【投稿】危険な第三次世界大戦への拡大--経済危機論(82)

<<「不測の衝突の危険性」>>
4/16、ロシアのタス通信は、ロシア国防省の発表として、ロシア軍が西側諸国の武器を輸送していたウクライナ軍の輸送機を墜落させた、撃墜は対空システムを通じてオデッサ郊外で行われたと伝えている。4/17、中国国営メディアCGTNもこの報道を取り上げ、「ロシア国防省報道官のイーゴリ・コナシェンコフ少将は、ロシア対空防衛軍は、西側諸国からウクライナに供給された大量の武器を運搬していたウクライナ軍の輸送機をオデッサ付近で撃墜した」と報じている。西側では一切報じられていない。確認されれば、米欧・NATO側との対立をより直

ドーバー空軍基地でウクライナ向けの軍需品やその他の爆発物が入った補給箱が積み込まれる。(4/15 The official account of the U.S. Department of Defense)

接的にエスカレートさせる可能性が大であり、より大規模な世界大戦への危険な展開を示すことになる。
コナシェンコフ少将によると、「過去24時間で、ロシアのミサイル部隊は、ウクライナ軍の274の拠点と敵の人員が集中する地域、24の司令部、2つの野外燃料施設を含む317の軍事施設に打撃を与え、ロゾバヤとヴェセラヤでは、ウクライナの無人機2機が撃墜された、ウクライナ軍の人員とハードウェアが集中する67箇所を破壊した」、という。
さらに4/17、ロシア外務省のニコライ・コルチュノフ特命大使が記者会見で、NATOの非北極圏諸国が北方地域におけるNATOの軍事活動に関与することを懸念しており、北極圏におけるNATO同盟軍との不測の衝突の危険性に留意していることを明らかにした。北極圏理事会高級実務者委員会の委員長を務める同大使は、「高緯度地域における同盟の軍事活動が国際化し、北極圏以外のNATO諸国が関与していることは、懸念を引き起こさないわけがない」と述べ、「安全保障上のリスクだけでなく、脆弱な北極圏の生態系に深刻なダメージを与える可能性がある」と指摘し、「スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、北極圏の安全保障と信頼が損なわれる」ばかりか、「伝統的に非加盟国である国々を犠牲にしてNATOが拡大すれば、ロシアが一貫して主張してきた北極圏の安全と相互信頼には貢献しない」と強調している。

ロシア、北極圏でNATOと意図せぬ衝突を起こす危険性を認識 – 外務省(Tass 17 Apr, 21:52)

フィンランドは6月に加盟申請書を提出し、スウェーデンもそれに続く予定だと報じられており、ロシア外務省 は、フィンランドが同盟に加わった場合、「深刻な軍事的および政治的影響が生じる」と警告しており、ロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は4/14、スウェーデンとフィンランドがNATOに加盟すれば、当然、ロシアは西側の国境強化に動き、そうなれば「バルトの非核地帯の話はなくなるだろう」と述べている。核配備を予告するものであろう。

<<「暴言のエスカレート」>>
事態が危険な予測、展開を急速に帯びだしてきていることは間違いない。米・NATO側は明らかに、この間のウクライナ危機を徹底的に利用して、危機の平和的・外交的解決をあくまでも妨害、拒否し、泥沼の事態にロシアを引きずり込む意図が前面にでてきていることの直接的な反映であると言えよう。
その意図を露骨に表明しているのが、ジェイク・サリバン米国家安全保障顧問である。サリバン氏は、4/10のNBCのMeet the Pressで、「我々の政策は、ウクライナの成功のためにできることは何でもするという明確なものである。その目標を達成するために、アメリカはウクライナを武装させ、ロシアの経済に打撃を与える行動を取り続けるだろう」と語り、あけすけにロシアの「弱体化と孤立化」を見たいのだとまで語り、戦争は「長期化する」ことを請け合っている。そこには緊張緩和・平和的解決のの姿勢などまったく存在しないのである。マーク・ミリー米統合軍議長も同様のコメントを出し、「これは非常に長期的な紛争であり、少なくとも年単位で測定されると思う」と述べ、バイデン政権が平和的・外交的解決に何の関心も示していないことをあからさまにしている。それどころか、バイデン政権は、「アメリカの防衛関連企業が製造した武器の販売や移転に関するアメリカ政府の承認を迅速に行うため、国防総省は需要の増加に対応するためのチームを再確立した」(ロイター通信)、と産軍複合体の要望にすばやく応えることに懸命なのである。
 4/13のCBS Newsは、バイデン大統領自身が、ウクライナでの戦争を「ジェノサイド」だと決め付けていることを報じ、バイデン氏が「家計もガソリンも、地球の裏側で独裁者が宣戦布告をして大量殺戮を行うかどうかに左右されるべきではない」、 「そう、私はそれを大量虐殺=ジェノサイドと呼んだ。プーチンがウクライナ人であるという考えを一掃しようとしていることがますます明白になったからだ」、「生活費の崩壊は我々の愚かな政策ではなく、プーチンのせいだ」とまで述べて、自らが招いている経済危機に対する自己弁護にやっきとなっている姿勢を浮き彫りにしている。
さすがに、この「ジェノサイド」発言に対しては、米国防情報局の高官が、ウクライナでの民間人の犠牲は現代戦の典型であり、大量虐殺には「到底」至らない、「実際の死者の数はジェノサイドとは言い難い。もしロシアがそのような目的を持っていたり、意図的に民間人を殺害していたなら、ブチャのような場所では0.01%未満よりもっと多く見られるはずだ」と強調する記事を、同じ4/13のニューズウィーク誌が掲載している。さらに、NBCは国務省の2人の高官の発言を引用し、バイデン氏の発言は 「国務省の機関が信頼できる仕事をすることを難しくした 」とまで述べた、と報じている。フランスのマクロン大統領は、ロシアがウクライナで「ジェノサイド」を犯しているというバイデン氏の主張を支持することを拒否し、「フランスの指導者は、暴言のエスカレートは平和をもたらさないだろう」と発言している。

<<「世界大戦はすでに始まっている」>>
問題は、「暴言のエスカレート」だけではなく、米政権内では、ウクライナへの米軍自身の派遣論まで検討されつつあり、4/18の報道によれば、バイデン大統領のパイプ役として知られる民主党のクリス・クーンズ上院議員が、4/17のCBSニュースのFace the Nationに登場、ウクライナへの米軍派遣を積極的に検討すべきだとして、バイデン政権と議会は、「いつ次のステップに進み、ウクライナを守るために武

民主党・クリス・クーンズ上院議員「ウクライナへの米軍派遣を」

器だけでなく軍隊を援助に送ることをいとわないか、共通の立場に立つべきである。」と明言する事態である。
アメリカだけではない。4/15の英The Times紙は、ウクライナの指揮官が、英国の特殊空挺部隊(SAS)の兵士がキエフで、ロンドンから提供された対戦車兵器の使い方をウクライナ軍に直接教え、訓練に従事していると、タイムズ紙に語ったと報じている。
指揮官の証言によると、英国軍は約2週間前にキエフに到着し、NLAWとして知られる次世代軽戦車兵器の訓練を開始した、というのである。これは、NATO加盟国がウクライナに軍隊を駐留させていることを示す初めての報告であり、モスクワを刺激する危険性が極めて高いと言えよう。英国国防省は、特殊作戦についてコメントしないという立場を理由に、訓練ミッションについて確認を拒否している。

直近発売中の月刊「文芸春秋」5月号【緊急特集 ウクライナ戦争と核】 日本核武装のすすめ 米国の「核の傘」は幻想だ という論考で、エマニュエル・トッド氏は、欧州を「戦場」にした米国に怒りを覚えている、と述べる。氏は、ロシアの侵攻が始まる前の段階でウクライナは「NATOの事実上の加盟国」となっていたこと、米英が高性能の武器を大量に送り、軍事顧問団を派遣し、ウクライナを「武装化」していた、ロシアは明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視してきたことが、今回の戦争の原因だと論じる。その上で、「第三次世界大戦はすでに始まっている」、なぜなら、ウクライナ問題がグローバル化=「世界戦争化」され、ウクライナ軍は米英によって作られ、米国の軍事衛星によって支えられた軍隊で、その意味でロシアと米国はすでに軍事的に衝突しているからです、と論じている。米英、主流派メディアや野党をも含めた体制翼賛的な、一方的なロシア批判に対する反批判として評価できよう。 論考の最後で付け足し程度で、日本の核保有について、「核共有」「核の傘」は幻想であり、核保有が真の「自律」の手段だという論はいただけるものではないが、論の中心的論点であるウクライナ危機のとらえ方では的を射ていると言えよう。

ウクライナ危機の「世界戦争化」は、日に日に重大な現実的危機として拡大しつつあることに対して、警告を発し続けることが求められている。悲惨で残酷極まりない難民危機を一刻も早く解決し、即刻、関係国すべての軍事停戦に向けた協議こそが追求されるべきであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】「ウクライナ侵攻」による対ロシア制裁は「ドル危機」をもたらす

【投稿】「ウクライナ侵攻」による対ロシア制裁は「ドル危機」をもたらす

                            福井 杉本達也

1 ドル基軸通貨体制に引導を渡す「バイデンの禁じ手」

4月9日付けの日経のコラム『大機小機』は、ロシアの「SWIFTからの排除は不完全なものであった。ロシアの化石燃糾や穀物を輸入する国々が、取引を継続できるようにするために、意図的に複数の銀行を排除しなかった。ロシアの天然ガスに頼るドイツなどの西欧諸国や穀物を輸入するアラブ諸国などに大打撃を与えるからだ。ロシア企業は、排除されていな い銀行に決済口座を移すことで貿易を継続できる」。ロシア中央銀行は「輸出で受け取った外貨の売却義務など厳しい為替管理を課して対応した。為替管理で資本流出が止まると、ルーブル相場を決めるのは経常収支になる」。「ロシアは通貨危機を免れる可能性が高い」と書いた。

プーチン氏は「西側の金融システムで武器のように用いられるドルやユーロを使う意味はない」と述べた。経済産業研究所コンサルティングフェローの藤和彦氏は、「安全保障の手段としてロシアの外貨準備を凍結すれば『米ドルはいざというときに使えなくなる』との懸念が国際社会に広まり、基軸通貨の主な要素である『価値保蔵の手段』としての信用が毀損してしまう。金融関係者から『現在の国際通貨システムの信認を毀損することになりかねない危険な行為だ』と懸念する声が上がっているし、国際通貨基金(IMF)も3月下旬に『ロシアに科した制裁により、世界の金融システムにおけるドルの影響力が弱まり、今後、国家間の貿易をベースとする通貨ブロックが出現する可能性がある』との見解を示している。」(現代ビジネス:2022.4.8)。

 

2 非常に練られたロシアの反撃―ガス購入の決済手段のルーブル化

ロシア政府は3月23日、「非友好国」が同国の天然ガスを購入する場合、決済は4月1日からロシアの通貨ルーブルに限ると発表した。 アメリカが「制裁」の対象にしていないロシアの銀行にルーブルの口座を作り、そこでやり取りするとしている。もしロシアからのエネルギー輸入を削減することになればガスの価格が高騰し、大幅な供給不足に陥り、経済がは大混乱に陥り、秋以降は凍死者が出る。ロシアのガスに強く依存している欧州は最終的にルーブル払いに応じるしかない。それは世界的なエネルギー代金決済の非ドル化であり、ドルの基軸通貨制度の崩壊をもたらす。

ロシアはSWIFTから閉め出されたが、閉め出された場合、他の国際金融取引システムに加わるか、新たに作るしかない。ロシアは米国の圧力に屈服する代わりに、新しい流れを作っている。米ドルと米国が管理する金融機関を迂回するための代替案を実施した。中国、インド、イラン、トルコは、とりわけ、米ドルではなく現地通貨でロシアと取引を行うことを発表し、すでに行っている。これらの国々の人口は 30億人を超える人々の市場であり、相互に取引するために米ドルを使用する必要がなくなった。米国は自身のシステムを弱体化させ、前例のない規模での脱ドル化を促進しているロシアの金は、中国の金とともに、米国の支配の及ばない新しい通貨制度の基盤を形成する可能性がある。

ロシアの天然ガス・金は事実上金にペッグされたエネルギーとなった。金に裏打ちされたルーブル、または石油、ガス、鉱物、商品輸出に裏打ちされたルーブルとなった。資源ベースの世界準備通貨の出現は、地球の13%の欧米諸国が他の87%の中ロなどBRICsや発展途上国をもはや支配しないことを意味する。4月7日の国連人権理事会でのロシアの資格停止について、発展途上国からは多くの「反対」や「棄権」が出たが、マスコミはそれをロシアが「『脅し』と受け取られるような行動を取っていた。ウクライナで多数の民間人殺害が報告される中、採決で賛否が割れたのは、ロシアの圧力を受けて反対に回った国が出たからとの見方」だと報じたが(福井 2022.4.8)、国連の場においても、米欧の「脅し」に屈しない諸国が多数になったことを意味する。

 

3 「価値尺度機能」としての金

貨幣には3つの機能がある。1つ目が「価値保存機能」=労働や投資の対価を保存し、将来時点において著しい価値の毀損が無く、お金をお金として使用できること、2つ目が「価値尺度機能」=貨幣の単位を用いて価格を表すことにより、価値を計測すること=「物差し」の役割、3つ目は「交換媒介機能」=モノとモノとの交換を媒介している。貨幣の「交換(決済)手段」としての役割である。ドル基軸体制で最も怪しものが、2つ目の「価値尺度機能」である。変動相場制の下では、ドル自身が動いているため、円、ユーロなどの実質的な価値を測れない。原油価格は当初1バーレル(トラム缶1本)1ドルといわれた、それが1973年のいわゆる「第1次石油危機」時においては3ドルであった、それが、「石油危機」で3.3倍の10ドルに急騰した。というかドルが1/3にに下落したというのが正解である。「石油危機」という“公式”の説明ではなく、ベトナム戦争の負担のためにペパーマネーであるドル紙幣を印刷しすぎたために起こった「ドル危機」と捉えるべきである。それが、今は原油1バーレル当たり90~100ドルである。ドルが1/90~1/100に減価したと見るべきである。金の価格は1トロイオンス(31.1グラム)当たり、4月9日現在で1,947.57ドルである。1971年に当時のニクソン米大統領は金・ドルの交換停止宣言をしたが、その時点までの公式交換レートは1オンス:35ドルであったから、金価格は55.6倍まで上昇したというべきか、逆にドルの価値が1/55.6に切り下がったというべきである。原油と金の価格を見る限り、金は貨幣としての貨幣の役割=価値尺度の機能を果たしている。通貨の価値を測るのは金しかない。

 

4 基軸通貨としてのドルの特権

吉田繁治氏は「基軸通貨とは無償で増刷できる通貨と、負債を示す証券でしかない国債を渡すだけで、海外の資源・商品・資産を入手」できる。貿易黒字により基軸通貨のドルが受け取り超過になる。受け取ったドルを輸出企業は銀行に売って、円を得るが、その分が通貨の増発になる。「米国の貿易赤字はインフレの輸出だといわれるのは、輸出国の通貨の増加をともなうから」である。「米国の貿易赤字は、通貨交換を通じて海外に米国が課税していることに等しい」と述べている(吉田:『臨界点を超える世界経済』2019.7.1)。

1971年、米国はドルという通貨の裏付けとして金は必要ないとして金・ドルの交換を停止したが、吉田氏は「兵器と麻薬は、伝統的に政府の監視をのがれて金で決済されることが多い」とし、「世界のほんとうの貿易金額で1位は原油、2位は麻薬、3位が兵器」であると指摘している(吉田:同上)。米国は世界恐慌後の1933年に国民の金保有を禁止したが、諸外国が輸入する米国製兵器は金の地金で決済することを要求した。その結果、第二次世界大戦後には世界の中央銀行が保有した金の全てが米国に集まり、ブレトンウッズ会議で金の信用を裏付けとして、ドル基軸通貨体制が確立したのである。1971年の金ドル交換停止後、ドルは原油・資源(国際コモディティ)を担保として基軸通貨に居座り続けた。しかし、今回のロシアの天然ガス・原油やその他資源への制裁によって、ドルは自らの手で「担保」価値を無くした。資源国はドルという「外貨準備」が米欧の恣意によりいつ凍結・没収されるかもわからないペーパーマネーに過ぎないと認識したからである。安保理で、石油輸出国のUAEは中国と同様に「棄権」に回り、OPECプラスが、米国の度重なる圧力にも関わらず、原油生産の増産に踏み切らないのはその証である。

 

5 ペーパーマネーから現物(コモディティ)へ

制裁は、制裁を課す国々に悪影響を及ぼす意図せぬ結果が常にあるので、効果がなく、非現実的な手段だと、投資家でのミッチェル・ファイアスタインはいう。金は6,000年以上にわたって通貨であり続け、これからもそうである。2008年に始まった米欧の債務と信頼の危機(リーマンショック)は、米ドル覇権の終焉をもたらしつつある。「中国、ロシア、インドは、金、銀、石油、小麦と裏打ちされ、交換可能な新しい通貨を立ち上げるだろう」と述べる。「その時点で、法定通貨は価値を失い、米ドルはその準備金の地位を失うだろう」と。もし米欧がロシアの金を禁止すれば、欧米の取引所は破綻し、金価格は急騰するだろうと警告している(RT:2022.3.29)。

これは、ロンドン金属取引所(LME)のニッケル契約の失敗に似ておりニッケルの「交換の失敗」と大規模なマージンコールを引き起こした。「現在進行中の不正な金先物価格抑制はニッケルに比べて巨大であり、世界的な金融危機(またはパニック)を引き起こし、壊滅的なものになるだろう」と警告する(RT:同上)。「ウクライナ危機に伴うロシアの供給懸念は金属市場の相場変動を大きく高めた。不透明な仕組みを温存したままでは、銅やアルミなど他の商品でも同じような混乱が起き」かねないと英国が支配するLMEに対して日経新聞も警告する(日経:2022.4.6)。

これまで、米欧は金の現物の代わりにCOMEX(商品取引所)を通じて現物の金地金がいらない先物売りにより金を売り崩してきた。デリバティブの金融技術の発達(=金融詐欺)により、金地金がなくても売買ができることにより、市場の金地金の売買額が大きくなり、先物とオプション取引で金地金の50倍以上の売買額となり、金相場を売り崩してきたのである。また、2004年以降は、新しく、「金ETF」という金兌換通貨のようなペーパーマネーも発明した。「金市場は、世界の株式に比べて、はるかにすくないプレーヤーの市場」である。「FRBと米財務省の考えを受けて、ねらいどころに価格誘導するインサイダー市場といえる」と吉田氏は指摘する(吉田:同上)。これまで、3兆1880億ドル(2022年3月末)という中国の巨大な外貨準備が、こうした米国のペーパーマネーの金融技術を支えてきた。しかし、その蜜月は終わった。最終的な決済はペーパーではなく現物が要求される時代が到来しつつある。「ドルの王様は裸である」。

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【投稿】BRICS諸国・ドル回避「代替通貨」を準備--経済危機論(81)

<<「ドル基軸通貨制度に対する最大の脅威」>>
4/10、インドのThe Statesman紙は、ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C)、南アフリカ(S)のBRICS5カ国の中央銀行が、外部からのショックからそれぞれの自国経済を守るために「代替通貨」準備を共同でプールできる銀行メカニズムの第5回テストを実施することにすでに合意していると、報じている。
これは、4/8、ロシアのアナトリー・シルアノフ財務相が、BRICSとの閣僚会議で提起したもので、BRICS5カ国が力を結集し、自由に

BRICSが経済危機を緩和できる(The Statesman Sunday 10 April,2022)

使えるさまざまな金融手段を利用することで、欧米の対ロシア制裁によって自国経済に及ぼす反発を緩和することを提唱し、「現在の危機は人災であり、制裁により世界経済の状況は大幅に悪化している。BRICS諸国は国内および世界経済への影響を緩和するために必要なすべての手段を持っている」として、ウクライナ危機を口実としたロシアへの経済制裁が「米ドルを基盤とする既存の国際通貨・金融システムの基盤を破壊した」と非難し、BRICSに対し、対外貿易における自国通貨への依存度を高め、決済システムを統合し、SWIFT決済メッセージプラットフォームに代わるものを構築する」ことを提案したものである。
「輸出入業務における各国通貨の使用、決済システムとカードの統合、独自の金融メッセージングシステム、独立したBRICS格付け機関の創設といった分野での作業を加速させる必要性」をシルアノフ氏は提起し、4/9、5カ国の中央銀行はすでに、外部の衝撃から守り、危機を緩和する「代替通貨」準備を共同でプールできる銀行メカニズムの第5回テストを実施することに合意していると、ロシア財務省が発表した。
アメリカの経済専門サイト・ゼロヘッジは、これを「ドル基軸通貨制度に対する最大の脅威」だと報じ、「BRICSを中心とした決済システムは、現在のドル覇権主義に対する究極の挑戦となるだろう。これが口先だけだとしても、ドルが揺らいでいることは明らかだ。」と指摘している。

<<「世界の商品価格、40%以上上昇する可能性」>>
米、英、EU諸国はロシアのウクライナ侵攻をここぞとばかりに、制裁の連発でロシア経済を屈服させる絶好の機会到来と勇んだのであるが、そのブーメランは予想以上に厳しい現実となって跳ね返ってきているのである。対ロシア制裁でドルの立場が弱くなったことが露呈し、エネルギー、食糧から、今やあらゆる商品の価格上昇を自ら招き入れ、それぞれの自国通貨の購買力をこれまでになく低下させてしまったのである。実体経済に依拠しない投機主導型のマネー経済・金融資本主義優位のツケが大きく覆いかぶさってきたのである。
対してロシアは、ドル連動を廃して、ルーブルを商品価格に連動させ、事実上、金のペッグ制を導入したのである。ロシアや中国が意識的に金をため込んできた理由が自明、合目的となったのである。

ロシアは、ウクライナ侵攻の罠に自らはまり込んでしまって、自らを取り巻く環境や戦況を読み違えてしまったのであるが、欧米やG7は制裁のブーメランやロシアの経済状況をこれまた読み違えてしまったのである。

超金融緩和で不換紙幣を乱発し、大幅な財政赤字を抱えてきた欧米諸国、日本を含むG7諸国は、金融バブル破綻の淵に追いやられ、インフレ高進になすすべなく、今や、米最大の金融独占資本・JPMorganは、世界の商品価格が40%またはそれ以上上昇する可能性を予測する事態である(4/10、zerohedge.com)。JPMorganは、「欧米のロシアへの制裁は、それらの資源の世界的な供給を悪化させた」として、原油がすでに前年同月比で33%上昇し、天然ガスは65%上昇、小麦は33%上昇と急伸し、「原材料が過去最高値を記録したことから、商品価格は40%上昇し、今後も上昇を続ける可能性が高い」と指摘している。

ドルよりもさらに悪い状態の円

ドル陣営の他の2つの主要通貨であるユーロと円も、米政権に追随することによって、ドルよりもさらに悪い状態に落ち込む可能性が浮上しつつある。購買力が目に見えて低下しているにもかかわらず、インフレを回避すべきものが、逆にインフレに期待する政策ーヨーロッパ中銀・ECBと日銀は依然としてマイナス金利と金融緩和にしがみつき、価値の下がるドルに対してさえ、円安、ユーロ安が進行している事態である。ブラジル・レアルやメキシコ・ペソ、さらには南アフリカ・ランドでさえ、ドルに対して価値を上げているのとは、対照的である。
実体経済を無視してきた、投機的な金融資本が主導する金融資本主義の破綻が、いよいよ持続不可能となる、ドル覇権主義が崩壊しかねない重大な事態に直面しつつある、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】円安・資源高騰―崩れゆくドル基軸体制を支え続けた結果

【投稿】円安・資源高騰―崩れゆくドル基軸体制を支え続けた結果

                                                                                            福井 杉本達也

1 ウクライナ侵攻でロシアルーブルよりも下落した日本円

4月3日の産経新聞は「外国為替市場で円の独歩安が進み、ウクライナ侵攻に伴う制裁で暴落したロシアのルーブルに対してすら値を下げ続けている。米欧が新型コロナウイルス禍の『出口』に向け肥大した金融緩和の引き締めに転じたのとは裏腹に、低温経済の下で緩和を続ける日本の国力低下を物語っている。」と報じた。3月28日の外国為替市場で対ドルで円は125円台をつけた。これは2015年8月以来の円安水準となる。要因は3月28日に日銀が国債を無制限に決まった利回りで無制限に買い入れる「連続指し値オペ」を実施すると発表したことにある。日経は「円安が急加速し、円の下落と経常収支の悪化が共振作用を起こす『円安スパイラル』への警戒が強まっている」(2022.3.30)と書く。

 

2 アベノミクの異次元緩和による通貨安は国民を貧しくした

アベノミクスの異次元緩和とは、日銀が国債を買って通貨である円を増刷するということである。他国よりも多く通貨を増刷すれば、通貨1単位の価値は減って通貨安(円安)となる。 BISの算出する実質実効為替レート(2010年=100)は今年2月には66.54と、1972年2月の66.25以来の50年ぶりの低水準となった(日経:2022.3.18)。他国と比較すれば、既に1人当たりGDPでは韓国に抜かれ、日本は50年前にもどったということである。もし、今、海外旅行をすれば、欧米のみならず、アジア諸国の物価が非常に高くなっていることを実感するであろう。ビックマック指数というものがある。各国でビックマックを買うのにいくら払うかで物価の比較をしようというもので、日本は390円で33位、米国は669円で3位、中国は442円で26位、韓国は440円で27位となっている。マネーの増刷は国民を豊かにするのではなく貧しくしたのである。日本の全世帯が保有する預貯金は約1000兆円である。この利子は1998年からほぼゼロ%である。普通の金利が3%と仮定するなら、日銀のゼロ金利政策により預金者から年間30兆円を収奪していることになる。これは消費税にして6%に相当する。6%の消費税を払わされているのと同じ効果である。20年間で約600兆円の巨額な税金がかけられてきたといえる。これは世帯所得の2年分になる。これで国民が貧しくならないという方がおかしい。

 

3 ウクライナの戦争を煽るための円安誘導

資源高で円安は悪い影響を与えるにもかかわらず、なぜ、ここに来て日銀はさらに円安をすすめようとしているのか。それは、円の金利を極端に下げ(=「金融抑圧」)、米国との金利差をつけて日本の資金で米国債を買わせ、米国財政の補填をするためである。これまで、米国が中国敵視政策を取るまでは中国も米国債を購入してきた。しかし、中国はこれ以上米国債を買い増しすることはない。頼りとするのは日本だけである。パイデン政権によるウクライナへの軍事支援は23億ドルで、そのうちウクライナ侵攻後が16億ドルといわれる。また、2022年10月の会計年度からの国防費を21年度比4%増の8133億ドル(約100兆円)とするよう予算を組む。こうした軍事費・軍事支援費の多くが日本からの米国債の購入によって支えられることになる。

これには前歴がある。2003年から2004年のイラク戦争時において、日本は米国債を3850億ドルから6974億ドルにまで8割も積み増ししてイラク戦争の戦費をファイナンスしたのである。これらの経緯については吉川元忠氏の『経済敗走』(ちくま新書)で詳しい分析がなされている。水野和夫氏は「小泉・安倍両政権の構造改革路線とは日米軍事同盟を維持するための日本の米国への貢物だったことになる」と書いている(水野:『次なる100年』)。

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【投稿】ウクライナ侵攻によって世界経済は「マネー」から「モノ」へ―ドル基軸通貨体制崩壊の兆し

【投稿】ウクライナ侵攻によって世界経済は「マネー」から「モノ」へ―ドル基軸通貨体制崩壊の兆し                             
                             福井 杉本達也

1 米欧によるロシア大手銀行のSWIFT排除・ロシア中央銀行資産を窃盗

ロシアのウクライナ侵攻に対し、米欧は2月26日、国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行を締め出し、ドルばかりでなく円、ユーロ、人民元などあらゆる通貨との決済を不可能にする。また、ロシア中央銀行も制裁対象に加え、ロシアの外貨準備を使えなくして為替介入(外貨売り・ルーブル買い)により通貨ルーブルの防衛を困難にすることによって、ルーブルの急落させ、インフレ加速、景気悪化によってロシア経済を破壊し、ロシア国民の不満を醸成して厭戦ムードを高めようとするものである。ロシアの外貨準備高は2021年末で6300億ドルといわれるが、この半分の3000億ドルが凍結(欧米により窃盗)された。

2 欧州はロシアからの天然ガスがなければ耐えきれない

欧州のガス輸入量の4割はロシアに頼っている。3月1日に米国を訪問したドイツのロベルト・ハベック経済相は「我々は西側自身が耐えきれないような制裁、世界経済に損害を与えるような制裁、そして3日後に良い面しか見ていなかったと思うような制裁を講じないよう注視する必要がある。」と答えた(Sputnik 2022.3.2)。欧州で天然ガス危機への懸念が高まっている。「ロシア産ガスの供給が急減するリスクが浮上したためだ。途絶した場合、地理的に近い北米・アフリカから最大限、調達しても消費量の約1割(4000万トン程度)が不足する計算となり、この捻出が焦点だ。液化天然ガス(LNG)の奪い合いは価格高騰を招きかねず、世界的な協調やエネルギー政策の転換も求められる。」(日経:2022.3.3)。このため、EUはロシア2位のVTBパンクなど7行をSWIFTの対象とし、最大手のズベルパンクは遮断を見送り、エネルギー貿易の決済を担うガスプロムパンクも対象外とした。ロシアからのガス供給が止まれば欧州全域が餓死するか今年の秋以降には凍死する。ウクライナ東部ドンバスでは一区画・一棟を争う激しい戦闘が行われているにも関わらず、幸いなことに、ウクライナを通過するガスパイプラインからはガス供給が行われている。ガスプロムは、1日にウクライナ経由で1億万立方メートル以上をEUに提供していると述べている(Sputnik 2022.4.3)。非常に奇妙な制御された戦争であるが、こうした事実は日本のマスコミでは全く報じられない。

3 ガスの支払代金はルーブルで

プーチン氏は3月23日、非友好国に対する天然ガス供給の決済について、ドルやユーロを含む通貨による決済を拒否し、ルーブル建ての決済へ移行すると述べた(Sputnik 2022.3.23)。プーチン氏は、米欧の経済制裁がドルとユーロをロシアにとって無価値なものにし、準備通貨に対する信頼感は霧のように消え失せたとした。ガスプロムバンクは、ヨーロッパの銀行のコルレス口座(海外の銀行との間で口座を開設しあい、その口座を用いて資金を振り替えることによって決済を行う。)でユーロを受け取るか、ヨーロッパの子会社があれば、ヨーロッパの中央銀行、例えばドイツ連邦中央銀行の口座でユーロを受け取ることができるが、この場合、ロシア中央銀行のユーロのように、受け取るユーロは凍結され盗まれる可能性が大である。それを防ぐため、ガスプロムバンクのような、認可されたロシアの銀行に口座を開設するオプションを提供している。買い手はガスの支払いをこの口座に転送し、銀行はルーブルの交換で販売し、買い手のルーブル口座に入金し、資金をガス供給者であるガスプロムに転送する。この場合、EUはユーロを売って、ルーブルを手に入れなければならない。ユーロは下落し、ルーブルは高くなる。この支払方法をEU側が拒否した場合、ガス契約は無効にされる可能性がある。非友好国が「ルーブルで支払わない場合、我々はこれをガス契約のデフォルトと見なし、その場合、既存の契約は破棄される」とプーチン氏は発表している。これは、世界的なエネルギー代金決済の非ドル化である。これまでのドル基軸通貨体制が、「ペトロダラー」(中東の石油産出国からのドルの米国への還流)によって支えられていたとすれば、「ペトロルブレイ」又は「ガスルブレイ」化である。また、4月1日にはロシアとインドの外相会談において、インドとの貿易決済では同国通貨ルピーの利用を進める考えを示した。ドル離れは益々進むと見るべきである。

4 原油もロシア産抜きでは世界経済が成り立たない

世界の原油輸出5%:日量500万バレルを占めるロシア産原油の穴埋めを急いでいる。4月1日付の日経「米国は過去最大となる石油戦略備蓄の放出を決め、シエールオイ一ルの増産を急ぐ。経済制裁下のイラン産輸出拡大や南米各国での増産にも期待がかかるが、短期的に手当てできるのはロシアからの輸出の半分程度にとどまりそうだ。」と書いている。その記事の中に不思議な図が添付されている。「OPECプラスの増産」、「イランの輸出再開」、「ベネズエラの輸出再開」という説明である。しかし、同日付の日経は、3月31日のOPECプラス会合は「増産を実質的に据え置いた。ウクライナに侵攻し米欧と対立するロシアとの協調の枠組みを重視し、米欧が期待した大幅な追加増産を見送った」と書いている。既に産油国など資源国では非ドル化の流れが進行しつつある。ロシアのように、いつドル建てなどの外貨準備金が凍結され盗まれるかもしれないと疑心暗鬼に陥っている。極めつけは、ソレマイニ―イラン革命防衛隊司令官を暗殺したイラン原油や政権転覆を図ろうとして失敗したベネズエラの原油輸出に頼ろうとするというのである。この図を見るだけで米国のエネルギー制裁の破綻は明白である。さらに、原油の世界は複雑である。ディーゼルおよび暖房油は、長い炭化水素鎖からなる。米国で生産するシェールオイルなどより軽いタイプの原油にはこれらが欠けている。ロシアのウラル原油がなければ、アメリカはディーゼルと暖房油を作る効率的な方法がない。

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【投稿】制裁ブーメランの逆襲--経済危機論(80)

<<ドル決済体制崩壊への序曲>>
4/3、インドのトリビューン紙は、「インドが、ロシアとの貿易において西側の制裁を回避するために、専用の決済メカニズムの設立を計画していることが明らかになった。これにより、既存の貿易義務の支払いが可能になるとともに、インドの燃料価格が高騰する中、より安価な石油やガスの輸入に道を開くことになる。」と報じている。
インドを訪問したロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、

インドとロシア、ルピー・ルーブル貿易を模索(TribuneIndia Sunday, 3 April 2022)

4/1、ナレンドラ・モディ首相と会談し、モディ首相がラブロフ氏に、ウクライナの紛争における和平努力にいかなる形でも貢献するインドの用意があることを伝えたと同時に、ジャイシャンカール首相(S Jaishankar)との会談でインド・ロシア貿易・経済・科学・文化協力政府間委員会次回会合開催について議論したことを明らかにした。ジャイシャンカール氏は、インドは戦闘の終結を要求しているが、ロシアの攻撃を非難することは控えている立場について、「我々の会議は、パンデミックとは全く別に、困難な国際環境の中で行われる。インドは常に対話と外交によって相違や紛争を解決することに賛成してきた」と強調。ラブロフ氏は「我々は何も隠さず、一方的なやり方ではなく、事実の全体を調査した上で、インドの見解を評価している」と歓迎し、制裁を回避する決済メカニズムについて、「ますます多くの取引が各国通貨を使って行われ、ドルベースのシステムを回避するだろう」との見通しを明らかにした。
インドは石油需要の80%を輸入しており、ロシアからの輸入は通常2~3%程度であったが、原油価格が40%も上昇しているため、相対的に安くなったロシアの石油を積極的に利用。2/24にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、バイデン政権がインドを制裁で脅しているにもかかわらず、少なくとも1300万バレルの石油を購入している。2021年全体では、インドは1600万バレルの輸入にとどまっていることからすれば、大幅な増大である。石油の他に、インドはロシアとその同盟国であるベラルーシからより安い肥料を求めているという。

ロシアがインドに提案している決済システムは、SPFSとして知られるロシアのメッセージングシステムをルピー・ルーブル建ての支払いに利用するというもので、ロシアの中央銀行関係者がインドを訪問し、インド側の銀行システムの幹部と会合を持ち、詳細について話し合っていると、報じられている。この提案では、為替レートは固定か変動か、など未確定な要素もあるが、ルーブルはインドの銀行に預けられてルピーに変換され、同じシステムが逆にも機能するものである。インドは、すでにロシアの武器、肥料、石油を輸入するインドの必要性に基づいて、ルピーとルーブルの交換を行って来たとされており、これがロシア側でもインドから輸入される際の決済にも相互に利用、拡大されるわけである。ロシアはまた、制裁によって撤退したVisaとMastercardが業務を停止したのを受けて、インドとロシアの銀行が発行したカードをシームレスに使用するための、統一支払いインターフェースをインドの支払いシステムにリンクすることも提案している。
すでにインドは、イランの石油をルピーで購入するための同様の決済システムを以前にすでに構築しており、今回、インドとロシアのより大きな経済圏にそれが拡大することは、アメリカのドル支配体制に巨大な打撃となることは間違いがないであろう。
こうした動きに続いて、サウジアラビアが、中国への石油販売も、ドル決済を排除して、人民元で決済する可能性があることが明らかにされている。サウジアラビアの石油の25%以上が中国に輸出されており、これがドルではなく、人民元で決済されるとなると、サウジアラビアがドル以外の通貨で石油を販売するのは1974年以来初めてのこととなり、ドル支配を支えてきたペトロダラー体制崩壊の先駆けともなりかねない事態の急変である。

<<「制裁が効かない」(Sanctions Don’t Work.)>>
こうした事態の急変は、ロシアを緊張激化と軍事対決の罠に引きずり込み、緊張緩和と外交での解決を拒否する、米英EU側の性急なロシア制裁がもたらしたものである。制裁は、ロシア側に多大な困難を負わせ、ロシア経済は低迷せざるを得ないであろう。

ルーブルは持ち直した

罠にはまったプーチン政権の、大ロシア民族主義を振り回したウクライナへの軍事侵攻が、いつ泥沼から脱出できるかは、予断を許さないものである。

しかし、国際金融取引に使用される主要なメッセージングシステムであるSWIFTからロシアの銀行7行を排除する制裁は、逆に、ロシアのドルやユーロの使用をも対象にしていることから、ロシア側は、ヨーロッパに対してルーブルでのガス代支払いを要求す事態を生じさせることとなった。EU側にとっては、契約違反だと怒りはすれど、ドル決済システムからロシアを除外したのは米欧側であり、しかもロシアのガスへの依存度が高く、選択の余地がないのである。
さらにロシアは、石油・ガスにとどまらず、他国に輸出するものの決済に、もはや米ドルを受け入れないと決定している。
ルーブルでの支払いを義務付けることは、ルーブルの需要と為替レートを支えることになる。ロシアが実際に行っていることは、輸出業者にユーロとドルの80%をルーブルに割引で交換させており、これは膨大なルーブルの人工的な需要を生み出している。
2月24日にロシアがウクライナに侵攻したとき、1米ドル=84ルーブルの交換レートであったが、3月7日には、1米ドル=131.2ルーブルとなり、ルーブルは 36%の暴落であった。ところが現在、ルーブルは2月24日のスタート地点に戻っているのである。制裁が逆に、ルーブルの価値を高めることに寄与したわけである。「制裁が効かない」(Sanctions Don’t Work.)事態の到来である。
しかも問題なのは、制裁の急先鋒に立つアメリカが、他国にロシアの石油輸入の禁止を強制しながら、自らはその禁止されたロシアの石油の輸入を急増させていることである。米国エネルギー情報局(EIA)の新しいレポートによると、米国によるロシアの石油輸入量は、前週と比較して3月19日から25日に43%も増加している。そのデータによると、米国は1日あたり最大100,000バレルのロシア原油を輸入している。3月初旬、ロシアの石油の週次供給は2022年に最大値に達し、1日あたり148,000バレルにも達している。バイデン大統領が3月8日に大統領命令に署名して、ロシ

当ての外れたバイデン氏のツイート

アからのエネルギー輸入とロシアのエネルギー部門への新規投資を禁止したにもかかわらず、増大してい

るのである。やむをえず、米財務省は、4月22日までにロシアから同国への石油、石油製品、LNG、石炭の輸入取引の完了期限を設定せざるを得ない事態である。制裁の掛け声にもかかわらず、ロシアは米国への石油製品の総供給量の20%を提供しているのである。
3/27にバイデン大統領は、「私たちの前例のない制裁の結果、ルーブルは

制裁を加えているのはごく少数の国.(黄色)

ほとんど瓦礫と化した。ロシア経済は半分になる勢いである。この侵略の前には世界第11位の経済規模であったが、まもなく上位20位にも入らなくなるだろう。」とツイートしたのであるが、そのツイートから3日もしないうちに、ルーブルは損失をすべて取り戻しているのである。とんだ見込み違いである。

そして見込み違いの最たるものは、制裁に唱和し、実際に参加しているのは世界のごく少数の国々、地域に限定され、米欧諸国、オーストラリア、ニュージーランドそして日本、韓国にしかすぎないことである。ここに、「制裁が効かない」、逆に制裁のブーメランが制裁側に逆襲し、政治的経済的危機を深化させているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】核戦争への危険なステップ--経済危機論(79)

<<バイデン氏、「先制核攻撃も視野に」>>
3/25付けウォールストリート・ジャーナル紙の報道によると、バイデン米大統領の「同盟国からの圧力で今週初めに下された新しい決定は、米国の核兵器の『基本的な役割』は核攻撃を抑止することであるというもので、大統領選の公約の姿勢からは微妙だが大きな転換である」と報じている。大統領選では、米国は核の脅

WSJ : 大統領は、選挙公約から一歩後退した

威を抑止するためにのみ核兵器を使用すべきであると公約していたものが、その公約を放棄して、代わりに通常兵器、化学兵器、生物兵器、サイバー関連攻撃を含む非核戦争に対

2022年3月23日、ワシントンDCで、核兵器発射コードが入った「核のフットボール」と呼ばれるものが入ったブリーフケースを持ち、マリーンワンに向かって歩く米軍補佐官

応して核兵器の使用を認める、先制核攻撃も視野に入れるというものである。
バイデン氏の、この米国の核態勢に関する決断は、まだ公には発表されているものではない。しかし、政権として決定したものであれば、ロシア・プーチン政権の核兵器の使用をも含めた「特別な戦闘態勢」に対応してエスカレートさせる、きわめて危険なステップに踏み出したものと言えよう。
ロシアのメドベージェフ前大統領が「核のビッグバンまで、あと数ステップ」として警告していた、そのワンステップが表面化したのである。
核兵器の先制使用について、米ロ双方ともにあいまいさを意図的に維持しており、「戦術」核の使用まで論議され出している危険な情勢は、一気に熱核戦争に発展しかねない事態への進展である。

さらに3/26、バイデン氏が訪問先のポーランド・ワルシャワでの演説で、ロシアのプーチン大統領について「この男を権力の座に残しておいてはいけない」「人殺しの独裁者」「プーチンに未来はない」と発言。この発言後、ホワイトハウスは急遽、声明を発表し、「バイデン氏は、プーチン氏の権力や体制転換について話したものではない」と軌道修正し、釈明をしている。しかし、この発言は、クレムリンの政権交代を示唆し、プーチン打倒を公然と呼びかけたようなものであり、バイデン氏がハナから、プーチン氏との外交交渉や緊張緩和策を折衝する姿勢を放棄して、挑発オンリーの姿勢を明確にしたことを公然と表明したものである。このようなバイデン氏の政治姿勢は、情勢をさらに悪化させる危険なステップに踏み出したものと言えよう。

ヤニス・バルファキス氏「プーチンに実行可能な撤退戦略を」

3/26に放映された「デモクラシー・ナウ!」のインタビューで、元ギリシャ財務大臣のヤニス・バルファキス氏は、このバイデン氏の発言について、「その狙いはいったい何なのか?」と問い、「政権交代でないとしたら、これは火遊び、核の火遊びのようなものだ、と言うべきだろう。」と述べ、むしろ必要なのは、プーチン氏に実行可能な撤退戦略を与えることだと強調している。その理由は、「プーチン氏が卑劣な戦争犯罪人ではないからではなく、ウクライナの無実の市民の大量殺戮を終わらせる最も早い方法になるだろうからである。」、「妥協の余地を与えない」のであれば、「ウクライナ人の利益を事実上危険にさらし、ウクライナ人の利益にはならないからだ」と述べている。まさにバイデン氏には、このような姿勢が完全に欠落しているのである。

<<「我々は戦争と核兵器を拒否する」>>
同じ3/26、ダライ・ラマをはじめ、核戦争防止国際医師会議、核兵器廃絶のための国際キャンペーン、科学と世界情勢に関するパグウォッシュ会議などノーベル平和賞を受賞した個人・団体が、「核兵器の終焉か、我々の終焉か」と題して、「ウクライナへの攻撃を直ちに停止し、ロシアとNATOの双方が、この紛争やその他のいかなる紛争にも核兵器を使用しないことを明確に誓うように求める」公開書簡を共同発表している。
書簡は、以下のように述べている。

「我々は戦争と核兵器を拒否する」

・ 私たちは戦争と核兵器を拒否します。私たちは戦争と核兵器を拒否します。私たち全員の家である地球を、それを破壊しようとする者たちから守るために、世界中のすべての市民が私たちと共に行動するよう呼びかけます。

・ ウクライナへの侵攻は、その国民に人道的惨事を引き起こした。全世界は、我々の文明を破壊し、地球全体に甚大な生態学的被害をもたらすことのできる大規模な核戦争という、歴史上最大の脅威に直面しているのである。

・ 私たちは、即時停戦とウクライナからの全ロシア軍の撤退、そしてこの究極の災害を防ぐためのあらゆる対話の努力を要求する。

・ 私たちは、ロシアとNATOに対し、この紛争におけるいかなる核兵器の使用も明確に放棄するよう求めます。そして、私たちが二度と同じような核の危険に直面することがないよう、すべての国に対し、核兵器禁止条約を支持するよう求めます。

・ 今こそ、核兵器を禁止し、廃絶する時である。それが、この地球上の住民がこの実存的脅威から安全であることを保証する唯一の方法です。

・ 核兵器が廃絶されるか、私たちが廃絶されるかのどちらかです。

・ 私たちは、押しつけと脅しによる統治を拒否し、対話と共存、そして正義を提唱します。

・ 核兵器のない世界は必要かつ可能であり、私たちは共にそれを築き上げる。私たちは、平和にチャンスを与えることが急務である。

———————————-

ノーベル平和賞受賞者の署名者一覧です。

ダライ・ラマ(1989年)
核戦争防止国際医師会議(1985年)
核兵器廃絶のための国際キャンペーン(2017年)
ファン・マヌエル・サントス(2016年)
カイラシュ・サティヤルティ(2014年)
レイマ・ボウイー(2011年)
タワックル・カルマン(2011年)
ムハマド・ユヌス(2006年)
デビッド・トリンブル(1998年)
ジョディ・ウィリアムズ(1997年)
ホセ・ラモス=ホルタ(1996年)
科学と世界情勢に関するパグウォッシュ会議(1995年)
オスカル・アリアス・サンチェス(1987年)
レフ・ワレサ (1983年)
アメリカン・フレンズ奉仕委員会(1947年)
国際平和ビューロー(1910年)

この書簡の全文と主な署名者のリストは、Avaazのホームページで公開されており、緊急に100万人の署名を呼びかけている。誰でも賛同することができ、署名することができる。
Avaazは、ヨーロッパ、中東、アジアのさまざまな言語で「声」を意味しており、「我々は戦争と核兵器を拒否する」として、2007年に発足、「あらゆる国の市民を組織し、今ある世界と世界中の多くの人々が望む世界とのギャップを縮める」ことを使命に掲げている。

まさに、世界は危険な政治的経済的危機、さらには人類的危機の真っ只中に遭遇しており、核戦争への危険なステップに抗議し、「戦争と核兵器を拒否する」巨大な運動が要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】核の「ディストピア」の警告--経済危機論(78)

<<「核のビッグバンまで、あと数ステップ」>>
3/23、ロシアの前大統領で、現在、ロシアの安全保障理事会副議長を務めるドミトリー・メドベージェフ氏が、ロシアのソーシャルメディアサイト「VK.com」への投稿で、核の「ディストピア」を警告した。
プーチン大統領の最高顧問の一人であるチュバイス氏(Anatoly Chubais)がロシア気候変動特使を辞任するなど、ウクライナ危機をめぐってプーチン氏側近の去就が注目されるが、メドベージェフ氏は、2008年から2012年まで大統領を務め、長年、プーチン大統領の側近を務め、盟友でもある。
 そのメドベージェフ氏が、第二次世界大戦の終結以来、米国は「常に無意味な戦争を行い」、結果を考慮することなく破壊を残してきたと述べた後、米国がイラクやアフガニスタンなど他国と同じようにロシアを不安定にすれば、クレムリンはロシアの破壊を決して許さないが、もし破壊的な目的を達成したならば、最大数の核兵器が米国と欧州の目標に向けられ、世界は「大きな核爆発」で終わるディストピ

ア的な危機に直面する可能性、「核のディストピア」につながると警告しているのである。

しかも、「最悪の世界危機、エネルギーと食糧の崩壊、すべての集団安全保障システムの破

綻、そして近い将来、新たな普遍的特異点である冥界への道を開く核のビッグバンまで、あと数ステップしか残されていない。」と述べている。
メドベージェフ氏は、「ロシアがこれを決して許さないことは言うまでもない。それは、今日、誰の目にも明らかです。さらに、我が国の終焉を望むアメリカのエスタブリッシュメントとは異なり、ロシアはアメリカが強く賢い国であり、ゆっくりと老衰に陥っている人々の最後の避難所ではないことを望んでいます。」と、結んでいる。

この警告は、単なる思い付きや、あるいはその場限りの冗談として済ませられるものではないであろう。プーチン大統領自身が、すでに4年前、極超音速ミサイルをはじめとするロシアの新型核兵器を発表した直後に、この問題を取り上げ、インタビューに対して、「確かに、それは人類にとって世界的な災難であり、全世界にとっての災難だ。ロシア国民として、またロシアの国家元首として、私は自問自答しなければならない。なぜ、ロシアのいない世界を望むのか、と。悲惨な結果になろうとも、ロシアはその存在自体が危うくなれば、あらゆる手段を使って自国を守ることを余儀なくされるだろう」と述べているのである。
まともな、冷静な外交関係があればまだしも、バイデン米大統領は、プーチン氏を今や「戦争犯罪者」と決め付けた後、「チンピラ」「独裁者」とまで呼んでいる。ロシア側は、「許しがたい」侮辱だと返している。孤立するプーチン氏、自らが招いた政治的経済的危機の中で支持率がどんどん落ち込むバイデン氏、両者ともに余裕がない状態である。

米国は、ロシアが現にウクライナで行っている戦争犯罪を何倍も超えた規模で戦争犯罪を犯し、イラク、シリア、アフガン、イエメン、パレスチナ、南スーダン等々、アメリカ自身が直接・間接、戦争犯罪に関与・加担し、今現在も続行させている現実が不問に付されてはならないものである。それを全く棚に上げて、頭から外交交渉と平和解決を投げ捨てるような悪罵を投げつける、火に油を注ぐように兵器をどんどん大量に送り込む、これでは意図的に危険極まりない世界大戦と核戦争への道に世界を引きずり込むものである。
不測の事態、単に誤警報が発生しただけでも、当事者間の確認すらなく、自動的に核ミサイルが発射される事態さえ予測される危険な情勢の到来である。

<<包括的な和平交渉こそが必要>>
3/22、アメリカの独立系ニュースサイト「デモクラシー・ナウ」の番組で、ウクライナ平和運動の事務局長であるユーリイ・シェリアジェンコ氏(YURII SHELIAZHENKO)は、「私たちに必要なのは、より多くの武器、より多くの制裁、ロシアと中国に対するより多くの憎悪との紛争の拡大ではありません」と強調し、必要なのは、「包括的な和平交渉です」と断言している。
 シェリアジェンコ氏は、良心的兵役拒否のためのヨーロッパ事務局の理事でもあり、ワールド・ビヨンド・ウォー(World BEYOND War)の理事、ウクライナのキエフにあるKROK大学の研究員でもある。氏は、番組の中で次のように訴えている。
・「私たちに必要なのは、より多くの武器、より多くの制裁、ロシアと中国に対するより多くの憎悪と紛争の拡大ではありません」「包括的な和平交渉が必要なのです。」
・「西側でのウクライナの支援が主に軍事支援であり、ロシアに痛みを伴う経済制裁を課していることは残念です。戦争に対する非暴力的な抵抗をほとんど無視しています。」「たとえば、ベルジャンシク市とクリキフカ村では、人々は平和集会を組織し、ロシア軍に脱出するよう説得しています。」
・「ウクライナの平和運動は、ウクライナの、ゼレンスキー政権の軍事的対応を非難し、この交渉の停滞は、軍事的解決の追求の結果であると私たちは見ています。」
・「人々は戦う代わりに、交渉するために政府にプッシュするべきなのです。」「平和運動は、無謀な軍事化が戦争につながることを何年にもわたって警告してきました。私たちは正しかった。私たちは、平和的な紛争解決や侵略に対する非暴力的な抵抗のために多くの人々を準備しました。それは今助けになり、平和的な解決策への希望を与えています。」
・「即時停戦を実行してください。警告灯が点滅しています。第三次世界大戦はレッドゾーンに入りました。」

 シェリアジェンコ氏はまた、ヨーロッパで、Europe for Peaceキャンペーンが開始され、4月28日に世界的な動員「ロッキードマーティンを止めろ」が提起され、イタリアでは、Movimento Nonviolentoが良心的兵役拒否者、兵役逃亡者、ロシアおよびウクライナの脱走兵と連帯して良心的兵役拒否キャンペーンを開始していることなどを紹介している。
そして実際に、ローマとピサでは、ウクライナへの武器出荷に反対する抗議行動”トスカーナから戦争ではなく平和の橋を””イタリアよ、NATOと戦争から手を引け””No War, No NATO “などのスローガンを叫び、数千人のイタリアの人々が、NATOの政策に反対するプラカードを持ちながら、NATO からの脱退を要求す

ウクライナ向け武器・弾薬の積み込みを拒否の連帯行動

るデモ隊が首都ローマを行進している。
またイタリアのピサのガリレオ・ガリレイ空港では、ウクライナ向けの武器・弾薬の積み込みを拒否した港湾労働者の行動が共感を呼び、連帯行動が広がっている。

第三次世界大戦・核戦争の危機に対する平和の闘いが、危機的情勢を転換させるカギを握っている。
(生駒 敬)

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【投稿】現代版「大政翼賛会」と化す、ウクライナ・ゼレンスキー氏の国会演説許可

【投稿】現代版「大政翼賛会」と化す、ウクライナ・ゼレンスキー氏の国会演説許可

福井 杉本達也

1 ウクライナ侵攻:米英に煽られて日本は大政翼賛会化―ゼレンスキー氏の国会演説

3月23日、国会において、ウクライナのゼレンスキー大統領がリモート演説し、与野党の国会議員が500名が参加した。紛争当事国の一方の演説に国会議員が拍手を送るというのは全く異様である。その様子をテレビ各局は生中継し、夕方のテレビはゼレンスキー氏の演説一色に染められた。演説後、山東参院議長は、「貴国の人々が生命をかえりみず祖国のために戦う姿を拝見し、感動しております」との挨拶には、第二次大戦末期の「特攻隊」を思い出させ、空恐ろしいものを感ずる。

岸田首相は「我が国としてもロシアに対するさらなる制裁、1億ドルの人道支援に加え、追加の人道支援も考えていきたい」と語った。また立憲民主党の泉代表は「日本としてどう受け止めるか、政府、国会で議論した。そういう中で実現にたどり着いたということは意義が大きかった」と語った。維新の馬場共同代表は「戦争中という状況の中で、落ち着きを持ってメッセージを発せられていた」と述べた。与党・公明党の山口代表は「子どもが121人犠牲になっているという数字を挙げて訴えたこと、チェルノブイリ原発事故で放射能汚染された資材が埋め立てられていたのに、戦車などで空中に放出されているとの訴えが印象的だった」と語った。国民民主党の玉木代表は「すでに金融制裁をしているが、貿易における何らかの制限、対応も必要になってくるかもしれない。」と語った。共産党の志位委員長は「ロシアによる侵略と戦争犯罪に対する深い憤りとともに、祖国の独立を守り抜くという強い決意が伝わってくる演説だった」。国連の民主的な改革の必要性を指摘し、ロシアが核兵器の使用の可能性についても言及している点について触れ、「生物化学兵器も核兵器の使用も断じて許さないという声を上げていくことが重要だ」とさらに踏み込んだ。社民党の福島党首は「難民の人たちへの支援など、日本がやれる限りのことはやっていくべきだ」と語った(朝日:2022.3.23)。れいわ新選組も今回3名の国会議員が参加したが、「国際紛争を解決する手段として武力の行使と威嚇を永久に放棄した日本の行うべきは、ロシアとウクライナどちらの側にも立たず、あくまで中立の立場から今回の戦争の即時停戦を呼びかけ和平交渉のテーブルを提供することである。国際社会の多くの国家がその努力を行わない限り、戦争は終結しない。」との談話を出した。続けて「今回、ゼレンスキー大統領のオンライン演説を本会議場では行わなかった。出席も任意であり、全議員の出席は前提としない形式であった。「本会議場を使用しない」という決定には、重い政治的意味合いがある。これまでの先例から見て、本会議場で外国首脳が演説を行う場合、それはその外国首脳が国賓として招かれた場合に限られている。もしゼレンスキー氏の演説を本会議場で行うなら、それは日本がゼレンスキー氏に国賓同等のステータスを与えることを意味する。これから停戦交渉を進めていかなければならない状況で、紛争当事国一方の首脳だけを国賓として迎えることの影響を考慮しなければならない。国賓として演説の機会を与えた場合には、招いた側の日本の議会として、演説内容への応答も求められることになる。」と談話で述べている(2022.3.23)。完璧な大政翼賛会とはならなかったことが日本の民主主義にとってせめてもの救いである。

一方、維新の鈴木宗男議員はブログに、ロシア外務省が「日本政府の決定に対する対抗措置」について発表したことについて、「経済制裁、個人制裁を日本がアメリカ主導の制裁に付き合っての結果であり、先に制裁した以上、いずれブーメランとなって返って来ることは予想していた」と記した。また、「紛争でどちらが良くて片方が悪いという論理は成り立たない。相方、自国の名誉と尊厳、そして自国の国民を守り抜く責任がある。一にも二にも話し合いが必要であり、仲裁に入る国が求められる。」(2022.3.22)との正論を述べている。

軍事社会学者の北村淳氏は「アメリカにとって幸いなことに、今回のロシアによるウクライナ侵攻後、日本政府、日本の主要メディア、そして多くの日本国民が、アメリカおよびウクライナ側が発信する戦争関連情報に何ら疑問を呈さず、素直に信じ切り、ウクライナを支持している。その姿を見てアメリカ当局者、少なくとも台湾有事の際に中国と対決する準備を固めている人々は胸をなでおろしている。なぜならば、『複雑な戦争』という事象をいたって単純にしか理解できないほどに平和ボケしてしまった日本を、台湾をめぐる米中戦争に参戦させるのはさして困難ではないことが明らかになったからである。」(JB press 2022,3.24)と皮肉った。これは、ウクライナという日本人にとってどこにある国かも分からない国家の出来事であるからであり、これが朝鮮半島・台湾という身近な存在となれば、さらなる体制翼賛会化は避けられないかもしれない。

 

2 アフガンでは協力者を見捨て、ウクライナの難民は受け入れるという露骨な人種差別

時事通信社は「ロシアの侵攻から逃れたウクライナ避難民を支援するため、岸田文雄首相が古川禎久法相を近くポーランドに派遣する方向で検討しているこ政府は松野博一官房長官や古川氏ら関係閣僚で構成する「ウクライナ避難民対策連絡調整会議」を設け、避難民の支援策を検討している。」(時事:2022.3.23)と報道した。「日本政府のこうした措置に対し、難民支援を手がけるNGOは、日本は2019年に難民申請をした人のわずか0.4%しか認定しなかったとして、これは『下手なパフォーマンス』であるとして、政府を非難している。たとえば日本は、1981年から2020年の40年間に、3,550人難民認定あるいは人道配慮の在留特別許可を与えているが、この数は、フランスが2021年の24日間で与えたのと同数となっている。」(Sputnik:2022.3.23)とされ、「他の難民のことも考えなければならなくなるとまずい」という外務省の身勝手な論理による。

昨年8月のアフガンではカブール陥落直前、15日に日本大使館を閉鎖し、17日には大使館員全員がアラブ首長国連邦のドバイに真っ先に逃亡してしまった。しかも、現地スタッフ・協力者などを残してである。協力者を他の国は同胞として責任を持って扱っている。日本だけが見放した。その後、アフガン人を難民として認定したのは570人である。卑屈なまでのアジア無視、欧米崇拝である。これでは完全にアジアから孤立する。Sputnikによれば、ウクライナから避難したアジアとアフリカ諸国の市民は、EU諸国の国境 で拘束され、EU法に反する差別を受けているとIndependent新聞が報じている(Sputnik  2022.3.24)。いかに欧米の価値観で見ているかである。

 

3 ゼレンスキー氏、日本が「アジアで初めてロシアに圧力」と皮肉?

ゼレンスキー氏は「アジアで初めてロシアに圧力をかけ始めたのが日本だ」と日本を持ち上げたが、これは“贔屓の引き倒し”である。日本以外のアジア諸国は経済制裁に賛同していないことを意味する。ウクライナ侵攻で原油が高騰しているが、世界最大の原油生産国であるサウジとアラブ首長国連邦は米英の原油増産要求を拒否した(日経=FT:2022.3.24)。岸田首相は就任後の初外遊でインドを選び、「インドがロシアと従来通りの関係を維持すれば、制裁の効果が薄れる」としてインドに制裁に加わるよう説得したが、けんもほろろに断られた(日経:2022.3.20)。最近もインドはロシア産原油を輸入している。また、同時にASEAN議長国のカンボジアも訪問したが、ロシア非難の確約は得られなかった。

アフリカでもの南アフリカのラマポーザ大統領は、「ウクライナにおける戦争について北大西洋条約機構(NATO)を非難し、ロシア非難の呼び掛けに抵抗すると表明した」(ロイター:2022.3.18)。ウガンダ大統領はウクライナを巡る「日米欧とロシアなどの 対立についてアフリカは距離置く」とし、「欧州が歴史的にアフリカを搾取したことや、北大西洋条約機構(NATO)が11年に実施したリピア空爆でカダフィ政権が崩壊したことが地域へのテロ拡散につながったなどと主張。ウクライナへの肩入れは『二重基準』『欧米の浅薄さ』などと批判した」(日経:2022.3.18)。欧米の価値観に基づき、言われるがままに行動する日本の外交は「浅薄」以外の何ものでもない。少し頭を巡らせ、世界地図を広げてみれば、孤立しているのは欧米であり日本であることが分かる。

 

4 日本政府にとって都合の悪い「原発攻撃」に触れる

ゼレンスキー氏は、「核物質の処理場を口シアが戦場に変えた」、「ウクライナの原発、原子炉がすべて非常に危険な状況にある」と演説したが、日経はこれを「東京電力福島第一原発事故を経験したのを踏まえたとみられる」と避けるように解説した(2022.3.24)。チェルノブイリ原発では、爆発した4号機を覆うコンクリート構造物の「石棺」やそれをさらに外側から覆う巨大なシェルターも設置されるなど、放射性物質の飛散を防ぐための対策も講じられている。しかし、福島第一では事故を起こした4基の原発のうち覆いが完成したのは3基のみであり、2号機は裸のままであり、度重なる地震に襲われ、建物も崩壊直前であり、放射能汚染水はたれ流し状態で海洋放出も検討、住民も年間放射線量20mSv以下では居住を強制されるなど、放置し続けた日本政府にとっては非常に耳の痛い内容である。「原発大国で陸上戦が起きた初めての例だ。今後、国際的にも安全保障のあり方はガラッと変わるのではないかと思う。原発が小規模なものでも陸上戦に巻き込まれる壊滅的な状況。電源喪失だけを引き起こす小規模なダメージで引き起こされる原発事故の当事者である日本は、本来なら、その対策を一番先に考え実現しなければならない立場にあるが、3・11の教訓を最も生かしていないのが日本だ。」と東京外大の伊勢崎賢治氏は警告する(長周新聞:2022.3.17)。原発を54基も海岸沿いに配置し、再処理工場を抱え、高レベル放射能たっぷりの中間貯蔵施設を設けていて、高市早苗氏のように、適基地攻撃力や自衛隊による原発防護でもあるまい。「国防を真剣に考えるなら、戦争ができる国や国土ではないことを自覚したうえですべての選択をしなければならない。ミサイルを向け合い、胸ぐらをつかみ合うような乱暴な関係ではなく、体制の違いや見解の相違をこえて、すべての国と平和的な関係を築いていくほかないのが現実だろう。それは「お花畑」などといって茶化される話ではなく、日本社会の将来を決定づける超現実的な選択なのである」(長周新聞コラム:2022.3.22)。ゼレンスキー氏の演説を聞いた500人の国会議員は何を考えていたのか。我が国の原発とは全く関係のない遠い欧州の“他人事”と捉えていたのか。平和ボケも甚だしい。

 

 

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【投稿】ウクライナ:危機解決の展望と泥沼化--経済危機論(77)

<<前向きな可能性と危険な展開>>
3/13、日曜日、ベルリン、ロンドン、ワルシャワ、マドリードなど、ヨーロッパ各地で何万人もの人々が街頭に出て反戦デモに参加、第三次世界大戦にも発展しかねないウクライナ危機の進行に対して、“Stop the War” 「戦争を止めろ」の大きな力強い声が発せられた。

“Stop the War” ヨーロッパ各地で大規模な反戦デモ(ベルリン)

同じ3/13、ロシアとウクライナの当局者

モスクワの赤の広場のすぐそばで抗議している人たちも、すぐに拘束される

双方が、ウクライナ危機に関する協議の進展について、これまでで最も明るい評価を示し、数日以内に前向きな結果が出る可能性があることを示唆した。
ウクライナのゼレンスキー大統領の顧問であるミハイロ・ポドリャク

(Mykhailo Podolyak)氏が、ロシアが「建設的な話し合いを始めている」と述べ、「我々はいかなる立場でも原則的に譲歩しない。ロシアはこのことを理解している。ロシアはすでに建設的な話し合いを始めている」、「文字通り数日のうちに何らかの結果を出すだろう」、と述べたのである。
一方、ウクライナとの交渉に参加するロシア代表のレオニード・スルツキー(Leonid Slutsky)氏も、「私の個人的な予想では、この進展は今後数日のうちに両代表団の共同見解や調印文書に発展するだろう」と記者団に語っている。

危機解決への前向きな可能性が開かれ、わずかでも希望の光が見え隠れしている、とも言えよう。

だが同じ3/13、ロシア側が、NATO加盟国ポーランドの国境からわずか22マイルのところにあるウクライナの軍事施設を爆撃、少なくとも35人が死亡、数十人が負傷している。「ロシアはリヴィウ近くの国際平和維持・安全保障センターを攻撃した」と、ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相はツイッターに書き込んでいる
ロシア国防省は同日、ミサイル攻撃を行ったことを認め、最大180人の「外国人傭兵」を殺害し、「大量の」武器を破壊したと主張している。この攻撃は、前日3/12、モスクワがウクライナに流入する西側の武器輸送を「正当な目標」とみなすと述べ、ウクライナへの武器輸送隊を “合法的な標的 “と宣言した翌日の攻撃となったわけである。この「国際平和維持・安全保障センター」なるものは、米軍がウクライナ軍に対戦車ミサイルなどの兵器を配備する訓練や、NATOの軍事訓練用施設として使用され、「NATOの同盟国からウクライナに武器を運ぶパイプラインの重要なリンク」と評価されてきたものである。3/12のモスクワのこの警告を無視、挑発するかのように、バイデン米大統領はウクライナにさらに2億ドルの武器と装備を提供することを承認、発表している。これによって大幅に拡大・迅速化される米・NATOの武器輸送、諜報・攪乱支援の増強は、さらに危険な事態を招き、和平協議の進展どころか、和平協議そのものを妨害し、挫折させ、NATO・米軍の直接軍事介入の事態に進展しかねない危険な展開と言えよう。
 米ミネソタ州選出・民主党のイルハン・オマール議員は、このような武器の洪水がさらに極右のアゾフ大隊などネオナチ勢力、「説明責任のない準軍組織」にわたる「予測不可能で、悲惨な可能性が高い」と警告している。

<<ロシア制裁の現実とブーメラン>>
米、英、EU加盟国など、そして日本も追随したロシアへの制裁は、過去に例のないほど厳しいものであることは間違いない。米国財務省は、ここ数日で15の制裁プログラムを発表しており、さらに多くの制裁プログラムが進行中である。これらの制裁の対象は、ロシアの銀行、ロシアの株式や債券、さまざまな決済手段など広範多岐に及んでいる。最も重要なのは、米国がロシア中央銀行の口座を凍結したことであろう。これは史上初めてであり、主要な中央銀行の資産が凍結されたことになる。
さらに、公式な制裁にとどまらない。マイクロソフト、エクソンモービル、シェル、大手航空会社など数多くの民間企業がロシアでの事業活動を停止、VisaとMastercardはロシアからのクレジットカード請求の受け付けまで停止している。GoogleとAppleは、ロシア庶民の携帯電話のモバイル決済アプリまでをオフにしている。公的、私的な禁輸、ボイコットのリストは延々と続いており、ロシアへの経済的影響は極めて大きいと言えよう。
3/13、アントン・シルアノフ財務相は、テレビ局「ロシア1」とのインタビューで、ロシア銀行の金と外貨準備の半分が制裁により凍結されていることを明らかにした。「これは我々が持っていた準備金の約半分です。我々は約6,400億ドルの準備金の総額を持っているが、そのうち約3000億ドルの埋蔵量を使うことができない」のですと述べている。債務支払いはどうするのか、シルアノフ氏は、「ロシアに非友好的で外貨準備の使用に制限を加えている国々に支払わなければならない債務は、これらの国々にルーブル建てで支払うことになる」と強調している。暴落したルーブルを受け取る相手はいないであろう。当然、これらのローンや債券はすぐにデフォルトに陥る可能性がある。
しかしものごとは単純ではない。これらのローンや債券の多くは、米欧金融資本のもろもろのファンドやETF(上場投資信託)に組み込まれ、広範かつ多岐に及んでいる。一挙にリスクを解消しようとすれば、世界的な流動性危機を招きかねず、欧米側の債務不履行につながり、金融パニックが発生する可能性さえある。ロシアは資本規制を行ったので、ロシアの借り手は債権者にドルやユーロで支払うことができない。徐々に長期的にしか対処できないであろう。そのように追い込んだのは米欧側である。回収する手段を自ら放棄したために、同じ制裁がブーメランのように、不安定なアメリカ経済やEU経済に打撃を与える可能性が大なのである。さらにロシア側には制裁を回避して、SWIFT(国際銀行間金融通信協会)以外の世界のもろもろの金融システムへのアクセスを得ることができる手段、あるいは抜け道がある。それらを通じて、ロシアが保有する豊富な石油や天然ガスに対してドルの支払いを受ける可能性が大なのである。テレックスやSWIFT以外のインターネットチャネルなどで取引することも依然として可能である。
シルアノフ氏はさらに、ロシアの外貨準備の一部は中国通貨建てであることも明らかにし、「もちろん、人民元建てで保有する外貨準備高へのアクセスを制限しようとする圧力はある。しかし、中国とのパートナーシップによって、これまでの協力関係を維持し、欧米市場が閉鎖された状況でも、それを維持するだけでなく、拡大させることができると思う」とも述べている。
そしてより重要なブーメランは、ロシア側は制裁への報復措置として、2022年末までに特定の製品や原材料の国外への輸出禁止を確立することを目指していると報じられていることである。ロシアは石油や天然ガス以外にも、相当量の食用作物やアルミニウム、チタン、パラジウム、プラチナ、ニッケル、コバルト、銅など工業生産に不可欠な貴金属を輸出しており、これらが調達できなければ、完成品生産ができないのである。とりわけ窒素、リン酸から作られる肥料輸出に選択的制限がかけられれば、米国、欧州の農場を含め、世界的な影響を及ぼすことは必至である。すでにこうしたブーメランは発生しており、肥料価格は高騰し、その影響は、穀物だけにとどまらず、肉、鶏肉、卵、乳製品の高騰につながっている。
要するに、ロシア経済は制裁にもかかわらず、高コスト、高リスク、低流動性ではあるが、欧米の制裁に耐え、反撃することが可能なのである。問題は、こうした制裁がロシアの国民全体ばかりか、被害が制裁を課している米欧をも含めて全世界に波及することである。その危機の波及は始まったばかりであり、被害は計り知れない。
今やインフレは、押さえられるどころか、ど

インフレは「プーチンのせい」か、とんでもない!

こまで悪化するか予測しがたい事態を招き、米中銀・FRBはインフレ抑制のためとしていた金利引き上げさえ設定できない事態に追い込まれている。この2月の米消費者物価上昇率は過去40年以上で最も高い水準、7.9%ににまで上昇している。もちろん、実質賃金はさらに低下している。バイデン大統領は3/11の民主党活動家向けの演説で、高いインフレ率は “我々がしたこと”のせいではないとさえ主張し、”Putin’s Fault”・”プーチンのせい”だと責任転嫁する姿勢を明らかにしたが、最大の上昇となった石油製品の禁輸・制裁措置は3月になってからのことである。

ことここまでに事態を悪化させた最大の責任は、どこにあるのであろうか。まずは、ロシア包囲の軍事同盟NATOをどんどん拡大させ、緊張激化の軍事演習を常態化させ、対ロシアの大量破壊兵器をロシア国境沿いにどんどん布陣、ロシア側の緩和要求をことごとく拒否してきた米欧側にあることは明らかである。緊張激化で潤う軍需産業と石油独占資本と金融資本、ネオコン勢力に後押しされた米バイデン政権と英ジョンソン政権が、支持率がどんどん低下する自分たちの政治的経済的危機を、対中国、対ロシア緊張激化で煽り、まったく不必要な戦争の罠にロシアを追い込み、ロシアをウクライナ危機の泥沼化・長期化に引きずり込んだ結果が現在の事態だと言えよう。しかし、その悪意あるワナは、今や全世界に暴かれ出している。制裁が自らに跳ね返ってきているのである。
そのワナにやすやすとはまり込んでしまった、ウクライナのロシアへの併合などというプーチン氏の大ロシア民族主義の政治的失墜と孤立化、破綻は当然と言えよう。一刻も早く、プーチン政権は、停戦交渉を成功させ、軍を撤退させない限り、再浮上は不可能であろう。
(生駒 敬)

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【投稿】ウクライナ危機:泥沼への危険な展開--経済危機論(76)

<<要求に応じれば攻撃は「一瞬で」終わる>>
3/7、ウクライナへのロシア軍の侵攻をめぐってベラルーシのブレストで行われたロシア・ウクライナ和平協議の第3回会合が開かれたが、ウクライナは即時停戦と全ロシア軍の撤退を要求し、ロシアは拒否して平行線であった。しかし、このベラルーシでの外交交渉に加え、3/10木曜日にトルコで、ロシアと

2022/3/7、ベラルーシのブレストで行われたロシア・ウクライナ和平協議の第3回会合

ウクライナの外相が直接会談することが明らかにされた。先月末にロシアの侵攻が始まって以来、両国間の最高レベルの会談となる予定である。
この同じ3/7、クレムリンのドミトリー・ペスコフ報道官は、

ロイター通信に対して、ロシア側の三つの要求:1.ウクライナはいかなる軍事ブロックへの加盟も拒否する、そのような憲法改正を行う。2.クリミアがロシア領であることを認める。3.ドネツクとルガンスクは独立国家であることを認める。を明示した。

同報道官は、ウクライナがこうした要求に応じれば、攻撃は「一瞬で」終わると述べ、同時に、ロシアは「ウクライナの領土を奪ったり、同国の国家指導者を追放しようとしているわけではない」と否定した、と報道されている。この報道通りであれば、プーチン大統領が2/21の演説で侵攻理由とした、ウクライナは1917年のロシア革命とレーニンによってロシアから不当に切り離されたロシアの領土であるとの主張は破綻し、明らかに後退しているのである。
そして同じ3/7、ウクライナのゼレンスキー大統領は、ABCワールドニューストゥナイトの独占インタビューに応じ、「これは別の最後通告であり、最後通告の準備はできていません。しかし、これら3つの項目、つまり重要な項目については、可能な解決策があります。」「やらなければならないことは、プーチン大統領が酸素のない情報バブルに住むのではなく、話し始めて対話を始めることです。」と述べ、プーチン氏に何を言いたいかと尋ねられて、ゼレンスキー氏は「彼が否定できない重要なことは、戦争を止めることが彼の能力であるということです。」と答えている。

プーチンに何を言いたいかと尋ねられたとき、ゼレンスキー:「彼が否定できない重要なことは、戦争を止めることが彼の能力であるということです。」

3/10の会談がどうなるか、予断を許さないが、かすかではあっても希望の余地はあると言えよう。すでに3/6現在、戦火を逃れる避難民は175万人にも達しており、ウクライナ4200万人の人口の10%、400万人以上の避難民が予測されている。ウクライナ国内の原発を巡る攻防は、危険極まりない事態を日に日に高めている。和平交渉が停滞したり、とん挫すれば、たんにプーチン体制が泥沼にはまり込み、政治的失脚を余儀なくされるばかりか、米国やNATO同盟国の軍事介入から一挙に第三次世界大戦、核戦争へと展開する切迫した危険性さえ指摘される事態である。
核戦争への危険性は、すでにポーランド、ハンガリー、ルーマニアが、ロシアを標的とした核ミサイルを導入するNATOの「核準備態勢」に参加していること、そのミサイルはわずか10分でロシアの主要都市を爆撃できること、そして米国自身がすでにNATO主要国に相当数の核爆弾を持ち込んでいること、それらを使用可能とするために米国は弾道弾迎撃ミサイル条約、中距離核戦力条約、およびオープンスカイズ条約から撤退しており、ロシア側の継続交渉要求に応じていないことによって、核戦争の危険性は高まりこそすれ、減少していないのである。そうした事態と緊張激化を待ち望む産軍複合体やネオコン勢力の罠に陥らないためには、対話と緊張緩和を通じて、一刻も早くロシア軍の撤退が決定されるべきであろう。

<<「全世界的な物価ショック」>>
問題は、ことここまでに至る過程ですでにウクライナ危機が当事国はもちろん、全世界に及ぼしている政治的経済的危機の深化である。
3/5 国際通貨基金(IMF)は、ゲオルギエバ専務理事が理事会後の声明を発表し、「ウクライナでの戦争がすでにエネルギーと穀物の価格を押し上げている」と述べ、「状況は依然として非常に流動的であり、見通しは非常に不確実であるが、経済的影響はすでに非常に深刻である」、「進行中の戦争とそれに伴う制裁も世界経済に深刻な影響を与えるであろう」と警告 全世界的な物価ショックが発生し、ウクライナ危機は「世界の食糧にとって壊滅的」である、とまで警告している。
3/7、ロシア産の石油禁止・供給懸念に関する議論を背景に、実際に北海ブレンド原油先物価格は前週末比2割も急騰、1バレル=139ドル台に、WTI原油先物も一時130ドルを突破、このままでは08年7月の史上最高値=147.5ドルに接近が不可避と見込まれ、東京商品取引所・中東産(ドバイ)原油先物相場も急騰、、前週末比1㎘当たり1万円超え(1万0530円高、7万7240円)、過去最大の上げ幅を記録している。1週間で10%高、21年10~12月期比3割超えの急騰である。これらは当然、ガソリン、合成樹脂など幅広い製品の値上げにつながることが必至である。商品包装等に使われるポリプロピレンはすでに3割上昇、電線の値上げにも波及している。
原油・ガスのみならず、半導体生産に不可欠なネオンは7割をウクライナに依存、自動車生産、携帯電話、さらには歯科用充填材にも使用されているパラジウムは4割はロシアに依存、等々、ニッケル、クリプトンを含め希少金属の調達危機が表面化しだしており、大半がオデッサ港の閉鎖で供給停止に追い込まれ、スポット価格は65%も上昇する事態である。
さらに、ロシアとウクライナどちらも世界的な穀倉地帯であり、巨大な食料生産国であること、カリやリン酸塩などの膨大な量の肥料生産国であること、両国は世界の小麦輸出の28.9%も占めており、両国は世界の総輸出額の約4分の1を占めているという現実の重大さである。窒素肥料の主要成分であるアンモニア生成には、大量の天然ガスが必要であり、ヨーロッパのプラントは大量のロシアのガスに依存しているのが実態である。
ウクライナ危機は港湾閉鎖、制裁による供給制限によって、コロナ危機によって悪化していたサプライチェーンをさらに悪化させ、世界の食料品価格を一挙に急騰させることは必至である。すでにシカゴ先物取引所の小麦価格は14年ぶりの高値に見舞われている。制裁の強化は、短期的にはもちろん、潜在的かつ長期的にも世界経済に重大な悪影響を及ぼすものである。それは当然、制裁を課している諸国にも深刻に跳ね返るブーメラン効果をもたらすのは必至である。

アメリカの産軍複合体、石油独占資本、金融独占資本、ネオコン政治勢力は、米英の政治権力を後ろ盾に、こうしたブーメラン効果をむしろ拡大し、彼らの覇権を拡大すること、何よりもロシアにとって南の国境にアメリカが苦しんだ別のアフガニスタン=ウクライナの泥沼を作り、ロシアをそこに誘い込み、溺れさせ、疲弊させること、これこそが彼らの罠であり、真の狙いだとも言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】ウクライナ侵攻における核戦争に直結する原発攻撃の危険性

【投稿】ウクライナ侵攻における核戦争に直結する原発攻撃の危険性

                            福井 杉本達也

1 ロシア軍が占拠したザボロージェ原発にウクライナ軍が攻撃

3月4日午前(日本時間):「ロシアの侵攻を受けるウクライナで日本時間4日、原子力発電所への攻撃が行われたと、ゼレンスキー大統領らがSNSで伝えた。ゼレンスキー大統領は自身のSNSに建物が攻撃される映像をアップ。「今!!! ロシアがウクライナの原子力発電所に砲撃!!!!」とコメントした。」(スポーツ報知:2022.3.4 11:58)。

まず、事実はどうか。既に3月3日の各紙はザボロージェ原発が3月1日時点ではロシア軍の管轄下に入ったのではなかという報道をしている(別添:福井新聞参照:2022.3.3)。これを受けて3月3日のIAEAの臨時理事会は 「原子力施設の管理の強奪や暴力などの行為は遺憾」とし、直ちに軍事行動を止めるようにとの決議を採択している。決議では、中国が反対、インド・パキスタンが棄権している(別添:日経:2022.3.4)。従って、時系列から考えても「『4日午前2時ごろ、原発に隣接する地域をパトロール中の部隊がウクライナの破壊工作グループから攻撃を受けた』と話した。原発の外にある訓練施設から小銃による激しい射撃を受けたため、ロシア部隊が応戦したところ、『破壊工作グループ』は訓練施設を放棄し、火をつけて逃げたという。報道官はまた、ザポロジエ原発は2月28日以来、ロシアの支配下にあるとし、正常に稼働しているとした。」(ロイター:2022.3.4 19:40)とするのが事実である。ロシア軍が原発を占拠もしないのにわざわざIAEAの理事会が開かれるはずもない。3月5日の各紙は「ロ軍、稼働原発砲撃、制圧」(福井:2022.3.5)との見出しだが、自らの、たった2日前の紙面を無視して報道する姿勢はいかがなものか。完全なフェイクニュースである。IAEA理事会では採択はされたものの、中国などが反対したことで、ウクライナ側がわざと攻撃してプロパガンダを拡散しようとしたということである。ゼレンスキー大統領は4日、「ロシア軍がヨーロッパ最大の原子力発電所であるザポリージャ原発を砲撃し火災が発生したことで、NATOに『ウクライナの上空を飛行禁止区域に設定してほし』」と要請していた」(Yahoo:2022.3.5  11:58)。NATOは5日、ウクライナから出されていた、ウクライナ上空に「飛行禁止区域」は設定しないと決定した。「飛行禁止区域」を設けることは同上空の「制空権」を握るロシアとの全面戦争を意味する。ウクライナは米国の指示を受けNATOを戦争に引きずり込もうとしたようであるが失敗した。ストルテンベルグNATO事務総長は『同盟国たちは、我々がウクライナの上空にNATOの航空機を稼働させたり、ウクライナの領土に兵力を置いてはならないことに合意した』と語った。」「ゼレンスキー大統領はこの日、SNSにあげた動画を通じて『ロシアが爆撃を行なえるよう、NATOが許可したことになる』」と挑発の失敗を認めた(Yahoo:同上)。これについてはSputnikで「ゼレンスキーは、西側が飛行禁止区域を課すために原子力発電所の挑発を使用したかった – 元 ウクライナ首相」とのコメントが出た(2022.3.5  15:30)。

 

 

2 ウクライナ侵攻における最も不安定な事項としての「原発」

ロシア軍のウクライナ侵攻での最難題は原発をどうするかと、国防軍の一部として編入されているネオナチのアゾフ大隊と一般市民をどう分離できるかである。

スウェーデン国立スペース物理研究所の山内正敏研究員は「ウクライナで原発事故が起こったら、確実にロシアとベラルーシにも大きな被害が出る。それゆえ今回の侵攻に当たってロシアは原発事故による被害を恐れており、誤爆の心配はいらない。だが、戦火を避けての管理放棄や、やけになっての自爆(冷却水を止めるような細工や管理機器の破壊)のリスクは無視出来ない。」と警告する(論座:2022.3.1)。

ウクライナでは慢性的な燃料不足により、電力の50%を旧式の原発に頼っている。欧州最大というザポリージャ原発はVVER1000型の電気出力100万kWの旧ソ連製第三世代加圧水型原子炉であり、6基が稼働している(1,5,6号機は現在電力系統から外されている(発電していない又は稼働停止?3月5日5時現在のウクライナ国営電力の発表では2基が系統につながり発電中としている)。1号機はチェルノブイリ原発事故以前の1985年稼働で46年経過しており、他の原発も同様に経年劣化してきている。安全性は西側と同等の水準とされている。6基の原子炉と使用済み燃料が存在する。総量は2017年時点で2,204トン、そのうち855トンがプール内に、1,349トンが乾式貯蔵施設に保管されている。これらの冷却に支障が出れば、福島第一原発事故のような惨事にもなりかねない(原子力資料情報室)。

当然、ロシア軍とウクライナ軍の戦闘による原発の破壊の危険性も高いが、最大の問題は「管理放棄」又は「自爆」である。福島第一原発事故でも明らかになったように、原発は制御棒を挿入して運転を停止しても、燃料棒自体は高温で発熱している。燃焼により作られた核燃料内の核分裂生成物は放射線を出す。その放射線エネルギーの大部分は原子炉内で熱に変換される(崩壊熱)。下り坂で車のエンジンを切ってもブレーキがなければ止まらないことと同様である。燃料温度が上昇すると冷却水が蒸発し、炉心が溶融(メルトダウン)し、最終的には外部に放射性物質を大量に放出することとなる。原子炉が冷却が出来ないため、燃料表面温度が上昇し、水蒸気と燃料被覆管のジルコニウムとの化学反応により水素が発生し、水素爆発する。100万Kw級の原発では緊急停止後1時間での熱出力は5.2万Kw、3か月で4351Kw、5年経っても1430Kwもある(2011.3.16小出裕章ブログ)。5年後の使用済み核燃料でも4℃の水を1秒間に600g=時間2.2トンも蒸発させる能力がある。福島事故では一時、首都圏3000万人避難が計画された。原発を破壊することは、低性能で巨大すぎて持ち運びはできないが、逆に大量の放射能を抱える超巨大な据え置き型の核兵器を爆発させることである。

追い詰められたネオナチのアゾフ大隊などが何をするかは全く不明である。直接原子炉を破壊する必要はない。原発の大口径配管を爆破する、送電線を破壊して外部電源を遮断する、ディーゼル発電機を破壊することでも冷却できなくなれば数時間のうちにメルトダウンして核兵器として機能する。原発を「自爆」してヨウ素131・セシウム134・137やプルトニウムの放射性ブルームがまき散らされ、数百万人の市民が逃げ惑う混乱の中でロシア軍と戦うという構図も想定される。また、ロシアが原発を攻撃したとして、米国の核ミサイル攻撃の格好の口実ともなる。幸い、今のところはウクライナ国営電力は正常に運営されているようである。

 

3 米英傭兵部隊・イスラム過激派などの戦闘集団の存在

ロシア軍の侵攻前から米英の傭兵部隊がアゾフ大隊と一緒になってドンバス周辺でドネツク・ルガンスクの独立派に攻撃を行っていた。また、一部のイスラム過激派のテロ部隊もウクライナに運ばれたという。かれらは、戦争のプロ中のプロである。

Sputnikによれば、ロシア国防省は「ウクライナの主要な民族主義組織がロシア軍に包囲、殲滅されたため、西側諸国は戦闘行為の行われている地区へ、民間軍事会社と契約した傭兵の派遣を増員した。ロシア国防省の発表によれば、ウクライナ入りした外国人傭兵らは妨害工作、ロシアの軍機の車列への攻撃、資金調達を行っているほか、ウクライナの航空隊を防衛している。ロシア国防省は、外国人傭兵の攻撃は、米国製の対戦車ミサイル『ジェベリン』、英国製の携帯型対戦車ミサイルNLAW、米国製の携帯用対防空ミサイル『スティンガー』など全て西側諸国がウクライナ政権に供給した兵器によって行われており、それを使用するためには本格的な訓練が必要だと指摘している。」が、かれらは謀略戦にもたけている。しかもウクライナ人ではないため、ウクライナや東欧・ロシアが放射性ブルームが幕散らされ汚染され・ウクライナ市民やロシア人が放射線被曝しようが何の躊躇もない。作戦が終了すれば、速やかに米軍の救出ヘリコプターで「民間人」として脱出すればよい。

さらにSputnikは続けて「米国の軍事諜報部によって民間軍事会社の契約戦闘員を集め、ウクライナに派遣する大規模な扇動キャンペーンが展開されていると補足している」と指摘している(Sputnik :2022.3.4)。ウクライナ日本大使館は、その公式Twitterで日本人戦闘員の参加を募った。日本政府は「国の命令ではなく個人が外国に戦闘を仕掛ける目的で準備すると、刑法の私戦予備・陰謀罪にあたり3カ月以上5年以下の禁鋼刑が科される」(日経:2022.3.4)恐れがあるとして、応募しないよう警告した(日経:2022.3.4)。東京外大の伊勢崎賢治氏は「【傭兵の募集、使用、資金供与及び訓練を禁止する条約】をロシアは批准していません。しかしウクライナは批准しています。同条約を批准する国家の大使館が、同条約と矛盾する行為を、公然と日本国内で行なった場合、どうするべきか。同条約を批准していない平和国家日本の国民は考えるべきです。」(伊勢崎:2022.3.1)と警告した。防衛省はウクライナに防弾チョッキとヘルメットの防衛装備品を供給すると表明したが、軍備の輸出であり、明らかな戦争当事国への加担である。もちろん、経済制裁も一方の戦争当事国への加担であり戦争への全面的協力である。確か、日本史の教科書には日本が太平洋戦争に突入する口実としての「ハルノート」や「ABCD包囲網」というものがあったはずだが。

 

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【投稿】ロシアのウクライナ侵攻―孤立するのは米欧

【投稿】ロシアのウクライナ侵攻―孤立するのは米欧

                            福井 杉本達也

1 国連総会決議で米国の孤立が明らかに・バイデン氏は棄権したインドを批判

NHKの3月3日昼のニュースは「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻をめぐって開かれていた国連総会の緊急特別会合 で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議案が賛成多数で採択されました。決議案には欧米や日本など合わせて141か国が賛成し、ウクライナ情勢をめぐるロシアの国際的な孤立がいっそう際立つ形となりました。」と伝えた。あたかも、ロシアが国際的に完全に孤立したかの報道であるが、そのすぐあと、「アメリカのバイデン大統領は2日、決議案が賛成多数で採択されたことについて、中西部 ウィスコンシン州で行った演説の中で『141か国がロシアを非難した。いくつかの国は棄権した。中国は棄権した。インドも棄権した。彼らは孤立している』と述べ棄権した35 か国のうち中国とインドを名指しで批判しました。」と報じた。対立する中国はさておくとして、「クワッド」に取り込むとしてきたインドを名指しして批判した。これは米国の焦りである。インドは既に安保理決議において、中国・UAEと共に棄権している。このほか、南アフリカやパキスタン・ベトナムなども棄権した。また、ブラジル・メキシコやNATO加盟のトルコなども経済制裁に加わるつもりはないと宣言した。世界地図を広げれば、賛成は欧米など一部諸国に限られる。孤立したのはロシアではなく米欧諸国である。

 

2 中国の立場

中国の王毅国務委員兼外交部長はウクライナ問題に対する中国の基本的立場について2月25日に次の5点を挙げた。①各国の主権と領土保全を尊重、保障し、国連憲章の趣旨と原則を確実に順守すること、②北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大が5回連続で行われている状況の下、ロシアの安全保障面の正当な訴えは当然重視され、適切に解決されなければならない。③各国が必要な自制を保ち、ウクライナの事態が引き続き悪化し、制御不能になることを避けることだ。④ウクライナ問題の推移には複雑な歴史的経緯がある。ウクライナは東西の意思疎通の懸け橋となるべきで、 大国の対決の最前線となるべきではない。中国はまた、欧州とロ シアが欧州の安全保障問題について対等に対話すべき。⑤安保理が取る行動は火に油を注ぐものではなく、緊張を鎮静化させるものであるべきで、情勢をさらにエスカレートさせるものではなく、外交的解決 の促進に役立つものでなければならない。このため中国は安保理 の決議がすぐに軍事的措置と制裁を認める国連憲章第7章を持ち出 すことにこれまでずっと賛成していない。(新華社:2022.2.26)というものである。

元外務省国際情報局局長の孫崎享氏は中国の①「各国の主権と領土保全の尊重」については、「元々、住民の自決(東部の独立)を主張するロシアと、台湾問題で『国家の一体』を主張する 中国では、180度立場が異なっている。」(2022.3.2)としているが、どうであろうか。台湾の「住民の自決」については「カッコ」がつかざるを得ない。台湾は元々、日本が日清戦争で中国から略奪したものであり、カイロ宣言(=ポツダム宣言)で中国に返還されるべきものであった。それが、朝鮮戦争を契機に、米国に実質上占領・属国化された状態にある。今も米国は武器を大量に買わせ緊張を煽り・干渉している。3月2日、元国務長官のポンペオ氏が台湾を訪問したが「今回の台湾訪問は、火をつけてあおり立て、台湾海峡情勢を緊張させ、台湾民衆の利益を害する以外、いかなる役割も果たさない」(CRI:2022.3.3)と干渉を厳しく批判している。中国のいう「国連憲章の順守」とは形式論ではない。武器を大量に持ち込み、「独立」を扇動するような場合は「順守」ではないということである。中国とロシアの立場は異なるが、米国の「火に油を注ぐ」行為に対しては厳しい。バイデン氏は国連総会での「棄権」した中国を名指し、ウクライナ侵攻におけるロシアへの肩入れを批判したが、批判されるべきは米国の行為である。

 

3 欧州ガス 遠い「あと1割」

3月3日の日経は「欧州ガス遠い『あと1割』」とい見出しで、 北米・アフリカから最大限かき集めたとしても、消費量の1割・4000万トン程度が不足するとしており、液化天然ガス(LNG)の奪い合いは価格高騰を招きかねないと書いている。1割でも不足するなら、電気やガス・暖房など欧州の生活は成り立たない。ようするに、現在の4割を占めるロシアからの天然ガスを遮断するすることは、欧州の“自殺”を意味する。米国の狙いの1つは、ロシアからのガスを遮断して欧州を完全に自らの支配下に置き、かつ、ロシア産の3倍の価格のガスを売りつけ、その競争力に大打撃を与えることにあったが、どう計算してもロシアのガスの代替は見つからず、止められないということが明確になったということである。記事の最後にドイツのショルツ首相は方針転換もやむを得ないとして、「これまでは問題外だった閉鎖予定の原子力発電所の運転延長」も検討するようだ。連立与党の1つ・緑の党は脱原発を旗印にしていたはずだが、米国と同様見境がなくなった。

 

4 SWIFT機能せず

欧州ガスの供給ができたいことが明らかであるため、EU は「国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシア銀行最大手のズベルバンクとエネルギー部門のガスプロムバンクを排除しないとの決定を下した。他の大手7銀行を排除したことをもって、フォンデアライエン欧州委員長は「これはEUの歴史上、最大の制裁措置だ」と大見えは切ったものの(日経:2022.3.3)、ロシアへの経済的敗北であり、事実上のSWIFTの抜け道を作り、破綻した。米国に脅かされるままにロシアへの経済制裁の大太刀を大上段に振り上げたところ、刀を自らの足元に落としてしまったといえる。

 

5 サハリン1・2の権益は守り抜けーイラン「アザデガン油田撤退」の二の舞になるな

ロシアとの石油共同開発する米エクソンモービルがサハリン1から撤退するという。また、英シェルも天然ガスを共同開発するサハリン2から撤退すると発表した。サハリン1には経産省と伊藤忠・丸紅が出資しており、また、サハリン2には三菱商事と三井物産が出資している。サハリン2からのLNGは日本にも輸出されており、日本のLNGの8%を占める。 小谷賢・日大教授「ロシアや経済に配慮して動きに乗り遅れれば、米欧諸国から協力を得られなくなる」(日経:2022.3.3)と米国の意向を代弁し、日経の記事もそれをよいしょするものとなっている。もし、8%ものLNGが輸入できなくなれば、日本の電力や工業生産は大打撃を受けることとなる。日本の“自殺”行為である。岸田政権は米国の代弁者の挑発に乗ることなく「経済に配慮」しなければならない。米国の目的はロシアの制裁だけにあるのではない。日本の工業生産力を削ぐ・経済制裁もその目的である。かつてのイラン・アガザデガン油田の権益を売り払い撤退してしまった失敗を二度と繰り返してはならない。米英石油メジャーが撤退するのは、経済制裁の一環ではない。ソ連崩壊とその後のエリツィン政権下の経済大混乱期おいて、オルガルヒのホドルコフスキーやベレゾフスキーによって、国営の石油会社やガス会社が乗っ取られ、ただ同然に米欧のメジャーに売り渡され、ぼろ儲けされ、その後、プーチン政権下において、ロシア側が51%の支配権を取り戻したという経緯がある。儲けの取り分が少なくなったから撤退を表明したに過ぎない。万一、日本が米国の圧力により権益を手放すことがあれば、その権益は中国や韓国の資本に渡る。日本は暴騰したエネルギー価格の支払いに四苦八苦することになろう。

 

6 情報戦・日本でも少しずつまともな情報も

鳩山由紀夫元首相は「忘れられてる事実がある。東西ドイツ統一の時、嫌がるソ連を納得させるため、米独はNATOをドイツから東に1インチも拡大させないと約束した。ところが約束は破られNATOは東方拡大し遂にウクライナまで近づいた。G7側はドイツ統一の時に約束したようにこれ以上緊張を高めることはしないと言うべきだ。」と述べている(2022.2.22)。多少荒っぽい表現だが、元東京都知事の舛添要一氏はウクライナのゼレンスキー大統領の対応について「もう少しずる賢くて上手ければ(NATOに)『入らないからご安心ください』といって裏でアメリカと手を握る。それをやらないで『入るぞ』とやれば、傷を負った熊に石を投げているようなことをやる。…だからゼレンスキーは能力がない」(ABEMA TIMS 2022.2.28)と述べている。また、経済評論家の植草一秀氏は「NATOは軍事同盟であり、旧ソ連邦にまでNATOが東方拡大することはロシアにとっての重大な脅威になる。しかし、ウクライナのゼレンスキー大統領はウクライナのNATO加盟方針を明言し、NATO諸国に加盟の早期許可を強く求めてきた。その裏側にバイデン大統領の強力な誘導がある。」と書いている(植草:2022.3.1)。右翼系の一水会は「米国とNATOは現在ウクライナへの派兵は不検討。だが、米国は2014年以降、ウ側に54億ドル(約6240億円)の軍事援助を続けてきた。バイデン大統領になってからは3億5000万ドルを追加承認し、議会にも64億ドルの予算要請。隣国ウクライナにこれだけ莫大な軍事費が流れ、どうしてロシアが座視できようか。」(2022.3.1)「もとより反ロ感情が強いわが国で、現下報道は反ロ一色に塗りつぶされ、メディアスクラムは同調の『空気』を醸成。西側の価値観だけではなく、ロシアにはロシアの言い分がある。事実を根拠に双方の主張を公平に見るべきだ。」(2022.3.3)と述べている。衆参のロシア非難決議に賛成する与野党議員よりよほど正論である。

米国でも有名な投資家ジム・ロジャーズ氏は「ワシントンは戦争を欲しているようだ。ワシントンの政治家は無能でどうしようもない。ビクトリア・ヌーランドという名前の官僚の女性がウクライナにおける2014年のクーデターを支援し、今の反ロシアかつ親ビクトリア・ヌーランドのウクライナ政権を打ち立て、それが今まで尾を引いている。そして彼女は今また争いを煽っているようだ。彼女がそうする理由はよく分からない。考えてみてほしいのだが、もしロシアがアメリカの真下にあるメキシコと軍事同盟を結んだりすれば、アメリカ人だって激怒するだろう。それがアメリカのやったことだ。」(Wall  Street  Silverのインタュー  2022.2.28 インタビューはウクライナ侵攻前)と述べている。

極め付きは、ドナルド・トランプ前大統領の演説である。立ち位置は当然異なるが「ウクライナへ侵攻したウラジミール・プーチン大統領を『賢明だ』と賞賛した。保守政治行動会議(CPAC)での演説で、トランプ氏は『弱い』ジョー・バイデンや『あまり賢くない』NATO諸国を批判した。トランプ氏は、本当の問題はプーチン氏が賢いことではなく、『我々の指導者が馬鹿であること』だと述べた。」(Business Insider Japan:2022.2.28)。トランプ氏の言葉から読み取れることは、米国の国内世論は分裂しているということである。バイデン氏のもう一つの目的は中間選挙と自身の支持率回復のためにロシアとの緊張を煽り、世界を第三次世界大戦の瀬戸際に追いやろうとしていることである。バイデン氏はロシアを攻撃する最も注意を払うべき一般教書演説において「Putin may circle Kyiv with tanks but he’ll never gain the hearts and souls of the Iranian people」(プーチンはキエフを戦車で取り囲むことは出来ても、イラン人の心と魂を手にすることは無いだろう。)と演説した。「馬鹿な指導者」の危険な口車に乗せられてはいけない

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【投稿】ウクライナ危機・核戦争への危険な展開--経済危機論(75)

<<ロシア核部隊の「警戒態勢」>>
2/27、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナをめぐる西側諸国との緊張が高まる中、ロシアの核抑止力を運用する部隊に「警戒態勢」をとるよう命じた、と報じられている。セルゲイ・ショイグ国防相、ヴァレリー・ゲラシモフ参謀総長との会談で、「NATO主要国の高官がわが国に対して攻撃的な発言をすることを許しているので、私はここに、ロシア軍の戦略的抑止力を特別な戦闘態勢に入れるよう国防相と参謀長に命じる」と述べた、という。この「特別な戦闘態勢」は、核兵器の使用をも含めた「戦略的抑止力」(SDF)だという。明らかに核戦争事態への備えである。

同じ2/27、ウクライナ当局は、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)に基づくIAEA査察の義務を放棄したと、セルゲイ・キシュリツァ国連大使の書簡の説明文を参照してRIAノーボスチが報じている。
文書では、キエフ政権はウクライナ領土内の核物質が軍事目的に使用されないことを保証できないとしている。この声明は、ロシア軍がドンバスでの特別作戦でチェルノブイリ原子力発電所を完全に掌握した後に出されたものである。
ウクライナは1991年の旧ソ連崩壊後、独立から間もないウクライナにあった旧ソ連の核兵器が残されていたが、1994年、NPT・核兵器不拡散条約に加盟・調印により、核兵器保持を放棄している。しかし、ウクライナは、核爆弾の製造能力に加えて、ミサイル搭載用の核弾頭も製造でき、弾道ミサイルを製造する工場が、同国ドニプロペトロウシク州にあるという。

さらに問題なのは、ウクライナは電力の半分以上を15基の原子炉に依存しており、戦闘の過程で脅威にさらされる可能性が増大していることである。これらの原発は、2基を除き、すべてソ連時代に建設されたもので、保守点検や燃料補給の大半をロシアが担ってきたものである。12基は、建設後30年以上経過している。ウクライナ国内での軍事行動は、それが意図的な標的であれ、あるいは偶発的であれ、原発に損傷を与えれば、制御機構、バックアップ電源、使用済み燃料プール、緊急冷却システムに影響を与え、チェルノブイリレベル、あるいはそれ以上の大惨事を引き起こす可能性がきわめて大きいのである。冷却水の補給が途絶えただけでも、あるいはウクライナの送電網へのサイバー攻撃でさえ、これらの原発の安全性と運転システムに重大な影響を与える可能性が大なのである。戦闘行為は即刻、全面的に停止されなければならないのである。

2/22、原発・核兵器廃絶運動のビヨンド・ニュークリア(Beyond Nuclear)の創設者リンダ・ペンツ・ガンター氏は、「発端や原因、誰が何を始めたかにかかわらず、ウクライナには稼働中の原子炉が15基あり、紛争が起きれば危険にさらされる可能性があるという現実は変わらない」と述べ、「クライナでの戦争の見通しはきわめて憂慮すべきものであり、これを回避することが緊急の課題なのです。」と強調する通りである。

<<危険なエスカレーション>>

さらに危険なのは、2/25、軍事同盟であるNATOが、70年の歴史上で初めて、4万人の部隊からなるロシアに対抗する対応部隊を発足させ、空軍・海軍の支援を強化する計画を発表したことである。NATO加盟国首脳は共同メッセージで、この動きを「予防的、比例的、非エスカレーション的」と位置づけ、「現在も将来も、同盟全体で強力で信頼できる抑止力と防衛を確保するために必要なすべての配備を行う」ことを明らかにした。NATOは、ロシアに直接対峙する「同盟の東部」に部隊を配備する計画だという。「非エスカレーション」どころか、ロシアに挑発を仕掛けるエスカレーションそのものである。
ウクライナ危機の最大の原因は、プーチン大統領が指摘する、ウクライナのNATO加盟の野心と、ロシア国境付近の同盟軍の存在を安全保障上の

石油・ガス大企業に幸せな日々

主要な脅威として挙げて来たものである。米英、NATOは、このロシアが何年にもわたってNATO不拡大の約束の実行を迫ってきていたことそのものを根底から拒否するものなのである。
何が事態をここまで危険なものにさせたのであろうか。一体、勝者は存在するのであろうか。この事態に至るまでの勝者は確かに存在する。軍需独占企業を中心とする軍産複合体であり、ヨーロッパへのロシア・ガスパイプラインを停止に追い込み、石油・ガス価格高騰で巨利をむさぼる米英石油独占体であり、これらに融資する金融独占資本である。政治的経済的危機を緊張激化で乗り切ろうとする政治勢力である。それを推進してきたのは、対ロシア、対中国の冷戦を煽ってきた米英の政権であり、ネオコン勢力である。彼らにとって、緊張緩和は敵であり、敗北である。彼らは緊張激化の中にこそ利益を見い出し、さらなる利権と巨利をむさぼろうとしているのである。
しかし、緊張激化と、世界戦争への加速は、アメリカを中心とする帝国主義的支配体制の衰退と地位の低下の現われでもあり、焦りでもある。パンデミックにも有効に対処できないG7はその象徴と言えよう。

今、世界中で再び平和を要求する声、行動が展開され

戦争に反対、NATOに反対

ているが、「戦争ではなく外交」、「緊張激化より緊張緩和」はスローガン以上のものでなければならないし、核戦争の防止、軍事同盟の不拡大・廃棄が提起されなければならない、と言えよう。ましてや、ウクライナの人々を「救う」ために、NATOによるさらなる軍事介入を要求したのでは、好戦勢力を喜ばせるだけであろう。

<<プーチンの大ロシア民族主義>>
こうした事態の経過から明らかなことは、ロシアに対するあらゆるフェイクニュースや偽情報を使って戦争の脅威を煽り、挑発を組織し、結果としてロシアを追い込み、わなを仕掛けたということであろう。

問題はこうしたわなに飛び込んでしまったロシアの、というよりプーチン氏の政治姿勢である。
2/21、プーチン大統領はウクライナ侵攻に際してウクライナは「我々にとって単なる隣国ではない」と述べ、「我々の歴史、文化、精神的空間の不可侵の一部である 」と述べた後、「現代のウクライナは、すべてロシアによって、より正確にはボルシェビキ、共産主義ロシアによって作られたのです。このプロセスは実質的に1917年の革命直後に始まり、レーニンとその仲間は、歴史的にロシアの土地であるものを分離、切断するという、ロシアにとって極めて過酷な方法でそれを行ったのです。」と、述べている。ここにプーチン氏の本音が露骨に現れている。
1917年の10月革命で、ロシアの労働者評議会と兵士評議会は、レーニンがとりわけ強調した、抑圧された人民の自決という原則を掲げ、後にソ連憲法に明記され、すべての社会主義共和国に無条件で分離独立の権利を認める、民主主義の原則としたのであるが、プーチン氏は、これを「国家としての基本原則 」に反する、「間違いよりも悪いもの 」だったと断言したのである。

大ロシア民族主義を厳しく批判したレーニンは、「われわれは、民主主義者として、たとえ少しでも一切の抑圧といかなる民族の特権にも反対する」ものであり、大ロシア人の民族主義は「現在、最も恐れるべきものであり、ブルジョア的であるというよりも封建的であり、民主主義とプロレタリアートの闘争にとって大きなブレーキなのである」と強調していたのである。とりわけスターリンのロシア大民族主義を前提に、レーニンは「抑圧民族の民族主義と被抑圧民族の民族主義,大民族の民族主義と小民族の民族主義とを区別することが必要である。われわれ大民族に属するものは、歴史的実践のうちでほとんど常に数かぎりない強制の罪を犯している。それどころか、自分では気づかずに数かぎりない暴行や侮辱を犯しているものである」。「抑圧民族、すなわち、いわゆる“強大”民族にとっての国際主義とは、諸民族の形式的平等を守るだけでなく、生活のうちに現実に生じている不平等に対する抑圧民族、大民族のつぐないとなるような不平等を忍ぶことでなければならない。このことを理解しなかった者は、民族問題に対する真にプロレタリア的な態度を理解せず、実はブルジョア的見地に転落せざるをえないのである」とまで断言しているのである。
このような大ロシア民族主義を、2022年の現在、このウクライナ危機の最中に振り回すプーチン氏の政治姿勢は、まさに「抑圧民族の民族主義」と言えよう。このような政治姿勢を取り続ける限り、プーチン氏の政治的基盤は掘り崩され、国際主義的連帯を前提としての民族自決権を否定するものとなり、ウクライナ危機の真の解決をますます遠のかせてしまうであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】ロシア軍のウクライナ侵攻とネオナチに操られる・ゼレンスキー

【投稿】ロシア軍のウクライナ侵攻とネオナチに操られる・ゼレンスキー

                             福井 杉本達也

1 ロシアのウクライナ侵攻

2月22日朝のSputnikはプーチン大統領は、親露派勢力が支配するドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の独立を承認し、ロシア軍を派遣し、平和維持活動を進めることを定めた大統領令に署名したとし、同共和国の要請を受けて同地域への平和維持軍派遣を決定したと報道した。これに対し欧米は「米国や欧州などが侵攻阻止に向けて発した警告を無視し、主権国家に派兵する。東西の冷戦後の世界秩序を武力で揺さぶる行為で、米欧はロシアへの経済制裁を発動する。民主主義と強権主義の分裂が鮮明となり、世界の混迷は一段と深まることになる。」(日経:2022.2.23)と報道している。27日現在、ロシア軍はドネツク方面の東部からと、クリミア半島方面の南部から及びはウクライナ第二の都市ハリコフなどのある北部からウクライナに侵攻している。また、同時にミサイル等により空港や軍事施設などを破壊した。

 

2 ネオナチに乗っ取られたウクライナとドンバスのロシア人虐殺

元外務省欧亜局長の東郷和彦氏の地方紙への『特別寄稿』よると「ロシアがウクライナに対する軍事力の行使に踏み切った直接の引き金は、ウクライナ東部親ロシア派支配地域の住民約お万人の安全がウクライナによって脅かされているという判断だった」とし、「ウクライナのゼレンスキ大統領は『親ロ派はテロリスト』と放言して緊張をあお」った(福井:2022.2.26)としている。ウクライナは2014年の米CIAの後ろ盾によるマイダンクーデターにより、選挙で選ばれた政権を倒して築かれた。そのクーデターの主体はネオナチである。クーデターで排除されたヤヌコビッチの支持基盤である東部や南部でも住民が惨殺された。ドンバスやオデッサでの住民虐殺は凄惨なものだった。ネオナチの一人:ヤロシュは2021年11月から参謀長の顧問を務めている。ネオナチの「アゾフ大隊」を率いているのはヤロシュの部下といわれる。元駐ウクライナ大使の馬渕睦夫氏は2月25日のYouTube上で「ウクライナは乗っ取られている。ロシア人を虐殺してるんですよ、ウクライナの中でね!」と述べている。このマイダンクーデターを指揮し、ウクライナにおける親露政権を覆し、西側と連携を求める政権を樹立した中核的人物がオバマ政権・国務次官補時代のヌーランドである。ネオコンの理論的支柱ロバート・ケーガンの妻であり、現バイデン政権下では国務副長官である(孫崎享:2022.2.25)。

 

3 NATOの東方拡大による核戦争の危険の高まり

プーチン大統領は2月24日の演説で「ソ連が解体され能力の大部分を失った後も、ロシアは核保有国の一つだ。最新鋭兵器もある。われわれに攻撃を加えれば不幸な結果となるのは明らかだ。」と述べたが、これを受け、日本原水爆被害者団体協議会や広島県内の被爆者7団体などは「核兵器による威嚇で、被爆者の願いを踏みにじるものだ」として、ロシア大使館に抗議文を送った(読売:2022.2.27)が、これは米欧のプロパガンダをそのまま信じた行為である。2019年2月に当時のトランプ政権はロシアとの間の「INF条約」(Intermediate-range Nuclear Forces Treaty:中距離核戦力全廃条約)の破棄通告をロシア側に通告し、INF条約は8月2日に失効した。中距離核戦力が配備されるとヨーロッパが戦場となる。もし、ウクライナに中距離核ミサイルが配備されれば、モスクワまで数分で届く。ロシア中枢部が何の防衛手段もないまま核攻撃にさらされることとなる。ロシアはウクライナのNATO加盟を警戒するのはそのためである。現状は「相互確証破壊 Mutual Assured Destruction, MAD)」という非常に危うい理論の上に核兵器の使用が避けられている。「核兵器を保有して対立する2か国のどちらか一方が、相手に対し先制的に核兵器を使用した場合、もう一方の国家は破壊を免れた核戦力によって確実に報復することを保証する。これにより、先に核攻撃を行った国も相手の核兵器によって甚大な被害を受けることになるため、相互確証破壊が成立した2国間で核戦争を含む軍事衝突は理論上発生しない」(Wikipedia)というものである。ところが、中距離核ミサイルをウクライナに配備できれば、ロシアの心臓部を数分で壊滅でき、米国は核の反撃を受けないという誘惑が生まれる。核の先制攻撃論である。米国がINF条約を脱退した理由である。

 

4 米・NATOに見捨てられた捨て駒・ゼレンスキー

ゼレンスキーは2月24日にウクライナは孤立していると発言した。ウクライナを利用してロシアを挑発、恫喝してきた米・NATOは隠れてしまい、ウクライナが取り残された。米・NATOはウクライナだけでロシアと戦えと。ウクライナは米国にとって中距離核ミサイルの発射台であり、ロシアとガスパイプラインを利用しての欧州への恫喝の道具ではあるが、米国が血を流して守る地域ではない。既にネオナチに乗っ取られたこの8年間でウクライナの経済は破綻している。またチェルノブイリ原発の後始末という数百年単位の非常に厄介な課題を抱えている。パトリック・アームストロングによれば「ウクライナ人移住労働者による送金が、今年133億ドルに達すると予想される。2019年と2020年の記録的な実績120億ドルより11%多い。今年は、労働が食糧に続き、金属より上で、ウクライナで二番目に大きい輸出になると予想されている。要するに「改革実行でのウクライナの進歩」に関する全てのたわごとは、ウクライナが黒土地帯にある事実と、外国で、金持ちの隣人のために働いている国民のおかげなのだ。産業空洞化は、ほぼ完了した。アントノフ社は去り、ユジマシ社は苦闘し、ドンバスは去り、黒海造船所は倒産した。ここに要約がある:見てお分かりの通り、最も強力な産業の可能性を持っており、ほとんど全ての産業生産物を、自身にも、他の共和国にも提供可能なソビエト社会主義共和国連邦の共和国から、ウクライナは、農業原料加工や林業企業だけが活動する領土に変わった。ウクライナの完全な産業空洞化は、実際、完了した。」(マスコミに載らない海外記事:パトリック・アームストロング:2021.8.11)。米国としてはロシアへの恫喝の踏み台以外の利用価値はないと踏んでいる。

 

5 SWIFTによるロシア経済制裁の影響

米国、英国、欧州、カナダは2月26日、ロシアの一部銀行を国際銀行間の送金・決済システムのSWIFT(国際銀行間通信協会)から排除することで合意した。「ロシアの金融機関は世界で1日あたり約460億ドル相当の為替取引を手掛け、その8割が米ドル建てだ。は全世界で1日あたり4200万件の送金情報を扱っており、このうちロシアの金融機関は2020年時点で1・5%を占め」(日経:2022.2.27)これが出来なくなれば、欧州とのガス取引や原油取引にも大打撃となる。日本への影響も避けられず、野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏の見方では、対ロ経済制裁によりロシアとの貿易が全て停止する最悪の場合、エネルギー価格の急騰や円高・株安により、日本経済には国内総生産で1.1%程度の下押しになると試算している。原油価格がバレル140ドル程度まで上昇し、円高・株安が進むとの想定だ。しかし、木内氏は「今回のSWIFT排除のステートメントを読むと、ロシアの全ての銀行が対象となっているわけではない。SWIFTを利用しない決済手段もある。このため、日本経済へのインパクトも上記の最悪ケースの試算ほどにはならないと考えられる」(ロイター:2022.2.27)とも分析している。既にロシアは外貨準備高のほとんどを金に換えており、また、中国との間では元建て決済を、ロシアとインド間ではで米ドルを放棄 「インドは相互決済にドルを使うことをやめ、すべての支払いをルーブルとルピーで行うことを発表」(2021.12.8)するなど、ドル離れの動きが進んでおり、ドル覇権体制の崩壊につながる可能性もある。

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【投稿】「ロシアのウクライナ侵攻」というフェイクニュースを振り撒いたバイデン政権

【投稿】「ロシアのウクライナ侵攻」というフェイクニュースを振り撒いたバイデン政権

                            福井 杉本達也

1 「2月16日にロシアがウクライナに侵攻する」とフェイクニュースを振り撒いた米英と日本のマスコミ

英国のタブロイド紙『The Sun』は2月15日「DAWN RAID Russia set to invade Ukraine at 1AM tomorrow with massive missile blitz and 200,000troops,us intelligence claims」(米国情報機関: 明日、ロシアがウクライナ侵略。大量なミサイルと20万人の軍隊で)と報じた。しかし、「ロシアの侵略」の日に何も起こらなかった。「誰もウクライナを攻撃するつもりはなかったことは明らかであり、行くつもりはありません。とにかく、モスクワは『それは挑発されることはありません』、(シンデレラ物語のように夜の12時を過ぎて)『カボチャ』に変わった欧米のメディアは、どのように振る舞い、自分自身を正当化するのか」、「ホワイトハウスのサキ報道官は、ロシアは『1月中旬から2月中旬まで』に(ウクライナを)侵略すると述べた。しかし、その期間は終わりました 。そして、誰か彼女の大胆な予測に何が起こったのかを尋ねましたか?そうではありません。アメリカのメディアの誰も彼らが昨日言ったことを気にもしないのです」(RIAノボスティ(露語訳)2022.2.16)。

にもかかわらず、日本のマスコミの2月17日のトップ見出しは「ロ軍撤収確認できず・ウクライナ国境」(福井=共同:2022.2.17)であった。「パイデン米大統領は15日、ホワイトハウスで演説し、ロシアが発表したウクライナ国境周辺からの軍部隊の一部撤収は『確認できていない』と述べた。『侵攻の可能性は十分残っている』と強調したと報道している(同上)。いったいこのようなフェイクニュースのたれ流しは誰の得になるのか。

 

2 米国の馬鹿さ加減に困惑する岸田政権―エマニュエル米駐日大使の「北方領土」発言

2月12日の産経新聞にはめずらしく「エマニュエル氏は7日に投稿したツイッターの動画で『米国は北方四島に対する日本の主権を1950年代から認めている』と発言した。同じ動画ではウクライナ情勢についても言及し『10万人の兵士を集め、欧州を紛争と危機の危険にさらしている』とロシアを非難した。」が、「これに対し、林芳正外相は10日の記者会見で『日本側の立場への支持を表明したものとして歓迎している』と述べた。」と一応、「属国」としては、米国追随の姿勢を示したと報じたものの、すぐ続けて「日本は平成30年にシンガポールで行われた日露首脳会談で、平和条約締結後に歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すとした昭和31年12月の日ソ共同宣言を基礎に交渉を加速すると確認し、事実上「2島返還」を優先する姿勢に転じた。岸田政権もシンガポール合意を引き継ぐ立場だ。」と書き、「米国は過去には2島返還を模索する日本を牽制している。日ソ共同宣言前の31年8月、ダレス米国務長官(当時)は重光葵外相(同)との会談で、日ソ接近を阻止するため、『日本がソ連案を受諾する場合は米国も沖縄の併合を主張しうる』と恫喝(どうかつ)した。外務省幹部は『米政府がダレスみたいな牽制球を投げることは、たまにある』と明かす。エマニュエル氏は大統領首席補佐官や下院議員の時代から老練な交渉力で知られる。動画には、領土交渉を進めようとすればロシアに利用されかねないと警告する意図があったとしても不思議ではない。」と書いた(産経:2022.2.12)。まさか、産経新聞に「ダレスの恫喝」が出てくるとは思わなかった。

米国による「ロシアの侵攻」「台湾・ウイグル問題」のフェイクニュースの洪水は「アメリカの北大西洋条約機構(NATO)や他の西側同盟国がロシアや中国とのより多くの貿易と投資を開放するのを防ぐために、内側に向けられている。その目的は、ロシアと中国を孤立させるというよりは、これらの同盟国をアメリカ自身の経済軌道の中にしっかりと保持することである。」(マイケル・ハドソン(英訳):2022.2.8)ということを、日本の外務省・岸田政権も十分理解しているということである。しかし、「属国」として、「帝国」とどのような距離感が取れるかに悩んでいるということであり、産経以外の各紙が垂れ流すようにはエマニュエル駐日大使の発言を歓迎していないという本音である。逆にいえば、毎日のように米英が「ロシアの侵攻」を口にしなければ、同盟国という「属国」を繋ぎ留めておくことすら出来なくなっていることを示している。渦中のウクライナの「ゼレンスキー大統領は、冷静な対応を米国やNATO、ロシアに呼びかけており、危機に瀕した国のリーダーという感じではない。いずれにしても、米国のワンマン・バンド(「独り舞台」を意味する)の時代は終わりを告げたことを意味する(小川博司「プーチンに足元を見透かされるバイデン政権、激しい威嚇も空砲か」:JBpress 2022.2.14)。

 

3 ウクライナ危機を煽ることで本当に困るのはドイツを中心とする“西側同盟国”

1969年には旧西独首相になったブラントは、旧ソ連との関係緊密化を図る「東方外交」を進め、その際、双方に利益になる象徴的なモノが天然ガスだった。1970年2月1日にソ連-西独の最初の天然ガス輸出契約が調印された。米国は西側「属国」をその支配下に置いておくためにはエネルギー資源をロシアに依存することは好ましくないと考えている。また、ロシアからの安い天然ガスがEUに入ることはEUの経済力を高め、米国の力を削ぐことになる。そこで、ウクライナのオレンジ革命や“マイダン”など様々な機会を利用し、なんとか、欧州へのエネルギーの流れを断ち切ろうとしてきた。今回のウクライナを巡る危機もその一環である。

ベトナム・ビングループ主席経済顧問の川島博之氏は、今回の危機を「米国はロシアに対して強硬な態度を貫くことによって、ウクライナに攻め入るように仕向けているように見える。…米国はウクライナの主権を重んじると言って、ロシアとの妥協を頑なに拒んでいる。…米国はそれほどまでに他国の主権を尊重する国なのであろうか。…米国はこれまで何度も中南米やアジアの国々の主権を踏みにじってきた。…米国の本心はそこにはないと考えたほうがよい。米国はロシアを追い込んでウクライナに攻め込ませたい。そうなれば経済制裁として、西側諸国がロシアから天然ガスを買うことを止めさせることができるからだ。それによって最も困るのはドイツである。米国は痛くも痒くもない。」「ロシアがウクライナに攻め込んだら、米国は経済制裁と称して西側諸国がロシアから天然ガスを購入することを止めさせるであろう。ロシアは、ドイツの代わりに中国に買ってもらえばよい…中国相手の商売なら、ドルでの決済ができなくなっても交易できる…困ったのはドイツだ。米国は、日本が中東から買い付けている天然ガスの一部をドイツに回すように働きかけたが、それは口先だけのサービスである。」(川島博之「米国はウクライナ危機を煽っている?背後に『SDGs潰し』の思惑か」:JBpress 2022.2.15)と分析している。

2月10日の日経は「LNG、欧州に融通・経産相表明・バイデン政権の意向」、「日本政府内では国内の需給にそれほど余裕がなく対応は難しいとの声も出ていた」。それを米国は自らの戦略に「巻き込もうと強く迫った」(日経:2022.2.10)という。2月13日のTBS「サンデーモーニング」において、寺島実郎氏は日本が輸入するLNGのうちロシア産LNGが10%を占めることについて、危険だと“のたまわって”いたが、危険なのは米国の息のかかったLNGを輸入していて肝心な時に止められてしまうことである。日本が開発に参加している東シベリアや北サハリンなどの天然ガスをパイプラインで運べばエネルギーの安全保障は格段に高まる。「財務省が17日発表した1月の貿易統計(速報)によると、全体の輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は、原油高の影響を反映し、2兆1911億円の赤字だった。赤字は6か月連続で、金額も月額の統計として比較可能な1979年1月以降、過去2番目の大きさとなった。」「サウジアラビアなどからの原油が84・6%増となったほか、豪州からの石炭や液化天然ガスといった資源が大きく膨らんだ」(読売:2022.2.17)からだとする。岸信夫防衛大臣のように、「敵基地攻撃論」ばかり振り回すのが安全保障ではない。

 

4 アフガン中央銀行の資産を「強盗」するバイデンの言葉など信用に値しない

2月13日の共同通信は「パイデン米大統領は11日、米国内の金融機関にあるアフガニスタン中央銀行の凍結された資産計約70億ドル(約8千億円)を、ニューヨーク連邦準備銀行の口座に集めるための大統領令に署名した」とし、その半額の35億ドルを、9.11の「米中枢同時テロの犠牲者遺族に対する賠償に使われる」と報じた(福井=共同:2022.2.13)。アフガンの人民は2021年8月の米の無残な撤退以降、資産を凍結され、外貨不足や西側諸国の経済封鎖により、飢えと寒さに苦しんでいる。その資産をさらに無慈悲に奪い取るというのである。

しかも、その金を9.11の犠牲者遺族の賠償に使うというのであるが、その賠償について、CRI時評は「別の面から汚い内幕が暴かれている。米政府は16年も引き延ばした末にようやく2017年に9.11事件の被害者遺族が当然受けるべき賠償を始めたが、2019年に米政府が法改正により『被害者遺族』の範囲を定義し直したため、一部の非直系の被害者遺族は賠償を受けられなくなってしまった。そうした人々が米裁判所に米政府を提訴すると、彼らの弁護士は、2020年から21年までの間に米政府に『悪魔との取引』を持ちかけた。すなわちアフガニスタンのタリバンを被告として追加し、アフガニスタン中央銀行が米国内に持つ資産を賠償の源として、米政府がその中から一部を分割することを許すというものだ。この馬鹿げた理由は、多くの米国人にとって受け入れ難いものだ。米政府がなりふり構わずそのようなことをしたのは、内政・外交ともに行き詰まったことの産物」である(CRI時評:2022.2.14)と報じている。

そもそも、アフガンを侵略したのは、テロの“首謀者”?であるサウジの富豪出身のウサマ・ビン・ラディンを“かくまっている”というアフガンにとっての全くの言いがかりであり。米国とNATOはアフガンを占領し、20万人もの人々を虐殺し、社会的インフラを完全に破壊しつくして撤退した。旧ソ連のアフガン侵攻に対抗するためとしてビン・ラディンを利用価値のある「ムジャヒディン」として支援したのは他ならぬ米国である。アフガン人にとっては全くの濡れ衣であった。

ウクライナの危機の目的は、こうした米国のアフガンでの無残な敗北と「強盗」行為から世界の目をそらすことにある。もう一つは、危機を煽って軍産複合体の懐を潤すことにある。落日の「帝国」はなりふり構わぬ。危険なのはでっち上げによる戦争である。そろそろ、「属国」も後先を考えず吠える落日の「帝国」から足を洗う潮時である。野党(れいわを除く)も、くだらないウクライナ国会決議に同調するのではなく、自分の頭で考える時である。

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【投稿】ウクライナ危機の行方

ロシア軍はウクライナ国境近辺に十数万とも言われる部隊を配置し、越境攻撃開始は時間の問題とも言われている。
プーチンはウクライナのNATO加盟断念を獲得目標として、昨年秋以来圧力を強めてきた。
しかし、軍事力という「北風」で「NATO加盟」というマントを脱がせる試みは効を奏さず、緊張は激化の一方を辿っている。
ロシアがウクライナにマントを脱がせるためには経済支援という「太陽」が最も効果的だと、考えられるが現在のロシアでは無理である。
また、アメリカやEUにしても、バイデン次男疑惑にみられる様に、マフィアもどきが経済を支配するような国家への支援、投資は二の足を踏む状況である。
そもそも、ウクライナがNATOやとりわけEU加盟を求めても、アムステルダム条約など人権、人道上の基準をクリアできないと考えられる。

ここで影響力=「太陽」を発揮できそうなのが中国である。中国は「一帯一路」の西端への影響力を拡大するため、ウクライナへの投資を進めている。
両国は戦略的パートナーでもあり、現在は経済関係での連携が主軸であるが、かねてからウクライナから中国への武器、軍事技術の導入は活発であり、今後安全保障分野での協力拡大も可能性がある。
具体的には「上海協力機構」の西方拡大が考えられる。同機構加盟国はユーラシア中心であるが、ベラルーシがオブザーバー加盟をし、トルコも加盟申請をしているように、地理的問題や国内の人権問題は不問とされるので、のウクライナも充分資格があると言えよう。
同機構はNATOのような軍事同盟ではないが、経済協力とともに加盟国、地域の安全保障も重視しており、いわばNATOとEUの機能を兼ね備えた組織とも言える。

同機構に加盟すれば、ウクライナはNATOに加盟せずとも経済、安保支援を得られ、ロシアに対してもワンクッションを置ける。ロシアもNATOの東方拡大を阻止し、間接的な影響力を保持できる。中国はリトアニアなどの関係悪化で躓いた西方への影響力を拡大でき、「三方一両」のようなものだろう。
北京オリンピックに合わせ開催された中露首脳会談で、習近平はプーチンに五輪開催中の開戦は思いとどまるよう要請したと伝えられている。答えは間もなく出るだろうが、今後中国がロシアとの関係も考慮しながら、どの様な動きに出るか注目される。(大阪O)

 

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【投稿】バイデン政権・「世界大戦」の脅し--経済危機論(74)

<<開戦ドラムを打ち鳴らすバイデン>>
2/10、バイデン米大統領はNBCニュースのインタビューで、「ウクライナにいるアメリカ国民に一刻も早く国外に出るよう」呼びかけ、「テロ組織と取引しているわけではない、世界最大の軍隊を相手にしているのだ。事態は急速に悪化する可能性がある。アメリカとロシアが互いに撃ち合い始めたら、それは世界大戦になる。我々はこれまでとは全く異なる世界にいるのだ。」と警告。
イギリスのジョンソン首相も同じ2/10、欧州が「過去数十年で最大の安全保障上の危機」に直面している、と呼応。
翌2/11、サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)

利益相反:バイデン政権が開戦ドラムを打ち鳴らし、ヨーロッパは平和を模索

はホワイトハウスで行った記者会見で、「ロシアは空爆で侵攻を開始する可能性があり、出国が困難になる恐れがあり、ウクライナ国内にいる米国民に対し24─48時間以内に退避するよう」呼び掛け、「侵攻はいつ開始されてもおかしくはない、首都キエフへの奇襲もあり得る」とし、「事実上何の予告もなく、出発を手配するための通信が遮断され、商業輸送が停止される可能性がある」、「五輪閉幕前にも侵攻の可能性」があるとまで発言。
2/12、米国務省は、土曜日の早い段階で、キエフ大使館の約200人、ほぼ全ての米国人スタッフが退去する予定である、と発表している。
こうした一連の発言、報道に対して、ロシアは、一貫してウクライナへの侵攻を繰り返し否定しており、ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は、「ホワイトハウスのヒステリーがこれまで以上に鮮明になった」とし、「アングロサクソンは戦争を必要としている。どんな代償を払ってもだ。挑発、偽情報、脅しは自分たちの問題を解決するための常とう手段だ」と述べている。

これらは、作り出された危機である。ロシア軍がウクライナに侵攻する寸前であるという米英共同の作戦であり、他の欧州諸国が乗ってこない焦りの産物でもある。この作り出された危機によって、ロシアの国境にさらにNATO軍の重装備を一層拡大し、緊張を激化させる口実として使われているのが実態である。
極論すれば、米英のバイデンやジョンソン両首脳は、ロシアに「ウクライナに侵攻してくれ」と懇願しているようなものである。バイデン、ジョンソン、どちらも国内支持基盤が低落の一途をたどり、軍産複合体と石油独占資本にぼろもうけの機会を提供し、緊張を激化させることで、政権批判の矛先をかわそうとしているのである。

肝心の危機に直面しているとされるウクライナ自身がこの間、パニックを煽り、危機を作り出さないでくれ、と一貫して否定し続けているのである。ウクライナのゼレンスキー大統領は、「アメリカのレトリックが危機を生み出しており、ロシアの侵攻の脅威が昨年4月から高まっているとは考えていない」、ロシアの侵攻はまだ「あり得ない」と述べている。キエフ – ウクライナ大統領府のミハイロ・ポドリャク氏は声明で、「状況を率直に評価すると、非エスカレーションのための外交的解決策を見つける可能性は、さらなるエスカレーションの脅威よりもまだかなり高いと言える」と主張している。さらに ウクライナのクレバ外相も、戦争が間近に迫っているというアメリカの予測を「終末論的な予測 」だと一蹴し、「信じるべきではない」と述べている。

<<本音が現れた!>>
2/7に訪米したドイツのショルツ首相と会談した後、バイデン大統領は共同記者会見で、ロシアがウクライナに侵攻すれば、「天然ガスパイプライン・ノルドストリーム(Nord Stream)2はなくなる」、「我々はそれに終止符を打つ 」と発言している。ここに本音が現れている。ドイツはウクライナ危機に対応した軍の派遣も、武器の供給も拒否しているが、ショルツ氏は、ロシアが侵攻した場合、ドイツはパイプラインの「プラグを抜く」のかと問われると、同盟国との結束を強調したが、ドイツと直結するパイプラインに「終止符を打つ 」確約はしなかったし、できなかったのである。
ドイツは天然ガス供給の50%以上をロシアに依存しており、ロシアのバルト海沿岸からドイツ北部に直接つながる海底を走るノルドストリーム2が稼働すればさらにその依存度が高まるであろう。また、ロシアはEU全体のガスの約3分の1を供給しており、石油も約4分の1を供給している。軍事同盟であるNATOは、欧州がロシアのガスに依存していることを「懸念している」と繰り返し述べ、米国は一貫してヨーロッパにこのプロジェクトのキャンセルを要求し、米英石油資本から、ロシアのガスの約4倍の高価格でエネルギー需要に対応することを要求してきたのである。米英は、このノルドストリーム2を破壊

バイデンはガス輸出を促進し、パイプラインの株式で議員を儲けさせる         ヨーロッパへのガス輸出急増でパイプライン株で利益を上げる米国議員

したいのである。

これを裏付ける経済的背景として、だぶつくアメリカの原油生産量が上げられる。米エネルギー情報局(EIA)が発表した2022年1月の短期エネルギー見通しは、米国の原油生産量が2022年に平均1,200万B/D、2023年に1,260万B/Dに増加し、年間過去最高を記録、2023年に日量1240万バレル(bpd)の新記録を達成すると、生産量見通しを上方修正している。
しかし問題は、米国の非在来型石油・ガス生産は、ロシアやOPECの生産能力には到底太刀打ちできないほど、高価格であり、環境破壊型なのである。

西側民主主義の結束の象徴としての軍事同盟・NATOは、実は米英エネルギー独占資本、ならびに軍産複合体の独占的利益追求の道具として使われているのである。いろいろと難癖をつけてきたのであるが、今や、ロシアを競争相手として排除する唯一の方法が、戦争となったわけである。

一方、フランスのマクロン大統領は「今日のロシアの地政学的目的は明らかにウクライナではなく、NATOやEUとの同居ルールを明確にすることだ 」と主張し、米国のシナリオを明確に否定している。モスクワでプーチン大統領と会談したマクロン氏は2/8、「プーチンから紛争をエスカレートさせないという誓約を得ることに成功した」、「私の目的は、ゲームを凍結し、エスカレーションを防ぎ、新しい展望を開くことだった…私にとってこの目的は達成された。」と述べている。

米英が「世界大戦」の瀬戸際にまでエスカレートさせだしたのは、こうしたモスクワとフランスとドイツとの間の対話を頓挫させ、挫折させ、弱体化させようとする明確な意図の産物でもあろう。それはまた、米英の政治的・経済的危機の明確な反映でもある。しかしそれは頓挫せざるを得ないし、させなければならないほど、危険極まりないものである。
(生駒 敬)

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【投稿】菅前政権よりグダグダー岸田首相のコロナ・オミクロン株対策―「防疫」から「医療」への転換を図れ

【投稿】菅前政権よりグダグダー岸田首相のコロナ・オミクロン株対策―「防疫」から「医療」への転換を図れ

                             福井 杉本達也

1 菅政権下のコロナ対策担当者を復帰させる

2月9日付けの日経新聞は「政府は新型コロナウイルスワクチンの3回目接種加速に向け体制を整える。菅義偉政権時代に担当閣僚の河野太郎氏を支えた官僚を堀内詔子ワクチン相のチームに戻し始めた。堀内氏の実動部隊を強化し、首相官邸と省庁横断で連絡を円滑にする狙いがある。」と報じた。実は、現在のワクチン担当者は「10月に発足した岸田文雄政権はワクチン行政を本来担う厚生労働省を軸にする体制に戻した。」というのである。本来の行政の担当部門からすれば厚労省が行うのことが筋ではあるが、あまりというべきか、やっぱりというべきか、厚労省の担当部門が全く機能していないということを暴露したものである。堀内ワクチン相の国会答弁では、“目が泳いでいる”とか、官僚作成の答弁書をひたすら読んでいるとの指摘がなされていたが、厚労省担当部局の能力が全くないのでは堀内氏の“目が泳ぐ”のも仕方がない。

 

2 原則8か月という3回目ワクチン接種時期の大失敗

岸田政権での3回目ワクチン接種時期は当初11月までの段階では、2回目接種から原則8ケ月とし、最も早い医療従事者、次に高齢者から順次行っていくとしていた。それを、11月15日には自治体の判断で6カ月も容認するとした。方針転換したのは、海外で、接種後半年でワクチンの効果が低下し、ブレークスルー感染するとの報告が相次いだことが分かったことによる。高齢者は昨年6~7月頃までには多くの自治体で2回目の接種が終わっており、半年後とは2021年12月~2022年1月頃である。しかし、その後も厚労省は原則8カ月に固執した、2月9日の記者会見で、小池知事は、2021年の年末に、3回目の追加接種を、できるだけ早く始めるよう政府に求めたところ、「それはいかん。みんな足並みを揃えていくんだ」などと言われたとし、厚労省の方針が二転三転したことを明らかにした(FNN:2022.2.8)。結果、免疫が低下した時期がちょうど、オミクロン株の感染拡大期となり、2月上旬の段階でも、感染のピークは見えない。若者から学校・保育園に感染が拡大し、これが家庭を通じて、高齢者施設や病院に持ち込まれると、免疫力が低下した高齢者などが感染し重症化する恐れが強い。岸田首相は今頃になって「100万回接種」実現をと表明したが、3回目接種率5.9%(7日時点)はOECD38カ国中、最下位である。東大先端研の児玉龍彦教授は科学的根拠もなくワクチンの3回目接種・原則8カ月を強硬に唱えた厚労省の担当者は更迭すべきだとしている(「デモクラシータイムス」:2022.2.5)。

 

3 PCR検査の拡大を拒否し、医師が診断せず「みなし陽性」導入という医療崩壊

東京都の2月7日現在のコロナ検査の陽性率は40.1%となった。10人検査すれば4人が陽性ということである。上昌弘医療ガバナンス研究所理事長は「検査の体をなしていません。感染が急拡大し、かつ検査件数が圧倒的に不足しているからです。発表される新規感染者数は実態からは大きく乖離してしまっている。」(『ゲンダイ』2022.2.9)と指摘している。感染者数は発表される人数の数倍に及ぶと思われる。発熱外来もパンクし、検査キットも不足する中、症状が出た人でも重症化リスクの低い若者などは、PCR検査や医師の診察を受けることなく“陽性”と診断する「みなし陽性」を導入した(福井:2022.1.28)。「みなし陽性」を導入した自治体は少なくとも21都道府県に上る。これはどのような症状なのかという医師の診察などを受けずに自ら判断するもので完全なる医療崩壊である。「国民は病気になれば、医療から切り捨てられる」のである。まともな考えの持ち主ならば口が裂けてもこのようなことを口にはできまい。このような重大な事項を「医療現場逼迫、窮余の策」(福井:同上)などと、あたかもそれが正しいことのような見出しをつけて政府の方針を垂れ流すメディアは、もう報道の責任を完全に放棄したといってよい。

 

4 医療圧迫の元凶は厚労省の防疫に著しく偏ったコロナ政策

ついに「大阪府 コロナ 新たに1万1990人感染確認 過去未集計分7625人も」(NHK:2022.2.3)という目を疑うような見出しが躍った。あまりにも膨大な感染者の発生で、感染者の多くはほったらかし、PCR検査や濃厚接触者の追跡どころか、感染者の集計さえできないところまで追い込まれたといえる。維新の橋下―松井―吉村の悪政による大阪市の保健所機能を1か所に集中し、二重行政だとして府・市の検査機能を統合し、市立住吉病院などを廃止したつけが回ってきた結果ではあるが、これに対し、松井大阪市長は「マンパワー不足」と説明し、「100%対応せえと言われても、人材も含め持ってる資源の中では非常に厳しい」と開き直るしまつである。完全に行政の責任を放棄した態度である。

わだ内科クリニックの和田眞紀夫院長は「同じコロナウイルスを相手にしていながら、医療と防疫とでは月とすっぽんほど全く異なる視点でウイルスに対処する。まず対象としている相手は医療では一人の人間であって複数の人間をまとめ治療することなど決してないが、防疫は社会全体を対象としている。コロナ対策の柱であるワクチン、検査、治療薬にしても医療と防疫では全く違った見方をする。」「医療ではその個人の治療のために患者さんを入院させ、病気がよくなれば退院させるが、防疫では感染者を隔離するために感染者を入院させて、その人がほかの人に病気を移さなくなったどうかで退院を決める。すべての人に共通する入院基準とか退院基準などというものは医療の世界ではありえない」。「防疫は未知の新興感染症の侵入とまん延を防ぐために行われるものであり、コロナがすでに日本中で市中感染を起こしていることが明らかになった2年前にその役割を終えるべきものだった。今からでも遅くはない。第6波が収束したら直ちに行うべきことは、防疫に関わる人には退陣していただいて、根詰まりの原因となっている法律の整備に取り掛かることである。おかしなことにいつの間にか防疫の目的が医療の逼迫を回避することに置き代わっているのだが、皮肉なことにその防疫偏重のコロナ政策を続けていることがかえって医療を苦しめている」(医療ガバナンス学会・メールマガジン:2022.2.8)と書いている。各感染症病院に10床や20床の感染症病床を確保し、厚労省→感染研→保健所という戦前―戦後1980年頃までの結核の時代の隔離政策は、エボラ出血熱などの特殊な感染症には適用できるが、オミクロン株のような大規模な感染症には通用しない。もう防疫に特化した感染症対策は終わりにしなければならない。日本のすべての医療資源を活用し、ふつうの病気と同じように健康保険の下で一般医療機関で普通の検査・治療ができる体制の提供を工夫しなければならない。2歳児の実態も把握できず、社会防衛の観点のみから「2歳児にマスク」というばかげた提言しかできない“専門家”は即退陣すべきである。

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【書評】『誰が命を救うのか──原発事故と闘った医師たちの記録』

【書評】『誰が命を救うのか──原発事故と闘った医師たちの記録』
            (鍋島塑峰著、論創社、2020年9月発行、1,800円+税)

 2019年3月9日に放映されたNHKのETV特集『誰が命を救うのか 医師たちの原発事故』を担当したディレクターの記録である。
 2015年NHK福島放送局に異動し、2016年3月、NHKスペシャル『“原発避難”七日間の記録 福島で何が起こっていたのか』の放送に関わり、その後改めて、事故直後に現場に立った医療者の視点で原発事故を記録しようと番組制作に取りかかった著者は、報道されててこなかった話の多さに驚愕する。「病院で酸素を待っている患者がいたのに屋内退避区域に業者が入ってこなかった。ドライバーは入ろうとしていたのだが、本社に止められた」、「寝たきりのおばあちゃんを残して家族が避難した。枕元に水とおにぎりを置いていたのだが、家族が戻ってこないうちに、おばあちゃんが亡くなってしまった」等々。
 そこで可能な限りでの東日本大震災と原発事故についての放射線医学総合研究所、福島県立医大、広島大学、消防庁、DMAT(災害派遣医療チーム)などの記録を読み起こし、当時の緊急被ばく医療に携わった医療者へのインタビューを通じて、「そのとき 何が起こっていたのか」を当事者の目線で記録を残すことを始めたのである。
 この膨大な作業の結果として現れてきたのは、原発事故では「各組織がそれぞれの現場で混ざり合いながら対応に追われていた」、「医師たちの証言から見えてきたのは、いわゆる『原子力安全神話』のもと、十分な体制が整備されてこなかった緊急被ばく医療の実態であった」。
 本書のそれぞれの証言はこのことを裏打ちしている。「一般的な災害現場での活動に関しては精通し、準備をしていながら、原子力災害には備えていなかったDMAT。そして原子力事業所の周辺にまで被害が広がった場合を想定していなかった緊急被ばく医療体制。それぞれの死角が突かれたかたちだった」。
 例えば、原発からの避難指示が出ていた半径20キロの圏内には高齢者を中心とする1000名近くの入院患者・施設入所者や医療スタッフたちがいたが、これらの人々は避難バスに乗せられ長距離移動を余儀なくされた。
 「搬送途中のバス社内の様子を、ある医師が撮影していた。バスのなかに体調の悪い患者がいるため、対応してほしいという連絡を受け、駆けつけたのだった。/撮影された映像委は、布団などにくるまれた高齢者がシートに力なく腰かけている姿が記録されていた。車内に乗り込んだ看護師が、緊迫した声をあげる。
 「こっちこっち、手がはさまっている。手を離して」「おばあちゃんの下にもうひとりいるの」「え、この下に?」「生きてはいるけど埋まってる。次、助ける。待っていて」
 バスのなかの患者は、ほとんど寝たきりの高齢者、自力で体を支えられない人たちがバスで搬送中にシートからずり落ちて、座席の下で折り重なっていた。泡をふいている人もいる。カルテもない。名前もわからない。
 「先生、この人、死んでいる」
 車内を確認したところ、バスのなかでは、すでに二名が亡くなっていた。/医師は救急車両を手配し、心臓マッサージをおこないながら近くの病院に搬送した。
 「こんなことが起こるなんて・・・」
 その他、オフサイトセンター(原子力災害時に現地対策本部が置かれる前線拠点)が有効に機能しなかった事実、3号機爆発後の汚染患者受け入れをめぐる混乱、極限に達した医療従事者のストレス・疲労など深刻な事態が生じたことが記録されている。
 この中で奮闘した医療従事者の方々には頭が下がるが、本書は指摘する。
 「東京電力福島第一原発事故から九年。原子力緊急事態宣言は、二〇二〇年のいまも続いている。/あのとき医療者たちが直面した大きな課題。原子力安全神話のもと、おざなりにされてきた備え、そして一人ひとりが迫られた重い決断──。/その教訓はいま、生かされているのだろうか」。
 そして「未曽有の原発事故によって、多くの不備が露呈した日本の緊急被ばく医療体制。その後、体制は見直されてはきているが、まだ道なかばである。その一方で、各地の原子力発電所は再稼働をはじめている」と。
 つまり国は、電力事業が国民一般の生活の重要な基盤であるがゆえに、事故などで電力の事業所が危殆に瀕した場合には国の主導のもとに国民の生命を守らなければならないのは当たりまえのことである。しかし国はこれについて責任をあいまいにしたままで「事業者責任」という言葉を隠れ蓑にして知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
 このような国の姿勢に対して、ある識者は憤る。
 「たとえば、くだんの放水作戦にしても、今回はたまたま東京消防庁が応じてハイパーレスキュー隊が原発構内で作業に当たりましたが、これは本来、消防の業務ではないんです。問題は、誰がそこを救うのかということを、国がちゃんと決めてこなかったことにあります。そして、じつはいまも決めていない。私はここに、大きな誤りがあると思います」。
 原発を再稼働させる前に、この部分をきちんと決めておかなければならない。しかし懸念は置き去りにされたまま「復興」は進んでいるとされる。将来への警告の書である。(R)

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