Assert Webの更新情報(2021-01-15)

【最近の投稿一覧】
1月15日 【書評】『新危機の20年―プーチン政治史』
1月10日 【投稿】トランプ騒乱と株式市場--経済危機論(37)
1月3日 【投稿】球磨川水系の治水は川辺川ダム建設に頼らずに―自然観の転換と川との共生を
12月31日 【投稿】「暗黒の茶番劇に幕を下ろすとき」--経済危機論(36)
12月30日 【書評】『日本の無戸籍者』
12月22日 【投稿】原発全面停止で切羽詰まった関電:中間貯蔵施設「共用案」で自治体を振り回す
12月14日 【投稿】2020年=世界経済の93%が縮小--経済危機論(35)
12月11日 【投稿】ミサイル防衛の呪縛と新たな軍拡
12月9日 【投稿】大飯原発3,4号設置許可取り消し大阪地裁判決の意義
12月2日 【書評】『戦後日本を問いなおす-日米非対称のダイナミズム』(その2)
11月29日 【書評】『戦後日本を問いなおすー日米非対象のダイナミズム』(その1)
11月25日 【書評】『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』
11月25日 【投稿】深化する経済恐慌と異常な株高--経済危機論(34)
11月25日 【書評】『働くこととフェミニズムー竹中恵美子に学ぶ』
11月21日 【追悼】小野義彦先生 没後30年に思う
11月16日 【投稿】経産省のエネルギー基本計画の物語で動く菅首相の「温室効果ガス50年ゼロ宣言」
11月10日 【投稿】米国国民も世界もまた「涙の道」を通るのかー米大統領選結果
11月9日 【投稿】維新・住民投票連敗が意味するもの--統一戦線論(71)
11月8日 【投稿】米大統領選の結果が示すもの--経済危機論(33)
11月4日 【投稿】新型コロナウイルス感染対策失敗と「大阪市廃止」の住民投票での再否決
10月29日 【書評】『働き方改革の世界史』
10月25日 【書評】『人新世の「資本論」』
10月23日 【書評】『コロナ禍で暴かれた日本医療の盲点』
10月21日 【投稿】福島第一原発の放射能汚染水を海洋放出させてはならない
10月14日 【投稿】混乱・内戦危機まで煽る米政権--経済危機論(32)
10月13日 【投稿】大阪都構想問題が問う民主主義

【archive 情報】
「MG-archive」に「民学同 組織内文書リスト」を追加しました。(12/3)

「MG-archive」に「新時代(機関紙リスト)」を追加しました。(9/2)
「MG-archive」に「デモクラート(機関紙リスト)
」を追加しました。(8/25)

【準備中】
「民学同第2次分裂(B)」「民学同第3次分裂」のページを準備中です。

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【書評】『新危機の20年―プーチン政治史』(下斗米伸夫著 朝日新聞出版)

【書評】『新危機の20年―プーチン政治史』
(下斗米伸夫著 朝日新聞出版 2020年10月 1700円+税)

                            福井 杉本達也

1月11日、米下院議長のペロシは米議会占拠事件にかこつけてトランプ大統領を弾劾訴追するにあたり、 ‘A Complete Tool of Putin, This President Is’ 7 times Putin, Putin, Putin, Putin, Putin, Putin, Putin,(この大統領はプーチンの完全な道具。プーチンはアメリカと世界の民主主義を破壊しようとしている…。プーチン、プーチン、プーチン)と虚偽を繰り返した。あたかも、世界のあらゆる場所で起こった事件はロシアのプーチン大統領に全ての責任があるかのようにである。欧米ではプーチンを独裁者ヒトラーになぞらえ、崩壊したソ連帝国の復活を目指しているとの批判もある。特に米民主党の軍産複合体・金融資本の影響下にある日本のマスコミなどはプーチンのロシアを非民主的な独裁国家と一方的に報道する傾向が強い。例えば1月13日の日経は坂井光論説委員の「プーチン体制という名の怪物」という評論を掲載している。最近の英調査報道機関発表の野党指導者ナワリヌイ氏の“暗殺未遂事件”を巡っての一方的報道などもその典型である。本書は、こうした日本における一面的なロシア観を正すには最適であり、プーチン政権20年の政治史、遡ってソ連邦崩壊からエリツィン時代も含み、「選書」という体裁ではあるが、かなり専門的な本である。

1 ウクライナ・クリミア問題とNATOの東方拡大

ロシアと欧米の関係を決定的に冷却させたのはウクライナ・クリミア問題である。著者は「2008年4月のNATO首脳会談で米国ブッシュ政権が、NATO東方拡大をウクライナやジョージアへ広げることを決めたことが8月のジョージア紛争、14年2月のウクライナ紛争の理由になった…つまり米国はロシアに対し旧ソ連圏でもヘゲモニーを承認することを求めた」。当時、メドベージェフは妥協的であったが、プーチンはこれを拒否した。そして、「多分に米国内政上の理由から拡大したNATOが、しかも『革命の輸出』というかつてのソ連的やり方で、ロシアにとっては譲れないクリミアにまで到達した地点で、ハードなやり方で対抗した。それはユーゴ崩壊、コソボ紛争、ジョージア戦争をへて米国が進めた展開の延長ではあったが、従来とは異なってロシアにとって引き下がれなかった。こうして協調から対抗を含む秩序へと国際社会は変わった」という。ウクライナのマイダンクーデターを担ったのは、米CIAが訓練したネオナチであるが、それを指揮したのがネオコン派のビクトリア・ヌーランドである。「ヌーランド国務次官補は米国ウクライナ協会の講演で、ソ連崩壊後約50億ドルを関係NPOに支払ったと述べている。…クリントン国務長官に近い彼女は同年1月にクッキーを持ってキエフのマイダン派を激励」している。そのヌーランドをバイデン次期政権は国務次官に任命するとしている。マイダンクーデターをホワイトハウスから指揮したのはバイデン副大統領であった。

2 対米関係―トランプ政権のロシア・ゲートとはなんだったのか

著者は「トランプ共和党政権は90年代から米国政界の『超党派的でネオコン・リベラル的な介入主義』コンセンサスがもたらした中東やロシアなどでの対外政策の挫折や隘路を修正し、『国益』に基づいたEUやロシアを含めた対話と『取引』をもたらそうとした。共和党の古い伝統に基づいたバランス外交の復活である。ロシアとの対話復活はその中心でもあった」。しかしトランプのこうした政策は米ロの緊張を緩和するもので、軍産複合体・金融資本にとっては好ましくない。そこで「退任予定のオバマ大統領は大統領選挙に外国政権が関与したとして捜査当局に調査させた。…この結果深刻化したのがロシア・ゲート事件である」「その政治的効果は明確で、就任直後の対ロ打開は国内圧力で挫折」してしまう。結果、2019年12月の『米国家安全保障戦略』において「ロシアが中国と並んで、米国の『国益と価値観の対極にある修正主義勢力』であると位置づけられ」米ロ関係は冷戦終結後最悪となっていると書く。 続きを読む

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【投稿】トランプ騒乱と株式市場--経済危機論(37)

<<自ら、墓穴を掘る>>
1/6、「集会に来てくれ、ワイルドになるぞ!」と自ら呼びかけたワシントンでの「ワイルド・プロテスト」・❝荒々しい❞抗議集会でトランプ大統領は、この集会に引き続く一連の事態の中でまったくそのお粗末な姿を米国内はもちろん、全世界にさらけ出してしまった。ホワイトハウス近くの集会の壇上から、文字通り程度の低いワイルドさで、大統領選の結果を民主党・バイデン氏に最終的に確定する議会を威嚇し、「盗まれた選挙」を取り返すために、議会に行って選挙の手続きに抗議せよと叫び、議事堂への行進を呼びかけ、自らも共に議事堂に向かうことを示唆したのであった。ところが、自らはホワイトハウスに逃げ込み、一方、暴徒と化した参加者がやすやすと議事堂に導き入れられ、審議を中断させ、南軍の旗やトランプの旗を振り回し、上下両院を我が物顔にまるで物見遊山のごとく占拠したのであった。その上、ガラス窓をぶち壊し、備品やパソコン、書類を盗む事態の中で、催涙弾が発射され、死傷者が出だすや、トランプ氏はうろたえる。ホワイトハウスのスタッフがこんなことはやめさせるべきだと助言すると、「彼らを非難したくない」と駄々をこね、結局はツイッターで「平和的な行動を。暴力はなしだ!」「あなたたちが怒っているのは正しい。選挙が盗まれたのです。 しかし、今は家に帰りなさい、私たちはあなたがたを愛しています」とサポーターに呼びかけたのであった。規制を受けるツイッターに代わって、内容検閲なしの保守系SNS・パーラーでトランプ・サポーターに「1/6、ワシントンに向かうすべての愛国者たちよ、武装せよ!」と拡散させ、銃や火炎瓶、こん棒、爆弾まで用意させ、ワイルドな抗議を呼びかけていた本人が、いまさら、何をかいわんや、まったくの恥辱と大失敗の醜態と言えよう。
1/5の南部ジョージア州の決選投票で共和党現職2議員が当初は優勢であったにもかかわらず敗退し、自らの足場であった上院多数支配をも明け渡さざるを得なくなったのも、トランプ氏自身が招いたものであった。トランプ氏の巻き返しは、自ら、墓穴を掘ることによって、あらゆる段階で破綻し、失敗したのである。
1/20のバイデン新政権就任式まで残された日々はわずかであり、トランプ政権居座りのために、就任式ぶち壊し行動や、対イラン、対中国の軍事的威嚇・挑発行為に乗り出すことが懸念されているが、高官が次々と辞任する政権、与党共和党の事実上の分裂という事態の中では、それももはや封じ込められてしまっていると言えよう。 続きを読む

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【投稿】球磨川水系の治水は川辺川ダム建設に頼らずに―自然観の転換と川との共生を

【投稿】球磨川水系の治水は川辺川ダム建設に頼らずに―自然観の転換と川との共生を

                              福井 杉本達也

1 熊本・球磨川支流の川辺川ダム建設再開へ

2020年7月豪雨で氾濫した熊本県・球磨川流域の治水対策として、蒲島郁夫知事は11月19日、球磨川支流の川辺川ダム建設(流水型ダム:下部にある水路から常に放流する。一定量を超える水がダムに入ると水位が自然に上昇し、川の流量を制限することで治水機能を発揮する)を容認すると表明、2008年にダム建設に反対して以来の看板政策であった「ダムによらない治水」を転換した。7月豪雨では65人が死亡、流域で6千戸超が浸水している。今後、国交省と県は流域治水の中心にダムを据えた具体策を検討することとなる。長年止まったままであった大型公共事業が復活するのは異例である(福井:2020.11.20)。川辺川ダムをめぐっては、地元の漁⺠、住⺠は長年にわたり建設に反対し、2001年には球磨川漁協が⼆度にわたって国交省が提⽰した補償案を否決している。2008年には地元・ダム建設予定地の相良村⻑、⼈吉市⻑、県知事が川辺川ダム建設反対を表明し、2009年に国が中⽌を表明していた。

2 川辺川ダムがあれば浸水面積を6割減らせたという国交省の大嘘

10月6日の西日本新聞によると「国⼟交通省九州地⽅整備局は6 ⽇、球磨川流域の氾濫により同県⼈吉市付近であふれ出した⽔量が5200万トンに上るとの推定結果を公表した。併せて、11年前に建設が中⽌された川辺川ダムが 存在した場合のシミュレーションを発表。ダムの貯⽔によって氾濫の⽔量は約 600万トンに抑えられ、同市付近の浸⽔⾯積が6割程度減少するとした。」(2020.10.6)。

しかし、このシミュレーションはダム建設ありきの付け焼刃的に作られたものである。大熊孝新潟大学名誉教授は洪水後の早い段階で「今回の洪⽔位は過去最⼤といって過⾔でない。⾬量や⽔位・流量の変化状況を⾒ると、ほぼ同時刻の7:00頃に全川で急激な⽔位上昇があり、狭窄部下流ほど豪⾬があり、激しい⽔位上昇に⾒舞われている。川辺川ダムがあったとして、そこへの流⼊のピークは五⽊宮園の⽔位から7:00頃であり、その時すでに球磨川本川では上流から下流まで⽔位が急激に上昇し、⼤きな被害を発⽣させていたのである。⼈吉では、4⽇10:00頃に最⾼⽔位に達したようであるが、7:00頃にはすでに河道の流下能⼒約4000㎥/sを超 え、洪⽔流量は5000㎥/sに達し、堤防を越流して、⽔害が発⽣していた。川辺川ダムからの洪⽔流下時間 を考慮すれば、川辺川ダムは存在していたとしても、⽔害軽減にはほとんど役⽴たなかったと考えられる。ダムサイト下流の四浦 で404㎜の降⾬量を記録しており、川辺川ダムサイト下流域の出⽔も⼤きかったと考えられる。」(大熊孝「2020・7・4 球磨川⽔害覚書 −川辺川ダムがあったとして⽔害を防げたか?」2020.7.20)と指摘している。

国交省九州地方整備局の資料:「氾濫を考慮した河道内の再現流量」(2020.10.20)においても、川辺川合流後の球磨川本流:人吉地点で、AM6時には4,600㎥/sを超え、7時には5,000㎥/sを超えており、人吉地点の計画高水流量4,000㎥/sを大幅に超過し氾濫が始まっていたことがわかる。一方、球磨川本流合流地点を2.27km遡った川辺川:柳瀬地点では6時現在で2,600㎥/sであり、3時間後の9時に3,404㎥/sのピークを迎える。検討委員会資料では川辺川ダムがあったと仮定して、4時前後から洪水をダムに貯蔵する計画をたてた。人吉まで流下に2時間かかるとすれば、氾濫する6時に間に合ったのかどうか?しかも、4時前後にはダム予定地点で60.4㎜/時を記録している(国交省九州地方整備局『第2回令和2年7月球磨川豪雨検証委員会 説明資料』:2020.10.6)。ダム操作員はさらに豪雨が酷くなると考えたとしてもおかしくない。4時時点においては洪水をダムに貯留せずに放流を続けた可能性もある。

また、人吉市街で球磨川本流に合流する「山田川からの越水による浸水開始時刻は、証言などから6時頃と想定される。」7時半頃には「山田川からの氾濫水が住宅地へ激しく流入すると共に、球磨川の氾濫開始も確認され、青井阿蘇神社付近等での急激な水位上昇も確認される。」(『検討委員会資料』2020.10.6)。つまり、球磨川本流からの氾濫よりも前に支流である山田川からの氾濫が起きていたのである。山田川は川辺川とは水系が異なる。国交省のウソも極まれりである。国交省は事後的にダム建設に都合の良いように数字を拾い上げ、全ての災害被害を「川辺川ダムがあったら」という話にもっていこうとしているのであるが、時間的にも、地域的にもつじつまがあわない。まさに後出しジャンケンである。

大熊氏は球磨川⽔系の特徴について「⼤きな⽀川としては川辺川、万江川(まえがわ)があるぐらいで、あとは⼩さな川が本川に直⾓に合流する形態をしている。どの⽀川からも同じように洪⽔が本川に流れ込むため、本川では上流から下流まで同時に⽔位が上昇し、同時に最⾼⽔位に達し、その最⾼⽔位は⻑い時間継続する。⼈吉盆地の下流から⼋代の河⼝付近まで、⻑い狭窄部が続く。」(大熊:上記)と書く。もし、流域面積470㎢の川辺川水系よりもさらに広い604㎢の流域面積の球磨川本流上流部において、今回豪雨よりも多い雨が降った場合にはどうなるのか。ダムサイトの豪雨のピークが8時前後だった場合はどうなのか。検討委員会ではそのような議論は一切なされていない。今回のような1965年7月の豪雨をはるかに超え、江戸時代の1669年(寛文9年)の豪雨(青井阿蘇神社の楼門が約1m浸水。死者11人、浸水家屋1432戸)以上の豪雨災害の検討にあたり、わずか3か月で結論を出すというのはあまりにも杜撰である。 続きを読む

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【投稿】「暗黒の茶番劇に幕を下ろすとき」--経済危機論(36)

<<1月5日か、1月6日か>>
12/28付け米タブロイド紙ニューヨーク・ポストは、1面トップにトランプ氏のうつむく写真を掲げ、「Mr. President STOP THE INSANITY」(大統領 狂気を止めなさい)と太文字を配した。同紙社説は、「敗北を受け入れよ」と題して、「暗黒の茶番劇に幕を下ろすときが来た」と断じている。
そしてトランプ氏に対して、来年の1月5日について考えるべきで、1月6日について考えるのをやめなさい、と諭している。1月6日は、上下両院合同会議で選挙人投票の結果が正式承認される日であり、それに異議を唱え、覆そうと呼びかけるのは「非民主的な政変を後押しする行為だ」と厳しく批判、むしろ共和党の将来に重要なのは、同党が上院の過半数を確保できるか否かを左右する1月5日の南部ジョージア州での上院選2議席の決選投票だと強調し、上院選に関心を集中させるべきだと諭している。民主党が両議席を制して上院の過半数を奪回した場合、共和党でのトランプ氏の影響力が消滅してしまう、との警告である。
ジョージア州では現実に、共和党の現職2候補が12/27時点で「投票総数で全般に4ポイントリードしていたが、大統領のおかげで消え去った」と報じられる事態を招いている。1月5日の再選挙結果は、民主党のバイデン新政権にとっても上院過半数をめぐる決定的な重要性を持つことは間違いない。

同社説は、「大統領、あなたが失ったことに腹を立てていることを私たちは理解しています。しかし、この道を進み続けることは破滅的です。私たちはこれをあなたを支持し、あなたを支持した新聞として提供します。あなたがあなたの影響力を固めたいなら、将来の復帰のための準備さえしたいのであれば、あなたはあなたの怒りをより生産的な何かに向けなければなりません。」と結んでいる。
アメリカの主要紙をフェイク報道と断じて購読を停止し、ニューヨーク・ポスト紙を愛読していたトランプ氏にとっては痛撃と言えようが、同紙の言う「狂気の沙汰」に陥っているトランプ氏にはもはや聞く耳もなしであろう。

<<「ワイルド・プロテスト」>>
さらにこういう事態に追い込まれているからこそ、より一層危険で破滅的な、一触即発の挑発行為が危惧されている。警戒を強める国防総省と米軍幹部は、「1月20日の大統領就任式まではどんな命令があるかわらない。その時のための秘密の対応策が作られている」と報じられ、「トランプが民兵組織や親トランプ派の自警団を動員して、政権移行の邪魔をさせたり、首都ワシントンに暴動を引き起こしたりする可能性」、それに乗じた戒厳令導入まで論じられている。実際、大統領恩赦を受けたトランプ政権の最初の国家安全保障担当大統領補佐官を務めたマイケル・フリン氏は、「軍を使って選挙のやり直しを」直接トランプ氏に提案してさえいる。トランプ氏は1月6日にワシントンDCでの「荒々しい」大抗議(’wild’ protest in DC on January 6 )集会への期待ををすでに表明している。危なっかしい思惑がむき出しである。
そして、国内にとどまらず、対イラン、対中国に対する軍事的威嚇・挑発行為は、より一層事態を悪化させ、一気に世界的な危機に拡大させかねない可能性さえある。国内、国外、いずれの危険な道をトランプ氏が選択したとしても、徹底的な孤立化は避けがたいし、それは自滅の選択と言えよう。
これまで「二期目」政権を公言して居座りを画策してきたトランプ政権ではあるが、もはや共和党自体がバイデン新政権誕生を認めざるを得ない事態に追い込まれており、一縷の可能性はあるとはいえ、巻き返しは封じられ、敗退を余儀なくされるであろう。まさに、「暗黒の茶番劇に幕を下ろすときが来た」のである。
トランプ政権がここまで追い込まれたのは、昨年来の経済危機の進行に対して、打つ手が1%の富裕層・大独占資本を優遇する減税と野放しの自由競争原理主義、アメリカンファーストの貿易戦争、社会的セーフティネットの縮小・削減政策でしかなかったこと、これが第一。そして決定的なのは、パンデミック危機に対して無防備な傍観主義で新型コロナウイルスの蔓延を野放しにさせ、経済危機をより一層広範かつ深刻なものとさせたこと、にあったと言えよう。
(生駒 敬)

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【書評】『日本の無戸籍者』(井戸まさえ、2017年、岩波新書、840円+税)

【書評】『日本の無戸籍者』
   (井戸まさえ、2017年、岩波新書、840円+税)

 2020年12月24日(木)産経新聞の記事である。
 「大阪府高石市の民家で9月、住人の高齢女性が餓死していたことが24日、分かった。
女性は40代とみられる息子と2人暮らしで、いずれも無戸籍だった。息子も衰弱し
て一時入院し、『無戸籍だったので助けを求められなかった』などと周囲に話してい
るという。(略)」
 何とも痛ましい事件であるが、本書はこの記事にある「無戸籍」問題を取り上げ、その背景を探る。本書はこう語る。
 「人が生きるうえで必要な権利は、出生に始まり死亡により消滅する。日本人にとってはその権利能力形成を行ない担保するのが、『戸籍』である。
 無戸籍者が存在するということは、まさにその担保にアクセスできない国民がいる、ということだ。かれらの多くは本来持つはずの権利も、それを行使する機会も奪われたまま生きざるを得ない。声をあげることすらおぼつかないため一般の国民より弱い立場に追いやられ、本来保護やケアがより必要な存在であるにもかかわらず、むしろ逆に『行政的にはそもそも存在しない』、福祉の対象外として扱われているのが常である」。
 なぜ無戸籍者が生まれるのか、本書は六つの理由をあげる。
 ①「民法七七二条」が壁となっているケース・・・民法七七二条の摘出推定の規定により、前夫を子の父とすることを避けんがために出生届を出さない/出せないケース。
 ②」「ネグレクト・虐待」が疑われるケース・・・親の住居が定まらなかったり、貧困その他の事情で、出産しても出生届を出すことまで意識が至らないか意図的に登録を避けるケース。
 ③「戸籍制度」そのものに反対して出生届を拒むケース。
 ④「身元不明人」ケース・・・認知症等で家を出てしまい身元の確認ができないケース。
 ⑤戦争・災害で戸籍が減失したケース・・・空襲や津波で戸籍原本と副本がともに破損し、復活ができないケース。
 ⑥天皇および皇族・・・天皇・皇族には戸籍がなく、皇室典範・皇統譜令に定められた「皇統譜」に記される。
 このうち最も問題になるのが、①の「民法七七二条」の摘出推定の規定のケースである。
 「1 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
  2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取り消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。」
 この規定によって生まれた子どもの「父」が誰であるかが推定される。つまり「『父』は国が決める」。
 しかし現代医学では子どもの懐胎期間は最終月経日から40週、懐胎していない2週間を含めて280日を基準としている。予定日に生まれても受胎から266日ということになる。ところがこの規定では300日で、1カ月以上の差がある。つまり極端な場合「離婚して1ヵ月後に別の男性との間に受胎し、出産予定日に生まれた場合、その子は『前夫の子』となる」。
 このケースの場合出生届は「前夫の子」としなければ役所では受け付けてくれず、戸籍で「事実上の父」を「父」とするためには必ず調停・裁判を起こさなければならない。そしてこれは前夫を巻き込んだ調停・裁判となり、DVやその他の理由で前夫とは関わりたくない気持ちを持つ女性にとって、離婚後もなお前夫と関係を持たなければならない状況となる。だからそれを避けんがために出生届を出さない人びとが出て来るのは当然のことと言えよう。
 そしてさらに深刻なことは、このような調停・裁判は年間3000件前後起きているが、そのうち「調停不成立」や「取り下げ」をしたケースが毎年約500件あるという事実である。つまり毎年500人の無戸籍児(者)が出ているということである。これらの人びとは、住民基本台帳への記載拒否から、国民健康保険、児童手当、児童扶養手当、母子健康手帳等の法施策、保育所、就学、生活保護等々の対象から除外される。まさしく無権利状態に置かれることになる。
 この状況に対して無戸籍者を救う運動は一歩一歩ではあるが、進んではいる。しかしその運動の過程で最大の障壁として見えてきたものが、実は現民法のあちこちに密かに隠されている明治民法の「家」制度であったということを本書は指摘する。即ち「戸籍」制度は今なお「家の尊厳」、「氏(うじ)の尊厳」を守る保守派の一大根拠であり、制度に無理が生じていることが明らかになっているにもかかわらず、抜本的改正が行われないままである理由ともなっているのである。
 さらにこの問題は、民法に残されている祭祀(さいし)条項(「墓」の継承権)や天皇と皇族の戸籍問題(現在マスコミをにぎわしている皇族の結婚問題もしかりである)にも深くかかわっている。
 本書は、われわれ日本人にとっては当然すぎると考えられてきた戸籍制度に対して、改めてその存在意義を根本的に問う必要を知らしめる書である。
 なお同著者には、『無戸籍の日本人』(2018年、集英社文庫。原著は2016年)というノンフィクションもある。併せて読まれたい。(R)

(追記)年末の12月28日、2021年度から始まる「第5次男女共同参画基本計画」の案か
 ら「選択的夫婦別氏」という文言が消えた、というニュースが流れた。選択的夫婦別
 姓を盛り込んだ法制審議会の民法改正案の答申から早や4半世紀であるが、いまだに
 自民党保守派の反対があると聞く。ここにも民法の「家」制度にしがみつく古い体質
 が見えている。これについては『日経』でも「制度に反対する自民党保守系議員は『日
 本の伝統が壊れる』というが、同姓制度は1898年の民法制定以来、100年余りの歴史
 しかない」と批判している。

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【投稿】原発全面停止で切羽詰まった関電:中間貯蔵施設「共用案」で自治体を振り回す

【投稿】原発全面停止で切羽詰まった関電:中間貯蔵施設「共用案」で自治体を振り回す

                              福井 杉本達也

1 切羽詰まった関電がぶり返したむつ市使用済み核燃料中間貯蔵施設「共用案」

電事連は12月18日、東京電力と日本原電の専用に建設されたむつ市の使用済み核燃料中間貯蔵施設の「共同利用案」を青森県とむつ市に説明した。森本関電社長はあたかも第三者であるかのように「高い関心があり、積極的に参画したい」と述べ、12月21日に福井県に報告するとしていた。杉本達治福井県知事も了承していた。しかし、関電社長と知事の面談は見送られた。青森県とむつ市の反発が強く、地元理解が得られなかったためである。電事連が説明した際、宮下むつ市長は「むつ市は該のごみ捨て場てはない。全国の燃料を引き受ける必然性はない」と強く反発。三村申吾青森県知事にも「全くの新しい話で、聞き置くだけにする」と突き放された。関電と福井県知事の面談も、こうした経緯から経産省側からのストップがかかったと思われる(福井:2020.12.22)。

関電の使用済み核燃料は保管するプールにたまり続けており、5年後には美浜原発で89%、高浜原発で98%、大飯原発で93%になる。運転開始から40年を超えた原発の再稼働を巡り、福井県からは県外の中間貯蔵施設の候補地を示すよう求められており、その最終期限が2020年12月末であり、関電を支援するのが実質的な狙いであるが、2018年にも同様な案が浮上したが、地元の反発で関電は断念している。今回は、関電単独ではなく、電事連という電力業界全体の意向として「共用案」を提示するものであったが、またまた同様の経緯をたどりそうである。

2 福井県における使用済み核燃料の「県外立地」“計画”の経緯

関電の使用済み核燃料の中間貯蔵施設候補地選定は1997年、福井県の栗田幸雄知事(当時)から「県外立地」を要望されて以来の課題である。特に、福島第一原発事故後、それまで全国すべての原発が停止していたが、民主党・菅直人政権下で、大飯3・4号機のストレステストを実施し、再稼働させようとしたもので、当時の原子力安全・保安院は「妥当」とする審査書を発表、2012年5月、当時の民主党・枝野経産相(現立憲民主党党首)が大飯3,4号機の再起動を福井県に要請、それに応じた西川福井県知事(当時)が「福井県だけで対応する訳にいかない事もある。中間貯蔵施設は消費地を含め痛みを分かち合う事もお願いしなければいけない。」とした。こうしたことを受け、国はアクションプランを作り、関電は2015年に「福井県外で理解活動、可能性調査等を計画的に進め、2020年頃に計画地点を確定」するとした。

大飯3,4号は再稼働後、2013年9月には定期検査で停止したが、2014年5月には福井地裁(樋口英明裁判長)において運転差し止めの仮処分があった。福島第一原発事故後につくった規制委の新規制基準に合格したとして、2017年11月27日、西川知事(当時)は、大飯原発3、4号機の再稼働に同意した際、県外保管施設について「2018年中に具体的な計画地点を示す」と関電は約束していた。2020年には候補地を確保、30年頃操業という計画であった。しかし、回答期限の2018年12月16日に関電は、候補地提示を断念したが、20年に確保の計画には変わりないとした。記者会見で西川知事(当時)は、原発停止などは必要ないとした。この回答期限の直前に、東京電力と日本原電が共同運営するむつ市の施設への相乗りを検討していると報道された。しかし、宮下宗一郎むつ市長が「地元への相談がない」と反発。結局、候補地を示せず、岩根茂樹社長(当時)は福井県に謝罪、「20年を念頭に」と先延ばしした。

2019年には関電役員らによる高浜町元助役からの金品霊問題が発覚し「信頼関係が崩れている」(杉本知事)状況の中、2020年10月、杉本知事は、関電が再稼働を目指す美浜原発3号機(同県美浜町)、高浜原発1、2号機(同県高浜町)計3基の老朽原発に関し、地元同意の「前提」として、年内に候補地を示すよう求め、関電としては後がない状態だった。 続きを読む

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【投稿】2020年=世界経済の93%が縮小--経済危機論(35)

<<「金融の崖の危機」BISの悲惨な警告>>
12/7、世界各国の中央銀行相互の決済を行う組織であるスイスのバーゼルに本拠を置くBIS(Bank for International Settlements、国際決済銀行)は四季報(Quarterly Review)の中で、「新型コロナウイルスの経済的ショックは、現代の平時において経験された最大かつ最も特異な世界的ショックです。これは、パンデミックと同期した封鎖によって引き起こされ、その結果、機能しなくなり、世界的なサプライチェーンが混乱し、総需要が急激に減少し、深刻な景気後退につながりました。」と述べ、「世界的なパンデミックと同期した封鎖によって引き起こされた現在の景気後退は、通常、銀行危機に続くものとは大きく異なります。それでも、銀行のバリュエーションは、金融市場のストレスと景気後退の影響を反映して、圧力を受けています。」、「金融セクターもショックによってストレスを受けています。多くの国で、銀行の株価は2020年の第1四半期に急落し、他の企業の株価よりもさらに下落し、依然として危機前の水準をはるかに下回っています。一部の国では、株価の下落は30%を超えています。」とし、さらに「私たちは危機の流動性から支払能力の段階に移行しています」と警告している。世界各国の金融機関の支払能力そのものが問われるという、深刻な事態への警告である。
この警告の記者会見の中でBIS金融経済局の責任者であるクラウディオ・ボリオ

(Claudio Borio)氏は、「今後さらに破産が予想されるはずですが、過去の基準では信用スプレッドは非常に低く、実際、銀行はリスクの価格設定をより慎重に行っていますが、資本市場では同じことは見られません。」、「見通しはかなり不確実であり、(緩和マネー・ヘリコプターマネーの異常さについて)少なすぎるというよりも、多すぎるという側面」に不安を表明しながらも、それを認めざるを得ない苦渋の立場を吐露している。事態を打開するなすすべを提起できない、その勧告や警告が各国中央銀行や政府によって無視されてきた、それでも金融危機の崖に立ちすくみ、警告せざるを得ないBISの悲惨な警告である。 続きを読む

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【投稿】ミサイル防衛の呪縛と新たな軍拡

新型イージス艦で決着

 菅政権は、新型イージス艦(イージスシステム搭載艦)2隻の建造、長射程ミサイルの開発などを、12月18日の閣議で決定することが明らかとなった。
これとは別に安倍の「遺言」である「敵基地攻撃能力保有」は先送りされたが、「敵基地攻撃能力」を持つ兵器の開発は、菅政権による新たな軍拡の開始である。
今回の決定の柱であるイージス・アショア計画の代替手段としては、①新型イージス艦(建造費約2500億円)②商船規格イージス船(同約2000億)③「海上要塞」(同約2800億)④「海上発射台」(同約2600億)の4案が検討されてきた。
このうち②~④は戦時には標的になるだけで、①の選択を誘導、正当化するための、非現実的オプション、当て馬であった。
しかし、新型イージス艦については当の海自が「現場の負担が重たくなる」として難色を示していた。 続きを読む

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【投稿】大飯原発3,4号設置許可取り消し大阪地裁判決の意義

【投稿】大飯原発3,4号設置許可取り消し大阪地裁判決の意義

                                                                      福井 杉本達也

1 裁判の争点はなんであったか

12 月4日、大阪地裁(森鍵一裁判長)において、大飯原発3、4号機の「基準地震動」が過小評価であるとし、設置許可を取り消せとの判決が出された。

訴訟の最大の争点は「基準地震動」の設定が安全性を担保する適切な値として定められているか、そして、国の規制機関である原子力規制委員会(以下:規制委)がその「基準地震動」を認めるにあたって、適切な審査をしたか否かにあった。国が定めた「地震動審査ガイド」には、基準地震動を定めるにあたって、経験式から導かれる数値は「平均値としての地震規模を与えるものであることから、経験式が有するぱらつきも考慮されている必要がある」と規定している。ところが国の反論では「強震動評価におけるパラメータの重畳の論点に 収れんされる」、「原告が主張するようなパラメータに対して やみくもに重畳して安全側に上乗せした評価となるような評価方法を求めることは,地震学等の科学的,専門技術的知見に基づかない独自の考え方である。」として、標準偏差は考慮したものの、今度は、逆に現行の「不確かさ」の考慮をとり払い、現行より低い 812 ガル(ガルは加速度の単位)にしかならないと主張した。本判決はこうした国の愚論を否定した。地震が過去の平均値で起こるとは限らない。しかし、これまで、すべての原発について「ぱらつき」は考慮されず、したがって、「基準地震動」は過小評価されていた。判決は、この「基準地震動」の過小評価と、それを見過ごした設置許可処分を違法として取消を命じたものである。2011年3月の東京電力福島原発事故以降で、国の設置許可を否定する司法判断は初めてである。

2 原発の「基準地震動」とは

原子炉設置許可基準規則第4条3項(地震による損傷の防⽌)によれば、「耐震重要施設は、その供⽤中に当該耐震重要施設に⼤きな影響を及ぼすおそれがある地震による加速度によって作⽤する地震⼒に対して安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならない。」と書かれている。「基準地震動」は想定される最大級の揺れであり、それに対して重要設備が損傷しないことが設計の前提であるということである。大飯原発の「基準地震動」は原発そばの陸海域を走る3断層の連動などから計算している(福井:2014.10.30)。大飯原発の数キロ以内には長さ60キロ を超える断層(FO‑A~FO‑B~熊川断層)が存在する。これは西日本に多いタイプの活断層、すなわち断層傾斜角が垂直の横ずれ断層である。関電は「入倉・三宅式」の計算によって、基準地震動を最大856ガルと想定している。この最大856ガルは、「入倉・三宅式」で算出した数字に不確定要素を加える目的で1.5倍した数字である。規制委は、この地震動を前提に大飯3、4号機の地震津波対策が十分かどうかの審査をした。

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【書評】『戦後日本を問いなおす-日米非対称のダイナミズム』(その2)

【書評】『戦後日本を問いなおす-日米非対称のダイナミズム』(その2)

      (原彬久著 ちくま新書 2020年9月発行 880円+税)

                              福井 杉本達也

―社会民主党の解党と日米安保-

1 なぜ社会民主党は解党することとなったのか

社民党は11月14日、「東京都内で臨時党大会を開き、立憲民主党に合流するため国会議員や地方組織が党を離れることを容認する議案を可決した」、党には国会議員では福島党首のみが残留し、吉田幹事長ら3人は立憲民主党に合流する見通しである(福井:2020.11.15)。敗戦直後の1945年、戦前の非共産党系の右派の社会民衆党系、中間派の日本労農党系、左派の日本無産党系などが合同して結成された日本社会党(1996年に社会民主党へ改名)の事実上の解党である。

冷戦崩壊後の1993年の細川連立政権への参加は社会党の日米安保、憲法、自衛隊に関する基本姿勢の転換を迫ったが、これまでの外交防衛政策は踏襲するということで合意した。細川・羽田政権崩壊後の1994年の自社さ政権において、社会党の村山富市氏が首班指名され、村山首相は、就任直後の国会演説で、安保条約肯定、原発肯定、自衛隊合憲など、旧来の党路線の180度の変更を一方的に宣言した(後に1994年9月3日開催第61回臨時党大会で追認)。この結果、社会党の求心力は大きく低下した。

著者はそれを「従来の自衛隊『違憲』の方針を『合憲』に変更し、『反安保』を『安保堅持』へと大転換し、かくて『反米』から『親米』へと宗旨替えをします」、「反体制であった左派主導の日本社会党は、政権獲得とともに突然体制側と同一線上に立ったのです。かつての反体制社会党の首相が自衛隊閲兵をするという、およそ想像もできなかったあの光景は、逆に日米非対称システムなる歴史的構築物がいかに牢固なものであるかを示すとともに、戦後日本の構造そのものがこれまたいかに堅牢なるものであるかを表すものでもあります」と表現している。

村山政権成立後の翌年(1995年)、沖縄で米兵による12歳の少女へのレイプ事件が起こった。沖縄県民の怒りは頂点に達し、「日米地位協定」を改定せよとの積年の主張に火がついた。村山首相も「見直し」に意欲をみせ、米国防総省でさえ「見直し」に肯定的だったとされる。しかし、河野洋平外相はじめ外務省はガジガジの現状維持を主張した。これについて著者は「外務省が『現状維持』になるのが問題ではありません」とし、「仮に村山政権が、すなわち政治家である首相・外相があのとき現状変革(地位協定改定)の主導権を、それも歴史的見識と強力な指導力に裏打ちされた外交力を果敢に駆使できたなら、『地位協定改定』は何らかの進展をみたはずです。なぜなら、『不動の地位協定』を変革していく条件があのときほど揃った時期はなかったからです。日本外交の脆弱性はここでも明らかです」と述べ、「政党が保守であろうと革新であろうと、政治家が現実主義者であろうと理想主義者であろうと、彼らが『力不足』の日本外交をどれほど強化してきたかは、極めて疑問であるといわざるをえません。日米非対称システムをこれほどまでに強固かつ長期に延命させた『理由』の一半が、やはり『弱者日本』のなかにあったことは否めない事実です」と書く。

さらに著者は別の個所において、「野党が説得力ある現実的・具体的な安全保障政策をもつことができない」こと、「いつでも政権を獲る態勢にあるべき野党第一党が、国民にとって何よりも重要なこの安全保障政策を明確に提示できないということであれば、同党がそもそも政権担当の能力も使命感もないのだ、と受けとられてもしかたがない」とし、「あたかも自民党政権を助けるかのように、『政権』から遠ざかる方向に進んでしまい」、「大局を見失って多くの小党が再び『わが道』を歩みはじめ」ることに対して、「結局は政権側に“閣外協力”」することになると、厳しい苦言を呈している。 続きを読む

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【書評】『戦後日本を問いなおすー日米非対象のダイナミズム』(その1)

【書評】『戦後日本を問いなおす-日米非対称のダイナミズム』(その1)

       (原彬久著 ちくま新書 2020年9月発行 880円+税)

                             福井 杉本達也

―尖閣問題と安保条約をめぐって-

1 日中間の緊張緩和を主張すべき野党・共産党が緊張を煽る愚

志位和夫日本共産党委員長は、日中外相会談後の共同記者発表(11月24日)における、尖閣諸島をめぐり茂木外相が「中国公船の領海侵入に前向きな行動を求めた」ことに、王毅中国外相が「日本の漁船が敏感な水域に入っている」と反論したこと(日経:2020.11.25)を取り上げ、「驚くべき傲岸(ごうがん)不遜な暴言だ。絶対に許してはならない」とし、続けて「尖閣諸島周辺の緊張と事態の複雑化の最大の原因は、日本が実効支配している領土・領域に対し、力ずくで現状変更をしようとしている中国側にある。この中国側の覇権主義的な行動が一番の問題だ」と指摘。さらには、茂木外相に対しても、何ら反論や批判もしない「極めてだらしない態度だ」とし、また、菅義偉首相も「覇権主義にモノも言えない屈従外交でいいのか」と厳しく批判したとしている(しんぶん『赤旗』2020.11.27)。これはもう右翼顔負けのアジ演説である。中国を一方的に「覇権主義」と決めつけ敵意を煽っているだけである。王外相の訪日は、尖閣問題で冷却している日中関係を正常化するため、「経済面の協力を打ち出して日本に秋波」(日経:上記)を送ってきていることを頭から否定し、日中間の緊張を高める行為以外のなにものでもない。

2 外交は「最悪のシナリオ」も想定して行うもの

共産党の“能天気”なアジ演説に対し、本書は極めて冷徹な分析を試みている。尖閣問題が前面に出て日中関係が冷却化するのは、1978年の日中国交回復時に、「尖閣問題棚上げ」で合意した両国が、民主党・菅直人内閣下における2010年に、中国漁船の海上保安庁の巡視船との衝突事件を契機に始まり、同じく民主党・野田佳彦内閣での2012年9月の「尖閣国有化」で最悪となった。著者は、冷戦後も「広義の日米安保体制ともいうべき日米非対称システムは驚くべき適応力をみせつつ、日本の『対米従属』を“栄養分”にしてその生命力を維持」してきたが、「尖閣問題を抱えたことによって日米安全保障関係は大きく」変わったとする。それまでは「日本が、アメリカとは直接関係のない自国固有の国際紛争を抱えたという経験は」ない。「戦後初めて日本は、あるいは戦争に至るかもしれない『尖閣問題』という名の国際紛争を、それも『領有権』という最も鋭角的な事案をアメリカの問題としてではなく、日本だけの問題として抱えてしまった」という。つまり、「もしに日中間に和解の道を探る外交努力がないなら、『アメリカの事情』ではなくて、『日本の事情』ゆえに日本が武力紛争に巻き込まれる可能性も否定できない」という冷徹な判断である。

外交は「最悪のシナリオ」も想定して行うものである。仮に「尖閣諸島への中国の武力侵害が発生した場合、少なくとも条文上は直ちに(安保条約)第5条が発動」されるとしつつ、「本来条約は多分に政治的なもの」であり、アメリカは「国家の『安全』という死活的利益にかかわる条約であればなおのこと」、「みずからの国益に合致するよう狭めたり広げたり」して行動し、必ずしも日本側の期待どおりには尖閣防衛の行動をとるわけではないとする。 続きを読む

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【書評】『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』

【書評】『ふくしま原発作業員日誌 イチエフの真実、9年間の記録』
  (片山夏子著、2020年2月発行、朝日新聞出版、1,700円+税)

「福島第一では現在、一日4千人の作業員が働いている。廃炉までの道のりはまだ遠い。そして今この瞬間も、福島第一を何とか廃炉にしようとしている作業員がいる」。
 本書の「あとがき」(2020年1月)に述べられているのは、現在もなお続いている福島第一原発の状況である。2011年3月11日に起こった福島第一原発事故は、あたかも収束したかのようにその報道がめっきり少なくなってしまった。しかし本書は、原発事故、それによる汚染、政府・東電による対策、廃炉決定という大きな流れの中にあって、事故直後から9年間にわたって、福島第一の現場で個々の作業員が様々な事情を背負いながら作業を続けてきた思いを届ける。
 その大まかな流れは、本書の目次に象徴的に示されている。「1章 原発作業員になった理由・・・2011年」、「2章 作業員の被ばく隠し・・・2012年」、「3章 途方もない汚染水・・・2013年」、「4章 安全二の次、死傷事故多発・・・2014年」、「5章 作業員のがん発症と労災・・・2015年」、「6章 東電への支援額、天井しらず・・・2016年」、「7章 イチエフでトヨタ式コストダウン・・・2017年」、「8章 進まぬ作業員の被ばく調査・・・2018年」、「9章 終わらない『福島第一原発事故』・・・2019年」である。

 この中で原発事故後の作業員たちの率直な声がある。
 「もちろん、お金のために働いてきた部分もある。でも自分たちが関わったプラント(原発)で事故が起きた。申し訳ないという気持ちがあった」。「初めの頃は線量計も班で一つだけしか使えなかった。危機的な状況を回避するための作業に必死で、被ばくなんて気にしているどころじゃなかった。何とかして目の前の作業を終えようとした」(3章)。
 「ここで生まれ育った人たちが故郷に戻れないのを目の当たりにして、原子力の世界で食ってきた人間として少なからず、責任があると感じている。将来病気になったとしても、自業自得だと思っている。今は事故を収束させなければという思いでいっぱいで、原発を推進したいか、脱原発なのかは考えられない」(同)。

 しかし作業員の現場は過酷の一語に尽きる。2018年8月の話である(8章)。
 「盆休み前も暑かったな!原子炉建屋周りのほか、タンクや水処理関係の作業は、重装備だからきつい。全面マスク、防護服、作業によってはさらにかっぱを着て、綿手袋にゴム手と何重にも重ねる。気温が32度でも、装備を着た分の体感温度を気温にプラス11度で計算するから、軽く40度を超える。汚染した地下水を増やさないように地面を覆ったアスファルトや、タンクの照り返しも強烈」。
 そして末端の作業員は、「原発カースト」について語る。
「元請けに呼ばれると、下請けは馳せ参じる。下請けに所属する作業員は、現場で実際に作業をする、つまり田を耕す百姓。どんどん手当も日当も減り、(田畑を自ら所有しなかった)水?み百姓になっている。今は東電からの発注が少なくて、イチエフ全体の仕事が減って元請けや下請けも苦しい。仕事があるとき、必要とされたときに、そこに行く。そして、仕事が無いときは仕事を失う」(7章)。

 こうした中、東電や政府は恣意的な言葉の言い換えを続けている。曰く「炉心溶融」→「炉心損傷」に、汚染水漏れ「事故」→原子量用語である「事象」に、建屋地下に溜まった高濃度「汚染水」→「滞留水」に言い換えられ、また「冷温停止」が不可能な状態でもあるにもかかわらず「冷温停止状態」という言葉が作り出された(2章)。
 そしてその最たるものが東京五輪招致の最終プレゼンテーションでの、「おもてなし」や「状況はコントロールされている」という言葉である。イチエフをよく知る人は、これを「おもてむき(表向き)」「情報はコントロールされている」と皮肉るが、「それがすっかり仮設住宅にも定着しちゃって、じいちゃんやばあちゃんに『これは表向きの話?』とか『相変わらず、情報はコントロールされているの』と言われたりする。『いつまで汚染水漏れしてるんだい』と聞かれ、わからないと答えたら『俺のおむつ貸そうか』とも・・・」(3章)。笑うに笑えない話である。
 しかしこの福島第一を訪れる見学者が年間約1万組。廃炉作業をしている現場に、毎日のように観光バスで入ることはあまり知られていない。本書はこう指摘する。
 「訪れるのは、国やIAEAなどの国際機関、国内外の報道、県知事や町の幹部、それに地元の人たちなどで現在は年間2万人が見学に訪れている。(2019年)4月に安倍首相が、背広姿で、5年7ヶ月ぶりに福島第一の現場を訪れた記憶はまだ新しかった。見学バスや見学者が通るコースの道は除染されているが、道のすぐ脇が全面か半面マスクに防護服着なくてはならない『イエローゾーン』だったり放射線量が跳ね上がる場所があるというから、それで安全と言っていいのかと思う」(9章)。

 さらに深刻なのは作業員たちをめぐる労働環境と補償の問題である。
 「未曽有の原発事故が起き、作業員の被ばく線量は格段に上がったが、原発事故後の収束に関わった作業員の補償は何もない。2011年12月16日の事故収束宣言までの緊急作業に携わり、一定期間に50mSv(マイクロシーベルト)以上被ばくした場合、東電や国のがん検診が無料で受けられるものの、治療費は出ない。病気で働けなくなったとしても、生活費の補償もない。厚生労働省などによると、原発事故後、福島第一で働いていた作業員のうち24人ががんになったとして、労災を申請。白血病で3人、肺がんで1人、甲状腺がんで2人が労災認定された。6人は不支給がきまり、3人が請求を取り下げ、残る9人はまだ調査中だという」(9章)。
 「また労災認定を発表するたびに厚労省が『被ばくとの因果関係が証明されたわけではない』と繰り返すように、事故前や他原発を含め、これまで原発作業員でがんになったとして裁判を起こし、因果関係を認められて作業員側が勝訴したケースはない」(同)。
 「2020年1月現在も、格納容器内の溶け落ちた核燃料の全容はわからないまま。道半ばと言っても、廃炉までの全工程のどこまで到達したのかも見えてこない。今ここで、この先何十年後になるか終わりの見えぬ作業を考え、作業員の補償の見直しや働き続けられる雇用条件を整えなければ、廃炉はままならない」(同)。

 この悲痛な叫びにも似た記述で本書は終わる。しかし「福島第一では現在、一日4千人の作業員が働いている」。(R) 

 

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【投稿】深化する経済恐慌と異常な株高--経済危機論(34)

<<ニューヨーク株式相場、史上初の3万ドル台>>
11/24のニューヨーク株式相場では、ダウ工業株30種平均が、前日終値比454.97ドル高の3万0046.24ドルで終了、史上初めて3万ドルの大台を記録した。これは、トランプ現政権の必死の抵抗にもかかわらず、バイデン次期米大統領への政権移行作業が動き出し、政治的経済的混乱状況の不透明感が薄れ出したこと、新型コロナウイルスのワクチン開発が進展しだしていることなどを好感して、株価を押し上げた、と報道されている。
日経平均株価もこの間、連日高値を更新し、11/12には、29年ぶりにバブル崩壊後の最高値となる2万5520円に達し、11/18には大幅反落したが、11/25にはさらに上値の2万6581円98銭を記録している。
しかし、日米いずれも実体経済は冷え込み、新型コロナウイルスによるパンデミック危機が進行、新規感染者が過去最多を記録しているそのさなかにこの異常な株高が進行しているのである。

この異常な株高は、金融バブル崩壊寸前のカジノ化した株式市場を象徴するものである。今やこの市場はマネーゲームの賭場と化しており、群がるギャンブラーは各国政府および中央銀行のばらまくヘリコプターマネーがいつまで続くか、それがいつ破綻するか不安と危機感に怯えながらも、カネがカネをうむマネー・ゲームの最大のチャンスとして、このマネーを奪い合い、金融界だけが「好景気」に沸き、金融資本と独占大企業、1%の富裕層は、まさにこの危機を利用して膨大な利益を懐に入れているのである。彼らにとっては、パンデミック様様であろう。

<<二つのアメリカ>>
FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)、日銀といった中央銀行が注ぎ込んだマネーは既におよそ1000兆円をこえると見られ、今や止めることもままならぬ状況の中で、破綻するまで追加資金を投入せざるを得ない事態に直面しているとも言えよう。FRBは2021年には、この量的緩和をさらに2倍にするこことが求められている。そしてまさにこの「異次元」のカネ余り状況が、異常な株高を招いているのである。それはいつ、どこで、また何らかのきっかけで破綻してもおかしくない状況である。
きっかけは、金融市場そのものにもあるが、より重大なのは、深化する経済恐慌によって、実体経済がさらなる冷え込みに落ち込む可能性である。
今現在、米国だけでも1100万人以上がまだ失業中であり、270万人以上の人々が住宅ローンを支払えない状態である。そして数百万人が、家族を養うためにフードバンクに依存せざるを得ない状態である。ダウ3万ドル突破と対比して、何百万もの家族が食糧にさえ事欠く「二つのアメリカ」(There Were Two Americas Today As Dow Struck 30,000)の実態である。

問題は、バイデン政権への移行の前段階、12/31に、トランプ政権下で民主・共和両党の合意が成立せず、CARES法(「コロナウイルス支援・救済・経済保証法」)の延長がなされない場合、2021/1/1には1400万人が失業手当を失い、立ち退きモラトリアムの同時満了で3000万人の賃貸世帯が立ち退きの危険にさらされ、約70億ドルの学生ローンの支払い凍結も解除される、等々、さまざまなモラトリアムが終わり、経済がさらにいっそう危機的な状況に引きずり込まされる可能性があることである。
バイデン政権には、こうした経済危機を打開する根本的政策転換こそが求められている。バイデン氏のこれまでのようなあいまいな中道主義では事態を一層泥沼化させるだけであろう。
(生駒 敬)

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【書評】『働くこととフェミニズムー竹中恵美子に学ぶ』

【書評】『働くこととフェミニズムー竹中恵美子に学ぶ』

フォーラム 労働・社会政策・ジェンダー編 ドメス出版 2020年10月発行 (3,000円+税)

                            福井 杉本達也

竹中恵美子先生の卒寿記念に、先生を囲む市民グループ「フォーラム 労働・社会政策・ジェンダー」の女性たちが共同作業で出版した労作である。本書の扉には、いつものベレー帽のお姿の竹中恵美子先生の写真が掲載されている。若き日の先生はいつも住吉区我孫子の住宅団地からベレー帽姿で自転車に乗られ、大学まで通学されていた。私はもっぱらJR(当時は旧国鉄)杉本町駅を利用していたが、たまに用事で大阪市営地下鉄我孫子駅を利用するときには自転車姿の竹中先生をお見かけすることもあった。先生の授業では、岸本英太郎編の『労働経済論入門』をテキストとして、黒板にチョークで書かれるのであるが、それをノートに書き写すのは大変であった。膨大な文字を書き写しているうちに消されて次に進んでしまうのである。ペンでノートに書き写すより、チョークで書かれるスピードの方が速いのである。その膨大な書き写したノートはもう何年も前にどこかへ行ってしまったのであろう。今は手もとにはない。

本書で、まず目に入ったのは「本当に悔しくて、思いつめて、ドーンセンターの屋上から飛び降りようかと思ったこともあるくらいでです。そんな馬鹿なことをしなくてよかったと思いますけど…大阪の地で、何とか頑張ってきたということは、幸せなことだと、今、本当にそう思っています。でもちょっと、今は淋しいですね。ドーンに入ってきて、壁を見ながら、薄暗く活気がないことが何とも気がかりなことなんです」という非常に重い言葉である。先生は2001年から2007年まで大阪府立女性総合センター(ドーンセンター)で館長をされていた。その時に維新の橋下徹大阪府知事(当時)の「行革」により、「二重行政」だ、大阪府と大阪市に同じような施設はいらないとされ、ドーンセンターも廃止対象施設として矢面にたたされた。女性団体などの必死の抵抗により、なんとか廃止は免れたものの、ドーンセンターは機能を縮小され、2012年度の男女共同参画推進費は07年度の3分の1に、大阪府職員は引き上げられ、DV等に悩む女性のための法律相談や女性医師によるからだの相談なども廃止されてしまった。あの、若き日の活気あふれる姿からは「飛び降りる」ほどに思いつめられていたとは全く想像もつかない。

本書は先生を囲む仲間が先生の女性労働研究、特に「ペイド・ワーク論」、「アンペイド・ワーク論」などの研究成果を元に、それぞれの筆者の専門の立場で書かれているので、全てに触れるわけにもいかないが、北明美氏が第5章で竹中先生の残された課題として、「横断賃率論」に触れられている。「竹中は、『かつて横断賃率論者が取り組み挫折に終わったが、今日こそ』と前置きして、企業の枠を超えた要求の統一→労働の社会的格付と職種別賃率交渉をそれぞれ担う産別労使交渉機関の設置という筋道を想定している。だが、横断賃率論者とその反対者のかつての対立および双方の『挫折』についての現時点での歴史的理論的分析が、研究においても運動においても共有されないまま推移しており、そのことが要求の統一を困難にしているように思われる」と書いている。

そもそも日本には欧米型のような企業の枠をこえた産業別の職種別・熟練度別の賃率といったものがない。生活給あるいは属人的要素の年齢や勤続年数の増大による年功賃金制度が個別企業ごとに形成されてきた。労働者個人は非常に弱い存在であり、単独では資本家と交渉できない存在であり、産業別あるいは職種別の労働組合(企業別ではない)に集まって「コレクティブ・バーゲニング」(集合取引)により労働力という特殊商品を市場取引してできるだけ高い価格を決定するというのが欧米の賃金交渉であり、交渉の結果、一定の標準にしたがって賃金が決められる(スタンダード・レイト)。それを「横断賃率」として日本に紹介したものであるが、「横断」とは企業横断ということであり、日本のガラパゴス的な企業別組合を前提とした名称である。現在、企業別組合にどっぷりとつかっている組合の役職員や一般組合員にとっては「横断」とはなんぞやとなろう。隣の会社とは賃金が違うのが当たり前だという世界にしか住んでいないのだから、ほとんど説明不可能の過去の言葉になってしまった。

労働組合は、あくまでも個別企業の枠をこえて、各企業にわたって共通の問題を統一的にとりあげる組織である。日本の企業別組合は本来的な労働組合と呼べる代物ではなく、「半組合」・英国的表現での「工場委員会」的なものであり、企業特有の問題や職場の特殊問題をとりあげながら、企業内に埋没して終局的に個別資本の労務管理の補助機構に堕してしまう。その企業内労組を外部から「必要以上の左翼理論」、「イデオロギー」によって経営対組合関係の方向に、あるいは政党の下部組織として、強引に持っていこうとしたのが、「横断賃率論の反対者」であったのではないか。

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【追悼】小野義彦先生 没後30年に思う

【追悼】小野義彦先生 没後30年に思う

 1990年11月19日 小野義彦先生が亡くなられた。享年76歳。私にとっては突然の訃報であった。前年に自治労分裂の中、組合を結成し、今後も指導をいただきたいと考えていた頃だった。以来30年の月日が流れた。
 1985年にソ連共産党書記長となったゴルバチョフが、ペレストロイカ改革を進めていた。停滞する社会主義に対して、民主主義的手法で改革を進めようとするペレストロイカに、小野先生も大いに注目しておられた。負の遺産の清算も含めて、新たな社会主義の前進を望まれていたと思う。
 91年秋には保守派によるクーデターが発生し、その後は、ソ連邦崩壊、ソ連共産党の崩壊に至り、理論上も組織上も、大きな転換が求められることとなった。

 以来、何かにつけ「小野先生が生きておられたら、どんな分析をされるだろうか」が、皆の口癖になったように思う。先生の業績や、小野理論の再評価などの重い課題は、私には及ばないことだが、没後30年という節目に、小野先生を偲び、今後の活動の糧としたい。

以下は、「Assert Web」に蓄積している小野先生に関連する文書リンクです。
さらに、1992年に発行された追悼集「資本主義論争と反戦平和の経済学者 追悼 小野義彦とその時代」から、吉村励さんの「小野さんの歩んだ道」を再録させていただく。

また、「知識と労働」No43(1987年11月)に掲載された「『統一戦線と人民戦線』について」を、新たにデータベース化しました。講演テープを起こし、先生による修正・加筆の上、知識と労働誌に掲載されたものです。(佐野秀夫) 続きを読む

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【投稿】経産省のエネルギー基本計画の物語で動く菅首相の「温室効果ガス50年ゼロ宣言」

【投稿】経産省のエネルギー基本計画の物語で動く菅首相の「温室効果ガス50年ゼロ宣言」

                             福井 杉本達也

1 宮城県知事の女川原発2号機再稼働同意

村井嘉浩宮城県知事が、11月11⽇、東北電⼒の⼥川原発2号機の再稼働に同意した。⼥川原発は3.11の震源地に最も近い原発で、地震の揺れと津波で被災、1号機は外部電源を喪失した。福島第一原発のような過酷事故はなんとか免れたものの、安全性には疑問がつきまとう。福島第一と同型の沸騰⽔型軽⽔炉(BWR)であり、何ら福島第一の事故原因の検証が進まない中での再稼働同意である。同意を表明した村井知事は「原発がある限り事故の可能性がある」、「原発事故を教訓として更に高みを目指す。技術革新していく。事故がダメなら乗り物、食べ物も否定される」と支離滅裂の言いわけに終始した。事故時の避難計画の実効性も置き去りのままである。30キロ圏内で暮らす住民は約20万⼈であるが、事故時の避難道路は、昨年の台⾵19号によって冠⽔や⼟砂崩れが相次いでいる。住民の命を預かるべき知事の完全な暴走である。

2 所信表明は「脱炭素社会宣言」ではなく、「原発再稼働宣言」

菅義偉⾸相は10月26日の所信表明演説で、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロとする目標を掲げた。「再生可能エネルギーを最大限導入するとともに、安全最優先で原子力政策を進めることで、安定的なエネルギー供給を確立します。長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します。」と表明した。“挑戦的”な「脱炭素社会宣言」ではなく、“挑戦的”な「原発再稼働宣言」である。日経は早速、社説で「火力発電を減らす場合、すべてを再生可能エネルギーでは補えない。再稼働が進まず老朽化する原子力発電にどこまで頼るのか」(2020.10.27)と再稼働への期待を主張する。世耕弘成参院幹事⻑は「⼆酸化炭素を出さずに⼤量のエネルギー供給ができる電源は原⼦⼒」「原発の再稼働や新しい技術を取り⼊れた原発新設の検討を進めていくことが重要だろう」と強調している。

3 原発ゼロでは「エネルギー基本計画」が成り立たない

「エネルギー基本計画」を21年夏をメドに改定するが、18年7月に閣議決定され現計画は大幅な変更が必要だ。計画では30年度の電源構成について原子力発電を20~22%、太陽光や風力などの再生可能エネルギー22~24%、56%を石炭やLNGなどの火力発電と定めている。しかし、経済産業省は、梶山弘志経済産業相の「まずは今の目標値を達成することが大切だ」との言葉にもあるように、電源構成の大幅な変更には慎重姿勢である。福島第一原発事故以来、各地の原発が停止し、審査の長期化や地元の反対などで再稼働の動きは鈍い。国内総発電量に占める原発の割合は18年度でわずか6%である。一方の再生エネルギーは中国勢の太陽光パネルや欧州勢の風力発電設備などは海外製品ばかりである。「風力は海外メーカーの存在感が圧倒的で、大型部品を欧州から輸送すると60日かかり、コストが高い」(日経:2020.10.14)。「老朽石炭火力を停止」という“掛け声”からは原発再稼働による穴を埋めというストーリーを描いていることは間違いない。しかし、まさか基本計画に原発の割合6%などと書けるわけがない。事故を起こした同型のFRBでもなんでも再稼働させて10%以上の稼働を確保し、エネルギー計画に原発20%を維持したいとしたいのが本音である。 続きを読む

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【投稿】米国国民も世界もまた「涙の道」を通るのかー米大統領選結果

【投稿】米国国民も世界もまた「涙の道」を通るのかー米大統領選結果

                              福井 杉本達也

1 軍産複合体と金融資本に力ずくで潰されたトランプの反乱

11月3日、米大統領選が行われ、7日、民主党のバイデンは勝利宣言を行った。しかし、郵便投票による大量の不正があるとして、トランプ大統領はまだ敗北を認めていない。今後、裁判闘争に持ち込み、まだ結果ははっきり出たわけではないが、事実上のトランプの敗北である。

新聞等によると、得票率はバイデンが7500万票、トランプが7100万票と、実に米国有権者の93%以上?という異常な高投票率であり、米西戦争直後の1900年の共和党:マッキンリーvs民主党:ブライアン(投票率73%)以来の高投票率という。日経によれば、「第 2次世界大戦後の投票率は公民権運動のあった60年代には62%を超ていたが、その後は2000年代に入るまで50 %台が続いていた。」(日経:2020.11.6)としており、「郵便投票の集計が進むにつれ、バイデン氏が票を積み上げ」、トランプに言わせると「魔法のように(リード)が消え始めた」のである。その後、日本のマスコミも評論家も投票率にいっさい触れることはない。19世紀末までに遡るような高投票率が、現在の米国で起こることはありえない。組織的な郵便投票を利用した不正があったことは数字上は明らかである。しかし、それをトランプが証明することは恐らく不可能であろう。

元外務省の孫崎亨氏も鳩山由紀夫氏との対談:「東アジア共同体研究所 UIチャンネル」『米国大統領選挙結果を考察』(2020.11.9)において、①なんの問題もない投票ではなかった。②郵便投票が本人のものであったのかどうなのか。③簡単に不正ができるシステムだったと指摘する。今回の大統領選は米国にとっては非常に重要な選挙であったとし、資金力はバイデンがトランプの4倍を集めている。資金の出どころは、民主党支持者の5ドルや10ドルの資金カンパによるものではなく、裏に米国政治を操る金融資本がついているからである。その証拠として、民主党:予備選のスーパー・チューズデー(3月3日)の前日に有力候補であった中道派のエイミー・クロブシャーとピート・ブティジェッジが撤退表明をして、右派をバイデンに固めたとしている。孫崎氏は選挙の前日に候補者が自ら降りることはあり得ない。裏にディープステイトの圧力があったとしている。

2 投票率の高かった1900年とは米国にとって海外侵略・虐殺開始の年

1898年の米西戦争において、米国はキューバ:ハバナ湾での戦艦メイン号爆破・沈没事件を口実にスペインを攻撃し、結果、キューバなどを占領するとともに、当時、スペインの植民地であったフィリピンにおいても米比戦争を起こし、フィリピンを占領・植民地化した。西部への拡張とアメリカインディアンとの大規模交戦が終了し、軍は新しい土地と敵を望んでいたのである。オリバー・ストーンの『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史 1 二つの世界大戦と原爆投下』( 2013年)によれば、フィリピンではアメリカ軍が抵抗軍の奇襲受けた際、指揮官は「配下の部隊に対し、11歳以上の住民を皆殺しにして島全体を『獣の吠える不毛の地』に変えるように命令した」。また、新聞社の特派員によれば「アメリカ兵の仕打ちには容赦がない。男も女も子供も、囚人も捕虜も、反乱分子の活動家も容疑者も、10歳以上の者は根絶やしにするつもりで殺している・フィリピン人はどのみち犬も同然で…ごみ溜めに棄てるに限るという考えが蔓延しているからだ」と伝えている。12万人もの軍隊を送った米国は、フィリピンを平定するまでに3年半かかり、その間にフィリピンのゲリラ2万人、市民20万人が犠牲となった。 続きを読む

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【投稿】維新・住民投票連敗が意味するもの--統一戦線論(71)

<<右派ポピュリズムの限界>>
11/1の大阪都構想をめぐる住民投票は、今回2回目であり、仕掛ける側の維新幹部からすれば、「絶対に負けるはずのない」、「勝って当然」の闘いであったはずである。
維新は今回、前回は「大阪都構想」に反対だった公明党を抱き込み、たとえ公明支持層がすべて賛成に回らなくても、その2割、3割でも維新側について、賛成票を投じてくれれば楽勝と計算していたのは当然であろう。何しろ前回の得票差は、約1万票である。5千票以上が寝返ってくれれば勝つ、という机上の計算ではその通りであった、と言えよう。
ところが現実は、投票率は前回より4.48ポイント下回る62.35%にとどまりながら、票差は接近するどころか、逆に約1万7000票差に拡大して、再び否決されてしまった。しかも、公明支持層は、朝日新聞出口調査によれば、賛成46%、反対54%で、相当数賛成票に流れたにもかかわらず、この結果である。実質的には、裏取引で増大したはずの賛成票をさらに減少させてしまったのである。
ここに、維新敗因は、右派ポピュリズムの限界を端的に示していると言えよう。その根本は、公務員攻撃と民営化、二重行政の解消、「身を切る覚悟」などと叫びながら、現実には府立病院の閉鎖や保健所の削減など、社会的セーフティネットワークを根本から破壊する、住民の利益に密着しない、地方自治と民主主義を破壊し、独裁主義的・権威主義的な権力集中を図る自由競争原理主義の限界なのである。
そうした右派ポピュリズムからすれば、まどろっこしい地方自治や分権ではなく、権威主義的な権力集中を掲げ、その環境整備のために、政治的上部構造の裏取引で物事はやすやすと進められると踏んだのであろう。維新発足当初はそうした独裁主義的手法が功を奏し、既得権益と既成政治勢力打破を叫び、安倍政権に引き続き菅政権とも改憲策動で連携し、より密接な関係を構築してきた、勝って当たり前だったはずである。しかし、その限界は、住民の、市民の利益に合致し、それに依拠していない、依拠できないところからきているのである。

<<「合理的自立的主体」への依拠>>
前回の住民投票で、なぜ維新の提案が否決されたのかについて、独自の詳細な世論調査や分析を通じて、『維新支持の分析 ポピュリズムか、有権者の合理性か』(有斐閣、2018/12/25発行)の著者・善教将大氏(関西学院大)は、同書の中で、維新支持者の内にある批判的志向性が都構想への賛成を踏みとどまらせたこと、その意味で操作されやすい、疎外された「大衆」ではなく、合理的自立的主体である、と分析されている。

氏は同時に、維新の代表であった橋下徹氏の支持率は、大阪市長就任後低下している現実、高い水準にあったのは大阪府知事期、しかも維新設立前に限定され、2010年末ごろより低下し続け、2014年2月には50%を下回り、ポピュリスティックな支持の調達に成功するどころか、失敗し続けてきた現実を指摘されている。
維新の台頭は、地方レベルの政治における既成政党の機能不全に根差すものであり、大阪都構想に関しては、市民の知識は大きく偏ってはいなかったし、維新支持層であってもそのデメリットの認識があったことを指摘されている。2回目の今回の住民投票はこうした指摘をさらに確認させるものとなったと言えよう。しかも今回は無謀にも、新型コロナ感染危機の真っ只中、大阪が突出して感染拡大している最中に行われたのである。
前回投票前の朝日・読売の世論調査は、賛成の方が10%以上高く、直前には反対が増える、という現象は、二回目の今回と全く共通した現象である。賛成派による活発な活動にもかかわらず、有権者は冷静な判断を下したのであった。
その冷静な判断の下支えとなった反対派の市民団体、多くの党派やグループの多様な活動、大阪都構想のずさんな現実と実体を知らせる情報提供が、維新の野望を打ち砕いたのである。
ひるがえって、野党共闘・統一戦線にとっての、今回の住民投票の重大な教訓は、維新と同じような政治的上部構造における取引や根回しにかまけていたのでは、足元をすくわれてしまう、ということであろう。首相指名投票で、共産党が立憲民主党・枝野氏への一本化に踏み切ったことが、野党共闘への巨大な前進であるかのような幻想は、たとえそれが一歩前進であったとしても、それぞれ10%にも満たない脆弱な野党支持率の現実を直視していない、浮ついた印象を有権者に与えるものと言えよう。市民、有権者の生活に根差した政策、政治の根本的な政策転換を求める多様な統一戦線を一から再構築することこそが求められているのである。
(生駒 敬)

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【投稿】米大統領選の結果が示すもの--経済危機論(33)

<<パンデミック対応の明暗>>
 「危険なほど無能」(ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)、「ヒトラーよりも悪い」(ノーム・チョムスキー)とまで批判されてきたトランプ米大統領、ついに退場せざるを得ない事態に自らを追い込んでしまったと言えよう。トランプ氏は不正選挙・「盗まれた選挙」としてあくまで平和的な権力移譲を拒否し、分断と暴力を煽り、徹底抗戦の構えである。その動きは過小評価も過大評価もすべきではないであろうが、もはや事態を巻き返しはできない段階であろう。
 トランプ氏敗北の最大の要因は、新型コロナウイルスを徹底的に軽視し、感染拡大への対応が、「危険なほど無能」であったばかりか、自ら先頭に立ってパンデミックの「スーパースプレッダー」として行動し、一日に新規感染者が10万人を超えるような事態をもたらしてしまったことにある(11/6には過去最多の12万人6714人)。この感染拡大は、経済危機の拡大と結合したことによって、大量の失業者の増大と、健康保険資格喪失者の増大、感染が疑われても検査・診察、治療さえ受けられない、生活と健康をめぐる格差の拡大、セーフティネットの欠如を以前にもまして赤裸々にアメリカ社会に問題を投げかけたのである。
 本来なら、民主党のバイデン候補は、トランプ氏に大差をつけて圧倒的勝利を獲得できたはずであったが、上院選挙では逆転もできず(50:50の可能性は残されている)、下院選挙でもかろうじて多数派を維持できたに過ぎないのである。ここでも、民主党伸び悩みの最大の要因は、パンデミック危機対応にあったと言えよう。このパンデミック危機のさなかに、民主党主流はあくまでも医療を自由競争原理主義にゆだね、儲け主義本位の医療・製薬・保険・金融産業に媚びを売り、セーフティネットの構築をないがしろにし、バイデン候補自身が国民皆保険としてのメディケアフォーオール(Medicare for All)に反対し続けてきたことにあった。それでもバイデン氏が勝利できたのは、マスク装着と社会的距離を堅持し、対照的にあまりにもトランプ氏がひどかったからであろう。
 問題は、どちらの大統領候補も、パンデミックの時代に包括的なセーフティネットを提唱せず、事実上、最も脆弱な人々を置き去りにしたことにある。

<<「問題は、きわめて明快」>>
 民主党左派のオカシオ・コルテス氏は「問題は、きわめて明快」として、「どのような民主党員が敗北し、どのような民主党員が勝利したかを見ると一目瞭然」であるとして、民主党下院選立候補者のメディケアフォーオール(M4A)に支持か反対かで勝敗がくっきりと別れた対照表を明示している。(November 07, 2020 by Common Dreams

メディケア・フォー・オール(M4A)に賛成か反対か、    選挙の勝敗は

 バイデン氏は、トランプ氏に投票した人々も「愛国者」だとして、融和を図ることを第一義にしようとしているが、問題意識が外れているのである。敗北が歴然としている現段階に至ってもなおトランプ支持者には、投票集計所であるフィラデルフィアコンベンションセンターを武装攻撃せんとしてFBIによって逮捕されている「愛国者」もいるのである。彼らを「彼らは敵ではない。米国人なのだ」「私たちの国を愛する人々」だとして賞賛・迎合することに力点を置けば置くほど、自らの勝利を掘り崩しているのである。
 今回の大統領選で、トランプ氏は意外にも、黒人、ラテン系アメリカ人、LGBTQ、および女性の有権者の支持を、前回よりも相当大きく伸ばしているのである。それは、民主党がこうした人々への政策をないがしろにしてきた裏返しでもある。
 あるミズーリ州の共和党員ジョシュ・ホーリーがツイート(11/4 Josh Hawley @HawleyMO)して、「私たちは今、労働者階級の党です。それが未来です。」と述べ、大きな反響を呼んでいるのはその一つの証左でもあろう。うかうかしていると、2022年には上下両院とも民主党が敗北する事態を迎えよう。
 バイデン氏に問われているのは、パンデミック危機を抑え込み、経済危機を打開するためには、トランプ政権からの根本的政策転換が今決定的に必要、緊急不可欠なこと、ニューディル政策をを明確にすることであろう。
(生駒 敬)

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