【翻訳】プーチン大統領の健康状態をめぐる不確実性

Japan Times  June 21, 2022
“Uncertainty surrounds status of Putin’s health”  Paris AFP Jiji

【翻訳】 プーチン大統領の健康状態をめぐる不確実性

Kremlinからの、世に知れた彼の逞しいイメージ以外に注目すべき明らかなことは、ほとんど現れてきていない。

シベリアの鹿の角から抽出される血の風呂に入る。
彼の排泄物は、分析を避けるため付き添い職員によって掬い取られる。
緊急な医療手術等のためとしての謎めいた不在。

 ロシアの大統領 Vladimir Putin, 彼はこの10月に70歳になる、の健康状態についての情報、意見等は煽情的で気味が悪い。同様に証明は不可能である。彼がUkraineへの侵攻を命じて以降、Europeの将来にとって重要な彼の健康状態について、それらの情報等は彼の健康状態を、ほとんど描き切れていない。
 Putinの20年に及ぶ統治下で、Kremlinより公にされる、胸を広げた逞しい写真以外に、彼の健康について注目すべきニュースはほとんどない。しかし、Putinが隣国に仕掛けた戦争によって綿密な調査の報道が増えてきている。

What are the claim? ( 意見、主張とかは何か?)
 Putinの健康に関する最も詳しい調査は、公開される情報をデータとして使っているロシア語のニュースサイト”Proekt”*によってこの4月に公にされた。 そこでは以下のごとく結論つけられている。即ち、大統領の南部のリゾート Sochi への旅行には、多くの医師たちも共に移動していたと。彼らの中には、甲状腺癌(“thyroid cancer”)の専門医師 Yevgeny Selivanov もいた。ここ数年来、彼のSochi訪問は時としてPutinの突然の不在と同期していた。
 また、以下のことも言われている。即ち、長生きを保証するためにPutinによって、よく行われている方法は、シベリアの鹿の角の血液の入った風呂に入浴することである。この方法は、シベリア出身で彼の友人である国防大臣 Sergei Shoigu が推薦した。
 フランスの週刊誌 “Paris Match” は今月以下のごとく報じた。2017年のフランス訪問と2019年の Saudi Arabiaへの訪問の際、Putinは、あるチームを伴い、彼がトイレに行くときはいつも排泄物を処理して、それ以外の人が彼の小便や大便を医学的に分析できないようにした、と。 さらにもっとセンセーショナルな報道として、米国誌 “News Week” は6月に以下のごとく報じた。 アメリカの諜報機関を引用して、Putinは4月に進行癌の手術を行った、と。 しかし、U.S. National Security Council は、そのような報告の存在を否認した。
 Ukraine’s military intelligence chief, Major General Kyrylo Budanov はNews Weekとの5月中旬のインタビューで、証拠を示さずに、Putinは癌を患っていると主張した。
 またProekt は報じている。即ち、Kremlinは見せかけの事務所(”fake office”)をSochiに作り上げた。それをPutinのモスクワ郊外の住居のように称している。黒海のリゾートで休んでいて、Russiaの首都で仕事をしているかのように、と。
  * 訳者注“Proekt” is Project in English and is an independent Russian media
     specializing in in-depth journalism..

What information is there ? (どんな情報があるのか?)
 Kremlinが、Putinが健康を損ねていると確認したのは、たった一回だけで2012年の秋だった。気まずそうに見えた後に、4~5の会議をキャンセルし、公から姿を消した。Kremlinは、その時Putinは筋肉を傷めたと報じた。 ある新聞は、彼はモーター付きハンググライダーで、鶴と共に飛んでいて、離れ業(”stunt”)の時に、痛めていた背中を悪化させた、と報じていた。 しかし、Proektは、彼の大きな健康上の問題はここで始まった、と報じている。
 COVID-19 pandemic は、時々Russian リーダーの変わった振る舞いを見せている。
Kremlin は、彼はワクチンを接種したと述べた。しかし、ほとんどの世界のリーダーとは異なり、彼の接種の写真は出ていない。彼に接する人たち、ジャーナリストをふくめ、は最も厳しい予防策、例えば数日の検疫隔離に従わねばならない。 これを受け入れない世界のリーダー達、例えばフランス大統領 Emmanuel Macron や国連総長 Antonio Guterres は今日では悪名高くなった長いテーブルの端に座らされていた。Kremlin の要求を受け入れた人々、例えば、Armenia の首相 Nikol Pasinyan 等の人々は、握手や抱擁までも許されていた。
 Ukraine についての Shoigu国防相との4月下旬のミーテングは、またもや火に油を注ぐようだった。Putinが、体の震えを抑えるために、テーブルをしっかり握った、との誰かがちらっと見たという話が流れ、多くのビデオも、Putinの片足がミーテングの間、モジモジとしているのを映していた。
 他方、Kremlinは、Putinの年一回のRussia国民との電話での直接会話行事 (通例では6月に行われる) を説明なしに、後日に延期した。Putinを守るために多大な努力がなされてきている。2020年の記者会見では、検疫と検査を事前に受けた一握りの報道記者が彼とのミーテングの部屋に入ることを許された。他の多くの記者たちは別の部屋で。
2021年も同じ方法で行われたが、記者たちの前列からPutinの机までの距離は遠く離れていた。 今では、世界のほとんどの国で政府の行事は通常に戻りつつあるが、Putinの行動、振る舞いは、ほとんどが国内であり、ビデオを通じてである。

What does the Kremlin say ? (クレムリンは何を述べる?)
 Putinの報道官 Dmitry Peskov を通じてKremlinは、ロシアの大統領は、重大な健康上の問題を抱えているとのすべての言動、主張を強く否定してきた。
 外務大臣 Sergey Lavrov は、5月下旬フランステレビ TF1 とのインタビューで、Putinが病気であることを否定した。彼は続けて「正気の人々であれば、この人に何らかの病気の兆候を見ることができるとは、私は思わない。」さらに続けて、ロシアのリーダーは「毎日」国民の前に姿を見せていると。
 ベラルーシ(“Belarus”) の大統領 Alexander Lukashenko, 彼は西側より嫌われているが、 Putin とのしばしばの face-to-face での対話者である、は3月に日本TVとのインタビューでロシアのリーダーは、野蛮な健康 (“rude health”) であると述べた。「もしあなたが、大統領Putinに何か悪いことがある、または何かが起きていると考えているならば、あなたはこの世でもっとも哀れな人である。」と。
 最近の公へのお出まし (“public appearance”) ― Peter the Great (ピヨートル大帝) フォーラムやトルクメニスタンの大統領 Serdar Berdymukhamedov との会談― において、Putinには少しも身体的ひ弱さが見受けられていない。

Why does it matter ? ( なぜそれが重要か?) 
 Putinは、議論余地なきロシアのリーダーとして存在しているし、ほとんどの観察者、評論家は、彼が2024年の第三期への継続する権限を追い求めることを期待している、最近の彼にそのようにするように認め許した、議論のあった憲法の改正の後、明らかな後継者はいない、そして、ロシア軍隊の指揮官として、Ukraineに侵攻したのは、Putinの決断であった。
 「この国は、その人が動かし制御している身体、感情の健康についての真実の言葉を知らない。」と Proekt の the editor-in-chief Roman Badamin は述べている。続けて「赤いボタンを押すことによって、人間らしさ、慈悲(”humanity”)のすべてを破壊することが出来るであろう一人が、健康であるか否かを、この世界は知らない。」  

                          (訳:芋森)   [完]

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【書評】『東電原発事故10年で明らかになったこと』

【書評】『東電原発事故10年で明らかになったこと』
   (添田孝史著、平凡社新書、2021年2月発行、840円+税)

東電原発事故10年で明らかになったこと

東電原発事故10年で明らかになったこと

 2020年9月、福島第一原発の立地する福島県双葉町に、東日本大震災・原子力災害伝承館が開館した。53億円の事業費を国が負担し、福島県が運営している。3階建て約5000平方メートルの伝承館には「災害の始まり」「事故直後の対応」「長期化する原子力災害の影響」など6つのブースがあり、消防士の装備などの実物など映像や模型も使って、原発事故の様子を残そうとしている。
 著者は言う。「展示を見終わると奇妙なことに気づく。高い津波が襲ってきました。福島第一は放射性物質を漏らしました。住民たちは長く苦労し、それでも復興に挑戦しています、という流れで展示されている。『なぜ、事故は起きたのか』にはまったく触れていないのだ。/国や東電は『絶対事故は起こさない』と説明していたのに、どうして事故を防げなかったのだろう。事前の対策は十分だったのか。津波に襲われた原発は他にもあったのに、なぜ福島第一だけ事故を起こしたのか。そんな疑問に伝承館の展示や説明は何も答えてくれない。つまり(略)国や東電が事故前に何をしていたかという内容は、すっぽり抜け落ちている」。
 続けて言う。「伝承館には、事故を経験した人たちの生の声を聞くことができる『語り部講話』の部屋もある。ところが朝日新聞の報道(2020年9月22日)によれば、伝承館は語り部に対して東電や国の批判をしないよう求め、原稿を確認、添削しているのだという」。
 本書はこの謎に、年代記的に迫る。
 「日本の原発は、耐震設計審査指針によって、どんな地震を想定するか、どんな強度で建屋を造るのかなどが定められていた。1978年に原子力委員会が策定した耐震方針は、想定している直下型地震の規模や活断層の定義などが時代遅れで過小評価になっており、90年代から地震学者が批判していた。しまし、電力会社の抵抗があり、指針はなかなか改定できなかった。原子力安全委員会は2001年にようやく耐震指針の見直しに着手、2006年9月19日に、新しい耐震指針がき決まった」。
 そしてこれによって、指針改定以前の古い原発も、耐震安全性を再チェックすることが求められた(耐震バックチェック)。
 これに関連して2007年1月16日、各電力会社の津波対応の会議では津波の余裕率の全国平均は0.96──想定水位の1.96倍の津波が襲っても、施設や設備に影響はなく、大事故が起きないことを意味している──であった。「しかし福島第一は余裕がゼロで、もっとも余裕がなく、表(原発余裕率の一覧表)中で唯一『対策実施検討』と書かれていた」。
 またJNES(原子力安全基盤機構)は、2007年4月、最近発生した国内外の原発事故を分析して、原発名を伏せた形で福島第一に同様の浸水があった場合にどうなるのかを報告書に載せていた。それによると、「解析した別のトラブルでは炉心損傷につながる確率は1億分の1程度なのに、洪水や津波で水につかった場合に炉心損傷に至る確率だけは100分の1より大きく、桁外れに高いリスクが明らかになっていた。/この時点で、津波のリスクは、数多い原発のリスクのうちの一つ、と片付けられないことが数値的にはっきりしていたことがわかる」。
 これについて東電に、東電設計から津波を詳しく計算した結果──敷地南部では15.7メートルの津波にもなり、1号機から4号機周辺が広範囲に水に浸かる、4号機では建屋が2メートル以上も水に浸かると予測される──が届き、この数値は想定設計5.7メートルを大きく上回るので、対策が取られようとしていた。
 ところがこの改善に向けての取り組みを検討しようとしていた矢先の2007年7月16日に新潟県中部地震が発生する。この地震で柏崎刈羽原発全7基が停止し、代替の火力発電の燃料費や復旧費用などがかさみ、東電は28年ぶりに赤字に転落するのである。
 ここで東電は2008年7月31日、流れが変わる方針を打ち出すことになる。すなわち「・バックチェックは従来の5.7メートルの水位で進める。・地震本部の津波地震を採用するかどうかは、土木学会で検討してもらい、その後に対策を実施する。・この方針について、有力な学者に根回しする」となった。換言すれば、津波地震の対策をするかどうかは土木学会に依頼し、その検討の結果を待つということで時間稼ぎをするという姑息な方針の採用となったのである。しかも専門家への根回しをしつつである。
 またこの後11月13日の会議では、津波地震とは別タイプの地震「貞観地震」(869年)による被害も課題とされたが、これに対する対策もバックチェックに取り入れないことも決定されている。
(これに関して言うならば、東北電力は女川原発について、貞観地震をバックチェックに取り入れて津波想定を見直し対策を立てて実施した。また日本原電は、(東海第二原発の)津波対策を着々と進め、「バックチェック最終報告書は従来の土木学会手法や地元茨城県の津波想定でまとめ、実際の対策は地震本部の津波地震に備える形で進めた」。つまり公開された最終報告書以上にこっそり上乗せした対策を取った。しかしこのことは「東電に配慮して」非公開で進めていた。)
 そしてこの津波リスクへの対応がずるずると先送りされてきた構図では、東電、根回しされた専門家たちに加えて、本来チェックの役割を果たすべきであった保安院も、東電や資源エネルギー庁に「配慮して」、そうではなかったことが明らかにされてくる。その詳細は本書を見ていただくとして、こうした三者三様の無責任な対応が津波に対して大事故を招いた前提を作り出していたことは間違いがないであろう。
 本書には、この後の原発事故の検証と賠償──原発への賠償の目安となる中間指針は、2011年8月にまとめられた。「東電はこれをもとに自主的基準をつくり被害者に賠償を進めた。しかし政府の指針は、少なくとも最低でもこれだけは賠償しなさいというラインを示したものなのに、東電は指針があたかも賠償の上限であるかのように振る舞ってきた」と指摘されている──の問題点および国の原子力政策に対する疑問も提出されている。
 つい先日の7月15日、岸田総理が「最大9基の原発稼働」を指示したというニュースがあり、また14日には東京地裁が東電旧経営陣に13兆円の賠償命令が出た。共に今後の成り行きは不透明であるが、原発への動きが再加速されようとしている現在、原発事故10年で見えてきた事実をここで今一度確認しておくことは必要である。(R)

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【投稿】米vs.中東:ドル支配の危機を露呈--経済危機論(87)

<<バイデン中東歴訪で原油価格急騰>>
7/18、バイデン米大統領が中東歴訪を終えるや、原油価格が急騰した。中東歴訪前までは、景気後退懸念による需要減退から、原油価格はここ一カ月で最大の下げ幅を記録、100ドル/バレルを下回る水準に下落していたばかりであった。
景気後退懸念は、7/13に発表された消費者物価指数(CPI)がこの6月にさらに加速し、9.1%と40年ぶりの高水準を記録したことからくるもので

バイデン氏、サウジの原油増産公約を勝ち取れず、原油急騰

あった。値上げ率が最も大きいのは、家賃、食料、燃料などの最低限の必需品目であった。インフレ調整後の実質平均時給は前年同月比3.6%減と、07年までさかのぼれるデータで最大の落ち込みとなり、実質賃金はこれで15カ月連続のマイナスを記録。インフレ圧力は後退していると期待していた政権やその取り巻きにとって、予想をはるかに上回る強力な基本的物価上昇圧力は衝撃であったと言えよう。(下図、上:消費者物価指数(CPI)、下:実質賃金)

 エネルギー価格を何としても抑え込むことが、バイデン政権にとって最大の課題となり、バイデン氏は世界の原油供給が増えれば、世界の原油価格が下がると主張。しかし一方で、足元の米石油独占資本が供給を低く抑え、市場支配力によって高価格に加担して最大限の利益をむさぼっていることを放置していては、何の説得力も持たない。
 そこでバイデン氏は、サウジアラビアと他の湾岸産油国に対し、石油生産を増強するよう求める中東歴訪を演出、サウジアラビア政府と米国政府はエネルギー問題、投資、宇宙開発、通信、保健など、18項目からなる協力協定に署名、ホワイトハウスによると、サウジアラビアは7月と8月に予定していた原油の掘削量を50%引き上げることを約束したという。歴訪中のサウジアラビアで行われた記者会見の中で、米国内のガソリン価格は連日低下し続けている、そして劇的に価格が低下するのは2週間後になるとまで言い放ったのであった。

<<「アメリカに残されたのはNATO諸国だけ」>>
ところが、である。バイデン氏帰国後、7/15、ニューヨークの原油先物市場は、2.1%上昇、7/18には2.4%上昇し、1バレル103.58ドルへの急騰である。その理由が、原油増産の約束を取り付けられなかった、サウジアラビアが原油供給を

バイデンに対するMBSの回答

強化するという誓約をすることなく終了したことからくるものであった。サウジアラビアは米側に追従することを拒否し、増やすことが可能なのは「生産量」ではなく「生産能力」だと表明していたことが明らかになったのである。バイデン氏は体よくあしらわれたのであろう。
それどころか、サウジアラビア皇太子ムハンマド・ビン・サルマン氏は、政府系紙・アルアラビーヤによると、3時間にわたる会談の中でバイデン氏に対して、イラクとアフガニスタンでの米国の失敗によって示されるように、ある国の価値観を力で別の国に押し付けようとすることは逆効果である、米国が協力するために残されたのはNATO諸国だけである可能性があるとまで警告したという。
さらに、同皇太子は、ジャーナリストのジャマル・カショギ氏の殺害は「遺憾」だが、米国の手はきれいではなく、他のジャーナリストも平気で殺されている、イスラエル軍に殺害されたパレスチナ系アメリカ人ジャーナリスト、シリーン・アブ・アクレについて「何をしたのか」とバイデンに詰問したという。
バイデン氏は、「私がここに来たのは、サウジアラビア皇太子に会うためではない。<GCC首脳+3首脳>会談に参加するためだ」と、語っている。3首脳とは、<アメリカ+イラク+エジプト>を指すが、対ロシア、対中国、対イランの制裁、対立激化路線は、エジプト、ヨルダンを含めてどの国の指導者からも明確な指示を得られなかったのである。

アメリカのドル一極支配体制の瓦解が、今回のバイデン氏の中東歴訪によって誰の目にも明らかな客観的現実として露呈された、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】参院選―高揚感なき大勝の自民党と、リアリズムが欠如する野党の敗北―

【投稿】参院選―高揚感なき大勝の自民党と、リアリズムが欠如する野党の敗北―

                         福井 杉本達也

1 安倍元首相の「暗殺」で、高揚感なき大勝の自民党

日経新聞は「参院選に大勝した岸田文雄首相に、高揚感はなかった。」(2022.7.12)と書いた。「もう一つの中心がなくなった。どうやって安定をつくるのか、考えないといけない」と岸田氏は漏らしたという。「もう一つの中心」は暗殺された安倍晋三元首相であり、「『楕円の理論』を参考にしてきた。二つの中心がある方が、一つよりも安定するとの考え」であるという(日経:同上)。

安倍氏は「戦後レジームからの脱却」、「日本を取り戻す」をスローガンに掲げて二度内閣を率いた。この「戦後レジーム」とは、白井聡氏の言葉を借りれば「永続敗戦レジーム」・「対米従属レジーム」であり、“戦後国体”としての「アメリカを事実上の頂点とする体制」である。しかし、安倍氏がこの米国を“主権者”とする「戦後国体」に全面的に楯突いたかといえばそうではない。安倍氏は「積極的平和主義」を掲げ、日米戦力の一体化(=自衛隊を米軍の補助戦力とする)を図り、米国の“弾除け”として「戦争をすることを通じた安全保障」を(表面上は)目指してきた。だが、その中で唯一、特異な外交がロシアとの関係強化であった。

2 対米従属下での安倍氏による矛盾に満ちた対ロシア外交の評価

安倍氏の支持基盤は自民党内というよりも、日本会議や神道政治連盟・統一教会といった党外の極右にあり、党外の支持基盤を背景に自民党を乗っ取った状態にあった。しかし、そうした安倍氏の支持基盤のイデオロギーとは裏腹に、任期中、安倍氏はロシアのプーチン大統領と27回も会談を重ねた。ロシアは長大な国境を持っている。中国を始め隣国と多くの領土問題を抱えていた。しかし、プーチン氏の時代にそのほとんどが解決し、唯一残ったのが日本の「北方領土」問題である。プーチン氏はこれを解決しようと安倍氏と交渉を重ねた。しかし、事務方として折衝した谷口正太郎氏が、ロシア側の「歯舞・色丹の二島を返還した場合、米軍基地は置かれるのか?」とのロシア側の問いに、「可能性はある」と回答したことによって、交渉は最終的に打ち切られることとなってしまった。

交渉中断まで。ロシア側が安倍氏を交渉相手として信頼していたかについて、佐藤優氏は「日米同盟の強化とともに、日米同盟の枠内で日本の独立を確保することを真摯に考え、そのためにロシアとの関係改善を図っていた。それを読み取っ」ていた。それがプーチン氏からの安倍氏家族への弔電に表れているとする。「私は晋三と定期的に接触していました。そこでは安倍氏の素晴らしい個人的ならびに専門家的資質が開花していました。この素晴らしい人物についての記憶は、彼を知る全ての人の心に永遠に残るでしょう。尊敬の気持ちを込めて ウラジーミル・プーチン」と書かれている。佐藤氏は続けて、「安倍氏は、ロシアが強くなることに賭けた。強いロシアと合意し、協力関係を構築する。アジア太平洋地域においてもロシアを強くする。それが日本にとって歓迎すべきことだ。地域的規模であるが、アジア太平洋地域において多極的世界を構築する。ロシアの弱さにつけ込むという賭けではなく、ロシアの力を利用し、強いロシアと日本が共存する正常な関係を構築することだ。これが、安倍が進めようとしていた重要な政策だ。」というモスクワ国際関係大学ユーラシア研究センターのイワン・サフランチューク所長の言葉を紹介している(プレジデントオンライン:2022.7.11)

これら一連の外交が気にくわなかったのが米軍産複合体やネオコンである。米外交問題評議会日本担当のシーラ・スミスは「明らかな失敗…1つはロシアのリーダー、ウラジミール・プーチン大統領に強くすり寄ったが何の結果も生み出せなかった」ことであり、安倍氏はロシアを中国から引き離し、ロシアとの戦後の領土問題を解決できると信じていたが、これは現実を知らない考えと見られているし、実際効果がなかった。アメリカでの見方では、同氏がプーチン氏と劇的解決を見出せると期待したのは、政治家として考えられない過ちであった。」と酷評した(『東洋経済オンライン』2022.7.11)。米国は安倍氏の面従腹背外交を何としてもつぶしたかったのである。

3 ブリンケン米国務長官の「弔問」は日本外交への脅し

米国のブリンケン国務長官が11日、岸田を表敬訪問した。訪問先のタイからの帰国途中に、予定を変更。安倍の死去を受け、弔意を表すために来日したと公式には発表されている。ブリンケンは「安倍氏は『自由で開かれたインド太平洋』という先見性あるビジョンを掲げた」と持ち上げたが、「自由で開かれたインド太平洋戦略」とは対中包囲網である。ブリンケンは岸田首相に対し、NATO諸国にならい、防衛費倍増しGDP比2%にすること、日米の軍事力一体化を進めることを念押しするために、わざわざ日本に立ち寄ったのである。さらに、岸田首相に「安倍氏のようになりたくないだろう」と暗に示すために立ち寄ったのである。

この間、岸田政権は中ロ両大国を敵に回した米軍軍産複合体に追随する愚策を繰り返しており、駐日ロシア大使館の外交官の追放まで行った。そのため、ロシアからの逆制裁を受け、サハリンⅠ・Ⅱなどのエネルギー権益を没収すると脅され、天に唾する結果を招来した。今後、冬に向かって、都市ガスの節約を呼びかける「節ガス」制度の設計をしなければならないところまでに追い詰められている(日経:2022.7.12)。7月12日付けの毎日新聞も「今回のロシアの動きは、対露政策を巡る日本の矛盾をつく形で『ロシアに試されている』(経済産業省幹部」との動揺が広がる)と書いている。国民に湯を沸かすエネルギーやリビングのあかりも灯せない、しかも、物価はどんどん上がる、にもかかわらず米軍産複合体に脅されて身動きも取れないというのでは、いくら参院選で大勝しようが、岸田政権は針の筵である。顔色が冴えないのも無理はない。

上記・佐藤氏の文章で、サフランチューク所長は「現在の日本政府は、別の政策をとっている。国際関係で米国との連携を強め、ロシアとの関係が著しく後退している。日本の主張は力を失っており、制裁でロシアを弱らせるという方向に傾いている。そのため短期的に、安倍氏の遺産は遠ざけられる。」(佐藤訳:同上)と書く。

リアリストのサフランチューク所長は、しかし、と続けて「中長期的展望において、安倍氏が提唱した概念の遺産、すなわち日本が世界の中で独立して生きていかなくてはならず、どのようにアジア太平洋地域の強国との関係を構築し、強いロシアと共生するのかという考え方は、日本の社会とエリートの間で維持される。いずれかの時点で、日本はこの路線に戻ると私は見ている。なぜなら、それ以外の選択肢がないからだ。」(佐藤訳:サフランチューク所長(同上)と述べている。佐藤氏は、最後に「安倍首相時代の日本外交は、一貫して対話重視であり、どこまでもリアリズムで戦略的でした」(同上)と結んでいる。

4 リアリズムが欠如する野党

元外務省国際情報局長の孫崎享氏は「参議院選で立憲、共産ともに敗北。護憲勢力たる両党がウクライナ問題で、糾弾・制裁のグループに入った時点で敗北は明確」(孫崎享:2022.7.11)と書いた。片山杜秀氏は「国際社会はロシアを非難しているという。だが、それは一種の戦略的レトリックだと承知しておく必要がある。むろん棄権国がロシア支持というわけではない。でも、ロシアと、その幾分の後ろ盾になっている中国の顔色を無視できない国々であるには違いない。しかも、金満国の米英や欧州連合 (EU)の主導する世界にあまり賛成でない国々でもあろう。世界の現実を見誤ると、持たざる国、日本の将来は危ういと思う。」(『エコノミスト』2022.6/11)と書いている。「アベ友」の一人:萩生田光一経済産業相は対ロ制裁について「勇ましいことを言う人がたくさんいるが、日本の国民の暮らしも日本経済も守らなければならない」と語った(日経:2022,6.11)。どちらがリアリストかは明らかである。逆制裁で明日の“タキギやメシ“にも事欠くような状況に国民を追い込もうと主張する政党に誰が投票するというのか。

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【投稿】参院選:自民大勝と野党共闘--統一戦線論(77)

<<比例区・野党4勝28敗>>
今回の参院選、「野党共闘」の機運がしぼみ、「バラバラ野党」と酷評される野党共闘の現状からすれば、野党はよくぞ持ちこたえた、と言えるのかもしれない。
その象徴が沖縄選挙区での、オール沖縄の野党統一候補・伊波洋一氏の当選である。オール沖縄は「選挙イヤー」の今年、名護市長選をはじめ4市長選で連敗してきており、逆風下であった。対して、与党候補・古謝氏の応援には、岸田首相や菅義偉前首相、茂木敏充幹事長などを次々と送り込み、物心両面、保守勢力全組織を挙げての全面支援態勢で勝利を当然のものにせんとしていたにもかかわらず、オール沖縄が競り勝ち、与党は敗北した。大勝したはずの自民にとってこの沖縄での古謝氏敗北の打撃は極めて大きい、と言えよう。

しかし問題は、沖縄以外の1人区の野党共闘である。前回の2019年参院選は、立憲民主、共産、国民民主、社民の野党4党が全1人区で候補者を一本化し、10選挙区で勝利している。しかし今回は、全国32ある改選数1の「1人区」で、自民党が28勝4敗となった。野党にとっては4勝28敗、野党の大敗である。
共闘が崩壊し、それでもかろうじて自民との一騎打ちが11選挙区にとどまり、野党系が議席を得たのは、立憲民主現職が勝利した青森と長野、国民民主党の現職が勝った山形のみであった。過去2回連続で野党系が勝利してきた岩手、宮城、新潟をはじめ、複数の1人区で与党候補に競り負けてしまったのである。統一候補でこそ勝てるものが、それぞれの党勢拡大のために足を引っ張り合った結果がこれである。
野党共闘を崩壊に導き、自民大勝をもたらした立憲民主党幹部、連合労組幹部は責任を問われてしかるべきであろう。野党第1党の求心力を自ら放棄した泉党首をはじめとする執行部は刷新されるべきであろう。
同時に徹底して野党共闘を追求すべき共産党も、事実上の野党統一候補路線、押しかけ統一候補路線を放棄し、独自候補による共産党比例票拡大にのみ戦略的重点を置いた選挙戦略そのものが、共産党の後退をもたらしたことを深刻に反省すべきであろう。

<<政局転換の余地>>
こうした野党共闘後退の結果、改憲勢力は、与党の自民、公明党に加え、日本維新の会と国民民主党を合わせて3分の2を超える勢力を獲得した。数だけをみれば、4党で改憲発議に必要な3分の2を超えている。しかし選挙戦、街頭演説ではほとんど9条改憲論議は素通りである。
なおそれでも、選挙戦終盤、安倍前首相が銃弾に倒れるという異常事態で、危惧された「弔い選挙」による自民党の超圧勝に至らなかったこと、自民を超右派路線で補完する維新躍進による野党第一党化も阻止されたこと、与党すり寄り路線に転じた国民民主党が後退したこと、などは、まだまだ政局転換の余地があることも同時に示していると言えよう。

あらためて、選挙結果を確認すると、

第26回参院選 全議席 新勢力
自民  119 ( 8 増 )
立憲   39 ( 6 減 )
公明   27 ( 1 減 )
維新   21 ( 6 増 )
共産   11 ( 2 減 )
国民   10 ( 2 減 )
れいわ   5 ( 3 増 )
N党   2 ( 1 増 )
社民   1 (横ばい)
参政   1 ( 1 増 )
無所属 12( 3 減 )

比例代表 党派別得票・獲得議席
党派  改選 今回   得票               得票率
自民   19      18      18,258,791    34.4%
維新     3       8        7,845,985    14.8%
立民     7       7        6,769,854     12.8%
公明     7       6        6,181,431      11.7%
共産     5       3        3,618,342       6.8%
国民     4       3        3,159,045       6.0%
れいわ 0      2         2,319,159       4.4%
参政     0      1          1,768,349      3.3%
社民     1       1          1,258,621      2.4%
N党     0      1          1,253,875      2.4%

この比例区の得票数、得票率から現時点で留意すべき点、指摘されるべき弱点として、
・社民党・福島党首が何とか持ちこたえ、政党要件としての得票率も2%をぎりぎり確保したこと。
・共産党は、最重点を置いた比例区得票拡大戦略にもかかわらず、2013年515万票、2019年450万票、そして今回360万票と得票数を大きく減少させていること。
・れいわ新選組は、前回228万票で、今回231万票、2議席確保したが微増であり、山本太郎氏は9年前の東京選挙区で66万6千票獲得していたが、今回56万5千票と約10万票ほど減らしていること。

野党第1党・立憲民主党の求心力が働かない現状の中で、この社民党・共産党・れいわの大胆な統一政策の練り上げ、野党共闘のイニシアチブ、広範で多様な統一戦線の形成が要請されているのではないだろうか。
(生駒 敬)

 

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【投稿】安倍晋三元首相「暗殺」の背景

【投稿】安倍晋三元首相「暗殺」の背景

                           福井 杉本達也

1 安倍元首相「暗殺」される

7月8日午前11時32分、奈良市西大寺・近鉄大和西大寺駅前において、参院選のため街頭演説をしていた安倍晋三元首相が背後から近づいた男に銃で撃たれ「暗殺」された。7月9日付け毎日朝刊一面トップ見出しは「安倍元首相撃たれ死亡」・社説は「安倍元首相撃たれ死去 民主主義の破壊許さない」、朝日は「安倍元首相撃たれ死亡」社説は「民主主義の破壊許さぬ」、読売も「安倍元首相撃たれ死亡」・社説は「安倍元首相銃撃 卑劣な凶行に怒り禁じ得ない…要人警護の体制不備は重大だ」、日経も「安倍元首相撃たれ死亡」・社説は「絶対に許されぬ民主主義への凶行」である。2年前まで日本国のトップの人物を狙った犯行である。周到な計画の下に実行されたと思われる。「政治的動機」がないはずはない。しかし、1面トップで「暗殺」あるいは「テロ」などの見出しを掲げると、実行者の政治的動機や背景を書かざるを得なくなる。各紙はそろって意識的に「政治的動機」の追及を避けるため全く同じ見出しを掲げたものと思われる。

2 明らかに手抜きの要人警護―批判をかわすため死亡発表を意図的に遅らせる

読売新聞奈良支局の平野和彦記者、社会部の建石剛記者の記事では、「目撃者の話やSNSに投稿された映像によると、…安倍氏の後ろの車道を挟んで十数メートル離れた場所で、しばらく演説を聞いていた。その後、歩いて車道を渡り、ゆっくり安倍氏の背後に近づくと、警察官に制止されることなく発砲していた。」「警察幹部は『容疑者が車道に出た時点で、警察官が声をかけなければならなかった。完全に警察の落ち度だと認めざるを得ない』と話す。」と書いている(2022.7.9)。また、スポーツニッポンは元警視庁刑事の吉川祐二氏のインタビューで「安倍氏の背中側にも警備はいたが、銃撃を許した。吉川氏は『容疑者が安倍氏に迫った際、背中側には警察官らしき人が2人いた。1人は不審者に気がついたのか、もう1人に耳打ちした。本来はこの時に不審者に詰め寄るべきだった。銃撃以前に、至近距離の背後に入られた時点で警護は失敗だ』と語った。」とし、もう1人のインタビュー者の「日本ボディーガード協会の阿久津良樹会長は『映像を見ると、SPが1発目で反応できておらず、2発目も撃たせてしまった。犯人は3メートルという距離にいたのに、状況を認識できていなかったのでは』と指摘。『守るべき範囲に入ってきた人物には気づくはずだ』と疑問を呈した」と書いている(2022.7.9)。

先に、辻元清美氏が福井市を訪れた。金沢からの流れで急遽決まったものである。辻元氏は先の衆院選で落選し、現在は全くの「ただの人」である。しかし、県警は私服警官を20人動員し会場周辺を10メートル間隔で警備し、その他、交通関係の警察官も動員した。むろん、事務所に侵入されたという事件もあったからだし、当日は右翼の街宣車も来ていたということもあるが、これが通常の警備体制である。それに比較すると、安倍元首相の警備体制は元首相・与党最大派閥の首領というにはあまりにもお粗末である。

もう1点、死亡時刻の偽造がある。救急車が現場到着した11時40分頃には「心肺停止」状態にあった。しかし、消防には医師はいないので、死亡診断は医師しか出せない。奈良県立医大病院に運ばれた時点で死亡が確定する。13時には「死亡」を確定していてもおかしくはない。しかし、それを4時間も引き延ばした。この4時間の間に、マスコミへの世論工作と閣僚の口裏合わせ、警備体制に批判が向かわないような時間操作を行ったのである。

3 「暗殺」の政治的背景を語らないと決めた政府・マスコミ

元外務省国際情報局長の孫崎享氏は、7月8日のIWJの岩上氏のインタビューにおいて、安倍氏の銃撃事件に関する報道はおかしいと指摘している。岩上:事件からわずか5時間後:「まず、NHKが報じたものです。『容疑者は「安倍元総理大臣に対して不満があり、殺そうと思って狙った」という趣旨の供述をしている一方で、「元総理の政治信条への恨みではない」とも供述しているということです』。そもそも、家宅捜査が始まったばかりの段階で、孫崎:「この資料(FNNの記事)に書いてあるのは、『奈良県警は認否をまだ明らかにしていないが、動機について「安倍元首相の政治信条に対する恨みではない」と話しているという』」。岩上:「すごいことですよね。まだ殺害行為の認否を明らかにしてないのに、まず先に犯行動機の中に『政治信条への恨みではない』と」 孫崎:事件の「認否もしてないのに、『思想は関係ない』ということを本人が言いますかね?」、孫崎:「『政治信条は関係ない』という最初の報道(NHKの記事によれば)ですが、『総理に対して不満があり、殺そうと思っていた』と、言っているわけです。(中略)その不満というのは、殺そうとするほどの不満なわけですよ。この個人と安倍さんとの関係があるかっていうと、まず個人的なものはないと見ていいでしょう。そうすると、個人的なものがなくって殺そうとするまでの不満がある。でも、それは政治信条の恨みではないと」いう。孫崎氏の言葉を借りるまでもなく。個人的関係が全くない政治家を(厳しい警備体制をかいくぐって)殺すという究極的行為を行うのに、「政治信条」がないというのは全くおかしいかぎりである。

4 警備体制の厳しい日本で白昼堂々と要人を「暗殺」できるのは外国勢力のみ

厳しい警備の網をかいくぐって、白昼堂々と元首相という要人に3メートルの距離まで近づいて、しかも銃を2発も発射して、確実に「暗殺」した。「警備体制が緩んでいた」と批判されているが、官僚組織が自らの判断で手抜きすることはない。誰かが手を抜くように指示したとしか考えられない。指示者は官邸を占領する治外法権の外国勢力以外にはない。無論これに証拠はない。

5 ロシアよりの安倍元首相の発言

5月29日付けのSputnikのよると、「日本の安倍晋三元首相はウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のNATO加盟に関する姿勢とドンバスでの紛争解決の拒否が、ロシア軍による特殊作戦が始まった原因であると表明した。安倍氏は英誌エコノミストとのインタビューで『ゼレンスキー大統領に対して自国がNATOに加盟せず、ウクライナ東部の2つの地方に自治権を与えると約束させることができた場合、軍事行動は回避できただろう』と述べた。安倍氏は、ゼレンスキー氏の立場を変えることは非常に難しいだろうが、バイデン米大統領であれば影響を与えることができただろうと述べた。」と報道している。

6 背景に米軍産複合体による「サハリン1・2」で動揺する日本を抑える目的か?

6月30日、ロシアのプーチン大統領は日本の商社も出資するロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡するよう命令する大統領令に署名した。日本の液化天然ガス(LNG)輸入量の約1割を占めるサハリン2を失えば、大変なエネルギー危機に陥る。さらに「サハリン1」についてもロシア政府の管轄下に置くよう、下院のエネルギー委員長が言及している。

金子勝立教大学大学院特任教授は7月7日に「【戦争犯罪者プーチンの脅迫に逃げるキシダメ政権】アベ害交の不良債権に、一方で「ロシアを経済制裁」と言いながら、サハリン、アーク2では「プーチン支援」で日本の権益という二枚舌のキシダメ政権。ついに記者会見で「コメントせず」で逃げ出した。対ロシア政策も破綻。」とツイートしている。金子教授の勝手な妄想とは裏腹に、もし、「サハリン1・2」からのエネルギーが途絶えれば日本は危機的状況に陥る。官僚組織もそれは分かっており動揺している。安倍元首相をロシアへのエネルギー確保の密使にという話も出た。安倍元首相の「暗殺」は米軍産複合体に逆らえばどうなるかという脅しの可能性もある。

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【投稿】ガス不足で今冬には日本は凍え死ぬ―「サハリン2」からの日本企業撤退要求と日本政府の対応―

【投稿】ガス不足で今冬には日本は凍え死ぬ―「サハリン2」からの日本企業撤退要求と日本政府の対応―

                            福井 杉本達也

1 「サハリン2」から日本排除も

ロシアのプーチン大統領は6月30日、日本の商社も出資するロシア極東の液化天然ガス(LNG)・石油開発事業「サハリン2」の運営を、新たに設立するロシア企業に譲渡するよう命令する大統領令に署名した。「同事業に参画する三井物産と三菱商事はロシア側の条件をのまないと株主として残れない事態に発展した。日本の液化天然ガス(LNG)輸入量の約1割を占めるサハリン2を失えば、電力の供給不安は一段と深刻になる」(日経:2022.7.2)。

政府は4月8日にロシアによるウクライナ侵攻の追加制裁を表明し、資産凍結をロシア最大手銀行のズベルパンクに広げ、ロシア産石炭の輸入を禁止、在日ロシア大使館の外交官ら8人を圏外追放した。日ロ間は戦争状態でもないものを、米国のいうがままにロシア資産を凍結するなどという行為は窃盗である。日本や反ロシア派がやっていることは、日本を滅亡させるための愚劣極まる行為である。「サハリン2」は日本に最も近いガス田であり、輸送コストも低い。天に唾する行為であり、もはや、対ロ制裁の失敗は誰の目にも明らかである。日本が敵視している中国の企業が「サハリン2」の代わりに入るかもしれないよ。ウクライナ戦争は欧州での話であり、極東の日本とは全く無関係の話である。米国の言いなりになってロシア制裁に加わればこういう結果となることは目に見えていた。ロシアは何度も日本にシグナルを出していたが、それを無視し、欧米の手先としての道を選んだ。しかし、損害を被るのは日本国民である。岸田首相は「サハリン2」ショックに対し「ロシアの対応を注視」・「関係企業と連携して対応を検討」という、全く頭が空っぽのコメントを出した。明日にもエネルギー危機で国家が綴れるかもしれないという必死さを全く感じない。7月2日のテレビ東京BIZで松尾日本経済新聞編集委員は、「サハリン2」のLNGを日本は600万トン輸入しており、仮に全面停止となれば冬場には「強制停電」もありうると心配する。日本は冬場に電気なしで凍え死ぬ。岸田氏の発言は哀れとしかいいようがない。

 

2 支離滅裂の岸田首相のNATOサミット出席

岸田首相ほど日本国の国益を積極的の損ねている人物はいない。日本はNATO加盟国ではない。NATOは加盟国が攻撃された場合、全体への攻撃とみなし「集団安全保障」を敷く。日本は極東に位置し、NATOは北大西洋である。それを何をのこのことNATOまで出かけたのか。春名幹男氏は「岸田首相の動向を見ている限り、外交・安全保障政策は支離滅裂です。今回のNATO首脳会議で『米欧VS中ロ』の対立構図は鮮明となり、世界が新たな冷戦体制に向かっていくことがハッキリした。日本が米欧側に立ち、NATOの準加盟国を志向していることも明確になった。これは戦略的転換です。経済的かつ政治的な枠組みであるEUとの関わりを深めるのならまだしも、核共有制度をとり、核戦力を基礎とする軍事同盟のNATOへの接近は、国是として堅持してきた非核三原則に反する。岸田外交は矛盾だらけ。抑止力どころか、周辺国を刺激して緊張を高めるだけです」(ゲンダイ:2022.6.30)と手厳しく批判した。中国も「東アジアの未来を語る前 東アジアの昨日に何が起こったか反省してほしい」=中国外交部報道官が日本側のNATOサミット発言を批判。外交部の趙立堅報道官は1日、日本の岸田文雄首相によるNATOサミットでの発言を批判した(CRI:2022.7.1)。

今度のNATO会議にまんまと乗せられた岸田首相。「サハリン2」の接収は元々容易に予想出来た。「サハリン2」とNATOとどっちが大事なのか?アメリカの言う事に追従し、自国の利害を深読みできず、あまりにもお粗末な外交無知である。

 

3 米国の操り人形として無節操に動く岸田首相

米国の言いなりで国益を全く無視して無節操に動く岸田首相は、国民にとってあまりにも危険な首相だ。「ジャン・アダムズ駐日豪州大使は、「米国やG7の対ロシア制裁に完全に同調した日本のスピード感は、エマニュエル大使がお膳立てした効果的なコミュニケーションがあった」と指摘」した(ブルームバーグ)。官邸は完全に外国勢力に乗っ取られてる。米国の言いなりに対ロ制裁を繰り返し、挙句にNATOサミットにまで顔を出し、その先の結果も考えない。物価高に円安、さらにエネルギー危機・電力危機、農業用肥料高騰となれば、いいかげん国民は目を覚まさなければならない。

かつて、米国から締め付けられて、イランのアーザーデガーン油田の開発利権を手放した。代わりに参加したのは中国石油天然気集団(CNPC)である。対米追随で日本が大損した。今やイランも上海協力機構(SCO)加盟国である。開発利権に空席が出れば誰でも参入する。中国や韓国・インドなどは手ぐすねを引いて待っている。

 

4 日ロ漁業協定・知床観光船遭難行方不明者捜索でも後手後手

ロシア外務省が北方領土周辺水域での日本漁船の「安全操業」を担保する漁業協定の履行を停止すると発表した。日ロ漁業協定は1998年に締結されたもので、日本側が資源保護への協力としてロシア側に資金を支払い、日本漁船がクリル諸島で操業するものであるが、今回「日本側が、協定に基づく支払いを『凍結』した」としていた。その後、2022年は昨年より200万円少ない8800万円を日本側が支払い、解禁された。これに対し、日経新聞の6月9日付け社説は「ウクライナ侵攻に伴う制裁の責任はすべてロシア側にある。漁業交渉に結びつけるのは、両国の信頼関係を大きく損なう決定で遺憾だ。」「今後、新たな報復措置を打ち出す可能性がある。政府はそれらに備えるとともに、屈することなく、自らの立場を貫いてほしい。」と書いた。「立場を貫い」たらどうなるのか。全面衝突以外にない。全くの米国の広報紙である。

知床半島沖の観光船沈没事故後、北方領土・国後島で見つかった男女2人の遺体と、事故で行方不明となった2人のDNA型が一致したとの連絡が、ロシア側からあった。遺体の早期引き渡しに向けて調整を進めていく(福井:2022.6.25)としているが、事故から2か月、早くから遺体があるとの連絡を受けたにもかかわらず、まだ遺体の引き取りもできない・引き取りのやる気もないというのは遺族にとってあまりにも非情であり、後手後手の対応である。

 

5 ドイツや、当の米国の方が制裁を回避して賢く動いている―無能の岸田も頭を少しは使え!―

Sputnik 6月14日付けによると、米国財務省は、制裁対象のロシアの銀行とのエネルギー関連取引を12月まで許可する一般ライセンスを発行した。同省によると、、Vnesheconombank、Otkritie、Sovcombank、Sberbank、VTB、Alfa-Bank、およびロシア中央銀行との取引が許可される。ライセンスの目的は「エネルギーに関連する」もので、原油、リース凝縮液、未完成の石油、天然ガス液体、石油製品、天然ガス、またはエネルギーを生産できるその他の製品が含まれる。これは、原子力、熱、再生可能エネルギー源を含むあらゆる手段によるバイオ燃料、またはウラン、ならびにあらゆる形態のウランの製造、ならびに開発、生産、生成、送電、または電力の交換に使用される石炭、木材、または農産物も含まれるという広範囲なものである。米国は自らが制裁を課しながら、自らは制裁を必死に回避しようとして動いている。また、ブルームバーグによると、バイデン政権は農業会社や海運会社にロシアの肥料をもっと購入して運ぶよう静かに促している(Zerohegee 2022.6.14)。

また、ドイツなどEU諸国は、エネルギー危機のリスクが高まる中、ガスの支払いをルーブルで行うというロシアの要求に同意したとワシントンポストが報道した。ワシントンポストは、この同意をロシア側の「勝利」と呼んでいる。ロシアのアレクサンドル・ノヴァク副首相は、ロシア国営ガス企業ガスプロムの輸出子会社「ガスプロム・エクスポルト」の顧客である54社の約半数がルーブル口座を開設したと述べている(Sputnik 2022.5.26)。

欧米諸国は自ら課した制裁から自らだけが逃れるため、あらゆる方法を駆使している。それと引き換え、日本は全く何も考えず、米国の言うがままにロシアに対する非友好国として振舞っている。いくらバカとはいえ、少しは自らの頭で考えなければ、国民生活はどん底に突き落とされる。

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【投稿】電力危機を原発再稼働の理由にするも、福島第一「廃炉」の腰は定まらず

【投稿】電力危機を原発再稼働の理由にするも、福島第一「廃炉」の腰は定まらず

                              福井 杉本達也

1 またまた、「電力需給逼迫注意報」の発令

今年は東北地方以外は6月中の梅雨明けで、異常な暑さとなっている。経産省は6月27日、東京電力管内に電力の需給逼迫注意報を出した。注意報は電力の需要に対する供給力の余力を示す「予備率」が5%を切る見通しになると出すという。東北電力・北海道電力管内も供給余力は厳しい。さらに、関西電力も、計画停止中の大飯原子力発電所4号機(出力118万キロワット)の定期検査中に、蒸気発生器に水を送るポンプの二次系配管からの水漏れを確認し、発電の開始が7月下旬と予定より3週間程度遅れると発表した。運転再開の遅れにより、北陸、関西、中園、四国、九州の5電力管内の7月の予備率は3・8%から3%に下がる見込みとなった。関電によると原子炉起動・停止時に使用する電動主給水ポンプの配管に直径1ミリの穴が空いたというもので、1993年の営業運転開始以降、この配管は一度も交換していないという。実に恐ろしい状態で再稼働していたものである。関西電力には福島第一原発事故の教訓は何一つ生かされてはいない。

 

2 「電力自由化」という経産省の愚策が招いた3月の「電力危機」

経産省は、今年3月21日の夜、東電管内について「電力需給逼迫警報」を出している。気象庁は22日の東海、関東地方は真冬並みと発表していた。3月16日に、最大震度6強、マグニチュード7.4の福島県沖の地震が発生し、火力発電所が10箇所以上が停止し、3月18日には東電は節電を呼びかけた。その後多く火力発電所は復旧できず、新地火力(相馬共同火力発電の石炭火力100万kWが2基)、広野火力6号機(東電の石炭火力60万kW)などは損傷が大きく、その後も止まったままだった(参照:2022年6月「月刊たんぽぽ舎ニュース」山崎隆久)。

萩生田経産相は、電力供給力の低下の原因として、「火力発電の休廃止があいついでいる」ことをあげた。経産省の調べでも、2016年の電力小売全面自由化後、電力大手が持つ火力発電所が石油火力を中心に急激に減少している。具体的に見ると、東京電力と中部電力の火力発電部門を統合して発足したJERA(ジェラ)は、2020年までに茨城県神栖市の鹿島発電所5、6号機、福島県広野町の広野発電所2号機など東京電力管内13基、愛知県田原市の渥美発電所4号機など中部電力管内2基の石油火力をすべて休止ししている。2021年度はLNG火力の千葉県市原市の姉崎発電所5、6号機を廃止。三重県四日市市の四日市発電所4号機など計3基を休止した。関西電力も老朽化した火力発電所を廃止している。石油火力で2019年に和歌山県海南市の海南発電所1~4号機、2020年に大阪府岬町の多奈川第二発電所1、2号機、LNG火力では2021年2~3月に兵庫県姫路市の姫路第二発電所の既設5、6号機を廃止した。海南と多奈川第二は発電所自体を廃止している。石油火力でも和歌山県御坊発電所2号機を2019年に休止した。2021年までの5年間で休廃止された石油火力は原発10基分に相当する出力約1000万キロワットにのぼる。(長周新聞:2022.4.1)。経産省が主導した世紀の愚策ともいうべき電力の自由化政策で、採算性の悪い古い火力発電所が大量に廃止されてきたことが「電力危機」を招いている。

 

3 「電力危機」から原発再稼働を目論む政府・電力会社

資源エネルギー庁長官は、4月中旬の自民党本部の会合で「電気が足りないないなんてあってはならない。ロシアにつけこまれ燃料を接収されるかもしれない。原発を動かせ」と出席議員から叱責されたという(日経:2022.6.6)。日経は「主力電源の一つの原発は、原子刀現制委員会の安全審査を通過したもの17基ある。動いているのは4基のみで、残る13基の発電能力は計1300万キロワット、危機下でも電力は十分賄える。」と書く(日経:同上)。既に5月27日の衆院予算委員会で、岸田文雄首相は原発を巡り「エネルギーの価格安定、安定供給、温暖化対策を踏まえた場合、安全性を大前提に原子力を最大限活用していくことは大事だ」と述べ、再稼働を急ぐ方針を明らかにしている(福井:2022.5.28)。こうしたことを受け、日経の6月6日の社説は「原発には稼働中、二酸化炭素(CO2)をほとんど出さない」とまず嘘を並べ、次に「ウクライナ危機はエネルギー安全保障の重要性を再認識させた。」と、エネルギー安全保障を持ち出し、「原発がなぜ必要なのか。そのために国民の理解をどう得るのか。原発をやめるなら代替手段をどう確保するのか」と国民を脅す。

しかし、首相の口先の原発再稼働推進宣言のわりには、動きは鈍い。問題の第一は福島第一原発の”廃炉工程”である。40年で廃炉にするというが、全く先は見えない。常識的には”廃炉”などできっこないのであるが、“やっているふり”のために、無理やり「工程」をつくっているだけである。東京電力は5月23日、福島第一原発1号機原子炉格納容器底部を水中ロボットで撮影した画像を新たに公開したが、映像を見た資源エネルギー庁の木野参事官は「『それにしても激しい損傷で、ちょっとびっくりですね。これだけやられているとは思っていなかった』驚いたというのが、原子炉圧力容器の下で確認された、設備の激しい損傷です。木野参事官『下が空洞になっている。デブリの熱でコンクリートが溶かされたか、蒸発したことが考えられる』撮影されたのは、原子炉圧力容器の真下にあるコンクリート製の『ペデスタル』付近。圧力容器を支える土台に当たる部分です。本来、コンクリートで覆われているはずのこの場所が、映像からは空洞が確認でき、鉄筋が露出してしまっています。デブリの熱は2800℃ほどとされていて、コンクリートを溶かしてしまったとみられます。」(日テレ:2022.5.29)と報道されている。近づくだけで数秒で即死するような放射性デブリの回収などできっこない。政府はいつまで“廃炉ごっこ”をするつもりなのか。

日経新聞6月30日付けによると、西の中部電力・関西電力などの60ヘルツ帯の電力を東電などの50ヘルツ帯の東に送電できる電力融通は、大震災時点では100万キロワット、現在でもわずか210万キロワットしかなく、計画の300万キロワットににするには2027年度までかかる。同じ50ヘルツ帯の東電と東北電力管内でも電力融通は現在500万キロワットであり、1028万キロワットになるのは同じく27年度中である。大震災で電力網がズタズタになり、電力融通の重大さが認識されたと思われたが、11年たってもこのありさまで、首相を始め「原発再稼働」のみしか口にできない、しかも電力価格高騰には節電ポイントというズレまくった政策しか出せないようでは、いかに、政府・経産省が無責任・無用な存在であるかを今回の「電力危機」は明らかにしている。

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【投稿】ドル支配瓦解への胎動--経済危機論(86)

<<G7:ロシア産・金の輸入禁止を宣言>>
6/26、米、英、独、仏、伊、日本、欧州連合のG7首脳は、ドイツのバイエルンで開かれたサミットに集まり、失敗と失態を続け、むしろ逆効果を招いている対ロシア制裁政策のさらなる強化に乗り出した。
一つは、ロシア産ガス・石油の輸入禁止に加えて、上限価格を設定して輸入禁止を一層徹底させたい狙いで、一定価格以上で売却されたロシア産石油の輸送禁止を検討することで合意したとされている。しかしこの動きがさらなる「供給不足」で一層の値上げを招くことが懸念され、意見の不一致を露呈、具体的な合意に至らず、であった。6/28、米政府当局者はこの上限価格設定案について、インドやアフリカ、中南米諸国などとも近く協議を開始することを明らかにした。
サミットでは代案として、ロシア産石油輸入の保険適用禁止が提起されたが、すでにEU諸国は海上船舶の保険の禁止を実行しており、価格上限を設定すること自体が、制裁措置の一部を解除する必要があることから、自己矛盾に陥る事態を招いているのである。まるで行き当たりばったりそのものと言えよう。
さらにこのロシア産石油の輸入禁止措置については、欧州連合としては今年末までにほぼ全面禁止することに合意した、としている。しかし、EU諸国の中でも、ハンガリーはロシアからの石油の86%、チェコは97%、スロバキアはほぼ100%をパイプラインを通して確保している。賛同など得られるものではないし、実行不可能なのである。
その上に、この制裁政策で致命的欠陥があるのが、石油よりも代替品を見つけるのがより一層困難、かつ依存度がさらに高いロシア産の天然ガスを禁止するかどうかという問題である。これはG7においてもEUにおいても不問に付されていること、問題提起さえできていないことである。ドイツの政界・産業界のリーダーたちは、ガス禁輸はドイツ経済に壊滅的な打撃を与えると警告している。もしG7が戦略的・核心的な制裁効果を期待したいのであれば、不問にはできないはずであるが、不問にせざるを得ないのである。
そもそもこうした制裁措置自体が、米バイデン政権の対ロシア・対中国の冷戦政策・緊張激化政策と一体のものとして提起され、現実を無視したことによって、これまでにないエネルギー価格の高騰、世界的なインフレの高進というブーメランとして自らに跳ね返ってきているのである。

そこでさらに新たに登場したのが、ロシア産・金の輸入禁止宣言である。世界で最も古い貨幣、実物資産として裏付けを持つ金を国際市場で自由に交換できな

G7 ロシア産の金輸入禁止を発表

くさせようというわけである。
バイデン政権は、エネルギーに次ぐ輸出品であるロシアの金を禁止すれば、ロシアは年間190億ドルの収入を得ることができなくなる、と主張している。バイデン氏とブリンケン米国務長官は演説やツイートで、その収入の流れを断つことが「重要」だと繰り返している。

<<脱ドル化の加速>>
6/27、このニュースで、金地金は0.8%上昇したが、その後最大の取引市場であるロンドン市場では、0.2%増の1オンス=1830.05ドルに下げている。この制裁措置が長期的な影響を与えることはほとんどないと判断されたわけである。
そもそも金地金の最大の需要国である中国とインドは、G7に加盟していないしし、縛られる必要もない。G7諸国は世界の金消費量の5分の1にも満たないのに対し、消費量の約半分は中国とインドによるものである。「したがって、彼らの需要は、ロシアの金属で満たされ続ける可能性があり、即時の不足は考えにくい」のである(ブルームバーグニュース 6/27)。制裁効果ゼロの制裁なのである。いやむしろ、バイデン氏やG7の決定は、金市場までもが、石油制裁と同様、ロシアの友人にとっては安く、ロシアの敵にとっては高くなる、逆効果をもたらすことが歴然としているのである。

中国、ロシアの金保有量は80%以上増加しているが、ドル債保有量は20%減少している。

問題は、このロシア産・金の輸入禁止制裁がはしなくもドル一極支配体制崩壊への胎動を世界的に明らかにしたことにあると言えよう。
金地金の最大の買い手はG7諸国ではない。投機的金融資本主義に席巻されてきたG7諸国は、名目貨幣資産の裏付けとしての金地金の価値を軽視し、金を売却し、意図的に金地金の裏付けを減少させてきたのであった。いや、現実には金地金を再購入する資金的余裕さえなくなってきたのであった。そんな資金があれば、マネーゲームや投機でひと稼ぎした方が価値があると見なされ、実体経済とかけ離れたバブルに酔いしれてきたのである。
一方、中国とロシアだけをとっても、両国の金保有量は80%以上増加しているが、ドル債の保有量はここ数年で20%も減少しているのである。ロシアは過去10年間、金のトップバイヤーとして、その金準備を2011年末の883トンから2021年末には2302トンにまで押し上げている。いくら金の輸入禁止を唱えたところで、名目資産であるドルとは違って、金は実物資産であり、金の直接取引・直接供給も可能なのである。
なおかつ、金地金を購入しているのは、主としてインドやトルコなどの発展途上諸国の中央銀行であり、中国である。これら諸国は、ドル資産の蓄積から、金地金という実物資産に資本を配分する、つまりは脱ドル化することの重要性に明確に舵を切り替えだしたのである。裏付け資産としての金の軽視がドル債権の価値・準備資産としてのドルの価値を一貫して低下させてきたところへ、さらなるロシア制裁として、ロシア産・金の輸入禁止を打ち出したことは、逆にドル資産保有の危険性、インフレ高進によるさらなるドル価値の減少の進行をあぶりだし、G7以外の世界各国の脱ドル化を加速させる必然性を明らかにしたのである。

経常収支の黒字・赤字。ロシアと米国の比較、1999-2022年

バイデン政権やG7の一連の対ロシア制裁措置は、ことごとくブーメランとして自らに跳ね返ってきている。逆にロシアのルーブルは、対ユーロで7年ぶりの高値にまで上昇し、ロシアの経常収支は記録的な黒字となり、対してアメリカは記録的な赤字に陥っている。短期的に見ても、長期的に見ても、制裁が、ドル一極支配体制瓦解への道を掃き清めだしたのだと言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】金融危機が迫る中、従属国の日本には「ドル売り」=「円安」修正は不可能

【投稿】金融危機が迫る中、従属国の日本には「ドル売り」=「円安」修正は不可能

                                                               福井 杉本達也

1 「物価の高騰はロシアのせい」か―米欧の経済制裁こそ要因

「岸田文雄首相は15日の記者会見で、物価高に関し、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ『まさにロシアによる価格高騰、【有事の価格高騰】だ』と訴えた」(産経:2022.6.15)。しかし、米国とその西側同盟国によって課された禁輸措置は、当初意図したように、ロシアを封じ込め、経済を窒息させるのではなく、逆に制裁者自身の経済を押しつぶしつつある。ロシアへの経済制裁は、実際は、石油や穀物のようなロシアの輸出品の価格を上昇させ、ロシアを貧困化させるどころか、豊かにし、逆にEUはガス不足に苦しみ、アジア・アフリカ諸国はは高騰した小麦やヒマワリ油などの食料や肥料の手当に苦しんでいる。

日本の物価高騰の原因は、資源高と円安であり、これに対応しない限り、物価高騰を防ぐことはできない。資源高にプラスして円安により、電気料金や食料品価格を中心に、値上げラッシュが始まっている。原油価格などの資源価格の高騰は、世界的な問題であり、日本一国の努力ではどうしようもない。だが、円安については、コントロールが可能である。岸田政権は物価対策を講じるとしてガソリンに対する補助金などを講じている。しかし、円安を放置したまま個別の物価に対策を講じても、巨大な財政赤字が膨らむ一方で、効果はない。日本は、これまで長期にわたり円安政策をとってきた。しかし、自国通貨どんどん安くなること、自国の経済的地位が低くなることが国益であるはずはない。

 

2 円安の原因はアベノミクス=黒田日銀による異次元緩和にある

6月13日の外国為替市場で円相場が一時、135 円台前半まで下落し、金融危機の1998年以来、約24年ぶりの円安・ドル高水準に逆戻りした。円安を招く構図は当時と様変わりし、国内産業の空洞化により、産業競争力が失われている点だと日経新聞は指摘する(日経:2022.6.14)。6月12日の日経によると、物価や経済状況からみた円とドルの相対評価である理論値では1ドル110円前後と試算され、実勢レートは理論値(購買力平価)に比べ大幅に円安に傾いている。米金利の上昇観測が一段と強まったことにより、日米金利差の拡大を手掛かりにした円売り圧力がかかっている。資金は低い金利の国から高い金利の国に流れる。日米の金利差:2年金利の差は10日に3・1%台と2018年11月以来の水準まで広がっている。

この日米金利差は何も市場で自然に生まれたものではない。アベノミクスによる2013年以降の日銀の異次元緩和の国債購入による円安圧力にある。米国が金融引締め政策を推進するなかで黒田日銀は頑固に金融緩和政策を維持している。長期金利は本来、金融市場が決定するものだが、この長期金利を日本銀行が人為的に定めようとしている。日銀が長期国債を買い支えて量的緩和を維持する「人為的低金利政策」である。黒田日銀総裁は4月28日の会見で、長期金利(10 年債の利回り)は、0.25%を上限とし、0.25%に下がるまで、無限に指し値買い(日銀が国債を買うこと)を行う」としている。米FRBが金利を上げる中、日銀は正反対に、無制限に円を供給して円安を誘導するのであるから、ヘッジファンドに「円売りでの投機をしろ」と誘導しているようなものである。日銀の金融緩和策で、円は、世界一下落が大きい通貨となり、この27 年で1/2 に下がってしまった。これは他国に対して、日本人の世帯所得が1/2 になったことを示している。OECD(経済協力開発機構)の平均賃金比較によれば、1997年を100として、2020年の平均賃金は、米国:206、英国190、カナダ184、独159、仏158、伊140だが日本は93に下落している。

日銀はなぜ、この期に及んでも、米欧の中央銀行とは正反対の金融緩和策を取り続けるのか。それは、日米の金利差を確保することによって、安定的に日本の資金を米国に流入させるためにである。また、米国は日本の安い商品を購入することで、インフレによる物価の高騰を少なからず抑えることができる。これは宗主国の従属国に対する命令である。日本政府・日銀という宗主国の代官は、国民に貧しい生活をさせても、宗主国の経済的利益を守るために励んでいる。いくら円安になろうと、日銀は勝手に量的緩和を止めることはできないのである。

 

3 日本はドルを売って円高にすることは可能か

円高に誘導するため、日本は手持ちのドルを売って円を買うことはできるのか。かつて、ミスター円といわれた榊原英資元財務官は「介入には米国の支持が要る。私が現役のころは『介入するぞ、支持してくれ』と伝えて、少なくとも『反対しない』という了解を取った。今の米国は同意しない。ということは介入できない、日本の単独介入でも米国の同意は必要だ。」(日経:2022.6.17)と答えている。日本は1兆3千億ドルの外貨準備を保有しており、その多くが米国債であるが、それを使うことはできないということである。具体的には外国為替資金特別会計の米国債を金融市場で売却して、一旦ドルを調達し、そのドルを外国為替市場に売却して円を買うということであるが、米国債を売るということは、米国債が値下がりし、金利が高騰することとなる。財政赤字に苦しむ米国の国家財政をさらに追い詰め、ドルの信認を低下させ、暴落させることとなる。もちろん、日本が米国債を売却するならば、最大の3,1兆ドルという外貨準備を持つ中国は当然それに追随することとなろう。逆に、為替介入ができないということであれば、米国債は日本にとっては正当な債権ではなく、塩漬けされた“債権”は、単なる紙切れとなる。日本の商品を米国に輸出して外貨を稼いでも、その額面は0に等しいということであり、タダ働きで米国に商品を輸出したことになってしまう。米国は日本に働かせて、その血と汗で稼いできた金で昼寝ができることになる。全くの不等価交換である。これでは益々日本の国富が米国に搾取されることになる。

 

4 金融危機が迫り、世界からドルをかき集める米国

米国企業のバランスシートが傷み始めている。6月14日付の日経新聞は「米国企業による財務安定のための海外からの資金還流がドル高を招き、ドル高が収益を圧迫して信用リスクを高め、さらなる資金還流を招く悪循環」が起こっているとする。FRBの金融引き締めで景気後退懸念が強まり、財務体力の低い企業の債務不履行(デフォルト)リスクが意識され、投資マネーが流出している。2008 年のリーンマン・ショック後、ゼロ金利と量的緩和により、実体経済からかけ離れた金融バブルを生みだしてきたが、これは過剰な期待による非合理なものであり、インフレで金利が上がっていけば、崩壊することは目に見えている。米国は経済恐慌を乗り切るために世界中からドル資金をかき集めるのに死に物狂いである。そのための「強いドル」政策であり、FRBによる金利の引き上げである。

橋本龍太郎元首相は1997年6月23日のコロンビア大学での講演において聴衆から「日本がアメリカ国債を蓄積し続けることが長期的な利益」かとの質問が出た際、橋本は「大量のアメリカ国債を売却しようとする誘惑にかられたことは、幾度かあります。」と発言しただけで首相の首が簡単に飛んだ(Wikipedia)。ここで、万が一にも従属国である日本が「ドルを売る」と叫んだとたん、最も従順な従属国日本がついにドルを見限ったとして、中国やインドなども追随するであろう。ドル覇権体制があっという間に崩壊することは目に見えている。米国はドルという紙切れ以外に債務を払うすべがないからである。米国は何としても従属国の政策を覆させるべく日本に軍事介入する。横田・横須賀基地の米軍の戦車や攻撃ヘリが永田町に向かう。岸田首相は石油代金のユーロ支払いを構想したイラクのフセイン大統領やアフリカ域内の金にリンクする通貨制度を構想したリビアのカダフィ大佐のように処刑されるであろう。これは全くの“架空の物語”であるが、従属国日本の代官が宗主国の意向に逆らうことはあり得ない。しかし、事実を正しく認識することは、事態を変えるための第 1 歩である。

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【投稿】インフレ高進とバイデン政権--経済危機論(85)

<<「プーチンのインフレ」>>
6/10に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)の伸び率は、大方の予想に反して幅広い項目で上昇がさらに加速し、前年同月比の伸び率が40年ぶりの大きさを更新。総合CPIは前年同月比8.6%上昇(前月は8.3%上昇)、インフレがピークに達して落ち着き始めているとの希望的観測を打ち砕くものであった。
生活必需品が引き続き2桁の上昇を記録、エネルギー価格は前年比34.6%もの上昇、食品は前年比11.9%上昇、電気代は12%上昇。サービス分野で最大の構成要素でCPI全体の約3分の1を占める住居費でも、前年比5.5%上昇し、1991年以来の上昇である。
逆に、インフレ調整後の実質平均時給は前年同月比3%減と、昨年4月以来の大きな落ち込みを記録、実質賃金はこれで14カ月連続のマイナスである。
実際の消費者の実感は、より厳しいものである。そのことを裏付けるのが、インフレ率を意図的に低下させている、1990年代に改訂された現在のCPIの計算方法である。1980年代と同じ計算方法を用いているShadowstatsの数字による

CPIは実際には実に17%に近い

と、CPIは実際には実に17%に近いことがわかる。1970年代のインフレ危機は14.5%程度がピークであったことからすれば、危機的な状況と言えよう。

「プーチンの値上げがアメリカに大きな打撃を与えている」

バイデン大統領は、この事態を受けた声明の中で、「プーチンの値上げがアメリカに大きな打撃を与えている」と述べ、「プーチンの値上げ」(Putin’s price hike)という言葉が繰り返され、物価上昇はすべてロシアのせいだと責任転嫁をしている。もちろんそれだけではまずいと考えたのであろう、エクソンモービルなど石油会社がガソリン価格の高騰につけ込んでいると批判し、「われわれはエクソンの利益を周知させるつもりだ。エクソンは昨年、神より多く稼いだ」とも発言している。
しかし、そもそもインフレの高進はロシアのウクライナ侵攻以前、バイデン政権の対ロシア・対中国緊張激化路線と随伴してきた、昨秋以来の事態である。さらにそれを高進させたのがロシアをウクライナ侵攻に引きずり込み、外交交渉で解決できていたはずのものを、逆に対立を激化・拡大させ、全面的な経済制裁・経済戦争にまで推し進めたバイデン政権が直接招き入れたものである。このいわば仕組まれた制裁で、大手金融独占資本とエネルギー資本、軍産複合体は莫大な利益を手に入れ、その見返りとして、ブーメランに襲われ、さらなるインフレの高進をもたらしたのである。バイデン氏は、「価格高騰に付け込んでいる」と表面上エネルギー資本を批判しているが、とんでもない。裏で手を組んで、EU諸国のエネルギー市場をロシアからもぎ取り、EUを屈服させ、実は二人三脚でインフレ高進を推し進めてきたのである。

<<バイデン再選、民主党に「ノー」の声>>
Data for Progressが5月に実施した世論調査では、米国の全有権者の71%が、企業の利益追求がインフレ上昇の原因であると指摘している。ところが、バイデン政権のイエレン財務長官は、以前のインフレは「一過性」に過ぎないとの発言が間違っていたことは認めたものの、企業の貪欲がインフレのせいであるという考えを完全に拒否し、言うに事欠き、「需要と供給が主にインフレを促進している」と開き直っている。さらに、米中央銀行・連邦準備理事会のパウエル議長に至っては、「賃金の引き上げが問題の一部である」と公然と示唆し、記者会見で、インフレに取り組むために国は「賃金を下げる」必

バイデン支持率:黒線=支持、赤線=不支持

要があると語る始末である。
6/11、サマーズ元米財務長官はブルームバーグテレビで、「3月時点の予想で金融当局は年末までにインフレ率が2%台に下がるだろうとしていたが、率直に言って、その時点で妄想だったし、今となってはさらにばかげたものにさえ見える」と語り、さらに「金融当局はうまい言葉を並べている」ものの、昨年から今年初めにかけて犯した過ちのダメージが「どれほどかを理解していないのではないか」と発言。「それらのミスは、当局が根本的に信頼を得ていないことを意味する」、当局者の予測がなぜ「こうも劇的に」かつ何度も間違っていたのか調査するよう金融当局に促している。

当然、バイデン政権の支持率は低下する一方である。
6/8、クイニピアック大学(Quinnipiac University)による世論調査によると、回答者の64%がバイデン氏の経済への対応を不支持とし、34%がインフレが最も緊急な国家的課題であると回答している。バイデン政権全体の支持率はわずか33%にまで低下し、18〜34歳の人々の間では22%という事態である。(大統領就任の同時点での支持率はトランプ氏は42.2%、オバマ氏は48%であった。) バイデン政権の対ロシア制裁政策に対しては、42%が支持、50%が不支持と逆転している。

パブリックシチズン調査「アメリカ人の63%がペンタゴン予算増額に反対、だが、議会はすでに数十億ドル以上の予算を要求している。」

6/11のニューヨークタイムズ紙は「2024年、バイデンは出馬すべきか? 民主党の「ノー」のささやき声が上がり始める」(Should Biden Run in 2024? Democratic Whispers of ‘No’ Start to Rise.)と題して、50人の民主党幹部や、2020年にバイデン氏を支持し失望した有権者へのインタビュー記事を掲載。その中で、マイアミの民主党全国委員会のメンバーであるスティーブ・シメオニディス氏は、バイデン氏は「再選を求めないという意思を表明すべきだ」と述べている。

バイデン氏は明らかに追い込まれていると言えよう。危機打開策としてさらなる対ロシア・対中国緊張激化政策、より一層の軍事費拡大・軍拡経済、核戦争をまで想定した軍事的冒険主義が台頭しかねない事態である。暴発させない包囲網が要請されている。
(生駒 敬)

 

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【投稿】NATOの「自分探しの旅」の終わり

【投稿】NATOの「自分探しの旅」の終わり

                            福井 杉本達也

1 NATOの「敵国」探しの旅とウクライナ

ベオグラード在住の詩人・山崎佳代子は9年ぶりに出会ったセルビアの詩人が語った「かつては五万人、九九年のNATOの空爆前のブリシュティナ市に五千人は居たはずのセルビア人は、その後どんどん減って、最後の共同体となった正教会の記録では百四五人になっていた。人口二十万人の都市は、アルバニア人の町になっていた。三月十七日の悲劇の後、司祭も教会を追われた。…空爆の後、集合住宅から強制退去、セルビア人のゲットーとなった大学教員宿舎に住んだ。アウシュビッツみたいですって。違う。強制収容所には、スープがある。ここに、それはない。外に出たら命の保障はない。…」(山崎佳代子:『ベオグラード日誌』)というコソボ紛争のことを日記に書きこんだ。西側は、旧ユーゴスラビアがコソボ自治区で民族浄化を実施し、人道危機を起こしていると主張し、1999年の3月24日~6月10日にかけてNATOはユーゴを一方的に空爆、2,500人以上の民間人が殺された。当時、米上院議員だったバイデン氏は「ベオグラードを空爆すべき。米軍のパイロットを送り、すべての橋を爆破するのだ。そして石油を盗む」と主張した。「NATOは、もともと東西冷戦の自衛組織だ。だから1991年に敵国のソ連が崩壊してから、アイデンティティー・クライシス(自己喪失)が始まる。その存在意義を自問する 自分探しの旅だ。」(伊勢崎賢治:『長州新聞』2022.3.17)。存在意義とは新たな「敵国」を探し出すことにある。その後、NATOはリビアにも介入し、カダフィ政権を崩壊させた。しかし、絶対勝てると踏んで派兵したアフガニスタンでは、20年に及ぶ戦争の末、2021年8月には米軍と共に惨めに敗退した。その“起死回生”・第二の「渡りに船」がウクライナであった。

 

2 惨めな嘘も続けられなくなったマスコミの「大本営発表」

6月7日付けの日経新聞始め各紙は「ウクライナ軍は東部の要衝セベロドネック市で反撃 に出ている。東部ルガン スク州知事は5日「ウクライナ軍は市の半分を支配下に置いた」とSNS (交流サイト)に投稿し た。同市はロシア軍が一時は 7割を支配していたが、反撃により5割に押し戻したという。」と「大本営発表」したが、その舌の根も乾かない6月9日には「ロシア軍とウクライナ軍の激しい攻防が繰り広げられているウクライナ東部ルハンシク州について、州知事は「最後の拠点」とされるセベロドネツクの主要部からウクライナ軍が撤退したと明らかにしました。ウクライナ東部ルハンシク州のガイダイ州知事は8日、ルハンシク州について、98%以上がロシア軍の支配下にあると明らかにしました。」(TBS:2022.6.9)と報道せざるを得なくなった。何が「5割に押し戻した」だ。たったの2日間で戦況が大きく変化することなどない。嘘八百のたれ流しである。これが日本のマスコミの恥ずかしい現況である。

6月12日の『ビジネス知識源』は「米国左派の代表とも言えるNYタイムズ紙が、ウクライナ戦争でのロシアの勝利を認め、停戦と和平を薦める転向社説を書いています…開戦から100日間、ゼレンスキーを英雄にしてウクライナ軍の健闘を称え、武器支援の効果からロシア軍は退却しているという英米メディアの報道とオピニオンは、一体、何だったのか。…日本のメディアは、ウクライナ戦争に関しては英国と米国の主流メディアの翻訳でしかない…今日も、ウクライナ政府の発表、英国と米国の軍事プロバガンダを流すだけのものです。…1945.8.15まで大本営情報を流し続けていた…今回は「米英の情報が正しい」という前提です。80年前と共通しています。」と書いている。

 

3 キッシンジャーがダボス会議でウクライナの降伏について語る

5月23日、「キッシンジャーがスイスのダボスで開催された世界経済フォーラムの出席者たちに対して語ったのは、ウクライナ政権とロシア政権間の和平協定の合意が数ヶ月のうちになされ、ウクライナでの紛争がNATOとロシア間の世界規模の戦闘に拡大しないようにしなければならないということだった。キッシンジャーが語ったところによると、そのためにはウクライナは少なくとも『紛争前の状態』に戻すことを受け入れるか、 クリミアは自国領であるという主張を取り下げるか、ドネツクとルガンスク両人民共和国の自治を承認しなければならないとのことだった」。「キッシンジャーは8年前のことについて触れ、ウクライナ危機の端緒はキエフでの軍事クーデターにあったとし、さらにキッシンジャーがウクライナに呼びかけたのは、中立国になり、『ロシアと欧州の架け橋になるべきです。欧州内の同盟に加盟するのではなく、です』と語った」。これに対し、ウクライナはキッシンジャーを「ロシアの『共犯者』だと宣告」した(記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ:2022.6.7)。

同氏の発言より先、「米紙ニューヨーク・タイムズも5月19日の社説で、14年以降にロシアの得たウクライナ領土を全て回復するのは『現実的な目標ではない』と強調。現実離れした戦果を期待していては、米欧が『出費がかさむ長期戦に引きずり込まれる』と戒め、ウクライナ指導層は『領土に関して苦痛を伴う決断を下さ』なければならない」と論障を張った」(福井:2022.6.2)。

また、クリストファー・S・チブヴィス(カーネギー基金のアメリカ国工作プログラムのディレクター・元アメリカ国家情報将校)は「ウクライナに対する欧米の支援は、これまでのところ並外れたもので、戦争が始まる数日前には、ほとんど誰も予想できなかったレベルに達している。しかし、今日の高いレベルのサポートは永遠に続くものではありません。世界中の食料と燃料費は急騰しています。NATOは戦争の最初の100日間で統一されたが、時間が経つにつれて分裂が現れるだろう。ウクライナの大義は、今日だけのものとして広く見なされているが、戦争が長引けば長引くほど、道徳的明快さが薄れるリスクが高まる」。「ウクライナは、より多くの武器ではなく、経済、インフラ、民主主義の再建に、現在享受している善意を費やすことを好むべきだ」。「分裂したウクライナを事実上受け入れること」、「復興への移行は、ウクライナのより多くの都市が平坦化し、何百万人もの市民が海外で難民として生活している終わりのない戦争よりも、今や課題が少ない」。「戦争は他の手段による政策の継続であるべきだということです。欧米指導者達は、ウクライナは、軍事戦場で、この戦争に勝てないのだ」(『ガーディアン』:2022.6.9)と主張している。

極めつけは「『プーチン(露大統領)のせいで物価が上がり、米国は打撃を受けている』。バイデン大統領は10日の演説で、ロシアのウクライナ侵攻でエネ ルギーと食料価格が高騰し、インフレの再加速を招いていると訴えた」(読売:2022.6.12)ことである。このまま戦争が長引き、物価が高騰すれば中間選挙は戦えない。事実上のバイデン氏の敗北宣言である。明らかに潮目は変わった。それを正しく“報道”するかどうかだけが問われている。ネオコンはウクライナのアゾフ大隊らのネオナチと共に切り捨てられようとしている。

「ウクライナでの戦争は世界貿易の衝撃的な崩壊、重要な供給ラインの大きな崩壊、前例のない食糧とエネルギーの不足、そしてソビエト連邦の崩壊以来最大の世界の再分割を引き起こしたのだ。米国は米国史上最大の戦略的大惨事となりかねない無意味な地政学的策略に自国と米国民の将来を賭けることを決定」してしまった。「ロシアの膨大なエネルギー資源、鉱物資源、農産物は、より友好的な国へと永遠に東に向かうことになる」。そして、「ヨーロッパは、世界のどの国よりも高いエネルギー料金を支払うことになる。それは、ロシアの正当な安全保障上の要求を無視することで選んだ道であり、その結果に耐えなければならない」(耕助のブログ:「キッシンジャーの言う通りだ」by Mike Whitney 2022.6.12)。NATOの「自分探しの旅」は“暗闇の中の凍死”で終わる。

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【投稿】加速する軍事経済への警鐘--経済危機論(84)

<<「悪がやってきた」>>
相も変わらず、自らお膳立てしてきたウクライナ危機を徹底的に利用して、対ロシア・対中国戦争熱を煽り立てている米バイデン政権。米エネルギー資本と軍産複合体、金融資本に莫大な超過利潤を提供し続けているが、しかしその足元がおぼつかなくなってきている。
高進するインフレと乱高下を繰り返す株式市場、経済危機の進行でバイデン政権の支持率がどんどん低下(5/24 支持率36%=就任以来過去最低、ロイター/イプソス調査)、対ロシア制裁で支持率上昇と踏んでいたものが、逆にブーメラン効果で経済危機が一層深化する事態をもたらしている。
 5/28、週末、バイデン大統領は大学の卒業式(デラウェア大学)でのスピーチで、「悪はテキサスの小学校の教室にも、ニューヨークの食料品店にも、罪のない人々が死んだあまりにも多くの場所にもやってきた」(Evil came to that elementary school)と嘆く深刻な事態である。5/24、テキサス州ユヴァルデのロブ小学校での18歳少年の銃乱射事件で、19人の子供と2人の大人が死亡する悲劇が発生。
使用されたアサルトライフル銃は合法的に販売されており、製造しているダニエルディフェンス社(Daniel Defense Inc.)は、民間人が使用するものを含め、アサルトライフルを製造することに誇りを持っていると表明。「世界最高のAR 15スタイルのライフル、ピストル、ボルトアクションライフル、および民間、法執行機関、軍の顧客向けの付属品で 構成される、銃器の世界で最も有名なブランドの1つ」と自賛している。
米国は世界最大の武器産業の本拠地であり、世界の武器企業 の上位5社すべて米国の軍需産業でもある。当然、これらの企業はワシントンにロビイストを派遣、豊富な資金で民主・共和両党の議員たちの多くを取り込んでいる。いくら銃規制が叫ばれても、すべて葬り去られている。銃規制を求める新たな声が次々と上がってきているが、民主党主導の銃規制は、武器メーカー・軍需産業の規制ではなく、消費者(身元調査、購入禁止リスト、等)に焦点を当てる付け焼刃でしかなく、それさえ可決される可能性はほとんどない。バイデン大統領自身が先のスピーチで「一体いつになったら、神の名においてでやるべきことをやるのでしょうか?」と嘆いてみせるだけである。

防衛業界、議会に軍事予算増額を迫る( DefenceNews May 26)

一方、国防総省・ペンタゴンの予算は年々膨らみ続け、バイデン政権は2023会計年度に8130億ドルもの巨額予算を提案している。しかしこれとて、軍需産業側は、さらにインフレ率を3~5%上回る2023年の軍事予算を議会に要求している。
5/26、ボーイング、レイセオン、ノースロップグラマン、ゼネラルダイナミクスなどが加盟する防衛企業の業界団体「航空宇宙産業協会(AIA)」が、予算委員会と武装サービス委員会の指導者に書簡を送付、AIAの会長エリック・ファニング(Eric Fanning)氏は、「インフレ率を上回る3~5%の成長は、アメリカのグローバルな戦力を支え、敵対国に対する競争力を維持し、遅れをとっている分野で技術的に追いつくために必要な投資水準である」、「ロシアと中国の侵略に直面したときの決意」を示すためにも必要なことだとさらなる増額を要求しているのである。現在のインフレ率8%をさら3~5%上回る巨大な増額要求なのである。こんなとんでもない要求が臆面もなく堂々とまかり通っている、助長されているのが、現在のアメリカの政治・経済・社会であり、18歳の若者が、殺人ライフルに簡単にアクセスし、虐殺の悲劇が実行される同じ社会の風景の一部となっているのである。

<<「無謀で配慮に欠ける、遊離した存在」>>
問題なのは、リベラル派や進歩派、左派といった議員まで含めて、民主党は、銃製造会社がアメリカで拳銃や半自動小銃の販売で大儲けしていることを一応は非難しているが、ウクライナ支援に名を借りたペンタゴンへの武器販売は、こぞって支持し、軍需独占体企業の戦争巨大利権者のために、民主党議員は全員が軍需予算増大に賛同していることである。
しかし、ここでもバイデン政権の思い通りにならない異変が生じつつある。
バイデン政権の400億ドルにも及ぶウクライナ軍事支援は、上院、

Pentagon-Armsmakers

下院とも圧倒的多数で可決しているが、上院で11票、下院で57票の「反対」票がすべて共和党員から出されたという事実である。リベラルで反戦の民主党は吹っ飛んでしまい、右派・保守派の共和党側から反対票が投じられるという、劇的な役割の転換が出現したのである。極右とみなされてきた共和党のマット・ゲッツ下院議員は、「危険な超党派のコンセンサスが、我々をロシアとの戦争に向かわせようとしている」と「反対」票を投じる議会演説で警告を発する反戦演説を行ったのである。これは、海外介入に反対する強力な声として何度も登場してきた歴史からすれば、共和党にとっては「原点回帰」とも言えるかもしれない。
さらにその背後に、著名な保守系シンクタンク、ヘリテージ財団に所属するロビイストたちが、この400億ドル支援法案に反対するよう共和党議員に内々に働きかけていたという事実が明らかにされている。
同財団のケビン・ロバーツ会長は、「ウクライナ支援策はアメリカをないがしろにする」という見出しで、この法案を無謀で配慮に欠けるものと決めつける厳しい声明を発表している。同声明は、「政権発足当初から、バイデン大統領の外交政策の失策は、米国の世界的地位を弱めた。2年目の今、バイデンと議会の民主党

(ヘリテージ財団 5/25)

は、400億ドルの膨れ上がったウクライナパッケージを上院で強引に通過させようとしている。このウクライナ支援案は、米国民の優先事項から資金を奪い、説明責任も果たさず、外国に我々の税金を無謀にも送りつけるものである。アメリカは記録的なインフレ、負債、狭い国境、犯罪、エネルギーの枯渇に苦しんでいるのに、ワシントンの進歩的な人々はウクライナへの400億ドルの援助を優先している-これはアメリカ司法省の年間予算全体を上回る額である。参考までに、これは司法省の年間予算よりも高額で、環境保護庁、労働省、商務省の資金を合わせた額よりもさらに大きい。この法案はまた、3月のインフレ率が8%を超え、記録的なインフレの中で出されたものである。」と核心を突いている。
5/25、同財団は「先週、議会がウクライナ支援策を承認したことは、我々の指導者がいかに国民や我々の関心から遊離した存在であるかを示している。」との声明を発表している。加速する軍事経済への警鐘と言えよう。

他方、400億ドルの支出に賛成したニューヨークのアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員やバーニー・サンダース上院議員は、「反戦」と「左翼」「民主的社会主義・DSA」の代表として自称してきたにもかかわらず、自らの立場を説明することを事実上拒否しており、プレスリリースやツイートさえ出してもいない、出せない混乱、危機的状況に陥っている。
バイデン政権とそれを支える民主党が、進行する政治的経済的危機の中で、危険な軍事経済に加担することによって、「無謀で配慮に欠ける、遊離した存在」となっており、この進行を食い止める運動と闘いこそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】バイデンの台湾軍事関与発言は東アジアでの「第二戦線」の構築

【投稿】バイデンの台湾軍事関与発言は東アジアでの「第二戦線」の構築

                            福井 杉本達也

1 台湾に「軍事関与する」と明言したバイデン大統領

毎日新聞によると、バイデン米大統領は、4月23日の日米首脳会談後の共同記者会見における質疑で、「台湾防衛のために軍事的に関与する意思があると明言した。米政府は、台湾防衛義務を意図的に明確にしない『あいまい戦略』をとっているが、バイデン氏は2021年にも台湾の防衛義務に2度言及しており、中国をけん制するために意図的に発言を強めている可能性がある。」「バイデン氏は会見で『有事には台湾の防衛に軍事的に関与する意思があるか』との質問に『ある(Yes)』と答えた。記者が『意思があるのか』と確認すると、『我々が約束した責務だ』と答えた。中国が台湾を領土とみなすことに異を唱えない歴代米政権の『一つの中国』政策には『同意している』としつつも、『力による(台湾の)奪取は適切ではない。地域全体を混乱させ、ウクライナで起きたこと以上の負担になる』と強調した。(毎日:2022.5.23)。同記事はさらに続けて「バイデン氏は21年8月に米メディアのインタビューで、条約上の同盟国である日本や韓国と同様、台湾を防衛する義務があると発言した。21年10月にも住民対話集会で『台湾が攻撃されれば、米国は防衛に向かうのか』と問われ、『そうだ。我々にはそうする義務がある』と述べた。いずれのケースも、事後に政権幹部が『政策に変更はない』と打ち消したが、バイデン氏自身は発言を修正していない」と続けた。バイデン氏は失言癖があると報道されているが、台湾への軍事介入を3度もほのめかすのは、もはや失言ではなく確信犯である。

 

2 またもや、ホワイトハウスは大統領発言を即日否定―痴呆大統領の妄言?

このバイデン発言について、23日、オースティン国防長官は「米国防総省での記者会見で『政策に変更はない』と説明、台湾関係法に基づき台湾に防衛の手段を提供する義務を強調したものだと主張した」(福井:2022.4.26)。さらに付け加えて「『大統領が3度同じ発言をすれば、それが政策であるのは明白だ』(政治サイト・ポリティコ)」との主張を引用している(福井:同上)。ダイヤモンドオンラインのノンフィクションライター窪田順生氏の記事によれば「政治家が自分の発言に責任を持てなくなったらおしまいだ。昨日言ったことを今日になって撤回するということが『平常運転』になれば、確かに『敵』はかく乱できるが、『味方』からもそっぽを向かれてしまう。『The Wall Street Journal』 も社説でその危険性を指摘している。<問題は、今の米国の方針がどういったものなのか、誰も確信が持てないことだ。ホワイトハウスが頻繁に大統領の発言を取り消せば、同盟国や敵対勢力にとってのバイデン氏の個人的な信頼性が損なわれる>(WSJ:5月24日)」と書いているが、窪田氏の見立ては、これは敵=中国を撹乱するための「バイデン大統領の政治家としての信頼を大きく失墜しかねない『捨て身の情報戦』なのだ。」という分析である。

 

3 「第二戦線」を東アジアで開く意図

しかし、バイデン発言は単なる「情報戦」であろうか。中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏は、「バイデンが言っていたように『ウクライナはNATOに加盟していない(ウクライナとアメリカの間には軍事同盟がない)ので、アメリカにはウクライナに米軍を派遣して戦う義務はない』のと同じように、台湾とアメリカとの間にも軍事同盟はない。またバイデンが『ウクライナ戦争にアメリカが参戦すれば、ロシアはアメリカ同様に核を持っているので、核戦争の危険性があり、したがってアメリカは参戦しない』と言っていたが、これも『ロシア』を『中国大陸』に置き換えれば同じ理屈が成り立つ。すなわち、中国には『核』があるので、アメリカは直接アメリカ軍を台湾に派遣して台湾のために戦うことはしない、ということである」。しかし「武器の売却などを通して台湾が戦えるように『軍事支援』する。これも、ウクライナにおける『人間の盾』と全く同じで、ウクライナ人に戦ってもらっているように、『台湾国民に戦ってもらう』という構図ができている」と分析する(遠藤誉:Yahooニュース:2022.5.24)。「バイデン大統領は、武力攻撃をしそうにない中国大陸(北京政府)を怒らせるために、何としてでも戦争を起こさせ、戦争ビジネスを通してアメリカが世界一である座を永続させようというのが、ジョー・バイデンが練り続けてきた世界制覇の戦略なのだ」(遠藤:同上)と、台湾にアジアでの「第二戦線」を開かせる意図があるとする。

また、総合欧州国際研究センターのドミトリー・ススロフ副所長は、「雑誌『フォーリン・アフェアーズ』に掲載されたの執筆者は、台湾有事に際し、台湾に完全な軍事支援を行うとしつつ、戦略的なはっきりしない態度を取るのをやめるよう米国に勧告している」とし、米軍産複合体の読みは「現在、中国は紛争を始めることに関心を持っていないという強い確信を持っているという。そして、それには深刻な国内事情に原因がある」。国内事情とは「今年、中国では第20回党大会が予定されています。つまり、中国はこの重要な行事が開始するまでは、武力を行使することはないということです。」一方、米中の経済・軍事力の力関係では「時間は『中国に有利に働く』からです。年を重ねるごとに、中国はますます強くなり、一方の米国は弱体化しつつあります。そしてその長期的な勢力図の変化によって、中国は武力を行使することなく、欲しいものを手に入れることができるのです。一方の米国は、アジアにおいて中国に負けつつあることを理解していることから、待っている時間がないのです。」とし、そのため「『剃刀の刃を渡っている』のである。しかし、米国は本格的な事態の激化を扇動することも、アジアにおける軍事紛争も恐れていない」と指摘する(Sputnik:2022.5.28)。

5月11日、米国防総省のカービー報道官はFOXテレビにおいて「バイデン政権は侵攻のずっと前から兵器を供与していた。大統領がウクライナに割り当てた最初の10億ドルには、確かに、致死的な武器の支援が含まれていた… 米国、カナダ、英国、その他の同盟国は、実際に(ロシアの特殊作戦に備えて)8年間にわたってウクライナ人を訓練をした」と語った。ウクライナの場合のロシアのレッドラインは、米・NATOの指揮官によるアゾフ大隊らのネオナチ部隊や外国人傭兵を主力とするドンバス2州への総攻撃の準備であったが、台湾の場合の中国のレッドラインは「台湾の政府として独立宣言」である。バイデンは台湾の暴発を煽っているのである。5月28日現在のホワイトハウスの台湾関係のHP『U.S. Relations With Taiwan』では、これまでの「Taiwan is part of China」という文字が消されたものの、「we do not support Taiwan independence」とい文字は幸いにしてまだ残っている。これが「台湾独立を支持する」と書き直された時が、東アジアにおける「第二戦線」が開かれる時である。

 

4 日本はどこまで盲従するのか

バイデン発言に対し、5月26日、安倍晋三元首相。「パイデン米大統領が台湾有事に軍事的に関与すると発言したのを歓迎した。安倍氏は『事前の打ち合わせで“こう答えよう”と協議していたはずだ』と指摘し『ある意昧、曖昧戦略を修正しながら意思を示してけん制した』と述べた。」(日経:2022.5.27)。佐藤正久自民党外交部会長、さらに踏み込んで、「バイデン米大統領が台湾防衛に軍事的に関与する意思があると明言したことについて『大変良い失言、最高の失言をされた』と評価した。」「『これまでの『あいまい戦略』から一線を越えた発言だ。だが、この地域の安定に資する発言で、大統領の本音が出た』と解説した。そのうえで『ここまでバイデン氏が発言した以上、我々は中国に対し、ロシアの侵略に明確な批判を行うよう強く求めると同時に、中国の武力による台湾統一、(沖縄県の)尖閣(諸島)有事に備え、日本自身が外交防衛力をさらに強化することが極めて大事だ』と、さらに踏み込んだ(毎日:2022.5.24)。

ウクライナ侵攻以降、NHKを始め各テレビ局や朝日新聞など新聞各紙はこの3か月ウクライナの位置も歴史も文化も知らないにもかかわらず、一喜一憂のウクライナ戦況の報道に踊っているが、その目的は米軍産複合体の後押しによる東アジアでの第二戦線の開戦にある。

米軍産複合体が台湾独立」をけしかけても、人口わずか2300万人、九州程度の広さの台湾単独で中国と戦うにはあまりにも戦力不足である。いくら蔡総統が無謀でも、完全に海上封鎖され補給もなしに単独では戦えないと考えている。そこで、先兵の役割を担わせるのが日本である。

しかし、元外務省国際情報局長の孫崎享氏は『アメリカは中国に負ける』(河出文庫:2021.9.20)において、「『ニューヨーク・タイムズ』紙はクリストフによる記事『どのようにして中国との戦争が始まるか』で、『最近、台湾海峡を舞台での、中国を対象とする18のウォ―ゲーム中、18で米国が破れたと知らされた』と報じた」とし、また「ランド研究所が台湾正面の戦いでは中国が優位」との報告書も紹介している。中国の保有するミサイルの命中精度は向上しており、2010年には米中ほぼ互角だったものが、2017年段階の台湾周辺では中国優位に傾いたと冷徹な分析を行っている。したがって、台湾有事でもウクライナ同様、米軍は出てこない。ましてや、自衛隊が「台湾有事」などとしで東シナ海・台湾で中国軍と戦うなどというのは無謀そのものである。岸田内閣は日本と米国の政治的な利益を、中国との経済問題よりもはるかに重要なものに据えた。後先を考えず突き進む岸田氏を筆頭に対米従属者の幼稚さは変わっていない。

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【投稿】第三次世界大戦化と経済の軍事化--経済危機論(83)

<<「誇りある、ロッキード・マーティン」>>
ロシア・プーチン政権を挑発し、泥沼の軍事紛争の罠に引きずり込んだ米・バイデン政権。今やバイデン政権の目的は、ウクライナの防衛から、ロシアの弱体化・敗北にあることを明らかにし、一切の平和的交渉解決を拒否する、危険極まりない緊張激化路線・第三次世界大戦化を前面に押し出している。
米産軍複合体の象徴でもある軍需独占体・レイセオンの役員からバイデン政権の国防長官に横滑りしたロイド・オースティン氏は、ウクライナにおける米国の目標の一つは、ロシアが「弱体化」するのを見ることである、「ロシアがウクライナに侵攻したようなことができない程度に弱体化するのを見たい」、その軍事力を「再現する能力」を持たないようにすることであると宣言し、ウクライナは「正しい装備」と「正しい支援」があれば勝利できると主張、米国はウクライナの勝利を支援するために「できることは何でもする」と公言してはばからない事態である。

「今日、私はアロッキード・マーティンを訪れました」

バイデン大統領自身が、5/3、アラバマ州トロイにある軍需産業・航空防衛機器大手ロッキード・マーチン(Lockheed Martin)の対戦車ミサイル「ジャベリン(Javelin)」製造工場を訪問し、「今日、私はアラバマ州にあるロッキード・マーティンの工場を訪れました。そこでは、私たちがウクライナに送っているジャベリン・ミサイルを製造しています。ここで製造された兵器は、現在ウクライナの英雄たちの手に渡り、あらゆる違いを生み出しています。それは私たち全員が誇りに思えることです。」と工場労働者を称賛し、励ましている。
米欧軍事同盟のNATO事務局長のイェンス・ストルテンベルグ氏も、「この戦争が何ヶ月も何年も続く可能性は絶対にある」と請け合う事態である。武器・軍事援助に加えて、5/8、アメリカ、イギリス、カナダ、ドイツ、フランス、イタリア、日本を含むG7諸国は共同声明で、モスクワからの石油輸入を段階的に停止することによって、「我々はプーチン経済の大動脈を強打し、プーチンが戦争の資金を調達するために必要な収入を否定する」と述べている。彼らは明らかにウクライナ危機の泥沼化と第三次世界大戦化を推し進めているのだと言えよう。
2/24のロシアのウクライナ侵攻の開始以前からも、バイデン政権はウクライナに対する大量かつ多額の軍事援助を実行してきたが、2/24以降は、その3日目・2/26以来、2~3週ごとに次から次へと追加の軍事・経済援助を発表。非公開は別として、発表されただけでも、2/26=3億5000万ドルの軍事援助、3/16=8億ドルの軍事援助、3/30=さらに追加の5億ドル、4/12=7億5000万ドルの武器援助、5/6=1億5000万ドルの武器パッケージ援助を発表。バイデン政権は、さらに議会に対して、ウクライナに対する「安全保障と軍事支援」に200億ドル以上、「経済支援」に85億ドル、「人道支援」に30億ドルの追加資金、合計330億ドルという膨大な資金を要求。

<<戦争法案に賛成する“進歩派”>>
問題は、議会側が、バイデン政権の要求を大幅に上回る軍事援助を可決していることである。議会民主党はこれを398億ドルに増額し、5/10、米下院本会議は、ウクライナへの新たな武器供与や経済・人道支援のための総額400億ドル(約5兆2000億円)余りに上る緊急支援法案を賛成368、反対57の圧倒的賛成多数で可決され、上院に送付され、そこでも来週の可決が当然視されている。反対票を投じたのは共和党員だけであった。民主党主流派は当然ながら、民主党内左派、プログレッシブグループ、最左派のアレクサンドラ・オカシア=コルテス議員まで含めて、すべて賛成票を投じている。この法案可決の前の4/28、議会は共和党のジョン・コーニン上院議員が提出した共和党主導のウクライナ戦争法案(レンドリース(武器貸与)法を復活させ、ウクライナに適用する法案)を下院は417対10の圧倒的多数で可決している。ここでもコーニン氏の法案に反対した議員はわずか10人で、その全員が共和党員であった。民主党の進歩的な議員でこの法案に反対した者は一人もいない。コルテス(ニューヨーク州)をはじめ、Ro Khanna(カリフォルニア州)、Jamie Raskin(ミシガン州)、Pramila Jaypal(ミシガン州)など、議会の進歩的左派のリーダーたちはすべてコーニン法案に賛成票を投じている。どこが進歩派、プログレッシブグループなのかという、惨憺たる状況である。
問題の深刻さは、こうした膨大な軍事予算を推し進めることによって、2022年だけでも米国のウクライナ支援総額は530億ドル以上にも膨れ上がることである。米国がアフガニスタンでの戦争に費やした平均年間金額(460億ドル)をすでに上回っているばかりか、この3か月以内に米国がロシア/ウクライナ戦争につぎ込んだ軍事援助の総額は、年間のロシアの総軍事予算(659億ドル)にも匹敵する膨大な額に膨れ上がっていることである。結果として、米国はロシアが毎年軍隊に費やしている額の10倍以上を軍事費につぎ込んでいるのである。現実には、膨大な予算を軍需産業につぎ込む、経済の軍事化である。
その代償としてバイデン政権は、当初220億ドルであったコロナウイルス対策予算は100億ドルにまで削減され、貧困国へのワクチン援助も削減されている。100万人ものアメリカ人がコロナウイルスで死亡し、世界中で600万人以上が死亡しているにもかかわらず、である。さらに、米国国勢調査局の最新のデータによると、「約4250万人のアメリカ人が貧困線以下で生活している」実態が報告され、「月間貧困は2022年2月も引き続き上昇しており、米国の総人口の14.4%の貧困率にまで達し、全体として、2月の貧困者は12月に比べて600万人増え」ている深刻な事態にもかかわらず、軍事予算の肥大化をさらに推し進めようとしているのである。

  •  ノースウェスタン大教授Steven Thrasher氏は、
  • バイデンはロッキード・マーチンの戦争宣伝に出演し
  • ペロシはウクライナで、戦争遊説の行脚
  • 民主党が提供できるのはこれだけ
    戦争、警察、戦争屋のための資本強化、そしてさらなる戦争
  • 彼らはコロナウイルスのための資金にはノー
  • 中絶の法制化も意欲なし
  • ただ戦争、戦争、戦争
    とツイートしている。

アメリカの 女性主導の平和団体「コードピンク」の共同創設者であるメデア・ベンジャミン氏は、バイデン氏の軍事費増大要求を 「第三次世界大戦の頭金 」と呼び、「私たちに必要なのは外交であって、これ以上何十億ドルもの兵器ではありません!」と訴えている。
5/7 ボストンでの集会で、マサチューセッツ・ピース・アクションの事務局長であるコール・ハリソン氏は、「核戦争防止・即時交渉」「ロシアとの戦争・ノー!」を前面に掲げ、「この問題は解決しなければならないのに、私たち

(5/7  7NEWS BOSTON)

は間違った方向に進んでいる。世界大戦やロシアとの戦争が起こる危険性がある」「妥協と交渉が必要だ」と訴えている。

金融資本主導の投機経済の悪化と景気後退、インフレーションの高進、つまりはスタグフレーション危機の進行によって、アメリカ社会の政治・経済のあり方が根本的に問われている最中に、バイデン政権は、対ロシア、対中国との緊張激化路線、世界大戦化と経済の軍事化で事態を糊塗し、乗り切ろうととしているとも言えよう。この危険な路線を転換させる行動と闘いこそがいま最も緊切に要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】国際金融資本・軍産複合体の代理人と化す「グリーン」

【投稿】国際金融資本・軍産複合体の代理人と化す「グリーン」

                         福井 杉本達也

1 欧米発の「グリーン水素」・「ブルー水素」という胡散臭い金融商品

燃やしても二酸化炭素を出さない水素を「夢の燃料」と呼ぶ。中でも「グリーン水素」・「ブルー水素」という胡散臭い“商品”が横行している。日経は、燃料電池車などに使用する水素は「造り方でで大きく3つに分けられ、再生可能エネルギーで水を電気分解して造り出す水素を『グリーン水素』と呼ぶ。化石燃料で造り、製造時に生じるCO2を地下に貯留するなどして減らしたものを『ブルー水素』とし、何も手立てをしないものを『グレー水素』とする。」このうち、EUは『ブルー水素』の基準を2022年1月から厳しくした。「化石燃料の採掘から水素の製造、消費までに発生するCO2を7割超減らした水素をクリーンとみなす規則を施行した」。それ以外は認めないとする。国際標準作りで先行し、投資マネーを呼び込む思惑があると書く(日経:2022.5.8)。

一次エネルギーは3種類、①石油・石炭・天然ガスなど化石燃料・②原子力・③水力・風力・太陽光などの自然エネルギーがある。一次エネルギーを加工したものが二次エネルギーで、④電力・⑤石油製品・⑥水素などである。水素は、 天然ガスを分解して、CH4+2H2O→4H2+CO2 として取り出すか、水の電気分解しかない。天然ガスを分解して発生したCO2は回収・圧縮して海底や地中深く埋めてしまうCCS(Carbon Capture and Storage)を適用することになっているが、CCS には莫大なコストとエネルギーがかかる。そもそも、最も質の高い、使い勝手の良い二次エネルギーである電力を、わざわざ使い勝手の悪い、危険性の高い水素に変換する必要があるのか。また、③再生エネネルギー→④電力→水の電気分解→⑥水素→燃料電池→④電力というのはエネルギー変換するたびにロスが発生し、誰が考えても無駄の極みである。

ドイツは4月6日に発表したエネルギー新戦略で、2030年までに電力消費に占める再生可能エネルギーの比率を21年比2倍の80%に、35 年にはほぼ100%にする政策を打ち出したが(日経:2022.4.8)、③再生可能エネルギーで生み出す④電力というエネルギーは電力として使えばよい。ところが、自然が相手であるため、太陽光は夜間や雲があると発電しない。風力も風に影響される。既に、ウクライナ侵攻前においても「欧州のエネルギー不足は、風が吹かず風力の発電量が低下したことも響いており、貯蔵や需給調整」が課題と報じられている(日経:2021.10.26)。要するに使い勝手が悪いエネルギー源なのである。そのようなものが100%となることは考えれれない。そこには、別な思惑が蠢いている。まず、再生可能エネルギーという詐欺商品に対する投資マネーの呼び込みである。詐欺は規模が大きければ大きい程、都合がよい。もう一つが、ロシアのウクライナ侵攻により、ロシアの天然ガス依存を下げたい政治的思惑がある。しかしそれは、ドイツ自身の首を絞める。

2 「空気」を商品化し、投機の対象とする飽くなき国際金融資本と「グリーン」

「空気や水のように」といわれるように、我々が生存するうえで欠かせないもので、どこにでもあるもの(水は貴重でもあるが)であるが、宇沢弘文氏は、それを「社会的共通資本」と呼び、「社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準にしたがって管理・運営される」ものであり、「決して国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない」とした(宇沢弘文『経済学は人びとを幸福にできるか』2013.11.7)。国際金融資本は有り余るペーパーマネーの投機先として「空気」の商品化を思いついた。「空気」は無限であり、無限のペーパーマネーの投機先として、飽くなき利潤を追求できる場としてはもってこいの“商品”である。「空気」は主に、窒素・酸素・水蒸気や二酸化炭素などで構成されるが、「グリーン」は地球温暖化の原因物質だとして二酸化炭素に飛びついた。無謀にも、地球上から「炭素」を排除することを“正義”とした。まず、金融商品として開発したのが「排出権取引」である。膨大な二酸化炭素という「空気」が権利の対象として値段がつき、売り買いされることとなった。③自然エネルギーは「炭素」を出さないから「再生可能」でるという理屈である。しかし、太陽光パネルや風車は発電においては「炭素」を出さないが、製造工程や廃棄工程では「炭素」を出す。さらに蓄電したり、⑥水素に変換したりすれば「炭素」が増える。また、CCSのように地中に埋めてしまおうというのであるから、膨大な詐欺が成立する。

再生可能エネルギーという③自然エネルギーは④電力しか生み出さないし、その電力も自然条件に影響され、発電量は刻々変動する。電気は生産=消費であり、バランスが取れなければ停電してしまう。その変動を細かく調整できるのが、天然ガス火力発電である。「グリーン」による、天然ガスを排除しようとする試みは、邪悪な利潤追求の夢物語にすぎない。

3 「熱力学第二法則」に反する

化石燃料という『有限』に突き当たった先進国は「再生可能エネルギー」という人工的な『無限』を作ろうとした。「再生可能エネルギー」=無限にエネルギーを再利用=自然条件の制約からの解放=永続的な経済成長という幻想=“永久機関”を追いかけた。しかし、“永久機関”は残念ながら存在しない。「熱力学第二法則」に反するからである。ヘルムホルツは「自然界のいっさいの物体がもしも同一の温度を持っているならば、それらの物体の熱のある部分をふたたび仕事に変えるというようなことは不可能である。……高温物体の熱は伝動・輻射によってたえず低温の物体に移行し、温度の平衡を引き起こそうとする」と説明した。プランクの言葉では、「自然界にはいかなる仕方でも完全には逆行させることのできない過程としての非可逆過程が存在する」(山本義隆『熱学思想の史的展開・熱とエントロピー3』2009.2.10)。「再生可能」という言葉には、この「非可逆過程」を認めたくないという邪悪な思想が潜んでいる。極めつけが「グリーン水素」・「ブルー水素」やCCSである。いったん排出した二酸化炭素を再び回収しようというのであるから、膨大なエネルギーのムダである。

地球上の約1億年前の大規模な火山活動で、マグマに含まれる二酸化炭素が大気と海洋に供給された。それが、陸上に繁茂した植物の光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭水化物として地表付近に固定された。その大量に蓄積された植物の遺骸が、腐食・埋積されて数百万年という長い時間をかけて地中で化石燃料に変化・凝縮されたもので、化石燃料は最もエントロピーが低い。だから使い勝手が最も良いのである。

資本主義は無限に経済成長を遂げていくシステムである。在野の哲学者・内山節氏は「資本主義には拡大再生産を遂げつづけることによって正常に展開するという側面が付随している。拡大再生産が止まれば、市場の縮小と失業問題、貧困の問題などが一気に吹き出してくる」。ところが自然が有限だと不都合なことになる。「資源の面でもそれが無限に存在しなければ、無限の経済発展とはつじつまが合わない」。つじつまが合わないことを「科学の発展に丸投げした」(内山節「近代世界の敗北と新しいエネルギー」『世界』2011.11)。しかし、水素や蓄電池などの“科学技術”が、それを解決することはない。

4 「グリーン」と「軍産」のシンクロ

ドイツのショルツ連立政権は2月27日、国防費の大幅増額を公表した。ブラントが東方政策を主導して以来、社民党政権は平和主義の先頭に立っているはずだったのだが。川口マーン恵美氏は、社民党の連立相手の緑の党について、「わからないのは緑の党だ。この党はかなりの左翼で、武器の『ブ』の字も口にしたくないという平和主義者の集まりだったはずだ。それが、ベアボック外相(緑の党・女性)が険しい声で『ウクライナに重火器も含む武器支援を!』と叫んだ途端、全員がいきなり『右向け右』。今やプーチンを武力で制圧することが正義となっている」と書いている(『現代ビジネス』2022.5.6)。

The Economistは「米国はウクライナに2018年以降、携行型の対戦車ミサイル『ジャペリン』7000基強、ジャペリン以外の対装甲シテム1万4000、地対空ミサイル「スティンガ」1400基、……」、ジャベリンは「ウクライナに渡した7000基は米陸軍備蓄の3分の1以上」となり、補充には3~ 4年もかかるという。「戦争が起きれば軍需物資がいかに消耗され」膨大な量になるのか述べている(日経:2022.5.10)。こうした兵器は、ウクライナに到着するとすぐにロシア軍のミサイルによって破壊される。しかし、レイセオンなど軍事産業は、それをまったく気にしない。兵器が破壊されれば破壊されるほど、米国防総省からの新たな注文は増える。戦争というものは何ものも生み出さない一方的な大規模な破壊である。しかし、それは資本主義にとっては、無限の成長・拡大再生産・超過利益となる。

「量的緩和」などと称して、ペーパーマネーを増刷し過ぎて、コモディティ市場の信認を完全に失い、紙くずになりつつあるペーパーマネーの反撃が、虚構の「脱炭素」市場であるが、それは、ロシアからの石油・天然ガスというコモディティをシャットアウトし、「再生可能エネルギー」を旗印として、金融詐欺・欧米電機産業などによる独占・3倍も高い米欧エネルギー資本への転換などによって、無限の成長・超過利潤を目論むものであり、「グリーン」の飽くなき欲望の最終形態である。ショルツ首相の評価はがた落ちだが、ベアボック外相の方は19%から66%へと急伸。また、緑の党のハーベック経済・気候保護相の人気も上昇している。川口氏は「勇ましいことを言っている国民も、戦うのはロシア人とウクライナ人だと思っており、自分たちに迫る脅威とは認識していない。だからこそ国民の過半数が、自分たちを元気に破滅に導いてくれそうな政治家に好感を持っている」と述べているが、実に恐ろしい政治家たちである(川口:同上)。“無限の利潤追求”という悪魔の思想が、国際金融資本・軍産複合体の代理人の中でシンクロナイズしている。

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【投稿】ロシアへの経済制裁はその発動国を破綻させる

【投稿】ロシアへの経済制裁はその発動国を破綻させる

                         福井 杉本達也

1 憲法記念日の護憲集会で戦争を煽る金子勝氏

立教大学特任教授の金子勝氏は5月3日の福井市での護憲集会で、「ロシアのウクライナ侵攻を止めるにはロシアへの経済制裁しかないとし、プーチンの戦費の根源である資源輸出に対して、日本はサハリン1、2やアーク2などからすぐ撤退すべきだ。」と煽った。理由は安倍元首相らが開発を主導したからだという。さらに、会場からの質問に答える形での和田春樹氏らが3月15日に提案した、中国・インド・日本が主導して停戦を呼び掛ける案にも、見解が異なるとした。制裁する側も被害を被ることもやむを得ないという。円安に対する質問では、アベノミクスに責任があるとしたものの、ロシアからの石油やLNGがストップした場合、資源価格が暴騰し、益々の円安と資源高のダブルパンチで日本の経常収支は大幅に悪化することは必定であるにも関わらず、何の見通しも示し得なかった。全てを安倍元首相などの責任とすることは、経済学者がする話ではない。

2 経済制裁はその発動国自身をむしばむ

EUは現在、ロシアの石油や天然ガスの輸入を置き換えようと試みている。しかし、それは、ヨーロッパにおける経済の大混乱をもたらす。欧州と世界は、原油やガス価格のさらなる上昇と、短期から中期の供給途絶の可能性に苦しむことになる。

『芳ちゃんのブログ』は「ドイツ経済のために必要なロシア産天然ガスを直ちに破棄することは頭にぶち込まれた弾丸みたいなものだ。予測される損失はドイツ銀行によると1650億ユーロにもなる。BASFグループの指導者であるマルティン・ブルーデルミュラーはドイツにとっては経済危機が到来すると予測し、その規模は1945年以降で前例が見られないような水準となるだろうと述べた。ドイツはすでにリセッションに入っている。ショルツ首相の政策はドイツ人口の49%に不満をもたらしている。この連立内閣の人気は急速に低下しているが、これは生活水準がより急速に低下していることと直結している。」(芳ちゃんのブログ仮訳:Sanctions began to devour their creators: By Alexander Khabarov, RIA Novosti,Apr/24/2022 )とし、「最悪のシナリオは、ロシア経済が疲弊するのを待っている間に欧米自身の経済が破綻してしまうという笑うに笑えないような状況であろう。西側の敵と見なされているロシアは資源大国であり、かつ、食料大国であり、EUがロシア産エネルギーの輸入を止めたとしても、既存のパイプラインを経由して中国へ売ることができる。その一方で、ロシア産エネルギーの輸入を止めた欧州各国は、具体的に言えば、来年の冬は寒い冬を過ごさなければならない。そして、その次の冬も。お湯が24時間供給されず、シャワーを浴びることにも不自由する。時間制となるからだ。EUが必要とする天然ガスを他国から十分に輸入できるようにするには数年はかかると言われている。米国もカタールも直ぐに積み増す余裕はないのだ。EU諸国も受け入れ設備が十分ではない。」(2022.5.5)。と書く。戦争を煽る金子勝氏とは異なる、全く現実的な判断である。

3 大恐慌時に匹敵するまで膨らんだ米国の債務比率―自らが科した制裁によるインフレと金利上昇で崩壊へ

相場研究家の市岡繁男氏は、米国の弱点は、大恐慌時に匹敵するまで膨らんだ債務比率(米国の非金融部門(政府+家計+企業)債務比率)で、GDP比の296%にものぼる。「僅かな金利上昇で経済 は破綻しかねない。これに対しロシアの強みは、穀物やエネルギーなど1次産品を押さえていることだ。こうした資源の輸出を停止するだけでインフレが加速し、西側諸国はウクライナ援助どころではなくなる。これがロシアの最終兵器だろう)と書く(『エコノミスト』2022.4.12)。

IMFでさえ、「パンデミック中、以前起きた景気後退局面(世界大恐慌と世界金融危機という、最大規模のものを含む)をはるかに超える速さで赤字が増え、負債が累積した。その規模に匹敵するのは21世紀に起きたふたつの世界大戦のみだ。IMFのグローバル債務データベースによれば、借入は2020年に28%ポイント急増し、国内総生産(GDP)の256%まで上昇した。このうちの約半分は政府が占め、残りは非金融企業と家計部門だ。公的債務は今や世界全体の40%を占め、ここ60年弱で最大となっている。」と警告している(2022.4.11)。

米国の金利は3%を超えて急上昇し、多額の過剰債務を抱える北米と欧州(そして米ドルで借り入れたすべての低・中所得国)にさらなる苦痛を引き起こした。世界的な食料価格のインフレが加われば、ロシアは嵐の海に囲まれた穏やかな穏やかな海のように見えるだろう。ロシアは戦争をエスカレートする必要はなく、欧米を自ら押し付けた大釜 (cauldron)にとどめておく方が良い(Moon of Alabama:2022.5.5)との書き込みもある。

こうした場合、いわゆる「リベラル」よりも新自由主義の経済学者の意見がまともに見える。日経新聞のシンクタンク・日本経済研究センター理事長の岩田一政氏は、経済制裁により「ドル本位制度から締め出されたロシアの地域別外貨準備で、最も保有比率が高いのは自ら保有する金であり、商品(金)を基礎とする通貨体制を構築するかもしれない。」とし、ロシア寄りの国々に限定されるだろうが、『ブレトンウッズ体制Ⅲ』が誕生すると見ている(日経:2022.5.6)。ドル基軸体制の没落は避けられない。

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【投稿】ウクライナ戦争は、いかがわしい商売だ

【投稿】ウクライナ戦争は、いかがわしい商売だ

                         福井 杉本達也

1 ウクライナ戦争は、いかがわしい商売

4月30日、ペロシ米下院議長が突如キエフを訪問した。日経新聞によれば、ペロシ氏は「330億ドル(約4兆3干億円)に上る追加支援の早期承認に意欲を示し」「うち200億ドルは武器・弾薬など軍事支援」であり、2月24日のウクライナ侵攻以降「累計約37億ドルに達する米国の軍事支援を大幅に増額する構えだ」と報じた(日経:2022.5.2)。これに先立ち、ブリンケン国務長官とオースティン国防長官がキエフを秘密裏に訪問。オースティン国防長官は4月25日、ポーランドでの記者会見で、ロシアが「弱体化することを望む」と明言した(日経:同上)。こうした一連の発言は「経済制裁や貿易制限を通じてロシアの国力をそぎ」・ウクライナへの軍事支援を通じて、米ロの「パワーバランスを大幅に改善する」狙いがある(日経:同上)。

属国である日本では、宗主国である米国の戦略にのっとり、「戦争の長期化を避けるには、制裁する側も犠牲を払う覚悟がいる」(共同通信:金沢秀聡:福井:2022.5.3)と「経済制裁」を声高に叫ぶものばかりである。鈴木宗男氏や山本太郎氏・鳩山由紀夫氏など、極少数を除き、骨のある政治家はほとんど駆逐されたが、宗主国米国にはまだ骨のある政治家がいるようである。

元米下院議員のロン・ポール(Ron Paul)は「1935年、米国のスメドリー・バトラー少将は、『戦争はいかがわしい商売』(War is a racket)と記した。」「ごく少数の人々の利益のために、多数の人々を犠牲にして行われる。戦争から少数の人々が莫大な財産を手にしている。」と書いている。ポールはより具体的に「戦争で大きな利益を得ている特別な利益団体のひとつが、米国の軍産複合体である。レイセオン社のグレッグ・ヘイズCEOは最近、株主総会で次のように述べた。今日ウクライナに輸送されているものはすべて、もちろんDOD(国防総省)やNATOの同盟国からの備蓄品であり、それはすべて素晴らしいニュースだ。いずれ、我々は補充しなければならないのでビジネスに利益をもたらすだろう。彼は嘘をついていない。レイセオンは、ロッキード・マーチンやその他無数の兵器メーカーとともに、ここ数年見たこともないような大儲けを楽しんでいる。米国はウクライナに30億ドル以上の軍事援助を約束している。彼らはそれを援助と呼んでいるが、実際には企業福祉だ。米国は武器製造業者に何十億ドルも支払い、武器を海外に送り出しているのである。」と書いている(耕助のブログ:2022.4.29)。オースティン米国防長官は退役後大手軍需産業であるレイセオン・テクノロジーズの取締役に就任しており、軍産複合体の代理人である。

ポールはさらに続けて「ジャベリン対戦車ミサイル(レイセオン社とロッキード・マーチン社が共同製造)のような兵器の出荷は、ウクライナに到着するとすぐに爆破されてしまうそうである。レイセオンは、このことをまったく気にしていない。ウクライナでロシアに爆破された兵器が増えれば増えるほど、国防総省からの新たな注文が増えるからだ。旧ワルシャワ条約機構加盟国で、現在NATOに加盟している国もこの詐欺に加担している。彼らは30年前のソ連製武器を廃棄し、米国や他の西側NATO諸国から最新の代用品を受け取る方法を発見したのだ。」と語る(耕助のブログ:同上)。「ドイツはウクライナへの戦車送ることを承認した」と報道されたが、送られるのは「ゲバルト」という対空システムであり、ショルツは米国が要求した、「本物の戦車や装甲歩兵輸送車の代わりに、これらを提供することに決めたことは、良い方法です。それは、ウクライナ人が戦争が終わる前にそれらを使うことができないことを保証します。2門の35mm機関砲を搭載したゲパルトシステムは50年以上前のものですが、…ドイツ軍は2010年に最後の1隻を退役させた。それ以来、それらは保管庫に保管されています。」(MoA Politico 2022.4.27)という代物である。ウクライナへの軍事援助とは米軍とNATO諸国の在庫一掃セールである。

2 ウクライナを借金漬けにする米「レンドリース法」

米国の中立法を回避するために第二次世界大戦中に開発された「レンドリース」法を使って、アメリカ兵器をウクライナに送る計画は、米議会によって4月28日に承認された。第二次大戦中のレンドリースの物品は英国に1ドル当たり約10セントという底値で売却され、その額は10億7500万ポンドに上った。返済は2 % の金利で50年間に渡って行われ、最後の返済が終わったのは2006年である。

奇妙なことに、この法案はロシアがウクライナ侵攻をする1か月以上も前の2022年1月19日に、共和党のジョン・コーニン上院議員によって、ウクライナ民主主義防衛レンドリース法(S.3522)として提出された。それは米議会の公式:Congress.gov から確認できる。レンドリースは無料ではなく、何世代にもわたるウクライナ人は、プログラムの下で、米国がキエフに供給する兵器の代金を支払う。ウクライナ国民の多くの将来の世代は、米国が届けた兵器、弾薬や食料供給に支払い続けなければならない。レンドリース法は軍事貸与によって将来にわたりウクライナを借金漬けにすることにある。しかも、これは米国によってロシア軍のウクライナ侵攻の前から計画されていたということである。

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【投稿】ロシアへの経済制裁で自滅する欧州と日本の今後の対応

【投稿】ロシアへの経済制裁で自滅する欧州と日本の今後の対応

                          福井 杉本達也

1 ロシア、ポーランド・ブルガリア2国へガス供給停止

ロシア国営ガスプロムは4月27日、ポーランドとブルガリアへの天然ガスの供給を停止したと発表した。ポーランドは国内消費の48%、ブルガリアは80%をロシアに依存する。すでに、3月末にプーチン大統領は、天然ガス代金のルーブル支払いに応じなければガスの供給を止めるという大統領令に署名していたが、ポーランドとブルガリアはルーブルでの支払いを拒否した。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、米国の命令に従い、ルーブルによるガス代を支払へというロシアの要求に屈しないよう各国に指示していた。完全にガスがストップすれば、ポーランドやブルガリは餓死する。ポーランドのガスはドイツなどの他の国の口座を通じて支払われるかもしれない。しかし、高いスポット価格と仲介手数料を第三国に支払うこととなる。ポーランドの国民は異常に高い燃料価格や電気料を負担することとなる。また、ポーランドはウクライナがかつてしたように、パイプラインの1つで領土を横切るガス管からガスを窃盗するだけかもしれない。しかし、そうなれば、他の諸国はガス欠になる。もしドイツがノルドストリーム1を通じて追加のガスを購入することを選択した場合は、ポーランドのガスはドイツから逆供給されるだろう。いずれにしても、米英はロシアを経済制裁することにより、世界的な危機を作り出しており、EUの同盟国は、制裁の返り血を浴び、これらの行動に苦しむことになる。

2 ドイツやオーストリアなど4カ国はガス代金のルーブル支払いに応ずる

BloombergのFTからの転載記事によると、「欧州の一部エネルギー企業はロシアが求めている天然ガスの新たな代金決済システムに対応する準備を進めている。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が事情に詳しい匿名の関係者を引用して報じた。それによると、ドイツのウニパーやオーストリアのOMVのほかハンガリー、スロバキアのエネルギー企業がスイスのガスプロムバンクにルーブル建て口座を開設する準備を進めている。」と報じた(Bloomberg:2022.4.28)。ドイツは天然ガスの48%をロシアに依存する。ショルツ首相は調達を突然終わらせることはできないとしている。ロシアからの天然ガスを代替できない場合、ドイツの産業基盤がほぼ完全に消滅する事態に直面する。そのようなばかげた選択肢はドイツにはないのである。

3月25日、ロシア銀行はルーブルで金を購入するための固定価格を発表した。それは1グラムの金に対して5,000ルーブル(当時は59ドル)の価格を設定した。金と通貨価値を表す一連の商品の両方を含むロシア通貨の提供が含まれている。その結果、ルーブルの為替レートは、その実質購買力平価に対応する。その支払手段は本質的な価値と物価の安定を持ち、ドルに縛られていない。金と通貨価値を表す一連の商品の両方を含むロシア通貨の提供が含まれている。その結果、ルーブルの為替レートは、その実質購買力平価に対応する。ドイツがガスのルーブル支払いをすれば、ドル基軸体制が根本から崩れることとなる。ドルというただのペーパーマネーで世界を支配してきた幻想の世界秩序が根底からひっくり返ることとなる。

3 日経の錯乱社説

4月29日の日経新聞社説は、ロシアは「供給国としての責任を放棄し、経済的に圧力をかける『武器』としてガスを利用する行為だ。容認することはできない。」とし、そもそも論を持ち出して、「ドルで・取引できなくなったのはロシアがウクライナに侵攻したためだ。」と書く。しかし、ロシアをドル決済ができないようにSWIFT(国際銀行間金融通信協会)から締め出し、米欧の中央銀行が預かるロシアの3000億ドルにものぼる巨額の外貨準備を凍結・没収したのは米欧側である。ドルやユーロの外貨準備を使えない場合、ロシアは売ったガス代金を回収することはできない。ロシアが自国通貨のルーブルで支払いを要求するのは当然である。これは「資本主義」「市場経済」の当然の原理であり、日経の社説は根本から「資本主義」「市場経済」を否定したことになる。ルーブル支払いができないのであれば、ロシアからガスを買わなければよいだけのことである。米国はそれを狙ったのであろうが、考えがあまりにも浅はか過ぎた。EUが求める量のLNGの供給ができないのである。また、価格もパイプライン供給の天然ガスに比べ異常に高く、LNGは蒸発するので長期間の貯蔵もできない。ようするに長期的戦略は何もなく、全く考えていなかったことが暴露されたのである。

社説は続けて「欧州各国は市場の安定に向けて、カタールや米国など供給国と関係強化を進める意向だ。日本これに乗り遅れてはならない。」とし、さらに、「日本はロシア極東のサハリン2事業に出資し、年間600万トンの液化天然ガス(LNG)を輸入している。政府は権益を維持する方針だが、日本は『非友好国』に指定された。ロシア側から輸出を止められる可能性がないとはいえなくなった。最悪の事態を想定した準備をするときだ。」と煽っている。まず、ロシアがルーブル支払いを要求しているのはパイプライン供給の天然ガスであり、日本が輸入しているLNGは含まれていない。LNG市場は国際商品として、ドル基軸に深く組み込まれているからである。しかも、そもそも最悪の事態を想定して、サハリン2の8%のLNGの代替ができるのであろうか。円が130円台に下落する中、アジアにおいて、中国や韓国・台湾やインドに買い負けるのは必至である。日経は米軍産複合体・CSISの代弁者ではあるが、社説で主張することが前後で食い違い、目先の判断もできない、あまりにもひどい錯乱した提灯社説である。

4 米国の圧力に屈することなく、サハリン1・2の権益は守るべき

結論は単純である。日本の国民の生活を守るためには米国の圧力に屈することなく、サハリン1・2の権益は死守すべきである。どこにもLNGの8%の代替や石油の4%の代替は転がってはいないのである。もし現在の権益を放棄すれば、 中国海洋石油は28日、サハリン2の権益について、「関心を持って注視している」と報道されているように(日経:2022.4.29)」、また、インドもサハリン1に20%の権益があり、米国の圧力に「負ける」馬鹿な日本の権益を虎視眈々と狙っている。

日経新聞の太田泰彦編集委員は、ロシアのウクライナ侵攻で「 冷戦後の平和を支えた通商、金融の国際秩序が、音を立てて崩れている。」と現状を分析し、自らが関わった、かつての東芝機械のCOCOM違反を参考例にして、米国の「規制の線引きを見極め、是々非々で機敏に判断するか」、あるいは「意向を忖度しとりあえず、自粛して様子をみるか。」しかし、今最も重要なことは「 優等生を演じず、自ら情報を集め、自分の頭で考えことである。」と書いている(日経:2022.4.28)。日本に求められるのは、米軍産複合体の「優等生」を演ずることではない。それは、国民に死活的な負担をもたらすこととなる。

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【投稿】国際金融資本とロシア「オリガルヒ」

【投稿】国際金融資本とロシア「オリガルヒ」

                           福井 杉本達也

1 英国はロシア新興財閥「オリガルヒ」の天国であり、戦争の元凶

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領によるウクライナ侵攻に対し、米欧日は共同で、ロシア新興財閥「オリガルヒ」への圧力を強めている。資産の凍結や渡航禁止、取引禁止といった制裁措置に加え、不正行為の調査で協力する。米国を含む複数の国・地域で制裁対象になった個人は3月中旬時点で政治家や実業家など28人。プーチン大統領を支えるエリート層に打撃を加える(日経:2022.3.30)。英は3月10日、クレムリンと密接な関係を持つチェルシーFCオーナー、ロマン・アブラモビッチ氏や「アルミ王」オレグ・デリパスカ氏らオリガルヒ7人に資産凍結などをした。対象資産は推定150億ポンド(約2兆4000億円)。ジョンソン首相は「オリガルヒはもうイギリスに来ることも収入を使うこともできない。活動自体できないのだ」と語気を強めた。しかし、本当は英国こそが「これまで進んでロシアやウクライナのオリガルヒに手を貸し、戦争の遠因をつくってきた」のである(木村正人:「ロシアのオリガルヒへの制裁連発の英国、実は彼らにとっての『天国』だった」JBpress 2022.4.2)。

2 「ショック・ドクトリン」でロシアの資産を盗んだ「オリガルヒ」と米欧金融資本

ナオミ・クラインは、ソ連邦崩壊後の1990年代のどさくさにおいて、米欧金融資本の指示を受けた「オリガルヒ」がいかにロシアの国家・公共資産をかすめとったかを描写している。「オリガルヒ」は「エリツィンのシカゴ・ボーイズと手を組んで価値ある国家資産をほぼすべて略奪し、1カ月に20億ドルのペースで膨大な利益を海外に移していった。」「クウェートよりも多く石油を生産する巨大石油企業ユコスは3億900万ドルで売却され、現在の収益は年間30億ドルを超える。」「ごく少数の選ばれた者だけが、ロシアの国家が開発した油田を無料で自分のものにした」「ロシアほど資産に恵まれた国を略奪するには、議会への放火からチェチェン侵攻に至るまで過激なテロ行為が必要だった。」「クリントンとブッシュ(父)両政権にとっての対ロシア政策の明白な目標は、既存の国家を消し去って弱肉強食の資本主義社会が成立する条件を整え、活況に沸く自由主義経済に基づく民主主義をスタートさせることだった。」「既存の法や規制を組織的に取り除いて、はるか昔の無法状態を再現しようというのである。」「今日の多国籍企業は政府のプログラムや公共資産など、売りに出されていないあらゆるものー郵便局から国立公園、学校、社会保障、災害救済など公的な管理のもとにあるものすべて―を征服し奪い取る対象とみなす。」「オリガルヒの台頭は…工業国での“お宝探し”がいかに大きな利益をもたらすかの動かぬ証拠となった。」「ロシアの例がもたらした唯一の教訓は、富の移転がよりすばやく、より法の規制を受けずに行なわれれば、それだけ大きな利益が生まれるということだけだった。」と書いている(ナオミ・クライン『ショック・ドクトリン』上)。

3 タックス・ヘイブンの元締めとしてのロンドン・シティー

マーシャル・プランによる欧州へのドル供給と1950年代後半のユーロ・ドル取引がロンドンを再び国際舞台に帰り咲かせた。「スエズ危機をきっかけにシティは生き残りをかけ、大英帝国の心臓としてありとあらゆる器官に資金という血液を流し始めた。金融街のバンカーや弁護士、会計士は億万長者たちがオフショア口座に蓄財するのを手伝った。シティの金融・法律インフラは、かつて大英帝国が育てた怪しげな権力者が自国の資源を搾取し、不正蓄財するのに再利用された。」「英領バージン諸島、ケイマン諸島、イベリア半島南東端のジブラルタルを、国家や国民の財産の収奪者にとって格好の隠れ家として再生させた。狡猾な専門知識を駆使したペーパーカンパニーや金融商品を通じ、大富豪やグローバル企業が租税を回避できる抜け道をつくった。『われわれがやらなければ、他の誰かがやる。米ウォール街では許されない方法でお金を動かしたいならロンドンでやればいいというわけだ』(ブロウ氏)」「ロシアや旧ソ連圏の犯罪組織のマネーロンダリング(資金洗浄)に使われてきた。ロンドンは地球上で最悪の人々にへつらい、民主主義を腐敗させ、貧富の分断を広げてきた。」「ロシアのオリガルヒを取り締まるより、資産隠しと不正蓄財に進んで手を貸してきた」(木村正人:同上)。

タックス・ヘイブンの仕組みは中尾茂夫氏の解説によると「フランス在住の口座に、たとえばグーグル株式等の米証券を保有したとする。米国では、これは負債に計上される。しかし、スイスの銀行では何も記帳されない。スイスの会計士は、それをフランス人のものとして処理し、フランスでも何も記帳されない。」「世界規模で計上される負債は資産を上回るという『ブラックホール』を生み出す。」「その『ブラックホール』に隠蔽されている家計金融資産は、世界全体の8%(2013年末の数字で5.8兆ユーロ)という巨大さで、これがタックス・ヘイブンにあたる『失われた国富』」だという(中尾『世界マネーの内幕』2022.3.0)。ロンドンの底力は税逃れではなく、その秘密主義にこそある。英サッカー強豪のチェルシーが新オーナーの入札をする。現オーナーのロシア人資産家のロマン・アブラモピッチ氏が英の経済制裁の対象となったためであるという(日経:2022.4.16)。このような英国がロシア新興財閥「オリガルヒ」への圧力を強めているというのは真っ赤な嘘である。ロンドンがその地位を自ら揺るがすような真似をするはずはない。

4 「ロンドングラード」と国際金融資本の「偽善」

ロンドンで「オリガルヒ」の存在感は強く、「ロンドングラード」と呼ばれるようになった。シティは英国のGDPの20~30%を稼ぎ出すといわれる。シティには「オフショア」の金融市場が設置されている。英国以外の国同士の取引を行う市場のことであり、ロンドンではこうした市場の規制は極めてゆるい。その背後に「王室属領」といわれるマン島、ジャージー島、ガ−ンジー島といった島々を抱えている。これらは「政府」の領土ではない。独自の法律、税制を持っている。さらに、英領ケイマン諸島やバージン諸島なども抱えている。シティは、こうした構造の上で、世界の金融センターとしての地位を確保している。シティに集まったマネーが規制のゆるい市場で取引され、タックス・ヘイブンという「ブラックホール」に吸い込まれていく。この仕組みが金融立国としてのイギリスを支えている。「ブラックホール」に吸い込まれた資金はどこへ行くのか。個々の国家の陰影を消し去って、国際金融資本として資源国の資源を買い叩き、発展途上国の労働を買い叩き、「ハゲタカ」として先進従属国の企業を買い叩く。

広瀬隆氏によれば、ジョージ・ソロスがロシアへの投資に利用したのはタックス・ヘイブンの1つであるキプロスだった。「オリガルヒ」によって、「IMFの融資額の半分がロシアから消え、ロシアの膨大な資産がタックス・ヘイブンを通じて国外に流出した」(広瀬:『一本の鎖』ダイヤモンド社:2004.4.15)と書いている。その資金は再び国際金融資本としてロシアに再投資され、ロシアの石油・ガスを安く買いたたき、「海外からの利子・配当」として膨大な所得をかすめ取っていったのである。本来、民族資本として、ロシア国内に再投資されるべき資本が海外(国際金融資本)に流出してしまうのであるから、ロシア国内において資源以外の産業が育つはずもない。

同様のことが中国においても行われている。中国の公安当局は、マカオなどのカジノを通じて「毎年1兆人民元(約20兆円)が海外賭博のために持ち出されているという数字を示し、危険な状況を引き起こしている」と報告している(日経:2022.4.17)。香港問題の本質は、中国からの膨大な資金の流出の窓口としての香港というタックス・ヘイブンにある。

しかし、こうした米ドルといった「ペーパーマネー」が「現物(コモディティ)」を支配する時代は終わりつつある。The Economist紙でさえも「ロシアを非難し制裁にも加わっている国の人口は世界の3分の1にすぎない。ほとんどが西側諸国の国民だ。別の3分の1は中立の立場をとる国に住む。インドなどの大国や、サウジアラビア、アラブ首長国連邦といった米国の同盟国の中でも一筋縄ではいかない」「新興国も米国とその同盟国を利己的だと考える都合のいい時だげ連帯を求め、そうでなければ背を向けると捉えている」(日経:2022.4.19)と書かざるを得ない。もはや国際金融資本の「偽善」(The Economist 同上)は隠しようもない。こうした状況の中、ジョンソン英首相が、貴重な収入源としての「オリガルヒ」を経済制裁し、切り捨てることなどありえない。それは、「国際金融資本の危機」という自らの地獄への道を早めるだけだからである。

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