家と官僚のつながりよりも、むしろ濃いつながりを持っている」「アメリカの意思を尊重しながら…何でもお伺いを立てなければ物事が決められないという状況」にあると述べている(鳩山+白井+木村:同上)。つまり、“我が国を動かしている”事実上の主権者は日本国民ではなく、米国であり、日本の官僚は米国の意向を忖度をしながら物事を進めている。日本の警察機構を直接指示し、要人の警備を緩める行為は米国の指示を仰がなければできるはずはない。安倍「暗殺」は、「永続敗戦レジーム」がいよいよ賞味期限を迎えたということを意味する。

7 なぜいま「統一教会」か

7月28日発売の『週刊新潮』の見出しは「『安倍』と『統一教会』ズブズブの深淵」である、同じく『週刊文春』の見出しは「統一教会の闇 自民党工作をスッパ抜く!」である。国際勝共連合=統一教会と日本政界・特に自民党、中でも安倍派(清和会)との深い関係はその設立当初より指摘されていた。1968年1月に韓国で国際勝共連合が設立されると、3カ月後には日本でも同組織が設立された。その前年に教祖の文鮮明が来日し、右翼の大物・笹川良一・児玉誉士夫らと会い、岸信介首相がそれをバックした。当初の事務所は岸信介氏の敷地内に設置されている。安倍元首相の弟であり、岸信介首相の孫にあたる「岸防衛相は26日の記者会見で、『世界平和統一家庭連合』(旧統一教会)との関係について、『付き合いもあるし、選挙の際も電話作戦などボランティアでお手伝いいただいたケースはある』と明らかにした。『選挙だから支援者を多く集めることは必要だ』とも語った。」(読売:2022.7.26)と報道されているように、それこそ、「ズブズブ」の関係が現在も連綿と続いている。マスコミは、こうした統一教会と日本政界の関係を長年にわたり掴みながら報道してこなかった。問題はなぜ安倍氏が「暗殺」されてから突然のように、報道が“解禁”され、統一教会と清和会叩きが始まったかである。

清和会を中心とする岸信介首相の系統は戦前の日本のパワー・エリート達であり、米国に背面服従しつつも独自核武装や自主防衛を唱えるなど、米国の支配から独立したいという“願望”を持っている。そのためのバランス外交として、プーチンのロシアとも習近平の中国とも交渉してきた。安倍氏「暗殺」の背景には日本の政治家がプーチン・ロシアに接近する事を絶対に許さない、元トロツキストで根っからの「反ロシア」主義者・強硬派ネオコンの存在がある。

8 ネオコン:ヌーランドの初訪日

アメリカ大使館のツイッターは7月25日「ビクトリア・ヌーランド国務次官を、政治担当国務次官として初めて日本に迎えました。」とツイートした。ヌーランドの父方の祖父はロシアから移民したウクライナ系のユダヤ人である。夫はネオコンの論客でブルッキングズ研究所上席フェローのロバート・ケーガンである。ビクトリア・ヌーランドはオバマ政権下の2014年、米国務省欧州・ユーラシア担当次官補として、マイダン広場でのネオナチによるデモが始まると現地に姿を表し、ネオナチに飴玉を配ったりした。ウクライナのネオナチ・反露派の指導者と面談して支援を約束したことから「マイダン革命」が起きた(高野孟:2022.4.19)。トランプ政権下では冷や飯を食ったが、今回の訪日では国務省No3の格上の立場で、「岡真臣・防衛審議官と鈴木敦夫・防衛事務次官」「森外務事務次官」と合い、「G7の政務局長でもある山田重夫外務審議官との会合および夕食会」に出席したとツイートした。ヌーランドは日本の自主独立路線を否定し、余計なことは考えずに、ひたすらウクライナのように米国の先兵として最後の一兵まで血を流せと命じたのであろう。台湾と日本を次のウクライナにして中国と戦わせ、中国の国力を弱めるというのが今後のネオコンの方針である。しかし、米国自身は戦わない。その延長線にペロシ米下院議長の台湾訪問計画が浮上している。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 政治, 杉本執筆 | 2件のコメント