【書評】『犬の心』と『奪われた革命』

『犬の心 怪奇な物語』ミハイル・A・ブルガーコフ 著 / 石井信介 訳・解説
(発行:未知谷、2022/11/30 四六判上製272頁 2,400円)

『奪われた革命 ミハイル・ブルガーコフ『犬の心』とレーニン最後の闘争』 石井信介 著
(発行:未知谷、2022/11/30 四六判上製248頁 3,000円)

ここに紹介する二冊の書籍は、それぞれが不可分に補い合っている。『犬の心』はすでに邦訳『犬の心臓』(増本/V.グレチュコ訳、2015年)として出版されているが、訳者・著者の石井信介氏は、「犬の心」を「犬の心臓」としたのでは、ブルガーコフが意図したものとは異なる、まったく見当はずれの作品となってしまいかねないとの危惧から、今回あえて新訳に踏み切られた、と思量される。
 ブルガーコフが取り上げた「犬の心」の核心は、この作品発表の1924年当時のソ連の政権を、レーニンが意図した社会主義政権とは異なる、スターリンの独裁政権、民族主義政権、国家資本主義政権に実質上変質させつつあった、せめぎあいが繰り広げられていた、ある意味で切羽詰まった状況を反映したところにある。ブルガーコフは、その当時の政治・思想・文化・社会状況を正面から取り上げ、鋭い批判と辛らつな風刺を展開したのである。その中で、「犬の心」とは、日本語でも「この犬め!」「犬畜生!」と罵倒するときに表される、卑怯で下卑、粗野で噛みつく、それでいて飼い主にへいこらする心性を、スターリン主義にへつらう政治姿勢に重ねて表現したのであった。犬にとっては責任のない失礼な用法なのであるが、犬から人間に改造された「犬の心臓」ではなく、「犬の心」なのである。臓器としての「心臓」ではなく、感情、意志、意識、思いやり、精神といった意味での「心」である。

レーニンが死去したのは、1924年1月21日であった。この『犬の心』は、そのレーニンの死去から一年もたたない状況の中で執筆され、様々な文学仲間の会合などで発表され、検閲当局と発行をめぐってのやり取りで何度も修正、加筆、削除等が行われたのであるが、原稿は家宅捜索で押収され、結局は発行禁止となった作品である。ゴルバチョフ政権成立後のペレストロイカ政策によってようやく出版許可となったのが、1987年6月、実に62年間の発行禁止であった。この作品を除くブルガーコフの主要作品は、実は、1953年にスターリンが死去し、1960年代・フルシチョフ政権の「雪解け」政策で出版許可となったのであるが、この『犬の心』だけは許可されなかった作品なのである。それだけこの作品が、ソ連政権の核心、弱点を突いていたということであろう。ゴルバチョフ政権は、それを乗り越える課題を提起されていたのであった。
この紹介文を書いている筆者自身が、ブルガーコフその人、作品にからむこうした事情を、今回の石井氏の訳書・著書を通じて初めて知った次第で、お恥ずかしい限りである。
この新訳『犬の心 怪奇な物語』には、筆者のような「ブルガーコフ未知」を前提に、実に懇切、丁寧な訳注が97項目50頁超にまで及び、その広がりと奥行きの深さは、この訳書の価値を一層高めていると言えよう。
訳者・著者にしてみれば、もちろん、これではまだまだ足りない、論及が及んでいない問題点も多々あると思われる。そのいくつか、中でも最も重要なのは、「レーニン最後の闘争」をめぐる問題であろう。

「レーニン最後の闘争」が提起するもの

『奪われた革命 ミハイル・ブルガーコフ『犬の心』とレーニン最後の闘争』の目次は以下の通りである。

1 犬の心と人の心
手術後の心 /カラブホフの家と住宅委員会 /プレチスチェンカ通り /シャリクはどこで拾われた? /ブルジョアとプロレタリア
2 『犬の心』における社会主義批判
秘密警察のレポートから /ブルガーコフのソビエト政権批判 /ブルガーコフの日記に見るロシアの政治状況
3 『犬の心』の主題
プレオブラジェンスキー教授のモデルは誰か /シャリコフのモデルは誰か /ヨッフェのなぞ解き /レーニンから見たスターリン /ボルトコ監督の変身? /レーニン記念入党と新しい支配者の誕生 /『エンゲルスとカウツキーの書簡集』 /「全部かき集めて山分けする」 /攻撃の矛先はどこへ? /カーメネフ政治局員への直訴
4 家宅捜査と取調べ
道標転換派とブルガーコフ /家宅捜索のいきさつ /取調べ
5 『犬の心』のその後
ソ連の支配者になったシャリコフたち /『犬の心』とペレストロイカ /ソ連は社会主義国じゃなかった? /隠居のまとめ

この目次からも明らかな通り、この著書の全体が、『犬の心』発刊をめぐる、当時の具体的な人間関係を含めた政治・思想状況のち密な分析である。推察される最大の論点は、レーニンとスターリンの関係である。第二の論点は、レーニン死去後の「レーニン記念入党と新しい支配者の誕生」と、それが何をもたらしたかということである。

レーニンとスターリンの関係に関しては、最大の問題は、レーニンによるスターリン解任の問題提起である。レーニンがスターリンを解任すべきだとした理由の第一は、その独裁主義的・行政主義的手法であるが、より本質的に重要な問題であったのが、スターリンの大ロシア民族主義であった。スターリンは、レーニンの言う「少数民族の権利の尊重」を、「譲歩」とみなし、「許してやっている」と公言し、さらにスターリンが起草した民族政策の計画案では、ロシア以外のウクライナ、ベラルーシ、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンの5共和国をロシア共和国の中に吸収する、「赤熱の鉄で民族主義の残滓を焼き払う」というものであった。病気療養中であったレーニンは、当然、この計画案に強く反対し、ロシアを含めた6共和国がソヴィエト連邦の下にまったく平等に並び、なおかつ無条件での分離独立の権利をふくめた諸民族の民族自決を擁護し、「各民族は平等でなければならない」と強調したのであった。

そしてまさにこの論点こそが、現在のロシアのプーチン政権のウクライナ侵攻に直接的につながる問題なのである。
プーチン大統領は、今年2月21日、ウクライナ侵攻に際してウクライナは「我々にとって単なる隣国ではない」と述べ、「我々の歴史、文化、精神的空間の不可侵の一部である 」と述べた後、「現代のウクライナは、すべてロシアによって、より正確にはボルシェビキ、共産主義ロシアによって作られたのです。このプロセスは実質的に1917年の革命直後に始まり、レーニンとその仲間は、歴史的にロシアの土地であるものを分離、切断するという、ロシアにとって極めて過酷な方法でそれを行ったのです。」と、述べている。「ウクライナはレーニンの過ちの産物」であると断じているわけである。プーチン氏は、「スターリンはもちろん独裁者だった。しかし問題は彼の指導のもと我が国は第二次世界大戦に勝利したのであり、この勝利は彼の名と切り離せないことだ。」とまで述べて、自らスターリンの直接の後継者であることを認めているのである。米英が仕掛けた、ロシアを泥沼の戦争に引きずり込む戦争の罠から脱出するには、この民族主義の罠からまず脱出すべきだと言えよう。

民族主義は、第二次世界大戦での日本、ドイツの民族主義に典型的に示されたように、歴史上一貫して戦争行為に随伴してきたものであり、ふつふつと醸成されてきた民族主義こそが戦争を合理化し、優越主義と差別主義をのさばらせ、人類の連帯・平等・人権を踏みにじってきたのである。

本書は、まさにそうした現在進行中の危険極まりない情勢に対する警告の書である、とも言えよう。

なお、残された論点として、レーニンの新経済政策(NEP)と協同組合論について、さらなる展開が期待されるところである。それは、社会主義とは何か、という論点でもある。
(生駒 敬)

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【投稿】米国の圧力で借金してでもポンコツ兵器を爆買いする日本

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                           福井 杉本達也

1 防衛費の全てを借金で賄うのか

2021年度の防衛費は補正予算分を含め6兆1160億円である。これはGDP比で1.09%になる。岸田首相は11月28日、2027年度には防衛費をGDP比2%=約11兆円とするよう指示を出し、12月5日には2023年度から5年間の防衛費の総額を43兆円とすることを決定した。現行の中期防衛力整備計画5年間の27兆4700億円から5割以上増えることとなる。しかし、その増額分の財源のめどは全くたっていない。岸田首相の側近と言われる木原誠二官房副長官は12月4日のフジテレビの番組において、防衛費の増額に充てる財源について、「いま決め打ちする必要はない」、23~27年度の5年間は「財源の有限にかかわらずやる」として全てを国債の借金で賄う方針を示した(日経:2022.12.5)。

植草一秀氏はブログ『知られざる真実』において、「2021年度の日本のGDPは542兆円。これが、日本人全体が1年間に生み出す経済的果実だ。財政は270兆円ものお金を動かしている。国債費の93兆円の多くは国債償還費で、償還する資金の多くは新しい国債の発行で賄われる(借り換え国債)から、この数字は見かけ上のものに過ぎない。また、社会保障支出のうち、国費を投入している部分は約36兆円で、多くは年金保険料、健康保険料などの保険料収入によっている。社会保障支出以外のすべての政策経費が1年間で約34兆円なのだ(この政策支出の中に、公共事業、文教および科学振興 防衛関係、食料安定供給、エネルギー対策、中小企業対策、その他のすべての政策が含まれる。)。このなかで、防衛費だけが突出して激増される。この論議の先に国民負担の増額、増税も浮上すると見込まれる。」と書いた(2022.12.1)。

2 新「防人の歌」

万葉集に「防人の歌」がある。「韓衣(からころも) 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来ぬや 母(おも)なしにして」((現代語訳) 韓衣にすがって泣きつく子どもたちを(防人に出るため)置いてきてしまったなあ、母もいないのに。)(巻20-4401)

日経新聞の論説フェロー:芹川洋一氏は『核心』欄に、「令和の国難に防人の備え」と題して、「歴史が教える負担の覚悟」として、「白村江の戦い」・「蒙古来襲」・「黒船~日露戦争」の過去の3度の「国難」をあげ、「中国の軍拡で東アジアの軍事バランスがくずれた」、「台湾有事になれば…南西諸島が戦域に入るのは必至で、そうなるとおのずと日本有事になる」「令和の国難に必要なものもまた、それぞれの立場で負担を受け入れる覚悟と気概のはずだ」と書いている(日経:2022.12.5)。しかし、台湾有事がどうして日本の「国難」となるかの説明は一切ない。しかも、芹川氏は奇妙なことに、「現実を直視しない政治指導者たちによって国が滅んだ1945年は別にして」と、過去の「国難」の事例から外してしまった。77年前の過去に学ばず「台湾有事」を煽り、「現実を直視しない」のは芹川氏ではないのか。

3 米国の圧力―岸田首相は防衛費の財源を指示したが、自民は無視

11月28日、GDP比2%の防衛費を指示した岸田首相は同時に、浜田防衛相・鈴木財務相に「防衛力強化に向け、歳出、歳入両面での財源確保の措置を年末に一体的に決定する」よう指示した(福井:2022.11.29)が、自民党内は完全無視を決め込んでいる。「『増税ありきは駄目。赤字国債を発行すればいい』。29日午前、自民党本部。国防部会・安全保障調査会の合同会議て、増税による財源確保に対する批判が噴出した。…『首相は財務省に振り付けられているのだろう。支持率が低いのに増税なんでできない』」と(福井:2022.11.29)。追い詰められた岸田首相は12月8日の政府与党懇談会において、2027年度以降の必要となる防衛費増額の財源について、3兆円の歳出削減と1兆円の法人税を中心とする増税を表明したが、決算余剰金や税外収入などという財源とはいえない“カスミ”を積み上げ、後退に次ぐ後退を重ねている(日経:2022.12.9)。しかも、西村康稔経済産業相は9日の閣議後の記者会見で、「このタイミングで増税については慎重にあるべきだと考える」と、ついに閣内からまで“異論”が出た(朝日:2022.12.9)。自民党内が岸田首相を完全無視するのは、首相権限を上回る米国からの強い圧力による。

4 「敵基地攻撃能力(反撃能力)」という自己欺瞞で米製トマホークを“爆買い”

敵基地攻撃能力(ごまかし用語の「反撃能力」)の手段として、射程1600kmで、上海までもが攻撃範囲に入る米国製巡航ミサイル「卜マホーク」を500発も“爆買い”するという(日経:2022.12.1)。しかも、迎撃に特化した現在のシステムから「米軍が掲げる『統一防空ミサイル防衛(IAMD)』に移行する」。IAMDは「陸海空や宇宙、サイバーなどあらゆる手段を用いて空からの攻撃に対応する体制」であり、「ミサイル発射基地への反撃を含む」(日経:2022.12.8)としており、発射権限は米軍が握ることとなる。他にも、自衛隊が要求せず官邸案件として内局が要求した既に米軍が運用停止した旧式の無人偵察機グローバルホーク(ブロック30)3機を629億円で買う契約や、クラッチの不具合で飛行停止となったオスプレイの購入、秋田・山口で中止した陸上イージスを海上に浮かべる洋上イージスに9000億円もの巨費を投ずる契約など掴み金で米国製ガラクタ兵器の数々を爆買いする契約(いずれも後年度負担が大きい)が目白押しである(半田滋「デモクラシータイムス」2022.11.29)。

9月2日付けの日経のコラム『大機小機』は、昨今の防衛論議は、財政赤字も膨れるままなど、基本的な問題を放置して、いきなり尖閣諸島や台湾有事対応のシナリオ、『宇宙・サイバー・電磁波』といった具体論に入っている。しかも『額ありき』の議論を急いでいる」とし、「安全保障の議論にはもっと大きな視野が必要であろう。食料やエネルギーの安定供給も含めて論じるべきではないか。いわばまっとうな保守主義が欠けている」と述べている。

「台湾有事」を声高に騒ぐが、そもそも、1972年9月29日の『日中共同声明』において、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。」「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。」と書かれている。台湾問題はあくまでも中国の内政問題である。そして、1978年10月署名の日中平和友好条約の第一条には「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させるものとする。」とうたわれている。さらに台湾は1895年・日清戦争により、1945年まで日本が植民地にしたが、ポツダム宣言の結果中国に返還されたものであることを忘れてはならない。もし、日本が台湾問題に介入するなら、中国の内政に対する露骨な干渉であり、平和友好条約を破棄し、再び中国との戦争を行うということになってしまう。

5 「ルールに基づく国際秩序」という属国の思考から離脱を

12月5日、参議院で、「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が自公・維新・立憲民主・国民民主党などの賛成多数で採択された。決議は「人権問題は、人権が普遍的価値を有し、国際社会の正当な関心事項であることから、一国の内政問題にとどまるものではない。」と、「普遍的価値」という言葉を持ち出して自らの論理のみが“正義”であり、後進国はその「ルール」に従うべきだとする高慢な論理に貫かれている。賛成した共産党は、日本が中国に対して、「人権侵害の是正を働きかけることを求める」よう主張した(赤旗:2022.12.6)。決議には反対したれいわ新選組は、輪をかけ、「日本政府は中国へ、そのような行為を直ちに停止し、抑圧・拘束された人々を解放するよう求めるべきである。」との声明を出した(2022.12.5)。日中共同声明など読んだこともないであろう。西洋諸国の価値観は上位にあり、中国などの“人権意識”の遅れた諸国に強制すべきとする150年前の独善さそのままである。これが今日の米欧の価値観に洗脳された与野党の思考水準である。こうした思考回路では、財政が破綻してでも膨大な武器を買わされる属国の立場から抜け出すことなどできない。

浅井基文氏は、「アメリカを先頭とする西側諸国が唱えるのは『ルールに基づく国際秩序』という名の覇権的一極的秩序です。」「しかし、『ルールに基づく国際秩序』における『ルール』が具体的に如何なる内容であるかに関しては、アメリカ以下の西側諸国は一度として明確に説明したことがありません。有り体に言えば、”弱肉強食の世界を認めろ、西側支配の旧秩序にこれからも従え”と言っている」「岸田首相はことあるごとに『ルールに基づく国際秩序』の重要性を強調します。これほど岸田首相の見識のなさ、というより無知をさらけ出すものはありません。対米一辺倒外交の醜悪さの極致というべきです。しかし、日本国内にはそのことを指摘するだけの成熟した世論も不在であるという悲しい現実があります。実は、そのことこそが真の問題の所在なのです。政治の貧困と世論の未熟が相乗作用を起こし、『井の中の蛙大海を知らず』の日本が再生産され続けているということです」(浅井基文 2022.12.5)と述べる。

「海(うみ)行(ゆ)かば、水漬(みづ)く屍(かばね)、山行かば、草生(くさむ)す屍(かばね)、大君(=米国)の、辺(へ)にこそ死なめ、かへり見は、せじ」(大伴家持:万葉集 巻18―4094)とはならないようにしなければならない。

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【投稿】「反ゼロコロナ」抗議行動で第二の天安門事件を画策する米欧

【投稿】「反ゼロコロナ」抗議行動で第二の天安門事件を画策する米欧

                            福井 杉本達也

1 中国の「反ゼロコロナ」抗議行動で1989年の天安門事件の“再現”を期待する西側

12月4日午後6時からの日本テレビの『真相報道バンキシャ』は杭州市や上海市の路上取材と称し、中国の「反ゼロコロナ」抗議行動を報道した。そもそも、中国の「反ゼロコロナ」抗議行動はどのように発生したのか。

ニューヨーク・タイムス紙は10月28日、中国・新疆ウイグル自治区のウルムチの高層住宅で起こった火災で住民10人が死亡したことで、「新型コロナウイルスによるロックダウンが救助活動を妨げたり、犠牲者を家の中に閉じ込めたりしたのではないかと疑い、怒りのコメントがソーシャルメディアに殺到し、住民は火災が発生した街の通りに繰り出した。現在、新疆ウイグル自治区の首都であるウルムチでの事件は、与党共産党に対する大衆の怒りのここ数年で最も反抗的な爆発を解き放った。今週末、中国全土の都市で、何千人もの人々がろうそくと花を持って集まり、火事の犠牲者を悼んだ。キャンパスでは、多くの学生が無言の抗議で空白の白い紙を掲げました。上海では、共産党とその指導者である習近平氏に退陣を求める住民もいたが、これは珍しく大胆な挑戦だった」とし、中国では「コロナウイルスによる死亡者数は他の地域よりもはるかに低く抑えらたが、多くの中国の都市がほぼ停止し、何億人もの人々の生活と旅行が混乱し、多くの中小企業が閉鎖を余儀なくされた」。そのため、「共産党の最大の懸念は、学生、労働者、小規模な商人、そして「民主的変化を要求する抗議行動に共通の原因を見いだした 1989 年の反響のように、これらの同様の不満が異なる背景からの抗議者を協力に導いくことにある。」と報じた。この報道の結論は、最終的に、「反ゼロコロナ」の抗議行動の裏で、1989年の天安門事件の“再現”を期待していることである。

これを裏付けるように、天安門事件の学生リーダーの1人・王丹氏は日本外国特派員協会での12月1日の記者会見で「最近の(中国の)学生は政治に関心がないといわれていたが、(今回の抗議の)最前線にいる」と話した。「非常に勇敢な行動で、抗議行動は多くの人々に影響を与えている」と語った。さらに続けて、政府による抗議行動の弾圧に警戒して、国際社会には「拘束される人々などに注目しい」と訴えたと書いた(日経:2022.12.3)。

2 西側一斉報道への違和感―「反ゼロコロナ」抗議運動の背後にDAO司令塔

こうした西側の一斉の報道に対し、筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は「11月26日から28日に掛けて、中国各地でほぼ同時に反ゼロコロナ抗議デモが展開されたが、もしこれらが完全に自発的であるならば、どの都市においても同じように白い紙を掲げて抗議意思を表明することに関して違和感を覚えた。」とし、ウルムチの火災が起きたビルが建っている吉祥苑団地は、「コロナ流行の有無に関係なく、もともと道幅が細く、消防車が入るのが困難な場所で、日本で言うならば『建築法違反』であった。コロナなどなくても、火事が起きたら消防車が入るのが困難で、救助活動に支障をきたすような場所だった。しかし、何者かが『コロナによる封鎖のせいで消防活動ができなかった』という『偽情報』を流したのである。」背後で動いていたのは『全国封鎖解除 戦時総指揮センター』であり、「このような『組織』があったからこそ、中国の主要都市で、一斉に同じ行動に出ることができたのであって、決して『自発的行動』ではなかったことが判明した。」と指摘した。「センター」はアメリカのNED(全米民主主義基金)とも関係しているとし、「10月25日、NEDや台湾民主基金会などが主催する『世界民主運動』の世界大会が台北で開催された。蔡英文総統が出席して、1ヵ月後の統一地方選挙に向けて、民意が民進党に向かうように力を入れたのだが、…民進党が大敗した。反ゼロコロナ『白紙運動』デモはその直後から起き始めた。もし民進党が勝っていたら、このようなデモは起きなかったかもしれない。」と分析し、香港が「宣伝部」司令塔になっていると指摘している(遠藤誉「反ゼロコロナ『白紙運動』の背後にDAO司令塔」Yahoo 2022.11.30)。

ツイッター上の「白纸公民White Paper Citizen」は11月30日の新宿南口での「反ゼロコロナ」集会の映像を流していた。チベット独立運動の旗が演説者の後ろに。そのすぐ横にはユニオンジャックの入った中国返還前の香港の旗が、さらに右隅には米国が2020年11月6日にテロ組織認定リストから除外した東トルキスタン・イスラム運動の旗が見える。誰が暴動を煽っているかは遠藤氏の指摘通りである。

周知のようにNEDは1982年にレーガン政権により「アメリカ政治財団」(American Political Foundation)の研究による提案という形で設立が決定された 。それは、これまでアメリカ中央情報局(CIA)が非公然でやってきたことを公然とやる目的をもったものであり、毎年米国家予算から資金提供を受けている。そのうちには国務省の米国国際開発局 (USAID) 向けの予算も含まれている(Wikipedia)。

3 自らがまいた種を中国の「ゼロコロナ」政策のせいにする

米欧諸国は中国の内政である「ゼロコロナ」の公衆衛生政策に不当に介入し、ウクライナ侵攻を理由としたロシア経済制裁やバブル崩壊によって不況に陥った自らの愚かな政策の責任を中国に転嫁し、「反ゼロコロナ」暴動を煽っている。11月23日付けの日経新聞は「中国感染拡大・市場に冷水」との見出しで、「ゼロコロナ」政策の「規制緩和期待しぼむ」とし、「テスラなど中国関連銘柄の株価が下落。2023年以降の世界経済のけん引役としての期待が高まっていただけに、市場は冷や水を浴びせられた格好だ。」と、あたかも中国に不況の全ての責任があるかのように書く。ヤクザ顔負けのいいいがかりである。そもそも、3年前の2020年、ロンドンやニューヨークなどの主要都市をロックダウンしつつも、最大の死者を出し続けたのは米国や英国など米欧諸国だったのではないか。その舌の根を乾かぬうちに中国の「ゼロコロナ」政策を暴動まで用いて強制的に政策転換しようとすることは盗人猛々しいにも程がある。

既に、広州は事業を再開し、リスクの低い地域での食事サービスを許可している。北京のショッピングモールも徐々にオープンし、一部の都市では、密接な接触者が特定の条件下では自宅検疫を行うことを許可し、一部では定期的なPCR検査が免除されるとしている。孫春蘭副首相は、オミクロンウイルスの病原性が弱まるにつれて、予防と管理において新しい状況と新しい課題に直面していると述べ、コロナに対する中国の対応を継続的に最適化するとしている。「中国で何らかの革命を期待しているタイムズの記者は、おそらく失望するでしょう。中国経済はそこそこ好調です。人々はほとんど合理的な健康対策に満足しており、他のすべては交渉可能です。『欧米』の論説作家は、中国を国民を抑圧する独裁政権として描くのが好きだ」(MoA 2022.12.1)。第二の天安門事件は起こりようがない。

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【投稿】ポーランドへミサイルーウクライナとポーランドの偽旗―

【投稿】ポーランドへミサイルーウクライナとポーランドの偽旗―

                             福井 杉本達也

1 第三次世界大戦にNATOを引きずり込もうとしたポーランドとウクライナ
 NHKは日本時間11月16日朝10時37分のニュースで「ウクライナ各地で15日、大規模なミサイル攻撃が行われる中、ウクライナの隣国ポーランドの外務省は、ロシア製のミサイルが国内に落下し、2人が死亡したと明らかにしました。ロシアによる軍事侵攻後、NATO=北大西洋条約機構の加盟国で初めて、ロシアの攻撃による犠牲者が出たことで、国際社会の緊張が高まっています。」と報道した。
 ウクライナのゼレンスキー大統領は16 日、インドネシアで開催されていたG20にオンライン演説し、ミサイル攻撃はロシアによるものだと非難し、「ウクライナ、ポーランド、全欧州はテロリストのロシアから完全に防衛されなければならない」「行動が必要だ」と訴えた。また、ツイッター上で、「ロシアはどこでも殺す。今日はその手がポーランドに届いた」と書き、「欧州・大西洋地域の集団安全保障への攻撃は、重大なエスカレーションだ」と述べた。
 ラトビアの国防相は「ロシアは罰せられなければならない」と非難した。また、ミサイルはロシア製と欧米メディアは大々的に報道しだした。
 現地時間15日の夜、ポーランド国家安全保障局長のヤツェク・シエヴィエラは、アンジェイ・ドゥダ大統領がイェンス・ストルテンベルグNATO事務総長と話し、NATOの第4条案件かどうかについて協議が行われたと伝えた。また、ポーランドは国内の一部の部隊の戦闘準備を強化した。G20では16日朝、この事態について西側諸国が緊急会合を開かれた。米国、英国、欧州連合(EU)、スペイン、ドイツ、カナダ、フランス、日本、オランダの首脳が急きょ集まり、情勢を協議する「緊急ラウンドテーブル」が開催された。
 しかし、バイデン米大統領は16日朝、「ロシアから発射された軌道ではなさそうだ」と発言した。これを受けてロシア政府のドミトリー・ペスコフ大統領報道官は16日午前、毎日定例の記者会見で、ポーランドをはじめ「たくさんの国が」「ヒステリック」に反応し、何の証拠もないままロシアを糾弾したと非難。そのうえで、「アメリカ側とアメリカ大統領の、抑制的ではるかにプロフェッショナルな反応は、特筆に値する」と称賛した。
ポーランドのドゥダ大統領とストルテンベルグNATO事務総長はそれぞれ16日午後、ウクライナの防空ミサイルが原因との見方を示した(Yahoo:2022.11.16)。17日、ポーランドのドゥダ大統領は、ミサイルの着弾現場を視察し、「専門家や私たちの見立てによると、これは事故だった」と述べ、ミサイルの着弾は意図的な攻撃ではなかったという見方を示し、軌道修正した(NHK:2022.11.18)。

2 ウクライナ・ポーランドによる偽旗―21世紀版「サラエボ事件」・「トンキン湾事件」―
 軍事アナリストで米海兵隊の元情報将校:スコット・リッターは、もし、ロシアのミサイルを迎撃する目的でウクライナが発射したものならば、「入ってくるロシアの標的に対して発射されたS-300ミサイルは、レーダービームに従って目標に向かって、ほぼ西から東の方向に発射されます。要するに、ウクライナのS-300は、ポーランドを攻撃したミサイルが飛行した経路からほぼ180度離れた方向に発射されます。」。したがって、ミサイルは誤動作ではないとし、「ポーランドに着弾したウクライナのS-300は事故の結果ではなく、ミサイルがポーランドの領土に衝突するように設計された意図的な行動でした。」とし、「NATOを紛争に引き込むように計画された偽旗事件の陰謀があります」と分析している。さらに続けて、「問題のミサイルがウクライナであることを知っているにもかかわらず、ポーランドへの攻撃についてロシアを非難する結論に飛びついたポーランドとバルト諸国の引き金のような反応は、攻撃の加害者とすぐにロシアに非難の指を向けた人々との間のある程度の事前調整を示唆しています。」と指摘。ポーランドやラトビアなどバルト諸国も偽旗作戦の共犯であると非難した。「ポーランドをめぐるNATOとロシアの直接の軍事的対立は、アメリカとロシアの間の一般的な核戦争に発展する本当の可能性を秘めている。ウクライナ、ポーランド、バルト諸国で、偽旗攻撃を助長してNATOをウクライナ紛争に引きずり込む陰謀に関与している人は誰でも、地球上のすべての人間に対する直接の脅威を表しています」と締めくくっている(A False Flag over Poland_ – Scott Ritter 2022.11.19)。
 また、スコット・リッターは別のインタビューにおいて、「ポーランドやバルト諸国など、ロシアの勝利によってNATOがさらに弱体化することを恐れる国々にとっては不満の残る結果となる。そして、現時点では、NATOをウクライナに深く関与させることがこれらの国々の利益となる。彼らはNATOが2023年にこの件(ウクライナ問題)を放棄することがないように用心している。だから、ポーランドとバルト諸国は、他のNATO加盟国が外交的な提案を求めているのに、ウクライナに巻き込んでNATOがエスカレートする環境を作ろうとする、極めて無責任で極めて危険な行動をしていると私は見ている」と答えている(Sputnik 2022.11.19)。

3 戦争を裏で操る英国
 米国や他のNATO加盟諸国がウクライナから一歩引いたにもかかわらず、19日、英国のリシ・スナク首相はウクライナの首都キエフを訪問し、英国は2022年にウクライナに30億ポンド(約5000億円)以上の軍事支援を提供したと述べ、さらなる資金を拠出する用意があることを確認した。スナク首相は「英国は、ウクライナが信頼できる平和と安全を手に入れるまで、引き続き支援を行っていく」と演説した(Sputnik:2022.11.20)。ポーランドとウクライナの背後には、なんとしてもNATOを第三次世界大戦に巻き込み、欧州大陸を三度戦場とし、独仏を立ち上がれなくして、自国の潰れかかった国力の再浮上を図りたい英国の思惑がある。英国はクリミア橋爆破においても、ウクライナを支援していた。
 こうした、英国の危険な思惑を察してか、米国は一歩引き、オースティン米国防長

官は、カナダで開かれNATOの会議において「皆さん、NATOは防衛同盟であり、NATOはロシアとの対立を求めるものではない。ロシアに脅威与えるものではない。間違いなく、我々はプーチンが選んだ戦争に巻き込まれることはない」と、英国の行動にクギを刺した(Sputnik:2022.11.20)。

4 「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている」と批判した森喜朗
 米国が手を引き、ポーランドも方針を転換する中、NHKは11月18日の昼のニュースにおいてもまだ、「欧米側は、ロシアによるミサイル攻撃を迎撃するため、ウクライナ軍が発射したミサイルだった可能性を指摘する一方で、ロシアにこそ責任があると非難しています。これに対してウクライナは、ロシア軍が発射したミサイルだと主張するなど、欧米側との見解に隔たりもみられます。」とのフェイクニュースを垂れ流し続けた。
 こうした、危険な日本のマスコミの姿勢に対し、森喜朗元首相は11月18日夜、鈴木宗男氏のパーティーでの挨拶で、「ロシアのブーチン大統領だけ批判され、ゼレンスキー氏は全く何も叱られないのは、どういうことか。ゼレンスキー氏は、多くのウクライナの人たちを苦しめている」と発言した。また、「日本のマスコミは一方に偏る。西側の報道に動かされてしまっている。欧州や米国の報道のみを使っている感じがしてならない」と批判した(福井=共同:2022.11.19)。
 福井新聞の『キッズこだま』欄に、大野市有終南小学校6年の松崎康生さんの「不思議」という題の作文が掲載されていた。「ふとテレビを見る。ウクライナとロシアの戦争がニュースで取り上げられていた。そのときふと思った。人は、同じ人なのにどうして争うのだろう…。ロシアにはロシアなりの理由があって、ウクライナにはウクライナの理由があることがわかった。でもいずれ正義が牙をむく。今世界がウクライナに協力してロシアを倒そうとしている。けれど、それが本当の正義とは限らないので、これらもしんちょうに見極めたい。」と結んであった(福井:2022.10.13)。日本のマスコミのレベルは小学6年生の作文よりもはるかに劣る。

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【投稿】米中間選挙の結果と民主党の「財布」=仮想通貨取引所FTXの破綻

【投稿】米中間選挙の結果と民主党の「財布」=仮想通貨取引所FTXの破綻

                          福井 杉本達也

1 米国は徹底的な金権選挙

米国の中間選挙が11月8日行われた。当初、「赤い波」が起きるといわれていたが、上院で民主党が50、共和党が49 議席になり、ジョージアの再選挙(12 月6 日)で共和党が勝っても、上院の多数は民主党に決まった。50:50 になっても、1 票をもつ議長の副大統領がカマラ・ハリス(民主党)であり、選挙前と同じ「民主党多数」となる。不正が多い郵便投票の身元確認すらできない。これが米国「民主主義」の実態である。共和党の上院のリーダー、マコーネル(反トランプ)は、激戦州の共和党候補の選挙資金を20 億円も取りあげTV宣伝ができないようにして、共和党の落選を増やした。

米国の金権政治は非常に深刻である。選挙は「1 人 1 票」ではなく、「1$1票」である。「政治=金=権力=支配」である。彼らは納税者ではなく、寄付者の利益に奉仕する。

2 仮想通貨取引所FTXの破綻

中間選挙2日後の11月10日、日経新聞は大谷翔平投手がアンバサダー契約を結んでいる「暗号資産(仮想通貨)交換業大手のFTXトレーディングが資金繰りに行き詰まり、同業最大手パイナンスによる救済買収に発展した。グループ内で保有資産を水増ししているのではとの疑念から顧客資金が流出した。」と報じた。翌日、バイナンスは買収を断念し、FTXは破産申請した。FTXのサム・パンクマン・フリードCEOが保有するる投資会社アラメダ・リサーチとグループ内でFTXが発行するトークン=FTTの貸し借りをして資産の水増しを行っており、実質上資産はゼロであり、とんでもない詐欺会社であることが明らかとなった。裁判所への提出資料によると、債権者は10万人以上、負債は100億ドル~500億ドルであるといわれる。FTXは2019年に設立され、個人顧客は全世界に100万人以上、全世界の仮想通貨取引の1割・1日150億ドルの仮想通貨の取り引きを行っていた(日経:2022.11.13)。

3 FTXと民主党との深いつながり

サム・パンクマン・フリードCEOの父親:ジョセフ・バンクマンはスタンフォード大学ロースクールの教授として勤務、弁護士としてキャリアを積んでいる。母親は民主党のコネクションがあり、弁護士でスタンフォード大学で法律を教えている。ヒラリークリントンの弁護士でもあった。バックマン=フリードCEOのガールフレンド:キャロライン・エリソンはアラメダ・リサーチ(FTX商社)のCEOで、父親(グレン・エリソン)はゴールドマン・サックスの元トップ弁護士であった。バンクマン=フリードは、2021年から2022年の選挙サイクルで民主党への2番目に大きな個人寄付者であり、投資家であり、ネオコンの実質的応援者・ウクライナ・マイダン・クーデーターの資金提供者でもあるジョージ・ソロスに次いで多額の寄付を行っていた(Moon of Alabama 2022.11.12)。

4 ウクライナとFTXのつながり

ロシアのウクライナ侵攻の中、FTXのバンクマン・フリードは、仮想通貨寄付プロジェクトの支援に名乗りをあげ、FTXがウクライナ財務省や他のコミュニティが同国のために仮想通貨寄付を集めるのを支援することを発表した。3月15日には「ウクライナ政府が、世界的大手暗号資産取引所「FTX」などと提携し、暗号資産の寄付に関するWebサイトを開設しました。…寄付は、ウクライナ軍と人道援助を必要としているウクライナの民間人を支援するために使用されされるとしており、ドルやポンドなどの法定通貨の寄付先も記載されています。」と述べられていた。ウクライナ政府は、世界中から6000万ドル以上の仮想通貨寄付を受け取った。

5 米国からウクライナに流れた「軍事援助」が民主党に回帰

FTXは中間選挙で民主党の候補者に少なくとも4000万ドルを寄付した。しかし、それはこの巨大詐欺の表面でしかない。ロシアと戦うために使用されたとされるウクライナへの数百億ドルのアメリカの「軍事援助」が、ウクライナがロシアと戦うために使用されず、代わりにFTXに投資した現金であった。米国の「軍事援助」を使用する代わりに、ウクライナはその一部またはすべてをFTXに「投資」した。そして今、すべての金がなくなった。ウクライナは米国から金を受け取り、ウクライナはそれをFTXに送り、FTXはそれを民主党に送った。これは、マネーロンダリングであり、選挙資金法に違反する犯罪である。つまり、ウクライナに渡った数百億ドルは、実はFTXの仮想通貨で民主党議員やエリートを買収するために、アメリカにマネーロンダリングされて戻ってきた。しかし、今その金はなくなり、中間選挙直後に、用済みとなった「財布」=FTXは破綻させられ、証拠隠滅を図った。

 

6 FTXの破綻によって金融危機は起きるのか?

日経新聞は「世界の暗号資産(仮想通貨)の時価総額が、叩日までの2日で約32兆円消失した。…価値の裏付けがない暗号資産は期待で価値が膨らみゃすい分、逆回転するともろい。市場は破綻の連鎖に身構え始めた。」(2022.11.11)と書く。『ビジネス知識源』は「FTX の破産の金額は最大でも10 兆円でしょう。当時の史上最大の破産だったエンロン(負債総額400 億ドル:5.4 兆円;2001 年12 月に破産)のときのような危機には、至らないと見ています(連鎖の規模は小さいからです)。…政府の規制が及ぶ銀行に対しては、自己資本に対するデリバティブの規制があります。ノンバンクに対しては、規制がないのです。…ノンバンク:ヘッジ・ファンド、インデックスファンド、仮想通貨取引所…等多数の基金的金融。総額では4000 兆円あると見ています。これが、金融危機の引きがねになります。」と書いている(2022.11.13)。仮想通貨のみでは金融危機にはならないであろう。

『ビジネス知識源』は「日本の投票システムは、投票用紙を、18 歳以上の戸籍に基づき政府が与える点では平等です。しかし人口に対する議員定数には自民党の都合による不平等があります。選挙委員会での集計には、時折、不正があることが噂されますが、米国よりはずいぶんマシでしょう。」と書く(同上)。

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【投稿】米「中間選挙」の真の勝者--経済危機論(98)

<<トランプ=「共和党の最大の敗者」>>
周知のように、2016年の米大統領選の際に、リベラル派のドキュメンタリー映画監督・活動家であるマイケル・ムーア氏は、大手マスコミの圧倒的な予想に反して、民主党候補のヒラリー・クリントンを、ニューヨークの不動産王から極右政治家に転身したドナルド・トランプが打ち負かすだろうと予測し、この予測が見事に的中してしまったのであった。そのムーア氏が、今回、2022年11月8日の米中間選挙について、大手マスコミの「赤い津波」=共和党圧勝予測に対して、逆に「青い津波」=民主党圧勝予測を対置したのであった。 中間選挙の結果は、最終的にはいまだ未確定ではあるが、共和党の「赤い津波」は実現せず、「さざ波」程度にまで縮小し、トランプ氏自身の期待を完全に裏切る結果となったのであった。とりわけ、トランプ氏再選が盗まれた、選挙そのものが不正であったと主張する「選挙否定派」が 多くのの地域で落選相次ぐ事態となり、トランプ氏は怒りに任せて、またもや不正選挙を叫ぶ醜態を演じている。

これまでトランプをほめそやしおだててきたはずの保守系ジャーナリズムを束ねる億万長者ルパート・マードックのメディア各社 : フォックス・ニュース、ニューヨーク・ポスト、ウォール・ストリート・ジャーナルは、軒並み、トランプ氏を非難、ウォールストリートジャーナルの社説は、トランプを「共和党の最大の敗者」と決めつけ、ニューヨーク・ポストは、表紙に「トランプが共和党中間選挙を妨害した方法」と報じる事態である。

ムーア氏が、「青い津波」を予測した最大の根拠は、トランプ政権によって保守系右派判事が多数を占めた米最高裁が「ロー対ウェイド裁判」を覆して、中絶の憲法上の権利を否定し、合法性の判断は各州に委ねられたこと。これに乗じて、中絶非合法化へ道を開き、南部の保守的な州を中心に、26州が事実上の禁止を含む厳しい規制を設け、保守系右派がこぞって中絶禁止に動き出したこと。こうした事態に激怒した有権者、とりわけ女性と若者が、大規模な「青い津波」を起こすという、実際の有権者の動きとその切実な声を高く評価したものであった。
そのことは、共和党のバージニアの幹部自身が、「共和党は中絶問題の強さを過小評価していた」ため、黒人、ヒスパニック、アジア系といった多様なコミュニティでうまくいかなかった、「共和党は多様なコミュニティーにリーチできていない」と語っており、「全国的に見れば、それは間違いない。そして、ここバージニアでは、60対40で民主党に有利な問題」であったと述べている。実際に、出口調査では61%が最高裁判決に「不満」もしくは「怒りを感じている」と回答し、60%が中絶は「合法化されるべきだ」と答えている。投票で最も重視した問題として「中絶」は27%で、「インフレ」の31%に次ぐ関心の高さであった。

さらにこの中絶の権利を、中間選挙と同時に実施に持ち込んだミシガン、カリフォルニア、バーモントでは、住民投票で中絶の権利を保障する州憲法改正案を提示し、いずれも可決されたのである。
当然、多くの女性や若者の投票を促し、投票率も高くなっている。これまでの中間選挙は通常、38%から40%程度であったものが、大統領選挙の投票率、58%~66%(2020年)に匹敵し、それを上回る可能性が高い、とみられている。
出口調査によると、18歳から29歳までのZ世代とミレニアル世代の有権者の63%が民主党に投票し、35%が共和党に投票。ミレニアル世代を中心とする30歳から44歳の人々は、51%が民主党に、45%が共和党に投票している。さらに、若い有権者は、メディケアフォーオール、グリーンニューディール、学生債務の帳消しといった明確な進歩的政策を支持する傾向がすべての年齢層の中で最も高いことが明らかになっている。民主党左派のオカシオ・コルテスは11/10のツイートで、民主党が「赤い波」を打ち消すことができたのは、若者の投票率が大きな要因であると強調している。

その象徴が、元「March for Our Lives 命のための行進」の活動家で25歳のGeneration Z. Z世代のメンバーであるマックスウェル・フロストで、フロリダ州オーランド地域の代表として、同世代で初めて下院議員に選出されたのである。

<<「青い壁」が「醜い赤い波」を食い止めた>>
ムーア氏は、「青い津波」=民主党圧勝の「最大のハードルは、民主党だ」と断言する。「とてもがっかりさせられるし、どうやってこれを成功させるのか、私でさえ疑問に思うほどだ。民主党のコンサルタントは、あまりにいい加減で弱い路線を流している。……我々は非常に重要な選挙の崖っぷちに立っているが、我々の最大の敵は民主党そのものかもしれない」と述べる。
 投票日の翌日、11/9、ムーア氏は「マイクの中間選挙・津波の真相」(Mike’s Midterm Tsunami Truth)#41で、以下のように述べている。
・民主党が予想された「赤い波」をかわし、もし何らかの理由で選挙の日に青い津波を起こせなかったとしても、2番目に良い選択は、赤い波を起こさないようにすることだと、みなさんが分かっていたことが素晴らしいです。共和党の赤い波の予想を阻止するために「青い壁」を作ったことに感謝しています。
・昨夜は心強いニュースがたくさんありました。バーモント州、カリフォルニア州、ミシガン州、ケンタッキー州で妊娠中絶の権利に関する法案が可決され、モンタナ州もそれに続く勢いである。メリーランド州とミズーリ州ではマリファナが合法化された。多くの州で中間選挙の投票率が過去最高を記録した。
・もう一度、醜い赤い波を止める「青い壁」を作ってくれた皆さんに、心から感謝します。
ムーア氏は、「嘘は、真実の前にさらされたとき、短い賞味期限しか持たない。だから、大多数の人々と8000万人の無投票者の両方を真に活性化し、受け入れる方法を考えよう。そのための一つの方法は、公約を実行に移すことです。富裕層に課税し、労働者階級とその家族を支援し、すべての女性は平等であり、私たちは読んで行動し、愛する、市民的に活動する批判的な思想家の新しい世代を作り上げるのです。」と強調している。

バイデン政権は上院を維持したことで、最悪の結果は免れたが、共和党が「勝利」を宣言した下院選で最終的に多数派を失えば、議会で予算案や重要法案を思うように通せなくなり、政権運営が難航するのは必至である。この米中間選挙の結果は、結果的には、「赤い波」でも「衝撃の青い勝利」でもなく、民主党の勝利というより、共和党の自滅・敗北である、と言えよう。。
そして、最大の問題は、この選挙期間中、アメリカが世界中に展開する途方もない軍事的・帝国的プレゼンス、対ロシア・対中国への制裁政策、核戦争をも招来しかねない核先制攻撃政策への転換等、政治的経済的危機をより一層激化させるバイデン政権の緊張激化政策について、共和党はもちろん、民主党内左派まで含めて、緊張緩和・平和政策への転換に固く口を閉ざしたこと、今や軍・産・議会一体となった、この選挙の真の勝者について、一切不問に付されたことが看過されてはならない、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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【書評】『黒い雨』訴訟(小山美沙著、集英社新書、2022.7)

【書評】『黒い雨』訴訟 (小山美沙著、集英社新書、2022.7.発行)

黒い雨訴訟 1957年4月に制定された「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」(原爆医療法)によれば、「被爆者」は四つに分類される。①原子爆弾が投下された際に広島市・長崎市の区域内にあった者(直接被爆者)、②その時以後一定の期間内にその区域にあった者(入市被爆者)、
③その他原子爆弾が投下された際やその後において身体に放射能の影響を受けるような事情にあった者(医療従事者等)④以上の規定に該当した者の胎児であった者(胎内被爆者)である。この法律はその後改正されて、また1968年には「原爆特別措置法」が、1994年にはこの二法を一本化した「被爆者援護法」が成立して現在に至っている。これにより基準を満たし被爆者と認定された者には、被爆者健康手帳が交付され、無料の健康診断の他、原爆に起因すると認められた病には全額国庫負担で治療を受けることができる。それ故病に侵され働くこともままならない被爆者にとっては医療給付は必須のものとなっている。
 ところがこの被爆者の認定を巡っては、運動によってその範囲が徐々に広げられてきたとはいえ、国の方策が壁となって切り捨てられてきた人びとが数多く存在してきた。そのの最たるものが「黒い雨」に打たれた人びとであった。「井伏鱒二の小説『黒い雨』は有名でも、黒い雨を浴びた人たちがどのような健康影響を訴え、またどんな境遇に置かれてきたか」はほとんど知られてこなかったのである。本書は、この国の壁を打ち破り、被爆者であることを認めさせた運動の経緯を辿る。
 その詳細な内容は本書に譲るが、この運動は、広島市外の地域で黒い雨にあたり健康障害を発症した人びとをどこまで被爆者として認めさせるかという闘いであったと言える。これについての最初の調査である「宇田論文」(1945年12月)は聞き取り調査で爆心地から北西方向に幅11~15㎞、南北約19㎞~29㎞にわたって黒い雨が降ったと指摘して、これを長卵形の二重の楕円で示した。そして内側の小さな楕円を「大雨雨域」と表記した。これは原爆がもたらした黒い雨が広島市内ばかりか広い範囲に及んでいたことを明らかにしたものであり、これによって小さな楕円内は「健康診断特例区域」に指定され、そこにいた人びとは被爆者と同じ健康診断を無料で受けることが可能になった。しかし被爆者健康手帳を受け取るためには「原爆の放射能の影響を疑わしめる」10種(現在は11種)の障害のいずれかを伴う病気の発症が条件とされた。そしてこの病気の発症の条件は、その後の国との長い戦いにおいて大きな障害となった。
 しかしこの「大雨雨域」=「宇田雨域」は現実には行政側の都合で、境界線の多くが集落を横切る山や川の上に引かれたため、「集落内のコミュニティーや同じ学校に通うクラスメイト、そして家族をも容赦なく分断した」。ある家族の長女は自宅前を流れる太田川の南側に草刈りに出ていた。二人の妹と母は、川の北側の自宅にいて、ともにピカッと青い光、爆風が吹き付け、その後焼け焦げた紙やボロが飛んできて、大粒の雨が降ってきた。しかし申請して被爆者健康手帳を受け取れたのは長女のみであった。
 この不公平、不条理を何とかしようと運動が起こり、その後さらに詳しい調査、「増田雨域」、「大瀧雨域」が発表されるが、国側は「科学的・合理的な根拠」がないとして区域の拡大を認めす、また内部被ばくについても頑として否定し続けた。
 そこで2015年11月、「黒い雨被爆者」原告64名が、国に対して第三号被爆者(冒頭の被爆者の③にあたる)の認定を求めて提訴に至る。この裁判の経緯も本書に詳しいが、原告側の主張が極めて真っ当なのに対して、被告の国側が薄弱な「科学的・合理的根拠」に固執し、被爆者の増加に歯止めをかけるという本音のための強弁に終始する主張は、反面教師として一読に値する(4章「黒い雨」訴訟)。裁判は結局、「原爆の放射能の影響を疑わしめる」10種(現在は11種)の障害を伴う病気の発症」という規定を逆手に取った地裁裁判長の判断により、原告全員に被爆者健康手帳の交付を命じるという勝訴となった。そして国側は控訴するが、続く高裁判決もこれを支持して確定した。
 しかしこの判決を突き付けられても国は、原告を救済するとしたものの、内部被ばくについては認めようとせず、中途半端な「政治判断」によって事を収めた。さらに重要なのは、原告以外の救済については、「黒い雨に遭ったことが確認できること」に加えて「疾病要件」を設けて、被ばく者を「差別」している、と本書は批判する。
 この裁判の中で明らかになってきたのは、被爆者数の拡大の阻止を図って、被爆者の連帯を「分断」し、その中に「差別」を持ち込んで運動の力を削ごうとする国の露骨な姿勢である。そしてその姿勢はまた、福島第一原子力発電所事故でも続いている。避難地域への帰還推進とセットになった住宅補助の打切りによる脅迫的施策、自主避難者の無視等はまさしく被害者を分断するものと言えよう。
 本書は、国との長い地道な闘いの中で、「黒い雨」の下に生きてきた人びとの思いがが伝わってくる労作である。(R)

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【翻訳】西側に、のけものにされて、ロシアはサウジアラビア人に石油を売る

The New York Times  International Edition、September 21, 2022
“ Ostracized by West, Russia sells oil to Saudis”
By Clifford Krauss

「西側に、のけものにされて、ロシアはサウジアラビア人に石油を売る」

 今年の初め、ロシアがウクライナ国境に軍を集め侵略した時、Saudi Arabia 王室の持ち株会社は、ロシアの主要なエネルギー会社に $600 million 以上の額の投資をした。
 その後、米国、カナダや欧州の数か国が、ロシアからの石油 の輸入を止めたこの夏の間、Saudi Arabia ( 以下「サウジ」) は、自国の火力発電所の為の燃料油 のロシアからの購入額を二倍に増やし、自国の原油 を輸出に回した。今月(9月)ロシアと サウジ は、両国の石油収入を増大させるべし、との決意に落ち着くように、世界の oil price を押し上げるべく努力して OPEC とその同盟生産者を導いた。共に、この動きは、全く異なる サウジ の Moscow への傾斜と、米国からの離れを表している。それでもって、それは通常それ自体で調整されてきている。 サウジの立場は、同国の Crown Prince, Mohammed bin Salman とロシアの President, Vladimir V. Putin の完全な政治同盟にまでは及んでいないが、しかし、2人のリーダーは両国に恩恵をもたらす準備を打ち立ててきている。

 「明らかに、Saudi-Russia の結びつきは、深まっている。」と Bill Richardson, a former U.S. energy secretary and ambassador to the united Nations.は述べている。
 ロシアと、さらに緊密に行動することによって、サウジは、Mr. Putin を孤立させようとする米国とEU の動きを、より難しくしている。 欧州が、ロシアからの石油輸入量を大幅に削減する準備をしている時に、サウジ と中国やインドのような国は、最後の頼りになる買い手として、入り込んできている。
 冷戦時代、サウジと Soviet Union は、仇敵であった。 サウジのリーダー達は、Afghanistan の Soviet 占領に抗する反乱軍に、財政面で支援した。しかし、最近では、シェール地層の水圧破砕が、米国の石油と天然ガス生産のブームをもたらしたので、OPEC やロシアのような主要石油生産国の力を削いで弱くしてしまった。
 このことで、ロシアと サウジは、類似の利害を持つ価値ある仲間として出会った。サウジは、専制的な王国であり、他方 Mr. Putin は、国内の政治的反対勢力を抑圧し排除して来ている。これらのことが、恐らく、両国が接近する助けになっている。
 石油価格が 2014年後半から 2015年にかけて崩壊した後、Moscow と Riyadh は、協力して、米国の会社が、国際エネルギー市場で優位に立つことを阻止して来た。2016年になって、ロシアと サウジは、石油カルテルを広げることに合意して、OPEC Plus* を創設した。

*OPEC Plus : 訳者注
      日本石油連盟の資料によれば、
      OPEC ( Organization of Petroleum Exporting Countries) は、1960年に
      5か国(イラク、イラン、クウエート、サウジ、ヴェネズエラ)によって
結成された。その後、逐次参加国が増加して 13か国となった。

       (5か国、plus リビア、アルジェリア、ナイジェリア、UAE、ガボン、
アンゴラ、赤道ギニア、コンゴ)

      2016年、さらに、10か国が加入して、OPEC Plus として活動。
       (10か国: ロシア、メキシコ、アゼルバイジャン、バーレーン、  
              ブルネイ、カザフスタン、マレーシア、オマーン、
             スーザン、南スーザン )
原油生産の比率: OPEC 30 %, Plus 20%, 計 約 50 %

 彼らの提携、協調は困難に耐えることを、はっきりと示して来ていた。ただし、2020年初頭の短い仲間たがいの例外はあったが。その時はコロナウイルスによる Pandemic の始まりが石油価格の崩落を招き、両国は何をなすべきかについて意見が一致しなかった。
 「ロシア人と サウジ人は、石油価格を押し上げることに類似の関心を持っていてウクライナ紛争は、それをただ強化したに過ぎない。」と Bruce Riedel, a former Middle East analyst for the Central Intelligence Agency and the author of “Kings and Presidents: Saudi Arabia and the United States Since F.D.R.” は述べている。

 サウジの役人達は、ロシアは OPEC Plus をうまく制御するに役に立つ仲間であることを見出して来た。そこでは、石油の供給と価格をいかに統制するかについての異なった意見を持つ生産国の気難しいグループもしばしば生じていた。 そのグループは、Alexander Novak, a former Russian energy minister who is now deputy prime minister と親密に作業する。アナリスト達は、彼について、喜んで、座って他の産油国の大臣たちと何時間でも、計画や関心ごと、それに不平や苦情を聞く人である、と評している。
 今月に入っての生産における小さい調整を発表することによって、OPEC Plus は Biden 大統領からの自立を明らかにした。そのBiden は、この7月に サウジを訪問してPrince Mohammed と拳合わせ (“fist bump”) をしている。 この訪問は、彼が 2020年の米国大統領選挙で、サウジ王家を、Jamal Khashoggi, a Washington Post columnist, の殺害で批判した後、US-Saudi 関係を修復しようとする Mr. Biden の努力であると、広く解釈されていた。数か月の間、Biden はサウジに石油増産を促して来ていた。カルテルの石油減産は、暫時増産に向かう方針に反していた。

 “Russia finds Saudi help to counter Western sanctions”
「ロシアは、サウジが西側の制裁を無効にする助けになっているのを見出している。」

 サウジは、例えばイスラエルとアラブの隣国との間の関係改善の努力を静かに後押ししている米国としばしば同盟を結んで来ている。 今日、数人の解説者は言う。米国と欧州がPutin をウクライナに侵攻した咎めで、孤立させ罰することを追求している時に、サウジ王家はロシアと親密に協議することで、金融上の利害により強いウエイトをかけているように見えると。「ロシアは、自陣にサウジを保持出来て来ていることは、かなり注目に値する。」と Jim Krane, a Middle East expert at Rice University in Houston は述べている。さらに「Putin の目標は、米国とその同盟国の間に入り込むことであり、米国とサウジの関係では、Putin は、いくらか前進している。」
 ペルシャ湾の石油の高官や会社の重役は述べている。即ち、サウジと他の湾岸諸国は、単に何が彼らにとって最善の策であるか、ということで行動している、と。「これらの決定は、サウジ自身の商業上の利益を守っているし、経済的観点からも非常に理にかなっている。」と Sadad Ibrahim Al Husseini, a former Saudi Aramco executive は述べている。
 中東のエネルギー関係の何人かの重役たちは述べている。即ち、米国や他の西側諸国は、石油輸出国にとって、ずっと信頼できる仲間ではなかった。というのも、その原因の大部分は、西側は気候変動に取り組む努力において、化石燃料をこの世界から引き離そうと努めてきたから、と。
 「欧州と米国における、一貫性のないエネルギー政策の続く数年は、結果として、石油の大生産者がそれに順応している重要なエネルギー安全保証のき弱性をもたらした。」と Badr H. Jafar, the president of Crescent Petroleum, an oil company of the United Arab Emirates は述べている。続けて「さらに、今後、数か月、数年の内にエネルギーのチェス盤(”chess board”)は変わり続ける可能性がある。」と。 サウジの、ロシアに関係しての動きの多くは、簡単にお金を稼ぐ楽観的決定と解釈されることが出来よう。
 今年の早い時期に、西側の制裁によってロシアの三大石油会社、Gazprom, Rosneft, Lukoilの株価が暴落した時、当局への提出によれば、Kingdom Holding —Alealeed bin Talal にて運営されている—は、それらの会社に、およそ $ 600 million 投資した、とのこと。
 Price Mohammed に率いられているサウジ国有投資基金は、Kingdom Holding において、重要な少数株主持ち分を有している。その投資額は、多くの西側諸国がロシアから撤退すると宣言した時、その会社のその年の全般の新規グローバル株式投資のほぼ半分に相当していた。 サウジ国有基金が、2015年にロシアに投資するために、$ 10 billion の基金設定を宣言して以来、それは最大の投資の一つであった。 最も実際にサウジが全額投資したか否は、はっきりしていない。
 「ロシアのエネルギー分野への、この大きな投資は、価格の維持によるサウジとロシアの利害のさらなる共同作業への一つの努力である」と Gregory Gause, an expert in Middle Eastern politics at Texas A&M University は述べている。
 この4月、サウジは、親しい同盟国:UAE と共に、両国の火力発電所で使用する、大幅に値引きされたロシアの精製燃料油の輸入量を増やし始めた。これら燃料油の輸入によって、サウジは、自国原油を、値が上がった価格で、もっと多く他国に売ることが出来た。
 7月には、ロシアからサウジへの直接供給は、一日 76,000 barrels に達し 2018年9月以来 2番目に多い量だった、と Kpler, a commodity research and data company は述べている。もっと多くの量のロシア産 燃料油が、間接的に Estonia, Egypt, Latovia 経由でサウジに入っているであろう、と Mr. Victor Katona, a Kpler analyst は述べている。
 その燃料油の多くは、かっては米国に向かっていた。そして同国 Gulf Coast の製油所がそれらを、gasoline, diesel oil & other fuels に精製していた。しかし、米国は 3 月にロシアの石油を禁輸したので、ロシアの輸出業者は慌てて、相当安い値段で買い手を探した。
 「それは、特売品です。」と Ariel Ahram, a Middle East specialist at Virginia Tech. は述べている。 中国やインドといった国々は、30% or more 値引きされた価格でロシア石油を買った。サウジのロシア燃料油の購入は、夏が終われば縮小するが、しかし、来年はまた増加するであろう。

 Saudi-Russian relations は、歴史的に広範囲であったし、完全に一致することはめったになかった。この二国は、暴力で荒廃していたが、統制を求めている Libya において、ある派閥を支援して来ている。しかし、他方、ロシアはサウジの最大のライバルであるイランとの親しい関係を長らく維持して来ている。
 Prince Mohammed は、ウクライナにおけるロシアの侵攻について、公には多くを述べていない。しかし、3月、国連においてサウジは、侵略を非難する決議の投票において、大多数の国々に加わった。サウジは、欧州への 石油輸出 を増加させて来ている。それは、かってロシアから買っていた石油の、いくらかの代替である。
 「サウジの立場からすれば、恐らく Western-Russian dispute の間に自身を置きたくないのであろう。」と、Helima Croft, the head of global commodity strategy at RBC Capital Markets は述べている。
 「私は、Mohammed bin Salman は、大リーグでプレイすることを欲している、と思っている。そして、彼にその機会を与えるものは何であれ、それについては、彼は日和見的(“opportunistic”) であるだろう。」と、Robert W. Jordan, who was the ambassador to Saudi Arabia in the George W. Bush administration は Prince Mohammed について述べている。 続けて「もし Putin を助ける道/方法があるならば、それは素晴らしい。ついでながら、彼は、自分が米国の影響力に依存していない、ということを示すことが出来ている、ということは大した問題ではない。」と。
                          (訳: 芋森)   [ 完 ]

               

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【投稿】欧州、特にドイツのエネルギー危機と日本の「サハリン1・2」の対応

【投稿】欧州、特にドイツのエネルギー危機と日本の「サハリン1・2」の対応

                         福井 杉本達也

ウクライナ侵攻をめぐる対露制裁を背景に、欧州連合(EU)諸国は深刻なエネルギー危機に陥っている。EUは、2022年8月1日から2023年3月31日までガス需要を過去5年間の平均使用量と比べて15%削減することで合意した。ロシアへの経済制裁は、今日、ドイツへの経済制裁に変質した。ブリンケン米国務長官は、ドイツは低価格のロシアのパイプラインガスを高価な米国のLNGに置き換えるべきだと語る。アメリカは、ロシア・ガス価格の8倍とされる価格で、EUに米国のLNGを売る。米国のガスを輸入するためには、ドイツはLNGタンカーを接岸するための港湾能力を増強する必要があり、50億ドル以上の費用がかる。ガス価格の高騰はドイツの産業を競争力のないものにする。企業の倒産が拡大し、雇用が減少、ドイツは慢性的な不況と生活水準の低下につながる。殴州化学最大手のBASFのブルーダーミュラー会長は「我々は恒久的に競争力を損ない続けるかもしれない」と危機感を露わにした(日経:2022.10.30)。Sputnikは「ガス不足とエネルギーコストの上昇により、最もエネルギー集約的な産業の多くが競争力を失うことです。どのようなシナリオが展開されるかに応じて、そのような産業は2021年と比較して最大60%の生産を削減することを余儀なくされるでしょう。次に、シャットダウンは150万人以上に影響を与える可能性のある人員削減をもたらす」と報道している(Sputnik 2022.8.11)。

2 「ノルドストリーム」の爆破

9月26日、ロシアのビボルグからバルト海を南下してドイツのグライフスバルトへつながるガスパイプライン「ノルドストリーム1」と「ノルドストリーム2」でガス漏れが発生した。ロシアは、国際テロ行為であるとした。しかし、欧米メディアは予想通り、「ノルドストリーム」を爆破したのはロシアだとするプロパガンダを張った。日経のワシントン支局は「ロシアの攻撃による損傷だと断定されれば集団的自衛権に基づき、NATO加盟国が反撃するかどうかの議論が浮上しかねない。ロシア軍との直接対峠を避けたい米欧は慎重に判断する構えだ」(2022.10.4)と書いたが、全くばかげた報道である。自分で自分の足を撃つものはいない。「ノルドストリーム」を爆破することは、パイプラインを建設したロシアや燃料を消費する欧州ではなく、米国に利益をもたらす。ブリンケン国務長官は、この損害はアメリカにとって莫大な好機をもたらすと認め、自らが主導して爆破したことを自白した。そもそも、破壊工作が行われたのはデンマークとスウェーデンの管轄する海域である。パイプラインは数10メートルの海底に横たわっている。犯人は潜水艇など、攻撃するインフラに接近する手段を持っていなければならない。数百キロの爆発物をしかける場所まで運ぶ船舶類も必要である。常時海域を監視していたデンマークとスウェーデンが犯人を知らないはずはない。「ノルドストリーム」爆破による最大の犠牲者の1つはドイツのエネルギー会社「Uniper」であり、報告した損失額は、400億ユーロ(約5兆7,878億7,440万)にものぼるという。これにより、米国はロシアとドイツとの関係を壊し、潜在的なライバルであるドイツの製造業に致命的なダメージを与えられる。

3 米シェールガスは欧州に供給できない

アメリカは、ロシアとのガス戦争を開始した際、ヨーロッパがロシアを市場から追放した後、ヨーロッパにガスを提供すると宣言した・しかし、実際にはEUにガスを供給することはできない。米国のシェール投資家は、これまでの生産量が彼らが望むことができるすべてであることを認めている。フィナンシャルタイムズが報じたように、米国のシェールオイルとガスの生産者は、ヨーロッパがこの冬のエネルギー危機に対処するのを助けるために生産を増やすことができないだろうと警告している。

「米国テキサス州西部の天然ガス価格がゼロ近辺まで急落した。海外メディアによると一部ではマイナスで取引されたもようだ。シェールガスの生産が好調な一方、消費地へ送るためのパイプラインなど輸送インフラが不足しているため…マイナスでも売却した方が得策」と判断したとのことである…シェールガスの生産が活発化する一方、消費地にガスを輸送するインフラが不足している」と報道されている(日経:2022.10.27)。これでは何年かかっても欧州へガスは届かない。

4 カタールはドイツへのガス供給を断る

こうした中。EUは、悲惨なエネルギー供給状況を改善することを期待して、世界のLNG供給業者との協力を強化することを余儀なくされている。特に、カタールは現在、世界をリードするLNG市場であり、全出荷量の26.5%を占めている。ドイツは3月、カタールとLNGを供給する長期契約を締結したと発表した。 ハーベック経済相は、ロシア産ガスへの依存を減らすため、この取引はドイツの経済に「扉を開く」と述べていた。しかし、すでに5月には、ドイツとカタールの交渉は困難に直面した。LNGプラントは着工から生産開始まで4~5年かかり、すぐ増やせる供給量は隈られる。さらに、EUは、世界で施行されている経済法に違反して、輸入するロシアガスに上限価格の導入を検討すると発表した。これまでのところ、EU加盟国は、WTO規則に反するこの措置に同意することはなかった。プライスキャップに怒ったカタール政府は、欧州がガス価格の上限を導入するなら、カタールを始めとする中近東、北アフリカ生産国は欧州へのガス輸出を停止せざるをえないと表明した。ガス不足で汲々とするEUがガス価格に上限を設けるとは厚顔無恥にもほどがある。

5 日本の対応は「サハリン1」・「サハリン2」の維持

「台湾有事」などと言葉は勇ましいが、仮に日本がロシア・中国と戦争になった場合、アメリカは直接戦わない。戦争の結果は悲惨なボロ負けは間違いない。これを避けるには、米からなんと干渉されようが、一切手出しをせず、平和主義を貫くしかない。伊藤忠の岡藤会長は、欧州や米国とは違い、日本はエネルギー燃料の大半を海外に依存していることから、制裁があるとしてもロシアとの経済関係を放棄することは不可能だと述べた。会長は、「実際問題として、仮にロシアから輸入しない場合、あるいは仮に輸入量を減らせば、我々は生き残れない」とコメントした(Sputnik:2022.11.1)。

「日本は、ロシア経済がロシアの燃料輸入を必要としているという理由だけで、東京がロシアのサハリン1石油・ガスプロジェクトへの出資に固執すると発表した際、G7諸国を価格上限付きでロシア・ガスの世界価格の支配に参加させようとするワシントン主導の推進に打撃を与えた」(RT:2022.11.4)と報道されている。日本はロシア外交官を追放するなどという無謀な外交も多々あるが、エネルギーに関してはドイツのような自滅戦略はとらないようである。

6 ショルツ独首相の中国訪問

ドイツのような(日本も同様だが)資源を持たぬ国が軽挙妄動すると滅びる。電力を失う者もまた滅びる。ウクライナ戦争は兵器の優劣で極まるものではない。資源と電力が勝敗を分ける(DULLES N. MANPYO:2022.11.2)。このままではドイツはガスのない寒い冬に自滅する。ドイツは、その産業と生活水準を、アメリカ外交の命令とアメリカの石油・ガス部門の自己利益に従属させようとしていた。そこで、11月4日、ショルツ独首相は中国を訪問し、習近平主席と会談した。ショルツ首相訪中は独3大産業のトップなど独財界が後押し、12人の企業トップが同行した。代表者の中には、フォルクスワーゲン(自動車)、ドイツ銀行、BASF(化学)、BMW(自動車)、シーメンス(機械)のトップがいた。

しかし、政権内では、米国の代理人:ハベック経済・気候相が「中国への甘い姿勢は終わった」と中国批判を展開し、べーアボック外相はも大きな隣人が国際法に違反して小さな隣人を襲うことは受け入れられない。これは中国にも該当する」と首相の訪中を妨害した(日経:2022.11.3)。ショルツ首相は米国の圧力に対抗して、ドイツの主権を守ることができるのか。トルコのエルドアン大統領は「1ヶ月前にプーチン氏に対して全く異なる立場を取ったドイツのショルツ首相は、ロシアに対する態度を変え、共通の言語を見つける必要性を強調した」と述べた(Sputnik:2022.11.3)。ドイツは中ロとの「共通の言語」を見つけられるか。

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 杉本執筆, 経済 | コメントする

【投稿】バイデン政権:危険な核戦略転換--経済危機論(97)

<<大統領選公約を破棄>>
2020年11月の米大統領選で、バイデン氏は、対ロシア・対中国・対イラン・対キューバ政策でトランプ政権の緊張激化路線からの転換を図るかに見せていたが、バイデン政権登場後の事態の経過が明らかにしていることは、ことごとくより一層緊張を激化させ、前政権よりもより一層危険な戦争瀬戸際政策に政権の命運をさえかけている、とさえ言える事態が現出している。その危険な政策転換に、さらに今回新たに核戦争戦略転換が加わる事態となった。

10/27、バイデン政権・国防総省の「新しい国家防衛戦略」(NDS : National Defense Strategy 2022)について、発表したロイド・J・オースティン国防長官 は、「バイデン大統領は、私たちは『決定的な10年』に生きており、地政学、テクノロジー、経済、環境の劇的な変化に刻印されていると述べている。米国が追求

する防衛戦略は、今後数十年にわたる国防省の進路を決定する。」と述べ、ロシアと中国の脅威が急増しているとして、「2030年代までに、アメリカは歴史上初めて、戦略的な競争相手、潜在的な敵対者として二大核保有国に直面するだろう」と、「敵対者」としてのロシアと中国を規定し、この「二大核保有国」に対し、米国は「核兵器使用の非常に高いハードルを維持する」としつつも、自国や海外の米軍、同盟国に対する非核の戦略的脅威に対する報復として核兵器を使用することを排除しない、自ら「核の先制使用」に踏み切る、という危険極まりない戦略転換を明らかにしたのである。

この戦略転換は、2020年の大統領選挙キャンペーンでバイデン氏が、「アメリカの核兵器は、核攻撃を抑止または報復するためにのみ使用すべきである」と宣言すると公約したことを完全に否定するものであり、明らかな公約違反、公約放棄と言えよう。
これは、「驚くべき戦略逆転で、ペンタゴンは非核の脅威に対する核兵器の使用をもはや排除しない」(In Stunning Strategy Reversal, Pentagon Will No Longer Rule Out Use Of Nuclear Weapons Against Non-Nuclear Threat)と報じられている。

今回の見直しは、核兵器の「先制不使用」政策と、核攻撃への反撃にのみ限定した「単独目的」政策は、「競合相手が戦略レベルの損害を与えうる非核能力を開発・実戦している範囲に照らし、受け入れがたいレベルのリスクをもたらすだろう」として、たとえ非核の脅威に対してであっても、核報復・核攻撃を実行するという戦略転換を明らかにしたものである。つまりは、相手側がたとえ非核兵器の使用であっても、相手側が軍事的に優位であれば、先制攻撃として核兵器を使用する、という方針転換なのである。
この戦略転換は、「脅威の環境はその後劇的に変化した」として合理化され、バイデン政権がトランプ前政権よりさらに危険な、挑発的な核戦争をさえあえて辞さない存在に移行していることを明らかにしている、と言えよう。
バイデン政権は、ウクライナ危機を自ら仕込んで、ロシアを挑発し、泥沼の戦争に引きずり込んだものの、その全面的な制裁政策がことごとくブーメランとなって裏目に出、自らの政治的経済的危機をより一層深める事態をもたらし、そこから出てきたのが、この危険な核戦争政策への転換なのである。

10/28、日本政府はこのバイデン政権が公表した新しい「国家防衛戦略」に早速飛びつき、松野官房長官はこれを「強く支持する」と記者会見で表明している。しかしこの「戦略転換」には、「同盟国、友好国とともに取り組む」こととして、「弾道ミサイル潜水艦の寄港」、「戦略爆撃機の飛来」を明記している。核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませない」という「非核三原則」を明確に否定する行為であることが厳しく問われなければならない問題でもある。

<<プーチン「核攻撃は究極的に無意味」>>
対照的なのは、バイデン政権がこうしたNDSを発表した同じ日、10/27、ロシアのプーチン大統領は、モスクワで開かれたバルダイ国際討論クラブの本会議で演説し、ウクライナ危機での核兵器使用という米欧側の主張を真っ向から否定し、ロシアのウクライナ危機に対する「特別軍事作戦」において、核攻撃は究極的に無意味であると強調し、「我々はその必要性を感じていない」、「政治的にも軍事的にも意味がない」と断言したことである。
さらに、プーチン氏は「ロシアが核兵器を使用する可能性について、積極的に発言したことはない」と強調、ロシアが「ロシアを守るために利用可能なあらゆる手段」を用いる用意があるという以前の警告は、欧米側が発した核兵器使用の可能性に対する反応に過ぎないものであり、これを意図的に「ロシアの核攻撃」態勢として曲解、誤解させ、否められて拡散したのは、欧米側なのであると発言している。
同日のタス通信は、プーチン氏の発言として「モスクワは核兵器の使用について最初に話したことはなく、西側指導者の発言に『ほのめかしで反応した』だけである。例えば、英国の元首相リズ・トラスが行った主張(「必要があれば核兵

器の発射ボタンを押す」2度も念押し)には、西側諸国は誰も反応しなかった。」と報じている。

問題は、たとえ「核攻撃は究極的に無意味」であると判断したとしても、売り言葉に買い言葉で「ほのめかしで反応」した場合、欧米側によってそれが徹底的に利用され、悪魔化されるという現実である。

日本で昨年末に刊行された『戦争の文化: パールハーバー・ヒロシマ・9.11.イラク』の中で、著者のジョン・W.ダワー 氏は、自分に都合の良い思考、内部の異論を排除し外部の批判を受け付けない態度、過度のナショナリズム、敵の動機や能力を過小評価する上層部の傲慢といった「戦争の文化」、「安全」とか「防衛」の名において戦争を挑発する態度、イラク侵略に際してアメリカが準備と予想に失敗したこと、戦略的愚行が存在したこと、敵の心理や能力を考慮に入れなかったこと、一貫性と現実性のある戦争の終わらせ方を構想したり、紛争が長期化した場合どうするか計画しなかったこと、を厳しく指摘している。

緊張緩和と平和的・外交的解決への一貫した姿勢・政策こそが提起されなければならないのである。
(生駒 敬)

カテゴリー: ウクライナ侵攻, 平和, 政治, 生駒 敬, 経済危機論 | コメントする

【翻訳】「食糧や休息なしで 7,000 miles : この鳥はいかにして、それを成し遂げるか?」

The New York Times International Edition  September 28, 2022
“7,000 miles without food or rest: How does this bird do it ? ”
By Jim Robbins

「食糧や休息なしで 7,000 miles : この鳥はいかにして、それを成し遂げるか?」

 今月、何万羽もの bar-tailed godwit* の群れが、うまく順風を利用して飛んでいく。毎年の「渡り」(“migration”)の為に Alaska 南部の干潟や沼地から南に向かい、太平洋の広大な空間を横切って New Zealand や豪州の海岸に向かって。この鳥は、7,000 miles (11,000 Km) 以上の距離の渡りを行っている。 日夜羽ばたいて (“flapping”)、食べたり、飲んだり、休んだりせずに。

* 訳者注: Bar-tailed Godwit : (大反嘴鴫 オオソリハシシギ)
       チドリ目 シギ科 全長 39 cm
       夏場はユーラシア大陸の極地帯やAlaska 西岸で繁殖し、
       冬場はAfrica 西岸部、東南アジア、豪州沿岸部で越冬する渡り鳥。
         
 「私は、学べば学ぶほど、その鳥に驚嘆させられる」と Theunis Piersma, a professor of global flyway ecology at the University of Groningen in the Netherlands and expert in the endurance physiology of migratory birds は述べている。さらに「この鳥は、完全なる進化の成果/結果である。」と。
 
 この鳥の勇壮なる飛行―いかなる陸の鳥よりも最長の non-stop migration―は、雨や強風や他の危険をやりすごして、8-10日間、日夜(”day and night”)続く。 それは、非常に極限的であり、研究者の長距離の鳥の「渡り」についての知見を、遥かに超えている。そして、このことは新しい調査、探求を必要として来ている。
 最近のさる研究論文において、ある研究者のグループは述べている。「困難で努力を要する旅程は、鳥の生理学や適応と行動の基礎となり仮説を喚起する。」と。そして一覧票にされた 11 の質問を提出した。 Dr. Piersma は、これら質問の答えの追求を「新しい鳥類学」(“the new ornithology”) と呼んだ。

 God wit や他の渡り鳥が成し遂げる驚くべき本性は、追跡の技術の改良によって、この15 年ほどで明らかにされてきている。この改良によって、研究者達には個々の鳥をその全旅程においてリアルタイムで、詳しい進路を追いかける能力を与えられた。
 「あなたは一羽の鳥が、ほぼ何処を飛んでいるか、どのような高さを飛んでいるか、何をしているか、その鳥の羽ばたきの頻度を、計量器によって知っている。」とDr. Piersma は述べている。「これは全く新しい世界を切り開いている」と。
(科学者たちが論文等で述べているように、航海に慣れ親しんでいる Polynesian の人々の文化は、これら鳥の渡りを古い昔から知っていて、航海における協力者として利用していた。) ある Godwit の「渡り」の知られている距離の記録は、13,000 Km or about 8,080 miles である。これは、昨年、タグコード 4BBRW を付けた一羽の十分に成長した雄のGodwitによって成し遂げられた。その鳥は New Zealand に向かっている途中に荒れ模様の天候に遭遇して向きを変えて、もっと遠い豪州に降り立った。その鳥は、停止することなく着地するまでの間、237 時間にわたり翼を羽ばたき続けて来た。(その鳥は、今年春、豪州からAlaska に渡り繁殖して、今月、Alaska を飛び立って南方の目的地に飛行中である。)

 他の鳥たちは、”dynamic soaring” と呼ばれる技を使って、羽ばたきせずに長期間空中に留まることが出来るが*、godwit は連続する羽ばたき(”flapping”)で力を出していて、このことはより多くのエネルギーを要する。
 
*訳者注: 例えばアホウドリ “Albatrus”(阿呆鳥、信天鳥とも)は、
      一度飛び立てば、うまく気流を捕えたりして “dynamic soaring”
      にて、長距離を飛行できる由。

 この地球を彷徨い飛ぶ godwit は、常夏(”endless summer”)を求めている。そして、90,000 羽あるいはそれ以上の群れが、Yukon-Kuskokwin Delta やその周辺の湿地から飛び立ってAlaskaを離れる。その地では、鳥たちは繁殖して卵を孵化させて雛を大きくなるまで育て上げる。Alaska and New Zealand は共に godwit が好む餌が豊富で、Alaska では、特に、新しく孵化した雛が好む昆虫が多い。そして New Zealand では、この鳥を狙う鷹がいない。 他方 Alaska は、不安の少ない安全な生息地である。
 スマートな姿の鳥たち—斑点のある褐色と白の “aero-dynamic” な翼、シナモン色の胸、長くほっそりとした嘴、支柱のような脚—は、遠路はるばる New Zealand に着いて、南国の夏を迎えれば、光り輝く沼地で、北帰行を始める3月まで、十分に食べて成長する。
 この鳥たちは、New Zealand の人々に大切に世話されている。 Christchurch の大聖堂は、歓迎の鐘を鳴らすことを常としていた。しかし、2011 年の地震で Bell Towerが倒壊したため、Nelson の町にある聖堂が、代わってこの仕事を引き継いできていて、今月もこの鐘を鳴らすであろう。
 「私は、人々に9日間ぶっ続けに、体を動かすことを試みては、と話している。 止まらず、食べず、飲まず。そこで何が起こり進行しているかを伝えるために。」Mr. Robert E. Gill Jr., a biologist with the U.S. Geological Survey in Anchorage who has studied the birds in Alaska since 1976 は、述べている。 続けて「そのことは想像を広げる」と。

 飛行距離は変わることもあるが、ほとんどの godwit は、物語っている。一年のうちに、およそ 30,000Km 又は18,000 mile 以上を飛行する。その鳥たちは、3月になれば、北に帰る直行ルートを取らずに、New Zealand から non-stop で中国の黄海の豊かな干潟まで飛ぶ。そこで食べ物を補給して、Alaska に向かう。その鳥たちは、信じられないような危険な試みに熟知している。この旅程における生存率は 90 % 以上である。

 「これは、本当に、マラソンの様なものではない。」Mr. Christopher Guglielmo, an animal physiologist at Western University in London, Ontario, who studies avian endurance physiology は述べている。「それは、月への旅により近い。」と。
 これら過激な耐久レースの選手の旅路は、適応した一揃いの服装によって可能である。Godwit は鳥類の形態移行者で、生まれながらの常ならざる適応性を有している。彼らの内臓は、旅立つ前には、「戦略的再構築」を経験する。砂袋のような胃、腎臓、肝臓や腸は、長旅の為の荷物を軽くする為に縮小する。胸の筋肉はこの旅が必要とする、絶えず羽ばたくこと (“constant flapping”) を支えるために成長する。彼らは、空力適応翼とミサイルのような流線形の体でもって、スピードに対応できるよう造られている。長旅に出る前に、唯一彼らが運ぶ荷物は脂肪である。昆虫やミミズのような虫、軟体動物をガツガツ食べた後、体重は二倍になっている。1ポンドから2ポンドへ、または、 450g から 900g へ、というのも、godwit は直接脂肪を飛行の燃料に使う。 Dr. Guglielmo は、この鳥たちを「肥満のスーパーアスリート」と呼んでいた。

 専門家たちは godwit はお互いにしばしば伝え合っている、と確信している。とりわけ彼らの渡りとタイミングについて。彼らは集まって、重要事項について決定を下す助けになる一種のグループの意向を作り出す。そして特に渡りについて、投票を行う。
 「空模様は、ハリケーンのような天候で、一羽のgodwitの雌鳥が、河口で脚を踏み鳴らして呼び、誰か彼女と共に飛び立つように試みている。」Jesse Conklin, an independent researcher at the University of Groningen who studies the species は述べている。「私は注意して見た。一羽の雌鳥が五日間続けざまに、この行為を行っていることを。彼女の時計は、 Goと言っていた。そしてグループの他の鳥たちは No と言った。その雌鳥は反対票を投じたのだ。」 その鳥は止まっていた。 「しかし、天候が回復するや否や、彼女は最初の群れに合流していた。」
                           [完] (訳:芋森)

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【投稿】コントロールを失った政府・日銀--経済危機論(96)

<<1ドル=150円が突きつける現実>>
10/21の深夜、「今日の介入はなさそうだ」という頃合いを見計らったのであろう、9月22日の24年ぶりのドル売り・円買い介入に引き続き、再び介入に追い込まれる事態となった。前回と同様、単独介入である。今回は、政府が介入の事実をあえて公表しない「覆面介入」であるが、記者会見した鈴木財務大臣は

32年ぶりの円安:1ドル=150円を突破

「投機的な動きを背景にした急速で一方的な動きを政府としては憂慮した。投機による過度な変動は決して見過すことはできない」と介入の現実を述べざるをえなかったのである。
今回は、32年ぶりの1ドル=150円台への突入という「見過すことはできない」事態の進展にあわてた、その場しのぎ、急場しのぎの介入だと言えよう。円は、2011年の1ドル=75円の最高値から、1ドル=150円、実に半値となってしまったのである。
介入の結果、円相場は一時1ドル=144円台まで7円以上急騰したが、政府・日銀が根本的政策転換に一切手を付けられず、無為無策のままで、背景にある日米の金利差や日本経済の低迷・成長力の乏しさが今や歴然としてい

9月介入~10月介入

る以上、次は1ドル=160円台の攻防となることは必至と言えよう。
円に対する「過度な変動」が押し寄せる現実は、市場・投機筋に翻弄され、後手後手にさらに悪い条件下で介入せざるを得ない、もはや政府・日銀は市場

をコントロールしえない、という厳しい現実の反映である。介入の効果は、一時的・短期的であり、失敗する運命にあることが明白なのである。

<<利上げもできない>>
円安を食い止める短絡・短期的な対応策は、利上げ=不況政策を推し進める米国との日米金利差の解消、つまりは利上げしかない。EUやイギリスが行っている対応である。
しかしそれは、現在、政府・日銀が行っている異次元緩和政策をやめるということであり、ただちに国債利回りが上昇、債務返済負担が一挙に膨らむことを意味する。現在の政府負債は、EUやイギリスの倍以上、GDPの2.6倍、約1000兆円にも達しており、現行のままでも債務返済のための借り換え国債は33.6%、99.5兆円にも達し、しかも増発された国債の過半を日銀が買い入れ、すでに日銀資産(686兆円)の79%が価格変動リスクのある国債(546兆円)が占めているのである。金利上昇は、ただちにこうした国債価格の下落、利払い金の上昇(1%で10兆円増)、大量の保有国債の評価損の発生、これらはさらなる円安を直ちに発生させる。したがって、短絡的・短期的な対応策でさえも取るに取れないのである。
英・トラス政権は、英・ポンドの急落と利回りの急上昇で、史上最短命の政権としてあえなく崩壊してしまった。日・岸田政権にも同じ事態が起こりかねないのである。

問題は、円安をもたらしているこうした基礎的諸条件・ファンダメンタルズを変えなければならないところにこそある。しかしこれには、市場をも動かす明確な戦略的政策転換が必要なのである。
政府・日銀の異次元緩和政策のもとで、従来の新自由主義路線が一層破綻し、生産的投資よりも投機的マネーゲームへの傾斜、484兆円にも上る大企業の内部留保、333兆円にも上る富裕層の純金融資産の増大、こうした傾向と対照的なワーキングプアー・非正規労働・ギグワーカーの全面的拡大、実質賃金の一貫した低下、こうした総じて『日本病』といわれる低成長と賃金低迷の永年のツケが円安をもたらしているのである。
戦略的政策転換の中心はこうした事態を、抜本的に転換する、『日本病』を克服するニューディール=反経済恐慌政策こそが提起されなければならないであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】ぺトロ・ダラー体制の終焉とインフレによるドルの暴落・金融危機

【投稿】ぺトロ・ダラー体制の終焉とインフレによるドルの暴落・金融危機

                         福井 杉本達也

1 石油の裏付けを完全に失ったドル

10月5日、OPECプラス(サウジなど中東産油国+ロシア)は日量200万バレルの原油減産に合意した。「OPECプラスは今日の発表でロシアと足並みをそろえているのは明らかだ」とホワイトハウスの報道官は述べた。これは米国が産油国カルテルに対する影響力を完全に失ったことを意味する。先に、バイデン米大統領は中間選挙を11月に控え、サウジに減産をしないよう懇願していたが、サウジはバイデン氏の声を無視した。日経は「米国とサウジの1940年代から続く戦略的な関係が揺らぎかねない情勢だ」と書く。米国・サウジ関係は1945年に遡る。ルーズベルト大統領がヤルタ会談後にアブドルアジズ初代国王と会談。米国がサウジの安全保障を引き受ける代わりに、同国が石油を安定供給することを確認した」ことに始まる(日経:2022.10.13)。バイデン氏は武器輸出を始めサウジとの関係見直を検討すると表明した。

2 ペトロ・ダラーの終焉で糸の切れた凧となった紙切れのドル

1944年のブレトンウッズ会議で①参加各国の通貨はアメリカドルと固定相場でリンクすること、②アメリカはドルの価値を担保するためドルの金兌換を求められた場合、1オンス(28.35g)35ドルで引き換えることが合意された。しかし、1971年、米国はベトナム侵略戦争などに苦しみ、ニクソン大統領はドルの金への兌換をやめた。金とのリンクが外れた政府は理論上いくらでも貨幣を印刷することが可能である。しかし、金という錨がなくなれば、インフレーションによってその価値はどんどん下落し続ける。そこで米国は、ドルと石油とのリンク・いわゆる「ペトロ・ダラー・システム」を導入した。1974年、キッシンジャー国務長官はサウジを訪問し、①サウジの石油販売を全てドル建てにすること、②石油輸出による貿易黒字で米国債を購入すること、その代わり、③米国はサウジを防衛するという協定を結んだ。米国はドル借用金を、自由意志で、無制限に、世界経済に作り出し、使うことができるということだ。他の国々がしなければならないように、貿易黒字を計上して国際的な支出力を獲得する必要はないということであったが、今回、完全にこの「ペトロ・ダラー・システム」は崩壊した。石油という糸を切られたドル紙幣はいくらでも印刷できるが、たただの紙切れとなって、インフレという風に吹かれ、どこまでも空高く飛んでいく。

3 サウジはBRICsに加盟するのか

サウジのサルマーン皇太子がBRICSに加わる意向を表明した。2月末からのロシアによるウクライナ侵攻は、「世界をロシアとそれに反対する西側に明確に分けたが、他の国々は様子見のアプローチをとっている。欧米は、モスクワを罰し、不服従がいかに罰せられるかを示すために、あらゆる圧力を自由に使った。結果はまったく予想外でした。他のすべての国々、特にBRICSの大国や、自国の世界での役割を主張する国々は、欧米のキャンペーンに参加することから距離を置いただけでなく、そのようなスタンスが米国とその同盟国からの影響のリスクを伴っているという事実にもかかわらず、それをあからさまに拒否した」。「西側の制度を迂回し、それらとの相互作用のリスクを減らすことができることは、はるかに価値があります。例えば、米国やEUが支配する手段に頼らずに、金融、経済、貿易関係を並行して実施する方法を構築する」。「覇権国に率いられた中央集権的な国際システムは、いずれにせよ終焉を迎える」(フョードル・ルキヤノフ RT:2022.10.21)という。

「サウジアラビアをはじめとする中東諸国、インド、トルコ、インドネシア、中国といった多くの大国が、米国通貨の支配から『脱却』し、『広範囲に及ぶ米政府の経済力から離れようとしている』」と『ワシントン・ポスト』のコラムニスト、ファリド・ザカリア氏は言う(Sputnik 2022.10.15)。マイケル・ハドソンはより具体的に、「米ドルを迂回する並行世界通貨を設定する」試みが今始まっていると述べている。「共通通貨の構想は、既存の加盟国間の通貨スワップの取り決めから始めなければならない。ほとんどの貿易は自国通貨で行われるでしょう。しかし、避けられない不均衡(国際収支の黒字と赤字)を解消するために、新しい中央銀行によって人工通貨が作られるでしょう」とし、ジョン・メイナード・ケインズが提案した『バンコール』にかなり近いものになる」。この新しい代替的な中央銀行の目的は、「経済によって国際収支の均衡や通貨の支えができない国のバンカー債務とともに、その債権を消滅させ始めるという原則を提唱した」。これまでのIMF のように、「債務者に緊縮政策や反労働政策を課さない」ものであり、「食料と基本的必需品の自給を促進し、金融化ではなく、有形農業と産業資本形成を促進する」ものとなると述べている(マイケル・ハドソン:「 欧米の締め付けから逃れるためのロードマップ」:2022.10.7 訳:『釜石の日々』)。

4 「レタス」より賞味期限の短い英トラス政権の崩壊

トラス英首相は就任するとすぐに、エネルギーコスト補助金をカバーするために赤字を増やしながら、高所得者のための税金を下げる「ミニ予算」を発表した。発表と同時に英ポンドは1985年に付けた水準を下回り、変動相場制に移行した後の最安値を記録し、英国債の金利は急激に上昇(債券価格の下落)した。イングランド銀行がインフレ抑制策で保有国債の売却を計画しているなかでの、国債の大量発行を伴うトラス氏の政策は、金融抑制と緩和というブレーキとアクセルを同時に踏む行為であり、英ポンドや英国債の急激な売りを呼び、年金基金の危機など市場の混乱の引き金となった。年金基金は負債で買った国債をまた担保に入れて借り、新たな国債を買うことを繰り返すレバレッジ投資を行っていた。金利が上がることを想定していなかった。財政悪化が意識され、市場に売りの連鎖が広がり、年金基金などの損失が膨らんだ。公的年金基金の危機は、政府の財政危機と同義である。14日にはクワーテング財務相を解任し法人減税を撤回、17日には、交代したハント財務相は、年450億ポンド(約7・5兆円)の「大規模減税策のほぼ全てを撤回する」と表明せざるをえなくなった。20日、トラス首相は就任からわずか6週間あまりで辞任を表明した。経済・財政の状況を甘く見積もり、金融市場を軽視して失政を重ねたうえでの退場劇となった。ブレグジットの惨事の被害はさらに深刻化している。ロシアに対して行われた経済戦争によって引き起こされたエネルギー逼迫は、英国を引き裂いている。ロシアのエネルギーが、英国の寒い冬の命運を握っている。

5 米国債券市場の動揺と金融危機

10月22日の日経は「債券市場で米財務省が国債を買い戻すとの観測が浮上していける。」と報じた。「米国債市場は荒れている。長期金利の指標となる10年債利回りは4・2%台と14年ぶり高水準にある」。イエレン財務長官も「米国債市場で十分な流動性が失われることを懸念している」と言及した(日経:2022.10.22)。

英国には対外純資産はなく純負債が8800 億ドル(12.3 兆円)もある。日本は輸入物価が上がっても、対外純資産が411 兆円もあり、まだ円安に耐えている。金融危機は、まず、ポンド安の英国と、国債の残高がGDP 比160%のイタリアで起こっている。次は米国である。FRBはリーマン危機のあとの13 年で、8 兆ドル(1120 兆円)を増発した。ドルは8 兆ドル分の水割りによって薄くなってしまった。米国では「30年固定の住宅ローンン金利は6.66%と利上げ前の2倍近くに上昇し、2008年以来の高水準になった」。「金利上昇に伴って住宅販売が急減じ、不動産や住宅ローン、不動産鑑定会社が大幅な人員削減を迫られている」(日経=FT:2022.10.19)。住宅価格が下がると、米国金融危機の恐れが高まる。

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【投稿】ドル独歩高と金融危機の進行--経済危機論(95)

<<「CPI核爆弾・CPI Nuclear Bomb」>>
10/13、米連邦政府の労働統計局(BLS)が発表した9月の消費者物価指数(CPI)は、バイデン政権にとって痛撃であった。インフレ率は前年比8.2%上昇で、これは、米連邦準備制度理事会(FRB)が設定したインフレ目標値2%を19ヶ月連続で上回り、なおかつ目標値の4倍にもなる8%を7ヶ月連続で上回ったのである。しかもこれが、11月8日に迫る米中間選挙前の最後の、直近の物価上昇率となる。この事態を、ウォール街の反応として「”恐ろしい”… “残酷”… “民主党の災難”」、「今日のCPI核爆弾の衝撃」と報じている(”Horrible”… “Brutal”…”A Disaster For Democrats”: A Shocked Wall Street Reacts To Today’s CPI Nuclear Bomb)。

CPIの詳細を見ると、変動の大きい食料品とエネル

緑=前月比、青=前年比

ギーを除くコア指数は前年同月比6.6%上昇と、予想を上回る40年ぶりの伸びを記録。このコアCPIは28ヶ月連続の上昇である。エネルギーは低下したが、食料と住居は顕著に上昇

実質賃金は18ヶ月連続で低下

。食品インフレは依然として極めて高い水準。医療費も跳ね上がり、全国の家賃の中央値が 7.8%上昇し、パンデミック前の家賃よりも25%も高い状態で、物価上昇圧力が広範囲に及んでいることがあらためて示されたのである。
上昇率の高いものから見ていくと、横の図の通りである。42.9% 航空運賃 33.1% 都市ガス 30.5% 卵 18.2% ガソリン 17.2% 鶏肉 15.7% コーヒー 15.2% 牛乳 14.7% パン 10.1% 家具 9.2% 野菜 8.2% 全商品 8.2% フルーツ 8.1% ハム 7.6% 女性用アパレル 7.2% 中古車 6.7% 家賃 3.7% メンズアパレル (Bureau of Labor Statistics 労働統計局)
さらに、実質賃金においても、壊滅的な打撃となっている。BLSによると、9月の平均時給は32.40ドルで、これは前年比4.92%の増加である、しかし同期間の物価上昇率が8.2%であったことから、9月の賃金上昇率と物価上昇率の差は-3.3%、つまりは、9月は18カ月連続で実質賃金が減少しているのである。

このCPI指数の発表を受けて、バイデン大統領は声明で「価格は依然として高すぎる。今日の報告は、物価上昇との戦いにいくらかの進展があったことを示しているが、やるべきことはもっとある。世界中の国々とここで働く家族に影響を与えている世界的なインフレと戦うことが私の最優先事項である」と述べたのであるが、この「最優先事項」という言葉は、昨年末以来、毎回繰り返されてきたが、今や空文句と化してしまっている。
しかし、バイデン政権ならびにFRBは、過去2年間、物価上昇は「一過性」以上のものにはならないと繰り返し断言してきたのであった。その断言に基づく量的緩和、超低金利政策の下で、2020年2月から2022年4月の間だけでも実に5兆ドル近くもバブルマネー、イージー・マネーを市場に大量にばら撒き、バブル経済・投機経済を蔓延させた、そのツケがインフレの高進となって跳ね返ってきたのである。
昨年末来、インフレの高進に慌てた政権幹部とFRB当局は、すでに75ベーシスポイントの3回連続の利上げを含む、5回の連続利上げを承認し、FRBは 11月初旬の次回会合で4回連続で75 ベーシスポイントの利上げを実施せんとしている。パウエル議長は、中央銀行の物価引き下げ計画は、金利を上げ続けて失業を促進し、賃金を押し下げることによって、消費者の需要を抑えることであるとまで示唆している。
しかし、利上げとそれに伴うドル独歩高、量的引き締めが景気後退をより一層深刻なものにさせ、金融危機が広く深く進行し始める、しかもそれが全世界的に拡大し始める、新たな経済危機をもたらし、政策は空回りし、コントロールを失う段階を招来しつつあると言えよう。スイス金融資本のクレディ・グループの破綻寸前の事態、イギリスのポンド急落危機とトラス政権崩壊寸前の危機はそれらを端的に示している。

<<「市民の命をもてあそんでいる」>>
問題は、こうしたバイデン政権ならびにFRBの経済政策に、パウエル議長を起用した共和党はもちろん、進歩派とみなされている民主党議員まで含めて、ほとんど一切批判がなされていない、事実上追随していることである。顕著な例外の一人として、民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員がFRBの利上げ政策を「無謀で危険」と非難し、「パウエル議長は、FRBの急速な利上げは働く家族に『苦痛』をもたらすと述べ、食料やガスの価格を引き下げないことさえ認め」、その一方で、インフレの主要な要因を押し下げるために何もしていないことを自ら認めていること、こんなことが許されていることを、厳

民主党、パウエルの不況リスクOK

しく批判している。
ポリティコが今週初めに 報じたように、「議会の民主党員の間では、大衆の批判はほとんどなかった – 金利の急上昇が経済を不況に陥らせた場合、政治的代償を払う可能性が最も高いのは彼らであるにもかかわらず」、「複数の公聴会を含め、喜んで彼に忠告した人はほとんどいませんでした。」という実態である。

同様のことが、バイデン政権の対ロシア・対中国緊張激化政策についても指摘できる事態である。とりわけ、今や代理戦争と化したバイデン政権のウクライナへの膨大な軍事援助に、民主党の進歩派と称してきたグループがこぞって賛成票を投じていることである。
その先頭に立っている民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員は、10/13、ニューヨーク・ブロンクスで主催したタウンホールイベ

ントで、ウクライナをめぐる核保有国間のエスカレーションについて議論となり、何人もの抗議者が「もう限界だ」と言って、コルテス議員に「あなたはウクライナに武器や兵器を送ることに賛成したじゃないか」、「あなたは、アウトサイダー的な見解が、今では全く違うものになっている」、「ウクライナの代理戦争を煽って、ロシアとの核対決を招き、アメリカ市民の命をもてあそんでいる」と非難されたのである。群衆が彼女を詐欺師と呼び、壇上に無力なまま立っている屈辱的な場面の動画が公開される事態である。

アメリカのピースアクションやルーツアクションなどの反戦団体は、20州40都市以上で上院議員や下院議員の事務所にピケ隊を組織し、議員に対し、ウクライナでの停戦、米国が近年脱退した反核条約の復活、核惨事を防ぐためのその他の立法措置の推進を呼びかけている。
ルーツ・アクションの共同設立者であるノーマン・ソロモン氏は、「全米の多くの議会事務所でのピケットラインは、ますます多くの有権者が、選出された議員たちの臆病さにうんざりしていることを伝えている。彼らは、現在の核戦争の重大な危険の程度を認めず、ましてや、その危険を軽減するために発言し行動を起こすことを拒否しているのである。」
10/14に行われた「Defuse Nuclear War」のピケットラインでは、キャンペーン参加者が議員に対して、以下のような形でこれらの懸念を払拭するよう呼びかけている。
・核兵器について「先制不使用」政策を採用し、米国大統領が核攻撃を検討できる時期を限定し、核兵器が戦争ではなく抑止のためのものであることを示すこと。
・米国が2002年に脱退した対弾道ミサイル(ABM)条約と、2019年に脱退した中距離核戦力(INF)条約への再加入を推し進めること。
・大統領に “核兵器禁止条約の目標と条項を受け入れ、核軍縮を米国の国家安全保障政策の中心とすること “を求めるH.R.1185を可決すること;。
・国の裁量予算の半分を占める軍事費を、アメリカ人が「十分な医療、教育、住宅、その他の基本的ニーズ」を確保し、米国が遠大な気候変動対策に取り組むことに振り向けること、および
・核兵器の迅速な発射を可能にし、「誤警報に反応して発射される可能性を高める」「ヘアトリガー警報」を解除するようバイデン政権を後押しすること。

10/14金曜日のピケに加え、活動家は10/15日曜日に「行動の日」を組織し、支持者がデモを行い、チラシを配り、核の脅威の緩和を求める横断幕を掲げる「10月行動」を呼びかけている。

経済の危機と、平和の危機に対して、「進歩派」の立ち位置が問われているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】核戦争リスクの危険な応酬--経済危機論(94)

<<バイデン「核のハルマゲドンリスク」62年危機以来最も高い>>
10/6、バイデン米大統領は、民主党上院選挙委員会の資金調達パーティーで、核の「ハルマゲドン」のリスクは1962年のキューバ・ミサイル危機以来最も高くなったと語った。「ハルマゲドン」とは、人類絶滅への「類例のない最終戦争」を指す。バイデン氏は、ロシアのプーチン大統領が「戦術核兵器の使用について話すとき、冗談を言っているのではない」(Putin is “not joking”)と述べ、「戦術核兵器を容易に使用でき、ハルマゲドンに至らないというようなことはないと思う」と述べた

のである。この発言は、公的な記者会見の場ではなく、民主党上院議員候補のための私的な資金調達の場でなされたもので、このところしばしば不用意に脱線し、失言、失念するバ

イデン氏ではあるが、事の重大性は当然認識しているはずであり、たちまち大きく取り上げられている。
慌てたホワイトハウスのカリーヌ・ジャンピエール報道官は、「われわれ自身の戦略的核態勢を調整する理由は見当たらないし、ロシアが間もなく核兵器を使用する準備をしているという兆候もない」と述べている。
ところが、こうした動きといかにも連動するかのような動きが報道されている。「米国は “核の非常事態 “で使用するために2億9000万ドル相当の抗放射線薬を購入」との報道である。
10/4、米国保健社会福祉省によると、同省は、「放射線および原子力緊急事態後の人命救助に向けた長期的かつ継続的な取り組みの一環として、アムジェンUSA社から医薬品「Nplate」の供給を受けることになりました。Nplateは、成人および小児患者の急性放射線症候群(ARS)に伴う血球損傷の治療薬として承認されています。」という。
「同省が購入しようとしている Nplate は、皮下注射用粉末で、 125 mcg(1 回の注射)は約 1,195 ドル、彼らは250,000回分未満しか購入していません。議会のすべてのメンバー、その家族、および 100 万ドル以上を寄付したすべての人に行き渡るものです。」とツイッターで批判されている。
こうした批判に対して同省のスポークスマンは、テレグラフ紙に「これは、我々の継続的な準備と放射線安全保障のための作業の一部であって、ウクライナ情勢によって加速されたものではありません」と述べている。

10/7、ロシアのタス通信は、ホワイトハウスのトップは、ロシアのプーチン大統領が 「核兵器使用の可能性について冗談を言っているのではない 」と考えていると前書きした上で、以下のように報道している。
「プーチン大統領は9/21のテレビ演説で、ワシントンがキエフをロシア領への軍事行動へと向かわせ、核の恐喝が行われていると述べています。大統領は、この問題は、核の大惨事を招く危険性のあるザポロージエ原子力発電所への砲撃だけでなく、NATOの主要国の特定の高官代表による、ロシアに対する大量破壊兵器、すなわち核兵器の使用の可能性と容認性に関する発言についても言及しているのです。『私は、ロシアに対してこのような発言をする人々に、わが国にもさまざまな破壊兵器があり、その一部はNATO加盟国よりもさらに新しいものであることを思い出してもらいたいのです。そして、我が国の領土保全が脅かされた場合、我々は当然、ロシアと国民を守るために、自由に使えるすべての手段を用いるだろう』と警告し、『これはハッタリではありません。ロシア国民は、祖国の領土保全、そして独立と自由が確保されることに確信を持つことができる。そして、もう一度強調したいのは、われわれは自由に使えるすべての手段を持っているということです』と強調しているのです。」

<<ゼレンスキー「ロシアへの先制核攻撃をNATOに要請」>>
同じ10/7、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシア領への先制核攻撃をNATOに要請したと報じられている。
ゼレンスキー氏は、10/6、オーストラリアの独立系シンクタンク・ローウィー研究所でビデオ演説を行った中で、「NATOは何をすべきか。ロシアによる核兵器使用の可能性を排除するのだ。予防攻撃を行って、彼らが行使するとどうなるか、先にわからせるのだ。その逆はだめだ。ロシアによる核攻撃を受けて、よくもやったな、いいか、今に見ていろよ!という態度ではいけない。自らの圧力行使を見直すのだ。これこそまさにNATOのやることだ。(核兵器の)使用方法を見直すのだ」と、呼びかけたという。(sputnik 2022年10月7日, 11:39)
ゼレンスキー氏の危険な本性がむき出しにされた、と言えよう。
ゼレンスキー氏の発言を受け、国連のステファン・デュジャリック事務総長報道官はブリーフィングの中で、核兵器の使用に関する議論は一切受け入れられないと反発している。

米国務省は先週、米国自身が関与したと疑われているノルドストリームパイプラインの破壊行為の後、すべてのアメリカ人に「できるだけ早く」ロシアから離れるように勧告している。退避勧告の本当の理由は、パイプライン爆破を通じて、本格的な戦争が勃発するリスクが高まることを予見したものと言えよう。
このノルドストリームパイプライン破壊後、ドイツの経済大臣は、米国と他の同盟国、「友好的」なはずのガス供給国が、実は天文学的な価格で供給していると非難し、「戦争で利益を得ている」、世界のエネルギー価格を高騰させているウクライナ戦争の影響から利益を得ていると非難せざるを得ない状況に陥っているのである。(cnbc.com/2022/10/05/)

バイデン氏は、2月のウクライナ危機勃発の際には、アメリカ人は核戦争を心配すべきではないと述べていたのであるが、その後、現在に至るまでその言葉とは裏腹に、ロシアと中国を「最大の敵」として危機を煽り、ウクライナ危機から最大限の政治的経済的利益をかっさらい、核戦争の可能性をこれまで以上に高めるために、際限のない挑発を続けてきたのである。緊張緩和と外交努力こそが要請されているときに、バイデン政権は逆のことを行い、米国自身の政治的経済的危機をより一層深めているのだと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】岸田政権:「原子力政策の大転換」?ではなく、倒産企業「東電救済」のための姑息な柏崎刈羽原発再稼働

【投稿】岸田政権:「原子力政策の大転換」?ではなく、倒産企業「東電救済」のための姑息な柏崎刈羽原発再稼働

                       福井 杉本達也

1 原子力政策の「大転換」?

9月22日、国の審議会である『総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会』が開催され、経済産業省は原発活用の議論を始めた。内容は①再稼働の推進、②運転期間の延長、③次世代型原発の開発・建設という3ステップがあるとする。①の「焦点となるのはテロ対策の不備が相次ぎ判明し事実上、運転が禁じられた東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)の2基」、②は「原子炉等規制法で定められた運転期間は原則40年間で、60年までの延長が認められている」「運転期間の延長」(日経:2022.9.23)であり、「経産省は22日の審議会で『一つの目安であり、明確な科学的な根拠はない』」(日経:同上)との、現行の法律を全く無視した、とんでもない認識を示した。「省内では安全審査で停止している時間を運転期間から除外するなどして実質的に延ばす案」があるとしているが(日経:同上)、安全審査の履き違えも甚だしい。③は「多額の設備投資」や「住民の理解」などハードルが高いとしつつも、委員の1人は「事業環境を整備するのが政策側の仕事だ」と述べたとしている(日経:同上)。

2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーを主力電源として、2030年度までに21%とする一方、原発を20から22%程度とし、合わせて非化石電源比率44%を目指すとされた。ここでは「原発再稼働は進めるが、原子力依存度はできる限り低減していく」という基本方針が踏襲されている。ところが、今回、岸田政権は、これまでのエネルギー基本計画を全く無視して、運転期間のさらなる延長と原発の新増設にまで踏み込んだ。岸田首相は10月3日の所信表明演説で「十数基の原子力発電所の再稼働」と「次世代革新炉の開発・建設」をうたった。これに、電力業界の御用雑誌『ENERGY for the FUTURE』2022年no.4は大喜びで「原子力政策の大転換と今後の課題」という電事連会長らの対談のヨイショ記事を掲載した。

2 原子力規制委を無視して柏崎刈羽原発の再稼働

元経産官僚の古賀茂明氏によると「今冬、来冬の電力需給が厳しくなるので、東京電力柏崎刈羽原発を再稼働させる仕組みを作るということ。原子力規制委員会が認めない限り原発の稼働は法律上不可能だが、現時点では、東電の危機管理体制などに大きな問題があるため、柏崎刈羽原発には、安全審査通過後も規制委が事実上の運転停止命令をかけている。そこで、停電のおそれがある場合などには、規制委の承認なしで国の責任で緊急に動かすことにしようというのだ。その際、東電に対して、国が柏崎刈羽の再稼働を保障することで、東電が狙う家庭向け電力料金値上げを止めることも併せて検討されている。規制委の権限を無視して原発を動かすためには、新たに法律が必要になるが、それも『一気に国会に議論してもらう』」という(日刊ゲンダイ:2022.9.23)。

柏崎刈羽原発は2021年にテロ対策の不備が多数見つかり、規制委から2021年4月に核燃料の移動を禁止する是正措置命令が出され、同原発は事実上運転が禁じられている。9月14日、規制委はテロ対策の改善に向け今後の検査で確認する33項目を提示したが、これでは「当面、柏崎刈羽原発の再稼働は見込めない」(日経:2022.9.15)。

古賀氏の予想する再稼働のシナリオは「東電と経済産業省は、今冬以降の『電力不足』をことさらに宣伝する。その上で、柏崎刈羽原発を緊急時に備えて試運転することを認めてもよいのではないかと国民に訴え、規制委が認めていない段階での『緊急運転命令』を政府が出せる法律を国会で通す。そして、冬や夏のピーク時直前に、『停電になる!』と称して、柏崎刈羽原発を再稼働させ、これにより『停電回避できた!』と宣伝する。国民は安堵し、反原発の勢いは一気に衰える。規制委も運転を認め、地元も同意する……。」(日刊ゲンダイ:同上)というものである。

3 倒産企業東電を救済するための柏崎刈羽原発再稼働

資源高や円安が進み、電力や燃料の調達コストが供給価格を上回る状態が続いている。高騰する燃料価格などを転嬢しきれず、東電の電力小売り子会社は22年6月末時点で約66億円の債務超過に陥った。電気を売れば売るほど赤字が積み上がる状況で、東電は法人向けの標準料金メニューの新規契約を停止した。電力会社が新規契約を停止したことで、電力小売会社と契約できない全国の「電力難民」企業は9月1日時点で前月比16%増の4万件超となっている。東電の2023年4月からの法人向け新料金プランでは、電源構成の前提に、再稼働を目指す柏崎刈羽原子力発電所7号機も織り込んで燃糾費の転嫁分を抑え、顧客の負担軽減につなげるという(日経:2022.9.17)。現状は全く発電できず維持管理費のみがかかる完全な不良資産で、経営の重大な重しとなっている柏崎刈羽6・7号機の合計出力は270万キロワット。もし再稼働させることができれば、東電エリアの供給力の5%程度をまかなえる計算となる。

岸田政権は「原子力政策の大転換」という大上段の話ではなく、倒産企業の東電を救済するための姑息な「原発再稼働」に打って出た。

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【投稿】ノルドストリーム破壊と欧州の分割支配--経済危機論(93)

<<「ありがとう、アメリカ」>>
9/26、月曜日、ロシアの天然ガスをバルト海を通じてドイツ・欧州に供給するノルドストリーム1および ノルドストリーム2、この二本の海底パイプラインが何者か、あるいはいずれかの軍事組織、軍事作戦によって、同じ日に同時に発生、デンマークの海域で爆破された。爆発は巨大で、「前例のない」損傷が発生、数百億ドル規模の基幹的なインフラストラクチャーが「意図的な行動」(デンマーク・フレデリクセン首相)によって破壊されたのである。その規模からして、軍事作戦であったことが明らかである。

この破壊工作が行われた当時、どちらのパイプラインもヨーロッパにガスを供給してはいなかったが、送出圧力を保持した状態であったがために、爆発によるガス漏れは、爆風から、直径 1 km にわたるガスが海上に噴出し、過去最大規模のメタンガスの放出と、それによる大規模で深刻な環境汚染の進行が憂慮されている(9/29 ワシントンポスト)。

ガス漏れは、デンマーク当局によると、ノルドストリー

ム2が10/1に、ノルドストリーム1は10/2になってようやくおさまったという

この破壊工作にいち早く反応したのが、元ポーランド外相で現・欧州議会議員であるシコルスキー氏で、「ありがとう、アメリカ」”Thank you, USA “とキャプションをつけて、海底からガスが上がっている海面の写真を載せ、アメリカへの感謝を表明したツイートを投稿している(現在は、削除されている)。いち早く、最も露骨にアメリカの関与を明らかにしたものであった。シコルスキー氏は、9/28、「ノルドストリームが麻痺したことを嬉しく思います。ポーランドにとってはいいことだ。」ともツイートしている

慌てた米欧側、その大手メディアは一斉に、ロシアがパイプラインを爆破したと非難したのであるが、そのような論調は今や急速に崩壊、ニューヨーク・タイムズでさえ、 ロシア爆破説を出せなくなってしまっている。

アメリカのジャーナリストであるMax Blumenthalは、この破壊行為を「何百万人ものヨーロッパ人を凍てつく冬に運命づける、アメリカの国家テロ行為」と断言している。

しかも、この「意図的な行動」が発生した同じ海域、同じ場所、デンマークの東海岸沖の島、ボーンホルムの海岸近くで、バルト海作戦(BALTOPS 22)と名付けられた米・英・NATO諸国の軍事演習が開催されていたという事実が明らかとなっている。この軍事演習には、水陸両用作戦能力、砲術、対潜水艦、防空、地雷除去作戦、爆発物処理、無人水中車両の演習が含まれていたのである。スウェーデン軍と常駐 NATO 海上グループの演習が終了したのは、ノルドストリーム爆破が実行されたほんの少し前の9/4であったと発表されている(米海軍News September 2022)。

<<「途方もない機会」>>
そもそもロシアにはノルドストリームパイプラインを破壊する動機も利益もなく、ドイツ、フランス、オランダの株主とともにパイプラインの半分を所有しており、パイプラインは、ウクライナでのNATOとの停戦が成立した場合、ヨーロッパとの経済関係を再構築するというモスクワの計画の中心に位置していることから、自社のパイプラインを爆破する理由は存在しないのである。

「途方もない機会」

9/30、ブリンケン米国務長官は、カナダのトップ外交官との共同記者会見で、ノルドストリームパイプラインの損傷と混乱に触れて、「これはまたとてつもない機会でもあります。これは、ロシアのエネルギーへの依存を完全に取り除き、ウラジーミル・プーチンから彼の帝国の計画を前進させる手段としてのエネルギーの兵器化を奪う絶好の機会です。これは非常に重要なことであり、今後数年間にとてつもなく大きな戦略的機会を提供します」と。興奮を抑えきれないのか、「途方もない機会」、「ヨーロッパのエネルギー危機」という言葉を3回以上も繰り返し、強調したのであった。
ブリンケン氏は、米国が今や「ヨーロッパへの LNG [液化天然ガス] の主要な供給者」になっていることを強調し、バイデン政権はヨーロッパの指導者が「需要を減らし」、「開発を加速できるようにするのに役立っている」とも強調したのであった。
これは露骨な米政権の本音の吐露と言えよう。すでに3週間前、ロシアのプーチン大統領はサマルカンドでの記者会見で、ドイツがロシアへの経済制裁を解除すれば、ロシアはドイツへの天然ガス供給を再開する用意があると述べたばかりであった。プーチン氏は、「ガスプロムとロシアは、これまでにも、そしてこれからも、協定や契約に基づくすべての義務を、これまで一度も失敗することなく、履行していく」と表明している。
 9/28には、サウジアラビア政府が、ロシア・ウクライナ危機解決への支援を表明し、和平と引き換えにウクライナがロシアに領土を割譲するというサウジ主導の和平交渉を提案している。
こうした和平や和解に目を向けさせてはならない、ヨーロッパがロシアの天然ガスの代わりにアメリカの天然ガス輸入にもっと依存するように仕向けること、それこそが、最初からウクライナ戦争におけるアメリカの主要な目的であったことを明らかにしている。ロシア・中国を挑発し、軍事紛争の罠を仕掛け、エネルギー主導のロシアとドイツの和解の可能性を破壊し、ヨーロッパを分割支配する、進行する経済危機を冷戦・挑発路線で乗り切る、しかしそうはうまくはいかない事態への焦り、危機感こそが、今回のノルドストリーム破壊作戦となってしまったのだとも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】統一教会を巡る問題と隠された狙い

【投稿】統一教会を巡る問題と隠された狙い

福井 杉本達也

1 突然に問題とされ始めた「自民党と統一教会の関係」への違和感

安倍晋三元首相を銃撃したとされる山上徹也容疑者が犯行の動機として安倍氏と統一教会との関係を口にしたという奈良県警のリークから、突然のようにして自民党と統一教会の関係が問題視され始めた。しかし、ここには「なぜ今」という違和感がある。周知のように、人気アイドル歌手だった桜田淳子が韓国で統一教会の合同結婚式を行ったことがマスコミで大きく取り上げられたのは1992年であり、霊感商法が摘発されたのは2009年である。途中、オウム真理教事件があったとはいえ、この間、統一教会に関してマスコミは何も取材しなかったのか。何も問題はなかったのか。

片岡亮氏は「2006年、ある情報番組の出演で、一般ニュースにコメントする仕事の際、制作サイドから『これらを口にするときは内容に気をつけてほしい』と渡されたリストがあった。そこには広告代理店の電通、創価学会、朝鮮総連、ディズニー、ジャニーズ、食品環境ホルモン、コンビニ弁当など、多数のワードが並び、そこに統一教会もあった。」「2012年、第2次安倍政権になると、さらに統一教会がらみの記事は激減。2014年に週刊新潮が山谷えり子国家公安委員長と統一教会の関係を記事にした程度になっていた」と書いている(「現代ビジネス」2022.8.2)。

2 奈良県警のリークから始まった

奈良県警は安倍元首相銃撃事件の当初からリークによって世論形成を図ろうと試みており、朝日新聞は「宗教団体に恨み、容疑者『安倍氏とのつながり』」という見出しで、「県瞥によると、山上容疑者は『特定の団体に恨みがあり、安倍民とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ』という趣旨の供述をしている。」(朝日:2022.7.9)と、事件当日から積極的に「統一教会」を全面に出している。本来ならば、警備の不手際での県警本部長の謝罪会見がすぐに行われるべきところである。奈良県警から情報を得たマスコミは、その日から教会信者といわれる山上容疑者の母親の出身大学である大阪のS大学の同級生宅を執拗に取材している。全く異様な展開と言わざるを得ない。そこには、奈良県警(当然、上部組織としての警察庁)の当初から(事件前から)の筋書きによって、「統一教会」を銃撃事件の煙幕に使うという意図が感じられる。

3 ほとんど報道されない銃撃事件

9月27日の安倍元首相の国葬のベタ報道においては、一部関連で、山上容疑者の「銃撃事件」が報道され、怪しげな“手製銃”のアップ画面も出されたが、それ以外ではほとんど報道されることはなくなった。8月25日に中村格警察庁長官と鬼塚友章奈良県警本部長の警備の不備による引責辞任会見報道があった程度である。検察は、「鑑定留置で、事件当時の精神状態の調査が続いている。…鑑定結果を踏まえて、刑事責任能力の有無を見極め」起訴するかどうか判断する(日経:2022.9.8)と、犯行に使われた弾丸が見つからないといった事件の矛盾点を追究されては困るという姿勢がありありで、精神鑑定期限の11月29日までは今後も事件を掘り下げる報道はほとんどないと思われる。

4 統一教会とは

統一教会は米CIAとKCIAによって作られた宗教団体を装った政治団体である。統一教会は1954年に韓国で文鮮明が創設、日本では59年から伝道が開始された。1964年・宗教法人の認可を獲得、68年には「国際勝共連合」を設立している。右翼の大物・笹川良一(旧船舶振興会=現日本財団)は1970年、政治団体「国際勝共連合」のイベントに参加したアメリカ統一教会幹部に胸を叩きながら「私は文(鮮明)氏の犬だ」と語った。1974年5月、文鮮明が東京・帝国ホテルで開いた「希望の日晩餐会」は、岸信介元首相が名誉実行委員長を務め、約2000人が集り、自民党国会議員40人が出席した。岸派閥の後継者で当時の福田赳夫蔵相は「アジアに偉大なる指導者現る。その名は文鮮明である。」とスピーチ、文と抱擁を交わした。福田は1976年に首相となり、その福田の派閥後継者が安倍晋三元首相の父親である安倍晋太郎である。「霊感商法」や高額献金が社会問題化したのは、1980年代後半である。霊感商法対策連絡会に寄せられた被害相談は計3万4537件、被害額は約1237億円にのぼるという。2009年には警察が大規模な摘発を行っている(日経:2022.9.2)。フリーライターの青葉やまと氏の記事によると、ニューヨークタイムズ紙は「1976年から2010年のあいだに日本の旧統一教会は、アメリカに36億ドル(4700億円)以上を送金しているという」(PREZIDENT Online 2022.8.1)。これが、「ワシントン・タイムズ」などのマスコミ対策資金や米国の政治工作・また日本にリターンされて、日本政界の工作に利用されていると思われる。

したがって、今回の安倍元首相暗殺を契機に突如浮上した統一教会を巡る問題は、米CIAの絡んだ事件であり、今日の米国の分裂した政治情勢が反映している。小沢一郎氏は「元々思想や理念が無いから、反日的な外国カルト団体とも平気で結びつく。自民党という利権を打破できなければ、日本は茹で蛙になって滅び行く」とツイートしたが(2022.9.27)、結びついているのは米CIA傘下の「外国カルト団体」である。日本は、戦後77年、このような属国状態を打破できていない。

5 米「台湾政策法案」と極東のウクライナ化

米上院外交要員会は9月14日、「台湾の防衛力強化を支援する『台湾政策法案』を超党派の賛成多数で可決した。これまで売却していた武器を『譲渡』でも供与できるようにする。盛り込まれた支援額は軍事演習を含め5年間で65億ドル(約9300億円)規模。」という。台湾政策法案は台湾を『主要な非北大西洋条約機構(NATO)同盟国』に指定する。台湾を『国』と同等に扱う」ものであり、イスラエルに適用している武器譲渡資金供給(FMF)を利用して無償の武器譲渡も可能となる(日経:2022.9.16)。9月29日付けの日経は「ウクライナはNATOなどの装備品や弾薬を活用し7カ月を超える長期戦が可能になった。自国備品などの保有だけでなく、米国や準同盟国との共通基準」を作ることが大事だと書いているが、米軍は正面に出ず、武器・弾薬を無制限に供給することで、台湾軍が中国軍と戦うという極東のウクライナ化を目指している。その場合、武器・弾薬・傭兵の兵站基地としての日本の役割は必須であり、何としても日本を極東のウクライナ化に巻き込まねば、シナリオは成立しない。ウクライナ問題に火をつけたネオコンのヌーランド米国務次官は7月25日に来日し山田外務審議官らと会談している。その後、韓国を訪問している。こうした極東のウクライナ化に韓国は拒否反応を示している。ペロシ米下院議長が訪台後に韓国を訪問したが、尹韓国大統領は「休暇中のため」と称して、ペロシ氏と会わなかった。韓国民主党の議員は「ペロシに会うのは米中対立という火の中に蓑を着て飛び込むようなものだ」と語っている(孫崎享:2022.7.6)。いま、その「蓑」を着つつあるのは日本である。統一教会を巡る問題は日本国内だけの問題ではなく、「外国勢力」である米国の政治的分裂の反映であると同時に、台湾関与への煙幕でもあり、また、9月27日の安倍国葬も9月29日の日中国交正常化50年の根本的な意義を薄める煙幕でもある。

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【投稿】米FRBの世界的同時不況化路線--経済危機論(92)

<<「火を付けて、消火に当たる放火犯」>>
米連邦準備制度理事会(FRB)は、9/20-21に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)で、政策金利の0.75%引き上げ決定を明らかにした。通常の3倍となる大幅な引き上げで、6月以来、3会合連続の利上げとなり、次回11月の会合でも、大幅利上げを継続し、2022年末までに、追加で計1.25%引き上げる計画である。その結果、政策金利は年3.00~3.25%と、08年以来の高水準となる見通しである。
FRBのパウエル議長は、これによって失業率上昇と経済成長鈍化という代償が伴うことを示唆しつつ、それでも「インフレ抑制に向け手を緩めることはない。物価の安定なくして、経済は誰のためにも機能しない。仕事を成し遂げたと確信するまで続けるだろう」と断言している。
この発表を受けた9/21の米株式市場は、利上げが織り込み済みだったにもかかわらず、不安定な取引に追い込まれ、終盤大きく下落、主要株価3指数はいずれも1.7%超下落、優良株で構成するダウ工業株30種平均は前日終値比522.45ドル安の3万0183.78ドルで終了、ハイテク株中心のナスダック総合指数は204.86ポイント安の1万1220.19で引け、米国債市場では、政策金利に敏感な2年債利回りが2007

年以来の高水準に上昇し、景気後退(リセッション)のシグナルとされる逆イールド(長短金利の逆転)が進行する事態となっている。
インフレなど、一時的なことだと軽視し、ゼロ金利政策で投機バブル経済を煽り、マネーゲームにどんどん資金を提供し続けてきたてきたパウエル議長らが、「自ら火を付けた後に自発的に消火に当たって英雄を気取る放火犯のようにも見える。」(9/22 BloombergNews センター・アセット・マネジメントのJ・アベート

氏のコメント)とこき下ろされる事態である。

ところが、こうしたパウエル路線を「もっと推し進めろ」と激励し、奨励しているのが、億万長者マイケル・ブルームバーグが設立した BloombergNews で、9/21の社説は、連邦準備制度理事会に対し、さらなる解雇と賃下げの必要性を「理解していることを示す」ように促し、ブルームバーグの編集委員会が公然と、米中央銀行に対し、高騰するインフレを抑制するために「不況を引き起こす」意思があることを示すよう奨励しているのである。「この社説が、経済の生命線であり、不況の代償を負うことになる労働者、家族、地域社会について全く触れていないことに、私がどれほどショックを受けたか、想像してみてほしい。」とグラウンドワーク共同体のキャンペーン・パートナーシップ担当マネージングディレクターのクレア・グズダーはTwitter投稿で指摘している。

<<24年ぶりの円売り・ドル買い介入>>
9/22、米金利引き上げ発表とすぐさま連動した円安の進行に慌てた政府・日銀は、ついにドル売り円買いの為替介入を実施し、「伝家の宝刀」を24年ぶりに抜かざるを得ない事態に追い込まれた。日本政府が最後に円売り介入を行った2011年11月以来である。円は、対ドル145.50から142.50まで変動したが、日米協調介入とはなりようもなく、根本的な政策転換がない限り、せいぜい、円安のペースを遅らせる程度であることは目に見えている。

17か月連続、実質賃金低下

問題は、こうしたパウエル路線、利上げと緊縮、不況推進路線は、世界的な景気後退と同時不況の同期化を推し進める結果をもたらそうとしていることである。

問題のインフレであるが、8月の米消費者物価は予想を吹き飛ばし、27ヶ月連続上昇となった。エネルギー指数は23.8%上昇と、7月期の32.9%上昇に比べ上昇幅が縮小したが、食品指数は11.4%上昇と、1979年5月期以来12ヶ月ぶりの大幅上昇となり、家庭用食品指数は13.5%上昇と1979年3月期以来12ヶ月ぶりの大幅上昇を記録している。さらに注目すべきは、食料やエネルギーなどの不安定な項目を除いたコアCPIが前月比0.6%上昇(予想の+0.3%の倍)と予想を大きく上回ったことである。家賃のインフレ率は6.74%と、1980年代前半までさかのぼらないと確認できないほどの高水準に達している。実質賃金は、17か月連続の低下を記録している。

問われているのは、こうしたエネルギー価格の上昇、食品コストの上昇、サプライチェーンの縮小に起因する価格変動に、利上げ政策は何の役にも立たないことである。独占的市場支配と価格操作を規制する反独占政策こそが問われているのである。サプライチェーンの混乱は、無謀な反ロシア・反中国の制裁政策や緊張激化政策こそが問われているのである。
(生駒 敬)

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【翻訳】北京から見たウクライナの戦争

The Japan Times August 6-7, 2022
【O p i n i o n 】
“ Ukraine’ war viewed from Beijing” 
Mark Leonard, Beijing, Project Syndicate

「北京から見たウクライナの戦争」

 ロシアによるウクライナへの侵攻は、来年には、欧州が中東であるかのように思われる紛争の続きの、単なる最初のものなのだろうか?
 先週、匿名を希望する一人の中国の学者は、私にそのような問いを投げかけた。そして彼の論法は、欧州の地政学秩序を塗り替える戦争への見方が非西洋人(”non-Westerners”)では、いかに違っているかを示していた。
 彼らは、どのように世界を観ているかを理解する為の中国の大学の先生方や学究の人達(“academics”) との話し合いにおいて、彼らは、西側 (“the West”) が行っている多くの事について、全く異なった立ち位置からスタートしているということを私は見つけた。彼らは、ウクライナの戦争を Kremlin よりも NATOの拡大のせいにする傾向にある、ということではない。それは、彼らの中核となる戦略的な考え方、想定の多くが、又しても、我々自身のものの反対側にある、ということである。

 欧州人や米国人が、この紛争を世界歴史の転換点 (“turning point”) と見なしている一方で、中国人は、それを一つの干渉戦争 (“war of intervention”) と見ている。この紛争は、過去75年間に起こった朝鮮半島、Vietnam, Iraq, Afghanistanの戦争に比べれば、むしろその重要性は大きくない。彼ら中国人の理解の中で、今回の紛争で、ただ一つ違うところは、干渉しているのは西側 (“the West”) ではない、ということである。
 さらに、欧州の多くの人々が、この戦争は、米国の国際舞台への復帰を特徴付けた、と考えている一方で、中国の知識人たち (“intellectuals”) は、次にやって来る post-American world の確固たる証拠と見なしている。彼ら中国人にとっては、米国の指導権 (“American hegemony”) の終焉が、真空地帯を作り出したのであり、その真空地帯は、今ロシアによって満たされつつある、と見ている。

 西側の人々、国々 (“Westerners”) は、法/規則に基づいた秩序/治安 (“rule-based order”) への攻撃と見なしている一方で、私の中国の友人達は、多元的世界 (“pluralistic world”) の出現と見ている。そこにおいては、American hegemony の終焉は、異なった地域やそれに準じる局地での企みを許している。彼らは論じている、即ち、rule-based order はいつも正当性/合法性 (“legitimacy”) を欠いてきている。西側の勢力 (Western powers”) は法/規則 (“rules”) を作り上げた。そして彼らは、それが彼らの目的に叶う時には ( Kosovo や Iraq におけるごとく)、それらを置き換えることについて、良心の痛み/罪の意識 (“compunction”) を決して示して来ていない、と。

 これらは、中東の似たような出来事に導く議論である。私の中国における対話者は、以下のように見ている。即ち、ウクライナにおける状況は、主権国家間の侵略戦争ではなくて、むしろ Western hegemony の終焉に続く、植民地時代の後の国境(“post-colonial border”) の改定であり、中東において、国々は第一次大戦後に西側 (“the West”) が線引きした国境に疑問を持っているのと同じである、と。
 しかし、最も際立った対比は、ウクライナ紛争は広く一つの代理戦争 (“a proxy war”) と見なされていることである。まさに、Syria, Yemen, Lebanon における戦争は、列強 (“great powers”) によって焚きつけられ、助長され、利用されてきたのと同様に、ウクライナにおける戦争も同じことである。 誰が一番の受益者であるか? 私の中国の友人は、それは、確かに、ロシア、ウクライナ、欧州ではない、と論じている。むしろ、最終的には、米国と中国が大部分を占める位置に立ち、両者はより拡大する対立関係に於ける代理戦争として、この戦争に接近し、対応して来ている、と論じている。

 米国は、欧州諸国、日本そして韓国を取り込んで、米国の指令優先の新しい同盟に引き入れ、ロシアを孤立させ、中国に対しては、領土の保全のような問題について、いずれに立つかはっきりさせるように仕向けることで、恩恵を得てきている。 同時に中国は、ロシアの従属的位置(“Russia’s subordinate position”)*を強化することや、“the Global South”** のより多くの国々を、非同盟 (“non-alignment”) に応じ促すことによって、恩恵を得てきている。

*訳者注 : 総体として、ロシアより中国が上と見ている。参考までに
           GDP比較は以下のごとくです。
         面積   人口( 2021. 12.)  名目GDP (2022.)
ロシア  1,712.5 万Km2    1.26 億       1.8 兆  US$
中国    960 万 Km2    14.13 億       19.9 兆 US$
米国    980 万 Km2     3.31 億       25.3 兆 US$
日本     36 万 Km2     1.25 億        4.9 兆 US$

**訳者注 : the Global South
国連などの機関が、Africa, Asia, 南米を指す地理的な区分としての用語や、研究者、活動家が現代資本主義のglobal化によって、負の影響を受けている世界中の場所や人々を指して使う。

 ヨーロッパのリーダー達が、自身を21世紀の Churchill (訳者注:ご存知のごとくイギリスの首相 [1874-1965] 第二次世界大戦でファシストのドイツと戦った。) に擬えて振舞っている一方で、中国人は彼らを、より大きな地政学のゲームにおける手先(”pawns”)と見なしている。 私が話し合った中国の学者達、見識ある人々のすべての間で一致した見解は、短期間ながら COVID-19 による混乱や、長期にわたる米国と中国の支配権を巡る争い (“struggle for supremacy”) に比べれば、ウクライナにおける戦争は、むしろ、つまらない、取るに足らない気晴らし (“unimportant diversion”) である、というものである。

 言うまでもなく、私の中国における対話者の重要な論点について、異論ある人は議論も出来よう。確かにヨーロッパの人々(国々) (“Europeans”)は、中国人が暗に示したより、多くの手段を持っている。そして、ロシアの侵攻に対して、the West の力強い反攻が、1990年代の Yugoslav 継承をめぐる 10数年に渡り起こっていたように長期化がつきものの国境紛争の、最初の段階で、首尾よく拡大を防ぐことが出来た。
 それにもかかわらず、中国の観察者達 (“observers”)は、我々が行っているのとは異なって、物事を組み立てて、言い表しているという事実は、我々に、ためらいを与える。 少なくとも、西側 (“the West”) にいる我々は、残りの世界の人々(国々)が、我々をどう理解しているか、もっと真剣に考えるべきだ。 そうは言っても、中国人の議論を、単なる話題として、さっさと片付けたくなる。その議論とは、敵対的で非民主的な政権(ウクライナについての公な討議は、中国では統制されている)の良い面を維持するように目論まれている。 しかし待てよ!多分、いくらかの謙虚さも必要ではないか。

 中国の観察者達が、そのような一風変わった大局観 (“radically different perspective”) を持っているという事実は、何故に、ロシアに対する制裁で、西側 (“the West”) に、ほぼ全世界の支持 (“near-universal support”) が集まらなかったということを説明する助力になるかもしれない。
 ウクライナにおいて、支配をロシアから取り戻す政策が優勢になっている一時期において、我々は他の国々では、ウクライナの重要性を割り引いて (“discounting”) 考えている、ということを知っても驚くべきではない。 我々が rule-based order の英雄的自衛と見なしている一方で、他の国々(人々)は、急速に多極化が進んでいる世界における Western hegemony の、最後のあがき (“last gasp”) を見ている。

Mark Leonard, Director of the European Council on Foreign Relation, is the author of “The Age of Unpeace: How Connectivity Causes Conflict” (Bantam Press, 2021)

                          (訳: 芋森)   [ 完 ]

                  

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