Assert Webの更新情報(2025-05-15)

【最近の投稿一覧】
5月15日【投稿】トランプ関税の敗北--経済危機論(163)
5月12日【投稿】印パ戦争と排外主義の罠
5月10日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)
5月4日【投稿】トランプ : 対中国全面禁輸へのエスカレート--経済危機論(162)
5月1日【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)
4月26日
【投稿】トランプ関税:後退と妥協へのディール--経済危機論(161)
4月26日【投稿】 「NEXUS 情報の人類史」を読んで
4月25日【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書
4月22日【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機
4月20日【投稿】反トランプ抗議デモ:全米規模へ拡大
4月13日【投稿】トランプ関税の混迷--経済危機論(160)
4月10日【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう
4月6日【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)
4月1日【投稿】「ヤルタ2.0」
3月30日【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)
3月19日【投稿】プーチン・トランプ電話会談、デタントへの前進と障碍
3月11日【投稿】トランプ関税:株価暴落を加速--経済危機論(157)
3月6日【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)
3月3日【投稿】トランプ・ゼレンスキー会談の決裂
3月2日【投稿】トランプ:対ウクライナで「平和」、対イスラエルで戦争拡大
2月26日【投稿】トランプ路線、拒否するEUの混迷
2月22日【投稿】西欧の敗北
2月16日【投稿】米ロ会談:軍事対決から外交への転換点
2月11日【投稿】内政干渉・政府転覆組織:米国際開発庁(USAID)の閉鎖と日本への影響
2月8日【投稿】トランプ:米軍ガザ「占領」のドタバタ
2月5日【投稿】「デープシーク(DeepSeek)ショック」
2月2日【投稿】トランプ政権:関税戦争の開始--経済危機論(155)
2月2日【投稿】トランプの「パリ協定」脱退とグローバル・サウス
1月31日【投稿】レーガン空港・航空機墜落事故とトランプ政権

1月22日【投稿】「帝国」再建に挑む:トランプ政権--経済危機論(154)
1月22日【書評】『反米の選択―トランプ再来で増大する“従属”のコスト』大西広著
1月18日【書評】『失われた1100兆円を奪還せよ』吉田繁治著
1月16日【投稿】ガザ和平:イスラエルとハマスの停戦合意
1月9日 【投稿】「米国の友人になることは致命的である」―バイデン大統領による日本製鉄のUSスチール買収阻止―
1月5日 【投稿】“歴史の教訓に学ばぬ”「エネルギー基本計画」改定案という作文
1月5日 【翻訳】中国は、U.S. Steel 買収商談が揺らぐことを望んでいる
12月31日【投稿】移民排除:トランプ陣営、亀裂拡大--経済危機論(153)
12月25日【投稿】トランプ次期政権の失速と破綻--経済危機論(152)
12月17日【投稿】韓国戒厳令と尹大統領の弾劾―そして属国日本は
12月15日【投稿】中東危機:米・イスラエル、イラン核施設攻撃へのエスカレート
11月22日【投稿】バイデン政権、退任直前の危険な世界戦争拡大への挑発
11月18日【投稿】「103万円の壁」と国民負担率の考え方
11月10日【投稿】トランプ勝利と日本の針路
11月6日 【投稿】米大統領選:バイデン/ハリス政権の敗北
10月30日【投稿】総選挙結果について(福井の事例を含め)
10月29日【投稿】衆院選:自公政権の大敗と流動化
10月29日【投稿】総選挙結果について
10月27日【書評】『大阪市立大学同級生が見た連合赤軍 森恒夫の実像』
10月23日【投稿】戦争挑発拡大と米大統領選--経済危機論(151)
10月12日【投稿】被団協・ノーベル平和賞受賞 vs. 石破首相「核共有」
10月2日【投稿】米/イスラエル:中東全面戦争への共謀--経済危機論(150)

【archive 情報】
2023年5月1日
「MG-archive」に新しい頁を追加しました。
民学同第3次分裂

2023年4月1日
「MG-archive」に以下のページを追加しました。
(<民学同第2次分裂について>のページに、以下の2項目を追加。
(B)「分裂大会強行」 → 統一会議結成へ
(C)再建12回大会開催 → 中央委員会確立

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【投稿】トランプ関税の敗北--経済危機論(163)

<<4/2「解放の日」から、5/12「降伏の日」へ>>
5/12、スイスのジュネーブで「経済貿易協議」を行った米中両国が、相互に課している追加関税を、115%引き下げることで合意した、との共同声明を発表した。それによると、米側は91%の追加関税を撤廃し、中国側もこれに応じて91%の対抗関税を撤廃。また、米側は「相互関税」のうち24%を一時停止し、中国側もこれに応じて対抗関税のうち24%を一時停止することが確約されたのであった。これによって、米国の対中関税は145%から30%に、中国の対米関税は125%から10%となる。115%のうち、24%分は90日間の一時的な停止。残る91%分は取り消される。
両国は経済貿易協議の枠組みをつくり、今後、協議を継続することでも合意。交渉に当たったベッセント米財務長官は「米中のデカップリング(切り離し)は望んでいない」と話し、中国側の何立峰副首相は「さらなる相違の解消と協力の深化のための基礎を築いた」とそれぞれ成果を強調した。

5/13、中国側は、「今回の会談によって、今後の交渉の基礎が固められ、前提条件が明確になり、環境が整えられた。これは良いスタートだが、根本的な問題解決のためには、米側が一方的な追加関税という誤ったやり方を徹底的に是正し、互恵協力を絶えず強化し、中国側と共に今年1月17日の両国首脳電話会談における重要な共通認識を積極的に実行に移し、相互開放、継続的な意思疎通、協力、相互尊重の精神に基づき、取り組みを継続していくことが必要だ。」(「人民網」2025年5月13日)と、明確な釘を刺している。

4/2の得手勝手な「解放記念日」にトランプ氏が発表した世界各国に課した一方的な「相互関税」(対中国34%)の貿易・関税戦争開始に引き続き、4/7に、トランプ大統領自身が、「米国に報復する国は、当初設定された関税に加えて、直ちに新たな大幅に高い関税を課されるという私の警告にしたがって、中国が明日 2025 年 4 月 8 日までに、既に長期的貿易濫用に対する 34% の増税を撤回しない場合、米国は 4 月 9 日より中国に対して 50% の追加関税を課します。さらに、中国が要求している米国との会談に関するすべての協議は終了されます。」と宣言し、中国への関税、125%への即時引き上げ、協議打ち切りを宣言したのであった。いったい、この145%にも達する大上段な関税の脅しは何だったのであろうか。

5/12は、4/2の「解放の日」から一転して「降伏の日」となってしまったのである。自称「関税男」のトランプ氏は、

大統領はアダム・スミスとの貿易戦争を開始した。そして敗北した

排外主義的なMAGA急進・強気派の淡い期待をさえ裏切る形と速度で、一カ月余りで、いわば早々に「屈服」してしまったのである。

 

5/12のウォールストリートジャーナル紙の社説は「トランプ大関税の撤廃 大統領はアダム・スミスとの貿易戦争を開始した。そして敗北した」と断言している。

<<「トラック運転手と港湾労働者」>>
5/14、ワシントン・ポスト紙は、トランプ大統領は、関税が米国および世界経済を崩壊させ、米国の中小企業経営者の生産コストを押し上げていることにはほとんど無関心であった、中国製部品の箱を開けただけで、5,649ドルの注文に8,752ドルの請求書が加算される事業主たちの苦境にも無関心であった、と報じている。145%の関税を30%に引き下げた動機は、企業経営者の怒りではなかった。匿名の情報筋はワシントン・ポスト紙に、「主な論拠は、これがトランプ大統領の支持者、つまりトランプ陣営に打撃を与え始めているということであった」と語った。トランプ大統領の運命を決定づけたのは、トラック運転手と港湾労働者だった。匿名の情報筋2人によると、ホワイトハウスのスージー・ワイルズ首席補佐官、ベッセント財務長官、その他の側近がトランプ大統領に対し、自身の有権者も関税の脅威を感じていると述べたことで状況は一変したのだという。これはまずい、自らの存在価値が否定されようとしている、と感じたのであろう。

 もちろん、こうした状況の一変、事態の急変もトランプ氏お得意の「ディール」、「取引」、一時的姿勢の変化に過ぎないという可能性もある。しかしともかくも、トランプ氏が課した145%の関税が少なくとも90日間は30%に引き下げられた、そうせざるを得なかった、後退と屈服を余儀なくされたのである。大統領就任以来の、初めての明確な「敗北」と言えよう。今や全世界は、トランプ氏が関税政策でやってきた、一貫性も論理性もなく、脆さと弱さ、完全な混乱状態に陥った現実を直視している、直視できる事態の変化をもたらしたのである。

そして、トランプ氏の関税は単に失敗、敗北しただけではない。あれだけ強気な口調で語っていたにもかかわらず、現実が目の前に突きつけられると、トランプ氏は、あるいはお追従に取り囲まれたトランプ政権は、全く無力な実態をさらけ出し、中小企業は倒産し、家族経営の農場は競売にかけられ、企業は転嫁できない原材料費の重圧に押しつぶされ、米国に実質的な損害を与え、消費者に打撃を与え、輸出業者を圧迫し、雇用を大幅に喪失させ、インフレを煽り、総じて経済的危機を激的に深化させてしまったのである。「トラック運転手と港湾労働者」は、まさにその危機の前面に立たされていたのである。この危機に対処できないトランプ政権、トランプ氏自身にとっても、取り返しのつかない、まさに虚勢ばかりが目立つ「張り子の虎」である実態を露呈させてしまったのである。

対する中国は、少なくとも10年前から市場戦略をアジア、ASEAN諸国、そして世界最大の自由貿易協定である東アジア地域包括的経済連携(R-CEP)の市場へと転換を推し進めてきており、その加盟国は世界のGDPの約30%を占めている。取引は現地通貨、人民元などあらゆる通貨で行われ、対米貿易の比重はまだまだ重要な位置を占めているとはいえ、米ドルの比重はどんどん下がりつつある。そしてロシアと共に、BRICS諸国とグローバル・サウス(主にBRICS諸国と約10カ国の準加盟国から構成)への貿易拡大に注力し、その市場は世界人口の約85%、世界GDPの約40%を占めるに至っている。トランプ関税は、この現実にこそ屈服したのだ、と言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】印パ戦争と排外主義の罠

<<「完全かつ即時の停戦」>>
インド占領地カシミールのパハルガムの観光客をパキスタンを拠点とするイスラム過激派テロ組織「抵抗戦線(TRF)」が襲撃したのが4/22であった。犯行声明ではカシミール地域に「8万5千人以上の部外者」が定住し、「人口構成の変化」が起きていることへの不満が表明されていた、と報道されている。この襲撃で、ヒンドゥー教徒観光客25人と ガイドで地元のイスラム教徒が重武装したテロリストに立ち向かい死亡した。
この事件から2週間以上経過した5/7未明、インド政府は、「シンドゥール作戦」なる大規模な軍事報復作戦を開始、自国領内からのパキスタン領内へのミサイル攻撃について、「集中的かつ慎重で、エスカレートしない」「標的の選定と実行方法において、相当の自制を示している」「パキスタン軍の施設は標的ではない」と政府声明で述べ、パキスタン領土内9か所を爆撃。ラジナート・シン国防相は、少なくとも100人のテロリストが死亡したと主張している。
対して、パキスタンは「ブニャン・アル・マルス作戦」を開始し、インドの軍事目標に対する攻撃を開始、インド軍の航空機6機を撃墜したと発表。インドは戦闘機3機を失ったことを認め、他の2機は「墜落」したと発表。
インドは当初、テロリストの拠点のみを標的とするとしていたが、パキスタンによる反撃、プーンチのグルドワラとモスクへの攻撃により、攻撃範囲は拡大、パキスタンの奥地に位置するパンジャブ州にまで攻撃を拡大、戦線も海上を含め拡大。もはや国境での小競り合いではなく、危険な全面戦争直前の事態へとエスカレートさせてしまった。そして、両国は核兵器の保有量はほぼ互角で、それぞれ約180発の核弾頭を保有している、核戦争への危険性さえ現実化され出したのであった。

ここに至るまでに明らかなことは、発端となったテロ事件そのものについて、インド政府は、第三者、あるいはそれ以上の当事者の関与も得て共同調査を行い、犯人を特定し訴追することを追求、主張する代わりに、パキスタンへの一方的な軍事的報復攻撃という手段を選択したことである。その意味においては、テロリストの罠に落ち、テロリストは目的を達成したのである。

 5/10、トランプ米大統領は、Truth Socialで、「米国の仲介による長時間にわたる協議を経て、インドとパキスタンが完全かつ即時の停戦に合意したことを喜んで発表します。両国が常識と優れた情報に基づいて行動したことを祝福します。この問題への関心に感謝いたします!」と発表した。
この発表直後、インド外務省は、両国の軍事作戦責任者が、パキスタン側主導による電話会談で、すべての敵対行為を停止することで合意したと発表。パキスタンのイシャク・ダール外相も、「パキスタンとインドは即時停戦に合意した」と発表。インド外務省によると、インドとパキスタンの停戦は5/10土曜日の現地時間午後5時に開始された。
 続いて、トランプ氏のTruth Socialへの投稿から約25分後、ルビオ米国務長官は、48時間にも及んだインド、パキスタン首脳陣との会談・協議を明かし、Xに次のように投稿した。
「過去48時間にわたり、@VP Vance氏と私は、ナレンドラ・モディ首相とシェバズ・シャリフ首相、スブラマニアン・ジャイシャンカル外務大臣、アシム・ムニル陸軍参謀総長、アジット・ドヴァル国家安全保障顧問とアシム・マリク国家安全保障顧問を含む、インドとパキスタンの高官らと協議を行ってきた。
インドとパキスタン両政府が即時停戦に合意し、中立的な場所で幅広い問題に関する協議を開始することを発表できることを嬉しく思う。
モディ首相とシャリフ首相が平和への道を選んだ賢明さ、慎重さ、そして政治手腕を称賛します。」

<<「核の狂気のダンス」>>
ところが、である。停戦開始の数時間後には、ミサイル攻撃と報復攻撃の報告が相次ぎ、停戦違反で両国が互いを非難しあう事態である。
 インド外務長官のヴィクラム・ミスリ氏は、5/10遅くにパキスタンが協定に「繰り返し違反した」と非難、「私たちはパキスタンに、これらの違反に対処し、深刻さと責任をもって状況に対処するための適切な措置を講じるよう呼びかける」とニューデリーでの記者会見で述べ、インド軍は「国境侵入」に対して「報復」していると発表。
対してパキスタンの外務省も、インド軍が停戦違反を開始したと非難。パキスタンは複数のミサイルを迎撃し反撃したと報告している。シェバズ・シャリフ首相は軍高官を招集し、更なる行動が差し迫っている可能性を示唆。核監視機関の関与も含め、高まる緊張への対応としてあらゆる戦略的選択肢を検討していることまで示唆。パキスタンの核兵器を統括する国家指揮当局は緊急会合を招集した、と報道されている。

パキスタンのイスラマバードにあるイスラム教と脱植民地化研究センターの所長であり、法学、宗教学、国際政治学を教えているジュナイド・S・アフマド教授は、ミドル・イースト・モニター紙(May 7, 2025)に寄稿し、「気をそらす芸術:戦争の太鼓、独裁政権、そして核の狂気のダンス」(The art of distraction: War drums, dictatorships, and the dance of nuclear madness)と題して、次のように断言している。
「懸念されていたことが現実になった。インドはパキスタンの奥深くに軍事攻撃を開始し、イスラマバードは報復措置を取ったと主張している。そのきっかけは? インド占領下のカシミールで1週間以上前に発生したテロ攻撃だ。インド政府は、具体的な証拠を提示することなく、ただ民族主義的な熱狂に付きものの絶対的な確信だけを示し、科学捜査は行わなかった。パキスタンは、この攻撃を非難し、いかなる調査にも協力すると約束したが、調査は無視されることは重々承知の上だった。」「しかし、この芝居がかったミサイル攻撃と民族主義的な行動の背後には、誇示の裏には、はるかに冷笑的な現実が潜んでいる。これは文明やイデオロギーの突発的な衝突などではなく、戦争の有用性を勝利ではなく陽動作戦に見出した二つの政権による、冷徹に計算された策略なのだ。国内危機、揺らぐ正当性、高まる国民の怒りにそれぞれ悩まされている二つの政府は、権威主義の教科書に出てくる最も古臭い手段に頼った。国境に火を放ち、国内の炎をかき消すのだ。」

 インドの歴史家、編集者、ジャーナリストであるヴィジェイ・プラシャドは、ほぼすべての労働組合連合を束ねる労働組合共同プラットフォームがデリーで会合を開き、最低賃金の引き上げと固定労働時間の引き上げ、そして政府の反労働者政策の撤回を求めて、2025年5月20日に全国ゼネストを実施すると発表していること、「何億人ものインドの労働者が5月20日にストライキを行う準備ができている。」ことを報告している。彼は、印パ戦争について
1. インドはパキスタンの都市への空爆において、米国の対テロ戦争の戦略を踏襲し、「精密攻撃」という言葉を全面に押し出したが、このようなアプローチからは何の良いことも生まれない。
2. 民間人を危険にさらし、殺害するさらなる発砲は絶対に中止すべきである。
3. インドとパキスタン間の全面戦争へのエスカレーションは誰の助けにもならず、特にカシミール人にとっては助けにはならない。
と表明している。

世界中の戦争と平和をめぐる危険な様相に、この印パ戦争が深く絡み合う事態の進展である。その根底には、移民や難民、異民族を排除する民族至上主義、宗教原理主義と融合した差別的な排外主義の横行が指摘されるべきであろう。トランプ政権の白人至上主義、移民排斥路線とも重なり合う排外主義である。この排外主義の罠と闘う、そして危険極まりない「核の狂気のダンス」と闘うことが要請されている。
(生駒 敬)

 

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【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)

【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(後編)

The Japan Times Weekend、   April 5-6, 2025
“ Why rice prices keep rising ?“
  by Alex K.T. Martin, Staff Writer
 
「何故に米価は上がり続けているのであろうか ? 」
It’s clear that agriculture is on the brink of change — or rather,
it wouldn’t be an exaggeration to say it’s facing extinction..
[ 農業は、変遷の瀬戸際にある。むしろ、それは消滅に直面していると言っても
誇張ではないであろう。]

Rural Decline [農村の衰退]
 米の消費の低迷、農家の減少、気候変動による不安定な収穫量や農地面積の縮小施策(減反政策)による打撃等の要因の縺れ、絡まった網が日本の米問題となっている。1962年(昭和37年)の 118.3Kg/人のピーク以来、米の消費量は減少し続けて来ている。2022年までに、それは 50.8Kg/人まで落ちた。同時に米作農家世帯も、JAによれば、1970年(昭和45年)の446万から2020年には、およそ 70万世帯に着実に減じてきている。同じように、米の生産量も 1970年の 1,253万トンから、2024年の 679万トンに滑るように低下している。山が多い日本において、平地は少なく米作は小さめの田圃―およそ 0.3 ~ 0.5 ヘクタール―に適した中型の農耕機械を使用する。対照的にアメリカにおける米作では、より広い耕作地―しばしばおよそ 10 ヘクタール―にて行われ、種は直接飛行機より蒔かれる。これらのことは、農耕方法の重要な違いで効率上のはっきりした格差となっている。
 市場調査会社の帝国データバンクによれば、米価の上昇にもかかわらず、米作事業において、2024年に事業の失敗事例が 42件あった(倒産 6件、中止や閉鎖が36件)。米作は長い間利益を生んできていない。インフレ、円安と輸入品のコストアップにより悪化した要因によっても。 昨今の米不足は、JAによるコメ農家への前払いの申し出に拍車をかけている一方で、米耕作者の中には、苗床をも作れず、ましてや来年の為のトラクターのような欠くことのできない農耕器具を調達する余裕もない。 日本総研のマクロ経済学の研究員である後藤俊平氏は述べている。「将来に渡り米生産は、持続するだろうか否か関心事である ― 減反政策を再考する時かもしれない。」
 1971年 (昭和46年) 以来、政府は米の過剰供給と価格低下を防ぐ為に年間生産目標を設定して、地域ごとに割り振ってきている。この施策は 2018年に廃止されたが、政府は今なお生産ガイドラインを示し米から他の作物に転換するよう助成金を出している。「米耕作者の数が減少しているので、生産量を維持するために耕作方法を改良する必要がある。これには、機械化、大規模農法 又は少ない耕作者(作業者)にて生産できる方法等が含まれる。」と後藤氏は述べ、さらに続けて「国内需要の減少故に生産をも削減するやり方に代わって、輸出することも考慮して生産に注力する方が良い。」と。

Peasant Uprising [農民一揆]
 東京で桜が咲いていた先週土曜日(3月29日)農民がデモのために集まった。彼らはこれを「令和の農民一揆」と呼び、歴史的米価の急上昇にもかかわらず耕作(生産)現場の状況は改善されていない実情を問題提起するために約 3,200人が参加して30台のトラクターを伴って表参道―原宿を行進した。 デモの組織委員長で山形県の農家でもある菅野義秀さんは、青山公園での演説で述べた。「農家は日本の村より消えて行っている。農民がかって育てた作物は、なくなってしまい、今や村そのものが消滅の淵に立たされている。農業は変化の瀬戸際にあることは明白である。いや、むしろ消滅に直面していると言っても過言ではないであろう。もし我々が何もしなければ、一番影響を受けるのは我々農民ではなくて、消費者なのであろう。」と。

 先週、東京の台東区のスーパーで、新潟産コシヒカリの5Kg入りパックは、税前価格で\4,690で売られていた。近くに積まれていた秋田県産のアキタコマチは、\4,490の値段だった。政府の放出備蓄米は、まだ米棚に見られなかった。買い物客の40歳台と思しき井上貴子さんは言った。「これは、びっくりするほどの高値ではないですか? 以前は安すぎ、今は高すぎると思います。」
 米の流通販売網のアナリストであり大阪で自らも米穀店を営んでいる常本ひろし氏は述べている。「スーパーは、長らく安い米を客引きの一手段として利用してきた。たとえそれが、損を出して売ることを意味していても。これら低価格の米に、なじみ慣れ切ったお客/消費者は、この問題に寄与し、一因となってきている。結果として、多くの農家は利益を上げることが出来ずに農作業を辞めてしまっている。」 昨今の米価の急上昇は、生産者(米農家)にとって、恩恵となりうるであろう。もし適切なバランスが保たれれば。
常本氏は言う。「もし、消費者が 5Kgの米を、例えば \ 3,000.-で受け入れるならば、我々は多くの農家が、少しの利益を得ることが出来る、と判断できるかも知れない。より重要なのは、消費者が考え方、ものの見方を変える必要があり、食卓に登る食物を作る農家に協力的になることだ。」と。

 前出の新潟の米農家桜井さんは、米価の値上がりで、彼の収入は増えている。しかし同様に肥料のコストも上っている。生産コストが高止まりしている時に、備蓄米の放出や他の要因で米価が押し下げられれば、「米作りを止めた、と叫ぶ農家がたくさん出ると思う。」と。そして「コシヒカリ」―全国津々浦々に知られているプレミアム付き短粒種の米―を育てている一農家として桜井さんは、消費者がこの切望された品種の栽培されるに至るまでの努力と時間を忘れているのでは、と心配している。「米価は、全国的に急上昇している。新潟の誇るプレミアムブランド米ではあるが、他の品種の米とほとんど差にないレベルの価格帯で売られている。」
 桜井さんは、そのことを銀座の高級デパート「三越」に買い物に行く客が、結局は、ブランド品よりは安い大量生産された品物を買うことに行きつく例になぞらえている。「厳しくて無情なことであるが、それが現実に起こっていることです。 米が足りていないのです。人々は米を欲しくてたまらないので、どんなコメでも買うであろう。」
[ 完]  (訳:芋森)

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【投稿】トランプ : 対中国全面禁輸へのエスカレート--経済危機論(162)

<<「いかなる形態においても、取引は禁止」>>
5/1、トランプ米大統領は、自らのソーシャルメディアに「イラン産原油、あるいは石油化学製品の購入はすべて、今すぐ停止しなければならない!」「イランからいかなる量の石油または石油化学製品を購入する国または個人も、直ちに二次制裁の対象となります。いかなる形態においても、アメリカ合衆国との取引は禁止されます。」と投稿した。
 つまり、イラン産原油を購入する国は「米国との取引を一切許可しない」と宣言したのである。現時点では、米国がイラン産原油の購入国に対してどのような制裁を課そうとするのかは具体的には明らかにされていない。しかし、イラン産原油を購入すれば「直ちに二次制裁の対象」となり、「米国との取引はいかなる形態においても」禁止、すなわち、全面禁輸の対象となることを世界に通告したのである。
この全面禁輸措置は、あからさまに中国を対象としたものである。米国エネルギー情報局(EIA)は、タンカー追跡データに基づき、昨年10月に発表した報告書の中で、「中国は2023年にイランの原油とコンデンセート輸出の約90%を輸入した」と結論付けている。
 イラン産原油の最大の買い手である中国(日量100万バレル以上、3月は1日あたり180万バレル)は、米国へのあらゆる物品の輸出が即時禁止対象となる。貨物追跡会社のVortexaの配送データによると、イランの石油輸出の90%が中国によって購入されており、次いでインド(日量30万~50万バレルを購入)、トルコ(日量10万~20万バレル)が続く。
中国と米国とのトランプ関税をめぐる両国間の交渉開始が双方から報じられている最中の、突然の「全面禁輸」へのエスカレートである。

そこには明らかにトランプ政権の危険な方針転換が反映されている。ウクライナの鉱物資源取引合意と同時に明らかにされた、ロシア・ウクライナ戦争終結への和平交渉から「手を引く」路線が、同時並行的に、イランとの核開発協議交渉が継続中にもかかわらず、突如「日程延期」が明らかにされるや、強引なイラン直接攻撃論が浮上し、イランの核施設を直接の標的とした「空爆を行う」と繰り返し警告する路線への転換である。
対イラン交渉は、イランのアラグチ外相と米国中東担当特使のウィトコフ氏が主導しているが、アラグチ外相は、日程延期の理由を「物流面および技術面の理由」だと述べ、「イラン側としては、交渉による解決を確保するという決意に変化はない」ことを明言している。「我々は、公正でバランスの取れた合意を達成するという、これまで以上に強い決意を持っている。制裁の終結を保証し、イランの核開発計画が永遠に平和的に維持されるという信頼を築きつつ、イランの権利が完全に尊重されることを保証する合意だ」と、対米協議続行を堅持している。

<<破綻せざるを得ない路線>>
5/1、そのようなイランの確固たる決意と路線を無視して、ヘグゼス米国防長官は「我々はフーシ派へのあなた方の致命的な支援を認識している。あなた方が何をしているのか、我々は正確に把握している」、「米軍の能力はあなた方もよくご存じでしょう。そして警告もしました。我々が選んだ時と場所で、あなた方は報いを受けることになるでしょう。」との「イランへの警告」メッセージを発している。イエメンのフーシ派の行動に対する攻撃から、イランへの直接攻撃路線への転換である。イラン外務省はこの脅迫に対し、「挑発的な発言」は外交を損なうものだと反論し、「イランに関する米国当局者の矛盾した行動と挑発的な発言の結果と破壊的な影響に対する責任は、米国側にある」とたしなめている。
5/2、イラン外務省は声明を発表し、イランは外交プロセスと交渉を継続することを約束しているが、「国際法に違反し、イランの人々の権利を標的にする圧力と脅威を受け入れない」と断言し、イランに対する継続的な違法制裁と「経済パートナーへの圧力」を非難し、「イランの人々の権利を保証する公正な合意に達する」と述べている。

トランプ氏の対中全面禁輸路線は、このような対イラン協議からの撤退路線への傾斜を背景として、突如打ち出されたものである。
 しかし、この路線は、SNSで突如表明しただけである。政権内部で協議した形跡すらない。国防長官の挑発的なメッセージ以外は、関係閣僚も黙したまま、だんまりである。ホワイトハウスからの公式声明すらない。まったく、個人的な、思い付き、感情に任せたエスカレート、一方的表明とさえ言えよう。まさにトランプ政権の個人主義的、独裁主義的性格を露骨にさらけ出している典型でもある。その醜態は、SNSで自らが法皇となった姿を誇示して、満足している姿と相似形である。
ところが、米大手メディアはこのニュースをほとんど無視して、報じていない。国務省報道官のタミー・ブルース氏が、しぶしぶこれが米国の政策であり、中国が標的になっていることを確認しただけである。

5/2、米国商務省報道官は、米国高官が最近「複数回」中国に接触し、関税交渉開始を希望していると述べている。しかしこの発言は、5/1のトランプ氏の宣言と全く矛盾していることに気付いていない。そもそも、全面禁輸措置の対象国と話し合う余地など存在しない、関税以前に全面禁輸なのである。言っていることも、やっていることも相反している。
 中国商務省の声明は、「米国が交渉を望むのであれば、誠意を示し、誤った慣行を是正し、一方的関税を撤廃する用意を示すべきだ」と明確に述べている。会談を強制や脅迫の隠れ蓑として利用しようとしても、中国には通用しないであろう。全世界が監視しているのである。

いずれにしても、トランプ氏の対中「全面禁輸」路線は、「アメリカの驚くべき自傷行為」の典型ともなろう。順不同に列挙すれば、
* 全面禁輸によって、中国を事実上米国経済から切り離すことにより、大量失業とハイパーインフレのリスクが高まる。
* サプライチェーンが急速に崩壊し、大小売店の棚が空になるばかりか、自動車生産の停止、医薬品危機の発生、失業率の上昇が必至となる。
* 米ドルの下落をさらに加速させ、BRICS諸国の存在意義を高め、米国経済の優位性をさらに低下させる。
* イランは報復としてホルムズ海峡を封鎖し、原油価格を急騰させ、エネルギー危機を悪化させる可能性がある。

要するに、このトランプ氏の「対中全面禁輸路線」は、米国を経済的自滅の危機に追いやる可能性が大である、破綻せざるを得ない、と言えよう。
(生駒 敬)

 

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【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)

【翻訳】何故に米価は上がり続けているのであろうか ?(前編)

The Japan Times Weekend、   April 5-6, 2025
“ Why rice prices keep rising ?“
  by Alex K.T. Martin, Staff Writer

「何故に米価は上がり続けているのであろうか ? 」
A current shortage of Japan’s main dietary staple is due to mix of factors
including government policy, evolving tastes and climate change.
[ 昨今の日本の主食たるコメの不足は、政府の施策、変化/進化している味覚/
嗜好や 気候変動を含む諸要因に起因している。]

 新潟県長岡市の桜井元気さんが、家族の稲田で、17年前に働き始めた時には、近所で12軒以上の米作農家がいた。しかし、今はたった3軒しか残っていない。「米生産者は、子供に儲からない仕事を継がせたくない。」と38歳の桜井さんは言う。彼は“コシヒカリ”品種で全国に知られている米の生産者で、24ヘクタールの田圃を耕す300年続く農家の9代目である。 「米価はあまりにも低く、農家は熱心に働いても損失を出している。そこで両親は子供に“勤め人”(Office Woker)になるほうがいいと勧める。」と桜井さんは言う。
 今は、日本にとってその米の生産者を、これまで以上に必要としている。

 昨年の夏に始まった国家の主食たる農産物の米の不足は、価格の急な値上がりを見せていて、政府として、初めて緊急用の備蓄庫の扉を叩き、不足分を補い価格を下げようと 21万トンの米を入札にて放出するに及んだ。
 極度の暑さ、パニックのような買い、そして増大する外国人旅行者、これらが組み合わさって米の不足と価格高現象の背後にあると信じられている一方で、他の要因も働いている。数十年に渡り政府の米作地面積の削減政策は、米作から、供給量の少ない小麦や大豆のような作物への転換(いわゆる“減反政策”)へ補助金を出して来ていた。その政策は、日本人の食嗜好の西洋化と人口減少、高齢化により米への需要は低下し続けているとの前提に基づいている。
 他方、農水省によれば、個人経営の農地の90 %は、60歳以上の高齢者によって経営されていて、稲作農場の70%は後継者が確保されていない。日本の耕作に適する水田は、ピーク時の1961年の 3,390,000 ヘクタールより2024年には 2,320,000 ヘクタールに減少している。米の売買や分配については、農協グループ(’JA’)による、これまでに運営されてきた最大の分配のための収集母体にのみ頼らずに、多くの農家が米を消費者等に直売したり、地方のネットワーク内で売ったりして、追跡することが一層困難になってきている。
 「日本の農家は、生産においては優れているが、価格の決定については、ほとんどコントロール出来ていない。直売や他の販売方法は確立されてきているが、価格決定の分野においては、今もって問題点や不満がある。」と江藤 拓 農水大臣は述べている。さらに続けて「農業人口は、1,160,000人から低下して 300,000人になるであろうと予測されている。我々はこのトレンドを変えて逆にすることを決定付けられている。このような状況を考えると、現在のビジネス慣行が続けば米生産者にかかる負担は耐えられなくなり、潜在的に耕作現場を破壊させ食料保全を危険に曝す。」とされた。

The Reiwa rice crisis [令和の米危機]
 「令和の米危機」と日本のメディアに呼ばれている進行中の米不足は、2023年の記録的に暑かった夏に遡ることが出来る。例えば新潟県―米作の全面積とその生産高の両方において日本の先導的な県―は、焼けつくような高温と長引く旱魃に見舞われた。「30日以上にわたり雨がなかった。」と桜井さんは思い出したように言った。「私は今までにこのようなことは経験したことがない。80歳を超えている私の隣人は、同じことを言っている。」とも。
 日本の米作の周期は、一般的には、春になって水田の準備作業と苗の植え付けで始まり、夏になっての生育と水の管理、そして秋になっての収穫で一番重要な時期を迎える。桜井さんの説明では、2023年には、第一級品質の米(’first-grade rice’)の割合は減少した、と。米の等級は良い型の米粒と、変色や白濁と言った損傷の粒の割合によって決められる。稲が花をつける8月中旬から9月上旬にかけて高温の天気が長く続けば、傷ついた粒の割合が高くなり、結果として低い精米の歩留まりとなる。これら低品位の米が流通過程において消費者に選択され避けられて、供給不足の一因となる。そして2024年の夏において、このことが顕著に現れた。
 難題が続く。大きい地震が8月に宮崎県の海岸沖で発生して、南海トラフ大地震の史上初の注意報が出された。これがパニックに陥った消費者をして、前年同月に買った量に比べ、より多くの米を買う引き金となった。
 業界のウオッチャー達は、この状況は秋になって米が収穫されれば、自ずと解決するであろうと見なしていた。しかし、ここには‘ねじれ’がある。2024年における国内の収穫量は、2023年より 18万トン多かった一方で、JAのような実体ある業者によって集められた量は 31万トンで前年より少なかった。この不足分はメディアをして行方不明の米と呼ばしめた。

Missing Rice [ 行方不明の米 ]
 日本は 1942年に食料管理法を制定した。それに基づき政府は、生産、分配と食料、とりわけ米価の統制を行って。 安定確保を確かなものにするために。その法律は1995年になって、農業諸施策が進化/発展するにつれて段階的に廃止された。その間に、農家による直接販売と共に様々なプレーヤーのこのマーケットへの参入により、長年にわたりJAによるコメの集荷の割合を 50%ほどに減少させてきている。
 政府は、当初はこの行方不明の不足米を、農家や直接出荷された仲介業者の思惑買いによる備蓄米―JAのような集荷代理店をバイパスしての―であると主張した。しかしながら、これだけでは、この大きな量の不一致が説明出来ていない。
 栃木県 宇都宮大学の農業経済のエキスパートである小川まさゆき准教授は述べている。「この米の不足は”先食い” によるものと考えられようか。これは計画されたよりも、より早く将来の使用または分配のための意図された米の消費に関係する。この場合、それは2024年からの収獲米にて、10月から消費されると考えられる。」
 3月31日に農水省は調査結果をリリースした。それによれば、直接販売―集荷業者を省いての―は前年と比較して、44万トン増加していて、全部で 237万トンに達していた。この状況は、潜在的米不足をめぐる思惑によって拍車をかけられた活発な直接売買によって引き起こされた。
 結果として、小売店や食料サービス業者は、いつもよりもたくさんの在庫を積み上げ、農家も手元に保管する米の量を増やした。言い換えれば “missing rice” はなかったということだ。農水省のデータによれば、 3/17~3/23 の間にスーパーマーケットで売られた 5Kg の米袋の平均価格は \ 4,197.- だった。これは 12週連続の値上がりで、昨年 3月の米価の二倍であった。そして 4月1日に同省は、二回目となる入札を実施して約 7万トンを分配業者に売って同省の在庫計 21万トンの売却を完成した。
 2022年に「日本の米問題」を出版された著者の小川准教授は述べている、即ち「統計的には、五月か六月頃には人々は米価の違いに気付き始めるかもしれないであろう。均一な米価の下落に代わって、私はいくつかの変化、多様性が生じると予想する。」と。米の備蓄は、スーパーマーケットの在庫管理と違って、食料の安全保障のために存在している。結果として、備蓄は各種の米を含んでいて、それらの中には消費者になじみの薄い品種の米もある。 「スーパーでの米価は、全国で \500.- 又は \1,000.- 一気に下落するということは、在りそうにないであろうし、ブレンド米はより安くなるであろう。そして異なる地域の多様性の混合が生じるであろう。」と。「さらに言えば、備蓄米はスーパーのみならず、食堂、食品チェーン店やレストランでも入手可能である。このことは、備蓄米の多くは、高い米価と格闘している食品サービス業界―大学のカフェテリアに於けるように―に行きつくであろうことを意味している。」
                       [ 後編に続く] 
                              (訳: 芋森)
 

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【投稿】トランプ関税:後退と妥協へのディール--経済危機論(161)

<<「トランプ氏は嘘をついている」>>
4/25早朝に放送された、米CNN放送のファクトチェック番組は、トランプ大統領の経済に関する「虚構」を具体的に暴く痛烈なものであった。
トランプ氏が繰り返し主張している「卵の価格は、大統領就任式の日から93%も下がっている」との主張を、実際のファクトチェックで見事に覆している。
「トランプ大統領が1月に大統領に復帰して以来、卵の価格は93%、94%どころか、ましてや87%も下がってはいません」と説明し、「消費者が実際に支払っている価格を見てみましょう。現在、このデータは3月までしか入手できていませんが、3月のデータは芳しくありません。1ダースの卵の全国平均価格は過去最高の約6.23ドルを記録し、1月から26%上昇しているのです。4月にはこれらの小売価格が少しは下落している可能性が高いのですが、今月食料品を買った人なら誰でも、トランプ大統領就任式の日から93%も下がっているなどとは到底言えないでしょう。もし93%も下がっていたら、現在では1ダースあたり38セント以下で売られているはずです。明らかにそうではありません。」
さらに同放送のファクトチェックは、ガソリン価格に関するトランプ氏の主張も否定し、トランプ氏は、ガソリン価格が「1ガロン1.98ドルに達した」と主張しているが、「この1.98ドルという数字も虚構です。大統領が言及した4月16日と17日には、ガソリン価格が1.98ドルに近い州は一つもありませんでした。全米自動車協会(AAA)によると、各州の1日の平均価格の最低は2.70ドルでした。『もしかしたら、1.98ドルでガソリンを販売しているガソリンスタンドがたくさんあるという意味だったのかもしれない』と思うかもしれませんが、しかし、それも事実ではありません。全米数万のガソリンスタンドを追跡調査しているガスバディ社によると、両日とも1.98ドルに近い価格でガソリンを販売しているスタンドは全国で一つもなかったそうです。実際、同社が確認した最低価格はどのスタンドでも2.19ドルでした。」と、鋭く追及している。
同放送のファクトチェッカー・デール氏は、「ガソリン、卵、食料品。トランプ大統領はこれらすべての価格について嘘をついている」、それは、「トランプ氏が、関税がインフレを加速させるという広範な懸念を軽視しようとしている。」ことに起因していると端的に指摘している。

当然、トランプ政権の支持率は急速に低下し始めている。あらゆる世論調査で支持率は低迷しており、今や過半数が不支持となっている。AP通信とNORC公共政策研究センターによる世論調査によると、米国成人の約半数がトランプ大統領の貿易政策によって物価が「大幅に」上昇すると回答し、10人中3人が物価が「多少」上昇する可能性があると考えている。約半数の米国人が、今後数ヶ月以内に米国経済が景気後退に陥る可能性を「極めて」または「非常に」懸念している。直近に発表されたCBSの世論調査では、59%が経済は悪化しており、過半数はトランプのせいだと回答。関税によって引き起こされた混乱を明らかに大惨事と見なし、過半数はトランプの責任だと回答し、バイデンの責任だと答えたのはわずか21%であった。(「トランプの言うことは信じていたが、もう信じていない!」ドナルドを見捨てる有権者の背後にあるもの : マイケル・シニョリーレ・レポート 2025年4月23日

<<「145%の関税は持続不可能」>>
トランプ氏を取り巻く事態は急速に変化しており、そのゴーマンな政策も後退と妥協へのディールに追い込まれつつある。
4/24付フィナンシャル・タイムズは、「数週間にわたる怒号とエスカレーションの後、トランプ大統領は一瞬目をそらした。そして再び、そしてまた再び。彼は連邦準備制度理事会(FRB)議長解任の脅しを撤回した。財務長官は、トランプ氏の就任以来S&P500が10%下落していることを痛感し、中国との貿易戦争の激化を回避するための口実を探していることを示唆した。そして今、トランプ氏はわずか2週間前に発表した中国製品への145%の関税は持続不可能であると認めた…トランプ氏が現実に直面したことは、最も強硬な政策を打つことの政治的・経済的コストを示す鮮明なケーススタディとなった。」と報じている。

 トランプ大統領がここ数日、対中関税について明らかに姿勢を軟化させたことで、世界二大経済大国間の緊張緩和への期待が高まり、市場は少しは揺り戻し、活況に戻るかに見えているが、中国外務省報道官は、トランプ氏自身まで広めている、両国が交渉中であるという示唆を「フェイクニュース」だとして否定し、中国側は「現在のところいかなる経済と貿易の交渉も行っていない」と、明確に否定した。「この関税戦争は米国が仕掛けたもので、中国側の立場は常に明確かつ一貫している」、「戦うなら最後まで戦う。話し合うなら扉は大きく開かれている。いかなる対話や交渉も平等、尊重、相互利益に基づくものでなければならない。」といなされている。実際の緊張緩和政策が具体化されない限り、ずるずると悪化の泥沼に引き込まれる可能性が大なのである。

4/25、むしろ中国政府は、事態の長期化を見据え、増大する関税ショックへの対応として、技術、消費、貿易、そして内需拡大を促進するための新たな金融政策手段と政策融資手段を導入することを表明。中国人民銀行は、銀行システムの流動性確保のため、6,000億元(823億ドル)の1年物中期貸出制度を実施する。これにより、4月のこの制度による純資金注入額は5,000億元となり、2023年12月以来最大となる金融政策の支援姿勢を示している。

トランプ政権が緊張緩和への大胆な政策転換をしない限り、米国資産への信頼は急速に失われる可能性があり、株式と米ドルへの影響はより深刻になる可能性が大である。その政治的経済的危機の深化は、世界的な政治的経済的再編成をより一層鮮明にするであろう。
(生駒 敬)

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【投稿】 「NEXUS 情報の人類史」を読んで

【投稿】 「NEXUS 情報の人類史」を読んで
      「NEXUS 情報の人類史(上・下) ユヴァル・ノア・ハラリ 著」

HPを見ていると、画面に昨日見た商品の一覧が現れる。
グーグルで検索すると、関心のあるHPが勝手に表示される。
YouTUBE画面に、以前見たものと関連する動画が表示される。
アマゾンで閲覧した商品の関連情報が、表示される。

NEXUS 情報の人類史 日常的にこんな経験をした人は多い。これらは、どんなサイトを見たのか、ユーザーが何に関心をもっているのか、という情報が収集され、そのデータに基づいて、ユーザーのPCやスマホに表示されているのだが、ユーザーが知らないうちに情報が集積され商品の販売促進に利用されている。
 グーグルは既に集積したデータを利用するサービスを商品化している。例えば、野球用具の販売会社が、新製品のバットを販売しようとする。10代から20代の青年、野球に興味がある、過去に野球用品を購入した履歴がある、などの条件を設定して契約をすれば、グーグルなどの検索画面の目立つ箇所に、当該企業のバットの販売や、利用者の投稿した動画が、掲載される仕組みである。
 ユーザーの購買意欲を刺激するだけなら、何のことはない。しかし、どんな政治的サイトをよく見るか、どんな政治的傾向のYouTUBE動画を閲覧しているか、など政治的傾向のデータ集積となると話が違ってくる。
 運転免許証の顔写真はすでにデジタル化されている。マイナーカードも同様だ。顔認証技術が飛躍的に進んでおり、大量の顔データは、警察や総務省に集積されている。例えば、日本が独裁国家になった場合、これらデータは以下のように活用される可能性がある。例えば、反政府デモの参加者を、顔認証システムで特定が可能になる。今の自民党政権でも、個人情報保護を無視して、弾圧を強化しようとすれば、いつでも可能になると考える方がいい。
 すでに、管理社会化が進んでいる中国では、通行人が信号無視をして交差点に進入すると、スマホに交通違反の警告が届くと言われている。
 2021年1月アメリカの連邦議会議事堂にトランプ支持者のデモ隊が乱入した。多くの乱入者は、侵入した際の動画をFacebookやYouTUBEにアップ。捜査当局は、これらの動画から侵入者を特定した。また、議事堂周辺の監視カメラに映った自動車のナンバーから所有者を特定し、監視カメラ映像や動画と照合し、乱入者の逮捕に至ったという。
 アメリカでは、CIAが、ネットを利用したメールを不当に閲覧・盗聴していたことが暴露された。スノーデン・ショックと言われた事件だが、ネット上のやり取りを蓄積し、政府に都合の悪い情報やその発信源、発信者と受信者を特定していたと言われている。
飛躍的に発達したコンピューターの情報処理能力は、すでに人間の想像を越えるスピードで進化している。その情報の管理と利用を誤れば、どんな社会が出現するのだろうか。

 本書「情報の人類史」は、情報をめぐる歴史を概観するとともに、フェイクニュースや偽情報の蔓延する現状に警鐘を鳴らす。かつて、インターネットが登場した時、すべての人が、より多くの情報に接して、より正しい判断が可能になる、といった楽観論が唱えられた。しかし、現実には、フェイクニュースや偽情報が蔓延し、さらにコンピューターのアルゴリズムが、より多いアクセスを獲得するために、過激で陰謀論的な情報を垂れ流し、正しい情報が駆逐される現実があると指摘する。
 コンピューターが感情や意識などの知能を獲得する時が来る、という未来は決して夢ではない。これをどう制御していくか、これからの課題だと著者は警鐘を鳴らしている。
 さらに、現代の情報収集の特徴は、支配や強制による収集ではなく、人々が意識しない内にネット上に情報が収集され集積されていることである。ネット閲覧の履歴、ネットで購入履歴、SNSで自発的に投稿される動画や写真。また、メール交信の履歴なども。

 本書では、書名のとおり、情報が粘土板に記録された古代、ローマ帝国などの古代国家の情報手段と支配、聖書の歴史、印刷技術が発明された中世、そしてナチスが宣伝に利用したラジオの普及、そしてインターネットとコンピューター技術の飛躍的発展による情報社会という「情報の歴史」を振り返る。
 そして、スターリン時代の密告社会・情報監視社会、ナチス独裁政権、ルーマニアのチャウシェスク政権の密告監視システムなど、全体主義政権が生み出した情報管理社会の実態に触れ、情報の収集と管理が一元化されれば、支配の道具として情報ネットワークが利用される危険性を指摘する。
 日本においても、すでに数万台の監視カメラ、ネット上にあふれる投稿写真や動画、さらに、免許証やマイナナンバーカードの顔写真が連結・統合されれば、情報管理による監視社会の到来はすぐそこに迫っている。
 著者が指摘するのは、情報の分散管理と、コンピューターシステムの勝手な暴走を防ぐための適切な対応である。
 現状でも、様々な分野での情報のデジタル化と集積が進んでいる。医療・健康情報は、健康保険の利用情報から、各種税の課税・納入情報、資産の情報は銀行口座や証券取引情報から、という具合だ。これらを紐付けたい欲望は、財務省に強いだろう。情報管理の分散化は、個人のプライバシー保護という観点からも、また、民主主義を守るため、支配のための情報利用を許さないという点からも、必要だ。

「歴史を学べば、AI革命の重要性と、AIについての私たちの決定の重要性が浮き彫りになるだけではない。情報ネットワークと情報革命に対する、ありふれてはいるものの人を誤らせる二つのアプローチに警鐘をならすこともできる。私たちは一方では、過度で素朴で楽観的な見方に用心するべきだ。情報は真実ではない。情報の主な仕事は事実を表すことではなく、人々をつなげることであり、情報ネットワークは歴史を通してしばしば真実よりも秩序を優先してきた。納税記録や聖典、政治綱領、秘密警察の捜査記録などは、強力な国家や教会を生み出す上で極めて効率的な手段になりうるが、それらの国家や教会は歪んだ世界観をもっており、権力を濫用しがちだ。皮肉にも、情報量が多いと、より多くの魔女狩りにつながる場合もありうる」(下P268)
「・・・したがって、ネットワークが力をつけるにつれて、自己修正メカニズムが一層重要になる。石器時代の部族や青銅器時代の都市国家が自らの間違いを突き止めて正すことができなくても、もたらされる被害は限られていた。・・・しかし、シリコン時代の超大国は、自己修正メカニズムが弱かったり欠けていたりしたら、人間という種の存続はもとより、他の無数の生き物の存続をも脅かすことだろう。・・・自ずからが生み出したものに簡単に操作され、危険に気づいたときには手遅れになっているかもしれない。」(下P272)

 これからも、コンピューター技術の進化は止まらないだろう。情報の集積とその利用をめぐって、絶えず監視と修正の努力が必要になる。かつて、100年かかった進化は、今後数年単位で進む。「情報の人類史」は、社会と情報の未来への警鐘の書であると言えるだろう。(佐野秀夫)

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【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書

【書評】『日本経済の死角』河野龍太郎著 ちくま新書

                            福井 杉本達也

著者の河野龍太郎氏はBNPパリバ証券株式会社経済調査本部長・チーフエコノミストであり、『エコノミスト』をはじめ経済雑誌に現況経済を解説するなど著名な経済学者であるが、証券会社出身という経歴から、どちらかといえば、株価や「貯蓄から投資へ」派に属するかと思っていたが、本書はそうした河野氏に対するこれまでの偏見とは全く異なる内容である。

 

1 収奪的社会に移行した日本

著者は過去25年で労働生産性が30%向上したにもかかわらず、実質賃金が横ばいであると指摘。大企業の現在の管理職でさえ、賃金は25年前より低下していると指摘し、「日本の問題は、生産性が低いから実質賃金を引き上げることができない、ということではない」とし、「生産性が上がっても、実質賃金が全く引き上げられていない、というのが真実」であり、「喫緊の課題は所得再分配である」と主張する。「包摂的だったはずの日本の社会制度は、いつの間にか、収奪的な社会に向かっている」と述べ、「企業がリスクを取って、人的投資や無形資産投資、人的投資を行わない」で、「長期雇用制度を維持するために、非正規雇用にすっかり依存するようになり、収奪的な『二重労働市場性』を生みだした」と批判する。

2 安倍政権での「異次元緩和」への批判

著者は、安倍政権下の「異次元緩和」による超低金利政策を「家計を犠牲にする政策」という。企業は潤沢な貯蓄を持っているため、「金利が下がっても、借入を増やす必要はありません」とし、「利上げで増加するはずの家計の利子所得を不当に抑え込んだ」とし、低金利が「円安を逆に助長し、実質購買力を大きく損なっています」とし、「円高が進めば、輸入物価の下落を通じて、家計の実質購買力の改善につながった」これでは「個人消費が回復しないのは当たり前」だと「アベノミクス」の失政を一刀両断で切り捨てた。石破政権は夏の参院選対策としてガソリン価格や電気・ガス料金の補助を復活するというが(日経:2025.4.19)、円高政策をとっていれば、当然に輸入物価は下がっていたはずであり、安倍―菅―岸田政権下の大失政(というよりも売国政策)を尻拭いするものである。

3 ゼロベアの弊害が適切に把握されていない

著者は日本のエリート層である大企業の経営者は「日本の時間当たり実質賃金が横ばいであるという事実を」「十分に認識していない」とし、その原因を長期雇用制の下で、ベアゼロでも、「正社員は昇格・昇給によって、毎年、平均で2%の定期昇給が行われているため」「自らの実質賃金は確かに累積では大きく増えている」が、会社全体・一国全体では「毎年の生産性上昇は全く反映されていない」という。これは既に濱口桂一郎氏は『賃金とは何かー職務給の蹉跌と所属給の呪縛』において、定期昇給によって、ベースアップを行わなくても、個々の労働者の賃金は毎年着実に上がることか、「上げなくても上がるから上げないので上がらない賃金」と読み解いている。

4 近代の「労働所有論」の見直し

著者は「我々が当然視してきた『所有権的個人主義』についても、その行き過ぎた解釈を改める必要があります」とし、「自らの労働が生みだしたものは自らの所有物というジョン・ロックに始まる労働所有論」は近代社会の礎となったが、「新自由主義の下で、市場至上主義と合わさり、行き過ぎが生じ」ているとする。「人は所有物を自己の延長と捉えて、…占有者を重視し、対象物を支配する人を尊重」する。しかし、社会は「過去、現在、そして未来の人々の共同事業であって、現代の世代が自由気ままに扱ってよいものではない」。「次世代に受け継ぐために、保全する」という考えが重要であると説く。これは哲学者・鷲田清一の『所有論』に通底した考えである。

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【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機

【投稿】問題は「トランプ関税」ではなく米国のデフォルト危機

                             福井 杉本達也

1 米国債の満期8兆ドルと利払い1兆ドルが払えない
「トランプ関税」が新聞・テレビ・SNSを埋め尽くしているが、全く報じられないその裏を読む必要がある。4月17日の『ビジネス知識源』は「2025 年、26 年の連邦政府が直面する「国債の満期8 兆ドル、財政赤字2 兆ドル、国債の利払い1 兆ドルから来る資金繰り難」でしょう。この点が、ほとんど報じられません。2025 年度は、既発債の借り換え債と、新しい財政赤字分で10 兆ドル(1450 兆円)の米国債を、世界の債券市場で金利を高騰させずにスムーズに売らないと、部分破産の危機になる」と書いている。
『ビジネス知識源』によると、「2025 年度は、37 兆ドルの既発国債の満期償還が8 兆ドル。26 年に約6 兆ドルである。」バイデン政権時に、国債を4 年間で7 兆ドル増やし、ドルをばらまいた。2025年度は既発国債の償還のための借り換え債8 兆ドルに加えて、財政赤字分の国債を2 兆ドル新規に発行して、海外を中心に売らなければければならない。しかし、売れるのか。

2 「マールアラーゴ合意」とは
2月27日付け『Bloomberg』は、「トランプ⽶⼤統領が対外貿易の在り⽅を⼤きく変える積極的な計画を打ち出していることを受け、ドルを意図的に弱くし、⽶国の輸出企業が中国や⽇本などのライバルと競争しやすくする多国間協定の可能性を巡り臆測が⾶び交っている。」「フロリダ州パームビーチにあるトランプ⽒の私邸にちなんで、『マールアラーゴ合意』という。」と報じた。
トランプ⽒は、製造業と輸出の復活を含む⽶国の⻩⾦時代を実現すると約束している。⽶貿易⾚字の⾚字は2024年に1兆2000億ドル(約179兆円)という過去最⼤を記録した。ドル高で、輸⼊品を相対的に安価にすることで⽶国の競争⼒を損なっていると考えている。、現在のドルは過⼤評価されている。⽶政府がドル⾼に対処する何らかの合意を他国と結ぶ動機になる。1985年・⾼インフレ、⾼⾦利、ドル⾼の中「プラザ合意」が締結された。⽶国とフランス、⽇本、英国、旧⻄ドイツの間でドル安に誘導する合意が成⽴した。
「トランプ⽒と政権の経済チームは、⽶国は今後もドル⾼政策を堅持するつもりだと述べており、貿易決済にドルを使わないことを⽬指す新興国に対して関税を課すと」脅し、ドル基軸体制を何としても守ると「世界経済の中⼼におけるドルの役割を⽀える政策を推進しながらも、同時にドル安政策も模索するというのは」二兎を追うような極めて難しいかじ取りとであると『Bloomberg』は報じている。

3 米国債・借金の踏み倒しか
同上『Bloomberg』は「⽶財務省が100年後が満期のゼロクーポン債を発⾏するというアイデアがあるという。既発米国債の償還と利払いを停止し、金融市場を通さず、満期を繰り延べ、⾧期化した「ゼロクーポン債」に強制的に変える。ゼロクーポン債は満期まで利払をしない割引債である。⽶国が安全保障を担保する⾒返りとして、同盟国はこの100年債の購⼊を義務付けられるという案。発⾏済み⽶国債の外国保有分を⻑期ゼロクーポン債に交換するという案もある。参加を拒否する同盟国は、安全保障が担保されなかったり、関税を課されたり、あるいはその両⽅の措置を取られる。
『ビジネス知識源』の解説によれば「1 兆ドルの米国債を、割引金利が5%の50 年のゼロクーポン債に切り替えると、その発行額面は「1 兆ドル÷(1-0.05)の50 乗=1÷0.78=1.28 兆ドル」になります。しかし、米国債が⾧期ゼロクーポン債になると、市場性(市場の金融機関の間で、額面で売買できること)を失って、1/2 くらいは無価値になります。」と書いている。
50年間も持ちっぱなしで利子も払わないとなれば、米国債の部分破産、つまり『借金の踏み倒し』である。日本は政府・民間部門も含め、我々日本人が汗水たらして蓄えた資金である米国への投資額の1/2が踏み倒されると考えたほうがよい。

4 円安で米国債を買い支えた安倍政権
2024年12月16日、故安倍首相夫人の安倍明恵氏が真っ先にトランプ氏(就任前)に面会した。国会議員でもない彼女がなぜ一番に面会したのか。
黒田前日銀総裁は2013年4月から「異次元緩和」を始めた。日銀による円国債の大量買いで、円国債の金利を、ゼロにまで人為的に下げた結果、円が1/2 への下落した。「円の実効レート」は、2012 年100→2024 年55 と45%下がった。円がドルを買い支えたのである。12 年間の「円売り/ドル買い」の超過が円を下げ、ドルを上げてきた原因である。安い金利の円から高金利のドルへ「円キャリー取引」として大量の資金が流れ、戦争経済など財政の大赤字で苦しむ米国債を支えた。2012 年11 月の、安倍政権の前の「ドル・円」は80 円台と円高であった。しかし、2025 年1 月には約160 円。日銀がGDP の1 年分に相当する500 兆円を増発した1 万円の価値は、ドルに対し1/2 に下がった。おかげで、石油・ガスなどエネルギー価格や食料価格などが高騰し、国民は輸入インフレに苦しめられている。円安によって、世界標準のドルにたいする国民の実質賃金と商品価格の切り下げられた。賃上げもインフレにより実質賃金は低下し続け、エンゲル係数は28 %(2024.1~8)と42年ぶりの水準にまで跳ね上がった。安倍政権は国民の生活を犠牲にし続けて究極の売国政策を行い、借金経済で苦しむ米国の財政を支え続けた。これが第1次トランプ政権に評価されたといえる。

5 中国も「踏み倒される」が急速に金に交換している
「人民銀行が発表した3月末の外貨準備の内訳によると金の保有量は2月末から0・1%増え約2292トンだった。22年11月から24年4月まで18カ月連続で増やし、…24年11月から再び増やし、3月末までに28トン 増えた。」(日経:2025.4.9)。手元の米国債を売り、金に交換し、「借金の踏み倒し」による損害を少しでも少なくしようとしてきた。「中国政府は11日、米国製品への報復関税を84%かう125%に引き上げると発表した。」また、中国国務院は「米国が関税の数字ゲームを続けたとしても、中国は無視するだろう」と指摘し、関税の引き上げ合戦にこれ以上は付き合わないとした(日経:2025.4.12)。中国も大損害は被るが、多少の余裕がある。一方、日本はほとんど金を保有していない。ロシアのような原油・ガスなどの資源もない。手元に残るのは50年間も返済されない紙切れの米国債ばかりである。BRICS諸国はドルを捨て、金・コモディティ本位制に移行しようとする中で、日本はどうするのかが問われている。

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【投稿】反トランプ抗議デモ:全米規模へ拡大

<<50501運動>>
4/19、全米各地で大規模な反トランプ抗議集会、デモが展開され、大手マスコミでも無視しえない規模に拡大しつつある。すでに紹介した4月5日の「ハンズ・オフ!」運動に引き続き、小さな町から大都市まで、全米各地で人々が立ち上がっている。その数は無数と言えるほどに広がっている。

 この日の抗議運動を呼びかけた「50501運動」は、
* 4月19日は行動の日です。権威主義的な脅威、そして民主主義の崩壊に対する、全国規模の草の根運動です。
* 全米50州で、地域社会がそれぞれの方法で行動を起こしています。街頭で集会やデモ行進を行う地域もあれば、フードドライブ、ティーチイン、相互扶助のポップアップ、有権者登録イベントなどを開催する地域もあります。
* 4月19日に人々がどこに、どのように集まろうとも、一つ確かなことがあります。この運動は拡大しており、私たち全員のものです。
と、強調している。

 この「50501運動」について、以下のように紹介している。

* 2月5日、#50501として、私たちの声を上げました。最初の#50501抗議活動は、トランプ政権とその金権政治の同盟による反民主主義的で違法な行動に対する、分散的で迅速な反応でした。
* 「1日に50州で50件の抗議活動を行う」というこのアイデアは、ソーシャルメディアで急速に広まりました。わずか数日間で、草の根の組織者たちは、予算も中央集権的な組織も、公式の支援もなしに、全50州で80件以上の平和的な抗議活動を実施しました。
* 12日後、数万人のアメリカ人が「ノー・キングス・デー」を宣言し、再び抗議活動を行いました。3月4日、民主主義のために立ち上がろうという呼びかけに応えて、新たな抗議活動の波が起こりました。4月5日には、数百万人が結集しました。
* 4月19日は行動の日です。権威主義的な脅威、政治の行き過ぎ、そして民主主義の崩壊に対する、全国規模の草の根運動です。全米50州で、地域社会がそれぞれの方法で行動を起こしています。街頭で集会やデモ行進を行う地域もあれば、フードドライブ、ティーチイン、相互扶助のポップアップ、有権者登録イベントなどを開催する地域もあります。4月19日に人々がどこに、どのように集まろうとも、一つ確かなことがあります。この運動は拡大しており、私たち全員のものです。
* この日が他と違うのは、単に抗議活動を行うだけでなく、地道に力を築き上げることを目指している点です。もちろん、行進、集会、裁判所でのデモなどもあります。しかし、おむつ寄付、スキルシェア、無料の地域給食、ティーチインなども全国各地で行われています。これは意図的なものです。真の変化は、ただ大きな声で叫ぶだけでなく、深いつながりから生まれるからです。
* 私たちの運動は、アメリカの労働者階級が、富裕層が法の支配を弱体化させながら、民主的な制度と公民権を引き裂くのを黙って見ているつもりはないことを世界に示しています。
* 私たちは特定の候補者や政党とは一切関係がありません。私たちは多民族、多世代、多階層で構成され、非暴力、相互扶助、そして民主主義の価値観を信じる人々によって率いられています。
* この運動は「50州、50の抗議活動、1つの運動」の頭文字をとったもので、分散型で人々の力による抵抗と回復のネットワークです。

<<トランプ政権支持率の逆転>>
この運動「ピープルズ・ムーブメント」は、以下のことに反対することを明示している。
* 億万長者による乗っ取り : トランプ、マスク、そして彼らの億万長者たちは、権力を集中させ、政治家を買収し、システムを不正操作し、自らの利益のために人々を沈黙させています。
* 人々にとって不利な経済 : 億万長者が歴史的な富を蓄積する一方で、働くアメリカ人は高騰する物価、労働組合の破壊、そして貧困賃金に苦しんでいます。* トランプの法への反抗 : トランプは裁判所の判決を無視し、連邦政府機関を粛清し、政敵を標的にし、自らを法の上に立つ存在と宣言しました。
* 自由の侵害 : 学生や移民を国家公認の方法で拉致し、適正手続きなしに国外追放することから、投票権、生殖医療、労働者の権利、そして自由選挙への攻撃まで、寡頭政治家たちは私たちの国の基盤を破壊しています。

 ワシントンD.C.では、4/19の朝、ホワイトハウス前のラファイエット広場に多くの抗議者が集まり、トランプ政権への反対を訴えた。デモ参加者たちは、キルマー・アブレゴ・ガルシア氏の国外追放や、研究・高等教育への資金削減といった政権の動きなど、様々な懸念事項を訴え、トランプ政権への力強い抗議の意思を明らかにした。
ニューヨーク市では、抗議活動参加者たちがニューヨーク公共図書館からトランプタワーを通り過ぎてセントラルパークに向かって行進し、移民の国外追放に抗議した。
ケンタッキー州レキシントンで行われた集会では、「王様はいない」と訴える抗議者たちが連邦裁判所の向かい側でデモを行った。
 シンシナティのダウンタウンで行われた集会では、デモ参加者たちが移民、教育、そして社会保障局などの連邦政府機関への予算削減に関する政府の行動に抗議するプラカードを掲げた。・・・、全米各地で数百以上に及ぶ抗議集会・デモが展開されたのであった。
50501運動の全国報道コーディネーター、ハンター・ダン氏は、テスラ・テイクダウン集会をはじめとする取り組みなど、分散型運動をも含めた、この広範な取り組みは、4つの信条に導かれる、あらゆる抗議活動を包含するものであると強調している。それは、「私たちは民主主義を支持し、憲法の維持に賛成し、行政の権限の濫用に反対し、非暴力を貫きます」という信条である。

4/18時点での全米世論調査では、トランプ政権支持=46.5%に対し、不支持=50.7%、とついに逆転する事態である。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税の混迷--経済危機論(160)

<<関税の二転三転による混乱、そして屈服>>
4/7、トランプ大統領は自身の Truth Social アカウントに「昨日、中国は、34% の報復関税を課しました。これは、我が国に対する既存の長期的関税濫用に加えて、追加関税を課すことで米国に報復する国は、当初設定された関税に加えて、直ちに新たな大幅に高い関税を課されるという私の警告にもかかわらずです。したがって、中国が明日 2025 年 4 月 8 日までに、既に長期的貿易濫用に対する 34% の増税を撤回しない場合、米国は 4 月 9 日より中国に対して 50% の追加関税を課します。さらに、中国が要求している米国との会談に関するすべての協議は終了されます。」と宣言し、中国への関税、125%への即時引き上げを発表したのであった。
これは、4/2「解放記念日」にトランプ氏が発表した「相互関税」(対中国34%、対EU20%、日本24%、…)の報復に対する報復の応酬であった。

そして4/9、午前零時にこの「相互関税」が発効したのであるが、トランプ氏自身が動揺を隠し切れず、国民に「冷静に」と呼びかけた後、その日の午後、突然、90日間の関税発動停止を発表。ところがこの発表の直前、AP通信は、「ホワイトハウスのXアカウントは、トランプ氏が関税の90日間の一時停止を検討しているという噂は『フェイクニュース』だと述べた」と報じていたのである。
まさに実態は、トランプ氏自身が動揺し、人々が「騒ぎ立て」たり「不安」になったりする中で、投資家心理を注視していたと言い訳している通り、4/3以降の株価急落、金融市場混迷への反応だったことを認める事態の進展であった。実際は、トランプ氏自身が追い込まれたのであった。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「大統領はテレビを見て、厳しい警告を聞き、そして屈服した」(”President Watched TV, Heard Dire Warnings, Then Gave In.”)との見出しを付けて一面記事で報じている。

そうした警告の中で、とりわけ注目されたのが、「シリコンバレーやウォール街のトランプ大統領の同盟者たちによる痛烈な批判」であり、「トランプ大統領の最も有力な顧問であるイーロン・マスク氏でさえ、トランプ大統領に関税への執着を諦めさせようとした」と報じられ、その後、マスク氏は大統領の通商顧問ピーター・ナバロ氏を公然と批判し、「馬鹿」「ジャガイモの袋よりも愚か」と攻撃している。

与党・共和党議員の中からさえ、「少なくとも12人の下院共和党議員が、ドン・ベーコン下院議員(ネブラスカ州選出、共和党)が提出した、ホワイトハウスによる一方的な関税賦課を制限する法案への署名を検討している…」(4月9日 Axios)と報じられている。

こうしたトランプ氏の一方的な関税戦争開始による威嚇と脅し、その二転三転による混乱そのものが、国際社会からの孤立の危機 、国内外におけるダメージの増大をもたらし、経済の混乱と損失を引き起こし、拡大させてしまったのである。90日間の関税発動停止で金融市場は反転、正常化が期待されたが、信頼の喪失と不信は、取り返しのつかない段階へと引き上げられてしまったと言えよう。

<<「世界経済史における笑いもの」>>
4/11、中国は、トランプ政権の125%関税への対抗措置として、米国製品への関税を、4/12から84%から125%に引き上げると発表。中国財政省は声明で「米国が引き続き高い関税を課しても、もはや経済的に意味をなさず、世界経済史における笑いものになるだろう」と述べ、「現在の関税率では、中国に輸入される米国製品の市場はもはや存在しない」と指摘し、「米国政府が対中関税の引き上げを続ければ、北京は無視するだろう」と付け加えた。しかし、米国が中国の利益を著しく損なう行為を続ける場合、中国は断固たる対抗措置を講じ、最後まで戦うと付け加えた。互いの報復関税は、現在ではなんと145%にまで達している。

この中国が対米関税を125%に引き上げたことを受け、先物価格は横ばい、金は急騰、ドルは暴落、さらに深刻なのは、米10年国債の利回りが50ベーシスポイント急上昇し、2001年8月16日の週以来最大の週間上昇となり、「中国が米国債を売り払っているのではないか?」 とまで疑念報道がなされ、米国債が世界的な利回り上昇を主導し、債券市場が一斉に下落し始めたことである。
何十年にもわたって、「世界の安全な避難先」であったはずの米国債市場の急落である。住宅ローン金利が急上昇し、ジャンク債の借り換えコストは2025年に倍増という事態である。

すでに脆弱な新興国債券の利回りは、さらに急上昇し、ドル建て新興国債券は、顕著な売り圧力にさらされ、10年債利回りは、コロンビアで57bps、トルコで49bps、フィリピンとメキシコで48bps、インドネシアで46bps、チリで38bps、ブラジルで24bpsそれぞれ上昇。現地通貨建て新興国債券は、債券価格と通貨の大幅な下落という、二重の打撃となっている。対円では、インドネシアルピアは3.7%、ペルーソルは3.6%、インドルピーは3.2%、ブラジルレアルは2.7%、フィリピンペソは2.6%、南アフリカランドは2.5%、中国人民元は2.5%、アルゼンチンペソは2.4%、トルコリラは2.1%それぞれ下落している。
アジア株が2008年以来の大幅下落となり、主要指数の下落率は、台湾のTaiexが9.7%、日本の日経平均が7.8%、韓国のKOSPIが5.6%、中国のCSI300が7.0%、フィリピンのPSEiが4.3%、オーストラリアのS&P/ASX200が4.2%、マレーシアのKLCIが4.2%、インドのNifty50が4.0%、と軒並みの急落である。

トランプ政権の方針転換を受け、おおむね各国から「歓迎」の反応を得て、金融市場は好転したかに見えたのであるが、事態は甘くはなかったのである。

そして、4月11日未明のニューヨーク株式市場では再び売り注文が強まり、株価は一時2100ドルも急落する事態である。ダウ工業株30種は1014ドル安。S&P総合500は3%超、ナスダックは4%超、それぞれ下落し、前日の上昇分の多くを失っている。投資家の不安心理を示す「恐怖指数」として知られるシカゴ・オプション取引所のVIX指数は高止まりし、40を上回る水準で取引を終えている。ハイテク大手が再び売り圧力にさらされ、「マグニフィセントセブン」(超大型ハイテク7銘柄)各社が2.3─7.3%安と下落している。

4/9付ニューヨークタイムズ紙は「トランプ大統領の決断は、関税という賭けが瞬く間に金融危機に発展するかもしれないという恐怖から生まれたものだ。そして、過去20年間の2度の金融危機、2008年の世界金融危機と2020年のパンデミックとは異なり、今回の危機はたった一人の人物に直接起因するものだったはずだ。」、「トランプ大統領の顧問たちが個人的に認めているように、真の功績は債券市場にあるはずだ」と報じている。

トランプ大統領が方針転換を決断した理由は、実は、「経済変動時に通常は安全資産となる国債にパニックが広がるのではないかという内部の懸念」だったというわけである。トランプ政権は株式市場の下落には非常に寛容だったが、債券市場が暴落し始め、一気に不安にさいなまれたのである。ドルの安全資産としての地位が傷つく米国債の暴落は、米国そのものの没落でもあり、トランプ氏の没落でもある。

トランプ政権の典型的な戦略は、意図的に危機を煽り、そして実際に危機を作り出し、「善意のジェスチャー」として危機の収拾を提案し、見返りに譲歩を求める、その「ディール」・取引を通じて貿易赤字の是正と生産拠点の国内回帰を促す、その病的なまでの思い上がりが、今や逆効果、ブーメランとしてトランプ氏は追い詰められているのである。それはまさに「アメリカの驚くべき自傷行為」であった。そうした危機激化政策を放棄しない限り、政治的経済的危機から脱出できないであろう。
(生駒 敬)

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【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう

【翻訳】America なしでは the West ばらばらになり、枯れしぼみ、死んでしまうであろう。

The Japan Times、   February 27, 2025

“ Without America, ‘the West’ will splinter, wither and die.“
  by Andreas Kluth and James Gibney : Bloomberg
[ Andreas Kluth is a columnist and James Gibney is an editor of Bloomberg Opinion .]

 U.S President Donald Trumpは、多くの制度、慣行や規範を壊したり混乱させている。そしてなにが重要であるか、ないのかを追跡することが難しい。単なる興行的混沌(“chaos”)なのか?(TVリアリティー番組でビッグな演出する名士にふさわしく)或いは、それらは歴史的な破壊になるのか?多くの事柄は、それらは後者になることを暗示している。というのもTrump大統領は、一つの大きな思想/知識(“an idea”): それは、”the West”である、を埋葬する道を順調に進んでいる。(訳者注:the Westは、西洋、西側等に訳せるが、以降the Westのままとします。)
 “Global South” 同様に、”the West” は, 本来地理上の概念ではなくて、欧州 や 北米の主要部は、アジアとそのほかの地域に対して、反対側との意味合いを持っている。”the West” は、代わって言えば、ドイツの歴史学者 Heinrich August Winkler が定義しているように、一つの規範的な企画 ― 進化していて漠然としている何か、しかしそれにもかかわらず、首尾一貫している価値体系の束である。Trump と彼の活動は、これら価値体系を、明白ではないが分かち合っていず、米国が過去80年にわたり引っ張ってきた欧州諸国に浸透しつつある。この実現は下剤となりうる。
 Christoph Heusgen を取り上げてみよう。彼はドイツの外交官で私は、彼が Angela Merkel 前首相の時のNational security adviser であったとき知り合ったのだが、彼は先月、Munich Security Conferenceの会長となっていて、退職することになっているが、会議の終わりに「我々は、共通の価値基盤はもはや共通のものではなくなることを恐れねばならない。」と述べた。その数分後に彼は泣き崩れてステージを後にし、そして聴衆で涙を流さなかった人は誰もいなかった。Heusgenは、Trump’s vice president, J.D. Vanceのもう一つの演説に反応していた。Dachau concentration camp* を訪問した翌日、彼はMunich(ミュンヘン)の聴衆に熱弁をふるった。(* 訳者注、1933年にナチスが設置した強制収容所でドイツ南部Munichの郊外にあった。1945年4月米軍に開放されるまで、188,000人超が収容された。)
 即ち、ヨーロッパはロシアや中国について、あまり心配すべきではない。恐れるべきは「内なる脅威」(“threat from within”)である、と。そしてその脅威とは何か?
それは明らかに反民主主義や選挙(ロシアの偽情報によって堕落したルーマニアの選挙のように)の中止で明らかになった、目覚めたように勃発した検閲、そしてAlternative for Germany (AfD) (訳者:「ドイツの選択肢」と訳されている。)のような抑圧する運動(動き)。AfDについてドイツの諜報機関はneo-Naziの傾向ありとして監視しているが、それにもかかわらず、AfDは、国会、メディアや社会や他の団体が有しているのと同様の権利を有している。その聴衆の多くの欧州人と少なからずいた米国人は、Trumpの助手たるVance副大統領―彼は2020年の米国大統領選挙時の投票数が盗まれたという大嘘を信じている―が今回の昨年行われた大統領選挙の正しさ、誠実さについての演説について、その厚かましさに口を大きく開けて驚いていた。
 ドイツ人達にとっては、特にホロコースト(Holocaust)やDachauのような収容所の悲惨な出来事から彼らが引き出し、教訓にしているメッセージに対するVanceの歪曲を信ずることが出来ない。それらは、決して、再びあってはならないと。

ドイツ人にとって、その忠告は以下のことを意味している。
*虚言は、反対する人がいなくても、存在することを決して再び許してはならない。
*最高得票者の専制政治は決して再び少数者や個人の権利を粉砕してはならない。
*人間の尊厳は、不可侵で犯すべからずである。たとえその人が自国人であろうと移民であろうと。その人が、集団の人であろうと、集団外のひとであろうと。
 しかし、今はTrumpの政権である。Russiaのプロパガンダを中継放送してAfDのような極右(“far-right”)政治活動を広め、Dachauでの写真でポーズを取りつつ歴史の教訓を弾き飛ばしている。何故にドイツ人がこの新しくWhite Houseから出てきた皮肉/冷笑にショックを受けているか? 理由がある。
 このことには私にも共鳴するものがある。 というのは、ドイツと米国の二重国籍人として、私は今まで両国文化の境界で過ごしてきた。Holocaustの後、West Germansは善良なるEuropeansとなり民主主義者となった。しかし、彼らは、米国の保護監督と防衛の下でそのようになった。彼らは西洋価値観(“Western” values) を彼らの征服者から転じた解放者:米国人(“the Americans”)から学んだ。

 歴史家 Winklerに戻ろう。私の本棚は西欧の歴史、価値観、現代の危機に関する彼の作品集の重さで、呻き声をあげている。しかし、彼の最高傑作は、何故にドイツ人が、ドイツは”West”の一部になったのか、ならなかったのかを把握するのに、そんなに長くかかったのか、という研究である。彼らドイツが、1848年から1945年まで、良くない方向へ変わったときは、結果は専制政治、全体主義、二つの世界大戦、そして多くのHolocaustであった。彼らドイツは、結果的に”the West”に合流した時、板すだれの間より、Washington(と同じ様にElvisやMarlboro Man)を注視して、歴史はより一層明るいものになった。
 では、”the West” とは、何と呼ばれているのか? その哲学的根源の種は、Athens and Rome で蒔かれた。
 そして、発芽、成長したのは中世の”Occident”(西洋)[“Middle East” における “Orient” と異なって] であった。より明確には、the Catholic の領域/国、そして、その後にキリスト教の Protestant (Orthodoxに対比して) の土地、領域、国であった。その形成、成熟は、啓蒙運動 (“Enlightenment”)— アメリカとフランスの革命を生んだ — 個人の自由、合理性、良識、自己決定の強調を啓蒙運動は旨とした。
 それ以来、200年経過している中で、the West は、民主主義、法の支配、人間の権利、寛容と憲法主義に立脚して進化、発展して来た。それは常々、自身の悪、即ち、奴隷制度から植民地主義や権威主義までと対峙し打ち破らねばならなかった。各々の時代で、それは上手く行っていた。少なくとも、今までのところは。
 The West は、第二次大戦における、Nazism and Fascism を打倒した後でのみ、地政学的概念(“geopolitical concept”) となった。その最初の公式的な組織/機構は”NATO” であった。それは当初は、Europeにおける Americans のために設立された。そこでは、Russiansは “out”で, Germansは “down” であった。そして、その他は、今日European Unionとなっている組織に含まれた。
 多くの国々は、自分たちもthe Westの機関の一つなので、この組織に入りたいと望む。ウクライナ人はEuroの場において、2013-2014年にEU入りとMoscowから去りたいと望んだ。そのMoscowは、北京が台湾の人々に行い、Pyongyangが韓国人に行っているような権威主義を標榜し”East”を代表している。

 従って、non-American West (非米国の欧州) における、認識されている不協和音は、以下のようなものである。U.S.の政府高官が直接、Saudi Arabia にてRussiaの高官と協議する— Ukraineの運命、それにWashington and Moscowの全面的緊張緩和について。— さらに次のようなことまで。
 米ロ協議に招待されなかった the Europeansは、これらTrump尊敬者達がEuropeansを置き去りにすると見越して、別個に、平和を実現するために、Parisに集まった。
 また、Trumpの脅迫— CanadaやDenmarkへの、他方、優しい言葉を彼のMoscowやBeijingにいる相手方にかけていることを、Europeansはいつも注視していて、不安に陥っている。

 歴史において最も強力な国のリーダーたるTrumpは、the West の米国と世界の両方に値する価値を理解している、ということは、この度は何も暗示していない。さらにthe West は運命つけられている、ということは、重要ではない。しかし、それは、Ukrainians and Europeans にとっては、よくない前兆である。—より多くの自由と正当性を持つ世界を切望している、いかなる人々、いかなるところにとっても。 [完]
(訳:芋森)  

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【投稿】「アメリカの驚くべき自傷行為」--経済危機論(159)

<<関税計画の「粗雑さ」>>
4/2、トランプ米大統領は、「今日は、非常に良いニュースがあります」と演説を始め、この日を「解放記念日」とする宣言。4/5から米国への180を超える国と地域からのすべての輸入品に10%の基本関税を課す大統領令に署名。さらに貿易赤字を抱える対象国と地域をターゲットにした、事前の対話や交渉もない、まったく一方的な、より高い税率の、4/9に発効する個別の「相互関税」リストを、仰々しく大掲示板で並べ立て、発表した。
 実はこの発表、トランプ氏自身、マイナス反応を怖れて、「その時点で市場が閉まっているため」、午後3時から午後4時に変更したのだと報じられている。トランプ氏は、「これから(税率の)取引をする」のだというが、「一切、変更する気もない」、「なるようになる」と投げ出してもいる。

その相互関税リストの粗雑さ、ずさんさは目を覆うばかりで、「予想よりもはるかにひどい」とまで報じられ、120億ドル近くの黒字があるイギリスに対しては10%だが、カンボジア、ラオス、ベトナム、南アフリカの小さなレソトなどの国にはなんと50%もの「グロテスクな」関税が課せられ、もっとあきれるのは、アザラシやペンギンなどが生息するだけのオーストラリア領のハード島とマクドナルド諸島や、北極に近い無人島のノルウェー領ヤンマイエン島に対しても、トランプ政権は10%の関税を課す、というでたらめさである。その根拠を追求されて、ホワイトハウスが示

したのは、ギリシャ文

字で装飾した数式で「ざっと計算」しただけで、実は、各国との貿易赤字を調べ、その国の輸出額で割り、ご「親切に」その数字を半分にしたに過ぎなかったのである。ポール・クルーグマン氏は、トランプ氏の関税計画のこの「粗雑さ」を「悪質な愚かさ」とこき下ろしている。まさに、焦りと、ゴーマンとにわか仕立ての産物であろう。

このリストの発表後、中国は直ちに、米国に34%の輸入関税で反撃 中国財務省は4/4、4月10日から米国からのすべての輸入品に34%の関税を課すと発表。トランプ大統領が「最悪の違反国」と呼んだ中国は、米国への輸出品に既存の20%の関税に加えて新たに34%の関税を課され、関税総額は少なくとも54%に達している。中国は同時に、関税に対抗して世界貿易機関(WTO)に訴訟を起こし、ワシントンに対し、関税を「直ちに」撤廃し、貿易相手国との「公正かつ平等な対話」を通じて紛争を解決するよう求めている。

<<「血が流れる」>>
このリスト発表後、数時間のうちに金融資産は急落し始め、米国の株式市場は4月3日から4日にかけて、6兆6000億ドルもの損失を出し、史上最大の2日間の暴落の事態へと突入したのであった。
4/4、ダウ工業株30種平均は 2,231.07ポイント(5.5%)下落して38,314.86となり、これは4/3の1,679ポイントの下落に続くもので、2日連続で1,500ポイント以上下落したのは史上初である。
S&P 500も5.97%急落して5,074.08となり、2020年3月以来の大幅な下落となり、直近の高値から17%以上下落している。ハイテク企業が多数参入するナスダック総合指数は5.8%下落して15,587.79となり、4/3の約6%の下落に続き、同指数は12月の記録から22%下落である。

主な下落には、マイクロン26.8%、マイクロチップテクノロジー25.6%、デル22.4%、マーベルテクノロジー20.3%、ARMホールディングス18.6%、ラムリサーチ18.6%、アナログデバイス18.3%、エヌビディアは14.0%、アップルは13.6%、メタ・プラットフォームズは12.5%、アマゾンは11.3%、テスラは9.2%、アルファベットは5.7%、マイクロソフトは5.0%下落。ブルームバーグのハイテク株・MAG7指数は今週10.1%下落し、1か月間の損失は15.8%に拡大している。まさに「流血の事態」である。

さらに深刻な金融・信用ストレスが浮上し、KBW銀行指数は今週13.8%下落し、ブローカー・ディーラー指数は12.1%下落。シティグループは17.4%、バンク・アメリカは16.6%下落。ゴールドマン・サックスのCDSは今週20ベーシスポイント上昇し(86ベーシスポイント)、2020年3月以来の週間最大上昇となった。これは世界の銀行株にとって大打撃であった。日本のTOPIX銀行株指数は20.2%下落し、欧州のSTOXX600銀行株指数は13.9%下落。イタリアの銀行株指数は15.9%下落している。
直近、日本の日経225指数は9.0%(年初来15.3%下落)の大暴落を記録、イタリアで10.5%、スウェーデンで10.1%、スイスで9.3%、フランスとドイツで8.1%、英国で7.0%下落している。アジアでは、ベトナムが8.1%、台湾とタイが4.3%、韓国が3.6%、インドが2.9%、中国(CSI 300)が1.8%下落。ラテンアメリカ市場では、アルゼンチンが12.6%、ペルーが6.5%、ブラジルが3.5%、チリが2.5%、メキシコが3.2%下落している。世界的危機の拡大である。

4/3、フィナンシャル・タイムズ編集委員会は、「アメリカの驚くべき自傷行為」と題して、「ドナルド・トランプが2025年4月2日に米国の貿易相手国に広範囲な「相互」関税を課すと決定したことが、もし実行されれば、米国経済史上最大の自滅行為の一つとして記憶されるだろう。それは世界中の家庭、企業、金融市場に計り知れない損害を与え、

米国が恩恵を受け、その創出に貢献した世界経済秩序をひっくり返すことになる。」と論断し、「最悪のシナリオよりも悪い」 「解放記念日」は、悪名高い日として記憶される日となるであろう、と結論付けている。

同じく4/3、ウォール街の大手JPモルガンは顧客向けメモで、「流血の惨事になる」“There will be blood”という見出しをつけて、今年の世界的景気後退の可能性を40%から60%に引き上げ、「これらの政策が継続されれば、米国、そしておそらく世界経済は今年景気後退に陥る可能性が高い。今年の景気後退リスクは60%に上昇した」と警告している。

<<数百万人の「Hands Off!」抗議運動>>
4/5、こうした事態の中で、米欧を中心に数百万人規模の「Hands Off!」抗議運動が展開されている。
 この土曜日、トランプ大統領とその腹心のイーロン・マスクによる独裁主義と右翼寡頭政治、経済破壊プログラムに対する巨大な抗議運動が展開されている。全米各地で「Hands Off!手を引け」デモが行われ、数百万人が参加したと報じられている。
「米国には大統領がいるが、王はいない」と、この行動に関与した団体の一つである進歩主義擁護団体ピープルズ・アクションは、数百の都市や地域で抗議活動が始まった土曜日の朝、支持者に送った電子メールで述べた。「ドナルド・トランプは、あらゆる点で、自分を王にしようとしてきた。彼は裁判所、議会、そして米国民に対して説明責任を負わなくなった」

「Hands Off!」抗議運動の主催者・“Hands Off” protests 2025-4-5 は、この抗議運動を以下のように紹介している。https://handsoff2025.com/
「これは私たちがノーと言う瞬間です。労働者が生き残るのに苦労しながら、これ以上略奪、盗み、盗むことはなく、政府を襲撃する億万長者はもういません。4月5日はその行動日です。全国で、何千、何万人もの人々がこの億万長者の権力に立ち向かって行進し、結集し、混乱させ、要求します。州の首都、連邦の建物、議会の事務所、市内中心部に現れます。」
「彼らは私たちの国を解体し、政府を略奪している。そして私たちはただ傍観しているだけだと思っている。」「これは、現代史で最も勇敢なパワーグラブを止めるための全国的な動員です。トランプ、マスク、および彼らの億万長者の仲間は、政府、経済、そして私たちの基本的権利に対する全面的な攻撃を調整しています。彼らは、私たちの税金、公共サービス、そして私たちの民主主義を超富裕層に引き渡しています。私たちが今戦わなければ、保存するものは何もありません。」

 

「すべての手の背後にある核となる原則! それは、非暴力的な行動へのコミットメントです。私たちは、すべての参加者が、私たちの価値観に反対する人々との潜在的な対立を除外し、これらのイベントに合法的に行動することを求めていることを期待しています。法的に許可されたものを含むあらゆる種類の武器をイベントに持ち込むべきではありません。」

この日の抗議デモの主要な組織団体の1つであるインディビジブルは、数百万人が1,300を超える個別の集会に参加し、「トランプの独裁的な権力掌握の終結」を要求し、それを幇助するすべての人々を非難したと述べている。「数十万人の参加を予想していましたが、ほぼすべてのイベントで、予想を上回る参加者が集まりました」と、「300を超える「Hands Off!」デモは、労働組合、進歩的な擁護団体、民主主義支持の監視団体の大規模な連合によって組織され、土曜日にヨーロッパで最初に始まり、続いて米国東海岸のコミュニティで始まり、場所に応じてさまざまな時間に一日中続いた。ロンドンで、パリで、フランクフルトで、ブリュッセルで、…

反撃が組織され、開始された。全世界に、さらに拡大されることが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】「ヤルタ2.0」

【投稿】「ヤルタ2.0」

                       福井 杉本達也

1 「ヤルタ2.0」

米国とロシア主導のウクライナ停戦交渉について、2025年3月11日付けの日経のコラム「大機小機」(小五郎)は。「第2次世界大戦時のヤルタ会談と同様に、戦勝国が敗戦国の分割管理を含めて戦後体制を決め、世界の勢力図を変える可能性がある。」とし、「もし『ヤルタ2・0』となれば、戦勝国はロシアとトランプ氏の米国であり、敗戦国はパイデン氏の米国と欧州という構図になる。残念ながらウクライナは捨て駒となる。」と書いた。

周知のように。第2次大戦末期の1945年2月、ルーズベルト大統領・チャーチル首相・スターリン書記長の米英ソ首脳がクリミア半島のヤルタに集まり、密約を交わした。ドイツの分割占領、ポーランドの独立やバルト3国・東ヨーロッパの戦後処理、ソ連の対日参戦、朝鮮半島や台湾の処遇、南樺太や干島列島の扱い…米英ソで戦後の勢力圏を定め、国連の創設も決めた。戦後の世界は、ほぼその通りに動き出した。

 

2 トランプ大統領はウクライナ戦争の責任は「NATOの東方拡大にある」と認める

トランプ大統領は政権発足当初より、ウクライナ戦争の責任はパイデン前政権やウクライナが負っているという趣旨の発言を繰り返している。NATOの東方拡大がロシアとの緊張を高め、結果として戦争が勃発したもので、自分が大統領なら戦争にはならなかったというものである。ウクライナ戦争はロシアと米国がウクライナを介して正面からぶつかった戦争である。米国とNATOは核兵器以外の持てる武器を全て投入し、ロシアを経済制裁し、SWIFTからも除外し、ロシアの対外資産を盗み取り、ノルドストリーム1・2のパイプラインも破壊して、3年以上にわたり戦ったが、結果として敗北したということである。

3月29日付けのニューヨーク・タイムズ紙は、バイデン政権下、「米国とウクライナがロシアの侵攻開始直後から機密情報の共有や戦略立案を巡り、秘密の提携関係にあったと報じた」「提携拠点はドイツ西部ウィスパーデンにある米軍基地に置かれた。両国の軍関係者が協議し、対ロシア戦での攻撃対象の優先リストを作成。衛星画像や無線傍受によって正確な位置を特定し、ウクライナ軍部隊に伝えられた。その結果、南部ヘルソン州のロシア軍拠点やクリミアのロシア黒海艦隊の艦船に損害を与えることに成功した。」(福井=共同:2025.4.1)と報道された。ここまで米国側情報で、ウクライナ戦争への具体的軍事的関与が明らかになったのは初めてであり、そこまで関与しても戦争に負けたということは米国としては素直に認めざるを得ない。

トランプ政権としては、敗北の責任をバイデン前政権(ネオコン・民主党)に押しつけ、ウクライナを捨てるしか名誉ある撤退はできない。

 

3 徹底抗戦を主張する英仏

英スパイ機関、秘密情報部(MI6)のヤンガー元長官は、2024年11月、「トランプ氏は徹顕徹尾、ヤルタ人間だ」、大国の利益を優先するような世界観は「英国の利益と根本的に相いれない」と批判した(日経:秋田浩之コメンテーター:2025.1.14)。ゼレンスキーは戦争から利益を得ている欧州への依存を高めており、特に英国はウクライナ人の犠牲者をさらに増やすよう励まし続けている。2022年3月に停戦交渉が開始されたが、ウクライナは合意寸前になって、一方的に交渉を放棄した。アメリカがそうするように指示し、イギリスもそれに拍車をかけた。ボリス・ジョンソン元英首相が2022年4月初旬にキエフを訪れ、同じ主張をウクライナに伝えて事態をさらに悪化させた。現在のスターマー英首相はさらに悪く、より好戦的である(ジェフェリー・サックス:『長州新聞』2025.3.19)。

しかし、欧州連合は3月20日開いた首脳会議で、新たな400億ユーロのウクライナ支援策について合意できなかった。ハンガリーが反対した。イタリアとスペインも慎重姿勢を見せた。敗者連合は幻想にすぎない。

NATOの軍事費のほとんどをアメリカが負担している。アメリカが抜ければNATOは自ずと解体されることになる。最高司令官から米軍が抜けるということは、NATO解体に向かってアメリカは進んでいる。(遠藤誉:2025.3.23)

 

4 いまだネオコンに操作されている日本の立ち位置

3月18日のプーチン氏と電話会談後、トランプ大統領はFOXニュースのインタビュー番組で、「習近平主席は仲良くしたいと思っていると思いますし、ロシアも米国と仲良くしたいと思っていると思います。また、私たちの国はほんの数ヶ月前とはまったく違うと思います。私たちは今や尊敬される国です。私たちは尊敬されていませんでした。私たちは笑われていました。私たちの指導者は無能でした。たとえば、この戦争は、私が大統領だったら決して起こらなかったでしょう。」(遠藤誉:Yahooニュース 2025.3.23 「米露中vs.欧州」基軸への移行か? 反NEDと反NATOおよびウ停戦交渉から見えるトランプの世界)と述べている。

訪日した英マコネル上院議員は3月18日、「停戦後のウクライナを守る英仏主導の有志国連合への日本の参加に期待を示した。民主主義国家の結束は中国の抑止にもなると訴えた。」「英国はウクライナの停戦を見越して各国に有志国連合への参加を呼ぴかけている。日本は是非を明らかにしていないが、石破首相は15日に聞かれたオンライン形式の有志国連合の首脳会議に「時宣を得たもの」とする書面のメッセージを送た。」(日経:2025.3.20)。「ヤルタ2.0」の状況において、いまさら欧州敗者連合に組みしてどうするつもりか。

寺島実郎は『雑誌世界』2025年2月号において「中国の文明文化への憧憶を込めた米中関係の根深さは注視すべきで、太平洋戦争後の米外交の理論的指導者となった、H・キツシンジャーやプレジンスキーは『大陸主義』というべき論者で、歴史的に中国がアジア・ユーラシアの中核であり、正対すべき相手とする視座に立っていた」と書いているが(寺島実郎「日米中トライアングルの歴史的位相(その2)」、ユーラシアの中核は中国とロシアであり、トランプの米国は中ロに正対するということである。これが『ヤルタ2.0』の新しい枠組みである。

日本は戦後80年にして、再び「枢軸国」に分類されるつもりか。はたまた「東夷(とうい)・北狄(ほくてき)・西夷(せいい)・南蛮(なんばん)」に分類されるつもりか。石破政権ばかりか、野党からも何の反応がないという日本の現状は厳しい。

 

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【投稿】トランプ関税のエスカレーション--経済危機論(158)

<<4月2日「解放の日」Liberation Day in America >>
トランプ米大統領は、4月2日は「これはアメリカにおける解放記念日の始まりだ」と自らのSNSトゥルース・ソーシャルに投稿した(3/27)。米国は長年にわたり「世界のほぼすべての国にだまされてきた」と強弁し、「米国で製造されていないすべての自動車に25%の関税を課す」と新たな自動車関税の導入を打ち出し、鉄鋼・アルミに続く既存の関税キャンペーンを大幅に引き上げ、自動車と1カ月後にさらに自動車部品にも発効する関税が、米国にとって「解放の日」だとし(Liberation Day in America is coming soon)、この大統領令によって、「より多くの生産拠点が米国に移転する」と主張している。

 この新たな自動車関税は、中国からのすべての製品に20%の関税、すべての鉄鋼とアルミニウムの輸入に25%の関税など、すでに1月から実施されているより広範な貿易攻勢に続くものであり、進行中の関税・貿易戦争におけるさらなるエスカレーションである。トランプ大統領は3/27、欧州連合とカナダが報復措置で協力しないよう警告し、もし報復措置を取れば「現在計画されているよりもはるかに大きな」関税引き上げまでも言及している。
しかし、カナダのカーニー首相は、米国の関税はカナダの自動車労働者に対する「直接攻撃」であり、トランプの関税は「我々を傷つけるだろう」として、「我々は労働者、企業、そして国を守る」と断言し、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、Xに直ちに失望の投稿をしている。年間4740億ドルの自動車製品を輸出している他の主要同盟国との関係をも悪化させることは確実である。

このエスカレーションによって、すでに米国への乗用車輸出に2.5%の関税、小型トラックに25%の関税が課されていることから、乗用車の関税率は27.5%、小型トラックの関税率は50%に引き上げることを明らかにした。この新たな関税導入により、米国で購入される自動車の平均価格は 3,000 ドルから 10,000 ドル上昇すると予測されている。

このニュースが伝わるや、米国の大手GMとフォードの株価は3/27のニューヨーク証券取引所でそれぞれ7%と4%下落し、主要な外国ブランドの株価は3/28早朝、欧州とアジアの市場でそれぞれ2~4%下落を記録している。メルセデス・ベンツは3%以上、BMWとフォルクスワーゲンは2%以上、ポルシェAGは4%以上、コンチネンタルは2%、ステランティスは4%以上、ボルボ・カーは8%以上急落、アストン・マーティンは5%近く、トヨタは2%、日産は1.7%、ホンダは2.5%、それぞれ下落している。

そして米自動車メーカーは、実際には、カナダとメキシコから輸入される自動車部品に課税されることによって、海外の競合企業よりもさらに大きな打撃を受けるのが実態なのである。ここ数週間で大手自動車メーカーの時価総額は1000億ドル以上も減少している。

<<「不況ルーレットをプレイ」するトランプ>>
問題は、自動車産業の株価下落だけではない。それどころか、景気後退と成長鈍化、インフレ高進懸念をより一層高めたことにより、連鎖的に大手ハイテク企業が軒並み売られ、アップル2.7%、マイクロソフトは3%、アマゾンは4.3%、それぞれ下落。
 この1週間で、S&P500は1.5%下落(年初来5.1%下落)、ダウは1.0%下落(2.3%下落)、銀行株は1.9%下落(5.1%下落)、証券・ディーラー株は2.3%下落(0.9%上昇)。運輸株はほとんど変わらず(8.2%下落)。S&P400中型株は1.0%下落(6.6%下落)、小型株ラッセル2000は1.6%下落(9.3%下落)。ナスダック100は2.4%下落(8.2%下落)。半導体株は6.0%下落(14.0%下落)。バイオテクノロジー株は2.0%下落(0.6%下落)、等々。対照的なのは、金価格で、63ドル急騰し、HUI金指数は2.0%上昇(年初来実に30.4%の上昇)。金は1オンスあたり3,080ドルを超えて過去最高値を更新している。

 かくして、インフレ予測は再び上昇しており、トランプ関税こそが火に油を注ぐことになっている。フォックスニュースでさえ、「あまりにも多くの商品の価格が急騰している」とインフレについて警告している。
連邦準備制度理事会(FRB)の主要インフレ指標は2月に予想以上に上昇し、2024年1月以来最大の月間上昇率となり、12か月のインフレ率は2.8%となっている。そしてGDP予測も半分に削減されるかマイナスになり、失業率は増加すると予想され、一部の大企業は売上減少を予測する事態である。
3/28現在、 2025年第1四半期の実質GDP成長率の予測は-2.8%に落ち込んでいる。アトランタ連邦準備銀行は、米国の国内総生産(GDP)が現在3%近く減少するとの予測を発表している。

3/24のウォール・ストリート・ジャーナルの論説は、「トランプはアメリカ経済で不況ルーレットをプレイしている」と大統領を激しく

非難し、「トランプの行動はアメリカ経済を破滅に追い込むように設計されているようだ。これはまさにトランプ不況だろう」と論断している。

第二次トランプ政権発足以来の関税エスカレーションが、結果的には米国経済に明らかな逆効果をもたらしていること、さらには、世界的な政治的経済的危機のダイナミクスをより一層危険な領域に追い込む可能性が高まっていることが指摘されよう。ここでも、戦争政策に対してと同様、緊張を緩和する政治的経済的な政策の大転換こそが要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】プーチン・トランプ電話会談、デタントへの前進と障碍

<<「この紛争は決して始まるべきではなかった」>>
3/18、プーチン・トランプ両氏のロ・米両大統領の電話会談は、2時間半に及び、双方共に、「前向きな内容」であったと評価している。会談後、両国から発表された詳細は、以下の通りである。
* トランプ大統領は、モスクワとキエフがエネルギーインフラ施設への攻撃を30日間相互に停止することを提案した。
* プーチン大統領はこの考えを支持し、直ちにロシア軍に該当する命令を出した。
* ロシア大統領は、ワシントンが提案した30日間の全面停戦は、いくつかの「重要な」点を条件としていると説明した。それは、前線全体にわたる効果的な監視、ウクライナ軍の再武装(当然ながら国外からの武装を含む)、およびウクライナ国内での強制動員の停止である。
* 「首脳らは、平和への動きはエネルギーとインフラの停戦、および黒海の海上停戦、完全停戦、恒久平和の実施に関する技術的交渉から始まることで合意した。これらの交渉は中東で直ちに開始される」とホワイトハウスは声明で述べた。
* ホワイトハウスの声明はさらに、「この紛争は決して始まるべきではなかったし、誠実で誠意ある平和努力によってずっと前に終わらせるべきだった」と強調した。
* プーチン大統領とトランプ大統領は、ウクライナ紛争の一時的な解決ではなく「永続的な平和」を達成するという約束を再確認した。モスクワは、「危機の根本原因を排除する」こと、および「安全保障分野におけるロシアの

どんな発言があったにせよプーチン・トランプ電話会談は大成功だった (ロシアのサイト・RT、3/18)

正当な利益」を満たすこと、および「外国の軍事援助の完全な停止とキエフへの諜報情報の提供」が目標達成に必要な重要な要素であると考えていると、クレムリン報道官は指摘した。
* ロシアと米国の関係についても議論され、双

方が相互に利益のあるプロジェクトに取り組むことで合意した。ワシントンとモスクワは「両国が協力を確立できる幅広い分野」を検討していると、クレムリン報道官は述べた。* 「両首脳は、米国とロシアの二国間関係の改善による将来には大きな利点があるということで一致した。これには、大規模な経済取引や、平和が達成されたときの地政学的安定が含まれる」とホワイトハウスは述べた。

以上のような事態の前進は、緊張緩和・デタントへの明らかな前進であると言えよう。米・ロ関係は、バイデン前政権時代の、外交交渉を一切拒否した緊張激化関係から、平和的相互関係構築への転換点であることを浮き彫りにしているのである。トランプ政権は、バイデン前政権が引きずり込んだウクライナにおける西側諸国EU・NATO諸国の代理戦争よりも、ロシアとの協力を優先するデタント政策への転換に踏み出したのである。

<<「今、なぜロシアを攻撃しないのか」>>
しかし問題は、このような平和的解決・前進とは逆方向に動かそうとする、無視しがたい、緊張激化と戦争拡大を志向する動きである。それは、バイデン政権の果たした役割を、今やEU・NATO諸国が買って出ようとしていることである。EUとウクライナのゼレンスキー政権は、米・ロの交渉に関係なく戦争が続くこと、ウクライナのNATO加盟を望んでいるのは明らかなのである。
EUは、直近でも2回の首脳会談を開き、両首脳会談で、ゼレンスキー政権への支援継続を声高に訴え、米国抜きでは支援できないことが明らかであるにもかかわらず、「プーチン大統領は戦争を愛し、平和を嫌う男だ」と激しく非難し、「ロシアの脅威に対抗する」軍事力の強化を目的とした、7,000 億ユーロを投入する防衛パッケージを発表している。この資金は、従来の財政ルールを回避し、共同 EU 債券を通じて促進されようとている。ウクライナ戦争を長引かせることがその前提なのである。平和的解決など、もってのほかなのである。 ポーランドとバルト諸国は、もしロシアの勝利を許せば、次はロシアが攻撃してくるかもしれないと主張し、「なぜロシアが攻撃してくるのをじっと待つのではなく、今ロシアを攻撃しないのか」と問うており、「ロシアへの先制攻撃を協議中」とまで報じられている。

こうした動きは、フランスのマクロン大統領が最近、すべてのヨーロッパ人にロシアとの戦争に備えるよう促した演説、ロシアを標的とした核戦争拡大・「核の傘」発言を歓迎し、リトアニアのギタナス・ナウゼダ大統領は「核の傘はロシアに対する非常に重大な抑止力となるため、我々は大きな期待を抱いている」と述べ、ラトビアのエヴィカ・シリニャ首相もこれに同調。デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は「ウクライナの平和は現在進行中の戦争よりも危険だ」とまで宣言している。
イギリスのスターマー首相、フランスのマクロン大統領が先導するこうした危険な動きには、もちろん多くの意見の分岐が内包されており、混迷が引き続いている。
3/14には、NATO事務総長のルッテ氏が会見で、ウクライナのNATO加盟はもはや検討されていないことを確認し、さらに今年中にウクライナでの戦闘が終結する可能性について楽観的だと述べ、また、EUと米国とロシアの関係が長期的に正常化する可能性も否定しなかった、ことが明らかになり、「突然の方向転換?」と騒がれている。

<<「ジェノサイド・トランプ」>>
一方、3/18、プーチン・トランプ電話会談が行われた同じ日の早朝、中東・パレスチナのガザ地区全域で、イスラエルの空爆が集中的に行われ、400人以上が殺害され、わずか2か月余りで脆弱な停戦協定が崩壊している。
 このイスラエルの停戦期間中の突然の無謀な爆撃、ジェノサイド攻撃を、トランプ政権・ホワイトハウスのカロリン・リービット報道官は、ネタニヤフ政権が最新のガザ爆撃に先立ちトランプ政権と協議したことを確認し、ホワイトハウスがイスラエルの攻撃を全面的に支持すると表明した。
「事前に協議」し、「全面的に支持」など、トランプ氏が言うプーチン・トランプ電話会談で示した「誠実で誠意ある平和努力」など、ひとかけらもない、イスラエルのジェノサイド擁護は、まさに前大統領「ジェノサイド・ジョー」と同等、悪質な「ジェノサイド・トランプ」だと言えよう。
もっと言えば、これはトランプによる大量虐殺だとも言えよう。トランプ氏は、大統領就任前から、一貫してネタニヤフ政権の虐殺行為を公然と支持してきたばかりか、2/4には、ネタニヤフ政権の極右メンバーが大歓迎するトランプ氏のガザ全住民を追い出す、民族浄化の卑劣な計画、「中東のリビエラ」計画の張本人である。

 米国を拠点とする平和擁護団体「Win Without War」の事務局長サラ・ハグドゥースティ氏は声明で、「ネタニヤフ政権がガザでの停戦を破り、広範囲にわたる壊滅的な爆撃を再開した決定に、私たちは心を痛め、憤慨している」と述べ、「トランプ大統領は就任初日の前から、ネタニヤフ政権の戦争への回帰を支持してきた。封鎖と爆撃の再開は、どちらもパレスチナ人がガザ地区で生活できなくなる状況を作り出すために計画されている」、「我々と世界中の良心あるすべての人は、この民族浄化キャンペーンを断固として非難する」、と述べている。

トランプ氏にとっては、プーチン氏との電話会談も、イスラエルのジェノサイド擁護も、お得意の「ディール」・取引に過ぎないのかもしれない。しかし、こうした二面性は、ブーメランとして跳ね返り、政治生命そのもの障害となるであろうし、追い込む運動、力の結集が要請されている。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税:株価暴落を加速--経済危機論(157)

<<3・10「ブラックマンデー」>>
3月10日月曜日、トランプ大統領が就任して50日目。株式市場は急落を続け、ダウ平均株価は過去1か月で約2,500ポイント下落。3/10は1,100ポイント以上下落した後、約900ポイントの下落で引けた。

米国株式市場、トランプ関税で、4兆ドルの価値を失う

報道の見出しは
* 「景気後退の警告が鳴り響き、株価暴落が加速」(ブルームバーグ)
* 「米国株式市場、トランプ関税で、4兆ドルの価値を失う」(ロイター)
* 「トランプ大統領が景気後退の可能性を否定しないと発言したことで、ダウ平均株価は1,100ポイント下落」(CNN)
* 「関税と景気後退への懸念が高まる中、株価は再び下落」(NPR)
* 「関税への懸念が市場を支配し、ウォール街は下落」(ガーディアン)

CNNやガーディアンが指摘しているように、「トランプ米大統領が週末のフォックスとのインタビューで景気後退の可能性を否定できなかったため、市場がトランプ氏のより不安定な行動を抑制することができるという期待は崩れつつある」ことが、引き金となっている。
そして直接的なきっかけとして、「中国が米国による中国からの輸入品への 10% の関税に対抗して、農産物を標的とした米国からの輸入品に報復関税を課したことを受けて」、まさに「関税への懸念」が市場を支配し、下落が一気に広がったのである。

ダウの下落と同時進行で、ナスダック100だけでも1日で5%近くも急落、パニックが発生。S&P 500は11月以来初めて200日移動平均を下回り、ナスダックは2022年以来最悪の日となり、4%下落して17,468.32で取引終了し、ハイテク株には大打撃となったのであった。ナスダック総合指数は直近の高値から14%近くも下落している。アップル(AAPL.O)、NVIDIAが両方とも約5%下落し、テスラは15%下落、約1,250億ドルの価値を喪失している。かつて急騰していたNvidiaの株価が今や崩壊し、1月のピーク時には、Nvidiaの時価総額は3兆6,600億ドルだったものが、3/7には、なんと1兆ドルも失い、2兆6,600億ドルにまで落ち込んでいる。

<<「絶対にない。アメリカに不況は起こらない」>>
ところが、トランプ政権は、景気悪化の責任をすべてバイデン前大統領に押し付けている。トランプ大統領による関税の脅し、実施、撤回、延期、再開の繰り返し、そして連邦政府の労働力削減、緊縮策として数十万人に上る可能性のある政府職員の大量解雇にもかかわらず、国家経済会議のケビン・ハセット委員長は、経済の悪いニュースはすべてバイデン前政権の責任であると広言し、関税は、「貿易戦争ではなく、麻薬戦争だ」と言い逃れる始末である。
3/9、株価暴落の前日、ラトニック米商務長官は、NBCの「ミート・ザ・プレス」で、大手投資銀行が今後12カ月以内に景気後退が起きる可能性があると予測していることについて問われ、「絶対にない。 …アメリカに不況は起こらないだろう」と答えている。あきれた認識、無責任な放言であろう。

家計の不安が高まり株価が急落する中、ホワイトハウスは景気後退論に反発(March 11, 2025 reuters)

そしてトランプ氏自身が、「米国が不況に直面する可能性があるかどうか」を問われて、そんな予測は「嫌い」であると答え、予測そのものを拒否している。しかしそれでも、週末のフォックスとのインタビューで景気後退の可能性を否定できなかったのである。追い詰められているのは確かであろう。

いまやウォール街は、トランプ氏がソフトランディングを破壊し、ハードランディングに突き進んでしまうことを恐れだしている(WSJ March 10, 2025)。

まさに「史上最も愚かな貿易戦争」の警告が、具体的で危険なサインを出したのだ、と言えよう。しかし、これは始まったばかりである。トランプ政権が政策の大転換をしない限り、長引き、より大きく悪化する可能性が大なのである。
(生駒 敬)

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【投稿】トランプ関税戦争:世界恐慌への警告--経済危機論(156)

<<「史上最も愚かな貿易戦争」>>
3/4、米トランプ政権は、カナダ、メキシコ、中国に対する一方的な関税引き上げ戦争に突入した。
2/1にトランプ氏が署名した、メキシコとカナダからの輸入製品に25%の関税を課し、カナダのエネルギー製品には10%の関税引き上げを課し、中国に対しては10%の追加関税を課す、という大統領令は、2/3にカナダ、メキシコとの交渉を続けるとして、実施を30日間延期していたが、進展はなく、関税措置は3/4に発効、ついに関税・貿易戦争に突入する事態となった。

カナダのトルドー首相は直ちに、「カナダ国民の皆さん、甘い言葉は言いません。これは厳しいものになるでしょう」と宣言し、対抗措置として、第1段階には、3月4日午前12時1分から米国からの輸入品300億カナダドル(約210億米ドル)相当の商品に対する対抗関税を課す。対象製品には、オレンジジュース、ピーナッツバター、ワイン、酒類、ビール、コーヒー、電化製品、衣料品、履物、オートバイ、化粧品、一部のパルプおよび紙製品などが含まれる。次いで、21日間の意見募集期間が設けられ、米国からの輸入品1250億カナダドル(約890億米ドル)に対する追加対抗措置が行われる。その品目リストには、電気自動車、果物や野菜、牛肉、豚肉、乳製品、電子機器、鉄鋼、アルミニウム、トラック、バスなどの製品が含まれる、ことを明らかにし、米国が自国の措置を撤回するまで関税は継続すると明言している。
さらにトルドー首相は、今後起こる貿易戦争がアメリカ経済にどれほど深刻な打撃を与えるかを説明し、市場は低迷し、インフレが上昇する可能性があると指摘し、「彼らは、食料品やガソリンなどの日常必需品、車や住宅などの主要な購入品、その他あらゆるものについて、アメリカの消費者にかかるコストを上げることを選択した」と述べ、トランプ氏は「カナダ経済の完全な崩壊を望んでいる。そうすれば我々の併合が容易になるからだ」と語り、カナダを米国の51番目の州にしたいというトランプ氏の願望に言及、「これは非常に愚かな行為だ」と、まさに断腸の怒りを表明している。
この発言を聞いたトランプ氏は、カナダの「トルドー知事」などと揶揄し、報復関税に対しては「米国の相互関税も即座に同額引き上げる」と応じている。次元の低いエスカレートの応酬である。
カナダのオンタリオ州の首相ダグ・フォード氏はトランプ関税への対抗措置として、米国への電力と重要な鉱物の供給を停止する用意があると述べ、米ミシガン州、ミネソタ州、ニューヨーク州など、カナダの電力に依存している米国の州への電力供給・輸出を停止するとの脅しまで表明している。
事態の進行は、まさに危なっかしい、危険な領域に入っている、と言えよう。

トランプ大統領、最も愚かな関税に踏み切る

 

3/3、米ウォールストリート・ジャーナルの編集委員会は、トランプ大統領を激しく非難し、トランプ氏の関税措置を「史上最も愚かなもの」と断言し、「特定の国や企業に打撃を与える報復措置により、トランプ大統領は想像よりも早く考え直すかもしれない」が、「トランプ氏は、関税自体を望んでおり、それが新たな黄金時代の到来を告げると述べている。」、この「無制限の関税マンは、2期目では必ず大きな経済的リスクになるだろうが、今やそうなっている」と結論付けている。

<<「1930年代大恐慌に似た崩壊に直面する可能性」>>
3/4、メキシコのクラウディア・シャインバウム大統領は、メキシコは3/9に米国に対する報復関税を発表すると発表し、米国の関税引き上げを「不当」なものであると非難。トランプ政権が米国・メキシコ・カナダ協定に違反していると指摘し、メキシコ政府と組織犯罪を結びつけるホワイトハウスの主張を「攻撃的で根拠がない」と否定。「関税が課されれば、雇用の喪失、生産の遅れ、米国の消費者に対する自動車価格の上昇が見込まれる。これは保護主義政策が達成しようとしていることとはまったく逆の結果」をもたらすことを警告している。

同じく3/4、中国は、トランプ氏が中国からの輸入品に対する関税を10%から20%に倍増すると決定したことを受けて、米国の農産物や食品の幅広い製品に10~15%の関税引き上げを発表、米国企業25社に輸出および投資制限を課したことを発表している。米国からの鶏肉、小麦、トウモロコシ、綿花の輸入に15%の追加関税を課し、米国産のモロコシ、大豆、豚肉、牛肉、水産物、果物、野菜、乳製品には10%の追加関税が課される。さらに、環境保護と食品の安全を守るため、米国産木材の輸入を即時停止し、米国産大豆を中国に供給している3社の輸出資格を取り消すと発表している。
3/4、報道官・楼欽建氏は、北京で開かれた記者会見で、米国の一方的な関税措置は世界貿易機関の規則に違反し、世界の産業チェーンとサプライチェーンの安全と安定性を乱すものだと警告。
中国はすでに7,750億ドルの米国債務を手放し、欧州から62兆ドル相当の証券を引き揚げる準備をしており、これが勢いを増せば、西側諸国の金融システムの崩壊の引き金、世界金融秩序の再編成となる可能性が浮上している。

こうした事態の急速な進行を背景に、米株式市場は動揺を隠しきれず、3/3、3/4、ダウ工業株30種平均が2日連続で下落、48時間で1,300ポイント以上下落、銀行株と小売株が下落を主導し、S&P 500 は年初来で赤字に陥り、トランプ氏が当選した後に見られた株価上昇は完全に帳消しとなり、当選前よりも低い水準に下落している。
関税戦争により、今後12か月でインフレが2023年5月以来の高水準となる6.0%に達すると予測されており、すでに実質GDPの四半期変化率-2.5%は、FRBの記録開始以来、最悪の水準である。
高関税のブーメランを予測も想像もできない、ただ推進するのみ、とするトランプ政権は、政策の大幅な修正・転換に踏み切らない限りは、国内外で孤立せざるを得ない事態に追い込まれるであろう。すでにトランプ政権の不支持率=52% vs 支持率=48%、物価対策では、不支持=54% vs 支持=31% と、不支持が支持を逆転する事態である(2月末CNN調査)。

関税戦争開始によるこうした激しい変化にあわてたトランプ政権は、ハワード・ラトニック商務長官が急遽、トランプ大統領がカナダとメキシコの指導者と「妥協」する用意があるかもしれないと示唆、トランプ大統領が「おそらく」妥協を検討するだろうと発表している。動揺を隠し切れない事態の展開である。

関税戦争は世界を新たな大恐慌に陥れる恐れ

3/4、国際商業会議所(ICC International Chamber of Commerce)の幹部は、まもなく「1930年代の貿易戦争の領域に陥る下降スパイラル」に直面する可能性があると主張し、米国が輸入品に高関税を課す計画を撤回しなければ、世界経済は1930年代の大恐慌に似た崩壊に直面する可能性があると警告している

しかし、トランプの関税戦争は、まだ始まったばかりである。カナダ、メキシコ、中国に課せられた新たな関税により、米国の消費者と企業の総コスト負担はすでに 1,600 億ドルという驚異的な額にまで上昇している、と報じられている。しかしこれは、トランプ氏の関税戦争計画全体の、まだ 40% にすぎない。対日本や対EU 諸国を含めた、全世界的な相互関税が導入されれば、巨大な悪影響を及ぼし、歴史的な世界恐慌にまで突入しかねない、そのような緊張状態に突入しつつあると言えよう。
(生駒 敬)

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【投稿】「トランプ関税」:日本の消費税は「輸出補助金」

【投稿】「トランプ関税」:日本の消費税は「輸出補助金」

福井 杉本達也

1 「エンゲル係数」が約3割に

24年の家計の消費支出に占める食費の劃合を示す「エンゲル係数」は28・3%と、1981年以来、43年ぶりの高水準になった。生活に欠かせない食料への支出劃合が高いほど、家計にゆとりがない状態と見なされる(福井:2025.2.8)。フランス24%、英国22%、ドイツ19%、米国16%、韓国12%なのに、日本だけがどうしてこんなにも高いのか。先進国ではトップである。庶民は食べ物すらまともに買えない状況に陥りつつある。あらゆる分野で物価高が加速するが、賃上げも全く追いつかず、家計を極端に追い詰めている。アベノミクス=異次元緩和の帰結が、この異次元の物価高となっている。これは自民党政権による「人災」である(小沢一郎:2025.2.12)。この約30%の消費税のうち2.4%部分は消費税である。もちろん、この30%は1世帯当たりの平均的な消費支出であり、平均を上回る世帯も多々ある=ほとんどを食費にまわさざるを得ない世帯もあるということである。

2 トランプ氏:消費税還付は「輸出補助金」と発言

米ホワイトハウスの高官は、日本について名指しで「構造的な(非関税)障壁が高い」と言及、トランプ氏は「消費税も関税とみなす」と語った(日経:2025.2.15)。トランプ氏が問題視しているのは消費税の輸出還付制度である。輸出企業が消費税還付を受けられる仕組みがあり、これが「事実上の輸出補助金」として機能している点をトランプ氏は不公平だと主張している。アメリカの売上税にはこのような還付制度がないため、「消費税がある国々に対しては報復関税をかける」と警告している。

消費税(VAT)は全事業者の取引に課税されインボイスで管理されるが、米国の売上税(Sales Tax)は最終消費取引のみに課税される。消費税では輸出企業は仕入れ税の還付を受けられるが、売上税では還付金は発生しない。例えば、日本企業が3万円の商品を海外に輸出し、仕入れに1万円を支払った場合:国内①仕入れ時の消費税支払い:1,000円(10%)②輸出時の消費税:0円(輸出免税)③結果:1,000円が還付(還付金として受け取る)この仕組みのため、日本の大手輸出企業(例:トヨタなど)は年間何兆円もの消費税還付を受けている。

国内で商品を購入すれば、商品代金のみに消費税がかかる。しかし、海外から輸入する場合は、商品代金だけでなく関税・運賃・保険料まで含めた金額に消費税が課される。実質的に、輸入品の方が消費税の計算ベースが大きくなる可能性がある。これにより、輸入業者は同等のモノを国内で仕入れる場合よりも多くの税負担することとなる。

日本の輸出企業は、国内で支払った消費税が還付されるので実質負担がゼロに近い。一方、自社が日本市場に製品を輸出すると、関税とともに輸入消費税がかかる。トランプ政権では「実質的な保護貿易」と受け取られており、消費税の変更圧力: 米国からの圧力が強まることで、日本政府が税制改革を迫られる可能性がある。

 

3 自動車産業などの膨大な消費税還付金

日本の輸出還付制度では、輸出品に「ゼロ税率」が適用され消費税が課税されない。輸出企業は国内での仕入れや経費に支払った消費税を「仕入税額控除」として差し引け、輸出売上が多い企業は支払った消費税より控除額が大きくなり、その差額が還付される。消費税の輸出還付制度により、2023年度は輸出大企業20社に約2.2兆円、トヨタ単体で約6,100億円の還付金が支払われた。輸出売上にゼロ税率を適用し、仕入れ時の消費税を還付する仕組みで、実質的な「輸出補助金」となっている。トランプ氏はこれを「関税より懲罰的」と批判し、報復関税を示唆。日本は関税調整で対応する可能性が高い。今後、日本はどうするか、消費税制度の見直しが求められる。

4 下請業法違反―仕入消費税部分を実質値引きさせるー賃金原資を削る

自動車産業のような、ピラミッド型の産業構造の場合、トヨタなどは、下請けの組み立て会社に、「もっと安くしろ、仕事をおろさないぞ」と圧力をかける。24年7月、トヨタの系列の組み立て会社が、部品製造会社に対して、余計な経費を負担させていたとして、下請法違反で公正取引委員会から勧告を受けた。日産自動車も、同じく下請け会社に支払う代金を一方的に値引きしていたということで、勧告を受けた。「乾いた雑巾を絞る」とはこのことである。下請け企業が賃金原資を削らなくを得なくなる。これでは中小企業はまともに賃上げができない。

 

5 円安による資源価格の上昇とトランプの「通貨安誘導」とうい攻撃

3月3日、トランプ氏は、「通貨を下げると我々に非常に不公平な不利益をもたらす」とし、円安を批判する発言を行った。円安は、日本が輸入する資源価格を高騰させ、日本国民の生活水準を低下させるとともに、自動車などの輸出価格をドル換算で低下させ、輸出しやすくする。トランプ氏はそのことを問題視している。円安によってガソリンや電気などのエネルギー価格をはじめ、工場などの原料も大幅に値上がりしている。儲かっているのは輸出大企業のみである。

円安が150~160円台/ドルまで進んだのは、日銀による国債の買い入れと、それによる円通貨の大量発行にある。結果、円の金利は低下し、資金は高金利のドルに流れるとともに、日銀の国債の買い入れによって、ゼロ金利の資金獲得により、財政負担を気にすることなく無原則な財政運営が行われるとともに、国民は物価高に苦しむこととなった。

 

6 壮大な無駄―日本もマスク氏のような「チェーンソー」が必要か

維新は、大失敗が確実視されている4月から始まる大阪万博の赤字穴埋めのため、たった1000億円の高校無償化で与党の2025年度予算案に賛成してしまった。万博にはインフラ整備費を含めると10兆円以上がかかっている。当初から与党にとっては一番安い買い物だとして妥協は想定されていた。

1996年度の消費税収(国税)は6.1兆円だったが2023年度には23.1兆円になった。20兆円税収が増えたが、そのうち17兆円が消費税の増大である。一般会計税収は2020年度が60.8兆円。2023年度は72.1兆円。この3年間で国税収入は11.3兆円増えた。消費税で509兆円もの金を国民から巻き上げた。その509兆円を一体何に使ったのか。同じ期間に法人の税負担は319兆円減った。同じ期間に個人の所得税・住民税負担は286兆円減った。消費税の税収のすべてを巨大企業と富裕層の減税に使った。減税規模は605兆円となった(植草一秀:2024.12.30)。

⾖腐「1丁」を買う感覚で1兆、2兆の⾎税が散財されている。ロケットを上げる補助⾦

には1兆円のお⾦がばら撒かれる。半導体の⼯場を作る補助⾦には3兆円のお⾦がばら撒かれる。コロナの病床確保の名⽬で国公⽴病院には6兆円ものお⾦がばら撒かれた。副作用が多々報告されるコロナワクチンに4.7兆円もの⾎税がばら撒かれた(植草一秀:2024.12.31)。1兆円のコロナ旅行支援は会計検査院に検証不能と指摘された(福井:2025.1.30)また、東電の福島第一原発の事故処理費には膨大が税金が投入されつづけている。これまでに13兆円が投入され、国の負担が5兆円、今後もさらに膨らむ。そこに全く役立たなかった凍土壁工事をはじめ原発関係企業が群がる。また、一般歳出に占める防衛費の割合は、3年で、8%から12%以上まで伸長し、今後もさらに増大の予想である。しかし、コメなどが不足し高騰している。食料がなければ安保もくそもない。巨大なブラックホールに膨大は資金が吸い込まれていく。トランプ新政権よりはしごを外されたが、既にバイデン政権の末期にはウクライナへの援助資金を日本は1.8兆円もを行っている。

経済的に行き詰った米国は、なりふりをかまってはいられない。トランプ2.0は各国の税制をはじめ、かなり政策を深く考えている。イーロン・マスク氏が政府効率化省を率いて、「チェーンソー」を振り回して、USAID閉鎖などブラックホールの枝を切り払おうとしている。また、米国の医療費はGDPの17%も占めるが、盲腸手術1日130万円・救急車を呼べば8万4千円ときわめて高額であり、無保険者も多い。ここ数年、乳幼児死亡率も上がっており、じわじわと社会的衰退が進みつつある。民間保険会社や医療機関の儲けとなっており、ロバート・ケネディ・Jr保健相は巨大な医療利権に切り込む構えである。かつての社会党時代のような安上がりな予算修正のみに汲々としていたのでは日本も沈没は免れない、省庁の廃止や補助金の廃止、消費税の廃止を含めて、相当の荒療治をしないと、ブラックホールの引力に太刀打ちできないであろう。

 

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