【投稿】低税率に屈した国際最低法人税--経済危機論(62)

<<オックスファム「公平性を嘲笑うものだ」>>
 10/8、OECD(経済協力開発機構)は、「本日、OECDで最終合意された国際税制の大改革により、多国籍企業(MNE)は2023年から最低15%の税率が適用されることになります。世界のGDPの90%以上を占める136の国と地域が合意したこの画期的な協定は、世界最大かつ最も収益性の高い多国籍企業約100社の1,250億米ドル以上の利益を世界各国に再配分し、これらの企業が事業を展開して利益を生み出した場所で公平に税金を支払うことを保証します。」との声明を発表、OECDのマティアス・コーマン事務局長は、この協定は、「大きな 外交的勝利である」と評価した。
 イエレン米財務長官は、「今朝の時点で、事実上、世界経済全体が法人税の底辺への競争に終止符を打つことを決定した」と声明の中で述べている。
 この協定は、10月12~13日、ワシントンD.C.で開催されるG20財務大臣会合、10月30~31日にイタリアのベニスで予定されているG20首脳会議に提示される予定である。
 このOECDの新協定は、いわゆる「2本柱」のアプローチで、世界の法人税率を最低15%に設定すること、そして同時にアマゾンやフェイスブックのような多国籍企業に対して、その企業が物理的な拠点を持っているかどうかにかかわらず、商品やサービスが販売されている国で課税する権限を各国政府に与えることを柱としている。

OECDの租税協定は実現しない(税の正義ネットワーク)

 同じ10/8、世界的な租税回避問題に取り組んできたNGO・オックスファム・インターナショナルの税金政策のリーダーであるスサナ・ルイズ氏は、プレスへの声明を発表し(Oxfam Published: 8th October 2021 )、「この協定は、アイルランドのような国の低税率モデルに屈した、恥ずべき危険なものです。パンデミックに見舞われた発展途上国から、病院や教師、より良い仕事のために必要な収入を奪う、公平性を冒涜したものです。世界では、過去数十年で最大の貧困の増加と不平等の大爆発が起こっていますが、この協定はそのどちらにもほとんど何の影響も与えません。それどころか、すでに一部の富裕国では、国内の法人税率を引き下げるための口実として捉えられており、…この協定を『歴史的』と呼ぶのは偽善的であり、些細な検証にも耐えられません。税制の悪魔は細部に宿っており、アマゾンのような大企業を逃がすような複雑な免除措置も含まれています。世界の法人税は15%ですが、土壇場で10年間の猶予期間が設けられ、さらに抜け穴があるため、実質的には歯が立ちません。この協定は受け入れがたい不公平なものです。完全に見直す必要があります。」と、手厳しく問題点を指摘している。「バーが低すぎて、どんな企業でも乗り越える。いま世界は高まる不平等と気候変動とたたかうために、公正な税の交渉を求めている。しかし交渉の結果は主要7力国(G7)によるマネーの横取りに他ならない」と手厳しい。

<<「詐欺のライセンスを公認するようなもの」>>
 まず、この15%という税率は、世界の法人税を20~30%にするよう求めて、今年初めに発表された国連のFACTI(Financial Accountability, Transparency and Integrity )国際金融の説明責任、透明性および完全性に関する国連ハイレベルパネルの提言を大きく下回っており、国連機関の提言を全く無視している。
 また、ジョセブ・スティグリッツ氏らが参加する国際法人税改革独立委員会(ICRICT)は、これまで25%のグローバルミニマムタックスの適用を求めてきており、「15%の最低税率はあまりにも低い。それはアイルランドやシンガポールなどの最悪の行動を正当化するものである。底辺への競争を加速し、15%の税率をニューノーマル(新しい常態)にするリスクがある」と指摘する。
 トマ・ピケティも「15%の税率は、最も強力なプレーヤーに詐欺のライセンスを公認するようなものだ」と述べている。
 さらに、「抜け穴」として指摘されているのは、OECDの税制案では、世界の最低法人税率として提案されていた「最低15%」から「最低」が削除され、さらにその完全実施が従来予定されていた5年から10年に延期されたことである。アイルランドが英紙フィナンシャルタイムズに語ったところによると、アイルランドはOECDの税制計画に署名し、最低法人税率を12.5%から15%に引き上げることに同意したのはこのためであり、なおかつ、年間売上高が7億5,000万ユーロ以下の中小企業には新たな増税を課さないという約束を取り付け、現行の低税率のままでよいという条件付きであったからであるという。
 オックスファムの試算によると、現在のOECDの提案では、対象は69社の多国籍企業、10%以上の「超利益」にのみ限定されることになり、抜け穴を利用すれば、アマゾンやロンドンのシティのような「オンショア」の秘密法域も逃れることができ、金融サービスはこの協定から除外されることとなる。結果として、G7と欧州連合(EU)、先進国は15%の最低税率が生み出す収入の3分の2を手に入れる一方、世界の人口の3分の1以上を占める貧困国に入るのは3%以下にしかすぎないものである。これが、25%のグローバル・ミニマム法人税を適用すれば世界の人口の38.6%が暮らす最貧国38カ国は、15%の税率に比べて170億ドル近く多くの税収が得られることことからすれば、今回のOECDの先進国と多国籍大資本を利する税制優遇措置は、まさに税の公平性を嘲笑うものである、ということなのである。
 税の正義ネットワーク(Tax Justice Network)の最高責任者であるA・コブハム(Alex Cobham)氏は、OECDの今回の協定について、「世界的な最低税率を設定していますが、15%と非常に低いため、利益を移転するインセンティブは依然として大きく、収益の大部分は米国と他のわずかな国が独占することになります。アイルランドをはじめとする租税回避地が、特にさまざまな譲歩を得た後に、この協定を受け入れたのは不思議ではありません。現状では、利益移転を効果的に抑制することはできませんし、一握りのOECD加盟国以上に多額の収益をもたらすこともありません。特に、法人税の不正受給によって税収の大半を失っている低所得国は、他の国から取り残されています。」と、指摘する通りなのである。(Tax Justice Network 8 October 2021

法人税が減り、賃金への課税が増えた(国民所得に占める割合)            給与所得税(緑)・法人所得税(黄) (『つくられた格差 不公平税制が生んだ所得の不平等』E・サエズ/G・ズックマン著、2020/9月発行、光文社 から)経済危機論(46)


新自由主義経済政策の下で、法人税が一貫して減り続け、逆に賃金への課税が増え続けてきたこと、それが経済危機の進行と密接不可分であることから、打開策が至上命題となり、トランプ政権からバイデン政権への移行の最大の象徴が、新自由主義政策からの転換、法人税引き下げ競争からの脱却政策への転換であった。しかし、ここでもまたしてもバイデン政権の不徹底さ、いやむしろ新しい底辺への競争を加速するような悪質さを際立たせているのである。
(生駒 敬)
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【投稿】非常に危険な道を歩む岸田新政権の対中外交

【投稿】非常に危険な道を歩む岸田新政権の対中外交

                          福井 杉本達也

1 ネオコン(ジャパンハンドラー)の影響下にある岸田新政権

元外務省国際情報局長の孫崎亨氏は『日刊ゲンダイ』紙において、1991年の「旧ソ連の崩壊後、米国の対日政策の主眼は、自衛隊を海外に展開させる体制をつくることにあった。その圧力をかけたのが、アーミテージ元国務副長官、ナイ・ハーバード大学教授、キャンベル元国務次官補、ヘイムリ戦略国際問題研究所CEO、グリーン同日本部長、カーティス・コロンビア大学教授らで、「ジャパン・ハンドラー」と呼ばれてきた。彼らの意向に反した細川、鳩山両首相や、小沢民主党代表は次々と退陣に追い込まれた。…2008年7月に開催された洞爺湖サミットで、ブッシュ大統領は福田首相に自衛隊をアフガニスタンに派遣するよう激しく求めた。福田首相は自ら辞任をすることで、この要求の実現を止めた」。そして米国がアフガン戦争で大敗北・撤退したいま、日本に、ジャパン・ハンドラーの次の目標である「対中包囲網の中核になるよう圧力が始まった」と書き、その手始めが親中的な「二階はずし」であるとする(『日刊ゲンダイ』2021.9.17)。

中国『環球時報』によれば、総裁選出馬にあたって、岸田文雄氏はブルームバーグとの9月3日のインタビュー”Key Contender to Lead Japan Warns Taiwan Is ‘Next Big Problem'”の中で、「○岸田文雄は「香港及び新疆ウイグル族の状況に鑑み、台湾は次の巨大な課題になるだろう」と公言し、中国の「権威主義的な態度」に関心を表明し、『現実的な目で中国との距離を考慮していく』とした。○岸田文雄は、日本が『中米対決』の最前線に位置し、『民主主義、法の支配、人権等の基本的価値』を遵守する覚悟を明らかにする必要があり、『基本的価値観』を共有するアメリカ等の国々と協力するとともに、『台湾との持続的協力を実施していかなければならない』と公言した。」(『環球時報』浅井基文:「岸田文雄氏と石破茂氏の『台湾有事』発言」より:2021.9.4)。

この岸田発言に対し、『環球時報』社説はすばやく反応した。「中日間の経済貿易協力のボリュームは極めて大きい。このことを中日関係におけるもっとも実質的な中身と捉えるべきである。…したがって、日本の次の首相が対中強硬面で惰性的に走って行くか否かにかかわらず、中国としてはそれがもたらす挑戦に対応する能力がある。中国は今後ますます日本よりも強大になるだろうから、中日関係の悪化によって損害を受けるのがより大きいのは間違いなく日本、ということになるだろう。」(浅井:上記)と警告した。岸田発言は日本の国民的利益を全く度外視した、対米従属・売国外交以外のなにものでもない。

2 アメリカは中国に負ける

岸田首相が初めて電話協議を行ったのが10月4日のバイデン米大統領であるが、バイデン氏は「米国の対日防衛義務を定めた日米安保条約第5条に関して『沖縄県・尖閣諸島に適用する』と明言した」(日経:2021.10.6)といって喜んでいるが、米が尖閣といった小さな岩島防衛のために米兵の血を流すとは思えない。全くの幼稚な妄想である。米国にとっての国益がなければ、20年間介入したアフガンからも撤退するのである。マッカーサーは日本占領から帰米直後の米上院公聴会で「日本人は12歳」(like a boy of twelve)と証言したが、岸田氏を筆頭に対米従属者の幼稚さは変わっていない。

孫崎氏は『アメリカは中国に負ける』(河出文庫:2021.9.20)において、「『ニューヨーク・タイムズ』紙はクリストフによる記事『どのようにして中国との戦争が始まるか』で、『最近、台湾海峡を舞台での、中国を対象とする18のウォ―ゲーム中、18で米国が破れたと知らされた』と報じた」とし、また「ランド研究所が台湾正面の戦いでは中国が優位」との報告書も紹介している。中国の保有するミサイルの命中精度は向上しており、2010年には米中ほぼ互角だったものが、2017年段階の台湾周辺では中国優位に傾いたと冷徹な分析を行っている。ましてや、自衛隊が尖閣周辺において単独で中国軍と戦うなどというのは無謀である。沖縄・嘉手納基地よりも中国本土に近い尖閣周辺は完全な中国軍機の制空権に入る。

3 「台湾防空識別圏へ大量の中国軍機」というマスコミ報道の欺瞞

 10月6日の福井新聞(共同通信)によると「中国軍、台湾防空圏に56機」という見出しで、習近平指導部は「台湾南西域で台湾への軍事的な圧力を強化」したと報じている。記事の中段以降を見ると、「中国に近い西太平洋での空母3隻の同時展開は『1996年の台湾海峡危機のときに米軍が派遣した空母2隻を上回る歴史的な事態』と受け止めている」とある。当該記事の横には「護衛艦で米戦闘機発着…いずも空母化へ試験」という見出しもある。海上自衛隊の10月4日付けの「日米英蘭加新共同訓練について」(10月2・3日)のプレスリリースでは、参加空母は米海軍の「ロナルド・レーガン」、「カール・ヴィンソン」2隻と英海軍の「クイーン・エリザベス」そして、海上自衛隊の準空母「いせ」で、空母は4隻であり、海自のプレスリリ-スでも写真を公開している。産経10月9日付けの記事では防衛省提供の同4隻の共同訓練の写真が掲載されている。また、クリミア半島のロシア領海を侵犯しし、艦先に警告の爆弾を投下された札付きの英海軍・駆逐艦「ディフェンダー」も空母に随行している。こうした日米英蘭加による中国本土近海での挑発行為に対し中国軍機が反応することは当然といえる。上記、福井新聞(共同通信)の記事に見出しは、ことさらに中国の脅威を煽るものであり、挑発しているのは日米英蘭加軍の方である。

4 「台湾防空識別圏」とはなにか・沖縄県・与那国島も「台湾の圏内」

そもそも「台湾防空識別圏」とは何か。産経の上記記事では「台湾防空識別圏」は中国本土の奥深くまでがその範囲になっており、当然、中国は「台湾防空識別圏」などという存在を認めてはいないが、抑制した中国軍機の活動範囲内においても、東シナ海や南シナ海の一部は重複し「中国の防空識別圏内」に入りこんでおり、そこで堂々と訓練と称して中国を挑発する米英日等軍に中国軍機が反応するのは当然のことである。米国は一つの中国原則と中米3共同声明に著しく違反している。

防空識別圏とは、各国空軍が、領空侵犯を 警戒するために、領空の更に外側に設定する警戒空域である。飛行計画を提出しないで防空識別圏に入ると、国籍不明機としてスクラ ンブル(迎撃戦闘機の緊急発進)を受けてしまう可能性があり、軍事的緊張が高まった場合は撃墜される恐れもある。ところが、東経123度線上の沖縄県与那国島の上空2 /3が「台湾の防空識別圏」に組み込まれている。台湾側は与那国島上空を実質的に防空識別圏から外す運用をしていたため、2010年に日本側が防空識別圏に組み込んだ。しかし、台湾はこの日本の決定を受け入れていないので、名目上は日本と台湾の防空識別圏は東経123度線上で重複した状態になっている(上記産経記事図表参照:図表の東側東経123度の防空識別圏は南北にまっすぐであり、この線の下に与那国島がかかるので、本来ならば日本の防空識別圏として与那国島上空から西に小さな円弧が書かれるべきだが)。図表を含め台湾側の発表をそのまま報道するマスコミの属国姿勢にはあきれ返る。中国軍機よりも台湾軍機の民間航空機へのスクランブルを心配すべきである。

5 最終的に日本は米国にはしごを外される恐れ

9月25日夜、3年間カナダに拘束され米国に引き渡されようとしていた孟晩舟ファーウェイ副会長が解放され、深圳空港に下り立った。孟副会長は赤いワンピース姿でタラップを下り、赤い絨毯が敷き詰められた誘導路を歩き帰国を熱烈に歓迎された。9月27日の『環球時報』社説は「中国の国家の力量がこの勝利をもたらしたことは争いがない」と主張した(日経:2021.9.28)。最終的に米国は中国の力に負けたのである。これを契機に、米中間では貿易協議が進みだしている。米通商代表部タイ代表と中国劉鶴副首相との電話会談も行われており(福井:2021.10.10)、対立した両国関係は接点を模索し始めている。こうした中で、岸田首相が台湾問題を前面に出して中国を挑発すれば、米中が手打ちをし、はしごを外されて痛い目に合うのは日本である。米国は「米国第一」で動く。もはや「ニクソン・ショック」を忘れたのか。幼稚な外交とも呼べない“外交”は即刻中止すべきである。

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【投稿】米国のタックスヘイブン化--経済危機論(61)

<<パンドラ文書の公開>>
 10/3、ICIJ・米ワシントンに事務所を置く非営利組織。国際調査報道ジャーナリスト連合(International Consortium of Investigative Journalists)が、租税回避地・タックスヘイブンを利用して、公正な納税を回避・脱税している富裕層の個人や多国籍企業を暴露する新しいレポートを発表した。企業や信託法人を設立・管理する法律事務所など14社の1190万件以上の内部文書を入手し、それらを「パンドラ文書」と名付けて発表に踏み切りだしたのである。(pandora-papers global-investigation-tax-havens-offshore by ICIJ 2021年10月3日
 今回の「パンドラ文書」の取材プロジェクトには、日本からは朝日新聞と共同通信が参加しており、10/4付け朝日新聞によると、「日本の政財界人も多数登場、ソフトバンクの孫正義氏や内閣官房の東京五輪・パラリンピック推進本部の事務局長を務めた元通産官僚の平田竹男氏ら、「登場する個人や法人は千を優に超える」という。取材に答えた企業の関係者は、「それ(脱税)以外の理由でタックスヘイブンに親会社を作る会社はありますか」と開き直っている。
 同文書の公開にあたり、ICIJは「パンドラ・ペーパーズは、富裕層やコネを持つ人々が他の人々を犠牲にして利益を得る影の経済の内部構造を明らかにするものです」と述べ、要旨、以下のような事実を明らかにしている。
 ・ 何百万枚ものリーク文書と史上最大のジャーナリズムパートナーシップにより、35人の現役および元世界のリーダー、91の国と地域の330人以上の政治家と公務員、そして世界的な逃亡者、詐欺師、殺人者たちの財務秘密が明らかになりました。その中には、ヨルダン国王、ウクライナ、ケニア、エクアドルの大統領、チェコ共和国首相、トニー・ブレア元英国首相の海外取引が含まれています。また、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領の「非公式広報長官」や、ロシア、米国、トルコなどの130人以上の大富豪の財務活動も詳細に記されています。
 ・ 漏洩した記録によると、オフショア制度の廃止に貢献できる権力者の多くが、かえってオフショア制度から利益を得ていることが明らかになりました。秘密の会社や信託に資産を隠し、犯罪者を富ませ、国家を貧困に陥れる不正な資金の世界的な流れを止めるために、各国政府はほとんど何もしていないのです。
 ・ このシステムの主要なプレーヤーは、アメリカやヨーロッパに本社を置く多国籍銀行、法律事務所、会計事務所などのエリート機関です。パンドラ文書の調査では、米国最大の法律事務所であるベーカー・マッケンジーが、現代のオフショアシステムの構築に貢献し、このシャドー・エコノミーの主役であり続けていることも浮き彫りになっています。
 ・ ICIJは、150の報道機関から集まった600人以上のジャーナリストのチームを率いて、2年間かけて、入手困難な情報源を追跡し、数十カ国の裁判記録やその他の公文書を調査しました。ICIJとそのメディアパートナーによる調査結果は、秘密の金融がいかに深く世界の政治に浸透しているかを浮き彫りにし、政府や国際機関がオフショア金融の乱用を終わらせるために、なぜほとんど前進していないかについての洞察を提供しています。また、世界中の政府が歳入不足、パンデミック、気候変動、国民の不信感などに悩まされている中で、今回の秘密ファイルは、富とオフショアの避難所に関する今年の公式発表に、舞台裏の背景を提供しています。

「パンドラ文書」に登場する信託が最も多い米国の州は? サウスダコタ州 81 フロリダ州 37 デラウェア州 35 テキサス州 24 ネバダ州 14

 ・ さらに、急成長しているアメリカの信託業界は、海外のタックスヘイブンで提供されているものに匹敵する、またはそれを超えるレベルの保護と秘密を約束することにより、国際的な億万長者と億万長者の資産をますます保護しています。ほぼ絶対的なその盾は、業界を意味のある監視から隔離し、米国の州で新しい足場を築くことを可能にし、サウスダコタ州の信託会社に預けられている顧客資産は総額3600億ドル(約40兆円)で、この10年間で4倍以上に膨れ上がっており、州内最大の信託会社の一つ「サウスダコタ・トラスト・カンパニー」は54か国からの顧客を抱えています。他の州には、アラスカ、デラウェア、ネバダ、ニューハンプシャーが含まれます。ICIJは「成長する米国の信託産業は、国外のタックスヘイブンをしのぐレベルの財産保護と秘密保持を約束することで、国際的な富豪らの資産をかくまっている」と指摘している。

<<「早急な対策が必要」>>
 今回のパンドラ文書の最大の特徴の一つは、このパンドラ文書には、アメリカの15の州とワシントンD.C.にある206の米国の信託と、22の米国の信託会社の文書が含まれており、不透明なことで有名なヨーロッパやカリブ海の国に匹敵するほどの金融機密を保持し、アメリカ自身が今や世界的なタックスヘイブンであることが明らかになったことであろう。

朝日新聞 2021/10/5

 なお、このパンドラ文書には、ビル・ゲイツや、イーロン・マスク、ウォーレン・バフェット、ジェフ・ベゾスといった米国の大富豪たちの名前がまったく見当たらない。ワシントン・ポスト紙は、それは「米国の超富裕層は税率が低いため、海外のヘイブンを探すインセンティブが低い」からだと指摘、つまりはさまざまな優遇措置と減税政策、巧妙な税務対策の結果であろうと示唆している。

 貧困と不正を根絶するために活動する世界的なNGO・オックスファム・インターナショナルの税金政策のリーダーであるスサナ・ルイズ氏は、「パンドラ文書は、世界のタックスヘイブンの闇に蠢く大金についての衝撃的な暴露であり、かねてより約束されていたように、早急な対策が必要です。タックスヘイブンを廃止するという各国政府の約束は、実現に向けてまだ長い道のりを歩んでいます。」、「現在、140カ国がOECD-G20傘下の国際税務交渉に参加していますが、彼らが出した最善の案は、アイルランド、スイス、シンガポールがすでに提示している名目上の税率に近い15%の税負担を提案することにしかすぎません」と述べ、オックスファムは各国政府に対し、以下の方法でタックス・ヘイブンを廃止するよう求めている。(OXFAM International Published: 3rd October 2021
  1.  個人、オフショア・多国籍企業に対する税の秘匿を廃止する。銀行口座、信託、ダミー会社、資産の真の所有者に関する公的な登録簿を作成する。多国籍企業に対し、国ごとに事業を行っている場所での会計報告を義務付ける。
  2.  自動交換の利用を拡大し、歳入庁が資金の追跡に必要な情報にアクセスできるようにする。
  3.  タックスヘイブンへの企業の利益移転を新たなルールで止め、OECDのBEPS協定に基づいてグローバルミニマムタックス(理想的には約25%)を設定すること。
  4.  タックスヘイブンの世界的なブラックリストに合意し、その利用を制限するために制裁を含む対抗措置を講じること。
  5.  富と資本への公平な課税に関する新しい世界的なアジェンダを設定し、合意された基準に照らして、所得または富のいずれかを対象とした富裕層に対する各国間の課税競争に対処すること。

泥沼状態に入り込んでしまった租税回避と法人税引き下げ競争は、明確な打開策が講じられない限りは、ますます抜け出せなくなり、経済危機そのものをさらに深刻化させよう。
(生駒 敬)
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【投稿】浮上する「反中国」軍事同盟の危険性--経済危機論(60)

<<AUKUS・QUADは危険な転換点>>
 9/24、米国、日本、インド、オーストラリアの首脳がホワイトハウスで開いたQuad(クアッド、4カ国・日米豪印戦略対話)の会合に際して、十数カ国の平和団体や個人が署名した公開書簡が発表された。そこには、オーストラリア(オーストラリア独立・平和ネットワーク、オーストラリア反基地キャンペーン連合)、米国(平和・軍縮・共通安全保障キャンペーン、ピース・アクション、ニューヨーク平和運動・CPDCS)、アジア・ヨーロッパ人民フォーラム(インド、フィリピン、ベトナム)、国際平和ビューロー、宇宙における兵器と原子力発電に反対するグローバルネットワーク、ベテランズ・フォー・ピース、軍国主義に反対する国際女性ネットワーク、核軍縮キャンペーン、人権のための医師団、ストップ・ザ・ウォー・コーリション、などの団体、ならびに個人が名を連ねている。(全文と署名者は、Common Dreams September 24, 2021
 同書簡は、中国との地政学的な軍事的緊張を危険なまでに激化させるQuadの同盟と先のAUKUS同盟を非難し、このような軍事的競争の激化は、事故や誤算が破滅的な戦争へとエスカレートする危険性を増大させるだけでなく、核兵器、気候変動、パンデミックといった実存的な脅威を克服するための米中および広範な国際協力の可能性を著しく損なうものであり、AUKUS同盟の交渉と発表は、まさに地政学的に危険な転換点である、と指摘している。
 その中でも重要なこととして以下の4つの問題点が指摘されている。
 1.QuadとAUKUSの同盟関係は、安定と安全を高めるどころか、冷戦のような軍拡競争の危険なスパイラルに拍車をかけており、これは共通の安全保障外交によってこれを覆さなければならないものである。
  2.高濃縮ウランとその関連技術のオーストラリアへの移転は、核不拡散条約・NPTに違反し、核兵器の拡散を助長する。オーストラリアが核保有国になるために必要な資源を提供することになるが、インド、韓国、日本の政治家や軍部にとっては、なぜこのような能力が否定されるのかと問いかけることとなる。
  3.AUKUS同盟の発表は、悲惨な世界戦略上の影響を与える。NATOがアフガニスタンから急遽撤退した直後、バイデン政権はまたしてもNATO同盟国に相談なしに行動したが、これは、ヨーロッパやEUの指導者たちが、独立したヨーロッパの軍事大国化に拍車をかけるものであり、世界的な軍拡競争を強化するものである。
  4.AUKUS同盟は、ASEANやその他の国々に対して、独立性を損なう形でどちらかを選択する圧力を増大させるものである。

なお、オーストラリアの平和団体は、オーストラリアが米軍の中継地にならないこと、オーストラリアの主権が米国に放棄されないこと、自国政府が高濃縮ウランを搭載した潜水艦の購入合意に内在する核拡散と環境破壊の危険を助長しないことを要求している。オーストラリアの緑の党は、この取引に 「徹底的に 反対する」ことを表明している。

<<NPT違反の核武装協定>>
 菅首相は、まさにこの「反中国」の危険な軍事同盟の形成に自ら進んで加担し、後継政権に憲法違反の軍事同盟加担の枠をはめ、手渡そうとしているのである。
 オーストラリアのモリソン首相はQuadの会合後、ホワイトハウスで記者団に対し、菅首相とインドのモディ首相が会合の席上、米英豪による安全保障連携の枠組み・AUKUSで合意された米英による豪原子力潜水艦の開発支援に支持を表明したことを明らかにしている。
 パンデミックに対してすべて後手後手で、内閣支持率が最低にまで落ち込んで辞任に追い込まれた首相の最後がこれである。バイデン大統領に体よく利用されたわけであるが、自民党政権の本質の一端の露呈でもあると言えよう。
 問題は、AUKUSは安全保障パートナーシップと称されているが、中国への圧力を高めることを目的とした核武装協定であり、モリソン首相は、「AUKUSの最初の主要な取り組みは、オーストラリアに原子力潜水艦を提供することである」と明言していることである。
 しかしそのオーストラリアは、1973年に核拡散防止条約・NPTを批准し、ラロトンガ条約(1985年)、すなわち南太平洋非核地帯条約にも加盟し、南太平洋に核物質を持ち込まないことを約束しているのである。
 さらなる問題は、今回新たに導入されようとしている原子力潜水艦の原子炉には大量のウランが必要であるが、それは最も核分裂性の高い同位体であるU-235の高濃縮ウラン(HEU)なのである。仮に、6~12隻の原子力潜水艦を約30年間運用しようとすると、3~6トンの高濃縮ウランが必要になるが、オーストラリアにはウラン濃縮施設も能力もない現段階では、新たに軍事目的の濃縮プログラムを開始しない限り、米英から調達することとなる。当然、今後、非常に機密性も危険性も高い軍事用核技術の拡散が予想され、文字通り何トンもの新しい核物質が国際的な保障措置や監視から縁遠い状態で使用される可能性が大なのである。

 一方でオーストラリアは、カザフスタンに次ぐ世界第2位のウラン生産国であり、この核物質のほとんどは英国と米国に販売されている。今回のAUKUS合意を、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州鉱業のCEOであるS・ガリリーは、「これは、ニューサウスウェールズ州での冷戦時代のウラン採掘の禁止を撤廃することにより、原子力エネルギーへのアプローチを更新する絶好の機会です。ニューサウスウェールズ州で、国内のエネルギーと国家の安全保障のニーズを満たすために地元のウランを提供できる新しい産業を開発する本当のチャンスです」と、原発ならびにウラン濃縮施設の新設まで見越して大歓迎である。

 こうした事態に照応して、原料ウランの価格は高騰し、わずか数カ月の間に60%も上昇して9年ぶりの高値を記録している。しかもアメリカの悪名高いReddit投資フォーラムの絶好のマネーゲーム対象となり、ウラン採掘会社の株を買い集めている。このような危うい投機経済は、経済危機破綻のきっかけにさえなりかねないものである。
 しかしこうした危険な核拡散に対して、ニュージーランドは厳格な非核政策を堅持することを明らかにし、アーダーン首相は、オーストラリアのモリソン首相に対して原潜の寄港はもちろん領海内通過も拒否することを通告している。インドネシアのファイザシャ外務報道官は「インドネシアは、この地域で軍拡競争が続いていることに深い懸念を抱いている」と表明し、 マレーシアのイスマイル・サブリ・ヤコブ首相は、AUKUSを「インド太平洋地域における核軍拡競争の触媒」と定義し、「マレーシアはASEANの一国として、ASEANを平和、自由、中立のゾーンとして維持するという原則を堅持する」と述べている。
 日本政府はこれらの国々とは真逆に、軍拡競争に加担し、オーストラリアの原潜の寄港どころか共同防衛体制の構築にまで進もうとしているのである。日本の次なる新政権と野党の態度が問われている。
(生駒 敬)
カテゴリー: 平和, 政治, 生駒 敬, 経済危機論 | 【投稿】浮上する「反中国」軍事同盟の危険性--経済危機論(60) はコメントを受け付けていません

【投稿】混迷するバイデンの対中・新冷戦--経済危機論(59)

<<「ハロー、チャイナ、こちらペンタゴンです」>>
 この9/21に発売される予定の著名ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード氏とワシントン・ポスト紙の政治記者・ロバート・コスタ氏との共著『PERIL 危難』は、トランプ政権からバイデン政権への移行期の実態がどのようなものであったのかを明らかにしている。両氏は、これまで知られていなかった秘密の命令の内容や、極秘の電話のやり取り、日記、電子メール、議事録、その他の個人や政府の記録を入手したこと明らかにしており、それは「単なる国内政治の危機をはるかに超えた」、「米国史上最も危険な時期」だったという。
 その中で、これは本当なのかという、意外な驚くべき事実が暴露されている。それは米国防総省・ペンタゴンのマーク・ミレイ統合参謀本部議長(陸軍大将)が、中国・人民解放軍の李大将に一度ならず二度までも極秘の電話をかけていたというのである。一度目は、米大統領選投票日のわずか4日前、2020年10月30日。そして2回目の電話は、トランプ支持者が国会議事堂を襲撃した2日後の1月8日に行われたという。その際、ミレイ氏は、自国が中国を攻撃する可能性を示唆し、もし攻撃する場合には「事前に相手に警告する」と述べ、「核兵器で攻撃することはないが、攻撃する場合は通知する」と述べたというのである。
 「ハロー、チャイナ、こちらペンタゴンです」と言って、こんな会話をするであろうか、常識では考えられない事態である。米アトランティック誌は、「善人のミレイは、悪人のトランプを非常に心配していたので、私たちを救ってくれた」のではないかと問いかけている。
 さらにミレイ氏は、米軍の上級将校たちを呼び集め、核兵器の発射手順に自分が含まれていなければならないことを理解していると、一人ずつに確認までさせていたという。
 冷静に考えれば、本当にそのような電話をかけざるを得ない事態、核兵器の発射手順の寸前にまで陥っていたとすれば、アメリカはすでにその時点で制御不可能な国家に転落をしていたということであろう。全面核戦争の戦端を切り開いていた可能性さえあったのである。
 問題は、ミレイ氏自身がこうした事実が報じられているにもかかわらず、否定していない、ということである。そして、バイデン大統領までもが、こうしたミレイ氏に「全幅の信頼」を寄せていることを明らかにしていることである。

<<「水差しは爆弾」>>
 ところで、このマーク・ミレイ氏、”ISISテロリスト”とまったく無関係な市民9人を殺害した8月29日のアフガニスタン・カブールでの米国のドローン攻撃を、「正義」であり、「正当」なものと表現していた張本人である。バイデン大統領が軍司令官に空爆の許可を与えたことを自慢げに語り、ホワイトハウスのサキ報道官は「大統領は司令官たちに、カブール空港でのアメリカ軍人の死の代償をISISに払わせるためには手段を選ばないと明言しています」と述べていた。

ニューヨーク・タイムズ紙の取材から1週間後、米軍は先月カブールで行われた無人機による空爆で、援助者と7人の子供を含む10人の民間人が死亡したことについて、「悲劇的なミス」を認めた。YouTube-NYTimes-Visual Investigations 2021/09/11

 ところが、ニューヨークタイムズやワシントンポストの調査報道で、この爆撃は米国に拠点を置くNGOに雇用されていた援助者のゼマリ・アフマディさん(43歳)を標的とし、彼の家族9人を殺害したことが判明するや、頬かむりして逃げ込むつもりであったのが、2週間以上も放置しておいて、あわてて謝罪に追い込まれる事態となった。

 アフマディさんは、戦争で疲弊したアフガン難民に食料と水を提供する米国後援のNGO、Nutrition & Education Internationalで働いていて、当日、彼は白いトヨタ・カローラに乗り、事務所を訪れて事業計画を作成したり、家族のために水の容器に水を入れたりして、一日の終わりに家の前に車を停め、家族に挨拶をしていたところをドローン爆撃で家族ともども殺害されたのであった。ドローン爆撃の無人機チームのオペレーターにとっては、アフマディさんが移動した施設は「イスラム国」の秘密施設となり、水差しは爆弾、車内に収納されていたノートパソコンのケースも爆発物と思われる包装がされていた、というのである。アフマディさんを8時間も追跡していた結果がこのでたらめさである。米国の無人機ドローン爆撃によって殺害された人々の90%がテロとは無関係な民間人であったことが明らかにされている。
 説明責任を果たさない、誤爆であったと発表されても、誰も解雇や懲戒処分を受けない、責任も取らない。その頂点にあったのが、ミレイ氏やバイデン氏である。

<<Aukus・Quad:米英豪+日軍事同盟の危険性>>
 そのアフガニスタンから撤退する理由として、バイデン氏は、「私たちの真の戦略的競争相手」である中国を第一に挙げていたのであるが、9/10に行われたバイデン氏と中国の習主席の電話会談では、米中両国は両者の利益が一致する分野と「我々の利益、価値観、視点が異なる分野」について、「オープンで率直な」関与を行うことで相互に合意したという。バイデン氏は、中国に対抗する戦略から、「責任を持って 二国間関係を管理」し、「インド太平洋と世界の平和、安定、繁栄 」を維持し、「競争が紛争に発展しないようにすること 」へと劇的な変化である。
 前回の首脳会談では、「米国民の安全、繁栄、健康、生活様式を守り、自由で開かれたインド太平洋を維持する」ことを誓い、「北京の強圧的で不公正な経済活動、香港での弾圧、新疆での人権侵害、台湾を含む地域での自己主張の高まりに対する基本的な懸念」を強調し、事実上決裂していたトーンとは全く異なる事態の進展である。大いに歓迎されるべきであろう。
 ところが、である。その舌の根も乾かないうちに、9/15、バイデン大統領とオーストラリア、イギリスの首脳は、中国に対抗するための新しい軍事協定を発表したのである。AUKUS 3国間安全保障パートナーシップと呼ばれるこの新しい協定は、バイデン米大統領、ジョンソン英首相、モリソン豪首相が共同で発表したもので、機密性の高い軍事技術の共有に焦点を当て、最初の取り組みとして、オーストラリアに原子力潜水艦を導入することを明らかにしている。
 このあたらしい軍事協定により、オーストラリアは初めて原子力潜水艦の製造が可能になったのであるが、900億ドルを投じてフランスが設計した潜水艦12隻を入手する計画が放棄されることとなった。フランスのルドリアン外相は「裏切り行為だ」と猛反発し、バイデン米大統領についても「(米欧関係を悪化させた)トランプ前大統領のようだ」と非難する事態を招いている。
 バイデン政権は、対中新冷戦包囲戦略として、このAukusに加え、Quad・四カ国・日米豪印戦略対話を連結させようというわけである。辞任が目前に迫った菅首相を取り込んで、既成事実として承認させられる場に、のこのこと菅氏が訪米するのである。
 米中を含めた、パンデミックと気候変動の共通の脅威に取り組むために世界的な協力を必要としている、この喫緊の課題に逆行することは許されるものではない。
(生駒 敬)
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【投稿】新型コロナウイルスは「空気感染」

【投稿】新型コロナウイルスは「空気感染」

                             福井 杉本達也

1 新型コロナウイルスは「空気感染」

米CDCのワレンスキ所長はコロナのデルタ株は感染力が大幅に強いと指摘し、感染者1人が他の8~9人程度に広める恐れがあるとした。水痘(水疱瘡)に匹敵するくらいの感染力があるとの見方を示した(福井:2021.8.2)。水痘は結核と同じく「空気感染」する。水痘の説明では「水痘の感染力は極めて強く、空気(飛沫核)感染、飛沫感染、接触感染によってウイルスは上気道から侵入し、ウイルス血症を経て、通常は2週間前後(10~21日)の潜伏期間を経て発病すると言われています。水痘を発病している者と同じ空間を共有(同じ部屋、同じ飛行機の中等)した場合、その時間がどんなに短くても水痘に感染している可能性があります。この場合水痘の空気感染を防ぐことのできる物理的手段(N95等のろ過マスクの装着や空気清浄機の運転)として効果的なものは残念ながらありません。水痘の感染発病を防ぐことのできる唯一の予防手段はワクチンの接種のみです。」(感染症・予防接種ナビ)とある。水痘並みの感染力なら新型コロナウイルスは「空気感染」そのものである。

2 あくまで「空気感染」を否定する尾身会長

尾身茂新型コロナウイルス対策分科会会長(当時の役職名)は記者会見でコロナの感染経路に触れ、「新型コロナウイルスの主要な感染経路は(1)飛沫感染(2)接触感染であることが知られているが、7月に入り、世界保健機関(WHO)がエアロゾル(マイクロ飛沫と同義)と感染との関連性について見解を示したほか、海外メディアが米大学の研究者らによる論文について報じている。」が、新型コロナウイルスは空気感染ではないとし、「マイクロ飛沫感染が『空気感染と誤解されると困る』(尾身氏)ためだといい、『普通に野外を歩いたり、感染対策が取られている店舗での買い物や食事、十分に換気されている電車での通勤・通学では、マイクロ飛沫感染の可能性は限定的と考えられている』と説明し、過剰な心配は必要ないとの見方を示した。」(Yahooニュース:2020.7.31)。その後も、尾身氏は「空気感染に関しては『起きていれば、東京が上げ止まりなんてことは絶対ない。それは起きていない』と改めて否定。」(Yahooニュース2021.5.21)と重ねて空気感染を否定している。そもそも「マイクロ飛沫感染」などという造語まで駆使してなぜ「空気感染」を否定する必要があるのか。 続きを読む

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【試論】日本共産党 市大細胞について

【試論】日本共産党 市大細胞について

日本共産党市大細胞は、1961年8月 日本共産党8回大会を契機とした離党・分裂を皮切りに、日本の共産主義運動の分裂と激動の中で、変遷を遂げることになる。

第1次分裂 1961年8月 日本共産党第8回大会を前後して後の社会主義革新運動に連なるグループが離党(脱党)し、第1次分裂が起こる。

おそらく、小野先生指導の下で、民学同に繋がる部分は、共産党内に踏みとどまり、党内闘争を継続。

第2次分裂 1962年7-10月 → 共産党が市大細胞を除名

再組織 1963年4月28日結成 (GRIMAU COMMITTEE)

 党内闘争を継続していたグループを中心に、学生共産主義者のインフォーマル組織を結成。「前衛党再建をめざして、市大共産主義者の新しい前進のために」(1964/11/8)の文書が存在。

 一方、市大と同様に組織を維持しつつ、党内闘争を継続していた阪大細胞も不当な処分により、除名を余儀なくされたが、組織を維持し、後の民学同結成の中核を担う。阪大自治会連合(阪自連)を掌握し、府学連の中核を担っていた。
 市大では、全学自治会の結成は、1963年であり、それまでは、各部自治会のみ。
(1958年に結成された社学同市大支部は、経済学部自治会を拠点に、府学連に加入)

1963年10月 平和と社会主義をめざす学生同盟が結成される。
       のちの市大「革新グループ」となる。

民主主義学生同盟    1963年9月15日結成 (創立大会 市大生 40名参加)

1964年の志賀除名・日本のこえ発足に対しては、積極的に呼応し、GRIMARUを中心に、こえ組織に入る。

日本共産党(日本のこえ)市大細胞第1回総会への提案  (1965年11月)

こえ市大細胞第1回総会議案書

こえ市大細胞第1回総会議案書

1968年1月 「総結集運動」の中、こえ市大細胞の多数が、「共労党市大細胞」に移行。(「統一」265号)
 日本のこえ市大細胞(多数派) → 共産主義労働者党 市大支部に移行

1968年3月 共労党派が、民学同(分裂)9回大会を強行

1970-72年 共労党の3分裂に伴い、共労党市大細胞消滅(?)

 (1972年春、市大にはプロ学同も共労党も存在していなかった。)

 

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【試論】日本のこえと民学同

【試論】 日本のこえと民学同

共産主義諸グループや学生運動組織の系譜の図などを見ると、民学同は「日本のこえ」の下部組織であったとするものが多い。しかし、私の経験でも「こえ」との関係は、そのようなものではなかった。

「日本のこえ」結成(1964)より、民学同(1963)は一年早く結成されている。

1962年に、除名された日本共産党市大細胞が、「日本のこえ」発足の後、1965年に「こえ市大細胞」として合流した経過はあるが、その多数派が共労党市大細胞に移行して以降は、こえ市大細胞は消滅した。

1970年代、共闘関係という意味で、「こえ」紙などは、民学同組織内で配布されていたが、指導被指導の関係にはなかったのである。卒業後も「こえ」に所属するという学生OBも大阪では皆無である。

私の経験でも、70年代のこえの活動家の多くは教条主義が根深く、「党」という意識からか、我々を「指導してやる」というような、お高い考え方にたっており、大衆運動を現場から作るという意識も希薄であったように思う。

志賀さんが大阪選出の国会議員であったこともあり、小野先生も、こえ結成当時、共同歩調を取られたことはあったが、少数で「前衛党」を名乗るということに否定的であった。

各大学の自治会運動、現場の大衆運動に依拠した民学同は、「こえ」が分解する局面でも、組織を維持発展させた。プロ学同が、共労党の下部組織として「利用され」、「遅れてきた新左翼」として、極左主義に傾斜して、街頭闘争に終始し、共労党の分解とともに消滅するという経過とは、まさに対局にある。

「日本のこえ」の歴史的評価について、当事者からの発信や記録の公開も全く行われていないことも気にかかる。今後の課題とも言えよう。

以上の考えを基に、「日本のこえ」の経過と民学同の関係について整理してみたい。

<「日本のこえ」・民学同の歴史的経過>

1962年10月 日本共産党、市大細胞(多数派)を「除名」?

1963年9月 民主主義学生同盟 結成(大阪大・市大の旧日共細胞が中心)
1963年11月 「平社学同」結成 (市大細胞 第2次分裂?)
1964年 小野義彦教授 「戦後日本資本主義論」出版を理由に日共から除名処分

1964年  「日本のこえ」発刊

日本のこえ結成の訴え

日本のこえ結成の訴え

1964年12月1日 志賀・鈴木・神山・中野の「訴え」発表(全文PDF

1964年12月14日 「日本のこえ」第1回全国活動者会議

1965年10月16日 「日本のこえ」第2回全国活動者会議(こえ67号)
1965年10月  部落解放同盟第20回全国大会 (同対審論争) 「解同こえ細胞結成?」

1965年11月 「日本のこえ」市大細胞確立(細胞総会)

1966年3月20日 「日本のこえ」第3回全国活動者会議
1966年4月7日 「結集のよびかけ(全国会議)」 (こえ90号・91号)
1966年8月26日 「日本のこえ」第1回全国会議(18名全国委員選出)
1966年10月 「日本のこえ」第4回全国委員会
1966年11月 「日本のこえ」第2回全国会議(こえ123号)・・「志賀提案」
1966年11月 「日本のこえ」第5回全国委員会
1966年12月 志賀・鈴木・神山・中野 「新党不参加表明」(こえ124号)

1967年1月 「共産主義労働者党」結成(第1回大会)
1967年10月 「日本のこえ」第3回全国会議「総結集問題」

新党に参加せず(こえ124号1966/12/5)

新党に参加せず(こえ124号1966/12/5)

「日本のこえ」は3分解(新党派、離脱派、残留派)

1968年1月 こえ市大細胞(多数派)が「共労党」細胞に移行(「統一」265号)
1968年2月 「共産主義労働者党」第2回大会
1968年3月 「日本のこえ」第4回全国会議「総結集問題」→ 多数が新党へ
「日本共産党(日本のこえ)」から「日本のこえ」に
1968年3月 民学同第1次分裂 → 「民学同左派」(後のプロ学同)
共労党派が、民学同(分裂)第9回大会を強行

1968年3月 「チェコ事件」小野さんは反対意見
「こえ」と分岐・離脱

 (「コムニスト」3号 小森文書:建設者同盟発行)

1969年4月 プロレタリア学生同盟結成(「民学同左派」解消から)
1969年5月 共労党第3回大会、分裂大会 (後の「労働者党」Gが離脱)
1969年9月 「日本のこえ」第5回全国会議(こえ265号)

1970年3月  民学同第2次分裂 → 学生共闘派
1970年5月 「日本のこえ」第3回全国委員会
1970年12月 「知識と労働」誌創刊 (「大阪唯研」発行、後「知識と労働」社)

1971年5月22日 「日本のこえ」第5回全国委員会総会(こえ341号)
1971年10月16日 「日本のこえ」第6回全国委員会総会(こえ361号)

1974年11月 「日本のこえ」第6回全国会議
1974年12月 「知識と労働」10号問題

1975年3月 民学同第3次分裂 → デモクラート派
1975年5月 民学同第14回大会(「新時代」紙の発行開始)
1975年10月 労働青年同盟結成準備会 結成総会(「労青ニュース」発行)

1977年1月  「日本のこえ」終刊 (こえ602号)
1977年2月  「平和と社会主義」 (603号)
民学同明治大支部 → 「日本のこえ」明治大細胞に? 
1977年3月 労青(準)機関紙「青年の旗」発行(改題1号)

※この文書は「試論」との位置づけであり、以下のコメント欄を利用して、討論に参加いただければ幸いです。(佐野秀夫)

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【投稿】タリバンのアフガニスタン制圧

【投稿】タリバンのアフガニスタン制圧

                               福井 杉本達也

1 カブール陥落

8月17日付けの毎日新聞社説は「米同時多発テロから20年に及ぶ戦争の無残な終幕と言うべきか。アフガニスタン旧支配勢力タリバンが首都カブールを制圧し『勝利宣言』した。ガニ大統領は国外に脱出し、政権は崩壊した。…米メディアは、1975年のベトナム戦争の『サイゴン陥落』で大使館員がヘリで避難する映像に重ね、『カブール陥落』と表現した。米国にとって屈辱の光景だ。」と書いた。そして「2001年の米同時多発テロに対して…始まったのがアフガン戦争である。米英軍が、テロを主導した国際テロ組織アルカイダと、かくまっていたタリバンを攻撃し、…国際社会が隊列を組んだテロとの戦いだ。」と続け、最後に「最も懸念されるのが、アフガンが再びテロの温床となることだ…アルカイダの排除にも疑念が残る。…『カブール陥落』は、国際社会における米国の威信低下を加速させるだろう。米国主導の民主化は失敗したが、テロとの戦いは終わったわけではない。」と結んでいる。これが、日本及び米欧におけるアフガン戦争の一方的な見方であるが、何十万人ものアフガン人を虐殺した侵略戦争に対する反省のかけらもない。事実は全く異なる。

 

 

2 アルカイダ又はイスラム国(IS)とは何か。又、タリバンとは何か

アルカイダ又はイスラム国(IS)とは何か。ジェフェリー・サックス米コロンビア大学教授は「1979年以降、米中央情報局(CIA)は旧ソ連をアフガニスタンから追放するため多国籍のイスラム教スンニ派戦闘部隊『ムジャヒディン』(イスラム聖戦士)を組織した。この戦闘部隊とそのイデオロギーが、今でもISを含むスンニ派の過激派武装勢力の基盤になっている。」(日経:2015.12.7 原文Ending Blowback Terrorism 2015.11.19)と述べている。カーター政権下でブレジンスキー安全保障補佐官が始めたCIAプロジェクトは、ソ連をアフガンに誘い込み、ソ連を弱体化させ、それにより冷戦終結を早めることにあった。1979年、アフガンでソ連軍に対し非正規戦を行うべく、パキスタン、アフガンやサウジアラビアから急進的イスラム主義者を採用し、武装させ、1989年2月に1万4千人死者を出しソ連軍は撤退、その2年後にソ連邦は崩壊した。

ソ連邦崩壊により1992年にナジブラ政権がが打倒された後、アフガンでは、麻薬密売の軍閥指導者が権力を求め、残虐な内戦を経験した。タリバンは、新体制の担い手としてアメリカとパキスタンの情報機関によって組織されたものであるが、出現すると、内戦を終結させ、多くのアフガン人が彼ら支持した。しかし、2001年9月11日の米同時多発テロ事件を契機として、タリバンが、攻撃の首謀者とされたオサマ・ビンラディンとアルカイダを保護しているとして、10月7日、米主導の有志連合軍がアフガンへの攻撃を開始、タリバン政権は崩壊した。実際は、ソ連の脅威がなくなり、アメリカ軍産複合体は、膨大な予算を正当化する口実を失ってしまった。そこで9・11を利用して“イスラム教徒テロリストの脅威”が作り出された。同時に、旧ソ連邦を構成した中央アジアや中国の弱い下腹部:新彊ウイグルやチベットへの橋頭堡を築くための米国による軍事占領の言いがかりであった。軍産複合体のために”テロとの戦い“という「無限の戦争」を作り出すこと、ネオコンのウォルフォウィッツ(父ブッシュ政権の国防副長官)・ドクトリンである。

3 中国とロシアはアフガン復興に積極的に関与する

カブール陥落の前、中国の王毅外相は7月28日、天津でバラダル師率いるタリバンと会談し、王外相はタリバンを「アフガンでの決定的な力を持つ軍事・政治勢力だ」と評価、「アフガンの和平と和解、復興の過程で重要な役割を発揮できるだろ」と述べ積極的に支援することを表明した(共同:2021.7.28)。

かつてアフガンに軍事介入したロシアの場合は少し複雑であるが、「ソ連の終結は、外交政策に対するイデオロギー的制約からモスクワを解放し、よりプラグマテックに対応する道を開いた。」とし、「モスクワと中国政府は、タリバンに包摂的な政府を追求するよう説得し、政権を穏健化し、内戦を終わらせようとしている。この関与と非介入の政策はタリバンに利益をもたらす」とした。しかし、タリバンは「テロ集団としてリストアップされ、ロシアで禁止されており」(グレン・ディーセン:ロシアRT:2021.8.21)懸念を持っている。ロシアは下腹部のウズベキスタンなど中央アジアにアフガン難民に紛れてISなどのCIAの傭兵が入ってくることを極度に警戒している。それを防ぐにはアフガンの政治的・経済的安定が重要なのである。

ところで、旧ソ連軍のアフガン介入について、『青年の旗』はかつてどう見ていたのであろうか。第36号『主張』は「アフガニスタンヘのソ連軍進行を契機に、今までになく〝ソ連脅威″論と反ソ煽伝の音量が高まっている。国連での『外国軍撤退』決議採択によって、ソ連は第三世界からも見はなされ、世界的に孤立したとさえ言われている。しかし、アフガンで失敗したのは、米であり、中国であり、勝利したのは、アフガニスタンであり、ソ連である。」(主張:1980.2.1)と、ソ連軍の介入を全面的に支持していた。

しかし、1989年のアフガン撤退決定の前、故小野義彦先生は「たとえばアフガニスタンへの侵攻。その必要性は何もなかった。自分に都合のいい政府を他国に押し付けるのは、内政干渉である。内政干渉を行えば、一時的に都合のいい政府ができるかもしれないが、長持ちせず、逆にそういう行為を行ったことで、その国民全部を敵に回す。」(「ペレストロイカについて」:『青年の旗』第140号1988.10.1)と内政干渉への反省を述べている。

4 民営化された戦争―民間軍事請負業

「18,000人以上の国防総省請負業者がアフガニスタンに留まっており、他方、公式兵士は2,500人だ。」「アメリカ兵一人当たり、七人の民間軍事請負業者がいる。」「民間軍事請負業者を利用すると、国防総省と諜報機関は、議会による本格的な監督を避けられる。典型的に、彼らは民間警備請負業者や傭兵として、より大きい収入を得る特殊部隊兵役経験者だ。彼らの業務は全く秘密で、ほとんど説明責任がない。」「ダインコープは最大請負業者の一社だ。2019年時点で、ダインコープは、アフガニスタンで、アフガニスタン軍を訓練し、軍事基地を管理する政府契約で70億ドル以上得ていた。」(F. William Engdahl「ヘロインの政治学とアメリカのアフガニスタン撤退」『マスコミに載らない海外記事2021.4.28』)。

アフガンでの戦争は主にアメリカの軍事請負業者への「富の移転」である。ウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジが何年も前に、米国のアフガン戦争の背後にある本当の目的は「成功した戦争ではなく、無限の戦争をすること」であり、「米国の財政からお金を引き出す」ことであると指摘した。米国国防総省、国務省、USAIDなど、アフガン戦争に直接関与した米国政府機関は、約8,870億ドルを費やした。しかし、間接費が追加されると、アフガニスタンに対する戦争の全費用は2.26兆ドルを超えると推定される(PressTV:2021.8.24)。

5 麻薬の生産を中止するタリバン

麻薬は英国が中国を支配するきっかけをつくったアヘン戦争以来、侵略にはなくてはならない道具である。日本軍も日中戦争時にアヘンを徹底的に利用した。アヘンは満州国の財政を支えただけでなく、それが莫大な利益を生み、謀略資金になった。ベトナム戦争時においても米国はタイ・ミャンマー・ラオス国境の黄金の三角地帯でケシを栽培し謀略資金を供給した。今日、アフガンは世界の麻薬供給量の9割を占める。タリバンが一時的に支配した時期:2000年の3300トンから、2001年には185トンまでアヘン生産を減らした。アメリカの占領は国造りや民主主義が狙いではなかった。「狙いはヘロインだった。『アフガニスタンでの30年間、中央アジアでのアヘン違法取り引きに合致した時だけ、ワシントンの軍事行動は成功した』」「アヘン生産は侵略の一年後、2001年の約180トンから3,000トン以上に、2007年には、8,000トン以上に急増した。2017年までに、アヘン生産は記録的な9,000トンに達した。」「アフガニスタンのダインコープや他のアメリカ傭兵の公表されている仕事の一つは、世界のヘロイン推定93%を供給するアフガニスタン・ケシ畑破壊を『監督する』ことだ。…アヘンとその世界的流通は、…欧米ヘロイン市場への安全な航空輸送を保証する米軍、CIAの専門領域だということだ。」(F. William Engdahl 同上)。麻薬はアルカイダやIS、コロンビア傭兵など米軍産複合体による非公式戦争の大半を賄う“会計簿に記載されない”資金源である。ペルシャワール会の「中村医師が語ったところによれば、ISが支配を拡大した地域は、まだ 灌漑工事の恩恵が行き届かず、干ばつがひどい地域と重なり合っていた」(長沢栄治:長周新聞2020.1.4)と指摘しているが、灌漑による小麦の生産ではなくケシ栽培をさせようとしている。タリバンのザビジュラフ・ムジャヒド報道官はアフガニスタンが今後、麻薬の生産を中止することを明らかにした(Sputnik:2021.8.18)。

6 ドーハ合意

パイデン米大統領は24日、ホワイトハウスで演説し、米国人などのアフガンからの国外退避が順調に進んでいると強調した。31日までの米軍撤収を完了できるとの見方を示した。米はタリバンに対し、米国人らが円滑に国外へ退避できるよう協力を求めた。 一方、タリバンはアフガン人の空港へのアクセスを今後は認めない方針を示した(日経:2021.8.26)。カブール市内から空港への安全確保はタリバンが担っている。これは8月末までに米軍が撤収するというドーハ合意の履行が前提である。ドーハ合意は2020年2月29日に当時のトランプ政権下で、米政府のハリルザド・アフガン和平担当特別代表と、タリパン幹部のパラダル師が署名したもので、①米軍は21年春にもアフガンから完全撤収し(バイデン政権で8月末まで延長)、②タリパンは国際テ口組織の活動拠点としてアフガンを利用させない。③アフガン政府と将来の統治体制づくりの議論を行う。④捕虜のの相互解放などである(日経:2020.3.13)。

この米軍の撤収に英ジョンソン首相は強固に反対した。ブレア元首相も21日、米国のアフガニスタンからの撤収は「悲劇的で、危険で、不必要だ」と指摘、「大戦略ではなく、政治に突き動かされていた」と批判した(朝日:2021.8.22)。英国はこれまでも様々な策略をめぐらし、米国を永久戦争に追い込み、自らのヨーロッパやアジアにおける権益を確保しようとしてきた。これまで、米軍はシリア・イラクからアルカイダやISの一部戦闘員をアフガンへ運んだ。4000人の戦闘員がアフガンにいるといわれる。そしてアメリカ軍やCIAの特殊部隊、そして1万6000名以上の「民間契約者」は撤退せず、アフガンで活動を続けるのか。「民間契約者」の中には傭兵も含まれている。これらがどうなるのか。31日までには到底間に合わない。今後、アフガンは安定するのかどうかの試金石になる。8月26日にはカブール空港門前でISによる自爆攻撃が行われ、警備していた米兵13人を含む100人以上が死亡したといわれる。治安を不安定化させることで、傭兵やCIA・特殊部隊の暗躍の場を広げようとしている。これらを軟着陸させるのに中国やロシアの「関与と非介入」政策がかかっている。米軍撤退後の9月以降も米は領事機能を残す可能性もある(「タリバン:大使館存続米に要求」福井:2021.8.27)。日本は英国やNATO諸国などに追随して自衛隊機を派遣するのではなく、大使館機能を維持すべきである。

 

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【投稿】横浜市長選:菅政権・医療崩壊への審判--統一戦線論(75)

<<投票率11.84ポイント上昇>>
 その帰趨が注目された横浜市長選は、パンデミックによるコロナ禍にいかに対処するかが決定的争点となったと言えよう。菅政権のコロナ対策に「ノー!」が突きつけられたのである。
 有力候補の得票結果は以下の通りである。
                 得票数 得票率
山中 竹春    506,392   33.59
小此木八郎    325,947   21.62
林 文子        196,926   13.06
田中 康夫    194,713   12.92
松沢 成文    162,206   10.76

投票率は49.05%で、前回2017年を11.84ポイントも上回っている。単独での横浜市長選の投票率が長らく30%台で推移し、前々回、自民、公明、民主(当時)の3党が推薦した現職と共産党推薦の新人による事実上の一騎打ちだった2013年は、過去最低の29.05%を記録していたことからすれば、久方ぶりの高い投票率となったのである。
 とりわけ今回、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言下での選挙戦となったため、ソーシャルディスタンスを守ることを余儀なくされ、各陣営は大規模な演説会を自粛するなど活動を制限、その結果、投票率の低下が懸念され、各候補の得票率が法定得票にあたる25%に達しない場合は再選挙となる事態まで想定されていたていたにもかかわらず、投票率は下がるどころか逆に上昇したのであった。そしてこの投票率の上昇こそが山中竹春氏の勝利をもたらしたと言えよう。
 立憲民主党が推薦し、共産党と社民党が支援し、事実上の野党共同候補となった山中竹春氏は、有力候補の中では最も知名度が低く、従来の選挙パターンであれば、政権与党・保守基盤が圧倒的なはずであった小此木氏が圧勝する予測であった。たとえカジノ誘致をめぐる保守分裂があったとしても、パンデミック危機を抑え込めていれば、菅氏の地元で小此木氏はここまで大差をつけられて敗北することはなかったであろう。菅首相の選挙区である衆院神奈川2区(横浜市西区、南区、港南区)の各区でさえも山中氏の得票が小此木氏を上回る結果となっているのである。逆に言えば、小此木氏の足を引っ張ったのは、菅氏自身であったとも言えよう。
 コロナ感染危機対策でついに医療崩壊をまで招きだした菅政権・与党体制の危機対応に、感染者を「自宅療養」などという医療崩壊政策に、有権者から厳しい審判が下されたのである。この厳しい審判を自公連合の菅政権に何としても突き付けなければ、という有権者の意識こそが、投票率上昇をもたらしたのである。
 市内の新規感染者数が連日1千人を超え、その歯止めがかからない中、「コロナの専門家」とアピールし、「コロナの感染爆発は政治の問題だ」と切り込む山中氏の主張は、対決点が不明確で抽象的で総花的なスローガンの羅列に終始する野党共闘にあきたらず、これまであきらめ、そっぽを向いていた無党派層にも大きく支持を広げたのである。
 22日の投開票日に朝日新聞社が実施した出口調査によると、今回、無党派層は全投票者の43%で最大勢力であることが明確となっている。その無党派層から山中氏は、全8候補の中で最も多くの支持を集め、39%を獲得したのに対して、小此木氏は10%、現職の林文子氏は12%しか獲得していないのである。

<<新しい野党共闘のプラットフォーム>>
 菅内閣の支持率は、朝日新聞の世論調査で28%、NHKで29%、読売新聞は35%、8/21-22のANNの世論調査ではなんと25.8% にまで落ち込み、今や菅政権は崩壊寸前である。
 だがそれでも、立民、共産をはじめ野党の支持率はそれぞれ1桁台に沈み、低迷から抜け出せていない。(朝日8月7-8調査◆今、どの政党を支持していますか。自民32(前回30)▽立憲6(6)▽公明2(3)▽共産3(3)▽維新1(1)▽国民1(0)▽社民0(0)▽NHK党0(―)▽希望0(0)▽れいわ0(0)▽その他の政党0(0)▽支持する政党はない47(48))

8/18、佐高信氏をはじめ、日本体育大学教授の清水雅彦氏、山口大学名誉教授の纐纈厚氏、東京造形大学名誉教授の前田朗氏、安保法制違憲訴訟共同代表の杉浦ひとみ弁護士、NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長の白石孝氏、ジャーナリストの竹信三恵子氏の7人が、参議院議員会館で記者会見を行い、7月28日に「いのちの安全保障確立に向けて非正規社会からの脱却を目指す運動を起こす」という理念で「共同テーブル」を結成したと発表している。賛同者は8/17日時点で185人とのことである。
 佐高信氏は、「これだけ、安倍、菅とひどい政権になっているのに、野党の人気がもう一つ上がらない。野党の顔が見えない」、「私たちの願いというものと野党は少しずれているんじゃないか。野党にはっきりと目鼻立ちをつける、そういう運動が必要なんじゃないか」と訴えている。
 野党共闘と統一戦線は、横浜市長選の勝利に浮かれているのではなく、今回の事態から真剣に教訓を学び取るべきであろう。
(生駒 敬)
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【投稿】アフガン:バイデン政権・最悪のシナリオ--経済危機論(58)

<<傀儡政権:1年半持つはずが一夜で崩壊>>
 8/15、日曜日、アフガニスタンの米国の傀儡政権・アシュラフ・ガーニ大統領と彼の国家安全保障顧問が首都カブールを脱出、米国の占領下で数十年にわたって米国が支援してきた政権、数万人のNATO軍と米軍によってのみ権力を維持されてきた政権が、たった一夜にして崩壊してしまったのである。
 バイデン大統領が、「アフガニスタンでのアメリカの軍事任務は8月31日に終了する」と発表したのは、7月8日の声明であった。その声明の中で、「アフガニスタンの運命はアフガニスタン政府と軍の肩にかかっている」、「自分たちの将来や国の運営方法を決めるのは、アフガニスタンの人々だけの権利であり、責任である」との立場を明らかにし、その時点で、ホワイトハウスは、カブールがタリバンに脅かされるまでには少なくとも1年半はかかるとの推定を明らかにしていたのであった。バイデン氏は、「私たちはアフガニスタンのパートナーにあらゆる手段を提供しました。強調させていただきますが、近代的な軍隊のあらゆる手段、訓練、装備を提供しました。先進的な兵器を提供したのです」と胸を張って語っていたのである。

 だが、タリバン側の攻勢により、カブールの陥落が90日、1か月と切迫し、8/31の米軍・軍事任務終了を待つどころか、8/15には米軍がカブール空港でさえ支配できない事態となり、前倒しで傀儡政権は「近代的な装備、先進的な兵器」を置き去りにして、逃亡・自壊してしまったのである。たった一夜での崩壊である。

 バイデン大統領は、「私は、アフガニスタンに米軍を駐留させた4人目の大統領であり、2人の共和党員、2人の民主党員である」と述べ、「私はこの戦争を5人目の大統領に引き継ぐつもりはありませんし、引き継ぐつもりもありません」と述べていた以上、もはや逆転のシナリオも、事態を糊塗する打つ手もなし、屈辱的な事態へとバイデン政権は追い込まれてしまったのである。
 「今回の撤退とベトナムで起きたことの間に類似点はあるか」と報道陣から質問を受けた際に、バイデン氏は、「全くない。ゼロだ」と答えていたのだが。タリバンがカブールを占領した時点で、すでに間違っていることが証明されてしまった。「もちろん、私たちはこの出来事をとても悲しく思っています。しかし、これらの出来事は悲劇的ではあるが、世界の終わりや、世界におけるアメリカのリーダーシップの終わりを告げるものではない」と弁解する以外に道はなくなってしまったのである。

<<「対テロ戦争全体がひどい失敗であった」>>
 事態は、単に屈辱的であるだけではないと言えよう。ベトナム戦争でのサイゴン陥落以来の、歴史的な事態であり、それ以上の歴史を画する、米欧支配体制の衰退とリーダーシップと信頼の崩壊、政治的・経済的・軍事的危機を象徴する事態、今回のカブール陥落はその重要な指標、象徴ともなろう。
 アメリカが主導したアフガニスタンでの戦争の人的経済的社会的費用の損失は、膨大であるばかりか、壊滅的でもある。
 公式の集計だけでも、この戦争中に164,000人以上ののアフガニスタン人、2,500人近くの米軍兵士、3,800人以上の米軍請負従事者、1,100人以上のNTO諸国軍兵士が死亡し、数十万人のアフガニスタン人、数万人のNATO要員が負傷している。これらに随伴する被害、損失は、さらに膨大なものと言えよう。
 米国だけの直接的財政的負担は2兆ドル以上、間接的費用と債務で6.5兆ドルをも費やし、建設的成果はゼロで、破壊と荒廃だけを山積させたのであった。
 米国の団体「Win Without War」のスティーブン・マイルズ事務局長は、「アフガニスタンで起きている悲劇的な出来事は、わが国の終わりなき戦争とそれを可能にする考え方が完全に失敗していることを改めて証明している」と述べ、「20年近くにわたる軍事介入と占領では、永続的な平和

は築けませんでした。どんなに多くの爆弾が投下されても、どんなに長く占領されても、そうはならなかったのです」と述べている。
 イギリスを拠点とするStop the War連合の呼びかけ人であるリンゼイ・ジャーマン氏は、8/15に発表した声明の中で、「対テロ戦争全体がひどい失敗であったことを認めるべきである」と述べ、「もし、この戦争に投入された資金のほんの一部でも、インフラ、住宅、教育、農業への投資を通じてアフガニスタンの人々の生活を改善するために使われていたら、アフガニスタンの人々の生活がどのように改善されていたかを考えるべきです」、「この機会を生かすことができたのに、軍事的解決策を優先して無視されてしまった。そしてそれが今日の状況をもたらしたのです」と、強調している。まさにこの視点こそが強調されるべきであろう。
(生駒 敬)
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【書評】①山本章子『日米地位協定』②松竹伸幸『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』

【書評】 ①山本章子『日米地位協定』
      (2019年5月刊、中公新書、840円+税)
     ②松竹伸幸『〈全条項分析〉日米地位協定の真実』
      (2021年2月刊、集英社新書、880円+税)

 (一)
 2004年8月13日、イラク戦争が泥沼化する中、訓練中の米軍ヘリが沖縄の米海兵隊普天間飛行場への着陸に失敗。隣接する沖縄国際大学に墜落した。全長27メートル、約22トンのヘリの本体は大学本館に激突して爆発炎上、破片は周辺の民家29戸、車両33台に突き刺さった。ヘリの乗組員3名は負傷したが、大学が夏休み中であったこともあり死者や負傷者はいなかった。
 「事故直後、約100名の米兵が、普天間飛行場と大学を隔てるフェンスを乗り越えて大学構内に無断侵入する。宜野湾市消防本部が、米軍よりも早く到着して消火活動にあたり、ヘリの乗組員を軍病院に搬送していたが、米軍は消火に成功した市消防本部を立ち退かせ、道路も含めた事故現場一帯を封鎖した」(本書①より、以下同じ)。
 この後1週間、現場は、大学関係者をはじめ、市や県や沖縄県警や外務省の担当者全てが、米軍の注文によるピザ屋の配達員を除いて、米軍によって立ち入りを禁止された。「米軍は単独でヘリ機体の残骸や破片、部品とともに機体の油などが付着した大学の木や土を回収し、機体に使用されていた放射性物質の影響を検証した後でひきあげる。米軍側は、日本側にヘリ乗務員の氏名を明かすことも拒んだ」。
 「訓練から事故対応までに至る米軍のこれら一連の行動はすべて、日米地位協定にもとづいている」。
 これ以外にも、在日米軍基地周辺での事故や米軍兵士による犯罪は多くの人の記憶に残っている。そしてこれらのニュースを聞くたびにわれわれは怒りを覚えるとともに忸怩たる思いを抱くが、しかしかかる事件の背景に存在する日米安保条約と日米地位協定という壁にぶつかり、これに対して無力なままの現状に失望する。とりわけこれまで日米地位協定に対する改定、対等平等のへの要求が幾度も叫ばれながらも、ほとんど進展が見られないのは何故なのか。これら2冊の書はその手掛かりを与えてくれる。
 日米地位協定の起源は、1951年のサンフランシスコ講和条約締結の際に、独立後も引き続き米軍の駐留と基地の使用を認める日米安保条約と日米行政協定を結んだことにある。この後1960年の安保改定の時に、日米地位協定へと全面的に改定された。しかし在日米軍の既得権益である基地の管理権と裁判管轄権・捜査権については日米行政協定の内容が実質的に引き継がれている。
 本書①は、この背景に「日米安保改定の際に日米両政府が別途作成し、長らく非公開だった『日米地位協定合意議事録』では、日米行政協定と変わらずに米軍が基地外でも独自の判断で行動でき、米軍の関係者や財産を守れる旨が定められている」ことがあると指摘する。つまり地位協定条文の文言と実際の運用との間に乖離が存在してきたのである。
 本書①は述べる。
 「日米地位協定への批判は、より対等な改定の要求と結びついてきた。だが、二一世紀初頭まで非公開だった日米地位協定合意議事録に従って運営されてきた事実は、日米地位協定の改定によって問題は解決されないことを意味する。したがって、日米地位協定を論じるのであれば、改定に消極的な日本政府の安全保障政策のあり方や、その根幹にある駐軍協定としての日米安保条約の側面にも本来は目を向ける必要がある」。
 つまり在日米軍の駐留という視点から戦後の日米関係を見ることが、地位協定の見直し、改定への重要な環であるとする。この視点から本書①は、日米地位協定には規定がないが日本の負担となっている在日米軍駐留経費(「思いやり予算」)の経緯と問題点を指摘する。またNATO諸国やフィリピンが結んでいる地位協定と比較して、「日米安保の根幹的な問題とは、同盟関係を規定する条約と基地協定とが一体となっていること」が、「常に有事を想定した米軍の訓練」、「非常事態、緊急事態を前提とした基地の使用」を可能にしており、同時に日本政府の改定への自主規制の力として作用しているとする。
 そしてまた米国政府が地位協定の中で刑事裁判権・裁判管轄権に最も高い優先権を与える理由を、米国内世論の孤立主義を刺激しないため──すなわち「米兵・軍属が外国で『不公正』な司法制度によって裁かれた場合、米国政府が国民の支持を得て海外に軍を展開できなくなる可能性があるから」──であるとする。

 (二)
 本書②は、1960年の安保改定の際に行政協定が地位協定に改定されるに当たって、外務省が各省庁からの意向を聴取して57項目にまとめ、その条項の問題点と改定すべき方向を詳細に検討した「行政協定改訂問題点」(1959年)を軸に地位協定を検討する。残念ながらアメリカ側との交渉ではそのほとんどが認められなかったが、「政府に仕える官僚として日米関係の根幹を変えるような提案はできない、とはいえその範囲であっても主権国家としての意地は見せたい、しかしアメリカの厚い壁をなかなか崩しきれない──。そんな苦悩や意気込みと落胆」(本書②より、以下同じ)が見えてくるような文章であると述べる。
 そして本書②は、日米関係の実態は、「占領延長型」、「有事即応型」、「国民無視型」の三つに特徴づけられるとして、地位協定の条文を上段に、それに対応する行政協定の条文を下段に置き、その上で「行政協定改訂問題点」を紹介するという叙述で地位協定の全条項を検討する。専門的で細かい外交・法律用語も並ぶが、「日本政府が主権国家にふさわしい協定にすることをどの程度考えていたのか、その考え方は貫かれたのか挫折したのか」を解明する。
 その詳細は、面倒ながら本書②を読んでいただくほかないが、例えば、「第1条 軍隊構成員等の定義──禍根を残した『軍属』の曖昧さ」(副題は著者、以下同じ)に関わっては、2016年4月、沖縄で強姦目的で米軍属が女性を殺害した事件では、その軍属が米軍に雇用されていたのではなく、民間の請負業者(インターネットの関連会社)の社員であったが、そんな人間にまで「軍属」として地位協定で特権を与えていることが問題になった。
 「第6条 航空交通等の協力──軍事優先で米軍が管制を支配」では、法的根拠もなしに、羽田空港を出発して北陸、中部、九州方面に向かう飛行機の大半は(逆もしかり)、米軍横田基地の進入管制(横田空域)で米軍の許可を受けねばならず、広島、高松、松山各空港では、米軍岩国基地の管制(岩国空域)を受けねばならないという民間機が外国軍の管制を受けるという世界的非常識がまかり通っている。
 その他「第9条 米軍人等の出入国──日本側はコロナの検疫もできず」、「第13条 国税と地方税の支払──広範囲に免除した上に」と問題点が山積し、更には「第21条 経費の分担──特例が原則になっていいのか」では、地位協定に規定がない費用について特別協定が次々と結ばれ続けているなど、異常な状況が存在していると、指摘される。

 (三)
 以上地位協定の深刻な諸問題を提起している2冊であるが、ではここからの脱出の途は何処にあるのか。
 本書①はこう述べる。
 「現実に米地位協定改定が実現する可能性が低い以上、本書で論じてきた日米地位協定のさまざまな問題点は解決できないのか。そうではない。1960年に日米地位協定とともに日米両政府が取り交わした、日米地位協定合意議事録を撤廃するという方法がある」。
 その理由は、「第一に、合意議事録が国会の審議を経ていない点で正当性を持たないことだ。(略)正当性を持たない合意議事録を維持することは、日米地位協定そのものの正当性に関わってくる。/(略)/第二に、交渉の難易度が下がることだ。(略)合意議事録の撤廃という論点はシンプルであり、交渉期間の長期化を回避しやすい」と。
 ただし著者は安保条約支持の立場に立っており、これを提起するのには、「日米地位協定が抱える問題を放置することは、日米安保条約の脆弱性につながる。日米同盟を盤石にするためには、この問題から目をそむけずに解決する必要があるだろう」との視点からの日米同盟の対等化という主張であることには留意しておく必要があるだろう。
 また本書②は、「軍事にかかわる問題になると日本に決定権がないというのは悲しい現実です。そこから抜け出すのは容易ではないにしても、必ずやり遂げねばならないことです」として、「現行協定の不平等性を指摘して問題点を改定する闘いと、現行協定下であっても主権の平等という国家間の原理を貫かせる闘いと、その双方が求められる」と主張する。
 すなわち「たとえ文面に曖昧さがあっても、解釈次第では日本の主権を主張することが可能な場合も少なからずあるのです。そういう場合に、『地位協定が差別的で日本は主権を侵されている』と主張するのは、地位協定の問題点を明らかにすることには役立っても、『だから地位協定が変わらない限り現実をかえることはできない』とまで思い込んでしまっては、現状の協定下でも実現できる可能性を放棄することになりかねません」。
 また「協定の条文を骨抜きにするような密約がある場合も、『密約がある限り何もできない』とするのではなく、協定本文の建前を貫かせる闘い次第では密約を跳ね返す可能性があるということです」と示唆する。
 このように地位協定の改定の戦いには、状況に応じて一歩でも二歩でも陣地を広げていく地味な闘いの積み重ねが必要とされる。われわれの運動の視点を考えさせてくれる2冊である(R)

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【書評】「ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者」

【書評】「ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者」

                                            藤永 茂著 2021年8月 ちくま学芸文庫  1400円+税

                                                                                                   福井 杉本達也

1996年出版の『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(朝日選書)は、核兵器を開発した物理学者の犯した罪の問題を取り上げているが、長く絶版状態であった。中古本では7000円もの値がついていた。今回、その改訂版が「ちくま学芸文庫」として出版された。著者の藤永茂は1926年中国生まれ。九州帝国大学理学部物理学科卒業。京都大学で理学博士学位取得。九州大学教授を経て、現在カナダ・アルバータ大学名誉教授。著書に『分子軌道法』(岩波書店)、『アメリカ・インディアン悲史』(朝日選書)などがある。

「原爆を可能にしたのは物理学である。原爆の開発を政府に進言し、それをロスアラモスの山中でつくり上げたのは物理学者である。『原爆の父』ロバート・オッペンハイマーは『物理学者は罪を知った。これは物理学者が失うことのできない知識である』と言った。湯川秀樹は核兵器を『絶対悪』であるとしてその廃絶を唱えた。文芸評論家唐木順三は、その『絶対悪』を生んだ物理学そのものも『絶対悪』であると考えた。…核兵器は悪いが、物理学は悪くない、ということがあり得るか」と唐木は湯川を批判した。

「オッペンハイマーの名は科学者の社会的責任が問われる時にはほとんど必ず引き出される。必ずネガティヴな意味で、つまり悪しき科学者のシンボルとして登場する。オッペンハイマーに対置される名前はレオ・シラードである。シラードは科学者の良心の権化、『あるべき科学者の理想像』として登場する。このおきまりの明快な構図に、あるうさん臭さ」を著者は感じ取った。答は簡単である。「私たちは、オッペンハイマーに、私たちが犯した、そして犯しつづけている犯罪をそっくり押しつけることで、アリバイを、無罪証明を手に入れようとするのである」と書いている。

「オッペンハイマーは腕のたしかな産婆の役を果たした人物にすぎない。原爆を生んだ母体は私たちである。人間である」。「『人は人に対して狼なり』という西洋の古い格言がある。人間が人間に対して非情残忍であることを意味する」。「人間ほど同類に対して残酷非情であり得る動物はない。人間が人間に対して加えてきた筆舌に尽くしがたい暴虐の数々は歴史に記録されている」。「私は、広島、長崎をもたらしたものは私たち人間である、という簡単な答に到達した」。とし、「責任の所在をあいまいにする答で『物理学を教えてよいのか、よくないのか』という切実な問題に対する答も出てきた。『物理学は学ぶに値する学問である』」として、本書においてロバート・オッペンハイマーを描くことを始めた。

そういえば、物理学者の佐藤文隆が「1999年3月、アメリカ物理学会創立100周年の行事がアトランタであった。…ある晩、郊外の自然史博物館の建物を借りきってパーティーがあった。…アトラクションの一つに 、デズニーランドでのミッキーマウスのぬいぐるみのように、大物理学者に扮装した人物が歩き回って、それらと一緒に記念写真を撮る趣向があった。過去100年の大『物理学者』にはアインシュタイン 、キュリー夫人 、オッペンハイマーが選択されていた。…物理学者としてアインシュタインやキュリー夫人と並んで写真に収まるのがワクワクするように」、しかし、ノーベル賞も受賞していない「オッペンハイマーと並ぶのが多くの参加者にはワクワクすることなのである。そういう意味での『選択』なのである」(京都新聞日曜随筆欄「天眼」:2015.8.30)と書いていた。

著者は第11章「物理学者の罪」で、「オッペンハイマーの『物理学者は罪を知った(Physicists have known sin)』という言葉は、1947年11月25日、マサチューセッツ工科大学(MIT)で行われた講演『現代世界における物理学』の中で語られた。『戦時中のわが国の最高指導者の洞察力と将来について判断によってなされたこととはいえ、物理学者は、原子兵器の実現を進言し、支持し、結局その成就に大きく貢献したことに、ただならぬ内心的な責任を感じた。これらの兵器が実際に用いられたことで、現代戦の非人間性と悪魔性がいささかの容赦もなく劇的に示されたことも、我々は忘れることができない。野卑な言葉を使い、ユーモアや大げさな言い方でごまかそうとしても消し去ることのできない、あるあからさまな意味で物理学者は罪を知ってしまった。そして、これは物理学者が失うことのできない知識である。』」と書いている。

著者は文庫版あとがきにおいて、1945年7月16日の史上初の原子爆弾の炸裂時に、オッペンハイマーの心中に、人間としての悪行の正当化と自己弁護として閃いたとされる「われは死となれり、世界の破壊者となれり」というヒンズー教の聖典『バガヴァド・ギータ』の一行のエピソードを再度否定する。晩年のオッペンハイマーは「原爆製造もヒロシマ・ナガサキの壊滅も『ギーダ』によっては正当化できないことを自覚していた」とし、「ロバート・オッペンハイマーが、特異な歴史的人物として、今なお盛んに論じられている米国の現状を、私は歓迎しない。この現象は米国人が核兵器の問題に正面から向き合うことを妨げている」と締めくくっている。

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【投稿】ニクソン・ショック50年の教訓に学ぶ、台湾とハイチを結ぶ闇

【投稿】ニクソン・ショック50年の教訓に学ぶ、台湾とハイチを結ぶ闇

                      福井 杉本達也

1 暗殺されたハイチ大統領

共同通信サンパウロ支局による「ハイチからの報道によると、同国のモイズ大統領が7日未明、首都ボルトープランス近郊の自宅に押し入った武装集団に暗殺された。大統領夫人も撃たれて病院で治療を受けている。武装集団の身元は不明だが、スペイン語や英語を話していたという。」ハイチでは今年2月にはクーデター未遂が起きるなど政情が不安定である(福井:2021.7.8)との小さな記事がある。日本とハイチとの外交関係は現在、隣接国の在ドミニカ共和国大使館が兼轄しており非常に希薄である。対日輸出額が4.71億円、対日輸入額は22.7億円と非常に少ない。1人当たりGNIは790米ドルと世界の最貧国に位置付けられる。たとえ大統領が暗殺されたとしても、日本では、政情不安の極貧国でよくある内紛のケースとかたずけられてしまうであろう。

 

2 なぜか台湾大使館が大統領暗殺事件に関与

ところが事件はそれでは終わらなかった。ロシアRTは「ハイチの大統領は、元コロンビア軍とハイチ系アメリカ人の『外国の暗殺部隊』によって殺され、「台湾大使館」内で11人を逮捕」との見出しで、「ハイチの国家警察は、2人のアメリカ人と26人のコロンビア人がジョヴェネル・モイズ大統領の暗殺の責任があると主張し台湾は外交施設で11人の逮捕が行われたことを確認した。少なくとも28人が今週初めに殺人計画を実行した」と報じたのである(2021.7.9)。これを裏付ける台湾側の報道として、中央社フォーカス台湾は「8日早朝、武装集団が首都ポルトープランスの在ハイチ中華民国大使館の敷地内に侵入し、警察に逮捕された。外交部(外務省)が9日、明らかにした。」と書いている(2021.7.9)。

この続報として、日経メキシコシティの宮本英威記者は「首謀者の一人とみられているのが、同国出身で米南部フロリダ州在住の医師」であり、「米フロリダ州に拠点を慣くベネズエラ系警備会社のCTUを介してコロンビアの元軍人を実行犯として雇ったとされている。」「ハイチ聾察はこれまでハイチ系米国人3人とコロンビア人18人を逮捕した。」米国人のうち1人は過去にDEA(米麻薬取締局)の情報提供者だった。」と書いている(2021.7.14)。

2020年5月にはワシントンの傭兵がベネズエラ当局に捕らえられているが、フロリダのアメリカ民間軍事企業と契約を結び、コロンビアで戦士を訓練し、ベネズエラのマドゥロ政権を打倒するためベネズエラ領に潜入す手はずであった。周知のようにコロンビアは世界中(特にアフガン)からの麻薬の中継基地である。米フロリダ州とコロンビアの傭兵と麻薬が揃えば状況証拠は十分である。逃げた傭兵が台湾大使館の敷地内に単に侵入したなどということはない。台湾大使館も犯行後の逃走経路として大統領暗殺に一役かっていたといえる。

ハイチでは1991年と2004年に軍事クーデターがあり、「解放の神学」を唱えていたカトリックの神父で国民に支持されていたアリスティド氏が大統領の座から引きずり下ろされた。その背後にはCIAがいた。ハイチは金鉱脈が存在し、潜在的には豊かな国であるが、アメリカやフランスの略奪を受け、国民は貧困で、失業率は70%を超す。2010年1月には大きな地震があり、10万~32万人が死亡したと言われている(参照:「櫻井ジャーナル」2018.1.14)。

 

3 モイズ大統領は中国の「ワクチン外交」に寝返ろうとして暗殺されたのか?

ハイチは台湾と外交関係を持つ15か国の1つである。日経の8月6日の記事は「中国は台湾を国際社会で孤立させる戦略の一環で、台湾と外交関係を持つ国々への経済支援をテコに断交を働きかけてきた。」「中国は新型コロナのワクチン供給を条件にハイチへの圧力を強めている。『ワクチン外交』を推進する中国はドミニカなどに中国製ワクチンを支援しているが、ハイチには提供していない。」「台湾の蔡英文総統は外交関係のつなぎ留めに腐心している。」とかなり踏み込んだ分析を行っている。事件の真相は今もやぶの中ではあるが、状況証拠を積み重ねた記事は信ぴょう性が高い。

 

4 台湾に前のめりの「令和3年版防衛白書」と岸防衛相

「令和3年版防衛白書」の刊行によせてにおいて、岸防衛相はわが国は「自由や民主主義、法の支配、基本的人権の尊重といった普遍的価値の旗を堂々と翻す国となりました。我々は、志を同じくする仲間と手を携え、インド太平洋地域における普遍的価値の旗手として、自由を愛し、民主主義を信望し、人権が守られないことに深く憤り、強権をもって秩序を変えようとする者があれば断固としてこれに反対していかなければなりません。」と書いている。さらに記者会見において「米国は、台湾への武器売却、あるいは米軍艦艇による台湾海峡通過といったですね、トランプ政権以降に台湾への関与をより深めていく認識を示し、バイデン政権においても、台湾を支援する姿勢を明確」にしており、「台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」であると踏み込んだ。

 

5 ニクソン・ショックから50年―歴史に何も学ばない安倍・岸ら「親台湾派」

周知のように岸信夫防衛相は安倍晋三前首相の実弟であるが、中国網は東京五輪のさなかの7月29日、日本の「一部の国会議員は米国の一部の国会議員とぐるになり、台湾地区の『議員』を引き込みいわゆる『第1回台米日議員戦略フォーラム』という茶番を演じた…日本の前首相である安倍晋三氏が自ら登場した。」。「これらの『親台派』は『中国人民が中国共産党を選んだ』という歴史的現実を受け入れたがらない保守派勢力が中心だ。」とし、「中国の発展及び中日関係の安定的な関係促進に伴い、『親台派』の中日関係への影響が日増しに衰えた。そこで彼らは米国の親台議員と合流し、米国の中国けん制政策を利用し自身の影響力を拡大することを選んだ。」と報じた(中国網:2021.8.9)

8月7日の日経コラム「大機小機」は「 2つのニクソン・ショックから50年がたち、世界は一変した。ニクソン米大統領の声明で金ドル本位制が終わり、訪中で中国は世界の表舞台に登場した。その中国はいま通貨でも軍事でも米国の覇権に挑戦する。… 2つのニクソン・ショックに最もあわてたのは日本だった。円安の固定相場に安住してきた日本は円高恐怖症が抜けず、プラザ合意後のバブル崩壊で経済敗戦を喫する。一方、「頭越し」のニクソン訪中は受け身の外交に活路はないことを示した…対話を通じて新冷戦防止をめざすことこそ日本の役割だ。ニクソン・ショック50年の教訓である」と書いている。「親台派」の言動に惑わされることなく、中米・ハイチにおいて台湾が何をしているかをもう一度考えてみる必要がある。

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【投稿】招き寄せたデルタ変異株感染拡大--経済危機論(57)

<<コロナ禍による世界的な格差拡大>>
 8/2に発表されたIMF(国際通貨基金)の最新レポート「対外セクター報告書」は、「世界中のあらゆる人にとってパンデミックを終息させることが、さらなる格差拡大を防ぐ世界的な景気回復を実現するための唯一の方法である。そのためには、各国がワクチン接種のための資金を確保し医療を維持できるよう支援する世界的な取り組みが必要となる。」、「世界全体で一斉に投資を推進したり、パンデミックを終息させ回復を下支えするために医療支出を一斉に拡大したりすれば、世界的な収支を拡大させることなく世界の成長に大きな影響を与えられるかもしれない。」、「各国政府は、貿易摩擦や技術摩擦を解決し、国際課税制度を刷新するための取り組みを強化しなければならない。医療製品に関するものを中心に関税や非関税障壁を段階的に撤廃することが最優先課題のひとつとなる。」と、訴えている。
 この報告の直前、7/27に発表されたIMFのレポート「さらに進む分断 世界経済回復の格差拡大」では、「先進国では人口の40%近くがワクチン接種を完了しているのに対して、新興市場国ではその割合は11%に過ぎず、低所得途上国ではごくわずかにとどまっている。予想よりも早いワクチン接種と経済活動の正常化が上方修正を可能にした一方で、インドをはじめとする一部の国ではワクチンへのアクセスの不足と新型コロナの新たな感染の波が下方修正につながった。」「世界全体でワクチンや診断法、治療法への迅速なアクセスを実現するには多国間行動が必要となる。それにより、無数の人命が救われ、新たな変異株の出現が阻止され、世界経済の成長を数兆ドル押し上げることになるだろう。IMF職員は最近、パンデミックを終息させるための提案を行っており、世界保健機関(WHO)および世界銀行、世界貿易機関(WTO)が賛同したこの提案では、500億ドルを投じて2021年末までにあらゆる国で人口の40%以上、2022年半ばまでに同60%以上にワクチンを接種するとともに、十分な診断法と治療法を確保することが目標として掲げられている。この目標を達成するには、余剰ワクチンを抱える国が2021年中に少なくとも10億回分のワクチンを分配し、ワクチン製造業者が低所得国や低中所得国への供給を優先する必要がある。ワクチンの原材料と最終製品に関する貿易制限を撤廃し、十分な生産を確保すべく各地域のワクチン生産能力に追加投資を行うことも重要である。また、低所得国を対象とする診断法と治療法の提供やワクチン体制確立のために、前倒しの無償資金約250億ドルを用意することも不可欠である。」と、より具体的な対策を訴えている。このIMFレポートは、ウイルスが他の場所に蔓延している限り、現在感染が非常に少ない国でも回復は保証されていないとまで述べている。さらに「「感染性の高いウイルス変異体の出現は、回復を妨げ、2025年までに世界のGDPから累積で4.5兆ドルを一掃する可能性があります」と警告している。
 ところが実態は、こうした警告が無視され、当然取られるべき対策がほとんど実行に移されてはいない。先進国政府や国際機関は表面上は賛同しながらも、むしろ、実体は意識的になおざりにされ、ネグレクトされている。
 その筆頭が、ワクチンと治療薬の知的財産権保護を一時的に放棄することを決定すべきWTOが、審議と前進への進展がないまま、このほど6週間の長期休暇に入ってしまったのである(7/27)。
 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、「世界各地でCOVID-19の第3波が猛威を振るい、米国では致死性のデルタ型が主流となっています。世界中で必要なワクチンの生産を拡大するためには、今すぐにワクチン特許権の放棄が必要です。世界貿易機関(WTO)での緊急性の欠如には困惑させられます。WTOが1ヶ月間の休暇に入ってしまっては、その実現は不可能です。WTOが人命よりも大手製薬会社の利益を優先させることは許されません。彼らが行動を起こさなければ、世界中の人々に壊滅的で永続的な影響を与えるでしょう。」と嘆息する事態である。

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【投稿】国民皆保険を破壊するコロナ中等症の自宅療養

【投稿】国民皆保険を破壊するコロナ中等症の自宅療養

                       福井 杉本達也

1 新型コロナの無為無策 自宅で死ぬなどあってはならぬ

「政府は2日、新型コロナウイルス感染症の医療提供体制に関する閣僚会識を首相官邸で開き、入院対象を重症者らに限定する肯針を決めた。肺炎などの症状が ある中等症のうち重症化リスクが低い人は自宅療養」とする…「病床不足への懸念が強まっているため、事実上の方針転換」を行った(福井:2021.8.3)。これに対し、元厚労相で前東京都知事の舛添要一 氏は「中等症以下のコロナ患者を自宅療養とする方針転換は、データに基づく説明がない。緊急事態宣言発令よりも国民の命により影響する」とバッサリ。さらに、コロナ患者の急増を火事に例え、「患者の急増で病床が足りないという理由だけなら、火災が増えて消防車が足りないので、小家屋は燃えるに任せると言うに等しい」。「真剣にコロナを収束させる決意があるのか」と、政府の無策ぶりを批判した(参照:スポニチ2021.8.3)。また、ナビタスクリニックの久住英二氏は「『この人は重症化しない』と決められる検査や診断基準がない以上、軽症から中等症に悪化した人は、重症化する事を念頭において治療しなければならない 中等症を入院をさせないのは、大きな誤りだ。中等症を自宅療養にすれば、入院させて経過を見るより死亡率は高くなります それを承知での、この決定だとすると、日本という国家は、国民を切り捨てたということです」と批判している(2021.8.3twitter)。

自民党や公明党など政府与党からも中等症の自宅療養の撤回を求められていることに対しても、「撤回ではなく、しっかり説明するようにということだ。必要な医療を受けられるようにするための措置だから、丁寧に説明し、理解してもらう」、「自宅(療養)の患者もパルスオキシメーターや電話など、状態に応じてこまめに連絡をとれる体制をつくり、症状が悪化したらすぐ入院できる」と官邸で記者団に語たり、居直った(産経:2021.8.4)。入院させるべき患者を入院させないということは、国民皆保険制度の完全なる放棄であり、棄民政策である。宇都宮市インターパーク 倉持呼吸器内科院長の倉持仁氏はtwitterで、「無為無策 自宅で死ぬなどあってはならぬ あんぽんたんとはもはや言わじ」、「皆保険制度をオリンピックをやりつつ放棄し、指定感染症の法を自助なしに放置。この人に政治を司る資格なし!すぐやめてください。」(2021.8.3)と述べている。8月4日の国会の閉会中審査でも長妻昭氏など野党が追及したが、国民皆保険の完全なる破壊であるという視点が全く弱い。

2 感染症法の諸規定を自ら破ると宣言した違法国家日本

医療ガバナンス研究所の上昌弘氏は「コロナ対策、いよいよ滅茶苦茶になってきました。中等症以下を自宅に返すと福島技監らが決め、患者の医療機関の分担、選択と集中を放棄、保健所は重症になるまで自宅待機を指示しています。メルクマールはSPO2で機械的に切っているとか。」、「こうなれば、感染症法から外して、現場に完全に任せればいいのに中等症以下の自宅待機って、医系技官が勝手に感染症法を廃止したのと同じです。これは国会で審議すべき内容で、保健所一本背負いが手に負えなくなって投げ出しました。どうして、野党やメディアは追及しないのでしょうか?菅さん、どうして、こんな滅茶苦茶を許したのでしょうか。」、「政府の仕事は病床確保です。国立病院機構やJCHOで受け入れればいいだけです。彼らの設立は、設置根拠法に公衆衛生危機に対応することが唱われています。」、「感染症法は、感染抑止と患者の治療のため、強制入院の権限を知事に付与しています。これは、その目的のために、入院義務を自治体に課するものです。医療体制を構築できず、供給抑制のため、入院基準を感染抑止と患者の治療以外の要素で絞りこむのは、裁量権の逸脱濫用で違法です。」、「国賠訴訟が出る可能性があります。もし、亡くなれば、正林局長は、業務上過失致死で告訴されるでしょう。そのくらい酷い問題です。」(twitter2021.8.3)と述べている。菅首相自らが感染症法の諸規定を破ると堂々と宣言したのである。前代未聞の違法国家である。即退陣すべき事態である。また全国知事会も情けない。こんな国家に何を要望しても始まらない。各都道府県で医療確保と検査体制を整えるべきである。5月の大阪の医療崩壊の時には、大阪大学の医学部付属病院は36床あるICUを全てコロナ対応に回した。各県知事はその程度の病床の調整はできるはずだ。国民皆保険制度や自らが作った感染症法を破壊する国に任せていては国民の命は守れない。

3 大企業優先のワクチン接種から始まった国民皆保険制度の破壊

デモクラシー・タイムス7月15日版「ワクチンだけで『勝利』はない」において、東京大学先端研の児玉龍彦氏は格差ワクチンについて「力を持っているものが企業で(ワクチンを)先に打っていい。命は平等だという国民皆保険の精神をぶち壊している。カネと力を持っているものが先に打っていいということを政府が公然と言い出した。大企業・大都市・男性・正規職員・政権に近いマスコミや芸能団体に配っていいということを言い出したということは、人倫理的に歴史的大失敗をやっていることだと思います」と述べている。また立教大の金子勝氏も付け加えて「オリンピック関係者も同じです。国民の恨みを買う配分の仕方です」とし、「自治体中心にもう一度、命を守るという順番でワクチンを打っていくということが重要です」と述べている。職場接種において、公然と大企業優先でワクチンの配分が行われ始めたことが、国民皆保険制度の政府による破壊の開始である。これを野党もマスコミもまともに追及していない。このままでは、日本の医療制度は米国並みに落ち込んでいくことになる。

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【書評】「鎌田浩毅の役に立つ地学」から考える地球温暖化論の虚構

【書評】「鎌田浩毅の役に立つ地学」から考える地球温暖化論の虚構

(『週刊エコノミスト』2020年4月より連載中)

                         福井 杉本達也

7月26日の日経は、温暖化ガス削減「30年度計画案の内訳」:「産業で37%減」、「家庭では66%減」との見出しである。しかし、よく記事を読んでいくと「国際公約の46%削減には6億4800万トン減らす必要がる」が、産業部門は「電力供給に占める再エネの比率を36~38%、原子力発電を20~22%に高めることを前提とする」ものの、原発は「利用拡大の道筋は見通せていない」中で、「全体で46%減らすための辻つまあわせで割り振った印象が強く実効性が課題となる」と、投げやりの書きぶりが目に付く。

近年の地球温暖化は、人為的な気温上昇によるとするとし、IPCCによれば化石燃料の燃焼や土地利用の変化といった人間活動の結果、炭素重量に換算して、大気中に40億トン/年が増加しているという。これを「産業革命前と比べた気温上昇をできだけ1.5度以下に抑える」、「そのためには30年までに世界全体の排出量を10年比で45%削減し、50年までにゼロにする必要がある」というものであるが、人為的温暖化を人為的に抑え込むという発想自体に西欧科学技術の傲慢さがある。いつから「科学技術」は地球を創造する「神」の地位を占めるようになったのか。

「鎌田浩毅の役に立つ地学」は2020年4月から『週刊エコノミスト』誌に連載され、地球温暖化だけを論じているものではないか、地学の観点から地球温暖化に対してもアプローチしている。その中から何点か本質的なものを以下に抜き出してみる。

1地球内部を大循環する炭素

「大気中の二酸化炭素の濃度や量は、地球内部で行われている「炭素循環」と深く関連し、数億年にわたる地球環境をつかさどる動きに大きく左右されている」。「地球環境は「固体地球」「流体地球」という二つの領域に分けられ、炭素循環もその両者にまたがって起きている」。「炭素は固体地球の内部で長い年月をかけて循環し、その主役は地球全体の質量の8割を占めるマントルである」。「 約1億年の周期でマントル対流を起こすことにより、上部にある地殻へ炭素が供給され」、「その際、 炭素はホットプルーム(上昇流)とコールドプルーム(下降流)という二つの巨大な流れに乗って循環する」。(『エコノミスト』2021.6.1)

2 『炭素循環』が決めるCO2濃度

「大気中の二酸化炭素濃度を決めるのは『炭素循環』と呼ばれる現象である。地下深部のマントルに含まれている二酸化炭素は、大洋底の中央海嶺の火山活動によって海中へ放出される。同様に、海洋プレートが大陸プレートの下へ沈み込む地域では、マグマが大陸を貫いて地上に噴出し、二酸化炭素を大気中へ放出する。次に大陸上では、二酸化炭素は雨水や地下水に溶けて炭酸(H2CO3)となる。炭酸は、川を経て海に流れ込み、炭酸カルシウム(CaCO3)などの炭酸塩鉱物として沈殿する。それらが何千万年という時間をかけて海洋プレートとともに移動し、最後にプレートの沈み込みに伴って大陸プレートに付加される。付加されたものの一部は、沈み込みとともに地球深部に運ばれ、火山活動によってマグマとともに再び地表へ放出される。このように、炭素はさまざまなプロセスを通じて循環している。」「大気中の二酸化炭素濃度は、こうした地球スケールの炭素循環によってたえず調整され、現在まで安定した環境が維持されてきたのである。」(『エコノミスト』2020.12.15)

3 炭素の大気と海水の間での大循環

「約1億年前の白亜紀にホットプルム由来の大規模な火山活動が起こり、マグマに含まれる二酸化炭素が大気と海洋に供給された。その後、陸上に繁茂した植物が光合成によって二酸化炭素を吸収し、炭水化物として地表付近に固定された。こうして大量に蓄積された植物の遺骸は、その後に腐食・埋積されて数百万年という長い時間をかけて地中で石炭と石油に化学変化した。すなわち、マントルが媒介して固体地球と流体地球が関わる炭素循環なしには、人類を長年支えてきた化石燃料は誕生しなかったのである。」

「海水に溶け込んだ二酸化炭素は各種の陽イオンと化学反応を起こし、大量の炭素化合物を海底に沈殿させた。こうしたプロセスを経て大気と海水の間で平衡状態が作り出され、大気中の二酸化炭素濃度がコントロールされてきた。」「二酸化炭素は流体地球を構成する海水と大気の間で絶えず大規模に循環しながら、長い間に平衡を保ってきた」のである。(『エコノミスト』2021.6.8)

4 太陽との距離も気温に影響

「過去40万年間の地球と太陽の距離と、平均気温の変化との関係を見ると、両者に関係があることが分かる。すなわち、地球と太陽の距離が大きい時には、地上に届く太陽エネルギーが減少するため、平均気温が低下する。反対に距離が小さい時には太陽エネルギーが増加するため平均気温が上昇する。こうした変動によって氷期と間氷期の繰り返しが生じた」とセルビアの地球物理学者: ミランコピッチの説を紹介している。

「近年の地球温暖化は、人為的な気温上昇によるとする見方が多いが、実は気温変化には太陽の距離などはるかに大きな要素が大きく作用している。」(『エコノミスト』2021.6.15)

5 大気中の二酸化炭素濃度は3億年前の氷河期時代と現在は同じ

「地球の長い時間軸の中では、大気中や海水中の二酸化炭素が炭酸カルシウム(CaCO3)として固定される速度と、火山活動により二酸化炭素が大気中に放出される速度とが、ほほ等しくなっている」「短期的な二酸化炭素濃度の揺らぎは、長期的には平衡状態へ戻っていく。例えば、マントルの対流が活発化して地上に大量のマグマが噴出すると、二酸化炭素の供給量が増えて長期的な温暖化に向かう。その結果、大気中の二酸化炭素の海水に溶ける量が増え、次第に大気中の二酸化炭素濃度が低下する。」「現在の大気中の二酸化炭素濃度は、寒冷期に当たる非常に低い水準と言えよう。したがって、いま世界中で問題にされている地球温暖化も、こうした『長尺の目』で見ると再び氷期に向かう途上での一時的な温暖化とも解釈できる。」「大気中の二酸化炭素濃度は、こうした地球スケールの炭素循環によってたえず調整され、現在まで安定した環境が維持」されているのである。(『エコノミスト』2020.12.22)

ニュートンに「私は仮説をつくらない」という科学的認識の有名な言葉がある。ニュートンは、具体的な現象から導き出せないものはどんなものでも「仮説」に過ぎないと考えた。根拠のない前提や規則を「仮説」と呼び、現象や経験から導き出せないものを排除しようとした。「人間は自分が立てた仮説や規則に弱い」という洞察がある。いつのまにか仮説が先入観となり、虚心坦懐に物事を正しくとらえられない場合がある。(鎌田浩毅「理系の教養ニュートンの大古典に挑む」:2019.9.27)。

地球温暖化論は「仮説」である。地球物理学のこれまでの知見を無視して「仮説」を「科学的」だと大上段に構えてはならない。「仮説」というしっぽが「世界」という胴体を振り回している。二酸化炭素はわれわれの生活になくてはならない「空気」の一部である。水や空気という地球生命にとって最も重要な『社会的共通資本』に対し、排出権取引や炭素税として価格をつけるものであり、温暖化対策を主導する欧米の金融資本が儲け、経済的弱者や発展途上国は重い負担にあえぐこととなる(日経:「カーボンゼロ CO2値付け世界で拡大」2021.7.27)。「カーボンプライシングの導入にあたっては企業の負担軽減策がつくられ、企業は製品やサービスに価格転嫁する見込みだ」(日経:同上)。市場原理主義はあらゆるものをカネに変えようとする。二酸化炭素を含む空気は地球の生命にとって最も大切なものである。カーボンプライシングほど反生命的・非倫理的なものはない。

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【書評】「メカニクス」の科学論

【書評】「メカニクス」の科学論

     佐藤文隆著 2020年12月 青土社 2,000円+税

                              福井 杉本達也

本書は『現代思想』(青土社)の2019年9月から2020年10月まで連載された佐藤文隆の「科学者の散歩道」を書籍化したものである。筆者が科学といっているのは「19世紀中ごろの欧州先進国で成立した『制度としての科学』、『職業としての科学』のことである。前史のギリシャ古典哲学や中華帝国の技術、錬金術や古代天文学、といった多くの芽まで包括するものではない…科学は真空の中に登場したのではなく、技術、軍事、政治、教育、医療、宗教、哲学、学術、情報、芸能などの各業界の旧勢力との軋轢の中でシェアを確保し、成長した物語でとしてみることである」。西欧に発する「科学については地域の歴史や文化と独立した普遍主義的な見方が支配的」である。しかし、近年は「科学の世界での中国の台頭」が華々しい。そこで、著者の関心は「現代科学発祥の英仏独米ロはキリスト教の支配した同一性を持った社会である。それに対し中国はこれと同化しない大きな文明の歴史を背負った社会である…そういう中国が科学の中心に座るかもしれない…科学の普遍主義的コアと西洋科学の来歴に由来する周辺部は分離して中国流の新しい衣をまとうかもしれない」と考えることから始まっている。

本書では西洋科学発祥の一因を「メカニクスの下剋上」にあるとする。「メカニクスやメカニカルが近代以前の西洋では社会的な差別語であった」。古代市民は「奴隷的で機械的な職業でない自由な職業」に価値を置いた。近代の入口でも「機械的技術に対する軽蔑…メカニックは自由人的、貴族的、騎士的といった価値のはんたいがわにあるものだった」。

蔑視されていた西洋起源の現代科学は、「一つにはギリシャ哲学やキリスト教神学といった学問世界の革新と、二つには航海・鉱山・軍事や錬金術などの技術や実験の合理化で成立し…旧勢力を『押しのけて』入れ替わったのである」。「各地の文明を支えていた伝統技術から科学と結びついた科学技術への移行は産業革命、資本主義、労働者階級の登場、都市化、帝国主義といった19世紀政治現象と一体であった。科学技術の最大の特徴は『大量化』の能力である」。「近代科学技術革命とは、社会的力を持ってきたのに学問世界から遠ざけられていた技術職能集団を引き込んで、学問世界の主導権を争った革命であった」。したがって、メカニクスには「人間を扱う仕事とちがい、『心がない』『ものを考えない』」卑賎な仕事とのイメージがつきまとう。「ガリレオ、デカルト、ニュートンらの活躍で学問世界にメカニックスが参入してから現代の『職業としての科学』が登場する」。

「自然哲学はwhyを論ずる」ことであり、「howは『機械的』『数学的』の仕事」であり、学問世界と身分の違う連中の世界のこと」であるとされてきた。「アリストテレスでは落下は上下左右の区別のある有限なこのコスモスに由来する自然の力である。斜面という『機械』はこの自然な出来事を妨げるコスモスでない異質なものである。しかし、斜面の角度を“徐々に連続して変える操作”はこれらの二つの作用を同質なものとして扱うことを意味する。斜面の傾斜角度を90度(鉛直)から0度(水平)まで変化させる状況を数学的に表現することで、コスモスを無化している」。「『howは下々の関心』だと見下された『下々』が数学上の証明で『コスモス』のwhy自体を突き崩した下剋上の物語である。『下々』の言説が効果を発揮できたは、身分の上下にまたがって存在する数学があったからである」。

「メカニクスは力学から始まり情報学に広まり、更に拡大していくであろう。理由は単純でメカニクスに便利なコンピュータや通信技術のテクノロジーが身近な社会に普及したからである。印刷術や用紙の低価格化が学問の性格を変え、口頭試験から筆記試験への変化が選ばれる才能の質を変えてきたように…データとメカニクスの技術の普及が学問世界に引き起こす影響は、文系理系を問わず、巨大なものであろう」とする。

早稲田大学の井上達彦教授は、中国のの躍進ぶりを理解するための視点としてリープフロッグを紹介する。「リープフロッグとは、経済や社会インフラで後れを取っている新興国が、先進国を超えた発展を見せるという現象である」。「第1は、同じ経路を短期間で進む『パスフォロー』。「 第2は、特定の段階をスキップして短縮する『ステージスキップ』である。固定電話のインフラを整備する段階を飛ばして、携帯電話の普及を進めるというのがその典型である」。「第3は、新たな技術で道筋をつくる『パス創造』であり、先進国の社会ではまだ実装されていない技術を導入することである。世界に先駆けて実装した、決済や与信のシステムはこれに該当する…中国企業の学習サイクルは速い。…仮説検証サイクルを『小さく、速く、賢く』回すことが当たり前になっている。経験学習のサイクルが速く、学習の時間密度も高いので、創造されたパスを一気に駆け上がって」いくとする(『東洋経済』2021,6,5)。

中国を巡っては、「専制主義」という批判、半導体を中心とする米中貿易戦争、新型コロナウイルス、ウイグル問題、台湾、香港等々さまざまな問題が山積するが、これは中国のGDPが近々米国を追い抜くという事態の中で発生している。しかし、データとメカニクスは今、中国が最も得意とする分野である。ここで、もう一度ボーアの量子力学の思想善導「黙って計算しろ!」となるのであろうか。中国を「専制主義」と批判する普遍主義を標榜する「民主主義」にも科学同様、特殊西欧の“残滓”がある、というか、「帝国主義」の”残滓“がある。独自の文明を背負った中国に無理やり押し付けようとしてもうまくいくはずもない。

本書は「メカニクスの西洋科学は20世紀において100倍にも規模を拡大したが、その中でメカニクスと西洋学問の衣の分離が進んだ」。「中国のような異なる学問の伝統をもつ社会の中にこのメカニクスが移入されれば、メカニクスは新たな衣をまとった営むに変貌するかもしれない」と締めくくる。

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【追悼】森信成先生没後50年によせて

【追悼】森信成先生没後50年によせて

 1971年7月25日哲学者森信成さんは亡くなった。私は、1972年の大学入学であり、生前、大学での講義や講演を聞くことは叶わなかった。民学同加入後は、社研の例会や組織内の学習会では、必ず森先生の著作を中心に森哲学を学ぶことになった。
 思想的統一・議論抜きの、組織の統合・分裂を先行させてはいけない、思想の平和共存は行ってはならず、議論・論争は民主主義的手続きに則って、徹底的に行うこと、組織の利害を大衆運動の利益の上においてはいけない、党派性とは、大衆運動への適格なスローガンを提起することで明確になることなどなど、以後、労働運動や社会運動に関わる心構えは、森先生の教えに基礎があると考えている。
 中国共産党が創立100周年ということで、習近平は人民服姿で登場した。政治的民主主義が存在せず、ウィグルやチベットの民族的自治権を認めない、この国をどう評価したらいいのか。中華人民共和国の歴史、文革の功罪など、いろいろ読んでみたが、最後は森先生の「毛沢東哲学批判」ということになった。
 マル自(「マルクス主義と自由)や史根(「史的唯物論の根本問題」)は、学習会の素材として何度も読んだが、「毛沢東『実践論』・『矛盾論』批判」(刀江書店)をじっくり読むと、60年代、「唯物論研究」誌を舞台にした、日共系(当時の日共は、中国派)学者との徹底した議論に、論争家として森先生の奮闘が伝わってくる。(市大図書館に「唯物論研究」誌を確認に行ったのだが、合本の何冊か欠落状態で、情けない限りであった。)
 
 哲学分野は、どちらかと言えば苦手な私だが、没後50年ということで、以下に、著作一覧、追悼集からの再録、年譜などまとめることで、森哲学を現代に生かすことができれば、と考える(佐野秀夫)

(※ 以下の資料は「知識と労働」第3号「特集森信成追悼」を基本にしています)

1 森先生の著作一覧

2 森先生の生涯 (追悼文より)

京都大学哲学科 (小野義彦さん
「民科」「大阪唯研」(山本春義さん)
大阪市立大学 (横田三郎さん)

3 森先生の哲学思想

4 追悼の言葉

吉村励さん
大阪労働講座
民主主義学生同盟統一会議

5 森先生略年譜

6 関連資料

大阪唯物論研究会 会報 No1(1959年6月1日)

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【投稿】バイデン政権・キューバ軍事侵攻の危険性--経済危機論(56)

<<「キューバを生かせ!」>>
 7/23付けニューヨークタイムズ紙に、世界中の元国家元首、政治家、著名な知識人、科学者、聖職者、芸術家、音楽家や指導者、活動家や団体、個人、400人以上の人々が署名したバイデン米大統領への緊急の公開アピールが、一面全面広告として掲載された。ここの「キューバを生かせ Let Cuba Live!」と題した公開レターは、ホワイトハウスに対し、パンデミックを制御し、キューバに住む人々の命を救うためのキューバの努力を妨害しているトランプ前大統領が課した243に上る一方的な追加制裁を直ちに解除することを求めている。署名者には、政治家、著名な知識人、科学者、聖職者、芸術家、音楽家、指導者、活動家など多様な人々、団体が名を連ね、俳優のジェーン・フォンダ、スーザン・サランドン、オリバー・ストーン、ダニー・グローバー、マーク・ラファロ、ルーラ・ダ・シルヴァ元大統領(ブラジル)、ラファエ
ル・コレア元大統領(エクアドル)、ヤニス・ヴァロファキス、ミュージシャンのジャクソン・ブラウン、ブーツ・ライリー、知識人のロクサンヌ・ダンバー=オルティス、ジュディス・バトラー、コーネル・ウェストなどが署名している(署名者全員の名前は、「Let Cuba Live!」のサイトhttps://www.letcubalive.com/で公開されている)。
 このバイデン大統領への緊急パブリック・アピールは、「食料や医薬品の輸入にはドルへのアクセスが必要であることを考えると、キューバによる送金やグローバル金融機関の利用を意図的に遮断することは、特にパンデミックの際には考えられるものではありません。直ちに大統領令に署名し、トランプ大統領の243の強制措置を無効にする 」ことを求めている。
 この書簡は、The People’s Forum、CodePink、Answer Coalitionの共同イニシアチブの第一弾であり、その目的は、米国の不道徳で近視眼的な政策を変えようとすること、そしてキューバの人々に医薬品や医療用品を提供することを明らかにしている(CODEPINK For Immediate Release- July 22, 2021)。

<<「これは始まりにすぎない」>>
 キューバをめぐる事態の急激な変化は、7月11日(日)、明らかにソーシャルメディア(「#SOSキューバ」)を介して事前に計画・調整された数十の反政府抗議活動が、キューバ全土で同時に行われたことであった。ハバナ郊外のサンアントニオや、コロナウイルス患者が急増しているマタンサスなどでは、抗議活動が暴力化し、窓ガラスが割られ、店が略奪され、車がひっくり返され、石が投げられ、人々が暴行を受ける事態にまで険悪化し、逮捕者も出る事態となった。しかしこの抗議行動は、週末に発生したときと同様、すでに沈静化しつつある。問題は、今回の抗議行動が全体として一つの大きな「反政府」デモであると一般化することはできないし、同時に、抗議行動の参加者を「CIAの協力者」や「反革命分子」というレッテルを貼ることもできない、という指摘の重要さである(People’sWorld 2021/7/16)。

 キューバのミゲル・ディアス=カネル大統領は、キューバが抱える物質的な苦難に対する正当な不満があることを認め、なおかつキューバ革命の成果を防衛することの重要性を訴えている。この大統領の呼びかけに、大規模な革命防衛デモが行われ、アメリカが介入しようとたくらむ事態は今のところ避けられている。逆に、アメリカの草の根のキューバ支援は、バイデンの意向とは無関係にどんどん進んでおり、12トンの医療用品、600万本の注射器などが報じられている。

 しかしバイデン政権は、このハッシュタグ#SOSキューバで、反対派の動員のみならず、軍事介入までを要求する事態を放置、助長し、7月11日の抗議活動における逮捕を非難する共同声明に署名するよう、米州機構(OAS)のメンバーに圧力をかけていることが暴露されている。7/21、キューバのブルーノ・ロドリゲス・パリヤ外相は、「米国国務省は、OAS諸国の政府に対して残忍な圧力をかけ、拘束されている人々を解放するよう求める声明への参加や同様の声明の発表を強要している」と抗議している。
 7/15、バイデン大統領は、「キューバは不幸にも失敗した国家であり、市民を抑圧している。共産主義は失敗したシステム」、「破綻国家」とまで呼び、自らのキューバに対する封鎖・制裁政策の継続には一切触れもせず、責任など一切関知しない態度を鮮明にしている。しかし封鎖は、主権国家の自決権を謳い、強制的な政権交代を禁止した国連憲章に違反しており、一方的な強制制裁措置は、ジュネーブ条約やハーグ条約で禁止されている、集団的懲罰であり、全く違法なものである。バイデン政権自身は、アパルトヘイト国家であり軍事テロ国家であるイスラエル、執拗にイエメン無差別爆撃・軍事テロ攻撃を行っている、全く民主主義とは無縁な専制国家サウジアラビアと強力な同盟関係にあり、そのテロ攻撃を軍事援助と財政援助を通じて支援しているのである。失敗し、破綻しているのは、バイデン政権自身なのである。
 バイデン政権は7/22、キューバの反政府デモ弾圧に関わったとして、国内法に基づき、新たにロペス・ミエラ国防相と内務省特殊部隊を制裁対象に指定と発表し、バイデン大統領は声明で「これは始まりにすぎない」とまで強調している。何の「始まり」なのか。軍事侵攻の可能性まで検討され出している危険な事態である。
 6月の国連総会では、29年連続で米国の対キューバ禁輸措置を非難する決議が採択されたが、投票は184対2で、反対票を投じたのは、ついに米国とイスラエルだけという事態にまで追い込まれているのである。米国は キューバを「テロ支援国家」と呼びながら、残酷な封鎖に加えて、キューバに対するテロを奨励・助長し、今も継続しているのである。それらのテロ組織には、「キューバ・アメリカン・ナショナル・ファウンデーション」、「アルファ66」、「コマンドスF4」、「独立・民主キューバ」、「ブラザーズ・トゥ・ザ・レスキュー」などがあり、豊富な資金と、CIAやFBIの支援を得て、米国内で堂々と活動して来たのであり、パンデミック危機の今こそ絶好の機会と蠢動している。オバマ政権は、キューバをテロ支援国家のリストから一旦は外したのであったが、トランプ前政権はキューバを再びリストに加え、243に上る一方的な追加制裁を新たに課し、バイデン政権はそれをいまだに引き継いでいるのである。「我々はキューバの人々と共にある」と言いながらこれである。偽善者=ジョー・バイデンと言えよう。
 そして現実にキューバは、これらの制裁とパンデミックの複合的な影響で、GDPは2020年には11%も減少し、観光客は2019年に比べて75%、輸入品は30%減少しており、経済的苦境と日々闘っている、闘わざるを得ない状況なのである。
 しかしそれにもかかわらず、キューバは国際主義的な連帯精神を実際に実行し、何千人ものキューバ人医療専門家がイタリアやブラジルをはじめ40カ国でコロナウイルスの患者を治療し、世界各地に派遣した医療関係者の旅団がノーベル平和賞にまでノミネートされ、さらに中南米で唯一、ファイザー社やモデルナ社に匹敵する有効性を持つ独自のワクチンの開発・製造に成功し、2,100,000人以上のキューバ人がワクチン接種を受けるところまで成果をもたらしている。無料の医療、数百万人が学位取得レベルまで無料で受けられる教育、総合的に非常に高い健康と教育の指標を達成しているという、まさに社会主義政策の成果が根付いているのである。
 こうしたキューバの成果こそが、バイデン政権にとっては癪の種であり、共和党と共同歩調、超党派外交を取るバイデン政権にとって、パンデミックの危機を利用して、さらなる封鎖と制裁に輪をかけ、一挙に社会主義政権を押しつぶしてしまう危険な路線に足を踏み出した可能性が高い、とも言えよう。しかしそうした危険な路線は逆に自らの政権を凋落させる政治的・経済的危機をもたらすであろう。
(生駒 敬)
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